◆iQ7ROqrUTo 作『サティ = パールヴァティ』 一  シンジュク衛生病院を脱出してシブヤに辿り着き、邪教の館を利用できるようになってから最初にしたことは、  悪魔全書から女神サティを呼び出すことだった。  夫の名誉のために焼身自殺を遂げたという凄まじい逸話を持つ、  頭の天辺から足の先までが「貞淑」で出来ているようなこの幼な妻――比喩ではなく若い、  二十歳に達しているようには見えない――を、ひいてはその転生であるパールヴァティを奪い取ることは、  いくつもの受胎を乗り越えてきた僕の念願の一つだ。これが目下の最優先目的だ。  千晶などはどうでもいい。どうせこのふざけた世界は、僕が動かない限りいつまでも停まったままなのだ。  全身に炎を纏う、自殺者の地縛霊めいた外見のサティは、僕を見て優しく目元を緩め 「よろしくお願いしますね、人修羅様」と上品に一礼した。 「呼び出してすぐで悪いんだけど、出ようか」 「人修羅様のなさりたいようになさってください」 「うん。行こう、サティ」  淡い炎に包まれた手を握り、歩き出す。  サティがびくりと震え、驚いたような声を上げた。 「あっ……!」 「どうかした?」 「あの、人修羅様、私の手を……」 「え? ああ、そうだね、ごめん。忘れてたけど、サティってシヴァの奥さんだったよね。  人の奥さんの手を握っちゃいけないよね、やっぱり」  殊更に申し訳なさそうな態度で手を離す。  解放された手を胸元で抱きながらサティが案じるような視線を寄越す。 「いえ、そうではなく……あ、いえ、そのこともなのですが……  あの、人修羅様、お手は大丈夫ですか? 火傷などはなさいませんでしたか?」 「え? 全然。熱くも何ともなかったよ」  マサカドゥスを体内に取り込んでいる僕に炎などは何の意味もない。  僕に怪我をさせたければメギドや無尽光でも使うしかない。 「嘘……主人でさえ、この炎に触れたら火傷をしてしまうのに……」  サティは驚いたように手を口元に当て、目を丸くした。 「嘘じゃないよ。ほら」  サティの手を取り、両手で包む。纏う炎とは無関係の、温かい体温と、柔らかな感触が伝わる。  握った手をそのままサティの顔の前まで持ち上げる。  館の主が「女を口説くなら余所でやれ」とでも言いたげな顔で鬱陶しそうにこちらを見ているが知ったことではない。 「ね? 火傷とか、全然してないでしょ?」 「ああ……そんな……」 サティは僕の手をぎゅっと握って眺め、ぽろぽろと涙を零し始めた。 炎が自分自身に被害を及ぼすことはないらしく、涙は蒸発もせず、そのまま頬を伝って滴り落ちる。 「泣くほど嫌だった? 傷ついちゃうな」 「そんな、とんでもない! 誰かに触れるのは久しぶりで……  もう誰かと触れ合うことなどないものと思っていたので、嬉しくて……驚かせてしまってごめんなさい」 「……寂しかったんだ?」 「……はい。主人や従者の方々は良くしてくださるのですが……それだけに、触れ合えないのがつらくて……」 「そう。だったら……良ければだけど、しばらく、僕と手でも繋いでる?」 「よろしいのですか?」  拒否されるかと思ったので少し意外な反応だ。  このシヴァの幼な妻も、強い者を好む悪魔の習性とは無縁でいられないのかもしれない。 「君が嫌じゃないのなら」 「嫌だなんて……」 「なら決まりだね。しばらくこのままぶらぶらしようか」 「……はい、ありがとうございます!」  指を絡めるようにして手を繋ぎ、サティを促す。  サティは指の絡め方に何か言いたげな顔をしたが、僕が堂々とそれが当たり前のことであるかのように振る舞うと、  何も言わなかった。悪魔との交渉で学んだが、どんなことでも、堂々としていれば、結構罷り通ってしまうものなのだ。 二  手を繋いで適当にシブヤの街を歩き回る内、サティの心は大分解れてきた。お互いに打ち解けてきたと言ってもいい。  そろそろいいだろう。サティの手を引き、人気のない一角へと向かう。  途中で勝手に弟分になったチンピラ思念体と擦れ違い、おべっか混じりの挨拶を受けた。  こいつは人格的にはどうしようもないが、なかなかよく気が利くので、弟分としては結構重宝している。  こういう時のために以前から目をつけておいた静かな部屋に入り、鍵を閉める。  サティは特に焦りも怯えもしない。僕を信じ切っているらしく、穏やかな顔で部屋を見回している。  何か珍しい物でもあると思っているのだろう。  おもむろにサティを抱き締める。僕より頭一つ分背の低い体が、すっぽりと腕の中に収まった。  全体的に華奢だが決して骨張ってはいない。僕より少し年上、女子大生くらい――に見える――の少女の体だ。 「……ひ、人修羅様? あの、何を……?」  戸惑い気味に僕を引き離そうとするが、構わず捕まえる。 「駄目……やめてください……」  背中から頭にかけての部分と腰から尻にかけての部分に腕を回し、撫で回しながら耳元で囁く。 「好きなんだ、君のことが」 「え……え? 人修羅様、それは一体……?」 「君が欲しいんだ。僕のものにしたいんだ」 「そんな……いけません。私にはもう主人がいます……ですから、どうかおやめになって……」 「関係ないよ。僕は君が欲しいんだ。シヴァと別れて僕のところに来てよ」 「駄目です、それはいけないことです……申し訳ないのですけれど、人修羅様のお気持ちにはお応えできません」 「そんな……それだったら、こんな、希望を持たせるようなことしないでくれよ」  いかにも傷ついた風な表情を作って間近にあるサティの顔を見つめる。 「希望……?」 「あんな風に手を繋いで一緒に歩くなんて……  僕のことを受け容れてくれたのかと思うに決まってるじゃないか。それなのに、君は……」 「そういうもの、なのですか? 男性のことはよくわからないもので……ごめんなさい。  私が思わせぶりな態度を取ってしまったばかりに、人修羅様のお心を傷つけてしまいました……」  一緒に歩きながらのやりとりで推測した通りだ。やはりサティは優しくて生真面目な分、押しに弱い。  普通ならば「ふざけるな」の一言で片づけられてしまう、こういう理不尽な論法にも、苦悩しながら真面目に反応してくる。 「謝られたって気持ちは収まらないよ。一緒に歩いて、凄く幸せな気持ちだったのに……台無しだよ」 「ごめんなさい。私は愚かなので、どうお詫びすればいいかわかりません。どうすれば人修羅様のお心をお慰めできますか?」 「……一回だけ、一回だけでいいから、思い出をくれないかな。そうしてくれれば、それを支えにして生きていけるから……」 「思い出、ですか?」 「一回だけでいいから、君を抱かせて欲しいんだ」 「駄目です……そんなの、いけません。私は夫のある身なのですよ!」  きっ、と厳しい視線を寄越し、毅然とした態度で身を離そうとする。  それを捕まえ、非難――不当な――の響きを籠めて返す。 「僕を傷つけた責任から逃げるの?」 「それは……でも……」 「一回だけでいいんだ。満足させてくれたら、もう僕のものになれなんて言わないから……  君のことを諦めて、シヴァの所に帰してあげるから……だからお願いだよ。シヴァに内緒で、一回だけ……」  一転、哀れっぽい、弱々しい口調で哀願する。  こういう生真面目で情け深いタイプの女には、威圧と懇願を交互に繰り返してやるのが有効なのだ。  繰り返し懇願すると、遂にサティが折れた。涙目になって震えながら、小さく、しかしはっきりと頷いた。 「……わかり、ました。一回だけ……一回だけ、人修羅様にこの身をお任せします……  それが済んだら、私を主人の元へ返して、もう二度と呼び出さないでください。お願いします」 「約束するよ。満足したらもう何も言わない。君をシヴァの所に帰してあげる……  さあ、そうと決まったら、服を脱いで、体を見せてよ」 「え、ここで……その、するのですか?」 「大丈夫だよ。誰も来ないから……ね?」  囁き、耳にキスして体を離してやる。 「あっ……わ、わかりました。脱ぎますので、少しの間、あちらを向いていただけますか?」 「脱ぐところも見たいな」 「それは……恥ずかしいので……」 「見せてよ」 「……人修羅様は意地悪な方なのですね」  サティは眉を顰めるも、おずおずと被り物に手をかけた。焦らすようにではなく、躊躇いがちに、ゆっくりと肌を晒していく。  まず被り物を取った。インド風――だろうか――に結い上げられた黒い髪が姿を現す。  次いで、手触りの良さそうな白磁の内腿が露出した、煽情的なデザインのズボンと一体化した胴着を脱ぐ。  顔の下半分を覆う布と一体化したレオタード型の肌着が現れ、均整の取れた体の線が露わになる。  肌着に手をかけたところでサティの手が停まった。手が震えている。救い――慈悲を求めるように僕を見ている。 「その下も見せて」  サティは悲しげに目を伏せ、肌着を少しずつ脱いでいった。少しずつ白い部分の面積が増えていく。  顔の下半分が曝け出された。すっきりとした鼻筋。肉感的な桃色の唇。細く、それでいて柔らかな輪郭。  予想通り――予想以上の美貌だ。  肌着が少しずつ下げられていく。  すぐに隠されてしまったが、一瞬、おっぱいが見えた。掌に収まりそうなほどに小ぶりな、お椀型の綺麗な胸だった。  やや小さめの乳輪と乳首は共に桜色で、人妻とは思えない清楚な雰囲気を漂わせていた。  贅肉のないすらりとした腹が顔を出し、その下の方の黒々とした茂みがちらりと覗く。  生え始めの場所であれということは、かなり毛が濃い方なのだろう。清楚な顔に不似合いないやらしさに興奮が増す。  肌着から足が引き抜かれた。  その後、結い上げられた髪に軽く手を添える。ふわりと髪が解け、幻想的に広がった。  準備は完了らしい。胸と股間を隠し、サティが顔を背ける。 「綺麗だね。隠さないでよ」 「わかりました……」  泣きそうな声で――実際に涙目になりながら――サティがゆっくりと手をどけた。  目の前に現れたのは絶景だった。  恥ずかしさと悲しみに曇る美しい顔。小ぶりながらも形と色が最高のおっぱい。しなやかで均整の取れた肢体。  生い茂る黒々とした草叢。眩しいほどに白い肌。最高だ。この体を好きにできるのだ。これで興奮しない男はいない。 「本当に綺麗だよ」 「恥ずかしいです……」  消え入りそうな声で言い、恥ずかしげに顔を伏せる。恥じらう様が初々しい。 「君だけ裸じゃ不公平だから僕も脱ぐよ」  きちんとした衣装で全身を覆っていたサティとは違い、僕はズボンと靴だけしか身につけていないから、脱衣に十秒もかからない。  ズボンとパンツを床に投げ出し、全身を隠さずサティに向き合う。 「いやっ」と可愛らしい悲鳴を上げてサティが顔を覆うが、その指の間には大きな隙間がある。明らかにこちらを見ている。  破裂しそうなほどに張り詰め、涎を垂らす股間のものを突き出す。 「見てよ。君の体でこんなに興奮してるんだよ。まあ、旦那さんほど立派じゃないから物足りないかもしれないけど……」 「……その……人修羅様の、お、お持ち物も……ええと……  シヴァ様のものしか……その、見たことがないので、よくわかりませんが……ご、ご立派なのではないかと思います……」  こんな状況だというのに、サティは僕のことを懸命に励まそうとしている。  この女神はどこまで優しいのだろう。シヴァに深く愛されているのも納得だ。  「慈愛」が服を着て――今は裸だが――歩いているのだ。男ならば誰でもその優しさを独占したくなって当たり前だ。 「ですから、あの……うう……」  それきり、困ったように後ろを向いてしまった。剥き立ての茹で卵のような背中と桃のような尻が見えた。眼福だ。  静かに近寄って後ろから抱き竦める。女の甘い匂いがする。どうして女神の体からはこんなにも甘い匂いがするのだろう。  背中に怒張しきったものを擦りつけ、前に回した手で小ぶりな胸を撫でる。  サティが驚きの声を上げて抵抗するが、筋力、体格共に僕に敵うはずもない。  すぐに抵抗が止まり、胸を這い回る手を抱えるように押さえたまま、可愛らしい声を上げて体をひくつかせ始めた。  吸いつくような手触りの肌を楽しみ、餅のような胸を撫でるように揉む。肌に圧力を加えるたび、艶めかしい吐息が零れる。  乳輪を撫でるだけに留めて直接触れずにおいた乳首を指先で弾くと、押し殺した声と共に身を捩る。  片方の手を下腹部に向かって滑らせていくと、「あっ」という声と共に、同じく片方の手が制止するように追いかけてきた。  押さえようとする手をそのままに、豊かな草叢を撫でる。小さな悲鳴が上がり、脚が閉ざされる。  濃い毛を摘まみながら囁く。 「可愛い顔して、こっちの毛は凄いんだね」 「い、いや……そんなこと、言わないでください……」 「どうして? いやらしくて可愛いよ。凄く興奮する。好きだよ、こういうの」 「う、嬉しくありません……」 「それに『毛深い女は情が深い』って言うしね。優しい君にぴったりと言えばぴったりだね」  そんなことを言いながら、隙間に指を差し入れ、草叢の奥へと手を滑り込ませる。粘り気のある熱い液体で指先が濡れた。  湿った毛を掻き分けて穴を探る。そっと開くとどろどろと熱い液体が零れ出してきた。  温かくぬめる穴の入口に指先を潜り込ませながら囁く。 「もうぐちょぐちょだ。もしかして期待してる?」 「やっ、あっ、そ、そんなこと、あ、ん、ありません……!」 「じゃあ敏感なのかな。あ、もしかして、長いこと弄ってないの? 最後にシヴァとエッチしたのっていつ?」  サティは押し殺した嬌声を上げて身を捩るばかりで答えようとしない。  焦らすように指を動かしながら再度訊く。 「ねえ、最後に旦那さんとしたのはいつ? 教えて欲しいな」 「ひっ……ぁ……千年以上、んっ、前です」 「その間、自分でどれくらいした?」 「くっ、自分で、ひぅ……ですか?」 「そう。オナニーはどれくらい?」 「そ、んな、はした、ないこと……しません……!」 「なら浮気は?」 「ば、馬鹿に、ひんっ、し、しないで、ください……! 私が、シ、シヴァ、様を、裏切るなんて……私には、後にも、先にも……」  途中で気づいたのだろう。サティは最後まで言わなかった。何しろ、現に今、守り続けた貞操を破ろうとしているのだ。  もっとも、敢えてそのことを指摘しようとは思わない。それは後のお楽しみだ。 「じゃあ正真正銘の千年物? 流石は神様だね。もう単位が大き過ぎて実感湧かないや」  ともあれ、そういうことならば予定変更だ。このまま何度かイカせて体を温めてやるつもりだったが、  千年ぶりの絶頂がそんなあっさりしたものでは勿体無い。折角だから、溜めに溜めて、爆発させてみよう。 「そろそろ横になろうか。寝かせるよ。柔らかい床だから大丈夫だろうけど、痛かったら言ってね」  大分力の抜けてきたサティを抱きかかえ、静かに床に寝かせる。そのまま覆い被さり、唇を奪いにいく。  サティが顔を背けた。 「あの、唇は……」 「キスは駄目?」  サティが頷く。 「シヴァに義理立てしてるの?」  再び頷く。 「でも、今はシヴァは関係ないよね。唇も貰うよ」  顔を押さえて唇を奪う。抵抗を押し退けて舌を口の中に舌を侵入させ、怯える舌を絡め取り、甘い唾液を吸い上げる。  湿った音が口の中から聴覚へと直接反響するのを聴きながら味わう女神の唾液は、ソーマの雫のように美味かった。  口の中の唾液を啜り終えたら、お返しにこちらの唾液を流し込む。  サティは健気に押し返そうとしてきたが、それは全く無駄な抵抗で、単に僕と舌を絡め合わせるだけに終わった。  サティの白い喉が動き、僕の唾液を嚥下していく。  口の中の唾液がどちらの物なのか判別がつかなくなるほど舌を動かしたところで口を離す。  口の周りを涎で濡らしたサティは、焦点の合わない瞳で陶然と虚空を眺めている。  僕は頬に口づけ、体を下へとずらした。首筋を唇で啄み、胸元を舐め、健気に膨らんだ桜色の乳首を口に含む。  サティの体が撥ねたかと思うと、頭を押さえつけられた。  サティは僕の動きを抑えようとしているのだろうが、僕に可愛らしいおっぱいを差し出すことにしかなっていない。  口を窄めて乳首を吸う。  サティが切なげな声を漏らして体をくねらせる。かなり感じているようだ。  軽く一吸いして口を離し、再び体を上にずらして半開きの唇を襲う。  サティの口から湧き出すソーマの雫を啜って喉を潤した後、今度は腋への責めを始める。  有効に機能するまでにいくらかの開発が必要になるが、ここも立派な性感帯だ。  腋を閉じようとする腕を強引に上げさせ、無防備に晒された部分に顔を近づける。  股間と違い、毛穴自体がないのではないかとすら思える無毛のそこからは、花のような香りがした。  女神の汗は天然の香水なのかもしれない。  舌を出し、唾液を塗りたくるようにして無毛の肌を舐め上げる。  サティが嬌声とは微妙に違う響きの悲鳴を上げ、激しく身を捩る。  抵抗を押さえて舐め続けていくと、奇妙に押し殺された、美女らしくない笑い声を上げ始めた。  しばらくの間、左右の腋を交互に責め続けた後、解放する。  サティは笑い疲れた様子でぐったりと手足を床に投げ出している。  僕はそのまま体を更に下へとずらし、柔らかそうな白い太腿の間、豊かに生い茂った草叢の真正面に陣取った。  膝裏に手をかけて両脚を持ち上げ、大きく開脚させる。 「い、嫌です、こんな格好……!」  サティが慌てて脚を閉じようとするが手遅れだ。  まんぐり返しの状態で押さえ込まれている以上、それで果たせるのは僕の頭を固定することだけだ。  股間の草叢を改めて観察する。下腹部から口の周りにかけてを黒々とした毛が取り囲んでいる。  愛液を滴らせる裂け目は半ば草叢に埋もれており、草叢は尻の方まで続いている。 「そ、そんな所、見ないでください……」  両手で顔を覆ってサティが哀願する。  僕は無視して毛並みを撫でた。 「凄いね。お尻の方まで生えてる。処理してないんだね。凄くやらしくて可愛いよ。君はこのままでいてね」 「いやぁ……」  手を添えて開く。桃色に充血した割れ目から白く濁った愛液が沁み出してくる。 「周りの毛は凄いけど、ここは女の子だね。形も綺麗だし、色もピンク色だ」 「そんなこと、仰らないで……」  僕の視線から逃れるように腰を捻るが、それは魅力的な尻を誘うように振り、蕩けた穴をいやらしく開閉させる役にしか立たない。 「ちょっと味見させてね」  顔を近づけると、毛に纏わりついて凝縮された女の香りが鼻をくすぐった。酷く甘ったるく、酷くいやらしい匂いだ。  