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シンは仮面ライダーになるべきだ 2回目
1 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/05(水) 23:32:12 ID:???
前スレ:
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/

職人さんたちの降臨をお待ちしております。

2 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/05(水) 23:38:03 ID:???
>>1


3 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/05(水) 23:44:59 ID:???
>>1
技の1号、力の乙号

4 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/06(木) 04:52:44 ID:???
>>1
( 0w0)乙ディス


5 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/06(木) 07:40:42 ID:???
      )::::::::::::::::::::,  ´    )::::::::::::::===彡::::::テ
       (::::::::::::::::://    ヽ:::_:::::::::::::::::i  l::::l:::::ハ二))
      >:::::::,.'  ′    |   ):::::::::::::::l  i:::i:::::(、二))
        て::::/   ll  l |  !|   {::::::::::::::::|  l::i:::::::::ハ〈
         しl |  l |  | | _!H‐'フ|/て::::::::::彡ミ::::::::(  !l
         l l  l _L | |ノ  rT´_ | (::::::::ミ彡::::::ィ  l|l
            ll ヽ ´ rr、    ヽ__ソ | l! {::l l::::;:::) |  リ ローゼンメイデンの第五ドール真紅が
            ハ v)       l l | リ /:://   |  |   優雅に>>5ゲットなのだわ!
            ,' ハ 丶      リ ,| |//´  | |   この指輪に誓いなさい!
            |  〉 、 `    lレ' | h、     |  |
            l / ||  > - ィ 〃 | | l7      |  |
            ノ'  |r j / rr、 〃  | | 〈 \    |  |
            /'   ノl j/ _ト(  ノ l (   \  |  |
           ヽヽ/ヽ j!    > ´ / /     ハ |  |
>>1久アリス輪舞曲 私の主演作パクらないでよ!
>2りはプリキュア  作画手伝ったのは、雛苺?
カードキャプター>3くら 奇声なんか発して、かわいいとでも思ってるの?
>4まし      脚本家も視聴者も、想像以上に下劣ね!
おねがいマイメ>6ディ あの変な詩、とても聞くに堪えないわ。
エウレカ>7     私のアニメと枠交換したほうがいいわね!
りりかるなの>8   あんな娘が最萌え優勝?
>9さまは魔法少女 淫乱なコスチューム着て、レディとして最低ね!
ガンダムSee>10   あのラクスとか言う電波女の声、誰かさんに似てほんと腹立つわ!

>11-1000は、お茶を入れて頂戴!

6 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/06(木) 08:59:26 ID:???
ばあちゃんは言ってた
>>1は乙されるべきだって

7 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/06(木) 09:12:04 ID:NPGmwUqG
>>1
まさにパーフェクトハーモニーだ

8 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/07(金) 01:31:19 ID:???
>>1乙!
過疎っちゃったけどね(´・ω・`)職人さんカンバック…

てなワケで少しでも燃料にれ、と仮面ライダーインパルス描いてみた
http://r.pic.to/utq9
※携帯観覧推奨

こうですか?わかりません

9 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/07(金) 09:31:26 ID:???
正直かなり感動した!
すげーこれ日曜八時からやんねーかな
兜よかいい

10 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/07(金) 10:26:10 ID:???
>>8
ちょwwwおまwwwすげwww上手すぎwww


フォームチェンジしたやつも見てみたいっすww

11 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/07(金) 17:42:02 ID:???
>>1
1・2・3・・・
「ライダー・・・乙!」

>>8
オレ・・・オマエノコト・・・スゴイ・・・オモ・・タ・・

グッ・・ジョ・・・ブ!

12 名前:>>8 :2006/04/07(金) 22:40:23 ID:???
お褒めサンクス(・∀・)
まともに見たのクウガからだから平成テイストなのはスマソ(´・ω・`)
>>フォーム
まだイメージも出来ない…

↓とりあえず全身
http://r.pic.to/xrgn

↓そしてフリーダムのラフ(別名バイト中の落書き
http://p.pic.to/xdho

肩が張ったライダーってイヤミなイメージでwww

13 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 09:28:46 ID:???
落書きなのか…それで…
めっちゃうまいやん
バランスとかとれてるし

14 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 11:28:13 ID:???
>>8
流石>>8さんは一流だよなぁ
正面から見ると顔がグレイブ似で良いなぁ、色が付くとまた印象が変わるだろうけど
つか、これを落書きと言い張るお前に嫉妬

15 名前:>>8 :2006/04/08(土) 11:41:28 ID:???
否!昔から器用貧乏なんで何やっても二流(´Д`)
最初グレイブみたいな目無しライダーにしようとしたんで…名残です。

フリーダムこんな感じでおK?

16 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 14:36:19 ID:???
「ねぇ、君…最近、この辺りで人殺しがあったって知ってる?」
OL風の女性が、連れに向かってそんな話を振る。わざとらしく潜められた声はふざけた様な響きを帯びているが、その顔は少なからぬ怯えを表してもいた。
「えぇ…そうなんですか?怖いなぁ…」
柔らかな表情を曇らせた少年が、彼女の“今夜の”連れだった。端正な顔立ちで、しかしまだ幼いとさえ言える風貌。
「だよねぇー。それにさ、その手口がまた酷くってさぁ」
耳元に唇を近づける。ささやきと共に、熱い息が吹きかかるほどの、至近距離だ。
「えぇー!そ、それって本当なんですか?信じられませんよー」
「ホントだって!私の友達の知り合いが見たって言ってるもん!」
彼女自身は、その人物に会った事は無いに違いないが、噂話とは得てしてそのようなものだろう。それに、そんなことをわざわざ指摘する奇特な人物は居ない。
道行く誰もがお互いに無関心と不干渉を決め込んでいる。そのおかげで、人が溢れる夜の雑踏の中、二人はしっかりとプライベートな空間を作っていた。
「お姉さんも気をつけて下さいね…きっと狙われちゃいますよ?」
「だーいじょうぶよぉ。そしたら君に守ってもらうからぁ!」
そういって、媚を含んだ表情でしなだれかかる。少年は、すこしばかり苦い愛想笑いを浮かべながらも、邪険な態度は取らなかった。
「あぁー…ちょっと酔っぱらっちゃったかなぁ…ねぇ、少し休んで行かなぃ?」
「うーん…でも、僕、門限とかありますし…」
それを聞いて、彼女はケタケタと笑った。
「またまた良い子ぶっちゃってぇー!門限なんて守ったって、あんな悪い事してるんじゃ意味無いじゃーん?!」
「あれはお姉さんが無理矢理進めるからですよぉ…僕、ホントはお酒苦手なんですよ」
「うそだぁ。君、すっごい酒豪だもん。ぜったい鍛えてるって感じ!」
そうして、ぐいぐいと少年の手を引っ張る。少年の抵抗も形ばかりの物だった。
「ほら、お姉さん、もう歩けなーい…だからあっちで少し休もうよぉ…」
「しょうがないなぁ…判りましたよ。レディーを一人にさせちゃ悪いですから」
しれっとした顔でそんな事をいう少年に体重を預けながら、彼女はうっとりとした表情を浮かべている。
「君、見た目はなよっとしてるのに、けっこう良い身体してるわねぇ…」
「ひどいなぁ…なよっとなんてしてないですよぉ」
「ごめんごめん…カワイイのよね。ホント、ちょっと嫉妬しちゃうくらい、綺麗な顔してるんだから…」
「お姉さんのほうが可愛いですよ…っと、年上の人に可愛いとか言っちゃ駄目ですよね」
「いいよ、いいって…君なら許してあげる……それに、さ…」

17 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 14:37:06 ID:???
煩いくらいだった彼女の声が、憂いを帯びたものに変わった。少年がのぞき込んだその瞳は、光を反射してかすかに揺らめいている。
「君、あいつと違って優しいしね……」
そう言って笑う彼女。しかし、笑みを形作っているのは紅をさした唇だけ。頬には、ネオンの輝きを受けて涙がきらめいている。
少年はそっと身体を寄せて震える肩を包みこむと、とびきり優しい微笑みで涙をぬぐった。
「僕なんかが言うのも何ですけど……きっと、お姉さんの彼氏さんも、本当は貴方の事を大切に感じてると思います。ただ、その表し方がほんのちょっとだけ、上手じゃ無いんですよ」
「……君に……君に何が判るのよ?あいつのことなんて何にも知らない癖に…」
「判りますよ……だって、あなたがそんなに寂しい顔をするんだから」
彼女の瞳が、ふるり、と揺れた。そのまなざしに映るのは、慈しむような少年の顔。
「ね、そうでしょ?」
「…うん……そう、そうかもね………そう思う?」
もちろん、と少年は頷いた。彼女の瞳はまだ寂しい光を宿していたが、その頬はすこしだけ暖かな表情を作る。
「…ありがと。何か、この辺がすっごく楽になった」
「いいえ、どういたしまして。お姉さんの気分が晴れたなら、僕も嬉しいですよ。じゃあ…僕はこれで…」
しかし、彼女はいっそう強く少年の腕を抱え込む。
「ね…ごめん。今日だけは一緒にいてくれないかな…私、わたしさ……軽い女だって思うかもしれないけど…」
「……そんな事無いですよ。お姉さんがそれでいいなら、僕も…」
ふたりはしばらく照れた顔をつきあわせて、それからくすくすと小さな笑いを浮かべた。
「私、君にあえて良かったな…」
そういいながら、彼女は再び少年に身体を預ける。その表情は、穏やかで、幸せそうだった。
「僕も……貴方みたいな人を見つけられて嬉しいです」
少年の端正な顔に浮かぶ穏やかで柔らかい笑み。誰もが目を引きつけられずには居られない笑みだった。
そしてそれは、彼の瞳に秘められた色彩を、誰の目からもカモフラージュしているのだ。

18 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 14:38:00 ID:???
「「ええええええぇぇぇぇぇぇっっっっっ?!」」
マユとルナの黄色い悲鳴が綺麗に重なって、リビングに響き渡る。
声こそ上げなかったが、ギルとタリアの夫妻も驚きの表情を隠しきれない様子だった。ただ一人、レイだけは僅かに眉を寄せただけでほとんど表情を変えない。
一同の視線の先、目を伏せ俯いたステラは、僅かに頬を赤らめてもじもじしている。身に纏っているのはタリアのTシャツとジーンズで、少しぶかぶかだった。
「お、お、おおおお……お兄ちゃんに助けてもらったって、ど、どういうこと?!」
思わずステラに詰め寄り、その肩を掴んでマユは叫んだ。ステラは別段驚いた様子も無く、何故か一層頬を赤らめながら、ぽつぽつと語る。
「だからね…シン、ステラの事、守るって…それで、守ってくれたの…だから、ステラの今日は、シンから貰ったの」
ステラの言葉は相変わらず要領を得ない。もどかしさに思わずうなり声を上げるマユに代わって、ギルが落ち着いた口調で問う。
「ううむ…ステラ君といったね、君はシンに会った事があると。それはいつ頃の話だね?」
「うん…もう、一年くらい前……ステラ、死んじゃうところだったの…」
少し俯いて、ステラは自分の肩を抱いた。潜めた声にも恐れが混じっている。
その様子を見たマユは、あんなに強いステラでも怯える事が有るのか、と少々意外に思う。
「ふむ。それを助けたのがシンだと?」
「そう…シン、命がけでステラのこと、守ってくれた…だから、ステラも、マユを守るの…」
マユに向けられた眼差しは暖かく、それでいて強い。先程見せた弱さを感じさせないものだった。
「ちょっと待って。じゃあ、シンは?シンは今どうしてるの、ちゃんと生きてるの?!」
ルナがきつい口調で割ってはいる。
「シン…今も戦ってる…あいつらと」
応えながら、ステラは少し険しい目つきでルナを見つめ返した。ルナは尚も食い下がる。
「戦ってるって…何言ってるのよ、あいつは普通の学生で!」
「ちがう」

19 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 14:41:42 ID:???
いままでの茫洋とした口調とは違う硬質なステラの言葉に、マユは肝がひやりとするのを感じた。
一同の表情にも、彫像の様なレイを除けば困惑と僅かな恐れが見えるようだった。
「シンは戦士。みんなを守る戦士」
きっぱりと言いはなったステラの瞳は、戦いの時の色を宿している。冷徹で、密やかな殺気を湛えた刃の鋭さ。
部屋の空気がぴんと張りつめ、マユは息苦しさを覚えた。いつの間にか、皆が呼吸さえ止めている。そんな静寂を、ギルの咳払いが破った。
「なかなか難しい話のようだね……だが、そろそろ時間も遅い。君たちも疲れているようだし、今日の所はこの辺にしておかないか?」
時計の針は9時を指している。
怪我こそ無いがボロボロになっていた三人が公園から帰ってきて、小一時間と言ったところで、たしかにマユもルナもくたくただった。
「いえ、でももっと確かめたい事が…」
ルナはそう言ってステラに向き直ったが、その表情はみるみる呆気にとられたものへと変わった。視線の先を見たマユも、ルナと同じような表情を浮かべてしまう。
「…寝てる」
さっきまでの鋭さはどこへやら、ステラは柔らかなソファに身を沈め、丸くなって安らかな寝息を立てていた。脱力するマユとルナを尻目に、ギルはくっくっと小さく笑っている。
「ずいぶんと変わった娘だね…が、そう悪い子でも無いようだ。何より、マユを助けてくれたのだから、そのことには感謝しなければいけないね」
「はい。マユとルナマリアの話が本当なら、彼女が居なければ大変な事態になっていた所です」
「あなたたち、よくもこんな突飛な話を簡単に受け入れられるわね…まあ、確かに、それが本当ならお礼の一つもしなくちゃいけない所だけど…」
父と息子のやりとりにため息をついて、タリアは腰を上げた。
「とにかく、ベッドで寝かせてあげなくちゃね。それから、みんなお腹減ってるわよね。ご飯にしましょ。ルナ、あなたも食べていく?」
「い、いいえ…お気持ちは嬉しいけど、帰ります。もう時間も遅いし、父も母も心配してるみたいですから……」
ルナはステラの寝顔を複雑な面持ちで見つめていたが、一つため息をついて腰を上げた。

20 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 14:43:14 ID:???
街灯が点々と照らす通りを、ルナとレイの二人は無言で歩いている。
若い娘一人では危ないと送っていく事を申し出たギルに、ルナは大袈裟だと言って断ったのだが、レイはそれを静かな調子で押し切って付いてきたのだった。
影が伸び、縮むのを繰り返しているのをぼんやりと眺めながら、ルナは知らずにため息をついていた。
「ルナマリア、何を気にしているんだ」
二つの靴音だけがこつこつと響いていたところに、静かな声が割って入った。ルナは隣を行く同級生をちらりと見やるが、レイは相変わらずの無表情で前方に視線をやっている。
本当に言葉を発したのか思わず不安になるようなレイの態度で、これが普段通りと知っているルナでさえ、時折戸惑わずには居られない素っ気なさだった。
「……別に、何にも気にしてないわよ」
ルナも前を向いたまま応える。が、声が少し不機嫌になってしまうのは、どうしても止められなかった。
「…あの娘がシンの事を知っていたのが気に入らないのか。それとも、彼女がマユを救った事が嫌なのか」
「な、なに言ってるのよ!マユを助けて貰って、嫌なはずなんて無いでしょ!!」
レイは、つとルナの顔を見据える。
「図星を付かれたときの癖だな。そうやって声を荒げるのは」
「そんなこと…」
「お前がどれほどマユを大切にしてきたかは、この二年間で俺もよく判っている。そこへ横からあんな娘が割り込んでくれば、心が乱れるのもやむをえないだろう。それが人情というものだ」
まさかレイから人情などという言葉を聞くとは思わず、ルナは言い返すのも忘れてしまった。そのまま歩みを止めたルナに、レイは身体ごと向き直り、続けた。
「しかし、お前達を襲った怪人の様な存在が、もしかしたらまた現れるかも知れない」
「え…?」
レイの声は抑揚を欠きながらも、妙に確信に満ちているように聞こえた。
「その時、マユを守るための力は必要だ。そして今、マユを守れるのは、あのステラという娘の力だけだろう」
「それは…そうだろうけど……何でそんな事言うのよ。あんな奴らがそう何度も…ってちょっと、待ちなさいよ」
再びつかつかと歩み始めたレイに、慌てて追いすがるルナ。レイはそれに一瞥もくれずに、淡々と続けた。
「あの娘は、あいつらという言葉を使った。ならば、怪人は複数居るということだろう。それに…」
珍しく言いよどむレイを、ルナは少々苛つきながら急かす。
「それに、何?らしくないわよ、はっきりしなさい」
「…いや、ただの勘だ。根拠は無い」
「……ふぅん……ただのカン、ね…」
レイは何か隠していると、ルナのカンは告げていた。が、ここでそれを追求しても、レイは何も言わないだろう。それは、数年来の付き合いのある友人の事だけによく判っている。
「…あたしは別に…マユのために、あたしに出来る事をやるだけよ。あの娘なんて関係ない」
自分に言い聞かせるように呟きながら、その声がどこか沈みがちになることが、ルナには腹立たしかった。

21 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 14:45:12 ID:???
さわやかな朝の日差しの中、明るい少女達の声がそこかしこで弾けていた。
「メイリンちゃーん、おっはよー」
「あ、マユちゃん!おはよー」
ロングヘアーを揺らしながらマユが駆け寄ると、可愛らしくまとめたツインテールを揺らしながら振り向いたメイリンが手を振りながら応える。
メイリンは中等部の生徒で初等部のマユにとっては先輩なのだが、ルナの妹という事もあってお互いに堅苦しい事は抜きの間柄だった。
今日もかわいいねー、などと年頃の女の子にはお約束の会話を繰り広げた二人だが、メイリンは何かを思い出したように不意に表情を曇らせた。
「ねぇねぇマユ、昨日おでかけした時に何かあった?おねえちゃん、なんだか知らないけどすっごいグッタリして帰って来てさぁ…」
「あ、あは、あははは…別に何にも無いよぉ…やっだなぁ!」
思わず声が裏返る。まさか本当の事を言う訳にもいかず、引きつった笑いで誤魔化すマユに、メイリンは訝しむような拗ねたような顔を見せたあと、ちらりと後ろを振り向く。
「おねえちゃんもさぁ、何にも教えてくれないのよねー。様子も変だし」
「あ、ルナ居たんだ。おはよ…う…」
「…居るわよ…おはよ」
ルナは何やらどんよりとしたオーラを纏い、壁に手を突いて俯いていた。その様子を見たマユとメイリンは思わず手を取り合い、三歩ほど後ずさってしまう。
「ちょ、ちょっと…どうしたのルナお姉ちゃん?」
「いや…なんて言うか…夢見が悪いっていうのかなぁ…すっごいヤな夢見た気がするんだけど全然思い出せなくって」
道行く通学生にじろじろと眺められている事を気にするでもなく、ルナは二日酔いさながらのフラフラした足取りで近づいてくる。
「ほ、ほらねぇ…朝からずうっとあの調子よ?変でしょ絶対?!」
マユの後ろに身を隠しながら…実際はさっぱり隠れていないが…メイリンは密やかな声で言う。マユはこくこくと小刻みに何度も頷いた。
『あ、もしかして昨日の事がまだショックなのかな…』
怪人に襲われ、不思議な少女…いや、戦士に救われるという非常識な経験をした割りに、マユは何故かさしたる動揺も感じなかったが、普通の神経の持ち主なら参ってしまって当然だろう。
「ねえ、本当に大丈夫?ルナ…昨日の事で何か…」
密やかな声を聞かれないようルナに近寄ったマユは、そのまま何気なく彼女の額に手を触れる。
その瞬間、得体の知れない黒いイメージの奔流と、音叉を弾いたような高く澄んだ音色が響くのを感じ、マユはびっくりして手を引っ込める。
見れば、ルナも指先が触れた場所を抑えながら驚きの表情でマユを見下ろしていた。
「…今の、何…?」
「わ、わからないわよ……あ、でも、それ……」
マユの胸元にある首飾りが微かな光を放っている。朝の日差しに照らされているのかと思って手で影を作ってみるが、その青光はやはり内側から漏れているのだった。

22 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 14:47:20 ID:???
小中高、各学部の生徒達が思い思いに過ごす昼休み。
うららかな日差しの下、マユはルナやメイリンと共に芝生の上でお弁当を広げていた。
「でねー、その転校生の子、すっごくきれいな顔してるのよー!ホント、男の子とは思えないくらい…それにね、ピアノがすっごい上手で、おまけに振る舞いも優雅でね、まるで王子さまみたい…キャ♪」
「…あんた、ほんっといい男に目がないわね……はぁ」
乙女チックに瞳をウルウルさせ、頬を赤らめ、黄色い声を上げ、身体をモジモジとくねらせ…と、とにかく姦しいメイリンを横目に、げっそりとした顔のルナが盛んにため息をついている。
倒れそうな顔をしていた今朝に比べれば顔色も良いようでマユは安心したが、あの不思議な体験をルナはどう思っているのか、それが気がかりではあった。
ルナもそれに触れる事はなく、二人の間にはなんとはなしに微妙な雰囲気が漂っていたが、メイリンはそんなことはお構いなしの様子である。
「…でねー、なんと、今度みんなのリクエストに応えてピアノを弾いてくれるんだってー!マユちゃんも一緒に来ない?」
どこまでも脳天気な調子のメイリンに対して、マユは微妙にはにかみながら言葉を濁す。
「んんん…でも中等部でやるんでしょ?マユ、ちょっと行きづらいなぁ」
「やーん、そんなこと無いよぉ!マユも今度から中等部なんだし、下見になって良いってばぁ。だから絶対来た方が良いよ!」
「…あんたねぇ、マユを変な事に付き合わせるのや・め・な・さ・い・よ?」
こめかみを押さえて妹の暴走に耐えていたルナだが、やがて我慢しきれなくなったのか、威圧的な笑みとを浮かべるとメイリンの頬を容赦なくつねりあげた。
「ひゃ、ひゃえて!いひゃい!いひゃいっひぇはっ!」
「ちはーっす…って、ちょっとルナさん、何やってんすか?」
中等部の制服を着た二人組の男子がおそるおそるといった様子で挨拶をしてくる。メイリンの同級生でマユとも顔見知りのヨウランとヴィーノだ。
二人に気づいたルナは、ぱっと手を離すといつものような快活な笑みを浮かべる。
「ああ、気にしないで、ちょっとこの子が馬鹿な事ばっかり言うモンだからね?」
「ちょっとお姉ちゃん、酷いじゃないの!あたしが何時馬鹿な事なんて言ったのひょよぉ!」
再びメイリンが涙声になる。さっきとは反対側の頬を捉えたルナの呆れるような早業に、マユはひたすら目を丸くするしかなかった。
「今!たった今言ってたでしょ!いい、そんなつまんない事でマユを引っ張り回したりするんじゃ無いわよ!」
「ちょ、ちょっとルナさん、メイリンが可哀想ですよ!早く離して!」
慌てて割ってはいるヴィーノに苦笑いのような表情を見せたルナは、最後に強くひとつまみしてから指先を離した。
「な、何なんすか一体?ケンカ?」
「まっさかぁ…この子のいつものビョーキよ。ほんっと呆れちゃう」
「病気ってなによぅ!お姉ちゃんこそニコル君の事、なーんにも知らない癖にー!」
メイリンがその名を口にした途端、ヴィーノは肩を落とし、ヨウランは肩をすくめる。ルナはそんな下級生たちの様子を見て、やれやれとため息をついた。

23 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 14:49:58 ID:???
「ニコルって言うの、その転校生さん?」
だれも返事をしないので、マユは気乗りしないのを抑えてメイリンに尋ねる。案の定、待ってましたとばかりに食いついたメイリンは、腫れたほっぺも何のその、転校生の魅力を熱っぽく語り出した。
「そうなの!ついこの間転入してきたんだけどね、もう本当に素敵なんだから!マユも一度あってみたいでしょ?ね、ね!」
「あ、あう…」
ガクガクと肩を揺すられ目を回すマユには気の毒だが、メイリンの事はしばらく放っておくしかないと判断したルナはそっとヨウランに尋ねる。
「…ねぇ、そんなにカッコイイわけ、その転校生って?」
「まあ、そうっすね…でも格好いいって感じじゃないかな。美形というか…」
「かわいい?」
「そう、そんな感じですよ、いつも笑顔で物腰も柔らかですしね。いわゆる美少年ってやつ?」
そう言うヨウランの顔は妙に渋い。ふぅんと気のない返事をしたルナは、少し声を潜めて続けた。
「…その子のことで、何か気に入らない事があるでしょ?」
「え?!いや………まあ大した事じゃないんですけど…なんか、目つきがね」
そこで視線を下げて口をつぐんだヨウランは、次の言葉を口にすべきか否かを迷っているように見える。
ふと顔を上げると、ルナがじっと見つめているのに気づく。その視線は、彼女自身も気づかぬうちに微妙な緊張感を孕んでいるようであった。
「何でも良いのよ。聞かせてちょうだい」
「あ、うん……なんか、時々笑ってないんスよ。目が。俺の気のせいかもしれないけど」
「そうなんだ…ゴメンね、変な事聞いちゃって。こらメイリン、何時までやってんの!」
からっとした気持ちの良い笑みをひとつ見せてから妹を叱りつける姿はいつものルナに見えたが、それが些細な違和感を却って際だたせているようであった。
「ルナさん、何であんな事言ったのかな…っておい、しっかりしろよヴィーノ」
ヴィーノは惚けた表情で在らぬ方向を見つめている。
意中の少女が他の男に熱を上げているのはさぞ辛かろうと慰めの言葉を頭の中で列挙していたヨウランだが、ヴィーノの反応は予想とはすこし違った。
「な、なあ、あれ何だろう…人間?」
は?と相づちを打ってそちらを見たヨウランも、次の瞬間には同じような惚けた顔になっているのを自覚せざるを得なかった。
視線の先にある人垣とざわめきの中心にある時計塔のてっぺんに、一人の少女らしき人物が逆さまにぶら下がっていたからだ。
陽光に照らされた髪をキラキラと金色に輝かせながら、彼女は何かを探すようにキョロキョロとあたりを見回していた。

24 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 14:50:58 ID:???
保守代わりに投下させてもらいました…

ガノタ仮面さんとライダー運命の作者さんカムバック熱烈希望中

25 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 19:58:25 ID:???
>>15
先生、なんかエラーが出てフリーダムが見れません

26 名前:>>8 :2006/04/08(土) 20:02:53 ID:???
ん?>>12の奴?

27 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 20:19:58 ID:???
Yes

28 名前:>>8 :2006/04/08(土) 20:43:44 ID:???
ピクト今PCから見れないぽいです(´・ω・`)
携帯からは見れるはずですよっ

>>18-23
マユの続きが!こちらの続きも楽しみにしてますっ
仮面ライダーガイア…描けるかなぁwww

29 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/08(土) 21:42:14 ID:???
キラとアスランはプリキュアになるべきだ。
金の関節、キュアフリーダム!
銀の関節、キュアジャスティス!

30 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/09(日) 00:22:55 ID:???
>>29
シャイニープロヴィデンス

>>28
携帯から見たけど、「画像変換に失敗しました」とか出た
俺の携帯がダメなのであらうかorz

31 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/09(日) 15:32:27 ID:???
前スレ読んでみて設定だけだけど(しかも被ってるところも多々あるが……)
妄想して書いてみたので投下してみてもいいかな?

32 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/09(日) 18:24:21 ID:???
どうぞどうぞ

33 名前:31 :2006/04/09(日) 19:24:35 ID:???
○タイトルと概要

前スレから借りてタイトルは『仮面ライダーSIN(罪)』でヒロインはステラ(供養碑)

この世界での仮面ライダーの存在は軍事用のパワードスーツの発展系であるMS
(『仮面ライダーアギト』のG3やG4)に地球外生命体が運用していたシステム
(瞬時変身システムなど)を付加したMasked Rider systemのことで、「仮面ライダー」
という呼称は使われていない。MSとMRの区別はMSが非ガンダム系(ガンダム顔でも
ムラサメのような量産機はMS)でMRがガンダム系、ということで。

自分の都合で作った存在を再び自分の存在で抹殺しようとする勝手さとかその他もろもろに
対する人間の罪という意味合いで罪(sin)……という感じでしょうか。


○背景

外宇宙から来たと思われる生命体の襲撃に対応するため、人類はパワードスーツの
発展系のMA(Masked Armor system)を開発。次第に強くなっていく未確認生命体に
対してMAはより強力な兵器を搭載するために巨大化・肥大化の一途をたどっていった。
だが、サイズが変わらずに強化していく未確認生命体に対して、鈍重なMAでは
対応しきれなくなっていた。また、MAはその運用形態から非人型であることが多く、
増加する戦死者に対して装着者の育成が追いつかないという問題があった。

そこで、軍は体にフィットし、より直感的な操作が可能なMS(Masked Armor system)を
開発。だが、MSは発熱量・装着時の体への負荷など通常の人間に耐えられるものでは
なかった。本来は廃棄される予定だったが、軍上層部の意向によりMSを装着可能な
コーディネイター(調停者・適合者)と呼ばれる改造人間を生み出すことになった。
MSを装着したコーディネイターの成果はめざましく、未確認生命体を拿捕することに
成功し、その解析が急がれた。

そのうち更なる能力強化を図るため、コーディネイターに未確認生命体から抽出された
EVIDENCE-01因子を埋め込むことになった。しかし、拒絶反応が激しく、生きながらえる
ことができたのはキラとアスランの二人だけだった。未確認生命体との戦闘が終結に
むかうにつれ、コーディネイターの脅威を感じ始めた軍上層部はコーディネイターの
処分を始める。それに軍に反発したコーディネイターや、軍の独走を良く思わない
公安部はZ.A.F.Tという秘密組織を作り、密かに抵抗活動を始めた。この内紛によって
未確認生命体による被害は増大し、民衆からの非難の声が高まっていた。

そんな中、キラは人間のために、アスランは改造の人間のために戦い、お互いのMRを
大破させるに至った。その後、キラはフリーダムをアスランはジャスティスを装着し、
未確認生命体の母体である羽クジラを撃破。キラはこの戦闘で行方不明になる。

世界に平和がおとずれ、軍諜報部は平和になって不要の存在となったコーディネイターを
殲滅する方針を継続した。コーディネイターは特殊な検査を行わない限り、ナチュラルと
見分けがつかないため既に社会の中に溶け込んでいた。そのため、いつその危険性が
発露するか分からないからとの判断である。諜報部に追われていたアスランはZ.A.F.Tの
デュランダルに拾われ、後続MR装着者の指導に当たることになった。
その中にはシン・アスカがいた。

34 名前:31 :2006/04/09(日) 19:32:46 ID:???
○用語

・ナチュラル(自然のままに生まれ・育った者)

改造を受けていない普通の人間。

・エクステンディッド(人類の能力の拡張者)

ナチュラルがMSを装着するために薬物を投与して強化を図った存在。薬物投与の影響で
情緒の安定性に欠ける。それを制御するために「ブロックワード」と呼ばれる語が刷り
込まれており、エクステンディッドがブロックワードを認識すると一旦全ての活動を停止し、
命令を聞くようになる。

・コーディネイター(MSの適合者)

改造人間。いくつか改造のレベルがあり、最高峰のものは未確認生命体から抽出した
EVIDENCE-01と呼ばれる因子を埋め込まれており、「S.E.E.D」と呼ばれる。
S.E.E.Dに目覚めたものは大幅に戦闘能力が向上する代わりに次第に戦うこと以外に
興味を失っていき、最後にはバーサーカーと化す。

・MA(Masked Armor system)

軍用の強化服を進化させてパワーエクステンダーなどの機械を装着したもの。
重装甲で内蔵バッテリーが切れると装着者の力では動かせない。初期のものは人型では
ないものが多かったため装着者に高い練度が要求された。そのため、より身体にフィットした
MSに取って代わられることとなる。しかし、拠点を防衛するためや、移動砲台としての需要、
小型化前の試作機としてその後も製作・改良は続けられることになる。

・MS(Masked Suit sytem)

練度の低い装着者にもより直感的に利用できるようにしたスーツ状のパワーエクステンダー。
初期のものは装甲が脆くMAの攻撃の直撃に耐えられなかったが、PS装甲材の利用により
実体弾に対する耐性が大幅に向上した。しかし、その反面装着者に過度の負担を強いることになる。

・MR(Masked Rider system)

MSのうちGUNDAMというOSによって統括された瞬時装着システムやベルト変身システムを
備えたシステム。コーディネイターのうちでも選ばれた者しか装着できない。元々は
外宇宙生命体が用いていたシステムで、GUNDAMという名称も回収したシステムの名称。
技術の詳細は不明で現在の科学力では再現できないが、自己再生能力や生命体を
死滅させるナノマシンを振りまく羽を備えたものもあるらしい。

35 名前:31 :2006/04/09(日) 19:37:17 ID:???
・軍(the Army)

通常「軍」と言うと地球連合軍を指す。改造人間であるコーディネイターに差別的な面が
あり、排除に当たっている。

・公安部

地球連合の下部組織で上層部が文民であることからコーディネイターに対しては寛容で
多くのコーディネイターが身を寄せている。ここのメンバーとコーディネイターの有力者たちが
Z.A.F.Tという秘密組織を結成し、軍に抵抗している。


○登場人物

・シン=アスカ(インパルス→デスティニー)

改造人間でインパルスに変身する。キラ、アスラン以降の世代で始めてEVIDENCE-01因子に
適合した存在である。それだけに色々な方面から狙われている。「シン」の名は研究所で忌み
子供として扱われ、罪を意味する「SIN」から名づけられた。また、インパルス(衝撃・衝動)の
名はシンの衝動的な性格を戒めるためにデュランダルが命名した。
思春期の少年らしく何かと反発しがちな性格。

インパルスは基本のフォースフォーム、接近戦用のソードフォーム、遠距離戦用のブラスト
フォームにフォームを変えることが出来る。どのフォームでもバッテリーが切れると自動的に
灰色のディアクティブフォームに変わる。本来はカオスフォーム、アビスフォーム、ガイアフォーム、
セイバーフォームという局地対応型のフォームが用意されていたが、カオス、アビス、
ガイアフォームは強奪に遭う。戦力不足を補うためにセイバーフォームを前戦役の英雄
アスラン・ザラが着用することになる。

後にカオス、アビス、ガイアフォームを回収し、紫色のデスティニーフォームへと変身を遂げる。
紫色のデスティニーフォームはシンの体に過度の負荷をかけるため、長時間の使用が出来ない。
限度を超えて使用したシンの目には血涙が浮かび上がるほどである。アスランとの死闘の末に
アスランからセイバーフォームを受け取り。トリコロールカラーの真のデスティニーフォームに
変身する。その際、目から流れ落ちた血涙が変身後も赤い溝となってその痕を残している。

36 名前:31 :2006/04/09(日) 19:38:47 ID:???
・アスラン=ザラ(セイバー→ジャスティス)

初期MS装着者の改造人間で父親は政治家。未確認生命体との戦闘でのエース。兵士やMS装
着者としての能力は最高クラスの能力をほこるがS.E.E.Dに体をかなり侵食されている。
そのため普段は後続の指導、戦闘時には生身で戦うことが多い。責任感が強く、全体を見
渡す目を持ってはいるが、それが良い方向には働かないことが多い。

カオス、アビス、ガイアが強奪されたため、追撃のためにセイバー(セイバーは議長が
エースであるアスランの復帰を祝して「救世主の復帰」であることからセイバーと命名)
を装着し、そのまま追撃の任に当たることに。シンにEVIDENCE-01因子があることに気付
き、S.E.E.Dの開放と制御方法を教える。その最中でかつての友・キラが変身するフリー
ダムとの戦闘でMR セイバーを破壊・爆散され行方不明に。

その後、かつてのジャスティスに変身して登場。既にS.E.E.Dに精神を侵食されており、
自意識を失ったままシンと戦うことになる。シンとの死闘の後に敗北。変身が解除された
ときに最後の正気を取り戻しセイバーの力をシンに託す。


・キラ=ヤマト(フリーダム→ストライクフリーダム)

最高にして最強の改造人間としてこの世に生を受ける。自分以外のMSやMRを全て破壊する
ことで争いを止めようとしているとキラ本人は言っている。だが、それ以上は何も語らず
に淡々とMSやMRを破壊し続ける。そのため、アスランは自分のようにS.E.E.Dに侵食され
て自意識を失っていると考えている。

変身後のフリーダムは無敵の力を誇り、他のMSを圧倒する。アスランと同じく軍諜報部か
ら追われているため、人前に人間の姿で現れることは少ない。幾度となく軍やZ,A,F,Tの
戦闘の前に立ちふさがり、シンとも戦う。その戦い方はMSの動力部分や武器を狙ったもの
であるが、装着者の命が失われてしまうことも少なくは無い。

・謎のMR

正体不明のMRで何度でも再生・復活する。その度に装着者が変わっているが、全員にひと
つ共通項がある。それは全員が名門フラガ家と何かしらのかかわりを持っているというこ
とである。そのため公安部はフラガ家に目をつけているのだが、背後の議員などの圧力か
ら調査に踏み切れないでいる。

37 名前:31 :2006/04/09(日) 19:47:52 ID:???
・ステラ=ルーシュ

軍上層部によって訓練を受けたエクステンディッド。Z.A.F.T本部へ輸送中のガイアを強
奪し、変身する。シンがインパルスであることを知らされずにインパルス破壊の命を受け
る。普段はシンのクラスメイトで、シンに好意を寄せている。

・イザーク・ジュール

公安部の第一課所属のコーディネイター。以前の未確認生命体との戦闘ではデュエルに変
身して戦っていたが、母親が政治家だったことからいち戦闘員としてではなく、官僚にな
る。本人はこのことをあまり快く思っていないらしく、近所のアパートに行ってはフリー
ターで元同僚のディアッカに愚痴をこぼしている。アスランとは旧知の仲で、軍諜報部か
ら彼を助けることもある。目下の目的はS.E.E.D適合者の保護であり、新しくMRシステム
に適合したシンをディアッカに探させている。


・ディアッカ・エルスマン

以前の戦闘ではバスターに変身して戦っていたコーディネイター。元は公安部で働いてい
たが背任行為によってクビにされてしまい、現在フリーター。ジャーナリストのミリアリ
アは各地を駆け回っており、最近はほとんど会っていない。食費が無いときは得意料理の
チャーハンで腹をごまかしているが、最近飽きている様子。イザークにシンの探索を依頼
され、引き受けることに。

38 名前:31 :2006/04/09(日) 19:49:06 ID:???
・ミリアリア・ハウ

フリーのビデオジャーナリスト。軍や公安に強いコネクションを持っていることから、も
っぱらMRやMSの取材に当たっている。シンの変身体であるインパルスを最初に撮影して報
道現場に渡したのは彼女である。

・ギルバート=デュランダル

カフェ「赤い彗星」のマスターというのは仮の姿で、以前はパトリック・ザラの元でMSや
装着者の研究者だった。現Z.A.F.T代表で親コーディネイター議員からの信頼も厚い。軍
諜報部に追われていたアスランをかくまい、住み込みで働かせている。私生活では妻タリ
アと息子レイとは仲良く暮らしている。


・レイ=ザ=バレル

ギルバードの養子でシンの学友。冷静沈着で時々ボケているのか真剣なのかがよく分から
ないときがある。あるきっかけで自分の血縁関係を知り、謎のMRにとりつかれることにな
る。

39 名前:31 :2006/04/09(日) 20:08:39 ID:???
整理できてるのは今のところこんな感じです(´・ω・`)

話の筋は

・軍の研究所で実験材料にされているシン。Z.A.F.Tから強奪してきたスーツの
 装着実験中にソードフォームにフォームチェンジ(軍はフォームチェンジが
 あることを知らなかった)し、研究所から脱走。その際にガイア、アビス、
 カオスと交戦
 ↓
・脱走の様子がミリアリアのカメラに収められ、インパルスの存在が世に知れる
 ↓
・公安部の上司からインパルスを探すように命じられるイザーク。ミリアリアの
 彼氏であり、元同僚のディアッカに調査を依頼する。
 ↓
・脱走したシンは着の身着のままで隠れていた。だが、子供を事故から守るために
 変身してしまう(1話終了)
 ↓
・通報が軍に知れ渡りインパルスは追い詰められる。死力を尽くして戦うが、
 ディアクティブフォームになってしまう。そこにセイバー参上。
 ↓
・セイバーの参戦もあり、軍を撃退。セイバーに連れられてカフェ「赤い彗星」へ
 しばらくやっかいになることになる(ここで状況や背景説明)
 ↓
・カフェのマスター、デュランダルの息子と同じ学校に通うことになる。
 学校でシンはステラと出会うことになる(2話終了)


連投どころか書き込み始めてなのでガクガク(((( ;゚Д゚))))ブルブルしてます。

ご意見・ご感想いただければ幸いです。

40 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/09(日) 21:34:01 ID:???
>>31
正直、スゲー
今までので一番、原作の種に忠実な設定だ
ラクスが伏せられてるのが何気に気になるw

41 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/10(月) 08:52:11 ID:???
まとめ乙!
前スレの途中からみはじめたもんで
ちょっくらわからんことあったんやけど
理解できました

42 名前:31 :2006/04/10(月) 19:07:15 ID:???
>>40
『SEED』や『SEED DESTINY』は設定はいいんですよね(私はそれを
引用してるだけなので……)問題は本編で生かされて無いだけで('A`)

ラクスについては話をどう進めるかで大きく立ち居地変わって
くるので書いてないだけです。『龍騎』のようなライダー同士の
バトルをメインにするのか、『555』や『カブト』のように組織の
存在を取り上げるのかで触れ幅が大きい存在なので……。

○『龍騎』風の場合

ラクスは未確認生命体との戦闘で死んでいるかそれに近い状態で
冷凍保存されている。そのことはキラ以外知らない。キラが戦う
理由は表向きは争いを止めるため、本音は『龍騎』で言うところの
ライダーバトルの勝利の代償としてラクスの復活を望んでいるから。
ターミナル(ラクス派)はラクス復活のためにキラのサポートを
している。

○『555』や『カブト』風の場合

ラクスは暗躍する人間がそうそう出てくるわけはないので本編には
ほとんど出てこない。。ラクスの意思はキラが具現するので本編上
登場する理由がほとんどありませんし。父・シーゲルが持っていた
裏社会とのコネクションを生かしてターミナルという闇組織を
動かすボスといったところでしょうか。

43 名前:31 :2006/04/10(月) 19:08:47 ID:???
カガリについても書いていませんが、カガリは父親の死後に引っ張り
出された二世議員。右も左も分からぬまま地元と議会の往復だけで
疲れきっている状態。セイラン家の人たちは秘書で、オーブ軍の
人たちは地元の後援会あたりかな。ウズミの死後に跡継ぎを二世
(カガリ)か秘書(セイラン家)かでもめて一枚岩ではない状態。

ロゴスは軍や親軍部の議員に献金している圧力団体(日本で言う
経団連みたいなもの?)で商売の都合上コーディネイターがしきって
いるターミナル(ラクス派)が邪魔で軍に肩入れしている。


>>41
私に対するレスで、私が紛らわしいことしてたらごめんなさい(´・ω・`)

前スレと設定が色々被ってるところがありますが、私は前スレに
書き込んでた者ではないので、それぞれの作者さんごとに設定が
違うと思います。

44 名前:31 :2006/04/10(月) 19:11:04 ID:???
単純なリンク作っといたので投下しますね。前スレ落ちるまでしか
使えませんけど。

○『仮面ライダー種(SEED)』 作者:ガノタ仮面 ◆7esDekmmXY 氏 

・設定
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/578-579

・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/74-78
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/115-120
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/162-165
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/254-262
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/309-318
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/376-380
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/403-411
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/449-453
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/504-510
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/624-627
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/695-706
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/739-749
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/847-855

45 名前: 31 :2006/04/10(月) 19:12:33 ID:???
○『仮面ライダー運命』 作者:134氏
・設定
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/910

・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/134
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/882-891
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/898-907

○タイトル不明(ガノタ仮面氏曰く「クウガ(orアマゾン)風味」) 作者:168氏
・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/168-178
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/221-240

○『仮面ライダーシン』 作者:ギャグしか書けない理系学生(256氏)
・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/257-258
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/265-266

○ 『仮面ライダーDestiny〜最終章〜』 作者:289氏
・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/289-296

○『空我』 作者:791氏
・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/791-797

○タイトルなし(龍騎風?) 作者:866氏
・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/866-867
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/869-872

46 名前:埋立業者 ◆CT.DMZiSxE :2006/04/10(月) 22:24:23 ID:???
報告

1000 名前: 埋立業者 ◆CT.DMZiSxE [sage] 投稿日: 2006/04/10(月) 22:23:23 ID:???
ラスト〜 
         
∧__∧   埋埋埋埋埋
(´・ω・)   埋埋埋埋埋 
/ヽ○==○埋埋埋埋埋
/  ||_ | 埋埋埋埋埋 
し' ̄(_)) ̄(_)) ̄(_)) ̄(_))


47 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/10(月) 22:33:49 ID:???
埋め立てお疲れ様でした。

ところで、どなたかまとめページを建造中の方は
いらっしゃいますか。

48 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/11(火) 00:18:07 ID:???
とう!

49 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/12(水) 13:08:47 ID:???
職人さんはいずこえ

50 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/12(水) 16:29:18 ID:???
改造されますた

51 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/13(木) 08:28:27 ID:???
保志だ

52 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/14(金) 09:19:43 ID:???
ほしゅ

53 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/14(金) 17:37:56 ID:???
W ・∀・ノ ア…アゲ…

54 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/15(土) 13:15:55 ID:???
ほす

55 名前:運命作者 :2006/04/15(土) 14:45:57 ID:???
久しぶり
就職して書く暇がなかなかできない。ごめんなさい
とりあえず今夜頑張ってみる

56 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/15(土) 21:22:41 ID:???
期待アゲwww
需要あるなら絵描きたい(´・ω・`)

57 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/16(日) 01:03:17 ID:???
久しぶりw
就職おめ!まぁゆっくり書いてください
保守くらいしかできないけどスレだけは守らせていただきます

絵みたいっす

58 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/17(月) 21:55:15 ID:???
W´∀`ノ DAT落ちなどさせるか!

59 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/18(火) 00:26:59 ID:???
運命作者頑張れ!保守保守〜〜〜〜!!!

60 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/18(火) 00:29:34 ID:???
仕事に集中しろ、そして二度とこのスレには来るな。

61 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/18(火) 09:55:31 ID:???
ツンデレたん優しい

62 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/18(火) 10:16:39 ID:???
>>60は天道総司

63 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/19(水) 15:27:19 ID:???
保守

64 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/19(水) 22:54:03 ID:???
ガノタ仮面返って来いやぁ!

65 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/20(木) 03:26:32 ID:???


66 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/20(木) 23:24:35 ID:???
hoshu

67 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/21(金) 10:05:13 ID:???
誰もいない

68 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/21(金) 20:12:48 ID:???
あげの1号、保守の2号

69 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/22(土) 19:52:28 ID:???
あげと保守のV3

70 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/22(土) 21:40:57 ID:???
きっとーきっとくるー

71 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/23(日) 02:03:48 ID:???
本当に職人さんはどこにいってしまったのだろう
なんかゲームでも買ったのだろうかw
ゲーム買うと新シャアまったく来なくなる俺・・・

72 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/24(月) 08:15:08 ID:???
ほす

73 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/24(月) 20:44:49 ID:???
保守代わりに駄文投下

74 名前:73 :2006/04/24(月) 20:46:44 ID:???
「キャァー!!」
深夜、人気のない路地裏で絹を裂くような悲鳴が上がる。
声の主は女性。歯はガチガチと震え、その目は目一杯に開かれ、目の前の異形を写している。
異形、まさしくそう呼ばれるにふさわしき姿。大きさは人間大、だが、その表面は甲虫のような黒い外骨格に覆われていた。
二本の太い足で直立し、左腕は巨大な鎌のような形状、 右腕は人のそれに酷似しているが五本の指は鋭い鉤爪になっている。
その頭にはカブトムシのような巨大な角を生やし、口もなにかの昆虫のように左右に開く牙のようなものが生えている。
目は複眼で赤く発光していた。
その表情のない複眼は、確実に目の前の女性を捉えていた。
異形の牙の付け根から、唾液のようなものが滴り落ちるのを見て、女性は思わずその場にへたり込んだ。
――さっきまで普通の人だったのに!?なんで、あたしがこんな目に?死んじゃう、喰われて、死んじゃう!!
腰に力が入らない。なんとか、腕だけで後退る。
「……イヤ、イヤ、イヤァ……」
目から涙が流れ落ちる。それでも目は異形から離せない。
ぼやけた視界の中で、異形が左手の鎌を振り上げる。
「ヒィッ!!」
無駄と知りつつも、彼女は両腕で頭を抱える。


75 名前:73 :2006/04/24(月) 20:48:20 ID:???
ガンッ!!
なにか鉄を叩いたような音が響く。
ビクッと彼女は身を竦ませる。
が、なんの衝撃も来ない。
――?あたし、生きてる?
おそるおそる目を開けると、目の前に影が立っていた。
慌てて涙を拭ってもう一度見る。それはこちらに背を向けた男の背中だった。
「バカッ!なにやってる!!」
男、いやその若すぎる声は少年だろう。少年は彼女に背を向けたまま、怒鳴る。
「早く逃げろ!」
見れば、少年の向こうに、どうやったのかは分からないが、異形が仰向けに倒れていた。
だが、異形はゆっくりと立ち上がろうとしている。
「だってぇ、立てないのよ」
「バカ、死にたいのか!?」
完全に立ち上がった異形と対峙しながら、少年が再び怒鳴る。
――死ぬ!?
言葉と共に彼女の中で再び、死への恐怖が湧き上がる。
「――イヤーッ!死ぬのはイヤ!死ぬのはイヤァーッ!!」
頭を抱えガタガタと震え出す。
「!?、……大丈夫……」
「え?」
思わず彼女は、少年の背中を見た。さっきまでとは違う、優しい声。
「……君はオレが守るから……」
「……守る?」
「……オレが君を守る!君を死なせやしない!!」
不思議と恐怖は消えていた。かわりに暖かいものが彼女の心を満たしていた。


76 名前:73 :2006/04/24(月) 20:50:04 ID:???
「立てるな?」
「はい」
意外とすんなりと立てた。
「ありが……キャーッ!!」
異形が再び左手の鎌を振り上げ、今度は少年に襲いかかる。
少年は慌てず、逆に異形との距離を詰める。
左手で降り下ろされる異形の左手の肘を押さえ、回転しながら左脇に抱え込み、遠心力で勢いに乗った右の肘を異形の顎に叩き込む。
ガンッ!
再び、鉄を叩いたような音が響き渡る。たまらず、よろける異形。
「逃げろ!!」
流れるような動きに驚く暇もなく、彼女の耳に少年の声が届く。
「……でも」
「早く!!」
その時、彼女は初めて少年の目を見た。紅い、燃えるような瞳。
その目がフッと和んだように見えた。
――大丈夫、オレは大丈夫だから。
彼女は決意した。
「……わかったわ」
少年に背を向ける。
「……死なないで……」
そして駆け出す。
「……当たり前だ」
僅かに苦笑を浮かべて少年が呟く。
次の瞬間、少年は抱えていた異形の左手を離し、前方に身を投げる。
間一髪、数瞬前まで少年の頭のあった場所を鉤爪が切り裂く。
ガァァァ!
異形が怒りに満ちた雄叫びを挙げる。
それを背に、少年は素早く立ち上がりながら、女性の走り去った方を見る。
彼女の背はぐんぐん小さくなる。

77 名前:73 :2006/04/24(月) 20:52:34 ID:???
それを確認した少年は異形に向き直る。
その目には先ほど女性に向けられた、優しさは一辺も無かった。
怒りに満ちた、灼熱の炎。
「……力が無いのが悔しかった……」
ゆっくりと少年は語り出す。
「……力さえあれば、父さんと母さんを守れたのに、と……」
それは目の前の異形に向けてではなく、そこにはいない誰かかに、もしくは、自分自身に対する述悔のようであった。
「……そして、今のオレには、力がある。みんなを守る力が!」
バッと、少年は上着を跳ね上げる。その腰には奇妙な形をしたベルトが巻かれていた。
「だからオレはみんなを守るために、このデイスティニーで、おまえたちを薙ぎ払う!!」
少年が目を閉じる。
ガァァァ!!
異形が再び雄叫びを上げて、今度は体ごと、少年に突っ込んでいく。
目を見開き、少年が走り出しながら、叫んぶ。
「変身っ!!」
少年の体が赤い光となり、同時に異形にぶつかる。
一瞬の拮抗の後、紅い光が異形を弾き跳ばした。
「うおぉぉぉぉ!!」
光の尾を引きながら、紅い光が弾かれた異形を追う。
「パルマ、フォキーナァ!!」
蒼い光が異形の頭部を打ち砕く。崩れ落ちる、異形。
ゆっくりと紅い光が消え、少年が姿を現す。
ふと異形に目を向けると、それは見る見る輪郭を失い、最後には一握りの砂に変わってしまった。それも風に飛ばされてしまう。
それを確認すると、少年は足早にその場を後にした。
……次の闘いの場へ急ぐかの様に。

78 名前:73 :2006/04/24(月) 20:55:52 ID:???
以上です。
なにぶん、前スレはまったく見てないので、こんなんでいいのか分かりませんが;
スレ汚してしたら、スイマセンm(_ _)m


79 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/25(火) 01:24:02 ID:???
GJ! どこが駄文ですかw
……ああ、ちなみに、
デスティニーのフィンガービームの名前は
パルマフィオキーナね。

80 名前:73 :2006/04/25(火) 09:12:56 ID:???
>パルマフィオキーナ
orz

81 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/25(火) 11:40:54 ID:???
すんげー!!!!
燃えた、ってか台詞が種と同じこといってるくせにかっこよく感じる

82 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/25(火) 19:51:57 ID:???
保守しにきたらネタきてんじゃん
面白かったっす!

83 名前:73 :2006/04/26(水) 15:39:06 ID:???
ありがとうございます。
調子に乗って少し書いてみようと思います。
2、3日掛かる(それ以上かも;)と思いますが、よろしくお願いします。

84 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/26(水) 19:50:43 ID:???
待っておる!

保守ならまかせてくれ、そんくらいしかできないんでw

85 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/27(木) 11:14:50 ID:???
保守

86 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/27(木) 11:16:19 ID:???
保守

87 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/28(金) 09:55:14 ID:???
保守

88 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/29(土) 02:17:25 ID:???


89 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/04/30(日) 16:33:35 ID:???
保守

90 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/01(月) 04:58:18 ID:Nvq+RuNL
シン厨死ね

91 名前:73 :2006/05/01(月) 13:51:49 ID:???
遅くなってすいません。
……言い訳を山ほどしたいところですが、止めておきます。
とりあえず、前編のみ orz


92 名前:73 :2006/05/01(月) 13:53:51 ID:???
仮面ライダーSEED DESTINY 
 第1話「仮面ライダー」前編

白い病院の廊下を1人の少年が歩いている。
16、7くらいだろうか、黒い髪にまだ幼さを残した顔、だがその唇は真一文字に結ばれ、紅い瞳には昏い光を湛えていた。
途中、何人かの医師や看護士らとすれ違う。
「……あら、あの子?」
その中の一人の看護士が立ち止まり、呟く。
「今の人がどうかしたんですか?」
一緒にいた若い看護士見習いも足を止め、尋ねる。
「……ずいぶん、久しぶりに見るな、と思って……」
「有名な人なんですか?……そういえば、ちょっとカッコ良かったですね」
看護士見習いの少女は振り返って、歩み去る少年の背を見やる。
「そういうわけじゃないのよ」
その言葉に含まれる響きに不審を感じ、少女が振り返ると、複雑な表情を浮かべた看護士の顔があった。
「……先輩?」
怪訝な少女の声に、少し躊躇ってから看護士は口を開く。
「……あの子のね、妹さんがこの病院に入院してるの……」
「……妹。えっと…なにか大怪我でもしたんですか?」
あの先は、外科病棟の筈、そう思いながら少女が尋ねる。
「……大怪我か…違うわ、怪我一つないわ。……外見上はね」
「……怪我一つないのに、入院?」
「そう……意識が回復しないのよ。二年前から、ただの一度も」

薄暗い部屋の中にふいに明かりが生じた。
「やあ、タリア、……ふむ、グラディス隊長、と呼ぶべきかな?」
モニターの向こうで長髪の男が笑みを浮かべている。
「そうですね、デュランダル議長」
僅かに苦笑を浮かべながら、タリア・グラディスは言葉を返す。
「うむ、早速だが、報告書は読ませてもらった。総て順調、いやそれ以上の成果を揚げているようだね。流石はグラディス隊長だ」
相変わらず、緩やかな笑みを浮かべたまま、告げる。
――まったく、その笑顔が曲者なのよね。
「……私の力は関係ありませんわ。彼らの素質、そしてなにより、努力の賜物ですわ」
内心の思いはともかく、極めて事務的にタリアが応える。
「ふむ」軽く頷いてデュランダルは手元にあった資料を手に取る「…特に、シン・アスカの成長が著しいな」
「そうですね。彼は適正こそ、レイ・ザ・バレル、ルナマリア・ホークの両名に劣りましたが、その努力、いえその執念は凄まじいものでしたわ」
一年以上にも渡る訓練を思い返しながら彼女は応える。
「……執念、か……」
「二年前、彼と彼の家族は『奴ら』との戦闘に巻き込まれ、両親は死亡、妹も原因不明の昏睡状態に陥り、そのまま現在に至るそうです」
「……それ故に、力を求め、それを得た……」
感慨深げに呟くデュランダル。
だがその表情を見てタリアは眉を顰めた。
それは、悲劇を悼むものではなく、そう、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のような、そんな表情だった。
――考え過ぎかしら?
そう、思って彼女は思考を止めた。
どうでもいいことだ。重要なのは、シンが力を求め、議長を含め自分たちは力を上手く扱えるものを求めたこと、ただそれだけ。だが……。


93 名前:73 :2006/05/01(月) 13:56:56 ID:???
「……議長……」
タリアは以前より、思っていた疑問を口する。
「……なにかね?」
「本当に、力が必要なのでしょうか?」
言った途端に後悔する。こんなことを尋ねてどうするのか?
だが、彼女は続ける。
「『奴ら』はもう現れないのでは?二年前のあの日、滅びたのではないでしょうか?」
デュランダルはその瞳に興味深そうな色を浮かべた。
「……そう、必要のない力なのかも、しれない」
「……」
軽く手を顎の前で組み合わせながら、デュランダルは続ける。
「……だが、必要かもしれない。『奴ら』が全滅したという保証はない以上、それに備えるべきだろう。……出来れば、この力を使わずにすむことを願ってはいるがね」
「そうですわね。できることなら……」
頷きながら彼女は思う。
――本当に?本当に私たちはこの力を使いたくないの?

晴れ晴れとした青空に人々の歓声が吸い込まれる。
轟音を上げて疾走する、ジェットコースター。ゆっくりと廻る、巨大な観覧車。踊りながら道々を行き来する、ピエロや着ぐるみの動物たち。
ここはつい先日オープンしたばかりの遊園地。
「……わあー」
赤い風船をもった、小さな男の子が巨大な観覧車を見て、声を上げる。
一番下から、徐々に視線を上げていく。一番上を見る頃には、男の子はひっくり返りそうなほど、背を仰け反らせていた。
「……ああっ」
知らず知らずのうちに緩んだ小さな手から風船の糸が滑り出し、赤い風船がゆっくりと空に登っていく。
「――よっと!」
そのまま、空に吸い込まれるかに思えた風船の糸を、白い手が捕まえる。
風船を捕まえたのは16、7に見える少女。赤いショートカットの髪とその身を包むTシャツとジーンズが、快活そうな雰囲気を醸し出している。
「はい」
笑顔を浮かべながらしゃがんで、男の子に風船を渡す。
「ありがとう、お姉ちゃん」
風船を受け取った男の子も笑顔で応える。
「ちゃんと持ってなきゃだめだよ」
「うんっ。……あ、ぼくもういかなきゃ。じゃあね、お姉ちゃん。バイバイ」
「そう、バイバイ。気を付けてね」
元気良く手を振る男の子に少女も手を振り返す。
「……さてと」
立ち上がり、辺りを見回す少女。誰かを探しているようだ。
「あ、いたいた」
そう言って、歩き出すその先には、ベンチに座った一人の少年がいた。


94 名前:73 :2006/05/01(月) 13:59:42 ID:???
「もう、レイ、なにやってんのよぉ?」
「……見ての通り、座っている」
口を尖らしながら、尋ねる少女に、一見、女性と見紛うばかりの長い金髪と整った顔した少年―レイは無表情に返す。
「……あのね、誰もそんなこと訊いてないでしょ……」
ガックリと肩を落とす少女。
「ふむ、そうか。で、そう言うルナマリアはなにをしている?」
レイは少女―ルナマリアの態度にも一向に拘る様子も見せずに尋ねる。
「……別に、レイの姿が見えないから……」
「メイリンたちは?」
慌てたふうに言うルナマリアの言葉を遮って、またレイが尋ねる。
「うっ、……ジェットコースター……」
どこか拗ねたように少女は答える。
「もう、コリゴリ、か?」
「……そうね、散々シュミレーターに乗らされたからね〜」
諦めたように呟くとルナマリアはレイの横に座って、空を見上げた。
「……いい天気よね〜」
「ああ」
「……シンも来れば良かったのに……」
「ああ」
まるで話を聞いていないような相槌を打つレイ。
でもルナマリアは知っている。
彼は何時だってちゃんと話を聞いている。リアクションが少ないだけ。ちゃんと相手のことを考えて必要なことを言ってくれる。必要最小限だけ……。
「レイ、楽しんでる?」
「ああ」
本当に必要最小限の答え。
「無理に連れて来ちゃったけど、怒ってない?」
「ああ」
「……」
「……1日とはいえ、久し振りの休暇だからな。たまには、こういう賑やかな所に来るのも悪くはない」
流石に言葉が少なすぎたと思ったのか、レイが話す。
「そう、良かった」
ルナマリアは笑う。
――レイは嘘は吐かない。でもレイは優しい。
最近になって気付いたこと。今はレイの優しさに甘えよう。


95 名前:73 :2006/05/01(月) 14:01:09 ID:???
ルナマリアはもう一度、空を見上げる。
澄み渡り雲一つない空。
「シンも来れば良かったのに……」
同じ言葉を呟く。
「ああ。……だが、久しぶりの休暇だからな」
「……そうね、久しぶりの休暇だものね……」
そして沈黙。
2人は知っている。
同僚の少年が今どこにいるのかを。
でも、ルナマリアは思う。
あの、怒りと悲しみに満ちた紅い瞳に、この空を見せてやりたい、と。
そうすれば、怒りと悲しみの色が薄れるかもしれない。
そんな事を考えながら、空を見上げる。同時に、今この時がとても貴重に思えた。
「……ねえ、レイ……」
「なんだ?」
「……これって幸せなのかな?」
「……」
人形めいた整った顔が、一瞬キョトンとした表情を浮かべる。
「……ははは、はっはっはっ、……」
次の瞬間、爆笑した。
「はははは、はははは、はははは、……」
余程、ツボにはまったらしく、延々笑い続ける。
「な、なによ。なにが可笑しいのよ!?」
ルナマリアは訳が分からず、憤慨する。
「ははは、いや、そうだな、これが幸せなのかもな……ははは」
目尻に涙を浮かべてながら、レイは応え、またひとしきり笑い始める。
ブスッとした表情でそれを眺めていたルナマリアは、不意に気付いた。
目の前の少年がこんなに笑うのを見るのは初めてだ、ということに。

少年は静か扉を開けて病室に入った。
白い部屋の中にベッドと幾つかの機械が整然と並べてある。
少年は機械のモニターにをチェックした。
ここに来るときは必ずそれをする。もはや習慣のようなものだ。
脳波、心拍、脈拍、体温、総て異常なし。
それから初めて、ベッドに視線を移す。
12歳くらいの愛らしい顔をした少女が眠っている。
艶やかな黒髪、薔薇色の頬、今にも起き出して、自分に笑いかけてくれる。そんな錯覚を少年は覚えた。
そう、それは錯覚、ただの少年の願望でしかない。
現実は、二年前のあの日から、少女はずっと目覚めない。ずっと……。
軽く頭を振って、少年はベッドの脇にある丸椅子に腰掛けた。
「……久しぶりだな、マユ」
そして、話掛ける。
「一年以上も来れなくてごめん。淋しかったか?」
当然、応えはない。

96 名前:73 :2006/05/01(月) 14:02:37 ID:???
「本当にごめん。でも兄ちゃん、頑張ってたんだぞ」
無意識に右手を上着のポケットに入れる。
「……あの日、オレ、マユと父さん、母さんを守れなかった。悔しかった。力が欲しいと思った。奴らを倒す力が……」
右手がポケットの中の固い物を握り締める。
「隊長や副隊長は、もう奴らは現れないかもしれない、て言ってる。でも、そんなことない!奴らはいる、必ず!奴らがいるから、マユが目覚めないんだ!」
静かな白い病室の中に少年の声が響く。
「だからオレは力を得たんだ。父さんと母さんの仇を取るため!マユを眠りから覚ますため!奴らを滅ぼす、力を!」
少年は立ち上がり、眠り続ける妹を見る。
「もう少し、もう少しだけ我慢してくれ、マユ。必ず、奴らを滅ぼしてマユを起こしてやるから。絶対に」
それを告げるために少年は今日、ここに来たのだ。
しばし、眠る妹の顔を見つめてから、少年は部屋を出た。
新たな決意を胸に。

後編へ

97 名前:73 :2006/05/01(月) 16:43:39 ID:???
……自分の文才の無さに泣けてきます (T_T)
続きは今週中に書けたらいいな orz

98 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/01(月) 21:55:10 ID:???
情感あふれる描写。
愛情が感じられる。
後編待っています。

99 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/02(火) 20:31:20 ID:???
職人さんGJです!頑張って下さい!

100 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/03(水) 00:28:53 ID:???
空の話いい
ってか普通におもしろいんだがw
こういう悲壮感ある話好きなんだよな

101 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/03(水) 21:31:51 ID:???
お前ら今すぐココにいけ
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144595127/l50

102 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/04(木) 11:09:38 ID:???
ほす

103 名前:31 :2006/05/04(木) 23:52:16 ID:???
以前に設定投下したものですが、73氏のを読んで書きたくなったのでちょっと書いてみま
した。元々設定しか考えない人間なので多分に箱書きっぽいところがありますがその辺り
はご容赦ください。

俺設定は基本的に>>33-38を踏襲しているのでよろしければそちらもどうぞ。

104 名前:31 :2006/05/04(木) 23:53:40 ID:???
仮面ライダーSIN 第一話「誕生」

C.E.70――外宇宙から来たと思われる生命体の襲撃に対応するため、人類はパワードスー
ツの発展系のMA(Masked Armor system)を開発。次第にパワーアップする未確認生命体
に対してMAはより強力な兵器を搭載するために巨大化・肥大化の一途をたどっていった。

だが、サイズが変わらずに強化していく未確認生命体に対して、鈍重なMAでは対応しきれ
なくなっていた。また、MAはその運用形態から非人型であることが多く、増加する戦死者
に対して装着者の育成が追いつかないという問題があった。

そこで、これまでの戦闘経験から体にフィットし、より直感的な操作が可能なMS(Masked
Armor system)を開発。だが、MSは発熱量・装着時の体への負荷など通常の人間に耐え
られるものではなかった。本来は廃棄される予定だったが、軍上層部の意向によりMSを装
着可能なコーディネイター(調停者・適合者)と呼ばれる改造人間を生み出すことになっ
た。

MSを装着したコーディネイターの成果はめざましく、未確認生命体を撃破・拿捕すること
に成功するまでになった。拿捕した未確認生命体を元に軍部は未確認生命体の解析を進め
た。その解析結果によって生まれたのが瞬時装着システムを備えたMR(Masked Rider
System)だった。MRにはその象徴としてブレードアンテナとデュアルアイを備えた独特
のマスクを付けられている。また、呼称は未確認生命体が用いていたシステムの名称をと
って「ガンダム」またはその頭文字をとって「G」と呼ばれることになった。

軍部は兵士の更なる能力強化を図るため、コーディネイターに未確認生命体から抽出され
たEVIDENCE-01因子を埋め込むことになった。しかし、拒絶反応が激しく、生きながらえ
ることができたのはキラ=ヤマトとアスラン=ザラの二人だけだった。未確認生命体との
戦闘が終結に向かうにつれ、コーディネイターの脅威を感じ始めた軍上層部はコーディネ
イターの処分を始める。それに軍に反発したコーディネイターや、軍の独走を良く思わな
い公安部はZ.A.F.Tという秘密組織を作り、密かに抵抗活動を始めた。この内紛によって
未確認生命体による被害は増大していた。

そんな中、キラは人間のために、アスランは改造の人間のために戦い、お互いのMSを大破
させるに至った。その後、キラはMRフリーダムをアスランはMRジャスティスを装着し、未
確認生命体の母体である羽クジラを撃破。キラとアスランはこの戦闘で行方不明になる。

地球に平和がおとずれ、軍諜報部は平和になって不要の存在となったコーディネイターを
殲滅する方針を継続した。コーディネイターは特殊な検査を行わない限り、ナチュラルと
見分けがつかないため既に社会の中に溶け込んでいた。そのため、いつその危険性が発露
するか分からないとの判断からである。しかし、これは軍上層部と公安部の対立が遠因と
なっており、少なからぬ批判の声が上がっていた。

そして終戦から2年後のC.E.73。悲劇は再び繰り返されることになる。

105 名前:31 :2006/05/04(木) 23:54:30 ID:???
「起きろ」

少年が目を覚ましたのは純白の部屋だった。まぶたを閉じていても額に強い光を感じる。
薄目を開いてみたが照り返しが激しく、とても目を開けていられない。額に手をかざして
ゆっくりと立ち上がった。天井からじりじりと照りつけ、照明が部屋を白で塗りつぶして
いる。そこに影の姿は無く、部屋の広さもよく分からない。四方八方から反射された光は
少年の姿を消すほどだった。

「これから戦闘訓練を始める」

機械越しの濁った声はどこからとも無く聞こえてきた。少年は辺りを見回したが人影は無
い。だが、確かに何かがいた。音がするのだ。風を切る音が耳に届いた頃には少年は地面
に倒されていた。

「うっ」

少年は唸った。だが、次の瞬間に風の音が聞こえたときには姿勢を立て直していた。少年
はもう一度横目で周囲を見渡すが人の気配は感じられない。部屋の真っ白な壁と照明のせ
いで距離感も感覚もずいぶん鈍っている。再び音がしたときには全身に衝撃が走っていた。
構えているぶん、倒されはしないものの、こんなものを何発も食らっていたら今日の命も
危ない。少年の頭に「訓練」から帰ってこなかった妹、マユの顔が頭に浮かんだ。

――そうだ。こんなところでやられている場合じゃない。

少年は深呼吸をした。

「やあぁっ!!」

空を切ることを承知で少年は拳を前に出した。大降りにならないよう、できるだけ広範囲
をカバーできるように、今までの「訓練」で身につけた型を繰り返した。かすりでもすれ
ば後は姿が見えずとも一発は叩き込める。その刹那、拳の先に硬く、冷たい塊が触れた。
つかさず少年は回し蹴りを繰り出した。すねにズシリとした感覚がのしかかってくる。そ
の先にふっとモノアイが浮かび上がった。

――MSかっ!?

