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青春探偵小説『グランドスラムの少女達』
1青春探偵小説『グランドスラムの少女達』 投稿者:リリー  投稿日:2008年01月14日(月)21時35分44秒
『グランドスラムの少女達』

CAST

藤本七海 
細川藍
一木有海  

『R&G探偵社』第3弾
『表バージョン』と『裏バージョン』の二つの小説が交互に展開し、お互いに影響し合います
『表』…聖テレジア女子学園中等部と、その野球部のメンバーを中心とした青春スポコン小説
『裏』…『R&G探偵社』の少女探偵達が、悪と戦うアクション小説
第一試合(第一話)から第三試合(第三話)までの三話構成です
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4751投稿者:リリー  投稿日:2008年10月29日(水)21時18分05秒
4752投稿者:うんこ  投稿日:2008年10月29日(水)21時18分15秒
4753投稿者:リリー  投稿日:2008年10月29日(水)21時18分25秒
4754投稿者:ちんこ  投稿日:2008年10月29日(水)21時18分35秒
4755投稿者:ちんこ  投稿日:2008年10月29日(水)21時18分48秒
4756投稿者:117  投稿日:2008年10月29日(水)21時21分58秒
うわぁ、有沙が・・・でも、耐える。しかも一瞬、“野球”への思いがよぎる・・・。
梨生奈たちは「TDD」の弱みである、藍と有海を救い出そうとするわけですか。
そんな中、行方不明だった帆乃香が現われて・・・続きが気になります!
4757投稿者: 投稿日:2008年10月29日(水)22時31分04秒

4758投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時34分24秒
117さん
帆乃香が有海と行方不明になったのは、お昼頃です
今は明け方ですから、まだ姿を消す時刻ではありません
もう、ひと波乱あります

では、更新します
4759投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時34分44秒
「アジトに集合?どうして?」
中村有沙への拷問を中断され、理沙は不機嫌そうな顔をする。
「これから作戦会議やって…。年内に『R&G』とは決着をつけたいから…」
「作戦会議?だったら、今、ダーブロウの妹から隠れ家の居場所を聞き出すから、それからでもいいでしょ?」
「聞き出す?ありりんから?」
帆乃香は、眉を顰めて虫の息の状態の中村有沙を見る。
「何にも喋らんと思うで…。殺されても…。ありりんは、そういう人や…」
ちっと、理沙は舌打ちをする。
「それで、あんた、それを知らせにわざわざ来たわけ?電話でもメールでも知らせればいいのに…」
「いや、ウチがここに代わりに残って、ありりんを見張らなアカンやろ?」
「見張り…?あんたが…?」
少し天井を仰いで、考え込む理沙。
そして、帆乃香に視線を落とす。
「あんたみたいな子供一人に、見張りなんてできるの?」
「しゃあないやん。お爺ちゃんの言いつけやし…」
子供扱いされた帆乃香は、少し頬を膨らませている。
「いくらボスの命令でも、心配だわ…。みのぽー、あなたがここに…」
「私が残るよ。弥勒姉さん」
恵が、理沙の言葉を遮った。
4760投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時35分18秒
「恵…?あなたが…?」
理沙は不可解な表情で恵を見た。
「ああ…。私、会議って眠くなっちまうんだよな。それに、私は上が決めたことをただ実行するだけだし…」
「………ま、いいわ…。あなたがここに残って…。でも、くれぐれも…」
「わかってるよ!殺すなって言うんだろ?コイツをよ…」
恵は、親指で中村有沙を指す。
「いえ…指一本触れないでね。彼女には…。絶対によ?約束できる?」
「ああ、約束する」
「…信用するけど…。帆乃香、あなたは?」
「ここに残るよ。だって、お爺ちゃんの命令やもん」
「そう…。じゃあ、私達は行くわ…」
理沙は、それでも何度も恵に念を押し、はるかと共にアジトに向かう為、ナットー製鉄の工場を後にした。
4761投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時35分29秒
工場内に、恵と帆乃香と中村有沙が残された。
「へへ…。一旦、拷問は中断だ。命拾いしたな?ええ?おい」
恵は、木箱に腰を降ろし、ぐったりしたまま縛り上げられている中村有沙を眺めた。
帆乃香は、中村有沙にゆっくりと近づく。
彼女の顔は、垂れ下がった髪の毛で窺うことができない。
「ありりん…。ズタボロやん…」
帆乃香は、中村有沙の耳元に、囁く。
「あれ程、鎖鎌に触るな、言うたのに…」
哀れむような表情で、髪の毛の間に微かに除く、彼女の目を見詰める。
「楽に死ねると思うたん?」
4762投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時35分48秒
「おい、何の話だよ?」
恵が、話しに割り込んできた。
「ああ…。お爺ちゃんがな、ありりんを占うたことがあるんよ…。鎌に触ったら命を落とすて…」
それを聞いて、恵は足の裏をパンと合わせて笑った。
「ははは!!相変わらず当たるねぇ…。ボスの占いは…」
帆乃香は、再び中村有沙の目を覗く。
「ありりん…。ななみんは…怪我とかしなかったん?」
ジロリと帆乃香を睨む、中村有沙。
「…そんなに…七海が…心配か…?」
「うん。はっきり言って、あんたなんか、どうでもええんよ…。このまま死んでまってもな…」
「………ふん…。私もだ…」
「…何が?」
「このまま死んでも、構わない…」
そんな彼女の言葉に、帆乃香は深く溜息をついて頭を掻いた。
すると、帆乃香の頭に何かが当たった。
「何や?」
足下には、一万円札で折った紙飛行機が落ちていた。
「おい、帆乃香!!腹減ったから、コンビニでも行って朝飯買って来い!!パンはダメだぞ?米系を買って来い!!」
恵が帆乃香に、一万円札を寄越したのだ。
4763投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時36分11秒
「おい!!ウチをパシリにすんなや!?」
帆乃香は一万円札の飛行機をクシャクシャに丸め、恵に投げ返した。
「いいじゃんかよ。買って来いよ」
ニヤニヤと笑いながら、恵は言う。
「おまえの好きなお菓子とか、買ってもいいから…」
「ほんま!?いくらでも買ってええのん!?」
「ああ…。その金、おまえにやるから…」
「ほな、行って来る!!」
帆乃香は嬉しそうに一万円を拾うと、スキップしながら出掛けて行った。
「へへへ…。やっぱりガキだねぇ…」
恵は、帆乃香の背中を眺めて鼻で笑った。
部屋には、恵と中村有沙の二人だけとなった。
「おまえがいつまで経っても口を割らねぇもんだから、腹減ってしょうがねぇや…」
恵は、中村有沙を見上げながら、めんどくさそうに呟く。
中村有沙は、そんな恵に、ボソリと口を開く。
「………おまえの魂胆は…わかってるぞ…」
「…あん?魂胆?何だそりゃ?」
「もしかしたら…デカアリが、私を助ける為に、ここに戻ってくるかもしれない…。そう、考えているな?」
4764投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時36分30秒
「へへ…。そうなってくれれば、最高だな。妹のおまえの目の前で、ダーブロウをぶっ殺せる…」
「ああ…。今なら…デカアリに勝てるかもしれないな…」
「…何?」
「歌舞伎町の時とは…状況が違う…」
「状況…?どう違うってんだ?」
「…それは、おまえが一番わかっているだろう?」
中村有沙は、含み笑いをする。
「おい…!!何が可笑しいんだよ!!」
短気な恵は、早くも苛々を募らせている。
「…危なくなったら…この私を…人質にとれるからな…」
「………んだと…?」
「いや…初っ端からそうして、無抵抗なデカアリをタコ殴りにする気なのかもな…」
恵の眉間に、深いシワが現れる。
「おい…ふざけんなよ…?この私が、そんなセコイ手をつかうとでも…?」
「セコイ…?ふふ…あまり自分を卑下するな…。それも立派な作戦だ…」
「だから、てめぇを人質なんかにとらねぇよ!!」
恵は、足を踏み鳴らして立ち上がった。
腰掛けていた木箱が、後ろに跳ねた。
「やはり…貴様は頭が悪いな…。勝てる可能性を捨てて、またデカアリに叩きのめされるつもりなのか…?」
「…てめぇ…」
恵の肩は、ワナワナと震える。
4765投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時37分11秒
中村有沙の恵への挑発は、まだ続く。
「しかし、このままでは、デカアリは100%の実力を出し切れないだろうな…」
「何?」
「デカアリとのガチンコ勝負がしたいのであれば………この私の存在は邪魔だ…」
「あん…?邪魔?」
「もし…おまえが私を殺したら…デカアリは烈火の如く怒り狂い、120%の力で貴様に襲い掛かるだろう…」
恵は、何も言わずに中村有沙を睨みつける。
「そんなデカアリに勝てる自信があるのなら、この私を殺せばいい…」
しかし、恵は目を瞑って静かに笑う。
「くくく…。いくらなんでも、私はそこまでバカじゃねぇよ…。おまえ…私を使って自分を殺させるつもりだろ…?」
そして、人差し指を彼女に向ける。
「つまり…あと、もう一押しで、おまえは仲間の居場所を喋っちまいそうだ………という、いい証拠だな…」
4766投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時37分24秒
しかし、中村有沙も不敵に笑う。
「貴様がどう思うと勝手だが………。デカアリに勝てる自信がなければ、この私を生かしておけばいい…」
「だからよぉ…。さっきから言ってんじゃ…」
「何かと強がって見せても………デカアリに勝てないことをよくわかっている…」
恵の表情から、笑みが消えた。
「…何だって…?」
「貴様が一番わかっているのだろう…?デカアリに…決して勝てないことを…」
「…おい…。いい加減に…」
中村有沙は、とどめの一言を言い放つ。
「貴様は、デカアリの足下にも及ばない…」
4767投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時38分22秒
「この、クソガキがぁ!!」
恵は、中村有沙の顔面を鷲掴みにした。
「…くくく…。私に指一本触れないと…『弥勒姉さん』に約束したのではなかったか…?」
大きな掌に隠れ、中村有沙の表情は窺えないが…今、感情的に余裕がないのは、恵の方だ。
「うるせぇ!!そんなに死にたけりゃ、望み通り、殺してやるよ!!」
「…いいのか…?デカアリに勝てなくなるぞ?」
「抜かせ!!てめぇなんか、人質にとらなくてもなぁ…私は勝てるんだよぉ…!!ダーブロウごときなぁ…!!」
ミシミシと、中村有沙の頭蓋骨が軋み始めた。
4768投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時38分35秒
「…ふふふ…。いいぞ…その調子だ…。早く私を殺してみろ…。本気のデカアリと戦いたいなら…」
「ああ…殺してやる…。その綺麗な顔…紙くずみてぇに、クシャクシャにしてしてやる…」
「な………何だっていい………。く、口先だけではない…と…いうところを…見せて…みろ…」
「キヒヒ………。楽には殺さねぇよ…。てめぇのアソコを大きく引き裂いて、そこから内臓を掻き出してやるよ…。それを、ダーブロウに食わせてやる…」
「ふ…ふふ…。い、いいぞ…。その…調子だ…」
これで…ようやく死ぬことができる…。
人質にとられ、仲間の戦意を失わせるくらいなら…死んだ方がマシだ…。
(ただ…こんなバカ女に殺される…というのが、気に食わないが…。贅沢は言ってられないな…)
中村有沙は、腹を括った。
(もとはと言えば…一年前に死んでいてもおかしくはなかったのだ…。ただ…今日まで命が延びただけだ…)
この一年間、学校にも通えたし、野球も知ることができた…。
そして…仲間ができたのだ…。
(ふふ…。悪くない、『オマケ』だったな…)
この一年間、表の世界を知ることができた…。
だが、死ぬ前にもう一度会いたかった者がいる…。
(ちひろ…)
4769投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時39分09秒
今、まさに力の限りに中村有沙の顔を引き裂こうとしている時…脇腹に小さな痛みを感じた。
「…?何だ…?」
恵は、後ろを振り向く。
帆乃香が、自分の顔を見上げている…。
悲痛な顔で…。
「帆乃香…?何やってんだ…?」
「…秋山さんこそ…何してるん…?殺したらアカン、言われてるやん!!」
「…!?てめぇ…!!」
恵は、帆乃香を思いっきり突き飛ばした。
「ひぁ…!!」
小さな身体の帆乃香は、後ろにすっ飛ばされた。
「ナイフなんかで、この私を止められるとでも思ったか!!」
有らん限りの声で、怒鳴り散らす恵。
仰向けに倒れている帆乃香は、ゆっくりと頭を起こす。
「ナイフ…?そんなんやないよ…」
帆乃香の手には…小さな注射器…。
「…!?て、てめぇ…な、何をした…!?」
その瞬間、猛烈な睡魔に、恵は襲われた。
「…う…。くぅ…。ほ…帆乃香…。そ…それは…」
「コレ…?麻酔薬や…」
帆乃香は立ち上がると、コンクリートの床に這いつくばっている恵を、勝ち誇った様に見下ろした。
4770投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時39分31秒
「き…貴様…。な、何故、助けた…」
中村有沙は帆乃香を睨み付けた。
ようやく訪れた、死に際を、またも帆乃香に邪魔をされた。
たしかに、今、自分を殺すことは『TDD』にとって不利益なのだろうが…。
「ん?助けた?ありりんを?ちゃうよ…」
いびきを掻いて眠っている恵をまたいで、中村有沙の前に出る帆乃香。
「うちも知りたいんや。ななみん達が隠れてる所…」
「何?」
「なぁ…教えてぇな…。ななみん、どこにおるん?」
「…今度は、貴様が拷問するのか?」
「ちゃうよ!!うちは、そんなことせん!!ただ、純粋に知りたいだけや!!」
「どういうことだ…?」
「助けたいんよ…。ななみんを…」
帆乃香の目は、真剣なものへと変わる。
「助けたい…だと…?」
中村有沙は目を細めて帆乃香を見る。
「う…疑いの眼差しや…」
「当たり前だ…。七海と私を一緒にするな…」
その言葉に、首を激しく横に振る帆乃香。
「これは…ううん、これだけはホンマや!!うち、ななみんの為なら、『TDD』を裏切ってもええ!!」
4771投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時39分51秒
くくく…と、静かに笑う、中村有沙。
「な、何が可笑しいん?」
「なるほど…手を変え品を変え、いろんなアプローチを仕掛けてくるものだな…」
「ど、どういう意味や?」
「七海達の居場所が知りたければ、そこで寝ている女の様に、力ずくで口を割らせたらどうだ?」
「せ、せやから、うちは…」
「七海を助けたいなど、そんな心にもないウソをつくな!!」
「ざけんなや!!コラ!!」
帆乃香は、力任せに中村有沙の頬を張り倒した。
「ぐ…」
思いの外、力強い帆乃香の張り手に、中村有沙は目眩をおこす。
帆乃香は中村有沙の顎を掴んで引き寄せる。
「うちの、ななみんを思う気持ちを侮辱すんなや?ほんまに、どつき殺したるぞ?」
「…ふん…!!最初から、この手で来ればいいのだ…」
中村有沙は、冷たい目で帆乃香を見下ろす。
帆乃香は、ちっと舌打ちをした。
4772投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時40分11秒
「ま…ええわ…。場所を変えよ…」
「何?」
「うちが、ななみんを助けたいのは事実や。そして…ありりん…あんたを助けたがってるモンもおる…」
「…だ、誰だ…?それは…。その話し、電話でも言って…」
その時、腕に痛みが走った。
「…う!?き、貴様…」
「これ…さっき秋山さんを眠らせたんと同じもんや…」
帆乃香の右手には、小さな注射器が…。
睡魔が、中村有沙を襲う。
「う…。く…」
「ま、ゆっくりお休み…。ありりん…」
「わ…私を…どうする…つもりだ…?」
「せやから、言うてるやん…。助けてあげる…」
「…な…に…?」
「ななみんを助けるついでに…ありりんも助けたる…」
中村有沙の視界は、重い瞼によって暗くなる。
「ウソやない…。うちの気持ちは…」
そして…完全に、意識は闇の中に…。
4773投稿者:リリー  投稿日:2008年10月30日(木)20時40分29秒
今日は、これでおちます
4774投稿者:おお  投稿日:2008年10月30日(木)22時47分26秒
帆乃香キタ
4775投稿者:いちおう  投稿日:2008年10月30日(木)23時34分34秒
有沙は助かったのか
4776投稿者: 投稿日:2008年10月31日(金)01時20分23秒
4777投稿者:デジ  投稿日:2008年10月31日(金)03時47分07秒
前半
有沙の絶体絶命の大ピンチに帆乃香登場!でも、有佐と関西系の人って相性悪いですね。七海にも帆乃香にも。
お金につられる帆乃香。以外に単純?
さて、後半。
予測どおり、裏切り者は帆乃香でしたか。
しかし、言葉遣いまで七海に似てきましたね。
話からすると帆乃香の武器は麻酔薬入りの注射器?そうなるとジョアンを助けたのも帆乃香?でも、帆乃香って注射嫌いだったような...?
この線で行くと、次くらいに登場といったところでしょうか?しょこたん。
続きが気になります!
             (今日の小言)
明日明後日と模試で来れません。
しかし、模試の勉強難しい!
4778投稿者:あげ  投稿日:2008年10月31日(金)19時57分28秒
4779投稿者:あげ  投稿日:2008年10月31日(金)21時47分06秒


4780投稿者:あげ  投稿日:2008年11月01日(土)06時48分28秒
4781投稿者: 投稿日:2008年11月01日(土)11時33分38秒

4782投稿者:リリー  投稿日:2008年11月01日(土)20時37分18秒
昨日は更新を休んですみません
友達に急に誘われて、家に帰れませんでした

4774さん
帆乃香も、この物語を鍵を握る存在になります
そして、まだ姿を消すきっかけとなるシーンは、まだ先です

4775さん
とりあえず殺される危険は去ったということですが、まだ安全とは言えません

デジさん
そう言えば、関西の人とケンカばかりしてますね
でも、七海は誰とでもケンカしますけど
デジさんの仰る通り、この件には、しょこたんが絡んでます
模試、大変ですね
がんばってください

あげ、ありがとうございます

では、更新します
4783投稿者:リリー  投稿日:2008年11月01日(土)20時38分49秒
『午前9時30分』
いつの間にか、七海達は眠ってしまった。
昨夜の激闘は、彼女達を心身共に疲弊させた。
ジョアンは、一応怪我の処置はしてもらえたのだが、素人医療でどこまで回復するか…。
そんな彼女達の目を覚まさせたのが、部屋中に鳴り響くアラームだった。
真っ先に七海が、そして梨生奈、羅夢と起き出し、ジョアンも目を覚ます。
吉田、そして山本は眠ったままだが…。
「誰や…?」
七海は、金属バットを掴んでドアへ走る。
「待って!!七海!!羅夢、確認!!」
「おう!!」
梨生奈の声に、羅夢がいち早くモニターを確認する。
「誰だ!?七世か?俵姉妹か?それとも…敵か!?」
痛む身体を引きずる様に、ジョアンもモニターを確認する。
「ん…?誰だ…?」
羅夢は、首を傾げる。
「甜歌じゃねぇか…?あと…名前、何て言ったっけ…?フニャオとカピバラ!!」
ジョアンは、羅夢の肩越しに覗いて叫んだ。
4784投稿者:リリー  投稿日:2008年11月01日(土)20時39分09秒
「フニャ…卓也さんと…杏奈さんと…甜歌…?」
意外な名前に、梨生奈も戸惑った。
その名に、吉田は反応して起きだした。
「な、何やって…?甜歌が、どないしたん…?」
「お、おはようございます、レッドさん…。いえ、あの…甜歌達が…来たんですけど…」
「ほんま?上がってもらって、上がってもらって…」
ガラガラ声と寝ぼけ眼で、吉田はもう一度その身を横たわらせる。
「い、いえ…!!待って!!もしかしたら、『TDD』に捕まって…ここを案内させられたんじゃ…」
「でも、梨生奈!モニターには、3人だけだぞ?」
「いや…。どこか遠くで見ているのかも…」
梨生奈と羅夢とジョアンの言い合いに、いい加減七海が苛つき始める。
「どないすんねん!?なぁ…!!」
梨生奈は、じっと考え込む。
「そうね…。やつ等、もし甜歌や卓也さん、杏奈さんのことまで把握してたとすると…この3人を使って隠れ家を見つけ出そうと考えるかも…」
「とにかく…ドアを開けるで!?」
「ま、待って!!羅夢、七海と一緒に武器を持って…」
「ええ〜?七海と一緒に〜?」
あからさまに羅夢は顔を顰めた。
「文句言わない!!ドアを開けた瞬間、3人を中に引き入れてドアを閉めて!!」
「わかったよ…」
羅夢はヌンチャクを手に、七海の横に並んで玄関を睨む。
4785投稿者:リリー  投稿日:2008年11月01日(土)20時39分29秒
「ええか…?ヘマすんなや?」
「誰に言ってんだよ!?」
「オノレや!ヘマする言うたら、オノレやろ?」
「あん!?今回の戦い、誰のヘマで始まったと思ってんだよ!?」
「く…!!それは言わへん、約束やろ!?」
「アタイは知らないね!!そんな約束!!」
相変わらず口ゲンカを始める二人に、とうとう梨生奈の怒りが頂点に達する。
「いい加減にしなさい!!あんた達!!」
梨生奈の怒鳴り声に、吉田は再び身体を起こした。
「わ…!?ご、ごめんなさい…!!ごめんなさい…」
「…おはよう…。レッドさん…」
もう、梨生奈は吉田の方を向くこともない。
七海と羅夢は、改めて玄関のドアに向き直る。
「ち…!!おまえの所為で、梨生奈に怒られちまった…」
「ええか?開けるで?」
七海は、ドアノブに手を掛ける。
「今や!!」
七海がドアを開ける。
4786投稿者:リリー  投稿日:2008年11月01日(土)20時39分59秒
「オラァ!!」
羅夢は、甜歌、卓也、杏奈の横をすり抜けて、ヌンチャクを構えて警戒する。
「わ…!!何?何?」
甜歌の素っ頓狂な声が響く。
「中に入り!!」
七海は、甜歌、杏奈の手を引っ張って中に入れる。
「フニャオも入るんだよ!!」
「…え?…ええ!?」
卓也は、羅夢に背中を押されて突き飛ばされた。
そして、ドアを閉める。
どうやら、『TDD』の追跡はなかったようだ。
4787投稿者:リリー  投稿日:2008年11月01日(土)20時40分14秒
「な、何よ…!!乱暴ね!!」
杏奈は、眼鏡のズレを治しながら怒鳴った。
「ごめんなさいね。今、ちょっと非常事態で…」
梨生奈は、両手を合わせて誤った。
左腕がまだギプスで固められいる為、妙なポーズになっているが…。
「そ、そう言えば…何で、君達、ここにいるの…?」
卓也は、不思議そうに部屋にいるメンバーの顔を見る。
「そういう、オノレ等は何で、ここに来たんや?」
七海の質問に、甜歌が笑顔で答える。
「クリスマス・パーティー!!」
「ク…クリスマス…?」
訝しげな顔で、七海達は顔を見合わせた。
4788投稿者:リリー  投稿日:2008年11月01日(土)20時40分40秒
「知らないの?今日、ちひろさん、北京から帰ってくるんだよ」
「サムガーが…?帰ってくる?」
七海は、思わず声をあげた。
「ほ、本当に…?ちひろさんが…?」
左足を引きずって、梨生奈は甜歌に詰め寄る。
「ほら、ウチ、お母さんが中国人じゃないですか。ちひろさん、北京にある私のおじいちゃんの家にホームステイしてて…昨日、連絡があったんです」
「帰ってくるんだ…。ちひろさん…。今日…」
梨生奈は、もう一度、小さく呟いた。
この場合、ちひろにとっては運の良い話しだろう。
昨日の激闘に巻き込まれずに済んだ。
いくら、剣道の達人だと言っても、ちひろ一人が加わったくらいでは、戦局は変わらなかっただろう。
一年前、ちひろは夏希やジャスミンに、連戦して勝利をした。
だが、あの時は彼女自身、アドレナリンが漲っていた。
あの勝利は、奇跡に近いものだった…。
「それでぇ〜、ちひろさんの帰国歓迎クリスマス・パーティーとして、ここを会場に使わせてもらおうかなぁ〜て…」
「そんな呑気なこと、言ってる場合ちゃうぞ!!」
「な、何よぉ!!いきなり怒らないでよぉ!!」
七海の怒鳴り声に、甜歌は耳を塞いだ。
4789投稿者:リリー  投稿日:2008年11月01日(土)20時41分01秒
梨生奈が一通り、甜歌達にこれまでの経緯を説明する。
今残っているメンバーの中で、まともにわかりやすく説明することができるのは、梨生奈だけだが…。
「う…うそ…。エマとエリーが…?」
二人の死の知らせに、甜歌は涙を流した。
もっとも、生皮を剥がされた無残な死に様までは伝えてはいない…。
「そ…それに…ダーさんまで、帰ってこないなんて…」
杏奈もショックを隠せない。
「大丈夫かな…。有希子さん…。小百合さん…」
卓也も、話を聞いてから居ても経ってもいられない。
「有沙も、七世さんも…そう、簡単に死ぬような人じゃないとは思うけど…」
杏奈は、すがるような目で梨生奈を見る。
「私も…そう、信じたい…」
梨生奈は、杏奈から目を逸らした。
不安なのは、皆同じなのだ。
「そ、そうだ…!!ちひろに…知らせなきゃ!!『R&G』の本社が敵の手に堕ちたのなら、そのまま帰ってくるのはマズイわ!!」
杏奈の言葉に、甜歌は慌てて携帯を取り出した。
それを、梨生奈が制した。
「待って!!会社の電話はダメ!!もしかしたら、エマとエリーの携帯を奪われて、傍受されてる恐れがあるわ!!使うなら、プライベート用の携帯で!!」
「う、うん!!わかった…!!」
「ま、待って!!あなたじゃ、的確に説明できないでしょ?私が代わりにメールを打つから…貸して!!」
梨生奈は、甜歌から携帯を奪うと、右手の親指だけで、高速でメールを打つ。
4790投稿者:リリー  投稿日:2008年11月01日(土)20時41分46秒
「何度もメールのやりとりをするのも危険だから、ちひろさんから返事はしないようにと送ったわ。あと、『TDD』の連中に見つからない為に、会社は勿論、ここにも、学校の寮にも戻らないようにと…」
「じゃ、じゃあ、ちひろさん、どこで寝るの?長旅で疲れてるのに!!」
甜歌は、第一にちひろの身を案じる。
「ちひろなら、大丈夫よ…。自分で何とかできる子だから…」
杏奈は、甜歌の肩に、そっと手を置く。
「あと…杏奈も卓也も甜歌も、家には戻らん方がええな…。やつ等に捕まる危険もある」
難しそうな顔で、吉田は呟く。
「最悪なクリスマスになったわね…。今年は…」
杏奈は、力なく溜息をついた。
「で…その…。あそこで寝ているおじさんは…一体、誰…?」
卓也が恐る恐る指を差した先には、ズタボロになって死んだ様に眠っている、山本がいた。
「…ち…!!説明するのが、めんどくせぇな…」
ジョアンは、憎々しげな眼差しで、山本を見る。
「…これも、私が説明するわ…」
4791投稿者:リリー  投稿日:2008年11月01日(土)20時41分58秒
梨生奈の説明を聞き、甜歌はまた仰天をする。
ヤクザの組長を拉致したことも勿論だが、あの聖テレ野球部の監督、中田あすみが『TDD』の一員で、しかも藍と有海もそれに加わったこと…。
「あい〜ん…。友達になれたと…思ったのに…」
そう落ち込む甜歌を、七海が怒鳴る。
「コラ!!まだ、ウチ等の友達や!!あの二人は、『TDD』に騙されてるだけや!!」
その七海の言葉に、羅夢は声を荒げた。
「まだ、そんな甘いこと言ってんのかよ!?いい加減、現実を見ろよ!!あの二人は、アタイ等の敵なんだよ!!」
「うっさい!!オノレは黙っとれ!!」
またもや、二人の争いが始まった。
4792投稿者:リリー  投稿日:2008年11月01日(土)20時42分56秒
今日は、これでおちます

申し訳ないのですが、2〜3日、更新を休みます
ご了承下さい
4793投稿者:あげ  投稿日:2008年11月01日(土)20時51分53秒

4794投稿者:フニャ…卓也さん  投稿日:2008年11月02日(日)01時04分03秒
ワロタ
4795投稿者:デジ  投稿日:2008年11月02日(日)04時21分10秒
リリーさんもいろいろと忙しいのですね。了解しました。
元「R&G探偵社」全員集合!でも、タイミング悪い...
ちひろにとっては、TDDとの激闘を他の人に否定されても挑むでしょうね。会社のピンチなのですから。
梨央奈がここに来て持ち前のリーダーシップを遺憾なく発揮!頼もしいですね。
梨央奈の活躍に期待です!続きも楽しみです!
           (今日の小言)
漸く模試が終わりました。また一ヵ月後にテストがありますが、少しだけ羽を伸ばす事ができます。
模試の後に解答が配られたので確かめてみたら...数学は惨憺たる結果になりそうです。国語と英語は、普通の出来でした。
模試を甘く見ちゃいかんですね。今日ので実際に得た教訓です。
ところで、皆さんは、文系と理系どちらに進みましたか?出来れば理由も教えてください。より多くの意見を取り入れたいので皆さんご協力お願いします。
4796投稿者:117  投稿日:2008年11月02日(日)14時12分28秒
リリーさん、3連休休みですか?まぁ、一旦リフレッシュして、帰ってきてくださいね。
という僕も少し久々のコメントです。木曜?の話は帆乃香が行方不明になる前の話でしたか。
帆乃香は本当に七海たちを助けたいのか、その気持ちは真実なのか・・・?
そして、昨夜の話。久々の面々も登場しましたね。
さらにちひろが帰って来る!?物語にも登場するのでしょうか、楽しみです。
4797投稿者:新しく過去ログへ行った分です  投稿日:2008年11月03日(月)19時25分23秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544d.html
4798投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)20時51分51秒
2〜3日休むと言っておいて、もう帰ってきました
実は今日、教育フェアを見に、渋谷に行ってました
天てれのイベントも見てきましたよ
友達と渋谷駅でお昼に待ち合わせの為、2回目は見れませんでしたが…
凄い人で、後ろの方で見ました
聖斗のコスプレしてる人がいました
生放送で、イベント前に少しだけ戦士を見れて、ちょっと得した気分です
出演者は、羅夢、樹音、次元、翔太、司会にあかり、拓巳と一磨が漫才をやりました
漫才は、面白かったですよ
オチが、よくわからなかったですけど…

4799投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)20時58分08秒
4794さん
フニャ…と言って止めるあたり、なぜそんなあだ名がついたのか、知ってるからです
デジさん、模試、お疲れ様です
私は文系に進みました
ていうか、理系は考えもしなかったです
でも、今になって数学の面白さや大切さがわかってきました
数学って、『例えば数字で考え見る』って学問なんですね
日常生活に、欠かせないものですよね
117さん
帆乃香の真相、そして失踪の謎が解明されるのは、もう少し先になります
ちひろの登場も、まだ先になります
前作の主人公なので、スペシャルな感じで出したいと思ってます
4797さん
過去ログに行ったんですね
ありがとうございます
では、更新します
4800投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)21時00分18秒
『午前11時20分』
「…う…」
妙な身体のくすぐったさに、中村有沙は小さく声をあげた。
頭が、ぼぉっとしている。
身体を起こそうとしても、力が入らない。
「…う…ん…」
誰かが、自分の身体の上に覆いかぶさっているのは、辛うじてわかる。
その人物の体温が感じられる。
暖かい…。
その人物が、自分の顔を覗き込んでいる。
その人物は…自分が…この世で一番…いや、唯一愛している人物…。
「ち…ちひろ…」
村田ちひろは、その大きな瞳でじっと見詰めている。
「…気がついた…?」
「ど…どうして…おまえが…?」
「ん…?どうして…?あなたが心配だったから…」
「…私が…?」
「そう…。私は、あなたが心配でたまらなかった…。だから、あなたを助けたの…」
「私を…また…助けてくれたのか…?」
「また…?うん…。私は、何度でもありりんを助ける…」
4801投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)21時00分45秒
「…ああ…。ちひろ…。また…おまえに…助けられるなんて…」
中村有沙の閉じられた目から、涙がにじみ出る。
「いいから…。ありりんは、何も考えないでゆっくりお休みなさい…」
「…?」
何か、違和感を感じる…。
「…ありりん…?おまえ…私をそう呼んだことがあったか…?」
「…?さっきから何を言ってるの?あなた、やっぱり疲れてる?」
「…う…うん…。た、確かに…。いや…」
ハスキーな声…ちひろもそうだが、この声は違う…。
しかも、ちひろは中村有沙を『あなた』などとは呼ばない。
『おまえ』と、呼ぶ。
「や、やはり…何か変だぞ…?ど、どうしたというのだ…?ちひろ…?」
「変…?さっきから何を言ってるの?それに…」
今、はっきりと声が…顔がわかる…!!
「さっきから言ってる、『ちひろ』って誰?」
村田ちひろではない…。
自分の顔を覗き込んでいるのは…『TDD』…『ラバーズ(恋人)』の…中川翔子…!!
4802投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)21時01分30秒
そして、自分がベッドに寝かせられていることにも気付く。
シルクのローブの様なものを、着せられているが…。
翔子も同様に、自分の側でローブ姿の身を横たわらせている。
「…き…貴様…!!」
跳ね起きようとする中村有沙だったが、両腕、両足に力が入らない。
「…な…?」
背中を、再び柔らかいベッドの上に…それと同時に、痛みが走る。
「ぐぅ…!!」
後藤理沙達3人に、凄惨な拷問を受けたことも思い出す。
「あ、思い出した…!!『ちひろ』って、あなたが唯一好きな人…剣道少女の村田ちひろのことね…」
少し悲しそうに瞳を潤ませ、翔子は中村有沙を見詰めた。
4803投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)21時01分42秒
「こ、ここは…?」
「ここ?私のマンションよ」
「な…何故、貴様が…」
少しでも翔子から離れようと、中村有沙はもがく。
だが、手足がまったく動かない。
「何故って…さっき言ったばかりじゃない…。あなたを助けてあげたのよ」
「助けた…?敵の貴様が…?」
改めて、自分の身体を見る中村有沙。
両足の膝から下に、包帯が巻かれている。
焼けたナイフの刃で斬りつけられた傷のあった所だ。
左手の人差し指は、中指と一緒に包帯で巻かている。
切断されかかった指だ。
背中の感覚で、ガーゼで傷跡が覆われているのもわかる。
翔子が、拷問で負った傷を治療したのだ。
4804投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)21時02分09秒
「敵だなんて…。私は『ありりんの味方』なの…」
翔子は、唇を中村有沙の顔に近づけた。
「…く…!!」
中村有沙は顔をそむけた。
どうやら、首は自由に動く様だが…。
「…そ、そうか…!!帆乃香が言っていた『私を助けたがっている者』とは…貴様のことか…!?」
「そうよ…。本当に良かった…。命があって…」
翔子は、中村有沙の痛々しい姿を眺める。
「それにしても…弥勒姉さん達も酷いことするわね…。私のありりんに、こんなことするなんて…」
首筋につけられた火傷を伴った切り傷を、ベロリと舐める。
「でも、この綺麗な顔だけは傷つけないでいてくれたなんて…弥勒姉さんもわかってるじゃないの…」
そう言うと、頬に唇を寄せた。
「く…!!貴様、何をしている!!帆乃香を使い、私をさらって…どうするつもりだ…!?」
「どうするつもり…?私はあなたを守ってあげる…。一生ね…」
4805投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)21時02分32秒
「い、一生だと…!?ふ、ふざけるな!!」
「ふざけてなんか、ないわ!!大真面目よ…」
「…!!貴様は…『TDD』を裏切ったことになるのだぞ!?」
「裏切る…?私が…?まさか…。私が裏切ったことにはなってないわ…」
「…何…?」
「裏切ったのは、帆乃香…。帆乃香一人だけよ…」
「帆乃香…!?ど、どういうことだ…?」
「だから、あの子は本当に、ななみんを助けたいんでしょうね…。『TDD』よりも早く見つけ出して…『TDD』の情報を流し、見つからない様にしたいのよ。ななみんだけね…」
「ほ、本気だったのか…!!帆乃香…!!」
そう呟きながら、帆乃香の必死な顔を思い出す。
帆乃香の言葉に、嘘はなかった…。
「そして私は…あなたを助け出す依頼を…帆乃香にしたのね…」
「…!?依頼…?」
「知ってるでしょ?『TDD』は、自由労働の組織…」
七海を想う帆乃香、中村有沙を想う翔子、二人は依頼をし合った…ということになる。
4806投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)21時02分55秒
「いい加減、仲間の居場所を教えて…。ななみんの命だけは、確実に助かるわ…」
「ほ、他の仲間達は…予定通り殺されるのか…?」
「まぁ、そういうことになるわね…。『R&G』の探偵達を全員助ける義理もないし、力もないわ…」
中村有沙は、懸命にもがいているのだが、それでも手足はまったく動くことはない。
「…き…貴様は…私の身体に…何を…した…!?」
「ん…?筋弛緩剤を注射したのよ…」
「き…筋弛緩剤だと…!?」
「これであなたの手足は、しばらくは動かすことはできない…。そうね…最低、10日くらいは…。もう、縛られるのは御免でしょ?」
「くぅ…!!き、貴様の世話になることも…私は御免だ!!」
何とか逃れようとする中村有沙だが、腕は両肩から、足は付け根から一切動かない。
このまま、翔子と暮らす日々が続くのか…?
まだ、理沙達に拷問されていた方がマシに思える。
鎌に触れたら、命を落とす…。
しかし、これでは一生、屈辱のもとに生き長らえるだけなのではないか?
いつになったら、自分は死ぬことができるのか?
帆乃香に助けられたことによって、自分の運命は変わり始めたのか?
「…ち…ちひろ…」
また無意識に、ちひろの名を呟いた。
4807投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)21時03分16秒
「どう?ななみんの居場所、わかった?」
いきなり部屋のドアが開かれた。
入って来たのは、中村有沙を助け出した張本人、鍋本帆乃香だった。
「もう…!!失礼ね!!いきなりノックもしないで入ってこないでよ!!」
翔子は、きっと帆乃香を睨む。
「そんなこと言うてる場合とちゃうやろ?はよ、ななみんの居場所、聞き出してよ!!」
帆乃香も負けずに翔子を睨み返す。
『TDD』は、自由契約を許している。
探偵同士が依頼をするのも自由だ。
しかし、それは1000万以上の依頼料が必要になる。
まだ小学生の帆乃香に、そんな大金を払える能力はない。
そこで、『中村有沙を助ける依頼』を翔子が、『七海の居場所を聞き出す依頼』を帆乃香が、それぞれに依頼したのだ。
これで依頼料がお互いを行き来したことになるし、『TDD』に納める金額も存在しなくなる。
今度は、翔子が帆乃香の依頼を完遂する義務があるのだ。
4808投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)21時03分44秒
「く…!!ふ、ふざけるな…!!わ、私は、絶対に仲間の居場所は言わないぞ!!」
中村有沙は、帆乃香を睨み付けて言った。
「何で、そない頑固なん?あんたとななみんだけは、確実に助かるんやで?」
「だ、黙れ…!!し、死んでも、喋らんぞ…!!」
中村有沙は、翔子、帆乃香と、交互に睨み返す。
帆乃香は、苛々しながら、髪の毛を掻き毟る。
そして、翔子に対して怒鳴った。
「30分…!!30分だけ待ったる!!もし、それまでに聞き出せへんかったら、依頼は取り下げや!!依頼金、倍額で返してもらうで?」
「倍額?あなた、算数苦手なんじゃない?0はいくら掛けても0なのよ?ギザバカす…」
「うっさい!!はよ、せぇって言うてるやん!!」
帆乃香は、立ち上がると同時に床を踏み鳴らした。
4809投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)21時04分09秒
「あ、そうだわ!!今、ありりんが起き出してるってことは…恵ちゃんも、私があなたに渡した薬から目覚めてる頃じゃない?」
翔子は帆乃香を振り返る。
「今頃、あなたの裏切りが発覚してるんじゃなくて?」
青い顔をしている翔子に対し、帆乃香は落ち着いている。
「大丈夫やって…。秋山さんは当分目が覚めんよ。ありりんと注射した薬の量がちゃうもん」
「量がちがうって…どれくらいよ?」
「ん?ありりんには30cc、秋山さんには150cc…」
「ひゃ、150cc…!?あんた、無茶するわね!?こりゃ、丸一日眠ることになるわ…。でも、そんなに焦ることもないってことね」
「おい、おい!!それでのんびりされたら敵わんで!?はよ、ななみんの居場所、聞き出して!!」
「わかったわよ!!でも、今はありりんの怪我の回復が先よ…。そんなにヒマなら、散歩でもしてきたら?」
「外なんて、歩いてられへんから、このマンションの敷地内におるわ…。で、30分後に来るからな?」
帆乃香はそう言い残すと、部屋から出て行った。
翔子は、中村有沙に視線を戻す。
「うふふ…。さぁ、邪魔者は消えたわ…。ありりん…」
「き、貴様も邪魔者だ!!」
そう言うと、中村有沙は、憎々しげに翔子を睨んだ。
4810投稿者:リリー  投稿日:2008年11月03日(月)21時04分41秒
今日は、これでおちます
4811投稿者:お疲れ様でした  投稿日:2008年11月03日(月)22時21分27秒
教育フェアはお一人で見に行かれたのでしょうか
私も一度でいいから行ってみたいです
都内在住の方が羨ましい…
4812投稿者:リリー  投稿日:2008年11月04日(火)20時43分48秒
4811さん
当日は、雨が降るんじゃないかと、ヒヤヒヤしました
寒かったですしね
教育フェアが、おそらく戦士を近くで生で見られるチャンスだと思います
夏イベは、抽選でしかも遠くからでしょうし…
天てれの前の、縄レンジャーショーがもの凄くて、一瞬、天てれのことを忘れてしまいました

では、更新します
4813投稿者:リリー  投稿日:2008年11月04日(火)20時45分49秒
帆乃香は、翔子の住むマンション『レインボウ・ハイツ』に設置されている小さな図書館で、幼児用の絵本を退屈そうに眺めていた。
このマンションの住人の親子が数組、読み聞かせをしている。
図書館は、クリスマスの飾りつけで賑やかだった。
「はぁ…。秋山さんが目を覚ますまで、何としても、ななみんを見つけな…」
今まで暮らしてきた寛平と別れ、七海と生活していくのだ。
『TDD』に見つからない様に、未成年の少女二人で暮らすことができるのか…?
相手は、裏探偵…楠本、理沙達から、果たして逃げ切れるのか…?
いや、人さらいのエキスパート、『怪人・浴衣ピエロ』こと、寛平がいる…。
寛平は、帆乃香には優しい。
いや、甘やかしすぎとも言える。
おそらく、寛平は帆乃香を許すだろう。
だが…七海は…。
どんなに帆乃香が懇願しようと、絶対に聞き入れることはないだろう…。
「我ながら…無鉄砲やったかなぁ…」
帆乃香は時計を見る。
11時30分…。
帆乃香が翔子の部屋へ帰るまで、まだ20分ある…。
とりあえず、レオ=レオニのシリーズを全部読破しようと、窓際の本棚に向かった時だった。
自動扉の入り口から出て行く少女を見つけた。
それは…一木有海だった。
4814投稿者:リリー  投稿日:2008年11月04日(火)20時46分16秒
「…!?な、何で…?何で、あみ〜ごが…?」
あれこれ考える前に、帆乃香は図書館から飛び出した。
「あみ〜ご!!あみ〜ご!!」
オートロックのマンションの為、帆乃香はガラス扉の内側を叩いて呼びかけた。
すぐに有海は帆乃香に気がついた。
あっと声を上げると、すぐに扉まで駆け寄った。
帆乃香は開閉ボタンを押し、有海を中に入れた。
「帆乃香さん…。何で、ここに…?」
「あみ〜ごかて…何で、ここに…?」
まずは有海が説明をする。
「ここ、学校の友達が住んでて…。でも、もう転校しちゃうから…最後のお別れに来て…帰るところだったの」
「ああ…。あみ〜ごを、いじめてた子やろ?お別れなん、別にええんとちゃうん?」
「ううん…。もう、仲直りしたから…。もう、恨みは…ないよ…。結局…会えなかったけどね…」
「ふ〜ん…。うちは、てっきりしょこたんに用事があるんかと思ったわ」
「しょこ…中川先生?帆乃香さんは、中川先生に用があって…?」
「う、うん…。まぁな…」
「あ…あの…藤本さん達は…?」
「…?聞いてへんの?」
「き、聞いてるけど…」
有海も、帆乃香同様、七海の行方を知りたがっている者の一人だ。
4815投稿者:リリー  投稿日:2008年11月04日(火)20時46分52秒
「知りたい…?あみ〜ごも…」
「…う、うん!!知ってるの?帆乃香さんも?」
「いや…。でも…これから知ることができるかもしれん…」
「ど、どういうこと?」
「…実はな…」
帆乃香は話した。
今、中村有沙が翔子の部屋に監禁されていることを…。
そして、あと30分もすれば、七海の居場所を喋ることになる…ことを…。
しかし、有海は帆乃香の説明に目を丸くした。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「…?何やの?」
「中村先輩は…警察に保護されたんじゃないの?」
「はぁ…?保護…?」
「近藤さんや渡邊さんと一緒に…。違うの…?」
帆乃香はポカンと口を開けている。
「…あみ〜ご…知らんの…?」
「何を…?」
「えまちんと、えりりん…死んだんやで…?」
「…え…?」
有海は、絶句した後…大粒の涙を流した。
4816投稿者:リリー  投稿日:2008年11月04日(火)20時47分26秒
有海が泣き止むまで、どれくらいの時間が経っただろうか?
その間、帆乃香はずっと有海の肩を抱いていた。
そうしないと…手を離した途端、有海は最上階まで駆け上がり、身を投げてしまいそうな勢いの号泣ぶりだった。
有海の気持ちは、痛いほどよくわかる。
知らされてなかったとはいえ、『TDD』と『R&G』の対戦相手を選んだのは自分なのだ。
エマとエリーの死に、自分は大きく関わっていた。
最初から信用はしていなかったが、楠本はやはり自分にウソをついていたのだ。
「泣かんといて…あみ〜ご…。少なくとも、ななみんとありりんは助かるんや…」
「…き…木内さん…と…ヤマザキ先輩は…?」
「…え?」
「ほ、細田さんに…吉田さんは…どうなるの…?」
「…う〜ん…」
帆乃香は、天井を仰いで呻くだけだった。
「死ぬの…?殺されるの…?」
「せ、せやけど…ななみんと…ありりんは…」
「ダメ!!みんな助けて!!これ以上、誰も殺さないで!!」
帆乃香が思わず悲鳴をあげてしまう程、有海は力強く彼女の肩を掴んだ。
「む…無理やって…!!そんな…!!ななみんとありりんを助けることやって、ほんまは危険な賭けなんやで!?」
「…ああ…。藤本さん…。中村先輩…。みんな…」
有海は、マンションの通路の床に、力なく腰を落として泣いた。
4817投稿者:リリー  投稿日:2008年11月04日(火)20時47分50秒
「あみ〜ご…。あみ〜ごは…悪うないよ…」
帆乃香の慰めは見当違いだった。
有海は、自分が彼女等の死に関わりがあることだけで泣いているわけではない。
ただ、一時でも、楽しく過ごした仲間達が…死んでしまったこと…これから殺されることを嘆いている…。
どんな言い訳をしようが、自分の罪の重さは変わらないのだ…。
(どうせ…罪が消えないのなら…)
有海は、今年の夏…原村で中村有沙と話したことを思い出した。
『どんなことにおいても、私は主導権を相手に渡したくない』
中村有沙の言葉だ…。
「主導権…」
有海は呟いた。
『私は、自分のことは自分で決められるよう…そう生きていこうと、決心した…』
「中村先輩…」
有海は、階段を見上げる。
この階段の先、最上階の部屋に、中村有沙は囚われている…。
「どないしたん?あみ〜ご?」
階段をじっと見上げる有海に、帆乃香は緊張感を隠せない。
自殺を考えているのではないか?…帆乃香にはそう思えたのだ。
4818投稿者:リリー  投稿日:2008年11月04日(火)20時48分11秒
だが、有海の目には虚脱は感じられない。
何か、決意めいたものが窺える。
「…私…中村先輩に…憧れてました…」
「…は?」
帆乃香は、有海が何を言おうとしているのか、わからない。
「あなたは…いつも颯爽としていました…。自信に満ちて…カッコよかった…」
「あみ〜ご…。一体、何を…?」
「私…あなたの様な人に…なりたい…」
有海の視線は、真っ直ぐに上を向いている。
「私…主導権を…取り戻します…。私の人生の主導権を…」
そう言い終えた途端、有海は帆乃香の腕を振り払って、階段を駆け上がった。
「ちょ、ちょっと!!待って!!あみ〜ご!!」
帆乃香はすぐに有海に追い着き、彼女の腕を掴んだ。
「放して!!」
「あかん!!あみ〜ご、死ぬつもりやろ!?あんたが死んだって、何も解決せんよ!!」
「解決!?解決させるの!!」
「へ?」
「私…助ける!!中村先輩も…藤本さんも…!!木内さんも、ヤマザキ先輩も、細田さんも、吉田さんも…全員、助ける!!」
「ぜ…全員って…そんなこと、できるわけないやん!!」
「帆乃香さんも…主導権を取り戻しなよ!!」
面と向かって、有海が怒鳴った。
4819投稿者:リリー  投稿日:2008年11月04日(火)20時48分35秒
「主導権?さっきから、何言うてんの!?」
「私は、藤本さん達と殺し合いなんかしたくない!!みんなを、助けたい!!」
「そ、それは、うちかて同じや!!」
「同じじゃない!!あなた…寛平さんからコソコソ逃げ回ってる!!怯えながら…」
「な、何やって!?」
帆乃香の顔が、真っ赤に歪む。
「そんな弱気じゃ…人なんて助けられるわけないじゃない!!」
「え…偉そうに…!!自分はできるんかい!?いじめられっ子やった自分に…」
「できる?…ううん!!やるんだよ!!」
有海の目に、何の後れも恐れもない。
「やりたいことを…心からやりたいことを…私はやるんだよ!!主導権は私にあるんだよ!!」
「口にするんは、簡単や!!せやけど…」
「わかってる!!簡単じゃないことぐらい…!!」
『自分が主導権をとるという生き方…やってみると、けっこうしんどいものだぞ?』…これも、中村有沙の言葉だ…。
中村有沙は、主導権を奪われまいと…苦しんでいるに違いない。
「主導権をとられるのと、主導権をとるのと…疲れるのと、楽なのと…どちらを選ぶか…いや、どちらを選びたくないかが…私の運命を決定させるの…」
「あん?」
「私は…苦しい方を選ぶ!!中村先輩だって、そうする…。帆乃香さん…あなたは、どっちを選ぶの…?」
「………」
帆乃香は二の句が継げなかった。
4820投稿者:リリー  投稿日:2008年11月04日(火)20時49分13秒
その隙に、有海は再び階段を駆け上がる。
「せ、せやから待ちって…!!あみ〜ご!!」
帆乃香は、有海の後ろからぶつかる様にしがみつく。
もう少しで、二人は階段から転がり落ちるところだった。
「放してよ!!私は、みんなを助けるの!!」
「せやったら、プランは!?どないして助けるん!?」
「………」
今度は、有海が言葉を失った。
4821投稿者:リリー  投稿日:2008年11月04日(火)20時49分30秒
「いくら、しょこたんが戦闘要員やないからって…あんたなんか、敵いっこないやん…!!」
「そ…それは…」
「はい!!」
帆乃香は、有海の手に『何か』を握らせた。
「…?」
彼女の手には、注射器が握られていた。
「こ…これ…」
「はい、それからこれが麻酔剤や」
帆乃香は、半分以下に液体が減ってしまっている小さな瓶も手渡した。
「麻酔…剤…?」
目を点にして、帆乃香を見詰める有海。
「うちは、これで秋山さんからありりんを奪ったんや…。しょこたん相手なら…楽勝やろ…」
「帆乃香…さん…?」
「いじめられっ子に弱虫扱いされて、黙ってられるかい!!うちかて…ななみんを死ぬほど好きなんや…」
4822投稿者:リリー  投稿日:2008年11月04日(火)20時50分52秒
今日の更新分が、『七回・表』での有海のその後の続きとなる部分でした
そして、次回、二人が行方をくらます理由がわかるようになります

では、おちます
4823投稿者:あげ  投稿日:2008年11月04日(火)21時29分22秒
頑張れ
4824投稿者:有海カコイイ  投稿日:2008年11月04日(火)21時43分19秒
なんか泣きそうになった
4825投稿者: 投稿日:2008年11月04日(火)22時27分04秒

4826投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時53分35秒
4823さん
励ましのコメント、ありがとうございます

4824さん
そう言って頂くと、とても嬉しいです
この物語の核のテーマは、『成長』なんですが、有海が一番著しいでしょうね

では、更新します
4827投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時54分35秒
翔子の部屋…。
「ねぇ…。お願いだから喋ってよ…。ありりん…。私…あなたを死なせたくないの…」
さっきから、いくら尋ねても中村有沙は一言も口を開こうとしない。
「ねぇ…。何とか言ってよ…」
翔子の声に、涙が混じる。
いくら、組織同士の戦争で…敵に別れてしまったといっても、彼女は罪悪感を感じている。
「ならば…」
ようやく、中村有沙は口を開いた。
「うん?何?何?やっと、喋って…」
「拷問でも何でもすればいい…」
「そ…そんな…」
「ふん!!理沙とか、恵とか、はるかとかいう女達の様に…私を痛めつければいい!!」
「そんなこと、できるわけないじゃない!!」
帆乃香によって連れ出された、中村有沙の姿…。
傷だらけだった…。
こんな彼女の姿を見ることは…翔子にとって辛いのだ。
「愛しているのよ…。ありりん…」
翔子のしなやかな指を、中村有沙の頬に持って行く。
彼女の強張った表情に、意思の強さを感じる。
4828投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時54分55秒
「さあ…私を見て…!!私が、あなたをこの苦しみから解放するのよ?私以外、いないのよ?私の質問に答えたら…あなたは生きる喜びを味わうことができるの…」
「喜び?貴様と生きる喜びか?そんなものはない!!」
ただ、翔子の目を睨み返すことしかできないが…。
「ダメ…!!あなたは私と一生、生きていくの…!!いい加減、私の気持ち、わかって!!」
翔子の口調は、厳しいものへと変わっていく。
「ならば、貴様も私の気持ちを理解しろ!!」
中村有沙も、感情的に怒鳴った。
そして…その目に涙が浮かんでいる。
「…殺せ…」
「…ダメよ…」
「…殺してくれ…」
「…ダメだったら…」
「…お願いだから…殺して…くれ…」
段々、涙声に変わっていく。
「…そんな悲しいこと言わないでよ…。私は、ありりんと…」
「私の運命なんだ!!私は死ぬんだ!!そう、貴様等のボスに言われたんだ!!だから…いい加減、私を殺してくれ!!」
そう叫ぶと、中村有沙はベッドに顔を押し付けて嗚咽を漏らして泣いた。
「…ありりん…泣かないでよ…」
瞳を潤ませた翔子は、そう言って中村有沙の頭を撫でた。
4829投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時55分13秒
その時、部屋のインターホンのチャイムが鳴った。
「くぅ…!!帆乃香のやつ…!!まだ、30分経ってないじゃない!!」
自分の無力を感じ、苛々を募らせている翔子は、ベッドから降りると足音を大きく踏み鳴らしながら玄関に向かう。
「ちょっと!!まだ時間は…」
ドアを開けると同時に怒鳴る翔子だが、最後までその言葉を続けられなかった。
そこに立っていたのは、帆乃香ではなかった。
「あみ〜ご…?」
翔子は目を点にして、そこに佇む少女…一木有海を見詰めた。
4830投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時55分33秒
「ど…どうしたの…?」
「失礼します!!」
有海は、翔子の問いに答えることなく、玄関から部屋の中に入った。
「え…?ちょ、ちょっと…あみ〜ご…!!」
翔子は、戸惑いながらも有海の後を追う。
だが、有海はもう既にベッドルームに到着していた。
「中村先輩…」
有海は、ベッドの上で肩を震わせて泣いている中村有沙を呆然と眺めた。
「中村先輩!!」
有海は、中村有沙の身体を掴んで揺り動かした。
「………?…あ…有海…?」
涙で濡れた目で、有海を見詰める中村有沙。
「よ、よかった…。気がついたんですね…?」
有海も目に涙を浮かべている。
「な…なぜ…貴様が…ここに…?」
まだ、中村有沙はこの状況が掴めず、頭を混乱させている。
4831投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時55分53秒
「泣いてるの…?中村先輩…。何をされたんですか?」
有海はオーバーコートを脱ぐと、ローブ姿の中村有沙に掛けてやった。
「あみ〜ご…。なんであなたがここに来たの?」
翔子が腕組みをしながら、ベッドルームの出入り口に立って、有海を厳しい目で見詰めていた。
「中川先生…。中村先輩に、随分酷いことしたんですね…」
有海は、翔子の方を振り返ることなく、中村有沙の涙を拭いてやりながら、震え声で問い詰める。
「酷い事?まさか…!!私はありりんを愛してる!!ありりんを助ける為にやったことよ!!」
「ウソ!!中村先輩、泣いてる!!あんなに強い中村先輩が!!何をしたんですか!!」
初めて有海は、翔子の顔を睨みつけた。
4832投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時56分20秒
翔子も、有海を睨みつける。
中村有沙を理沙達から奪ったことを…有海に知られてしまった…。
「教えて欲しい?」
「…はい…」
「そう…。じゃあ、こっちにいらっしゃい…」
ベッドの上の中村有沙が、呻くように呟く。
「だ…だめだ…。あ…有海…。に…げ…ろ…」
「…え?」
思わず視線を中村有沙に降ろす、有海。
その時、翔子の指が有海の首筋と脇腹に絡みつく。
「あなたも…帰さないわ!!」
4833投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時56分43秒
「う…ぐぅ…」
有海は、翔子の抱き締める腕の中でもがいた。
しかし彼女の力では、翔子の拘束から逃れることができない。
「こうなったら…あみ〜ごとありりんと私…三人で楽しく暮らしましょう…?」
「い、嫌です…」
「うふふ…。ギザかわゆい声…」
翔子は、有海の耳に吐息を掛ける。
「や…やめろ…!!あ…有海に…触るな…!!」
自由の利かない身体を目いっぱい起こし、中村有沙は叫んだ。
「あなたは、少し身体を休ませてなさい…」
その時、翔子は後ろに人の気配を感じた。
翔子は有海から手を離すと、後ろを振り返り、ある人物の腕を掴んだ。
その人物は…鍋本帆乃香だった。
4834投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時57分11秒
「く…!!しょこたん…気がついてたん?」
帆乃香は舌打ちをした。
「帆乃香…。一体、どういうつもり…?ななみんの居場所をありりんから聞き出せって依頼をしたのは、あなたでしょ?」
「そうやけど…。うち、自分の人生の主導権を取り戻そう、思ってな…」
「は?何?それ…」
翔子は、掴んだ帆乃香の腕を改めて見る。
帆乃香の手には、ファンシーなシャープペンシルが握られている。
「…?注射器じゃないの?」
「注射器…?ああ…あれならあげてもうた…」
「あげた…!?誰に…?」
「あみ〜ごに…」
その直後…翔子の背中にチクリとした痛みが…。
「…え…?」
翔子はゆっくりと振り返る。
有海が厳しい目で睨みつけている。
手には…自分が帆乃香に渡した注射器が…。
「…な…?あ…あなた…達…」
「悪いけど…ありりんは、うちとあみ〜ごが貰っていくで?」
翔子は、帆乃香の言葉を最後まで聞くことなく、深い眠りに堕ちていった。
4835投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時57分38秒
翔子の身体は、有海に覆いかぶさる。
「う…。お、重い…」
有海は、翔子の身体を押し退けて、中村有沙の側に着く。
「さ、中村先輩…。起きられますか?早く、ここから逃げましょう!!」
自分のオーバーコートを着せながら、有海は、ゆっくりと中村有沙の身体を起こした。
しかし、筋弛緩剤でまったく力の入らなくなった身体…くったりと有海の身体に寄り掛かる。
「し、しっかり…!!中村先輩…!!」
「…あ…有海…。一体…何をやっている…?どうして…貴様が…私を…」
「私…中村先輩に謝らなくちゃ…!!ううん…みんなに謝らなくちゃ…!!謝ったって、許されないと思うけど…こんなことしかできないから…」
「…?さっきから…何を言っている…?」
「近藤さんや…渡邊さんは…もう、帰ってこないけど…」
「…!?な、なぜ、貴様が、そのことを知っている…!?」
中村有沙は、まだ有海や藍が『TDD』の一員になったことを知らない。
あの戦闘のどさくさで、七海はまだ彼女に衝撃の事実を伝えてなかったからだ。
「帆乃香…!!貴様が、有海を巻き込んだのか!?」
帆乃香は、眠っている翔子の身体をロープで縛っていた。
「貴様は…一体、何がしたいのだ…?」
「う〜ん…。そこんとこなんやけど…うちにも、ようわからん…」
帆乃香は、困った様な笑顔を中村有沙に向ける。
4836投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時58分25秒
「と…とにかく…早く、ここから逃げ出さないと…!!」
有海が悲鳴にも似た声で言う。
「寛平さんや楠本さんが、このことを知る前に…」
「楠本…?おまえ、何でその名を知っている…!?」
仰天する中村有沙の側に、帆乃香もついた。
「説明は後や!!はよ、逃げるで!!」
帆乃香と有海は、両側から中村有沙の身体を抱える。
中村有沙は、まったく身体に力が入らない。
そんな人の身体は途轍もなく重い。
非力な有海と小柄な帆乃香では、運んで歩くだけでも重労働だ。
その時、携帯の着信音が鳴った。
帆乃香のではない…彼女の携帯は、電源が切ってある。
翔子の携帯だ。
3人は、じっとその携帯を見詰める。
何度かコール音が鳴り、留守番電話につながる。
帆乃香は、改めてその携帯の伝言メッセージを聞く。
その声の主は、中田あすみだった。
4837投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時59分18秒
〔こちら『タワー(塔)』。『ラバーズ(恋人)』、このメッセージを聞いたら、すぐに連絡を頂戴!!ありりんが…中村有沙が姿を消した!!側には、『ストレングス(力)』が眠らされていた!!一緒に居た『サン(太陽)』も姿を消したわ〕
「不味い…。もう、バレたみたいやな…」
「…え…?」
有海の顔が青褪める。
4838投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)20時59分31秒
〔さっきから、『サン』の携帯にもつながらない…。もしかしたら、『R&G』に連れ去られたのかもしれない…。私、今から『スター(星)』と一緒にあなたのマンションに向かうわ…!!〕
「うちが裏切ったことは、まだバレてへんけど…あすみんとあい〜んが、こっちに来る…!!」
「え…?な、中田先生と…細川さんが…?」
「何…?藍が…?」
中村有沙は、二人の会話に僅かに反応した。
「あみ〜ご!!あんた、携帯の電源、切った?」
「う…ううん…」
そう言った途端、有海の携帯が鳴った。
送信主は…『エンペラー(皇帝)』…。
「く…楠本さんだ…」
泣き出しそうな、有海…。
「ど、どうしよう…?」
「と、とにかく、電話に出な…怪しまれるで…?」
「う…うん…」
有海は、携帯の通話ボタンを押しかける。
しかし、それを中村有沙が止めさせる。
「ま、待て…!!有海、私に電話で話させろ!!」
「え…?な、中村先輩が…?」
「早く…!!」
有海は、通話ボタンを押すと中村有沙の耳に持っていった。
4839投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)21時00分06秒
〔もしもし?『ハイプリエスティス(女教皇)』ですか?『エンペラー(皇帝)』です〕
「『ハイプリエスティス』?それは、一木有海のことか?」
〔…!?〕
電話の向こうで、楠本が絶句している。
〔あなた…中村有沙さん…ですよね…?〕
低い、慎重な声で、楠本は訪ねる。
「まさかとは思ったが…有海は『TDD』に入ったのか…?それに…細川藍も…?」
さっきのあすみの留守番電話を、地獄耳で聞いていた。
『スター』というのが…おそらく藍なのだろう。
4840投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)21時00分20秒
〔あなたが、あみ〜ごの電話に出てるということは…もう、既にお見通しってわけですね…〕
「貴様が、有海のことを『あみ〜ご』と言うな!!」
感情的に、中村有沙は怒鳴った。
〔誰です…?あなたを助け出したのは…?〕
楠本は、無駄なお喋りをせずに、本題に入った。
彼も相当焦っている様だ。
「誰だと思う…?」
〔…ダーブロウ有紗さん…ですね…?〕
やはりさすがの楠本も、帆乃香と有海が裏切ったとは夢にも思っていないようだ。
「ふふ…。まあ、そう思っていればいいのではないか…?」
中村有沙は、ワザと含みを持たせた返事をする。
〔…?違うんですか…?〕
「さあな…」
今、確実に主導権は、中村有沙が握っている。
4841投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)21時00分47秒
〔あみ〜…有海さんと帆乃香さんは、そこにいるんですか?〕
「さあな…」
〔あなたは、今、どこにいるんですか?〕
「さあな…」
〔他に、仲間と一緒なんですか?〕
「さあな…」
電話の向こうから、舌打ちが聞こえてきた。
〔まぁ、いいでしょう…。どの道、私達の絶対的有利は変わらないわけですから…〕
「そう思うか…?」
〔何ですって…?〕
「呑気だな…。『TDD』とは…」
〔どういう意味です…?〕
「さあな…」
しばらく、楠本は沈黙する。
〔まさか…裏切り者が…?〕
「さあな…」
〔『ストレングス』から、あなたを奪える程の実力の持ち主…?まさか…『あの女』…?〕
「さあな…」
〔とぼけないでください!!〕
楠本は、珍しく怒鳴り声をあげた。
4842投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)21時01分22秒
「くくく…。とにかく…今は、私達の方が有利になった…ということを伝えておこう…」
そして、有海に『切れ』と、唇の動きだけで伝える。
有海は、通話ボタンを切った。
すぐに、着信音が鳴る。
送信主は、やはり『エンペラー』…。
「有海、電源を切れ」
「は、はい…」
着信音は途切れた。
帆乃香は、不安げな表情で中村有沙の横顔を見詰める。
「ありりん…。楠本さん、何やって?」
「ああ…。やつは、裏切り者が『TDD』の中にいると、勘付いたみたいだな…」
「ええ…!?あかんやん!!やばいやん!!」
「安心しろ…。おそらく…楠本のやつは、見当違いをしてくれているぞ…」
「…へ…?」
「上手くいけば、同士討ちだな…」
「誰と…誰が…?」
「楠本と………加藤夏希だ…」
4843投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)21時01分51秒
とにかく、あすみがこのマンションに向かっているということで、いつまでもこの部屋には居られない。
有海と帆乃香は、翔子のクローゼットから適当に服を引っ張り出すと、それを中村有沙に着させた。
それは、よく見ると学校の制服の様だ…。
それはセーラー服で、水色のスカートに襟、赤いリボン…そして何故か赤い腕章が着いている…。
「あ…これ…何かのアニメのコスプレやん…」
本棚に並んだ大量の漫画、アニメDVD、特撮ヒーローのフィギュア…どうやら翔子はオタクの様だ。
「…もっと、マシなものはないのか…?」
ナットー製鉄の工場跡地で身包み剥がされて拷問を受けてから、12時間ぶりに服を着ることができたのだが、明らかに中村有沙は不機嫌そうな顔をしている。
「我儘言わんとき!!時間がないんや!!」
「こ、このオーバーコートを羽織りましょう…。これなら、その服が見えませんから…」
有海は、黒い毛皮の長いコートを、中村有沙に着せた。
それも、何かのアニメの登場人物の衣装なのだが、帆乃香は黙っていた。
帆乃香と有海は、中村有沙を抱えながら翔子の部屋を後にする。
部屋を出た途端、中村有沙はここがどこなのかを思い出した。
「…むぅ…。ここは…私とちひろが、梨生奈と羅夢と戦ったマンションではないか…」
「え…?木内さんと細田さんと…何ですって?」
有海は首を傾げながら問う。
「いや…何でもない…。それより…話せ…。何故、貴様と藍が、『TDD』などに入ったのだ…?」
4844投稿者:リリー  投稿日:2008年11月05日(水)21時03分19秒
これが、有海と帆乃香が姿をくらました理由です

では、おちます
4845投稿者:>セーラー服で、水色のスカートに襟、赤いリボン…そして何故か  投稿日:2008年11月05日(水)21時10分52秒
リリーさんそっち方面にも詳しすぎますwww
でも有沙が着てたら似合うだろうなぁ

でも「黒い毛皮の長いコート」は何??クルエラ??
4846投稿者:45  投稿日:2008年11月05日(水)21時13分53秒
長すぎたか;;
>セーラー服で、水色のスカートに襟、赤いリボン…そして何故か赤い腕章が着いている…。
これって「涼宮ハ○ヒ」だよねw
4847投稿者:117  投稿日:2008年11月05日(水)21時21分42秒
あらら、帰ってきてましたか、というか普通に更新していたんですね(笑)。
「教育フェア」に行ったんですね!僕は直前の生放送を見ていました。
そこで今日は3日分?、一気に読みました。
なるほど、帆乃香と有海は裏切り、有沙をかくまおうと行方不明に・・・
そういうことでしたか。続きも楽しみです!
4848投稿者:過去ログ  投稿日:2008年11月05日(水)21時57分18秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544d.html
4849投稿者:黒い毛皮はメーテルじゃないのか  投稿日:2008年11月05日(水)22時36分44秒

4850投稿者: 投稿日:2008年11月05日(水)23時40分08秒
4851投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時49分57秒
4846さん
そうです、涼宮○ルヒです
でも、私はそんなに詳しくないんですよ
しょこたんが、コスプレしてたのを見てたような気がします

4849さん
仰るとおり、黒いコートはメーテルです

4848さん
過去ログ、ありがとうございます

117さん
3日分というよりも、きりの良い所で終わらせる為に、長くなってしまいました
今日の更新は、少なめです
教育フェア、楽しかったです
でも、当日は寒くて、風邪をひいてしまいました
ハーフパンツで素足を出してた羅夢は、大丈夫だったでしょうか?

今日あの人物が、いよいよ登場します

では、更新します
4852投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時50分47秒
『午後1時30分』
『R&G』、第二のアジト、天心荘。
「お腹空いたよぉ〜〜〜」
橋本甜歌が、さっきから一分おきに泣き声をあげている。
「うっさいな!!いい加減、黙らんかい!!」
七海は甜歌を怒鳴りつけた。
「だってぇ…。もう、お昼ごはんの時間じゃん!!何か、食べに行こうよぉ〜…」
「ダメよ。『TDD』に見つかっちゃう。我慢して」
梨生奈は、さっきから何度目かになる説得を繰り返す。
「じゃあさ…出前取ろうよぉ…。ピザとかさあ…」
「ダメよ!!ここのことは、『TDD』はおろか、誰にも知られてはいけないの!!」
「じゃあさ、コンビニとか行って、何か買ってくるのは?それならいいでしょ?」
困った様な顔で、梨生奈は皆の顔を見る。
「…どうする…?やっぱり…何か買いだめをしておいた方が良かったわね…」
そう…緊急避難基地と言いながら、ここには水も食料も蓄えていなかった。
何せ、この基地の管理責任者は、『R&G』を辞めていったジャスミン・アレン…。
全ての事は、彼女に一任していたのだ。
食料を入れる前に、彼女はモニークを探す旅に発ってしまったのだ。
4853投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時51分02秒
「クリスマスパーティーをするつもりだったんだろ?何で、何も買って来なかったんだよ?」
イラつきながら、ジョアンは杏奈と卓也を睨んだ。
「だ、だって…一先ずここで準備をしてから、改めて買いに行こうと思って…」
シドロモドロになりながら、卓也は言い訳をした。
4854投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時51分20秒
「なぁ…。あいつ、食えるかな?」
羅夢は、部屋の片隅で倒れている山本を親指で指す。
「やめろよ!!食中毒おこすぞ!!」
ジョアンは、悲鳴にも似た声で怒鳴った。
「しゃあない…。ウチが買ってくる…」
七海は溜息をついて、腰を上げた。
「え…?な、七海…。あなたが…?」
梨生奈は、意外そうな声をあげる。
「うん…。こうなったのも、うちの責任や…。うちが買出しに行く…。腹が減っては戦はできんし…」
七海は、金属バットを掴んで玄関に向かう。
それを、吉田が引き止めた。
「ま、待ち…!!七海!!羅夢、おまえも一緒に行ってあげなさい」
「ああん?アタイが…?七海と…?何でだよ?」
「こういう時こそ、協力せな…」
「ええよ、レッドさん!!羅夢なんか着いてきたら邪魔や!!」
「何だと!?もう一回、言ってみろよ!!」
羅夢が、七海に掴みかかる。
「ちょっと…。こんな時に、何、ケンカしてんのよ…」
杏奈が呆れ顔で呟いた。
「もう…」
梨生奈が、その広い額を指で押さえる。
4855投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時51分38秒
その時、玄関のドアをノックする音が…。
皆は、一斉にドアを見る。
ノック…?『R&G』の者なら、指紋センサーに指をかざすはず…。
つまり…外部の者…?
「敵か…!?」
羅夢は、ヌンチャクを構えて玄関前に立つ。
七海も同様、金属バットを構えた。
しかし、『TDD』の者ならば、わざわざノックなどするだろうか?
「待って!!ジョアン!!モニターで確認して!!」
「わ、わかった!!」
ジョアンは、すぐに壁に埋め込まれたモニターで、来訪者を確認する。
小さな少女が一人、そこには映っていた。
「…?誰だ…?」
ブカブカのコートを着て、大きな毛糸の帽子を被っている為、顔が確認できない。
ただ、長い栗色の髪の毛が帽子からはみ出て垂れ下がっている。
「梨生奈…見覚えあるか…?」
ジョアンは、梨生奈を抱えてモニターまで連れて行く。
「…?誰…?」
梨生奈も首を傾げた。
見たところ、普通の少女の様だ…。
武器も持っていない…。
4856投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時52分08秒
だが、油断はできない。
この少女の正体は謎のままだし、誰なのか見当もつかない。
「なぁ、梨生奈…。どうするんだよ?」
羅夢が痺れをきらした風に聞く。
「…とにかく…誰なのか、確認しないと…」
梨生奈も、どうするか決めかねて、吉田の顔を見る。
吉田も、困ったように顔を顰める。
「と、取りあえず…あがってもらう…?」
「で…でも…」
その間、引っ切り無しにドアがノックされる。
4857投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時52分21秒
「ね、ねぇ…。この音、ずっと鳴らされてたら、結構近所に目立つんじゃない?」
杏奈は、不安げに梨生奈に言う。
「そ…そうね…。ジョアン…あなたも、玄関に…」
「おう…!!」
ジョアンも鞭を持って、七海と羅夢の間に立つ。
「顔を確認する前に…すぐにその女の子を部屋の中に入れて…」
梨生奈が、3人に指示を出す。
「アタシがドアを開ける…」
ジョアンは、鞭を振るうと、ドアノブに絡ませた。
そして微妙な力の入れ具合でノブを回すと、思い切り鞭を引っ張った。
ドアは開かれる。
その少女は、姿を現した。
4858投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時52分42秒
「…!?」
七海も羅夢もジョアンも…一瞬、言葉を失った。
目、鼻、口…何もかも大きく、はっきりとした顔立ち…。
知っている顔だ…。
いや…忘れるはずがない…。
自分達が…表の世界で過ごすことができた…きっかけを与えてくれた少女なのだから…。
しかし…この少女は…!!
「どうも…お久しぶりです…」
その少女は、軽く頭を下げた。
「お…おまえは…」
ジョアンが、鞭の先をドアノブから解いて手元に引き寄せた。
「はい…。加藤ジーナです」
その少女は、自分から名乗った。
「ジ…ジーナ…!!」
加藤ジーナ…加藤夏希の妹…!!
『TDD』に身を寄せて…自分達の前に敵として立ちはだかって…エマとエリーを惨殺した…あの、加藤夏希の妹…!!
4859投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時53分07秒
「うおおお〜〜〜!!」
「オラァァァ〜〜!!」
「ゴルァァァ〜〜!!」
ジョアンも、羅夢も、七海も、一斉にそれぞれの武器を、その小さな少女に振り下ろした。
しかし、その武器はそれぞれの足下に落とされた。
彼女達の指に…数本の細く短い針が射ち込まれていた。
「…へ…?」
いつの間に…?
痛くも痒くもない…。
だが…指にまったく力が入らない…。
「では、お邪魔します」
ジーナは靴を脱ぐことなく、ズカズカと中に入って行った。
「お…おい…!!」
ジョアンも羅夢も七海も、ワンテンポ遅れてジーナの後を追う。
だが、3人はその場で崩れ落ちた。
足にも、細い針が射ち込まれていたのだ。
「り、梨生奈〜〜〜!!逃げろぉ〜〜〜!!ジーナだ!!夏希の妹だ〜〜〜!!」
羅夢は、有らん限りの声を張り上げた。
4860投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時53分55秒
「ジ…ジーナ…?」
呆然と、梨生奈はジーナを見上げた。
「な…何で…あなたが…?」
姉の加藤夏希がいるのだ。
妹のジーナが一緒に居てもおかしくはない…。
でも…。
ジーナを表の世界の住人にすると言って、夏希はイギリスにいる母親の元へ彼女を連れて行ったはずだ…。
そう…ジーナは、自分達を支配していた『TTK』のボス、『ラビ』達を殺した…。
『TTK』の戦士達は、謀反を起こさないように、主の『ラビ』達に危害を加えられないように、『洗脳』を施されていた…。
しかし、ジーナは姉の夏希と離れ離れになることを恐れ、『ラビ』達を殺してしまう。
『ラビ』達の支配から自由になった『TTK』の戦士達は…裏の世界から表の世界に移ることができた。
梨生奈も、七海も、羅夢も、ジョアンも…中村有沙も、ダーブロウ有紗も…原村にいる瑠璃だって…皆、自由になれたのだ。
だが、当のジーナは………『洗脳』に逆らった為…精神崩壊を起こしたのだ…。
4861投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時54分07秒
ジーナは、じっと梨生奈を見下ろし、吉田を、卓也を、杏奈を、甜歌を、それぞれ見渡す。
「もう…ジーナをいじめる人は、いませんね?」
そう言うと、ジーナは梨生奈の正面に正座をする。
「…え…?」
梨生奈は意外な声をあげた。
今から、自分は殺されるのではないのか…?
ジーナは、大きめのピンク色のコートの懐に手を入れる。
ビクっと、梨生奈は震えた。
「はい…」
ジーナが梨生奈に、何かを差し出した。
それは…透明ケースに入れられた…DVDディスクだった。
4862投稿者:リリー  投稿日:2008年11月06日(木)20時54分34秒
今日は、これでおちます
4863投稿者:ジーナきた  投稿日:2008年11月07日(金)18時59分20秒
夏希が登場してから随分経ちましたね
4864投稿者:あげ  投稿日:2008年11月07日(金)21時48分10秒

4865投稿者:今日は  投稿日:2008年11月07日(金)21時59分16秒
まだだったんだ・・・
4866投稿者: 投稿日:2008年11月07日(金)22時27分56秒

4867投稿者:あげ  投稿日:2008年11月08日(土)07時19分15秒
あげあげ
4868投稿者:ああ  投稿日:2008年11月08日(土)15時50分00秒
げげ
4869投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時04分45秒
昨日は、すみません
風邪でダウンしてました
PCの前に座ることもできませんでした

4863さん
そうですね
ジーナがこのタイミングで出てきたのは、今日の更新で明らかになります

4865さん
今日は、昨日の分も含めて更新したいと思います
すみませんでした

あげ、ありがとうございます

では、更新します
4870投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時05分16秒
『午後2時00分』
ナットー製鉄工場跡地…。
昨晩はここで『R&G』の探偵達と激闘を繰り広げ、そして今は中村有沙が捕らわれて拷問を受けているはずだった。
「…これは…どういうこと…?」
加藤夏希は、思わず呟いた。
工場内には、誰もいなかった。
天井からロープが垂れ下がり、床にはダーブロウ有紗の物と思われるナイフが散らばっていた。
そのナイフは、黒く焦げている。
自分が捨てたガスバーナーが転がっている。
中村有沙の着ていたトラックスーツが、ズタズタに切り裂かれて散乱している。
コンクリートの床は、消火栓から伸びたホースによって、一面を濡らしていた。
凄惨な拷問を行っていた形跡はある。
だが、その拷問を受けているはずの、中村有沙がいない。
いや、拷問を行っているはずの、後藤理沙、箕輪はるか、秋山恵の姿もない。
「ここに…これ以上、何の用があると言うのです?」
不意に、背後から声を掛けられた。
「楠本さん…?」
夏希は、後ろを振り向くことなく言った。
彼女の言う通り、物陰から姿を現したのは、『エンペラー』の、楠本柊生だった。
4871投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時05分33秒
「あなたこそ…どうしてここに…?」
余裕の表情で、夏希は楠本に問う。
「私ですか?手掛かりを探していたんですよ…」
「手掛かり?何の?」
「中村有沙さんを…さらっていった人物のね…」
「中村…有沙を…?『R&G』の者が…?まさか、ダーブロウ…?」
夏希の顔から、笑みが消えた。
「くくく…」
楠本は、指を鼻の下に持っていって、含み笑いをする。
「何が…可笑しいの…?」
夏希の顔が、険しいものになる。
「演技がお上手ですねぇ…。さすが、元『TTK』四天王…」
「何を言っているの?」
「もう、とぼけるのはやめましょう…」
「…え…?」
楠本の顔からも、笑みが消えた。
「あなた…『TDD』を裏切りましたね…」
二人は、じっと睨み合ったまま、ピクリとも動かない。
4872投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時06分39秒
「誰から…それを…?」
夏希が、ようやく口を開く。
「中村有沙さん…本人ですよ…」
「どういうこと…?」
「帆乃香さんも…あみ〜ごも…一緒に姿を消しました…。あみ〜ごの携帯に掛けてみたら…中村有沙さんが出ましてね…」
「彼女が言ったの?私が裏切って助けたって…?」
「いえ…そういう含みを持たせたまま、彼女は電話を切りました…」
夏希は首を横に振って、やれやれと言う風に溜息をつく。
「意外とバカなのね…。楠本さん…」
「はい?」
「あんな小娘の計略に引っ掛かって…。その有海と帆乃香が…裏切ったと考えられない?」
「…?あみ〜ごと…帆乃香さんが…?でも、恵さんの手から奪われたんですよ?あの娘達にそんなことができます?」
「恵は…殺されてたの?」
「いえ…。眠らされていた様です…」
「ふふ…。私だったら殺すわよ…?それに、眠らせるならあの小娘達にもできるでしょ?食べ物や飲み物に薬を混ぜたりして…」
「う〜ん…。なるほど…」
4873投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時06分55秒
「とにかく、恵が眠りから覚めるまで、結論は急がない方がいいんじゃなくて?」
「そうですね…。いやいや…これはとんだ失礼を…」
「いいわ…。間違いは誰にでも…」
そう言い掛けた夏希は、手に持った長ドスを抜いて振り払った。
火花が散る。
楠本が…例の切っ先の曲がったナイフと、日本刀から作り出したナイフを両手に構え、夏希に襲いかかったのだ。
4874投稿者:風邪大丈夫ですか?  投稿日:2008年11月08日(土)20時07分18秒
無理なされないでください
4875投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時07分41秒
「ちょっと…楠本さん…!!一体、どういうつもりなの…?」
夏希は、長ドスを構えた。
楠本は、両手のナイフを構えてジリジリと夏希に詰め寄った。
「あなたは…まだ黒ではない…。でも、限りなく黒に近いグレーです…」
「黒に近い…?それだけで、私を殺すの…?」
「ええ…。真っ黒になった途端、あなたは姿を消す…。そして…我が『TDD』にとって、最も厄介な敵となる…」
「そうなる前に?」
「ええ…。あなたを殺します」
「その…限りなく黒に近いという…証拠は…?」
4876投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時07分59秒
楠本は、今にも飛び掛らん勢いを保ちつつ、根拠をあげる。
「まず…あなたは、加藤組組長…あなたのお父さんを殺した」
「ええ…。そうよ…。何?あの時の報復?意外と器の小さい男ね…」
夏希の挑発に、楠本は乗ることなく話を続ける。
「自分の父親を…ダイナマイトでバラバラにして殺す…。何て恐ろしい女だと、思ったものです…」
「それが、証拠?わけわからないわ…」
「それから…近藤エマさんに渡邊エリーさん…。私は実際に見てないのですが…かつての仲間に対し、生皮を剥がして吊るすなど…」
「だから、あなたは何が言いたいわけ?」
「あなたは、異常とも思える殺害方法で、血も涙もない冷血漢という印象を我々に植え付けた…。でもね…夏希さん…」
楠本は、一つ息をつく。
「あなた…どれもこれも、『不必要なまでに遺体をメチャクチャに破壊』してるんですよ…」
そして、日本刀のナイフを夏希に突きつける。
「それによって…その遺体が…『誰が誰なのかわからない』という状態になってしまっている…」
楠本は、夏希を睨みつけて、確信を持って言い放つ。
「まだ生きてますよね…?加藤組長も…エマさんも、エリーさんも…」
4877投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時08分38秒
「あははは!!」
夏希は、腹を抱えて大笑いした。
しかし、楠本は、表情を崩さずにじっと夏希を睨みつけている。
「くくく…。あなた…それでも探偵なの…?全部自分の想像でものを言って…。挙句の果ては人を犯人扱いして殺そうとするなんて…」
その瞬間、夏希は手裏剣を楠本に投げつけた。
わかっていたと言わんばかりに、楠本は落ち着いて両のナイフで手裏剣を叩き落した。
「これで、あなたは真っ黒だ…」
「ええ…。あなたに言われるまでもないわ…。私は、どす黒い女…」
夏希は楠本に襲いかかる。
4878投稿者:まさか中川が一枚かんでるとは思えないよね  投稿日:2008年11月08日(土)20時08分49秒
ん?でも想像してたらこっちまで頭こんがらがってきた(待)
4879投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時08分53秒
二人の姿は消えた。
そして、工場内に弾ける火花…。
再び、二人は姿を現す。
「さすが…元『TTK』の四天王…。凄まじい腕前だ…」
楠本は、心の底から高揚感を湧き起こす。
「そう…?あなたは…もう少しできると思ったんだけど…」
夏希は余裕の笑みを浮かべる。
「くくく…。私、一応フェミニストなんでね…」
「私は、男でも女でもない…。『悪魔』と思って対峙してくれて構わないわ…」
「ならば…そうしましょうか…」
楠本は、ナイフを持った両手を前方でクロスさせ、腰を低く落とす。
「…!?その構え…」
夏希の身体に、緊張感が走る。
「ええ…。ダーブロウ有紗さんに教えてもらいました…」
そして、コンクリートの床を蹴ると技の名前を叫んだ。
「『Roam』!!」
4880投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時09分47秒
「速い!!」
モニーク程ではないが…ダーブロウ有紗の『Roam』よりも速い…!!
夏希は、思わず一歩下がった。
しかし、楠本も大きく後ろに飛び跳ねた。
夏希と楠本の中間地点に…ピンク色の砲丸と、黒い矢が…。
「…!?こ…これは…?」
楠本は、天井の鉄骨の梁を見詰めた。
そこには…ボウガンを構える二人の少女が…。
近藤エマと渡邊エリーだ…!!
「やはり…生きてましたか…!!二人とも…!!」
楠本は、すぐに夏希の方に視線を落とす。
夏希が、長ドスを振りかざして突っ込んで来た。
「む…!?」
楠本は、その斬撃を寸ででかわす。
しかし、攻撃に移ることができない。
またもや、砲丸と矢の追撃がきたからだ。
「むぅ…!!何か私…女難がまだ続いてるんでしょうか…?」
楠本は自嘲気味に呟いた。
4881投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時10分13秒
間髪入れず、エマの砲丸が楠本を襲う。
「おっと!!」
楠本は、飛び跳ねてその攻撃を避けた。
エリーの矢は、その直後に…。
だが、エリーの矢は楠本ではなく、エマの鉄球に深々と刺さった。
そして、その砲丸から、凄まじい煙幕が発せられた。
「…!?これは…?」
煙幕は、工場内全てを覆った。
楠本は、五感を研ぎ澄ませて夏希の攻撃に備えた。
しかし…いつまで経っても攻撃はこない…。
「む…?まさか…」
そう…夏希もエマもエリーも…この隙に逃げ出した様だ…。
「なるほど…。あくまでも、中村有沙さんを助け出す為に来た…ということですか…」
楠本は二つのナイフを懐にしまい、頭を掻いた。
「ん…?夏希さんは、今、中村有沙さんを助けに来た…?と…いうことは…中村有沙さんを実際に助けたのは…」
楠本は、夏希の言葉を思い出す。
「まさか…あみ〜ごが…?」
あの気弱な少女が…?
『TDD』を裏切った…?
楠本は、すぐに寛平へ報告する為、携帯を取り出した。
夏希の裏切り、有海と帆乃香への疑惑、加藤組長、エマとエリーが生きていたこと…報告することが多すぎる。
4882投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時13分36秒
4874さん
ありがとうございます
やっぱり、あの教育フェアの日に風邪をひいてしまったらしいです
あの日、もの凄く寒かったですから
でも、楽しかったです

4878さん
そうですね
一旦、ここでおちたいと思います
すぐにまた、更新します
その時に、夏希に関しての件は、明らかになっていきます

では、また更新にきますので…
4883投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時58分05秒
では、また更新します
4884投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時58分31秒
『六回・裏』(プレイバック)
≪2007年12/24(火)≫

「静かにしなさい…エマ…」
「む…ぐぅぅ〜〜〜!!」
加藤夏希に口を押さえつけられたエマは、有らん限りの呻き声をあげる。
このまま、自分は殺されるのか…。
エリーの元に行くのか…。
「エマ…!夏希さんの言うとおりにして!!」
エマの背後から、囁く者がいる…?
(エリー…?)
一瞬、エマの身体の力が抜けた。
「ようやく大人しくなったわね…」
夏希は、エマの顔から手を放した。
自由になったエマは、恐ろしげに夏希を見上げると、次に後ろを振り返る。
そこには…最愛のパートナー、渡邊エリーが立っていた。
「エ、エリー…?ど、どういうこと…?あんた…殺されたんじゃ…」
「違うよ…。夏希さんは、私達の敵じゃないの!!」
「敵じゃない…?どういうこと…?」
「ふん…!!味方でもないんだけどね…」
夏希は、冷たい視線で二人を眺めて言う。
4885投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時58分53秒
「さあ、二人とも…この部屋の中に入って!!」
電気の点いた部屋に、夏希は二人を案内した。
エマが罠ではないか…?と、警戒していた部屋である。
そこには…二つの大きな黒い袋が置いてあった。
「こ…これは…何…?」
エマとエリーは、恐る恐る夏希に訊いた。
夏希は、何も言わずにその袋のファスナーを開く。
「…え…?」
『チームE』の二人は、目を丸くする。
その袋には、それぞれ少女の裸の死体が入っていたのだ。
「こ…これ…誰…?」
エマは、震え声で夏希に訪ねた。
「誰?知らないわよ…。さ、早くこの死体を袋から引っ張り出して!!」
言われるまま、二人はその二つの遺体を袋から引きずり出した。
歳は、十代の半ば…エマやエリーと同じくらいか?
冷凍保存してあったのだろうか…?
僅かにその身体は凍っていた。
4886投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時59分16秒
エリーは、しばらくその遺体の顔を見詰め、あっと声を出した。
「こ…これ…!!盗まれた遺体じゃん!!ほら、テルさんとケンキさんが依頼した、連続遺体盗難事件の…」
「あ…!!」
エマも、ようやく思い出した。
盗まれたという12体の遺体のうち…14歳と15歳の少女の遺体…。
「て…言うか…犯人は…夏希さんだったの…?」
呆然と夏希を眺める二人。
「そうよ…。何か文句ある?」
相変わらず、夏希の表情は冷たい。
4887投稿者:だんだんとTDDの歯車が狂い始めてきましたね  投稿日:2008年11月08日(土)20時59分23秒
ほんと、無理しないでくださいね。
教育フェアの野外ステージ、ものすごい寒かったのを
今、思い出しました。

お大事に・・・。
4888投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)20時59分57秒
「な…何で…こんなことを…?」
当然、二人はその疑問を夏希にぶつける。
「これを…あなた達の身代わりにするの…」
「身代わり…?」
「そう…。この娘達の死体を、あんた達の死体ということにして…殺したことにするの…」
エマとエリーは、わけがわからない。
「でも…身代わりだったら…何で5歳の子や、おじいちゃんやおばあちゃんの遺体まで?」
「カモフラージュよ。10代の女の子の遺体ばかり盗んだら、さすがに『TDD』にも『R&G』にも怪しまれるでしょ?まあ、他の要らない遺体は即行、奥多摩の山の中に棄てたけど…」
「で、でも…身代わりと言っても、全然顔が違うじゃん!!バレちゃうよ!!」
「そうだよ!!私達みたいに美人じゃないし、胸だって全然ちっちゃいよ!!」
「…だから…こうするの…。あなた達も手伝って…」
夏希は、ナイフを一本ずつ二人に渡した。
4889投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)21時00分18秒
「…え…?こ、これ…何に使うの…?」
「いい?こっちの娘は私がやるから、もう一方はあなた達がやるのよ?」
そう言うと、夏希は15歳の方の少女の遺体の頭頂部にナイフをあてがった。
「え…?な、何を…」
夏希はエリーの声を無視し、その少女の遺体の頭に、大きく十字に切り込みを入れた。
そして、その傷口に指を突っ込んで皮を掴むと、一気に下に引き剥がした。
メリメリという音と共に、少女の顔の皮が剥がされる。
「ひ…ひえええ…」
エマとエリーは、抱き合って震えた。
「何してるの?早くそっちの娘の皮を剥がしなさい!!」
既に、夏希は胸の辺りまで皮を剥がしていた。
4890投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)21時00分56秒
エマとエリーは、震えながらも14歳の少女の皮をすっかりと引き剥がした。
夏希の様に、バナナの皮を剥く様にきれいにできなかったが…。
3人は、すっかり返り血を浴びてしまった。
「た…確かに…これじゃあ、誰だかわからないけど…」
筋肉組織を晒した、少女の遺体…。
まるで、真っ赤なマネキンが転がっているようだ…。
「さあ、この死体を運び出すよ」
夏希は、遺体の一つを引き摺る様に運ぶ。
「いい?血糊が着くように床を引き摺るのよ?こうやってダーブロウ達を誘き寄せるの…」
「誘き寄せる…?な、何でこんな回りくどいことを…」
「私達は、常に敵に…『TDD』に見張られてるってことを忘れちゃダメよ!!私達は『TDD』と『R&G』…二つを騙さなきゃならないんだから…!!」
「い…一体、何の為に…?」
「何の為?ジーナの為よ!!」
「ジーナ…?妹さんの…?」
「さ、おしゃべりは後…!!ダーブロウ達が来るよ!!エマはもう一人の方を…!!エリーは剥がした生皮を持って来て!!」
「ええ!?この皮、まだいるの?」
「ツベコベ言わない!!早く!!」
夏希は、14歳なのか15歳なのか、もうわからなくなったが…遺体の一つを引き摺って行った。
4891投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)21時01分38秒
隣の棟の広い部屋に出る。
夏希は、作業用ライトを点けて辺りを照らすと、ロープを遺体の足に縛り付けた。
「どうするの…?」
「逆さ吊りにするの…」
「な…何で…?」
「近くでこの遺体を見られたら、もしかしたらバレるかもしれない。身長も微妙に違うしね…」
しかし、逆さ吊りにしても、遺体が硬直している為に腕が垂れ下がらないことに気がつく。
夏希は、力任せに遺体の腕を上に伸ばした。
バキバキと、骨が砕ける音が響く。
「ひぃぃ…!!」
エマとエリーは、耳を塞ぎながら身を寄せ合った。
4892投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)21時01分51秒
二つの遺体は、天井高く吊るされる。
「さあ…これであんた達は死んだ…」
夏希の言葉を受け、『チームE』の二人は、複雑な気持ちでその遺体を見上げる。
「そうだ…。あんた達、その服を脱ぎなさい」
「え…?何で…?」
「生皮はあっても、服が無かったら怪しまれるわ。皮と一緒に置いておく。早く、脱いで!!」
「い、今、12月で、メチャクチャ寒いんだけど…」
「本当に、生皮剥がしてあげようか?」
夏希の目が、鋭く光る。
「わ、わかりましたよ…」
二人は泣きべそをかきながら、血だらけになったトラックスーツを脱いで、生皮と一緒に遺体の下に置いた。
4893投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)21時02分14秒
夏希は、まず、エマとエリーと思わせた惨殺死体をダーブロウ有紗に見せつけ、彼女に冷静な判断ができないようにする。
そして、何とかダーブロウ有紗を一人を離し、力ずくで取り押さえる。
恐らく、無傷ではすまないだろうが…妹の為に覚悟を決める。
そこでエマとエリーの無事な姿を見せれば、ダーブロウ有紗も冷静になるだろう。
(いや…それすらも危うい作戦なのだが…)
ダーブロウ有紗さえ説得できれば、後は比較的容易い。
本来の対戦相手、寛平に出会う前に、これらの手順を済ませておかなければならない…。
しかし、ダーブロウ有紗を説得する前に、寛平が登場。
そのままダーブロウ有紗と戦闘に突入した。
夏希は諦めざるを得なかった。
しつこくダーブロウ有紗と戦いたいと食い下がったら、さすがに怪しまれるかもしれない…。
それよりも、ダーブロウ有紗以外の者の安全を守らなくてはいけない。
結局、無事に助け出せたのはジョアンだけだった。
ジョアンは気を失っていて、話をする機会はなかった。
すぐに、七海や中村有沙の保護に向かわなければならない。
死んだことになっているエマやエリーを、ウロウロさせるわけにもいかない。
4894投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)21時02分36秒
ジョアンを無事な場所に寝かせておいて、夏希は工場内に戻る。
中村有沙か、七海か、それともダーブロウ有紗…どちらに向かえばいいのか…。
彼女が迷っていると、ダーブロウ有紗が工場のガラス窓をブチ破って逃げ出すのを見かけた。
「ダーブロウ…?まさか…ボスから逃げ出したの…?」
あのダーブロウが…?
そこまで、寛平の実力は桁違いなのか?
夏希は、ダーブロウ有紗と寛平の後を追うことにした。
結局、寛平はダーブロウ有紗を逃がしてしまった。
夏希は、彼女の行方を追ったが、とうとう見つけ出すことはできなかった。
「…いや…。もし仮に見つけたとしても…あいつは…もう、ダメかもしれない…」
あんなに無様に逃げ回るダーブロウ有紗の姿を、夏希は知らない。
再び、寛平に立ち向かう気力が残っているだろうか…。
すると、夏希の携帯が鳴った。
送信主は、エマだった。
4895投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)21時02分57秒
「どうしたの?『キャンディー・ボール』(エマ)…?」
〔『デーモン・ハート』(夏希)、大変…!!ありりん…『アンダー・クイーン』(中村有沙)が…『TDD』に捕まっちゃったよ!!〕
「何ですって…!?」
〔殺されるのかな…?それとも…仲間の居場所を聞き出す為に、拷問されるのかも…〕
「『キラー・タイガー』(七海)は…?彼女はどうなったの?」
〔何とか無事に逃げ出せたみたい…。て、いうか、『キラー・タイガー』を逃がす為に、『アンダー・クイーン』は捕まったんだよ!!〕
「………そう…。まずいわね…」
〔ねぇ、私と『ビー・アタック』(エリー)で、『アンダー・クイーン』を助け出してもいい?〕
「ダメよ!!あなた達は死んだことになってるの!!」
〔で、でも…放っておけないよ!!『アンダー・クイーン』、死んじゃうかもしれないんだよ!?〕
「………わかった…。『アンダー・クイーン』は、私が助け出す。その代わり…」
〔その代わり?何?〕
「あなた達の第二のアジト…何処…?教えて」
〔え…?何で…?〕
「私の妹…『スカーレット・ニードル』(ジーナ)を…保護してもらう…」
〔『スカーレット・ニードル』?今、日本にいるの?だって、彼女は、イギリスにいるお母さんの所に…〕
「これは取り引きじゃない!!命令よ!!早く、教えなさい!!」

『六回・裏』(プレイバック)・・・終了
4896投稿者:ひえぇぇぇぇ  投稿日:2008年11月08日(土)21時03分01秒
生皮をひんむく場面想像して背筋凍った
4897投稿者:78  投稿日:2008年11月08日(土)21時05分04秒
こんがらがった頭は直りましたが・・・・・・
プレイバックされたらそちらがややこしくなりませんか?余計な御世話ですみません
4898投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)21時09分08秒
つまり、夏希は最初から『TDD』に入るつもりはなかった…ということです
多くの方々が予想された通り、生皮を剥がされたのは『チームE』ではなく、盗み出された遺体でした

4887さん、ありがとうございます
4887さんも、教育フェアに行かれたんですか?
私は、二回目は見てませんが、一回目と変わったところはありましたか?

4896さん
そうですね…
エマやエリーを助け出したのですが、この遺体の少女達は気の毒です
あと、遺族の方々も…
夏希は基本的に、ジーナ以外の者はどうでもいい…という考えですので…

では、今日はこれでおちます

4899投稿者:リリー  投稿日:2008年11月08日(土)21時13分29秒
78さん
そうですね
プレイバックでややこしくなると思いまして、二回に分けました
そして、プレイバックはもう一回ありますので、どうかご了承下さい
やはり、ドラマとは違う、小説での回想シーンは難しいです
東野圭吾さんなんかは、さすがです
4900投稿者:リリーさんお大事に  投稿日:2008年11月08日(土)23時28分12秒

4901投稿者:リリーさんって  投稿日:2008年11月08日(土)23時37分45秒
お暇なんですね!
4902投稿者:あげ  投稿日:2008年11月09日(日)09時32分52秒
 
4903投稿者:夏希・有海・帆乃香・翔子  投稿日:2008年11月09日(日)09時55分57秒
どんどん、TDDから裏切り者が出てくる

戦力的には夏希しか計算できないけど
4904投稿者:117  投稿日:2008年11月09日(日)10時53分34秒
風邪をひいていたんですか・・・どうぞ、お大事に。

さて、物語の方は新展開が多く見られますね。
夏希は「TDD」に入るつもりはなかったと!
エマとエリーも生きているようで、一安心。リリーさんは戦士を殺さないんですよね?
「プレイバック」方式は斬新で、結構良かったと思います。続きも気になります!
4905投稿者:4887  投稿日:2008年11月09日(日)20時27分29秒
特にないですね
4906投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時53分59秒
4900さん
ありがとうございます
風邪だと書いてから、いろんな方々にお気遣いのレスを頂き、嬉しいです

4901さん
前にも書かれた方ですか?
最近は、そうでもないです
新しい部分はずっと書けないでいます
今、更新している部分はずっと前に書き上げたものです

4903さん
『七回・裏』は、ラッキー7として、どんどん『R&G』に好転していく展開となります
4907投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時54分32秒
117さん
風邪の方は、だいぶ良くなりました
さっき外出したのですが、また頭が、ぼおっとしてきましたが…
はい、基本的には殺さないようにしています
できれば、関係者も…
殺すのは、名もない登場人物か、CGキャラ、オリジナルキャラにしてあります
例外だったのが、ツグラムの夏希さんとミチコさんです
『プレイバック』は、今回もでてきます

4887さん
そうですか、ありがとうございます
でも、2回目も見てみたかったです

では、更新します
4908投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時55分48秒
天心荘。
「こ…これは…何なの…?」
梨生奈は、ジーナの差し出したDVDディスクとジーナの無表情の顔を、交互に見詰める。
「見てください。お姉ちゃんからのメッセージが入ってます」
「お姉ちゃんって…夏希さん!?」
ジーナは、大きく頷いた。
「り…梨生奈…!!何やってんだ!?に、逃げろ!!殺されるぞ!!」
羅夢が、廊下を這いずりながら叫んでいる。
七海もジョアンも立つことができない。
ジーナの暗黒針灸術で、身体の自由を奪われたのだ。
3人を同時に相手をして、戦闘力を無力化するとは…。
ジーナが、『TTK』最強戦士と呼ばれた所以である。
「ジーナは、人殺しなんてしません。『ラビ』達が最初で最後です」
キッと、ジーナは這いつくばっている3人を睨みつけた。
「ジ…ジーナ…。あなた、精神は…もう、大丈夫なの…?」
『ラビ』達を殺したことで精神崩壊を起こしたジーナを…梨生奈達はこの目で見たのだ。
「精神…?ええ…。あの頃に比べれば、だいぶ良くなりました」
「な…何があったの…?あなた達…姉妹に…」
「だから、そのディスクを見てください。全部、それに答えはあります」
4909投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時56分19秒
七海達、這いつくばっている3人の側で、弱々しい声の吉田がジーナに訪ねる。
「な、なぁ…お嬢ちゃん…。こ、この針を抜けば…3人は元通りになるんか?」
ジーナは、目を大きく見開いて、吉田の方を向く。
「ダメです!!素人がその針に触らないで下さい!!神経を傷つけて、一生、半身不随になります!!」
「げ…!!レ、レッドさん!!さ、触るなよ!!」
ジョアンが、青褪めながら叫んだ。
「ほ、ほな、はよ、オノレがこの針を抜かんかい!!」
七海も悲痛な叫び声をあげる。
「まだです。まだ、抜いてあげません」
「な、何でだよ!!」
羅夢は、歯軋りしながら呻く。
「まずジーナが、あなた達の敵ではないという証明をしないうちに、あなた達の身体を自由にできません!!また、ジーナをいじめるかもしれないし…」
「い、いじめるだと!?おまえがアタイ達をいじめてるんじゃないか!!」
羅夢の怒声が終わらないうちに、梨生奈はジーナに訪ねた。
「て、敵じゃない…?じゃ、じゃあ…夏希さんも…私達の敵じゃないってこと!?」
ジーナは、初めてその無表情な顔を崩し、大きく頷いた。
4910投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時56分38秒
「ざ、ざけんな、ゴルァ!!エマやエリーを殺しておいて…よう、そんなことが抜かせるな!!」
七海が怒鳴った。
ジョアンも、それに続く。
「そ、そうだよ!!あの二人の死に様…あんなことして…敵じゃないだと!?」
しかし、それを梨生奈が制する。
「ま、待って!!七海、ジョアン!!………たしか…二人は、生皮を剥がされて殺されてたのよね…?」
「生皮…!?ひ、ひええええ!!」
それを聞いて、甜歌は真っ青になった。
「その死体………エマとエリーじゃ………ないのね…?」
ジーナは、今度は満面の笑みで頷いた。
「やっぱり…この中で頭の良い人は、梨生奈さんだけですね…」
4911投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時57分06秒
『一回・裏』(プレイバック)
≪2007年10/15(月)≫

ダイナマイトが、加藤の前の机に置かれる。
「私達姉妹の存在を全否定した、お父さん…。ならば私は、あなたの存在を…この世から消します…」
夏希の、父親を見詰める瞳は、何処までも暗く、深い…。
「骨一本…残しません…」
彼女は、長ドスを振り上げ…下ろした…。
「う、うわぁぁぁ!!」
加藤は、頭を抱えて絶叫した。
長ドスは…加藤の目の前の机に深々と刺さった。
「………へ…?」
自分は死んでいない…?
いや…この、娘と名乗る女が、殺さなかったのだ。
「これで…加藤組組長、加藤浩次は死にました…」
「な…何だって…?」
呆然と、夏希を見上げる加藤。
夏希の彼を見詰める目は、どこか哀しげだ。
初めて、この女から人間らしさを感じた瞬間だった。
4912投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時57分29秒
「ど…どういうことだ…?」
「だから…『ヤクザ』のあなたは、もう死んだのです…」
「だ、だから…ど、どういう…」
「これからは…善良な、平凡な一市民として…新しい人生をおくって下さい…」
「…?…?…?」
加藤の頭は、混乱している。
「つ…つまり…おまえは…俺を…殺さない…というのか…?」
「ええ…。でも、取り引きです」
「取り引き?」
「あなたの命を助ける代わりに…あなたは私のお願いを聞いてください」
「お願い…?な、何だ…?そ、それは…?」
「妹の…ジーナの…父親になってあげて…」
「ジ、ジーナ…?さっき、言ってた…二人目の…?」
夏希は、先ほど加藤が拳銃で弾き飛ばした写真の欠片を拾って加藤に渡す。
「あなたが、拳銃で粉々にしてしまったから、顔がわからなくなってしまったけど…本当に可愛い子なんですよ…」
その顔写真は、辛うじて大きな目だけが確認できた。
4913投稿者:一年足らずで精神状態が復帰って  投稿日:2008年11月09日(日)20時57分39秒
ちょっと非現実的じゃ?
4914投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時58分15秒
「あなたも知っている通り、私達姉妹は、あなたが『TTK』に提供した精子から生まれました」
「…う…」
加藤は、また吐き気が込み上げてきた。
「でも、母親は違います。ジーナの母親は、イギリスの文学者です。何故知り得たか、と言うと『TTK』が壊滅して、重要情報源から『卵子提供者』の一部が漏れ出したのです」
だが、加藤は彼女等の母親の話よりも、気になる質問をする。
4915投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時58分30秒
「『TTK』は…何で壊滅した…?」
「壊滅させたのは、ジーナです」
「な、何…?」
「私達、姉妹は離れ離れにさせられそうになって…ジーナは、『ラビ』達を殺しました。私達は、主である『ラビ』達に危害を加えない様に、『洗脳』を受けていたんですが…。その『洗脳』の鎖を無理矢理断ち切って…ジーナは『ラビ』達を殺しました…」
「…う…」
加藤は、改めて目だけになったジーナの顔写真を見た。
「その為、ジーナは…可哀そうに…精神崩壊を起こしました…」
夏希の顔が曇る。
「つまり…ジーナにとって、家族のつながりというものは、とても大切なものなのです…」
「で…お、俺がそのジーナって娘の父親になれってか…?だ、だったら、ヤクザの俺なんかより、その文学者さんの世話になった方がいいじゃねぇか!!」
「勿論、そうしました。『TTK』が壊滅してから、私達姉妹は、ジーナの母親に会いに、イギリスへ旅立ちました。ジーナの母親になってくれるよう、頼む為に…」
「で…どうなったんだよ…?こ、断られたんじゃねぇのか…?」
「いえ…。彼女は…ジーナを娘として…受け入れてくれました…」
「マ、マジかよ…?こ、怖くないのか?その母親は…!!だって…暗殺組織の…」
「末期癌だったんです…。ジーナの母親は…」
加藤は、口を噤んだ。
「死を目前に控え…彼女は、ジーナを…受け入れてくれたんです…」
4916投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時59分00秒
ジーナは、短い間だったが、母親と一緒の日々を幸せに過ごした。
精神が崩壊して、閉じこもりがちだった彼女が、やっとまともに夏希以外の人間にも会話ができるようになった。
しかし、その幸せな日々を過ごして半年が経ち…ジーナの母親は息を引き取った。
そしてまた、ジーナは自分の殻に閉じこもるようになった。
やはり、ジーナには家族が必要なのだ。
夏希とジーナは日本に帰国し、ジーナの父親…つまりは、自分の父親の情報を探した。
そこに、裏探偵『TDD』と名乗る者が、自分達の前に現れた。
箕輪はるかと名乗る、顔色の悪い、死神の様な女だった。
その女は、夏希が元『TTK』の四天王と聞き、『TDD』に入団するように求めてきたのだ。
だが、夏希はまず、ジーナの父親を探すことを最優先にする為、彼女を追い返した。
数日後、またその死神の様な女、はるかが夏希の前に現れた。
父親の情報を手土産に…。
なんと、自分達の父親は、関東一連を支配する暴力団、加藤組の組長、加藤浩次だと言う…。
夏希は愕然とした。
確かに、『TTK』に精子を提供するような人物…堅気の人間でないのは当然だった。
ジーナの母親の様な人物の方が、珍しいのだ。
だが、更に衝撃な事実が…。
『TDD』は、加藤組の壊滅…加藤の暗殺依頼を受けているというのだ。
その依頼をした山本組の壊滅も、『TDD』は加藤組から受けているということ…。
ここは、加藤組に着いて、加藤を守るべきか…。
しかし、夏希は逆の発想で、山本組の側に着くことにしたのだ。
4917投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時59分43秒
「つまり…私は山本組に着いて、あなたを殺すという偽装をし、あなたには、そのままヤクザの世界から足を洗って、善良な市民としてジーナの父親になってもらいたいと…」
「ぎ、偽装だと…!?そ、その為に…うちの組のもんを、皆殺しにしやがったのか!?」
夏希の顔は、再び感情のないものになった。
「私にとって、ジーナが全て…。他の何よりも、ジーナの幸せが最優先されます」
「ぐ…!!こ、この俺が断ったら…?」
「何ですって?」
「殺すのかよ!?俺を!?その、ジーナって小娘の唯一の肉親だぞ!?殺せるのか!?」
「…殺しません…」
だが、夏希の目が怪しく光る。
4918投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)20時59分59秒
「先ずは…ジーナと会って下さい…。そうすれば…あなたの気も変わるでしょう…。本当に可愛い子ですから…」
「お、俺は会わねぇぞ!!ヤクザも辞めねぇ!!何が、善良な市民だ!!今さら、そんなもんになれるわけ…」
加藤のみぞおちに衝撃が走った。
「…ぐ…」
加藤は、その場に気を失って倒れた。
夏希は、長ドスの鞘で突いたのだ。
「まぁ…。ここは焦らず、じっくりいきましょう…。さあ、いい加減事を終わらせないと、怪しまれるかもね…」
夏希は、窓から階下を眺めた。
後藤理沙達、5人の女と、楠本という男が対峙している。
「でも…いつまでも『TDD』の連中を騙せるとは思えないわ…。いずれ…『TDD』も、壊滅させなきゃいけないかも…」
夏希は、一つ溜息をつく。
「これも…ジーナの為…」
そして夏希は、ダイナマイトの導線に火を点けた。

『一回・裏』(プレイバック)・・・終了
4919投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)21時00分20秒
ジーナの差し出したDVDディスクには、加藤夏希自らが出演し、自分達姉妹の今までの経緯、どうして『TDD』に入って加藤組長の暗殺に加担したのか、を説明したものが録画されていた。
そして、加藤組長が生きていること、更に(これが七海達、『R&G』の者達を安堵させたのだが)エマとエリーが生きているということも伝えた。
これは、エマとエリーが直接画面に出てきて説明したので、信憑性は充分にあった。
そして…自分はいずれ、妹と父親を守る為、『TDD』を壊滅させる気だ…ということも…。
10分程の長さだったが、これで夏希の思惑は充分理解することができた。
梨生奈は、正直、ほっとした。
「良かった…。夏希さんが敵に回ったって聞いた時…本当に背筋が寒くなったもの…」
吉田も同調した。
「ああ…。ワシはその夏希さんがどれ程強いんか、実際には見てへんけど…ダーさんが行方不明の今、頼りになりそうやわ…」
「なりそう?なるんです!!お姉ちゃんは最強です!!ダーブロウなんて、お姉ちゃんと比べたらダンゴ虫です!!ダンゴ虫!!」
ジーナは、吉田の目の前に歩み寄ると、顔を真っ赤にしてピョンピョン跳ねた。
「あ、ああ…ごめんな…。で、お嬢ちゃん…。七海達を…自由にしてくれへん?」
吉田は、廊下に転がったままの七海、ジョアン、羅夢の方を指差した。
「そ、そうや!!はよ、自由にせい!!」
「おまえが抜かないと、アタシ達、半身不随になるんだろ!?早く抜けよ!!」
ジーナは、目を細めて3人をじっと見る。
「もう、ジーナをいじめませんか?」
「い、いじめない、いじめない…。いじめるもんかよ!!」
羅夢は、額に血管を浮かべながら笑顔で言う。
4920投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)21時00分47秒
ジーナは、ニッコリと微笑む。
「どうぞ、誰でもいいから抜いてあげてください。それで3人は自由になります」
吉田は、目を点にさせる。
「へ…?せ、せやけど…素人が針に触ったら…」
「あれは、ウソです」
あっさりと答えるジーナ。
「ウ、ウソだと!?」
ジョアンが、その真っ白な歯を剥き出しにして呻く。
「こ、このクソガキ!!よくもウチ等を騙したな!!」
「てめぇ…!!覚悟しろよ!!」
七海も羅夢も、針を抜いた途端にジーナに飛び掛らん勢いである。
「お、落ち着いて…落ち着いて…」
卓也が、恐る恐る七海の身体から針を抜く。
「ほら…もう、いじめないって約束したんだから…」
杏奈も、言い聞かせるように囁きながら、ジョアンの身体から針を抜く。
「こ、怖いよ…顔が…。スマイル…スマイル…」
甜歌が、青い顔をしながら羅夢の身体から針を抜く。
4921投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)21時01分24秒
そして、全ての針を抜き終わると…。
「うおおお〜〜〜!!」
「オラァァァ〜〜!!」
「ゴルァァァ〜〜!!」
ジョアンも、羅夢も、七海も、一斉にジーナに飛び掛った。
だが…。
「だぁぁぁ〜〜〜!!!」
3人はまた、ジーナの目の前で腰砕けに倒れ込んだ。
顔面から爪先まで、小さな針が射ち込まれ、まるで3人はハリネズミの様になって転がっている。
今度は、身体だけではなく、口も目も耳も鼻も利けない状態である。
「ウソつきは、しばらくそうしていなさい!!」
ジーナは、冷たい視線で、その場に無様に這いつくばっている七海、ジョアン、羅夢を見下ろして言った。
4922投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)21時01分38秒
「な…夏希さんだけじゃなくて…この…ジーナも………心強い味方になってくれるのね…」
梨生奈は、頼もしいと思う反面、恐ろしいとも思う。
しかし、その梨生奈の言葉に、素早くジーナは反応する。
「ん…?ジーナは戦いませんよ」
「…え?ど、どうして…?」
「お姉ちゃんが、ジーナは危ないことをしてはいけませんって言うから…」
「…そ…そうなの…?」
「だから、あなた達は、全力でジーナのことを守ってくださいね」
ジーナは、可愛らしい笑顔を梨生奈に向けた。
「ま、守る…?あなたを…?その必要は…あるかしら…」
梨生奈は、針の山になっている3人の姿を呆然と眺めながら呟いた。
4923投稿者:夏希もだけど  投稿日:2008年11月09日(日)21時03分00秒
言われたとおり戦おうとしないジーナもシスコンだなぁwwww
4924投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)21時05分45秒
4913さん
たしかに、ご都合主義的なところがあるかもしれませんね
この場合、ジーナにとっては『家族』とのつながりというものが、精神の安定にとても大切である…ということでして、つまり、母親との生活が彼女にとって精神的に良いものであった、という設定です
ですから、夏希は加藤をジーナの父親にする為、このような騒動を起こした…ということです

では、おちます
4925投稿者:リリー  投稿日:2008年11月09日(日)21時07分51秒
4923さん
『サムドラ』では、逆に夏希の言うことを聞かずに「戦いたい」の一点張りでした
つまり、お姉さんの言うことを盲目的に従ってしまうあたり、まだ精神的に不安定である…と、今、設定してしまいました

では、今度こそおちます
4926投稿者:117  投稿日:2008年11月09日(日)21時09分05秒
そうなんですか、どうぞ無理をなさらずに・・・。
そういえば、「ツグラム」でそういう展開がありましたね。懐かしい・・・

さて、今日の物語・・・なんとまぁ、話の間に1回裏のプレイバックとは。
なんか、元帥の「プッカリーノ」の脚本のようです!
なるほど、そういうやり取りがあったんですね。続きも楽しみです!
4927投稿者:戦いが終わったら  投稿日:2008年11月09日(日)21時36分59秒
加藤親子が幸せになったらいいなあ
4928投稿者:リリー  投稿日:2008年11月10日(月)21時11分29秒
117さん
『プッカリーノ』の脚本、好きなんですよ
「あれは、こうだったんだ」みたいな、タイムトラベル物…
そう言って頂けると嬉しいです

4927さん
唯一、『サムドラ』でハッピーになれなかったのが、加藤姉妹ですからね
まだ、この物語は書き上げていませんが、できるだけいい終わり方を目指したいです

では、更新します
4929投稿者:リリー  投稿日:2008年11月10日(月)21時12分47秒
これで、現存している『R&G』のメンバーは…吉田、梨生奈、七海、ジョアン、羅夢、エマ、エリー、卓也、杏奈、甜歌…。
その内、吉田、卓也、杏奈、甜歌は戦闘要員ではなく、梨生奈もまだ戦えない。
しかし、何にしても夏希とジーナの『チームK』が助っ人に加わったことが大きい。(ジーナは、戦わないと言っているが…)
これで、何とかまだ『TDD』に対抗できる可能性が残った。
そして行方不明のメンバーが、ダーブロウ有紗、中村有沙、岩井七世、俵有希子、俵小百合…。
まだ帰国してない村田ちひろ…。
だが、今、この場にいないメンバーは戦力から度外視しなければならない…。
夏希が合流するまでは、梨生奈が何とかリーダーとなって、あらゆる想定を考えておかなければならないのだ。
その時、携帯の着信音が鳴った。
「あ、ジーナの携帯です」
ジーナは、コートのポケットから、派手にデコレートされた携帯電話を取り出した。
ストラップも数が多すぎて、まるでボールの様になっている。
「あ…!お姉ちゃんからです!!」
「な、夏希さんから!?」
梨生奈は、不自由な身体でジーナの側に寄った。
4930投稿者:リリー  投稿日:2008年11月10日(月)21時13分08秒
「もしもし?お姉ちゃん?ジーナだよ!!」
〔…『スカーレット・ニードル』…。コードネームで応対しなさいって言ったでしょ?〕
「あ…!ごめんなさい。『デーモン・ハート』…。で、どうしたの?」
〔無事に『R&G』のアジトに着いた?〕
「うん。着いたよ!!」
〔無事に着いたら、ちゃんと連絡しなさいって言ったでしょ?〕
「…ごめんなさい…」
〔で…ディスクは見せた?〕
「うん、見せた」
〔そう…。で、今いるメンバーの中で、一番頭の良いのは誰?〕
「え〜と…。『ムーン・ライト』かな?」
〔じゃあ、『ムーン・ライト』に代わってくれる?〕
ジーナは、梨生奈に携帯電話を渡す。
「な、何だろ…?」
幾分、緊張しながら、梨生奈は電話に出た。
4931投稿者:リリー  投稿日:2008年11月10日(月)21時13分49秒
「もしもし…。『ムーン・ライト』です」
〔『ムーン・ライト』…。今いるメンバーは誰?一人残らず教えて〕
「は、はい…。まず、私、『ムーン・ライト』(梨生奈)、『ライトニング・ボルト』(羅夢)、『ブラック・パイソン』(ジョアン)、『キラー・タイガー』(七海)…それから…」
梨生奈はチラリと吉田達を見る。
「『レッド・ライオン』(吉田)、『クラッシュ・ノイズ』(甜歌)…」
〔『レッド・ライオン』?誰?〕
「あ、新しいメンバー…じゃ、なかった…『R&G』の元々いたメンバーです」
〔戦闘力は?〕
「皆無です」
〔強そうなのは、名前だけ?後は?〕
「ええと…あの…『フニャオ』(卓也)に『カピバラ』(杏奈)…以上です…」
〔…戦闘力は?〕
「皆無です…。でも、頭は良いですよ…」
〔『クリムゾン・レイン』(七世)と『ダブル・フィッシャーマンズ・ノット』(俵姉妹)は?〕
「帰ってきません…」
〔そう…。殺されたね…。楠本に…〕
「…!?」
梨生奈は、針の山になって倒れている七海を思わず見た。
彼女は、今、視力も聴力も利かない状態だ…と、ジーナは言ったが…。
4932投稿者:リリー  投稿日:2008年11月10日(月)21時14分26秒
〔あと…あの娘は…?〕
「は、はい?何ですか?」
七世と俵姉妹が死んだという情報で頭が混乱し、梨生奈は少し対応が遅れた。
〔サムライガール…〕
「『サムライ・ガール』(ちひろ)ですか…?彼女は、まだ帰国してません」
〔帰国?何?それ…〕
「彼女は今、剣道の日本選抜チームに選ばれて、中国で合宿してるんです。今日辺り、帰ってくるという話しですが…」
〔日本選抜チーム?そんな素人に交じって何やってんのよ、あの娘は…。あの娘の剣術は、100%殺人剣だっていうのに…〕
夏希の苦虫を噛み潰したような顔が、電話からでも想像できた。
4933投稿者:リリー  投稿日:2008年11月10日(月)21時14分40秒
「あ、あと…『マッド・エッジ』(ダーブロウ有紗)と『アンダー・クイーン』(中村有沙)も帰ってません…。もしかしたら、二人とも殺されて…」
〔ああ、あの二人は生きてるよ〕
「ほ、本当ですか!?」
その言葉で、梨生奈の心は青空の様に晴れた。
しかし、夏希の声は歯切れが悪い。
〔『マッド・エッジ』は、何とか殺されずに済んだけど…〕
「けど…?」
〔あいつ…もう、戻って来ないかも…〕
「え…?」
〔あいつには、あんまり期待しない方がいい…〕
「ど…どういうことですか?」
〔それだけ、『TDD』という組織は、半端ないってことよ…〕
夏希は、ダーブロウ有紗の名誉の為にも、詳しいことは語らなかった。
4934投稿者:リリー  投稿日:2008年11月10日(月)21時15分01秒
〔それから…『アンダー・クイーン』は…助け出されたって…〕
「助けた?誰が?」
〔正確なことは、わからない。何と言っても、情報源があの『ウソツキの皇帝』…楠本だから…。それで…その…〕
「…何ですか?」
〔…いや…何でもないよ…〕
一木有海も姿を消した…と、言い掛けたが、正確ではない上、あまり重要なことではないと判断し、夏希はあえて言わなかった。
〔それで…私は今から、『キャンディー・ボール』(エマ)と『ビー・アタック』(エリー)と共に、原村に行こうと思う〕
「は、原村…?ど、どうして…?」
原村…梨生奈と羅夢、そして吉田の3人で、今年の夏に任務で出向いた。
そして、聖テレ野球部がお見舞いに来てくれた時、合宿をしていった…長野の小さな村だ。
そこに何故、夏希が向かうと言うのだ?
4935投稿者:リリー  投稿日:2008年11月10日(月)21時15分21秒
〔難田門司の隠し財産…。まだ、あるんだよ。あの村に…〕
「難田門司!?か、隠し財産って…何のことです?」
〔やっぱり知らなかったか…。あんたの野球部の監督をしてた女、原村でその隠し財産を見つけたんだ。それで、そのまま原村に隠し財産を置いてきたらしい…〕
「い…いつの間に…」
『R&G』の探偵達が大勢いるなか、どうやって見つけ出したのだろう…?
それから、『安田大サーカス』の3人組も、どうして原村に寄っていたのか、これで合点がいく。
「で…その、難田門司の隠し財産を…?」
〔ええ…。横取りするわ…。これで、『TDD』を幾分弱体化できるし、こっちも戦闘資金を得ることができる…〕
「で…でも…。その隠し財産って…難田門司が麻薬で儲けたお金でしょ…?」
〔何よ?表の世界に居て、良い子ちゃんになっちゃったの?そんなの、『TTK』じゃ、当たり前だったでしょ?〕
「い…今…私達は…『TTK』なんかじゃ…」
〔ふん!!だから、あなた達は『TDD』に惨敗するのよ!!私は違う!!まだ、現役の裏の住人さ!!〕
やはり…夏希は『TTK』の時から変わっていなかった…。
4936投稿者:リリー  投稿日:2008年11月10日(月)21時15分47秒
〔いいわ…。私達はこのまま原村に行く!!私の父…加藤組長もそこに潜伏させてるしね…〕
「え…?そ、そうなの?」
〔だから、あなた達もすぐに原村に向かいなさい!!『TDD』と戦うには、駒が多い方がいい。癪だけど、あなた達の力を借りることにするわ…〕
「ちょ、ちょっと待って…!!まだ、『マッド・エッジ』も、『アンダー・クイーン』も帰って来てないし…」
〔言ったでしょ?あんまり期待するなって…。今いるメンバーで『TDD』と戦うのよ!!『ムーン・ライト』!!あなたがしっかりするのよ!!〕
「…わ、わかってるけど…」
〔あと…『スカーレット・ニードル』もちゃんと連れて来てね。もし、彼女に何かあったら、あなた達を殺してやるから…〕
「『スカーレット・ニードル』なら、大丈夫だと思いますよ?だって、私達の誰よりも強いんだから…」
〔妹は、表の住人にする…。決してその手を汚させない…。あなた達だって、『スカーレット・ニードル』に恩があるでしょ?命に代えて守りなさい〕
「わ、わかりました…」
〔じゃあ、このまま切るわ。妹によろしく…〕
「ちょ、ちょっと待って!!原村といっても…どこで落ち合えば…」
〔その時は、また『スカーレット・ニードル』の携帯に掛けるわ。じゃあ、今日中…夜の12時までには原村に向かいなさいよ?〕
一方的に、電話は切られた。
「やれやれ…」
梨生奈は、力なく床に転がっている七海、ジョアン、羅夢を見詰める。
「ねぇ…ジーナ…。3人の、首から上だけ自由になるようにしてくれない?知らせたいことが、いっぱいあるから…」
七世が死んだ事を、七海に知らせなければならない…。
梨生奈は、気が重くなった。
4937投稿者:リリー  投稿日:2008年11月10日(月)21時16分22秒
今日は、これでおちます
4938投稿者:あげ  投稿日:2008年11月10日(月)21時22分48秒
  
4939投稿者:117  投稿日:2008年11月10日(月)21時25分59秒
ほほぉ、再び原村へ!ですか。
そして七世たちは本当に死んでしまったのか・・・続きも気になります!
4940投稿者:爆死は  投稿日:2008年11月10日(月)21時28分15秒
一番、死んだ事を疑わなければならない死に方
4941投稿者:あげ  投稿日:2008年11月10日(月)21時33分38秒
        
4942投稿者:原村ってことは…  投稿日:2008年11月10日(月)21時53分05秒
ELO(瑠璃、スペル合ってます?)と非戦闘要員(と言えるかどうかすら不明ww強さを与えられる心があるけど)のギョーザ(千秋)が……。
モニークがいたらどれだけ楽か……
4943投稿者:あの夏希も認めるちひろってちょっとすごくない?  投稿日:2008年11月10日(月)22時11分51秒
表の住人なのに
ピッコロか16号あたりの位置付けかな
4944投稿者:>43  投稿日:2008年11月10日(月)22時12分30秒
分からん……www
4945投稿者:つまり  投稿日:2008年11月10日(月)22時17分18秒
TTKの戦士をスーパーサイヤ人に例えると、それ以外でセルと対等に戦えたのがピッコロと16号・・・だから?
4946投稿者:デジ  投稿日:2008年11月11日(火)02時13分37秒
久しぶりです。だいぶ話が進んでますね。
まずは、エリーとエマの生存確認。ほっとしました。
ジーナ登場!久々ですね。見たところ「サムドラ」の依存症は消えているようですね。しかも元の「R&G」より頼もしい存在になりそうですね。
そして、帆乃香と有海の逃亡の理由。有沙も一緒だったんですか。きっかけが有海だというのが驚きです。有海も成長しましたね!
最後に加藤さんの裏切り。これには本当にびっくりしました。さすが「元TTKの四天王」ですね。見事の一言です!
七世たちの安否も気になりますが、それも含めて次回も楽しみです!
              (今日の小言)
リリーさも教育フェア行きましたか。じつは、僕も行ってきました。
天てれのショーも見に行きました(二回とも)。リリーさんと同様縄跳びのやつも見てきました。あの人たちは天てれのダブルダッチ部も教えていたそうですね。
するともしかしたら当日、出会ってたかもしれませんね!
4947投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時14分30秒
117さん
また、舞台は原村に戻ります
この小説では、『サムドラ』、『らりるれろ』の舞台各地を、出来る限り再来訪することにしています
原村でも、まだ訪れていない所もありますので
4940さん
確かに、死体が出ませんものね
死体が出てきたエマとエリーでさえ、生きてたわけですし…
4948投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時14分42秒
4943さん、4944さん、4945さん
私も、何とかわかりました
何と言っても、ちひろは夏希に勝ってますからね
ドラゴンボールで思い出しましたが、ハリウッドの『ドラゴンボール』、酷いことになってますね
もう、『ドラゴンボール』と別物の作品にして欲しいです
あの映画って、一体、誰が喜ぶんですか?
億単位のお金を使って、原作者、ファン、製作者、出演者、皆等しく不幸にするって、こんな愚かなこと、ないですよね
映画を見もしないで語るのは本意ではないんですが、これだけは「大失敗」と断言させてもらいます
映画として…ではなく、『ドラゴンボール』として大失敗です

デジさん
デジさんもいらっしゃったんですか?
つまり、上京してきたわけですか?
私は、後ろの方で背伸びして見てましたよ
ほんと、あの会場で一体になってたんですね
では、更新します
4949投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時16分15秒
『午後3時15分』
中田あすみと細川藍の二人は、高級マンション『レインボウハイツ』の前で、1時間ほど待ちぼうけをくらっている。
翔子の部屋番号を押しても応対がない。
電話も通じない。
オートロック式のマンションは、これだから面倒くさい。
直接部屋に行って確かめることもできない。
「翔子のやつ…。もしかしたら、帆乃香やあみ〜ごと一緒に、敵にさらわれたのかな…」
イラつきながら、あすみは呟く。
「そんな…。あみ〜ご…」
藍は、その場にしゃがみ込んだ。
今日は、二人でクリスマスを過ごそうと、朝早く連絡を取り合った。
昼過ぎから、その有海にも電話がつながらない。
「く…!なんか…刻一刻と、私達に状況が悪くなっていくね…」
まず…中村有沙と帆乃香が姿を消した。
側に居た、秋山恵が眠らされ、まだ彼女の目は覚めない…。
有海も同時に連絡がとれない状況…。
楠本からの情報…これが最悪な状況なのだが…『デビル(悪魔)』、加藤夏希の裏切り…。
エマとエリー、そして加藤組長の生存…。
そして今、中川翔子の行方もわからない…。
もちろん、この状況の全てを、側にいる藍に教えることはできないが…。
4950投稿者:42  投稿日:2008年11月11日(火)21時16分17秒
あの・・・・・・忘れられてます?;
4951投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時18分17秒
おお、すみません
42さん
ごめんなさい

『ドラゴンボール』で興奮してました…

そうです
瑠璃と千秋の再登場もあります
そして、意外な人達との交流もありますので、お楽しみにしていて下さい

では、更新に戻ります
4952投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時19分04秒
藍は、マンションの玄関ホール前で膝を抱えてうな垂れている。
彼女の不安な気持ちは、あすみにも痛いほどわかる。
何とかしてやりたい…。
「あい〜ん…。そこで待ってな…」
「え?あすみん…?」
あすみは、向かいの、古いマンションに向かう。
「あすみん、どこに行くの?」
藍は、思わず腰を上げてあすみの後を追おうとする。
「だから、あい〜んはここで待ってて。今から翔子の部屋の様子を見てくるから…」
「え?で、でも…様子を見るって、どうやって…?」
「うん。だから、そこで待ってて…。あい〜んじゃ、無理だから…」
「はい?」
あすみは、そのまま向かいのマンションに入っていく。
そのマンションは、オートロック式ではない。
自由に出入りはできるのだ。
あすみは、迷うことなく最上階へ…そして、屋上へ向かう。
屋上の端に立って、翔子のマンションまでの距離を測る。
「うん。充分跳べる距離だね」
あすみは充分助走をとると、屋上から勢いをつけて飛び降りた。
4953投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時19分36秒
「ひ…!!あ、あすみん!!」
藍は、上空を見上げて軽い悲鳴をあげた。
あすみが、屋上から飛び降りたのだ。
だが、あすみは地面に激突することなく、そのまま翔子のマンションへ舞い降りた。
「び…びっくりした…。あすみん…。信じられないことするなぁ…」
しかし、最近の自分の周りには、その信じられないことが続けざまに起きている。
あすみは、翔子の部屋のある14階の下、13階の通路に降り立つ。
そして、目の前のドアの横にある、鉢植えの下にあるレンガを失敬する。
14階に上がる階段に向かう途中、下でこちらを見上げている藍に手を振った。
藍は、不安げな表情であすみを見上げている。
階段を上がる途中で、首に巻いたスポーツタオルを取り、先ほど失敬したレンガを包んだ。
翔子の部屋、1401号にたどり着く。
先ずはインターホン、続けてノック。
予想通り返事はない。
「翔子、ごめんね。あんたの部屋のドア、壊させてもらう」
あすみは二歩下がると、先ほどのレンガを包んだスポーツタオルの端を持ち、ピッチャーのセットポジションをとる。
足を上げ、タオルを持った腕を振り下ろす。
ドアノブに、レンガのタオルが激突する。
ドアノブと共に、真っ二つになったレンガが床に落ちた。
4954投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時20分05秒
あすみは、そのままドアを開けて翔子の部屋に入る。
居間、ダイニングと通り過ぎ、寝室へと向かう。
「やっぱり…」
ベッドの脇に、バスローブ姿の翔子がロープで縛られている。
ベッドのシーツはクシャクシャになっていたが、部屋には荒らされた様子はない。
単純な強盗ではないだろう。
ベッドのシーツに触れてみると、汗で湿っている。
「レイプ…?まさか…」
つまり…『R&G』の仕業だ…。
「翔子…!!翔子!!」
揺り動かしても返事はない。
「…眠ってる…?」
翔子は、気持ち良さそうに寝息をたてていた。
たしか、恵も眠らされていた…。
犯人は同一人物だ…。
しかし、恵が眠らされたのは中村有沙を助ける為だろうが…何故、翔子まで眠らされている?
あすみは、携帯電話を取り出した。
ボスの寛平に報告をするのだ。
4955投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時20分52秒
「ボス?『タワー』です。『ラバーズ』の部屋に今、居ますが…『ストレングス』同様、眠らされてます。同じ人物の手口だと思いますが…」
〔わかった。アジトにおいで〕
寛平は、さほど驚く様子もなく、軽い口調で言った。
4956投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時21分03秒
「『ラバーズ』は、どうします?」
〔うん。連れて来て〕
「でも、どうやって運びましょう?」
〔うん?翔子の車があるやろ?〕
「いえ…。免許、持ってないんです」
〔ええやん。無免許でも〕
「ですから…運転したことないです…」
〔…わかった。理沙を向かいに行かせるわ。でも、自分、免許はとらんでもええけど、車の運転ぐらいできた方がええで?〕
「ボス…。ご自分だって…」
〔…そやね…。ま、すぐに行かせるから、待っててな〕
「ボス…。帆乃香のことは…」
〔あん?ま、心配は心配やけど…あれは、さらわれたんとは違うんやないかな…〕
「…?どういうことですか?」
〔自分から、姿を消した様な気がする…。勘やけど…〕
「う、占ってみたらどうです?」
〔アカンよ…。今回の件は、ワシがバッチリ関係しとんのやさかい、占いはできん。せやからダーブロウの行方もわからんし、やつ等のアジトの位置もわからん。ありりんも、可哀そうやけど拷問せなあかんかったんや…〕
「そ…そうでした…。では…また、アジトで…」
あすみは、携帯を切った。
そう…最強の寛平が、滅多に任務に参加しなかった理由は、占いが使えなくなるからだ。
その弊害が、今になって立て続けに起きている…。
4957投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時21分24秒
高架下の空き地に、帆乃香と有海、そして中村有沙はいた。
翔子のマンション、『レインボウハイツ』から、僅か300メートルしか離れていない。
まず、昼間の明るいうちにウロウロしていれば、『TDD』に見つかる可能性がある。
そして中村有沙は、翔子に筋弛緩剤を注射され、手足がまったく動かない。
帆乃香と有海、二人がかりでも、ここまで運ぶのが限界だった。
この空き地には、自動車が数台不法投棄されていて、一番大きなバンの裏に3人は身を寄せ合って隠れている。
「さ…寒いね…。中村先輩、平気ですか?」
有海は、まったく動かない中村有沙の手を擦ってやる。
「ああ…。大丈夫だ…。しかし…この手さえ動けば…ここらに停めてある車の配線をいじって動かして、アジトまで走らせることができるのだが…」
「え…?な、中村先輩…そんなこと…できるんですか?」
有海は目を丸くして、中村有沙を見詰めた。
「当たり前やん。元『TTK』の『戦士』やったら、それなりの訓練受けてるやろ?」
帆乃香が、手に白い息を吐きかけながら言う。
「『TTK』…?『戦士』…?な、何ですか?それ…」
不安そうな顔で、二人の顔を交互に見る有海。
「ち…!余計なことを…」
中村有沙は、帆乃香を横目で睨んだ。
「あ…。話したらやばかった…?ごめんな…」
溜息をつく中村有沙だが、やがて有海の顔をじっと見詰める。
「聞きたいか?私の…いや、私達の過去を…」
4958投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時21分50秒
有海は、ますます不安になる。
「そ…それは…とても…怖い話しですか…?」
「ああ…。恐らく…貴様は、私達と話しもできなくなるのではないか…?」
「………」
有海は、目を瞑ってうつむいた。
「どうする…?有海…」
しばらくして、有海は目を開き、じっと中村有沙を見て言った。
「無事に…藤本さん達のいる場所に着いたら…聞かせて頂きます…」
「そうか…」
「そ、それに…私、もう、どんな話しを聞いたって、驚きません…。それに…」
「それに?」
「中村先輩は、私の憧れの先輩に違いはないし、藤本さん達だって、大切な親友です!!」
強い意志のこもった、有海の目…。
中村有沙は、ただそっと微笑むだけだった。
「なあ…ありりん…。ななみん達に携帯で連絡して、迎えに来てもらうことはできん?」
帆乃香が、寒さに震えながら聞く。
「ダメだ。貴様等の携帯は、電源を入れた途端に現在置を知らせる機能が着いているのだろう?私の携帯は、捕まった時に奪われてしまったし…。もっとも、データと一緒に機能も破棄したが…」
有海の携帯は、『TDD』から支給されたものではなく楠本の私物だった為、現在置を特定されることはなかった。
しかし、使えばその記録は、楠本へバッチリと届く。
「ああん…。八方塞がりやんけ…」
帆乃香は恨めしそうに、高架下の隙間から覗く、灰色の空を見上げた。
4959投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時22分11秒
「細川さんに…電話がしたい…」
有海が呟いた。
「有海…。それも諦めろ…」
「でも…たぶん、細川さん、心配してる…」
有海の目に、涙が溜まってきた。
「ああ…。できることなら、藍も一緒に連れてきたかった…」
中村有沙も、溜息混じりに呟く。
これで、有海と藍は離れ離れになってしまった。
「な、なあ…ありりん…。いつまでも、こんな所に隠れてられへんで?いつになったら動けるん?」
「辺りが暗くなってからだ…。日が沈めば、闇に乗じて………シッ!!」
中村有沙は、身を低くした。
「…!?」
帆乃香と有海も、ワンテンポ遅れて同様にする。
黒いスーツを着た集団が、わらわらと群れで高架下を通って来た。
「ちきしょう…。一体、どこに連れて行かれたんだ?組長は…」
「いいか?草の根分けて探し出せ!!」
「ウチの組のベンツが、ここらに乗り捨てられてたって話しだからな…」
「ああ…。絶対に、この近くにいるぜ…」
その集団の会話は、高架下のコンクリートに囲まれている為、よく響いて聞こえる。
そして、彼等はそのまま通り過ぎて行った。
4960投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時22分33秒
「………やつ等は…何だ?」
ようやく、中村有沙は声を出した。
「…山本組です…」
有海が、震え声で答える。
「何?山本組?」
「はい…。覚えてました…。あの人達の顔…」
そう…有海は記憶力が尋常ではない。
恐ろしくてまともに顔を見られなかったヤクザ達だったが、しっかりとその記憶にインプットされていたのだ。
帆乃香は、ポンと膝を叩く。
「あ…。そう言えば…山本組長、り〜な達に拉致されたって言うとったな…」
「何!?梨生奈達が…?」
「うん。逃亡阻止の為に山本組もかり出されたんやけど、何か、余計なことして逃げられて、その際、組長をさらわれたんやって…」
「そうか…。しかし、梨生奈達め…余計なことを…。これでは、『TDD』だけでなく、山本組の包囲網も抜けなければならなくなったぞ…」
中村有沙は、コンクリートの壁に寄り掛かった。
「…む…?雪が降ってきたな…」
道路の屋根の僅かな隙間から、雪が舞い降りてきた。
「マ、マジで…?さ、最悪やぁ〜〜〜…」
帆乃香は、泣き声をあげた。
4961投稿者:リリー  投稿日:2008年11月11日(火)21時22分58秒
今日は、これでおちます
4962投稿者:117  投稿日:2008年11月11日(火)21時27分04秒
えぇ、あすみん跳ぶの〜(笑)!こっちまで、驚きました(笑)。
逃走中の帆乃香たちも、大変な状況になってきましたね。
こんな状況で、雪とは・・・僕的には「きれいだなぁ」と思いますが、
喜んでいられませんね(笑)。続きも気になります!
4963投稿者:飛び降りながら部屋の様子をチラ見するのかと思った!  投稿日:2008年11月11日(火)21時47分26秒
 
4964投稿者:ドラゴンボール実写版  投稿日:2008年11月11日(火)22時36分36秒
そんなに酷いんですか
そういえばアキラも向こうで実写化されますね
崇拝している作品だけにちょっと心配です
ところでリリー作品を実写化したいと思うのは私だけでしょうか
4965投稿者:これ見て!!  投稿日:2008年11月11日(火)23時04分32秒
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1190464.html

4966投稿者:実写化よりも  投稿日:2008年11月11日(火)23時31分41秒
漫画化してもらいたい
4967投稿者:実写化や漫画化を見たいような  投稿日:2008年11月11日(火)23時39分49秒
見たくないような・・・って感じだな
見たいけど小説のままの方が良かったって思うかもしれないし・・・
まぁ、なんかそんな感じ
4968投稿者:>65  投稿日:2008年11月11日(火)23時54分41秒
冗談だろ?な?
4969投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時33分01秒
117さん
あすみの、隣マンションのダイブですが、『サムドラ』で『チームE』もやってます
ただ、『チームE』よりも、あすみの方が、一階上に飛び降りていますが…
そう言えば、ここ数年雪をまともに見てませんね
積もった雪を見たいです
4963さん
飛び降りながらチラ見といのも、凄いアイデアですね
半端ない動体視力が要りますね
4964さん、4966さん、4967さん
実写化したら、モロに18禁でしょうね
漫画化も、やはり…
もし、絵を描けるなら、この小説の挿絵も合わせて発表したいところですが…
4970投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時33分20秒
4965さん、4968さん
ねぇ…酷いですよね…
もし、『大猿』=『キングコング』の版権が取れないのなら、この設定は捨てるべきです
て、言うか、別に映画にしなくてもよいのでは?
『ドラゴンボール』は、鳥山さんの絵で書いた原作が、最高の表現の形なんだから…(アニメだって、多少は劣化しています)
絵のない、小説の世界(『指輪物語』や『ナルニア国物語』)での実写化は、意味はありますが、もう、皆の脳にインプットされたものを、映像化する愚は、繰り返さないでほしいです
4964さんも懸念してますが、『アキラ』の実写化の権利を持っている、レオナルド・ディカプリオは、「ドラゴンボールの様な、愚かなことはしない。俺は、原作を愛している」と公言しているらしいです
安心していいのでしょうか?
『ドラゴンボール』を作ってるやつ等は、『ドラゴンボール』を愛してないんでしょうね
では、更新します
4971投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時35分01秒
『午後4時10分』
上下峠の『TDD』のアジト。
その白い洋館に、ようやく『TDD』メンバーが集まった。
だが、それはもちろん全員ではなく、一木有海、鍋本帆乃香、そして加藤夏希が欠けている。
しかも、秋山恵、中川翔子は相変わらず眠ったままだ。
つまり、まともに会議に参加できるのは、間寛平、楠本柊生、後藤理沙、箕輪はるか、中田あすみ、シンパンマン、そして細川藍。
しかし、藍は恵と翔子の様子を見る為に、別室に行かされている。
彼女にはまだ、聞かせられない話しも出るからだ。
4972投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時35分17秒
「やっぱりね…。夏希め…。最初から怪しいと思ってたのよ…」
理沙は唇を噛み締めた。
「たぶん、恵と翔子を眠らせて、中村有沙を奪還したのも、夏希なのよ」
しかし、それにはるかが異論を挟む。
「…でも、夏希がやったんなら、眠らせるなんて回りくどいこと、するかな?」
夏希をスカウトした張本人のはるかは、その責任を感じているのか、普段よりも幾分顔色が悪い。
それに対し楠本は、組んだ手を額にあて、足下をじっと睨んだまま静かに言う。
「…加藤組長も、近藤エマさん、渡邊エリーさんも殺してなかったわけですから…。夏希さんを無分別な殺人鬼として見ない方がいいのでは…?」
「無分別な殺人鬼じゃない?何、冗談言ってるの?加藤組の組員を全員虐殺したのは、事実でしょ?」
理沙は、イライラをつのらせ、楠本を見た。
「ですから…夏希さんは、しっかりと『殺す人間』と『殺さない人間』を分別してるんですよ。『殺す人間』に対しては、驚くべき手法であっさりと残虐に殺すし、『殺さない人間』に対しては、どんな面倒な作業をしてでも殺さない…」
そして、ふっと笑ってこう続けた。
「東京中の遺体安置所から、12体も死体を盗み出すんですから…」
「しかも、その12体のうち、実際に使ったのはたったの2体でしょ?イカレてるよね、あいつ…」
半笑いで、理沙は呆れるように天井を見上げた。
4973投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時35分55秒
「ボス…。これでわかったでしょう?ダーブロウ有紗はもちろん、ジャスミン・アレン、モニーク・ローズといった、元『TTK』の者達を、我が『TDD』に加入させることは危険です」
冷静沈着な態度で、シンパンマンは寛平に進言する。
それを受けた寛平は、そのシワだらけの額に手をやって力なく呟く。
「う〜ん…。せやなぁ…。でも、いつになったら、22人、全員揃うんやろ…」
「…もう、タロットカードにこだわらなければ…?」
はるかの意見に、シンパンマンは首を横に振る。
「いいえ…。こういうことは、『象徴』として大切なことなんです。何かしら神秘的な、謎めいた、不気味な印象を我が組織にもたらせる効果があるんですよ。幼稚じみてると思われるかもしれませんが…」
「…あんたが、そう言うなら、それでいいよ…」
はるかは、また無表情な顔で壁を見詰める。
4974投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時36分08秒
楠本が手を挙げる。
「あと…帆乃香さんとあみ〜ごのことですが…」
「ん?帆乃香?」
寛平は、孫の話題になった途端、その背筋を伸ばした。
「ボスは先ほど、帆乃香さんは自分から姿を消したかもしれない…と、仰いました…。その根拠は?」
「根拠?勘や」
「い、いや、勘と仰られても…その、何かしら引っ掛かるものが御ありなのでは?
寛平は、じっと天井を見て、こう言った。
「帆乃香…ななみんのこと…大好きやったからな…」
「へ…?そ、そんな理由で?」
楠本は、拍子抜けした様な声をあげる。
「ん?何や?そない理由って…?あの年頃の女の子の『大好き』を甘くみたらあかんよ?ごっつい無茶で無鉄砲なパワーが出るもんや…。理沙、覚えあるやろ?」
「大昔過ぎて、忘れました」
何故、自分に振る…という迷惑そうな顔で、理沙は答えた。
4975投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時36分42秒
「それならば…翔子もありりん…中村有沙のことが大好きでしたね…」
今まで沈黙していた、あすみが静かに口を開く。
「ん?せやったの?」
寛平の目が、あすみに向く。
「これも、私の勘ですが…恵を眠らせて中村有沙を奪ったのは…おそらく、帆乃香と翔子と…一木有海なのでは…」
「な、何ですって?」
我が弟子の名前を出され、楠本は目を丸くする。
「まさか…!!あの、あみ〜ごが…?」
そんな楠本を、冷めた目で見るあすみ。
「楠本…。あんた、あの子のこと、何も見てなかったんだね…。あれでも芯の強い、大胆な子だよ…。あみ〜ごは…」
4976投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時36分53秒
「で、続きは…?」
寛平は、じっとあすみを見据えながら聞く。
「…はい…。恵が眠らされていた…と、いうことは、おそらく睡眠薬か何かでしょう。それなら、裏医師である翔子は当然持っているはずです」
「なるほど…」
「そして、その薬を使って眠らせたのは…帆乃香ではないでしょうか?夏希の様な者を、恵は間合いに近付けさせないでしょうから…」
「ふむ…。逆に帆乃香みたいな無力な子供の方が、怪しまれずに薬を使えるわけやな…」
寛平は納得した様子だが、理沙はまだ首を傾げている。
「じゃあ、翔子が眠らされてたのは、どういうこと?」
それにも、あすみはゆっくりと丁寧に答えていく。
「翔子は、中村有沙だけを助け出せればそれで良かった…。おそらく、帆乃香も藤本七海さえ助け出せればそれで良いと思ってる。でも…一木有海は…」
「全員…助けたいと…思ってるわけやね…。ま、あみ〜ごらしいわ…」
寛平は、少し微笑みを浮かべている。
4977投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時37分44秒
「それで意見が決裂して、帆乃香は有海側に着いたんでしょう…。二人で共謀して翔子を眠らせ…中村有沙を奪った…。これが、私の勘に基づく推理です」
この、あすみの推理…細かな所は違うのだが、概ね当たっている。
寛平も、あすみの推理で間違いないと結論を下した。
「つまり…帆乃香、有海の二人と、加藤夏希の裏切りは、全く別の所で同時進行していたと言うことですか?」
シンパンマンの問いに、代わりに楠本が答えた。
「ええ。そうでしょう。私が中村有沙さんと電話で話したとき、彼女は夏希さんの裏切りを仄めかすようなことを言ったんです」
それで、楠本に夏希の裏切りがバレてしまった。
「しかも夏希さんは、エマさんとエリーさんと共に、中村有沙さん救出の為、ナットー工場に出向いたわけですし…。この二組に連携ができていたとは、言い難いですね」
4978投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時37分57秒
「それにしても…今回は、皆等しく失態を犯しましたね…」
シンパンマンは、厳しい目で皆を見渡す。
「まず…理沙さん、はるかさん、恵さんは…帆乃香の様な子供にまんまと一杯食わされて、中村有沙を奪われてしまった…」
「ふん…!!」
理沙は、不機嫌そうな顔でそっぽを向いた。
「そして、あすみさんと藍さん…あなた達はターゲットを逃がしたばかりか、山本組長までさらわれてしまう…」
「山本組長のことに関しては、責任はないと思うんだけど…」
あすみは、不満げな顔で呟く。
「楠本さんは…一木有海への監督不行…。どうやら、一木有海に我々のウソがバレてしまったようですし…」
「バラしたのは私ではないですけど………まあ、私の責任と言ったら責任ですよね…」
楠本は、溜息をつく。
「そしてボス…。あなたは戦いの最中、遊びすぎて、最も危険な人物、ダーブロウ有紗を逃がしてしまった…」
「ごめんちゃい…」
寛平は、素直に頭を下げた。
「皆さん、もう少し気合を入れて事にあたってくれなければ困ります!!『TDD』の看板に泥を塗る行為だけはやめていただきたい!!」
「…偉そうに…」
最後に、はるかがポツリと呟いた。
4979投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時38分34秒
すると、応接室のドアがノックされる。
恐る恐る、ドアを開けたのは、細川藍だった。
「ん?どうしたの?あい〜ん…?」
あすみは、ソファーから立ち上がる。
「あの…しょこたん…目が覚めたみたい…」
「え?翔子が…?」
すると、藍の後ろから、寝癖で髪が爆発した状態の、中川翔子が顔面蒼白になって応接室に入ってきた。
「…あの…。その…。ほんと、すみません…」
そのまま倒れてしまうのではないか、とうくらい、力なく翔子は頭を下げた。
4980投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時38分45秒
「翔子!!あなた、私達を騙して中村有沙を奪ったわね!?」
理沙が怒鳴り声をあげる。
「…うん…。その通りよ…。ごめんね…弥勒姉さん…」
「ご、ごめん、じゃ済まないわよ!!まったく!!」
「まあ、まあ…。理沙、興奮せんと…。しょこたん、座り…」
寛平は、ソファーの空いた所を指差す。
「ねぇ…。どういうこと…?ありりん先輩は、警察に保護されたんじゃなかったの?」
藍は、あすみに震えながら聞いた。
「そ…それは…」
あすみは、言いよどんだ。
しかし、楠本は例の如くスラスラとウソを並べる。
「ええ。理沙さん達が中村有沙さんを警察に連れて行こうとした時ね…。ありりん大好きしょこたんが、中村有沙さんを誘拐したみたいで…」
「ええ…!?じゃ、じゃあ、ありりん先輩は?」
「はい。これから我々が見つけ出すんです。さ、あなたは、恵さんの様子を引き続き見てて下さい…」
「は…はい…」
藍は、不安そうな目であすみを見ながら、応接室のドアを閉めた。
4981投稿者:どうでもいいけど  投稿日:2008年11月12日(水)21時39分36秒
プッカリーノのベルモンド(山本梓)見てたら、「あっ、またリリーさん作品向けの美女が出てきた」と思ったww
4982投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時41分03秒
「ほんと…こういう時だけ、あんたがウソツキで感謝するよ…」
あすみは、その言葉と裏腹に、呆れた様子で楠本を見る。
「どういたしまして…」
楠本は、その言葉通り受け止める。
4983投稿者:リリー  投稿日:2008年11月12日(水)21時42分06秒
4981さん
そうなんですか?
最近、天てれを見れてないので、どういう展開になったかどうかわからないんですが…
再放送を楽しみにします!!