鼻息荒く、胸一杯に吸い込む。 「いい匂いだ」  泣きそうな声と共に穴がひくつき、むっとするような女の匂いを放つ液体を沁み出させた。羞恥心が興奮を呼んだのだろう。 「いただきます」  美味しそうな穴にむしゃぶりつく。サティが悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げてびくりと脚を震わせる。  舌を入れると濃厚な味わいが広がった。サティの唾液が爽やかなソーマの雫だとしたら、こちらは濃厚なソーマそれ自体だろう。  いつまでも味わっていたい。  だがそういうわけにもいかない。  半ば夢中で愛液を啜り取っていると、次第に愛液の沁み出す勢いが増し、サティの声と震えが大きくなってきた。  このまま続けると、千年ぶりの絶頂が舌によってもたらされてしまう。それは駄目だ。  名残惜しいが口を離し、まんぐり返しから解放する。  投げ出された脚の間で膝立ちになり、泣きじゃくるように腕で顔を覆うサティの肢体を見下ろす。  淡い炎に覆われた華奢な体は、汗ばみ、火照り、男を誘う香りを放っていた。  先走りを床に滴らせる、痛いほどに硬くなったものを毛深い割れ目に押しつけ、擦りつける。 「これから中に入るよ。千年ぶりのチンポ、よく味わってね」 「あの、人修羅様……ごめんなさい……私、やはりシヴァ様に申し訳なくて……他のことでは、いけませんか?」  サティが後ずさりして逃げようとするのを押さえる。 「今更そんなこと言われたって駄目だよ。ほら、もうこんなになってるんだから。止まらないよ」 「あっ、だ、駄目ぇ……!」  制止の声を無視して先端を宛がい、熱く濡れた心地良い穴の奥を目指して腰を進める。  サティが諦めたように、啜り泣くような声を上げながら、手で顔を覆う。  先端が肉を掻き分けて潜り込んだ。  熱い肉に包まれたと思った瞬間、先っぽが溶けてなくなった。 「うわぁぁっ!」  悲鳴を上げて腰を引き、尻からへたり込む。  最優先で股間を確認する。何ともなっていない。  愛液と先走りにまみれた先端は健在で、それどころか普段よりも強く自己主張しているようなさえ見える。  努めて冷静に挿入時の感覚を振り返る。よくよく思い返してみると、あの時、苦痛の類は一切なかった。  それどころか、あの時に感じたものは、腰の奥が灼熱するような、竿の中が疼くような、  具体的な度合を認識することもできない焼けるような快楽だったような気さえする。  どうやら、サティの中は想像を絶する名器のようだ。思わず生唾を呑み込む。 「……人修羅様? どうされたのですか? もしかして……その、あの、大事な所を……火傷されてしまったとか……」  涙で顔を濡らしているサティは、それなのに、半ば強姦魔に等しい僕に心の底から案じるような視線を向けてくれる。  このお人好しとさえ言える優しさこそがこの女神の本質なのだろう。 「いや、そんなことないよ。心配してくれてありがとう。  君の中があんまり気持ち良いもんだから、ちょっと驚いちゃってね。さ、続きしようか」  恩を仇で返すような真似をすることに罪悪感が疼くが、はっとしたように逃れようとするサティを再び押さえ込み、  心の準備をしてから欲望に震えるものを沈めていく。  呑み込まれた部分が溶けたように熱く疼く。腰砕けになりそうな快感だ。  サティが顔を背けて目を瞑り、手を胸の前でぎゅっと抱き合わせながら、艶の混じった声で啜り泣く。  暴発してしまわないように気をつけながら慎重に進んでいき、遂には根元までを魔性の穴に呑み込まれてしまう。  まるで、繋がっている部分同士が溶けて混ざり合い、一体化してしまったかのような感覚に襲われた。  腰が震え、思わずこのまま出してしまいそうになる。尻に力を入れて堪える。  酷く心地良く、酷く安らかで、酷く温かい。  サティの中は、締め具合と言い、襞の感触と言い、一級の名器と言えるが、それだけではこんな感覚は生まれまい。  何か物理を超越した力が働いているとしか思えない。  もしかして、これが女神の、サティの力なのだろうか。全てを受け容れてくれる包容力、優しく包み込んでくれる慈愛、  さながら「母性本来の力」とでも言うべきものが、サティの本質なのだろうか。  ヒンドゥー神話の神々と性は切っても切れない縁がある。サティの力がこの方面に及んでいても決しておかしくはない。  こんな具合に場違いな分析をして意識を逸らしでもしないと、冗談ではなく、入れただけで出してしまいそうだ。  中の感触に慣れるまでしばらく動かずにいよう。サティの華奢な体をがっちりと抱き締める。  ふと気になってサティの顔を窺う。 「あっ……あぁぁっ……ひぁぁ……」  涙を零しながら目を見開き、口を半開きにし、か細いながらも心地良さそうな声を上げている。  頭に手を添え、耳朶を甘噛みしながら囁く。 「気持ち良い?」 「き、気持ち……ん、良くなんて、ありません……ぁ……」  はっとした風に否定するが、声にも甘い響きが混ざっているせいで、ごまかしにもなっていない。  膨らんだ乳首を摘んで捻ってやると可愛らしい嬌声を上げて仰け反る。  中も連動するように締まり、僕の形を確かめるように吸いついてくる。 「僕は凄く良いよ。あ、ごめん……もう耐えられそうにないや。  久しぶりだっていうからじっくりしてあげようと思ってたけど、もう駄目。動くよ」  逃げられないように背中に腕を回して捕まえ、腰を動かす。  気持ち良過ぎる。一往復ごとに電流のように快感が腰を突き抜ける。  最初の内は可能な限り緩やかに動こうと思っていたが、そんなことは無理な相談だ。  僕の意思を離れて勝手に動きが大きく速くなっていく。  動きの大きさと速さが増すにつれてサティが上げる声も大きくなっていく。  泣き喚くような嬌声を上げながら、いつの間にか手足を僕に絡めて固く抱きついてきている。  僕とサティは獣のような声を上げて交わったが、それもあまり長くは続かなかった。  サティが一層強く僕にしがみつき、腰を浮かせて押しつけるようにしながら、体の中と外を激しく震わせて絶叫した。 「あっ、駄目、駄目ぇっ、と、止まってっ、あっ、ぁぁんっ、く、来るぅっ、気持ち良いの……来ちゃいますぅっ……!」  激しいうねりと欲情を煽る可愛らしい声とに対抗できるわけもなく、  僕も強く抱き締め返しながら腰を思い切り突き出して、居心地の良い穴の中に欲望の塊を吐き出した。  びくびくと腰を痙攣させながら白濁した液体を送り込む。  覆い被さったまま異常なほどに気持ち良い射精をしばらく続け、  今吐き出せる物を全て吐き出したと確信した後、満足の吐息を吐く。  そのまま、体重をかけ過ぎないように注意しながらサティにもたれかかる。  サティは半ば放心したように時折体を痙攣させていたが、次第に目の焦点が合い始め、やがて正常な意識を取り戻した。  しばらく俺の顔を見つめると、静かに涙を零し始め、顔を両腕で覆った。涙声で言う。 「も、もう、終わり、ましたよね……? どいて、ください……」 「中で出しちゃったけど、赤ちゃん出来ちゃったりしないかな」 「平気です……人修羅様も、悪魔ならばご存知でしょう」  悪魔は女の方がその気にならない限り妊娠しない。  特にそういう力を持っている悪魔でない限り、女悪魔に望まぬ妊娠をさせることはできない。  決定権は女にある。僕から散々子種を搾り取ったその去り際、リリスはそう言った。  男の下につくことを嫌った、ある意味最古の女権拡張論者であるリリスの言葉がどこまで信用できるかはわからないが。 「早く、どいてください……」  この状態の女に追い打ちをかけるのは少しばかり心が痛むが、ここで引いてしまっては、関係がこの時点で終わってしまう。  サティを手に入れるためには心を鬼にしなくてはならない。  耳元で囁く。 「何言ってるの? 僕はまだ満足してないよ」 「え……で、ですが、確かに、人修羅様は一回と……」 「一回って言うのは、僕が満足して君を抱こうと思わなくなるまでのことだよ」 「そん、な……」  元々白いサティの顔から見る見る内に血の気が引いていく。  逃げられないように抱え込んで再び腰を動かし始めてやると、快感に震えながら制止の声を上げた。 「だ、駄目ぇ、もう、やめて、ぁ、ください……お願い、ですぅ……んっ……やぁ……」 「大丈夫だよ。一度入れちゃったんだから、二度も三度も一緒だよ。ほら、細かいことは忘れて、一緒に気持ち良くなろうよ」 「い、嫌ぁぁ……シヴァ様、助けてぇ……!」  自分の下で喘ぎながら他の男に助けを求める女。しかし、どこからも助けは来ない。酷く興奮するシチュエーションだ。  際限なく昂っていくものを激しく動かし、熱く濡れた肉の穴を掻き混ぜる。  既に一度出しているおかげで余裕がある。  今度は暴発も暴走もせず、サティの性感を高め、体を解してやるように動くことができた。  しばらく捏ね回してやると、サティの体が良い具合に柔らかくなってきた。  声にも艶が出てきて、手足も快楽を求めるように僕に触れてきている。千年ぶりのセックスがかなり効いているのだろう。  サティが大分蕩けてきた。動きの変化に合わせて敏感な反応を示し、縋りついてくる。  特に反応が良かった場所を少ししつこく責めてやっただけで、全身を震わせ、表情をだらしなく緩めて快楽の叫びを上げる。  酔っ払ったようなサティを腕の下に組み敷いたまま動きを停める。疑問の声が甘ったるく耳をくすぐる。 「あ、あれぇ……どうしてぇ……どうして停まっちゃうんですかぁ……?」 「もっと動いて欲しい?」 「は、はいぃ……もっとぉ、してくださぁい……」 「でも、いいの? 旦那さんのこと」  この言葉でサティの目が現実世界に戻り始めた。 「それはぁ……でもぉ……」 「旦那さんがいるのに、旦那さん以外の男におねだりなんて……いやらしい奥さんだよね」 「そんなこと、い、言わないで……これは、その……」 「うん。これは浮気じゃないもんね。僕と約束してるから、仕方なく、いやらしい演技をしてるんだよね」 「あっ、そう、そうなのです……! 人修羅様と、お約束したから……だから……」 「サティは優しいね。お礼に一杯突いてあげるよ。ちょっとじっとしててね……」 「ふぇ……きゃっ……!」  繋がったまま抱え起こすとサティが悲鳴を上げて掴まってきた。 「ちょっと引っ繰り返すよ」 「あぁんっ!」  背中と尻に手を添えて支え、そのままゆっくりとサティの体を反転させる。  締めつけてくる穴が切なげに絡みついてきて非常に心地良い。 「そのまま前にぐーっと倒れて、床に手を突いて……そう、そのままね」  背面座位のような形になったところで、背中を押してサティの上体を前に倒させる。  それから繋がったままの腰を突き上げ、強制的に小ぶりな尻を抱え上げる。 「やっ、こんな、格好……恥ずかしいです……」  尻を僕に向かって掲げたまま、サティが床に突っ伏す。尻を鷲掴みにし、腿と一緒に肉を大きく開く。  尻が広がり、引き延ばされた後ろの穴と、僕のものを咥え込んでいる前の穴が丸見えになった。 「凄くいやらしくて興奮する。ほら、繋がってる所が丸見えだよ。  サティのおまんこが僕のチンポを呑み込んでるのがよく見える。美味しい美味しいって吸いついてるよ」 「いやぁ……言わないでぇ……お願いですぅ……」  艶っぽい泣き声が聞こえるが、サティの下の口は興奮を示すように涎を垂らし、ひくついた。  吸いつきも強くなった。言葉で嬲られて興奮しているのだ。  更に言葉責めを続ける。押し拡げられた後ろの穴の周囲を薄く彩る毛を摘み、軽く引っ張る。  サティの尻がびくりと震え、後ろの穴が窄まった。連動して前の穴も締まり、僕のものを噛み締める。 「ひゃあっ!?」 「こんな所にも毛が生えてるんだね」 「恥ずかしいですぅ……そんな所、見ては嫌です……」 「でも恥ずかしい所を見られて興奮してるでしょ?」 「興奮なんて……してません……!」 「でもサティのおまんこ、さっきからぎゅうぎゅう締めつけてくるよ。ほら、こうすると……」 「やっ、ひ、引っ張っては嫌ですぅ……!」 「ほら、締まった」 「興奮なんて、してませんよぅ……」 「まあ、それならそういうことにしておいてあげるよ。それより、そろそろ動くよ。一杯突いてあげるから楽しんでね」  尻を鷲掴みにしてゆっくりと腰を前後させる。  腰を引くと吸いついてくる肉が粘液と共に引き出され、腰を進めると嬉しそうに肉が震える。 「ほら、旦那さんのじゃないチンポが出入るするところを想像してみてよ」 「いや、いやぁ……そんなこと、できません……!」  頭を振って嫌がる素振りを見せる。だが、やはり体は心とは別物で、しっかり尻と腰が動いている。  腰の動きを徐々に激しくし、可愛い尻に音を立てて腰を叩きつけていくと、それにつれてサティの声がどんどん高まっていく。  何度か達させてやった頃には、反応の方もすっかり素直なものになっていた。 「サティはここが感じるのかな?」 「はいぃ……そこ、そこが気持ち良いのですぅ!」 「だったらもっと突いてあげるね」 「あっ、あっあっ、駄目っ……ひぃっ、やっ、また、またぁ、また来ちゃうぅ……!」  求められるがままに中を擦り上げてやると、尻をぶるぶると震わせて背筋を大きく反り返らせた。  激しくうねる強烈な締めつけが襲いかかってくる。  サティはほんの数秒で脱力して突っ伏したが、中の方はまだ、精液を搾り取ろうと、ぎゅうぎゅうと締めつけ、絡みついてくる。  締めつけを楽しみながら、今度は胸と腹に腕を回して、サティの軽い体を引き起こす。 「ふぇ……?」 「今度はもっと深く入るようにしようか」  繋がったまま引き起こし、持ち上げ、膝の上に下ろす。  半ば抜けかけていたものが重力の助けを受けてサティの奥深くへと打ち込まれた。 「あひぃぃっ、ふ、深い、ですぅ……!」  サティは驚いたように身動ぎするが、僕に体をしっかり固定されているため、逃げられない。  サティが身を捩るのには構わず、腕で体を下へと押さえつけ、腰で下から激しく突き上げ、捏ね繰り回す。  ここまでの交わりで調べた弱点ばかりを集中して狙っていく。  サティは断続的に絶頂に達していた。一突きごとに絶叫し、腹の中をうねらせ、絡みついてくる。  間断なく達し続ける肉の穴の心地良さは格別で、僕も急激に絶頂へと導かれていく。  サティが二十数回目の絶頂を迎えた時、僕も遂に堪え切れなくなり、サティの汗に濡れた体を抱き締め、  その一番奥に今出せる限りの全てを注ぎ込んだ。  抱き締める腕に力を籠めると、連動するように中が締めつけてくる。  頭の中が真っ白になるような射精を終え、腕の中のサティの頬に口づけようとしたところで、  サティが小刻みに体をひくつかせながら失神していることに気づく。  意識を失っている女を抱いても面白くない。深く打ち込んだままのものを抜き取る。  ぽっかりと僕の形に開いた口から愛液と精液の混合液が顔を出した。  本気で感じていたサティの愛液と、人間であった頃を思うと信じられないくらいに濃厚な精液は、  共に糊のように粘り気が強く、口から垂れはするものの、零れ出してはこない。  精液の逆流を楽しむのは諦め、サティを抱いたまま床に寝転がる。腕枕をしながら目覚めるのを待つ。 三  サティが僕の膝の上で失神してから結構な時間が経った。  抱き合って寝転がる僕達の体は、時間経過と共に汚れが落ちる悪魔達の特性により、すっかり綺麗になっている。  今となっては、あの淫靡な交わりの痕跡は何一つとして残っていない。  こうして裸で抱き合っているのでなければ、何もかもが夢だったと思うところだ。  腕の中で寝息を立てるサティが口の中で何かを呟いた。  口元に耳を寄せ、呟きの正体の確認を試みる。寝息が耳に当たる心地良さを楽しみつつ次の寝言を待ち構える。 「……シヴァ様……」  サティは夫の夢を見ているようだ。髪を撫でてやると、僕をシヴァだとでも思ったのか、擦り寄ってきた。 「シヴァ様、愛しています……」  可愛らしく身を寄せてくるサティの魅力に屈し、そっと唇を奪う。 「んむぅ……シヴァ様……もっと……」  サティは嫌がる素振りもなく僕の唇を受け容れ、自分から抱きついてきた。  酷く幸せそうな顔をしている。余程良い夢を見ているのだろう。千年ぶりにシヴァに抱かれる夢だろうか。  舌をねだるように半開きになった唇に応え、お望みのものを与えてやる。  挿し入れた途端、小さな舌が優しく出迎えてきた。  僕を拒んで抵抗していた舌と同じものだとは思えない、愛情の籠もった歓迎を示してくる。  形と味を確かめるように絡みついてくる。  しばらくの間、僕はソーマの雫を堪能したが、やがてその楽しみにも終わりが訪れた。  サティが目を覚ましたのだ。  最初、サティは寝惚け眼でシヴァへの愛を囁きながら僕と唇を重ねていたが、  違和感に気づいたようにはっと口を離し、悲鳴を上げた。 「嫌ぁっ! 離してっ、離してください……!」  そのまま、逃れようと暴れ出す。  華奢な女神のくせに、あの激しい交わりの疲労が完璧に回復しているようで、  うっかり逃げられてしまいそうになった。作成時に勝利の雄叫びを継承させておいたことが仇となった。  サティが背を向けたところで捕らえ、羽交い絞めにした。逃れようと暴れるのを背後から押さえ込む。 「落ち着いて。僕だよ僕」  次第に抵抗が弱々しくなり、遂には止んだ。サティは涙声で哀願してきた。 「もう、離してください……もうご満足でしょう?」 「まだまだ、全然だよ。まだまだ抱き足りない」 「お願いです、もうお許しください……」 「約束したよね。女神が約束を破るの?」 「それは……」  口籠ったサティは肩を震わせて泣き出した。涙声で呟く。 「シヴァ様……ごめんなさい……サティは、サティは汚れてしまいました……ごめんなさい……ごめんなさい……シヴァ様……」  こういうのは興奮するが、どうにも後味が悪い。  汚れてしまったと泣かれるよりも、あなたの方がいいのと啼かれる方が気分が良い。  羽交い絞めにする手をずらし、胸と股間を責める。 「もう、嫌ぁっ……! やめて……! お願いです、やめてください……!」  僕の手を掴んで引き剥がそうとするが、油断していなければ、この程度の力で振り解かれることもない。  ぴんと張り詰めた乳首を摘まんで優しく揉み解し、  先程の甘いキスで感じていたのか、既に熱く濡れ始めている割れ目を擦り上げる。  抵抗は相変わらず続いたが、酷く弱々しい、形ばかりのものだった。