少年がそう思った刹那、モノアイは消えていた。相手がMSだと分かり、少年の顔には絶望
が見え隠れしていた。聞きかじった知識だがMSは前の戦争に投入された一種の軍事用パ
ワードスーツで、このスーツのおかげで人間は未確認生命体と戦うことが出来るようにな
った、少なくともそう聞かされていたからだ。

106 名前:31 :2006/05/04(木) 23:56:21 ID:???
型を続けるうちに少年は肩で息をしていた。ハンドガン76発分の衝撃に耐えられる装甲を
持ったMSに生身で戦うことが無理なことなのだ。加えて、この状況で音だけを頼りに戦い
続けるには無理がある。少年は真紅の瞳をゆっくりと閉じた。荒くなった息を沈め、心臓
の音をゆっくりと聞いていた。シュッと右から風を切る音がした。

次の瞬間、うめき声とともに地面に崩れ落ちる鈍い音がした。少年のカウンターが決まっ
ていたのだ。音のした場所からMSを装着した人間が姿を現した。少年の姿は先ほどとは別
のものに変化していた。人間ではない、異形の者がそこには立っていた。デュアルアイに
V字アンテナブレード、前の未確認生命体との戦争で成果を挙げたMRのそれと酷似してい
た。少年がじっと目を凝らしてみると、部屋のところどころが蜃気楼のように揺らいでい
た。輪郭が定まらないものの、それは人の姿をしていた。

少年の姿に驚いたのか複数の人型が一斉に襲い掛かってきた。少年はそのうちの一体の顔
面を打ち抜き、他の者の攻撃はそのまま受けた。だが、体に先ほどのような痛みは無い。
MSはもはや敵ではなくなっていた。

3分と経たない間に8人のMS装着者は少年に倒されていた。

「見事だ」

また機械の声がした。

「装着を解除して指示に従いなさい」

少年はその声を聞かずに壁を殴りつけた。

「無駄だ、この部屋は君の力では壊れないようになっている」

少年はそれでも壁を殴り続ける。

――MSに勝てるこの力なら、ここから出れる。俺はここから出てマユを!そしてアイツ
に!
   
壁を殴る拳が次第に熱をもってきた。拳から腕へ、腕から胸へ、そして胸から全身へ。少
年のスーツは少年の瞳と同じ紅蓮の炎の色に変わっていた。手足が炎に包まれているよう
に熱くなっている。一撃一撃の威力が強まり、壁にわずかな亀裂が入った。少年は腰を落
として左足を後ろに引き、渾身の力を蹴りにこめる。そして亀裂へと放った。壁の亀裂は
音を立てて網の目のように広がり、そして壁は瓦礫になって崩れ落ちた。

「緊急警報発令!緊急警報発令!」

警報音が鳴り始めた。崩れた壁の先には無数のケーブルが縦に走っており、隙間からは他
の部屋が見えた。隣の部屋には既にMSが配置されており、警報がけたたましく鳴り響いて
いた。だが、それが今の少年にとってどれだけの意味があるのだろうか。少年はただ外へ
と向かうだけだった。

107 名前:31 :2006/05/04(木) 23:57:48 ID:???
「爆発!?」

同時刻、少年のいる施設から約2キロ離れたハイウェイのそばにビデオジャーナリスト、
ミリアリア=ハウの姿があった。今夜この場所で事件が起こるという匿名のタレコミを
聞いて現場に待機していたのだ。タレコミの声が安っぽいボイスチェンジャーで変換
されていたのでさほど期待をしていなかったのだが、タレコミ通り、それはミリアリアの
目の前で起こっていた。

驚きながらも反射的にカメラを向けていた。ジャーナリストの習性というやつだ。炎上し
た現場を最大望遠で写したファインダーを覗き込む。遠距離のせいか暗視フィルターを通
しているものの色が識別できないし、像もぼやけている。特に出火場所の周辺は白飛びを
起こしていてよく分からない。だが注視していると何かが動いているのが分かる。望遠レ
ンズの周囲に付けられたフィルターを切り替えると次第に動いている像がはっきりとして
きた。

「うそでしょ!?」

ミリアリアは思わず声を上げた。ファインダーの中には前の大戦に投入された
MRが映っていた。しかも、4体だ。

「口では禁止とか規制とか言っておいてさ」

ミリアリアはそう言ってシャッターを切り続けた。写し続けていると、どうも様子がおか
しいことに気付いた。1体が他の3体に集中して攻撃を受けている。戦闘訓練にしても爆発
を起こしているのにまるでそれを無視するように戦っていた。ミリアリアはただその様子
をカメラに収め続けていた。

カメラがカシッ、カシッと音を立てた。興奮しすぎたせいかいつもより早くフィルムを消
費していたのだ。ミリアリアはあわてて胸ポケットからフィルムを取り出し、カメラのフ
ィルムを入れ替えた。量子通信が一般的になっているとはいえ、個人ジャーナリストが高
級な機材をそろえることはできない。単なるデジタルカメラでは写っているものの信頼性
に欠けるため、結局アナログなカメラを使わざるを得ないのだ。フィルムを入れ替えてミ
リアリアが現場に再びカメラを向けたときには3体のMRがその場に倒れていた。1人で戦っ
ていたMRはいなくなっていた。

「いない?」

ミリアリアはとっさにカメラを肩にかけて追いかけようとしたが思い直した。MRの足に追
いつけるはずがないことがよく分かっていたからだ。

「うっ……」

ミリアリアは異臭に手を口に当てた。有毒ガスだ。爆発の現場から風に乗ってこちらま
で流れてきている。煙が立ち込めているのに周囲に対する避難警報も発令されていない。
軍のジープが次々に施設に乗り付けてくる。なにかあったのだ。そしてあの施設には何か
あるのだ。ミリアリアはそう確信して現場を去った。

108 名前:31 :2006/05/04(木) 23:58:43 ID:???
「ん?何だ?」

その影をジープに乗った金髪の仮面の男が感じていた。黒い軍服をまとい、彼の乗ってい
るジープに先導車がいることから身分は高いらしい。爆発の消化班の他にMRの回収班が一
帯の調査に当たっているようだ。

「おい。そこの!」

仮面の男が周辺の警戒に当たっていた部下に声をかけた。

「ロアノーク大佐、なんでありますか」
「向こうに動くものがいたと感じるのだが」
「ハイウェイの方ですか。あちらなら車でしょう。この時間ならさしずめトラックの運転
手が用でも足していたのでは?それにしてもよく分かりますね」
「運転手、か。そうかもしれないな。だが一応調べておけ。私はこれから例の3体の回収
に回る」
「はっ!了解しました!」

部下が仮面の男、ネオ=ロアノークに敬礼してハイウェイの方に向かった。ネオは運転手
に合図をしてジープを施設の方に向かわせた。


翌日、軍広報部による記者会見が開かれた。記者会見場にはミリアリアの姿もあった。軍
の広報部からの説明はこうだ。

「昨日の施設の出火は配線のショートによるもので事件性は皆無である。また、被害状況
は軽微であり、周囲への影響も無いが、念のためしばらくは軍が駐屯し、現場周囲2キロ
以内への立ち入りを禁止する」

質疑応答の時間も取らずに軍広報部の担当者は記者会見場を後にした。

「ちょっと!」
「きちんと説明してくださいよ!」

などといった声が相次ぎ、会見場は騒然とした。しかし、それに対する回答は一切得られ
ず、よく分からないままに記者たちは追い出されてしまった。ミリアリアは何か裏がある
という確信を更に深めた。現政権は先の大戦で拡張しすぎた軍備を縮小する路線を掲げて
いる。新たなMRが開発されていたとしても政府の決定ではなく、軍部の独断だろう。今、
新たなMRの存在が白日の下に晒されれば色々と不都合なのは目に見えている。

109 名前:31 :2006/05/05(金) 00:00:21 ID:???
記者会見場から写真の現像のためにアパートに帰るとドアの前に金髪で長身で褐色の男が
立っていた。ミリアリアは不機嫌そうに男に声をかけた。

「何の用?私忙しいんだけど」
「おいおい、1ヶ月ぶりだってのにそれはないぜ」

褐色の男はわざとらしく肩をすくめてみせた。この褐色の男はディアッカ=エルスマン。
ミリアリアとは前の大戦で知り合った。ミリアリアにはその気はあまりないのだがディア
ッカは事あるごとにミリアリアの尻を追いかけまわしている。

「そこ、どいてよ」
「部屋に入れてくれるってんならどいてもいいけどな」

ミリアリアは頭を抱えた。「ダメ」と言えば居座り続けることは目に見えている。子供っ
ぽい、と呆れながらため息をついて言った。

「分かったわ。でも写真の現像しないといけないからジャマしないでよ」
「オーケー。飯まだだろ?チャーハン作りながら待ってるぜ」
「えー、またチャーハンなの?」

ミリアリアが鍵を開けながらぼやいた。

「俺のチャーハンはうまいだろ?」

そう言うディアッカの顔は得意げだ。

「そうね」

ミリアリアは苦笑いを浮かべた。彼のレパートリーはチャーハンしかないのだ。ジャケッ
トを椅子にかけて鼻歌を歌いながらキッチンに向かうディアッカを尻目にミリアリアはた
め息をつくしかなかった。

110 名前:31 :2006/05/05(金) 00:01:20 ID:???
ミリアリアのアパートに程近い路地裏に施設から脱走した少年がうずくまっていた。気が
付けば元の姿に戻っており、施設の服のままで街中をうろつくわけにもいかなかったのだ。
素足では昼のアスファルトの上を歩けるわけもなく、日影にじっとうずくまっていた。今
頃になって全身が痛みだし、動く気もしなかった。

腹が減っていた。換気扇を通じてアパートの台所のにおいが辺りに漂っている。チャーハ
ンのにおいだ。腹が鳴って唾液が沸いてくるが食べるものはないし、金もない。とりあえ
ずどこかに移動してどうにかするしかない。立ち上がって表通りをこっそり覗く。通りに
出れば素足で施設の服を着ている自分は明らかに目立つ。それを確認して再び路地に隠れ
た。

――無理か、クソっ!

少年は右手で壁を殴りつけた。スーツをまとっていたときとは違って拳が痛んだ。

「イテっ」

少年は左手で右手をなでた。施設を脱走するときは無我夢中で何がどうしたのかを覚えて
いない。あのときはMSを装着していたわけでもないのにそれらしいものをまとっていた。
今の様子ではMSらしい装甲は必要に応じて出てくるというわけでもなさそうだ。がっかり
と肩を落として少年は壁にもたれかかった。

そのときだった。

「キャーッ!!」

表通りから悲鳴が聞こえた。赤信号の横断歩道に飛び出した女の子に向かってトラックが
突っ込んできていたのだ。それを見た瞬間、少年は路地から飛び出していた。キーッっと
いう甲高いブレーキ音が響く。トラックの運転手も子供に気付いてブレーキをかけたよう
だが遅すぎる。このままでは減速しながら女の子をはねてしまうだろう。少年は女の子を
助けようと必死に手を伸ばした。

ドンッ

鈍く、低い音がした。


第一話 おわり

111 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/05(金) 12:08:46 ID:???
新作ぞくぞくでいい感じ

112 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/06(土) 00:40:18 ID:???
ネタ来てる!
面白かったです

113 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/06(土) 14:55:14 ID:???
設定はカブトっぽいが、シンの境遇は昭和ばりにシビアだな
この設定だと怪人にあたるのは、みなMAやMSを着込んだ人間になるのかな

114 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/06(土) 17:03:23 ID:???
対人間かまたまたシビア

115 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/08(月) 00:24:59 ID:???
なんか種映画化らしいなー
スレ乱立してるし一応保守しときます

116 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/09(火) 00:16:48 ID:???
映画化か、やっと種終わるんだな

117 名前:31 :2006/05/09(火) 23:35:13 ID:???
>>113
> 怪人にあたるのは、みなMAやMSを着込んだ人間になるのかな

そのつもりです。


2話書いたんだけど投下していいかな……

118 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/10(水) 00:43:32 ID:9AJdpjqd
YESー!

119 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/10(水) 00:47:55 ID:???
すまん、ageてしまった…。
ショーカーの基地で改造されてくる……。

120 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/10(水) 00:49:00 ID:???
>>117
どーぞー
>>119
どんまいw

121 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/10(水) 01:41:55 ID:???
そして>>119はショッカーによって恐怖age男へと改造され
クソスレをageて板を大混乱に陥れる計画を実行しようとするのであった。


122 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/10(水) 03:01:18 ID:???
ageage…糞スレじゃないけど、ageて見るのね!
日本一のぬいぐるみ師ーーーーー!!



こっちはジョッカーの怪人だが、
ノリダーもパロディながら、面白かったなぁ…。

123 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/10(水) 07:39:35 ID:???
岡田真澄のファンファン大佐とか懐かしいな
ところでカーニバル&フェスティバルってどういう技だったか覚えてないか

124 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/10(水) 10:04:52 ID:???
見ちゃだめビームみたいなのもなかったか?
写真で相手を追い詰めてくやつ…

125 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/10(水) 19:48:56 ID:???
>>123
正しくは、フェスティバル&カーニバルね。
どっちもノリダーが回転して、
周囲のジョッカーの皆さんを吹き飛ばす技だったかと。
衝撃波みたいなビームの特殊効果が出てたのは覚えてる。

…だが、フェスティバルの回り方というか、どういう動きしてたか、
回転で合ってるか、自信ないっす…。

見ちゃ駄目は忘れてしまった…。
寝ちゃ駄目なら、どこのコントでもやってたから、覚えてるけど、
これが技として使ったかは、不明。

126 名前:31 :2006/05/10(水) 22:16:50 ID:???
仮面ライダーSIN 第二話

静まり返った人だかりの視線は現場に釘付けになっていた。彼らの視線は事故現場に集中
していた。横断歩道にへたり込んでいた女の子は恐る恐る目を開いた。どこも痛くは無い。
見上げると少女の目の前には異形の者がいた。その炎のように赤い姿は注目を浴びるには
十分なほどに目立っていた。

異形の者はがっしりと地に足をつけ、トラックのバンパーに手を突いてトラックを止めて
いた。トラックの前面は無残にも変形しており、衝突の破壊力を物語っていた。異形の者
はトラックから手を離して女の子の方に振り向いた。フェイスマスクはデュアルアイにV
字アンテナの付いた特有のものである。

「ガンダム……?」

女の子は思わずそう呟いた。異形の者が女の子に手をそっと差し伸べた。女の子は自分に
向けられた手に怯えた。ブロックのような機械的なマニピュレーターがトラックの衝突で
熱を持って赤錆のようなにおいをを放っていた。

「エル!ダメっ!」

叫び声と共に歩道から母親らしき女性が女の子に駆け寄り、さらうように連れ去っていっ
た。一瞬のことで誰もが唖然としてその光景をただ見ているだけだった。ほどなく遠くか
らサイレンが聞こえてきた。次第に音が大きく、高くなっていく。サイレンの音で野次馬
も冷静さを取り戻したのかざわつき始めた。その様子を見て異形の者は猛スピードでその
場から逃げ出した。


「何だ?事故か?」
「え、どこどこ?」

サイレンの音を聞いてディアッカとミリアリアがベランダから外の様子を見た。人だかり
の中心にフロントが歪んだトラックが止まっている。相当な事故のようだ。衝突相手を探
してみるが見当たらない。ただ、ディアッカはサイレンの鳴る方向とは別の方向へと移動
する赤い姿を見た。

「相手はアイツか」
「どこどこ?」

ミリアリアは望遠レンズ付のカメラを持ち出して道なりにディアッカの言う「アイツ」を
探した。だがどこにもそんな姿は無い。

127 名前:31 :2006/05/10(水) 22:17:48 ID:???
「もう見えなくなったよ。って言ってもお前には元々見えないだろうけど」
「アンタはいいわよね。私たちに見えないものが見えるんだから」
「しょうがないだろ。オマエはそういう風にできてないんだから」

ミリアリアがカメラを下ろして残念そうな表情を浮かべる。

「で、どんなやつだったの?」
「赤いやつだな。正面から見てないからよくは分からないけどブレードアンテナが付いて
た。多分MSだな」
「赤いやつ?」

ミリアリアはそう言うと浴室から現像したての写真を引っ張り出してきてディアッカに見
せた。

「もしかしてこいつじゃない?」

写真といっても随分とノイジーで白飛びを起こしていたり、ブロックノイズがかかってい
る。それでも中央に写された人型は大まかな特徴を残している。ディアッカは写真をじっ
と睨んで言った。

「肩と腰周りは似てる。後はよく分かんねーな」
「そっか。やっぱりサイに頼んで解析かけてもらわないとダメかな」

ミリアリアはディアッカから写真を取り上げて外の様子を見た。警察が現場確保をして通
りにたまった野次馬に対応し、交通整理を始めていた。警察に少し送れて公安の車も現場
に来ていた。

「公安が現場に来てるってことはやっぱりMSがらみなのね」

ミリアリアが現場の写真を取ろうとカメラを構えて、数枚の写真を撮った。フロントのへ
こんだトラックに茫然自失とした運転手が乗っている。だが、ぶつかったはずの原因はど
こにも見当たらなかった。ディアッカの言うことを信じればどこかへ逃げていったのであ
る。しかも、その逃亡者は昨日の夜に施設から脱走したと思われるMRかもしれない。人だ
かりを撮っているうちにファインダーに銀髪のおかっぱ頭が入った。

「あっ」

ミリアリアはそう言ってあわてて顔を引っ込めた。

128 名前:31 :2006/05/10(水) 22:19:25 ID:???
「ん?」

銀髪のおかっぱ頭の男はそれに気付いてか気付かなくてか、ミリアリアの部屋の方を見上
げた。そこにはディアッカがいる。男に見つけられてディアッカは苦笑いを浮かべている。
男の名はイザーク=ジュール。マティウス地方の名士・ジュール家の御曹司で、母親は現
役の国会議員だ。本人も上級試験をパスして順調に出世している。イザークはディアッカ
を見つけるなり怒鳴り散らした。

「くぉおら!貴様!何そんなところで油売っている!」
「非番にどこにいようとオレの勝手だろ」
「このクソ忙しいのに年休なんて取りやがって!そこで見てるくらいなら降りてきて手伝
え!」
「へいへい」

そう言ってディアッカはベランダから部屋に入った。椅子にかけていたジャケットを着て
テーブルの上の食器をシンクに持っていった。

「ワリイ。皿洗って行けなくて」
「行くの?」
「同期とはいえ今は上司だしな。それにアイツ行かないとここに押しかけてくるぜ。オマ
エにはそっちの方がまずいだろ?」
「写真のこと、内緒にしておいてよ」
「分かってるよ。じゃーな」

ディアッカはミリアリアの方を向かずに手を振って部屋を出て行った。


一方現場ではいつもの通り警察は公安に非協力的でイザークは青筋を立てていた。MA、MS
に関する事件では公安が捜査特権を持っているのだが、軍部に同調している警察は現場を
押さえてその情報を離そうとしない。事後報告として二次情報が回ってくるだけである。
いつものことだ、男はそう自分に言い聞かせるたびにイライラをつのらせていた。

「ジュール隊長!」

黒髪のロングヘアーの女性、シホ=ハーネンフースが男に声をかけた。切れ長の目をして
いてその表情は凛としている。

「どうしたハーネンフース」
「目撃者の証言を取ってきました」
「で、何か重要なものはあったか?」

イザークはイライラしているせいか口早に質問を返す。

「事故としてはよくある子供の飛び出し事故なんですが、当事者の子供が母親らしき女性
に連れられて現在逃亡中。トラックの運転手の方はパニックを起こしているので証言は無
理です。確かかどうか分かりませんが周囲の目撃者情報によれば、飛び出した子供はMSを
顔を見て『ガンダム』と言っていたそうです」
「『ガンダム』だと!?」

129 名前:31 :2006/05/10(水) 22:20:15 ID:???
イザークは声を荒げた。その声は部屋から降りてきたディアッカの耳にも届いていた。デ
ィアッカは内心面倒なことになったと思い、こっそり逃げ出そうかとも思ったのだが、既
にシホに睨みつ
「イザーク、何を騒いでるんだ?」
「遅いぞ!呼ばれたらすぐに来い!」

イザークに怒られ、シホは冷たい目でディアッカを見ている。

「へいへい」
「まあいい。で、犯人を見たのか?」
「ああ」
「この中にに該当者がいるか?」

イザークはディアッカに数枚の写真を見せた。所在不明のMA、MS、MRなど、その中にはフ
リーダムとジャスティスの姿もあった。ディアッカは写真をイザークに返しながら言う。

「いや。俺が見たのは赤いやつだ。もっとも、後姿しか見ちゃいないけどな」
「赤だと!!」
「いや、アイツにしちゃ2年も姿見せないで今何しに出てきたんだ?」

二人はある男を思い浮かべていた。先の大戦での同僚で、宇宙クジラを撃破後に戦死した
男――アスラン=ザラのことを。だが、戦死したというのはあくまで公式発表で、実際に
は生き延びていることを二人は知っていた。風の噂ではオーブのオノゴロ島に渡ったとい
う話もあるが、現地に彼の姿は無かった。

「俺が知るか!ディアッカ!ハーネンフース!帰るぞ」
「おいおい、現場検証はいいのかよ」
「どうせ今は警察が捕まえて離さん。報告書を後で読めば済むことだろうが」

そう言うとイザークはさっさと車に乗り込んだ。シホは既に車に乗り込んでおり、ディア
ッカだけが取り残されていた。ディアッカはやれやれと肩をすくめた。もう一度現場の方
を見た。警察は公安を無視して淡々と状況整理をしている。そのとき、人ごみから視線を
感じた。感じた方向を見るとワインレッドのバイザーをかけた青髪の男がディアッカを見
ていた。目元はバイザーで覆われていてよく分からないが、口元は笑っているように見え
る。

「どうした!早く乗れ!」
「あ、ああ」

イザークに返事をするために一瞬目を離した。その隙に男はいなくなっていた。ディアッ
カは急に不安になってミリアリアのアパートを見上げた。カーテンが閉められていて中の
様子は分からない。何故か先の大戦のことが思い出されてディアッカの中で嫌な予感がう
ごめき始めていた。車は走り出し、アパートは次第に小さくなっていった。けられていた。

130 名前:31 :2006/05/10(水) 22:21:07 ID:???
元の姿に戻った少年は裏路地にぼろ雑巾のように倒れていた。体力を消耗しきっていた。
昨日から丸2日何も食べていない。それでいて施設から脱出し、3体のMRと戦い、トラック
を受け止めるという無茶をしている。限界もいいところだった。口の中が乾ききって舌が
異物のように感じる。手を握ってみるが握力も弱くなっている。気持ちだけは体を追い立
てるのだが、体が一向についてこなかった。

「まったく、手間をかけさせるな、君は。人通りの多いところであんなことをするなん
て」

少年が見上げるとワインレッドのバイザーをかけた青髪の男が立っていた。バイザーと逆
光でできた影のせいで表情はよく見えない。

「誰なんだよ、アンタは……」

少年は搾り出すように声を出した。声に力は無く次第に弱弱しくなっていく。

「俺の名はアレックス・ディノ。君を連れにきた」
「連れ戻しに来たのかよ……」

少年の声はアレックスに届かないほど小さくなっていた。ためていた唾液を飲み込むと同
時に歯を食いしばり、ひざを立ててよろよろと立ち上がった。ひざが笑っていて腰をすえ
ることも出来そうにない。ふらふらの体を壁に預け、即座に壁を蹴ってその反動でアレッ
クスに殴りかかった。

「うぉおおっ!」

少年は渾身の力をこめて叫ぶ。だが、力のないパンチは容易に流され、腕をつかまれた少
年は地面に叩きつけられていた。

――……こんな状態じゃなきゃ……

131 名前:31 :2006/05/10(水) 22:22:10 ID:???
薄れゆく意識の中で、少年は昨晩のことを思い出していた。白い部屋を抜け、警報機が鳴
り響く中少年は外に向かっていた。既に隔壁が下ろされ始めている。隔壁は強固で、部屋
の壁を突きやぶったようにはいかなかった。もたもたしていると閉じ込められてしまうだ
ろう。防衛MSが乱射した対MS弾があちこちで火災や爆発を引き起こしている。炎の燃え盛
る音と逃げ遅れた研究員の悲鳴があたりに広がっている。少年は辺りを見回した。

――外はどっちだ

物陰からMSが現れて攻撃を仕掛けてきた。隔壁や爆発で施設は様変わりしており、どちら
が外か分からなくなっていた。その上、防衛ラインはますます厚くなっていく。

「いったいどれだけいるってんだよ!」

少年は防衛MSから対MS弾を奪い取って一方向に壁をぶち抜いていった。そうして外に出る
とそこにはブレードアンテナにデュアルアイの似たようなフェイスマスクをしたMRが3体
いた。緑と青と黒。建物から出てきた少年を3体のMRはぐるりと囲んだ。

「それじゃ行くぜ!」
「おうよ!!」

まず青のMRが攻撃を仕掛けてきた。それを受け流すと少年の後ろから緑のMRの蹴りが飛ん
でくる。少年は振り向きざまにかろうじて蹴りを受け止めた。

「今だ!!」

再び青のMRが攻撃を仕掛け、それを受け止めた少年は両手をふさがれてしまった。がら空
きの背中から黒いMRが強襲をかける。2体のMRを振りほどけるわけも無く、少年はまとも
にダメージを受けてしまう。有象無象の防衛MSとは桁違いのコンビネーションに少年は苦
戦を強いられた。

どうにか相手を振りほどき3体の包囲網を突破するために走り出すが、MRも追走してくる。
少年に逃げ場は無かった。先ほどからの戦闘で体力も相当消耗している。次第に追い詰め
られ、じりじりと建物の方に戻されていく。突如、建物が大爆発を起こした。焼け出され
た、あるいは閉じ込められたままのMS装着者や施設の人間の悲鳴や断末魔が聞こえてくる。

132 名前:31 :2006/05/10(水) 22:22:58 ID:???
「うわぁあああー、助けてくれ!!まだ俺は死にたくないんだ!!」

ある者は助けを求める叫びを

「クソっ!こんなにMSが弱いなんてっ!!」

ある者は恨み言を

「かあさーん!!」

ある者は聞き届けるものの無い遺言を

「誰か来てくれ!俺はここにいるんだ!!」

自分がここにいるのだと叫んだ。一言で言ってしまえば「凄惨」だが、少年はそうは思っ
ていなかった。それは少年をを苦しめたことへの報いだと思ったのかもしれないし、単純
にそんなことを感じる余裕が無かったからなのかもしれない。

――どうする?

少年は足を止めた。不思議なことに先ほどから3体のMRも攻撃を仕掛けてこない。少年は
それを見て構えたまま相手の動きを伺っていた。突然3体ともが頭を抱えてその場に倒れ
こんだ。何かを呟きながら痙攣を起こしている。少年は疑問に思いながらもこの機を逃さ
ずに暗闇の中に全速力で駆け出した。その後は裏路地で倒れているのに気付くまで何をし
ていたのかを覚えていない。

「やあ、気がついたようだね」

少年が目を開くと長髪の男が写った。ベッドに寝かされているが拘束具は付けられていな
い。アレックスという男に元いた施設に連れ戻されたわけではないことを確認してひと安
心した。深呼吸をするとノックの音が聞こえた。

「食事を持ってきました」

アレックスが食事をのせたトレーを持って部屋に入ってきた。

「アンタ!」

少年は飛び起きようとしたが、体中に痛みが走って起き上がれなかった。

133 名前:31 :2006/05/10(水) 22:23:53 ID:???
「まだ起き上がるのは無理のようだな。アレックス、彼に事情を説明していないのか?」
「事情を説明する前に殴りかかられて、それから意識を失ったからな」
「そうか。どこから説明したらいいものか……」
「アンタたち、俺をどうしようっていうんだ!」

少年は叫んだ。男は何事もなかったかのように少年に語りかけた。

「安心したまえ。君に危害は加えるつもりはない。私の名はギルバード・デュランダル。
君の名前は?」
「シン。シン=アスカ」


第二話 おわり

134 名前:31 :2006/05/10(水) 22:28:29 ID:???
前のバージョンで台詞が直ってなかった……orz
とりあえず>>133のアレックスの台詞は

×意識を失ったからな
○意識を失ったもので

ということで。なんか急に偉そうな口調に変わってるよ……(´・ω・`)

135 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/11(木) 00:32:21 ID:???
種キャラが結構でてきて想像しやすいわ
ミリアリアのカメラが生かされてよかったw

136 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/11(木) 13:09:01 ID:???
GJ!
すげー面白いんだけど
仮面ライダーってやっぱいいな

137 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/11(木) 15:26:08 ID:???
マジ面白い

138 名前:73 :2006/05/11(木) 17:21:06 ID:???
31氏GJです。
仕事が早くて羨ましい限りです。

えー、構成力、文章表現力、設定力等々が欲しい、今日この頃です (T T
前回、後編へ続く、とか書きながら、なぜか、中編ですorz

139 名前:73 :2006/05/11(木) 17:22:54 ID:???
仮面ライダーSEED DESTINY 
 第1話「仮面ライダー」中編

「……なに?あれ?」
ぼんやりと空を見上げていたルナマリアは呟く。
「どうした?」
とっくに、笑いの発作の収まったレイがいつも通りの無表情で尋ねる。
「空に、なにかいる」
見上げると確かに、幾つか点のような物が見える。
そして、それは少しづつ大きくなってくる。
「……人?なんかのアトラクションかな?」
不審げなルナマリアの声を聞きながら、レイは目を凝らす。
――……まさか。
ダンッ!
突然、レイは立ち上がった。
「!?なっ、なに?どうしたの!?」
「……奴らだ」
慌てるルナマリアにレイは静かに、しかし緊張を孕んだ声で応える。
「奴らって?……まさか!?」
「そうだ、未確認生命体だ」

ピー、ピー、ピー。
病院を出て、駐車場に停めておいた、大型の青いバイクに跨ろうとした時、通信機の呼び出し音が鳴り響いた。
「はい、こちら、シン・アスカ」
素早く通信機のスイッチをONにして少年は応える。
『シン君?良かった、繋がって』
安堵の溜め息と共に若い女性の声が流れる。
『アビーさん?どうしたんです、なにかあったんですか?』
シンは尋ねる。
1日とはいえ、正式な休暇の途中で呼び出しを受けるとは尋常ではない。
『ちょっと待ってね、隊長に代わるわ……』
『……シン、聞こえる?』
オペレーターのアビー・ウィンザーと代わって、落ち着いた女性の声が流れる。
「はい、聞こえています。それより隊長、なにがあったんです?」
タリアに尋ねながら、シンの心がざわめく。
――まさか?……いや、しかし……でも。
悪い予感、いやそれは確信に近い。
『シン、コンディションレッド発令よ』
「……コンディション、レッド……」
『奴らが、未確認生命体が出現したわ』

140 名前:73 :2006/05/11(木) 17:25:07 ID:???
――奴らが……。
ギリッ。
知らず知らず、拳を握り締め、奥歯を噛み締めていた。
湧き上がる感情。それは……。
「……シン、シン?聞いてる?」
「……聞いてますよ。どこです?」
意外にも平静な声が出せたことに、シンは自身、軽い驚きを感じた。
『……D-1地区の遊園地内よ。レイとルナマリアは既に現場にいるわ。……と、いうより、彼らの所に奴らが出現したんだけど……』
――そういえば、ルナが遊園地に行くとか、言ってたな。
シンは思い出す。
『レイたちは武装していないわ。すぐ、現場に向かってちょうだい』
「了解!」
応えて、シンはバイクに跨り、イグニションをONにする。
ブルンッ!
エンジンは一発で起き、重々しい音を出す。
『……シン』
タリアの声に躊躇いが含まれる。
「なんですか、隊長?」
不審を感じながらもシンはアクセルを開き、クラッチを繋げる。
ヴォンッ!!
爆音を上げ、大型のバイクが、放たれた青い矢のように、発進する。
『あなた、喜んでる?』
「?」
『私を含め、多くの者が、奴らの再出現を疑問視していたわ。でも、あなただけは、それを信じていた……』
「……」
『そして、奴らは現れた。その予想が的中して、今、あなたは、嬉しい?』
切りつける風の中、シンは微かに唇の端を釣り上げた。
「嬉しい?そうですね、確かに喜ぶべきかも知れない。……でも」
更にアクセルを開き、バイクを加速させる。
心の中で渦巻く感情。
それは、喜びなのだろうか?
――違う。これは、喜びなんかじゃない!!
「オレが感じてるのは、奴らに対する、怒りだけです!!」
叫ぶその瞳は、燃え盛る炎のようだった。

遊園地は歓声から一転、阿鼻叫喚に包まれていた。
空から舞い降りた、複数のそれに、最初人々は訳が分からず、呆然となった。
そして、誰かが叫んぶ。
「未確認生命体だ!逃げろ!」
その叫びはゆっくりと人々の中に浸透し、戸惑いはやがて恐怖に変わる。
「に、逃げろー!」「きゃー!」「うわー!」
そして、その叫びに呼応するように、それも動き始める。
一見人間のように見えるそれは、白いぶよぶよした皮膚に覆われ、節くれだった手足の先には鋭い爪を備えている。
頭には2対の赤い複眼のような物を持ち、口は左右に裂ける牙のようだった。
その姿は、正に怪人と言うべきだろう。
怪人たちは堰を切ったように人々を襲い始める。


141 名前:73 :2006/05/11(木) 17:27:03 ID:???
「ギャー!!」
一人の男性が怪人に襲われる。
鋭い爪に肩を裂かれ、倒れ込む。
「う、うわぁ、く、来るなぁっ!!」
必死に逃げようとする男に、怪人はゆっくりと近づいて行く。
「ハァーッ!!」
突然、声と共に、怪人の足が払われ、怪人が転倒する。
「逃げて!」
ルナマリアは、倒れた怪人を見据えながら、叫ぶ。
「き、君は?」
「いいから、早く!」
そうしている間にも怪人は立ち上がろうとしていた。
「わ、わかった。……すまない」
男はなんとか立ち上がり、逃げ始める。
ガァァァ!
立ち上がった怪人が怒りの叫びを上げ、ルナマリアに襲い掛かる。
「ハァッ!!」
その鋭い爪をかわして、ルナマリアは怪人の胸部に肘を叩きつける。
たまらず、怪人が数歩後ずさる。
その機にルナマリアも距離を取り、怪人に背を向ける。
どうやら、怪人は完全にルナマリアに目標を定めたらしく、彼女を追い始める。
「……さあ、付いてらっしゃい」
言いながら彼女は先ほどのレイとの会話を思い出す。
――どうやら、群れで行動するタイプのようだな。
――どうしょう、レイ?
――残念ながら、今の俺達では奴らを倒すことは出来ない。
――じゃあ、ミネルバに?
――それでは、被害が広がってしまう。
――じゃあ、どうするのよ!?
――俺達が囮になる。
――囮?
――そうだ。奴らは自らに攻撃を加えてくる者を優先して襲う習性がある。
――あっ。
――2人で、奴らに攻撃を加えて奴らをおびき寄せる。敵は20体程だ。出来るな?
――任せて。
――おびき寄せる場所は中央の広場だ。
――了解。
駆け出しながら、ルナマリアは次の怪人を探す。
瞬間、妹のメイリンのことが頭をよぎる。
――あの子だって、ザフトの一員。それに、ヴィーノとヨウランも一緒だし、きっと大丈夫。
と、2体の怪人に襲われている、カップルが目に入る。
「あたしだって、伊達に赤を着てるわけじゃないんだからー!!」
ルナマリアは叫んで、全力で駆け出した。

142 名前:73 :2006/05/11(木) 17:30:13 ID:???
――どうやら、上手くいったようだ。
中央の広場に着いたレイは後方を振り返る。
後ろからは十数体の怪人がゾロゾロと彼を追い駆けて来ている。
この怪人たちは力や耐久力はかなりのものだが、動きはそれほど素早くはないようだ。
おかげで、レイは比較的容易に怪人たちをここまで導くことが出来た。
――だが、このままでは……。
冷静に彼は考える。
確かに怪人たちの動きは遅い。だが、こちらには怪人たちを倒す手段がない。
殴ろうが、蹴ろうが、多少痛がりはするものの、怪人たちにダメージを与えることができないのだ。
「レーイ!」
見るとルナマリアが数体の怪人を導きながら、こちらに向かってきていた。
広場のほぼ中央で2人は合流する。
「これで、全部、かな?」
「たぶんな」
お互いに背中を合わせながら会話する。
その間に怪人たちが2人を取り囲む。
「やっぱり、手強い、わね」
荒い息を吐きながら、ルナマリア。
「ああ」
対して、レイのほうはそれほどではない。
「MSを、装着、できれば……」
「あまり、喋るな。呼吸を調えろ。ここからが正念場だ」
じりじりと包囲を狭めてくる怪人たちに目を遣りながら、レイ。
「……そうね。……まったく、情けないわね」
息を整えながら、ルナマリアは自虐的に笑う。
「気にするな、俺は気にしない。……それにどうやら、間に合ったらしい」
「え?」
薄く笑うレイにルナマリアは訝しげな表情を浮かべる。
ヴォン、ヴォォン。
重々しい爆音が響きわたる。
「これって、……スプレンダー?」
次の瞬間、青い旋風が怪人たちの一角を突き破った。
「ルナ、レイ、無事か!?」
旋風は、バイクとそれに跨る少年に姿を変える。
バイクはタイヤを滑らして、レイとルナマリアの前で急停車する。
「シン、遅いわよ!」
「て、大丈夫みたいだな。レイは?」
口を尖らすルナマリアを後目に、シンはレイに尋ねる。
「問題ない」
「そうか」
無表情に応える同僚の声に、シンは軽い安堵の溜め息を吐く。
「後は、オレに任せろ!」
言ってシンは上着を翻す。その腰には奇妙なベルトが巻かれていた。


143 名前:73 :2006/05/11(木) 17:32:00 ID:???
「キャーッ!!」
突然、悲鳴が上がる。
「くっ、まだ人が残っていたのか!?」
慌てて、周囲を見回す3人。
「!?」
ルナマリアはゆっくりと空に上がって行く赤い風船に気付いた。
「……あそこっ!!」
そこには、小さな男の子を抱えた男女がお互いを庇い合うように、うずくまっている。
その前に1体の怪人が立ち、鋭い爪を振り上げようとしていた。
「!!」
シンの頭の中で忌まわしい記憶がフラッシュバックする。
――逃げろ!!シン!マユ!……グァァーッ!!
――マユ、キャァーッ!!
――お兄ちゃーん!!
瞬間、シンはアクセルを全開にする。
――そんなこと、そんなこと!!
「させるかぁーっ!!」
撃ち出された弾丸のように、発進するバイク。
その距離、僅か数十m。だが、それは絶望的な距離だった。
周囲を囲む怪人たち。親子の眼前に立つ怪人。
どう見ても、間に合わない。
しかし、シンは叫ぶ。
「変身!!」
『チェンジ・インパルス』
無気質な疑似音声と共に、シンはバイクごと、青い光に包まれる。
光はとてつもない速さで加速し、進路上の怪人たちを弾き飛ばす。
「うおぉぉぉっ!!」
ゴガッ!!
鈍い音を立て、光はそのまま、爪を振り下ろそうとしていた怪人にぶち当たる。
ゴアァァァ!!
苦鳴のようなものを上げながら、怪人が吹き飛ぶ。
親子の前で停止した光はゆっくりと薄れ、その姿を現す。
全身を白いピッタリとしたスーツに身を包み、胸と肩は青の、腕、腰、脚は白い装甲のようなものに覆われている。
頭部もヘルメットのようなものに覆われ、額からはVの字型のアンテナが伸び、人のような二つの目を持っている。
その姿はまるで……。

144 名前:73 :2006/05/11(木) 17:33:17 ID:???
「早く逃げてください!!」
声はシンのままで、それは親子に声を掛ける。
「「ひいぃっ!」」
しかし、両親は悲鳴を上げて後退ろうとする。
彼らには、それも、怪人も変わらず、同じにしか見えないのだろう。
だが、小さな男の子は不思議そうな顔をして、それを見上げる。
そして、その小さなな手に握りしめた人形を掲げる。
「かめん、らいだー?」
「え?」
一瞬、呆気に取られる。
仮面ライダー、それは何十年も前から作られているテレビヒーローの名前だ。
バイクに乗り、仮面と強化スーツに身を包み、悪と闘う、ヒーロー。
シンも小さい時から見ていたのでよく知っている。
男の子の掲げる人形もよく見れば、仮面ライダーだった。
「……」
男の子の目は期待に満ちている。
知らず知らず、彼は頷いていた。
「……そうだ、俺は仮面ライダー、仮面ライダー・インパルス!」
「かめんらいだー、いんぱるす」
ぱっと男の子の顔が輝く。
「……シン!」
ルナマリアとレイが駆け寄ってくる。
「ルナ、レイ、この子たちを頼む」
シン、いや、インパルスはバイクを降り、群がる怪人たちに向き直る。
「がんばれー、かめんらいだー!がんばれー、いんぱるす!」
背後から、男の子の声援が届く。
――そう、マユを目覚めさせ、父さん母さんの仇を討つことが、オレの戦う理由。
すぅっと、腰を落とし、インパルスは戦闘体勢をとる
――でも今は、あの子の笑顔のため戦う!この力で!!
「これ以上、貴様等の好きにはさせない!このオレが、仮面ライダー・インパルスが、貴様等を倒す!!」
叫びと共に、インパルスは怪人たちの群れに飛び込んでいった。

(今度こそ)後編へ続く


145 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/11(木) 19:25:01 ID:???
              ) 変身! (
              `Y^Y^Y^Y^Y´
                 ((_
                〃´  `ヽ
               ( (( ))ノ.i
              ⊂i(´∀`:W,,ニ⊃
                〈⌒ヽ/ /
                (_)⊃]l 「オープンアップ」
                  |  |
                  (_)

           ________
           \         |
            \        |
              \      |
                ̄ ̄ ̄ ̄
            +     +
          *   〔o〕  * キラキラリン
            ⊂(0H0 )《)⊃
             〈⌒ =)   +
           +  (_)⊃]l *
                |  |
               (_)          

146 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/11(木) 23:44:09 ID:???
仮面ライダーはいいねえ
どのSSも熱さに満ち満ちてるじゃないか
前スレの職人さん達も帰ってきてくれんかなあ

>>145
凸=ギャレンは、種厨の公式見解のようだw

147 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/12(金) 18:11:32 ID:???
特撮ものがアニメよか子供んとき好きだった

148 名前:31 :2006/05/13(土) 17:26:08 ID:???
仮面ライダーSIN 第三話

「では、現場からネオ=ロアノーク大佐に状況を説明していただきましょう」

スピーカーからイアン=リー少佐の声が聞こえてきた。受像が安定していないが、ディス
プレイには会議室が映し出されていた。施設は爆散しているため、アンテナを立ててボッ
クスワゴンからの中継である、出力が高いわけでなければ受信機の精度もいいはずがない。
他にも先の大戦で地上に振りまかれたN-ジャマーが干渉しているとも考えられる。ネオと
してはお偉いさん方と顔を突き合せなくてよいぶん、幾分か気楽ではある。

「本来はそちらへ伺って直に報告すべきところでありますが、先日入手したMRの運用がう
まくいっておりませんので……」

ネオがそこまで言ったところでスピーカーから声が聞こえてきた。

「前置きはいい。被害状況と経過を端的に説明してくれたまえ。この会議は君の件だけを
取り扱っていればいいというわけではないのだからな」
「はっ。申し訳ありません。施設は全壊。現在データを修復中ですが、修復チームの見立
てでは半数以上が修復不可能な状態だと報告がありました」
「例のMRのデータもかね」
「残念ながら」

スピーカーの向こう側がにわかにどよめいた。

「施設にいた実験体は?」
「半数が損失、行方不明者も多数。行方不明者に関しては現在全力を持って捜索に当たっ
ています」
「報告ご苦労。この件に関しての指示はまた追って報告する」
「了解しました」

通信が終わってネオはワゴンから出た。外に控えていた部下がネオに報告をする。

「MR装着者3名の意識が安定しました」
「すぐ救護所へ向かう。歩きながら報告しろ」
「はっ!」
「今回は薬物投与はしていないんだろうな?」
「しておりません。上から来たときには機械のデカブツがなんの役に立つのかと思いまし
たが、意外に使えるようです」
「記憶を操作するって、例のやつか。あまりいい気分はしないな」

報告を聞いているうちに救護所に到着していた。

149 名前:31 :2006/05/13(土) 17:27:09 ID:???
「君はここで待っていてくれ。続きは出てから聞く」
「了解しました」

中に入ると巨大な機械のゆりかごにMR装着者の3人が寝そべっていた。

「よう!気分はどうだ?」

ネオの声を聞いて3人が起き上がった。

「ネオ!」

金髪の少女がネオに飛びついてきた。ネオは少女の頭を優しくなでる。

「元気になったか?」
「うん、ステラ元気になった」
「おっさん、俺たちの心配はなしかよ」

頭の後ろで腕を組んだ水色の髪の少年がネオに軽口を叩く。

「ひがむなよ、アウル」

緑髪で狐目の少年がアウルの方に手をやって言った。

「ちぇ、スティングはすぐいい子ぶるよなー」

アウルがふくれっつらをしてスティングに答えた。

「皆、元気なようだな」
「元気も元気。次の任務はまだかって退屈してるぜ」
「気持ちは分かるが今はまだ休め。いきなりMRで実戦だ。自覚は無くとも体に疲労が蓄積
されているはずだ」
「ちぇー。ここにいるのって退屈なんだよな」

アウルはそう言うとゆりかごに座り込んだ。そんな3人の様子を見てネオの口元は緩んで
いた。

「じゃあ、俺は仕事があるから」
「ネオ、行っちゃうの?」

ステラが寂しそうにネオの顔を見上げた。ネオはポンとステラの肩を叩いて言う。

150 名前:31 :2006/05/13(土) 17:27:57 ID:???
「大丈夫、すぐ帰るさ」

救護所から出ると部下がネオに声をかけた。

「無邪気なものですね」
「だが、あの子達にMRを装着させて戦わせていることを思うと、な」
「仕方ないでしょう。彼らはそのために研究費を投じて育てられたのですから」
「ここにいた奴らもそうだったのかね」

ネオは焼け落ちた施設を眺めてそう呟いた。シールドが厳重に施された特殊施設用のMAが
施設を解体し、次第にそこには何も無い更地に戻っていく。薬害汚染や放射能漏れの恐れ
がある以上、この区画は当面閉鎖だろう。あの3人が育ったロドニアの研究所も今は更地
になっている、そうネオは聞いていた。


その頃、シンは居候先のデュランダルの家から程近い学校にいた。昨夜、デュランダルと
アレックス、そしてデュランダルの息子のレイが家族会議を開いてシンを学校に通わせた
方がいいだろうという結論に達したのだ。当のシンは渋々という感じで乗り気ではない。
唯一幸いなのはレイと同じクラスだということだろうか。

シンが通うことになった学校は文武両道をモットーにしており、進学校ながら武道や体育
の時間が毎日ある。今日は格闘術の授業だった。プロテクターを付けたフルコンタクトの
格闘だ。目や金的といった急所への攻撃以外は何でもありというきわめて雑多なルール。
それだけを聞かされて2人のペアで戦うことになる。「訓練」を受けていたこともあり、
シンはあっという間に10人を勝ち抜いていた。

「あいつ強すぎないか?」
「転入生か?アイツちょっと異常だよ。気がついたら懐に入られてて寸止めされて終わり。
まるでバケモノだな」

試合開始から数十秒で勝負をつけるシンにクラスメイトはざわついていた。

――バケモノか

その声はシンにも届いていた。

151 名前:31 :2006/05/13(土) 17:28:45 ID:???
「おい、やろうぜ」

ヨウランがシンに声をかけた。互いに一礼をした後ヨウランが構えた。シンは特に構えら
しい構えも取らずにヨウランに近づいてくる。ヨウランはシンが間合いに入ったところで
腹部を狙って蹴りを繰り出した。しかし、シンはひざから下が伸びきる前に蹴りを手では
らう。なおもシンは近づいてくる。その後もヨウランはパンチを放つが、そのほとんどが
払われるか避けられるかである。シンはじっとヨウランを見ているだけで仕掛けようとは
しない。ヨウランはシンが何を考えているか分かなくなっていた。

「そこまで!」

教官のフレッドの声でヨウランは構えを解いた。フレッドはこの学校の鬼教官、時代が時
代なら鬼軍曹といったところだろう。実際自慢は先の大戦でMS装着者として最前線で戦い、
名誉の負傷で後続の育成のために教官になったことだ。スキンヘッドで褐色の肌をしてお
り所々から引きつり傷がのぞいている。

「なっちゃいないな。二人ともそれでやる気あるのか?」

ヨウランは押し黙ったまま下を見ている。シンはフレッドと目をあわせようとしない。フ
レッドは鼻で笑ってレイの方を見た。

「レイ。シンとやってみろ」
「はい」

周囲がざわついた。学年主席のレイとの対戦だ。大人気ないことをするという声もあれば、
シンの実力を認めたということなのかという声もある。皆、練習の手を止めてこの二人の
対戦を見届けようとしていた。シンとレイは互いに一礼を交わし、試合を始めた。先に仕
掛けたのはレイだった。ローキックがシンの軸足に入る。

――早い!!

ヨウランの時のように避けたり払ったりすることはできなかった。だが、さほど威力はな
く、生身でMSと戦ったときに比べれば蚊が刺したようにしか感じない。逆に蹴ったレイの
方がダメージを受けているようだ。とっさに離れようとするレイの懐にシンは飛び込もう
と踏み込んだ。勢いそのままに左フックをレイのボディに叩き込んだ。だが、振り抜いた
ときにはレイはその場にいなかった。反応も極端に早い。

――ウソだろ!?

その速さはMS装着者としての訓練を受けている者と同等、いや、それ以上かもしれない。
この調子では自分が手数だけをもらって試合には負けて終わってしまう。シンは迷わず再
びレイの懐に飛び込んでいった。

152 名前:31 :2006/05/13(土) 17:29:40 ID:???
その頃、理事長室では理事長のタリア・グラディスとシンの保護者であるギルバート・デ
ュランダルが面談を行っていた。タリアは灰色の無地の封筒から取り出した書類に目を通
しながら頭を抱えていた。

「彼の経歴を見せてもらったけど、これ、本当なの?」
「カナーバ議員を通して公安に調べてもらったものだ。まず間違いはないだろう」
「そう……。あの子、オノゴロにいたのね」

タリアが目を伏せてため息をついた。オノゴロは先の大戦での激戦地の一つである。軍は
MS生産所であるモルゲンレーテを確保するために進軍した。しかし、当時自治区だったオ
ノゴロ一帯、オーブの代表ウズミ=ナラ=アスハは深刻化する軍と公安の対立に加担する
ことを嫌い、軍の駐屯に異を唱えた。オーブにはコーディネイターが多く居住していたこ
ともあり、ブルーコスモスの代表ムルタ=アズラエルはオーブで新型MRのテストを兼ねた
侵攻を行い、オーブは焦土と化した。

「モルゲンレーテを抑えるために武力侵攻したときに居合わせ、そのまま軍に捕えられた
ようだ」
「『主義者』が彼をコーディネイター(改造人間)だと分かって生かしておく理由があっ
たの?」

タリアの言う『主義者』とはブルーコスモスの隠語である。「青き清浄なる世界のため
に」をスローガンとしたブルーコスモスはコーディネイター排斥を主張している。コーデ
ィネイターでなければ高機能なMSやMRの装着の負荷に耐えられないにもかかわらず、彼ら
はドーピングを初めとした、いわば後天的強化でそれを補おうとしていた。

しかし、アズラエルが戦死したことでアズラエル財団がスポンサーから降り、戦中に核兵
器や国際条約を無視していた経緯もあり、過激派は軍の中枢から退けられていた。現在で
は昔日までの力も金も無くなり、時折過激派がテロ行為をしては逮捕者が出ている程度だ。

「『主義者』が彼にエクステンディッド(強化人間)の改良のための利用価値を見出した
か、あるいは彼を探していたか。いずれにせよ何かしらの研究材料にされていたことは事
実だ」
「教えてちょうだい。あの子の場合は何なの?」
「MRの装着者だ」

顔色一つ変えずに、いやむしろ微笑んでいるとも取れる表情でデュランダルが言った。タ
リアはしばらく黙り込んで一言こう言った。

「頭が痛いわ」
「できるだけ頭痛の種を取り除けるようには努力させてもらうよ」
「是非そうしてもらいたいものだわ。さ、用事が終わったら出て行って」

そう言ってタリアはデュランダルを部屋から追い出した。面談用のソファーから理事長の
席に深々ともたれかかった。結局こうしてまた1人問題児を抱えることになってしまった。
タリアは頭を抱えているうちに本当に頭が痛くなってくるような気がした。

153 名前:31 :2006/05/13(土) 17:30:27 ID:???
シンとレイの試合は時間いっぱいまで行われ、延長戦に入った。手数はレイの方が多いの
だが、有効打はでていないシンの攻撃を避け続けていてかなり息が上がっている。他方、
シンは手数は少ないものの果敢に攻め続けている。このまま続けばレイの足が止まり、自
分が有利になるだろうとシンは思っていた。

「よし、始め!」

フレッド教官の声と共にシンは一気に踏み出して間合いを縮める。

――いける

シンは今度こそはと思って攻撃を繰り出すのだが、今回もむなしく空を切るだけだ。施設
で訓練を受けた自分の攻撃が生身の人間に避けられている。この事実がシンにはショック
だった。シンは最大のスピードで攻撃を仕掛けている。それでレイが避けられるのなら、
シンが動作を始めたとき、もしかしたら動き出す前にシンの動きを予知する必要がある。

――そんなことがあってたまるかよ!!

シンは自分にそう言い聞かせて足を動かし続けた。だが、すべての攻撃がすんでのところ
でかわされてしまう。一発一発の攻撃が空をきるたびにシンの体力が消耗していく。だが、
それは回避し続けるレイも同じだった。

レイは延長戦前には肩で息をしていた。一発でも攻撃を受ければ万に一つも自分が勝てる
見込みは無い、レイはそう思っていた。実際に戦ってみて分かったのだが、シンは確かに
強いのかもしれないが、攻撃パターンが一本調子で直線的だ。速さにさえ付いていければ
かわすのはそう難しいことではない。だが、その速さを支えている足が限界に近づいてき
ている。現に延長戦前からシンの攻撃が身をかすめ始めている。

「うおぉおおおお!!」

シンが腰をグンと落として突進してきた。体ごとぶつけてくる気だ。レイはギリギリまで
ひきつけて左に飛んだ。シンの半身がレイのそばを通り抜けようとしていた。そのときだ
った。シンは一気に足幅を広げてブレーキをかけ、無理な体勢から体をひねって裏拳をレ
イの顔面めがけては放った。レイはとっさに首をひねって顔の向きを変えたが、シンの裏
拳はレイの後頭部に命中する。

「そこまで!!」

フレッド教官のドスの効いた声が辺りの空気を震わせた。シンは足がもつれて倒れこみ、
レイはダメージを受けたがその場に立っていた。

154 名前:31 :2006/05/13(土) 17:31:14 ID:???
「まあ、引き分けでいいだろう。これ以上延長すれば集中力も欠けてくる。あらぬ怪我で
もされても困るしな」

シンは飛び跳ねて起き上がった。

――引き分けかよ

シンはレイの方を見た。立ち尽くしたままじっとその場を動かない。冷静を装ってはいる
が、シンの拳は確かに頭蓋骨に当たったのだ。普通の人間なら脳しんとうを起こしている
はずだ。もっとも、レイの場合は普通ではないのかもしれないのだが。

「なんだ?何か不満でもあるのか?」
「……いえ」

フレッドに言われるまでも無く、シンには不満が残っていた。フレッドはそんなシンの顔
を見てふんと鼻で笑う。シンはこういう態度が好きではなかった。シンの表情が更に曇っ
たのを見てフレッドはまた笑った。

「まあ、いい。今日の授業はこれで終わりだ。皆着替えてさっさと帰れ」

フレッドの言葉を聴いて生徒はぞろぞろと武道館を出て行く。シンも武道館を出て行こう
とすると後ろから肩に手をかけられた。

「なんだよ」

振り向くと、何もしていない試合の相手、ヨウランとその隣にディーノがいた。

「すげーじゃん。レイと互角なんて」
「そうそう。オレなんて殴っても蹴ってもレイにかすりもしないのに。きっちり最後に当
ててたよな。ここのところにさ」

ヨウランがディーノの耳寄りの後頭部をさす。それがシンの警戒心を煽った。あの速さの
攻撃が正確に見えているとしたら、この二人は普通の人間ではない。自分と同じコーディ
ネイターだ。しかし、いくら社会に溶け込んでいるとはいえ、それを快く思わない人間は
少なからずいる。おおっぴらに自分がコーディネイターであることを明かせば『主義者』
が黙っていないだろう。特にシンは追われている身だ。だが、レイとの戦いで熱くなって
ついそれを忘れていた。レイとの戦いで荒くなっていた心臓の鼓動が更に激しくなってい
た。

155 名前:31 :2006/05/13(土) 17:32:02 ID:???
「うーん、やっぱりきついよ」

賃借ビルの15畳にも満たないワンフロアの一角にミリアリアとオレンジ色の偏光グラスを
かけた金髪の男、サイ=アーガイルがいた。サイはそう言いながら背伸びをしていた。夜
半にミリアリアが仕事場に押しかけてきてそれからずっと写真の解析にかかりっきりなの
だ。

「どうにかならないの?」
「多少はきれいに出来るけど結局『それらしきもの』があるとしか言えないだろうね。こ
れだけならボール紙切って着てる人かもしれないとも言えそうだし。ほら、こんな感じで
ね」

サイがモニターにボール紙や子供向け商品でコスプレをしている写真に次々にフィルター
をかけてミリアリアの写真に近いものを再現する。明らかにMRではないものもここまでく
ればどちらも見分けが付かない。ミリアリアはため息をついた。

「ダメか。無理言ってごめんね」
「こっちこそ、力になれなくて悪かったな」

ミリアリアは首を回してゆっくりと立ち上がった。気がつけばもう夕方だ。時計を見ると
明日の入稿には間に合いそうに無い時間になっていた。

「ニュース見ていい?」
「どうぞ」

ミリアリアはネットのニュースポータルを見た。新着ニュースの項目の一覧を見て気にか
かるものをチェックする。これも仕事のうちだ。先の大戦で戦場になった地域の復興活動
の話や、ブルーコスモス/コーディネイター双方の過激派の衝突のニュース。汚職事件、
凶悪犯罪……日々暗いニュースで埋められていく。仕事とはいえ24時間ずっとこれを見続
けたら気がめいってしまうだろう、ミリアリアはそう思っていた。

「あっ!」

突然サイが声を上げた。

「何よー。急に大きな声出して」
「そこの『軍、新造MRを運用か?』って記事」

ミリアリアはサイに言われたトピックを開いた。署名記者はジェス=リブル。フリージ
ャーナリストの業界では自らMSを装着して戦場を駆け巡る「野次馬ジェス」として有名な
人間だ。彼のレポートによれば、先日焼失した軍施設にMRが運び込まれていた疑惑がある、
とのことだった。

156 名前:31 :2006/05/13(土) 17:32:48 ID:???
「これが本当だとしたら……その写真……」
「今から会社回ってみて掛け合ってみる!」
「ヤバいことになってるみたいだから、気をつけろよ……。その……」

ミリアリアとサイの二人とも先の大戦に巻き込まれ、恋人を失っていた。サイの場合は家
ぐるみの付き合いがあっただけにまだ時々思い出すこともあるようだ。サイは職業柄軍や
公安に深くかかわって命を落とした人間を知っている。ミリアリアにはそうはなって欲し
くなかった。

「分かってるわよ」

ミリアリアは取材カバンを担いで駆け出していった。外に出ると帰宅時間にさしかかって
いることもあり、渋滞が始まっていた。タクシーを見つけては手を上げて合図を出すのだ
がなかなかつかまらない。辺りを見回していると渋滞に巻き込まれてトロトロ走っている
赤いバイクを見つけた。

「あの趣味の悪い赤、もしやとは思うけど……。アレックスー!!」

ミリアリアは手を大きく振った。アレックスはすぐにそれに気付き、無視しようかと思っ
たが

「そこの赤いバイクに乗ってるアレックスー!!ここだってばー!!」

と叫ばれて周りからジロジロ見られ始めたのでやむなくバイクを道につけた。アレックス
はミリアリアに口早に言う。

「オレは忙しいんだけどな」
「そう硬い事言わないでさ。ちょっと用事があるんだけどタクシーが捕まらなくて、乗せ
てってよ」

そう言いながらミリアリアは既に後部シートからヘルメットを取り出している。こうなっ
たら問答をしているよりは目的地に向かった方が早い、アレックスはそう判断した。

「さ、準備はいいわ。早く出して」
「……」

アレックスはミリアリアを乗せて大通りから裏路地へとバイクを走らせた。


第三話 おわり

157 名前:31 :2006/05/13(土) 18:38:26 ID:???
>>73

頑張ってくだされ。感想は通しで言わせていただきます。

私も構成力や表現力はありませんね。下手くそなので意識的にやろうとするとくどくて分
かりにくくなります。設定は元作品からの孫引きですし……。あまり役に立ちそうには思
わないけれど文章講座とか読んだほうがいいのかな(´・ω・`)


>>読んでくださった皆様

拙文で少しでも楽しんでいただければ幸いです。感想くださった方、ありがとうございま
す。

158 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/13(土) 21:27:25 ID:???
過疎な割にはいい職人がいるよなここ
だからたまに見るくるようにしてる

159 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/14(日) 00:46:24 ID:???
Gj!と書いてGODJOB!

160 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/14(日) 16:29:57 ID:???
保守&GJ!

161 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/14(日) 17:46:47 ID:???
あえてageる

162 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/14(日) 18:34:20 ID:???
GJ!
面白い!

163 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/14(日) 18:40:19 ID:???
ザビーゼクターに捨てられる運命

164 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/14(日) 22:30:26 ID:???
すごいな。職人さんたちよく書けてる。

165 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/16(火) 15:37:04 ID:???
前スレの続き&今スレで続いている作品待ち保守
ガノタ仮面さん→仮面ライダー種(SEED)
73さん→仮面ライダーSEED DESTINY 
31さん→仮面ライダーSIN
前168〜177・221〜239・今16〜23→アマゾン風(ステラが変身)
前866〜867・869〜872・882〜891・898〜907→仮面ライダー運命
皆様続き待ってます!

166 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/16(火) 16:05:46 ID:???
SINカッコヨス。サイコース!
ぜひがんばってください!!!

167 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/18(木) 02:02:57 ID:???
良スレ保守

168 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/19(金) 09:21:08 ID:???
職人さん待ち保守。

169 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/21(日) 04:28:17 ID:???
仮面ライダー放送日保守

170 名前:31 :2006/05/21(日) 23:16:16 ID:???
仮面ライダーSIN 第四話

「ここでいいわ」

ミリアリアがそう言ってアスランの肩を叩く。アスランはバイクを道の脇に寄せて止めた。
オーブに本社があるORB通信のビルの前だ。

「ふうっ」

後部座席に座っているミリアリアがヘルメットを脱いだ。

「バイクのヘルメットって圧迫感あるのよね」

そう言いながらバイクから降りてヘルメットを片付け、取材バッグを肩にかついだ。その
間アレックスはこれ以上何か注文されないように黙っていた。

「ありがと」
「いや」

アレックスの声はぶっきらぼうだ。アレックスがバイクのエンジンをかけようとしたとき
にミリアリアが声をかける。

「あ、そうそう」
「今度は何だ」
「名刺渡しておこうと思って、はい、これ」

胸ポケットの名刺ケースから名刺を取り出して渡す。名刺にはフリージャーナリスト、ミ
リアリア=ハウの名前と共に連絡先が書いてあった。

「そっちには連絡しにくいし、何かあったら連絡して。1人ジャーナリストに知り合いが
いると何かと便利よ」
「……覚えておくよ」

名刺を胸ポケットにしまい、アレックスはバイクを走らせた。帰宅時間も半ばを過ぎてき
た頃なのに相変わらず込み合っていた。アレックスは疑問に思い、隣のサラリーマン風の
ドライバーに尋ねてみることにした。渋滞ならカーラジオで状況も分かるだろう。

171 名前:31 :2006/05/21(日) 23:17:06 ID:???
「この先どうなってるんですか?」
「どうやら検問らしいですよ」
「検問?どうしてまた?」
「詳しい事情は知りません。けど、あの日が近くなってますからね。去年の事もあります
し警察もカリカリしてるんでしょう」

ドライバーの言葉を聴いてアレックスは今年も「あの日」が近づいているのを思い出した。
ユニウスセブンで起きた悲劇の時から既に4年の時が経とうとしていた。悲劇の日のこと
は今でも忘れられない。あの日から先の大戦が本格化し、終戦後も2月14日には必ず何か
が起きていた。去年はブルーコスモスとコーディネイターの過激派同士が衝突して死者を
出す騒ぎになったほどだ。渋滞の列はゆったりと進み、検問所が見えてきた。15分くらい
してアレックスの番になった。警官がアレックスに声をかける。

「社会保険証の提示をお願いできますか?」

社会保険証は元々は大西洋連邦の有力国の社会保険制度に端を発した保険制度であり、現
在では社会保険証自体がID代わりになっている。アレックスはジャケットの内ポケットに
手を入れた。ポケットから財布を取り出して社会保険証を警官に提示する。

「社会保険番号2500474C、アレックス・ディノ……少しお待ちください。今、照会します
ので」

警官は用紙に必要事項を記入してアレックスに社会保険証を返した。用紙をパトカーの中
にいる警官に渡して照会に回す。ほどなく、社内の警官からOKサインが出た。

「結構です。ご協力感謝します」
「いいえ」

アレックスは社会保険証を財布に戻して再びバイクにエンジンをかけた。警官の様子を見
ていると他の場所にも検問所が設置されているようだ。検問に引っからないように手薄そ
うな川沿いの道にバイクの機首を向けた。


その頃、シンとレイは下校中だった。シンはふくれっつらをしてレイを責めるように言っ
た。

「あの学校にはコーディネイターしかいないって何で言ってくれなかったんだよ。おかげ
で余計な心配したぞ」
「言ったさ。だが、お前は寝ていて聞いていなかった」
「うっ」

シンは学校に行くことにあまりのり気でもなかったので家族会議の途中から寝ていた。そ
んなこともあって制服の採寸が間に合わず今日はフード付きの白いパーカーにGパンで学
校に行った。十字路でレイがカフェ「赤い彗星」と逆方向に向いた。

172 名前:31 :2006/05/21(日) 23:17:55 ID:???
「どこ行くんだよ」
「オレは寄る所がある。シン、悪いが一人で帰ってくれ」

レイはメモを取り出して、それを見せながら言った。

「明日の夕飯の買い物だ。オレが当番だからな。男二人で買い物に行きたいか?」
「遠慮しとく」
「そうか」

レイはシンの返事を聞いて買い物に向かった。シンはその場に1人取り残されてしまった。
まだ近所の事情に詳しいというわけでもないので、いささか手持ち無沙汰だ。このままカ
フェ「赤い彗星」に帰っても特にすることがない。シンはしばらく周囲を散策することに
した。


うろうろしているうちに河川敷に出た。だだっ広く、随分と向こうの親指くらいの大きさ
の橋まで見渡せた。川と道の中ほどの高さに遊歩道があった。道と遊歩道の間は伸びっぱ
なしの草の傾斜で、一定間隔ごとにに道と遊歩道をつなぐ階段がある。遊歩道と川の間は
高さ一メートルくらいのコンクリートの傾斜になっている。コンクリートにはところどこ
ろひびが入っており、大きなものは土嚢で覆われていた。

遊歩道には犬の散歩に来ている人や、追いかけっこをしている子供たち、川に来た水鳥に
パンくずをやっている人など、色々な人がいる。しばらく眺めているとその中に奇妙な姿
を見つけた。金髪の女の子がくるくる回りながらどこに行くでもなくフラフラしている。
年恰好からしてシンと同じくらいの年頃だろう。

――こんなところで何してるんだ?

