お題〜ファンタジー的10のセリフ〜   01.「冒険に出たい」  「ルー坊っ!!」 「うわっ?!なんですか、ノックもせずに人の部屋に入らないでくださいよっ?!」 「安心しろ。お前が女の子を部屋に連れ込んだ時は、遠慮してやる」 「いや、そういうことじゃなくてですね……」 「それもそうだな。悪いな。来るはずのない話をして」 「……(こ、この人は……っ!!)」 「さておいて、だ。ルー坊」 「はぁ……なんでしょうか?先輩」 「俺様は冒険に出たいと思う」 「……は?」 「ん?どうしたルー坊。その、”いきなり何いってんだこの人は”っていう目は」 「目で言ってることが理解できてるなら、その理由も理解してください」 「何言ってんだ。俺様たちは男だぞ?冒険に出ずに、何をしろっていうんだ」 「それ以前に、僕達は騎士団でしょうっ!!平和を守るのが仕事ですっ!冒険になんて出てる暇ないですよっ!!」 「ふー……やれやれ。これだからルー坊は。わかってないなぁ」 「な、何がですか……?」 「この世界にはまだまだ、誰もしらない秘境やロマンがあるということを、だ」 「いや……確かにそうかもしれませんけど……」 「それをルー坊は、知りたくない、なんて思えるのか?」 「うっ……それは……その……」 「未知のモノに惹かれないハズがないだろう。お前も男なんだから、よ」 「……」 「―――と、いうわけで、話を戻すぞ。  俺様は冒険に出たいと思う」 「……わかりました。でも、こんな街中で冒険って……子供じゃあるまいし、街中探検、なんてものじゃないでしょう?」 「ちっちっち。未知なる場所はどこにだってあるもんさ」 「え……例えば?」 「綺麗なおねーちゃんのいる店」 「……本当にこの人は……」(重たいため息) 02.「ご機嫌麗しく?」 「…………で、言い訳をお聞きしましょうか?」 「え、えーと、大冒険へ向けての第一歩と言いますか、一歩目を踏み外したと言いますか……」 「シャルちゃんは今日も凛々しいな。けど、この縄を解いてくれたりすると懐の深さも表せて魅力が倍ぞ、ぐはっ!」 「(ぐりぐり)つまりは例によって馬鹿騒ぎを引き起こしたと、そういうことですね。解りました」 「まるでいつもの事のようにサラッと流されましたよ、先輩」 「流れ作業のように決済されたな。ふっ、これが信頼って奴か」 「い、嫌な信頼もあったもんですね……」 「これも愛ゆえ、って奴だと思い込めば気分だけは幸せになれるぞ?」 「それって格好よく言ってますけど錯覚ですよねっ!?」 「反省が足りない! 二班、もう少し絞めなさい!」 「「「はっ!」」」(ぎりぎりぎりぎり) 「いたあぁああっ! な、縄がぁっ、食い込んでっ!?」 「「「申し訳ありません! 副官命令ですので!」」」(ぎりぎりぎりぎり) 「お、お前ら、覚えておきやががががっ!? ちょ、シャルちゃん、洒落にならんって!?」 「この山と積もった器物破損などの請求書も洒落ではありません! 誰が払うと思ってるんですか!」 「そ、それは、いつもの如く先輩が給仕の女の子にいいところを見せようと!?」 「い、言うけどな、酔客に困った可憐な少女と暴漢に荒らされた店を救済したんだ、褒められても良いくらいだろう。  なぁに、どうせ直に店の方から『助けて下さってありがとうございました』って感謝状でも届くさ」 「――生憎と、この請求書はその店側からの要求です」 「……マジで?」 「大マジです」 「――先輩、カウンターに並んだ高そうな酒瓶をたくさん粉砕してましたね」 「おまっ、押し付ける気か! テーブルをなぎ倒したのはルー坊だろうが!」 「支柱が折れたのは先輩が投げ飛ばした男がぶち当たったからでしょう!?」 「床に大穴を空けたのはルー坊が叩き付けた椅子の足のせいだろうがっ!!」 「窓ガラスが砕け散ったのは先輩が皿や食器を投擲し始めたからですっ!!」 「店主のヅラがバレたのはルー坊が盾にした時にすっぽ抜けたんだろっ!!」 「そっちこそ最後は全部押し付けて女の子口説いてただけじゃないですかっ!!」 「いつまでもむさ苦しい男どもの相手なんぞしてられるわけないだろうがっ!!」 「…………で、もう一度お聞きしましょうか?  なんで、店一軒が倒壊するほどの被害が出たんですか?」 「「こいつ(先輩)が悪い(です)!!」」 「――やりなさい」 「「「はっ!」」」(ぎりぎりぎりぎり) 「「ぎゃああああああああああああっ!!!」」 03.「がんじがらめの生活だった」     「ふー……体が軽いな」 「そりゃ三日間もがんじがらめの生活でしたからね……軽くもなるってもんですよ」 「そうか三日か……まあ、喉元すぎれば熱さを忘れるっていうしな」 「いや、反省してくださいよっ!?」 「反省すべき点なんてあったか?」 「ありまくりですよっ!?というか反省すべき点しかありませんよっ!?」 「ふー……やれやれ。これだからルー坊は」 「な、なんですか、そのあきれ口調のため息は」 「いいか、ルー坊」 「は、はい」 「確かに俺様たちは、やりすぎたのかもしれない」 「かもしれないではなく、あの損害賠償の額を見たら一目瞭然かと思いますが」 「しかし、だ。  仮に俺様たちがあの場にいなかったらどうなっていたと思う?」 「えぇと……?」 「あの酔客に困っていた可憐な少女と、暴漢だぞ?  どっちにしろ、店は荒らされて大変なことになってたんだから、暴漢を退治しただけ、世のため人のためだろう」 「いや、さすがにそれは飛躍しすぎじゃないかと……」 「なにいってんだ。俺様が最初に動くまで、他の客はみんなして見ない振りだぜ?」 