このページは、@wiki で 2018年05月31日 16:09:18 GMT に保存された https://web.archive.org/web/20090503142143/http://www.ame.x0.com:80/tentele/080114213544.html キャッシュです。
ユーザがarchive機能を用いた際、@wikiが対象サイトのrobots.txt,meta情報を考慮し、ページを保存したものです。
そのため、このページの最新版でない場合があります。 こちらから 最新のページを参照してください。
このキャッシュ ページにはすでに参照不可能な画像が使用されている可能性があります。
@wikiのarchve機能についてはこちらを参照ください

@wikiはこのページまたはページ内のコンテンツとは関連ありません。

このページをキャッシュしたwikiに戻る

青春探偵小説『グランドスラムの少女達』
1青春探偵小説『グランドスラムの少女達』 投稿者:リリー  投稿日:2008年01月14日(月)21時35分44秒
『グランドスラムの少女達』

CAST

藤本七海 
細川藍
一木有海  

『R&G探偵社』第3弾
『表バージョン』と『裏バージョン』の二つの小説が交互に展開し、お互いに影響し合います
『表』…聖テレジア女子学園中等部と、その野球部のメンバーを中心とした青春スポコン小説
『裏』…『R&G探偵社』の少女探偵達が、悪と戦うアクション小説
第一試合(第一話)から第三試合(第三話)までの三話構成です
2
☆レス1400までを見る☆
3
☆レス2000までを見る☆
4
☆レス2950までを見る☆
5
☆レス4750までを見る☆
6
☆レス6600までを見る☆
6601投稿者:リリー  投稿日:2009年03月08日(日)20時49分01秒
七海は、何度も深呼吸をとりながら、ゆっくりとバッターボックスに入る。
そして、マウンド上のあすみを見る。
あすみも、またじっと七海を見詰めていた。
「藤本さん…」
手を合わせ、有海は祈った。
「がんばれ…」
マンボウズのベンジャミンは、消え入りそうな声を絞り出す。
「七海〜〜〜!!打たなかったら、ぶっ殺すからな!!」
羅夢の声が響き渡る。
敵も味方も、全ての者の注目が、七海に集中している。
七海は、心地良かった。
こんな最高の場面に、また自分に打順が巡ってきたことに…。
四番というポジション…。
長い野球の歴史の中で、チャンスに恵まれる打順に、全ての期待が込められてきたのだろう。
今、自分がその巡り合わせの中に立っている…。
もう、打つしかないのだ…。
このプレッシャー…何と清々しい…。
6602投稿者:リリー  投稿日:2009年03月08日(日)20時49分33秒
相手は、中田あすみ…。
『TDD』として、裏の対決をした…。
あれは、命の獲り合い…殺し合いだった…。
しかし、今は違う…。
野球で戦えるのだ…。
終われば…手を握り、肩を抱き合える…野球の試合なのだ…。
そして…あすみにこう言ってもらうのだ…。
『いい選手になったね』…と…。
そして…こう言ってやるのだ…。
『それは…オノレのおかげや…』と…。
6603投稿者:リリー  投稿日:2009年03月08日(日)20時49分52秒
あすみは、大きく振りかぶる。
ランナーなど、気にしていない。
七海との一対一の勝負…。
あすみは、自分の力の全てを込める。
第一球…。
ミットから、破裂音が聞こえる。
「ぐあああ!!」
伊藤は、堪らずミットから手を引き抜き、手をブルブルと振るわせた。
「おい、ヘルメットのオッチャン!!」
七海は、あすみを見据えたまま言う。
「痛いのは我慢せぇ!!最高の勝負なんやから…」
伊藤は、あぶら汗を垂らしながら恨めしそうに七海とあすみを交互に見る。
「簡単に言ってくれるよ…。まったく…」
そして、あすみへ返球する。
「だったら、さっさと打ってくれよ。もう、あんな凄まじい球、俺は受けたくない…」
「ケケ…。せやったら、ウチ、ホームラン打ってまうで?」
「ホームラン?ああ…。何でもいいから、打ってくれ…」
伊藤は、もうヤケクソ気味に吐き捨てる。
6604投稿者:リリー  投稿日:2009年03月08日(日)20時50分11秒
第二球…またも剛速球が七海に迫る。
僅かに、七海は振り遅れる。
またも、ミットから破裂音…そして、伊藤の叫び声…。
「おい!!打ってくれるんじゃなかったのか!?」
悲鳴にも似た声で、伊藤は怒鳴った。
「次や!!次!!絶対にホームランを打ったる!!」
七海は、バットで空高く指した。
「ふふん…。ホームラン?だったら、逆転サヨナラ満塁ホームランだね…」
あすみは不敵な笑みを浮かべて、七海を見据える。
「お…?何や?やれるもんならやってみぃ…て、顔やな?」
七海の顔は、険しくも笑顔になる。
「やれるもんなら…?やれるよ…あんたなら…。ななみん…」
あすみは、穏やかな口調で言った。
「あん…?」
七海は、目を丸くしてあすみを見詰めた。
「でも、絶対にさせない…!!」
そして、あすみは悪戯っぽく笑った。
「どっちやねん!!」
七海も、笑顔で返した。
6605投稿者:リリー  投稿日:2009年03月08日(日)20時50分31秒
「へへ…。まあ、ええわ…。絶対に打ったる!!逆転サヨナラ満塁ホームランを、打ったる!!」
七海は、バットを天上に突き上げ、そして構える。
あすみは、伊藤から返球されたボールをじっと見詰めながら呟く。
「そう…。それができたら『グランドスラム』だね…」
「『グランドスラム』?」
「満塁ホームランのことを、『グランドスラム』って言うんだよ…。あと、『完全制覇』って意味もあるけど…」
このあすみの言葉を受け、七海はニヤリと笑う。
「そうやな…!!『ユニフォーム対決』も、『裏の対決』も…そして、この『試合』も…オノレには、全て勝ったんねん!!」
七海は叫ぶ。
「オノレには、『グランドスラム』で勝ったんねん!!」
6606投稿者:リリー  投稿日:2009年03月08日(日)20時50分50秒
あすみは、もう何も言わずにボールを握り締めると、大きく振りかぶった。
足が高く上がる。
「ヨー…」
足が降り、背中が…肘がしなる。
「ソー…」
そして、長い指先から白球が解き放たれた。
「ロー!!」
七海は、バットを振り抜いた。
金属音と共に、白いボールは青空に吸い込まれていった。
『聖テレ』ベンチからは歓声が…『天歳連合』ベンチからは、悲鳴があがる。
「『グランドスラム』…」
あすみは打球の行方を見送りながら、嬉しそうに呟いた。

(最終回『十二回・表』・・・終了)
6607投稿者:リリー  投稿日:2009年03月08日(日)20時56分13秒

これで、『表』は最終回…終わりです

あすみの出番も、これにて終了です

残りは、『12回・裏』とエピローグのみです
どうか、最後までお付き合いください

6600さん
すみません…
でも、本当に楽なんです
七海が、女子中学生とは思えない剛速球を放るのも、そういう理由です
乱打戦になると、『何故打てたのか』・『打球はどうなったのか』・『どういう処理をしたのか』・『打てて嬉しい打者の描写(またはベンチの様子)』・『打たれて悔しい投手の描写(またはベンチの様子)』…と、書かなければならないことが多すぎます
それをすっ飛ばすと、まるでYahoo!の野球速報みたいになりますので…

では、おちます
6608投稿者:デジ  投稿日:2009年03月08日(日)21時45分56秒
いやあ。最後まで大激闘でした。逆転満塁サヨナラホームランで締めくくられた第三戦いままでで一番清々しい終わり方でしたね。
あすみの出番終了ですか。ちょこっと寂しいですね。
さて、次から最後の裏ですか。最後まで楽しみにしてますよ!
6609投稿者:リリーさん野球好きすぎでしょ  投稿日:2009年03月08日(日)21時56分49秒
野球をここまで分析して楽しむ女性が他にいようか?いやいまい(反語)
6610投稿者:あげ  投稿日:2009年03月09日(月)22時22分58秒
探すの大変なので上げときます
6611投稿者:時々リリーさんが  投稿日:2009年03月09日(月)22時52分41秒
性別偽ってるんじゃと思うことがある(ごめんなさい)
6612投稿者:自分も  投稿日:2009年03月09日(月)22時54分54秒
思う時ある
6613投稿者:今日は休みだったか…  投稿日:2009年03月10日(火)00時02分14秒
明日たくさん更新してくれるといいけど…
6614投稿者:ショックで寝込んでるのかな  投稿日:2009年03月10日(火)00時05分40秒
 
6615投稿者: 投稿日:2009年03月10日(火)00時33分28秒

6616投稿者:あげ  投稿日:2009年03月10日(火)14時37分11秒
6617投稿者:あげ  投稿日:2009年03月10日(火)21時50分05秒
あげ
6618投稿者:今日も休みか  投稿日:2009年03月11日(水)00時04分16秒
残念
6619投稿者:あげ  投稿日:2009年03月11日(水)00時05分18秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544e.html
6620投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時19分39秒
6613さん、6618さん、その他多くのみなさん
二日連続で更新を休んだこと、大変申し訳ありませんでした
一日目は、忙しすぎたこと、二日目は、友達と焼肉パーティーをしてたからで…
6614さんの仰ってることは、日本が負けたことですか?
まあ、あの試合はピッチャーが打ち崩されたわけじゃないので、大丈夫だと思います
あと、どっちにしろキューバとは戦うことになるので、どっちが楽か、なんてことは考えなくていいと思います
むしろ、負けるとしたら、あそこで負けていた方がいいでしょう
連勝で気分が緩んだままアメリカに向かっていたかもしれないし…
でも、打線が心配ですね
後に行けば行くほど、ピッチャーだって疲労が溜まってきますしね

6621投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時26分50秒
デジさん、長い間、応援してくださってありがとうございます
もうすぐ、この小説も終わりとなります
6609さん
ありがとうございます
でも、私の友達の方が、もっと詳しいです
昨日の焼肉でも、WBCの話題で盛り上がってました
6611さん、6612さん
ついに、ネカマ疑惑まで…
でも、確かに野球で盛り上がれる友達は少ないですね
そう思われるのも、仕方がないのかも…
全然、気にしてませんよ
6610さん、ありがとうございます
あと、6619さん
また、前の部分が過去ログに行ってしまったのですね
ありがとうございます
あげコメントもありがとうございます
では、更新します
6622投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時29分16秒
最終回『十二回・裏』
≪2008年3/22(土)≫

午後9時20分。
夜の都心。
今夜は特に騒がしい。
東京中を、パトカーが走り回っている。
街は、パトランプの赤い光で染まっている。
『難田門司』を乗せた黒いワゴンは、首都高速を猛スピードで突っ切っている。
パトカーの大群は、けたたましくサイレンを鳴らしながら、その黒いワゴンを追跡しているのだ。
日本最大の麻薬売買組織のボスである難田門司は、去年の夏、警察に捕まった。
だが、『何者』かが拘留所から難田門司の逃亡を手助けしたのだ。
難田門司と共に、その部下である三人組『安田大サーカス』も逃亡…その『何者』かが用意した黒いワゴンに乗り込み、逃走劇を繰り広げている。
だが、パトカーを駆る警官達は、その標的を絞る事ができない。
全く同じ黒いワゴンが3台、目の前を走っているのだ。
ナンバーは、どれもステッカーが貼られて隠されている。
その3台の黒いワゴンが、マジシャンが披露するカップの手品の様に、位置を入れ替えながら走っている。
当然、ガラスにはスモークがかけられ、車内を窺うことができない。
つまり、どの車に難田門司が乗っているのかわからないのだ。
6623投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時30分11秒
黒いワゴンが一台、首都高速を降りた。
数台のパトカーは、その一台を追う為に高速を降りた。
そして、また一台…また一台と…ワゴンは高速を降りる。
どの車に難田門司が乗っているのかわからない。
しかし、パトカーはその数を割きながらも追跡をしなければならない。
首都高速を降りたワゴンは、驚異のドライビングテクニックでパトカーを振り切って行った。
この難田門司の逃走計画は、以前から噂にはされていたのだ。
それが本当に起こるのか、いつ起こるのかは、予想ができなかったが…。
難田門司の組織は弱体化されており、これだけの車やドライバーを揃えられるわけがない。
明らかに、別の『組織』が加担している。
そして、その『組織』に心当たりがないわけでもない。
だが、もし難田門司の逃走に、その『組織』が関わっているのだとしたら…警察の手に負える事件ではないのかもしれない。
6624投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時30分37秒
「ご苦労さん…。あとは『新人』達がやってくれるでしょう…」
裏探偵『TDD』の『ハイエロファント(教皇)』…伊藤正行は、コートのポケットに手を入れたまま、振り返ることなく後ろに立つ二人の男女に語りかけた。
二人の男女は、それぞれ日本刀を提げている。
「ふん…!!こんな簡単な仕事…私達がやる必要もないでしょうに…!!」
長い髪の毛を掻き揚げながら、『エンプレス(女帝)』の後藤理沙は吐き捨てる様に言った。
「まあ、今回は『新人』の力量を計る為でもあるらしいので、我々は楽をさせてもらいましょう…」
金髪を櫛で梳きながら、『エンペラー(皇帝)』の楠本柊生は理沙をなだめる様に言う。
伊藤と楠本と理沙の三人は、首都高速を見渡すことのできるビルの屋上に立っていた。
「『新人』の力量を計る?ウソばっかり!!『ハイエロファント』!!」
理沙は、伊藤を睨みつける。
「あなた、今回の仕事の作戦参謀でしょう!?ワザと私達につまらない仕事を押し付けたわね?」
「つまらない?とんでもない。『難田門司』氏を拘留所から逃がす…。誰でもできるような仕事じゃありません」
伊藤は、理沙の方を一瞥もせずに答えた。
「ふん!!何言ってんのよ!!その程度の仕事、『堕超』の3人にでもやらせときゃいいのよ!!」
「『堕超』の3人は、別件の仕事を抱えてます。もっと簡単な仕事ですけど…」
相変わらず、伊藤は黒いワゴンとパトカーが走り去った首都高速を眺めている。
6625投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時30分59秒
「でも…本当のところは、『R&G』に惨敗した我々を、今ひとつ信用していない…ということでしょ?」
楠本は、伊藤の顔を覗き込みながら訊く。
「…そこまでわかってるのなら、言わせないで下さいよ…」
伊藤は、やっと楠本を…理沙をその冷たい目で見た。
「やっぱりね…」
理沙は鼻で笑って目を逸らす。
「あすみとみのぽーは、『デンジャラスK』のスカウト…。シンパンマンはワゴンの手配…。ほとんど罰ゲームね…」
「ま、その中でも我々にあてがわれた仕事は、やり甲斐があったってことでいいじゃないですか…」
楠本は、伊藤の代わりに理沙の機嫌を直すことに必死だ。
「今回の仕事は、あなた方が失敗した難田門司氏の海外逃亡の尻拭いです。また失敗することは許されませんので…」
この『難田門司・海外逃亡』の依頼は、無償で行っている。
理沙達が成し遂げる事ができなかった前回の依頼を、これで帳消しにする為だ。
これ以上の任務の失敗は、『TDD』の名誉に関わることなのだ。
6626投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時31分38秒
「う〜ん…。失敗ねぇ…」
楠本は、頭を指先で掻いて苦笑する。
「先生には申し上げ難いことなんですが…」
「何ですか?」
伊藤は、ジロリと楠本を横目で見る。
「今回も…ちょっぴりやっちゃったみたいで…」
「…!?」
いつの間にか、銀色の糸が自分達の周りを取り囲んでいる。
チュイイイィ〜ンという金属音と共に、伊藤、楠本、理沙の三人を幾重にも縛り付ける。
「君達…着けられたな?」
伊藤の言葉が終わらないうちに、その金属の糸はバラバラとコンクリートの床に散らばって落ちた。
「問題ないわ…。『ハイエロファント』…」
理沙が、日本刀を鞘に納めながら呟く。
視線は、暗闇を向いている。
「出てきなさい!!『R&G』!!」
理沙の声が、静寂に響く。
「やっぱり…。あなた達『TDD』が関与してたのね…」
外国人訛りだが、流暢な日本語が答える。
暗闇から姿を現したのは…『R&G探偵社』の探偵達…。
『ダブル・フィッシャーマンズ・ノット(二重釣糸縛り)』の俵姉妹、『クリムゾン・レイン(深紅の雨)』の岩井七世、そして『アイアン・メイデン(鋼鉄の処女)』のジャスミン・アレンだった。
6627投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時32分01秒
4人とも、トラックスーツに身を包んでいる。
あの、元旦の決戦と同じスタイルだ。
いや、一人だけ違う。
七世の持っている武器だ。
あの、優雅な白い日傘ではない。
長く、大きな一振りの『薙刀』…。
「おや?七世さん…。その武器は?」
楠本は、眉を上げながらその仰々しい武器を眺めた。
「これが私が最初に使っていた武器なの…。薙刀って、好きじゃなかったんだけど、あなたに二度も負けて、再び使う決心を決めたのよ」
「私に負けて…?」
「ええ…。あなた、言ったでしょ?私は防御を考えすぎるって…。だから、本来の攻撃重視の戦法に変えたのよ」
七世は、薙刀の刃を楠本に向ける。
「コードネームも、『クリムゾン・レイン(深紅の雨)』から『ホワイト・アンダンサス(白の撫子)』に戻したわ…」
「ほほう…新生の七世さんってわけですか…」
楠本は、唇をぺロリと舐めて笑った。
「ええ…。まず…あなたへのリベンジ…させてもらうわ…」
七世が、一歩前へ出る。
6628投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時32分23秒
「『ホワイト・アンダンサス』…」
ジャスミンが、声をかける。
「心配しないで…。『アイアン・メイデン』…」
「心配?私が心配しているのは、あなたが一人で全部片付けてしまわないかってこと…」
そう言って、ジャスミンは笑った。
「薙刀を持ったら、あなたは最強よ」
「『鬼に金棒』ね…」
俵姉妹も声をかける。
「鬼?失礼ね。あなた達…」
七世も笑顔で答える。
「うん、うん。これは楽しみだ…」
楠本は、日本刀をゆっくりと抜いた。
「待って…。『エンペラー』…」
理沙が、楠本よりも速く日本刀を抜いた。
「ねぇ…。あなた…私にも惨敗したの、忘れちゃった?」
七世の眉が、ピクリと動いた。
「山本組長の別荘で…。あなたのキレイな身体…私、忘れられないのよ…」
理沙は、日本刀の切っ先を、七世の胸元に向ける。
「うふふ…。あの白い肌…。ズタズタに切り裂いて、真っ赤に染めてやりたかったの…」
七世は、じっと理沙を睨みつける。
「いいわ…。まず、あなたからリベンジね…」
6629投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時32分46秒
七世は、薙刀を頭上で大きく旋回させると、理沙に向かって突っ込んでいく。
「はあああああ〜〜〜!!!」
理沙は、振り下ろされた薙刀の刃を飛び上がって避ける。
「きええええ!!」
今度は、理沙が七世に日本刀を叩き込む。
「ふん!!」
七世は薙刀の柄をかざし、日本刀の一撃を受け止める。
そして刃を滑らせながら理沙に接近すると、身を翻して薙刀で斬り付ける。
「…く!?」
理沙も身を翻してその一撃を避ける。
「う!!」
理沙の赤いスーツの背中が、パックリと大きく裂けている。
背中の弥勒菩薩の入墨が、寒空に晒された。
「ふふふ…。肌を傷つけられるのは、あなたの方じゃなくって?」
七世は、余裕の笑みを浮かべる。
「…く!!いい気になるなよ!!小娘!!」
理沙の表情からは、余裕が消えた。
6630投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時33分09秒
「待って。『エンプレス』。ストップ」
楠本が、理沙と七世の間に割り込んだ。
「ちょ、ちょっと!!『エンペラー』!!邪魔しないでよ!!」
ヒステリックに理沙が叫んだ。
「邪魔はしませんよ。ただ、ちょっといいですか?」
楠本は、改めて『R&G』の4人の探偵達に正対する。
「あなた方の目的は、難田門司氏を捕まえることですよね?」
「…ええ…。そうよ…」
ジャスミンが答える。
「ならば、私達に構っている暇はないはずです…」
「…どういうこと?」
「あの3台の黒いワゴンのどれかに難田門司氏が乗ってます。まず、あのワゴンを追跡することが第一優先させるべきではないですか?」
「どうして、わざわざそんなことを?」
七世が、薙刀を構えたまま訊く。
「ふん…。つまり、あの3台のワゴン、どれにも難田門司は乗ってないってことじゃない?」
ジャスミンは、西洋剣『フルーレ』を楠本に向ける。
「あなた達に張り付いていれば、いずれ難田門司には辿り着けるわ…」
6631投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時33分28秒
今まで黙っていた伊藤が、溜息と同時に首を横に振る。
「そう思うんだったら、いいですよ。ここで思う存分戦いましょう。いえ、私は戦いませんよ?『エンペラー』と『エンプレス』…この二人で充分でしょう…」
そう言いながら、伊藤は楠本と理沙の後ろへ身を退いた。
楠本は苦笑いをしながら、伊藤の前に立った。
理沙はと言うと、殺気の篭った目で七世を睨みつけている。
「いいわ…。『ホワイト・アンダンサス』は『エンプレス』を…私は『エンペラー』をやる…。『ダブル・フィッシャーマンズ・ノット』達は、『ハイエロファント』を逃がさないように…」
ジャスミンは、楠本にフルーレの切っ先を突きつけて言った。
「ジャスミンさん…。あなたとも、一度お手合わせしたかった…」
楠本が日本刀を構えた。
ジャスミンの肩膝が、直角に曲がる…。
奥義『Guilty(有罪)』をいきなり披露するつもりだ。
その時、ジャスミンの懐の携帯が揺れた。
「ちょっと待ってね…」
手甲をはめた左手では扱いづらいので、ジャスミンはフルーレを脇に挟むと、右手で携帯を取り出した。
送信主は、『グランド・スラム(完全制覇)』…。
「もしもし…。『アイアン・メイデン』よ…。今、『TDD』と接触中…。ええ…。結局、あなたの予想通りとなったわね…」
しばらく、ジャスミンは電話で話す。
「…OK…。わかった…。あなたがそう言うなら…」
ジャスミンは、携帯を懐に仕舞うと楠本に背中を向けた。
6632投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時34分22秒
「…!?どうしました?」
楠本は構えた日本刀を下ろし、ジャスミンに尋ねた。
「あなた達とは戦わない…。難田門司を…あの黒いワゴンを追うわ…。行きましょう」
「そういう指令なの?なら仕方ないわね…」
七世も俵姉妹も、ジャスミンの後を追う。
「おい!!待て!!逃げる気か!?」
怒鳴り声をあげる理沙に、七世が振り向いて答える。
「逃げる?うん。そういうことでいいわ…。あなた達へのリベンジよりも、もっと大切なことがあるから…」
そう言うと、『R&G』の4人の探偵達は、暗闇に姿を消した。
「クソッタレ!!」
乱暴に音をたてて、理沙は刀を鞘に戻した。
怒りの治めどころはない様だが…。
「う〜ん…。作戦通りにはいかないもんだ…」
伊藤は、キッチリと切り揃えられた前髪を掻き揚げながら呟いた。
「なるほど…。ワザと追跡されやすい場所で待ち合わせして、少しでも相手の戦力をここに釘付けにしようという、戦略でしたか…」
楠本も、刀を納めながら伊藤に語りかける。
「私達にこの役目を押し付けたのも、戦闘になるかもしれないと思ったからね?」
忌々しいというような表情で、理沙は伊藤を見る。
「いやぁ〜〜〜…。勉強になりました。せいこう先生…」
楠本は伊藤に向かってペコリと頭を下げた。
6633投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時34分57秒
「やめて下さい…。見破られてしまったんですから…。向こうにも、相当頭の切れる参謀がついてますよ…」
伊藤は、顔を顰めながらポケットから左手を出す。
その左手には、包帯が巻かれている。
「どうしました?その手…」
楠本は一応、社交辞令で聞いてみた。
「いや…。あすみくんの剛速球を受けて…この通りですよ…」
力なく笑いながら、伊藤は包帯の巻かれた左手をヒラヒラと揺らす。
「あすみと?野球をやったの?」
怪訝な顔で、理沙も尋ねた。
「ええ…。面白い試合でしたよ。さすがに骨折はしませんでしたが、パンパンに腫れてしまって…」
呑気に答える伊藤を、楠本は少し心配した。
「でも、それじゃあ本職に影響がでません?」
そう…伊藤は『表』の顔は心臓外科医なのだ。
「ああ…。来週、バチスタ手術が一件あるんだが…。それまで治るかな…?」
「バチスタって…。ヤバイじゃないですか!!他にできる人、いるんですか?」
「まあ、第一助手にやってもらうことになるんですが…私がやらなかったら、成功率は60%に落ちるだろうな」
「…医者、失格ですね…」
楠本は、呆れ顔で笑った。
「人間失格の君に言われたくないよ」
伊藤は顔を無表情に戻し、再び3台のワゴンが走り去った首都高速に視線を落とした。
6634投稿者:リリー  投稿日:2009年03月11日(水)21時36分03秒
グラスラ最後のエピソードは、難田門司の逃走劇です
 
では、おちます
6635投稿者:仲間に  投稿日:2009年03月11日(水)21時44分01秒
なったのかな?
6636投稿者: 投稿日:2009年03月11日(水)21時51分05秒

6637投稿者:デジ  投稿日:2009年03月11日(水)23時21分32秒
リリーさんもお忙しいようでご苦労様です。
新たな展開過ぎる展開ですね。
まずは七世。攻撃重視に変更しましたか。攻撃武器が薙刀というのも、コードネームでさえ「ホワイト・アンダンサス(白の撫子)」というのも、完全に戦争少女のなってますね(笑)
「R&G」側の電話の相手に出てきた「グランドスラム」とは誰か。そして、難田門司の決着はどういったものになるか。続きが気になります。
              (今日の小言)
?心臓外科医って・・・・・・。もしかしてあれ(チーム・バチスタの栄光)が元ネタですか?
そして表で、有沙がしばしば言ってた裏の仕事を匂わせる発言がこれだったとすると、もしかして、「R&G」側に有沙も加担してる?