では、今日はこれでおちます
4984投稿者:117  投稿日:2008年11月12日(水)21時46分21秒
「プッカリーノ」、面白い展開になってきましたよ。

「プッカリーノ」同様、裏切り者が絶えない「TDD」。
あすみんの推理、ほとんどが当たっていますね。複雑な偶然が重なりすぎて・・・
TDDも真相に気づきつつあるようですね。続きも気になります!
4985投稿者: 投稿日:2008年11月12日(水)22時12分30秒

4986投稿者: 投稿日:2008年11月13日(木)13時08分05秒

4987投稿者: 投稿日:2008年11月13日(木)18時09分58秒

4988投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時09分47秒
117さん
『プッカリーノ』で裏切りですか?
凄いですね
でも、何か裏があるんでしょうね
あすみの推理が、当たりまくりっていうのは、ご都合主義でしたね

あげ、ありがとうございます

では、更新します
4989投稿者:プッカリーノどこまで見てませんか?  投稿日:2008年11月13日(木)21時11分34秒
説明しますよ。
4990投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時11分37秒
翔子は、これまでの経緯を包み隠さず寛平に話した。
つまり、先ほどのあすみの推理通りだったということだ。
寛平は、じっと目を瞑って聞いていた。
「そういうわけです…。すみませんでした…。ボス…」
「………」
「…?ボス?」
「…え?何が?」
「寝てたんですか!?」
謝らなくてはならない立場の翔子が、逆に寛平を怒鳴った。
「話し、長いんやもん…。自分…。つまり、帆乃香はななみんが大好きで、しょこたんはありりんが大好きやったってことやろ?」
「え…ええ…」
「そして、あみ〜ごは、みんなが大好きと…」
「はい…。私も…あみ〜ごがあそこまで大胆なことをする子だとは…。すみません…」
「大胆なことって…あなただってそうでしょ?」
力なくうな垂れる翔子を、理沙が冷たい視線で見下ろす。
「ボス…。翔子さんには、どんなペナルティを?」
事務的にシンパンマンが寛平に聞く。
翔子は、顔を青くした。
4991投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時12分11秒
寛平は、キョトンとした顔をしている。
「ペナルティ?何?それ?食い物?」
「…失礼しました…。どんな制裁を…?」
「制裁?しょこたんを?」
「ええ…。彼女の行為は、我が組織を裏切るものです…」
う〜ん…と、唸りながら寛平は天井を見詰める。
そして、間の抜けた顔をシンパンマンに向ける。
「別にええやろ?」
「…はぁ…?」
シンパンマンだけではなく、その場にいる者が素っ頓狂な声をあげた。
一番驚いているのが、翔子だ。
「な…何故ですか!?」
シンパンマンは食い下がる。
「何故って…しょこたん、ごめんなさい、言うてるやん…」
「ご、ごめんなさいで、許されるんですか?」
そう叫んだのは、翔子だ。
「何や?しょこたんは、お仕置きして欲しいんか?手足縛られて、くすぐりの刑とか?」
「い、嫌ですよ!!」
翔子は、両手で身体を隠した。
4992投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時12分44秒
「ボ…ボス…。そ、それでは、組織の規律というものが…」
シンパンマンは、尚も食い下がった。
「何や?君は、『TDD』を『TTK』みたいにしたいんか?」
もう面倒くさい、とでも言う様に寛平が聞く。
「『TTK』…?い、いや…あんな組織など…」
「ワシもや。あんな恐怖で人を縛り付ける組織、長続きはしないんよ…」
楠本と理沙は、思わず顔を見合わせた。
二人が大人しくこの組織に身を置いてる理由が、ズバリ寛平への恐怖心だからだ。
寛平は、その自覚がなかったらしい。
「それからな…帆乃香とあみ〜ごも、ワシは許すつもりや」
「そ…そうでしょうね…。翔子さんを許すと言うのなら…」
シンパンマンは、ようやく諦めかけた。
「あと、夏希君もや」
「そ、それはどうでしょう!?」
再びシンパンマンは、寛平に歯向かった。
「そ、そうですよ!!翔子や小娘達はともかく、夏希は殺さないと!!」
理沙は、シンパンマン以上の声を張り上げる。
「いやいや…。夏希君も結局は、オトンが大好きやったってことや…。もしかしたら、もっと大好きなもんがおるんやないか?」
「もっと大好きな者?」
「たしか…妹さんが一人おったな…」
4993投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時13分29秒
寛平は、大きな包容力(?)で、今回の裏切り者を全て許すと言う…。
その場にいる者は、大いに戸惑った。
「し、しかし…許すと言っても…夏希さんは、そう簡単に『TDD』に戻るとは思いませんが…」
楠本の言葉に、ようやく寛平はそのニヤニヤした顔を引き締めた。
「それなら、しゃあない…」
「…え?」
「殺すだけやろ…?」
「…はぁ…」
「ダーブロウの時と一緒や…」
今度は、皆は背筋を寒くさせた。
つまり…寛平の基本理念は『去る者は追わず。来る者は拒まず』…。
そして…『我が誘いに乗らない者は許さず』…と、いうことだ。
充分、寛平は恐ろしい男だ。
4994投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時13分46秒
シンパンマンは、話題を変えた。
「と…とにかく…。今、もっとも警戒しなければならないのは、加藤夏希です。あの女、何を企んでいるのか…」
「そうですね…。まず、彼女が何を次に仕掛けてくるか…予想をしなければ…」
楠本は、そう言って寛平を見る。
「このことなら…ボスには直接関わりのあることではないから…占えるのでは?」
寛平は、その小さな目を僅かばかりに大きくする。
「うん?アカンやろ?夏希くんが我々に対し、どんなことをするか…では、占えん…。『我々』の中に、ワシが入っとるからな…」
「そうなんだよなぁ…。だから私なら、ボスをわざわざ任務に参加させるようなこと、しないんだよ…」
楠本は頭を掻きながら、寛平を戦闘に組み込んだ弟子の有海を少し恨んだ。
4995投稿者:カンペイさんすげー  投稿日:2008年11月13日(木)21時14分01秒
本当にダーさんと話合ったらあうんじゃないのか?
4996投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時14分10秒
「君ら、探偵やろ?ワシの占いに頼りすぎやで?少しは自分の頭を働かせなさい」
一番、頭を働かさない寛平に言われ、皆は少しムッとするが、探偵たる者が占いに頼りきりだったことには反省する。
一応、シンパンマンが皆に聞く。
「何か、夏希に対して情報のある者はいませんか?あの女の言動から、何をやらかす気なのか…」
皆は、じっと考える。
「…とは言っても…。あの女、私達と滅多に口を利かなかったしね…」
はるかの言葉に対し、理沙が思い出した様に言う。
「あ…『ジャッジメント』…!!あんた、いつだったか、このアジトで夏希と飲んでたよね?」
『ジャッジメント』は、シンパンマンのコードネーム…シンパンマンは、急に緊張した面持ちになる。
「え…?私と…?ええ…。確かにそうですが…」
「何を話してたの?どんなことでもいいから、話して…!!」
シンパンマンは、まさか自分が聞き込みを受けるとは思わなかったが、出来得る限り思い出してみる。
「ええと…夏希さんは…この、『TDD』の成り立ちとか…どうやってボスと出会ったのかとか…そういうことを聞いてましたね…」
「うん、それで?」
「あと…この組織の将来的な展望とか…。自分がこれから身を置く組織だから、知っておきたいと…」
「それから?」
「ええと…この組織の総資産とか…」
「総資産?」
「ええ…。それも、この組織に身を置く者として知っておきたいと………あ…!!」
シンパンマンは、途端にその顔を青褪めさせた。
4997投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時15分12秒
「どうしたの?」
理沙は、少し嫌な予感がした。
「ええと………『難田門司の隠し財産』のこと………あの女に…話しました………」
「何だって!?」
理沙と同時に、あすみも立ち上がって怒鳴った。
「ま、まさか………その、隠し財産、原村にあるってことも………?」
シンパンマンは、真っ白に血の気の退いた顔を、小刻みに縦に揺らした。
「こ、このバカ!!あの女の色香にやられやがって!!」
理沙は大きく足を上げて、大理石のテーブルをピンヒールで踏みつけた。
テーブルに、ヒビが走った。
「す………すみません………」
シンパンマンは、もうすっかり縮こまってしまっている。
「理沙…。パンツ、見えとるよ」
寛平は、その小さな目を大きく広げて、理沙のスカートの中を凝視する。
4998投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時15分24秒
「ボス…。ペナルティはどうしましょ?」
翔子は、さっきのお返しとばかり、意地悪な視線をシンパンマンに向ける。
「も、も、申し訳ありませんでしたぁ〜〜〜!!!」
シンパンマンは、この世の中で一番美しい土下座を寛平に見せた。
「ま…。ええわ…。こうやって謝っとるんやから…」
寛平はこう言ったのだが、シンパンマンは、それでも絨毯に擦り付けた頭を上げようとしない。
「…ふふ…。いい気味…」
はるかが、ボソリと笑った。
4999投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時15分44秒
「う〜ん…。夏希さんがその『難田門司の隠し財産』を狙って、原村に向かう…という可能性もあるし、逆に手薄になったアジトを襲撃に来る…という可能性もあるし…」
楠本は難しい顔で、寛平を見る。
「考えるのは、苦手やわ。そやなぁ…楠本君、君に任せるわ」
「え…?私…?」
「あみ〜ごがいない今、師匠の君が作戦参謀や…」
「わ、わかりました…。ならば…」
楠本は、僅か5秒間考えただけで、テキパキと指示を出す。
「あすみさんと藍さんで、原村に向かって頂けませんか?」
「私と…あい〜んで…?」
あすみは、怪訝な顔をする。
5000投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時16分02秒
「あすみさんは、一度原村に行ったことがありますよね?土地勘は夏希さんよりもあるはずです」
「わ、私はいいけど…どうして、あい〜んまで…?」
「合宿も兼ねて…です」
「合宿?」
「ええと…今より1時間ほど前、『ハイエロファント(教皇)』からクリスマスプレゼントが届きました」
「プレゼント…?『ハイエロファント』から?私に?」
『ハイエロファント』とは、伊藤正幸…武器開発の担当。
更に、翔子と同じく医者として仲間の治療もするし(翔子は無免許医だが、伊藤はれっきとした正規の医者だ)、楠本、有海、シンパンマンと同じく作戦参謀を務めることもある。
ちなみに、戦闘能力はない。
「新しい武器です。その、練習も兼ねて、原村へ行って下さい」
「武器?何で?」
「あなた、肩を怪我してるでしょ?それで、あの重たいモーニングスターは振り回せないでしょ?」
確かに、それで梨生奈、羅夢、吉田を仕留めそこなった…。
「で…新しい武器って何?」
「後で渡しますよ。藍さんの分もね」
「あい〜んも?」
「あの、炸裂弾…。やっぱり危険すぎますから…。味方にとっても…」
そう…あの炸裂弾が原因で、山本をさらわれたのだ。
5001投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時16分36秒
「原村に行ってもいいけど、電車とバスで行くの?私、車の運転できないもん」
「ああ…そうでしたね…。しょこたん、乗せて行ってもらえます?」
翔子は、いきなり話を振られて少し慌てた。
「い、いいわよ…。迷惑をかけた分、何でもするわ…」
「今すぐに出発するとして、どれ位で原村に到着できます?」
「5時間くらいかな…?今日中には着くと思うけど…」
「それでは、原村にはあすみさん、藍さん、しょこたんが向かい、我々はアジトで襲撃を待つ…ということでどうです?」
楠本は、寛平に指示を仰ぐ。
「うん。それでええよ…」
寛平は、本当にどうでも良さげに、軽く答えた。
「で、原村に夏希が現れたらどうするの?」
理沙が楠本に聞く。
「そうなれば…まずは『R&G』よりも、夏希さんの方が驚異です。皆で原村に行きましょう。それでどうです?」
「うん。それでええよ」
またも、寛平は軽く答えた。
「それでは、早速原村に向かって下さい。その前に、あすみさんと藍さんに、新しい武器の説明をしますので、しょこたんは車の用意を…」
楠本とあすみは、藍の控えている別室へ向かう為、翔子は着替えと旅の準備の為に、応接室を出た。
「『ジャッジメント』…。あんた、いつまで土下座してんのよ?」
相変わらず、豪華なペルシャ絨毯に頭を擦り付けているシンパンマンを、理沙は呆れた目で見下ろした。
5002投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時17分04秒
藍のいる部屋に、あすみと楠本が訪ねてきた。
恵は大きないびきを掻いてベッドの上で爆睡している。
楠本は、あすみと翔子の3人で、藍が原村へ向かうことになったと、報告する。
「原村か…」
藍は、複雑な表情で呟いた。
あの時は、本当に楽しかった。
しかし、今はそんな呑気な状況ではない。
「で…これが、お二人の新しい武器です…。取り扱い説明書もありますので…」
楠本は、小さなジェラルミンケースを、二人に差し出した。
あすみと藍は、それぞれのケースの蓋を開ける。
「…?ヨーヨー?」
そこには…銀色に輝く金属制のヨーヨーが二つずつ入っていた。
そして、肘まで覆う、厚手の革製のグローブも二つ…。
「お二人とも、ヨーヨーで遊んだことは?」
あすみも藍も、頷いた。
「それは良かった」
楠本は微笑んだ。
5003投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時17分37秒
「まあ、これは極小タイプのモーニングスターだと思って下さい。破壊力は落ちますが、射程距離は飛躍的に伸びました」
楠本は、グローブを右手にはめ、その鋼鉄製のヨーヨーを持つ。
そして、恵の眠っているベッドの脇の花瓶に向け、投げつけた。
ヨーヨーは唸りをあげて飛び、花瓶を粉々に砕く。
「ひゃあ!!」
藍は、叫び声をあげる。
そして、ヨーヨーは一瞬で楠本の手に戻った。
その時、凄まじい衝撃音が鳴ったが、グローブのおかげで手を痛めることはない様だ。
花瓶の破片や水が、恵の顔に降り注いだが、彼女はまだ目を覚まさない。
「う〜ん…。やっぱり、起きませんでしたか…」
楠本は、苦笑いをして恵の寝顔を見る。
5004投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時17分52秒
「す…凄い…」
藍は、手で口を覆って呟いた。
「『スケバン刑事』だね…。まるで…」
あすみは、鼻で笑っている。
「『スケバン刑事』?ああ…。あややの…?」
藍がそう言った瞬間、楠本は目を剥いて彼女を睨みつける。
「あやや…!?『スケバン刑事』といったら、南野陽子でしょう!?」
藍は、楠本に怒鳴られて、目をパチクリさせる。
「な…何で、私、怒られたの?」
不思議そうな目で、藍はあすみを見上げた。
「す…すみません…。取り乱しました…」
我に帰った楠本は、心から藍に謝罪した。
5005投稿者:金属製のヨーヨー  投稿日:2008年11月13日(木)21時18分10秒
スケバン刑事??
でもそれなら有海の方が……(BY新ユゲ物)
5006投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時18分16秒
翔子の車はマンションに置いてきた為、山本組のベンツを借りることにする。
山本組の者は全員、山本組長を探しに行った為、無断借用になるが…。
翔子が運転席、あすみは助手席、後部座席に藍が乗り込む。
「それでは、原村に着いたらすぐに隠し財産を回収して下さい。もし、夏希さんに出くわしても、深追いはしないこと…。いいですね?」
楠本が、車内を除きながら、あすみに語り掛ける。
「わかってるよ。あい〜んも一緒だから、無理はしない」
「新兵器の練習も、怠りなく」
「わかってるって…。翔子、早く車を出して」
「了解。じゃあ、ノンストップで飛ばすからね。信号も無視する」
藍は、心配そうに翔子に話し掛ける。
「ノンストップって…途中、休憩しなくて平気?」
「大丈夫よ、グッスリ眠ったもん…いや、眠らされたもん…」
翔子とあすみと藍を乗せたベンツは、急発進してアジトを後にした。
テールランプが見えなくなるまで、楠本は車を見送った。
「さてと…こっちは、引き続き『R&G』の捜索と、夏希さんの襲撃に備えますか…」
そして溜息をつきながら、チラチラと降る雪を掌に受け止める。
「あみ〜ご…。早く私の下に戻ってきてください…」
その雪は、すぐに掌の上で溶けて消える。
「私は…あなたをもっと優秀な参謀に育てたいと…心の底から思っています…」
5007投稿者:南野陽子も違うよ  投稿日:2008年11月13日(木)21時20分06秒
本家本元は斉藤由貴
まぁあたしも南野さんが好きだけどww
5008投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時22分49秒
4989さん
そうですか?
それでは、お願いします
羅夢とミストが、隕石から時の砂をゲットした後から見てません

4995さん
私も、ダーさんと寛平さんは、こんな形で出会わなければ、友達になれたと思います

5005さん
そう言えば、忘れてました
スケバン刑事、やってましたね
楠本さんの年齢なら、南野陽子かな…と、思いました

では、おちます

5009投稿者:リリー  投稿日:2008年11月13日(木)21時24分08秒
5007さん
楠本さんの年齢なら、南野陽子かな…と、思いました
でも、斉藤由貴との間は、そんなに離れてませんかね?

では、おちます
5010投稿者:5000超!  投稿日:2008年11月13日(木)21時28分30秒
すげーよリリーさんw
これからも楽しく読ませてもらうよ
応援する
5011投稿者:最後の楠本さんの言葉は意味ありげ?  投稿日:2008年11月13日(木)22時03分05秒
TDDの為になのか?
5012投稿者:藍の「おまんら許さんぜよ」  投稿日:2008年11月13日(木)22時14分18秒
心より楽しみにしています
5013投稿者:リリー  投稿日:2008年11月14日(金)21時35分52秒
5010さん
ありがとうございます
いつの間にか、5000ですか…
こんなに長く続くのも、皆さんがコメントで応援して下さるおかげです
ありがとうございます
絶対に、この小説は完結させますので、それまでよろしくお願いします

5011さん
楠本さんと有海の間も、ただの師弟の関係ではなくなってきています
この二人のこれからも、注目して下さい

5012さん
スケバン刑事、実はまともに見たことないんです
でも、藍のピッチング能力を活かした戦い方にすると思います

では、更新します
5014投稿者:リリー  投稿日:2008年11月14日(金)21時37分43秒
『午後5時30分』
七海は、まだ泣き続けている。
七世が俵姉妹と共に、楠本に殺されたことを聞かされたからだ。
卓也も、俵姉妹の死には胸を痛めた。
ジョアンは、何と言って七海を慰めたらいいか、わからなかった。
同じく最愛のパートナーを失ったと言っても、ジョアンのパートナー、ジャスミンは、まだどこかで生きている。
それでも、彼女は時々泣きたくなる。
だが、明るいニュースがあることは救いだった。
まず、エマとエリーは殺されていなかった、ということ。
そして、夏希が仲間に加わった、ということ。
ダーブロウ有紗と中村有沙が、まだ行方知れずだが生きている、ということ。
羅夢は、というと、相変わらず針だらけになりながら、人形の様に転がっている。
羅夢だけはジーナを許せなくて、三度彼女に殴りかかったからだ。
「どうする…?レッドさん…。私達も、そろそろ原村に向かう…?」
梨生奈は、吉田に尋ねた。
「う〜ん…。いや、ここはダーさんや有沙が帰ってくるのを、もう少し待とう。夏希さんかて、『12時までには、出発しろ』て、言うてたやろ?」
「そうね…。その時まで…ギリギリ待ちましょうか…」
「ええ〜?今すぐ出発しようよ〜!!ジーナは、早くお姉ちゃんに会いたいです!!」
ジーナは、足をバタバタさせて不満をぶちまける。
5015投稿者:リリー  投稿日:2008年11月14日(金)21時38分07秒
ジョアンは、ジーナに同調する。
「アタシは、ジーナに賛成だ。夏希になんか会いたくもないけど…来るかどうかわからないヤツを待ってても、時間の無駄だよ」
「も、もう少し待とうよ!!ほら、ちひろさんだって、ここに来るかもしれないし…」
甜歌は、『ギリギリまで待つ派』だ。
「梨生奈…。ちひろには、今の状況は…?」
杏奈が聞く。
「ええ…。メールで伝えたわ。ありりんが、どうやら生きていることも…」
「だったら、ちひろだけでも待ってみたらいいんじゃないかな?」
杏奈も、待つ方に賛成する。
梨生奈は、針だらけで転がっている羅夢に訪ねる。
「羅夢…。あなたは、どう思う?耳は聞こえてるでしょ?待つことに賛成だったら、瞬きを2回、すぐに原村に向かうべきだと思ったら、瞬きを3回してちょうだい」
羅夢は、瞬きを3回した。
すぐに、原村に行くべきだと言っている。
「卓也さんは…?」
卓也も、目を真っ赤にしながら力強く言う。
「すぐに行こう…。ちーちゃんを待つって甜歌や杏奈は言ってるけど…僕は、この件に巻き込むべきじゃないと思う…」
5016投稿者:リリー  投稿日:2008年11月14日(金)21時38分34秒
梨生奈は、困った様に溜息をついて、七海の方を向く。
七海は、訪ねられる前に、涙声で答えた。
「待つ…。ウチは待つ…」
七海は、涙を袖で乱暴に拭く。
「チビアリを…ここで待つ…」
「ありりん…を…?」
「あいつは言ったんや…。ウチを逃がす時…。絶対にここに帰ってくるて…。その時、ウチにシバかせてやるて…!!」
七海は、梨生奈を睨む。
「ウチは、待つ!!チビアリは、ムカつくヤツやけど…あいつの顔を見るまでは、ウチはどこにも行かん!!ウチだけでも、ここに残る!!」
梨生奈は、また溜息をついた。
「これで、『待つ』のが4人、『すぐに行く』が4人…」
「梨生奈、あんたが決めていいんじゃない?」
杏奈は、そう言って彼女の肩に手を置く。
「あんたが、リーダーなんだから…」
「うん…。……あ…!!」
梨生奈は、急に大きな声をあげた。
「すぐに行くって言っても…どうやって?」
「…え?」
皆は、梨生奈を見た。
「だって…これだけの人数を原村に向かわせるのよ?『TDD』の目があって、公共の交通機関なんて利用できないし…」
5017投稿者:リリー  投稿日:2008年11月14日(金)21時39分00秒
梨生奈に言われるまで、皆はそのことに気がつかなかった。
「『TDD』に見つからずに全員が原村に向かうなら、最低でも4トントラックぐらいの車が必要よ?」
「じゃあ、ジーナはお姉ちゃんに会えないってことですか?」
ジーナは、更に足をバタつかせた。
「い、いえ…今日の12時までには、天歳市を出発しなきゃいけないから…すぐに車を調達しないと…」
ジョアンが、すぐさま立ち上がる。
「へん…!!だったら、アタシがちょっくら盗んできてやらあ!!」
「ぬ、盗むって…!!」
当然の様にサラッと言ってのけるジョアンに、甜歌は怯んだ。
「だったら、ジョアンと七海…それから羅夢の3人で、トラックを盗んできて。防寒の為と、外から皆が見えないように、幌付きかトレーラータイプにしてね」
「り、梨生奈も、サラっと言うね…」
杏奈も、同じく退いている。
「条件に合うトラックを盗むとなると、相当時間がかかると思うから…そのトラックが見つかるまで、ここで待つ…。トラックが到着次第、すぐに出発…これで異論はないわね?」
「へへ…。リーダーらしくなってきたじゃないの…!!」
ジョアンはそう言って笑うと、梨生奈の頭を乱暴に撫でた。
「あと、羅夢に刺さってる針を全部抜いてちょうだい。ジーナ、あなたは羅夢の視界からどこかに隠れてて!!また、ややこしいことになるから!!」
5018投稿者:リリー  投稿日:2008年11月14日(金)21時39分25秒
もう、すっかり陽が落ちて暗くなった道を、ジョアンと七海、そして羅夢の3人は人目を忍んで歩いていく。
これから、トラックを盗難しようというのだ。
「今日はクリスマスだからな…。人が多いな…」
「でも、運送業者は書き入れ時やろ?トラックはそこらにウジャウジャあると思うで…」
「ち…!!雪が強くなってきやがったな…」
条件に合うトラックが見つかったと言っても、人目があれば、盗難はできない。
少しでも騒ぎを起こせば、それが『TDD』の耳に入ることになるからだ。
そして、トラックで移動中にまた襲われれば、原村に着くことなく全滅になるだろう。
意外と難易度の高い任務である。
ある程度の時間はかかる。
その時間、もしかしたらダーブロウ有紗と中村有沙がアジトに来るかもしれない。
『待つ』派と『すぐに行く』派の双方が納得する形になる。
「やっぱり、梨生奈は頭がいいな…」
羅夢は、我が事の様に誇る。
「せやから、アホと組まされるんやな…。気の毒に…」
「んだと!?コラ!!」
羅夢は、七海に掴みかかる。
「言っとくけど、アタシは止めないよ?」
ジョアンは、先にスタスタと行ってしまった。
「………」
仕方なく、七海と羅夢は掴み合いをやめてジョアンの後を追った。
5019投稿者:リリー  投稿日:2008年11月14日(金)21時39分46秒
「む…?何だ?あいつら…?」
ジョアンは、右手を上げて後ろの二人に合図を送る。
そして、密集した自動販売機の裏に身を隠した。
七海と羅夢も、それに倣う。
「どないしたん?ジョアン…」
「ほら…。あいつら…」
ジョアンの鋭い視線の先に、黒いスーツを着た集団が歩いてくる。
一目見ればわかる…堅気の人間ではない。
彼等は、ジョアン達の隠れている自動販売機まで歩み寄ると、各々缶コーヒーを買い始めた。
「まったく…。組長も余計なことするから…。ロクでもねぇことに巻き込まれるんだ…」
「おい、組長のこと悪く言ってんじゃねぇ!!俺達は、一刻も早く組長を助け出さなけりゃいけねぇんだ!!」
「でもよぉ、兄貴…!!兄貴もそう思うだろう?あのロリコン組長、自分の病気の所為でさらわれたんすよ?」
「そ、そうだけどよ…!!畜生…!!『R&G』の小娘供…!!絶対に許さねぇからな…!!」
男達は、どうやら山本組の様だ。
「どうする…?ジョアン…。やっちまおうか?」
羅夢がそっと耳うちする。
ジョアンは、顔を顰めて首を横に振る。
結局、3人は山本組の者達が立ち去るまで、自動販売機の裏で息を潜めていた。
5020投稿者:リリー  投稿日:2008年11月14日(金)21時40分08秒
「どうやら…山本組にも、アタシ達はウォンテッドされてるみたいだね…」
ジョアンは、そのソバージュの髪をガリガリと掻いた。
「まったく…!!あのブタをさらってアジトに連れて来よって…。余計なことしてくれたな?え?おい、羅夢!!」
七海は、羅夢を睨みつけた。
「んだよ!?車の運転手として、あのブタが必要だったんだよ!!」
「車の運転くらい、オノレがせい!!」
「目が見えなかったんだよ!!おまえの野球友達のお陰でね!!」
「そんなん、オノレの責任じゃ!!オノレの所為で、『TDD』にも、山本組にも、ウチらはウォンバットされとんのやで?」
「ウォンバット?オーストラリアの珍獣かよ?それを言うならホーンテッドだっての!!バ〜カ!!」
「ホーンテッド?ディズニーランドのアトラクションかい?ウォンバットであっとんのじゃい!!ア〜ホ!!」
「何度も言うけど…アタシは止めないからな…?」
ジョアンは、呆れた顔で二人を眺める。
「むしろ見てて面白いから、もっとやれって感じ…」
「………」
七海と羅夢は、罵りあいを止めた。
ジョアンは、アジトに帰ったら二人のケンカを止めるコツを梨生奈に教えてやろう、と思った。
5021投稿者:リリー  投稿日:2008年11月14日(金)21時40分31秒
今日は、これでおちます
5022投稿者:ヲンテッドぐらい言えないのかいなww  投稿日:2008年11月14日(金)22時24分59秒
……って、あたしも間違えてる?
5023投稿者:117  投稿日:2008年11月15日(土)16時43分47秒
またもや久々。話がさらに進んでいますね。
カンペーさんの生返事あり、元帥の「スケバン刑事」トークあり、そしてすぐ上のケンカトークあり・・・(笑)。
しかも、意外とあっさりトラックを盗むことになったり。何より梨生奈の決断の速さ(笑)。続きも楽しみです!
5024投稿者:あげ  投稿日:2008年11月15日(土)19時22分04秒

5025投稿者:ダーヴロウ  投稿日:2008年11月15日(土)20時37分15秒

5026投稿者:リリー  投稿日:2008年11月15日(土)21時06分02秒
5022さん
私、本当に「ウォンテッド」を「ウォンバット」って言い間違えたことあります
「ホーンテッド」は、さすがにないですが…

117さん
最近、『TDD』も『R&G』も、会議ばっかりやってますんで、動きのない、地味なエピソードが続きます
でも、今回から、動き始めようかと思います

5024さん、あげ、ありがとうございます

5025さん
それが、正しい発音なんでしょうね

5027投稿者:リリー  投稿日:2008年11月15日(土)21時11分52秒
今日、『レッドクリフ』見ました
三国志は大好きなので、見たくて仕方がなかったです
面白かったですよ
もっと他の三国志のエピソードを見たいと思いました
『スターウォーズ』みたいに…
黄巾の乱や、董卓の横暴、呂布の最期とかも、映画で見たいです

では、更新します
5028投稿者:リリー  投稿日:2008年11月15日(土)21時12分52秒
『午後6時20分』
もう、すっかり辺りは暗くなった。
雪も、その降りを強くしている。
帆乃香、有海、そして中村有沙は動き出す。
闇に紛れるのなら、今が絶好の時…。
しかし、今いる高架下からアジトの天心荘に向かうのに、3キロ以上の道のりを歩かなければならない。
しかも、中村有沙は筋弛緩剤によって手足がまったく動かない。
両側から、帆乃香と有海が支えて運んでいかなければならない。
そして…『TDD』にも、山本組にも、見つかってはならない。
無事に天心荘に辿り着くには、途轍もなく困難な道のりだ。
中村有沙は、両肩を担いでいる二人に言う。
「いいか…。もし、『TDD』や山本組に見つかってしまったら…私のことはいい…。貴様達だけでも逃げろ…」
「な、何を言ってるんですか?中村先輩を見捨てて…逃げられるわけないじゃないですか…!!」
それだけでも、有海は泣き出してしまいそうになる。
「アホやな…あみ〜ご…。ありりんの言葉の真意、ちゃんと読み取りよ…」
帆乃香は、溜息を漏らした。
「え…?中村先輩の…真意?」
有海は、改めて中村有沙の横顔を見詰めた。
5029投稿者:リリー  投稿日:2008年11月15日(土)21時13分12秒
「いいか?有海…。この中で一人でも天心荘に辿り着けば、それでいいんだ。最悪なのは3人が同時に捕まってしまうことだ」
「で…でも…」
有海の言葉を遮って、中村有沙は話しを続ける。
「この中で、天心荘に辿り着くべきなのは…帆乃香だ。貴様が一番、『TDD』の内部事情に詳しいからな」
「当然やな。うちが一番、役に立つ」
「ふふ…。役に立つという点で考えれば…私が一番、必要ないだろうな…」
帆乃香の言葉を受け、中村有沙は、そう自虐気味に呟いた。
「そ、そんな…!!そんなこと言わないで…」
有海は、もうすでに泣き顔だ。
「私は、今、筋弛緩剤によってまともに身体が動かない…。また自由に身体が動かせるまで、10日はかかるそうだ…」
「10日?そ、そんなに…?」
「ああ…。翔子がそう言っていた…。つまり…私は、しばらく戦えない…。当然、『TDD』は10日以内にケリを着けにくるだろう…」
そして、目を瞑ってこう、呟いた。
「私は…今回の戦いで…もう…役には立たない…」
「…中村先輩…」
「貴様等に天心荘の場所を教えた今…私はもう、お荷物以外の何者でもない…」
「…お荷物…?」
有海がポツリと言う。
「おい、あみ〜ご…泣くなや?」
帆乃香が、厳しい目を有海に向けた。
5030投稿者:リリー  投稿日:2008年11月15日(土)21時13分35秒
しかし、有海は目を伏せたまま、首を横に振る。
「泣く…?ううん…」
有海は、悲しそうな目で中村有沙を、そして帆乃香を見る。
「帆乃香さん…。ごめんね…。ちょっと、一人で中村先輩を支えてくれるかな?」
「え…?な、何で?」
「うん。しっかり支えててね?倒れない様に…」
「…は?…あみ〜ご…何、言うてんの?」
「中村先輩…」
有海は、中村有沙の正面に立つ。
「…有海…?」
「ごめんなさい!!」
その瞬間…有海は、力任せに中村有沙の頬を張り倒した。
「…う!!」
中村有沙も帆乃香も、予想だにしなかった。
その為、しっかり支えてたにも関わらず、二人は雪の積もる地面に倒れこんでしまった。
「あ…あみ〜ご…。な、何すんの…?」
帆乃香は、信じられないという目で、有海を見上げた。
中村有沙は、それ以上に目を点にして有海を見詰めている。
有海は、ゆっくりとしゃがんで、中村有沙の目線まで降りた。
5031投稿者:リリー  投稿日:2008年11月15日(土)21時14分22秒
「…中村先輩は…木内さんのことも…余計なお荷物だと思ってたんですか…?」
「…な…何…?」
「虹守中の試合で…木内さんは、大怪我で試合に出られませんでした…。あの、試合…木内さんは…私達のチーム…聖テレに…不必要だったんですか…?」
「………」
中村有沙は、ただ黙って有海を見詰めるだけだった。
「知らなかったんですか?中村先輩…。木内さんは、一回表から九回裏まで、声を張り上げて応援してくれたし、藤本さんとケンカした細川さんを、慰めてあげてました…」
「………」
「木内さんがいなかったら…あの試合…負けてたと思います…」
「………」
「試合に出られないからって………木内さんは、役立たずだったって…中村先輩はそう言うんですか?」
「………」
「木内さんを…侮辱するんですか…?」
「………」
「側にいてくれるだけでいいんです…」
「………」
「戦えなくたって………中村先輩が………側にいてくれなきゃ………私は嫌です…」
「………」
「もし、中村先輩がいなくなってしまったら………その時に………私は泣きます………」
そう言いながら…有海は既に涙を落としていた。
「…すまん…」
ようやく、中村有沙は口を開いた。
5032投稿者:リリー  投稿日:2008年11月15日(土)21時14分59秒
高架下から、1キロ程歩いただろうか?
途中、休みながらも『TDD』にも、山本組にも出会わずに移動ができた。
「ふぅ…。ここまで…誰にも見つかりませんでしたね…」
寒い雪降る夜だというのに、有海は額の汗を拭った。
「いや…。まだ、安心はできんで…?」
帆乃香は、厳しい警戒の目を周囲に向ける。
「え…?どういうこと…?」
「もしかしたら…とっくに見つかって尾行されとるかもしれん…」
「…ええ…!?」
「箕輪はるか…死神みたいな女、おるやろ?あいつ…まったく気配を殺して近づくことができるんや…。て、言うても、うちは気配なんて読む力ないけど…」
そう言って、中村有沙を横目でみる。
「ああ…。私も今の所、尾行の気配は感じてはいないが…その、はるかという女が尾行しているのなら…何とも言えん…」
「じゃ、じゃあ、このまま天心荘に行くの…まずくないですか?」
「ああ…。でも…取り越し苦労かもしれんが…」
中村有沙は、しばらく考え込む。
5033投稿者:リリー  投稿日:2008年11月15日(土)21時15分11秒
「よし、二手に別れよう…」
「え…?」
有海は、途端に不安になる。
「帆乃香、おまえはこのまま真っ直ぐに歩け。有海、おまえは私と一緒に別ルートで行く。はるかが尾行しているのなら、おそらく足の速い帆乃香の方を追うだろう…」
「ああ…。で、うちは天心荘に行かなければええんやな…」
「そう…。また、あの高架下に戻ればいいだろう…。私と有海が天心荘に着けば、その時に迎えを寄越そう…」
「そうと決まれば…ありりん、あみ〜ご…グッドラック…!」
帆乃香は、その先の信号を渡ると、真っ直ぐに進んだ。
有海は、心配そうな目で帆乃香の背中を見送る。
「さあ…有海、私達も行こう…」
有海と中村有沙は、細い路地裏に入り込んだ。
5034投稿者:リリー  投稿日:2008年11月15日(土)21時15分41秒
帆乃香が、身を潜めながらも急ぎ足で人通りの多い商店街に入ろうとした時だった。
「げ…!!」
帆乃香は、人ごみに紛れた。
黒いスーツの集団が、帆乃香のすぐ脇を通り過ぎる。
山本組だ!!
その中の一人が、携帯で何やら話している。
「さっき、通行人に聞いたら…何か知らねぇけど、女のガキが3人、身を寄せ合って歩いてたそうだ。ああ、もしかしたら『R&G』かもしれねぇ!!虹守駅の高架下付近だ…!!皆で向かう!!」
その低身長故、見つかることはなかったが…帆乃香は、その顔を青くした。
「ま…まずい…!!ありりんとあみ〜ごのいる方に…山本組が集まってきてる!!」
そう叫ぶと、二人のいる方向に戻りかけた。
「…あかん…!!ここは、うちだけでも天心荘に行かな…!!」
帆乃香は、また商店街の方に向かう。
「…う…でも…もし、山本組に二人が捕まったら…。『TDD』の方が、まだ身の安全が保障できるってもんや…」
さっきから彼女は、商店街の周りをウロウロしている。
「ああん…!!もう、落ち着け!!主導権はうちにあるんやろ!?うちは、どうしたいねん!!」
帆乃香は、頭を抱えてしゃがみこむ。
「うちは…ななみんを助けたい!!『R&G』のことは、二の次や!!」
そう、力強く言い切ると、帆乃香は立ち上がって商店街へと走りかけた。
5035投稿者:リリー  投稿日:2008年11月15日(土)21時16分12秒
「待て!!」
その時、帆乃香は誰かに肩を掴まれた。
凄まじい力で…。
「ひゃ!!」
帆乃香は、心臓が止まりかけた。
「今…おまえは…何と言った?」
女の声…。
落ち着いた…そして、気力の篭った声…。
「…へ…?」
一気に血の気が退き、帆乃香は後ろを振り返ることができない。
「な…な…何って…?」
「『R&G』………確かに、そう言ったな…?」
声だけでも、身を切られるような…そんな凄みを、帆乃香は感じた。
只者ではない…と、彼女でもそれは感じた。
「い…言うて…へんよ…」
「とぼけるな!!」
「ひぃ…!!」
その女の一喝で、帆乃香は腰を抜かした。
そして、初めてその女の顔を見た。
「話せ!!おまえの知っていること…全て…!!」
その女の眼は…長く戦いの場に触れていたと思わせる…そんな力強さがあった。
5036投稿者:リリー  投稿日:2008年11月15日(土)21時16分36秒
今日は、これでおちます
5037投稿者:ようやくキター  投稿日:2008年11月15日(土)21時18分54秒
待ってた
5038投稿者:謎の女  投稿日:2008年11月15日(土)21時22分07秒
誰だろう
5039投稿者:もちろん  投稿日:2008年11月15日(土)21時25分50秒
あの人だよ
5040投稿者:三国志か…  投稿日:2008年11月15日(土)21時40分50秒
R&GとTDDと新たな組織で、三つ巴の戦いも見たいかも・・・
5041投稿者: 投稿日:2008年11月15日(土)22時23分11秒

5042投稿者:ダーブロウはDurbrowと書くらしいです  投稿日:2008年11月16日(日)01時41分32秒
bだからブでいいと思いますよ
5043投稿者:デジ  投稿日:2008年11月16日(日)02時12分09秒
(昨日)七海に我慢という感情が芽生えてきましたね。
有海の(強くなった)気の強さが光ってますね。
最後に帆野香に接触した謎の女は誰か。続きも楽しみです!
              (今日の小言)
               〜捜索願〜
僕の建ててた小説スレがどこに行ったか分からなくなってしまいました。
前回の更新から3日の間に来れなかった時、パソコンが壊れて書き溜めてた部分も消えてしまい、大変な状態です。もし、見つけたらどこのスレでもいいのでupお願いします。
5044投稿者:あげました  投稿日:2008年11月16日(日)02時23分32秒

5045投稿者: 投稿日:2008年11月16日(日)09時23分03秒

5046投稿者:117  投稿日:2008年11月16日(日)11時36分43秒
昨日の場面の時間は、午後6時20分(笑)。
有海の有沙を思う気持ち・・・いいですね。
そばにいてくれるだけでいい、有海は心の支えを必要としているのでしょうね。
そして、クライマックスで現われた謎の女・・・誰なんでしょう?続きも気になります!
5047投稿者: 投稿日:2008年11月16日(日)12時37分33秒

5048投稿者:謎の女は  投稿日:2008年11月16日(日)14時15分59秒
だれ〜〜〜〜〜〜?
5049投稿者:過去ログ  投稿日:2008年11月16日(日)17時25分26秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544d.html
5050投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時47分20秒
5037さん
昨日は少し遅くなりましたね
すみませんでした
5038さん、5039さん、5048さん
今回、謎の女の正体が判明します
『チームE』の生皮剥がされた死体と違い、今回はバレなくてホッとしました
5040さん
それも面白そうですね
でも、その分、また長い話しになってしまいそうです…
一応、アイデアとして暖めておきます
5042さん
ダーブロウでよかったんですね
ありがとうございます
5051投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時47分39秒
デジさん
最初に比べ、有海はどんどん強くなってきます
まあ、そうするつもりで、序盤の有海は必要以上にへタレにしてたんですけど
小説、あがってましたね
また、楽しみにしてます
117さん
一応、天てれの放送時間に合わせました
つまり、この時間から、『R&G』に好転するようになる…と、いうことです
役に立つ、立たないは、自分が決めるのでなく、側にいてくれる人が必要なら、どんな状態でも居て欲しいってことでしょうね
5049さん
過去ログ、ありがとうございます
では、更新します
5052投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時48分55秒
有海と中村有沙は、男達が集団でこちらに向かってくるシルエットを見て、心をざわつかせた。
「な…中村先輩…。も…もしかして…」
有海の声が震えている。
「…!!山本組だ!!」
中村有沙が叫んだ。
有海は、咄嗟に中村有沙を抱えると、路地裏に入り込んだ。
「せ、先輩!!わ、私の背中に…!!」
「あ、有海!!私を置いていけ!!」
「早く、乗って!!」
有海は、中村有沙を背負うと、足下をふらつかせながら逃げ惑う。
「おい、今の『R&G』のガキどもじゃねぇか!?」
「捕まえろ!!組長の居場所、吐かせるんだ!!」
遠くで、山本組の者達の怒鳴り声が聞こえる。
「ひ、ひぃ…。ひぃ…」
今までの有海の人生の中で、人を背負って走ったことなど、当然なかった。
心臓が張り裂けそうな程苦しく、膝が折れそうな程痛い。
「有海!!逃げるより、隠れるんだ!!」
中村有沙の言葉を受け、有海は高級住宅の門の陰に倒れこむ様に身を潜めた。
5053投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時49分17秒
その家は、家族で外出しているのか、明かりは点いていない。
「も、門が…開きません…」
「こっちだ…!!少しスペースが空いている…」
門と庭に入る為の石畳の並ぶスペースに、二人は身を寄せ合って潜んだ。
慌しい、革靴の音が複数聞こえる。
「どこ行きやがった!?」
「お前らはあっちに行け!!俺達はこっちだ!!」
山本組の者達の声が聞こえる。
「…有海…。貴様だけなら、この門をよじ登ることができるな?」
「は、はい…!!中から門を開けて、先輩を…」
「ダメだ!!音でバレる!!貴様だけでも、家を抜けてそのまま逃げ出せ!!」
「嫌です!!何度も言わせないで下さい!!」
「何!?」
「一緒に逃げるんです!!私達、二人とも助かる様に…」
「貴様…七海の様な口を利くな!!」
「藤本さんの様な…?私が…?ふふ…。嬉しい…」
「な、何だと!?」
その時、有海は中村有沙の唇に、自らの唇を重ねた。
5054投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時49分40秒
「…!!」
中村有沙は、絶句している。
「私…守ります…」
「な…?な…?」
「私は…命に代えても…中村先輩を守ります…」
「あ…有海…」
「申し訳ありませんが…主導権は、私にあります…」
有海は、そう言って微笑んだ。
「いやがった!!こんな所に居やがったぞ!!」
山本組の者が…とうとう、二人を発見した。
「おい!!みんな集まれ!!」
わらわらと、山本組組員が集まってきた。
「く…!!か、身体さえ…動けば…こんなやつ等…!!」
中村有沙は、唇を噛み締めた。
「ん?『TDD』のメンバーのガキもいるぞ?行方不明だったヤツだ!!」
「なるほど…。裏切ったわけか…。やってくれんじゃん…」
皆、ニヤニヤと悪意のある目で二人を見下ろす。
「触らないで下さい…」
有海は、たった一人、ヤクザ達の目の前に立ちはだかる。
5055投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時50分20秒
「何ぃ…?」
ヤクザ達は顔を顰めた。
「は…ははは…」
有海は、力ない笑顔を浮かべる。
「何を笑ってやがんだ?このガキ…」
「恐怖で、頭でもおかしくなったんだろ?」
ヤクザ達は、またその顔をニヤケさせた。
しかし、有海はこう、呟いた。
「全然…怖くない…。ヤクザさん達に囲まれてるのに…。全然怖くないんだもん…」
「ああ!?」
「何だぁ!?」
ヤクザは、途端に怒号をあげる。
「あ…有海…?」
中村有沙も、有海がどうかなってしまったのかと思う。
5056投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時50分32秒
有海は、まったく気後れする様子も無く、ヤクザ達の顔を見渡した。
「私…学校のいじめっ子なんかに…どうしてビクビクしてたんだろう…。この人達に比べれば…ただの…平凡な…臆病な女の子達だったのに…」
「何、言ってんだ!?ガキ!!」
「極道なめると、痛い目に遭うぞ!?」
顔を真っ赤にしてが鳴り立てる男どもが、滑稽に見える。
「大丈夫…。私は…負けてない…!!」
有海は、力強く、ヤクザ達を睨んだ。
「このガキ!!」
「やっちまえ!!」
一斉に、ヤクザ達は有海に襲いかかった。
5057投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時51分09秒
その時だった。
ヤクザ達の真後ろから、声がした。
「か弱い女子に、寄って集って襲いかかるとは…男子の風上にも置けぬ輩…」
「…?」
ヤクザ達は、後ろを振り返る。
「恥を知れ!!」
その直後、鈍い音が響いたと同時に、ヤクザ達はバタバタと呻き声をあげて倒れていった。
「え…?」
有海は、その顔に風を感じた。
風が吹く度に、ヤクザ達は一人、また一人と倒れていく。
5058投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時51分22秒
「な…何だ…?」
中村有沙には、前に有海が立って視界を塞いでいる為、何が起きているのかわからない。
身体を捩りながらも、その前方を覗いて見る。
そこには…一人の少女が踊っていた。
髪の毛を、ポニーテールに…いや、侍の様に後ろに束ねている…。
手には…黒茶に輝く木刀が握られている。
その太刀筋は…一分の隙もなく、流れるように美しい。
知っている顔…。
懐かしい顔…。
会いたかった顔…。
「ちひろ…」
中村有沙はそう呟いた。
5059投稿者:まさか……  投稿日:2008年11月16日(日)20時51分39秒
モニクロ先生!!
5060投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時51分57秒
「え…?ちひろ…?この人が…村田ちひろさん…?」
一木有海は、高等部の有名人、剣道部でもあり剣道日本代表選抜最年少選手…村田ちひろの顔を、今、初めて見た。
太い眉は凛々しく上がり、大きな二重の目は一寸もぶれることなく敵を捉えている。
その口は真一文字に引き締められ、黒髪は美しく、しなやかに揺れる。
「せいぃぃぃ!!」
空気を切り裂く様なその一喝に、ヤクザ達は完全に気後れしている。
なす術もなく、その少女の太刀筋を身体に浴び、まるで時代劇の大部屋俳優の様に、大袈裟な声をあげて倒れていった。
5061投稿者:あら違った  投稿日:2008年11月16日(日)20時52分03秒
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5062投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時52分13秒
「う…動くな…!!」
一人残されたヤクザは、思い出したかの様に懐の拳銃を取り出すと、それをちひろに向けた。
「ち、ちひろ!!」
中村有沙は、叫んだ。
ヤクザは、勝ち誇った様な歪んだ笑顔を見せる。
「へ、へへ…!!生憎だったな…!!拳銃相手じゃ、そんな棒っきれ…」
「おまえは、拳銃を撃ったことがあるのか?」
臆することなく、ちひろは訪ねた
「な、何?」
「ないようだな…」
その瞬間、ヤクザの拳銃を持った右手に衝撃が走る。
「へ…?」
思わず、拳銃を手放した。
そして右肩、脳天に衝撃が…。
ようやく、拳銃は地面に落ちた。
その時には、もう、ヤクザの意識は遠のいていた。
5063投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時52分40秒
今、倒れているので、やっと把握できたのだが…ヤクザ達は12人もいた。
そのヤクザ達を、1分足らずで…全員、叩き伏せた…。
村田ちひろ…。
剣道の天才少女と、新聞に載っていたのは知っていた。
しかし…まさか、その実力がこれ程のものとは…。
有海は、呆然と侍の様な少女に見惚れていた。
「…ん?おまえ…名は何と言う?」
「………」
有海には、ちひろの声が耳に入っていない。
「おまえの名だ」
「………」
「おい!!」
ちひろは、有海の目の前で、指をパチンと鳴らした。
「…は…!!」
「名を聞かせてくれ…。小さな侍…」
ちひろは、そう言って微笑んだ。
5064投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時53分06秒
「あ…有海です…。一木有海です…」
ようやく、有海は口を開いた。
「そうか…。おまえが私の親友を守ってくれた…一木有海か…」
ちひろは、ポンと有海の頭に手を置いた。
「礼を言うぞ…。私の名は村田ちひろ…。『R&G探偵社』の…次期社長だ…」
「い…いえ…。お、お礼だなんて…」
早鐘の様に、有海の心臓は高鳴った。
続きの言葉が見つからない…。
その時、一人の少女が息も絶え絶えに走り寄って来た。
帆乃香だった。
「も、もう…ちひろさん、足、速すぎやで…。途中で見失ってしもうた………ゲ!!こ、これ、みんな、ちひろさんが…?」
帆乃香は、倒れて皆、気を失っているヤクザ達を呆然と見下ろした。
「おう、帆乃香。おまえにも礼を言うぞ」
先ほどの戦いの時とは打って変わった可愛らしい笑顔で、ちひろは声をかけた。
5065投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時53分43秒
「ち…ちひろ…」
中村有沙は、ボソリと呟く。
「有沙…」
村田ちひろは、その大きな目を細め、中村有沙を見詰める。
そして、手を差し出した。
「どうやら…間に合ったようだな…」
「間に合った…?何を言っている…!!遅い!!」
中村有沙は、涙でつまった声で怒鳴る。
「そうか…?」
「いつも遅いのだ!!おまえは…いつも…いつも…」
涙の溢れそうな目で、ちひろを睨む。
5066投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時53分56秒
「すまんな…」
ちひろは、力の入らなくなった中村有沙の肩を強く抱いた。
「ち、ちひろ〜〜〜!!」
中村有沙は…その、クールなイメージを全て覆すかの様に、ちひろの胸の中で号泣した。
母親に抱かれた子供の様に…。
「怖かった…。怖かったぁぁぁ…」
「よしよし…。もう、怖くない…。怖くない…」
ちひろは、穏やかな声で語りかけ、中村有沙の背中を擦る。
その横で…ようやく有海も泣き出した。
もう、安心だ…。
この安心感…随分、久しぶりの様な気がする…。
5067投稿者:リリー  投稿日:2008年11月16日(日)20時55分44秒
5059さん、61さん
モニークとなると、またサプライズでしたね
でも、接点ないですからね…

今日は、これでおちます
5068投稿者:ちひろかっこいいー  投稿日:2008年11月16日(日)21時05分13秒
有沙の性格はちひろの影響なんでしょうか?
有海たちの前でいつもの性格を捨てて泣きじゃくるなんて
よほどちひろが好きなんですね
5069投稿者:117  投稿日:2008年11月16日(日)21時06分38秒
有海も少し裏の世界の雰囲気をかもし出し始めて・・・?
なるほど、謎の女性の正体はちひろでしたか。いつぶりだろう、久々ですね。
感動の再会、チームの絆・・・いいですね。
午後6時20分から、「R&G」が好転・・・どうなるのか、続きも楽しみです!
5070投稿者:あげ  投稿日:2008年11月17日(月)14時35分52秒

5071投稿者:ちひろにだけデレる  投稿日:2008年11月17日(月)18時56分09秒
ツンデレ有ちゃん
5072投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時00分11秒
5068さん
そうです
如何にちひろをカッコよく登場させるか、いろいろ考えました
『サムドラ』の主人公なので、スペシャルな登場をさせたかったんです

117さん
ちひろの登場で、有沙達も無事に助かり、一気に合流することとなります
有海も、お疲れ様…ということで…

5070さん
あげ、ありがとうございます

5071さん
これも、意識してやったことです
ギャップが激しいかと思いまして…

では、更新します
5073投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時02分21秒
『午後7時00分』
甜歌の携帯に、電話が掛かった。
送信主は、ちひろだった。
「り、梨生奈!!ちひろさんから、電話!!」
「え?ちひろさんから?電話は掛けるなってメールしたんだけど…」
梨生奈は、甜歌から電話を受け取ると、通話ボタンを押した。
「もしもし?こちら『ムーン・ライト』…」
〔私だ。『サムライ・ガール』だ〕
「どうしたの?何か、あったの?」
〔何かあったのか、だと?おおありだ〕
「…え…?」
〔『アンダー・クイーン』を保護した〕
5074投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時02分37秒
「『アンダー・クイーン』!?あ…ありりん…無事なの!?一緒にいるの!?」
〔ああ。一緒にいる〕
「『アンダー・クイーン』の様子はどう?無事なの?」
〔無事とは言い難い…。怪我もしてるし、何か薬でも注射されたのか…手足がまったく動かない状態だ〕
「そ…そうなの…?で、でも…どうやって、『アンダー・クイーン』と落ち合えたの?」
〔小さな侍と、小さな商人(あきんど)のお陰だ…〕
「さ、侍…?商人…?」
〔替わろう…〕
ちひろは、誰かに携帯を渡した様だ。
〔…あの…木内さん…?有海です…〕
「あ、あみ〜ご!!」
梨生奈は、思わず声のトーンが上がった。
5075投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時02分59秒
まず、嵐のような有海の謝罪攻勢から始まった。
これでは、いつまで経っても話しが進まない為、今度は帆乃香に替わってもらう。
帆乃香は、今までの経緯を的確に話した。
自分も有海も、『TDD』を裏切って、中村有沙を助け出したこと…そして、偶然にもちひろと出会えたことを…(ちひろは、単独で中村有沙の行方を探していたそうだ)。
梨生奈も、その優秀な頭脳で、一度でその全容を理解した。
「わ、わかった…。ありがとう…。『サムライ・ガール』に替わってもらえる?」
ちひろが、電話に出る。
〔と…言うわけだ…。それで、頼みがある…〕
「わかってる!!迎えが欲しいのね?今、『ブラック・パイソン』と『キラー・タイガー』と『ライトニング・ボルト』が車を調達してる頃だから…すぐに迎えに行かせるわ!!」
〔む…?調達?まさか、盗難する気ではないだろうな?〕
「…そ…そうだけど…」
〔許さんぞ!!車両盗難は立派な犯罪だ!!〕
「そ、そんなこと言っている場合じゃないでしょ!?いいから、どこか安全な所に身を隠してて!!すぐに迎えに行かせるから!!」
〔わかった。近くに公園がある。そこの土管の遊具に隠れていよう〕
「じゃあ…。くれぐれも気をつけて!!」
梨生奈は、携帯を切ると、弾み出しそうな気持ちを押さえて、ジョアンに電話を掛ける。
他のみんなも、ジーナ以外は地獄耳を持ってはいないが、梨生奈の会話の内容で中村有沙が無事だということが理解できた。
皆は、もう大騒ぎだ。
5076投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時03分21秒
ジョアンと七海と羅夢はと言うと…条件に合う車が中々見つからないことと、見つかったとしても、人が多すぎて盗み出せないことに苛立っていた。
強盗をしては意味がない。
すぐに大騒ぎになって、『TDD』や山本組に知られるところとなる。
そこに、ジョアンの携帯が揺れた。
「ん?梨生奈からだ」
「梨生奈?だったら、アタイに貸しな!!」
羅夢が手を差し出す。
「アタシに掛かって来たんだから、アタシが出るよ!!」
ジョアンは、その手をパチンと叩いた。
「ざけんな!!リーダー気取りかよ!?バカのクセに!!」
「バカだと?おまえ、鏡見て言ってんのか?」
「鏡?アタイはそんなに顔、黒くねーよ!!」
「てめぇ、人種差別しやがったな!?」
「んだよ!?モニークは気にしなかったぞ?」
「アタシをあんな根暗二ガーと一緒にすんな!!」
「おまえ、二ガーって…おまえが差別発言してんじゃん!!」
「ウチは止めへんで…」
七海は、ジョアンから携帯を奪って通話ボタンを押した。
5077投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時03分40秒
「おう、『キラー・タイガー』や。何やねん?『ムーン・ライト』?」
〔『キラー・タイガー』?『ブラック・パイソン』はどうしたの?〕
「ん?今、日本一アホ決定戦をやっとるわ」
「ああ!!七海!!てめぇ!!人の携帯…」
ジョアンの顔を手で押さえつけながら、七海は会話を続ける。
「で、どないしたん?まだ、トラックは盗めてへんで?」
〔うん…。そのことも、あるんだけど…グッドニュースよ!!〕
「な、何や!?」
〔『サムライ・ガール』が…『アンダー・クイーン』を無事に保護したそうよ…〕
「…へ…?」
七海は、言葉を失った。
「な、何!?」
地獄耳を持っているジョアンも羅夢も、思わず声をあげる。
〔それから…あみ〜ごと…帆乃香も…一緒だって…〕
「…へぇ…?」
またも、七海は言葉を続けられなかった。
5078投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時03分58秒
〔ねぇ…?『キラー・タイガー』…?聞いてる?〕
「てめぇ!!話さねぇんなら、アタイに寄越しな!!」
羅夢は、七海から電話を奪おうとする。
しかし、七海は羅夢に無意識に咽喉輪をかけて、近づかせない。
「な、何やって…?チビアリに…一木さんに…帆乃香…?」
この、意外な名前の連続に、七海は戸惑った。
〔そう…!!『アンダー・クイーン』が助かったのは、二人のお陰なのよ!!〕
「つ…つまり…チビアリは…無事なんやな?生きてるんやな!?」
〔さっきから、そう言ってるじゃない!!だから、早くトラックを調達してきて!!それで、4人を迎えに行くの!!〕
「わ、わかった!!ど、どこに向かえばええ?」
〔商店街の近くの公園よ。山本組がうろついてるらしいから…気をつけて!!〕
梨生奈との通信を終えた七海は、無言でジョアンに携帯を返す。
「おい…七海?」
ジョアンは、七海の顔を覗き込む。
泣いている…?
「はは…。生きとった…。チビアリ…。無事やったんや…」
そして、こう続ける。
「おおきに…。一木さん…」
5079投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時04分18秒
しかし、これでのんびりとしていられなくなった。
一刻も早く車を盗んで、中村有沙、有海、帆乃香、そして、ちひろを迎えに行かなければならない。
まだ、山本組の連中が徘徊しているという話しだ。
「し、しかし…人目をはばかりながらトラックを盗むなんて…なんて骨の折れる仕事だ…」
ジョアンが、弱音を吐いた。
「ああ…。アタイ達、『TTK』時代は、問答無用で強奪してたもんな…」
羅夢も、表の世界の制約の多さに辟易している。
中村有沙達が加わったので、これで13名…。
最低でも13人が乗れる車…。
そう、簡単に見つかるわけがない。
「こうなったら、普通乗用車を3台盗むか?一台に5人乗れば…」
羅夢がジョアンに言う。
しかし、ジョアンは首を横に振る。
「ダメだ!!台数が増えれば、それだけリスクも増える。騒ぎも大きくなるだろうし…警察はどうにかなっても、『TDD』はどうにもなんねぇ…」
その時、七海は閃いた。
「ん…?つまり…一度にたくさんの人間が一台の車に乗るんなら…別にトラックでなくてもええやん…」
「は?何があるっていうんだよ?」
「バスや!!バスを盗もう!!」
5080投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時04分39秒
途端に、羅夢が失笑する。
「バスなんて…それこそ盗めるわけねぇだろ!!」
ジョアンも同調する。
「そうだよ!!それに、バス会社にだってすぐにバレるし…」
七海は、首を何度も横に振る。
「ちゃう、ちゃう、ちゃう…!!バス会社のバスを盗もう、言うてるわけやない!!あるやん…御あつらえ向きのバスが…」
「へ…?」
ジョアンと羅夢は、顔を見合わせる。
「聖テレのバスや!!学校の、送迎バス!!今、学校休みやろ?当分、バレんのとちゃうん!?」
「あ…!!」
思わず、ジョアンも羅夢も手を叩いた。
これは、グッドアイデアだ。
「いいじゃん!!最高じゃん!!盗もう!!学校のバス!!」
ジョアンが七海の肩を叩く。
「ああ…。アタイ等、余計に学費払ってんだから…バスの一台や二台、盗んだって構わねぇよな!!」
羅夢も、その意見に賛成する。
「善は急げや!!はよ、学校に行くで!?」
学校のバスを盗むことは、全然、『善』ではないのだが、3人は喜び勇んで学校へと走った。
5081投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時05分06秒
商店街近くの公園に、有海達の見慣れたバスが到着した。
真っ白な車体に、紺色の筆記体で『St.THERESIA』と書かれ、盾型の校章のエンブレムが大きく描かれている。
「…?学校のバス…?」
ちひろが、木刀を構えて警戒しながら土管の遊具から這い出した。
空気の噴出する音とともに、中央ドアが開く。
中から、七海と羅夢が飛び出してきた。
「サムガー!!チビアリは?一木さんは、どこや!?」
「この中だ!!何だ?学校のバスを盗んできたのか?」
ちひろの言葉を無視し、七海は土管の遊具へ急いだ。
「へへ…。学校の物を盗むんなら、無関係でもねぇから、別にいいかなって…」
羅夢は、悪びれることなく笑った。
七海は、土管の遊具を覗き込み、大声で呼ぶ。
「チビアリ!!無事か?一木さん!!」
「ななみん…。うちの名前は、呼んでくれへんの?」
中から出てきたのは、帆乃香だった。
「ほ、帆乃香!!オノレ!!」
七海は、帆乃香の顔を見るなり、その胸座を掴んだ。
「やめて!!藤本さん!!帆乃香さんがいなかったら、中村先輩を助けることができなかったんだから…」
有海が、土管の中から飛び出して、七海と帆乃香の間に立った。
「一木さん…」
七海は、随分久しぶりに会ったかの様に、有海を見詰める。
5082投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時05分30秒
「ごめんね…。藤本さん…」
「あ…謝ることなんて…ないよ…」
七海は、有海を抱き締めた。
「藤本さん…」
有海の閉じた目に、涙が滲み出た。
「あ…!!そうや!!チビアリや!!」
七海は、有海を放り出す。
「ひゃ!!」
有海は、軽く叫んで帆乃香に寄りかかる。
「チビアリ!!どこや!!」
七海は、土管の中に入り込む。
「…ここだ…。うるさいヤツめ…」
土管の奥に…彼女はいた…。
力なく、背中を湾曲した壁にもたれさせている。
「ここは、ただでさえ響くのだ…。頭が痛くなる…」
迷惑そうに、中村有沙がこちらを見た。
5083投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時06分14秒
七海は、中村有沙の側まで四つん這いで進む。
「生きとったんやな…。しぶといヤツや…」
「貴様もな…。何だ?泣いているのか?」
「当たり前や!!何で生きとったんや?ていう…悔し泣きや…!!」
「そうか…?私は…嬉しいぞ…。また、貴様と会えて…」
「え…?チビアリ…?」
七海は、途端に力が抜けた。
「そんなわけ、あるか!!」
中村有沙は、七海の額に頭突きをした。
「ぐ…!!オ、オノレ…!!」
七海は、顔を真っ赤にして中村有沙を睨み付けた。
5084投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時06分27秒
「ふふ…?ぶん殴るか?見ての通り、私は手も足も出んがな…」
「ふ、ふん!!身体の動かんヤツを、シバいてもしゃあないわ…!!」
しかし、七海は悪魔の様な微笑を浮かべる。
「せやけど…その代わり…」
「…な、何だ…?」
「ブタッ鼻の刑や!!」
七海は、中村有沙の顔を両側から挟むと、親指で思いっきり鼻を押し上げた。
「ぐ…!!き、貴様…!!や、やめろ!!」
「ギャハハハ!!何や?その顔!!メチャ、ブサイクになっとんぞ!?ギャハハハ!!」
「おい、お前ら!!何を遊んでる!?早くバスに乗れ!!」
土管の入り口付近で、ちひろの怒鳴り声が聞こえた。
5085投稿者:リリー  投稿日:2008年11月17日(月)21時06分50秒
今日は、これでおちます
5086投稿者:学校のバスを盗むことは、全然、『善』ではないのだが  投稿日:2008年11月17日(月)21時07分06秒
リリーさんそういう突っ込みは台詞でやるべきでは?ww
ト書きではリリーさん本人が突っ込んでるような気がして合わなさすぎですww
5087投稿者:117  投稿日:2008年11月17日(月)21時13分56秒
なるほど、車でもトラックでもダメなら、「聖テレ」のバスを盗んじゃおうと(笑)。
徐々に有利な方向に進んでいる「R&G」側。
どうにかここまでは上手くいっていますが、今後も大丈夫なのか?続きも楽しみです!
5088投稿者: 投稿日:2008年11月17日(月)21時31分54秒
あげ
5089投稿者: 投稿日:2008年11月18日(火)20時01分48秒

5090投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)20時51分32秒
5086さん
これは、ジョアンも羅夢も、突っ込みそうな人がいなかったからで…
たしかに、これは私の突っ込みですね

117さん
もちろん、苦難は山積みですが、とりあえず危機は去った…ということで…
それでも、まだダーさん、七世、俵姉妹…『TDD』に取り残された藍など、心配なことがいっぱいあります

あげ、ありがとうございます

では、更新します
5091投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)20時53分05秒
『午後8時10分』
天心荘。
もう、皆は原村出発の準備を整えた。
皆、続々と聖テレの送迎バスに乗り込む。
運転するのは、ジョアンだ。
ジーナは、後部座席で飛び跳ねてはしゃいでいる。
「ああ…。結局、私達まで原村まで付き合わなくちゃいけなくなったのね…」
杏奈は、溜息をついた。
「どうしよう…。明日から、東大受験コースの合宿が始まるんだけど…」
卓也も、うな垂れている。
「命の方が大切だ。『TDD』とやらが、おまえ達を襲う可能性がある」
ちひろは、卓也の背中を強く叩いた。
「私は、ワクワクしてるんだよねぇ〜。みんなから聞いたけど、原村って良い所らしいし…」
甜歌だけは、ピクニック気分だ。
「緊張感、持てよ、甜歌。ま、ワシが言っても説得力ないけどな…」
そう言って、吉田は笑った。
「本当よ…。まったく…」
車椅子の梨生奈は吉田達を見て呆れている。
「あなた達、『R&G』の元祖メンバーでしょ?一番緊張感がないって、どういうこと?」
梨生奈にたしなめられ、吉田達、元祖メンバーは頭を掻いた。
リーダーの座も、新参者の梨生奈に明け渡してしまったし…。
5092投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)20時53分28秒
「でもなぁ…。急に原村に行く事になって…また、お母さんに怒られるよ…」
甜歌が、泣き出しそうな声をあげた。
「大丈夫や。警察の方から、みんなの親御さんには連絡をさせる。行方不明とか、家出とかにはならないはずや…。理由は…後で考えるけど…」
こういう時、警察と太いパイプを持っている吉田は、役に立つ。
だが、『TDD』という裏の組織相手では、さすがに警察も歯が立たないが…。
「おい、ここに車椅子があったぞ。これで、チビアリを運べるんじゃないか?」
羅夢が、運転席の脇から車椅子を引っ張り出してきた。
障害者対応も万全ですよ…という、いわゆる聖テレの世間に対するポーズなのだが、実際に役に立つのは、これが初めてだろう。
「車椅子…もう、一台ありますか?」
有海が、地面に転がっている山本を指差して聞く。
山本は、ジーナによる針で、身動きが取れない状態だ。
「ああ!?こんなやつ、車椅子なんて要らねぇよ!!引き摺っていけ!!引き摺って!!」
羅夢は、車椅子を天心荘の部屋の中に運ぶ際、後ろ足で山本の頭を蹴っ飛ばした。
中村有沙は、羅夢の運んできた車椅子に、有海と帆乃香の手を借りて乗せてもらう。
その時、有海にこう言った。
「有海…。すまんが…メモ程度でいいから、置手紙を書いてきてくれないか?」
「置手紙…?」
「ああ…。我々がこれからどこに行くのか…」
「だ、誰に…ですか?」
「デカアリに…だ…」
5093投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)20時53分51秒
帆乃香は、有海の代わりに首を横に振る。
「ありりん…。無駄や…。ダーブロウは…もう、戻って来んで…」
中村有沙は、キッと、帆乃香を睨みつける。
「貴様に、デカアリの何がわかる!?」
帆乃香も、負けずに言い返す。
「ありりんかて…おじいちゃんのこと、何もわかってへん!!」
「おじいちゃん?寛平のことか?ふん…!!ロクでもないペテン師だった…と言うことは知っている!!」
「ぺ…ペテン師…?おじいちゃんが!?」
「『鎌に触れば私は死ぬ』…そういう予言を受けた。だが、私はまだ、こうして生きている…」
「そ…それは…まだ、わからん…。これから…死ぬ事になるんかも…」
帆乃香は、青褪めた顔で呟いた。
「そ、そんなの、嫌!!」
有海は、耳を塞いで頭を振る。
そんな有海に、中村有沙は優しく微笑みかける。
「大丈夫だ。有海…。私は死なない…。主導権は…もう、誰にも渡さない…。おまえに…そう教えてもらった…」
「な、中村先輩…?」
「おまえは…私の憧れだ…」
「え…?今、何て…?」
「もう、言わない…」
それきり、有海の方を向くことなく、帆乃香によって、バスへと運ばれて行く。
5094投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)20時54分19秒
呆然と、有海は中村有沙を見送る。
「…憧れ…?私が…?中村先輩の…?」
そして、こう呟きながら笑った。
「まさか…」
「何、ニヤついとんねん?一木さん」
不意に、七海に後ろから声をかけられた。
「ひゃ!!ふ、藤本さん!!」
「はよ、デカアリに手紙を書かな!!」
「で、でも…私、デカアリ…ダーブロウさんのこと…よく知らないから…」
「事務的なもんでええ!!国語…文章書くの、得意やろ?」
「う、うん…」
有海は、テーブルの上のレポート用紙を一枚取ると、手紙を書き始めた。
【ダーブロウ有紗さんへ。私達は、『難田門司さんの隠し財産』を、『TDD』から奪う為、長野県諏訪郡にある、原村という所に向かいます。】
「デカアリに、さん付けなん、せんでええよ…。あと、難田門司にも…」
「で、でも…一応、面識ないわけだし…」
「続き、書き」
「はい」
【原村に向かうメンバーは、吉田さん、藤本さん、中村先輩、木内さん、細田さん、ヤマザキ先輩、村田さん、白井さん、井出さん、橋本さん、帆乃歌さん、ジーナさん、私、一木有海の、13人です。】
5095投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)20時54分57秒
ここまで書いて、有海は鉛筆を止める。
「あ…。私が何者なのか…あと、帆乃歌さんやジーナさんのこととか、書いた方がいいかな…?」
「ええやろ、別に…。ややこしくなるし、デカアリ、基本的にアホやし…。あ!!夏希がこちら側に寝返ったことと、エマとエリーが生きてたこと、書かな!!」
「あ、そうだね」
【あと、加藤夏希さんが、私達の味方になりました。正確に言うと、始めから『TDD』に入るつもりはなかったようです。近藤さんと渡邊さんも、殺されていませんでした。彼女達も、一足先に原村へ向かっています。】
「うん。後は、早う原村に来い、と書いて」
「はい」
【この手紙を読まれましたら、ダーブロウさんも、一刻も早く原村に来てくださることを願います。皆、あなたの力を必要としています。乱筆乱文、失礼しました。】
そして、こう締めくくった。
【新しい仲間、一木有海より】
「これでどうかな?」
「うん。『皆、あなたの力を必要としています。』の部分は気に入らんけど…上出来やで!!」
しかし、七海は手紙を見て、じっと考える。
「一木さん、鉛筆貸して!!」
「え?」
七海は、鉛筆を力強く握ると、乱暴に書き殴る。
【おい、デカアリ!!オノレ、カンペーにボロまけやったらしいな?いつもえばっとるくせに、このザマかい?カッコわるいのう?くやしかったら、はよ原材にこいや、ボケ!!】
七海は、鉛筆をテーブルに転がすと、満足気に、へへ…と笑ってバスへ向かった。
「藤本さん…」
有海は、そっと『材』を『村』と書き直してやった。
5096投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)20時55分31秒
聖テレの送迎バスは、先ず、天歳警察署に寄った。
山本組組長、山本圭壱を警察に突き出す為だ。
もう、この男の利用価値は殆どない。
いや、解放することによって、山本組からの追跡はこれでなくなる。
山本は、身体中に針を射ち込まれたまま、手足はもちろん、口も耳も目も利けない状態で、警察署前に転がされた。
「ん?」
玄関前を警邏していた警官が、山本に気がついた。
わらわらと警官や刑事が山本の周りに集まってきた。
そして、大騒ぎしている。
未成年略取、淫行の罪で指名手配中のヤクザの大物が警察の前で転がっているのだから、無理はない。
5097投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)20時55分51秒
「へへ…!!これで、あのブタも一巻の終わりだな…」
羅夢は、いい気味だと言いたげな笑みを浮かべる。
「加藤組も、山本組も…これで壊滅ね…。あと、敵は『TDD』だけ…」
梨生奈は、そう呟いて、身を引き締めた。
「しかし、あの男…少女達相手に、随分卑猥なことをやってきたという…。私も、成敗したかった…」
ちひろは、そう悔しそうに言う。
「それに…ああいうのは、一種の病気だから…。また保釈金積んで出てきた時に、同じことを繰り返すんじゃないかしら…」
杏奈も、顔を顰めて言う。
だが、ジーナはそれに対し、呆気らかんと言い放った。
「大丈夫ですよ。あのオジサンは、もうワルサはできません」
「…?何で…?」
皆、ジーナの方を向く。
「だって、ジーナ、あのオジサンの前立腺に針を刺し込んでやりましたから。レントゲンにも写らない、数ミリの細くて小さなヤツね…。オチンチン大きくなったら、もの凄くイタイ、イタイってなります!!」
それを聞いて、同じく男である吉田と卓也は、青褪めた顔で股間を押さえた。
5098投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)20時56分24秒
バスは、天歳市内を抜けた。
羅夢と七海が、尾行はないか、後部座席から目を光らせている。
運転をしているジョアンが、吉田に声をかける。
「レッドさん、このバス、高速を走ることを想定してないから、ETCを付けてないと思う。高速の料金所付近になったら、運転代わってくんない?」
「ええけど…。ワシ、まだ右足のギプスがとれてへんから、運転に自信ないで?」
「すぐに、代わってやるよ」
吉田と梨生奈が怪我をしているし、中村有沙も手足が動かない為、運転はジョアン一人が担当することになる。
七海や羅夢…そしてジーナも運転をしたがったが、あまり経験が無い為、皆はハンドルを握らせなかった。
5099投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)20時56分38秒
「有海…。こっちへ来い…」
中村有沙は、有海を側に呼んだ。
「は、はい…」
緊張の面持ちで、有海は隣に座った。
「貴様に、言っておかなければならなかったな…」
「…え?」
「私達が…何者なのか…」
「…!!」
有海は、背筋を伸ばした。
七海も、後ろを振り返った。
「…貴様にとって…とても、キツイ話しになるぞ…。もしかしたら…今までの様な関係は続けられないかも…。それでも、聞きたいか…?」
七海は、じっと有海の方を見る。
有海は、その視線に気がついた。
有海は………ニッコリと微笑んだ。
「はい…。聞かせて下さい」
バスは、いよいよ高速道路に入る。
5100投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)20時57分54秒
次回で、長かった『七回・裏』は終わります

では、おちます
5101投稿者:しつもーん!  投稿日:2008年11月18日(火)21時00分46秒
千秋&瑠璃は表のみの登場ですか?
出来たら裏でも出してください!
5102投稿者:あげです  投稿日:2008年11月18日(火)21時02分11秒
杏奈は白木じゃありませんでしたっけ?
5094のレスに白井さんって書いてありますけど
5103投稿者:5102です  投稿日:2008年11月18日(火)21時05分57秒
あと「ほのか」は帆乃歌ではなく帆乃香です
エラそうにたくさん指摘申し訳ありませんでした
5104投稿者:リリー  投稿日:2008年11月18日(火)21時10分51秒
5101さん
基本的に表です
あとは、読み進めて頂けたら…

5102さん
あらら…ほんとですね…
ありがとうございます
杏奈の方は、おそらく『k』のキーを押し忘れたか、弱く押したため『い』となってしまったのでしょう(よくあるんです、こういうこと)
あと、帆乃香に関しては、甜歌も同じ場面にいるので、変換間違えですね
ご指摘、ありがとうございました
5105投稿者:117  投稿日:2008年11月18日(火)21時19分53秒
一刻を争う状況の中、有海のかなり丁寧な手紙(笑)。「材」も、何となく分かるような(苦笑)?
そして、ジーナ・・・怖(苦笑)。
よく考えたら、7回裏でしたね。確かに長かったなぁ・・・続きも楽しみです!
5106投稿者:デジ  投稿日:2008年11月19日(水)02時08分40秒
(日)謎の女の正体は...ちひろでしたか。登場シーンがカッコよすぎですね。さすがです。これで三人は一安心ですね。
(月)これぞ「三人寄れば文殊の知恵」ですね。「善」ではないけど彼らにとって紛れもないプラスの結果になることに変わりはないでしょうね。
しかし、なぜか有沙と七海が微笑ましく感じるのは僕だけか?
(今日)ダーさん、七世、俵姉妹以外の人が、久々の(ほぼ)全員集合。学校の遠足の行き帰りのバスみたいに賑やかな長旅になりそうですね。
「有海は、そっと『材』を『村』と書き直してやった。」の部分が何気に笑えました。確かに『材』と『村』間違いやすいですよね。特にこういう急いでる場面では。
長かった「七回裏」。この「R&G」陣の好転は今後の戦況にどう影響するか。続きも楽しみです。
             (今日の小言)
小説に出てくるキャストが大体完成しました。(やっと...。計画性のない骨組みですいません。)
後で、小説のほうも更新します。興味があれば御覧あれ!
5107投稿者: 投稿日:2008年11月19日(水)17時43分42秒

5108投稿者: 投稿日:2008年11月19日(水)18時14分56秒


5109投稿者: 投稿日:2008年11月19日(水)19時00分57秒
5110投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時16分07秒
117さん
有海と七海の性格の違いを、手紙で表せたら…と思い、書きました
山本組長は、これからが地獄でしょうね

デジさん
おひさしぶりです
『村』と『材』は、点ははらうかの違いですから、慌ててる時は間違えやすいかもしれませんが、やっぱり、ゆっくりでも間違えたかもしれませんね
小説、楽しみにしています

では、更新します
5111投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時19分47秒
『午後9時45分』
原村は、もうすっかり雪に覆われていた。
夏に見た光景とは打って変わった白銀の世界が、月明かりに照らされている。
翔子は、タイヤにチェーンを巻く以外は、ノンストップで原村に到着した。
『難田門司の隠し財産』は、ハセヤンズハウスの敷地内…そう…あの、『カエルの墓』の3メートル付近に埋めなおしていた。
あの後、ゴルゴが見つけ出さない様に、わざわざ元の隠し場所の近くに埋めたのだ。
5112投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時19分59秒
「わぁ…。ハセヤンズハウスだ…。懐かしいな…。るりぽんにちゃっき〜、ハセヤンや大樹さんにも挨拶したいな…」
藍は、白い息を吐きながら呟いた。
「あい〜ん…。今回は、仕事で来たんだから…。今、るりぽん達に会っても、辛くなるだけだよ…」
「うん…。そうだね…」
そんな二人に、翔子が聞く。
「だったら…あんた達、宿はどうするつもり?」
「また、どこか近くの民宿でも探すさ」
「私は、ここに泊まりたいな。温泉が、ギザ気持ちいいんでしょ?」
藍が、翔子に耳うちする。
「ここのオーナー、ハセヤンって言うんだけど、その人はヒバゴンみたいなのね。でも、息子さんの大樹さんは、凄いイケメンだよ。ちゃっき〜も、可愛いし…」
「私、男には興味ないんだよね」
「あ…。そうだった…」
そう、翔子は基本的に、美少女大好きのレズビアンだった。
「あ…!そうだ…。ねぇ、その、るりぽんって子はどうなの?可愛いの?」
「う…!!」
藍は、表情を硬くした。
5113投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時20分25秒
るりぽん…こと、松尾瑠璃は、相当可愛い。
おそらく翔子が一目みたら、萌え殺される事、間違いはない。
「可愛くない!!可愛くない!!すっごい、ブサイク!!」
「…ふ〜ん…。その様子を見ると…ギザ…いや、ギガントかわゆす…て感じ?」
翔子の眼が光った。
「あすみ。私、ここに泊まることにする!!」
「え?ちょ、ちょっと!!しょこたん!!」
藍は青くなって喚いたが、あすみは静かに言う。
「やめたほうがいいよ…。翔子…。るりぽんも…」
そう言い掛けて、あすみは言葉を飲み込んだ。
瑠璃も元『TTK』………藍のいない所で打ち明けるべきだ…。
「ん?るりぽんが、どうしたの?」
「いや…。何でもないよ。ほら、早く『隠し財産』を回収しないと…。あの、アホパンマン、きっとどこに隠してあるかも、夏希に喋ったと思うから…」
「ふふ…。あのシンパンマンの土下座…。今、思い出してもギザ笑える…」
3人は、ハセヤンズハウスの敷地内に、無断で侵入する。
藍だけが、「失礼します」と、小声で呟いた。
5114投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時20分57秒
夏、皆で秘密基地造りをした雑木林に向かう。
そこには…廃材で組み上げたとは思えないような、立派な小屋が建っていた。
「ふぇ…。実物は初めて見た…。よく造ったよね…ここまで…」
藍は、溜息をついて秘密基地を見上げた。
千秋からの手紙に、完成した小屋の写真も同封されていたので、どんな出来栄えなのか知ってはいたが、改めて実物を見て、藍は感心した。
そして…あの、楽しくも懐かしい日々を思い出す。
自然と、涙がこぼれた。
「何これ…?『らりるれろ探偵団』?変な名前…」
翔子は、小屋にかかっている看板を見上げて吹き出した。
5115投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時21分09秒
「ん?」
あすみは、その『らりるれろ探偵団』と書かれた文字の、下に注目する。
それぞれの『ら行』の文字の下に、小さな字が書かれている。
書かれている字は…『らむ』、『りおな』、『るり』、『れいしー』、『ろーず』…。
「『ろーず』…?」
元『TTK』四天王の一人…モニーク・ローズの名が…。
「この村に滞在していて、今は指名手配のモニーク・ローズ…?…ま、関係ないか…」
あすみは、ブランコ付き見晴台の下に向かう。
「ふん。ゴルゴさん、立派なもの、造ってあげたじゃないか…」
そう言いながら、見晴台の柱をパチンと叩く。
「…!?」
あすみの笑顔が凍りついた。
『難田門司の隠し財産』を埋めておいた場所に………ぽっかりと穴が開いていたからだ。
5116投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時21分29秒
「翔子!!あい〜ん!!」
あすみは、二人の名前を呼んだ。
「ど、どうしたの?」
翔子が、すぐに駆けつけた。
「ない…!!『隠し財産』が、なくなってる!!」
「ええ…?も、もしかしたら…」
「ああ!!夏希だ!!加藤夏希にやられた!!」
そう唇を噛み締めたあすみは、後ろを振り返る。
「あい〜ん!!何やってるの!?早く、私の側に…」
そう言い掛けて、あすみは口を噤んだ。
藍が、青褪めた顔で立っていた。
青褪めているのは、月に照らされた雪が反射しているからではない。
秘密基地…『らりるれろ探偵団』のドアが開いている…。
その入り口の中から、細く長い腕が伸び、藍の首を掴んでいる。
「夏希!!」
あすみは叫んだ。
「ご名答…」
小屋の中から…黒革のライダースーツ姿の…加藤夏希が現れた…。
5117投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時22分03秒
「貴様…!!」
あすみは、懐から新兵器、鋼鉄のヨーヨーを取り出して、夏希に向けて投げかけた。
「あすみ!!ダメ!!」
翔子の悲鳴で、あすみは寸でで動きを止める。
当然の如く…藍の首筋には、長ドスの刃が怪しく光っていた。
「あ…あ…あすみん…」
藍は、涙をポロポロと流して震えている。
「ふふん…。こんな素人の小娘を連れてきて…。狙ってくださいって言ってるようなものね…」
夏希は、その冷たく張り付いた笑顔を、あすみに向けた。
「くぅ…!!あい〜んを、人質にするつもり!?」
あすみは、真っ赤に顔を鬱血させながら訊いた。
「人質…?いらないわよ…。もっと、大人しい…ギャーギャー泣き喚く事もない…食事もトイレの世話も必要ない…理想的な人質をとってるもの…」
しかし、夏希はこう言い直す。
「あ…。『人』ではないけどね…」
「貴様…!!『難田門司の隠し財産』を…!!」
「ふふ…。凄い数のダイヤモンドね…。5億…いや、6億は下らないわ…」
「いいよ!!『隠し財産』なんてくれてやる!!その代わり、あい〜んに傷一つつけたら…」
途端に、夏希の表情から笑みが消える。
「何よ?正義の味方気取っちゃって…。気に入らないわ…。あんた達だって、どす黒く汚れた裏の人間のクセに…!!」
5118投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時22分31秒
夏希にそう言われ、逆上しかけたあすみだが、その気持ちを冷静にさせた。
「で…用件は何?『隠し財産』を手に入れたなら、早くこの村から立ち去ればいいでしょ?何で、私達が来るのを待っていたの?」
夏希は、目を瞑って含み笑いをして、改めてあすみを見据える。
「決着をつけるわ…!!あなた達、『TDD』と…」
あすみは、首を傾げた。
「決着…?わからないね…。その『隠し財産』を持って、外国へでもどこへでも雲隠れしたらどう?」
「雲隠れ?私は、そんな生活…妹にはさせない…!!表の世界で…堂々と暮らせるようにしたいの…!!」
「なるほど…。加藤夏希とその妹…そして、加藤浩次の行方を…ボスは必ず突き止めさせるからね…」
「ええ…。後々怯えて暮らすより…今、決着をつける…!!『隠し財産』は、あんた達を誘き寄せるエサに過ぎない…」
「あなた…ボスの恐ろしさを、まだ理解できていなかったの…?殺されるよ…。必ず…」
「殺される?ふふ…妹の為なら、覚悟の上よ…。それに…一人で死ぬつもりもないしね…」
「そう…。じゃあ、いい加減、あい〜んを放してくれないかな?その子も私にとって、妹みたいなものだからさ…」
その、あすみの言葉に、藍はまた涙を落とした。
「あ…あすみん…」
あすみは、有らん限りの殺気を、夏希にぶつける。
「さっさと、その薄汚れた手をどけな…!!夏希!!」
「嫌だと言ったら…?」
「殺す!!」
夏希は、また目を瞑って含み笑いをした。
そして、目を開くと…あすみ同様、有らん限りの殺気を放つ。
「やってみな!!」
5119投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時23分07秒
夏希は、藍を突き飛ばした。
「あ…!!」
藍は、雪の上に突っ伏して倒れた。
そして、夏希は長ドスを藍の背中に突き立てようとする。
その時、長ドスの刃に、鋼鉄のヨーヨーがぶつかる。
「…!?何だ!?その武器…?」
あすみは、すぐさま左のヨーヨーも構える。
「!!」
夏希は、体勢を立て直して長ドスを構えた。
だが、二人は身体の動きを止めた。
二人の間…藍の身体のすぐ側に、ピンク色の鉄球と、黒い矢が刺さったからだ。
5120投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時23分19秒
「…!?えまちん!?えりりん!?」
あすみは、暗闇に叫んだ。
「馴れ慣れしく呼ばないで!!」
「裏切り者!!」
エマとエリーの悲痛な怒鳴り声が、雑木林に木霊した。
「ふん!!決着は、お預けだ!!近いうちに、貴様等の携帯に連絡を入れる!!首を洗って待っていな!!」
夏希は、一瞬で暗闇に姿を消した。
「あい〜ん!!大丈夫!?」
あすみは、夏希のことなど目もくれず、雪の上に突っ伏している藍に駆け寄った。
「あ、あすみん…。今…えまちんと、えりりんの声が…」
「…うん…」
あすみはそう言うと、藍の身体をぎゅっと抱き締めた。
5121投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時24分21秒
雑木林を抜けた所で、ようやく夏希とエマ、エリーの3人は足を止めた。
夏希は、エマとエリーに厳しい目を向けた。
「エマ!!エリー!!余計なことをしてくれたね!?あんた達の援護なんかなくたって、私は、あのデカ女を仕留められた!!」
しかし、それ以上の怒りを、エマとエリーは夏希に向けた。
「別に、あんたを援護したわけじゃないよ!!」
「何ですって?」
エマの怒鳴り声に、一瞬、夏希は気後れをした。
「夏希さん…!!さっき、あい〜んを殺そうとしたでしょ!?」
エリーも、夏希を睨んでいる。
5122投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時24分34秒
「当然でしょ?『TDD』は皆殺しにするんだから!!」
「あい〜んは…『TDD』なんかじゃ、ないよ!!」
夏希は、眉間にシワをよせて、溜息をついた。
「まったく…。ほんと、平和ボケしてるんだね…。あんた達…」
そして、その冷たい眼を、二人に向ける。
「今度、私に逆らったら…殺すからね…?」
しかし、エマとエリーは少しも怯まない。
「逆よ…。今度、あい〜んを殺そうとしたら…私達があなたを殺す!!」
その言葉に、夏希は呆れた様に笑う。
「ふふ…。バカバカし過ぎて、冗談にもなってないわ…」
そして、二人に背を向ける。
「今のは、聞かなかったことにしてあげる…」
『TDD』と…寛平と決着をつけるには…この二人の力が、絶対に必要だから…。
5123投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時26分15秒
『午後11時55分』
天歳市、虹守町の天心荘…その中の部屋にある、テーブルに置いてある手紙を、手にとって読む少女がいる。
「…何て…書いてあるの…?」
すぐ後ろに、壁に寄り掛かって立っている、二人の少女のうちの一人が訊いた。
「みんな…無事みたい…」
手紙を読んでいる少女が、安堵したかのように息をついた。
「でも…みんな、いないのは…どういうこと?」
壁に寄り掛かっている、もう一人の少女が、訊く。
「…みんな…原村に向かったそうよ…」
「原村…?何で…?」
「『難田門司の隠し財産』を…『TDD』から奪うんだってさ…」
「難田門司の…隠し財産…?」
「夏希さんが…どうやら味方になったらしい…」
「な、夏希さん…?どういうこと!?手紙、見せて!!」
「いいけど…。これ、ダーさん宛てに書かれてる…。どうやら…私達、死んでるものと思われてるみたいね…」
そう言って、岩井七世は、俵姉妹に手紙を渡した。
5124投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時26分31秒
3人のトラックスーツは、それぞれの色がわからないくらい黒焦げになり、所々引き裂け、血が滲んでいる。
俵姉妹は、食い入るように手紙を読む。
「この…一木有海って…誰…?」
七世は、力尽きたように、床に腰を落とした。
「聞きたいことは山ほどあるけど…。怪我の治療をしたら、私達も向かおう…!!原村へ…!!」
そして、こう呟いた。
「ダーさん…。どうか…無事でいて…」

(『七回・裏』・・・終了)
5125投稿者:リリー  投稿日:2008年11月19日(水)21時29分11秒
つまり、惨敗した割には『R&G』は犠牲者ゼロということで…

次回、『八回・表』から原村が舞台となります

では、おちます
5126投稿者:117  投稿日:2008年11月19日(水)21時30分03秒
久々の「原村」に「らりるれろ探偵団」の秘密基地、懐かしいですね。
“萌え殺される”、初めて聞きました(笑)。瑠璃とかの再登場はあるのでしょうか?
おぉ、どうにか七世たちも生きていたようで・・・続きも気になります!
5127投稿者:とうとう来た、アダルトチーム  投稿日:2008年11月19日(水)22時29分03秒
 
5128投稿者: 投稿日:2008年11月20日(木)14時26分55秒

5129投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時43分55秒
117さん
確か、ここで『萌え殺される』(萌え死ぬだったかな?)って言葉を知ったのだと思います
もちろん、瑠璃の再登場はありますよ

5127さん
アダルトといっても、まだ、二十歳を越えてる者はいないんですけどね
『TDD』と比べ、本当に『R&G』は若いですよね

では、更新します
5130投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時44分51秒
『八回・表』
≪2007年12/26(水)≫

朝一番、ハセヤンズハウスに、団体の宿泊客がやって来た。
その団体を代表して、グレーのスーツをキッチリと着た、ふくよかな顔をした中年の紳士がフロントで訪ねる。
予約無しで、7人泊まる事は可能か?と。
八ヶ岳から離れているので、スキーを楽しみに来た客は、もう少し近くの宿に泊まる。
ハセヤンズハウスは、夏に比べて冬には若干、部屋の都合がきく。
男性が3名、女性が4名だということ。
男性には3名で部屋を一つ、女性には2名で部屋を一つずつ取れた。
そして、チェックインの時間より随分早いのだが、すでにベッドメイキングもできているので、すぐに部屋に入ることができた。
その、ふくよかな顔の紳士は、丁寧に礼を述べると、連れを呼びに再び表へ出た。
5131投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時45分13秒
そして、やって来た団体客は…。
愛嬌のある顔立ちをした、細い身体つきの老人。
真っ赤なスーツと…冬だというのに、短いタイトスカートを履いた…雪道だというのに、ピンヒールを履いた…都会的な美しい女性。
上から下まで、真っ黒な…本当に、身につけている物は何もかも黒い…顔色の悪い女性。
反対に、身につけているものは何もかも白い、まるで雪の妖精のような姿の、茶色の巻き髪の…可愛らしい顔の女性。
そして、奇妙なのは後の3名。
まずは、二人の男性が担架で一人乗せて入って来た。
担架の前を担いでいるのは、高級スーツを身に着けた、金髪でホストの様な恰好をした眼光鋭い男性。
後ろを担いでいるのは、先ほどのふくよかな紳士。
彼が、一番普通な…特徴のない姿をしている。
そして、担架に乗せられた男性………いや、女性…?
オーナーのハセヤンと、その息子の大樹は、病気か怪我かと思い、慌てて駆け寄ったが、どうやら彼女は眠っているだけのようだった。
迷彩服姿の、がっちりとした、まるで女子プロレスラーのような体格の彼女は、大きないびきを掻いて、気持ち良さそうに眠っている。
この、何の共通点もない男女の集団が、本日の客、第一号だった。
5132投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時45分32秒
「会社の社員旅行でして…」
グレーのスーツの紳士が、最初に宿帳へ記入する。
彼は名前を、『津坂満』…と、書いた。
「リゾート開発の仕事をやっておりまして…ここの土地の調査もありますから、結構、長く滞在することになるかもしれません」
「そうですか…。いや、何日でもゆっくりしていって下さい」
ハセヤンは、他の客の明記を求める。
全て、その紳士が記入をした。
『間寛平』、『楠本柊生』、『後藤理沙』、『中川翔子』、『箕輪はるか』、『秋山恵』…。
「千秋君、瑠璃、お客さんを案内してあげて」
ハセヤンに呼ばれ、中学生くらいの少年と、小学生くらいの少女が屈託のない笑顔で対応する。
「じゃあ、男性は僕の方に着いてきてください」
「女の人は、こっちで〜す」
中学生の少年、千秋は二階を、小学生の少女、瑠璃は一階の奥の廊下を指差した。
「あ、私達は、恵さん…このお姉さんを、お部屋まで運ばなくてはならないから…まずは一階に行きますよ」
ホストの様な風体の男は、そう言った。
取っ付き難そうな雰囲気の男と思ったが、意外と物腰柔らかだ。
そういうわけで、千秋はまず、社長と思われる、寛平という老人だけを二階に案内する。
「じゃあ、残りの人達は、こっちに着いて来てくださ〜い」
瑠璃は、手を挙げて皆を奥の廊下へ先導する。
5133投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時45分52秒
中川翔子は、瑠璃の後姿…特に、髪の毛を上げて見えるうなじを、うっとりと見詰めている。
「はぁ…。かわゆすのぉ…。あなた、何年生?2年生?あ、3年生かな?」
「…4年生です」
少し、むっとしたのか、強張った笑顔で瑠璃は答えた。
「4年生?見えない!!幼い!!ギザかわゆす!!」
「よく言われます」
瑠璃は、もう翔子から視線を外す。
理沙は、翔子を厳しい目で睨む。
(翔子…。この子も…)
(わかってるわよ…)
二人は、小声で言葉を交わす。
「ん?私が、何ですか?」
瑠璃は、後ろを振り返った。
「…!?」
理沙も翔子も、言葉を失った。
やはり…元『TTK』の『戦士』…!!
しっかりと、二人の会話が聞こえていた。
「ねぇ…。何ですか?」
瑠璃は、尚も聞く。
5134投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時46分41秒
「この子も可愛いねぇ…と、お姉さん達は言ったんですよ」
楠本は、担架を運びながらにこやかに言った。
「ここの村の子達は、素朴で純粋ですから…」
「ふ〜ん…。ありがとうございます…」
胡散臭い…と言う目で楠本を見ると、瑠璃は再び前を向いた。
一瞬で人間性を悟られた様で、楠本は苦笑いをする。
「はい。ここが106号室です」
瑠璃は、ドアを開けてやった。
「ふぅ…。これでやっと、秋山さんから解放される…」
『津坂満』は、そう言って息をついた。
5135投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時46分54秒
この部屋には、はるかと恵が入る。
恵を、担架からベッドへと移す。
「ねぇ…。このお姉さん、何で寝てるの?」
「お仕事のし過ぎで、疲れてるんです」
楠本が答える。
ウソは全て、楠本に任せることにした。
「お仕事?女の人に、こんなになるまで働かせちゃダメでしょ?」
瑠璃は、キッと楠本を睨んだ。
「すみません…。肝に命じておきます…」
楠本は、戸惑いながらも頭を下げた。
「本当に、そう思ってないでしょ?」
瑠璃は、尚も楠本を厳しい目で見ている。
「まいりましたね…」
バツが悪そうに、楠本は頭を掻いた。
理沙と翔子は、笑いを堪えている。
5136投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時47分36秒
「それじゃ、『社長』の部屋に行ってきます」
楠本と『津坂満』は、二階へと向かった。
「お姉さん達は、隣の107号室です」
瑠璃は、ドアを開ける。
「ありがと…。ねぇ、後でお姉さん達と温泉入る?」
翔子は、瑠璃の頭を撫でようと手を伸ばす。
「いえ…。結構です」
瑠璃は、さっと頭を避けて、部屋から出た。
「もう少し、お話ししてかない?」
理沙が、後ろから瑠璃の肩を掴んだ。
「…!?」
いつの間に、後ろをとられたのか?という驚きの表情を、理沙に向ける。
「い、いえ…。仕事があるし…。宿題もしなくちゃ…」
「そう…残念ね」
理沙は悲しそうに微笑むと、瑠璃を解放した。
「では、ごゆっくり御くつろぎ下さい」
ペコリと頭を下げて、瑠璃はドアを閉めた。
しばらく二人は聞き耳を立てる為に、沈黙する。
5137投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時47分51秒
瑠璃の足音が、遠ざかっていく。
「ああ…。足音までかわゆす…」
翔子は、そう言ってベッドに倒れこんだ。
「あんた…余計なこと言ってんじゃないよ?」
理沙は、翔子を睨む。
5138投稿者:瑠璃www  投稿日:2008年11月20日(木)21時48分00秒
さすが「かわいい子には気をつけろ」の瑠璃ww
5139投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時48分31秒
「ああ…。弥勒姉さん、温泉入れないもんね。背中の菩薩様のお陰で…」
「そんなんじゃないわよ!!あの子の…さっきの身のこなし見た?あんたが頭を撫でようとした時…」
「ああ…。なんか…拒否されちゃった…」
翔子は、悲しそうに天井を見上げた。
5140投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時48分47秒
「ふん!!これだから戦闘の素人は…。あれは…相当訓練されてるね…」
「一応、あの子をマークしておく?夏希のヤツと接触するかも…」
「………いや…必要ないでしょ…。夏希は、あんな子供の手を借りるとは思えない。足手纏いにしかならないわ…」
「でも、『戦士』なんでしょ?」
「いや…さっき、私に簡単に後ろを取られたでしょ?あの子、『TTK』としては相当レベルが低いよ」
「ダーブロウを戦闘力『100』とすると、あの子はどれくらい?」
「………計測不能よ。ダーブロウと比べたら可哀そうだわ…。そうねぇ…。中村有沙を『100』とすれば…あの子は『10』ってとこね…」
「それなら、私でも『手篭め』にできる?」
「よしときな。それでも、あんたよりは強いと思うよ…」
「私は、いくつなわけ?」
「せいぜい『2』ね…」
「…ギザ弱す…!!弥勒姉さんは?」
そう問われた理沙は、翔子をじっと睨む。
「ねぇ…。いくつなわけ?」
「『200』よ!!…何よ?これ、意味があるの?中村有沙はもう、戦えないんでしょ?」
「うん。筋弛緩剤、何本も注射したから…」
「あの忌々しい小娘…!!殺してやればよかったわ…!!誰かさんのおかげで、できなかったけど!!」
理沙は苦々しそうに呟くと、真っ赤なスーツの上着を脱ぎ、翔子に向かって投げつけた。
5141投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時49分10秒
106号室…はるかと恵の部屋。
「………んが!!」
恵のいびきが、急に止まった。
そして、彼女の目が開いた。
「…あ…。目が覚めた?おはよう…恵ちゃん…」
雑誌を読んでいた、はるかが、声をかけた。
「………はるか…?」
「…恵ちゃん…丸一日眠ってたね…」
「………そうか………。帆乃香のやつ…」
ゆっくりと、恵は身体を起こした。
「………中村有沙は…?」
「…いなくなった…」
「………帆乃香は…?」
「…いなくなった…」
「………ダーブロウは…?」
「…知らない…」
「…?ここはどこだ?アジトじゃねぇな…」
「…原村…」
「………原村!?何で…?」
はるかは、恵が眠っている間に起きた、目まぐるしい戦況の変化を説明した。
しかし、恵の脳を揺さぶったのは、帆乃香の裏切りでも、ましてや有海の裏切りでもなく………夏希の裏切りだった。
5142投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時49分30秒
「…そ…そうかよ…。やっぱり………夏希のヤツ…!!おもしれぇ…!!やってやろうじゃねぇか!!」
恵は、ベッドから跳ね起きた。
「…?恵ちゃん、どうするつもり…?」
はるかは、さほど慌てるそぶりも見せず、恵を見上げる。
「あぁ!?決まってんだろ!?あの女も、この村にいるんだろ?見つけ出してぶっ殺してやるんだよ!!」
「…でも、ボスは夏希を許すって言ってるよ…」
「じゃあ、夏希が『TDD』に戻らないって言ったら、ボスはどうするんだよ!?」
「…殺すって言ってた…」
「夏希は、『TDD』に戻ると思うか?」
「…思わない…」
「じゃあ、今すぐぶっ殺しても同じじゃねぇか!!」
恵は、ズンズンと足音を立てて、ドアに向かう。
「…恵ちゃん…。夏希を探す手掛かりは…?」
「ねぇよ!!」
「…今、起きたばっかりだから、無理しない方がいいよ…?」
「今まで眠ってて、身体がなまってんだ!!何でもいいから、身体を動かしたいんだよ!!」
恵は、部屋を出て行った。
「…ま…外の寒い空気に触れれば、頭も冷めるよね…」
はるかは、再び雑誌を読み始めた。
5143投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時50分04秒
恵は、タンクトップの姿のまま、外に出た。
「夏希のヤツ!!絶対に許さねぇ!!身体中の骨、全てへし折って殺してやるぜ!!恥骨も、あぶみ骨も、骨という骨、全部だ!!」
力強く足を踏みしめる為、膝まで雪に埋まる。
恵は、ハセヤンズハウスの裏庭に出た。
「あれ…?目が覚めたんですか?お客さん…」
不意に、声をかけられた。
「ああん!?」
恵は、後ろを振り返る。
「………!!」
しかし、次の瞬間、彼女は言葉を失う。
声をかけたのは、ハセヤンの息子、大樹だった。
彫りの深いマスクと顎鬚が、ワイルドな雰囲気をかもし出している。
彼は、斧を振るって薪を割っていた。
5144投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時50分17秒
「…あ…あ…あ…」
恵は、顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。
「随分、お疲れだったみたいですね?」
「…え…?」
「凄く、気持ち良さそうに眠ってらしたから…」
理沙や、はるかに言われたことを、思い出す。
恵は、いびきがうるさ過ぎると…。
「…うわ…!!は、恥ずかしすぎる…!!」
そう言って、彼女は真っ赤になった顔を覆った。
つまり…恵は、大樹に一目惚れをしたらしい。
5145投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時50分44秒
「お客さん…。そんな恰好で、寒くないですか?」
大樹は、心配そうに訪ねた。
そう…恵は、下は迷彩のアーミーパンツだが、上は黒のタンクトップ一枚なのだ。
「あ…ああ…!!だ、大丈夫です!!き、鍛えてますから…!!」
「へぇ…。凄いな…。だからか…。お客さん、ガッチリしてますね?」
「ああ、はい!!体力と腕力だけが自慢ですから!!」
そう言って、恵はすぐに後悔した。
体力と腕力を自慢してどうする…?
今まで、それで男達から敬遠されてきたではないか…。
「へぇ…。いいなぁ…。僕、そういう人、好きだな…」
「…へ…?」
恵は、目を点にさせた
「うん、僕、こういう田舎で育ってるでしょ?都会的な人っていうか…華奢っていうか…いかにも、女って感じの人よりも、パワフルで野性的な女性が好きなんです」
「…え…?」
恵は、思わず自分で自分を指差す。
「そう、お客さんみたいな…。あ…ご、ごめんなさい…。お客さん相手に…失礼なこと言っちゃって…」
大樹は、慌てた素振りで薪割りの仕事に戻る。
恵はというと、頭に熱が昇って、ぼうっとしていた。
5146投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時51分13秒
「あ…あ…あの…」
「…?何ですか?」
大樹が、こちらをじっと見る。
「ま…薪割り…。た、大変そうですね…」
恵は、当たり障りのないことしか言えなかった。
「ええ…。これを炭焼き小屋に持って行って、木炭にするんです。確かに大変ですけど、ガスで料理を作るより、全然味が違いますから…」
「そ…そうなんですか…」
これで、会話が終わってしまった…。
恵は、何か話さなければ…と、久しぶりに頭脳を働かせる。
そう…彼は、パワフルで野性的な女が好み…。
「て、手伝います!!」
「え?」
「薪割り…手伝います!!」
「い、いえ…お客さんに、そんな…」
「い、いいんです!!私、こういう肉体労働、得意ですから!!」
恵は、無理矢理、大樹から斧を奪うと、凄まじいペースで薪を割り始めた。
そして…恵は、250本の薪を連続で割った。
何でもいいから、身体を動かしたい………これで、恵の望みは一応叶えられた。
5147投稿者:おいおいwww  投稿日:2008年11月20日(木)21時52分13秒
原村には戦士の調子を崩す何かがあるのか??ww
梨生奈といい恵といいww
5148投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時53分01秒
夕食は、大食堂で皆と一緒に摂ることになった。
しかし、恵だけが食堂に来ない。
「…?恵さん、目を覚ましたんでしょ?どうしたんですか?」
楠本は、同室のはるかに訪ねる。
「…恵ちゃん?なんか…また寝てる…。なんか、ぼうっとしてた…」
料理を運んで来た大樹が、心配そうに呟く。
「…やっぱり…。あんな薄着でいっぱい薪を割らせちゃったから…風邪でもひいたのかな…?」
それを聞いて、理沙は鼻で笑う。
「風邪…?恵が…?まさか…。バカは風邪ひかないんでしょ?」
それでも、大樹は恵を心配する。
「やっぱり心配だな…。お粥でも作って、持っていこうかな…」
大樹は、そう言ってキッチンへと戻って行った。
大樹と入れ替わりに、千秋が瑠璃と一緒に大きな皿に盛った料理を運んで来た。
「はい!!今日の大サービスです!!逆ギョーザを召し上がれ!!」
瑠璃は、満面の笑みで言った。
「逆ギョーザ…?」
皆は、皿の上の得体の知れない料理を怪訝そうな顔で眺める。
「はい。僕のオリジナル料理です。普通、ギョーザは肉を皮で包みますが、逆ギョーザは、その名の通り、逆に肉で皮を包んだギョーザなんです!!」
千秋は、自信満々の笑顔で言う。
「さあ、召し上げれ!!」
瑠璃は、皆に逆ギョーザを取り分けた。
5149投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時53分30秒
皆は、顔を見合わせる。
この明らかに不味そうな創作料理…誰が最初に手をつけるか…。
楠本が口を開く。
「社長、どうぞ…!!」
「な…何や…?」
寛平は、素っ頓狂な声をあげる。
「いや…。やはり、ここは目上の社長が手を着けてからでないと…」
楠本はそう言って、寛平に逆ギョーザを勧める。
(うまい…!!)
皆は、同時にそう思った。
「別にええやろ…。そんなん…。ここ、韓国やないんやし…」
そう…既に翔子や理沙は、寛平より先にビールに口を着けたのだから…。
渋々、寛平は逆ギョーザに口を運ぶ。
「む…!!う、美味い…!!みんな、食べ、食べ!!これは美味いで!?」
寛平は、ろくに逆ギョーザを噛むことなく、皆に勧める。
皆は、ノロノロと逆ギョーザに箸を伸ばす。
5150投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時53分48秒
「わざわざ、肉で皮を包む意味がわからない…」
そう呟く理沙は、箸で逆ギョーザを摘むが、肉がパサパサな為にボロリと崩れ、醤油を溜めた小皿にそれを落とした。
醤油が跳ね、理沙の赤いスーツに染みを作った。
「…!?」
理沙の額に、ビキビキと青筋が浮かぶ。
(やばい…!!)
楠本は、急いで逆ギョーザを口に放り込んだ。
「む…!!こ、これは珍味だ!!うん、なんと、肉と皮を逆にするだけで、こんなに面白い食感が生まれるとは…!!うん、これは独創的で個性的な料理だ!!」
大袈裟に、楠本は逆ギョーザを褒めた。
『珍味』、『面白い』、『個性的』………これらは、美味しくない料理を無理矢理に褒める常套句だが…。
「だったら、たんと召し上がれ!!」
瑠璃は、楠本の目の前に大量の逆ギョーザを置いた。
「…へ…?」
楠本は、逆ギョーザを口に入れたまま固まった。
「おじさん、逆ギョーザ好きみたいだから…。いっぱい食べてね!!」
瑠璃は、目だけ笑っていない笑顔を楠本に向ける。
「う…う〜んと…」
楠本は、得意のウソ八百でこのピンチを切り抜けようとするが…。
「…ウソなの…?おじさん…」
瑠璃は、疑いの眼差しを向けている。
楠本は…逆ギョーザを28個食べるハメになった。
5151投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時54分07秒
皆は食事を終えると、一度寛平の部屋に集まった。
恵だけは、自室で寝ているが…。
「そう言えば…あすみとあい〜んは、どないしてる?」
寛平は翔子に尋ねる。
「二人は、駅の近くの民宿に泊まってます。二人は一度客としてこのペンションを利用してますから…」
「ふ〜ん…。で、二人は何をしてんの?」
今度は、楠本に尋ねる。
楠本は、腹を擦りながらゲップをしている。
「ああ…はい…。今頃、新しい武器を使いこなす訓練をしていると思います…」
「…大丈夫か?楠本君…」
「ええ…。はい…」
楠本はそう答えるが、やはり逆ギョーザ28個は食べ過ぎだったようだ。
いや、普通のギョーザだって28個も食べたら、胸焼けするだろう。
「あの子…明らかに私のこと、嫌ってますよねぇ…」
瑠璃は、常に楠本に対して疑惑の目を向けていた。
「子供は、大人のウソに敏感だからね…」
理沙は、愉快そうに元気のない楠本を見る。
5152投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時54分26秒
「あの子、元『TTK』やって?怪しまれたんとちゃう?」
寛平は、楠本に訊いた。
「いえ…。そんな、素振りではなかったですが…」
「例えば、『R&G』から、我々の写真などを送られた…なんてことは?」
『津坂満』(偽名)こと、シンパンマンの問いに、楠本はじっと考え込む。
「…一応、監視しますか…?」
「いや…。ええんとちゃう?」
寛平は、あくびをしながら答える。
「…は?それは、何故です?」
質問するシンパンマンの顔を見ることなく、寛平は説明する。
「ワシらが『R&G』に渡って都合の悪くなるような情報はないやろ?ただひたすら、夏希君の動向をじっと見るだけやし…」
「なるほど…。情報流出を避けたいのは、むしろ向こうの方ですよね…」
楠本は、納得した。
「あの子がヘタに動いて、逆に自分達が探られることの方が厄介でしょう…」
「で…夏希君から、連絡は?」
寛平は、シンパンマンに尋ねる。
「ありませんね」
手短に、シンパンマンは答えた。
5153投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時54分57秒
「それにしても、恵のいない会議ってスムーズに進むわね」
理沙は、床下…一階にある恵の部屋のある方を見詰めて言った。
「…夏希の名前が出ただけで、怒り狂ってるよね…。今頃…」
はるかも、床下を見詰めた。
「恵は、大丈夫なんかいな?」
「風邪なんか、ひくタマじゃないと思いますが…」
シンパンマンは、はるかを見る。
「…風邪?恵ちゃんが?…うん…有り得ないね…」
「恋の病…」
楠本は、ポツリと言った。
5154投稿者:千秋……  投稿日:2008年11月20日(木)21時55分07秒
まだ逆ギョーザやってんのかよww
5155投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)21時55分09秒
「は?」
皆は、楠本に注目する。
「あれは…恋する乙女の症状です…」
しばらく沈黙する一同…。
そして、大爆笑!!
皆は腹を抱えて、転がっている。
楠本は、苦笑いをしながら腹を擦る。
「と…とにかく…。夏希から連絡が…くるまで…ここで…待機と…いうことで…」
シンパンマンは、涙を拭いながら会議をまとめた。
楠本だけは、心配そうに呟く。
「大丈夫かな…。恋をすると、強くなる人と、弱くなる人といるが…。恵さんは…」
溜息を一つつく。
「後者の方かなぁ…」

(『八回・表』・・・終了)
5156投稿者:リリー  投稿日:2008年11月20日(木)22時00分06秒
『TDD』、まさかの『表』出演です
今日は、思い切って『八回・表』を全て更新しました

5138さん
絶対に、瑠璃なら翔子は目をつけるでしょうからね…

5147さん
原村の、のんびりした雰囲気が、裏の人間達の殺伐とした心を癒すのでしょうか

5154さん
逆ギョーザのシーンは、『らりるれろ探偵団』の繰り返しとなってます
理沙の行動=羅夢の行動、楠本の行動=梨生奈の行動となっております

では、おちます
5157投稿者:更新中にコメントをはさむ人って何なの?  投稿日:2008年11月20日(木)22時16分27秒
待てない?
5158投稿者:今年中に  投稿日:2008年11月20日(木)22時16分43秒
グラスラ完結しそうですね
物語がどう完結するのか楽しみです
5159投稿者:>57  投稿日:2008年11月20日(木)22時21分22秒
待てない(即答)
それにリリーさんがすぐ返事してくれるとすごくうれしいし
5160投稿者:リリー  投稿日:2008年11月21日(金)20時53分51秒
5157さん、5159さん
コメントをはさむのは、別に構わないのですが、私が気がつかなくて返信できない場合もあります
おちてからの方が、私はわかりやすいです

5158さん
それが…実は今年中に終わりそうもありません
最期の決戦が、凄く長くなりそうなんです
今年度中には、終わらせたいと考えておりますが…

では、更新します
5161投稿者:リリー  投稿日:2008年11月21日(金)20時55分20秒
『八回・裏』
≪2007年12/26(水)≫

『TDD』一行が、原村に到着して、ハセヤンズハウスにチェックインした同時刻…。
『R&G』の探偵達を乗せた聖テレの送迎バスも、原村に入る。
しかし、このバスは盗難車の為、人目につくのは避けなければならない。
すぐに、八ヶ岳へ続く山道へと入っていった。
「あ〜〜〜!!もう、限界!!誰か、運転代わってくれよ!!」
ジョアンは、目頭、肩、腰を押さえて悲鳴をあげた。
一晩中、交代無しでバスを運転してきたのだ。
「ほら!!だから、アタイが代わってもいいだろ?」
羅夢が梨生奈に訴える。
「…しょうがないわね…。安全運転でお願いよ?」
「へへ!!任しときなって…」
羅夢と運転を代わったジョアンは、ふらついた足取りで後部座席に向かう。
5162投稿者:リリー  投稿日:2008年11月21日(金)20時55分34秒
「ほら!!あみ〜ご!!帆乃香!!どけ、どけ!!」
後部座席で横になっていた有海と帆乃香を、ジョアンは乱暴に揺り起こす。
「…ん?あ…。ヤマザキ先輩…。おはようございます…」
目を擦りながら、有海は身体を起こす。
「いいから、早くどいてくれよ!!アタシ、寝てないんだから…!!」
「あ…。今まで、ずっと運転を?…お疲れ様でした…」
そう言って、有海は頭を下げた。
「もう、労いはいいから…」
ジョアンはあくびをしながら、有海を退け、身を投げ出す様に、後部座席に横たわった。
その際、ジョアンの足が帆乃香の腹の上に乗っかったが、帆乃香はまだ起きない。
5163投稿者:リリー  投稿日:2008年11月21日(金)20時55分53秒
「一木さん…。こっち、おいで…」
七海は、手招きをする。
「…うん…」
有海は微笑むと、七海の隣の席へ移動する。
「おはよう…。藤本さん…」
「おはようさん…」
七海は、じっと有海の顔を見詰める。
「…何?藤本さん…」
「昨夜の話し…覚えてる?」
七海は告白したのだ。
自分達は…『TTK』という暗殺組織に身を置いていたことを…。
そして、『TTK』が壊滅し、今は『R&G探偵社』で探偵業をしながら、聖テレジア女子学園に通っていること…。
七海、中村有沙、梨生奈達が、一つ屋根の下で暮らしている理由、『TDD』という組織に目をつけられた理由など、有海が謎に思っていたことが、明らかになった。
当然、ショッキングな事実だったが…それ以上に、有海は悲しかった。
どうしようもない運命に翻弄された自分を嘆いていたが、七海達は、もっと凄まじい人生を歩んで来たのだ。
「一夜明けて…どないや?やっぱり、恐ろしいと思う?………うち等が…」
心配そうな顔で訊く七海に対し、有海は穏やかな笑顔で首を振る。
「藤本さん達は………私の大切な親友だよ…」
「何で…?暗殺組織の人間やで?裏の世界の人間やで?」
「それなら、私も同じだよ…。ほんの少しの間だったと言っても…『TDD』の一員だったんだから…」
「せ、せやけど…」
5164投稿者:リリー  投稿日:2008年11月21日(金)20時56分15秒
その時、七海に声がかけられる。
「もう…いいではないか…」
「…?」
中村有沙だった。
彼女も、いつの間にか目を覚ましていた。
「有海が、親友だと言ってくれているのだ…。その言葉通り受け止めろ…」
「そ、そないなこと、言うても…」
「貴様が思っている以上に…有海は強いぞ…」
「え?」
思わず、七海は有海の顔を見る。
「いや…。強くなったと言うべきか…」
中村有沙にそう言われ、有海は恥ずかしそうに目を伏せた。
「私や…貴様の方が…よっぽど臆病だった…と、言うことだ…」
その言葉に、七海はふっと笑った。
「ほんまや…」
そして、有海の肩に、手を置いた。
「…藤本さん…?」
そう言われて見れば…四月の時と比べて、有海の顔が随分引き締まって見える。
「一木さん…。おおきに…。それから…これからも…よろしゅう…」
有海は、何も言わずに一つ頷いた。
5165投稿者:リリー  投稿日:2008年11月21日(金)20時56分43秒
すると、ジーナの声がバスの中で響き渡る。
「あーーー!!お姉ちゃんから、電話がきました!!」
そして、座席の上で飛び跳ねる。
「うるせぇな!!静かにしろぉ!!」
ジョアンが、たまらず怒鳴りつけた。
「夏希さんから?ジーナ!!電話をこっちに渡して!!」
梨生奈は、山道で揺れるバスの中を、車椅子で移動しようとする。
「ちょ、ちょっと、危ないよ?梨生奈!!」
杏奈は、慌てて梨生奈の車椅子を支えた。
「ダメです!!まずは、ジーナがお姉ちゃんと話してからです!!」
そう言って舌を出すと、ジーナは通話ボタンを押す。
「はい、こちらジー…じゃなかった、『スカーレット・ニードル』です!!」
〔『ムーン・ライト』に代わって…〕
妹に対して冷淡に、夏希はそう述べるだけだった。
ジーナは、少し眉間にシワをよせて携帯電話を見詰めると、仏頂面で梨生奈に渡す。
杏奈がそれを受け取って、梨生奈に差し出した。
5166投稿者:リリー  投稿日:2008年11月21日(金)20時57分05秒
「もしもし…?『デーモン・ハート』?」
〔今、どこにいるの?〕
「もう、原村にいるわ。で、八ヶ岳方面の山中に向かってるけど…」
〔そう…。さすが『ムーン・ライト』…。いい判断ね…〕
「え…?どういうこと?」
〔『TDD』の連中、今、あんた達が泊まったことのあるペンションにいるのよ〕
「ハセヤンズハウスに?」
〔そう…。『チームE』の二人に見張りをさせてるけど…〕
「も、もしかしたら…千秋君や瑠璃を、人質にとられるんじゃ…?」
〔そんなの…私にとっては、どうでもいい話しよ…。それより…〕
「どうでもいい話し…!?」
思わず、梨生奈は顔を歪めた。
「冗談じゃないわ!!あの二人の身の安全を保障しなければ、私達だって、あなたの妹の身の安全は保障しない!!」
〔何ですって!?〕
今度は、夏希が感情的な声をあげた。
「原村を最終決戦の場に選んだのは、あなたでしょう?『TDD』をここに呼び寄せたのも、あなた!!あなたには、責任があるわ!!」
〔何を言ってるの…?〕
夏希の声は、幾分落ち着きを取り戻していたが、殺気がこもっていた。
それでも、梨生奈は怯むことはない。
5167投稿者:リリー  投稿日:2008年11月21日(金)20時57分24秒
梨生奈は、ジーナの方を振り向いて訊く。
「ねぇ、ジーナ…。もし、私達があなたのお姉さんに会いに行かないって言ったら、どうする?」
「え?そんなの、ジーナだけバスを降りて、一人でお姉ちゃんに会いに行くよ」
電話から、夏希の舌打ちが聞こえてきた。
「聞こえたでしょ?『スカーレット・ニードル』は一人であなたに会いに行くって…。『TDD』に見つかって捕まらなければいいわね…」
〔…『ムーン・ライト』…。何、調子に乗ってんの…?〕
夏希の声が、一段と低くなった。
〔…この私と取り引きする気…?笑っちゃうわ…〕
「笑っちゃう…?そんな感じでもなさそうね…。電話じゃ、あなたの表情がわからないけど…」
〔いい気になってんじゃねぇぞ!!ブチ殺すぞ!?この、クソガキがぁ!!〕
梨生奈には、夏希が爆発することがわかっていたので、電話を耳から離していた。
「聞こえてるわ…。そんなに大きな声を出さなくても…」
あくまでも、梨生奈は冷静に夏希と対話をする。
〔ち…!!昨夜の『チームE』といい、あんたといい…。『TTK』時代じゃ、そんな口の利き方、絶対に許さなかったのに…〕
「今は、『TTK』じゃない…。『R&G』なのよ…。私達は…」
しばらく、沈黙が続く。
そして、夏希の方から先に口を開いた。
〔わかったわ…。『チームE』を常にハセヤンズハウスで見張らせておく。そして、二人に危害が及べば助け出させる…。だから…〕
「ええ…。『スカーレット・ニードル』は、責任を持って送り届けるわ…。安心して…」
また、電話から夏希の舌打ちが聞こえた。
5168投稿者:リリー  投稿日:2008年11月21日(金)20時58分04秒
〔そんなことより…伝えたかったことがあるの!〕
そう…夏希が、何の為に連絡をしてきたのか…。
〔今から、行ってもらう所がある。そこがあんた達のアジトになる。当然、私も待ってるわ〕
「私達のアジト…?そ、そこはどこなの?」
〔この山中に、廃校になった小学校があるでしょ?〕
運転していた羅夢は、バスを停めた。
「どないしたん?羅夢?」
地獄耳を持っていない吉田は、不思議そうに羅夢に訪ねる。
羅夢は、前を見据えながら梨生奈に言う。
「学校…?あの、学校か…?」
夏…羅夢が、モニークと瑠璃によって拉致された…あの、廃校…?
「この山中にある廃校と言ったら…あそこしかないわ…」
梨生奈が答える。
「ち…!!」
羅夢は、苦々しい顔をし、再びバスを発車させた。
5169投稿者:リリー  投稿日:2008年11月21日(金)20時58分17秒
「で…どうして、その廃校に?」
〔いずれ…そこが『TDD』との最終決着をつける場所になるのよ〕
「最終決着?」
〔一昨日の決戦は、『TDD』が場所を指定したでしょ?今度は私達が場所を指定する。そして…〕
「勝つ為の仕掛けを、しておくってことね?」
〔ふふ…。やっぱり、あんたは頭がいいわね…。じゃあ、早く来なさいよ?〕
夏希からの電話が切られた。
バスは、廃校に向かって山道を走って行く。
5170投稿者:リリー  投稿日:2008年11月21日(金)20時59分53秒
今日は、これでおちます
5171投稿者:あげ  投稿日:2008年11月21日(金)21時56分54秒
 
5172投稿者: 投稿日:2008年11月22日(土)08時58分05秒
5173投稿者: 投稿日:2008年11月22日(土)13時26分22秒
あと、桃がスレつくったから「^−^」題名は、「樹里亜ちゃんがすきなひと集れぇ」だよ「^−^」
5174投稿者:あげ  投稿日:2008年11月22日(土)15時08分09秒
 
5175投稿者: 投稿日:2008年11月22日(土)18時38分01秒
5176投稿者: 投稿日:2008年11月22日(土)19時24分04秒
5177投稿者:なるほど  投稿日:2008年11月22日(土)20時31分22秒
原村のあの廃校が最終ステージか
5178投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時48分20秒
多くのあげコメント、ありがとうございます

5177さん
『らりるれろ』では、少し寄っただけですが、重要な場所でしたから…

では、おちます
5179投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時49分52秒
山中の、廃校になった小学校。
そこに、加藤夏希はいた。
彼女は、木造校舎の二階の教室から原村を見下ろしていた。
理科室で埃を被っていた天体望遠鏡で、ハセヤンズハウスの方角を常に見張っているのだ。
今は、近い距離からエマとエリーに見張らせている為、そんなに根をつめる必要もない。
梨生奈との通信を終えた夏希は、『チームE』のリーダー、エマに電話を掛ける。
5180投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時50分02秒
〔こちら、『キャンディー・ボール』。『デーモン・ハート』?〕
「ええ…。『R&G』が原村に着いた。あなた達は、このまま『TDD』の動向を見張ってて」
〔え〜!?みんなが原村に着いたら、戻ってきていいって言ったじゃん!!て、言うか寒い!!〕
「瑠璃と、千秋って子が危険な目に遭っても?」
〔ど、どういうこと?〕
〔おそらく、瑠璃が元『TTK』だということと…そして、千秋君が『チームR』やモニークと関係があったって、やつ等は把握しているはず…〕
今の声は、エマではなく、地獄耳で会話を聞いていたエリーだった。
〔二人が、とばっちりを受けるかも知れないってことね…〕
〔そ、そうか…〕
ワンテンポ遅れて、エマの声…。
「ふふん…。『チームE』は、『チームR』と真逆なんだ…」
〔な、何よ!?〕
明らかに不機嫌そうな、エマの声。
「まあ、いいわ…。いい?瑠璃や千秋って子も、あなた達の『お友達』なんでしょ?しっかり守ってあげなよ?私は、どうでもいいけどね…」
〔あ…で、でも…〕
エマが何やら言い掛けたが、夏希は電話を切った。
「さてと…」
夏希は、教室を出て行った。
5181投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時50分20秒
夏希の向かった先は、職員室の向かいの部屋…宿直室だ。
「入るわよ」
夏希は、ドアを開ける前に声を掛けた。
「…入れよ…」
中から、ぶっきら棒な男の声…。
夏希はドアを開ける。
そして、布団の上に胡坐をかいている男に、微笑みかける。
「起きてたのね。お父さん…」
「ち…!!おめぇにお父さんて言われる度に、寒気がするぜ!!」
そう言って、その男…元加藤組組長、加藤浩次は再び布団にもぐり込んだ。
夏希は、宿直室の畳の上に散らかったカップラーメンの容器に目を落とす。
「お父さん…。今日から、もっと栄養がつく美味しいもの、作ってあげるからね」
そう言うと、冷蔵庫から食材を取り出した。
この学校は、廃校になってから電気は通ってないのだが、夏希が勝手に電線を引っ張ってきて、使えるようにしたのだ。
さすがに水道やガスはどうにもならないので、大量の水とガスボンベを買って来た。
「要らねぇよ!!」
布団を頭に被ったまま、加藤は怒鳴る。
「私、結構お料理上手いのよ。一応、何でも出来る様に訓練されてるから…」
「人殺しも…だろ…?」
夏希は、料理をする手を一瞬止めた。
「…そうよ…。魚も人も、私にとっては同じ…」
5182投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時50分41秒
「そんなヤツの作ったモン、食いたくねぇな!!」
「いいわ…。どうせ、私の分も作るし…。私のお料理が食べたくなかったら、そのままカップラーメンを食べればいい…」
夏希は、手際よく料理を始める。
米を洗い、電子ジャーにセットし、味噌汁を作り始める。
掌に豆腐を乗せ、賽の目状に切る。
まるで、新婚の主婦の様だ。
加藤は、その様子を横目でじっと見ていた。
こうして見ると…暗殺組織に身を置いていたとは思えない。
その内、宿直室は味噌汁の良い匂いに包まれる。
そして、最後に焼きシシャモの香ばしい匂い…。
懐かしい匂いに、加藤の腹は鳴った。
夏希は、卓袱台に二人分の料理を置く。
「じゃあ、私は先に食べるけど…。お父さん、要らないんだったら、私が二人分食べちゃうよ?私、痩せの大食いだから」
加藤は、ノソノソと布団から這い出てきた。
「しょうがねぇな…。食ってやるよ…」
夏希は何も言わずに、加藤に箸を差し出した。
「頂きます」
夏希は、両手を合わせて頭を下げる。
シシャモに箸をつけかけた加藤も、慌ててそれに倣う。
「い…頂きます…」
二人は、黙々と朝食を摂る。
5183投稿者:おちますって言ったから  投稿日:2008年11月22日(土)20時50分41秒
今日書かないと思っちゃった
5184投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時51分49秒
5183さん
間違えました
「更新します」を「おちます」と…
昨日もやりかけたんですよ
今日は、気がつかずにやってしまいました
5185投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時52分13秒
しばらくすると、夏希が加藤に話し掛ける。
「美味しい?お父さん…」
「…まあまあだな…。でも…」
「でも…?」
「味噌は合わせじゃなくて、白味噌がいい…」
「わかった。明日は白味噌にしましょ…」
「あと…納豆がねぇと、朝飯って気がしねぇ…」
「わかった。買ってくる…」
「あと…」
「何…?」
「明日は…俺が作る…。おまえの世話にはならねぇ…」
「…?お父さん、お料理できるの?」
「当たり前だ!!それこそ、朝飯前だってんだ!!ぶぁ〜か!!」
加藤は、飯粒をまき散らしながら怒鳴った。
「ちょっと!!口に物を入れたまま喋らないでよ!!」
夏希は、咄嗟にシシャモの皿を卓袱台からどけた。
「すまん…」
加藤は、急いで散らばった飯粒を拭き取った。
5186投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時52分34秒
10月から…加藤組が壊滅した日から、加藤は世捨て人の様に暮らしてきた。
1週間と同じ場所に留まることなく、東京都内から西へ移動するように、夏希に命じられるまま住処をかえてきた。
『TDD』を欺く為、自分は死んだという事になっていたからだ。
原村に『難田門司の隠し財産』があるとわかってから、彼は原村に移された。
そして…今日から、娘と名乗る夏希と共に暮らすことになる。
正直言って、加藤は人に会うこと、会話することに餓えていた。
こんな日常的な朝食の風景に…心地よさを感じている自分がいる。
(いや…。惑わされるな…。これも、この女の作戦だ…。こうして、俺にジーナとかいうガキを押し付けるつもりだ…)
加藤は、緩みかけていた警戒心を再び引き締めた。
「お父さん…」
「…何だよ?」
「今日から…ジーナが、ここに来ます」
「…!!」
とうとう、来た…この日が…。
「先ずは…一目だけでも会って…」
「ダメだ!!絶対に会わねぇぞ!!絶対に!!」
「でも、ジーナは…」
「会わねぇったら、会わねぇんだよ!!」
加藤は、急いで御飯と味噌汁を口に掻き込むと、茶碗を持って流しに持って行く。
夏希は溜息をついて、加藤の背中を見た。
5187投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時52分58秒
それから30分程経ち、『R&G』一行を乗せたバスは、夏希がアジトにしている山中の廃校に到着した。
一応、目立たないように裏門から進入する。
そして、体育館の前にバスを停めた。
皆は、バスからゾロゾロと降りる。
長いバスの旅を終え、皆は軽くストレッチ気味に身体を伸ばした。
羅夢は、講堂の前のクスノキに目をやる。
大きく伸びたクスノキの枝が折れている。
あの枝は今年の夏、羅夢が折ったものだ。
「ち…!!」
羅夢は、軽く舌打ちをした。
彼女にとって、ここは屈辱の思い出の場所なのである。
「羅夢…。あの時のことは忘れましょ…」
梨生奈が、声を掛けた。
「…ああ…。わかってるよ…」
羅夢は、それでも苦々しい表情でクスノキを見詰めながら、梨生奈の車椅子を引いて行く。
「うわ〜…。いかにも田舎の学校って感じ!!」
甜歌が、中庭に向かって走り出した。
「おい!!勝手な行動はとるな!!」
ちひろが怒鳴った。
そして、こう続けた。
「夏希には悪いが…私はまだ、あの女のことを信用していないからな…」
5188投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時53分28秒
その時、体育館の屋根から、声がした。
「あら…悲しいわ…。私は、あなたの腕を信用してるのよ?サムライガール…」
「…!?」
夏希の声に…皆は、一斉に上を見上げた。
しかし、既に夏希は地面に飛び降りていた。
有海の真後ろに…。
「一木さん!!」
七海は咄嗟に叫んだが、遅かった。
夏希の手は、有海の首に掛けられていた。
「…え?」
ようやく、有海は自分の首が絞められていることに気がついた。
「オノレ!!」
「貴様!!」
七海、ちひろ、ジョアン、羅夢が、夏希に向かって行く。
「動かないで」
夏希は、ほんの少し有海の首に掛けた手に力を入れた。
「ひ…!」
有海の顔が、一気に青褪める。
「…ぐ…!」
七海達は、その足を止めざるを得なかった。
5189投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時53分55秒
しかし、夏希は有海の首から手を離すと、彼女の背中を押して解放した。
「ひぃぃ…」
有海は、弱々しく前によろめきながら、雪の覆った地面に膝を着いた。
「い、一木さん!!」
七海は、いち早く有海の側に駆け寄ると、彼女を背中に隠し、夏希を睨みつける。
ちひろとジョアンは、すかさず七海の前に出て、それぞれの武器、木刀と鞭を構える。
羅夢はというと、車椅子の梨生奈の前に立ってヌンチャクを構える。
「わ〜い!!お姉ちゃんだ!!お姉ちゃ〜ん!!」
ジーナだけは緊張感の欠片を見せず、無邪気に夏希に向かって駆け出した。
「ジーナ、後で…」
夏希は、冷淡に…ジーナの方をチラリとも見ることなく、掌で制した。
ジーナは、眉間にシワを寄せ、タコのように唇を尖らせると、つまらなそうに雪を蹴った。
「オノレ!!どういうつもりじゃ!!」
七海は怒鳴る。
「これが、私がおまえを信用できないと言う…いい証拠ではないか?」
ちひろは、努めて冷静に夏希に語りかける。
しかし、夏希は厳しい目で皆を見回す。
「『どういうつもり』…?『信用できない』…?ふん!!笑えるわ!!こっちのセリフよ!!」
「んだと!?」
ジョアンは、もう飛びかからん勢いだが、ちひろが彼女の前に出てそれを止めた。
5190投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時54分41秒
「あなた達、何で一番の『弱者』で『足手纏い』である、その子を守るようなフォーメーションをとらないのよ?」
夏希は、有海を指差して厳しい声をあげた。
「う…うぅ…」
有海は、それだけでも泣き出しそうだ。
「『TDD』はえげつないわ…!一番弱いその子を真っ先に狙ってくるわよ?そんなこともわからないの?これだから、表の世界で平和ボケしてる連中は…」
5191投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時54分54秒
「おい…」
そう言い掛けた時、車椅子に座った中村有沙が口を挟む。
「貴様は、有海を『弱者』、『足手纏い』と言ったな?」
「ええ…。そうよ…。違うの?」
「違うな…。有海の勇気がなければ、私達が無事にここまで辿り着くこともなかった…。有海は立派に戦ったのだ…」
そう言うと、有海を横目で見た。
「…中村先輩…」
涙目で見詰める有海に、中村有沙は一つ、頷いた。
夏希は、腕組みをしながら冷めた目で中村有沙を見下ろす。
「…ふん…!!わかったわ…。前言撤回するわ…」
そして、こう続ける。
「この中で、一番の『弱者』で『足手纏い』は、有沙…あなたよ!!身体が動かせないそうね?どうせ役に立たないなら、死んでしまえばよかったのに!!」
「な、なんやと!?ゴルァ!!」
その言葉で頭に血が昇ったのは、当の中村有沙ではなく、七海だった。
七海は、金属バットを振り上げて夏希に殴りかかった。
しかし、夏希は難無くその一撃を避けると、七海の後頭部を掴み、激しく雪の積もる地面に押し付けた。
「…ぎゅ…ううう…!!」
雪の中で、七海が呻く。
「てめぇ!!」
今度ばかりは、ちひろの制止を振り切って、ジョアンは夏希に向かって行く。
5192投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時55分28秒
「動くな!!七海の首をへし折るよ?」
脅しではない、本気で言っている夏希の目に、思わずジョアンは足を止めた。
ジョアンだけではない…。
その場の誰もが動けない。
「それから…ジーナ…」
「はい!!」
夏希に声を掛けられ、ジーナは嬉しそうに返事をする。
「こういう…余計なことは、しないでね…」
夏希の人差し指と中指の間に、小さな針が数本挟まっている。
七海の動きを止める為、いつの間にかジーナが放ったのだ。
「あんたの援護なんかなくたって、私はこの程度の攻撃、何でもないのよ?」
「…はい…」
ジーナは、しゅんとうな垂れる。
「でも、気持ちは嬉しいわ。ありがとう、ジーナ」
「…!?はい!!」
ジーナは、その表情を弾けんばかりの笑顔に戻した。
5193投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時55分45秒
そして夏希の視線の先は、木刀を構えている、ちひろへと向く。
「サムライガール…。今の、ジーナの針の攻撃…見えてた?」
ちひろは、黙って首を横に振る。
「素人の大会なんかに、うつつを抜かしてるから…。それから…何?その棒きれは…。この前の刀はどうしたの?」
「あれは…もう、使わない…」
「…ふん!!あんたも、足手纏いにならなければいいけどね!!」
夏希は、本当に気に食わない…とでも言いたげな目でちひろを睨むと、ようやく七海の頭から手を離した。
5194投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時56分06秒
何故か、七海は雪に埋もれたまま、立ち上がろうとしない。
「ふふ…。圧倒的な力の差に、逆らうのは諦めたようね…」
夏希は、冷たい視線を七海に落とす。
「でも、大事な決戦前に戦意を喪失させるようなことをして失敗したわ…。こんな七海でも、駒の数合わせに必要だし…」
夏希の目は、ジーナを除く、その場にいる全員に向けられる。
「的は多い方が、私に当たる確率は少なくなるし…」
皆は、何も言い返せず、ただ夏希を睨むことしかできない。
「お姉ちゃん!!ジーナのダディに、会えますか?」
ジーナは、ようやく夏希にしがみ付くことができた。
途端に、夏希は妹思いの姉の顔になった。
「…う〜ん…。もう少し待っててね…。お父さん、恥ずかしがっちゃって…まだ、ジーナに会えないの…」
「え〜〜〜!?そんなのヤダ〜〜〜!!ジーナ、ダディに会いたいです!!」
「お姉ちゃんの方からも、説得してあげるから…。良い子にしててね…」
その時、夏希は皆の方を振り向くことなく言った。
「あ、適当に校内に入ってなさいよ…。後で、これからの詳しいことを伝えるわ…」
夏希とジーナは、校舎の方へ歩いて行った。
5195投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時56分31秒
「藤本さん!!」
有海は、雪の上でうつ伏せに倒れている七海の側に駆けつけようとする。
しかし、その間にちひろが立ち、首を横に振って有海を制した。
「…藤本さん…?」
七海の肩が、小刻みに震えている。
「泣いているの…?」
そう、有海は呟いた。
「ちひろ…。私を、七海の側に…」
中村有沙が、ちひろに声を掛ける。
ちひろは黙って、車椅子の中村有沙を、七海の側に運ぶ。
七海の肩は、まだ震えている。
中村有沙は、そんな七海をじっと見下ろす。
「バカなやつめ…。この私の為に…熱くなりおって…」
七海は、雪の中から声を絞り出す。
「…オノレは…ウチのパートナーやろが…。パートナーをコケにされるんは…ウチをコケにされるんと…同じや…」
「そうか…」
中村有沙は、ふっと笑みをこぼす。
「…すまなかったな…。私が不甲斐ないばかりに…」
「その通りじゃ!!…しっかりせぇよ…。はよ…身体元に戻して…夏希のヤツ、シバいたらんかい!!」
「…貴様に言われるまでもない…。このままで…終わらせる気は、毛頭ない…」
七海は、いつまでもその顔を雪に埋めていた。
5196投稿者:リリー  投稿日:2008年11月22日(土)20時56分59秒
では、本当におちます
5197投稿者:age  投稿日:2008年11月22日(土)20時57分59秒
あげ
5198投稿者:117  投稿日:2008年11月22日(土)21時41分59秒
またまた・・・久々の117です。これまた話が進んでいますね。
8回表はあっという間に展開し、千秋や瑠璃(逆ギョウザも・笑)の再登場、
懐かしの廃校まで登場して、複雑に絡み合ってきましたね。続きも楽しみです!
5199投稿者: 投稿日:2008年11月22日(土)21時42分59秒