「……まあ、確かにそうでしたけど……」 「それともなんだ?  ルー坊は可憐な美少女が暴漢にお持ち帰りされてた方がいいとでもいうのか?」 「そ、そんなことはないですよっ!!」 「だろう?俺様たちの冒険と、勇敢なる行動は決して無駄ではなかった、ってことだ。どこに反省すべき点がある?」 「……た、たしか……に?」 「うむ。と、いうわけで今晩は北の方にある店冒険してみようかと思うわけだが」 「……ほぅ」 「三日間も縛られてたんだ、これくらいの気晴らしは……ん?どうしたルー坊。顔が真っ青だぞ」 「……(後ろを指さしてぱくぱく)」 「なんだ、金魚みたいだぞ、ルー坊。  まるで般若に出会ったみたいな顔して」 「……!!!(ぶんぶん首を横に振る)」 「おいおい、本気でどうした?まるで、僕は関係ありませんとばかりに、首を横に振って。  俺様の後ろになにが……(振り返る)」   「……」(にこやかな般若のような笑顔のシャル)   「(即座に後ろを向くのをやめて)さて。  まあ、そんなバカ話は終わりにして、書類でも書くかなっ!」 「そうですねっ!仕事はたくさんありますもんねっ!」 「ああっ!俺様たちは真面目な騎士だからな!仕事第一だなっ!!」 「ええっ!その通りですっ!先輩っ!!」   (がし、と二人の肩をほっそりとしたシャルの手がつかむ)   「……おおっ!今日も可愛いねシャルちゃんっ!俺様としたことが、いるのに気づかなくて悪かったねっ!!」 「ははははは、やだなぁ先輩ったら」   「……言いたいことはそれだけですか?」   「……」 「……」   (だっと逃げ出す二人) (通路にざっと現れて立ちふさがる、他の騎士たち)   「げっ!!」 「ひぃっ!?」   (ぱちん、とシャルが指をならすと、がし、と騎士が二人を拘束する) 「だあああっ!!はなせ―――っ!!」 「ううううう。先輩のせいですよっ!?」 「てめ、ルー坊、俺様に責任を押しつける気かっ!!さっき、俺様の意見に賛同したくせにっ!!」 「それとこれとは、また別ですよっ!!なんで僕までっ!?」   (ずるずる……連れ去られていく二人)   「まったく。これだからあの二人は……っ」 「いかがしましょうか。副官」 「また縛り付けて置いてください。  あの二人を野放しにしていては世間のためになりません」 「はっ。了解です」   (たったった、と走り去る騎士を見送って、シャルは懐から手紙を取り出し……またしまう)   「……ふん。あの二人に感謝状なんていりませんね」     04.「待ってってば!」 「本気で…………言ってるんですか、先輩」 「ああ。俺様は――――行く」 「そんな、待って。待ってください、先輩! 無茶ですよ!」 「解ってるさ。けどな、無茶でもやらなきゃいけないこともあるんだぜ?  それに言い訳をするわけじゃないが、お前が居るから俺様は安心して行ける」 「っ、勝手な! 残された僕らはどうすればいいんですか!」 「これは志願制のミッションだ。命が惜しい奴に無理強いはしない」 「我等を見くびらないで欲しいものですな、騎士グラウヴェルデ」 「剣を帝国に捧げたその日から、命を捨てる覚悟は出来ておりますぞ」 「それに任務が危険であればあるほど、見返りは大きくなるというもの」 「達成のあかつきには、共に勝利の美酒をあおろうではありませぬか」 「そんな……皆、どうかしてる! どうして、こんなっ!」 「お前の言う通り、こいつは命がけの大仕事だ……けどな、ルー坊」 「…………っ」 「――命を懸けるだけの価値があると、俺様たちは信じてる!」 「常に湯煙りに包まれた隠れ里ッ! 美人にしか入れないという伝説の秘湯ッ!  これで覗かなきゃ男じゃ、否! 漢(おとこ)じゃねえぇええええええぇっ!!!」 「あからさまな死亡フラグだと解っていながらあんたって人はぁああああぁっ!!!」 「なぜ覗くのか? そこに(女体の)神秘があるからだ! なぁ、皆!」 「「「おうっ!」」」 「馬鹿だっ! ここには馬鹿しかいない!?」 「同じ馬鹿なら覗いたもん勝ちだぜ、ルー坊! 一緒に天国(ヴァルハラ)を目指そう!」 「それが文字通り集団自殺に誘う言葉だとなぜ気付かないんですか!? 皆も目を覚ますんだ!」 「久しぶりの宴で、どうにも年甲斐もなく血が騒いでおりますぞ」 「最近は大規模討伐もなく、娯楽らしい娯楽がありませんでしたからな」 「懐かしいですな、隠密技術の講習では竜の巣に忍び込んだりしたものです」 「いやはや、習い覚えた技も使わねばさび付くというものですから」 「なにか普通にイベントとして順応している!? というか、落ち着いて!  騙されちゃいけない、これから向かう先はある意味で竜の巣より恐ろしい場所です!」 「ふっ、安心しろルー坊。お前が何を心配しているか、ちゃんと解っているさ」 「先輩……!」 「シャルちゃんを含めた女性隊員たちに、こっそり秘湯の情報をリークしておいた。  これで、覗きに行ったはいいが『誰も湯に入っていない』なんていう悲劇は起こらない!」 「難易度上げちゃったっ!? あなたはマゾか、マゾなんですかっ!?」 「あ、そうそう。俺様からの情報だと警戒されそうだったんで、ルー坊の名前を使わせてもらったぞ」 「なんでそんな時だけ自分を正しく評価してるんですかっ! ……っていうか巻き込まれた!?」 「くっくっく、これで覗きに来ても来なくても、ルー坊は共犯だなっ!」 「最低です、先輩っ!!」 「未だ見ぬ桃源郷を目指して、行くぞ諸君! 全軍進撃! 我に続けぇえええっ!」 「「「うおおおぉおおおおおおおおぉおおおおっ!!!」」」