踊りの練習でもしているのだろうか。それにしては極端に川岸に寄って行って危なっかし
い。そう思っているとコンクリートの傾斜との境界に踏み出してバランスを崩し、回転の
勢いそのままに川に転げ落ちていった。角度が悪く、シンには急に女の子が消えたように
見えてた。

「うわっ!川に落ちた!!」

シンは草ぼうぼうの土手を足を斜めに開きながら遊歩道へ駆け下りる。その間に飛び込む
ことを考えて上に着ていたパーカを脱ぎ捨てた。遊歩道のコンクリートに足を打ちつける
ようにしてブレーキをかける。川を覗き込んでみると川は浅く、ひざを立てた状態で腰が
水につかっている程度だった。

173 名前:31 :2006/05/21(日) 23:19:05 ID:???
「大丈夫か?」

シンは女の子に手を差し伸べた。ひざには擦り傷が出来ていた。相当派手に転んでいたか
ら捻挫しているかもしれない。シンはそう思っていた。女の子は差し伸べられた手にきょ
とんとしている。シンは

「引き上げるからつかまって」

女の子がゆっくりと手を伸ばしてシンの手をつかむ。シンはゆっくりと引き上げようとす
るが、女の子が立ち上がろうとする気がなく、ただ手を伸ばしているだけだ。おまけに学
校の靴の底がコンクリートと相性が悪いのか次第に川側にずり落ちてくる。無理に踏ん張
ろうとするとシンの方が川に落ちてしまう。そのときふっと女の子が手を離した。シンの
体が土手側に大きく振られる。あわててバランスを取ろうと川側に体を戻すと滑って川に
落ちてしまった。

「いてててて……」
「だいじょうぶ?」

ボソボソとしゃべる声が聞こえた。シンが目を開くと目の前に女の子がしゃがみこんでい
た。服は水を吸って体にべったりとくっつき、髪から水滴が落ちている。

「立てないわけじゃなかったのか」
「……ありがとう」

女の子が微笑みながら言う。

「あ、いや……」

シンは手を付いたせいでひじや手のひらに擦り傷が出来ていたが、体の前半分はさほど濡
れずにすんだ。立ち上がるとズボンの中に入っていた水が布を伝って足首から垂れてくる。
シンは思わず身震いをした。靴にも水が入っている。靴下が水を吸って靴に触れると水が
しみこんだり押し出されたりして何ともいえない感覚が足から伝わってくる。

――早くどうにかしないと
「登れる?」
「うん。だいじょうぶ」

女の子のその言葉を聴くとシンはコンクリートの傾斜を登り、草むらに飛び込んで急いで
ズボンを脱いで水を絞った。洗濯物のしわを伸ばすようにズボンをはたいてもう一度はく
が、今度ははきっぱなしのときの生暖かくてむずむずする感覚が消えたかわりにひんやり
としたものが肌にぺっとりと張り付いてきてこれはこれで気持ちが悪かった。

174 名前:31 :2006/05/21(日) 23:20:03 ID:???
「さむい……」

遊歩道で女の子が身をすぼませていた。夕暮れ時の河原に風が吹きつけている。風も冷た
ければ川に落ちてみて分かったが予想以上に水も冷たかった。

「このままじゃ風邪引くな。オレは家が近いからいいけど」

シンはパーカーを取って来て女の子に羽織らせた。

「本当は濡れたのを乾かす方がいいんだけど」

シンが周囲を見回す。人の往来がある。シンはパンツ一丁でも多少の恥をかくだけでいい
が、この子の場合はそうもいかないだろう。シンはどうしたものかと思い、家がどこにあ
るのか聞いてみることにした。

「家はここから近いの?」

女の子は首を横に振った。

「どのくらい?」
「ずっと遠く」
――参ったな。帰って着れそうなもの探してきた方がいいかな

シンがそう思ったとき、上の道から叫び声が聞こえた。

「ステラー!」
「あのバカどこに行ったんだ。ステラー!」
「アウル!スティング!」

ステラの表情が途端に明るくなる。今までのボソボソしゃべっていたのとは違い、声がは
っきり出ている。

「お兄さん……達?かな」

ステラと呼ばれた女の子に問いかけるように言ったつもりだったが、ステラはアウルとス
ティングの方へ駆け出していた。どうも調子が狂わされっぱなしだ。草の土手を登りきっ
て道へ出ると黒のオープンカーが止まっていた。車のそばには水色と緑色の髪をした少年
がいる。シンは彼らを見て反射的に身震いがした。何故かゾクゾクして鳥肌が立つような
感覚がする。ステラは二人の影から覗き見るようにしてシンの方を見ている。

175 名前:31 :2006/05/21(日) 23:21:02 ID:???
「どうも、ステラがお世話になったみたいで」

緑髪の男が会釈をしながらシンに言った。スティングがアウルをひじで小突く。

「あ、ありがとう」

アウルが少し嫌そうな顔をしてあまり言いたくなさそうに言った。

「いや……」

そういったやり取りをしているうちに携帯電話が鳴った。スティングがシンたちから離れ
て携帯を取り出した。

「あ、もしもし……」

シンにはそれ以上聞こえなかった。アウルの方を見ると頭の後ろで手を組んでいる。アウ
ルはシンが見ていることに気づいて顔を背けた。ステラに声をかけようにもさっきからア
ウルの後ろに隠れて出てこなかった。沈黙が続いているうちに電話を終えたスティングが
戻ってきた。

「きちんと御礼をしたいのですが急ぎの用ができまして……すいませんがこれで失礼させ
ていただきます。アウル!ステラ!行くぞ」

そう言ってスティングは運転席に座った。アウルが助手席に飛び乗るが、ステラはその場
に立ったままだ。少し困ったような顔をしてシンを見て、そしてうつむいた。

「ほら、ステラ、行くぞ」

アウルがステラに声をかける。その声を聞いてステラはうつむいたまま後部座席に乗った。
ステラが乗ったのを確認してスティングは車を走らせた。

「いいのかなー」

エンジン音にまぎれそうな大きさでアウルが呟いた。

「ん?何がだ?」
「俺たち以外との思い出を作ってさ。いくら俺たちが記憶を消されてるからって、前の記
憶を思い出しそうなものを作っちゃうと何かと問題になるんじゃないの?」

176 名前:31 :2006/05/21(日) 23:22:01 ID:???
アウルとスティングの話はステラのにも聞こえていた。だが、ステラは何も口にせずに後
部座席からシンを見つめている。

「ネオが話してるのお前も聞いたのか」
「まあねー。このことも次に機械に入ったら消えてるんだろうけどさ」
「そうだろうな。あれに入らなきゃオレたちは生きていけないしな。それよりこの辺一体
の地形はちゃんと頭に入った?」
「それはオレよりステラに言ってくれよ。でもこんな普通の町を調べてどうするんだ?地
下に秘密基地でもあるっての?」
「休めって言ってたネオが急に言い出したんだ。何か次の作戦に関係してるんだろ」

そう言ってスティングはアクセルを踏み込んだ。車から見えるシンの姿は急激に小さくな
っていったが、それでもステラはシンを見ていた。

シンもステラがこちらを見ていることは分かった。何故だか理由は分からないが車が見え
なくなるまでシンはその場に立ち尽くしていた。突如現れたバイクのエンジン音がその余
韻をかき消した。シンの隣に赤いバイクが止まった。アレックスだ。

「シン!こんなところでそんな格好して何してるんだ?」

アレックスがそう言うのも無理も無い。シンは服がびしょぬれでアスファルトにはだしで
立っているのだ。朝着て出て行ったはずの上着もない。無くなっている上着はアレックス
のものだ。シンがアレックスに事情を説明しようとする。

「川に落ちた女の子を引き上げようとして、それで寒がってたから上着を貸し……しまっ
た!あの子の住所聞くの忘れた!」
「まったく。やってくれるよ、君は」

アレックスは深々とため息をついた。

177 名前:31 :2006/05/21(日) 23:22:51 ID:???
シンとアレックスが居候先のカフェ「赤い彗星」に戻った頃には夕食がテーブルに並んで
いた。今日のメニューはアレックスが昼に作り置きをしていたロールキャベツだ。バイク
のエンジン音が聞こえてレイは鍋を火にかけた。バイクが止まり、勝手口からアレックス
とシンが入ってきた。

「アレックス、遅いですよ。それにシン、どうして濡れてるんだ」
「色々事情があるんだよ」

シンのズボンのすそから水滴がこぼれている。アレックスのジャケットを借りていたが、
バイクで風に当たって冷え込み、体が小刻みに震えていた。

「シン、オマエは先に風呂に入って来い。そのままじゃ風邪引くぞ」
「はぁーい」

シンはそう答えると駆け足で風呂場に向かった。シンの足跡が水滴ではっきりと残ってい
る。

「マスターは?」
「ギルは今日は商店街の会合で遅くなるそうです」
「そうか」

そう言うとアスランはフローリングに散った水滴を雑巾で拭き始めた。水滴を拭いて風呂
場まで行き、風呂に入っているシンに声をかけた。

「ゆっくりあったまってから出ろよ」
「分かってますよ」

曇りガラスごしにアレックスが風呂場から出て行くのを見てシンは呟く。

「あの人何かとオレを子ども扱いするよな……」


「……今年もまた2月14日、ユニウスセブンの悲劇の日がやってきます。明日14日には各
地で追悼際が行われる予定です」

シンが風呂から上がるのを二人はリビングでテレビを見ながら待っていた。テレビはどの
局もユニウスセブンのことを報じている。去年の暴動を教訓に今年は前日から抜き打ちで
検問をしくことじていたことも報じられている。また、当日の明日は大規模集会やデモを
自粛するように政府が呼びかけている。

「今年も墓参りには行くんですか?」

レイがアレックスに聞く。明日はアレックスの母の命日なのだ。

178 名前:31 :2006/05/21(日) 23:23:52 ID:???
「ああ、そのつもりだ」
「街から出て行くのは大丈夫かもしれませんが、帰りが渋滞してるでしょうね」
「晩飯に間に合わないようなら街に入るまでに連絡するよ」
「分かりました」

勝手口が開いた。

「ただいま」

デュランダルが帰ってきた。

「おかえりなさい。ギル」
「マスター、どうでした?」
「うむ。あまりよろしくないな」
「それは……どういう意味でしょうか?」

アレックスが聞きなおす。デュランダルの言うことは文語的・婉曲的で「それらしく」聞
こえる話し方なので確認を取らなければならない。

「無論、明日のことさ。あんなことがあった日とはいえ、恋人たちの語らいの日を戒厳令
で台無しにしては店の売り上げにもひびく」
「はあ」
「君が気にしている方面でもまずい噂を聞いた。戒厳令をいち早く耳にした者たちが既に
水面下で動いているとも聞いている」
――まったく、分かっていて言うのだからたちが悪い。

アレックスはデュランダルのくせを苦々しく思っていた。

「あ、マスター。おかえりなさい」

風呂から上がったシンがリビングに来る。デュランダルが上着を椅子にかけながら言った。

「シン、学校はどうだった?」

シンはレイの方をチラッと見た。そして少し間をおいて

「まあまあです」

とだけ言った。初日から派手に暴れてコーディネイターだとばらしたばかりか、教官に目
を付けられ、おまけにレイにきつい一発を入れたとは流石に言えなかった。

「そうか。分からないことも多いかもしれないが……」

179 名前:31 :2006/05/21(日) 23:25:17 ID:???
そのとき、突如それまで単調だったニュースが興奮した叫び声に変わった。

「ただ今臨時ニュースが入りました!」

その一声に四人の視線がテレビに集中する。画面には報道フロアが映っていた。アナウン
サーの後ろではひっきりなしにかかる電話とその応対に追われているスタッフの姿があっ
た。時折マイクが指示の叫び声を拾っている。原稿が間に合っていないのかアナウンサー
も落ち着かない様子で目線が宙を漂っている。

「ええ、っと」

画面の外から渡されたニュース原稿をアナウンサーがあわてて斜め読みをしている。よほ
どショックな内容だったのかアナウンサーは一通り読み終えた後に小さく深呼吸をした。

「失礼しました。たった今入ったニュースによりますと、市内で爆発があったようです。
被害の規模など詳細は不明です……」


第四話 おわり

180 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/21(日) 23:45:28 ID:???
GJ!
シンとステラたちがどうなるのか気になる

181 名前:31 :2006/05/21(日) 23:46:09 ID:???
気がつけば仮面ライダーなのに2話続けて変身してません……orz

着地点までのアウトラインがぼんやりと出来てきたので次回からは
シーンの配分やらなんやらもう少し考えます(´・ω・`)

182 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/22(月) 10:33:23 ID:???
GJ!
文に区切りがあって読みやすいっす

183 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/22(月) 13:57:49 ID:???
>>181

 変身が必要でなければ、構わないと思う。EVAでも、出撃無かった話があるし。
 俺はこのところの2話は『ライダーのいる世界のあらまし』を描くためにあると
受け取っているから気にしていない。
 それにしても、これからが楽しみだ。GJ!

184 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/23(火) 17:24:25 ID:???
そろそろアゲます。

185 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/25(木) 01:25:49 ID:???
そろそろ保守します

186 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/25(木) 23:27:33 ID:???
個人的にシンはウルトラマンになるべきだとかもいいと思うんだけどな
なんたってアスカ・シンだし

187 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/25(木) 23:33:12 ID:???
地球防衛隊ZAFTの一員なわけですか

ライダーよりウルトラの二次創作の方が難しそうな印象があるな、なぜか

188 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/26(金) 01:49:11 ID:???
まともな大人がいないからじゃないw

189 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/26(金) 02:03:02 ID:???
ウルトラに変身するのは復讐者じゃないからとか・・・

190 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/26(金) 07:48:40 ID:???
ウルトラマンは戦闘シーンのセリフが…

191 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/26(金) 12:26:36 ID:???
ウルトラマンは、いい意味でドラマに重点を置いてないからな。
特定の敵と数話に渡って戦うってのは滅多にないし。
セブンや激伝みたいなのじゃなければ、小説化してもイマイチ。

192 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/27(土) 02:33:22 ID:???
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ttp://www.n1e.jp/?mnu=fileshow&ft=1&fid=1147251951&cate=3&fuid=1147251951&how=1
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シンがウルトラマンだったらOPはこうなる

193 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/27(土) 02:51:39 ID:???
ことりたん(*´Д`)

194 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/27(土) 23:16:37 ID:???
その始まりは突然・・・

デュランダル「君に力を与えよう」

そして与えられる新しい名

レイ「それはMasked Rider Device。お前の新しい名は仮面ライダー」

蝕まれる平穏

ノイマン「貴様に居場所など無い。覚えておけ。改造人間くん」

それでも守らねばならぬ場所

マユ「お兄ちゃん! お弁当忘れてるよッ!」

心惑わす敵

ネオ「君の新たな姿に興味があってね。特にその原因となった事故に、な」

やがて彼を導く男が現れ

アスラン「ここは・・・俺に任せてもらう!」

最強の敵と出会う

マリュー「これが・・・これが悪しき来訪者アークエンジェル! ついにそのお姿を・・・」

全てを賭けて倒さねばならぬ

キラ「やめろと言ったろ・・・死にたいのか?」

その運命背負いし者はその男

シン「また殺すのか!? アンタ達は!!
   俺は・・・アンタ達を止めてみせるッ!」

叫べ。けして折れぬ心と共に。

『変身ッ!』

仮面ライダーRubyEye

近日公開予定


195 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/28(日) 10:16:49 ID:???
>>194
書きますか?書いてくれますか?
ワクテカしながら待ってます!

196 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/28(日) 10:34:07 ID:???
>>194じゃないけど、投下します。

197 名前:1/16 :2006/05/28(日) 10:35:45 ID:???
何の前触れもなく、突然変な怪物たちが現れたのは、僕が13歳の時だった。
Monster Soldierと警察が発表したけど、一般的には縮めてMSと呼んでいた。
奴らの正体も目的も分からないけど、人を襲う、ということだけはみんな知っていた。
けど、オーブは島だから安全だって父さんは言っていた。
実際オーブではそんな事件の話は全然なくて、
MS関連のニュースを聞いても、全部僕たちには関係のない話だと思っていた。

オーブがMSの集団に襲われた、あの日までは。

仮面ライダー衝撃(インパルス)


198 名前:2/16 :2006/05/28(日) 10:37:19 ID:???
第一話 

雲ひとつない晴れた空の下、澄んだ空気が心地よい。
冬とはいえ、もともと温暖なここ、アーモリーワンでは外で遊ぶ子供や談笑している主婦など、公園から人気が絶えることはない。
今は枯れ木ばかりのこの公園も、あと二ヶ月もすればきれいな緑に色づくだろう。
「もう少し遅くに来た方がよかったんじゃないか?」
その公園のベンチで、シン・アスカは思わず呟いていた。
黒い髪に、陰りを帯びた赤い瞳が印象的な少年だ。
その手には、少年が持つには不釣合いな、かわいらしいピンク色の携帯電話が握られていた。
シンはその携帯電話の番号を、躊躇しつつも次々と押していった。
待ち受け音が鳴り、すぐに相手につながる。
『どちら様ですか?』
厳しそうな壮年の男性の声。ちょうど、父さんと同じくらいの年かな。シンはぼんやりとそう思った。
「俺です。トダカさん」
四年前、両親を失ったシンとマユを引き取って養育してくれた、二人にとって、恩人、いや、親代わりとさえ言える人だ。
『俺って……まさか、シン君か!?』
電話の向こうからでも、驚きが伝わってくる。
無理もない。今までメールのやり取りをすることはあっても、電話、しかもシンからかけてくることなどは滅多になかった。
「はい。お久しぶりです」
『今日はいったいどうしたんだ?』
「いえ、別に。ただ、近くまで来たので声だけでも聞こうかと思って」
『近くって、今どこにいるんだ?』
「アーモリーワンです。友達と、卒業旅行で」
『すぐ近くじゃないか。なら、帰りにでもうちに寄ったらどうだ?……マユちゃんも、君に会いたがっているよ』
その名前を聞き、シンの表情が曇った。
「そんなわけにはいきません。マユの、ためにも」


199 名前:3/16 :2006/05/28(日) 10:39:14 ID:???
シンの脳裏に、あのときのマユの顔がよみがえる。
今までに見たこともなかったあの表情。
自分の顔を見たときのあの怯えた瞳。そして、自分を振り払ったマユの手。
『今は、マユちゃんも大丈夫だと言っている。あの時は驚いただけだと。もう一度会って、君に謝りたいそうだ』
それは分かっている。本当に嫌われているのなら、あれだけ大切にしていた携帯電話をくれるはずがない。
しかし、それでもマユには会えない。
「俺と会ったら、マユは、思い出してしまうかもしれないですから。俺は、マユに辛い思いはして欲しくないんです」
『そうか。君がそこまで言うのなら仕方ないが、逃げてばかりでは何も解決はしない。そのことだけは、忘れないでくれ』
「はい。で、そのマユはどうしてます?」
『今ではすっかり明るくなったよ。家のことも手伝ってくれている、本当にいい子だ。
たしか、今年小学校を卒業するはずだ』
「そうか。マユ、中学生になるんですね」
『ああ。あれから、もう二年か』
「はい、トダカさんには本当にお世話になって」
『気にしなくていい。……私には、家族はいない。迷惑かもしれないが、私は君たちの事を、子供のように思っているよ』
それを聞いて、シンは喜びと困惑が混ざったような顔をした。
これが電話でよかった。こんな顔を、あの人には見せられない。
「ありがとうございます。その気持ちは本当にうれしいです。けど……」
『分かっている。君たちの親は、君たちの親だ』
「はい。やっぱり、俺は父さんたちの子供でいたいんです。すみません」
『いや、これは私が勝手に思っているだけだ。君たちに押し付けようなどとは、考えていないよ』
「本当にすみません。これからも、マユの事をよろしくお願いします」
『ああ。今日は、君と話すことができて、嬉しかったよ』
「俺もです。それじゃあ」


200 名前:4/16 :2006/05/28(日) 10:40:19 ID:???
シンは電話を切り、また携帯を操作した。その小さな画面に次々と画像が現れていく。
今はいない、両親のツーショット。新しい服を買ってもらったときに撮らされた、マユの写真。クッキーがうまく焼けたからと撮らされた写真。
あの時はうっとうしかったけど、今となっては大事な思い出だ。
続いて、可愛らしい女の子の声が携帯から流れた。
『はい!マユで〜す!でもごめんなさい。今マユはお話できません。後で連絡しますので……』
マユの留守録メッセージだ。マユの事を思い出すと、ついこれを聞いてしまう。
「そうか、マユが、中学生か……」
あれから四年が経っている。当たり前のこととはいえ、どうにも実感がわかない。
シンの中では、マユは四年前の姿のままだ。
何しろ、一人暮らしを始めてから一度もマユと会っていない。会ってはいけない。
電話もしていない。今、シンとマユの間のつながりはメールだけだ。
マユがどれだけ望んでも、それ以外シンは全て拒絶した。
「何か……贈るか」
それでも、シンはよくマユにプレゼントを贈っていた。
マユの好きそうなぬいぐるみをたくさん、寂しくないようにと思って。
だが、中学生なら何か別のものを贈った方がいいかもしれない。
「ルナかメイリンにでも、聞いてみるかな」
「私がどうしたって?」
突然声をかけられたシンは、驚いて上を見上げた。


201 名前:5/16 :2006/05/28(日) 10:41:33 ID:???
ベンチに座っていた彼を赤いショートカットの少女、ルナマリア・ホークが見下ろしていた。
彼女のすぐ隣には、一瞬女性と見間違えそうなほど整った顔立ちをした金髪の少年、レイ・ザ・バレルもいる。二人とも、シンと一緒に卒業旅行に来た友人だ。
「もう買い物終わったのか?」
「うん。ところで、なんかボーっとしてたけど、どうしたの?」
「ちょうどよかった。ルナに聞きたいことあるんだけど」
「私に?何?」
「女の子に、何を贈れば喜ぶと思う?」
そのシンの言葉を聞いて、ルナマリアは怪訝な顔をした。
「何、変な顔してるんだよ。そんなにおかしいか?」
「いや、だって。あのシンがねえ。で、誰に贈るの?」
「妹。今年、中学校に入るからお祝いに」
「そっか、納得。なら、ぬいぐるみでも買ってあげたら?」
「いや、中学生にもぬいぐるみ、てのもなあ。他になんかない?」
すると、ルナマリアは少し考えるようなそぶりを見せた。
「なら、何かアクセサリーでも見繕ってあげる。さっきよさそうなお店を見付けたのよ」
そう言ってルナマリアは足元の大きな紙袋を押し付けてきた。
持てってことか。
「重っ、何こんなに買ってきたんだ?」
「女の子にそれを聞くの?これからさっきの店行くけど、レイはどうする?」
「俺も行こう。車まで遠い。それに、シン一人では持ちきれないかもしれないからな」
「何よそれ。シンの妹さんへのプレゼントを見繕ってあげるだけよ?」
するとレイは、少し微笑んだ。やや皮肉っぽい笑い方だ。
「さっき、ショーケースを食い入るように見ていたからな。ついでに自分の分も買おうとしていたんじゃないのか?」
「そ、そんなことないわよ。自分の分なんて……そりゃ、少しは買おうと思ってたけど」
ルナマリアはばつが悪そうに言い、レイはしてやったりといった表情を浮かべた。
そんな二人を見て、シンも笑った。今では、こんななんでもないようなことで笑えるようになった。これもきっと、みんなのおかげだ。


202 名前:6/16 :2006/05/28(日) 10:42:53 ID:???
三人は談笑しながら、街中を歩いた。
ルナマリアとレイの後ろを歩いていたシンは、何気なく景色を眺めていた。
決して大きな街ではなかったが、気候もよく、過ごしやすそうな所だ。
道路もきれいで、よく整備されている。
町を行く人々も活気に溢れている。
どことなく、シンの前住んでいたところ、オーブに似ていたような気がした。
ぼんやりとしたシンの視線は、ある少女のところで止まった。
道路の反対側にいる、金髪でひらひらした衣装の、大体シンたちと同じくらいの女の子だ。
ショーウインドーの前で、踊りか何かの練習でもしているのか、くるくると回っている。
幸せそうなその様子をほほえましく思って見ていたシンだったが、その少女は歩道から足を踏み外してしまい、車道に飛び出してしまった。
「ええっ!嘘だろ!?」
しかも、トラックが彼女に迫ってきている。クラクションと、急ブレーキの音が耳をつんざく。
少女は何が起こったのか分かっていないのか、ぼんやりしている。とてもじゃないが、避けられそうには見えない。
迷っている暇は無い。反射的にシンは荷物を放り出し、車道へと飛び出した。


203 名前:7/16 :2006/05/28(日) 10:43:46 ID:???
突然の行動に、前の方を歩いていたルナマリアの驚いた声が聞こえた。
「シン!?」
間一髪、トラックに引っ掛けられそうになりながらも、少女を抱えあげたシンは、路上を転がった。
トラックは急ブレーキで止まった。あのままだったら確実に少女にぶつかっていたであろう。
危なかった。
この気持ちは、シンと運転手両方のものだったであろう。
運転手はシンたちの方をこわごわ見るが、ケガがなさそうだと見ると、何も言わずすぐに走り去った。
シンはまだ自分に何が起きたのか分かっていないような、ボーっとした顔をしている少女に、怒りを覚えた。
「死ぬ気か、この馬鹿!」
その言葉を聞いた瞬間、その少女の顔が凍りついたが、怒りで興奮しているシンはそれに気がつかない。
「あんなところで、何ボーっとして……」
「あ……ああ……、いや……」
そこまで言って、やっとシンは少女の様子がおかしい事に気がついた。
きれいな顔は恐怖に歪み、その小さな体は小刻みに震えている。
「死ぬの……いや……!イヤアアァァァッ!」
少女はシンから逃れようとしているのか、あろうことか車道へ飛び出そうとした。
「ええ?お、おい、ちょっと待て!いったい何……」
シンは少女を後ろから羽交い絞めにしてその少女を止めようとするが、見かけによらず、少女は力が強く、逆にシンの方が引き連られそうになる。
その上、少女はめちゃくちゃに手足を振り回すので、シンの顔や手にぶつかってくる。
「いや!死ぬのいやっ!怖い!」
「だから待てって!だったら行くなって!」
シンの声など、少女には全く聞こえていない。
振り回していた少女の肘がきれいに顔面に当たり、シンはたまらずに吹き飛ばされた。


204 名前:8/16 :2006/05/28(日) 10:44:57 ID:???
「つぅっ!」
殴り飛ばされながらも、シンはこの少女も、犠牲者なのではないかと思った。
自分自身や、マユと同じく。
「怖い!死ぬのは怖い!」
「ああ、分かった!大丈夫だ!君は死なない!」
シンは少女を抱きしめ、そう叫んだ。周りの目も気になるが、そんな場合ではない。
落ち着いたのか、少女は暴れるのをやめ、静かに泣き出した。
「ごめん、俺が悪かった。ホント、ごめん」
そのとき、聞きなれた声がシンの耳に突き刺さった。
「シン、何をしている?」
「突然走り出したと思ったら、こんなところでラブシーン?」
レイとルナマリアがシンを見下ろしていた。心配してきてくれたのかと思えば、両手に紙袋を下げたルナマリアの顔は、明らかにシンを責めていた。
「いや、これはそんなんじゃなくて……」
どうすればこの状況を整理して説明できるか、シンが頭をひねっていると、後ろから肩を叩かれた。
今はそんな場合じゃない。右腕で払うが、また叩かれる。また払ったが、しつこく叩かれた。いい加減に痺れを切らしたシンは、怒鳴りつけようと後ろを振り向いた。
「いい加減にしろよ!今はそんな……」
そこまで言って、シンは後ろの人物が何者かやっと分かった。
威圧的で特徴的な制服、帽子、何より見せつけるように持っていた左手の手帳。
紛れもなく、警察官だ。騒ぎを聞きつけてきたのだろう。
その警官は、まるで、獲物を前にしたハイエナのような奇妙な笑いを浮かべていた。
先ほどからの、この少女とのやり取りを思い出す。泣き喚く少女に、それを後ろから羽交い絞めにした男、そう考えると、明らかに変質者だ。
シンは、血の気が引くというのが単なる比喩でなく、実際に起こりえることだという事を思い知った。


205 名前:9/16 :2006/05/28(日) 10:46:36 ID:???
シンが警察署のロビーに出たところ、見知った顔がシンを出迎えた。
ルナマリアとレイだ。
「シン、お勤めご苦労様」
「何だよ、お勤めって」
「そのままの意味よ。晴れて釈放じゃない」
「釈放って……、俺はもともと犯罪者じゃない!」
「へ〜、犯罪者、じゃない、ねえ」
ルナマリアは恐ろしく疑り深そうな目つきでシンを見つめた。
人を助けようと思ってこんな目で見られるのか。別にお礼を言われたいわけじゃないけど、これはないんじゃないか。
「で、こんなところまで何しにきたんだよ」
ついつい、怒ったような口調になってしまうのは責められるようなことではないだろう。
「何よ、その言い方。せっかく迎えに来てあげたのに」
「はいはい、感謝してますよ。感謝すりゃいいんでしょ」
「それにしても、痴漢の現行犯で捕まったのによくこんなにあっさりと出られたわね。
「あの女の子の身内が事情を説明してくれたおかげだ。前科者にならなくてよかったな、シン」
「レイまで……」
俺を犯罪者扱いするのか。からかっているだけっていうのは分かるけど、それでもきつい。
「そうだ、レイ。あの子はどうしたんだ?」
あの直後、シンは警官に連れて行かれたのであの少女どうなったのかは分からない。
少しは落ち着いたようなので大丈夫とは思うが。
「あのすぐ後に彼女に身内が来たので、俺が事情を説明した。そうしたら警察へ行くと言い出してな。全員俺が連れてきた。恐らく、まだ署内にいるはずだ」
「どうする、シン。探す?」
「いや、もういい」
確かに彼女にはもう一度会っては見たい。しかし、今はそれ以上に疲れた。
それに、身内がいるのならもう大丈夫だ。俺の出る幕じゃない。
「そういや、ヨウランたちは?」
「車に待たせている。こんなこと、あまり知られたくはないだろう?」
こともなげにレイが言った。確かに自慢できる話じゃない。黙ってくれるのなら、それに越したことはない。
「ホントか!?助かった〜。ありがとう、レイ!」
「ちょっと、レイだけなの?」
「ごめんごめん、ありがとう、ルナ」
「付け足しっぽいのがなんか気に入らないけど、まあいいわ。帰ったら何かおごってもらうわよ」
「げっ」


206 名前:10/16 :2006/05/28(日) 10:47:32 ID:???
「警察のかたがたには本当にいろいろとお世話になって」
緑の髪の男が、警官に頭を下げている。その後ろでは、水色の髪のやんちゃそうな少年が退屈そうにしていた。
緑色の髪の男、スティング・オークレーが失礼な態度をとっている水色の髪の少年、アウル・ニーダを肘で小突いた。
しかし、アウルはそれを気にも留めない。
だが、初老の警官の方もそれで気を悪くした様子はなかった。
「まあ、いいけどね。もうあんま人騒がせなことはしないでよ?」
「はい、ステラにもよく言い聞かせておきますんで。ご迷惑をおかけしました」
スティングは頭を下げながら部屋を出る。ドアを閉めると、アウルが馬鹿にするように言った。
「いやー、まさかこんな形で警察署に入れるなんてね」
「ああ。人間たちの力を、一度見てみたかったからな。ちょうどいい」
そういったスティングの表情は、先ほどとは打って変わって冷たいものとなっていた。
「で、どうすんの?これから」
「そうだな」
スティングの視線は、落ち着いたとはいえ、いまだ不安定なステラへと注がれた。
「ステラ、お前がやってみるか?」
言われたステラは、途端にうれしそうな顔になる。一方、アウルは不満を隠そうともしない。
「はあ!?なんで!」
「お前にはそのうち暴れさせてやる。今回は譲ってやれよ。いいな、ステラ」
今までのぼんやりした様子とは別人のようにはっきりとした声だ。
「うん!」
「俺たちは外で待っている。適当に暴れたらお前も出て来い」
「……え?……スティングと……アウルは?」
「俺たちは外で待ってる。一人でやるんだ。できるな?」
「……うん」
ステラは静かにうなずいた。それを見たスティングは満足そうに、アウルはまだ不満そうにして、ステラのもとから去っていった。


207 名前:11/16 :2006/05/28(日) 10:48:27 ID:???
「スティング、アウル……」
「でも……すぐに……会える」
スティングが言っていたように、……戦う。
「あれ、お嬢ちゃん。どうしたの?」
たまたま、軽薄そうな若い刑事が声をかけてきた。
ステラは、その刑事を目標に定めた。
「……ステラ……怖い。怖いの……消す!」
その声と共に、ステラの目の色が変化し、全身が変化していく。
金属的な皮膚をした黒い姿、ガイアだ。
何か異様な気配を感じた刑事は、振り向き、悲鳴を上げた。
「ひ、ひえええぇぇ!」
腰を抜かしたのか、若い刑事はへたり込んだまま逃げ出そうとする。
ガイアは無機質な瞳でそれを見つめ、四足獣態となってその足を踏みつける。
その不運な刑事が最後に見たものは、四足獣の冷たい瞳だった。

四足獣となったガイアは、目に付くもの全てを破壊しつつ、署内を駆け回った。
邪魔をするものは、全て引き倒し、叩き伏せた。
ガイアの駆け抜けた後には、生きているか死んでいるかも分からないような状態の警官が何人も横たわっている。
そうやってまた壁を破る。その先には、人がたくさんいる広い空間があった。


208 名前:12/16 :2006/05/28(日) 10:49:55 ID:???
「何よ、あれ!?」
突如表れた黒い巨大な獣を指差して、ルナマリアが言った。
「まさか、あれは……」
以前見たものとは随分違うが、間違いない。
MSだ。シンの両親を奪い、妹を苦しめた怪物だ。
「シン、ルナマリア、逃げるぞ!」
レイは、謎の獣の出現に目を奪われていた二人を現実に引き戻した。
「け、けど……」
「あれを見ろ、シン!ここにいたら殺されるぞ!」
レイの指差す先では、獣が銃を向けた警官に飛び掛り、次々と引き倒していった。
銃弾が当たったところで、硬質な皮膚は弾を弾き返し、発砲した警官に襲い掛かる。
もはや戦闘ですらない、一方的な虐殺だ。
その惨劇の光景は、シンにかつての悪夢を思い出させた。
目の前で奪われていく命、それに対して何もできない自分。
シンは思わずその獣の方へ向かって行った。

「ちょっとレイ、シンは?」
警察署を出たところで、ルナマリアが気付いた。
さっきは必死だったので気を回す余裕はなかったが、確かにどこにもいない。
「まさかシン……ルナマリアはここにいろ!」
そう言い残して、レイは駆け出した。
「ちょ……レイまで何をするつもり!?」
ルナマリアが制止の声を上げるが、構わずレイは警察署の中へ飛び込んだ。


209 名前:13/16 :2006/05/28(日) 10:52:20 ID:???
「うわぁっ!」
獣、ガイアは人間態に変化し、シンを殴り飛ばした。シンは壁に叩きつけられ、うめき声をあげる。
さらにガイアはシンの首を掴んで、壁に押さえつけるようにして無理やり立たせる。
ロビーから移動したおかげで、周りには誰もいない。もともとロビーに立っていられるような人間などほとんど残っていなかったが。
狭い廊下では、誰かが助けに来てくれるわけもない。
壁に押さえつけられ、身動きの取れないシンは腹を、顔を次々と殴りつけられた。
アバラも折れたかもしれない。シンは痛みで声を上げることもできなった。
ガイアは一旦腕を持ち上げ、腕を横に振り、シンを放り投げた。
受身も取れずに、シンは背中から床に叩きつけられた。

シンは一瞬意識が遠くなった。
彼の脳裏に、過去の光景が次々と浮かび上がった。
厳しかった父、優しかった母、いつも一緒にいた可愛い妹、そして、そんな日常が一瞬にした破壊された、あの瞬間。
そのときの無力さと、悔しい思いがよみがえる。

「……こんなことで……こんなことで、俺は!」
叫びながらシンはガイアの腹に右拳を叩き込んだ。
ガイアが腹を押さえ、後ろに下がる。
シンの右腕は、灰色の、謎の戦士のものへと変化していた。
シンは続けて左拳、右足をガイアに叩きつけた。ガイアを攻撃するにつれて、シンの全身は徐々に変化していく。
腹にベルトのようなものが現れ、最後に頭部が変化した。
シンはそこでやっと、自分の体の変化に気がついた。
四本の角のようなものが生えた頭、シンの瞳と同じ色の光を灯した眼、まるで赤い宝石が埋め込まれたようなベルト状の装飾品、灰色の体。
その姿は異形の戦士としか言いようがなかった。


210 名前:14/16 :2006/05/28(日) 10:53:16 ID:???
「シン!?」
レイは、シンの変身の一部始終を見ていた。
しかし、常識が邪魔をしてそれを受け入れられない。
レイの目前で灰色の戦士へと変身したシンに向かって黒いMSが襲い掛かっていった。
灰色の戦士も、ぎこちない動きながら、黒いMSに立ち向かった。

灰色の戦士となったシンはガイアの腹へ連続で拳を叩きつけた。しかし、ガイアはそれを意に介した様子も無く、反対にシンの頭部を殴りつけた。
シンは、この体が思うように動かないのに戸惑っていた。息も苦しい。
ガイアは四足獣態となって跳躍し、灰色の戦士に飛び掛る。
その動きは何とかシンにも見えたのだが、体のほうが追いつかない。
避けるのには間に合わない!
シンは左腕を盾にして、ガイアの攻撃を防いだ。しかし跳躍の勢いは殺せず、後ろへ倒れてしまう。
左腕にガイアの牙が食い込んでいく。
シンはガイアを殴りつけるが、効果は薄い。それどころか、ガイアは前足の爪をもシンの体に突き立てていく。
「うあああー!」
シンは激痛に身をよじった。
ガイアはさらに、シンの体を壁に押し付けてくる。逃げ場がなくなり、牙が、爪がさらに深く食い込む。
あいている右腕でせめてガイアの爪だけでも引き剥がそうとするが、ガイアの方が圧倒的に力が上らしい。びくともしない。
なら、その力を利用してやる!
「はあぁぁっ!」
シンは腰を滑らせて姿勢を低くし、気合と共に右足を跳ね上げた。
支点をずらされてしまったガイアは牙も爪もシンの体から離してしまい、壁に頭から叩きつけられた。薄い壁なのか、それだけでひびが入った。
シンは体勢を立て直した上、腹を見せる形となった四足獣ガイアに馬乗りになって、頭部、腹部を何度も何度も執拗に殴りつけた。
四足獣の腹は、基本的に弱点となる。MSの場合もそれは例外ではなかったようだ。
人間態のときとは違って、確実にダメージを与えられている。
こうもひっきりなしに攻撃されては、人間態に戻ることもできない。
シンが殴るたび、その衝撃が伝わり、ガイアの背中の壁のひびも大きくなった。
シンは立ち上がり、とどめとばかりに懇親の力を込めたキックを決めた。
同時に壁も突き破られ、ガイアは壁の向こう、屋外へと投げ出された。


211 名前:15/16 :2006/05/28(日) 10:54:31 ID:???
ルナマリアは警察署から出たものの、そこからそれ以上離れることはできなかった。
シンもレイも、あの中から出てこない。
しかし、自ら飛び込んでいくわけにもいかなかった。
「二人とも……大丈夫かな」
警察署の周りは、ルナマリアのほかにも逃げ出してきた人たちや騒ぎを聞きつけたマスコミ、野次馬に囲まれていた。
突然、警察署の壁の一部にひびが入った。周囲がどよめく。
そして壁に穴があき、黒いMSが飛び出してきて、駐車されていた大型トラックに背中からぶつかった。
周囲はあわてて逃げ出そうとする者たちの怒号や悲鳴に支配された。
そんな混乱の坩堝の中、ルナマリアの視線はある一点に注がれた。
壁に開けられた穴の向こう側に立つ、灰色の戦士に。

ガイアはトラックに叩きつけられながらも、まだ生きていた。
この場から逃れようと、必死にもがいている。
体の自由が利かないので、人間態に戻ることもできない。

その様子を、壁の穴の向こうからシンも見ていた。
今度こそ、あいつを!
右足に、ベルトから力が流れ込む。シンは右足に今までにないような、強い力がみなぎるのを感じた。
一歩、二歩と下がり、一旦止まる。そこであらためて力を込め、シンは強く地面を蹴る。
助走をつけてスピードに乗ったシンは、再び地面を蹴って宙へ舞った。
「うおおおぉぉぉっ!」
裂帛の気合と共に、シンは右足からガイアへとまっすぐに突っ込んでいく。
シンの右足がガイアの腹へとめり込んだ。
その衝撃と共に右足の力もガイアへと伝わり、ガイアはより奥へと押し込まれる。
次の瞬間、トラックが大爆発を起こす。
シンは蹴った反動でうまく爆風に乗り、地面に着地した。
ちょうど、ルナマリアの目の前だった。
立ち上がる際、シンは一瞬ルナマリアと眼を合わせたが、すぐに爆発の方へと顔を向けた。


212 名前:16/16 :2006/05/28(日) 10:56:09 ID:???
(いくらなんでも……これで)
これが、今のシンにできる最大の攻撃だった。これでも倒せなかったとしたら、今度こそ打つ手がない。
激しく息をしながら、シンは祈るような気持ちで爆発したトラックを見た。
炎の中に動くものがあった。
それは徐々に輪郭をはっきりとさせてきた。人の形をしている。
(まさか……)
姿を現したそれは、人間態となったガイアだった。
相当なダメージを受けているようだが、シンにもこれ以上戦う余力はなかった。
構えを取り、威嚇するのが精一杯だ。
「よくも……よくもぉッ!」
ガイアは、戦意もあらわにシンに向かってくる。
今度こそ、打つ手がない。
シンの胸中に、諦めにも似た気持ちがこみ上げてくる。
だが、飛び込んでくるガイアの目前に突然、緑色のMSが舞い降りた。
「おい、もういい加減にしろ!これ以上戦っても意味ねえだろ!」
「でも、こいつ!」
「離脱だ!もうやめろ!」
「そうそう、これ以上戦うってんならさぁ……お前はここで死ねよ!」
緑色のMSのすぐ隣に、水色のMSが着地する。
その言葉を聞いた瞬間、ガイアは動きを止め、絶叫した。
「死ぬ……?私……?いやああぁぁぁっ!」
「お前!」
「止まんないじゃん。しょうがないだろ!?」
「黙れバカ!余計な事を!」
緑のMS、カオスと水色のMS、アビスのやり取りを聞いていたシンは、違和感にとらわれた。
こんな人間的な会話をするMSなど、聞いたことがない。
それにあの黒いMS、どこかで見たような……。
動きを止めたガイアは、シンに背を向けて走り出した。さっきまでとは違い、戦意など欠片も感じられない。
続いてアビスが、最後にシンを牽制するようにしてカオスが後退していった。
結局、倒しきれなかったなんて……。
シンは去っていくMSたちを黙って見ていることしかできなかった。

213 名前:16/16 :2006/05/28(日) 10:59:10 ID:???
以上です。
長い上に内容が薄い……。
駄文ですみません。

214 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/28(日) 14:11:49 ID:???
凄いおもしろかったです!
シンの周りの人物もよく書けてたし戦闘もステラとの出会いにもハラハラさせられました
確かに長文だったけどおもしろかったので苦じゃなかったっすw

215 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/28(日) 20:32:19 ID:???
そうそう、話を読ませる力というかな。
文句なしにGJ!

216 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/28(日) 22:21:01 ID:???
殴りながら徐々に変身していくとか、灰色状態で上手く力が出せないってのは、クウガを彷彿とさせるな
やっぱり平成の中じゃ、クウガの人気って高いのかな?

217 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/29(月) 01:59:03 ID:???
おもしれーGJ
ガイアの攻撃が痛々しいw
ちゃんと仮面ライダーらしくなってるしすげー

なんかクウガは人気っぽいね

218 名前:31 :2006/05/29(月) 23:47:00 ID:???
仮面ライダーSIN 第5話

「赤いMRも見つかってないってのに今度は爆発事件、か」

車の中でディアッカはひとり呟いた。辺りはパトカーの赤ランプとサーチライトの光で昼
間のように明るくなっていた。周囲はパトカーで埋め尽くされ、「KEEP OUT」と書かれた
黄色と黒の縞のテープで囲まれている。車の外では先ほどから現場の調査権を巡って警察
とイザークが口論を続けている。呼吸をするたびに白い吐息がライトの光に映し出されて
いた。空に向けられたライトもはっきりと軌跡を残している。霧が出てきたようだ。

「冷えてきたな」

ディアッカはカーエアコンの設定温度を上げた。車の鉄板が底冷えして車内の温度を下げ
ていた。窓の外を見ると現場からあふれたライトがイザークの横顔を映していた。眉間に
しわをよせ、身振り手振り、体を大きく動かしている。いつものようにうまくいっていな
いのだろう。ディアッカはハンドルから手を離し、シートを後ろに倒してもたれた。ズボ
ンの右ポケットから携帯電話を取り出して画面を見ないままリダイアルで電話をかけた

トゥルルルル、トゥルルルル

コール音は鳴るものの、電話に出る気配が無い。

「やっぱ出ないよな……」

コンコンと助手席のドアを叩く音がした。

――ずいぶん早くあきらめたもんだな

ディアッカは寝そべったままアームレストにあるボタンで助手席のドアのロックを外した。
そっとドアが開き、そっと閉じた。あれだけ興奮していれば車体が揺れるくらいの勢いで
ドアを閉めるかと思っていた。イザークにしては珍しい。意外に思いながらも悪い気はし
ない。電話を切り、シートを起こしながら言った。

「どうだった?」

声をかけた相手はイザークではなくミリアリアだった。ダッシュボードと助手席の間に体
をかがめて身を隠し、そっとフロントガラスから現場の様子をカメラで覗いている。

219 名前:31 :2006/05/29(月) 23:47:54 ID:???
「お、おまえ!」
「しーっ!」

ディアッカは車の周囲を見回してからひそひそ声でミリアリアに話しかける。

「何してるんだよ?会見場あるだろ?」
「毎回煙に巻かれて終わりの記者会見が何の意味があるのよ。プレスパスだって持ってる
のよ。取材する権利があるわ」
「だからって、公安の車に乗り込むのは明らかな越権行為じゃないのか?」

ディアッカはカーステレオの部分にある無線のスイッチを切った。警察の無線がノイズ交
じりではあるが入ってきていたからだ。

「交換条件くらいは用意してるわ。私、赤の騎士(ナイト)に会ったの」
「アイツにか!」

「赤の騎士」は赤いMRを装着するアスランのコードネームだ。あの日事故現場の人ごみに
いたのはやはりアスランだったのだ。先の大戦で彼が装着していたジャスティスに比べれ
ば随分と濃い赤だが、赤いMRが彼だとすればつじつまが合う。それを聞いたディアッカは
助手席に身を乗り出していた。

「バカ!私がいるのがばれるでしょ」

ミリアリアが語調を強めながらも抑えた声で言う。そう言いながらもミリアリアはファイ
ンダーから目を離そうとしなかった。じっとファインダーの中を覗きながらこの場の空気
を切り取ろうとしている。

「例の赤いMRはアイツなのか?」
「そこまでは確かめてないわ。聞いたら逃げられそうだったし。それに聞いたって答えな
いわよ。私たちが知ってるアイツだったらね」
「……かもしれないな」
「あー、ここからでもダメか」

ミリアリアがカメラから望遠レンズを外し、バッグに片付けた。そしてフロントとサイド
ウィンドウからこちらを見ている人間がいないことを確認する。

「じゃ、私はこれで」

そう言うとミリアリアはそっとドアを開けて隙間から滑りぬけるように外に出る。

「おい、待てよ」
「何よ」
「オマエさあ、ヤバいことに首突っ込みすぎじゃないのか?」
「アンタたちと違って給料もらってるわけじゃないの。多少の無茶はしなきゃ食べていけ
ないもの」
「なあ……」

220 名前:31 :2006/05/29(月) 23:49:03 ID:???
ディアッカが神妙な面持ちをする。話を切り出そうとしたのをミリアリアが妨げた。

「ストップ!そこまで。それ以上先を言ったら引っ越して着信拒否するわよ」
「おいおい、そりゃないだろ」
「まだ私、自分で何かしたわけじゃないもの」

ミリアリアはそう言って走り去った。ディアッカが苦笑いを浮かべて空いたままのドアを
閉じた。

「またやっちまったな」

そう呟いてシートに身を預けた。感傷に浸る間もなく車体が大きく揺れた。

「クソっ!石頭どもめ!」

イザークの怒鳴り声が車内に響く。物に八つ当たりしなくなっただけ進歩したと言うべき
だろうか。

「ダメだったのか」
「何が我々にお任せくださいだ!貴様らが何もしないから事態が悪化するんだろうが!!」
「そうカッカすんなって。ほら、これでも飲んで落ち着け」

ディアッカは後部座席に置いておいた缶ジュースをイザークに渡した。

「まったく……」

イザークがブツブツ言いながら缶を開けようとした手を止めた。

「ん?」
「どうした?」
「香料の匂いがする。どうしてだ?まさか貴様……」

イザークがものすごい形相でディアッカをにらみつけた。殊こういう事となるとイザーク
の追求は厳しい。

「オマエが何を想像したかは知らないけど、ミリイの奴が来てたんだよ」
「公私混同は止めろとあれほど言ってるだろうが!」
「ちょっと、落ち着けって。何も世間話をしてたって訳じゃないんだぜ」
「なら、いちゃついてたとでも言うのか!?」

221 名前:31 :2006/05/29(月) 23:50:04 ID:???
ミリアリアがコーディネイターでないこともあってイザークは元々二人の仲をよく思って
いなかった。差別をしているつもりはないのだが、うまくいかなかった話は山のように聞
いているし、相手にも危害が及びかねない。

「最後まで聞けよ。アスランがこの街に帰ってきてるんだ」
「何!奴がいるのか!どこにだ!?」

好敵手アスランが帰ってきていると知ってイザークのテンションは更に上がっていった。
いつの間にかディアッカの胸ぐらをつかんでいる。

「落ち着けって。そこまでは分からないってさ」
「……車を出せ」

イザークは胸ぐらから手を離してシートベルトを締めた。ディアッカも服をなおしながら
ハンドルを握ってエンジンをかけた。

「帰るのか?」
「ああ」

イザークが無線のスイッチを入れてレシーバを手に取った。

「こちら102号車。ハーネンフース、いるか?」
『はい、隊長。なんでしょうか』
「MSトレーラーを1台用意してくれ。使用するMSは3機。オペレーターはオマエ1人でい
い」
『3機、ですか?』
「ああ。俺が帰るまでにオレのサインだけで済むように手続きをしておいてくれ」
『分かりました』

通信を終わらせた。

――後は奴が気付くかどうかだ。

イザークは無線のチャンネルを切り替えていく。検問にかかっているような暇はない。警
察は明日の14日にこだわっているようだが、事は今夜中に起こる。イザークにはそんな予
感がしていた。

222 名前:31 :2006/05/29(月) 23:51:03 ID:???
学校の体育館でシンが眠れない夜を過ごしていた。あの後、詳細が報道されないまま避難
警報要請が出て学校に連れてこられていた。場所が変わって寝付けないのもあるのかもし
れないが、爆発事件が自分を探している者の仕業だとしたら、そう思うと気が気ではない。
そういった恐怖がシンの気を張らせていた。

緊張でのどが渇いてきたので下の階の自動販売機へ行くことにした。周りの人間を起こさ
ないように忍び足で通路を抜けていく。階段までついて一息つくと下の階からなにやら声
がする。アレックスの声だ。ボソボソとした声ではっきりと聞き取れないが階段下の公衆
電話でどこかと話をしているようだ。

――今出るのはまずいな

アレックスのことだ。ここで出て行ったら小言を言うだろう。面倒なので終わるまで階段
の上で待つことにした。

アレックスは夕方にミリアリアから受け取った名刺の連絡先に電話をかけていた。電話を
かけると電話の代行デスクらしき場所に繋がった。

「ジャーナリストのミリアリア=ハウにつないでくれ」
『お名前は?』
「赤の騎士が連絡をしてきたと伝えてくれ。分かるはずだ」
『少々お待ちください』

保留音がしてほどなく、回線が切り替わる音がした。

『もしもし?連絡が来ると思ってた。市内の事故のことでしょ?』
「君に聞こうなんて随分と虫のいい話だとは思ってる……だが、オレは事実を知りたいん
だ」
『いいわよ。どうせ警察の公式見解じゃないから上に言っても通らないネタだったし。ジ
ャーナリストとしてじゃなくてじゃなくて私個人として教えてあげる』
「すまない……」
『目撃証言によれば市内を暴れまわってるのはトサカの付いた黒いモノアイのMS。先の大
戦で公安が使っていたジンにそっくりだったらしいわ』
「ジンが出てるのか!?」

黒いジンは故・パトリック=ザラの親衛隊が装着していたMSである。アレックスが声を荒
げた。その声は階段の上にいたシンにも伝わった。

223 名前:31 :2006/05/29(月) 23:51:50 ID:???
――ジンが出てる?

シンはしゃがみこんでできるだけアスランの声を聞き取ろうとした。アスランの様子は電
話ごしにミリアリアにも伝わっていた。

『落ち着いて。まだ誰がMSを使っているのかは分かってないわ』
「だが……」
『ディアッカとイザークを現場で見たから、少なくとも公安は知らないってことだろうけ
どね』
「ありがとう。それだけ聞けば十分だ」

そう言ってアレックスは電話を切った。シンには結局市内にMSが出没したこととアレック
スが動揺していることくらいしか分からなかった。電話が終わってからすぐにアレックス
はバイクでどこかへ出かけていった。

「アレックスが出かけたようだね」

シンはビクッと身を震わせた。振り向くとデュランダルが立っていた。電話に気を取られ
ていたとはいえまるで気配を感じなかった。シンは戦慄した。そうは思いたくないがデュ
ランダルが自分を狙っていたとしたらと思うと生きた心地がしない。デュランダルはこわ
ばったシンの顔をじっと見ながら言った。

「君はどうしたいんだい?」
「オレは……」

シンは目を逸らさないことだけに必死で、すぐにその問いに答えることは出来なかった。


街は夜霧に包まれていた。バイクのライトも霧によってその軌跡を映し出すだけでさほど
役に立ってはいない。アレックスはバイクを走らせながらあることを考えていた。ミリア
リアの言うように黒いジンが現れたとしたら行き先は一つ、ユニウスセブン平和公園だ。
バイクを止めるとライトがアレックスに向けてライトが照らされた。

「待っていたぞ。貴様ならここに来ると思っていた」

イザークが仁王立ちしている。後ろからディアッカがこっそり手で「よっ」と合図をする。
二人の後ろには公安部の大型トレーラーが控えていた。サイズからしてMSとサポートシス
テムを搭載したものだろう。

224 名前:31 :2006/05/29(月) 23:52:38 ID:???
「トレーラーに乗れ」
「えっ?」

アレックスは驚きの声を上げた。イザークが呆れた様子で言い放つ。

「貴様、まさか生身のままやる気だったと言うんじゃないだろうな」
「そのつもりだった。万が一のときは……」

アレックスは手を握り締めた。

「おいおい、よしてくれよ。その万が一にまきこまれるオレたちの身にもなってくれ」
「オレはかまわんぞ。決着をつけてやる」

ディアッカが首をもたげてため息をついた。この二人は昔からそうだ。アカデミーでの成
績、チェス、ミッション、そのすべてで対決し、どちらが勝とうが負けようが周りに八つ
当たりする。それでいて当人同士は分かり合っている面があるだけになお始末が悪い。デ
ィアッカも相当酷い目に遭い続けてきた。

トレーラーに乗り込むと奥にMSのオペレート用の装置があり、側面のハンガーにモノアイ
の緑色のMSが3機吊り下げられていた。装置の前にはシホが座っている。

「どうだ!?状況は?」
「もう少しで起動準備が整います」
「と、いうことだ。おい、お前ら!出撃だ」
「へいへい。ほら、オマエのだ」

ディアッカがMSの下に着るパイロットスーツをアレックスに渡した。

「隊長。後ろのバイザーは何ですか?」

シホが言う。アレックスは薄暗いコンテナの中でも濃い色のバイザーを外そうとしない。
顔の動きを見ている限り視覚矯正ディバイスというわけではなさそうだ。以前に軍の特殊
部隊が似たようなバイザーをかけていたことがシホの不信感を煽った。

「旧友だ。オレの権限でMSを装着させて参加させる」
「そんな!民間人にMSを装着させるなんて始末書じゃ済まないかもしれませんよ」
「事態を悪化させればその引責で処罰を受けることになる。ならば被害を最小限にとどめ
る方を選ぶのが公僕たる我々の務めだろうが!貴様らもさっさと支度をしろ」
「言われなくてももう始めてるって」

225 名前:31 :2006/05/29(月) 23:53:28 ID:???
ディアッカとアレックスはパイロットスーツを既に着用していた。アレックスはヒジやヒ
ザ、指を曲げてスーツを着たときの感覚を確かめていた。先の大戦の中盤からMSを着用し
ていないアレックスにとって久しぶりの感触だった。

「ずいぶん念入りだな」

その様子を見たディアッカが声をかける。

「ああ、久しぶりだからな」
「足手まといにはなるなよ」

イザークの言い草にディアッカは頭を抱えた。このままでは自分も道連れにされかねない。
とにかく何か話題を変えることにした。

「に、しても分からないな。なんでここを狙う奴らがあんな街のはずれを爆破したん
だ?」
「それは俺にも分からん。ここなら式典に参加するVIPを狙うため、というのは分からん
でもないが……」
「その程度の確証でよくMSを出させたな。空振りしたらまた面倒だぜ」
「奴らは必ず来るさ。黒いジン……奴らはパトリック=ザラの亡霊だ。理由はどうあれ亡
霊はモニュメントに引き寄せられる」

アレックスが呟いた。コーディネイター至上主義を掲げる超保守派の残党は未だ各地に点
在している。彼らが故・パトリック=ザラの主張を元にコーディネイター主体の国家を作
り上げようとする動きは未だ根強い。大戦から2年、コーディネイターであることを隠し
て生活することに次第に無理がきはじめていたのかもしれない。

「準備が出来ました」

シホがそう言うとハンガーに吊るされているMSが部位ごとに分割されて着用者が入り込む
ように開く。まずがディアッカが装着を始める。

「OK、いいぜ」

シホは後ろを向いてディアッカの状態を自身の目でも確認をしてからMSのロック操作を始
めた。モニターに表示されたディアッカの体格に合わせてパーツの位置を調節し、足から
順にロックしていく。そして最後に動力パイプが前面にむき出しになっているモノアイの
フェイスマスクが装着された。

「ディアッカ機、システム機動」

シホの声と同時にモノアイが点灯する。

226 名前:31 :2006/05/29(月) 23:54:58 ID:???
「続いて……。バイザーの人。お名前は?」
「アレックス=ディノだ。アレックスでいい」
「では、アレックス機、装着スタンバイ。装着を開始します」

アレックスの体にMSが装着されていく。フェイスマスクが装着され、視界が真っ暗になっ
たが、すぐにモニタに映像が映し出された。最後にイザークの装着が行われた。イザーク
のフェイスマスクにはトサカ状のアンテナブレードが付けられている。古くはNジャマー
影響下での通信機能の弱かったジンが通信機能の拡張のためにトサカを付けたのが始まり
だが、通信装置の改良が進んだ現在ではアンテナブレードは隊長機を示すもので、機能的
な役割は失われていた。

MSを装着した3人にシホから通信が入る。

『いいですか。そのMS――ZAMF-X1000は作業モードでは数時間、戦闘モードではで1時間
強しかバッテリーが持ちません。各種リミッターの解除はバッテリー残量が急激に減るの
で緊急時以外は使用しないでください。パージ用の電源は残しておいてください』
「もし、パージ用の電源まで使い切ったとしたら?」

アレックスが尋ねた。

『セカンドシリーズのMSは以前のものに比べて自力での可動域を広めに取っていますがそ
れでも歩行で限界です。切れる前に帰還してください』
「補給は?」
『1回分のみです』
「それだけあれば充分だ。行くぞ」

トラックのコンテナが開くと一層冷え込んだ外気が霧を濃くしていた。2年前の2月14日も
霧の濃い日だった。そして、この霧が敵の侵入を許したのだった。


平和公園の記念碑の前に数人のモノアイの光と人影が映し出されていた。

「人数が足りないようだな」

リーダー格の男、サトーが声をかけた。

227 名前:31 :2006/05/29(月) 23:56:15 ID:???
「途中、ヨップたちが軍のMRに発見されて自爆して果てたようです」
「そうか……だが、無駄ではないぞ。ヨップたちが警察や軍の目をそちらに向けさせたお
かげで、こちらが手薄になっていた。礼を言う」

そう言うとサトーは残りのメンバーの方を向いて声をかける。

「平和と言い換えられた支配を今日、この場で打ち砕くときがきた。腐敗した政治家ども
を道連れに我々はコーディネイターにとっての平和の意義を問いただす!!我々は礎になる
のだ!!」

サトーの言葉に黒いジンたちから歓声が上がった。

「能書きはそれまでだ。待ちくたびれたぞ」

イザークの声がそれに水を差す。イザーク、ディアッカ、アレックスのモノアイが灯り、
黒いジンたちにその存在を知らせる。イザークたちにはジンの姿が映り、ジンの装着者た
ちからはZAMF-X1000、公安の新たな主力MS――ザクが映っていた。

「平和に飼いならされた公安の狗か!貴様も改造人間(コーディネイター)なら分かるだ
ろう!パトリック=ザラが取った道こそが我々にとって唯一の手段だったことが!」
「黙れ!貴様らのしていることは単なるテロ活動にしか過ぎん!恐怖の代償との取引など
許されてなるか!」

一触即発、双方共に戦闘態勢に入ろうとしたそのときだった。

「動くなっ!」

サトーが叫んだ。

「ここに来る前に市内の避難場所数箇所に仕掛けてきた。起爆装置のレバーを引けば避難
所ごと木っ端微塵だ」
「貴様っ!!卑怯だぞ!!」
「我々のように少数で事を成すにはこれしか方法が無いのだ。それが我々コーディネイ
ターにとっての正義を果たすなら、そのための誹りは受けよう!!」

『……何が正義だ』

MSの通信に何者かが割り込んできた。

「誰だ!」

辺りを見回しても濃霧のせいでその姿を捉えることはできない。

『誰かに犠牲を強いることが……それが正義だって言うのか!アンタは!!』

228 名前:31 :2006/05/29(月) 23:57:08 ID:???
刹那、全員のモニタに一筋の青い閃光が走った。光が地面に接触して衝撃波が走る。風が
辺りを包んでいた霧をなぎ払い、ビルの窓ガラスを振動で吹き飛ばした。その場にいたMS
は衝撃に耐えることがやっとで、その姿を正視することはできなかった。


「あの子を行かせたですって!?」

夜更けの理事長室にタリアの声が響いた。デュランダルに話があると持ちかけられて部屋
に入れてみればこの有様だ。タリアは頭が痛くなってきた。

「ああ。彼がそう望んだ。私はそれを手助けしただけだ」
「あの子は軍にも狙われてるんですよ!あなたも分かってるでしょう!」
「分かっているさ。だが……」

デュランダルは一旦間を置いた。タリアが続けざまに聞く。

「どうだとおっしゃるんですか」
「あの子を見ていると何故かそうする気にはならなかった。あのMRの開発名を思い出した
よ。彼はそういう運命を背負った者なのかもしれない」

デュランダルは立ち上がって窓からシンが向かった平和広場の方向を眺めた。


衝撃波が収まって辺りから霧が戻り始めたとき、ようやくその姿を見ることができた。起
爆装置は砕け散り、左足に電撃をまとった青いMRの姿があった。仁王立ちしていたサトー
がMRに向かって叫んだ。

「なかなかやるな。貴様、名を名乗れ!」
「衝撃、インパルス」



第五話 おわり

229 名前:31 :2006/05/30(火) 00:11:56 ID:???
何だか仕様変更があったみたいで使ってる専用ブラウザから書き込みできずに今まで困っ
てました。最近スレが活気付いて頑張らねばと思っていた矢先に……(´・ω・`)

>>122-125

でノリダーの話が出てましたがファンファン大佐お亡くなりになったそうですね。

 「俳優の岡田眞澄さんが死去」
 (http://www.nikkansports.com/entertainment/f-et-tp0-20060529-38724.html)

ご冥福をお祈りします。


明日朝早いので今日はこれで。

230 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/30(火) 00:41:56 ID:???
筋は種死にのっとってるのに、実に面白いな
本格的な戦闘は次回か、楽しみ
それにしても、SPIRITS版2号風名乗りは、やっぱり最高だw

231 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/30(火) 07:20:09 ID:???
ファンファン大佐……。
70歳……寂しいけど、長く生きましたね…。
ご冥福をお祈りします。


そして、31さんグッジョブッ!

232 名前:運命作者 :2006/05/30(火) 21:09:41 ID:???
新作で盛り上がってるところ失礼して申し訳ない。引越してネット環境が調ったら、また続けていいでしょうか?