千年ぶりについた官能の火が鎮まらないのだろう。  程無くしてサティは、唇を噛んで声を殺しながら、絶頂の嬌声を漏らした。  掴んだ僕の腕をぎゅっと握り、全身を強張らせ、だらしなく脱力する。  後ろから抱き締め、頬にキスして囁く。 「気持ち良かったでしょ? もう余計なことは忘れて楽しんじゃおうよ。  そういう約束なんだし、仕方ない。誰も君を責めたりなんかできないよ」  返事がない。感じやすい乳首とクリトリスを指先で嬲りながら再度問いかける。 「お互い、もう収まりがつかないんだから、行けるところまで行っちゃおうよ。君はただ約束を守るだけなんだから……ね?」  快楽に震えながら、サティが無言で小さく、しかしはっきりと頷くのが見えた。  承諾の証なのか、僕の手を掴んでいた手が離れる。 「……ありがとう。じゃあ、次は僕のことを気持ち良くしてくれるかな」  サティを解放し、立ち上がる。  サティが寝転がったまま僕を見上げる。 「気持ち良く……ですか?」 「そうだよ」  手を引いて上体を起こさせ、顔の前に硬く立ち上がったものを突きつける。 「やぁっ……」  サティが顔を背けるが、僕に腕を掴まれているので逃げられない。 「フェラしてよ」 「……ふぇら?」 「知らないの?」  これはもしかすると、何も知らないうぶな他人の幼な妻にフェラのやり方を仕込む、  という素晴らしい経験ができるのではないだろうか。 「……ごめんなさい」 「気にしなくていいよ。知らない人は知らないんだしね」  申し訳なさそうに目を伏せるサティに、内心でガッツポーズをしながら答える。 「……人修羅様は、そのふぇらをお求めなのですよね?」 「そうだよ。君にして貰えたら凄く嬉しいな」 「……わかりました。して差し上げますので、ご指導をお願いします」  本人から頼まれるとは予想外だ。絶対に内容をわかっていないに違いない――  だからこそこんなことが言えるのだ――が、それだけに、ぞくぞくと快感が込み上げてくる。 「いいよ。教えてあげるね。まずはチンポを掴んで」 「はい……こうですか?」  白くて小さな手が遠慮がちに僕のものを掴む。  ほとんど力が入っておらず、掴まれていると言うより触れられているような感じだ。 「……そう、いい感じだよ。もう片方の手で玉も弄って欲しいな。優しく触ってみて」  竿を扱きつつ、サティがおずおずと袋の方に手を伸ばした。恐る恐ると言った風に下から掌を当ててくる。 「そのまま優しく撫でたり揉んだりしてみて。強くしちゃ駄目だよ」 「……柔らかい……のですね」  僕の求めに応じて手を動かすサティの顔からは嫌悪や羞恥が一時的に影を潜め、好奇心が代わりに浮かび上がっていた。 「触るの初めてだったりする?」 「そうではありませんけれど……」 「あんまり触ったことがない?」  サティが小さく頷く。 「シヴァにこういうことしないの?」 「シヴァ様にはしていただくばかりで……私から何かをして差し上げたことなど、ほとんど……」 「それなら、僕でご奉仕の練習をしたらどうかな。色々教えてあげるから、シヴァの所に帰ったらやってあげなよ。きっと喜ぶよ」 「シヴァ様が……」 「そうだよ。後でシヴァのためになることだから、気にしないで、僕のことを気持ち良くしてよ」 「……わかりました。シヴァ様のために頑張ります」  サティも僕の言葉を頭から信じ込むほど馬鹿ではないはずだ。  これが建前に過ぎないことを理解した上で乗ってきたのだ。  サティには縋る建前が必要なのだ。状況に耐えるためにも、流されて楽しんでしまうことを正当化するためにも。 「ほら、手が止まってるよ」 「ごめんなさい……これでいいですか? 気持ち良いですか?」 「うん。いいよ。凄くいい」  気分を出すための嘘ではない。  サティはとても物覚えがいい。元々の献身的な性格もあってか、愛撫がどんどん上手くなっていく。 「次はチンポの先にキスしてよ。フェラっていうのは、チンポを口でしゃぶって気持ち良くすることなんだから」 「……そんな……男性のお持ち物に口づけるなんて……そんなはしたないこと……」 「女の人はみんなやってるよ。だから、ほら、君も、ね?」 「普通の、ことなのですか?」  信じられない、と言いたげに目を見開く。 「そうだよ。相手がいる女の人はみんなやってるんだ。だから君もできるようになっとかないと……シヴァもきっと喜ぶよ」 「……わかりました。失礼します」  竿にそっと手を添えて固定して、ぎゅっと目を瞑った。  自決用の毒を呷ろうとでもしているかのような顔で恐ろしそうに僕のものの先に口をつけ、離す。  唇についた先走りが糸を引いた。 「もっとだよ」  渋々といった風に口づけを繰り返す。段々と慣れてきたようで、動きがスムーズになっていく。 「口をつけるだけじゃなくて、普通にキスするみたいに、ちょっと吸ってみて……  そうそう。いいよ。じゃ、次は唇をつけたまま、舌の先でぺろぺろしてみて」  無言で口をつけ、僕の言った通りに舌先を出し、敏感な先端を舐め始める。 「味はどう?」 「しょっぱくて、生臭いです……」 「いつか美味しく感じられるようになるはずだから、今は我慢して。  次はもっと舌を出して、犬がじゃれつくみたいに全体を舐めてみてよ」 「わかり、ました……」  舌をだらりと伸ばし、竿の表面を這わせる。一度ではなく二度、三度と温かい舌が竿の上を往復する。  おっかなびっくりのぎこちない動きだが、サティのような美人がする初めての奉仕だと思うと、それさえも気持ち良さに繋がる。  快感に僕のものが脈打った。 「あっ、い、痛かったのですか?」  竿を掴んだまま顔を跳ね上げ、心配そうに僕を見上げてくる。 「大丈夫。気持ち良かっただけだよ。舐めるのはもういいから、次は頭の部分を咥えてみてくれる?  大きく口を開けて、ぱくって。歯を立てちゃ駄目だよ。優しくね」 「い、いきます……!」  サティは緊張の面持ちでじっと僕のものを見た後、おもむろに口を開け、僕のものの赤黒い頭を咥え込む。  温かい吐息と唾液が纏わりつき、しっとりした唇が雁首と竿の境目を心地良く撫でる。 「そのまま舌を絡めて、あと唇も窄めて……そうそう、いいよ。舌先を何度も押し当ててみたり……  先っぽの口の所をつついたりしてみて……うん、気持ち良いよ……」  ぬるりとした物が先端に絡みついた。  怯んだように縮こまりつつも、舌先がぬるぬると這い回る。  特別な技巧もなく、ただ表面を撫でているだけの単純な動きだが、  清楚な顔立ちのサティが苦しげに目を瞑り、唇を窄めている姿を見るだけで、そんなことはどうでもよくなる。  サティの頭を撫でながら次の指示を出す。 「いいよ。じゃあ、次は吸ってみて……」  サティが頬を窄める。上から見下ろすと、まるでひょっとこのような顔になった。  気品漂う顔立ちがいやらしく歪み、唇が吸いつき、頬の裏側が当たる。 「舌の動きも停めずに続けて、ぺろぺろ舐めながら、そのまま顔を前後させてみて……そう、口の中に出し入れするんだ」  サティが顔を動かすと、僕の言いつけに従って窄ませたままの口から、下品な水音が響いた。  サティが恥ずかしそうに目を伏せる。 「いいんだよ、音が出ちゃっても。むしろその音があった方が男は興奮するから、もっとじゅぽじゅぽ鳴らしちゃってよ」  頭に手を添えて前後に動くよう促す。  ひょっとこのように僕のものに吸いついたまま、サティの顔が前後に動く。 「よしよし……それじゃあ、取り敢えず口はそのままで、手の方も動かそうか。  片方でチンポを扱いて、もう片方で玉を触るんだ……最初に教えたように」  サティは本当に物覚えの良い生徒だった。  口と手を同時に動かし、初めてフェラをしているとは思えないほどに巧みな技を披露してくれた。  すぐに射精に追い込まれるようなサキュバスめいたものではないが、  じんわりと少しずつ高みに押し上げられていくような舌遣いだ。  サティの頬に手を添え、優しく竿から口を離させた。  最後まで吸いついていた唇が音を立てて離れる。 「フェラはそろそろいいかな。次は玉舐めをしてよ。  片手でチンポを持ち上げて、付け根の辺りから袋にかけてを舐めて。チンポも一緒に扱いてね」 「はい」という素直な返事と共に、サティは僕のものに手を添えて持ち上げ、  股間に顔を埋めるようにして付け根の辺りに唇を当てた。  啄むようにキスした後、舌先で付け根から袋にかけてを舐めていく。 「玉を舌で転がしたりもしてみてよ。それから、優しく頬張って、飴を舐めるみたいにしゃぶって。  で、その間、もう片方の手は最初にやったように玉を弄って……うん、そうそう呑み込みが早いね」  サティはセックスとバイオレンスに満ちたヒンドゥー神話の重要な神格と言うだけのことはあり、玉舐めの方もすぐに上達した。  口の周りを唾液でべとべとにしながら、僕の袋がふやけてしまいそうなほど丁寧に舌を這わせてくれる。  かつての受胎でリリスがしてくれたような魔性の快楽には程遠いが、やはり、初めてとは思えない巧みさだ。 「あ、ちょっと待って」  熱心に僕の袋をしゃぶっているのを手で制す。  サティが竿と袋に手を添えたまま首を傾げる。 「君ばかりじゃ不公平だから、僕もするよ」  手を離させ、仰向けに寝転がる。 「さあ、僕の上に乗って」  上に乗るということの意味がわからなかったのか、サティは考え込むような素振りを見せた。  少しして、それを騎乗位と解釈したのか、僕のものを握り、躊躇いがちに腰の上に跨ろうとした。 「ああ、違う違う。そうじゃなくてね。僕のチンポをしゃぶりながら、こっちにお尻を向けて欲しいんだよ。  互い違いに重なるような……」 「ええと……こうでしょうか」  サティは後ろを向き、僕の股間の上に顔を持っていき、僕に尻を向けるようにして覆い被さってきた。  その状態で振り返り、首を傾げる。 「お尻はもうちょっとこっちがいいかな。僕の顔の上におまんこが来るくらいの位置で……」 「それは……恥ずかしいです」 「僕だって全部見られてるんだからおあいこだよ。ね?」  サティの小ぶりな尻を掴み、顔の前に引き寄せる。抵抗はほとんど形ばかりのものだった。  目の前に最も直接的で最もいやらしい光景が広がった。  濃い毛に覆われた肉の裂け目が、物欲しそうにひくひくと震え、白っぽい粘液を沁み出させている。  その上では淡い毛で彩られた色素の薄い窄まりが恥ずかしげに収縮している。  尻たぶを鷲掴みにして押し開く。何もかもが丸見えになった。 「やぁ……」  サティが恥ずかしげに震え、逃れようとでもするかのように尻を動かすが、触ってくれとねだっているようにしか見えない。  そのまま押さえつけて顔を近づける。発情した女の匂いが強まった。 「とろとろだね。チンポ舐めて興奮しちゃった?」 「そんなこと……」 「まあいいや。どのみちもっととろとろになるんだから……このままお互いのを舐め合うんだ。気持ち良いよ」  言い終え、返事も待たずにむしゃぶりつく。  脚の間に顔を埋め、犬のように激しく、淫魔のように丁寧に舌を動かす。  僕の体の上でサティがびくりと跳ね、逃れるように尻を振るが、しばらく続けてやると次第に力が抜け、反応が素直になってきた。  甘い喘ぎと共に、自分から僕の顔に尻を押しつけてくる。  尻を顔から離し、愛撫をやめる。 「あん……人修羅様ぁ……?」  不満そうに、切なそうに、肩越しに僕を見てくる。 「手が止まってるよ、サティ。僕のもしてくれなきゃ駄目だよ」 「ごめんなさい……ぁむ……むぅ……」  おねだりをするように尻を振りながら、サティが僕の股間に顔を埋めた。  頭の部分が温かく濡れたものに包まれ、軟体動物のようなものが敏感な表面を這い回り、  柔らかい肉が吸いついてくるのが感じられた。  涎を垂らす穴への責めを再開すると、股間の快感が激しいものになった。  僕の言いつけ通り下品な音を立てながら、サティの頭が上下に動き、窄まる唇と吸いつく頬とに激しく扱き立てられる。  それと同時にすべすべとした物が袋に触れ、優しく揉み解してくる。  下腹の奥がむず痒くなってきた頃、いやらしい音が鳴って頭の部分が空気の中に解放される。  唾液の気化熱がひんやりとして気持ち良い。  刺激を求めて震えるものが優しく掴まれて傾けられた。  直後、袋が温かく濡れたもので撫でられた。今度は玉舐めを始めたらしい。 「んっ、んっ」と可愛い吐息を漏らしながら、サティが僕の袋を丹念に舐め回していく。  その間、手の方も休んではおらず、唾液と先走りでべとべとになった先端から半ばまでを熱心に扱き立てている。  それをしばらく続けた後はまた攻撃の矛先が竿に戻った。頭を咥え込み、巧みな舌遣いを披露し始める。  腰の奥で欲望が渦を巻き、袋と竿に向かって昇り始めた。  まだ我慢できないこともないが、この辺りで出してしまうのが、多分最も気持ち良い。  だが、この状態で出してしまっては、サティの口を汚すところを見ることができない。  初めてフェラをした女が初めて口の中に精液を受け容れる瞬間の顔を見逃すわけにはいかない。  軽く上体を起こして顔を上げ、急いで制止する。 「サティ、ストップ! ちょっと待って!」 「ふふぇ?」  ひょっとこのように竿に吸いついたままサティがこちらを見る。 「一旦どいてくれるかな。しゃぶってるところをよく見たいんだ」  サティが口を離した。温かい濡れた肉から解放され、冷たい空気に晒される。サティの口から涎が糸を引いた。  サティをどかして床に座らせ、その前に立つ。  床に滴るほどの唾液を塗りたくられて怒張するものを顔の前に突きつけ、再び咥えるように頼む。  既にフェラに抵抗がなくなっているのか、サティは従順に頷くと膝立ちになり、優しく先っぽを口に収めた。  丁寧な舌遣いは優しく、それでいて激しいものだった。  既に解放の時を待つばかりだった欲望が沸騰させられていく。  そろそろ出る。いざという時に逃げられないようにするため、さりげなく頭に両手を乗せながら、射精を予告する。 「サティ……出るよ。そのまま舐め続けて、口で受け止めて……」  サティは僕の言うことに従い、丹念な舌遣いを続けてくれた。  張り裂けそうなほどに膨らんで敏感になっている先端を舌がぬるりと撫でた瞬間、快感が下腹の奥から竿の先までを一気に駆け上った。 「出るよ!」  顔をしっかりと見下ろしながら、上ってきたものを吐き出す。  サティは驚いたように目を見開いたものの、逃げようとはしなかった。  何かに耐えるように目を瞑ると、眉根を寄せ、くぐもった呻きを漏らし、顔を顰めながら、僕が吐き出すものを受け止めてくれた。  一仕事終え、深く息を吐く。  しかし、まだ口からは抜かない。  まだ終わらないのですか、と言いたげに涙目で見上げるサティの髪を撫でる。 「中に残ったのもちゃんと吸って……うぅっ、効くなぁ……」  射精し立てで酷く敏感になっている頭の部分を吸われ、悪寒にも似た快感が走る。  残っている分も粗方抜かれた。蛸のように吸いつくサティの頬を撫で、離れるように促す。  サティが床にへたり込み、口の中のものを吐き出そうとする。 「口の中のは吐いちゃ駄目だよ」  涙目になって顔を顰めたまま、サティが見つめてくる。 「飲み込んで。唾と絡ませればつるっといくはずだから」  サティが、信じられない、とでも言いたげに目を見開いた。  しかし、重ねて促すと、顔を強張らせながら、口の中に唾を溜めるような素振りを見せ始めた。  少しして、唾が充分に溜まったのか、苦い薬を飲む子供のように真剣な表情で、微かに頭を動かした。  喉が震えるように脈打つ。飲み下したのだ。  嚥下した瞬間、悪寒を堪えるかのように震え、サティは自分の体を抱き締めた。  だが、その顔は寒気を感じているようには見えない。興奮に火照っている。 「全部飲めた?」  頷く。 「口を開けて見せてみて」  口が開いた。桃色の舌と白い歯が透明な唾液でぬらぬらと光っている。僕が吐き出したものは一滴たりとも見当たらない。 「全部飲めたんだ。偉いね。もう口閉じていいよ」頭を撫でながら訊く。 「どうだった、初めてしゃぶるチンポと、初めて飲む精液の味は?」  言葉による答えはなかったが、顔が口ほどに物を言っていた。  答えは「とてもまずい」辺りだろう。  だが同時に、火照った顔は、最初にしゃぶったものが夫以外のもので、  最初に飲んだのが夫以外のものである事実に、背徳感に満ちた快楽を覚えていることも示していた。 「その内美味しいって思うようになるよ。女の人はみんなチンポと精液が好きだからね」  言いながら、サティの前に膝をつき、体を近づけていく。  頬に手を添えてキスをしようとしたら、胸を掌で押されて制止された。 「あの、お口……汚いですから……」 「気にしないよ。君とキスできるんなら、そんなことはどうだっていい。  君だって、好きな男とキスする時は、嬉しくて他のことなんかどうだってよくなるでしょ?」 「ああ……そんな……」  困惑したように目を泳がせるサティには構わず唇を奪い、抱き締める。  胸を押し返そうとしていた手が力無く落ちる。  手はやがて、おずおずと、遠慮がちに、躊躇いがちに、僕の背に回されてきた。 四  四つん這いにさせたサティの尻を鷲掴みにして突く。  尻たぶを思い切り割り開いているので繋がっている所もいやらしくひくつく窄まりも丸見えとなっているが、  サティはもうその辺りが気にならないらしい。  何か言葉を投げかけてやれば別だが、最早、単に開いてやるだけでは特段の反応はない。  中の締めつけと連動して窄まりが収縮している。見ていると誘われているような気分になるし、弄り回したくもなる。  誘惑に負け、欲望に正直になることにする。  取り敢えず、奥の弱い部分を撃ち抜いて絶頂へと追いやり、脈打って絡みついてくる中の感触を堪能する。  背筋を反らして震えた後、サティの体が、僕に尻を捧げたまま床に突っ伏した。  中の震えが収まり、締めつけが緩んだところで引き抜く。  引き抜く瞬間に微かに震えたサティが、半開きの口から涎を垂らしたまま、不満そうにこちらを見る。 「ちょっと違うことしようかと思ってさ」  掲げられた尻の谷間を押し広げる。サティが反応を示すよりも先に顔を埋め、尖らせた舌先で窄まりを撫でる。  肛門特有の苦味――不快な味ではない――がした。  穴がきゅっと締まり、尻がびくりと跳ね上がった。 「なっ、何をなさるのです……!?」 「何って……次はお尻を可愛がってあげるよ」 「そんな……駄目です、そんなの……!」  