?これって3月22日の出来事なんですよね・・・。長い1日ですね。
この日実は、僕の誕生日でした。今頃やっと15歳を迎えてますね。
思うんですけど、4月に近いの誕生日の人と、1月に近いの誕生日の人ってどっちが得なんでしょう?一般だと、1月に近いが嬉しいイメージがありますが、学生の僕にとって4月に近いのほうが得なイメージが・・・。皆さんどう思いますか?
6638投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時10分52秒
6635さん
今回、『R&G』も『TDD』も新しい仲間がいます

デジさん
確かに、薙刀も撫子も軍国少女のイメージですね
気付きませんでした
?はい、『チームバチスタの栄光』で知ったばかりです
有沙は、『TDD』側についてはいません
警察経由で、この日が『難田門司逃走計画』が起こるのではないか、と情報を得ていて、今夜あたり決行するのかな…という感じで用意してた、ということです
?そうですか、もうすぐ誕生日なんですね
おめでとうございます
1月と4月、どっちが得かとよく言われますね
1月くらいに生まれると、体格とかで同級生に劣って、損だなんて言われてますが、意識したことないですね
韓国では、体が小さいといじめの対象になるとか言って、1月〜3月生まれの子の小学校入学を1年遅らせてる親が、何割かいるそうです
義務教育とか、どうなってんでしょうね?

あげ、ありがとうございます

では、更新します
6639投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時13分09秒
最初に首都高速を降りた黒いワゴンはパトカーの追跡を振り切って、今は明海埠頭の港を走っている。
このワゴンの運転手は随分強引な逃走劇を繰り広げたらしく、真四角だった車体が所々大きくへこみ、その原形の面影がなくなっていた。
港には貿易船の類は一隻もない。
閑散とした港…積み上げられた大きなコンテナの影に、人影が見える。
その数は、4人…。
彼等…いや、彼女等は猛スピードで迫ってくるワゴン車を、じっと見据える。
「やっぱり来たわね…」
緑地に黒いラインのトラックスーツに身を包んだ少女…『チームR』・コードネーム『ムーン・ライト(月光)』の木内梨生奈は、そう言ってトンファーを握り締めた。
「へへへ…。飛んで火にいる夏の虫だな…」
赤地に黒いラインのトラックスーツに身を包んだ少女…『チームR』・コードネーム『ライトニング・ボルト(雷電)』の細田羅夢は、そう言って首に掛けていたヌンチャクをはずす。
「今は、春だけどな…。ま、いいや…虫ケラに変わりはねぇ…」
エメラルドグリーンにショッキングピンクのラインのトラックスーツに身を包んだ少女…『チームS』・コードネーム『ブラック・パイソン(黒の毒蛇)』のジョアン・ヤマザキは、そう言って輪になっていた鞭をゆっくりと伸ばす。
「願わくば…あの車に難田門司が乗っていればいいのだが…」
山吹色に橙のラインのトラックスーツに身を包んだ少女…『チームS』・コードネーム『サムライ・ガール(剣術小町)』の村田ちひろは、そう言って木刀を愛しそうに擦った。
『R&G探偵社』の『チームR』と『チームS』の4人は、難田門司捕獲の為、ここ有明埠頭に先回りをしていたのだ。
6640投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時13分32秒
「それにしても、たいしたものね…。『グランド・スラム(完全制覇)』は…」
梨生奈の言葉に、羅夢も頷く。
「ああ…。ターゲットがここに来るだろうって、見事に言い当てやがった」
そして『チームR』の二人は、コンテナの陰から飛び出した。
「おい!!いきなり叩きのめすんじゃねえぞ!!アタシ達の分もとっておけ!!」
ジョアンが二人に怒鳴る。
「ふん!!知るかよ!!」
羅夢は、ヌンチャクを振り回しながら、迫り来るワゴンへ向かって駆け出した。
「久しぶりの実戦だから…余裕はないのよ!!」
梨生奈も、トンファーを構えて羅夢の後に続く。
黒いワゴンは、『チームR』の二人が行く先を塞いでいようとも、構うことなく突っ込んで来る。
「行くぜ!!『ムーン・ライト』!!」
「OK!!『ライトニング・ボルト』!!」
羅夢は飛び上がって縦回転、梨生奈は地面スレスレに横回転で車へ突っ込んで行く。
「『AVEX』(A Violence EXplosion)!!」
凄まじい二つの暴風は、真正面からワゴンに衝突した。
縦回転の羅夢は、ワゴンのフロントガラスを粉々に砕き、屋根を紙くずの様に引き裂いた。
横回転の梨生奈は、ワゴンの前輪を叩き落し、車体を斜めに傾けさせた。
ワゴンは軽いアルミ缶の様に十数メートルの距離を凄まじい勢いで転がり、仰向けの体勢で止まった。
既に損傷の激しい車体ではあったが、もうそれが車であったとは判別できないくらいに破壊されてしまった。
6641投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時14分17秒
コンテナの陰からジョアンとちひろの『チームS』が恐る恐る姿を現し、その無残な状態のワゴンを遠目で見た。
「あ〜あ…。こりゃ、アタシ等の出番、ねぇじゃん…」
ジョアンは、つまらなそうに呟いた。
「いや、それよりも、救急車が必要なのではないか?」
ちひろは、ジロリと『チームR』の二人を睨んだ。
「あ…はは…。霊柩車が必要だったりして…」
さすがにやり過ぎたという表情で、羅夢は冷や汗を垂らしている。
「ごめんね…。つい、力の加減が…」
梨生奈も、心配そうにワゴンを見詰める。
6642投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時14分32秒
「お〜い、生きてるか?難田門司〜〜〜!!」
ジョアンは、呑気に大声をあげて、ワゴンへ駆け寄って行く。
「…!?止まれ!!『ブラック・パイソン』!!」
ちひろが、咄嗟に叫んだ。
「あん?何だよ?『サムライ・ガール』?」
ジョアンがちひろの方を振り向いた瞬間、くず鉄となったワゴンの車体は、凄まじい音と共に四方に飛び散った。
「…何!?」
ジョアンは、飛んで来るワゴンの金属片を床に伏せて間一髪で避けた。
ちひろは、再びコンテナに身を隠す。
「オラオラオラ〜〜〜!!!」
梨生奈の前に躍り出た羅夢は、ヌンチャクを振り回して金属片を弾き飛ばした。
「こ…これは…?」
梨生奈は、細い目を大きく見開いて前方を見詰める。
6643投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時15分03秒
ガソリンに引火して爆発したのではない。
爆炎が、あがっていないからだ。
ワゴンが転がっていた地点には…肩幅の広い、大柄でズングリとした男のシルエットが窺える。
「だ…誰だ…?」
ジョアンは、目を見張りながらゆっくりと立ち上がる。
「難田門司ではない…。ヤツは、随分小柄な男と聞いている…」
ちひろは、木刀を構えながらコンテナの影から姿を現す。
「行くぜ…!!」
今にも走り出さんとする羅夢。
「待って!!」
そんな彼女の肩を押さえつける梨生奈。
まず、あの男が誰なのか…正体を見極めなければ…。
6644投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時15分33秒
その大柄な男のシルエットは、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「おう!!てめぇ、一体、誰だ!!」
ジョアンの怒鳴り声が、夜の港に響き渡る。
そして、灯台の光がその男の姿を照らし出した。
「…!?」
一同は、その男の姿を見て、一瞬声を失った。
その男は、トラックスーツを身に着けていた。
『R&G』の探偵と同じものだ。
ただ、色が違う。
黄色地に、黒のラインのトラックスーツ…。
6645投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時16分58秒
短髪で鬚を生やした、日焼けした男…。
トラックスーツは、隆々とした筋肉ではちきれそうだ。
「だ…誰だ…!?てめぇ…!!」
もう一度、ジョアンは叫んだ。
男は、ようやく口を開く。
「裏探偵『TDD』…」
「『TDD』だと…!!」
『TDD』という名を聞き、ジョアンは咄嗟に後ろに飛び退いてその男と距離をとった。
改めて臨戦態勢をとった4人の少女を、ゆっくりと一人一人吟味するように男は見回し、言った。
「『デンジャラスK』こと…川田利明だ…」
「な…に…!?」
『デンジャラスK』…名前だけは何度も聞いたことがある…!!
彼も『TDD』の一員なのか…。
いや、有海から『TDD』のメンバー構成を聞いた時、彼の名はなかったが…。
「コードネームは『ストレングス(力)』だそうだ…」
思い出したかの様に、川田は付け加えた。
「『ストレングス』だと!?」
ちひろの表情が一瞬強張った。
『ストレングス』は、元旦の決戦で自分と死闘を繰り広げた、秋山恵のコードネームだった…。
彼女は、原村のペンション『ハセヤンズハウス』のオーナーであるハセヤンの息子と結婚し、裏の世界からは足を洗ったはず。
つまり、川田は恵の代わりとして、『TDD』に新しく加わったメンバーということになる。
6646投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時18分30秒
「ふむ…。俺の所には、君達がきたのか…。『チームR』に『チームS』…。データは貰ってる」
プロレスラーの様に、両腕を交差させながら自らの身体を叩く川田。
「『デンジャラスK』が『TDD』か…!!相手にとって不足はねぇ!!」
いきり立つジョアンだが、たった一人で川田に挑みかかることはしない。
猪突猛進と言われる彼女でも、川田の力は充分に予測できている。
ちひろと羅夢、そして梨生奈と4人で、川田を取り囲んだ。
「む…?いっぺんに来るか?」
微かに片眉を上げた川田は、足下に転がっているワゴンの車輪を掴んで脇に抱えた。
大型ワゴンの車輪…かなりの重量がありそうなのだが、川田は浮き輪を扱うように軽々と持ち上げている。
「『キレモノ(刃物)』使いはいないようで、ラッキーだった…」
そう呟いて、川田はもう一度4人を見回した。
「『キレモノ』?へん!!コイツは相当の『キレモノ』だぜ?」
羅夢は、親指で梨生奈を指し、続いて自分を指す。
「そして、アタイも『キレモノ』だ…。キレやすいって意味だけどな…」
「ははは!!面白いことを言うな。君…」
豪快に笑う川田は、砲丸投げの如くその場で身体を回転させた。
「…!!野郎!!」
羅夢をはじめ、皆は構えた身体をますます硬くした。
川田は、4人のうちの誰かに向けて、タイヤをぶつける気だ。
6647投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時18分58秒
4人は、以心伝心でこの後の行動を決める。
誰にタイヤをぶつけるのかはわからないが、川田が投げた瞬間を狙う。
タイヤを抱えながら身体を回転させている川田は、標的を誰にするのかを既に決めている。
(ここは、やはり司令塔的存在から仕留めるか…)
狙いは、梨生奈…。
(ブランクも長いと言うし…)
川田は、梨生奈の方を向くと同時に、タイヤを指から離した。
「…!!」
溝のゴツゴツしたタイヤが、梨生奈に迫る。
当然、梨生奈はジャンプをして避ける…が、既に川田が梨生奈の頭上に…。
(な…!?は、速い…!!)
タイヤを投げたと同時に、ジャンプしたのか!?
「『ムーン・ライト』!!」
羅夢がヌンチャクを振り上げで飛び上がったが、間に合わない…。
川田は空中で、後ろ回し蹴りを放つ。
梨生奈は、咄嗟にトンファーを持った両腕で、胸から頭にかけてガードをする。
「…ぐぅ!!」
川田の重い蹴りが、梨生奈の両腕に炸裂した。
「うわあああ!!」
そのまま梨生奈は数メートル後方へ飛ばされ、海の中へ飛び込んだ。
6648投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時19分25秒
「ふむ…。これで司令塔は片付けた…」
着地と同時に、川田は満足そうに呟いた。
「てめぇ!!」
怒り心頭の羅夢は、背中を向けている川田にヌンチャクを叩き込む。
「オラオラオラ!!」
広い背中、そして後頭部にヌンチャクが炸裂する。
「…うん?何かしたのか?」
平然とした表情で、羅夢を振り返る川田。
「…な…?」
これには羅夢も、目を丸くした。
川田は、再び羅夢に背中を向ける。
ただし、それは一瞬…またも回し蹴りを繰り出そうとしているのだ。
回し蹴りが羅夢の側頭部に炸裂する直前、川田は大きくバランスを崩した。
「ぐ…!?」
川田の太い首に、黒革の鞭が巻き付いている。
ジョアンが、力の限りに鞭を引き絞っていた。
6649投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時19分49秒
「『サムライ・ガール』!!」
ジョアンの声よりも速く、ちひろは木刀を川田に向けて振り下ろしていた。
「ふん!!」
川田は、羅夢に向ける予定だった左足を、ちひろの振り下ろした木刀に合わせる。
「ぐあ!!」
ちひろの手から、木刀が回転しながら飛んで行った。
剣道で随分握力を鍛えていたつもりのちひろだが、この衝撃は予想外だった。
木刀は、そのまま梨生奈が落ちた海へ…。
「く!!またも、木刀を失くしてしまった!!」
悔しそうにちひろは呻くと、腰のベルトに差した伸縮自在の金属制ロッドを抜き、それを振る。
金属音と共に、ロッドは伸びる。
「せいいいいい!!」
「オラアアアア!!」
ちひろと羅夢は、前後から川田をそれぞれの武器で滅多打ちにした。
「ぐむむむ…」
さすがの川田も、両腕で頭を庇い、その身を崩す。
「その調子だ!!もっと攻めろ!!」
「てめぇ、コラ!!くたばりやがれ!!」
攻撃の手を緩めようとしない、ちひろと羅夢。
6650投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時20分43秒
川田は、冷たいアスファルトの地面に片膝を着いた。
だが、それは凄まじい攻撃に屈したからではない。
首に巻き付いた鞭を掴んだ川田は、その怪力で思いっきり引き寄せる。
鞭を持っていたジョアンの身体が、ふわりと宙に浮く。
「…うぉ…」
ジョアンが声をあげる前に、彼女の身体は大きく旋回する。
「ぐあ!!」
「う!!」
背中に衝撃が走る…と、同時に羅夢とちひろの呻き声…。
川田がジョアンの身体で、ちひろと羅夢を弾き飛ばしたのだ。
そしてジョアンは、梨生奈と同じく海へ…。
「く…そおおおおお!!!」
目の前に迫る、黒い海面…。
ジョアンは叫ぶしかなかった。
そのままジョアンは海へと飛び込んだ。
6651投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時21分04秒
川田は、ゆっくりと首に巻き付いた鞭を外す。
「ああ…苦しかった…」
そして、地面に転がる羅夢とちひろを見下ろす。
「ふふん…。さすが『R&G』…。君達が『TDD』に勝利したという話し…やっと信じる気になったよ」
そう言うと、川田は両腕にできた痣を擦りながら、二人から離れる。
「ま…待ちやがれ…」
羅夢が、その身を僅かに起こす。
「な、何で…とどめを…刺さねぇ…」
「とどめ?」
その鋭い切れ長の目を大きく見開いて、川田は振り向いた。
羅夢に言われた言葉が、心底意外そうだった。
「まだ…勝負は終わってはいないぞ…」
ちひろも起き上がり、地面に転がっていたロッドを拾い上げる。
「勝負…?何だよ、勝負って…。終わったよ。俺の仕事は終わった…」
川田は再びちひろと羅夢に背中を向けた。
「仕事だとぉ!!」
羅夢は怒鳴り声をあげる。
「ああ、仕事だ。難田門司を逃がす間、警察や君達『R&G』を引き付けておくことが、今回の俺の役目なんだ」
うんざりした様に、川田は背中を向けたまま言う。
6652投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時21分23秒
「難田門司を逃がすまで…?だったら…まだ、仕事は終わりではないだろう…」
ちひろの声は、低く落ち着き払っている。
「何?」
また、川田は振り返る。
既にちひろと羅夢は、立ち上がってそれぞれの武器を構えてる。
「逃がさないからだ…。我々の仲間が…」
「ああ…。逃がすもんかよ…」
そして、また挑むように力強い足取りで川田に向かって行く。
「これ以上、俺とやるというのか?」
短く整えられた顎鬚を撫で擦りながら、川田は睨んだ。
「へへへ…。『デンジャラスK』…思ったよりたいしたことないな…」
挑発する様に、羅夢は笑う。
6653投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時21分57秒
川田は困ったように苦笑すると、溜息を一つついて右の拳をパンと左手で叩いた。
「OK!!俺も、『TDD』の初仕事がこんなんじゃ物足りなかったからな…」
「物足りなかった…?そう?だったら、本気を出させてもらうわね…」
いつの間にか、全身ずぶ濡れの梨生奈が川田の後ろに立っていた。
「てめぇ!!もう、容赦しねぇ!!」
大きな水飛沫と共に、ジョアンが海から飛び出してきた。
「『サムライ・ガール』!!」
そして、海から拾ってきた木刀を、ちひろに向かって投げつけた。
回転しながら飛んで来る木刀を、片手で受け止めるちひろ。
「今こそ、二刀流奥義、見せてやれ!!」
「…だから…あの話しはウソだと言ってるのに…」
ちひろはそう言ったが、右手に木刀、左手にロッドを持ち、川田に相対する。
『チームR』と『チームS』の4人は、再び川田を取り囲んだ。
6654投稿者:リリー  投稿日:2009年03月12日(木)21時22分14秒
では、おちます
6655投稿者: 投稿日:2009年03月12日(木)21時53分09秒