233 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/30(火) 22:24:06 ID:???
おお、ご帰還ですか。
是非お願いします。

234 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/31(水) 09:21:51 ID:???
運命作者様、お待ちしております。
・・・ガノタ仮面様も、ご帰還されることを祈ります。

235 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/05/31(水) 23:12:12 ID:???
このスレから見始めたんだけど運命作者さんとかいろいろいるんだねここ
すげーなw

236 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/01(木) 10:24:55 ID:???
31氏GJ!
これからいよいよ戦闘ってとこで「続く」ですか、
次回が非常に気になります。
>運命作者様
是非続きをお願いします。
楽しみにして待たせていただきます。

237 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/02(金) 00:00:20 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)
第二話投下します。


238 名前:1/16 :2006/06/02(金) 00:03:25 ID:???
第二話

眼を覚ましたシンは、そこが見慣れた狭いアパートの部屋でなかったのに驚いた。
「あれ……ここは……?」
「目が覚めたか」
レイに声をかけられ、寝ぼけていた頭が徐々にはっきりとしてくる。
そうだ、俺はあの後……。
警察署の中で、元に戻って……、そのまま気を失ったんだ。
けど、この部屋は何なんだ?
布団が四つも敷いてある和室だ。こんなところ、シンには見覚えがなかった。
「ここは、俺たちが泊まっている宿だ」
シンの心を読んだように、レイが答えた。
レイはやけに勘がよく、こんな風に先回りして答えてくれることがある。
「そっか。でも、何で俺はこんなところにいるんだ?」
「お前が気を失ったあと、ヨウランがここまでお前を背負ってきたんだ。感謝するんだな。
それより、俺も聞きたいことがある。あれはなんだ?」
そこから先は言わなかったが、大体想像はつく。レイには見られていたらしい。
「自分でも、よく分からないよ。殺されそうになって、けど、あのまま何もできずに死ぬ
のが悔しくて……。こんなんでやられてたまるかって思ったら、ああなって……」
説明になっていないのは、自分でも分かっている。
しかし、自分自身本当にわけが分からないのだから仕方がない。
「そうか」
それでもレイは、納得してくれたらしい。突っ込んで聞かれなかったのは本当に助かる。
これがルナマリアとかだったら、さぞかし大変だっただろう。
「だが、もう無茶はするな。あの時、俺がどれだけ心配したと思っている。
俺だけじゃない。ルナマリアも心配していたはずだ」
そのことは、すっかり失念していた。
あの時は頭に血が上って突っ込んでいったが、変身していなかったら間違いなく死んでい
ただろう。
そうしたら、レイたちにも悲しい思いをさせてしまう。それだけじゃない。ひょっとした
らレイにもあのときの自分と同じような思いをさせてしまったかもしれない。
何もできなかった悔しさと絶望的な無力感を。
そう思ったシンは、素直に謝った。


239 名前:2/16 :2006/06/02(金) 00:04:37 ID:???
「……ごめん」
「分かってくれればいい。ルナマリアたちは朝食に行っているが、動けるか?」
「体の調子はいいけど」
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だって。ホント、前より調子がいいんだよ」
これは本当のことだ。よく寝たせいか、すこぶる体調がいい。
「なら、いいが……」
レイの言葉が終わるか終わらないかというときに、騒がしく戸が開いた。
「シン、起きたーっ!?」
「おっ、元気そうじゃん」
「心配したぜ、コノォ!」
「シン、おにぎりもらってきたよ。食べる?」
ルナマリア、ヨウラン、ヴィーノ、メイリンが部屋に押しかけてきた。
シンは四人にもみくちゃにされてしまう。
「うわわ、ちょっと、動けない!」
「あ、ごめんね、シン。ほら、みんなも離れて」
姉であるルナマリアと似た赤い髪をツインテールに結んだ少女、メイリンがたしなめるが
三人とも聞いてくれない。
「喜んでいるところ悪いが……、シンは疲れている。少し休ませてやれ」
「それもそうだな。わりい、シン」
ヨウランがそう言って離れた。浅黒い肌でシンたちより一つ年上だ。他の二人もシンを解
放する。やはりレイの言葉はやけに説得力がある。
「そうだ、シン。これ見てよ」
ルナマリアがシンの目の前に新聞を広げた。
「え、AAジャーナル?何これ?」
オーブにある雑誌社が不定期に出版している。オカルト雑誌ということで有名だ。
「それはどうでもいいの。見て欲しいのはここよ、ここ」
そう言ってルナマリアはあるページを開いた。
そこには、黒いMSと灰色の戦士が戦っている写真が載っていた。


240 名前:3/16 :2006/06/02(金) 00:05:29 ID:???
「これ……」
紛れもなく、昨日の自分の姿だ。
「シンからも言ってよ。私が仮面ライダーを見たって言ってもメイリンったら信用しない
のよ」
「だってこの雑誌、捏造が多いことで有名な三流雑誌だよ。それに、仮面ライダーもMS
も四年前からずっといなくなったままなんでしょ」
「だから、新しい仮面ライダーなのよ!」
「仮面、ライダー?」
シンの疑問をよそに、ホーク姉妹は激論を戦わせていた。仕方なく、前髪にオレンジ色の
メッシュをかけた少年、ヴィーノが雑誌を指差して説明した。
「シン知らないの?昔、MSと戦ってたんだって。ほら、ここに記事があるだろ?」
ヴィーノの指差す先には、炎をバックに佇立する灰色の戦士の写真の他に、二体の戦士の
写真が載っていた。
しかし、白黒な上に不鮮明な写真だったのでどんな姿なのかはほとんど分からない。
改めて記事を見てみると、MSではなく仮面ライダーについて言及されているようだった。
「『衝撃!新たな仮面ライダー出現か!?』」
「だって、仮面ライダーのことなんて他のどこにも書かれてないじゃない!ほら、これな
んて『警察署にトラックが!死傷者多数!』って書いてあるよ!」
「情報操作されてるのよ!五年前だってはじめはそうだったでしょ!」
まだ口論していたらしい。いつもはいたって仲の良い姉妹なのだが、たまにけんかをする。
まあ、放っておけばすぐに仲直りするのだが、それまではうるさくてしょうがない。
うんざりしたようなヨウランが、そっとシンたちに言った。
「なあ、シン。朝食まだだろ?レイも。食べに行こうぜ?」
「そうだな。シンはどうする?」
「俺も行くよ」
既に周りの見えないくらい口論に熱中しているホーク姉妹をよそに、男性陣はそっと部屋
を出て行った。
部屋を出る直前に聞こえたルナマリアの言葉が、なぜかシンの印象に残った。
「灰色なんてダサいよ!」
「それが渋くて格好いいじゃない!突然目の前に現れたときなんて、もう衝撃的だったわ
よ!」
衝撃、か……。


241 名前:4/16 :2006/06/02(金) 00:07:32 ID:???
「ようこそいらっしゃいました。私がここの署長です」
太り気味の中年男性が入ってきた二人の男に言った。
グレーのスーツをきっちりと着た、プラチナブロンドの髪の怜悧そうな青年と、緑のスー
ツを着崩した、金髪で浅黒い肌の少し軽薄そうな青年だ。
「MS対策班ZAFT隊長、イザーク・ジュールだ」
「同じく、ZAFT所属、ディアッカ・エルスマン」
二人は敬礼をしながら、自己紹介をした。
「さっそくだが、資料を見せてもらいたい」
「はい、分かっております。今から対策会議を始めるところです。
視聴覚室へお越しください」
イザークの高圧的、ともとれる言い方に気を悪くした様子もなく、署長は揉み手でもしそ
うなほどの愛想のよさで答えた。
警察より、セールスマンでもやってた方が似合ってるんじゃないか?
ディアッカは皮肉っぽくそう考えたが、もちろん口には出さなかった。

視聴覚室では、既に多数の警官が席についていた。
ZAFTの二人を召喚したのも、経験者を含めての今後の対策を議論するためだ。
イザークとディアッカも促されて、入口近くの席に座る。
二人が着席したのを合図にしたように、スクリーンに映像が映し出された。
「なっ!?」
「あれは!?」
それを見た瞬間、イザークとディアッカは思わず声を上げていた。
黒いMSと灰色の戦士。黒いMSのほうははじめて見るが、灰色の戦士のほうはかつて見
たことのあるものに酷似していたからだ。
『この映像は二体同時に写されたものですが、これらが先日、署に現れた個体です』
マイクを通して、司会役の警官の声が聞こえる。
『映像はありませんが、他にもMS二体の存在が確認されています。
また、目撃証言から、他の二体と黒いMSはどうやら協力関係にあるようです』
『黒いMSは獣の様な形態への変身能力を持っていました。これがその写真です』
スクリーンに映像が映し出される。不鮮明だが、四足の黒い獣が警官を襲っていることは
はっきりと見て取れた。
『そしてこれが、灰色のMSです。映像で見る限り、これといった能力は確認できません
が、腹部に独特の形状をした装飾品が確認されています』
続いて、灰色の戦士の姿が映し出された。確かに、腹部にベルトが確認できる。
『そして残りの二体ですが、それらについては映像、資料、共に存在しないためにその能
力は全くの未知数です』


242 名前:5/16 :2006/06/02(金) 00:09:23 ID:???
『すでに、奴らによる署の襲撃で警官が七名、命を落としています。各員はそれ相応の覚
悟をもって、捜査に当たってください。
その前に、ZAFTの方々に意見を伺いたいと思います』
そう言って、司会の警官がイザークにマイクを押し付けてきた。
イザークは立ち上がり、続いてディアッカと共にスクリーンの前に行った。
『俺がZAFT隊長、イザーク・ジュールだ。貴様らにどれだけの知識があるかは知らない
が、基本中の基本から説明していく。
ディアッカ、もって来たディスクを流せ』
「はいよ」
ディアッカがプロジェクターの準備をしている。その間もイザークは説明を続けている。
『貴様らも知っているだろうが、Monster Soldierがはじめて確認された
のは5年前のことだ。
当分の間は報道管制をしていたが、すぐに公式発表され、その存在が知れ渡った。
我々ZAFTが結成されたのも、その頃だ』
MS対策班、通称ZAFTが結成されたことにより、報道管制が解除された、というのは
まことしやかに囁かれている。
MS事件に対して優先的な権力を持ち、最新装備で身を固めた精鋭部隊。
実際、MSに対抗するための組織が結成されたことで、はじめて警察は重い腰をあげて、
公式発表に踏み切った、という面もある。
『そして四年前、最後の一体が確認されて以降、現在まで確認されてはいなかった』
最後の一体には、イザーク、ディアッカの二人ともに因縁のある相手だった。
『MSは個体によって実にさまざまな特徴を持っているが、その共通点としては、強固な
体表がある。奴らの表皮には並の銃弾は通用さえしない。さらに……』
「終わったぜ、イザーク」
ディアッカの声で、イザークは一旦説明を中断した。
もともと説明などというのは得意ではない。いくら何を言ったところで、実戦に勝るもの
はないからだ。
スクリーンに映像が映し出される。
『これは、ZAFTの記録ファイルをまとめた映像ディスクだ。よく見ておけ』


243 名前:6/16 :2006/06/02(金) 00:10:54 ID:???
記録映像は、二時間にも及んだ。
「どうだ、あいつらは?」
「ダメだ!奴らは事の重大さを全く理解しておらん!」
「知らない奴の反応は、そんなもんなのかねえ?」
実際にMSが猛威を振るっていた頃はともかく、今は奴らが出現しなくなってきて久しい。
MSの脅威を理解していないのも、無理からぬことなのかもしれない。
かつてはエリート部隊だったZAFTも年々規模が縮小され、ついには隊員もたった二人、
イザークたちだけとなってしまった。
「で、これからどうする?」
地元警察への教授、その仕事を終えた今、ZAFTとしてやるべきことは行方不明のMSの捜索だけだ。
「決まっている!まずは目撃者からの聞き込みだ」
「聞き込みって、いまさら新しい事実が浮かび上がってくるとも思えないけど?」
「いや、昨日のうちに事情聴取できなかった奴が一人いるらしい。あの灰色と最も早くに
接触したと見られる奴だ」
「は?何でそんなのが取調べされてないわけ?」
「あの黒いのに襲われて失神していたそうだ。近くにいた友人たちから事情を聞き、それ
で帰してしまったらしい」
ディアッカは呆れた表情でそれを聞いていた。
まったく、田舎警察のやることと来たら……。
「ところで、どう思う?あれ」
ディアッカの言いたいことは分かっている。あの灰色のことだ。
「確かに類似点は多い。だが、それだけだ。実際に見てみないとなんとも言えん」
「もし、あいつもMRだとしたら、どんな奴なのかね」
MRとはMSの出現と同時期に現れ、MSと戦った存在のことだ。
その正体はMS以上に謎が多い。
MRというコードネームは、正式には『Monsters Revolt』
『怪物たちの裏切り者』という意味で名づけられた。
しかし、公式発表でMRとだけ発表したところ、ある雑誌が
『Masked Raider』と当て字をしたのが広まり、
『仮面ライダー』という名前で呼ばれるようになった。
MRという言葉を口走ったことで、二人の脳裏にある男の姿が浮かんだ。
イザークはそれを隠すかのように言い放った。
「ふん!もしあいつのような奴だとしたら、俺がその根性叩きなおしてくれるわ!」


244 名前:7/16 :2006/06/02(金) 00:11:51 ID:???
「はっくしょん!」
「やだ、シン汚い」
「ああ……ごめん」
鼻をすすりながら、メイリンに謝る。宿に戻ってきた一行は、今後の事を話し合っていた。
「もし、本当にMSが現れたのなら、危ないよ。早く別のところに行こう?」
メイリンはそう主張していた。
もともとアーモリーワンで宿泊する予定はなく、ここに泊まったのはレイとルナマリアの
事情聴取が長引いたせいだ。
メイリンの言っていることは正しく、反対する理由はない。
しかし、シンにはここを離れたくない理由があった。
「俺はもう少しここにいるよ」
「え、何で?」
言われると思っていた。本来なら、一番にここを逃げ出そうと言い出すのは、自分のはず
だからだ。
「ええと、それは……け、警察に行こうと思って!」
みんなの顔がおかしな風に歪む。やっぱり、この言い訳はまずかったか。
「い、いやさ、俺が寝てた間にレイとルナは事情聴取受けてたんだろ?
なら、俺も受けとかないと……」
不公平かな。と言おうとしたが、思いとどまった。誰も納得していない。
「何それ、わけわかんないわよ」
ルナマリアに言われた後、レイがシンの眼をまっすぐに見てきた。
「シン、お前……」
シンは黙ってうなずいた。レイだけは、シンの真意を分かってくれたらしい。
「……分かった。場所は後で連絡する。お前はあとから来ればいい」
「ちょ、レイ!何言ってんのよ!」
ルナマリアがレイに突っかかるが、レイなら俺と違ってうまくごまかしてくれるだろう。
シンは急いで立ち上がり、戸に向かった。
「レイ、ありがとう!それじゃ、さっそく出かけてくる!」
みんなの声、というか文句は完全に聞こえないふりをした。
唯一つ、レイの言葉だけには応えたが。
「シン、無茶はするな。必ず帰って来い」
そっけない言い方だが、レイなりに自分の事を心配してくれているのはよく分かる。
「分かってる!」
そう言って、シンは部屋を飛び出した。


245 名前:8/16 :2006/06/02(金) 00:13:07 ID:???
「レイ、どういうことなのか説明してもらえるわよね?」
「シンの奴、一体どうしたんだ?」
ルナマリアとヨウラン、年長の二人に迫られても、レイは顔色一つ変えずに応対した。
「ここは、オーブの近くだ」
その一言だけで、さっきまでうるさかった四人が四人とも黙った。
レイは、ただの事実を言っただけなのだが、ルナマリアたちはその言葉からシンの行動を
勝手に想像した。
「でも、それなら言ってくれればよかったのに」
「言いたくなかったんだろう。後から追求するような真似も控えた方がいい」
恐ろしい事に、レイは嘘など何一つ言わずに全員の追及を見事にかわした。

「こんなことなら、バイクにでも乗ってくればよかったかな」
街中を歩いていたシンは思わず呟いていた。
シンは、はじめにみんなに言ったように、警察署に向かっていた。
あの怪物たちも、あの近くにいるかもしれない。
それに、警察署がどうなっているのかも、知っておきかった。


246 名前:9/16 :2006/06/02(金) 00:13:56 ID:???
「な、何だよ……これ」
警察署を見て、シンは絶句した。
正面玄関の辺りが、軒並み青いシートに覆われていた。駐車場の辺りもそうだ。
壁の一部にも、シートが貼り付けられている。
駐車場のシートと地面の隙間から、焼け焦げた部品が見えていた。
こんな、ひどい事になったのか……。
昨日戦っていたときには気付かなかったが、ここまでの惨事になっていたとは思いもよら
なかった。
よく見ると、正面玄関の辺りに、花束が置かれている。
シンがそれに目を奪われていると、いきなり名前を呼ばれた。
「貴様!シン・アスカか!」
不快な物言いだが、相手は警察だろう。一応返事をしておいた。
「そうですけど、なんですか?」
名前を呼んだのは、グレーのスーツのやけにカリカリした印象の男だ。
その後ろには緑のスーツの軽薄そうな男もいる。
案の定、グレーのスーツの男は手帳を見せた。
「こういうものだが、少し話を聞かせてもらうぞ」
「人に物を頼むんなら、もう少し言い様があるんじゃないですか?」
「何だと、貴様!」
「よせよ、イザーク!こんなところでガキにけんか売ってどうするんだ!
まあ、そういうわけだ。少し話を聞かせてくれ」
ガキ呼ばわりされたのには腹が立つが、シン自身聞きたいこともある。
ここはおとなしく従っておいた。


247 名前:10/16 :2006/06/02(金) 00:14:48 ID:???
立ち話もなんだからと、緑のスーツの男、ディアッカは近くの喫茶店にシンを招きいれた。
長い話になるってことか?
別にのどは渇いてなかったが、シンはあえて高そうなコーヒーを頼んだ。
緑はともかくグレーのスーツの男、イザークは気に入らないので、せめてもの嫌がらせだ。
「それで、何の用ですか?」
目の前のコーヒーを飲みつつ、シンが聞いた。やけに苦く、飲みづらいコーヒーだった。
「お前……」
「貴様は昨日こいつを見ただろう!」
ディアッカの言葉を強引にさえぎり、イザークがテーブルの上にたたきつけるように写真を置いた。コーヒーの上に波紋が広がった。
その写真は予想通り、シンの変身した灰色の戦士だった。
「ええ、見ましたよ」
「どこから来た!どういう奴だ!」
シンがそう言った直後、イザークはシンに掴みかからんばかりの勢いで身を乗り出してきた。慌ててディアッカが止めなければ、テーブルがひっくり返っていたかもしれない。
「落ち着けよ!」
「これが落ち着いていられるか!」
「いや……あの黒いのに襲われて、灰色のに助けられて、そのすぐ後に気を失って……。
詳しいことはよく覚えてないんです。すみません』
もともと自分が変身した事を隠そうとは思っていなかったが、この剣幕に驚いたシンは
つい嘘を言ってしまった。
「そうか。なら仕方ない。何か思い出したことがあったらここに連絡しろ。いいな!?」
もっとしつこく聞かれるかと思ったが、イザークは意外にもあっさりと引き下がった。
シンに名刺だけを渡して、席を立つ。
「すみません、一つ聞いていいですか?」
「なんだ」
「あの、どのくらいの方が、なくなられたんですか?」
できるだけさりげない風に聞いたつもりだが、これが一番聞きたかったことだ。
これが聞けないのなら、せっかく警察まで来た甲斐がない。
「すぐに発表されるとは思うが……死者7人、負傷者は19人だ。
それと、こちらからも一つ頼みがある。
昨日の事は、公式発表があるまでは黙っておいてくれ」
無駄な混乱を防ぐため、だろう。
その考えは理解できるが、真実を覆い隠すことが正しいかどうか、シンには判断がつかな
かった。
とりあえず、シンは曖昧にうなずいた。
ルナマリアがさんざん言いふらしていたことは黙っておこう。
イザークとディアッカは、そのまま喫茶店を出て行った。
ただ一人店に取り残されたシンは、黙って冷めたコーヒーを見つめていた。


248 名前:11/16 :2006/06/02(金) 00:18:36 ID:???
既に日は落ち、辺りは暗くなっていた。
「結局、見つからなかったな」
もともと、当てもなくうろついていただけだ。
そろそろみんなを追いかけねばならない。レイからは既にメールをもらっており、宿の場所も名前も分かっている。
電車に乗ろうと、シンは駅に向かった。
昼間うろついていたときに見つけた裏通りを使って近道をする。
ただでさえ暗いのに、この道は電灯も少ない寂れた道だ。
昼間はそれほど感じなかったが、夜中に通ると、孤独さ、寒々しさが身にしみる。
さっさと行こう。
そう思って先を急いでいると、その途中、シンは奇妙な音を耳にした。
微かな悲鳴のような声と何かが倒れるような音。
もちろん、その音がMSによるものとは限らない。しかし、あの音はただ事ではなかった。
シンは、音のした方へと急いだ。

「お前……違う」
目の前の見たことのないMSは、そう小さな声で言った。
サングラスの男は、このMSに襲われていた女性が逃げたのを確認し、自身も逃げようと
した。
しかし、この黒いMSは四足獣へと変わり、その機動力で彼の逃げ道を塞いだ。
……どうする?
彼自身、MSとの戦闘経験は豊富だが、このように変化する種のMSは稀だ。
先ほどからの動きを見ていると、能力も相当に高そうだ。
戦おうにも、今の彼には武器も何もない。
MSの攻撃をかわし続けてはいたが、よりスピードの上がったこの形態相手では、かわし
きれそうにない。
ついにMSが地面を蹴り、彼に襲い掛かってきた。
避けきれない事を自覚しつつも、横へ跳んでかわそうとした彼の目の前で、MSが不自然
にその軌道を変えた。
誰かが跳んで来るMSに向かって体当たりしたのだ。
地面に転がったMSのすぐ横で、見たことのない少年が体勢を立て直して立ち上がってい
た。
「君は……?」
彼が声をかけると、少年はこちらを振り向いて叫んだ。
「逃げて、逃げてください!」
赤い瞳の印象的な少年だった。
男は、できるだけみっともなく見えるようにして、そこから逃げ出した。


249 名前:12/16 :2006/06/02(金) 00:20:27 ID:???
シンは、先ほどの男性が逃げ切れたかどうかを確認することはできなかった。
彼が駆け出した矢先に、目の前のMS、ガイアが襲ってきたからだ。
シンは前回りに転がってその攻撃を避けた。
そのころには、先ほどの男はもう見えなくなっていた。
ガイアは人型に戻り、立ち上がっていた。
「何で、こんなこと……」
昨日の惨劇を思い出す。ガイアに殺された人は7人、傷ついた人は19人。
そして、どれだけの人が悲しい思いをしたのかは想像もつかない。
「あんな思いは、もうたくさんだ!」
力のない悔しさ、無力感は四年前に味わっている。
「ならば、俺は戦う!」
シンは、その時に見た、赤い戦士の姿を思い浮かべた。
たしか、こうやっていたはずだ。
その戦士のイメージに従い、シンは右手を掲げた。
「戦って……今度こそ!」
ガイアが跳躍し、シンに飛び掛ってくる。
シンはその勢いを利用し、受け流すようにしてガイアの攻撃を横にかわした。
「大切な全てを……守ってみせる!」
赤い戦士のイメージと、シンの叫びが重なる。
「変身!」

シンの体が、以前と同じ灰色の戦士へと変化していく。
いや、変化はそれだけに留まらなかった。
ベルトが輝き、灰色の体が鮮やかに色づいていく。
それとともに、ベルトから力が溢れ、それがシンの全身にみなぎっていく。
新たな変化が終わるか終わらないかしないうちに、ガイアが四足獣へと変化して飛び掛っ
てきた。
人型のときとは比べ物にならない瞬発力、しかし、シンはその動きにあわせてカウンター
を決めた。
ガイアはたまらずに吹き飛ばされ、塀を壊し、瓦礫に埋もれた。


250 名前:13/16 :2006/06/02(金) 00:21:38 ID:???
前とのあまりの違いに、シン自身驚いていた。
その体はシンの思ったとおり、いや、それ以上に滑らかに動き、息も苦しくない。
思わずシンは自らの身体を見た。灰色ではない。
「……青くなった?」

「ステラー!」
「どこだー!?このバカ!」
「怪我も治りきってないってのに……っ!?」
スティングはその瞬間、何かを感じた。アウルも同様だ。
「あいつ、まさか……!?」
「おいおい、また抜けがけかぁ?」
ステラがまた変身している。
また人を襲っているのか、昨日の奴か。
どちらにしろ、放っておくわけにはいかない。
「ええい、仕方ない。いくぞ、アウル!」
「あんのバカ!」

『市民からの通報です。謎の生命体出現、MSだと思われます。
至急現場へ向かってください!』
この警察署のオペレーターからイザークの携帯電話に連絡が入る。
「昨日の今日だと!」
「そりゃ、こっちの都合なんて考えちゃくれないよな。で、どうすんの?」
「何を言っておるか、馬鹿者!今すぐ行くぞ!
貴様らも来い!」
イザークはディアッカを怒鳴り、近くにいた他の警官達にも指示を下した。


251 名前:14/16 :2006/06/02(金) 00:23:15 ID:???
瓦礫をどけ、立ち上がったガイアは、新たなシンの姿を目の当たりにした。
以前とシルエット自体は変わらないものの、全身が青を基調とした鮮やかなカラーリング
に変化していた。その動きにも前のようなぎこちなさは感じられない。
「何なの?」
ガイアは、一気に決めるつもりで喉もとを狙った。
しかし、あいつはその攻撃をやすやすとかわしたうえ、カウンターまであわせてきたのだ。
ガイアはやや慎重になり、シンと一定の間合いを取った。

その膠着状態を破ったのはシンの方だった。
間合いを取りつつ、裏通りからやや広めの道路に出たことで、一気に仕掛けた。
シンも、今度こそ逃がすつもりはない。ここで片を付けるつもりだった。
ガイアは再び変化し、シンを迎え撃つ。
格闘戦になったら、人型のほうが有利だと判断したのだろう。
ガイアは右手を袈裟切りに振り下ろした。いつの間にか、その手が爪に変化している。
シンは左手でガイアの右手首を掴み、右拳でガイアの頭部を殴りつけた。
以前と違い、ガイアは確実にダメージを受けている。
ガイアは逃れようと右腕に力を入れているが、今度は力負けしていない。
がっちりと押さえ込んだまま、シンは連続して右拳を叩き込む。

ガイアはいまだ不完全なままで、その上昨日のダメージが抜けきっていない。
現時点では、シンの方がはるかに有利だった。
ガイアが左手も爪に変化させ、シンの顔を狙う。
しかしシンは、しゃがんでそれをかわし、そのままガイアを投げ飛ばした。
ガイアは背中から叩きつけられる。


252 名前:15/16 :2006/06/02(金) 00:24:39 ID:???
シンは右腕に力を込めた。ベルトから強い力が流れ込む。
「うおおっ!」
ガイアへ向け、渾身の力を込めた右拳を振り下ろす。
倒せる!
そう確信したシンだったが、突然横から力が加わり、狙いがそれた。
直撃したアスファルトの地面が大きくえぐれ、クレーター状になる。
「大丈夫か、ステラ!」
「ったく、一人で何やってんだよ!」
「スティング!アウル!」
シンに横から飛行形態となったカオスが体当たりを加えたのだ。
その隙にガイアはアビスに助け起こされる。
「二人とも、こいつはここで仕留めるぞ!」
スティング自身、自分がまだ本調子ではないということは自覚していた。他の二人も同様
だろう。
しかし、この厄介な相手をこのままにしておくわけにもいかなかった。
いくらなんでも、三対一なら倒せるだろう。
ステラとアウルが応じ、瞬時に行動に移す。
「うん!」
「もらったあぁぁ!」
ガイアがシンに飛び掛り、アビスは手に持った槍で襲い掛かる。
シンはそれを跳躍してかわすが、猛禽類のような姿のカオスが、その爪を広げて襲ってく
る。
爪に心臓を抉り取られたかと思った瞬間、シンはカオスの腹に蹴りを入れた。
バランスを崩して不時着したカオスとは対照的に、シンはその勢いを利用して、三体から
離れたところに着地した。
「くっ、こいつ!?」

一対三の戦いは、ほぼ互角のままに進んでいた。
三体は息のあった連携でシンを追い込もうとするが、シンはその跳躍力とスピードを最大
限に活用して、三体を翻弄する。
むしろこの狭い空間では、シンの方に有利であるともいえるかもしれない。


253 名前:16/16 :2006/06/02(金) 00:26:27 ID:???
そこへ、サイレンの音が鳴り響いた。
パトカーが何台も姿を現し、四体を包囲するように停車する。
そこから飛び出した警官隊が四体を取り囲み、包囲網を形成し、それぞれ手持ちの銃を取
り出した。
「四体だと!?」
報告より二体も多い。その上……。
イザークとディアッカの二人は、青い戦士の姿を見て驚愕した。
その姿は、彼らがよく知る者にあまりによく似ていた。
「おい、イザーク!あれって……」
「ああ。だが、違う。全員ねらえ!だが命令があるまで待機だ!」
イザークとディアッカはZAFT専用装備のマシンガン、イーゲルシュテルンをカオスた
ちに向け、警官隊も銃口を向けた。

四体はそれを全く気にした様子もなく、戦闘を続けた。
シンは跳びかかってきたガイアをかわし、アビスの突きを流れるような動作で避けた。
空中から襲ってきたカオスの爪をかがみこんで避け、起き上がる勢いをも加えたアッパー
を叩き込んだ。
以前とのあまりの違いに、ガイアが叫んだ。
「何なのよぉ……!あんたはぁ!」
シンは、ルナマリアの言葉を思い出した。
衝撃……。
いきなりこんな事になった俺には、ちょうどいい名前かもしれない。
そうだ、俺は!
「俺は、仮面ライダー……!仮面ライダーインパルスだ!」

そのころ、シンに助けられたサングラスの男がどこかへ携帯電話をかけていた。
「こちらアレックス……。目標と接触した。ああ……間違いない。彼が、三人目だ」


254 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/02(金) 00:32:32 ID:???
第二話終了です。
またも長くなってしまい、申し訳ありません。
ですが、これからも長くなりそうです。

運命作者様、楽しみに待ってます。

255 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/03(土) 02:53:49 ID:???
先読むまで展開がわからんくていいです
各種キャラの性格もちゃんと特性いかされてると思う
GJ

256 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/04(日) 02:16:48 ID:???
おっ!ネタきてるし
今回も楽しませていただきました
このスレいいな

257 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/04(日) 20:39:46 ID:???
普通の生活を送ってるシンたちが今からいろんなことに巻き込まれて
いくんだなーっていう感じがして良かった
インパルスという名ができた過程もよかった
うまく伏線ひくね

258 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/05(月) 16:53:13 ID:???
・・・まとめサイトか保管庫作っている方いらっしゃいませんか?
とても欲しいです。

259 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/05(月) 21:33:13 ID:???
続きまちまちーー

260 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/06(火) 19:39:40 ID:???
死守

261 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/08(木) 07:43:41 ID:???
ししゅ

262 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/09(金) 11:29:53 ID:???
死守

263 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/10(土) 23:40:27 ID:???
保守

264 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/11(日) 01:54:33 ID:???
シン:「俺は地球を守る!」、「みんなが好きだから!」

265 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/11(日) 17:02:54 ID:???
仮面ライダーシンパルスかっこいいぞ!

266 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/12(月) 00:50:19 ID:???
保守しまーす

267 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/13(火) 21:37:13 ID:???
職人さんまってるお(´・з・`)

268 名前:31 :2006/06/14(水) 06:25:19 ID:???
忙しかったのと書き直しで大幅に遅れてます。すいません(´・ω・`)

合間合間に小説作法みたいなサイトとか本を読んだせいか
現在プロットの7割くらいで今までの1話分を越えてます。
直したりなんだりでアップは早くて週末前になりそうです……

269 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/14(水) 11:09:53 ID:???
>>268
頑張れ!!
そして、厨だと言われるかもしれんのだが…キラやアスランをまともにカッコイくして欲しいんだ…

270 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/15(木) 08:20:43 ID:???
職人さんわざわざありがとう
待ってます!

271 名前:このあとすぐ/16 :2006/06/15(木) 10:01:41 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)
第三話投下します。

272 名前:このあとすぐ/16 :2006/06/15(木) 10:03:13 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)

第三話


「俺は……仮面ライダー!仮面ライダーインパルスだ!」

シン、いや仮面ライダーインパルスの叫びは、イザークたちにも聞こえた。
「仮面……ライダー、だと!?」
警察では使われてはいないが、MRの俗称だ。
それを口走ったということは……。
「イザーク、あいつ……やっぱり」
ディアッカが口走ろうとしていることは、イザークにも分かった。
しかし、イザークにはそれを簡単に信じることはできなかった。
「待て、それもこちらを動揺させるためのものかもしれん!」
「けどよ。どう見てもあいつは……」
「姿形に惑わされるな!奴が味方だという確証はどこにもない!」
言われてディアッカは口ごもる。
「あれも、俺たちを油断させるためのものかもしれんのだぞ!気を許すな!」
再びガイアとの戦闘を開始しているインパルスを指して、イザークはディアッカだけでな
く銃を構えたままの警官たちにも向けて怒鳴った。

インパルスは連続して振るわれるガイアの爪をかわすことに専念した。
ガイアの爪は鋭く、直撃してはただではすまないだろう。
幾度か攻撃をかわしたところで、ガイアが突然右手を大きく振りかぶった。
だが、大振りの一撃には隙も生じやすい。
かがんでインパルスはこの一撃をかわし、ガイアの腹部へと右拳を叩き込んだ。
ガイアはたまらずに吹き飛ばされるが、それと同時に、インパルスへと右足を伸ばした。
その足先は既に爪へと変化しており、その先端がインパルスの胸部へと突き刺さる。
「うっ」
「もらったあぁ!」
吹き飛ばされたガイアと入れ替わるようにアビスが飛び出し、その手に持った槍を突き出
した。


273 名前:2/16 :2006/06/15(木) 10:04:48 ID:???
インパルスはその槍を柄の部分でかろうじて受け止める。
槍の刃先は、インパルスの目前で停止した。しかしインパルスは両手が塞がってしまい、
身動きが取れない。
アビスも同じく身動きが取れない。だが、アビスには仲間がいた。
「ステラ!」
「うええい!」
アビスの叫びに従うように、ガイアが四足獣形態となってインパルスへとまっすぐに突っ
込んでくる。
インパルスは何とか避けようとするが、槍が突きつけられている分、不利な体勢だ。
いくら力を入れても、槍は全く動かない。
ガイアの牙は、インパルスの首へと狙いを定めていた。

「援護しなくていいのかよ!?」
インパルスの危機にディアッカが思わず声を上げるが、イザークは聞き入れない。
「奴が味方だという確証はない!」
「けど!」
「もしそうだとしても、この程度でやられるような奴など援護する意味はない!」
イザークは強い調子で断じた。

やられる……!このまま、殺される!?
シンは、突きつけられた槍と、迫り来るガイアの牙を見て、漠然とそう思った。
しかし、シンの中にはもう一つの思考もあった。
このまま死ねない、という強い意志と、こいつらを倒す、という明確な闘志が。
ベルトが輝き、シンは体中に力がみなぎるのを感じた。

「何だと!?」
「色が、変わった?」
二人、いや、警官たちの目の前で、インパルスの体が青から赤へと変化した。
これまで確認されたどのMS、MRにもない能力だ。
そして、力の均衡が破れる。


274 名前:3/16 :2006/06/15(木) 10:05:48 ID:???
力が、力が溢れる!
「はああ!」
激しい気合とともに、赤くなったインパルスは持ち主もろとも槍を振った。
槍の柄はアビスもろともガイアへと叩きつけられる。
アビスはたまらずに槍から手を離し、両者はもつれ合うようにして地面に転がった。
インパルスは奪った槍を持ち直し、本来の持ち主へと投げ返す。
「うああああぁぁ!!」
直前で身をひねったおかげで多少狙いは外れたが、インパルスの投げた槍はアビスの左肩
を貫き、アビスを地面に磔にした。
アビスにとどめを刺そうと近づいたところで、後ろからカオスが飛行形態で襲ってきた。
猛禽類のような鋭い鉤爪が、インパルスの背中を傷つける。
「そらあっ!どうした!」
インパルスは、カオスを捕まえようとするが、そのスピードに全く追いつけない。
動きが遅い……!?
シンの疑念を証明するかのように、またも後ろから攻撃を加えられるが、
これにもやはり、インパルスは反応しきれない。
カオスはそのまま飛行しながら、一撃離脱の攻撃をインパルスへと加え続けた。
インパルスの体が次々と傷つけられていく。致命傷こそ負わされてはいないものの、この
ままではきりがない。すぐにガイアも復帰してくるだろう。
徐々に、シンは焦燥を深めていく。

どうして、どうして追いつけないんだ!
シンの焦りに応えるようにベルトが輝き、インパルスの体が再び青へと変わる。
左上から襲い掛かってきたカオスの攻撃を、青へと変わったインパルスはこれまでの苦戦
が嘘のようにたやすくかわした。

「何い!?」
カオスは驚いた様子で反転し、もう一度インパルスを空中から襲撃する。
だが、今のインパルスにはそれさえも通用しなかった。
首を狙った鉤爪を、身を低くしながら後方に跳んでかわす。
「てぇぇぇーっ!」
インパルスは跳躍し、飛行しているカオスへと蹴りを加えた。
「ぐああ!」
カオスはバランスを崩し、地面に墜落する。

シンは、カオスの方をもはや見向きもせず、ガイアのほうを向いた。
ガイアは既に人型に戻り、立ち上がっている。
今度こそ、逃がすもんか!
ベルトから右足へ力が流れ込む。
インパルスは強く地面を蹴り、ガイアへ向かって跳躍した。


275 名前:4/16 :2006/06/15(木) 10:06:52 ID:???
「うおおおおぉぉぉぉっ!」
シンは右足からガイアへと突っ込んでいった。
だが、ベルトの力を込めた必殺キック、フォースキックがガイアに決まることはなかった。
「あぶねえっ!」
カオスがインパルスとガイアの間に割り込んだからだ。
カオスは胸を張るようにして、フォースキックを胸部でまともに受け止めた。
「な……!?」
「おおおっ!」
カオスは一歩、二歩と後退したが、そこで踏みとどまり、インパルスを弾き飛ばした。
インパルスは受身も取れず、無様に地面を転がるが、カオスも力尽きたかのように地面に
片ひざを付いた。

ガイアがカオスに駆け寄る。
「スティング……!?」
「離脱するぞ!」
「でも……」
「アウルも俺も限界だ。ステラだって、これ以上は無理だろ?」
「……うん」
ガイア――ステラは素直に認めた。
目前でカオス――スティングにかばわれることで、逆に落ち着いたのだ。
「けど、どうすんの?囲まれてるぜ」
そこに、槍を引き抜いたアビスもよろめきながら近寄る。
アビス――アウルの言うとおり、イザークを筆頭とした警官隊は銃を向け、包囲している。
普段ならどうってことのない相手だが、インパルスと戦いながらこの包囲網を抜けるのは
さすがに骨だ。

スティングは何かを思いついたのか、飛行形態となって警官隊に飛び込み、
鉤爪を誇示するかのように、警官に襲い掛かった。
「うわ、うわああぁぁ!!」
恐怖に駆られた警官の一人がカオスに向けて発砲した。
それをきっかけとして、恐慌が伝染したかのか他の警官たちも次々と発砲する。

「イザーク!」
「くっ、ディアッカ、俺たちも続くぞ!」
イザークたちもイーゲルシュテルンをカオスたちに向けて引き金を引いた。
銃口から、対MS用の特殊弾が次々と飛び出し、カオスたち三体のMSにまっすぐに吸い
込まれていく。


276 名前:5/16 :2006/06/15(木) 10:08:09 ID:???
辺りが硝煙に包まれ、視界が利かない。
激しい銃声が耳をつんざく。一体何が起こっているのか、状況が全く分からない。
「ちいっ、撃ちかたやめぇ!」
イザークの指示で我に返った警官たちは、戸惑いながらも銃を収めた。
辺りは一気に静かになり、煙も風に流され始める。
煙が晴れたとき、そこには三体のMSも、インパルスもその姿を消していた。

「ここまで来れば、もう大丈夫じゃねえの?」
人気のない路地裏、左肩を押さえたアウルは外の様子を確認して言った。
「いや、油断するな……うっ……!」
「スティング……?」
スティングが突然胸を押さえ、苦しげな呻き声をあげた。
「どうしたんだよ、スティング?」
「なんでも、ねえ……うぅっ……」
アウルに答えつつも、スティングは胸を押さえたまま壁に寄りかかった。
その様子は、どう見てもただ事ではない。
「何がなんでもねえだよ!ちょっと横になれ!」
アウルはスティングを強引に横たわらせた。

そんな喧騒を、ステラはぼうっとした顔で見つめていた。何が起こっているのか理解でき
ていない様子だ。
「スティング……どうしたの?」
いらいらした様子のアウルが、ステラを怒鳴った。
「どうしたもこうしたもあるかよ!さっきのあれのせいに決まってんだろ!」
「あれ……?」
「あの青い奴のせいだよ!インパルス、とか言ったっけ!?」
「インパルス……?そいつが……スティングを……!?」
その横で、スティングはまたも苦しそうな呻き声を上げる。ますます具合が悪くなってい
るようだ。
だが、二人はどうすればいいのか全く分からない。スティングが苦しんでいるのを黙って
見ているしかなかった。


277 名前:6/16 :2006/06/15(木) 10:09:04 ID:???
そこに、やや軽薄さえ感じさせるような、大人の男性の声が投げかけられた。
「見つけたぜ、子猫ちゃんたち」
「何……!?」
いつの間にか、三人のすぐ近くに背の高い男が現れた。
背が高く、金色の髪を肩の辺りまで伸ばしている。しかし、何より人目を引くのは、顔を
覆う奇妙な仮面だ。
仮面に隠され、その表情は分からない。

「どうやら、随分とお困りのようだねえ」
「何だ、お前は!?」
ステラがその男に飛び掛る。ステラにとって、スティングたち以外に信用できる者など
いない。近づくものは何であっても、敵だった。
人間の姿のままでも、常人にはかわしようの無い動きだったが、仮面の男はそれを軽くい
なす。
ステラは背中から壁に叩きつけられ、悲鳴を上げた。
「怪我してるんだろ。無理しなさんな」
仮面の男は何事も無かったかのように、壁に崩れ落ちたステラの方を向いて言った。
「それに……」
そして、仮面の男はスティングたちの方に顔を向ける。
「彼は随分と危ないようだ。君も、左肩か?負傷しているんだろ?」
あまりに的を射た指摘に、三人は閉口するしかなかった。
「それだけひどくやられちゃあ、変身もできないねえ」

「……何者……だ……?」
その一言に、スティングが苦しみながらも反応した。
スティングたちの正体さえ知っているかのようなこの口ぶり。
先ほどの動きといい、得体が知れないが、只者でないことも確かだ。
「心配しなさんな。俺は敵じゃない」
「ハア?いきなりそんなこと言われて信じるとでも思ってんの!?」
「そりゃ、そうだろうねえ」
馬鹿にしているとしか思えないこの態度。その脇で、また苦しくなったのかスティングが
呻き声を出した。
「……グアァッ……!」
「スティング!」
「おやおや、また悪くなったのか。そのままじゃ君、死ぬね」
仮面の男のその言葉に、ステラの顔がこわばる。


278 名前:7/16 :2006/06/15(木) 10:10:03 ID:???
「死……死ぬ……?スティングが……イヤアアァァッ!」
ステラが悲鳴をあげるが、仮面の男は全く動じてないようだ。それどころか、そんなステ
ラを見た彼は、その口元に満足げな笑みさえ浮かべていた。

「何がおかしいんだよ、お前ェ!」
アウルの激昂に、その男は肩をすくめるような仕草をした。
「失礼。俺が君たちの事をどれだけ知っているか見せたかったのでね。彼女には悪い事を
したかな。大丈夫だ。彼は助かる」
「え……スティング……助かる?……死なない……?」
「そうだよ。彼は、俺たちが助けてあげよう。ついて来るんだ」
ステラは憑き物が落ちたような表情になり、仮面の男をぼうっとした目で見上げる。
踵を返した仮面の男に、今すぐにでもついて行きそうな雰囲気だった。
「待てよステラ!あんた、何もんなんだよ!?」
今は声を出すことさえ苦痛なスティングに代わり、アウルが怒鳴った。
仮面の男は振り返り、三人に向けてこう名乗った。
「そうだねえ。ネオ・ロアノーク、とでもしておこうか」


279 名前:8/16 :2006/06/15(木) 10:11:27 ID:???
朝の混雑が始まる少し前の時間帯、一台のワゴン車が駅前に停車した。
そこから、一人の少年が降りる。
「ありがとう、ヨウラン」
シンは運転席に向かって礼を言った。
わざわざ、シンの家の最寄り駅まで送ってくれたからだ。
運転席のヨウランは、ふざけた調子で応えた。夜通し運転し続けたとは思えない、元気そ
うな声だ。
「気にすんなよ。俺は気にしてないって」
「やだあ、ヨウラン。レイの真似なんて似合わないよ」
メイリンが笑いながら言い、シンも少し笑った。その後ろ、ワゴン車の最後尾の席で、レ
イだけは憮然とした表情をしていた。
「それは冗談だけど、ホント気にすんなよな。あんだけ走ったんだから、ちょっと位寄り道したって変わんないって」
「そうそう、シン気にすること無いわよ。じゃ、またね」
「ルナが言うことか、それ」
シンはドアを閉め、動き出すワゴン車を見送った。
窓のむこうから、ルナマリアやメイリン、ヴィーノが手を振っているのが見える。
だがレイは、シンへ少し目配せをしただけで終わった。レイとは、後で会う約束をしてい
る。
なにしろ、あの後みんなと合流してからは落ち着いて二人で話す機会がほとんど無かった。
レイにはいろいろ話さなければならないし、シン自身、相談したいこともある。
その前に、まずは家で落ち着きたかった。
旅館とは比べるべくも無い、狭くて小汚いアパートだが、それでも自分の家だ。


280 名前:9/16 :2006/06/15(木) 10:12:23 ID:???
「引越でもあるのか?」
シンの部屋のすぐ横に、荷物が積み上げてあった。何か見覚えがあるような気もするが、
きっと気のせいだろう。
シンは鍵を差し込んだが、廻らない。鍵が合わないらしい。
「あれ、部屋間違えたかなあ?」
部屋番号を見るが、間違いない。番号は間違いないのだが……
「何で空き家になってんだ?ちょっと、管理人さん!」
管理人の部屋のドアを勢いよく叩く。管理人のおばさんが出てくる。まだ朝早いせいか、
すこぶる不機嫌そうな顔でシンにあっさりと告げた。
「ああ、あんたの部屋。貸し出す事になったから」
あんまりといえばあんまりな言葉に、シンは言葉を荒げる。
「はあ?何でそんな事を!?」
「あんた、契約更改の紙、出してないでしょ」
そんなもん、あったっけ?
「三週間前に契約更改の紙、郵便受けに入れといたのに全然反応なし」
三週間前といったら、卒業試験でばたばたしてたからなあ。終わった後も郵便物なんてほ
とんど見ないで、まとめて放り出しちゃったし。
「ついこの間催促に行ったら、あんたいなかったでしょ」
旅行に行ってたときか?
「だから昨日あんたの部屋片付けて空き家にしたから」
「何ですか、それ!随分勝手な!」
「もとはといえば、あんたが契約更改しないから悪いのよ」
「うっ……、じゃあ、もう一度契約を……」
「ああ、それ無理だわ。もう何軒も問い合わせきてんのよ。こんなぼろでも人気あるのよ。
さっさと荷物まとめてどっか行って」
「どっか行ってって……、ここ追い出されたらどこ行けば……」
「それはあんたの事情。じゃ、話はそれまでってことで」
管理人はドアを占めてしまった。シンはドアを何度も叩くが、もう管理人は出てこなかっ
た。代わりに、別の部屋から怒鳴り声が聞こえた。
「うるせえぞ!」
「すみません……」


281 名前:10/16 :2006/06/15(木) 10:19:03 ID:???
大量の荷物を強引にくくりつけたバイクを押しながら、シンは途方に暮れた。
今から住むところを探すしかないが、果たしていいところが見つかるかどうか、難しい
ところだ。
とりあえずシンは、レイと待ち合わせをしている喫茶店に向かっていた。
大量の荷物も一緒だというのが少し情けないが、放り出すわけにもいかない。
「シン?」
聞きなれた声がする。シンは顔だけそちらの方へ向けた。
「やっぱシンじゃない。何やってんのよ」
ルナマリアだ。今の落ち込んでいるシンとは対照的に元気そうだ。
というより、元気の無いルナマリアなど、シンにはとても想像のできないが。
「ルナか。どうかしたの?」
「私は暇だからちょっと散歩してただけ。それよりシンこそ何?その大荷物」
「それが……」
シンが事情を説明すると、ルナマリアも困ったような顔をした。
「それは大変ね。そういうことじゃ、私は力にはなれないし」
ルナマリアは女子寮にメイリンと二人暮ししている。確かにそれでは紹介してもらっても
意味がない。
「ところで、今から何か予定でもあるの?」
「ちょっとレイと……」
言ってからシンははっとした。
みんなに聞かれたくないからってわざわざ二人で会う約束をしていたのに、自分からばら
してどうする!?ルナのことだからきっと……
「へえ、レイと?暇だし、私も行くわ」
そう言ってくるに決まってる。こうなった以上、無理に断るのも不自然だ。
シンは自分のうかつさを呪いつつ、待ち合わせをしている喫茶店へルナマリアと一緒に歩
きだした。
「ところでメイリンは?」
「手入れしないとお肌が荒れちゃうとか何とか言って、家にいるわよ。何でそんなにする
のか知らないけど」
生返事をしつつも、女でないシンにはどちらが普通なのかさっぱり分からなかった。

喫茶店では、既にレイが席に座っている。
シンのほうがルナマリアに捕まったりと、いろいろあって遅れたのだ。
シンが手を上げて挨拶すると、レイの方も同じように手を上げるが、シンの横にいるルナ
マリアを見て、レイは顔をしかめた。
笑顔で手を振るルナマリアの横で、シンは苦笑いを浮かべていた。


282 名前:11/16 :2006/06/15(木) 10:21:08 ID:???
「そういうことか。災難だったな、シン」
「そういうわけなのよ。レイ、なんかコネとかない?」
結局当初の目論見どおりの話はできず、三人で旅行の思い出などの雑談をしているうち、
シンが下宿を追い出されたという話題になった。
ルナマリアがほとんど喋ってくれたおかげで、シンが口を挟む間が無い。
レイは一通り話を聞いてなにやら思案していたようだが、何かを思いついたのか、口を開
いた。
「ならシン。家に来るか?」
あまりにも意外なその提案に、シンはもとよりルナマリアも驚く。
「え……いいのか?」
「レイ、ホント!?」
「ああ。幸い、部屋は余っている。今から見に来るか?」
レイの言葉に、シンはすぐさまうなずいた。

「そういえば、レイの家って行った事なかったわね」
「そうか?」
そういえばそうだ。よく考えたら、ルナたちの家にも行った事がない。まあ、ルナたちの
寮は完全男子禁制らしいけど。
「こっちの方でいいの?」
「ああ。すぐそこだ」
「私の家もこの近くよ」
「へえ、本当?」
「うん。この近くに寮があるのよ」
「着いたぞ。ここだ」
歴史を感じさせる、というよりただ古いだけの門に、手入れをしていないのか草木が伸び放題となってしまった庭。
二階建ての建物はなかなか大きく、趣味のよさを感じさせるものだったがひどく壁は汚れ、
屋根にも少し壊れたところがある。
その雰囲気は、まるで肝試しに使えそうなほどの不気味さを醸し出していた。


283 名前:12/16 :2006/06/15(木) 10:23:42 ID:???
「実は俺もつい最近ここへ越してきたばかりでな。汚くてすまない」
レイが紅茶を二人の前のカップに注ぎながら言った。
「へえ、何でまた」
「ギルから連絡があった。ちゃんと掃除をしてくれるなら、この家を自由に使ってくれて
構わないそうだ」
ギルというのは、レイの保護者、ギルバート・デュランダルのことだ。
アカデミーの客員教授で、他にもいくつかの肩書きを持っている。
随分前から海外に行っているので、シンもルナマリアも会ったことはない。
「建物って使ってないとすぐに荒れるもんな」
この家がまさにそれだ。シンはそこまでは言わなかったが、誰もが思った。
「じゃあ、レイってこの家に一人で住んでるんだ」
レイの入れてくれた紅茶を一口飲んでから、ルナマリアが聞いた。葉がいいのか、学校の
カフェテリアで飲むようなものとは香りも風味も全然違う。
「ああ。見ての通り、部屋はあり余っている」
そしてレイは、部屋を一通り見回した。
「だが、さすがに一人では掃除しきれなくてな。シンにも家事などを手伝ってもらいたい。
頼めるか?」
一人暮らしが長いおかげで、家事全般にかけてはそれなりに自信がある。それに、家賃を
払わなくてすむのならバイトを減らしてもよさそうだ。
「ところで、ここから学校へはどれくらいかかるんだ?」
「そうだな……」
「歩きで三十分くらいよ」
レイより先に、ルナマリアが口を開いた。
「何でルナが答えるんだ?」
「言ったでしょ。私の家もこの近くなのよ」
偶然って怖いな。
そう思いながら、シンは首を縦に振った。こんなにいい話を断る理由はない。
「これからもよろしく」
「分かった。とりあえず荷物を運び込んでくれ」


284 名前:13/16 :2006/06/15(木) 10:26:41 ID:???
部屋に荷物を運び込み、簡単な掃除だけしたシンはリビングに戻ってきた。
あまりにもほこりがうず高く積もっていたので、簡単とはいえ予想以上に時間がかかって
しまった。
リビングにルナマリアの姿はなく、レイが一人で新聞を読んでいた。
「片付けは終わったのか?」
「簡単にだけど。ところで、ルナはどうしたんだ?」
「もう帰った」
「そっか」
レイは新聞を畳み、シンに向き直った。
「これで、やっと落ち着いて話ができるな」
「……」
もとはといえばシンのせいでここまで遅くなってしまったのだ。黙っているしかない。
「お前はあの怪物と戦いに行ったのだろう。どうなった?」
「……逃げられた」
警官隊が揃って発砲したおかげで、三体を完全に見失ってしまった。
おまけにシンにも銃弾が当たった。まあ、大して痛くはなかったが。
「そうか……」
レイはしばらく黙っていた。あまり口にしたいことではないので、しつこく追求されない
のは助かる。
「それで、これからどうするつもりだ?」
「これから……か」
考えていなかった。だが、不思議なほど簡単に結論が出た。
「俺は戦う」
「いいのか?今度こそ命が危なくなるかもしれないんだぞ」
それは誰よりもよく分かっている。何しろ自分のことだ。
はじめて戦ったときも、あの三体と戦ったときも何度も死ぬかと思った。
しかし、だからといってやめるという考えは微塵も浮かんではこない。
「二度目に戦ったとき、俺は感じたんだ。この力は、あいつらと戦うための力だって」
「だが、力があるといっても戦わなければならない、ということはない」
「分かってる。けど、何もできない悔しさや無力感を感じるくらいなら、俺は戦う。
戦って、大切なものを守りたい。そう決めたんだ」
「……そうか。そこまで決心しているのなら、俺に止められることではないな。だがシン。
一つだけ約束してくれ」
「何?」
「死ぬなよ」
その一言に込められた思いに、シンは胸が熱くなった。
「分かった」
シンは首を縦に振りながら言った。レイは満足そうにうなずいた。
「生きているということはそれだけで価値がある。明日があるということだからな」
レイの言葉は、シンの心に深く刻み込まれた。


285 名前:14/16 :2006/06/15(木) 10:28:41 ID:???
レイと話した後、シンはモップや雑巾などの掃除用具を借りて、新たな自分の城の本格的
な掃除を開始した。
「やっぱり、荒れてるなぁ」
リビングやレイの部屋と比べるまでもなく、この部屋はひどく汚れている。
ほこりは払ったものの、天井にはくもの巣が張り、壁紙は日焼けしている。
このままお化け屋敷のセットにでも使えそうなほどの荒廃ぶりだ。
今日一日では掃除しきれないかもしれない。
「明日からは他の部屋も少しずつ掃除するべきだな」
備え付けの机を雑巾がけしながら呟いたとき、シンは奇妙な感覚を覚えた。
「……なんだ、これ?」
どこかに何かがいることが分かる、不思議な気配。
体にも変調が現れた。体中、特に腹部がうずいている。
シンの体の中にある何かが、シンに何かを訴えかけているようだ。
「これって……まさか!」
この感覚の正体に思い当たったシンは雑巾を放り出し、外へと飛び出した。

日は西に沈みかけ、空は赤く染まっている。
両親に手を引かれた小さな男の子が、はしゃぎながら母親に言った。
「ユーエンチ、たのしかった!」
「そうね、また行こうか?」
「うん!」
父親は、妻と息子を見て微笑んでいる。
絵に描いたような、幸せな家族の姿だ。
それを、物陰から見つめている影があった。

一つ目の化け物。
緑色の体色、ピンク色に光る丸い一つ目、その姿は、四年前に確認されたMS、ゲイツの
それと酷似していた。ゲイツR、といったところか。

ゲイツRが、今まさにその一家に飛びかかろうと物陰から飛び出すが、
横から何者かに飛びかかられ、地面に転がった。
「……ナン、ダ」
ゲイツRは、自分の邪魔をした奴を睨みつけた。
今まさに立ち上がろうとしていた赤い瞳をした少年の姿が、そのピンク色の目に
映し出されていた。


286 名前:15/16 :2006/06/15(木) 10:30:30 ID:???
シンは立ち上がりながら、MSではなく、襲われるはずの家族の後姿を見た。
彼らは自分たちに降りかかろうとした危機にも気付かず、笑いながら歩いている。
ほっと息をつき、シンはやっとMS、ゲイツRの方を向いた。
「また殺したいのか!あんたたちは!」
シンは叫び、右腕を掲げた。シンの腰にベルトが現れる。
ゲイツRはそれを見て、慌てたように右腕を振りかざし、シンに襲い掛かった。

「変身!」
シンの頭を粉砕しようとゲイツRの右腕が振り下ろされる寸前、シンの身体は灰色のイン
パルスへと変貌を遂げていた。
インパルスはゲイツRの攻撃をかわし、右前方へと転がりながら青色へと変化した。
青へと変わったインパルスは振り返ろうとしたゲイツRへ回し蹴りを喰らわせた。
インパルスは続けてゲイツRを連続して殴りつける。

いける!俺は、こいつよりも強い!
目の前の敵はあの時戦った三体よりも弱い。
そう確信したシンは、ゲイツRへと猛攻を加えていく。
防戦一方だったゲイツRだったが、一瞬の間をついて、突然右腕を逆袈裟に振り上げた。
とっさに後ろへ下がるインパルスだったが、その胸部に爪痕が刻みつけられている。

「うっ!」
ゲイツRの右腕に、巨大な爪が出現している。
ゲイツRはその爪を頼りに反撃を開始した。右腕を振り回し、インパルスを切り裂こうと
する。
あの時と同じだった。シンがはじめて自分の意思で変身して、ガイアと戦ったときと。
しかし、ゲイツRの動きはガイアに遠く及ばない。
インパルスは心臓を狙って突き出された一撃をぎりぎりでかわす。インパルスのすぐ横、
何もない空間を鋭利な爪が通過した。
ゲイツRの右腕が伸びきった一瞬、インパルスはその右腕を左手で押さえ込んだ。必殺の
爪が封じられる。もがいても、インパルスの力は強く外すことができない
ゲイツRは残る左腕でインパルスを引き剥がそうとする。

だが、片腕同士の戦いではインパルスの方に分があった。
ゲイツRの左腕がその身に届くより早く、インパルスは右拳をゲイツRの腹へとめり込ま
せていた。
その威力にゲイツRは崩れる。同じところへ連続してパンチが叩き込まれる。
左腕が掴まれているので、ゲイツRは防御どころか逃れることすらできない。
インパルスは左腕を力任せに引っ張り、ゲイツRの右腕を解放した。つんのめったゲイツ
Rへ右足の蹴りをお見舞いした。
ゲイツRは何メートルも吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。


287 名前:16/16 :2006/06/15(木) 10:32:19 ID:???
インパルスはその隙に、右足にベルトの力を流れ込ませた。
右足にベルト、いや、インパルスの力が集中する。
インパルスは跳び上がり、立ち上がろうとしたゲイツRに右足から突っ込んでいった。
「うおおぉ!」
フォースキックがゲイツRの胸部に直撃する。インパルスはその反動を利用して、
やや離れたところに着地した。
「グ、グアアアアァァァァ!!」
インパルスの背後で、ゲイツRが断末魔の叫びを上げ、爆散した。
シンは立ち上がりながら、爆風を背中に感じた。爆発音が周囲に轟く。
ついに、倒せたのか。
シンはこの力に不思議な感慨を覚え、自らの手を見つめた。
もちろん、インパルスの手は人間とは違う。
いつの間にか日は沈み、辺りは闇に塗り込められていた。

シンはバイクから降り、今日から住む事になった家の、趣味のいいドアを開けた。
長らく口にしていなかった言葉が、自然と口から流れ出る。
「ただいま……」
明らかにレイの声ではない、だが聞き覚えのある女の子の声がシンの耳に届く。
「おかえり〜、遅かったわね」
「もう夕飯できてるよ」
驚いたシンは、リビングに駆け込む。
案の定、そこにはレイだけでなく、ルナマリアとメイリンが座っている。
テーブルの上には、やけにたくさんの料理が並んでいた。
「ルナ、メイリンまで。何でいんの?」
シンの言葉に、ルナマリアが心外そうに答えた。
「ご挨拶ね。せっかく引っ越し祝いに来てあげたのに。この料理も私たちで用意したの
よ?」
「お姉ちゃん、何言ってるの?料理はほとんど私が作ってお姉ちゃんはお皿運びとかしか
してないじゃない!」
「何よ!ちょっと料理ができるからって……」
また始まった。いくら友達だからって、人前なんだから少しは遠慮しろよ。
シンは呆れるが、この二人が自分のために来てくれた、というのも本当なのだろうとも思う。
その気持ちは、素直にうれしかった。



288 名前:衝撃作者/16 :2006/06/15(木) 10:37:14 ID:???
以上です。
>>272の名前欄間違えました。
1/16です。すみません。

31さん、このような文しか書けない身で言うのもなんですが、
がんばって下さい。




289 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/15(木) 14:57:02 ID:???
もうほんとにGJ!
大作すぎてどこから感想いえばいいのやらw
オクレ兄さんかっこよかった!青→赤になるの燃えた
アカデミー生たちの日常に現実とはかけ離れたことが
知らぬまにおこっている
感じが物語り好きの俺にぴったりだわ
あとシンの家がなくなるんワロスw
ほんまおもろかったよ!いつも読みごたえあるもんありがとうな

31氏も帰ってきてくれると嬉しいな

290 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/15(木) 15:20:53 ID:???
か〜っ!GJ!
このイザとディアってクウガの杉田刑事みたいな感じですね

291 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/15(木) 21:13:41 ID:???
遺作って警察役似合うな
めっちゃおもしろかったです!
議長は裏でなんか絡んでるんだろうか、とか
いろいろ考えてしまうよ

292 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/16(金) 00:55:32 ID:???
仮面ライダー朝はやくてあんま見てないんだけど楽しめた
仮面ライダーが無性に見たくなったよ
日曜は早起きするわ

293 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/17(土) 11:29:18 ID:???
保守

294 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/17(土) 20:00:07 ID:???
age

295 名前:31 :2006/06/18(日) 00:51:55 ID:???
仮面ライダーSIN 第六話

どこからともなく現れたインパルスに両陣営ともに少なからず混乱していた。ジン側は見
たことに無いMRを公安の新兵器だと思っていたし、インパルスの後姿しか見ていないイ
ザークたちはこのMRが敵か味方を決めあぐねていた。

『チャンスだ。奴らは混乱している。今のうちに蹴散らすぞ』

ジンに聞かれないよう、イザークがディアッカとアレックスの肩に手を置いて接触回線で
伝えた。

『あの青いやつはどうするんだよ』
『奴は起爆装置を壊した。襲ってくれば倒すまでだ。問題はなかろう』
『敵の敵は味方って。そううまくいくのかね?』

イザークとディアッカの会話を尻目にアレックスは黙り込んでいた。

(シン……なぜここに来たんだ)

アレックスは青いMR――インパルスがシンだと気づいていた。青色になっている理由は分
からないが、声は間違いなくシンのものだった。幸い二人はインパルスが指名手配中の赤
いMRだとは気づいていないようだ。今なら事の運びようではどうにでもなりそうだ。まず
はインパルスとコンタクトを取ってボロを出さないように言わなければならない。

「うぉおおおぉ」

3人が相談している間にシンはサトーに突撃した。

(あのバカ!!)