恐れるような声と共に逃れようとするが、絶頂の余韻が残る体では覚束無い。  抱えるように尻を鷲掴みにして捕まえてやるともう動けなくなった。 「どうして駄目なの? 怖い? 大丈夫だよ。ここもちゃんと気持ち良くなれる穴だから」 「そこは……そこはシヴァ様にもまだ……許してください……」 「だからこそここを可愛がってあげたいんだよ。少しでも思い出が欲しいんだ」 「駄目……お願いです……許して……」  女の後ろの穴を一から開発するのは初めてだが、リリスに教えられて、やり方だけは知っているから大丈夫だ。  哀願を無視し、まずは舌先で窄まりを舐め回す。皺の一本一本を穿るように舌を這わせていく。  サティが引き攣るような声を上げ、尻を震わせた。  最初の段階では穴を舐められても、生理的な快感は然程でもないらしい。精々くすぐったいだけだという。  しかし、性の快楽は体だけが感じるものではない。  誰かに無防備な肛門を晒し、その「恥ずかしい穴」を舐め回されている現実に、心は背徳的な快楽を感じてしまう。  貞淑な女であれば尚更だ。勝手に興奮して、その心の快楽を勝手に体の快楽と混同してしまう。  更にその際、他の性感帯――特に敏感なクリトリスなど――を同時に刺激してやると、その混同はますます進む。  最初の内は濡れた拒絶の声を上げ、逃れようとするかのように尻を振っていたが、  クリトリスを指先で転がしながら、味がしなくなるほどに穴を舐め回してやった頃には、  声は柔らかくなり、尻も大人しくなっていた。  緩んできた穴の中に舌先を潜り込ませる。穴が驚いたように締めつけてきた。  舌先に外よりも強い苦味を感じる。入口を押し拡げるようにして舌先を蠢かせる。  大分馴染んできたら、穴にかぶりつくようにして口をつけ、舌を奥へと押し込み、固く締めつけてくる括約筋を解していく。  やはり味がしなくなったところで再び口を離す。  僕の唾液に濡れて光る後ろの穴は、だらしなく緩んで、腹の中を空気に晒していた。  緩んだ穴に人差し指をそっと挿し込む。舌よりも硬くて太いものはまだ負担のようで、  括約筋が締まり、サティが苦しげに息を吐いた。すべすべとした尻に鳥肌が立った。  だが、最も敏感な入口付近を細長い物が出入りする感覚はやはり気持ち良いようで、  苦しげな呻きが聞こえたのも初めの内だけだった。すぐに締めつけが緩み、括約筋が吸いつくように指に絡みついてきた。  声も甘ったるく震え、ちらりと窺った顔は快楽に緩んでいた。  括約筋が指一本分の太さに慣れてきた頃を見計らい、単純な前後運動に円運動を加え、穴の拡張を始める。  最初の内は普通の排泄では絶対に得られない感覚に怯えるような素振りさえ見せたが、  柔軟な括約筋はすぐにその動きに慣れ、解れていった。  指一本を無理なく受け容れられるようになったら、今度は中指も投入する。  二本の指を呑み込まされた穴が異物に怯えるようにきつく締めつけてきたが、  尻から腿にかけてを優しく撫でてやると落ち着いたようで、人差し指だけで解してやった時と同様、後は上手くいった。  指二本を中でどう動かしても無理なく受け容れられるようになれば拡張はひとまず終わりだ。  次は硬く立ち上がったものの出番となる。  快楽に涎を垂らす前の穴に欲情しきったものを擦りつけ、潤滑液代わりの愛液を塗る。  サティが心地良さそうに股間を押しつけてくる。 「サティ、今からお尻の穴に入れるからね」 「え……駄目……駄目ですぅ。そこは、シヴァ様にもぉ……」  蕩けきった拒絶の声が返ってきた。  だがもう言葉だけだ。  後ろの穴はどうしようもないくらいに蕩けているし、体の方からもどうしようもないくらいに力が抜けている。  今ならばガキだってサティを犯せるに違いない。  無理矢理やってしまうのは簡単だし、恐らく、そうしたとしてもサティは何だかんだで受け容れてしまうだろう。  悪魔は快楽に弱い。たとえ神であったとしても。  しかしそれでは少し面白くない。一つ趣向を変えることにする。  サティを抱き起こす。 「どうしても嫌だって言うんなら……」 「やめて、くださるのですか……?」  体中を火照らせたまま、喜んでいるとも悲しんでいるともつかない顔でサティが問い返してきた。 「僕が君より先にイったら諦める。でも、君が先にイったら、もう容赦はしないよ」  膝に乗せ、正面から抱き合う。互いの腹の間で震えるものを入れてこのまま体を繋げれば対面座位だ。 「頑張って腰を振って僕を気持ち良くしてね」  サティの尻を浮かせ、下から一息に貫き、根元まで突き入れる。 「ひゃあん!」と声を上げて目を見開くのを上から押さえつけ、ぐりぐりと腰を揺らす。 「やっぱり君の中って居心地が良いなぁ……ほら、お尻を振って僕を気持ち良くしてくれないと、君のお尻の穴を守れないよ」 「んひぃ……そんなぁ……」 「ほらほら、早くお尻振ってよ」 「あひぃっ、わ、わかりましたぁ……!」  奥の方を擦ってやるとびくりと震え、躊躇いがちに腰を動かし始めた。 「いいよ、もっと激しくくねらせて……」  サティも段々と気分が乗ってきた――元々昂っていた体に心が追いついてきた――  ようで、腰の動きが少しずつ複雑に、また激しくなっていく。  情熱的なのは下半身ばかりではない。上半身の方も積極的になってきた。  腕は僕の胴に絡みつき、掌は背中や首を撫で回し、唇は僕の口を貪っている。  僕を気持ち良くさせようとしているのか、自分が気持ち良くなろうとしているのか、まるで区別がつかない。  熱い肉の激しい動きに僕も否応なしに高められていく。このまま続けていけば、きっと心地良い絶頂を迎えられることだろう。  しかし勿論その気はない。僕が精液を注ぎ込みたい場所は、今に限っては、この貪欲な肉穴ではない。  この気持ちの良い穴と肉の壁一枚を隔てる、もう一つの穴だ。  激しく揺れ動くサティをきつく抱き締めて体を密着させ、最も奥までを貫き、中の空間を埋める。  その瞬間、サティは高らかな声を上げながらしがみついてきて、背筋をぴんと伸ばし、中の肉を脈動させた。  絶頂に達した熱い肉が絡みつき、精液を搾り取ろうとしてくるが、目を瞑って堪える。 「あ……あ……」  力無くもたれかかってきたサティは、口を半開きにして、恍惚とした喘ぎを漏らしている。  サティを絶頂に追いやるのは簡単だ。  ある程度昂らせた上で、強く抱き締めて体を密着させながら、一番奥までを埋めてやればいい。  どうも肌の触れ合いと深い繋がりに弱いらしい。  すぐにでもサティを寝かせて尻を犯したい気持ちを抑え、絶頂の余韻に浸るサティの体を抱き続ける。  一晩限りの遊び相手ではないのだ。体だけでなく心も蕩かしてやらねばならない。  サティは甘えるように体重を預けてきている。髪や背を撫でると嬉しそうに表情を緩める。  そろそろ落ち着いてきただろう。頃合を見計らい、頬や首筋に口づけながら耳元で囁く。 「先にイっちゃったね」  サティは声にならない声を上げ、恥ずかしげに僕の胸元に顔を埋めて表情を隠した。  尻に手を伸ばし、閉じかけた穴を弄る。 「約束は約束だから、こっちの『初めて』を貰うよ」  サティは顔を隠したまま小さく頷いた。 「ありがとう。そこに俯せになってくれる?」  ゆっくりと体を離し、床に下ろす。  サティは大儀そうに寝返りを打って俯せになった。  背中から尻にかけての滑らかな肌が火照って汗ばみ、何とも言えない色気がある。 「念のため、ちょっと解すね」  脚を蛙のように開かせた後、小ぶりな尻を割り開き、何かを咥え込みたそうにひくつく窄まりに愛液で濡らした指を押しつける。  指はあっさりと呑み込まれていく。締めつけも適度だ。 「……うん、この分なら大丈夫だ。さあ、いよいよお尻の処女を貰うからね」  脚の間に体を割り込ませて半ば覆い被さり、  先程まで繋がっていたおかげで愛液でぬるぬるになったものの頭を尻の谷間で滑らせる。  サティが土壇場になって怯えたように身動ぎするが、逃げる暇は与えない。頭を窄まりに宛がい、ゆっくりと沈めていく。 「あっ、いっ……!」  苦しげな呻きと共に体が震え、括約筋が怯えたように締めつけてくる。サティの肌に脂汗が滲み出す。  髪を撫でながら声をかける。 「大丈夫だよ、力を抜いて……大きく息を吐いて……吸って……うんちする時みたいにお腹に力を入れてご覧。  そうすればすっぽり入っちゃうから……うんうん、いいよ、その調子だよ……」  サティも余計な抵抗は痛い思いをするだけだとわかっているようで、素直に僕の助言に従ってくれた。  その甲斐あって、亀のように遅々とした歩みではあったものの、僕のものは無事に根元までサティの中に入ることができた。 「全部入ったよ。馴染むまでこのままでいようか」  覆い被さって密着し、羽交い絞めにするように抱きついた状態で囁く。 「……旦那さんにも許したことない場所に、旦那さん以外のチンポが入っちゃったね。どう、旦那さんじゃないチンポの味は?」 「そんな……あっ、ふ、ぅぅ……!」  サティの体が小さく震え、括約筋が切なげに絡みついてきた。このちょっとした言葉責めで軽く達してしまったのかもしれない。 「サティのお尻の穴、気持ち良さそうに吸いついてきてるね」 「い、言わないでください……そんな、ことぉ……」  悪寒が走った時のように体を震わせながら顔の前で腕を交差し、床に突っ伏す。  無防備に晒された腋から脇腹にかけての線を優しく撫でてやるとひくひくと反応し、甘い吐息を漏らした。  大分体が温まってきている。もう動いても大丈夫そうだ。 「動くから、痛かったら言うんだよ」 「ふぁい……」  呂律の回らない返事を確認し、まずはそのまま円運動を始める。  甘い喘ぎと震えを感じながら腰を回す。硬く強張っていた筋肉がゆっくりと蕩けていくのがわかる。  少し続けてやるだけで肉が解れ、良い具合に食いついてくるようになった。  前だけでなく後ろの方もなかなかの名器だ。  もっとも、あの圧倒的な安らぎを伴った快楽を与えてくれる前の穴に比べれば劣るが。  括約筋の強張りも解けたので円運動から前後運動に切り替える。ゆっくりと引いていく。  サティが震えながら掠れた声を出す。 「あ、ああ、あぁぁぁ……」 「こうすると、太いうんこしてるみたいで気持ち良いでしょ」 「知りませ……ん……そんな、こと……!」  サティが顔を伏せる。その反応は肯定しているのと同じことだ。噛み千切ろうとするかのように、  それでいてどこか優しく括約筋が締めつけてくる。  雁首が入口付近まで戻ってきた辺りで今度は逆にゆっくりと押し込んでいく。  サティが苦しげな吐息を漏らす。 「入ってく時より出てく時の方が好きみたいだね」 「いやぁ……」 「ほら、奥まで入った。また抜くよ」 「ひぃっ……あ、ああ……ぁぁ……」  同じことを何度も何度も繰り返し、ゆっくりとサティの尻の穴を征服していく。  刺激に慣れてきた頃には責め方を変え、息をつかせず、翻弄する。  穴自体が馴染んできたら、時に深く動き、時に浅く抜き差しし、時に一回の動きの中で緩急や深浅をつけ、  サティの予期しない刺激を与えて悶えさせる。  そんなことをカグツチ齢がいくつか変わるほどの時間をかけて続けていく。 「どう? お尻の穴、気持ち良い?」 「ひ、あぁ……はいぃ、良いですぅ……」  サティはすっかり尻の穴の快楽に捕われていた。既にサティの尻は排泄器官を兼ねた性器となっている。  前の穴と同様貪欲に僕のものを咥え込んでいる。  穴を掘削していく内、高まり続けていた射精感が、無視し得ないレベルにまで成長してきた。  気を抜くと出てしまいそうだ。  我慢すれば耐えられるだろうが、あまり長々と後ろばかりを責めるのも何だし、この辺りで出してしまおう。  サティを絶頂に向かって昂らせると同時に僕自身も射精に向かって突き進んでいく。  射精の直前を狙い、サティの弱点を突いて強制的に絶頂に押し上げる。甲高い声と共にサティの体が弓なりに反り返った。 「サティ、出すからね!」  快感に翻弄されて嬌声を上げるサティの強烈な締めつけの後押しを受けながら、  腰を可愛い尻に押しつけ、溜めに溜めてきたものをぶちまける。  最後の一滴まできっちりと出し終え、心地良い倦怠感と共に華奢な背中の上に突っ伏す。  ぐったりと脱力して顔を蕩けさせながらも、サティは体の前面に回した僕の腕を大事そうに抱き締めている。  肩口や首筋、頬などに軽くキスをしてやりながら、しばらくの間、快楽の余韻を分かち合う。  サティの体の火照りが冷め始めてきたところで体を離すことにした。 「そろそろ抜こうかと思うけど、いいかな?」  無言の頷きが返ってきた。  それを受け、ゆっくりと腰を引いていく。  ぬるりと半ばまでが抜けたところで、サティが「あぁっ」という喘ぎを漏らした。  その瞬間、穴がきゅっと締まり、残りの部分が締め出される。  サティが手で顔を覆いながら恐る恐る言う。 「私……私、もしかして……粗相をしてしまいましたか?」  最後に押し出したのを漏らしてしまったのだと勘違いしたようだ。 「そんなことないよ。締めつけが強くて僕のが押し出されちゃっただけだよ」  答えながら尻の方に視線を向ける。開かれた脚の間は無防備に曝け出されていて、  先程まで僕のものを咥え込んでいた穴がだらしなく口を開けているのが見えた。  閉じようとはしているようでひくひくと収縮してはいるのだが、長い間太いもので拡げられていたせいで、  指一本分程度の隙間をどうしても閉じられずにいる。 「あっ……」  サティが何かを察したかのように引き攣った声を出した。  直後、水気を含んだ汚らしい音が響いた。閉じられずにいた穴が蠕動し、僕が吐き出したものを空気と一緒に噴き出している。  サティは顔を覆って啜り泣き始めた。 「いやぁぁ……お願いです……見ないで……見ないでぇ……! 音も、音も聴かないでください……お願いです、人修羅様ぁ……!」  尻の方で水っぽい音を発し続けるサティを抱き起こし、首筋に口づける。 「大丈夫だよ。気にしないで」 「でもぉ……でも、こんな、粗相を……汚らしい女だと、そうお思いになったでしょう?」  僕の胸に縋りながら涙声で言う。 「そんなことないよ……それどころか、嬉しいよ。  こんな恥ずかしいところを見せてくれるくらい、心を許してくれてるんだって思えるから。  ありがとう。愛してるよ。たとえ、君が僕のことを愛してなくても」  頬に手を添え、顔を近づける。  サティは少し躊躇う素振りを見せた後、静かに目を瞑った。 五  サティと二人で床に寝転がり、肌を寄せ合う。束の間の休憩だ。  カグツチが何周もする間繋がり続けたのだから、休憩を挟まないと持たない。僕の心とサティの体が。  腕の中でサティが身動ぎし、僕の首筋や胸元に啄むようなキスをする。  僕もお返しに額や頬、耳などに唇を当てていく。サティは拒まず、穏やかな顔で受け容れる。  失神から目覚めた直後、最初の休息の時の拒絶が信じられないほどの態度の変わり様だ。  体が繋がれば自然と心も繋がるという話と、外部との接触を断った状態で長い時間を共に過ごせば自然と心は近づくという話は、  あながち間違いでもないらしい。  抱き寄せたまま、背中に回した手を下半身へと滑らせていく。  サティがくすぐったそうに微笑んだ。 「あれだけなさったのに……もうなさるのですか?」  呆れたような口振りだが、表情はそう言っていない。本人も乗り気のようだ。  このまま期待を叶えてやってもいいが、そういう期待があからさまに伝わってくるほどの関係になったということは、  次の段階に進む潮時ということだ。ここは攻略の進行を優先する。 「それもいいけど、君が自分でするところを見てみたいな」 「自分で……え? あの……それは、もしかして……」  どうか自分の理解が間違いであって欲しい。そんな顔をしながら恐る恐るサティが訊いてくる。  僕は頷いた。 「君のオナニーを見せて欲しいんだ」 「で……できません、そんなこと! そんなはしたない……したことも、ありませんし……」 「やり方は教えてあげるから……シヴァの所に帰ってからのために、ここで覚えていきなよ」  千年間の欲求不満のせいだろう。  相手をしてくれないシヴァへの不満や、僕に対する好意も理由としてはあるかもしれない。  サティはそれなりの建前や大義名分があれば簡単に誘惑されてくれる。  このことは今までの態度が証明している。 「後々のために」といった口説き方をすれば簡単に言うことを聞いてくれるはずだ。 「その炎のせいでシヴァとエッチできないんでしょ?」  サティが悲しげに頷く。 「エッチできないと、やっぱり欲求が溜まっちゃうわけだよね。  で、欲求が溜まっちゃうと、男だろうと女だろうと、苛々したり、体調を崩したり、心や体に悪い影響が出ちゃう。  そうなると、夫婦関係にも良くないよね。だから、自分で欲求を解消する方法を覚えた方がいいんだよ」  腕の中の細い体を撫でながら、一言一言を思考の中に刷り込むように、懇々と説く。  やはり最初は躊躇いを見せたが、辛抱強く説得を重ねていくと、その辺りが落とし所だと判断したのか、  渋々といった風に首を縦に振った。 「ありがとう。早速してみせてよ」と要求すると、目の前に座ったサティは、戸惑った様子で見返してきた。 「……その、どうすればいいのですか?」 「……え? 本当にやり方何も知らないの?」  カマトトぶっているようには見えない。  知識くらいはあるだろうと思っていたからこれは予想外だ。  娘に性教育をする父親というのはこういう心境なのだろうか。 「ええと、そうだなぁ……まず、触られると気持ち良い所を自分で触ってみて。僕が君にやってるみたいな感じでね」 「……ん……こう、ですか?」  右手で乳首を摘み、左手で股間の茂みを掻き分けながら、恥ずかしげにこちらを見る。 「そうだよ。そのまま気持ち良いように弄ればいいよ。楽な姿勢の方がいいかもね。寝転がったら?」 「はい……んっ……ふっ……ぅ……」  サティは素直に床に転がり、手を動かし始めた。抑えた声を上げながら、体をひくつかせ、折り曲げる。 「触るだけじゃなくて想像するともっと気持ち良いよ。たとえば、僕に抱かれてるのを想像するとかね」  敢えてシヴァのことは言わない。 「人修羅様に……ですか?」 「うん。僕に」 「……わかりました。やってみます」  サティは目を瞑って自分の胸や股間への愛撫を続けた。  少し時間が経つと、声が艶やかに濡れ、肌が仄かに火照り始めた。気分が乗ってきたようだ。 