6656投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時51分42秒
あげ、ありがとうございます

では、更新します
6657投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時53分08秒
二番目に首都高速を降りたワゴン車も、警察の追跡を振り切ることに成功した。
このワゴンの運転手は、華麗なドライビングテクニックで細い路地裏を縫うように走り抜け、今は渋谷のセンター街を猛スピードで進んでいる。
週末の渋谷…人通りは多いが、ワゴンはスピードを落とさない。
それでも、奇跡的に人を一人もはねていない。
車体には、擦った痕さえ見当たらない。
「あの車…わざと人通りの多いとこばっかり走ってへんか?」
黒地に黄色のラインのトラックスーツに身を包んだ少女…『チームN』・コードネーム『キラー・タイガー(人喰い虎)』の藤本七海は、金属バットのグリップを握り締めた。
「うむ…。まるで我々を誘き寄せている様に見えるな…」
黒地にライトグリーンのラインのトラックスーツに身を包んだ少女…『チームN』・コードネーム『アンダー・クイーン(地下世界の女王)』の中村有沙は、鎌に付いた鎖をゆっくりと右手で巻き取る。
6658投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時53分41秒
このワゴンを待ち伏せするのは、二人にとって容易だった。
一台目のワゴンは強引に車体をぶつけながら逃走したが、やがて人通りの少ない道を走って行き、その行方をくらませた。
今、目の前を走り過ぎようとしているワゴンも警察を振り切ってはいるのだが、大勢の者に目撃されていて、その情報から『チームN』は渋谷に先回り、センター街のビルの隙間から待ち伏せをしているのだった。
「おそらく、あのワゴンには難田門司は乗ってはいまい…」
「なら…モロ、囮ってことになるな…」
七海は、つまらなそうに夜空を仰いだ。
しかし、中村有沙は不敵な笑みを浮かべる。
「だが、運転している者はかなりの腕前だ…。別の意味で大当たりかもな…」
「大当たり?」
「激しい夜になりそうだぞ…。今夜は…」
そう言うと、中村有沙はビルの陰から躍り出て、分銅の付いた鎖を振り回した。
目の前に、ワゴンが猛スピードで迫ってきている。
6659投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時54分00秒
「お!!抜け駆けすんな!!」
七海も、慌ててワゴンの前に身を出した。
「いいか?私がフロントガラスを割る…。貴様は…」
「わかっとる!!そこから中に飛び込んで、中の人間を一人残らず片付けたるわ!!」
そう言いながらも七海は、ちらりと中村有沙の左手首を見た。
テーピングで固められている手首を…。
「オノレこそ、大丈夫か?」
「何がだ?」
「手首の怪我や。今日、野球で…」
「心配無用だ!!自分のことに集中しろ!!」
6660投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時54分24秒
中村有沙が鎖を投げつけようとした瞬間、ピンク色の鉄球がフロントガラスに命中し、粉々に砕いた。
「何!?」
そして、黒い矢がタイヤに突き刺さった。
制御を失ったワゴンは、中村有沙と七海のすぐ脇を走り抜けると、空き店舗になっているビルの一室に突っ込んだ。
白い煙が吐き出され、ワゴンの突っ込んだ一室を覆った。
「な、何やねん!!」
七海が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「おのれ…!!『チームE』か…!!」
中村有沙は、車が突っ込んだビルの屋上を睨む。
その屋上から、二人の少女が手を振っていた。
マスタードイエローにダークグリーンのラインのトラックスーツに身を包んだ少女…『チームE』・コードネーム『キャンディー・ボール(飴玉)』の近藤エマ。
若草色に白のラインのトラックスーツに身を包んだ少女…『チームE』・コードネーム『ビー・アタック(蜂の一刺し)』の渡邊エリー。
二人とも、手にはボウガンを持っている。
6661投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時54分42秒
「おい!!コラ!!降りてこんかい!!ボケェ!!」
七海はありったけの声で、ビルの屋上から覗き込む『チームE』の二人を怒鳴った。
「そんなことより早く車の中の人、捕まえた方がよくない?」
と、エマが言った。
「今ので野次馬達が集まって来ちゃったよ?」
と、エリーが言った。
「二人の言うとおりだ。人が来た…」
中村有沙は、七海の袖を引っ張った。
「ち…!!」
七海は、視線を『チームE』から車が突っ込んで無茶苦茶になった空き店舗へ移す。
「中におるんは、難田門司やないんやろ?どうせ…」
めんどくさそうに呟くと、金属バットを肩に乗せ、七海はもうもうと煙の立ち込める空き店舗へ足を踏み入れようとする。
「…!!『キラー・タイガー』!!離れろ!!」
中村有沙は、咄嗟に七海の長い髪を掴んで引っ張った。
「あいたた!!コラ!!チビアリ!!何すん…」
その時、ワゴンは炎を噴き上げ、爆発した。
「ぎえ!?」
とぐろを巻きながら迫る爆炎を、寸でで伏せて避ける、七海と中村有沙。
集まりかけていた野次馬は、悲鳴をあげて散り散りに逃げ出した。
6662投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時55分07秒
「大丈夫!?」
「何が起こったの!?」
エマとエリーが、ビルの屋上から飛び降りてきた。
「何が起こったの、やあらへん!!オノレらが無茶苦茶しよるから、ワゴンが爆発してもうたやないか!!」
七海は跳ね起きると同時に、エマとエリーへ掴みかかる。
「ちがうぞ!!『キラー・タイガー』!!」
中村有沙が叫んだ。
「あん?何が違うねん?」
七海が振り向いて聞く。
「これは、ガソリンが引火して爆発したのではない!!」
「何やて?」
「中にいる者が、爆発させたのだ」
「爆発させた!?」
「爆発する直前、ガソリンの臭いがしなかった…。代わりに…」
「代わりに?何や?」
「火薬の臭いがした」
「火薬!?」
再び、七海は炎に包まれたワゴンを見た。
6663投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時55分30秒
「つ…つまり…中の人、自殺したってこと…?」
エマが青い顔でワゴンを見詰めた。
「じゃ、じゃあ、私達が殺したってことではないんだよね…?」
力なくエリーが笑う。
「そういうことやないやろ!?生かして捕まえんと、意味ないやん!!」
七海は、悔しそうに金属バットをアスファルト道路に叩き付けた。
中村有沙も同様、唇を噛み締めている。
「とにかく、『グランド・スラム(完全制覇)』に報告だ。犯人確保は失敗したと…。生きて捕まえることができなかった…」
携帯電話を取り出した中村有沙だが、何かに気が付き、叫んだ。
「周りを警戒しろ!!」
「何やて?」
「ワゴンの中の人物…死んではいない!!脱出したぞ!!」
6664投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時55分49秒
その時、感情の込められていない静かな声が、後ろから投げかけられた。
「ふ〜ん…。さすがダーブロウの妹だ。ごまかすことができなかったね…」
「…!?」
七海達は、一斉に後ろを見た。
そこには…ドレッドヘアーの黒人女性が、黒光りする革ジャンパーのポケットに手を突っ込んだ姿勢で立っていた。
元暗殺組織『TTK』四天王・コードネーム『キャット・ウーマン(愛猫家)』…現裏探偵『TDD』のコードネーム『ムーン(月)』の、モニーク・ローズだ。
「モニーク!!」
「ブラッディ・ローズ!!」
反射的に、エマとエリーはボウガンの引き鉄を引いた。
だが、ピンクの砲丸と黒い矢は、ショーウィンドウのガラスを粉々に割った。
「…え!?」
モニーク・ローズが、一瞬で消えたのだ。
「『Roam』だ!!」
中村有沙が叫ぶ。
「どこや!?」
七海は金属バットを構えて辺りを警戒する。
エマとエリーは、背中合わせになってお互いの死角を補い合う。
6665投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時56分32秒
「そこだ!!」
中村有沙は、分銅の付いた鎖を投げつける。
一瞬で、空中にモニークの姿が現れた。
モニークは着地すると、右手に巻き付いた鎖をピンと引っ張った。
その右手には、爪付きグローブがはめられている。
「ふふ…。さすがだね…。中村有沙…」
モニークは僅かに口元に笑みを浮かべた。
6666投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時56分45秒
「オノレ!!モニーク…!!」
七海は金属バットを振り上げて、モニークに向かっていく。
「そして…相変わらず単細胞だね。七海…!!」
モニークは、またも一瞬で姿を消す。
「…うお!?」
七海は、咄嗟に金属バットを縦にかざし、頭と首、胸のラインを防御する。
衝撃と共に火花が散る。
「く!!」
七海は、固いアスファルトに背中から落ちた。
「オノレェ!!」
七海は立ち上がるが、脳天に分銅が落ちてきた。
「痛!!」
動きが、一瞬止まる。
「『キラー・タイガー』!!迂闊だぞ!!」
中村有沙が七海の頭上まで飛び込み、鎌をなぎ払った。
火花が宙に舞う。
二人から遠く離れた所に、モニークは姿を現した。
6667投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時57分04秒
「そこ!!」
エマが、モニークに向けて砲丸を発射する。
だが、既にそこにはモニークはいなかった。
モニークは、忍者の如くビルの外壁を駆け抜けている。
「見える!!」
エリーは、矢を連射した。
ビルの外壁に矢が次々に突き刺さっていく。
「あ、当たらない!!」
焦るエリーの背後…寒気を感じる。
「…!?」
「あ…!!」
エマとエリーの間に、モニークが…。
ガツンと、二人の後頭部に衝撃が走る。
「痛い!!」
二人は、同時に頭を抱えてその場にうずくまった。
そして、またもモニークは姿を消し、遠く離れた場所に姿を現した。
「ゴルァ!!モニーク!!」
頭に血が昇った状態で、七海はモニークに突っ込んでいくが、その場に前のめりに倒れこんだ。
「な、何や!?」
七海の右足首に、鎖が巻き付いていた。
中村有沙が投げたのだ。
6668投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時57分24秒
「何すんねん!!敵を間違えるんやないぞお!!」
顔を真っ赤にして七海は振り返る。
しかし、中村有沙はじっとモニークの方を睨んでいる。
「おい…。モニーク…貴様、どういうつもりだ…?」
ゆっくりとした口調で、問いただす。
モニークは、溜息と同時に笑みを漏らした。
「どういうつもり…と訊かれれば、『戦うつもりはない』と、答えよう…」
「やはりな…」
中村有沙はモニークを睨む目を細めた。
「どういうことや!?」
幾分、冷静さを取り戻した七海は、右足の鎖を取り外して立ち上がった。
「つまり、モニークは難田門司を逃がす時間稼ぎをしているだけ…ということだ…」
中村有沙の言葉に、モニークは一つ頷いた。
「やっぱりね…。さっきので私達死んでもおかしくないもん…」
「だよね。爪で攻撃しないで、肘打ちだもん…」
エマとエリーは、後頭部を擦りながら苦笑いしている。
6669投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時57分43秒
モニークは、爪付きグローブをはめた両手を、再び革ジャンのポケットに突っ込んで言う。
「そこまでわかっているんだったら、無駄な争いはやめにしないか?」
「何だと?」
モニークの提案に、中村有沙は眉をひそめた。
構わず、モニークは言葉を続ける。
「あんた達の目的は、難田門司を捕まえることだろ?私と戦う為ではないはずだよ…」
「確かにそうだな…」
この言葉に、中村有沙は素直に頷いた。
だが、彼女は…七海は素直ではない。
「ざけんなや!!ゴルァ!!オノレは敵や!!『TDD』やないか!!」
金属バットの先を、モニークに突きつける。
「それだけで、ウチ等とオノレは戦う理由になるんや!!覚悟せぇ!!」
そして、バットを振り回しながらモニークへ突っ掛かって行く。
「待てと言うのに…」
七海の黒髪を、またも中村有沙は引っ張った。
「痛いな!!何やねん!!」
「私も、貴様と同意見だ」
「何やと?」
しかし、こういう時には、決まって不意打ちを食らわせられる。
七海は咄嗟に身構えた。
6670投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時58分03秒
だが、中村有沙の視線は、モニークを捉えたままだ。
「ここで貴様を逃がしたら…貴様は、難田門司を逃がす役目に戻るのだろう…?それはさせられない…」
そう言われたモニークは、肩をすくめた。
「ああ…。たしかにそうだね…。今頃、『デンジャラスK』も合流しているだろうし…」
「『デンジャラスK』だと?」
一瞬、表情に緊張が走った中村有沙を、モニークは楽しそうに眺める。
「どうせバレることだしね…」
「有明埠頭に行ったワゴンに…?」
「仕事が終わったら仲間から聞くといいよ」
「ち…!!『デンジャラスK』か…」
苦々しい表情で、中村有沙はちひろの身を案じた。
6671投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時58分31秒
「仲間が心配なら、あんた達も加勢に行ったら?私も難田門司の加勢に行きたいし…。それがお互いの為だろう?」
しかし、モニークの前に、七海がずいと歩み寄る。
「…?何だい?七海?」
余裕の表情のモニークに、七海は怒りの感情を抑えて語りかける。
「オノレ…矛盾してへん?」
「何だって?」
「オノレ…人間には全然優しゅうないけど、動物にはメッチャ優しいやん…」
「…そうだけど…?」
「何でなん?」
「…だから、何が…?」
「何で、難田門司を逃がすん?」
「………」
モニークは、黙り込んだ。
6672投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時58分56秒
そんなモニークに構うことなく、七海は続ける。
「難田門司は、麻薬を運ぶ為に、動物達を利用したんやろ?」
「………」
「動物達を、麻薬を詰める『袋』にして密輸を繰り返してた…」
「………」
「そんで、動物達をヤク中にして、最終的には死なせてもうた…。殺したんは、『ライトニング・ボルト』(羅夢)やったけど…」
「………」
「動物達を守る為に、『TTK』を復活させようとしたんやろ?」
「………」
「そんな難田門司は、動物達の仇やろ?その難田門司を、どうして逃がすん?なあ、何で?」
じっと七海の言葉を聞いていたモニークは、ようやく口を開く。
「私は『TDD』の新人だからね…。やれ、と言われた任務はやらなくちゃ…」
「ウソやろ?」
全てを見透かした様な七海の目…彼女のこんな目を、モニークは見たことがなかった。
「…どういう意味だ?」
モニークの代わりに、中村有沙が聞いた。
七海は、やっと笑みを浮かべた。
自分がわかっていることを、中村有沙がわからない…という状況が珍しいからだ。
「…つまりな…難田門司が警察から逃げ出せた方が、都合がええんとちゃうの?」
「…都合がいい…?何のだ?」
「殺すことや…。難田門司を…」
6673投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時59分17秒
「殺すだと?難田門司を…?」
これには、中村有沙は目を見開いた。
エマもエリーも同様だ。
そして、モニークの表情を窺う。
モニークは、相変わらす無表情だ。
「一旦、難田門司を逃がしてから、改めて殺すつもりやろ?『TDD』の任務は、難田門司を逃がすこと…。任務が終われば後はサヨナラ…関係はなし…」
七海の話しを、モニークは黙って聞いている。
「警察に難田門司が囚われている間は、いくらオノレでも近づいて殺すことは不可能や…。でも…逃がしてまえば…自由の身になれば簡単や…」
モニークは黙って聞いている。
「オノレは、難田門司を殺す為に、何としてでも逃がしたいんや…。ちゃうか?」
黙って聞いていたモニークは、目を瞑り、微笑みを浮かべて何度も頷いた。
「まったく…成長したねぇ…。七海…。随分、頭が働くようになったじゃないか…」
「ケケ…。今まで使うてなかったもんやさかい…」
七海も笑みで返す。
6674投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時59分36秒
「その通り…。私は、難田門司を許さない…。必ず、この手で殺す…!!その為、絶対にこの任務は成功させる…!!」
モニークの顔は、無表情に戻っていた。
「ふん!!難田門司なんて、殺されてもうても構へんのやけど…それを聞いたからには、オノレを行かせるわけにはいかんな!!」
七海は、もう一度バットの先を持ち上げてモニークに突きつけた。
「私もだ…。それ以前に、難田門司を捕まえることが、我々の任務だからな…」
中村有沙も鎖を回し始める。
「ふぅ…。モニーク相手じゃ、しんどそうだけど…しょうがないか…」
エリーはボウガンの狙いをモニークに向ける。
「大丈夫…!!私がついてる!!」
エマも同様、ボウガンを構える。
「そうかい…。それじゃあ、しょうがない…」
モニークは、再び両手を革ジャンのポケットから出した。
「死人が出ることを…覚悟しな…!!」
グローブについた爪が、怪しく光った。
6675投稿者:リリー  投稿日:2009年03月13日(金)20時59分50秒
では、おちます
6676投稿者:一般の人に被害が出ないように  投稿日:2009年03月13日(金)21時40分12秒
『グランド・スラム』が『チームE』に頼んだのか
6677投稿者:モニクロ先生は  投稿日:2009年03月13日(金)21時54分32秒
敵の立場の方が似合うな
6678投稿者:あげ  投稿日:2009年03月14日(土)09時51分53秒
 
6679投稿者:117  投稿日:2009年03月14日(土)14時08分36秒
またまた久々のコメです。
ついに、長〜い?12回裏、幕を開けましたね。
デンジャラスKも本格始動しましたし、モニークにもそういう目的があったんですね。続きも気になります!
6680投稿者:過去ログ  投稿日:2009年03月14日(土)17時34分24秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544d.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544e.html
6681投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)20時59分57秒
6676さん
はい、今回は『グランド・スラム』の総指揮で行われてます
この回には、誰なのかわかうようにはしますが

6677さん
私も、モニークが『R&G』で共に戦うのは想像できないです

117さん
『表』に比べると、『裏』はそんなに長くないですけど、でも長引きそうです
川田、モニークときて、3台目の車に乗ってるのは…もう、おわかりだと思います

6680さん、過去ログ、ありがとうございます
過去ログ5つ分ですか…
我ながら長いと思います
よく、続けてこれたなぁ、と…
みなさんのおかげです

では、更新します
6682投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時01分06秒
三番目に首都高速を降りたワゴンに、難田門司は乗っていた。
警察の追跡は振り切ったが、黄色のポルシェがさっきから追跡してきている。
もう、10分以上は追いかけてきている。
「な、夏希さん…!!ど、どないしょ!?あの追いかけて来てる車…『R&G』とちゃう?」
助手席に座っている『安田大サーカス』の団長、安田裕己は青い顔でバックミラーを見詰めている。
ワゴンを運転している加藤夏希も、ルームミラーで追跡している車を確認する。
「そうね…。私のドライビングテクニックに着いて来てるってことは…『R&G』に間違いはないわ…」
そう言ってはいるが、夏希の表情には余裕が窺える。
「いや〜ん!!僕、もう『R&G』の探偵とは戦いたくない!!」
後部座席から、甲高いキンキン声が響く。
安田大サーカスのメンバーの一人、クロこと黒川明人だ。
「しかも、あのヌンチャク振り回す子…すっごく怖かった!!」
クロのキンキン声に多少イラつきを感じたのか、眉間にシワを寄せて夏希は答える。
「大丈夫よ…。運転しているのは七世…。助手席にジャスミン…。後部座席には俵姉妹…。その子はいないわ」
彼女には、運転している者の顔を見えるのだ。
「それでも、ヌンチャク振り回す子より面倒なメンツよ…」
もう一度、夏希は眉間にシワを寄せた。
6683投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時01分27秒
「ゴホン…」
後部座席…クロの隣の席から、咳払いが一つ…。
麻薬売買組織のボス…難田門司だ。
彼は、ニット帽を目深に被り、サングラスを掛け、マフラーで顔の下半分を覆っている。
つまり、顔を隠しているのだ。
彼には麻薬組織のボスという肩書きがあるのだが、背が子供のように低く、顔も童顔で可愛らしい。
そのことが彼のコンプレックスになっているので、姿は極力見せたがらない。
しかし、逮捕の際に、報道を通じて顔が全国に知られてしまったため、日本中の…いや、世界中の人間が、難田門司の顔を知っている。
麻薬組織のボスという立場にありながら、彼は全国の女子学生のアイドルの様な存在になった。
勿論、『カワイイ』という理由で…。
しかも、とある小学生の少女のイラストが元となり、『もんじくん』なるキャラクターが生み出された。
『もんじくん』は、文房具やストラップなどのファンシーグッズの大ヒット商品となっている。
そのことは、麻薬組織のボス難田門司にとって、逮捕、そして組織壊滅以上の屈辱である。
「ゴホン、ゴホン…」
またも咳払い…。
部下の安田は、咳払いだけで難田門司の言わんとすることを察知した。
「な、夏希さん…。な、何とかなりませんかねぇ…」
顔色の悪い安田の顔を横目で見ながら、夏希は溜息をつく。
「わかったわ…。安田さん、運転代わって」
「うおっとと…」
いきなり夏希がハンドルを放して後方に移動したので、安田は慌ててハンドルを取った。
6684投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時01分45秒
「な、夏希さん…!!な、何を…?」
冷や汗を流しながら、安田は運転席に移動しながら訊いた。
「何とかしろって言ったのは、あなたでしょ?だから、私が何とかしてあげるから、後はあなた達でボスを逃がして下さい」
そう言って夏希は、後部座席のドアに立て掛けてあった赤い鞘の長ドスを握る。
「わあ…!!夏希さん、足止めしてくれるんですか?頼もしい!!がんばって!!」
クロは、乙女の様に両手を合わせて夏希を見詰めた。
「いいから、あなたは声を出さないでね…」
夏希は、クロの唇に人差し指を押し付けた。
最後尾の荷台のスペースには、HIROこと広瀬康幸が気持ち良さそうに眠っていた。
HIROの横たわる巨体が、後部トランクを塞いでいる。
「ちょっと!!HIRO君!!起きて!!邪魔だからどいてよ!!」
長ドスの鞘の先で頭を小突かれたHIROは、ようやく目を覚ます。
「…うん…?もう、マカオに着いたの?」
「違うわよ!!ちょっと事情が変わったから、マカオにはあなた達だけで行って!!」
「うん?夏希さん、どうすんの?」
「だから、あなた達を逃がすんでしょ!?」
夏希はもう、HIROのことを見向きもしない。
「じゃあ…私はここでお別れだけど…無事に逃げられるように祈ってるわ…」
6685投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時02分06秒
難田門司の乗る黒いワゴンを猛追する黄色のポルシェの車内…。
「どうする?このまま一気に追い着いちゃおうか?」
運転しているのは、黄色地にライトグリーンのラインのトラックスーツに身を包んだ少女…コードネーム『ホワイト・アンダンサス(白の撫子)』の岩井七世。
「待って…。まず、中に誰が乗っているのか、確認が先よ…」
助手席にいるのは、黄色地に白のラインのトラックスーツに身を包んだ女…コードネーム『アイアン・メイデン(鋼鉄の処女)』のジャスミン・アレン。
そして、後部座席を振り返る。
「あなた達、追い抜きざまに、車内を確認して」
「わかった。難田門司らしき人物を確認したら、何とか事故にならない程度に車を止めるわ」
グレー地にピンクのラインのトラックスーツに身を包んだ少女…『チームT』・コードネーム『ダブル・フィッシャーマンズ・ノット・オールド(二重釣糸縛り・甲)』の俵有希子は答える。
「もし、難田門司が見当たらなかったら?」
グレー地にオレンジのラインのトラックスーツに身を包んだ少女…『チームT』・コードネーム『ダブル・フィッシャーマンズ・ノット・ヤング(二重釣糸縛り・乙)』の俵小百合は尋ねる。
「それなら、総攻撃よ…。多少、怪我させたって構わない…」
ジャスミンは、フルーレを取り出すと、鋼鉄の手甲で固めた左手で掴んでしならせた。
一瞬、前のワゴンの速度が落ちたことに、七世は気が付いた。
「『アイアン・メイデン』!!ワゴンのスピードが…」
「…おそらく、ドライバーが代わったのね…。もしかしたら、何か仕掛けてくるかも…!!その前に…」
「わかった…!!じゃあ、追い抜くよ!!」
七世は、アクセルを力いっぱい踏み込んだ。
6686投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時02分51秒
その時、ワゴンのトランクが大きく開いた。
「…!!」
「あれは…夏希さん!?」
そう…黒のライダースーツに身を包んだ、加藤夏希が姿を現した。
元暗殺組織『TTK』四天王・コードネーム『デーモン・ハート(魔王の心臓)』…現裏探偵『TDD』のコードネーム『デビル(悪魔)』の、加藤夏希だ。
夏希は、走行中のワゴンから飛び降りた。
「く…!!よりによって、夏希さんなんて!!」
唇を噛み締める七世は、それでもアクセルを踏み込む足の力を抜かない。
このまま夏希をはね飛ばさん、とする勢いだ。
6687投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時03分05秒
「…!!『ホワイト・アンダンサス』!!気をつけて!!」
ジャスミンが叫ぶと同時に、夏希が何かを投げつけた。
その直後、車が大きく揺れた。
「…!!制御できない!!」
七世が叫ぶ。
「く…!!手裏剣でタイヤを…!!」
ジャスミンは、ドアに手をかける。
「脱出よ!!」
黄色のポルシェは、ガードレールに車体を擦り付けると、その反動で横転した。
夏希は、仰向けで滑り込んでくるポルシェを飛び上がって避けた。
その時、空中に銀色の線が自分を取り巻いていることに気が付く。
「…!?」
チュイイイ〜ン…。
その銀色の線…鋼線は、夏希を今、縛りつけようとしている。
6688投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時03分28秒
「ふん!!」
夏希は赤い鞘から長ドスを抜くと、空中でその身を一回転させた。
細切れになった鋼線と同時に、夏希はアスファルトに着地する。
そして、右手に十字手裏剣、左手に長ドスを持って辺りを警戒する。
「…!!そこだ!!」
夏希が手裏剣を投げた先に、火花が散る。
トラックスーツの4人が、夏希を囲む様に降り立った。
「ふ〜ん…。自分は車を降りて、私達を足止めか…」
ジャスミンの左手の手甲には、十字手裏剣が握られている。
「ということは…あの車に難田門司がいるといわけね…」
そして、手裏剣を掌の中で握り潰した。
「正解よ…。でも、残念ね…。あなた達は、難田門司には追い着けない…。私がいるからね…」
ニヤリと夏希は笑った。
「いいえ…。追い着いてみせるわ…。あなたを倒してね…」
七世が、頭上に薙刀を構えた。
「…!?七世…。あなた、武器を元に戻したの?」
「ええ…。私はもう、防御を考えない…」
そう答えると、七世はゆっくりと薙刀を回した。
6689投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時03分49秒
「なるほど…。今までのあなた達と思ってたら、痛い目を見るかもね…」
七世…ジャスミン…俵有希子…俵小百合と…順番に夏希は見回した。
「でも、難田門司に追い着くには、私を倒し、新しい車を調達し、猛スピードで追いかけなきゃいけない…。高いハードルが、いくつもあるわね…」
「そう?あなたを倒すっていうハードル…そんなに高くない様に思えるけど…」
平然と、七世は返した。
「何?」
夏希の眉が、ピクリと動く。
「うわ…!!何か、『ホワイト・アンダンサス』…性格が大胆になってない?」
有希子が思わず怯んだ。
「うん…。夏希さん、きっと怒り狂うよ…」
小百合もそう言うと身構えた。
しかし、夏希は大きく深呼吸をする。
「…?怒らないの?」
七世はそう訊いたが、それでも警戒は解かない。
「え?何で?こんなことで、私が怒るわけ…」
そう、笑顔で答えている途中で、夏希は両手で長ドスを握った。
「きええええええ!!!」
そして突然奇声を発すると、その場で身体を一回転をさせる。
「ジャンプ!!」
ジャスミンの声と同時に、4人は上へ飛び上がった。
6690投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時04分09秒
周りの道路標識、ガードレール、街路樹が切り飛ばされて倒れた。
夏希の最終奥義…長距離真空刃…『魔王剣』だ。
「七世!!ぶっ殺す!!」
七世の頭上に、夏希が長ドスを振り上げて待ち構えていた。
『魔王剣』を放つと同時に、夏希も飛び上がっていたのだ。
「やっぱり…怒ってたのね…」
七世は、薙刀を振り上げた。
薙刀の刃と長ドスの刃が、ぶつかり合う。
「そして…やっぱり、私を攻撃したわね…」
「ちぃ…!!」
夏希は、空中でもう一度『魔王剣』を放とうとする。
しかし、七世の技の発動が速かった。
「『アップル・シェイク』!!」
「何!?」
七世は薙刀を構えたまま、高速回転をした。
『アップル・シェイク』は、ダーブロウ有紗の最終奥義…。
だが、七世も使うことができたのだ。
そのことを、夏希はすっかりと忘れていた。
6691投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時04分42秒
「く…!!」
長ドスで受けるのは得策ではない…。
夏希は至近距離で、十字手裏剣を投げつけた。
高速回転する薙刀の刃は、激しい火花をあげると、手裏剣を粉々の鉄屑に変えた。
夏希は、そのまま地面に着地する。
「…!!」
足下に輪になった鋼線が…。
「『ジョー』!!」
「OK!!『ミミー』!!」
俵姉妹が両腕を引き絞る。
鋼線は夏希の両足首に絡みつき、逆さまに吊り上げた。
「うおおお!!」
腹筋の力で上半身を起こし、夏希は足に絡み付いた鋼線を断ち切った。
6692投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時04分56秒
そして、再び着地…。
だが、その瞬間を待っていた者がいる。
ジャスミンだ。
「『Guilty(有罪)』!!」
一秒間に、12回の突き…いくら夏希でも、まともに受けることはできない。
「くぅ…!!」
二三度、刃を交えただけで、夏希はその場を離れた。
だが、頭上には、高速回転で迫ってくる、七世が…。
七世の『アップル・シェイク』は、アスファルト道路を深く掘った。
6693投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時05分25秒
「…む…?夏希さんは…?」
自分の技が不発だったのを感じ、七世は穴の中からいち早く飛び出て、薙刀を構える。
ジャスミンも、俵姉妹も同様だ。
「驚いた…。あなた達、私を殺す気満々じゃない…」
遠く離れた街路樹の上に、夏希はいた。
肩には、切り傷が…。
そこから、血が滴り落ちている。
「あら…?殺す気満々だったのは、あなたじゃないの?」
ジャスミンは夏希を見上げて言った。
「さっきの『魔王剣』…。殺気が刃になってたわね…。あの切れ味…異常だったわ…」
「ふん!!私が殺気を放ったら、あんなもんじゃないけどね…」
そして、七世を見下ろして睨んだ。
「あなた…武器を薙刀に替えてから、『アップル・シェイク』が出来る様になったってこと?」
七世は、薙刀を肩に担いで答える。
「ええ…。日傘で『アップル・シェイク』をやったら、壊れちゃうから…」
今の七世に、日傘を武器にしていた頃の優雅さはない。
これが七世の本来の姿だと、夏希はようやく思い出した。
6694投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時05分53秒
しかめっ面を無理矢理笑顔に変えて、夏希は街路樹から飛び降りた。
一番警戒していた着地と同時の攻撃は、どうやら仕掛けてこない様だ。
つまり、ジャスミン達も夏希と命の獲り合いをするつもりはない…ということか。
夏希は牛歩にも似た足取りで、時間をかけてジャスミン達に近づく。
時間稼ぎならば、一分でも多く引き伸ばした方がいい。
ジャスミン達も夏希の思惑がわかっているのか、夏希に向かって歩き出した。
しかし、ジャスミンは俵姉妹の方を振り返る。
「あなた達は、車を調達してきて」
「車?」
「今から、難田門司を追いかけるの。まだ私達が夏希さんと戦っているようなら、置いてっていいから…」
有希子は、ちらりと夏希を見る。
「…大丈夫…?」
「大丈夫よ…。私だって四天王の一人だし、『ホワイト・アンダンサス(白の撫子)』もいるし…」
「そう…。なら、行こう…」
有希子は小百合と共に、暗闇に消えていった。
夏希の追撃を予想して、ジャスミンと七世は背中を向ける俵姉妹を庇う様に立ちはだかるが、夏希は動く気配を見せない。
黙って俵姉妹を行かせる気か?
6695投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時06分18秒
「いいの?行かせても…」
堪りかねて、七世が聞いた。
「いいわよ…。どうせ、難田門司には辿り着けない」
「…?」
自信満々に答える夏希の真意を、ジャスミンも七世も計りかねている。
この先、黒いワゴンは乗り棄てられる予定だ。
深緑色の幌が付いた白い軽トラックに、難田門司と『安田大サーカス』は乗り換えるのだ。
夏希が一人残ってジャスミン達を迎撃したのも、乗り換えポイントの直前だからだ。
『ハイエロファント(教皇)』こと伊藤正行の提示した作戦では、その黒いワゴンは夏希の運転によって囮となって走行するはずになっている。
だが、川田の運転するワゴンに、梨生奈、羅夢、ジョアン、ちひろが…モニークと戦っているのが、中村有沙、七海、エマ、エリーということは、お互いに身につけた盗聴器で確認済みだ。
そして、自分の目の前には、ジャスミン、七世、俵姉妹…。
一番恐ろしい女…ダーブロウ有紗は、社長の吉田とオーストラリアへ新婚旅行だと言う。
つまり、もうあのワゴンを追い駆ける術を持つ者はいないのだ。
それが、夏希が余裕でいられる理由だ。
6696投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時06分41秒
「お姉ちゃん、ずいぶん田舎まで来ちゃったんだね、私達…」
俵姉妹は今、田園地帯の道路を走っている。
都心からワゴンを追い駆けて来たのだが、随分長い距離を走ってきたことになる。
自分達が暮らす街、天歳市の近くまで来てしまった様である。
「こんな田舎じゃ、駐車している車なんてありゃしない…」
「あ…!!あった…て、トラクターじゃん…」
「小百合!!あったよ!!普通乗用車が…」
俵姉妹は、埃の被った古いタイプの乗用車に駆け寄った。
後ろのトランクが飛び出ているデザインの、20年以上前の車種だ。
6697投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時07分04秒
「これ…駐車してるの?それとも、不法投棄…?」
「わからない。とにかく、乗ってみよう」
有希子は、窓の隙間から鋼線を入れた。
ドアロックはボタンを押し込むタイプのものなので、そのボタンに鋼線の先を絡ませて引っ張ることができた。
「よし!!乗るよ!!」
当然、鍵が付いてないので配線をいじることにする。
「待って!!お姉ちゃん…」
小百合は、埃で覆われたガソリンメーターを指先で擦る。
メーターの針は、『E』を指している。
「か…からっぽ…」
思わずハンドルに額を押し付ける有希子。
6698投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時07分26秒
その時、車のエンジン音…そして、車内が明るく照らし出されている。
「ん…?お姉ちゃん…?」
小百合は、落ち込んでいる有希子の肩を叩く。
「車だ!!」
「え?」
頭を上げた有希子は、小百合の指の先を見る。
大型トラックが、猛スピードで突っ込んで来る。
「…げ…?」
大型トラックは、俵姉妹の乗っている廃車を追い抜くさま、僅かに引っ掛けた。
「ぎゃああ!!」
廃車は、そのまま田んぼに前から突っ込んだ。
その衝撃は凄まじかった。
「な、何なのよ!!あの、乱暴運転!!」
有希子は身体を捻りながら、車外へ出た。
「大丈夫?小百合…」
「う、うん…。何とか…」
改めて、俵姉妹はトラックが走り去った方向を見る。
「…あの、トラック…。ジャスミン達の所に行ったよ…」
「うん…。もしかしたら…ジャスミン達が奪えたら…。ううん!!小百合!!私達は私達で車を探そう!!」
再び、俵姉妹は車探しを始めた。
6699投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時07分50秒
一方、ジャスミン、七世と夏希の戦いは続いていた。
ジャスミンの『Guilty』と七世の『アップル・シェイク』が、同時に夏希を襲う。
「うぅ…!!」
まともに受けることはできない。
手裏剣を投げつけながら、距離を置く。
元旦に、自分達四天王を同時に相手し、圧倒した寛平の凄まじさが、改めてよくわかる。
「本当に、バケモノだったのね…。あのジジイ…!!」
舌打ちをする夏希。
そして、あの激闘から生還できた幸運を思う。
だが、今はこの戦いからの生還…!!
難田門司を逃がす、任務の成功だけを見据える!!
その時、夏希は、エンジン音を轟かせてこちらに迫ってくる大型トラックに気が付く。
「…!?」
ジャスミンと七世も振り返る。
「…!!『ダブル・フィッシャーマンズ・ノット』達…やったのね!?」
ジャスミンは、その大型トラックを運転してるのが俵姉妹だと思い込む。
しかし、そのトラックはストップする気配がない。
6700投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時08分14秒
「…?」
そして、その大型トラックは、先ほど七世が『アップル・シェイク』で開けた道路の大穴に、前輪を突っ込ませた。
「…!!」
だが大型トラックは、そのスピードを落とさない為、大きくバウンドしてジャスミン、七世、夏希の頭上を飛び越えて行った。
「げぇ…!!」
間一髪で、3人はトラックに押し潰されずに済んだ。
3人は道路に転がりながら、相変わらずの猛スピードで走り去る大型トラックを見送った。
「な…何て運転してるのよ…。確かに、まだ夏希さんと戦ってる場合はそのまま行って、とは言ったけど…」
乱れた金髪を撫でながら、ジャスミンはゆっくりと立ち上がる。
「く…!!まずい!!」
夏希はバネ仕掛けの様に起き上がると、走り去った大型トラックを全速力で追い駆けた。
「私達も追う!!」
ジャスミンは足に履いた甲冑を脱ぎ捨てると、夏希の後を追い駆ける。
七世も同様だ。
その大型トラックは、3人をぐんぐんと引き離していく。
6701投稿者:リリー  投稿日:2009年03月14日(土)21時08分30秒
では、おちます
6702投稿者:大型トラックを運転しているのは  投稿日:2009年03月14日(土)22時05分30秒
『グランド・スラム』と同じく新しく仲間になった子かな?
6703投稿者:安田大サーカス久しぶり  投稿日:2009年03月14日(土)23時00分31秒
そして難田門司がとうとう姿を現した!
顔は出てないけど
6704投稿者:あげ  投稿日:2009年03月15日(日)03時02分24秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544d.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544e.html
6705投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時50分47秒
6702さん
トラックに乗ってる人の正体は、今夜わかると思います

