そこは小さな村のはずれ。  故人が好きだった村を一望する小高い丘に、その墓は佇んでいる。ただしここに故人の亡骸は眠ってはいない。遺品をいくばくか埋めはしたが、形だけの墓だ。  だが墓の前に立つ二人は知っていた。ここに眠るものの最期の姿を。  だからこそ、二人は今、ここでわずかな時間を共にしている。 「…で。あんたはどうするんだい?」 「さぁ。あんまり考えてない」 「…呆れたやつだねぇ…自分の運命を知ってもそれかい。もっと何かこう…無いのかい?」 「何かこう、って何だよ。訳分からんわ」 「いやだからさぁ。自分の運命変えてやるとか、受け入れて静かに暮らすとか」 「その辺は全部後回しだな。今はやりたいことをやってみるだけだ」 「後回しって…」 「冒険者になって、世界を見て、人を見て、ついでに蛮族も見て…それから考える」 「……」 「まああれだ。こだわるか、次に繋ぐか、今は俺にもわかんねぇってことだ」 「…二十年は短いわよ?」 「そりゃあんたからすりゃあなぁ…でもま、じっくり考えるさ。なに、明日誰かに会って惚れてるかもしんねーし?」 「…気楽ねぇ…そんな風に笑えるとは思ってなかったわ」 「暗い顔して生きたって疲れるだけだろうが。阿呆らし」 「でもあんたね」 「笑って生きるんだよ。俺は俺の人生を、終わりまでな。…だから」 「?」 「あんたも好きに生きろ。まだまだ先は長いんだ、俺にこだわんなよ」 「…あんたね」 「つかあんたの残りの人生を俺のせいにされちゃかなわねぇんでっ!」 「見くびんじゃないわよ。てめえの人生孫のせいにするほどあたしゃ落ちぶれちゃいないわ」 「…いってぇな…いちいち殴るなよ…」 「私は私がしたいようにするのよ。…って何かあんたのことどうこう言えないねぇ、これじゃ」 「そうだな。…ま、あんたの好きにすりゃいい」 「ん。目的地はルキスラかぃ?」 「ああ。ひとまずな。いざとなったら情報も集まりそうだし」 「分かった。そう簡単に死ぬんじゃないわよ」 「お互いに。んじゃまたな」 「ええ、またね」  こうして二人は道を違えた。  別れの挨拶は軽いものだった。しかし、その意味は重い。  再びこの二人の人生が交錯するとき、何が起こるのか。或いは起こってしまったのか。  その答えはまた別の話。