第一章 独占禁止法関係  (運用基準等)   六 不公正な取引方法等関係 特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針 平成十一年七月三十日 公正取引委員会 改定 平成一七年六月二九日 第1 はじめに 1 特許制度に代表される技術保護制度は、事業者の研究開発意欲を刺激し、新たな技術やその技術を利用した製品を生み出す原動力となり得るものであり、競争を促進する効果が生ずることが期待される。また、技術取引がなされることにより、異なる技術の結合によって技術の一層効率的な利用が図られたり、新たに技術やその技術を利用した製品の市場が形成され又は競争単位の増加が図られ得るものであり、技術取引によって競争を促進する効果が生ずることが期待される。このように、技術保護制度は、自由経済体制の下で事業者に創意工夫を発揮させ、国民経済の発展に資するためのものであり、その趣旨が尊重されるとともに、円滑な技術取引がなされるようにすることが重要である。     他方、技術取引に伴い、技術の実施の許諾(以下「ライセンス」という。)をする者(以下「ラインセンサー」という。)がライセンスを受ける者(以下「ライセンシー」という。)に対し、その研究開発活動、生産活動、販売活動等、その事業活動を制限することがあるが、かかる制限は、その態様や内容いかんによっては一定の製品市場又は技術市場における競争秩序に悪影響を及ぼす場合がある。また、技術取引に伴い、技術保護制度の趣旨を逸脱して、ライセンサー及びライセンシーが相互に研究開発活動、生産活動、販売活動等を制限したり、第三者を排除する効果を有する取決めを行ったりすれば、一定の製品市場又は技術市場における競争秩序に悪影響を及ぼすこととなる。したがって、技術取引における独占禁止法の運用においては、技術保護制度や技術取引に期待される競争促進効果をいかしつつ、技術保護制度がその趣旨を逸脱して用いられることのないようにするとともに、技術取引に伴い製品市場又は技術市場における競争秩序に悪影響が及ぶことのないようにすることが重要であると考えられる。 2 本指針の構成等 (1) 上記のような観点から、本指針において、技術取引の代表的なものである特許又はノウハウのライセンス契約に対する独占禁止法の適用関係について包括的な考え方を示すこととする。まず、第2においては、特許のライセンス契約と独占禁止法第21条との関係等についての考え方を示している。また、第3においては、特許またはノウハウのライセンス契約について、不当な取引制限や私的独占等の観点からの独占禁止法上の考え方を具体例を挙げて示している(注)。さらに、第4においては、特許又はノウハウのライセンス契約について、不公正な取引方法の観点からの独占禁止法上の考え方を述べ、主要な制限条項について、「原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる」制限条項、「…の場合、不公正な取引方法に該当し、違法となる」制限条項、「原則として不公正な取引方法に該当しない」制限条項の区分を示している。     それぞれの制限条項の基本的な考え方は、次のとおりである。 ア 「原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる」制限条項は、当該制限条項による市場における競争秩序に及ぼす影響が大きいと考えられることから、当該制限条項を課すこととした場合には、原則として不公正な取引方法に該当すると考えられるものである。 イ 「…の場合、不公正な取引方法に該当し、違法となる」制限条項は、当該制限条項の内容だけではなく、ライセンサー及びライセンシーの製品市場又は技術市場における地位、これらの市場の状況、制限が課される期間の長さ等を総合的に勘案して、市場における競争秩序に及ぼす影響に即して、個別に公正競争阻害性が判断され、一定の場合に不公正な取引方法に該当すると考えられるものである。     なお、「個別に公正競争阻害性が判断される」制限条項及び「違法となるおそれは強い」制限条項は、本区分に属するものであるが、後者の制限条項は、その有する公正競争阻害性にかんがみ、不公正な取引方法に該当する蓋然性が相対的に高いと考えられるものである。 ウ 「原則として不公正な取引方法に該当しない」制限条項は、市場における競争秩序に及ぼす影響が小さいと考えられことなどから、当該制限条項を課すこととしても、原則として不公正な取引方法に該当しないと考えられるものである。 (注) 第3において示した〈具体例〉は、本指針の記述についての具体的な理解を助けるために、これまでの審決における違反行為を例示として掲げたものであり、また、〈例〉は、同じく記述についての具体的な理解を助けるために、仮定の行為を違反行為の例示として掲げたものである。      本指針中に示されていないものを含め、具体的な行為が独占禁止法違反となるかどうかについては、独占禁止法の規定に照らして、個々の事案ごとに判断されるものである。 (2) 技術については、その取引をめぐる競争が存在するほか、技術の開発をめぐる競争が存在する場合があるが、後者については、技術開発の成果物である技術の取引又は当該技術を利用した製品の取引市場における競争秩序への影響を通じて問題となり得るものと考えられる。したがって、特許又はノウハウのライセンス契約に伴う制限の競争秩序に及ぼす影響については、適切に画定された製品市場又は技術市場に及ぼす影響をもって判断することとなる(なお、このほか、特許又はノウハウが役務の供給に関するものであるときや特許製品等を用いて役務が供給されるときには、役務の市場に影響が及ぶ場合もあり得るが、本指針において製品市場という場合には、このような役務の市場も含まれるものとする。)。     技術取引に関連する市場の画定方法は、製品又は役務一般と異なるところはなく、製品市場については、通常、特許製品等並びにこれと機能及び効用が同種の製品ごとに市場が画定されると考えられるが、特許又はノウハウのライセンス契約の制限条項の内容によっては特許製品等の部品・原材料等の市場又は特許製品等を用いた別の製品の市場における競争秩序に影響が及ぶ場合もあることから、これらの部品・原材料等の市場や別の製品について市場が画定される場合もある。また、技術市場については、契約対象特許又はノウハウ並びにこれと機能及び効用が同種の技術ごとに市場が画定されることとなる(以下、これらにより画定される市場を単に「市場」という。)。     そして、いかなる市場における競争秩序に影響が及ぶかについては、特許又はノウハウのライセンス契約の制限条項の内容によって異なることから、個別具体的なライセンス契約の制限条項に即して判断することとなる。 3 本指針の適用 (1) 本指針は、特許又はノウハウのライセンス契約について適用されるものである。     また、特許又はノウハウのいわゆるクロスライセンス契約、パテント・プール、マルティプル・ライセンス等の相互的なライセンス契約や多数当事者間のライセンス契約、合弁事業契約の一部として特許又はノウハウのライセンスが行われる場合についても本指針の考え方が適用されるものである。     他方、特許又はノウハウ以外の知的財産権については、本指針の考え方がそのまま適用されるものではないが、これらの権利の排他性には特許又はノウハウの場合と比べて相違がみられることから、その権利の性格に即して可能な範囲内で本指針の考え方が準用されるものである。     なお、本指針においては、契約中に規定されることの多い制限条項に即して考え方を示しているが、独占禁止法上問題となる行為は、単に契約条項として規定されている場合に限られるものではなく、何らかの人為的な手段・方法により相手方の事業活動を制限する場合を広く含むものであるので、このような場合についても本指針の考え方が適用されるものである。 (2) 本指針の考え方は、国内・国外を問わず、事業者間の特許又はノウハウのライセンス契約に対し、無差別に適用されるものである(注)。     なお、国内事業者と外国事業者間又は外国事業者間の特許又はノウハウのライセンス契約に含まれる制限条項については、当該制限条項が課されることにより、我が国市場に影響が及ぶ限りにおいて、本指針の考え方がこれらの契約にも適用されるものである。 (注) なお、親子関係にある事業者間の特許又はノウハウのライセンス契約については、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月11日公表。以下「流通・取引慣行ガイドライン」という。)の〈付1〉の考え方が適用される。 (3) 一の契約の中に、特許及びノウハウライセンスが含まれる場合(特許・ノウハウ混合ライセンス契約)については、特許のライセンス契約及びノウハウのライセンス契約が並列的に締結されたものとみることができるので、本指針の考え方の適用関係については、制限条項がいずれの技術のライセンスに関連するものであるかに応じて判断されることとなる。 (4) 本指針の策定に伴い、「特許・ノウハウのライセンス契約における不公正な取引方法の規制に関する運用基準」及び「特許・ノウハウライセンス契約に係る事前相談制度について」(平成元年2月15日公表)は、廃止する。 4 本指針における用語の定義    本指針において、次に掲げる用語の意義は、当該各用語に定めるところによる。 (1) 特許 特許又は実用新案をいう。この場合において、特許は特許出願中のものを、実用新案は実用新案登録出願中のものを含む。 (2) ノウハウ 秘密性を有し、適切な方法により記述又は記録されているなど適切な形で識別可能な産業に係る一群の有用な技術情報をいう。 (3) 特許等 (1)の特許又は(2)のノウハウをいう。 (4) 特許権 特許権又は実用新案権をいう。 (5) 特許権等 (4)の特許権又は(2)のノウハウをいう。 (6) 特許ライセンス契約 (1)の特許のライセンス契約をいう。 (7) ノウハウライセンス契約 (2)のノウハウのライセンス契約をいう。 (8) 特許製品 ライセンス契約の対象となる特許又は実用新案の実施により製造される製品をいい、方法の特許にあってはその方法により製造される製品をいう。 (9) ノウハウ製品 ライセンス契約の対象となるノウハウの使用により製造される製品をいう。 (10) 特許製品等 (8)の特許製品又は(9)のノウハウ製品をいう。 (11) 競争品 (10)の特許製品等と機能及び効用が同種の製品をいう。 (12) 競争技術 契約の対象となる特許、実用新案又はノウハウと機能及び効用が同種の技術をいう。 第2 特許ライセンス契約に関する独占禁止法第21条の考え方等 1 独占禁止法第21条は「この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない」と規定するところ、特許ライセンス契約に伴う制限の中には、実施地域、実施期間、実施分野の制限など特許法等による権利の行使とみられる行為が関係するものも存在し、また、これらの行為を通じて他の事業者の事業活動が制限されることがあるので、これらの行為については、まず、同条の規定に照らした検討が必要となる。特許権者が特許を他の者にライセンスをする又はライセンスをしないこと、権利侵害者に対して差止め請求訴訟を提起することなど、特許法等による権利の行使とみられる行為についても、同様である。 2 独占禁止法第21条は、@特許法等による「権利の行使と認められる行為」には独占禁止法の規定が適用されず、独占禁止法違反行為を構成することはないこと、A他方、特許法等による「権利の行使」とみられるような行為であっても、それが発明を奨励すること等を目的とする技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、当該行為は「権利の行使と認められる行為」とは評価されず、独占禁止法が適用されることを確認する趣旨で設けられたものであると考えられる。     例えば、外形上又は形式的には特許法等による権利の行使とみられるような行為であっても、当該行為が不当な取引制限や私的独占の一環をなす行為として又はこれらの手段として利用されるなど権利の行使に藉口していると認められるときなど、当該行為が発明を奨励すること等を目的とする技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、特許法等による「権利の行使と認められる行為」とは評価できず、独占禁止法が適用されるものと考えられる。     また、上記以外の場合において、外形上又は形式的には特許法等による権利の行使とみられるような行為であっても、行為の目的、態様や問題となっている行為の市場における競争秩序に与える影響の大きさも勘案した上で、個別具体的に判断した結果、技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、当該行為は「権利の行使と認められる行為」とは評価できず、独占禁止法が適用されることがあり得る。 3 独占禁止法第21条の規定に照らして検討した結果、独占禁止法の適用があるとされる場合には、第3又は第4の考え方に従って不当な取引制限、私的独占等又は不公正な取引方法に該当するか否かの検討が行われることとなる。 4 また、権利の行使についての判断に当たっては、権利の消尽にも留意する必要がある。すなわち、特許権者は特許発明の実施として、製造・使用に関する権利だけでなく、販売に関する権利も専有しており、特許権者から個別にライセンスを受けていない者が特許製品を販売する行為も形式的には特許権を侵害する行為に該当するようにみえるが、特許製品が権利者の意思により適法に拡布された場合には、国内においては当該製品に関する限り、特許権は既にその目的を達しており、その製品について特許権は消尽しているものと解される。したがって、いったん権利者の意志により適法に拡布された特許製品の販売に関する制限については、独占禁止法上、一般の製品の販売に関する制限と同様に取り扱われることとなる。 5 なお、ノウハウについては、他の財産権又は財産的価値を有するものと同様、独占禁止法の規律に服するものであるが、ノウハウは、秘密性を有する知的財産であるところから、ノウハウの所有者のノウハウ自体の使用・収益・処分に関する行為や、ノウハウに基づく一定の行為について、独占禁止法上の問題を検討する際には、この点を踏まえて行われることとなる。     また、ノウハウについては、特許に対比すると、その技術的範囲が不確定であること、保護の排他性が弱いこと、保護期間が不確定であること等の特質を有するものであり、ノウハウライセンス契約の市場における競争秩序に及ぼす影響の判断に当たっては、このようなノウハウの特質を踏まえて判断することも必要と考えられる。 第3 特許・ノウハウライセンス契約に関する不当な取引制限、私的独占等の観点からの考え方 1 考え方     特許等のライセンスは、一般的には、特許等のライセンス及びこれに対する対価の支払を内容とし、これに伴い実施地域の制限、改良発明等の譲渡等一定の制限・義務(以下単に「制限」という。)が一方の当事者に課されるものであり、相互に事業活動を拘束し、競争を実質的に制限することを内容とする不当な取引制限や他の事業者の事業活動を排除、又は支配し、競争を実質的に制限することを内容とする私的独占が直ちに問題となるわけではない。また、特許権者等が自ら特許等を使用することや他の者にライセンスをする(独占的にライセンスをすることを含む。)又はライセンスをしないことそれ自体については、原則として独占禁止法上の問題は生じない。     しかしながら、特許のライセンス契約において、実施地域や実施分野の制限など権利の行使とみられるような行為が不当な取引制限や私的独占の一環をなす行為として又はこれらの手段として利用されることがあり得るので、これらについては、まず、第2の考え方に従って独占禁止法第21条の規定に照らして検討を行い、独占禁止法の適用があるとされる場合には、不当な取引制限、私的独占等に該当するか否かの検討を行うこととなる。 2 不当な取引制限等の観点からの考え方 (1) ライセンサー及びライセンシーの二当事者間で締結される特許等のライセンス契約は、前記1のとおり、通常、相互に事業活動を拘束することを内容とするものではないが、相互に事業活動を拘束する形態で用いられる場合には、不当な取引制限の問題となり得るものである。例えば、特許等のライセンス契約において、相互に特許製品等の販売価格、製造数量、販売数量、販売先、販売地域などについての制限が課され、これにより一定の製品市場における競争が実質的に制限される場合には、不当な取引制限として独占禁止法上違法となるものである。また、相互に研究開発の分野、ライセンスの許諾先、採用する技術などについての制限が課され、これにより一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される場合には、不当な取引制限として独占禁止法上違法となるものである(独占禁止法第3条違反)。 (2) また、ライセンサー及びライセンシーの二当事者間の特許等のライセンス契約であっても、クロスライセンスの形態を採る場合には、相互に事業活動を拘束する形態で用いられることが多くなるし、さらに、多数当事者間の特許等のライセンス契約であるパテント・プールの形態を採る場合には、相互に事業活動を拘束することが多くなるため、特に不当な取引制限の観点からの検討が必要となるものである。 ア クロスライセンス     クロスライセンスとは、特許等の複数の権利者又は所有者(以下単に「権利者」という。)がそれぞれの所有する技術について、相互にライセンスをすることをいう。     クロスライセンスは、複数の権利者が所有する特許等を相互に使用可能とすることにより、当該特許等の利用価値を高め、権利者間の技術交流を促進するなど競争を促進する効果を有し得るものであり、それ自体が不当な取引制限として問題となるものではない。     しかしながら、例えば、特許等のクロスライセンス契約において、相互に特許製品等の販売価格、製造数量、販売数量、販売先、販売地域などについての制限が課され、これにより一定の製品市場における競争が実質的に制限される場合には、不当な取引制限として独占禁止法上違法となるものである。