(ドドドドドッ!!!) 「……よし、行ったな?」 「ぬえぁっ!? せ、先輩、さっきまで集団の先頭に居たんじゃ!?」 「ふっ、馬鹿だなルー坊。あんな騒がしい集団が目的を達成できると本当に思ってるのか?」 「――ッ、まさか!?」 「そう、アレは囮(デコイ)だ。集団の士気を高めたのも、馬鹿正直に正面から突撃させたのも。  全てはこのため――俺様一人のための陽動(イケニエ)作戦に必要な布石だったんだ!!」 「な、なんというか、覗きのためだけに容赦なく味方を犠牲にする辺り、外道極まりない……」 「勝てば官軍ってな! 例えシャルちゃんであろうと、まさか覗きに来た隊員全てが囮とは思うまい!」 「――ええ。気付かなかったでしょうね。そんな馬鹿な作戦」 「………………」 「………………」 「………………」(ちらり) 「………………」(こくこく) 「………………」(じゃんけん、ぽん!) 「………………」(あいこでしょ! くっ、負けた!) 「………………」(じゃあ、先輩が聞いてください) 「あー…………シャルちゃん?」 「はい。なんでしょう、騎士グラウヴェルデ?」 「今日も笑顔が素敵だね。けど、出来れば目も笑った方がチャーミングだよ!  さておき、大したことじゃないんだけれど…………なぜ、後ろから?」 「……これから温泉に向かうところでしたので」 「………………」 「………………」 「情報伝達に不備があったか……完敗だな」 「単に早く来すぎただけでしょう!? って、先輩!?」 「この上は速やかに兵を撤収させる! 後は任せたぞ、計画主犯!」 「さり気なく罪を押し付けられたっ!? ち、違いますよ、副官!  解るでしょう、例によって全ては先輩の行動から端を発した出来事で!  僕は巻き込まれただけで元々除く気もなければ手伝う気もこれっぽっちも……副官?  ひっ! ちょ、ま、怖っ! ま、まってぇえええええええええええええええええぇっ!!!」 05.「これ、食べられる?」     「……なぁ、これはなんだ?シスカ」 「ん?なんだい兄貴?」 「これはいったい何だ?」 「そりゃもちろん、世界に愛された美の化身であるボクが作った美しき料理だよ?」 「……これを”美しき””料理”と称するのは……それこそ冒涜のように思いますがねぇ……」 「ハルベルトもなにをいってるんだい?こんなにアーティスティックにできたというのに!」 「……いや、これはハルベルトの言ってるほうが正しいだろう……?」 「まあ……芸術とは時代を先取りすれば先取りするほど、受け入れられない物です。  そういう意味では……言い張るのは自由かもしれませんが……」    一同、机に乗っている皿を凝視する。   「……まあ、なんだ。まずは中身を聞こうか」 「そうですね。この色はなにを使ったらでるんですか?やたらと目に痛いピンク色ですが」 「ああ、それはね、花の国でとれた食用インクってのがあったんで、いれてみたよ!どうだいっ!綺麗な色だろうっ?!」 「……(口元が引きつってる)」 「おい、ハルベルトが引きつった笑みになってんぞ。……そのインク高いのか?」 「まあね」 「まあねじゃありませんよ!?あれが一体いくらすると……!!!」 「美にお金は必要だと思うんだ」 「……次の食事から、シスカの食事は当分水のみ、と」 「なぜだいっ!?」 「……はぁ……。わかった。わかったから、ハルベルト。そんな殺意と呆れのこもった目でこいつを見てやるな。  そして、シスカも絶望しきった目をするな。俺のポケットマネーで食事代くらい出してやるから……」 「さっすが兄貴だね。美というものに、感心があるなんて!」 「(疲れた顔して)……とりあえず、さておこう。で、この中に入ってる、変な物はなんだ?」 「デビルフィッシュっていう、魚の一種らしいよ」 「あー……あの軟体動物……ってちょっと待ってください。それって確か……!!」 「海の国でよく取れるらしいね!」 「……直送か」 「直送だよ!」 「……」 「……すまん。シスカ。お前の食事は水と塩で何日か頑張ってくれ」 「なぜだい兄貴っ!?」 「っていうか、普段はまとめ役のハルベルトから金を出してもらってるんだ。  自分の飯代くらいは、小遣いで足らせ」 「いっそ、その顔で婦女子の方と食事でもしてくればいいでしょうに」 「それができる弟なら、俺は苦労をしてないと思う」 「それもそうですね。他人ごとながら、ご苦労様、と言っておきますよ、ベルジュ」 「二人してなぜそんな疲れきった顔をしてるんだい?」 「とりあえず、この食えそうにもない物に大金がかかったのかと思うと切なくなっているだけだ」 「ふむ……。つまり、金になればいいってことかな?」 「ありえない現実を言われましても。不可能は、実行できないからこそ、不可能というのですよ」 「ふふん。ボクの美を理解してくれる人はたくさんいるよ!」 「……(まあ、顔だけは美形だからなぁ……)」 「……(中身が残念でさえなければねぇ……)」 「……(だけど、頭が切れて、戦闘能力が高い、なんてこいつ嫌だぞ。俺)」 「……(このままの状態のシスカが、一番いいということなんですかねぇ……)」 「二人して、なに目で語り合っているんだい?」 「気にするな」 「わかった。じゃあ、ちょっと売ってくるよ!」 「売れなかったらちゃんと、食べ干すんですよ」 「了解だよっ!ハルベルト!!」    どっぴゅーんと皿をもって外に走っていくシスカ。   「……売れると思いますかねぇ?」 「いや、二束三文でも買う奴はいないだろ」 「ですよねぇ……はぁ。いくらあの料理につぎ込んだのか……」 「すまん。