6703さん
難田門司は、今まで名前だけ出てて、姿を出したのは初めてですね
安田大サーカスも、書いてて楽しい人々です

あげ、過去ログありがとうございます

では、更新します
6706投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時51分49秒
「あ、あった!!『TDD』が用意してくれはった軽トラや!!」
『安田大サーカス』の団長、安田は黒いワゴンを急停車させた。
田んぼのあぜ道に、ぽつんと立っているジュースの自販機の陰…そこにトラックは隠されていた。
深緑色の幌の付いた、所々が赤錆で汚れた白の軽トラックだ。
今から、『安田大サーカス』と難田門司は、この軽トラックに乗り換える。
ちゃんとナンバーもついているので、怪しまれる心配もない。
これで、奥多摩に待機させているヘリコプターのもとに向かうのだ。
当然、車内には安田と難田門司が、幌のかかった荷台にはクロとHIROが乗り込むことになる。
ワゴンから降りた安田は、スライド式のドアを開ける。
「さあ、ボス…。降りますよ…」
まるで幼児を抱く様に、安田は難田門司をワゴンから降ろす。
身体の小さな難田門司は、ダウンジャケットだけで全身を覆い隠されている。
ニット帽とサングラス、マフラーで顔を隠しているので、どこから見ても子供にしか見えない。
いや、素顔を晒してたとしても、その童顔ゆえ子供に見えてしまうだろう。
「おまえ等も、はよ降りんかい!!」
安田に急かされ、クロもワゴンから降りるが、慌てていた為、着地した足首を捻挫してしまう。
「痛い!!ちょ、ちょっと待って!!団長〜〜〜!!足、痛〜〜〜い!!」
「やかまし!!はよ、立て!!」
安田は、難田門司抱き抱えたまま、軽トラの助手席に乗せながら怒鳴った。
6707投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時52分14秒
「HIROは?」
「HIRO君、まだ寝てます」
泣きそうな声で、クロは報告した。
「何してんねん!!起こさんかい!!追い着かれてまうやろ!?」
「で、でも…夏希さんが足止めしてくれてるから、そんなに急がなくても…」
「さよか?せやったらおまえ等をここに置き去りにしてくで!?」
「あ、あ〜〜〜ん!!そんなのヤ!!置いていかないで〜〜〜!!」
「ほな、はよ、HIROを起こせ!!」
クロは再びワゴン内に戻ると、安らかに眠っているHIROを揺り動かした。
「HIRO君!!HIRO君!!起きて!!お願い!!」
ようやく、HIROはその小さな目を僅かに開けた。
「…ん?あ、おはよう…。マカオに着いた?」
「まだだってば!!今からトラックに乗り換えるの!!」
「う…ん?乗り換える?何で?」
「そ、それは、今まで乗っていたワゴンは警察にも『R&G』にも見られてるから…」
クロは泣き顔で説明するのだが、HIROの頭には入っていない。
6708投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時52分37秒
「HIRO!!メシや!!メシ食いにいくで!!」
安田が、軽トラの運転席から怒鳴った。
「メシ?うん!!食べる!!」
「だ、だったら…ほら、起きて!!」
クロはHIROの腕を引っ張った。
「うん!!起きる!!」
HIROは、腕を引っ張るクロの身体を押し退けて、ワゴンから降りた。
「きゃ!!」
クロはHIROに押し出され、道路に転がった。
「ん?何してるの?早く行くで?」
HIROは巨体を揺らしながら、軽トラックへ急ぐ。
そして、その荷台に上がろうとするが、その異常な体重の所為で、なかなか乗れないでいる。
「クロちゃん、押して〜」
呑気にクロを呼ぶHIRO。
「もう…!!」
ふて腐れながらも、クロはHIROの巨大な尻を押して、何とか荷台に乗せてやった。
クロも荷台に乗り込んだことを確認した安田は、軽トラックを発車させた。
「さあ、もう少しで日本ともオサラバですね、ボス!!」
安田は一安心と、息をつきながらハンドルを動かす。
難田門司のサングラスが、内側から曇った。
彼も、安堵の息をついた様だ。
6709投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時53分03秒
今は舗装されている道路を走っているが、そのうち道なき道を進むことになる。
そうなると、荷台の乗り心地は最悪となるだろう。
「団長…。団長…」
荷台から、クロが呼びかける。
「あん?何や?クロ…」
めんどくさそうに団長が答える。
「もう少し走ったら、僕が運転代わりましょうか?」
「別に、ええよ」
「いや…。団長も、ずっと運転してて、疲れてるかなぁ〜って…」
「さっきまで、夏希さんが運転してたんやで?平気や」
「そ、そうだけど…」
「今は、一刻も早く、ヘリのある所に着かなあかんねや!!そんな、ヒマないで!!」
安田は、アクセルを思いっきり踏んで、軽トラックのスピードを上げた。
6710投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時53分27秒
「だ…団長…!!」
またも、クロの声…。
「何や!?うっさいのう…」
「な、何か…車が…追い駆けてきます!!」
「何やって!?」
「凄いスピードで…!!」
「…!?」
団長は、ルームミラーで後方を確認する。
ヘッドライトを煌々と照らした車が、猛スピードでこちらに近づいてきている。
「な、何や…?」
そのヘッドライトは、どんどん大きくなってくる。
車内の4人は、胸がざわつく。
誰が乗ってるのか…?
あれは、追っ手なのか?
夏希の腕ならば、こんなに早く『R&G』に追い着かせるはずがない…。
その猛追してくる車は、大型トラックであることがわかった。
しかし、大型トラックと軽トラックの間には、途中で乗り捨てた黒いワゴンが停めてあり、道を塞いでいるが…。
「まさか…」
安田の不安が的中する。
その大型トラックは、ワゴンにそのまま突っ込み、粉々に砕いて前進する。
6711投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時54分09秒
「きゃああああ!!!」
クロの悲鳴が、後ろから聞こえる。
難田門司は、何も口に出さない代わり、安田の足を蹴っ飛ばした。
「は、はい…!!」
安田は、力の限りアクセルを踏み抜いた。
しかし、大型トラックはすぐ後ろまで迫ってきている。
「きゃ〜〜〜!!きゃ〜〜〜!!」
「お〜〜〜〜!!うおお〜〜!!」
クロだけでなく、珍しくHIROも悲鳴をあげている。
このまま突っ込まれたら、荷台にいる二人は死んでしまうだろう。
だが、大型トラックは、軽トラックの真横に着こうとする。
田んぼの間の狭い道路に、軽トラックと大型トラックは並んで走れない。
当然、軽トラックが弾き出され、泥の敷かれた田んぼに突っ込んでしまった。
田んぼの真ん中で横転する軽トラックの真横に、大型トラックは急ブレーキをかけた。
そして、ヘッドライトを軽トラックに向ける形に停まる。
6712投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時54分39秒
「ぐ…はぁ…。ボ、ボス…。だ、大丈夫ですか…?」
ひっくり返ったトラックの運転席から、安田が這いずり出てきた。
「だ、団長〜〜〜…。い、痛い〜〜〜…」
クロも、HIROも、幌の裂け目から這い出てきた。
「い、一体…あのトラック…何やねん…」
『安田大サーカス』の3人は、ライトで辺りを照らし出している大型トラックを見上げた。
運転席のドアが開く。
「…!!」
白いハイヒールを履いた足が覗く。
そして、この大型トラックを運転していた者が、車内から飛び降りて姿を現した。
「げ…!!あ、あんたは…」
安田もクロもHIROも、その人物を見て、身を寄せ合って震え上がった。
「よぉ…。去年の夏…歌舞伎町の『エトワール』以来だな…。元気してたか?高田様に…白川様に…あと…ハート様!!」
その人物は…ダーブロウ有紗…!!
今、新婚旅行でオーストラリアに行き、日本にはいないはずの、コードネーム・『マッド・エッジ(凶刃)』の、ダーブロウ有紗だった。
6713投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時55分07秒
「な、な、な、何でやねん!!」
安田は、有らん限りの声で突っ込みを入れた。
「ど、どうして!?どうしてダーブロウが、ここにいるの!?」
クロのキンキン声も、夜の田園地帯に響き渡る。
「おい!!コラ!!『きんどー』!!」
クロは、ビクンと肩を振るわせた。
「え…?『きんどー』…?ぼ、僕のことですか?」
そして、恐る恐る自分を指差す。
「雑魚キャラのくせに、私を呼び捨てにするんじゃねえ!!」
「ご、ごめんなさ〜〜〜い!!」
クロは、両手を合わせて泣き叫ぶ。
安田は、まだ震えが止まらない。
「な…何で…?今、新婚旅行に行ってていないから、今日が計画実行日やったんやないの…?」
改めて安田は、自分達の前に現れた最強最悪の女の姿を見た。
「ん…?あのカッコウ…」
ダーブロウ有紗の姿は…トラックスーツではない。
あの噂に聞いた、無数の黒革ベルトにナイフ…という出で立ちでもない。
まず、足下は白いハイヒール…。
白の膝丈のスカート…白のジャケット…青いノースリーブのシャツ…そして、大きなつば広の帽子…。
戦いをする姿ではない。
まるで…旅行中の様な恰好だ…。
6714投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時55分55秒
「おい、コラ!!てめぇ等、まだ性懲りも無く逃げ出そうとしてやがったのか!?この私が、またキッチリと警察に送り届けてやるから、覚悟しろ!!」
ダーブロウ有紗は、ハイヒールを履いた足を大きく踏み出して田んぼに入る。
真新しく輝いていたハイヒールが、途端に泥で汚れてしまった。
6715投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時56分09秒
「お…お…。こ、これは…チャンスや!!」
血の気が退いていた安田の顔が、僅かにほころぶ。
「チャ、チャンスって何ですか?絶体絶命のピンチじゃないですかぁ〜〜〜!!」
「アホ!!よく見んかい!!」
相変わらず泣き叫んでいるクロのスキンヘッドを、安田は思いっきり張り倒す。
「ダーブロウ…ナイフ持ってないやん!!丸腰やんけ!!」
「…え…?あ、はい…。そうですね…」
「せやったら、勝てるがな!!おい、HIRO!!」
「うが!?」
HIROは、いきなり名前を呼ばれたので、きょとんと安田の方を向く。
「おまえやったら、もしかしたら勝てるかもしれへん!!やってまえ!!」
しかし、この会話は、ダーブロウ有紗に筒抜けだった。
「あん!?素手のガチンコだったら、私に勝てるとでも!?へん!!並みのヤツじゃ、到底敵わないね!!」
余裕の表情で、一歩、また一歩とダーブロウ有紗は『安田大サーカス』を追い詰める。
「へへ…。HIROは、並みやないで!?こいつの脂肪は、どんな打撃でも吸収してまうんや!!あんたのパンチもキックも、通用せえへんで!!」
安田は、HIROの大きな背中を、張り手で叩いた。
「さあ、行け!!HIRO!!おまえの力、見せたれや!!」
「うが!!」
HIROは重そうにその身を立たせると、四股を踏み、ダーブロウ有紗へ突進して行く。
6716投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時56分31秒
足下は柔らかい泥で、HIROの巨体は深く沈んでいくが、彼は元力士…並みの足腰ではない。
ずんずんとダーブロウ有紗へと進んでいく。
「お…?本当に『ハート様』じゃん!!」
思わず、ダーブロウ有紗は目を見張った。
「でもよぉ…。私、『北斗の拳』の『ケンシロウ』と『ハート様』の戦い見て、長年思ってたんだよな…」
HIROは、張り手を繰り出してきた。
間一髪、ダーブロウ有紗はその張り手を潜り抜ける。
「あの戦い、ケンシロウが北斗神拳で倒すことにこだわらなければ、もっと楽勝できたんじゃね?」
そう言いながら、ダーブロウ有紗はHIROの手を両腕で抱えると、腰を捻り、柔道の大技、一本背負いを仕掛ける。
6717投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時57分15秒
「ぬおおおおおおお!!!」
HIROの巨体が、宙を浮く。
「う…うが…!?」
自分の身体を投げる者がいる…?
HIROは今の状況が信じられない。
「ま、まさか…!!ウソやろ!?あのHIROを…」
安田がそう叫んだ時、凄まじい気合いの声が、夜の闇を切り裂く。
「うりゃああああああ!!!」
自分の体重、プラスHIROの体重が加わり、ダーブロウ有紗の身体は、膝まで泥に沈んでしまったが、そんな悪い足場でも一本背負いを決めようとしている。
そしてとうとう、HIROの巨体が放物線を描いて、安田とクロの頭上へ…。
「ぎえええええ!?」
「いやあああん!!」
安田とクロの悲鳴…そして、衝撃音…。
安田とクロは、HIROの巨体の下で気を失っている。
投げられたHIROも、当然、気を失った。
6718投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時57分37秒
HIROの巨体を投げたダーブロウ有紗は、勢い余って田んぼの泥の上で一回転した。
おかげで真っ白なジャケットもスカートも、泥に塗れた。
「ああ…!!クソ!!ヒールが折れてやがる!!」
泥に埋まったハイヒールを引き上げたダーブロウ有紗は、悔しそうに呟く。
「スカートも真っ二つに裂けてるぜ!!こんな雑魚ども相手に…!!コンチクショウ!!」
ダーブロウ有紗は、泥の中で地団駄を踏んだ。
「あ…!!そ、そうだ!!難田門司!!」
視線を、横転した軽トラックに移す。
大型トラックのヘッドライトで、辺りが明るく照らし出されている。
その光の輪の外で、チョコチョコと動くものがある。
「うん!?」
よく見ると、黒いダウンジャケットが移動している…。
いや、そのジャケットを着ている者が、逃げているのだ。
「見つけたぜ!!難田門司!!」
ダーブロウ有紗は追い駆けようとするが、足が泥にはまって思うように走れない。
「く…くそ!!な、何で、難田門司は普通に走れるんだよ!!」
難田門司は、異様に小さな男…。
それ故、体重も異様に軽い。
だから、足が泥にはまることなく、自由に移動することができるのだ。
6719投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時58分04秒
「ち…!!しくじっちまったか…!?コンチクショウ!!」
ダーブロウ有紗が怒鳴り声をあげた時だった。
シュキイイイイイイン…。
金属音と共に、銀色の物体が難田門司へ目がけて飛んでいく。
ひも状に細い、鎖だ…。
その鎖の先には、銀色の小さな円盤が付いている。
その円盤は、金属のヨーヨー…。
ヨーヨーは、難田門司の後頭部にぶつかる。
難田門司は、悲鳴をあげる前に気を失い、前のめりに倒れこんだ。
いや、倒れこむ前に、ヨーヨーから伸びる鎖は、雁字搦めに難田門司を幾重にも縛り付けた。
パキン…と音をたて、ヨーヨーが鎖から分離した。
ヨーヨーは空高く上がり、大型トラックの方向へ飛んでいく。
そのヨーヨーを掴む者がいる。
そして、叫んだ。
「麻薬密売組織首領、難田門司!!正義の名の下に、『R&G』が貴様に鉄槌を下す!!」
ヨーヨーに付いていたボタンを押すと、側面の丸い部分が、蓋が開く様に開いた。
そこから、『R&G』の金色に輝くロゴが現れる。
「てめぇ!!引っ込んでろって言っただろ!!」
ダーブロウ有紗は、後ろを振り返って怒鳴った。
「えへへ…。美味しいとこ総取りで、すみません!!」
そのヨーヨーを投げた人物は…白地にライトグリーンのトラックスーツに身を包んだ少女…細川藍だった…。
6720投稿者:リリー  投稿日:2009年03月15日(日)20時58分19秒
では、おちます
6721投稿者:カッコいい!  投稿日:2009年03月15日(日)21時00分20秒
本当に美味しいとこ総取りだよ

白にライトグリーン…ユート?
6722投稿者:まさかグランド・スラム(完全制覇)って……  投稿日:2009年03月15日(日)21時01分56秒
表裏やりこなした藍ってこと?!
6723投稿者:グランド・スラム(完全制覇)はあの子でしょ  投稿日:2009年03月15日(日)21時12分10秒
藍のコードネームはなんだろう
6724投稿者:そういえば藍と有紗は一応いとこ的な関係だったけ  投稿日:2009年03月16日(月)16時55分55秒
 
6725投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)20時55分53秒
6721さん
そうです
各自トラックスーツの色は、衣装の色合いで決めてます
もちろん、複数年活躍してた戦士もいますので、その一番似合ってた衣装で決めています(ちひろ…04、七世…03、ダーさん…新人時代など)
そうなると、七海は赤と黄緑、または赤と白となりますが、彼女だけ特別にタイガースカラーの黒と黄色にしています
6722さん、6723さん
『グランド・スラム(完全制覇)』の正体は、今夜明かされます