また、相互に研究開発の分野、ライセンスの許諾先、採用する技術などについての制限が課され、これにより一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される場合についても同様である(独占禁止法第3条違反)。 〈例〉 事業者が、次のように、特許製品の販売地域等を分割する行為を行い、これにより市場における競争を実質的に制限すること。 ○ A製品の製法(甲)の特許を有し、A製品の製造販売を行っているa社とA製品の別の製法(乙)の特許を有し、A製品の製造販売を行っているb社が、当該特許につき非独占的なクロスライセンス契約を締結し、今後は、当該A製品の販売地域について、新規ユーザーについては、a社は東日本、b社は西日本のユーザーにのみ販売することを取り決めるような場合 ○ B製品の製法(丙)の特許を有し、B製品の製造販売を行っているc社とB製品の別の製法(丁)の特許を有し、B製品の製造販売を行っているd社が、当該特許につき非独占的なクロスライセンス契約を締結し、今後は、一般品はc社が、特殊品はd社が製造販売を行うことを取り決めるような場合 イ マルティプル・ライセンス     マルティプル・ライセンスとは、特許等の一人の権利者から複数の事業者が同一の特許等についてライセンスを受けることをいう。     マルティプル・ライセンスは、ライセンサーの定める共通の条件により複数のライセンシーに対して非独占的なライセンスが行われる場合には、通常、独占禁止法上問題となるものではない。     しかしながら、例えば、特許等のマルティプル・ライセンス契約において、ライセンサー及び複数のライセンシーが共通の制限を受けるとの認識の下に、ライセンサー及び複数のライセンシーに対し特許製品等の販売価格、製造数量、販売数量、販売先、販売地域などについての制限が相互に課され、これにより一定の製品市場における競争が実質的に制限される場合には、不当な取引制限として独占禁止法上違法となるものである。また、ライセンサー及び複数のライセンシーに対し研究開発の分野、ライセンスの許諾先、採用する技術などについての制限が相互に課され、これにより一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される場合についても同様である(独占禁止法第3条違反)。 〈具体例〉 ○ X社ほか6名に対する件(平成3年(判)第2号)では、ある地方公共団体の調達に係る公共下水道用鉄蓋について、X社の実用新案を取り入れた仕様が当該実用新案を他の事業者にもライセンスをすることを条件に採用され、X社の他の6名に対する非独占的なライセンス契約に関連して、当該地方公共団体に提出する当該鉄蓋の見積価格はX社の見積価格を最低見積価格とすること、7社の工事業者渡し価格及び工事業者のマージン率を決定したこと、X社の販売数量比率を20%とし、残りをX社及び6社で均等配分することとしたことなどが独占禁止法第3条違反とされた。 〈例〉 事業者又は事業者団体が、次のように、特許製品等の製造数量等を調整する行為を行い、これにより市場における競争を実質的に制限すること。 ○ C製品の生産に関する特許等を取得していたe団体が、構成員が生産するC製品の数量を制限することにより需給調整を行い、市況安定を図ることを目的として、構成員との間で当該特許等の非独占的なライセンス契約を締結し、そのライセンス契約において、有力な構成員で構成する理事会において各構成員の生産数量の限度を定め、構成員が当該生産数量の限度を超えて生産したときはライセンス契約を解除することができることを定めたような場合 ウ パテント・プール     パテント・プールとは、特許等の複数の権利者が、それぞれの所有する特許等又は特許等のライセンスをする権限を一定の企業体や組織体(その組織の形態には様々なものがあり、また、その組織を新たに設立する場合や既存の組織が利用される場合があり得る。)に集中し、当該企業体や組織体を通じてパテント・プールの構成員等が必要なライセンスを受けるものをいう。     パテント・プールもクロスライセンス同様、複数の権利者が所有する特許等を相互に使用可能とすることにより、当該特許等の利用価値を高め、権利者間の技術交流を促進するなど競争を促進する効果を有し得るものであり、それ自体が不当な取引制限として問題となるものではない。     しかしながら、例えば、企業体や組織体にプールされている特許等のライセンス契約において、ライセンスを受けるパテント・プールの構成員が共通の制限を受けるとの認識の下に、構成員に対し特許製品等の販売価格、製造数量、販売数量、販売先、販売地域などについての制限が相互に課され、これにより一定の製品市場における競争が実質的に制限される場合には、不当な取引制限として独占禁止法上違法となるものである。また、パテント・プールの構成員に対し研究開発の分野、ライセンスの許諾先、採用する技術などについての制限が相互に課され、これにより一定の製品分野又は技術市場における競争が実質的に制限される場合についても同様である(独占禁止法第3条違反)。 〈例〉 事業者が、次のように、特許製品等の販売地域等を分割する行為を行い、これにより市場における競争を実質的に制限すること。 ○ D製品の有力な製造販売業者5社(f〜j社)の間で、その製品の製造に関連する現在及び将来の特許等を相互にライセンスをし合うことを企図してパテント・プールを設立し、当該パテント・プール設立契約において、@f及びg社は西日本の地域においては販売せず、h、i及びj社は東日本の地域において販売しない旨取り決めるとともに、f及びg社の間並びにh、i及びj社の間の出荷比率を取り決めるなど、相互に販売地域等の制限を課し、Aプールされた特許等については@の制限に従うことに同意する者に対してのみライセンスをする旨取り決めるような場合 (3) なお、パテント・プールが事業者団体により組織され、事業者団体がその構成員に対してプールされた特許等のライセンスをする場合に、一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される等のときは独占禁止法第8条第1項の、また、パテント・プールのために共同出資会社が設立され、共同出資会社がその出資会社に対してプールされた特許等のライセンスをする場合に、一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限されることとなるときは独占禁止法第10条第1項の問題となる。     また、前記(2)ア、イ又はウの行為によって、一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される効果が生じない場合においても、これらの行為が不公正な取引方法の観点から問題となることがある。 3 私的独占等の観点からの考え方     特許法等による権利の行使とみられる行為については、通常、独占禁止法上の問題を生じないものと考えられるが、例えば、外形上又は形式的には特許法等による権利の行使とみられるような行為であっても、当該行為が権利の行使に藉口していると認められるときなど、技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、「権利の行使と認められる行為」とは評価できないものと考えられる。したがって、これらの行為によって他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される場合には、私的独占として独占禁止法上違法となるものである(独占禁止法第3条違反)。 (1) パテント・プール等     パテント・プールは、前記のとおり競争を促進する効果を有し得るものであり、また、第三者がプールされている特許等を合理的な条件で使用することが制限されていなければ、それ自体が私的独占として問題となるものではない。     しかしながら、例えば、一定の製品分野において競争関係にある複数の権利者が当該製品分野に関連する特許等のパテント・プールを組織し、この組織体に特許等を集積するとともに、現在及び将来の改良技術等をすべて当該組織体に集積する結果、当該集積された特許等のライセンスを受けることなくしては当該製品分野等における事業活動が困難となっている場合において、当該パテント・プールを利用して、複数の権利者が新規参入者や特定の既存事業者に対するライセンスを合理的な理由なく拒絶することなどにより、他の事業者の新規参入を阻害したり、既存事業者の事業活動を困難にさせることは、これらの行為により一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される場合には、私的独占として独占禁止法上違法となるものである。     