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青春探偵小説『グランドスラムの少女達』
1青春探偵小説『グランドスラムの少女達』 投稿者:リリー  投稿日:2008年01月14日(月)21時35分44秒
『グランドスラムの少女達』

CAST

藤本七海 
細川藍
一木有海  

『R&G探偵社』第3弾
『表バージョン』と『裏バージョン』の二つの小説が交互に展開し、お互いに影響し合います
『表』…聖テレジア女子学園中等部と、その野球部のメンバーを中心とした青春スポコン小説
『裏』…『R&G探偵社』の少女探偵達が、悪と戦うアクション小説
第一試合(第一話)から第三試合(第三話)までの三話構成です
2
☆レス1400までを見る☆
3
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4
☆レス2950までを見る☆
2951投稿者:リリー  投稿日:2008年08月01日(金)21時29分25秒
「うん…。郁哉なら、あのカーブ、何とかしてくれるだろうな…」
勇気はそう言って頷いた。
「もう…!マーさん、コロコロ選手交代しすぎ!!スコア表、ややこしくなっちゃうじゃん!!」
甜歌はそう言いながら、頬を膨らませる。
「こら!!文句言わずに、ちゃんと記録しなさい!!それから、マーさんじゃなくて、監督って呼ぶの!!」
井上は、いつも甜歌には振り回される。
2952投稿者:リリー  投稿日:2008年08月01日(金)21時30分06秒
バッターボックスに立つ郁哉を、中村有沙は横目で見る。
(む?今まで試合に出ていなかったヤツだ…。しかも、丸刈りではない…。レギュラーか?)
有海も、郁哉には当然気付いている。
都大会では、何本もホームランを放っている選手だ。
変化球を中心とした投球のサインを出す。
いくら藍のストレートも強力とはいえ、彼には打たれてしまうかもしれない。
藍は、まずは明らかなボール球を二つ続けて投げる。
さすが郁哉、選球眼が良い。
ピクリともバットを動かさない。
(つまり…小手先は通用しない…と、いうことか…。だとしたら…次は…)
中村有沙の予想通り、有海からのサインはカーブ。
配球のノウハウを、中村有沙も確実に身に着けてきている。
藍はカーブを放つ。
(…!?待ってたぜ!!)
バットを振る郁哉。
彼も、このカーブを予想していたのだ。
2953投稿者:リリー  投稿日:2008年08月01日(金)21時31分03秒
しかし、そのカーブの曲がり具合は、郁哉の予想を超えていた。
「…しまった…!」
完全に、バットの根元に当たってしまった。
打球は高く上がる。
外野フライだ。
「あ〜あ…」
虹守中のベンチは、意気消沈した。
そして、打球はゆっくりと落下するのだが…そこにいるのは、センターの有海だった。
2954投稿者:リリー  投稿日:2008年08月01日(金)21時31分31秒
「ん?ま、待て!!まだ、気を抜くな!!」
井上が怒鳴る。
何故なら、捕球しようとする有海の足が、フラフラして覚束ない。
ライトの七海、レフトのエリーが全速力で有海の元に走って来ている。
「あのセンター、ボールを落とすぞ!!」
さすがに、都大会の決勝までチームを引っ張り上げた井上だ。
こういう洞察力は鋭い。
そして井上の予想通り、有海はボールを落とした。
これで、まずは一点返した…誰もがそう思った。
しかし、またもや勇気の声が響く。
「遼希!!滑り込め!!」
「…え?」
今度は背中を向けていた為、遼希は勇気の言葉の真意がわからなかった。
キャッチャーの中村有沙のミットに、凄まじい勢いのボールが納まった。
「…え?バ、バックホーム?」
思わず遼希は、ホームを目の前にして足を止めた。
2955投稿者:リリー  投稿日:2008年08月01日(金)21時32分19秒
「そら…」
中村有沙は、タッチを兼ねて、遼希にボールを渡した。
「アウトー!!」
球審が、親指を立てて、腕を突き上げた。
「うわあああああ〜〜〜!!!」
グラウンド中が、どよめいた。
「な、何…?何が起きたの?」
遼希は、呆然とした表情で帰ってくる滉一に聞いた。
「レーザービーム…」
「え?何だって?」
「だから…ライトから…キャッチャーへ…レーザービームが…」
「マ…マジ…で…?」
「…マジで…」
2956投稿者:リリー  投稿日:2008年08月01日(金)21時32分37秒
センター有海が落としたボールを、全速力で駆けつけたライト七海が拾い、そのままキャッチャー中村有沙に返球したのだ。
ノーバウンド、当然、中継無しでバックホーム…そのプレイを見ていなかった遼希が、まんまとタッチアウトとなったのだ。
そう聞いても、遼希は未だに信じることができない。
「監督…?監督…!監督…!!」
皆が揺り動かしても、井上は口を開けたまま、微動だにしない。
「マーさん!!」
甜歌が、スコア表を挟んだバインダーで井上の頭を張り倒した。
「…お…!?おお…!!おおおお〜〜〜!!!」
井上は、今更ながらに驚愕の声を上げた。
一体、この少女達は、何なんだ…?
2957投稿者:リリー  投稿日:2008年08月01日(金)21時33分41秒
今日は、これでおちます
2958投稿者: 投稿日:2008年08月01日(金)22時33分09秒