我が弟ながら」 「彼の小遣い減らしていいですか?」 「……俺の減らしていいから」 「無駄に苦労性ですねぇ、ベルジュは」 「一応、兄貴だからな」苦笑 「……いやはや」苦笑    しばらくして、走って戻ってくるシスカ。   「戻ったよ、兄貴っ!ハルベルトッ!」 「は、早かったな」 「……走ったせいで落としたんですか?」 「ん?いや?ちゃんと売れたよ?」 「……あんなものを買う物好きが……」 「いや、顔だけはいいですから……婦女子の方が顔目当てで買ったのかもしれません……」 「買ったのは騎士だったよ!ちなみに男だったね。  ボクには劣るけど、なかなかの美形の金髪くんさ」 「男がっ!?……男色の気でもあるんですかねぇ……」 「……やめてくれ。想像しちまうから」 「購入したら、その後近くにいた赤毛の騎士くんに無理やり食べさせてたね!」 「……バツゲームか」 「それならアリかもしれませんね……」 「どうだって?」 「おいしかったって」   「「マジ(ですかっ!?)」」     06.「戦いたくなんて無い」 「――というわけで、今日は皆に殺し合……じゃなかった、サバイバル演習をしてもらうッス」 「唐突ですね、チーフ。流石は帝国技術開発局【工房】若手ナンバー1と目される男」 「ああ、白衣に眼鏡の典型的な研究者スタイルでありながら小柄で童顔なだけはある」 「毒舌と語尾が「〜ッス」というわざとらしい口調が妙な人気を博しているほどです」 「うらやましい限りだな、年齢不詳で本名も不明というミステリアスな経歴のくせに」 「そこ、私語のように見える説明口調の当てこすりが煩いッスよ」 「というか、なぜチーフが演習の説明を始めてるんです?」 「管轄違いも甚だしい、っていうか他の隊員はどうしたんだ?」 「演習の説明については騎士ヘイゼルに脅は……頼まれて担当になったッスよ。  他の隊員については、森の各所で他の担当から同じような説明を受けている筈ッス」 「……まぁ、演習だし「やれ」と言われればやらないわけにはいかないんだが」 「いきなり言われても困るというか、もう少し詳細を説明して欲しいんですけど」 「自分の説明を初っ端から遮っておいてよく言うッスね、愚民ども。まぁ、聞くッスよ?  えー、まずこの演習は辺境警備隊の男性隊員と女性隊員、全員参加の合同演習になるッス。  これは隊内における錬度の調整と共に、職務の違う隊員との連携を新たにするのが目的ッス。  特に辺境警備隊は前線部隊ッスから、生存性を高めるためにも実戦さながらの演習になるッスね。  まず、それぞれ二、三名の班に分かれて森に待機。それを攻撃側が容赦なく攻め立てるッス。  攻められる側は班員同士お互いに協力し合い、どうにか包囲網を突破するのが勝利条件ッスね。  言うなれば狩る側と狩られる側に分かれ、最終的に目的を達成した方の勝ちという演習内容ッス。  ――という名目の公開処刑ッス」 「「うおいっ!?」」 「裏向きの目的を言えば、いい加減に馬鹿ばかりの男性隊員どもに制裁を加えるのが目的ッス。  どうも前回の『漢達による桃源郷(温泉)視察ツアー』が余程キたらしく、みんな殺る気ッスね。  その為、分かってるとは思うッスけど狩る側は全員が女性隊員、狩られる側は言わずもがなッス。  更に、この演習に参加している女性隊員には【工房】から試作の連装銃が特別貸与されてるッスよ。  巻き込まれかけた自分を協力者という安全地帯に置くと共に、実戦試験も兼ねた一石二鳥の策ッス」 「汚ねぇ!? 自分だけ裏取引しやがったぞ、この童顔眼鏡!?」 「この前の騒ぎと言うなら、僕も無実だと思うんですけどっ!?」 「……で、演習は実は既にスタートしてるッスよ。耳を澄ませて見れば聞こえるんじゃないッスか?」   バンッ         ギャー     ウワー           タスケッ     タタタタッ     ドンッ        グハッ      ドンドンッ      グワァア        ヒィイイイ   ザクッ                   シ ニ タ ク ナ  グシャッ! 「――ほら、世迷どもの断末魔の叫びが聞こえるッス」 「「まてぇえええええええっ!!」」 「断末魔が文字通り最後の叫びっぽかったぞ!?」 「なんていうか、もう、なんていうか……生きて帰れるんでしょうか、僕たち?」 「演習の終了時刻は日が沈むまでッスから、それまで逃げ延びれば、まぁ?」 (現在時刻:早朝) 「無理ゲー過ぎるだろう!? なんだそのバグった難易度は!」 「ほ、他に生存条件は無いんですか!? デッド オア デスなんてあんまりです!」 「そう言われても、諦めて死ねとしか……あ、一つだけ方法があったッスよ。  なんでも、最後まで生き残った一人に対しては健闘を讃えて恩赦が出るとか」 「「…………」」 「――死ねぇえええええええっ、るぅううううぼぉおおおおおっ!!!!」 「――礎となってくださいぃいいい、せぇんんぱああああいいっ!!!!」  ガキンッ!! 「くっ! ちぃ、先に始末しておこうと思ったら、考えることは同じか!?」 「そりゃもう! なにせ、生き汚さという点では先輩が隊一番ですから!」 「お前がそれを言うか! この防御特化怪力馬鹿がっ!!」 「最速の逃げ足の持ち主が、こんな時に謙遜しないでください!!」 「(言われた通りに伝えたら本当に同士討ちを始めたッスね。流石は騎士ヘイゼル、神算鬼謀ッス)」 「協力して日暮れまで生き残ろうという気は無いんですか、この人非人!」 「お前も不意打ちしてきただろうがっ! そもそも逃げられると思うか!?」 