「ねえ、想像の中で、何されてる?」 「それは……ぁ……ん……優しく……んっ……く……触れて、いただいて、います……」 「どこに?」 「お胸と……あの、大事な所を……」 「それだけ?」 「口づけも……」  サティは顔を赤らめてそっぽを向いた。  話しかけるのをやめ、しばらくの間、サティのオナニーショーを無言で観賞する。  サティの中では快楽の炎がどんどん燃え上がっていくようで、少しずつ手の動きが活発になり、吐息や声の艶が増していく。  いやらしく湿った音も次第に大きくなっていく。  あの貞淑を絵に描いたようなサティが、僕に見られながら、こんな痴態を晒している。  そう思うだけで興奮が高まっていく。後で抱くのが楽しみだ。 「ねえ、今、僕に何されてるの?」 「あ、ぅ……それはぁ……」 「聞きたいなぁ。教えてよ」 「……ひ、一つに……一つになって、愛して、いただいています……ぅっ……」  団子虫のように体を丸め、手の動きをどんどん激しくしている。絶頂が近いのだろう。 「あっ、来るっ、来ますぅっ、あ、っ、あぁぁっ!」  股間に手を添えた手を挟むようにしながらサティが海老反り、痙攣する。  少しして脱力し、肩で息をしながら、大儀そうに寝返りを打って仰向けになる。火照った体が正面から晒された。  近寄り、乱れて顔に張り付いた髪をどかしながら頬を撫でる。 「サティ、どうだった?」 「……よかったです……でも……」 「でも?」  サティは恥ずかしげに目を伏せ、小声で続けた。 「……空しいです。心地良いのは一瞬だけで……寂しくて……寒くて……」 「なら、僕が温めてあげるよ」  覆い被さり、軽く体を抱いて肌を合わせる。 「まだ寒い?」  ゆっくりと、感触や熱を確かめるように僕の背に腕を回し、小さく首を横に振る。 「なら、次は寂しくないようにしてあげるよ」  額にキスし、頬にキスする。  サティは穏やかな表情で受け容れ、期待するように唇を僅かに突き出してきた。  唇を合わせて舌先を潜り込ませ、口の中でいやらしく絡め合って挨拶をする。  サティの口の端から涎が零れるほどに熱烈なキスを終え、顔を首筋へと下げていく。 「想像の僕がしたことをしてあげるね」  首筋にキスし、そのまま胸元に唇を滑らせていく。 「おっぱいとおまんこを弄ったんだよね」  先程のオナニーの余韻でピンと張り詰めた乳首を唇と舌で転がし、粘っこく湿った小さな穴に指先を潜り込ませて掻き混ぜる。  サティが震えるような吐息を漏らす。乳首を吸う頭の後ろに手が触れ、強く引き寄せられた。  腿で僕の手を捕まえ、濡れた股間を押しつけてくる。  しばらく愛撫を加えて体を温め、両脚の間に体を滑り込ませる。 「それから、チンポを入れて、ねっとり可愛がるんだよね」  万端過ぎるほどに準備の整った熱い穴に押し当てて侵入する。  包まれている部分が溶けてしまったようにすら思える、疼くような一体感に襲われる。  根元まで挿し込み、ゆっくりと蕩かすように中をほじくる。  甘えるような声を出してサティが体を絡めてくる。本物の恋人や夫婦のように、情熱的で優しい時間を過ごしていく。  ゆったりとお互いを絶頂へと導いていき、息を合わせて解放する。  サティは僕に強く抱きついて求め、僕はサティをしっかりと捕まえて吐き出す。  くっつけられる全ての場所をくっつけながら、僕らは絶頂を味わい、余韻を楽しんだ。  心地良い温かさの中で訊く。 「想像と本物、どっちがよかった?」 「……本物の人修羅様です」  首筋に顔を埋め、小鳥のようなキスを繰り返しながら、サティが答えた。 「空しくない? 寂しくない? 寒くない?」 「はい……とても、満ち足りた気分です……温かくて……安らかで……」 「そう言って貰えると頑張った甲斐があるよ」  お互いの余韻が過ぎ去ったところで繋がったまま身を起こし、サティの体を反転させて背面座位に移行する。  サティが喘ぐ。 「あんっ……深い……」  その耳元に顔を寄せて囁く。 「サティ。ほら、僕達が繋がってるとこ、シヴァが見てるよ」 「ええ!? え? え? ど、どこに……シヴァ様はどこに!?」  狼狽したように声を上げ、血相を変えて辺りを見回し始める。  余程緊張しているのか、中がとても強く締めつけてくる。噛み千切られそうだ。 「落ち着いて……そういう設定だよ、そういう設定」 「せっ……てい?」 「シヴァに見られてるって思いながらするんだ。きっと興奮するよ」 「い、嫌です、そんな……シヴァ様に、申し訳ないです……」  泣きそうな顔で首を横に振る。  しかし、嫌がる割に、僕の上からどこうとはしない。抵抗は中途半端だ。押せば倒せる。 「申し訳ないことならもうたっぷりしたでしょ。今だってしてるし」  サティが手で顔を覆って俯いた。 「今更だよ。こうなったら何をしたって一緒だよ。  だったら、色々楽しんだ方がいいし、申し訳ないと思うんなら、後で埋め合わせをしてあげれば済むことだよ」 「ですが……」  胸と股間に手を這わせ、昂らせるための愛撫を加える。 「お願いだよ。ね、今は、今だけは僕のことだけを考えて、僕のためのサティでいてよ。  ほんの少しの間だけ、シヴァのことを忘れて……ね? それに、君だって、気持ち良いことしたいでしょ?   こんなに欲しがってる」  濃い毛を掻き分けて膨らんだクリトリスを摘む。  サティが「ひぃっ……!」と嬌声を上げて仰け反った。 「ほら……ちょっとの間だけ、そういう遊びだって思えばいいんだよ。一緒に楽しんでよ」  刺激を続けながら説得を続けると、遂にサティは頷いた。 「わかりました……人修羅様の仰る通りにします。でも……一度だけですからね」 「僕はいいよ、それでも。もしまたしたくなったら言ってね。気が済むまで相手してあげるから」 「……そんなこと、絶対にしません」  そっぽを向いてしまった。 「その時にならないとわからないよ。世の中に絶対なんてないんだから。  まあいいけどね。じゃあ、まず、そこで見てるシヴァに、今君がされてることを教えてあげてくれるかな」 「うぅ……ごめんなさい、シヴァ様……サティは、サティは……今、人修羅様に愛していただいているところです……」  凄い興奮ぶりだ。一言ごとに中がきゅうきゅうと締めつけてくる。  興奮しているのはサティだけではない。僕もだ。  人妻を夫の前で抱く。そういうシチュエーションはとても興奮する。いつか本当にやってやろう。  既婚の女悪魔でぱっと思いつくのは、今俺の膝の上にいるサティとその転生パールヴァティ、  パールヴァティの化身カーリー、ヴィシュヌの妻ラクシュミ、  ブラフマーの妻サラスヴァティ、オベロンの妻ティターニアといったところだ。  いずれ会うことになるヨヨギの妖精王夫妻を狙うことにしよう。  ティターニアをオベロンの前で啼かせる様子を想像し、サティの中に打ち込んだものが、より硬く大きくなる。  サティが悩ましげな声を上げて身を捩った。 「ほら、隠しちゃ駄目だよ。もっと脚を開いて……ここも、ちゃんと繋がってるところが見えるように……」  脚を絡めて開脚させ、サティの手を取って自ら結合部を開かせる。サティが恥ずかしげに呻き、欲情したように締めつけてくる。 「さっきまでしてたことも報告しないとね」 「あ、うぅ……サティは……先程も、人修羅様に愛していただいて……お腹の中に、人修羅様の子種を頂戴してしまいました……」 「今まで僕達がしてきたこともちゃんと報告しないと駄目だよ」 「人修羅様に抱き締められて……お胸や大事な所を触られて……  唇も奪われて……人修羅様のお持ち物を受け容れてしまいました……  シヴァ様にしか許したことのない、シヴァ様のための体を……人修羅様に捧げてしまいました……」  シヴァへの報告を続ける内、自分でも興奮してきたのか、サティは段々と饒舌になっていく。  その声は興奮と陶酔で艶やかに濡れていた。 「いいえ、それだけでは、ありません……シヴァ様にも許したことのない所も、残らず……  丸ごと、サティの体を人修羅様に捧げてしまいました……  シヴァ様にもして差し上げたことがないのに、お持ち物へのご奉仕の仕方も教えていただきました……  とても味が濃くて量の多い子種も飲ませていただきました……  お尻の……子供の出来ない所も……シヴァ様にも触れていただいたことがないのに、捧げてしまいました……  ごめんなさい、シヴァ様。サティはもう、人修羅様に、心以外の何もかもを許してしまいました……  ずっと、ずっと……人修羅様に召喚していただいた時から、ずっと、情熱的に愛していただきました……  シヴァ様にしていただいたよりも沢山、沢山……」  背徳的な快楽に目覚めたような顔で滔々と語るサティの体は快感に震えている。  声はしっとりと濡れ、僕を咥え込む穴は熱く蕩けて涎を垂らし、僕のものを愛しげに締めつけている。  意識してか無意識か、手は僕の手に重ねられているし、僕の腰に押しつけられた尻は切なげに揺れている。  こういう反応をされると僕としても堪えるのがつらくなる。こういう風に求められたら応えずにはいられない。  サティの体をもう一度反転させて押し倒し、正上位の体勢に持っていく。  組み敷いて腰を叩きつけると、サティは悦びの声を上げて手足を絡め、自分も積極的に腰を遣い始めた。  何もかもが蕩かされてしまいそうなほどに熱く潤んだ穴を蹂躙しながら訊く。 「ねえ、どっちがいい? 僕とシヴァ、どっちのチンポが好き? どっちが気持ち良い?」  人妻に対する定番の質問だ。この流れであれば何の問題もなく答えて貰えるだろう。  シヴァと答えられたら悔しいが、十中八九、そんなことにはならないだろう。  サティは優しいし、千年ぶりの快楽に酔っている。 「そんなこと……シヴァ様にぃ……シヴァ様に決まってぇ……」  まさかの答えが返ってきた。  抱いている女に他の男の方が良いと言われるのは初めての経験だが、これはつらい。  心臓が締めつけられ、首筋から背中にかけてが冷えていくような寒々しい感覚が生まれる。  しかし、股間のものが萎えることはない。まるで別の生き物のように、腰から下は依然として激しくサティを責め立て続ける。  男には上半身と下半身に別々の脳があるのかもしれない。  サティが僕の下で喘ぎながら戸惑ったような顔をした。 「あ、あれぇ……どうしてぇ……? シヴァ様の方が……シヴァ様でないと駄目なはずなのに……  シヴァ様の、思い出せない……シヴァ様のを思い出せない……」  考え様によっては単純に僕の方が良いと言われるよりも嬉しい言葉だ。  この言葉はつまり、僕がサティの中のシヴァを上書きしてしまったことを意味するのだから。  俄然、やる気が出てきた。サティの中に埋め込んだものがますます欲情してきた。  大きく膨らんだものの形を刻み込むべく――否、そんな小賢しいことを考える余裕もなく  自然と、本能的に――一層激しく腰を動かす。 「いいんだよ。いいんだよ、サティ! シヴァのことは忘れたままでいいんだ!  僕のことだけを考えて! 僕のものだけ憶えてて!」  サティには答える余裕がないようだった。  僕の激しい責めで全身を揺さぶられながら、必死に抱きついてしがみつき、快楽に狂ったような咽び泣くような嬌声を上げている。  魔性の肉穴に吸いつかれ、甘い匂いを発する体を押しつけられ、しなやかな手足で愛しげに絡め取られ、  僕はあっと言う間に絶頂に押し上げられてしまった。  情けない声を漏らしながら、激しく蠢動する体内にありったけの欲望を注ぎ込む。  せめてもの救いは、サティも同じように快楽に翻弄されて昇り詰めてしまったことだろう。  僕が熱くて粘っこい液体を吐き出すと同時に、  サティも、逃がすまいとするかのように僕を捕まえて体を震わせ、背筋を反り返らせ、腰を浮かせた。  幸せな倦怠感と共にサティの上に覆い被さる。サティの手が僕を慈しみ、労うように背中を撫でた。  お返しとばかりにキスをしようと顔を近づけると、向こうの方から唇を寄せてきた。  お互いに微笑みながら互いの唇を数回啄み、それからどちらからともなく舌を差し出し、絡ませた。  自然と互いの腰が動き出し、僕達は絶頂の余韻が去るよりも早く二回戦目に雪崩れ込んだ。 六  僕がこの部屋にサティを連れ込んでからどのくらいの時間が経っただろう。  カグツチの十周や二十周では利かないはずだ。ひょっとするともう何百周かしているかもしれない。或いは千周以上か。  僕達はほとんどの時間を体を繋げて過ごしていた。  カグツチ何周にも匹敵する時間をずっと抱き合ったまま過ごし、  カグツチ齢が一つ進むかどうかという短い時間を休息に費やし、また体を重ねる。そんな夢のようないやらしい時間だ。  この間に知る限りの体位を試した。  僕もサティも流石に四十八手は知らなかったが、それでも二十を超える体位をこなした。  色々と試して比べてみた結果、サティが好む体位の傾向がわかった。  繋がってさえいればどんな形でもサティは悦ぶが、正上位にしろ屈曲位にしろ後背位にしろ座位にしろ立位にしろ、  最も反応が良くなるのは、なるべく深く挿入し、なるべく多く肌を重ね合わせ、強く抱き合う形だった。  サティは繋がりと触れ合いを求めているのだ。  室内で道具を使わずに二人でできるプレイも沢山試した。手を出していないのは、ハードSMやスカトロくらいのものだ。  この内、特に激しい反応があったのは、アナルセックスだった。  後ろの穴を本格的に弄ってやると、サティは、そこはまだシヴァにも許していないからやめて欲しいと哀願してきた。  勿論、そんなことを聞き入れるわけもなく、むしろ予定以上の執拗さと丁寧さで責めてやり、夫にも許していない穴を征服してやった。  最初は泣いて嫌がっていたが、最後には自分から尻を振って絶頂に至るまでに馴染んだ。  一度もしたことがないというオナニーもさせた。僕に抱かれていると想定して、実況しながらやるように命じたのだ。  顔を真っ赤にしながら自分の体を弄繰り回す様は見ていて非常に興奮させられた。  この後にした、シヴァに謝らせながらのセックスも格別だった。  全くしたことがないというフェラも一から教え込んだ。  最初はたどたどしかったが、今ではすっかり上達し、僕のツボを的確に突いて射精をコントロールしてしまうほどにまでなった。  僕とサティが体を重ねてから共に過ごした時間は、まだカグツチ百周にも満たない。  サティが、女神として、またシヴァの妻として過ごしてきた時間に比べれば、  きっと、ほんの瞬きするようなものだ。比較にもならない。  しかし、その比較にならない一瞬は、気の遠くなるほどの過去を凌駕するほど濃密なものだった。  「それ以前」と「それ以後」でサティを全く別人のように変えてしまうほどに。  それだけのエネルギーと衝撃がこの一瞬に凝縮されている。  その変化は、夫以外の男を知っただとか、新しい体位を覚えただとか、  尻の処女を失っただとか、オナニーを覚えただとか、僕好みの性技を習得したとか、そういったものではない。  そんなものは、表層的なもの或いは結果的なものに過ぎない。  変化はもっと深い部分、本質的な部分で起こっている。  当初のように、シヴァを想って泣くことも、シヴァに詫びることもなくなった。  僕を拒むような素振りも一切見せなくなったし、自分の方から唇を寄せてきたり、手足を絡めてきたりするようにもなった。  僕がプレイの一環として要求すれば、  「ごめんなさい、シヴァ様。私、人修羅様のお持ち物で気持ち良くなってしまいました」  などと興奮をそそる叫びも上げてくれるようにもなった。  更に言えば、現に今しているように、僕の腕を枕にし、寄り添って寝てくれるようにすらなった。  サティはもうシヴァが知っているサティではない。  僕が僕にとって最も心地良いように染め直したサティなのだ。  心を自分にとって都合の良いように塗り替えてしまうのは簡単だ。  誰でもできる。「洗脳」を習得している悪魔の専売特許ではない。  長い髪の毛を撫でる。 「ん……どうされました? またなさりたいのですか?」  寄り添って僕の胸板を撫でながら、サティが優しく微笑む。 「いや、まだいいよ。しばらくこのままくっついてよう」  抱き寄せると、サティは逆らわずに腕の中で丸くなった。  すべすべした頬を胸に寄せ、擦り寄ってくる。良好な関係を築く上では、こういう時間が大切なのだ。  セックスが体を繋げるものならば、これは心を繋げるものだ。心身を絡め取らなければ駄目なのだ。 「そういえば」と何気なく呟く。「何も食べてないな……」 「お腹を空かされているのですか?」  僕がふと漏らした独り言をサティが耳聡く聴きつける。 「いや、そうじゃないんだけどね。僕も君らと同じで飲まず食わずでも平気だし。  ただ、受胎が起きてからまともな食事なんてしたことないなぁって思ってさ」 「そうですか……私がこんな体でなければ何か人修羅様がお望みの物を作って差し上げられるのですが……  お力になれなくてごめんなさい……あ、よろしければ、私の炎でお肉でも焼きましょうか?」  世話好きな性格がここぞとばかりに発揮される。流石は良妻賢母のインド代表だ。 「それはいいよ……でも何か作るって、サティ、料理得意なの?」 「はい。女の嗜みですから。父母の言いつけでしっかり学びました」 「そうか……なら、君の体から炎が消えるようなことがあったら、何か作って貰おうかな」  いずれサティがパールヴァティに変異することを見越しての発言だが、自分の将来を知らない――  自分が変異するか否か、また何に変異するかを知らない悪魔は案外多い――  サティはこれを楽しい仮定として受け取ったらしい。笑顔で調子を合わせてきた。 「いいですよ。人修羅様がお食べになりたい物を作って差し上げます。日本食も作れますから、お好みの物を仰ってください」 「日本食作れるんだ……凄いね。でも、君だって故郷の味が恋しいんじゃない? 君の故郷の味でもいいよ?」  サティは静かに首を横に振った。 「いいえ。人修羅様は日本の方でいらっしゃったのでしょう?   ならば、きっと、それが人修羅様にとって一番美味しい食事なのです。  私は人修羅様が一番美味しいと感じる物を作って差し上げたいのです。何がよろしいですか?」  ここまで言われると何だかこそばゆい。思わず目を逸らしながら答える。 「そうだなぁ……白いご飯に、味噌汁に、焼き魚……肉じゃがとか煮物みたいなのもあるといいな」 「材料さえあればどれも作って差し上げられますよ」 「ならお願いしようかな」 「はい。