ベリル・グリーン[beryl green](緑柱石・緑) 神学生ベリルの手記  3度目の逃亡に失敗した時、ついに私はこの部屋に閉じ込められた。見張りはドアの前に2人、窓の外に2人、そして向かいの塔から監視しているのが3人。年頃の乙女のプライバシーを何だと思っているのか。腹いせに窓の前で着替えてやったら、やたらと慌てた雰囲気が伝わってきた。  どうもこの神都における警備兵は敬虔な創造神の信徒が多いらしく、禁欲を美徳と考えているらしい。飲酒や食肉も最低限に抑え、異性との睦み逢いなど慮外のことなのだ。  現に、窓の外の警備兵から控えめに注意と、そして非礼を詫びられてしまった。別に覗かれても怒るほどのことはないが――なにせわざと見せたわけだし――謝られてしまうとこっちも気を遣ってしまう。カーテンを閉めてため息を一つ落とした。  どこまでも、祖国ベルデとは大違いだ。うちの警備兵どもは、私が窓際で着替えなんて始めたら口笛を吹き鳴らすだろう。それはそれでどうかと思うが。  そもそも、己を律することで調和を保とうと言う心意気は買うが、神都の上層がほとんど妻帯者なことを疑問に思わないのだろうか。いや、確か最近になって、両想いも正しい調和、とかなんとか新しい解釈が生まれたのだったか。結婚に色々な制約がつき、離婚は重罪。でも両想いであるなら重婚は罪にならない。神の前で両想いであると宣誓できれば、ハーレムを作り放題というわけだ。  腐敗している、とは一概に言えない。今まで無かったわけではなく、表ざたにならなかっただけのことだ。ある司祭の私的な使用人は、容姿を採用基準にしている、というのは有名な話だし。  現状を再認識すればするほど、あまり嬉しくない想像しか出てこない。でも、僅かな可能性をかけ、考えを纏めるべく手記に今までの状況を書き記してみよう。  事の起こりは、いつからか増え始めた竜害が発端だ。  竜害――その名の通り、竜による災害。その巨体と強力な吐息を武器に、彼らは暴虐の限りを尽くす。  そもそも、竜という生き物――神都の発表では分類上は"魔物"――は、普段はとても大人しい存在だ。基本、魔物は縄張りと言うものを非常に重視するが、竜はその辺がおおらかで知られている。  もちろん、竜だって魔物の一種。縄張りを通り抜けるくらいならともかく、荒されたり、攻撃をしかけられたら全力で反撃をする。また、産卵期の母竜が非常に凶暴なのは有名な話だ。  そんなわけで、竜はこちらが何もしなければ何もしてこない、ただし一度暴れだすと広範囲に渡って被害を及ぼす扱いの厄介なもの、というのが共通認識だった。  だというのに、ここ最近になって竜による被害が各国で続出している。