また、例えば、一定の製品分野において競争関係にある複数の権利者が当該製品分野の事業活動に不可欠な特許等を当該権利者間でクロスライセンスをするとともに、現在及び将来の改良技術等をすべて相互にライセンスをする場合において、複数の権利者が新規参入者や特定の既存事業者に対するライセンスを合理的な理由なく拒絶することなどにより、他の事業者の新規参入を阻害したり、既存事業者の事業活動を困難にさせることについても同様である(独占禁止法第3条違反)。 〈具体例〉 ○ X社ら11名に対する件(平成9年(勧)5号)では、パチンコ機を製造するX社ら10社及びY連盟がパチンコ機製造に関する特許等を所有し、そのライセンスなしにはパチンコ機を製造することは困難な状況にあったところ、X社ら10社はこれらの権利の管理をY連盟に委託し、X社ら10社及びYが第三者にはライセンスをしないこと等の方法により新規参入を抑制していたことが独占禁止法第3条違反とされた。     なお、事業者団体がこのようなパテント・プールを利用して、新規参入者や既存事業者を排除する場合には独占禁止法第8条第1項の、このようなパテント・プールのために共同出資会社が設立され、当該パテント・プールを利用して、新規参入者や既存事業者の事業活動を排除する場合には独占禁止法第10条第1項の問題となる。 (2) 特許等の集積     事業者が特許権等を取得し、譲り受け、又はその独占的なライセンスを受けることなどの行為自体が直ちに私的独占として問題となるものではない。     しかしながら、例えば、ある事業者が一定の製品分野に関連する特許等を特に自己が使用する必要性もないのに他の事業者から取得すること等により集積を図り、かつ、当該集積された特許等のライセンスを受けることなくしては当該製品分野における事業活動が困難となっている場合において、当該事業者が当該製品分野への新規参入を阻害するため、第三者へのライセンスを拒絶すること、特許侵害訴訟を提起することなどにより、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することは、これらの行為により一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される場合には、私的独占として独占禁止法上違法となるものである(独占禁止法第3条違反)。 〈例〉 事業者が、次のように、特許等を利用して他の事業者の事業活動を支配又は排除する行為を行い、これにより市場における競争を実質的に制限すること。 ○ E製品の有力な製造販売業者k社はE製品の製造に係る特許等を有していたところ、これと異なる製法を用いた安価な外国製のE製品の輸入を阻止する目的で、他社が所有する関連製法特許を買い集め、外国の製造業者に対して特許侵害訴訟を提起するなどして、外国製のE製品の輸入を阻止するような場合 (3) ライセンス契約上の制限     ライセンサーがライセンシーに対して課すことのある様々なライセンス上の制限については、主として、後記第4のとおり、不公正な取引方法の観点から検討がなされるものであるが、市場における有力な事業者がこのような制限を課し、これによりライセンシーなど他の事業者の事業活動を支配し、又は排除することにより、一定の製品市場又は技術市場の競争を実質的に制限する場合には、私的独占として違法となる。     例えば、ある特許等が一定の製品分野において、いわゆる事実上の標準としての地位を有するに至るなど当該製品分野の事業活動に不可欠なものとなっているため、当該特許等のライセンスを受けることなくしては当該製品分野等における事業活動が困難となっている場合において、当該特許等のライセンスに伴い、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンサーの指定する他の製品又は技術の購入を強制することにより、当該指定された製品と競合する製品を製造する事業者の事業活動を排除することなど、特許等のライセンス契約上の制限によりライセンシー等他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することは、これらの行為により一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される場合には、私的独占として独占禁止法上違法となるものである(独占禁止法第3条違反)。 〈例〉 事業者が、次のように、特許を利用して他の事業者の事業活動を支配又は排除する行為を行い、これにより市場における競争を実質的に制限すること。 ○ F製品の有力な製造販売業者l社の保有する特許が業界の事実上の標準となっており、当該特許のライセンスを受けなければ当該F製品の製造を行うことが困難となっている状況の下で、l社が当該特許のライセンスの条件として同社の製造する他のG製品の購入を強制し、G製品の競争品の製造販売業者m社が市場から排除されるような場合     なお、前記(1)、(2)又は(3)の行為によって、一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される効果が生じない場合においても、これらの行為が不公正な取引方法の観点から問題となることがある。 第4 特許・ノウハウライセンス契約に関する不公正な取引方法の観点からの考え方 1 考え方 (1) 特許又はノウハウのライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、実施地域、実施期間等のライセンスの範囲に関する制限、研究開発活動等の制限、特許製品等の製造、販売等に関する制限などライセンシーの事業活動に関して様々な制限を課す(注)ことがある。     特許ライセンス契約におけるこのような制限については、特許法等による「権利の行使」とみられる行為でない場合及び第2の考え方に従って独占禁止法第21条の規定に照らして検討を行い、特許法等による「権利の行使」とみられるような行為であっても独占禁止法の適用があるとされる場合には、以下の考え方に従って不公正な取引方法に該当するか否かの検討を行うこととなる。     また、ノウハウライセンス契約におけるこのような制限については、以下の考え方に従って不公正な取引方法に該当するか否かの検討を行うこととなる。 (注) 第4においては、原則としてライセンサーが単独のライセンシーに対してライセンスをする場合を想定して記述しているところ、マルティプル・ライセンスの場合も基本的には同様に考えられるが、マルティプル・ライセンスについては、複数のライセンシーが同様の制限を負うことから、ライセンシーが単独の場合に比して市場における競争秩序に及ぼす影響は大きくなることがあり、当該制限の公正競争阻害性に関する評価が異なる場合があることに留意する必要がある。また、マルティプル・ライセンスにおいて、不当な取引制限又は私的独占の問題が生じ得ることについては、前記第3のとおりである。      また、ライセンサーがライセンシーに対して第三者に対してサブライセンスをする権利を付与する場合があるが、この場合にサブライセンス契約においてライセンシーが当該第三者(サブライセンシー)に対して課すこととしている制限については、基本的には、ライセンサーがライセンシーに課す制限についての考え方と同様に取り扱うこととなる。 (2) 上記各制限については、後記2以下において述べる観点に加え、優越的地位の濫用(一般指定第14項)の観点からの検討が必要となる場合もある。     優越的地位(注1)の濫用については、基本的に後記2以下において述べる各制限のいずれについても問題となり得るものであり(注2)、また、これらの各制限以外の制限についても、優越的地位の濫用の観点から、問題となる場合もあり得るものである。かかる場合には、各制限に係る考え方において示された一般指定の条項だけではなく、一般指定第14項が適用され得るものである(このため、以下の各制限においては、優越的地位の濫用に該当することがあるか否かについて個別に言及していない。)。 (注1) ライセンサーの取引上の地位がライセンシーに対して優越している場合とは、ライセンシーにとってライセンサーとの技術取引を行い得ないこと又は技術取引の継続が困難になることがその事業経営上大きな支障を来すため、当該ライセンサーの要請がライセンシーにとって著しく不利益なものであっても、これを受け入れざるを得ないような場合であり、その判断に当たっては、ライセンシーの事業活動におけるライセンサーが有している特許等への依存度、ライセンサー及びライセンシーの製品市場又は技術市場における地位、ライセンシーの取引先の変更可能性、当該製品市場又は技術市場の状況、ライセンサー及びライセンシー間の事業規模の格差等が総合的に考慮される。      したがって、ライセンスを受けようとする特許等の価値が高いという理由だけでライセンサーの取引上の地位がライセンシーに対して優越していることとならないことは当然である。 (注2) 優越的地位の濫用として問題となり得る場合を例示すると次のとおりである。      