その時は心を籠めてお作りしますね」  サティが僕の頬にキスをする。  それが再開の合図だった。 「やぁ……ん……」  唇を奪って舌を味わいながら、サティのほっそりした体を組み敷いた。  しなやかな手足が迎え入れるように絡みついてくる。 七  既に、部屋の中でできることは大体済ませたが、この後はどうしようか。  床に寝転がってサティと抱き合い、いちゃつきながら、そろそろ次の段階に移るべきかどうかを思案する。  長く考える必要はなかった。思えば、この部屋に籠もってもうどれくらいになるか、見当もつかないのだ。  そろそろ外の空気を吸っておいた方が精神的にいいだろう。  幸せそうな顔で僕の胸に頬を寄せるサティの顔を見る。  目が合い、サティが視線で「どうしたのですか?」と問いかけてくる。  僕達はいつの間にか目と目で通じ合えるほどになっていた。 「ちょっと気分転換に外に出てみない?」 「外へですか?」 「偶には外の空気も吸わないとね」 「……人修羅様のなさりたいようになさってください」  そう言いながらもサティはどこか不満そうだ。 「まだし足りない?」 「そんなことは……」  顔を赤らめ、隠すように胸に顔を埋めた。  髪を撫でながら答える。 「大丈夫だよ。後でたっぷり可愛がってあげるから。ちょっとデートでもしようよ」 「逢引ですか……はい。ご一緒します」 「よし。じゃあ着替えよう」  サティを離れさせ、床に放り出したままのズボンとパンツを手に取る。少し埃が積もっているのではたいて簡単に払う。 「服を着るのも久しぶりだね」 「ずっと、まぐわっていましたから……」  衣装を着込みながら恥ずかしそうに微笑む。 「着替え終わった?」  サティが頷く。 「行こうか」  サティの手を握り、指を絡める。 「あっ……」  サティは驚いたような声を上げ、しかしどこか嬉しそうに絡まる指を見た。 「デートなんだから、手くらい繋ごうよ。あ、手を繋ぐより、腕を組む方がいいかな?」  こういう細かい気遣いが重要なのだ。  性的なことの絡まない触れ合いを疎かにすると、心はどんどん離れてしまう。  逆に、こういう触れ合いが多いと、心は安らぎ、急激に近づいていく。そういうものだ。  サティが心持ち目を逸らし、はにかんだ顔で言う。 「……腕を貸していただいてもよろしいですか?」 「いいよ。ほら」  手を離して腕を出してやる。  サティが「ふふっ」と嬉しそうに笑いながら腕を絡め、身を寄せてきた。腕が柔らかな温かさに包まれる。 「こんな風に寄り添って歩いてもいいですか?」 「僕も普通に手を繋ぐよりこっちの方が好きだな」 「よかった」 「こんな感じでしばらくぶらぶらしようか」 「はい」  影が一つになるほど密着し、僕達はシブヤの街に出かけた。  当てもなく、ただ身を寄せ合い、笑顔を向け合いながら街を歩く。  ただそれだけのことがとても楽しく、素晴らしい。  僕達は心の底から――少なくとも僕は――の微笑みを向け合い、時間を忘れてデートを楽しんだ。  静天だったカグツチは煌天になろうとしている。このことに気づき、はっとした。  あまりに心地良いせいで予定をすっかり忘れていた。 「あ、サティ、ちょっと街の外に行かない?」  本当はもう少し自然な感じで誘うつもりだったのだが、こうなっては仕方ない。 「外へ、ですか? 人修羅様がそうなさりたいのでしたら……」 「よし、行こう。ごめん、ちょっと急ぐよ」  サティの手を引き、慌ただしく街の外に出る。  砂漠化したように荒廃したかつての東京を歩き、以前から目星をつけておいた近郊の廃墟地帯に向かう。  適当な瓦礫の前に到着した時、タイミング良くカグツチが煌天の輝きを放ち始めた。 「あの、人修羅様? ここは一体……」 「今回はここでしたいんだけど、駄目かな?」 「こ、ここでですか!? こんな所で……」  サティが驚きの声を上げる。  だが煌天の影響か、気分が大分昂揚し、解放的になっているようで、その声の中の拒否の響きは弱かった。 「偶にはいいでしょ、こういうのも。  誰かに見られてもおかしくない、だだっ広い外で、裸になって楽しむんだ。きっと興奮するよ」  抱き寄せ、体をまさぐりながら囁いてやる。 「いけませんよぅ……こんな、所でなんてぇ……あ、ん、そこ、駄目ぇ……」  声が段々と甘くなり、表情が蕩け、抵抗が弱くなってきた。とどめに熱烈なキスを交わすと、しがみついてきた。  口を離すと互いの唾液が糸を引いた。 「さあ、服脱いで。僕も脱ぐから」 「……はい」  サティは小さく頷いた。  いつものように無造作にズボンとパンツを下ろす。僕はこれで終わりだ。  降り注ぐカグツチの光と吹き寄せる風が心地良い。野外で裸になると清々しさに心が躍る。  一方、サティはなかなか最後の一歩を踏み出せないようだ。  被り物を取り、胴着を脱ぎ、後は肌着を残すだけというところで手が止まった。 「どうしたの? 早く脱いで」 「あの、私、やはり、恥ずかしくて……」 「いいからいいから。誰も見てないし、見られたって平気だよ」 「そんな……! 私、シヴァ様の后なのですよ……こんな姿を見られてしまったら……」 「平気だよ。こんな所まで見に来る物好きはいないし、いたって、別に問題ない。  君の素顔を知ってる奴なんかいないから、君のことはバレないよ……それにほら、君だってこんなになってる」  レオタード状の肌着の股間部分に触れるといやらしい水音がした。クリトリスのある辺りを指で擦ってやる。  可愛い声と共に脚が閉じた。構わず擦り続けてやると、そのまま腰を動かし、啜り泣くような声を上げ始める。 「ね? さあ、脱いで」 「……はい」  サティは興奮と羞恥が極まったように震えながら生まれたままの姿になった。  手は胸と股間を隠し、目は落ち着きなく周囲を窺っている。 「大丈夫だよ。さ、おいで」  近寄って来たのを抱き締めると、心細そうな様子で抱きついてきて、腕の中に隠れようとする。  その小さな体を抱き上げ、僕の腰ほどの高さのあるコンクリート塊の上に載せる。 「あの……人修羅様、何を?」  落ち着かない様子で周囲に視線を配りながら、不安そうに首を傾げる。 「ちょっとそこでおしっこしてみせてくれないかな。その縁の辺りにしゃがんで、地面に向かって」 「え? ええっ!? そんな……こんな所で……お外で用を足すなんて……」 「僕、女の人がおしっこしてるとこをじっくり見たことってないんだ。だから見せて欲しいんだけど、駄目かな」 「でも、誰が見ているか、わかりませんし……」 「もう裸になってるんだからいいじゃない。ね、見せてよ、おしっこするとこ」  煌天のおかげで大分開放的になっていたのがよかったのだろう。再三お願いすると、  渋々――満更でもなさそうに――サティは承諾してくれた。 「これっきりですよ……」  瓦礫の縁にしゃがみ、顔を赤くしながら、大きく脚を開いてくれた。黒々とした陰毛に覆われた股間が丸見えになる。  瓦礫の下にしゃがみ、おしっこが出る所を斜め下から覗く。  正面に陣取ろうかとも思ったが、流石におしっこを浴びて喜ぶ趣味はない。 「いいよ、出して」  ぎゅっと目を瞑ったまま、サティが小さく頷く。酷く落ち着かない様子で体を揺らしている。  僕は一心に濃い茂みとそこに潜む穴を見つめ続けた。  やがて変化が訪れた。  最初は何かが滴り落ちただけだった。沁み出した液体が毛を伝って瓦礫の上に流れ落ちる。  しかし、その直後、液体は勢いを増し、陰毛を無視して噴き出した。  噴き出した液体は緩やかな放物線を描いて飛び、空中で拡がりながら、地面に落ちて飛沫を散らす。  地面に出来た小さな水溜まりからは湯気が立ち上り、風に吹き散らされた。  液体の勢いは長くは続かなかった。  十数秒程度が経過した辺りで勢いを失い始め、遂には最初と同様、陰毛に捕らわれて滴り落ちるだけになってしまった。  そして液体の噴出が完全に止まった。 「……終わった?」  自分が排出したもの、湯気の立つ水溜まりから恥ずかしげに顔を背けてサティが頷く。 「じゃあ綺麗にしてあげるね」 「えっ!? あの……綺麗に、とは……」  サティが驚き戸惑うのには構わず、中腰になって脚の間に頭を割り込ませる。  驚いて押しのけようとする手を押し返し、噎せ返るような匂いを漂わせる股間に顔を埋める。  まずは水を吸って纏まった陰毛を口に含む。愛液とおしっこの混じったぬるりとした液体を吸い取る。  口の中にしょっぱいような酸っぱいような複雑な味が広がった。  絶対に美味であるわけがないのに、この液体はなぜだかとても美味しく感じられた。  スサノオに斬り殺された『古事記』のオオゲツヒメの例もある。女神の体から出るものは何でも美味しいのだろうか。 「やぁっ、やめてくださいっ……そんな所……汚いですから!」  上擦った声での制止を無視して掃除を続ける。  毛についたものを粗方吸い取り、諸々のものの源泉へと口を寄せる。  混ざり合った不思議な味の液体を舐め取る。敏感な部分にも舌を這わせたためか、サティの抵抗から徐々に力を失っていく。  それと同時に、味わいが芳醇なものへと変わり始めた。  舐めれば舐めるほどに液体は量と粘り気を増し、風味を豊かにしていく。 「味が変わってきたね。感じちゃった?」 「意地の悪いことをお聞きにならないで……」  変化を指摘すると、サティは手で顔を覆った。 「ごめんごめん。じゃ、次は――」 「この上、この上、私に何をさせようと仰るのですか……!?」  涙目で睨みつけてくる。  だがその目は決して険しいものではない。それどころか、期待と不安と羞恥が入り混じった甘味のあるものだった。 「もう酷いことは言わないよ。そんな余裕もないしね」  さりげなく股間を指差す。  僕の指先を辿って視線を下ろし、サティは最初目を丸くし、次いで生唾を呑んだ。  目はどうしようもないほどに期待と不安に濡れている。 「おいで」  親が子供を抱き留めるように両手を差し出す。  サティはここが野外であることを考えて迷っているようだが、煌天の影響か、その躊躇いは長くは続かなかった。  ゆっくりと僕が差し出した腕に身を委ねてくる。  抱き上げると正面から抱きついてきた。  挿入していないことを除けば前面立位、要するに駅弁スタイルと変わらない。  欲望を解放したくて疼きっ放しのものが股間から尻にかけての谷間に収まる。  竿が温かく粘っこい液体で濡れるのがわかる。ここまでの行為でサティはこれ以上ないほどに蕩けきっている。 「入れるよ」  そう声をかけるとサティが硬く手足を絡めて了解の意思を伝えてきた。  サティを支えるために使っていた手を離し、竿を掴んで角度を調節する。  頭が熱く濡れた肉の穴にめり込み、呑み込まれていく。しがみついてくる手足に力が籠もった。  嬉しそうに迎え入れてくれた中は、いつもよりも熱く潤っていた。  煌天と野外の働きでいつもにも増して興奮しているのだ。或いは僕自身がカグツチに中てられているのか。  尻を鷲掴みにするようにして支え、体全体を使って上下左右に揺さぶってやると、  サティは激流を下るボートの乗客のように僕にしがみついてきた。  固く目を瞑り、心地良さそうな熱い吐息を僕の耳に吹きかけてくる。  サティは体が一度揺れるごとに絶頂へ向かっていった。  僕の方にしても、サティの中が一度収縮するたびに絶頂へと近づいていった。  僕達が揃って限界に達するまで長い時間は必要なかった。  纏わりつく肉が熱く震え、奥深くに潜り込んだ先端がどうしようもないほどに疼いた。  サティがキスをねだるのに応えた後、そっと耳元に囁きかける。 「覗いてる奴がいるよ」 「えっ!? 見られて……いるのですかっ……!? そんな……早く、早く隠して……!」  うろたえるサティの懇願を無視して一層激しく突き上げる。 「丁度良いから、僕が君の中でイくところを見せてあげようよ」 「いやぁっ、いやぁっ……! お願いですぅっ、許してぇっ、それだけは……!」  嫌よ嫌よも好きの内という言葉がある。サティの熱い穴はそれを体現していた。ますます昂って締めつけてくる。  後ろの穴が開いてしまうのではないかというほどに大きく尻を割り開く。 「いやらしい毛の生えたお尻も見せてあげようか」 「駄目ぇっ、そんな、ところぉぉ……!」  その瞬間、快感と興奮が頂点に達したのか、サティは涙声で叫びながら外と中とできつく絡みついてきた。  蕩けた肉が蠢動して子種をねだってくる。  腹の底で煮え滾っていた欲望を引き出すその動きに抵抗せず、僕も素直に全てを解放する。  固く抱き締め合ったまま、心地良く締めつけてくる穴の中に熱い粘液を吐き出していく。  出し終え、快い疲労感と共に地面に腰を下ろす。  快楽の余韻に浸るかのように体を預けてくるサティの顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。 「見られて……しまいました……こんな、はしたない姿……誰とも知れない方に……」 「……大丈夫だよ。あれは嘘だから。僕がそんな酷いことするわけないじゃないか……君の裸を見ていい男は僕だけだよ」 「……そう、だったのですか……よかった……本当に、どうしようかと……」  気が抜けたように深く息を吐き、力を抜いてもたれかかってきた。 「でも結構感じてたみたいだけど? 見られるかもしれないっていうんで興奮してたんじゃない?」 「知りません! そんな、こと……」 「外でするの、気に入った?」  答えはない。サティは「ううっ」と唸り、真っ赤になった顔を僕の肩口に埋めてしまった。 「また外でしようね」 「……知りません!」  抱きつくサティの口からは、少なくとも拒絶の言葉は出て来なかった。 八  シブヤ近郊での野外セックスを終えてからというもの、僕らは場所を選ばずに体を繋げるようになった。  あの部屋ではカグツチが何十周もするほどの時間をかけて交わり、  気晴らしに外に出た時は、街の暗がりで声を殺しながら体を繋げ、郊外の砂漠で誰憚ることなく声を上げて互いを貪り合い、  そして時たま、純粋なデートを楽しむのが――  どちらかが我慢できなくなって体を繋げてしまうことも少なくないが――日常だった。  ヒンドゥーの三大神の一柱、破壊を司るシヴァの貞淑で知られた妻だったサティは、  僕が要求すればいつでもどこででも股を開くようにまでなった。  そろそろ次の段階に進んでもいい頃だ。  街の暗がりでのセックスを終え、僕達は部屋に戻った。  部屋に入るなり、サティが期待と羞恥の入り混じった視線を向けてきた。  それを無視し、床に寝転がる。  サティは戸惑った様子で立ち尽くしている。  すぐに服を剥ぎ取られて押し倒されるとでも思っていたのに、当てが外れたのだろう。  今までの生活が僕とのセックスを中心に回ってきたのだから無理もない。  セックスの合間に他のことをするような生活においては、ある意味、セックスは必要不可欠の要素だ。  重要な生活習慣を取り去られて調子を崩さない者はまずいない。  サティは落ち着かない様子で身動ぎし、時たま、寝転がる僕に物欲しそうな視線を寄越す。  遠回しに抱いて欲しいと伝えようとしているのだろう。或いは無意識の行為か。  そのいじらしい懇願も無視し続けていると、いよいよ追い詰められたような表情を浮かべた。  我儘を言いたいのをぐっと堪える子供のように、今にも泣き出しそうな顔をしている。  今すぐにでも押し倒したいのを堪えて無視を続ける。  サティは何か言おうとし、直後、信じがたい出来事に直面したような顔で口元を押さえ、口を噤んだ。  言いたいことが何かは明らかだ。サティは僕に抱かれたがっているのだ。  欲求があるなら素直に口に出してしまえばいいのに、と思うが、サティにそんなことができるはずがないことはわかりきっている。  サティは僕が満足するまで付き合うという建前、いわば本意ではなく、強制されてのことであるという建前で  自分の不貞を正当化し、自分の中でのシヴァとの関係を崩壊から守っている。  自分から言い出せるわけがない。 「あのう……」  かなり長い躊躇いを経てサティがおずおずと僕の背中に呼びかけてきた。 「何?」 「その……なさらないのですか?」  こう来たか。予想通りだ。他に訊き様がないのだから。 「なさるって何を?」 「何って……」 「主語がないとわからないよ」 「……意地悪な方」  拗ねたように唇を尖らせる。若々しい外見もあり、よく似合っていて可愛い。 「別に意地悪なんかしてないよ」 「……です」 「え?」 「まぐわい……です」 「エッチが何?」  顔を真っ赤にしたサティの目が潤む。 「あうぅ……で、ですからぁ……まぐわいを……なさらないのですか、と……」 「誰が誰と?」 「人修羅様は意地悪です……」  唇を噛んで俯く。 「わからないんだからしょうがないでしょ。言ってくれなきゃ」 「……私と、人修羅様が……です……」  俯いたまま呟く。  本当はもう少し弄りたいが、これ以上はまずそうなので、この辺りでやめておくことにする。 「ふうん。もしかして僕とエッチしたいの?」 「そ、そんなこと、ありませんよ! ただ、いつもと違って、人修羅様が何もなさらないので、どうされたのかな、と……」 「ああ、それなんだけどさ。最初に言ったよね。『満足するまで』って」 「……はい。それが、何か?」 「もう満足したから、そろそろいいかなと思って。約束通り、旦那さんの所に帰してあげる。  もうお別れだ。楽しい思い出をありがとう」 「急に、そんなことを仰られても……」  サティが愕然とした風によろめいた。 「やっぱりさ、体だけじゃ駄目だよね。体の付き合いじゃ、心で繋がってる旦那さんには敵わないよ。  たとえ抱いて貰えなくったって、君も旦那さんと一緒にいる方がいいでしょ?  でも、それじゃやっぱり空しい。君のこと愛してるから。一方通行じゃ寂しいよ」  体を開発し尽くされ、セックスが日常と化した人妻に、ある日突然、体に触れてもくれない夫の元に帰るように促す。  どんなに貞淑な女だろうと、こんなことを抜き打ちでされて動揺せずにいられるわけがない。  その動揺がどう転ぶかはわからない。運次第だ。それでも帰ることを選ぶ女がいないわけでもない。ここからは賭けだ。  しかし、かなりこちらに分のある賭けだ。  結局、体と心の両方で繋がっていなければ、どんなに愛し合っている夫婦だろうと駄目なのだ。  体と心の両方を奪おうとする乱入者に攫われてしまう。  