アレックスがイザークの指示を待たずに飛び出した。ここで下手に動けば正体がばれるか
もしれない。

『おい!キサマ!!』

イザークの声はアレックスには届いていない。アレックスは振り向きもせずに霧の中に姿
を消して行く。ディアッカが言う

「やれやれ。で、どうする?」

296 名前:31 :2006/06/18(日) 00:53:01 ID:???
「オレたちも出るに決まっているだろうが!アイツに遅れをとったとあれば末代までの恥
だ」
「オーケー。じゃ、いっちょ暴れてきますか」

ディアッカの返答を待たずにイザークも飛び出していた。ディアッカはイザークの背中を
見ながら3年前のことを思い出した。あの頃もバカみたいに二人が飛び出してディアッカ
がその後ろでフォローをしていた。先輩がチームワークを付けるためのミッションをして
も個々の力押しで乗り切ったものだった。


今のインパルスには周囲を見るだけの余裕はなかった。怒りに駆られていて冷静さを失っ
ている。一歩踏み込んだだけでトップギアに切り替わって急接近する。サトーは、その速
さに対応できずに立ち尽くしたままだった。空気を裂いて帯電した腕がバチバチと音を立
てる。スピードを拳に乗せて全力でサトーの顔面を打ち抜いた。ジンの口元の空気ダクト
が飛び散り、モノアイの灯りが消えた。わずかアレックスが五歩進む間の出来事である。

「隊長!」

ジンから声が上がった。だが、次の瞬間パンチを受けたジンのフェイスマスクにモノアイ
が灯った。モノアイがレールに沿って動き、インパルスを睨み付ける。

「惜しいな。センスはあるようだがそれだけ非力ではな。所詮は飼いならされ、牙を抜か
れた者ということかあっ!!」

サトーは振りぬいたインパルスの腕をつかんだ。ヒジが体の内側に回った次の瞬間、イン
パルスの体は宙を舞っていた。インパルスは体をひねって受け身をとろうとするが手首と
肩を固められて体勢を変えることができない。うつぶせのままに地面に叩きつけられた。

「うっ……」

インパルス呻き声が漏れた。トラックの衝突にも耐えられたMRが耐久力を失っていた。衝
撃は幾分か軽減されているものの、それでも生身よりまし程度だった。生身の戦闘に近い
状態なら打撃よりも地面や壁にたたきつけられる方がダメージが大きい。このこと一つと
ってもサトーは戦い慣れしていることが見て取れる。

「安心しろ。MRシステムを取るまでは殺しはせん。だが、しばらく動けなくなってもらお
う!!」

サトーはインパルスの頭を踏みつけてインパルスの腕を締め上げる。インパルスから声に
ならない悲鳴が搾り出された。そのとき霧を裂き、アレックスのかかと落としがサトーの
肩狙っていた。サトーはそれに気づいたが足で防御するには間に合わず、インパルスを拘
束していた片手を離して肘を突き出した。踵と肘の点同士が衝突する。双方の装甲が耐え
切れずに隙間から煙が噴出す。

297 名前:31 :2006/06/18(日) 00:53:47 ID:???
「何者だ!」
「名乗るほどの名はない。今だ。逃げろ!」

アレックスの言葉を聴いてインパルスはサトーを蹴った反動で跳ね起きて拘束を逃れた。
インパルスは肩を押さえているが間接をはずしたわけではないようだ。それを見てアレッ
クスはひと安心した。

「隙だらけだぞ」

インパルスに気が取られていた間隙を突いてサトーが攻撃を仕掛けてくる。正拳を肘で払
い、蹴りを肘を垂直に振り下ろして打ち落とす。アレックスは攻撃を払うようにして無力
化する。実戦がアレックスの体に刻まれた記憶を目覚めさせていった。初めはギリギリだ
った防御のタイミングも次第に取れてくるようになり、攻撃が起こす風音が次第に鋭くな
っていく。サトーはいったん飛び退いて大きく間合いを取った。

「貴様、狗にしておくには惜しい腕前だな」
「隊長!」

ジンがサトーの周りに駆け寄ってくる。接触回線に切り替えて何やら話をしているようだ。
アレックスの方もイザークとディアッカが追いつき、インパルスとジンの間に陣取った。

『ハーネンフース!奴らが何を言っているか分かるか?』
『ダメです。それらしき通信帯域は見つかったのですが、暗号化されています』
「おい、その青いのはお前に任せるぞ」

イザークはそう言いながらアレックスの肩を叩いてジンの集団に飛び込んでいった。ディ
アッカもそれに続き、イザークの死角をカバーするようにサポートに徹する。数の上では
圧倒的に劣勢だが、一人を攻撃できる人数にはおのずと限りがある。袋叩きにしようとし
たところで同士討ちを招きかねない。加えて、集団に飛び込んでかく乱するのなら少人数
の方に分がある。限界反応時間以降の強制回避・死角からの攻撃に対するアラートなど二
人は新型の性能を遺憾なく発揮してジンたちをかき回していた。その間アレックスはイン
パルスに接触を試みていた。

「シン、大丈夫か」

ザクの姿に警戒して後ずさりをするインパルスに声をかける。

「アレックス!?なんでアンタが……」

シンの声だ。インパルスを前面から見ると色が変わっているだけで、フェイスマスクや装
甲などの特徴も赤いそれと変わりがなかった。

298 名前:31 :2006/06/18(日) 00:54:35 ID:???
「話は後だ」

そう言ってアレックスはシンが押さえている肩に触れて軽く肩を前後させる。それほど痛
がらないところを見ると脱臼しているわけでもなく、骨に影響があるわけでもなさそうだ。
肩に手を置いたまま、周りに聞かれないように接触回線を開く。ついでにイザークたちと
の通信チャンネルも登録しておいた。

『……肩は大丈夫だな。オマエは離脱しろ。後はオレたちで何とかする』
「ん?声が変な方向から!?」
『接触回線を使ってる。MRづたいにお前の骨に直接音が伝わっているはずだ。ついでに公
安が使っているチャンネルも登録しておいた。検問から逃げるときに役に立つかもしれな
い』
「何とかするって!無茶だ!相手の人数だって分からないのに」
『あの黒いジンは元パトリック=ザラの親衛隊だ。まともに戦えばさっきと同じ結果にな
る』

そういい残してアレックスはシンに背を向け、イザークたちに合流するために駆け出した。
合流途中で二人に指示を出す。

『ディアッカ、七時の方向からジン、二機だ』
『オッケー』

ディアッカが後ろ回し蹴りで死角から近づいてくるジンをなぎ払った。アレックスはその
ままディアッカとイザーク二人の背部に回りこんだ。

『イザーク、左だ!』
『分かっている!民間人が俺に命令するな!』

シンに伝わってくる通信では仲がいいのか悪いのかはよく分からないが、かなり提携が取
れている。以前に戦った謎のMRの三体よりも提携の面に関しては上かもしれない。ポジシ
ョンや役割分担を臨機応変に変えており、数の不利をまったく感じさせない戦いぶりだっ
た。

(あれが……前の大戦を生き抜いた人たちなのか……)

シンは拳を握りしめて肩に力が入るか確認した。アレックスには帰れと言われたが、この
まま引き下がりたくはなかった。負けたまま帰りたくはないし、アレックスの言う通りに
するのもシャクだ。

299 名前:31 :2006/06/18(日) 00:55:22 ID:???
たった三人とはいえ先の戦争のMRを装着者だ。ジンは苦境に追い込まれていた。ジンとザ
クの性能差もあり、このまま続けばMSが破壊・逮捕されて終わりという結末にもなりかね
なかった。そうした焦りがサトーの率いる一隊を焦らせていた。

『我々はもとより生きて帰ることなど考えていません!』
『例え我々が敗れたとしてもこのことが同士の士気を高めることになれば、それだけでも
我々の決起には意味があります!』
『隊長!許可を!』

隊員たちの声にサトーは黙ってうなづいた。

「全力で潰す。全機リミッター解除!!」

サトーが声を張り上げた。「了解!」という声とともに各部のボルトが炸裂して大きく
パーツをスライドする。今までとは桁違いのスピードで黒いジンが襲い掛かってきた。旧
型だけあって威力はザクほどではないがスピードが上乗せされれば十分な破壊力になる。
ジンのラッシュがアレックスの顔面をかすめた。

「速い!」

目では追えるのだが、射程に入ってからの伸びが凄まじく、体の反応が遅れていた。手元
でスピードが倍になってくるようにでさえ感じる。先ほどの優勢は一転し、防戦一方に変
わっていた。攻撃が体をかすめる度に装甲が火花を上げる。ジンが早さに慣れていないう
ちはいいが、このままではなぶり殺しだ。間合いを取ろうにも向こうが後ろに回り込む方
が速い。三人は背中合わせになっていた。

『どうするよ』
『こっちも同じことをすればいい』
『って、向こうは人数多いから交代でリミッター外すまで時間あるからけど、パージ中に
装甲開いてるところを攻撃されたら終わりだぜ』
『それくらい分かっている!』
「やつらは守りに入っている!一気に叩け!」

こうやって話をしている間にも攻撃を受け続けている。体を縮こまらせて防御をしている
だけで精一杯の状態だ。

「アレックス!」

シンの声がした。ガードの隙間から姿を探すと、アレックスの目には複数のインパルスが
映っていた。インパルスたちがジンを蹴散らして吹き飛ばされたジンが地面に叩き付けら
れた。

300 名前:31 :2006/06/18(日) 00:56:09 ID:???
『チャンスだ!』

イザークが叫ぶ。ディアッカがしんがりを務めながら三人はジンとの距離を離した。すぐ
に分身したようなインパルスの残像が現れ、次第に分身が一カ所に収まっていった。イン
パルスは肩で息をしている。インパルスは目にも留らぬ速さでジンより速く動いていたの
だ。

この、いわば青いインパルスは赤いときのような力は無いがスピードだけはある。速さが
威力になるのは相対的な問題だ。ジンと同じスピードで動けば普通の戦闘と変わらないが、
それより速く動ければザクをなぶっていた加速したジンと同じことができる。さほど力が
無くても足元に触れてバランスを崩せば地面に叩き付けられて吹き飛ぶほどの威力がある。
だが、その運動量でシンの膝は震え、ほとんど動けない状態に陥っていた。だが、インパ
ルスに警戒してジンはすぐには攻撃を仕掛けてこようとはしない。この様子を見てイザー
クはすぐに指示を出した。

『ハーネンフース。こっちもリミッターを外すぞ!!』
『身体的負荷が大きすぎます』
『いいからやれ!』

ザクの肩パーツやアンテナブレードがスライドして地面に落ちた。モニタの端に活動限界
時間が表示される。

『いいか、一気に蹴散らすぞ。こちらもこれで時間制限を含めて条件は同じだ。動力部を
狙ってできるだけ早く片付けろ!』

相対速度さえ合ってしまえば後は単純に能力だけの差だ。戦闘経験はジンの方が上かもし
れないがMSの性能はザクがジンをはるかに凌駕している。その能力差はザクの一撃でジン
の外装甲に亀裂が入るほどだった。アレックスがジンの動力部に正拳突きをめり込ませた。
腕を伝った接触回線で投降を呼びかける。

『もういいだろう。投降しろ』
『敵に塩を送られる言われは無いな……』

そう言うとジンはアレックスの腕をつかんだ。モノアイの光が消えて装甲の隙間から光が
漏れた。辺りを光と音とそして炎が辺りを包んだ。MSの破片が周囲に砕け散り、焼けこげ
た装着者がその場に崩れ落ちた。アレックスのザクの外装甲もフェイスマスクやショル
ダーアーマーが損傷している。爆発の衝撃で気を失ったのかアレックスがその場に倒れこ
む。

301 名前:31 :2006/06/18(日) 00:57:02 ID:???
『アレックス機、損傷率六十%。内部へのダメージは軽微ですが、装着者の反応がありま
せん!』
「アレックス!!」

インパルスがアレックスのカバーに入る。仲間の死を見ても気を散らすこと無く、言葉を
発するでもなく、ジンは攻撃の手をゆるめようとしなかった。それどころか縦横無尽に繰
り広げられる攻撃に連携やキレが生じているようにでさえ感じた。シンはアレックスをか
ばいながら防御している間心が底冷えするような感覚にとらわれた。

(こいつら、死ぬのが怖くないのか?)

装甲が弱くなっている分、アレックスをかばいながら攻撃を受けるのは圧倒的に不利だ。
イザークとディアッカの方を見るが、そちらも手一杯でとても回収してもらえそうに無い。

「そこの青いの!」

イザークが声を張り上げる。

「お前のスピードならこいつらを振り切ってそいつを連れて行けるはずだ。場所はそいつ
に聞け!」

シンは立ち尽くしたまま戸惑っている。今までの経過を見ているとはいえ士気の上がった
ジンと戦うには二人という人数はあまりに少ない。自分が一人いるだけでも攻撃をずいぶ
んと分散できるはずだ。そう考えるとその場を去っていいものかすぐに判断が付かなかっ
た。

「早く行けよ!オレたちにだって時間はそうないんだ!」

ディアッカがシンの退路を確保するように回り込む。

「オレ、すぐ戻ってきますから!」

シンはそう叫んでアレックスの肩を担いで走り出した。


シホが載るトレーラーに戻ったときにはアレックスは正気を取り戻していた。アレックス
の提案でインパルスの姿をシホに見せないようにトラックの外で作業を行うことにした。
シホがトレースしていたアレックスのMSの状態を報告する。

『損耗が激しくて再装着して戻るには無理があります』
『予備は?』
『ありません』
『ならこのまま出るしかないな』
『そんな、危険です!』

302 名前:31 :2006/06/18(日) 00:58:02 ID:???
アレックスはシホにそう伝えて無線を切り、フェイスマスクを外した。額が割れて血が出
ているが見た目ほどのダメージは無いようだ。アレックスはシンの方を見て言った。

「お前は帰れ。お前が指名手配になっていることはおまえ自身がよく分っているだろ
う?」
「それより補給をしなきゃ」
「この破損状況じゃこのMSはもう使えない。拘束具になるだけだ」

アレックスはMSをパージした。パーツが地面に落ちていき、中からパイロットスーツ姿の
アレックスが現れた。アレックスはバイクのシートを開いて収納スペースをあさりはじめ
た。

「MSもなしにどうしようっていうんですか?」
「そろそろバッテリーが限界になってくるはずだ。そうすれば銃撃が当たらないこともな
い。関節なんかはただの少し頑丈な服だからな」

アレックスはパイロットスーツのひじの部分をのばして見せた。それからバイクの座席の
下の収納スペースからバイザーとリボルバー式の拳銃、対MS弾を取り出した。拳銃の脇を
叩いて シリンダーに弾を詰め込む。

「そんな。無茶だ!」

シンが叫んだ。シンも生身でMSと戦ったことはあるが、どうにかなるというレベルの問題
ではない。対MS弾といっても拳銃に収まるサイズである、装甲に当たればたいしたダメー
ジにはならないだろう。

「イザークたちはオレを信じて補給に戻したんだ。オレはそれに応える義務がある」
「オレにやらせてください!約束したんです!」
「ダメだ。オマエは帰れ」
「オレはこれ以上、誰かが犠牲になるなんて嫌です!オレの力はそうさせないための力な
んだって!」
「シン……」

アレックスはその言葉から、インパルスのフェイスマスク越しにシンのまなざしを感じた。
それはかつて自分が、イザークが、ディアッカが、ニコルが――自分が何かしたいと切に
願い、戦いに身を投じた者たちのものだ。昔は頼もしく思えたが、今では辛く、重々しい
ものに感じる。自分たちが戦った結果、生み出されたものが新たな自分たちだったとは…
…そう思うとやりきれなかった。

303 名前:31 :2006/06/18(日) 00:58:52 ID:???
その頃、学校の体育館ではレイが物音に聞き耳を立てていた。シンが寝床を抜け出したの
は寝たふりをして見逃していたが、今回は複数の人間が動いている。はじめは火事場泥棒
かと思っていたのだが、火事場泥棒にしては無用心すぎる。足音を立てないように努力し
ているようだが普通に歩いたときと変わりない。おまけに話し声までする。足音が静まる
のを待ってレイは不審者たちを追った。

人影は階段を降りて下の階のピロティに集まった。金属音がして何かが落ちる音がする。
自動販売機を使っているようだ。

(のんきなものだな)

レイは身を伏せながら階段を下りていった。

「に、してもさぁ」

聞き覚えのある声がする。

「市内で爆発があったからって郊外のオレたちまで避難するなんて大げさだろ」
「仕方ないでしょ。テロだったら襲われるのは私たちなんだし」
「『蒼き清浄なる世界のために』ってか?オレたちが何をしたっていうのさ。向こうが一
方的にやっかんでるだけだろ」

ヨウラン・ディーノ・ルナマリアの声だ。抜け出した足音に対して3人では人数が少ない
気がするが、ルナマリアがいるということは妹のメイリンもいるのだろう。消灯時間が早
かったので眠れずにおしゃべりをしているようだ。この程度なら問題は無いだろう。レイ
は寝床に戻ることにした。そのときだった。

「人数少ないとつまんねーな」
「いつもと変わんないしね」
「じゃあ、レイとシンを呼ぼうぜ。レイと普段あまりしゃべならいし、シンはこっちに来
たばっかりでまだ話聞いてないしさ」
「いいねー」
「じゃ、オレ呼んでくるよ」

ディーノがそう言ってこちらへ来ている。自分はともかく、シンがいないことが分かれば
今後まずいことになるかもしれない。レイは立ち上がって階段を下りた。階段をおりきっ
たところでディーノと鉢合わせになった。

「こんな時間に何をしている」
「ちょうどよかった。今レイとシンを呼ぼうとしてたところだったんだ。シンは?」
「シンは寝ている」

304 名前:31 :2006/06/18(日) 00:59:43 ID:???
「じゃ、起こしてくるよ」
「止めておけ、アイツは寝起きが悪い。起こそうとしたら殴られるぞ」
「えっ……」

ヨウランとディーノが黙り込んだ。彼らはレイとシンの試合を見ているのだ。あのスピー
ドと威力で殴りかかられてはたまらない。

「何よー、二人とも何があったっていうの?」
「アイツさ、レイと同じかそれより強いぜ。殴られたらまず戻ってこれない」
「そんなに強いの?」

今まで黙っていたメイリンが口を開いた。試合を見ていないルナマリアとメイリンはまだ
半信半疑といったところだ。自分についてとやかく聞かれるのも面倒だったのでレイは話
を進めた。

「荒っぽい部分が多いが確かに強い。今上級生と試合をしても十分に勝てるだろう」
「へー、じゃあ、来年フレッドと戦うのはシンになるのかな」
「勝てそう?」
「さーね。なにせ相手はあの鬼軍曹だぜ。少々強くたって連勝記録が伸びるだけだしな
ぁ」

フレッドは先の大戦の前線でMS装着者として戦っていた。終戦後はこの学校で教官を務め
ている。古傷のせいで長くは戦えないが毎年最後の授業で主席と戦うのが習慣になってい
た。その様子は全校に放送され、生徒主催で試合の勝敗で賭けをするほどである。もっと
も、ここ数2,3年はフレッドの圧勝で盛り上がりに欠けているのだが。

「でも、アスラン=ザラは勝ったんでしょ?」

メイリンが口を挟んだ。これまでフレッドに勝った人間はそういないが、アスランはその
一人だった。

「戦時中の繰上げ卒業で勝ったってんだから化け物だよな」
「ああいうのは特別なんだよ。なにせ父親は元国防委員長だし、総合成績でも主席だろ。
おまけに前の戦争での英雄だし・・・俺たちとはデキが違うんだよ」
「どんな人なんだろう。私興味あるなー」

ルナマリアが目を輝かせながら言う。

「案外底意地が悪いかもしれないぜ」
「夢が無いこと言わないでよ。ねえ、レイはどう思う?」
「さあな。オレは興味が無い」
「あ……そう」

305 名前:31 :2006/06/18(日) 01:00:29 ID:???
自分たちが語っている英雄・アスラン=ザラは死んだ。公発表がそう言っているからでは
ない。生きてるとしたらそれはアスラン=ザラという名の抜け殻だ。レイはそう思ってい
た。今、レイたちが避難という名の拘束を受けているのも大戦の後の治安維持政策の名残
だ。コーディネイターにせよブルーコスモスにせよ今の体制に不満を持つ者は少なくは無
い。彼はそれから2年間も逃げているのだ。そんな男が英雄なわけがない。


「いいか。チャンスは1回きりだ」
「分かってますよ」

後部座席にシンをしゃがませてアレックスのバイクが駐車場を飛び出した。一旦目標とは
反対に走って距離をかせぎ、バイクを加速させる。この間もイザークとディアッカが戦っ
ていると思うとシンとアレックスはこの時間ももどかしかった。その間、アレックスはシ
ンの言ったことを思い出していた。

「オレが記念会館の屋上から飛び降りたときに足に電流みたいなのが走って、着地したら
起爆装置を踏んだ訳でもないのにバラバラになってたんですよ。最初にジンに突進したと
きもビリビリってしたんですけど、目の光ってるやつがフッと消えるくらいだったんです。
で、普通に殴ったり蹴ったり走ったりしても何にも無いんで、多分、これ、スピードに関
係してると思うんですよ」
「本当にそうなのか?」

シンの説明にアレックスは半信半疑だった。MRに様々な特殊能力があることはアレックス
も知っているが、あまり聞かない能力だ。似たような能力をストライクという名のMRが使
ってはいたが、それ以降使われているとは聞いたことが無かった。シンはその様子を見て、
アレックスに突進してきた。とっさのことで、気がついたときには反射的に出ていた腕の
ガードにシンのパンチが当たっていた。スーツが吸収しきれなかった電撃がほんのわずか
漏れてアレックスの体を感電させた。

「このくらいのスピードだとたいしたことないですけど、バイクで加速して突き抜ければ
壊すことは無理にしても機能停止に持ち込むこともできるはずです」
「バイクよりもさっき分身するくらいの速さで動いてたが、あっちのほうが速いんじゃな
いのか?」
「あれだと膝が動かなくなるんですよ。それにそのバイク、普通の三倍の速さまで出るん
でしょ?マスターが言ってましたよ」
「……やるしかないのか」

シホが待機するコンテナの中にはロケットランチャーがあるかもしれないが、街中で使え
るような代物ではない。シンが言うように対MS弾にさほど期待は出来ない。シンにかける
しかないのかもしれない。

306 名前:31 :2006/06/18(日) 01:01:15 ID:???
そういったわけでアレックスはシンを後ろに乗せてバイクを加速させ続けていた。


『くそっ、数だけは多いぜ』

お互い命中すれば決着が付きかねないだけに状況は膠着していた。先にリミッターを解除
した分、ジンの方が不利な状況にもかかわらず、にじり寄って間合いを取るものの先に仕
掛けてこようとはしなかった。

『どうする?』
『こちらも派手に動きすぎたな』

そのとき、不意にエンジン音が響いた。音に注意を引かれてMSがバイクの方を向く。不意
に照らされたバイクのヘッドライトが暗視フィルタに切り替えていたMSたちの視界をホワ
イトアウトさせる。アレックスが急ハンドルを切ってインパルスを正面に向ける。

「今だ!行け!!」

インパルスがバイクを蹴り、空中で回転してキックの姿勢をとった。バイクの加速が上乗
せされて足先が空気を切り裂き、青い稲妻が広場を横一文字に駆け抜けた。インパルスが
通り抜けると同時に周囲に強烈な電磁場が発生し、あたかもEMBが使われたかのように周
囲のMSの機能が次々に停止していく。それに気づいてかいち早く状態を戻したサトーがシ
ンの進路を阻んだ。正面で腕を交差させて仁王立ちをしている。正面から受け止める気だ。

「これ以上やらせるわけにはいかん!」
「どけよ!死ぬだけだぞ!!」

インパルスは無理矢理地面に手を付いて減速しようとするが、指先が触れただけで弾かれ
てしまう。体勢をを崩したままサトーに全身でぶつかる。MSは粉々に砕け散り、サトーは
その場に倒れた。インパルスは着地を試みたが、ふんばりきれずに大きく吹き飛ばされて
転がり込み、記念碑に激突した。

「シン!」

アレックスがバイクを止めてインパルスに駆け寄った。記念碑の前に来たときにはインパ
ルスの変身が解けていた。

「大丈夫か?」
「どうにか……」

307 名前:31 :2006/06/18(日) 01:02:52 ID:???
そう言ってはいるもののシンの反応はうつろだ。遠くからパトカーのサイレンの音が聞こ
えてきた。検問にほとんどの人員を割いているとはいえ、これだけの騒ぎになれば放って
はおかないだろう。シンがこの場にいてはまずい。ここはこの場からの離脱が優先だ。後
部座席からヘルメットを取り出してシンにかぶせ、後部シートに乗せた。アレックスもバ
イクにまたがり、バイクから落ちないようにシンの手をアレックスの前で交差させてテー
プで固定した。動けないイザークやディアッカをそのままにしておくのは忍びないが仕方
ない。アレックスがバイクにエンジンをかけた。

「ううっ」

バイクのエンジン音でサトーが目を覚ました。MSの胸部の装甲は砕け散り、あばら骨も何
本か折れているようだ。バッテリー切れでMSの下半身がデッドウェイトになって起き上が
れそうにない。サイレンの音はサトーの耳にも届いていた。

(志半ばで……このザマか……)

自分がこの結果では他も公安や警察に抑えられているだろう。この戦闘の前に殲滅された
部下もいる。目を左右にやるとそこら中に倒れ、あるいはバッテリー切れで硬直した部下
たちの姿があった。死んだ部下もいる。そのことを考えるとサトーは慙愧の念に耐えなか
った。はいつくばったまま上体を起こすと一文字に横切る傷跡がある顔が現れた。誇りで
あった戦の古傷も今日には犯罪人としての嘲笑の対象になるだろう。エンジン音の先には
先に赤いバイクに乗る青髪の青年がいた。その後姿をサトーは知っていた。

「御曹司!」

赤いバイザーをかけた顔がこちらを向いた。サトーは顔を見て確信を深めた。

「御曹司!生きておられたのですか!」
「……人違いだ」

そう言ってアレックスはバイクを走らせた。本人は否定したが声に聞き覚えがある。あれ
は三年前、まだパトリック=ザラやシーゲル=クラインが生きていた頃のことだ。両家の
結束の強化のためにお互いの子供を婚約させた。その披露パーティで声を聞いた。

(御曹司が生きておられるならまだ見込みがある)

先ほどまで絶望に沈んでいたサトーの顔から笑みがこぼれた。たった一体のMRにズタズタ
にされたプライドなどどこかへいっていた。嘆きの声を忘れ、真実に目をつむるこの欺瞞
に満ちた世界が終わり、コーディネイターによる治世が再び始まる。そう思うだけでサ
トーは満ち足りた気分になっていた。

308 名前:31 :2006/06/18(日) 01:03:40 ID:???
パトカーの音が聞こえなくなるまで逃げてアレックスがひと息つこうと河川敷にバイクを
止めた。切りも晴れ、夜も白んですっかり朝日が昇っていた。

「ここまで離れれば大丈夫だろう。大丈夫か?シン?」

反応が無い。背中でシンの体を押して揺さぶってみるが反応は返ってこない。

「シン?」

あのときに頭を打っていたのだろうか。そうだとしたら病院に駆け込まなければならない。
ヘルメットを脱いで振り向くと、シンは寝息を立てていた。無理もない。初めての実戦で
徹夜、しかもMR装着状態でだ。相当消耗しているだろう。まだ人もまばらにしかいない。
アレックスはバイクのエンジンを切って一息ついた。普段はこわばっている顔も寝ている
ときは緩んでいる。その顔はどこにでもいる十五歳の少年のものだった。その顔を見てア
レックスは言った。

「シン、良くやったな」


第六話 おわり

309 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/18(日) 03:14:44 ID:???
GJ!
ここのスレ皆カコイイなー。

310 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/18(日) 10:35:52 ID:???
すごい…すごすぎるこのスレ!
こういう種死が見たかった
まさか仮面ライダーでみれるとはw
アレックス遺作痔がかっこいい
アレックスの話が多いんだけどちゃんとシンが主役だw
うまいなーほんとにGJ

311 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/18(日) 13:20:28 ID:???
GJ!
前大戦を生き残った奴らみんな凄すぎだ。
個人的には生き残ったサトー隊長の今後が気になるな

312 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/18(日) 13:30:07 ID:???
31氏キターーーーー!!!!!
まだみれた種死の1〜6話よか面白かったです。
遺作たち格好良すぎだし、シンの未熟さが応援したくなった

313 名前:31 :2006/06/18(日) 19:28:09 ID:???
出先から帰ってきました。

>>保守の皆様
お礼言わずに投下してました。スイマセン。いつもお疲れ様です。

>>読んでくださってる皆様
感想や励ましありがとうございますm(_ _)m
次回は前回までのスパンに戻るようがんばります。

>>衝撃作者氏
ありがとうございます。
作品、いち読者として楽しみにしています。がんばってください。


相当ガンダム寄りで仮面ライダーは体裁的な部分が多いものですが、どうか生暖かく見て
やってください。原案は『SEED』が終わった後に作った「ぼくのかんがえた『SEED』のぞ
くへん」と『SEED DESTINY』と平行して作った「ぼくがあれんじした『SEED DESTINY』」
を再構成して仮面ライダー的な部分に落として作ってるので……。

原案あるのに遅いのはセリフやアクションシーン描くのが苦手だからです(´・ω・`)
では七話でまた。ノシ

314 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/18(日) 20:24:53 ID:???
わざわざ乙!
十分戦闘もうまいっす
7話楽しみに待っています

315 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/19(月) 12:42:13 ID:???
>>GJです!
いやー、戦闘シーンカッコイイですね〜。

ところでヴィーノがディーノになってるのに気が付いたのですが・・・

316 名前:31@携帯 :2006/06/19(月) 17:19:16 ID:???
>>315
ご指摘ありがとうございます

そしてファンの方スイマセン。見直したのに漏れが多いな(´・ω・`)

317 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/19(月) 20:30:56 ID:???
ドンマイ

318 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/19(月) 22:05:26 ID:???
高速分身するインパルスの絵を想像して燃えた
全機リミッター解除できるって、かなりのハイスピードバトルだな、面白そう

319 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/20(火) 01:00:36 ID:???
前絵師さんが描いてくれたインパルスのおかげで想像もしやすいな

320 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/20(火) 12:55:32 ID:???
良スレ保守

321 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/22(木) 01:38:48 ID:???
保守

322 名前:31 :2006/06/24(土) 18:32:16 ID:???
保守の皆さんお疲れ様です。9割がたできたので夜には投下します。

最近何が面白くて何が面白くないのか少々混乱気味で自分の書いてるものが面白いかどう
か分らなくなってます。下手に作法本とか読んだのが悪かったんですかね……(´・ω・`)

323 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/24(土) 19:07:12 ID:???
職人さん乙!
自分では面白いとかわからんもんだよな…
でも自分は十分楽しませてもらってるんで自信もってください(`・ω・´)

324 名前:31 :2006/06/24(土) 21:36:41 ID:???
>>323
そう言っていただけると幸いです。


では『仮面ライダーSIN』第七話投下します。

325 名前:31 :2006/06/24(土) 21:37:35 ID:???
第七話

夜が開け、二月十四日の朝が来た。あるものからすれば二月十三日から一日が過ぎただけ、
またあるものからすればその一分一秒が生涯を決定づけるものになる。シンにとっては家
族を失った日が、アレックス――いや、大勢のコーディネイターにとって二月十四日は再
び辛い日となった。

『昨晩から今日未明にかけて街を爆破していたテロリストが軍と公安によって鎮圧されま
した。なお、この事件で出た死傷者は三十八人とのことです。次のニュースは……』

テレビが報じたのはそれだけだった。テロリストの声明も、目的も、その姿も、誰ひとり
としてそれを伝えようとはしなかった。大衆は大戦以来の報道はそういうものだと思って
いたし、事件に付き合う暇がある人間はネット上で情報源が定かではない情報で好き勝手
に推測をしていた。他にもこの報道に渋い顔をしている人間が二人いた。一人はムルタ=
アズラエル亡き後のブルーコスモスを支えていた人間だ。人前には決して現れず、ネット
ワーク上で黒猫のアイコンを通して語りかけることからロード=キャットと呼ばれている。
事件発覚直後からロード=キャットはネット上で主義者たちに語りかけていた。もう一人
のフリージャーナリストのミリアリア=ハウもテレビニュースをよそにその映像を見てい
た。

『親愛なる同志の諸君!
 我々は再び獅子身中の虫を取り除くときが来た!
 ご覧の映像は昨晩我々の街が襲撃を受けた様子を撮影したものだ!
 奴らは爆弾をしかけ罪のない人々までを巻き添えに殺した!
 このような卑劣な行為が許されてよいものか?否!
 断じて許されざる行為であることは聡明な諸君ならお分かりのことだろう。
 そして、今一度思い起こして欲しい。この黒いMSは三年前、
 我々に計り知れない被害を与えた大罪人、パトリック=ザラの眷属であることを!
 これは我々に対する宣戦布告である!
 あの大戦で我々はエネルギー源を奪われ、苦渋の生活を強いられることになった。
 今再び同じことが起ころうとしているのだ!
 我々が欲するものはただ一つ!悪魔たちのいない、
 我々による我々のための社会なのだ!
 同志よ立て!蒼き清浄なる世界のために!』

演説のバックで黒いジンと黒、青、緑のMRが交戦している画像が映し出されていた。合成
ではないようだが、プロパガンダのための作り物ということは十分にありえる。ジンタイ
プのMSなら金に糸目をつけなければ食うに困った退役軍人が売り払うというケースもある。

(よくもまあ、こんな白々しいことを言えるものね)

326 名前:31 :2006/06/24(土) 21:38:34 ID:???
本人が直接姿を見せずにネコのアイコンで出ているところにある種の照れがあることは伝
わってくるが、それにしても酷い。この演説を聴いて鼻息を荒くする連中がいるのだから。
本音を言えばこんな単純な考えで生きていられることに半分呆れ、半分はうらやましいよ
うな気分だ。だが、そんなことを口に出しては言えない。前代表のムルタ=アズラエルが
死亡してコングロマグリット財団がブルーコスモスから手を引いたとはいえ、大戦の主戦
派はみな主義者だ。日常的にも意外なところでしばしば出くわすこともある。これは一種
のタブーなのだ。赤いMRの事件同様、記事を書いたところでゴシップ専門の週刊誌くらい
しか買い手がないだろう。しかも、記事を買い取られた後に手を加えられて三割り増しで
誇張されての話だが。

(……どうしたらいいんだろう)

いすの背もたれに大きくもたれかかって天井を仰ぎ見た。成り行きとはいえ三年前に友人
たちとともに戦地を転々とし現場を見てきた。そこで起こっている事実をもっと多くの人
に知ってもらおうとジャーナリストになったのに手も足も出ない。結局軍や公安が出す公
式見解をお伺いに記者クラブ室にたまっているのが関の山なのだ。手を組んで伸ばし、背
伸びをした。

「えーい、悩んでもしかたがないか」

ミリアリアは記事を書き始めた。現在閉鎖状態になっている軍施設から現れた赤いMRのこ
と、新しい三体のMRのこと、そして街の爆発騒ぎのこと、自分が見てきたことをすべて書
くことにした。どこにも載らないだろうし、掲載されれば軍が黙ってはいないだろう。そ
れ以上にブルーコスモスや過激派のコーディネイターを刺激しかねない。だが、ミリアリ
アは書いた。理由はない。そうしたいし、そうするべきだと、彼女自身の心が訴えかけて
いた。


シンとアレックスは平和公園からその足でレイ=ユウキの家を訪ねていた。ユウキはシン
の通っている学校の校医であり、シンの担任でもある。常に白衣を着た灰髪の長身の男で
温和でまじめなのか抜けているのか分からない性格をしている。目立つ特徴もないので生
徒からあだ名を付けられていない。早朝からコーディネイターを、しかも理由を明かさず
に診てくれるのは彼くらいしかいない。診察室でアレックスはユウキと向かい合ってカル
テや写真を見せてもらいながら説明を受けていた。

「打撲が数箇所ありますが、他はたいした事はありません。念のためMRIも取りましたが
脳に異常はありませんでしたよ」

シンの診察結果を聞いてアレックスはほっと胸をなでおろした。

「それより」

ユウキが一段低い声でそう言ってアレックスを責めた。

327 名前:31 :2006/06/24(土) 21:39:29 ID:???
「御曹司の怪我の方が酷いじゃありませんか。まったく、無謀にもほどがありますよ」
「大した怪我じゃない」
「これでもそうおっしゃいますか」

ユウキがアレックスのアバラを押さえる。

「くっ……」

アレックスの顔が苦痛で歪んだ。

「ほら御覧なさい。アバラに三本ヒビが入ってるんですよ。それほど大きくはありません
からコルセットで固定していれば日常生活には支障はありませんが、もっと自重なさって
ください」
「御曹司と呼ぶのはやめろと言ったろ!」

アレックスは捨て放つように言った。

(あー、うるさいなー)

アレックスの声でシンは目を開けた。検査の最中には起きていたのだが、色々と面倒そう
なので寝たふりをしていたのだ。体の向きを変えたが、すっかり目がさえていて寝付けな
かった。話し声がボソボソとしか聞こえないのでかえって耳障りだ。ユウキは咳払いを一
つして答えた。

「それではアレックス。私はあなたの父君に頼まれているのです。あなたを立派に育てる
ようにと」
「オレはもう子供じゃない」
「そう言うところが子供だと言うのです。それに大人ならもっと聞き分けなさい。本来な
らあなたは亡き父君の後を継いで政に関わらなければならない立場なのですよ。オーブの
姫君を御覧なさい!ウズミ代表亡き後でも立派にやってらっしゃる」

オーブの姫――カガリ=ユラ=アスハを引き合いに出されて少したじろいたものの、アレ
ックスは負けじと言い返す。

「世事のことはカナーバにでも任せていればいい。目立つところはないかもしれないが今
の世を治めるに不足はないだろう」
「あの土地を、プラント一帯を治めるので手一杯の彼女のどこに国政に携わる器量がござ
いましょうか」

プラントというのはこの国の農業・工業などの生産地帯の総称で、その性質上コーディネ
イターが多く居住する地域である。現在は故・シーゲル=クラインの側近だったアイリー
ン=カナーバが統括している。彼女とユウキは旧知の仲だ。

328 名前:31 :2006/06/24(土) 21:40:40 ID:???
「何か問題でもあったのか?」
「彼女は反動分子を押さえ切れませんでした。事の顛末はあなたの方がよくご存知のはず
です」

ユウキの声が尻すぼみに、そして険しくなっていった。

「サトーがいたのはそのせいか」
「サトーが!?」
「そうだ。顔の傷、それにオレを見て『御曹司』と呼んだから間違いはないだろう」
「それは厄介なことになりましたな。で、サトーを捕らえたのは?」
「おそらく公安だ。警察に捕まっていたとすればもっと厄介なことになる」

アレックスはそう言って窓の外を見た。日は高く上がり、車や人の往来の音がする。街が
動き出す時間になっていた。


「おい、気分はどうだ」

イザークが拘置所の鉄格子の中を覗き込むようにして言った。サトーは捕らえられて独居
房の中で横になっていた。イザークの方に足が向いていて顔はよく見えない。病院で治療
を受けた後、逃亡の恐れがあるとされて即座に拘置所につれて来られていたのだ。檻に入
れられているため、拘束具は付けられていないが痛みで動けるはずもない。

「その声、角付きの中身か」
「角付とは古風な表現だな。言い方も気に入らん。オレにはイザーク・ジュールという名
前がある」
「閣下の腰巾着の息子か」
「母上を愚弄は許さんぞ!」
「すぐカッとなって声が大きくなるのはエザリアと変わらんな」
「なんだと!」

傍らに控えていたディアッカは頭を痛めていた。冷静さを保てないのがイザークの欠点だ。
だからこそ自分のような調整役が必要なのだとディアッカは思っていた。長い付き合いと
はいえ、この辺りをもう少しどうにかして欲しいとは思っているのだが。

「落ち着け!イザーク。乗せられるな」
「分かっている!!」

イザークはあからさまに機嫌を損ねている。こうなると誰にも止めようがない。止められ
るとすれば母親のエザリアくらいのものだろう。

329 名前:31 :2006/06/24(土) 21:41:38 ID:???
「イザーク。取調べにはオレがやるからしばらく黙ってろ」
「オレに命令するな!」
「……分ったよ。だけどもう少し落ち着いてから話せ」
「そっちはエルスマン家の坊ちゃんか」

見ただけでディアッカの正体を看破したところを見ると、コーディネイターで、しかも先
の大戦でMS部隊に関与していた人間であることは間違いないだろう。

「どうやらあのジンは盗品でも伊達でもないようだな」

ディアッカがそう言うとサトーは鼻で笑って返した。

「貴様たちに教えることは何もない。聞き出したところでオレはお前たちが知りうる以上
の事は知らん。まだ傷が痛むんでな。悪いが俺は寝る」
「おい、ちょっと待てよ。おい!」

その後も声をかけてみるものの返事がない。狸寝入りだろう。相手はだんまりを決め込ん
だようだ。

「行くぞ!こんなやつの相手をしてられるか!」

イザークはそう言って拘置所を後にした。拘置所から出たと同時にイザークが片膝を地面
についた。

「おい、大丈夫か!」

駆け寄ろうとするディアッカの足もふらついていた。MSをリミッター解除で使用した上、
パージされるまでの間姿勢を固定されたまま動けなくなっていたせいだ。戦時中はこのく
らい大したことではなかったのだが、戦後目立った紛争もなく体がなまっていたようだ。


アレックスのバイクでシンが学校に着いた頃には教室中が昨日の話でもちきりだった。ざ
わついているグループを横目にシンは自分の席に付いてうつぶせになった。重度の睡眠不
足だ。外傷は打撲と擦り傷程度だが一晩明けてみれば筋肉痛が酷い。歩くたびに足が通電
したようにしびれる。訓練を受けていたはずなのに下半身と胸がきしんでいる。初めてイ
ンパルスになったときは寝込んでいて気が付かなかったが相当に消耗している。

「はよー、シン」
「おっはよー」

ヴィーノが真の背中をはたく。机に押し付けられて胸に筋肉痛が走った。

330 名前:31 :2006/06/24(土) 21:42:31 ID:???
「なんだよー。元気ねーなー」
「……眠いんだよ」

シンは顔の向きをヨウランたちと逆側に向けた。

「おはよ」

目の前にピンクのスカートがあった。ミニスカートでもう少し丈が短ければ机の高さで太
ももが見えそうだ。

「どこ見てんのよ。上よ!上!」

顔を上に向けるとルナマリアが腕を組んでいた。

「もー、どのくらい寝たら気が済むのよ。昨日の夜だって寝てたでしょ?」
(こっちは徹夜で戦ってたんだよ)

シンは顔を机に伏せた。目を閉じると頭がズキズキしているのがはっきりする。側頭部か、
それとも後頭部か、その場所も次第にはっきりとしてくる。まぶたが閉じて頭が一気に重
くなる。すぐに各部位の力が抜けていって眠れる態勢に入った。

「何よー感じ悪いわねー」
「おい」

そう言ってヨウランが体を揺さぶろうと手を伸ばした。シンはそれを察知して無意識に手
を払いのけた。

「止めておけ、それ以上やると殴られるぞ」
「みたいだな」

ヨウランがシンに叩かれた部分をなでながら言った。

結局シンはその日は誰にも起こされることなく1日中寝てすごした。まだ寝たりない部分
はあるし、うつぶせのまま固まっていたせいで今度は腰が痛い。それでももう後は家に帰
って寝るだけだ。シンは体を伸ばして立ち上がった。

「シン」

レイが話しかけてきた。

「今日はお前が買い物担当だ。」

レイはそう言うとシンにメモを渡した。

331 名前:31 :2006/06/24(土) 21:43:25 ID:???
「ちょっと今日は代わってくれないかな?」
「何か問題でもあるのか?」

シンは言葉に詰まった。シンがMR装着者であることをレイもおそらく知っているはずだが、
学校で昨日のことを言うわけにもいかない。

「いや、そうじゃなくてさ、その……」
「悪いが俺は今日は寄るところがある。代わりはできない」

そう言うとレイはカバンを持って教室を出て行った。

「オレ、スーパーの場所も良く分ってないんだけどな」

三十分後、シンは買い物メモを片手にカゴを取ってスーパーの中を堂々巡りしていた。何
がどこにあるのかもよく分からない。外周をぐるっと一周して冷蔵・冷凍食品がどこにあ
るのかは分かったが、調味料の位置などはまったくといっていいほど分からなかった。天
井から分類ごとの札がさがっていてそれを頼りに探してみるのだが、探しているうちにそ
の区画を通り過ぎてしまう。うろうろしているだけであっという間に十五分経ってしまっ
た。

(あー、ブラックペッパー(玉)って何だよ!普通のじゃダメなのか!?)

シンはイライラで頭に血が上ってきて煮えていた。自力で探すのをあきらめてウインナー
を焼いているおばちゃんに聞いてみることにした。買い物カゴにはメモの買い物が半分し
か入っていない。

「ネオー、これ欲しいー」

アイス売り場の区画に差し掛かったときに女の子の声がした。

「ダメだダメだ。見舞いに持っていったって個室に冷蔵庫ないから溶けるだろ」

声のするほうに目をやると後ろで髪を縛った三十歳くらいの長身の男が女の子を連れてい
た。

「でも、スティングもこれ好きだよ」
「そんな添加物ばっかりのアイス食べさせた覚えは無いぞ……。あー!お前らさては昨日
買い食いしたな!」
「……ごめんなさい」
「しょうがねえなぁ。黙っといてやるから言うなよ。うるさい奴がいるからな」
「うん」

父親と娘だろうか。二人とも金髪で、顔も親子だと言われれば似ていないとは言い切れな
い。

332 名前:31 :2006/06/24(土) 21:44:13 ID:???
(いいよな。ああいうのって)

シンは二年前、まだ家族で暮らしていたことのことを思い出していた。父、母、妹と休日
にはよく出かけたものだった。ゲームが出たときには早くクリアしたくてそれをうざった
くも思ったのだが、今は少し後悔している。買い物にもよく行ったのだが母と妹にまかせ
っきりで自分は雑誌を立ち読みしていた。そのツケは「ブラックペッパー(玉)」という
わけの分からない調味料を買うのに十五分もかかっていることで払っていた。シンの視線
を感じたのか女の子がシンのほうを向いた。

「シン!」

女の子がシンに駆け寄ってきた。シンは彼女に見覚えがあった。

(昨日川に落ちた女の子だ!名前は……)
「ステラ。友達か?」

父親らしき男、ネオもシンの方に来た。ネオの顔には大きな向かい傷がある。離れていた
ときはそうも思っていなかったが、近くで見るとかなり大きい。

「うん。川に落ちたときに助けてくれたの」
「へー」

ネオはシンに何かを思っているわけでもないのだろうが、シンは雰囲気に気圧されていた。
ネオがシンをじろじろ見て品定めをされているように感じたからかもしれない。

「は、はじめまして……」
「じゃあ、君があのパーカーの持ち主か。ステラが自分で洗濯するって言い始めたときに
は驚いたよ……今車にあるからかえそう」
「は、はい」
「じゃあ、ステラ。オレは車から取ってくるから見舞いにもってくものを考えとくんだ
ぞ」
「分かった」

ネオはそう言うと店を出て行った。アイス売り場にシンとステラが二人っきりになった。
とりあえずはものを探すしかない。

「アイスがダメなら果物にしようか。お見舞いだったら普通そうだし」
「うん」

二人は果物売り場に移動した。ステラは果物を端から端までなめるように見ている。まる
で初めて果物売り場に来たかのようにはしゃいでいた。シンは何故かそれをほほえましく
感じた。昨日何をしていたのか、ネオは父親なのか、シンは色々ステラに聞きたかったが、
まずは話の流れでお見舞いのことについて聞いてみることにした。

333 名前:31 :2006/06/24(土) 21:45:02 ID:???
「お見舞いって、誰か病気かケガでもしたの?」
「スティングが昨日ケガしたの」
「もしかして、昨日の夜の事件に巻き込まれたの?」

シンの問いかけにステラは黙ってうなづく。体に思わず力が入った。自分だってそれなり
にはがんばったつもりなのだが、それでも犠牲者は出ていた。学校やテレビからはけが人
があまり出なかったと聞かされていてほっとしていただけにショックだった。

「シン?」

ステラの声のトーンが落ちていた。シンの顔つきが険しくなっていたのを見ていたからだ。
目つきが鋭くなり、歯を食いしばっていたのか顔がこわばったまま表情が硬い。

(オレは……)
「どうしたボウズ。深刻な顔をして」

ネオがパーカーを持って帰ってきた。

「スティングがケガしたって言ったら……」
「そうか、だがボウズが気に病むことじゃない。悪いのはあんなことを始めたコーディネ
イターだ」
「……」

シンはただ黙っていることしかできなかった。ネオがシンの様子を見てシンの肩に手をや
った。

「ボウズがなにを気負ってるのかオレには分らないが、若いうちはそうやって色々思い悩
むのも大切なことだ。ま、潰れない程度に頑張るんだな、青少年!」

そう言ってネオはシンの肩を叩いた。

「はい」

シンの表情が幾分か緩んでいた。

「よーし、それでいい。若いやつはそうじゃなくちゃな」

ネオが笑った。

「ところでステラ。見舞いの品は決まったのか?」
「んー、まだ」

334 名前:31 :2006/06/24(土) 21:45:54 ID:???
「おいおい、面会時間過ぎちまうぞ。もういい、見舞い用のセット買っていこう。んじゃ
な。ボウズ」
「シン、またね」
「あ、うん」

そう言い残してネオとステラはスーパーを後にした。シンはステラの買い物に付き合って
いてまだ買い物が終わっていないことを思い出した。あまり遅いと


(あのボウズ、コーディネイターかもな)

車を病院に向かわせながらネオは昨晩のことを思い出していた。血のバレンタインの日に
決起するコーディネイター集団の情報が垂れ込まれて、実際にその通りになった。三人を
前もって派遣していたことが功を奏して本体に合流する前にMS四機を撃墜することに成功
したのだが、捨て身の自爆行為によってスティングが負傷してしまった。自分がその場に
いればそうはさせなかったものを……。

「ネオ、どうしたの?」
「あ、いや、何でもない」

ステラは人一倍他人の感情を過敏に受け取ってしまう。心が読めるというわけはないのだ
ろうが、感受性が高いというべきか、ちょっとした感情の変化までをつぶさに読み取って
しまう。他の二人にもそれぞれ癖があるのだが、ステラと一緒にいるときは気を使う。

「なんでもない。大丈夫だ」

そう口では言ってみるもののステラは終始不安そうな顔をしていた。

病室に着くとドアが開いてすぐにステラはスティングが横たわるベッドに駆け寄った。そ
の姿はまるで飼い主を見つけた子犬のようだった。

「スティング!大丈夫?」

スティングのベッドの傍らにステラはしゃがみこんだ。

「ああ。手術したからもう大丈夫だ」
「ホントに?」
「ああ。だから心配するな」

スティングはそう言ってステラの頭をなでた。

335 名前:31 :2006/06/24(土) 21:46:41 ID:???
「いいとこ見せようと無理しなくてもいいよ。痛いんだろ?」

アウルが言った。スティングが苦笑する。それを見たアウルはスティングがステラにどう
してそう言ったかを悟って黙ってうつむいた。

「お前も心配してくれてるんだな。ありがとよ」

スティングがアウルに言った。そこにネオが割り込んでくる。

「おいおい、お前らだけで勝手に分かり合うなよ。オレが寂しいじゃないか!」
「ってー、オッサン!何オレの見舞いの品食ってるんだよ!」

ネオが果物ナイフを片手に見舞いの品のラッピングをといてメロンを切っていた。

「だってさー、飾ってるよりみんなで食った方がいいだろ?な?」
「だな」

アウルがネオに応える。ステラもメロンをじっと見ている。誰の目から見てももはや体勢
は決していた。

「あーあー、分ったよ。もう勝手に食べろよ」
「そうむくれるな。ミキサー借りてきてきたからお前にはジュースにしてやるよ」
「本当だろうな」
「ああ、本当だ」

皆から自然に笑みがこぼれた。そしてネオはせめて次の調節のときにも今日の記憶くらい
は残しておこうと思っていた。戦いの記憶だけでなく、皆で楽しく過ごした記憶も彼らに
とって大切なものなのだから。


シンはどうにか買い物を終えてカフェ「赤い彗星」に帰ってきた。

「ただいま」
「おかえり」

レイがリビングでテレビを見ていた。デュランダルはまだカフェにいたが、アレックスの
姿が見当たらない。こちらにもアレックスはいなかった。

「アレックスは?」
「墓参りだ。予定がずれて泊まり込みになるから明日の夜まで飯はいらないそうだ」
「そうなんだ」

シンは食材をしまおうと冷蔵庫を開けると作り置きしたロールキャベツが入っていた。ラ
ップの上にメモが置いてある。

336 名前:31 :2006/06/24(土) 21:47:28 ID:???
――鍋にスープが出来てるからこれを入れて煮ること! アレックス

アレックスの書置きだ。

「何だよ。買ってきた意味ないじゃないか」
「どうした」
「アレックスがロールキャベツを作り置きしてた」
「良かったな。作る手間が省ける」
「そうだけど……」

シンは何か納得がいかなかった。作り置きしてくれるなら学校に行くときに教えてくれれ
ばいいことだし、そうすれば全身筋肉痛の体をひきずって買い物に行く必要もなかった。
冷蔵庫に買ったものを収納して、返してもらったパーカーを広げてみた。よく見てみると
粉末洗剤がダマになって所々残っていた。ネオ言った「大変だった」の意味が少し分った
ような気がした。

(タオルも溜まってるし洗濯しとくか)

シンは洗濯機にパーカーを入れてふたを閉じた。


その頃アレックスはプラント地帯の端にあるセプテンベル駅の港口の改札を出てタクシー
を拾っていた。セプテンベルは現在の代表にして国会議員のアイリーン=カナーバのお膝
元でもある。プラント郡の中でも比較的富裕層の住む地域で住宅や公園が多く、治安も安
定しているところだ。

「お客さん、どこまでですか?」
「そうだな。マイウスホテルまで頼む」
「お客さんもファンなんですか?」
「え?」
「いやね、今日はやたらマイウスホテル行きのお客さんが多いもんだからあるお客さんに
聞いてみたんですよ。何か歌手のショーがあるようでして」
「クライン嬢か?」
「あの方はまだ自宅軟禁状態ですよ。もっとも監視付で週に一度は外出もされてますがね。
ああ、でも外出日は今日、明日当たりだからもしかしたらそうかもしれませんね。私の友
人が外出のときの送迎担当でしてね。結構詳しいんですよ」
「……そうか」

本人はサービスのつもりなのかもしれないがこの運転手は相当おしゃべりだ。ここで何か
しゃべればどこに漏れるか分らない。アレックスはホテルまで当たり障りのない話だけを
することにした。

337 名前:31 :2006/06/24(土) 21:48:16 ID:???
タクシーがマイウスホテルに着いた。アレックスは料金を払い、ドアを閉めてホテルを見
上げた。ここは三年前と何も変わっていない。古風な石造りの玄関に回転ドアが三つある。
ドアをくぐると赤じゅうたんが正面の階段に向けてしかれている。大きい吹き抜けは最上
階の20階まで達している。ショーは既に終わったのかロビーには人がまばらにしかいなか
った。アレックスが辺りを眺めていると中央の階段からピンク色の髪の女性が降りてきた。
左側に金色の髪飾りをつけた女性が降りてきていた。アレックスは思わず顔を背けて足早
にフロントに向かった。その挙動がかえって目立ったのか女性はアレックスを見つけた。
そして

「アスラン!」

アレックスに向かって彼女はそう叫んだ。


第七話 おわり

338 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/24(土) 21:55:26 ID:???
GJ!!&乙!!
いよいよミーアの登場ですな。ストーリーにどう絡んでくるか、楽しみです。


339 名前:31 :2006/06/24(土) 22:07:18 ID:???
うわ、見直したはずなのに間違い発見。

×真
○シン

や、ラスト一つ前のやつは

×ネオ言った「大変だった」
○ネオが言った「驚いた」

なんかがあります。自分の校正能力って……。


タイトルが『仮面ライダーSIN』なのにアレックスの話が多いんですが、これは原作の仕
様が原因の部分もあるので勘弁してください。今のところ9話までのメドが立ちました。
今からシンが前面に出てくる感じになります。

340 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/25(日) 02:39:03 ID:???
GJ!
やっとアスランという名前が!
次回楽しみだ
シンとステラのどうなるんかも気になるな…
あとレイに活躍してもらいたいなw

341 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/25(日) 03:26:09 ID:???
GJ!
本編を元にしている割にはシン目立てていると思う

342 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/25(日) 12:21:22 ID:???
・・・えーと、以前ここで駄文を書かせて頂いていた者ですが・・・。



再開してもおK?

343 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/25(日) 13:48:55 ID:???
>>342
待ってましたー!投下してください
>>31
乙!
たまにでてくる新ザフトがなんかいい

344 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/26(月) 01:01:11 ID:???
>>342
どうぞ

345 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/28(水) 09:55:30 ID:???
再開・・・・どの方だろう・・・・・・・・
連載してるのは前スレから数えると5〜6コあるからな・・・・

とにかくwktkしながら待ってます。

346 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/29(木) 00:11:03 ID:mdOjyyyp
そろそろあげます。

347 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/29(木) 02:23:48 ID:???
今更だが
シン・アスカは仮面ライダーV3こと風見志郎と同様
父よ母よ妹よと死んでるんだよね

348 名前:仮面ライダーSEED :2006/06/30(金) 00:49:38 ID:???

「しかし君の生徒シンだったか?・・・なかなかやるね。おかげで僕は実験体を取り逃がしてしまったよ。」
賞賛半分、恨み事半分の言葉を発したバルドフェルドはカチャリと手にしたカップをテーブルに置いた。
辛辣な言葉とは裏腹にその口元はなぜか、楽しげに綻んでいる。
その態度はどう見ても、自分と向かい合って座る青年をからかっている様にしか見えない。
「申し訳ありません・・・。」
一方、青年ーーー、仮面ライダージャスティスことアスランはバルドフェルドの言葉を額面通りに受け取ったのか、
生真面目に頭を下げ、申し訳なさそうな声で謝罪の意を示した。
「く・・・ハッハッハ!!いやさっきのは冗談だ。顔をあげてくれアスラン。」
「・・・はぁ。」
あまりにも素直過ぎる自分の反応に、バルドフェルドがつい堪えきれず吹き出したとは彼には思いつけない。
アスランは狐につままれた様なキョトンとした表情のまま、視線を目の前の男に向け直す。
「まぁ・・・指示は先ほど言った通り、逃走した実験体の捕獲。ならびに障害となる存在の排除さ。
ライダーが出張ってるとはいえ、わざわざ君にやって貰う程の事でもないとは思うんだがねぇ。」
「いえ、任務は任務です。お任せ下さい。」
ここは秘密結社ザフト内部にあるバルドフェルドの執務室。
仮面ライダーインパルスとバルドフェルドが対峙して、既に三時間もの時間が経過していた。
そこで再び組織のライダーであるアスランに出動の要請が下ったのである。


349 名前:仮面ライダーSEED :2006/06/30(金) 00:51:44 ID:???

「いい返事だ、結構結構・・・そうだ今回は助っ人を用意してある。ダコスタ君・・・通してくれ。」
バルドフェルドはアスランの言葉を受け、ドアの向こうで控えていた副官へ案内に入って来るよう声をかけた。
・・・ガチャリ、という扉が開く音とともにバルドフェルドの副官ダコスタともう一人神経質そうな面持ちをした青年が入室してきた。
「アスラン・ザラだ・・・よろしく頼む。」
「マーレです、お噂はかねがね・・・ジャスティスの力を見る事が出来るとは幸いです。」
向き合い、にこやかな表情で短い挨拶を交わす二人の背にバルドフェルドが軽口を飛ばした。
「紹介しようアスラン、今回君に同行するマーレ・ストロードだ・・・逃走した実験体のゲイツの完成型の能力を有している。
彼はインパルスにかなりお熱でねぇ・・・まぁ足手まといにはならんだろうから、うまく使ってやってくれ。」
!?
その瞬間、マーレの表情がギリッと悔しげに歪むのをアスランは目にした。
「隊長、お言葉ですが・・・あのベルトは本来ならば彼が装着する予定だったものですよ?」
「ん・・・そういやそうだったか?」
漫才じみた会話を取り交わすダコスタ、バルドフェルドの二人をよそに
マーレは近くのアスランにだけ聞こえる様な声量で、彼を小馬鹿にするように小さく呟いた。
「アスランさん・・・アンタは何もしてくれなくて構いませんよ、アイツは・・・インパルスはオレの獲物ですから。」
「・・・!? 君は一体、何をーーー、」
「話は済んだようだな・・・ではアスラン、マーレ。直ちに急行してくれ。」
「ハッ、了解です!!」
・・・マーレ・ストロード、妙な男だ。
マーレの急激な変化にアスランは疑問を口にしようとしたが、バルドフェルドの指示に阻まれその心境を知る事は適わなかった。


350 名前:仮面ライダーSEED :2006/06/30(金) 00:53:00 ID:???

ドォン・・・とどこかで鳴り渡った砲火の音が鼓膜を小さく震わせる。
その物騒な音は遙か彼方、蜃気楼に揺らめく砂丘の向こうから聞こえてきた。
サァァァ・・・。
緩やかな丘の斜面を吹き抜けた風が砂粒を巻き上げ、青空に薄い黄金色のヴェールを織り成す。
ドォォン・・・。
束の間、僅かな耳鳴りと供に訪れた静寂を今一度、鳴り響いた砲火が打ち破る。
それに続く様に、今度はバラバラという間の抜けた銃声が空へ駆け抜けていった。
そう・・・ここは戦場。
僅かに揺らめく命の炎が一瞬で眩しく燃え上がり、次の瞬間には儚くきえている・・・そんな場所だった。

遙か向こうに砂丘を睨む一角に物々しい兵士の一団が待機していた。
多少の差こそあれ、緊張の色をその表情に浮かべている彼らの中で・・・我関せずといった具合にリラックスした様子の男がいた。
周りの仲間達が戦場特有のストレスに苛立つなか、彼一人だけはそんなものと無縁であるかの様に見えた。

『緑成す岸部ーーー、美しい夜明けをーーー♪』
彼はーーー、砂埃に塗れた水色の髪の合間に覗くヘッドフォンから漏れ聞こえる伸びやかな女生の歌声に目を閉じ、耳を澄まし続けている。
その表情は場に似合わず、穏やかそのものと言えた。


351 名前:仮面ライダーSEED :2006/06/30(金) 00:53:55 ID:???

「どうだい、調子は?」
耳に流れ込むメロディに合わせ、指で小気味よいリズムをとる青年に声をかけてきた男がいた。
肩に構えた無骨なライフルと対照的なその顔立ちは美しく整っていて、見る者に優男な雰囲気を与える。
「・・・イライジャか、何だ?」
イライジャと言うらしい男は返事を返す事なく、小さく微笑むと
コーヒーが注がれたマグカップを取り出し、気さくに勧めてきた。
青年は湯気をあげるカップの内側に一瞬、目を走らせると手を伸ばし、中の液体をズズ・・・と啜る。
「この間の事をまだ気にしてるなら・・・もう忘れた方がいいって。
それよりも今は次の戦いに集中するべきだ。」
イライジャはさして美味くもなさそうにコーヒーを飲む青年に励ましの言葉をかけた。
しかし、考え事をしていた彼の耳には届いてはいない。
彼の心中をよぎる出来事・・・それは彼ら傭兵部隊のキャンプで起こった、ある事件の事だった。
卑劣にも子供を使ったテロ攻撃が発生・・・青年はその時、胸に爆弾を抱いた子供が自分の目の前で
木っ端微塵になるのを目撃していた。
それ以来・・・彼は戦うという行為、戦争というものに嫌悪感を抱いていた。
『イライジャ、俺はもう疲れてしまったよ・・・。』
青年はーーー、いや紅い戦闘服に身を包んだ名高き傭兵、グゥド・ヴェイアは目の前の戦友に、このあと自分が戦場を離れようと考えている事を
どう切り出すべきか、しきりに考えているのだった・・・。


352 名前:仮面ライダーSEED :2006/06/30(金) 00:59:09 ID:???

「ハァハァ・・・うぐ、すまないイライーーー、」
ガァァーッ、ガタンゴトン・・・ガタンゴトン!!
悪夢にうなされているのか、苦しそうに喘ぐヴェイアは誰かの名を弱々しく呟く。
その声はしかし、途中で高架上を走る列車の音に阻まれ、最後まで聞き取る事が出来なかった。
「アンタもあいつらに傷つけられた一人か・・・似たモン同士かもな、俺ら。」
薄汚れた柱に身を預け、浅い眠りについているヴェイアを横目にシンはポツリと呟いた。
シンはついて来ようとする金髪の少女をどうにか捲きながら、ふらつくヴェイアに肩を貸しここまで逃げ延びてきたのである。
今はようやく一息つこうと腰を下ろし、体を休めている最中であった。
「・・・マユ。」
ヴェイアに背を向けたシンは手にした桜色の携帯を開くと、死んでしまった筈の妹の名を小さく口にする。
古びた携帯の待ち受け画面に映っているのは・・・彼の最愛の妹、マユの在りし日の姿だった。
彼女は常に変わる事なく愛くるしい満面の笑みを浮かべ、こちらを見つめている。
「マユ、俺みたいな奴がいたよ・・・どう思う?」
その絶対に変わる事ない表情はシンにとって安らぎであり・・・また悲しみと怒りの根元であった。
「家族・・・か?」
不意に聞こえてきた声にシンはビクリと身を震わせた。
反射的に背後を振り返る・・・。
気恥ずかしさと緊張に強ばる視線の先では目を覚まし、脂汗に塗れた顔のヴェイアが自分に視線を送ってきていた。
「アンタ、盗み聞きは良くないぜ。起きたんならちゃんと知らせろよ!!」
「起きた瞬間に君が呟いているのが耳に入ったものだから・・・すまなかった。」
「・・・うぐ。」
逆ギレ気味の自分の言葉をあっさり流され、シンは唸るしかなかった。


353 名前:仮面ライダーSEED :2006/06/30(金) 01:01:00 ID:???
ちぇっ、何かいけ好かないヤツ・・・ザフトに追われてなかったら助けないんだけどなぁ。
「ところで・・・頼みがあるんだ、えぇと・・・すまない。君の名前を聞かせてくれないか?」
「え、あぁ・・・シンだよ。俺はシン・アスカ。
で、頼みって?言っとくけど・・・金ならないかんね。」
自身の秘密を知られ、ヘソを曲げてしまったシンに何事かを頼み込もうとしていた。
その思い詰めた様な瞳は、彼の気持ちがいかに真剣か物語っいる。
「シン・・・君も見た通り、私はザフトの改造人間だ。
数年前、瀕死の重傷にあった私を彼らは回収。そして・・・この身に改造手術を施したのだ。」
他人事ではない彼の過去にシンは苦悶の表情を浮かべ、無言を貫く事でその先を促してやった。
「戦闘状態に陥ると、私は・・・自分で自分を抑える事が出来なくなる。
目の前の存在、全てを破壊し尽くす殺戮機械になってしまうのだ。
・・・このままではいつの日か罪なき人をこの手で殺めてしまうかもしれない。」
確かにありゃあ、正気な様子だとはとても思えないよなぁ・・・。
シンの脳裏に先ほどの光景が蘇るーーー、あの野獣の様な動きはたった今、語られた告白の内容に相違なかった。
ヴェイアはそんなシンの様子を肯定と受け取ったのか・・・意を決し衝撃的な要求を口にする。
「だからシンーーー、いや仮面ライダーインパルス。
頼む、君の手で私を葬ってくれ・・・。」




354 名前:仮面ライダーSEED :2006/06/30(金) 01:03:11 ID:???

「ここが・・・アイツの住んでいる場所か。」
シンが身を寄せる喫茶店、赤い彗星を目の当たりにしアスランがポツリと呟く。
『私は準備がありますもので少し遅れます・・・先に向かっていて貰えませんか?場所はーーー、』
マーレ曰く、シンと脱走した実験体はここに隠れ潜んでいるらしかった。
彼が来る前に…アイツを説き伏せれられればいいんだが。
アスランは有り得ない希望を一瞬、心に浮かべると店の手前に乗ってきたファトゥムを停め、
店内に入ろうとドアノブに手を伸ばそうとした・・・と、
ガチャッ!!
「あ、いらっしゃーい。」
アスランが店に入ろうとした瞬間、中からエプロン姿の少女が現れた。
ゴミを出そうと両手にパンパンに中身のつまったビニール袋がさげられている。
艶やかな赤毛をツインテールに結わえた彼女はアスランを席に案内すると、カウンターの奥にいる人物に声をかけた。
「おねーちゃーん、お客さんだよ!!」
「もうメイリンったら。そんな声出さないでよ、恥ずかしいじゃない。」
返ってきた声は活発そうな、これも少女の声だった。
やがてドタバタした足音とともにその人物が姿を現す。
「ごめんなさい、今マスター出かけちゃってて簡単なものし・・・あーっ!?」

「君は・・・確かルナマーーー、」
「やだァ、あたしの名前覚えててくれたんですねぇー。」
そこにはこの間、シンとの戦いのあとに公園で出会った少女、ルナマリアがいた。
両者は思いがけない出会いに軽い挨拶を交わす。
ジーッ。
?・・・俺の顔に何かついてるのか?
妙に長い間のなか、注文をとるでもなく、彼女はまじまじとアスランの顔を見つめていた。
その熱い眼差しにつられ、彼の頬が自然と赤くなっていく。
「え、何ナニ?お姉ちゃんこの人と知り合いなの?」
「ふふん、まーねー。」
不意にメイリンと呼ばれた少女が見つめ合う両者に割って入った。
アスランは目の前でやかましく騒ぐ赤毛の姉妹にややげんなりしつつも、ここへ来た用向きを口にする。
「えぇと・・・すまない君たち、シンはいないか?」
「えっ、シンですか?店に戻る途中で別れたっきりですけど・・・?」
頬を膨らましながら、じゃれつく妹をいなしがらルナマリアが彼の疑問に答えてくれた。
・・・どういう事だ?
ここにいる筈のシンが・・・何故かいない。
この不自然な状況にアスランはジワジワとした嫌なモノを感じていた。


355 名前:ガノタ仮面 ◆OyaGOupcFw :2006/06/30(金) 01:17:59 ID:???

┃柱┃・`)



┃柱┃・`)・・・。



┃柱┃ω・`)ノシ


お久鰤っす・・・前スレに投下してから早、3ヶ月が経過して今更ですがようやく投下しますた。
復帰第一回目にも関わらずバトルなしなのは何卒、ご容赦をw


・・・社会人やってるとどうも文章作る時間がーーー、
というのは・・・投下していらっしゃる他の職人さん達に失礼ですね('A`)ウボァ

これからは月2くらいのペースで投下してけたら・・・と思ってます。

では、また次回。


356 名前:31 :2006/06/30(金) 06:14:31 ID:???
>>ガノタ仮面氏
オカエリナサλ(ネタが古いか……)
過去ログ漁って話をもう一度読み返してから読ませていただきます。


当方は……土曜日までにはアップできるように頑張りたいとは思います。
状況描写力がもっとあれば早く書けるんだけどなぁと思う今日この頃です。

357 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/30(金) 09:01:25 ID:???
おお、ガノタ仮面ひさしぶり!
俺も前の話ちょっと忘れかけてたんで、過去ログと合わせて読んだよ
イライジャも出てきたか……シン達にはかかわるのかな?