ライセンサーがライセンシーに対して、特許権消滅後等における技術の実施料の支払義務、一括ライセンス、改良発明等の譲渡・独占的ライセンス義務、非係争義務、原材料・部品等の購入先の制限、商標等の使用義務などの制限を課すことによって、ライセンサーが正常な商慣習に照らして不当に取引の条件又は実施についてライセンシーに不利益を与えることとなる場合 2 ライセンスの範囲に関する制限 (1) 考え方 ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンシーが実施し得る範囲を限定する目的で製造・使用・販売等に区分して、特許権の有効期間中において期間を限って、特許権が有効である我が国において地域を区分して、又は特許の実施(製造、使用、販売等)を一定の技術分野に限って、それぞれライセンスをするなど、ライセンスの範囲について制限を課すことがある。このように特許法等において「実施」として規定されている行為を区分してライセンスをする行為については、特許法等による権利の行使とみられる行為であり、また、通常は市場における競争秩序に及ぼす影響も小さいと考えられることから、通常、独占禁止法上の問題は生じないと考えられる。 イ これに対して、このようなライセンスの範囲に関する制限が特許法等による権利の行使とみられる行為でない場合やノウハウライセンス契約におけるライセンスの範囲に関する制限については、独占禁止法が適用されることは当然であり、当該制限の市場における競争秩序に及ぼす影響に即して、個別に公正競争阻害性が判断される。 (2) 製造・使用・販売等の区分許諾 ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許の実施を製造・使用・販売等に区分してライセンスをすることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 イ ノウハウライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、製造・使用・販売等に区分してライセンスをすることは、ライセンシーが使用し得るノウハウの利用範囲を限定する内容のものであれば、原則として不公正な取引方法に該当しない。 (3) 期間の制限 ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許権の有効期間中において期間を限ってライセンスをすることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 イ ノウハウライセンス契約についても、アと同様である。 (4) 地域の制限 ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許権が有効である我が国において地域を区分してライセンスをすることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。     ただし、ライセンサーの特許が国内において消尽していると認められる場合において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品の販売地域を制限させることについては、特許法等による権利の行使とみられる行為ではないと考えられ、基本的に流通・取引慣行ガイドライン第2部−第二−3「流通業者の販売地域に関する制限」に示された考え方により、その市場における競争秩序に及ぼす影響に即して、個別に公正競争阻害性が判断される。 イ ノウハウライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、地域を区分してライセンスをすることは、ライセンシーのノウハウの使用地域を限定する内容のものであれば、原則として不公正な取引方法に該当しない。     ただし、ライセンサーがライセンシーのノウハウ製品の販売地域を制限することについては、基本的に流通・取引慣行ガイドライン第2部−第二−3「流通業者の販売地域に関する制限」に示された考え方により、その市場における競争秩序に及ぼす影響に即して、個別に公正競争阻害性が判断される。 (5) 技術分野の制限 ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許の実施(製造、使用、販売等)を一定の技術分野に限ってライセンスをすることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。     ただし、技術分野の制限と関係なく、ライセンサーがライセンシーの特許製品の販売分野又は販売先を制限すること(注)については、特許法等による権利の行使とみられる行為ではないと考えられ、後記5−(3)−イ(販売先の制限)の考え方が適用される。 イ ノウハウライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、ノウハウの使用を一定の技術分野に限ってライセンスをすることは、ライセンシーが使用し得るノウハウの利用分野を限定する内容のものであれば、原則として不公正な取引方法に該当しない。     ただし、技術分野の制限と関係なく、ライセンサーがライセンシーのノウハウ製品の販売分野又は販売先を制限すること(注)については、後記5−(3)−イ(販売先の制限)の考え方が適用される。 (注) 卸売販売のみを許容し、小売販売を禁止すること、訪問販売業者など特定の販売方法を用いる者に対してのみ販売する義務を課すことなどをいう。 3 ライセンスに伴う制限・義務等 (1) 考え方 ア 特許又はノウハウのライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンスに伴って一定の製品の製造数量等に基づく実施料の支払義務、特許権消滅後における技術の使用制限、一括ライセンス、不争義務、研究開発活動の制限、改良発明等の譲渡などライセンシーの事業活動に関して様々な制限を課すことがある。 イ 特許ライセンス契約におけるこのような制限の多くについては、特許法等による権利の行使とみられる行為ではないと考えることから、市場における競争秩序に及ぼす影響に即して、個別に公正競争阻害性が判断される。     この点については、ノウハウライセンス契約についても基本的に同様である。 (2) 技術等の使用又は実施料に関する義務 ア 一定の製品の製造数量等による実施料支払義務 (ア) 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、契約対象特許を使用しているか否かを問わず、ライセンシーの特許製品又は特許製品でない一定の製品の製造数量又は販売数量等に基づいて実施料の支払義務を課すことは、競争品又は競争技術の取扱いを制限する効果を持つこととなる場合には、後記4−(3)(競争品の製造、使用等又は競争技術の採用の制限)の考え方により検討され、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第11項(排他条件付取引)又は一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。     ただし、契約対象特許が製造工程の一部に使用される場合又は部品に係るものである場合に、計算等の便宜上当該特許若しくは部品を使用した最終製品の製造・販売数量若しくは製造・販売額を実施料の算定基礎とすること、又は計算等の便宜上特許製品の製造に必要な原材料、部品等の使用数量若しくは使用回数を実施料の算定基礎とすることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 (イ) ノウハウライセンス契約についても(ア)と同様である。 イ 特許権消滅後等における使用制限又は実施料支払義務 (ア) 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許権が消滅した後においても当該技術の使用を制限し、又は当該技術の実施に対して実施料の支払義務を課すことは、ライセンシーが自由に当該技術を使用して製品市場又は技術市場において事業活動を行うことを制限し、同市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると考えられ、また、特許権が消滅した後は、誰でも自由に当該技術を使用できるものであり、ライセンサーには当該技術の使用を制限したり、当該技術の実施に対して実施料の支払義務を課す権限もないことから、不公正な取引方法に該当し、違法となるおそれは強いものと考えられる(一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。     ただし、実施料の分割払い又は延払いと認められる範囲内で、特許権が消滅した後においてもライセンシーの実施料の支払義務が継続する旨規定することは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 (イ) ノウハウライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンシーの責によらず契約対象ノウハウが公知となった後においても当該技術の使用を制限し、又は当該技術の実施に対して実施料の支払義務を課すことについての考え方も、(ア)の本文と同様である。     