ここで賭けの勝率を上げるため、更に揺さぶりをかける。  寝転がったまま白々しく呟く。 「ああ、これは独り言なんだけど……もしサティがシヴァと別れて僕のものになってくれるって言うんなら……  心から僕のことを愛してくれるんなら、喜んで押し倒すんだけどなぁ」 「それは、お約束と違いますよ! 人修羅様が満足なさったら終わりだと……自分のものになれなどとは仰らないと……」 「独り言」への返事は無効だ。背を向けたまま無視し、独り言を続ける。 「あーあ、満足したって言っちゃったから、もうサティのこと抱けないし、口説けもしない。  サティが自分から僕のものになるって言ってくれたら約束を破ったことにならないんだけどなぁ」  わざとらしく大きな声で言い、横になる。 「僕は寝るから、シヴァの所に送って欲しいとか、とにかく何か用事があったら起こしてよ」  目を閉じる。  さて、サイコロはもう投げた。後はどんな目が出るか待つだけだ。  果報は寝て待て、だ。 九  気づくと誰かに肩を揺すられていた。 「……様、人修羅様」  遠慮がちなこれは、サティの声だ。  思い出した。サティを僕のものにするための賭けに出て、その結果を待っていたところだった。  上体を起こす。  おはようと挨拶しかけ、サティが全裸であることに気づき、一瞬硬直する。 「ちょ、ちょっと、何でそんな格好してるの!?」  目の前に立つサティは一糸纏わぬ裸体を晒している。  胸と股間を手で隠しているが、股間の毛並みは隠しきれていない。匂いも隠せていない。  腿の辺りに滴るほどの愛液を滴らせる肉の穴からは、発情の香りが漂ってきた。 「……お休み中のところを邪魔してすみません、人修羅様」  僕の横に腰を下ろし、サティは緊張に身を震わせている。 「ああ、いいよ。用があったら起こしてって言ったのは僕だから……どうしたの?」  サティが蚊の鳴くような声で呟いた。 「……ります」 「え? ごめん、ちょっと聞き取れなかった」 「……なります。私、人修羅様の、ものに、なります……」  涙を零しながら切れ切れに言う。  僕は賭けに勝ったのだ。 「僕のものに? シヴァの所に帰るんじゃなくて?」  サティが、こくんと小さく頷いた。 「……もう駄目なのです。人修羅様は酷い方です……私をこんなにしてしまって……  こんな生活を知ってしまって、戻れるわけがないではありませんか……体を絡め取られてしまって……心さえも……」 「うん……ごめんね。君をそんなにしちゃった責任は取るよ。君はもう僕のものだ。シヴァのものじゃない。僕の奥さんだ」  抱き寄せると、素直に腕の中に転がり込んできた。抵抗せず、僕の胸に頬を押し当ててくる。  結われたままの髪と剥き出しの背中を撫でる。 「僕のものになってくれるね?」 「……はい」 「ありがとう。嬉しいよ。もう離さない」  サティは無言で抱き締め返してきた。体を捕まえ、押しつけてくる。 「……したいの?」  サティが腕の中で恥ずかしげに頷き、顔を伏せる。 「……早速、責任を取ってあげるね。ちょっと離して……」  抱擁を解き、手早くズボンを脱ぎ捨てる。  手を出したいのを我慢し続けていたせいで、収まりがつかないほどに怒張してしまったものが躍り出る。  いつの間にか髪を解いていたサティが嬉しそうに僕のものを見る。  両腕を広げて招く。 「おいで」 「はい!」  待ちきれないとばかりに、返事をしながら足早に近寄ってくる。  僕の胸に飛び込み、片方の手を僕の背に回し、もう片方の手で先走りに濡れたものを扱き始める。  僕もお返しに濡れた股間に手を伸ばす。 「積極的だね……凄く濡れてる。もしかして自分で弄ったりした?」 「しました……一人で、してしまいました……切なくて……」 「イけた?」  サティは真っ赤になって頷いた。 「じゃあもう満足なんじゃない?」 「そんな……! そんなこと、ありません……その、自分でしても……空しいばかりで……  人修羅様にしていただかないと……人修羅様の、お持ち物でないと……もう満足、できないのです……」 「シヴァのは?」 「シ、シヴァ様のは……シヴァ様は私に触れてくださいませんし……  それに、その……いつだか申し上げたように……シヴァ様のお持ち物……思い出せないのです……  どんな形だったのか……どんな触り心地だったのか……もう、思い出せない……  人修羅様のお持ち物のことしか、思い出せないのです……」  サティの目に涙が滲み、零れ落ちた。酷い自己嫌悪に駆られたようにしゃくり上げる。 「シヴァ様との和合を、思い出せないのです……!   忘我の境地に昇ってしまうほどに、口では言い表せないほどに、心地良かったはずなのに……  まぐわいのことを考えると、浮かんでくるのは人修羅様ばかり……  まぐわいばかりではありません。このところは、何かにつけ、寝ても覚めても……  人修羅様のことばかり考えてしまうのです……もう、私には、シヴァ様の后でいる資格など、ありません……」 「でも、それだったら、僕の奥さんになる資格は充分過ぎるほどあるよね」 「……こんな私でも、こんな愚かで浅ましい、こんな汚らわしい、売女のような、ふしだらな女でも、  人修羅様は妻として迎え入れてくださるのですか……?」 「そんなの、こっちの方からお願いするよ。  君みたいに、可愛くて、綺麗で、優しくて、温かい女の人が僕を選んでくれたって思うだけで、嬉しくて泣きそうだよ」 「人修羅様……嬉しい……そんなにも私のことを……」  サティが僕の首と頭に手を回し、背伸びをして唇を合わせてきた。  それに応えてきつく抱き締め、舌を挿し入れて口の中を貪る。  ただのそれだけで軽く達したようにサティの体が震え、脱力して体重を預けてきた。  唇を離すと、熱に浮かされたような潤んだ目で見つめてくる。  そっと股間に手を差し入れる。そこはもうこれ以上ないと言うほどに発情していた。 「この分ならもう入れちゃってもいいよね。そこに寝て」  サティは期待に顔を輝かせながら仰向けになり、こちらが何も言っていないのにも関わらず、  いそいそと脚を開き、僕を迎える準備を整えていく。  覆い被さり、啄むようなキスを何度か加え、いやらしい毛に囲まれて濡れ光る、脚の間の心地良い穴に先端を宛がう。  そのまま一気に挿入する。既に僕の形に馴染んだそこは苦もなく僕のものを受け容れ、愛しそうに吸いついてきた。  例の安らかな一体感、溶け合ってしまうような快感が襲いかかってくる。  まるでサティに肉体と精神の全てを受け容れて貰ったかのような、今までにない深い一体感の中、僕はゆっくりと腰を動かし始める。  サティが甘い声を上げて乱れ始めた。  僕が今までに聞いたことのないほどに甘く蕩けた声と、今までに見たことのないほどに深く激しい反応が、僕の五感を刺激する。  僕は猛然と腰を振って何度も何度もサティの中に精を吐き出し、サティはほとんど息をつく間もなく絶頂に達し続け、  他の全てが意識から消え去るほどに激しく交わり続けた。  この「結婚初夜」が明ける頃にはカグツチが三周していた。 十  僕とサティが「結婚」して以来、サティは目に見えて甘えてくるようになった。  性的なものの絡まない単なるデートの回数も増えた。今は丁度その帰り道だ。  もう少しであの愛の巣に着くというところで、僕とサティの前に外道スライムの群れが立ち塞がった。  相手の強さも理解できない馬鹿共がじわりじわりと僕達に這い寄ってくる。 「ここは私にお任せください」  サティは僕の腕を捕まえたまま、片方の掌をスライム達に向けた。  直後、太陽の輝きにも似た爆発が起こり、プロミネンスの炎が緑色のヘドロめいた集団を一瞬で蒸発させた。 「人修羅様が私に与えてくださった力ですもの。人修羅様のために使わせてください」  そう微笑んだ瞬間、サティの身に異変が起こった。驚きの声を上げるサティの体が黒い光を放つ。  不安定な光が消えると、そこには炎が噴き出す体を黒を基調とした衣装で包んだサティの姿はなく、  インド貴族風の明るい色調の衣装を着た貴婦人が代わって現れていた。  僕はこの女の人が誰だか知っている。シヴァ第二の后、ヒンドゥー随一の良妻賢母、地母神パールヴァティだ。 「え……あれ……私は……女神サティ……違う……私は……」  自分の体や顔に触れて忙しなく何かを確認しながら、パールヴァティはぶつぶつと呟いている。  変異を遂げた悪魔にありがちな自己連続性の混乱に見舞われているようだ。  放っておいても問題はない。この混乱は一時的なものだ。すぐに心の統合が終わる。  戸惑うパールヴァティの体をじっくりと観察し、サティと比較する。  衣装が明るい色彩のものだからか、髪が桃色だからかはわからないが、  全体的に、サティよりも明るく朗らかな印象がある。年齢は二十歳代前半といったところで、  祐子先生よりも年下だろう。「幼な妻」が「若妻」になったような感じだ。  体つきは依然として均整の取れたものだが、胸と尻の辺りが幾分かふっくらしたように見える。  要するに、サティを明るくして成熟させたような女なのだ。 「……私は……偉大な破壊神シヴァ様の后……女神サティの生まれ変わり……私は、地母神パールヴァティ……」  パールヴァティの自我の再統合も終わりつつあるようだ。  全く別の種族に変異する悪魔の場合は前後で人格が変貌することが多々あるが、  サティとパールヴァティは人格的には全く同じ存在なので、そういった危惧は無用だ。  しかし、問題がないわけではない。  パールヴァティとしての記憶と性質を得たことで、シヴァへの愛情が復活してしまいはしないか。それが心配だ。 「……人修羅様」  落ち着きを取り戻した様子のパールヴァティに見つめられる。清楚な顔には穏やかな表情が浮かんでいる。  そう思った直後、満面の笑みが浮かんだ。そのまま飛びついてくる。 「人修羅様、やりましたわ! 私、普通の体になれました!」  人目も憚らずに抱きつき、はしゃいでいる。  そういえば、神話に登場するパールヴァティも、シヴァの目を面白半分で後ろから覆い隠して第三の目を開かせるなど、  結構お茶目なことをする女神だった。 「あ……ご、ごめんなさい。私、嬉しくてついはしゃいでしまいました。お見苦しいところをお見せしてしまいましたわ……」  パールヴァティが申し訳なさそうに離れる。 「気にしなくていいよ。サティ――じゃなくて、パールヴァティ。君みたいな美人に抱きつかれるんなら大歓迎だよ」 「まあ、人修羅様ったら。からかわないでくださいな。嬉しくて舞い上がってしまいますわ」 「からかってなんかないよ」  言ってから、シヴァのことをどう思っているのか訊こうと思ったが、それより早くパールヴァティが言葉を継いだ。 「それよりも、人修羅様」 「何?」 「あのお約束を果たさせていただいてもよろしいですか?」 「約束? ああ、炎が消えたら料理作ってくれるって奴だっけ。作ってくれるの?」 「人修羅様がお望みでしたら」 「じゃあお願いするよ」 「わかりましたわ。ではまず、お料理ができる場所を探さないといけませんね。あのお部屋にはお台所もありませんでしたし……」 「それなら大丈夫だよ。この日のために部屋を見つけといたから。  マンションの一部が残っててね、何でか知らないけど、ガスも水道も電気も使えるんだ。  あの、俺のことアニキって呼んでるチンピラいるでしょ? あいつ、この辺りに詳しいから、探して貰ったんだ」 「まあ、そうでしたの。彼にお礼を言わないと……」 「もう俺は言ったけど、君がそう言うなら、後で会った時にでも言おうか」 「ええ、そうしましょう」 「まあ、でも、まずは買い物だよね。食材買わなきゃ。マンションとかはその後だ」 「お買い物に付き合ってくださるのですか?」 「僕と一緒だと嫌かな」 「そのようなことがあるはずありませんわ! 一緒にお買い物だなんて、夢のよう。  でも、女の買い物は、男性には退屈なのでは……」 「君と一緒に歩くんならデートみたいなものだし、僕は全然構わないよ」 「そうですの? でしたら、是非、ご一緒に……」  そうして嬉々として僕の手を引くパールヴァティと一緒に買い物に向かう。  嗜好品を取り扱う店――通常の食事を必要としない悪魔にとっては  一般的な食事の材料など酒や煙草のような嗜好品でしかない――を一緒に回りながら、  僕は買い物に付き合うと言ったことを少し後悔していた。  パールヴァティは嬉しそうに、魚の鮮度の見分け方や野菜の良し悪しの見分け方を説明してくれているが、  正直、僕はその手のことに全く関心がない。  それなのに、パールヴァティがあまりにも楽しそうにしているものだから、こちらもついつい笑顔で相槌を打ってしまい、  それを見てパールヴァティが更に説明に熱を入れるという悪循環に陥ってしまっている。  君の話が楽しいのではなく君が楽しそうにしているのが楽しいのだ、と言いたくなるのをぐっと堪え、 「女の退屈な買い物」に付き合い続ける。  甘ったるい苦行は、カグツチが半周する頃、ようやく終わった。  片手に荷物を持ち、もう片方の腕にパールヴァティを抱きつかせながら、しばらくの間愛の巣となるマンションへと向かう。  最も状態の良い部屋の扉を開け、パールヴァティを中に招き入れる。 「どうかな、ここなんだけど……」  チンピラが見つけてきたのは至って普通のマンションだ。特に豪華ではないし、かと言ってみすぼらしくもない。  だがシヴァの后だったパールヴァティからすれば兎小屋のようなものだろう。落胆されないか少し心配だ。  パールヴァティが微笑む。 「良さそうな所ですね」 「でも、シヴァと暮らしてた君からしたら、物足りなかったりするんじゃない?」  シヴァの名を出すとパールヴァティの表情が一瞬曇った。やはりシヴァへの想いが蘇ってきているのだろうか。 「そのようなことはありませんわ。それどころか、二人で過ごすには、少し広過ぎるくらいです。  二人きりで過ごすのですもの。もっと小さい方が、一緒に過ごしているのが感じられて好きですわ」 「そうかな。まあ、嫌じゃないならいいんだけど……」 「ええ。嫌だなんてとんでもないですわ。では、早速、お料理をお作りしますね。  少し時間がかかりますけれど、待っていてくださいね」  買ってきた品の中から無地のエプロンを取り出し、いそいそと身につけ始める。  手早くエプロンを身につけると、そこには家庭的な若奥さんの姿があった。  思わず称讃の言葉が口を衝いて出る。 「よく似合ってるよ」 「本当ですか? 嬉しいです、ふふ」  頬を赤らめ、パールヴァティが上機嫌な様子で微笑む。鼻歌混じりに食材を取り出し、台所に向かう。 「腕によりをかけて、真心と愛情を籠めてお作りしますわ」  パールヴァティが鮮やかな手つきで調理を始めた。  その楽しそうな後ろ姿を眺めながら、ぼんやりと思う。  他のことがどんなにつらくても、こういう奥さんを貰えたら、きっとそれだけで人生が素晴らしいものになるに違いない。  幸せというのは、こういう女の人を嫁に貰い、こういう女の人に愛されることを言うのだろう。  きっとそうだ。 十一  パールヴァティに片付けを済ませて貰った後、僕達は仲良く寄り添って座り、まったりとした食後を楽しんでいた。  肩を抱くと、パールヴァティはくたっとこちらにもたれかかり、肩に頭を預けてきた。  結い上げられた桃色の長髪から心の安らぐ香りが立ち上る。 「それにしても美味しかった」  パールヴァティと差し向かいで食べる食事の味は格別だった。  料理自体が最高の技術と愛情で作られていたこともそうだが、  それ以上に、にこにこと微笑みながらあれこれと僕の世話を焼くパールヴァティの存在が大きかった。  最高の調味料はパールヴァティ自身だった。 「気に入っていただけたようで嬉しいですわ。人修羅様さえよろしければ、またお作りしましょうか」 「そりゃ嬉しいな。また一緒に食べよう。ああ、君ってホント、いいお嫁さんだよなぁ」 「まあ。うふふ。お世辞でも嬉しいですわ」 「お世辞なんかじゃないよ。本当にシヴァが羨ましいよ。こんないい奥さんがいて……」  言い終える前に失敗を悟った。できれば言う前に悟りたかった。  シヴァの名を出した途端、空気が変わった。  表情自体は普段の穏和なものなのに、パールヴァティの雰囲気が、まるでカーリーのようになりつつある。恐ろしい。  そういえば、神話上では、実はシヴァよりもパールヴァティの方が恐ろしい存在なのだった。  何しろ、パールヴァティが怒り出すと、シヴァですら止められないのだ。  倒れているシヴァがパールヴァティに足蹴にされている情景を描いた絵を見たことがある。  僕も踏みつけられてしまうのだろうか。  どう考えてもパールヴァティが僕を打ち倒せる可能性はないのに、なぜか恐怖が込み上げてくる。これが女の怖さか。 「ええと……やっぱりシヴァの所に帰りたかったりする……のかな? 体も普通になって、触れるようになったわけだし……」  今度は言い終えてから失敗に気づく。  パールヴァティの怒気が強まった。穏和な表情のまま怒気を漲らせ、ゆっくりと顔を近づけてくる。  思わず顔を引こうとしたら頭を掴まれて捕らえられてしまった。逃げられない。  この緩慢さが怖い。できれば一気に来て欲しい。  唇と唇が触れ合いそうな距離で接近が止まった。しっとりした吐息がかかる。 「……私の独り善がりだったのですか?」 「え?」 「私はもう人修羅様の妻のつもりでいましたのに……  人修羅様もそのおつもりでいらっしゃるとばかり思っていましたのに……私だけだったのですか?   人修羅様にとって、私は所詮、他の男性のもの……行きずりの女、遊び女に過ぎなかったのですか?  あの時、私を妻にすると仰ったのは、出任せだったのですか?   勘違いをして浮かれる愚かな女を笑っていらっしゃったのですか?」  この問いにイエスと答えたら殺されてしまいそうだ。もっとも、そんな事情などなくとも、これは絶対にノーだが。 「そんなことない! 君は僕のものだ。絶対、誰にも――シヴァが取り返しに来たって――渡さない。本当だよ!」 「ふふふ。そのように真剣なお顔で、こんなにも情熱的に……嫌ですわ、もう。照れてしまうではありませんか。おやめください」  パールヴァティの白磁の頬に、思春期の女の子みたいな朱色が差した。両手で頬を押さえて科を作る。  先程までの威圧感が嘘のようだ。この掌の返し様は恐ろしい。女は魔物だ。 「人修羅様には他に奥様はいらっしゃいますの?」 「いるわけないだろ」 「でしたら、私が第一夫人ですね。