ところで、「ーーー」じゃなくて「──」の方が良くないか

358 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/30(金) 09:14:49 ID:???
ガノタ仮面氏初めまして
このスレから読ませてもらっています
でも過去ログは読んだんで
ヴェイアとシンの会話は泣ける(ノД`)゜.・。
GJ!
まぁ仕事の方を優先してゆっくり投下してください
スレは落としませんからw

359 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/06/30(金) 09:29:02 ID:???
ガノタ仮面様お久しぶりです
相変わらずGJです

360 名前:1/16 :2006/06/30(金) 22:38:39 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)

第四話


「どういうことですか、これは!」
ディアッカとともに呼び出しを受けたイザークは、入室していきなり警備部長に詰め寄り、
机に両手を叩きつけ叫んだ。
ZAFTは機動隊と同様、警備部の管轄となっている。
つまり、警備部の部長であるアデスはイザークにとって単なる上司ではなく、ZAFTの
責任者でもある。
そんな相手にこんな暴挙を振るうことなど、警察機構の一員として、とても許されること
ではない。その程度、イザークにもよく分かっている。

しかし、今回はそうせずにはいられなかった。あまりに理不尽な命令であると感じたから
だ。
イザークたちがアーモリーワンに召喚されて一週間、彼らは初日に目撃した三体のMSと
インパルスについての事を中心に捜査し続けていたが、大した成果はあげられなかった。
今はまだのようだが、次の犠牲者がいつ出てもおかしくはない。
そんな中、本庁に呼び戻されたのだ。
つまり、捜査を中断させられた事になる。しかも、放っておけば再び犠牲者が出る可能性
のあるものを、だ。
警官として、到底許容できることではない。

アデスもそれを分かっているからこそ、非礼を咎めるようなことをしなかったのだろう。
「少し落ち着け」
「そうだぜ、ちょっとカッカしすぎなんじゃないの」
「これが落ち着いていられるか!手がかりもまだ見つかってはいない。
奴らが野放しのままなのだぞ!」
ディアッカがたしなめるが、イザークの勢いは止まらない。
アデスは、机の引き出しから一枚の写真を取り出し、イザークの前に置いた。
「これを見ろ」
「こんな写真が、……これは!?」
かなり不鮮明なものだが、そこには、緑と青、二体のMSが写しだされていた。
そのうちの一体は、四年前にも確認されたMS、ゲイツによく似ていたが、もう一体、青
い方のMSは、つい一週間前に目撃したばかりのものだ。


361 名前:2/16 :2006/06/30(金) 22:40:49 ID:???
「インパルス……!」
「目撃者の証言によれば、緑色の方、コードネーム――ゲイツRはこの青いMSと交戦し、
撃破されたそうだ。お前たちはアーモリーワンでこいつを目撃したそうだな」
「わざわざ俺たちが呼び出されたってのはこのせいかよ」
その写真を見ながらディアッカが呟いた。アデスは首を横に振り、続けた。
「それだけではない。写真こそないが、各地でそれらしい目撃情報が相次いでいる。もち
ろん、その全てが信用できるわけではないが、中には本物もあるかもしれん」
「MSが現れたのは、アーモリーワンだけではないと?」
「ああ。少なくとも、この青いMS、インパルスといったか?」
「はい。われわれの目の前でそう名乗りました」
「そのインパルスがこちらに現れた、というのは間違いない。ゲイツRを撃破したとはい
え、われわれ人間の敵ではないとは言い切れん」

そこで、アデスは一旦言葉を切った。イザークたちの様子を確認しているようだ。
イザークはもとより、ディアッカもその表情を引き締めている。
「再びMSが出現した理由はいまだ持って不明だ。しかし、やつらが市民を襲うのなら、
われわれは戦わなくてはならない。事態を重く見た上層部は、ZAFTの再編を決定した」
「再編?」
「装備の拡充、人員の増員、指令系統の改善等を含めた、ZAFTの組織の大幅な規模拡
大だ。既に志願者を集め、訓練を開始している」

アデスのもとで話を聞いた二人は、警備部長室を出た。
「どう思うよ、イザーク」
「ZAFTの規模拡大のことか?大したものじゃないか」
「だけどよ……」
「黙っていろ!」

ディアッカの言いたいことはイザークも分かっている。
MSが確認されたのはつい一週間前のことだ。それにもかかわらず、規模拡大を決定、既
に志願者を集めて訓練まで開始しているのだ。
以前のZAFT設立の際は、相当もめて時間がかかった。
だが、今回は確認されてすぐに、だ。
この迅速すぎる対応は、あまりに不自然だった。


362 名前:3/16 :2006/06/30(金) 22:43:01 ID:???
「とにかく、ZAFTの再編は必要なものだ。早すぎて文句を言ういわれなどない!」
その言い方は、まるで自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「へいへい。ところで、これからどうする?」
「決まっている!現場に行って、それから聞き込みだ!」

「ごちそうさま」
ルナマリアが食器を置き、シンに言った。
「シンって料理できたんだね。知らなかった」
まだ食べている最中のメイリンが意外そうに言った。
アカデミー高等部では同じクラスだったのに知らなかったのが意外だったのだろうか。
「一人暮らしが長いし……、それに子供の頃からよくつくってたから。簡単なものなら何
とか」
オーブにいた頃は、両親は家を留守にしがちだったため、マユと二人で家事をしていた。
料理はマユが上手かったが、シンもそれなりにはこなせた。
そのおかげで、一人暮らしをはじめてもほとんど困ることはなかった。

「お〜い」
ふと気がつくと、ルナマリアが目の前で手をひらひらさせていた。
どうやら、少しぼうっとしていたらしい。
「どうかしたの?突然」
「ごめん、ちょっと昔のこと思い出してた」
「昔?そういえば、シンの昔の話って聞いたことなかったわね。確か、オーブに住んでた
んだっけ」
ルナにもメイリンにも、レイにさえオーブにいた頃の話はした事がない。
「あまり、面白い話じゃないよ。それより……」

シンは、やや強引だが話を変えた。
「どうして俺がルナたちの飯まで作ってんだ?」
それも今日だけではない。シンがこの家に来てからもう三日経つが、どういうわけかルナ
マリアは毎日この家に入り浸っていた。それも、朝食前から夕食後まで。
おかげで、家事を担当しているシンはルナマリア、メイリンも来ているときにはメイリン
の分まで食事を作らされる羽目になった。
シンが文句を言うのも当然のことであろう。


363 名前:4/16 :2006/06/30(金) 22:47:34 ID:???
だが、ルナマリアは全く悪びれた風もなく言った。
「だって、食事は大勢で食べた方がおいしいでしょ?」
「……理由になってないぞ、それ」
シンが呆れて言うが、ルナマリアは全く気にしていなかった。
レイは、そんな二人のやり取りを見てかすかに微笑っているようだった。
やっと食べ終えたメイリンは、そんなレイの様子に気付いて話しかけた。
「レイ、なんか楽しそうだね」
「そうか?」
「うん、そう見えるよ。食器片付けとくね」
メイリンは自分の分だけでなく、テーブルの上においてあった食器を全部流しへ持ってい
こうとしたが、数が多くて持ちきれない。

シンはルナマリアとの口論を中断して、片づけを手伝った。
ルナもせめてこれくらいの気遣いが出来ればなあ。
自分から手伝いをするメイリンと、さも当然のように席に居座るルナマリア。
二人を見比べて、シンはそう思わずにはいられなかった。

「それにしても、本当、気持ちいいわね」
ソファーにもたれかかりながらテレビを見ているルナマリアが言った。見るからにリラッ
クスしている。もはや、ここが他人の家だということを忘れているとしか思えない。
「だが、いくらなんでも入り浸りすぎだろう。家はどうした?」
同じくリビングでくつろいでいるレイが言った。
今シンは食器を洗っており、メイリンもそれを手伝っているので、リビングにはこの二人
しかいない。

「家、ねえ。別に何もないけど、面白くないのよ」
ルナマリアとメイリンが住んでいる寮は、男子禁制の女子寮だ。
他の住人たちは、俗に言うお嬢様学校に通っているのが多く、とてもじゃないがルナマリ
アたちとは話が合わない。それに、寮母が口うるさいので、なかなかゆっくりできないの
だ。
それに比べれば、他人の家とはいえレイの家のほうがゆっくりと落ち着け、くつろげる。


364 名前:5/16 :2006/06/30(金) 22:49:57 ID:???
「ところでレイ、ちょっといい?」
突然、ルナマリアが声を潜めて言った。あまり言いたくない話なのか、眉間にしわがよっ
ている。
メイリン、それともシンに聞かれたくない話なのか?
ちらちらと台所の方を見ていることから、レイはそう予想した。
「何だ?」
「シン、何かあったの?」
予想通り、シンの話だった。ルナマリアがなぜそんな事を言い出したのか、その理由もお
そらくレイの知っていることだろうが、聞いておかなければならない。
「なぜ、そう思う?」
「だってシン、最近、なんか雰囲気が変わったような気がしない?……」
ルナマリアにしてははっきりしない言い方だ。だが、なんとなく感じているだけで本当に
分からないのだろう。
それはおそらく、変身して戦うようになったせいだろう。レイは理由を知っているせいか、
そんな微かな違いには気付かなかったが、逆に事情を知らないルナマリアの方が、違和感
に気付いていた。

さっきは冗談めかした事を言っていたが、ルナマリアがこうもこの家に入り浸っているの
は、それが気になっていたのかもしれないな。
レイは思ったが、だからといって本当の事を言うわけにもいかない。
「そんなことはないだろう。俺は気付かなかった」
「そう、かな」
ルナマリアは半信半疑どころかほとんど信用していないようだったが、レイは構わずに続
けた。
「ああ、シンはシンのままだ。何も変わってはいない」
「……そうよね。シンは、シンよね」
それはレイに、というよりも自分に向けて言っているようであった。

すぐにルナマリアはいつもの調子を取り戻した。
安心する一方、レイには別の悩みもあった。
いつまで経っても家をきれいにできないことだ。
仮にも客の前で大掃除をするわけにはいかない。仕方がないのでルナマリアが帰った後な
どにしているのだが、何分暗く、夜遅いので全然進まない。
特に庭などは日中でなければ草木の剪定はおろか、掃き掃除すらできない。
おかげで、この家はいまだお化け屋敷の様相から抜け出せずにいた。

せっかくギルに管理を任されたというのにこれでは……。
レイはため息をついた。ルナマリアはそれに気付き、声をかけた。
「何よレイ、心配事でもあるの?」
「いや、そんなものはない。だが、困っているのは確かだ」
この際だ。ルナマリアにはお引取り願おう。
レイはそう思ってルナマリアに事情を話した。


365 名前:6/16 :2006/06/30(金) 22:53:34 ID:???
「何だ、そんなことだったの。それなら早く言ってくれれば良かったのに」
レイの話を聞いたルナマリアは、納得してくれたようだ。
「ああ、すまないが……」
帰ってくれないか。そう続けようとしたレイの言葉を、ルナマリアは遮った。
「水臭いじゃない。私たちも手伝うわよ」
「……いいのか?」
ルナマリアの言葉に多少驚きはしたが、納得もした。ルナマリアならこういう事を言って
もなんら不自然ではない。レイの確認にもルナマリアは快くうなずいた。
「もちろんよ。メイリンにも手伝ってもらうとして……、四人か……。ちょっと少ないか
な。この家広いし」

この家は、もとは別荘だったのを改装したものだ。確かに普通の一軒家に比べれば多少は
大きいが、豪邸や屋敷というには程遠い。庭はかなり広いが、家自体はそれなりの大きさ
しかない。それでも改装の際にはデュランダルも口を出しただけに、とても過ごしやす
い、いい家だ。
デュランダル自身いくつも家を持っているが、この家はかなり気に入っていた。
それだけにレイは、一刻も早くこの家をきれいにしたかった。
ルナマリアの申し出はありがたいのだが、多少悪い気もする。
「そうだ、こういうときは友達よね」
ルナマリアはそんなレイにも構わずに携帯電話をかけた。

「お前たちまで呼び出してしまうとは……」
ルナマリアに呼び出されたヨウランとヴィーノに、レイは頭を下げた。
だが、二人は全く気にしていない様子だ。
「気にすんなよ?」
「そうそう、今日はどうせ暇だったしね」
既にシンたちは室内の掃除を始めている。玄関で二人を出迎えたレイの後ろでは、部屋か
らシンが家具を運び出していた。
「お〜い、誰かちょっと手伝ってくれよ。タンスは一人じゃ無理だ」
「おう、すぐ行く!」
ヨウランがシンを手伝いに行こうとしたが、レイはそれを手で制した。
「何だ?」
「ヨウランたちには別のところをやってもらいたいのだが、頼めるか」
「別のところ?」
怪訝そうな顔をしてヴィーノが聞いた。
「ああ。そこはヨウランたちにしかできないだろう」
「構わないぜ。俺たちは手伝いに来たんだからな」
「そうか、助かる」


366 名前:7/16 :2006/06/30(金) 22:55:24 ID:???
「で、屋根の修理か」
「俺たちにしかできないって……」
ヴィーノは屋根の上で頭をうなだれた。
「ま、仕方ねえよな。俺たち工業科なんだし」
ヨウランは何かを悟ったような表情をしていた。以前からよくこういう事を任されてきた
ので、既に慣れきっているのだろう。

アカデミーは中等部、高等部、そして大学に分かれている。
シンは高等部から入学し、そこでルナマリアたちと知り合い、仲良くなったのだ。
大学まで行くとさまざまな学部に分かれるが、高等部は普通科と工業科の二つだけだ。
シンたち四人は普通科で、ヨウラン、ヴィーノが工業科だ。
ただ、分けられているといっても校舎は同じで授業も合同で行われることも多く、大した
違いはない。

「そりゃ、そうだけど。金槌ある?」
「ほらよ。どうしたんだ、いつまでも。彼女と約束でもあったのか?」
「アホ、そんなんいないよ。どうしておまえっていつもそっちへもっていくわけ?」
喋りながらも、二人は手を休めることはなかった。屋根は徐々に修復されていく。

「そういや、お前気付いた?」
「え?何に?」
ヨウランが唐突に言った。ヴィーノは質問の意味が分からず、呆然とする。
「シンの事だけどさ。なんか変わったような気ぃしねえ?」
「シンがあ?どんな風に?」
「旅行から帰ってきてからさあ、そんな気がすんだよな」
それは、ルナマリアが感じていたものと同じものだったが、そんなことは知る由もない。
「言われてみれば……」
心当たりはあった。今日見たときも、いつもどおりのシンだったはずだが、何かが違って
見えた。
「そういえば、旅行中一人でどっか行ってたけど、そのせいかな」
「ああ、レイはオーブへ行ったようなこと言ってたな。きっとそんときになんかあったん
じゃね」
ヨウランは口に出していい、ヴィーノもそれで納得した。
彼らの知っていることでは、そこまでの推測が限度だった。


367 名前:8/16 :2006/06/30(金) 22:57:21 ID:???
「何があったか、聞いとこうか?」
「やめとけよ。下手なこといってぶん殴られても知らねえぞ」
シンがこちらに来たばかりの頃、ヨウランはシンの携帯電話が少女趣味だとからかい、け
んかになったことがあった。それがきっかけで今はこのようにつるんでいるのだから、世
の中不思議なものだ。
「じゃあ、レイにでも聞くかぁ」
ヴィーノはそう呟き、ヨウランも「ま、それしかないだろうな」といった感じで首を振り、
ヴィーノの手元を見てあわてて言った。
「おい、そこ違うぜ」
「うわ、マジィ!?」

警察でアデスと話をした後、二人はすぐに聞き込みに出た。
しかし、全くといっていいほど成果は上がらなかった。
インパルスはおろか、MSに関する目撃情報も全くない。現に今話を聞いていた若い主婦
も、その時には何もなかったという話だ。
「ご協力感謝します。何か思い出したら、ご連絡ください」
イザークは名刺を渡し、主婦を帰した。その後ろでディアッカは、ため息をつくように言
った。
「やっぱ、収穫なしか」
「馬鹿者!そう簡単に手がかりが見つかるか!」
そういうイザーク自身、かなりいらだっていることが分かる。無理もない。
アーモリーワンからずっと、有力な手がかりは見つかっていないのだ。
特にインパルスに関しては、あの写真以外に目撃証言すらない。それにしたって、匿名で
署に送付されたものであるため、撮った人間に話を聞くことすらできない。

「そりゃそうだけどよ。こうまで手がかりがないんじゃな。こうなってくるとあの写真だ
って怪しくなってくるぜ」
「この程度で音を上げおって!そんなことで警察が勤まるか!」
「だけどよ、このまま当てもなく聞き込みってのもなあ。そういえば、この辺だったな」
なおも文句を言おうとしていたディアッカは、ふと何かに気付いたように頭を上げた。
カリカリしているイザークは、ディアッカを怒鳴りつけた。
「何がだ!」
「ほら、前のMS事件のときに協力してもらったあの先生だよ。何つったっけ」
「デュランダル教授のことか?」


368 名前:9/16 :2006/06/30(金) 23:00:07 ID:???
かつて、一連のMS事件の際、あまりに前例の無い出来事であったため、各界の専門家に
協力を頼んだ。
生命工学の専門家、特に遺伝子に関しては世界でも有数の研究者でもあるアカデミーの客
員教授、ギルバート・デュランダルには時の警視総監と知り合いであったこともあって、
多大な協力を仰いだ。彼の貢献が、MSへの対策に大きな影響を与えたことは疑う余地は
ない。
その時期、イザークたちは何度か彼の自宅にも訪れている。
「そうそう。確かこの辺に住んでたよな」
「デュランダル教授は海外で、あの家は今は空き家だ。それくらいのことは貴様も知って
いるだろう!」
「あの辺りも聞き込みの範囲内だぜ。予定を変更して少し見に行ってみねえか?」
「ふん、すぐ近くだからな。まあいいだろう」
少し考えたイザークは意外にあっさり承諾した。彼も疲れていたに違いない。
あの辺りには学生寮が多いので、安い食堂もある。休憩にはちょうどいい場所だ。

「おい、あれ見ろよ」
「何だ」
ディアッカはギルバートの家の屋根を差した。その先には、誰か人の姿が見える。
「泥棒か?いや、違うな。誰か居るのか?」
屋根だけでなく、家の中にも人の気配があるようだ。イザークはインターホンを押し、
返事のないまま門に手をかける。門には鍵がかかっていなかった。

突然、家の中に奇妙な音楽が鳴り響いた。
シンもルナマリアもメイリンも、何事かと驚く。
「シン、客だ」
何のことはない。ただのインターホンだった。レイは今手が離せないので、シンがモップ
を置いて玄関に向かった。
玄関のベルが鳴った。門のインターホンは音楽、玄関はただのベルのようだ。
さらに、ベルが連続してけたたましく鳴った。
誰だ?随分気の短い奴だな。
そう思いつつ、シンはドアを開けた。
「すみません、待たせてしまって……」
シンは目の前の人物、イザークと顔を合わせた。
二人は一瞬沈黙した後、揃って大声をあげた。
「貴様、なんでこんなところに居る!」
「あんたこそ、何の用だよ!」


369 名前:10/16 :2006/06/30(金) 23:01:54 ID:???
「そうでしたか。デュランダル教授は……」
イザークたちはリビングに通され、レイと話していた。デゥランダル教授のことはイザー
クも尊敬していたので、その養子であるレイにも敬語を使っている。
リビングは真っ先に清掃したため、何とかお客を通すことができた。
「ええ。ギルバートはまだ海外です。お役に立てなくて申し訳ありません」
「いえ、こちらこそこんなときに押しかけてしまって……」
イザークは部屋を見渡してから言った。この部屋はもう終わっているのかきれいだったが、
時々大きな物音がする。大掃除の最中だ。邪魔以外の何者でもないだろう。
「お、悪いねえ」
エプロンを着たメイリンが二人の前に紅茶を差し出した。ディアッカが茶化すように礼を
言う。
イザークは失礼な同僚の足を踏みつけた。
「イテッ!」
「あの、何か……?」
ディアッカの突然の奇声に、メイリンはびくっと体を震わせた。イザークはこともなげに
言った。
「何でもない。こいつのことは放っておけ」
「はあ……」

「ハァ〜、いいわね。メイリンは」
シンと一緒に、二階の廊下をモップ掛けしていたルナマリアは呟いた。
「何で?」
「お客が来たからって、なんでメイリンがもてなすのよ」
「そりゃ……」
メイリンは料理もできるし、紅茶入れるのもうまいし、人当たりもいいし。それにルナの
方が力あるし。
シンはそう思ったが、後が怖いので口には出せなかった。
「そりゃ、何よ?」
ルナマリアの追求に、シンは慌てて言った。
「いやさ、あの刑事さん結構短気だったし、その相手するのも大変だって!掃除の方が楽
だよ、きっと!」
「そうかしらね。ってシン、あの刑事さんと知り合いなの?」
「そういうわけじゃないけど。前に旅行で一人になったときにいろいろ聞かれた」
「ふ〜ん。でも、何でこっちにいるのかしらね」
「さあ?出張かなんかじゃないの」


370 名前:11/16 :2006/06/30(金) 23:04:33 ID:???
「本日はありがとうございました。長居もご迷惑でしょうから、これで」
「待ってください。もしよろしければ、昼食を摂っていかれませんか?」
イザークは立ち上がり、帰ろうとしたが、レイはそれを引き止めた。今後のために、MS
の事を少しでも聞いておきたかったからだ。
「お気持ちはうれしいのですが……」
「レイ〜!チャーハンでいいよね!」
イザークは断ろうとしたが、その途中で台所から昼食の用意をして
いるメイリンの声が割り込んだ。
それを聞いた瞬間、先ほどまで黙っていたディアッカが口を開いた。
「……イザーク、断るのも悪いぜ。せっかくだからご馳走にならねえか?」
「ディアッカ、貴様!」
ディアッカはイザークを無視してレイに話しかけた。
「作ってもらうだけってのも悪いな。俺も手伝うぜ。台所は向こうか?」
「はい」
「じゃ、ちょっと台所借りるぜ」
「待ってください。お客につくってもらう訳には……」
「気にしない気にしない。グゥレイトなチャーハン食わせてやるぜ」
あっけにとられたレイと、怒鳴っているイザークを無視して、ディアッカは台所に入って
いった。

シンたちは一旦リビングに集められた。昼休みだそうだ。
遅い昼食に、チャーハンがテーブルに置かれている。テーブルにはレイの他に、二人の刑
事も座っていた。
シンは意外に思ったが、この家の持ち主のレイの許したことだ。文句を言う筋合いはない。
テーブルは四人がけなので、先にレイが呼びに行ったのだろうか、余ったヨウランたちは
ソファーに座っている。シンとルナマリアも自分の分の皿をもらい、ソファーに座った。

「あ、おいしい。メイリン、腕上げた?」
「本当だ。味付けが随分変わったけど、うまいよ」
ルナマリアとヴィーノが口々に感想を言った。褒められたはずのメイリンは、なぜか渋い
顔をして、こう言った。
「……これ、私が作ったんじゃないよ」
「え?じゃあ、誰が?」
メイリンは黙ったままだったが、答えはすぐに分かった。
「貴様!またこれか!」
「うまいだろ」
「貴様はこれ以外つくれんのか!」


371 名前:12/16 :2006/06/30(金) 23:06:18 ID:???
二人の刑事が言い争いをしている。それを見て、ヴィーノは恐る恐るメイリンに尋ねた。
「ひょっとして……」
「あの刑事さんがいきなり台所に入ってきて……私がしたのは皿運びとかそんなんだけ」
「へぇ〜、あの人がねぇ」
ルナマリアがあっけにとられたような顔で、いまだ言い争いをしているディアッカたちの
ほうを見た。
ディアッカという刑事の得意料理はチャーハン、というよりそれしか作れないらしい。
世の中には面白い人がいるのね。
ルナマリアがそう思って見ていると、突然銀髪の方の刑事が懐から携帯電話を取り出した。
着信のようだ。

「なんだ!……何!……奴らか!分かった、すぐ行く!」
イザークは携帯電話をしまい、ディアッカの首根っこを掴んで、引っ張った。
「何すんだよ」
「黙れ、奴らだ!急げ!」
ディアッカはその言葉に顔色を変え、立ち上がった。
皿に残ったチャーハンを少し名残惜しそうに見ていたが、それも束の間、ディアッカはイ
ザークに続いて、リビングを飛び出していった。

「なんか、騒がしい人たちだったわね」
メイリンがぽつりと言った。それには、リビングの全員が心の中で同意した。
必然的に、彼らの話題の中心は先ほどの刑事たちとなった。
「そういや、刑事さんたち何しに来たんだ?」
ヴィーノが何気なく聞いた。レイは、なぜかシンのほうに顔を向けて言った。
「ギルに用があったらしい。それと、三日前、ちょうどシンがここに来た日だな。その日
の夕方、何か変わった事はなかったかと聞かれた」
「三日前の夕方?なんかあったっけ」
「何もないだろ。シンは心当たりあるか?」
「別に……何もなかったと思うけど」
ヨウランに問われ、シンは小さな声で言った。


372 名前:13/16 :2006/06/30(金) 23:08:17 ID:???
三日前の夕方、心当たりがありすぎる。旅行から戻ってきてはじめて変身して、戦った。
その事を聞いたのだろうか。
そういえば、アーモリーワンで聞き込みされたときも、灰色のインパルスについて聞かれ
たし、はじめて自分の意思で変身して戦ったときも、あの二人がほかの警官たちに指示を
出しているようだった。
ひょっとしたら、専任捜査官、ていうのかな。
それがあんなに慌てて出ていった。それに、「奴ら」って、まさか……!
シンはそこまで考えをめぐらせた後、いてもたってもいられなくなった。

「レイ、ごめん!ちょっと出てくる!」
シンは皿をテーブルに叩きつけるように置き、リビングを飛び出した。
レイは表情も変えずに見送ったが、他は大騒ぎだった。

「ちょっと、シン!シンったら!どこ行くのよ、もう!」
ルナマリアは慌てて後を追ったが、玄関まで出たところで、バイクの爆音を聞いた。
音のしたほうを見れば、シンの乗ったバイクが土煙を上げ、走り去って行った。
「何なのよ……シン」

シンは、バイクを走らせながら、神経を研ぎ澄まさせた。
かすかに、以前と同じような気配を感じた。
間違いない。奴らの気配だ。
シンはその方向へとハンドルを切った。

「変身!」
シンはバイクを走らせながら、力強く叫んだ。
腹部からベルトが出現し、シンの体が灰色のインパルスへと変化する。
と、同時に、シンのバイクにも異変が起こった。
市販のトライアルタイプのバイクが、白と青の見たこともないようなバイク、
マシンスプレンダーへと変化したのだ。

「……!?」
自分だけでなく、バイクまでも変身したことにシンは驚いた。だが、見るからに性能は高
そうだ。
これなら、もっと速く走れる!
シンは考えるのを後回しにした。ただ急ぐことだけに集中し、スピードを上げる。
マシンスプレンダーはシンも予想していなかったような驚異的な加速で公道を走り抜けた。
緊急時だというのに、シンは今までにないようなバイクとの一体感を感じた。


373 名前:14/16 :2006/06/30(金) 23:10:31 ID:???
普段は人気のない郊外に銃声が鳴り響く。何台ものパトカーが包囲網を形づくり、その中
心では激しい戦闘が行われている。
その外延部に、また一台の車が到着した。
イザークたちは車から降り、イーゲルシュテルンを構えた。
パトカーのつくる包囲網の中心からは、たえず銃声が轟いている。
立っている者は必死で応戦しているようだが、倒れている者の数の方が多い。
イザークたちの目の前で、今また一人の警官が目標、MSに引き倒された。

二人はダガーに酷似した、後にダークダガーLというコードネームで呼ばれることとなる
MSへとイーゲルシュテルンを連射した。
「お前達、下がれよ!」
「動ける者は負傷者を守れ!後はZAFTに任せろ!」
イザークたちは撃ちながら、警官達へと指示を下す。ZAFTの名を聞き、警官隊は安堵
したような表情を浮かべ、その指示に従った。

イーゲルシュテルンから撃ちだされた対MS用特殊弾が次々とダークダガーLの背中に着
弾する。ダークダガーLは振り向き、イザークたちに襲い掛かってきた。
「何!」
二人は応戦するが、ダークダガーLは直撃する銃弾をものともせずに突進してきた。
その突進はかろうじてかわしたが、ディアッカはイーゲルシュテルンをはたき落とされ、
ディアッカ自身もダークダガーLの腕になぎ払われ、地面に倒れた。

「貴様!」
イザークは至近距離でイーゲルシュテルンを連射するが、ダークダガーLは構わずにイザ
ークを殴り飛ばし、バリケードのパトカーに叩きつけた。
一瞬息が詰まり、体の自由が利かなくなる。
ダークダガーLはそんなイザークの後ろに立ち、両手を組み合わせて、頭に振り下ろした。
「イザーク!!」
起き上がったディアッカは、次の瞬間に起こるであろう惨劇を想像した。

だが、イザークの頭が砕かれることは無かった。その寸前で、ダークダガーLを何者かが
撥ね飛ばしたからだ。
ディアッカは相棒の命を救った者を見た。
白と青の見たことのないトライアルタイプのバイクだ。そして、またがっているのは……
特徴的な四本角、赤い目、以前と見たときとは違い灰色だったが、間違いない。
「……インパルス……だと?」


374 名前:15/16 :2006/06/30(金) 23:13:00 ID:???
撥ね飛ばされたダークダガーLは起き上がり、インパルスへと飛びかかった。
その姿を認めたインパルスの灰色の体が鮮やかに色づき、青くなる。
青くなったインパルスはバイクの前輪を跳ね上げ、向かってきたダークダガーLを殴りつ
け、地面に倒した。
ダークダガーLはすぐに立ち上がった。見る間にその背中に翼のようなものが現れる。
その姿は、どうやら高速形態のようだ。
新たな姿となったダークダガーLはインパルスに背を向け、かなりの速さで走り出した。

パトカーを飛び越え、バリケードの向こう側へ逃げたダークダガーLを見たシンは叫び、
アクセルを入れた
「逃がすか!」
マシンスプレンダーはダークダガーLの後を追い、パトカーを乗り越え、その場を走り去
った。

「くっ……」
イザークは起き上がり、よろめきながらイーゲルシュテルンを拾ってバリケードの外へと
歩いていった。
周り中のそこかしこで、うめき声が聞こえる。ディアッカは比較的軽傷だったようで、他
の警官の救助を手伝っている。
「イザーク、何をするつもりだ」
「奴らを逃がしてたまるか!」
「何言ってんだよ!お前、怪我してるだろう!」
MSに殴られて、無傷のわけがない。イザーク自身、先ほどから激しい痛みを感じている。
骨の一、二本は折れているだろう。
だが、それでおとなしくしているイザークではなかった。
「そんなもの関係あるか!この腰抜けがぁっ!」

高速形態のダークダガーLはかなりの速度で走行していた。どうやら翼状のものは安定翼
のような役割を果たしているらしい。これほどの高速走行をしていても、バランスを崩す
ことがない。
すぐにアスファルトの舗装が途切れ、開発途中の造成地に入った。
ダークダガーLのスピードは全く落ちることがなかった。並みのバイクや自動車では、こ
こで離されていたかもしれない。
だが、マシンスプレンダーは引き離されることなく、ダークダガーLを追跡した。


375 名前:16/16 :2006/06/30(金) 23:19:18 ID:???
これじゃ、きりがない!
シンは、前輪を跳ね上げ、後輪だけで急加速した。
一気に差が詰まり、マシンスプレンダーはダークダガーLへと迫っていた。
シンはその前輪を、ダークダガーLの背中に叩きつけた。
ダークダガーLは安定翼の片方を失い、バランスを崩して荒地に転がった。
インパルスはドリフトをかけるようにターンし、バイクを止めた。

シンはバイクに乗ったまま、右の拳に力を込めた。ベルトから強い力が流れ込む。
インパルスはバイクから飛び降り、右拳を構えたままダークダガーLに突進した。
ダークダガーLは先ほどのダメージが大きかったのか、立ち上がるのがやっとの状態のよ
うだ。翼もいつの間にやらなくなっている。
それでも、拳を前に突き出してきた。

「うおおぉっ!」
インパルスは体を低くしてダークダガーLの拳をかわしつつ、ベルトの力を込めたパンチ
をダークダガーLの腹部に叩き込んだ。
ダークダガーLの腹にインパルスの拳がめり込む。インパルスはさらに腕を振り切り、そ
の体を何メートルも吹き飛ばした。
ダークダガーLは仰向けに地面に倒れる。わずかにその体が痙攣したが、すぐに完全に動
かなくなり、そのまま爆散した。

インパルスはその爆発を見届け、バイクにまたがった。
「待て!」
いきなり怒鳴り声が聞こえた。
声のしたほうでは、白バイにまたがったイザークはやっと追いつき、イーゲルシュテルン
を構えた。その銃口の先は、インパルスを向いている。
イザークはその体勢のまま、強い調子で言った。
「貴様、何者だ!」
インパルスは何も答えぬまま、マシンスプレンダーでその場を立ち去った。
結局、引き金が引かれることはなく、銃は持ち主の手を離れた。
負傷による痛みと体力の限界で、イザークがその場で気を失ったからだ。


376 名前:衝撃(ry /16 :2006/06/30(金) 23:27:38 ID:???
以上です。

ガノタ仮面様、お帰りなさい。
前スレから楽しませてもらっていたので、続きが読めて嬉しい限りです。
今回もGJ!

377 名前:31 :2006/07/01(土) 15:14:38 ID:???
仮面ライダーSIN 第八話

ピンク髪の女性はアレックスに駆け寄って抱きついた。

「会いたかった」

アレックスは抱きつかれたことに動揺する前に辺りを見渡した。まばらにしか人がいない
とはいえ、アスランと呼ばれたことを聞かれては都合が悪い。幸い誰もこちらを見てはい
ない。アレックスの取り越し苦労だったようだ。

「どうなさったんですか?」
「どうしたもこうしたも、あなたが……」

ピンク髪の女性は上目遣いでアレックスの顔を覗き込んでいる。アレックスはまじまじと
見られいるのが気恥ずかしくて顔を背けた。そのとき、何か違和感を覚えた。顔も声もラ
クス=クラインだが何かがおかしい。しばらく会っていなかったせいだろうか。始めはそ
うも思った。しかし、幼年学校や士官学校、戦闘で年単位で離れ離れになったときにもこ
んな違和感は感じなかった。もう一度彼女の方を見て分った。ラクスにしては胸が大きす
ぎるのだ。それを意識するとムズムズしてきて、抱きついてきた手をふりほどいた。

「君は誰なんだ?」
「もうバレちゃいました?」

女性は開いた手を指先だけくっつけて胸の前でモジモジさせていた。少し離れてみるとラ
クスより少し小柄だと分った。

「私はミーア、ミーア=キャンベル。ラクス=クラインのカバーでデビューする……予定
だった女の子、かな」
「だった、って……」
「今日、お披露目だったんです。でも『ラクス=クライン』は二人要らないって言われて
ダメになっちゃいました。私、ラクスさんに憧れてて……歌い方もラクスさんの真似しか
できないから……何言ってるんだろ」

そう言ってミーアは笑った。つとめて明るく振舞っているのがアレックスにも伝わってき
た。もっとも、女性を見る目がアレックスに無いことは本人が良く分っていたのだが。

「悪いが人違いだ」
「どういうことですか?」

ミーアは目をパチクリさせている。

378 名前:31 :2006/07/01(土) 15:15:30 ID:???
「オレはアレックス=ディノ」
「だって、あなた、アスラ……」

アレックスが慌ててミーアの口をふさいだ。プラントにコーディネイターが多いとはいえ、
故・パトリック=ザラやその縁者たちを良く思っていないものも少なからずいる。自分が
帰ってきたことがバレれば何かと面倒なことにもなりかねない。

「んー!んん!!」

言い含めて聞くような相手でもなさそうだ。仕方が無い。

「そのことについてはディナーで話してもらおう。いいね?」

ミーアがクビを縦に振った。それを見てアレックスが手を離した。

「本当にディナーに誘ってもらえるんですか?うれしい!」

ミーアは満面の笑みを浮かべて小躍りしている。感情表現が素直な子だ、アレックスはそ
う思った。外見はラクスそっくりかもしれないが中身は正反対と言ってもいいかもしれな
い。アレックスはフロントに荷物を預けてタクシーを手配してもらった。

アレックスとミーアは海と夜景が見渡せる場所にあるレストランに入った。コースを注文
して食事をとりながら二人は話をしていた。

「そういえばここのレストランってラクスさんとアスランが最初に食事をした場所なんで
すね」
「君は色々ラクスのことを知ってるな」
「ラクスさんのことは色々勉強しましたから。少しでもあの人に近付きたくて」
「そうか……」
「だから、アス、……アレックスには色々聞きたいんです。あの人がどんな人だったの
か」
「知るのはかまわないが、知っても君は君なんだ。ラクスじゃない」

アレックスは口に出してすぐに言ったことを後悔した。

「……分ってます。でもあなたから見たラクスさんってどんな人だったのかって、それを
知りたいんです。許婚だったんでしょ?」

379 名前:31 :2006/07/01(土) 15:16:18 ID:???
ミーアの言葉に今度はアレックスの顔が曇った。公にはアスランとラクスの婚約関係は継
続していることになっていることになっている。パトリックが婚約破棄を公表する前に死
んでしまったためだ。実際には二人の仲はラクスがアスランをふるかたちで終わっている。
戦い、戦い、戦い……。平和を守るために戦って帰ってくれば別れを告げられて、弁解す
る間もなく一方的に切られたという状態だった。

「アスラン=ザラは2年前にEVIDENCE-01の適合に失敗して死んだんだ。君がオレに見てい
るのはアスラン=ザラの幻影だ。オレはアレックス=ディノ。ただの男さ」

アレックスが自嘲気味に言う。

「ラクスさんにもそう言うんですか?」
「彼女はオレが死んでると思ってる。それならそれでいい」
「よくありません!」

ミーアが声をあげた。

「どうしてだ?」
「あなたは私の憧れた、アスラン=ザラなんだから……。」

アレックスは返す言葉に詰まった。英雄の話は過剰に装飾されている。その真偽を確かめ
ることが普通の人間にはできないことだから仕方が無いのだが、英雄・アスラン=ザラの
イメージを自分に重ねられても困る、アレックスはそう思っていた。その様子を見かねた
のか、この店の白髪頭の店長がアレックスのテーブルに来て言った。

「御曹司。ラクス様は明日の昼、店に来られます」
「そうか……」

アレックスは気の無い返事をした。

「僭越ながら私もそのお嬢様と同じ意見です。御曹司がどういったお名前を名乗られよう
ともそれは御曹司の勝手です。ですが、御曹司には御曹司の責務があります。それを放棄
して逃げている今の御曹司の姿は……私も見るにしのびません。現実と、ラクス様と向か
い合ってはいかがでしょうか」

老店長は物腰柔らかに言った。アレックスはすこし黙り込んだ後、会計をテーブルの上に
置いて店から出て行った。夜の潮風が吹き付ける中、ホテルへ歩いて向かった。先の大戦
のこと、父のこと、ラクスのこと、サトーたちの動き、ブルーコスモスの動向、考えれば
きりがなかった。

(だが、オレが名乗ったところでどうなる。過激派がオレをヨリシロにするために集まっ
てくるかもしれないが、それでは単に不安を煽るだけだ。今更死人が出てきて事を荒立て
る必要も無い)

どうか今のままでいてくれないだろうか。それがアレックスの今の正直な気分だった。

380 名前:31 :2006/07/01(土) 15:17:06 ID:???
翌日、サトーが拘置所から取り調べのために警察に連行されようとしていた。サトーが
コーディネイターということで、MS着用とはいかないまでも護送のガードは強化服を着て
いる。それが前後左右の計四人配置されて囲まれており、サトーの手足には錠がされてい
る。脱走しようにもまだ疲労が残っていてそれどころではない。かといってここで逃げ出
せなければ形式上の裁判の後に投獄されて当分出てはこれないだろう。サトーは焦ってい
た。せっかくアスランが生きていることも分ったのだ。何年も刑務所に入っているわけに
はいかない。今はただ、隙ができないかと神経を研ぎ澄ませて一歩一歩を踏みしめていた。

「うっ」

呻き声を一つ立てて護衛の一人が崩れこんだ。

「伏せろ!」

サトーは護衛の一人に頭を押さえつけられてその場にうずくまった。発砲音一つしないう
ちに次々に護衛が地面に崩れ落ちる音がした。トリガーを引く暇でさえ与えていない。サ
トーが恐る恐る目を開くと灰色のMRの姿があった。フェイスマスクは特殊な仮面の形状を
していた。

「何故俺を助ける?」
「君には生きてもらっていた方が何かとこちらの都合がいいのでね」

腕を組んだMRがそう言ったとき、サトーはラウ=ル=クルーゼのことを思い出した。彼は
なぜか目元を隠す白い仮面をつけていた。色違いではあるが、仮面の形状も話しぶりもど
こか似ている。

「クルーゼ、なのか?」
「知らない方がいいこともある。下手な好奇心は命取りだ」

そうは言うがクルーゼはさまざまな機関に内通し、結果的にパトリックを追い込んだ遠因
を作った男である。今自分を助けたとしても何か自分のために利用するつもりだろう、サ
トーはそう思っていた。

「不満そうな顔だな。嫌ならこの場で君を縊り殺してもいいのだよ」

MRがしゃがんでサトーの首に片手をかけた。サトーは苦笑いをして言った。

「今はそれ以外に生きる方法もなさそうだな」
「いいだろう」

MRはサトーの手足の錠を手刀で断ち切った。

381 名前:31 :2006/07/01(土) 15:18:01 ID:???
「後は君の力で好きにするがいい。どこかへ運んでやるほど私は優しくはないのでね」

MRはそう言って屋飛び上がり、屋根伝いに去っていった。にわかに周囲がざわついてきた。
護衛がやられたことが建物の中にも伝わったようだ。サトーは護衛の持っていた銃を拾っ
て助手席から護送車に乗り込んだ。運転席の人影に銃口を向けるが反応がない。銃で頭を
小突くと首がカクっと折れた。運転手は既に絞殺されていた。絞殺痕がはっきりと見える。

「相変わらず趣味の悪い野郎だ」

サトーはそう言うと運転席のドアから運転手の死体を蹴落としてエンジンをかけた。護送
車で門を突き破り、サトーは車を走らせた。行くあてがあるわけでもない。脱走が分った
今となっては既に手配が回っているだろう。だが、今は逃げるしかなかった。パトリック
の言葉に従うにはそれしかないのだから。大通りの交差点を過ぎたところで横断幕を掲げ
た集団が道を占領していた。

「何だ?」

サトーが黒山の人だかりの方を見ると蒼い惑星と切れた二重らせんが描かれていた。


イザークとディアッカは医務室のベッドに寝かされていた。イザークのベッドの食事台の
上には書類が積んであった。報告書、始末書、休養届け、保険の申請書……などなど。イ
ザークは既に書く気もうせていて頭の後ろで手を組んで寝そべっていた。

「いいのか?アイツには急かされてるんだろ?」

ディアッカが隣のベッドから新聞を広げた状態で声をかける。こちらの食事台には新聞が
積まれている。

「手を傷めていて筆記具が持てないとでも言っておけばいい」
「まあ、まともな状態でもそれだけ書いたら手が痛くなるよな」
「体裁だけを整えればいいというのも面倒な話だ。そっちには何か書いてあるか?」
「いや、相変わらずだな」

どの社の紙面も当たり障りの無いことしか書いていない。MSの存在は隠されているし、爆
発は架空の爆弾魔が実行犯ということにされていた。MSが出ていないことになっているの
だから、当然イザークたちが出撃しているはずも無い。そういうことになっているのだ。

「ふん、つまらんな」
「大変です!」

シホが病室に駆け込んできた。

382 名前:31 :2006/07/01(土) 15:18:50 ID:???
「廊下を走るな。病院で大きな声を出すな。他の人間に迷惑がかかるだろうが」
「す、スイマセン」
「硬いこと言うなよ。火急の用なんだろうし」

ディアッカにフォローされたことが癇に障ったようで、シホは不機嫌そうな顔をした。デ
ィアッカはそれにただ苦笑いするしかない。

「市外のコーディネイター居住区にブルーコスモスの団体によるデモ集団が向かったそう
です」
「警察は許可を出したのか?」
「正規に許可が下りています」
「表向きは政治結社だからな。……内実そうでないことは誰が見ても明らかなんだが」

デモと称しているが最終的に何が起こるかわからない集団だ。ひとたび何かが起これば暴
徒と化す。「青き清浄なる世界のために!」とだけ叫んで何をするか分らない、そんなデ
モに、しかも今の時期に許可を出されることがどういうことなのか。そう考えると空気が
重く沈んでいくようだった。

「表向きに活動できないからって主義者をたきつけて、そんなことが許されると本気で思
ってるんだ!コーディネイター排斥派の政治屋ってやつは!!」

イザークはそう叫んで食事台に拳をたたきつけた。


同時刻、シンの通うアカデミーでは先生たちが理事長室に集まってブルーコスモスのデモ
への対処を検討していた。

「せめて学校のそばを通るのは止めてもらえないものかしら」

今にも校庭を占拠しそうな勢いのデモ集団を見下ろしてタリアがため息をついた。

「まあ、まず無理でしょうな」

フレッドが応接用のソファーにふんぞり返りながら言った。

「やつら、正規に許可取ってますからね。せいぜい『ボリューム落としてくれ』くらいし
か言えませんよ」

ユウキがあきらめたようにつぶやく。

383 名前:31 :2006/07/01(土) 15:19:39 ID:???
「えー、そうなんですか!?」

アーサー=トラインの緊張感の無い声と驚き方に一同は白けきってしまった。自分に冷た
い視線が向けられていることが分って、アーサーは慌てて弁明した。

「いや、だって『コーディネイターを排斥しろ』という差別的な主張が認められてるなん
ておかしいじゃないですか」
「過去にも人種差別を主張にした政治結社が存在しますよ」

ユウキがつかさず突っ込む。それを聞いてアーサーはしょぼくれて黙り込んでしまった。
ゴホン、とタリアが咳払いを一つして言う。

「とにかく、生徒に無用の混乱を与えないように各員気をつけてください」
「生徒も動揺してますしね。一番怖いのは混乱に乗じて主義者がアカデミーの中に進入し
てくることですが……。色々と見られたらまずいものもありますしねえ」

ユウキが言った。生徒や職員の名簿を盗み見されれば、このアカデミーにコーディネイ
ターしかいないことが明らかになり、今後、主義者たちの格好のターゲットになりかねな
い。また、通常の施設に比べてMSの保有数が多いことも警察に目を付けられる原因にもな
る。考えれば考えただけ不安材料があるのだ。

「私と数人で見回りに当たりましょう」

フレッドが言って立ち上がった。

「そうしてください。でもできるだけ生徒には悟られないようにね」
「了解!」

その場にいた教員たちが声をそろえて言って敬礼をした。


「ネオはここにあの赤いやつの手がかりがあるかもしれないって言ってたけど、ホントな
のかな?オッサンのカンが当てになるとは思えないんだけど」

ユウキの予想は当たっていた。アウルがネオの指令で既にアカデミーに侵入していたのだ。
ここはある種の治外法権の場所なのだ。ここ一帯はコーディネイターが多く居住している
地域であり、国や地方自治体から予算をもらっていないので監査の目も薄い。また、学校
ということで一定の自治権が認められており、許可が無ければ部外者が入ることはできな
い。アウルはアカデミーの入り口で警備員とせめぎ会っているデモ集団にまぎれて侵入し
た。

384 名前:31 :2006/07/01(土) 15:20:27 ID:???
きょろきょろと辺りを見回しながらこっそりと各教室をのぞき見ている。クラス番号が割
り振ってある教室はすべて生徒のいる普通の教室だった。後は特別教室を回るだけだ。特
別教室に差し掛かったところでフレッドたちとはちはわせになった。

「おい!お前!今授業中だぞ。どこのクラスだ!?」
「えーっと、そのー」
「……見覚えが無い顔だな。ちょっと来てもらおうか」
「はいはい、付いて行きますよ」

アウルは両手を頭の後ろで組んでゆっくりとフレッドたちの方へ歩み寄った。

「って、そんなにおとなしくつかまるわけないでしょ!」

アウルは一番前に出ていた教員に回し蹴りをおみまいした。よろけた教員を後ろの集団め
がけて蹴り飛ばし、アウルは踵を返して一目散に逃げ去った。

「侵入者だ!理科棟から体育館の方へ向かってる!!」

フレッドがインカムで他の見回りの先生たちと連絡を取る。アウルが逃げようと右往左往
している間に教員陣はMSを装着してアウルを取り囲んでいた。

「仕方ないなぁ。こういうのって好きじゃないんだけど」

そう言うとアウルは左手を引いて右手を体の前にかざした。

「変身!」

アウルは肩に大きなバインダーを付けた青いMRに変身していた。フレッドはその姿に見覚
えがあった。

「アビス!」
「へえ、知ってるんだ。でも無駄に戦う気は無いよ!」

そう言ってアビスはバインダーをフレッドたちの方へ向けた。上を向いたバインダーから
は銃口が数多くのぞいている。複数の銃口から一斉に対MS弾が発射される。教員陣のMSは
とっさのことに反応が遅れて次々に被弾し、倒れこんでいった。

「じゃぁ〜ね」
「そうは行くか!」

逃げようとしたアビスをMS ジンを装着したフレッドが後ろから羽交い絞めにした。いく
らアビスが最新式とはいえ、体格の差は大きい。力が最大限に活用されなければ装着前の
力の勝負になる。

385 名前:31 :2006/07/01(土) 15:21:19 ID:???
「旧式の癖に!」
「出力で負けても地の力なら負けんぞ!」

その時、トイレからメイリンが顔をのぞかせた。銃声が止んだので外の様子をうかがうた
めに出てきたようだ。フレッドの視界にメイリンが映りこみ、一瞬そちらに気を取られて
しまった。アビスはそれを見逃すほど甘くはない。力が抜けたフレッドを突き飛ばした。
フレッドが簡単に吹き飛ばされてしまった様子を見てメイリンは茫然自失としていた。

「この子を人質に取らせてもらうよ」

アビスはそう言ってメイリンを連れ去っていった。

「待ちやがれ!」
「大丈夫ですか?」

突き飛ばされたフレッドにユウキが声をかける。

「ユウキか。文官は黙って作戦を立ててればいいってのに」
「あいにくと人手不足のようでこちらに借り出されたんですよ。それに作戦なら理事長と
アーサーがどうにかしますよ」
『みなさん』
「ほら」

インカム越しに伝わってきたアーサーの声にユウキが笑う。

『侵入者は校内の様子を知っているわけではないようです。幸い奥の体育館の方へ逃走し
ているので遠巻きに包囲してください』
『アーサー。そいつは生徒にも外部にも内々に済ませようって考えだろうがそうもいかな
くなった』
『フレッド、回りくどい言い方をしないでくださいよ。何があったんですか』

フレッドにしてみれば自分のせいだと思っている部分もあって言い出しにくいのだろう。
そう思ったユウキが代わりに言った。

『侵入者は生徒を盾に取ったんですよ。もう一つ悪いことに、侵入者紛失扱いになってい
たMR アビスの装着者です。これで外にでも出られたらアカデミーでMRを開発していたと
いうことで外の主義者が黙っていませんよ』
『ええええぇえーーー!!理事長!どうしましょう!?』

アーサーの叫び声が耳を劈いた。


銃声はシンたちの教室にも伝わっていた。外にはブルーコスモスの集団がひしめいている
というのにそれにしては何も放送がなく、生徒たちは不安でどよめいていた。ヨウラン、
ヴィーノ、ルナマリア、レイはシンの席の近くに集まって話していた。

386 名前:31 :2006/07/01(土) 15:22:07 ID:???
「こりゃいよいよヤバイね。武装占拠でもされるのかね」
「そう言う冗談はいいっこなしだぜ」
「例えばの話だろ。仮に主義者が入ってきたってフレッド先生を初めとしてうちの先生は
戦争帰りじゃない。大丈夫だろ?なあ?」
「そうだな」

レイが一言言った。

「って、それだけかよー」

レイに話を振るとそこで会話が途切れてしまうし、シンは銃声を聞いてから傍目から見て
も分るくらいぴりぴりしていて話しかけづらかった。どうしたものかとヨウランが思って
いた。そう言えばルナマリアもさっきから会話に加わらずにそわそわしていて心ここにあ
らずといった感じだ。

「ルナもさっきからどうしたんだよ」
「あ、うん」

いつもの明るい調子ではなかった。うつむいて深刻な顔をしている。

「メイがまだ帰ってこないの」
「そう言えば、前の休憩時間から帰ってきてないな」

そのとき、レイが廊下の方を見るようにシンに目配せした。廊下をMSを装着した教員が走
っている。シンは教室のドアを開けて最後尾の教員を捕まえた。

「何があったんですか?」

教員は手のひらを横に振ってドアを閉めるように指示をした。シンはそれに従い、自分は
廊下に出てドアを閉めた。教室側からシンと教員の会話を聞こうとヨウラン、ヴィーノ、
ルナマリア、レイの4人が張り付いていた。

「お前らは自習しとけ」
「今の銃声でしょ?避難とかしなくていいんですか?」
「大丈夫だ」
「理由を説明してくれないと納得できませんよ!」

教員は始めは聞く耳を持たなかったのだが、シンがしつこく食い下がったので話した方が
早いと判断して話し始めた。

「いいか。他の生徒には言うなよ。MRを装着した侵入者だ。今人質を取って逃亡中だ」
「人質って誰です?」
「メイリン=ホークだ」
「メイリンが!?」

387 名前:31 :2006/07/01(土) 15:22:56 ID:???
その会話をルナマリアは後ろで聞いていた。

「ウソでしょ……メイが、そんな……」

ルナマリアが聞き耳を立てるのをやめてその場にへたり込んだ。ヨウランとヴィーノは顔
を見合わせた。とっさのことでかける言葉もない。レイは話を聞き続ける。

「大丈夫だ。今職員総出で対策にあたってる。お前たちは教室から出るな」

教員はそう言って去っていった。フレッドを初めとした教員たちの実力は聞いてはいたが
相手がMRとなればそううまくもいかないだろう。

「オレ、行って様子を見てくる」
「シン!」

駆け出すシンをルナマリアも追いかけようとするが、レイがそれを止める。

「離して!」
「シンはオレが追う。お前はここにいろ。冷静に判断ができない奴が現場に行っても混乱
を招くだけだ」
「でも!」
「いいな」

レイは顔をルナマリアにズイと近づけて言った。レイの言葉には圧倒的な威圧感がある。
ルナマリアはそれでも食らいついて後を追いたかったが、黙ってうなづくしかなかった。
それを見てレイがシンの後を追いかけていった。

アウルが変身したMR――アビスは体育館の中央に陣取っていた。逃げた方向が悪く、体育
館は出入り口とは正反対の方向にあり、結果的にアビスは追い詰められていた。だが、人
質の存在が教員たちの頭を悩ませていた。辺りの空気が一段と張り詰めている。メイリン
の表情は恐怖で凍り付いている。それを見ると教員たちは入り口から一歩も踏み出すこと
ができなかった。シンはレイの提案で体育館の二階の物陰に潜んでいた。

(ここからなら前にやった青いインパルスになれば一撃で倒せる。けどメイリンが……)

アビスの様子を伺いながら次第にシンの顔が険しくなっていく。

「シン、何を考えているのかは知らないが、冷静になれ。焦りは禁物だ」
「分ってるさ!」

レイの言葉を遮るようにシンは言い放った。レイが怪訝な顔を浮かべる。シンの悪い癖が
出ている。このまま相手にじらされれば黙っていれば後先考えずに突っ込みかねない。も
う少し我慢を覚えて欲しいと思うと同時にこの状況を打破する方法をレイは必死に考えて
いた。

388 名前:31 :2006/07/01(土) 15:24:01 ID:???
いつもの店で昼食をとるためにラクス=クラインは黒塗りの車からSPに手を引かれて降り
立った。SPに左右と後ろをがっちりと固められながらラクスは店に入った。内側からドア
が開き、カランとドアの上に付けられたベルが鳴る。年老いた店主がラクスを迎え入れた。

「お待ちしておりました。ラクス様」

そう言って店主は深々と頭を下げた。

「どうぞ、こちらの席へ」

SPはドアの外の警備を固め、中には入ってこない。ラクスは店主に連れられて店の奥へと
進んだ。すると貸切のはずの店にラクスと背中合わせになる場所に男が座っていた。

「あの方は?」

ラクスが店主に聞いた。

「ラクス様のほうがよくご存知の方です」

ラクスは店主の言っていることが分らなかったが、店主に促されるままに店主が後ろに引
いたイスに座った。

「ではごゆっくり」

一礼して店主はその場を去っていった。何をすればいいのか困惑するラクスに男が話しか
けた。

「お久しぶりです。クライン嬢」

ラクスはその声に聞き覚えがあった。父・シーゲルを除けばもっとも多く言葉を交わした
男性――アスラン=ザラだ。先の大戦で戦死したとカガリから聞かされていただけに驚き
は大きかった。聞きたいことは山のようにあるはずなのに気持ちだけが先走って言葉にな
らない。ならばせめて顔を一目見ようと、ラクスは振り向こうとした。アスランはそれを
察したのか

「そのまま話してください。監視の目もあります」

とだけ言った。

「生きて……おられたのですね」

389 名前:31 :2006/07/01(土) 15:28:19 ID:???
ようやく口から言葉が出た。だが、その言葉はラクスにとってもどかしいものだった。

「ええ。こうして生き恥を晒しています」

それだけで会話が途切れた。ラクスは次の言葉を見つけようと必死になっていた。その間
にアスランが言う。

「ただ、最近物騒でして。あんな事件もあった後ですし。こちらにもそれは伝わっている
でしょう」
「……ええ」
「話は変わりますが、この間会って来ましたが、キラは元気ですよ。ただ、戦闘の後遺症
が残っているようですが……」
「そうですか。どうされているのかと気が気ではありませんでしたが……よかった」

ラクスの言葉からアスランは安心と不安を感じた。彼女が必要としているのはやはり自分
ではない。それにこの事態の話よりも男の話の方に食いつきがいい。彼女はやはり御輿な
のだ。御輿ならば担ぎ手次第でどうとでもなる。それを確認しただけでも十分成果があっ
たのかもしれない。アスランは席を立った。

「もう帰られるのですか?」
「ええ、色々と仕事が溜まってまして」
「今度はいつ来られますか?」
「分りません。あんな事件の後ですし」
「……私たち、すれ違ってばかりでしたね」

思えばザラ家とクライン家の政略結婚で出会ったとはいえ、お互い好意を持っていなかっ
たわけではなかった。だが、アスランはいつもラクスのそばにいなかった。幼年学校に3
年。アカデミーに2年。その後は戦争でほとんど帰ってくることはなかった。普通の女性
と同じようにラクスはただ、それに耐えられなかったのだ。アスランは何も言わずにに裏
口へと向かおうとした。

その時、店の窓ガラスが割れて店内に手榴弾が転がり込んできた。アスランはラクスを抱
きかかえて、テーブルを縦にして裏側へ滑り込んだ。幸い手榴弾だと思っていたものは閃
光弾だった。発光が収まってもSPが店内に駆け込まないところを見ると外のSPは全滅した
のだろう。

「大丈夫ですか?」
「ええ」

丸腰の今の状態ではとても戦うことはできない。ここは裏口から逃げるべきだろうが、裏
口も手配されているだろう。かといって中に入ってこられればそれで終わりだ。アスラン
が判断に迷っているうちに外から叫び声がした。

390 名前:31 :2006/07/01(土) 15:30:13 ID:???
「ラクス=クラインが裏口から逃げたぞ!」

アスランにはそれがどういう意味か分った。ミーアだ。様子を見に来たところを見つかっ
たのかもしれない。

「彼女を頼みます」

アスランは店主に声をかけて裏口から飛び出した。武装した青シャツがビルの裏路地の方
へ向かっているのが見えた。アスランは回り道をして他の方向から路地に入ることにした。
狭い路地を潜り抜けて壁に手足をつきよじ登ってミーアを探した。ミーアビルの非常階段
の踊り場の部分に隠れていた。

「ミーア」
「しっ!」

ミーアが唇の前で人差し指を立てる。

「いたか!」
「こっちにはいないぞ!」

下の路地にはラクスを狙った刺客がうようよしている。ミーアを見つけたまではよかった
が、ここから動けそうにもない。

「建物に隠れたのかもしれん。ゲルズゲーを出せ!」

路地を覗き込むと八本足のMAが壁を垂直に登り始めていた。ビルとビルの狭い隙間を自由
自在に動けるようだ。途端に鉄筋の階段が大きく揺れた。ゲルズゲーが階段を登ってきて
いる。アスランは最終手段を考え始めていた。

(こうなれば仕方が無いか)

覚悟を決めてアスランは立ち上がった。MRの特にジャスティスの負荷は並ではない。

「待って!アスランが来たら渡すようにと頼まれていたものがあるの」
「これは……?」

アスランはミーアから腕輪を手渡された。

「MRの能力を制限するもの……らしいわ。これを使っている範囲内ではあなたが恐れてい
ることは発生しない、だって」
「リミッター、ということか」
「出力自体は改善されている部分もあるとかないとか……あんまり良く覚えてないんだけ
ど」
「いたぞ!ゲルズゲーを向かわせろ!」

391 名前:31 :2006/07/01(土) 15:31:39 ID:???
下の路地にいる青シャツの男が上を向いてこちらに発砲した。ミーアを伏せさせて一旦は
やり過ごしたが、事態はますます切迫してきた。詳しい説明を受けている暇は無いようだ。
銃声を聞いて他のメンバーもすぐに集まってくるだろう。アスランは腕輪をつけて両手を
顔の前で交差させた。


『こちらフレッド。包囲は完全だ。だがどうする?』
『どうもこうも生徒を見殺しにはできませんしね』

一方、アカデミーの体育館ではMSを装着した教員たちが体育館のすべての出入り口に控え
ていた。アビスは包囲網を察したのか肩バインダーの銃口をメイリンに向けた。

「助けて!」

泣き叫ぶメイリンの声が体育館に響く。その声はあまりに悲痛で聞いたものの心をかきむ
しった。シンにはメイリンの姿が一瞬、妹のマユとダブった。2年前も自分はただ見てい
るだけしかできなかった。家族が白いMRと濃緑色のMRの戦闘に巻き込まれ、殺された記憶
が蘇る。自分は吹き飛ばされてガケを転がり落ちて助かったのだ。ガケの上に登ったとき
には家族はもうそこにはいなかった。だが、今は違う。目の前で人が死ぬのをむざむざ見
ているわけにはいかない。

(くそっ!!)

こうなれば破れかぶれだ。出たとこ勝負でどうにかするしかない。シンが左手を引いて右
手を胸の前で水平に構えた。

アカデミーの体育館とプラント市街の路地裏。離れた二つの場所で構えたシンとアスラン
が叫んだ。

「変身!」

その叫びとともに二体の赤いMRが姿を現した。一体は装着者の瞳と怒りを表す赤いMR――
インパルス。もう一体は再び赤の騎士となることを決めたアスランの剣、トサカの付いた
赤いMR――セイバーだった。


第八話 おわり

392 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/01(土) 23:58:44 ID:???
GJ!!
ミーアの胸のことを指摘したのが笑えたw

393 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/02(日) 03:08:54 ID:???
皆、神職人でどれも面白いのだが、そろそろ纏めないとどれがどれだが…。
えーっと…こんな感じか?

○『仮面ライダー種(SEED)』 作者:ガノタ仮面 ◆7esDekmmXY 氏 

・設定
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/578-579

・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/74-78
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/115-120
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/162-165
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/254-262
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/309-318
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/376-380
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/403-411
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/449-453
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/504-510
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/624-627
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/695-706
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/739-749
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/847-855
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/348-354

394 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/02(日) 03:19:47 ID:???
○タイトル不明(ガノタ仮面氏曰く「クウガ(orアマゾン)風味」) 作者:168氏
・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/168-178
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/221-240
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/16-23

○『仮面ライダーシン』 作者:ギャグしか書けない理系学生(256氏)
・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/257-258
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/265-266

○ 『仮面ライダーDestiny〜最終章〜』 作者:289氏
・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/289-296

○『空我』 作者:791氏
・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/791-797

○タイトルなし(龍騎風?) 作者:866氏
・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/866-867
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/869-872

395 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/02(日) 03:29:35 ID:???
仮面ライダーSEED DESTINY 作者:73氏
・プロローグ(?)
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/74-77

・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/92-96
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/139-144

『仮面ライダーSIN』 作者:31氏
・設定
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/33-39
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/42-43

・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/104-110
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/126-133
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/148-157
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/170-179
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/218-228
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/295-308
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/325-337
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/377-391

396 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/02(日) 03:31:52 ID:???
仮面ライダーRubyEye 作者:194氏
・予告
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/194

仮面ライダー衝撃(インパルス) 作者:196氏
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/197-212
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/238-253
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/272-287
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1144247532/360-375

397 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/02(日) 03:35:28 ID:???
纏め、終了ー。
こうしてみると、皆すげーなぁ…。
特にSINのペースが恐ろしく早い。
他の神職人さんも負けずに頑張れー!


398 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/02(日) 04:19:56 ID:???
まとめてくれてありがとう
こんなにあったっけ…
すげぇや

399 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/02(日) 09:00:35 ID:???
まとめ乙
でも、重要なの忘れてるよ……

○『仮面ライダー運命』 作者:134氏
・設定
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/910

・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/134
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/882-891
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/898-907



400 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/02(日) 14:54:40 ID:???
まとめ乙
>>31
GJ!!

401 名前:31 :2006/07/02(日) 16:45:44 ID:???
|ω・`)コソーリ

まとめ乙です。
まとめサイトの要望が前スレでもこのスレでも出てましたね。
私は管理ができないのと、他の作者の方々の承諾云々が色々あるので
まとめサイトは作れません(後、作ってると投稿ペースがガクッと落ちる)

ですが、自分の分(『仮面ライダーSIN』)はマスターデータがあるので
気長に待っていただければどこかのスペースにアーカイブ作るくらいは
しますが……。要望あるでしょうか。

設定を@Wiki、本文をinfoseekかココログフリーのファイルスペース
(後者は広告表示無いし、ココログのBlog自体は適当に使ったのでも
いいですし)と考えています。某ダイアリーにスペース持ってるので
複数アカウント使うのもありかとは思っていますが。

何かいい案があればご教授ください。

402 名前:31 :2006/07/02(日) 16:46:31 ID:???
>>衝撃作者氏

GJです。
読んでると自分のは仮面ライダー成分薄いなーと実感します('A`)
>>313にも書きましたが、元の設定が起因しているので仕方ないと言えば
仕方ないんですが。

しかし、その部分がこのスレの肝でもあるので、他の作者さんにもですが
小生たいへん嫉妬しています(笑)

次回楽しみにしてます。負荷にならないよう頑張ってください。


>>397

私の場合元ネタが明確なのと描写が荒いので早いというのがあります。

後、文章講座なんかの本を読むと、とにかくコンスタントに書くことが
強調されていたので、できるだけ1週間ちょっとで書くようにしてます。
めんどくさがり屋なので1回サボるとズルズル遅れ始めるからというのも
原因なのですが。


>>読んでくれた皆様

拙い文ですが読んでくれてありがとうございます。
感想くれた方、レスしてませんが励みになります。


では次回第九話でお会いしましょうノシ

403 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/02(日) 19:31:01 ID:???
>>399
補完、感謝ッ!
細かく確認してたつもりだったがドジった…。

404 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/03(月) 16:08:31 ID:???
○タイトルなし(龍騎風?) 作者:866氏
・本文
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/866-867
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1128512631/869-872


これは『仮面ライダー運命』のプロローグ&第1話だと思われるのですが
作者様いかがでしょう?

405 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/05(水) 10:07:35 ID:???
>仮面ライダーSIN
確かに、仮面ライダーというよりはロボットがパワードスーツに代わった種って感じだな
だが、もともとちゃんとした種の続編が観たかったという思いもあるんで充分楽しめる

406 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/05(水) 10:15:13 ID:???
アスラン「俺の体はボロボロだ!」

407 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/06(木) 00:55:32 ID:???
シン「ウソダ・・・・・ウソダソンダコドーン!!」

408 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/07(金) 10:08:58 ID:???
キラ「ステラには気の毒なことしちゃったかな……でも、もうやっちゃったから」

409 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/07(金) 18:01:54 ID:???
キラ「僕、戦いを終わらせるのが嫌になっちゃって・・・
   ガンダム同士の戦いに勝ち残ることが英雄になるのに必要かな?って・・・」


410 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/08(土) 13:23:26 ID:???
サトちゃんをあんな偽善者と一緒にしないでよ!!

411 名前:ガノタ仮面 ◆OyaGOupcFw :2006/07/08(土) 14:33:25 ID:???
>>410

オバサン、乙w
・・・東條て、顔もそうだが声もキモいよなぁwwwwwwwww


つか、投下前に ちとageますな


412 名前:31 :2006/07/08(土) 15:09:48 ID:???
|ω・`)コソーリ

今週末9話ちょっと間に合わないかもしれません。週明けになるかも……。


>>405

ありがとうございます。自分では乗っけてていいのかちょっと不安も出てたところなので。


9話のアップ間に合いそうに無いので、『SEED』終了時に書いた続編設定が出てきたので
要望があればどこかのアップローダにでもアップしますが、>>401で書いたアーカイブと
併せて需要あるかどうか聞いておきたいのですが、どうでしょうか。

413 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/08(土) 17:21:31 ID:JxY6Uzu6
おお、ガノタ仮面さん、31さん、お久しぶりです。

>>412
是非お願いします。

414 名前:仮面ライダーSEED :2006/07/08(土) 17:35:26 ID:???

「ふざけんな!!そんな事出来るワケないだろッ!!」
「…しかし。」
自分を殺してくれ、というヴェイアの無茶な頼みを聞き、シンは動揺とも憤りともつかない心境になっていた。
何にしたって…自分から死のうとするなんて間違ってる!!
シンはなおも食い下がろうとするヴェイアに考えを思い改めさせようと、言葉を探そうとした。
「おっと…困るな、失敗作の分際でオレの獲物を横取りする気かい?」
高架下に傲慢さを漂わせた声が響く、無論その声はシンとヴェイアどちらのものでもない。
ジャリ…ッ。
「シン・アスカ…インパルスのベルトはオレのモンなんだよ、返してもらうぞ。」
そう、そこに現れたのはアスランに遅れて現れるはずのマーレ・ストロードだった。
ダダダダッ!!
ニヤニヤと底意地の悪そうな笑みを浮かべる彼の背後に控えるジンは一気に散開し、10人という数を活かし二人をグルリと取り囲んでしまった。
「ザフトか…俺は今イライラしてんだ。今日は歓迎してやる!!」
ジリジリと迫るジンの群れを睨みながら、シンは怒りを露わにすると戦うための姿へその身を変じる構えを執った。
「ヴェイア、お前は戦うなよ。さっきの話は…結論出すのはまだ早いって。」
戦いを前にし、シンはヴェイアの気持ちを奮い立たせようと語りかける。
返事なしか、けど…守ってみせる俺は!!こいつを!!
「いくぞ…変身ッ!!」
掛け声とともに組んだ腕を左右に展開するやいなや、ベルトから迸る光がシンの身を包み、その体を戦う為の姿へと変えていく!!