また、実施料の分割払い若しくは延払いと認められる範囲内で、又は契約期間中の短期間に限って、契約対象ノウハウが公知となった後においてもライセンシーの実施料の支払義務が継続する旨規定することは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 (3) 一括ライセンス ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、複数の特許等について一括してライセンスを受ける義務を課す(注1)ことは、ライセンシーに対し一定の特許の実施に併せて他の技術を自己又は自己の指定する者からライセンスを受けるように強制することによって、ライセンシーの技術の選択の自由が制限され、競争事業者とライセンシーとの取引が制限されることにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第10項(抱き合わせ販売等)に該当)。     ただし、契約対象技術の効用を保証する(注2)ために必要な範囲内で、複数の特許等について一括してライセンスを受ける義務を課すことは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 イ ノウハウライセンス契約についてもアと同様である。 (注1) 複数の特許等について一括してライセンスを受ける義務を課す場合であっても、そのうち使用された特許等についてのみ対価を支払う契約となっている場合には、一括してライセンスを受ける義務を課していることには該当しない。 (注2) 「契約対象技術の効用を保証する」とは、ライセンサーがライセンシーに対して契約対象技術について一定程度以上の効用があることを保証している場合をいう。 (4) 不争義務 ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンスされた特許権の有効性について争わない義務(注)を課すことは、本来特許を受けられない技術について特許権が存続し続けることにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。     ただし、特許ライセンス契約において、ライセンシーがライセンスされた特許権の有効性について争った場合、ライセンサーが当該ライセンス契約を解除し得る旨規定することは、ライセンシーが当該特許権の有効性について争うことができるときには、原則として不公正な取引方法に該当しない。 (注) 「特許権の有効性について争わない義務」とは、例えば、特許発明に対して特許異議の申立てを行ったり、特許無効審判の請求を行ったりしないなどの義務をいう。 イ ノウハウライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、契約対象ノウハウが公知となったかどうかについて争わない義務を課すことについての考え方も、アの本文と同様である。     また、ノウハウライセンス契約において、ライセンシーが契約対象ノウハウが公知となったとして争った場合、ライセンサーが当該ライセンス契約を解除し得る旨規定することは、ライセンシーが当該ノウハウが公知となったかどうかについて争うことができるときには、原則として不公正な取引方法に該当しない。 (5) 研究開発活動、改良発明等に関する制限・義務 ア 研究開発活動の制限 (ア) 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、契約対象特許又は競争技術についてライセンシーが自ら又は第三者と共同して研究開発を行うことを制限することは、ライセンシーの重要な競争手段である研究開発に係る事業活動を制限するものであり、将来にわたって製品市場又は技術市場におけるライセンシーの事業活動を制約し、長期的に同市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると考えられ、また、通常、ライセンサーにとって本制限を課す合理的な理由があるとは認められないことから、不公正な取引方法に該当し、違法となるおそれは強いものと考えられる(一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。     (なお、共同研究開発の実施に関する事項についての独占禁止法上の取扱いについては、「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(平成5年4月20日公表)の第2−2−(1)の記載のとおりである。) (イ) ノウハウライセンス契約についても基本的には(ア)と同様である。     ただし、契約対象ノウハウの内容によっては、ノウハウの流用を防止することが秘密保持義務、実施分野の制限その他の制限によっては達成が困難な場合があり得ると考えられ、このような場合において、契約対象ノウハウの流用防止のために必要な範囲内で合理的な期間に限って、ライセンシーが第三者と共同して研究開発を行うことを制限することは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 イ 改良発明等に関する義務 (ア) 改良発明等の譲渡・独占的ライセンス義務 a 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンシーによる改良発明、応用発明等についてライセンサーにその権利自体を帰属させる(注1)義務又は独占的ライセンスをする(注2)義務を課すことは、ライセンサーが特許製品又は当該特許に係る技術の分野における有力な地位を強化することにつながること、又はライセンシーの取得した知識、経験や改良発明等を自ら使用し、若しくは第三者にライセンスをすることが制限される(注3)ことによってライセンシーの研究開発の意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害することにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると考えられ、また、通常、ライセンサーにとって本制限を課す合理的な理由があるとは認められないことから、不公正な取引方法に該当し、違法となるおそれは強いものと考えられる(一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。 b ノウハウライセンス契約についてもaと同様である。 (注1) ライセンシーによる改良発明、応用発明等をライセンサーとライセンシーとの共有とすることは、ライセンシーにも当該権利が帰属するとみられるので、通常は本制限に該当しない(ただし、ライセンシーによる当該権利の利用又は処分を制約することとなるので、後記(イ)の非独占的ライセンスの問題となることがある。)。      また、ライセンシーによる改良発明、応用発明等が相応の対価でライセンサーに譲渡される場合についても、通常は本制限に該当しない(独占的ライセンスの場合も同様である。)。      さらに、ライセンシーが特許出願を希望しない国・地域についてライセンサーに対して、特許出願をする権利を与える義務を課すことは、ライセンサーによってライセンシーの権利の利用又は処分を制約することにはならないので、本制限に該当しない。 (注2) 独占的ライセンスをするとは、特許法に規定する専用実施権を設定すること及び権利者自身もライセンス地域内で実施しないことを契約上定めて独占的な通常実施権を与えることをいう。したがって、本指針においては、権利者自身が実施する権利を留保する形態の独占的な通常実施権のライセンスは、独占的ライセンスに該当せず、非独占的ライセンスとして取り扱われる。 (注3) ライセンシーの取得した知識、経験や改良発明等を自ら使用し、又は第三者にライセンスをすることが制限されるか否かの判断に当たっては、我が国におけるこれらの事業活動の制限の状況だけでなく、世界的にみてこれらの事業活動が制限されているか否かを考慮することとなる。したがって、ライセンサーの母国市場における改良発明等の譲渡、独占的ライセンスが義務付けられているとしても、その他の市場におけるライセンシーのこれらの事業活動が制限されていないとみられる場合には、ライセンシーの研究開発の意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害するおそれは小さいとみられることがある。 (イ) 改良発明等の非独占的ライセンス義務 a 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンシーによる改良発明、応用発明等についてライセンサーへの非独占的ライセンスをする義務(注)を課すことは、原則として不公正な取引方法に該当しない。     