5200投稿者:夏希の二面性が  投稿日:2008年11月22日(土)22時22分37秒
すごい
5201投稿者: 投稿日:2008年11月22日(土)22時26分25秒
5202投稿者: 投稿日:2008年11月22日(土)22時38分56秒
5203投稿者:仲がよくなったわけではないけれど  投稿日:2008年11月23日(日)13時54分32秒
ななみんとありりんはチームらしくなってきましたね
5204投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時52分36秒
117さん
原村パートは、書いてて楽しいところがあります
ほのぼのしてるからでしょうね
その、平和な村で最終決戦をするという、ギャップを狙いました

5200さん
加藤姉妹は、もの凄いファザコンだと言えますね
これもギャップで…

5203
仲の悪い者同士が心を通わせる…という話しも好きです
このくらい、長い物語でないと効果がないような気がしまして…

あげコメント、ありがとうございます

では、更新します
5205投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時54分15秒
1時間ほどして、皆は一番日当たりのいい教室…一階の音楽室に集められた。
夏希がこれから、どうやって『TDD』と相対するのか、説明をする為だ。
ジーナだけは、この場にいないが…。
七海、ジョアン、羅夢の『猪突猛進トリオ』は、夏希に対して殺気を放っているが、当の夏希はどこ吹く風邪と説明を始めた。
「まず…決戦は1月1日…つまり、除夜の鐘と同時にスタートさせるわ」
「…?」
「1月1日…?」
「元旦…?」
今日が12月26日…随分、日にちが空かないか…?と、誰もが思った。
「何や?紅白歌合戦でも見るんかい?」
七海の言葉に、夏希は鼻で笑う。
「やつ等を全員、血祭りにあげてから、初日の出を拝みたいのよ…。最高の気分にならない?」
その言葉に対し、中村有沙は口を開く。
「なるほど…。何か罠を仕掛けるのか?それが仕上がるのが、早くて大晦日…ということか?」
夏希は、中村有沙に対し、冷たい笑みを浮かべる。
「ふん…。身体が動かない代わりに、頭はよく回るわね…。有沙…」
5206投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時54分39秒
「罠…?どんな…?」
梨生奈が訊く。
夏希は、そんな梨生奈をじっと見据えて、こう言った。
「今のうちに言っておくけど…私はリーダーを引き受けない。引き続き梨生奈がやってちょうだい」
「…え…?な、何で?」
梨生奈は戸惑ったが、羅夢は手を叩いてその意見に賛成する。
「アタイは賛成だ。梨生奈以外のヤツの下で働く気がしねぇ…」
ジョアンも夏希を睨みつけながら言う。
「アタシもだ。夏希がリーダーなんて、認めねぇもん」
七海も、それに続く。
「ウチもや…。ウチ等をコケにするようなヤツ…仲間やない!!」
「ちょ、ちょっと…みんな…。仲良くやろうや…」
吉田が、青い顔をして、3人をなだめる。
しかし、夏希は落ち着き払った態度で笑いながら言う。
「結構よ、吉田さん…。私も、仲間だなんて思ってない…。『TDD』という共通の敵がいるってだけだもの…」
そして、夏希は椅子から立ち上がって、皆を見下ろした。
「私がリーダーを引き受けない理由…。それは、あることに専念したいから…」
「専念…?何に…?」
そう問う梨生奈に、夏希はゆっくりと答える。
「『TDD』のボス…間寛平と…戦うこと…」
5207投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時54分58秒
その言葉を聞いた途端、皆の表情が変わった。
あの、ダーブロウ有紗でも歯が立たなかった…間寛平…。
彼女はその寛平との戦いに敗走し、未だに行方不明なのだ。
「…無理や…」
帆乃香の声。
「みんなで…一気にかかっていかんと…いや、それでも、おじいちゃんを倒せるとは思えん…」
「帆乃香、オノレ…!!何、テンション下がること抜かしとんねん!!」
七海が、立ち上がって怒鳴った。
「テンション下がるって…うちは事実を言うたまでや…!!」
七海と帆乃香の言い合いを、夏希は相変わらず笑みを浮かべて眺めている。
「吠えるな…二人とも…。だから、夏希は何か仕掛けを用意しているのだろう…」
中村有沙は、そう言いながら夏希をじっと見る。
皆の目も、一斉に夏希に向く。
5208投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時55分17秒
「そうよ…。寛平を一番間近で見てきた帆乃香の意見は正しいわ…。いくら私でも、一対一で、あの男には勝てない…」
皆は、黙ってしまった。
あの夏希が、素直に実力の差を認めるとは…。
「だから、私は『チームE』の力だけは借りる…」
「『チームE』?エマとエリー?」
「今、彼女達はハセヤンズハウスの近くで『TDD』の動向を見張っているけど…彼女達に支援をさせる…」
「何で、『チームE』を…?」
梨生奈の質問に、夏希は意地悪そうな視線で皆を見回す。
「遠距離攻撃のエキスパート…これが気に入ったの。遠くから攻撃ができるってことがね…。中途半端な実力のあなた達に、私の近くをウロチョロされちゃたまんないもの…」
「んだと!?オラァ!!」
「てめぇ、ナメてんのか!?」
「表、出ぇや!!ゴルァ!!」
『猪突猛進トリオ』は、各々、怒鳴り散らした。
5209投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時55分43秒
「で…勝算はあるんだな?」
中村有沙は、静かに夏希に問う。
「当たり前じゃない…」
夏希は、髪の毛を掻き揚げながら言った。
「私は、責任を持って寛平を仕留める。場所は体育館…。だから、あなた達は一切、体育館には近づかないこと!」
「体育館!?体育館に何か仕掛けを?」
「他の連中は、あなた達で相手してね」
夏希は、それだけ言うと音楽室を出て行こうとする。
「ちょっと…!!あなたの連絡は、それだけなの?」
梨生奈は、慌てて夏希を呼び止める。
「そうよ…。これだけを伝えたかったの…」
「その、勝算って…?どんな仕掛けをするの?」
夏希は、ひとつ溜息をつくと、また皆に対して正対する。
「寛平は…敵の気配を感じる能力が欠如してるわ…」
「…!?」
夏希の口から語られた意外な寛平の弱点に、皆は押し黙った。
「ライオンは天敵がいないから、敵の気配を読むなんて能力は必要ない…。これは、弱点ではなく強さの現われ…と、『TDD』の連中は言ってたけど…」
夏希は、強い意志の篭った言葉でこう続ける。
「敵の気配を読めない…。私に言わせれば…これは、やっぱり弱点以外の何物でもないわ…」
5210投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時56分03秒
「つまり…そこを突く仕掛け…て、わけね?」
梨生奈の質問に、夏希はただ頷くだけで答えた。
「どんな仕掛けだ?」
今度は、中村有沙が訊く。
だが、今度は首を横に振る夏希。
「それは言えない…。私だって…信用できない人間がここにいるもの…」
夏希は、そう言って帆乃香を見た。
「な、なんや!?あんたに、そんなこと言える資格があんのか!?あんただって、『TDD』を裏切ったやん!!」
帆乃香は、顔を真っ赤にして夏希を怒鳴った。
「裏切ったんじゃないわ…。騙してたのよ…。最初からね…。あなたが、そうでないことを願うわ…」
「あ、あの…。今度は、私から質問…」
今度こそ、立ち去ろうとする夏希に、また声が掛けられた。
杏奈だった。
「何?」
冷たい視線を向ける夏希に、杏奈は恐縮しながら言葉を続ける。
「あの…ここ、電線を引っ張って、電気が使えるようにしたんですよね?」
「そうよ…」
「でも、水道とガスは、引っ張ってはいないんですよね?」
「そうよ…」
「あの…お風呂は…どうしてるんですか…?」
そう…これは、女子ならば当然気になることだった。
5211投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時56分24秒
「お風呂?この学校の裏にあるわ」
「…え?」
「温泉があるのよ。この裏に…」
「温泉!?」
この学校の裏には、小さな温泉が湧いていた。
廃校になる前、この学校の生徒達はよく水着着用で入っていたらしい。
しかし、廃校になって誰も利用しなくなった。
温泉といっても、さほど大きなものではないので、それを利用して開発する価値はないと、放置されていたのだ。
「よかったわ…。お風呂が一番、心配だったの…」
杏奈は、胸を撫で下ろした。
「よし!!じゃあ、アタシが一番風呂と決め込むか!!東京から運転しっぱなしで疲れてるから…」
ジョアンが、駆け足で音楽室を出て行こうとするが、それを夏希は止めた。
「待って!!まだ、温泉には行かないで」
「あん?何でだよ?」
ジョアンは、不機嫌な顔で言う。
「折角の親子水入らずを、邪魔しないでね…」
夏希は、それだけ言うと、今度こそ音楽室を後にした。
「親子…?水入らず…?」
ジョアンも他の皆も、首を傾げた。
5212投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時56分56秒
廃校の講堂のフェンスを越えた、約200メートル先に、天然の温泉はあった。
5人入れば身動きがとれないくらいの大きさの温泉であるが、元加藤組組長、加藤浩次はただ一人、ゆったりと手足を伸ばしてくつろいでいた。
この、山奥に強引に移された加藤だが、この温泉だけは気に入っていた。
「ああ〜〜〜。生き返るなぁ、おい…。この瞬間だけはよぉ…」
脱衣所として建てられた掘っ立て小屋以外、人工物は何一つない絶景。
今は冬なので、小鳥のさえずりさえ聞こえない。
この、半ば監禁にも似た隠遁生活の中、加藤はこの瞬間の為に生きていると言っても過言ではないだろう。
5213投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時57分08秒
だが、その至福の時を壊す、甲高い声が響く。
「よかったぁ〜〜〜!!ダディ、まだいた〜〜〜!!」
「!?」
振り向いた加藤の頭の上のタオルが、ずり落ちた。
裸の少女が、こちらに向かって走って来る。
「…だ、誰だ…?」
そう言った瞬間、その少女は勢いよく温泉に飛び込んだ。
「あっち〜!!やっぱ、あちぃ〜〜〜!!」
そう叫びながらも、少女は笑顔で温泉の中をはしゃぎまわる。
「誰だ!?おめぇ…」
そう言い掛けて、加藤は気がついた。
その少女は、自分のことをダディと呼んだ。
改めて、その少女の顔を見る。
大きな目、口、高く通った鼻筋…。
あの女…加藤夏希に似ている…。
そう…この少女こそ…加藤ジーナ…。
5214投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時57分30秒
「お…おまえ…。ジーナか…?」
加藤は、思わず声を掛けた。
「はい!!ジーナです!!あなたの娘です!!」
その少女は、大きな声で元気よく返事をする。
「む…娘って…」
まだ、認めたわけではない…と、言い掛けて、加藤はその言葉を止めた。
ジーナが、抱きついてきたからだ。
「背中、流してあげようか?ダディ?」
こうして見ると…確かにハーフで可愛らしい…ただの少女だ。
とてもじゃないが、元暗殺組織に所属し、暗殺活動の為に生まれてきたとは思えない。
「…お…おまえ…何で、ここに来た…?」
ジーナから身体を離して距離をとりたい加藤だが、それでもぴったりとジーナは寄り添う。
「お姉ちゃんが、ダディが温泉に入ってるって教えてくれたから…」
「ち…!!あの、女…!!」
温泉の中では逃げる事はできないと、夏希は考えたのだろう。
まんまと、その罠にはめられてしまった。
5215投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時57分52秒
「お…おまえ…幾つだ?」
「ジーナ?10歳だよ」
「10歳…?つーことは…4年生?いや、5年生か?」
「ジーナ、その何年生っての、よくわかんない」
「おまえ、学校、行ってないのか?」
「うん。行ってないよ」
ケロリとした顔で、ジーナは答える。
「でも、勉強はしっかりしたよ。あと、勉強以外のいろんなことも…」
「ああ、言わなくていい!!聞きたくない!!」
おそらく、数々の暗殺術や性技だろう…。
加藤は、思わず背中を向けた。
「ダディの背中、絵が描いてある!!これ、ニワトリさん?大きい!!キレイ!!」
ジーナは加藤の彫り物を見て、歓声をあげる。
「ニ、ニワトリじゃねぇよ!!ぶぁ〜か!!鳳凰だっつ〜の!!」
「ほーおー?」
ジーナは、小首を傾げてその鳳凰を見詰める。
「ええと…なんだ…そう…不死鳥だよ!!フェニクス!!」
「OH!! Phonenix!!」
「発音いいな、おい!!」
加藤は、思わず感心した。
5216投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時58分24秒
「だって、ジーナはイングランドの血が入ってますから!!」
ジーナは加藤の目の前で立ち上がると、胸を張って見下ろした。
堂々と、自分の裸体をさらすジーナ。
10歳と言ったら、もう父親と風呂に入りたがらない歳だろうが…。
もし、ここに山本がいたら、大変なことになると、加藤は思った。
そう思ったということは、知らず知らずに父親の目で見ているということになるのだが…加藤はまだ、それに気がついていない。
5217投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時58分44秒
それよりも、加藤は別のことに関心を示した。
「イングランド?サッカー生誕の地じゃねぇか!!」
「サッカー?あの、ボールを蹴ってネットに入れるだけの、単純で退屈なスポーツですか?へぇ〜…。イングランドで始まったんだ」
さほど興味がない、という顔で、ジーナは呟いた。
しかし、そのジーナの言葉に、加藤は烈火の如く怒った。
「おい、こら!!サッカーが単純で退屈!?イングランド人の風上にも置けねぇヤツだな!?」
「え?違うんですか?」
「ちげぇよ!!あれはな、フィールド上の11人が強靭な肉体と明晰な頭脳を持って、数余りあるフォーメーション、戦略を駆使してぶつかり合う、世界共通の…」
「あ!!ぶつかり合うと言ったら、ジーナはお相撲が好きです!!」
「相撲!?あんな、デブの押しくら饅頭、どこが面白ぇんだ!?」
「デブの押しくら饅頭!?ダディこそ、日本人の風上にも置けません!!」
「違うのかよ?」
「違います!!デブ、デブと言いますが、あれは強靭な筋肉が脂肪の下に隠れているんです!!あと、押しくら饅頭と言いましたが、強靭な肉体と明晰な頭脳を持って、数余りある決まり手の中から、一瞬で判断して攻防を…」
「ああ、もういいよ!!外人のガキの相撲解説なんて、聞きたくねぇ!!」
「外人って…!!ジーナは半分、日本人…ダディの娘なんですからね!!」
「………」
そう言われると、加藤は何も言い返せなくなる。
5218投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時59分26秒
「…!?」
しかし、ジーナは加藤の股間を奇妙な眼差しで見詰める。
「ダディのオチンチン…何か、イボイボしてる…。何かの病気?」
心配そうな目で、ジーナは加藤を見上げる。
「あん?病気じゃねぇよ。真珠を入れてんだ」
「真珠!?Pearl?何で?」
「そりゃ、おめぇ…これでネェちゃんをヒィヒィ喜ばして…」
そう言い掛けて、加藤はやめた。
「喜ぶ?オチンチンから真珠出してプレゼントするの?ジーナは、もっとロマンチックな方法で貰いたいです」
「何だよ…。『TTK』じゃ、こういうこと教えて貰わねぇのか?」
「はい?」
「ま、どうでもいいや…。俺は、もう出るぜ!!のぼせちまう」
加藤は、イボイボの男根を隠すことなく、温泉から上がる。
5219投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)20時59分41秒
「ああん!!待ってよ!!まだ、お話ししたい!!」
ジーナは、加藤の手を引っ張った。
「い、痛ててて!!」
加藤は、思わず右膝を押さえた。
「ん?どうしましたか?」
「気ぃつけろぃ!!俺は、膝に爆弾抱えてるんだ!!」
あの伝説の、『地獄の100本ペナルティキック』で、思わず痛めた古傷だ。
「ダディ、足を怪我してるんですか?」
ジーナは、イボイボの男根を見た時よりも、心配そうな顔を向ける。
「ああ…。もう、一生治る事はねぇだろうな…」
自分の右膝を、苦々しく睨みつける加藤。
5220投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)21時00分02秒
しかし、ジーナは首を横に振る。
「治らない…?そんなこと、ないと思いますよ?」
「あん?何で、おめぇにそんなことわかるんだよ?俺は、医者に言われたんだ…。もう、サッカーはやめたほうがいいって…」
「ジーナなら、治せます」
そう言うと、ジーナは頭頂部でまとめた髪の毛から、細く短い針を抜き取った。
「…?何だ?そりゃ…」
「動かないで下さいよ〜」
ジーナは、湯船の中でゆらゆら揺れる加藤の膝に、針の先を向ける。
「お、おい!!な、何をする気だ…?」
「えい!!」
ジーナは、加藤の右膝に針を突き刺した。
「う、うわ!!」
加藤は、思わず立ち上がった。
「…?痛くねぇ…?」
急に立ち上がったら、間違いなく激痛が走ってたはずなのに…?
「おまえ…。何をした…?」
加藤は、呆然とジーナを見下ろした。
「へへへ…。こういうことを、勉強したんです…」
ジーナは、得意気な笑顔を加藤に見せた。
まるで、褒めてくれと言わんばかりの笑顔だ。
「今度、ジーナにサッカーを教えて下さいね?」
5221投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)21時00分36秒
すっかり身体を温めたジーナは、スキップで木造校舎の軋む廊下を駆けていく。
会いたかった父親と、親交を深めた…ジーナには、それが嬉しくて仕方がなかった。
すると、廊下の曲がり角に村田ちひろが立っていた。
ジーナは、軽く会釈をすると、ちひろの側を通り抜けようとする。
「待て」
ちひろが、声を掛けた。
「ん?ジーナに何か用ですか?」
「私が、用があるのではない」
「誰ですか?」
「ついて来ればわかる」
ちひろは、その後は何も言わずに歩き出す。
ジーナは、素直について行く。
ちひろは、職員室の隣…保健室の引き戸の前に立つと、中に向かって声を掛ける。
「連れて来たぞ」
「すまない…」
声の主は、中村有沙だった。
「有沙さん?私に何の用ですか?」
「さあな…。後は二人で話してくれ…」
ちひろは引き戸を開けることなく、そのまま真っ直ぐ廊下を歩いて行った。
5222投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)21時00分59秒
「失礼します…」
ジーナは、恐る恐る建て付けの悪くなった引き戸を開けた。
「…すまんな…。呼び立てして…。側に来てくれ…」
中村有沙は、保健室の真ん中で、車椅子に座っていた。
「はい…」
ジーナは、中村有沙の前に用意されたパイプ椅子に座る。
「何ですか?もしかしたら…1年前、有沙さんに酷い事した文句ですか?」
ジーナは、『TTK』を脱走した中村有沙に制裁を加えた張本人だからだ。
「いや…。あれには感謝しているくらいだ…」
「感謝?」
「あの苦痛を体験していたから…『TDD』の拷問など、子供の遊びに感じたからな…」
「あの…こう言うのも何ですが…ジーナ、もう、あの針の技術で人を苦しめたり傷つけたりしたくないんです。怪我を治したり、そういうことに使いたいんです」
「ああ…。是非、そういうことに使ってくれ…」
「…え?」
ジーナは、目を丸くした。
「単刀直入に言う…。おまえの、力を貸してくれ」
「どういうことですか?」
中村有沙は、じっとジーナの目を見据えて言った。
切実な眼差しで…。
「おまえの針治療で…私の手足を、再び動かせることができるか…?」
5223投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)21時01分37秒
「………!!」
ジーナは、思わず絶句した。
「どうした?」
中村有沙は、そんなジーナの顔を眺めながら、あくまでも冷静な態度で意見を求める。
「…有沙さん…。そんな身体になっても…まだ、戦うつもりなんだ…」
「だから、こんな身体を何とかしろ、と言っている」
そして、こう続ける。
「私の手足には、筋弛緩剤が注射されていて、最低でも10日はこのまま指一本動かせない状態らしい。いや、戦えるようになるまでは、何日かリハビリをしなくてはいけないだろう…」
ジーナには、皆まで説明を聞く前に理解した。
「つまり…ジーナの針で、動かなくなった手足を動かせと…?」
「そうだ…。できるか?」
「無理です」
ジーナは、あっさりと答えた。
5224投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)21時01分49秒
「やってみもしないで、どうして言い切れる?」
少し、中村有沙の表情に苛つきが見えた。
「やってみましょうか?」
懐からジーナは、針を取り出した。
長く、太い針である。
そして、いきなり中村有沙の左の太腿に、その針を突き刺した。
「…!!」
「…痛いですか…?」
中村有沙は、ゆっくり首を横に振る。
「これ…もの凄い激痛のツボなんですけど…。ちっとも感じませんか?」
今度は、首を縦に振る。
5225投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)21時02分10秒
「つまりですね…。今、有沙さんの手足の神経は、完全に機能してない状態です」
「…神経が機能してないと…貴様の針でも無駄なのか?」
ジーナは、中村有沙の太腿に刺さった針を抜くと、それを懐に仕舞いながらゆっくりと説明する。
「ジーナの暗黒針灸術は…相手の神経を通して筋肉を刺激させて動かします。それで、筋肉が強くなったり、逆にまったく力を抜いたりすることができます」
そう…天心荘で、七海、ジョアン、羅夢の3人にやった様に…。
「あと、激痛を感じさせたり、筋肉をキュッと絞って止血したりもできます。それは、全部神経を通してやってる事なんです」
頭脳明晰の中村有沙は、それだけで全てを理解した。
「そうか…。つまり…その神経自体が使い物にならなければ、いくら刺激を与えても、まったくの無駄…と言うことか…」
「はい…。だから、梨生奈さんや吉田さんの骨折も、なんともならないんです。筋肉ではなく、骨の損傷ですから…」
何の協力もできないことに、ジーナは心から彼女を哀れんだ。
「つまり…。ふふ…」
中村有沙は、自嘲した。
「どうしました?」
「いや…。貴様の姉の言う通り…私はこの戦いで、一番の『弱者』であり、『足手纏い』のまま…と、言う事か…」
「お姉ちゃん…そんな失礼な事を…?」
眉を下げて、ジーナは呟く。
「いや…気にするな…。事実だからな…」
そして、精一杯の微笑みで、ジーナに言った。
「すまなかったな…。もう、夏希の所に行っていいぞ…」
5226投稿者:リリー  投稿日:2008年11月23日(日)21時02分34秒
今日は、多めに更新しました

では、おちます
5227投稿者:117  投稿日:2008年11月23日(日)21時11分52秒
夏希はカンペーさんの弱点に気づいていたんですね。
決戦はなんと元旦1月1日・・・すごい年明けにありそうな予感?
一方で、加藤親子の触れ合い。少々・・・なトークもありましたが(笑)、
本当の親子としてのトークもできたようで、何だかほっとしました。続きも楽しみです!
5228投稿者:多めに更新してもらった方が  投稿日:2008年11月23日(日)21時43分57秒
読みごたえがあって良いです
5229投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時03分33秒
117さん
加藤組長も、知らず知らずのうちに夏希の計略に乗せられてますが、まだまだ本当の親子には程遠い現状です
きりのいいところで、決戦は元旦としました
物語自体は、4月まで続きますが…

5228さん
そうですか
今回も、多めになるかもしれません

では、更新します
5230投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時05分43秒
それから日が落ちかけ、『R&G』がアジトとして…そして最終決戦の場として使うことになった廃校に、足を踏み入れる者達がいた。
「…?」
体育館の屋根に登り、何やら作業をしていた夏希は、裏門から入って来たランドクルーザーに気がついた。
すぐさま、夏希は梨生奈の携帯に電話を掛ける。
〔どうしたの?『デーモン・ハート』?〕
「誰か来た…。あんたの会社の車らしいけど…」
〔え?もしかして、ポルシェ?銀色の…〕
「ううん…。ランドクルーザーよ」
〔ランドクルーザー!?それって…ナットー製鉄へ行った時に乗っていった車じゃない?〕
電話口から遠い距離で、「ああ」、とジョアンの声が聞こえる。
「つまり、ナットー製鉄に乗り捨てた車でしょ?…もしかしたら…『TDD』…?」
〔『チームE』から、連絡は?〕
「ない…」
〔連絡してみて!!〕
「もし、『チームE』に連絡がつながらなかったら、私は問答無用で、あの車を攻撃するから…」
〔ちょっと、それは待って…〕
夏希は、梨生奈の言葉の途中で電話を切って、懐から十字手裏剣を取り出しながら、『チームE』、近藤エマに電話を掛ける。
その間、ランドクルーザーは講堂の前をゆっくりと通過し、体育館に近づいてくる。
5231投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時07分15秒
〔こちら『キャンディー・ボール』。どうしたの?〕
「…!?」
電話にエマが出た。
「『デーモン・ハート』よ。ねぇ、『TDD』に動きはあった?」
〔動き?〕
「誰か、ハセヤンズハウスから出て行ったとか…」
〔ええと…恵とかいうゴツイ女が、裏庭で薪を割って…結局、また中に戻ったけど…〕
「…けど?」
〔あすみとあい〜んの姿を、朝から見ていないんだよね…。別行動とってるのかな?〕
「それだ!!」
夏希は、携帯を切った。
5232投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時11分43秒
ランドクルーザーは、相変わらず人の歩く様な速度で、体育館に迫る。
そして、すぐ真下にその車が着いた。
それと同時に、夏希は長ドスを背負い、ランドクルーザーの屋根に飛び降りた。
「ひえ!?」
車の中で、悲鳴が聞こえた。
夏希は屋根のサンルーフを蹴破ると、十字手裏剣を次々と車内に撃ち込んだ。
車のドアが、一斉に開く。
そして、人影が3人分、車から飛び出した。
「…!?」
チュィィ〜ン…という、聞き覚えのある音…。
金属の糸が、螺旋を描きながら、屋根の上の夏希に迫る。
夏希は、蹴破ったサンルーフから車内に飛び込んだ。
「…!!あれは…俵…」
そう言いかけた時、銀色の小さな槍の先が夏希に向かって飛んで来た。
「…う!?」
夏希は首を横に傾けて、その槍をギリギリでかわした。
槍は、シートの背もたれに深く刺さる。
「これは、七世の…」
次の瞬間、金属制の糸が幾重にもランドクルーザーに絡んで、夏希を車内に閉じ込めた。
「もう、逃げられないわよ!!」
この声…やはり、俵姉妹だ…。
5233投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時14分06秒
「そうか…。あんた達、生きていたのね…」
「夏希さん!?」
七世の声…。
「あんた達、私が『TDD』を騙して抜けたこと、聞いてなかった?」
「いいえ…。置手紙に書いてあったわ…。正直、半分信じてなかったけど…。有希子さん、小百合さん、鋼線を解いてあげて…」
「いいわよ。こんな包囲網、軽く抜けられるから…」
夏希が、長ドスを抜いて一払いすると、鋼線は軽い金属音を立てて細切れになった。
そして、悠々と夏希は車から降りた。
目の前には…やはり七世と俵姉妹の三人が立っていた。
5234投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時14分48秒
「あれれ…。何か…最近、私達の拘束、簡単に破られてない?自信無くすわ…」
有希子は、溜息混じりに夏希を見る。
「ふふ…。楠本に襲われて、よく生きてたわね、あなた達…」
夏希は、長ドスを鞘に納めながら言った。
「ええ…。車ごと爆発させられて…あの男、私達が死んだと思い込んだらしいわ…」
「寛平といい、あすみといい、楠本といい…詰めが甘いのが、『TDD』の弱点ね…」
一人でも味方の駒が必要な時…それが一気に三人増えたことに、夏希はほくそ笑んだ。
「誰だ!?侵入者って!!」
遅れて駆けつけたのが、ジョアン、羅夢、七海の『猪突猛進』トリオだ。
「遅いわよ…」
三人を一瞥もせずに、夏希は言った。
「な…七世…?」
七海はその足を止めて、愛しい元チームメイト…七世を呆然と見詰めた。
5235投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時17分42秒
「い…生きとったんか…?」
未だ七海は、信じられない…といった表情だ。
「七海さんも…無事だったみたいね…。よかった…。心配してたのよ?」
七世は、両手を広げた。
七海が、泣きじゃくりながら胸に飛び込んでくるだろうと…。
しかし、七海は泣き崩れそうな表情を、グッと堪える。
「…?」
「七世…。怪我はないか…?」
「…無傷ってわけではないけれど…大丈夫よ…」
「そうか…。ウチも大丈夫や…。心配ないで…」
そう言うと、七海は精一杯の笑顔を、七世に向けた。
「………七海さん…。成長したわね…」
「当たり前やん…。これで成長せなんだら…ウチ、ホンマモンのアホやで…」
「ホンマモンのアホ?何だ…アタイは、とっくにそうだと思ってたぜ」
涙を堪える七海に、羅夢は相変わらずの言葉を投げかけた。
「何やと!?ゴルァ!!」
「んだよ!!やんのか!?」
そして、相変わらずのケンカ…。
5236投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時18分37秒
「あはは!!なんか…こういうやり取り、懐かしい!!」
俵姉妹は、涙を浮かべて笑い転げる。
「もう…!!七海さん…」
困った様な笑顔で、七世は七海と羅夢の間に立とうとする。
「いいから、ほっとけ、ほっとけ!!放っておくのが、ケンカをやめさせるコツなんだよ」
ジョアンも、嬉しくて仕方がない…といった表情で七世に言った。
5237投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時19分47秒
七世と俵姉妹は、音楽室に皆を集めて、この廃校に至るまでを報告した。
またも、ジーナが…加藤と共にここにはいないが…。
三人は、楠本に高速道路を疾走しながら車ごと襲われ、高架下に墜落した。
落下する車から、三人は危機一髪で脱出した。
その時、俵姉妹の鋼線で、高速道路のフェンスに身体を結び付けて、地面の激突から逃れたことは、言うまでもない。
車は、地面に激突と共に炎上。
その状況から、楠本が死体を確かめずに死んだと判断したのも無理はない。
そして、徒歩で第二のアジト、天心荘に辿り着いたのが、皆が原村へ出立した後。
原村に向かう為、三人は車を探すが、ナットー製鉄工場跡地近くに我が社のランドクルーザーが乗り捨てられているのを発見。
そのまま、そのランドクルーザーに乗って原村に向かう。
携帯は三人とも、脱出の時に紛失、破損した為、原村の何処に行けばいいのか、おおいに迷った。
その時、七海達が通う聖テレジアの送迎バスが盗まれたことをニュースで知り、『R&G』が関わっていると確信。
バスの車体とタイヤの大きさを、雪の跡から割り出し、この山奥の廃校に辿り着いたのだ。
しかし、夏希はその三人の苦労話には一切興味を示さず、ただ一言訊ねるだけだった。
「…で…結局、ダーブロウとは連絡がとれないわけ…?」
七世は、途端に表情を曇らせた。
「あの手紙の内容…ダーさんは生きてるのよね?でも…私達は、ダーさんが今、何処でどうしているのか、わからない…」
皆も、暗く沈んだ。
それだけ、ダーブロウ有紗は、絶対的な信頼を寄せられていたのだ。
それが、『TDD』のボス、寛平にまさかの完敗…そして、敗走…。
5238投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時20分59秒
「あ…あの…。その、ダーブロウさんという人…そんなに、凄い人だったんですか…?」
有海が、恐る恐る尋ねる。
「だった?過去形で言うなや!!」
七海は、思わず感情的に怒鳴った。
「ご、ごめんなさい…」
有海は、青い顔をしてうな垂れた。
「い、いや…。ウチこそ…ゴメン…」
ダーブロウの敗戦…この事実、七海も受け入れたくなかった。
「私は信じているぞ…。デカアリは…必ず、この場に来ると…」
ちひろは、自分に言い聞かせるように呟いた。
「私もだ…。あいつは、戦うことしか能のない女だ…。もしこのまま逃げ回るようなら…いっそのこと死んでくれてた方がマシだな…」
相変わらずキツイ言葉を吐く中村有沙だが、それは彼女の、自分の姉に対する信頼を表している。
「来る!!絶対に来る!!ワシにはもう、祈ることしかできんけど…。絶対に来る!!」
吉田は、皆を元気付ける為にも、自分を鼓舞する様に言った。
5239投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時21分52秒
それでも、そのイラつきを隠そうともしないのが、加藤夏希だ。
「まったく…ダーブロウのヤツ…!!あいつがいてくれたら…寛平の相手は無理でも…楠本や理沙の相手ならできるのに…」
そして、有海の顔を見る。
「な、何ですか…?」
有海は、心臓が止まりそうになりながら、夏希の目を見て言った。
「ふん…。あんたの言う通りよ…。あいつの伝説は…もう、既に過去のものよ…」
「何やと!?」
七海は、いきり立って夏希を睨む。
「いちいち、毛を逆立てるんじゃないよ!!この仔猫が!!この場にいない者に期待をかけるようじゃ、到底『TDD』に勝てないわよ!!」
七海だけではなく、その場にいる全員に、夏希はその厳しい言葉を吐く。
5240投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時23分02秒
しかし夏希は、すぐに皮肉に満ちた笑みで言う。
「ふん!!いいわ…。あんなヤツいなくても、この私が寛平を殺してやる。そして、それが済み次第、残りの『TDD』も順次撃破するわ…。あなた達はそれまで、時間稼ぎをしてくれれば、それでいい!!」
「んだと!?もう一度言ってみやがれ!!」
今度は羅夢が、夏希に噛み付いた。
「だから、いちいち、ニャーニャー鳴き声をあげるんじゃない!!殺すぞ!?このガキ!!」
夏希はそう怒鳴ると、自分の座っていた椅子を蹴っ飛ばした。
「ひぃ…!!怖い…!!」
有海は、思わず側にいた甜歌と抱き合った。
「ふふ…。貴様も…随分、苛立っているな…」
そう呟いたのは、中村有沙だ。
「何ですって…?」
その怒りに満ちた形相を、中村有沙に向ける夏希。
「まあ…ナーバスになるのは無理もない…。だが、冷静さを失うのは命取りになるぞ?」
「………戦えないヤツが…。偉そうに…!!」
夏希は、そのまま音楽室を出て行こうとする。
5241投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時24分08秒
「待って!!今後のことを、もう少し…」
梨生奈が呼び止めるが、夏希は歩みを止めない。
「何度も言わせないで…。私は、あんた達の仲間じゃない…。あんたの指図は受けない」
「だったら、『チームE』を私達に返して!!私達の仲間じゃないと言うんなら…」
その瞬間、梨生奈の肩のすぐ横…車椅子の背もたれに…十字手裏剣が突き刺さった。
そして、夏希の怒りに震えた声…。
「私以外に………寛平に勝てるヤツがどこにいる…?『チームE』は、その為の道具…。あいつ等も仲間なんかじゃない…。勘違いするな…!!」
「オラァァァ!!」
次の瞬間、羅夢がヌンチャクを振り回して夏希に向かって飛び出した。
5242投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時25分04秒
だが、羅夢のヌンチャクは床を回転しながら転がった。
「…!?てめぇ…!!」
羅夢の横に、木刀を持ったちひろが立ってる。
彼女が、羅夢の手からヌンチャクを叩き落したのだ。
「意味のないことはするな…」
ちひろは、静かに囁く。
夏希は、鼻で笑いながら羅夢に言う。
「ふふふ…。サムライガールに感謝しなさい…。私だったら…あんたの手首ごとヌンチャクを叩き落してたわ…」
「おまえに言ったのだ…」
相変わらず、ちひろは静かに言った。
夏希に向かって…。
「何ですって?」
夏希は、目を細めてちひろを睨む。
「おまえが仲間じゃないと、いくら言ったとしても…私達とおまえは一蓮托生だ…。おまえの死は、私達の死…。だから…我を失った意味のない言動は慎め…」
臆することなく、ちひろは言った。
「ふふふ…。やっぱり…あの時の戦いに負けたのは…私の最大の汚点ね…。あんたみたいな素人に、こんなにナメられるなんて…」
夏希は、伏せていた目を、殺気を放ちながらちひろに向ける。
「この戦いが終わったら…もう一度、勝負よ!!サムライガール!!」
「ああ…。お互い、生き残れることが最低条件だな…」
夏希は、舌打ちを残し、音楽室を出て行った。
5243投稿者:リリー  投稿日:2008年11月24日(月)21時26分48秒
もう少し更新したかったのですが、何故かパソコンが重くて…

それでは、今日はこれでおちます
5244投稿者:117  投稿日:2008年11月24日(月)21時27分51秒
七世たちは本当に急死に一生を得たようで・・・まさに奇跡の脱出ですね。
まだ一つ岩ではない「R&G」と夏希。一方で、ダーさんはどうなってしまったのか?気になります。
5245投稿者:ダーブロウ何してるんだろ  投稿日:2008年11月24日(月)21時32分49秒
 
5246投稿者:らむぅ親父のせいで  投稿日:2008年11月24日(月)21時34分24秒
重くなったんだな
全部あげ終えたら軽くなるか
5247投稿者: 投稿日:2008年11月24日(月)21時35分48秒

5248投稿者: 投稿日:2008年11月24日(月)21時46分40秒

5249投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)20時59分09秒
117さん
前に誰かが言ってましたけど、『爆死』は一番疑ってかかるべき死に方ですよね
でも、現実的には生存率はゼロに近い死に方ですが…

5245さん
117さんも仰ってましたが、ダーさんは、このままってわけではありませんが、しばらく出番はありません
どのタイミングで再登場するかが難しいです

5246さん
ああ…そういうわけですか…
タイミングが悪かったですね

あげ、ありがとうございます

では、更新します
5250投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時00分46秒
「だ…大丈夫…?」
杏奈は、恐る恐る梨生奈の車椅子の背もたれから、手裏剣を抜いて床に捨てた。
「平気よ…。夏希さん、本気で投げてなかったもん…」
そう言って、梨生奈は笑顔を向ける。
「さてと…今後のことだけど…。七世さんが、こうやって無事だったわけだから…私はリーダーの座を明け渡して…」
「ううん…。このまま、梨生奈がリーダーをやって…」
七世は、首を横に振って、梨生奈に向かって微笑んだ。
「で…でも…」
「今まで、梨生奈が皆を引っ張ってきたんでしょ?ここまでの経緯も、梨生奈の方が断然詳しいし…。私達を駒として使ってちょうだい…」
「………」
梨生奈は、困った様な顔で、皆を見渡す。
5251投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時01分14秒
「私も梨生奈がリーダーで賛成だ。指揮権がコロコロ代わるのは、望ましい事ではないしな…」
と、中村有沙が言う。
「ウチもや。賛成や」
と、七海が言う。
「年上のアタシを差し置いて…て、感はあるけど…。悔しいけど、アタシは一兵卒が一番似合ってるみたいだよ…」
と、ジョアンが言う。
「アタイは、梨生奈じゃなきゃ嫌だね!!逆に、梨生奈にだったら、アタイは命を預けられる!!」
と、羅夢が言う。
「ちょっと!!あまり、プレッシャーかけないでよ!!」
そう言って、梨生奈は悲鳴をあげた。
「梨生奈…。リーダーを務めろ…。これは、社長命令だ」
と、ちひろが言う。
「おい!!社長は、まだワシや!!」
と、最後に吉田が叫んだ。
5252投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時01分46秒
そういうわけで、リーダーは引き続き梨生奈が務めることとなった。
梨生奈は、今後の戦いの方針を皆に伝えることにした。
「それじゃあ…今から、どう戦っていけばいいか…私なりにみんなに伝えるわ…」
まずは、夏希とエマ、エリーの『チームE』…。
「彼女等に関しては、もう、任せるしかないわね…。あの夏希さんが、寛平との戦いに専念してくれて、いろいろ罠も仕掛けているみたいだから…」
それには、皆も賛成する。
どうせ夏希は、こちらの指示に従うことはないだろう。
5253投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時02分09秒
「ちひろさんとジョアンは…このまま『チームS』で行動を共にして…。いい?必ず二人一組で行動すること…」
ジョアンは、天井を睨みながら頷く。
「ああ…。あの時は、アタシ一人だったから…あいつ等の汚ぇコンビネーションにはまっちまった…」
脳裏に過る、恵の口から吐かれた炎…。
「あいつ等…!!絶対に、このままじゃおかねぇからな!!」
そんなジョアンの肩に、手を置くちひろ。
「あまり、私怨をはさむな…。隙ができるぞ…」
「偉そうに説教すんな!!アタシは、チームリーダーだぞ?」
「私の方が年上だが?」
「それが何だよ?アタシの方が、戦闘に関しては先輩だ!!」
「それもそうだな…。いや、出すぎたマネをしてすまなかった…」
ちひろは、素直に引き下がった。
これが『チームS』のチームワークが、辛うじて保たれている理由だ。
5254投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時02分47秒
「あと…七世さん、有希子さん、小百合さん…。あなた達は三人でチームを組んで」
「ちょ、ちょっと待てや!!」
梨生奈の言葉に、七海が不意に叫んだ。
「七世は、ウチと『チーム7』やないんか!?」
そう…『チームN』は、中村有沙の戦闘不能により解散…そして七世が無事に帰還したのだから、当然『チーム7』を再結成すると、七海は考えていた。
「ううん…。この三人は…専守防衛のチームよ…」
「専守防衛…?」
「守るのよ…。非戦闘員を…」
そう、この場には、吉田を始め、卓也、杏奈、甜歌、有海、帆乃香…と、『戦士』でない者が多くいるのだ。
更に、梨生奈と中村有沙は、戦えない。
ジーナは『戦士』として非常に有用なのだが、夏希が戦いの最前線に立たせることを許さない。
ジーナと二人分以上の働きをする…と、夏希は言ったが…。
そして、守る義理はまったくないのだが、元加藤組組長、加藤浩次もいる。
彼等を守る者が、当然必要になる。
守備に専念させれば、この三人は鉄壁の働きを見せるだろう。
「チーム名は…そうね…『チームG』…というのはどう?Guardian(守護者)の『G』…」
「気に入ったわ…」
七世はそう言って微笑んだ。
だが、七海は気に入らない様子だ。
5255投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時03分18秒
「ちょ、ちょい待ち…!!これで、残ったんは…」
七海は、羅夢の方を向く。
羅夢も、七海を見た。
「おいおい…」
「カ、カンベンせぇや…」
梨生奈は、溜息をついて、そして口を開いた。
「七海…。羅夢…。あなた達二人でチームを組んで…」
「な、何言ってんだよ!!」
「アホなこと、いいなや!!」
七海も、羅夢も、顔を真っ赤にして叫んだ。
「マ、マジかよ…」
ジョアンは、引きつった笑いを浮かべている。
『混ぜるなキケン!!』………この言葉は、化学洗剤と、この二人の為にあるような言葉だ。
「な、何も、こんな大変な時に、この二人を組ませんでも…」
いつか二人を組ませて大失敗をした吉田も、オロオロしながら梨生奈に進言する。
5256投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時03分37秒
「大変な時?こんな時だからこそ、仲がいいとか悪いとか、相性なんかに囚われてはいけないと思うわ…」
梨生奈は、強い意志で言い切った。
「た、確かに、梨生奈がリーダーだって、アタイは認めたけど…こ、これだけは認められねぇ!!」
「ウチもや!!こんなヤツと、チームなんか組めるかい!!」
「それは、アタイのセリフだ!!」
「何や!?ゴルァ!!」
「やんのかよ!?オラァ!!」
二人は、胸座を掴み合った。
5257投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時04分08秒
「やめなさい!!」
梨生奈は怒鳴った。
「言ったでしょ!?そんな、いがみ合いをしてる場合じゃないって!!」
「で、でも…」
羅夢の言葉を、遮る梨生奈。
「このままじゃ、あなた達、死ぬわよ!?」
しかし、その時…中村有沙が、ポツリと呟いた。
「いいではないか…」
皆は、一斉に彼女を見た。
「いいではないか…。死んでも…」
「な…?」
皆は、言葉を失った。
「な、何を言っているの…?」
梨生奈も、さすがに驚きの目で中村有沙を見る。
5258投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時04分36秒
「生きるか死ぬかのこの時に…未だにいがみ合い、生き残る術を自ら潰すようならば…貴様等は、それこそここで死んでしまえ…」
静寂が、音楽室を包む。
「だが、これだけは忘れるな…。貴様等が死ぬということは、やつ等と戦う駒が減るということを…。それは、確実に本陣を攻め落とされる確率を増やしてしまうことを…」
「ほ、本陣…?」
七海が訊く。
「こやつ等のことだ…」
中村有沙の視線の先に…有海達がいる。
「私も、梨生奈も…戦いたくても戦えないのだ。貴様等に命を預けたのだ…。そんなことも理解できないのなら…今から、貴様等、殺し合いでも何でもすればいい…」
そして、もう一度、七海と羅夢に向かって言う。
「死んでしまえ…貴様等…。そして…私達も後を追う…」
5259投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時05分14秒
もう、七海も羅夢も、お互いの胸座を離している。
「死んでたまるかい…!!ボケェ!!」
七海が呻く。
「死なせてたまるかい!!オノレ等を…殺してたまるか!!」
そして、中村有沙を睨む。
「ふ…。ま、あまり期待はしないでおこう…」
そう言って、中村有沙は七海から視線を外した。
梨生奈は、溜息をついてこう言い放つ。
「あなた達のチーム名は『チームB』!!いい?Buddy(相棒)の『B』よ?これを忘れないで!!」
「『チームB』?ふん…!!『A級』のウチと『C級』の羅夢を合わせて『B級』の『B』かい…。気に入った!!」
「おい!!アタイは、気にいらねぇぞ!!コラ!!」
すぐに、羅夢が噛み付く。
舌の根も乾かないうちに、二人はまたケンカを始めた。
5260投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時05分35秒
梨生奈は、咳払いをする。
二人は、途端に争いをやめた。
「ふん…。もっと単純に…BAKAの『B』と言えばいい…」
中村有沙が言う。
「何や!?ゴルァ!!」
「誰が、バカだって!?」
二人は、息を揃えて中村有沙を怒鳴りつけた。
「うむ…。いい、コンビネーションだ」
中村有沙は、満足そうに頷いた。
だが、この後『チームB』の二人は、どちらがリーダーを務めるかで小一時間争うことになる。

(『八回・裏』・・・終了)
5261投稿者:リリー  投稿日:2008年11月25日(火)21時05分54秒
今日は、これでおちます
5262投稿者:八回・裏  投稿日:2008年11月25日(火)21時06分31秒
終わった〜!
いよいよクライマックス!!
5263投稿者:117  投稿日:2008年11月25日(火)21時34分58秒
「チームB」結成ですか・・・恐ろしいコンビだ(笑)。リーダー争いの展開に(笑)。
気がつけば、あと9回表・裏を残すのみですか・・・続きも楽しみです!
5264投稿者:延長戦ないの?  投稿日:2008年11月25日(火)21時39分34秒
 
5265投稿者:木更津みたい  投稿日:2008年11月25日(火)21時42分05秒
延長とか
5266投稿者:これからが本当の地獄だ・・・  投稿日:2008年11月25日(火)21時46分45秒
 
5267投稿者: 投稿日:2008年11月25日(火)22時06分35秒
5268投稿者:ぶっちゃけもう表の要素  投稿日:2008年11月25日(火)23時57分58秒
なくね?

おもしろいです
更新頑張ってください
5269投稿者:あげ  投稿日:2008年11月26日(水)21時58分05秒

5270投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時02分16秒
5262さん、117さん、5264さん、5265さん
白状してしまいますと、延長戦に突入する予定です
やっぱり、広げた風呂敷を、九回までに畳めなかったんです
強引に『TDD』と決着をつけることもできますが、『表』のフォローがないまま終わるのも問題だと思いまして…
ですので、まだしばらくお付き合い願えたら幸いです
『チームB』は、中の悪い者が強力しあうシチュエーションの最たるものです
これは、この小説を書き始めた時に構想してたことです

5266さん
これは、『ドラゴンボール』のべジータのセリフでしたっけ?
また、あのハリウッド映画を思い出して、憂鬱になりましたが…

5268さん
そうなんですよね
段々、『表』が『裏』に乗っ取られてきてます
『表』と『裏』の混在…というのが、第三試合のテーマなのですが…やはり、言い訳ですね

では、更新します
5271投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時03分11秒
『九回・表』
≪2007年12/31(月)≫

今年も、残りは今日、一日…大晦日。
あの、何の共通点も見出せない奇妙な団体客が泊まり込んでから、6日が経つ。
一応、社長らしい間寛平という老人が言うには、この原村で年越しをする、ということらしい。
他の宿泊客は、さすがに自宅で年を越す為、今はその『TDD』という会社の社員7名以外、ハセヤンズハウスに客はいない。
リゾート開発の会社の、現場視察を兼ねた社員旅行だというのだが、彼等が原村を視察しに歩き回っている所を見たことがない。
皆は、一日中室内にこもるか、敷地内を散歩するだけだ。
翔子は、暇だ暇だと、一日中うるさいし、理沙は、苛々が日増しに募っている様だ。
楠本も、他の女性客が泊まっている間は楽しそうに過ごしていたが、今は読書以外にすることはなさそうだ。
5272投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時03分32秒
例外が、一名いる。
恵という、ガッチリした体格の女性。
今日も、大樹と一緒に薪割りをしたり、料理の手伝いをしたりしている。
もう、半分客、半分従業員の様になっている。
だが他の者は、この退屈な日々を持て余している。
それならば、スキー場にでも遊びに行けばいいのに、彼等は一向にこのハセヤンズハウスから動かないのだ。
「連絡を待っとるんよ…。それからでないと、ワシ等は動かれへんねん…」
寛平は、そう答えるのみだった。
5273投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時03分52秒
「ねぇ…。千秋君…。怪しいと思わない?」
瑠璃は、眉をひそめて千秋に囁きかける。
「怪しい?何が?」
『TDD』の面々に大不評だった、逆ギョーザの改良に励んでいる千秋は、その調理の作業の手を止めて瑠璃を見た。
「あの人達だよ…。お客さん!!」
「瑠璃…。お客さんに失礼なこと言うもんじゃないよ」
「だって…!!あの人達、どこにも遊びに行かないでさ…一日中、ゴロゴロしちゃって…。典型的な、ダメな大人だよ!!」
「だからって、怪しいって…」
「その、ダメな大人の代表が、あの楠本さん!!」
瑠璃は、気持ちのいいくらい言い切った。
「瑠璃、何かとあの楠本さんに厳しく当たるね…」
「だって、あの人、ウソつきだもん」
「あの人は、いい人だと思うな。だって、僕の逆ギョーザ、いっぱい食べてくれたよ?」
「あれだって、ウソだもん!!」
「例えウソでも…ううん…ウソだからこそ、あの人はいい人なんだよ」
「千秋君は、人を見る目がないなぁ…」
呆れた様な目で、千秋を見上げる瑠璃。
「そうかい?」
「探偵として、失格だよ!!」
5274投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時04分13秒
「探偵?何?それ…」
キッチンと食堂の間のカウンターに、頬杖を着いた女が座っている。
中川翔子だ。
「あ…」
千秋は、気まずそうな顔をする。
しかし瑠璃は、怪訝な表情を翔子に向けた。
そして、千秋の後ろに隠れる。
「あの…もしかして…」
千秋は、瑠璃が楠本の悪口を言うのを聞かれてしまったのではないかと、心配する。
「楠本さんのこと?」
やっぱり…と、千秋は、冷や汗を垂らす。
「気にしないで。あの人はウソで商売しているの。だから、ウソつきって言われても、傷つかないから」
「ウソが商売?」
瑠璃は、いかがわしいという顔で呟いた。
「そうよ。だから、楠本さんの目の前で言ってあげて。この、ウソつき!!て…」
5275投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時04分32秒
それで…と、翔子は話しを戻す。
「探偵って何?あなた達、もしかして探偵さんなの?」
「ごっこですよ…。ごっこ…」
千秋は、硬い笑顔で答える。
「ごっこ…?ああ…『らりるれろ探偵団』…?」
「え…?」
「ほら、裏の林の可愛いお家に、看板架かってたよ。『らりるれろ探偵団』って…」
「ああ、はい…。あれですね…。一応、事務所です…。あの家、僕等で造ったんですよ!!」
「え?あなた達で?凄い!!ギザ凄す!!」
「ま、僕達だけで造ったわけじゃないんですけど…」
「あ、そうだ…」
翔子の目付きが変わった。
「あの看板に、小さい字で書いてあったよね…。『らむ』、『りおな』、『るり』、『れいしー』、『ろーず』…」
「はい」
「『るり』はその子、『れいしー』はあなたよね?他の人達は…?」
「はい。『らむ』ちゃんと『りおな』ちゃんは、僕達の友達です」
瑠璃が、千秋の袖を引っ張った。
「…?」
千秋は、ふと瑠璃を見る。
怖い顔で、首を横に振っている。
5276投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時04分52秒
「で…最後の、『ろーず』って…」
翔子がそう言いかけた時、突然瑠璃が言葉を割り込ませた。
「そうだ!!ねえ!!千秋君!!瑠璃のお部屋に来て!!見せたいものがあるの!!」
「え!?」
随分、大きな声で叫んだので、千秋はその大きな目を更に大きくして、瑠璃を見た。
「見せたいもの?」
「うん!!そう!!早く来て!!」
半ば強引に、瑠璃は千秋の腕を引っ張って、キッチンから出て行こうとする。
「す、すいません…。お話しの途中で…」
千秋はそう翔子に頭を下げるが、瑠璃によって食堂から引きずり出されてしまった。
翔子は、二人の背中を見送り、こう呟く。
「う〜ん…。そろそろ限界なのかなぁ…」
そして、髪の毛をかき上げ、溜息をつく。
「『R&G』の連中、さっさと連絡を寄越しなさいよ…。ほんと、退屈過ぎて死んじゃうわ…」
すると、急に物悲しげな表情に…。
「ああ…。ありりん…。私の手元からいなくなっちゃって…。今頃、どうしているのかしら…。早く、会いたい…」
でも…と、翔子は、再び瑠璃達の去って行った食堂の入り口を見詰める。
「瑠璃ちゃんも、ギザかわゆす…。将来、ありりんに負けず劣らずの美少女に発育するのよねぇ…」
その直後、はっと、首を横に振る。
「ダメ、ダメ!!浮気なんかしたらダメ!!私は、ありりん一筋…!!ああ…もう、この手でありりんを快楽という極楽に誘ってあげたいわ…」
翔子は自分の指を、うっとりと眺めた。
5277投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時05分41秒
千秋は、瑠璃の部屋に強引に押し込まれた。
「何?見せたいものって?」
床に敷いたクッションに腰を降ろして、千秋が聞く。
「見せたいものじゃなくて…聞いて欲しいの!!」
瑠璃は、千秋の鼻に自分の鼻がくっ付くぐらい、間近に座った。
「ああ…。あの人達のこと…?」
千秋は、もう食傷気味だという風に言った。
「だって…さっき…あの女の人…」
「翔子さん…?いや、しょこたん?」
千秋は、翔子に「しょこたん」と呼んで、と言われていたので、律儀に言い直した。
5278投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時05分52秒
「私達の後ろに立ってたじゃん…。瑠璃、気がつかなかった…」
「ん?僕だって、気がつかなかったよ」
「もう…!!千秋君!!私は、元『TTK』だよ!!」
「…あ、そうか…。つまり…あの人達も、『普通の人』じゃないって言う事…?」
「瑠璃、人の気配とか察知する訓練受けてきたんだから…!!確かに…『戦士』にはなれなかったけどさ…」
あと…と、瑠璃の表情が曇る。
「まだ、何かあるの?」
「あの人達が、ここに来た時なんだけど…。私、後ろを簡単に取られた」
「後ろ?」
「ほら…。あの、赤い服の女の人…」
「理沙さん…?」
「そう…。その時も…いつ、瑠璃の後ろに立っていたのか、気がつかなかった…」
5279投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時06分17秒
千秋は、腕組みをして天井を見詰めながら答える。
「でも、瑠璃はもう『TTK』じゃないんでしょ?そういう力が弱くなったのかもしれないよ?」
「そうかもしれないけど…。でも…あの人達…『普通じゃない』…。これだけは言える…」
「もう、人を疑うのは、やめなよ…」
千秋は、無理矢理話を打ち切ろうとする。
「だって…」
「だって?」
「楠本さん、ウソつきって言ったじゃん…。でも…」
瑠璃は、益々険しい顔をする。
「同じウソつきでも…モニーク先生と、まるで違う!!」
「モニーク先生?」
唐突に出てきたモニークの名前に、千秋は驚いた。
「モニーク先生のウソは、自分の為につかないの!!例え人を騙し、傷つけたとしても、それは結果であって、目的じゃない…」
「む、難しい話しだね…」
「でも…あの楠本さんって人のウソは違う…。あの人はウソを、目的としてついている。騙し、傷つけることを楽しむ人…」
「だから…瑠璃は、楠本さんが嫌いなの?」
瑠璃は、力強く頷いた。
「あとね…」
「まだ、あるの?」
千秋は、半ば呆れたように叫ぶ。
しかし、瑠璃の目は、何かすがる様に切実なものになっている。
5280投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時06分56秒
「あの、しょこたんって人…」
「うん…。しょこたんが…?」
「何か…怖い…」
瑠璃は、弱々しくポツリと言った。
「怖い?しょこたんが?」
意外な言葉…。
「しょこたんって…年上の女の人にこんなこと言うのは失礼だけど…可愛いじゃん。土星のことからセミの抜け殻まで熱く語る様な、何か、どこか不思議ちゃん的なとこあるけど…」
瑠璃は、激しく首を横に振る。
「あの人の視線…。絡みつく様な…纏わり着く様な…」
「どういうこと?」
「何だか…視線で身体中を触られてるみたいな…そんな感じ…」
とても恥ずかしそうに、瑠璃は顔を赤くした。
5281投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時07分08秒
「う〜ん…。たしかにあの人、瑠璃のこと、可愛いって…いや、ギザかわゆすって、よく言うけど…」
言葉通り、受け取ってはいけない…と、いうことか?
「とにかくね…私、ちょっとあの人達に探りを入れようと思う…」
「ええ!?や、やめなよ!!」
千秋は、瑠璃の肩を掴んで叫んだ。
「僕達『らりるれろ探偵団』は、動物専門の探偵だろ?そんな、本物の探偵みたいな…」
「私は、『らりるれろ探偵団』として動くんじゃないの。『TTK』として動くんだよ!!」
「よ、余計、悪いよ!!」
「大丈夫!!一応、頭の悪そうな人に接触するから…」
「頭の悪そうな人…?」
「恵って人と…寛平って人…」
5282投稿者:リリー  投稿日:2008年11月26日(水)22時07分46秒
今日は、遅れて申し訳ありませんでした

では、おちます
5283投稿者: 投稿日:2008年11月26日(水)22時47分13秒

5284投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時48分22秒
今日は、早めに更新します
5285投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時49分59秒
「本当に、いつも申し訳ないなぁ…。お客さんにこんなこと…」
「いいです!!いいです!!私、身体を動かしてないと、調子狂っちゃうから…」
ハセヤンズハウスの裏庭…ハセヤンの息子の大樹と、『TDD』の秋山恵が、二人で薪を割っている。
恵が手伝うようになってから、薪割りは恐ろしいほどのハイペースで片付いていく。
「だったら、ほら、八ヶ岳のスキー場に行かれたらどうです?」
「え…?い、いや…私、スキーとか、やったことないですし…」
「だったら、僕が教えてあげましょうか?」
「…へ…?」
大樹の申し出に、恵は一瞬固まった。
「ほら…あの…薪割りとか…手伝って頂いた御礼に…」
自分から言い出したことなのだが、大樹も恵同様にぎこちない態度になる。
「で、でも…私達…その…ここを…動けないから…」
「それは、お仕事で?」
「は、はい…。ほ、本社からの連絡待ちというか…。ですから…その…スキーのお誘いは大変嬉しいんですけど…」
恵は、そのガッチリとした身体を縮めてモジモジする。
「そうですか…。それは、残念だなぁ…」
大樹は、照れ笑いをしながら、バツの悪そうな顔をした。
5286投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時50分11秒
「で、でも…!!し、仕事が終わったら…是非…」
「そうですね。お仕事、上手くいくといいですね」
「は、はい…。で、では…この薪…炭焼き小屋に運びますね…」
薪が山程積まれたリヤカーを、恵は引っ張っていく。
何やら慌てた、覚束ない足取りで…。
5287投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時50分37秒
「うふふ…」
裏庭から出た所で、瑠璃が微笑みながら恵を眺めている。
「む…?な、何だよ?このガキ…。ニヤニヤしやがって…!!」
苦々しい顔で睨む恵に、瑠璃は目を輝かせた。
「あ…!!大樹さんと二人でいる時と、キャラが違う!!」
「う、うるせぇな!!あっち行ってろ!!」
恵は、雪で車輪が埋まっているのだが、驚異的なスピードで、リヤカーを引っ張っていく。
瑠璃は、駆け足で恵を追う。
「ねえ…。大樹さんからスキー誘われたのに、何で断っちゃったの?」
「う…。き、聞いてたのかよ!?」
こんな子供の気配に気がつかなかった…?
大樹とのお喋りで、はしゃいでいたからか?
緊張感を、別のことに使っていた為か?
やはり、自分には恋など似合わないのか…?
しかし、それは瑠璃も『TTK』仕込みの偵察術で、気配を消していたのだが…。
「ねぇ、何で?」
「うるせぇな!!仕事だよ!!大人は、忙しいんだ!!」
「忙しい?確かに働いてるのは、恵さんだけだけど…。他の人は、ゴロゴロ、ウダウダしてるよ?」
「だ、だから…連絡待ちだよ!!本社からの命令で、私達は動くんだ!!」
「連絡?命令…?社長さんも一緒にいるじゃん…。何で、本社の命令がいるの?」
「う…。だ、だから…大人の会社は、そう、単純じゃねぇんだよ!!もう、いいだろ?あっち行けよ!!」
5288投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時51分14秒
それでも尚、瑠璃は、恵に喰らい着いていく。
「ねぇ、お仕事って何のお仕事?」
「あん!?だから、リゾート開発の仕事だよ!!」
「だから、どんなお仕事なの?」
「あ…ああん?」
確かに…どんな仕事をするのか、想像がつかない…。
恵は、サラリーマンなどという職業のことを考えたことが一度もないからだ。
「つ、つまり…遊園地とか…テーマパークとか…そういうのを造る仕事なんじゃねぇの?」
「遊園地?テーマパーク!?原村にできるの?」
「だ、だから、調査中だって言ってんだろ?」
「その、本社から連絡があったら、ここに遊園地が出来るの?」
「だから、調査って言ってんだろ?頭の悪いガキだな!!」
もう、恵は瑠璃の方をチラリとも見ない。
5289投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時51分25秒
「早く、連絡があるといいね」
「………」
恵は、もう何も答えない。
「仕事が済んだら、大樹さんとスキーだね」
「…んなこと…できるかよ…。所詮、私は…」
小声で、恵は吐き捨てた。
「え?」
「何でもねぇよ!!」
恵は、もう駆け足でリヤカーを引っ張って炭焼き小屋へと急いだ。
5290投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時51分46秒
瑠璃は、そんな恵の背中を見送って呟く。
「あの人…何か隠してる…」
恵の言い訳は、終始不自然さを拭えなかった。
「つまり…ウソをついている…」
これでは、元『TTK』でなくても勘付くことができるだろう。
「ウソがヘタな人だね…。本当は悪い人じゃないんだろうな…」
しかし、あの楠本や理沙、翔子など、一筋縄でいかない連中も仲間なのだ。
「あの人、間違いなく大樹さんに恋してる…。で、大樹さんも、まんざらでもなさそう…」
複雑な気持ちで、裏庭を見る瑠璃。
一人で黙々と、大樹が薪を割っている。
「でも…この恋は実る事はないんだろうなぁ…」
恵がウソをついていることは、もうわかった。
あと、もう一人の『頭の悪そうな人物』…社長を名乗る、寛平という老人に話しを聞く。
「あの人、たぶん一番年上だから『社長』の役を押し付けられてるんだ…。恵さん以上にボロを出しそう…」
瑠璃は、いつも寛平が暇を持て余している場所…ロビーのテレビ前のソファー…へと、急いだ。
5291投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時52分08秒
瑠璃の予想通り、寛平はロビーのソファーでくつろいでいた。
しかし、寛平はテレビを見ていることは稀だった。
その殆どの時間を、カード遊びに費やしている。
そのカードも、トランプではなく、何やら様々な神秘的な絵が描かれた物だ。
寛平がそのカードで何をしているのか、瑠璃には見当もつかない。
瑠璃は、寛平の前のソファーに、チョコンと座った。
「…?どしたの?お嬢ちゃん…?たしか…」
「瑠璃だよ」
「そやそや、瑠璃ちゃんや。どないしたの?」
もう一度、尋ねる寛平。
「うん。何をしてるのかなぁ〜…て…」
そう言いながら、瑠璃はテーブルの上のカードを眺める。
「これ?タロットカード言うて…おいちゃんの商売道具や」
「商売?リゾート開発で、そのカードを使うの?」
寛平は、一瞬宙を見詰めた。
「ああ…。そやった…。ワシは今、リゾート会社の社長ということやった…」
「…へ…?」
こうも、あっさりとウソがバレるとは…。
瑠璃は拍子抜けしてしまった。
5292投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時52分31秒
「違うの?」
「うん。ちゃうよ。でも、コレを使えば、いろんなお仕事の助けになるんや…」
「コレ、何…?何か…怖い絵が描いてある…」
丁度、瑠璃の目の前に置かれているカードは、『死神』と『悪魔』…。
「ああ…。怖い、怖い…。特に、このカードは怖いで…」
寛平は、『悪魔』のカードを裏返しにした。
「で、コレ、何に使うの?」
「うん?占いや」
「占い?」
つまり…この、寛平という老人は、本当は占い師…?
「占い、興味あるん?」
寛平は、小さな目を更に細めて瑠璃に語りかける。
「うん!!」
瑠璃は、目を輝かせて元気よく答える。
この言葉には、ウソはない。
「瑠璃はね、3月6日生まれの魚座で、血液型は…」
「ああ、要らん、要らん!!そんなのは、要らんねん…」
「え…?」
「生年月日や血液型で、運命なんて決まらん…。運命っていうのはな、絶えず流れている川の水みたいなもんや…。今、この時しかない運命を、ワシは掬い上げて読み取んねん…」
「ふ〜ん…」
瑠璃には、寛平の言っている意味がよくわからない。
5293投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時52分56秒
「占ってあげよか?瑠璃ちゃん…」
「そのカードで?どうやって…?」
「うん。ただ、一枚カードを引けばええ。それが、瑠璃ちゃんの今後の運命や…」
「運命…?たったそれだけで…?」
瑠璃は、途端に不安な顔をする。
「でも…さっきのガイコツみたいなカードが出たら、どうしよう…」
「ん?心配は要らんよ。悪い結果になったとしても、その運命を避けるアドバイスを教えたるわ…」
「へぇ〜…。じゃあ、やってみようかな…」
段々、興味が湧いてきた。
それに寛平のウソを、もう少し暴かなくてはならないし…。
こういう何気ない会話の中で、何か真実を掴めるものなのだ。
「はい…。じゃ、好きなの引いて…」
寛平は、合計22枚のカードを裏向きにして、瑠璃に提示する。
瑠璃は、何度か迷った挙句、一枚のカードを選んだ。
「ん?コレやな?」
寛平は、瑠璃の前にカードを置く。
それは、白い鬚を蓄えた魔法使いの様な老人が、杖を着き、ランタンを掲げている… ?・L'Hermite…『隠者』のカードだった。
5294投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時53分21秒
瑠璃は、首を傾げながら、そのカードを眺める。
「…?これが瑠璃の運命…?おじいちゃんの絵が描いてあるんだけど…」
「これはな…『ハーミット』…隠者のカードや…」
「忍者?手裏剣とか投げる?」
「隠者や。『い・ん・じ・ゃ』!!隠れる者と書くんや…」
「隠れる…者…?」
「ま、わかりやすく言うと、『仙人』やな…。瑠璃ちゃん…あんた…今まで、何かに隠れながら…何かを隠しながら、暮らしてきてへん?」
ギクリ…と、瑠璃は一瞬表情を硬くする。
しかし、それが悟られてはまずいと、すぐに笑顔に戻す。
「え〜?瑠璃が隠し事…?ない、ない…。ないよ〜…」
瑠璃は、顔の前でブンブンと手を振った。
「ん?ない、ない…」
寛平も、瑠璃同様に手を振った。
「え?」
「ワシの占いが外れることは…ないで…」
「………」
どうして、この老人は、人の人生をこうまで確信をもって断定できるのだろう…。
瑠璃は、何やら胸騒ぎを感じる。
5295投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時53分46秒
「ま、ええわ…。過去のことは…。大事なんは、未来のことやな…」
「…はい…」
瑠璃は、少し後悔しかけていた。
この老人は組みやすい…そう感じていた、自分は愚かだったと…。
寛平という男…あの楠本以上に、油断がならない雰囲気をかもし出している。
それに気がつかなかったとは…やはり、自分は『戦士』の器ではなかったのか…。
寛平は、そんな瑠璃の内心を知ってか知らずか、占いの解読にかかる。
「このカードの意味はな…『他人を導く』…や…」
「…?導く?」
「あんたは…これから、悩んでいる人…苦しんでいる人…傷ついている人を…正しい方へ導くんや…」
「…ど、どういうこと…ですか…?」
「つまりな…。君が人を助けんねん…」
「人を助ける?私が…?」
瑠璃には、そう言われてもピンと来ない。
「君の役目は…大きいで…。いや…重い…」
「お、重い…?」
「君は…もしかしたら…死ぬ運命の人を…救い出せるかもしれんな…」
「ええ…!?」
人を死から救い出す…?
何と言う、重大な責任…!!
5296投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時54分09秒
「『ライト』…」
「…え?」
「君、『ライト』…『光』に関係してへん?」
寛平は、カードの老人が掲げているランタンを指差した。
「『ライト』…?『光』…?」
少し考えあぐね、瑠璃は思わず、あ…と声をあげた。
『エレクトロニクス・ライト・オーケストラ/ELO』………『電光楽団』………!!
モニークが、自分につけてくれた、『TTK』のコードネーム…!!
瑠璃は、背筋が寒くなった。
「おそらく…『光』は、君の力…。そやろ?」
自分の武器は…電気工学を応用した、様々な武器…。
それで、人を救う…?
それは、人を傷つける物のはず…。
今年の夏、それで羅夢を拷問し、千秋の心臓を一瞬停止させ、モニークに反旗を翻した…。
「断言する…。君は『光』で、誰かを『救う』んや…」
寛平は、ニッコリと微笑んだ。
「あ…ありがとう…ございました…」
瑠璃は汗をいっぱい掻きながら、寛平に頭を下げると、一目散に自分の部屋へと走って行った。
彼等を…『TDD』を探ろうなどと…愚かなことだったと…痛切に感じながら…。
そして…その後…30分程経った頃であろうか…。
松尾瑠璃は…ここ、ハセヤンズハウスから…忽然と姿を消した…。
5297投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時54分56秒
瑠璃がいなくなったことで、ハセヤンも大樹も千秋も、他の従業員も大騒ぎになった。
今年の夏にも、瑠璃が姿を消す事件があった。
そして、再び瑠璃が失踪したのだ。
夏の事件は、瑠璃が自ら姿を消したのだが…今回は、どうなのか?
瑠璃は、寒気がすると言い、露天風呂の方へ向かったことを、千秋が証言した。
チェックイン前の、午前中にしか、従業員は露天風呂に入れないのだ。
脱衣場には瑠璃の脱いだ衣服がそのまま残されていた。
つまり、瑠璃は…裸のまま…雪の積もった真冬の原村の中…姿を消したのだ…。
自分の意思で姿を消したとは、思えない…。
5298投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時55分11秒
すると、慌てふためくハセヤン達の前に、寛平達7人が、ズラリと勢揃いした。
「…?あ、あの…。何でしょう…?」
ハセヤンが、戸惑いながらも寛平に聞く。
宿帳に『津坂満』と記名した、シンパンマンが落ち着き払った態度で申し出た。
「そちらのお嬢さん…瑠璃さんの行方…我々が探し出してごらんに入れましょうか?」
「…え…?」
ハセヤンも大樹も、彼が何を言っているのか理解できなかった。
「い…いえ…。確かに、瑠璃のことは心配ですが…お客さんに、そんなこと…」
ハセヤンの言葉を遮って、シンパンマンは名刺を出す。
「実は、私ども…リゾート開発業者というのは、仮の姿…」
差し出された名刺を見る。
『私立探偵社Tarot・Detective・Department』
「は…はぁ…?た、探偵…?」
ハセヤンも、大樹も、目を点にして寛平達を見詰めた。
5299投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時55分52秒
寛平達は、身分を明かした。
凶悪な人身売買組織の手掛かりを追って、この原村に来たと言うことだ。
おそらく、瑠璃はその組織の者達にさらわれた…と、寛平達は言う。
その犯人を突き止める為、このペンションを離れずに監視していたのだ…と。
「で…でも…何故、このペンションに犯人が現れると…?」
「いえ…。この原村中のペンション、民宿に、我が探偵社の者達が監視をしていたのです。ですが、このペンションに犯人の一人が泊まっていたという情報から、社長を含め、一番多くの人員を配したのです」
そして、シンパンマンは、眉間にシワを寄せる。
「おそらく…露天風呂の外から、瑠璃ちゃんが一人になるのを狙っていたんでしょうね…」
「と、とにかく…瑠璃を無事に取り返して下さい!!」
ハセヤンは、シンパンマンのグレーの高級スーツを強く掴んで頼み込んだ。
「け、警察にも、早く連絡しなければ…」
大樹は、電話へ駆け寄った。
「警察の方には、既に応援を要請しました…。我々の方でね…」
楠本が、電話の前に立ち塞がった。
「ま、ワシ等に任せて間違いはないで…。心配せんでええ…とは、無理な話しやけど…。まあ…明日…初日の出が昇る頃には、瑠璃ちゃんを連れて帰ってくるわ…」
寛平は、腰を叩きながら表に向かう。
他の者達も、寛平に続く。
5300投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時56分12秒
「恵さん…」
大樹が、恵に呼び掛ける。
恵は、歩みを止めて大樹を見詰める。
「瑠璃を…瑠璃を頼みます…」
「…はい…。必ず…無事に、返してみせます…」
恵は、言葉に詰まりながらもそう言うと、足早にハセヤンズハウスを後にした。
5301投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時56分34秒
千秋は、自室をせわしなく歩き回っている。
もちろん、さらわれた瑠璃を心配する余りの行為だ。
「瑠璃…今回は、一体どうしたんだよ…。夏の時も、同じ様に姿を消して…」
その瞬間、千秋は、あっと大きな声をあげる。
「あ、あの時は、モニーク先生が瑠璃を連れ去ったんだった…。も、もしかしたら…」
千秋は、本棚に飾られた写真立てに目をやる。
そこには、瑠璃と千秋、そしてモニーク・ローズの三人で写った写真が飾られている。
「モニーク先生が…ここ、原村に戻って来た…?」
写真の中の、瑠璃とモニークを交互に見る。
「そして…瑠璃を…再び連れ去った…?」
でも、何故?
あの時、モニークは瑠璃と永遠の決別を宣言したはずだ…。
やはり、『TTK』の復活を、諦めていないのか…?
5302投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時56分54秒
千秋は、いても経ってもいられなくなった。
『TDD』という連中、探偵だという話しだが…。
「そうだ!!探偵と言えば…『R&G』…!!」
梨生奈は、まだ怪我が癒えていない状態だと言う…。
ならば、ダーブロウ有紗なら…彼女なら、何とかしてくれるかもしれない…!!
千秋は、懐から携帯を出した。
しかし、その時、千秋の電話のコールが鳴った。
「非通知…?」
もしかしたら、モニークかもしれないと…深呼吸を一つつき、気持ちを落ち着かせて電話に出る。
「もしもし…」
恐る恐る、千秋は電話口に話しかける。
〔千秋君…?私…〕
「り、梨生奈ちゃん!?」
電話から聞こえたのは…懐かしい…かつて自分と恋をした…『R&G』の探偵…そして『TTK』での瑠璃の先輩、木内梨生奈だった。
〔し…!!千秋君、私の名前は言わないで!!〕
「…!!」
千秋は、咄嗟に口を押さえた。
5303投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時57分14秒
〔側に…誰もいない…?〕
「いないよ…」
〔そう…。ならば…私は、千秋君に報告しなければならないことがあるわ…〕
「な、何…?」
〔瑠璃が…行方不明になったでしょう…?〕
「ど、どうして、それを知ってるの!?」
〔ビックリしないでね…。そして安心して…。実は…〕
「…え…?」
〔私達なの…。瑠璃を、さらったのは…〕

(『九回・表』・・・終了)
5304投稿者:リリー  投稿日:2008年11月27日(木)19時57分58秒
次回から『九回・裏』ですが、明日は用事で更新できません
今日は、少し多めに更新しました

では、おちます
5305投稿者:梨生奈は本物?  投稿日:2008年11月27日(木)21時43分04秒
本物だとして瑠璃をさらったのは……一時保護?
それなら千秋の方が必要じゃ?www
5306投稿者:今更だけど  投稿日:2008年11月27日(木)22時02分06秒
恵さんがいいキャラだw
5307投稿者: 投稿日:2008年11月27日(木)22時11分38秒

5308投稿者:>5306同感  投稿日:2008年11月27日(木)23時31分58秒
今までの悪事(歌舞伎町の中国人虐殺&加藤組組員虐殺&ありりんへの拷問)を忘れてしまうくらいw
5309投稿者:あげ  投稿日:2008年11月28日(金)23時09分56秒

5310投稿者:あげ  投稿日:2008年11月29日(土)15時54分56秒
    
5311投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時23分45秒
5305さん
梨生奈は本物です
つまり、瑠璃は『R&G』と合流したことになります
その理由や詳細は、『九回・裏』で明かされます

5306さん、5308さん
恋って人を変わらせるものだと思います
でも、恵さんの変化は激しすぎますが…
『TDD』の女性陣の中では、一番男に弱いタイプだと思います

あげ、ありがとうごさいます

今日から『九回・裏』です
では、更新します
5312投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時24分29秒
『九回・裏』
≪2007年12/31(月)≫

山中にある、廃校…。
『R&G』のアジトであり、『TDD』との最終決戦の地…。
加藤夏希は、体育館の屋根に登って何やら大掛かりな作業を、一人で黙々とこなしている。
そして、灰色に濁った空を見上げる。
雪が、チラチラと舞い落ちている。
「………よし………!!」
夏希は、力強く頷いた。
「おそらく…この雪は…今日の夜までには止む…」
そう、確信する。
今夜…除夜の鐘と共に、『TDD』と決戦に入る。
いよいよ、最終決戦…。
5313投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時25分11秒
夏希が、今日まで決戦の日を延ばしていた理由は、二つある。
一つは、寛平を倒す為の仕掛けを造る、時間稼ぎ…。
寛平は、人の気配を察知する能力を持っていない。
人の気配を察知する…動物に例えるのなら、耳の長いウサギ、視野の広いウマ…。
そう…気配に敏感ということは、野生の世界では弱者の証しなのだ。
ライオンや虎は、そんなことは気にしない。
だから、それが寛平の最強たる所以…。
しかし…。
「ふふ…。動物の世界はそれで通用するかもね…。でも…私達は人間よ…?」
寛平のその強さの証しを…夏希は徹底的に突く…!!
この仕掛けは、まさに寛平を倒す、要となる重要な物なのだ。
5314投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時25分24秒
そして、今日まで決戦を延ばした、もう一つの理由…。
この雪だ。
天気予報と空を読む勘を総動員し、雪の降り止む日の特定をしていたのだ。
そして、自分の予想通り、今夜には雪は止む。
いや、雪が止んだら、できるだけ早く寛平と、ここ、体育館で戦わなくてはならない。
その、寛平を倒す仕掛けと、おおいに関わりのあることだからだ。
つまり…雪がまた振り出せば…寛平を倒す計画は破綻する。
「まったく…。何で、長野なんかに財産を隠すのよ…」
できれば、他の地で…雪の振らない場所で戦いたかったが…仕方がない。
『難田門司の隠し財産』は、自分達が有利に戦いを進める為に、絶対に必要な物だったし、この山中の廃校も、最終決戦にうってつけの場所だからだ。
それに…雪の季節をやり過ごすなどと…悠長なことは言ってられない。
5315投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時25分56秒
夏希は、梨生奈に電話を入れる。
〔こちら『ムーン・ライト』(梨生奈)。どうしたの?『デーモン・ハート』(夏希)………もしかして、『マッド・エッジ』(ダーブロウ有紗)が!?〕
「違うわよ。勝手に都合のいい想像をしないで…。今夜…除夜の鐘と同時に『TDD』と決戦に入るから…」
〔………!!〕
他のメンバーも、地獄耳で聞いているのだろう…ざわつく声が聞こえる。
〔い…いよいよね…〕
「ええ…。いよいよよ…」
〔私達の方は、3チーム結成したわ。その内の一つは私や『アンダー・クイーン』(中村有沙)の様に、戦えない者や非戦闘員を守る為の守備防衛専門の『チームG』。残りの2チームは、遊軍として攻撃参加させるけど…〕
「その、『チームG』って、メンバーは誰?」
〔『クリムゾン・レイン』(七世)と『ダブル・フィッシャーマンズ・ノット』(俵姉妹)の三人よ〕
「後の2チームは?」
〔『ブラック・パイソン』(ジョアン)と『サムライ・ガール』(ちひろ)の『チームS』。『キラー・タイガー』(七海)と『ライトニング・ボルト』(羅夢)の『チームB』よ〕
夏希は、そのメンバー構成に軽く舌打ちをした。
5316投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時26分20秒
「マジ?『キラー・タイガー』と『ライトニング・ボルト』を組ませたの?そんなに人材がいないんだ…」
〔それぞれのパートナーである、私や『アンダー・クイーン』が動けないからね…。仕方がないのよ…〕
「『キラー・タイガー』には、『クリムゾン・レイン』がいるでしょ?」
〔『クリムゾン・レイン』は、その戦闘スタイルから、『ダブル・フィッシャーマンズ・ノット』と組ませて、防衛線を張らせた方が有用なのよ〕
夏希は、苛立ち混じりの溜息をつく。
「『チームS』………結成して、間もないんじゃない?」
〔ええ…。1年にも満たないわ…〕
「『チームB』………ねぇ…それって、『チームBAKA』って意味?」
遠くの方で、七海と羅夢の怒声が響いている。
どうやら、二人にも聞こえたらしい。
5317投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時26分43秒
それに構うことなく、夏希は言葉を続ける。
「おそらく、戦力として計算できるのは『チームG』だけね…。その『チームS』と『チームBAKA』も、守り専門にしないさいよ」
〔え?〕
「中途半端なチームをぶつけて無駄死にさせることはないわ。7人1チームで防衛線を張れば、楠本でも理沙でも簡単には破れないでしょうから…。それで、私が寛平を倒すまでの時間稼ぎをして。寛平を殺したら、すぐに駆けつけるわ」
七海、羅夢の怒声に、ジョアンのものも混じった。
夏希は、ふんっと鼻で笑うだけだった。
七海、羅夢、ジョアンが喚き散らしているのを、梨生奈がゆっくりとなだめて落ち着かせる。
そして、再び電話で夏希に伝える。
〔ねぇ…。『デーモン・ハート』…。余計な進言は控えてくれない?リーダーの座を蹴って私に押し付けたのは、あなたでしょ?〕
「何ですって?」
〔私は、絶大な信頼を元に、このチームを結成したの。誰も死なせない、リーダーとしての責任を持って…。無責任な言葉で、無意味な混乱を招かないで。迷惑だから…〕
「ふふん…。何よ?結局、私にリーダーを代わってもらいたいの?」
〔違うわよ…。おそらく、あなたにリーダーは無理…〕
「は…?」
〔みんな、あなたの命令なんか、聞かないわよ…。あなたに命を預けようなんて誰一人思わない…。だから、あなたが私達を『頼りにならない』と思うように、私達もあなたを『便りになんかしない』…〕
「…へぇ…。そう…」
夏希は、努めて冷静に取り繕ってはいるが…携帯電話を握る手が震えている。
〔それに…あなたが寛平にやられてしまえば…元も子もなくなるわけだし…〕
「ふざけんな!!てめぇ!!寛平をぶっ殺す前に、てめぇを血祭りにするぞ!!」
とうとう、夏希の怒りのメーターが降りきれた。
5318投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時27分12秒
〔ぎゃははは!!夏希のヤツ、キレよった!!〕
〔へん!!散々、アタイ等をバカにしやがったくせによ!!〕
〔いいぜ、梨生奈!!もっと言ってやれ!!〕
遠くで、七海と羅夢とジョアンが爆笑している。
「ち…!!」
夏希は、苦々しく顔を歪ませる。
それでも、梨生奈は構わず喋り続ける。
〔あと…あなたが死ぬのは構わないけど…『キャンディー・ボール』(エマ)と『ビー・アタック』(エリー)の『チームE』だけは、無事に私達の所に返して〕
「ああん!?」
〔あなたにとって二人は、寛平を倒す為の『道具』かもしれないけど、私達にとっては、かけがえのない『仲間』なんだから…〕
「かけがえのない『仲間』…?ふん!!何よ、それ?やめてよ!!鳥肌が立つ言葉ね!!」
〔ねぇ!!約束しなさいよ!!〕
今度は、梨生奈が感情的になった。
「わかったわ…。もし、『チームE』を壊しちゃったら賠償金を払ってあげる。そちらの言い値でいいわ」
〔賠償金!?ふざけないで!!二人を…〕
プツリと、夏希は電話を切った。
「ふぅ…。悪いけど…これ以上、お喋りはできないわ…」
夏希は、暗く沈んだ目で携帯電話を見詰める。
「ほんと…思わず殺してしまいそうだもの…。小生意気なクソガキども…!!」
5319投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時27分40秒
宿直室…加藤夏希の父、加藤浩次と、加藤夏希の妹、加藤ジーナは、二人でコタツに入っていた。
ジーナの声しか聞こえない。
元加藤組組長は、寝転んで狸寝入りを決め込んでいる。
「それでね、ジーナはその時、何て言ったと思う?ジーナはね、こう言ってやったの…」
自分で聞いておきながら、一秒にも満たないで正解を話し始めるジーナ…。
どうやら、会話と言うよりも、とにかく自分がしゃべっていたいだけなのかもしれない。
しかし、それも無理からぬ事…。
加藤には、自分の娘…ジーナとお喋りを楽しもうという気がまったくないのだ。
気まずい沈黙の間…ジーナは、それを恐れている。
それに、ジーナが話す内容は、イギリスで母親と暮らしていた時のものだけだ。
『TTK』のことは、話したがらない。
母親と暮らした幸せな期間は短かったので、そろそろ話しのネタも尽き始めた。
5320投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時27分59秒
「今度は、ダディの話しを聞かせて下さいよ〜」
寝転んでいる加藤を、ジーナは揺り動かす。
加藤は、面倒臭そうに怒鳴り声をあげる。
「話すことなんて、何もねぇよ!!」
「そんなこと、言わないでさぁ〜」
「ヤクザの時の話しなんか聞いても、しょうがねぇだろ!!」
「ううん!!ヤクザの時の話しでも、ジーナ、聞きたい!!ダディのこと、何でも知りたいの!!」
「なら、おめぇ、『TTK』の頃の話しを聞かせろや…」
「う…」
ジーナは、ようやく押し黙った。
5321投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時28分21秒
「な?話したくねぇだろ?そういうことだよ!!わかったら、少しは大人しくしてろ!!」
加藤は、再びジーナから顔を逸らすと、そのまま目を瞑った。
しばらくの沈黙の後、ジーナの呟く声…。
「…そうか…。ダディのヤクザ時代は、ジーナの『TTK』時代と同じなんだ…」
「…あ?」
「楽しくなかったんだね…。寂しかったんだね…」
「な、何を言ってんだよ…」
再び、加藤はジーナに目を向ける。
「…!?」
ジーナの大きな目から…涙が零れていた…。
「な…何、泣いてんだ…?気持ち悪ぃな…」
加藤は、おおいに戸惑った。
人が泣く時は、圧倒的な恐怖を感じた時だけだと、今までのヤクザでの経験上、そう思いこんでいたからだ。
5322投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時28分40秒
「でも…今は、幸せだよね?こうして…家族ができたんだもん…。ジーナ…ダディに会えて…とても幸せだよ…」
「………」
加藤は、何も言葉を返すことができなかった。
「ねぇ、ダディ…。ダディは、生まれた時からヤクザじゃなかったんでしょ?ジーナくらいの歳の頃、ダディはどんな子だったの?」
「…俺の…ガキの頃…?」
そう言えば…加藤の人生からヤクザの時代を差っ引けば…もう、サッカーボールを追い駆けていた記憶しかない。
ジーナと同じ歳…10歳の頃…初めて、本格的にサッカーを始めた歳だ…。
あの頃は楽しかった…。
怒りっぽくて、ケンカばかりしてた自分に…初めて友達ができたキッカケが、サッカーだったのだ。
しかし、加藤の口から出た言葉は、その記憶とは全く違うものだった。
「俺は、ガキの頃からヤクザだ!!それ以外の生き方なんかねぇし、ヤクザの時が幸せだったんだよ!!」
加藤は、コタツ布団を頭から被って、娘との会話を放棄してしまった。
5323投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時29分00秒
宿直室のドアが、ノックされた。
「あ…はい…。どうぞ…」
ジーナは、慌てて涙を拭いた。
「私だ。ちひろだ…。入るぞ」
その言葉の後、ドアが開かれる。
「ちひろさん?どうしたんですか?」
ちひろは、ジロリと加藤を一瞥した後、ジーナの方を向く。
「悪いが…また、有沙が呼んでいる…。保健室まで行ってやってくれるか?」
「また、針治療ですか?無駄ですよ…。とにかく、筋弛緩剤の効き目が無くならないうちには…」
「いや…。今度は、何か聞きたいことがあるそうだ。相談に乗ってやってくれるか?」
「相談…?何だろう…」
ジーナは、ゆっくりとコタツから出ると、学校用の茶色の安物スリッパを履いて宿直室から出ようとする。
「じゃあ、ダディ…。また、後でね」
加藤は、背中を向けたまま、ジーナの言葉に答えようとしない。
ジーナは寂しそうな笑顔をつくり、保健室に向かった。
「おい…」
ジーナが去ってから、ちひろは加藤に声を掛ける。
5324投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時29分23秒
「あん…?何だ?ガキ…」
眉間にシワを寄せ、完全にヤクザ者の目付きで、ちひろを睨む加藤。
「最低限の…父親の役目くらい、果たしたらどうだ…?」
「何だと!?」
加藤は、ゆっくりとコタツから起き上がる。
「私の父親は…警察官だった…」
「…!?」
警察官と聞いた途端、加藤の目付きが益々険しくなった。
「仕事第一でな…。遊んでもらった記憶とかは、あまりない…」
「仕事第一の警察官?へへ!!俺にとっちゃ、最大の敵だぜ!!」
加藤の茶化した言葉を無視し、ちひろは話し続ける。
「警察を辞めて…『R&G探偵社』を立ち上げてから、益々忙しくなった…。でも…」
「でも?何だよ?」
「私と父は、剣道でつながっていた」
「剣道?」
「私の父は…剣道を通して、私に様々なことを教えてくれた…。剣道が、私にとって勉強であり、父親との遊びだった…」
「何が言いてぇんだよ?」
「おまえは、ヤクザだ…」
「あん!?」
「おまえは…私の父親の様に…自分の背中で、娘に人生を語ることはできない…」
5325投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時30分03秒
「てめぇ…」
加藤の目は、完全に殺気立っている。
「だから…。せめて、話しをしてやれ…」
ちひろの目は、加藤の視線に負けることなく、真っ直ぐに彼を見据えている。
「何だぁ…?」
「この戦い…必ず、我々が勝利を納める…」
ちひろの目には、断固たる決意が窺える。
「『R&G』とは、『Rescue&Guard』…。おまえも…おまえの娘、ジーナも…必ず私達が守る…」
「………」
加藤は黙ったまま、ちひろを睨む。
「だから…その後は…おまえが父親として、ジーナから逃げずに戦え!!」
「ふん…。ナメられたもんだな…。加藤組組長である、この俺もよ…」
加藤は、含み笑いをしながら、コタツに手を掛ける。
「ふざけたたこと、抜かしてんじゃねぇぞ!!小娘が!!」
加藤は、コタツを卓袱台返しのように思いっきり跳ね飛ばした。
5326投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時30分15秒
しかし、その加藤の鼻先に…ホウキの柄の先が突きつけられた。
「…う!?」
「ふざけているのは、おまえだ!!」
ちひろの怒号は、加藤のそれを上回った。
「…ぐ…!!」
加藤は、思わず気後れした。
「ジーナの思いを…おまえこそ、ナメるな…!!」
ちひろの目に…涙が光っていた。
5327投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時30分52秒
だが、ちひろは握っていたホウキを、パタリと床に落とす。
ちひろの腕に、一本の針が刺さっていた。
右手の握力が、まったくと言っていい程なくなっていた。
「…!?」
後ろを振り向くと…ジーナが厳しい目を向けて立っていた。
「ダディをいじめないで!!」
金切り声を、ジーナはあげた。
ちひろは、そんなジーナを優しい目で見詰める。
そして、右腕の針を抜いた。
右手を握ったり開いたりしてみる。
握力は、もとに戻ったようだ。
「ああ…。すまなかった…。許してくれ…」
5328投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時31分08秒
ジーナは、それでもちひろを睨み続ける。
「それから…ダディの背中も、立派です!!」
「ん?」
「キレイな、ニワトリさんの絵が描いてあるんです!!」
「ニワトリじゃ、ねぇよ!!鳳凰だ!!」
加藤がジーナを怒鳴る。
「ああ…。そうか…。それも、悪かったな…」
ちひろは、ジーナの頭を軽く撫でると、宿直室から出て行った。
「ダディ、大丈夫?」
ジーナは、まるで母親の様な目で、加藤を見詰めた。
5329投稿者:リリー  投稿日:2008年11月29日(土)20時31分47秒
これは、まだ瑠璃が『R&G』に合流する前の段階です

では、おちます
5330投稿者:117  投稿日:2008年11月29日(土)21時26分03秒
延長戦決定ですか!でも、最後までしっかり付き合いますよ。
これまた久々の閲覧になりましたが・・・元TTKの瑠璃の独自捜査。
手掛かりを得たり、逆に追いこまれたり。そして、姿を消した・・・
一方で、夏希とR&Gの関係は大丈夫なのかと一瞬心配になります(苦笑)。続きも楽しみです!
5331投稿者: 投稿日:2008年11月29日(土)21時55分58秒

5332投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時45分19秒
117さん
お久しぶりです
瑠璃の件に関しては、今夜中にわかるとおもいます
夏希と仲が悪いおかげで、七海と羅夢がケンカするヒマがない状況で、悪いことばかりではないんですね

では、更新します
5333投稿者:うんこ  投稿日:2008年11月30日(日)20時46分39秒
おちんちん
5334投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時46分42秒
保健室…ジーナは、中村有沙と面会をする。
「すまなかったな…。掛けてくれ…」
ジーナは、中村有沙に勧められるまま、パイプ椅子に腰掛けた。
「今日は、針治療ではないんですか?」
「ああ…。聞きたいことがある」
「何ですか?」
中村有沙は、黙ってジーナを見詰める。
「あの…?」
いつまで経っても話しを始めないので、ジーナはしびれを切らした。
「ジーナ…。私の足に、針を打て」
「何だ…やっぱり、針治療じゃん。だから、無駄だってば…」
「いいから、打ってくれ…」
ジーナは、何も言わずに懐から太い針を出すと、中村有沙の太腿に打った。
やはり、ピクリとも足は動かない。
「これは…私の神経まで達しているのだな?」
「はい。でも、全然感じないでしょ?」
「それは、神経が働いてないからだな?」
「はい」
「ならば…神経を無理矢理働かせることは可能か?」
「…?ですから…その神経が働かないんですよ…。何度も言ってるじゃないですか」
筋弛緩剤が頭にも回ってしまったのか…と、ジーナはふと思った。
5335投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時47分34秒
「だから、その働かない神経を、無理矢理働かせるということだ」
「無理ですよ!!ジーナの針治療は…」
「貴様だけでは、無理だろうな…。だが、もう一人いれば…」
「もう一人?」
中村有沙は、今、自分の考えをジーナに打ち明けた。
その考えを聞いたジーナは、その大きな目を更に大きく広げた。
「む…無理です…!!いえ、無茶です!!そ、そんなこと…!!」
「しかし、理論的には可能であろう?その神経が蘇れば、貴様の針治療は有効になる…。違うか?」
「だけど…その方法は、とても難しいですよ!?専門家の技術がないと…」
「専門家ならいる…」
「え?」
「この原村に…いるんだ…」
「この…原村に…?」
5336投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時47分46秒
「もう一度聞く…。私の考え…理論的に可能だな…?」
「…不可能では…ありません…」
中村有沙は目を瞑って、一つ息をつく。
「わかった。私を、音楽室へ…皆の所に連れて行ってくれ…」
しかし、ジーナは不安げな表情で語り掛ける。
「ねぇ…。有沙さん…。何が、あなたをそこまでさせるの…?」
「ん?貴様の姉だ」
「お姉ちゃん…?」
「夏希が、あまりにも私達にナメたことを言うのでな…」
5337投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時48分35秒
音楽室…中村有沙は梨生奈にも、先ほど保健室でジーナに話した、ある考えを聞かせた。
梨生奈の反応は、ジーナと同じだった。
「無理」、「無茶」、それに加えて、「無謀」だとも…。
中村有沙は、冷たい視線で梨生奈を見詰め、言った。
「『無理』?『無茶』?『無謀』?…ならば、貴様はこれだけの戦力で『TDD』と相対することを、『無謀』だと思わないのか?」
「…う…」
そう…夏希と『チームE』の三人は、寛平一人に掛かりきりになってしまう。
そして、七世と俵姉妹の『チームG』は、守備専門…基本的には動かせない。
つまり、寛平以外の『TDD』のメンバーを、ちひろとジョアンの『チームS』と、七海と羅夢の『チームB』で戦うしかない。
『無謀』なのは、どちらも同じ…。
5338投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時48分47秒
「わかったわ…。ありりん…。あなたの考えに賭けてみる…」
そして、七海と羅夢の方を向く。
「『チームB』に指令を出す!!二人とも、今すぐ作戦を開始して!!」
七海にも、羅夢にも、緊張感が走る。
「ア、アタイ等が…?」
「そうよ…!!この任務で、あなた達が本当にチームとしてやっていけるかどうか…私に証明して見せて!!」
七海と羅夢は…お互いを見詰め…いや、睨み合う。
「『チームB』が、『チームBuddy』になれるか、それとも『チームBAKA』で終わるのか…これが分岐点だと思って事に当たってちょうだい!!」
「うおっしゃぁぁぁ!!」
梨生奈の言葉で、二人は気合の雄叫びをあげて音楽室を出て行った。
「梨生奈…。一応、『チームE』にも連絡をしておけ…」
中村有沙にそう言われ、梨生奈は頷いた。
「そうね…。エマもエリーも、『あそこ』にいるから…」
そう言って、彼女は携帯を取り出した。
5339投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時49分11秒
ハセヤンズハウスのロビー。
大画面フラットテレビの前のソファーで、瑠璃は寛平から占いをしてもらっていた。
「断言する…。君は『光』で、誰かを『救う』んや…」
寛平は、ニッコリと微笑んだ。
「あ…ありがとう…ございました…」
瑠璃は汗をいっぱい掻きながら、寛平に頭を下げると、一目散に自分の部屋へと走って行った。
その時、『TDD』の『デス(死神)』…箕輪はるかの真横を通り過ぎたが、瑠璃はそれに気がつかない。
ボスである寛平も、はるかには気がつかない。
はるかは、誰にも気付かれない…それが彼女の特技なのだ。
怪訝な表情で瑠璃の背中を眺めると、はるかは理沙のいる部屋へと向かった。
「…私達を探っている…?あの、ちびっ子が?」
爪の手入れをしながら、どうでもいいという風に理沙は、はるかの報告を聞いた。
「…もしかしたら…あの子、やっぱり『R&G』とつながってるんじゃないかな…?」
「つながってるとしても…どうってことないでしょ?探られて困ることもないんだし…」
「…それでね…ボスの占いで気になることがあるんだけど…」
「占い?ボスがあの子を占ったの?」
「…うん…。でね、どうやら、あの子がこの戦いのキーになるみたい…」
「どういうこと?」
ようやく理沙は、はるかに正対する。
5340投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時49分36秒
「…ボスの占いによると…あの子は、『死ぬ運命』にある者を、『光』の力で救い出すらしい…」
「救い出す?あの子が…?」
「…死ぬ運命にある者って…どう考えても、『R&G』のやつ等だよね?」
「当たり前じゃない。私達があいつ等なんかに負けるわけないもの…」
「…だったら…あの子を、『R&G』と接触させてしまったら…まずくない?」
理沙は、顎に手をあてて考え込む。
「う〜ん…。あの子の運命は、直接私達には関係がない…。当然、ボスにも…。でも、『R&G』の連中に影響があるのなら…」
理沙は、はるかを見る。
「危険ね…」
「…でしょ…?」
「だったら…戦いが終わるまで、どこかで大人しくしてもらおうかしら…。何も、殺すことはない…。ただ、どこかに監禁しておけばいいんだから…」
理沙は、椅子から立ち上がった。
「その、瑠璃って子、今、どこにいるの?」
「…このペンション内にいると思うけど…」
「あの子が一人になる時を狙うわ。それまで、あの子から目を離さないでね…」
「…さらうのは、私がやろうか…?」
じっと、理沙は考え込む。
「いや…私がやるわ…」
「…弥勒姉さんが…?」
「翔子じゃないけど…。私も、あの子を可愛いって思ってるのよ…」
理沙は、そう言うと、ぺロリと唇を舐めた。
5341投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時50分06秒
瑠璃は、しばらく自室で膝を抱えて震えていた。
あの、寛平の全てを看破したような目…。
今までの好々爺の印象から、ガラリと雰囲気が変わっていた。
あの目を思い出す度に、背中に寒気が走る。
しかし、占いの結果自体は、不吉なものではなかった。
でも…自分が『死ぬべき運命』の者を救う…?
『死ぬべき運命』の者とは、一体、誰だろう…?
そして、自分の使命は『重い』とまで言われた。
寒気を感じているのに、全身が汗で濡れている。
ふと、時計を見る。
午前9時45分。
あと15分でチェックイン。
従業員が、露天風呂に入れなくなる時間になる。
瑠璃は、今のうちに風呂に入っておこうと考える。
汗と寒気を、同時に抑える為に。
部屋を出た瑠璃は、風呂場へと急ぐ。
その時、廊下で、はるかの前を通り過ぎたのだが、瑠璃は当然、気がつかない。
はるかは、携帯電話を取り出して掛ける。
「…もしもし…弥勒姉さん…。あの子、今お風呂の方に向かったよ…」
5342投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時51分02秒
広い露天風呂に、瑠璃はちょこんと隅に縮こまるように浸かっている。
すっかり雪に覆われた八ヶ岳を望む。
(千秋君は、やめておけって言ってたけど…私も、もう、あの人達を探るのはやめよう…)
あの者達が、何の為にウソをついて、何をしようとしているのか…自分には関わりのないことだからだ。
(でも…私は、一体、誰を救うんだろう…)
そう考えたが、すぐに首を横に振って、お湯を顔にかけた。
「たかが占いじゃん!!気にすることないよ!!」
5343投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時51分15秒
その時、後ろから声が聞こえた。
「あら…。社長の占い…当たるのよ?」
瑠璃は、心臓が止まりそうになった。
恐る恐る、後ろを振り向くと…そこには、バスタオルを身体に巻いた、後藤理沙が立っていた。
また…後ろをとられたことに…気付かなかった…。
固まっている瑠璃を余所に、理沙はバスタオルを巻いたまま温泉に入る。
思わず、瑠璃は理沙から離れた。
「あ…あの…」
「何?」
「あの人…社長さんじゃないんでしょ?」
「え?社長さんよ…あの人は…。私達のボスよ…」
「ボス…?で、でも…リゾート開発の会社じゃ…」
そう言い掛けて、瑠璃は口を噤んだ。
この理沙には、油断を許してはならない…。
この話題を振るのは、やめておこう…。
5344投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時52分12秒
「何?どうしたの…?」
「い、いえ…何でもないです…」
「何よ?気になるじゃない…」
「お、温泉に入る時は…バスタオルは取って下さい!!」
瑠璃は、どうでもいいようなことで、話題を逸らした。
「ああ…。バスタオル?やっぱり取らなくちゃダメ?」
理沙は、ゆっくりと瑠璃に背中を見せると、バスタオルを取り払った。
「…え…?」
瑠璃は固まった。
理沙の背中には…一面、入墨が彫り込まれていたのだ。
弥勒菩薩の入墨である。
そして…よく見ると、大きく×印に傷が走っている。
誰が見てもわかる…。
この理沙という女………『表』の人間ではない…!!
瑠璃は、思わず目を逸らした。
5345投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時52分23秒
(早く…!!早く、ここから離れないと…!!)
瑠璃がお湯から上がろうと、立ち上がりかけた瞬間、肩に手が回された。
「…え?」
また…いつの間にか理沙が隣にいて、後ろから瑠璃の肩に手を回して抑えこんでいた。
「…あ…あの…」
震え声で、瑠璃はうまく喋れない。
「ふふ…。もう少し、ゆっくりしていきなさいよ…」
理沙の、冷たい笑顔…。
温泉の中だというのに、瑠璃の全身は凍りつくような感覚に包まれた。
5346投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時52分42秒
「ねぇ…。何を占ってもらったの…?」
「…え?」
「ボスによ…。占ってもらったんでしょ?」
「………」
瑠璃は、言葉を続けられない。
早く、この女の側から離れたい…。
それしか、考えられなかった。
「ん?こんなに良いお湯なのに…震えてるじゃない…」
理沙の手は、瑠璃の肩から下へ…腰に移動する。
そして、一層強く、自分の方へ抱き寄せた。
ビクっと、瑠璃の肩が震える。
恐怖におののく瑠璃の姿を、理沙は楽しそうに眺める。
「だ…だって…その背中の…」
瑠璃は、震えながらも、何とか声を出した。
「ああ…。入墨…?若気の至りよ…。気にしないで…」
「で、でも…その傷は…」
新しい…と言い掛けて、瑠璃は言葉を打ち切った。
傷の新しさを計れる少女など、普通はいない。
自分がこの女と同じ、裏の世界の人間だったと、悟られてはいけない…。
5347投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時53分18秒
「…!?」
すると、瑠璃はいつの間にか理沙の膝の上に乗せられた。
お湯の中なので、浮力が働いて、楽に身体を動かされてしまう。
しっかりと、理沙は瑠璃の腹に手を回して捕まえた。
理沙は、瑠璃の耳に唇を近づける。
「あなた…救世主になるんだって…?」
「…え…?」
耳のくすぐったさに身を捩りながら、瑠璃は思わず声をあげる。
理沙は…占いの内容を知っている…?
「命を救うんでしょ…?死ぬ運命にある人を…」
「…あ…」
「うふふ…。責任重大じゃない…」
理沙の手は、瑠璃の固く閉じた両足を無理矢理こじ開けた。
そして、股間へと、スルリと手が滑り込む。
「ひぃ…!!」
瑠璃の身体が、小さく跳ねた。
「ん?身体が硬いわよ…?もっとリラックスなさいな…」
瑠璃を抱き締める腕に、力が加わる。
「…う…!!く…!!は、放して!!」
瑠璃は、身体を捻って脱出を試みるが…もう、ガッチリと拘束されてしまっている。
5348投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時53分38秒
「さて…誰なのかな…?あなたが救う、命って…」
「し、知らない…」
瑠璃の早鐘の様な心音は、既に理沙に伝わってきている。
「心当たりは…?」
「ないよぉ…」
瑠璃の声は、泣きだしそうなものに変わってきた。
「ふ〜ん…。お姉さんはね…心当たりがあるんだ…」
「…え?」
理沙は、瑠璃の耳に唇を触れさせ、こう囁いた。
「『R&G』…」
「『R&G』!?」
「あら…知ってるの…?」
理沙の声が…低くなった…。
裏の人間特有の…殺気を込めた、呻くような声…。
「はぁ!!」
瑠璃は、理沙の腕の下に自らに腕を滑り込ませると、一気に拘束を跳ね除けた。
「…!?」
理沙が一瞬、驚きのあまり身体を硬直させた。
その間、瑠璃は飛沫をあげて、湯の中から脱出した。
黒曜石にの床板に降り立った瑠璃は、室内の浴室へと続く階段を駆け登る。
5349投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時53分58秒
しかし、瑠璃の肩は、凄まじい力で掴まれる。
その激痛に悲鳴をあげる前に、瑠璃の身体は温泉の中へと叩き込まれる。
「…ぐぅ…!!」
再び瑠璃は、湯から飛び上がった。
浴室へと続く階段には、既に理沙が裸で仁王立ちして塞いでいた。
「うふふ…。さすが元『TTK』…。お子ちゃまと思って、少々ナメてたみたい…」
「あ、あなた…誰よ!?」
自分を、元『TTK』だと知っている…?
「『TDD』…」
「『TDD』…!?」
「聞いたことないでしょ?でも…その内、誰もが恐怖に怯える名前となる…」
「『R&G』に…何をするつもりなの!?」
「何をするつもりかって…?皆殺しにするつもりよ…」
「く…!!り、梨生奈ちゃんや、羅夢ちゃんも…!?」
「当たり前よ!!一人残らず、抹殺するわ!!」
「わ、私なんか…襲ったって、『R&G』は痛くも痒くもないよ!!だって瑠璃は、『R&G』の探偵じゃないし…」
「いいえ…。あなたは、『R&G』の人間の命を救う可能性がある…」
「あ…あの…占い…?あんなの、信じてるの!?」
「あんなの…?ふん…!!言ったでしょ?ボスの占いは当たるのよ!!だから…あなたを、『R&G』に接触はさせない!!」
「あなた達が…『R&G』との間に何があったか、知らないけど…梨生奈ちゃん達の敵だというなら…!!」
瑠璃は、そのまま理沙に向かって行く。
5350投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時54分41秒
「あら?戦う気?この私と?」
「やああ!!」
瑠璃は飛び上がると、余裕の笑みの理沙の顔面に拳を放つ。
「ふふ…」
理沙は、すっと右手を顔面の前に持っていく。
その掌に、瑠璃の拳は吸い込まれ、軽い音をたてた。
「はぁぁ!!」
瑠璃は、着地と同時に中段回し蹴りを放つ。
しかし、その蹴りも理沙は左肘を脇腹に持っていき、ガードした。
「ええい!!やあ!!」
瑠璃は、拳と蹴りの波状攻撃を仕掛けるが、ことごとく理沙に受け止められてしまう。
「うふふ…。小さな身体をいっぱい動かしちゃって…。可愛い…」
5351投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時54分53秒
理沙の顎を蹴り上げようとした瑠璃の右の爪先蹴りを、首を捻ることだけでかわすと、その足首を掴んだ。
「捕まえちゃった…」
「く…!!」
腹筋の力で上半身を起こすと、左腕のストレートを放つ。
「はい。ご苦労様…」
その攻撃も、理沙に受け止められ、右足首と左手首を掴まれてしまった。
「ふふ…。よくがんばったね…。偉い、偉い…」
そして、またも瑠璃は、温泉の中へと叩き込まれた。
「ぶはぁ!!」
瑠璃は、湯の中から、頭を上げた。
しかし、理沙に頭を掴まれると、再び頭を湯の中に沈められた。
5352投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時55分12秒
「ぶ…!!ガバ、ガバ…!!」
瑠璃は、湯の中でもがいた。
「苦しい?」
頭頂部で結ばれた髪の毛を乱暴に掴むと、一気に水面の上に引き上げた。
「がは…!!」
「もう、息継ぎはできた?」
そして、またも頭を湯の中に沈める。
「ぐぶ…!!ゴボ、ゴボ…!!」
「はい、息継ぎ」
またも、頭を引き上げる。
「はい、潜って」
そして、沈める。
何度も繰り返すうち、瑠璃の身体は、ぐったりと力を失くしていった。
「うん…?もう、参っちゃった?やっぱり、か弱いのねぇ…」
理沙は、瑠璃を抱き上げると、温泉から上げて横たわらせた。
「人工呼吸、してあげるね…」
理沙は、意識が朦朧としている瑠璃の口に吸い付いた。
しかし、人工呼吸と言いながらも、瑠璃の口に送り込まれたのは息ではなく、舌だった。
「む…ぐぐ…!!」
一気に目を覚ました瑠璃は、両手で思い切り理沙を押し退けた。
5353投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時55分35秒
「あら?もう意識が戻ったの?」
理沙は、ニヤニヤと笑いながら瑠璃を見下ろす。
「あ、あんたなんかに…梨生奈ちゃん達を…」
そう、叫ぼうとした時、理沙の人差し指と中指が、瑠璃の口の中に突っ込まれた。
「静かに…。静かにね…」
「あぐぅ…」
理沙の指が、瑠璃の喉の奥まで入り込む。
瑠璃は、思わずえづいた。
「ぐう!!」
理沙の指に、瑠璃は思いっきり歯を立てた。
「む…!!甘噛み?」
理沙は、二本の指で瑠璃の小さな舌を挟み込み、捻り上げる。
「ひ…ひぃぃぃ…」
瑠璃は、小さく呻き声をあげた。
「大人しくしなさいよ…。何も殺そうなんて思ってないんだから…」
片方の手の指で、瑠璃の身体をすうっと撫でる。
「ひぎぃ!?」
「戦いが終わるまで…監禁させてもらうわ…。その後は、自由にしてあげる…」
しかし、理沙は途端に冷たい目で瑠璃を睨みつける。
「『R&G』の仇を討つなんて…バカなことを考えなければね…」
5354投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時56分22秒
しかし、次の瞬間、理沙の指は瑠璃の口から抜かれた。
その手は、野球のボール大の石を掴んでいた。
「ぐぅ…!!」
手が、ビリビリと痺れている…。
凄まじいスピードで飛んで来たのだ。
「な、何…!?」
理沙は、咄嗟に上を向く。
「オラァァァ!!」
赤いトラックスーツの少女が、ヌンチャクを振り回しながら飛び掛っていた。
5355投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時56分35秒
「あ、あんたは…!!」
理沙は、そのヌンチャクの一撃を避けて、後ろに跳び下がった。
「『R&G』の…!!」
理沙の言葉に被せる様に、瑠璃が叫んだ。
「羅夢ちゃん!!」
「瑠璃、こっちに来い!!」
羅夢は、理沙へ追撃をすることなく瑠璃の身体を抱えると、露天風呂の裏の林へと駆け出した。
「く…!!逃がすか!!」
理沙は、すぐに二人に飛び掛る。
「ゴルァ!!」
七海の唸り声…そして、二つ目の石…!!
「ぐぅ!!」
今度は、頭を引っ込めてその石を避けた。
5356投稿者: 投稿日:2008年11月30日(日)20時57分40秒
5357投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時57分51秒
黒いトラックスーツに身を包んだ少女…七海が、金属バットを振り上げて向かってきた。
「く…!!やろうっての!?この私と!!」
しかし、今度は黒い矢が二本、理沙に向かって飛んで来た。
「…!?」
理沙は、両手でその矢を掴んだ。
「ま、まだ…?」
そして、ピンクの砲丸が後頭部に…。
「くう!!」
身体を低く屈め、寸ででかわす。
「ゴルァ!!」
七海はその砲丸を、金属バットで打ち返した。
5358投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時58分04秒
「うお!?」
理沙は、僅かに後ろに飛び退いた。
足下の石に、砲丸がぶつかった。
「うわぁ!!」
バランスを崩し、理沙は頭から温泉に飛び込んだ。
「ケケケ!!ゆっくり温泉でも浸かって若返り!!オバちゃん!!」
七海の笑い声が聞こえる。
「く…!!こ、この小娘ども!!」
理沙は、勢いよく温泉から飛び出した。
しかし、もう、瑠璃も羅夢も七海も姿を消していた。
「くそ…!!追うか!?」
しかし、もう、林の中に身を隠してしまっただろう…。
それに、この雪の中、裸で追うことになってしまう…。
奪われた………瑠璃を………『R&G』に…!!
「くそったれがぁ!!」
理沙の叫び声が、露天風呂に響いた。
5359投稿者:リリー  投稿日:2008年11月30日(日)20時58分42秒
凄く多めの更新でしたが、切りの良い所で…

では、おちます
5360投稿者:117  投稿日:2008年11月30日(日)21時12分30秒
瑠璃は裸で、派手なパンチに蹴りに・・・割りとすごいな(笑)。
一時かなり追い込まれましたが、どうにか「R&G」に救出されたというわけですね。
つまり瑠璃は裸のまま(笑)??続きも気になります!
5361投稿者:もちろん  投稿日:2008年11月30日(日)21時19分25秒
何か着せてもらえるんだろうけど

弥勒姉さんの方は裸で雪道を追いかける根性まではなかったかw
5362投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時11分45秒
117さん
そうですね
5361さんが言われた通り、何か着せてもらえたと思います
書いてはいませんが…
やっぱり、瑠璃では弥勒姉さんの相手にはなりませんでした

5361さん
裸で追いかけて、追い着く可能性が低いことや、4人の『R&G』の探偵を武器なし(服なし)で戦わなければならないというわけで、諦めたんでしょうね

では、更新します
5363投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時15分33秒

『TDD』の一同が、寛平の部屋に集まった。
「ボス…。お許し下さい…。あの瑠璃という少女…『R&G』に奪われました…」
唇を噛みながら、屈辱の報告をする理沙を、寛平はキョトンとした顔で見ている。
「…?瑠璃…?あの、女の子やろ?『R&G』に奪われた?何で?」
シンパンマンが、寛平の後ろから囁く。
「あの瑠璃という少女、ボスは占ったのでは?」
「うん…。占ったけど…」
「『死ぬべき運命』の者を救うことになる…と、仰られたのでは?」
「うん…。言うた…」
「あの少女が『R&G』に渡れば、『死ぬべき運命』の者…すなわち…この戦いで『R&G』の者達は命を落とすことがない…」
「うん…」
「すなわち、我々の勝利が危うくなる…」
「あ…なるほどな…」
寛平は、ポンと手を打った。
しかし、また目が宙をさ迷う。
「…?で…何で、あの子を『R&G』は、さらったん?」
「あの瑠璃という少女も、元『TTK』なんです」
「へぇ〜…あの、子も…?へぇ〜…」
5364投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時16分07秒
今更ながら驚く寛平を、翔子は呆れた顔で見詰めて言う。
「あの…たしかに、ボスにも報告したはずですよ…」
「ん?眠っとったんかな?」
「いいえ…。しっかりボスも頷いてらっしゃいました」
「船、漕いどったんやないの?」
「いいえ…。『わかった』と、仰ってました」
「寝言やないの?」
「いいえ…。しっかり会話になっていたし…」
「ほな、忘れたんやね…」
ようやく、寛平は認めた。
「で、理沙は謝っとるわけやね?」
「…はい…」
再び、理沙は頭を下げた。
5365投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時16分19秒
「ま、ええよ…。占いは外れることもある…」
「はぁ!?」
その場の者は、一様に寛平の言葉に呆れ声をあげた。
「ボ、ボス…!!ボスの占いは、外れないのでは?」
楠本が、苦笑いをしながらも戸惑いながら聞く。
「ワシが当たると言うたら当たる…。外れると言うたら外れる…。そういうことや…」
「そ、そういうことって…」
楠本はそう言い掛けたが、すぐにその言葉を止める。
寛平の暗く沈んだ目を見たからだ。
「外れる言うより…外したればええんよ…。あの子は…誰も救えんよ…」
皆は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
こういう時の寛平には…誰も勝てない気がする…。
5366投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時16分52秒
「あの…」
遠慮がちに、恵が手を挙げた。
「ん?珍しいですね?恵さんが会議で意見を?」
普段なら、このシンパンマンの言葉に「うるせぇ!!」と怒鳴り散らす恵だが、緊張した面持ちで寛平を見詰める。
「どうしたん?恵?」
寛平は、そんな恵を見上げる。
「その、瑠璃というガキ…どうします?」
「どうするもこうするも、放っておけばいいでしょ?私達がさらったわけじゃないんだし…」
そう言う翔子に、恵は厳しい目を向ける。
「そうじゃなくって…!!大樹さん…いや、このペンションの従業員が、大騒ぎしてんだよ!!そのガキがいなくなったって…」
今度は、シンパンマンが冷淡に答える。
「それこそ、放っておけばいいでしょう…。いや、むしろその瑠璃という少女が戻らない方がいい…。理沙さんが襲ったことがバレるかもしれない…。『R&G』と共に消してしまいましょう」
その時、恵はシンパンマンの胸座を掴んで首を締める。
「私はボスに聞いてんだ!!勝手に、てめぇが決めてんじゃねぇよ!!」
「え…?ええ〜!!そ、そこで怒るんですかぁ!?」
青くなって、シンパンマンが悲鳴をあげた。
「つまり…あまり騒ぎは起こさない方がいいと…恵さんらしからぬ意見ですね?」
楠本が、シンパンマンを助けるように、恵の意見に補足を加えた。
「そ、そうだよ!!それから、私らしからぬは余計だ!!」
ようやく、恵はシンパンマンの胸座から手を離した。
5367投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時17分32秒
「う〜ん…。どないしょ…?」
寛平は、腕組みをして考え込む。
「ゴホ…!!ど、どうか御決断を…。ゴホ、ゴホ…。我々はボスに従います…」
咽ながらも、シンパンマンは寛平に決断を促す。
「皆殺しや」
1分も悩む事なく、寛平はアッサリと決断を下した。
「…え?」
恵は、目を点にして寛平を見詰める。
「『R&G』も、瑠璃ちゃんも皆殺し。そんで、『難田門司の隠し財産』と、帆乃香とあみ〜ごと夏希君を取り返したら、この村からトンズラ!!後腐れなし!!これでいこ!!」
「異議なし」
楠本の言葉の後、他の者も賛同する。
5368投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時17分44秒
「で…でも…」
蚊の鳴く様な声で、恵は呟く。
「…どうしたの…?恵ちゃん。らしくないよ?」
はるかが、心配そうな顔で恵を窺う。
「ど…どうもしねぇよ…」
恵は、瑠璃が死んでしまった時の、大樹の悲しむ顔を想像する。
もう、ここへは戻れない…。
大樹とは、二度と会うことはできない…。
そんな思いが、恵の顔を暗くさせている。
(う〜ん…。大事な決戦前なのに…。これは、まずいなぁ…)
楠本は、腕組みをして、難しい顔で恵を見詰める。
(恋をしたら弱くなる…。恵さんも、私と同じタイプ…ということか…)
そして、今は行方知れずとなった、ダーブロウ有紗の顔を、一瞬、思い出し…一瞬で消し去った。
5369投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時19分07秒
その時、シンパンマンの携帯からコール音が鳴り響く。
「ん?誰からだ…?」
送信者を確認すると、思わずシンパンマンは大声をあげた。
「『デビル』…!!加藤夏希だ!!」
「何!?」
夏希という名を聞き、理沙も恵も声をあげた。
「私に貸して!!」
理沙が、シンパンマンから携帯を奪った。
「夏希!!今、どこにいるの!?」
通話ボタンを押すと同時に、理沙は叫んだ。
5370投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時19分23秒
〔…?理沙…?私は、『ジャッジメント』(シンパンマン)に掛けたつもりなんだけど…。あの人が一番、冷静に話しができるから…。あなたと違って…〕
「な、何ですって!?」
〔それに、『どこにいるの?』なんてマヌケな質問しないでね?『TDD』の携帯は、ナビゲーションシステムを確認すれば、送信者の居場所はわかるはずよ?〕
「そ…そうか…」
理沙は、舌打ちをすると、ナビゲーションシステムを開く。
「…?」
送信者の居場所を示す、アイコンが表示されていない。
「理沙さん…。夏希は、おそらくナビゲーションシステムをいじって、電話を掛けてきてます。自分から居場所を教えるようなことはしませんよ…」
シンパンマンが、冷静に言った。
「ぐ…!!こ、このアマ…!!ナメやがって!!」
理沙は、顔を歪ませて呻いた。
〔あはは!!だから、私は『ジャッジメント』に掛けたのよ!!はやく彼に代わってちょうだい〕
「ち…!!」
理沙は、シンパンマンに携帯を投げつけて寄越した。
5371投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時19分58秒
「おっとっと…」
携帯をお手玉しながらも、シンパンマンは電話に出る。
「代わりました。『ジャッジメント』です」
〔お久しぶり。夏希よ。また、私とお酒でも飲まない?〕
「いいえ…。結構です…。もう、懲り懲りですから…」
〔ふふふ…。そうでしょうね…〕
シンパンマンは、努めて冷静に会話をしているが、実は彼も、はらわたが煮えくり返っているのだ。
5372投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時20分14秒
「早く、ご用件を…」
〔そうね…。今夜…除夜の鐘の合図で、最終決戦をしようかなって…〕
「…!?」
シンパンマンは、寛平の方を向く。
寛平は、人差し指と親指で輪をつくり、OKサインを出す。
他の皆も、地獄耳で聞いている。
夏希がシンパンマンに掛けたもう一つの理由は、彼だけがその地獄耳を持ち合わせていないからだ。
「どこだ!!てめぇ等、どこにいやがる!?」
恵の怒声が響く。
「聞こえました?恵さんの声…」
〔もちろんよ…。相変わらずうるさい女…。場所は、まだ教えてあげない…。除夜の鐘と同時に電話をするわ…。あなた達なら、鐘が108つ打ち終わる前に到着できる場所よ〕
「なるほど…。つまり、原村の中で、決着をつけるんですね?…ん?」
楠本が、人差し指をチョイチョイと、盛んに動かしている。
〔どうしたの?〕
「『エンペラー』が、あなたと話したがってます…」
〔楠本が?〕
明らかに嫌がっているような、夏希の声が聞こえた。
5373投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時21分51秒
〔できれば、あの男と話したくないのよね…。ムカつくから…〕
「まあ、まあ…。そう言わずに…」
楠本は、既にシンパンマンと電話を代わっていた。
〔何よ?〕
「いえね…。瑠璃さんは無事ですか?お風呂場からさらったんでしょ?風邪でもひいたんじゃないかって…」
〔瑠璃…?何?それ…〕
「またまた…。とぼけちゃって…。あの子を使って我々の動向を探ってたんでしょ?そして、占いの結果を知って、あの子を手元に引き寄せた…」
〔え…?何のこと…?占い?あなた、何を言ってるの?〕
「…ん?」
夏希は決して、とぼけているわけではなさそうだ。
その証拠に、夏希の声に、僅かに苛立ちを感じたからだ。
瑠璃のことを、本当に知らない…?
「ほ〜。ほ〜。ほ〜…。なるほどねぇ…」
〔何よ?〕
「あなた達、あんまりチームワーク良くないでしょ?」
〔何ですって?〕
「て、言うか…あなた、『R&G』の皆から浮いてるでしょ…?いや、嫌われてる?」
〔………〕
電話口の夏希は、黙ってしまった。
5374投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時22分12秒
構わず、楠本は喋り続ける。
「どうやら、情報伝達が完璧ではないですね…。あなただけ、仲間はずれにされてるってことですねぇ…」
〔何よ?その情報って…〕
「さあねぇ…」
〔その瑠璃って子が、どうしたのよ?〕
「さあねぇ…」
〔寛平の占いと、何か関係があるの?〕
「さあねぇ…」
〔その占いには、何て結果が出たのよ?〕
「さあねぇ…」
〔てめぇ!!いい加減に…〕
そう怒鳴りかけた夏希だが、深呼吸を一つとった。
〔…だから…あんたと話をしたくなかったのよ…〕
楠本は、『自分がされて嫌なことを、進んで他人にもやる』というポリシーの持ち主だ。
「ふふ…。ま、お仲間が帰ったら詳しい説明をしてもらって下さい…。私は、あなた達の状況を少し垣間見えただけで充分です…。ん…?」
今度は、寛平が人差し指をチョイチョイと、盛んに動かしている。
〔どうしたの?〕
「今度は、ボスがあなたとお話しがあるそうです…」
〔寛平が!?〕
夏希は、益々嫌そうな声をあげた。
5375投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時22分45秒
〔できれば、あんた以上に、あの人と話したくなんだけど…。人間の会話ができないから…〕
「まあ、まあ…。そう言わずに…」
楠本は、寛平に携帯を渡した。
「久しぶりやな?夏希君」
〔あんたも、元気そうね…〕
「『あんた』…?ボスって呼んでくれんの?」
〔だって、私はもう『TDD』じゃないもの…〕
「いや、いや…。その気になったら、いつでも戻ってきてええんよ…?」
〔…?どういうこと?〕
「せやから、この戦いが終わったら、また戻っておいで…。ワシは大歓迎やさかい…」
〔………〕
またも、夏希は黙ってしまった。
今回は、頭が混乱しているようだ。
〔だから、あんたとは会話が成立しないって言ってるのよ…。戦いが終わったということは、私かあんた、どちらかが死んでるってことでしょ?〕
「ん?ワシは、夏希君を殺すつもりなんてないんよ?」
〔はぁ?私は、あんたを殺す気なんだけど…〕
「あはは…!!そりゃ、無理やろ」
〔………〕
またも、夏希は沈黙した。
今度は、怒りの色が見える。
5376投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時23分10秒
「…ん?夏希君?聞いとんの?」
〔…聞いてるわよ…〕
苛つきを抑えて、夏希は答える。
〔わたしは、絶対に『TDD』には戻るつもりはないわ…〕
「そんなん言わんと…。戻ってきてぇな…」
〔嫌よ…〕
「どうしても?」
〔どうしても…〕
「こんなに頼んどんのに?」
〔くどいわね…〕
「なら、しゃあない…」
寛平の声が、一気に暗く、低くなった。
「君とワシは…御縁がなかった…と言うわけやね…」
〔………〕
今度の夏希の沈黙………恐らく、戦慄………。
〔だから、さっきからそう言ってるじゃない…。じゃあ、除夜の鐘を待っていてね…〕
「うん…。紅白でも見ながら待っとるよ…」
〔ふふ…。人生最後の紅白…。精々楽しむことね…〕
「なぁ、今年の小林幸子の衣装、どんなんやと思う?」
しかし、もう既に電話は切れていた。
5377投稿者:リリー  投稿日:2008年12月01日(月)21時23分27秒
今日は、これでおちます
5378投稿者:117  投稿日:2008年12月01日(月)21時41分09秒
恋は人を強くするか、弱くするか・・・なんか、「らりるれろ」を思い出します。
本日は夏希とTDDの電話トーク。最後は、豪華衣装の話ですか(笑)。
そういえば、今年はどんな衣装なんでしょうね(笑)?続きも楽しみです!
5379投稿者: 投稿日:2008年12月01日(月)21時46分38秒
5380投稿者:自分がされて嫌なことを、進んで他人にもやる  投稿日:2008年12月01日(月)21時57分45秒
もう、楠本大スキw
5381投稿者: 投稿日:2008年12月01日(月)21時59分13秒
5382投稿者:あげ  投稿日:2008年12月02日(火)21時34分13秒
あげます
5383投稿者:リリーさん、  投稿日:2008年12月03日(水)20時14分10秒
弥勒姉さん←は何と読むんですか?
5384投稿者:みろく  投稿日:2008年12月03日(水)20時20分21秒

5385投稿者:リリー  投稿日:2008年12月03日(水)20時38分32秒
昨日はすみません
家に帰れませんでした

117さん
結構、気に入ってます
『らりるれろ』のテーマ…
でも、『裏』の世界の人間は、どうしても恋愛に臆病になると思います
特に、好きになった相手が『表』の世界の人なら…

5380さん
いや、本物の楠本さんは、そんな人ではないと思いますが…

5383さん
理沙さんは『369(みろく)』という役名でドラマに出てました
5384さん、ありがとうございます

あげコメントもありがとうございます

では、更新します
5386投稿者:リリー  投稿日:2008年12月03日(水)20時39分33秒
原村から一番近い駅、芽野市の青柳駅近くの民宿に、あすみと藍は泊まっていた。
二人は、今年の夏にハセヤンズハウスに泊まっている。
『TDD』として来た以上、顔を出さない方が望ましいので、ハセヤンズハウスには近づかないことにする。
そして、阿久川流域の河川敷で、あすみと藍は、新兵器の鋼鉄制ヨーヨーの特訓を行っていた。
あすみは、左右両方の手にヨーヨーを持ち、自由自在に操るところまで上達している。
前後左右に、目まぐるしく回転させる。
自分自身の防御は、これで完璧である。
『チームE』の遠距離攻撃も、これで防ぐことができるし、『チームR』の近距離攻撃も、近づくことから不可能だろう。
そして、約7メートルの射程距離…ヨーヨーを投げつけ、前方の岩を粉々に砕く。
これで、『チームN』の中距離攻撃の対策もバッチリだ。
「モーニングスターよりも、断然扱いやすい!!肩の傷が治っても、このヨーヨーを使い続けよう…」
だが…あすみは、チラリと横目で藍を見る。
藍はというと…利き腕の左手のみ…そして、直線的な攻撃しかできていない。
このヨーヨーの全機能の、初歩の段階しかマスターしていなかった。
いくら、ずば抜けた身体能力を持つ藍でも、少ない時間の中、ここまでが限界か…。
とてもじゃないが、実戦に投入できるレベルに達していない。
(ボスが、あい〜んの参戦を考え直してくれるだろうか…)
いや、これは望み薄だろう。
占いの結果に出ているのだ…。
藍が、この戦いに参加することを…。
5387投稿者:リリー  投稿日:2008年12月03日(水)20時39分56秒
すると、あすみの携帯のコール音が鳴った。
「…?」
あすみは、ヨーヨーを回転させながら、防弾ベストのポケットに入れると、携帯を取り出して通話ボタンを押した。
「はい。『タワー』です」
〔こちら『エンプレス』…〕
「弥勒姉さん…。どうしたの?」
〔『スター』(藍)は?〕
「一緒よ」
〔そう…。じゃあ、今から伝えること…必要な所はボカして、あの娘に伝えてね…〕
「…!?いよいよなの?」
〔いよいよよ…。除夜の鐘と共に、最終決戦に向かうわ…〕
「除夜の鐘?」
〔そう…。それまでには、私達と合流してね〕
「場所は?」
〔その時に、知らせるってさ…。でね…〕
「ん?」
〔瑠璃って子、知ってるでしょ?〕
「る…」
るりぽん…と言い掛けて、あすみは口を閉じた。
おそらく、これが藍にボカす所なのだろう…。
5388投稿者:リリー  投稿日:2008年12月03日(水)20時40分17秒
〔あの子を見つけ次第…保護をして…〕
「どういうこと?」
〔あの子が、今回の戦いの勝敗の鍵を握っている…〕
「ちょっと…。わかるように説明してくれない?」
理沙は、寛平の占いのこと、そして、瑠璃が『R&G』に奪われたことを説明する。
〔ボスは、瑠璃っていう子もろとも皆殺しって言ったけど…やはり、占いの結果を無視できない…〕
「そうね…。ソレ(瑠璃)を取り返さなければ、向こうの敗北(死)も決定的ではなくなってしまうものね…」
あすみは、藍に真相が伝わらない様に、細心の注意を払って会話を進める。
藍が、こちらを心配そうに見詰めている。
「それから…あい〜んも戦いに参加しないとダメかな?」
〔え?訓練、上手くいってないの?〕
「ええ…。初歩の技術しか身についていない…」
〔足手纏いになるってことね?〕
「そう…」
〔………そんなこと、わかりきったことなんだけど…。わかったわ…。ボスに相談してみる。でも、占いで出た結果なら、ボスは『スター』を参加させるでしょうね…〕
「…それも…わかりきったことだけどね…」
あすみは、電話を切った。
「あすみん…?」
藍は、不安げな表情をあすみに向けている。
あすみは、必要最低限の言葉を、藍に伝える。
「今夜、決戦よ…。準備をしておいてね…」
5389投稿者:リリー  投稿日:2008年12月03日(水)20時40分55秒
瑠璃が、七海と羅夢の『チームB』、エマとエリーの『チームE』と共に『R&G』のアジトである、山中の廃校に到着した。
瑠璃は、風呂場から保護された為に裸だったので、エマの防寒着を羽織っていた。
それでも身体の芯まで冷えた為、甜歌が裏の温泉に一緒に入ってやっている。
その間、瑠璃が今後どう関わっていくかを話し合う為、皆はもう一度音楽室に集まった。
その時だ。
足音荒く、夏希が音楽室に乗り込んできた。
5390投稿者:リリー  投稿日:2008年12月03日(水)20時41分10秒
「ちょっと、あんた、どういうつもり!?」
夏希は恐ろしい形相で、梨生奈の前に歩み寄る。
「ど、どうしたの?夏希さん…?」
いきなりの夏希の詰問に、梨生奈は戸惑った。
「私に、内緒で、何をコソコソやってんのって、聞いてんの!!」
つまり、瑠璃を『TDD』の下から奪った(救い出した)件を言っているようだ。
「る、瑠璃のことを言っているのよね?」
「説明しなさいよ!!こっちから『TDD』に接触するようなことして…この場所がバレたらどうすんのよ!?」
「ま、待って…夏希さん…。落ち着いて…」
「これが落ち着いていられるか!!」
「んだよ!!コラ!!何か、文句があんのかよ!!」
羅夢が梨生奈と夏希の間に割り込む。
「うるせぇ!!このガキ!!てめぇに用はねぇんだよ!!」
夏希はもう、怒りに我を忘れている。
「ひぃぃぃ…!!」
有海は、両耳を押さえて震えている。
杏奈は、自分も震えながらも、その有海の肩をしっかりと抱いてやっていた。
5391投稿者:リリー  投稿日:2008年12月03日(水)20時41分33秒
そこに…冷たい静かな声が、この場を切り裂く。
「貴様に話す義理が、私達にあるのか?」
中村有沙だ…。
「…あん?」
顔を真っ赤にした夏希の顔が、中村有沙の方をゆっくりと向く。
「貴様は貴様で勝手にやるのだろ?私達は私達で勝手にやらせてもらう…。それでいいではないか…」
夏希の顔は、怒りを通り越して、笑みを浮かべている。
「くくく…。おもしれぇこと言ってくれんじゃん…。この私抜きで、『TDD』に勝てるとでも思ってんのか…?あん?」
「ああ…。貴様に任せっきりという状況が心許無いので、私達もこうやって行動を起こさざるを得なかったのだ…」
「何…?」
「気に触ったか…?許せ…」
夏希の頭の中で、何かがキレた。
瞬間、夏希の裏拳が中村有沙の顔面を打った。
中村有沙は、車椅子から転げ落ち、床にバッタリと倒れた。
「ざけんな!!ざけんな!!ざけんな!!殺すぞ!?殺すぞ!?殺すぞぉ!!死ね!!死ね!!死ねぇぇぇ!!!」
夏希は、身体の動かせない、無抵抗な中村有沙に馬乗りになり、はげしく殴打する。
「いやぁぁぁ!!」
有海は、とうとう泣き出した。
杏奈も、有海を抱き締めたまま、恐怖で身体が凍りついた。
帆乃香も、一気に音楽室の壁際まで後退りした。
吉田と卓也は、そろって腰を抜かしている。
5392投稿者:リリー  投稿日:2008年12月03日(水)20時41分59秒
夏希の首に、木刀が差し出された。
「…!?」
ちひろだ…。
ちひろが、刺す様な視線を夏希に向けている。
「何だぁ…?てめぇ…」
夏希の殺気は、ちひろに向かう。
その刹那、夏希はちひろの木刀を掴み、立ち上がる。
「この私と、やろうってのか!?おもしれえ!!今すぐ、殺してやるよ!!」
「やらない…」
「ああ!?」
「おまえは、『TDD』打倒の為には、どうしても必要だ。だから、やらない…」
「何を言ってやがんだ…?」
「それから…有沙も『TDD』打倒に必要だ…。だから、これ以上、傷つけさせない…」
「必要?こいつが!?指一本動かせない、足手纏いだろうがよ!!」
「だから…有沙は今から命を賭ける…。指一本、動かす為にだ…」
「………」
夏希は、ちひろを…そして、床に這いつくばっている中村有沙を見る。
ちひろは、夏希を真っ直ぐに見て、言う。
「だから…もし、おまえがその怒りを押さえ込めないのなら…思う存分、私を殴ればいい…」
5393投稿者:リリー  投稿日:2008年12月03日(水)20時42分24秒
夏希は、口の端を上に歪ませる。
そして、ちひろの胸座を掴んだ。
「よく言った…!!それじゃあ、てめぇで我慢してやるよ…」
しかし、複数の突き刺さる視線を、夏希は背中で感じた。
七海…羅夢…ジョアン…そして、七世、俵姉妹………エマとエリーだ…。
「…てめぇ等…」
夏希は、振り返ることなく呻いた。
ちひろの胸座を、夏希は離した…。
「ふん…。チームワークはバッチリじゃん…」
夏希は、そのまま音楽室の出入り口へ足を向ける。
「エマ!!エリー!!何をしてるの!?寛平打倒の打ち合わせを、今から始めるよ!!」
そして、そのまま足早に音楽室を後にした。
エマとエリーは、戸惑いながら顔を見合わせる。
「ケケ…。行ってやれや…。あいつ、今、友達がおらんのやさかい…」
七海の言葉に、その場の皆は噴き出した。
「しょうがないね…。行こうか?エリー…」
「うん。行ってあげようか…。エマ…」
エマとエリーは手をつないで、夏希の後を追った。
5394投稿者:リリー  投稿日:2008年12月03日(水)20時42分55秒
「大丈夫か…?有沙…」
ちひろは、床に倒れている中村有沙を、そっと起こした。
「…ん…?夏希のやつ…何かしたのか?」
そう強がる彼女の美しい顔に、痣ができている。
「あんまり、夏希を挑発するなよ?」
ちひろは、呆れ顔だが、笑いながら言う。
「ふん…!!あいつが先に挑発してくるからだ…」
何とか、車椅子に身体を戻した。
「瑠璃が風呂から帰ったら…保健室へ向かわせてくれ…。あと、ジーナも…」
「本当にやるのか?」
「ああ…」
中村有沙は、泣きじゃくっている有海に目を向ける。
「ちひろ…。有海の側へ…」
「うむ…」
ちひろは、杏奈に抱き締められている有海の側に、中村有沙の座る車椅子を押していく。
「有海…。私は…今から自分の人生の主導権を取り返す…」
「な…な…中村…先輩…」
「貴様が…私に決意させてくれたのだ…」
穏やかな微笑みを彼女は見せ、そしてこう言った。
「感謝する…」
5395投稿者:リリー  投稿日:2008年12月03日(水)20時43分43秒
今日は、これでおちます
5396投稿者:あげ  投稿日:2008年12月03日(水)23時30分50秒
 
5397投稿者:あげ  投稿日:2008年12月05日(金)01時16分29秒

5398投稿者: 投稿日:2008年12月05日(金)13時21分19秒
5399投稿者:今日は更新あるのでしょうか?  投稿日:2008年12月05日(金)20時48分52秒
 
5400投稿者: 投稿日:2008年12月05日(金)21時59分29秒

5401投稿者:リリーさん体調崩したのかな?  投稿日:2008年12月05日(金)22時15分45秒
2日連続だと心配です。
5402投稿者:リリーさん、  投稿日:2008年12月06日(土)00時59分06秒
無理しないでくださいね
5403投稿者:あげ  投稿日:2008年12月06日(土)16時20分58秒

5404投稿者:あげ  投稿日:2008年12月06日(土)17時50分54秒
この小説が始まってからそろそろ一年ですね。私はリリーさんの話の上手さにすっかり惹き付けられ、いつも楽しみに見ています。これからも更新頑張ってください。
5405投稿者:今日も?  投稿日:2008年12月06日(土)22時30分51秒
どないしたん?
5406投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時24分28秒
みなさん、どうもすみませんでした
5399さん、5405さん
この2、3日、PCのない環境にいました
5401さん、5402さん
体調はいたって順調です
ご心配をおかけしました
5404さん
もう、1年になりますか
これも、みなさんのおかげです
これからもよろしくお願いします