「ッ、そんな事、やってみない、と――――!!」 「「…………」」 「すまん、実現不可能なことを聞いて……」 「いえ、僕も無謀な提案をしてしまって……」 「本当は戦いたくは無い……だが、大恩ある先輩を立てるために笑って死ね!」 「僕だって戦いたくなんてありません……けど、可愛い後輩のためにくたばってください!」 「人に死ねとかそれが尊敬する先輩に対して言う台詞かぁああああっ!!!」 「もの凄い勢いで自分のことを棚に上げた!? このぉおおおっ!!!」 「……ん? 周囲の銃声が途絶えたッスね。もう此処も危険ってことッス。  それじゃあ二人とも、もう聞こえてないと思うッスけど――安らかに眠れッス」 「「うぉおおおおおおおおおおっ!!!!!」」 07.「それでも守るんだ」 「くっ……囲まれたか……」 「なんとか突破できませんかっ!?」 「この感じ、無理だな……」 「そんな……っ!!」 「絶望しきった声出すんじゃねぇっ!!男だろっ!!」 「けど……っ!!先輩っ!!」    ざっと草の音を鳴らして、歩み寄る小柄な陰。   「ふ、副官っ!?」 「やぁ、シャルちゃんこんにちは。いや、もうこんばんは、かな?  そんな冷たい視線も素敵だけど、笑顔だとなお素敵だよ?」 「あなた方で最後です。夕暮れまで時間はまだあります」 「ぎゃ、逆にいえば、こ、ここで耐えきったら、終わりなんですよねっ!?」 「あなた方以外のチームはすべてせんめつを完了しました」 「さらりと無視したあげく、せ、せんめつって!!  今回のは演習なんでしょうっ!?」 「ルー坊……いまさらってもんだ」 「くぅっ……」 「しかし、驚きましたね。チーフの報告ではあなた方は同士討ちを始めたと聞いていましたが」 「ふっ。甘いなシャルちゃん。オレ様たちの結束はそんな柔いものじゃないのさっ!」 「……」 「あなたたちが結束すれば一番手強くなるだろう、ということは最初から予測がついていました。そのためにチーフに伝言を頼んだわけですが……」 「……」 「イーガー副隊長。あなたが騎士グラウヴェルデにそそのかされていることは知っています。  今なら彼を突き出せば、あなたは格別に軽傷ですませましょう」 「……できません」 「彼をそこまでかばい立てする必要があるのですか?」 「……」 「それでも守るのですか?」 「……守ります」 「ほぅ……」 「だって……先輩がこの手錠をはずしてくれない以上、つきだしても僕が巻き添えを食うのは明白じゃないですかっ!?」 「はっはっは。ルー坊。そこは嘘でも先輩は突き出せないとか言った方がいいぞー」 「いうわけないでしょうっ!?ピンチになったからって、こんなっ!!しかも剣でも切れないしっ!!いったいこれ何でできてるんですかっ!?」 「団長が作った、超合金」 「壊れるはずがないいいいいいいっ!!!」 「ほーら、ルー坊逃げるぞー」 「逃げれるものならとっくのとうに逃げてますよっ!?」 「……狙撃準備」 「って、副官まってくださいっ!?この手錠はずしてくれたら、喜んで差し出しますからっ!?」 「はっはっは。この超合金を簡単に壊せると思うなよー?」 「先輩も何人事なんですかっ!?」 「一人は……寂しいもんな?」 「僕は寂しくありませんんんっ!!!」 「撃て!」 「「ぎゃ―――!!」」   08.「待ってるだけじゃ何も始まらない」 「……命がけの戦いの後は心の洗濯が必要だと思うんだ」 「というか、僕らなんで生きてるんでしょうね――と、すみません先輩。僕はここで」 「ん、なんだ? もう夜だってのに何かあるのか?」 「まぁ、演習ついでに帝都まで出てきた訳ですから、僕にだって色々とあるんですよ」 「――ほほぅ?」 「それじゃあ、先輩。また明日!」 「おう。しっかり休めよ――                ――さて」  ざわざわ…… 「こんばんは。今日は久しぶりに、帝都の居酒屋へ騎士学校の同期とやってまいりました」 「で、ルー坊は何を虚空に向かってぶつぶつ呟いてるんだ?」 「その前に答えてください。同期でもない先輩がなんで此処に居るんです?」 「そうッスよ。部外者は空気を読んで帰れってことッス」 「いや、チーフに至っては騎士ですらないですよねっ!?」 「気にするな、俺様は気にしない。おばちゃーん、ビール四つ、ジョッキ大で」 「勿論、自分も気にしないッス。あ、サラダはどうでもいいんで、肉を追加するッスよ」 「隅っこの方に紛れ込むならともかく、なんで普通に参加してるんですかああああっ!!」 「…………貴官らは、いつもこの調子なのか?」 「おっ、名門の坊ちゃん。近衛隊のエリート様には刺激が強すぎたか?」 「茶化さないでいただこう、騎士グラウヴェルデ。私はモラルの話をしている」 「硬いッスね。こんな大衆居酒屋で礼儀作法なんて気にしてたら朝になっちまうッスよ」 「騎士たるもの、いつ如何なる時であろうと騎士らしく、模範的に振舞わなければならない。  たとえそこが戦場であっても、私は騎士らしく雄々しく戦い、そして華々しく散ろう」 「いやいやいや、君(近衛=皇帝の護衛)が華々しく散るまで攻め込まれたら帝国が滅ぶからね?」 「相変わらず堅物というか、暑苦しい馬鹿だなぁ……」 「それで、肉まだッスかねー?」 「……マイペースですね、チーフ」  ざわざわ…… 「――さて、いい感じに酒が回ってきた所で、暴露大会と行こうか」 「ぶふっ!? い、いきなりにも程がありますよ、先輩!」 「ふっ。このまま昔を懐かしんでだらだらと話しこむだけじゃ詰まらないだろう?  