ただし、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンシーによる改良発明、応用発明等について第三者にライセンスをすることを制限する内容のライセンサーへの非独占的ライセンスをする義務を課すことは、ライセンシーの研究開発意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害することにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。 b ノウハウライセンス契約についてもaと同様である。    (注) (ア)の(注1)及び(注2)参照 (ウ) 取得知識、経験の報告義務 a 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、契約対象特許についてライセンシーが取得した知識又は経験をライセンサーに報告する義務(注)を課すことは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 b ノウハウライセンス契約についてもaと同様である。 (注) 本報告義務は、ライセンシーが取得した知識又は経験の内容をライセンサーに開示することにより、当該知識又は経験のライセンスをすることと同様の効果を生ずる場合まで含むものではない。このような場合については、前記(ア)又は(イ)の考え方により検討される。 (6) 非係争義務 ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンシーが所有し、又は取得することとなる全部又は一部の特許権等をライセンサー又はライセンサーの指定する者に対して行使しない義務(注)を課すことは、ライセンサーが特許製品若しくは当該特許に係る技術の分野における有力な地位を強化することにつながること、又はライセンシーの特許権等の行使が制限されることによってライセンシーの研究開発の意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害することにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。     ただし、実質的にみて、ライセンシーに対して、改良発明等の非独占的ライセンス義務が課されているにすぎない場合については、前記(5)−イ−(イ)−aの本文記載のとおりである。 イ ノウハウライセンス契約についてもアと同様である。 (注) ライセンシーが所有し、又は取得することとなる全部又は一部の特許権等をライセンサー又はライセンサーの指定する者に対してライセンスをする義務を含む。 (7) その他の制限・義務等 ア 最善実施努力義務 (ア) 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、契約対象特許を実施するため最善の努力をする義務を課すことは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 (イ) ノウハウライセンス契約についても(ア)と同様である。 イ 秘密保持義務     ノウハウライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、契約期間中及び契約期間終了後において契約対象ノウハウの秘密性を保持する義務(当該ノウハウを第三者に漏えいしない義務を含む。)を課すことは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 ウ 一方的解約条件 (ア) 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、当事者の支払い不能等による履行不能以外の事由を理由として一方的に又は適当な猶予期間を与えることなく直ちに契約を解除し得る旨規定すること等、ライセンシーに一方的に不利益な解約条件を課すことは、当該制限が本指針の第4における独占禁止法上問題となる制限の実効性を確保する手段となっていたり、又は実効性を確保する効果を有している場合には、当該制限とともに本制限も不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第11項(排他条件付取引)、一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。 (イ) ノウハウライセンス契約についても(ア)と同様である。 4 特許製品等の製造に関連する制限・義務 (1) 考え方 ア 特許又はノウハウのライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品等の製造に関連して、製造数量等の制限、競争品の製造等の制限、原材料等の購入先の制限、特許製品等の品質の制限等、一定の制限を課すことがある。 イ 特許ライセンス契約におけるこのような制限の多くについては、特許法等による権利の行使とみられる行為ではないと考えられることから、市場における競争秩序に及ぼす影響に即して、個別に公正競争阻害性が判断される。     この点については、ノウハウライセンス契約についても基本的に同様である。 ウ 製造数量等の制限については、第2の考え方に従って独占禁止法第21条の規定に照らして検討を行い、独占禁止法の適用があるとされる場合には、後記(2)アのとおり、その制限の目的、態様や市場における競争秩序に及ぼす影響の大きさに照らして、個別に公正競争阻害性が判断される。 (2) 製造数量又は使用回数の制限 ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品の最低製造数量又は方法の特許の最低使用回数を制限することは、ライセンサーが最低限の実施料収入を確保する内容のものであれば、原則として不公正な取引方法に該当しない。     ただし、特許製品の最高製造数量又は方法の特許の最高使用回数を制限することは、その制限の目的、態様や市場における競争秩序に及ぼす影響の大きさに照らして、個別にその公正競争阻害性を判断し、当該市場において需給調整効果が生ずるなどの場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。 イ ノウハウライセンス契約についても基本的にはアと同様である。 (3) 競争品の製造、使用等又は競争技術の採用の制限 ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンシーが競争品を製造、使用すること等又は競争技術を採用することを制限することは、ライセンシーの製造する製品若しくは採用する技術の選択の自由を制限すること、若しくはこれらの制限によって特許製品に係る競争を阻害すること、又は競争事業者の取引先若しくはそれとの取引の機会を奪うことにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる。     特に、契約終了後において競争品を製造、使用すること等又は競争技術を採用することを制限することは、通常、ライセンサーにとって出来高払実施料により利益を確保する上で必要である(注)といった合理的な理由があるとは認められないことから、不公正な取引方法に該当し、違法となるおそれは強いものと考えられる(一般指定第11項(排他条件付取引)又は一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。 イ ノウハウライセンス契約についても基本的にはアと同様である。     ただし、契約対象ノウハウの内容によっては、ノウハウの流用を防止することが契約終了後の実施制限その他の制限によっては達成が困難な場合があり得ると考えられ、このような場合において、契約対象ノウハウの流用防止のために必要な範囲内で契約終了後短期間に限ってライセンシーの競争品を製造、使用すること等又は競争技術を採用することを制限することは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 (注) 「出来高払実施料により利益を確保する上で必要である」とは、ライセンシーによる実施料の支払いが特許製品の製造数量等に応じて行われる場合において、ライセンシーによる特許の最善の実施を確保するための手段として、競争品の製造等を制限することが必要である場合を指す。 (4) 原材料、部品等の購入先の制限 ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、原材料、部品等をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者から購入する義務を課すことは、ライセンシーの原材料、部品等の購入先の選択の自由が制限されること、又は原材料、部品等のその他の製造業者若しくは販売業者が代替的な取引先若しくはそれとの取引の機会を容易に確保することができなくなることにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第10項(抱き合わせ販売等)、一般指定第11項(排他条件付取引)又は一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。     