あげコメントもありがとうございます

では、こんな時間ですが今から更新します
5407投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時25分47秒
瑠璃は、ちひろに連れられて保健室まで来た。
「あの…?」
ちひろに、不安げな顔を向ける瑠璃。
「…いいから…。言われた通りにしてやってくれ…」
そう答えるちひろも、不安な表情を隠さない。
瑠璃の肩に手を置いて強く握ると、ちひろは古く軋む長い廊下を歩いて行った。
「失礼します…」
瑠璃は、恐る恐る保健室の引き戸を開けた。
「こっちに来て…」
奥のベッドのカーテンから、ジーナが顔を出す。
「…はい…」
ジーナのことは、よく覚えている。
『TTK』では、同じ『戦士候補生』として、雲の上の存在だった。
彼女は、四天王筆頭、加藤夏希の妹として、『戦士』としての地位も未来も約束されていた。
そして自分は、同じ四天王のモニーク・ローズから指南を受けていたにも関わらず、おちこぼれだった。
ジーナは、自分のことなど覚えていないだろう…。
瑠璃は、カーテンを開ける。
そこには…中村有沙が、ベッドに横たわっていた。
5408投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時26分07秒
「…?」
これから何が始まるのか、どうして自分が呼ばれたのか、瑠璃には見当もつかない。
中村有沙が、ゆっくりと口を開く。
「瑠璃…。貴様は…電気工学のスペシャリストだと聞いた…」
「はい…。そうですが…」
「この学校の中にある備品を使って、電気を発生させる装置を造ることは可能か?」
「電気…?」
「EST(electroshock theraphy)…俗に言う、電撃療法に使う機械のことだ…」
「え…ええ…。あの装置自体、複雑な物ではありませんから…。で…何で…?」
「今すぐ、造れ」
「い、いいですけど…。どうして?」
ジーナが、溜息混じりで説明する。
「有沙さんの、動かなくなった手足を動かせるようにするの…。今夜までにね…」
「…え?」
それならば、ジーナの領分だ。
自分の出番ではないだろう…と、瑠璃は言い掛けた。
「私の針治療では、有沙さんを治せない。神経自体が働いていないから…」
「…はぁ…」
「まず、神経を無理矢理目覚めさせないと、どうすることもできないの…」
「…は!!」
瑠璃は、ようやく自分が呼ばれた理由を理解した。
5409投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時26分29秒
そして、理解したと同時に言葉が出る。
「無茶です!!そんな…!!」
「何度も言われて、耳にタコができた…」
中村有沙は、もう、うんざりだとでも言いたげに、瑠璃の顔を見る。
「で…でも…ただ、電気を流す物だったら、簡単に造れます。でも、医療に使う物ですよね?そんなの…まず、害がないか、いろいろ試してみなければ…」
「私で試せ…」
「…!!」
瑠璃は、言葉を失った。
「…も、もしかしたら…有沙さん…死んでしまうかも…」
「このまま、動かぬ身体で敵の襲撃を待つのか…?どの道、死ぬ運命だ…」
瑠璃は、寛平の占いを思い出す。
自分が、『光』の力で、『死ぬべき運命』の者を、『救い』だす…。
「で…でも…」
「電気工学のスペシャリストの貴様のいる原村が、最終決戦の場に選ばれたのは…単なる偶然ではない…」
「え…?」
「これも…運命だ」
瑠璃は、思わずジーナの顔を見る。
ジーナは、もう諦めたという顔で、首を横に振っている。
5410投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時26分55秒
「でも…」
「さっきから、貴様は『でも…』ばかりだな…」
荒い息をつく、中村有沙。
「直接、神経に電気を流すなんて…その苦痛は、計り知れませんよ?」
「神経に針を刺して、私の身体を動かすのがジーナの役目…。その神経に電気ショックを与えるのが貴様の役目…。それに耐えるのが、私の役目だ…」
中村有沙の決意は、一寸もぶれることはない。
「どうして…そこまで…」
瑠璃は、もう言うべき言葉を失くしている。
「それは…主導権を得ようとして死ぬか…主導権を失くしたまま死ぬか…同じ死ぬでも、天地の差があるからだ…」
「主導権?」
「夏希に…主導権を渡してしまう自分が、無性に腹立たしい…。そういうことだ…」
その夏希の妹、ジーナはまた溜息をつく。
そして、瑠璃に言う。
「ねぇ…。どれくらいで造れるの?電気療法の機械…」
「はい…。ただ、電気を流すだけなら30分で…。電気の微量な調節をするんだったら…3時間はないと…」
「30分の方でいい。時間が勿体無い」
中村有沙は、当然の様に言う。
「で、でも…それは、医療器具と言うよりも、拷問器具ですよ!?」
「これで、四回目の『でも』だな…。これから、『でも』は禁句にする!!わかったな!?」
もう、瑠璃は、言われるままになるしかなかった。
5411投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時27分18秒
30分かかると言っていた瑠璃だが、理科室にあった発電機や変電機など、核となる必要な材料が揃っていたので20分で電機療法機…いや、電機拷問機としか言えない物を造ることができた。
こんな機械なら、今年の夏、造ったことがあるからだ。
そう…あの時は、羅夢をこの機械で拷問した…。
今回、中村有沙にするのは拷問ではない…。
あくまでも、治療なのだ。
中村有沙は、全裸になってベッドの上に仰向けで寝る。
ジーナは、丁寧に中村有沙の体毛を、全てきれいに剃り上げた。
そして、アルコールで身体中を丹念に拭く。
電機の流れを充分に、隅々まで行き渡らせる為だ。
「ふん…。今更ながら…情けない姿だ…」
すっかり毛を剃られた自分の股間を見て、中村有沙は自嘲気味に呟いた。
「それでは…針を刺しますよ?」
ジーナは、太く長い針を、中村有沙の両腕、両足に次々と打ち込んでいく。
当然ながら、痛みも何も感じない。
しかし、これから痛みは充分に感じる予定だ。
「それでは…コイルを針に結びます…」
瑠璃は、針の一本一本にコイルを結びつけた。
「本当にやりますよ?いいですか?やめるなら今のうちですよ?」
ジーナは、中村有沙の顔を覗き込んで確認をとる。
「ふん…!!そんな言葉、毛を剃る前に言え!!早くしろ!!時間が勿体無い!!」
ジーナと瑠璃は顔を見合わせて、諦めた様に頷いた。
5412投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時27分49秒
その時、保健室の戸がノックされた。
「誰…?」
ジーナと瑠璃は、戸の方を振り向いた。
「ち…!!有海め…!!何しに来たのだ?」
中村有沙は、舌打ちをした。
「有海さん…?何でわかるんですか?」
ジーナは、目を丸くして聞いた。
「ノックの音の位置から、身長を割り出した。貴様等、そういう訓練を受けていただろう?」
「い、いや…受けましたけど…。たしか、有海さんと七海さんは、ほぼ同じ身長だし…」
「ノックの音が、遠慮がちで弱々しい。七海はもっとガサツに叩く…いや、あいつは、ノックすらせずに開けるだろうな…」
ジーナは、半信半疑で戸の方に向かった。
「誰ですか?」
「あ…あの…有海です…」
ジーナは、中村有沙の方を振り向いた。
「ほらな?」
と、中村有沙は表情で言っている。
5413投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時28分30秒
ジーナは、戸を開ける。
有海が、身を縮めながら佇んでいる。
「何ですか?」
ジーナは、面倒くさそうに有海に聞いた。
「あ…あの…。私にも…何か手伝えることがあったら…」
有海にも、中村有沙がやろうとしていることを聞いていた。
これから彼女の身に起こるであろう、苦痛を和らげる為に、何かがしたいと強く思っているのだ。
「何もない」
遠いベッドから、中村有沙はそう言い放つ。
「で…でも…」
「私は、『でも』という言葉を禁句にした。その言葉を使った者は、ここから出ていけ」
「な、中村先輩!!私…先輩が…」
「ちょっと…」
ジーナは、室内に入ろうとする有海を押し出す様に、廊下に出し、戸を閉めた。
「わ、私は、中村先輩の為に…」
「わかってます。あなたの気持ちは…」
しかし…と、ジーナは続ける。
「あなたができることなんて、本当に何もないの…。だから、この部屋に入って来ないで…」
「で…」
でも…と、言いかけて、有海は口を閉ざした。
5414投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時28分52秒
そんな有海に、ジーナは厳しい目を向ける。
「あのね…。今から有沙さんは、想像を絶する様な苦痛に苛まれることになります…」
「だから、私は…」
「半端じゃないんですよ?その苦痛に、七転八倒で悶え苦しむことになります…。もしかしたら、オシッコを漏らしちゃうかも…」
「………!!」
「そんな有沙さんの姿…まともに見られます?」
有海は、言葉を失った。
「有沙さんだって…そんな姿、あなたに見られたくないと思う…」
「………」
有海は、悲しそうにうつむくだけだった。
5415投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時29分34秒
ジーナは、有海の手を、両手で優しく握る。
「もし、有沙さんの為に何かをしたいんなら…祈ってて…」
「…祈る?」
「そう…。絶対にこの治療は上手くいくんだって…祈ってて…。お願い…。強い祈りは、本当に叶うって…ジーナは、そう信じてます…」
「…はい…」
「あと…『TDD』のボスの占い…」
「え?」
「絶対に当たるんですって?」
有海は、一回頷く。
「あの、瑠璃ちゃんって子…。あの子、救世主なんだよ…」
「救世主?」
「あの子が『死ぬべき運命』の人を救うんだって…」
「それ…寛平さんが?」
今度は、ジーナが一回頷いた。
「だから…私はこの治療に不安でしょうがないけど…瑠璃がいる限り、有沙さんは絶対に死なない!!」
力強く、ジーナは言い切った。
5416投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時29分49秒
「私も…信じる…!!中村先輩は…絶対に死なない…!!」
有海は、こぼれ落ちそうになる涙を、懸命に堪えながら言った。
「うん!!それ!!その気持ちで、祈ってて!!それが、有沙さんには必要なんだから…」
年下のジーナは、年上の有海の頭を優しく撫でると、再び保健室の戸を開けて、中に入っていった。
「お願い…。中村先輩を、お願い…」
有海は、ジーナに言われた通りに両手を合わせて目を閉じた。
5417投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時30分31秒
「お待たせしました…」
ジーナは、中村有沙の横たわるベッドの側に、再び座る。
「諦めたか…。有海は…」
「はい…」
しかし、中村有沙はジロリとジーナを睨みつける。
「しかし、ふざけるな!!誰が、漏らすか!!」
「あらら…。聞こえてました?」
ジーナは、苦笑いをする。
だが、すぐに顔を引き締める。
「でも…本当に、それぐらいの覚悟をしておいた方がいいですよ…」
「ち…!!それならば、トイレに行っておくべきだったな…」
「行きますか?」
「いや、いい…。さっさと始めろ…」
5418投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時30分45秒
ジーナは、瑠璃の顔を見る。
瑠璃も、覚悟を決めた様だ。
ジーナは、硬く縛ったハンカチを、差し出す。
「これ、噛んでて下さい。少しでも、痛みが和らぎます…」
「…」
中村有沙は、そのハンカチをしっかりと咥える。
そして、一つ頷いた。
「始めろ」…という、合図だ。
ジーナは、瑠璃の顔を見詰め、頷く。
瑠璃も頷き…機械のスイッチを入れた。
5419投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時31分04秒
チュイ〜〜〜ン…という、耳をつんざく様な音の後、軽い、破裂音が響く。
針に巻きついたコイルが、火花を噴く。
その瞬間、中村有沙の身体が、数センチ宙に浮いた。
「ひ…!!」
ジーナと瑠璃は、身体を仰け反らせる。
「んがあああぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!」
この世のものと思われない声を、中村有沙はあげた。
その美しい顔を、歪めに歪め、喉の奥から呻き声が発せられる…。
自分でスイッチを入れてしまった瑠璃は、そんな中村有沙の姿を目の当たりにして膝を震わせた。
「んぐぉぉぉぉぉ〜〜〜!!!」
ガクガクと、中村有沙の身体が揺れ始める。
「き…切って!!瑠璃!!スイッチを切って!!」
ジーナが、金切り声をあげる。
「は、はいぃぃ〜〜!!」
すでに泣き出している瑠璃は、震える指でスイッチを切った。
天井から吊り下げられた糸を断ち切られた様に、中村有沙はベッドに落ちた。
「…ふぅ…ふぅ…ふぅ…」
彼女の全身は、一気に汗で濡れていた。
そして、力のなくなった口から、ハンカチがポロリと落ちた。
5420投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時31分25秒
「あ…有沙さん…?大丈夫…?」
ジーナが、恐る恐る中村有沙の顔を覗き込む。
「…な…なぜ…」
虚ろな目で、中村有沙は言う。
「…え?」
「なぜ…止めた…?」
「…はい…?」
「今…動いたんだ…。指が…」
「動いた?」
「ああ…右の…人差し指が…少しだけ…」
本当に嬉しそうに…彼女は笑っている。
5421投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時31分45秒
「ふふ…。確信したぞ…。この治療は、正しい…」
そして、ジーナを、瑠璃を厳しい目で睨む。
「今度は…止めるな…!!わかったな…!?」
ジーナは、唇を噛み締め、強く頷くと、再びハンカチを中村有沙に噛ませた。
そして瑠璃は、しゃくり上げて泣きながら、スイッチに手を伸ばす。
スイッチが入れられた。
「んぐあああぁぁぁ〜〜〜!!!」
三度目の絶叫…。
保健室の戸の前の廊下で…有海は耳を押さえながら…号泣しながら…祈っていた。
「お願い…。神様…。中村先輩を助けて…。中村先輩を…死なせないで…。お願いします…」
祈る事しかできない…。
そんな自分に、有海は腹を立てていた。
号泣しながら、激怒していた…。
自分にできることとは何だ…?
自分の武器は…?
自分は、どうやって闘える…?
中村有沙の絶叫を、塞いだ耳から聞きながら、有海は懸命に考えていた。
5422投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時32分19秒
音楽室にいる、梨生奈、七海、羅夢、ジョアン、七世、そして俵姉妹…。
はるか遠くから聞こえる、中村有沙の絶叫が耳に届く…。
「チビアリ…」
七海は、唇を噛み締めて、中村有沙が今感じている苦痛を想像する。
「畜生…アタイ等をバカ呼ばわりしやがって…。てめぇが一番、バカじゃねぇか…!!」
羅夢も、力強く床を踏み鳴らした。
「絶対に…絶対に、アタシは負けないよ…」
ジョアンは、床を見詰めて呟いた。
その場にいる者は、中村有沙の決意に自分の決意を乗せる。
負けない…。
死んでも、負けないと…。
例え、自分が死ぬことになろうとも…『R&G』を勝利に導くと…!!
5423投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時34分23秒
校庭の、木で組み込まれた遊具に腰掛けている、吉田、ちひろ、卓也、杏奈、甜歌の、『R&G』の元祖メンバー達。
ちひろだけが、微かに中村有沙の叫び声を捉えた。
「チビアリ…」
そう呟くちひろに、甜歌は気がついた。
「どうしたんですか?ちひろさん?泣いてるんですか?」
心配そうに、甜歌はちひろの側に寄った。
「だ、大丈夫だ…」
ちひろは、急いで涙を拭いた。
5424投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時34分36秒
「…始まったんだ…」
杏奈は、木造校舎を眺めながら言った。
「…有沙さん…」
卓也も、祈るように呟くと、雪のちらつく空を見上げた。
「レッドさん…!!」
ちひろの力強い声に、吉田は一瞬、身体を硬くした。
「な、何や?ちひろ…」
「私は…再び、剣道で人を傷つけるかもしれない…。天国の父さんは…悲しむかな…」
段々、弱気になる、ちひろの声…。
「…ムラさんが悲しむんは…ちひろが傷ついた時や…。ワシも…同じ気持ちや…」
吉田は、穏やかに語り掛ける。
「…レッドさん…」
ちひろは、吉田の背中にしがみ付いた。
「ちひろ…。ワシのこと…オトンと思うてくれて、かまわへんよ…」
そう言う吉田に、ちひろは涙で詰まった声で答える。
「それは…御免こうむる…」
5425投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時35分22秒
体育館の屋根の上…。
夏希とエマとエリーは、寛平を迎え撃つ為の打ち合わせと訓練を行っていた。
当然、三人にも中村有沙の絶叫は耳に届いている。
「ありりん…」
エマとエリーは、涙目で校舎の方を見詰めた。
「何をしてるの?こっちに集中して!!」
夏希の冷たい声が響く。
「夏希さんが悪いんだよ!!」
エマが、ヒステリックに叫んだ。
「何ですって?」
鋭い眼光で、夏希は睨んだ。
「あなたが…ありりんを『弱者』とか、『足手纏い』とか、言うから…」
多少、冷静だが、エリーも夏希を睨みつけている。
「ふん…!!だって、本当のことじゃない…」
夏希は、少しも動揺していない。
5426投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時35分36秒
「でも…あいつの性格なら、このままで終わらないと思ってたところだから…。ふふ…面白くなってきたじゃない…」
そんな夏希の言葉に、エマは顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
「面白い!?どこが!!ありりん、死んじゃうかもしれないんだよ!?」
しかし、その言葉にも尚、夏希は平然と答える。
「だったら死ねばいい!!こんなことで死ぬようなら、どの道役に立たないからね…」
憤慨しているエマとエリーを無視し、夏希はただ妹のジーナを心配する。
「あの子…。自分も戦うなんて…そんな気にならなければいいんだけど…」
5427投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時36分01秒
保健室。
「今度は…うつ伏せにして…」
ジーナと瑠璃の二人がかりで、ぐったりと疲労した中村有沙の身体をうつ伏せにする。
そして、再び中村有沙の両腕、両足に針を打ち込む。
「…う…!!」
中村有沙が呻いた。
「どうしました!?」
ジーナは、中村有沙の視線まで自分の顔を降ろす。
「今…少しだが、痛みを感じた…」
「ほ、本当ですか?」
「ふふ…ふふふ…。いいぞ…このまま続けろ…!!私の身体は、再び動き出す…!!」
「で…」
でも…と言いかけて、ジーナは口を抑える。
「…何だ…?」
問われたので、ジーナは言葉を続ける。
「もし、神経が蘇ったら…この針は、容赦なく有沙さんの身体を激痛で襲います…。その時…あまりの激痛に、気を失ってしまうかも…」
「ん…?気を失う?死ぬのではないのだろう?なら、問題はない…」
「も、問題ないって…」
「戦う前から死ぬ…。これが一番、マヌケで怖い…。そして…」
中村有沙は、力強く言う。
「許せない…。自分を…」
5428投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時36分26秒
中村有沙からジーナへ合図…そして、ジーナから瑠璃へ…。
泣きながらも、瑠璃はスイッチを入れる。
「んぎぃぃぃあああぁぁぁ〜〜〜!!!」
伏臥上体反らしの状態で、中村有沙の背中は弓なりになった。
神経が復活しかかってからの、電撃…。
その苦痛は、今までと比べ物にならない。
瑠璃は、思わずスイッチに手を伸ばす。
しかし、それをジーナが掴む。
「ジ、ジーナさん…?」
「耐えて!!瑠璃!!有沙さんは耐えてる!!私も…耐えるから…!!」
「…はい…!!」
ジーナと瑠璃は、その手を硬く握り合った。
保健室の廊下では、有海が耳を押さえて咽び泣いていた。
その有海の肩に、手が置かれた。
「…?」
見上げる有海…。
そこには…帆乃香がいた。
「一人で耐えんでええよ…。うちも…側についてる…」
「ほ…帆乃香さん…」
有海は、帆乃香にしがみ付く。
帆乃香は…優しくそっと有海の背中を撫でた。
5429投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時36分47秒
絶叫が途絶えた。
「…!?」
有海は、思わず立ち上がった。
しばらくして、ジーナが戸を開けて保健室から出てきた。
彼女の顔は、疲労困憊していた。
「あ…あの…。終ったんですか…?」
どうか、成功したと言ってくれ…と言いたげな有海の表情。
ジーナは、首を横に振る。
「ま、まさか…」
一瞬、有海の心臓は止まりかけた。
「一時休憩です…。有沙さんの心臓が、もちませんから…」
ふらりと、ジーナは有海の横を通る。
そして、こう言葉をかけた。
「治療は…上手くいってます…」
「…え?」
「引き続き…祈ってて…」
そして、ジーナは職員室…いや、宿直室の方に向かう。
そこには、父親の加藤がいる。
早く会いたくて仕方がなかった。
5430投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時37分07秒
宿直室の戸を開けるジーナ。
加藤が、怪訝な顔で迎える。
「おい…。何か…すげぇ声が聞こえてたぞ…?何をしてたんだよ?」
ジーナは、潤んだ目で父を見る。
大きな瞳から、次々と涙がこぼれ落ちる。
「ど、どうした…?」
次の瞬間、ジーナは加藤に抱きついていた。
「…お…おい…?」
戸惑う加藤に、ジーナは涙混じりに答える。
「…ジーナは…今…人を助けてます…」
「…?人助け…?今のがか…?」
「だから…ジーナのこと…嫌いにならないで…」
「…!?」
「怖がらないで…ジーナのこと…」
加藤が心の底に抱いていた恐怖を、ジーナは感じ取っていた。
「この戦いが終わったら…普通の女の子になるから…」
強く、加藤の身体を抱き締める。
「ダディも…ジーナを…娘として…認めて下さい…」
加藤は、何も言わずにジーナをそっと抱いた。
5431投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)02時38分36秒
今日は、これでおちます

『らりるれろ探偵団』の方も、更新しておきます
5432投稿者:117  投稿日:2008年12月07日(日)13時02分46秒
何かと多忙で見に来れませんでしたが、リリーさんも同様だったみたいですね。
かなり無茶な電気治療も上手くいっているようで・・・
苦痛に耐えつづける有沙のことを思いながら、決意を新たにする「R&G」の面々・・・いいですね。続きも気になります!
5433投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時53分42秒
117さんも、お忙しいのですね
この季節は、慌しく追われてしまいます
今の小説の時期と、今の時期が丁度リンクしてますね
丁度、一年前ですが…
有沙の覚悟は、決して仲が良いとはいえない『R&G』のメンバーを結束させる為でも必要なものでした
あと、ダーさんという精神的支柱も失ったっまですし…

では、更新します
5434投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時54分49秒
有海と帆乃香は、保健室に足を踏み入れた。
何かが焦げた様な匂いが、室内に充満していた。
カーテンの奥に、中村有沙がベッドで寝ているはずである。
「…中村先輩…?」
弱々しい声をかけながら、有海は少しずつ歩みを進める。
カーテンの奥から、すすり泣く声が聞こえる。
「瑠璃…ちゃん…?」
有海は、不安からカーテンを開けることができない。
「…入るで?」
帆乃香が、有海の前に割り込んで、カーテンを開けた。
中村有沙は…布団の中で安らかに眠っていた。
瑠璃は、付き添う様に座り、涙を拭いている。
「…瑠璃…。どないや…?ありりんの具合は…」
「…だ…大丈夫…。今は…静かに…眠っているから…」
しゃくり上げながら、瑠璃は答えた。
相当の荒治療で、瑠璃も疲労困憊していた。
しかし、有海はそんな瑠璃に掛けた言葉は、労いではなかった。
「瑠璃ちゃん…。お願いがあるの…」
「…え?」
「疲れてるところ、ごめんね…。この休憩中…私からのお願いを…聞いて欲しいの…」
5435投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時55分21秒
中村有沙の側には、帆乃香についてもらうことにした。
有海が瑠璃を連れて行ったのは、二階の西の端にある、『どんぐり広場』と表札が掲げられた多目的教室だった。
教室が二つ分ある、広いスペースだ。
机も椅子も並んでいない。
5436投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時55分40秒
「あの…。ここに…何の用ですか?」
瑠璃の質問に、有海はシンプルに答える。
「罠を仕掛けて欲しいの…」
「罠!?」
有海から出された意外な言葉に、瑠璃は驚いた。
カエルと聞いただけで、ひきつけを起こしてしまった、あの気弱な有海の言葉とは思えない。
「電気の罠…。できる?」
「ど、どんな…?」
「うん。詳しく話すね…」
有海は、一通り自分の考えを説明する。
中村有沙の治療中に、考えたアイデアだ。
その話しを聞いた瑠璃は、青い顔で首を横に振った。
「む、無理です!!」
「無理って…罠を仕掛けること…?」
「い、いえ…それは、問題ないです…。その、罠を成功させることが無理ってことです!!」
「大丈夫…」
有海は、穏やかに微笑んだ。
「私になら、できる…」
「…え?」
「ううん…。私にしか、できない…」
5437投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時56分22秒
有海に頼まれた罠を仕掛けるのに、人手はたくさんあった方がいい。
卓也、杏奈、甜歌の三人が呼ばれた。
有海と瑠璃を加えた5人で、一つ一つ、床板を剥がしている。
30センチ×30センチの、正方形の床板だ。
その床板が、教室一面に敷かれているのだ。
杏奈も卓也も、この罠の計画を聞いて、不安になっている。
「ねぇ…。本当に、上手くいくの…?こんな…」
卓也が言いよどんでいる言葉を、杏奈が続ける。
「こんな、無謀な計画!!ヘタをすると、あなたが…」
「いいえ…。死にません…」
自信に満ちた声で、有海は答える。
5438投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時56分40秒
「どうして、そんなこと言えるの?」
杏奈は、少し苛つき気味に有海に聞いた。
「甜歌さん…」
「ふあい!?」
不意に声を掛けられ、甜歌は気の抜けた返事をした。
「聖テレ対虹守の試合…。細川さんの投球数と、藤本さんの投球数、そして、バーンズさんの投球数を全て足した数、覚えてます?」
「え…?え…?何だって?」
甜歌は、有海の質問の答えも意味もわからない。
「私は覚えてます…。細川さん78球、藤本さん34球、バーンズさん48球…合計、120球です…」
「ふぇぇ〜〜〜…凄い…」
甜歌は、素直に感心した。
「聖テレって…ここまで頭が良くなきゃ、入れないの…?」
5439投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時57分04秒
しかし、杏奈がヒステリックに怒鳴った。
「バカね!!甜歌!!こんなの、答えが確かめようがないじゃない!!スコアブックがここにあるわけでもないし…」
「杏奈…。これで試してみようよ…」
卓也は、上着のポケットから文庫本の小説を有海に渡す。
「この罠を成功させる自信があるというのなら…これくらいのことやってもらわなきゃ、僕等も納得して協力できない。もしかしたら、君を殺してしまう手伝いをすることになってしまうからね…」
「…はい…。どんなことをするんですか?」
「まず、この本を、ざっと読んでみてよ。そうだな…2時間、時間をあげる」
有海は、パラパラとページを捲る。
「はい。読みました」
そして、卓也に本を返した。
「…!?」
これには、卓也も言葉を失った。
5440投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時57分21秒
「じゃ、じゃあ、その本の内容を…」
「ダメよ!!前に読んだ事があるかもしれないじゃない!!」
杏奈は、厳しい声で横槍を入れる。
「15ページの三行目、12文字目の字…言ってみて…」
「そ、それはちょっと、難しいんじゃ…」
卓也は声をあげたが、有海の声がそれを打ち消す。
「『ぶ』…です。『やぶさかではない』…の、『ぶ』です」
「…!?」
答えを確認した杏奈は、驚愕した。
「じゃ、じゃあ…74ページの…8行目…16文字目…」
「…ええと…『蠅』です。『五月蠅い』の『蠅』…。『ごがつばえ』と書いて『うるさい』と書く…」
杏奈は、もうこれ以上試すことは無駄だと悟った。
5441投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時57分48秒
「これで…信用して下さいました…?」
有海は、恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。
「あ…あんた…何で…こんなこと…」
杏奈は、もう、別次元の人間を見るような目で、有海を見詰めた。
「私…昔からこうなんです…。どんなことでも、覚えてしまうんです…。野球のスコアラーとして、重宝がられます…。野球はデータ収集のスポーツですから…」
しかし、確実に有海の能力は進化している…。
今年の春、野球のルールブックを覚えるのに、1週間以上かかっていたからだ。
楠本の下で作戦参謀として修行をしているうち、極度の緊張感から、速読と瞬間記憶という武器を開花させたのだ。
もちろん、楠本自身、そんな能力は持ち合わせていない…。
有海だけの、唯一無二の能力なのだ。
使い方によっては、寛平の予知能力よりも有効に使える力なのだ。
5442投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時58分05秒
「凄い!!羨ましい!!うちもそんな能力欲しい!!テストとか、百点満点じゃん!!」
甜歌は、泣き出しそうな声で叫んだ。
「う…うん…。ぼ…僕も…正直、羨ましくて仕方がない…」
東大志望の卓也も、素直にそう呟いた。
しかし、有海は暗く表情を沈ませる。
「でも…この力のおかげで…私は、嫌な思い出…辛い思い出も…忘れたいことまで覚えてしまうんです…」
そう…いじめられた記憶…あの、いじめグループの連中の、底意地の悪い醜い笑顔…。
逆に、自分がいじめた記憶…いじめグループの元リーダーに復讐した時の彼女の泣き顔…。
その母親に、復讐を返された記憶…あの、憎しみと悲しみが入り混じった悲しい顔…。
5443投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時58分31秒
「ですから…私は…この戦いを悲しい結果に終わらせたくない…。いつまでも、いつまでも…記憶に残ってしまうから…」
杏奈も、卓也も、甜歌も、瑠璃も、じっと有海を見詰めた。
「私は…これからの人生を…できるだけ楽しいことで埋め尽くしたいんです…。辛いことがあっても…それ以上に楽しい思い出をつくりたいから…」
有海の声が、消えかかる。
そして、すすり泣く。
「わかったわ…」
杏奈は、作業に戻った。
「…有海ちゃん…。絶対に上手くいくよ…」
卓也も、作業に戻る。
「がんばろうね!!あみ〜ご!!」
甜歌は、笑顔で有海の肩を叩いた。
「ありがとう…ございます…」
有海は、泣きながらも笑顔で答えた。
5444投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)20時58分47秒
瑠璃は、じっと考える。
「楽しい思い出…」
モニークと…短い間だが、一緒に『表』の世界で暮らしたあの思い出…。
ジーナは、これから父親と過ごす時間を、思い出にしようとがんばっている…。
中村有沙だって…身体が動かせないまま殺されるという、屈辱の思い出で自分の一生を終えることを許さない…。
瑠璃も、何も言わずに作業に取り掛かる。
この戦いが終わったら…楽しい思い出をつくるのだ。
千秋達のいる、『表』の世界で…。
5445投稿者:リリー  投稿日:2008年12月07日(日)21時00分04秒
『グラスラ』の方は、これでおちます

『らりるれろ』も更新しておきます
5446投稿者:私にしか、できない…  投稿日:2008年12月07日(日)21時12分16秒
色仕掛けですね、楽しみです
5447投稿者:わがままですいません  投稿日:2008年12月07日(日)21時20分51秒
千秋が全然出てこないからちょっと寂しい……。
らりるれろの準主役だから仕方ないと言ったら仕方ないけど
5448投稿者:有海だから色仕掛けではないような…  投稿日:2008年12月07日(日)21時42分27秒
しかし、電気と頭脳を使ってどう戦うのか
5449投稿者:「やぶさかでない」「五月蠅い」  投稿日:2008年12月07日(日)22時16分12秒
卓也の持ってた小説の内容が気になる
時代小説か?
5450投稿者:うんそれ気になった(笑)  投稿日:2008年12月07日(日)22時20分48秒
何か元ネタがあるんだろうね
5451投稿者:リリー  投稿日:2008年12月08日(月)20時44分48秒
5446さん、5448さんのおっしゃる通り、色仕掛けではありません
どんな罠になるかは、最終決戦で明らかになります

5447さん
すみません
これ以上非戦闘員を増やすわけにもいかず、千秋は今回、お留守番となりました
また、何かの小説で活躍が書ければ…と思います

5449さん、5450さん
卓也の持ってた小説ですが、元ネタはありません
思いついた言葉を並べただけでした
手元に『容疑者Xの献身』がありましたが、第1刷が2008年の8月なので、無理でした(劇中は2007年の大晦日なので)

では、更新します
5452投稿者:リリー  投稿日:2008年12月08日(月)20時46分47秒
ハセヤンズハウスの近所の蕎麦屋で、『TDD』の面々は年越し蕎麦を食べていた。
評判の信州蕎麦の店で、店内は大繁盛だった。
その奥の座敷のテレビで、寛平達は紅白歌合戦を鑑賞する。
女性デュオ『あみん』の復活に、寛平、シンパンマン、そして楠本は狂喜乱舞していたが、『あみん』を知らない理沙達はシラケ気味に男達を見る。
ただ、岡村孝子が『あみん』というグループで活躍していた…ということは、新しい発見だった。
そんな中、あすみと藍が蕎麦屋に到着した。
「何も、こんな賑やかな所で待ち合わせしなくても…」
あすみは、呆れながら寛平に言う。
「おお、あすみ、あい〜ん。こっち座り。何か食べるか?」
「どうする?」
あすみは、藍の顔を覗き込む。
「…何も…喉を通らない…」
青い顔をして、藍は首を横に振る。
「そうか?腹が減っては戦はでけへんよ?」
そう言いながら、寛平はテレビに視線を戻す。
そう…これから始まるのは、間違いなく戦…決して比喩表現などではない…全面戦争なのだ…。
このことを考えただけで、藍はますます気分が落ち込んでいく。
そして、いよいよ『とり』の五木ひろしが歌い始めた時、シンパンマンの携帯が鳴った。
「…?夏希からです…!!」
一瞬で、その場の空気が凍りついた。
いよいよ、最終決戦の場所を知らせに来たのだ。
5453投稿者:リリー  投稿日:2008年12月08日(月)20時47分05秒
「もしもし…」
シンパンマンが電話に出る。
皆は、耳をそばたてる。
寛平だけは、五木ひろしの熱唱に聞き惚れているが…。
〔私よ…。夏希…〕
「私達は、どこへ向かえば…?」
〔ナビゲーションシステムを見て。今度は表示されるはずだから〕
シンパンマンは、言われたとおりにする。
確かに、アイコンが表示されているが…。
「…?山の中…?」
〔いいえ。廃校になった小学校にいるのよ〕
「廃校?」
〔もう、最新の地図ではデータを消されちゃってるんでしょうね…〕
「わかりました。そこに向かえばいいんですね?」
〔あと…寛平一人で、体育館に来るように…。一人でよ?〕
「…?なら、我々は?」
〔適当に校内をウロウロしててよ。『R&G』の連中が相手をするから…。だから、寛平以外は体育館に近づかないこと…。で、なければ『難田門司の隠し財産』も…帆乃香も有海も、永遠にあなた達の下には戻らない…〕
シンパンマンは、寛平の方を窺う。
寛平は、テレビを見ながらOKサインを出す。
「ボスは、それで承知しましたが…あなたの方は?一人でボスを迎えるんですか?」
しかし、夏希からの電話は既に切れていた。
5454投稿者:リリー  投稿日:2008年12月08日(月)20時47分34秒
「なるほど…。夏希さんの方は、何かいろいろ仕掛けてるみたいですねぇ…」
明言を避けた夏希の態度から、楠本は全てを理解した。
「よし!!ほな、行こうか…」
膝をパンと叩いて、寛平は立ち上がり掛ける。
「ボス。景気づけに…。紅組と白組、今年はどちらが勝ちます?」
「ん…?やってみよか…?」
楠本の言葉に、寛平はポケットからカードを取り出す。
そして、おもむろに一枚のカードを引く。
そのカードは…王冠を被った女性が、大きな椅子にゆったりと腰掛けている… ?・L'Impératrice…『女帝』のカードだった。
女性、母性を象徴する、『女帝』のカードが出た…と、いうことは…。
「うん。今年は、紅組の勝ちや!!」
「そうかな…?私は、白組だと思う…」
藍は、そう呟いた。
テレビでは、白組キャプテン・笑福亭鶴瓶と、紅組キャプテン・中居正広が投票のボールを投げている。
結果は…白組の圧勝…。
「あらら…」
寛平は、呆然とテレビを眺める。
「外れた…?ボスの占いが…?」
理沙は、信じられない…という表情で、寛平の顔を見詰める。
5455投稿者:リリー  投稿日:2008年12月08日(月)20時48分09秒
「…ははは…。『弘法も筆の誤り』…」
楠本は、乾いた笑いで何とかフォローする。
「楠本君、それを言うなら『猿も木から落ちる』や…」
どうやら、寛平はそれほどショックを受けていないようだ…。
それよりも、寛平は別のことに興味を持つ。
寛平は、藍の顔をまじまじと見る。
「な、何ですか?」
「あい〜ん…。何で、白組が勝つとわかったん?」
「わかったも何も、紅組と白組、二者択一じゃん…。確率は50パーセント…。そんなに驚くことじゃないでしょ?」
翔子は、どうでもいい、というような口調で口を挟んだ。
5456投稿者:リリー  投稿日:2008年12月08日(月)20時48分19秒
藍は、シドロモドロになりながらも、寛平の質問に答える。
「ええと…あみ〜ごだったら、白組って言うかな…て、思って…」
「あみ〜ご?どういうことです?」
楠本は、その藍の言葉に食いついた。
予想外の食いつきに、藍は戸惑う。
「今年の…採点システムなら…白組かな…って…」
「詳しく聞かせて下さい…」
「ええと…テレビを見てる人達が、投票して、多い方に二票入るんですよね?こういうの、わざわざ投票するのって…女の人が多いかなって…。男の人は、そういうことしない様な気がします…」
「…?女の人が投票すると、白組が勝つの?」
翔子は、不思議そうに尋ねた。
「だって…ジャニーズの歌手が出てるでしょ?私の学校でも、ジャニーズの人気って凄いんですよ?クラスの半分くらいがジャニーズファン…。あとは、EXILEとか、ポルノとか、スキマスイッチとか、WaTとか…。あと、オバちゃんは氷川きよしだろうし…」
つまり、白組の歌手には、熱狂的な女性ファンがついている。
そのファンが手間ひまかけて、せっせと投票するという…藍の説だ。
5457投稿者:リリー  投稿日:2008年12月08日(月)20時48分36秒
「ええ?私は紅組の子達の方が好きよ?モー娘とか、Berryz工房とか、℃-uteとか、AKB48とか、リア・ディゾンとか…ギザかわゆす…」
「それは、あんただけでしょ?」
理沙は、翔子に冷静な突っ込みを入れた。
「ですから、この二票の差って大きいと思うんですよね…。確率的には、白組なんじゃないかな…て…」
「エライ!!」
寛平は、バン、とテーブルを叩いた。
「わ!!ビックリした!!」
目を丸くして、藍は寛平を見た。
「これこそ、探偵や!!探偵たる者、こうやって頭を使うて、『ロリン的』に答えを導きださなアカン!!」
「なるほど…。『論理的』思考ですか…」
シンパンマンが、さりげなく寛平の言い間違いを訂正した。
「…たかが紅白の結果で…大袈裟だね?恵ちゃん…」
はるかが、そう恵に話し掛けるが、さっきから恵は、考え事をしているのか、返事をしない。
「どうも、ワシは…いや、ワシ等は、占いの力に頼ってばかりで、探偵としても基礎能力を磨くのをおろそかにしとるで!!」
突然、寛平にらしくない説教を食らわされて、皆は少し不愉快になった。
「で、ボス…。どうしろと?」
理沙は、しらけた態度で聞く。
「ん?せやから、こうするんや!!」
寛平は、突然、タロットカードを22枚全てを重ね合わせると、それを真っ二つに引き裂いた。
5458投稿者:リリー  投稿日:2008年12月08日(月)20時49分02秒
「…!?」
「な、何をするんですか!!ボス!!」
皆は、騒然となった。
「ええねん!!こないなもん、なくてもワシ等は勝たなアカン!!そういう気概がのうなったら、『R&G』には勝てへんで!?」
寛平の顔は、今までに見たことがないくらい、険しいものになっている。
「『R&G』の連中は、おそらく勝つ確率はもの凄う少ないと自覚しとるはずや…。それでも、ワシ等にケンカを売っとる…。実に、見事な連中や…」
そう言うと寛平は、その引き裂いたタロットカードを灰皿に乗せて、マッチで火を点けた。
「し、しかし…。それは、『裏』だけではなく、『表』の仕事にも必要なのでは…?」
シンパンマンは、燃えていくタロットカードを、呆然と見詰めながら言う。
「ええねん…。一度外れたカードは縁起悪いから、こうやって捨てることにしとるんよ…」
「そ、そうでしたか…。で、カードを捨てるのは何度目ですか?」
「ん?これが初めてやで?」
「…え…?」
「50年使うたカードを、こうやって捨てるんは…ちょっぴり物悲しいな…」
寛平は、今まで共に戦ってきた戦友の死を看取るような目で、既に灰になろうとするカード達を眺めた。
5459投稿者:リリー  投稿日:2008年12月08日(月)20時49分26秒
「つまり…初めて、ボスの占いが外れた…と、いうことですか…」
楠本は、深い溜息をついて言った。
紅白、どちらが勝つ?などと…余計なことを占わせたと後悔しながら…。
その楠本の言葉に、『TDD』の探偵達の胸に、嫌な予感が過る。
「さ…。行こか…」
カードが全て燃え尽きて灰になったことを確認してから、寛平はようやく立ち上がった。
シンパンマンが、レジで会計を済ます。
「すみません。『有限会社TDD』でお願いします」
そう言うシンパンマンを、翔子は笑った。
「あはは。領収書落としてる。シンパンマン、ギザセコす…」
『TDD』の探偵達は、店外に出る。
「お…?雪が止んどるで…?」
しかし、雲は相変わらず原村の空を覆い、月や星を隠している。
除夜の鐘が鳴り響く。
もうすぐ、激動の2007年が終わろうとしている。

(『九回・裏』・・・終了)
5460投稿者:リリー  投稿日:2008年12月08日(月)20時56分28秒
このように、九回では終わらず、延長戦に突入することになりました

そこで、皆さんにお詫びしなければなりませんが、しばらく更新を休みたいと思います
理由は、まだ『グラスラ』を終わりまで書き上げていないので、今年中に終わらせたいと思ったからです
このまま更新を続けると、書けずにいる所に追い着いてしまいそうで、結局は更新が止まってしまうことになりかねないからです
ですので、今年いっぱいは新しい部分を書くことに集中したいと思います

その代わりと言っては何ですが、その間は『らりるれろ探偵団』を更新していきたいと思いますので、よろしくお願いします

勝手なことばかり言って、すみません
また、更新を再開するときは、このスレか、『らりるれろ探偵団』の方でお知らせします
おそらく、新年には始めたいと思います(次の『延長戦・十回』が、1月1日なので、それに合わせられたら…と思いまして…)

では、これでおちます

これからも、よろしくお願いします
5461投稿者:117  投稿日:2008年12月08日(月)21時21分45秒
去年の紅白、いろいろと思い出しました。今年も,もうそういう季節なんですね。
藍の意見・・・なるほどなぁと思いました。
しかも、カンペーさんの占いがはずれるとは・・・今後の行く末?

なるほど、一時休止ですか。
最近はいつもは来れてないですが、この小説を読むのは生活の一部となっていたので・・・
続きは新年ですか。楽しみにしてますんで、頑張ってくださいね!
5462投稿者:いわば充電ですね  投稿日:2008年12月08日(月)22時21分28秒
私たちは来年でも来世紀でも待ちます
5463投稿者:去年の紅白  投稿日:2008年12月08日(月)22時34分36秒
しょこたんも出てたよね
5464投稿者: 投稿日:2008年12月08日(月)22時46分40秒

5465投稿者:あげ  投稿日:2008年12月10日(水)22時53分37秒

5466投稿者: 投稿日:2008年12月12日(金)06時09分53秒
5467投稿者:がんばれー  投稿日:2008年12月12日(金)19時49分32秒
 
5468投稿者:あげ  投稿日:2008年12月14日(日)13時04分03秒
   
5469投稿者: 投稿日:2008年12月14日(日)15時45分05秒
5470投稿者: 投稿日:2008年12月14日(日)16時43分03秒
このテストはあなたが信じてやることが大切です。このテストを始める前に1つだけ願い事をしてください。テストの前に結果を見ればあなたは幸せでいられなくなります。あなたを信じてテストを始めます。まず、紙と書くものを用意してテスト順に答えを書いていってください。当てはめる人は相手もあなたもお互いを知ってる人です。
1.ここに、5種類のジュースがあります。それぞれ一緒に飲みたい友達(同性)を当てはめてください。
?りんごジュース ?オレンジジュース ?ぶどうジュース ?グレープフルーツジュース ?アセロラジュース
2.あなたは5人の人にプレゼントを贈ります。どれを誰にプレゼントするか、異性を当てはめてください。
?マフラー ?ネックレス ?リング ?帽子 ?図書券
3.?〜?で、イメージする人を当てはめてください。異性・同性、どちらでも良いです。
?指輪 ?果物 ?キス ?学校 ?緑 ?茶色
4.最終テストです。5以上20以下のなかで好きな数字を一つ選んでください。
それと、次の中から好きなものを1つ選んでください。
?Su ?M ?Tu ?W ?Th ?F ?Sa
ここから答えです。
1.あなたにとってこういう友達です。?なんでも相談できる人 ?あなたの支えになってる人 ?影であなたを支えてる人 ?一緒にいて楽しい人 ?ライバル
2.?恋に発展しない友達 ?ずっと仲が良い人 ?恋人または婚約者 ?あなたの事が好きな人 ?友達以上好きな人未満な人。
3.?一生の友達 ?付き合いが長くなる人 ?あなたが心から好きな人 ?一緒にいると落ちつく人 ?最高の相談相手 ?あなたの事を憎いと思ってる人。
4.その数字の数だけこれをレスに貼りつけてください。?日曜日 ?月曜日 ?火曜日 ?水曜日 ?木曜日 ?金曜日 ?土曜日
選んだ曜日がこの日から1年間のラッキーDayです。
どうでしたか?あなたの願いが叶うことを心よりお祈り申し上げます

5471投稿者:あげ  投稿日:2008年12月15日(月)01時46分17秒
 
5472投稿者:あげ  投稿日:2008年12月16日(火)00時27分59秒
 
5473投稿者:あげ  投稿日:2008年12月17日(水)20時21分40秒
早く正月ならないかな?
5474投稿者:あげ  投稿日:2008年12月18日(木)19時20分31秒
 
5475投稿者: 投稿日:2008年12月18日(木)19時50分05秒
5476投稿者: 投稿日:2008年12月18日(木)20時35分10秒

5477投稿者: 投稿日:2008年12月20日(土)11時37分02秒

5478投稿者:age  投稿日:2008年12月23日(火)23時58分35秒
 
5479投稿者:あっげ  投稿日:2008年12月28日(日)00時19分12秒
 
5480投稿者: 投稿日:2008年12月28日(日)00時36分05秒

5481投稿者:リリー  投稿日:2008年12月28日(日)02時05分30秒
多くのあげ、ありがとうございます
5473さん
新年には、再開しますので、その時はまた、よろしくお願いします
5482投稿者:あげ  投稿日:2008年12月30日(火)00時12分58秒
  
5483投稿者: 投稿日:2008年12月30日(火)01時12分32秒

5484投稿者:リリーさん復活まで  投稿日:2008年12月30日(火)10時50分49秒
秒読み段階
5485投稿者: 投稿日:2008年12月31日(水)00時49分50秒

5486投稿者: 投稿日:2008年12月31日(水)02時32分26秒

5487投稿者:デジ  投稿日:2008年12月31日(水)06時14分54秒
ここに書き込みが噸と途絶えてから一ヶ月半は経過してしまいましたね。
新年まであと18時間ですね。
延長戦に突入しましたか!
楽しみですね。
すごい進んでますね。そうしてすすむ内に昔の有海はすっかりなくなって、今では罠を仕掛けると言える程に成長しましたか。なんかホッとしますね。さて、有海の仕掛けた罠とは一体
続きも楽しみです!
               
5488投稿者:あげ  投稿日:2009年01月01日(木)02時32分10秒
 
5489投稿者: 投稿日:2009年01月01日(木)04時29分39秒
5490投稿者:デジ  投稿日:2009年01月01日(木)15時02分49秒
あけましておめでとうございます!
新年早々新スレ立てました。
その名も[探偵小説デテクティブクライシス〜探偵千夜一夜物語]です。
前作のミスも含め、設定を少し変えてみました。
更新は気まぐれになりますがどうぞ見ていってください。
5491投稿者:復活まで  投稿日:2009年01月01日(木)15時32分18秒
おさらい

http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544d.html
5492投稿者:リリー  投稿日:2009年01月01日(木)20時33分39秒
あけましておめでとうございます

ようやく、『グランドスラムの少女達』を書き上げることができました
あとは、順次更新していくだけです
長々と更新を休んでしまい、申し訳ありませんでした
5484さんはじめ、待っていて下さった方々、お待たせしました
デジさんもお久しぶりです
新しく小説を書き始めたんですね
そちらの方も、楽しみにしています

では、更新します

5493投稿者:リリー  投稿日:2009年01月01日(木)20時34分35秒
延長戦『十回・表』
≪2008年1/1(火)≫

初日の出を迎える。
だが、そんな正月気分は、『ハセヤンズハウス』の面々には味わう余裕はない。
瑠璃が、何者かに誘拐されたのだ。
レジャー施設の視察の為に、原村を訪れたという、寛平達…。
だが、彼等は連続誘拐犯の追跡をする探偵だと言う。
彼等は、瑠璃を無事に連れて帰ることを約束し、除夜の鐘と共に八ヶ岳方面へ、消えていった。
一応、警察にも通報はした。
だが、警察は連続誘拐犯の情報は得ていないし、『TDD』なる探偵社も聞いたことがない…と言う。
もしかしたら、その『TDD』という連中が、瑠璃を誘拐した犯人ではないか…と、疑い出した。
ハセヤンも、そう思わざるを得なかったが、大樹だけは、『TDD』を…いや、恵を信じていた。
だが、千秋だけは真相を知っていた。
『TDD』は、犯人ではない。
犯人は、梨生奈達、『R&G探偵社』…。
そして、『R&G』は、『TDD』と最終決戦を繰り広げているのだ。
『R&G』が、瑠璃を誘拐した理由は…彼女の知識と技術が、『TDD』との決戦に役に立つから…ということを、梨生奈に聞いた。
その後、梨生奈から連絡はない。
千秋も、瑠璃の帰りを不安で胸をいっぱいにしながら待っていた。
5494投稿者:リリー  投稿日:2009年01月01日(木)20時34分59秒
千秋は、日の出と同時に、雪の降り積もった庭に出た。
2007年から2008年にかけて、千秋は一睡もできなかった。
あれから、梨生奈から何の連絡もない…と、いうことは、『R&G』は『TDD』に敗れたのか?
瑠璃の消息は、どうなったのか…?
去年の夏…自分は事件の中心にいた。
命の危険にさらされたが、今回の様に蚊帳の外におかれるのも、十分に辛い。
こんな思いを、またも強いられたハセヤンや大樹は堪らないだろう…と考えていたら、後ろから声をかけられた。
大樹だった。
「眠れなかったの?」
千秋は、ただ、頷くだけだった。
白い息を溜息として吐きながら、大樹は一人で話しだす。
「親父は、『TDD』の人達を疑っているけど…俺は、信じたいんだよね…」
そして、しばらくの沈黙の後、こう付け加える。
「恵さんは…そんな悪い人じゃない…」
だが、千秋は心の中で叫んだ。
(その恵って女の人は…今頃、梨生奈ちゃん達と殺し合いをしてるんだよ…!!)
いや…もう、終ったのかもしれない。
千秋は、いつかかってくるかわからない携帯を握り締め、雪を被った八ヶ岳を見詰めていた。
5495投稿者:リリー  投稿日:2009年01月01日(木)20時35分30秒
「…ん?千秋君…」
大樹は、不意に声をあげた。
「あの…車…」
大樹の指差した方向を、千秋は見る。
黒い車が、こっちへ向かって来る…?
あの車は…ベンツ…。
寛平達、『TDD』が乗ってきた車だ。
「恵さん…寛平さん達…じゃないか…?」
大樹の声が、弾んでいる。
逆に、千秋の胸は、不安で満ちる。
まさか、梨生奈達、『R&G』が負けたのか…?
『TDD』の勝利か…?
だが、『TDD』が『R&G』に勝利して、尚もハセヤンズハウスに戻る必要があるのか?
それに、たしか彼等は二台のベンツで来たはず…。
そして、二台のベンツで瑠璃の捜索(表向きだが)に出かけたはずだ。
『TDD』に何かあったのか…?
『R&G』にも…。
瑠璃の身にも…。
5496投稿者:リリー  投稿日:2009年01月01日(木)20時35分49秒
ベンツが『ハセヤンズハウス』の敷地内に入る前に、大樹は既に駆け出して行った。
千秋は真相を知るのが怖かったが、躊躇していても数秒後には全てが明らかになると覚悟を決め、大樹の後を追った。
ベンツは、大樹の側で停まった。
そして、しばらく遅れて千秋も到着する。
車の中…運転席にいたのは…。
「しょ、しょこたん!?」
千秋は、声をあげた。
運転していたのは、中川翔子…。
そして…助手席には…。
「瑠璃!!」
千秋は、リアガラスに掌を着け、車内の瑠璃に叫んだ。
「千秋君!!」
瑠璃は、車のドアを開けると、タックルをかける様に千秋に抱きついた。
「うわ!!」
千秋は瑠璃を抱いたまま、雪の上に仰向けに倒れた。
「ただいま!!千秋君!!」
瑠璃は、涙混じりに言った。
「お、おかえり…。瑠璃…」
聞きたいことは、山ほどあるが、今は瑠璃を力いっぱい抱き締めてやりたかった。
5497投稿者:リリー  投稿日:2009年01月01日(木)20時36分07秒
「しょ、翔子さん…。瑠璃を…無事に連れ戻してくれたんですね…。ありがとうございました!!」
心の底から安堵して、大樹は翔子に頭を下げた。
「いえ…。本当に、瑠璃ちゃんが無事で、よかったです…」
翔子は、何故か元気のない笑顔を大樹に向けた。
だが、すぐに別の不安が頭をもたげた。
他の者はどうしたのだろう…?
恵は、どうなったのだ…?
「ほ、他の人達は…?寛平さんは?楠本さんは?」
翔子の顔から、笑顔が消えた。
嫌な予感がする…。
「………恵さんは…?」
一番、聞きたかったことだ…。
翔子は、大きく溜息をついて、言った。
「まず…中に入りましょう…。ハセヤンさんにも…報告しなければならないし…」
「………はい…。そうですね…」
不安で胸が張り裂けそうだが、ハセヤンはまず翔子達を中に入れて休ませなければならない。
一番、過酷な時を過ごしたのは、翔子と瑠璃なのだから…。
そして、今、気がついた。
翔子の額に、わずかばかり血が滲んでいるのを…。
5498投稿者:リリー  投稿日:2009年01月01日(木)20時36分28秒
説明をする前に、翔子は警察に事情を説明しなければならない。
瑠璃は疲労が激しいということで、真相を語る前に部屋で休むことにした。
千秋に抱きついた直後、瑠璃は安心して熟睡してしまったのだ。
千秋もハセヤンも大樹も、翔子が警察に話し終えるのを待った。
ただ千秋だけは、翔子が警察に対してウソを言っていると確信する。
彼女達は、『R&G』と死闘を繰り広げていたのだ。
そして…決着がついたのだ…。
つまり千秋にとって、翔子の話しなど、何の意味もない。
全ては、瑠璃が知っている…。
警察と翔子の話しは、ようやく終わった。
どうやら、翔子は警察を納得させた様だ。
「どうします…?我々の方でご説明をしましょうか?」
警官は翔子に伺うが、翔子は掌を向けて首を横に振る。
「いえ…。私の方から報告します。あなた方警察は、早く犯人を追って下さい…」
警官達は、翔子に、そしてハセヤン達に礼をすると、存在するはずのない誘拐犯を追う為に外へ出た。
警官の一人が、無線に向かって『モニーク・ローズ』と囁くのを、千秋は聞いた。
どうやら、彼女が犯人に仕立て上げられた様だ。
でっち上げに、モニークの名前を利用された…。
千秋は、怒りを覚えた。
5499投稿者:リリー  投稿日:2009年01月01日(木)20時36分50秒
「説明致します…。全て…」
翔子は、改めてハセヤン達に説明する。
彼女の額にはガーゼが当てられ、治療をされていた。
そのガーゼを気にする様に押さえながら、翔子は話した。
何があったのかを…。
まず…瑠璃はまったくの無傷…。
犯人(モニーク)は、瑠璃を傷つける意思はなく、ただ、側にいたかったからだ…ということだ。
だが、彼女は激しく抵抗した。
翔子の怪我も、その時に負ったもの…と、いうことだ。
とりあえず、瑠璃だけは保護したので、翔子が無事に送り届けることになった。
そして寛平達は、全員犯人の行方を追っている…と、いうことだ。
今だ、連絡はないらしい。
大樹は、深い溜息をついた。
恵が無事であるかどうか、わからない…。
だが、翔子は皆とわかれる段階では、恵をはじめ全員無傷であったと伝えた。
5500投稿者:リリー  投稿日:2009年01月01日(木)20時37分11秒
千秋は奇妙に感じた。
確かに、犯人を取り逃がしたというのは、でっち上げだ。
だが、楠本をはじめ、みんなが戻ってきていない…というのは、何を意味するのだろうか…?
あと…。
「社長さんは…だいぶ、御高齢のようですが…?」
今度は、ハセヤンが心配そうに尋ねた。
そんな心配は、無用だろうが…。
「大丈夫です。それは…」
また、翔子の顔が暗く沈んだ。
千秋は、再び違和感を感じる。
とにかく、翔子の話しは全てウソだろう。
ここは、やはり瑠璃から事情を聞かなければ…。
だが、彼女は今、疲労の果てに眠っている。
5501投稿者:リリー  投稿日:2009年01月01日(木)20時38分02秒
千秋は、瑠璃の部屋の前を言ったり来たり、歩き回っている。
早く真相を知りたいが…まだ、瑠璃は目覚めていないだろう…。
その時、部屋の中から声がかけられた。
「千秋君…。入って…」
瑠璃だ。
「…!?瑠璃?もう、目が覚めたのか?」
ドアが開く。
「私…眠ってなんか、ないよ…」
彼女の顔には、疲労の色はなかった。
「え…?じゃ、じゃあ、どうして眠ったふりを…?」
「警察の人達に、ウソつくの疲れるじゃん…。それに瑠璃、ウソがヘタだし…」
そう言って、瑠璃は笑った。
「じゃ、じゃあ…瑠璃…。本当のこと、話してくれる?」
「…うん…。教えてあげる…。何があったのか…。私も、全部知ってるわけじゃない…。聞いた話しもあるんだけど…」
瑠璃は、除夜の鐘が鳴ってから初日の出までの間…何があったのか、全てを話した。

(延長戦『十回・表』・・・終了)
5502投稿者:リリー  投稿日:2009年01月01日(木)20時39分26秒
いきなり、決戦が終わってしまいましたが、その詳しい内容は、『十回・裏』で明らかにされます

では、今年もよろしくお願いします

おちます
5503投稿者:117  投稿日:2009年01月01日(木)21時02分44秒
リリーさん、お久しぶりです。そして、新年明けましておめでとうございます!
久々の更新・・・待っていましたよ!今年もよろしくお願いします。

おぉ〜、いきなり話が終盤に・・・次回はもう10回の裏なんですね。
一体何があったのか・・・続きが気になります!
5504投稿者:デジ  投稿日:2009年01月01日(木)22時04分50秒
リリーさん、お久しぶりです。そして今年もよろしくお願いします。

展開早いですね。次回で、もう延長戦も裏になるんですか。表、1日で終わってしまいましたね。空白の4〜5時間にはいったい何があったのか、そして戦いの軍配はどちらに上がったのか・・・続きも気になります!

              
5505投稿者: 投稿日:2009年01月01日(木)22時26分16秒

5506投稿者: 投稿日:2009年01月01日(木)22時34分26秒

5507投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時43分02秒
117さん、お待たせしました
今日から、『十回・裏』が始まります
『十回・表』の約6時間前の話しとなります

デジさんも、お久しぶりです
『十回・表』は短かったですけどその代わり『十回・裏』は、今までで一番長いです
それだけ、詳しく書いてます
最終決戦なので…

あげ、ありがとうございます

では、更新します
5508投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時44分32秒
延長戦『十回・裏』
≪2008年1/1(火)≫

「除夜の鐘よ…」
夏希は、体育館の屋根の上から、空を見上げる。
一面、雲が覆っているのか、月は見えない。
しかし、積もった雪の為、辺りは仄かに明るい。
雪が止んでいる…月が見えない…これ以上の好都合はない。
時が、自分達に味方している…。
夏希はその高揚感に、黒革のライダースーツに包まれた身体を奮わせた。
「エマ…。エリー…。わかってるね…?」
『チームE』…エマとエリーは、ただ黙って頷いた。
『TDD』のボス…寛平打倒は、自分達に懸かっている。
「信用してるから…」
おおよそ、夏希らしくない言葉に、エマもエリーも苦笑する。
だが、その言葉の裏は…自分達の役目の重大さも匂わせている。
夏希はそのまま、足音も立てずに飛び降りた。
5509投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時44分54秒
マスタードイエローに、ダークグリーンのラインのトラックスーツ姿のエマは、ふぅ、と息を吐く。
若草色に、白のラインのトラックスーツ姿のエリーは、そんな彼女の肩に、そっと手を置く。
「私も…信じてる…」
そう、言葉をかけた。
「私も…」
エマも、エリーの肩に手を置いた。
あの、ダーブロウ有紗ですら、寛平に敗れた。
だが、それは1対1で戦ったため…。
今は、夏希と三人で…しかも、勝利のために、仕掛けも万全だ。
勝つ為の準備は、既に整っている。
二人は、それぞれのボウガンの点検をする。
エリーは…特に慎重に…黒い矢をベルトに差し込んだ。
この矢には…即効性の神経毒が塗ってある…。
これも、寛平打倒の為の秘策の一つだ。
そう言えば、矢の先に毒を塗るのは、『TTK』以来だと…エリーは思い出した。
5510投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時45分15秒
「除夜の鐘だよ…」
エメラルドグリーンに、ショッキングピンクのラインのトラックスーツ姿のジョアンは、講堂の板の間に座禅を組んでいるちひろに、そっと呟く。
山吹色に、橙のラインのトラックスーツ姿のちひろは、ゆっくりと目を開ける。
そして、脇に置いた木刀を握ると、ゆっくりと立ち上がる。
静かに息をつくと、木刀を正剣に構える。
「せぃぃぃぃ!!!」
そう、気合を入れると、素早く素振りを行う。
「へへ…。気合入ってるのはいいんだがよ…毎回、うるさくてしょうがねぇや…」
苦笑いをしながら、ジョアンは『チームS』の相棒、ちひろを見る。
そう言えば一年前、彼女は、このちひろと死闘を繰り広げた。
あの時は…『TTK』を脱走した中村有沙を捕らえにきて…その場にちひろがいたのだ。
そして、完敗した。
いくら、剣道の達人だからとは言え、ちひろは『表』の世界の住人だ。
その、ちひろにジョアンは敗北したのだ。
だが、ちひろはその後、梨生奈と羅夢の『チームR』と一人で互角に闘ったと言う…。
そして、『チーム7』の七海、『チームT』の俵姉妹…『チームJ』のパートナーだったジャスミン…挙句の果ては、『四天王』最強の夏希に…ちひろは勝利した…。
これ以上、頼もしいパートナーは、他にはいない…。
5511投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時45分48秒
「だがよ…。こんな所に篭ってて、いつの間にか戦いが終わってました…なんてマヌケなことにならねぇだろうな?」
そのジョアンの言葉に、ちひろは素振りをピタリと止める。
「大丈夫だ…。やつ等は、必ずここに『誘い込まれる』…」
ちひろは、自信たっぷりに応えた。
「この学校の中で、明かりが点いているのは体育館とこの講堂だけだ。体育館には、その寛平とやらが向かう…。他の者は、自ずとここに足を向けるだろう…」
「そんな、単純なもんじゃねぇと思うぜ?」
「単純なのだろう?おまえがリベンジしたい相手は…」
「…!!」
そう…『ストレングス(力)』の秋山恵…!!
「それに…その女とコンビを組んでいる女…自在に気配を消すことができると言う…。この、密室なら、その女の長所を消して闘うことができる…」
「そうか…」
ジョアンの目に、炎が燈る。
それに…と、ちひろは講堂を見回す。
壁に掛けられた書の額に、『乾坤一擲』…と書かれてある。
「ここは、武道場として使われていたようだな…。私は、ここの雰囲気が落ち着く…」
そう言うと、ちひろは素振りを再開した。
5512投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時46分06秒
「除夜の鐘だわ…」
梨生奈は、不安げに溜息をつきながら、皆の顔を見回した。
黄色にライトグリーンのトラックスーツ姿の七世と、グレーにそれぞれピンクとオレンジのラインのトラックスーツ姿の俵姉妹からなる、『チームG』。
非戦闘員の、吉田、甜歌、卓也、杏奈、帆乃香、そして有海…。
「いよいよよ…」
車椅子の梨生奈は、もう一度息をついた。
「大丈夫よ。あなた達は、この音楽室にいて…。ここは、私達が死守するから…」
七世は、そう言って梨生奈に微笑む。
「そのことなんだけど…」
杏奈が、少し顔を曇らせて言う。
「何?」
梨生奈が聞く。
「七世さん達も…攻撃に参加できるようにしたわ…」
その杏奈の言葉に、七世、俵姉妹、そして梨生奈は顔を見合わせる。
「どういうこと?」
「詳しくは、有海から聞いてよ…」
杏奈は、曇った表情のまま、有海に顔を向ける。
皆の注目が、有海に集まる。
有海は、少し緊張しながら説明を始める。
5513投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時46分27秒
「自分の身は…自分で守ります…」
そう答えた有海に、梨生奈は目を丸くして叫んだ。
「な、何を言っているの!?あなた…相手は、あの恐ろしい…」
「私と…瑠璃さんと…白木さんと井出さんと橋本さんで…罠を張りました…」
有海は、梨生奈の声を遮った。
「罠!?」
「この校舎の二階の端にある、『どんぐり教室』と名前のついた、教室二つ分の広い部屋です。その罠さえあれば…私達の身は安全です。ですから、岩井さん達も、何の気兼ねなく戦うことが…」
「バ、バカなことを言わないで!!そんな危険なこと…」
「こうすれば…藤本さん、細田さん…ヤマザキ先輩、村田先輩の身も、守ることができます!!」
またも、有海は梨生奈の声を遮った。
今度は、力強い声で…。
「私達の為なんかに、貴重な戦力を割かないで!!」
「…あみ〜ご…」
梨生奈は、何も言えなくなった。
七世は、そっと梨生奈の肩に手を置いた。
「いいわ…。そうしましょ…。私達も…リベンジするチャンスが巡ってきたことに…内心、ワクワクしてるんだから…」
「楠本ね?」
有希子の言葉に、七世は頷く。
「楠本さん…」
有海も…決意めいた表情で、その名を呟いた。
5514投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時46分48秒
「除夜の鐘だな…」
保健室のベッドに横になった、中村有沙が呟く。
「…!?起きてたの?有沙さん!!」
眠りかけていたジーナは、そう小さく叫んだ。
「…だ、大丈夫ですか…?」
瑠璃も、心配そうに中村有沙の顔を覗き込む。
「…ああ…。だが、まだ身体が思うように動かせない…」
「そんな、急には動かせません。身体中の神経が目を覚ますまで、時間が必要です…。それに…」
ジーナの表情に、暗い影が射す。
「それに…?」
「身体が動くのは、ほんの短い間…。時が経てば、また、身体は動かなくなります…」
「その、身体が動く時間は、どれくらいだ?」
「…わかりません…」
「…私の身体が再び動き出すには、どれだけの時間が掛かる?」
「…それも…わかりません…」
中村有沙は、思わず笑いながら溜息をついた。
「まあ…仕方がないか…。前例にないことをやらせたわけだからな…」
そして、ジーナと瑠璃の顔を交互に見て、こう言った。
「ご苦労だった…。ジーナ…。瑠璃…。もう、皆の下に帰っていいぞ…」
5515投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時47分08秒
ジーナは中村有沙に、慌てて答える。
「で、でも…。今、有沙さんは、身体が動かないんですよ?今、『TDD』が襲ってきたら…」
「これは、私の我がままでやったことだ。それで死んでしまったとしても、納得はいく。しかし、貴様達の命は、そういうわけにはいかん…」
ジーナは、困ったような顔で、瑠璃の顔を見る。
瑠璃も、同じ様な顔を向けている。
「さあ…。行ってくれ…」
ジーナと瑠璃は、保健室を出て行った。
「大丈夫かな…。有沙さん…」
ジーナは、心配そうに保健室を振り返る。
「信じましょう…。ありりん先輩の力と強運を…」
そう、瑠璃は言った。
寛平の占いが本物なら…これで瑠璃は、中村有沙の命を救ったのだ。
「瑠璃…。どうする?あんたも、私と一緒に、ダディの所に来る?お姉ちゃんが、絶対に見つからない隠れ場所を用意してくれたんだけど…」
瑠璃は、ジーナの誘いに、首を横に振る。
「私…あみ〜ご達と一緒にいる…。だって、あの罠…私も手伝ったんだもん…」
寛平の占いが本物なら…有海達の命も、救えるはず…瑠璃は、そう信じるしかなかった。
5516投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時47分50秒
「除夜の鐘や…」
黒に黄色のラインのトラックスーツ姿の七海は、バットの素振りを止めた。
「いよいよやで…。気合い、入れぇよ!?」
そう言いながら、赤に黒のラインのトラックスーツ姿の、羅夢を睨みつける。
「へん!!リーダーぶってんじゃないよ!!」
羅夢は、面白く無さそうな顔で吐き捨てて答える。
「ぶっとんのやない!!リーダーや!!」
『年功序列』という理由で、『チームB』のリーダーは七海にすると…梨生奈が決めた。
羅夢は、梨生奈の命令に従うと言った手前…七海をリーダーと認めざるを得なかった。
『チームB』の二人は、雪の一面降り積もった運動場にいる。
『TDD』の侵入に、目を光らせる為である。
もちろん、正門から堂々と入ってくる保障など、どこにもないが…。
「アタイは、裏からコソコソ忍び込んでくるんじゃねぇかと踏んでるんだけどな…」
そう言いながら、羅夢は裏門へと足を向ける。
「おい、こら!!勝手な行動はとんなや!?」
「んだよ!?じゃあ、易々とやつ等の侵入を許すってのかよ!?」
羅夢は、七海に噛み付いた。
渋い顔で、しばらく考え込む七海…。
「わかった…。ウチが、ちょっくら裏の方も回ってくるわ…。敵を見たら、ウチの携帯に掛けるんやで?一人で戦うなや?」
「アタイが、行くよ!!」
「いや、ウチが行く!!いちいち、たてつくなや!!うっとおしい!!」
5517投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時48分29秒
七海は、金属バットを肩に担ぐと、ケースに入れた予備のバットも背負う。
ナットー製鉄の工場跡地では、たった一本のバットが折れてしまい、それで中村有沙を一人残して逃げ出すハメになったのだ。
その苦い体験を教訓として、七海は二本、バットを用意したのだ。
「ええか?連絡、せぇよ!?」
「わかったよ!!早く、行っちまえ!!」
羅夢は、足下の雪を蹴り上げた。
七海は、校舎内に入ると、屋根へと上る。
校内一面を見回す為だ。
5518投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時48分43秒
七海が偵察を引き受けたのは、理由がある。
敵の襲撃を待つよりも…敵をいち早く発見し、こちらから仕掛けるのだ。
「あすみ…。絶対に、この手で叩きにめしたる…」
そう…中田あすみだけは、許せない…!!
敵ということを隠し、自分達に近づいた。
そして…有海を…藍を自分の側から奪った…。
初めてできた、『表』の世界の親友を…『裏』の世界に引きずり込んだ…!!
「許さん…!!そして…取り返したんねん…!!藍を…!!」
そう、いきり立つ七海は、とある人影を発見した。
この雪の降り積もる真冬に…浴衣姿の…杖をついた老人…。
「寛平…!!」
その老人は、体育館へと向かって行く。
七海は、金属バットを握り締めるが、その震える思いを押し込める。
「…あいつは…夏希に任せるんやった…。それよりも…ウチがブチのめすんは…あすみや!!」
5519投稿者:リリー  投稿日:2009年01月02日(金)20時49分45秒
次回から、各場所で対決が同時進行で描かれます

では、おちます
5520投稿者:デジ  投稿日:2009年01月03日(土)00時44分46秒
それぞれの新年を昂らせる「除夜の鐘」。皆それぞれの標的に闘志を抱く目の炎。
彼らの気合に勝利の女神は味方してくれるのか・・・続きも楽しみです!
              
5521投稿者:&  投稿日:2009年01月03日(土)01時38分10秒
この小説、すごく面白いです。すべて読みたいのですがどこで読めますか?
5522投稿者:>>5521  投稿日:2009年01月03日(土)04時41分13秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544d.html
5523投稿者:&  投稿日:2009年01月03日(土)13時43分50秒
更新楽しみにしてます。
5524投稿者:&  投稿日:2009年01月03日(土)13時52分57秒
5522さんありがとうございます。
5525投稿者:117  投稿日:2009年01月03日(土)14時21分20秒
ついに、勝負の時・・・それぞれのチームの様子を同時進行で描く訳ですね。
有海たちが仕掛けたワナって何だろう?その後、カンペーさんたちに何が起こったのか、続きも楽しみです!
5526投稿者: 投稿日:2009年01月03日(土)16時45分07秒
5527投稿者: 投稿日:2009年01月03日(土)18時47分39秒
5528投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時20分01秒
デジさん
今夜から、戦いの火蓋が切って落とされます
新しい小説も、読ませてもらいました
今度の小説、がんばって下さい

&さん、初めまして
興味を持って頂いてありがとうございました
とても長い物語ですので、ごゆっくりお読み下さい
5522さんも、ありがとうございました

117さん
有海の罠は、もう少し経ったら謎が解けると思います
同時進行なので、わかりにくくなってしまったらすみません

あげ、ありがとうございます

では、更新します
5529投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時20分40秒
【体育館・1】
薄暗い体育館内…。
ステージ上に立つ夏希は、目を開ける。
「来た…」
研ぎ澄まされた感覚が、敵の侵入を捕らえたのだ。
この体育館に近づいてくる…。
雪を踏みしめる、軽い足音…。
そして、足音の前に聞こえる、杖の音…。
「寛平…」
夏希は、そう呟く。
その名を呼んだ直後…体育館の重い扉が開かれた。
5530投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時20分56秒
「ああ、しんど…。腰に来たわ…」
その人影は、呑気な声をあげた。
「ようこそ…。」
夏希は、静かに寛平を迎える。
寛平の姿は…浴衣の下は、ランニングシャツに、ラクダ色の股引き…顔は、真っ白なドーランで塗りたくっている。
『例』の姿だ。
「ふふ…。その都市伝説も、今日限りよ…。『怪人・浴衣ピエロ』…」
夏希は、そう笑ってステージから飛び降り、歩み寄る。
「それにしても…本当に一人で来るとはね…」
「ん?一人で来い、言うたんは、夏希君やろ?」
寛平も、ゆっくりと歩み寄る。
5531投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時21分25秒
二人は、丁度バスケットコートのセンターサークルの中で立ち止まる。
夏希の手には、赤い鞘の長ドス…。
寛平の手には、何の変哲もない、木の杖…。
お互いの身体を、すぐに捉えられる距離だ。
「で…夏希君…。『TDD』に戻る気は…」
「ないわ…」
「ホンマに?」
「本当よ…」
「ホンマにホンマ?」
「無駄よ…」
寛平は溜息をついた。
真っ白なドーランの所為で、その表情は窺えないが…。
「ほな…しゃあない…」
床に突かれた杖の先が、ふっと離れる…。
その瞬間、夏希は手裏剣を投げつけると、後ろに飛び退いて、一気に寛平から離れた。
寛平は、首を曲げるだけで、その手裏剣を避けた。
「ふむ…。接近戦は挑んでこんか…。ま、ダーブロウとの戦いを見とったら、当然やな…」
寛平は、一歩踏み出した。
5532投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時21分46秒
その時、頭上で何か音がした。
寛平は、咄嗟に立ち止まる。
爪先の僅か数センチ先に…黒い矢が突き刺さっている。
「…?」
寛平は、思わず上を見た。
真っ暗な天井から、何かが降ってくる…。
「…!!」
今度は、後ろに飛び跳ねた。
何かが、木製の床に激突した。
床に食い込んでいるのは…黒い鉄球…。
「ん…?」
再び、寛平は上を見る。
天井の色が…よく見ると一部違う…?
「ありゃ…?もしかして…」
また、何かが降ってきた。
黒い矢だ…!!
寛平は、前に逃げる。
すると…今度は前から手裏剣が…。
「おっと!!」
やっと、寛平はその杖を振って手裏剣を叩き落した。
5533投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時22分07秒
「天井に…穴開けたん?」
寛平は、その真っ白な顔を、夏希に向ける。
夏希は、ニタリと笑って答える。
「ふふ…。やっと気がついた?でも、一つだけではないのよ?」
また、真上から鉄球が降ってきた。
またも避ける、寛平。
鉄球は、床を破壊する。
いや、ただ落としているだけではない…。
この威力…鉄球は、発射されているのだ。
よく見ると、天井に無数の穴が開けられている。
そこから、手球と矢が、寛平に向けて発射されているのだ。
「むむ…。鉄球と矢…?エマにエリーか…?」
だが、呑気に上を向いている暇はない。
夏希が、前方から手裏剣を投げてくるからだ。
鉄球も、矢も、手裏剣も…真っ黒に塗られている。
闇に乗じる為だ…。
人の気配を読むことができない寛平は、あくまでも目で見てこれらの攻撃を避けなければならない…。
5534投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時22分27秒
エマとエリーの『チームE』が、体育館の天井から、開けられた穴に向かって鉄球と矢を射ち込んでいる。
夏希が、雪が降り止むのを待っていたのは、この為だ。
雪が降れば、穴から雪が舞い落ちて、穴の位置がバレてしまう。
月が出ていないことも、幸運だ。
雪の様にはっきりとわからないでも、その光が射し込めば、やはり穴の位置がわかってしまう。
だが、雪も月もない今、寛平は目で捉えた範囲内でしか、この飛び道具の波状攻撃をかわせない…。
いくら寛平でも、必ず隙が出来る。
その隙をついて、夏希は寛平を仕留める………これが、夏希の打倒寛平の秘策なのだ。
「うふふ…。こんな戦法、楠本や理沙には、決して通用しないわ…。あの人達なら、気配でエマとエリーの位置がわかってしまうから…」
しかし、寛平は、その気配を読むことができない。
最強故…。
最強だからこそ、生まれたその弱点…夏希は、ピンポイントで突いたのだ。
「あらら…。そうとわかれば、訓練しとくんやったなぁ…。気配を読むの…」
寛平は、そう呟いて頭を掻いた。
「もう、遅いわ!!」
夏希は、手裏剣を投げる…と、同時に、天井からは鉄球と矢が…。
エマとエリーは、何度も訓練した通り、正確に投射する。
「わっちゃっちゃ…!!」
寛平は、もう、形振り構わず、杖を振り回してその攻撃を避けた。
「ふふふ…。いつまで、しのぐことができる…?」
夏希は、勝利を確信した。
5535投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時23分48秒
【講堂・1】
講堂のちひろとジョアンの『チームS』は、同時にその気配に気がついた。
「聞こえたか…?」
ちひろは、ジョアンに聞く。
「誰に向かって言ってんだ?」
と、ジョアンは顔を顰めた。
「足音は一つしか聞こえないが…?」
「ああ…。この、頭の悪そうな足音…。あの、メスゴリラだ…」
ジョアンは、鞭の先に手を絡めると、ギュッと引っ張った。
「だが…もう一人、いるはずだ…。気配を消すんなら、足音だって消せるはずだからな…」
「うむ…。そう考えると、この、これ見よがしに聞こえる足音も…その相棒の足音を消す為か?」
「いや…。そんなことに頭の回るやつじゃねぇよ。ちひろは、あいつのこと知らねぇだろうから…」
そう話しているうちに、足音は講堂の前で止まる。
「へへ…。来いよ…!!」
ジョアンがそう言った直後、講堂の扉は、粉々に叩き壊された。
「…!!」
「来るぞ!!」
大柄な身体の女が、突進してきた。
この真冬に、アーミーパンツにタンクトップ一枚の姿…。
腕を水平に伸ばした…ウェスタンラリアートの体勢で…!!
5536投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時24分07秒
「こいつが…『ストレングス(力)』!?」
「ああ…!!だが…もう一人…!!」
ジョアンは、突っ込んで来る秋山恵の足下に注視する。
恵の影が、ゆらりと揺れた…。
「そこだ!!」
ジョアンは、鞭をその影に放った。
影が、恵から引き剥がされた…?
いや…その影は、真っ黒な服を着た、痩せた女…。
「せぃぃぃ!!」
ちひろは、そのまま恵に木刀を叩き込む。
「ちぃ!!」
恵は、水平の腕を曲げ、木刀の一撃を受け止めた。
ちひろは、摺り足で恵から離れる。
そして、『突き』を放つ。
「く…!!」
恵は、寸ででその突きをかわし、ちひろから一旦、距離をとった。
一方、ジョアンの鞭に絡め取られた、黒ずくめの女…『デス(死神)』の箕輪はるかは、懐からメスを取り出した。
「おっと!!」
鞭を切られる前に、ジョアンは、はるかからその武器を回収した。
5537投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時24分34秒
「へへへ…!!そう、同じ手を喰らうかよ…。みのぽーさんよ…」
ジョアンは、ぺロリと唇を舐めて笑った。
「…ん?私のあだ名まで…?」
はるかは、首を傾げた。
「ち…!!あの、有海ってガキ…。ベラベラと敵に私達の情報を…。いや、帆乃香か?」
恵は、苦々しい顔で呻いた。
「しかし…本当に、『死神』みてぇに、辛気臭ぇツラだな…」
ジョアンは、はるかの顔を見て、そう呟いた。
「…よく言われるよ…」
はるかは、別段気にしてない様子だ。
「おい…。他の者は…?」
ちひろは、二人の『TDD』に訊いた。
「知るかよ!!おまえ等が出会う『TDD』は、私達二人だけだ!!」
恵は、ちひろを睨みつけた。
「おまえ…新顔か…。さっきの一撃…結構、効いたぜ…」
そう言って、恵は先ほど、ちひろの木刀で打たれた腕をグルグルと回した。
「おい!!どっちを向いてやがる!!おまえの相手は、アタシだよ!!」
ジョアンは、鞭を床に叩き付けて怒鳴った。
5538投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時25分10秒
「ジョアン…。頼みがある…」
「あん?」
ちひろは、ジョアンの袖を引き、更に二人から離れる。
「何だよ?」
「あの、恵とかいう女…私に譲ってくれ…」
「ああん!?」
ジョアンは、眉間にシワを寄せる。
「冗談じゃないよ!!私は、あの女に恨みがあるんだ!!」
「だから、頼んでいる…」
ちひろは、じっとジョアンを見据えた。
ちひろが恵と戦いたがる、それなりの理由があるかのようだ。
「…何か、考えがあるのか?」
「考えというわけではないが…私は、おそらく、あの恵という者と相性が良いだろう…」
「相性だ?」
「逆に言うと、あの、みのぽーとか言う者とは、戦い辛い…」
「どういうことだ?」
「私は、普段から剣道での戦いをしている…。正々堂々とした、一対一の勝負だ。あの恵という者も、それを望んでいる…」
「わかるのかよ!?」
「ああ…。一撃、手合わせしただけでわかる…」
ちひろは、そう言いながら、視野の中に恵を捉える。
二人の会話が聞こえているのか、恵はニヤリと笑った。
5539投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時25分42秒
「だからジョアン…おまえには、みのぽーの相手をしてもらいたい…。おまえの方が、攻撃にバイタリティがあるし、臨機応変に戦える。つまり…」
「『死神』の方が、アタシと相性がいいと…?」
「ああ…。そういうことだ…」
ジョアンは、ソバージュの頭をガリガリと掻いた。
「くそ…。なんか、いつもおまえのペースに乗せられちまうんだよな…」
そう言いながらも、ジョアンは納得している。
5540投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時25分55秒
「わかった…。だが、その代わり…あのメスゴリラに負けるんじゃねぇぞ!?」
「当然だ…」
『チームS』は、再び恵とはるかに対峙する。
ちひろは恵と…。
ジョアンは、はるかと…。
「相性が何やらとか、ほざいてたが…」
恵が口を開く。
「私達は、どっちでも構わねぇよ…。どっちが相手だろうが、叩き潰すだけだからな…」
「何だと!?」
ジョアンは恵に突っかかるが、ちひろがそれを制す。
そして、恵に語り掛ける。
「そうか?私は、おまえと戦いたい」
「…何?」
「私は、夏希と一回、戦っている」
「…!?」
恵の、ちひろを見る目が変わった。
5541投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時26分17秒
「『TTK』が壊滅した日だ…。そして、私は勝利を納めた…」
「ウソ、つきやがれ!!」
恵は、感情的に怒鳴った。
「ウソじゃ、ねぇよ!!」
ジョアンが、ちひろの代わりに怒鳴り返した。
だが、ちひろ本人は冷静だ。
「別に、自慢をしているわけではない。あの時、夏希は私と正々堂々と相対してくれた…。さっきも言った通り、私はそういう戦いに慣れているし、力も発揮できる…」
恵は、黙ってちひろの話しを聞いている。
「おまえも…そういうタイプだろう…?」
「へへ…。まったく…気にいらねぇ女だぜ…」
そう言いながらも、恵は心の底から楽しそうな顔をした。
「はるか…。そっちの女は、おまえに任せた…。私は、正々堂々、一対一で、こいつを叩きのめす…!!」
「…やれやれ…。わかったよ…。恵ちゃんは、言い出したら聞かないもんね…」
はるかは、溜息をつくと、恵から離れた。
ジョアンも、はるかの姿を見逃すまいと、動きについていった。
ちひろは、木刀の先を恵に向ける。
「いざ…尋常に…」
「勝負!!」
恵は、再びラリアートの体勢で、ちひろに向かって突進した。
5542投稿者:リリー  投稿日:2009年01月03日(土)21時27分04秒
まずは、二つの戦いから…
後は、順次描かれていきます

では、おちます
5543投稿者:117  投稿日:2009年01月03日(土)21時32分21秒
なるほど、この「夜襲」的攻撃は、そのような理由があったという訳なんですね。
カンペーさんは結構不利になっているし、秋山さんとのちひろの真剣勝負もすさまじいことになりそうな?続きも楽しみです!
5544投稿者:絶対に  投稿日:2009年01月04日(日)00時35分43秒
ちひろは恵さんと戦うことになると思ってました
5545投稿者: 投稿日:2009年01月04日(日)01時36分21秒
5546投稿者:デジ  投稿日:2009年01月04日(日)18時57分33秒
いざ!勝負!
夏希+チーム(エマ)(エリー)VS寛平
なるほど!雪が止むのを待ったというのは、こういうわけですか。さらに運良く月が隠れて。今は、夏希側優勢といったところでしょうか?
チームS(ジョアン)VSみのぽ〜
代名詞で言うと炎のような猪突猛進野郎VS闇の中の風のような姿を消せる人。
この戦い、どうなる?
チームS(ちひろ)VS恵
そういえば、本当の天ドラでも(味方だけど)ライバル同士という設定でしたね。
不思議な感じな幕開けですが波乱が予想されるものすごいバトルになりそうですね。
ほかの人たちとの接触も、有海の罠の中身も続きが気になる事づくしですね。
楽しみです!
5547投稿者:あげ  投稿日:2009年01月04日(日)20時43分01秒
5548投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時13分41秒
117さん
夏希といい有海といい、やぱっり準備ができるというのが、戦いを有利に運ぶ大切なことだと思います
夏希さんは、『サムドラ』でも、罠を張って戦いましたので、こういうことが得意だという設定です

5544さん
やっぱり、パワーファイター同士戦わせてみたいと思いました

デジさん
各戦い、それぞれのキャラクターの良さを活かして書いてみました
今夜は、七海達の戦いです

では、更新します
5549投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時14分57秒
【運動場・1】
「む…?始まったか…?」
運動場に一人…羅夢は、体育館から聞こえてきた物音に気がつく。
そして、講堂からも凄まじい音が…。
「ち…!!やっぱり、裏からコソコソと入ってきやがったじゃねぇか…」
羅夢がそう言った時…。
「あら、失礼ね…。堂々と表から入ってきたわよ…」
「!?」
羅夢は、咄嗟に身を退いた。
「あなた達が鈍感で、気がつかなかっただけでしょ?」
「てめぇ!!」
その声の主は…真っ赤なスーツにタイトスカート姿の…『TDD』の『エンプレス(女帝)』、後藤理沙だった。
手には、日本刀が握られている。
理沙は、校舎の先に目をやる。
「どうやら、ボスに恵とみのぽーは…戦いを始めたようね…」
そして、ゆっくりと羅夢に視線を戻す。
「で…私の相手は、お嬢ちゃん?」
「け…!!そういうこった…。よろしくな…。オバちゃん!!」
羅夢はそう言って、ヌンチャクを構えた。
「オバちゃん…?」
理沙の額に、青筋がピクリと動いた。
5550投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時15分16秒
「失礼な子ね…。ちょっと若いと思って…」
それでも、理沙は笑顔を崩さない。
「ガタガタ言ってんじゃねぇよ!!来るなら来いよ!!」
羅夢は、ヌンチャクを振り回す。
敵を見たら、七海に携帯で連絡をする手筈だが、当然羅夢は、そのことは忘却の彼方だ。
「ん?あなた、一人で戦うつもり?」
「アタイ一人で充分だよ!!」
「そう言わずに、仲間とかかって来なさいな…」
「必要ねぇよ!!」
「もう…。人の忠告には、素直に従った方がよくってよ?」
「ババアの寝言なんか、聞きたくないね!!」
「ババア…?」
理沙の額の血管が、また一本増えた。
「このクソガキ!!オシメも取れねぇような、ションベンタレのクセに!!いい気になってんじゃねぇ!!」
とうとう、理沙の堪忍袋の緒が切れた。
「へへ…!!怒るとシワが増えるぜ!!」
そう言って、羅夢は唇を歪めて笑った。
5551投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時15分33秒
「来な!!クソガキ!!年上の者への口の利き方、教えてやるよ!!」
理沙は、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「教えてもらおうじゃん!!」
羅夢は、ヌンチャクを振り回しながら、理沙に突っ込んでいく。
「オラァァァ!!!」
ヌンチャクは、理沙に対して次々と叩き込まれる。
「ふん!!」
理沙は、鞘から刀を抜くことなく、そのヌンチャクを受け止める。
「オラオラオラオラオラ!!!」
ヌンチャクの波状攻撃を、理沙は刀の鞘で受け止めていく。
「この…!!刀を抜きやがれ!!」
「必要ないわ!!」
理沙はそう叫ぶと、クルリと回転し、その刀の鞘で、羅夢の背中を打ち据えた。
「…!!ぐ…!!こ、このぉ!!」
羅夢は、ヌンチャクを一旋させる。
ジャンプをして、その攻撃を避ける理沙。
「ち…!!ちょこまかと…!!」
更に、理沙を追撃する羅夢。
またも、刀の鞘で受け止める理沙。
5552投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時16分03秒
「ふん…!!やっぱり、仲間を呼びなさいよ…」
「あん!?」
「あなたじゃ、私に勝てないわ!!」
そう言うと理沙は、鞘の先で羅夢の腹を突いた。
「ぐ…!!」
顔色が変わる、羅夢…。
一瞬、動きが止まった。
今度は、羅夢の右肩に鞘が振り下ろされる。
「ぐわ!!」
思わず羅夢は、肩膝を着く。
「こ、このぉ…!!」
羅夢が顔を上げた時、そこに理沙の姿はなかった。
5553投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時16分14秒
「…!?」
「ここよ…」
後ろから、理沙の声…。
その瞬間、羅夢の身体はふわりと浮く。
「…!?う、うわ…」
羅夢は、空で一回転し、地面に落下する。
「ち、ちくしょう!!」
何とか体勢を立て直し、雪に覆われた地面に足を着けた。
頭から地面に激突するのを避けた羅夢だが、膝の裏に激痛を感じた。
理沙が、またもや鞘の先で突いたのだ。
5554投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時16分32秒
「う…!!くぅ…!!」
羅夢は、後ろに倒れそうになるのを、懸命に堪える。
今度は、腹に打撃が…。
理沙が回転しながら、鞘を振り下ろしたのだ。
堪らず、羅夢は雪の上に仰向けに倒れた。
「く…!!」
羅夢は、すぐさま腹筋の力で跳ね起きようとした時、みぞおちに鞘の一撃が突かれた。
「がはぁ…!!」
一瞬、羅夢の目の前が真っ白になった。
「大人しくね!!」
理沙のピンヒールが、羅夢の右肩を踏みつけた。
「ぎ…!!」
羅夢は、咄嗟に悲鳴を抑えこんだ。
「ふふ…。さあ…もう一度、オバちゃんって言ってみな…」
理沙は、冷たい目で羅夢を見下ろす。
「へへ…。何度でも言ってやらぁ…。クソババア…」
「…!!このクソガキ…!!」
怒りで顔を歪ませた理沙は、刀の鞘で羅夢の頭を殴りつけた。
「ぐ…ぅぅ…」
羅夢の頭の中が、グルリと回った。
5555投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時16分51秒
「まぁ、いいわ…」
ふぅ、と息をつくと、理沙は意識が朦朧としている羅夢の腹の上に、馬乗りになった。
そして、ようやく鞘から日本刀を抜いた。
妖しく輝く刀身が、羅夢の顔を照らす。
「…う…」
羅夢は起き上がろうとするのだが、頭がふらついているのと、理沙の重みで身体の自由が利かない。
サク………羅夢の頬のすぐ横に、刀は突きつけられた。
僅かに、羅夢の頬が切れる。
理沙の右手は、羅夢の喉を締め付ける。
そして、左手はゆっくりと羅夢のトラックスーツのファスナーを下ろす。
「て…てめぇ…!!何すんだ!!」
「黙れ…」
理沙の右手が、更に羅夢の首を締め付ける。
「が…!!ぐ…」
理沙の左手は、羅夢がトラックスーツの下に着けているタンクトップをたくし上げる。
白い、膨らんだ胸がさらされた。
「ふふふ…。私…あなた達『R&G』…いえ、『TTK』の女の子、大好き…」
理沙は、指で羅夢の乳首を摘みながら、舌なめずりをする。
「だって…みんな、可愛くて…お転婆で…」
そして、羅夢の耳元でこう、囁いた。
「弱いから…」
5556投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時17分13秒
「な、何…!?」
羅夢は、顔を真っ赤にさせて、理沙を睨む。
「ふふ…。気が強くて突っかかってくる割には…てんで弱いんですもの…」
そう言いながら、羅夢の乳首に舌を絡ませる。
「ぐ…!!」
羅夢の身体が硬直する。
「そういう女の子を、いじめるのが…私の至福の時よ…」
そして、軽く乳首に歯を立てた。
「…く…!!」
羅夢の身体が、ビクンと震える。
「さあ…。泣いて仲間を呼びなさい…」
指先で乳首を弄びながら、理沙は意地悪っぽく囁く。
「…だ、誰が…」
「無理しないで…。『可愛くて、弱い』お仲間を、もっと、ここに呼びなさい…」
「…嫌だ!!」
尚も、羅夢は理沙を睨みつける。
「強情な子…。そんな娘も、大好き…」
そして、理沙は雪に突き立てられた刀を抜く。
5557投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時17分42秒
その切っ先は、羅夢の白く柔らかな胸に突き立てられる。
「さあ…。仲間を呼びなさい…。さもないと…あなたのキレイな身体と顔…ズタズタに切り裂くよ!?」
「や、やるなら…やれよ…!!」
震える声で、羅夢は精一杯抵抗する。
「ふふふ…。怖いんでしょ?身体は正直よ…。あなたの震えが、私の身体に伝わってる…」
刀は、羅夢の顔へ向かう。
「あなたの目…キレイね…。歯のペンダントもいいけど…眼球を小瓶に詰めて、お部屋に飾るのも、オシャレじゃない?」
「…!?」
刀の先が、羅夢の目の前に突きつけられる。
「あ…う…う…」
「まず、右目から…。その後、また、仲間を呼ぶチャンスを与えてあげる…」
羅夢の右の眼球に、刀の切っ先が触れようとしている…。
「り…り…梨生奈ぁ〜〜〜!!!」
羅夢は、思わず叫んだ。
5558投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時17分53秒
「ゴルァァァァァ!!!」
理沙の頭上で、咆哮が唸る。
「…!?」
理沙は、上を見る。
七海が…金属バットを振り上げ、自分に向かって落ちてくる…!!
校舎の屋根から、飛び降りたのか?
「ぐ…!!」
理沙は、羅夢の顔から刀を離すと、七海のバットを受け止めた。
5559投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時18分12秒
刀の刃が、僅かに欠ける。
「ちぃ…!!」
理沙は、堪らず羅夢の身体から離れた。
「羅夢!!何で、そこで梨生奈やねん!?パートナーのウチの名前を叫ばんかい!!」
理沙に追撃することなく、七海は羅夢の前に、守るように立った。
「な、七海…!!てめぇ…!!今頃…」
羅夢は、ヌンチャクを拾いながら立ち上がると、タンクトップを下げ、トラックスーツのファスナーをきっちりと上げた。
「何で、ウチに連絡せんのや!!一人で闘うなて、あれほど…」
そう言い掛けて、七海は言葉を切った。
そして、じっと羅夢の顔を見詰める。
「…な、何だよ?」
羅夢は、言い返そうという矢先だった。
「いや…これは…ウチの責任や…」
「な、何?」
「オノレの性格を考えたら…素直にウチに連絡するとは、思えんかった…」
それに、チームで行動しろという、梨生奈の指示を聞かなかった…。
「スマン…羅夢…。ウチの所為で、オノレを危険にさらしてもうた…」
「な、何言ってんだよ!?おまえ…どうしたってんだよ!?」
羅夢は、そんな七海に戸惑っている。
そんな羅夢に、七海は微笑みながら答える。
「どうしたって…?ウチは、『チームB』のリーダーやからな…」
5560投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時18分30秒
そして、理沙に正対すると、金属バットを構えた。
「さあ、ウチとオノレで、このババアをブチのめすで!!」
七海にもババア呼ばわりされた理沙は、いよいよ怒りに我を忘れた。
「く…!!かかってきやがれ!!ガキども!!二人揃って、やっとまともな戦いになるってもんだよ!!」
「待って…。弥勒姉さん…」
しかし…冷静な声が、この緊迫した雰囲気を切り裂いた。
「七海が戦いたいのは…この私だよ…」
声の主は…『TDD』の『タワー(塔)』…中田あすみ…。
そして、その後ろに…同じく『TDD』の…『スター(星)』…細川藍…。
「あ…藍…」
七海は、当然、藍に会うことを予想していたのだが、実際に面と向かってみると、言葉を失うしかなかった。
「な…ななみん…」
藍も、同様だった。
沈黙が、冷たい空気を支配する。
「な、何やってんだよ!!敵だろうが!!」
羅夢の怒声が、この場の空気を切り裂いた。
「オラァァァ!!」
羅夢が、ヌンチャクを高速回転させながら、あすみと藍に向かって突っ込んで行く。
あすみの右手が、ゆらりと動く。
手中には、銀色に光る物が…。
5561投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時18分56秒
「待たんかい!!」
七海は、羅夢の背中に向かって体当たりした。
「うわ!!」
羅夢が前のめりに倒れると同時に、七海の額に何かが掠った。
鋼鉄製の…ヨーヨーだった。
「ぐぅ!!」
掠っただけなのに、凄まじい衝撃が脳内を駆け巡る。
七海と羅夢は、雪の上に倒れ込んだ。
「…!!ななみん!!」
藍は、七海達に駆け寄ろうとするが、あすみに遮られる。
「『敵』だよ…。あの二人は…」
「あ、あすみん…」
あすみの冷たい声に、藍は身震いした。
「く…!!何やってんだ!?七海…」
羅夢が雪に埋もれた顔を上げ叫ぶが、その言葉は断ち切られた。
鮮血が、雪の上に散らばっている。
七海の額から、滴り落ちたものだ。
「お、おい…」
「けけ…。チームリーダーってのは、痛いもんやな…」
七海は、羅夢の頭をコツンと拳で叩くと、勢いよく立ち上がった。
5562投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時19分15秒
「何や?あすみ…。『スケバン刑事』気取りかい…」
七海は、ゴシゴシと乱暴に、袖で額の血を拭う。
「ああ…。新しい武器だよ…。情報とは違うから、戸惑った?」
あすみは、両腕に厚手のゴム製グローブを着けている。
よく見ると、藍も同じ物を着けている。
「藍…。オノレもか…?」
「………」
藍は、何も言わずに頷いた。
「オノレも…ウチと戦うんやな?」
「ななみん…私…」
「久しぶりやな…」
「…え?」
「対決…」
「対決…?」
「川原の球場で…。学校で…。ウチの2連敗やったな…?」
「…な…ななみん…」
藍の両目に、涙が溢れた。
5563投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時19分33秒
「勝つんだ…。あい〜ん…。今回も…」
あすみは、両手に握った鋼鉄のヨーヨーを、回し出す。
その二つのヨーヨーは、衛星の様にあすみの身体の周りを回転する。
「けけ…。おもろいやんけ…」
七海は、バットを構えた。
あすみは、七海達を視野に捉えながら、理沙に向かって言う。
「弥勒姉さん…。ここは、私達に任せて…」
「そう?じゃあ、私は『R&G』の勝利の女神を探しに行こうかしら…」
理沙の言う、勝利の女神とは…瑠璃のことだ。
日本刀を鞘に納めると、理沙は校舎へと向かう。
「て、てめぇ!!逃がすかよ!!」
羅夢が、理沙の後を追い駆けようとするが、七海のバットが行く手を遮る。
「オノレが一人で行っても、あの女には勝てへんで!!」
「な、何だと!?てめぇ…」
「ウチでも同じや!!」
「…!?」
「二人で戦うんや…。ウチ等は、チームやろ…?」
「で…でもよぉ…。あの女を、みすみす行かせるのかよ!?」
「大丈夫…。七世達がおる…」
七海は、あすみと藍を睨み付けたまま、言い切った。
「それに…。『あいつ』も…。必ず…」
5564投稿者:リリー  投稿日:2009年01月04日(日)23時19分54秒
それでは、今日はおちます
5565投稿者:やぱっり  投稿日:2009年01月04日(日)23時20分55秒

5566投稿者:デジ  投稿日:2009年01月04日(日)23時58分19秒
TTKのチームB(七海&羅夢)VSTDDのチームA(?)(あすみ&藍)
案外早くチームらしくなってきましたね。この調子でこの戦いが終わっても二人がチームとして成り立つよう(二人の喧嘩が減るよう?)になってほしいものですね。
そういえばあの平和だった第一話の川原と校舎で以来なんですね。藍と七海の対決は。三回目の対決勝者はどちらか?(筋書き的に七海達が勝たなければならないのでしょうが。)
続きも楽しみです!
5567投稿者:ちひろvs恵もそうだけど  投稿日:2009年01月05日(月)14時03分48秒
羅夢vs理沙もドラマであったなあ
5568投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時27分23秒
デジさん
『チームB』は、ここでケンカをしたら『チームBAKA』になってしまいますからね
七海と藍の対決も、あすみとの対決も、同時に進行していくことになります

5567さん
ドラマでは、両者互角でしたが…
この小説では、理沙の圧勝ということで…

では、更新します
5569投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時28分54秒
【一棟校舎・1】
理沙は、七海と羅夢の相手を、あすみと藍に任せ、古い木造校舎内に足を踏み入れる。
ギシリ…と、床が軋む。
ピンヒールが、床を突き抜けてしまうのでは、と不安になる。
その時、暗闇から声を掛けられた。
「おや?あなたも…ですか?」
「…?『エンペラー(皇帝)』…?」
階段に腰掛けている楠本を、理沙は怪訝な顔で見下ろす。
「何をやっているの?」
「いえね…。忍び足で歩いたとしても、結構うるさいでしょ?ここの廊下…。無闇に動いて、こちらの侵入を知らせることはないかな…と…」
「で、向こうから姿を現すのを、待ってるわけ?」
「ええ…」
5570投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時29分16秒
理沙は、呆れたように首を降り、長い髪を顔からどけた。
「そんなの、あの子等が、どこに逃げようが隠れようが、あなたなら関係ないでしょ?」
「そうですけど…。誰かと戦闘している間に、他の者に逃げられたりするかも知れない…。私は、あみ〜ごを最優先で保護したいんですよね…」
「『ハイプリエスティス(女教皇)?』」
「ええ…。私の愛弟子ですし…。まだまだ、この手で大切に育てたいので…」
「そんなに、あの子に夢中なんだ…。なんか、アブナイおじさん化してきたわね…」
「何とでも言って下さい。私はあの子を、『TDD』一の作戦参謀に育てたいんです」
「ま、どうでもいいけどね…。でも、逃げ出される心配は要らないわよ。『ジャッジメント(審判)』が、しっかりと見張ってる。逃げ出した者を見つけ次第、連絡が入るはずだから…て、それを指示したのは、あなたでしょ?作戦参謀!!」
「そうでした…。じゃあ、あみ〜ごを見つけたら、私に連絡を下さい。どうしても、私自身であの子を取り戻したいので…」
楠本は、出来うる限り物音をたてないように、ゆっくりと階段から腰を上げた。
5571投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時29分55秒
「この学校は、二つの校舎があります。私は、このままこの第一棟を捜索しますから、理沙さんはそこから中庭を抜け、第二棟の捜索をお願いします」
「わかったわ…。『ハイプリエスティス』(有海)と、『サン』(帆乃香)以外は、さっさと殺しちゃいなさいよ?って…私が作戦参謀のあなたに命令してるのが、ワケわかんないけど…」
「ええ…そうですね…。それでは、お互い気をつけましょう」
「必要ないでしょ?私達にそんな言葉…」
理沙は、そのまま廊下を横切り、中庭へと出る昇降口へ向かった。
「さてと…まず、どこを探しましょうか…」
『R&G』には、今ケガ人が多い。
梨生奈に、中村有沙…。
「ならば…一応、保健室を覗いてみますか…。ベッドやら何やら、揃ってますもんね…」
もう、軋む廊下を気にすることなく、楠本は保健室に向かった。
彼には、保健室がどこにあるか知らないが、保健室は大抵職員室の隣にある。
そして、職員室は大抵一階にあり、そして運動場に面している校舎にある。
運動場で遊ぶ子供の様子が、目に届きやすいからだ。
そして、予想通り保健室は職員室の隣にあり、職員室はこの棟の一階にあった。
楠本は、保健室の扉の前で立ち止まった。
意味のないことなのだが、楠本はノックをした。
磨りガラスの安っぽい音が、ガシャガシャと音をたてた。
「失礼します」
ガタつく引き戸を開け、頭だけを室内に入れる。
5572投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時30分13秒
一見、誰もいない保健室…。
人の気配もしない。
しかし、それは箕輪はるかでなくても、『裏』の人間ならば難しくない。
はるかが、よく気配を消すスペシャリストと言うが、それは泳ぐという行為で例えれば、一般スイマーと北島康介くらいの差がある。
楠本は慎重に、二つ並んだベッドへ向かう。
ベッドの一つは、人が寝ているかの様に、膨らんでいる。
楠本は、苦笑いを浮かべる。
「う〜ん…。これ見よがしな…。私が近づいてきたの、廊下の音でわかってたでしょ?」
ベッドの中から、返事はこない。
「では…」
楠本は、懐から二本のナイフを取り出す。
一つは、切っ先が鉤状に曲がった、恐ろしく切れ味悪い趣味用のナイフ。
もう一つは、ダーブロウ有紗戦で折れた日本刀から創り出した、切れ味鋭い仕事用のナイフ。
どちらを投げつけようか、一瞬考える。
投げるのであれば、切っ先が真っ直ぐな、仕事用ナイフだろう。
一応、これは仕事だし…。
楠本は、日本刀ナイフをベッドの膨らみに投げつけた。
5573投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時30分41秒
刺さったと同時に…チュィィィィィ〜〜〜ン…と、妙な金属音を唸らせながら、螺旋状に金属の糸が楠本に襲い掛かる。
「…!?」
咄嗟に、鉤ナイフを振りかざす楠本だが…。
そう…このナイフは、恐ろしく切れ味が悪い…。
途端に、右腕、左足に鋼線が巻きついた。
「おお…!?」
楠本の身体は、床に背中を叩きつけられると、ブレイクダンスの様に回転した。
そして天井を見上げると…日傘を構えた、少女…岩井七世が…。
「うおお!!」
楠本は、思わず身を捩る。
日傘に付けられた鋭い槍は、楠本の脇腹を掠って床に突き刺さる。
楠本は立ち上がって、体勢を整えようとするが、右腕が引っ張られる。
右腕に巻きついた鋼線の先にいるのは…俵小百合だ。
「ぐ!!」
右手の鉤ナイフを左手に持ち代え、鋼線を断ち切ろうとしたが、今度は左足が引っ張られた。
その先にいるのは…俵有希子…。
楠本は、無様にも床に尻餅を着いた。
それでも何とか、右腕の鋼線は断ち切ることができた。
「まさか…あなた達…生きていたとは…」
楠本は、右足で小刻みに飛び跳ねながら、何とか笑顔を保った表情で、七世と俵姉妹の…『チームG』の顔を見回した。
5574投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時31分05秒
「あの時は、どうも…。楠本さん…」
七世は、優雅な微笑みで返す。
しかし、腹の内は復讐で燃え上がっているのだが…。
「大事なお仕事用のナイフを、手元から離してしまうなんて…」
有希子の手に、日本刀ナイフが握られている。
「こんな見え見えの罠に敢えて引っ掛かったてのは…余程余裕があったのか…それとも、緊張感が足りなかったか…」
「いえ…。集中力が足りなかったようです…」
楠本は、自嘲気味に反省の弁を語った。
「集中力?」
「はい…。私は、あみ〜ごに早く会いたくて、気が焦っていたのでしょう…」
「あみ〜ごって…有海さんのこと…?」
七世の言葉に、楠本は表情が明るくなる。
「はい、その有海さんです!!私の可愛い弟子なんです。どこにいるんですか?」
七世は、困惑した顔で、有希子を、小百合を見る。
姉妹も、同様だ。
「あなた…御自分の置かれている立場がわかってないようね?」
七世は、その顔を厳しく引き締め、楠本を睨む。
「今、あなたは私達に囲まれているのよ?それに…」
それに…楠本の左足は、小百合の鋼線が巻きついて自由が利かない。
5575投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時32分15秒
「ああ…。これですか?こんなものは、どうにでもなります…」
楠本は、忘れていた…とでも言うような表情で、改めて鋼線が巻きついた左足を見る。
「こんなもの…?」
有希子の眉間にシワが寄る。
「どうにでもなる!?」
小百合は、感情的に叫んだ。
「小百合さん!!落ち着いて…」
そう、七世が声を掛けた瞬間、楠本は右足を高く上げ、左足に巻きついた鋼線にその足を乗せる。
「…う!?」
楠本の体重がかかり、小百合は前方によろけた。
5576投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時32分31秒
「はい、どうにでもなりました…」
そして楠本は、身体を回転させながら、鉤ナイフをなぎ払う。
「小百合!!」
有希子が鋼線を、楠本と小百合の間に投げつけた。
「…む!?」
このままでは、両腕とも鋼線に絡め取られてしまう…。
楠本は、小百合から離れ、鉤ナイフで鋼線を断ち切った。
「ううむ…。密室では、この三人と戦うのは、骨が折れる…」
一先ず、窓を破って運動場側に出ようとするが、既にそこには七世が立ち塞がっていた。
「逃がさないわよ…。楠本さん…」
「ふふ…。この言葉…男冥利に尽きますねぇ…」
またも自嘲気味に、楠本は呟いた。
5577投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時32分54秒
【中庭・1】
中庭を横切り、今第二棟に足を踏み入れようとしている理沙は、耳をそばだてて歩みを止めた。
「うん…?『エンペラー』…戦いを始めたのね?」
そして、音のする方…保健室のある方を見る。
「この音は…あの、姉妹…?何よ…。『エンペラー』だって、仕留めそこなったんだ…」
救援に行く義理はないと、理沙は二棟校舎側を振り向いた。
すると…目の前に、鎌が迫り来る…。
「…!?」
理沙は、咄嗟に日本刀を鞘ごとかざし、その鎌を受け止めた。
鎌は、鞘に突き刺さる。
鎌には鎖が付いていて、二棟校舎の昇降口から伸びている。
「おまえは…!?」
理沙の言葉の直後、鎌は鎖によって昇降口に引き寄せられる。
理沙の日本刀の鞘も、鎌と一緒に引き寄せられた。
柄をしっかりと握っていたため、刀身は理沙の手元に残った。
つまり、理沙は日本刀を抜かされたのだ。
「ダーブロウの妹ね!?」
薄暗い昇降口に向け、理沙は怒鳴った。
「いい加減、名前を覚えろ…」
暗闇から姿を現したのは…黒にライトグリーンのトラックスーツに身を包み…鎖鎌を手にした…中村有沙だった。
5578投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時33分19秒
鎌には、理沙の刀の鞘が突き刺さったままだ。
中村有沙は、その鎌を高く掲げ、理沙に向けて投げつけた。
回転しながら、理沙に向かって飛んで来る鞘…。
理沙は日本刀を一振りして、その鞘を真っ二つに叩き切った。
「ふん…。鞘を切り捨てるとは…。巌流島のエピソードを知らんのか?」
理沙は、中村有沙の言葉に応えることなく、ただ、呆然とした表情で質問する。
「あなた…身体が…動くの…?」
「ああ…」
当然の様に、中村有沙は答えた。
「だって…翔子は、10日は動かせないって…」
「ヤブ医者だからな…。あの女は…」
「どうやったの…?」
「企業秘密だ…」
中村有沙は、中庭に出ると、理沙に近づいていく。
理沙は、思わず二三歩、後退りをした。
5579投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時33分37秒
「私は、執念深い性格でな…」
左手で分銅付きの鎖を手繰り寄せる、中村有沙。
特に、不自由な印象はない。
「恨みは必ず、この手で晴らす…」
「恨み…?」
「ああ…。まずは貴様だ…」
「ふふ…。私は楽しかったわ…。あなたへの拷問…。いい声、いい表情で泣いてたもんねぇ…」
「今度は、私が貴様を泣かしてやろう…」
そう言うと、中村有沙は、ゆっくりと鎖を回す。
分銅が冷たい空気を切り裂き、唸りをあげる。
またも、理沙は後退りをした。
中村有沙からすれば、その鎖鎌という武器の特徴から…できることなら密室で戦いたくはないのだろう。
どんどん、中庭側に追いやられているのは、理沙にはわかる。
だが、筋弛緩剤を注射され、指一本動かせない状況と言われた中村有沙が、こうやって何不自由ない様子でいることが不気味だった。
鎖を持つ左手の人差し指には、包帯が巻かれているが…。
はるかによって爪を剥がされ、恵によって折られ、理沙に焼けたナイフで切りつけられた、あの指である。
全てのケガが癒えたわけではないのだろうが…。
気が付くと、理沙は中庭中央まで身を退いていた。
5580投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時34分05秒
折れた人差し指の影響か、若干、鎖の回転が遅い。
落ち着いて、理沙は刀を構えた。
今、【体育館】でボスの寛平が夏希と戦っているはず…。
【講堂】では、凄まじい破壊音が、ひっきりなしに聞こえてくる。
おそらく、恵が戦っているのだろう。
と、いうことは、はるかも恵と一緒に居る。
【運動場】では、あすみと藍が…【一棟校舎】では、楠本が戦闘を開始した。
そして、この【中庭】で…自分…。
これで、一応全員が戦闘態勢に入ったことになる。
(ボスの方は、心配ない…。負けることは万に一つもないわね…)
楠本も、放っておいて平気だろう。
心配なのは、恵とはるか…あすみと藍…。
恵は、何やら、ここ最近様子がおかしい…。
はるかは、基本的に恵をコントロールする役目だが、暴走を止めることはできない
そして、藍という究極の素人に、最近めっきり情がもろくなったあすみ…。
5581投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時34分39秒
そう考えている時、分銅が目の前に飛び込んできた。
「!?」
刀で辛うじて弾いたが、それは後ろに逸れ、教室の窓を割った。
その鎖は、古い木枠の窓に絡みつく。
中村有沙は、思いっきり鎖を引き寄せた。
ガラス片を粉々に飛び散らせながら、窓枠は理沙の背後に迫る。
避けると、おそらく鎌の一撃がくる…!!
理沙は、敢えて避けずに、背中で窓枠を受けた。
「く…!!」
ガラス片で切ったのか…一つ二つ、地面に積もった雪に、血の雫が滴り落ちた。
それでも理沙は、敵を真っ直ぐ見据え、刀の構えを解かなかった。
「集中力が足りない…」
静かに、中村有沙は言う。
「もしかして、仲間の心配でもしていたか?」
「何ですって?」
あまりの図星に、怒りに顔を歪ませる理沙。
「私は、仲間の心配などしない…」
それに対し、中村有沙の表情は、冷静そのものだ。
「何故なら…私達『R&G』は、貴様等『TDD』に、完全勝利するのだから…」
5582投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時35分13秒
宿直室の押入れに…地下へと通じる隠し通路がある。
夏希が造っておいた、脱出用のトンネルだ。
このトンネル内に、夏希の妹、ジーナと、父親の加藤浩次が潜んでいた。
「戦いが…始まったみたいです…」
ジーナは、じっと天井…押入れの床板を見詰めながら、静かに囁く。
「ああ…。そうみてぇだな…」
楠本と『チームG』の戦いは、派手な物音をたてている。
地獄耳を持たない加藤でも、その様子は窺える。
夏希は、このトンネルのことを他の者には教えていない。
もし、誰かが敵の手に堕ちて、この隠し通路のことを吐かされたら、ジーナ達の身の安全が脅かされるからだ。
旗色が悪くなったら、このままジーナと加藤は、この廃校から脱出することができる。
「中庭の方…」
「中庭?」
「校舎の間のね…。この音…鎖鎌…。有沙さんだ…」
「聞こえるのか?」
加藤は、今更ながらに『TTK』の『戦士』の能力に驚く。
「お姉ちゃんの方は、大丈夫だけど…私は、有沙さんの方が心配…」
ジーナには、中村有沙の身体を動かせるように治療した。
つまり、戦場に送り出したのだ。
中村有沙の生死には…自分は深く関わりを持っている…。
ジーナは、ただ祈ることしかできなかった。
5583投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時35分38秒
だが、ジーナは意を決したように頷くと、押入れの床板を上に押し上げた。
「お、おい!!どこに行くんだよ!!」
加藤は、ジーナの肩を掴む。
「ダディ…。私、どうしても見届けなければいけない戦いがあります…」
「見届ける?」
「はい…。ジーナはその人を救ったのか…それとも殺してしまうのか…知らなければならないんです…」
ジーナの目は、凛々しく輝いている。
「そして…もし、殺してしまうことになってしまったら…それを、ジーナは止めなくてはいけない…」
「お…おまえ…」
「ダディ…。万に一つ、お姉ちゃん達が負けるようなことになったら…絶対にそんなことはないけれど、その時は…ダディだけでも、生きのびて下さい…」
「お、おい!!行くんじゃねぇ!!死ぬぞ!!」
「その方が…ダディも気が楽でしょ?」
「…え?」
「やっぱり…殺し屋として創られた娘なんて…嫌でしょ…?」
ジーナは、悲しそうに微笑んだ。
そして、床板の穴から這い出した。
5584投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時35分57秒
「ジーナ!!」
加藤が叫ぶ。
「はい?」
ジーナは、ひょっこりと、穴から顔を出した。
「やっぱり…おまえは…俺の娘じゃねぇ…!!」
「…え…?」
せつなさそうなジーナの表情…大きな目に、涙が溜まる。
加藤は、そんなジーナの顔をまともには見られない。
「俺の娘が…俺の血を受け継いでる者が…そんなに、眩しいわけがねぇ…」
「…え?」
「俺は…最低の人間だ…。おまえは…俺の娘じゃねぇ…。似ても似つかねぇよ…!!」
ジーナは、ゆっくりとその表情を微笑みに変えると、首を横に振った。
「いいえ…。ジーナは…ダディの娘です…」
そして、こう続ける。
「だって…ダディは、最高ですから!!」
そして、ジーナは戦場に向かった。
5585投稿者:リリー  投稿日:2009年01月05日(月)21時37分53秒
これより、【体育館】、【講堂】、【運動場】、【一棟校舎】、【中庭】の順番で、最終決戦の様子を描いていきます

では、おちます
5586投稿者:加藤とジーナのやり取りで  投稿日:2009年01月05日(月)21時55分26秒
泣いてしまった
5587投稿者:117  投稿日:2009年01月05日(月)21時58分02秒
いよいよ決戦スタート!ということで・・・凄まじいことになっていますね。
有沙も復活したんですね。時系列で戦いが進んでいくという・・・続きも気になります!
5588投稿者:有海達の  投稿日:2009年01月05日(月)22時11分16秒
ワナはいったい何処へ?
5589投稿者: 投稿日:2009年01月05日(月)22時28分39秒

5590投稿者:有海達の  投稿日:2009年01月05日(月)22時52分17秒
ワ○ナはいったい何処へ?
5591投稿者:デジ  投稿日:2009年01月06日(火)00時21分23秒
チームG(俵姉妹&七世)VS元帥(楠本さん)
ややチームGが優勢と言ったところでしょうか?去年の屈辱晴らせるか。
有沙VS理沙
有沙復活!あくまで冷静な有沙とここに来て集中力が今ひとつのTDD。立場逆転か?
ジーナと加藤さんの親子愛。感動的ですね。夏希の忠告(戦闘に加勢するなという戦いの前に夏希のいってた忠告)も無視し、有沙の戦場へ。二人の決着までに間に合うか。続きも楽しみです!
5592投稿者: 投稿日:2009年01月06日(火)00時46分41秒

5593投稿者:楽しみすぎる  投稿日:2009年01月06日(火)02時08分22秒

5594投稿者:あげ  投稿日:2009年01月06日(火)18時40分27秒
5595投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時44分11秒
5586さん
とても嬉しいお言葉…ありがとうございます
117さん
有沙の復活も、多少強引でしたが、なんとかなりました
あとは、それぞれ戦っていくだけですね
5587さん
有海の罠は、もう少し(だいぶ?)先のことになりなす
もう少しお待ち下さい
5590さん
おそらく、この先出ないと思います
デジさん
今のところ、全体的に『R&G』が優勢ですが、まだひと波乱もふた波乱もあります
ジーナも、どう戦いに関わっていくか、楽しみにしていて下さい
5593さん
ありがとうございます
もう、『グラスラ』は書き終えてしまいましたが、とても励みになります

あげ、ありがとうございました

では、更新します
5596投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時45分30秒
【体育館・2】
寛平は、もう10分間は休みなく運動をし続けていることになる。
上から発射される、鉄球と矢。
そして、前後左右から飛んで来る手裏剣。
ミリ単位で避け、杖で叩き落す。
寛平自身は気付きようがないが、額に浮かんだ汗が、顔に塗りたくった白いドーランを僅かに滴り落としている。
「あへ…」
思わず、寛平は弱音ともとれる喘ぎ声を出した。
一瞬、気が抜けたのだ。
タン…という、床を跳ねる音…。
思わず、右斜め上を見る。
夏希が、長ドスを振りかざし、切りかかってくる。
「…!!」
杖でその一撃を受けると、一気にその場から離れた。
その、離れた場所に…鉄球が迫り来る。
「うおおっとぉ!!」
大袈裟な声をあげながら、寛平は前転をしてそこから逃れる。
そして、前転をしている最中の寛平に…矢が発射される。
寛平は、今度は素手で矢を掴んで防いだ。
5597投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時46分01秒
寛平は、夏希の手裏剣を避けながら、矢の先の匂いを嗅ぐ。
「ふむ…。毒が塗ってある…。これは、神経毒の一種や…。かすり傷でも負えば、しばらくはまともに身体を動かすことはできんな…」
そう言いながら、鉄球、矢、手裏剣の攻撃の間を縫う様に移動する。
そして、床に刺さった手裏剣を拾い上げる。
「ふむ…。この手裏剣も、毒が塗ってある…」
寛平は夏希の方を見ながら、細い目を、更に細めた。
「これは、ひとたまりもないわ…」
「…く!!」
夏希は、顔を顰める。
段々、寛平がこの波状攻撃に慣れ始めている。
攻撃を避けるのに、余裕が見えるのだ。
数分後には…反撃に打って出るかもしれない。
それまでに、仕留めておかなければ…!!
「うりゃああああ!!」
夏希は、手裏剣を投げつけながらも、長ドスで突きにかかる。
同時に、寛平の脳天の上から…エマが鉄球を発射させた。
夏希の手裏剣の為、後ろには逃げられない。
もし、手裏剣を叩き落して前に出たとしても、夏希に長ドスで刺されることになる。
左右に避ければ、エリーの矢で狙い撃ちにされる…。
最初に訪れた、寛平を仕留めるチャンスだった。
5598投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時46分32秒
しかし寛平は、上から迫る鉄球を確認すると、少し身体を後方にずらし、杖をビリヤードのキュウの様に、夏希に向けた。
「…!?」
何をするつもりなのか…夏希には、それを考察するよりも、一気に勝負に出る方を選んだ。
自分でも気がつかないうちに…気が焦っていたのだろう…。
「ぱきゅ〜ん…」
寛平は、気の抜けた声と共に、落ちてきた鉄球を、杖の先で突いた。
「え!?」
まるで、ボウガンから発射されたかの様な勢いで、杖に突かれた鉄球は、軌道を変えて夏希に向かう。
「これって…『ヴォヤージュ±』じゃん!!」
驚愕したエマの声が、天井から聞こえる。
「く…!!」
夏希は、一直線に向かってくる鉄球の処理を、一瞬で考える。
避けるか…?
いや、寛平に隙を見せてはいけない。
長ドスで叩き落すか…?
いや、この勢いで飛んで来る鉄球をまともに払い落とせば、刃が折れる…。
あくまでも、寛平に直接トドメを刺す武器は、長ドス以外に有り得ない。
夏希の選択した手段は…刃をギリギリに鉄球に当てながら、身体を素早く回転させる。
鉄球は、火花を散らしながら、僅かに軌道を外れて後方に飛んで行く。
夏希のすぐ後ろの壁に、鉄球は激突した。
5599投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時49分04秒
何とか鉄球をしのいだ夏希だが、身体を回転させた為に、一瞬、寛平から視線を外してしまった。
すぐに体勢を整えて長ドスを構え、寛平の迎撃に備える。
「…!?」
しかし、寛平の姿が見えない…。
見失った?
ドン…と、天井から音がした。
「!?」
寛平が…夏希が一瞬目を離した隙に、天井へとジャンプした!?
天井の穴から飛び出して、屋根の上へ…!!
「し、しまった!!」
寛平はまず、天井から狙い撃ちしてくる『チームE』を始末に行ったのだ。
「逃げろ!!エマ!!エリー!!」
夏希も、天井へとジャンプしながら、死に物狂いで叫んだ。
5600投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時49分23秒
「あ…ああ…」
エマもエリーも、一瞬、金縛りにあったかの様に身体が動かない。
『TDD』のボス…『フール(愚者)』の間寛平…。
浴衣を身に包み、顔を真っ白なドーランで塗りたくった『怪人・浴衣ピエロ』…。
だが、その白い顔も、今までの雨嵐の様な波状攻撃で汗を掻き、ドロドロに解け…不気味さを増している。
ダーブロウ有紗でさえ、敵わなかったという寛平がここにいる…。
こんな近距離に…。
自分達『チームE』は、遠距離攻撃のスペシャリスト…。
こんなに敵を近づけてはいけない…!!
これでは、戦う術がない…!!
「逃げろ!!エマ!!エリー!!」
下から、夏希の声が聞こえる。
「うわぁ!!」
その声に突き動かされるように、エリーはボウガンの引き鉄を引いた。
黒い矢は、寛平の左胸へと飛んでいく。
「ほい」
軽い声と共に、寛平は杖を軽く振った。
杖の先は、黒い矢を弾き飛ばした。
そして、その矢の行方は…エマの右腕に…。
5601投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時49分46秒
「え…?」
「ええ…?」
エマもエリーも…エマの右腕に突き刺さった矢を見詰めている。
「あ…。エ、エマ…」
「あ…あ…ああ…」
エマの身体が、ガクガクと震える。
矢に塗られた神経毒が、身体に回り始めたのだ。
「ああ…あああ〜〜〜!!!」
エマは、体育館の屋根の上に転げまわる。
ビクビクと、身体を痙攣させながら…。
「エ、エマ!!」
エリーは、思わず寛平から警戒を解いてしまった。
「あへあへあへ…」
気の抜けた奇声を発しながら、寛平は杖を振り回しながら、エリーに飛び掛った。
「…え…?」
防御も、回避も、間に合わない…。
エリーは…今度こそ死を覚悟した。
5602投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時50分17秒
「エリー!!」
夏希の絶叫と共に、凄まじい衝撃がエリーを襲う。
「あぐぅ…!!」
エリーは、そのまま体育館の屋根から突き落とされた。
そして、雪の積もった地面へと叩きつけられる。
「が…あ…ぁ…」
エリーの意識が遠のく。
雪がクッションになったとはいえ、その衝撃は凄まじく、エリーは気を失った。
「く…!!こうするしか…なかった…」
夏希は、忌々しそうに地面に大の字に倒れているエリーを見下ろした。
あのタイミングで寛平に飛び掛っても、エリーへの攻撃は防げなかった。
自分がエリーの前に出て、寛平の攻撃の盾になったら、今度は自分が無事では済まない。
決してベストでもベターでもないが…最悪の状況を逃れる選択は…エリーを屋根から突き落とすこと…。
それしか、自分とエリーの命を救う方法がなかった。
エマの方を見る。
白目を剥いて、ピクピクと震えている。
右腕には、エリーの黒い矢が…。
矢に塗られた神経毒は、命を奪う効果まではないが…これで、エマの戦線離脱も決定的になった。
まだ、応急処置をすれば、ボウガンの引き鉄くらいは引ける様になるだろうが…寛平がそれを許すはずがない。
つまり…夏希は、寛平打倒に必要な、『チームE』という道具を失った…。
5603投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時51分03秒
「う〜ん…。これで、お仲間が倒れたと…。さて、どないしょ?」
腰を軽く叩きながら、寛平は、悔しそうに顔を歪める夏希を眺める。
「………。下に戻りましょう…。ここじゃ、足場も悪いし…」
「…ん?まだ、ワシと戦うつもりなん?」
「………当然でしょ?」
「うそん…。何で?勝てるわけないやん…」
「………まだ、わからないでしょ?」
「いやいやいや…。わかるやろ?エマとエリーは、ワシを倒す為に、絶対に必要なんやないの?」
「………そうよ…」
「その為に、体育館の屋根に穴も開けたし、雪の止むのを待っとったんやろ…?」
「………そうよ…」
「夏希君、一人でワシと戦う予定は、なかったんやろ?」
「………そうよ…」
「ほな、もう、無駄なことはやめようや…。はよ、『TDD』に戻り…」
「………それは、できない!!」
5604投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時51分19秒
「何で?妹さんには、手を出さんよ…」
「………でも…お父さんは、殺すんでしょ?」
「当たり前やん。依頼やもん」
「だったら、断る!!ジーナから父親を…家族を…奪わせない!!」
「君が家族になったれよ…」
「ダメよ!!私の様な、『裏』の人間が…家族になれない…!!ジーナには、『表』の世界で幸せに生きて欲しいのよ!!」
「…ん?君は…『裏』の世界に生きてる君は…幸せやないの?」
「当たり前じゃない!!」
夏希は、悲痛な声で叫んだ。
5605投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時51分48秒
寛平は、白髪混じりの髪の毛をガリガリと掻く。
「ふ〜ん…。そうなんや…。ワシは、幸せやで…?」
「あなたと、ジーナを一緒にしないで…」
「そうか…?ジーナも、案外、『裏』の世界で幸せに暮らせるかもしれんで?」
「そんなワケ、ない!!あなたの孫だって…帆乃香だって…それで、『TDD』を裏切ったんじゃないの!?」
「ああ…。帆乃香とは、またゆっくりと話し合いをせんといかんなぁ…」
寛平は、一瞬、表情を暗くした。
しかし、白いドーランの所為で、夏希にはわからなかったが…。
「ほんじゃ…。下に戻ろか…?」
寛平は、目の前に開いた穴から、すぅっと下へ飛び降りた。
夏希は、倒れているエマに視線を移す。
腕から矢を抜き、長ドスの刃で傷口を切り裂いて、毒の入った血を吸い出し、止血をしてやる。
解毒剤は、下に叩き落したエリーが持っている為、飲ませることができない。
「…待ってなさいよ…。寛平を倒したら、解毒剤をあげるから…」
そして、こう続ける。
「これは…あなた達のミスではない…。私のミスよ…。あいつの力を…見誤った…」
深い溜息を一つつくと、夏希も屋根の穴から下へと飛び降りた。
5606投稿者:リリー  投稿日:2009年01月06日(火)20時52分34秒
次回は、【講堂】です

今日は、これでおちます
5607投稿者:デジ  投稿日:2009年01月06日(火)22時17分43秒
おっと本当にもう一波乱ありましたね。
気配は読めないとはいえ、ライオンの威厳は健在ということですか。
さすがの夏希もこればかりは情が動いたようですね。
夏希&チームE組大ピンチ!
他の戦場でも波乱はあるのか?有海の罠とは?そしてだいぶ前からいないダーさんの行方は?続きも楽しみです!
5608投稿者: 投稿日:2009年01月06日(火)22時23分25秒

5609投稿者:807  投稿日:2009年01月06日(火)22時48分39秒
ダーさんも気になるけどモニークやジャスミンは出てくるの
だろうか?
5610投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時04分55秒
デジさん
早くも『チームE』の戦線離脱ですが、『十回・裏』は、本当に長いので、こうなりました
ダーさんも、必ず後で出てきます

807さん
モニーク、ジャスミンも、どこかで出てくるかもしれません
今、明言は避けておきますが…

では、更新します
5611投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時06分03秒
【講堂・2】
「うおおおお〜〜〜!!!」
何度目かになるか…恵のラリアートは、一直線にちひろを襲う。
「はぁ!!」
こちらも、何度目のなるか…ちひろは、ラリアートを掻い潜り、脇腹に木刀の一太刀を浴びせる。
「ちぃ!!」
恵は、すぐさま、振り返る。
ちひろは、後ろに飛び退いた。
「うりゃあ!!」
今度はジャンピングニーパッドを放つ、恵。
「…む!?」
今までと同じ様に、木刀を叩き付けたら、今度は硬い膝…恵の膝が割れるか、それとも、ちひろの木刀が折れるか…。
ちひろは、咄嗟に木刀の柄の先を、恵の膝に当てる。
「…がぁ!!」
電気を流された様な痛みが、恵の全身を駆け巡る。
「せやあああああ〜〜〜!!!」
ちひろは、身体をうずくまらせて膝を抱える恵を、木刀で滅多打ちにした。
5612投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時06分26秒
しかし、恵の手は、ちひろの木刀を握る。
「…!?」
渾身の一撃を、素手で受け止めた?
ちひろは、驚愕の表情を押し込めるのに精一杯だった。
「この!!」
恵は、ちひろの木刀を握りながら、腕を振り回した。
「う!?」
何とか、木刀を手放さずに奪われることを防いだが、ちひろの身体は数メートル先の床に叩きつけられた。
「ぐ…!!」
咄嗟に、ちひろは立ち上がると、木刀を構えて恵の攻撃に備える。
だが、恵は膝への打撃が効いたのか、まだうずくまったままだ。
「しかし…呆れた打たれ強さだな…。おまえは…」
ちひろの声に、恵は、顔を上げて睨み付けた。
「打たれ強いだと!?ふざけんな!!」
そして、ようやく立ち上がる。
「てめぇの一撃…私を殺そうという気迫が足りねぇ!!そんなもん、何発喰らっても、どうってことねぇよ!!」
5613投稿者:つまんねえなあ  投稿日:2009年01月07日(水)21時07分06秒
 
5614投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時07分12秒
しかし、ちひろは冷静に受け応える。
「気迫が足りないか…。では、私も言わせてもらおう…。おまえには、集中力が足りない…」
「何!?」
「何か、考え事をしながら戦っているな?それとも、物思いにふけっているか…」
「だ、誰が…!!」
恵は、顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
「さっきから、単調な攻撃を何度も受けている…。いい加減、対応策を思いついてもいい頃合いだろう?おまえは単純だという話しだが…」
「う、うるせぇ!!」
だが、ちひろの言ったことは、図星だった。
恵は、この戦いそのものよりも、この戦いが終わった後のことを考えている。
この『R&G』との最終決戦を終えた後、このまま原村から立ち去ってしまう。
瑠璃を必ず見つけ出すと、大樹と約束したのに…見つけ出す所か、その瑠璃だって口封じに殺してしまうことになる。
どれだけ、悲しむだろうか…。
恵は、自分達『TDD』の勝利を、心から願っていないのだ…。
5615投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時07分29秒
そんな恵に構うことなく、ちひろは正剣突きで相対する。
「私は、この戦いにおいて、邪念の類は一切持ちこまない…。ただ、我々の勝利…この戦いの勝利に命をかける…!!」
「邪念!?邪念だと!?ふざけんな!!私のは、純粋な想いだ!!」
そう、怒鳴り散らす恵に、ちびろは首を傾げる。
「…?何をおまえが怒っているのか、わからないが…。邪念でないのなら、純粋な想いでかかって来い!!」
そして、ぴったりと、恵の鼻先に木刀の先を定めた。
「やってやるよ!!」
恵は、またもラリアートの体勢で突っ込んで来た。
5616投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時07分46秒
騒々しい、ちひろと恵の戦いの横で、ジョアンとはるかは、さっきから身動きもせずに睨みあっている。
いや、はるかの方は、睨みつけているというか…ただ、ぼうっとジョアンを眺めている…という感じなのだが。
「おい…。仕掛けてこないのかよ…」
ジョアンが、たまらず声をかける。
「…うん…。あんたが仕掛けてくるのを、待ってる…」
「へへ…。アタシから動く…?嫌だね…。また、おまえを見失って、コソコソと隠れられたら厄介だからな…」
「…それができれば、とっくに仕掛けてるんだけどね…」
「あん!?」
ジョアンには、はるかの言葉の意味がわからなかった。
つまり…今…はるかは、自分の気配を消すことはできないのだ。
寛平の占いが、自分のことは占えない様に…はるかの気配を消す技術も、制限がある。
まず…一対一の状況では、気配は消せない。
今まで気配を消してきた状況では…必ず自分と対象となる人物以外に人がいた。
有希子に対しては、理沙が…。
楠本に対しては、理沙、あすみ、恵、翔子が…。
七海に対しては、帆乃香が…。
あすみに対しては、藍が…。
ジョアンに対しては、恵が…。
瑠璃に対しては、寛平が…。
必ず、第三者がその場にいたのだ。
5617投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時08分05秒
対象者が第三者に目を向けている隙に、こっそりと、はるかは気配を消すことができる。
はるかが、恵と…いや、誰かとコンビを組むのは、その為なのだ。
今は、最初からジョアンに正体を知られてしまい、そのジョアンは、終始自分に注視しているのだ。
気配を消せる状況にないのだ。
ちひろが言っていた、一対一で戦いやすい相手とは…実は、恵よりもはるかの方だったのだ。
しかし、今、講堂内に4人の人間がいる…。
4人が入り乱れて戦う状況になれば、気配を消すことができるのだが…。
はるかは、恵の方をチラリと見る。
ちひろとの戦いに夢中だ…。
「…ま、期待はしてないけどね…」
はるかは、溜息をついて笑った。
「何を笑ってんだよ!?おい、死神!!」
ジョアンが、木の床に鞭を叩き付けた。
「…仕方がない…。何年ぶりかな…。ガチンコ勝負…」
はるかは、メスをジョアンに向けた。
「へへ…。ようやく、やる気になったかい…」
ジョアンも、鞭の先を手に巻きつけると、その先をはるかに向けた。
5618投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時08分29秒
【運動場・2】
七海の視線は、あすみを通り越して、藍を見詰める。
藍は、さっきから七海をまともに見ることができない。
「ほんまに…複雑な気持ちやで…。こんな形で、対決することになるなんてな…」
その七海の声に、藍は堪らず叫んだ。
「対決なんて…そんな気はない!!私は、ななみん達を無事に警察に保護する為に…」
「ざけんな!!アタイ達を殺す気満々だろが!!いつかの…イヴの日だって…」
そう怒鳴る羅夢を、そっと遮る七海。
「ええねん…」
「な、何でだよ!?」
「藍は…ほんまにそう思ってる…」
「…え?」
「ほんまに、ウチらを殺そうなんて…思うてるはずがない…」
「な、何でわかるんだよ!?」
「そういうヤツやから…。藍は…」
「て、てめぇ、答えになってねぇぞ!?」
藍は、不安そうな顔をあすみに向ける。
「あ、あすみん…。殺すなんて…そんなこと、しないよね…?私…ななみん達を殺す為の訓練をしてたんじゃ…ないよね?」
あすみは、静かに答える。
「ああ…。殺すわけ…ないじゃない…」
5619投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時08分48秒
七海は、ニヤリとあすみを見詰める
「せやったら、しんどい思いをするで?殺さずにウチと羅夢に勝とうってワケやろ…?」
「そ…そうか…」
羅夢は、七海の考えをようやく理解した。
自分達を殺さないというのは、あすみの方便に間違いない。
それを感情的に言い立てて暴いても、何の得にもならない。
ならば、藍の目の前で自分達を殺さないという約束をさせれば、それがあすみの足かせとなる。
俄然、自分達が有利になる。
「へへ…。おまえ、チームリーダーになってから、頭が回るようになったな…」
「へ…?何が…?」
「あん?おまえ…私達を殺させない様に釘を刺したんだろうがよ…?あの女に…」
「ちゃうぞ…。ウチ等も、あすみを殺せへんってことや…」
「あん!?」
「藍の目の前で…あすみを殺せるわけがないやろ…?」
「こ、このバカ…!!まだ、そんなことを…」
「ウチはな…終わりにしたくないんや…」
「な、何をだよ…?」
「ウチと藍の…親友の関係を…」
5620投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時09分07秒
七海の言葉に、羅夢は逆上した。
「て、てめぇ…!!やっぱり、バカだぜ!!アタイは、関係ねぇもん!!やりたいようにやらせてもらうぜ!!」
羅夢は、藍に向かって駆け出した。
「…あ…」
藍は、思わず一歩後ろに下がる。
迎撃も、反撃も、回避も、防御もしない…。
いや、どうすることもできない。
藍は、明らかにこの場の中では『表』の人間だった。
「オラァァァァァ!!!」
羅夢のヌンチャクが、藍の脳天に…。
しかし、羅夢の右手に、凄まじい衝撃が走る。
「ぐ…!!」
思わず、羅夢はヌンチャクを地面に落とす。
あすみの右手に、ヨーヨーが納まった。
「こ、この女…!!」
羅夢は、あすみを睨みつけて、そう呻く。
あすみが、左手のヨーヨーも投げつけようとしている。
羅夢は、地面に落ちたヌンチャクの鎖に足を引っ掛け、蹴り上げる。
そのままヌンチャクを受け止め、鎖をピンと、頭の前で張る。
と同時に、ヨーヨーは鎖に直撃した。
5621投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時09分25秒
「うわ…!!」
羅夢は、その衝撃で、思わず後ろへ仰け反った。
上に向けた羅夢の顎に、またもやあすみの右のヨーヨーが迫る。
「…!?」
このままでは、羅夢の顎が、砕かれてしまう…!!
「ゴルァァァ!!」
七海は、羅夢の前に躍り出ると、そのヨーヨーをフルスイングで打ち返した。
「七海…!!」
羅夢は、そのまま背中から倒れた。
間髪いれずに、あすみは左のヨーヨーを投げつける。
狙いは、倒れている羅夢だ。
「せや!!」
七海は、咄嗟に滑り込む様に、バットをバントの構えで寝かせ、ヨーヨーを弾く。
僅かにヨーヨーは軌道を逸れたが、七海の左肩を直撃する。
「がぁ…!!」
七海は、肩を抑えて雪の上をもんどりうって転がった。
「く…!!七海!!」
今度は、羅夢が七海を庇う様に、あすみの前に立ちはだかった。
5622投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時09分44秒
「あ…」
藍は、呆然とその攻防の一部始終を見詰めることしかできなかった。
ほんの数秒…。
この短い時間に…お互い、何度死の機会が訪れただろう…。
「あい〜ん…。もう少し下がって…」
あすみは、藍の前ににじり寄って出た。
「あすみん…」
「心配ないから…」
あすみは、両手のヨーヨーを素早く回旋させた。
「わ…私…ど、どうすれば…」
「無理しなくていいから…。私が何とかする…」
あすみの声は、相変わらず冷静で、感情が感じられない。
七海と相対する事に、どう思っているのだろうか…?
今も、何の躊躇もせずに、羅夢に向けてヨーヨーを投げつけた。
自分には…絶対にできない…。
5623投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時10分02秒
「だ、大丈夫か…?七海!!」
羅夢の声に、七海は素早く立ち上がる。
「大丈夫なワケ、ないやろ!?オノレが勝手な行動とる度に、ウチが痛い目に会うてんねんぞ!?」
七海は、そう言って左肩をグルグルと回した。
「チームリーダーだろ?我慢しろよ!!」
「け…!!オノレも、『永遠の妹』かい!!」
「『永遠の妹』?何だよ、それ…」
「何でもない…。オノレの様な妹、ウチは持ちとうないって話しや…」
「ア、アタイだって、おまえみたいな姉ちゃん、いらねぇよ!!」
「ま、何でもええ…。藍は無視せぇ…!!二人掛かりで、あすみを仕留めるで…。藍は、その後、どうにでもなる…」
「そうだな…。それにしても、あの女…。やっぱり、殺す気満々じゃねぇか…」
二つのヨーヨーで防衛線を張っているあすみを、苦々しい表情で見る、羅夢。
5624投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時10分24秒
「言っておくがな…アタイは、あの女を殺す気でやるぜ…」
「オ、オノレ…!!まだ、そないな事を…」
「それぐらいの意気でかかんなきゃ、こっちが死ぬことになるぜ!?おまえだって、あの女の強さ、わかってんだろ!?」
「…ああ…」
「しかも、この前に対戦したことが、まるで役に立たねぇ…。武器が違う…」
「…あの、バカでかい鉄球か…?」
「ああ…。破壊力は抜群だったが、如何せん、大振りで雑な攻撃だった…。でも、あのヨーヨーは…」
「小回りとスピードが利く…。しかも、攻撃と防御の切り替えが、一瞬やな…」
「藍のやつも、同じ武器を持ってるみてぇだが…?」
「あすみ程、使いこなせてへんのやろ…。やっぱり、無視しても構へんやろ…」
「アタイも、攻撃と防御の切り替えが素早くできる…。まず、アタイがぶつかるよ…」
「その隙を、ウチが突けばええんやな?」
そう言うと、七海は思わず吹きだした。
「あん?何、笑ってやがんだ?」
「いや…。まさか、ウチとオノレが、こない作戦を立てながら戦うなんてな…」
「へん!!『チームBAKA』なんて、言われたくねぇからな!!おまえの所為で!!」
そう言うと、羅夢はヌンチャクを振り回しながら、あすみへと向かって行った。
5625投稿者:リリー  投稿日:2009年01月07日(水)21時10分43秒
では、おちます
5626投稿者:チームB  投稿日:2009年01月08日(木)00時45分18秒
だんだん息が合ってきてる

チームSは完全に分業制だが
5627投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時47分19秒
5626さん
『チームB』と『あすみ&藍』では、どうしても一対一いはできないんです
でも、七海と羅夢のチームワークが描けます

では、更新します
5628投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時48分39秒
【一棟校舎・2】
保健室に、楠本は完全に囲まれてしまった。
窓から外へ脱出を試みるも、七世がその行く手を塞いでいる。
彼女は、その武器の日傘を楠本へ向けて開いている。
その日傘の布は、特殊な金属の繊維が編み込まれていて、刃をも通さない。
楠本の、切れ味の悪い趣味用の鉤ナイフでは、どうすることもできない。
もう一つの、切れ味抜群の日本刀ナイフは、有希子の手の中にある。
そして、保健室の出入り口は、俵姉妹の鋼線で雁字搦めに封鎖されている。
楠本は、ふぅっと溜息をついた。
有海のことばかり気にしていた為、自分が戦闘において、こんなに苦戦するとは思ってもいなかった。
「あの時は…」
七世が口を開く。
「あなたに奇襲を受けたから…なす術なく負けてしまった…」
高速道路を車で疾走しながら、楠本は襲い掛かってきた。
七世は、運転で手が離せず、まともに戦ってもいなかった。
「今は、私達が万全の状態で…もっとも得意な密室で…あなたに標的を絞って待っていた…!!」
「う〜ん…。この言葉も、男冥利に尽きるなぁ…」
楠本は、その金髪を掻いて笑った。
5629投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時48分59秒
「無駄よ…。余裕ぶってみせても!!」
七世は日傘を閉じて、楠本へ突っ込んできた。
当然、楠本はその攻撃をかわし、七世に一撃を加えるところだが、それを俵姉妹はさせない。
七世の、単純極まりない攻撃も、それを見越している。
楠本の、次なる一手に対応する為に…。
七世よりも俵姉妹の動きを注視する。
姉妹は、ほぼ同時に鋼線を投げつけた。
楠本は、七世への攻撃を止め、まずは鋼線から逃れる。
だが、七世と俵姉妹の攻撃方法は、楠本の想像を遥かに凌駕した。
空中に張られた幾重もの鋼線に、七世は足を乗せた。
そして、鋼線から鋼線へと、飛び移っていく。
「む…!!この鋼線は…」
楠本を捕らえる為に張られたのではなく、七世が空中を自由に移動する為のもの…!!
そして、七世は容易に楠本の後ろを取ると、日傘の先の槍で攻撃をした。
「うお!?」
咄嗟に楠本は身をかわすが、俵姉妹の鋼線の網に引っ掛かってしまいそうになる。
七世の日傘の槍が、楠本の左肩を切り裂いた。
「ぐお…!?」
脇腹に続き、左肩も血が滴り落ちる。
5630投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時50分00秒
「ううむ…。これは…本当にやばい…」
ダーブロウ有紗との対決に負けてから、どうもイマイチ調子が悪い。
女難の相は、まだ続いているのか…。
七世は、またも鋼線を渡り歩き、楠本の隙を窺う。
この立体的な攻撃…いくら楠本でも、攻略は難しいだろう。
5631投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時50分21秒
「しかし…」
楠本はニヤリと笑う。
「意外と、あなた達、頭が悪いですね…」
楠本は、鋼線の上に飛び乗った。
「この私も、同じ様にこの空中の道を利用することができる…!!」
小百合が、有希子に囁く。
「お姉ちゃん…。意外と、楠本さんって頭が悪いね」
「そうね、小百合…」
姉妹は、楠本の乗った鋼線を断ち切った。
「うわ!!」
楠本は、腰から床に落っこちた。
「いたたた…」
腰を擦っている楠本に、容赦なく七世は襲い掛かる。
「おおっと!!」
本当に余裕無く、楠本はナイフで日傘を払い除ける。
七世は、楠本の反撃を受ける前に、またも鋼線に飛び乗って空中に避難する。
そして、またも楠本の死角へ回り込み、一撃を加え、またも避難する。
5632投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時50分43秒
「ひぃぃ…。これは、たまらん…」
完全なヒット&ウェイの波状攻撃に、楠本はおおいに苦戦する。
「ならば、この空中の道…断ち切らせて頂く!!」
切れ味の悪いナイフだが、一振りで楠本は鋼線を断ち切っていく。
しかも、それも無駄だ。
姉妹は、新たな鋼線を次々と繰り出してくる。
しかも、あわよくば楠本を捕らえてしまおうという攻撃も兼ねる。
そして、相変わらず七世も攻撃の手を緩めない…。
(有海さんには、感謝しなきゃ…)
七世は、心の中で呟いた。
有海が、自分達への護衛は無用と言ってくれたから、こうやって楠本相手に思う存分戦うことができる。
だからこそ…。
(有海さんを、この男から守らなければいけない…!!)
攻撃は、最大の防御…。
この男を…殺すことで…守れる命がある…!!
七世は、久しぶりの殺人を、覚悟する。
いや…楠本相手に殺さずに勝とうなど、無理な話しなのだ。
5633投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時51分02秒
『どんぐり広場』と名前をつけられた、多目的室…。
その、平和で牧歌的なネーミングの部屋に、恐怖に震えながら身を寄せ合う、少年少女達…。
梨生奈、卓也、杏奈、甜歌、帆乃香、瑠璃…そして、有海だ。
「何か…凄い音が響いてるね…」
卓也が、震え声で呟く。
楠本と『チームG』との死闘は、ここまではっきりと聞こえてくる。
「頼むよぉ…。七世さん達…。もし、負けちゃったら…」
甜歌は、身震いしながら言う。
「大丈夫です…。あなた達は…私が守ります…」
有海は、落ち着き払った声で励ました。
「な、なんで…あんたは、そんなに落ち着いてられるのよぉ!!あ、もしかしたら、自分だけは殺されないと考えてるんじゃないでしょうね!!」
甜歌は、ヒステリックに有海に詰め寄った。
「やめなさい…。甜歌…。有海の覚悟…あんたもわかってるはずでしょ?」
杏奈は、甜歌の肩を押さえつける。
「ごめんね、有海。甜歌、すぐにてんぱっちゃう子で…」
杏奈の言葉に、有海は微笑んで首を横に振る。
「いいんです…。不安なのは…私も同じです…」
5634投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時52分48秒
「でも…レッドさん、どこに行っちゃったの?」
卓也は、心配そうに吉田の行方を思う。
「何か知らないけど…社長として、自分だけ安全な所にいるわけにはいかないって…どこかへ行っちゃった…」
梨生奈も、吉田のことが心配でならない。
「まさか…カッコええこと言っておいて…自分だけ、さっさと逃げ出したんちゃうの?あのオッサン…」
帆乃香が、疑いの眼差しで呟いた。
「そんな、いい加減な人じゃないわ。レッドさんは…」
梨生奈は、そう帆乃香に向かって言ったが、すぐに言い直す。
「いや…確かにいい加減な人だけど…。でも、レッドさんは、卑怯な人じゃない…」
その梨生奈の言葉に、杏奈もクスっと笑いながら頷いた。
しかし、帆乃香はそのしらけた眼差しを梨生奈に向ける。
「ま、ウチは、世の中の大人を、信用してへんから、どうでもええわ…。信じられるんは、己の力だけや…」
その、疑いの眼差しを、有海にも向ける。
「悪いけど…ウチは、あんたの『罠』も、信用してへんよ?」
有海は、ゆっくりと頷く。
「わかってる…。信じて欲しいとは言わない…。でも…試してみて…。私を…」
「試すって…!!一歩間違えたら、あんた、死ぬんやで!?なぁ、やめときや!!」
帆乃香は、有海の肩を掴むと、激しく揺り動かした。
5635投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時53分12秒
「帆乃香…。やめときな…。有海の覚悟…本物だから…」
杏奈は、そっと、帆乃香を有海から離した。
「ありがとう…。白木さん…」
そう、礼を言う有海に、杏奈は厳しい目を向ける。
「だから…私達も、あんたの覚悟に乗っかるから…。あんたに…この命、預ける…!!」
「…はい…!!」
有海は、杏奈の言葉に改めて気を引き締めた。
「わ、私は、覚悟なんてできてないよぉ!!」
甜歌は、泣き出しそうな声で喚いた。
「し…!!甜歌!!ここに潜んでいるのが、バレちゃうよ!!」
卓也は青くなりながら、甜歌の口を手で抑える。
「でも…敵をこの部屋におびき出す…。それが、あみ〜ごの作戦よね?」
梨生奈は、そう言いながら不安そうな顔を有海に向ける。
「はい…。ですから…私は、楠本さんと岩井さん達が戦っている、保健室へ向かいます」
「…!?そ、そこまでしなくても…」
しかし、有海は梨生奈の言葉を遮った。
「もちろん、このまま岩井さん達が楠本さんに勝てば、それが最高です…。でも…」
「でも…?」
「おそらく…楠本さんは、私を取り返す為に…岩井さん達に勝つでしょう…」
「そ…そんなの、わかんないじゃん!!」
今度は、感情的に叫ぶ甜歌の声を、有海は遮った。
5636投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時53分49秒
「わかるんです…。私、『R&G』と『TDD』の戦闘力を比べ、絶対に勝つ組み合わせを考えたことがあります…」
そう…クリスマスイヴの、あの戦いの夜のことだ。
「あの日の対戦と、まったく同じなのが…楠本さんと、岩井さん、俵さん達なんです…。おそらく…楠本さんが勝ちます…」
「じゃ、じゃあ…やっぱり、専守防衛にさせておけばよかったんじゃない?」
梨生奈の立てた作戦も、間違いではない。
しかし、それでは、楠本という男に勝つことができない…と、有海は考えた。
5637投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時54分01秒
「楠本さんに勝てるのは…たぶん、私だけです…」
あまりにも、自身に満ちた、有海の言葉…。
「………あみ〜ご………」
梨生奈は、一瞬、言葉を失った。
「あ、あんた…。何で、そこまで自信満々なん!?」
帆乃香は、驚きを通り越して、呆れている。
「ですから…私は、楠本さんより強いから…」
「つ…強いて…。楠本さんより…?」
帆乃香も、二の句が継げられなかった。
「私は、岩井さん達が殺されないように…保健室へ行ってきます…」
そして、有海は瑠璃の方を向く。
「じゃあ、瑠璃ちゃん…。私がこの部屋を出たら、電源を入れてね」
瑠璃は、泣き出しそうな顔を有海に向ける。
「あ、あみ〜ご…。一度電源を入れたら…もう、解除することができないよ?」
「うん。わかってる…。だから…あなた達は、黒板側の床から、一歩も動かないでね…」
有海は皆の顔を見回すと、もう一度微笑み、多目的室から出て行った。
「…瑠璃…。電源を入れて…」
梨生奈は、力なく、溜息まじりで言った。
5638投稿者:リリー  投稿日:2009年01月08日(木)20時56分44秒
そう言えば、エマがドラマに出てますね
大きくなりましたねぇ…