初恋の思い出とか、過去にやった失敗談とか、できるだけ人生の恥部をさらけ出すように」 「出すか。というより、言い出したのだから貴官から率先して暴露せよ」 「まぁまぁ。そう言うと思って、こんなものを用意したッスよ」 「これは……割り箸?」 「先端に数字が入ってるッスよ。これで一番数字が低かった人が問答無用で暴露ってことで」 「これ、王様ゲーム用のクジですよね……というか、今回男しか集まってないのに」 「備え在れば憂い無しッスよ。二次会で使うかもしれないわけッスからね」 「暗に、二次会をやれという命令と、そこまで着いて来る宣言ですね、わかります」 「まぁ、諦めて引くしかあるまい……私は、【4】番だ」 「俺様も引こう……げ、【2】番だ」 「自分は最後に残ったのを引くッスから、副隊長どうぞ」 「う、うん…………えーっと、【−50】番?」 「「「「…………」」」」 「――よし、ルー坊が一番低い数字だったな! さぁ、暴露だ!」 「どんな話が聞けるか楽しみッスね!」 「待って、ちょっと待って! 今、明らかにおかしい数字が!?」 「……諦めよ、貴官は嵌められたのだ」  ざわざわ…… 「――というわけで、囮になった僕ごと落とし穴が発動し、もろともに罠の底へ落とされて……」 「そういえばそんな事もあったな、ルー坊はトロいから……」 「人に歴史ありッスか。感慨深いッスねぇ……」 「『構わないから落としちまえ』と言ったのも『了解ッス〜』と発動させたのもお二人でしょうがっ!!」 「貴官ら……」 「おいおい、よせよ。そんな尊敬に溢れた視線を向けるのは」 「まったく、照れるじゃないッスか」 「……もはや何も言うまい」 「いえ、言ってください! 是非に! むしろ是非に!!」  ざわざわ…… 「というか、ルー坊の暴露話は何かしら俺様たちが登場するな」 「まぁ、そう短い付き合いでもないッスからね」 「…………それだけ、って訳でもないですけどね。ほら、僕は昔の記憶がないじゃないですか。  その分、今の生活に充実(?)してるというか、濃すぎる日々に過去を振り返る余裕もないというか……」 「あれあれ。前半いい話っぽかったのに、最後は愚痴になったッスよ」 「苦労してるな、ルー坊も」 「その原因が言わないでくださいっ!!」 「待ってるだけじゃ何も始まらない、か……」 「あん?」 「なんスか、それ?」 「なに、私も他人から説かれたくちだが。行動する事が肝要ということだ。  時には立ち止まることも必要だろうが、ことの起こりとは基本的に行動から始まるものだ」 「えーと……?」 「何事もない日々を繰り返す私からすれば、貴官はとても楽しそうに過ごしているように見えるよ。  それこそ、停滞した過去など考える暇もないほどに。それはやはり――今が充実しているのだろう」 「そう、ですね。その分、苦労もあるんで素直に認めたくは無いんですけど……」 「いいのではないか? 留まるよりは、多少強引に引きずられようと前に進んでいるほうが」 「…………はい」 「――――つまり、俺様たちのお陰ということだな、うん!」 「……んっっっとに、もう! ちょっとは感謝しようって気になったのに!」 「感謝の気持ちは形に残るものがいいッスね! 具体的にはここの支払いとか!」 「いやですよ! っていうか、チーフの方が高給取りでしょうに!」 「研究には金が掛かるんスよ? 引ける時は節約しなきゃ」 「しかし、その理論から行くとルー坊より薄給な俺様は奢ってもらえるわけだ。  おばちゃーん、こっちビール追加! 瓶で持ってきて、瓶で!」 「あ、肉も追加でお願いするッスよ! この特上って奴をズラッとお願いするッス!」 「ちょ、ちょぉおおおおおおおおおっっ!!!!」 「ふっ。羨ましいな、貴官ら――」  ――――実に、楽しそうだ。 09.「例え消えても良い」   「僕が居たって、居なくたってどうだっていいって事は僕自身がよく知ってるんです」 「どうしたルー坊。そんなネガティブ全開発言して」 「そう、例え僕が今、消えたっていいんです」 「はっはっは。なに言ってんだお前が居なくてなにが始まるっていうんだ?(ルースの腕をがしっ」 「そうッスよ!副隊長なしでは始まらないッス!(反対側の腕をがしっ」 「……僕じゃなくたって……!」 「いや、お前にしかできないことだ」 「さぁ―――準備を始めるッス」 「……先輩がやればいいじゃないですかっ!!辺境警備隊恒例宴会イベント”女装大会”の出場なんてぇぇぇぇ!!」 「俺様がやったら、美人すぎて明日から身の危険を感じないといけないからな」 「それこそ、僕の副隊長という威厳の危機ですよっ!?」 「大丈夫ッス。副隊長は一部に熱狂的な崇拝者が居るッスけど、そいつらはお茶目な一面を見せて自分たちを慰安してくれる最高の上司だとか思ってくれるッスから」 「全然大丈夫じゃないですよっ!?先輩がダメなら、童顔のチーフが女装するとかっ!僕より小柄で絶対に僕より似合いますよっ!?」 「ふー。これだからルー坊はなってないな」 「なってないッスね」 「俺様たちが狙うのは、優勝ではなく、ギャップ賞の特上ワインとつまみセットだっ!!」 「そうッス!あのビンテージワインを手に入れるためならっ!」 「だからって僕を巻き込まないでくださいぃぃぃぃっ!!」 「さぁっ!まずはこれッスよ!工房女子職員御用達特別製コルセットッス!  ぎゅうっとやればたちまち、クビレができるッス!」 「ぎゃ―――っ!!痛いっ!痛いですってばっ!!息ができませんっ!!」 「そりゃ女性用ッスからね」 「わかっててその仕打ちっ!?っていうかこんなもの用意してどれだけ本気なんですかっ!?」 