6724さん
はい、その設定も、触れられる予定です

では、更新します
6726投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)20時56分37秒
「でも、私の様な長距離攻撃&捕獲のスペシャリストがいてよかったですね」
藍は、可愛らしい、輝くような笑顔で、ダーブロウ有紗相手に恐れることなくそう言った。
「コンチクショウ!!最後の大ボスは、私が捕まえるはずだったのに!!」
ダーブロウ有紗は、泥だらけの姿で、田んぼから這い上がって来た。
「いいじゃないですか!!こうやって、無事に捕まえたんだし…」
「私一人で、捕まえられたんだよ!!余計なことすんな!!『インジゴ』!!」
「ちょ、ちょっと!!『インジゴ』なんて呼ばないで下さいよ!!私にもちゃんとしたコードネームがあるんですから!!」
「コードネーム!?何だあ?そりゃ!?」
「『スーパー・ルーキー(超大型新人)』ですよ!!」
「それ…自分でつけたの?」
「はい!!」
藍は、満面の笑みで頷いた。
6727投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)20時57分16秒
「…へん!!私はな、おまえなんかまだ『R&G』の一員って認めたわけじゃねぇからな!!」
「命の恩人に、何てこと言うんですか!!」
「命の恩人!?おまえが!?」
「寛平さんに殺されそうだった『レッドさん』と『だぶりん』を、助けてあげたじゃないですか!!」
「おい!!その、『だぶりん』っての、やめろ!!」
「いいじゃないですか。可愛いし…」
「可愛くねぇ!!馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇっての!!」
「馴れ馴れしい?だって、私達、従姉妹同士なんだから…」
「ああ、それも言うんじゃねぇ!!チビアリにも言われてんだろ!!まったく!!」
そう…あの元旦の対決を経て…細川藍は、『R&G探偵社』の一員になったのだ。
「あ、そうだ!!無事に仕事が終わったこと、『グランド・スラム(完全制覇)』に報告しなくちゃ!!」
藍は、『R&G』専用の携帯電話を取り出すと、電話帳メモリーから『グランド・スラム』を引き出して掛けた。
6728投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)20時57分46秒
天歳市内の高級住宅街…。
その中の一件…。
一木有海は自室で、今日行われた野球の試合のスコアブックをまとめていた。
今日出場したメンバーから、中村有沙、ジョアン・ヤマザキ、伊倉愛美、大木梓彩が抜けてしまう。
新入部員が入ってこなければ公式試合が組めないのだが、とりあえず新たな戦略を練っておかなければならない。
新入生の川?樹音、そして男子入学生の渡邉聖斗の二人は入部を約束してくれたが、それでもまだ8人。
梨生奈が、羅夢を誘ってくれると言ってはいたが、どうなるものかわからない。
しかし、取りあえずは仮のメンバーでポジションやフォーメーションを決めておかなければならない。
5月には、また虹守中との練習試合が決まっているのだ。
いや、有海には今、それ以外にも心配なことがある。
出来る限りの手は打ったのだが、不安が次から次へと圧し掛かってくる。
その時、机上の電話が鳴った。
二つ並んでいる携帯電話…。
一つは、『もんじくん』のストラップがついた白い携帯。
もう一つは、アクセサリーのない、ただの紐のついた黒い携帯。
鳴っているのは、黒い携帯の方だ。
有海は緊張感に身を固めながら、黒い携帯を取る。
送信主は、『スーパー・ルーキー』…。
「細川さんだ!!」
深呼吸をしてから、有海は通話ボタンを押した。
6729投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)20時58分10秒
「もしもし…」
〔あ、『グランド・スラム』?私、『スーパー・ルーキー』です!!今、『難田門司』を捕まえちゃいました!!〕
「え?本当に?凄い!!」
有海は安堵の息とともに笑みを…そして涙を浮かべた。
〔へへ…!!凄いでしょ?『チームA』の二人で捕まえたんだよ!!〕
電話口の藍の声が興奮している。
無理もない…今夜が彼女にとって『R&G』初仕事なのだから。
それは、有海も同じ事なのだが…。
〔何が『チームA』だ!!コンチクショウ!!私は、組んだ覚えはねえ!!〕
「あ…。『マッド・エッジ』さん、側にいるの?」
〔うん、いるよ。て言うか、コードネームにさん付けすることないんじゃない?〕
「そ、そうだね…。ちょっと代わってくれる?」
〔うん、いいよ。………だぶりん、『グランド・スラム』が話したいって…〕
〔だ〜か〜ら〜…だぶりん、言うなって!!〕
遠くから叫んでいるのだろうが、藍の声よりも大きく聞こえる。
6730投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)20時58分39秒
〔おい!!コラ!!いっちきち!!〕
「あ…。『マッド・エッジ』さん…。この度は、お疲れ様でした…」
〔お疲れ様!?本当に疲れたよ!!オーストラリアから呼びつけやがって!!しかも、ダーリンとの新婚旅行を打ち切らせやがって!!コンチクショウ!!〕
「ご、ごめんなさい…。でも、念には念を入れた方がいいかなって…」
〔念には念をって…『念』で人の一生に一つの思い出、台無しにすんじゃねぇよ!!〕
「で、でも…こうして難田門司さんを捕まえることができたんだし…」
〔難田門司に、さん付けすんな!!〕
「で、でも…一応、年上の方ですし…」
〔さっきから、でもでもでもでも…デモもストもねえ!!とにかく、おまえの無茶な作戦、律儀に従ってやったんだから、感謝しろよ!!〕
「そ…それはもう…。本当に、ありがとうございました。で、またオーストラリアに戻られるんですか?」
〔あ?もう、いいよ…めんどくせえ…。このまま社に戻ってシャワー浴びて一眠りするわ。泥で汚れちまったし…〕
「ええ!?じゃ、じゃあ…『レッド・ライオン』さんは…?オーストラリアに置いてきぼりですか?」
〔あのオッサンも子供じゃないんだから、一人で帰ってこられるだろ〕
「な、なんか、可哀そうですね…」
〔その可哀そうなことをしたのは、おまえなんだからな!!まったく!!じゃあ、インジゴに代わるぜ?〕
「あ…そ、その…本当に、ありがとう…」
6731投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)20時59分06秒
だが、もう既に電話は藍に代わっていた。
〔それじゃ、難田門司を警察に引き渡して、私達もあがらせてもらうね〕
「う、うん…。本当にお疲れ様。藤…『キラー・タイガー』さん達にも、もう引き上げるように連絡してね」
〔わかった。じゃあね、『グランド・スラム』!!〕
切られる直前、ダーブロウ有紗の声が届いた。
〔じゃあな!!クソして寝ろよ!!作戦参謀!!〕
「………本当にありがとうございました…。ダーさん…」
『R&G探偵社』の作戦参謀、コードネーム・『グランド・スラム』こと一木有海は、そう呟いて携帯を閉じた。
6732投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)20時59分34秒
「さてと…。早いとこ『キラー・タイガー』や『ムーン・ライト』達にも報告しなきゃ…」
藍が再び携帯に視線を落とす。
「…!?インジゴ…。後にしろ…」
ダーブロウ有紗が、暗闇の先を睨んだ。
「ど、どうしたんですか…?」
「トラックに乗ってな…」
ダーブロウ有紗は藍の襟元を掴むと、大型トラックの運転席に押し込んだ。
「だぶりん?い、一体…」
「だぶりん、言うな!!」
乱暴に、トラックのドアは閉められた。
暗闇に、足音が響く。
一人…二人…いや、三人だ…。
この、苛ついた息づかい…。
「ふん!!遅かったな!!夏希!!」
ダーブロウ有紗は、暗闇に向かって叫んだ。
「ダーブロウ!?ど、どうしてあんたが!?」
姿を表したのは、加藤夏希だった。
6733投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)20時59分59秒
「あんたは、今頃オーストラリアに新婚旅行じゃなかったの!?」
「へへへ…。まったくだ…。何で、私はこんなとこにいるんだよって話しだ…」
ダーブロウ有紗は、苦笑いで答える。
「え…?ダーさん!?」
七世の声…。
ジャスミン達も夏希に追い着いた。
「あ…あんた…。戻って来たの?日本に…」
ジャスミンも七世も、驚きの表情を浮かべている。
「…?あんた達も知らなかったの!?」
夏希は、再び自分を追ってきた二人から、ダーブロウ有紗に視線を向ける。
「敵を欺くには、まず味方から…て、いっちきちのヤツがな…」
「『グランド・スラム』が…?あの子…意外と大胆ね…」
ジャスミンは、溜息とともに笑みをこぼす。
夏希は、チラリと横転した軽トラックを見る。
『安田大サーカス』が、3人仲良く気絶している。
そして、少し離れた所に、鎖で雁字搦めにされて倒れている難田門司が…。
6734投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)21時00分25秒
再び夏希の視線は、ダーブロウ有紗へ…。
「で、何で都合よく難田門司を捕まえられたの?」
「発信機…」
「発信機?」
「ジャスミン達の乗ってたポルシェに付けてたんだよ。ま、チビアリやデコッパチの車にも付けてたんだけどな」
ジャスミンと七世は顔を見合わせる。
「それも…『グランド・スラム』が?」
「ああ。いっちきちの作戦だよ」
「あ…はは…」
ジャスミンはブロンドの髪を掻き、今度は声を出して笑った。
七世も、苦笑せざるを得ない。
「やりますねぇ…。ほんと…。あの子…」
元旦の決闘…有海に命を助けられた七世は、改めて感心する。
夏希だけは、厳しい目で彼女等を睨む。
「いっちきち…?その、『グランド・スラム』ってのは、一木有海のことね?」
「む…?鋭いな…」
そう言うダーブロウ有紗に、ジャスミンは手甲をはめた左手でツッコミを入れた。
「そりゃ、ばれるわよ!!『いっちきち』なんて、モロに苗字を言っちゃってるじゃない!!」
「痛えな!!その手で突っ込むなよ!!」
と、言いながらも、夏希に鋭い視線を向ける
「で…どうすんの?難田門司を、奪回するかい?私達3人から…」
6735投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)21時00分54秒
その時、大型トラックのドアが勢いよく開いた。
「ちょっと!!3人て何ですか!!私も入れて4人でしょ!!」
藍がトラックの運転席から飛び降りて叫んだ。
「バカ!!引っ込んでろって言っただろ!!」
ダーブロウ有紗は、咄嗟に藍を自分の背中の後ろに隠した。
「細川藍…!?」
夏希は意外そうに藍を見詰め、そして田んぼの真ん中で倒れている難田門司を見詰める。
「なるほど…。彼を縛ってる鎖…あのヨーヨーの…」
すると夏希は大声をあげて笑った。
「あはははは!!あなた達、有海といい、藍といい、素人ばっかりを掻き集めて何やってるのよ!!」
夏希に笑われたダーブロウ有紗は、真っ赤に歪めた顔を藍に突きつける。
「見ろ!!笑われたじゃねぇか!!だから、私はおまえに隠れてろって言ったんだよ!!」
「ええ〜〜〜!?私の身を案じたわけじゃないんですか!?」
「あたり前だ!!自惚れんな!!バカ!!」
6736投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)21時01分16秒
言い合いをしているダーブロウ有紗と藍の隙を突き、夏希は大型トラックの屋根に飛び移った。
「…!!夏希!!てめえ!!」
夏希は屋根から後転して運転席に飛び込み、ドアを閉めてエンジンをかける。
「ふん!!今回はあんた達の勝ちにしといてあげる!!また、私達の仕事の邪魔をするようなら…その時は容赦しないわよ…」
「何だぁ!?逃げるのか!?」
ダーブロウ有紗の声を無視するかの様に、トラックはクラクションを鳴らし、轟音を立てて急発進した。
その際、ジャスミンと七世を轢きかけたが、彼女等は間一髪回避した。
だが、田んぼの方向へ飛び込んでしまったので、二人もダーブロウ有紗同様、泥に塗れてしまったが…。
夏希の運転する大型トラックは、猛スピードで走り去って行った。
6737投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)21時01分45秒
「ち…!!逃がしちまった…」
ダーブロウ有紗は、大型トラックを忌々しげに見送ると、藍に向けて怒鳴った。
「おまえの所為だからな!!インジゴ!!」
「だから、インジゴって呼ばないで!!せめて、あい〜んて…」
「うるせぇ!!コンチクショウ!!」
ダーブロウ有紗は、藍の首根っこを掴むと、そのまま田んぼへ放り投げた。
「ひええええ!!」
藍は、頭から泥に突っ込んでしまった。
「だぶりん!!何すんですかぁ!!」
真っ白だった藍のトラックスーツが、泥で真っ黒に染まっている。
「ぎゃはは!!これでみんな平等に泥だらけだぜ!!」
田んぼにへたり込む、藍、ジャスミン、七世を見下ろしながら、ダーブロウ有紗は満足そうに笑った。
そこに、元の色がわからないくらいに錆びに錆びた車体のワゴンがやって来て停車した。
「あ、あれ!?ダーさん…?どうしてここに?」
「難田門司はどうしたんですか?捕まえたんですか?」
どうにか車を調達できた俵姉妹だった。
そんな姉妹を、ダーブロウ有紗は目を細めて冷ややかに見る。
「お…?まだ泥んこになってないヤツがいたか…」
俵姉妹の悲鳴が、夜の空に響いた。
6738投稿者:リリー  投稿日:2009年03月16日(月)21時02分12秒
では、おちます
6739投稿者:『いっちきち』なんて、モロに苗字を言っちゃってるじゃない!!  投稿日:2009年03月16日(月)21時13分13秒
前から「これじゃぁコードネームの代わりに使えないなぁ」と思ってましたww。

だぶりんってwwww。由来なんだったっけ?
6740投稿者: 投稿日:2009年03月16日(月)21時41分45秒

6741投稿者:藍とダーブロウの掛け合いが面白すぎる  投稿日:2009年03月17日(火)03時19分06秒
 
6742投稿者: 投稿日:2009年03月17日(火)14時24分07秒
6743投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時10分50秒
6739さん
ダーさんのつけるあだ名は、ひねくりすぎてわからないものもあれば、もの凄く単純なものもあり…
だぶりんは、まあ、これ以外ないかなぁ、という感じで…
地名でありましたっけ?

6742さん
この二人は、絡ませたら面白いだろうなぁ、と前から思ってました
『表』と『裏』で交代で出てたので、もったいなかったです

あげ、ありがとうございます

では、更新します
6744投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時12分06秒
ビルの屋上から首都高速をじっと見詰めている、『ハイエロファント(教皇)』の伊藤正行の携帯が揺れる。
「む…?『デビル(悪魔)』からだ…」
携帯電話を取り出した伊藤は、『エンペラー(皇帝)』の楠本柊生と『エンプレス(女帝)』の後藤理沙を振り返る。
「どうやら、仕事を終えたようですね」
伊藤は笑みを浮かべて携帯に出る。
「もしもし…。『ハイエロファント』です…」
伊藤は、夏希からの報告を黙って聞いている。
終始無言の伊藤なのだが、その顔はみるみる険しくなる。
「そうですか…。わかりました…。はい…。ボスへの報告は私の方から…。はい。『ストレングス(力)』と『ムーン(月)』へは、あなたが連絡してください…」
苦虫を噛み潰した様な顔で携帯を切ると、伊藤は再び楠本達を振り返る。
「今、『デビル』から報告がありまして…」
「言わなくていいわ…。聞いてたから…」
理沙は、シラケ顔で言った。
今回の『難田門司・海外逃亡計画』が、失敗に終わった。
今、日本にいるはずのないダーブロウ有紗に、まんまとしてやられたこと…。
「ふん!!夏希のヤツ…口ほどにもない…!!」
怒り心頭の理沙に対し、楠本の方は笑いを噛み締めている様子だ。
「随分、嬉しそうだね?『エンペラー』…」
無表情で、伊藤は楠本を睨んでいる。
「い、いえいえ…。任務が失敗したのでしょう?実に嘆かわしいことです…」
楠本は、首を降りながら溜息をつく、例のわざとらしい仕草をする。
6745投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時12分29秒
「そりゃ、嬉しいだろうよ…。だって、今回の任務を台無しにしたのは、君の愛弟子なんだから…」
そう…『R&G探偵社』の作戦参謀、『グランド・スラム』…。
その正体は、一木有海…。
昼間の草野球に続き、絶対に負けてはならない今夜の戦いも、見事に大逆転負けを喫してしまった…。
伊藤は、決して表情には表さないが、内心、腸が煮えくり返っている。
しかも、彼女のコードネーム、『グランド・スラム』………『満塁ホームラン』…。
野球もそれで負けているのだ…。
伊藤は、ゆっくりと息を吐いて心を落ち着かせる。
「これで…『TDD』は、完全に『R&G』に苦手意識を持ってしまったかな…」
「冗談じゃないわ!!」
理沙は感情的に叫んだ。
「まだ、こっちは全ての力を出していないわ!!『チャリオッツ(戦車)』だって、『マジシャン(魔術師)』だって…」
6746投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時12分51秒
「いや…もう、やめよう…」
伊藤は、首都高速から都心の夜景…そして夜空を見る。
「やめる!?」
またも感情的な理沙の声。
「私達は裏探偵…。依頼以外で彼女等と戦う理由はないよ…。もし戦いたければ、『R&G』が動かざるを得ない様な依頼を見つけてくるんだね…。極悪人から…」
伊藤は、包帯で巻かれた手をポケットに入れると、夜景に背を向けて歩き始めた。
「そうすれば…リベンジの機会は訪れます…」
理沙は、何処とも無く夜景を睨みながら、吐き捨てるように言った。
「覚えてらっしゃい!!『R&G』…!!」
楠本はというと、小さく握り拳をつくっている。
(あみ〜ご…。やはり、私の目に狂いはなかった…)
そして、有海の住んでいる…天歳市方面を見詰め、こう呟く。
「いつか…また会いましょう…」
6747投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時13分35秒
明海埠頭…。
「『AVEX』(A Violence EXplosion)!!」
縦回転の羅夢、横回転の梨生奈が川田を襲う。
「ぐお!!」
川田は、とにかく頭部を守る為に腕をクロスさせて羅夢のヌンチャクを受け止める。
しかし、当然足下のガードはおろそかになる。
梨生奈のトンファーが、川田の足下を掬う。
「ぐわ!!」
高速回転をしながら、川田は地面に叩きつけられる。
6748投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時13分51秒
「ふん!!」
すぐさま川田は、腹筋の力で起き上がろうとする。
だが、川田の足に、ジョアンの放った鞭が巻き付いた。
「何!?」
立ち上がることができず、背中を、そして後頭部を強く打った。
「せいああああ!!!」
ちひろが、右手に木刀、左手にロッドを握り、暴れ太鼓の如く、両腕で川田を打ちのめす。
だが、川田は縛られた両足を高く上げ、木刀とロッドの攻撃を防ぐと、またも腹筋の力で起き上がった。
「け!!また、コケやがれ!!」
ジョアンは、思いっきり鞭を引っ張る。
「ふんぐおおおお!!」
だが、川田は両足を踏ん張っている為、倒れない。
「な…何…?」
逆にジョアンの方が前によろけた。
6749投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時14分22秒
「オラアアアア!!!」
「はあああああ!!!」
「せいいいいい!!!」
梨生奈、羅夢、ちひろの3人は、もう一切手加減を考えず、全身全霊で川田を滅多打ちにする。
それでも川田はダルマの様な姿勢で、この3人がかりの凄まじい打撃を耐える。
6750投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時14分34秒
「ふん!!」
閉じられた両足の状態で、川田は梨生奈にドロップキックを放つ。
「ぐぅ…!!」
咄嗟にトンファーを持った腕でガードをしたが、またも梨生奈は海の方向へ飛ばされた。
鞭を持ったジョアンも、海へ放り出される。
「『ムーン・ライト』!!」
「『ブラック・パイソン』!!」
羅夢は梨生奈を、ちひろはジョアンを、お互いのパートナーを抱き抱えて、海に落ちるのを防いだ。
「もう、諦めてくれないかな?俺的にはもう、この戦いは意味がないんだ…」
川田は、肘や後頭部を擦りながら、うんざりした声で彼女達に言う。
「意味がないですって!?」
梨生奈は、痺れた両腕を軽く降りながら、川田の前に歩み寄る。
「ふん!!意味はあるぜ!!」
羅夢は、梨生奈の真横に並ぶ。
「おまえの嫌がらせになってんなら、充分、意味があるってもんだぜ!!」
それを聞いたジョアンも、ニヤリと笑う。
「へへへ…。良い事言うじゃねぇの…」
「せめておまえだけでも、討ち取らなければな…」
ちひろも両手の木刀とロッドを構えた。
6751投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時14分53秒
「嫌がらせ?そんな理由で死んでしまっていいのかねぇ…」
川田の目が、凄みを増した。
ビリビリと空気が震え、梨生奈達4人に伝わった。
「おお…!!す、凄ぇ殺気、放ちやがんなぁ…」
羅夢は笑いながらも、冷や汗を垂らす。
そんな羅夢に、ジョアンが囁く。
「何?おまえ、ビビってんの?」
「ビビってねぇて…。殺すぞ?」
「殺し合うな…。仲間同士で…」
ちひろが、羅夢とジョアンの間に立った。
更に、梨生奈が3人の前に立つ。
「もう、『チーム』は関係ない…!!一撃でも多く、ヤツに叩き込む!!」
「何だよ…。おまえらしくもない…無計画かよ…?」
羅夢が、笑いながら訊いた。
「規格外だからね…。あの男…。それに、無計画の方があなた達もやり易いでしょ?」
羅夢、ジョアン、ちひろは同時に頷いた。
「じゃあ………行くわよ!!」
4人は、川田に向かって、同時に駆け出した。
6752投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時15分15秒
「待った!!ストップ!!」
川田は、その大きな掌を向けて叫んだ。
「何だぁ!?降参か!?」
出鼻を挫かれた羅夢は、苛つきながら叫ぶ。
「そうじゃないよ。電話だ…」
「電話ぁ?」
「電話中に襲い掛かってきても、俺は平気だが?」
「へん!!なめんじゃねぇっての!!」
ジョアンは、鞭を地面に叩き付けて怒鳴った。
それでも充分、川田は急襲を警戒しながら電話に出た。
「もしもし…。こちら、『ストレングス』…。今、しつこい女の子に絡まれてしまってね…」
梨生奈達は、地獄耳で通話内容を聞き取る。
ちひろも、訓練の結果、わずかに声を聞き取ることができる。
どうやら、電話をかけてきたのは加藤夏希の様だ…。
6753投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時15分35秒
「………そうか…。わかった…。俺も引き上げるよ…」
川田は、悔しそうに舌打ちをし、梨生奈達に視線を戻す。
「…内容は、聞いてたね?」
「…ええ…。聞いてたわ…」
梨生奈が答える。
「これ以上、俺とやり合うかい?」
「…無意味ね…」
「だろ?帰ってもいいか?」
「…どうぞ…」
「じゃあ…」
川田は軽く右手を振ると、4人に背を向けて歩き出した。
6754投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時15分55秒
「おい…。電話の内容…何だって?」
ちひろは、小声でジョアンに聞く。
「あん?しょうがねぇな…。教えてやるよ…」
ジョアンは、ダーブロウ有紗が難田門司を捕まえたことを、簡単に説明した。
「デカアリが…?何故だ?あいつは、レッドさんと新婚旅行で、今頃オーストラリアにいるはずだろう?」
「そんなの、アタシが知るかよ!!後で本人に聞けよ!!」
ジョアンは、そう言いながら、険しい目つきで川田の広い背中を睨んだ。
すると、羅夢が突然叫んだ。
「おい!!『デンジャラスK』!!」
そして、川田目がけてヌンチャクを投げつける。
ヌンチャクは回転しながら川田の後頭部へ…。
しかし、川田は目で捉えることなく、ハイキックでヌンチャクを叩き落した。
ヌンチャクの鎖は真っ二つに切れ、羅夢達の足下に転がって戻って来た。
「へへ…。野郎…余力残してやがったな…」
羅夢は、離れ離れになったヌンチャクの棍を拾い上げる。
「ま…。それはお互い様だけどな…」
『デンジャラスK』こと、川田利明の姿は、港の倉庫の影に隠れて消えた。
6755投稿者:リリー  投稿日:2009年03月17日(火)21時16分16秒
では、おちます
6756投稿者: 投稿日:2009年03月17日(火)21時39分02秒