ただし、契約対象技術の効用を保証すること又は商標等の信用を保持することが原材料、部品等の品質の制限その他の制限によっては達成が困難な場合があり得ると考えられ、このような場合において、契約対象技術の効用を保証するため又は商標等の信用を保持するために必要な範囲内で、原材料、部品等の購入先を制限することは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 イ ノウハウライセンス契約についても基本的にはアと同様である。     また、契約対象ノウハウの秘密性を保持するために必要な範囲内で、ライセンシーの原材料、部品等の購入先を制限することについても、原則として不公正な取引方法に該当しない。 (5) 特許製品、原材料、部品等の品質の制限 ア 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品、原材料、部品等の品質を制限することは、原材料、部品等の購入先を制限することと同様、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、前記(4)アで示した考え方のとおり、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第11項(排他条件付取引)又は一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。     ただし、ライセンサーがライセンシーに対して、契約対象技術の効用を保証するため又は商標等の信用を保持する(注1、2)ために必要な範囲内で、特許製品、原材料、部品等について一定以上の品質を維持する義務を課すことは、原則として不公正な取引方法に該当しない。 イ ノウハウライセンス契約についてもアと同様である。 (注1) 「商標等の信用を保持する」場合とは、ライセンサーがライセンシーに対して自己の商標等の使用をライセンスしており、かつ、ライセンシーが現にそれを使用することとなる場合をいう。 (注2) 「商標等」には、登録商標、登録されていない商標などが含まれる。 5 特許製品等の販売に関連する制限・義務 (1) 考え方 ア 特許又はノウハウのライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品等の販売に関連して、再販売価格の制限、販売価格の制限、販売数量の制限、販売先の制限、競争品の販売の制限、商標等の使用義務等、一定の制限を課すことがある。 イ 特許ライセンス契約におけるこのような制限のほとんどについては、特許法等による権利の行使とみられる行為ではないと考えられることから、市場における競争秩序に及ぼす影響に即して、個別に公正競争阻害性が判断される。     この点については、ノウハウライセンス契約についても基本的に同様である。 ウ(ア) このような制限に関する独占禁止法の一般的な考え方については、流通・取引慣行ガイドライン第2部において、消費財がメーカーから消費者の手元に渡るまでの流通取引を念頭においてその考え方を明らかにしているところであるが、特許製品等の流通についても、そこに示されている考え方が基本的に当てはまるものである(注)。 (注) したがって、後記の特許製品等の販売に関連する非価格制限については、ライセンシーが特許製品等の市場において、「有力な」地位にある(流通・取引慣行ガイドライン第2部−第二−2−(2)−(注4)参照)などの場合に、不公正な取引方法として問題となるものである。 (イ) このうち価格制限については、事業者が市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定することは、事業者の事業活動において最も基本的な事項であり、これにより事業者間の競争と消費者の選択が確保されるものであるから、ライセンサーがライセンシーの再販売価格又は販売価格を制限することは、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となると考えられる。 (ウ) 販売数量の制限、販売先の制限、競争品の販売の制限、商標等の使用義務などの非価格制限については、ライセンサー及びライセンシーの市場における地位等によって、これらの制限が市場における競争秩序に及ぼす影響が異なるため、基本的には、市場における競争秩序に及ぼす影響に即して、個別に公正競争阻害性が判断される。 (エ) なお、特許又はノウハウのライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品等について、輸出し得る地域、輸出価格、輸出し得る数量を制限したり、ライセンサーが指定する者を通じて輸出する義務などを課すことがあるが、これらの輸出取引に係る制限については、本指針の関連箇所に示された考え方に照らして検討し、当該制限による我が国市場における競争秩序に及ぼす影響に即して、個別に公正競争阻害性が判断される。この場合においては、制限を受ける輸出地域においてライセンサーが、特許製品について特許権を登録しているか、特許製品等について自ら経常的な販売活動を行っているか、又は第三者の独占的販売地域として認めているか等の事情も考慮される。 (2) 価格制限 ア 再販売価格の制限 (ア) 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品の国内における再販売価格を制限させることは、卸売業者や小売業者の価格決定の自由を制限し、これら事業者の間の特許製品に係る価格競争を減少・消滅させ、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあることから、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。 (イ) ノウハウライセンス契約についても(ア)と同様である。 イ 販売価格の制限 (ア) 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品の国内における販売価格を制限することは、ライセンシーの価格決定の自由を制限し、特許製品に係る価格競争を減少・消滅させ、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあることから、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。 (イ) ノウハウライセンス契約についても(ア)と同様である。 (3) 非価格制限 ア 販売数量の制限     特許又はノウハウのライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品等の販売数量を制限することについての考え方は、前記4−(2)(製造数量又は使用回数の制限)と同様である。 イ 販売先の制限 (ア) 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品についてライセンサー若しくはライセンサーが指定する者を通じて販売する義務を課すこと又はライセンサーが指定する者には販売しない義務を課すことは、ライセンシーの販売先の選択の自由が制限されることにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼずおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。 (イ) ノウハウライセンス契約についても(ア)と同様である。 ウ 競争品の販売の制限     特許又はノウハウのライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、競争品を販売することを制限することについての考え方は、前記4−(3)(競争品の製造、使用等又は競争技術の採用の制限)と同様である。 エ 商標等の使用義務 (ア) 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品についてライセンサーが指定する商標等を使用する義務を課すことは、特許のライセンスに併せて商標等についても自己又は自己の指定する者からライセンスを受けるよう強制することによって、ライセンシーの商標等の選択の自由が制限され、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合(注)には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第10項(抱き合わせ販売等)又は一般指定第13項(拘束条件付取引)に該当)。 (イ) ノウハウライセンス契約についても(ア)と同様である。 (注) この場合においては、ライセンシーが特許製品に自己の製造に係るものである旨表示することが制限されているかどうか等の事情も考慮される。