では、おちます
5639投稿者:善戦してるけど  投稿日:2009年01月08日(木)21時26分59秒
七世達は楠本に負けるのだな・・・
5640投稿者:あげ  投稿日:2009年01月08日(木)22時54分41秒
 
5641投稿者:有海一人で  投稿日:2009年01月08日(木)23時09分36秒
楠本と戦うのかな?それとも七世たちに手を貸すのか
5642投稿者:大きくなりましたねぇ…  投稿日:2009年01月08日(木)23時42分18秒
とんでもないことになってますよねぇ…
5643投稿者:リリー  投稿日:2009年01月09日(金)21時11分50秒
5639さん
どうしても有海と楠本さんを会わせないといけませんので…

5641さん
こちらの方も明言は避けますが、有海は楠本さんと必ず相対します

5642さん
胸のことですか?
でも、あのドラマの風間トオルって凄いですね
正妻、愛人、子供に避難轟々の四面楚歌なのに、一人でズンズン先走って…
結構、面白いですね

では、更新します
5644投稿者:リリー  投稿日:2009年01月09日(金)21時13分53秒
【中庭・2】
中村有沙の鎖は、回転の速さを増す。
理沙は、どうしても自分から仕掛けることができない。
もしかしたら、何か罠を仕掛けているのかも…。
どう考えても、中村有沙の身体が動いているのは、不思議でしょうがないのだ。
パキ…ぺキ…。
周りの木々の枝が、折れていく。
ジワジワと、理沙は後退している。
まだ、何も接触していないのに、理沙は気圧されてきているのだ。
(あれこれ考えても仕方がない…!!)
理沙は、自分から仕掛けることにする。
ここまで、中村有沙の方からも仕掛けてきていないのも事実なのだ…。
彼女こそ、仕掛けるきっかけを失っているのだ。
理沙は、足下に積もった雪を、前方に向けて蹴り上げた。
5645投稿者:リリー  投稿日:2009年01月09日(金)21時14分15秒
雪は、塊りとなって中村有沙の顔面にぶつかる。
「はぁ!!」
鎖の隙間を縫う様に掻い潜ると、一気に懐に飛び込んだ。
そして、下から斬り上げようとしたが、その刃に鎌がぶつかる。
「…!?」
「雪ごときに、私が恐れおののくとでも?」
中村有沙の右腕に、鎖が巻き取られていく。
分銅の付いた鎖の射程距離を短くした…。
つまり、接近した理沙に対し、鎖が使える距離なのだ…。
「…く…!!」
刃を上にかざしながら、鎖の一撃を弾き飛ばすが、鎌の一撃には対応できなかった。
理沙の真っ赤なスーツの腹の部分が、切り裂かれた。
「…!!」
身体は傷つくことはなかったが…これで、中村有沙の身体は、完璧に近い状態で動くとはっきりした。
そして、理沙はその事実に唇を噛む。
中村有沙の完全復活を、身を持って確認したのだから…。
5646投稿者:リリー  投稿日:2009年01月09日(金)21時14分39秒
理沙は、覚悟を決めて刀を構える。
「む…。顔つきが変わったな…」
中村有沙も、鎌を構えなおした。
鎖を振り回して距離をとることはしない。
巻き付けた鎖を、解こうともしない。
接近戦をしようというのか?
理沙は、ますます苦々しい顔をする。
「は!!」
剣を真っ直ぐに突きつけて、理沙は一歩を踏み出す。
「ふん!!」
左手の鎖を、中村有沙は一直線に放つ。
理沙は、身体を仰け反らせて、分銅の付いた鎖を避ける。
こういう攻撃が来るだろうと、承知の上だったのだ。
すぐに、水平に刃を滑らせる。
その刃は、鎌にガッチリとかみ合った。
ギリギリと、二つの刃は軋み合う。
中村有沙は、地面に伸びた鎖を引き寄せる。
させるものかと、理沙は鎖を踏みつける。
ピンヒールが、鎖にはまり込んで、固定された。
二人は、指一本動かせない状態に陥る。
5647投稿者:リリー  投稿日:2009年01月09日(金)21時15分38秒
しかし、理沙は両手で刀を構えている。
対して、中村有沙は片手で鎌を構えている。
加える力に、差ができる。
日本刀の刃が、中村有沙の首筋に迫る。
「ふふふ…。どんな手品を使ったかわからないけど…久しぶりに動くようになった身体で戦うのは、疲れるでしょ?」
理沙は、余裕の笑みで問いかける。
「準備運動としては、適度ではある…」
中村有沙も、余裕の表情で答える。
「強がり言って!!」
更に、理沙は体重を掛ける。
中村有沙の身体が、海老反りになる。
だが、彼女は鎖を握った左手を、激しく揺り動かした。
鎖は、鞭の様に理沙の右足踝を叩いた。
「…う!?」
一瞬、理沙の身体から力が抜けた。
中村有沙はその瞬間を見逃さず、鎌をなぎ払う。
理沙は、身体のバランスを失う。
「…!!」
咄嗟に理沙は、両足を踏ん張って転倒を防ぐが、すぐに中村有沙が踏みつけられていた鎖を引っ張った。
理沙のピンヒールは、鎖にはまってしまっている。
針のように細いヒールは、ポッキリと根元から折れてしまった。
5648投稿者:リリー  投稿日:2009年01月09日(金)21時16分31秒
「あ…!!」
今度こそ、理沙は雪の上に尻餅を着いてしまった。
「終わりだ…!!」
中村有沙は、鎌を理沙の頭上に振り下ろした。
「くぅ…!!」
何とか、理沙は日本刀で鎌の一撃を受ける。
そして、残ったピンヒールで、中村有沙の脛を蹴り付けた。
「う…!!」
中村有沙は、理沙への追撃ができなかった。
その隙に、理沙は両方のヒールを脱ぎ捨てて、裸足で雪の上に立つ。
5649投稿者:リリー  投稿日:2009年01月09日(金)21時16分46秒
「く…!!忌々しい!!こんな真冬に…!!」
「ふふ…。裸足か…。精々、利用させてもらおうか…」
そう言って笑うと、中村有沙は、分銅の鎖を振り回す。
二棟校舎の窓ガラス、そして一棟校舎の窓ガラスも、粉々に砕く。
凄まじい回転が加えられている為、ガラス片は教室の中よりも、中庭に飛び散る。
白く輝く雪の上に、ガラス片も輝きながら、散らばり落ちる。
「こ…このぉ…!!何てマネを…!!」
ただでさえ、身を切るような寒さの中、裸足で雪に乗っているのに、その上、ガラス片を踏んでしまったら…。
「言っただろう…?私は執念深いと…」
中村有沙は、尚も意地悪そうな微笑みで続ける。
「そして、こうも言った…。今度は、貴様が泣く番だとな…」
5650投稿者:リリー  投稿日:2009年01月09日(金)21時17分47秒
短めですが、これでおちます

これで次回は【体育館】に戻ります
5651投稿者:あげ  投稿日:2009年01月10日(土)01時44分24秒
 
5652投稿者:デジ  投稿日:2009年01月10日(土)05時12分00秒
お久しぶりです。
各場面各戦場で拮抗した戦いが繰り広げられてますね。
(一昨日)
ちひろVS恵
恵さんも恋で弱くなる性質のようですね。いまいち集中力に欠ける恵さん。今の所ちひろが優位に立っていますが、逆に恵さんに勝機はあるのか?
ジョアンVSみのぽ〜
確かにそうですね。振り返ってみてもみのぽ〜の居た環境にはいつも自分と相手以外に誰か第三者の存在がありましたね。みのぽ〜のソロでの実力や如何に?
七海&羅夢VSあすみ&藍
本当の意味でも「チームB(Buddy)」になりましたね。この元祖「混ぜるな!キケン」チームが、この戦いが終わっても存続されることを少なからず望みます。
今の状況は、敵が有利と言ったところでしょうか?二人共以前戦ってたんですね、七海と藍。しかも両方共第一回の平穏な野球部関連で両方共、結果的に藍の勝ちでしたね。今度は勝てるか?今ここで繰り広げられるのが、野球での戦いだったらどっちが勝つんだろう?
(昨日)
チームG(TforTwoの三人(これって偶然?)VS楠本さん
楠本さんの女難はまだまだ続いているようですね。楠本さんの著しい劣勢か?
非戦闘員
有海の覚悟と自信には相当たるものがありますね。あの罠以外に何か秘策でもあるんでしょうか?しかしその罠も楠本さんがここに来るだろうことを想定しての罠だったんですね。吃驚しました。しかしまた一つ謎が増えてしまいましたね(汗)
5653投稿者:デジ  投稿日:2009年01月10日(土)05時53分09秒
(今日)
有沙VS理沙
復活の有沙がものすごい奮闘してますね。そのくせ戦いが有沙のペースに傾きつつある。ジーナと瑠璃の治療は完璧だったようですね。一先ず安心しました。
どの戦いも面白くなってきましたね。続きが気になります!(正直、気になって眠れません)
                (今日の小言)
そういえば今日(昨日)テレビにエリーでてましたね。エマと違ってあまり変わってませんでした。(卒業して10ヶ月しか経ってなきゃ当たり前か。しかしエマも卒業して2年10ヶ月の豹変ぶりにもびっくりしました。大きくなりましたね。)
5654投稿者:117  投稿日:2009年01月10日(土)17時04分13秒
久々の書き込みです。それぞれ、接戦・苦戦ですね。
あと一歩で、勝てそうで今のところ、勝てないと。藍の複雑な思いも気になります。続きも楽しみです!
5655投稿者: 投稿日:2009年01月10日(土)17時11分02秒
5656投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時16分31秒
デジさん
そう言えば、『チームG』の3人でMTK歌ってましたね
七世のソロだという意識が強かったので、気がつきませんでした
眠れないほど気にして頂いて、とても嬉しいです

あの、浜ちゃんの番組、見てました
一番目に紹介されたんで、さすがと思ってました
でも、それっきり出番はありませんでしたね

117さん
今日は、また【体育館】で寛平さんと夏希の対決です
藍と七海の対決と友情を同時に描いていかなければならないので、大変ですが…

では、更新します
5657投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時17分58秒
【体育館・3】
『チームE』の戦線離脱により、夏希の寛平打倒のシナリオは、白紙となった。
冷静に戦闘力を比較すれば、夏希は寛平には敵わない。
夏希にも、それはよくわかっている。
『TTK』の任務なら、一時撤退…だが、今はそれはできない…!!
今、撤退してしまっては、妹のジーナは永遠に『表』の世界に残れなくなってしまう。
いや…寛平が、撤退など許さない。
あの日の…ダーブロウ有紗を執拗に追い詰めた様に…。
夏希は、長ドスを構える。
寛平は、相変わらず呑気そうに腰を叩いている。
そして、本当に呑気な声で、夏希に語る。
「で…ほんまにやるん?」
「しつこいわね!!」
右手で素早く、ウェストバッグの中の手裏剣を取り出すと、二つ、寛平に向けて投げつけた。
「ほい、ほい」
蠅でも追い払うかの様に、寛平は手裏剣を払い落とす。
「おんや?」
寛平の目の前から、夏希が消えた。
5658投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時18分23秒
「どこや?」
すると、寛平の背後から、夏希は長ドスを振り上げる。
完全に後ろを取った…と、夏希は思った。
「ここや!!」
寛平は、背後に向けて、杖を突き出した。
杖の先は、夏希の左肩に当たる。
「う…!!」
それほど痛くはなかったのだが、夏希は寛平の側から大きく離れた。
「あ…あなた…!!気配が読めないって…ウソだったの!?」
「ん?」
寛平は、ポカンと口を開けて、夏希を見る。
「ウソ?人聞きの悪いこと、言いな!!ただ単純に…見えてたんやもん…」
「見えた…?」
「うん…。自分…のろいんやもん…」
「の…のろい…ですって…!?」
生まれて初めて言われた言葉だ…。
5659投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時18分58秒
「ちぃ…!!」
夏希は顔を歪めると、一気に寛平の間合いに駆け込んだ。
「お…!?」
寛平は、油断していたのか、いとも簡単に夏希の接近を許した。
「はあああ!!」
夏希は、袈裟斬りに長ドスを振り下ろす。
この間合いでは、真っ二つにできたはずなのだが…寛平は、無傷で立っている。
「…!?」
一瞬、戸惑って、夏希の動きが止まった。
だが、寛平は反撃をしてこない。
5660投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時19分10秒
「やあああ!!」
今度は、斜め右へと斬り上げる。
だが、またもや寛平は無傷で立っている。
「…な、何で…?」
思わず、夏希は声をあげた。
「何で…?届いてへんのやもん…」
「と…届いて…ない…?」
「ワシのは、届くで?」
夏希の左脛に、ピシリと激痛を感じた。
「…ぐ!!」
思わず、夏希は身を屈めた。
今度は、右肩の痛みが…。
5661投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時19分29秒
叩かれた瞬間がわからない…。
相変わらず、致命傷になるような攻撃ではないのだが、この攻撃をいつまでも受けていては危険だ。
夏希は、いち早く寛平から離れることにする。
その場から、ジャンプで10メートル程跳ぶ。
(まずは…手裏剣で距離を取って…あまり接近戦は…)
しかし、今度は左脹脛に凄まじい衝撃が走った。
「ぐああ!!」
夏希は、大きく叫び声を上げると床の上を転げまわった。
「あ…ぐぅ…」
見上げると、そこに杖を着いてこちらを見下ろす寛平が…。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ…。見えへんかったやろ…?」
「………!!」
そう…一瞬たりとも見えなかった。
いつ、寛平は自分の後ろに回ったのか…。
「な?のろいやろ?自分…」
白いドーランを塗っていてもわかる…。
寛平は、笑っている…。
5662投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時19分50秒
「ちぃ…!!」
夏希は、立ち上がると同時に長ドスを突き上げた。
が、この攻撃も寛平には届かない。
寛平は、一瞬で夏希の下から離れ、ステージ上に降り立った。
忌々しそうにステージの寛平を睨みながら、夏希は呟く。
「もう、出し惜しみしてる場合じゃないね…」
右手に長ドスを持つと、夏希は両手を広げた。
「いくよ…。唯一、私にしかできない、最終奥義…『魔王剣』…」
「最終奥義?『魔王剣』?どんなん?」
「ふふ…。自分の身体で確かめてみたら…?」
膝を曲げ、腰を深く落とす。
「梨生奈や羅夢の話しによれば、モニークも、この奥義の『マネゴト』ができるみたいだけど…」
「あん?モニーク…?同じ『四天王』の…?」
もう、夏希は寛平の問いに答えることはない。
「はぁぁぁ………」
夏希は、ゆっくりと息を吐く。
そして、身体中の力を、左右の腕に溜め込んだ。
「む…?何をする気や…?」
小刻みに筋肉を震わしながら、緩慢な動きで両腕を夏希の頭上へ持って行く。
しっかりと、両手で長ドスを握る。
5663投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時20分38秒
寛平は、そんな夏希をじっと見詰める。
「気や…。気を、両腕に送っとんな…」
やっと、寛平はその顔を引き締めた。
「おそらく…両足の力で一瞬でここまで飛び込み、一撃必殺の攻撃を加える…。そんなとこやろうな…」
しかし、夏希の奥義は、寛平の予想を遥かに超えていた。
「キエェェェェィ!!」
夏希は怪鳥の如く奇声を発すると、そこから一歩も動くことなく、長ドスを振り下ろした。
突風が起こる。
「…!?」
十数メートル先の床が、切り裂かれる。
『魔王剣』の正体は………尋常ではない威力と射程距離の、真空刃…。
そして、寛平の立つステージも、真っ二つに割れた。
当然、寛平の身体も…。
5664投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時20分55秒
しかしステージから、寛平の姿が消えた。
「…!?避けた…?まさか…!!」
『魔王剣』を放った瞬間、視線を一瞬床に落とした為、寛平を見失ったのか?
「いや〜…。今のはビックリした…。喰らったら、ヤバかった…」
すぐ後ろで…寛平の声…!!
「喰らったら…やけど…」
「くぅ…!!」
夏希が振り向いた瞬間…。
「ぱきゅ〜ん」
杖の先が、夏希の鼻先に寸止めされた。
5665投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時21分45秒
「うおおおお〜〜〜!!!」
最終奥義まで軽くかわされた夏希は、頭に血が昇ったのか、それとも、ただ恐怖感を誤魔化しただけなのかわからないが、体育館の屋根が吹っ飛ぶのではないかというくらい、咆哮をあげた。
「死ね!!死ね!!死ね!!死ね!!死にやがれぇ!!」
長ドスを、ただムチャクチャに振り回す夏希。
「生きる!!生きる!生きる!!生きる!!生きたんねん!!」
その長ドスの斬撃を、寛平はただの木製の杖で受け止める。
何故…杖は細切れにならないのだ…?
これは、ダーブロウ有紗との戦いの際にも疑問に思っていたこと…。
「ぱきゅ〜ん」
寛平は、ビリヤードの様に、杖を突いた。
杖は、夏希のみぞおちに突き刺さる。
「ぐ…うぅ…」
夏希は、前のめりに倒れそうになる。
だが、一歩、踏みとどまった。
「ぱきゅ〜ん」
杖は、夏希の左足甲を突いた。
「ぐあああ!!」
夏希は、そのままバッタリと倒れる。
左足甲の激痛…そして、みぞおちを突かれたことによる、呼吸困難…。
夏希は床を転がり回って、悶え苦しんだ。
5666投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時22分06秒
「うぃ〜〜〜〜〜ん…」
寛平は、床の上の夏希に杖の先を向ける。
「………!!」
「ぱきゅ〜ん!!」
夏希は、咄嗟に身を転がして、その一撃を避けた。
杖は…体育館の床を陥没させた…。
「ぱきゅ〜ん!!ぱきゅ〜ん!!ぱきゅ〜ん!!」
次々と繰り出される、寛平の攻撃。
夏希は、必死に転がりながら避けていく。
床の穴が、増えていく。
「がはっ…!!はぁ…はぁ…」
夏希は、ようやく立ち上がって、長ドスを構えることができた。
(く…くそぉ…)
長ドスを持つ手が、ガクガクと震えている。
(こ…これじゃあ…ダーブロウの…二の舞だ…)
そう思った夏希は、愕然とした。
二の舞どころか…焼き直しだ…。
ダーブロウ有紗は、勝つ見込みもなく、ただ突っ込んでいき、敗北した。
それと、まったく同じ道を、自分はなぞっている…。
『チームE』が自分の手から奪われた時に…自分の勝ち目はなくなったというのに…。
5667投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時22分30秒
「わ…私は…ダーブロウとは…違う…!!」
夏希は、呻くように言う。
「ダーブロウとは違う?一緒やろ?」
寛平は、軽い声で言い放つ。
「ワシの親切心を無駄にして…無駄に戦うて…無駄死にする…」
「く…!!」
夏希の頭に、血が昇った。
「あ…。まだ、ダーブロウ、死んどらんかったわ…」
寛平は、頭に手をやって天井を見上げた。
隙を見せた…?
「うりゃああああ〜〜〜!!!」
息苦しさは治っていなかったのだが、夏希は長ドスを振り上げて、寛平に襲い掛かった。
「で…君は、死ぬわけや…」
寛平は、殺気を孕んだ目で夏希を睨む。
「…!!」
一瞬、心臓が凍りそうになったが、夏希はそのまま突っ込んで行く。
「らぁぁぁ!!!」
夏希の、目にも止まらぬ様な神速の斬撃を、寛平は相変わらず、のらりくらりとかわしていく。
(ぐぅ…!!な、何で…!!何で当たらない…!!私は…元『TTK』の『四天王』だぞ!!)
5668投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時22分58秒
その時、寛平の静かな声が、夏希の耳元で囁かれた。
「血ぃ、吸うたろか…?」
「…!?」
この言葉の後には…確か…!!
対ダーブロウ戦の時、寛平はダーブロウ有紗のナイフを一本こっそりとくすね、それで彼女の身体を傷つけた。
咄嗟に、自分のウェストバッグに目をやる夏希…。
バッグの口が開いている…?
寛平の手には…自分の武器…手裏剣が…。
その手裏剣には…エリーの矢に塗っておいた物と同じ…神経毒が…。
少しでも傷つけられたらヤバイ!!
「うわぁ!!」
夏希は、すぐさま寛平から離れる。
だが、寛平はその手裏剣を夏希に向かって投げつけた。
「はぁ!!」
長ドスで手裏剣を払い落とそうとしたが…その手裏剣は僅かにカーブした…!?
長ドスの刃をすり抜けて、手裏剣は夏希の右肩を傷つけた。
「う…!!」
手裏剣には、神経毒が…。
これで、エマは戦闘不能に陥ったのだ。
5669投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時24分02秒
「わ、わぁ…!!」
夏希は大慌てで、長ドスで右肩の傷を切り裂いた。
傷口から、血が噴水の様に噴出した。
これで、大量の血と共に、毒も外に放出されたはず…。
だが、止血している暇はない…。
すぐに、夏希は寛平へ注意を向けるが…。
「ぱきゅ〜ん!!」
ガツン………と、夏希の額に衝撃が…。
寛平が、一瞬で夏希の間合いに入り込み、杖の一突きを喰らわしたのだ。
「…ぐぅ…!!」
夏希は、そのまま仰向けに倒れ、後頭部を床に打ちつけた。
「があ…!!」
夏希の目の前は、一瞬で真っ暗になった。
(………………。ダメだ…!!気を失っては………)
何とか、夏希は目を開ける。
真っ白な顔が、自分を見下ろしている…。
(…う…)
身体が動かない…。
今、トドメを刺されたら…!!
5670投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時24分45秒
「ぱきゅ〜ん」
ゴキン…と、夏希の右肩の関節が音をたてた。
「ぐあああああ〜〜〜!!!」
そして、激痛に叫びをあげる。
寛平の杖の先が、夏希の右肩の間接を外したのだ。
「ぐぅああああ!!!」
夏希は、左手で長ドスを握ると、寛平の足を狙ってなぎ払った。
「ほい」
しかし、寛平はピョンと跳び上がり、その一撃は空を切る。
夏希の握力は低下していて、長ドスはその手をすっぽ抜け、体育館の入り口付近まで飛んで行った。
寛平が、床に着地すると同時に…。
「ぱきゅ〜ん」
今度は、左太腿に、杖の先は突き刺さった。
「ぎゃあああああ〜〜〜!!!」
深く、杖は太腿をえぐる。
ヌチャリ…と、音をたて、杖は夏希の左太腿から抜かれた。
最終奥義も破られ、武器を手元から失い…右腕と左足も役に立たなくなった…。
もう…完全に…夏希は寛平に敗北した…。
5671投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時25分09秒
「ぐ…。こ、こんな…こんなハズでは…」
夏希は、歯軋りしながら寛平を睨みつける。
「ふむふむ…。ワシは、予定通りやけど…?」
そう言うと、今度は左掌に、杖を突き刺した。
杖は、夏希の左掌を、貫通した。
「ああああああ〜〜〜!!!」
大きく開けられた夏希の口に、寛平は杖を捻じ込んだ。
「が…う…!!」
叫び声すらも、許されない…。
「さぁてと…。このまま、ワシの杖を飲み込むか…?」
ぐぐぐ…と、杖が夏希の喉へと押し込まれる。
「が…ぐ…ぐぅ…」
「さあ、さあ…遠慮せんと…。飲みなさい…。飲みなさい…」
無表情な顔で…寛平は夏希の苦悶の顔を眺めている。
楠本の様に、殺人を楽しんでいる風には見えない…。
ただ、ただ、殺人を…淡々とこなしている…。
殺気も、なく…ただ、殺人を…。
絶望的な恐怖を抱いたまま、夏希の意識は遠くなった。
5672投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時25分51秒
「待ちやがれぇぇぇ!!!コラァァァ!!!」
これまた、体育館中の空気が震える程の声が、響き渡った。
「あん?」
寛平は、思わず声のした方を振り向いた。
寛平が開けた扉に…人影が…。
その人影は…元加藤組組長…加藤浩次…。
加藤は、右手に長ドスを持っていた。
夏希の手から離れた…長ドスを…。
5673投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時26分04秒
「おや?…あんた…」
ようやく、寛平は加藤だと気がついた様だ。
「おい…こら…。てめぇ…何やってんだよ…?」
「何やってる…?ワシに言うてんの?」
「おう!!てめぇに言ってんだよぉ!!」
加藤は、その掠れた声を、またも張り上げた。
「何をしてんの?て、言われたら…人を殺してますよ…ちゅうことやな…」
寛平は、何の気負いもなく、ただの世間話のように軽く言う。
「やらせねぇ…」
「あん?」
「やらせえねぇよ…」
「何を…?」
加藤は、息を大きく吸い、そして吐き出すように吠えた。
「俺の娘を…!!可愛い娘を、殺させねぇって…言ってんだよぉ!!この、ぶぁぁぁか!!!」
5674投稿者:リリー  投稿日:2009年01月10日(土)21時26分31秒
それでは、おちます
5675投稿者:加藤さんかっこえええええ  投稿日:2009年01月10日(土)21時32分39秒

5676投稿者:一方、山本は  投稿日:2009年01月10日(土)21時39分39秒
前立腺に針を差し込まれて警察前に転がされてた
5677投稿者:かっこいいいいいいいいいいいい  投稿日:2009年01月10日(土)23時46分43秒
 
5678投稿者: 投稿日:2009年01月10日(土)23時56分20秒
5679投稿者: 投稿日:2009年01月11日(日)00時00分43秒
あげ
5680投稿者: 投稿日:2009年01月11日(日)00時38分53秒

5681投稿者:でも  投稿日:2009年01月11日(日)00時53分42秒
加藤が来てもどうにもならないんだろうな

カンペー強すぎ
5682投稿者:八九三なめなや  投稿日:2009年01月11日(日)01時07分39秒
5683投稿者: 投稿日:2009年01月11日(日)20時25分18秒
5684投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)20時56分15秒
5675さん、5676さん、5677さん
加藤さんと山本さんの扱いの違いは、凄まじいと私も思いますが…
5681さん
確かに、まだ形勢逆転には程遠いと思います
5682さん
893屋さんも、どれくらい強いのか(根性が据わってるのか)も、個人で違うとは思います
しかし、夏希の寿命が延びたことは確実です

あげ、ありがとうございます

では、更新します
5685投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)20時57分45秒
【講堂・3】
箕輪はるかは、懐から取り出したメスをゆらゆらと揺らしながら、足音も立てずにジョアンに近づく。
「…!!」
ジョアンは、思わず一歩退いた。
今この目でしっかりと、はるかの姿を確認しているにも関わらず、それでも見失ってしまいそうな…そんな不気味な静けさを感じたからだ。
「くそ…!!こんなひょろひょろしたヤツに、何をビビってんだ…!!アタシは!!」
ジョアンは、鞭を構えると、素早く手首を反した。
鞭の先は、うねりながら、はるかの身体に向かっていく。
そして、確かに鞭は、はるかの身体に触れた。
しかし、はるかはそのまま、スルリと鞭を掻い潜り、ジョアンの懐へと飛び込んでいく。
メスが、突きつけられる…!!
「うお!!」
もう一度、鞭を放つが、はるかは、尚もジョアンに近づいていく。
左胸に軽い痛みが走る。
「くぅ…!!」
ジョアンは、はるかから離れた。
トラックスーツの左胸の部分が切り裂かれ、乳首の横に、僅かな切り傷が…。
「あ、あぶねぇ!!もう少しで、乳首を斬り落とされるところだったぜ!!」
青い顔で、ジョアンは叫んだ。
5686投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)20時58分10秒
そして今度は、はるかに向けて怒鳴った。
「な、何で、てめぇは、鞭を喰らって平気なんだよ!?」
確かに当たったはずなのに、その感触が伝わってこなかった。
まさか、目の前の女は幽霊だった…なんて、オチではあるまい…。
「…柳…」
「あ…?」
柳…?
柳の下の幽霊?
「…恵ちゃんは、頑丈な身体で大抵の攻撃は跳ね返しちゃうけど、私は、その攻撃に逆らわない…」
はるかは、その細い身体をゆらゆらと揺らす。
「…鞭が当たった瞬間、身体をこう、勢いに委ねるんだね…。それで、最低限のダメージで済ませてるわけ…」
それでも、先ほど鞭が当たった左腕を擦る。
「…でも、やっぱり、痛いことは痛いよ…」
そして、やはり武器が刃物でも、身体は切り裂かれてしまうわけだ。
刃物を武器にする、ダーブロウ有紗や、中村有沙…そして加藤夏希と戦えば、相当のダメージを負うことになる。
「ち…!!そうなると…やっぱり、ちひろが、この女と戦いたくないって勘は、正しかったわけだな…」
ちひろの武器の木刀…はるかにとっては、最も戦いやすい武器だろう…。
ちひろが意固地にならずに、あの時の日本刀を使ってくれれば良いのだが…。
5687投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)20時58分30秒
いつの間にか、はるかは両手にメスを持っていた。
「…じゃあ…第二撃…。いくよ…」
するぅ…と、まるで黒い蛇が滑り這う様に、はるかはジョアンに近づいて来る。
「うぅ…!!」
鞭の攻撃も、この女には効かない…!!
自然と、ジョアンは引き下がらざるを得ない。
ここは、四方を壁で囲まれた室内…。
すぐに、ジョアンの背中は行く手を塞がれた。
「…奥義…『デス・ウィンドウ』…」
両手のメスが、僅かに上がる。
「…!!ヤバイ!!」
ジョアンは、咄嗟に腰を落とす。
すぐ頭上で、ガリガリという音…。
「うりゃ!!」
ジョアンは、はるかに下から蹴りを入れるが、その攻撃もダメージは最小限だ。
身体を前転させて、ジョアンは壁際から逃れる。
そして、はるかと…壁を見る。
壁に、正確な正方形の傷が…。
5688投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)20時58分48秒
「な…何だ…?こりゃ…」
ジョアンは、その奇妙な傷跡を眺めた。
「…本当なら…あんたの顔面が、正方形に切り取られてたんだけど…」
はるかは、メスの先で正方形の傷の中央を差す。
「…つまり…あんたの顔に、ぽっかり窓が開くんだ…」
ジョアンは、身震いをした。
「へへ…。ただ、コソコソ隠れるだけしか能のない、ゴキブリかと思いきや…。おもしれぇじゃん!!」
この身震いは、この勝負を楽しんでいるのか…恐れているのか…。
ジョアンは、無理に答えを出そうとはしない。
そんなことを、考えている場合ではない。
一瞬たりとも、はるかから目を離してはけないからだ。
そう考えている内に、またも、はるかはジョアンの懐まで飛び込んだ。
5689投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)20時59分08秒
「…ぐ…!?」
「…『デス・ウィンドウ』…」
「させるか!!」
ジョアンは、鞭を手放すと、はるかの両腕を掴んだ。
はるかのメスは、もう少しでジョアンの顔に届く所だった。
力では、ジョアンの方が圧倒的に上だ。
「…い…痛い…」
腕を凄まじい握力で締め付けられたはるかは、メスを床に落とした。
「喰らえ!!」
ジョアンの右ストレートが、はるかの顔面を捉える。
「痛!!」
ジョアンは、顔を顰める。
はるかの大きな前歯が、拳を傷つけたらしい。
はるかは、例の柳の防御で、何とかジョアンのパンチをいなした。
しかし、その細い体を、よろよろと後ろに下げた。
その隙に、ジョアンは床に落ちた鞭を拾うと、その鞭ではるかのメスを払い除けた。
壁に、メスが二本とも突き刺さった。
5690投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)20時59分48秒
「へへへ!!どうだ!!これで、おまえの武器は…」
得意気にジョアンは笑うが、すぐにその笑みは消える。
またも、はるかは懐からメスを二本、取り出したからだ。
「ま…そうだよな…。そんな小さな武器…いくつだって持てるよなぁ…」
ジョアンは、溜息をつきながら鞭を構えた。
そしてまたも、はるかは足音もなく、ジョアンに迫る。
「何度も、同じことはさせねぇよ!!」
ジョアンは、鞭を床に激しく叩き続ける。
鞭の結界が、ジョアンを囲む。
「…!!」
はるかは、その足を止めた。
「ぎゃはははは!!どうだ!?近づいてみやがれ!!近づけねぇだろ!?」
まるで、黒い半透明のドームが、ジョアンの身体を覆っているかの様だ。
いくらはるかでも、触れた途端に、大ダメージを受けることになると、容易に予想できる。
「ぎゃはははは!!どうする!?さあ、どうする!?」
ジョアンの、笑い声が響く。
「……………」
はるかは、何もしない…。
ただ、ぼぅっとつっ立って、ジョアンを見詰めている。
5691投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)21時00分17秒
「はぁ…。はぁ…。さあ…どうすんだ…?ええ…!?おい…」
ジョアンの息が切れ始めた。
「…はぁ…。はぁ…。おい…。何か…しろよ…」
とうとうジョアンの体力が尽き、その鞭の結界は消え去った。
ジョアンの行為は、ただ、無駄な体力を消費するだけに終った…。
「はぁ…。はぁ…。き…きたねぇぞ…。ア…アタシの…体力が…なくなるのを…ひたすら待つなんて………」
ジョアンは、膝に手を着き、肩で息をしている。
そしてようやく、はるかは口を開く。
「あんたも…単純っていうか…。恵ちゃん並みだね…。バカさ加減が…」
「ああん!?アタシを、あんなメスゴリラと一緒にすんじゃねぇよ!!」
「誰が、メスゴリラだ!!」
隣でちひろと戦っている、恵の怒鳴り声が聞こえる。
もちろんジョアンは、恵の方を向き、怒鳴り返す様な愚はしない。
一瞬たりとも、はるかから目を離さない。
はるかは、一本だけ黒く変色した歯を見せて笑うと、またも足音もなく近づいてきた。
「ち…!!こういう瞬間だけ、さっきのディフェンスをやればよかったんだよな…」
確かに、自分はバカかもしれない…。
力ない笑みを浮かべ、とりあえずジョアンは逃げ回る。
5692投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)21時01分12秒
一方、ちひろと恵の戦いは、間合いを取り、じりじりと詰める展開となっている。
先ほどから恵は、ちひろの木刀を全身に受け、身体中に青痣をつくっている。
まだ、致命的なダメージはないものの、攻撃を受け続けるのは危険と(ようやく)判断し、無闇に突っ込むことをしなくなった。
ちひろは、木刀の先をゆらゆらと揺らしながら、摺り足で恵へと近づく。
恵の方も、ちひろが寄る度に、前に進む。
後ろへ退くことは、決してしない。
レスリングの選手の様に、身体を前かがみにし、タックルのタイミングを計っている。
ちひろの方も、恵の考えていることはわかっている。
問題は、どちらがきっかけをつくるか…。
(私から、つくるか…)
ちひろは、決心をした。
ダン…と、足を前に踏み出した。
弾き出されたかの様に、恵は低空タックルを仕掛ける。
(本当に、この女、単純だ…)
ちひろは、すっと身を退いて恵のタックルから逃れる。
恵は、目測を誤り、床に手を着いた。
「えええええぃ!!」
ちひろは、恵の右肩に木刀を振り下ろす。
「ぐお!!」
だが、またも恵は膝を床から離し、再びタックルを仕掛けた。
5693投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)21時01分55秒
「…!?」
虚を突かれたちひろは、一瞬、逃げるのが遅れた。
いや、さっきの一撃で、恵を仕留めたと思い込んでいた。
恵は、ちひろの両足を抱えると、上に持ち上げる。
「う…」
恵は、パワー・ボムを仕掛けようとしている。
喰らってしまったら、ひとたまりもない…!!
5694投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)21時02分10秒
「はぁ!!」
木刀の柄を、恵の額に叩き込んだ
「ぐああ!!」
思わず、ちひろの足から腕を離し、打撃を受けた額を手で覆う。
ちひろは、床に足を着けると、恵のみぞおちへ、突きを放つ。
「…!?」
だが、恵は左手で木刀を掴んで、突きを止めた。
「へへへ…。とうとう、捕まえたぜ…。もう、放さねぇ…」
額に血を滲ませた恵は、ニヤリとその顔を歪めた。
恵は、掴んだ木刀を取り上げようと、上へ捻り上げた。
「うお…!!」
ちひろは武器を取られまいと、懸命に両手で握って離さない。
その為、両腕は上がり、ボディはがら空きとなった。
「ははぁ!!チャンス!!」
恵は、渾身のラリアートを、ちひろの腹へ叩き込んだ。
5695投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)21時02分47秒
「があああ!!」
ちひろは唸り声をあげながら、身体を講堂の壁に叩きつけられた。
恵の左手には、ちひろの木刀が握られている。
思わず、ちひろは木刀を手放してしまったのだ。
「ぐ…あぁぁ…」
ズルズルと、ちひろの身体は下へと沈む。
だが腰を床に落とすことなく、何とか両足で踏ん張れた。
恵は、得意気にちひろの木刀をぶらぶらと振り回す。
「へへへ…。これで、おまえもお終いだな…。素手でのガチンコでは…私に勝てねぇぜ?」
その言葉に対し、ちひろは痛みを堪えて言い返す。
「素手でのガチンコ…?デカアリは、おまえに勝ったと聞いたが…?」
「…!!」
恵の顔から、笑みが消えた。
いや、憤怒の表情に変わっていく…。
「てめぇ…!!ぶっ殺す!!」
恵は、木刀を床に叩き付ける。
木刀は、真っ二つにへし折られた。
折られた木刀の先が、ちひろの足下に転がった。
「…く…!!ようやく、この木刀も、私の手に馴染んできたというのに…」
悔しそうに、ちひろは折れた木刀の先を見詰めながら言った。
5696投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)21時03分29秒
「てめぇをぶっ殺した次は、ダーブロウのヤツを探し出して、ぶっ殺してやる!!」
恵は、今度こそトドメのラリアートを叩き込む為に、突っ込んできた。
「う…。確かに、まともにぶつかったら、ひとたまりもないな…」
ちひろは、右手でトラックスーツの腰の辺りを探る。
そして、その右手を思いっきり降り下げた。
ジャキィィィーン…という、金属音…。
ちひろの右手に、銀色に輝く棒が握られている。
「…!?てめぇ…!!もう一本…!?」
そう…伸縮自在の、護身用携帯ロッドだ…。
恵は、ラリアートの体勢から防御に戻せない。
「おまえなら、死ぬことはないだろう…」
ちひろは、上段の構えから、一気に前に踏み込んだ。
5697投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)21時03分49秒
「めぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜ん!!!!!」
銀色の軌跡を残し、ロッドは恵の脳天を直撃した。
「うおおお!!」
それでも、恵は意地で左腕を振り回す。
だが、その攻撃も、ちひろはロッドを素早くかざして食い止めた。
そのまま、恵は仰向けに大の字に倒れる。
「………はぁ…。はぁ…。終った…」
ちひろは、倒れている恵を見下ろし、呟いたが…。
腹筋の力で、恵は跳ね起きる。
「…!?」
「ふざけんな!!終わるわけねぇだろ!!」
滝の様に頭から血を流した恵が、ちひろを睨みつけていた。
5698投稿者:リリー  投稿日:2009年01月11日(日)21時04分38秒
では、おちます
5699投稿者:117  投稿日:2009年01月11日(日)21時26分19秒
これはまずい・・・カンペーさんは無敵だし、秋山さんも簡単には負けない。
「R&G」、かなりの劣勢ですね。熾烈な戦い、どうなるのか?続きが気になります!
5700投稿者:デス・ウィンドウ  投稿日:2009年01月11日(日)22時14分47秒
みのぽ〜の窓?
5701投稿者: 投稿日:2009年01月11日(日)22時19分00秒

5702投稿者:デジ  投稿日:2009年01月12日(月)00時31分37秒
(昨日)
夏希の攻撃はことごとく空振りに終わり逆に寛平さんの攻撃がことごとく致命傷になる。夏希大ピンチ!というときに現れた加藤さん。プライドを捨て完全に父親になることを決めたようですね。登場かっこよかったです。さあ、この登場に続けて戦いの戦力に成り得れるか。
(今日)
ジョアンとみのぽーの対決何気に鎬を削れてますね。これならみのぽー、素手でもいけたんじゃ?(まあ、得意技だから姿を消せる方を主流にしたんだろうけど。)
「デス・ウィンドウ」死神の窓、つまり「みのぽーの窓」ですね。
ちひろと恵さんの対決。ちひろ木刀敵に折られたの二度目ですね。というか復活したんですね。あの「サムドラ」の序盤で大活躍だった護身用携帯ロッド。懐かしいです。しかしそれでも立ち上がる恵さん。(この戦いで見事生還して初恋の人にまた会いたいが為?)やっぱり簡単には終わらんようですね。
続きも楽しみです!
5703投稿者: 投稿日:2009年01月12日(月)00時37分05秒
5704投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時02分20秒
117さん
そうですね
段々、戦況が各戦場とも悪くなりますね
山あり谷ありと言う事で…

5700さん
そうです
『みのぽ〜の窓』です
デジさん
みのぽ〜に関しては、後でガチンコ勝負を避けてきた理由も語られます
ずっと後ですけどね
ちひろも、木刀を折られまくっていますが、絶対に日本刀を使う気はありませんね

では、更新します
5705投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時06分07秒
【運動場・3】
「オラァァァァァ!!!」
羅夢のヌンチャクと、あすみのヨーヨーは、目まぐるしい回転と共にぶつかり合っている。
どちらも、攻守の切り替えが早く、どちらにもその攻撃が当たらない。
つまり、二人とも膠着状態に陥ってしまっている。
ここで、物を言うのは、お互いのパートナーだ。
あすみのパートナーは、ほとんど『表』の住人である、素人の藍…。
一方、羅夢のパートナーは、元『TDD』の『戦士』だった七海…。
「さあ、今だ!!七海!!この女のドタマ、バットでカチ割ってやれ!!」
だが…七海が攻撃に参加する気配がない。
「あん…?」
一瞬、横目で七海の方を見る羅夢。
七海は、藍と相対していた。
「藍…。ホンマにウチ等と戦うんか?その覚悟はできてんのか?」
「ななみん…。私…助けたい…」
「助けたい?」
「ななみん達を助けたい…」
「どういうことや?」
「危険なことを…無理矢理やらされてるんでしょ!?奴隷みたいに…」
「奴隷…?ウチは、自分の意思で生きてるつもりや!!そう言う、藍こそ、無理矢理戦わされとるんとちゃうの!?」
「わ…私は…」
5706投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時06分30秒
「おおおい!!」
二人の会話に、羅夢の怒鳴り声が割り込んできた。
「何や?羅夢…。うっさいのぅ…」
迷惑そうな顔で、七海は羅夢を見た。
「何やってんだよ!?早く、この女を攻撃しろよ!!」
「あん?ああ…すまん、羅夢。もうちょっと持ちこたえてもらえる?」
「な、何だって!?」
「ちょっと、藍と話したいことがあんねん。時間、稼いでくれる?」
「ふ、ふざけんなぁ!!」
羅夢の叫び声を無視し、七海は藍の方へ再び視線を向ける。
「でもな…一年前までのウチ等は…奴隷やった…」
「…え…?」
「救うて欲しかったんは…その時や…」
「ななみん…?」
「今は…ウチが、オノレを救うてやる…」
「え…?わ、私を…?」
「せやから…戦うんなら、思いっきり戦おうや!!」
七海は、屈託のない笑顔を藍に向けた。
その笑顔は、これから戦おうとする者の顔とは思えない。
今から、野球をやるぞ…という、今まで見慣れた…随分久しぶりに見た七海の笑顔だった。
5707投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時07分05秒
七海は、金属バットを構える。
「う…」
藍は、思わず後退りをした。
ニヤリと七海は笑うと、踵を返し、羅夢とあすみの方へと走って行った。
「あ…!!あすみん!!」
藍の叫び声に、あすみは七海の接近を察知した。
「来たね…」
そして、左のヨーヨーを、七海へ飛ばす。
「おっと!!」
七海は、金属バットでヨーヨーを弾き飛ばす。
ヨーヨーは、雪の上に転がったが、モーターの様な音をたてて、ひとりでにあすみの左手に戻っていく。
5708投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時07分18秒
「…ん?」
『TDD』の『作戦参謀』兼『武器開発』の『ハイエロファント(教皇)』の発明したこのヨーヨーには、小型モーターが内蔵されており、鎖の紐を自動的に巻き取っているのだ。
「何か、仕込んでんのか!?」
七海は、あすみの懐に一気に飛び込み、バットをフルスイングした。
「…!?」
あすみは、一旦、七海と羅夢から距離をとり、二人の攻撃を二つのヨーヨーで受け続ける。
目まぐるしい、羅夢のヌンチャク…。
大振りの、七海の金属バット…。
二人の攻撃のタイミングも、リズムも、まちまちだ。
その二つの攻撃を受け続けるのは、簡単なことではない。
あすみは、段々『チームB』の攻撃に、圧され始めている。
5709投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時07分41秒
「あ…あすみん…!!」
藍は、左手に握ったヨーヨーを振り上げる。
が、投げることができない。
これを、投げると言うことは…七海を…親友を傷つけること…。
しかし、自分がフォローしなければ、あすみが傷つくことに…。
「わ…私は…ど、どうすれば…」
藍は、唇を噛んであすみの危機を見詰めることしかできない。
「はぁ!!」
あすみは、一気に後ろに跳び、しゃがみこんで二つのヨーヨーを雪の積もった地面に転がす様に放った。
雪を跳ねながら、七海と羅夢の足下に伸びる。
ヨーヨーは、それぞれ、二人の踝に激突した。
「イタ!!」
「いてぇ!!」
七海と羅夢は、片足で飛び跳ねて、あすみから距離をとった。
「あ…」
藍は、一先ず安堵した。
5710投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時08分05秒
「あい〜ん…。あんた、何の為にここにいるの?」
「…え?」
藍が振り返ると、そこには翔子がいた。
「しょ、しょこたん…」
たしか、翔子の任務はシンパンマンと共に逃走者を見張る役目だったはず…。
「ど、どうしてここに?」
「うん。私本来の仕事をしにきたのよ」
「本来の仕事?」
ケガをした者を応急処置を施すのが、翔子の役目だ。
しかし、今回は皆、決死の覚悟…特攻隊の様な気持ちでこの戦いに臨んでいる。
寛平が生涯で初めて占いをはずし、タロットカードを引き裂いたことが、皆にその決心をさせたのだ。
瀕死の重傷を負うことになろうとも、最後まで戦い続けると…。
「でもね…。あい〜ん、あんただけは別…」
「私だけ、別?」
「あんたに、やっぱり『裏』の人間の覚悟を強いることはできない。だから私は、あい〜ん専用の救護員として、この場にいるの」
「私…専用の…?」
「あんたが、キッチリと仕事してくれないと、私も仕事ができないのよ」
5711投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時08分25秒
「………」
藍は、思わず戦っているあすみの方を見る。
またも、七海と羅夢の猛攻をしのいでいる。
先ほどは何とかやり過ごせた様だが、あの二人に(いくら何でも)同じ手が通用するとは思えない。
「言っておくけど、私はあすみがケガをしても、治療はしないわよ?」
「…ええ!?」
藍は驚きの表情で、再び翔子へ視線を戻す。
「あすみが言ったことだから…。自分を治療する暇があったら、あい〜んがケガをしない様に注意して見てやってくれって…」
「そ、そんな!!治療して下さいよ!!」
「ダメよ!!あすみを、侮辱することになる!!私は、あんたの治療しかしないから…」
「…うぅ…」
「あすみを助けるのは…あい〜ん…あんただけよ…」
翔子の顔は、今まで見たことがないくらい厳しいものだった。
藍には、すぐにわかった。
翔子は、無理をしていると…。
あすみも、相当の無理をして七海達と戦っている…。
そして…自分は…。
5712投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時08分46秒
「ゴルァァァ!!」
七海の振ったバットは、あすみのヨーヨーを打ち返す。
ヨーヨーは、弾丸の様な勢いで、あすみの顔面へ飛ぶ。
あすみは衝撃を吸収するグローブでそのヨーヨーを掴むが、それでもその勢いは相当なものだったようだ。
「…う!!」
一瞬、あすみの顔が歪む。
それが、また一瞬の隙を生む。
「オラァァァ!!」
羅夢が、その隙を逃さなかった。
ヌンチャクが、あすみの脳天を襲う。
その時、羅夢の脇腹に衝撃が走った。
「ぐあっ…!!」
羅夢の身体は、雪の上に転がる。
「羅夢…!?」
七海の視線は羅夢に向かい、そして、その羅夢を襲った『モノ』が飛んで来た方向へ…。
そこには、藍が立っていた。
ヨーヨーを、左手に持った藍が…。
5713投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時09分35秒
「藍…」
七海は、藍を見詰める。
「ななみん…」
藍も、泣き出しそうな表情で、七海を見詰める。
「そうか…。やるんやな…?」
「わ、私…」
藍は、一歩七海に近づいた。
「てめぇ!!いい根性だ!!やってやるぜぇ!!」
雪を撒き散らしながら羅夢は立ち上がると、脇腹の痛みを堪えて藍へ突進していった。
(ぐ…!!痛ぇ…!!アバラ、いっちまったか…?)
しかし、今の羅夢には怒りの感情の方が強い。
隙を突かれたと言え、あんな素人の一撃を喰らってしまった…。
「これで、ヤツはアタイ等の敵だ!!止めんじゃねぇぞ!!七海!!」
だが、羅夢の足下にヨーヨーが飛ぶ。
羅夢の脛に、それは直撃した。
「が…!!」
羅夢は、雪の上に滑り込む様に倒れる。
そのヨーヨーを飛ばしたのは、あすみだった。
5714投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時10分17秒
あすみの第二撃が、羅夢に飛ぶ。
「ゴルァ!!」
咄嗟に七海は、倒れている羅夢の前に躍り出て、そのヨーヨーをバットに当てて防ぐ。
「ぐ…!!ち、畜生…!!」
羅夢の睨みつける視線の先は、まだ、藍を捉えている。
「待て!!落ち着け!!」
雪を掴みながらも、立ち上がろうとする羅夢の肩を掴み、押し留める七海。
「く…!!てめぇ!!放せ!!まだ、藍のヤツを親友だなんてぬかすのか!!」
羅夢は、肩を掴む七海の手を振り払うが、その際、脇腹に走った痛みに顔を顰める。
5715投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時10分40秒
「今は、あすみを倒すのに、集中せえ!!藍の方は、ウチが注意する!!もう、オノレに攻撃なんかさせん!!」
「そんな、まどろっこしいことしてねぇで、さっさとぶっ殺しちまえばいいんだよ!!」
「アカン!!藍を殺してしもうたら、ウチ等の負けや!!」
「な、何だよ!?その自分ルール!?」
「ええから、従えや!!ウチは、チームリーダーやぞ?」
「知るかよ!!アタイは、やりたいようにやるぜ!!」
「ほなら、このチームは、やっぱり『チームBAKA』やで!?」
「チームリーダーがバカなんだから、仕方ねぇだろ!?」
睨み合う、七海と羅夢だが、しばらくして七海が溜息をつく。
「…わかった…。オノレの言う通りや…。ウチ…もう、私情をすてるわ…」
「…え…?七海…?」
その時、七海の手刀が、羅夢の痛めた脇腹を突く。
「ぐぁ…!!」
羅夢は、脇腹を押さえてうずくまった。
「んなワケ、あるかい!!」
七海は、冷たい視線で羅夢を見下ろした。
5716投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時11分39秒
その隙に、七海は藍を指差し、叫んだ。
「おう、藍!!オノレがその気なら、遠慮せんでかかって来いや!!ウチ等は、あすみをぶっ倒す!!それを、見事に阻止してみぃ!!」
「…さ、させない…!!あすみんは、私が守る!!」
藍は、負けじと怒鳴り返した。
「けけ…!!おもろい。でもな、ウチは、あすみをぶっ倒すことで、オノレを助けたるからな…」
「…え…?」
七海は、すぐに藍からあすみへ視線を移す。
「返してもらうで…。藍を…『表』の世界に…」
あすみは、静かに笑って答える。
「それができたら…素敵だろうね…」
「何や…。わかっとんのやないか…」
「わかってるけど…。あい〜んを不幸にしない為にも、私は頑張るしかないんだよね…」
「不幸…?今の状況が、不幸なことやって…わからんのかい!?」
「わかってるよ…。それぐらい…」
あすみは、相変わらず笑顔だが、それには悲しみの色が混じる。
5717投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時12分04秒
「なるほど…。ウチは、オノレも助けてやらんとアカンらしいな…」
そう言うと、足下でうずくまっている羅夢に声をかける。
「おい、いつまでしゃがみ込んどんねん!!はよ、立たんかい!!」
「…ぐ…!!て、てめぇ…。絶対に…絶対に殺す…!!」
「かまへんよ…。でもな…あすみと藍は、殺すなや…?」
「てめぇ!!まだ、そんなこと…」
「行くで!!」
七海は、バットを構えて突っ込んで行った。
5718投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時12分33秒
「来い!!」
あすみは、一直線にヨーヨーを投げてきた。
「ゴルァ!!」
またも、そのヨーヨーを打ち返す七海。
その時、もう一つのヨーヨーが、七海を襲う。
あすみが投げた物ではない。
藍のヨーヨーだ。
「ゴルァァ!!」
七海は、背中に担いだバットケースを、そのヨーヨーに当てた。
バットケースが、衝撃で破れ、金属バットがのぞく。
その二本のバットを、両腕で持ち、一本をあすみへ、もう一本を藍へ向ける。
金属バットの二刀流だ。
5719投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時12分54秒
だが、両手持ちのバットを、それぞれ片手で持つということは、そのスイングのパワーは半減以下になる。
「つまり…てめぇは、本気でやつ等を攻撃するつもりはないってことだな?」
羅夢は、心底気に入らない…という表情で吐き捨てる。
「せやから、攻撃はオノレに任せるわ。自分、大好きやろ?攻撃…」
七海も攻撃好きなのだが、チームリーダーという立場上、進んで防御の役を買って出る。
『チーム7』の時の七世…『チームN』の時の中村有沙…彼女等は、常に攻撃を七海に任せていた。
「へへ…。攻撃はアタイに…?じゃあ、アタイがやつ等をぶっ殺しちまうかもしれねぇぜ?」
「ああ、そん時は、ウチがオノレをぶっ殺したるから…」
「何だ!?そりゃ!!」
そう、憤慨しながらも、羅夢はあすみへヌンチャクを叩き込む。
あすみも、ヨーヨーを回旋させてそれを防ぐ。
七海は、片方のバットで羅夢の防御…片方のバットで藍を牽制する。
藍は、緊張の面持ちでヨーヨーを投げるタイミングを見極める。
5720投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時13分22秒
「いいわよ…。その調子…」
翔子は、藍に囁く。
「自信を持って、戦いなさい。私があなたを死なせないから…心配しないで…」
「心配…?」
藍は、じっと戦況を見詰めながら、翔子に言葉を返す。
「私が心配してるのは…あすみんのことだけです…!!」
翔子は何も答えなかったが、藍の言葉に微笑んだ。
「オラオラオラオラ!!!」
羅夢のヌンチャクは、先ほどのものより回転が遅い。
それは、藍にやられた脇腹のダメージが影響している。
これならば、あすみが反撃のチャンスを見出すのは難しくない。
5721投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時13分58秒
羅夢のヌンチャクを掻い潜り、ヨーヨーは顔面に飛ぶ。
「…く!!」
羅夢は体勢を崩しながら、その攻撃を避けた。
だが、体勢を崩されたので、次の攻撃は避けられない。
当然、あすみは第二撃を羅夢に加える。
だが、七海も当然、バットを差し出して、その攻撃を食い止めた。
だが…藍も当然、その隙を逃さなかった。
大きく振りかぶって構え、渾身のストレートを七海に放った。
「…!?来たな!!」
もう一つのバットで、七海は藍のヨーヨーを受けたが…バットは七海の手から離れ、回転しながら雪の積もる地面に突き刺さった。
「…な…?」
藍のストレートの威力が…成長している…?
5722投稿者:リリー  投稿日:2009年01月12日(月)21時14分36秒
では、おちます
5723投稿者:117  投稿日:2009年01月12日(月)21時18分01秒
七海たちを傷つけたくない気持ち、あすみんを守りたいという気持ちが複雑に相対している藍。
こちらまで心苦しい状況になってきました・・・続きも気になります!
5724投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時23分16秒
117
藍以上に、あすみは複雑な立場です
書いてる私も複雑なことになってしまいましたが…
後先考えずに話を書いていくと、後で苦労しますね

では、更新します

5725投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時24分42秒
すみません、117さん
呼び捨てになってしまいました…

5726投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時27分45秒
【一棟校舎・3】
七世と俵姉妹による『チームG』の攻撃は、確実に楠本を追い詰めていた。
戦場となった保健室は、この戦いで既に半壊状態だ。
至る所に俵姉妹の鋼線が走り、まともに動き回る事もできない。
その僅かな空間を楠本は懸命に動き回り、七世の攻撃を避けている。
七世は、その鋼線の上を歩く三次元的な攻撃で、楠本を追い詰めていく。
楠本にとっては窮屈な戦場も、七世にとっては自由に動ける空間なのだ。
だが、焦っているのは七世の方だ。
先ほどから、自分達に有利な戦場を作り上げ、自分達に有利な展開に持っていった。
でも、一向に楠本を仕留めるチャンスをつくることができないでいる。
楠本は並みの相手ではない…。
おそらく、自分達が戦ってきた中で、最強に属する…
でも、ここまで自分達に有利な状況を用意しておきながら、楠本に決定的なダメージを与えるまでに至っていない。
そんな七世の焦燥感は、楠本にも伝わっている。
冷静に、周りの状況を分析する。
「うん…。まずは何より…あの姉妹をどうにかするのが、先決の様です」
楠本の視線は、七世から俵姉妹に移った。
5727投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時28分10秒
楠本の標的が、自分達に移った…?
「…!?」
途端に、俵姉妹の表情が硬くなる。
鉤ナイフで鋼線を断ち切りながら、楠本は一直線に、二人並ぶ姉妹の下へ進んでいく。
「させない!!」
七世は鋼線で作り上げた空中の道を進み、楠本を追う。
「はぁ!!」
閉じた日傘の先の槍で、楠本の背中を目がけて突き刺すが、それは新しく張られた鋼線によって遮られる。
「…え!?」
「あ…!!」
楠本が断ち切った鋼線の補充…そして、楠本を捕らえようという俵姉妹の攻撃と、七世の攻撃が、ぶつかってしまったのだ。
「おやおや…。これはラッキー…」
楠本は、そう言って静かに笑った。
しかし、これは幸運などではない。
狙っていたのだ…。
三人の攻撃の歯車を、噛み合わなくなる瞬間を狙っていた。
楠本の、隙だらけの行動の意図は、ここにあったのだ。
5728投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時28分30秒
七世は、絡んだ鋼線を解く為、床に降り立った。
だが、その為、楠本を追うことが困難になる。
俵姉妹が張った鋼線の網は、空中を自由に移動できる様にすると共に、床の上を歩きにくくする為に張られたものだからだ。
もう一度、鋼線の上に飛び乗るか、と思った時には、楠本はもう、俵姉妹の目前に迫っていた。
「く!!小百合!!行くよ!!」
「OK!!」
決死の覚悟で、俵姉妹は楠本へ鋼線を投げつけた。
だが、楠本は軽やかな身のこなしで鋼線の間を掻い潜ると、俵姉妹の間に立つ。
「それでは…殺させて頂きます…」
楠本の目…!!
完全なる、殺人者の目…。
鉤ナイフを逆手に持つと、その狙いを、有希子の喉元へと定める。
だが、楠本は急に回転しながら跳び上がり、そのナイフで『何か』を叩き落した。
その、『何か』が床に突き刺さる。
七世の日傘に付いてた、小さな槍だ。
これを発射することで、楠本の俵姉妹への攻撃を防いだのだ。
5729投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時29分07秒
「有希子さん!!小百合さん!!今のうちに、楠本を…」
そう七世が叫んだが、俵姉妹は床にバッタリと倒れてしまった。
「…え…?」
七世は、ただ目を丸くした。
楠本は、七世の攻撃を防ぐと同時に、回転しながら両足で、俵姉妹の側頭部に蹴りを放ったのだ。
ナイフを七世の槍への防御に使わせた為、姉妹の命だけを救った形となったが…。
しかし、楠本はすぐに姉妹へトドメを加えるだろう。
離れていたってわかる。
俵姉妹は、楠本の一撃で失神してしまっている。
七世が叫んだところで、気が付かないだろう。
「…く!!」
七世は、鋼線の上に跳び乗った。
そして、最短距離で楠本の下へ向かう。
姉妹を殺させない…その、一心で…。
だが、楠本は視線を七世へと移す。
「姉妹へのトドメは…いつでもできますから…」
鉤ナイフの切っ先は、七世へ向かう。
5730投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時30分11秒
「…!!」
すぐに日傘で応戦しようと思った七世だが…もう、槍がない…。
七世は、防御に転じる。
日傘を広げ、ナイフの攻撃を受けようとしたところ…。
「…え…?」
日傘が開かない…?
「な、何で…!?」
日傘に…何か光る物が巻きついている…?
それは…俵姉妹の鋼線の切れ端…。
あの、攻防の際に…楠本が鋼線の切れ端を巻きつけていた…?
いつの間に…?
楠本は、鉤ナイフで日傘を叩き落した。
「…う!!」
七世は、そのまま楠本に突き飛ばされ、俵姉妹の張り巡らせた鋼線の網に、突っ込んでしまった。
「…く…!!し、しまった…!!」
七世は…味方の張った網にかかり、身動きがとれなくなってしまった。
5731投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時34分00秒
「も、もしかして…楠本は…これを狙っていたの…?」
両腕、両足に絡まった鋼線から逃れようと、激しく身体を動かす七世だが、もう、どうすることもできない。
「まさか…。偶然ですよ…。偶然…」
楠本は、余裕の微笑みで近づいてくる。
「あなたの欠点は、すぐに『攻撃』ではなく、『防御』を選んでしまうこと…。よく言うでしょ?『攻撃は最大の防御』って…」
そして、鉤ナイフを七世の喉元に突きつけた。
「…!!こ、殺しなさい!!」
七世が叫ぶが、楠本は軽く、こう返した。
「殺す?もちろん、そのつもりです…。だけど…」
楠本は、七世のトラックスーツのファスナーを降ろした。
「な、何をするつもり…!?辱めを与えて、殺すつもりなの!?」
七世は、顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
「辱め…?違いますよぉ…」
楠本は困った様に笑うと、七世の耳元でそっと囁く。
「与えるのは…苦痛です…」
七世は一瞬、身を凍らせた。
「く、苦痛…?」
「ええ…。でも、楽に死ねることも、なくはない…」
そう言いながら、ファスナーは七世の腹部まで降ろされた。
七世の細い身体が、さらされた。
5732投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時34分39秒
「私は…あみ〜ごを探してます。あみ〜ごは、どこにいるんですか?」
「…素直に喋るとでも、思ってるの?」
「思いません。だから、拷問します」
またも、楠本は軽く答えた。
そして、鉤ナイフを七世のむき出しになった腹へと持って行く。
「…!?」
ナイフのひんやりとした感触が、七世を戦慄させた。
「拷問方法を説明します」
事務的な、楠本の喋り方…。
「このナイフで、あなたのお腹を真一文字に裂きます。それだけでも、相当な痛みです…。で、どうしてこのナイフの先が、鉤状に曲がっていると思います?」
「………」
七世は、楠本を睨み付けたまま黙ってしまった。
「わかりません?鉤というのは、引っ掛けるものでしょ?だから、引っ掛けて引きずり出す為に曲がってるんですよ…」
そして、一段と低く篭った声で囁く。
「あなたの…腸をね…」
「…!!」
途端に、七世の顔は青褪めた。
「こう、鉤に小腸を引っ掛けて、パスタみたいに、クルクルとナイフを回して巻き取っていきます…」
七世の目の前にナイフを持っていき、ゆっくりと回す。
「あなたは、助かりたい為に喋るんではなく、早く死にたいが為に喋るようになる…。今までの最高記録は、4メートルだったかな…?あなたは、どこまで耐えられるでしょう…?」
楠本は、心の底から楽しそうに、目を輝かせている。
5733投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時36分16秒
「………」
僅かに震えているが…七世は、気丈にも楠本を睨み続ける。
「…で…この話しを聞いただけで、大抵の人は喋ってしまうんですが…あなたは…?」
「………喋るわけ…ないでしょう…?」
その七世の答えに、楠本はニッコリと微笑んだ。
「いや〜、よかった、よかった。もし、すぐにでも喋っちゃったらつまらないんで、もっともっと苦痛を与えて殺すところでしたよ?」
そう言いながら、再びナイフを七世の腹へ持っていく。
「…ウソばっかり…!!どちらにしろ、あなたは楽しむつもりでしょう…?」
「…わかります?」
「あなたの言葉で、真実なんて、何一つないじゃない!!」
「…心外です…。あみ〜ごを想う気持ちに…ウソはありません…」
楠本は、一瞬、淋しそうな表情を浮かべた。
5734投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時36分29秒
「では、やりますね。時間がないから、ちゃっちゃとやっちゃいますから…」
鉤ナイフの切っ先が、七世の腹に食い込む。
「…ぐ…!!」
鋭い痛みが走る。
その時だった。
「待って!!」
保健室の引き戸が、開けられる。
「楠本さん…!!私は…ここです…!!」
楠本は、引き戸から姿を現した少女を見ると、まるで初恋の人に再会したかの様な、満面の笑みを浮かべ、こう言った。
「…あみ〜ご…」
5735投稿者:リリー  投稿日:2009年01月13日(火)21時41分18秒
次の【一棟校舎】で、有海と楠本さんが激突します
罠の正体も…

では、おちます
5736投稿者:デジ  投稿日:2009年01月13日(火)22時25分32秒
(昨日)お互い殺したくないが、パートナーの生存の為戦いを決意する藍。
相手を殺さずに最低限の攻撃であすみを攻撃。同時に最大限の守りで、自らの命をも守ろうとする七海。
攻撃一方だが、藍がいるため殺すことができないあすみ。
攻撃一色の羅夢
さまざまな思いは行き違い勝利の道を目指す。
(今日)
絶体絶命「チームG」というところに、間に合いましたね、有海。
次回から楠本さんVS有海の対決となるわけですか。これまた面白くなりましたね。続きも楽しみです!

5737投稿者:有海キター  投稿日:2009年01月13日(火)23時17分06秒

5738投稿者:夏希の助っ人には加藤  投稿日:2009年01月13日(火)23時24分41秒
七世の助っ人には有海

頼りないと言ったら、頼りないけど・・・
5739投稿者:加藤と有海  投稿日:2009年01月13日(火)23時45分09秒
タイプの違う助っ人だよね
5740投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時03分31秒
デジさん
『チームB』と『あすみ&藍』の戦いでは、一番多くの思惑が重なってる戦いになってます
一つ一つ処理していかなければならないところが、とてもしんどいですが…
自分でやったことなので、ちゃんと幕引きしたいと思います

5737さん
いよいよ有海の参戦です
5738さんの仰られる通り、頼りない助っ人ですが…
有海も加藤さんも、一応非戦闘員登録ですからね

5739さん
確かに…有海は女子中学生、加藤さんは極道ですからね

では、更新します
5741投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時05分44秒
【中庭・3】
中村有沙の繰り出す攻撃を、理沙は何とか一歩も動かずにしのいでいる。
分銅付きの鎖は、間髪入れずに理沙を目がけて飛んで来る。
理沙は、それを驚異の刀さばきで受け止めていく。
鎖が、刀に巻きつくのもいけない。
引っ張られたら…一歩でもその場を動くことになる。
理沙は、今は裸足だ。
裸足で、雪の上に立たされている。
しかも、周りにはガラス片が散らばっている。
このガラス片を踏んでしまったら、その痛みで動きが鈍ってしまうことだろう。
いや、この身を切るような冷たさで、もう、足の感覚がないかもしれない…。
どちらにしても、中村有沙は理沙の戦いにくい戦況を作り出すことに成功した。
「くそぉ!!忌々しい!!」
理沙は、腹の底から叫んだ。
ナットー製鉄工場跡地での戦いと同じだ。
またも、自分よりもはるかに年下の小娘に、戦いのペースを握られてしまっている。
5742投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時06分07秒
「ふふ…。戦い難そうだな…」
ジャリジャリと、靴でガラス片を踏みながら、中村有沙は理沙へ近づく。
(…!?しめた…!!)
接近戦なら、この状況でも優位に戦える自信がある。
だが、中村有沙はピタリと歩みを止めた。
「おっと…。貴様の間合いには入らないでおこう…」
理沙は心の中で舌打ちをしたが、その心情を悟られないように、敢えて余裕の笑みを浮かべた。
「接近戦は避けたがるのね?つまり…まだ、身体が本調子ではないの?」
さっきから中村有沙の戦い方は、リスクを抑えたものであるからだ。
「接近戦か…。応じてやってもいいのだが…何も貴様の土俵で戦うこともあるまい…」
「ふふん…。正直に言ったら…?私が怖いんでしょ?」
「怖い…?どうして、私が貴様を怖がる?」
「こうして、近づかないのが、いい証拠よ!!」
だが、中村有沙は鎌から手を離し、鎖中央部分を両手で持った。
「それは…近づかなくたって、貴様を仕留めることができるからだ…」
そして、ゆっくりと鎖鎌を回転させた。
「む…!!あ、あれは…」
そう…ナットー製鉄工場跡地で見たことがある…。
あの時は銃弾を防ぐ為、防御として使って見せた技…。
中村有沙は、ポツリと呟く。
「喰らえ…。『流星の舞』…」
5743投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時06分35秒
空を切り裂く音が、中庭に響き渡る。
一棟と二棟のガラス窓が、ガタガタと揺れた。
ヘリコプターのプロレラの如く、凄まじい風が辺りを駆け巡る。
「く…!!」
理沙は、一歩下がろうとして、思いとどまる。
今は、自分は裸足なのだ。
ガラス片を踏んでしまう…。
「いくぞ!!」
中村有沙は、高速回転させた鎖鎌を理沙へ向けて投げつけた。
ギュンギュンと唸りをあげ、理沙に一直線に向かっていく。
(受けるか…?)
理沙は、一瞬そう考えたが、真っ先に思い浮かんだイメージは、自分の身体がバラバラになる映像…。
「畜生!!」
理沙は、後ろを向くと、そのまま駆け出した。
もちろん、足の裏にガラス片が突き刺さる。
「う…!!」
冷たさで、ジンジンと傷む足の裏に…ガラス片…。
この痛みは、筆舌に尽くしがたい…!!
「うおおお〜〜〜!!」
理沙は、ガラス片のない所まで走ると、思いっきり雪の上にダイブした。
5744投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時06分58秒
雪の上を転げ回る理沙のすぐ上を、高速回転の鎖鎌は通過する。
空高く鎖鎌は飛ぶと、旋回して持ち主の手に戻ってきた。
「ほう…。よく、裸足でそんなガラスだらけの雪の上を走れるものだな…」
中村有沙は、ワザとらしく感心した風に呟いた。
「まぁ…命を失うよりはマシ…と、いうことか?」
そう、付け加える。
「クソ…ガキがぁ…!!」
理沙は、寒さと怒りで顔を真っ赤に染め、立ち上がる。
足の裏にガラス片が食い込んでいるが、そんなものは、怒りで頭の隅に追いやる。
自分と中村有沙の間に、鮮血が点々と続いている。
あれは、すべて自分の身体から流れた血…。
理沙は、また忌々しい気持ちで身を震わせた。
一方の中村有沙は、一滴の血も流していない…まるで無傷だからだ。
5745投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時07分49秒
「では、また『流星の舞』をお見舞いしてやろう…」
またも、鎖鎌を両手で旋回させる。
ゆっくりと回る鎖鎌…。
それが、またも台風のような強風を呼び起こす。
「…くぅ…!!」
理沙は、すぐにでも刀を構えて中村有沙の下へと駆け込みたい気持ちだが、その為には、またガラス片を幾つも踏んでいかなければならない…。
5746投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時08分09秒
「構わない…!!あの小娘を…ぶっ殺す!!」
刀の切っ先を、中村有沙に向けた。
その、中村有沙がゆっくりと口を開く。
「今度はどうする…?更に逃げるか…?立ち向かうか…?」
「逃げるわけ、ねぇだろ!!」
理沙はそう叫ぶと、刀を振り回して突っ込んで行く。
「いいぞ…。その意気だ…」
だが、こう続けて、鎖鎌を回す手を離した。
「死ぬことになるがな…」
『流星の舞』が、理沙に襲い掛かる。
「叩き落す!!」
上段の構えから、刀を振り下ろしたが、僅かに鎖鎌の方が早く、理沙の真っ赤なスーツの肩口を奪い去る。
「うぐぅ…!!」
スーツをズタズタに引き裂かれた理沙は、そのまま雪の上に倒れこんだ。
ガラス片の散らばる、雪の上に…。
今度は、全身にガラス片が突き刺さった。
5747投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時08分32秒
「ほう…。よく、死ななかったな…」
中村有沙は、軽く驚きの声をあげた。
「だが…鎖鎌が戻って来ているが…?」
流星の舞は、そのまま倒れた理沙へ向かっていく。
「く…くそぉ…!!」
理沙は、立ち上がると、まるで野球のバッターの様に、刀をスイングさせる。
しかし、それも僅かに振り遅れ、今度はスーツの脇腹部分を引き裂かれた。
「ぐああ!!」
理沙は、またもガラス片の上に倒れこんだ。
中村有沙はしっかりと鎖鎌を掴んだ。
「ふむ…。第二撃でも死ななかったか…」
感心した様に、雪の上の理沙を見下ろす中村有沙だが、こう言葉を続ける。
「ちなみに、ジャスミンは『流星の舞』を打ち破ったぞ…?」
「な…何…?」
ヨロヨロと、理沙は刀を杖代わりに立ち上がる。
「つまり…貴様の力は、『TTK』の四天王よりも劣る…と判断できるわけだな…」
中村有沙の、全てを見透かした…見下ろした物言いに、ついに理沙の怒りは頂点に達した。
「ふざけんな!!このクソガキ!!いつまでも調子に乗ってると、ぶっ殺されるぞ!!ああん!?」
「ぶっ殺す…?ふん!!私は、最初からそのつもりだ…!!」
またも『流星の舞』の為に、中村有沙は鎖鎌を回転させた。
5748投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時08分56秒
次々と襲いかかる鎖鎌に、理沙は血だらけになりながらも応戦する。
その攻撃を受けるごとに、理沙を象徴する赤いスーツは切り裂かれた。
そして、挙句の果てには、ボロボロの布切れを纏っているだけの、半裸状態にされてしまった。
背中の自慢の入墨も、幾つか切り傷が走っている。
理沙の足下の雪が、どんどん赤く染まっていく…。
「ふぅ…。ふぅ…。ふ…ふざけるな…。この私が…『エンプレス(女帝)』の…この私が…こんな、クソガキにぃ…!!」
歯軋りをしながら、中村有沙を睨みつける、理沙。
その理沙を冷めた目で眺める、中村有沙。
「ふん…。まさに、『裸の女王様』だな…」
理沙と中村有沙の戦力差は、実はこれほど離れてはいない。
しかし、中村有沙はこういう展開にする為に、綿密に計画を立てていた。
身体が動かない時にでさえ、自分ならば、ここでこう戦う…そう、考えを巡らせていた。
しかも、理沙を倒すことを…拷問された復讐をすると…闘志を燃やしていた。
対する理沙は、まさか中村有沙が戦える身体に戻っているとは、露程にも思っていなかった。
戦いに対する気持ちが、天と地程の差があった。
これが、思いもよらぬ理沙の苦戦の理由なのだ。
5749投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時09分17秒
つまらなさそうに、中村有沙は溜息をつく。
「…これ以上、貴様を痛めつけても、弱い者いじめの様で気分が悪いな…」
「な、何を…!?」
息も絶え絶えに、理沙は睨み返す。
「一方的な戦いとは…つまらないものだ…。いや…貴様は、反撃できない相手を嬲るのが、大好きだったな…」
中村有沙は、鋭い眼光を理沙に向ける。
「貴様に受けた痛み…。その恨み…。まだまだ晴れてはいない…」
「な…ならば…どうする…?」
「泣き叫べ…。貴様が、無様に泣き叫べば…ようやく、私も恨みが晴れよう…」
「くくく…。泣き叫ぶ…?だったら…あの時の、あなたのモノマネをすればいいのかしら…?」
「………減らず口を………」
またも、中村有沙は鎖鎌を回転させた。
「…!?」
しかし…回転が遅い…?
(な…何…?)
指が…思い通りに動かない…?
(ま…まさか…)
ジーナと瑠璃に施された、あの治療の効果が…なくなり始めている…?
たしかジーナは、いつ身体が動かなくなってもおかしくないと、言っていたが…。
(く…!!遊んでいる場合ではなかったか…!!)
すぐに、トドメを刺すべきだったのだ…。
5750投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時10分10秒
「ちぃ…!!」
『流星の舞』は諦め、分銅での攻撃に切り替えた。
「…!?」
咄嗟に、理沙は刀で受け止めた。
鎖は、刀に巻きついた。
「ぐ…!!」
この、体力を消耗した状態での引っ張り合い…。
『流星の舞』を仕掛けてこなかったことの不自然さを感じたが、理沙はこの状況も苦々しく思う。
だが…中村有沙の引きの弱さが気になった…。
「何だ…!?ナメてるのか…!?」
理沙の言葉にも、中村有沙は言葉を返さない…。
「…!?」
いよいよ、理沙は不可解に思う。
ここに来てからの、平凡な攻撃…。
なぜ、『流星の舞』で攻撃してこない?
攻撃しないのではなく、攻撃できない…?
「まさか…あなた…身体が…?」
「はあああ!!」
理沙に最後まで言葉を言わせない様に、中村有沙は手元の鎌で襲い掛かって来た。
5751投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時12分06秒
「決まりだ…!!」
理沙は、確信した。
どんな方法を使ったのか知らないが…中村有沙の身体は、完全に元に戻っていないのだ…。
今なら…この深手を負った状態でも、勝つことができる…!!
しかも、こっちが待ち望んだ接近戦…!!
中村有沙の振り下ろす鎌を、軽く受け流す。
やはり、斬撃も軽い…。
5752投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時12分59秒
「この勝負、貰った!!」
理沙は、上段の構えから真っ直ぐに刀を振り下ろした。
「…!?」
中村有沙は、咄嗟に鎖を真っ直ぐに張って刀を受け止めた。
パキン…と、軽い音が鳴った。
鎖が…断ち切れた…。
「く…!!」
今度は、中村有沙の顔が青褪めた。
「うふふ…。これも…『流星の舞』を破ったことにならないの…?」
「ちぃ…!!」
迂闊な接近戦を仕掛けたことを後悔し、中村有沙は理沙の下から離れた。
右手に、分銅の付いた鎖…左手に鎌…。
その二つは、つながってはいない…。
『流星の舞』は…封じられた…。
5753投稿者:リリー  投稿日:2009年01月14日(水)21時13分27秒
では、おちます
5754投稿者:117  投稿日:2009年01月14日(水)21時15分56秒
いえいえ、呼び捨ての件は別に気にしませんよ。一瞬、ビックリしましたが(笑)。
かなり有利だった有沙も窮地に・・・理沙さんも、かなり粘り強い!続きも気になります!
5755投稿者:デジ  投稿日:2009年01月14日(水)22時14分55秒
まさに一進一退実力伯仲の攻防といった感じですね。
前半は有沙が有利で、後半はやや理沙さんが巻き返した感じか。
そして、有沙の元へ駆けるジーナは、戦いの終止符がつくまでに、間に合うか。続きも楽しみです。
5756投稿者: 投稿日:2009年01月14日(水)22時37分31秒

5757投稿者:各戦いのキーは  投稿日:2009年01月14日(水)22時50分10秒
非戦闘員の助っ人ってこと?
5758投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時04分40秒
117さん
お許し頂けて、ホッとしました
これで、各戦場とも『R&G』が劣勢になってきました
今日は、その中でも一番ヤバい事になっている、【体育館】です

デジさん
ジーナが、この戦いの重要な役割りを担っています
まだ、先の話しになりますが

5757
そう言えば、助けにきたのは皆、非戦闘員ばかりですね
ジーナは違いますが、力だけのゴリ押しではない方法も、考えないといけないんですよね

では、更新します
5759投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時06分53秒
【体育館・4】
「おい…こら…。俺の娘から離れろや…」
加藤は、殺気を発しながら…娘の長ドスを手に、寛平に近づいていく。
「………」
寛平は、何も言わずに夏希の口から杖を抜いた。
「ぐぇ…!!ゲホ…!!ゲホォ…!!」
夏希は、顔を真っ赤に鬱血させながら、喉を抑えて咳き込んだ。
そして、こちらに歩み寄ってくる加藤の姿を捉える。
「…お…お父さん…!!な、何をしているの…!?何で…何で、ここに来たの…!?」
かすれ声で、夏希は叫んだ。
「何で、ここに来ただと?おめぇを助ける為だろが!!ぶぁぁぁか!!」
加藤は、相変わらずのガラガラ声で怒鳴り返した。
「バ、バカはどっちよ!!逃げなよ!!早く、逃げなよ!!」
「逃げるだぁ!?ふざけんな!!」
そう怒鳴り合いをしながらも、加藤は寛平の目の前まで迫ってきた。
「おう…。オッサン…。ちょっと頼みがある…」
「何なん…?」
「ちょっと、娘と話させてくんねぇか?」
「話し…?ええけど…」
寛平は、すっと夏希の側から身を退いた。
5760投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時07分17秒
いくら帰れと言っても、加藤は聞く耳を待たないだろう。
夏希は、別の気になることを加藤に尋ねた。
「お父さん…!!ジーナは…?ジーナはどうしたの…?」
「ジーナ?ああ…。見届けたい戦いがあるって言ってよ…外に飛び出しちまいやがった…」
「外に…!?ど、どうして止めてくれなかったの!?」
「止めても聞かねぇだろ…。あいつはよ…。で…俺だって、聞かねぇぞ…」
「お父さん…」
「へへ…。お父さんか…」
加藤は歪んだ笑顔を、夏希に向けた。
「おまえ…俺にジーナの父親になれって…口やかましく言ったが…」
そして、倒れている夏希に視線を近づける為、しゃがみ込んだ。
「おまえが、家族になってやれや…」
「…!!む、無理よ!!私なんて…『裏』の世界でしか生きていけない…!!」
「そんなことはねぇ!!おまえは…『表』の世界でも、充分生きていける!!」
「そ、そんなこと…ない!!」
「そんなこと、あるんだよ!!だってよ…だって…」
加藤は、一瞬口ごもる。
5761投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時07分40秒
「おまえ…メチャクチャ、料理が美味いじゃねぇか…」
「…え…?」
「おまえの作るメシ…メチャクチャ美味かったぞ!!」
「お父さん…」
「いい…嫁さんになれるから…だから…ジーナの姉ちゃんにだって…なれるはずだ…」
加藤は、父親が娘にするように、優しく頭を撫でた。
「おまえ等は…おまえ等姉妹は…『表』の世界で…幸せになれる…」
そして立ち上がると『浴衣ピエロ』…寛平へと視線を向ける。
「俺が、幸せにしてやる…!!」
夏希は、懸命に加藤へ手を伸ばして叫ぶ。
「お、お父さん!!ダメ!!死んじゃうわよ!!逃げて!!」
「死ぬ…?へへ…俺は、一度死んでるじゃねぇか…」
加藤は、夏希にその穏やかな笑顔を向ける。
「それに…娘を見捨てて逃げるようじゃ…父親として…人間として…それこそ、死んじまえってんだ!!」
「お父さん…」
右肩、左手、左足が動かない…。
もう、夏希は父親を止めることはできない…。
5762投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時08分02秒
「よう…。待たせたな…」
加藤は、夏希の長ドスの背を肩に乗せ、寛平に凄む。
「うん。待った…」
寛平は、腰を伸ばして叩きながら言った。
「よくも、俺の娘を傷物にしてくれたな…?」
「人を、強姦魔みたいに言うて…」
杖を着きながら、寛平も加藤へ近寄っていく。
「絶対に、許さねぇぞ…。てめぇ…」
長ドスを、寛平に突きつける。
「あんたの考えはわかってるで…」
「あん?」
「あんた…ワシに殺される覚悟やろ…?」
「何だと!?」
「あんたがワシに殺されれば…ワシが夏希君を殺す理由は無ぅなる…。そう考えとんのやろ?」
「へへ…!!違うな…!!」
「うん?」
「俺は、おまえをぶっ殺す!!娘を痛めつけた、てめぇをぶっ殺す!!それだけだ!!」
5763投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時08分31秒
「ふ〜ん…。本気で、ワシと戦うつもりなんや…」
寛平は、つまらなさそうに呟いた。
「おい!!てめぇ、何だと思ってたんだよ!!」
「いや…何でもない…。はよ、おっ始めようか?」
「おう!!やってやらぁ!!」
加藤は、長ドスを構えた。
寛平は、その切っ先に鼻が付くくらい顔を寄せた。
何の、警戒感もなく…。
「てめぇ!!」
加藤は、堪らず叫ぶ。
その時、白いドーランのドロドロに溶けた寛平の顔が…ニタリと歪んだ。
「ぱきゅ〜ん」
その瞬間、加藤の身体は真後ろに吹っ飛んだ。
「お父さん!!」
床に這いつくばる夏希の上を、加藤は通過した。
既に…気を失っていることが確認できた。
派手な音をたて、加藤は床に身体を打ちつけた。
「お、お父さん!!」
夏希は、無理矢理身体を起こし、加藤の側まで這い進む。
「しっかりして!!お父さん!!」
加藤は死んではいなかったが、その意識を失っていた。
5764投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時08分52秒
「お父さん!!起きて!!逃げてぇ!!」
夏希の叫びは、悲痛なものに変わってきた。
『デビル(悪魔)』というコードネームを授けられた印象は、もう彼女にはない。
ただ、父親の身を案じる…娘になった。
寛平は、杖の音をたてながら、ゆっくりと近づいてきた。
父娘ともども、葬る為に…。
夏希は、加藤の前に、身を呈する。
「…来ないで…!!」
夏希の涙で濡れた目は、寛平を睨みつけていた。
それは、怒りと憎しみと…そして、僅かばかりの懇願が混じっていた…。
「ほっほっほっほ…」
しかし、寛平は歩みを止めない。
笑いながら…この、父娘の運命を嘲笑うかの様に…。
「ほっほっほっほ…」
ダーブロウ有紗を追い詰めた時と…同じ笑いで…。
5765投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時09分11秒
「私は…ダーブロウとは違う!!」
夏希はそう言うと、血の流れる左手で間接の外れた右肩を掴む。
「あああああ…!!!」
そして、強引に間接を元に戻した。
「私は…逃げない!!」
「あ…そう…」
寛平は例の如く、杖をビリヤードのキュウの様に構えた。
そして、杖の先を夏希に向ける。
「ぱきゅ〜ん」
その杖の先を、夏希は間接を戻したばかりの腕で掴んで止めた。
「ぐぅ…」
今戻したばかりの関節が、キリキリと痛む。
「…お?ねばるなぁ…」
寛平は、面白そうに苦痛に歪む夏希の顔を眺めた。
杖の先が、夏希の喉に近づいていく。
「う…。くぅ…」
杖の先は、いよいよ夏希の喉に喰い込んだ。
5766投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時09分38秒
「さてと…このまま、喉を潰したろか?ん?」
右肩の痛みに、力が抜けていく。
このままでは寛平の言うとおり、喉が潰されてしまう。
自分が死ねば、この次は加藤…。
ジーナが…この広い世界で、一人ぼっちになってしまう…。
いや…ジーナまでも、殺されてしまう…。
「わ…私は…死んでも構わない…」
杖で喉を圧迫されながら、夏希は声を絞り出す。
「あん?何言うてんの?」
「でも…妹だけは…妹のジーナだけは…」
「命を助けろ…言うのん?」
「お願い…。ジーナは…」
夏希の目に、涙が零れ落ちた。
「アカン、アカン、アカン!!アカンよ!!夏希君…!!元『TTK』の四天王ともあろうものが…涙を流して頼みごとなんて…」
寛平の顔は、無表情に戻った。
「見とうなかったわ…。夏希君のそんな姿…。ダーブロウの時も、そうやったけど…」
寛平の杖を持つ手に、力が篭った。
5767投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時10分11秒
その時、体育館の屋根から物音が聞こえた。
「うん?」
寛平は、思わず上を見る。
体育館の屋根から、何か輝くものが見える。
「ああ…。きれいやなぁ…。ここ、星が見えるんや…」
戦いの…いや、殺害の途中だというのに、寛平はその『星』に見とれてしまった。
だが、その『星』は、段々こちらに近づいてくる…?
「…?流れ星…?」
その『流れ星』は、体育館の屋根から、降り注いできた。
「ん…?ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ…!!」
寛平は、夏希達の側から、一目散に逃げ出した。
ドドドドドン…!!
その寛平が立っていた場所に、星ではない『何か』が大量に降り注いだ。
「な、何や…?何…?」
寛平は、恐る恐る、その降り注いできた『何か』を確認する。
それは…床に突き刺さった、大量の包丁…。
出刃包丁、菜切り包丁、柳刃包丁、マグロ包丁、文化包丁、中華包丁、パン切り包丁…ありとあらゆる、包丁が突き刺さっていた。
5768投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時11分02秒
「な…?こ、これは…?」
夏希も、自分の目の前に刺さっている包丁を、呆然と眺める。
そして、ドン…と、一際大きな音…。
何かが、飛び降りてきた…?
夏希の視線の先には…オレンジとピンクのラインの、派手なトラックスーツに身を包んだ女が…。
「よう…。夏希…。おまえ…私と自分は違うって抜かしやがったな…?」
「お…おまえ…」
「違わねぇよ!!何一つな…。妹思いのところも…あと、逃げねぇってとこもな…!!」
その女は、ゆっくりと夏希の方を振り返った。
その、目鼻口…何もかも派手で大きな…挑戦的な顔…。
夏希の、大嫌いな女…。
夏希の、気に食わない女…。
夏希の、殺したい女…。
「ダーブロウ!!」
夏希は叫んだ。
まさか…この女に命を救われるとは…!!
「へへへ…。ま、おまえはそのまま寝てろ。あとは、私がこのジジイをぶっ殺してやるからよ…」
そして、視線をゆっくりと寛平に向ける。
「元旦が命日って…随分、おめでたいジジイだな…?え?おい…」
そう言うと…ダーブロウ有紗は…ニヤリと、極めて挑戦的な笑顔を見せた。
5769投稿者:リリー  投稿日:2009年01月15日(木)21時11分38秒
今日は、これでおちます
5770投稿者:デジ  投稿日:2009年01月15日(木)21時33分05秒
ダーさん復活!いかにもダーさんっぽいかっこいい登場でした。
役者交代で今度は「ダーさんVS寛平さん」の勝負になりましたね。去年の屈辱晴らせるか?
そして、加藤さん父親の意地を見せたとは言え、見事瞬殺されましたね。
あと2撃くらい持てよと思いましたが父親のプライドだけは守れたようですね。
これで全員の生存が確認できましたね。よかったです。そして続きも楽しみです!
             (今日の小言)
この小説の寛平さんっていつの年度の寛平さんなんだろう?
5771投稿者:やっとキタよ、ダーさん  投稿日:2009年01月16日(金)00時55分41秒
このまま出て来ないと思った
5772投稿者: 投稿日:2009年01月16日(金)16時53分15秒
5773投稿者:リリー  投稿日:2009年01月16日(金)21時04分30秒
デジさん
加藤さんは、戦場に来ただけで100点です…という感じですかね
寛平さんは、小説の時代と同じ2007年(もう08年ですね)の寛平さんです
まあ、02年からも03年からも、寛平さんは変わってませんが…

5771さん
このまま出てこないまま終わってしまったら、すごくモヤモヤしてしまいますね
どのタイミングで出そうかと悩んでおりました

では、更新します
5774投稿者:リリー  投稿日:2009年01月16日(金)21時07分29秒
【講堂・4】
いよいよ、ちひろは、この恵という女の打たれ強さに呆れ…恐れを抱く。
一体、何発打ち込めば、この女を倒せるというのだ…。
それでも、携帯ロッドでの殴打は、この女に大ダメージを与えた様だ。
既に恵の顔は、脳天から流れる血で真っ赤に染まり、講堂の板の間に、小さな水…いや、血溜まりをつくっている。
それでも、恵の目は闘争本能を失ってはいない。
しかも、もう、何か破れかぶれな…刹那的な印象を受ける。
まるで、この戦いで、命を落としても構わない…そんな気を放っている。
「おまえ…死ぬのが怖くないのか…?」
ロッドを構えながら、ちひろは訊いた。
「死ぬのが怖くないか…だと?」
ぷっと、恵は吹き出した。
その拍子に、口元に流れた血が、飛沫を上げる。
「怖いわけ、ねぇだろ!!そんな、半端な覚悟で、この戦場に来たんじゃねえ!!」
「死ぬのが怖くない…?半端な覚悟…?」
ちひろは、その大きな目を細めて恵を見詰める。
そして…叫んだ。
「ふざけるな!!」
ちひろの一喝は、恵を唖然とさせた。
5775投稿者:リリー  投稿日:2009年01月16日(金)21時07分54秒
「あん…?ふざけてるだと…?私が…?」
段々、恵の眉間のシワが深くなる。
「私は…死ぬのが怖い…」
ちひろが、呟く。
「死ぬのが怖いだと!?てめぇこそ、ふざけんな!!半端な覚悟で戦ってやがったのか!!」
「半端なのは、おまえだ!!」
「な…何…?」
またも、恵はちひろに怒鳴られた。
「さっきから、何を言ってんだ!?どう考えても、てめぇの方が覚悟ができてねぇだろが!!」
だが、ちひろは目を瞑って大きく溜息をつく。
「おまえは…自分の命を粗末にしている…。無責任で…自分勝手な覚悟だ…」
そして、目を見開いて恵を睨む。
「私は、そういうのを、生半可な覚悟と認識する…」
「な…生半可…だと…?」
「そうだ!!私は、絶対に死ねない!!私には、大切な人が大勢いるからな…」
「大切な人…?」
「ああ…。その人達を悲しませない為に…私はこの戦いを勝ち、そして生き抜く…!!生半可な覚悟では、この戦場に来ることもできないだろう…」
続けて、何やら物悲しい瞳で、恵を見詰める。
「おまえには…大切な人がいないのだろうな…。だから、自分の命を、粗末に扱えるのだ…」
5776投稿者:リリー  投稿日:2009年01月16日(金)21時08分34秒
「大切な人がいない」…そう、ちひろに言われた恵の脳裏に、大樹の顔が浮かぶ。
「大切な人が…いない…?私には…いないだと…?」
恵の額に、血管が浮かぶ。
そして、またもや流れる血の量が増え出した。
ポタポタと、血の雫がその数を増やす。
「ふざけたこと、抜かしてんじゃねぇ!!」
「む…?」
怒り出した恵に、ちひろはロッドの構えを改めてとった。
「私のこと、何も知らねぇクセに…知った風なこと、抜かしやがって…」
恵の肩が、ワナワナと震えだす。
「な、何だ…?」
怒り…?悲しみ…?
恵の心情を、ちひろは読めないでいる。
「私だって…この戦いに勝つ!!そして、生き抜いてやる!!」
恵は、ちひろに向かって突進してきた。
5777投稿者:リリー  投稿日:2009年01月16日(金)21時09分07秒
そして、大振りなパンチを振るった。
「…む!!」
ちひろは寸でで見切り、摺り足で後退りをする。
ちひろの鼻先、数ミリ先を、恵の右拳は通過した。
「はぁ!!」
ちひろのロッドは、恵の脇腹を激しく突いた。
何やら嫌な感触が、ロッドから腕に伝わる…。
(アバラを…折ってしまったか…)
しかし、これで恵は戦闘不能にすることができた…と、ちひろは思った。
だが、それは大きな間違いだった。
恵は表情を変えることなく、左の拳を放ってきたのだ。
「ぐぅ…!?」
ちひろは、咄嗟に頭を下げて、その攻撃も避けた…。
が、それが恵の狙いだったのだ。
「ハッハァ!!予想通りだぜ!!この、単純女め!!」
下から掬い上げるようなラリアートが、ちひろの腹に命中した。
「ぐはぁ!!」
ちひろの身体が、宙に浮く。
「ぐあああああ!!!」
そのまま、ちひろは講堂の天井近くまで、その身を飛ばした。
5778投稿者:リリー  投稿日:2009年01月16日(金)21時09分54秒
「ちくしょう!!逃げてばかりじゃ、勝てやしねぇぜ!!」
はるかの接近から逃げ回っていたジョアンだが、自分らしくない戦い方にそろそろ嫌気がさしてきた。
「少しくらい、ケガをしたっていいぜ!!真正面からやってやるよ!!」
ジョアンは、鞭を構えてその足を止めた。
「…む…?」
はるかも、ジョアンの行動に警戒する。
いよいよ、覚悟を決めたのか…?
その時、ジョアンの上に、ちひろが覆い被さる様に落ちてきた。
「うわ!!」
ジョアンは、まともにちひろの身体の下敷きになった。
「な、何やってんだよ!!ちひろ!!」
ジョアンは、ちひろの身体を乱暴に跳ね除けた。
「す…すまん…。少し、油断した…」
苦しそうに腹を抱えるちひろ。
「だ…大丈夫かよ…?」
ジョアンは、思わず恵の方を見た。
恵も脇腹を押さえて、荒い息で肩を上下に動かしていた。
そして何より、頭部からの出血で、顔が真っ赤に染まっている。
ダメージは、恵の方が大きいみたいだが…。
5779投稿者:リリー  投稿日:2009年01月16日(金)21時11分15秒
「私は、大丈夫だ…。それよりも、おまえは自分の戦いに集中しろ…」
ちひろは、そう言うと、再び恵へ向かって行った。
「戦いに集中…?」
その、ちひろの言葉に、ジョアンは顔を青くした。
そして、はるかの方を向くが…時既に遅し…。
はるかは、その存在を完全に消したのだ。
ジョアンとはるかの一対一の状況から…第三者…ちひろが乱入してきた。
そして、一瞬でもジョアンは、はるかから視線を外してしまったのだ。
5780投稿者:リリー  投稿日:2009年01月16日(金)21時11分36秒
「し、しまった!!」
ジョアンは、すぐさま先程見せた鞭の結界を周りにつくった。
どこから襲われても、これで対応できるはず…と、ジョアンは勝手にそう思っていた。
その標的が、結界の中に入っていたら…?
その可能性にジョアンが気が付くのと、腰の辺りにチクリとした痛みを感じたのは、ほぼ同時だった。
「うおおお!!」
ジョアンは、振り向きざまに鞭を振った。
しかし、はるかはジョアンから遠く離れた後だった。
「ちくしょう…!!それにしても、致命傷を受けなくてよかった…ぜ…」
ジョアンは、猛烈な睡魔に襲われた。
「な…?何…?何を…しやがった…おまえ…?」
その問いに、はるかは、右手を高く掲げて答えた。
「…何をした…?これを注射したんだよ…」
はるかの右手には、注射器が握られていた。
5781投稿者:リリー  投稿日:2009年01月16日(金)21時12分15秒
「な…何だ…?そりゃ…」
いや、聞かなくてもわかる。
この睡魔…睡眠薬だ…。
「…これ…?睡眠剤…。翔子から貰ったんだ…」
そう言って、はるかは注射器を投げ捨てた。
「…やっぱり、ガチンコ勝負って私の性に合わないから…。あんたが眠っている間に、息の根を止めてあげるよ…」
「く…。冗談じゃねぇぞ…!!そんな、死に方…!!せ、正々堂々と…戦って…」
ジョアンの足が、よろめいた。
「…それは、あんたの理屈。私は根っからの暗殺者。出来る限りケガはしたくない。あんたや、恵ちゃんとは違うんだよ…」
瞼が重い…。
ジョアンは壁に寄り掛かった。
そこには、戦いの最中にジョアンが払い飛ばした、はるかの手術用のメスが二本、突き刺さっていた。
「…!?」
ジョアンは、そのメスの一本を壁から抜き取ると、大きく振り上げた。
「うおおおお〜〜〜!!!」
そして、自らの右太腿に、メスを突き刺した。
全身に駆け巡る激痛…そして、同時に眠気が吹っ飛んだ。
「ぐ…あああ…。い、痛ぇ…。で、でも…おかげで目が覚めたぜ…」
涙で濡れた目で、はるかを睨みつけながら、ジョアンは笑った。
5782投稿者:リリー  投稿日:2009年01月16日(金)21時13分13秒
はるかは、呆れ果てた目でジョアンを見る。
「…何で、わざわざ足を刺すの…?戦闘に影響がでない?私だったら、耳を切り落とすよ。耳が聞こえなくなるわけじゃないもんね…」
その、はるかの疑問にジョアンは答える。
「み、耳を切り落としたら…ピアスが付けられねぇ…」
「…ピアス…?」
「ソ、ソフトボール部の…後輩達から…クリスマスプレゼントされたんだ…。やつら…小遣い掻き集めてよ…」
「…ふ〜ん…。いい後輩達だね…。慕われてんだ…」
はるかは、少し羨ましそうに呟いた。
「へ、へへ…。でも…学校、ピアス禁止だから…まだ付けられねぇんだけどな…」
「…でも、あんたは、ここで死ぬんだし、今付けてもいいんじゃない?」
「いいや…!!アタシは死なねぇ!!この戦いを…勝って、生き抜く!!」
そして、ジョアンはメスを太腿から抜いた。
「さあ、もう眠気は消えたぜ!!」
「…そのメスにも、睡眠剤が塗ってあるんだけど…」
「え…!?マ、マジ!?」
「…ううん…。ウソ…。だって、そのメスであんた、オッパイ切られたじゃん…」
そうだった…。
もし、本当に睡眠剤が塗ってあれば、とっくに深い眠りに落ちていたはずだ…。
「チクショウ!!騙しやがって!!」
ジョアンは血の着いたメスを床に叩き付け、鞭を構えた。
「さあ、これで終わりにしてやる!!かかってきやがれ!!」
5783投稿者:リリー  投稿日:2009年01月16日(金)21時13分38秒
では、おちます
5784投稿者:あげ  投稿日:2009年01月16日(金)22時20分21秒
 
5785投稿者:デジ  投稿日:2009年01月17日(土)00時20分36秒
おっと、ちひろは油断したか?恵さんにとって、大樹さんは、大切な人にまで発展したようですね。おまけに多分両思い。これ、二人の恋路はハッピーエンドを迎えるということなのでしょうか?(そうなったら逆に面白いかも)
ジョアン、目を覚ましたいからって、自分傷つけて眠気を吹っ飛ばすとは、すごい度胸ですね。しかし、ソフトボール部の後輩ってまさか愛美と梓彩?(その二人だと納得)さあ、次は「有海VS楠本さん」毎度毎度参戦役者が変わるけど有海は楠本さんにとどめをさせるか?続きも楽しみです。
5786投稿者:ピアス禁止って  投稿日:2009年01月17日(土)01時23分45秒
ジョアンが真面目に校則を守っていることに笑った

学校のバスは盗むくせに
5787投稿者:デジ  投稿日:2009年01月17日(土)01時47分34秒
            (今日の小言)
明日は模試です。一週間後には英検です。さらに再来週にはテストもあります。
こんな風にこれから2週間くらいテスト三昧になります。なので明日から2月になるまで、勉強集中期間として更新と感想を休止します。
5788投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)21時16分56秒
デジさん
今回は、有海と楠本さんの戦いではなく、運動場の七海の戦いです。
恵さんと大樹さんの話しは、こんなに膨らませる予定じゃなかったんですけどね…
結構、重要な感じになってしまいました。
模試ですか…
大変ですが、頑張って下さい
そしてまた、帰って来てくださるのを待ってます

5786さん
私立の学校ですからね
校則だけは、キッチリ守らせるんでしょう
羅夢も茶髪を黒く戻されましたし…

では、更新します
5789投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月17日(土)21時21分07秒
者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ  投稿日:2009年01月12日(月) キモラ嫌嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ(^●●^)れキモれキモラ嫌われキモラ
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5790投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月17日(土)21時21分20秒
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5791投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月17日(土)21時21分31秒
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5792投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月17日(土)21時22分36秒
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5793投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月17日(土)21時22分58秒
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5794投稿者:らりるれろの中で私立だから羅夢は黒髪に染めさせたの?  投稿日:2009年01月17日(土)21時23分20秒
それとも実生活で羅夢は私立なの?
5795投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月17日(土)21時23分21秒
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5796投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時12分28秒
5794さん
茶髪から黒髪に変えたのは、小説の設定です
でも、実在の羅夢も茶髪から黒髪に変えましたね
やはり、天てれに出ることが決まってからでしょうか?

それでは、更新をします
5797投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時13分12秒
【運動場・4】
藍のストレートは予想以上の威力で、七海はバットを弾き飛ばされた。
七海は、両手でもう一本のバットを構えた。
「羅夢!!交代や!!」
「な、何…?」
あすみと、目まぐるしい攻防を繰り広げている羅夢は、七海の方を見ることなく声をあげた。
「ウチが、あすみの相手をする!!アバラがいかれたオノレでは、荷が重いやろ!?」
「ふざけんな!!おまえ、アタイのフォローをするんじゃなかったのかよ!?」
「せやから、それができんようになったんやって!!」
「ああん!?」
ようやく、羅夢は七海を一瞬だけ横目で見た。
「お、おまえ、バット一本、どうしたんだよ!?」
「あそこや。藍に弾き飛ばされた」
朝礼台の脇に、バットが雪の中に突き刺さっている。
「な、何やってんだ!!おまえ!!」
「今、言い争いしてるヒマはないやろ?はよ、交代せぇ!!」
「ちぃ…!!」
羅夢は舌打ちしながら、七海と背中合わせで位置を交代する。
5798投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時13分36秒
「…!?今度は、ななみんが相手…?」
あすみは、両手にヨーヨーを納めた。
「もう、ウチをななみんって言うな!!これは戦友しか呼んだらアカン名や!!」
七海は、バットの先をあすみに突きつけた。
「おい、羅夢…!!オノレは、藍の攻撃に…」
そう言い、羅夢の方を見る七海だが、既に羅夢は藍に向かってヌンチャクを振りながら駆け出していた。
「お、おい!!こら!!羅夢!!」
七海の言葉を無視し、羅夢はヌンチャクを高速回転させて藍に襲い掛かる。
「オラオラオラ〜〜〜!!!」
「…う…」
一瞬、後ろに下がる藍。
だが、後ろから肩を掴まれた。
「だから、大丈夫!!私がついてるから…!!」
翔子だった。
「しょ、しょこたん…!!」
「がんばって!!」
背中を、ポンと叩かれた。
藍は、一瞬、ここがピッチャーマウンドかと錯覚した。
羅夢が迫る…!!
5799投稿者:羅夢は  投稿日:2009年01月17日(土)23時13分49秒
中学に入ってから黒髪
5800投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時14分17秒
藍は、大きく振りかぶる。
そして、ピッチャーの投球フォームで、鋼鉄製のヨーヨーを羅夢に向かって投げつけた。
唸りをあげて、ヨーヨーは羅夢に迫る。
これで、アバラを壊されたのだ。
「叩き落してやらあ!!」
絶妙のタイミングで、羅夢はヌンチャクをヨーヨーに合わせた。
だが、そのヨーヨーは、僅かに左に曲がった。
5801投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時14分38秒
「…!?」
変化球!?
野球の経験のない羅夢は、その変化に対応できない。
また、さっき痛めた脇腹に、ヨーヨーが食い込んだ。
「が…あああ!!!」
羅夢は、雪の上に前のめりに突っ伏して倒れた。
「や…やった…」
「やればできるじゃん!!あい〜ん!!」
翔子は、少女の様に飛び跳ねた。
「ら…らむりん…」
しかし藍は、またも羅夢を傷つけたことに胸を痛めた。
「う…。く、くそぉ〜〜〜!!!」
雪のついた顔を、怒りに歪ませる羅夢…。
「もう…許さねぇ…!!」
脇腹の痛みを抑え、羅夢は再び立ち上がって駆け出した。
5802投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時15分01秒
「は、早く、ヨーヨーを戻して!!」
翔子が、叫ぶ。
藍は、細い鎖の紐を僅かに引いた。
その動きに反応した、ヨーヨーの中の極小モーターが、高速で鎖を巻き取って藍の手元に戻っていく。
その際、ヨーヨーは羅夢の脇をすり抜け、追い抜いて行く。
「返さねぇよ!!」
走りながらも、羅夢はヨーヨーを掴んだ。
「…あ!!」
武器が、戻らない…!!
羅夢が目前まで迫ってきている…。
藍は、咄嗟にもう一つの…右のヨーヨーを羅夢に向かって投げつけた。
「おお…!?」
羅夢は予想だにしなかった藍の反撃に、体勢を崩した。
そして、掴んでいたヨーヨーも手放してしまう。
両手に、藍はヨーヨーを持つ。
そして、あすみの様に…二つのヨーヨーを回旋させた。
「…あ…で、できちゃった…。練習じゃ、一度もできなかったのに…」
藍は、自分のこの急成長に戸惑った。
5803投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時15分43秒
「こ、こいつ…!!上等だ!!」
あすみと戦った時と同じ様に、羅夢はヌンチャクを振り回して突っ込んでいく。
「くぅ…!!」
藍も、そのヌンチャクの攻撃を、ヨーヨーを回しながら受けていく。
「こ、小癪な!!」
羅夢の脇腹は、二度のダメージによって痛みが増していた。
その痛みが、羅夢の動きを緩慢にしている。
そして、藍もあすみ程、ヨーヨーさばきが卓越していない。
羅夢vs藍、奇妙な膠着状態に二人は陥った。
5804投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時15分59秒
「…うん…。あい〜んの方は、しばらくは放っておいても平気だね…」
あすみは、七海に視線を戻す。
七海も同様だ。
二人とも敵同士なのだが、藍のことを心底心配しているのだ。
「さてと…。あんたとの戦いは、少し趣きを変えてみようか?」
あすみは、七海を『ななみん』と呼ばず、『あんた』と呼んだ。
その方が、七海も戦いやすい。
「趣を変える?どんな風に?」
「こんな風に…」
七海の言葉を受け、あすみは雪の降り積もった地面を硬く均した。
「なるほどな…」
七海もニヤリと笑うと、同様に足下の雪を踏み固める。
二人の距離は…丁度、ピッチャーマウンドとバッターボックスの距離だ。
5805投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時16分30秒
「言っておくけど…これは、野球じゃないからね…。私の投げる先は、キャッチャーミットじゃなく、あんたの頭…。つまり、ビンボールを宣告するよ」
あすみは、ピッチャーの様に構える。
「ウチもや!!ウチのかっ飛ばす先は、バックスクリーンやない!!オノレの顔面や!!つまり、ピッチャー返しを宣告したる!!」
七海は、バッターの様に構える。
「けけけ…。あの時は…ユニフォーム対決では、ウチの勝利やったな…」
「ふふふ…。ユニフォームは譲れても、この戦いは譲れないよ…」
「そんなん…ウチも同じや!!」
あすみは、大きく振りかぶる…。
七海は、バットのグリップを握り締める。
あすみは…高く足を上げ、右腕を大きくしならせて…ヨーヨーを投げた。
宣告通り、ヨーヨーは七海の頭部に…。
「ヨー…ソー…ロー!!」
七海は、背中を仰け反らせると、不自然な体制からバットをフルスイングした。
宣告通り、ヨーヨーは一直線にあすみの顔面へ…。
バシ…と、大きな衝撃音が鳴った。
衝撃吸収ゴムで出来たグローブの中に、煙を上げながらヨーヨーは納まっていた。
「ふふふ…。1アウト…」
あすみは、楽しそうに呟いた。
5806投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時16分50秒
「ふん!!これは、野球やないんやろ?いくつアウトになっても、痛くも痒くもないわ!!」
そう言うと、七海は再びバットを構えた。
「ま、それもそうだけど…」
あすみは、再び大きく振りかぶる。
そして、第二球目…。
またも、同じコースへヨーヨーは飛ぶ。
七海は、いち早く後ろに下がり、今度はしっかりとした軸足を保ち、高めにきたヨーヨーを打ち抜いた。
そして、また大きな衝撃音…。
あすみのグローブに、ヨーヨーが…。
「これで、2アウト…」
掌に痛みを感じながら、あすみは笑った。
「せやから、野球やないって言うてんのに!!」
そう言いながら、七海も楽しそうにバットを二三度振った。
野球ではない…しかし、二人は野球場に立っている…。
そんなイメージの中にいる。
三度、あすみは大きく振りかぶる。
七海は、バットを構える。
あすみは、第三球を、投げた。
5807投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時17分10秒
渾身のストレートだ…。
超のつく、剛速球…。
だが、ヨーヨーは七海の頭部へ向かわない。
「…!?」
七海の、肘と膝の間の空間…。
つまり、ストライクゾーン…?
「ヨー…ソー…ロー!!」
七海は、フルスイングでその剛速球を捉えた。
打った瞬間、七海のバットは、大きく折れ曲がった。
だが、その打ち返されたヨーヨーは、あすみの顔面ではなく、わずか上…頭の上を越えていく…。
「よっしゃぁぁぁ!!!」
七海は、何故かガッツポーズをとった。
「させるか!!」
あすみも、思いっきりジャンプして、その弾丸の様に飛ぶヨーヨーに喰らいつく。
そのヨーヨーは、あすみのグローブの中に入った。
あすみは、背中から雪の上に落ちる。
「う…!!と、捕りよった…!?」
七海は、悔しそうに折れ曲がったバットを雪の上の叩き付けた。
「ふふふ…。これで3アウト…。私の勝ちだ…」
あすみは、ゆっくりと上半身を起こし、勝ち誇った様に七海を見た。
5808投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時18分11秒
「………」
しかし、あすみも七海も、自分が今、何をやっているのか、一瞬わからなくなった。
「…な、何、野球して遊んどんねん!!」
七海の、自分へのツッコミに、あすみも我に帰った。
「そ、そうだ…!!あい〜ん!!」
羅夢と、精一杯の攻防を繰り広げている藍の援護に、あすみは向かった。
七海の武器、金属バットを破壊したので、あすみは羅夢の方を最優先させた。
「く、くそ!!」
七海は、折れ曲がったバットを掴んだが、これではどうすることもできない…。
「ん…曲がった…?曲がったバット…?」
七海は何かを閃くと、朝礼台に向かって走って行った。
そこには、藍に弾き飛ばされたもう一本のバットが突き刺さっている。
七海はそれを引き抜くと、折れ曲がったバットを空に投げた。
回転しながら、曲がったバットは落下する。
「ヨー…ソー…ロー!!」
七海は、その折れ曲がったバットを、真っ直ぐなバットで打った。
曲がったバットは、ブーメランの様にあすみの背中に向かって飛んでいく。
「…!?」
空を切り裂く音に、あすみは後ろを振り向いた。
金属バットが、回転しながら迫ってくる…!!
5809投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時18分31秒
「うわ!!」
あすみは、雪の上にうつ伏せに倒れて、ブーメランの様なバットを寸でで避けた。
「あい〜ん!!避けて!!」
あすみの言葉に、藍は一瞬、前を向く。
「わ!!」
藍も、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「ん…?」
羅夢は、後ろを振り返る。
「うわああ!!」
羅夢も、寸ででバットを避ける。
「え…?」
翔子は、逃げるのが遅れた。
バットは、翔子の背中に命中した。
「ぎゃん!!」
翔子は、バッタリと雪の上に倒れて気絶してしまった。
5810投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時18分51秒
「ち…!!結局、倒せたのは、しょこたんだけかい!!」
七海は舌打ちをしながら、あすみ、藍、羅夢のもとに駆け寄った。
「ふ、ふざけんな!!アタイに当たりそうだったぞ!!」
羅夢が立ち上がりながら叫んだ。
「…う!!」
しかし、その拍子に、また脇腹を痛めてしまった。
「ん…?当たりそう…?んなワケ、あるかい!!オノレなら難無く避けると信じとったで!!」
そう言いながら、七海は羅夢の側に立った。
「ち…!!調子のいいこと言いやがって!!」
「羅夢…。ケガは大丈夫か?」
「あん!?大きなお世話だ!!」
「そんなん、わかっとる!!でも…オノレは、ウチのパートナーや…。オノレの身体は、ウチの身体や…。いくらでも心配するで…」
「………実は………かなり痛え………」
「そうか…。でも、今は我慢せぇ!!」
「何だ!?そりゃあ!?」
あすみも、藍の側に立つ。
「あすみん…。しょこたんが…」
「死んじゃいないよ…。さ、戦いに集中して…」
再びチームで、4人は向かい合う。
【『TDD』・『ラバース(恋人)』・中川翔子…撃破】
5811投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時19分26秒
次回で、いよいよ有海と楠本さんの全面対決です

では、おちます
5812投稿者:リリー  投稿日:2009年01月17日(土)23時22分37秒
5799さん
そうでしたっけ?
たしか、羅夢がまだ9歳の時の動画を見たことがあります
ドキュメント番組みたいで、「茶髪の9歳、歌手を目指す」みたいな内容だったと思います(その番組に、梨生奈も出てました)
金髪に近い茶髪だったので、天てれの時は真っ黒に感じたんでしょうか
5813投稿者:117  投稿日:2009年01月18日(日)13時46分15秒
またもや、かなり久々です。話がだいぶ進んでいますね。
ダーさんは戻ってきましたか!そして、あすみと七海はなぜか野球を始め・・・(笑)。
一瞬だけ、あの楽しかった日々を思い出した?次はついに直接対決ですか。続きも楽しみです!
5814投稿者:117  投稿日:2009年01月18日(日)13時48分28秒
それともう一つ。
話に上がっている羅夢の話。僕は画像で見たことがあります。
やっぱり、羅夢だったんですか?梨生奈も出ていたとは、初耳です。
動画は見たことがないなぁ。
5815投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月18日(日)13時53分47秒
者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ  投稿日:2009年01月12日(月) キモラ嫌嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ(^●●^)れキモれキモラ嫌われキモラ
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5816投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月18日(日)13時54分00秒
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5817投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月18日(日)13時54分22秒
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5818投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月18日(日)13時54分33秒
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5819投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月18日(日)13時54分42秒
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5820投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時25分36秒
117さん
あすみと七海の野球(?)シーンは、久しぶりに書いてて楽しかったです
重い話しが続きましたからね

私は、YouTubeで見ました
今は、見れませんかね

では、更新します
5821投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時26分34秒
【一棟校舎・4】
突然の有海の出現は、楠本を大いに驚かせた。
『TDD』の勝利はもちろんのこと、楠本個人の目標は、有海を無事に連れ帰ることなのだ。
この少女には、作戦参謀として天性の才能がある。
今まで一匹狼として何でも一人でやって来た楠本は、この有海という少女を育てることに新たな楽しみを見つけることになった。
その楽しみの前では、七世を苦痛の果てに殺すことは、なんとも虚しいことか。
『壊す』ことよりも『育てる』ことの難しさ、楽しさを知ったのだ。
楠本にとっては、それは幾分健全な変化だった。
「あみ〜ご…。大丈夫でした?」
「はい…」
短く答える有海。
「ケガとか、病気とか、しませんでしたか?」
「はい…」
「寂しかったですか?」
「いいえ…」
これには、楠本は悲しそうに微笑んだ。
「でも、無事で何よりです。さ、私と一緒に戻りましょう…」
「嫌です!!」
これには、有海はキッパリと答えた。
5822投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時27分02秒
「…?」
楠本は、二の句が継げない。
「私は戻りません」
もう一度、有海は自分の思いを楠本に伝える。
「…どういうことですか?この村が気に入ったのですか?」
「違います!!いえ…この村は…良い所ですけど…」
もう一度、楠本の目をじっと見据えて思いを告げる。
「私は、『TDD』に…あなたの元には戻らない…と、言ってるんです!!」
「…そ、そんな我がまま言わないで…。あなたは、天性の策士だ。『TDD』を、もっと大きくする…」
「我がままを言っているのは、楠本さんです!!私の生きる道を、勝手に決めないでください!!」
楠本は、溜息をついた。
その代わり、七世が叫ぶ。
「有海さん!!何してるの!?何で、ここに来たの!?早く、逃げなさい!!」
だが、有海は微笑みながら首を横に振る。
「いいえ…。私…逃げません…」
「…え…?」
「私、自分の力を、役立てたいんです」
「自分の力…?」
「認めたくないけど…何か…作戦とか立てるの…得意になっちゃって…」
有海はそう言うと、恥ずかしそうにうつむいた。
5823投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時27分40秒
「いえ…得意と言うんじゃなく…。ほら、私って運動音痴で、何もできなくて…でも、その代わり、人の良い所とか、見えるんです…」
有海の声が、小さくなっていく。
「で…その…この人に、こんなことやらせてみると、うまくいくんじゃないか…とか…こういうことは、苦手だけど、こういうことは得意だからとか…そんなことを考えるのが、楽しくなっちゃって…」
それを聞いた楠本は、ぱっとその顔を明るくした。
「それです!!その気持ちなんです!!その気持ちが、あなたを天性の策士としての才能…」
「まだ、話しは終わってません!!」
有海は、大きな声で楠本を叱った。
「…すみません…」
楠本は青い顔をして、しゅんと、うな垂れた。
「でも…私は…それを、『表』の世界で…学級委員とか…野球の試合とかで…活かしたいんです…」
「そんなぁ…勿体無い…」
楠本の声は、今にも泣き出しそうだ。
「でも、このままじゃ、その『夢』が叶いそうにないんです…。それには…やっぱり戦わなくちゃ…」
「た…戦う…?」
七世は、戸惑った。
「岩井さん達の様に…私も、恐れずに戦おうって…」
「戦うって…一体、誰と!?」
「…楠本さんと…」
「ええ!?」
七世と楠本の声が、重なった。
5824投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時28分02秒
「そ、そんな…勝てるわけないじゃない!!」
七世は、青い顔をして叫んだ。
楠本とは二度戦って、二度とも負けているのだ。
しかも、俵姉妹と三人がかりで…。
「いえ…勝てます…。私に…楠本さんの言う様な才能があれば…」
「な、何を言っているの…?さ、才能だけじゃ…」
「作戦もあるんです!!楠本さんに、絶対に勝てる作戦が…」
「か、考え直して!!そんなこと…」
「はい、お静かに」
楠本は、七世の首筋に手刀を落とした。
「…う…ぐぅ…」
七世は、がっくりと首をうな垂れ、気絶した。
「い、岩井さん!!」
有海が、一歩前に出た。
「大丈夫ですよ。気を失っただけです…」
楠本は、ジロリと有海を見た。
「…う…」
有海は、一瞬気後れした。
5825投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時28分23秒
「で…あみ〜ご…。この私と戦うって…?」
「は…はい…」
「面白いじゃないですか…。もし、あなたが私を倒すことができたら…」
「はい…。もう、あなたに教えてもらうことなんて、一つもありません…」
有海の言葉に、楠本は思わず笑ってしまった。
「わかりました。戦いましょう。どうやって戦うんですか?」
「あ…場所を変えたいんですが…」
「場所?どこです?」
「ええと…この校舎の二階に、広い教室があるんです。その教室なら、戦いやすいと思います…」
有海は、張り巡らされた鋼線を指さして言った。
「なるほど…。確かにここじゃ戦い難い…。移動しましょう…」
「はい」
安心したかの様に、有海は笑顔になった。
「なるほど…。その広い教室に、何か罠が仕掛けてあるんですか?」
「…う…」
途端に、有海の顔が青褪めた。
「あははは…。ダメですよぉ…。そんなに、何でも顔に感情を出したら…。可愛いなぁ…あみ〜ごは…」
楠本は、有海の頭を撫でようと手を伸ばしたが、その手をひょいと有海は避けた。
またも寂しそうな笑顔を、楠本は浮かべた。
5826投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時28分59秒
軋む廊下、階段を共に歩く、楠本と有海。
数歩先を、有海が歩く。
二人は、西へと進む。
二階の西の端に、有海の言う広い教室…『どんぐり教室』と名が付けられた多目的室がある。
廊下の突き当たりに、その教室の出入り口があった。
「あそこです…」
有海は指差した。
出入り口は開いている。
電灯は点いてなく、中の様子は薄暗くて窺えない。
近づくにつれて、教室の中も詳しくわかり始める。
机や椅子の類はない。
ただの、広い空間だ。
5827投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時29分11秒
(うん?罠は仕掛けてないのか…?)
それよりも、教室に辿り着くまでに何か仕掛けているのか…?
楠本は、常に有海を先に歩かせる様にする。
有海の行動に、何か不自然な所があればそこに罠がある。
「で…あみ〜ご…。戦うと言っても、あなたはどうやって私と戦うのです?」
「…戦闘じゃ…私に勝ち目はないです…」
「そうですよねぇ…。まさか、ジャンケンとか言うんじゃないでしょうね?」
「違いますよ。頭脳戦…とでも言えばいいのかな…」
「頭脳戦…?ははは…!!面白い」
楠本は、声をあげて笑った。
5828投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時29分32秒
「124×38+1065×(632−589)÷3は?」
「…え…?」
有海は、目を丸くして楠本を見上げた。
「ふふふ…。わかりません?あみ〜ごは、計算苦手の超文系少女ですもんね…」
「…楠本さんは…わかるんですか…?」
「いいえ…。さっぱりわかりません…」
有海は、少し怒った様に楠本を見ると、ぷぃっとそっぽを向いて歩き出す。
「怒らないで下さいよ…」
有海は、何も言わずに足を速める。
「ねぇ…。あみ〜ご…」
更に、有海の足は速くなる。
「あみ〜ご?」
とうとう、有海は走り出した。
「…え?」
有海は、全速力で多目的室へ向かって走り出す。
全速力と言っても、有海の足なので、たかが知れてるが…。
「うん?何がしたいんだ?あみ〜ごは…」
楠本は、首を傾げながらも呑気に有海を追い駆ける。
5829投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月18日(日)22時29分32秒
者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ  投稿日:2009年01月12日(月) キモラ嫌嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ(^●●^)れキモれキモラ嫌われキモラ 
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キモラ嫌わ(^●●^)れキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ れキモラ嫌われキモラ嫌われキ


モラ嫌われキモラ 者:(^●●^)嫌われキモラ●●嫌われキモラ嫌われキモラ  投稿日:2009年01月12日(月)23時40分20秒

嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ(^●●^)れキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ●●れキモラ 
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キモラ嫌われキ(^●●^)モラ嫌われキモラ嫌わ(^●●^)れキモラ嫌われキモラ 嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ(^●●^)れキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ 嫌われキモラ嫌われキモラ(^●●^)嫌われキモラ 嫌われキモラ嫌われキモ 
ラ嫌われキモラ
5830投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時29分57秒
有海が多目的室に駆け込んだ。
「ん…?」
普通に、有海は走っているようだが…?
(罠ではないのか…?)
そしてよく見れば、黒板のかかっている壁際に、数名の少年少女が身を寄せ合って立っていた。
その中に、『TDD』を裏切った寛平の孫、帆乃香もいるようだが…。
そして、『ハセヤンズハウス』にいた、瑠璃の姿も…。
手には、ホウキやら何か棒の様な物を持っている。
有海は、その集団の中に混じり、きっと楠本を睨んだ。
(まさか、みんなでかかれば勝てるとでも…?)
もし、それが有海の作戦ならば、とんだ見込み違いだ…と、楠本は考えながら足を踏み入れる。
二三歩、歩いた時…激しい痛みが全身を駆け抜けた。
「が…!?」
楠本の腰が砕けた。
膝を着く。
また、激痛。
手を床に着く。
また、激痛。
いや、何か焦げくさい臭い…そして、何か、破裂音…火花が…。
「で、電気!?」
楠本は、ようやく理解した。
5831投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時30分17秒
(こ、ここに居てはヤバイ…!!)
楠本は振り返り、この教室を出て行こうとする。
だが、出入り口には、金網を張った木枠が降りていて、行く手を塞いでいた。
(ぐ…!!ナイフで…!!)
鉤ナイフを取り出し、金網に当てる。
またも、電流が楠本の身体を駆け抜けた。
「ぐあああ!!こ、ここにも…!?」
窓から逃げ出そうと、見回したが…今、気がついた…窓にも、金網が張ってある…。
「う…ぐおおお!!」
堪らず、楠本は床を転げ回った。
しかし、この激痛の中、楠本は不可解に思う。
何故、有海は平気でこの部屋を歩くことができたのだ!?
有海が入ってから、電源を入れた…?
いや、これほどの強い電流、長い時間をかけておかなければ、放出することは不可能だ。
有海は、特殊な靴を履いていた…?
いや、これほどの強い電流、電気工事用の長靴を履かなければ…いや、全身を絶縁体のゴムで覆わなければ、とてもじゃないが防ぎきれない…。
わからない…。
何故、有海はこの電流の中を、平気で歩けたのか…。
5832投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時30分37秒
その時、楠本は床に手を着いた。
「…?」
電気が流れない…?
しかし、すぐ側からは、電流が…?
電気の流れない所と、流れる所がある…?
この教室の床は…30センチ×30センチの、正方形の板で多い尽くされている。
板によって、電気の流れる所と、流れない所があるのか…?
楠本は、考えるより先に、電気の流れない狭い床板の上に、直立で立った。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
回りに回った電流で、頭をクラクラさせながら、何とか楠本は立ち続けている。
気がつけば、だいぶ自分は転げまわったのか、二つ分の教室の広さのほぼ中央に立っていた。
もう、戻ることはできない。
窓から逃げることもできない。
おそらく、電気の流れていない、有海達の立っている黒板付近の床板まで、辿り着くしかない…。
思い出してみれば…楠本はこの学校の遊具でおかしな点を見つけたのだ。
タイヤを半分出した、あの遊具…。
そのタイヤが、数個、掘り起こされた跡があったのだ。
つまり、そのタイヤは、30センチ×30センチの板に切り分けられ、この床板の裏に貼り付けられたのか…?
5833投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時31分05秒
「ああん!!もう!!惜しい!!あのオジサン、電気の流れない板を見つけちゃったよ!!」
甜歌が、悔しそうに叫んだ。
「ちょ、ちょっと!!暴れないでよ、甜歌!!ここから一歩でも動いたら、私達だって感電死なんだから!!」
杏奈は、甜歌を怒鳴った。
「ちょ、ちょっと…。そんな大きな声でこの罠のカラクリを喋ったら…」
卓也が、心配そうに忠告するが、帆乃香は首を横に振る。
「ううん…。楠本さんやったら、もう、この罠のカラクリに気付いてるはずや…。なあ、あみ〜ご…?」
帆乃香の言葉に、有海は黙って頷いた。
「カラクリに気がついても…楠本さんは、絶対にここまで辿り着けないよ!!」
瑠璃も、楠本を睨みつけながら言った。
車椅子の梨生奈は、ただ祈るのみ…。
もう、この戦いにおいては、有海に任せるしかないのだ。
「ふ…ふ…ふふふ…」
楠本は笑った。
「素晴らしい…。あみ〜ご…。これ…あなたが…考えたんですか…?」
「はい…」
有海は答える。
「私が楠本さんと戦うと言っても、力とかじゃ、絶対に勝てない…。で、考えたの…。私が、絶対に楠本さんに勝てる分野は何だろうって…」
「私に勝てる分野…?それは…何です…?」
「記憶力です」
キッパリと、有海は答えた。
5834投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時31分36秒
「記憶力…?」
楠本は、キョトンとして有海に問う。
「ここには、30センチ×30センチの床板が、20×26の、教室二つ分、1040枚、敷き詰められています。その中で12枚だけ、足を乗せても電気の流れない床板があるんです」
「そ…それを…その12枚を…あなたは、全部、どこにあるのか、覚えたと…?」
「はい…」
有海は、普通に走っていた…。
しかし、その一歩、一歩を、確かめながら、有海は駆け抜けたのか…?
記憶力だけでは、成り立たない罠だ…。
尋常ではない度胸も必要だ…。
余程の覚悟も…。
有海は、真っ直ぐに楠本を見据えて言った。
「楠本さん…。あなた、私がどこを通って駆け抜けたか、覚えてます?」
「………」
「覚えてませんね…?私の勝ちです…」
有海は、不敵な笑みを浮かべた。
楠本は…そんな有海の冷たい笑みを見て…ゾクゾクとした歓喜を身体の底から湧き起こした。
「いやいや…。覚えてますよ…。たしか…」
三つ右斜め先の床板に、足を踏み入れる。
火花…そして、激痛…!!
「ぐわあああ!!」
楠本は、もと居た場所に戻らざるを得なかった。
5835投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時32分09秒
「ずっとそこで立ってる?それとも、私を取り戻す為に…ここまで来ますか…?」
有海の、挑戦的な目…。
「あ…あはは…あはははは…!!」
楠本は、笑った。
心の底から笑った。
「絶対に…絶対に諦めない…!!あみ〜ご…!!あなたは、最高だ!!ずっと、私の側に…」
楠本は、一歩、前へ踏み出した。
またも、火花…そして、激痛…。
「ぐうううう…!!」
だが、楠本は倒れない…。
そのまま、前に進む。
一歩、また一歩…全身に電気を流しながら、楠本は前へ進む。
有海の下へ…。
「ぐ…ぐがぁぁぁ…」
楠本は、歯を食い縛って前へ進む。
「ちょ、ちょっとヤバイよ!!あみ〜ご!!あのオジサン、歩いてるよ!!電気の中、歩いてる!!」
甜歌が、悲鳴をあげた。
梨生奈も、杏奈も、卓也も、帆乃香も、瑠璃も、気が気ではない。
その中で、有海だけがじっと楠本を見詰めていた。
5836投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時32分44秒
「ぐああああ…!!」
尚も、楠本は前へ進む…。
「あ…あみ〜ご…。待ってて…。い、今…あなたの…下へ…」
楠本の歩みが、覚束なくなってきた。
膝が、ガクガクと震える。
「あ…あみ〜ご…」
心臓が、キリキリと痛む。
停まる寸前か…?
楠本は、とうとう、前のめりに倒れた。
全身に、電流が駆け巡る。
5837投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時32分57秒
「ぐああああああ!!!」
楠本は、のた打ち回りながらも、有海を見る。
眉間にシワを寄せ、悲痛な目で楠本を見る、有海。
「あ…あみ〜ご…。あみ〜…」
楠本は、右手を精一杯に伸ばす。
届くわけでもないのに…精一杯…。
有海の目に、涙が一滴流れ落ちる。
「ダ…ダメですよ…」
楠本の、震える声…。
「もっと…勝ち誇った様な目で………敗者を嘲笑う様な…冷たい目で………見ないと………」
「楠本さん…」
有海は、思わず呟いた。
5838投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時33分25秒
「…あなたの…勝ちです………。せ、成長しましたね………。あみ〜ご…」
「…く…楠本…さん…」
「私は………死んで………当然の………人間です…」
「……く………」
「私は…自分を…殺してくれる人を………探していたのかも………しれない…」
「………」
「いや………育てたかったんだ………」
「………」
「それが………あなた………だったんだ………」
「…い…いや…」
「………さよなら………ありがとう………あみ〜ご………」
5839投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時33分38秒
「いや!!」
有海は、叫んだ。
「瑠璃ちゃん!!電源を切って!!」
「え…?」
瑠璃は、戸惑った。
「で、でも…今、電源を切ったら、もう二度と…」
「いいから切って!!楠本さんが死んじゃう!!」
「な、何、言うてんの!!あみ〜ご!!」
帆乃香も叫んだ。
「私、誰も殺したくない!!お願い!!楠本さんを助けて!!」
瑠璃は、もう何も言わずに、罠の電源を切った。
5840投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時34分00秒
「楠本さん!!」
有海は、倒れている楠本の側に駆け寄った。
楠本の高級スーツは、もうすっかり焼け焦げている…。
「楠本さん!!しっかり!!死なないで!!」
その時、楠本の右手が、有海の首に…。
「…!!」
有海だけではない…その場の誰もが凍りついた。
「…ダメですよ…。あみ〜ご…」
楠本が、声を絞り出す。
「敵に…情けなんて…『裏』の人間として…最低だ…」
楠本の手は、有海の首を離れて頭へ…。
「私の…とんだ…見込み違いだ…」
「楠本さん…」
「あなたは………私の………弟子、失格です………」
「く…楠本さん…」
楠本の手は、有海の頭を優しく撫でる。
「あなたは………『表』の世界で………ちんたら生きていくのが………お似合いだ………」
ニッコリと楠本は微笑む。
「………お元気で………あみ〜ご………」
そして、その手を床に落とした。
【『TDD』・『エンペラー(皇帝)』・楠本柊生…撃破】
5841投稿者:リリー  投稿日:2009年01月18日(日)22時34分36秒
これで、【一棟校舎】の戦いは終了です

では、おちます
5842投稿者:有海勝っちゃったよw  投稿日:2009年01月19日(月)21時00分04秒
 
5843投稿者: 投稿日:2009年01月19日(月)21時20分01秒
5844投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月19日(月)21時24分42秒
者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ  投稿日:2009年01月12日(月) キモラ嫌嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ(^●●^)れキモれキモラ嫌われキモラ
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嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ(^●●^)れキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ 
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5845投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時07分43秒
5842さん
非戦闘員の有海が勝つには、こういう方法しかなかったんですけどね
局地的な勝利といいますか…

では、更新します
5846投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時08分24秒
【中庭・4】
右手に鎖、左手に鎌…。
二つの武器に分れてしまった、鎖鎌…。
たしか一年前、ジャスミンと戦った時も、こんな状況だった…。
「たしか…あの時は…」
中村有沙は、左右の武器を持ち替える。
そして、左手に鎖を巻き、右手に鎌を構える。
左の鎖を手甲として防御に使い、右の鎌で攻撃する…。
しかし、今は刻一刻と、身体の自由が利かなくなってきている…。
(考えるのは後だ!!あの女だって、随分な深手を負っている!!)
中村有沙は、自分から仕掛けて行った。
「来い!!」
ズタズタに切り裂かれた赤いスーツを身に纏った、半裸状態の理沙も、最後の力を振り絞って刀を振るう。
ぶつかり合う、鎌と刀。
火花が散る。
そして、お互いの武器が絡み合い、しのぎを削る。
5847投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時08分43秒
理沙は、中村有沙に顔を近づける。
「ふふふ…。随分…力が入らなくなってきてるじゃない…?」
「な…何を…?」
「どうやって、翔子の筋弛緩剤から自由になったか、わからないけど…その魔法も、解けはじめたようね…」
「何の話しだ…?」
「とぼけても無駄よ!!」
理沙は、身体ごと中村有沙にぶつかった。
「ぐぅ…!!」
少し押しただけで、中村有沙はよろめいた。
「ほら!!これがいい証拠よ!!」
今度は、刀を握った両手で突き飛ばした。
中村有沙は、また二三歩後退りして、体勢を崩した。
「うぅ…」
隙を見せた…!!
「覚悟!!」
理沙は、刀を振り下ろす。
5848投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月19日(月)22時08分56秒
者: (^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ  投稿日:2009年01月12日(月) キモラ嫌嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ(^●●^)れキモれキモラ嫌われ キモラ
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モラ嫌われキモラ 者:(^●●^)嫌われキモラ●●嫌われキモラ嫌われキモラ  投稿日:2009年01月12日(月)23時40分20秒

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1145投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ
5849投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時09分35秒
「…!!」
鎖を巻いた左手で、何とか食い止める。
だが、その衝撃は凄まじい。
ビリビリと痺れる感覚が、身体中に駆け巡る。
思わず、腰を雪の上に落とした。
「しぶとい!!」
理沙は、何度も刀で滅多打ちにする。
「ぐ…!!ぐ…!!ぐぅ…!!」
何とか、全ての攻撃を左腕に巻き付けた鎖で受け止める。
「はぁ!!」
中村有沙は、雪を蹴り上げた。
「…む…!?」
理沙の視界が、遮られた。
すぐさま立ち上がり、鎌を振り下ろす…。
だが、それができれば苦労はしない。
身体が思うように動かない…。
中村有沙が立ち上がった時には、もう既に、理沙は体勢を整えていた。
5850投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時10分14秒
「ふん!!」
理沙は、またも唐竹割りに斬り下ろす。
中村有沙は、咄嗟に後ろへ飛び退いた。
木造校舎の壁に、背中を打ちつけた。
「はぁぁ!!」
理沙は、刀を突き出した。
「ぐ…!!」
身体を翻し、中村有沙は、その突きを寸ででかわす。
刀は、その古い外壁を簡単に突き抜けてしまった。
「う…!?」
刀が、抜けない…?
これは、中村有沙にとってはチャンスだ。
「でやぁ!!」
鎖を巻き付けた左腕を、刀に向けて振り下ろした。
全体重をかけて…。
刀は…甲高い金属音を立てて、折れた。
「な、何!?」
理沙は呆然と、突き刺さったまま半分になった刀身を見詰めた。
『流星の舞』を受け続け、相当脆くなっていたのだろう。
理沙は、武器を失った。
5851投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月19日(月)22時10分26秒
者: (^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ  投稿日:2009年01月12日(月) キモラ嫌嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ(^●●^)れキモれキモラ嫌われ キモラ
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モラ嫌われキモラ 者:(^●●^)嫌われキモラ●●嫌われキモラ嫌われキモラ  投稿日:2009年01月12日(月)23時40分20秒

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ラ嫌われキモラ
1145投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ
5852投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時10分36秒
「今度は、貴様が覚悟しろ!!」
鎌を大きく振り上げる、中村有沙。
「…うぅ…!!」
理沙は、死を覚悟した。
理沙の首へ、鎌を振り下ろしたが…。
鎌は、その手をすっぽ抜け、前方へ飛んでいった。
「…え…?」
理沙も、中村有沙も、その鎌の行方を目で追った。
ブナの木の幹に、鎌は突き刺さった。
理沙は、その鎌が刺さったブナの木目指して駆け出した。
「…く!!」
中村有沙も、ワンテンポ遅れて駆け出した。
理沙は、その鎌を奪おうとしている…。
折角、刀を破壊できたのに、また武器を与えてしまってはいけない…!!
懸命に、中村有沙は追いかけるが…。
ガクンと、視界が揺れた。
「な…!?」
膝が突然折れ曲がり、雪の上に着いた。
手を着く…。
だが、体重を支えられない…。
中村有沙は雪の上に倒れ込んだ。
5853投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時10分56秒
「………まさか………」
もう、自由に身体を動かせる時間が終わったのか…?
もう…指一本、動かせない…。
でも、身体の痛みは感じる…。
雪の冷たさも感じる…。
神経は、眠ってはいない…。
(動け…!!動け…!!)
僅かに、指が動く。
やっと、一握り、雪を掴むことができた。
だが、そこまでだった。
もう、立つこともできない…。
足音が聞こえてくる。
ゆっくりと…。
血だらけの裸足…。
満身創痍の、理沙だった。
当然の様に、手には鎌が握られている。
5854投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ投稿日:2009  投稿日:2009年01月19日(月)22時11分05秒
者: (^●●^)嫌われキモラ嫌われキモラ嫌われキモラ  投稿日:2009年01月12日(月) キモラ嫌嫌われキモラ嫌われキモラ嫌わ(^●●^)れキモれキモラ嫌われ キモラ
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モラ嫌われキモラ 者:(^●●^)嫌われキモラ●●嫌われキモラ嫌われキモラ  投稿日:2009年01月12日(月)23時40分20秒

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1145投稿者:者:(^●●^)嫌われキモラ
5855投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時11分14秒
「うふふ…。もう…身体は動かせなくなったみたいね…」
「………」
中村有沙は、ただ恨めしそうに理沙を見上げることしかできない。
「残念だったわね…。私に恨みを晴らすんじゃなかったの?」
「………」
もう、何も言い返す気力がない。
「あらら…。張り合いないわねぇ…。減らず口を叩くあなたを虐めるのが、楽しいのに…」
理沙は、溜息をつきながら、バラバラになった髪を掻き揚げた。
「いいわ…。もう、終わりにしてあげる…。でも…」
理沙は、中村有沙の長い髪の毛を掴んで頭を上げた。
「ぐぅ…!!」
痛みに、中村有沙は顔をしかめた。
そしてその細い首に、鎌があてがわれる。
「あなたの…キレイな顔…。いつまでも見ていたい…」
「…!?」
「あなたの首…私のお部屋に飾っておくわ…。ふふふ…翔子には内緒だけど…」
「ぐ…!!」
冗談ではない…!!
やはり、諦めることはできない…!!
この女に、最後の一撃を…!!
何としてでも…!!
5856投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時11分34秒
その時、中村有沙の髪の毛を掴む手に、痛みが走った。
と、同時に、その手から握力が無くなり、髪の毛はスルリと滑り落ちた。
「…な…?」
理沙は、とにかくその場から離れた。
改めて、握力を失くした左手を眺める。
「…針…?」
小さな針が、手の甲に刺さっていた。
理沙は、その針を抜くと、左手に握力が戻った。
「だ、誰…!?」
中庭を見回す理沙は、いつの間にか現れた小さな少女の影を捉える。
「あ…あなたは…?」
長い髪の毛を、ポニーテールにした、大きな目をした少女…。
「あなたは…誰!?『R&G』の者…?この針は、あなたが!?」
「私の名は、加藤ジーナ…」
その少女は、礼儀正しく礼をして、自己紹介をする。
「加藤…?まさか…夏希の…?」
「はい…。妹です…」
その大きな目で、ジーナは、じっと理沙を見詰める。
5857投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時12分12秒
「………聞いたことがある…。夏希の妹は…暗黒針灸術を操り、自由自在に人の身体をコントロールできるって…」
掌の、小さな針を見詰める。
「この針も…あなたの仕業ね…?」
「はい…」
短く、ジーナは答える。
「そして、ダーブロウの妹の身体を動かせるようにしたのも、あなたね…」
「半分、間違いです」
「え?」
「私だけではありません…。有沙さんの身体を動かせるようにしたのは…」
「ふ〜ん…。で、今度は、あなたが私と戦うつもりなの?」
「いいえ…。全部、間違いです」
「何ですって?」
「ジーナは、戦いません。お姉ちゃんから、危ない事はしちゃダメだって言われてるんです…」
「…?じゃあ、あなたは、何をしに来たの?」
「助けに来たんです…。有沙さんを…。そして…」
「そして…?」
5858投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時12分24秒
その瞬間、理沙の頭に衝撃が走った。
「ぐあ!!」
軽い脳震盪を起こし、理沙は雪の上に片膝を着いた。
頭を抑えた掌に、血が着いている…。
「また、動けるようにしました…。この針、あなたを攻撃したものじゃないんですよ…」
「くぅ…!!」
理沙の睨む先に…全身に無数の針が刺さっている中村有沙が、分銅の付いた鎖を振り回しながら両足でしっかりと立っていた。
5859投稿者:リリー  投稿日:2009年01月19日(月)22時12分39秒
では、おちます
5860投稿者:どうぞ  投稿日:2009年01月19日(月)22時14分03秒
 
5861投稿者:キャラが続々参戦してきますね  投稿日:2009年01月19日(月)22時20分41秒
 
5862投稿者: 投稿日:2009年01月19日(月)22時49分00秒

5863投稿者:あげ  投稿日:2009年01月20日(火)20時52分51秒
 
5864投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時04分37秒
5861さん
いろんな人物が、入れ替わり立ち代りと言う感じで登場します
今回も…