6757投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時07分41秒
あげ、ありがとうございます
では、更新します
6758投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時09分06秒
渋谷のセンター街…。
モニークは、必殺技『Roam』で中村有沙、七海、エマ、エリーを翻弄する。
中村有沙は分銅を投げつけるが、モニークに掠りもしない。
その分銅は道路標識に当たり、大きくへこませた。
「ゴルァ!!チビアリ!!もっとよく狙わんかい!!」
「ちぃ…!!段々、速さが増している…!!」
「エマ!!狙って!!」
「わかってるけど…!!くぅ…!!」
4人は、背中合わせで四方を睨むが、その周りを高速で駆けるモニークを目で捉えることができない。
エマは、砲丸を発射させたが、それもはずれ、ビルの白い壁にひびを入れただけだった。
「エリー、狙って!!私、もう残りが少ないの!!」
エマの砲丸は、あと3発…。
エリーは、モニークの残像に向けて、矢を連射するが、ことごとく狙いを外す。
「くそ…!!こうなったら、体当たりで止めたる…!!」
「待て!!七海!!無駄死にするつもりか!!」
七海がモニークの周回上に飛び出そうとするのを、中村有沙が止める。
旧知の仲のモニークが相手なので、彼女達はコードネームで呼び合うことをやめている。
6759投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時09分31秒
「せ、せやけど、このままじゃ…」
一人だけ遠距離攻撃ができない七海は、この状況に苛ついている。
「おい、エマ!!貴様、あそこに砲丸を放て」
中村有沙が指差した方向は、とあるビルの一階と二階の境目…。
「ど、どうして…?」
「一階の店舗に、ビニールのひさしがあるだろう?その上を転がれば、もう一度砲丸が戻ってくる…」
七海の目が、ぱっと輝く。
「わかった!!『ヴォヤージュ±』やな!?」
「モニークは、この技を知るまい…」
エマは、モニークが目の前を通過する直前を狙い、砲丸を発射する。
やはり、この攻撃はモニークに当たらない。
次に、エリーが矢を放つ…はずれ…。
中村有沙が、鎖を投げる…はずれ…。
エマの砲丸が、ひさしに落ちて、こちらに転がってくる。
大きく跳ね、七海の目の前に…。
6760投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時10分11秒
「ゴルァァァ!!!」
七海は、その砲丸をフルスイングで打ち抜く。
「…!?」
予想外の攻撃に、モニークの『Roam』の速度が僅かに落ちた。
「そこだ!!」
中村有沙が、鎖を投げつける。
見事、モニークの左足に鎖が絡まった。
「ぐぅ…!?」
モニークは、アスファルトの道路に身を削るように転んだ。
「やった!!」
エマとエリーは、同時に歓声をあげた。
6761投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時10分26秒
「ぎゃはは!!モニーク、ええ恰好やのう!!」
七海は、バットを振り上げてモニークに襲い掛かる。
「…!?待て!!七海!!」
咄嗟に、中村有沙は七海の前に出た。
「な、何や…!!さっきからオノレはウチの邪魔ばっかしよって!!」
だが、その時七海は突風を感じた。
「…!?」
モニークが、高速回転している…?
「こ、これは…?」
「『アップル・シェイク』だ!!」
そう…『アップル・シェイク』をつかえるのは、3人…。
ダーブロウ有紗、岩井七世…そして最後の一人…モニーク・ローズ…。
6762投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時10分59秒
『TTK』の戦闘教官、コードネーム『メリー・ゴーラウンド(回転木馬)』、T−ASADAの考案した必殺技、『アップル・シェイク』…。
今は、『TDD』に入り、『ホイール・オブ・フォーチュン(運命の輪)』と名乗ってはいるが、彼がこの技を授けたのが、先に挙げた3人である。
中村有沙が止めなければ、七海の身体はズタズタに切り裂かれていただろう…。
6763投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時11分14秒
「どいてろ!!」
中村有沙は、七海を突き飛ばした。
エマは砲丸を、エリーは矢をモニークに向けて放つが、それらは凄まじい回転に弾き飛ばされる。
モニークの左足に絡まった鎖が、巻きつけられていく。
「…う!?」
中村有沙の身体が、高速回転するモニークに引き寄せられていく。
「な、何してんねん!!鎖を離さんかい!!」
七海は怒鳴るが、中村有沙は鎌を構えながら引き寄せられていく。
「ダメだ…!!それでは、武器を失う!!」
「武器!?アホ!!命がのうなるで!!」
「ふん!!命を失うのは、モニークの方だ…!!」
中村有沙は、モニークの回転の隙を窺い、鎌の一撃を叩き込もうとしている。
だが失敗すれば、命はない…。
「この!!」
エマは、最後の砲丸を放つ。
だが、やはり弾き飛ばされてしまう。
「ゴルァ!!」
その弾き飛ばされた砲丸を七海は打った。
しかし、結果は同じ…。
中村有沙は、ずるずるとモニークの『アップル・シェイク』に引き寄せられていく。
6764投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時11分37秒
「ちい!!オノレに助けられてばかりじゃ、精神衛生上、良うないわ!!」
七海は、金属バットを縦にかざし、モニークの『アップル・シェイク』に突っ込んでいく。
「き、貴様!!死ぬ気か!?」
「へん!!オノレもその気やろ!!」
七海は、顔、喉、心臓…と、縦一列に並ぶ急所を金属バットで守り、中村有沙の前に躍り出た。
「バ、バカ…!!七海…」
中村有沙が叫んだ瞬間、火花が飛び散り、耳をつんざく不快な金属音が響き渡る。
バチンという破裂音と共に、中村有沙の後ろにあるショーウィンドウガラスが粉々に砕けた。
「…!?」
無意識に後ろを振り返る。
「いたたた…」
そこには、ボロボロに裂けたトラックスーツの七海が、ショーウィンドウの中で呻いていた。
金属バットは、ボロ雑巾の様に捻れている。
「き…貴様…!!無茶をしおって…!!バカめ!!」
「ケケケ…。モニークの方も、ノーダメージとはいかへんかった様やで…」
「…!!そ、そうか…!!モニークは!?」
「い、いた!!あそこ!!」
エマが、先ほど狙い打ちしたビニールのひさしの上を指差す。
そこにはモニークが、今にも飛び掛らんとする猫の様にしゃがんでいた。
両手のグローブに付いた鋼鉄の爪は、一本残らず折れていた。
6765投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時12分00秒
「まったく…!!こんな技の切り抜け方…。今ので死んでたかもしれないんだよ!!」
モニークは、ショーウィンドウの中の七海に怒鳴った。
「何や?殺す気はなかったんかい…?」
『アップル・シェイク』をモロに受けた七海の姿は、もう、ほとんど裸に近い程にトラックスーツがボロボロになっている。
それでも気にすることなく、七海はショーウィンドウからその身を出す。
「七海…。あんた、乳首が両方とも見えちゃってるよ…」
そう、半笑いでエリーは言うが、七海は構わずモニークの乗っているひさしの下まで歩み寄る。
「おいコラ…。降りてこんかい…。オノレもウチも、武器は壊れてしもうたから、ガチンコの殴り合いじゃ!!」
「ふん!!私に勝てるとでも…?」
モニークは、ゆっくりと立ち上がって、七海を見下ろす。
中村有沙が、七海の前に立つ。
「七海…。もういい…。」
「あん?何や?」
「おまえはよくやった…。あとは私にまかせろ…」
「ざけんな!!ここまで来たら、ウチがモニークをぶちのめすんや!!」
中村有沙は、ふぅっと溜息をつく。
「そうか…。貴様は言い出したら聞かないからな…。いいだろう。モニークをしっかりと倒せよ?」
「チ…チビアリ…?」
「そんなわけあるか!!」
そう言いながら、中村有沙は七海にボディーブローを放つ。
6766投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時12分35秒
しかし、その拳を七海は受け止めていた。
「…貴様!!」
「ケケ…!!いつまでも同じ手が通用すると思うなや?」
七海は、強烈なヘッドバッドを、中村有沙の額に炸裂させた。
「ぐぅ…!!」
中村有沙がよろけている隙に、七海はモニークに飛び掛る。
モニークは、七海と入れ替わりに地面に降りる。
その瞬間を、エリーは矢で狙う。
だが、いとも簡単に、モニークは右手で矢を掴む。
「慌てない…。エリー…。一人ずつ相手をしてやるよ…。まずは七海から…」
「おう!!行くでぇ!!」
七海は、ひさしから飛び降りて、落下地点のモニークへ殴りかかる。
6767投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時12分46秒
「…!?」
しかしモニークは、またも七海と入れ替わる様に、ひさしの上に飛び乗った。
「何やねん!!オノレ、やる気あるんか!?」
唾を飛ばしながら、七海は怒鳴った。
「やる気ならあるよ!!でも、ちょっと待って…。電話が掛かってきた…」
「あん?電話?電源、切っとけや!!」
「仕事の電話だよ!!………もしもし…」
電話の相手は、加藤夏希だった。
難田門司が、ダーブロウ有紗によって捕まった…。
難田門司の暗殺を企てていたモニークにとって、このニュースは無念の一言に尽きる。
力なく溜息をついて、モニークは携帯を閉じた。
6768投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時13分05秒
「と…言うわけさ…」
モニークは、つまらなそうに七海を見下ろした。
「あ?だから、何や?」
「…聞こえてなかったのかい?難田門司が…」
「聞こえとったわい!!難田門司が捕まったんやろ?で、それがどないしたん?」
「ど、どないしたんって…」
モニークは、戸惑いの目で、中村有沙の方を見る。
中村有沙も、溜息をついて、七海の肩に手を置く。
「もう、我々がモニークと戦う必要はなくなった…というわけだ…」
「あん!?何で?」
中村有沙は数秒沈黙し、まじまじと七海を見詰める。
「…七海…。貴様、バカか?どうして我々はモニークと戦っていたのだ?」
「あん?そんなん、モニークが気に入らんからや!!ちゃうんかい!!」
もう、七海は当初の目的を見失っている。
中村有沙は、いよいよ諦めたかのように、深い溜息をついた。
そして、モニークの方を見上げる。
「と…言うわけだ…。七海に付き合ってやってくれ…」
モニークは、苦笑を浮かべる。
「そ、それは、何ていう罰ゲームだい?」
「知るか…。厄介なヤツに絡まれたな…」
中村有沙は、背中を向けて歩き出した。
6769投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時13分24秒
すれ違いざま、七海に語りかける。
「いいか?早く終わらせろよ?」
「ケケ…。当たり前や…。5分で片付けたる…」
「いや…早くモニークにのされろ…と、言っているのだ」
「な、何や!?オノレ、ウチがモニークに負けるとでも?」
中村有沙は、目を丸くして七海を見る。
「何だ…?貴様、勝つつもりなのか?」
「当たり前やん!!何言うてんねん!!」
「…ま、いいか…。殴り合いなら、死ぬこともないだろうからな…」
「アホか!!ウチは、モニークを殺すつもりやで?」
「…うん…。夢は大きい方がいい…」
中村有沙は、エマとエリーの肩に手を置いて囁く。
「頼みがある」
「頼み?」
「何?」
エマとエリーは、嫌な予感がしたのか、顔を見合わせる。
「七海を連れて帰ってきてくれ…。いや…病院まで送ってやってほしい…」
「やっぱり…」
「私達、早く帰って寝たいんだけど…」
エマとエリーは、泣き出しそうな顔で嘆いた。
6770投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時13分42秒
「聞こえてるで!!」
七海が、モニークの方を見据えたまま答えた。
「エマ!!エリー!!帰りたいなら、帰ってええで!!ウチは、自分で帰れるさかい…」
だが、中村有沙はもう一度エマとエリーに念を押す。
「いいな?頼んだぞ」
そして、七海の方を振り向くことなく言う。
「そのうち警察も来るだろうから…。早くここから去らねば、貴様の今の姿…猥褻物陳列罪で逮捕されかねんぞ?」
「誰が猥褻物じゃ!!」
七海の怒りのツッコミを背中で聞きながら、中村有沙はその場から離れる。
そして、難田門司を捕まえた、ダーブロウ有紗のことを思う。
(…しかし…新婚旅行先から呼び出されるとは、気の毒な…)
そして、その呼び出した者のことも思う。
(有海も大胆極まりないな…。だが、敵、味方双方の意表を突くこの采配…。見事と褒めてやろう…)
そして、自然と表情は笑みを浮かべる。
(強くなったな…。あみ〜ご…)
中村有沙は一人、センター街を抜けて行く。
「ゴルアアアアアア!!!!」
七海の咆哮が、夜の渋谷に響き渡った。
6771投稿者:リリー  投稿日:2009年03月18日(水)21時14分51秒
あと数回の更新で、この小説も終わります

しかし、明日、更新を休むことになりました
ご了承下さい

では、おちます
6772投稿者:もうすぐ終わりか・・・  投稿日:2009年03月18日(水)22時03分07秒
ほんと、ごくろうさま
6773投稿者:あげ  投稿日:2009年03月18日(水)23時47分21秒
 
6774投稿者:次の小説はどんな話だろう  投稿日:2009年03月18日(水)23時51分09秒
一磨がどう絡んでくるのか
6775投稿者:やっぱり  投稿日:2009年03月18日(水)23時52分07秒
一磨は何か裏がありそうな・・・
6776投稿者:天涯孤独  投稿日:2009年03月18日(水)23時58分42秒
聖テレトップ合格

ここらへんが気になる設定だな
6777投稿者:他のてれび戦士も出るのかな  投稿日:2009年03月19日(木)00時14分55秒
あと一人新キャラが出るとかリリーさんが言っていたような
6778投稿者: 投稿日:2009年03月19日(木)00時34分40秒

6779投稿者:AIGの会長の名前  投稿日:2009年03月19日(木)22時26分00秒
リリーだと思ったら、リディだった。
6780投稿者:あげ  投稿日:2009年03月20日(金)02時22分28秒
 
6781投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)20時58分45秒
6772さん
こちらこそ、ありがとうございます
あと少しです
どうぞ最後まで読んで下さいませ
6774さん、6775さん、6776さん
一磨は伏線なんですが、こちらの方も結構長い間、放置されるかもしれません
どうか、お忘れなきよう、お願いします
6777さん
次の作品ですが、もう書き始めてまして…書き始めと言っても、もう、3分の2程書いてます
丁度、『グラスラ』を書き終わったのが去年の大晦日で、新作を書き始めたのが元旦ですので、もう2ヵ月半かけて書いてるんですよね
でも、新作のことは『グラスラ』が終わってから報告します
6779さん
私も『リリー』と聞き間違えました
公的資金でボーナスなんて、アメリカ人は怒らないのかな?と思ってたら、大激怒でしたね

では、更新します
6782投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時01分26秒
天歳駅前の広場…。
占い師の間寛平は、そろそろ店仕舞いをしようかと、折り畳み式のテーブルを畳む為に椅子から腰を上げた
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい!!」
荒い息づかいの声に呼び止められた。
「うん…?」
寛平は見上げると、そこには冴えない風体の男が立っていた。
「あれ…?どこかで見た顔やな…」
「はい…!!私、いつかあなたに占ってもらった者です!!」
男は異様に興奮している様子だ。
寛平は、その男の顔を見ながら首を傾げる。
「はて…?どちらさんやたっけ…?」
「ほ、ほら…。春に、野球が縁で、新しい女性に出会えると…」
「あ…!!ああ!!思い出した!!そや!!虹守中の監督さんや!!」
「そ、そうです!!井上です………?ど、どうして、私の勤め先を…?」
「へ…?」
寛平は、一瞬固まった。
「そ…それは…自分がそう言ったやん…」
井上は、不確かな記憶を手繰り寄せる。
「そ、そうでしたっけ…?」
6783投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時02分25秒
寛平は、この話題を切り替えて誤魔化すことにする。
「で、今日は何の用で来たん?」
「あ、はい…!!それが、当たったんです!!占いが…」
井上の目は、再び輝き出した。
それは、涙を浮かべているからだ。
「当たり前やん!!ワシの占いは当たるでぇ…」
と、言いかけて、口ごもった。
去年の大晦日、占いをはずしてしまったからだ。
生涯、初…。
その時のタロットカードは廃棄してしまった為、今使っているカードは真新しく光っている。
6784投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時02分47秒
「ほほぅ…。で、どんな人なん?」
「あ、この人です!!」
井上は、携帯の画面を見せる。
そこには、だらしない笑顔で写っている井上と、とても可愛らしい顔をした女性が…。
井上の顔は、いつかあすみと撮った時とまったく同じ顔をしているが…。
「お?こりゃ、可愛らしい人やなぁ…」
しかし、じっとその携帯に写っている女性…佐藤珠緒の顔を見る。
「しかし…結構、歳いってるで…」
「はい!!彼女、私より年上なんです!!」
益々、井上の顔は輝き出した。
「姉さん女房は金の下駄を履いて探せって言うでしょ?しかも、こんなに可愛いんですよぉ〜〜〜!!!」
井上は、一人で身悶えしながら興奮している。
6785投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時03分13秒
「で…占ってもらいたいことは…?」
寛平が少し冷め気味に井上を見詰めて聞いた。
「ええ…。その…この方は、私と…」
井上はモジモジしながら中々言い出せないでいると、横から一人の少年が割り込んできた。
「おじさん!!きょ、今日こそ、占ってもらいますよ!!」
やたらと彫りの深い顔立ちの少年だ。
「あん…?君は…誰?」
「ほ、ほら…!!いつか、占いを途中で辞められた…」
「うん?そんなことあったか?」
「あ、あの時、眼鏡をかけてました!!眼鏡を外した方が男前って言われて、高校入学を境にコンタクトにしたんです」
「ああ…!!あの時の…!!確か、あみ〜ごの…」
「そ、そうです!!洸太レイシーです………?ど、どうして有海ちゃんのあだ名を…?」
「へ…?」
寛平は、一瞬固まった。
「そ…それは…自分がそう言ったやん…」
洸太は、不確かな記憶を手繰り寄せる。
「そ、そうでしたっけ…?」
6786投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時03分35秒
寛平は、この話題を切り替えて誤魔化すことにする。
「で、今日は何の用で来たん?」
「あ、はい…!!それが、春から同じ学校に通うことになったんです!!僕と有海ちゃん…。そ、それで…」
だが、井上が洸太の肩を掴む。
「ちょ、ちょっと!!君!!私が先に占ってもらってたんだよ!!」
「ぼ、僕、今から塾に行かなきゃならないから…時間がないんです!!」
「そ、そんなの知らないよ!!後、後!!」
寛平は、順番争いをする井上と洸太をじっと見詰めていたが、急に怒鳴り声をあげる。
「こりゃ!!いい加減にせぇ!!」
「は…はい!!」
井上と洸太は、取っ組み合いをやめて、直立不動の姿勢をとる。
寛平は、腕組みをしながら井上…洸太と顔をじっと見る。
「つまり…君等は、好きな女性とうまくいくんか…そこを知りたいわけやな…?」
「は、はい…!!その通りです!!」
「お願いです!!教えて下さい!!」
井上と洸太は、折りたたみ式のテーブルに手をついて寛平に迫る。
軽いテーブルなので、ガタンと手前に小さく傾いた。
「せやから、それがアカン、言うてんのや!!」
寛平の喝に、再び二人は直立不動の姿勢をとる。
6787投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時04分03秒
「それで仮にや…ワシが『この恋は実る事はない』…て、言うたら…」
「ええ!?実らないんですか!?」
「ど、どうすれば実るんですか!?」
またも、井上と洸太は寛平に迫る。
今度は、大きくテーブルは傾いて、寛平の顎を打った。
「痛!!せ、せやから落ち着け!!アホンダラ!!」
寛平は立ち上がって怒鳴った。
三度、二人は直立不動の姿勢をとる。
「か・り・に・や…!!仮に、恋は実らんとワシが君等に言うたら、君等はすごすごと引き下がるんか!?」
井上と洸太はお互いの顔を見合わせた。
「こんな、赤の他人のオッチャンの言うたことを信じて、この恋を諦められるんか!?」
井上と洸太は、ほとんど同時に、激しく首を横に振った。
「仮に告白して振られても、たった一度のアタックで、それで諦めるんか!?」
井上と洸太は、激しく首を横に振った。
「そない、薄っぺらな思いなんか!?その恋は!!」
「ち、違います!!」
井上と洸太は、ほとんど同時に、声をあげた。
6788投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時04分26秒
寛平は、厳しい顔を途端に緩め、シワだらけの笑顔にする。
「その気持ちがあれば…この恋は絶対にうまくいくで…」
「ほ…本当ですか…?」
ほとんど泣き顔で、井上は訊く。
寛平は、何度も頷いた。
「オッチャンの言う事は絶対や…。ええか?二人とも…勇気を出して、幸せになり…」
「は、はい!!」
「ありがとうございましたあ!!」
井上と洸太は、同時に頭を下げた。
あまり激しく頭を下げた為、またもテーブルに頭をぶつけ、そのテーブルは大きく傾いた。
またも、寛平は顎をテーブルの角で打ってしまった。
6789投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時04分57秒
今回も占いはしていないという事で、二人から代金を取らなかった。
井上と洸太は、肩を組んで意気揚々と立ち去って行く。
「へへへ…。随分、偉そうなこと抜かしてやがったなぁ…。インチキ占い師のクセしやがって…」
「あん?」
寛平は、不意に見上げた。
「しかし、メガネのヤツ…いっちきちが好きだったのか…。かかか…こりゃ面白ぇ!!」
「あ…!!」
まず、泥だらけの姿に驚いたが、その女がダーブロウ有紗だと気付くのに、随分時間がかかった。
6790投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時05分50秒
「ど、どないしたん?今、新婚旅行とちゃうの?」
「あん?呼び戻されたんだよ!!いっちきちに…。て、おまえ、今回の仕事、占ってないの?」
ダーブロウ有紗は、真新しいタロットカードをチラリと見た。
「うん…。ワシ、もう『裏の仕事』で占いはせんことにしたんよ…」
「へぇ…。それは何で?」
「そりゃ、さっきの二人に言ったことと同じや…。どんな結果が出たとしても、それを覆すようなガッツが一番大切なんや…」
そして、目を細めてダーブロウ有紗を見上げる。
「君達…『R&G』の様な…」
「へん!!ありがとよ!!」
ダーブロウ有紗は、照れ気味に頬をポリポリと掻いた。
顔に着いた乾燥した泥が、パラパラとテーブルの上に落ちた。
寛平は、迷惑そうにその泥の粉を払い落とす。
「で…今回の依頼…失敗したんやな…」
「ああ…。私達、『R&G』が失敗させたんだよ…」
ダーブロウ有紗は、ニヤリと笑った。
6791投稿者:洸ちゃんwwwwww  投稿日:2009年03月20日(金)21時06分10秒
ってか、洸太忠律落っこちて聖テレ行くのになんで塾に通う必要が?
6792投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時06分46秒
「ふ〜ん…。で、そのことを言いに、ワシに会いに来たん?」
「そうだ…!!聞きたいことがあったんだよ!!」
「聞きたいこと?」
「おい、ジジイ…。また変な都市伝説が巷を賑わしてんだが…」
「都市伝説?」
「ああ…。『怪人・浴衣ピエロ』は、ぱったりと姿を現さないようになった…。だが、入れ替わる様に、また新しい『怪人』が現れたって…」
「ほう…。どんな?」
「『怪人・たまご丼仮面』…」
黄色の全身タイツに、ピンクのアイマスク、白いマント、頭頂部に丼を乗せた、『怪人・たまご丼仮面』…。
夜の大都会に現れて、壁の落書きやひったくりなどの犯罪者に正義の鉄拳を振るうという…ある意味、『浴衣ピエロ』よりも恐れられている存在だ。
「その、『たまご丼仮面』…おまえか…?」
「うん。ワシや」
寛平は、あっさりと認めた。
6793投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時08分29秒
「何で、そんなことしてんだよ?いや、何で『たまご丼』なんだよ?」
寛平は、しばらく黙っていたが、両膝をパンと叩いてダーブロウ有紗を見上げる。
「ワシな…。旅に出るんよ…」
「旅?」
「うん。世界一周…『アース・マラソン』や…」
「『アース・マラソン』?何だ?そりゃ?」
「陸地はマラソン、海はヨットで世界を一周するんよ」
「………まあ、おまえなら、やってできないことはないんだろうが…。何で?」
「うん…。今回な、ワシ、死んでもおかしなかったやん?」
寛平は、そう言いながら自分の後頭部を擦った。
七海によって、大怪我を負わされた所だ。
6794投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時08分52秒
「で…死ぬ前に、やりたいことをやりたい…と、思うようになってん…。夢やったんよ…。地球を一周するん…」
「へん!!てめぇが、簡単に死ぬかよ!!…で、それが『たまご丼仮面』の活動と、どうつながるんだ?」
「せやから、ワシが日本を離れている間、少しでも世直しをしておこうてな…」
「世直し!?難田門司みてぇな大悪党を逃がそうとして、何言ってやがんだ!!」
ダーブロウ有紗は、笑いとも怒りともとれる表情で怒鳴った。
「しゃあないやん…。依頼人やもん…。渋谷のチーマーが依頼主なら、ワシは全力で守ったるよ?」
そう…寛平は極端な現金主義だった。
「ま、おまえが何をしようと、私は関係ねぇや!!でも…しばらくお別れってことだな…」
「うん…。さみしい?」
「け!!清々するぜ!!」
「そう?ワシはさみしいな…」
しばらく、二人の間に沈黙が続く。
「あ、そうだ…。おまえ、孫娘はどうすんの?たしか…帆乃香とか言ったな…」
「ああ、帆乃香か?しばらくは、しょこたんに預かってもらおう思てるよ」
「しょこたん!?あの、変態レズビアンかよ?よせよ!!ろくな大人にならねぇぞ!!」
「いや…そう、変わらへんと思うよ…。帆乃香としょこたん…。それに、しょこたんはしばらく聖テレの養護教員を続ける、言うてるし、帆乃香も転校したないって言うてるし…」
確かに、レズビアンの翔子にとって、聖テレは楽園だろう。
しかし、そうなると『TDD』は、翔子と帆乃香を通じて『R&G』の動向を探ることになる…。
案外、その為の処置の様な気がする。
6795投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時09分44秒
「そうか…。じゃ、さっさと世界一周でも、火星一周でもいいから、どこへでも行っちまえ!!」
ダーブロウ有紗は、軽く右手を上げると、天歳駅に向かって歩いて行く。
「その恰好で、電車に乗るん?」
「いや…。車だよ…」
寛平は、ようやく気がついた。
天歳駅のロータリーに、錆びたワゴン車が停まっている。
中には、ジャスミン、七世、俵姉妹…そして、細川藍…。
みんな、何故かダーブロウ有紗同様、泥に塗れ、心配そうにこちらを見詰めている。
その時、寛平の胸がざわついた。
何とも、不安な…不吉な予感…。
「ダーブロウ!!」
寛平らしからぬ、深刻な声に、思わずダーブロウ有紗は振り向いた。
タロットカードを掴むと、寛平は駆け出していた。
そして、ダーブロウ有紗にタロットカードの束を差し出す。
「…あん…?」
眉間にシワを寄せて、ダーブロウ有紗は寛平とカードを交互に見詰める。
「一枚…引いてんか…?」
「あ…?何だよ…?」
「ええから…!!一枚…!!」
今まで見たこともない、寛平の深刻な顔…。
それに気圧されたかの様に、ダーブロウ有紗は思わず一枚カードを引いた。
6796投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時10分46秒
ダーブロウ有紗の引いたカードは…道化師の様な男が肩に荷物を担ぎ、足下に犬が付き従っている絵柄…Le・Mat …と書かれた『愚者』のカードだった。
「…『フール(愚者)』…」
寛平は、じっとそのカードを見詰める。
「どうしたんだよ?おい…」
ダーブロウ有紗は、苛つきの表情で訊いた。
「…これから…君達、『R&G』に立ちはだかる…敵や…」
「何…!?」
改めて、ダーブロウ有紗は、『フール』のカードを見詰める。
「敵だと…?『フール』って言ったら、てめぇのことだろうが!!」
思わず、ダーブロウ有紗は身構えた。
「ちゃう…。これは…『TDD』みたいな『組織』やない…」
「あん!?」
「ほれ…。このカードの人物…一人やろ…?たった一人の人物や…」
「一人!?」
「そうや…。たった一人の人物が…君達『R&G』を不吉の底へ誘っていくねん…」
その時、寛平は『足下の犬』に注目する。
「犬…?この犬は…」
寛平は、しばらく眺めるが…あるキーワードが浮かんだ。
それは…『裏切り者』…。
「ダ、ダーブロウ…!!こ、これは…」
その時、ダーブロウ有紗の手が、寛平の口を塞いだ。
6797投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時11分22秒
「いい…。それ以上、喋るな…。ジジイ…」
ダーブロウ有紗の声は、低く、重い。
「おまえ、言ったじゃねぇか…。どんな結果が出たとしても、それを覆すようなガッツが一番大切なんだって…」
「………。ああ…。言うた…」
「私達には、そのガッツがある…。違うか…?」
「………。ああ…」
「それから…おまえは、ろくすっぽ当たらない、インチキ占い師…」
「………。ああ…」
「だったら、もう喋るな…。私は、何も聞かなかった…。それでいいな…?」
「………。ああ…」
「じゃあな…」
今度こそ、ダーブロウ有紗は一度も振り返ることなく、錆びたワゴンに乗り込んで、虹守町方面に走り去って行った。
寛平は、ワゴンが見えなくなるまで見送った。
6798投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時11分57秒
「運命を覆すガッツか…」
そして、まじまじと『愚者』のカードを見詰める。
「おまえは…誰や…」
その時、とあるイメージが、寛平の脳裏に浮かび上がった。
「近づけるな…」
寛平は呟く。
「その『少年』を…近づけるな…」
そして、こう続ける。
「あの『少女』に…」

強い突風が吹き上げた。
その風は、寛平の手元からタロットカードをさらっていく…。
「…飛んで行け…」
不吉な運命と共に………。
寛平は、春の夜空に舞散るタロットカードを眺めながら、そう願った。

(最終回『十二回・裏』・・・終了)
6799投稿者:あ、また続編書くんだ  投稿日:2009年03月20日(金)21時14分16秒
次は全然関係ない話、書くのかと思ってた
6800投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時14分33秒
6791さん
おそらく、洸太は聖テレから東大を狙ってるんでしょう
一応、タイムトラベルの研究が彼の目標でして…

これで、『表』、『裏』とも最終回を迎えました。
あとは、エピローグだけです

では、おちます
6801投稿者:リリー  投稿日:2009年03月20日(金)21時15分23秒
6799さん
続編というか、番外編みたなものです

では、おちます
6802投稿者:少年は一磨?  投稿日:2009年03月20日(金)21時17分06秒
少女は……

というか以前ふと思ったんだけど、
TTKの人工培養でもし男が出来たらどうなるんだろう
当然不出来なのと一緒に捨てられるかもしれないけど、そのデータがどの女子よりも優れてるとしたら?
もしモニークや瑠璃のように(というか誰にも見えないように)ひっそりと成長を続けさせ、生を受けたとしたら……

なんて話、どうですか?wwww
6803投稿者: 投稿日:2009年03月20日(金)21時45分38秒

6804投稿者: 投稿日:2009年03月20日(金)23時36分24秒
6805投稿者: 投稿日:2009年03月21日(土)00時36分21秒

6806投稿者:ついにエピローグか  投稿日:2009年03月21日(土)01時44分51秒
ところで新作はどのくらいの長さなんだろう
グラスラと比べてどう?
6807投稿者: 投稿日:2009年03月21日(土)02時45分25秒
ttp://uproda.2ch-library.com/114013Xo9/lib114013.jpg
6808投稿者: 投稿日:2009年03月21日(土)02時45分41秒
http://uproda.2ch-library.com/114013Xo9/lib114013.jpg
6809投稿者:デジ  投稿日:2009年03月21日(土)02時56分10秒
夜分遅くにお久しぶりです。多忙なものでパソコンを付けない日々が続いてました。本当に久々なので小説のほうも更新します。
3チームに分かれた攻防戦。迫力でした。
そして、驚きが一つありましたね。
藍と有海『R&G』に入ってたんですね。しかし、有海のコードネームが『グランドスラム』とは・・・。ホントにいろんな部分で成長しましたね。大胆さといいいろんな部分で・・・。
(今日の更新分)
寛平さん久しぶりにスポットが当たった感じがします。しかも名言言いましたね。
「どんな結果が出たとしても、それを覆すようなガッツが一番大切・・・」。いいことも言うんですね。寛平さん。(←(ひどい))
アースマラソン。今、寛平さんがやっているマラソンのことですね。しばらく寛平さんの姿をテレビで見れないのは残念ですが、がんばってほしいものです。
そして、最後の最後に出た伏線。あの少女、あの少年が「R&G」を破滅へと導く・・・。あの少年は、一磨でしょうか?あの少女とはいったい?
とにかく次がエピローグですか・・・。とにかく最後まで応援していますよ!そして次回作も楽しみにしています!