「ルー坊。おしゃれは忍耐だぞ?」 「それは女性に言ってくださいっ!?」 「ま、そんな事はさておいて、次はこのドレスだな。わざわざ針子の女の子にお願いして、作ってきてもらったんだぞ」 「本当になにその本気っぷりっ?!そこまでしてワインが飲みたいんですかっ!?」 「おうよっ!」 「当然ッス!」 「だめだこの人らっ!!」 「まぁまぁ。さ、次は化粧だな。それは俺様に任せろ。女の子にやってあげたりして、腕前はプロ級だぞ?」 「なんでそんな無駄スキルをっ!?」 「今役に立ってるじゃないッスか」 「いやいやいやいやそういう問題じゃないですよねっ!?これっ!?」 「ルー坊はいつも楽しそうだなぁ」 「本当ッスね。自分は羨ましい限りッスよ」 「誰のせいだとっ!?」 「ルー坊の言いたいことはわかる。ワインのためとはいえ、俺様達の本気っぷりが不思議なんだろう」 「副隊長もまだまだッスね。自分達の本当の目的がわかってないだなんて」 「えっ……ワインが欲しいだけじゃなかったんですか?」 「もちろん、賞品は魅力的だ。だが、それだけじゃないさ」 「そのためだけに、こんな事してるほど自分は暇人じゃないッスよ」 「ああ。そうだ。俺たちは……」 「ただ……?」 「記憶がなくて寂しいみたいなことを言っていたからな。  こうして思い出作りをしてやりたいと思って、な」 「せ、先輩……」 「―――と、いう建前は建前として、実際には純粋にルー坊をおもちゃにするのが楽しいだけだ」 「当然ッス」 「ひどいっ!!この人ら本当にひどいっ!?ちょっと感動して損したっ?!」 「そういうわけで、諦めて女装を続行しようか」 「ぎゃ―――っ!!」 「賞品のワインとつまみは、今日のイベントを肴に一緒に飲み交わそうッスっ!」     10.「終わりなんて見つからないよ」 「よく似合っていたぞ」 「ごめんなさいすみません申し訳ありません土下座でも何でもしますんでその記憶は失ってくださいぃっ!?」 「叫ぶな。というか私は仕事中だ」 「……つまり「邪魔すんな」って事ですね」 「話が早くて助かる。だが同期の頼みとやらを邪険にするほど冷血でもないつもりだ」 「あ、はい。実はですね、ちょっと調べて欲しいことが……――」 *** 「すまないが管轄外だ。他を当たってくれ」 「い、いきなり否定から始まるのはどうかと思いますけど、それはさておいて……気にならないんですか!?」 「ならない」 「一刀両断された!? い、いや、でも、少しくらいは……」 「ならない」 「で、でもですね、これだけ長い付き合いなのに欠片も情報が出ないんですよ?」 「隠蔽されているのなら尚のこと。貴官も要らぬことに首を突っ込むと、更に不幸に見舞われるぞ」 「さりげなく「更に」とか言わないでくださいよ!?」 「事実、貴官は一般的な同世代およそ1000人と比較しても不幸に見舞われる率が著しく高い」 「理路整然と「お前は不幸だ」と言われたっ!! しかもちゃんと1000人分考証されてる!?」 「当然だ。私は風聞を元に人を貶めるようなことはしない。きちんと情報を纏めた上で判断し、罵倒する」 「罵倒しないで!? そこまで検証するなら罵倒しない方向に!」 「無理だ。貴官の不幸ぶりは既に「日常」と化していて乖離することが出来ない。  この上で「不幸」を表面に表さずにコミュニケーションを取る方法を私は知らない」 「ああもう、いっそトドメを刺してくださいっ!!」 「では一言だけ……私は仕事中だ」 「邪魔すんなって言われたぁああああっ!!」 「おー、相変わらず絶叫と共に生きてるなぁ、ルー坊は」 「せ、先輩!?」 「騎士グラウヴェルデ。よい所に来た。これを引き取ってくれないか」 「そんな、捨て猫の飼い主を探すかのように!?」 「俺様は隊舎住まいだから、動物はちょっと……」 「先輩も何を言ってるんですか! というか、その隊舎に僕の部屋だってありますよ!!」 「ああ、わかったわかった。俺様が話は聞いてやるから、仕事してる奴の邪魔はしないで行くぞ」 「せ、先輩がまともな発言を!?」 「まいったな。雨具を持ってきていないのだが」 「しばくぞお前ら……それじゃあ邪魔したな」 「昼食は同道しよう。詳細はその時に頼む」 「…………はっ!? やっぱり気になってるんじゃないかぁああっ!!」 *** 「で? 今度はどんな厄介ごとだ?」 「別に、そんな毎日厄介毎に巻き込まれたりしてませんよ」 「ッ!?」 「その『ありえない事を聞いた』って顔やめてくれませんかっ!?」 「で? 今度はどんな厄介ごとだ?」 「…………これです」 「んん? えーと、隊員名簿? ああ、辺境警備隊の名簿か。これがどうした?」 「これの、ここ……この項を見てくださいよ」 「なになに……特におかしいところは無いと思うが、どこか問題あるか?」 「順に上から読んで行ってください。そうすれば違和感に気付けるはずです」 「ふむ……」  ◎帝国騎士団辺境警備隊・役柄   ・隊長:アゲート・ヴォルカン   ・隊長付副官:シャルローネ・ヘイゼル   ・副隊長:アランルース・イーガー   ・隊長補:セレクト・グラウヴェルデ     〜 〜 〜   ・技術顧問:チーフ 「……なぁ、なんでチーフは公文書でまで『チーフ』なんだ?」 「知りませんよ、そんなの……それで、どうにかしてチーフの本名が調べられないかと思って。  伝手を頼ってはみたものの、近衛騎士でも【工房】関係の書類は見れないらしいんですよね」 「ああ、そりゃ管轄違いだ。この帝国において技術開発局【工房】は一種の聖域だからな。  