では、更新します
5865投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時04分58秒
【体育館・5】
「ダーブロウ!!お、おまえ…今までどこに…!?」
夏希は、いきなり過ぎるダーブロウ有紗の登場に、安堵感よりも怒りが勝った。
「うん…?聞きたい?どうしようかな…」
全然、悪びれもしない彼女の態度に、益々夏希の苛々が募る。
だが、そこに寛平の声が割り込んだ。
「ワシは…何で戻って来たんかが…聞きたいな…。折角、命拾いしたのに…」
ふん…と、鼻で笑いながら、ダーブロウ有紗は夏希…そして憎き『浴衣ピエロ』こと、寛平を交互に見ながら答える。
「じゃあ、まず…ジジイの質問から答えてやらあ…」
笑顔の底で怒りにたぎらせながら、寛平を睨む。
「あの後、私は…おまえから逃げ延びる事ができて、本当に嬉しかったよ…。生きてるって素晴らしいなあって…心の底から思ったさ…」
だが…と、言葉を続ける。
「もう、戦うことはないんだって、安心しても…眠れねぇ…。心の底からムカムカしてしょうがねぇ…。それこそ、ムカムカで頭がどうかなっちまいそうにな…」
ダーブロウ有紗は、寛平を真っ直ぐに指差して怒鳴った。
「てめぇを…てめぇをブチのめさないことには…私は、一秒だって眠れやしねぇんだ!!」
よく見ると、彼女の目の下には、大きなくまが…。
「ふ〜ん…。で、永遠に眠りたくて、またノコノコとやって来たってわけやな…?」
つまらなさそうに、寛平は欠伸混じりに言った。
「随分、上手いこと言うじゃねぇの…」
笑顔で答えるダーブロウ有紗だが、額には血管が浮き出ている。
5866投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時05分22秒
そして、今度は夏希の方を見る。
「おまえの質問には、簡単に答えられるぜ。どこに行ってたって言うか…何をやっていたかって言うと…ホームレスだ」
「ホ、ホームレス!?」
夏希は、思わず気の抜けた声を出してしまった。
ダーブロウ有紗のトラックスーツは、随分みすぼらしく薄汚れている。
「ああ…。公園とか、高架下とか…寒さに震えて過ごしてきたが…どうにも我慢がならなくなって…天心荘に寄ってみたんだ…。そしたら…何か知らねぇけど、パッツンと一木何とかってヤツの手紙があってな…」
その手紙に、夏希が仲間になったこと、原村へ向かったことなどが書かれていた。
「おまえが、私達の仲間ねぇ…。なら、この私が最終決戦に参加しねぇなんて…有り得ねぇ!!」
「な、仲間!?冗談言わないで!!ただ、『TDD』を倒すという目的が一致しただけで…」
「へへへ!!照れるな、照れるな!!おまえの心意気、この私が継いでやらあ!!さっきも言ったけど、のんびり父娘そろって休んでろ!!」
そして、改めて寛平と対峙する。
「つまり…君は、戦闘ジャンキーなわけやね…」
寛平が、静かな口調で言う。
「戦闘ジャンキー!?」
「そう…。やっぱり、君は戦いの中でしか生きていけんのや…。せやから、ワシは『TDD』に誘ってやったのに…」
「ああん!?入んねぇよ!!」
「よう言うわ…。あん時、『入るから助けてくれ』て言うたんは、誰や?」
「あ〜あ〜あ〜!!!聞こえなあ〜い!!聞こえなあ〜い!!」
ダーブロウ有紗は、耳を押さえて叫び出した。
「子供かい!!オノレは!!」
珍しいことに、寛平がツッコミを入れた。
5867投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時05分52秒
「へへへ…。あん時のことは、忘れてくれよ…。カッコわりぃから…」
ダーブロウ有紗は、床に刺さった出刃包丁を二本抜いて、逆手に構えた。
「その包丁…ナイフの代わりか?そう言えば…この村の刃物店から、包丁がごっそり盗まれたって噂になってたけど…?」
「ああ…。ありゃ、私だ。私のコレクション、おまえにみんな取り上げられたからな…」
「うん。君のコレクションのナイフ、有効活用させてもろうたよ…」
「あん?」
「何か、ガスバーナーで刃を焼いてな…君の妹…ありりんを…拷問したんやって…」
「何…?」
「君が、逃げ出すからや…。可哀そうな妹さんやなあ…。薄情なお姉さんを持って…」
「…てめぇ…!!」
ダーブロウ有紗は、寛平に向かって突っ込んで行く。
5868投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時06分03秒
「バ、バカ…!!頭を冷やせ…」
夏希が、そう叫んだ時…。
「な〜んちゃって!!」
出刃包丁をもつ手を頭の上に持っていき、ダーブロウ有紗は立ち止まった。
「…おぉ…?」
寛平は、軽くズッコケ気味に前のめりになる。
「手紙で確認済みだぜ!!チビアリが無事なことはな!!それに、あいつは少しくらい痛い目に遭った方がいいんだよ!!いい気味だぜ!!」
「ほんま…ありりん…可哀そうやな…」
寛平は、しみじみと呟く。
「な、何が、妹思いよ…!!」
夏希も、不愉快そうに吐き捨てた。
5869投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時06分21秒
「そんじゃ、まあ…リベンジさせてもらうとするか…」
ダーブロウ有紗は、腰を低くさせる。
「ダ、ダーブロウ…!!あの男に、『Roam』は通用しないわ!!」
後ろで叫ぶ夏希に、ダーブロウ有紗は、うんざりとした表情を向ける。
「うるせぇなぁ…。富樫&虎丸か!!おまえは…!!」
「富樫…?虎丸…?」
「解説するんなら、雷電みたく、役に立つやつ、頼むぜ!!」
「…?雷電…?」
勿論、夏希は『魁!!男塾』を知らない。
「ワシが、『TDD』の社長、間寛平であ〜〜〜る!!!」
突然、寛平が大声をあげた。
「お…?ジジイ、知ってんの!?」
「当たり前やん!!あんな、オモロイ漫画、他にあるかいな!!『男塾』の後にやった『瑪羅門の家族』は、打ち切られて残念やったけど…」
「あ…?しょうがねぇじゃん。ありゃ、つまんなかったもん。内容も『男塾』の焼き直しぽかったし…」
「あ〜あ…。こんなマニアックな漫画のことを語り合える人間を殺さなあかんとは…悲しいなぁ…」
「私もだぜ…。敵同士じゃなかったら、今度『野望の王国』を貸してやりたかったぜ…」
「ええ!?あの、『さるまん(サルでも描けるマンガ教室)』の元ネタになったヤツ?持っとるん!?」
「岸大武郎の、『恐竜大紀行』も持ってるぜ」
「ああ、あの、セリフが一切無くて解説のみ…いう、漫画いうより、ほとんど恐竜図鑑みたいな、あの漫画!?」
この、二人の漫画談義に、夏希はしらけた目で睨みつける。
「どうでもいいけど…あんた達、早く戦いなさいよ…。めんどくさい…」
5870投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時06分40秒
「おっと、そうだった…!!じゃあ、行くぜ!!『Roam』!!」
ダーブロウ有紗は、一瞬、姿を消した。
だが、ピシッ…という音と共に、派手に床に転がる、彼女の姿があった。
「せやから、通用せんって…夏希君が忠告したやん…」
肩に杖を担ぎながら、寛平は言った。
「へへ!!まだ、まだ!!」
腹筋の力で跳ね起きると、またもダーブロウ有紗は姿を消した。
またも、殴りつけられた音と共に、血飛沫が夏希の頬に飛んだ。
「…!!ダーブロウ!!」
そして、顔面を押さえてうつむく、ダーブロウ有紗の姿…。
「いててて…。なるほど…。やっぱダメか…」
額から流れる血を、乱暴に拭き取った。
「やる前から、わかっとるやろ?この前も、通用せんかったんやから…」
「いや…ひょっとして、この前は、たまたま通用しなかったんじゃねぇかって…楽観的に思ってたんだ…」
そう言うダーブロウ有紗に、夏希は、苛々しながら怒鳴った。
「楽観にも、程があるわよ!!まさか、次は『アップル・シェイク』を繰り出すつもりじゃないでしょうね!?」
「あん?そのまさか…だよ…」
そして、右手の出刃包丁を持ち替えると、上半身を可能な限り捻る。
宣言通り、『アップル・シェイク』で寛平に挑むつもりだ。
5871投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時06分59秒
「それも…100%、通用せんよ…」
「やってみなくちゃ、わかんねぇだろ?」
「わかるっちゅうねん…」
睨み合う二人…。
「いくぜ!!『アップル・シェイク』!!」
高速回転のプロペラの如く、旋風を巻き起こしながら寛平に突っ込んでいく、ダーブロウ有紗。
しばらく空中で制止すると、一気に寛平に向かって舞い降りる。
体育館の床が、一部粉々に砕け、大きな穴が開いた。
ささくれ、木屑、破片が、辺り一帯に散らばった。
寛平は、間一髪…と言っても、随分な余裕で攻撃を避けていた。
『アップル・シェイク』の竜巻は、方向転換して再び寛平に襲い掛かろうとする。
「ぱきゅ〜ん」
寛平は、その独楽の様に回転する軸足を、杖の先でチョイと突く。
またも、派手な音をたてて転倒する、ダーブロウ有紗。
今度は、床が破壊された。
「アカン…。つまらんわ…。あんたと戦うの…」
欠伸をしながら、寛平は床の穴の中のダーブロウ有紗を見詰めた。
「いててて…」
彼女は、床の穴から、のっそりと這い出る。
「もう…何も言わないわ…。あんた…さっさと死ねば…?」
夏希は、もう呆れ果ててしまっていた。
5872投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時07分36秒
「そ…そう言うなよ…。この攻撃…決して無駄なことなんかじゃねぇのよ…」
「…え?」
また、彼女特有の強がりかと、夏希は思ったが…妙に、自信に満ちた、ダーブロウ有紗の表情に、妙な感覚を抱く。
「『Roam』も『アップル・シェイク』も通用しない…。その前に、『Jump』もダメだった…。でもな…」
「でも…?何や?」
もう一度、寛平は欠伸をする。
「この3つの技…一編にきたら…どうする…?」
「一編に…?」
「そう…。一編に…」
5873投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時08分13秒
次の瞬間、ダーブロウ有紗の姿が消えた。
『Roam』?
寛平も夏希もそう思ったが、ダーブロウ有紗が姿を現した場所は、無数に包丁が突き刺さった…夏希の目の前…」
「あ…あんた…?」
夏希は、呆然とダーブロウ有紗を見上げる。
「おう…!!おまえ、とばっちりを受けないように気をつけろよ…?」
「ど…どういう…こと…?」
「こういうこと!!」
その場で、いきなり『アップル・シェイク』を発動させる、ダーブロウ有紗。
一瞬で、突き刺さっていた包丁が引き抜かれた。
「『Jumping・Roam・Shake』!!」
そして、『アップル・シェイク』の竜巻が消えた。
「あん!?」
寛平は、小さな目を大きく見開いた。
5874投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時08分36秒
その瞬間、寛平の真上から無数の包丁が…。
「おおおおお!!!」
寛平は、ムチャクチャに杖を振り回してその場から離れた。
だが、その寛平が立つ床が、粉々に砕けた。
「うわっちゃっちゃ…!!」
無様に転げまわる寛平。
砕けた床の側に、ダーブロウ有紗が立っていた。
「へへへ…。右肩…どうした?」
寛平は、ようやく気が付いた。
自分の右肩が、妙に生暖かいことを…。
紺色の浴衣の肩口が、赤く染まっている…?
「ありゃりゃ…?」
寛平は、何が起こったのか、しばらくわからなかった。
自分が負傷している…?
いつ…?
そして、何の攻撃で負傷したのか…寛平には、まったくわからなかった。
5875投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時08分56秒
「何人目だ…?おまえの身体に、傷をつけたのは…?」
ダーブロウ有紗の質問に、寛平は感情を込めず、淡々と答える。
「4人目や…」
「何だ…。結構、いるじゃん…」
「『マジシャン(魔術師)』のノッポ、『エンペラー(皇帝)』の楠本君、『チャリオッツ(戦車)』の角田君…そして、君や…」
「楠本の野郎もかよ…」
うんざりしたかの様に、溜息をついて、ダーブロウ有紗は笑った。
「しかし…やっぱ惜しいなぁ…。ほんまに入る気ない…?『TDD』…」
「くどいぜ!!」
またも、『アップル・シェイク』…消えて…無数の包丁が四方に飛んだ。
「う…!!くぅ…!!」
夏希は、まだ何とか動く右手で長ドスを掴むと、散弾の様に飛んでくる包丁を払い落とした。
当然、後ろで気絶している加藤には、一本も当てない様に…。
どうやら、ダーブロウ有紗は、この攻撃で夏希達が死んでしまっても構わない…とでもいう様だ…。
勿論、夏希の力を信用してのことなのであろうが…。
寛平も、その包丁を杖で払い落としている。
そして、またも寛平の立つ床が粉々に砕けた。
「おっとっと…」
寛平は、前のめりにつまづくと、床を舐める様に倒れた。
「へへへ!!どうだ!!たまげただろ!?」
得意気に、ダーブロウ有紗は笑った。
5876投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時09分24秒
「うん…。いやぁ〜…たまげた…」
体育館の床に腰を落として、呆然と呟く寛平…。
「当然だぜ…。私は、てめぇをぶっ倒すことしか、考えてなかったんだ…。その一心で、生まれた技なんだよ…!!」
ダーブロウ有紗は、笑顔を消して、寛平を睨みつけた。
「………」
だが、夏希はこの状況でも、悲観的な考えを持っていた。
今回の攻撃で…寛平は無傷なのだ…。
今、刻一刻と、寛平はダーブロウ有紗の新技『Jumping・Roam・Shake』に順応し始めている…?
そして…次は…おそらく、反撃がくる…?
「ダーブロウ…」
夏希が、声をかけた瞬間、またも、ダーブロウ有紗の姿が消えた。
「素晴らしい技や…。でもな…」
寛平の姿も、同時に消えた。
今度は、大音響と共に、屋根に大穴が開いた。
「…え!?」
思わず、天井を見上げる夏希…。
そして…誰かが、まっ逆さまに落ちてきた。
「ダーブロウ!!」
夏希は、痛む身体に鞭を打ち、ダーブロウ有紗の落下地点に身を投げ出した。
5877投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時09分47秒
「何の!!」
頭から落下していたダーブロウ有紗は、空中で体勢を立て直すと、両足から着地した。
「ぐえ!!」
だが、その足を着けたのは、夏希の背中だった。
「あれ…?おい、夏希…。おまえ、何やってんの!?」
しばらく、痛みに悶え苦しんでから、夏希は顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「何やってんの?じゃ、ねぇよ!!この、クソアマ!!私にしては珍しく、おまえを助けてやろうとしたのに…!!」
「大きなお世話だ!!慣れねえことするからだよ!!バ〜カ!!」
「く…!!身体が五体満足なら、ぶっ殺してやりたいわ…!!」
そして、ようやく寛平が天井から降りてきた。
「はい…。『じゃんぴんぐ・ろーむ・しぇいく』破れたり…」
「発音がなってねぇな…。『Jumping・Roam・Shake』だよ!!」
「どうでもええよ…。もう、二度と出さへんやろ?この技…」
そう…次、この技を繰り出せば、今度は確実に致命傷を負う…いや、死ぬかもしれない…。
「う〜ん…。一発目で仕留められなかった時点で、結構、ヤバイと思ってたんだよな…」
そう悔しそうに、ダーブロウ有紗は呻いた。
「わ…わかってたの…?」
夏希は、小さな声で聞いた。
「ああ…。でも、万が一、次の攻撃で倒せたらいいな…て、思ったんだよ…」
夏希は、呆れた。
死ぬかもしれないのに、とりあえずチャレンジする…度胸とバカさ加減に…。
5878投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時10分33秒
「うん!!でも、気に入ったで!!ダーブロウ!!やっぱ、君、『TDD』に入りなさい!!」
寛平は、膝をパンと強く叩いた。
「だ〜か〜ら〜!!入らねぇって言ってんじゃん!!何回、同じこと言わせんだよ!!ほんと、ボケてんじゃねぇの!?」
うんざりしたかの様に、ダーブロウ有紗は叫んだ。
「うん。ワシ、ボケてまんねん…」
そう言った直後、寛平は姿を消した。
「…!?」
寛平は、ダーブロウ有紗の真後ろに…。
「…てめぇ…。『Roam』を…?」
「うん。覚えた」
スピードは…モニークと互角…。
5879投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時10分45秒
「で…入らん、いうことは…今度こそ、死ぬ覚悟なんやね…?」
「バ〜カ!!死なねぇよ!!」
「ふ〜ん…。まだ、そう思っとるんや…」
しばらく…二人は黙ったまま動かない。
皮膚に突き刺さるような、静寂の間…。
それを見守ることしかできない夏希は、額から流れる汗を拭くことも忘れている。
夏希の汗の一滴が、床に落ちた。
「うりゃああああ〜〜〜!!!」
ダーブロウ有紗は、雄叫びをあげながら、振り向きざまに出刃包丁をなぎ払う。
だが…。
「ぱきゅ〜ん」
ダーブロウ有紗の咆哮に比べれば、消え入りそうな寛平の声だが…その声と同時にダーブロウ有紗は、後方へ吹っ飛んだ。
5880投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時11分04秒
「…!?」
ダーブロウ有紗が、夏希のいる方向へ飛んで来た。
今度は、はっきりわかる…。
彼女は、気を失っている…。
夏希は、咄嗟にダーブロウ有紗の身体を抱きとめた…が、二人の身体は、そのまま壁に激突した。
「ぐ…うぅ…」
夏希の意識も、飛びかけていた。
「う〜ん…。夏希君…。邪魔したらアカンよ〜…」
寛平は、杖を着きながらゆっくりと近づいてくる。
「お…起きなさい!!ダーブロウ…」
ダーブロウ有紗は、目を覚まさない。
「起きろって言ってんだろ!?起きろ!!」
夏希の怒号は、虚しく体育館に響いた。
「いいや…。おやすみや…」
寛平が、二人のトドメを刺すのに、あと十歩といったところ…。
カツン…。
寛平の足の間の床に…何かが刺さった…。
「…?何?コレ…」
それは…剣…?
フェンシングの試合で使う様な…西洋剣…『フルーレ』…?
5881投稿者:わかるかー!!  投稿日:2009年01月20日(火)21時11分09秒
って突っ込みたくなった会話ww。

そういえばらりるれろじゃモニーク戦での千秋と瑠璃が富樫&虎丸とか言ってましたよね?
5882投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時12分06秒
「うん…?この武器て…たしか…」
そう、寛平が呟いた時、黒い疾風が彼を襲った。
一瞬、その風が見えた寛平は、『ソレ』に杖をぶつけて、その場から離れた。
寛平がさっきまで立っていたその場所に…『黒人の女』が…豹の様に四つん這いで…睨んでいた。
獲物を狙うかの様に…。
「う…うそ…」
夏希は、その『黒人の女』の出現に…目を見開くだけで、言葉が続かない。
「あ…君は…」
寛平が言うより先に、『黒人の女』は、自己紹介をした。
「元『TTK』四天王の一人…モニーク・ローズだ…」
そして、いつの間にか姿を表した…金髪の『白人の女』も、自己紹介をする。
「私も、元『TTK』四天王…そして、元『R&G探偵社』社員…ジャスミン・アレンよ…って…久しぶりね…。占いのおじさん…」
そして、こう続ける。
「あなたの相手は…私達『チームF』が務めさせて頂くわ…」
寛平は、ただ、ただ、口をポカンと開けている。
今、この場に…元『TTK』四天王が…4人、揃っている…?
自分が、『TDD』に迎え入れたかった、元『TTK』四天王の4人に…囲まれている…!?
これは夢か…幻か…?
5883投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時12分18秒
「な、なぁ…君達…。『TDD』に…」
「入らない…」
即座に、モニークは答えた。
相変わらずの無表情、無愛想、ぶっきら棒な顔で…。
5884投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時15分29秒
5881さん
そうですよね…
普通、わからないですよね
「恐竜大紀行」とか「野望の王国」とか…
実は、父の漫画の所蔵量が半端じゃないんです
いろいろなジャンルの漫画が、地下室に図書館みたいに並んでて…
でも、倉庫を借り切って漫画を溜め込んでるタケカワさんには負けますが…
ちなみに、最近の漫画には疎いんです

もう、突っ込めるものは全部突っ込んでこの話しは賑やかにしてやろう、という魂胆で、四天王勢揃いです

では、おちます
5885投稿者:リリー  投稿日:2009年01月20日(火)21時17分29秒
あと、千秋&瑠璃は、もろに富樫&虎丸の役目でしたが、夏希さんの場合は、怪我をして引っ込んだ大豪院邪鬼って言わなきゃ、失礼ですかね

では、おちます
5886投稿者:117  投稿日:2009年01月20日(火)21時19分17秒
おぉ、またまたすごいことになっていますね。
有海がまさかの元帥に勝って、「R&G」も結構有利な形勢に?
モニークもジャスミンも帰ってきましたか・・・素晴らしいオールキャストですね。
それにしても、カンペーさんは粘り強すぎる・・・続きも気になります!
5887投稿者: 投稿日:2009年01月20日(火)21時51分20秒

5888投稿者:四天王が  投稿日:2009年01月20日(火)22時22分26秒
そろったーーーー!!!
5889投稿者:ダーさん  投稿日:2009年01月20日(火)22時23分30秒
起きてくれ
5890投稿者:実家の地下室が漫画図書館?  投稿日:2009年01月20日(火)22時33分15秒
うらやましい…
5891投稿者:今日は  投稿日:2009年01月20日(火)22時35分49秒


楽しく
ベンちゃんヲタと
話せると
思ったのに


しょぼーん

珍しく
のる気だった

テラワロスww
ハアーン
5892投稿者:>91  投稿日:2009年01月20日(火)22時36分40秒
語るのはいいけどスレ間違えないでねwww
5893投稿者:それコピペされてる  投稿日:2009年01月20日(火)22時38分18秒



ハアーン
ハアーン

なんでここに貼られたんだろ
5894投稿者:リリータン  投稿日:2009年01月20日(火)22時38分54秒



またショタ小説書いて

ハアハア
ハアハア

げんちゃん
ベンちゃん
せなキュン

ハアーン
5895投稿者:書いてw  投稿日:2009年01月20日(火)22時43分09秒
 
5896投稿者:デジ  投稿日:2009年01月20日(火)23時02分31秒
一日だけ、休みができたので来てしまいました。
いやあ、凄いことになってますね。
来てない間のサプライズ多すぎです。
まあ、ほぼ流れ弾直撃でのしょこたんの戦闘不能はともかくとして、
?まず、有海の勝利。しかもまさかの、自分の指導者(楠本さん)相手に。
?あと、ジーナ乱入による有沙の復活。この状況でもまだ参戦しないのはあくまで、姉との誓いは守りきりたいからなのでしょうね。
?あと、シリーズ初の四天王揃い踏み。出てきましたね。オールキャスト。
これをみたら、なんとなくこの場(体育館)の「TTK」全員集合を望んでしまいました。
これを基点に体育館の「R&G」チームは一矢報いれるか?続きも楽しみです。

本当の復活まであと十一日となるわけですが、みてると戦いは一月で終わってしまいそうですね。できれば、もう少し香辛料少なくお願いできますか?
あと、遅れましたが、スレ創立一周年おめでとうございます。これからもお互いがんばりましょう!
5897投稿者:デジ  投稿日:2009年01月20日(火)23時08分33秒
訂正:香辛料→更新量ですね。
辛くしてどうするんだと……(笑)
5898投稿者:お父さんが漫画オタクだったのですか  投稿日:2009年01月20日(火)23時26分57秒
通りで古い漫画に明るいわけですね
それにしても地下図書館とは素敵なお家ですねぇ
おじいさんも知らない不気味な本につづいて
お父さんも知らない不気味な漫画が出てくるといいですね
5899投稿者:リリーさんて  投稿日:2009年01月20日(火)23時35分35秒
非婚同盟の、ゆきこみたいなお嬢様?
5900投稿者:レズに走ったのは  投稿日:2009年01月20日(火)23時48分25秒
女にだらしない親父さんの反発とか・・・
5901投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時28分58秒
117さん
急に話しは展開し始めました
どの戦いも好転していってます
5888さん
四天王は最初から揃えさせる予定でした
タイミングを計っていたら、こんなドヤドヤと登場するハメになりました
5889さん
ダーさんが起きれば、本当に四天王の揃い踏みです
5890さん
5898さん
図書館なんて、大そうなもんではないです
倉庫みたいな所に、無造作に積んである状態です
不気味な漫画なら、「赤色エレジー」とかいうのがありました
ガロ系が充実してて、嫌なコレクションですよ
5902投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時29分15秒
デジさん
勉強、お疲れ様です
1月までは、戦いは終わらないと思いますよ
それに、明日から2〜3日、更新を休むことになりますので、尚更です
少し休むことを、ご了承下さい
私も、「更新」を「行進」にしたことがあります
もう、一周年ですか…
長いですね、この話し
これも皆さんのおかげです
ありがとうございます


5899さん
とんでもないです
お嬢様ではないですが、祖父が土地持ちなので財産は多いみたいです
でも、そんなに贅沢はしてませんよ

5900さん
あんな、(風間トオル)父親だったら、私は今頃気が狂ってますね

では、更新します
5903投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時30分46秒
【講堂・5】
いよいよ、ちひろも恵も、決着を着ける時だと確信する。
これ以上戦うことは、どちらも無事に済まないことを二人とも充分理解していた。
特に恵は、頭からの大量の出血…そして、アバラの骨折…。
正直、恵はこの戦いで命を落とすことも構わないと思っていた。
だが、ちひろに一喝されて考えを改めた。
最も強い覚悟とは、命を捨てることではなく、必ず生きて帰るということ…。
これには、忌々しいが、この歳不相応に落ち着き払った剣道娘に感謝しなければならない。
「なぁ…。おまえ、全然、死ぬ気はないんだよな?」
「ああ…」
「私もだぜ!!絶対に、おまえに勝つ!!勝って、生きて帰るんだ!!」
「うむ…。その方が、私にとっても戦い甲斐がある…。だが、言っておくが…」
「あん?」
「おまえは、負けても死ぬことはないぞ」
「ど、どういうこった!?」
「私は、剣道で人を殺すつもりはない…と、言うことだ」
「てめぇ!!ふざけ…」
怒鳴りかけた恵だが、ふと考えた。
殺さずに勝利する…これも、また、相当な覚悟ではないかと…。
5904投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時31分08秒
「まぁ、いいや…。私は早いとここの戦いを終わらせてぇ…。いや、近年稀に見る面白ぇバトルだけどよ…」
「ああ…。私もだ…。ダラダラ長く戦うことが、いい戦いとは限らない…」
「ん?何だよ?わかった風なこと、言うじゃねぇか?」
「私と夏希の戦いだが…たしか、1分だった…」
「…!!ウソ、つきやがれ!!」
恵は、弾丸の様に突進した。
ちひろは、ロッドを前に突き出し、恵を牽制する。
だが、恵はお構いなしだ。
(『突く』か…)
ちひろは、ロッドを床に水平に向け、足を思いっきり踏み出した。
狙いは、恵のみぞおち…。
だが、恵もそれを読んでいた。
ちひろは、決め技に『突き』を選ぶと…。
右の掌を、前にかざす。
ロッドの先端は、恵の掌に命中する。
ゴキン…という音が、骨を伝わって、ちひろの耳に届く。
恵の掌の骨も、骨折したか…。
5905投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時31分39秒
だが、恵は前進を止めない。
そのまま、押し切る様に足を進めた。
伸縮自在の携帯ロッドが、カチカチという音をたてて縮んでいく。
そして、左の掌が、ちひろの顔面に伸びる…。
ちひろは、咄嗟に恵の身体に身を寄せ、短くなったロッドを上に突き上げた。
見事にそのロッドは、恵のみぞおちに突き立てられた。
「う…!!」
恵は、顔面を蒼白にして、ゆっくりと崩れ落ちる。
「いい…勝負だった…」
ちひろは、そう言って恵を見下ろすが…。
「何…上から目線で…抜かしてやがる…!!」
恵は、膝を着くと同時に、ちひろの足にタックルした。
「…!?」
ちひろは、何度も恵の打たれ強さを見誤っている…。
仰向けに倒され、腰、背中、後頭部と、順番に床に強打した。
「…ぐ…」
一瞬、意識が遠くなる。
自分の身体が、ふわりと持ち上がった。
5906投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時32分01秒
「…!?」
今度は、視界がぐるぐると回りだす。
「…う!!こ、これは…」
プロレスでよく見る技…『ジャイアント・スイング』…!!
骨折した手で、しっかりと足首を持っている…?
「くぅ…!!」
ちひろは、右腕を思いっきり振って、ロッドを伸ばした。
そして、出来得る限り上半身を起こし、恵へ向けてロッドを振り下ろす。
恵は、左腕で頭をガードする。
左腕の肘に、ロッドは当たる。
そして…またも、骨折の音…そして、ロッドも直角に折れ曲がった…。
「…な、何!?」
「うおおおお!!」
傷ついた右手だけで、ちひろの身体を掴むことは出来ない。
掴んでいた、ちひろの足首がすっぽ抜けた。
「うわあああああ!!!」
ちひろの身体は、そのまま一直線に飛んでいく。
講堂の一角に、木製の引き戸がある。
その引き戸をブチ破り、ちひろは頭から突っ込んだ。
5907投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時32分27秒
その凄まじい音に、またもジョアンは一瞬、はるかから視線を離した。
「…!?」
後悔の念と共に、視線を元に戻す。
だが、はるかは、そのまま動かずに佇んでいる。
「お、おまえ…何で…気配を消さなかった…?」
「…ん…?あんたに近づくなんて、危険を冒さなくてもいいじゃん…。その内、あんたは眠ってしまうんだし…」
「ち…!!面白くねぇやつ…!!」
「…暗殺なんて、面白いもんじゃないでしょ?」
「ま…確かにそうだが…」
「…いかに自分が傷つかずに、相手の息の根を止めるか…。こんなことばっかり、考えてきたからね、私は…」
「ふふん…!!私と、正反対かよ…」
「…私にはわからないね…。あんたとか…恵ちゃんとか…進んで怪我するようなヤツ…」
「へへへ…。一度、味わってみるかい?」
「…いいよ…。似合わないことはしない…。実は、さっき結構マジにガチンコやっちゃってさ…。自己嫌悪に陥ってんだ…」
「そうか…?結構、カッコよかった…ぜ…」
「…ふん…。嬉しくないね…」
「そう…言うな…よ…」
ジョアンは、まずい…と、思った。
太腿の痛みは相変わらずなのに、またもや、急激に睡魔が襲ってきたからだ。
5908投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時32分53秒
瞼が思い…。
視界が暗くなる…。
(く…!!眠るな…)
ジョアンは、親指を太腿の傷口に突っ込んだ。
確かに、激痛は感じる。
しかし、眠気の方が勝ってしまう。
「…うん…。もう、そろそろだね…」
はるかは、もうとっくに気がついていた。
ジョアンが深い眠りに落ちた時…はるかの仕事が始まるのだ。
「…恵ちゃんの方も、心配だし…。早く、終わらせちゃお…」
もう、はるかの声も、はっきりと聞き取ることができない。
ジョアンの身体は、崩れ落ちようとしていた。
(ダメだ…!!鞭を振るえ!!)
その時、ジョアンは閃いた。
目を覚ますのは、一瞬でいいのだ。
鞭を…自分に使えばいい…。
ジョアンは、自らの顔面に、鞭を叩き付けた。
5909投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時33分34秒
「…!!」
はっきりと、ジョアンの両目が見開かれた。
はるかは、二本のメスを、ジョアンの顔面に向け、懐に飛び込んで来た。
『デス・ウィンドウ』…!!
「がぁ…!!」
ジョアンは、素早く鞭で、二つの輪をつくる。
その輪は、はるかのメスを持つ両腕を捕らえる。
メスは、ジョアンの顔面の数ミリ前で、止まった。
「…え…?」
はるかは、一瞬、何が起こったのか理解が遅れた。
「うりゃあああああ!!!」
自分の眠気も吹っ飛ぶ様な雄叫びをあげ、ジョアンははるかの顔面に、頭突きを喰らわせた。
鈍い音が、響く。
「…ぐ…」
はるかは白目を剥き、そのままガックリと膝を着く。
そして…一本だけ黒く変色した前歯が、コツンと音をたて、床に落ちて転がった。
「へ…へ…へ…。ど、どうだ…。アタシより先に…眠らせて…やった…ぜ…」
気を失っている、はるかの上に、ジョアンは折り重なる様に倒れた。
そして、凄まじい音量のいびきが、講堂に響いた。
5910投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時34分01秒
ちひろの突っ込んだ扉が、メチャクチャに破壊されている。
その扉の奥が、どうなっているのか恵にはわからないが、何やら大量の荷物が、ちひろの身体に圧し掛かっている。
恵の方は、というと…まさに満身創痍だ。
頭はばっくりと割れ、顔面は血の色で真っ赤に染まっている。
左肘の関節が砕けている。
右掌も骨折している。
左の肋骨も…。
戦闘でここまで大怪我をしたのは、去年の夏、歌舞伎町以来だ。
ダーブロウ有紗との戦闘は、今思い出しても苛々する。
だが、この戦いの何という気持ちの良さ。
身体の激痛など、忘れるぐらいの気持ちの良さだ。
この戦いを経て、まだ自分の命が続いていることを、感謝している自分がいる。
そう言えば…ちひろの方はどうか…?
扉の先が、僅かに動いた。
ちひろは、まだ生きている…?
「あいつ…」
恵は、ニヤリと笑った。
5911投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時34分27秒
「うおおおお〜〜〜!!!」
恵は、駆け出した。
まだ、戦える…!!
この誇り高い戦いを…!!
まだ、この興奮を続けられると…。
扉の先の、ちひろに圧し掛かっている荷物が、大きく動いた。
そして…。
ドッパァァァァァン…!!
と、何かが破裂した様な音が、鳴り響く。
「うぐぅ…!!」
恵は、目の前が真っ白になり…膝を着き…腰を落とした。
「て…てめ…ぇ…」
青くなった顔で、ちひろを見上げる。
そして、ゆっくりと…気を失った。
「やっぱり…私は…ここが好きだ…」
ちひろは、静かに呟く。
「ここは…武道場…。そして…剣道場だったんだな…」
5912投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時34分54秒
ちひろの突っ込んだ扉の先…ちひろの身体の上に圧し掛かっていた剣道の防具だった。
その、ちひろが構えている物は…半分、折れた竹刀…。
これで、ちひろは恵に対し、渾身の『突き』を放ったのだ。
恵は、上半身を、パッタリと倒した。
それでも、ちひろは半分だけになった竹刀の構えを解かない。
また、息を吹き返して、捨て身の反撃を試みるかもしれない…。
『残身』の精神だ…。
恵は…もう、立ち上がることはなかった。
戦いは…終ったのだ…。
「私は誇りに思おう…。おまえの様な者と…戦えたことを…」
ちひろは、折れて半分になった竹刀を床に落とす。
「…私も…疲れた…」
そして、ちひろも壁に背中を着け、ゆっくりと腰を降ろした。
ジョアンのいびきが講堂に響き渡るのは、この3分後である。
【『TDD』・『ストレングス(力)』・秋山恵 / 『デス(死神)』・箕輪はるか…撃破】
5913投稿者:リリー  投稿日:2009年01月21日(水)21時35分55秒
【講堂】の戦いも終了したところで、おちます

では、2〜3日、更新を休ませて頂きます
すみません

5914投稿者: 投稿日:2009年01月21日(水)21時37分38秒

5915投稿者:待ってます  投稿日:2009年01月23日(金)22時37分12秒
 
5916投稿者:間の息子さん(慎太郎さん)  投稿日:2009年01月23日(金)22時42分38秒
「ほんとはあの娘が好きなのに…」の作詞者として登場したけど(しかも顔寛平さんそっくりww)
リリーさんもそのうち出すのかなぁ?
5917投稿者:2〜3日  投稿日:2009年01月24日(土)14時22分45秒
今日も、更新ないのかな?
5918投稿者:あげ  投稿日:2009年01月24日(土)21時56分05秒
頑張ってください!!
5919投稿者:チームSvs恵&みのぽーの決着がついて  投稿日:2009年01月24日(土)23時18分50秒
あとは、チームBvsあすみ&藍
    ありりんvs理沙
    四天王vs寛平さん

完全決着も見えてきましたね
5920投稿者:もう三日たったけど  投稿日:2009年01月25日(日)01時20分47秒
更新くるかな?
5921投稿者: 投稿日:2009年01月25日(日)16時31分10秒
5922投稿者:あげ  投稿日:2009年01月25日(日)17時58分10秒
あげ
5923投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時08分19秒
5915さん、5917さん、5918さん、5920さん
お待たせしました
やっと戻ってきました
また再開しますので、よろしくお願いします

5961さん
寛平さんの息子さんがミュージシャンで、顔もそっくりだということは知ってましたが、「ほんとはあの娘が好きなのに…」の作詞者だとは知りませんでした
まさか、天てれの関係者になるとは…
もう、グラスラは書き終わってしまったので、出すことはできませんが、何かで使えれば…と思っています

5919さん
そうですね
今回は、七海達の【運動場】の戦いですが、有沙と理沙の【中庭】の戦いが先に終わることになります
段々、終わりに近づいてきてます

あげ、ありがとうございます

では、更新します
5924投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時11分22秒
【運動場・5】
じっと黙って対峙する、七海、羅夢…そして、あすみ、藍…。
「いくよ…。あい〜ん…。できるね…?」
あすみは、ゆっくりと両手のヨーヨーを回し始めた。
「う…うん…」
藍も、それに習う。
ヨーヨーの両手使い…藍は、すっかりマスターしたようだった。
「…おもろい…」
七海は、バットを刀の様に構える。
羅夢は、脇腹を気にしながら、ゆっくりとヌンチャクを回す。
「く…。いてて…」
顔を顰めながら、羅夢は藍を睨みつける。
だが、藍の目にはもう、恐れはない。
あすみと共に戦うことに…心の底から安心し、誇りを持っている。
5925投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時11分44秒
「くそ…!!気にいらねぇ…!!」
そう呻く羅夢に、七海はそっと囁く。
「慌てんな…」
そして、こう続ける。
「まずは、ウチがいく…」
「ん…?おまえ…そんなバット一本で、やつ等二人の…四つのヨーヨーを防ぎきれるのかよ?」
「バット一本?うんにゃ…。ウチの身体、全部使うたろう、思ってんねん…」
「…おまえ…。どうでもいいけど、死ぬのは、やつ等をキッチリと倒してからにしてくれよ…?」
「ケ…!!誰が死ぬかい!!」
七海は、バットを振り上げて、あすみと藍へ向かっていった。
「き…来た!!な、ななみんが…」
藍は、腰が砕けそうになりながら、後退りした。
「逃げないで!!恐れない!!」
あすみは、両手のヨーヨーを、七海にぶつけた。
「うおおおお!!」
七海は、太く重たいバットを素早く降りながら、その二つのヨーヨーを弾き飛ばす。
そして、間髪入れずにあすみへ襲い掛かる。
5926投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時12分20秒
「あい〜ん!!」
あすみは、叫ぶ。
藍の援護を信じ、あすみはわざと隙だらけの攻撃を仕掛けたのだ。
「あすみん!!」
藍は、ヨーヨーを七海へ投げつけた。
そのヨーヨーは、七海の側頭部に直撃した。
「あ…!!」
藍も、こんなに簡単に七海に攻撃が当たるとは思ってもいなかった。
七海の横顔に、一筋の血の線が走った。
「ふん!!全然、効かんな!!何や?そのヘナチョコ!!」
藍を睨みつけながら、七海は笑った。
「ななみん…。大丈夫…?」
「あん!?自分がやってて、何言うてんの?」
「あい〜ん!!お喋りはしない!!」
あすみは、回収したヨーヨーを、再び放つ。
「オラァ!!」
そのヨーヨーを、今度は羅夢が弾き飛ばした。
「いててて…!!チクショウ!!ほんと、むかっ腹立つ!!」
羅夢は、そのままあすみに襲い掛かった。
5927投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時12分39秒
その羅夢へ、今度は藍がヨーヨーを飛ばす。
それを、今度は七海がバットで弾く。
その七海の隙を、あすみが突く。
羅夢が、ヌンチャクで防ぐ。
目まぐるしい攻防の四つ巴を、4人は演じる。
「けけけ…!!おもろ!!」
七海は、思わず叫んだ。
「な、何、呑気なこと言ってんだよ!!」
羅夢が怒鳴る。
「まず、オノレとウチが、こんなに息バッチリ合わせて戦うてるのが、おもろいがな!!」
「仕方ねぇじゃん!!アタイだって、死にたかないね!!」
「まあ、オノレも成長したってことやな!!」
「上から目線で、モノ言ってんじゃねえ!!」
「しゃあないやろ!!実際、上やし…」
口ゲンカをしながらも、二人のコンビネーションはバッチリだった。
5928投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時13分03秒
藍のヨーヨーが、七海の顔面へ向かう。
(お願い!!避けて!!)
藍は、心の中で叫んだ。
「ふん!!」
七海は、真上からバットを振り下ろしてヨーヨーを叩き落した。
どうやら、藍の心配は無用なものだったようだが…。
すぐに、あすみのヨーヨーが飛んで来た。
「…!!」
大振りなバットの攻撃の七海に、そのヨーヨーを弾き飛ばすことができない。
「オラ!!」
羅夢が、七海の前に躍り出て、ヌンチャクで払い落とす。
「例には、及ばねぇぜ!!」
「うん。ウチの予想通りや」
「ウソつけぇ!!」
そう怒鳴りながらも、羅夢は目まぐるしいヨーヨーの攻撃を防ぎきる。
あすみは、ケンカしながらもフォローし合う七海と羅夢に、思わず笑ってしまった。
お互い戦いながらも、お互いを心配し会う…奇妙な戦闘が続いている…。
5929投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時13分23秒
【中庭・5】
運動場の戦いとは、正反対…。
こちらは、お互いを殺すことしか考えていない…。
中村有沙と理沙は、睨み合っている。
その間に、夏希の妹、ジーナ。
「さあ…。何の心配もいりません…。思いっきり戦って下さい」
「まったく…。余計なことを…」
ジーナの言葉に、中村有沙は無愛想に答える。
「しかし…確かに助かった…。まあ、こうも早く身体の自由が奪われるとは思っていなかったぞ…」
「ですから、ジーナは心配になって駆けつけたんです」
「心配?ならば、もう無用だ。早く、安全な所へ隠れてろ」
「そういうわけには、いきませんよ。まだ、ジーナは心配なんですから…」
二人の会話に、理沙は怒鳴り声を割り込ませる。
「逃がすわけ、ないだろ!!こうなったら、おまえ等、全員皆殺しにしてやる!!」
肩をいからせ、大股で歩いて迫る理沙。
右手に握り締める鎌…。
中村有沙の武器だったものだ。
5930投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時13分43秒
その鎌の片割れ、鎖を振り回す中村有沙。
射程距離が長いのは、中村有沙の持つ鎖の方だ。
理沙が接近する前に、その鎖の先の分銅を投げた。
鎌で払い落とすことなく、理沙は首を曲げてその攻撃を避けた。
と、同時に理沙は走り出した。
一気に勝負をつけるつもりだ。
中村有沙は、鎖を引っ張って顔の前に張った。
鎌が鎖とぶつかった瞬間、火花が散った。
すぐさま、鎖を鎌に巻きつけて第二撃を防ぐ。
「この!!この!!この!!」
理沙の膝蹴りは、中村有沙の腹に炸裂する。
「…ぐぅ…!!」
僅かに、中村有沙の身体が沈む。
理沙は、両手で鎌を掴み、全体重をかける。
鎌の先が、中村有沙の喉へと迫る。
「死ねぇ…」
理沙の低い唸り声に、力が篭る。
5931投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時14分15秒
あと少しで、鎌は中村有沙の喉に突き刺さることになるだろう。
だが、理沙には一つ懸念があった。
夏希の妹、ジーナだ。
このまま、指をくわえて黙って見ているなんてことはあるだろうか…?
今、自分は、全精力を中村有沙へ向けている。
ここで、ジーナが暗黒針灸術を駆使して自分を攻撃したら、とてもではないが、防ぎきることなどできない。
そうなる前に、早く仕留めなければ…そう考えていた矢先だった。
「ジーナ!!余計なことはするなよ!!」
中村有沙は叫んだ。
「余計なこと…?」
「これ以上の手助け無用…と、言ってるのだ!!」
「わかってますよ。ジーナだって、戦わないって言ってるじゃないですか」
理沙の懸念を、敵である中村有沙が消し去った?
「ふふん…。いいの?素直に助けてもらえば…?」
「余計なお世話だ…」
至近距離で、二人は睨み合う。
「貴様は…私の手で殺す!!」
「あはは…!!今、殺されそうになってるのは、あなたの方よ…?」
更に、理沙は鎌を持つ手に力を込めた。
5932投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時14分50秒
その時…中村有沙は、自ら力を抜いた。
ただ、鎌の先を、喉から肩に移して…。
深々と、鎌は中村有沙の肩に突き刺さった。
「…え…?」
意外な行動に、理沙は一瞬、混乱した。
鎌が、抜けない…?
「ふん!!」
中村有沙は、素早く鎌に巻き付けた鎖を解いた。
そして、強烈な頭突きを理沙に喰らわせた。
「…がぁ…!!」
鎌の柄を離し、後退りする理沙。
その隙を、中村有沙は見逃さなかった。
肩の鎌を抜くことなく、理沙の後ろへ回ると、手にした鎖を理沙の首に巻き付けた。
「…!?し、しまった…!!」
だが、もう遅い…。
中村有沙は鎖を引き絞り、足は理沙の胴を挟む。
5933投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時15分12秒
「が…!!ぐ…!!」
たまらず、理沙は両膝を雪の上に着けた。
右腕を、後ろに回す。
そして、中村有沙の長い髪の毛を掴んだ。
だが、そんなことで中村有沙が鎖を離すことはない。
理沙の意識が、遠くなる。
(くぅ…!!ヤバイ…)
もう、呼吸もできなくなった。
(そ…そうだ…!!肩に…鎌が突き刺さったままだった…はず…)
理沙の手が、空を彷徨う。
何とか、鎌の柄を掴もうと言うのだ。
指先が、その鎌の柄に触れる。
(ぐ…こ…これか…?)
柄を掴む、理沙の右手…。
だが、中村有沙は余程の力を入れてるのか…鎌が抜けない…。
(ぐ…ぐぅ…。く…くそ…)
理沙の右手の力が、抜けていく。
5934投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時15分53秒
中村有沙は、理沙を締める手の力を緩める気配は、まったくない。
このまま、一気に絞め殺そうというのか…?
「…が…あ…あ…」
理沙の前身の力が抜けていく…。
それでも、中村有沙は締め続ける。
首の鎖を解こうとはしない。
理沙はようやく気がついた。
抜くのは鎌ではなく、中村有沙の身体が動くことを可能にしている、ジーナの針の方だ…と。
針を抜けば、再び中村有沙は身体の自由を失う…。
その時、中村有沙は理沙の耳元に唇を寄せ、こう囁いた。
「…死ね…」
理沙は遠のく意識の中で、今自分は復讐を受けて死ぬのだと…覚悟を決めた…。
5935投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時16分05秒
と、次の瞬間、中村有沙の全身の力が抜けた。
「…う…!?」
理沙の身体も中村有沙の身体も、一瞬で崩れ落ちるように、雪の上に倒れ込んだ。
「な…?」
側にジーナが立っていた。
ジーナの手には、今まで中村有沙の身体に刺さっていた、細い針が…。
「ダメですよ…。殺したら…。有沙さんは、もう『裏の人間』じゃないんです…」
「…ジ、ジーナ…」
呆然と、中村有沙はジーナを見上げた。
「ジーナが心配してたのは…このことですよ…」
そして、穏やかな笑顔を向ける。
「…ふん…。余計な心配は、無用だ…」
ようやく、中村有沙の顔から笑みが戻ってきた。
【『TDD』・『エンプレス(女帝)』・後藤理沙…撃破】
5936投稿者:リリー  投稿日:2009年01月25日(日)21時16分25秒
それでは、これでおちます
5937投稿者:117  投稿日:2009年01月25日(日)21時23分32秒
僕が来れなかった時、リリーさんもお休みしてたんですね。
とりあえず、話に追いつけて良かったです。
大接戦ながらも、確実にTDDを追い詰めていますね。続きも気になります!
5938投稿者:ああ  投稿日:2009年01月25日(日)21時24分37秒
ああ
5939投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時11分12秒
117さん
丁度でしたね
更新量が多いので、読むのがしんどくないでしょうか?
段々、終わりに近づいてきますので、ご注目下さい

では、更新します
5940投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時14分48秒
【体育館・6】
去年の8月…モニーク・ローズは原村から姿を消した。
未成年誘拐の指名手配犯として…。
姿を眩ました彼女を探す為、ジャスミン・アレンも『R&G探偵社』を辞め、後を追う様に姿を消した。
あれから、二人の行方はわからず仕舞いだった。
だが、その二人が…『TDD』も行方を追っていた、その二人が、今、寛平の目の前にいる。
『TDD』の敵として…。
そして、『R&G』の味方として…。
「あ…あなた達…ど、どうして…ここに…?」
ここ、原村で指名手配犯として姿を消したモニークが、また、この原村に戻って来た…?
夏希も、突然の彼女達の出現に、ただ口を開けている。
5941投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時15分23秒
「話せば長い話しなんだけど…」
ジャスミンは、床に突き刺さった自分の武器、フルーレを抜く為に前に進み出る。
彼女は、黄色に白いラインのトラックスーツ…左腕と両足には、例の西洋の甲冑を着けている。
「私、結構早い時期にモニークを見つけることができたのよ…」
そう言って、モニークの方を振り返る。
モニークは、ふんと、面白く無さそうに視線を床に落とす。
彼女の方は、ジーンズに革製のスタジアムジャンパー、頭にはニット帽、という姿…。
そして、両手には鋼鉄の爪を付けたグローブ…。
「でも…モニークは大怪我を負っていて…改めて傷が癒えてから、私と対決しようということに…」
途中で、モニークが説明を引き受ける。
「そしたら、ヤクザの加藤組が壊滅したってニュースを聞いて…。夏希さん…。あんたが、『TDD』に入ったってことがわかったんだ」
モニークは、ジロリと寛平を睨む。
「『TDD』のことは、ジャスミンから聞いて知っている。私達を仲間に引き込もうとしてることもね…」
寛平は、そんなモニークから視線をはずし、ガリガリと頭を掻いた。
ジャスミンが、説明を続ける。
「私達は、ずっと『TDD』の同行を探ってたのよ…。で…イヴの夜…『R&G』と、対決したって聞いて…。私達の救援は間に合わなかったけど…」
改めて、ジャスミンは夏希を見詰める。
穏やかな笑顔で…。
「夏希さん…。まさか、あなたが力を貸してくれるなんてね…。それに…」
気を失っている、ダーブロウ有紗…。
「有紗…。あなたも復活するって、信じてたわ…」
5942投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時15分49秒
ジャスミンは、床のフルーレを抜く。
「遅れて来たことを許してね…。私達も、ここが最終決戦の地だと、『TDD』を尾行して知ったんだから…。
「うん?君ら、尾行してきたの?全然気がつかへんかったわ…」
ようやく、寛平は口を開いた。
「だって、あなた…人の気配を読むことできないでしょ?それより、楠本とか、理沙とか、あの人達に気付かれない様にするのが大変だったわよ…」
恐ろしく遠距離からの尾行…。
それが、ジャスミンとモニークの遅刻の理由でもある。
モニークは、軽く伸びをすると、しゃがんで屈伸をする。
「さあ、今度は、私達が戦う番だ…」
その言葉に、寛平はわかっていながらも寂しく思う。
「戦う…?やっぱ、戦わなアカン?」
「私達を味方にするの、諦められる?」
モニークの準備運動は、深脚に移る。
「まさか…」
「なら、戦うまでだね…」
準備運動を終えたモニークは、豹の様に四つん這いになる。
「あなたの強さは、確認済みよ。だから、いきなり二人がかりで挑ませてもらうわ…」
ジャスミンも、フェンシングの構えを寛平に向けた。
『チームF』として、二人は久しぶりに戦うことになる…。
史上最強の老人を相手に…。
5943投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時16分20秒
モニークは、足…いや、この場合は『後脚』に力を込める。
「いくよ…」
「知ってる…。『Roam』やろ?」
「…!!」
「散々、見せてもろうたもん…。ダーブロウに…」
「ふん!!私の『Roam』と、ダーブロウの『Roam』と一緒にするんじゃないよ…」
「ワシもできるで…。その、『Roam』…」
「ただ、走れるってだけで、オリンピックには出られないだろ?」
その瞬間、モニークの姿は消えた。
「…!?」
寛平は、一瞬、モニークの姿を見失った。
野生的な勘で、とりあえずその場から離れることにするが…寛平の着ていた浴衣が、ズタズタに引き裂かれて宙に待った。
モニークの姿は、寛平から遠く離れた所で再び現れた。
寛平は、ラクダ色の股引きに、白のランニングシャツ、腹巻といった、情けない姿を晒した。
「いや〜ん…。エッチ〜」
寛平は、自分の胸と股間を隠して気の抜けた悲鳴をあげた。
「そんなつもりは、全くないから…次で息の根を止めるよ…」
またしても、モニークは『Roam』を仕掛ける。
5944投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時17分17秒
「ほほう…。これは、やっぱり一味ちゃうな…。でも…」
寛平は、杖を両手で構え、モニークの攻撃に備える。
「君の姿も、よ〜く見えるで…」
そして、身体を翻すと共に、杖を振る。
バチっという音の直後、モニークは姿を現した。
「…!?避けた…?」
一瞬、驚きの表情を見せたモニークだったが…。
「でも、それも想定内…」
寛平の着地を狙い、ジャスミンが攻撃を仕掛けてきたのだ。
フルーレの剣先が、寛平の心臓に向かう。
5945投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時17分30秒
「おおっと!!」
今度は、ジャスミンの攻撃を杖で跳ね除けた。
「私も、奥義を披露しましょうか?」
ジャスミンは、脚を大きく広げ、床に着地すると同時に、奥義を発動させる。
「『Guilty(有罪)』!!」
一秒間に、12回の『突き』の攻撃…!!
「ぎょぎょ!?」
これには、寛平は技を受けることを最初から諦めた。
考えるより先に、後ろへ飛び退いた。
そこへ、モニークが『Roam』で襲う。
「私達、一人一人の技が通用しなくてもいいの…。『私達』であなたを倒す…!!それだけ!!」
ジャスミンの声も、寛平の耳に届く余裕がない。
5946投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時18分08秒
モニークの『Roam』を避けた先に、ジャスミンの『Guilty』が襲う。
ジャスミンの『Guilty』を避けた先に、モニークの『Roam』が襲う。
夏希と『チームE』のコンビネーション攻撃よりも、寛平は汗を掻く。
白いドーラン混じりの汗が、床に落ちる。
もう寛平の顔は、白と土気色の、まだら模様となってしまった。
チクリとした痛みが、背中に走る。
モニークの爪が、寛平の背中を僅かに傷つけた。
「むむ…!!」
これで、自分の身体を傷つけた人間は5人目…。
益々、寛平はモニークを…ジャスミンを…夏希を…ダーブロウ有紗を、『TDD』に招き入れたくなった。
しかし、その前に自分が死んでしまうことになりはしないか…?
元『TTK』の四天王が、二人がかりで襲い来る…。
こんなに、凄まじいものなのか…。
もし、4人が同時に襲い掛かってきたら…。
寛平は、恐ろしく思うと同時に、妙な高揚感を持った。
5947投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時18分29秒
「いける!!ジャスミンとモニークの『チームF』なら…寛平を倒すことができるかも…!!」
夏希がそう叫んだ時、後ろから声がした。
「な〜んか…おもしれぇことになってんじゃん…」
ダーブロウ有紗が、意識を取り戻して上半身をゆっくりと起こしかけていた。
「…!?ダーブロウ…!!」
「何で、ジャスミンとモニークがいるんだよ?あいつ等…私がやられるのを、わざと待って出てきたんじゃねぇだろうな…?」
ちっと、苦笑いで舌打ちした。
「美味しいとこ、総取りするために…」
「まさか…!!あんたと一緒にするんじゃないよ!!」
夏希は、横目でダーブロウ有紗を見詰める。
「でもなぁ…。このまま、あの二人が寛平を倒しちまったら…おもしろくねぇよな…」
「何を言ってるの!?そんな場合じゃないわよ!!誰が…どんな方法でも…あのバケモノを倒さなければ…」
「バケモノ…?うん…本当のバケモンだな…。ありゃ…」
ダーブロウ有紗の声に、またも夏希は視線を戻す。
寛平の姿が消えていた。
「…ん!?」
よく目を凝らせば…寛平は、モニークと同じ速さで動いている…?
寛平も、『Roam』で対抗しているのだ。
「あの野郎…言ってやがったもんな…。『Roam』は、もう覚えたって…」
5948投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時18分55秒
モニークは、寛平が自分とまったく同じ速さで着いて来ていることに、ようやくその無表情な顔を崩した。
「あ…あんた…」
「ほっほっほ…。よぉ〜見えるわ…。あんたの顔…」
「…く!!」
急ブレーキをかけ、方向転換…寛平を降りきろうとする。
「お…!!ならば、スピードアップ!!」
だが寛平は、モニークに追いつくどころか、追い抜いてしまう。
「何!?」
モニークは、愕然とした。
「ありゃ!?どこや?モニークさん?」
寛平は、わざとらしく首をキョロキョロさせた。
モニークは…思わず足を止めてしまった…。
自分のスピードを越えた…?
「ウソだろ…?」
一瞬、モニークから戦意が消え失せた。
「何や…。追いかけて来ぃひんの…?」
寛平は、つまらなそうに呟くと、急ブレーキをかけた。
5949投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時19分16秒
「やあああ!!」
ジャスミンが、『Guilty』を仕掛ける。
だが、その剣先が穴を開けたのは、寛平の身体ではなく、体育館の床…。
まるで、機関銃が撃ち込まれた様に、床は粉々になった。
「ど、どこ…?」
ジャスミンの方は、本気で寛平の姿を探す。
「あんた…カッコええもん、持ってるね…」
後ろから、寛平はジャスミンの左腕の手甲に触れた。
「…!?」
ジャスミンは、振り向きざまに剣を叩き込もうとした瞬間、ふわりと身体が宙に舞った。
「ひぁ…!?」
ジャスミンの身体が、床に叩きつけられた。
「逃げろ!!ジャスミン!!」
モニークが、寛平に襲いかかる。
だが、寛平は一歩も動かない。
凄まじい、金属と金属のぶつかる音…。
「…ぐ…!!」
モニークは、数メートル、後ろに下がった。
そして、寛平を改めて見詰める。
「うん。これ、気に入った…。ワシにちょうだい」
寛平の左腕に、ジャスミンの手甲が装着されていた。
5950投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時19分52秒
「こらぁ!!ジャスミン!!何やってんだ!!みすみす、武器を奪われやがって!!」
ダーブロウ有紗は、立ち上がると同時に怒鳴り声をあげた。
「あ、有紗!!あんた、気がついたんなら、さっさと戦いなさいよ!!」
ジャスミンも、負けずに怒鳴り返す。
「ああ、そのつもりだよ!!まったく、おめぇ等、役に立たねぇな…」
そう言いながらも、ダーブロウ有紗はニコニコと満面の笑みを浮かべて歩み寄る。
「よく言うよ…。自分だって、大して役に立ってないくせに…」
モニークは、溜息をつく。
「おい、こら、ジジイ。本来なら一対一で、てめぇと戦いたいところだが…」
ダーブロウ有紗は、出刃包丁を寛平に突きつける。
「歴代仮面ライダー勢揃いって感じで、これもまた有りってヤツだ…。覚悟しろよ?『怪人・浴衣ピエロ』…いや、もう、浴衣でもピエロでもねぇか…」
「『妖怪・股引き爺』って呼んで…」
寛平は、そう言って笑った。
「へへ…。ナイスなネーミングだね…」
ダーブロウ有紗は、『アップル・シェイク』の構えを取る。
「ふふ…。それぞれ、最高奥義を披露しようってことね?」
ジャスミンは、『Guilty』の構えを取る。
「どうでもいいけど…よく考えて攻撃してくれよ?あんたの『アップル・シェイク』を喰らって死にたくないから…」
モニークは、『Roam』の構えを取る。
5951投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時20分18秒
「ま、待ちなさい!!」
夏希が、左足の痛みを堪え、立ち上がる。
「ん?何だよ?夏希…。自分だけ仲間はずれにされたくねぇってか?」
ダーブロウ有紗は、意地悪そうな笑みを夏希に向ける。
「でも、その怪我じゃ戦闘は無理だ。いや、むしろ私達の足手纏いだよ!!引っ込んでろ!!」
「ふふ…。足手纏いか…」
その言葉に、夏希は思わず笑った。
「確かに、自分が言われたらムカッと来るわね…」
しかし、夏希は引き下がらない。
「何だよ、てめぇ…!!めんどくせぇヤツだな!!」
ダーブロウ有紗は、今度はしかめっ面で舌打ちをした。
「無理はしなくていいから…。私達に任せて…」
ジャスミンは、幾分穏やかに夏希に語りかける。
「死にたいのなら、私は無理には止めないよ…」
相変わらずの無表情で、モニークは冷たい言葉を吐いた。
「ふふふ…。『四天王』最強と言われた私が…今は、こんな扱い…?」
「いつまで過去の栄光に縋ってやがる…。情けねぇヤツだぜ…」
呆れ顔で、ダーブロウ有紗は皮肉混じりに言った。
5952投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時20分51秒
それでも、夏希は冷静に言葉を返した。
「いいわよ…。何とでもいいなさい…。でも、使えるものは、使っておいた方がいいんじゃなくて?」
「使えねぇから、言ってんだよ!!」
「使い捨てで、構わない…!!」
「…!?」
ようやく、ダーブロウ有紗も、ジャスミンも、モニークも、顔を引き締めて夏希の方を向いた。
「動かないと思ったポンコツが、まだ動くのよ?儲けものだと思いなさい…」
ダーブロウ有紗は、髪の毛を掻き毟りながら、高い鼻から息を吐いた。
「ま、体当たりでぶつかるぐらいはできるか…」
そして、改めて寛平を睨む。
「と…そういうことだ…。今から、元『TTK』四天王が…全力でてめぇを潰しにかかる…。『裏』の人間にしてみりゃ、こんな名誉な死に方はねぇよな?」
寛平は、杖を床に着いて、腰を伸ばす。
その姿は、二本足だけで立つ日本猿を連想させる。
「うん…。確か…『四天王』が4人で戦うって…今まであった?」
「いや…。ねぇな…」
「ほな、名誉なことやね…。『四天王』を一編に相手して、一編に倒してまうっての…」
「ごちゃごちゃ、うるせぇ…!!」
寛平は、四方を『四天王』に囲まれた。
ダーブロウ有紗、ジャスミン・アレン、モニーク・ローズ、加藤夏希…。
その、圧巻な眺めを、寛平はゆっくりと眺め回し、堪能した。
「ああ…。ほんまに…こんな体験、滅多にないで…」
5953投稿者:リリー  投稿日:2009年01月26日(月)21時21分29秒
今日は、これでおちます
5954投稿者: 投稿日:2009年01月26日(月)21時51分17秒

5955投稿者:117  投稿日:2009年01月26日(月)22時30分36秒
元TTKの四天王が大集合して、最強の『妖怪・股引き爺』と対戦(笑)。
すごい展開ですね、確かに見逃せません!・・・といっても、また忙しくて,来られないかもしれませんが。
5956投稿者:あげ  投稿日:2009年01月27日(火)22時04分27秒
 
5957投稿者:あげ  投稿日:2009年01月27日(火)23時06分33秒
今日は更新しないのかな?
5958投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時04分26秒
昨日は、忙しくて更新できませんでした
すみませんでした

5957さん、すみませんでした

117さんも忙しいのですね
また、来られる時はよろしくお願いします

では、更新します


117さん
5959投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時08分32秒
【運動場・6】
七海と羅夢、あすみと藍、二つのチームの戦いが続く。
この4人の中、もう、限界に近いものがいる。
脇腹を痛めている、羅夢だ。
(いてぇ…。こりゃ、完璧に折れてるぞ…)
恨めしそうに、藍を睨む。
この怪我を、負わせた者が藍なのだ。
だが、もう藍の表情には恐れも気負いもない。
この戦闘に集中している。
いつか見た、マウンド上の彼女と重なった。
その時、あすみのヨーヨーが、視界に飛び込んできた。
「…!?オラ!!」
間一髪で、ヌンチャクでなぎ払う。
脇腹に、凄まじい痛みが走る。
「…がぁ…!!」
一瞬、動きが止まった。
その隙を…何の躊躇も無く藍が突いた。
5960投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時08分55秒
(こ、こいつ…!!)
避けられない…。
(じょ、冗談じゃねぇぞ!!こんな素人に…!!)
「ゴルアアア!!!」
その時、七海の後ろ回し蹴りが羅夢の痛めた所と反対側の脇腹に炸裂した。
「ぐああ!?」
その衝撃で、羅夢は後ろへ吹っ飛ばされた。
藍のヨーヨーは空を切り裂き、不発に終わる。
そして七海も、あすみ達から距離を置く。
「大丈夫か?羅夢!!」
「うぐぐぐ…。だ、大丈夫なわけ…ねぇだろぉ…」
羅夢は、七海に蹴られた脇腹を押さえて、のたうち回る。
「いや、しかし、危ないとこやったなぁ…。もう少しで、藍を人殺しにするところやったで…」
「ふ、ふざけんな!!危ないって、そっちかよ!!」
もう、怒鳴るたびに脇腹に響く。
七海に蹴られた所も、骨折してしまったのではないか?
5961投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時09分31秒
「しかし…。もう、オノレも限界とちゃうん?ここは、ウチに任せとけや…」
「ふ、ふざけんな!!アタイは、まだ戦えるぜ!!」
「無理すんなや!!それに、チームリーダーの言う事は聞くもんや!!」
「…おまえ…今まで、チームリーダーの言う事、聞いたことあんのかよ?」
「…ない…」
「へん!!説得力、ねぇぜ!!」
羅夢は、そう言うとゆっくり立ち上がるが…もう、本当に限界の様だ。
「ほら…。今、立ってるのもやっとやろ?」
「…ち…!!てめぇに蹴られた所が、一番痛ぇんだよ!!」
しかし、もう、あの素早いヨーヨーの攻撃を捌く事もできないだろう。
羅夢は、悔しさの感情と共に、溜息をつく。
「…わかった…。おまえの言う事を聞いてやる…。ただし…」
「ただし…?」
「アタイに、最後の攻撃のチャンスをくれ…!!それに…おまえが協力しろ!!」
「あん?ウチが協力?どういうことや?」
「今から、アタイは『AVEX(A Violence EXplosion)』を仕掛ける…」
「『AVEX』!?アホか!!今の身体で、できるわけないやろ!?」
「だから、協力しろって言ってんだよ!!」
「…?」
七海には、自分がどんな協力ができるのか、とんと見当がつかない。
5962投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時10分32秒
「『AVEX』を繰り出すには、とてつもねぇ瞬発力が必要だ。でも、この脇腹の痛みじゃ、その瞬発力を生み出すことができねぇ…」
もし、中途半端な『AVEX』を繰り出せば、それこそヨーヨーで狙い撃ちにされる。
「その、瞬発力を…七海、おまえが生み出せ!!」
「…?どういうことや?」
「頭、悪いな!!おまえ!!そこで、おまえの『ヴォヤージュ±』だよ!!」
「『ヴォヤージュ±』!?」
『ヴォヤージュ±』は…本来ならば、エマとのコンビネーション技だ。
エマのボウガンから発射された砲丸を、七海があらゆる角度で打ち、起動を変え、加速させる技だ。
中村有沙の鎖鎌の分銅を、打ち返すこともあったが…。
「その『ヴォヤージュ±』で、アタイを打て!!」
「…オノレも…頭悪いやん…」
呆れ顔で、七海は羅夢を見詰めた。
『ヴォヤージュ±』は、『物体』を打つ技だ。
『人間』を打ったら、その時点で、その『人間』は即死だ。
「だから、打ち所を考えろ!!」
「打ち所!?」
「アタイの足の裏だ…。狙えるんだろ!?野球部の四番打者さんよ!!」
「…!?できんことはないけど…」
いくら足の裏でも…しばらくは途轍もない痺れで、立つこともできなくなる…。
5963投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時12分17秒
七海は、難色を示す。
「しかし…」
「しかしも、かかしもねぇ!!デカアリが言ったこと、覚えてるか!?」
「デカアリ…?」
「『チーム同士は、仲が悪い方が望ましい』ってやつだよ!!」
そう…ダーブロウ有紗の自論だ。
ただ、ダーブロウ有紗は誰とでも仲が悪い為、そもそも仲の良いチームというものを経験したことがないからだ…と、七海は解釈する。
5964投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時12分37秒
「もし、おまえが梨生奈だったら、アタイはこんなこと頼まねぇ!!梨生奈は、アタイが死ぬかもしれねぇような作戦、絶対に実行しねぇもん!!」
「ウチやったら、できるって…?」
「おまえ、アタイのこと嫌いだろ!?遠慮なくできんじゃん!!」
しかし、七海は困った様な笑顔を羅夢に見せる。
「…う〜ん…。しかしなぁ…」
「何だよ!?何か、問題あんのかよ!?」
羅夢は、苛々しながら聞いた。
「ああ…。ある…」
七海は、羅夢の顔を真っ直ぐに見据える。
「ウチな…。オノレのこと…少しだけ、ちょっぴり好きになってもうた…」
「………へ………?」
羅夢は…言葉を失った…。
そして、一気に顔が真っ赤に染まる。
「バ、バ、バ〜〜〜カ!!気持ち悪ぃこと、言ってんじゃねぇ!!」
そして、すぐさま七海から視線を逸らせた。
「いいか!?アタイは、縦回転しながら、飛び上がる…!!アタイの足の裏を狙って、思いっきりかっ飛ばせよ!!」
もう、羅夢は七海をチラリとも見ようとしない。
5965投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時13分10秒
七海から言われた言葉を早く忘れたいが為、羅夢は早速『チームB』コンビネーションスキル・『AVEX・ヴォヤージュ±』にとりかかろうとする。
その、二人のやりとりを、じっと聞いていた、あすみ…。
「あ、あすみん…?」
藍は、これから何が起こるのかがわからない。
「あい〜ん…。下がってて…」
「え…?」
「大丈夫…。私が何とかするから…」
あすみは、そう言うと、両手のヨーヨーを握り締めた。
『AVEX』も『ヴォヤージュ±』も、どんな技かは知っている。
これから繰り出されようとする技も、想像はつく。
ここは、絶対に藍を守らなければ…。
七海のことだから、藍を狙うとは思えない。
だが、直接攻撃するのは、羅夢の方だ。
羅夢は、藍に恨みを持っている。
あすみは、雪に両足を踏みしめて、『チームB』の迎撃に備える。
5966投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時13分36秒
「うりゃああああ!!!」
羅夢は、痛みを堪える為に大きな声をあげると、空高くジャンプした。
そして、膝を抱えた状態で、縦回転で落ちてきた。
「狙え!!七海!!」
「おう!!」
バットを握り締める七海…。
「ヨー…ソー…ロー!!!」
バットを水平に打ち抜く七海。
羅夢の足の裏…靴底にジャストミートする。
凄まじい衝撃が、羅夢の足から全身に駆け巡る。
「ぐぅ…!!」
身体中の骨が、軋んだ音を立てた。
「喰らえ!!『AVEX』!!」
羅夢は絶叫しながら、回転を加速させる。
「『ヴォヤージュ』を付けんかい!!」
七海は、バットをフルスイングさせた。
5967投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時14分20秒
「ひ…!!あすみん…!!」
藍は、後退りをする。
「大丈夫!!」
あすみは、恐ろしい勢いで迫ってくる羅夢に対し、前へ躍り出た。
暴風とも言える、羅夢の『AVEX』…。
この回転で受けるヌンチャクの一撃は、何としてでも避けなければならない。
まず、右のヨーヨーでヌンチャクを破壊…続けて、左のヨーヨーで羅夢を攻撃…。
一瞬で対策を練る。
まず…ヨーヨーの第一撃…。
それは、見事にヌンチャクの片方の棍に当たる。
粉々に砕け散る、ヌンチャク…。
5968投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時14分33秒
(く…!!し、しまった!!)
羅夢の『AVEX』は、空中で解除された。
そして、あすみの第二撃…!!
タイミングはOK…!!
これで、羅夢を戦闘不能にできる…!!
そう、思った矢先だった。
「ゴルアアアア!!!」
七海が、バットを持って追いかけて来たのだ。
いや…羅夢を打った、その直後から走っていた…?
「ヨー…ソー…ロー!!!」
七海は、再び羅夢の足の裏を目がけ、バットをフルスイングした。
5969投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時15分29秒
「な…何…!?」
急に加速する、羅夢の『AVEX』。
「ぐわああああ!!!」
羅夢も、この加速と衝撃に悲鳴をあげた。
あすみが、もう片方のヨーヨーを投げつけようとした瞬間…。
その前に羅夢の体当たり…『AVEX』を、あすみは喰らった。
「ぐぅ…!!」
「がはぁ…!!」
あすみは、その場に仰向けに倒れ、羅夢ははるか、数十メートル先へ、雪を削り取る直線を描きながら、滑っていった。
ようやく、その身体が停まった羅夢…。
最後の力を振り絞って、立ち上がろうとする…。
「く…くそ…!!ぶっ飛ばしてやる…」
雪を掴み、握り潰す。
「七海のヤツ…!!何が、『ちょっぴり好きになった』だ…!!二度も…遠慮無しにかっ飛ばしやがって…」
だが、羅夢の身体は今度こそ限界だった。
そのまま、前のめりに倒れ込んだ。
「…くそ…!!まぁ…いいや…。あとは…藍一人だ…。きっちり、決着をつけろよ…」
そして、ゆっくりと瞼を閉じながら言った。
「…そして…その後は…アタイが…おまえと…決着…つけてやる…」
5970投稿者:リリー  投稿日:2009年01月28日(水)21時16分24秒
まだ戦いの途中ですが、羅夢は戦線離脱ということで…

では、おちます
5971投稿者:DBですか?  投稿日:2009年01月28日(水)21時55分12秒
二段階で加速して体当たりするシーンを見たことがあるような
5972投稿者:あげ  投稿日:2009年01月28日(水)23時12分25秒
5973投稿者:最近  投稿日:2009年01月29日(木)22時49分09秒
忙しいんですかね
5974投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)20時58分35秒
5973さん
すみません、確かに忙しいですね
できるだけ更新できるようにしたいと思っています

5971さん
DBとは、「ドラゴンボール」ですか?
たしか、ゴテンクスでしたっけ?
あの辺りは、うろ覚えなんですよね

では、更新します
5975投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時01分19秒
【体育館・7】
ダーブロウ有紗、ジャスミン、モニーク、夏希…『四天王』の視線は、寛平に集中している。
「う〜ん…。こない仰山の娘さんに見詰められんの…久しぶりやなぁ…」
この期に及んで、軽口を叩くか…。
いや、この老人は、長い人生の中で軽口しか叩いたことがないのでは…?
「まあ、いいや…。おまえは、これでお終いだ…。ジジイ…」
ダーブロウ有紗は、再び『アップル・シェイク』の体勢をとる。
ジャスミンは『Guilty』…モニークは『Roam』…。
夏希は…。
「モニーク…。気をつけてね…」
寛平を挟んで正面に立つモニークに、夏希は声を掛けた。
「…?何だって?」
「こんな怪我をしてるけど…あんたの『ソニック・ブレイド』なんかより、威力は段違いなんだから…」
「…!!」
モニークは、夏希の言葉の意味を理解した。
5976投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時02分02秒
夏希は、脱臼の痛みを伴った右腕で長ドスを持ち、上へ…。
「キエエエエエエ!!!」
奇声と共に、夏希は長ドスを振り下ろす。
夏希の奥義、『魔王剣』だ。
先程とは、威力は比べ物にならない位に小さいが、それでも人を殺傷できる真空刃が、寛平を襲う。
当然、寛平はそれを避ける…と、同時に、モニークの『Roam』…。
「うおお!?」
モニークは、回避と攻撃を同時に行ったのだ。
それでも、寛平を傷つけることはできない。
「『Guilty』!!」
ジャスミンの攻撃…。
「何の!!」
寛平は、ジャスミンから奪ったばかりの左の手甲で、その攻撃を受け止める。
「お…!!イタ…!!」
それでも手甲を突き抜けて、寛平の腕を刺す一撃もある。
「ち…!!夏希の『魔王剣』か…!!いつも、うるせぇんだよな!!あの技…」
顔を顰めながら、ダーブロウ有紗は『アップル・シェイク』を仕掛けた。
「うわわわ…!!」
寛平は、その竜巻から一目散で逃げ出した。
5977投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時02分23秒
逃げた先に、モニークが『Roam』で先回りをしてる。
「ひえええ!!」
腹巻に、細い4本の傷が走る。
間一髪、寛平は腹を切り裂かれる所だった。
「『Guilty』!!」
また、ジャスミン…。
「おおっと…!!一体、何度有罪判決受けてんのやろ…」
そう言うと、今度はジャスミンの攻撃を手甲で受けることをせず、懐に飛び込んだ。
「…!?」
逃げるより、更に一歩深く飛び込む…『Guilty』の理想的な対策を、寛平はもう思いついた様だ。
いや、思いついたとしても、簡単に行動に移せるものではないが…。
「…!!」
寛平の一撃がくる…ジャスミンは警戒したが…。
「かい〜の…」
寛平は、直角に曲げたジャスミンの膝に、自らの尻を擦り付けている。
「な、何してんのよ!!」
ジャスミンは、剣ではなく、左手で寛平の頭を張り倒した。
5978投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時02分58秒
「あへ…」
寛平は、その衝撃で床を転がっていく…。
「え…?当たった…?攻撃が…?」
ジャスミンは、寛平の頭を引っ叩いた左手を、呆然と眺める。
「何やってる!!ジャスミン!!追撃は!?」
モニークが、両手の爪で床に倒れてる勘平に襲いかかる。
だがその爪は、体育館の床に深い彫り傷をつくっただけだった。
「…!?」
寛平の姿は…?
ジャスミンの後ろだ…。
「ジャスミン!!後ろ!!」
モニークは叫んだ。
「え…?」
ジャスミンが振り向こうとした瞬間…。
「何、すんねん!!」
今度は寛平が、手甲をはめた左手で、ジャスミンの頭を張り倒した。
「イタ!!」
ジャスミンの金髪が、ふわりと浮いた。
「こ、この!!」
ジャスミンが『Guilty』を仕掛けようとした時、寛平の姿は、もうそこにはなかった。
5979投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時03分22秒
「キエィ!!」
寛平の動向をじっと見詰めていた夏希は、『魔王剣』の真空刃を放つ。
だが、寛平はその斬撃を手甲で弾き飛ばした。
「…夏希君…。君の攻撃が…一番、生ぬるいわ…」
そして、寛平は『Roam』で夏希に襲いかかる。
「君から、まず、寝とき!!」
「…!?」
『魔王剣』が、間に合わない…!!
「させるかよ!!」
しかし、ダーブロウ有紗の『アップル・シェイク』の竜巻が、寛平の行く手を阻む。
「おおっと!!コイツにだけは、掠ってもアカン!!」
寛平は、急ブレーキをかけた。
そこへ、モニークが『Roam』の急襲…!!
「何の!!こっちも『Roam』や!!」
『Roam』の攻撃を、『Roam』で避ける。
既に、寛平の『Roam』はモニークの『Roam』よりもスピードは上だ。
しかし、その先にジャスミンが…。
「『Guilty(有罪)』!!」
一秒間に、12回の『突き』の攻撃…。
「『Not Guilty(無罪)』!!」
しかし、寛平も、ジャスミンと同様、素早い『突き』を放った。
5980投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時04分03秒
ジャスミンの剣先、一つ一つを、寛平は杖の先で受け止めた。
「な…何…?わ、私の技も、コピーした…?」
ジャスミンは驚愕の声をあげた。
「コピー?ちゃうな…。『進化』や…」
杖の先は、ジャスミンの左肩を突いた。
「うぐ…!!」
ジャスミンは、片膝を着く。
寛平は…一秒間に13回の『突き』を放ったのだ。
「キエエエ!!」
夏希は、最後の力を振り絞って『魔王剣』を放つ。
「あへええ!!」
寛平も、奇声を発しながら、杖を振り下ろす。
夏希の真空刃と、寛平の真空刃が、空中でぶつかった。
「名付けて…『阿呆剣』や…」
「な…?」
『魔王剣』も、寛平は自分の物に…?
「これは、マネできねぇだろ!!」
ダーブロウ有紗の『アップル・シェイク』が、寛平に襲い掛かる。
「う〜ん…どうやろ?マネしてみようかな…?」
寛平は、上半身を思いっきり捻ると、高速回転した。
5981投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時04分23秒
「う…うそ…!!」
夏希は、寛平の行動に開いた口が塞がらない。
同じ回転数だったとしても、ダーブロウ有紗は切れ味鋭い出刃包丁、寛平はただの杖…木の棒だ…。
「威力が違いすぎるだろ…」
モニークも、この勝負の行方を見守る。
「いけぇ!!有紗!!」
ジャスミンは、思わず叫んだ。
二つの竜巻が、空中でぶつかり合う。
ベーゴマの様に、激しくぶつかり合い、そして一つの竜巻がステージへと弾き飛ばされる。
「…!?」
「ど、どっち…!?」
あまりの回転の早さに、他の三人の『四天王』達は、どちらがダーブロウ有紗か、寛平か、見分けがつかない。
競り勝った方の『アップル・シェイク』は、ゆっくりとその回転を落とす。
「あ…」
三人は、落胆の声をあげた。
回転の途中でもわかる。
竜巻の色が、ラクダ色なのだ。
言うまでもない…寛平だ…。
5982投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時11分21秒
「ちくしょう…。おまえ…宇宙人だったってオチは、なしだぜ…?」
ステージから、声がする。
ボロボロのトラックスーツの、ダーブロウ有紗だ。
身体も傷だらけ…。
何故だ…?
刃物を持っていたのは、ダーブロウ有紗の方…。
その出刃包丁も、刃がボロボロだ。
ただの木の棒である寛平の杖には、傷一つついていない。
5983投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時11分36秒
「大丈夫…?有紗…」
ジャスミンが、声をかけた。
「あん?大丈夫に見えるか?」
「…見えない…」
「ふざけんな!!何ともねぇよ!!」
「…相変わらず…めんどくさい女…」
ジャスミンは、うんざり気味に呟いたが、それでもダーブロウ有紗らしい強がりには勇気を貰う。
「おい…!!これで私達に勝ったと思うなよ?『奥義泥棒』!!」
ダーブロウ有紗は、そう言って寛平を指差した。
「『奥義泥棒』!?失礼やな…」
「そうじゃねぇか…。マネばっかりしやがって…」
「ほんなら…ワシの最強奥義、見せたろか…?」
寛平は、ニヤリと笑う。
「名付けて…『止まると死ぬ拳』や…」
5984投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時12分14秒
「『止まると死ぬ拳』…?」
4人は、同時に声をあげた。
そう言えば、ダーブロウ有紗も、夏希も、その名前だけは聞いたことがあるが…ただの冗談かと思っていた。
「気に入ったら、マネしてもろてもかまへんで?」
「いや…。聞くからに、カッコわるそうな名前だから…いい…」
「そう、言いなや…。凄い、技なんやから…」
そう言うと、寛平は杖をゆっくりと振り回し始めた。
「…?何だ…?」
雑な動き…どう見ても、最終奥義に見えない…。
「『止まると死ぬ』って、誰が…?」
「ワシが…」
その振り回している杖が、段々早く、段々強くなる…。
「ちょ、ちょっと…。こっちに近づいてきてない…?」
「何か…ヤバイ雰囲気が…」
ジャスミンも、モニークも、僅かに後退りする。
寛平は、奇妙に手足をくねらせながら、酔っ払いの千鳥足の様な足運びで、よろけ出した。
杖が、体育館の床を叩く。
床が…鉄パイプで叩かれたかの様に陥没した。
5985投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時12分46秒
「おい、おい、おい…」
「逃げろ!!」
寛平は、やたらめったら杖を振り回しながら、4人を追い掛け回した。
「くそ…!!何で、逃げなきゃならねぇんだ!!」
「逃げなさいよ!!有紗!!あんた、武器を持ってないんでしょ!?」
ジャスミンに引っ張られ、ダーブロウ有紗は引き摺られるように逃げ出した。
四天王ともあろうモノ達が、ただ逃げるまわるのには、理由がある。
隙がないのだ…。
この不定形な動き…。
こちらの攻撃が、当たる気がしない…。
しかも、寛平の杖を避けることも…。
「やっぱり…カッコ悪い技…。マネしたくないね…」
モニークは、そう言って立ち止まる。
「な、何をするの?」
ジャスミンの言葉に、モニークは当然の様に返す。
「戦うに決まってる…!!」
「『止まると死ぬ』って言ってんだから、動き疲れて止まるのを待ってみたら?」
「その前に、私達が死ぬ…」
5986投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時13分12秒
「よくぞ言ったぜ!!モニーク!!」
ダーブロウ有紗は、逃げ回るついでに床に突き刺さっていたマグロ包丁を引き抜いた。
マグロ包丁は、その名の通り、巨大なマグロを解体するための…ほとんど、日本刀の様な包丁だ。
寛平の『止まると死ぬ拳』に対抗しうる強度の包丁は、それしかない。
「私も、逃げ回るのはまっぴら御免だ!!」
「…もう…!!だったら、私だけ逃げるわけ、いかなくなったわね…」
ジャスミンも、腹を括って立ち止まる。
「4人で、同時に攻撃するよ…。いくら何でも、あいつは4人同時に攻撃できないでしょ…」
夏希も、満身創痍の身体に鞭を打ち、寛平に相対する。
「でも、4人の内、誰かが犠牲になるよ…」
そのモニークの言葉に、夏希は自嘲しながら言う。
「それは、私よ…。言ったでしょ?使い捨てられても構わないって…」
夏希は、大きく溜息をつくと、まるでキ○ガイの様に暴れまわる寛平へ、自由に動かない身体で突っ込んで行った。
「私達も、続くぜ!!」
ダーブロウ有紗、モニーク、ジャスミンも後に続く。
寛平は、4人の攻撃を同時に受ける。
『止まると死ぬ拳』の威力を、4人がその身に受けて知るのに…時間は掛からなかった。
5987投稿者:リリー  投稿日:2009年01月30日(金)21時14分27秒
では、おちます
5988投稿者:あげ  投稿日:2009年01月31日(土)11時34分24秒
 
5989投稿者:117  投稿日:2009年01月31日(土)13時38分03秒
七海が羅夢をバットで吹っ飛ばして、カンペーさんの恐ろしい学習能力(笑)?
ギルティー?に「止まる死ぬ」といい、懐かしいですね。
元TTK・四天王相手に、強すぎるカンペーさん。どうなるのか、続きも気になります!
5990投稿者:寛平は、やたらめったら杖を振り回しながら、4人を追い掛け回し  投稿日:2009年01月31日(土)13時49分04秒
これ、そのまんま新喜劇だw
5991投稿者: 投稿日:2009年01月31日(土)14時48分17秒
112335投稿者:瀬南ってぶっちゃけ性格まで悪い  投稿日:2009年01月31日(土)14時06分32秒
翔太が「大丈夫」って声かけてるのに年下に何も言ってやれない瀬南
http://video.nifty.com/cs/catalog/video_metadata/catalog_090127165010_1.htm
112345投稿者:瀬南ってぶっちゃけマジ使えない  投稿日:2009年01月31日(土)14時13分40秒
遼に慕われる翔太(上)と遼にフォローされる瀬南(下2つ)
http://video.nifty.com/cs/catalog/video_metadata/catalog_081204148740_1.htm
http://video.nifty.com/cs/catalog/video_metadata/catalog_090127165392_1.htm
http://video.nifty.com/cs/catalog/video_metadata/catalog_090126164996_1.htm
5992投稿者:リリー  投稿日:2009年01月31日(土)21時06分54秒
117さん
「止まると死ぬ拳」って、2003年の舞台で思いつきで言ったギャグだと思ってたんですが、ちゃんとした寛平さんの持ちネタなんですってね
ちなみに『Guilty』で「一秒に12回の突き」の「12」という数字は、陪審員の人数です…わかりにくいですよね

5990さん
そうです
あのまんまの映像を思い浮かべてくだされば…

今夜で、【運動場】の戦いは終わります

では、更新します
5993投稿者:リリー  投稿日:2009年01月31日(土)21時08分16秒
【運動場・7】
「あすみん!!ねぇ!!あすみん!!」
雪の上で、仰向けに倒れているあすみを、藍は揺り動かして起こそうとする。
「う…う…ん…」
相当、頭を強く打ったのか、あすみは、すぐには復活しなさそうだった。
「藍!!もう、諦めい!!」
七海は、金属バットを肩に担ぎながら大きな声で叫んだ。
「な、ななみん…」
そんな、かつての親友を、藍は複雑な表情で見詰める。
「もう、この場で両の足で立てるもんは、ウチとオノレだけや!!」
「う…」
藍はもう一度、倒れているあすみに視線を落とす。
「勝負しようや!!」
「勝負…?」
傷つけ合うしかないのか…と、藍は悲しい覚悟を決める。
「ウチ等の間で勝負って言うたら…これのことやろ?」
そう言って、七海はバットを振った。
5994投稿者:リリー  投稿日:2009年01月31日(土)21時08分45秒
「え…?」
藍は、拍子抜けした声をあげた。
「そう言えば…ウチは、一度もオノレに勝負で勝ったことがないな…」
七海は、笑顔で続ける。
「覚えてるか…?」
覚えてる…?
忘れるはずがない…。
あんな、楽しかった思い出…。
「覚えてるよ…。あの、天歳川のグラウンドで…。聖斗をキャッチャーにしてさ…」
「ああ…。ウチの『嫌がらせバッティング』の、誕生のキッカケや…」
「ななみん、ボールを50個全部川に飛ばしちゃってさ…。全部拾わないで、途中で帰ったでしょ?マンボウズのみんな、怒ってたよ?」
「あの、マンボウズのガキども…生意気やったなぁ…」
「でも、みんな、ななみんのこと、大好きだったよ…。特に、ベンなんてね、ななみんに憧れて、ライトのレギュラーになったんだよ」
「ホンマ?へぇ〜…。あのチビ、がんばったなぁ…」
「今度、試合を見てあげなよ。ベン、ななみんに一番見てもらいたいんだよ…」
「そうやな…。見れたらな…」
七海は、悲しそうに微笑んだ。
「………」
藍は、涙で言葉が詰まった。
5995投稿者:リリー  投稿日:2009年01月31日(土)21時09分06秒
「あ…あと、あの勝負!!どっちがピッチャーやるかって…」
「え…?あ、うん!!覚えてるよ!!」
七海の言葉に、藍は零れかけた涙を堪えて答える。
「あん時、ウチは速い球を放れたら、それでええんやって思ってた…。せやけど…野球はチームプレイ…。結局、ウチはまた負けた…」
「でも…ピッチャーとしての実力は、ななみんの方が上だよ!!」
「そんなことない…。試合の途中でバテてもうたし…。とても最後まで投げきることはできんかった…」
「だからこそ…私とななみんで助け合って投げればいいって…あすみんが…」
そう言いかけて…藍は言葉を切った…。
「………」
七海もだ…。
まだ雪の上で倒れているあすみを、藍は見た。
「…また…やりたいね…」
藍は、呟く。
「…また…野球…やりたい…」
「…ウチもや…」
七海も、絞り出す様に声を出す。
「…でも…」
「…やろうや…」
「…え…?」
「…野球…また、やろうや…」
5996投稿者:リリー  投稿日:2009年01月31日(土)21時09分43秒
「でも…。でも…。私達…」
もう、あの楽しい時に戻るのは無理だ…と、藍は思った。
敵同士なのだ…。
もう…自分達は、あの時に戻れないのだ…。
「…やろうや…」
「…え…?」
「その為に、ウチは戦ってんねん!!」
「その…為に?」
「ああ…。また、ウチ等で野球する為に…」
七海は、穏やかな笑顔で言う。
「ウチと…あい〜んと…あみ〜ごと…ありりんと…じょわんと…り〜なと…えまちんと…えりりんと…まにゃ先輩と…あず〜先輩と…」
「…ななみん…?」
初めて呼んだ…?
七海が…野球部のみんなを…藍がつけた…あだ名で…。
「また…やるんや…」
「………」
藍は、今度は涙を堪えることができなかった。
5997投稿者:リリー  投稿日:2009年01月31日(土)21時10分09秒
「あい〜ん…。あんたは…どうなんや…?」
「…え…?」
「やりたいんやろ?野球…」
「………」
「みんなと…」
「…うん…」
藍の涙が、雪の上に落ちた。
「私…野球…やりたいよ…。みんなと…もう一度…」
藍は、泣いた。
あの楽しい日々を…もう一度取り戻してみたくて…。
七海は、声をかける。
「戻ろう…」
「…戻る…?」
「あの日に…」
そして、手を差し延べる…。
「『表』の世界に…」
「…うん…」
藍は、手を伸ばす。
5998投稿者:リリー  投稿日:2009年01月31日(土)21時10分31秒
しかし、藍の手を掴む者がいる…。
「…!?」
「あすみん…!?」
中田あすみだった。
「あい〜ん…。戻りたいんなら…戦って戻らなきゃ…」
「た、戦う…?」
「最後の勝負…ななみんと…」
あすみは、藍の手にヨーヨーを握らせた。
「これを…あんたの思いを…ななみんにぶつけるんだ…。そして…ななみんは…それを、全力で打ち返す…」
「…?」
「ななみんが…勝てば…あんたは…『表』の世界で…野球ができる…。思いっきりね…」
「ど…どういうこと…?」
藍は、あすみの顔を見詰める。
あすみの顔は、今まで見た中で、一番厳しい。
「言っておくけど…わざと手を抜いて負けても…あんたは、『表』の世界に帰ることはできないよ…」
「…あ…あすみん…?」
「私が…あんたを…帰さない…」
そして、今度は七海の方を見る。
「ななみんも…それでいいね…?」
5999投稿者:リリー  投稿日:2009年01月31日(土)21時10分52秒
七海は、怖い顔で一つ頷く。
「ええけど…。オノレがウチを、『ななみん』って呼ぶな…」
あすみは、目を閉じて笑った。
「…いいじゃないか…。好きな様に呼ばせてくれよ…」
「…?」
七海は、あすみの考えがわからない。
あすみは、藍の方へ向き直る。
「いいかい?これを…ななみんの頭へ…全力で投げるんだ…」
「で…でも…そ、そんなことをしたら…」
「いいから…!!全力で投げるんだ!!」
厳しいを通り越し、あすみの声は悲痛なものに変わっていた。
「…ど、どうしちゃったの…?あすみん…?」
「私が、どうしたか…より…あい〜ん…あんたが、どうするか…だよ…」
「…?…?…?」
もう、藍はわけがわからない。
「ええで…!!あい〜ん!!さあ、全力で投げえ!!」
七海は、バットを構えた。
「…ななみん…」
藍は、呆然と七海を眺めた。
6000投稿者:リリー  投稿日:2009年01月31日(土)21時11分45秒
「ウチは…わかったで…。オノレの考え…」
七海は、あすみを睨む。
あすみは、ふっと息を吐く様に笑った。
「…だったら…」
「遠慮はせん!!」
「…そう…。さあ、あい〜ん…。勝負…」
そう言って、あすみは藍の側から離れた。
丁度、ピッチャーとセカンドの距離だ。
「…いくよ…」
藍は、七海を見詰める。
「…こいや…」
七海は、バットを構える。
この一球に…自分の思いを、全て乗せる…!!
藍は、大きく振りかぶった。
手には…冷たい…金属のヨーヨー…。
でも…これが…白球に変わる…。
誰も傷つかない勝負…。
勝っても、負けても…成長し合える世界…。
喜び、励まし合える世界…。
何度も…何度も…。
藍は、自分の思いを全て込め、七海へ向けて解き放った。
6001投稿者:リリー  投稿日:2009年01月31日(土)21時12分40秒
「…!!」
七海は、藍の指からヨーヨーが離れた瞬間、その場で一回転、身体を翻した。
ヨーヨー一個分、身体が外へ…。
「ヨー…」
七海は、バットを握り締める。
「ソー…」
バットの先を、固定する。
「ロー!!」
全ての力をバットに込め、振り抜いた。
ヨーヨーは、バットに弾き返された。
その弾道は…藍の脇を通り抜け…あすみへ…。
「捕ってみんかい!!あすみ〜〜〜〜〜!!!」
「え…?」
七海の絶叫を聞き、藍は後ろを振り返る。
そこには…両腕を左右に大きく広げたあすみが…。
「…あ…あすみん…?」
藍の思いと…七海の思いを…全て受け止めようとする…あすみの姿が…。
ヨーヨーは、あすみの胸に、喰いこんだ。
「受け止めたよ…。あい〜ん…。ななみん…。あんた達の…気持ち…」
そのヨーヨーを、しっかりと抱きとめて…あすみは仰向けに、ゆっくりと倒れた。
【『TDD』・『タワー(塔)』・中田あすみ…撃破】
6002投稿者:リリー  投稿日:2009年01月31日(土)21時14分06秒
では、おちます
6003投稿者:117  投稿日:2009年01月31日(土)21時24分37秒
楽しかった「聖テレ」野球部での思い出・・・やばい、感動ものですね!
あすみはその思いを受け取り、藍は「表」の世界へ?続きも気になります!
6004投稿者: 投稿日:2009年01月31日(土)23時42分27秒

6005投稿者:一七でも  投稿日:2009年02月01日(日)02時46分17秒
クライマックスで七海が有海のことを、あみ〜ごとあだ名で呼んだ

つまり、終わりが近いってことか・・・
6006投稿者:きゅん  投稿日:2009年02月01日(日)02時50分50秒
 
6007投稿者:あげ  投稿日:2009年02月01日(日)16時45分36秒
 
6008投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時10分03秒
117さん
まだ、藍が表に戻れるかどうかはこの時点では決定的ではありません
あと、一仕事あります…
6005さんも仰ってる様に、七海がみんなをあだ名で呼ぶのは、物語の終わりを示しています
でも、心の中で呟いたことはあります

あげ(きゅん?)コメントも、ありがとうございます

では、更新します
6009投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時13分38秒
【体育館・8】
ダーブロウ有紗、ジャスミン・アレン、モニーク・ローズ、加藤夏希…この4人が、一斉に寛平に襲いかかる。
4人の内、誰か一人でも寛平に攻撃が届けばいい…そう思っての特攻だった。
だが、実際には…誰の攻撃も、寛平には届かない…。
夏希とジャスミンの剣は空を斬り、モニークの爪は寛平の左手の手甲に阻まれ、ダーブロウ有紗のマグロ包丁は寛平の杖に受け止められた。
そして、その杖はマグロ包丁を弾き、ダーブロウ有紗、ジャスミン、モニーク、夏希の順番に振り下ろされる。
「ぐ…!!」
重い鈍器で殴られたかの様な衝撃…。
「ま、負けるな…!!」
しかし、4人は両足を踏ん張り、寛平への攻撃を続ける。
一度でいい…!!
この至近距離…たった一つの致命傷を負わせるだけで…!!
その思いが、4人を突き動かす。
だが、彼女達の攻撃は、ことごとく跳ね返される。
どんなタイミングで、どんな角度で攻撃を仕掛けても、寛平は数ミリの差で避け、手甲と杖で受け止める…。
当たらない…。
その代わり、寛平の攻撃は面白い様に命中する。
この出鱈目な動きは、計算しつくしているのか?
いや…寛平のことだ…天然の…勘なのだろう…。
6010投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時14分14秒
杖を振り回す度に、血が飛び散る。
その血は、もちろん『四天王』のものだ。
もう、防御も奥義もない…。
ただ、ただ、寛平を刺す…!!
それだけだ…!!
寛平の杖が、振り下ろされる。
それは、夏希の脳天へ…。
「ぐぁ…!!」
まず、一番深手を負っている夏希が倒れた。
「ちぃ…!!ほんと、使い物になんねぇじゃねぇか!!」
ダーブロウ有紗は、床に倒れて動けないでいる夏希を見下ろし、悔しそうに呻いた。
「ジャスミン、あの手甲を何とかしろ!!おまえが奪われたんだ!!責任とれ!!」
そう…あの手甲をどうにかすれば、寛平攻略が見えてくる…。
「わかったわ!!でも…その後のことは、お願い!!」
ジャスミンもわかっている。
自分の力は、寛平に奪われた手甲を破壊することで、全てを使ってしまうと…。
6011投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時14分52秒
「『Guilty』!!」
ジャスミンは、寛平の手甲だけに狙いを定め、剣を放つ。
防御はしない…ただ、手甲の破壊に全神経を集中させる。
手甲のネジや継ぎ目に、剣先で突く。
その間、寛平の杖は、容赦なくジャスミンを叩き続ける。
「ぐ…!!うぅ…」
ジャスミンの金髪が、赤く染まっていく。
それでも、ジャスミンは倒れない…。
手甲を破壊するまで…。
寛平の杖はジャスミンの側頭部を叩いた。
「…あぅ…」
ジャスミンが倒れると同時に、寛平の左腕の手甲は、バラバラと音をたてて床に散らばった。
6012投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時15分05秒
「よし!!ジャスミン!!よくやった!!」
ダーブロウ有紗は、マグロ包丁を構えて寛平へ向かっていく。
「待て!!ダーブロウ!!」
その時、肩をモニークに掴まれて止められた。
だが、モニークの手には、爪の付いたグローブが…。
思いっきり、肩に食い込んだ。
「い、痛ぇな!!何、しやがんだ!!」
悲鳴混じりに、ダーブロウ有紗はモニークに怒鳴った。
「わ、悪い…。しかし、ちょっと待つんだ」
「な、何だよ…!!せっかく、ジャスミンがつくったチャンスを…」
「だからこそだ!!このチャンスを、もっと、確実なものにする!!」
6013投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時16分44秒
「あん…?どういうことだ…?」
ダーブロウ有紗は、寛平の攻撃が届かない所まで、避難する。
この間、寛平はまだ『止まると死ぬ拳』を続けている。
『止まると死ぬ』と言っているのだから、止まれないのだろう。
モニークは、この非常事態に冷静に、ゆっくりと説明する。
「ジャスミンは、寛平の防御を奪うことに成功した。今度は、攻撃の手段を奪うんだ…」
「攻撃の手段…?」
「あの、杖だ…」
あの、何の変哲もない、木製の杖…。
だが…。
「あの杖を破壊するってか?でも、私の『アップル・シェイク』でも…」
「違う…!!破壊するんじゃない。『止める』んだ!!」
「止める?」
「ああ…。しっかりと掴んで、止める…。その役目が…私だよ…」
そう言いながら、モニークは爪付きグローブを着けた手を広げて見せた。
「私の武器と、『Roam』なら…可能だ…」
「そ、そうか…その瞬間を…私が…」
「ああ…。いいかい?チャンスは一度だよ?」
「誰に向かって言ってんだ!?」
「ふふ…。その意気だ…」
そう言った直後、モニークは姿を消した。
6014投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時17分48秒
「…!?モニーク!?」
「今だ!!」
声のする方を見る…。
寛平のいる方だ。
モニークが、しっかりと寛平の杖を掴んでいる。
ジャスミンが、手甲の破壊に集中した様に、モニークも、杖の動きだけに集中していたのだろう。
「い、いきなりかよ!!」
ダーブロウ有紗は、マグロ包丁を構えて飛び上がった。
「…!!」
寛平は、咄嗟に杖を離そうとした。
『止まると死ぬ拳』は、『拳』と銘打っているだけあって、素手でも威力を発揮するのだろう…。
「逃がさないよ!!」
だが、モニークは、その爪を寛平の腕に食い込ませた。
「…むむ…!?」
「うりゃあああああ!!!」
ダーブロウ有紗は、マグロ包丁を下へ突き付け、落下してくる…!!
マグロ包丁は、寛平の脳天を狙っている…!!
逃げられない…!!
「ぐぬぉおおおお〜〜〜!!!」
寛平は、珍しく雄叫びをあげると、モニークが掴んでいる右手を、思いっきり振り上げた。
モニークをぶら提げたまま…。
6015投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時18分30秒
「な、何…?」
モニークの身体が、宙に浮いた…その直後、身体に激痛…!!
落下する、ダーブロウ有紗と激突したのだ。
咄嗟にダーブロウ有紗が、マグロ包丁を引っ込めたので、モニークの身体に包丁が串刺しになるのは避けることができたが…。
「ぐあ…!!」
ダーブロウ有紗は、床に背中を打ち付けた。
そして、モニークも床に叩きつけられた。
「ぐ…!!」
だが、モニークは寛平の腕を離さない。
もう一度、モニークの身体は宙に浮く。
「…う…」
また、叩き付けられる。
「…ぐうぅ…」
何度も、何度も叩き付けられ、とうとうモニークは力尽きた。
6016投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時18分44秒
深く食い込んだ爪は、寛平の腕から引き剥がされた。
ようやく寛平は、その動きを止めた。
「おお…イタ…。こない痛いの、久しぶりや…」
寛平が右腕の傷を眺めながら呟いたその時、更なる激痛が、寛平の左足に…。
「…ぬぁ…!?」
黒い靴下を履いた左足甲に…マグロ包丁が深々と…床まで貫通して突き刺さっていた。
「へへへ…。『止まると死ぬ拳』…?死なねぇじゃねぇか…」
ダーブロウ有紗が、激痛に歪む寛平の顔を見上げて、笑っていた。
6017投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時19分20秒
「ぐぉぉ…!!ダーブロウ…!!」
寛平の顔から…ようやく…いや、初めて余裕が消えた…。
「へへへ…。痛ぇか…?痛ぇよな…?」
ダーブロウ有紗は、マグロ包丁を寛平の足から引き抜いた。
「…おおお…」
寛平の立つ床から、血が湧き出て来た。
「こんな怪我…。おそらく初めてなんじゃねぇの…?ええ?史上最強のジジイ…」
ダーブロウ有紗は長い舌を出すと、包丁に突いた血を舐めた。
「いたたた…。ううん…『怪盗ノッポ』と戦うた時の方が、しんどかったわ…」
「おや、そうかい…。だったら、私が『ノッポ』越えを果たしてやろうじゃん…」
「『ノッポ』越え…?ない、ない…。君等は、4人がかりでここ止まりや…。これ以上、ええとこはないで?」
6018投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時19分42秒
寛平は、左足を引き摺って近づいてくる。
その杖を…本来の役目で使っている。
ダーブロウ有紗は、床に転がる三人を見回す。
「ふん…!!夏希も、ジャスミンも、モニークも死んじゃいねぇ…。てめぇの奥義も、大したこと、なかったな!!」
「うん…?死んでないんやない…。殺さへんかっただけや…」
「何だと?」
「この娘等は、これから『TDD』のメンバー…『デビル(悪魔)』、『ジャスティス(正義)』、『ムーン(月)』になる予定や…。殺すわけないやん…」
「…仲間…だと…?」
ダーブロウ有紗の眉が、ピクリと動く。
「あんたもやで…。『ワールド(世界)』…」
寛平は、もうすっかりドーランの流れ落ちた顔を、ニヤリと歪ませた。
6019投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時20分08秒
「拒否してやる!!私の全身全霊をかけて、拒否してやる!!」
千切れんばかりに、自らの身体を捻る。
「うおおおおお〜〜〜!!!」
ダーブロウ有紗は、最後の力を振り絞って、『アップル・シェイク』を仕掛ける。
「来るか?」
寛平も、『アップル・シェイク』を仕掛ける。
二つの竜巻が、ぶつかり合う。
今度は、すぐには決着がつかない。
激しい、火花が散る…。
そして、血飛沫…。
二つの竜巻は、壁に、天井に、床にぶつかりながら、それでも回転を止めない。
そして、とうとう体育館の壁を破り、外へ飛び出した。
雪の上に、二つの身体は転がった。
一面、雪に赤い鮮血が散らばる。
ダーブロウ有紗と寛平は、血だらけの身体を雪の上に横たわらせている。
「へ…へ…へへ…。こ、今度は…引き分け…だぜ…」
ダーブロウ有紗の声…。
「ひ…引き…分け…?ちゃうな…。先に…立った方が…勝ちや…」
寛平の声…。
6020投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時20分36秒
「な…何だ…?勝手に…ルール…つくるんじゃ…ねぇ…」
「天下一…武道会じゃ…そういう…ルールやろ…?」
「天下一…武道会…?じゃ、じゃあ…二人とも…場外負けじゃねぇか…」
「ま…それも…そうやな…。勝手に寝とけ…ワシは…立ち上がって…あんたに…トドメを…刺す…」
「トドメ…?なんだ…。仲間に…するんじゃ…ねぇのかよ…?」
「そう…思うた…けど…。やっぱり…あんたは…危険や…。どう…考えても…飼い慣らすこと…できん…」
そして、こう続けた。
「あんたのこと…犬や…言うたけど…取り消しや…。あんたは…狼や…」
「へ…へへ…。噛み付かれて…今頃…気がついたか…」
「ああ…。せやけど…ワシの方が…強い…狼や…」
寛平は、ダーブロウ有紗より先に立ち上がった。
その差は、杖の差だ…。
「く…!!ち、ちくしょう…!!」
ダーブロウ有紗は、雪の上に這い蹲りながら、寛平を睨みあげた。
「天下一…武道会やったら…これで、ワシの勝ちやけど…」
寛平は、杖の先をダーブロウ有紗へ向ける。
「殺したら…その時点で…負けやけど…」
寛平の目が、深く沈む。
「これは…漫画やない…」
6021投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時21分00秒
その時、辺りが明るく照らされた。
「…!?」
体育館脇に駐車された、ランドクルーザーの、ヘッドライトだった。
そして、エンジン音…。
後輪が、高速回転している…。
「な…何や…!?」
車に、誰かが乗っている…?
その車が、急発進した。
寛平目がけて…。
「ア…アカン…」
逃げられない…。
ランドクルーザーは、寛平を跳ね飛ばすと、体育館の壁に激突した。
「…!?な、何だ!?」
ダーブロウ有紗も、これにはただ、驚くだけだった。
ランドクルーザーのフロント部は大きく潰れ、煙を吐いている。
「…だ…誰だ…?」
誰が、車に乗っているのだ…?
誰が、寛平を跳ね飛ばしたのだ…?
誰が、自分を助けたのだ…?
6022投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時21分45秒
車のドアが開く…。
そして…一人の男が…転がり出てきた…。
そして、こう叫んだ。
「だ、大丈夫か!?ダーさん!!」
「…!?レ…レッドさん!!」
ダーブロウ有紗は、思わず叫んだ。
車で寛平を跳ねたのは…ダーブロウ有紗の命を救ったのは…『R&G探偵社』の社長…今まで、まったく、これといった見せ場のなかった…レッド吉田こと、吉田永憲だった…。
6023投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時22分19秒
「ダーさん!!」
吉田は、ギプスをはめた足で、ダーブロウ有紗の下へ駆け寄った。
「もう…大丈夫や…!!戦いは…終ったで…!!」
「レ…レッドさん…。何で…ここに…?」
「ワシは、『R&G』の社長や!!『TDD』の社長を倒すんは、同じ社長の、ワシしかおらんやろ!!せやから、ずっと車の中におって、倒すチャンスを待っとったんや!!」
「レッドさん…。あんた…」
「ダーさん…。でも…生きててくれて、良かったなぁ…。死なんくて…ほんまに良かった…」
吉田の小さな目が、涙で光っている。
「レッドさん…。何…泣いてんだよ…」
「ダーさんこそ…泣いてるやん…」
「な、泣いてねぇよ…!!」
命がつながった…。
何度、死を覚悟したかわからない…。
でも…これで、終ったのだ…。
何もかも…。
6024投稿者:リリー  投稿日:2009年02月01日(日)21時22分50秒
それでは、これでおちます
6025投稿者:いや、  投稿日:2009年02月01日(日)21時23分51秒
寛平さんが簡単に戦闘不能になるかなー?
でもレッドさんナイスタイミングだー
6026投稿者:確かに  投稿日:2009年02月01日(日)21時33分39秒
これ以上ないほどのタイミングだけど…文末に「撃破」と書かれてないのでまだ終わってない気がする
6027投稿者:というかその前に……  投稿日:2009年02月01日(日)21時36分24秒
……あまりの展開に吹いたwwwwwwwww
6028投稿者:どうなるんだ  投稿日:2009年02月01日(日)22時37分42秒

6029投稿者:元気〜  投稿日:2009年02月01日(日)22時38分10秒
 
6030投稿者:デジ  投稿日:2009年02月02日(月)04時36分57秒
約束どおり二月に戻ってまいりました。(「約束」って。この小説の楠本さんみたい)
これなかった分をまとめて感想にします。(長くなりますがすいません)
(21日)
みのぽー撃破。名勝負・・・でしたが頭突き一発でノックアウトって、意外にあっさり終わりましたね。
恵さん撃破。最後まで、戦う気持ちを捨てないで敵に向かう二人。こちらは正真正銘の名勝負でしたね。
(26日)
「チームF」VS寛平さん
さすが最強言うだけありますね寛平さん。ちょっとの時間でもう拮抗してる。
そして、次から4対1の対決になるわけですね。
(28日)
七海と羅夢・・・この戦いになるまで絶対にないと思われた組み合わせ。それが今や、覆されてますね。
さらに七海の告白。このチームがこのあとも続く事を期待しいてます。
(30日)
すさまじい激闘。
『奥義泥棒』寛平さん。そして、有紗の言ってた「本当に宇宙人というオチ。」これ、ありそうだから怖い。
「止まると死ぬ県」意味やいかに。
6031投稿者:デジ  投稿日:2009年02月02日(月)04時40分45秒
(31日)
藍の付けたあだ名を始めて呼ぶ七海。
今となっては懐かしいの記憶になってしまった聖テレ野球部での短い活動の思い出。それは、彼女達にとってのかけがえのない宝物。
その重すぎる思い出を胸に・・・あすみは倒れる。
ここ最近のまれに見ない感動。この小説、いやリリーさん作品(全部読破してます)一番の感動といっても過言ではなかとでしょう。
(今日)
次々と倒れていく四天王。そして、倒した(?)のは、レッドさんでしたか!戦いの渦中にいないと思ったらこんなところに。レッドさん確信犯ですね。
「TDD」にとっちゃ一番度外視してた存在の一人にしてやられた感じか?
「撃破」とかかれていないが結末やいかに?続きも楽しみです!
             (今日の小言)
夜遅すぎるので今日は更新はやめます。というより忙しすぎて小説が進みません。
明日は一応少しだけ更新したいと思います。
6032投稿者:デジ  投稿日:2009年02月02日(月)04時45分11秒
訂正
6030の最後の行
止まると死ぬ県→止まると死ぬ拳ですね。
止まると死ぬ県。ある意味止まると死ぬ拳より怖いですね
間違いなんていっぱいあるけどいくらなんでもこの間違いは・・・
6033投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時48分12秒
6025さん
たしかに、ナイスタイミングというか、今まで存在自体を忘れられた感のあるレッドさんを、どの辺りで出せばいいか、結構悩みました
6026さん
「撃破」の文字がない謎は、今夜でわかります
6027さん
確かに、まさかのレッドさん大金星ですからね
6028さん
この後の展開を、気にして下さって嬉しいです
6029さん
はい、元気です
最近、忙しいですが…
6034投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時48分26秒
デジさん
お久しぶりです
テスト、終わったんですか?
また戻って来て下さり、嬉しく思います
今までの内容に丁寧に感想をつけて下さり、ありがとうございます
特に31日の感想で、そこまで仰って頂き、光栄です
感動的なラストにできるよう、がんっばります(もう、書き終わっていますが)
「止まると死ぬ県」…たしかに、怪談の様な怖さですね
デジさんも、お忙しい様で…マイペースで焦らずいきましょう

では、更新します
6035投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時49分28秒
「ま…まさか…」
双眼鏡で各戦場を覗き見ていた、『TDD』社長秘書兼作戦参謀、『ジャッジメント(審判)』のシンパンマンは、青くなりながら呟いた。
「社長が…」
そして、双眼鏡から目を離した。
シンパンマンは、学校の隣にある消防団の詰め所に建っている、火の見櫓にいた。
そこから、学校全体を見回していた。
彼の役目は、学校から逃げ出す者がいないか、監視する為。
同じ役目の翔子が、あすみと藍のいる運動場に行ってしまったので、彼は一人で見張りをしていた。
彼が確認した限り、学校から逃げ出す者は誰一人としていなかった。
ただ、学校へ入ってくる者は、何人か見かけた。
ダーブロウ有紗、ジャスミン・アレン、モニーク・ローズ…。
6036投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時49分49秒
侵入者が、あの『TTK』四天王ということで、とにかく楠本へ連絡を入れたが、彼の携帯につながらない。
それに、理沙やあすみが敗北するのを、双眼鏡で見ていたし、講堂に入った恵とはるかも、随分時間が経つというのに、出て来ない。
そして、寛平は急発進した車にはねられた。
社長の吉田が、体育館脇に駐車してあったランドクルーザーに乗り込んだのは見ていた。
だが、それは、彼が逃げ出す為に乗り込んだとばかり思っていたのだ。
まさか、寛平をはね飛ばすとは…。
「これは…もしかしたら…我々『TDD』の完全敗北なのでは…?」
最悪の結末ではないのか…?
このまま、自分だけでも東京に帰って、『R&G』打倒の烽火を、改めて上げる必要がある…。
寛平、楠本、理沙、あすみ、恵、はるか、翔子…今回の任務で使った『カード』…強力な布陣で挑んだはずだが…。
「こうなったら…残った『カード』で、『R&G』を皆殺しにしなければ…」
6037投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時50分23秒
残った『カード』は、自分も含め、あと8人…。
『ハイエロファント(教皇)』の伊藤正幸。
自分、そして楠本よりも、分析能力の優れた作戦参謀…今回の、帆乃香が使った盗聴器、あすみ、藍の使った小型モーター付きヨーヨーなど、武器開発も行う。
『ハーミット(隠者)』の肥後克広。
変装の天才…内部調査、情報収集なら、彼の右に出る者はいない。
『ハングドマン(吊られた男)』の上島竜兵。
比類なき、打たれ強さの男…真性のマゾヒスト…進んで最前線で戦い傷つくが、決して死ぬことはない男…。
『テンバランス(節制)』の寺門ジモン。
強靭な肉体を持つ、武闘派…恵に比べれば見劣りはするが、それでもその鍛え抜かれた肉体は、大きな武器となる。
6038投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時50分53秒
「そして…この三人…」
『ホイール・オブ・フォーチュン(運命の輪)』のT−ASADA。
元『TTK』の戦闘教官…『TTK』壊滅後、シンパンマン自らスカウトしたのだ。
ダーブロウ有紗やモニーク・ローズなど、彼が育てた『戦士』も多く、必ずこの戦いに役に立つ。
『チャリオッツ(戦車)』の角田信朗。
『TDD』最強の、武闘家…接近戦、肉弾戦の強さは凄まじく、武器なしの状態で戦えば、楠本はもちろん、寛平だって勝てるかどうかわからない。
『マジシャン(魔術師)』の『怪盗・ノッポ』。
寛平の旧知の仲であり、共に『TDD』を立ち上げた盟友…強さも、寛平と互角と言う…。
「いや…」
シンパンマンは舌打ちをし、首を横に振った。
『怪盗ノッポ』は、絶対に姿を現さない…。
ボスである寛平にしか、姿を見せたことがないのだ。
ボスである寛平の命令しか、聞くことはないだろう。
6039投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時51分35秒
「と、とにかく…東京には早く戻った方がいい…。『R&G』打倒の為、一日でも早く準備を整えねば…」
シンパンマンは、急いで火の見櫓を降りると、消防団の駐車場に停めてあったベンツのドアに手を掛けた。
その時、一気にシンパンマンの腰から下の力が抜けた。
砂利に膝を着く、シンパンマン。
「な…何…?」
そして、肩の力も抜け、腕の力も…背中の力も…そして、視力、聴力も失った。
「ふ…ふああああ………」
気の抜けた悲鳴をあげながら、シンパンマンはズルズルと緩慢に崩れ落ちた。
彼の身体には、一面に細く小さな針が刺さっている。
そして、少女の声…。
「…もう、これ以上、あなた達と戦うつもりはありません!!」
シンパンマンには、この声が届かなかった。
その声の主は、加藤ジーナ。
「私…戦わないって言ったけど…これくらいの圧勝だったら、お姉ちゃんも文句言わないよね…」
だが、ジーナは、ふと不安げな表情になる。
「お姉ちゃん…。ダディ…。死んでないよね…?無事だよね…?」
シンパンマンの言葉を信用すれば…もう、既に戦いが終った学校を…ジーナは見詰めた。
【『TDD』・『ジャッジメント(審判)』・シンパンマン…撃破】
6040投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時52分10秒
「あ〜…。ビックリした…。死ぬかと思うた…」
「…!?」
「…!?」
ダーブロウ有紗と、吉田は、同時に振り向いた。
ランドクルーザーの屋根の上に…『TDD』社長、『フール(愚者)』の間寛平が…血まみれで立っていた…。
「吉田さん…。お久しぶりやね…」
寛平は、ランドクルーザーの屋根から飛び降りた。
その時、彼は無様にも転んだ。
もう、彼も満身創痍だ…。
だが…。
それでも、寛平は立ち上がり、二人に近づいていく。
傷ついた狼が…まだ、獲物を狙う…。
6041投稿者:T−ASADA  投稿日:2009年02月02日(月)21時52分13秒
元TTK教官……

これを天てれ関係者って見ていいのか疑問
6042投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時52分46秒
「…う…」
吉田は、レッドという異名とは正反対に、顔を青褪めさせる。
「レッドさん…!!逃げろ!!」
ダーブロウ有紗はそう言うが…。
「逃げん…」
「あん!?」
「逃げへん…」
「逃げろよ!!」
「逃げん!!」
吉田は、声を荒げた。
6043投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時53分26秒
「逃げろよ!!」
「何やと?」
「あんたは生きて、チビアリやパッツンやデコッパチ達を…面倒みなきゃいけねぇだろうが!!」
「ダ、ダーさんは、どうすんねん!!」
「私は、死んでもいいんだ!!」
「な…何を…」
「戦いの中で、死ぬ運命なんだ!!」
「アホ!!」
吉田は、ダーブロウ有紗の頬を打った。
「………」
ダーブロウ有紗は…しばらく雪を見詰めていたが…やがて、ゆっくりと顔を上げて、今度は吉田の顔を見詰めた。
吉田の顔は…微笑んでいた…。
「…レッドさん…」
「死ぬ運命の人なんて…死んでもいい人なんて…おらんのやで…?」
「…レッドさん…」
「ダーさんやって…幸せになって…ええんやで…」
「…レ…レッドさん…。あ…あのな…」
「…ん…?」
その時、寛平の気の抜けた声が、二人の会話を断ち切った。
「ぱきゅ〜ん」
6044投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時53分45秒
ダーブロウ有紗は、目を覚ました。
「………」
どれくらいの間、寝ていた…?
まだ、辺りは暗い…。
自分は今、仰向けで寝ている…。
月が見える…。
まだ、夜が明けていない…。
横を向く。
吉田も、仰向けで倒れていた。
そして…雪を踏みしめる足音…。
片方を引き摺り…杖を着いている…。
寛平の足音だ…。
あれから…気を失ってから、まだ1分も経っていないようだ…。
「レッドさん…。生きてるか…?」
「………生きてるよ………」
ダーブロウ有紗は、安堵の息をついた。
「そうか…。よかった…」
そして次の言葉を、言おうかどうか、迷った。
6045投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時54分05秒
寛平の足音が聞こえる。
近くに迫ってきている…。
迷っている場合じゃない…。
「…レッドさん…。さっきの…続きなんだけど…」
「…何や…?」
「…あのな…レッドさん…」
「…ん…?」
「…レッドさん…」
「…何…?」
「………」
「…ダーさん…?」
「…結婚しようか…?」
「………」
「…おい…」
「………」
「…何とか言えよ…」
「………」
「…おいってば…」
「…ちょっと…ショック死しかかった…」
ようやく、吉田は声を出した。
6046投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時55分20秒
「…マジ…?」
「…うん…。マジ…」
「…何で…?」
「…決めてたんだ…」
「…何を…?」
「…私の…夫になるヤツは…最低でも、3つの条件を満たしてなきゃダメだって…」
「…3つの条件…?」
「…ひとつ…私よりも強い男じゃなきゃ…いけねぇ…」
「…アカンやん…」
6047投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時55分33秒
「…うん…。だから、3つの内、二つ満たしてりゃいいやって…」
「…そ、その二つって…?」
「…私の命を救ってくれる…男…」
「…ああ…救ってもうた…」
「…そして…私を…殴ってくれる…男…」
「…殴ってもうた…」
「…責任とれよ…?コンチクショウ…」
「………わかった………」
「…え…?」
「…結婚しよう…」
「…レッドさん…?」
「…で…当然…夫は、妻を守るもんや…」
そう言って、レッドは最後の力を込め、身体を起こした。
6048投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時55分56秒
「ダーさん…。結婚して…すぐに未亡人にすること…許してや…」
「…な、何…言ってやがる…」
ダーブロウ有紗も、最後の力を振り絞り、身体を起こした。
「こ、このジェンダーフリーの…世の中だ…。夫を守る…妻がいても…いいじゃねぇか…」
そう言って、ダーブロウ有紗は笑った。
「ああ…こうして見ると…ダーさんって…ええ女やな…」
「今更、何言ってんだ!!」
そして、こう続ける。
「レッドさんは…こうして見ると…やっぱり地味な顔してんな…」
「…ほっとけ…」
「へへ…。でも…子供は…程よい顔になって生まれてくるぜ…」
「子供…?」
「うん…。子供…」
これから死ぬのに…?
吉田は、この言葉を押し込めた。
ダーブロウ有紗は…これから妻となる女は…まだ、諦めてはいない…。
それならば…自分だって…!!
6049投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時56分30秒
「9人、産もう…」
「9人…?」
「野球チームがつくれるくらい…」
「…へへ…!!男は呑気って言うか…無責任って言うか…」
「…ん…?何が?」
「出産って、すんげぇ痛いらしいって言うぜ?コンチクショウ!!」
「大丈夫…」
「あん?」
「ダーさんなら、耐えられる…」
「…ほんと…コンチクショウな男だぜ!!」
二人は、お互いの身体を支えながら、立ち上がる。
寛平が…杖を着き…こちらへ近づいてくる…。
血だらけで…傷だらけで…足を引き摺って…。
こうして見ると…なんと小さな老人か…。
二人の前に…もう、恐れるものは、何もない…。
「さてと…始めようか…」
ダーブロウ有紗は、マグロ包丁を持つ手の上に、吉田の手を重ねて置いた。
「初めての…共同作業…てか?」
二人は、ゆっくりと…足並みを揃えて歩き出した。
6050投稿者:逃げん!のあたり  投稿日:2009年02月02日(月)21時56分59秒
らりるれろの千秋瑠璃をイメージしたのってあたしだけ?w
6051投稿者:天てれにでてたなら  投稿日:2009年02月02日(月)21時58分38秒
立派な関係者でしょうよ
6052投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)21時58分57秒
6041さん
まあ、確かにそうですが(彼もシンパンマン同様、名前がわかりませんでした)彼は名前だけ出演みたいなものなので…

また、唐突な展開になりましたが、実は『第二試合』のオッパイマッサージが伏線になってまして…
二人の結婚は、随分前から決めてました…

では、おちます
6053投稿者:リリー  投稿日:2009年02月02日(月)22時00分48秒
6050さん
そうですね
女の子よりも弱い男の意地の見せ所とでも言いましょうか…

6051さん
彼も、裏方としてガッチリと関係してますからね
6054投稿者: 投稿日:2009年02月02日(月)22時31分03秒

6055投稿者:え?冗談ちゃうのん?  投稿日:2009年02月02日(月)22時35分57秒
ダーのプロポーズ
6056投稿者:この衝撃の展開の中  投稿日:2009年02月02日(月)23時55分20秒
地味に倒されたシンパンマンw
6057投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時09分12秒
6055さん
はい、冗談ではないのです
マジ告白です

6056さん
私も、地味に忘れてたんです
シンパンマンを、ほったらかしだと…

では、更新します
6058投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時11分35秒
【運動場・8】
「しょこたん!!起きて!!しょこたん!!」
自分を揺り動かす者がいる…。
「…うん…?」
翔子は、眼を覚ました。
「…ギザ…冷たい…」
自分の顔は、雪に埋もれていた。
「しょこたん!!起きてってば!!」
この声は…。
「あい〜ん…?」
翔子は、一気に上半身を起こした。
「ああ…!!しょこたん!!」
藍の顔は、涙に濡れていた。
「ど…どうしたの…?あい〜ん…?」
「あすみんを…あすみんを助けて!!」
「あすみを…!?」
勝負の行方は、どうなったのか…?
6059投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時13分18秒
「あすみが…どうしたの?」
「お願い!!こっちへ…!!急いで!!」
藍に手を引っ張られ、あすみの下に急ぐ。
そこには、七海が呆然と立ちつくし、その視線の先に、あすみが仰向けで倒れていた。
「あ…あすみ…!?」
翔子は、あすみの側に膝を着くと、呼吸、動向、心音、脈拍を診る。
心臓が…弱りかけている…。
あすみは、微かに口を動かす。
「…いいから…」
「…え?」
「…いいから…」
「何…?何が言いたいの…?」
「…このままで…いいから…」
「このまま…?」
つまり…このまま、死なせろと…?
6060投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時13分53秒
「何でや…」
七海が呟く。
「何で…手で受け止めんかった…?」
七海は、目を真っ赤にして、あすみを見下ろしている。
「オノレ…どういうつもりや…!!捕れてたはずや…!!ウチの打球…!!捕れてたはずや!!」
その目から…涙が落ちた。
「あすみん!!しっかり!!あすみん!!」
藍は、あすみの耳元で叫び続ける。
「こんな…こんな…結末…ウチは…ウチは、認めんぞ!!」
七海も絶叫した。
「しょこたん!!お願い!!あすみんを…助けて!!」
藍は、翔子のコートを掴む。
「…お願い…。何でも…するから…」
頭を、翔子の胸に着け、言葉が涙で途切れる…。
しかし、翔子は首を横に振る。
「…ううん…。助けない…」
「な、何で!?」
藍は、顔を上げ、再び叫んだ。
6061投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時14分30秒
「あすみは…おそらく…覚悟ができてたのよ…」
「覚悟…?」
「あい〜んを…『表』の世界に帰す為に…自分は、消えた方がいいって…」
「え…?」
「私達は…ボスから、逃げることはできない…。裏切ることも…。あい〜んを『表』の世界に帰すということは…そういうこと…」
「…そ…そんな…」
翔子は、そっとあすみの頬を撫でる。
「自分が死ねば…自分が責任をとれば…あい〜んは…あい〜んだけは、『表』の世界に帰して欲しい…。そう思って…」
「何で…?何で…あすみんが死ななきゃいけないの…?私の為に…?」
「それは…あい〜んを『裏』の世界に引き込んだのは…自分だから…。自分が死ぬことで…あい〜んは『裏』の世界から…抜け出せられるって…」
「あすみん…」
藍の涙が、あすみの頬に落ちた。
あすみは、藍を見詰める。
虚ろな瞳で…。
そして、微笑んだ。
「勝手だよ…!!あすみん…!!勝手に『裏』の世界に連れて来て…今度は、勝手に『表』の世界に帰れって…!!」
藍は、叫んだ。
「私一人で、帰れって言うの!?」
6062投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時14分51秒
その時…あすみの声が…。
「…一人じゃ…ない…」
「…え?」
「あい〜んは…一人じゃない…」
「あ…あすみん…?」
「ななみんが…いる…」
藍は、七海を見上げた。
七海も、藍を見下ろしている。
「ななみんと…二人で…『表』の世界で…」
あすみの声が、消えかかる…。
「ななみんと…二人で…野球を…」
擦れていく…消えていく…あすみの声…そして、命…。
「い…嫌…」
藍の声は、震えている。
「あすみんも…一緒じゃなきゃ…嫌だよ…」
藍の声は、もう、あすみには届かない…。
「嫌だよ〜〜〜!!!」
藍の叫び声が、雪景色に響き渡った。
6063投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時15分55秒
あすみの脈拍を診ていた翔子は、そっとその手を離した。
「さぁ…。あい〜ん…。静かに…あすみを…送ってあげよう…」
「嫌だ!!助けて!!あすみんを…助けてよ…」
藍は、もう、言葉が続けられない…。
あすみの命と共に、声が消えていく…。
しかし、逆に七海の拳が震えだした。
そして…一気に感情を噴出させた。
「ゴルアアアアア!!!!!」
「…!?」
藍も、翔子も呆然と七海を見た。
「ふざけんなや!!何、勝手なこと抜かしとんねん!!」
七海は、あすみの身体の上に馬乗りになった。
「オノレが死んで、あい〜んが、喜ぶと思うてんのか!!」
拳を合わせ、あすみの左胸…心臓へ振り下ろす。
「呑気に…野球ができると思うてんのか!!」
七海の拳が、あすみの胸を叩く。
「辛い…思い出を…背負うことになるて…何で、考えんのや!!」
七海は、あすみを叩く…。
あすみの命を…。
6064投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時16分19秒
「勝手に野球部潰して…勝手にウチ等の前から消えて…勝手に現れて…勝手に死んで…」
叩く…叩く…叩く…。
あすみの命を、ノックする…。
「勝手や!!勝手や!!勝手や!!オノレは勝手や!!」
何度も、何度も、何度も叩いた。
「ななみん…」
藍は…ただ、涙で濡れた目で…七海を見詰めることしかできない。
「逝くな!!逝くな!!逝くな!!」
七海は、叩く。
「戻って来い!!戻って来い!!戻って来い!!」
七海は、叩く。
「帰って来いや〜〜〜〜〜!!!監督〜〜〜〜〜!!!」
「ななみん…」
藍は、七海に声を掛けた。
「ななみん…」
だが、叩き続ける七海には、藍の声が聞こえない…。
「ななみん…」
藍の目は…あすみを見詰めていた。
6065投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時16分42秒
七海の拳を、掴む者がいる。
「…!?」
あすみだった…。
「…とっくに…戻って来たよ…」
「………」
「…て………言うか………また、死んでしまいそうなんだけど…」
「………」
七海は、しばらく声が出ない…。
そして…ようやく声を絞り出す…。
「…あすみん…」
「………あすみん………?私を…そう…呼んでくれるんだね………」
あすみは、七海を見て微笑んだ。
「…ななみん…」
そして、今度は藍の方へ…。
「…あい〜ん…」
二人は…野球部の二人は…自分達の監督に…先生に…しがみついて…また、泣いた…。
6066投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時17分08秒
あすみは、命を取り留めた。
そして、あすみが何と言おうと、翔子は的確な応急処置を施した。
あすみには、死を選ぶことが許されなかった。
七海と、藍が許さなかった。
藍は、あすみの傍らに座っていたが、やがて力強く立ち上がる。
「…?あい〜ん…。どうしたの?」
あすみは、掠れ声で聞いた。
「…私…戦いに行きます…」
「…戦う…?」
「寛平さんと…」
「…!!」
これには、あすみも、翔子も、七海も、驚いた。
「…な…何を…」
しかし、藍は、当然反対しようとする、あすみの言葉を遮った。
「大丈夫です…」
「大丈夫…?何が…?」
「おそらく…この戦いで無傷なのは…私だけです…」
「そ…そんな…。例え、そうだとしても…」
「ななみんもいます!!」
そう言って、藍は七海の顔を見た。
6067投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時17分30秒
「………」
七海は、しばらく口をポカンと開けていたが、やがてニヤリと、やんちゃそうな笑顔を見せる。
「おう!!その通りや!!ウチがついてる!!」
七海も、バットを握り締めて立ち上がった。
「私と、ななみんのコンビは、無敵です!!」
「…そ…それでも…」
また、藍はあすみの言葉を遮った。
「あと…あすみんが教えてくれたじゃないですか…」
「…私が…?何を…?」
「寛平さんの…弱点…」
「…ボスの…弱点…?」
たしか…銭湯で…。
「ホンマか?何や?その弱点って…」
七海も、興味深々で藍に聞く。
「寛平さんの弱点…それは…」
勿体つけて、藍は笑いながら言う。
「怖いものを…知らないこと…」
6068投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時17分52秒
「怖いものを…知らない…?」
七海は、藍の言ったことを呟いた。
「…ん?それ…確か、寛平も言うてたな…」
怖いもの知らずは、世間知らず…。
怖いものを知って…その上で、怖いものに挑むのが…強さだと…寛平が教えてくれたのだ…。
「そうか…」
七海は気がついた。
「その弱点を突けば…ウチ等、寛平に勝ってまうで…」
そして、藍の肩を叩く。
「よし!!行こうか…。あい〜ん」
藍も、七海の肩を叩く。
「うん!!行こう!!ななみん!!」
あすみは慌てふためくが、身体が自由に動かない。
「…やめなって…!!二人とも!!逃げるんだ!!」
「逃げる…?ふん!!やなこった!!」
七海は、あすみに向かって舌を出した。
「命令違反なら…後で、思い切り、殴ってくださいね…」
そう言って、藍は笑った。
6069投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時18分13秒
「…バカ…」
あすみは、もう、これ以上言葉を続けられなかった。
「あ…。そうや…」
七海は、手をポンと叩く。
「ウチ等のチーム名…」
「チーム名?」
「うん。チーム名、決めよう…」
「いいけど…どんな…?」
「監督が、今、つけてくれた…」
七海は、笑顔をあすみに向ける。
「…?私が…?」
あすみは、不思議そうに七海の顔を見上げた。
「『チームB』や…」
「『チームB』…?」
藍も、首を傾げた。
「『チームBAKA』って意味や…」
そう言って、七海は藍の肩に、腕を回した。
6070投稿者:リリー  投稿日:2009年02月03日(火)21時19分23秒
いよいよ、この長い『十回・裏』も、次回で終わります

では、おちます
6071投稿者:あげ  投稿日:2009年02月04日(水)00時19分12秒
 
6072投稿者: 投稿日:2009年02月04日(水)00時36分30秒

6073投稿者:デジ  投稿日:2009年02月04日(水)00時55分39秒
(昨日)
(前半)シンパンマン撃破・・・と言うか、正直僕も存在忘れてました。以外に「R&G」の事を根に持ってるんですね。6056さんの言うとおり地味すぎるほどの地味に倒されましたね。なんとなく哀れ。
(後半)こんな場面で、婚約って・・・しかもOKって。ピンチなのに呑気だこと(笑)。
(今日)
(前半)わー。また感動だー(泣)
あすみは途中までホントどうなるか心配でしたが、無事でよかったです。
(後半)
藍の決意。それは、初めて藍が本気になったであろう寛平さんと『戦う』決意。
なんと!この場面でチーム結成。「チームB(チームBAKA)」。
って、えっ?そうすると羅夢とのチーム(チームB(チームBUDDY))は?
寛平さんは、再び4対1で戦うわけですか。(ダーさん、レッドさん、七海と藍)
ともかく戦いは明日でいよいよ終焉を迎える形になるわけですね。さあ結末やいかに!続きに目が離せません!
6074投稿者:デジ  投稿日:2009年02月04日(水)01時06分45秒
             (今日の小言)
(1)
そう言えば、2月1日の更新分では、寛平さんが、車に轢かれてましたが、実は、その更新分の次の日(つまり昨日)では、今度は、僕が車に轢かれました。怪我のほうはなんともないんですが、後遺症がものすご痛いです(:_;)
車に轢かれた瞬間は分かりませんでしたが、轢かれたと脳が察した瞬間、脳裏にその時の寛平さんが浮かんできてました。まさか、小説に書かれた出来事が翌日になって自分に降りかかってくるとは・・・いやはや予想外の出来事でした。
(2)
だいぶ前知った事なのですが、「クライマックス」ってよく物語の最後に使われることが多いけど、本当はそれって間違いだそうですね。
本当の意味は、物語の佳境になる部分、つまり一番山場となる部分のことをクライマックスと呼ぶそうです。実際英語の「climax」という単語は、「最高潮」という意味だそうですし。
知ってました?
6075投稿者:>74  投稿日:2009年02月04日(水)01時08分24秒
キモイ
6076投稿者:そうでもないですよ?  投稿日:2009年02月04日(水)01時23分50秒
物語の山場はラスト近くに来ることが多いのでクライマックス≒物語の終末っていう言い方もありじゃないかと思います。
まぁ正確にはクライマックスの後エピローグが来るという形になりますが。
6077投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時21分59秒
デジさん
大丈夫ですか?
後遺症とか、ヤバイんじゃ…?
ほんと、気をつけないといけませんね
寛平さんは、バケモノですから無事ですが…

クライマックスの話し、勉強になりました
確かに、6076さんの仰られるとおり、山場はラストに設置されることもあるので、そういう使い方もあるのでしょうね

そう言えば、ハリウッド映画で、「クライマックスを冒頭に持ってくる」…みたいなことを言ってた様な記憶が…

では、更新します
今日で、『十回・裏』…つまり、最終決戦は終わります
6078投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時24分09秒
【体育館・9】
「さてと…始めようか…」
ダーブロウ有紗は、マグロ包丁を持つ手の上に、吉田の手を重ねて置いた。
「初めての…共同作業…てか?」
二人は、ゆっくりと…足並みを揃えて歩き出した。
寛平の所へ…。
これから、自分達を殺そうとする…男の下へ…。
ダーブロウ有紗は、何があっても吉田の命を守ろうと思った。
吉田は、何があってもダーブロウ有紗の命を守ろうと思った。
お互いが…お互いの為に…命を賭けようと…思った。
寛平は、立ち止まる。
もう、充分、自分の射程距離内…。
すっと…杖の先を、二人へ向ける。
「いくぜ…」
「ああ…」
マグロ包丁を握る二人の手に、力が入る。
その時…。
6079投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時24分49秒
「待って!!」
「あん…?」
ダーブロウ有紗には、聞き覚えのない声…。
吉田には、聞き覚えのある声…。
寛平は…よく知っている声…。
「あい〜ん…?」
寛平は、声をあげた。
藍が…白い息を吐きながら、肩を揺らしていた。
「なんで…ここに居るん…?」
あすみと共に、戦っていたはずではないのか…?
「あすみは…?」
藍は、息を整えるのに時間をかけ、ゆっくりと語り始めた。
「負けたんです…。私達…。すみません…」
「負けた…?他のみんなは…?」
「…わからないです…」
「あすみは…死んだんか…?」
「いえ…生きてます…」
「敵は?」
「…生きてます…」
「どういうことや…?」
6080投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時25分27秒
その時、ダーブロウ有紗の怒鳴り声が割り込んだ。
「おい、おい、おい!!おまえ!!いきなり出てきて何なんだよ!!」
藍は、ビクっと肩を震わせ、恐る恐るダーブロウ有紗の方を見る。
「わ…私は…『TDD』…『スター(星)』の、細川藍といいます…」
「あん!?敵じゃねぇか!!コンチクショウ!!」
「ひぃ…」
あまりの剣幕に、藍は思わず後退りした。
「ま、待って!!ダーさん…。この子…七海達の…野球部の仲間やった子や…」
「あん!?野球部の…?」
ダーブロウ有紗は、怪訝な顔で藍の顔を見詰める。
吉田は、優しい笑顔で藍に話しかけた。
「ケガ、してへんみたいやな…。何にしろ、無事で良かったわ…」
「吉田さん…」
藍には、信じられなかった。
この吉田が、七海達を奴隷の様に使って、危険な仕事をさせているなんて…。
6081投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時26分11秒
「私…ななみんと…戦いました…」
「ん…?パッツンと…?」
ダーブロウ有紗は、眉間にシワを寄せる。
「で…どうなったんだ…?パッツン達は…」
「…ぱっつん…?」
「七海のことや…」
吉田は、解説を入れる。
「…無事です…。ななみんも…らむりんも…」
「あん…!?パッツンと、ダッチャ、二人で戦ったのか…?よく、死ななかったな…。いや、殺し合わなかったな…あいつ等…」
ダーブロウ有紗は、心底驚いた様子だ。
「で…あいつ等は…どこだ…?」
だが、藍はその質問には答えない。
ただ黙って、ダーブロウ有紗と吉田の下へと歩み寄る。
そして…じっと二人の顔を見る。
6082投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時26分23秒
「…何だ…?」
ダーブロウ有紗と吉田は、顔を見合わせた。
そんな二人に、藍は問う。
「…戦うんですか…?寛平さんと…」
「ああ!?」
いよいよ、ダーブロウ有紗の額に血管が浮き出た。
「当たり前だろ!!ぶっ殺してやるよ!!あのジジイ…」
「無理です…」
藍は、すぐにその言葉を否定した。
6083投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時26分47秒
「…何だと!?」
怒りを通り越し、ポカンと口を開ける、ダーブロウ有紗。
「お二人とも…傷つきすぎてます…。そんな状態で…寛平さんに勝つなんて…無理です!!」
はっきりと言い切った、藍。
「………」
ダーブロウ有紗は、微笑んで…目を閉じた。
「あ…ヤバイ…」
ダーブロウ有紗の怒りが爆発する予兆…吉田は、充分に感じた。
「ふざけ…」
だが、ダーブロウ有紗は、藍によって、思いっきり突き飛ばされた。
「…ぐあ…!!」
ダーブロウ有紗は、雪の上に尻餅を着いた。
「…ダ、ダーさん!?」
吉田も、崩れ落ちるように、ダーブロウ有紗の側に膝を着いて抱き抱えた。
「…ほら…。こうやって、素人同然の私に、簡単に倒されてしまうでしょ?」
「て…てめぇ…!!」
顔を真っ赤にして怒鳴る、ダーブロウ有紗を余所に、藍は寛平の方を見据える。
「だから…寛平さんは…私が倒します…」
6084投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時27分09秒
「お…おい…」
この、平凡な少女から発せられた言葉に、ダーブロウ有紗は、二の句が継げられなかった。
あの寛平を…あのバケモノを倒す?
元『TTK』四天王が束にかかっても敵わなかった、あの寛平を…?
驚いたのは、当の寛平本人も同様だった。
「あの…。それは…本気なん…?」
「…はい…」
藍は、真っ直ぐに寛平を見る。
「私…『表』の世界に帰ります…」
恐れも気負いもない。
「あみ〜ごと一緒に…帰ります…」
藍の目には、悲壮感はなかった。
これから帰って、大好きな人達と野球をするんだ…と言いたげな、そんな輝きに満ちていた。
そんな藍に対し、寛平は、実に素っ気無く答える。
「…ふ〜ん…。帰ってもええよ…」
だが、次の瞬間、その小さな目は深く沈む。
「ワシに…勝てたら…な…」
6085投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時27分30秒
「殺されるぞ…。あのガキ…」
ダーブロウ有紗は、戦慄した。
「逃げぇ…」
吉田の声は、掠れて聞こえない。
しかし、藍は気軽に…まるで、友達と会話するかの様に…こう言った。
「はい。勝ちますよ」
これには、寛平も真面目な顔を崩して吹き出した。
「…わかった、わかった…。で、何で、そない自信満々なん?」
「何故かって?それはですね…。寛平さんの弱点を知ってるからです!!」
「ワシの弱点?何なん?」
「…へへへ…。教えません!!」
そして、藍はヨーヨーを懐から取り出し、寛平に向けて見せた。
「ん…?」
寛平は、首をひょこと出して、そのヨーヨーを見詰める。
「それを、どないすんねん?」
「ぶつけます。思いっきり」
「…ふ〜ん…」
通用するはずがない…。
寛平も、吉田も、ダーブロウ有紗も、そう思った。
6086投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時27分52秒
「あ、何か、バカにしてますね?」
「ん?いやいや…。オッチャン、アホやから、人をバカになんか、せんよ」
「ウソ…。絶対に思ってる。できっこないって…」
「ほな…やってみ…」
寛平は、やれやれ…と言うように腰を叩いて、藍に正対する。
「いきますよ…?」
「うん。きなさい…」
「寛平さん…」
藍は、ヨーヨーを胸元に持っていく。
「怖いものってあります…?」
「…へ…?」
「ないんでしょ?」
藍は、大きく振りかぶる。
「だから…」
足を高く上げ…腰を捻る。
「私達の勝ちです!!」
藍は、左腕を思いっきり振って、ヨーヨーを寛平に向かって投げた。
6087投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時28分16秒
中学生の女子が投げるにしては、剛速球…だが、『裏の世界』の寛平にして見れば、なんともゆっくりなもの…。
寛平は当然の様に、そのヨーヨーを避けた。
首を、チョイと傾げて…極めて省エネルギーで…。
そのヨーヨーが、寛平の耳元を通り過ぎた時、気がついた。
投げる前に、藍が言った言葉…。
『私達の勝ちです!!』
『私達』…?
(他に、誰がおんねん…?)
あすみ…?まさか…。
もしや…。
その瞬間、ガツンと寛平の後頭部に衝撃が走った。
視界が揺れる。
目の前が、七色に輝く。
そして痛みを通り越して、頭が半分なくなってしまったかの様な錯覚…。
「…へ…?」
寛平は、思わず後頭部を手で触れる。
ぬるり…と、濡れている…。
生温かい…。
掌を見る。
赤い…。
「何…?コレ…」
6088投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時29分02秒
「これが、オノレの弱点や…」
寛平は、声のした方を振り向く。
「怖いもん知らずは、世間知らず…。これ、オノレがウチに言うたことや…」
七海だった。
七海が、金属バットを振り抜いていた。
寛平の足下に、ヨーヨーが転がっている。
さっき、藍が投げて、自分の耳元を通り過ぎていった、ヨーヨーだ。
それを、七海が打ち返したのか…?
「なあ…。オノレにとっては…あい〜んも…ウチも…ましてやデカアリでさえ…ちっぽけな虫ケラみたいなもんやろ?」
七海は、ゆっくりと寛平に近づく。
「いや…あの楠本や、あすみ…自分の仲間やって…」
一歩、一歩、近づく。
「オノレを怖がらせるモンなんて…この世にはおらんのやろ…?」
今、確実に…七海は寛平に届こうとしている。
「せやから…オノレは、人の気配が読めんのや…。ウチが、真後ろにおるのに…気がつかんのや…」
七海が、寛平に並ぼうとしている。
「他の…弱い、臆病なヤツやったら…絶対に気付くはずや…」
七海は、寛平の目の前に立った。
6089投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時30分39秒
「オノレは…あい〜んの攻撃が…自分を倒すなんて…毛ほどにも思ってなかったな…?」
「………」
「誰も、自分を倒すなんて…思ってなかったはずや…」
「………」
「オノレは、怖いもんを知らんのや…」
「………」
「怖いもんを知って、それでもその怖さを克服して、挑むのが『強さ』や…と、オノレはウチに教えてくれた…」
「………」
「ウチは、オノレが怖い…。『TDD』が怖い…。死ぬのが怖い…。過去を知られるんが怖い…。友達をなくすんが怖い…」
「………」
「怖いもん、だらけや…」
「………」
「せやけど、ウチは逃げん…。怖さに『挑む』んや…。強う、なりたいからや…」
「………」
6090投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時31分03秒
「せやけど…オノレは『怖さ』を知らん…」
「………」
「怖さを克服して、『挑む』ことがない…」
「………」
「せやから、オノレは『弱い』…」
「………」
「『最弱』や…」
「………」
「オノレなんかに…ウチとあい〜んが、負けるわけないやろ!?」
「………」
6091投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時31分25秒
「長い戦いやったな…」
七海は、大きくバットを振り上げた。
「これで終わりや…」
そして、七海はバットを振り下ろした。
しかし…寛平の脳天、数ミリ上で止めた。
「………」
「………?」
「………」
「………何や…」
七海は、寛平の頭を避け、バットをゆっくりと下げた。
「…もう…終わってたんやな…」
大きく、溜息をついた。
その息が、身体を押したのか…『TDD』のボス、『フール(愚者)』の間寛平は…ゆっくりと雪の上に…仰向けに…大の字に…倒れた。
七海は、藍の顔を苦笑いで見詰め、こう言った。
「逆転、サヨナラ、ポテンヒット…て、とこやな…」
【『TDD』・『フール(愚者)』・間寛平…撃破】

(延長戦『十回・裏』・・・終了)
6092投稿者:リリー  投稿日:2009年02月04日(水)21時34分10秒
これで、『R&G』と『TDD』の戦いは終わりです
この後、『十回・表』のしょこたんと瑠璃の帰還につながります

しかし、この話しは、最終決戦が終わってからが、また長いのです
広げまくった風呂敷を、畳む作業が…

ですので、次回から『十一回・表』です

では、おちます
6093投稿者:デジ  投稿日:2009年02月04日(水)22時41分00秒
たった一発でのゲームセット。
寛平さんに傷を付けたのは七人目(ノッポさん、楠本さん、角田さん、ダーさん、モニーク、レッドさん、そして七人目の七海たち(これってもしかして掛けてます?))であっても、ひざをついたの自信初めてなんでしょうね。寛平さんにも怖いものが・・・出来たかな?
思えば、十回裏って、空白の5時間の出来事すべてなんですよね。
いやあ、一ヶ月間に及ぶ激闘、圧巻でした。
次は、十一回表ですか。
とりあえず、「チームF」はこのまま「R&G」に戻ってきてくれるでしょうか?
そして、有海と藍はこの後どうなるのか?続きが気になります!
             (今日の小言)
そういえば、序盤からずっとほったらかしのエマどうなってんだろう?