6810投稿者:長文乙蹴れ  投稿日:2009年03月21日(土)03時07分05秒
楽しみにしてるお
6811投稿者:117  投稿日:2009年03月21日(土)14時31分33秒
どうも、最近は土曜日しか来れてない117です(苦笑)。
ついに、12回表・裏完結ですか。そして、次回はエピローグ・・・
R&Gを破滅に導く少年少女・・・一体、誰なのか、気になります!

そういえば、WBC。日本、韓国に快勝でしたね!
負けたら、後がなかったので・・・とりあえず、一安心。村田は残念ですが。
6812投稿者:WBCについてですが  投稿日:2009年03月21日(土)15時47分10秒
やっぱり1つの国が同じ国と4回も勝負する状況はおかしいと思います。
だいたい第1グランドで同じグループの国同士を第2グランドも同じグループにするのは個人的には明らかにおかしいと思います。
世界大会なのだから全チームと戦うのは無理だとしても
もう少し多くの国と対戦してもいいんじゃないかなと思いました

長々と小説に関係ない話、申し訳ありません。
6813投稿者: 投稿日:2009年03月21日(土)16時27分59秒
6814投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)20時54分55秒
6802さん
そのストーリー、参考にさせていただきます
6806さん
新作は、そんなに長くないですね
『グラスラ』が長すぎたんだと思いますが…
そうですね…『グラスラ』の第一試合くらいの長さ(もう少し長いかも)になると思います
6815投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時01分57秒
デジさん
寛平さんが凄いと思ったのは、「アースマラソン」という、途轍もない挑戦をする直前、「あらびき団」で股間にピンポン球を二つぶら提げて、チャチャマンボを踊りながら、腰を振ってボールをカチカチさせてたのを見た時です
お笑いでありながら、超人的な冒険に挑む自分に対しての、ツッコミだと感じました
117さん
そうですね、勝ってよかったです
日本がコールド勝ちをした夜に自論を展開しましたが、やはり日本のピッチャーは世界一です
でも、打線がパッとしないんで、勝利が遠ざかるんでしょう
しり上がりに調子を上げていってくれればいいんですが…
組み合わせについてですが、なんか、放映権だとか、観客動員数とか、いろいろ銭勘定をした結果、こんな組み合わせになったそうです
アメリカは時差があるので、もし日本がフロリダの方へ行ってしまったら、放映時間が微妙にずれて、視聴率がとりにくいとか、そんな理由だそうです
だったら、一箇所に集めてやればいいんでしょうけど、いろいろ利権が絡み合ってるそうですよ

本当に、長い間読んでくださって、ありがとうございます
エピローグです
一気に更新しようと思います
6816投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時03分39秒
エピローグ『ヒーローインタビュー』

まず、少女達を…いや、少年と少女達を出迎えたのは、満開の桜の花。
今年の桜は、卒業式、入学式のシーズンに咲いたので、引き抜かれて総入れ替えの憂き目を見ることを免れた。
「良かったね…。あんた達…」
慈しみに満ちた目で、その桜を見上げる少女は、そう関西弁で呟いた。
黒く艶やかな、腰まで真っ直ぐ伸びた髪、その前髪は眉毛の上で一直線に切り揃えられている。
肌は白く、その分、黒目が大きく目立つ。
可愛らしい少女を、よく「人形の様」と比喩するが、まさにその少女、【藤本七海】の第一印象を語るには、その例えが適切だった。
だが、その可愛らしい顔には、絆創膏がいたる所に貼られている。
セーラー服、スカート、ソックス、そしてベレー帽…少女の身に着けている物は、全て真っ白だ。
異なるのは、黒の革靴に、緑の胸のリボン。そして胸元と左袖の『St.T』と金色の筆記体で組み合わされた、紺色で盾形のエンブレム。
聖テレジア女子学園の制服である。
6817投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時04分02秒
「ななみん。何してるの?」
声を掛けたのは、【細川藍】。
背が高く、ポニーテールに結んだ髪の毛は薄く茶色がかかり、肌は白く頬は赤い。
弾けんばかりの笑顔が非常に可愛らしく、男女、双方から好かれるような…そんなタイプの少女である。
「うん?長い冬を越え、春のうちに一瞬で散ってまう桜の花を眺めて、センチメンタルな気持ちになってたんよ…」
「うそだ〜〜〜!!ななみん、絶対に『花より団子』…いや、『花よりたこ焼き』って感じだよ〜〜〜!!」
藍は、そう言って七海を指差して笑った。
「う…。その言葉…前にも言われたような気がするわ…」
そう言いながら、もう一度七海は桜の花を見上げた。
6818投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時04分24秒
「おはよう!!藤本さん!!細川さん!!」
二人に声を掛けたのは、【一木有海】。
細く尖った顎、少し吊り上がり気味な目、可憐な顔立ちをした少女。
七海同様、黒く真っ直ぐ伸びた長い髪…。
しかし、その性格は七海とは正反対。
弱気で遠慮がちなその性格は、いじめっ子達にとって、恰好のターゲットだった………のは、過去の話しである。
「おはようさん!!一木さん!!」
「イエィ!!あみ〜ご!!」
3人は、お互いにハイタッチを交わし合う。
6819投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時04分45秒
「藤本さん、よかったねぇ…。新学期に退院が間に合って…」
有海は、まだ絆創膏の貼られている七海の顔を、心配そうに覗き込んだ。
「ケケケ!!こんなん、どうってことあらへん!!モニークのヤツは、未だに退院できてへんのやで?」
藍は、しらけた目で七海を眺めて言った。
「ウソばっかり!!昨日、ニュースでやってたよ。象牙の密売組織が謎の人物に壊滅させられたって…。それ、どう考えても、もにもにの仕業だよね?」
「もにもに…?何や?それ…」
今度は、七海がしらけた目で聞いた。
「モニークさんのあだ名!!私が考えたんだ!!」
「敵にまで、あだ名付けんなや!!」
「でも、あの元旦の決戦では、間違いなく仲間だったでしょ?」
有海は、もう遠い昔の出来事の様に、原村の方角の空を見ながら言った。
「ああ。カッコつけて登場した割には、寛平にボコボコにされて気ぃ失ってたんや…。ウチと藍が助けに行かなんだら、今頃生きてへんで…。あの女…」
七海は、憎々しげに顔を歪めて呟いた。
6820投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時05分09秒
「あ、そうだ…。さっき、職員室に寄った時、先生の机に新しいクラス編成表が置いてあったんだ」
有海は、『表の世界』らしい話題に切り替えた。
「新しい編成表?そ、それ、見たの?」
「うん。チラっとね…」
「一木さんのチラっていうんは…」
有海は、満面の笑顔を浮かべると、指でOKサインをつくった。
「そう!!バッチリ覚えちゃった!!」
3人の少女は、手を取り合って飛び上がる。
「で、ウチのクラスは?誰と一緒なん?」
「ええとね…。A組から順番に言ってくよ?木内さんと細川さん、A組で同じクラスだったよ」
「へぇ〜…。り〜なと一緒かぁ…。勉強、教えてもらおう!!」
藍の目が輝きだした。
「で、B組が渡邊さんで、C組が近藤さんと私…。で、藤本さんはD組だったよ」
「一木さんがC組で、ウチがD組?」
少し、さみしそうに有海の顔を見詰める七海。
「平気…?一木さん…。ウチがおらんでも…」
有海は、笑顔で小さく頷く。
「うん…。平気だよ…。少し寂しいけど…。私、強くなったから…」
「そうか…」
七海は、有海の頭をベレー帽の上からクシャクシャと撫でた。
6821投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時05分32秒
「おはよう!!もうすぐ、新入生が来るよ」
3人に声を掛けたのは、広い額を前髪で隠し、襟足で二つに髪を括った、眉の薄い和風で上品な顔立ちの少女…彼女の名前は【木内梨生奈】。
「おお、おはよう!!り〜な!!一年間、よろしくね!!」
「え?」
事情の知らない梨生奈は、その細い目をわずかに大きく見開いた。
「同じクラスなんだよ!!私達!!2年A組!!」
「へぇ…。そうなんだ…。で、何でもう知ってるの?」
有海は、自分の頭を指差して笑う。
「ああ…。覚えちゃったんだ…。凄いね、あみ〜ご…。もう、勉強じゃ敵わないかも…」
学年一位の梨生奈にそう言われ、有海は恥ずかしそうにうつむいた。
そして有海は、思い出したかの様に手を叩く。
「そう…!!先生だけど…私、C組は、また佐藤珠緒先生だよ」
「ええ〜!?ウチは、たまりんとお別れなん!?」
七海は悲鳴にも似た声をあげた。
一年前の今頃は、担任の珠緒の気の抜けた声が苦手だったのだが…なかなか彼女とは相性が良かった。
今の野球部の顧問でもあるし…。
6822投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時05分52秒
「え?じゃあ、A組は?」
藍が、身を乗り出して聞く。
「ええと…A組は、音楽の仙波清彦先生で…」
授業が始まる前、いつも恵比寿顔でパーカッションを叩いている、あの初老の音楽教師の顔が浮かんだ。
「ああ、あの優しそうな…」
「私、あの先生、好きよ」
藍も梨生奈も新担任に不満はない様だ。
おそらく、彼が学年主任なのだろう。
「B組は、社会の徳田神也先生…」
「あ、あの、お笑いとかに詳しい先生だよね?」
学生時代は落語研究会に所属し、お笑い養成所に通っていたこともあるらしい。
「で、D組は?」
七海は、わくわくしながら有海に聞く。
「D組はね…近藤春菜先生…」
「げ…!!ウソやん!!卓造が担任!?」
七海の顔が、真っ青になった。
「卓造じゃねぇよ!!」………近藤の怒鳴り声が、すでに七海の頭に響いている。
6823投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時06分39秒
そうこうしているうちに、正門から保護者に連れられた新入生が続々と入って来た。
「あ…!!来たよ!!新入生!!」
藍は、期待の篭った目で正門付近を眺める。
ぽつぽつと、男子の姿も確認できる。
七海の言うところの、海上自衛隊の様な制服を来た男子生徒だ。
今年度から、聖テレは男子生徒も入学することになったからだ。
「あはは…。まだ、制服がブカブカだ。可愛いねえ…」
藍は、ほのぼのとした口調で言う。
「そんな呑気なこと言ってないで…。早く、教室に行って用意しなきゃ…!!」
梨生奈は、皆の背中を押す。
そう…入学式に七海達2年生が学校にいる理由…それは、部活の勧誘なのだ。
今から野球部のユニフォームに着替えて、体育館に向かう新入生にアピールしなければならない。
そこでしか、新入生に接触する機会がないのだ。
「今年からは男の子も入学するから、意外と集まったりして…」
有海も密かに期待する。
マンボウズの渡邉聖斗が、既に入部を約束している。
そして、川?樹音も…。
「あと…細田さんが入ってくれれば、とりあえず9人…。公式戦が組めるよね」
6824投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時07分00秒
しかし、その有海の言葉に、七海は噛み付いた。
「け…!!羅夢の入部なん、認めへんで!!」
「またぁ…。あの元旦の時…凄く協力的だったじゃん…。ななみんとらむりん…」
藍は、七海の背中を突いて言う。
「あれは、仕方なくや!!せやなかったら、死んでたもん!!」
「まあ、まあ…。羅夢には、私から誘っておくから…」
梨生奈は、昇降口へと急いだ。
皆も、彼女に続く。
昇降口には、【近藤エマ】と【渡邊エリー】が、名簿のチェックと胸に付ける紅白の花を配る仕事の為に立っていた。
「あら、おはよう。ご苦労様」
梨生奈は、急いで上履きに履き替えながら二人に挨拶した。
「あれ?えまちんとえりりん、お花を配る係だったの?」
藍の問いに、エマとエリーは顔をニヤケさせながら見合わせる。
「だって、キレイどころの仕事だもんねぇ〜〜〜?」
「ねぇ〜〜〜!!」
この言葉は、去年、【中村有沙】と【ジョアン・ヤマザキ】も言っていた様な気がする。
「ケ…!!出たで…『チーム・ナルシスト』…」
七海は密かに舌を出した。
6825投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時07分19秒
「でね、この仕事の役得があるのよ…」
エマは、イヤらしい笑顔を浮かべている。
「何やねん?そのキショい笑顔は…」
七海は、冷ややかな目で言った。
「ふふ…。ここにね、名簿チェックと同時に、お顔もチェックできるのよ…。ほら、これ、新入生の顔写真。生徒手帳のコピーだけど…」
エリーが、顔写真の束を高く掲げた。
「わあ…!!見せて、見せて!!」
藍は、エリーのもとに駆け寄った。
「もう…!!先に行くよ?」
梨生奈は、先に教室へ行ってしまった。
有海も気になったが、梨生奈の後を追い駆けていく。
七海は、藍と一緒に新入生の顔をチェックしに行く。
まず、七海は羅夢の顔写真を見つける。
羅夢は、1年D組の32番…。
「ぎゃはは!!何や、羅夢の顔!!ガンたれてんぞ!!」
七海の笑い声は、昇降口に響いた。
6826投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時07分41秒
「羅夢の顔なんか見て、どうすんのよ!!コレよ、コレ!!」
エマは、『1年E組』の顔写真名簿を広げる。
そう…男子生徒のクラスだ。
「うふふ…。これで、カワユイ男の子がいないか、チェックするのよ…」
エマとエリーは、一枚一枚、丹念に調べていく。
「あ…!!この子…!!9番の小関裕太君て子…可愛くない?」
「そう?私は、20番の武田聖夜君!!イケメンじゃん!!え…?これ、『のえる』って読むの?ロマンチック…」
キャーキャー騒ぐ、エマとエリーの声も、昇降口に響き渡る。
6827投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時08分06秒
「あ…。この子…」
藍は、一人の少年の写真に注目する。
「何や?藍は、こういうのが好みなん?」
七海は、顔写真を覗き込む。
「い、いや、違うけど…。この子、野球の試合を見に来てた子だよ…。聖斗と一緒に…」
「へ?」
その少年は、21番・千葉一磨…。
ギョロリとした大きな目…あの時の少年だ。
「ふ〜ん…。ええ面構えしとんなぁ…。これは、将来大物になる人相やで?試合を見に来てた言うんなら、野球に興味があるんかな?」
「でもね、聖斗の話しじゃ、途中で帰っちゃったらしいんだよね…」
「途中で帰った!?失礼なヤツやな!!ほんなら、ウチの『グランドスラム』…逆転サヨナラ満塁ホームランを、見てへんのかいな!!」
「それから…この子、聖斗を抑えて入学試験、第一位だったんだって…」
「頭、ええんやな…」
七海は、改めて千葉一磨の顔写真をまじまじと眺める。
写真なのに…この目に睨まれると、何故か不安感にさいなまれる…。
「………気に食わん!!」
そう言うと、七海は不愉快そうに千葉一磨の顔写真を指で弾いた。
6828投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時09分15秒
体育館へつながる渡り廊下…。
七海、藍、有海、梨生奈、エマ、エリーの6人の野球部員は、ユニフォームに着替えて緊張した面持ちで新入生を待ち構えていた。
藍は、プラカードを掲げる。
『求む!!野球部員!!』…去年の春に、七海と藍、たった二人で作ったプラカード…。
これから、また仲間を増やしていくのだ…。
「あ…!!まにゃ先輩!!あず〜先輩!!」
藍は、軽く会釈した。
真向かいには、ソフトボール部が陣取っている。
その中心で、3年生となった【伊倉愛美】と【大木梓彩】が手を振って応えた。
「愛美先輩、梓彩先輩…。これから、ウチ等は新入生を獲り合うライバル同士やからね…」
不敵な笑みで、七海は二人を睨む。
「う…。怖いよ…。ななみん…」
「そんな顔じゃ、一年生、怖がって寄り付かないよ?」
そう言いながらも、愛美と梓彩は野球部を懐かしく思う。
この身が二つに増えるものなら、もう一度野球を思いっきりやってみたい…二人はそう思った。
6829投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時09分35秒
A組から、新入生達は渡り廊下を歩いて来る。
様々な部活の勧誘が、新入生に群がっていく。
「野球部で〜〜〜す!!野球部に入りませんか〜〜〜!!」
皆は、大声で叫ぶのだが、やはり向かいのソフトボール部が人気だ。
無理もない。
ソフトボール部は、昨年、全国大会まで進んだのだ。
それに比べて野球部は、公式大会に参加できるかも微妙な立場だ。
「ちぃ…!!何やねん!!コイツ等、去年はウチ等の練習を見て、キャーキャー言うてたんとちゃうんかい!!」
七海は、苦虫を噛み潰した様な顔で、新入生達を睨みまわした。
「ななみん、スマイル!!スマイル!!」
藍は、営業スマイルで勧誘を続ける。
新入生の列は、B組に移る。
「あ〜〜〜!!野球部だ!!私、絶対に入りますよ!!」
その元気の良い声は…川?樹音だ。
「あ〜〜〜!!ずね!!絶対に入ってね!?約束だよ!!」
藍と樹音は、硬い握手を交わして別れた。
しかし、その後のB組、そしてC組の新入生で、野球部に興味を示す者はいなかった。
6830投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時10分10秒
そして、D組…羅夢のクラスだ。
「ななみん、後ろに下がって!!」
エマとエリーは、二人がかりで七海を後ろに追いやる。
「な、何でやねん!!」
「だって、絶対にケンカになるじゃん!!そんなの、新入生に見せたら、みんな怖がって野球部に入りたがらないよ!!」
そう言っているうちに、その細田羅夢が前を通る。
「羅夢…!!」
梨生奈は、羅夢を呼び止めた。
「梨生奈…」
羅夢は困った様な笑顔を見せたが、七海の顔を見つけた途端、顔を険しくさせる。
七海も、当然それに応じる。
「何や…この…」
エマが七海の口を塞ぎ、エリーが羽交い絞めにする。
「と、とにかく、考えてみてよ…」
梨生奈も、羅夢の視界から七海を隠す様に立つ。
6831投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時10分23秒
「ら、らむりん…。アバラ…大丈夫?」
藍は、引きつった笑顔で語りかけた。
「ああ…。おかげ様でね…」
素っ気無く、羅夢は答えた。
そして、藍の耳元で何やら囁く。
藍は緊張したが、その言葉を聞いて全身の力が抜けた。
「心配すんな…。もう、恨みはねぇよ…。仲間じゃん。アタイ等…」
6832投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時10分44秒
そして最後…男子クラスのE組だ。
年下の男の子の登場に、全ての部は蜂の巣を突いた様な大騒ぎだ。
渡り廊下に、黄色い声が響き渡る。
「裕太君!!野球部に入らない?」
「聖夜君!!野球とか、興味ある?」
エマとエリーは、お目当ての男子生徒に声を掛けている。
そして目の前…野球の試合を見に来ていたという、千葉一磨が通りかかる。
「あ…!!君、千葉一磨君でしょ?聖斗と一緒に、試合を見に来てた…」
藍が声を掛けたのだが、一磨は一瞥もせずに体育館に向かった。
「ああ…。行っちゃった…」
藍は、呆然と一磨の背中を見送った。
「何やねん!!アイツ…!!やっぱ、気に食わんわ!!」
七海は、荒々しく足を踏み鳴らした。
6833投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時11分06秒
「藍さん!!僕、絶対に野球部に入りますから!!」
後ろで、声が聞こえる。
藍と七海は、後ろを振り返る。
そこには、ブカブカの制服を着た渡邉聖斗が立っていた。
「おお!!メガネ少年!!オノレ、可愛いのう!!」
七海は、思わず聖斗を抱き締めた。
「ちょっと!!やめて下さい!!」
聖斗は、半ば本気で突き飛ばして七海の抱擁から逃れた。
「何や!?痛いな!!」
「これは、セクハラですよ!!」
聖斗は、眼鏡のズレを直しながら七海を睨みつける。
「セ、セクハラ…?な、何言うてんねん!!」
「あはは…!!ああ、聖斗!!あんた最高だよ…」
藍も、涙を浮かべて聖斗を抱き締めた。
「…あ、藍さん…」
聖斗は、顔を赤らめながら、されるがままになっている。
「おい、コラ!!これはセクハラちゃうんかい!?セクハラちゃうんかい!?」
七海の怒鳴り声は、周りの黄色い声に掻き消された。
6834投稿者:聖夜登場強く希望!!!  投稿日:2009年03月21日(土)21時11分12秒
ぜひともエマエリーのアイドルチックな叫び声を打ち砕いてほしいwwwwww