不束者でございますが、末永くよろしくお願いします」  パールヴァティが輝くような笑顔を浮かべ、三つ指を突く。  気圧されつつ頷く。 「こちらこそ……あの、でも、今更だけど、シヴァのことは本当にいいの?」 「……人修羅様。女は人修羅様がお思いになっているほど、清らかではないのですよ。  あなた様が知っていらっしゃる以上に、浅はかで、汚く、弱い生き物なのです。  ですから、ふらふらと逃げてしまわないように、しっかりと捕まえていてくださらないといけませんよ。  愚かで弱い女がどこかに飛ばされてしまわないよう、しっかりと繋ぎ止めてくださいませ……」  パールヴァティは艶やかに微笑み、肩口に顔を埋めてきた。手が誘うように僕の体を撫で、熱い吐息が首筋をくすぐる。 「……ねえ、人修羅様。愛し合う男女が、一つ屋根の下で、お互いの息遣いと鼓動が感じられるほどに身を寄せ合っているのですよ。  美味しい食事と静かな時間……二人に必要なものは他に何があると思いますか?」 「……そういえば、パールヴァティになってから、まだ体を見せて貰ってなかったっけ」 「見たいですか?」 「……見たいな」 「はい。お見せしますね。あなたのためのこの体、見てください」  パールヴァティはすっと立ち上がり、舞踊のように優雅な動きで、  体の線が浮き出るぴっちりとした衣装をふわりふわりと脱ぎ捨てていく。  上品なストリップという自己矛盾したものがあるとしたら、きっとこういうものなのだろう。  ヒンドゥー神話随一の良妻賢母の淫靡で優雅な踊りを独占している事実に深い喜びと疼きを覚えずにいられない。  いつの間にか、パールヴァティが一糸纏わぬ姿を晒していた。美しく結い上げられた髪も下ろしてある。  綺麗な動きに見蕩れていたせいで、脱ぐ過程が全く記憶に残っていない。  ただ、何か美しいものを見た、というおぼろげな記憶があるだけだ。  すっかり魅了されてしまっていた。万能以外の全ての攻撃を受けつけない体になっているというのに。  「惚れた弱み」はきっと万能属性なのだ。  パールヴァティの体はサティとはまるでタイプが違う。  どちらも均整が取れている点は同じだが、サティが華奢であるのに対し、パールヴァティは体のあちらこちらが柔らかそうだし、  おっぱいも大分膨らんでいて、どちらかと言えば豊満になっている。  重たげなおっぱいは、重力に逆らわず、かと言って隷属もせず、ゆったりとした釣鐘型を保っている。  先端では、肥大し、色が濃くなった乳首と乳輪が存在感を主張している。  腹部はくびれていて一見すらっとしているが、確かめると、ちゃんと抱き心地の良さそうな肉がついている。  尻も弾力のありそうな肉がつき、安産型の揉み甲斐のありそうなものになっている。  ほっそりと引き締まっていた腿にはむちむちとした肉がつき、その中央では相変わらずの剛毛が存在感を示している。  僕の目の前で色っぽく上気した体を晒しているのは、サティから少女時代の未熟さを取り去って成熟させたような美女だった。 「私の体はどうでしょう? お気に召すといいのですが……」 「お気に召すって……そんなの訊くまでもないって。凄く綺麗だよ。前の姿とはまた一味違う感じで……」 「少し太ってしまいました……このようなだらしのない体でも、綺麗と仰ってくださるのですね」 「太ったなんてとんでもないよ。だらしなくなんてない。相変わらずスタイルがいいよ。  でも、おっぱいやお尻の辺りはもっといやらしくなったよね。凄く興奮するよ」 「そこまで仰っていただけるなんて嬉しいですわ」  艶やかに微笑み、パールヴァティが近寄ってくる。甘い体臭を振り撒きながら僕に抱きつき、頬に口づける。  そのまま唇に啄むようにキスし、徐々に身を屈めながら、首筋、胸元、腹部と下の方へとキスを続けていく。  顔の高さが僕の股間辺りにまで下がった。パールヴァティが僕を見上げて微笑む。 「ご奉仕させてくださいませ、人修羅様」  すべすべした手がズボンにかかり、パンツごとゆっくりとずり下ろしていく。  途中で、既に臨戦態勢に入っていたものが引っかかるが、パールヴァティは苛立ちや困惑を欠片も見せない。  それどころか嬉しそうにしながらズボンをずり下げていき、  抑圧から解放されて跳ね上がったものが頬に当たるのを嬌声を上げながら受け止めすらした。  美女の顔に勃起したものを擦りつける下卑た快感に背筋がぞくぞくした。  ズボンとパンツを脱がし、それぞれを丁寧に畳んで床に置くと、  パールヴァティは目の前で威嚇するように脈打つものをうっとりと見つめ、頬擦りした。 「ああ、こんなにも逞しく……いつ見ても素敵ですわ、私の旦那様」  しっとりとした手に竿を握られ、ゆっくりと扱かれる。じんわりと凝りを解されるような心地良さに股間が包まれる。  じっと上目遣いで僕の目を見ながら、薄桃色の唇で、赤黒い頭に啄むように口づけてくる。  何度か口づけを繰り返した唇が、そのままぴたりと吸いつき、隙間から猫のように舌先を出してちろちろと鈴口を刺激してくる。 「美味しいですわ……最初に教えていただいた時には、この味を美味しいと思う日など来るはずがないと思っていましたけれど……  今は、それが間違いだったことがわかりますわ。愛しい方のお持ち物ですもの。素敵な味がするに決まっていますわ」  舌の動きが徐々に大きくなってきて、やがて先端全体が舐め回され始めた。  頭の部分を這い回る舌に唾液を塗りつけられ、集中攻撃を受ける。  パールヴァティが口を大きく開け、頭の部分を頬張った。口の端から涎が零れ、竿や袋を濡らしていく。  サティだった頃と同様、唾液を沢山塗りたくるのが好きらしい。  甘い唾液を湛える温かい口の中に吸い込まれた先端が、肉厚の舌と柔らかい頬肉の熱烈な歓迎を受ける。  ねっとりとした舌が表面を這い回り、優しく唾液をまぶしてくる。  顔の角度が変わるたび、敏感な先端部分が頬肉に擦りつけられ、身震いするような感覚を生む。  この間、手の方も怠けていない。右手は竿を優しく扱き、左手は袋をあやすように揉んでいる。  いずれも、この世のものとは思えない巧みな愛撫だが、決して、射精に導くための攻撃的なものではない。  僕を昂らせ、快感を溜め込ませるための、優しい前戯だ。頭、竿、袋の全てが優しい温かさに包まれている。  ちゅぽん、という音と共に頭が口から解放された。  塗りつけられた唾液が風に吹かれて冷えるが、それを温めるように、すべすべとした掌が先っぽを覆う。  そのまま優しく摩擦される。  竿に頬擦りするように顔が下がっていく。  下から袋を舐め上げられた。舌先が袋の皺の一筋一筋を延ばすように這い回る。  袋全体が滴るほどの唾液で濡れるまでそれが続いた。  舌先の愛撫が済むと、一気に頬張られた。口の中で柔らかく揉まれ、転がされる。  パールヴァティは、顔全体で僕の袋を支えるようにしながら、優しく情熱的な刺激を繰り返している。 「あぁ……凄い……気持ち良過ぎる……」  僕が呻くと、パールヴァティは手の動きをそのままに、ぷはっと袋から口を離して微笑んだ。 「悦んでいただけで私も嬉しいですわ」 「……こんな凄いの、初めてだよ」 「それはきっと、私と人修羅様の想いが通じ合っているからです。  気持ちの通じ合う男女であれば、何をしても心地良いものですから」  竿と袋から手を離してすっと立ち上がり、寄り添ってきた。顔を近づけ、試すように指で僕の唇をなぞる。 「つい先程までお持ち物にご奉仕していたお口ですけれど、口づけしてくださいますか?」 「いくらでもしてあげるよ」  口を開けさせて最初から舌を滑り込ませる。  僕のものの汚れ混じりの唾液を残らず啜る勢いで口の中を蹂躙するが、流れ込んでくる物は相変わらずのソーマの雫で、  不快なものの味わいは一切ない。  キスを続ける内、段々とパールヴァティの体から力が抜けてきた。抱き寄せる胸元に心地良い体重がかかってくる。 「ベッド行こうか?」 「……はい」  もう一度軽くキスをし、おもむろにパールヴァティの体を抱え上げる。お姫様抱っこだ。  まがりなりにもお姫様やお后様と呼ばれる身分のパールヴァティにはある意味相応しい。  パールヴァティは嬉しそうに胸に頬を寄せてきた。  受胎前は夫婦が住んでいたのだろう。このマンションにはダブルベッドがある。  パールヴァティを仰向けにそっと下ろし、優しく覆い被さる。啄むようなキスを繰り返しながら、豊かに成長した胸を揉みしだく。  心地良さそうな吐息と喘ぎが漏れる。  気を良くして乳首付近を摘まんで捻る。  敏感な反応が返ってくると同時に、手に何か違和感が生まれた。  ちらりと視線を走らせると、乳首から白い液体が滲み出していた。 「え……母乳? もしかして、妊娠!?」  そうだとしたら誰の子だろう。  僕としかしていないはずだから僕の子だろうとは思うが、  常識外れの方法で子供を作ってきたシヴァの妻だったということを考えると、油断はできない。  千年以上前の精子が活動し始めたとか、そういう荒唐無稽なことも起こり得る。  パールヴァティがくすくすと笑う。 「私は赤ちゃんがいなくてもお乳が出るのですよ」  子供ではないのか。寂しいような嬉しいような、よくわからない感情が生まれる。 「体質なんだ……」  それにしても、体質とはいえ、サティだった頃には出ず、今になって出るのはどういうことか。  やはり、地母神だからだろうか。或いは、神話的に考えて、サティは「少女」で、パールヴァティは「母」なのだろうか。 「驚かれましたか?」 「ちょっとね。吸ってもいい?」 「お口に合わないかもしれませんよ」 「口の方を合わせるよ」  吸われるためにあるような大きな乳首を口に含み、唇で咀嚼する。  じわりと温かい液体が染み出してきた。  濃厚な甘味と優しい香りが口の中一杯に広がった。  口に合わないなどとんでもない。凄く美味しい。今までに飲んできたどんな飲み物もこれには敵わない。  唾液がソーマの雫、愛液がソーマならば、母乳はアムリタだ。美味しいし、一口飲むごとに栄養が体中に回っていく感じがする。  夢中になって吸い立てる。どれだけ吸っても涸れる気配がない。吸えば吸っただけ甘い母乳が出てくる。  後頭部と背中を優しく撫でられるのを感じた。  乳首を吸いながら見上げると、パールヴァティが慈愛に満ちた笑顔でこちらを見ていた。 「私のお乳、美味しいですか?」  乳首を吸いながら頷く。一秒たりとも口を離したくない。 「喜んでいただけたなら私も嬉しいです……ふふ、人修羅様、一生懸命に……赤ちゃんみたいです」  性的な感じが全くしない、優しい愛撫が頭と背中をくすぐる。パールヴァティは穏やかな顔で僕を見ている。  酷く安らかな気分だ。ぽかぽかと温かく、ふかふかと柔らかい。このまま眠り込んでしまえたらきっと幸せだろう。  今気づいた。この世で一番美しい女は「母親」だ。  きっと、この世で最も美しいのは、母性に目覚めた女、母性そのものの女なのだ。  与えられる安らぎを享受しながら幸せな時間を過ごす。  半ば恍惚となっていると、優しい手つきでおっぱいから顔を引き剥がされた。 「あ……」 「人修羅様。そこばかりでは……寂しいですわ」  僕の頬を撫でながら潤んだ眼差しを向けてくる。 「でも、まだ……」  飲み足りない、と言わせては貰えなかった。  パールヴァティは静かに僕の手を取り、そっと股間へと導いた。濃い毛に覆われたそこは熱く蕩け、発情しきっていた。 「女は愛しい男性と触れ合っているだけで切なくて堪らなくなってしまうのです。  もう耐えられませんわ。お乳はまた後でも飲めますから……ね? お願いですから、意地悪をなさらないで……」  火照った顔は「母」から「妻」へと変貌していた。こうして見てみると、「妻」も美しい。 「ほったらかしにしてごめんね。君のおっぱいが美味しいから、夢中になっちゃった」  顔を上げ、パールヴァティに口づける。  パールヴァティの方から舌を入れてきた。  背中に腕が回され、口の中を舐め回される。水を見つけた渇き死に寸前の旅人のように貪ってくる。  名残惜しげに追いかけてくる舌から逃れて顔をずらし、首筋を舐める。  サティを最初に抱いた時と同じことを繰り返す。味比べだ。  キスをし、首を舐め、胸元を軽く――  夢中になりそうになったが、パールヴァティが拗ねたような顔をしたので慌てて切り上げた――  舐め、腋の下を味わい、ゆっくりと股間に向かう。どうもパールヴァティの方が全体的に味が「濃い」ようだ。 「うわあ、凄いね。湯気が立ってる」 「やぁ……人修羅様のせいですわ。人修羅様がいやらしいからいけないのです……!」  恥ずかしげに言うが、脚を閉じようとはしない。それどころか、見えやすいように角度を微調整している始末だ。 「ここの味はどうかな」  顔を近づける。噎せ返るような甘い香りが漂っている。  白く濁った濃い愛液を舐め取ると、サティの頃とは比べ物にならないほどに濃厚な味わいが口の中に纏わりついた。  以前がソーマならば、こちらは煮詰めたソーマだろう。癖になる味だ。 「あっ、ひ、人修羅、様ぁ……もう、もう……駄目ですわぁっ、せ、切なくて……」  僕の頭に手をかけて股間を押しつけ、よく熟した太腿で顔を挟み込みながら、パールヴァティが切なげな声を上げる。 「うん。そろそろ入れようかと思ってたんだ」  そう答えた途端、頭が解放された。  顔を上げれば、パールヴァティが火照った顔でにこにこと微笑んでいた。目は期待に潤んでいる。  膝立ちになり、蕩けきった穴に先端を押し当てる。じわりと熱が伝わり、それだけで身震いするような疼きが走る。 「人修羅様、私の中に来てくださいませ」  パールヴァティは左右から手を当て、ひっそりとそこを開いた。愛液が零れ落ちる。 「いくよ」  押し込む。例によって入るそばから溶けていくような感覚が走る。  サティの時の比でない快楽、お互いの境目もわからないほどの一体感だ。母性が強いから一体感も強いのだろうか。 「えっ!? ちょ、ちょっと待って、何これ!? 何、これ!? うわぁっ、何だこれ、嘘っ、凄いっ……!」  腰を進めながらみっともない声を上げてしまう。  思わず腰を引こうとすると、見越したようにパールヴァティの腿が腰を挟み、逃走を阻止してきた。  背中に回された手が下へと滑り、腰と尻に圧力をかける。進む以外の選択肢を奪われてしまった。  燃えるような快感でも、爆発するような快感でもない、体の芯から蕩かされていくような快楽に怯えながら腰を沈めていき、  遂に根元までをも埋め込むことに成功した。僕は堪え切ったのだ。  パールヴァティが恍惚とした様子で抱きついてくる。脚を脚に絡め、腰と腰を合わせ、胴と胴を合わせ、腕で背中を包み込む。  密着状態だ。後はキスでもすれば完璧だ。  優しい抱擁を受けながら、今までに一度も感じたことのないほどの、凄まじい快楽に震える。  奥まで入ったはいいが、動けそうにない。動いたらきっとすぐに射精してしまう。  かと言って動かなければいいかと言うと、それがそうでもない。  きっとこの魔性の快楽は、じっとしていれば慣れるというものでもない。  じっとしていても、その内、堪え切れなくなって出してしまうに違いない。  細く長くと太く短くどころか、細く短くと太く短くだ。  ならば太く短くを選ぶのが当然というものだ。目一杯楽しまなければ損だ。  それに、これではパールヴァティが気持ち良くなれない。僕が気持ち良いだけだ。 「嫌です、人修羅様!」  思い切り掻き回してやろうと腰を引こうとしたら強くしがみつかれた。  その動きで中が擦れ、神経を直接弄られてでもいるかのような快感が走り、呻き声を上げてしまった。 「どうして離れようとなさるのですか? 私と肌を重ねるのはお嫌ですか?」  悲しげな眼差しを向けてくる。 「そんなことないよ! わかるでしょ、中で凄く興奮してるのが……嫌だったらこんなになるわけないよ」 「でしたら……そのように離れてしまっては寂しいですわ。もっと強く肌を寄せ合いましょう」 「でも、それだけだと……君が気持ち良くないでしょ?」 「そのようなことはありませんわ。こうして体を繋げているのですから、おわかりでしょう?  私、今、とても幸せですわ……こうして、体を隅々まで触れ合わせて、愛しい方と抱き締め合い、  ゆったりと体を揺らす。ただそれだけなのに、ただそれだけのことがとても気持ち良いのです。人修羅様もそうなのでしょう?」 「うん……」  パールヴァティの良い香りのする髪に顔を寄せ、囁く。パールヴァティが吐息を漏らして震え、背中を撫でてくる。 「愛し合う男女のまぐわい――いえ、夫婦の和合とは、そういうものなのです」 「わざわざ言い直してるけど、君の言うまぐわいと和合ってどう違うの?」  パールヴァティが僕の耳朶を啄みながら囁く。 「和合は、まぐわいよりも、もっと素敵で、もっと貴く、もっと気持ち良く、もっと楽しいことなのですよ。  互いが蕩け合って一つになるのですから……こんなにも素敵なことはありません。  和合には、お互いを愛する気持ちと、深く体を繋げ、優しく触れ合い、隙間なく肌を重ねること以外、  必要なものは何もありはしませんわ」 「そうだね……確かに、腰なんか振らなくても……むしろ、腰を振ったら、台無しになっちゃいそうだ」 「わかってくださったのですね……さあ、人修羅様、私の愛しい方、深く、深く愛し合いましょう」  パールヴァティが柔らかくて温かい体を押しつけてきた。  愛情の籠もった手つきで背中を撫で、脚を擦りつけ、唇に啄むようなキスを寄越す。 「もっと体重をかけてくださって構わないのですよ。力を入れるのはお持ち物だけ……  余計な力は抜いてしまってください。私に人修羅様の体を感じさせてください」 「重かったら言ってね」  言われた通りに力を抜き、パールヴァティという極上のクッションに身を委ねる。  凄く心地良く、酷く安らぐ。余計な力を抜いた分、肌が柔らかく重なり、お互いの体温と鼓動と脈動が鮮明に伝わってくる。 「深く深く繋がって……蛇のように身を絡めて……時の翁さえも老いて滅びてしまうほどに……長く、永く……」  ふわふわと宙を漂っているような夢見心地の快楽の中、僕とパールヴァティは互いの全てを分かち合う。  この甘く安らかな時間がいつ終わるのかはわからない。  でも終わらなくても構わない。  どうせこの世界は停まっているのだ。時間だけはいくらでもある。この甘く安らかな夢に溺れていたところで何の問題もない。 了