(怪我の方は)はい、大丈夫です。後遺症っと言っても、両肩の痛みと汚してない左足の付け根から膝の部分が痛むだけですから。
6094投稿者:寛平に土  投稿日:2009年02月04日(水)22時59分21秒
 
6095投稿者:くぁげ  投稿日:2009年02月05日(木)19時02分22秒
 
6096投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時15分50秒
デジさん
七海で七人目というのは、偶然です
寛平さんが、人の気配が読めないという設定は、実は七海に倒されるためだけにあったようなものです
そうでなかったら、どう逆立ちしたって勝てませんからね
『チームF』や、エマ達のことも、『十一回』で明かされます
交通事故は、後が怖いので、病院の診断書とか小まめにとっておいた方がいいですよ

6094さん
おそらく、寛平さんの初黒星です

あげ、ありがとうございます

では、更新します
6097投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時17分28秒
延長戦『十一回・表』
≪2008年2/15(金)≫

今年で、聖テレジア女子学園は創立30周年を迎える。
そして、その30年の歴史から、大きく変革する年でもある。
なんと…聖テレは、来年度から男子生徒を入学させることにしたのだ。
これからの社会、女性は積極的に社会に出て男性と同等の権利と力を持つべきだ…聖テレジア女子学園は、そういうコンセプトで創立された学校である。
それならば、男女の壁を取り払い、共に学び、切磋琢磨し合うことこそ大切なのではないか…と、学園長の武川の鶴の一声で決まった。
もちろん、女子の中に男子を入れる危険性を、他の教員や保護者は訴えたが、武川は『鶴』なので仕方がない。
とりあえず、中等部と高等部の新入生として、男子生徒を受け入れることにした。
つまり、『聖テレジア女子学園』は、来年度から『聖テレジア学園』と名称を変える。
6098投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時17分53秒
発表が、年が明けてから…という、なんとも慌しい時期だった為、入学希望生徒は少なかった。
一応、試験はしたのだが、従来の難問では合格できる生徒は少数の為、幾分、合格ラインを下げている。
あと、日本有数の進学校、忠律高等学校の滑り止めとして受けて入学する生徒もいる。
そして、そんな生徒の一人が、千秋レイシーの兄、洸太レイシーだ。
洸太の有海への初恋は、彼の集中力を鈍らせ、見事、忠律の受験に失敗した。
それでも洸太は、それ程落胆はしていない。
中等部と高等部という違いはあれど、あの有海と同じ学校に通える事になったからだ。
6099投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時18分25秒
もちろん、『裏金』制度も健在だ。
その、『裏金』入学の男子第一号生徒が、早くも決まった。
私立本巻城高等学校から、編入学した…あの、自称フランス貴族のスーパーナルシスト…ド・ランクザン望だった。
彼の編入学は、急なものだった。
あの、『スキラッチ』で一緒だった篠原愛実が、猛勉強の末に、見事、聖テレに合格した。
それを知った望は、彼女の後を追うように、第一号男子生徒として聖テレに入学したのだ。
彼の父方は、フランス貴族…金は、余るほど有る。
そして、望は超が付くほど甘やかされている。
望の聖テレへの編入学は、すんなりと決まった。
だが、彼の学力のあまりの低さに(本巻城も、それなりに偏差値の高い学校なのだが、彼はここにも裏金で入った)、高等部一年生からやり直しをさせられることになった。
もちろん、愛実と同級生になれるため、望は喜んでその条件を受け入れた。
一方、愛実の方は、高校に入ってからも望と一緒になる為、その受験疲れの頭を抱えている。
6100投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時18分45秒
朝…『R&G探偵社』。
食堂に次々と現れる少女達。
まず、中村有沙…。
彼女の身体は、すかり治っている。
翔子の言った通り、筋弛緩剤の効き目は10日で消えた。
右肩は鎌で傷つき、多少は痛むが、それでも日常生活には影響ない。
そして、エマとエリー…。
エマは神経毒の解毒剤を与えられ、身体の方はすぐに復調した。
エリーも、体育館の屋根から蹴り落とされたのだが、雪が深く積もっていた為、大きな怪我はなかった。
続いて、梨生奈と羅夢…。
梨生奈は、もう車椅子から立ち上がり、自由に歩く事ができた。
まだ、杖は手放せないが、近いうちに全快するだろう。
一方、羅夢の方が、怪我が重い。
胴にコルセットを巻いている為、動きがぎこちない。
そう…両方の肋骨を骨折しているのだ。
藍のヨーヨーによって折られた、左肋骨。
七海の回し蹴りによって折られた、右肋骨。
味方の七海に蹴られた方が、重傷だったのだが…。
6101投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時19分26秒
次に姿を現したのが、その七海だ。
「よ!!羅夢、おはようさん」
そう言って、羅夢の背中を叩く。
「い…てぇ…!!」
羅夢は、凄まじい形相で七海を睨む。
「このクソアマ…!!怪我が治ったら、絶対に仕返ししてやるからな!!」
そんな羅夢に、梨生奈は溜息をついた。
「もう…。折角、仲がよくなったと思ったら…また、逆戻り?」
そんな梨生奈にも、容赦なく羅夢は怒鳴りつける。
「ああ!?仲がよくなっただぁ!?ふざけんな!!誰が、こんなヤツと…」
「おろ?それは悲しいなぁ…。ウチは、もう、すっかり仲良しさんのつもりやったんやけど…」
そう言って、七海はもう一発、羅夢の背中を叩いた。
6102投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時19分40秒
「もう…。朝っぱらからケンカはやめてよね?」
七世が、朝食を運んで来た。
「あん?デカアリは?」
今日は、七世が朝食を作ったようだ。
「ダーさんは…レッドさんと俵姉妹を連れて、また原村よ」
「原村…?また?」
「ほら…。あの時の後片付け…」
「何や?まだ、片付いてなかったんや…。あれから、どんだけ経っとんねん…」
七海は、呆れた様に溜息をついた。
「丁度、一ヵ月半だ…」
中村有沙はそう言って、コーヒーを飲んだ。
6103投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時20分13秒
「そ、そう言えば…ありりん…」
梨生奈は、中村有沙の隣に座る。
「今日…『聖テレ30周年祭』じゃない…?」
「…ああ…。そうだが…?」
今日、2月15日…明日、明後日の土日と3日間、『聖テレ30周年祭』が開かれることとなった。
その、スペシャルゲストとして…聖テレジア女子学園の卒業生であり、ノーベル化学賞受賞の噂も高い、若き女性科学者リサ・ステッグマイヤー博士が訪れることになった。
「その…ステッグマイヤー博士って…ありりんと、ダーさんのお母さんでしょ?」
「…卵子を提供した者だ…」
「…で…初めて…会うんでしょ?」
「会う?私が?何故だ?」
「だって…お母さんなわけだし…」
「卵子提供者だ」
中村有沙は、もう一度ピシャリと言った。
6104投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時20分44秒
「会って、何をしろと言うのだ?娘だと、名乗れとでも?」
「………」
梨生奈は、答えられなかった。
「…気にするな…。私の方は、何とも思っていない…」
そして、またコーヒーを口にする。
「それで…いいの…?」
「ああ…。むしろ、向こうの方が迷惑するだろう。暗殺組織に卵子を提供して、その卵子から生まれた娘がいるなどと…。ノーベル賞だって、剥奪されかねん…」
「…あ、ありりん…」
「この話しは、これで終わりだ…」
朝食を終えた中村有沙は、皿を流しに持って行き、登校の準備を始めた。
6105投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時21分17秒
その、入れ違いに食堂に入ってきたのが、ジョアン・ヤマザキ。
寝ぼけ眼で、ソバージュの髪が寝癖で爆発している。
彼女は、少し足を引き摺っていた。
あの最終決戦の時…自ら足を傷つけたのだ。
彼女の怪我も、あと数日で完治するらしいが…。
「よぉ…。おはよう…」
あくび混じりで、ジョアンは挨拶する。
「ジャスミンは…?」
「原村よ…」
七世が答える。
「…まだ…『R&G』に戻ってくるつもりは、ないのかよ…」
悲しげに、ジョアンは呟く。
「いろいろあるのよ…。いろいろ…」
七世は、そう言ってジョアンの分の朝食をテーブルに運んだ。
「いろいろって、何だよ!!」
ジョアンは大きく音を立てて、椅子に座った。
「もう、モニークのことはいいだろう…」
面白くなさそうに、ジョアンはトーストをムシャムシャと食べ始めた。
そして、十数分後、彼女達は『表の世界』へ出掛けて行く。
6106投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時22分01秒
『R&G探偵社』ビルから、徒歩3分で虹守駅へ。
そこから新宿方面行きの急行電車に乗り、10分程で天歳駅で下車。
そして、聖テレの送迎バスに乗れば、12分程で学校に着く。
だが、去年の暮れに、何者か(七海達)に盗難されてしまった為、新しいバスが用意できるまで、マイクロバスのレンタカーで急場をしのいでいる。
ちなみに、あの盗難した送迎バスは、原村の廃校に乗り捨ててある。
ナンバーを外し、車体に描かれた『St.THERESIA』の文字と校章も塗りつぶされた為、そのバスが学校に戻ることもない。
七海達は、その送迎バス(マイクロバス)の停留所に向かう途中、我が学園の生徒達が、何やらキャーキャーと黄色い声で群がっているのを見る。
「何や?あいつ等、何を騒いどんねん?」
「あそこは、聖テレの宣伝ポスターが貼ってあった場所だよね?」
七海とエマとエリーは、不思議に思って、その壁際へ向かう。
お互い怪我をしている梨生奈と羅夢は、ゆっくりと階段を降りてくる為に遅れる。
中村有沙とジョアンは、興味なさそうに先に行ってしまった。
6107投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時22分29秒
そこには、聖テレのポスターが、新しく貼り替えられていた。
そのポスターは、来年度から聖テレが男女共学になる、という告知の為のものだった。
「あん?あれが、聖テレの男子の制服か?」
そのポスターは、一人の少年が聖テレ独特の白い制服を着て、女子生徒の集団の中、爽やかな笑顔で登校してる姿があった。
その男子の制服は…真っ白な、詰襟のボタン無し制服で、ズボンは濃紺、袖には緑の細い線が一本入って(高等部は青、学年が上がるにつれて線は増える)、肩には盾形エンブレム、白い学帽…。
「何や…。海上自衛隊みたいな制服やな…」
七海は、そう言って苦笑した。
ポスターの少年は、まるで少女の様な可愛らしい顔をしている。
「あ…!!Hey! Say! JUMPの山田涼介君だ!!」
ミーハーのエリーが、叫んだ。
「なるほど…。で…こいつ等が騒いどんのか…」
七海は、冷めた目で、ポスターに向かって黄色い声援を送っている女生徒達を見た。
実際にこの制服を着るのは、『冴えないメガネ少年・洸太』や、『超ナルシストの女好き・望』だというのに…。
「凄い…。ジャニーズに頼んだんだ…」
エマは、口をポカンと開けて、そのポスターを眺めた。
「ほんま…金のかけ方、間違うてるよ…。この学校…」
七海は、呆れ果てた意味で口を開けた。
6108投稿者:リリー  投稿日:2009年02月05日(木)21時22分49秒
それでは、これでおちます
6109投稿者:……へっ?  投稿日:2009年02月05日(木)21時25分00秒
リリーさんが平成ジャンプの名前出すとは思わなかった。
6110投稿者:09  投稿日:2009年02月05日(木)21時30分47秒
それと洸太が本命落っこちて聖テレジアにねぇ……、千秋が聞いたらなんと呆れるやら、それとも梨生奈のこと思い出して何も言えないかww。
後「冴えないメガネ少年」って、洸太も眼鏡外したらジャニーズjr入れるくらいのイケメンなのに(アンダーソンケイシーってjrの子と瓜二つだって噂が一時期あったの知ってますか?)。
うん、有海に振り向いてもらえるよう高校デビューしたらいいんだよ。ダーさんと千秋の爆笑に会うと思うけどwww
6111投稿者:リリーさんも  投稿日:2009年02月05日(木)21時41分29秒
女って事さ
6112投稿者:もうすぐ終わり?  投稿日:2009年02月05日(木)22時44分52秒
ダーさんと
レッドさんの結婚式は
書きますか?
6113投稿者:名前出すくらいは  投稿日:2009年02月05日(木)22時52分08秒
するよ
6114投稿者:>13  投稿日:2009年02月05日(木)22時52分54秒
まず知ってたのにびっくりするだろw
6115投稿者:リリーをなんやと思とんねん  投稿日:2009年02月05日(木)22時56分34秒
んなもんぐらい知っとるわいな
6116投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)20時59分56秒
6109さん、6111さん、6113さん、6114さん、6115さん
何の気なしにHey! Say! JUMPを出したら、凄い反響で驚いてます
これは、中学生女子に一番人気があるジャニーズは何だろう?って考えてまして、SMAPや嵐、KAT−TUNは、もう少し年齢は上かな?と思い、一世代下のHey! Say! JUMPにしました
私、歌番組が好きで、結構歌手には詳しいです
一番好きなのはコブクロですが…

6110さん
確かに、メガネをとった洸太はカッコいいと思います
アンダーソンという人は知らなかったですが…
作中の洸太にとって、忠律か聖テレか、どちらが幸せだったんでしょうかね?

6112さん
はい、もうすぐ終わりです
でも、まだ結構続くんですけどね
あと、一ヶ月以上は…
結婚式の描写は、あえてしませんでした
また別の作品で、新婚生活くらいは書くかもしれません

では、更新します
6117投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時02分59秒
聖テレに着いた七海達は、学校の前の人だかりに驚いた。
「何や…?こんな朝っぱらから…?」
七海は、思わず大きな声で叫んだ。
「いくら、30周年のお祭りだからって…。こんなに?」
エマも、その大きな目を丸くしている。
「ほら…やっぱり、ノーベル賞候補の来訪で…」
エリーの指差した方向に、テレビ取材の車や、カメラマン、リポーター達がいた。
一体、何社の放送局が来ているのだろう…?
皆、リサ・ステッグマイヤー博士の取材に来たのだろう。
「行くぞ…」
中村有沙は、素っ気無く言い、校門に向かう。
「おはよう!!ななみん!!」
元気な声が、後ろから響く。
「お?藍か?」
七海も、笑顔で手を挙げた。
「もう…!!また、『藍』だなんて…。あの時みたいに、『あい〜ん』って呼んでよ!!」
そう言って、藍は頬を膨らませた。
「あん時は、あん時!!期間限定や!!」
七海は、めんどくさそうに答えた。
「私は、どうにも信じられないんだけど…。七海がみんなをあだ名で呼んだこと…」
梨生奈はそう言って、苦笑する。
6118投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時04分06秒
七海達は、テレビ取材のスタッフの側を抜けて、校門をくぐる。
その時、藍にマイクが向けられた。
「あなた…天才スポーツ少女の、細川藍さんですよね?」
「…は、はい…?」
一斉に、カメラが藍に向く。
「細川さん、今、ソフトボール部に入っているんですってね?この前の都大会でも大活躍したと聞いてますが?」
「あ…はい…。ありがとうございます…」
藍は、愛想笑いをしながら頭を下げた。
「ち…!!藍のヤツだけ…!!気に食わん!!」
七海は舌打ちをしたが、梨生奈に腕を引っ張られる。
「七海…。カメラに映ってしまうわ…」
仕方なく、藍を置いてその場から離れる、『R&G』の面々…。
6119投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時04分27秒
「野球部を立ち上げた…という話しも聞きましたが?」
「…え…?」
そのリポーターの質問に、藍の笑顔は凍りついた。
「今は、野球部はやっていないんですか?」
藍の顔、ギリギリに、マイクが近付けられる。
「…はい…。やってません…」
「それは、ソフトボール部に専念する為ですか?」
「…いえ…。そういうワケでは…」
「つまり、野球部というのは、ソフトボールの一環と言うか…軽い、お遊び的なもので…?」
そのリポーターの質問に、藍はキッと顔を強張らせる。
「そんな…!!お遊びなんかじゃ、ありません!!」
急変した藍の態度に、リポーターは困惑した。
「私達は…野球を…一生懸命…真面目に…真剣に…」
藍の言葉が、涙で詰まる。
「ど、どうしたんですか…?」
尚も、リポーターは、マイクを藍に向けた。
6120投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時04分50秒
「行こう!!藍!!」
藍の腕が引っ張られた。
七海だった。
二人は、強引にテレビ取材の集団の中から抜け出した。
「あ、ありがとう…。ななみん…」
そう言う藍に、七海は無愛想に答えた。
「ちゃうで!!藍ばっかり注目されてたから…嫉妬しただけや…!!」
藍は、思わず吹き出して笑った。
「そう言えば…。一木さんを…見かけへんのやけど…」
七海の質問に、藍は少し顔を曇らせる。
「うん…。あみ〜ごね…原村に行ってる…」
「原村…!?何で…!?」
「…後片付けなんだって…。あの、対決の…」
「で、でも…一木さんは…」
「うん。戻って来たよ…。『表の世界』に…」
「だったら、何で…」
「…あみ〜ごは…できるだけきれいに、後片付けをしたいんだって…」
「そうか…」
七海は、はるか原村の方向…西の空を見上げた。
まだ、有海にとって、この戦いは終わっていないのだ…。
6121投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時05分12秒
「せやったら…」
七海は、意を決した様に頷いた。
「一木さんが帰ってきたら…ごついプレゼントを用意せなアカンな…」
「ん?ごついプレゼント?」
藍は、足を止めた。
七海は、二三歩、歩いた後、藍の方を振り返る。
「ウチな…。一木さんに恩返しせなアカン…」
「恩返し?あみ〜ごに?」
七海は、また頷く。
「主導権を…握るんは…自分…。一木さんに、教えてもろたことや…」
「…?」
藍には、七海の言おうとしていることがわからない。
「藍…。さっき、折角カメラに撮られてたのに、何て情けない顔してたん?」
「へ?」
「『野球部はやってないんですか?』って聞かれたら、ウチならこう答えるで?『これからやるところや』って…」
「こ、これから?」
藍は、目を丸くしている。
「やりたんやろ?野球部…。やったら、ええやん…」
七海は、ニヤリと笑った。
藍は思った。
七海がこの笑顔を見せたら…何か騒動が起きると…。
6122投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時05分37秒
二人は、職員室に向かった。
「失礼します!!」
職員室に入ろうとする七海を、藍は引きとめる。
「ほ、本当にやるつもり…?ななみん…」
「当たり前やん。野球部が潰れた直接的原因は何や?」
「…あすみんが…いなくなったから…」
「そうやろ?何も、ウチ等がごっつい不祥事を起こしたからやない…。何で、こないなこと、今まで誰も考えつかんかったんや?」
「そ…それは…学校が『なし』って言ったから…」
「それや!!学校が『アカン』て言うたら、それに従う?主導権を学校に握られて、どないすんねん!!」
「そ…それ…あみ〜ごに教えられたことを、実戦しようってこと…?」
「そうや!!」
「あみ〜ごに聞いたんだけど、それ、元々はありりん先輩が言った言葉だって…」
「………マジ?」
「…マジ…」
「コラ!!職員室の入り口で何してんの!?入るなら入る!!入らないなら入らない!!」
後ろから怒鳴られた。
ソフトボール部顧問であり、藍の担任でもある…こんどんこと、近藤春菜だ。
6123投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時06分37秒
「あ…。か」
「角野卓造じゃねぇから!!」
もう、近藤は七海の唇の動きだけで、何を言わんとするのか、わかるようになった。
「さっきから二人がジャマで、職員室に入れないんだよ!!」
「ああ…。すんません。確かに『近藤先生』の体格じゃ、通れませんでしたね」
「な、な、何だってぇ〜〜〜!!」
近藤の顔が、ピクピク動く。
「ヤバイ!!逃げるで!!」
「に、逃げるって、どこへ?」
「職員室の中へ…」
七海は、どさくさ紛れに藍を職員室に引っ張った。
職員室の中なので、近藤は怒鳴ることもできず、渋々怒りを抑えざるを得なかった。
6124投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時07分07秒
七海と藍は、そのままC組担任、佐藤珠緒の机まで行く。
「おはよう!!たまりん!」
「あ〜〜〜。おはよ〜〜〜。藤本さ〜〜〜ん」
相変わらず力の抜けるような声で、今年で35歳とは思えない、可愛らしい笑顔を向ける珠緒。
「先生をあだ名で呼んではいけません…。校則にも、そうあるでしょう?」
珠緒の向かい合わせの席に座っている…B組の担任であり、学年主任でもある初老の女性教師は、ジロリと七海を睨む。
「…すんません…」
七海は、素直に頭を下げる。
「それから、佐藤先生も…。もっと威厳を持って生徒と接して下さい」
「す、すみませ〜〜〜ん…」
珠緒も、涙ぐみながら頭を下げた。
6125投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時08分05秒
「でな、たまりん…」
「だから、あだ名で呼ばない!!」
今度は、その老教師は七海に怒鳴り声をあげた。
「ダメよ〜〜〜。藤本さん…」
お願いだから本名で呼んでくれ…という懇願の眼差しで、珠緒は七海を叱った。
それでも、七海は意に介さず、本題に入る。
「お願いがあるんですけど…」
「お、お願い?」
「野球部の…顧問になって下さい!!」
七海と藍は、同時に頭を下げた
6126投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時08分19秒
「へ…?野球部…?」
珠緒は、まったく予想だにできなかった七海のお願いに、本当に今年で35歳か…という眼を丸くした。
「はい。野球部の廃部の原因は、顧問がおらんくなったから…というものやから…。新しい顧問がいれば、問題ないわけで…」
「で、で、でも〜〜〜…。な、何で、私なの〜〜〜?野球のルールなんて、知らないよ〜〜〜?」
既に、珠緒は泣き顔になっている。
「何でって…。先生が顧問の部活って、手芸部やろ?」
「う、うん…そうだけど…」
「部員、何人?」
「三人…」
「その三人は…何先生?」
「三年生…」
「卒業してもうたら、のうなるやん…」
「で…でも…新入部員が入ってくるかもしれないし…」
珠緒は、何とかこの無茶なお願いを諦めさせようと、考える。
6127投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時08分57秒
その時、B組の老教師が口を挟む。
「たしか、生徒も、顧問教師も、文化部と運動部の両方に所属するのは許されているはず…。ですから、野球部を再始動するのに、何の問題もありません」
「え…?そ、そうなんですか?」
七海と藍は笑顔で…珠緒は泣き顔で訊いた。
「はい。校則にそう書いてあります」
「せやったら、全然、問題ないやん!!」
七海と藍は、手を取り合って喜んだ。
「せ、先生〜〜〜」
余計な情報を入れた老教師を、珠緒は恨みがましい涙目で見詰める。
「あ、ありがとうございました!!」
七海と藍は、その老教師に感謝の言葉と共に、頭を下げた。
「…?何の感謝です?校則に従ったものならば、私達教師に、あなた達生徒のやりたいことを止める権利はありません」
彼女は、教師として至極真っ当な言葉を述べた。
6128投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時09分08秒
「だ、だったら…先生が野球部の顧問を…」
「私は茶道部の他に、合気道部も兼ねてます」
珠緒の言葉を、彼女はピシャリと遮った。
「あとは、武川総合学園長に、直接お頼みしなさい。あの方のことですから、二つ返事でOKを出すと思いますが…」
藍は、七海の手を強く握る。
「やったね、ななみん…。ほんと、あみ〜ごへの最高のプレゼントにもなったね…」
「細川さん」
老教師が、再び口を開く。
「生徒同士の間でも、あだ名で呼んではいけません」
「え…?ど、どうしてですか?」
「校則に、そう書いてあります」
6129投稿者:リリー  投稿日:2009年02月06日(金)21時09分25秒
では、おちます
6130投稿者:あすみん  投稿日:2009年02月06日(金)21時46分25秒
もう戻ってこないのかな
6131投稿者:4作目も  投稿日:2009年02月07日(土)01時43分42秒
期待してます
6132投稿者:らいおんたまりん  投稿日:2009年02月07日(土)19時12分21秒

6133投稿者:リリー  投稿日:2009年02月07日(土)21時06分04秒
6130さん
あすみは、まだ出番があります
聖テレには戻っては来ませんが…

6131さん
4作目は、もう書き始めてます
丁度、1月1日にですが…
でも、2週間くらい話しが止まってます
今、発表したら、確実に放置小説の仲間入りでしょうね

6132さん
たしか、猿の種類でしたっけ?

では、更新します
6134投稿者:リリー  投稿日:2009年02月07日(土)21時07分21秒
七海と藍、そして野球部新顧問になった珠緒は、武川総合学園長の部屋のある、高等部まで足をのばす。
高等部の校庭にも、テレビ取材の一群がいる。
その間を、高等部の生徒たちが取り囲んでいる。
「はぁ…」
珠緒は、溜息を三歩歩くごとについている。
「先生…。そんなに落ち込まないで…。顧問って言っても…実際の練習メニューも試合の采配も、私達でやるから…」
藍は、そう言って珠緒を元気付けた。
「ううん…。あなた達が、それで元気になるなら…先生は、出来る限り協力してあげたい…」
そう言いながら、また、珠緒は溜息をついた。
「む?七海…。藍…。おまえ達…一体、何をしているのだ?」
声をかけたのは、村田ちひろ。
彼女は、そのテレビ取材の一群から抜け出してくる。
カメラマンもリポーターも、彼女の後に着いてくる。
どうやら、彼女は取材を受けていたようだ。
先週、中国の北京で行われた、剣道国際大会で、村田ちひろの所属する日本代表が、団体優勝…ちひろ自身も、個人優勝を果たしたのだ。
校舎を見上げると、『村田ちひろさん、剣道国際大会、団体、個人優勝おめでとう』の垂れ幕が架かっている。
ちひろは団体戦で先鋒として出場し、そのまま一人で5人抜き…それを一回戦から決勝戦まで、貫いてしまった。
つまり…団体戦では、ちひろ以外の4人は、とうとう一度も試合に出ることなく終わってしまったことになる。
そのことに、七海はこうコメントしたことがある。
「素人の大会に、ほんまもんの『剣客』が混じって出とるんやろ…?反則やん…」
6135投稿者:リリー  投稿日:2009年02月07日(土)21時07分46秒
ちひろは、白と青のツートンカラーの、学園指定のウィンドブレーカーを着ていた。
「あれ?ちひろさん…。なんで、そんな恰好なんですか?」
「ん?私は、普段からこの恰好だぞ?」
ちひろは、聖テレの制服…あの、真っ白なセーラー服を気に入っていない。
彼女は、学園内に入ると同時に、ジャージやウィンドブレーカーに着替えてしまうのだ。
厳密に言うと、体育の時間以外のジャージの着用は校則違反なのだが、剣道部のエースであるちひろに、教師達は強く言えない。
よく見ると、ちひろの側を取り巻いている女子生徒達も、彼女と同じくウィンドブレーカーを着ている。
剣道部の者や、ちひろ親衛隊の者達だ。
彼女達は『ちひりすと』と呼ばれ、ちひろを熱狂的に信望している。
高等部の教師達は、この現象には苦々しく思っているのだが…。
「へん…!!有名人はお忙しいんやろ?ウチ等の相手をしてるヒマなんか、ないんとちゃうん?」
七海は、顔を顰めて嫌味を言った。
6136投稿者:リリー  投稿日:2009年02月07日(土)21時08分09秒
「もう、いいのだ。外での取材は終わった」
ちひろは、七海の嫌味を嫌味として受け止めない。
「で…何故、中等部の生徒のおまえ達が、高等部に?」
その質問には、藍が答えた。
「はい。私達、総合学園長に会いに行くんです」
「何か騒動でも起こしたのか?」
「ちゃうわ!!」
七海は、ちひろの胸座を掴んだ。
「や、やめなよ〜〜〜。藤本さん…」
珠緒はオロオロするばかりだ。
「こら!!中等部のガキ!!ちひろ様に、何てことを!!」
ウィンドブレーカーの集団、『ちひりすと』達がわらわらと寄ってくる。
「おう、何や!!コラ!!ウチ等とやろうってか!?」
七海は、肩を震わせるが、藍はすぐさま頭を下げて謝った。
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
「あはは!!藍…。自分、バネ仕掛けのオモチャみたいやで?」
「誰の所為で謝ってると思ってんのよ!!」
藍は、七海の顔の近くまで、自分の顔を突きつけて怒鳴る。
何だか、このやりとり…前にやったような気がする…。
「あの…ここは、撮らないで下さい…」
広報担当の高等部教師が、カメラマンに向かって頭を下げている。
6137投稿者:リリー  投稿日:2009年02月07日(土)21時08分30秒
「ん?総合学園長に用があるのか?私もそこに向かう所だ」
「あん?何で?」
「今度は、総合学園長に優勝を報告する所を撮影するそうだ」
「へいへい…。学園の英雄は、お忙しいでんなぁ…。こっちは、そちらさんの用事が済むまで待ってるさかいに…」
「何を言っているのだ?一緒に行くぞ?」
本当に、ちひろには七海の嫌味が通じない。
ちひろと七海と藍と珠緒は、4人で武川に会いに行く。
マスコミ関係者への接待の為、ちひろの撮影は少し遅れることになった。
先に七海と藍が、武川に会うことになった。
「失礼します…」
最初に珠緒が…そして七海、藍が学園長室に入る。
「おお!?藍ちゃん!!久しぶり!!」
中年だが…美しい外国人女性が、ソファーから立ち上がって手を振った。
「ん?」
七海は目を凝らす。
どこかで、見た顔だが…?
6138投稿者:リリー  投稿日:2009年02月07日(土)21時10分15秒
「あ…。お、おばさん…。何で…?講演は明日のはずじゃん…」
藍は、呆然として呟いた。
「だって、懐かしいじゃん。聖テレは私の母校だもん。ゆっくりしたくってさ…。今夜、兄さんのお寿司屋さんに食事に行くから、藍ちゃんも久しぶりに帰ったら?」
「ん?おばさん…?この人…藍のおばさん…?」
この女性は、外国人だが…。
そう言えば、藍の父親はハーフの寿司職人だと聞いたことがある。
「それに…講演って何なん…?」
そこに、珠緒が七海の袖を引っ張って耳元で囁く。
「この人は…ステッグマイヤー博士でしょ?ここの卒業生の…!!」
「ああ…。なんか、偉い博士の…」
そして、中村有沙、ダーブロウ有紗の生物学的な母親でもある。
6139投稿者:リリー  投稿日:2009年02月07日(土)21時10分47秒
「ん…?ま、待てよ…?今…藍がおばさんって…」
藍は、引きつった笑いを七海に見せる。
「ああ…。細川さんが内緒にして欲しいって言うから、内緒にしてたけど…。もう、いいよね?細川さん…」
珠緒の言葉に、藍は仕方がないと言うように、溜息と共に頷いた。
「ステッグマイヤー博士って…私の叔母さんなんだよね…。実は…」
「はあ…!?」
七海は、大きな目を更に大きくして驚いた。
「あはは…。やっぱり、驚くよねぇ…。こんなバカな私が…ステッグマイヤー博士の姪っ子だなんて…」
そう言って、藍は力なく笑った。
夏休みの補習の時、近藤が藍のおばさんのことを口にした時、藍は慌ててその話題を止めたが…真相は、こういうことだったのだ。
だが、七海が驚いているのは、そんなことではない。
つまり…藍と中村有沙、ダーブロウ有紗は…親戚同士…と、いうことになる…。
藍との初対面の時…彼女を中村有沙、またはダーブロウ有紗に似ている…と、感じたが…この直感は正しかったのだ…。
武川は、野球部の復活を快く承諾した。
しかし、七海はこの衝撃の事実に、武川が何と言ったのか覚えていなかった。

(延長戦『十一回・表』・・・終了)
6140投稿者:リリー  投稿日:2009年02月07日(土)21時11分26秒
では、次回から『十一回・裏』です

おちます
6141投稿者:たし  投稿日:2009年02月07日(土)21時11分32秒
http://uproda11.2ch-library.com/src/11156452.jpg
http://uproda11.2ch-library.com/src/11156453.jpg
http://uproda11.2ch-library.com/src/11156454.jpg
6142投稿者:117  投稿日:2009年02月07日(土)21時32分25秒
どうも、またご無沙汰です。ダーさんとレッドさんの結婚は本当に驚きですね。あのマッサージが伏線(笑)。
激しい戦いが一応終わって、平和な学校生活を送っていると。
リサさんも登場して、しかも藍の叔母さんとは・・・続きも楽しみです!
6143投稿者:>41  投稿日:2009年02月07日(土)21時51分25秒
中村有沙にやつれた多部未華子と大猩々をミックスしたようなこの少女は誰なんだい?
6144投稿者: 投稿日:2009年02月07日(土)22時05分34秒

6145投稿者:リリーさんかわいい!!  投稿日:2009年02月07日(土)22時42分22秒
6146投稿者:>43  投稿日:2009年02月07日(土)22時50分04秒
エマの出演してた『非婚同盟』のヒロイン(の少女時代)を演じた林愛夏という子
最初はエマと犬猿の仲だったが、親友となる
字幕にある「お妾さん」というのが、エマの母親(三原じゅん子)

しかし、何故その画像が?
6147投稿者:卒業スレ荒らすな  投稿日:2009年02月07日(土)22時51分13秒
 
6148投稿者:藍のおばさんの話し  投稿日:2009年02月07日(土)22時54分21秒
あと藍がおばさんの話しを遮ったのが第二試合(夏休みの補習の話)
藍とダーさん、ありりんが似ていると七海が思うのが第一試合(藍の初登場の話)

長い間、放置されてた設定なんだなw

6149投稿者:ちひろすとって・・・w  投稿日:2009年02月08日(日)01時22分44秒
 
6150投稿者: 投稿日:2009年02月08日(日)04時25分04秒
6151投稿者: 投稿日:2009年02月08日(日)15時43分06秒
6152投稿者: 投稿日:2009年02月08日(日)19時46分36秒
6153投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時03分59秒
117さん
ご無沙汰です
この間に、最終決戦は終わりましたが、まだまだ話しは続きます
変わらぬご声援、お願いします
6143さん、6148さん
『非婚同盟』、エマの出番が終わりましたね
お嬢様役の子も可愛くて好きでした
和子役の子も、自分を捨て去った演技が最高でしたね
6148さん
そうなんです
誰も覚えてなかったらどうしようって思って…
6149さん
『ちひりすと』ですね
ちひろには、そういう取り巻きが付きそうだな…と思って…
女子高なら、尚更でしょうし
あげ、ありがとうございます
では、更新します
6154投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時05分41秒
延長戦『十一回・裏』
≪2008年2/15(金)≫

「あの…。何度も何度も言ってますよねぇ…。楠本さん…」
諏訪市民病院の看護士長、清水ミチコは、両手を腰に当てて、ベッドの上の金髪の男を睨み降ろしていた。
いや、その金髪の髪の毛もだいぶ伸び、生え際から半分まで黒い地色が覗いている。
ミチコが言った通り、この金髪の男の名は、楠本柊生。
そして、何故彼が清水に怒られているかというと…。
「うちの看護士を、日替わりでナンパするのは、やめてください。仕事に支障がでますので…」
「ナンパ?これはこれは…悲しい誤解…」
楠本は、目を瞑って悲しそうに首を横に振る。
「ただ、激務に追われる病院内の天使達を労わる意味で、楽しいお話しを…」
「それでは、その労いは、女性限定で、しかも年齢制限があるんですか?」
「…ん?」
「何故、一番の激務をこなしている、この私に、一度も声を掛けて下さらないのか、ご説明を…」
楠本は、今度はふと笑ってミチコを見上げる。
「なるほど…。この私に声を掛けられなかったから…そんなにご立腹だったのですね…?これは失礼を…」
「そんなこと、あるわけないだろ!!」
ミチコの一喝に、楠本は亀の様に布団を被ってしまった。
6155投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時06分05秒
「士長!!512号室へお願いします!!」
若い、男性の看護士が駆け込んできた。
「今度は何?」
うんざりした顔を、ミチコは向ける。
「まだ動いちゃダメだって言うのに、またあの患者さんが、病室の梁にぶら下がって懸垂を…」
「力ずくで止めなさい!!」
「無理ですよぉ〜…。こっちが殺されてしまいます!!」
「…今、何時?」
「ええと…もうすぐ3時ですが…」
「じゃあ、このまま放っておきな…」
「な…何故…?」
「『彼』が来る頃でしょ?『彼』が来たら、あのゴリラは、乙女モードに変身さ…」
「な…なるほど…」
そこに、布団の影から楠本の声が…。
「清水さんが乙女モードになるキッカケは、何でしょう?」
「うるさい!!」
ミチコの怒鳴り声に、楠本は、益々深く布団を被った。
6156投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時06分24秒
清水ミチコは、ここ一ヶ月、余計な疲労を重ねている。
今年の元旦から運び込まれた、6人の重傷患者達…。
凶悪な誘拐犯で指名手配犯、モニーク・ローズを追いかけていた探偵達…。
その中で、比較的負傷の軽い3名は退院していった。
だが、残った3人は、近年稀に見る不良患者だ。
先の、楠本…。
感電による、全身大火傷で担ぎ込まれた。
とにかく無類の女好き。
副業は、ホストクラブ経営…自身も、現役ホストをやっている。
そして、そのテクニックを使って、若い看護士を日替わりでナンパしている。
問題なのが、彼はトークが上手く、看護士は時間を忘れてお喋りに夢中になる。
楠本からの呼び鈴で呼び出された看護士は、1時間はナースステーションに帰ってこない。
6157投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時07分14秒
そして、二人目は秋山恵…。
まるで、女子プロレスラーの様に鍛え抜かれた肉体の持ち主。
身体の至る所の打撲、合計5箇所の骨折と大量出血で入院。
まだ身体が完治していないのに、『身体がなまる』という理由で、強引にトレーニングを続けている。
だが、彼女が大人しくなる時間帯がある。
それは、原村でペンションを経営している通称ハセヤンと呼ばれる男の息子、大樹が見舞いに来る時間帯だ。
恵は、どうやら大樹に惚れている。
大樹も、恵に惚れているらしく、毎日お見舞いにやって来るのだ。
その点もあり、恵は3人の中で、比較的扱いやすい。
6158投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時07分36秒
そして、最後の一人…これが不良患者中の不良患者…間寛平という老人だ。
探偵社の社長らしいが、彼が一番の重傷患者だった。
いや、生死を彷徨った、重体患者だった。
頭に大きな怪我を負っていた。
頭蓋骨陥没に加え、脳挫傷…。
しかし、老人とは思えない生命力で、みるみるうちに回復していった。
死ぬと思われていた老人の復調に、ミチコは素直に喜んだが、ここより彼女の苦労は始まった。
彼の何が問題か…というよりも…問題ではない行動を挙げた方が簡単である。
そして一番問題なのが、もうとっくに退院できるはずなのに、ズルズルと入院生活を続けていることだ。
今日こそ出て行ってもらおうと、ミチコは鼻息荒く、寛平の病室…病院内で一番豪華な個室へ足を運ぶ。
副業は、占い師だそうだが…そんなに占いは儲かるのだろうか…?
入院費を、キッチリ払ってくれるところが救いだが…。
これが彼の、数少ない問題ではない行動の…一つである。
6159投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時07分55秒
病室を訪ねると、小学生の、寛平の孫娘がいた。
「あら、帆乃香ちゃん…。来てたの?」
「あ、はい。清水さん、こんにちわ」
帆乃香は、その可愛らしい笑顔で挨拶をした。
この、元気で明るい素直な娘が…寛平の孫…。
ミチコは、どうしても信じられないでいる。
その寛平がいない。
「あれ…?おじいちゃんは、どこに行ったの?」
よく見ると、帆乃香は荷物をまとめている。
「…?帆乃香ちゃん?何をしているの?」
「ああ…。今までお世話になりました。おじいちゃん、今日、退院します」
「退院!?」
急な話しに、ミチコは素っ頓狂な声をあげた。
「ど…どうして…急に…?」
「ええと…。今日、ゴタゴタが全部一編に片付くって…言うてました…」
「ゴタゴタが…片付く…?」
ミチコは、首を傾げるだけだった。
6160投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時08分40秒
寛平は、勝手に病院を抜け出し、諏訪市内のホテルにある喫茶店でクリームソーダを飲んでいた。
「この寒いのに、クリームソーダ?」
後ろから声が掛けられる。
声の主は、加藤夏希。
寛平は、振り返ることなく答える。
「うん。ワシ、喫茶店に入ったら、クリームソーダしか飲まんのよ…」
「どうでもいいようなポリシーね…」
「夏希君…。君、怪我はもう治ったの?」
「ええ…。おかげ様でね…」
「お父さんと妹さんは元気?」
「ええ…」
「どないしてる?」
「教えない…」
「………大丈夫やって…。もう、手は出さんよ…」
「それは、まだ信じられない。だって、条約前でしょ…?」
「せやったら…はよ、済ませてまお…」
寛平は、一気に緑色のソーダ水を飲み干し、アイスクリームを一口で食べた。
6161投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時09分05秒
寛平と夏希は、このホテルの最上階、スイートルームへエレベーターで向かう。
そこに、泊まっているのが…『R&G探偵社』の社長の吉田、そして、その妻であるダーブロウ有紗だ。
ちなみに、結婚の発表は、身内にもしていない。
その証拠に、この部屋には俵姉妹も一緒に泊まっている。
逆に、吉田は一番安い部屋に押し込められている…。
とにかく、スイートルームで、ダーブロウ有紗と吉田と俵姉妹…そして、ジャスミン・アレンとモニーク・ローズが寛平を待っている。
「あと…あなたの部下…『エンプレス(女帝)』と『デス(死神)』、『タワー(塔)』に『ジャッジメント(審判)』も待ってるわ」
「うん…?しょこたんは?」
「『ラバーズ(恋人)』は、表のお仕事…。何でも、今日、務めてる学校の創立記念日らしいわ…」
「何や…。しょこたん、まだ聖テレにおるんか?もう、必要ないやろ…。あの学校におるの…」
「『エンペラー(皇帝)』と『ストレングス(力)』の具合はどう?」
「ああ…。回復に向こうてるよ…。あの二人は、殺したって死なんやろ…」
「それもそうね…。あと…『ハイプリエスティス(女教皇)』も原村に来てるらしいけど…」
「『ハイプリエスティス』?誰や?」
「…有海のことでしょ?もう、忘れたの?」
寛平は、ポンと手を打った。
「ああ…。そう言えばおったなぁ…。そんな子も…」
6162投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時09分49秒
最上階のスイートルームに、『R&G』と『TDD』が、大理石のテーブルを挟み、ソファーに座って対峙していた。
『R&G』側は…社長の吉田永憲、ダーブロウ有紗、俵有希子、俵小百合、ジャスミン・アレン、モニーク・ローズの6名。
『TDD』側は…後藤理沙、箕輪はるか、中田あすみ、シンパンマン…そして、後から加わる間寛平、加藤夏希の6名。
加藤夏希に関しては、まだ『TDD』所属ということにしてある。
これから何が始まるかと言うと…。
「遅ぇなぁ…。てめぇ等んとこの社長は…」
ダーブロウ有紗は、ソファーに胡坐を掻き、苛々と膝を貧乏揺すりさせている。
その所為で、吉田は窮屈そうに膝をくっつけて座っている。
「行儀の悪い女ね…。少しくらい待てないの?」
理沙は、ダーブロウ有紗を睨みながら言う。
「行儀?へん!!背中に『しょいもん』のある女に言われたかねぇよ!!」
「何を!?」
理沙は、立ち上がる。
「やんのか!?」
ダーブロウ有紗も立ち上がろうとしたが…身体中に鋼線が巻きつけられている。
「…ん?何だ?」
ダーブロウ有紗は、左隣に座っている有希子を見た。
「言葉で言っても、聞かないと思って…」
「ち…!!縛られた瞬間がわからなかったぜ…。成長したな…。ミミー…」
ダーブロウ有紗は満足げに微笑むと、そのまま素直にソファーに腰を降ろす。
6163投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時10分39秒
「…弥勒姉さんも、座りなよ…」
はるかが、理沙の袖を引っ張る。
「う…うん…」
理沙も、素直にソファーに座った。
「でも…こうヒマだと、またケンカになるかもしれないね…。ほんと、そちらの社長は、いつ来るの?」
モニークは、文庫本を読みながら、気だるそうに言う。
「そうですね…。私が見てきましょう…。夏希さんも来てないし…」
シンパンマンが、立ち上がり、スイートルームのドアへ歩いて行く。
ダーブロウ有紗は、鋼線で縛られたままモニークの方へ首を向ける。
「おい…。何、読んでんだよ?」
「埴谷雄高の『死靈』だよ…」
「………私の気に食わないヤツは、絶対にその本を読んでやがるな…」
「うん…。あんたが気に食わない内容だよ…」
それを聞いて、ジャスミンは呟いた。
「ふ〜ん…。じゃあ、私も読んでみよう…」
その時、出て行ったばかりのシンパンマンが、再びドアを開けて入ってきた。
「来ました。社長と夏希さんです」
「…!?ミミー…。拘束を解きな」
その直後、幾重にも絡まった鋼線が、ダーブロウ有紗の身体から離れていった。
6164投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時11分07秒
「はい…。お待ちどおさん…」
寛平は、よっこらしょ、とソファーに腰掛ける。
「おぉ!?このソファー、柔らか!!身体が沈むで!!」
まるで子供の様にはしゃぐ寛平に代わり、シンパンマンが取り仕切る。
「では、今から『TDD』と『R&G』による、終戦協定を結びたいと思います…」
「おう!!ちゃっちゃとやろうぜ!!手打ち式!!」
つまり、今日で『R&G探偵社』と、『裏探偵TDD』の戦いは、完全に終結することになる。
その為に、ダーブロウ有紗達は、原村…正確には、寛平達が入院している病院のある街…諏訪まで来たのだ。
6165投稿者:リリー  投稿日:2009年02月08日(日)21時11分25秒
では、おちます
6166投稿者:117  投稿日:2009年02月08日(日)21時14分31秒
ミチ子さんの病院は、厄介な患者を持ったものですな(笑)。
おぉ、ついに「終戦協定」ですか。そうそうたるメンバーが大集合しているようですが・・・続きも楽しみです!
6167投稿者:デジ  投稿日:2009年02月08日(日)23時46分16秒
11回初のコメントです。
(一昨日の一昨日)
あの戦いから一ヵ月半も経ってるんですね。
男女共学ですか。これはまた面白いことになりそうだ。
一方「R&G」。
皆無事で何よりです。しかし羅夢が一番怪我が重いとは・・・。しかも味方にやられた部分が一番痛いって・・・(笑)
そしてまさかの「Hay!Say!JUNP」が名指しで出るとは。
(一昨日)
謎の人登場。「めがねをかけた初老の老教師」っていったい誰だろう?
しかし、聖テレに変な校則がありましたね。「生徒同士の間でも、渾名で呼んではいけません」って、生徒同士なんだから別にいいと思いますが。(そうしちゃうと、変な渾名を付ける人が出てくるからかな?)
それにしても、6119のレポーター、少し酷い・・・。
(昨日)
2100代で出てきた謎がようやく解けましたね。
「藍のおばさん」ってリサさんのことだったんですか。ダーさんとは、そういうつながりがあったんですね。
なるほど。すると、藍の渾名付けは、ダーさんの遺伝でしょうか?
6168投稿者: 投稿日:2009年02月09日(月)01時04分23秒

6169投稿者:デジ  投稿日:2009年02月09日(月)01時08分46秒
(今日)
(前半)わー不良患者集団やー(笑)
しかし、ミチ子さんある意味最強ですね。
「らりるれろ」では、一喝で、ダーさんを黙らせたし、今度は楠本さんに恐怖与えますか・・・(笑)しかももう、この人たちの飼いならし方把握しきってるし・・・
今回は、有海に加え、帆乃香も「聖テレ」欠席でしたか。
しかし「R&G」と「TDD」のあの熱い死闘は、寛平さんにとっては「ゴタゴタ」・・・ですか。
(後半)
この筋だと現在有海は一人で片付けしているようですね。大変だこりゃ。
埴谷雄高の『死靈』・・・有沙が読んでたの以来久々に出ましたね。ダーさんの気に食わないやつは全員読んでる・・・ってことはこの場にいる人間ほぼ読んでるかも?
終戦協定ですか。とにかく壮観な面子が揃ってますね。
続きも楽しみです!
             (今日の小言)
十一回の最初に出てきた話題ですが、関係ないけど僕は最近ミスチルにはまってます。
「四作目」書き始めましたか!
かなり前話題に出てた東奈とあかりと千帆の話かな?
とにかくリリーさんの「新作」。楽しみにしてます!
6170投稿者:あげ  投稿日:2009年02月09日(月)19時14分16秒
6171投稿者:けさ  投稿日:2009年02月09日(月)21時55分41秒
とくダネ!で見たんだけど、寛平さんいまヨットで世界一周やってるらしい
6172投稿者: 投稿日:2009年02月09日(月)22時36分46秒
6173投稿者:リリー  投稿日:2009年02月10日(火)21時19分51秒
昨日は、忙しくて更新できませんでした
すみません
117さん
ミチコさんは、裏の暴力に頼らずに皆を圧倒できる設定です
そういう人がいてもいいかな…と
デジさん
眼鏡をかけた初老の教師は、誰でもありません
天てれ関係者で、該当する人が見当たらなくて…
埴谷雄高の『死靈』は、前にも書いた通り、数ページしか読んでません
でも、絶対にダーさんの好きな世界ではないと思います
ミスチルは、私も好きです
「HANABI」は、何回も聞きましたから
それをい聞くために「コードブルー」を毎週見てたくらいです
6171さん
私も、そのニュース知ってます
小説の寛平さん並みに鉄人なことをしてますね
無事に帰ってくることを願います
では、更新します
6174投稿者:リリー  投稿日:2009年02月10日(火)21時21分42秒
協定? 【難田門司の隠し財産】
「では…まず…『難田門司の隠し財産』の分配について…」
シンパンマンが、無表情で『R&G』のメンバーの顔を見回す。
ダーブロウ有紗が、肘で吉田を突く。
吉田は、緊張した面持ちで咳払いをする。
「え、え〜…」
声が裏返る。
「『難田門司の隠し財産』のことですが…え〜と…まことに図々しいことと承知しておりますが…」
「何、顔色伺って遠慮してんだよ!!」
ダーブロウ有紗は、堪らず口を挟む。
「5億相当の加工前のダイヤ、4億分がうち、1億分がそっち!!これでどうだ!?」
「な…!?」
シンパンマンの顔が硬直する。
「じょ、冗談じゃないわ!!そんな不公平な分け方…」
理沙が怒鳴った
それに対し、ダーブロウ有紗もやり返す。
「おい、おまえ、社長か!?口出ししてんじゃねぇよ!!下っ端が!!」
「お、おまえだって、社長じゃないだろ!?」
「生憎だったな!!私は、社長夫人だよ!!レッドさんと結婚するんだ!!」
「え!?マジ!?」
俵姉妹とジャスミンは、同時に驚愕の声をあげた。
6175投稿者:リリー  投稿日:2009年02月10日(火)21時22分07秒
「ああ〜…。言うてもうた…」
吉田は、大きな掌で顔を覆って天井を仰ぐ。
「ウソ!?ウソ!?ウソ!?いつの間に、そういうことになったの!?ねぇ、いつ!?」
「…そんなことより…早く、分配の件、片付けちゃいなよ…」
興奮状態の俵姉妹とジャスミンに、モニークがうんざりと吐き捨てた。
今度こそ、吉田は社長らしく話しを前に進める。
「し、失礼…。ならば、うちが3億、そちらが2億…これでどうでしょう?」
「それでも文句たれるんなら、もう一度戦争だぜ!?」
ダーブロウ有紗は、シンパンマンを…理沙を…そして寛平を睨みつける。
「うん。それでええよ…」
寛平は、テーブルの上のマスカットを摘みながら、軽く言いのけた。
「しゃ、社長…!!」
シンパンマンが大きな声をあげるが、寛平はマスカットの種を、彼の額に向けて、ぷっ…と吐いた。
「ええやないか…。今回は、ワシ等『TDD』の完全敗北なんやから…。ホンマなら、先の1億・4億でも文句は言えんのやで?」
「そ…そうですね…。命を救われたのは…我々でした…」
シンパンマンは、ハンカチで額に付いた種を拭いた。
6176投稿者:リリー  投稿日:2009年02月10日(火)21時22分30秒
「ふん…上手いね…」
腕組みをし、足を組んだあすみは、そう呟く。
「あん?何がだよ?アスミ女王様…?」
ダーブロウ有紗は、あすみへ、その鋭い視線を移す。
「交渉が上手いね…って言ったんだよ…」
「どういう意味だ…?」
あすみは、大きく息をついて、ようやくダーブロウ有紗の顔を見る。
「最初から、3億・2億の交渉で手を打とうって思ってたんだろ?先に理不尽な要求をし、その後、妥当な…でも、そちらに有利な交渉をする…」
ダーブロウ有紗は、鼻で笑って、ソファーに胡坐を掻く。
「女王様だって、奴隷を虐めるだけじゃない…。アメとムチを使い分けんだろうが?」
「この場合…女王様がそちらで、奴隷が私達…?」
「当然だろ?」
睨み合う、ダーブロウ有紗とあすみ…。
「そ、それでは…『難田門司の隠し財産』の件は…こちらが2億、そちらが3億…ということで…いいですね?」
シンパンマンは、もう一度寛平に確認をとる。
寛平は、面倒くさそうに頷いた。
小百合は、ノートパソコンに、この取り決めを打ち込んだ。
そしてプリントアウト…書面をシンパンマンに渡す。
シンパンマンは、その書面を寛平へ…。
またも寛平は面倒くさそうに、その書面に『かんぺー』とサインをする。
6177投稿者:リリー  投稿日:2009年02月10日(火)21時22分53秒
協定? 【細川藍、一木有海の処遇について】
「さてと…これについては、私は興味ないんでね…。レッドさん…全面的に任せるわ…」
ダーブロウ有紗は、乱暴に吉田の肩を叩いた。
吉田は、少し前によろけたが、すぐに厳しい顔を寛平に向ける。
「寛平さん…。あい〜んと…あみ〜ご…この二人を…是非とも、『TDD』から脱退させてあげて下さい…」
寛平は、相変わらずマスカットを食べている。
いや、食い散らかしていると言った方が正確だ。
その姿は、まるで日光の日本猿だ。
そして、マスカットを食べているからなのか…寛平は何も言わない。
「あの…寛平さん…?」
吉田は、もう一度呼びかける。
だが、寛平は黙々とマスカットを食べている。
吉田は、思わずダーブロウ有紗の顔を見る。
彼女は、「わたしゃ、知らねぇ…」と言うように、顔をそむけた。
「これについては…ワシも知らん…」
ようやく、寛平が口を…言葉を発する意味で、口を開いた。
6178投稿者:リリー  投稿日:2009年02月10日(火)21時23分19秒
「へ…?」
吉田は、再び寛平の方を向く。
「あい〜んとあみ〜ごを、どうするんかは、ワシよりも、あすみと話し合うて決めてや…」
「あ…あすみ…さんと…?」
吉田は、あすみを見る。
あすみも、幾分緊張した様に姿勢を正した。
「あ…あの…」
「よろしくお願いします…」
吉田の言葉の前に、あすみは頭を下げた。
「そ、それでは…」
「あの子達…『裏』の事情を知ってしまって…完全に『表』の世界で何事もなく暮らせるとは、思えないけど…」
あすみは少し、目を伏せた。
二人に対する罪悪感が、そうさせたのだろう。
「ななみん達…『R&G』の探偵達の…過去も知ってしまったし…あの子達の友情がどうなるのか、わからないけど…」
そして、真っ直ぐに吉田に顔を向ける。
「あの子達のこと…よろしくお願いします…」
6179投稿者:リリー  投稿日:2009年02月10日(火)21時23分45秒
「だってさ…。レッドさん…」
ダーブロウ有紗が、ポンと、吉田の肩を叩いた。
吉田は、少し安堵の笑みを浮かべたが、すぐにその顔を真顔に戻す。
「あの…あすみさん…。お聞きしたいことがあるんですが…」
「…?何でしょう?」
「どうして…野球部を創ったんですか…?」
「え…?」
「七海達を裏切ったとは言え…敵同士になったとは言え…あいつ等…ホンマに楽しそうでしたわ…」
吉田は、言葉を一つ一つ、大切に伝えようとする。
「せやから…今回の事件の中で、ホンマに不可解なんですわ…。どうして、野球部を…?敵対したら…ホンマに辛いのに…」
あすみは、しばらく黙っていた。
吉田の言葉に対し、何と答えていいのか…。
ようやく、あすみは語り出す。
「やりたかったから…」
「…へ?」
「本当に…子供みたいに…後先考えず…楽しいことを…楽しみたかったんでしょう…」
あすみは、悲しそうに…微笑む。
「宿題を後回しにして…夏休みを謳歌するような…子供みたいに…」
あすみは、微笑んだ表情を…元に戻す。
「子供が…子供と…遊んだ…。それだけのことなんです…」
6180投稿者:リリー  投稿日:2009年02月10日(火)21時24分10秒
吉田も、溜息をつき微笑んだ。
「私も同じです…」
「…え?」
「私も…仕事をほっぽり出して、遊んでばかりですから…。気持ちはわかります…」
ダーブロウ有紗が、吉田の後頭部を殴るマネをする。
あすみは、思わず笑ってしまった。
「あいつ等と遊んでくださって…ほんまに有り難うございました…。あいつ等に…楽しい思い出を…つくってくれて…」
今度は吉田が、あすみに対して頭を下げた。
「よ…吉田さん…。わ、私は…あの子達に…」
あすみの言葉に、涙が混じる。
「それでは、この件は一件落着ということにしておきましょう…」
吉田は、あすみの言葉を遮って、小百合に協定書の打ち込みを促す。
差し出された書面に、今度は、あすみがサインをした。
サインをしながら、あすみはダーブロウ有紗に言う。
「…いい男を…捕まえたね…」
「へへ!!羨ましいだろう?」
ダーブロウ有紗は、顔をクシャクシャにして笑った。
そして、あすみは吉田に言う。
「大変な女に…捕まっちゃいましたね…」
「はは…。ほんまに、どないしましょう…」
力なく笑う吉田の後頭部を、今度は本当に殴る、ダーブロウ有紗。
6181投稿者:リリー  投稿日:2009年02月10日(火)21時24分48秒
まだ、終戦協定は続きます

では、おちます
6182投稿者:こんなところで結婚発言!!  投稿日:2009年02月10日(火)21時41分18秒
まぁ幸せそうなのでいいですね。
6183投稿者: 投稿日:2009年02月10日(火)22時05分45秒

6184投稿者:デジ  投稿日:2009年02月11日(水)03時57分45秒
コントか!と言うような終戦協定ですね。
協定1
このタイミングで、婚約宣言ですか。うまいなー。もう(笑)
この3:2の配偶は、前回の「R&G」の敗北を含めてでしょうね。
あすみと有沙。見てて飽きないですね。このツーショット。
協定2
まあこれは、この結果以外答えはないでしょう。
しかし、あすみが野球部を作った深層心理。ちょっと泣けますね。
そして、最後のコント(笑)
続きも楽しみです!
             (今日の小言)
リリーさんもでしたか。
「HANABI」・・・あれもいい曲ですよね。何時ぞや前に「コードブルー」の再放送がありましたが、それを聞く為、録画までしながら、毎回見ていたものです。
他にも、「TOMORROW NEVER KNOWS」や「標」なんかも気に入ってます。
そういえば、「紅白歌合戦」は今年初出場だったそうですね。知ったときにはちょっとびっくりでした。
以上、最近女性シンガーより男性シンガーのほうが好きなデジでした。
6185投稿者:あげ  投稿日:2009年02月11日(水)14時39分50秒
6186投稿者: 投稿日:2009年02月11日(水)16時49分39秒
6187投稿者:あげ  投稿日:2009年02月11日(水)17時52分19秒
6188投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時04分02秒
6182さん
どこかで、宣言させないといけないな…と思いまして
あのごたごたの後、結婚報告したとは思えませんでしたので

デジさん
実際、勝利した方が気を遣うもんだと思います
徹底的に叩きのめすことって難しいですからね
アメリカ中東の戦争を見てればわかりますもん
今回の小説で、一番辛かったのは、すみではないかと、今頃気がつきました
ミスチルはいいですよね
古いですが、「イノセントワールド」が店内の有線で流れると幸せな気分になります

では、更新します
6189投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時06分19秒
協定? 【加藤夏希、ジャスミン・アレン、モニーク・ローズの処遇について】
「さてと…ここは本人達に決めてもらおうか…。3人とも、子供じゃないんだしね…」
ダーブロウ有紗は、ジロリと…夏希…ジャスミン…モニークを見回す。
「『R&G』に入るか…『TDD』に入るか…どこにも属さずフリーになるか…『裏』の世界から足を洗うか…」
「まず…私から言わせてもらうわね…」
最初に口を開いたのは、ジャスミンだ。
「私は…『R&G』に戻ることにするわ…」
「え?ほんまに!?」
「わ…!!やった!!」
吉田はもちろん…俵姉妹も手を取り合って喜んだ。
「ほ、ほらほら…!!ジャスミンが心変わりせんうちに…はよ、協定書作って!!」
吉田に急かされ、小百合は、大慌てでパソコンを打ち込む。
その為、『ジャスミン』を『ジャス人』と打ち間違えてしまった。
「ふ〜ん…。どのツラ提げて、戻ってくるんだか…」
ダーブロウ有紗は、冷めた目でジャスミンを見る。
「私が『R&G』を去ったのは、モニークの消息を掴む為だから…」
ジャスミンは、チラリとモニークを横目で見る。
モニークは、相変わらず『死靈』を読みふけっている。
「今は、こうして無事でいるとわかってるわけだし…それに、いろいろ心配することもないし…」
「心配?」
ようやく、モニークは本から目を離し、ジャスミンの方を向く。
6190投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時07分48秒
「心配って何?私が自殺するようなタマだとでも…?」
「まさか…。何年の付き合いだと思ってるのよ…」
ジャスミンは、苦笑いをする。
「私が心配したのは、あなたが自暴自棄になって、無茶苦茶をするんじゃないかってこと…」
「無茶苦茶って何…?」
「例えば…世界中の動物園にテロをしかけて、動物を逃がしたり…」
「………まさか………。銃殺されるのは、その動物達だろ?」
「『シー・シェパード』に入っちゃったり…」
「………あのねぇ………。私は、そこまで『バカ』じゃないよ?」
「ほらね?もう、何の心配もないから…。私は、『R&G』に戻ることにするわ…」
ようやく、ジャスミンの協定書がプリントアウトされる。
「ほら、はよ、サイン、サイン!!」
吉田が、ジャスミンの前に協定書を差し出す。
「待った!!」
ダーブロウ有紗は、その協定書を取り上げ、クシャクシャに丸めてしまった。
6191投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時08分17秒
「な、何するん?」
呆然と眺める吉田を余所に、ダーブロウ有紗はジャスミンを睨みつける。
「ジョー!!協定書にこう付け加えとけ!!給料は…時給650円!!」
「ろ…!?」
ジャスミンは、その青い眼を飛び出さんばかりに、ひん剥いた。
「ちょっと!!冗談じゃないわ!!マックのバイトより安いじゃない!!」
「だったら、マックでバイトしな!!スマイル0円でな!!」
そこに、シンパンマンが咄嗟に口を挟む。
「ジャスミンさん…。『TDD』なら、契約金1億を用意できますが…?」
「本当?私、『TDD』に入ろうかしら!!」
ジャスミンは、ダーブロウ有紗を睨みつけながら言う。
「おい、コラ!!アンパンマン!!横から口出してかっさらってくんじゃねぇよ!!『潰し餡』にするぞ!?コンチクショウ!!」
ダーブロウ有紗は、シンパンマンのネクタイを掴んで引っ張った。
「く、苦しい…!!助けて…」
もがくシンパンマンの横で、はるかがニヤリと笑いながら言う。
「…どうせなら、『こし餡』にしちゃって…」
彼女の歯は…全て真っ白に輝いていた。
「ま、まぁ…ジャスミン…。ワシの方からも、ダーさんに頼んでおくから…。お願いやから、『R&G』に戻って来て…」
吉田に乞われ、ジャスミンは渋々、シワだらけになった協定書にサインした。
6192投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時09分06秒
「さてと…次は私だね…」
モニークが、文庫本をスタジアムジャンパーのポケットに仕舞いながら言った。
「どうすんだよ?『R&G』に来るか?それとも『シー・シェパード』?『グリーン・ピース』?」
ダーブロウ有紗のチャチャに、モニークはジロリと彼女を睨む。
「私は、『TDD』に入るよ」
「ああ!?」
ダーブロウ有紗だけではない…吉田も、俵姉妹も、ジャスミンも、顎が外れるくらい、口を開いた。
それは、『TDD』陣営も同様…。
「シンパンマン!!はよ、協定書!!打ち出しや!!」
寛平が、シンパンマンをせっついた。
「は、はい…!!ただ今…!!」
シンパンマンは、急いでパソコンで協定書を打ち込む。
その為、『モニーク』を『揉みーク』と打ち間違えてしまった。
6193投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時09分48秒
ダーブロウ有紗は、思わず立ち上がってモニークを怒鳴る。
「コ、コンチクショウ!!な、何で、『TDD』なんかに…!!」
モニークの性格上、『TDD』に入ることは…いや、組織に属することは、絶対にないと思っていた。
「理由は二つ…」
モニークは、ダーブロウ有紗を見上げる。
「一つ…。ダーブロウ…。私は、おまえが気に食わない…」
「…う…」
ダーブロウ有紗は、何も言わずにソファーに腰掛けた。
「うふふ…。私達、気が合いそうね…。モニーク…」
理沙は、心から愉快そうに、ダーブロウ有紗を見詰める。
「私は、ケンカが嫌いなんだ…。おまえと一つ屋根の下なんかに暮らせないよ…」
そう言って、モニークは、ダーブロウ有紗から目を逸らした。
「だ、だったら…モニーク先生だけでも…どこかマンションを用意しますよ…?」
吉田も、モニークを『TDD』に渡したくはない。
「あと…やっぱり…羅夢や梨生奈もいるしね…。あいつ等も、私と一緒にいたくないだろ…」
今度は、寂しげに微笑むモニーク。
6194投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時10分23秒
「だったら、私とデコッパチとダッチャが、天心荘に移り住んでやらあ!!これでどうだ!?」
「二つ目…」
モニークは、ダーブロウ有紗の申し出を無視して、言葉を続ける。
「『TDD』のシステムが…私に合っている…」
「『システム』?」
シンパンマンが、キーボードを打つ手を止める。
「自分が引き受けたい仕事を、自分で交渉して引き受ける…というシステム…」
モニークは、説明を続ける。
「私がやりたい仕事は、『動物を守る』仕事…。密猟者や、絶滅危惧種の闇売買業者、動物生息地域の自然破壊をしているヤツ等を、この手で潰したいんだ…」
「だったら、『らりるれろ探偵団』に入りやがれ!!」
ダーブロウ有紗は、吐き捨てる様に言った。
「ふふ…。『らりるれろ』か…」
モニークは、一瞬、瑠璃のことを思い出した。
「しかし…モニークさん…」
シンパンマンは、申し訳無さそうに口を挟む。
「我が『TDD』は…1千万以上の報酬の仕事しか、引き受けないことになっています…。政治家のバックのない動物保護団体に、それ程の報酬を用意できるとは思えませんが…?」
これには、ダーブロウ有紗が同調する。
「ああ、そうだよ!!結局、おまえが引き受ける仕事は、『ゼニゲバ似非エコ野郎』の手先になるだけだ!!」
6195投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時10分54秒
しかしモニークは、シンパンマンを…そして、寛平をじっと見据えて言う。
「だから、ここからが私の交渉だよ…。私の受ける仕事に関しては、報酬は1千万以下でも認めて欲しい…」
「し、しかし…」
シンパンマンは、寛平の顔色を伺う。
「にが…」
寛平は、ライチの食べ方がわからないらしく、皮ごと食べて、あまりの苦さに吐き出していた。
「ボ、ボス…。今の言葉…黒人の方での前では、禁句ですよ…」
「あん?何で…?」
しかし、モニークは全く意に介さず話しを続ける。
「1千万以下の仕事の場合は、全額『TDD』に納めるよ…。これでどう…?」
「何故、そこまでして『TDD』に…?フリーで仕事をすることもできるでしょ?」
理沙が、不思議でたまらない…とでも言うように、首を傾げながら聞いた。
「私は、今、指名手配犯だよ…?大きな組織の後ろ盾がないと、国外どころか、国内の移動だって自由にできない…」
そして今度は、鋭い視線で『TDD』の面々を見回す。
「私の名前を利用して…身に覚えのない誘拐事件まで、罪を被せられたし…。当然、面倒を見てもらわないと…」
そう…『TDD』は、指名手配犯モニーク・ローズを追って、負傷した…と、表向きではなっている。
「うん。ええよ…」
寛平は、いとも簡単に許可を出した。
6196投稿者:にが  投稿日:2009年02月11日(水)21時12分19秒
何で?
6197投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時13分54秒
「ボス…!!例外を認めるんですか!?」
シンパンマンの言葉を遮る、寛平。
「ええやんか…。随分、こっちもモニーク君の悪名を利用したんやさかい…。こっちも利用されたかて…」
「悪名ね…」
モニークは、思わず笑った。
「ただし…『TDD』最初の仕事は、ワシの命令に従ってやってもらう…。これは、例外なしでやってもろうてることや…。理沙や、楠本君かて、そうやった…」
「ええ…。私もやったのよ…。やりたくない仕事を、やりたくないヤツと…。確か、あれは、アメリカで…」
「理沙…。それは内緒…」
寛平は、理沙の口に人差し指を持って行く。
「わかった…。あとは、そちらに従うよ…」
モニークは、シンパンマンから差し出された協定書にサインをした。
「モニーク先生…。瑠璃ちゃんとは、お会いしましたか?」
吉田は、モニークに尋ねた。
「瑠璃…?私が気を失っている間、面倒を見てくれたんだってね…。でも…私が目を覚ました時、瑠璃はもういなかった…」
そして、モニークは寂しそうに…そして嬉しそうに呟いた。
「瑠璃…。強くなったんだね…」
6198投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時14分28秒
「さてと…最後は私ね…」
加藤夏希が、口を開く。
夏希のことだ…『R&G』に入ることはないだろうが…。
「寛平さん…。『TDD』にお世話になります…。ただし、条件付きでね…」
「…ええ…?」
これには、吉田も、俵姉妹も、眉をひそめた。
「な…何で…?」
「何でも、何も、てめぇも私が気に食わねぇんだろ!?」
もう、ダーブロウ有紗はふて腐れてしまっている。
夏希は構わず、説明を続ける。
「私が『TDD』と敵対した理由は、ただ一つ…私の父を殺害する依頼を、『TDD』が受けていたから…」
「父親?精子提供者だろ?」
ダーブロウ有紗は、鼻で笑う。
「父親よ!!」
夏希は、ダーブロウ有紗を睨みつける。
6199投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時14分54秒
「それで…条件というのは…?」
シンパンマンが、夏希に問う。
「わかりきったことを聞くもんやないで…。あれやろ?加藤組長の殺害の依頼をキャンセルせえってことやろ?」
寛平は、今度はライチの皮を丁寧に剥きながら言う。
「そう…。あと…妹のジーナにも、ノータッチで…」
「もし、アカン…言うたら?」
「もう一度、戦争よ…」
夏希の殺気が、スイートルームを支配する。
「…!?」
理沙、あすみ、はるかが、臨戦態勢を取る。
「…ボス…」
シンパンマンは、青い顔で呟く。
「おいおい…。今度は、私達を巻き込むんじゃねぇぞ…?てめぇ一人でやってくれ!!」
ダーブロウ有紗は、高見の見物を決め込んでいる。
吉田、俵姉妹は気が気でないが…。
ジャスミンとモニークは、じっと夏希の動向を見詰める。
6200投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時15分22秒
「ええよ」
いとも簡単に、寛平は言う。
「そ、それはそうでしょう…。今更、山本組長の依頼を完遂しても、我々には何のメリットもないし…」
シンパンマンは、この寛平の決定には納得する。
「どうも…。これで、無駄な血が流れないで済んだわ…」
夏希は、その殺気を引っ込めた。
「血…?あんたの血でしょ?」
理沙は、夏希を睨みつけながら言う。
「何ですって?」
理沙の言葉に、夏希は仕舞ったばかりの殺気を僅かに覗かせる。
だが、寛平は平然とライチを食べ続けながら、隣のシンパンマンに言う。
「そうや…。山本組長の口座に、違約金を振り込んでや…」
「あ…やはり…?」
「当たり前やん…。ルールを曲げたらアカンやろ?」
寛平は、仕事に関しては公平な態度を貫く様だ。
6201投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時16分29秒
「しかし…。まさか夏希君が『TDD』に戻るとはな…」
寛平は、ようやく夏希の顔を見る。
「君の考えは、わかってるよ…」
「何が?」
夏希は、その張り付いた様な笑顔で寛平に訊ねる。
「ワシの気が変わって、やはり加藤組長を殺そうした時……また、あんたはワシに挑む…。その為に、『TDD』に身を置くんやろ?」
「ふふ…。わかってるじゃない…」
夏希は、笑った。
いや、ただ、笑顔で答えただけだ。
「…ボス…。やはり…危険です…。この女を『TDD』に迎え入れるのは…」
シンパンマンは、寛平の耳元で囁く。
しかし、当然、夏希にも聞こえているが…。
「ええやん…。適度な刺激は、頭がボケんでええ…」
当然、寛平は「あんた、とっくにボケてはるやないか」という突っ込みを期待しての答えだが、誰も突っ込む者はいない。
「そう言えば…山本に違約金を払うんだったら、難田門司にも、払わなくちゃいけねぇだろ?」
ダーブロウ有紗の言葉に、寛平とシンパンマンは、顔を見合わせる。
「…難田門司…?まぁ…そうかな…?」
「…?」
この二人の不自然なやりとりを、ダーブロウ有紗は見逃さなかった。
6202投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時17分40秒
寛平は、視線を夏希へ戻す。
「で…夏希君…。君のお父さんと妹さんは、今、どこにおんの?」
「教えない…」
夏希は、シンパンマンに渡された協定書にサインし終えると、寛平を冷たい目で睨み返す。
「知ってどうするのよ…?」
「どうもせんよ…。おお…こわ…」
そして、シンパンマンに視線を移す。
「なあ、何か書くもん持ってる?」
「え?はい…」
シンパンマンは、スーツの内ポケットから手帳と万年筆を出して寛平に渡す。
寛平は、手帳に何やらサラサラと描いて、二枚ほどページを破ると、夏希とモニークに、それぞれ渡す。
「…?」
「…何?コレ…」
その切れ端には、何やら絵が描かれているが、ヘタクソ過ぎてわからない。
「これ、タロットカードの代わりや。今、カード持ってへんから…」
そして、背筋を伸ばしてこう言った。
「それでは…改めて、加藤夏希君に『デビル(悪魔)』…モニーク・ローズ君に『ムーン(月)』のコードネームを与える」
よく見ると、夏希の貰った紙には、角と尻尾のはえた悪魔の様なものが描かれている。
そしてモニークの方は、月の様なものと、犬の様なものと、ザリガニの様なものが、描かれている。
これで、二人の『TDD』入団が、正式に決まった。
元『TTK』四天王を、『R&G』、『TDD』に二人ずつ分け合う結果となった。
6203投稿者:リリー  投稿日:2009年02月11日(水)21時20分54秒
6196さん
つまり、「苦い」という言葉を、黒人の蔑称「二ガー」と聞き間違えたということです
これ、元プロ野球選手の新庄が、NYメッツのロッカールームでブラックコーヒーを飲んでいて、つい呟いた言葉に、チームメートの黒人選手が激怒したという実話を元にしています

さっき、ゴルゴさんがレッドカーペットに出てましたね
クールポコとコラボしてました
なかなか面白かったです

では、おちます
6204投稿者:117  投稿日:2009年02月11日(水)21時33分36秒
「終戦協定」、だいぶ進んでいますね。
リアルに「シー・シェパード」まで・・・最近も、暴走してますからね(苦笑)。
四天王は2対2で対等に?意外な展開でした。続きも気になります!
6205投稿者:まさに寛平さんと同じで  投稿日:2009年02月12日(木)00時01分51秒
ライチの食べ方がわからなくて皮ごと口にした事があります笑
6206投稿者:モニークはR&Gに入らないだろうと思ってたけど  投稿日:2009年02月12日(木)00時25分53秒
まさかTDD入りするとは思わんかった
6207投稿者:デジ  投稿日:2009年02月12日(木)00時38分55秒
協定3
これは意外な結果になりましたね。
まずジャスミンは「R&G」復帰。
そしてモニークは「TDD」に。有紗分かってることだけどよくもまあ随分と敵を作ってますね。逆にすごい。ここまで相性いいのがいない人は(苦笑)
しかし間違いが多いこと。確かに、「M」と「N」のキーってあわてて打つと間違いやすいですよね。
夏希は「TDD」に。てっきり表で平穏に暮らすと思ってました。これが一番以外でした。
そういえば、「TDD」でのモニークのコードネーム『月』だったんですね。
今頃思い出しました。
続きも気になります!
              


6208投稿者: 投稿日:2009年02月12日(木)03時11分36秒
6209投稿者: 投稿日:2009年02月12日(木)12時53分59秒
6210投稿者: 投稿日:2009年02月12日(木)18時03分59秒
6211投稿者:ひょっとして  投稿日:2009年02月12日(木)20時47分59秒
ジャス人と揉みークの件は実体験を元にしてるんじゃないですか?
6212投稿者:リリー  投稿日:2009年02月12日(木)21時22分02秒
117さん
もともとダーさんは『TDD』に入るつもりはなかったし、ジャスミンも戻って来ただけですから、この件に関しては、『TDD』しか特してませんね
6206さん
夏希やモニークが『R&G』で探偵をやっているイメージが、どうしてもしなかったもので…
6205さん
私もそうです
ライチって、皮ごと食べられるイメージがあるんで…
デジさん
ほんと、誰とでも仲良くできる正確でないと、いろいろ損することばかりですよね
6211さんの仰る通り、実体験です
それに、私のPCのキー、MとNの字が剥げかけてるんです

では、更新します
6213投稿者:リリー  投稿日:2009年02月12日(木)21時24分05秒
協定? 【これからの『R&G』、『TDD』の関係について】
「さてと…これについては…我々『R&G』の、圧倒的な勝利で終わったわけだが…」
ソファーに踏ん反りかえって、ダーブロウ有紗は『TDD』の面々を見回す。
「何を言ってるのよ!?第一ラウンドは私達の勝ちでしょ!?だから、引き分けのはずよ!!」
理沙はムキになって反論する。
「引き分け?違うな。私達はおまえ達から逃げ延びることができた。だが、おまえ達はその場で戦闘不能…生殺与奪の権利を、私達に渡しちまった」
そう…第一ラウンド…クリスマス・イヴの戦いでは、敵に捕らわれたのは中村有沙一人。
しかも、仲間の裏切りもあり、その彼女に逃げられた。
だが…第二ラウンド…元旦の戦いでは、寛平を含め全員が、その場で捕らわれた…しかも、瀕死の重傷で…。
今、『TDD』のメンバーが、一人も死ぬことなく命をつないでいるのは、まさに『生殺与奪』の…『生』を『与え』られたことにある。
ダーブロウ有紗の言う、『R&G』完全勝利はあながち妄言ではない。
6214投稿者:字が剥げかけてるって……  投稿日:2009年02月12日(木)21時24分20秒
何年使ってるんですか?!PC
6215投稿者:リリー  投稿日:2009年02月12日(木)21時24分37秒
「それにしても…意外でしたね…」
シンパンマンは、協定書をチェックしながら言う。
「ん?何が意外なの?アンパンマン?」
「シンパンマンです…」
「本名、教えろよ」
「本名を教えたら、その名で私を呼んで下さいますか?」
「ううん。私、気に入った人間には、あだ名をつけることにしてるから…」
「…気に入られてるんですか?私…」
「おう!!名誉なことだぞ!!…で、何が意外なんだ?」
「いえ…あなたの性格上、完膚なきまで私達を叩き潰すと思ったんですよ。または、我々を人質にして、残りの『TDD』のメンバーと有利に戦うことも…」
「ふん…!!おまえに、私の性格がわかるのかよ?」
ダーブロウ有紗は、苦笑いをしながらシンパンマンを睨む。
「はい…。全て私が分析し、データにしてまとめてあります」
「ほ〜…。で、おまえは、私をどんな風に分析をしたんだよ?」
「言いたくありません」
「何で?」
「殺されたくないからです」
「なるほどね…」
今度は心の底から笑う、ダーブロウ有紗。
6216投稿者:リリー  投稿日:2009年02月12日(木)21時25分04秒
「それで…どうして、私達を殺さなかったのです?」
もう一度、シンパンマンは問う。
ダーブロウ有紗は、寛平の方をじっと睨みつけ、大きく溜息をつく。
「…私達は…もう、『裏』の人間じゃねぇからな…。『TTK』の頃の私達とは違うんだよ…」
「ウソばっかり!!あんたの妹…絶対に、私を殺すつもりだったわ!!」
理沙は、憎々しげにダーブロウ有紗を睨んだ。
「そんなの、私が知るかよ!!おまえ、随分、チビアリのヤツに恨まれたな?聞いたぜ。えげつない拷問をしてくれやがったってな…」
ダーブロウ有紗も、理沙を睨み返す。
「あいつの執念深さをナメんなよ?魔太郎並みだかんな…」
「魔太郎?誰よ?それ…」
その理沙の質問に、寛平が答える。
「『魔太郎が来る!!』。藤子不二夫Aの漫画の主人公や…。『コノウラミ、ハラサデオクベキカー!!メラメラメラ…』…知らん?」
「………知りません………」
理沙は、本当にどうでもいい…と言いたげな顔で言う。
6217投稿者: 投稿日:2009年02月12日(木)21時25分19秒
ジャニーズのユニット、KTA-TUNのA、赤西仁くんとエッチしたことがあります。
理由はここの掲示板のスレを本当に3ヶ所に張ったら、仁くんのアドレスが出てきて。メールしたんです。
「赤西仁くんですか?」って。そしスら数分後に「・・・そうだけど・・・なんで知ってるの?あなた誰かな?スタッフ?」ってきたんです。
私は「何で知ってるかは秘密☆私はあなたのファンです。メールしよ」って打ちました。すると、また数分後に「いいよ。何歳?メールエッチしたことある?」って聞かれました。私はした事なんてなかったので、「18です。メールエッチしたことありません。」って打ちました。すると「オレがおしえちゃる」っていう文がかえってきました。
そのご、私は1時間程度、メールエッチしました。
オマンコがびちょぬれで。けど楽しかったです。そしてその時の仁くんとのメールエッチ中の画像を2人で交換しました。
私は自分がオナニーしてるところを写メして、仁くんは裸とオマンコのでっかい写真を送ってきてくれました。
それをパソコンによみこみました。そのアドレスがこれです。
http://www.mailH.0213 HPサーチ HPサーチ HPサーチ
私がオナニーしてるところと、仁くんの裸とオマンコの写真がのってます。
このアドレスヘ普通には開きません。3ヶ所、同じでも違うでもいいですから、掲示板に貼り付けてください。同じ文をです。
そうしたら必ず見れます。
お姉ちゃんにこのスレを見せると、お姉ちゃんも仁くんファンなので、3ヶ所に貼り付けてました。そしたら出てきました。
そしたらこういわれました「あんた・・・仁とやったんやね。仁も毛がボウボウやん。」って。
本当に凄いです!
けど、これを1箇所にも張らないと、一週間後、身内が死にます。そして1ヶ月ご、あなたは交通事故に遭うことでしょう。そして1年後。あなたは必ず死ぬ。
見たい人も見たくない人も3ヶ所に張らないと・・・1年後あなたは死にますよ。
友達に見せると、まだ1年も経ってないんですけど、一週間後、おばあちゃんが死に、1ヶ月後、交通事故にあって今入院中です
6218投稿者:リリー  投稿日:2009年02月12日(木)21時25分34秒
「おそらく…それは、おまえさんの考えとちゃうな…」
寛平は、そのままダーブロウ有紗に語りかける。
「…ん?どういうこった?」
少し顔を顰めて、ダーブロウ有紗は聞く。
「あみ〜ごやろ…?その考えは…」
ち…と、ダーブロウ有紗は舌打ちをした。
「ああ、そうだよ!!あの、イッチキチ(有海)のヤツのアイデアだよ!!この、終戦協定もな!!」
そして寛平へ、突き刺さるような視線を向ける。
「私は、おまえをぶっ殺したくって仕方がなかったぜ!!それも、パッツンとインジゴ(藍…indigo)に邪魔されちまったけどよぉ…」
あの、自分でさえも倒せなかった楠本を、素人同然の女子中学生の有海が撃破する…という、大金星…。
そして、殺される間際だった自分を救った…七海と…これまた素人同然の女子中学生、藍…。
これも、寛平を倒す大金星だ。
命を救われたダーブロウ有紗は、彼女達の提案に従う義務がある。
「まったく…!!チューボーの言いなりなんてよ…私も、ヤキがまわったかな…」
そう呟くダーブロウ有紗の肩を、吉田は優しく叩く。
「まあ…ええやないか…。あみ〜ごの提案…これが、一番、ええ終わり方なんやから…」
6219投稿者:リリー  投稿日:2009年02月12日(木)21時26分13秒
………元旦の最終決戦が終わり………。
藍と七海のコンビネーション『ヴォヤージュ±』によって、寛平を撃破して、『R&G』の人間………比較的負傷の軽い者が、体育館に集合した。
有海の主張はこうだ。
「あの…このまま、楠本さんも…寛平さんも…病院に連れてってあげたら…どうでしょう…?」
これには、ダーブロウ有紗は烈火の如く反論する。
いや、反論と言うよりも、「殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!」の連発なのだが。
有海は、そのあまりの恐怖に3分程シクシク泣いていたが、七海と藍に元気付けられ、主張を続ける。
「こ…これ以上…戦いを続けても…恨みが残るだけだと思うんです…。『TDD』は…まだ、手強いメンバーが残ってるみたいですし…」
そいつらもまとめてぶっ殺す…と、ダーブロウ有紗は怒鳴り散らす。
そして、また2分程シクシク泣いていた有海から、残りのメンバーの情報を聞く。
現在、最高位参謀である、『ハイエロファント(教皇)』の伊藤正幸。
変装と内部調査のスペシャリスト、『ハーミット(隠者)』の肥後克広。
打たれ強い不死身の男、『ハングドマン(吊られた男)』の上島竜兵。
肉体武闘派、『テンバランス(節制)』の寺門ジモン。
元『TTK』の戦闘教官、『ホイール・オブ・フォーチュン(運命の輪)』のT−ASADA。
恵、ジモンを凌ぐ、超武闘派、『チャリオッツ(戦車)』の角田信朗。
そして…もう一つの都市伝説…『マジシャン(魔術師)』の『怪盗・ノッポ』。
この、角田と『怪盗・ノッポ』は、寛平、楠本と共に、『TDD』の四天王と呼ばれている。
作戦参謀候補だった有海は、楠本から残りのメンバーの情報を聞いていたのだ。
6220投稿者:リリー  投稿日:2009年02月12日(木)21時26分36秒
このメンバーを聞いた時、ダーブロウ有紗を始め、元『TTK』の探偵達からどよめきが起こった。
角田と『怪盗・ノッポ』の名前にではない。
『ホイール・オブ・フォーチュン(運命の輪)』………T−ASADAの名前に…。
『TTK』時代、彼女等は、この男から戦闘を教えられたのだ。
手足が異様に細長く、何かと『Love〜〜〜!!Love〜〜〜!!』と叫んでいた男…。
いつもにこやかで、決して感情的に怒鳴ることがなく、ましてや暴力など振るわない、唯一の教官だったが…その恐ろしさは本物だった。
彼は、『任務』には容赦をしない。
『敵』に対しては…冷酷無比…完膚なきまで叩き潰す…。
そう…つまり…最も『敵』に回したくない男…。
そのT−ASADAでさえ、四天王の一角を担えないとなると…いよいよ、角田と『怪盗・ノッポ』の恐ろしさの片鱗も伺える。
そして…同じく四天王の楠本を…そして、寛平を…この戦いで倒すことができたのは、奇跡に近いのだ…。
それを考えると…これ以上、『TDD』と戦争を続けるのは、得策ではない。
寛平をはじめ、皆の命を助け、『TDD』と戦争を終結させた方が、『R&G』の為になるのだ。
まず、『TDD』に勝利した形で、戦いを終えることができる。
寛平達を助けることで、『TDD』に恩を売ることもできる。
これは有海の主張ではないのだが、『難田門司の隠し財産』の件も、丸々奪うよりも、分け合うことで恨みを買うリスクを避けられる。
デスマッチは、お互いにとって、プラスよりもマイナスの方がはるかに大きいのだ。
ダーブロウ有紗は、渋々ではあるが…有海の提案した終戦協定に同意せざるを得なかった。
6221投稿者:リリー  投稿日:2009年02月12日(木)21時26分59秒
その後、『TDD』の中で、唯一動く事のできる中川翔子が、瑠璃をハセヤンズハウスに送り届けることになった。
つまり、瑠璃を助け出した正義の探偵団…という名誉も、『TDD』に渡してやるのだ。
戦争に負けておいて、こんな破格な譲歩はない。
『裏』の世界の常識で考えれば、これは、お人好しを通り越している。
だが、この提案をした有海が、『裏』の世界の人間ではないのだから、仕方がない。
もちろん、『R&G』の探偵達だって、『裏』の世界の人間ではない。
そして、瑠璃を誘拐した犯人は…気絶しているモニークに…被ってもらうことにした。
瑠璃は、名残惜しそうにモニークを心配しながら、翔子の運転するベンツで廃校を去った。
そして寛平達は、聖テレから盗み出した送迎バスで、諏訪市民病院へ送り届けられた。
いや、送り届けた…と言うより、病院前に転がしただけなのだが…。
ダーブロウ有紗、ジャスミン、中村有沙、羅夢、エマ、ジョアン、加藤夏希の7人は、時間差をつけて病院に駆け込んだ。
他の者は、入院するほどの怪我ではないので、そのまま応急処置だけで済ませた。
ただ、モニークの怪我も決して軽くはなかったが、指名手配犯なので入院するわけにはいかなかった。
これが、『R&G』と『TDD』の、最終決戦の顛末である。
「で…その、あみ〜ごは…どこにおんの?」
寛平の顔には、孫娘を心配するような人間味のある暖かさが僅かに覗く。
「ん…?師匠に最後の挨拶だってよ…」
ダーブロウ有紗は、面倒くさそうに言う。
「師匠…?」
「…まったく…。イッチキチも、厄介なヤツに見込まれたもんだぜ…」
ダーブロウ有紗は、最後の協定書にサインをしながら呟いた。
6222投稿者:indigo?  投稿日:2009年02月12日(木)21時28分37秒
魔太郎は分かりました。
最近コンビニでスペシャル版文庫売ってましたから立ち読みしたんです。
6223投稿者:リリー  投稿日:2009年02月12日(木)21時29分05秒
6214さん
もう、4年目に突入でしょうか…
小説を書き始めてから、キーを頻繁に押してますから…

次回で、『11回・裏』は終わりです

では、おちます
6224投稿者:リリー  投稿日:2009年02月12日(木)21時30分30秒
6222さん
藍色は、英語で「インディゴ」ですので…
魔太郎…すごい漫画ですよね?
だって、オチがないんですもん
いじめっ子を殺しちゃうこともあるし…
6225投稿者:すごいな  投稿日:2009年02月12日(木)21時31分46秒
キーボードのカバーかけないの?
6226投稿者:リリー  投稿日:2009年02月12日(木)21時44分34秒
6225さん
カバーですか?
あれ、遣いづらくてすぐに取っちゃうんですよ

では、今度こそおちます
6227投稿者:何気に  投稿日:2009年02月12日(木)21時50分18秒
私、楠本&有海コンビ好き(だった?)なんだよね
表世界の方でこれからも絡んでほしかったなぁって感じですね
6228投稿者: 投稿日:2009年02月12日(木)22時08分09秒

6229投稿者:有海も藍も  投稿日:2009年02月12日(木)23時18分27秒
あだな付けられたってことはダーさんに気に入られたのか
6230投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)20時57分31秒
6227さん
そのコンビの絡み、おそらく今夜が最後となります
また、機会があったら書きたいですね

6229さん
二人は、自分も倒せなかった強大な敵を倒してますからね
気に入られたと言うよりも、認められたって感じでしょうか

では、更新します
6231投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)20時58分43秒

「楠本さん。面会です」
看護士長の清水ミチコが、何故かニコやかに声をかけた。
「はい…?面会?」
相変わらず若い看護士を引っ掛けてお喋りを楽しんでいるので、怒られると思っていた楠本は、拍子抜けしてしまった。
「ええ。とっても可愛い子ですよ」
「え?可愛い!?」
楠本の顔は、色めきたった。
「本当に…楠本さんも隅に置けませんね…」
そう言いながら、ミチコは面会人を部屋に招き入れた。
「…楠本さん…。お具合は…いかがですか…?」
その面会人は…中学生くらいの少女だった。
「…あ…」
楠本の目が、点になっている。
「ね?とっても可愛い子でしょ?」
ミチコが、愉快そうな目で楠本を見る。
「あ…あ…あみ〜ご!!来てくれたんですか!?」
楠本は…満面の笑みで…まるで恋人を迎えるように、声を張り上げた。
6232投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)20時59分24秒
「え…?マジ…?」
ミチコは、怪訝そうな顔を楠本に向ける。
可愛い子…と聞いて、幼い女の子が出てきた所で、楠本をガッカリさせようと、ミチコは思っていた。
しかし、この楠本の喜びようはどうだ?
妹…というには歳が離れているし、ましてや娘ということはもっとない。
そもそも、この有海という少女は、楠本を『苗字で、さん付け』して呼んでいた。
親戚の子…ということもないだろう。
「ちょっと、席を外してもらえます?早く!!早く!!」
今まで楽しくお喋りを楽しんでいた看護士は、凄い勢いで楠本に追い立てられる。
「さあ、さあ、早く!!あみ〜ご!!こっちに来て!!座って!!座って!!」
楠本はテンション高く、自分のベッドを叩いている。
「えぇ…?楠本さんって…ロリコンだったの…?」
若い看護士は、驚きを隠せない。
「だから…もう、近づいちゃダメよ…」
ミチコは、看護士の肩を抱いて病室を出た。
6233投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時00分16秒
「あの…ここで結構です…」
有海は、楠本のベッドの脇に立った。
「…楠本さん…。お怪我は…大丈夫ですか…?」
目を潤ませながら、有海は楠本を見詰めた。
楠本は、暗い目をして、顔を伏せた。
「実は…もう…長くないだろうと…医者に…」
「ええ!?そ、そんな…」
有海は、悲痛な叫び声をあげた。
「…長くないって…あと…どれくらい…?」
「あと…三週間くらいだろうと…」
「…そ、そんなぁ…。私の所為で…ごめんなさい…」
有海は、涙を落とした。
6234投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時00分51秒
「…泣かないで…下さい…。あみ〜ご…。だって…」
「だって…?」
「あと、三週間で、退院ですから…」
「…え…?」
有海の頭の中が、一瞬真っ白になる。
「もう、入院生活も長くないだろうと…医者に言われました…」
「………」
有海は、言葉が出ない。
「…もしかして、私が死んでしまうのでは…と、思ってました?」
そう言って、楠本はニヤリと笑った。
「…もう!!」
有海は、顔を真っ赤にして楠本に背中を向けた。
しばらく会わないうちに忘れていた。
この男は、ウソをよくつく…いや、ウソしか言わないのだ。
「あはは…。怒った…?あみ〜ご?」
そう笑いかけた楠本だが…背中を向けた有海は、顔を覆っている。
「…あみ〜ご…?」
有海の肩が震えている。
「…ど、どうしたんですか?」
楠本は、少し慌てて聞いた。
6235投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時01分41秒
「私…ずっと…心配だった…」
「…え…?」
「楠本さん…死んじゃうんじゃないかって…。ずっと…」
「あ、あみ〜ご…」
「楠本さんを…罠にかけて…酷い事したって…。ずっと…」
「あ、あみ〜ご…!!あれは、戦いだったのです!!あみ〜ごは…自分を守っただけなんです!!」
「…でも…。でも…」
「あなたは、私を傷つけたことよりも…仲間を守ったことを、誇りに思うべきなのです!!」
「だって…。だって…楠本さんを…」
「私のことは、いいから!!気にしなくていいですから!!」
「…そうですか…」
「…はい?」
「じゃあ、もう気にしません」
有海は振り向くと覆っていた顔を見せ、ぺロリと舌を出した。
「………」
楠本は、言葉が出ない。
「…もしかして、本当に泣いてると思いました?」
「…やられた…」
楠本は、力のない笑みを見せた。
6236投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時02分19秒
「私を騙すとは…。やはりあなたには、『TDD』に入ってもらいたい…」
「またその話しですか?もう、言ったはずですよ!!私は、『TDD』を抜けるって…」
「しかし、ボスが何と言うか…」
「あ、そのことなら大丈夫です。さっき、電話があって…」
「…ん…?」
「『R&G』と『TDD』の間に、終戦協定が結ばれたそうです」
「終戦協定?」
「はい」
有海は、終戦協定の内容を楠本に話して聞かせた。
協定? 【難田門司の隠し財産(5億円相当のダイヤモンド)の分配は、『R&G』3億、『TDD』2億とする】
協定? 【細川藍、一木有海の両名は、正式に『TDD』を退団することとする】
協定? 【ジャスミン・アレンは『R&G』に、加藤夏希、モニーク・ローズの両名は、『TDD』に入団することとする】
協定? 【『R&G』、『TDD』の両団体は、今回の件に対し一切の遺恨を残さず、争わないこととする。但し、今後の別件の活動で両者の利害関係が衝突した場合は、この限りではない】
6237投稿者:変なところで  投稿日:2009年02月13日(金)21時02分41秒
看護師長居への対策ができたなミチコさんww
6238投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時02分43秒
話しを聞いていた楠本は、じっと考え込み、有海を見詰めてこう言った。
「ダメですよ…。あみ〜ご…」
「え?ダ、ダメ?」
「今回の戦いは、あなた達の勝利で終わったんですよ?もっと、あなた達に有利な条件で協定を結べたはずです…」
「…は、はぁ…」
「この協定…あみ〜ご…あなたの提案ですね?」
「…ど、どうして…?」
「だって、超がつく程、お人好しすぎる…」
楠本は、溜息をついた。
「『難田門司の隠し財産、2億分』、『加藤夏希』、『モニーク・ローズ』…そして我々の『命』…どうして敗者の私達に、これ程までに『与える』のです?」
「『与える』…?」
「この中で…『難田門司の隠し財産』の分配だけは、あなたはノータッチでしょ?あなたなら、2・5億ずつの折半…いや…元々が麻薬で稼いだお金なので、警察に届けよう…と言うはずです…」
「わ、わかります?」
「ええ…。私は、あなたの師匠ですから…。『敗者には何もやるな』…これは、『裏』の世界だけでなく、『表』の世界でも原則ですよ?」
「だ…だって…誰も死んだり、恨みを残さない方が…みんなが幸せになれるじゃないですか…」
「…みんなが…幸せ…ねぇ…」
楠本は、再び溜息をつく。
「やれやれ…。『裏』の世界はもちろん…『表』の世界でも、あなたはやっていけるのでしょうか…?」
出来の悪い生徒を見るように、楠本は有海に苦笑した。
6239投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時03分40秒
「大丈夫です!!」
これには、有海は胸を張って言い切る。
「大丈夫?」
「はい!!だって、私には友達がいるから…」
「友達?あい〜んですか?」
「ええ…。あと、藤本さんに、中村先輩に、ヤマザキ先輩…木内さん、近藤さん、渡邊さん…伊倉先輩に、大木先輩…他にも…いっぱい…」
「友達は…裏切りますよ…」
「いいえ!!裏切ったりしません!!」
有海は、厳しい目で楠本を見る。
しかし…すぐに悲しそうな目に…。
「…裏切っちゃいましたね…。私…」
「…はい…?」
「楠本さんを…」
楠本は、有海の言葉に、しばらく呆然とする。
「い…いや、いや、いや…。私とあみ〜ごは、友達じゃないでしょ…?師匠と弟子の関係で…」
「それはそうですけど…。でも…楠本さんは、私にいろいろ教えてくれた…」
「…教えた…?」
「はい…。人が強くなることは…どういうことか…と…」
6240投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時04分33秒
「学んだんですか…?」
楠本の言葉に、有海は一つ頷く。
「それで…私は決めました…。私は…強くならなくていいって…」
「はぁ…?それを…学んだんですか?」
「はい…。人を傷つけるのが『強い』ということなら…私は、『弱い』ままでいい…」
でも…と、有海は続ける。
「それでも、いちいちメソメソしない…人を恨まない…後悔しない…と…決めたんです…」
「………それが…強くなるって………ことでしょ?」
6241投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時04分45秒
楠本は、穏やかな笑顔で有海に言った。
「…どうしてます…?彼女達…」
「…え?」
「あなたをいじめて…復讐された…あのいじめグループのことですよ…」
「ああ…。はい…。あのリーダーの子は…」
有海は、悲しそうに目を伏せる。
「転校しました…」
「そうですか…」
「でも…仲直りしました…。そして…彼女のお母さんにも…謝りました…」
「謝った?許してもらえたんですか?」
「はい…。でも、最初は…凄く怒って…包丁をつきつけられて…」
「…!?マ、マジですか…!?」
楠本は目を丸くした。
「…いいえ…。ウソです…」
そう、笑顔で答える有海だったが、楠本には彼女の言っていることが本当だと、直感した。
6242投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時05分07秒
「他の子達は…?」
「あの子達は…まだ、お互いをいじめ合い、傷つけ合ってます…」
この前も屋上で、三人が一人を全裸にし、首にロープを巻いて、犬の様に引っ張りまわして遊んでいたのだ。
脱がされた制服は、ズタズタに切り裂かれていた。
そして、給食の残り物をコンクリートの床にばら撒き、犬食いをさせていた。
「………あなたは…どうしたんですか?」
「やめなよって…声をかけたら…みんな、青い顔をして解散しました…。その、いじめられた子も…私を見て、怯えるんです…」
有海の目に、涙が光る。
「あの子達を…あんなにしたのは…私です…」
「違うでしょう…。あの子達は、元々、そういう子だったんですよ…」
「違います!!元々…悪い人なんて…いません!!そんな目に遭って…当然なんて…人は…」
「私が…こんな目に遭ったのも…?」
コクン…と、有海は頷く。
6243投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時05分45秒
「あなたは…どうするつもりですか…?」
「助けます…。あの4人を…」
「助ける?」
「私をいじめてた子達は…もともとバスケ部だったんです…。リーダーの子が辞めたから…他の子も引き摺られるように…。で…顧問の先生に頼んだんです…。もう一度、バスケ部に入れてあげて下さいって…」
「あの子達は何と?」
「お願いだから、余計なことはしないで…と、言われました…。でも…」
「でも…?」
「しばらくしたら、怯えた様な笑顔で、ありがとうって…」
「なるほど…。あなたの命令に従った…と、言うわけですか…」
「だから…私…あの子達が…いえ、学校中のみんなが、安心して学校生活を送れる様に…誰もいじめたり、いじめられたりしない様に…したいなって…」
そして、意を決したように宣言した。
「私…生徒会に立候補しようかと…」
「生徒会!?」
「はい!!『いじめ撲滅委員会』を作って…そこの参謀になろうかと…」
そう言って、有海は照れ笑いをした。
「楠本さん…。あなたの教えられたことを活かして…みんなを助けたいんです!!」
そして、力強く楠本を見た。
「…やれやれ…。私は、そんなことの為に、いろいろあなたに参謀教育を施したわけではないんですが…」
今度は、楠本が照れ笑いを浮かべた。
6244投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時06分04秒
有海は、悲しそうな顔で楠本を見詰める。
「あの時…あなたは、私に殺されたかったって…言いましたね…?」
自分が有海に執着していた理由…それは、最強の参謀に育て、自分を越え…殺してほしかったから…。
そんなことを考えたこともなかったのに…あの死の間際…そう、言葉をこぼした。
無意識のうちに、そう、考えていたのか…?
「…ええ…」
楠本は、素直に認めた。
「楠本さんも…強くなって…」
「…はい?」
「殺して欲しいなんて…そんな、弱虫なこと…言わないで下さい…」
有海の目は…悲しく…そして…厳しい…。
「他人に…自分の運命を委ねたらダメです…。人生の主導権を…渡したら、ダメです…」
そして…瞳から…一筋の涙…。
楠本は、穏やかな笑顔で応える。
「本当に…強くなりましたね…」
そう言って楠本は、有海に握手を求めた。
「…楠本さん…。ありがとう…」
有海も、しっかりと楠本の手を握る。
「…さようなら…」
6245投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時06分55秒
有海が去り、楠本は一人病室に残された。
ベッドに仰向けになり、天井を見詰める。
その天井が…歪んだ。
(…ん…?)
何故だ…?
(もしかして…)
泣いている…?
自分が…?
6246投稿者:いじめ撲滅委員会!?  投稿日:2009年02月13日(金)21時07分12秒
まるでNPO法人みたいな名前だなぁ……

というか洸太絶対食いついてくるなこりゃwwwwwww
6247投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時07分43秒
「あ、あははは!!何をバカな!!」
楠本は、誤魔化す様に笑うと、ベッド脇のブザーを押した。
〔楠本さん?どうなされました?〕
先ほどお喋りを楽しんでいた、若い女性の看護士の声…。
「いえ、あの…。胸が苦しいんです…」
〔そうですか。それはいけませんね〕
「で…少しあなたとお話しをすれば…楽になると思うのですが…」
〔………〕
看護士は、沈黙している。
「あの…。もしもし…?」
〔申し訳ありませんが…私は、楠本さんにとって、いささか歳をとりすぎているように思いますので、辞退させて頂きます〕
「…はい?」
そして、無情にも通話は切られた。
楠本は…本当に泣いた。

(延長戦『十一回・裏』・・・終了)
6248投稿者:リリー  投稿日:2009年02月13日(金)21時11分44秒
6237さん
恵さんは大樹さんの前では大人しくなり、楠本さんはこれで看護士に総スカン、寛平さんは退院と、ミチコさんの気苦労もこれで終わりです

洸太は高等部だから、接触はないかもしれないけど、何が何でも絡んできそうですね

これで『十一回・裏』は終わりです
次回から、いよいよ最終回『十二回』です
でも、表も裏も長いです…
表は、聖テレ野球部の試合の総仕上げです

では、おちます
6249投稿者:リアルタイム感想を書いてる人  投稿日:2009年02月13日(金)21時28分28秒
お願いだから終わるまで待って・・・
話の世界に入ってる時に挟まれると
その、白けるんです
お願いします・・・
6250投稿者:聖テレ野球部の試合…  投稿日:2009年02月13日(金)21時38分42秒
内村チーム?じゃないか…
6251投稿者: 投稿日:2009年02月13日(金)21時48分21秒

6252投稿者: 投稿日:2009年02月13日(金)22時22分14秒


6253投稿者:ミチコの企みでこの動画を思い出しました  投稿日:2009年02月14日(土)00時01分46秒
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm157632
6254投稿者: 投稿日:2009年02月14日(土)00時19分56秒
二試合目?
6255投稿者: 投稿日:2009年02月14日(土)00時34分38秒

6256投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時05分47秒
6249さん
そうですね
できれば、コメントは「おちます」を待って下さると助かります
翌日かその後、まとめて返事をしますので…

6250さん
対戦相手は、すぐにわかると思います

6253さん
ニコ動は会員ではないので、見ることができませんが、どういう内容なんでしょうか?

6254さん
今は、第三試合です
もうすぐ、この小説も終わります

では、更新します
6257投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時06分46秒
最終回『十二回・表』
≪2008年3/22(土)≫

天歳川の堤防に、公園がある。
両岸に広がる公園には、サッカー、バスケット、テニスと各種コートがあり、ありとあらゆるスポーツを楽しむことができる。
そして、もちろん野球も。
3つ並ぶ野球場の一つに、七海達、聖テレ野球部は集まった。
黒い帽子、白地に黒のピンストライプのユニフォーム、黒いストッキング…懐かしい姿に身を包んでいる。
七海、藍、有海、梨生奈、エマ、エリー…そして、中村有沙、ジョアン…愛美に梓彩…おなじみのメンバーだ。
皆は、およそ5ヶ月ぶりの実戦に挑む。
七海と藍の懇願によって、佐藤珠緒が野球部の顧問になった。
そして武川総合学園長の承認を得て、野球部は復活。
こうして、今日、練習試合を組むこともできた。
いや、今回は練習試合ではない。
中等部を卒業する中村有沙とジョアン、そして、来年度からソフトボールに専念する為に野球部を辞める愛美と梓彩への、はなむけとなる引退試合なのだ。
野球部創設時のメンバーによる、最後の試合となる。
6258投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時07分32秒
聖テレ野球部の新監督、佐藤珠緒は、木製のベンチにチョコンと座り、皆の練習を眺めている。
彼女の小柄な身体には大きすぎる、ユニフォームとスタジアムジャンパー…。
これは、前監督中田あすみの置いていったものなのだ。
珠緒は時々、ルールブックを開き、ブツブツと緊張の面持ちで呟いている。
「先生…。そんなに硬くならないで…。采配とかは、全部私がやりますから…」
有海は、珠緒の横に座り、優しく声をかけた。
「あ〜〜〜…。ありがと〜〜〜一木さぁ〜〜〜ん…。先生、昨日、眠れなかった…」
珠緒は、今にも泣き出しそうな声をあげる。
今までも珠緒の人生の中で、野球の『や』の字も触れたことがなかった。
それが、いきなり野球部の顧問で監督というのだから、無理はない。
「それでも一木さん…。なんか…凄くたくましくなったねぇ…」
「そ、そうですか?」
「最初…四月に会った時…気弱で自信のなさそうな子だな…て、先生、心配してたんだけど…」
「今でも同じですよ…」
有海は、そう言って微笑んだ。
6259投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時07分53秒
「でも…少しは変われたと思います…。友達や…先生のおかげで…」
「私の?」
「だって…先生…私がいじめられてるってわかってて…藤本さんと二人で学級委員をやりなさいって…言ってくれたんでしょ?」
「一木さん…」
珠緒は、胸が締め付けられた。
「先生…何もできなかったね…。一木さんがいじめられて…苦しんでる時に…。でも、先生がこうやって困ってる時に…一木さんは、助けてくれようと…」
珠緒の声が、涙に詰まった。
「そ、そんな…!!泣かないでくださいよ…。ほら、今から試合なわけだし…」
「…うん…。ごめんね…」
珠緒は急いで涙を拭いた。
「でも、先生…。私…2年生になって、学級委員に推薦されても、私、引き受けません」
「え…?何で?」
「だって…学級委員は生徒会に立候補できないでしょ?」
「生徒会って…?」
「はい。私、生徒会役員に立候補します」
そう言って、有海は練習の輪に再び加わった。
「生徒会役員…?立候補…?一木さんが…?」
珠緒は、有海の背中…背番号『10』を見詰めた。
「ほんと…強くなったねぇ…」
再び、珠緒は涙ぐむ。
6260投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時09分06秒
「それにしても…凄い相手とやることになったね…」
エリーは、エマとキャッチボールをしながら、対戦相手の方をチラチラと眺める。
その為、何度も落球しているのだが…。
「おい、コラ!!エリー!!集中せい!!」
七海が怒鳴った。
「だって…」
エリーは、対戦相手を指差した。
「へへ…。ええやないか…。こない、相手…もう、二度と揃わんで?」
七海も、じっと対戦相手の練習風景を睨んだ。
相手チームのユニフォームは…てんでバラバラ…。
まず、白と黄色のユニフォーム…去年の7月、初めての試合をした…『ピーナッツ』…。
そして、白と赤のユニフォーム…去年の9月に激闘を繰り広げた…『虹守中』…。
そして…これが、一番のサプライズなのだが…グレーと濃紺のユニフォーム…テレビでしか見たことのないユニフォーム…。
グレー地に、濃紺の太いゴシック体で書かれた、『EICHI』という文字…。
袖には、『KEIGAKUEN』という文字…。
濃紺のアンダーシャツ、同じく濃紺の帽子に書かれた、これまた太いゴシック体の白い『E』の一文字…。
そう…甲子園の常連高…『叡智大学附属渓岳園高等学校』…。
今回の対戦相手は…『虹守商店街ピーナッツ』・『虹守中学校野球部』・『叡智大学附属渓岳園高等学校野球部』の、連合チーム…。
聖テレ野球部の復活を祝う意味で、親善試合をすることになったのだ。
6261投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時09分43秒
「ちょっと…あそこにいるの…ピッチャーの山元君だよね…」
愛美の指差す方向を見る。
背番号『1』…キャッチャーを座らせて投球練習をしているのは、虹守中の練習試合を見物に来ていた、叡智大附属のエースピッチャー、山元竜一。
来年度、晴れて叡智大学へ進学する。
もちろん、野球を続ける為だ。
そして、背番号『5』の前田公輝。
彼も、虹守中の練習試合を見物に来ていた。
「相手にとって、不足なしや…」
だが、竜一が球を投げ込んでいるキャッチャーの少年に、七海は注目する。
「ん…?あいつ…どっかで見たことあるな…」
いや…『彼』にしては、痩せているような気が…。
「お〜〜〜い!!幸生!!頑張れよ〜〜〜!!」
堤防から、聞き覚えのある声が…。
急斜面の芝生に腰を降ろして声援を送っているのは…来年、聖テレの高等部に生徒として入学する、ド・ランクザン望と篠原愛実…そして、弓削高校の飯田里穂だった。
「あん?何で、あのナルシストがおんねん?」
そして、再びキャッチャーの少年を見る。
「おお!?応援に来てくれたの?」
キャッチャーマスクを取る少年の顔…。
やはり、そうだ…。
彼は、元『スキラッチ』のメンバー…堀江幸生だった。
6262投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時10分11秒
彼は、高校に入ってから野球を始めた。
それも、甲子園の強豪、叡智大附属渓岳園高校に…。
当然、野球経験ゼロの彼は、球拾いから始めさせられる。
しかし、彼のパワーヒッティングは目を見張るものがあった。
実力があれば、どんどんレギュラーにする監督の方針の下…幸生は、控えキャッチャーの座を獲得した。
背番号は『15』…ギリギリのベンチ入りメンバーだ。
「おい、幸生。先輩の練習を中断するなよ」
公輝が、遠くから声をかける。
「いいよ。友達なんだろ?少し話しでもしてこいよ」
竜一は、そう言って右腕をグルグルと回した。
「すんません!!先輩!!」
幸生はキャッチャーヘルメットを取って、山元に頭を下げる。
彼の頭は、スポーツ狩りというにも長い、毬栗の様な、なんとも中途半端なものだった。
レギュラーになれば、長髪が許されるので、彼は髪の毛を伸ばしている最中なのだろう。
しかし、彼に似合う髪形は、丸刈り以外ないのだが…。
6263投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時10分39秒
叡智大附属のメンバーは、3人だけだった。
竜一が監督に無理を言って、公輝と幸生を練習から駆り出してきたのだ。
凄い女子中学生がいる…竜一の話しを、監督は信用しなかった。
他のメンバーもだ。
公輝だけは、この目で見たので、是非とも聖テレ野球部と対決してみたかった。
幸生も、興味があってついてきたのだ。
何といっても、彼も『R&G』と『TTK』の戦いに巻き込まれた一人…。
元『TTK』の少女達の実力を、わかっていたのだ。
ちなみに叡智大附属渓岳園高校は、今年の春の選抜には選ばれなかった。
だからこの時期、聖テレと対戦することが可能だったのだ。
虹守中のメンバーは、永島謙二郎、高橋郁哉、木村遼希、日向滉一…そして、来年度、叡智大附属渓岳園高校へ進学が決まった、バーンズ勇気だ。
勇気は、これから入ることになる野球部の先輩、竜一と公輝に挨拶をしている。
彼は死んでも頭を丸刈りにしたくない為、初っ端からのレギュラーを目指している。
6264投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時11分00秒
そして、もう一つのチーム、『ピーナッツ』…。
聖テレ野球部、初めての対戦相手であり、引き分けた相手…。
今回出場するメンバーは…クリーニング店経営の飯尾和樹、何でも屋『TIM』の社長(と言っても一人の会社だが)松本政彦、そして『伝説のサード』の内村光良だ。
酒屋の三村、CDショップ店員の府川、そして無職の大竹は、戦力外として今回のチームには選ばれていない。
審判として、この試合に参加する。
「監督〜〜〜!!がんばれよ〜〜〜!!」
マンボウズの少年達が、松本へ声援を送っている。
「おう!!がんばるぞ!!」
松本はガッツポーズで応える。
「で…おまえ達は、聖テレと俺達、どっちを応援するんだ?」
「え?そりゃ、あい〜んのいる、聖テレだよな…」
翔太の声に、他の少年達も同意する。
「やっぱ、がんばらなくっていいや。監督!!」
この次元の言葉に、松本は血管をピクピクと痙攣させる。
「な、何だと〜〜〜!!おまえ等〜〜〜!!」
松本は、少年達を追い掛け回す。
試合前に松本は、無駄な体力を使ってしまった。
6265投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時11分22秒
「藍さん。がんばってくださいね」
投球練習をしている藍のもとに、聖斗が駆けつける。
「あ、聖斗…。ありがとう!!私、がんばるからね!!」
藍は、自分の後輩となる少年に笑顔を向けた。
自分の後輩…そう…聖斗は、来月から中学生になる。
聖テレジア学園中等部の、男子生徒として…。
「藍さん。僕、聖テレに入ったら、絶対に野球部に入ります!!藍さんの球、正捕手として、受けてみせます!!」
力強く、聖斗は言った。
聖斗は、もともと勉強がよくできた。
聖テレが男子生徒を募集していると聞くと、あの難しい入学試験を受け、見事に合格した。
家が開業医として裕福なことも手伝って、聖斗は聖テレに入学することとなった。
6266投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時11分45秒
「おい、貴様。まだ投球練習中だぞ?」
中村有沙が、聖斗へ歩み寄る。
「あ、有沙先輩…。お久しぶりです!!僕、あなたの様な頭脳的なキャッチャーを目指します。あなたは、聖テレの古田と思ってますから…」
「古田…?あの、メガネの冴えない男か…?」
中村有沙は、複雑な心境だ。
あの頭脳的配球術は…実は有海の指示なのだ。
中村有沙は、正直に話すことにする。
「あれは…私の考えではない…」
「…え…?」
「有海だ…。みな、有海の指示に従ったものだ…」
「え…?有海さんの…?」
「だから…野球部に入ったら、有海に教えを請え」
「へぇ…。有海さんが…」
聖斗は、遠くでポロポロとボールを落としている有海を意外そうな目で見詰めた。
6267投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時12分11秒
「そう言えば、聖斗…。あなた、トップで合格したんじゃないの?頭、良いから…」
藍は、聖斗の肩を突いて言う。
「え…?いや…僕は、二位だって聞きました…」
「二位?一位じゃないの?」
「はい。一位だと、入学金や学費が一切免除されるから、是非一位で合格したかったんですが…」
「あんたの家、病院でしょ?お金持ちだから、別にいいじゃん…」
「え…?まあ、そうなんですけど…。確か、一位になった人、両親がいない…天涯孤独の身らしいんです…。だから、学費免除は喉から手が出るほど欲しかったって、言ってました」
「…ん?一位の人と知り合いなの?」
「ええ。友達になりました。この試合の観戦に誘いました。ほら、あそこにいます…」
聖斗の指差す先に、一人の少年がポケットに手を突っ込み、急斜面の芝生に立って、こちらをじっと見詰めている。
6268投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時12分30秒
「…?あいつか…?」
中村有沙も、聖斗の指差す方向を見る。
その少年の身体は、そんなに背が高くなく、痩せていた。
短く刈られた、クセ毛の髪…精悍な顔つき…。
そして、ギョロリとした大きな目…。
どこか、謎めいている…。
「おい…。あいつの名は…?」
中村有沙は、聖斗に聞く。
「名前…?千葉一磨君です…」
「千葉一磨…?」
中村有沙が呟いたその時、その彼…千葉一磨は、目を逸らした。
「………ま、どうでもいいか…。おい、そろそろ練習を再開するぞ」
中村有沙は、再び投球練習の為に、元の位置へ戻る。
6269投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時12分51秒
「お〜い!!愛美〜〜〜!!がんばれよ〜〜〜!!」
背のヒョロ長い男が、ヒョロ長い腕を突き上げて叫んでいる。
「もう…。お父ちゃん…。恥ずかしい…」
顔を顰めて、愛美は言った。
そのヒョロ長い男は…愛美の父、浜津智明。
暴力団、加藤組の経営するラブホテル『アンダーキャッスル』のフロント係だった男。
人身売買を目的とする、若い女性の誘拐計画を内部告発し、加藤組に命を狙われた男だ。
彼の命を、七海達『R&G』の探偵達は救ったことがある。
加藤組が壊滅したと知り、晴れて堂々と娘に会うことができるようになったのだ。
「愛美は、まだいいわよ…。私なんか、その身内とこれから試合をしなきゃいけないんだから…」
梓彩は、まだマンボウズの少年達を追いかけている松本を、うんざりした顔で眺めた。
「ええやん。父親孝行したったら…」
有海とキャッチボールをしながら、七海は言う。
「あ、そう言えば…。吉田さん、今日来てないんじゃない?」
愛美の問いに、七海は軽く答える。
「うん。新婚旅行…。オーストラリアへ…」
「新婚旅行!?結婚したの!?吉田さん!!」
「うん」
またも、七海は軽く答えた。
6270投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時13分20秒
前髪を一直線に切り揃えた府川と同様、ヘルメットの様な髪形の、メガネをかけた中年男性が、珠緒のもとに歩み寄ってくる。
彼の着ているユニフォームは、『ピーナッツ』のものでも、『虹守中』のものでも、『叡智大附属』のものでもない。
グレーのユニフォームに紫のアンダーシャツ、そして、黄色い文字で、胸に『BITs』と書かれている。
『ピーナッツ』のライバルチーム、『天歳ビッツ』のユニフォームだ。
その、ヘルメット男は、珠緒の前に立つと、礼儀正しくお辞儀をした。
珠緒も慌てて立ち上がり、お辞儀をする。
「どうも…。聖テレの監督さんですね?」
「あ…はい…。いえ…その…私…監督というか…顧問の…佐藤といいます…」
慌てふためく珠緒と対照的に、ヘルメット男は実に冷静に話しだす。
「私…『天歳ビッツ』というチームに所属しております、『伊藤まさゆき』と申します」
「ど…どうも…」
またも、珠緒はお辞儀をする。
「今回、私、未熟ながらも、『天歳連合チーム』の監督を務めさせて頂く事になりました。ひとつ、お手柔らかに…」
「い、いえ…こちらこそ…」
珠緒は、伊藤に対して三回目のお辞儀をした。
6271投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時13分47秒
「これが、『天歳連合チーム』のオーダーです。ご確認を…」
伊藤は、珠緒にB5版大の紙を渡す。
「背番号が重なっているのは、まあ、いろんなチームの寄せ合わせなもので…。どうかご容赦を…」

【天歳連合チーム・メンバー表】
一番・木村遼希(ショート)#6<虹守中>
二番・日向滉一(レフト)#5<虹守中>
三番・高橋郁哉(ライト)#2<虹守中>
四番・前田公輝(センター)#5<叡智大附属>
五番・内村光良(サード)#5<ピーナッツ>
六番・堀江幸生(ファースト)#15<叡智大附属>
七番・永島謙二郎(セカンド)#4<虹守中>
八番・飯尾和樹(キャッチャー)#10<ピーナッツ>
九番・松本政彦(1番手ピッチャー)#18<ピーナッツ>
   バーンズ勇気(2番手ピッチャー)#1<虹守中>・・・(キャッチャー・高橋郁哉)
   山元竜一(3番手ピッチャー)#1・・・<叡智大附属>(キャッチャー・堀江幸生)
監督・伊藤まさゆき#99<ビッツ>
6272投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時14分15秒
「あ、あの…私…監督というよりも、顧問みたいなものでして…全然、野球のことは、わからなんですよ…」
佐藤は、弁解じみた言葉を述べる。
「ほほぉ…。大変ですな。学校の先生も…。御自分の専門外のことでも、責任を持たなければならない…」
伊藤は、その言葉とは裏腹に、無表情、無感情な顔で答える。
「そ、それで…実質的な采配をするのは…その…情けない話しなんですが…生徒に任せていて…」
「生徒さん?それは…?」
「あ、あの子です…。10番の子…」
「ほほぉ…」
伊藤は、背番号『10』…有海の背中をじっと見る。
「あの子の…お名前は…?」
「は、はい…。一木有海…と、いいます…」
「一木…有海さん…ね…」
メガネの奥の目が、怪しく光る。
「あ、あの…?一木さんが…何か…?」
「いえ…。あんな小さな女の子が、監督さんとは…。たくましいものですな…」
「あ、はい…。ありがとうございます…」
珠緒は、まるで自分が褒められたかのように喜んだ。
6273投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時15分46秒
伊藤は、珠緒に手を差し出した。
「あ…そ、それでは、良い試合を…」
珠緒は、伊藤の手に握手した。
「いえ…そういうことではなく…」
「はい?」
「そちらのオーダーを…」
珠緒は、顔を真っ赤にさせた。
「す、すみません…!!か、勘違いしちゃって…」
「いえ…。いいんですよ…」
相変わらず、伊藤は無表情で答える。
珠緒は慌てて、メンバー表を伊藤に渡す。

6274投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時16分03秒
【聖テレジア女子学園中等部・軟式野球部メンバー表】
一番・木内梨生奈(サード)#5     
二番・伊倉愛美(セカンド)#4     
三番・細川藍(ピッチャー)#1       
四番・藤本七海(ライト)#9      
五番・ジョアン・ヤマザキ(ファースト)#3 
六番・近藤エマ(センター)#8     
七番・渡邊エリー(レフト)#7      
八番・大木梓彩(ショート)#6      
九番・中村有沙(キャッチャー)#2
補欠・一木有海 #10     
監督・佐藤珠緒    
6275投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時16分27秒
「はい…。それでは…良い試合を…」
今度は、伊藤の方から握手を求める。
珠緒は、恐縮しまくりながら握手をした。
伊藤は、珠緒に背中を向けると、メンバー表を見ながら自軍のベンチに戻る。
「なるほど…。木内梨生奈…細川藍…藤本七海…ジョアン・ヤマザキ…」
ブツブツと聖テレのメンバーの名前を読み上げながら、立ち去っていく伊藤。
何故、愛美の名をとばしたのか…などと、珠緒は疑問に思うこともない。
この、『伊藤まさゆき』と名乗る男…正しくは『伊藤正幸』…『せいこう』と読む。
裏探偵『TDD』の、最高位参謀『ハイエロファント(教皇)』のコードネームを持つ男…。
そして、帆乃香が七海にプレゼントしたお守りの中に入っていた『盗聴器』…そして、あすみや藍の武器、『超小型モーター内蔵ヨーヨー』などを開発した男でもある。
今回、『R&G』との戦いに、直接的に関わる事のなかった男だ。
6276投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時17分42秒
自分が参謀として参加していれば、あんな小娘どもに敗北することなどなかった…と、今でも思っている。
そして、今回の試合の話しを、ライバルチーム、『ピーナッツ』の内村から聞いた。
ちなみに、伊藤が『ビッツ』に参加しているのは、純粋に野球を楽しんでいる為で、『裏』の世界とはまったく関係ない。
寛平がマンボウズの監督を、道楽でやっていたようなものである。
『R&G』の探偵達が多数在籍している『聖テレ野球部』との試合で…彼女等の実力を値踏みしてやろう…というのが、伊藤の考えだ。
『ピーナッツ』と『聖テレ野球部』の試合の日に、あの場にいなかったことも、伊藤が、今回の監督を引き受けた理由でもある。
名を『まさゆき』と名乗っているのは、一木有海が彼の名前だけを知っているからだ。
彼女の記憶力のことは、楠本から聞いている。
『伊藤正幸』という字を見ただけで、自分が『TDD』の『ハイエロファント』だと気付かれてしまうだろう…。
そして伊藤は、楠本が『ハイプリエスティス(女教皇)』…有海のことを、『TDDを支配する程の逸材』と評していたのを信じない。
今回、実質的な監督を有海がやると聞き、伊藤は闘志を燃やす。
『教皇』と『女教皇』…どちらが、『参謀』として上なのか…と…。
6277投稿者:リリー  投稿日:2009年02月14日(土)21時21分20秒
この最終回で、やっとキャスト表に載っていた最後の一人、幸生の登場です

あと、キャスト表に載ってなかった人物も、3人登場します
二人は、今回登場した、一磨とせいこうさんです
あと一人はまた追々…

では、おちます
6278投稿者:デジ  投稿日:2009年02月14日(土)23時19分14秒
(一昨日)協定4
さすがの有海もダーさんの迫力には耐えられませんでしたか・・・。
でも気に入られはしたようですね。有海と藍もダーさんにあだ名(の餌食?)をもらったようですし。
しかし「インジゴ」はともかく「イッチキチ」って・・・(笑)
次で「11回裏」終了ですか。もう、12回になるのか・・・。最後まで楽しみにしていますよ!
(昨日)有海逞しくなりましたね。楠本さんの嘘をも超えるであろう、上手すぎる泣き真似。ああ、とうとう有海も嘘をつけるようになっちゃったか(笑)
「いじめ撲滅委員会」・・・今回一番強くなった彼女なら大丈夫でありましょう!(一番「成長」したのは、七海。)
6279投稿者:117  投稿日:2009年02月15日(日)14時52分47秒
またまたまたまた・・・(略)久々の117です。
「休戦協定」も無事結ばれ、元帥と有海の感動の再会等々があり・・・
ついに、野球部復活ですか!なるほど、伊藤正幸=セイコーさんも登場ですか。
気がつけば、もう12回表なんですね。続きも楽しみです!
6280投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時02分17秒
デジさん
有海と楠本さんの場面が、これで最後になるのは、私も寂しいです
何だかんだ言って、結構楽しかったですから
「イッチキチ」は、他に適当なのが思いつかなかったです…
そうですね、この小説は七海、藍、有海の3人の成長を長い時間をかけて追ってきた感があります

117さん
今のプロ野球のルールでは、12回で終わりですので、これで終わりとなります
でも、今までのピーナッツ戦、虹守中戦の様に、長いものになるのは確実です

では、更新します
6281投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時03分48秒
「それでは、『聖テレ野球部』対『天歳連合チーム』の試合を始めます」
今回、球審を務めるのは、『ピーナッツ』の三村だ。
両チームは、お互いにお辞儀をする。
先攻は『天歳連合』だ。
一番打者は、虹守中の遼希。
左バッターボックスに立つ。
相変わらず、溜息を連発させて緊張をしている。
だが、彼は緊張した方が実力を発揮するタイプだ。
(む…こいつは…たしか、低め打ちが上手かったな…)
キャッチャーの中村有沙は、ピッチャーの藍に外角高めギリギリのボールを要求する。
(ええ…。ありりん先輩…私も覚えてますよ…)
藍は、高めのストライクボールでワンストライクを取る。
選球眼の良い遼希は、まずは一球を見逃した。
そして、二球目は内角高め…ストライク。
「ふぅ…。相変わらず、コントロールがいいな…」
遼希は、ヘルメットを被り直して、一呼吸置く。
何と言っても彼女に三振を取られ、この前の試合は負けたのだ。
今日は、リベンジのチャンスなのだ。
6282投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時04分13秒
監督の、伊藤正幸の方を見る。
彼は、胸の前に、指で小さなバッテンをつくる。
『振るな』…と、言っているのだ。
(確かに…ツーストライク・ノーボールだから、遊び球を投げてくるだろうな…)
遼希は、バッターボックスに戻る。
中村有沙は、ベンチの有海の方を見る。
有海は、胸のマーク『St.T』の、『t』の部分を指差す。
意外そうな顔をしながらも、中村有沙は頷いた。
そして、ミットを構える。
藍の三球目…。
ど真ん中のストレート…。
「え!?」
僅かに遼希は振り遅れる。
「ストライク、バッターアウッ!!」
三村のネチっこい叫び声があがる。
「まさか…三球勝負…?」
伊藤は、メガネのズレを直して有海を見た。
6283投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時04分36秒
「凄ぉ〜〜〜い…。細川さん、たった三球でアウト取っちゃった…」
珠緒は、呆然とマウンド上の藍を見詰めた。
「先生…。スコア表、お願いします…」
「あ…ごめん…」
有海に促され、珠緒は急いでスコア表をつけた。
今は、実質的に有海が監督、珠緒がマネージャーだ。
「木村君は、選球眼が良すぎるから…。振り遅れる弱点は、まだ克服してませんね…」
有海は、遼希に対してはセオリーを無視し、早い勝負をかけてきたのだ。
肩を落としてベンチに引き下がる遼希に、二番バッターの滉一が声をかける。
「大丈夫。俺が突破口を開いてやるよ!!」
滉一は、右バッターボックスに立つ。
有海は、滉一をじっと見詰める。
「日向君は…勝負強いけど…打ち気にはやる傾向があったよね…」
初球を、内角高めと指示を出す。
中村有沙は、頷いてミットを構える。
有海の予想通り、滉一は一球目から打ちに行く。
そして、打ち損ない、ファーストのジョアンがフライを捕球して、ツーアウト。
僅か、四球でツーアウト…。
6284投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時04分56秒
三番バッターは、高橋郁哉。
長打力を誇る、パワーヒッターだ。
虹守中では、四番を務める。
「高橋さんは、カーブ打ちが得意だけど、シュートが苦手…」
つまり、藍は左投げ、郁哉は右打者なので、外角打ちが苦手なのだ。
ここは、徹底的なシュート攻めでいく。
郁哉は何とか粘り、カウントはツーストライク・スリーボールとなる。
この試合で初めてのフルカウント…。
そこで、藍は逆のカーブを投げる。
虚を突かれた郁哉は、敢え無く三振…。
一回・表、『天歳連合』の攻撃は三者凡退…。
藍は、たったの10球で初回を終えた。
理想的な省エネピッチングだ。
有海は、できるだけ長いイニングで藍をマウンドで投げさせたかったのだ。
6285投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時05分17秒
「藍!!ナイスピッチング!!」
七海は、藍の背中を叩いた。
「いてて…。ありりん先輩のリードのおかげだよ」
顔を軽く顰めながら、藍は笑った。
「そのリードは、有海のものだ…」
中村有沙は、有海の肩に手を置いた。
有海は、恥ずかしそうに首を横に振る。
「り〜な…。あんまり無理しないでね…」
愛美は、心配そうに梨生奈へ語りかける。
一番バッターは、久しぶりにギプスがとれ、自由に身体が動かせるようになった梨生奈だ。
「大丈夫です。ノーアウトランナーを目指します!!」
梨生奈は、力強く言ってヘルメットを被る。
改めて、バットを握る。
「重い…」
すっかり、腕の筋肉が落ちてしまったことを悲しく実感する。
だが、チームの為に、必ず出塁する…!!
6286投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時05分41秒
一回・裏の『聖テレ』の攻撃。
「がんばれよ〜〜〜!!梨生奈〜〜〜!!」
トランペットの音と共に、大きな声援が聞こえる。
「…羅夢?」
梨生奈の振り向いた先…芝生の堤防に3人の少女…。
羅夢…トランペットを吹いている、メロディー…そして、来年度、中等部に上がる、川崎樹音だ。
樹音は、野球部に入ると言っている。
羅夢は、相変わらず入らないと言っているが…。
「ありがとう!!」
軽く手を振ると、梨生奈は左バッターボックスに入る。
マウンド上は、梓彩の父…『ピーナッツ』の松本だ。
一番目のピッチャーである。
『天歳連合チーム』は、序盤、中盤、終盤を、それぞれ松本、勇気、竜一が投げることになる。
「あず〜先輩のお父さん…どんな球、投げるんだろう…」
元『ピーナッツ』のエースピッチャーだという話しだが…。
松本は、ダイナミックなフォームから一球目を投げる。
キャッチャーの飯尾のミットに、気持ちの良い音をたてて、ボールが納まった。
「…!?速い…!!」
意外な速球に、梨生奈は息を呑んだ。
6287投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時06分01秒
続けて第二球…梨生奈は空振りしてツーストライク…。
早くも、梨生奈は追い込まれた。
「さっきは、あい〜ん君、三球勝負をしてきたよな…」
松本は、飯尾の送る遊び球のサインに首を振る。
そして、渾身のストレートを放った。
「…!?」
高めのストレート…梨生奈は無意識にバットを振った。
ボールは、バットの下ギリギリに当たり、地面を大きく跳ねた。
松本の頭上に、ボールは上がる。
「よし…。これで、ワンアウト…」
松本が、しっかりと落下するボールを見据えていると…。
「マッチャン!!急げ!!」
内村の声…。
「へ…?」
ボールをキャッチして、ファーストの方を向く。
梨生奈が、一塁へ向けて滑り込もうとしている。
6288投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時06分45秒
「…げ…!!」
松本は、慌てて一塁へ送球。
球は、僅か低めに逸れる。
「おお…!!」
身体の硬い幸生が何とか捕球したが、ベースから足が離れてしまった。
「セーフ!!」
一塁塁審の府川が、奇声の様なコールをあげる。
聖テレベンチが沸きあがった。
「ふぅ…。やった…」
梨生奈は、泥だらけになった胸元を叩きながら、息をついた。
「足が速いって聞いてたけど…。何て、速さだ…」
松本は、呆然と一塁の梨生奈を見詰めた。
6289投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時07分05秒
ノーアウトのランナーが出た。
そして、ここはセオリー通り、二番の愛美が送りバントを成功させる。
父親の浜津は、まるで愛美がホームランを打ったかの様に大騒ぎして喜んでいる。
愛美は、そんな父親を睨みながらベンチへ戻った。
ワンアウト、二塁…そして、三番バッターは細川藍だ。
「よ〜し…。絶対に、り〜なをホームへ帰すぞ…」
藍は、いきり立ってバッターボックスに立つ。
対する松本も、絶対に先取点は取らせないと、いきり立つ。
「絶対に打とうと…硬くなっちゃうのが、細川さんの弱点よね…」
有海がそう呟いた直後、藍は高めのボールに手を出し、浅いレフトフライに終わる。
6290投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時07分59秒
悔しそうにベンチへ戻る藍とすれ違う、四番バッターの七海。
「けけ…。初打点は、ウチがもろたで!!」
「何よ!!チームで戦ってるんだからね、私達は!!」
藍は、七海に対して舌を出す。
七海も舌を出して応える。
「梓彩先輩のおとん、ええ球、放るやん…。でも…ウチなら、打てるで!!」
右バッターボックスに立つ。
少し、外側…後方へ…。
ホームラン狙いだ…。
それは、松本にもよくわかっている。
低めへのボールを、心がける。
「梓彩から、聞いて知ってるさ…。甘いコースには、絶対に投げないぞ…」
七海の膝元を、ボールは通る。
「ストライック…!!」
「え?マジ?」
七海は、球審の三村に思わず尋ねた。
6291投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時08分33秒
二球目も、膝元を通過する。
「ストライック…!!」
「え〜〜〜!?うそん!!」
またも、七海は三村の方を振り返る。
「ちょっと!!おっちゃん!!同じチームの仲間やからって、甘めにみてへん!?」
「んだよ!!イチャモンつけんのかよ!?退場にするぞ!!」
三村と言い争いをしている七海に、有海は声を掛ける。
「藤本さん、落ち着いて!!クールダウン!!ここは、大物狙いは捨てよう」
七海は、口をへの字に曲げながらも頷いた。
その後、ボールとファールで、フルカウントとする。
「嫌がらせバッティングをしてもええけど…まだ身体が本調子やない梨生奈に、二塁でずっと突っ立たせておくんも、気の毒やし…」
また、膝元に来るストレートを、七海は強引に引っ叩いた。
サードとショートの間を、ボールは矢の様に飛ぶ。
「よっしゃ!!センター前ヒットや!!」
だが、『伝説のサード』の異名をとる内村が、横っ飛びで打球に喰らい付く。
ボールは、内村のグローブに…。
「ウソや…!!」
七海は、悲鳴にも似た声をあげる。
6292投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時08分59秒
しかし、その打球のあまりの強さに、内村はボールを弾いてしまった。
「しまった!!」
ボールは、外野…センター前へ…。
「…!!」
ライナーになると、一瞬足を止めた梨生奈が、再び三塁へ走り出す。
そして、一気にホームへ…!!
梨生奈の俊足なら、それは可能だ…!!
まずは、『聖テレ』の先取点…誰もがそう思った。
「木内さん!!ストップ!!」
有海が叫んだ。
「…え!?」
梨生奈は、自分ではホームへ駆け抜けられる自信があったのだが、ここは有海の指示に従う。
「…ど、どうして…?」
その直後、飯尾のミットに、矢の様な返球が突き刺さった。
「…!?」
思わず、外野を見る梨生奈…。
センターを守る、『叡智大附属』の前田公輝が、スローイングを終えた姿勢をとっている。
6293投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時09分42秒
「さすが…『叡智大附属』…」
内村は、苦笑いで公輝を見る。
そして、ベンチの監督、伊藤へ声をかける。
「伊藤さん!!やっぱり、サード、前田君と交代するわ!!花形ポジションは、若いもんに譲るよ!!」
伊藤は、何も言わずに頷いた。
公輝も、『叡智大附属』ではサードを守っているのだ。
しかし、内村の俊敏な動きがなければ、確実に先取点を取られていただろう。
「ふふん…!!一筋縄じゃ、いかん…ちゅうわけやな…」
一塁上の七海は、ぺロリと唇を舐めた。
「おお…。公輝、やっぱサードの方がいいよ…。うん…」
ファーストの幸生は、呑気に呟いた。
七海は、そんな幸生に話しかける。
「なあ…あんた…野球やってたん?」
「ううん。高校に入ってからだよ」
「野球歴、一年なん!?ふ〜ん…。人は見かけによらんもんやな…」
しかし、幸生も相当な努力をしきたのだろう…。
僅かばかり痩せている、その体型からも、それがうかがえる。
続くジョアンは、公輝と代わったばかりのセンター内村へのフライで、スリーアウト…。
得点圏にランナーを置きながらも、一回・裏の聖テレの攻撃は無得点に終わる。
6294投稿者:リリー  投稿日:2009年02月15日(日)21時10分21秒
では、おちます
6295投稿者:イチキータは  投稿日:2009年02月15日(日)21時33分06秒
リリーさん的にちょっと違ったのかな?
6296投稿者:age  投稿日:2009年02月16日(月)01時51分05秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544d.html
 
6297投稿者:あげ  投稿日:2009年02月16日(月)18時22分52秒
6298投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時09分35秒
6295さん
ああ、「イチキータ・アミーゴ」ってありましたね
虹色のアフロで…
すっかり忘れてました
それより、大木こだま・ひびきを連想してしまいました

6296さん
過去ログ、ありがとうございます

あと、あげコメントもありがとうございました

では、更新します
6299投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時11分07秒
二回・表の、『天歳連合』の攻撃。
初回は無得点に抑えられたが、伊藤には点を奪う為の考えがあった。
守備の穴を突く…。
それは、愛美と梓彩の二遊間…。
『聖テレ野球部』は、そのメンバーの大部分を『R&G』の探偵達で構成されている。
元『TTK』の『戦士』達…その身体能力の高さは、折り紙つきだ。
そして、藍や有海も、『TDD』のメンバーだった身…。
しかし、セカンドの伊倉愛美とショートの大木梓彩だけは、至って普通の、『表』の世界の少女なのだ。
徹底的に、セカンド、ショートの守備を責める…。
敵の一番弱い部分を突く…これは、戦いの鉄則だ。
『TDD』の首席参謀の伊藤も、その鉄則を忠実に従う。
伊藤は、バッターボックスに向かう、四番の公輝を呼び止める。
「前田君…。ここは…」
「わかってますよ。俺が、一発ホームランを打ってやりますよ」
「い、いや…ここは…」
「任せて下さい」
公輝は、さっさとバッターボックスへ行ってしまった。
一年生ながら、強豪『叡智大附属』のレギュラーを獲る男…草野球チームの親父の指示など、聞く気にもならないのだろう。
(…クソガキ…)
伊藤は、その言葉を飲み込んだ。
6300投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時11分47秒
「お…!!前田君だ…!!」
マウンド上の藍は、一層、気を引き締めた。
昨夏の甲子園で、初戦で逆転ホームランを放った、前田公輝…。
スーパールーキーと、マスコミに取り上げられた。
「こんな人と…戦えるなんて…」
ゾクゾクした歓喜に、藍は震える。
対して、中村有沙は冷静にピッチングの組み立てを考える。
有海も、公輝に対してはデータを多く持ってない。
甲子園の試合は、やはり次元が違いすぎて、参考にならない。
(とりあえず…ボール球から様子を見るか…)
大きく外角に外した位置に、中村有沙はミットを構える。
直球勝負を挑みたい藍も、これには従った。
まだ序盤…失点のリスクを少しでも減らした方がいい。
藍は、外角へ外れるボール球を放る。
しかし…公輝は、体勢を崩しながらもバットを振った。
「…げ!?」
藍は、思わず肩をすくめた。
「何…!?」
中村有沙は、マスクを放り投げて立ち上がった。
この打球は…ホームラン…?
6301投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時12分18秒
打球は、ライトへ向かう。
七海は、全力でボールの落下地点へ走る。
「ゴルァ!!」
七海はジャンプして、捕球した。
そして、芝生に転がる…。
「やっ…た…?」
藍は、リアクションに困った。
公輝も同様だ。
この球場は、フェンスがない。
外野とホームランゾーンの区別が曖昧だ。
これは、ライトフライなのか…?
それとも、ホームランなのか…?
「おい…。どっちなんだよ…」
『天歳連合』ベンチも、ざわついている。
「アウトだよ!!アウト!!」
マンボウズの少年達が、騒いでいる。
6302投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時12分49秒
「ちょ、ちょっと…!!君!!そのまま、動かないで!!」
一塁塁審の府川が、確認に行く。
外野の境界線の端に、ポールが立てられている。
そこを延長線上にして考える。
七海が転がっている地点は、外野の外なのか?中なのか?
府川は、何度も何度も見比べて考える。
捕球したままの体勢を保っている七海は、いい加減、身体が攣ってきた。
「ちょ…ちょっと…。早くしてんか?オカマの兄ちゃん…」
「オ、オカマじゃないよ!!」
「何で選手やないのに、ヘルメット被っとるん?」
「こ、これは髪の毛!!」
その後、何度も見比べた結果…。
「う〜ん…。これは、ちょっと外側に出てるな…。ホー…」
「何やと!?ゴルァ!!」
七海は、府川を睨みあげる。
「ひ…!!ア、アウト〜〜〜!!」
府川は、思わず親指を立てた腕を、空高く挙げた。
6303投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時13分12秒
「ドンマイ!!公輝!!」
幸生が、ベンチに戻ってくる公輝に声をかける。
「う〜ん…。俺は、行ったと思ったんだけどな…」
まだ、納得のいかない様子の公輝…。
「残念だったね…」
その公輝の肩を、伊藤は叩いた。
(ま…『叡智大附属』組は自由にやらせるか…)
あの外角の球を、あそこまで持って行くとは…。
伊藤は、改めて『叡智大附属』の底力を実感した。
「内村さん…。ちょっと…」
そして、五番バッターの内村に、耳うちをする。
「二遊間を、狙えますか?」
「二遊間?どうして?」
「守備の穴ですから…」
「穴…?ふ〜ん…」
内村は、去年の7月の練習試合を思い出す。
確かに、セカンドの愛美はエラーが多かった記憶がある。
「わかった。二遊間ね…」
内村は、素直に伊藤の作戦に従った。
6304投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時13分50秒
「あ…!!ジャッキー!!」
藍は、内村を見て、闘志を燃やす。
前の試合では、彼に散々な目にあったのだ。
「む…?トニー…」
中村有沙も、内村に警戒する。
「どっちにしろ、香港の俳優なのな…」
内村は、まんざらでもない様子で笑った。
細心の注意を払って、投球を組み立てなければ、また彼に痛い目に遭わされる…。
6305投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時14分05秒
だが、内村のバットコントロールは一流だった。
伊藤の指示した二遊間責めを、忠実に実行したのだ。
「よし…!!」
伊藤は、握り拳を小さくつくった。
愛美が、横っ飛びでボールに喰らいつく。
「…え?」
ボールは、愛美のグローブに納まった。
「捕った…?」
だが、起き上がってファーストに送球するには、間に合わない…!!
しかし、愛美はそのまま梓彩にグラブトス…梓彩は素手で受け、ファーストへ…。
ジョアンが難無く捕った後、内村はベースを駆け抜けた。
「アウト!!」
奇声を上げる、府川…。
「うわああああ!!」
『天歳連合』のベンチは、驚愕の声の大合唱となった。
6306投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時14分44秒
「ま…まさか…」
伊藤は、完全に二人の力を見誤った。
「はは…。あの二人、もう穴じゃなくなったみたいだね…」
アウトになったのだが、内村は楽しそうな笑顔でベンチに戻る。
「相変わらず凄ぇな…。あの二遊間…」
竜一と公輝、勇気が、そう話し合っている。
「相変わらず…?」
他の者は知っていたのか…?
あの二人の名手ぶりを…。
これで、早くもツーアウト。
藍は、公輝、内村と、厄介なバッターを打ち取ることに成功した。
6307投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時15分01秒
その所為もあったのかどうか、定かではないが、少し気が緩んだのか…?
続く打者、堀江幸生がバッターボックスに立つ。
「野球歴、まだ一年も経ってないって話しだけど…」
有海は、公輝以上にデータのない幸生に対し、何の対策も練ることができない。
「でも…『叡智大附属』のベンチメンバーになれるぐらいだから…」
油断は禁物…と、考えていた時だった。
甲高い金属音が響く。
「…え?」
藍は、思わず空を振り返る。
打球は、ライトへ…。
そして、今度こそ文句なしに、外野の外へボールが落ちた。
『天歳連合チーム』の初得点は…野球歴一年にも満たない、堀江幸生のホームランによるものだった。
6308投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時15分42秒
続く七番バッター、謙二郎をセカンドゴロに打ち取り、スリーアウトにしたのだが、『聖テレ野球部』は一点を失った。
里穂、望、愛実の元『スキラッチ』は、幸生の活躍に狂喜乱舞して喜んでいる。
「く…!!あいつ等…。向こうの味方かい!!」
七海は、憎らしそうに里穂達を睨んだ。
「ドンマイ、ドンマイ…!!すぐに取り返そう!!」
有海は、ベンチから立って、手を叩きながら皆を迎えた。
本当に、逞しくなったと…珠緒は眩しそうに有海を見た。
藍も、そんなにショックを引き摺ってない様だ。
「ふぅ…。ヤバイ…。この悔しさ…久しぶりだよ…」
藍はそう言いながらも、楽しそうに目を輝かせている。
珠緒は、さっきの幸生のホームランで、早くも涙ぐんでしまったのだが。
「さっきの前田君の打球もヤバかったし…」
そう呟く藍に、七海は囁く。
「あれは、ウチのファインプレーやからな…」
「ああ、うん。感謝してるよ、ななみん」
「いや…そうやのうて…」
本当なら、あの公輝の打球はホームランだったのだ。
「…え?何?」
「ううん。何でもない!!はよ、取り返そう。な!!」
そして、六番のエマは、バッターボックスに向かう。
6309投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時16分14秒
だが、エマ、続く七番のエリーは連続三振。
八番の梓彩がバッターボックスへ…。
ここで、松本と梓彩…父娘対決となる。
「はぁ…。パパが相手なんて…やり難いなぁ…」
溜息をつきながら、バットを構える梓彩。
そこに、梓彩の顔付近へ速球が投げ込まれた。
「ひゃ!?」
梓彩は、尻餅を着いてボールを避けた。
「な、な、何すんのよ!!パパ!!」
梓彩は、顔を真っ赤にして、マウンド上の父親を睨み付けた。
「何を腑抜けた顔でバッターボックスに立ってるんだ!!やる気がないなら、交代しろ!!」
松本は、娘に対して辛辣に怒鳴った。
「…!!な、何ですって…!?」
梓彩の闘志に火が点いた。
「大人気ない!!大人気ない!!」
マンボウズの少年達の大合唱が響く。
「うるさい!!うるさい!!」
松本は、マンボウズにも怒鳴りつけた。
「上等じゃない…。やってやるわよ!!」
梓彩は、改めて足を踏みしめ、バットを構えた。
6310投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時16分45秒
だが梓彩は、二球でツーストライクと追い込まれる。
松本は、自分の娘に、僅かばかりも手を抜くことを考えていない。
梓彩も、それを望んでいる。
どうやら、松本はストレートしか投げない様だ。
打てるものなら打ってみろ…と、父は言っているのだ。
『梓彩が男の子だったらなぁ…』
松本は、幼少の梓彩に、この言葉を何度も言っていた。
「パパは、男の子と野球がしたかったんだ…」
今更ながらに、悔しさが込み上げる。
「ふん…だ!!私だって…!!私だって…!!」
梓彩は、松本のストレートに、フルスイングで挑んだ。
バットの真芯に、ボールが当たる。
6311投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時17分17秒
「うお!?」
打球は、松本の顔付近に…。
咄嗟にグローブを出すが、ボールを弾く。
サードとショート…何とも中途半端な位置に、ボールは転がった。
「…先輩…!!」
明らかに、ショートの遼希の方が近いにも関わらず、思わず公輝に遠慮してしまい、手が出なかった。
「く…!!」
公輝はボールを掴むと、ファーストへ…しかし、梓彩は滑り込んで、セーフとなった。
「ふふん!!パパこそ、腑抜けてるんじゃないの!?」
泥だらけになったユニフォームを叩きながら、梓彩は得意気な顔を、父に向けた。
「…くそ〜…。やるじゃないか…」
松本は、悔しそうに…しかし、嬉しそうに、娘を見詰めた。
6312投稿者:リリー  投稿日:2009年02月16日(月)21時17分57秒
聖テレの攻撃中ですが、これでおちます
6313投稿者:最近  投稿日:2009年02月17日(火)00時01分15秒
Wikipediaで知ったいとうせいこうさんの昔のあだ名を思い出しては吹き出してしまいます
リリーさんがせいこうさんなんか出すからです助けてください
外で思い出した時なんかもう大変なんです
6314投稿者: 投稿日:2009年02月17日(火)00時43分37秒

6315投稿者:デジ  投稿日:2009年02月17日(火)01時08分52秒
前回の感想で当日の感想が何故か掲載されてませんでした。なので、「12回」の最初から感想を書きます。
と、いうことでお久しぶりです。テスト十日前で勉強地獄から抜けられなくてなかなか来れません。
(一昨日)
忘れてました!…『叡智大学附属渓岳園高等学校』との試合。しかし今まで戦った『虹守商店街ピーナッツ』・『虹守中学校野球部』・『叡智大学附属渓岳園高等学校野球部』の、連合チームですか。こりゃ面白くなりそうだ。
そういえば、今回幸生一回も出てなかったんですね。キャストにあったの忘れてました。
出たー!一磨。頭はいいようですね。しかし、天涯孤独の身ということは・・・。
レッドさんとダーさんは新婚旅行ですか。しかし年の差ありすぎ婚だよなあ(笑)19歳(もうすぐ20歳)と42歳って。(まあ、恋愛に年の差なんて関係ないけど。)
伊藤さん初登場!まさかバリバリの表舞台で正体を明かすことになるとは。
さあ、「監督」(参謀?)としての実力が上なのは、有海か?伊藤さんか?
そして、波乱になるであろう勝敗の行方は?
6316投稿者:デジ  投稿日:2009年02月17日(火)01時09分13秒
(昨日)
早くも激しい戦いになってますね。
まずは「連合軍」の一回目。淡白に終わりましたね。
「聖テレ」の一回目。「R&G」は相変わらずですが、「ピーナッツ」陣営もなかなかやるなあ〜。
(今日)
この回は、梓彩と幸生が目立ってますね。
「連合軍」の2回目。ソフトボールのコンビは健在ですね。
で・・・・まず七海。気力でアウトにしてしまった第一投。ありか!こりゃ(笑)とかなり吹き出しました。
そして、幸生。以外や以外でした。まさに穴場でしたね。
続いて「聖テレ」の攻撃。
親子同士の対決。やっぱ親子っていいわ。うん(笑)
さて、梓彩のファインプレーでやっとこの回、進塁した「聖テレ」陣営。これを皮切りに、この回、点を入れることができるか?続きが気になります!