「ねぇ、始まったみたいだよ。いいの行かなくて?」
「俺らはいいんだとさ、今回は下っ端が頑張ってくれるとよ。ま、ゆっくり見物してろってお達しだ。」
「ふぅん、何だつまんないの…。」
変身を遂げた仮面ライダーインパルスへ一斉に襲いかかるジンの群れ、それを少し離れたところから眺める者達がいた。
そこにいたのは三名、逆立てた髪に鋭い目つきをしたリーダー格の少年。
整った顔立ちが少し軽い印象を与えるもう一人の少年…そして。
「…たたかい。」
「おいおいステラ、話…聞いてたのか?」
ステラと呼ばれる彼女こそ、シンとルナマリアが駆けつける前にヴェイアを見舞っていたあの風変わりな少女だった…。


415 名前:仮面ライダーSEED :2006/07/08(土) 17:37:57 ID:???

「とぅあぁっ!!」
しっかりと大地を踏み締め、その反作用を貯めていたインパルスの片足が掛け声とともに宙を舞い、その力を解放する。
ズォォォッ、ズン!ズグシャァァァッ!!
空気を、ジンが振るう剣を、そしてその持ち主をも巻き込みインパルスの蹴りが大きな半円を描く。
ド、ドンッ、ドドンッ!!
この強力な一撃をその身に受け三体のジンが一片に様々な方向へ吹っ飛んだ。
「…ほんの一瞬でジンを五体も撃破、か。」
インパルスの圧倒的な強さを目の当たりにし、マーレは憎々しげに言葉を口にした。
ズンッ…!!
既に倒されていた者を含め、ジンの総撃端数は5---、いやたった今、正拳突きで崩れ落ちた者を含めれば6体だ。
「この力…本来ならこのオレ、マーレ・ストロードのものになっていた筈…。」
悔しさと憎悪に震える彼の目は今や、自分目掛けて突っ込んでくるライダーしか映していない。
上層部から下されたヴェイアに関する指令はすっかり、頭から消し飛んでいるらしかった。
「それをシン…アスカ、貴様がぁぁぁっ!!」
シンに対する憎しみが頂点に達したのか、マーレは鋭く吼えるとその身に秘められた力を勢い良く解き放つ。
一瞬でマーレの体はヴェイアのものと同じ、巨大な角をその腕に持つ異形の姿。ゲイツへと変った!!
「こいつは!!色が違うけど…ヴェイアと同じ!?」
シンの言う通り、目の前のゲイツは体表面の緑と白銀の色の異なりがあるだけで大きな相違点がある様には感じられない。
その証拠にゲイツは双腕を広げ、ただ突っ込んで来るのみではないか。
「同じタイプなら…経験済みだっ!!」
シンはゲイツの能力をヴェイアの変化したものと同様と判断すると、一気にインパルスキックへの体勢に入る。
「バカめ…完成したゲイツの力、その身でとくと味わえシン・アスカ!!」
仮面ライダーインパルス、必殺の技…インパルスキックを前に何故かマーレは嘲るかの様な台詞を吐いた。
その言葉がただのハッタリでない証拠に、ゲイツの左右両方にある腰の鋏状のパーツがゾロリと蠢く。そして…、
ビュォォンッッ!!
突如として、ゲイツの腰から伸びる二本のワイヤーが放物線を描く様に、また地を這う様に助走体勢にあるインパルス目掛け襲いかかる!!
「クッ、何だこの動きは!?」
間一髪、避ける事が出来たインパルスを追い、ワイヤーは不規則にグネグネと蠢き続ける。
少し離れた処からその光景を見つめるヴェイアには、それが兎を丸呑みにしようとする大蛇に見えた。

「フ、フハハハッ…っ!!」
飛び跳ね、しゃがみ…。回避に専念するインパルスを見ながら、マーレは哄笑をあげる。
やがて2匹の大蛇が織り成す包囲網は半径、2m程になり完全にインパルスを追いこんでいた。
「貴様ら何をやっている、四方から援護射撃だ。早くしろ!!」
これを好機とみたマーレはややヒステリックに部下に指示を下す。
命令に従い、四方へ散ったジン達はその銃口を狭い空間を縦横無尽に動き回るインパルスへ向けた。


416 名前:仮面ライダーSEED :2006/07/08(土) 17:40:23 ID:???
くそ、まずいな…こんな状況じゃフォームチェンジも出来やしない!!
シンの焦りをよそに彼を取り囲むジンは手にしたマシンガンの引き金に指を伸ばそうとした・・・しかし。
ビシュゥゥン!!
細い---、一条の光線が今まさに発砲しようとしていたジンの腕を容赦なく撃ち抜いた。
しかも、光はその一条だけでは終わらなかったのである。
ビシュ、ビビシュ!!ビシュッビシュン!!ビビシュゥン!!
後を追う様に、横殴りの光の雨がその場にいた改造人間全員に降り注いだのだ!!
「今だ、チェンジ!!フォースシルエット!!」
突然のアクシデントにうろたえたマーレ、ジンの攻撃が一瞬止んだ隙を見計らいシンはフォースインパルスに追変身し、窮地を脱した。
「おのれぇ、何者だッ!?」
せっかくの千載一遇のチャンスを潰され、怒り心頭のマーレは攻撃の来た方向を食らい付く様に睨みつける。
ザッ…ザッザッザッ・・・。
マーレの恨みがこもった視線を受けながら、この場に現れた一団は…ザフトの改造人間とは異なる別の存在だった。
胸部、腿や脛といった最低限守らねばならぬ場所を覆う灰色の装甲、水色のゴーグルが無機質な雰囲気を見る者に否応無しに与えた。
先の光線に似た攻撃は手にしたかわった形状のライフルによって行われたと思われる。
次期正式採用強化戦闘服、ダガー。
それがこの5人ほどで構成されている不気味な一団が装備するものの名だった。
チャッ・・・。
彼らは教本通りのクラウチングスタイルの構えで手に持つ火器を構えると、再び一斉射撃を再開し始めた。
「ッ…何なんだよ、コイツら!!」
自らを狙い、空を昇り来る光線---、レーザーライフルの火線でシンは苛立ちを物言わぬ乱入者にぶつける。
…彼らの目標はこの場に存在する改造人間の殲滅らしかった。
例えそれが異形の姿をしていなくても、然り…である。
『擬装したType-C、発見。情報にあったゲイツと思われる…。』
逃げようともせず、その場に立ち尽くしていたヴェイアのこめかみに無慈悲なライフルの銃口が押し付けられていた。
「やめろぉぉぉぉっ!!」
全速力で駆け付けようとするシン、しかしゲイツがその深緑の体でその行く手を阻む。
「お前にも何かを失う痛みを味合わせてやるよ…シン・アスカ!!」
「…ふざけるなっ!!」
ガシィィィッ!!
両者の憤怒と執念が、手刀と角に形を変え激突する。
『発砲許可、確認…掃討開始。』
電子音混じりの声を耳にし、ヴェイアは静かに目を閉じた…。

ズシャァァッ!!

『な…カ、オス?な…ぜ…。』
凶弾がヴェイアの頭を貫こうとした刹那、漆黒の虞風がダガーの無防備な背を襲った。
「だめ…だめ、駄目ぇぇぇぇっ!!」
掌から発した光の刃をダガーに突き立てた黒い戦士は少女の声で泣き喚いた。
黒豹を思わせるその姿は、ダガーの仲間である筈にも関わらずどこか改造人間の様でもある。
試作型強化戦闘服高機動仕様、カオス・・・。
「ヴェイアいじめる…かわいそう、だから駄目。」
与えられた任務を無視し,彼の危機を救った黒い女豹は---、ステラだった。


417 名前:仮面ライダーSEED :2006/07/08(土) 17:43:01 ID:???
「---っ!!あの馬鹿ッ!!」
「ネオがうるさいぜ、こりゃあ…!!」
仲間の失態を見過ごせない少年二人は素早く、暴れまわるステラに近寄ると両脇から取り押さえにかかった。
「嫌ッ、離して!!離してぇぇっ!!」
「ステラ!!こんな事したらネオが悲しむぞ…それでもいいのか?」
「ねお?…悲しむ、ねおが?」
「そうだぜ、だからバカな事やってないで帰るんだよ!!」
ステラは二人の言葉に説得されたのか、大人しくなった…ガイアの姿のまま二人に引きずられていく。
ヴェイアの安否を気遣い、少女はひょいと背後を振り返る。そこには息絶えたダガーの亡骸に手を合わせる彼の姿があった。

「ヴァジュラウイングっ!!」
「ぐっ!!」
一瞬の隙を突き、ゲイツの脇腹をフォースインパルスの紅の翼が横一文字に切り裂いた。
「うぐ…待て、シン・アスカ。オレはまだ…!!」
堪らずに地面に崩れ落ちるゲイツを見向きもせず、シンはヴェイアのいた方角へ飛び去った。
しかし---、そこにいる筈の彼の姿はどこにもなく、代わりに横たわるダガーの胸元で野の花が静かに揺れているのみだった。
あいつ…あんな体でどこへ行ったんだよ。
ヒラヒラとそよ風に舞う花を手に、シンは何処かへと消え失せてしまったヴェイアの身を案じ、その表情を曇らせた。
チャッ…。
「くそっ!!まだ残ってたのかよ!?」
自らの背に倒れたダガーの銃口が向けられているのに気付き、シンは慌てて横へ飛び退こうとした。
ヒュルル…ガスッ!!
シンの回避を待たずに、ライフルの引き金が絞られる、かに思われた瞬間…どこからか飛んできたブーメランが銃身を吹き飛ばす。
「全く、お前は隙だらけだな・・・。」
「あんたは何で…こんな処に。」
そこに立っていたのはアスランこと、仮面ライダージャスティスだった。
無言で立ち尽くし、その真意を探り合う両者の間に重苦しい沈黙の時間が流れ出す…。


418 名前:仮面ライダーSEED :2006/07/08(土) 17:45:12 ID:???

時速90kmで公道を突っ走る高級外車の覆面パトカーに畏れをなしてか、目の前の道路が面白い様に割れていく。
やかましいサイレンの音と、事件絡みでさえなければ最高にグゥレェイトォ!!なドライブなんだがね…。
などとディアッカは声に出す事なく軽口を叩きながら、すっかり刑事の顔となってギアをいじる親友、イザークの横顔を眺めた。
つい数分ほど前まで、調査報告がてら食事を採っていた二人だったが…。
穏かな時間は短いもので、イザークの携帯がけたたましいアラームを発した。
「しかし、ホントなのか…?オフィス街で怪人が大量虐殺をやってるって話は。ザフトは隠密行動が常じゃ---、」
「うるさい!!実際に起こっている事が現実だろうが!!民間人の貴様は黙って大人しくしていろ!!」
なら…車にのせるなよなぁ。と、内心思わないでもないディアッカだが、最もそれは火に油を注ぐ行為でしかない事を承知している。
故に天を仰ぎながら、溜息をつくに留めるのみだった。
イザークの秘書、シホ・ハーネンスの情報が正確ならば、オフィス街付近に突如として現れた白銀の怪人は
車両、建築物の無機物や制止を図る警官部隊をその腕の異様な角で見境なく破壊…殺戮の宴を開いている、との事だった。
何やってんだシン…こんな時こそ、お前の出番だろうよ。
…ディアッカはあのぶっきらぼうな、しかし頼りになるあの少年の横顔を思い浮かべ、
焦る気持ちを抑えようとしていた。
「!! ほぅ…あれが。」
「あいつ、遅いんだよ…ったく!!」
バックミラーと左側のサイドミラーに映る、深紅のマフラーをたなびかせ、マシンを激走さている仮面の戦士へ二人は思い思いの言葉をぶつけていた。
グォン、グゥゥアァァァオァァァンッッ!!
シルエットランダーが轟とした唸りをあげ、一気に加速する。
2台の差は一瞬で詰まり、そしてあっという間にインパルスの背中は二人の視界から消え失せてしまった。
「本来なら免停モノだが…状況が状況だ、癪に障るが仕方ないな。そうだろうディアッカ?」
遠くで聞こえる鋭いエギゾースト音を聞きながら、イザークが呟く。
ディアッカがそれに微笑で応えると、彼はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らし握るハンドルに力を篭めるのだった。


419 名前:仮面ライダーSEED :2006/07/08(土) 17:55:08 ID:???

「グルッァァァァァァァッン!!」
道路を一文字に横切ったペンキや炎上する車の炎、そして夥しい鮮血。
様々な赤でその一画を染め上げた禍禍しき路上のアーティストは人ならざる姿に身を変え、吼えていた。
ただひたすらに吼えていた。
「グ…ァ?」
不意に視界に映り込んだ街路樹に折り重なるよう、倒れ伏した学生らしき青年の姿が彼に忌まわしき記憶を呼び起こさせる事を強要する。

冷え冷えとした冷気に支配された、ダークブルーに彩られたの夜の砂漠。
いたる所から昇る煙、血生臭い匂いが少し前にここで戦闘があった事を物語っている。
ジャリッ・・・。
そこに、シンボルマークの深紅の戦闘服を自らの血でまだらに染め上げた、数年前のヴェイアが立ち尽くしていた。
「イライ…ジャ。」
目の前にうずたかく築かれた戦友達の亡骸の中に、彼は親しかった友の姿を見出していた。
その死を見取る様に…雲の切れ間から三日月が顔を覗かせ、もう二度と変る事のない友の頬に柔らかな光が指し込む。
「人は…なぜ、争うのでしょう…平和?欲望?それとも己の本能に抗えないからでしょうか?」
悲しみに沈むヴェイアの耳にどこかで聞き覚えのある少女の声が響いた。
彼はこんな状況で少女の声を聞いた事に驚きと不審感を感じつつ、声のした方へ首を巡らす。
青々とした月光も合間って、神秘的な雰囲気をかもし出すドレスに身を包んだ桃色の髪の少女がそこにはいた。
「悲しみと憎悪の輪廻…終わる事のないもの…では人は戦うしかない?その身を滅ぼしてまでも?」
ヴェイアの視線をその身に受けても、彼女は詩をそらんじるかの様に独白を続けるのみだった。
…なんだ、この感覚は…体から力が抜けていく様な…しかし、心地良くもある。
謎の少女を前に、ヴェイアは何故か妙な脱力感と癒しの様なものをその身に感じていた。

グシャァァッ!!
過去の記憶をゲイツとなったヴェイアが思い返していたのは、ほんの束の間の事に過ぎなかった。
今の彼の脳裏にあるのは全ての破壊、それだけである。
「グルゥ・・・!!……。」
新たな獲物を求め、歩み出そうとした彼の足はしかし、そこで歩みを止めた。
改造人間である彼の聴覚はこの場に接近する、モンスターマシーンに跨る戦士を知覚していたのである。

「あいつ…もう…。」
破壊の限りを尽くされた町並みを目にし、力なく呟くシンの脳裏をアスランの言葉が過ぎる。
『シン、彼を…救ってやってくれないか?』
先ほど唐突にシンの目の前に現れたアスランは開口一番、そう懇願してきた。
『なっ…アンタもそんな事を言うのかよ!!他にも方法があるかもしれないだろっ!?』
…その躊躇いがちな言葉の意味するところを察し、わめき散らすシンにアスランは落ち着いた口調で言葉を返す。
『…彼の体と精神は度重なる実験でもう既に、かなりボロボロなんだ…そう長くは生きられないだろう。
仮に生き延びられたとしても意識が完全に消失し、彼が凶悪な獣となってしまうのに猶予の時間はもう少しも残されてはいないんだ。』
『…けど…そんな。』
想像以上の事態にシンは言葉だけではなく、誰の目にも明らかな迷いをその表情に昇らせた。
『俺は上層部から実験体として彼を捕獲するよう指示を受けている。
しかし…甘い考えかもしれないが最後くらいは人して、その生涯をおわらせてやりたい、だから…頼むシン。』
そう言うとアスランは目の前の少年の瞳を一瞬だけ、強く見据えその場から立ち去っていった。


420 名前:仮面ライダーSEED :2006/07/08(土) 18:01:15 ID:???

…アスランの言葉を信用していないシンではなかったが、
ヴェイアがいるここに近付くにつれ、その言葉は否が応にも次第に現実味を帯びてきた。
俺が…俺があの時、迷ったから…こんな!!
彼の後悔を後押しするわけではないが、疾走するバイクのサイドミラーに犠牲となった家族の姿が一瞬、写り込み、追いやられる様に消えていった。
シンにとってその姿は、今は亡き家族の最期を思い起こさせる。
「あんたは!!アンタって人はァァァァっ!!!!」
シルエットランダーの上で行き場のない怒りに燃えるインパルス、その全身をエメラルドの輝きが包む。
「ハッ!!」
ブラストインパルスは目前にゲイツを捕らえると、バイクのスピードそのままに単身、宙へ飛び上がる。
地上の怪人を刺し貫くように構えたジャベリンが陽光を反射し、ギラリと鈍く輝く。
一方、ゲイツも黙って見ているわけではない。
手足、両方を使って中空でインパルスを迎え撃とうと蛙のように跳躍した!!
「ずぁぁっ!!」
「がぁぁぁっ!!」
落下のスピードを乗せたジャベリンのひと突き、掬い上げる様な豪腕の一撃がぶつかり合う。
「ちぃぃぃ…っ。」
しかし、この勝負…インパルスに大きく不利なのは明白だった。強者と強者、その凄まじき攻防が一回で終わるはずもない…。
自然と、必要とされる動作が短いゲイツの豪腕が振るわれる回数が多くなっていく。
地上まであと1m…。
インパルスは今や、ジャベリンを回し防御に徹するのみだった。
…ズシャッッ!!
一足先に着地を果たしたゲイツは重力に引かれ、落ちてくるインパルスを舌なめずりをするかの様に待ち構える!!
しかしそんな状況にも関わらず、ブラストインパルスは慌てふためく様子は見せなかった。
その仮面にほんの一瞬、躊躇いの影が生まれた---、そう見えた次の瞬間。
「ブラ…スト……エ…ンド…。」
ブラストインパルスの最大必殺技、ブラストエンドが地表スレスレの距離で炸裂した。
爆光が…轟音が、否応無しに二人を包み込む…。


421 名前:仮面ライダーSEED :2006/07/08(土) 18:02:32 ID:???


「なぜ…こんな事を。」
「あの時…あの時からさ、私の心はいきる事を…止めて…いた。」
道路の真中にポッカリと開いたクレーターの中心でシンとヴェイアは言葉を交わしていた。
いきる事をやめた…そう語る彼の脳裏には今まで奪ってきた多くの命、その持ち主の顔が浮かんでは消え、浮かんでは消えていた。
ここでの大虐殺、先ほどのダガー兵、戦場で出会った敵兵士…そして自分の目の前で死んでみせたあの子供。
既に虫の息にあるヴェイアだったが、何故かその表情は晴れやかだった。
「だからってアンタに…アンタに命を奪っていい権利なんか…ないんだ。」
辛そうに言葉を縛り出すシンにヴェイアは穏かだが、しかし厳しい言葉を突きつけた。
「それは…君も同じ…だろう、仮面ライダーインパルス…。」
「・・・……。」
「…君が何の為に戦うのか、何故戦わねばならぬのか…よく、考えて…みろ、私のように…血臭に塗れてしまう…前に。」
ヴェイアの瞼がひっそりと閉じる---、その頬にポツリ。またポツリと天の恵みが降り注ぎ始めた。

シンは曇天の空を仰ぎ見た。
何時の間にかどんよりとしたその空は、見る者に言い知れぬ不安を喚起させる。
「…俺は---、俺はっ!!」
灰色の雲を映す、深紅の瞳に燃える炎が束の間…その意思の弱まりを示すかの様に僅かに揺れ動いた。





                                                 つづく



422 名前:ガノタ仮面 ◆OyaGOupcFw :2006/07/08(土) 18:20:33 ID:???
連投規制をすり抜けて、やたら長くなってしまった戦闘パート終了です

まとめの話ですけど、自分は全然おKっす。
・・・他の職人さんとの作品と並ぶと、自分の出来が恥ずかくなる悪寒はしますがw



ご意見、ご要望お待ちしておりますです。
では、また次回
(*´・ω・`)ノシ


423 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/08(土) 18:57:28 ID:???
すごいGJ!アスランとシンの会話もいい
なんか泣きそうになったよw

424 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/08(土) 22:01:40 ID:JxY6Uzu6
GJGJ!
すごいなぁ。このくらいヘヴィなことをアニメでもやってくれたらよかったのに。

425 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/09(日) 00:34:55 ID:???
GJ!

……が、一つだけ。
カオス→ガイア
でない?

426 名前:31 :2006/07/09(日) 00:37:14 ID:???
|ω・`)コソーリ

|ω・`)つ[まとめサイト]


>>413氏の要望に応えて@Wikiで作ってみました。URLはメール欄参照。
編集は私のSS部分だけ自分だけの権限に変えてありますが、他は自由に編集できるように
してあるので、職人さんの承諾が取れ次第編集できる方はご協力ください(ここ重要)
作っておいて無責任な気がしますが、多分あまり編集できませんので……。

既に承諾が取れたガノタ仮面氏の『仮面ライダーSEED』は前スレ1話を掲載しています。


とりあえず自分のSSの方頑張らねば('A`)

427 名前:31 :2006/07/09(日) 01:53:57 ID:???
追記

>>393-396
>>399

に載っているSSの項目は作っておきました。バタバタ作っただけなので不備は多いですが。
さて、SS頑張りますよ('A`)

428 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/09(日) 19:29:44 ID:???
お疲れさまです
自分できるかわからないけど、手伝えたら手伝いますんで

429 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/10(月) 13:09:10 ID:???
乙っす!
でも、前スレの単発物って作者様の了承得るの難しくないですかね?
結構前の多いし、そのあたりの方がこのスレ続けてご覧になっているのでしょうか?
長編持ってる方は「書きます」とか「待たせてます」とかで、ご覧になってる&執筆されてるのが分かるのですが・・・

430 名前:31@携帯 :2006/07/10(月) 13:49:20 ID:???
>>429
おっしゃる通りです
しかし、個人で勝手に決めるのもどうかと思って、前のレスではああ言いました

どうしましょうか。事後承諾が一番早いのは確かなんですが


前スレはDAT2HTMLでHTML化したものを持っているのでどこかにアップしようかと思います。ある程度の期間保持できるアップローダを誰かご存知ありませんか?

431 名前:31 :2006/07/10(月) 21:59:33 ID:???
前スレ分のみに投下している方のSSは大体アップしました(´・ω・`)チカレタ
このスレ以降は任せます……orz

432 名前:衝撃(ry :2006/07/10(月) 23:06:54 ID:???
ホントに乙!
まとめサイト見ました。
SSの項目欄に「仮面ライダー衝撃」の文字を見たらなんか嬉しくなりましたw
というわけで、自分も載せるのはおkです

本当ならSS投下のときに言いたかったのですが、まだ完成の見通しすら立っていなくて……
了承が遅れたことを深くお詫び申し上げます

出来れば今週中には投下したいと思います

433 名前:31 :2006/07/10(月) 23:57:18 ID:???
>>衝撃作者氏
アップしときました。

現在まったくアップしてないのが
 ・71氏(仮面ライダーSEED DESTINY)
 ・196氏(仮面ライダーRubyEye)と
アップ途中
 ・ガノタ仮面氏(仮面ライダーSEED)

です。ガノタ仮面氏の前スレのSSの話数の切れ目が私が良く分かってないので中途半端な
状態です(´・ω・`)
補完よろしくお願いします

434 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/12(水) 09:12:47 ID:???


435 名前:1/16 :2006/07/12(水) 22:00:35 ID:???
仮面ライダー衝撃(インパルス)

第五話


「変身!」
シンはバイクに乗ったまま叫び、灰色の、そして青のインパルスへとその身を変えた。
満月が街を照らす中、インパルスを乗せたマシンスプレンダーが疾走する。
インパルスの赤い目は、前方をまっすぐに見据えていた。

インパルスの見据える夜空には、何者かが飛行していた。
白と赤の鳥のような姿をしている、硬質の皮膚をまとった謎の飛行物体。
警察ではいまだ未確認のMS、後にムラサメ、と呼ばれることになるものの変化した姿だ。
ムラサメ飛行態はかなりの速さで飛行しているが、マシンスプレンダーを全く引き離すことができない。

ムラサメは武器として、圧縮した生体エネルギーを光弾として撃ちだす特殊な光弾銃、俗にいうビームライフルを持っているが、飛行態のときには前方に固定されているので、後ろを狙い撃つことはできない。
上昇したムラサメは人型に変化した。
ムラサメの姿は、四年前に確認されたMSの中ではM1に似ている。
人間に似た二つの目、赤い二本角と、頭部の意匠はインパルスにも通じるものがある。
背中に翼を生やし、右手に銃を、左手には盾を持っている。
ムラサメは右手の銃をインパルスへと向けた。

「……くっ!」
シンはマシンスプレンダーを巧みに操り、二度、三度と連発して放たれる光弾をかわしながら呻いた。
飛行態から人型へと変化したことでスピードは格段に落ちたが、次々と放たれる銃撃をかわさなければならないため、追跡は困難になっている。
スピードで振り切るのではなく、牽制しつつインパルスをまく方法を選んだムラサメは、右手の銃を撃ちながら、さらに上昇している。
このままでは、逃げられるのは時間の問題だ。



436 名前:2/16 :2006/07/12(水) 22:02:20 ID:???
どうする……、あんな高度じゃ、ジャンプしたところで到底届かない。どうすればいい!?
シンは徐々に焦燥を深めていく。三日前の深夜に例の奇妙な気配を感知してから三日三晩寝ないで探し続け、やっと捉えた相手だ。何より、奴を逃がせば犠牲者が出るに違いない。
何としても逃がすわけにはいかない。
だが、そんなシンの思いと裏腹に、ムラサメの姿は徐々に小さくなっていく。
シンの知る限り、インパルスに飛行能力はない。空中への攻撃手段もないのだ。

「うわあぁっ!」
進行方向の道路が光弾を受け、アスファルトの破片を撒き散らして吹き飛んだ。その余波で、マシンスプレンダーは横滑りになってしまう。
シンは急いでバイクを立て直すが、ムラサメの姿はもはや闇夜へ溶け込む寸前だ。

くそっ!このままじゃ!
この際、多少無茶な方法でもやるしかない。
幸い、ムラサメはもう逃げ切れたと思っているのか、銃撃はない。
インパルスはマシンスプレンダーの加速性能をフルに発揮させ、いっきに最高速までもっていく。その先には、車が路上駐車されていた。
シンはそれを見ても全くスピードを落とさず、まっすぐに突っ込んでいった。



437 名前:3/16 :2006/07/12(水) 22:03:51 ID:???
衝突するかと思われた次の瞬間、インパルスを乗せたマシンスプレンダーは宙へ舞い上がっていた。
シンは車をジャンプ台代わりにして、マシンスプレンダーを跳躍させたのだ。踏み台にされた車のボンネットはへこんでいる。
極限まで加速させて飛び込んだおかげで、バイクはムラサメへと迫るほど高く跳躍できた。
ムラサメは慌てたようにマシンスプレンダーへととっさに光弾を放った。エネルギーの波動が、マシンスプレンダーへと直撃し、火花を散らせる。
ムラサメは確かな手応えを感じ、優越感をもってそれを見た。だが、そこにあったのはバイクだけで、インパルスの姿はなかった。
バイクの後部が多少へこんでいた。

動揺したムラサメは、目の前が突然暗くなったのに更に驚き、上を見上げた。インパルスが月明かりを遮りつつ、すぐそこまで迫っている。
シンはムラサメに撃たれる直前にバイクから跳び上がっていた。この二段ジャンプにより、ついにムラサメを超える跳躍をすることができた。
インパルスはムラサメの肩を掴み、ベルトの力を込めた拳の一撃をムラサメの背中へと叩き込んだ。付根に直撃を受けたムラサメの片翼が、宙に舞う。
ムラサメは身軽で飛行能力を持つ分、表皮の強度は弱い。
インパルスの拳は背中の皮膚を貫き、骨格をも破壊、内部にまで届いた。
インパルスはムラサメの肩を掴んだ左手を突き放して、拳を引き抜いた。そのまま体勢を変え、ムラサメを蹴り飛ばす。
ムラサメはインパルスと離れるように落下、地面に激突する直前で断末魔の叫びを上げ爆発、四散した。
インパルスはアスファルトの破片を巻き上げながら着地する。アスファルトの道路が陥没した。
シンは同じように着地したマシンスプレンダーにまたがり、その場を後にした。
自分を見つめる視線があったことには、気付かなかった。



438 名前:4/16 :2006/07/12(水) 22:05:01 ID:???
雲ひとつない、抜けるような青空に、歓声が響き渡る。
敷地の中央には巨大な観覧車が回り、ジェットコースターのレールが南北に横断している。
地上ではマスコットのぬいぐるみが風船を配っている。
つい最近新装されたばかりの遊園地、アルテミスランドだ。
今日はキャラクターショーがあるせいか、平日にもかかわらずかなりにぎわっている。
親子連れが多いが、もう一部の学校は春休み中でもあるので、学生も少なからずいた。
今入園したばかりの六人連れも、そんなグループの一つだった。

「さあ、遊ぶわよ!」
入園して開口一番、ルナマリアはそう宣言した。見るからに元気が有り余っている。
ほかの面子も、パンフレットを開いたり、一日フリーパス券をまじまじと眺めたりと、一人を除いておおむね張り切っている。
そんな中唯一、シンだけは日の光にまぶしそうに眼を細め、あくびをしていた。
「なあに冴えない顔してんだよ」
ヨウランが、後ろからいきなりシンにヘッドロックをかけた。シンは両手をじたばたさせるが、ヴィーノまでがヨウランに加勢してきたので、抜け出せない。
「うわ、何すんだよ!」
「せっかく遊びに来たってのに、つまんなそうな顔してるからだよ!」
「そうだそうだ、もっと楽しめ!」
「うぐぐ、こんなんで楽しめるかぁ!」
二人がかりを見かねたレイが、三人を引き離した。
「もうその辺でいいだろう。シンは体調が悪い。少しゆっくりさせてやれ」


先日の大掃除のとき、シンはMSの気配を感じ、バイクで飛び出した。そのMSは何とか倒せたが、家に帰ったときにはもう掃除はほとんど終わっていた。
結果的に大掃除をサボったことになる。事情を察したレイは何も言わなかったが、シンはルナマリアたちにこっぴどく叱られた。
そのお詫びとしてシンは、遊園地「アルテミスランド」への入園料と一日フリーパス券代をおごる羽目になったのだ。



439 名前:5/16 :2006/07/12(水) 22:05:56 ID:???
「そうよね。こんな馬鹿なことしてないで、まずは……あ、あれ。待ち時間なしだって!」
ルナマリアの指差したのは、「光に挑む速さ!」というキャッチフレーズで人気のジェットコースター、プラズマ百式だった。
「俺はいいよ。今日はちょっと……」
「情けないこと言わないの。はい、一名さまごあんな〜い」
「おい、ルナ!わかった。わかったからから服を引っ張るな!」

結局シンとルナマリアだけがプラズマ百式に乗った。
二人は金色のジェットコースターの一番前の席に座った。

「キャアアア!」
「ウワアアァァァァ!」

「う、うう……」
「だらしないわねえ。ジェットコースターくらいで」
ベンチに横たわって呻いているシンを、ルナマリアがハンカチで仰ぎながら言った。
「バイクは平気なのにね」
「そりゃ、自分で動かすのとは違……うぅぅ」
顔を上げてメイリンに反論しようとしたが、また気持ち悪くなって横になった。
「あのシンが乗り物酔いする何てなあ」
「ホントホント」
「まあ、あのジェットコースターもすごかったのは確かだけど」
「そんなにすごいの?」
「う〜ん、光の速さってのはめちゃくちゃだけど、それでも今までに乗った中では一番かも。ものすごい回ってたし、速かったし」
「そうなんだ。私、乗らなくてよかった」
「そうね。メイリンじゃ気絶しちゃうかも」
「え〜。お姉ちゃん、ひどい」



440 名前:6/16 :2006/07/12(水) 22:08:12 ID:???
シンとしては、寝不足の疲労坤狽であれ乗ってみろ、と大声で叫びたいところであったが、もちろんそんな余力はない。ただ、好き勝手言われてるのを呻きながら聞いているしかなかった。

雑談は雑談でなかなか楽しいものではあったが、遊園地まで来てそれでは意味がない。
「ねえ、シンは私がみてるから遊んで来ていいわよ?」
「そりゃ悪いな。じゃあ、遠慮なく」
「ヨウラン。いくらなんでも……」
「いいからお前はこっち来い」
なおも何か言おうとしていたヴィーノの襟首を引っ張り、ヨウランはどこかへと歩いていった。二人は少し口論していたようだが、ヴィーノが納得したらしく、すぐに治まった。
「レイとメイリンも行ってきたら?」
もとはといえば、ルナマリアが体調の悪そうなシンに無茶をさせた結果である。一応、責任は取るつもりだった。
「でも、お姉ちゃん……」
「いいからいいから。ただの乗り物酔いにこんな大勢で付き合う必要なんてないわよ」
「それもそうだな。だがルナマリア、俺が代わろう。お前はメイリンと遊んでくればいい」
ルナマリアは一瞬考えたようだが、すぐに首を横に振った。
「いいわよ。なんかいつもこういうことレイに任せてるような気がするし。たまにはレイも楽しんできたら?」
「だが……」
なおも何か言いかけたレイを、メイリンが後ろから引っ張っていった。
「じゃ、レイ。メイリンのことよろしくね」
「ちょっと、お姉ちゃん。それ、逆じゃないの?」

「何で、レイと代わらなかったんだ?」
シンは横になったままルナマリアに聞いた。別に深い意味はないが、少し気になった。
「だって、レイったら遊んだりすることとかってないじゃない。たまにはいいかなって」
いつもレイにはみんな世話になっている。むしろ、なりすぎているぐらいだ。無理にでも遊ばせるのはいい考えかもしれない。
シンは、唐突にすさまじい眠気に襲われた。横になっていたことで、疲労と睡魔のピークが来たらしい。
「そっか……。ごめん、ルナ。ちょっと……眠くて……」
「今朝から、なんか体調悪そうだったもんね。いいわよ」
ルナマリアが優しく言い、シンは、ゆっくりと眼を閉じた。
シンの意識は、急激に眠りの世界へと沈んでいった。



441 名前:7/16 :2006/07/12(水) 22:09:30 ID:???
俺はいつの間にか、本で顔を覆って、芝生の上に横になっていた。
これは、いつのことだったかな。
そうだ。確か、最後に家族全員で遊びに行ったときだ。珍しく父さんと母さんが二人とも休みを取れて、キャンプをしたんだ。
紅葉のきれいな山だった。家族みんなでテントを立てて、すごく楽しかった。
俺、いや僕は、紅葉を見ながら横になってたんだ。芝生がやわらかくて、日差しも気持ちよくて、いつの間にかうたた寝をしてた。

「うわぁ!」
顔の上に、いきなり落ち葉が降ってきた。
驚いた僕が落ち葉を払いながら顔を上げると、妹のマユが悪戯っぽい笑顔をしてた。
どうやら、マユが僕の顔に落ち葉をふっかけたみたいだ。
「こら、マユ!」
「うふふ……」
僕が起き上がって捕まえようとすると、マユは笑顔のまま、踵を返して逃げ出した。
マユが木の陰に隠れるようにして、顔だけを出した。僕も木の反対側から、マユにあわせるように顔を出す。
するとマユは逃げるように逆の方から顔を出した。僕もマユの顔を追いかけるように、顔を出した。何てことのない追いかけっこだったけど、僕はすごく楽しかった。
「あはは……」
「いーっ」
顔を合わせた僕に、マユはまた悪戯っぽい笑顔を向け、僕が伸ばした腕から逃げるように、振り返って駆け出した。
もちろん僕は、マユを追いかけた。
「待てよ、マユー」
するとマユはまた振り返って、眩いばかりの笑顔を僕に向けてくれた。
「あはは」

そこで、いきなり場面が切り替わった。
全てが真っ白な病室。この部屋には、うつむいた少女が腰掛けているベッドしかない。
僕は、その少女に手を差し出した。
少女は顔を上げ、僕の顔をまじまじと見た。
そして、その顔に恐怖の色が広がっていく。

「いやぁっ!」
僕の伸ばした手を、目の前の少女、マユは振り払った。
今まで見たこともないような、怯えた表情をしている。
恐怖に震えるすみれ色の瞳に映っているのは、黒髪で真紅の瞳の少年、僕だ。



442 名前:8/16 :2006/07/12(水) 22:10:36 ID:???
「……マユ……」
「ちょっと、シン!大丈夫なの!?」
眼を開いたシンの瞳に、心配そうな顔をしたルナマリアが映りこんだ。
「……ルナ……?」
「なんかシン、いきなりうなされて……どうしたのよ?」
「……ちょっと、嫌な夢を見ただけだよ」
シンの額には脂汗が浮かんでいる。相当にうなされていたらしい。
「けど……」
「なんでもないって言ってるだろ!」
シンはつい声を荒げてしまった。ルナマリアはその勢いに押され、何も言えなくなってしまう。
「あ……その、……ごめん」
シンはルナマリアに謝るが、会話は続かなくなってしまった。
二人の間に、気まずい空気が流れる。

アルテミスランドのシンボル、大観覧車のゴンドラに二人の男女が向かい合って座っている。普通、そのようなシチュエーションではアベックを思い浮かべるだろうが、この二人の場合、それは当てはまらない。
レイとメイリンだ。二人とも互いの顔を見ることなく、外の景色ばかりに集中している。
「ねえ、レイ?」
「なんだ?」
窓の外を見たまま、メイリンが聞いた。レイも視線を窓の外に固定したまま、聞き返す。
「楽しい?」
「何でそんなことを聞く?」
「だってレイ、いつもクールっていうか何ていうか、顔に出すことないでしょ。ちょっと気になって」
それを聞いたレイはふっと息をついてから言った。
「そうか」
「で、どうなの?」
「さあな」
「なによ、それ〜。教えてよ」
メイリンはむきになって追求するが、それをきれいにはぐらかす。
レイの表情は、心なしか楽しそうに見えた。



443 名前:9/16 :2006/07/12(水) 22:11:58 ID:???
シンは突然、例の奇妙な気配を感じた。
頭を押さえ、うずくまったシンに、ルナマリアは動揺しつつも、シンの身体を気遣った。
「ちょっと、どうしたの!大丈夫!?」
シンは無理に笑顔をつくった。この感覚は説明できない。
「ごめん、ちょっと喉が渇いちゃって」
「分かった。じゃあ、なんか買ってくるわね」
駆け出したルナマリアに、シンは後ろから大声で言った。
「ルナ!ごめん!」
「いいわよ、気にしないで!」
ルナマリアは一旦立ち止まり、振り返ってから、またも駆け出した。その背中に、シンは再度、小さく呟いた。
「ごめん、ルナ……」

ルナマリアが缶ジュースを片手にベンチへ戻ってきたとき、そこにシンの姿はなかった。
「シン、どこ!」
ルナマリアはその辺りを探すが、シンらしき姿は見当たらない。
諦めたルナマリアはベンチに座り、ポツリと呟いた。
「あんなのに調子悪そうだったのに……、どこほっつき歩いてんのよ」
そのとき、大きな衝撃音がした。
「何!?」
その直後、人の波が押し寄せてきた。何かの事故だろうか。
ひょっとして、シン……!?
ここに見当たらない以上、どこかで何かに巻き込まれていないとも限らない。
ルナマリアはその方向へと走った。

シンはルナマリアが見えなくなってすぐにベンチを離れ、その気配が指し示す先へと走った。
体調が悪いせいか、気配がぶれていくつも感じる。だが、MSがいることは間違いないだろう。
仮にそれが勘違いでMSなどいなければ、それが一番だ。
とにかく、自分で確認しなければはじまらない。
一番近くにある気配は、園の中央にある城、アンブレラ城からだ。



444 名前:10/16 :2006/07/12(水) 22:13:29 ID:???
城に入ったシンは、関係者以外立ち入り禁止の札を無視して、屋上の扉を開ける。
見た目の華々しさとは裏腹の、殺風景でチャチなつくりの屋上だ。子供に見せたら、夢を壊してしまうことだろう。しかし、今のシンにとってそれは何の意味も持たない。
見晴らしだけはいいので、気配が探しやすい。神経を研ぎ澄まさせるまでもなく、シンはMSの気配を感じた。
すぐ下!?
シンは申しわけ程度につけられた柵から身を乗り出し、下を覗いた。そのすぐ下をムラサメ飛行態が浮遊している。
それを見た人々は、MSの姿にパニックを起こし、悲鳴をあげ、我先にと逃げ出した。
一人の子供が転んだ。母親が助けに行こうとするが、人波に流されて、近づけない。ムラサメはその子に狙いを定め、急降下した。母親の悲鳴がこだまする。
もはや一刻の猶予もなかった。シンは柵を乗り越え、ムラサメへ向かって飛び降りた。
「変身!」
シンの腰にベルトが現れ、戦うための姿、インパルスへと変貌していく。

うずくまって泣いている女の子へと、異形の怪物が襲い掛かる。娘の下へと駆け寄れない母親は、一瞬先の惨劇を見まいと、顔を覆った。
辺りに轟音が鳴り響く。
恐る恐る眼を開けた母親は、娘の無事とその先でもつれ合う二体の怪物の姿を目撃した。

変身しながらムラサメに組み付いたシンは、そのまま落下していった。轟音をあげ、アスファルトを撒き散らして地面に激突する。
灰色のインパルスは落下中にムラサメを組み伏せ、下敷きにした。地面にめり込んでいる以上、そうすぐには立ち上がれないだろう。
そう思ったシンは、立ち上がり、女の子のもとに歩み寄り、手を差し出そうとした。少しでも、不安を和らげてあげたかった。
しかし、その子は自分に近寄るインパルスを見て、怯えた表情で叫んだ。
「いやぁっ、来ないで!」
インパルスはその声に動揺したように立ち止まった。
その間にやっと母親が来て、その子を抱き上げて逃げ出す。シンは、呆然と立ち尽くしたままその親子が走り去っていくのを見ていた。



445 名前:12/16 :2006/07/12(水) 22:15:01 ID:???
シンの脳裏に、最後にマユと会ったときのことが甦る。
「いやぁっ!」
その時も差し出した手を振り払われ、シンは立ち尽くすしかなかった。

突然、シンは背中に強い衝撃を受けた。ムラサメが復帰して、インパルスを後ろから急襲、飛行態で体当たりを仕掛けたのだ。
ムラサメ飛行態は旋回して、片膝をついたインパルスへ光弾を放った。シンは両手で顔をかばうように防御する。
シンは跳躍して、ムラサメ飛行態に飛び掛った。しかし、直前で垂直上昇したムラサメは人型へと変化し、インパルスを蹴り落とした。
「うわぁっ!」
インパルスは背中から地面に激突し、一瞬息が詰まった。そこへムラサメは光弾銃を連射し、追い討ちをかけていく。インパルスは地面を転がりながらそれをかわしつつ、腕の力だけで起き上がった。
動きが早い。なら!
早速、青へと変わろうとした。しかし、インパルスには何の変化も起こらなかった。
シンは動揺するが、ムラサメはそんなことお構いなしに襲ってくる。
変われないんなら、このままでもやってやる!
インパルスは覚悟を決め、ムラサメに立ち向かった。

インパルスは跳躍して手刀を振り下ろすが、ムラサメは瞬時に飛行態へと変化してそれをかわした。
体重をかけた一撃をかわされたインパルスはバランスを崩す。そこへ旋回してきたムラサメが光弾を撃ちこんだ。空中では自由がきかず、インパルスは肩に直撃を受けてしまう。
肩を押さえつつ、かろうじて着地したインパルスは、ムラサメのいる空を見上げた。インパルスに一撃を加えたムラサメは離脱し、再度旋回をしているところだった。
どうやらムラサメはその飛行能力を生かした一撃離脱戦法をとるつもりのようだ。飛行能力を持たないインパルスには反撃のしようがない、かなり嫌な攻撃だ。

旋回してきたムラサメの光弾の連射をインパルスはかわした。不意を突かれるのならともかく、狙いを見ていればかわすのはそう難しくはない。
だが、このままではシンも反撃することができない。
今ムラサメはインパルスの頭上を通過しようとしていた。先ほどの攻撃のために、かなりの低空飛行になっている。これなら、届くかもしれない。
シンは意を決して跳躍した。



446 名前:12/16 :2006/07/12(水) 22:16:03 ID:???
インパルスに気付いたムラサメは急上昇しようとするが、インパルスの方が早い。
ムラサメにあと少しで手が届く、というところで、シンは背中に強い衝撃を受けた。バランスを失して、インパルスはそのまま落下する。
落下しながらもシンは後ろの方を見た。飛行態のムラサメが接近している。

二体、いたのか。
シンは先ほどの感覚のブレを思い出した。
あれは、体調が悪いだけのせいではなかった。二体いたのもその理由だった。
だが、それが分かったところでどうしようもない。
インパルスは地面に激突するが、なんとか着地できた。それほど大したダメージではない。
インパルスは瓦礫を押しのけ、何とか立ち上がった。
そんなインパルスの目の前で二体のムラサメは旋回し、人型に変化し降り立った。一撃離脱戦法をやめ、二体がかりで手っ取り早く止めを刺すつもりなのだろう。
二体のムラサメは同時にインパルスへと飛び掛った。

インパルスの拳は空を切り、ムラサメによる蹴りがインパルスの背中を襲う。インパルスは前のめりに倒れそうになるが、もう一体のムラサメが素早く拳を繰り出した。
インパルスは何とかその攻撃を防ぎ、左で正拳突きを放つ。しかし、目の前のムラサメは流れるような身軽な動きで、インパルスの拳をかわした。
ムラサメは拳も蹴りもたいした威力はなかったが、とにかく手数が多い。激しい攻撃の連続に、シンの体力は徐々に削られていく。さらに、ムラサメは非常に身軽でインパルスの攻撃はことごとくかわされてしまう。
光弾銃は溜めに時間がかかるので、接近戦では使えない。それだけが、救いだったが、相手は二体。見事なコンビネーションで、次第にインパルスは追い詰められていった。

ムラサメは飛行態へと変化し、上空へと飛び立った。もう一体が、その素早さを活かしてインパルスを翻弄する。



447 名前:13/16 :2006/07/12(水) 22:16:52 ID:???
くそぉっ、何で当たらないんだ!
シンはその理由が全く分からない。動揺し、焦燥を深めていく。
焦りはさらにシンの眼を曇らせ、狙いを甘いものとしていく。そんなインパルスの攻撃をかわすなど、ムラサメの身軽さをもってすれば造作もないことだった。
シンは目の前のムラサメに集中し、激しい打撃を繰り出すが、その全てが見事にかわされてしまう。
渾身の力を込めたインパルスの回し蹴りを、ムラサメは必要以上に高く跳躍して避けた。
いかにムラサメとはいえ、人型のままでは空中での動きは制限される。追撃を仕掛けようと、インパルスも跳躍した。だが、ムラサメの影からもう一体のムラサメが人型へと変化、
急降下の勢いを加えての蹴りをインパルスへと炸裂させた。

蹴り飛ばされたインパルスはそのまま木に叩きつけられる。
「きゃあぁっ!」
いきなり、少女の悲鳴が聞こえた。
みんな逃げたんじゃなかったのかよ!
驚いたシンは倒れたまま、声のしたほうを見た。ちょうどシンが叩きつけられた木の反対側、腰を抜かしたのかぺたんと座り込んでいるルナマリアの姿があった。

「な……!?」
何でルナがここにいるんだよ!?
危うくそう叫びそうになったのをシンはかろうじてこらえた。
ルナマリアは、怯えた表情でインパルスとムラサメを交互に見た。
「くっ、逃げろ!」
シンは叫んだ。ルナマリアはびくっと身体をすくめる。シンは、もう一度叫んだ。
「急げ、ルナ!」

えっ……!?今ルナって言ったわよね……?
ルナマリアは目の前の灰色の仮面ライダーがそう言ったのを聞き逃さなかった。シンは自分の発言に全く気付いていない。

とにかく、ルナマリアは急いで立ち上がろうとした。普段から見れば、どうしようもない程もたもたとした動きだが、こんな状況でパニックも起こさないのは大したものだ。
しかし、そんなことはムラサメは構いもしない。光弾銃の銃口を、インパルスに向けた。
銃口に光が集まる。
シンは逃げようとして、思いとどまった。
ここで避けたら、ルナに当たる!?
だが、灰色のままでこれ以上ダメージを受けると、戦えなくなるかもしれない。シンはその場で立ち止まり、逡巡した。
ここでルナを見捨てて奴らを倒したって、後で必ず後悔する。
だけど、奴らを倒さないと、他の誰かが犠牲になるかもしれない。
俺は、俺は……。
光弾が二発放たれ、インパルスへと直撃し、火花が散った。辺りを煙幕が包む。



448 名前:14/16 :2006/07/12(水) 22:17:52 ID:???
俺は、誰も死なせたくない!
煙が晴れた。青いインパルスが後ろにいるルナマリアをかばうように両手を広げ、仁王立ちしていた。
インパルスはわずかに振り返り、ルナマリアの様子を見た。へたり込んではいるが大きな怪我はないようだ。
ただ彼女の眼は大きく見開かれていた。その瞳は、驚愕と恐怖を映し出している。
そして彼女は、インパルスを見ながらゆっくりと歩き、後ろを振り向いて走り去った。

ルナマリアが逃げたのを見届けたインパルスは、二体のムラサメを見据えた。ルナマリアまでも巻き込んだことに、シンは強い憤りを感じていた。
シンは自分の意思でベルトのエネルギーを右足へと流し込んだ。力がみなぎっていく。
ルナマリアの目の前で、強く地面を蹴ったインパルスはムラサメへ突進した。
二体のムラサメは光弾銃で応戦するも、インパルスは走りながら両腕で完全に防御した。
「うおおぉっ!」
ムラサメの手前でインパルスは跳躍、右足から突っ込んでいく。
最後に放たれた光弾もその威力を相殺することは出来ず、一体のムラサメの胸部へとインパルスの右足がめり込んだ。

フォースキックの直撃を受けたムラサメは爆散するが、もう一体のムラサメは飛行態に変化し、爆風に紛れて空へと逃亡した。
シンはそれをも見逃すことはなかったが、既にムラサメはインパルスの手の届かないところへと逃げている。
バイクのない今、インパルスに追跡手段は無い。
だが、直撃を受けなかったとはいえ、あのムラサメもフォースキックのダメージを受けていたらしい。
高く飛翔していたのが、徐々に高度を落としている。



449 名前:15/16 :2006/07/12(水) 22:18:54 ID:???
「あれは!?」
「なになに、どうしたの?」
レイたちの乗ったゴンドラは今頂点に差し掛かろうとしていた。反対側の景色を見ていたメイリンは移動し、レイの見ている方の窓を見た。
「別に何も……って何、あれ!?」
言いかけたメイリンは、空の方を見上げて素っ頓狂な声を出した。
白と赤の鳥のような姿をしている。しかし、その硬質な皮膚が鳥、いやメイリンの知るあらゆる生物の範疇に入らないことを示していた。
ある単語が、メイリンの脳裏に浮かび上がる。
MS。前に姉が言ったときには、ありえないと口論になった。
だが、目の前にそれがある以上、信じざるを得なかった。
しかも、そのMSは……。
「ウソ!こっちに来てる!?」

このままじゃ、観覧車にぶつかる!?
ムラサメの動きを地上から見ていたシンは、その恐ろしい想像に身震いした。
そんなことになったら、どれだけの人が犠牲になることか。
しかし、ムラサメがこのままのコースで飛んでいたら、そうなることは間違いない。

くそぉっ!何にも出来ないのかよ!?
そのとき、インパルスの身体が緑色に変化した。
「なんだよ、これ!?」
色が変わったことにシンは驚く。
シンの視界がクリアになり、ムラサメの動きが手に取るようにはっきりと見えた。
ムラサメがぶつかろうとしているゴンドラの乗客さえも。
「レイ!?メイリン!?」
このままムラサメがぶつかれば、二人とも無事ではすまない。
シンは焦るが、何とかできる、というような不思議な安心感があった。

シンは、腰の前に左手をかざす。
ベルトが強い光を放ち、シンに新たな力を与えた。
緑色のインパルス専用の大型銃、ケルベロス。
それが、シンの左手に握られた。



450 名前:16/16 :2006/07/12(水) 22:20:34 ID:???
インパルスは銃身に右手を添えるような形で銃を構えた。
シンはケルベロスがまるで四肢の一部であるかのような錯覚を感じた。
確かに、ベルトが生み出したケルベロスは、インパルスの一部であるといえるだろう。
それが、緑のインパルスの超感覚の力を借りて、ムラサメに狙いを定める。
照準、目標、空気の流れ。全てが一つにつながった、そう感じたとき、シンはためらわずに引き金を引いた。
「いけぇっ!」
ムラサメが持つのと同様の、しかし桁違いに強いエネルギーの波動が目標を貫いた。
ムラサメはゴンドラの直前で爆発、四散した。

「それでね、目の前で爆発したのよ!ガラスにもなんか当たったし、もう、すっごい怖かったんだからぁ!」
帰りの車の中で、メイリンが一人まるで喋りまくっている。
幸い死傷者こそ出なかったものの、遊園地は緊急閉鎖されてしまった。おかげで六人の乗った車は渋滞に巻き込まれている。
そんな中、なぜかメイリンが観覧車に乗っていたときに起こったことをひたすらに喋りつづけていた。
ぱっと見元気そうに見えるが、その眼はいまだ怯えている。
おそらく、話し続けることで恐怖を紛らわせているのだろう。
それがわかっているからこそ、運転席でなぜかずっと不機嫌そうにしているヨウランもヴィーノも、もちろんレイも、何も言わずにメイリンの話を聞き続けていた。

一方、ルナマリアは珍しく静かにしていた。
MSに襲われたことも、インパルスに助けられたことも何も、誰にも話してはいない。

確かにルナって呼んでた。けど……。
ルナマリアは、シンの寝顔を見た。シンは車に乗ってすぐに寝息を立て始めた。
今日は調子が悪かったのをみんな知っているので、誰も邪魔をしなかった。
今はベンチで寝てたときと違って、とても穏やかな寝顔をしている。

まさかね……。


451 名前:衝撃(ry/16 :2006/07/12(水) 22:27:25 ID:???
以上、第五話終了です。

>>445は11/16の間違いです。
すみません。
(前にも同じようなことをしたような……)

それにしても31さん、仕事、速いですね。
了承して一時間もしないうちにアップするとは……
とにかく、乙です。


452 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/13(木) 00:47:17 ID:???
GJ!!!
すごい迫力。一気に読めちゃいましたよ。

毎度、お疲れ様です。

453 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/13(木) 14:36:20 ID:???
凄いおもしろかった!
どのMSの名前が出てくるかとかまで楽しんでます
戦闘もいいけどシンルナメイの会話もよかった

454 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/14(金) 10:35:35 ID:???
GJ!

455 名前:31 :2006/07/15(土) 21:18:01 ID:???
|ω・`)コソーリ

>>451
GJです。
たまたま見たときにレス付いてたのでスクリプト走らせてコピペです。
(改行なんかがおかしかったらそのせいです)

SSは現在2/3くらい出来てるので早ければ日付変わるころにアップします。

456 名前:31 :2006/07/16(日) 01:02:35 ID:4Na9AiLz
投下前にあげときます。

457 名前:31 :2006/07/16(日) 01:03:35 ID:???
仮面ライダーSIN 九話

(何か策でもあるというのか?)

レイはシンの行動が理解できなかった。MRの状態を維持することはそれだけで体力を消耗
する。シンが担ぎ込まれてきたときには長時間目を覚まさなかった。自分には思いつかな
くてもシンには何か思うところがあったのかもしれない、レイはそう思って聞いてみるこ
とにした。

「シン、それでどうするつもりだ?」
「……どうしよう」
「何だと」
「青いやつになればスピードでどうにかなると思ってたんだけど。赤いやつになってる」

レイはシンの言葉から二つのことを理解した。一つはシンがMRの能力を使いこなせていな
いこと。もう一つはシンがMRの能力を過大評価していることだ。それはこれまでの局面を
臨機応変に切り抜けてきたシンの力だと言えなくもないが、この場でそれは足かせにしか
ならない。一刻を争うときにひらめくのを待ってはいられない。レイはため息混じりに

「どうすればいい……ラウ」

そう呟いた。呟いたというよりは頭で思っていることで思わず唇が動いてしまったといっ
た程度の声量だ。吐息にまぎれれば何かを言っていることでさえ分らない程度だろう。

「ラウって誰だ?」

シンの言葉にレイはビクッと体を震わせた。聞こえているはずがない。何かの偶然だ。レ
イはそう思っていた。ぎこちなくシンのほうを観ると色が赤から緑に変わっている。

「シン、その姿は何だ?」

シンは耳の位置を手で押さえた。

「もう少し小さい声で話してくれよ。耳が痛い」
「どういうことだ」

タダでさえ音が響きやすい体育館で、しかも敵がいる現場だ。レイは充分に声を殺してし
ゃべっている。シンがそれでも大きいと言うので口だけを動かして声を出さないことにし
た。

458 名前:31 :2006/07/16(日) 01:04:47 ID:???
「よくは分らないけど、感覚が狭く深くなってるみたいなんだ」
「狭く深く?」
「MRのセンサのせいかも知れないけど。聞くことに集中するとノイズも含めて色々聞こえ
てくる……外で待機してる教官の話し声も聞こえる。じっと見ようとすると細かいブレま
で見えるようになる」
「と、いうことは……」

先の大戦で感覚に特化したMRがいたという話を聞いたことがあった。偵察や長距離射撃要
因として重宝されていたらしい。これにかけるしかない、レイはそう思った。

「緊急」と書かれた赤い箱の認証機能のスリットにカードキーを通して暗証番号を打ち込
んだ。中には白いMSシグーが入っている。胸部、足部、拳、フェイスマスクとレイは手際
よくMSの部分部分を装着する。上腕や下半身のパーツを装着しないままレイはシステムを
起動させた。旧式のMSはサポート機能が少ないが、その分スタンドアロン性が高くパーツ
のみの使用もできる。シグーの腰部に収納されていた対MS用ハンドガンを取り出し、シン
に渡した。

「何をするつもりなんだ?」
『これからは通信を使え。事態は急を要する』

レイはそう言って体育館の二階からアビスの側面に回り込む。

『やつの方には各肩に一門づつ、計二門の対MS弾がある。一門おまえがつぶしてくれれば
もう一門はおれが引き受ける。それだけ隙を作れば後は先生方がどうにかするだろう』
『待てよ、そんな単純な作戦でどうにかなるならなんで今までに先生たちが飛び込んでな
いんだよ』
『口径を見ろ。旧式のジンやシグーでは装甲どころか胴体ごと貫通する。下手をすればお
とりが次々にやられてそれで終わりだ』
『それじゃ、レイは』
『当たらなけれはいい。オレを信じろ』

以前の試合で戦ったときにはレイはシンの攻撃をことごとくかわしていた。だからといっ
て銃弾を避けるというのは無理な話だ。MSを装着してリミッターを外したにせよ弾を避け
ることが人間の反射神経で可能なはずがない。ましてや装甲板をかなり外した状態で命中
すればまず命の保障はないだろう。そんな危険なことをレイにさせるわけにはいかない、
シンはそう思った。

『スピードならオレの方が。青いのに変わればシグーの2倍近くでは動ける』
『お前では避けきれない』

シンの言葉をレイははっきりと拒絶した。こうなったらもう何を言っても無駄だ、シンは
そう思った。

459 名前:31 :2006/07/16(日) 01:06:00 ID:???
『……分かった』
『おまえは確実にアビスの砲門を潰すんだ』
『分かってるよ』

自分の腕にすべてがかかっているのだ。今はただ、それを全うするしかない。緑のインパ
ルスはハンドガンの上についているガイドからアビスを覗き込んだ。スコープのように中
心が定まらないのでターゲットに照準が合わせ辛い。今のインパスルの感覚は極限にまで
研ぎ澄まされていた。銃は接地した上で両手で固めて持っているはずなのに自分の呼吸で
照準がブレていること。心臓の鼓動が高鳴っていること。瞬きをして視界が連続写真を撮
っているようになっていること。それらでさえ煩わしく思えてきた。

そうは言ったものの、命中精度も相当に悪いハンドガンでどうにかなるものかとシンには
疑問だった。この距離でも弾道がずいぶん逸れてガイドに合わせた通りに着弾してはくれ
ないだろう。目測からは相当外れるはずだ。試射もせず撃って当たるはずもない。こんな
ことなら弾道計算の話をまじめに聞いておくべきだった。情報は必要なときには不足して
いて不要なときには過剰なものだ。迷っていても仕方が無い。ねらいをつけて発砲した。

(まずい!)

シンは発砲した瞬間にミススナイプだと分かった。想像していた弾道よりも弾の落下が早
く、このままではメイリンに当たりかねない。

(たのむ、当たらないならせめてちゃんと外れてくれ)

インパルスはすぐに第二射の用意に入った。しかし、焦りも加わってうまくいかない。い
や、実際にはうまくいっているのだが、意識だけが先行して体が動いていないように感じ
てしまうのである。

(くそっ!なんでこんなにもたつくんだ!)