ま、実際のところは聖域どころか、この帝国で最も汚染された魔窟といった地域なんだが……」 「先輩?」 「ん、コホン。しかし、それなら回りくどく調べなくても、チーフに直接聞けば早いんじゃないか?」 「聞きましたよ、真っ先に。けど――」       『――……というか、今まで一度たりとも疑問に思わなかったことの方が疑問ッス』 「――と、まぁ、妙にへそを曲げてしまいまして」 「なんだかんだで長い付き合いだからなぁ……」 「どう考えても貴官が悪い。それでは怒るのも無理はあるまい」 「そうなんですけど……ってうどわっ、いつの間に!?」 「今だ。それより、そういう事情ならば正攻法よりも絡め手で攻めるほかあるまい」 「なにか良い作戦でも思いついたのか?」 「うむ、まずだな――」 ***   Take.1 「えーっと……さ、サムソン、ちょっといいですか?」 「? ……なにをやってるッスか、副隊長?」 「え、いや、その……ははは、なんでもないです。で、この提案書なんですけど……」   Take.2 「ピーター、ちょっと待ってくれピーター!」 「はぁ? あの、騎士グラウヴェルデ? 誰に話しかけてるッスか?」 「ん、まぁ、気にするな。で、前に話した飲み会の件なんだが……」   Take.3 「ゴンザエモン、しばし待て」 「誰っ!? ってか、どこの国の人ッスか、それ!!」 「気にするなゴンザエモン。それでこの書類なのだが……」 「いや、訂正してほしいんスけど! ちょ、流さないで!?」 *** 「というわけで『とりあえず適当な名前で呼びかけて反応を見る』という作戦は一応の成功をみた」 「俺様は、かぎりなく失敗している気がして仕方ないんだが」 「一番大きく反応したのは『ゴンザエモン』か……第一候補と言えるな」 「……なぁ、ルー坊。アイツ実は天然なのか?」 「知らなかったんですか? 堅物で杓子定規なところはありますけど、実は結構なド天然ですよ」 「このまま作戦を続行すれば、いつの日か正しい名前に辿りつくだろう。勝利の日は近い」 「どうする? 慌てふためくチーフという面白い図が見れたのはいいんだが、このままだと敗北必死だぞ」 「そう言われても……どうしましょうか?」 *** 「まぁったく……何をやってるんスか、副隊長たちは」 「――ここに居ましたか」 「およ、騎士ヘイゼルッスか。自分に何か用ッスか?」 「書類の不備についてです。この……ここ、サインが抜けていましたから」 「ああ、これは申し訳ないッス」(カキカキ) 「――はい。確かに。お手数をおかけしました」 「別に問題ないッスよ……あ、そうだ騎士ヘイゼル」 「はい、なんでしょう?」 「自分の名前ッスけど……それ、読み方わかるッスか?」 「ええ――変わった響きのお名前ですね。チーフは南方の出身でしたか?」 「まぁ、そんなもんッス。引き止めて悪かったッスね」 「いえ。では」 「…………  …………名前ねぇ。別にいいじゃないッスか。なんて名前でも。  どうせ、この世界では正確に発音できる人なんて居ないんスから。  誰も本当の名前を知らないっていうのも、オツなもんじゃないッスか」 「「「そうはいかない!」」」 「――は?」 「そうだ、ベンジャミン、ベンジャミンじゃないですか!?」 「違う、きっとアーノルドだ! そうだろう!」 「私はハナコという線を推すが」 「「それはない!」」 「はぁ……まだやってたんスか」 「当然だ。当たるまで続けるぞ」 「俺様はもう諦めて次の作戦に移った方がいいと言ったんだがな」 「次て。結局、続けるんじゃないッスか」 「重ねて言うが、当然だ」 「そうですよ。そりゃあ、チーフが「今更」って思うのは当然かもしれないですけど。  ――友達なんだから、呼ぶ呼ばないはともかく、名前くらい知っておきたいじゃないですか」 「……………………はぁ」 「なんだその、やたらと含んだ溜息は。というか「そっちもッスか?」と言わんばかりの目で見るな」 「私たちは成り行きという点が強いな。というか言い切ると「今更」という意見には同意しよう」 「味方がいない!? 恥ずかしい台詞は孤立するとより恥ずかしくなるんですよっ!?」 「悪いな、ルー坊。無駄に恥はかきたくないんだ」 「恥とまでっ!?」 「――はぁ。なんなんスか、もう」 「諦めろ。ルー坊はヘタレで優柔不断で決断力に欠けるが、あれで頑固だ」 「貶されてる! 今、めっちゃ貶されましたよね、僕!」 「否。あれは事実を述べただけであり、言うなれば追確認というものだ」 「方々からっ!? ここに味方は居ないんですか!?」 「まぁ……もうちょっとだけ付き合うッスかね。どの道、先は長いんだし。  終わりなんて、そうそう見つかるもんでもないッスから」 *** 「ニャルラホトテプ!」 「アンゴルモア!」 「サダコ」 「……いい加減自重するッスよ、この愚民ども!」 22:08 (January) <ファンタジー的10の台詞> 22:08 (January) 1「冒険に出たい」 22:08 (January) 2「ご機嫌麗しく?」 22:08 (January) 3「がんじがらめの生活だった」 22:08 (January) 4「待ってってば!」 22:08 (January) 5「これ、食べられる?」 22:08 (January) 6「戦いたくなんて無い」 22:08 (January) 7「それでも守るんだ」 22:09 (January) 8「待ってるだけじゃ何も始まらない」 22:09 (January) 9「例え消えても良い」 22:09 (January) 10「終わりなんて見つからないよ」