あっでも千秋とのヘタレ共演もみたいしなぁ……
6835投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時11分28秒
入学式が終わり、新入生と保護者、そして部活の勧誘の者達は帰っていった。
まだ始業式前の慌しい期間なので、部活動は休みとなっている。
速やかに帰宅する様に、と言われていたのだが、七海、藍、有海の3人は、練習用ユニフォームに着替えてグラウンドでキャッチボールをしている。
いつもは初等部のグラウンドで練習しているのだが、今は誰も使用していない中等部のグラウンドを使っている。
「う〜ん…。やっぱり、中等部のグラウンドの方が広くてええなぁ…」
「バックネットもあるし…ピッチャーマウンドもあるし…」
「これ、ソフトボール部の設備なんだけどね」
改めて、七海は恵まれた環境の練習設備を眺める。
「ええなあ〜〜〜、ソフトボール部!!こない、至れり尽くせりやったら、全国大会なん、楽勝やろうな〜〜〜!!」
嫌味ったらしく大声を張り上げる七海を、藍はジロリと睨む。
「ちょっと!!何、言いがかりつけてんの?」
「はぁ?言いがかり?ウチが?」
今度は、わざとらしくとぼける七海。
「ソフトボール部だって、血の滲む様な努力してんだよ?顧問があの『こんどん』だもん!!キャプテンのまにゃ先輩なんて、毎日泣かされてるんだよ!!」
藍は、ソフトボール部にも在籍しているのだ。
6836投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時12分00秒
藍からの返球は、強くなってきた。
「ああ…。勉強できるからなぁ…愛美先輩…。怒られ慣れてへんだけとちゃう?」
七海も、負けずに強い球を返す。
「違うよ!!本当に、キツイんだって!!はっきり言って、野球部の練習なんて、比べ物にならないね!!」
藍は、思いっきり七海に投げ返した。
グローブをはめているにも関わらず、左手が痛い。
この藍の言葉と返球に、七海はカチンときた。
「何やと!?藍、オノレ…やっぱり野球部は、お遊び気分でやっとったな!?」
七海の返球に、藍は顔を顰めた。
「ちょ、ちょっと…!!何で、そういうことになるのよ!!」
藍の返球…七海も顔を顰める。
「せやかて、ソフトボール部の肩、持ったやないか!!」
七海が返球…。
「だって、私、ソフトボール部のみんなだってがんばってるの、一緒に練習してるから、わかるもん!!」
藍が返球…。
「あ…!!やっぱり、藍はソフトボール部に行ったっきり、こっちに戻って来んへんつもりや!!」
七海が返球…。
「だ、だから、何で、そうなるのよ!!」
藍が返球…。
有海は、この二人の乱暴なキャッチボールを、オロオロと交互に見る。
6837投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時12分21秒
「やっぱりそうや!!あの栄光の聖テレソフトボール部に、骨を埋める気なんやな!!」
七海の返球…藍のグローブから、破裂音がした。
「痛!!」
相当、強い球を投げてきた…。
「もう、何でそう、捻くれてモノを考えるのよ!!」
藍の返球…七海のグローブからも、破裂音。
「いたた…」
こんなに、強い球を投げる様になったのか…。
七海は、藍といつまでも野球がしたいと願った。
「へん!!おまえなんか、あのダッサイ『こんどん直筆、根性Tシャツ』着て、ソフトボール部に行ってまえ!!」
渾身のストレートを、七海は投げた。
藍は、それを受ける。
涙が流れた。
それは、単純に手が痛かったのか、それとも七海の淋しい不安な気持ちを察して、心が痛かったのか…。
「ななみん!!いい加減にしなよ!!」
藍は、ボールを地面に叩き付けた。
コロコロと、ボールが地面を転がる…。
6838投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時12分41秒
グラウンドが、静寂に包まれる。
「ほ、細川さん…。藤本さん…」
有海は、涙ぐみながら二人を見詰めた。
沈黙がこの場を支配する。
(アカン…。何で、ウチは…)
七海は、自分の素直でない性格を後悔し、嘆いた。
藍を傷つけてしまった…。
もしかしたら…藍は、このままソフトボール部に行って、戻ってこないかも…。
「…そうだよ…」
その時、藍が口を開いた。
「え!?」
七海は、顔をあげた。
6839投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時13分01秒
藍が、下を向いたまま、言葉を続ける。
「…ななみんの言う通りだよ…」
「…へ…?」
「…認める…」
「…あ、藍…!!」
七海は、胸が張り裂けそうになり、掠れ声で叫んだ。
しかし、言葉が続かない…。
謝ればいいのだ…。
素直に…自分の気持ちを…。
いつまでも、野球部にいてくれと…一緒に野球をやってくれと…。
「ななみん…」
だが、藍の言葉の方が早かった。
「確かに、あの『根性Tシャツ』…ダッサイよね…」
「…へ…?」
顔を上げた藍の顔は………笑っていた…。
6840投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時13分24秒
「あはは!!何?その顔!!もしかして、泣いちゃったりしてる?」
藍は、七海を指差して笑っている。
あの、弾けんばかりの…太陽の様な…明るい…暖かい笑顔…。
「オ、オノレ〜〜〜!!よくも、ウチをおちょくりよったな〜〜〜!!!」
七海は、藍に飛び掛って行く…。
その先は、どうするのかわからない…。
一発、ぶん殴ってやるのか…それともギュっと抱き締めてやるのか…。
「藤本さん!!」
有海が、不意に七海の前に立つ。
「な、何や…?」
「部員同士、ケンカ禁止!!」
「へ?」
「野球部なんだから、野球で戦ったら?」
そう言って、有海は七海にバットを差し出した。
「キャッチャーは、私がやってあげる…」
七海は、有海からバットを受け取ると、ニヤリと笑って藍を見た。
藍も、同じく笑っていた。
6841投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時13分45秒
藍がピッチャー、有海がキャッチャー…そして、七海がバッターボックスに立つ。
ソフトボールのマウンドなので、野球よりも距離が短くなっている。
「ねぇ…。本当に、上投げでいいの?」
藍は、心配そうに七海に聞く。
「ええって言ってるやん!!ハンデやハンデ!!」
「何ですって?」
しかし、今度の七海は、素直に心境を話すことにする。
「いや…ソフトボールの投球されたら…ウチに勝ち目あらへんもん…」
あの、独特な球筋…。
野球とは、まったく違った代物だ…。
藍は、思わず吹き出した。
「うん、うん…。素直なななみんて、可愛いよ…」
「やかまし!!はよ、来いや!!」
「うん!!行くよ?」
藍は、大きく振りかぶる。
そして、ストレートを放る。
「…!?」
有海の構えるミットが、気持ちの良い音をたてる。
「いたた…。ワンストライク!!」
有海は、藍に返球する。
6842投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時14分05秒
「おぉ…。凄い…」
七海は思わず呟いた。
「へへへ…。恐れいったか?」
藍は、得意気に有海からの返球を受ける。
しかし、七海の感心は、別の所に向いていた。
「凄いやん!!一木さん!!もう、立派にキャッチャーできるやん!!」
「え…?あ、ありがとう…。藤本さん…」
マスクの下の有海の顔が、真っ赤になっている。
「す、凄いって…そっち…?」
藍は、少し前のめりに倒れかけた。
「当たり前やん!!藍、オノレはもっと気合い入れて投げんかい!!」
「な、何よ!!距離も短いから、あみ〜ごが捕りやすいように投げてたんだよ!!」
「細川さん、大丈夫!!」
有海が叫んだ。
「え?」
「私、絶対に捕るから…。全力で投げて…!!」
有海は、そう言ってキャッチャーミットを構えた。
本当に、様になっている。
そんな有海の姿が、藍も七海も嬉しくて堪らない。
6843投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時14分27秒
「わかった…!!思いっきり行くからね…」
藍は、再び大きく振りかぶる。
そして、渾身のストレートを投げた。
「ゴルアアア!!!」
七海のバットは空を切った。
今度の球も、有海はしっかりと捕球した。
「いたたた…。ツ、ツーストライク…」
「あああ〜〜〜!!!しもうた!!今の見送っとったら、ボール球やん!!」
七海は、悔しそうにバットを地面に叩き付けた。
「失礼な!!ストライクだったよ!!低め、ギリギリ…!!」
藍は、有海から返された球を受け捕る。
「ええい!!来いやあ!!」
七海は、早くもバットを構えた。
藍は、ふっと笑みをこぼす
「…?何や…?」
「何度目だろ…。ななみんとの野球対決…」
「…そやな…。よう考えてみたら…ウチ等、一年前と同じことしてるやん…」
七海も笑みをこぼした。
6844投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時14分46秒
「続けよう…」
有海が呟いた。
「同じこと…続けよう…」
「一木さん?」
「あみ〜ご…?」
有海も、笑顔を二人に向ける。
「こんな楽しいこと…。いつまでも…いつまでも…」
マスクの下からでも、はっきりわかる。
有海の表情…幸せに満ちている。
藍の表情も…。
そして、自分も有海と同じ顔をしていると、七海は、はっきりわかる。
「おう…続けような…」
七海は、バットを構える。
「いつまでも…」
藍は、大きく振りかぶる。
そして………投げた。
6845投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時15分04秒
七海は、何も考えず、思いっきりバットを振った。
甲高い金属音…心地よい負荷力が、バットから両腕に伝わる。
「…!?」
有海は、キャッチャーマスクを後ろに飛ばし、立ち上がった。
藍も、後ろを…空を振り返った。
七海の放った打球は、青い空に吸い込まれて行く。

………いつまでも…この素晴らしい仲間達と、同じ時を過ごせますように………。
藤本七海は無意識に、自分の願いをその白球へ乗せた。

どこまでも高く…。
どこまでも遠く…。



『グランドスラムの少女達』………完
6846投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時18分30秒
これで、『グランドスラムの少女達』は、終了です
一年以上も続いたこの小説、最後まで読んでくださったこと、心より感謝します
本当に、ありがとうございました
6847投稿者:完結おめでとーございまーす!!  投稿日:2009年03月21日(土)21時20分36秒
(^▽^)ノ~~ミ
6848投稿者:47  投稿日:2009年03月21日(土)21時21分04秒
紙テープ風にしたかったのに失敗したorz
6849投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時22分36秒
正直に言うと、この小説を書き始めて発表してから、ちゃんと終わらせられるかどうか、心配してました
初の放置小説になるのではないか…とも…(『サムドラ』でなりかけましたが…)
しかし、皆さんの毎回の感想や励ましのコメントで、やっと終わらせることができたという次第です

何度でも言います
今までどうもありがとうございました
また、新作を始めたいと思います
発表は、このスレで行います

6834さん
聖夜も、いつか出してみたいです
私のお気に入りですので…
6850投稿者:リリー  投稿日:2009年03月21日(土)21時23分33秒
6847さん
どうもありがとうございます
私には、盛大な紙テープに見えますよ
6851投稿者:お疲れ様です  投稿日:2009年03月21日(土)21時38分10秒
新作もよろしくお願いします
6852投稿者: 投稿日:2009年03月21日(土)21時43分53秒

6853投稿者:りーな  投稿日:2009年03月21日(土)21時57分25秒
リリーさん長い間お疲れさまでした。
楽しく読ませていただきました。
次の作品も期待してます。
6854投稿者:おつかれさま  投稿日:2009年03月21日(土)23時06分28秒
あげ
6855投稿者:完結おめでとう!  投稿日:2009年03月22日(日)00時29分30秒
よく頑張った
お疲れ様!
6856投稿者:08年1月14日〜09年3月22日  投稿日:2009年03月22日(日)01時39分58秒
ほんと1年以上かけて完結させたんだな。

「リリー小説に放置なし」
6857投稿者:あげ  投稿日:2009年03月22日(日)02時40分22秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544d.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544e.html
6858投稿者:去年の今日  投稿日:2009年03月22日(日)02時43分47秒
七海と有沙が楠本さんと戦ってる場面が描かれてました
6859投稿者:うわーん  投稿日:2009年03月22日(日)03時09分44秒
なんかまた違う作品書いてほしいです
リリーさんの小説大好きです
6860投稿者:あげ  投稿日:2009年03月22日(日)17時42分26秒
祝!!完結!!
6861投稿者: 投稿日:2009年03月22日(日)21時06分36秒
     
6862投稿者:117  投稿日:2009年03月22日(日)21時20分26秒
少し出遅れてしまいましたが・・・本当に、お疲れ様でした!
いや〜、かなりのロングラン作品でしたね。素晴らしいの一言です。

エピローグ・・・これまた、見事な先生陣(笑)。
新しいクラス分けのドキドキ感、よく分かります。
そして、謎の少年・一磨。何かありそう、気になりますね。

いよいよ、今週末で2008年度の『天てれ』も終わり、来週からは新年度がスタート!
リリーさんの次回作も、楽しみにしています!頑張ってくださいね!!
6863投稿者:あーそうだ終わったんだった・・  投稿日:2009年03月22日(日)21時40分02秒
自然に胸が騒ぎ出すリリータイム(夜9時前後、今名付けた)
6864投稿者:リリー  投稿日:2009年03月22日(日)21時44分40秒
終了してから1日…
たくさんの労いのお言葉、ありがとうございます

6851さん、ありがとうございます
新作も用意してますが、終わりが見え次第発表します

りーなさん
随分、お久しぶりでした
今まで読んで頂けてたとは嬉しい限りです
次の小説も、ご愛読お願いします

6854さん、ありがとうございます
6855さん、完結できたのも、みなさんのおかげです
6856さん、そうですね、完結だけは自分に言い聞かせてましたので…
6857さん、過去ログありがとうございます
6858さん、おお、第一試合の『7回・裏』ですね
あの時からです「この小説は長くなるなぁ…」と覚悟し始めたのは…
6865投稿者:リリー  投稿日:2009年03月22日(日)21時46分26秒
6859さん、なるべく早く新作の発表ができるようにしますので、その時はよろしくお願いします
6860さん、ありがとうございます
6861さん、ありがとうございます
117さん
随分前から読んでてくださって、本当に感謝します
117さんをはじめ、いろんな方々のコメントが、本当に楽しみであり、励ましでした
これからもよろしくお願い致します
丁度、今年度と終了が重なりました
新作を始めるのも、新年度と同時にできればいいな…と、思います
ただ、一磨の話は、まだ封印です…

6863さん
リリータイムとは光栄です
その時間は、私が唯一インターネットができる時間(自主的にですが)なんです
また、度々、このスレを覗いてコメントをしたいと思います
6866投稿者:リリー  投稿日:2009年03月22日(日)21時56分26秒
まだ大まかですが、新作がどんなものになるのか、少しだけお知らせします

次の話は、『サムドラ』や『らりるれろ』でもチラリと触れられてた『アメリカ次期大統領候補暗殺』の話です
今までの『R&G』の話ではなく、番外編のようなエピソードになります

主役は、あかりと千帆です

他には、モニーク、瑠璃、東奈・・・などです
6867投稿者:リリー  投稿日:2009年03月22日(日)21時58分10秒
時間軸としては、『サムドラ』と同時進行の話になります
 
まだ、『TTK』が壊滅する前(壊滅する直前)から話は始まります

では、おちます
6868投稿者:あかちほ  投稿日:2009年03月22日(日)23時35分05秒
キター
6869投稿者:デジ  投稿日:2009年03月23日(月)00時53分26秒
117さん同様かなり出遅れてしまったようですね。本当にお疲れ様でした。

エピローグ・・・
先生陣これまた豪華な顔ぶれで・・・おっ!出ましたね。徳田さん。
本物の出番はしばらくあとになりそうですが・・・でるか?あの名言。(その件は申し訳ありません(汗)。)
謎の少年・一磨。なんなのか。気になります。(何気に拓巳の名が挙がってないのも気になる。)

さて、リリーさんの次回作は・・・。あかりと千帆ですか。そういえばたびたび名が挙がってましたね。「アメリカ次期大統領候補」・・・って現大統領オバマ氏のことでしょうか?
とにかく次回作も楽しみにしています!これからもお互いがんばりましょう!
6870投稿者:聖夜残って良かったですね  投稿日:2009年03月23日(月)21時27分35秒

6871投稿者:あかちほも残留のようです  投稿日:2009年03月23日(月)21時31分53秒
 
6872投稿者:ちほよりジーナが残ってくれて良かったのでは?  投稿日:2009年03月23日(月)21時36分05秒
聖夜、あかり、ジーナがリリーさんが好きな戦士だし
6873投稿者:リリー  投稿日:2009年03月23日(月)22時33分01秒
ちょっと忙しくて、こんな時間です

デジさん、今まで本当にありがとうございました
徳田さんに対しては、あのセリフは絶対にやりますよ(別に、気にしないで下さい)
拓巳は、またどこかで出そうと思ってますが…
オバマさんは出てきません
その大統領候補は、架空の人物です
『難田門司』とか『ラビ』みたいな、オリジナルキャラクターとなります

6870さん、6871さん、6872さん
ええ?聖夜、残るんですか?
千帆も?
あかりとジーナは、セパタクローのブログで知ってましたが…
卒業報告でもあったんですか?
でも、めでたいですね
6874投稿者:リリー  投稿日:2009年03月23日(月)23時00分15秒
6868さん
あかりと千帆のエピソードは、いつか書いてみたいと思ってましたので、結構スイスイ書けてます

では、おちます
6875投稿者:一応  投稿日:2009年03月23日(月)23時50分51秒
http://jlab.r0m.biz/s/test1237802121637.jpg

残留確認             卒業確定
一磨、元太、帆乃香、次元     羅夢、裕太、樹音、聖斗、瀬南
ジーナ、あかり、聖夜、メロ    ベン、理来、翼、翔太、樹里亜
千帆、ことり、あやの、拓巳
遼、凛 
6876投稿者:あかり千帆の小説を書いた後は  投稿日:2009年03月23日(月)23時55分12秒
グラスラの続きみたいな小説を書く予定ですか?
それとも、前にいってたレイシーズ有海ジーナ達の小説ですか?
6877投稿者:リリー  投稿日:2009年03月25日(水)20時49分07秒
6875さん
ありがとうございます
本放送が始まる前に、新人の顔を見せるって初めてじゃないですか?
とりあえず、気になる子がいますね

6876さん
そうですね、まず一磨の伏線を片付けなくては…と思ってます
あかりと千帆のエピソードも、『サムドラ』から書いてたことですからね
6878投稿者:リリー  投稿日:2009年03月25日(水)20時53分58秒
それはそうと、WBC、日本が優勝しました!!
アレは、本当にヤバイ!!
何か、小説みたいです!!
あんな試合(決勝戦)を見せられたら、「野球を小説にする意味、あるのかね?」と自分で自分に言ってしまいます
イチローの不振も、村田の負傷も、ダルビッシュが同点にされたのも、全部最後の盛り上がりの為の布石だったとしたら、運命の女神はたいした小説家です
しかも、最後に決めたのがイチローですから…
これで、随分長い期間、何があっても幸せな気分になれるでしょう

では、おちます
6879投稿者:自分で徳田さんの台詞言ってどうするんですかwwwwww  投稿日:2009年03月25日(水)21時09分44秒
事実は小説より奇なりという諺を素で見た瞬間ですね。
6880投稿者:リリーさんの  投稿日:2009年03月25日(水)21時19分17秒
とりあえず、気になる子って誰だろう?
6881投稿者:リリー  投稿日:2009年03月26日(木)22時11分08秒
6879さん
どうもすみません
でも、本当に劇的な勝ち方でしたから…

6880さん
左の一番下の子です
「その上の子も可愛いな」と思ったら、ことりでした
6882投稿者:おっ、女子ですね  投稿日:2009年03月26日(木)22時19分53秒
そういえば、望や聖夜の事が好きな理由は書いてたけどちひろや有沙達を好きな理由ってなんですか?
6883投稿者:さすがお目が高い  投稿日:2009年03月26日(木)22時34分25秒
左下の女の子は行まゆかちゃんという子らしいです
めちゃくちゃ可愛い子ですよ
6884投稿者:左下の女の子が行まゆかなんだ  投稿日:2009年03月26日(木)22時44分55秒
なんか、杏奈っぽく見えた
6885投稿者:左の一番下の子は私も気になりました  投稿日:2009年03月26日(木)22時46分02秒
 
6886投稿者:自分は右下の  投稿日:2009年03月26日(木)22時50分40秒
樹里亜似の子が気になります
6887投稿者:リリー  投稿日:2009年03月27日(金)20時50分04秒
6882さん
ちひろや有沙ですか?
可愛いからです
もちろん、みんな可愛いんですが、私の好みですね

6883さん
行まゆかと言う子ですか?
「ぎょう」って読むのでしょうか?
6884さん
私は、あかりが一瞬、杏奈に見えましたが…
6885さん
やっぱり、目を引くんですね
6886さん
樹里亜は残念です
あと、翼と理来…
1年戦士が3人とは、2003年より多いですね
6888投稿者:「行」と書いて「ユキ」と読みます  投稿日:2009年03月28日(土)09時21分16秒
「ユキマドカ」です
6889投稿者:まゆかだよ  投稿日:2009年03月28日(土)09時34分49秒
>88
6890投稿者:リリー  投稿日:2009年03月28日(土)23時06分06秒
6888さん、6889さん
「ゆきまゆか」ですね?
ありがとうございました
6891投稿者:質問  投稿日:2009年03月29日(日)20時44分50秒
WBCで日本が優勝しましたが、中日ドラゴンズは一人も選手を送っていません中日ファンのリリーさんは、このことについてどう思われますか?
6892投稿者:リリー  投稿日:2009年03月30日(月)21時38分56秒
6891さん
正直、あまり良く思ってません
横浜は、主砲の村田を壊されました
原監督は、自分のチームそっちのけで日本代表の指揮をとりました
それも、日本の野球の地位向上と盛り上げる為です
その力添えを中日は何もしませんでした
今シーズンは、中日の応援に力が入りません
巨人…と言うよりも、原監督を応援したい気持ちでいっぱいです
ちなみに松坂は、投げすぎということで、レッドソックスからお叱りを受けたそうです
6893投稿者:リリー  投稿日:2009年03月30日(月)21時45分37秒
新しい天てれ、始まりましたね
チーム制がなくなり、衣装も機能的(普通)になって、一昔前に戻ったようです
筋肉マッチョと若くて綺麗な女の人という司会者の組み合わせも、01年を彷彿とさせます
懐かしい感じがします

「行まゆか」が、「平田真優香」という名前になってましたが、「行まゆか」は、芸名だったのでしょうか?
他のスレでもありましたが、信子にそっくりですね
6894投稿者:元チャームなので芸名ですね  投稿日:2009年03月30日(月)21時52分19秒
あのん→あやのみたいなものです
6895投稿者:ターボ君がいましたね(笑)  投稿日:2009年03月30日(月)21時53分13秒
どーよも復活してくれないかなあ
某超大物映画俳優の方の人はよく見るんですけどね
6896投稿者:リリー  投稿日:2009年03月30日(月)21時54分02秒
6894さん
チャーム?
そういうユニットがあったんですか?
あやのと真優香は、お知り合いということですか?
6897投稿者:やっぱり  投稿日:2009年03月30日(月)21時54分05秒
真優香が一番でしたか?
6898投稿者:あと金城ティアラって子も  投稿日:2009年03月30日(月)21時55分29秒
名前変わったらしい。
よく知らないけど
6899投稿者:リリー  投稿日:2009年03月30日(月)21時55分54秒
6895さん
ターボ君、いましたねぇ
相変わらず、喋らせてもらえないようですが…
6900投稿者:個人的には奈々がかわいい  投稿日:2009年03月30日(月)21時57分38秒
例の樹里亜似の子、年全然違ったけどww。
いろんな意味で可愛いです。
6901投稿者: 投稿日:2009年03月30日(月)22時02分35秒
チャームキッズとは子役の事務所です
どちらかというとロ○コンが好きそうな活動をしてます
あやのは1年前までそこで活動してました。中村あのんという名前で。
そのノリで今年は行まゆか→平田真優香、金城ティアラ→渡辺青來になりました。
http://www.charmkids.net/

ちなみに現在の3人の事務所はストライクです。
http://www.strikepro.jp/
6902投稿者:チャームキッズは芸名が多いらしい  投稿日:2009年03月30日(月)22時03分48秒
 
6903投稿者:リリー  投稿日:2009年03月30日(月)22時08分05秒
6897さん
たしかに、真優香も可愛かったですけど、寿々歌という子も可愛かったです
奈々という子は、もっとニコニコしてくれればよかったけど、あれはスタッフから笑うなと指示を受けてたのでしょうか?

金城ティアラ?ハーフの子がいたんですか?
もしかして、セイラって子ですか?
6904投稿者:新作なんですけど  投稿日:2009年03月30日(月)22時17分27秒
新年度と同時に…って言ってた気がするんですが、
発表、いつぐらいになりますかね…?
6905投稿者:リリー  投稿日:2009年03月30日(月)22時23分02秒
6900さん
ああ、確かにあの写真だと樹里亜に似てました
6901さん
へぇ…
全然知りませんでした
最近までAVEXが多かったけど、今度はチャームキッズという所から大量採用ですか…
何か、芸能事務所の力関係が露骨になってきましたね
(ジュネス→AVEX→ストライク)
6902さん
と、いうことは3人ともチャームキッズはやめてしまったということでしょうか?
6906投稿者:リリー  投稿日:2009年03月30日(月)22時24分45秒
6904さん
新作ですか?
少し見切り発射的な感もありますが、そろそろ始めてもいいでしょうか?
今週中には、始める準備をしておきたいと思います

6907投稿者:ストライクに移籍という  投稿日:2009年03月30日(月)22時31分07秒
6908投稿者:あげ  投稿日:2009年03月30日(月)23時04分54秒
6909投稿者:ddd  投稿日:2009年03月31日(火)00時21分04秒
ちょうど良いので4月1日に始めてはいかがでしょうか?
6910投稿者: 投稿日:2009年03月31日(火)00時35分41秒

6911投稿者:あげ  投稿日:2009年03月31日(火)00時47分51秒
6912投稿者:リリー  投稿日:2009年03月31日(火)22時03分09秒
6907さん
そのストライクというのが、直につながってるという仕組みですね

6909さん
ちょっと、明日には間に合わないかもしれません
でも、何とか早めに発表できるようにしますので、お待ちください

あげ、ありがとうございます

では、おちます
6913投稿者:あげ  投稿日:2009年04月01日(水)22時03分03秒
 
6914投稿者:あげ  投稿日:2009年04月02日(木)23時46分04秒
  
6915投稿者:あげ  投稿日:2009年04月03日(金)23時57分43秒
6916投稿者:あgw  投稿日:2009年04月04日(土)18時49分52秒
 
6917投稿者:あげ  投稿日:2009年04月04日(土)19時46分57秒
新作はまだでしょうか?楽しみに待ってます。
6918投稿者:もう書くな  投稿日:2009年04月04日(土)20時49分19秒
6919投稿者:新作  投稿日:2009年04月04日(土)20時55分42秒
冒険探偵小説『野良猫トラベラーズ』
http://ame.x0.com/tentele/090404030755.html
6920投稿者:あげ  投稿日:2009年04月12日(日)04時55分43秒
書き込みぱったり止んだ。
6921投稿者:クリスタルチルドレン  投稿日:2009年04月12日(日)05時50分25秒
はくじんなんかいらないよー
6922投稿者:あげ  投稿日:2009年04月16日(木)00時16分55秒
 
6923投稿者:あげ  投稿日:2009年04月16日(木)00時18分55秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544d.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544e.html

6924投稿者: 投稿日:2009年04月16日(木)00時53分12秒

投稿者 メール