全身にギプスが付けられているように動きが鈍く感じる。弾丸が砲門の上をかすめて方
パーツをえぐり、跳弾して地面に向かっていくのが見えた。レイがアビスに向けて飛び出
したのが視界に入った。アビスの砲門が反射的にインパルスとレイの方を向く。

インパルスに向けて銃弾が発射されている。インパルスは空間に潰されてきしむような感
触の手を押し上げる。利き目と反対の目を閉じてバレルのラインを弾道に向けて引き金を
引いた。発射の軽い衝撃がインパルスの手首を押し戻す。空中でインパルスの銃弾とアビ
スの砲弾が空中で衝突した。弾丸の先端が衝突で潰れ、砲弾が爆散する。そのとき、イン
パルスは三射目の準備に入っていた。

460 名前:31 :2006/07/16(日) 01:07:46 ID:???
砲門が向けられた時にはレイはステップ幅を変えて急旋回をはかっていた。横っ飛びの状
態で砲弾はレイの左ほおをかすめて、体育館の壁面に命中する。三層になっていた壁の二
層目までが抉り飛ばされる。体育館の外では中の状況についての情報が錯綜していた。

『何だ、今の爆音は!中の様子はどうなってるんだ!』

フレッドが叫んだ。

『誰かが中でアビスと交戦しているようです』
『どこのバカがそんなことをしてる。死にたいのか!』

ユウキが興奮気味のフレッドの肩を叩いてハンドサインで接触回線を開くように指示した。

『こんなときになんだ』
『中で戦ってるのはおそらくインパルスです』
『インパルスが?あれは強奪されて消息不明のままだろ。公安がそれらしきMRについて調
査しているという話はジュールから聞いたが』
『それが色々厄介なことになってましてね。グラディス理事長から我々に通達がないとい
う妙な状況なんですよ』

ユウキの物言いが遠まわしで、何か歯切れが悪い。フレッドはストレートに聞き返した。

『どういうことだ。要領がつかめんぞ』
『赤の騎士が戻ってきたんですよ』
『奴がか?おまえはどうしてそのことを知ってる』
『この事態が収拾され次第お話しますよ。今の音を聞いて外もまずいことになってきたよ
うですしね……今はこの事態をどうにかしないと』


興奮したデモ隊をヒステリー状態に落とし込めるのに、爆発は充分すぎるほどのトリガー
だった。集団にデマが飛び交い、デマは集団のヒステリーを最大に高めていった。

「爆発があったぞ!」
「同志に向けてコーディネイターから発砲があったみたいだ!」
「報復されるのか?」

集団に動揺が走る。だが、そのとき

「自らがまいた種を力で押さえつけようというのか!」
「そんなことが許されてなるものか!」
「奴らはに思い知らせるんだ!奴らは我々が作ったものなんだと!」

若い主義者たちが銃器を担ぎ出して煽動を始めた。そのアジテーションが集団を再び活気
付け、勢いを取り戻していく。

461 名前:31 :2006/07/16(日) 01:08:32 ID:???
「青き清浄なる世界のために!」

この掛け声で集団は一体となった。デモ集団はアカデミーへの突入を始めていた。アカデ
ミー側は門を閉じて閂をかけているだけだ。集団での体当たりや銃器の使用が始まると持
ちこたえられそうにない。すぐさま正門前の警備員が理事長室に連絡を入れる。理事長室
でその様子をモニターしていたアーサーがすぐにフレッドたちに通信を入れた。

『大変です!今の爆音を聞いて正門前のデモ隊が校内に侵入しようとしてます!』
『落ち着け、アーサー。今、ユウキたちを校門の方に回す』
『主義者は銃器を取り出しています。公安には連絡しましたが、それまで持つかどうか分
かりません。早くMSを向かわせてください』
『了解』


体育館の中では二つの砲門が同時にレイに向いていた。今度は時間差で撃たれることは間
違いない。頭の上でした爆発音からしてシンの援護は期待できない。片方の砲門がレイに
向けられて動きを止めた。間髪いれずに一発目が発射される。

レイは体をかがめて前のめりになり、体をすぐに切り返せるような姿勢を取って飛び上が
った。空中では落下中の動作に制限がかかるが、下手に左右にかわせば斜線上にメイリン
が入ってしまい。当たれば生身のメイリンは消し飛んでしまう。それに上から落ちてくる
間の銃撃は一番照準を合わせにくい。

レイは空中で一回転して片足を伸ばしてキックの態勢を取った。二射目がレイの顔のすぐ
上をかすめる。キックのために体を倒していなければ弾が胸板を貫いていただろう。弾は
二階部分のガラス窓を突き破って外へ飛び出していった。ほぼ同時に一射目から固まった
ままのアビスの肩アーマーをインパルスの射撃が貫く。

「うっ」

肩に衝撃を受けたアビスがよろけた。そこにレイのキックがアビスの頭部を直撃する。レ
イは着地と同時に下からアビスのあごを蹴り上げ、立ち上がると同時にメイリンをアビス
から引き離し、肘鉄で胸部アーマーとスーツの隙間を突いてアビスを吹き飛ばした。アビ
スはむき出しになった鉄筋部分に激突して倒れこんだ。

「大丈夫か?」
「レイ?」

レイの声を聞いて安心したメイリンの表情、涙腺、筋肉、すべてが緩んだ。その場に崩れ
落ちそうになってレイにしがみつく。

「立てるか?」
「う、うん」

そうは答えるが、メイリンの膝は震えている。すぐに動けるはずもなかった。アビスがし
ばらく眠っていてくれれば問題はないのだが、MRがそうそうそのままでいてくれるはずも
ないだろう。レイは外で待機している教官たちに連絡を取った。

462 名前:31 :2006/07/16(日) 01:09:23 ID:???
『人質の奪還に成功した。すみやかに突入願いたい』

外にいたフレッドがそれに反応した。

『キサマは誰だ』
『誰だってかまわないだろう。敵味方の区別をはっきり付けたいというのはあるだろうが、
このチャンネルを知っている味方だということは信頼していただきたい』
『信用はできないが、外の状況も一刻を争う時でな。入らせてもらうよ』

フレッドはそう言って突入の指示をした。扉が開くと、鉄骨の下にうずくまっているアビ
スと、白いMR――シグーとそれに寄りかかっているメイリンの姿があった。

「クルーゼ!?」

フレッドは思わす声を上げた。クルーゼは装甲板過多になるMSの傾向を嫌い、機動性確保
のために部分的にしかMSを装着せずに戦っていた。今、目の前にいるシグーの装着の方法
はクルーゼのものだ。フレッドとクルーゼは戦友だったが、クルーゼと一緒にいると何か
とトラブルが多かった。クルーゼのまるでスリルを楽しんでいるような無茶な戦いぶりや、
自分だけ状況を悟りきったような態度をしていることなど、フレッドとは馬が合わなかっ
た。フレッドが一戦から退くきっかけになったのもクルーゼに遠因があった。だが、ク
ルーゼは先の大戦で戦死したはずだ。フレッドは目の前の状況を把握できずにいた。


(旧式だからって油断しちゃったな)

フレッドの声でアウルは目を覚ましていたが相手に悟られないようにじっとしていた。ア
ウルはアビスの損傷具合を確認した。一発もらった方の砲門は中破していて下手に打つと
暴発してこちらの肩が吹き飛ぶかもしれない。もう一方はどうやら無事のようだ。目の前
にはジンの集団が自分を包囲しているが、今までよりも格段に人数が減っていて逃げられ
ないことはない。

(おかえしはしなきゃね)

都合よく無事な方の砲門はシグーのほうを向いていた。周りにいるジンに悟られないよう
に微調整をした。

463 名前:31 :2006/07/16(日) 01:10:10 ID:???
(悪いけど死んでもらうよ)

アウルはシグーめがけてトリガーを引いた。と、その瞬間、アビスの肩アーマーは吹き飛
んだ。

(くそっ、何でだ)

アビスがよろよろと立ち上がりながら二階部分を見ると、そこにはアビスに銃口を向けた
インパルスの姿があった。わずかな動きまで把握できるようになっていたインパルスは、
アビスが銃口を合わせたときには発砲していた。アビスがトリガーを引いたときにはイン
パルスが放った対MS弾がそこまで迫っていたのだ。銃口から発砲された弾丸とインパルス
の対MS弾が衝突し、肩アーマーを爆散させていたのだ。

「アビスが動いたぞ!」
「臆するな。こいつはもう肩の大砲が使えなくなっている」
(痛いところ突くなぁ。でも、瞬発力なら負けないよ)
「黒いMRが入ってきたぞ!」

黒い塊が通過した後にはアビスを包囲していたジンを壁の端まで吹き飛ばされていた。そ
れほどにガイアのスピードは速く、

「ガイアかっ!」

フレッドが叫んだ。フロアに残されたのはフレッドと敵か味方か分からないシグーだけだ
った。旧式MS2体と最新MR2体では分が悪すぎる。ガイアはアビスに連絡をつけていた。

『アウル、大丈夫?』
『ああ、どうにかな』
『ネオが外でいっぱいの人のなかで待ってる。そこで変身をとけば大丈夫だって』
『了解。逃げるか』

二体のMRが申し合わせたように体育館から飛び出した。フレッドは追いかけずにアーサー
に連絡を入れる。

『アーサー!アビスに加えてガイアまで体育館から逃げ出した。そっちのモニタでどっち
へ逃げたか調べてくれ』
『了解』

アーサーは近くのカメラを探してアビスとガイアの姿を探した。塀を乗り越えるところま
では見つかったのだが、塀を乗り越えた後はデモ隊にまぎれて誰が誰だかわからなくなっ
てしまった。

464 名前:31 :2006/07/16(日) 01:11:04 ID:???
『デモ隊にまぎれて分からなくなっちゃいました』
『何ー!デモ隊から外れていこうとする奴とかいないのか』
『あからさまにそんな目立つことをする奴はいませんよ!』
『手がかりなしか……』

フレッドはアーサーとの通信を切ってシグーに目を向けた。

「で、おまえは誰なんだ」

シグーは何も答えようとせずにフレッドの威圧的な視線を返していた。


「すごーい、あっという間でしたね」

はしゃいでいるミーアに対してアレックスは浮かない顔をしていた。久しぶりのMR装着と
いうこともあって、力の制御ができずに随分むごいことをしてしまった。タメもなく放っ
た一発が蜘蛛足のMAを壁にめり込ませていた。ミーアから渡された腕輪のおかげでジャス
ティスにはならなかったとはいえ、力がそこまで制限されているというわけでもないよう
だ。レストランのマスターの通報で警察が来たのまでは見たが、MAの中の人間は死んでし
まったのだろうか。そんなことを考えると気分は沈んでいた。

「よしてくれ」

アレックスは憮然とした顔でミーアに答えた。

「どうしてそんな顔するんですか?」

アレックスはミーアの問いに答えることができなかった。直接狙われていたわけではない
が、あのままでは自分も殺されかねなかったし、ミーアはラクスと間違われたまま確実に
殺されていただろう。過剰防衛のきらいはあるが、テロリストに対する正当防衛と言って
もさしつかえないだろう。だが、アレックスは後腐れの悪さを感じていた。悪意にあてら
れたのかもしれない。昔、公安にいて、その大義を盾にしていた頃にはそれが自分を守っ
ていたのだが、それが個人になってからはどこまでが許容されるのかが分からなくなって
いた。何も答えないアレックスにミーアがこう切り出した。

「元の鞘に戻る気はないんですね」
「公安に、ということなら戻る気はない。オレは大義を信じられずに逃げ出した男だ」
「そうやって偽名を名乗って自分のためだけに生きていていいんですか?」

ミーアの言葉がアレックスに刺さった。

465 名前:31 :2006/07/16(日) 01:11:56 ID:???
「あなたには与えられた使命があるんじゃないんですか?私だって、こんな時代だから少
しでもみんなに元気になってもらいたくて歌手を目指したんです。でも私はラクス=クラ
インのモノマネというだけで、それ以上のことはできなかった……。でもあなたは違う。
本物なんだもの」
「タクシーが来た。すまないがオレはこれで」

答えようはいくらでもあった、タクシーに乗り込みながらアレックスはそう思っていた。
だが、おそらくその答えにミーアは納得しないだろう。自分が納得していることを話して
も相手に納得してもらえるとは限らない。まして自分が納得しないことならばなおさらの
ことだ。

ミーアはタクシーが小さくなっていくのを見届けて、電話ボックスに入って電話をかけた。

『赤の騎士と接触して指示されたものを渡しました。ですが、当人は復帰する気は無いよ
うです……』


アーサーの通報を受けてアカデミーの外に公安が駆けつけ、なだれ込もうとしていたデモ
隊は鎮圧された。モニタリングを続けていたアーサーはひと安堵していたが、タリアはイ
ライラを募らせていた。

「理事長。二人を連れてきました」

フレッドがシンとレイを連れて理事長室へ入ってきた。フレッドはアビスにやられた肩を
つっていた。

「ご苦労様。この子達と話をしたいの。下がって」
「はい」

フレッドが理事長室を出て行く。

「アーサー、あなたもよ」
「えっ!私もですかっ?」
「ほら、早く」

タリアはせかしたててアーサーを部屋から追い出した。

「どうぞ、そこにのソファーに座って」

出入り口のそばに立っていたシンとレイに応接用のソファーに座るように薦め、タリアは
二人に向かい合う位置に座った。シンは何故呼ばれたのかと不服そうな顔をしているし、
レイは何もなかったかのように平然とした顔をしている。

466 名前:31 :2006/07/16(日) 01:12:53 ID:???
「二人とも何も悪いことはしてないって顔ね」

タリアの問いかけに二人とも押し黙っていた。

「あなたたちのしたことは重大な校則違反です。いえ、校則違反どころか下手をすればク
ラスメイトを殺していたのかもしれないのよ」
「じゃあ、何もしない方が良かったっていうんですか」

シンがボソッと言った。赤い瞳はタリアの方を向いていない。

「それはあくまで結果論よ。シン、いえ。MR インパルスと呼んだ方がいいかしら」
「どうしてその名前を……」
「あなたのことはギルバートから聞いています。ユニウスセブンの日のこともね」
「マスターが?」
「彼はあなたの逸脱行動を認めているようだけど、私はそれにも限度があると思うわ。ア
カデミーではあなたは生徒なんです。生徒を危険なことに関わらせるわけにはいけない
わ」
「それはそちらの理屈でしょう。オレとシンはクラスメイトを守りたかったし、その力も
ありました。理事長は結果論だとおっしゃいますが、仮にオレたちがあの場に関与しなけ
れば生徒が一人死んでいたかもしれません。それは理事長の本意ではないでしょう?」

シンの隣で黙っていたレイが口を開いた。それを聞いてタリアはため息をついた。

「そのしゃべり方、一体誰に似たのかしら。まあ、いいわ。今後は保護者にも承諾を取っ
て校内の警備を厳重にして対策に当たります。あなたたちは今回自分たちが関わったこと、
自分たちがMSやMRを使ったことをしゃべらないように」
「無論です」
「メイリン=ホークは錯乱していてあまり覚えていないらしいから、彼女に何かを思い出
させるようなことを言わないように気をつけて。私からは以上よ」
「分かりました。失礼します」
「ふう、どうしたらいいのかしら」

シンとレイは理事長室を後にした。不服そうにしているシンにレイは声をかけた。

「おまえのしたことは間違ってはいない。おまえがいなければオレもあの作戦には出られ
なかったし、メイリンも助からなかった」

レイはそう言ってツカツカとシンの先を歩いていった。シンはレイの口からそんな言葉が
出てきたことに驚いてはいたが、少し嬉しかった。

教室に戻ると、缶詰状態で何も知らされていない生徒たちがレイとシンをぐるっと囲んで
あれこれ質問をしてきた。

467 名前:31 :2006/07/16(日) 01:14:47 ID:???
「外で何があったんだよ?」
「帰ってきたって事はもう終わったのか?」

レイはいつもの通り黙っていたし、生徒もそれを仕方ないと思っていた。すると必然的に
シンに質問が集中することになる。さっき少し感心したのを忘れたのかのようにシンはレ
イを恨めしく思った。矢継ぎ早に出る質問をのらくらかわすだけの器用さはシンにはない。
ついつい言葉につまってつけこむスキを与えてしまう。

「シン、メイはどうなってるの!?」

ルナマリアの質問に今までざわついていた周りが静まった。

「ねえ、どうなったの?」
「今、保健室にいるよ」
「怪我したの?」

ルナマリアは必死の形相を浮かべている。シンは思わす目を背けてしまった。

「怪我はしてないはずだけど、念のためだよ」
「良かった……」

しんとした教室にドアが開く音が響いた。メイリンが教室に戻ってきたのだ。ルナマリア
が駆け寄ってメイリンに抱きつく。

「メイリン!」
「お姉ちゃん……。ごめんね、心配かけて」

メイリンはそう言うとレイを見た。教官たちは教えてくれなかったが、自分を助けてくれ
たシグーからは確かにレイの声がした。レイはメイリンの視線に気付いて言う。

「なんだ?オレの顔に何かついてるのか?」
「ううん。何でもない」

メイリンはそう言って黙った。その様子を見てヨウランとヴィーノがシンのところへ集ま
った。

「おおーっと、なんかいい雰囲気だねぇ」
「こりゃ何かあったんじゃないですか。ねえ、旦那」

ヨウランとヴィーノがシンの方を見る。シンは二人の目が自分に向けられたことに困惑し
ながら言った。

468 名前:31 :2006/07/16(日) 01:16:27 ID:???
「別に何だっていいんじゃないのか。当人同士の問題だし。オレは何も知らないよ」
「そんな事言ってまたー」
「友達思いの硬派ってのも悪くはないけど、それじゃ女子から人気が出ませんよー」
「そんなの要らないって」

シンは二人と逆の方を向いて机に伏せた。短時間しか変身していないとはいえ、心身とも
に消耗していた。与太話に付き合う気はなかった。

「あー、もう。ノリが悪いなー」
「レイに嫉妬してるのか?男の嫉妬はみっともないぜ」
「そんなんじゃないっての」
「いやいや、分かるよー。なにせレイのやつは冷静沈着、学年総合主席。おまえが来るま
では引き分けですらないくらい強いし、どこをどうコーディネイトしたらあんなのが生ま
れるのかと正直嫉妬するよな」
「オレたちもコーディネイターだってのにこの差はなんだよ」
(……そんなことどうだっていいだろ)

シンはそう思いながら目を閉じた。

「おい、シン」

ヴィーノがシンの体を揺らすがシンの反応がない。シンはこれ以上話してボロが出るのも
面倒なのでタヌキ寝入りを決め込んだ。

「寝ちゃったな」
「またかよ。こいつよく寝てるなー」
「ほっとこうぜ。こいつの寝起き最悪だし」
「そうだな。それより、あの記事読んだ?例のMRの記事」
「読んだ読んだ。軍も戦争終わってから仕事がないからって酷いことやってるよな」

「MR」という言葉にシンは聞き耳を立てた。

「でもあの記事本当なのか?」
「ORB通信だし、どっちかに肩入れしてるってことはないんじゃないの?あんまり見たこ
とない記者だったけど。誰だっけ?」
「ミリアリア=ハウだっけ。いろいろなところで書いてるしフリーなんだろうな」
(ミリアリア?……どこかで聞いたような……)

シンはミリアリアという名前に何か引っ掛かりがあった。誰かから聞いた名前だ。そこま
では覚えている。言ったのは誰かだったのか、聞いたときにあまりいい気分ではなかった。
と、すると真っ先に思いつくのはアレックスだ。アレックスが言っていたとすると……。

469 名前:31 :2006/07/16(日) 01:17:24 ID:???
(そうだ、あの夜に電話でアレックスが話してた相手だ)

アレックスと彼女がどういった知り合いかは知る由もないが、アレックスの友達らしく、
危ないことに手を出しているらしい。いい年してしょうもない人たちだ、シンはそう思っ
た。ふっと限界が来てシンはそのまま眠り込んだ。


その日の夕方、ミリアリアはORB通信にいた。先日書いた赤いMRと軍の計画についての記
事のことで編集長に呼び出されたのだ。ミリアリアは編集長の机の前に立っていた。

「君の記事、反響がすごいよ」
「ありがとうございます。というべきなんでしょうか」

編集長の机の上を見ると抗議文や脅迫状、ファックスなどが山のように積まれている。編
集部に入ったときに他の人から聞いたのだが、上の方からも圧力がかかってきたそうだ。

「まあな、こっちも正直対応に困ってる」
「すいません」
「気にするな、これだけデカイネタだ。色々な反応があってしかりだ。逆に単一の反応し
か出てこないってのは健全じゃねえ」

編集長は禁煙パイポを噛みながら言った。

「うわっ、中破っちまった」

空っぽの灰皿に編集長は禁煙パイポを吐き出した。

(汚いなぁ)

そう思いながらもミリアリアはクスっと笑った。

「どうもしまらないな。まあ、正直な話おまえに護衛をつけてやりたいところだが、うち
もそんなに余裕がないもんでな。仮眠室なんかは自由に使っていいから、ほとぼりが冷め
るまでしばらく泊まっていけ。外は危ないぞ」

編集長はブラインドカーテンを指で広げて外の様子を覗き見た。ユニウスセブンの事件に
抗議するデモ団体が大通りを占領している。昼間にアカデミー前で暴動が起こったことも
あってか、道の両サイドには警官隊が配置されていてダラダラと省官庁に向けて行進して
いる。

470 名前:31 :2006/07/16(日) 01:18:11 ID:???
「お気遣い。ありがとうございます。でも、まだ取材したいことがあるんで」
「おいおい、大丈夫か?」
「大丈夫です。いざとなったらタダで護衛してくれるやつがいますから。じゃ、取材に行
ってきます」

そう言ってミリアリアは編集部から出て行った。

「あの子、男を尻に敷くタイプだよなぁ……」

編集長はそう言って新しい禁煙パイポを取り出した。

ミリアリアはビルの地下駐車場に待たせてあった取材の車に乗り込んだ。

「ごめん、遅くなっちゃって」
「いいっすよ。編集長女の人には話長いですから」

ORB入社二年目の新人君が護衛代わりというほどではないが、ミリアリアに付き添うこと
になっていた。地下駐車場から出ようとしてカーブを曲がると、出会いがしらに黒いマン
トをまとった執事風の老紳士が立っていた。

「うわっ」

ブレーキを踏んだが止まりきれずにぶつかった。新人君が目を開けると男は片手でバンを
止めていた。

「ひぃいい」
「ちょっと、アンタ何よ!」

ミリアリアが車から飛び出して文句を言った。

「ミリアリア=ハウさまですね。お招きにあがりました」

老紳士は膝を突いてミリアリアに答えた。

「そうだけど、あんた誰よ!」
「我が主があなたと会いたいとおっしゃっております」
「手荒い歓迎ね」
「場所を知られたくありませんのでこうするのもいたし方ないでしょう」

老紳士ははそう言うと胸ポケットから銃を取り出して、フロントガラス越しに運転手を打
ち抜いた。表情を変えず、淡々と作業をこなしているという様子だ。

「そんなもの使って、人が来るわよ!」
「ご心配なく。外はデモでこの程度の音がしたところで気付くはずはございません。防犯
カメラには偽の映像を送らせていただいています」

471 名前:31 :2006/07/16(日) 01:18:59 ID:???
銃をよく見てみれば先にサイレンサーが付いている。ミリアリアはとっさに止めてある車
の陰にもぐりこんだ。

「逃げおおせはしませんよ。ここに来ているのは私一人ではないのですから」

コツコツと黒服の男の足音が駐車場に響いた。四方から徐々に近づいているのが分かった。
初対面の人間の前で人を撃ち殺して連れて行こうとしているイカレタ連中とはお付き合い
したくない。ミリアリアは車伝いに逃げようとした。駐車場の柱や車に隠れて走り、非常
口まであと一歩というところまできた。生憎非常口と駐車場の間には道があってそこを越
えなければいけない、ひと思いに飛び出した。ミリアリアの体がグッと引っ張られた。引
っ張られた方を反射的に見ると黒服の男がミリアリアの手をつかんでいた。

「さあ、一緒にいただきましょうか」
「ひっ!」

ぬっと現れた老紳士の顔はとても不気味だった。老紳士の後ろから仲間がずらっと出てき
た。こうなればおとなしく連れて行かれるしかないのか。そう思ったときにふっと男の手
が離れた。

「ミリィ、大丈夫?」

黒い体にフィットした皮の服を来た青年が倒れそうになったミリアリアを抱きかかえた。

「キラ!」
「お退きくださいませ。無益な殺生はいたしたくありません」

キラは老紳士の言葉を無視してミリアリアに話しかけた。

「聞きたいことが色々あるんだけど、そうもいかないみたいだね」
「気をつけて、その人たち普通じゃないの」
「コーディネイターか!」
「いえいえ、私たちめは普通の人間です」

そう言うと執事たちはマントを投げ捨てた。マントの下にはMSが装着されている。ミラー
ジュコロイドを標準装備したNダガーNだ。一人を残してミラージュコロイドで姿を消した。

「そこをどいていただけると手荒なまねをしなくても済むのですが」

キラの顔つきが険しくなった。

「大切な友達を連れて行かせるわけにはいかないんだ」

472 名前:31 :2006/07/16(日) 01:19:46 ID:???
そう言ってキラは変身した。変身後のキラの姿を見て老紳士は少し驚いた様子を見せてニ
ヤリとする。

「ほう。あなた様がそのようなお方だったとは、とんだご無礼を申しました。あなた様に
も我が主の下へぜひ来ていただきたいものです」

白銀のボディに蒼い翼――全大戦でその名前を轟かせたMR フリーダムが翼を広げていた。


第九話 おわり

473 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/16(日) 01:42:19 ID:???
緑赤青とかおもろいな
自由も登場したw
謎のじぃさんも気になる
ともかくGJ!

474 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/16(日) 10:43:06 ID:???
凸の見せ場が凄まじい勢いでキングクリムゾンしたのに噴いたw
多数のキャラを動かしながらも、シンを中心に描写するという姿勢がブレないのはいいね
しかし毎回、井上なみの引きをかましてくれるなw

475 名前:31 :2006/07/16(日) 19:04:08 ID:???
|ω≡)コソーリ

結局26時間テレビに付き合って起きてました。


>>473
感想ありがとうございます。
色は元ネタどおりです。設定は微妙に弄ってますが。

>>474
感想ありがとうございます。

>キンググリムゾン
実はゴールドエクスペリエンスレクイエムネタっぽいのを
オーディン@龍騎のタイムベントと混ぜて考えてたりしましたが……

>井上なみの引き
今回は事情が違うんですが、1週1話ペースで書こうとすると次回の
頭くらいまでしか考えてないのでこんな感じになります。

内容のできや好き嫌いは色々あると思いますけど、井上氏の筆の
速さは書き始めてみてすごいものだと痛感してます。プロだからと
言われちゃえばその通りなんですが。


起きてずっと作業しつつ書いてたら10話ができちゃったので、
来週まで待たずともアップしちゃってもいいかなとは思ってますが
どうでしょうかね?( ´・ω・)

476 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/16(日) 20:27:57 ID:???
>>31さん
お願いします!

477 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/17(月) 20:38:12 ID:???
さぁ来い!職人ゼクター!!

478 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/18(火) 22:01:26 ID:KEk3ecoI
一話から見たいのですが、まとめサイトとかはないんですか??

479 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/18(火) 22:50:24 ID:???
http://www15.atwiki.jp/sinatmaskedrider/


480 名前:31 :2006/07/19(水) 23:40:48 ID:???
>>476
リクエストに答えて今から仮面ライダーSIN第10話投下します。

481 名前:31 :2006/07/19(水) 23:41:34 ID:???
仮面ライダーSIN 第10話

「いやだ」

老紳士の誘いをキラはきっぱり断った。

「だって、こんなことをする人たちがいい人のはずないし」
「随分とはっきりおっしゃる」
「そうかなぁ。普通だと思うけど?」

老紳士と離している間に風がフリーダムのボディをかすめる。だが、不意の攻撃をフリー
ダムはたやすくかわす。キラにはミラージュコロイドを使ったMRとはブリッツの戦闘経験
があったからだ。ミラージュコロイドをまとわれるとMRの高精度センサーで姿を捉えるこ
とができなくなる。しかしそれは光学や熱感知センサーを誤魔化しているだけだ。光学迷
彩に特有の揺らぎは肉眼では確認できるし稼動音もする。

「不意打ちするほうがよほどたちが悪いよ」
「できれば穏便に、と思ってのことです」

老紳士がすっと右手を上げた。一斉に地面を叩く音が駐車場に響いた。フォーメーション
を組んだのかもしれない。だが、フリーダムは伊達に最強を名乗っているわけではない。

「手加減なんてできないよ」

腰の両側に装備していた対MSライフルを外し、手を交差させ、向きを変え、ライフルの銃
口を円弧状に動かしてライフルを周囲に乱射した。ほんの瞬きを数回する間の早業だ。キ
ラの周囲にミラージュコロイドが解除されたNダガーNが次々と姿を現す。まともに命中し
た者はその場に倒れこんでいた。

「ね、手加減できないって言ったでしょ?名づけてフルバーストモード」

キラは老紳士に銃口の片方を向けた。普段ならライフルでは当たり所が悪くないかぎり一
発で絶命することはない。だが、ミラージュコロイドは装甲の耐久度を一時的に下げてし
まうという欠点がある。キラはそこをついたのだ。キラの洞察力に老紳士は拍手した。

「お見事です。よくお勉強してらっしゃる。我が主もさぞお喜びでしょう」
「そう言われると気持ち悪いなぁ。なんだかまだ他の手を隠してるみたい」
「これはお目が高い。その通りです」
「キラ!調子に乗っちゃだめよ!」
「大丈夫だよ。ボクは負けないから」

482 名前:31 :2006/07/19(水) 23:42:20 ID:???
ミリアリアはキラの後ろで呆れていた。キラはすぐに調子に乗るのだ。本人にはその自覚
はないのかもしれないが、感情が高ぶってくると周りが見えなくなって余計なことをして
しまう。ミリアリアがカレッジで出会った頃には、フレイがいたこともあって猫を被って
いた。だが、小さい頃にはいつもやらなくていいことに手を出し、いつもアレックスに泣
きついていたらしい。実際その通りだ。ミリアリアは自分が誘拐されそうになっているこ
とよりもキラが余計なことをしないか不安で一杯になっていた。

老紳士が今度は左手を挙げた。何も起こらないまま30秒近くが経ち、キラは拍子抜けして
声をかけようとした。

(ん?)

MRの機能が徐々に低下している。既にスピーカーがやられていて声が外に伝わっていない。
キラは慌てずにフリーダムのOSを呼び出す。G.U.N.D.A.M.の文字が表示された後、一部す
でに機能を停止している部分もあった。視線と思考ベースで何が原因か高速で調べていく。
ストライクを始めて装着した時と同じ要領だ。いちから設定をし直したあの時に比べれば
この程度はたやすいことだ。

「ちょっと、キラ、どうしたのよ」

直立したまま硬直しているキラにミリアリアが声をかけた。だが、その声はキラには伝わ
っていない。

「何したってのよ」
「ちょっとした細工させていただきました。さ、私たちと一緒に来ていただきます」

老紳士が背筋をピンと伸ばしたままスッ、スッとミリアリアに歩み寄ってくる。

「ちょっと!キラ!」

ミリアリアがフリーダムのスーツの部分を叩いた。流石に振動はキラにも伝わってくる。

(なにか大変なことになってるらしいな)

キラは原因を突き止めていた。MRやMSのOSに感染するウィルスだ。通常コンピューターウ
ィルスに感染するには他の場所と電子的につながっている必要がある。そうでなければ
データの送受信ができない。もしかしたら最初の大振りな攻撃はそちらに注意を寄せてプ
ラグをつなぐ作戦だったのかもしれない。

「失敗したなー。口が達者なだけはあるね」

キラはそう独り言を言った後にニヤリと笑った。

483 名前:31 :2006/07/19(水) 23:43:07 ID:???
(でもボクがハッカーだってことは知らないよね)

キラを既にウィルスの大変を隔離してフリーダムのOSを再起動していた。既にブートは終
わり、起動シークエンスに移行していた。だが、その様子は外に伝わっていない。ミリア
リアは既にキラを置いて逃げる体勢に入っていた。現にニ、三歩後ずさりをしている。

「お逃げになったところで無駄ですよ。外のデモ隊にあなたのことを一言伝えればそれだ
けで充分です」
「ぞっとしないわね」

そう言いながらミリアリアは後ずさりをしていた。一触即発で暴徒になりかねないデモ隊
の中で余計なことを言われれば袋叩きにも合いかねない。ボコボコにされるのは嫌だが、
このまま拉致されてもそう状況は変わらないだろう。

「ご理解が得られないとは残念です」

老紳士がキラの横を通り過ぎようとしたとき、フリーダムの翼がはばたいた。開いた翼は
蒼い粒子を辺りに放出した。それに気を取られた老紳士はキラに腕をつかまれて投げ飛ば
される。地面に突っ伏した次の瞬間には老紳士は手を後ろにねじりあげられて地面に膝を
付いていた。

「やめてよね。本気で戦ったらボクに勝てるわけないじゃないか」
「おみごとです。技もなまっていない。ますますお喜びのことでしょう」

老紳士はそう口にすると全身の力を抜いてキラにつかまれた腕の肩関節を外した。腕を締
め付けようとしてもあそびができてしまう。老紳士はその隙に頭を地面についてそこを支
点にドロップキックをフリーダムのアゴに命中させた。キラの手は老紳士の手を離れ、老
紳士は肩の入っているほうの手で前宙をして取って起き上がる。猫背にだらんと垂れ下が
った腕の老紳士のシルエット

「いったいなー」

キラがアゴをなぜながら文句を言う。

「あなたの実力に敬意を表してこの場は一旦引かせていただきます。予定も大幅に変わり
ましたしね。なにより主人にあなたのことをご報告申し上げなければなりません」

老紳士はそう言って外した手の関節をはめる。軟骨の鈍く重い音がした。老紳士が口笛を
吹くと辺りにいたNダガーNはミラージュコロイドで姿を消した。

484 名前:31 :2006/07/19(水) 23:44:15 ID:???
「ミリアリア、ボクから離れないで」
「うん」

キラはミリアリアを背中で壁の方へ押した。ミリアリアは後ろに壁、前にキラという状態
で守られている。不気味な沈黙の後、フリーダムのセンサーにも感知できないくらいまで
足音が消えた。一息ついてキラが変身を解いた。

「あー、久しぶりに変身して疲れた。体もなまってるなー。あのおじいさん強かったけど
誰なんだろうね?」

キラがミリアリアの方を向いて微笑みかける。戦うことを無邪気に楽しんでいる顔だ。ミ
リアリアはその顔にゾッとした。懐かしい顔に安心を覚えるはずが、今では見知らぬ顔に
見えてしまった。そのせいかつい語調が荒くなってしまう。

「知らないわよ。いきなり運転手の新人君を撃って私を連れて行く以外何も言わないんだ
から」
「やっぱり主義者なのかな」

キラのように考えるのが自然だろう。MRの存在を報じた記事は署名入りだし、あの記事に
は軍に不利になるようなことしか書いていない。

「それはそうと、どうして出てきたの?オーブにいないとマズイでしょ。特にフリーダム
なんて指名手配中よ」
「そうだったんだ。カガリが何も言わないから知らなかった」
「知らなかったって……アンタねえ」

あの姉にしてこの弟ありとでも言うべきか。キラと話ているとどうも調子が狂ってしまう。
カガリはまだオーブのお姫様だから浮世離れしているのも理解できなくはないが、この男
は少なくとも15年以上庶民として育ったはずなのだが……。

「変身してお腹もすいたなぁ。ミリアリアも夕食まだでしょ?どこかで食べながら話そう
よ」
「はいはい、分かったわよ。でもその前に一ついい?」
「何?」
「何で出てきたの?」
「それは……」

キラの表情が真剣になった。ミリアリアもつられて緊張してきてしまう。

「ユニウスセブンの事もあって、アスラン何してるのかなーとか、ラクスが危ないかなー
とか、そういえばラクスどこにいるんだっけ、とか。あの後オーブから一回も出てないか
ら何があったか前々知らないんだよね」

485 名前:31 :2006/07/19(水) 23:45:07 ID:???
真剣な表情とは裏腹の緊張感のないしゃべり方にミリアリアの脳みそは着いてこれなかっ
た。ミリアリアはひとまず順序立てて聞き返してみることにした。

「どうして私のことは分かったの?」
「ORB通信に署名記事書いてたから、待ってれば出てくるかなーって」
「あ、そうなの……」

会社に電話でも入れてくれれば少しは予定を都合したのに、そのあたりの発想は頭にない
ようだ。待ってれば出てくると言ってもどれくらい待っていたのだろうか。気にはなった
が聞き始めると面倒そうだ。

「とりあえず、アスランが勤めてる喫茶店に行きましょう。それから、アスランのことは
ここではアレックスって呼ぶこと」
「どうして?」
「そういうことにしたでしょ」
「そうだっけ?」
「お姉さんが決めたんでしょ」
「そうだっけ」

先が思いやられた。ひとまずミリアリアは状況報告のために撃たれた運転手の様子を見た。
運転手は幸いちびって気絶しているだけで軽い怪我だった。防弾のフロントガラスが弾道
を逸らしてくれたようだ。ミリアリアは事後処理を彼に任せてカフェ「赤い彗星」にキラ
を連れて行くことにした。


カラン

カフェ「赤い彗星」のドアが開いた。

「いらっしゃいませ」

ウエイター姿のシンがそれに応対する。学生の身分で身寄りがないとはいえ、ただで居候
させてもらうわけにはいかないと思い、空いた時間はカフェで働くことにしていた。今の
時間、マスターが出かけていて少し緊張している。客はミリアリアとキラだった。

「禁煙席と喫煙席、どちらがよろしいですか?」
「奥のテーブルはどっち?」

ミリアリアはちょうど角になっていた一席を指して言った。

486 名前:31 :2006/07/19(水) 23:45:54 ID:???
「一応喫煙ということになっていますが」
「えー、ボクたばこ臭いのは嫌だなぁ」

ミリアリアが振り向いてギッとキラをにらむ。

(何か文句ある?)
「お、奥がいいです。喫煙でも」

ミリアリアの有無を言わせぬ態度を見て、シンはただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

「では、ご案内します。こちらへどうぞ」
「ありがとう」

シンは二人を奥の席に案内した。

「ご注文がお決まりになりましたら、またお呼びください」
「わかりました」
「わあ、喫茶店って言うから食べ物あんまりないかと思ってたんだけど色々あるね。あ、
ロールキャベツまであるー」

ミリアリアのことはそっちのけでキラはメニューを開いて嬉々としていた。自分よりも年
上の人間がメニューを見て喜ぶものなんだろうか、シンは不思議そうにキラの様子を眺め
ていた。身なりは悪くないしどこかのお金持ちが召使さんにわがままでも言って連れてき
てもらったのだろうか。

「そ、それではごゆっくりどうぞ」
「あ、ちょっと待って」

テーブルを離れようとしたシンにミリアリアが声をかけた。

「何でしょうか?」
「ここにアレックス=ディノがいるはずなんだけど。呼んでもらえるかな?」
「アレックスなら今休みとって里帰りしてますよ」
「いつごろ帰るか分かる?」

何でそんなことまで聞くのだろうとシンは内心不審がりながら答えた。友達なら直接連絡
を取ればいいだろうし、あの几帳面なアレックスが連絡先が必要になる人に教えていない
わけがない。

487 名前:31 :2006/07/19(水) 23:46:52 ID:???
「休み自体は明日までなんで、明日には帰ってくると思いますけど」
「そう。ありがとう。私コーヒー、ブラックで。キラは?」
「とりあえずロールキャベツ。できるだけ早くね」
「かしこまりました」

シンはキッチンに戻りながら今入ってきた客について考えをめぐらせていた。キラと呼ば
れた男の方はやたらテンションが高いし、女の方は一見丁寧だが内実は怖そうだ。

(あの二人、何者なんだろうか)

客のことを詮索するのはよくないとデュランダルにきつく言われていたが、何故か気にな
った。特にアレックスのことを聞いてくるのと、アレックスの好物のロールキャベツをい
きなり注文する客なんてそうはいないだろう。デュランダルの代わりにキッチンをしきっ
ているレイに注文を伝えた。

「ロールキャベツ一つ」
「分かった」

レイは冷蔵庫から作り置きのひき肉をまとめたものを取り出して調理を始める。シンは客
のことをレイに聞いてみることにした。

「なあ、レイ」
「どうした?」
「あんまり良くはないと思ってるんだけど、今入ってきた客がちょっと気になるところが
あるんだ」
「食い逃げでもしそうなのか?」

レイは外側のキャベツを巻きながらシンの問いかけに答えた。いつものこととはいえ、ま
るで関心がなさそうだ。それでもシンは食い下がった。

「そうじゃないけど……アレックスのことを聞いてきたんだ」
「接客している分には見てくれも性格もよさそうだからな。ファンなんじゃないのか?」
「そうなのかな?」

どうもファンで片付けるにはしっくり来ない。ファンなら女の方がもっと極端な反応をす
るだろうし、男のファンというのはあまり考えたくはなかったが、まあ、そうではないだ
ろう。そう考えるとますますシンにはわけが分からなくなっていた。

488 名前:31 :2006/07/19(水) 23:47:39 ID:???
カラン

「また客が入ってきたぞ」
「分かった。行くよ」
「いらっしゃいませー」

店に入ってきた客はルナマリアとメイリンの二人だった。

「あれー、シンじゃない。こんなところで何してるの?」

ウエイター姿のシンを見てルナマリアが声をかける。

「何って……バイトしてるんだよ。ここの家賃払わないといけないし」
「え、シンってレイと一緒に住んでるの?」
「ああ」
「ふーん。そうなんだ。そういうこと全然話さないからさ」

確かに面倒であまり話していなかった記憶がある。今のことを話せばいずれ、昔のことも
話さなければいけないときが来るだろう。だからシンは自分のことを話すのが嫌いだった。
話したところでどうにかなるものでもないし、余計な心配をかけるくらいならしゃべらな
い方がいいだろう、シンはそう思っていた。

「お客様、お席はどちらに」
「あ、お茶しに来たわけじゃないの。実はメイリンがレイにお礼を言いたいからって。ほ
ら、メイ」

ルナマリアが後ろに隠れているメイリンをつっつくが、メイリンは出てこようとしない。
ルナマリアは「しょうがないわね」とでも言わんばかりの顔をした。

「……というわけで、レイを出して欲しいんだけど」
「少々、お待ちください」

シンは二人に一礼してキッチンに入ってレイに声をかける。

「レイ、メイリンがおまえと話をしたいってさ」
「今手が離せない。後にしてくれ」
「俺が代わるよ」
「お前が着替えて肘まで洗ってる間に調理が終わるぞ」

レイは鍋から眼を離そうとしなかった。こういう状態のレイに話しかけてもどうにもなら
ないし、お客を待たせるわけにもいかない。シンはキッチンを後にした。

489 名前:31 :2006/07/19(水) 23:48:29 ID:???
「今、調理中で手が離せないって」
「じゃ、待たせてもらうわ。ほら、メイも座りなよ」
「うん」

そう言ってルナマリアとメイリンはカウンターに座る。

奥の席にいるキラとミリアリアもその話を聞いていた。

「初々しいわねー」

ミリアリアが微笑みながら言う。

「トールと付き合ってたときはミリアリアも初々しかったよ」
「……そこで戦死した元彼の名前をフツーは出さないでしょ」
「だってディアッカとは全然初々しくも何ともないし。かまって君と世話女房って感じだ
もん」

キラは悪気があって言っているわけではないだけ余計にたちが悪い。いや、天然なのか本
気で言っているのか時々分からなくなる。キラ、カガリ姉弟にラクスと話が通じにくい人
に囲まれて、アレックスがああいう性格になったのも分かる気がする。

「そういえばディアッカとはどうなってるの?」
「そんなことはどうでもいいでしょ。今連絡入ったけど、ラクス嬢は今日の昼ブルーコス
モスの団体に襲撃されたみたいね」
「ラクスが!?」

ラクスの話題にはさすがに食いつきがいい。ニコニコしていた顔が豹変して非常にわかり
やすい。色々言われたおかえしにもう少しいじめようかと思ったが、後々面倒そうなので
素直に経過を伝えることにした。

「幸い怪我もなかったそうよ。多分、里帰りしたアレックスも一枚噛んでるんでしょう
ね」
「大丈夫かな……アレックス」

「ア」の次には思わず「ス」と言いそうになるのを引っ込めてどうにかアレックスと言っ
た。ラクスが無事だと分かって安心したのと、詰まり気味とはいえ、きちんと言えた。ち
ょっとしたことに嬉しくなってキラの表情がにこやかなものに戻った。

「そう簡単にやられるようなタマじゃないでしょ」
「うん、それはそうなんだけど。無理するからなぁ」

そう言ってキラはコップの水を飲み干した。

490 名前:31 :2006/07/19(水) 23:49:18 ID:???
「ま、会って話をするしかないわね。アレックスは明日帰るって言ってたけど、今夜泊ま
る当てはあるの?」
「カガリが今オーブに帰ってるから、カガリの議員会館借りようかなって思ってる」
「お待たせしました」

シンがコーヒーとロールキャベツを運んできた。キラはロールキャベツの隣に並べたナイ
フとフォークをさっととってきれいにひと口大に切り分けて口に運ぶ。2,3口食べてキラ
はナイフとフォークを置いて、テーブルを離れようとしていたシンを呼び止めた。

「うん、おいしい。これ、誰が作ってるの?もしかしてアレックス?」
「いえ、でもレシピは彼のものです」
「だよね。キャベツの芯を刻んで小さくくるんでるのが添えてあるし……変わらないな
ぁ」

そう言うとキラは再びナイフとフォークを取ってロールキャベツを食べた。切り口を一旦
折りたたんでスープが垂れないようにして口に運ぶ。話し方のわりに随分と上品な食べ方
だ、シンはそう思った。

キッチンに戻ってシンはレイに話しかけた。

「マスター今日は遅くなるって言ってたし、お客も他に来ないし、今日はもうこれで食事
の方はオーダーストップでいいんじゃないかな」

レイが時計を見た。閉店45分前だ。少し早いがオーダーを止めていいだろう。

「分かった」
「メイリンが待ってるから行ってやれよ」
「ああ、裏庭にくるように言ってくれ。お客の迷惑にならないようにな」
「裏庭に来てくれってさ」

レイが勝手口から裏庭に出て行くのを見て、シンはキッチンから顔を出して二人に言った。

メイリンが裏庭に出ると、前髪を上げて、後ろ髪を束ねた姿のレイがいた。いつもと違っ
てメイリンにはそれが新鮮だった。

「あの白いMSって、レイ、だよね」

メイリンがレイに尋ねた。教官たちは自分を助けてくれたMS装着者が誰だか教えてはくれ
なかった。混乱した記憶の中で聞こえた声はレイのものだったのだはずだ。

「お前も理事長に口止めされたんじゃないのか?」
「でも、知っておきたくて……」

491 名前:31 :2006/07/19(水) 23:50:18 ID:???
半ば答えを言わせているようなものだがどうしてもそれをレイの口から聞きたかった。レ
イもメイリンの口ぶりからそれを悟った。

「そうだ」
「ありがとう」
「オレが礼を言われる立場にはない。礼ならシンに言え」
「シンに?どうして?」

メイリンはレイの言っていることが理解できなかった。レイはそう言ってさっさとカフェ
へ引きあげていく。


店内ではキラとミリアリアが会計を済ませて店を出て行った。

「ありがとうございましたー」
「ねえ、レイとメイリンどうしてるのかな」
「気になるんなら見てくれば?」

ルナマリアの浮かれた話しぶりをよそにテーブルの後片付けに向かった。食器を重ねて隅
のほうに置いてテーブルを拭いていると、イスの下に何かが落ちているのが分かった。

「忘れ物……?」

イスの下に金色の髪飾りが落ちていた。カズノコのような形が二つくっついたもので、手
にとって見ると大きさのわりにずっしりしていた。

(まさか、金じゃないよな)
「ねえ、私の話聞いてる?」

ルナマリアが奥のテーブルに駆け寄ってきた。シンが金の髪飾りを持って立ち尽くしてい
たのを見てルナマリアが言う。

「忘れ物?」
「うん」
「丁度お客もいないし、メイも待たなきゃいけないし、私が留守番しとくよ」
「ありがとう。行ってくるよ」

表に出て二人の姿を探したが、どこにも見当たらない。話を聞いている限りではキラの方
は議員宿舎に泊まると言っていたからそちらの方だろう。シンは中心街にある議員宿舎の
ほうへ走り出した。

492 名前:31 :2006/07/19(水) 23:51:08 ID:???
走っているうちに二人の姿を見つけた。声をかけようとすると二人ともがわかれて別々の
方向へ向かった。

(髪飾りだから女の人の方だろう)

シンはそう思ってミリアリアを追いかけることにした。シンが先回りしようと路地を抜け
ると、通りからミリアリアの姿は消えていた。ざっと辺りを見回すと公園が見えた。多分
公園を通ってショートカットしようとしたのだろう。シンは公園へと急いだ。


「お待ちしておりました」

公園の木陰のまどろみの中から駐車場で会ったばかりの老紳士が姿を現した。

「私は待ってないけどね」
「先ほどのお方とは別々になってからお迎えするようにと。二人同時ではなにかと具合が
悪いことが先ほど分かりましたので」

ミラージュコロイドを解いたNダガーNがミリアリアを後ろから羽交い絞めにした。

「ん!んんっ!!」

ミリアリアが叫ぼうとした時には既に口をふさがれていた。先回りしていたシンは老紳士
の背中側から拘束されているミリアリアの姿を見た。

(こいつはまずいな)

シンは走りながら青いインパルスに変身した。そのまま老紳士の背後を蹴ろうとするが、
気付かれてたやすくかわされてしまう。

「今日は何かとお客が多い日ですね」
「なんだかよく分からないけど、嫌がっているだろ」
「新型のMRでございますか」

老紳士はそう言って右手を挙げた。NダガーNがミラージュコロイドを発動させたまま青い
インパルスに襲いかかる。NダガーNの右手に装着されたスピアが青いインパルスの胴体を
貫通した。しかし、それはすぐに消え去った。NダガーNが貫いたのは残像だったのだ。

「さあ、その人を離してもらおうか」

インパルスは高速移動で生じさせた電撃をまとった足でミリアリアを羽交い絞めにしてい
たNダガーNを倒していた。

493 名前:31 :2006/07/19(水) 23:51:56 ID:???
「大丈夫ですか?」

インパルスはミリアリアをNダガーNから引き剥がして抱え起こした。ミリアリアはインパ
ルスをボーっと眺めて、あることを思い出した。

「あー、アンタ!施設から出てきたMRじゃない!」
「今日は何かと収穫が多い日ですな」

老紳士はその様子をじっと眺めていた後、左手を挙げた。

「気をつけて!ああやるとMRに何か影響が出るみたい」

ミリアリアの警告は既にインパルスに伝わっていなかった。既にインパルスは固まったま
ま動かなくなっていた。

(くそっ!何があったんだよ)

いくら力を入れてもインパルスが動かないし、モニタが停止してしまった。変身を解除す
る以外に方法がないが、変身解除機能まで停止している。もはやシンには手の施しようが
ない。

「ちょっと、え、もしかしてもう効果が出ちゃったの?」
「時々刻々進化しておりますから」

黙ったままのインパルスに代わって老紳士が答えた。こうなれば仕方が無い。ミリアリア
はバッグから携帯電話を取り出してディアッカに電話をかけた、ズイズイと近づいてくる
老紳士から少しでも離れようと走りながらの電話である。コール音が一回の間に心臓が何
度も脈を打っていることだろうか。

『もしもし?』

ようやくディアッカが出てきた。

「ちょっと!今どこ?」

息が切れていて短い言葉を早く継ぐしかない。

『病院で療養中。今病院で知り合った奴がタバコ吸いに外に出るって言うからついでに携
帯チェックしてたところ』
「病院!?なんでそんなところにいるのよ!!」
『何だよ、俺の声でも聞きたくなったのか?』
「そうじゃないわよ。今変な爺さんに追われてるの!」

ミリアリアはビルの間の路地に入ろうとしたが、今度は携帯電話の電波が入らなくなって
きて会話が途切れ途切れになる。

494 名前:31 :2006/07/19(水) 23:52:46 ID:???
『ストーカーか?』
「そんなのだったらとっくに撃退してるわよ!」
『どこだ?』
「そっちから1キロちょっと。今そっちに向かって走ってる」
『分かった、すぐ行く』
「早くしてよ」

そう言って一息つこうと足を止めたところで、老紳士の顔がぬっと突き出してきた。

「見つけましたよ」
「んん!!」

「おい!ミリィ!どうした」

呻き声をしてからミリアリアからの返事がない。部屋着に病院のサンダルをつっかけてデ
ィアッカはミリアリアに伝えられた場所に走り出した。現場に付いた時にはミリアリアの
姿はなく。携帯電話だけが落ちていた。

「遅かったか……」

ハンカチを使って指紋が付かないようにミリアリアの携帯電話を拾う。辺りを見回すが人
影はほとんどない。目撃情報を募ろうにも通りすがりの人間ばかりだ。ふと目を少し遠く
までやると、うずくまったまま動かない塊があった。

「なんだありゃ」

ディアッカは塊の方へ駆け寄った。色こそ灰色に変わっているが、ミリアリアのアパート
から見た赤いものや、ユニウスセブン記念公園で会った青いものと同じMRだった。

「オマエ、こんなところで何してるんだよ」

声をかけてみるが反応がない。何かトラブルでも起こったのだろうか、ディアッカはとり
あえず携帯端末をつないでみることにした。つなぐとすぐに画面がふっと落ちた。故障だ
ろうか。コネクタを外して単独で再起動をかけようとするが、うまく起動しない。

(ウィルスか?)

先の大戦の時にアクタイオンという会社を接収した時にその会社の開発室で強力なコンピ
ューターウィルスが開発されていたのを思い出した。ただ、そのときはウィルスが未完成
で、ウィルスに感染した機体がないと持ち運びができなかったし、ウィルスが敵味方関係
なくつながってさえいれば全てのものに感染して機能を停止させてしまうというものだっ
た。

495 名前:31 :2006/07/19(水) 23:53:56 ID:???
ウィルスが相手では自分の知識ではどうしようもない。事情聴取もあることだし、シホを
呼んで解析してもらうしかない。そこまで考えてディアッカはあることに気が付いた。

(あ、どうすんだよ。携帯はウィルスに感染して使えないし、こいつをここに置いたまま
病院に帰るわけにはいかないし、病室そのままで出てきたから金もねーぞ)

せめて身分証でも持っていれば通行人に事情を説明して小銭を借りるか、携帯電話を貸し
てもらうこともできるが、それもできない。

「どうすりゃいいんだよ俺」
「どうかしたんですか?」

そんなディアッカに男が声をかけてきた。

「キラ!オマエ!何でここにいるんだよ!」
「なんだ。聞いたことがある声だと思ったらディアッカじゃないか。お久しぶりー」
「お久……って、違うだろ!」
「何が?」

会って話すのは2年ぶりだが、このノリについていけないのは前からのことだ。

「まあ、いい。ミリイから連絡があって駆けつけてみたら、地面に携帯だけ落ちててな。
電話も途中で切れたし、ヤバい事に巻き込まれてなきゃいいんだが」

そう言うとキラがうつむいて険しい顔をした。

「……さっきの奴かな」
「心当たりがあるのか?」
「うん。一見物分りがよさそうでものすごく頑固なおじいさん。しかも結構強いよ」
「その話は後で聞かせてもらうとして、とりあえずはMRどうにかならないか?こいつが何
か知ってるかもしれないんだ」

ディアッカが足元のインパルスをを指して言った。片膝をついてさなぎのように固まって
いる。

「どうしたの、これ?ディアクティブ状態になってるけど」
「完全に固まってるよな。原因はウィルスみたいだけどな。さっきつないだら携帯がいか
れた」
「できるかどうかはわからないけど、とにかくやってみるよ」

496 名前:31 :2006/07/19(水) 23:55:37 ID:???
キラは自分のPDAをインパルスと接続した。起動画面にフリーダムとは違った訳語でG.U.N.
D.A.M.の文字が現れた。起動時間、反応速度、モジュール、ディバイス。すべてがこの2
年間で革新的な発展を遂げていた。

「すごい」

キラはインパルスのOSを見て思わず声を上げた。

「シルエットシステムっていうのか。コンセプトはストライクと同じだけど、外部武装の
多目的運用が目的じゃなくて、MR自身が局面に応じて形態を変えるのか。何々。赤いのが
ソード、青いのがフォース、緑のがブラストか。いいなー、このシステム欲しいなー」

当初の目的を覚えているのかでさえ怪しいくらいキラはうっとりしながら独り言を言い続
けていた。ディアッカがそんなキラを注意するように言う。

「おいおい、大丈夫かよ」
「ついさっき見たことあるタイプだし、どうにかなると思うよ」

そう言ってしばらく、キラはキーボートを叩き続けた。

「ん、隔離完了。メンテナンスの時に削除すれば大丈夫だと思う」

キラがそう言ってコネクタを引き抜くと、インパルスの変身が解除されてシンが現れた。

「ぶはっ」

シンは肩で息をしていた。動きが固定されていたのに加えて、MR内の生命維持装置も停止
していたので軽い酸欠になりかかっていた。

「いきなりで悪いけど、何があったか説明してもらえるか?」

ディアッカがシンの肩に手を置いた。

「あなた、誰なんですか?」
「俺か?俺は公安のディアッカ=エルスマンだ」
(ディアッカ?……あの夜のザクの人か)

シンの肩がビクッと震える。ディアッカはそれを感じ取った。

497 名前:31 :2006/07/19(水) 23:57:38 ID:???
ディアッカはどうしたものかと考え込んだ。そのとき、急にキラが声を上げる。

「ああーっ!」
「ど、どうした?」
「髪飾りわざわざ届けにきてくれたんだ。よかったー。落として今探してたところだった
んだよ」

キラはシンの手に握られていた髪飾りをひったくるようにして奪い取った。シンはただ呆
れるだけで何もできなかった。その様子を見てディアッカが苦笑いを浮かべた。

「あいつはキラ。キラとオレとさらわれたミリアリアは友達でな。あいつを助けたいんだ。
よかったら話を聞かせてくれないか?」

ディアッカはしゃがんでシンと目線の高さを合わせて言った。ディアッカの真摯な態度に
シンは自分が捕らえられるかもしれないということを忘れて協力したいと思った。だが、
キラという男のことは理解できない。アレックスの友達かもしれないが、だからといって
この能天気な兄ちゃんを信用していいものか今のシンには分からなかった。


第十話 おわり

498 名前:31 :2006/07/20(木) 00:12:45 ID:???
大口叩いて結局週中アップですいませんm(_ _)m
やはり急に書いただけあって後半バタバタしてますね。
機会を見て補正します。

ようやく後3話で折り返し地点です(つまり26話構成です、ハイ)
先は長いですね。ネタバレになってない程度にネタバレですが
元の大筋は3クール付近まで『SEED DESTINY』を追ってるので
きちんと終わらせられればな、と思います。


ちょっと余談気味ですが、1〜10話まで普通の小説のフォーマットに
してみたら原稿用紙300枚程度になっていました。

42字×16行(文庫本はこんな感じ?)だと230ページ程度で薄い
文庫本位の量を書いているようです。13話までいったらおそらく
文庫本1冊になるので、加筆して自分用に『仮面ライダーSIN』(上)でも
作ろうかと思っています(笑)


最初のレスつけた当時には純粋な設定屋さんでSSなんて書いたこと
ありませんでした。文章力も構成力も表現力もありませんが、(薄い)
文庫本1冊の量を書いたということは自分にとって励みになりました。
ここまで続いたのは読んでいただいたからです。
住人の皆さん。ありがとうございます。

ではまた11話でお会いしましょうノシ

499 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/20(木) 01:34:10 ID:???
31さん、毎度お疲れ様です。
次回も楽しみにしています。

500 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/20(木) 07:51:19 ID:???
キラミリ痔シンって何気におもろいなw
おとぼけキラだが強いんだろうなぁw

501 名前:73 :2006/07/22(土) 11:00:04 ID:???
……2ヶ月経ってしまいましたが、とりあえず、やってみた。

>>92
>>139
の続きです。

502 名前:73 :2006/07/22(土) 11:07:07 ID:???
仮面ライダーSEED DESTNY
第一話「仮面ライダー」後編

「……ふむ、これは思わぬ収穫、と言うべきかな……」
「作戦的には失敗、と思いますが?」
遊園地の中央広場を見下ろせる、建物の屋上に立つ二人の人物。
インパルスと怪人たちの戦いを眺めながら呟く男の言葉に、もう片方が疑問を投げかける。
「なに、この程度で彼を倒せるとは、君も思ってはいまい?」
背を向けたまま男は応える。
「今回は謂わば、挨拶のようなものだ。挨拶する相手が代わった、ただそれだけさ」
「……」
無言の相手を尻目に男は続ける
「彼の勇姿は見れなかったが、新たな『G』を見れた、それで満足しよう」
コツコツと仮面を指で叩きながら、男は唇を歪める。
「……いや、『仮面ライダー』、だったな」

「うおぉぉぉっ!!」
インパルスの拳が唸り、一体の怪人を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた怪人は僅かに痙攣した後、動かなくなる。
だが、インパルスにはそれを見ている余裕などない。
次々と襲いかかってくる怪人たちの攻撃を、避け、受け、弾き、逸らす。
「えーい、数ばかり、ゴチャゴチャとー!」
今度は、インパルスの直蹴りが、怪人の一体に突き刺さる。
蹴られた怪人は、広場に設置された特設ステージの舞台に跳ばされ、幾つかの装置に当たる。


503 名前:73 :2006/07/22(土) 11:09:50 ID:???

♪♯★☆♭〜♪

突然、広場に設置されたスピーカーが、大音量で音楽を流し始める。
「!? な、なによ、これ!?」
親子連れを避難させ、戻って来たルナマリアが叫ぶ。
「どうやら、アトラクション用の音楽らしいな」
目を細めて、怪人の跳び込んだ舞台を見て、レイ。
「あれで、スイッチが入ったんだろう」

大音量の音楽に戸惑う怪人たち。
だが、インパルスはすぐそれがアトラクション用の音楽であることに気付く。
「――なら、派手にやってやる!」

♪優しい、その指が〜♪

『インパルス、聞こえますか?インパルス?』
突然、通信が入る。アビーとも、タリアとも違う、若い女性の声。

♪終わりに触れるとき〜♪

「メイリン!?」
『ゴメンね、遅くなって。シルエットシステム、オールグリーン。いつでも、いけます』
「了解っ!!」

♪今だけ、君だけ、信じてもいいんだろ♪

ジャンプして、怪人たちから距離を取り、インパルスが叫ぶ。
「ソードシルエット!」
同時に疑似音声が響く。
『チェンジ・ソードインパルス』
インパルスの背後の空間が歪む。
そこから、左右に長大な剣を付けたバックパックのようなものが現れる。

♪誰もが崩れてく〜♪


504 名前:73 :2006/07/22(土) 11:14:18 ID:???
それがインパルスの背中に接続されると同時にインパルスの青い部分が赤く変化する。

♪願いを求めすぎて♪

「エクスカリバーッ!」
自身の身長程もある二本の長剣を引き抜き、構えた。
ヴィッン!!
同時に長剣の片側にレーザーの火が灯る。

♪自分の堕ちていく場所を探してる♪

「うおぉぉぉっ!!」
インパルス、いや、ソードインパルスは怪人たちの群れに、再び飛び込む。

♪傷付けて、揺れるしかできない♪

ザンッ!!
振り下ろした、エクスカリバーがいとも容易く怪人を両断する。
「はあっ!!」
続けてもう一体、真横に切り払う。

♪ざわめく、想いが僕らの真実なら〜♪

「すごいじゃない! これで決まりね!」
見る間に怪人を倒していくソードインパルスに、ルナマリアが歓声を上げる。
「……いや、まだだ」

♪壊れ合うから、動けない♪

最後の怪人を倒したソードインパルスに、突然、黒い影が襲い掛かる。
「ぐぁっ!?」
弾き飛ばされるソードインパルス。

♪寂しい羽、重ねて〜♪

慌てて、体勢を立て直し、敵を見る。
形は同じだが、色だけが黒い怪人がそこに立っている。
「シン、気を付けろ!たぶんそいつが群の頭だ!」
と、黒い怪人が動く。
「っ! 早いっ!!」



505 名前:73 :2006/07/22(土) 11:16:41 ID:???
♪出逢う光のない時代の眩しさだけ♪

苦し紛れにエクスカリバーを振るうが、簡単に避けられる。
ガンッ!!
逆に怪人の蹴りがソードインパルスに当たる。
――グッ!ソードじゃダメだ。ならっ!!
「シルエット・アウト!」
『チェンジ・インパルス』
背中の装備が消え、色も、赤から青に変わる。

♪変われる力、恐れない♪

「うおぉぉぉ!!」
インパルスと怪人はお互いに無数に拳を繰り出す。
怪人の攻撃の衝撃に歯を食いしばる、シン。
どちらの攻撃も相手にかなりのダメージを与えている。
――こんなことで、こんなことで……
「負けるかーっ!!」

♪深い鼓動の先に〜♪

叫びと共にインパルスの右の拳が怪人の顔面に直激する。
間を於かずに、左の拳、そして右後ろ回し蹴りが怪人に突き刺さり、吹き飛ばす。

♪交わす炎よ、描かれた♪

「止めだぁ!」
走り出しながら、インパルスは腰のベルトに手を遣る。
『セット・バーストアタック』
声と共に、走るインパルスの体が青い輝きに包まれる。
そのままヨロヨロと起きあがる怪人に向かって、大地を蹴る。

♪運命に届け〜♪

「インパルス・ブレイク!!」
インパルスの跳び蹴りが、怪人に突き刺さり、貫く。


506 名前:73 :2006/07/22(土) 11:18:46 ID:???
数瞬、青い電流のようなものを纏わせ痙攣する怪人。
そして、爆発。


『フェイズシフト・ダウン』
いきなり、インパルスの色が青から灰色に変わる。
そのまま、ばったりと仰向けに倒れる、インパルス。
「ちょ、ちょっと!?シン!?」
ルナマリアの悲鳴じみた声を、遠くに聞きながら、シンは空を見上げる。
澄み切った、青い空。
――あの日もこんな風に良く晴れてたなぁ……。

「……ちょっと、シン、大丈夫?」
「――わっ!!」
いきなり、ルナマリアの度アップが視界に入る。
「……なに、慌ててんのよ?人が心配してんのにぃ」
覗き込む、ルナマリアの眉間がピクピクと震える。
溜め息を吐きながら、腰に手を遣る。
『チェンジ・オフ』
声と共に、青い戦士は黒髪の少年へと姿を変える。
「ちょっと疲れただけさ」
ぶっきらぼうに応える少年に、赤毛の少女は軽く安堵の表情を浮かべる。
「そう、なら良かった」
それから、立ち上がり、また眉間シワを寄せる。
「でも、あんな風に倒れたら、誰だって心配するじゃない!ねぇ、レイ、……て、なにやってんの?」
なぜか正面に見える建物を注視している金髪の少年を、不思議そうに見る。
「……いや、なんでもない」


507 名前:73 :2006/07/22(土) 11:20:36 ID:???
頭を振ってから、レイは、まだ寝転がったままのシンに歩み寄る。
「やったな」
そう言いながら、手を差し出す。
「ああ」
その手を取り、微かに笑みを浮かべながら、シンは身を起こす。
「もう、今日はいいとこ全部、シンに取られちゃったなぁ」
それを横目に、ルナマリアが明後日の方向を見ながら、呟く。
「……じゃあな」
立ち上がったシンはその脇をスタスタと通り過ぎ、青い大型バイクに跨る。
「なっ?……ちょ、ちょっとぉ、あたしも乗せてってよぉ。……あっ」
慌てて、シンを追い掛けようとして、ハタとレイに気付くルナマリア。
「……気にするな。スプレンダーに3人乗りするわけにもいくまい」
固まるルナマリアを前に、レイは表情も変えずに告げる。
「そ、そう?ごめんね……」
ブルンッ!
「……シン!待って、待ってて言ってんでしょぉ!」

爆音を立てて走り出すバイクを尻目に、レイは再び、中央に見える建物を見る。
「……まさか、な」
もう一度頭を振ってから、足早にその場を立ち去った。


508 名前:73 :2006/07/22(土) 11:23:09 ID:???
風を切り、疾走するバイク。
ものすごい早さで左右の風景が流れていく。
「――シン!飛ばし過ぎ!――飛ばし過ぎだってばぁ〜!!――」
背中越しに、金切り声を上げる少女の声など、少年の耳には届かない。
いや、少年の心には届かない。
――この力があれば、この力さえあれば……。
心の中で真っ赤な炎が燃え上がる。
――オレがすべてを終わらせる!そして、取り戻す!!待ってろ、マユ!!
少年は更にアクセルを開き、加速する。
「――きゃぁぁぁぁ!!」

第一話 了


509 名前:73 :2006/07/22(土) 11:25:07 ID:???
真夜中。
誰もいない、白い部屋。
いや、いる。
微かな機械音が響く部屋の中心。
1人の少女が眠っている。
艶やかな黒髪、薔薇色の頬。
まるで、王子の口づけを待つ、眠り姫のよう。
僅かに開かれた窓から聞こえる虫の音。
微かに吹く風が、少女の頬を優しく撫でる。

――だが、次の瞬間。

すべてが止まった。

機械音も、虫の音も、風さえも。

すべてが止まった世界の中心で……。

少女の目が、今、開く。

続く、かも?



510 名前:73 :2006/07/22(土) 11:35:16 ID:???
パソが壊れて、携帯からです。

えーやりたい事は解ってもらえるんじゃないかと;
成功してるかは……。゜( つД`゜)゜。

まとめサイトができたようで、こんなんでよければ、載せて貰えたらうれしいです。



511 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/22(土) 19:50:00 ID:???
GJ!!このシンのキャラ好きだ

512 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/25(火) 00:16:28 ID:???
保守

513 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/25(火) 21:08:40 ID:???
容量危なくない?

514 名前:31 :2006/07/26(水) 22:32:44 ID:???
>>73
GJです
自分も映像考えながら書くときあるんですが媒体違うと表現違うので
難しいですね

>>容量
ギコナビにダウンロードしたdatファイルは490KBでした。512KBとかで
落ちるんでしょうか?

515 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/27(木) 01:03:22 ID:???
1スレだいたい500KB前後が限界

516 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/28(金) 00:15:35 ID:???
たてないとやばいな

517 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/28(金) 11:35:13 ID:???
今のままじゃSS投下されても途中で途切れる。

新スレたてても問題ないと思われ



518 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/29(土) 03:29:53 ID:???
テンプレとかいらんよな
まぁたてたらどうにかなりそうだしやってみるわ

519 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/29(土) 03:44:20 ID:???
すまん無理だった誰かよろ

520 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/29(土) 07:58:00 ID:???
挑戦してきます

521 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/29(土) 08:04:59 ID:???
無理でしたorz

522 名前:31 :2006/07/29(土) 12:13:41 ID:???
立てようとしましたが無理でした……orz

523 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/29(土) 13:55:47 ID:???
次スレ:シンは仮面ライダーになるべきだ 3回目
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1154148879/l50

立てましたー

524 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/29(土) 19:11:29 ID:???

じゃAAでも貼って埋めるか
今外出してるから携帯からだもんではれんけど(´・ω・`)

525 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/29(土) 21:27:22 ID:???
>>532


526 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/30(日) 21:53:17 ID:???
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                               ヽ,           ,,/
                          ,,,,、、-ーーー',ヽ--、,,,      //
                       ,,、ー'''":::::::::::::::::::::::ヽヽ;::::::~~''ー、,,, //
                    ,,r''":::::::::::::::::::::::::::;;;;;;;;::::::ヽヽ;:::::::::::::::://、,
                   ,r'"::::::::::::::::::::;;、ー''"   ~'ヽ;:ヽヽ;:::::::::/./::;;;;ヽ,
                 ,r":::::::::::::::::::;r''"         i;i:::|,|:::::::/r"r" ~~'ヽ,
                ,r"::::::::::::::::::;r"           i;;i::::::::::::~::i"     ヽ,
                /::::::::::::::::::::r"           .リ;;|:::::::::::::::|i       t,
               ,/::::::::::::::::::::::i            /;;;;i::::rー、:::|;i       t
              /:::::::::::::::::::::::::i            /;;;;リ|::''、,ノ::i;;t       i
              ,i::::::::::::::::::::::::;;;ヽ,         ,,r";;;;;リi:::::::::::::|;;;;t       リ
             ,i;;;;;;:::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;'ヽ、,,,   ,,,,、-";;;;;;;;;;;;i:i:::::::::::::|;;;;;;t      ,ノi
             /t;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;~~'~~;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ:|:::::::::::::i、;;;;;;;ヽ,   ,,r":i
             t;;ヽ;;ー-、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;r''";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、-"::ノ:::::::::::::::'t;;;;;;;;;;;~マ''"::::::i
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              t;/;;;;;;;;;;;;;;、ー''"ヽ、;:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ-ーー--''"::::::::::::~ヽ;:::::r"
              ヽ;;;r'''";;;;r''"::::::::::~'ー、;;;;;;;、ー、;;::::::::::r-、;::::::::;;r、:::::::::::::::::;r;;ヽ/
               t;;;;;;r'":::::::::::::::::::::::`i::::::::::~~:::~''ー":~~':~''''"'~ヽー'""'-'";;;;ソ
                'ー'`iヽ;;::::::::::::::::::::::::i:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::r";;;;r"
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         ,,r'"'"""々r'" ~''リヽ;;;;;;;;;;;;;;;~''ー'、:::::::::::::::::::::::::;;::::::::::::::;r"
       ,,r'~r"::::r''⌒~ヽ,,,,,、、,ツ、,, ヽ、;;;;;;;;;;;;;;;;;;~''''ー-、;;r''";;;;、-ー'i"
     ,,,r''"r'"::::/  ,,r"~'ヽ,マノ  ~ ーーー   ~~~~~~~~""   i"
ーーー,,r'" / ::〆  r"::"    ~'i~'''ー--、、"""ー、          イ




527 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/30(日) 21:58:06 ID:???
                            ,. ─ 、}  /
                           ,.ィ ,.--.、}ト /
                       __,. < ! {   }i/
                      //,.--、 ヽ `ー 'ノアーイ⌒ヽ
                      ! .{ /´⌒ィ f.^i^iヽ___i  /
                     /^ー\__{.  ヽ」」ア  /==/
                     /  /   ゝ`´ /ノ   {アナノ
                     _/~`''、/ー、 `>'´7' 
                  , ' ⌒`ー、`ー 、 , '
                 ./,.‐‐ 、   ,`ヽ,Y
                , '´    ヽ   ア  ____ __
               ./      } /´ ̄ ,.. ,./   `ヽ
             /       / '   r-/  }`i   ノ
            /__     /ヽ.,__,.ゝ'-、__ノノー '"
          ,.ノ´   ヽ, '
         / i   /
       , '    > '
      , '    /
     /   /
    , '~ヽ./
  r '´ ヽ/
  ヽ ァ.-'


528 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/30(日) 22:16:13 ID:???
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529 名前:通常の名無しさんの3倍 :2006/07/30(日) 22:17:20 ID:???
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                     /  /   ゝ`´ /ノ   {アナノ
                     _/~`''、/ー、 `>'´7' 
                  , ' ⌒`ー、`ー 、 , '
                 ./,.‐‐ 、   ,`ヽ,Y
                , '´    ヽ   ア  ____ __
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