6317投稿者:デジ  投稿日:2009年02月17日(火)01時17分37秒
                (今日の小言)
(1)いつぞや前にパソコンの話が出たので今日はパソコンの話題。
うちのお父さんは、システム関係の仕事に携わっている結構偉い人だそうです。そのお父さんによるとうちには20数台のパソコンがあるそうです。
中には、年期もののパソコンもあればもう再起不能なやつもあるそうです。
パソコンの部品もいっぱいあるわけで、壊れたもんを解体しては、その部品でパソコンを修理したりよりよい改良品を作っちゃったりするもので、結構すごいです。
かく言うこの文章を書き込んでるパソコンもそのいろんなもんの寄せ集めでできたパソコンだったりします。ちなみに今年の来月で七年目を迎えますが、何しろ最近から打ち込み始めた(一回壊れてまた直した)ものですから、まだ新品同然のキーボードです。リリーさんのパソコンの足元にも及びませんね。(苦笑)
(2)遼希が映画に出演するそうですね。遼希もこの一年で立派になったものだ。
以上です。今日は、小説のほうも更新します。今の場面はリリーさんと同じ「野球」が今のキーワードになってますが・・・興味があればお読み下さい。




               
6318投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時03分16秒
6313さん
子供って残酷ですよね
どうして「いとうサクセス」ってあだ名をつけてあげなかったんでしょうか

デジさん
そう言えば、凄い歳の差婚でした
年齢差、22歳って…
梓彩とゴルゴさんのエピソードは、もう一つある予定ですので、お楽しみ下さい
いいですね、PCに詳しい人が身内にいると…
そう言う私も、漫画地下室を持っている父を羨ましがられましたが…
小説は、また読ませていただきます
徳田さん出てましたよね?
私がやりたかったこと(意味、あるのかね?)を先にやられ、ちょっと悔しい感もありますが…でも、楽しみにしてました
お互いがんばりましょう

では、更新します
6319投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時06分37秒
九番…ラストバッターは、中村有沙だ。
バットを握る。
あの時…筋弛緩剤を注射された身体が、また動く…。
しかし、やはり筋肉が落ちてしまったのか…絶好調とは言い難い。
だが、梓彩が父親から打った内野安打を無駄にすることは、先輩として許されない。
「やってやる…」
必ず、梓彩をホームへ帰すと、いきり立ってバッターボックスに立つ。
だが、肩に力が入りすぎたのか…打球はボテボテのセカンドゴロ…。
遼希が落ち着いて捌いて、スリーアウトとなった。
「う〜む…。いかんな…。まだ、勘が取り戻せないか…」
中村有沙は、自らの手をじっと見詰めた。
「これでは、今夜の仕事にも、影響が…」
そう呟きかけて、彼女は首を振った。
「いや、よそう…。今は、野球に集中しなければ…」
急いでベンチに戻ると、素早くレガース、プロテクター、ヘルメット、マスクを着け、守備に向かう。
試合は、三回・表へ…。
6320投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時07分21秒
八番バッターの飯尾は、三振に倒れ、ワンアウト…。
ラストバッターはピッチャーの松本だ。
「よし…。ここは俺自身が点を取って、後々を楽にしておこうか…」
『天歳連合』のピッチャーは、松本と勇気と竜一、3人で投げることになっている。
松本の投げるイニングは、三回・表で終わりなのだ。
と、なると、ここは娘の前で、バッティングでも、いいところを見せておきたい。
そして欲を言えば、梓彩のショート方面へ打球を飛ばしたい。
さっきは、娘にピッチャー返しをされ、してやられたからだ。
藍の投げる球は、中学生女子とは思えない程のスピードだった。
あっと言う間にツーストライクに追い込まれる。
「…すごいな…。あい〜ん君…。俺が中学生の頃より、速い球投げるじゃないか…」
しかし、娘の前で三振だけはしたくない。
何とか喰らい着いて、フルカウントに持ち込んだ。
「ふぅ…。あず〜先輩のお父さんも、がんばるなぁ…」
藍は、帽子を取って汗を拭く。
「がんばって!!あい〜ん!!」
梓彩が、後ろから声をかける。
藍は、振り向いて笑顔を見せて応えた。
この一球で終わらせる…。
6321投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時07分45秒
だが松本は、藍の投げた渾身の一球を、バットで叩いた。
「…!!」
打球は、三遊間へ…。
サードの梨生奈が、横跳びでグローブを伸ばす。
だが、僅かに届かず…。
レフト前ヒットに…?
しかし、そこには梓彩がフォローに入っていた。
速いゴロを落ち着いて捌き、ファーストの方へ向き直る。
だが、松本も必死で走る。
「…く!!絶対に、アウトにする!!」
梓彩は、ファーストのジョアンへ送球する。
ジョアンは、出来る限り開脚し、一秒でも早くボールを受け止めようとする。
松本がベースを踏むのと、ジョアンが捕球するのとが、ほぼ同時…!!
「どっちだ…!?」
府川は、一瞬迷ったが…。
「どっちなんだよ!?」
ジョアンの突き刺さる様な視線が、府川を射る。
「ア、アウト〜〜〜!!」
またも、府川は『聖テレ』メンバーの威圧に負けてしまった。
6322投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時08分33秒
「いてて…」
ベースを踏むと同時に足を挫いてしまったのか…松本は足首の痛みを堪えてベンチへ帰る。
松本がベンチに辿り着いた時には、もう既に一番バッター遼希がライトフライに倒れ、三回・表の攻撃は終わっていた。
「くそ…。一休みするヒマもないのかよ…」
松本は苦笑いをしながらも、グローブを持ってマウンドへ向かう。
「松本さん。大丈夫ですか?」
「はい?」
声をかけたのは、監督の伊藤だ。
「足、挫いたのでは?」
「ああ…。大丈夫です!!あと、1イニングですし…」
娘が見ている手前、予定のイニングを終えずに交代など、できるわけがない。
「ま…点を取られないのなら、いいですけど…」
だが伊藤は、このイニングの失点を覚悟する。
『聖テレ』の打順は、上位に戻る。
おそらく、あの四番の七海に打順が回ってきてしまう可能性は大だ。
「たかが草野球で、ここまで戦略を練る必要もないのだが…」
だが、この戦いは、『聖テレ』の実質的な監督、一木有海との戦いでもあるのだ。
楠本の言っていた…有海は自分をも凌ぐ逸材…という言葉…絶対に認めるわけにはいかなかった。
6323投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時08分54秒
足を挫いた松本は、やはり本調子のピッチングはできなかった。
まず、一番の梨生奈にセンター前ヒット…愛美のバントの処理も誤り、ノーアウト、一塁、二塁…。
そして、三番のピッチャー、藍…。
「ふぅ…。ここは…絶対に踏ん張らないと…」
その力みが、松本のコントロールを狂わせる。
結局、ストレートのフォアボールで藍を歩かせ、ノーアウト満塁の大ピンチに陥った。
「タイム!!」
堪らず、伊藤はマウンドへ向かう。
「松本さん…。予定より早いけど、交代しますよ?」
「だ、大丈夫ですって!!キチンと抑えてみせますから!!」
松本は余裕のない笑顔で、早口でまくしたてた。
「マッチャン、無理すんなよ」
センターの内村が、声をかける。
「だ、大丈夫だって…」
だが、伊藤は松本の言葉を無視して、ベンチの勇気に声をかける。
「勇気君、準備できてる?」
しかし、松本が伊藤の肩を後ろから押さえた。
「だから、大丈夫だって!!」
「しかしですね…」
冷静な口調とは裏腹に、伊藤は苛ついていた。
(…まったく…!!これは、参謀としての戦いなんだよ!!あの、小娘に負けるわけにはいかないんだ!!)
6324投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時09分15秒
「タイム!!」
なんと、『聖テレ』ベンチから声があがった。
梓彩だ…。
「あず〜先輩?」
有海は、少し驚いて梓彩を見上げた。
「ごめんね…。ちょっと、行ってくる…」
梓彩は、マウンドへ走って行った。
「な…?」
皆は、呆然と梓彩の背中を見送った。
「な、何だよ!?梓彩…」
松本も、娘の突然の行動に戸惑っている。
「もう、交代しなよ。パパ…。みんな、迷惑してんじゃん…」
「な、何だって?」
「私の前で、カッコいいところ見せようって…。チームを私物化しちゃってバカみたい!!」
「バカとは、何だよ!!バカとは…!!」
松本は、顔を真っ赤にさせる。
6325投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時09分40秒
「バカよ!!パパは…!!だって…」
梓彩も、少し顔を赤くさせた。
「パパがカッコいいって…私、充分わかってるから…」
「…え…?」
「そんなこともわからずに、みんなに迷惑かけてるパパは、大バカよ!!」
「あ…梓彩…」
「こ、こんなこと、娘の私に言わせるなんて…パパ、サイテー!!大嫌い!!」
梓彩は、駆け足でマウンドを降りると、自軍のベンチへ走って行った。
「梓彩…」
松本は、潤んだ目で娘の背中を眺める。
伊藤が、松本の肩を叩く。
「…よろしいですね…?」
松本は、一つ、頷いた。
6326投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時10分57秒
マウンドには、二番手ピッチャー、『虹守中』のバーンズ勇気が上がる。
いや、春には『叡智大附属』の野球部員となる、バーンズ勇気だ。
同時にキャッチャーはライトの高橋郁哉に代わり、ライトには『叡智大附属』の…いや、もうすぐ『叡智大』の山本竜一が守備に着く。
七海は、ゆっくりとバッターボックスへ向かう。
「けけけ…。梓彩先輩の手前、松本のオッチャンを打つんは、気が退けとったんや…。しかし、オノレなら…遠慮なしにかっ飛ばせるってもんや…」
そして、勇気を睨みつける。
「よ!!久しぶり!!」
軽く、勇気は手を挙げた。
考えてみれば…あの『TDD』との死闘を乗り越え、また勇気と対決できる…。
七海は、この幸せを噛み締める。
しかし、敵軍の監督が、『TDD』のメンバーだとは、夢にも思わないが…。
勇気の、七海への第一球…。
勇気の速球は、拍車がかかっていた。
「何や…!?えらい、気迫やな…!!」
それもそのはず…『叡智大附属』の野球部に入れば、レギュラーテストがすぐに行われる。
そこでレギュラーを勝ち取らなければ、自慢の長髪はバッサリ切られ、丸坊主に…。
強豪『叡智大附属』には、優秀なピッチャーが全国から終結する。
勇気の戦いは、もう既に始まっているのだ。
6327投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時12分02秒
七海は、早くもツーストライクに追い込まれた。
「君は凄いスラッガーだ…。君を抑えれば…俺は、『叡智大附属』でやっていける…!!」
勇気は、鋭い視線で七海を射る。
七海も、負けじと睨み返す。
「おもろいやんけ…。来んかい…」
あの、あすみの剛速球を、思い出す。
あすみの方が、速かった…。
絶対に打てる…!!
6328投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時12分42秒
勇気が、振りかぶる。
「ヨー…」
七海は、バットを止める。
勇気は、足を上げる。
「ソー…」
七海は、バットを僅かに引く。
勇気は、ボールを投げた。
「ロー!!」
七海は、バットをフルスイングする。
だが、ボールは急激に落下…。
「な、何や!?」
七海のバットは、空を切った。
ワンバウンドしたボールを、郁哉は身体を覆い被せて必死で止めた。
「よっし!!決まった!!フォークボール!!」
マウンド上の勇気が、ガッツポーズをとった。
フォークボール…これが、勇気の『叡智大附属』で戦っていく秘密兵器なのだ。
6329投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時13分29秒
「な、何やって…!?フォーク!?」
初めて、実際に体験した…。
「ゴ、ゴルァ!!正々堂々と、ど真ん中で勝負せんかい!!」
バットで勇気を指して、怒鳴る七海。
「正々堂々…?変化球は反則じゃないだろ?清原みたいなこと言う子だな…」
勇気は、マウンド上で苦笑いをした。
たしかに、あすみは自分に対し、直球勝負しかしてこなかった…。
これは野球…変化球の見極めも大切なのだ。
「せやけど…あのフォーク…簡単には打てへんで…」
続く、ジョアン、エマも連続三振…伝家の宝刀、フォークでとどめを刺される。
三者残塁…『聖テレ』には痛すぎる無得点で、この回を終えた。
有海も、この回に得点できなかったことは、計算外だった。
ノーアウト満塁からの中軸打線で、一点も獲れなかった…。
これは、後々、重く圧し掛かってきそうだ…。
6330投稿者:リリー  投稿日:2009年02月17日(火)21時16分29秒
今にして思えば『叡智大学附属渓岳園高等学校』って、履歴書に書くの、凄くめんどくさそうですね

では、おちます
6331投稿者: 投稿日:2009年02月17日(火)21時38分10秒

6332投稿者: 投稿日:2009年02月17日(火)22時51分31秒
6333投稿者:なにげに  投稿日:2009年02月17日(火)23時53分18秒
スキラッチとゴルゴさんが再会してる
6334投稿者:デジ  投稿日:2009年02月18日(水)02時42分51秒
聖テレ半分反則入ってますね。
一度とならず二度も、威圧勝ちでのアウト。
梓彩とゴルゴさん、すっかりいい家族になってますね。
昨日に引き続き、梓彩がかっこよかったです。ほんとに一年戦士だったのが残念だなあ。もっと居て欲しかったと本気で思ってしまいました。
このピッチャー交代は、「聖テレ」にとっては、マイナスでしたね。
「聖テレ」陣営少しピンチか?どう乗り切る、この展開。続きが気になります!
              (今日の小言)
確かに『叡智大学附属渓岳園高等学校』って、実際に書くとかなりめんどくさそうですね。というか、高校の名前って結構名前が長いの多いですよね。
6335投稿者: 投稿日:2009年02月18日(水)16時28分41秒
6336投稿者:ひなたぼっココア  投稿日:2009年02月18日(水)18時02分56秒
          
6337投稿者:なんじゃそりゃそりゃわけわからん!!プルピンポン!!  投稿日:2009年02月18日(水)18時09分02秒
          
6338投稿者:日付変更船プッカリーノ  投稿日:2009年02月18日(水)20時10分24秒
             
6339投稿者: 投稿日:2009年02月18日(水)20時56分05秒
6340投稿者:リリー  投稿日:2009年02月18日(水)21時07分44秒
6333さん
そう言えばそうでしたね
もし、過去を梓彩にばらされたら、また親子の溝は深くなりますね
もしかしたら、もう謝罪は済んでいるのかもしれません

デジさん
清濁合わせ待つというのが、元『TTK』らしくていいかな…と
でも、府川さんが毅然とした態度をしていればいいんですが、無理でしょうね

6336さん、6337さん、6338さん
何と言っていいかわかりませんが、とりあえずありがとうございます

あげコメントも、ありがとうございました

では、更新します

6341投稿者:リリー  投稿日:2009年02月18日(水)21時10分02秒
四回・表…『天歳連合』は、二番の日向滉一から…。
そして、郁哉、公輝と続いていく…。
郁哉だって、『虹守中』では四番バッターなのだ。
そして、その後に『ピーナッツ』の内村…その後は、先制ホームランを放った、幸生…。
「で、でも…絶対に、ここは点をやらないんだから…!!」
藍は、もうこの後のペース配分を考えない。
一球、一球、全力で投げ込む。
そして14球を費やし、やっと滉一を三振に打ち取った。
既に、藍は肩で息をしている。
そんな調子では、三番の郁哉に、当然の如くセンター前に運ばれる。
そして、いよいよ、四番の公輝…。
中村有沙が、マウンドへ向かう。
「あ…。中村先輩…良い所で…」
有海も一先ず、ほっと息をつく。
中村有沙は、藍の肩に手を置く。
「藍…。飛ばしすぎだ…」
「…はい…」
「しかし、あの男…どこのコースが苦手なのか、さっぱりわからん…」
「そうですね…。さっきは外角低めを運ばれましたけど…」
「ならば…内角で攻めるか…」
「じゃあ、カーブで…」
6342投稿者:リリー  投稿日:2009年02月18日(水)21時10分34秒
しかし、その内角も公輝は強引に引っ張った。
「げぇ…!!」
藍は、青くなって思わず叫んだ。
しかし、今度はつまり気味…ライトの七海の手前でボールは落ちた。
「ゴルァ!!」
ファーストへ、七海は送球する。
「ライト前ゴロ…!?」
公輝は、咄嗟に滑り込んだ。
しかし、これはジョアンにも予想外だった。
「うわ!!」
ジョアンが、送球を逸らした。
「む…!?」
中村有沙がフォローに向かう。
何とか後ろに逸らすことなく捕球し、サードの梨生奈に投げる。
郁哉が、三塁を狙って走っているのだ。
梨生奈が捕球、滑り込んで足を伸ばす郁哉にタッチする。
「セーフ!!」
三塁塁審の大竹の腕が、水平に伸びる。
「く…!!」
中村有沙は、悔しそうに顔を顰めた。
ノーアウト、一塁三塁…またも、『聖テレ』はピンチになる。
6343投稿者:リリー  投稿日:2009年02月18日(水)21時11分12秒
「何しとんねん!!ジョアン、しっかりせぇよ!!」
「何言ってんだよ!!一声かけろ!!普通、ファーストに投げないだろ!?こういう場合…!!」
七海とジョアンは、言い争いをしている。
「貴様等!!ケンカは後にしろ!!」
中村有沙も、二人に怒鳴った。
「ど、ど、どうしよう…?一木さん…」
ベンチでは、珠緒がオロオロと涙ぐみながら有海を見詰める。
「まずいですね…。私、行ってきます…」
至って冷静に、有海はマウンドへ向かう。
「はぁ…。本当に…一木さんって…逞しい…」
珠緒は溜息をついて、有海を見送った。
「みんな、集まって!!」
愛美が、皆をマウンドへ呼びかける。
七海とジョアンが、睨み合いながら駆けつける。
有海を中心に、全員がマウンド上に集まった。
6344投稿者:リリー  投稿日:2009年02月18日(水)21時11分44秒
「細川さん…。ピッチャー、藤本さんと交代ね…」
「え!?も、もう…?」
藍は、慌てた。
確かに、この試合は藍と七海、二人で投げることに決めていたが…。
予定では、五回までは藍が投げるはずだった。
「また、後で細川さんに投げる機会がくるから…。それに…」
有海は、バッターボックスに向かう、五番の内村を見る。
「内村さんは、藤本さんの投球を見てないでしょ?その後の堀江さんも…」
「あ…。そうか…」
七海の速球を、初見で打ち崩すなど、至難の技だろう。
「わかった…。ななみん、お願いね…」
藍は、ボールを七海に渡す。
「おう…!!任せとき!!」
力強く、七海はボールを握り締めた。
しかし、ジョアンは七海の耳元で怒鳴った。
「責任取れよ!!こうなったのは、おまえの所為なんだからな!!」
「な、何やと!?ゴルァ!!」
ジョアンの言葉に、七海は逆上した。
6345投稿者:リリー  投稿日:2009年02月18日(水)21時12分12秒
「貴様等…」
中村有沙が、叫ぼうとした時だった。
「もう!!いい加減にして下さい!!二人とも!!」
怒鳴ったのは…有海だった…。
「こうなったのは、誰の所為でもありません!!みんな、勝とうと必死なんですから…。野球はミスのスポーツ!!そのミスをカバーし合うスポーツでしょ!!」
「………」
皆は、ただ黙って有海の顔を見詰めた。
「………そうやな…。一木さんの言う通りや…」
「アタシが悪かったよ…。ゴメンな…七海…」
七海もジョアンも、素直に非を認めた。
バラバラになりかけたチームを、有海がまとめ上げたのだ。
今、このチームの主導権は、有海が握っている。
ふ…と、中村有沙は静かに笑った。
「よし…。ここは、一点もやらんぞ…」
そして、皆は守備位置へ戻っていく。
6346投稿者:リリー  投稿日:2009年02月18日(水)21時12分46秒
その間、伊藤は内村に指示をする。
「…ふ〜ん…」
内村は、なんとか納得する。
そして、七海の投球練習を見た。
剛速球が、ミットに突き刺さる。
「うわ!!な、何だ!?あの球…」
内村は、思わず仰け反った。
「う…うお…」
ネクストバッターズサークルの、先制ホームランを放った幸生も、目を見張っている。
「な…なるほど…」
伊藤の指示の意図を、内村は理解した。
「でも…できるかな…?」
おっかなびっくりでバッターボックスに立つ、内村。
七海の速球に、内村はタイミングずれでバットを振る。
バットは、ボールに掠りもしない。
「あれ…?おかしい…」
有海は、ある違和感を覚える。
いくら七海の球が速いと言っても…内村のスイングが、お粗末すぎる…。
「まさか…」
三球目を七海が投げようとした時、有海は気付く…。
6347投稿者:リリー  投稿日:2009年02月18日(水)21時13分09秒
「スクイズ!!」
有海が叫んだと同時に、内村はバットを水平に寝かせた。
だが、七海はボールを指から離した後だった。
内村は、絶妙なバット合わせで、ボールを下に叩きつけるようにバントした。
中村有沙は、素手でボールを掴み捕ると、そのままセカンドへ…。
しかし、ジョアンが叫んだ。
「こっちだ!!チビアリ!!」
その叫びに引っ張られる様に、中村有沙はジョアンのいる一塁へ送球する。
その前に、公輝はセカンドへ滑り込んでいたのだ。
セカンドへ送球したら、間に合わなかった。
とりあえず、内村はアウトになった。
もちろん、郁哉はホームに帰り、『天歳連合』は2点目を入れた。
6348投稿者:リリー  投稿日:2009年02月18日(水)21時13分36秒
「ちぃ…!!」
七海は、マウンドの土を蹴り上げた。
絶対に失点はしない覚悟で、マウンドに上がったのに…。
「ドンマイ!!」
ジョアンは、七海に声をかけた。
ようやく七海は笑顔になり、ジョアンに向けて手を挙げて応える。
一方、伊藤は、得意気に有海を遠目から見ている。
「ふふふ…。どうだ…?虚を突かれただろう…?」
『表』の世界の…しかも平和な草野球の戦いだが…伊藤は必勝の決意で、この戦いに臨んでいる。
先の打席で、ホームランを放っている幸生は、今度は三振。
『天歳連合』は、四回・表の攻撃を終えた。
続く、四回・裏の『聖テレ』の攻撃も、勇気の速球とフォークボールでエリー、梓彩、中村有沙と連続三振で淡白に終った。
試合は、五回…中盤へと入っていく。
6349投稿者:リリー  投稿日:2009年02月18日(水)21時14分04秒
では、おちます
6350投稿者:あげ  投稿日:2009年02月19日(木)20時24分39秒

6351投稿者:リリー  投稿日:2009年02月19日(木)21時00分42秒
あげ、ありがとうございます

では、更新します
6352投稿者:リリー  投稿日:2009年02月19日(木)21時02分43秒
「おお…!!勝ってるじゃないか!!」
守備から戻る勇気達に、濁声が投げかけられる。
「…?あ、監督!!」
勇気達、虹守中組は、帽子を取って礼をする。
濁声の持ち主は、虹守中野球部の監督、井上雅史だった。
後ろには、同マネージャー、橋本甜歌と木内江莉もいた。
「いいねぇ、お前等!!リベンジに燃えてるな?」
井上は、勇気、郁哉、謙二郎、遼希、滉一の順に、肩を叩いていく。
「そりゃ、そうですよ!!二度も同じ相手に負けてられませんからね」
勇気は、笑顔で…しかし、力強く答える。
「勇気、がんばって!!」
江莉が勇気に声をかけた。
「おう!!」
満面の笑みで答える、勇気。
「…!?ちょ、ちょっと!!江莉!!何、先輩を呼び捨てにしてんのよ!!」
甜歌は、軽く江莉を突き飛ばした。
「な、何よ!?痛いじゃない!!」
江莉も、甜歌を突き飛ばす。
「そ、そんなに強くやってないでしょ!?」
今度は、江莉に掴みかかる。
6353投稿者:リリー  投稿日:2009年02月19日(木)21時03分10秒
「ストップ、ストップ!!いいんだ。俺が、呼び捨てで呼び合おうぜって、江莉に言ったんだ」
勇気が、堪りかねて二人の女子の間に割って入った。
「そ、そんなこと…」
甜歌が絶句している。
「だって、その方が恋人同士って感じがするもんな?」
「え…?ええ…」
勇気にそう言われ、江莉は頬を赤らめた。
「こ…こ…恋人って…」
金魚の様に口をパクパクさせている甜歌を見て、郁哉と謙二郎は面白がり、遼希と滉一は哀れんだ。
「あ…!!井上先生…!!お久しぶりです!!」
去年まで虹守中野球部にいた公輝が、井上に挨拶にくる。
「おう!!公輝!!2点入ってるな?おまえの打点か?」
「いや…。その…まだ、俺は打点ゼロでして…」
「何だ…。女の子だからって、手を抜いてると、痛い目に遭うぞ?」
「い、いや…。俺だって、知ってますよ。あの子達の実力…」
公輝は、遠目で『聖テレ』ベンチを眺めた。
「あ〜!!あ〜!!前田先輩!!がんばって!!がんばって!!ホームラン打ってくださいね〜〜〜!!!」
江莉への嫉妬で、頭が混乱している甜歌が、声援を送る。
「お、おう…。サンキュー、甜歌…」
うるさいヤツが来た…と、公輝は心の中で呟いた。
6354投稿者:リリー  投稿日:2009年02月19日(木)21時03分54秒
「どうも…。今回、監督を務めさせて頂いている、伊藤と申します」
伊藤は、井上の前に歩み出た。
「あ、これはこれは…。虹守中野球部の監督、井上と申します。こいつ等、どんどんこき使って下さい」
井上は、伊藤に頭を垂れた。
「いえいえ…。ほんと、よくやってくれますよ。虹守中の諸君は…」
伊藤も、帽子を取って頭を垂れた。
「あ…。そうだ…。聖テレの監督さんにも、挨拶をしなくちゃ…」
井上は、わずかに胸をときめかせる。
失恋をしたのだが…やはり、一目でも、中田あすみに会っておきたかったのだ。
いそいそと、心をときめかしながら『聖テレ』ベンチへ足を運ぶ井上。
しかし、ベンチには、中田あすみの長身の姿が見当たらない。
6355投稿者:リリー  投稿日:2009年02月19日(木)21時04分16秒
「…ん?」
井上は、恐る恐る声をかける。
「あの〜…虹守中野球部監督の井上です…。中田先生は、お見えでしょうか?」
その時、黒いスタジアムジャンパーを着た、小柄な少女がバネ仕掛けの様に立ち上がった。
「あ…その…中田先生は、学校を辞められて…」
「え…?そ、そうなんですか…?」
井上には、その事実がショックではあるが、この目の前の少女…いや、よく見ると少女ではなく成人した女性の様だが…彼女の存在が気になった。
「私が、新しく野球部顧問になりました、佐藤と申します…」
「…え…?」
井上は、目を丸くして珠緒を見詰めた。
その新顧問のあまりの若さに…可愛らしさに…。
速い話しが、井上は珠緒に一目惚れした。
「あ、あ、そ、そうなんですか…。私、虹守中の井上です。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ…」
井上も珠緒も、お互いしきりに頭を下げ合っている。
「あ、虹守の監督さん。こんにちわ」
有海も、井上に頭を下げた。
「こんにちわ。がんばってるね」
井上はチラリと有海に視線を移しただけで、すぐにそのだらしない笑顔を珠緒に向けた。
6356投稿者:リリー  投稿日:2009年02月19日(木)21時04分46秒
「そうですか…。中田先生、お辞めになられたんですか…。では、佐藤先生も野球がお好きで?」
この井上の質問に、珠緒は掌を顔の前に持っていき、激しく横に振った。
「とんでもない!!私、野球のこと、全然わからないんですよ!!」
「え…?そ、そうなんですか?」
「ルールとかも、全然…!!これからどうしたらいいものか…」
珠緒は、泣き出しそうな顔になった。
「そ…それは、大変ですねぇ…」
井上は、心の底から哀れんだ。
そのやりとりを横目で見ていた有海は、咄嗟に何かを閃いた。
「だったら、先生!!井上先生に、野球のことを教えて頂いたら、どうです?」
「ええ?」
井上は、目を大きく開いて、有海を見た。
「…で、でも…」
井上が何かを言いかけた時、珠緒の声が覆い被さる。
「あ!!助かります!!私に一から野球を教えて頂けませんか?」
潤んだ瞳で、井上を見上げる珠緒…。
(…や…やばい…)
井上は、一瞬、目の前がくらりときた。
「…い、いいですよ…。そのくらい…お安い御用ですよ…」
その後、井上は素直に『聖テレ』ベンチの、珠緒の隣に座った。
井上の頭から、中田あすみのことは、きれいさっぱり消え去った。
6357投稿者:132投稿者:惣投稿日:2009年01月30日(金)22時27分50秒  投稿日:2009年02月19日(木)21時04分56秒
   ,、-‐'"             /  r' |.j,!
   |   、     _,..、 -‐ '" ' ‐-、,____`ヽ,
.   |   ` i-‐ ' "   ,、,        ヽ'
    |      |,-‐/ミ、/:::::\、_
    |   _,,.-‐"~::::::::::::::::::::::::::::::``‐、-、_
     !  7/:::::::::::/ハ::::、:、::::::::::::::::::ヾ‐i`〉
    |  '/:::::::/::__;∠!∧:ヽヽ\::ヽ::::、ヾ|/:ヽ
     i ' i':;::/レ/   ヾヽ〉ゞ\_>_ヽ、レハ:i::::i
     l  W'ヘ|(  0 ! ! 0  ヽヾ|ノノ|::|::::|
      l  ヽノ >;;,,, ' ヽ、   .ノ /'‐i:::|::|::::|
      i   !、   ‘    `"!!! ._〉ヾ!|./::::|
-‐/ ̄,`" ‐- 、_\⊂===ニ二)  .ノ‐ '゛|/::::::|
フ_4゛ \     ̄`‐- 、 ___ ,、 ‐ ⌒ ヽ!::::::::l|
ニ-‐'-、  `ー-         ̄ `'' "` ‐`‐、|:|
   ,.> ,、-i‐っ‐- 、. _           ` ヽi
  (_,ノ'゛ /`ヽ     `` ‐- 、          ヽ
      /   ヽ、,、 -‐ '' "〈 `` 、_    _,人
    i            i  '/ ̄l ̄::|:::::::::i
     i              |  /::|:::::::|:::::::|::|:::|:|
      〉            !-/:::::|:::::::|:::::::|::i:::|::|
      /              /:::::::|:::::/::::::/::|:ノ:ノ
6358投稿者:リリー  投稿日:2009年02月19日(木)21時05分21秒
七番、謙二郎は七海の速球に三振した。
次は、八番バッター…飯尾と交代した山元竜一。
下位打線に入るのだが、叡智大附属の竜一が入ったことで、気の抜けないオーダーとなっている。
ピッチャーである竜一だが、バッティングも当然得意だ。
それに、竜一は七海の弱点を知っている。
打者が内角ギリギリに立つと、デッドボールを怖がってコントロールを乱す…。
竜一は、やはりバッターボックスの内側に立った。
だが、七海は前回とは違った。
竜一の腹、スレスレに、速球を放り込んできたのだ。
「…うお!!」
思わず竜一は仰け反ったが、球審の三村はストライクとコールした。
「…なるほど…。少しは成長したのか…」
そう呟く竜一に、キャッチャーの中村有沙は小さな声で話しかける。
「…男子、三日会わずば、刮目して見よ…」
「…え?」
「これは、女子にも当てはまるということだ…」
中村有沙は、七海にボールを投げ返した。
6359投稿者:リリー  投稿日:2009年02月19日(木)21時05分44秒
「仕方がない…。ここは、様子見といくか…」
竜一は、七海の速球に合わせてスイングしたり、カットしてみたりと、いろいろ試す。
そして、9球目…打球はライトの藍のグローブに納まる。
「なるほどね…」
ライトフライに打ち取ったが、七海のデータをたっぷりと吸い取られた感がある。
「………」
次の打席では要注意かもしれないと、中村有沙は無言で竜一を見送った。
九番、最終打者は松本と交代した、ピッチャーの勇気。
もちろん、勇気もバッティングは得意だ。
意気揚々と、勇気はバッターボックスに立つ。
「覚えてる?この前の対決…」
勇気は、マウンド上の七海に声をかける。
「覚えてるよ…。忘れるわけ、ないやろ!!」
真っ向勝負のストレートで、七海は勝負をかける。
いや、七海の球種は、ストレートしかないのだが…。
だが、その球威は以前と比べて幾分増していた。
勇気は、何とか喰らいつく。
ファールを重ね、七海の勇気に対する球数は12…。
6360投稿者:リリー  投稿日:2009年02月19日(木)21時06分18秒
「オノレ…。また、嫌がらせバッティングかい…」
七海は、恨めしそうに勇気を睨む。
「へへへ…。忘れてたわけじゃないんだろ?」
そう言いながら笑う勇気だが、本心は違う。
打球が、前に飛ばないのだ。
凄まじい球威に圧されている…。
何とかバットに当てなければ、三振を喫してしまいそうだ。
15球目…勇気のバットが、一瞬止まる…。
「ボール!!フォアボール!!」
「ふぅ…。よかった…」
勇気は、息をつきながら一塁へ向かう。
「ああ!!くそ!!」
七海は、マウンドにしゃがみ込んだ。
だが、このフォアボールに、安堵の息をついている者がいる。
有海だ。
いつまでも、ムキに勇気へ勝負を挑む七海の体力がもつかどうか、心配だったのだ。
次は、一番に戻って木村遼希…結局、彼は三振。
『天歳連合』の、五回表の攻撃は終わった。
しかし有海の目から見れば、七海は無駄な体力を削られた様なものだった。
6361投稿者:リリー  投稿日:2009年02月19日(木)21時07分14秒
6357さん
マーさんに、きれいさっぱり忘れられた、あすみの心境だとしたら、おもしろいです

では、おちます
6362投稿者:意外にも当たったな  投稿日:2009年02月19日(木)21時36分59秒
カンペーさんの占い
新しい恋が芽生えるとかって言ってたあれ
6363投稿者: 投稿日:2009年02月19日(木)21時38分43秒

6364投稿者: 投稿日:2009年02月19日(木)21時51分56秒
6365投稿者:SingforYou〜ボクらの未来へ  投稿日:2009年02月20日(金)21時03分09秒
今年度最後のMTKは、この季節にふさわしい「卒業ソング」。
どんなに遠く離れていても、キミの歌声があれば、また一つになれる。
そんな気持ちをこめて未来へ向かおうという熱い想いを
ことりとメロディーが歌い上げるよ。
てれび戦士総出演のプロモーションビデオにも注目してね。
6366投稿者:リリー  投稿日:2009年02月20日(金)21時17分15秒
6362さん
そうです
寛平さんがマーさんに言った「新しい出会い」とは、このことでした
最初、こんどんに恋する設定で書こうと思いましたが、一目ぼれさせるには、珠緒が適切と思いまして…

6365さん
今度のMTK楽しみです

では、更新します
6367投稿者:リリー  投稿日:2009年02月20日(金)21時20分56秒
五回・裏、『聖テレ』の攻撃だが、梨生奈、愛美、藍と、勇気に対し三者凡退…。
六回・表、二番の滉一、三番の郁哉と連続三振…試合は、投手戦へと移っていく。
だが、次の打者は…四番の公輝…。
「たしか…前田さんは、去年まで虹守中にいたんですよね…」
有海は、五回・表から珠緒の隣に座っている井上に話しかける。
「ん?ああ、そうだよ」
「凄いですよねぇ…。一年生で、甲子園でホームラン打っちゃうなんて…。余程、井上先生の指導が素晴らしかったんでしょうか…」
この有海の言葉に、珠緒は大袈裟に手を叩いた。
「凄〜〜〜い…。井上先生〜〜〜。どんな御指導をなされてたんですかぁ?」
井上のデレデレした顔は、一層締まりがなくなる。
「い、いえ…あいつは…もともとセンスがあったんですよ…」
「バッティングに関しては、弱点がないって感じですよね…。内角にも、外角にも…」
有海がそう言った時、公輝は七海の速球を叩いた。
打球は、外野へ飛んでいく。
「ああん!!」
珠緒は、悲鳴をあげて立ち上がった。
ボールは、わずかに切れてファールになった。
「ああ〜〜〜…よかったぁ…。ホームラン、打たれちゃったのかと思ったぁ〜〜〜…」
珠緒は、無意識に井上の腕にしがみ付いた。
(…や…や…やばい…)
井上の頭は、ぐらんぐらんと揺れている。
6368投稿者:リリー  投稿日:2009年02月20日(金)21時21分29秒
「速球もダメなんて…。ほんと、どうやって攻略したらいいものか…」
有海の呟きに、珠緒も乗る。
「ほんと…。このままじゃ、負けちゃう…」
グスンと、鼻を鳴らす珠緒。
これに、井上は思わず言葉をこぼした。
「でも…低めの球には、内角も外角もダメなんだよなぁ…」
「…!?」
来た…この瞬間…。
有海が、井上を『聖テレ』ベンチに引き止めた理由がコレだ…!!
6369投稿者:リリー  投稿日:2009年02月20日(金)21時21分50秒
「どういうことですかぁ?」
そして、上手い具合に珠緒が食い付いた。
(ナイス…!!佐藤先生…!!)
有海は、心の中でガッツポーズをとった。
「いや、公輝のやつ、下半身強化の訓練を嫌ってて…低めの打球に対応すると、バランスを崩すんですよ…。あいつ…まだ、走り込みをさぼってんだな…」
井上の言葉を聞くと、有海は、すぐさまキャッチャーの中村有沙にサインを送る。
中村有沙は頷くと、低めにキャッチャーミットを構えた。
七海は、細かなサインの取り決めを覚えていない。
いや、変化球を持っていない七海には、無用なのだ。
ただ、速球をどのコースに投げ込むか…それだけだ。
低めにきた速球に、公輝はバランスを崩し、センターフライに倒れた。
公輝は、悔しそうにバットを地面に叩きつけてベンチへ戻っていく。
井上の無自覚な背信行為も手伝って、『天歳連合』の六回・表の攻撃も淡白なものに終わった。
6370投稿者:リリー  投稿日:2009年02月20日(金)21時22分12秒
六回・裏、『聖テレ』の攻撃…勇気がマウンドに上がる。
勇気にとっては、自分が投げる最後のイニングになる。
おそらく、七回からは山元竜一が投げることになるだろう。
甲子園のベスト8ピッチャー、竜一から点を奪うのは至難の技だ。
この回の先頭打者は、四番の七海だ。
何とか、1点でも取れないものか…。
だが勇気だって、そう簡単には点を献上はしないだろう。
ここは、やはり井上から勇気の弱点を聞き出すしかない。
「先生…。バーンズさんが投げてから、私達ノーヒットですよね…」
珠緒は、スコアを確認する。
「あ、ほんとだぁ…。ねぇ、井上先生〜〜〜。何とかなりません?私達、女の子なんですよぉ〜〜〜…」
またも、珠緒は井上の腕にしがみ付いて揺らす。
同時に、井上の心も揺れに揺れた。
「う〜ん…いや、私は今回、監督じゃないもので…どうにもならないんですが…」
「ですが…?何ですかぁ?」
じっと、井上の顔を見詰める珠緒。
「う、う〜ん…。勇気は内角を攻めるのは苦手なんですよ…」
「…!!」
有海だけではなかった。
中村有沙も、ジョアンも、梨生奈も、エマも、エリーも、愛美や梓彩でさえも、聞き耳をたてた。
6371投稿者:リリー  投稿日:2009年02月20日(金)21時22分54秒
「あと、最近フォークを覚えたものですから、やたらと多用してきます。フォークは、振らなければボール球ですから…」
「へぇ〜〜〜…そうなんですかぁ〜〜〜?」
「あと、郁哉もフォークを受けるのに、まだ慣れてませんし…」
井上は、いい気分になってベラベラと貴重な情報を喋り出す。
当然、バッターボックスに向かう七海の耳にも、この会話は聞こえている。
「けけ…。ええこと聞いたで…」
勝負球にはフォーク…。
つまり、フォークボールを投げやすい様なカウントにすればいい…。
スリーボールでは、ピッチャーは怖くて変化球…特にフォークの様な球種は投げ難い。
ここは、カウントを2ストライク2ボールくらいに持って行くことが肝心だ。
七海は、バッターボックスの内側に立つ。
「…?」
いつも、フルスイングをしやすい様にバッターボックス外側に立つのに…?
勇気は、少し不可解に思った。
やはり内角攻めは苦手らしく、カウントはボール先行…1ストライク2ボールとなった。
(よっしゃ!!あとは、わざとストライクカウントを一つ増やして…)
勇気のキレのあるストレートをカットする。
意識的にファールボールに…これで、カウントは2ストライク2ボールとなった。
6372投稿者:リリー  投稿日:2009年02月20日(金)21時23分37秒
フォークを投げたがっている勇気にとっては、これは理想的なカウントだ。
例え、フォークが決まらなくても、カウントはまだフルカウントだからだ。
そして、七海にとっても…。
七海は、勇気のフォークボールを打ちたくて仕方がないのだ。
(さっきのお返し…絶対にやったんぞ…)
グローブの中で、勇気がボールを握る。
少し、時間がかかっている様だ。
やはり、フォークでくるのか…?
七海は、狙いを絞った。
勇気が投げる。
ボールが落ちる前に、七海は膝を低く沈めた。
そして、掬い上げるようなスイング…。
ストレートならば、三振は免れない…が…。
ボールが深く沈んだ…!!
(やっぱり、フォークや!!)
思い切り、七海はボールを叩いた。
「…!?」
勇気の頭上を、ボールは越える。
ショートの遼希が懸命に飛び上がるが、届かない。
センター前ヒット…ノーアウトのランナーが出た。
6373投稿者:リリー  投稿日:2009年02月20日(金)21時23分57秒
「やったあ〜〜〜!!ななみん、偉い!!」
藍は、狂気乱舞している。
他のメンバー達も、マンボウズの少年達も同様だ。
特に、ベンジャミンは一際嬉しそうだ。
いつも大人しい彼が、大きな声で一塁上の七海へ声援を送っている。
「あはは…!!ベン、テンション高い!!」
藍は、後ろのマンボウズを振り返りながら笑った。
「あれ…?」
堤防の上にいた、千葉一磨という少年の姿がない。
聖斗を抑え、聖テレの入試にトップ合格した少年だ。
藍は、とりあえず聖斗に尋ねる。
「ねぇ、聖斗…。あの、トップ合格した子、どこに行ったの?」
「ああ…。何か、用事を思い出したって言って、さっき帰りました」
「帰った…?そう…」
藍は、それ以上あの少年について気にするのをやめた。
次の打者、ジョアンがバッターボックスに向かったからだ。
しかし、そのジョアンを有海は呼び止める。
そして、何やら耳うちをする。
ジョアンは大きく頷くと、再びバッターボックスへと向かう。
6374投稿者:リリー  投稿日:2009年02月20日(金)21時24分24秒
やはりジョアンは、バッターボックスの内側に立った。
「あれ…?内角攻めが苦手って、相手にばれたのかな…?」
勇気は一つ、息をつく。
それでも絶妙なコントロールで、ストライクカウントを二つとる。
その後、勇気はフォークボール…。
だが、ジョアンは振らない。
(なるほど…。あみ〜ごの言う通りだ…)
決め球にはフォークボールがくる…有海の進言した通りとなっている。
叡智大附属に入学する前に、一つでも多く実戦でフォークボールを試したがっている…。
有海には、勇気の考えを読んだのだ。
そして、とうとうフルカウントとなる。
(フルカウントとなったら、もう、フォークは投げない…)
ジョアンは、心の中で呟く。
これも、有海から言われたことだ。
キャッチャーの郁哉が、フォークの対応に慣れていない。
それが証拠に、さっきの…そして三回・裏に七海を空振りさせたフォーク…郁哉は、身体ごと覆い被さって後ろに逸れるのを防いだ。
常にパスボールの危険性を、はらんでいるのだ。
しかも、今は一塁に七海がいる。
6375投稿者:リリー  投稿日:2009年02月20日(金)21時24分48秒
ジョアンは、ますます身体を内角に寄せた。
これでは、勇気は外角へストレートを投げるしかなくなる。
フルカウントでの変化球は、やはり避けたい…これが心情だろう。
しかも、勇気は決め球に変化球を投げるタイプではない。
ストライクカウントを稼ぐ為に、投げることが多いのだ。
これは、この前の試合でも顕著だったし、井上の話しで確信できた。
外角のストレートが来る…ジョアンの動体視力なら、予想できたコースの球を打つのは容易い。
ジョアンは、バットを振る。
今度は、低い打球がライトに飛ぶ。
「おっと!!」
勇気が投げると同時に一塁を飛び出した七海が、ジャンプをしてその打球を避ける。
ライトの山元竜一が、転がるボールを掴むと同時に、三塁へ送球した。
さすがに投手の山元…ノーバウンドのど真ん中に、サードの公輝のグローブにボールが納まった。
「おっとっと…!!」
足の速さに自信のある七海は当然三塁を狙ったのだが、これには諦めざるを得なかった。
しかし、これでノーアウト一塁、二塁…。
点を奪う、絶好のチャンスだ。
6376投稿者:リリー  投稿日:2009年02月20日(金)21時26分09秒
では、おちます
6377投稿者:マーさん!!!!  投稿日:2009年02月20日(金)21時37分22秒
全く

一磨が謎……裏の人間フラグ?
6378投稿者:期待!  投稿日:2009年02月20日(金)22時13分42秒
 
6379投稿者:面白い  投稿日:2009年02月20日(金)22時33分07秒

6380投稿者:すごい  投稿日:2009年02月20日(金)22時45分34秒
 
6381投稿者:脇役も  投稿日:2009年02月20日(金)22時49分44秒
存分に活かされてるよね
6382投稿者: 投稿日:2009年02月20日(金)23時00分12秒

6383投稿者:七海とジョアンの恫喝  投稿日:2009年02月21日(土)01時14分01秒
有海の情報吸い取り

結構ダーティーだなw
聖テレw
6384投稿者: 投稿日:2009年02月21日(土)14時52分07秒
6385投稿者:リリー  投稿日:2009年02月21日(土)21時52分49秒
6377さん
一磨の出番は、これだけなんです
あと、少しあるかな?
でも、後で重要な存在になってきますが…

6378さん、6379さん、6380さん、ありがとうございます
あと少しですが、最後までよろしくお願いします

6381さん
登場人物が多いので大変ですが、何とか誰でも見せ場はつくっていきたいなぁ、と思っています

6383さん
そうですね
勝つ為にはできることは何でもする…という考えに慣れてしまったんでしょうね

あげ、ありがとうございます
では、更新します
6386投稿者:リリー  投稿日:2009年02月21日(土)21時54分22秒
六番のエマ、バッターボックスへ…。
これも、有海からのアドバイス通り…内角に構える。
「やっぱり…バレてるな、こりゃ…」
勇気は、苦笑いをする。
そして、挙句はフォアボール…ノーアウト満塁の、大ピンチに陥った。
堪らず、郁哉はタイムをとって、マウンド上へ向かう。
ライトから、竜一もマウンドへ向かう。
勇気は余裕の笑みで応えるが…。
「しかし…何故、急に…」
伊藤は、『聖テレ』ベンチの方を見る。
「…!?」
なんと、そこには虹守中の監督、井上が何やら熱心に、『聖テレ』の監督、珠緒に語っている。
「も、もしかしたら…」
先ほどの公輝の凡打…今の勇気のピンチ…選手の情報が、井上の口から漏れている…!?
しかし、あの素人監督の珠緒に、その情報を元に戦略を練ることは不可能だろう。
気をつけて見てみると、珠緒の隣の有海も、横目で窺いながら二人の会話を聞いている。
これは、有海の計略か…?
言葉巧みに、井上を自軍に引き込んで、情報を聞き出している…?
(むむ…!!なるほど…。さすが、楠本君が認めただけのことはある…)
伊藤は、奥歯を強く噛み締め、有海を睨み付けた。
6387投稿者:リリー  投稿日:2009年02月21日(土)21時55分00秒
「ねえ…君達…」
伊藤は、甜歌と江莉に話しかける。
「ん?何?おじさん…」
「はい?何ですか?」
二人は、同時に返事をした。
「君達の監督さん、向こうのベンチにいるんだけど…」
二人は、目を細めて聖テレベンチを窺う。
「あ…!!ほんとだ…」
「マーさん、あんな所で、何やってんの!?」
「勇気君、急にピンチになってるんだけど…。もしかして…こっちの情報、向こうに流れてない…?」
伊藤は、半笑いで冗談めかして言った。
「ま、まさか…監督が…」
怪訝な顔で、江莉は呟く。
「いや、そうだよ!!見てよ、マーさんの顔!!デレデレしちゃってさ…!!色気に惑わされて、ウチ等を裏切ってんだよ!!」
甜歌は、興奮して捲くし立てる。
「いやいや…。冗談だよ…。まさか、そんなこと…」
伊藤は、そうフォローを入れたが、甜歌は聞き入れない。
「ううん!!絶対にそうだって!!私、連れ戻して来るね!!」
甜歌は、『聖テレ』ベンチへ走って行った。
「…ふん…。これでよし…」
伊藤は、甜歌の背中を見送りながら鼻で笑った。
6388投稿者:リリー  投稿日:2009年02月21日(土)21時55分50秒
マウンド上では、皆が勇気を囲んでいる。
「焦る事ないぞ、勇気…」
竜一が、勇気の肩を叩く。
「はい…。このイニングは、絶対に俺が投げきりますんで…」
この回を終えれば、勇気はピッチャーを竜一と交代する。
何とか、無失点で託したい。
「たぶん、相手はスクイズを考えてるだろうな…」
内村が囁く様に言う。
「…!?」
郁哉は、途端に緊張する。
「大丈夫…。相手の思惑、外してやろうぜ…」
勇気は、逆に郁哉を励ます様に言う。
ベンチの伊藤は、マウンド上をじっと見詰める。
『R&G』の者達は、訓練された地獄耳を持っている。
あの会話を聞かれているに違いない。
伊藤は、メモとペンを持って、マウンドへ向かう。
6389投稿者:リリー  投稿日:2009年02月21日(土)21時56分10秒
「勇気君、ここは直球で押し切ろう」
そう言う伊藤に、勇気は首を横に振る。
「俺達は、スクイズ外しでいこうと思ってた所です」
(やはりな…)
伊藤は、心の中で呟いた。
当然、相手にもその思惑が伝わっているはずだ。
「いや、スクイズなんて、そう成功するもんじゃない。相手がそう来たとしても、君達なら落ち着いて対処できるだろ?」
そう言いながら、勇気と郁哉にメモを見せる。
【スクイズ外し】
「え…?」
不可解な顔をする勇気に、伊藤は目を瞑って頷く。
「こ、これは…」
「いいね?わかったね?」
伊藤は無理矢理会話を切ると、急いでベンチに戻った。
エリーは、地獄耳でマウンド上の会話をバッチリ聞いていた。
「渡邊さん、たぶん、相手はスクイズ外しでくるかも…」
有海がエリーに囁いたが、エリーはクビを振る。
「ううん…!!今、私、相手の作戦会議、聞いてた!!やつ等、ど真ん中勝負にくるよ!!」
「…ほ、ほんと…?」
「だって、この耳で聞いたもん」
『R&G』…いや『TTK』の話しを聞いた今、有海はこの現実離れした地獄耳を、信じないわけにはいかなかった。
6390投稿者:リリー  投稿日:2009年02月21日(土)21時56分37秒
有海は、サインで七海に伝える。
勇気が投げると同時に、ホームへ駆け込めと…。
つまり、スクイズでいくのだ。
エリーは、バットを縦に構える。
しかし、このバットは寝かせる予定だ。
これで、一点を返すことができる。
勇気が投げる。
そして、エリーはバットを横にする。
七海が走る。
だが、郁也が立ち上がった。
「…え?」
「…へ?」
エリーと七海が、同時に声を発した。
エリーは横とびで喰らいつくが、届かない。
大きく外れたボールを郁哉が受け、サードへ送球。
当然、七海は戻れない。
これで、1アウト。
6391投稿者:リリー  投稿日:2009年02月21日(土)21時56分58秒
「な、何で…?」
エリーも七海も、マウンド上の会話を地獄耳で聞いていた…。
監督の伊藤からの指示を…。
もしや、勇気が勝手にやったことなのか?
とにかく、『TTK』特有の地獄耳が仇となった…。
なかなか点を獲ることができない。
「くくく…」
伊藤は、ベンチでほくそ笑んだ。
地獄耳を逆手にとった作戦が、見事にはまったのだ。
「さて…どう出る…?名参謀さん…?」
伊藤は、相手ベンチ…有海を眺める。
エリーがバッターボックスを離れ、有海の指示を受けている。
伊藤は、地獄耳を持っていないが有海の指示は想像できる。
ヒッティングに切り替えた、強攻策だろう。
ランナーは一塁、二塁…もし、送りバントで進塁させたとしても、これでツーアウト…次の打者は『表』の住人、普通の少女、大木梓彩だ。
万が一にもバントはない。
伊藤は、そう決め付けた。
6392投稿者:リリー  投稿日:2009年02月21日(土)21時57分19秒
だが、次の投球に対し、エリーはバントの姿勢をとった。
「何…?」
伊藤は、思わず立ち上がる。
一塁線上に転がる、絶妙なバントだ。
勇気はとりあえず、一塁に送る。
これで、ツーアウト、二塁三塁…。
つまり次の打者、梓彩は何が何でも出塁しなければならなくなったのだ。
「大木梓彩で勝負…?本気か…?」
伊藤は、有海の思惑が読めないでいる。
勇気は、当然ストレート勝負で挑む。
梓彩は、途端に2ストライクに追い込まれる。
しかし、これは有海の予想通りだった。
梓彩は、有海の言葉を思い出す。
(変化球はない…。三塁にランナーがいるんだから…。ましてや、フォークなんて冒険はしてこない…)
そして、このピンチの状況を嫌い、おそらく早々に勝負を決めてくるだろう…。
梓彩が今までの二球に対応できていないのだから、遊び球なしの三球で打ち取る腹だ。
つまり、ど真ん中に来ると予想はできる。
しかし、あの速球に打ち負けることは必至…。
だからこそ、有海のアドバイスが活きてくる。
6393投稿者:リリー  投稿日:2009年02月21日(土)21時57分40秒
有海の梓彩への指示…それは…『バットを止めろ』…。
振り抜くことなく、止めたバッティングをするのだ。
球威のある球…ボテボテに転がることないだろう。
そして梓彩の非力さは、外野フライになることもなく、何とも微妙な位置にボールが落ちるだろう。
これは、一か八かの賭けなのだが、成功する為の確率は上げておく必要がある。
そして、有海の予想通り、勇気は三球で勝負を決めてきた。
梓彩は、バットを出す。
ボールは、止めたバットに当たり、山なりの軌道を描く。
「…!?」
ショートの遼希が、背走しながら打球を追う。
「深い…?」
いつの間にか、外野へ足を踏み入れていた。
「遼希!!」
レフトの滉一の声が…。
遼希は、その場にしゃがみ込んだ。
ボールは、遼希と滉一の間にポトリと落ちた。
「しまった…!!」
既にジョアンは、ホームを駆け抜けている。
滉一は、バウンドするボールを素手で掴むと、バックホームを諦め、三塁へ送球した。
だが、エマは既に三塁に滑り込んでいた。
『表』の、普通の少女、梓彩によって、ようやく『聖テレ』は一点を返すことができた。
6394投稿者:リリー  投稿日:2009年02月21日(土)21時58分04秒
これで2対1…『聖テレ』ベンチは盛り上がっている。
しかも、2アウト一塁三塁…追加点のチャンスだ。
「むむ…!!まさか、この手でくるとは…!!」
一塁上で飛び上がっている梓彩を、顰め面で見る伊藤。
そして、自軍のベンチで喜びを隠さない、松本を…。
エリーでランナーを三塁と二塁に進塁させ、梓彩で勝負をかけてきた…。
伊藤の思ってもいない、采配だ。
(いや…これは…裏の事情に引き摺られた、自分のミスだ…)
梓彩は危険のない『表』の住人…その前に、『R&G』のエリーで勝負を仕掛けてくると、勝手に思い込んでいた。
有海は、『表』、『裏』で仲間を区別していないのだ。
皆の力を平等に考え、作戦を練っている…。
それに比べ、自分は勝手に裏の事情を持ちこんで、一人相撲を取り、自滅した…。
有海は、自分が『TDD』の一員などと、夢にも思っていないのだから…。
そして、次は九番打者の中村有沙だ。
当然、『R&G』の探偵…警戒はするべきだ。
だが、まだ身体の方は本調子ではないだろう。
「ん…?そう言えば、虹守の監督を連れ戻しに行った、あの娘は…?」
伊藤は、『聖テレ』ベンチを見る。
そこには…『聖テレ』メンバーと談笑している、甜歌の姿が…。
6395投稿者:リリー  投稿日:2009年02月21日(土)21時58分30秒
これで、ようやく一点返しました

では、おちます
6396投稿者:面白いことになってきたなぁ  投稿日:2009年02月21日(土)22時01分43秒
有海と伊藤w
有海は全く伊藤を意識してないのが逆にすごいですよね。

でも甜歌……ミイラ取りがミイラになるなよwww
なんとなく予想してましたがww
6397投稿者:有海が  投稿日:2009年02月21日(土)22時32分08秒
最初から裏の人間でもある伊藤の事に気付いてたっていうパターンも面白いかも
しかし、井上といい甜歌といい…
虹守中は楽しくもあり他の者が苦労する学校でもありそう(笑)
6398投稿者:リリー  投稿日:2009年02月22日(日)21時04分51秒
6396さん
せいこうさんは、意識するあまり深みにはまっていってる感じです
有海はこれからも自然体でいくのでしょう
ただ、このメンバーによる最後の試合を、勝利で飾りたいと…
甜歌は、今回あまり出番がないですが、やっぱり書いてて楽しいですね
ひとりでにキャラが動くというか…

6397さん
そのうち、有海がせこうさんの正体に気付く展開になると思いますが…
マーさんも甜歌も、悪気がないという点で、逆に厄介です

では、更新します
6399投稿者:リリー  投稿日:2009年02月22日(日)21時08分19秒
「中村先輩…。追加点をお願いします。」
有海は、中村有沙の背中へ声をかける。
「…わかった…。やってみる…」
身体が本調子ではない、などと言ってられない。
ここは、何としてもヒットを放ち、この回のうちに同点に追い着かなければならない。
おそらく次のイニングからは、甲子園でも投げた山元竜一がマウンドに上がる。
勇気の弱点やピッチングの傾向が判明した今、点を追加するチャンスは今しかないのだ。
ツーアウト、一塁、三塁…。
(三塁にランナーがいる…。フォークは投げない…)
今まで、中村有沙は無安打…無理して投げてくることはないだろう。
やはり、ここは内角に構えてボール球を先行させる。
そして、第一球…。
「…!?」
腹をえぐる様な際どい直球が、ミットに納まる。
まずは、ストライク…。
6400投稿者:リリー  投稿日:2009年02月22日(日)21時08分44秒
「ふん…!!なるほど…」
勇気の表情が違う。
(投げてくるかもしれないな…。フォークを…)
彼にしてみれば、バットに当たることさえも嫌がる状況…。
先ほどの、梓彩のポテンヒットの例もある。
キャッチャーの郁哉は、今まで一球もパスボールを許していない。
ここは、バッテリー…相棒を信用するだろう。
(それはそうだろう…。私だったら、信用して欲しいし、藍も私を信用するだろう…)
決め球に、フォークが来る…!!
内角ギリギリの直球が、何度も放り込まれる。
微妙な判定もあったが、これで2ストライク、2ボール…。
(次…!!フォークか…?ストレートか…?)
勇気の投球…真っ直ぐ、迫る…!!
(ストレート!!)
中村有沙は、スイングをする。
6401投稿者:リリー  投稿日:2009年02月22日(日)21時09分03秒
「ム…!?」
ボールが沈んだ…?
(フォーク!?)
寸でで、バットを止めた。
郁哉は、ミットで掬い上げるようにボールを捕った。
「!?」
球審の三村は、一塁塁審の府川を指差した。
中村有沙も郁哉も、府川を見る。
府川は、両腕を水平に広げた。
振っていない…という判定だ。
マウンド上で、勇気は天を仰いだ。
『聖テレ』ベンチからは、安堵の声が漏れる。
中村有沙は息をつく。
「なるほど…。やはり投げてきたか…」
バットを握りなおし、再びバッターボックスへ…。
(ならば、次も来る…!!)
フォークを試したいのならば、ここで試さない手はないだろう…。
勝負師なら、そう考える。
(私は、貴様を勝負師と認めているからな…)
そう…中村有沙は、勇気を信用したのだ。
6402投稿者:リリー  投稿日:2009年02月22日(日)21時09分22秒
おそらく最後になるだろう、勇気の投球…。
中村有沙は、狙いをフォーク一本に絞る。
やはり、決め球はフォーク…!!
勇気のボールの軌跡と、中村有沙のバットの軌跡が合わさった。
「…!!」
中村有沙は、バットを降り抜いた。
高く、ボールは上がる。
「…!?」
勇気は、反射的に振り返った。
ボールは、ライトとセンターの中間地点に落ちる。
ライトの竜一とセンターの内村が、全速力で走ってくる。
エマは、既にホームへ向かっている。
ボールが落ちたら、同点になる。
竜一と内村が、滑り込んで交差する。
「ボールは…?」
両ベンチとも、総立ちで外野を見守る。
竜一が、高くグローブを掲げた。
そこには、真っ白なボールが…。
今度は『聖テレ』ベンチに、落胆の声があがった。
6403投稿者:リリー  投稿日:2009年02月22日(日)21時09分43秒
『聖テレ』は、追加点…すなわち同点のチャンスを活かすことができなかった。
しかし、有海は頭を切り替える。
もう、一点も相手に与えない。
その為の戦略を練る
そして、あと三回で逆転をする…おそらく、マウンドに上がる山元竜一相手に…最低でも2点…。
七海は、四回途中から投げて、4イニング目…。
先ほどは、勇気に対して無駄な投球をさせられた。
ここは、早くこの回を終わらせるに越したことはない。
だが、この回は五番の内村から…。
「ちぃ…!!嫌なバッターやなぁ…」
七海にとって、公輝や幸生よりもやり難い相手だ。
内村は、なかなかバットを出さない。
フルカウントになるまで、七海の球を見極めている様だ。
「何かなぁ…。ウチの身体を頭から爪先まで、ジロジロ見られてるみたいな感覚やな…」
不安を隠せないまま、七海は投球。
その心の隙を突くように、内村は器用に守備の合間を狙って打つ。
今度は、愛美にも梓彩にも届かない、絶妙な合間を、打球は通り抜けた。
この試合、七海は初安打を許した。
「う〜ん…。嫌な展開…」
ノーアウトのランナーが出たことに、有海は呟く。
6404投稿者:リリー  投稿日:2009年02月22日(日)21時10分03秒
次は、六番の堀江幸生。
第一打席は、藍からホームラン、第二打席は、七海に三振を喫した。
「さっきは、全然、ウチの速球に着いてこれへんかったからな…」
七海は、幸生を抑えることしか頭になく、セットポジションを忘れた。
当然、内村は盗塁を仕掛ける。
「バカめ!!」
中村有沙は、二塁上の愛美に送球するが、間に合わない。
40を越える歳の割りに、内村の足は速かった。
「ああ…!!しもうた!!」
自分を責めるように、七海は自分の太腿をグローブで叩いた。
これで、ノーアウト二塁…。
心の安定のないまま、幸生に対する。
そして、先の打席で三振に取ったという慢心があったのかもしれない。
ど真ん中にきた速球を、幸生はジャストミートした。
「げ!!」
七海は青褪めた。
打球は、センターへ…フライの苦手なエマの下…。
6405投稿者:リリー  投稿日:2009年02月22日(日)21時10分21秒
エマは、背中を見せて走っている。
つまり、打球を見ていない。
後ろ向きで、キャッチなどできるのか…?
「む、無理すんなや…!!」
七海は、思わず叫んだが…。
エマは、飛び込みの姿勢で滑り込む。
「ん…?」
二塁を離れかけた内村は、目を凝らす。
エマは、打球を捕っている…?
慌てて二塁に戻る内村。
エマのファインプレーによって、何とか失点を免れた。
マウンド上の七海も、ベンチの有海達も、安堵の息をつく。
「アカン、アカン…。気を抜いたらアカン…」
七海は、気を引き締める。
次の打者の謙二郎は、最初からバントの構えだ。
そして、謙二郎は忠実に任務を果たす。
これで、2アウト、ランナー三塁…。
山元竜一が、バッターボックスに入る。
6406投稿者:リリー  投稿日:2009年02月22日(日)21時10分42秒
先の対決で、ライトフライに打ち取ったのだが、投球をじっくりと観察されてしまった。
何か、嫌な予感がする。
七海も、中村有沙も、同時に不安感を持つ。
「ピッチャー交代!!」
ベンチの有海が、声をあげた。
「一木さん…?」
七海は、有海の顔を見詰める。
交代と言ったら…藍と…?
球審の三村と何やら言葉を交わし、マウンド上に走ってくる。
「藤本さん、お疲れ様。細川さんと交代ね」
「う…うん…。それはええけど…」
藍も、ライトからマウンドに駆け寄ってくる。
そして、キャッチャーの中村有沙も。
「細川さん、山元さんをお願い。山元さんは、細川さんとは初対決だから…」
「う、うん…。わかった…」
それでも、甲子園に出た選手との対決…藍は緊張が隠せない。
6407投稿者:リリー  投稿日:2009年02月22日(日)21時11分02秒
そんな藍に、有海は優しく肩に手を置く。
そして、七海の肩にも…。
「いい?二人とも…。これからは、二人で交代しながら投げあってね」
「あ…その戦法…」
藍が、声を上げる。
「そう…。いつか、中田先生が構想してた作戦ね…」
「あすみ…か…」
七海は、ぽつりと呟く。
「わかった…」
藍も、力強く頷いた。
七海は、ボールを藍に手渡すと、ライトの守備位置へ走って行った。
「ふん…。中田あすみか…。あやつは、今頃何をしているのだろうな…」
中村有沙も、そう呟いて守備位置に戻る。
「じゃあ、頼んだよ。細川さん…」
有海もベンチへ戻る。
一人マウンドに残された藍は、力強く頷く。
「あすみん…。私…やるよ!!」
今、どこにいるかわからないが…藍はあすみを思い、誓った。
6408投稿者:リリー  投稿日:2009年02月22日(日)21時11分29秒
少し短めですが、これでおちます
6409投稿者:117  投稿日:2009年02月22日(日)21時19分51秒
気がつけば、ちょうど1週間ぶりの書き込みですね。
でも、昨日と今日で1週間分、しっかりと読ませてもらいました。
作戦参謀・有海とセイコーさんの頭脳戦、すごく見応えがあります。
意外な落とし穴、計略などがあって、本当に面白い。また来れないかもしれませんが・・・続きが気になります!
6410投稿者: 投稿日:2009年02月22日(日)21時44分53秒

6411投稿者:ひとりでにキャラが動く  投稿日:2009年02月22日(日)23時31分30秒
いやぁー、マンガ家がよう言わはるやつやぁー
6412投稿者:リリー  投稿日:2009年02月23日(月)20時58分49秒
117さん
おいさしぶりです
1週間分といったら、結構な量だと思いますが、読んでくださってありがとうございます
また、時間に余裕のある時で結構ですので、来て下さい

6411さん 
そうなんです
こういうことってあるんですよね
でも、「キャラクターの暴走には要注意」と、「さるまん」でも書いてあったので、程ほどにしておきました
勇気を巡る三角関係とか、面白そうですが、本筋ではないので…

今回より、話は野球と離れます

では、更新します
6413投稿者:リリー  投稿日:2009年02月23日(月)21時01分03秒
「あなたが…『デンジャラスK』こと…川田利明さん?」
ナットー製鉄工場跡地…もう、廃墟と化した一帯に、裏探偵『TDD』、『タワー(塔)』の中田あすみは、一人の男と会っていた。
その、川田と呼ばれた男…身長180?、体重は100?を越える、大柄な男…あすみは、彼とここで待ち合わせをしていたらしい。
こんな廃墟で待ち合わせと言えば…これは『裏』の待ち合わせである。
「ああ…。あんたか?『TDD』の『タワー(塔)』って…」
「ええ…。中田あすみよ…。よろしく」
あすみは、自分よりも頭一つ大きい川田に対し、握手を求める。
「俺は、ゴツイ男を想像してたんだが…」
川田は、あすみの手を握る。
「…!?」
あすみは、凄まじい握力で川田の手を握った。
「すみませんね…。ゴツイ女で…」
川田は、その鋭い目を大きく見開いてあすみを見たが、大声で笑い始めた。
「ははは…!!ま、いいだろう。で…その例の話しだが…」
「ええ…。あなたに…我が組織『TDD』のメンバーになってもらいたいの…」
6414投稿者:リリー  投稿日:2009年02月23日(月)21時01分31秒
川田は、短く整えられた顎鬚を撫でながらあすみを見下ろす。
「断ったら…俺は殺されるのかな…?」
「…?何故?」
「もう、噂になってるよ…。『裏』の世界ではね…」
「…そうですか…」
「『TTK』の四天王を…二人、仲間にしたそうじゃないか…」
「ええ。今は、『デビル(悪魔)』と『ムーン(月)』のコードネームが与えられてるわ」
「で、他の二人はどうなった?殺されたなんて噂は聞かないが…?」
「ですから、いい加減な噂ですよ…。川田さんがお断りになるのも、御自由です」
ただし…と、あすみは言葉を続ける。
「川田さんがお受けしたとしても、すぐに入団が決定するわけではありません」
「ん…?どういうことだ?」
「こちらも…川田さん、あなたの力量を見て、仲間にするかどうか、判断させて頂きたいのです」
川田は、腕組みをして、う〜ん、と唸った。
「俺は、楠本さんから紹介されたんだぞ?『TDD』がメンバーを募集してるって…。だから、俺は…」
「ええ。ですが、私どもも、猫も杓子も…というわけにはいきませんので…」
「猫も杓子も…ねぇ…」
川田は、短く刈り込まれた髪の毛を、ガリガリと掻いた。
6415投稿者:リリー  投稿日:2009年02月23日(月)21時02分02秒
「あんたも『裏』の世界に身を置いているのなら、聞いたことがあるだろう?『デンジャラスK』の名を…」
「噂は噂ですから…」
「…確かにそうだな…」
川田は、ジーンズの尻ポケットから、シワだらけになった封筒をあすみに渡す。
「これは…?」
長時間、ポケットに入れられていたのだろう…幾分、その封筒は湿っていた。
「楠本さんからの紹介状だ…。それを読んでくれたら…」
しかし、あすみはその封筒を細かく引き裂いた。
「な、何をするんだ!?」
川田は怒鳴り声をあげたが、あすみは冷静に切り返す。
「あの『ウソツキ』楠本の紹介状なんて…価値はないわ…」
それを聞き、川田はまたも大爆笑をした。
「そりゃ、そうだ。で、あんたは、どうしたらこの俺の力を認めてくれるんだ?」
「こちらの…試験を受けてもらわないと…」
「試験…?ふふん…。なるほど…。あんたが、俺と戦うとでも…?」
川田は、黒い革ジャンを脱ぎ捨てた。
張り裂けそうな、白いTシャツの下…黒く焼いた筋肉が、隆々としている。
6416投稿者:リリー  投稿日:2009年02月23日(月)21時02分25秒
「いいえ…。わたしは、あなたと戦わない…」
「ん?じゃあ、どうやって俺を値踏みするんだ?」
「こうやって…」
その直後、川田の後頭部に衝撃が走った。
そして、視界が揺れる。
何者かが、頭を殴打したのだ。
「…ん?」
振り向いた川田は、目を見開いた。
いつから居たのだ…?
そこには、上から下まで黒い服に身を纏った…死神の様に顔色の悪い女が立っていた…。
手には、鉄パイプが握られている。
その鉄パイプは、真ん中からグニャリと曲がっている。
川田を殴った時に、曲がったのだ。
「紹介するわ…。彼女は『デス(死神)』…。箕輪はるかよ…」
あすみは、あくまでも静かに言う。
「…みのぽーって呼んでね…」
はるかは、気の抜けた声で言った。
6417投稿者:リリー  投稿日:2009年02月23日(月)21時03分23秒
「き…気がつかなかった…。い、いつの間に…?」
こんな、至近距離に迫っていたとは…そして、ここまで接近を許してしまうとは…川田は愕然とした。
そして、肩を落とし、うな垂れた。
「…そうか…。俺は、不合格…と、言う事か…」
しかし、あすみは川田に対し、拍手をした。
「いいえ。あなたは合格よ。おめでとう、川田さん」
はるかも、拍手をしている。
「…?…?…?」
川田は、わけがわからない。
6418投稿者:リリー  投稿日:2009年02月23日(月)21時05分01秒
「合格…?だって…俺は、簡単に後ろを取られたんだぞ?」
「いいえ…。誰にも気付かれることなく近づく…これ、彼女の特技なのよ…」
あすみは、はるかを親指で指す。
「…もし、気がつかれてたら、私が『TDD』をクビになっちゃうよ…」
はるかは、無表情で言った。
「…?じゃあ…試験というのは…?」
「あなたが、どれだけ打たれ強いかを、試させてもらったの…。何せ、最近『TDD』を辞めちゃった人が、そういうヤツだったから…」
「…あんたは、その人の後任者ってわけ…」
「打たれ強さ…?何だ…それなら、自信はあったんだ」
川田は、安心したかのように笑った。
「ごめんなさいね。こういうことは、無防備な瞬間を狙わないと、本当のことがわからないから…」
「ふん…!!そういうことなら、ブルドーザーで突っ込んでくれたって、構わないよ。俺は…」
川田は、得意そうに自慢の筋肉を誇示しながら腕組みをした。
6419投稿者:リリー  投稿日:2009年02月23日(月)21時05分32秒
「で…打たれ強さだけでいいのか?俺への試験は…」
「ええ…。『デンジャラスK』のパワーについては、それこそ『噂』で知っている」
「でも、噂は噂だろ…?」
「案外…噂は正確だから…」
「なるほど…ね…」
つまり…『TDD』の勧誘を跳ね除けた者は、命を狙われる…この『噂』は本物だ…と、いうこと…。
「ふん…。楠本さんから、紹介状を貰ってから、『TDD』には入るつもりだったさ…」
「そう…。それはよかったわ…。あなたと戦うの、骨が折れそうだから…」
そして、あすみは改めて川田に握手を求めた。
川田は、強くあすみの手を握り締めた。
「…ちなみに、これ、あなたの握力の半分くらい?」
「とんでもない…。十分の一だよ…」
「それは、頼もしいわね…」
川田との握手を終え、あすみは軽く右手を振った。
6420投稿者:リリー  投稿日:2009年02月23日(月)21時05分59秒
「ところで、さっきから楠本の名前を出してるけど…。あの男と、どういう関係なの?」
「だから、さっきあんたが破り捨てた紹介状に、書いてあったのに…」
「ごめんなさい…」
あすみは、やっと笑顔を見せた。
これには、川田も力なく笑う。
「…ま、いいか…。楠本さんとは、テーマパークを装った詐欺の仕事を一緒にやってたことがあってね。その時、俺は『パラダイスK』と名乗っていたが…」
「詐欺…?ふん…。あの男にお似合いの仕事ね…」
あすみは、鼻で笑った。
「頭は楠本さん、力は俺…と、結構、最強コンビだったよ」
川田は、懐かしそうに、遠い目で空を見上げた。
6421投稿者:リリー  投稿日:2009年02月23日(月)21時06分21秒
「でも…おそらく俺がいなくても、楠本さんは一人でやれる仕事だったろうけどね…」
「謙虚ね…。見かけによらず…」
「ふん。あの人は『バケモノ』だ。確かに、単純な『パワー』では、俺の方が上だけど、俺ごとき、楠本さんには到底敵わないさ…」
「『バケモノ』ね…。なら、あなたは『ボス』に会ったら何て表現するのかしらね?」
「…!?そうだ!!『ボス』…!!あんたの『ボス』って、一体、誰だ!?」
「近いうちに会えるわよ…。それに…今夜…『TDD』としての初仕事が待ってるから…」
「今夜!?随分、急だな?」
「ええ…。だから、あなたに断られたら、どうしようかって思ってたの…」
あすみは、川田に一枚のカードを渡す。
「…?これは…?」
「あなたのコードネーム…」
そのカードは、女性がライオンの口を掴み、押さえ込んでいる…??・La Force…と書かれたカード…。
「『ストレングス(力)』よ…」
6422投稿者:リリー  投稿日:2009年02月23日(月)21時08分30秒
キャスト表で出てこなかった3人の内の最後の一人が、2006年の夏イベに出てた、川田さんです

恵さんのことは、次回で…

では、おちます
6423投稿者:大体想像つくけどww  投稿日:2009年02月23日(月)21時16分39秒
千秋が眼見開いて瑠璃が呆れかえってるのが目に浮かぶwww
6424投稿者:パラダイスK・・・  投稿日:2009年02月24日(火)00時34分36秒
忘れてたぜ・・・
6425投稿者:デジ  投稿日:2009年02月24日(火)00時49分55秒
お久しぶりです。テスト勉強の合間をぬって来ました。と、いっても三日後そのテストですが。ちなみに僕の小説のほうもあげておきます。
調子がついてきた「合同連合軍」。そして、敵の弱点をいとも容易く教えてしまう
ほどあすみから乗り換えて佐藤さんに、デレデレになってしまった井上さん。
前半は追い込まれた「聖テレ」陣営だが有海の悪知恵で、徐々にペースを取り戻していきましたね。有海はあの件以来、すっかり小悪魔になっちゃいましたね。
そして、今日の意味深な更新。前回の最後で、どこにいるか分からないが云々と、なっていたからでしょうが、また「TDD」に面白い仲間が増えましたね。そして、その人のコードネームは・・・。そして、恵さんは何処へ?続きが気になります!
6426投稿者: 投稿日:2009年02月24日(火)19時43分12秒
6427投稿者:リリー  投稿日:2009年02月24日(火)21時18分21秒
6423さん
そうです
おそらくあなたの予想通りです
しかし、驚き呆れる段階は、もう済んでいる設定です

6424さん
私も、これを書くまでは忘れてたんですよ
恵さんに代わる人っていないかな〜と…

デジさん
またテストなんですね
大変でしょうが、がんばってください
恵さんの近況は、今回明かされます
小説の方もがんばって下さい

あげ、ありがとうございます

では、更新します
6428投稿者:リリー  投稿日:2009年02月24日(火)21時19分03秒
あすみとはるかは、二人並んでナットー製鉄工場の裏通りを歩いている。
「…ねぇ…。あの、川田って人…恵ちゃんの代わり、勤まりそうかな…?」
「そうね…。パワーも打たれ強さも恵より上かな…」
そして、あすみはこう付け加える。
「頭も、それなりに良さそうね…。楠本に敵わないって…自分を客観的に見ることができてるから、冷静な性格だろうし…」
あすみが楠本からの紹介状を破り捨てた時も、はるかが後ろから鉄パイプで殴った時も、彼は怒りに我を忘れることはなかった。
「恵の代わりとするなら…お釣りがくるんじゃない?」
「…そう…」
はるかは、つまらなそうに呟いた。
「やっぱり…悲しいの?恵が『TDD』を辞めたこと…」
「…悲しいっていうか…納得いかないよ…。恵ちゃんが主婦なんて…」
「祝ってあげなよ…。あいつ…今、凄く幸せなんだから…」
裏探偵『TDD』の元『ストレングス(力)』…秋山恵は、先月に結婚をした。
相手は…ハセヤンズハウスの大樹…。
彼女は今、長野県原村のペンション、ハセヤンズハウスを大樹と一緒に切り盛りしている。
寛平は彼女の寿退社を、あっさりとOKしたのだ。
6429投稿者:リリー  投稿日:2009年02月24日(火)21時19分43秒
「で…どうするの?みのぽー…。あの『デンジャラスK』とコンビ組むの?」
「…冗談よしてよ…。あの人は、私の力なんていらないでしょ…」
そして、溜息をつく。
「…『ケー』は『ケー』でも…私は、あのおバカな恵ちゃんじゃなきゃダメだよ…」
「元気だしな。あんたにも、そのうち良い人が現れるよ…。前歯も治してキレイにしたことだし…」
はるかは、足を止めた。
「どうしたの?」
あすみは、はるかを振り返る。
「…知らなかったっけ…?」
「何が…?」
「…私、彼氏いるよ…」
「………ウソ………」
「…ホント…」
「………」
あすみは、しばらく沈黙していたが…再び力なく歩き始めた。
はるかは、駆け足であすみに追い着くと、肩に手を回した。
「…元気だしなよ…。そのうち、良い人見つかるって…」
まさか、はるかからこんな慰めを受けるとは、あすみは思ってもみなかった。
6430投稿者:リリー  投稿日:2009年02月24日(火)21時20分30秒
「おい、コラ!!千秋!!また、性懲りもなく『逆ギョーザ』作ってんのか!?」
長野県の原村にある、ハセヤンズハウスの厨房で、怒鳴り声が聞こえる。
怒鳴られてるのは、千秋レイシー…怒鳴っているのは、秋山…いや、長谷川恵だ。
「恵さん…。今度は、自信作なんだ。今夜お客さんに出そうかと…」
「ダメ、ダメ!!このペンションの看板に傷がつく!!」
「え〜〜〜!!そんなこと言わないでさ〜〜〜!!もっと、暖かい目で見守ってあげたら?」
瑠璃が、カウンターに頬杖をついて面白そうに二人のやりとりを見詰めながら言った。
「ダメったら、ダメだよ!!ここは、私とダーリンの愛の巣なんだ!!もっとお客さんを呼び込んで、大きくしていかないと…」
「でも、そのダーリンから、頼まれたんですよ?僕…。『逆ギョーザ』を、ここの名物にしようって…」
「まったく…!!ダーリンも、甘いからなぁ…」
恵は、大きな掌を自らの額に当てた。
「ダーリンからは、私から言っておく!!もう、これ以上、『逆ギョーザ』は作らせないと…」
「え〜〜〜!!そんな〜〜〜!!」
千秋と瑠璃は、同時に不満の声をあげた。
「文句があるんなら、私と勝負するか!?」
恵は、エプロンを取り去ると、バシバシと身体を叩いた。
「できないとわかって、そんな無茶を…」
千秋は、唇を尖らせた。
「おいおい、やってもみねぇで…諦めるのか?情けない男だぜ…」
恵は、意地悪そうに笑った。
6431投稿者:リリー  投稿日:2009年02月24日(火)21時21分14秒
「こんにちわ〜〜〜!!千秋君!!」
元気な声と共に、厨房の裏口が開いた。
「あ…!!こんにちわ!!」
千秋も瑠璃も、明るい笑顔で裏口から入って来た、その少女を迎えた。
「ち…!!また、うるさいヤツが来た…」
恵は、そう言って顔を顰めた。
「何の用だよ?ジーナ…」
そう…その少女の名は、加藤ジーナ…。
ここ、原村で暮らしている。
最愛の父親と共に…。
「何の用って…今日も、届けに来たよ!!ダディが丹精込めて作った、白菜ちゃん!!」
ジーナは、今、父親の加藤浩次と二人で暮らしている。
元『暴力団・加藤組』の組長、加藤の今の職業は、白菜農家…。
もう既に高齢で、後を継ぐ者もいない白菜畑を所有している老夫婦から、格安の値段で譲ってもらったのだ。
そして、加藤は地元に少年サッカークラブを創った。
千秋も、瑠璃も、ジーナも、そのクラブに通っている。
皆、恐ろしいほどヘタクソで、いつも加藤は怒鳴り声をあげているが、どうにか地元の子供達に慕われている。
6432投稿者:リリー  投稿日:2009年02月24日(火)21時21分49秒
恵は、ジーナの言葉を聞いて慌てた。
「ちょ、ちょっと待て!!私は頼んでないぞ?白菜なんて…」
「ええ?ちゃんと請け賜っておりますですよ!!はい、これ、納品書…」
ジーナの差し出した納品書には、『白菜…個数・20』と書いてある。
「20!?何で、そんなに大量に…」
恵は、ジロリと千秋を睨む。
そして怯む、千秋と瑠璃…。
「ほ、ほら…これが『逆ギョーザ』の研究に使われて、このペンションの名物となって、お客さんを呼び込む程の評判になれば…無駄ってことにはならなくて…」
「うん…!!これ、先行投資ってやつね…」
そう言い訳をしながら、千秋も瑠璃も、後退りしている。
「ふざけんな!!誰が払うか!!こんな大量の白菜!!」
恵に怒鳴られ、二人は厨房から逃げ出した。
「おい、コラ!!待て!!」
恵も二人の後を追いかけて、厨房から飛び出して行った。
「あ…!!ちょっと!!払って下さいよ!!ダディが、またキレますよ!?ダディ、元ヤクザなんだから!!」
ジーナも、後を追いかけた。
静かだった原村も、年々騒がしくなったと…ハセヤンはロッキングチェアを揺らしながら、苦笑いをしている。
6433投稿者:リリー  投稿日:2009年02月24日(火)21時22分28秒
あすみは、幸せに新婚生活を送っているであろう、恵のことを思う。
「そう言えば恵って、新婚旅行に、まだ行ってないんじゃなかったっけ?」
「…ん?新婚旅行は八ヶ岳でスキーに行ったって…」
「八ヶ岳!?思いっきり地元じゃん…」
「…恵ちゃん曰く…場所はどこでもいいんだって…。誰と一緒かが、重要だって…」
「はいはい…。そうですか…」
あすみは、面白くもない…という顔で大股で歩いていく。
置いて行かれそうになった、はるかは、何かを思い出し、あすみの後を追いかける。
「…そう言えば、あの女、今頃新婚旅行だって…」
「あの女?」
「…ダーブロウ…」
「ふん!!あの女でも、結婚してるってのに…」
あすみの歩幅の間隔は更に大きく、そして早くなっていく。
「…そういうことじゃなくってさ…」
更に、追いかけるはるか。
「…今夜、ダーブロウがいないってことだよ…」
「…!?」
あすみは、足を停めた。
そして、呟く。
「なるほど…。だから…『今夜』なんだね…」
6434投稿者:リリー  投稿日:2009年02月24日(火)21時24分15秒
ようやく、はるかが、あすみに追い着いた。
「…でも…やつ等が出動するかどうか、わからないんだけどね…。念には、念を入れたんだろうね…。ボスも…」
「ふん…!!でも、今回の任務には、私達は関係がないでしょ?」
あすみは、再び歩き出す。
「…関係はあるよ…。『デンジャラスK』を仲間にしたんだもん…。…正確に言えば、私達の任務は、もう終わった…」
「どちらにしろ、関係はないよ…。もう…」
「…今日、試合してるってさ…。…あの子達…」
またも足を停める、あすみ。
「何で、それを…?」
「…『ハイエロファント(教皇)』が教えてくれた…」
「せいこう先生が?何で?」
今度は、はるかの方を振り向いて聞く。
6435投稿者:リリー  投稿日:2009年02月24日(火)21時25分16秒
「…あの人、草野球チームに入ってるでしょ?なんか、連合チームを作って、あの子達と戦うんだって…」
「だから、何で、せいこう先生が?」
「…『ハイプリエスティス(女教皇)』…あ、いや、もう、そう呼んじゃいけなかったんだった…有海を見たいんだって…」
「あみ〜ごを?」
「…楠本から、有海は『TDD』を支配することができる…なんて、聞かされたもんだから、ムキになったんだろうね、あの親父…」
「く…!!大人気ないなぁ…。せいこう先生も…。あと…楠本…!!余計なことを…」
あすみは、強く拳を握った。
「…心配…?」
はるかが聞くが、あすみは何も答えずに歩き出す。
「…ねぇ…。心配…?」
あすみは、何も答えない。
6436投稿者:リリー  投稿日:2009年02月24日(火)21時26分25秒
次回から、野球に戻ります

では、おちます
6437投稿者: 投稿日:2009年02月24日(火)21時39分47秒

6438投稿者: 投稿日:2009年02月24日(火)21時45分59秒


6439投稿者:どうでもいいけど  投稿日:2009年02月24日(火)21時46分31秒
現実に餃子屋から俳優に将来の夢がシフト変更(おまけに映画2本に出演決定)してる今、リリーさんところの千秋もちょっと成長しないかな?
6440投稿者:だって  投稿日:2009年02月24日(火)22時18分18秒
小説の千秋は芸能人じゃないもん
6441投稿者:あと  投稿日:2009年02月24日(火)22時21分11秒
将来の夢は「餃子屋」か「俳優」じゃなかったか?
まだ、餃子にロマンを求めてるよ
6442投稿者:成長だろ  投稿日:2009年02月24日(火)22時21分12秒
芸能人ってことは別にしても
6443投稿者:原村メンバー好きだw  投稿日:2009年02月24日(火)23時20分31秒
面白いw
6444投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時26分33秒
6439さん、6442さん
それもそうですね
リアルな千秋は、いつまでも餃子、餃子とは言ってないでしょうね
少し寂しい気もしますが…
6440さんのおっしゃる通り、小説の千秋はいつまでも餃子オンリーですし、6441さんのおっしゃる通り、どこかで餃子に情熱を持ってくれたら、嬉しいですね

6443さん、ありがとうございます
原村メンバー(千秋、瑠璃、ジーナの紙フトへたれトリオ)で、また新しく書きたいな、と思ってましたが(『らりるれろ探偵団』の続編)、先に新しいアイデアが思いついたんで、いつになるかわかりません

あげ、ありがとうございます

では、更新します
6445投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時32分29秒
天歳川に面した野球場…『聖テレ野球部』と『天歳連合』の試合…。
マウンドは細川藍…バッターボックスは山元竜一。
2アウト、ランナー三塁。
ここでの失点は、致命的だ。
おそらく、今バターボックスに立っている竜一が投げる事になる。
1点取るだけでも至難の業…ましてや、2点…そして3点ともなると、余程の幸運がない限り無理だろう。
今まで、七海はストレートの速球だけでしのいでいた。
ここは、変化球を中心にしたピッチングで挑むべきだ。
自分と七海の違いと言えば、変化球の有無だ。
「私のカーブやシュートだって、通用する…。絶対に…!!」
まず、藍はカーブを投げる。
だが、竜一は器用にバットを合わせる。
「…う!?」
ボールは、三塁線を切り、ファール。
「ふぅ…。やばかった…」
今度は、シュート。
だが、またも竜一は打ち返す。
「…げ!?」
今度は、一塁線を切るファール。
「つ…通用してない…」
藍は、一気に心拍数が上がった。
6446投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時33分18秒
「真っ直ぐで勝負せい!!」
ライトから、七海が怒鳴った。
「…え!?」
藍は驚いて振り返った。
「な、ななみん…?」
七海は、仁王立ちしてマウンド上の藍を睨みつけている。
「オノレのストレートだって、なかなかのモンやで!?ビビっとらんと、真っ直ぐ放れ!!」
「バカめ…!!あんなに大きな声で…」
中村有沙は、思わず立ち上がって舌打ちをした。
「ははは…。案外、陽動作戦だったりしてな…」
竜一はそう呟いたが、中村有沙は首を横に振る。
「そんな、頭の回る様なヤツではない…。あのバカは…」
もう、諦めたかの様に、中村有沙はしゃがんだ。
藍は、慌てふためきながら、七海に言う。
「で、でも…私なんかのストレートじゃ…」
「せやったら、あの時の球は、何やったん!?」
「あの時…?」
「原村の…」
「…!!」
七海は、あの『R&G』と『TDD』との決戦の日のことを言っているのか…?
6447投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時33分46秒
「自信を持て!!あの球は、誰でも打ち返せるもんやない!!」
「…!!うん…!!」
藍は力強く頷くと、七海に背を向けた。
そう…あの時のことを思い出せ…。
いや、決して楽しい思い出ではなかったが…あの時の自分は戦っていた…!!
今も…戦いの時なのだ…!!
今、握っているのは、鋼鉄のヨーヨーではなく白球だ。
この幸せを噛み締めろ…!!
藍は、大きく振りかぶる。
そして、渾身のストレート!!
「…何!?」
その剛速球に、思わず手を出した竜一…。
凄まじい音と共に、中村有沙のミットにボールは納まった。
「ストライク、バッターアウト!!」
三村の親指を立てた腕が、空高く突き上げられた。
七海の球にも引けを取らないストレートに、竜一も『天歳連合』ベンチも、唖然とするばかりだ。
試合は、終盤へと向かう。
6448投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時34分24秒
予想通り、マウンド上は『叡智大附属』の山本竜一…。
キャッチャーは、同じく『叡智大附属』の堀江幸生が務める。
勇気はピッチャーからライトへ、郁哉はキャッチャーからファーストへ、守備を交代する。
竜一は、甲子園ベスト8ピッチャーだ。
それに女子相手だからと言って、竜一には手を抜く気配は全くない。
梨生奈、愛美は、手も出ずに連続三振。
「…やってやる…!!」
さっき、竜一を三振に切って落とした藍は、興奮状態でバッターボックスに立つ。
だが、三振に切って落とされた竜一は、それ以上に奮起している。
「…さっきの球…本当に、女子中学生かよ…」
竜一は、甲子園のマウンドで投げているのと、まったく変わらない気持ちで投げ込んだ。
結局、藍も三振に取られた。
竜一は、たった9球…最小投球数でこのイニングを終えた。
6449投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時35分09秒
八回表…休む間も無く、藍はマウンドへ向かう。
バッターボックスには、今までピッチャーを務めていたバーンズ勇気だ。
彼も、ピッチャーながら、バッティングも得意だ。
しかし、藍は気後れせずに勇気に相対する。
勇気は藍のストレートに何とか喰らいつき、フルカウントまで粘る。
「凄い…。細川さん…球威がどんどん上がってる…」
ベンチの有海は、惚れ惚れとマウンド上の藍を見詰める。
「でも…このストレートがあるから、変化球が活きてくるんだよね…」
そう言って、中村有沙にサインを送る。
中村有沙は小さく頷く。
次に藍の投げた球は、大きく曲がるカーブ…。
勇気は体勢を崩しながら、何とかバットに当てる。
しかし、そのボールはライト頭上に上がる。
七海は、しっかりと捕球した。
1アウト…。
6450投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時36分09秒
続く遼希と滉一も三振に取り、藍は危なげなく八回表のイニングを終えた。
八回裏…『聖テレ』の攻撃は、四番の七海から…。
「コツコツと返してたら、追い着けるモンも追い着けへん…」
もう、この回と九回の最終回しか攻撃の機会はないのだ。
それに、打順が自分に回ってくることは、ないのかもしれない。
「ここは、一発…同点に追い着かな…」
いつか、ベンジャミンにアドバイスした様に、バットのグリップをギリギリまで長く持つ。
竜一は、ストレート勝負を仕掛けてくるようだ。
七海も受けて立つ。
空振りとファールで、瞬く間にツーストライク。
「アカン…。絶対に、バットに当てな…」
七海は、焦ってくる。
何としてでもボールに喰らいつく。
この後、10球、連続ファール…。
「なるほど…。これが、嫌がらせバッティングね…」
竜一は苦笑いする。
しかし、七海にはそんな気は更々ない。
空振りすることは許されないのだ。
バットに当てるしかない。
前へ飛ばすしか…。
6451投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時36分39秒
ガムシャラに七海はバットを振った。
甲高い音と共に、ボールは高く上がった。
「よっしゃ!!いった!!」
決して、ホームランになる当たりではないが…少なくとも二塁打以上…いや、三塁打…!!
ライトの勇気とセンターの内村の間に、ボールは落ちる。
滑り込みながら内村はワンバウンドのボールを捕る。
「ほい、任せた」
内村は、駆け寄ってきた勇気にボールを渡した。
「レーザービーム…」
「…!?」
受け取ると同時に勇気は、二塁を駆け抜け三塁へと向かう七海の背中を確認すると、大きく振りかぶる。
そして、一直線に三塁上の公輝に送球する。
「藤本さん!!ストップ!!」
有海の空気を切り裂くような大きな声。
ベンチの隣に座っていた珠緒も、他のメンバーも、この有海の声には仰け反った。
あの、蚊の鳴く様な声しか出せなかった有海が…。
6452投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時37分09秒
その、有海の声を聞くと同時に、七海は条件反射的にブレーキをかけた。
公輝のグローブが、凄まじい音をたてる。
ボールが、手元に…。
「や、やばい…!!」
七海は二塁へ戻る。
が、七海を飛び越え、ボールは二塁上の遼希へ…。
遼希が、七海にタッチをする為に走る。
「く…!!」
七海は、踵を返す。
だが今度は、公輝にボールが渡る…。
「ちぃ…!!」
再び、七海は二塁へ…。
今度は、謙二郎がボールを受け、目の前に…。
「ゴルァ!!」
七海は、両足を踏みしめると高く飛び上がった。
「え…!?」
謙二郎と公輝だけではない…この球場の全ての者が、唖然とそのアクロバットを眺めた。
七海は空中で一回転すると、二塁に両足で着地した。
6453投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時37分37秒
球場中がどよめいた。
「すげぇ〜〜〜!!変な女、すげぇ〜〜〜!!!」
マンボウズの少年達は、口々に叫んではしゃぎまわっている。
「ふ…藤本さん…」
有海は、苦笑しながらも七海を見詰める。
「あの…バカ…!!」
この表の世界では有り得ない七海の行動に、中村有沙は呆れ果てている。
「ふぅ…。やばかった…」
七海は冷や汗を拭く。
結局、二塁打止まりだったが、竜一から初ヒットを奪った。
「ど…どうなってんだ…?聖テレって…」
マウンド上の竜一は、信じられないという表情で、七海を見詰めている。
『天歳連合』ベンチでは、伊藤だけが冷静に今の場面を眺めていた。
(ふん…!!あれぐらいは、やって当然だが…まさか、表の世界…草野球の試合でやってくるとはな…)
それにしても、ノーアウトでランナー二塁…これは中々のピンチだ…。
しかし、今ピッチャーを務めているのは、『叡智大附属』…来年度から晴れて『叡智大』へ入学する、山元竜一だ。
ここは任せるべき…ヘタに動かない方がいい。
次の打者は、ジョアン・ヤマザキ…七海と同じく、『R&G』の探偵だが…。
6454投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時38分30秒
だが、ジョアンは打席に着くなりバットを寝かせた。
「バント?」
伊藤は不可解に思った。
たしか、先の虹守中の試合では、先頭打者ホームランを打ったという強打者と聞いている。
先ほどの打席も、勇気からライト前ヒットを放っている。
この八回裏の終盤で、同点…いや、逆転のチャンスなのに、そんな消極的な采配を、あの有海がするだろうか…?
あの楠本を罠にはめて勝利した、恐ろしい少女が…。
6455投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時38分45秒
「もしかして…バスター!?」
伊藤がベンチから立ち上がった時、ジョアンはバットを立てた。
内野は、前傾守備をとっている…。
「やられた…!!」
その言葉の直後、金属音が響き渡った。
ピッチャー、竜一の頭上を越えるライナー…!!
だが、竜一は落ち着いた身のこなしでその直球をグローブに納めた。
そして、二塁を振り向き送球する。
「…しもた…!!」
七海は咄嗟に二塁へ戻る。
「セーフ!!」
塁審の腕が水平に伸びる。
何とか、アウトにならずに済んだが…。
竜一は、バスターを読んでいたのだ。
「ふむ…。やはり、任せておくか…」
一息ついて、伊藤はベンチに腰を降ろした。
6456投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時39分30秒
「ああ〜〜〜ん…。アウトになっちゃったぁ〜〜〜」
珠緒は、またも隣の井上の腕にしがみ付いて激しく揺さぶった。
それと共に、井上の心もグラグラ揺れる。
「い、今のは…痛いですよ…」
井上は、何とか顔をニヤケさせないように厳しい顔を精一杯つくる。
「痛いって…どういうことですかぁ?」
「や、やはり…ここで同点…いや、一気に逆転を狙うチャンスだったので…進塁できずにアウトを一つ献上してしまったというのは…」
「うるさいな!!」
ジョアンが、苛々を募らせてベンチに戻って来た。
「それに、何で敵の監督がここにいるんだよ!!」
そう怒鳴るジョアンに、珠緒は井上を庇うように立ち上がる。
「失礼なことをいわないでね。井上先生は、いろいろ親切に教えて下さってるんだから…」
「ああ…。そうだった…。吸い取れる情報は、吸い取っておかなきゃな…」
ジョアンの言葉に、井上は目を点にさせる。
「情報…?あの…私から…?」
「バカめ!!ジョアン!!余計なことを…」
中村有沙は、ジョアンの背中を拳でえぐった。
「いてて!!あ、そうか…今のこと、忘れてくれ!!」
ジョアンは、愛想笑いをすると、井上の視界から姿を消した。
6457投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時40分00秒
「あ…あの…その為に…私を…ベンチに…?」
井上は、涙目で有海を、珠緒を見る。
有海は、さっと目を逸らした。
「そ、そんなこと…ないですぅ〜〜〜…。私、そんなつもりは…まったく…」
珠緒の方は、顔を覆って泣いてしまった。
「あ…!!あの…そんな…泣かないで下さい…」
井上は、オロオロとうろたえた。
「私…本当に…野球のこと…教えて頂きたくて…」
「わかってます!!わかってます!!あなたは、そんなことを考えるような人ではないってわかってますから…」
「じゃ、じゃあ…信じてくださるんですかぁ?」
珠緒は、涙で濡れた目で、じっと井上を見詰める。
井上は、目眩に襲われる。
「わ…私でよければ、いくらでも力になります!!ええ、二人で聖テレを勝利に導こうではありませんか…!!」
「あ〜〜〜ん!!嬉しい!!井上先生〜〜〜!!」
珠緒は、井上の胸に抱きついた。
気を失いそうになりながらも井上は、去年の秋に天歳駅前で初老の占い師に占ってもらったことを思い出す。
野球が縁で、新しい出会いがあると…。
(こ、このことだったんだなぁ…)
井上は今、花が咲き乱れる楽園にいる…。
「あ〜〜〜!!マーさん、裏切り者!!裏切り者!!」
甜歌の声も、井上には届かない。
6458投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時40分32秒
皆は、バラバラとベンチから駆け出していく。
「…?あれ?どうしたの?」
珠緒は、不思議そうに有海に聞いた。
「チェンジです…。結局、点は奪えませんでした…」
いつの間にか、エマとエリーが連続三振にとられたのだ。
「あ、あらら…」
井上とイチャついている間に、『聖テレ』はチャンスを活かせずに攻撃を終えたのだ。
もう、九回表…最期の攻防…。
「ピッチャー交代!!」
有海が球審の三村に、投手の交代を告げる。
藍から七海へ…。
『天歳連合』は、三番郁哉からの好打順だ。
ここは再び、七海の速球でねじ伏せるのだ。
九回裏の最終回の前に、絶対に点を与えてはならない。
七海は充分すぎるぐらいにわかっていて、闘志も漲っていた。
郁哉、公輝、内村と、バットに掠りもさせずに連続三振に打ち取った。
「マ、マジかよ…」
竜一は苦笑いをしながらも、マウンドへ走っていく。
「うん…。これくらいはやるだろうな…」
七海達が『R&G』…いや、元『TTK』と知っている幸生は、納得しながらプロテクターを着け、守備に入る。
6459投稿者:リリー  投稿日:2009年02月25日(水)21時41分06秒
では、おちます
6460投稿者: 投稿日:2009年02月25日(水)21時50分37秒

6461投稿者:>>千秋、瑠璃、ジーナの紙フトへたれトリオ  投稿日:2009年02月25日(水)21時59分12秒
久々に聞いたなぁwww
6462投稿者: 投稿日:2009年02月25日(水)22時33分30秒
6463投稿者: 投稿日:2009年02月25日(水)23時01分53秒
6464投稿者:あげ  投稿日:2009年02月27日(金)00時57分55秒

6465投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時18分52秒
昨日は、すみませんでした
ちょっとPCを開くこともできませんでした
今日も、結局こんな時間になってしまいました

6461さん
その3人に加え、有海、洸太と「紙フト未勝」メンバーで構成された『らりるれろ探偵団』を構想してました(全然『らりるれろ』じゃないですけど)
いろいろがんばるけど、結局ピンチになって自力で事件を解決できない探偵団…

あげ、ありがとうございます

では、更新します
6466投稿者:>いろいろがんばるけど、結局ピンチになって自力で事件を解決で  投稿日:2009年02月27日(金)22時22分10秒
ギャグものですか?wwwww
6467投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時24分14秒
6466さん
そんな感じです
タイトルは『らりるれろ探偵団2『レイシーズ・トホホ事件簿』
いえ、今のところ全然書く予定はありませんが…

では、更新します
6468投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時25分07秒
有海は、皆に円陣を組ませる。
「さあ…ここで点を取らないと、私達は勝てない…。みんな…気合い入れていこうね…」
「当然や!!1点やったらアカン!!同点止まりやからな!!2点取るで!!」
「おう!!やってやるぜ!!」
七海の言葉に、ジョアンが応える。
八回裏に打順が回ってきた二人だが、当然、打順がまた回ってくるものと信じている。
「おい…。キャプテン…。音頭をとれ…」
中村有沙が、七海に囁く。
「あ、そうだった。七海、キャプテンだったね」
エマは思い出したかのように言って笑った。
「やかまし!!行くで!?聖テレー、ファイト!!」
「おお〜〜〜!!」
勇ましい掛け声と共に、円陣は崩れる。
八番の梓彩から、バッターボックスへ入る。
6469投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時26分04秒
「大木先輩…。ここは…」
「わかってる!!」
梓彩は、有海の方を振り向いて笑った。
そして、バッターボックスへ向き直ると顔を引き締め、息を一つついた。
自分が、甲子園ベスト8ピッチャーからヒットを放つのは確率が低すぎる。
ここは、バント…自分も塁に残る、セーフティーバントを狙う…!!
小細工無し…最初からバットを寝かせる。
竜一は、わかっていたと言うように微笑みを浮かべて頷くと、少し球威を抑えて投げた。
バスターで打ってしまってもいい様な球だが、おそらく自分の腕力では外野まで届かないだろう。
(ここは、チームプレーに徹しなきゃ…!!)
膝を落とすと同時に、バットにボールを当てる。
球威を殺して、手前に転がす。
「よし!!」
梓彩は、全速力で一塁へ向かうが…。
キャッチャーの幸生が、その体格からは考えられない俊敏さでボールに追い着くと、素早く一塁へ送球した。
梓彩が一塁を踏む前に郁哉はボールを受け止め、1アウト…。
6470投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時26分24秒
『聖テレ』ベンチに、溜息が漏れる。
「堀江さん…あんなに動けるなんて…。やっぱり、叡智大附属は侮ったらいけませんでしたね…」
唇を噛み締め、有海は呟く。
「これで私は、意地でも塁に出なければならないわけだが…」
次の打者、中村有沙はバッターボックスに向かい出す。
「何か策はあるか?有海…」
「策…ですか…?」
有海は、しばらく考える。
「打って下さい」
中村有沙は、思わず前につんのめった。
「それは策か?」
「いえ…。お願いです…」
有海は、誤魔化すように笑って応えた。
「可愛い後輩からのお願いか…。ならば仕方がないな…」
苦笑いをしながら、中村有沙はバッターボックスへ入った。
「あ…!!アドバイス、ありました!!」
有海は、突然声をかける。
「何だ?」
「『裏』を『表』に持ち込んで下さい」
「…何…!?」
いきなり何を言い出すんだ…こいつは…と、呆れ顔で有海を見詰める中村有沙。
6471投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時26分45秒
有海は、至って真剣な顔でアドバイスを続ける。
「相手は、ベスト8ピッチャーです。いくら中村先輩でも敵いません。でも、相手は『表』の人間ですよね…?」
「な…何を言っているのだ…?おまえは…?」
「『裏』の中村先輩なら、どんな相手でも負けないと思います」
「しかし…」
「『裏』の技で、野球をするだけですよ?」
「『裏』の技で…?」
手に持っているのはバット…つまり…『アレ』をやれというのか?
「反則にならないか?」
「モロに『アレ』をやったら、反則になるでしょうが…そこは、うまいことやって下さい…」
「ふん!!段々、図々しくなってきたな…。貴様…」
中村有沙はニヤリと笑い、マウンド上の山元竜一へ向き直った。
「貴様が『甲子園モード』で相対するというのなら…私も『裏モード』で応えよう…」
「ちょ、ちょっと!!それ、カンベンしてくださいよ!!」
キャッチャーの幸生が、慌てふためいている。
マスク越しでも、冷や汗を確認できる。
「こ、これは健全な野球の試合なんですから…」
「うるさい。黙れ。マンプク!!」
幸生は、とりあえず初球にボール球を要求した。
6472投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時27分42秒
「…?どういうことだ…?確かに、さっきの打席はいい当たりだったけど…」
竜一は、首を横に振る。
もちろん、彼女達の実力は認めている。
しかし、それならば全力で早めに勝負をかけたい…これが、竜一の心情だ。
先輩の主張に、幸生は諦めてミットを真ん中に戻す。
そして、竜一が渾身のストレートを投げると…打席の中村有沙が、バットを上に…真横に掲げ、一回転させている。
(な、何だ…?あのバッティングフォーム…!?)
「『流星の舞』…!!」
回転させたバットが、白球を叩く。
ボールは前方…竜一の方向へ…バットは後方…里穂達、元『スキラッチ』のメンバーが観戦している芝生の堤防へと飛んでいく。
「うわ!!危ねぇ!!」
丁度、望と里穂の座っている間に、バットは突き刺さった。
その際、望は隣の愛実に抱きついた。
「何すんのよ!!」
当然、望は愛実から張り手を喰らった。
そして、肝心の打球の方は…。
6473投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時28分43秒
一直線にピッチャー…竜一へボールは飛んでいく。
「うお!?」
ここは驚異の反射神経でグローブを差し出したが、あまりの勢いで弾き飛ばされた。
「…!?しまった…!!」
竜一は慌ててボールの納まったグローブを拾い上げたが…。
「げ!?」
ミットの隙間に、ボールがはまり込んでいて、抜くことができない。
もう、ミットごとファーストに投げるしかない。
「郁哉!!」
「え…!?」
いきなり飛んで来たグローブに、郁哉は面喰った。
しかも、グローブはボールと違って、空気抵抗をもろに受ける。
中村有沙は、何とか滑り込みで一塁に到達、セーフとなった。
「な…何だ…?こりゃ…」
ガッチリとグローブに食い込んだボールを見詰めながら、郁哉は呟いた。
そして、中村有沙を怪訝な顔で見ながら、マウンド上の竜一の下へグローブを届けに行く。
「はは…。たしか、メジャーでこんな場面、見たことあるなぁ…」
竜一は、力のない笑いを浮かべ、何とかボールをグローブから外した。
6474投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時30分10秒
「な…なんてことしやがる…。あいつら…!!」
『天歳連合』の監督、伊藤は思わずベンチから立ち上がった。
「『裏』の技を、こんな草野球で使ってくるなんて…!!」
いや、指示をしたのは有海であろう。
「勝負にかけては、容赦しないというわけか…。なるほど…。楠本君が認めるだけのことはある…」
苦々しく、『聖テレ』ベンチを見詰めながらも、伊藤は溜息をついてベンチに腰を降ろす。
そして、次の打者…一番バッターの梨生奈も『裏』の人間だ、ということを思い出す。
伊藤の不安は的中点した。
バッターボックスの梨生奈は腰を低くし、逆手にバットを構えている。
明らかに、トンファーを持つ姿勢である。
「ありりんの『流星の舞』に比べたら、私の『AVEX』は大人しいものね…」
そうは言っても、竜巻の様に回転するわけにはいかないが…。
竜一の速球に対し、トンファーを振るう様にバットを出す。
しかし、トンファーの様に取っ手のないバット…全く同じ様にはいかず、タイミングがずれて空振りとなる。
「ふぅ…。難しいわね…」
息をつき、気持ちを引き締める。
次の投球も、空振りとなる。
ツーストライクに追い込まれた。
「普通に打った方がいいのかな…?」
長い療養生活で、トンファーを振るう感覚も鈍ってしまったのか…梨生奈の決意がぶれ始めた。
6475投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時31分05秒
「梨生奈!!自分の左手を取っ手に使えばいいじゃん!!」
土手の方から声が飛んできた。
「…!?羅夢?」
梨生奈は思わず振り向いた。
「こう!!こうするんだよ!!」
隣に座っているメロディーのトランペットを取り上げて、実演してみせる羅夢。
トランペットを左腕で逆手に持ち、その左腕を右手で掴んでいる。
つまり、バットと左腕でトンファーをつくっているわけだ。
「ああ…。なるほど…。サンキュー!!羅夢!!」
羅夢の実演通り、梨生奈はバットを構える。
バットと左腕による、少し大きめのトンファー…思ったよりもしっくりとくる。
竜一は、三球で勝負を決めてきた。
梨生奈は、狙いを定める。
「『AVEX』!!」
梨生奈は、その場で身体を一回転させた。
ボールは、トンファーの…いや、バットの芯に当たった。
低い弾道は、セカンドの謙二郎とショートの遼希の間を貫いき、センター前ヒットとなる。
バット本来の使い方をしていないので飛距離はないのだが、これで梨生奈も出塁し、ワンアウト一塁、二塁とチャンスはつながった。
6476投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時31分54秒
「伊倉先輩…」
「わかってる!!」
言葉をかけた有海に、愛美は笑顔で応えた。
ここは、送りバント…一塁線に沿う様に転がるバントがベストだ。
下手なバントをしたら、おそらく三塁に向かう中村有沙がアウトになる。
この試合、ここが自分の最大の見せ場になるだろう。
ふと、父親の浜津の方へ目を向ける。
今まで見たことのない真剣な面持ちで、じっと愛美を見詰めている。
「…何て顔してんのよ…。お父ちゃん…」
思わず愛美は笑ってしまった。
そして、幾分リラックスすることができた。
過度な緊張を、父が肩代わりしてくれているように思えたからだ。
始めからバントの構えをとる愛美に対し、竜一は球威を抑えたピッチングをする。
バントは、させてやるつもりだ。
その代わり、幸生の手前に転がる様に…。
6477投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時32分21秒
愛美はタイミングを合わせ、バットにボールを当てる。
しかし、僅かに芯より下に…。
愛美の手前の地面にボールは叩きつけられ、大きくバウンドする。
「…!?ファール…?」
とにかく、愛美は一塁へ走る。
既に中村有沙は三塁へ…梨生奈は二塁へ駆け出している。
幸生は、慎重にボールの行き先を見極める。
バウンドしたボールが、地面に降りる…ライン内…そして、転がる…ラインを出ない…!!
幸生は、そのボールを拾い上げ、一塁へ送球した後に舌打ちをした。
愛美はアウト…しかし、バントは成功した。
これで、ツーアウト三塁二塁…。
次の打者、三番の藍は、何としてでもランナーを帰さなくてはならなくなった。
6478投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時33分17秒
それでは、おちます
6479投稿者: 投稿日:2009年02月27日(金)22時39分00秒

6480投稿者: 投稿日:2009年02月27日(金)22時40分17秒
6481投稿者:千秋、瑠璃、ジーナ、有海、洸太の小説を  投稿日:2009年02月27日(金)22時42分56秒
もし書いたとしてもキャラの性格はほとんど変えずですか?
6482投稿者:リリー  投稿日:2009年02月27日(金)22時46分44秒
6481さん
はい、ほとんど変えずに…
相変わらず、洸太は有海に対してウジウジしながら事件に関わって、良い所を見せようとしてピンチに陥ったり…
その小説を書くよりも、『グラスラ』で、とあるでっかい伏線を張る予定なので、それを先に書き上げないといけないかもしれません
6483投稿者:リリーさんのギャグものって  投稿日:2009年02月27日(金)23時01分38秒
ちょっと想像できないwww。

そういえばミスト登場させるとか言ってたのはそれと関係あるのかなぁ?
6484投稿者:リリー  投稿日:2009年02月28日(土)16時38分58秒
今日は、夜に出かける予定があるので、今から更新します

6483さん
ギャグものになるのかどうかはわかりませんが…
そうです、ミストも絡ませようといろいろ考えたのですが、この話しは今は保留中です

では、更新します
6485投稿者:リリー  投稿日:2009年02月28日(土)16時39分47秒
藍は、この試合ノーヒット…フォアボールで出塁しただけだ。
次の四番打者、七海は四打数三安打…。
どう考えても、竜一は藍で勝負を決めてくるだろう…。
藍は、大きく深呼吸をする。
「何としてでも…このチャンスを、ななみんにつなげなきゃ…」
そう呟く藍に、七海は声をかける。
「ちゃうぞ、藍…」
「え?」
「ウチにつなげよう、なんて思うなや。自分がこの試合のヒーローになったったらええねん!!」
そう言って、七海は笑顔を見せた。
「この野球部を創ったんは、藍やろ?その藍が、責任を持ってヒーローにならなあかん…。これは、義務や」
「義務?」
「うん。ヒーローになる義務があるんよ。藍には」
「ふふ…。義務か…。辛いねぇ…生まれながらのスターは…」
そう、藍は軽口を叩くと、落ち着いた足取りでバッターボックスに向かった。
6486投稿者:リリー  投稿日:2009年02月28日(土)16時40分16秒
「でもなぁ…。私が『裏』の世界で得た技は、ピッチングだけだったんだよなぁ…」
藍がつい漏らした言葉に、幸生はドキリとした。
「『裏』!?『裏の世界』って何!?」
「え…?あはは…!!気にしないで下さい!!」
そう笑った藍は、誤魔化すようにピッチャーマウンドの竜一へ視線を向けた。
もし、ここで自分が三振をしても、2アウト…四番の七海にチャンスが回る。
だが、下手に手を出して凡打になれば、ツーアウト…試合は終了する。
そんな藍の『逃げ』の思考が、無意識にバットを振ることを忘れさせた。
幸生のミットが、凄まじい音をたてた。
「…!?」
その音で、藍は目を覚ました。
(ダメだ!!こんな逃げ腰じゃ…!!ここで、私がヒーローになるんだ!!)
藍の目の色が変わったのが、竜一にもわかった。
遊び球なしの、3球勝負で終わらせる決心をする。
6487投稿者:リリー  投稿日:2009年02月28日(土)16時41分16秒
2球目…またも真っ直ぐのストレート。
藍は、果敢にバットを振った。
僅かに振り遅れ、真後ろにボールは上がった。
マスクを飛ばして、幸生がフライ球を追う。
「げ…!!ヤバイ!!」
顔面蒼白で、幸生の背中を見送る藍。
「こ、こけて!!」
思わず、藍は叫んだ。
「こけろ!!」
マンボウズの少年達も、声を揃えて叫んだ。
その願いが天に通じたのか…幸生は足を縺れさせて前のめりに転んだ。
ボールは、ミットの数センチ前に落ちて転がった。
「た…助かった…」
藍は、安堵の息をつく。
「あいつ…もう少し痩せた方がいいな…」
竜一は、頭をペコペコと下げながら立ち上がる幸生を見て苦笑した。
6488投稿者:リリー  投稿日:2009年02月28日(土)16時41分38秒
おそらく、竜一は次も真っ直ぐのストレートを投げてくるだろう。
小細工はしない…まだ竜一には余裕がある…。
つまり、自分はまだナメられている…とも、言える。
しかし、それは仕方のないこと…。
自分は、この試合で4打席3三振1四球…結果を出していないからだ。
(だったら、今、ここで結果を出せばいい…!!結果を出して、終わらせよう…!!)
おそらく、次が自分への最期の投球となる。
先ほどの振り遅れた自分のスイングを、何度も脳内で再生する。
あの大晦日…『R&G』と『TDD』の決戦前…自分はどう戦うべきか、何度も何度もシミュレーションしてきた。
その経験から、自分のスイングの不味さは明確にわかっている。
あとはそれを修正し、実行するだけ…!!
それを可能にする身体能力は、備わっている!!
藍は、平常心で竜一の速球を迎える。
そして、当然の様にバットを差し出した。
ボールは、竜一の頭上を越え、セカンドの謙二郎の頭上を越え、センターの内村の手前で落ちた。
センター前ヒット…そして、もちろん三塁の中村有沙はホームを駆け抜けた。
九回裏、『聖テレ』は、土壇場での同点に追い着いた。
脳内再生…脳内シミュレーション…脳内修正…そして実行…それを瞬時に行える…これが、藍が『裏の世界』で新しく得た能力だった。
6489投稿者:リリー  投稿日:2009年02月28日(土)16時42分07秒
2対2の同点…『聖テレ』ベンチは騒ぎ出し、『天歳連合』ベンチは静まり返った。
「確かに…あの細川藍も、あすみの下で訓練を積んでいるんだった…」
その藍を、安全牌と高をくくっていた自分を、伊藤は悔やんだ。
しかし、ピッチングはともかく、バッティングで本領を発揮するとは思わなかった。
これで、『天歳連合』の勝利はなくなった…。
「…完敗かな…」
伊藤は、力なく笑ってベンチに腰を置いた。
何年も裏の世界で生きてきた自分が…半年も満たない短い期間に身を置いていた小娘に引き分けたのだ。
これを完敗と言わずに、何と言うのか…。
いや、ここは引き分けで終わらせなければ…サヨナラ負けなどと、本当に完敗してしまってはいけない。
(本当の勝利は『裏の世界』で味わえばいい…。そう…今夜…)
伊藤は、一瞬裏の顔を覗かせた。
(次の打者は…藤本七海…!!)
苦々しい思いで、バッターボックスに立つ七海を睨む伊藤。
(この小娘が…ボスを倒したというのか…!?信じられん…!!)
あの、最強…いや、最狂…いや、最凶と呼ばれた、あの寛平を…あの小さな少女が倒し、『TDD』は『R&G』に敗北した…。
『R&G』の多大なる慈悲によって殉職した者もなく、組織は壊滅することなく存続している…。
この現状も、伊藤には屈辱だった。
「せいこう先生!!」
その時、伊藤の背中へ、感情的な尖った声が投げかけられた。
6490投稿者:リリー  投稿日:2009年02月28日(土)16時42分31秒
バッターボックスに向かう七海に、有海は笑顔を見せるだけだった。
具体的指示などない。
この場面、全てが七海に託されたのだ。
七海は身震いする。
あの原村の決戦での高揚感とは、全く違った種類の気持ち…。
「これや…」
七海は、笑顔とともに、声を漏らした。
「こういう瞬間を…ウチはもっと、もっと味わいたいんや…」
『表の世界』で…自分を高める興奮を…。
その為に、自分はあの『裏の世界』で命を賭けて戦ったのだ。
全ては、この瞬間の為に…。
マウンドの竜一の顔を見る。
まだ、戦意は失われていない。
七海に対しても、ストレートでの三球勝負を挑んでくるだろう…。
(三球勝負…?三球もいらんわ!!一球で決めたんねん…!!)
三塁上の梨生奈、一塁上の藍が、じっとこちらを見詰めている。
『聖テレ』ベンチのメンバーの視線も、背中に感じる。
(参ったな…。結局、ヒーローの役がウチに回ってきてるやん…)
七海は一瞬笑みを浮かべると、すぐにその顔を引き締めた。
6491投稿者:リリー  投稿日:2009年02月28日(土)16時42分52秒
竜一の投球フォームに、自分をシンクロさせる。
竜一の足が上がる。
「…ヨー…」
竜一の肘がしなる。
「…ソー…」
竜一の指から、ボールが放たれる。
「…ロー!!」
ただ一点…ボールとバットの真芯が合わさるその一点を、七海は狙う。
その時だった。
「せいこう先生!!」
どこからもなく、聞こえてきた声…。
「!?」
七海は、一瞬、その聞き覚えのある声に反応する。
しかし、コンマ一秒で気をボールに集中させると、思いっきりバットを振り抜いた。
「しもうた!!」
打った瞬間、七海は悔しそうに叫んだ。
打球は高く上がる…。
『聖テレ』ベンチも、マンボウズの少年達も歓声をあげたのだが、打った本人の七海にはわかっている。
この打球は、ホームランにはならないと…。
6492投稿者:リリー  投稿日:2009年02月28日(土)16時43分15秒
七海の空高く放った打球は失速し、センターの内村のグローブに納まった。
これで3アウト…ゲームセット…。
試合は、2対2…同点で終わった。
九回裏の土壇場で、藍のヒットにより同点に追い着いた。
負けることはなかったが、勝つ事もできなかった。
最大限に高まった高揚感が、溜息とともにその場に流れ出た。
それでも、ラストバッターになった七海を拍手で迎えようと、『聖テレ』メンバーはベンチから立ち上がった。
しかし、七海はバッターボックスから動こうとしない。
「…藤本さん…?」
有海は不思議そうに七海の背中を見詰めた。
「泣いているのかな…?」
珠緒は心配そうに呟いた。
「…いや…。違う…」
中村有沙は、『天歳連合』のベンチを指差した。
「…?」
中村有沙の指差す先を見て、有海はあっと声をあげた。
いや、有海だけではない。
『聖テレ』野球部のメンバーは、皆驚きの声をそれぞれにあげた。
6493投稿者:リリー  投稿日:2009年02月28日(土)16時44分04秒
「ど、どうしたの?ななみん…」
一点をじっと見詰めたまま動かない七海に、藍は駆け寄って声をかけた。
「…あれ…」
虚ろな目で呆然とした表情の七海は、震える手で『天歳連合』ベンチを指差した。
「…?」
藍も、その指から先を見る。
「あ…あすみん…!?」
素っ頓狂な藍の声が、球場に響きわたった。
『天歳連合』監督の伊藤の後ろに、元『聖テレ野球部』監督…いや、裏探偵『TDD』の中田あすみが、立っていた。
「な…何で…あすみんが…?」
あの、元旦の決戦から、会っていなかった中田あすみが…この球場に姿を現した…?
もう、二度と会うことはないと思っていた、中田あすみが…。
6494投稿者:リリー  投稿日:2009年02月28日(土)16時44分21秒
では、おちます
6495投稿者:まさかの更新でびびった  投稿日:2009年02月28日(土)16時49分40秒
        
6496投稿者: 投稿日:2009年02月28日(土)17時49分28秒
6497投稿者:デジ  投稿日:2009年02月28日(土)17時53分07秒
やっと試験が終わりました。僕の小説もあげておきます。
結果は引き分けでしたか。この試合も白熱しましたね。
この回更新ぼちぼちある、今夜の裏に仕事とはいったい?
そして、突如球状に姿を現したあすみ。その目的はいかに?続きも楽しみです!
6498投稿者: 投稿日:2009年02月28日(土)17時55分41秒
6499投稿者:脳内シミュレーション  投稿日:2009年02月28日(土)23時08分57秒
有海の瞬間記憶、寛平の予知能力に勝るとも劣らない能力だなw

この能力を手に入れたら、アスリートとして無敵なんでは?
6500投稿者:リリー  投稿日:2009年03月01日(日)21時12分31秒
6495さん
あんな時間ですみません
今日は、何とか定時に更新できます

デジさん、試験、お疲れ様でした
これから、ゆっくりと小説を書けますね
試合は、引き分けとなりましたが、まだまだ『十二回・表』は続きます

6499さん
今年、関西独立リーグで初の女性プロ野球選手が誕生しましたね
藍の様に、野球をたりたい女の子に、明るいニュースだと思います

あげ、ありがとうごさいます

では、更新します
6501投稿者:リリー  投稿日:2009年03月01日(日)21時13分04秒
「せいこう先生…!!何をやっているんですか!?」
厳しい目を、あすみは伊藤に向ける。
突然のあすみの出現に、伊藤は一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに平常心を取り戻す。
「何をやっているって…草野球だよ」
「見ればわかります!!何で、あなたが…あの子達と…」
途端に、あすみの歯切れが悪くなる。
『聖テレ』メンバーの視線が、自分に集中していることに気がついたからだ。
『R&G』の探偵達は、地獄耳を持っている。
ここで、伊藤までもが『TDD』のメンバーだと悟られてはならない。
何故、伊藤が『聖テレ野球部』と試合をしているのか…はるかから概要は伝えられている。
「で…どうなんですか?」
「ん?何が?」
「試合ですよ…」
「終ったよ…。今、さっき…」
伊藤は、安物の黒板で出来た得点版を指差した。
「2対2…同点?」
「ああ…。やっぱり、やるねぇ…。あの子達…」
自嘲気味に、伊藤は呟いた。
6502投稿者:リリー  投稿日:2009年03月01日(日)21時13分23秒
「…!?」
あすみに緊張が走った。
七海と藍が、こちらに向かって歩いて来る。
そして、ベンチからは『聖テレ野球部』のメンバー達が走って来た。
中村有沙だけが、ゆっくりと歩み寄って来るが…。
あすみは、溜息をついて歩き出した。
一塁線上で、あすみも七海達も足を止めた。
「…久しぶり…」
無表情で、あすみは声をかけた。
「オノレ…何で…」
「ななみん!!」
藍が、七海の腕を引っ張った。
他のメンバーもこの場に来たからだ。
愛美や梓彩、珠緒といった、『裏の世界』の事情を知らない者もいるからだ。
「先生…!!来てくれたんですか?」
愛美が、泣き出しそうな笑顔をあすみに向けた。
「う、うん…。あなた達がここで試合をやってるって…聞いて…」
あすみは、精一杯の笑顔をつくって答えた。
6503投稿者:リリー  投稿日:2009年03月01日(日)21時13分44秒
七海には、どうして自分達の前に突然あすみが姿を現したかはわからないが、ここで『裏』の会話をするわけにはいかない。
七海達は、表向きの会話を続けた。
そう…『表向き』の…。
あすみが聖テレを去ってからの、あれこれを…。
あすみは、偽りの新婚生活の話を…とりわけ、姑との仲が悪いことなど…。
旦那の写真を見せてくれとせがまれたが、それは言葉巧みにごまかした。
そして、自分の代わりに野球部の顧問になってくれた珠緒に、頭を下げた。
いつまでも偽りのお喋りに花を咲かせてるわけにはいかない。
七海は、ある一つの提案をすることにする。
「なぁ…。こうして久しぶりに再会したんやし…ウチらと対決してみいひん?」
「対決…?」
あすみはもちろん、皆も七海の提案に目を丸くした。
6504投稿者:リリー  投稿日:2009年03月01日(日)21時14分05秒
「見ての通り、試合は2対2の同点で終わってしもうた…」
あすみの声で集中力を乱された七海は、それが悔しくて仕方がない。
「せやから…監督が相手チームのピッチャーとして立って…ウチ等と延長戦、やらん?」
「延長戦!?」
皆は、驚きの声をあげる。
『聖テレ野球部』の皆の声には、歓喜も入り混じっているが、あすみの方は困惑が混じっている。
「で、でも…」
あすみが慌てふためいていると、後ろから声を投げかけられる。
「いいですねぇ…。是非やりましょう。延長戦…」
『天歳連合』監督の、伊藤だった。
「な、何を言ってるんですか!?せいこう先生…」
あすみが後ろを振り返りながらそう怒鳴ったと同時に、愛美は尋ねる。
「知り合いなんですか?」
「え…?う、うん…。まぁ…」
言葉に詰まるあすみに、伊藤は助け舟を出した。
「はい、そうですよ。あすみくんは少しの間、我がビッツに在籍していたことがありましてね」
楠本もシンパンマンも、この伊藤も、参謀の地位に就いている者は、皆ウソが上手い。
「で、延長戦の話しですね?あすみくんをピッチャーにして…。みんなと相談してきますから、待ってて下さいね」
「ちょ、ちょっと…」
弱々しい声を投げかけるあすみを余所に、伊藤は試合を終えたばかりのメンバーのもとへ歩いて行った。
6505投稿者:リリー  投稿日:2009年03月01日(日)21時14分23秒
「何で、急に姿を現したん?」
七海が、小声であすみに囁いた。
「…ちょっと、気になってね…」
「何か、裏があるんとちゃう?」
「…疑い深い癖…直した方がいいよ…」
「誰かさんのおかげで、こないな性格になってもうた…。責任とって…」
二人が小声の応酬をしていると、すぐに伊藤が戻って来た。
伊藤は、両腕で大きく輪をつくっている。
「延長戦、OKだそうです。やりましょう」
皆は、飛び上がって喜んだ。
完全決着をつけられるということと、この試合をまだ楽しめるということ、そして、あすみとの対決など様々な要素で盛り上がっている。
「こちらは、内村さんが体力の限界みたいで…やはり、歳には勝てないそうです。あすみくんは、彼と交代します」
好プレイヤーの内村が体力の限界というのは、方便だろう。
きっと気を利かせてくれたのだ。
「…せいこう先生…」
心底弱りきった目で、恨みがましく伊藤を見詰めるあすみ。
「さぁ、さっさと投球練習して…」
伊藤は、軽くあすみの背中を叩いた。
「じゃあ、みんな、正々堂々戦おう…」
観念したかのように、あすみは重い足取りで『天歳連合』のベンチへ向かった。
『聖テレ』のメンバーも、駆け足で自軍のベンチへ戻って行く。
6506投稿者:リリー  投稿日:2009年03月01日(日)21時14分42秒
伊藤もベンチに戻りかけたその時、小さな声に呼び止められた。
「あ…あの…。私…一木有海です…」
「…ん?」
伊藤が振り返ると、そこには恐縮した有海が一人残って立っていた。
「…はい?」
今頃、自己紹介?と、伊藤は不思議に思った。
「あなた…伊藤正行さんですよね…?『ハイエロファント(教皇)』の…」
「…!?」
伊藤は、有海を見る目が変わった。
そう…あすみは、自分のことを『せいこう』と呼んだ。
そして、自分とあすみが知り合いと言うのなら、自ずと結論付けられるだろう。
自分が、『TDD』のメンバーだということが…。
「はい、そうですよ…。『ハイプリエスティス(女教皇)』…」
伊藤は、努めて無表情にそう答える。
「い、いえ…。私は、今は…」
「わかってますよ。でも、我々を裏切り、我が組織に不利益を被らせたことは事実だ…」
伊藤は、完全に『裏』の住人として有海に相対する。
「う…」
有海は、顔を青くして後退りした。
6507投稿者:リリー  投稿日:2009年03月01日(日)21時15分01秒
「大丈夫?一木さん…」
いつの間にか、七海が有海の後ろに立っていた。
「…ふ、藤本さん…」
有海は、安堵と共に涙ぐんで七海を見た。
七海は、有海を庇う様に伊藤の前に出る。
「ヘルメットのオッチャン」
「へ、ヘルメット…?」
伊藤は、眉間にシワを寄せて七海を見下ろす。
「一木さんは、もうあんた等とは関係ないんやから…『裏』の話しはせんといてもらえます?」
「わかってますよ…。ただ、我が『TDD』を敗北させた女の子達はどんな子だろうかと…ちょっと気になって見てみたかっただけです」
「ほんまに?まさか、『裏』の恨みを『表』に持ち込もうって気やないやろうな?」
「まさか…。『裏』の恨みは、『裏』でとります…」
「お!?また、ウチ等とやり合う気か?性懲りも無く…」
「君達が、やると言うなら…」
伊藤と七海は、黙ったまま睨み合う。
6508投稿者:リリー  投稿日:2009年03月01日(日)21時15分36秒
「ふ、藤本さん…」
有海は、震える手で七海の袖を引っ張った。
そんな有海を、七海は笑顔で振り返る。
「…安心せい。ウチ等、今は野球を楽しんでんねや…。な?ヘルメットのオッチャン」
「ええ…。そうですね」
伊藤は、苦笑いしながら自分の髪の毛をクシャクシャと掻き乱した。
「あすみにもよろしゅう…。くれぐれも、手を抜かんように…」
「ああ。彼女は、『裏』のリベンジを考えてるかもね…」
「けけけ…。返り討ちや…」
伊藤は、既に背中を向けてベンチへ戻りかけていた。
遠くのベンチで、あすみが心配そうにこちらを窺っている。
「さ、いこう。一木さん」
「うん」
二人は、肩を並べてベンチに戻った。
6509投稿者:リリー  投稿日:2009年03月01日(日)21時18分41秒
今日はこれでおちますが、昨日の更新で間違えた箇所があります

>もし、ここで自分が三振をしても、2アウト…四番の七海にチャンスが回る。
だが、下手に手を出して凡打になれば、ツーアウト…試合は終了する。

この時点で、じつは2アウトなんですよね
アウトカウントを一つ間違えてました
まあ、プロでもよくあることですが…言い訳ですね…

では、おちます
6510投稿者:リリー  投稿日:2009年03月02日(月)21時36分45秒
ちょっとPCの接続ができませんでしたが、今、更新します
6511投稿者:リリー  投稿日:2009年03月02日(月)21時39分46秒
試合は延長戦に突入、聖テレメンバーは、円陣を組んでから守備についた。
ピッチャーは、七海から藍に交代した。
打席には、六番の幸生。
さきほどは、七海に三振にとられた。
だが、藍からはホームランを打っている。
それでも有海は、敢えて藍をマウンドに立たせた。
試合終盤で開眼した藍は、序盤の彼女と一味も二味も違うはずだ。
そして、これからを見越して、藍自身に借りを返させたいと思ったからだ。
そんな有海の気持ちに、藍はなんとか応えようとする。
変化球中心の組み立てから、直球勝負に切り替える。
幸生も懸命に喰らいつき、カウントは2−3。
そこで、思い出したかの様にシュートを披露する。
幸生はまんまとタイミングを外され、三振となる。
「ふぅ…。まず、1アウト…」
藍は息をつく。
次は七番の謙二郎。
彼も速球に追い着くのは苦労している様で、三振に取られた。
これで、2アウト…。
6512投稿者:リリー  投稿日:2009年03月02日(月)21時40分16秒
だが、次はそうはいかなかった。
八番はさっきまでマウンドを任せられていた山元竜一…。
同点に追い着かれた負い目もある。
なんとかチームに貢献しなければと気合いが入っている。
そんな竜一に、さすがの藍も力でねじ伏せることはできなかった。
センターとレフトの間を抜ける、二塁打を打たれる。
「し、しまった…」
藍は顔を顰めた。
次は、九番打者、バーンズ勇気だ。
九番と言っても、彼は中継ぎとしてマウンドに立ったので、この打順にいる。
本来なら、中軸を任せられる実力の持ち主なのだ。
藍は、思わずベンチの有海を見る。
有海は、厳しい目でこちらを見ていた。
「交代」の言葉を期待していた藍は、自分の頬をピシャリと張った。
甘えてはいけない…。
ここは、自分に任せられたのだ。
何としてでも、無失点で切り抜けなければ…。
6513投稿者:リリー  投稿日:2009年03月02日(月)21時40分38秒
勇気には、低めのストレートで対抗する。
試合の終盤、球威も落ちている頃だ。
簡単に場外へ運ばれる危険性もある。
しかも、竜一が二塁にいるのだ。
長打は、失点につながる。
しかし、2アウト…なんとしてでも、勇気でこのイニングを終えるのだ。
「よし…!!いける!!」
藍は、勇気の膝元を掠る様な、鋭い直球を投げ込んだ。
だが、勇気も器用にバットを合わせてきた。
バットに当たったボールは、地を這う弾丸の如く、一、二塁間を抜けようとしている。
愛美が、横跳びで喰らいつくが…目の前でボールがイレギュラーし、まるで意思が宿っているかの様にグローブを避けていった。
「し、しまった!!」
藍は途端に青褪めた。
竜一は、一気に三塁を駆け抜けた。
失点してしまう…。
その時だった。
「ゴルアアアア!!!」
ライトの七海が、全速力で駆け寄り、転がるボールを掴んだ。
「グオオオオラアアアア!!!!!」
そして、キャッチャーの中村有沙に向けてレーザービーム…ノーバウンドの返球をする。
6514投稿者:リリー  投稿日:2009年03月02日(月)21時41分08秒
これには、中村有沙も、そして竜一も来る事は予想していた。
竜一は足を懸命に伸ばし、スライディング…中村有沙はそれを恐れず、ホームベースの前に仁王立ちして捕球の構えをとる。
凄まじい音をたててボールが納まったと同時、そのミットをホームベースに叩きつける。
竜一と中村有沙は、ホーム上でぶつかり、もつれ合った。
竜一の足は、ホームベースに届いている。
しかし、球審の三村は力いっぱい腕を空に突き上げる。
「アウト〜〜〜!!」
中村有沙のミットには、ボールがしっかりと納まっていた。
『天歳連合』のベンチは、落胆の悲鳴に包まれた。
何とか、『聖テレ』は無失点で十回表を切り抜けた。
「いてて…。大丈夫?」
竜一は、中村有沙に手を差し延べた。
「大丈夫だ…」
中村有沙は自力で起き上がると、その差し延べた手にボールを乗せた。
6515投稿者:リリー  投稿日:2009年03月02日(月)21時41分45秒
伊藤は、ベンチに戻ってくる竜一の歩き方がおかしいことに気がついた。
「どうしたの?山元君…」
「え?いえ…ホームに突っ込んだ時、少し…」
伊藤は、顔を顰めた。
「それはいかんな…。大事をとって、ベンチに下がるか…」
「大丈夫ですよ!これくらい…」
「いやいや…。君は、4月から叡智大でプレーするんだろ?無理はさせられないよ」
そう言いながら、伊藤は郁哉を見る。
「高橋君、君はファーストからレフトへ…」
「え?はい…」
そして、次は勇気を見る。
「バーンズ君は、ライトへ…」
「…?いいですけど…」
「そして堀江君は、キャッチャーからファーストにポジションチェンジだ」
そう指示を出す伊藤に、あすみは当然の疑問を投げかける。
「だったら…キャッチャーはどうするんですか?」
「ん?私がやるよ…」
そう言いながら、伊藤はプロテクターを着け始めた。
6516投稿者:リリー  投稿日:2009年03月02日(月)21時42分06秒
『聖テレ』ベンチでは、中村有沙が顔を顰めて左手首を眺めているのを、有海が気付く。
「中村先輩?どうしたんですか?」
有海の問いに、中村有沙は手首を見詰めたまま答える。
「…どうやら、手首を傷めた様だ…」
「え?山元さんをタッチアウトした時?」
「ああ…。だが、心配無用だ」
「し、心配無用って…」
次は、七海にマウンドを任せるつもりだった。
七海の剛速球を、怪我を負った左手で受け止められるのだろうか?
「これくらいは、どうってことはない。それに…」
「アタシ達が、サヨナラ勝ちすればいいんだろ?この回で!!」
ジョアンが、バットを握り締めながら中村有沙の言葉に被せてきた。
「だから、あんたは何の心配もしなくていいんだよ」
ジョアンはそう言うと、有海にウィンクした。
「しかし…ピッチャーは…」
有海は、心配そうにマウンドを見る。
そこには、長身の中田あすみの姿が…。
6517投稿者:リリー  投稿日:2009年03月02日(月)21時42分58秒
プロテクター、レガース、ヘルメット、マスクと、完全にキャッチャーの防具に身を固めた伊藤が、あすみに歩み寄る。
「サインを決めておこう。人差し指を出したら…」
「いりませんよ。そんなの…」
「何?」
マスクの下の、伊藤の顔が歪んだ。
「私は、真っ直ぐしか投げません」
「お、おい!!変化球が投げられないわけでもないんだろ?私の采配に任せておけば…」
「せいこう先生…。これは、野球の試合…『表』の勝負ですよね?」
あすみは、鋭い視線で伊藤を睨み、言った。
「む…。も、もちろんだ」
「あなたは、無理矢理私をこの試合に引き込んで、お人好しにも私はそれに付き合っている…。これくらは、私の自由にさせて下さい…」
「だ、だがな、これには…」
あすみは、伊藤の耳元まで口を持っていき、更に声を潜ませる。
「…あなたの大好きな采配は、今夜…『本業』で発揮なさって下さい…」
「…!!」
「せいこう先生は、私の剛速球をパスボールしない様、そちらに集中して下さい」
せいこうは、しかめっ面であすみの顔を見詰め、そして渋々首を縦に振った。
6518投稿者:リリー  投稿日:2009年03月02日(月)21時43分23秒
今日は、これでおちます
6519投稿者:とうとう  投稿日:2009年03月02日(月)22時33分05秒
有海がせいこうに気がついちゃった
6520投稿者:チラホラと  投稿日:2009年03月03日(火)00時46分45秒
裏をにおわせる発言がありますな。
6521投稿者:調子悪い?  投稿日:2009年03月03日(火)21時38分19秒
そんなことない?
6522投稿者: 投稿日:2009年03月03日(火)21時56分47秒

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