2959投稿者:デジ  投稿日:2008年08月02日(土)04時21分17秒
李小牧って、本当の滉一の父親ですね。
七海すごすぎ!さすがですね。起死回生の三死交代。
次回は2回。今度はどんな攻撃を見せてくれるのか?続きも楽しみです。
              (今日の小言)
妹は天てれファンだと思います。(特にミストのファン)最近ジャニーズに目覚めたらしいです。
あと、あさってから旅行に行くもので、しばらく来れません。

小説更新してみました。そうしたら、テレビ戦士の半数が出るというかなり大きなスケールの小説になってしまいました。それではただ事件を解決するだけではつまらないかなと思って、ちょっぴり恋愛描写とかも入れようかと考えているんですが、どんな風にすればそれっぽい感じが出るか教えていただけないでしょうか。
2960投稿者:遼希  投稿日:2008年08月02日(土)12時50分03秒
緩慢プレーなんだけどね
2961投稿者:あげ  投稿日:2008年08月02日(土)17時48分16秒
 
2962投稿者:あげ  投稿日:2008年08月02日(土)18時45分51秒
2963投稿者: 投稿日:2008年08月02日(土)18時50分36秒

2964投稿者:リリー  投稿日:2008年08月02日(土)21時02分10秒
デジさん
はい、実際の滉一のお父さんです
実は、滉一を知る前から、李さんのことは知ってました
だから、滉一が李さんの息子と知った時は、ビックリしました
妹さんも天てれファンですか
ロケの時、戦士に話しかけることとかできるんですかね
妹さんは、中学生くらいですか?

小説、物語が動き始めましたね
面白くなりそうな予感です
教えるとか、そういうのではないのですが、私の場合、事件をメインにして、トッピングみたいな形で恋愛とかはさんでいます
でも、今作では野球と事件を同等に扱ってますが…
旅行、楽しんでください
お気をつけて

2960さん
そうなんですよね
2アウトなんだから、とりあえずホームに駆け込まないと…

では、更新します
2965投稿者:リリー  投稿日:2008年08月02日(土)21時04分32秒
「や…やっぱり…凄いんだ…。この子達…」
江莉は、二ヶ月前のあの試合は、やはり幻ではなかったと実感する。
「おい、江莉!!江莉!!」
彼女は、そっと肩を叩かれる。
バーンズ勇気だった。
「先輩…?」
「なぁ、まだクラブハウスにユニフォームあったよな?」
「ええ…。ありますけど…」
「で、江莉に頼みがあるんだけど…」
「な、何ですか?」
勇気が自分に頼み事…江莉は胸が高鳴った。
「俺、裁縫とか、できないからさ…」
そう言って、彼女の耳元で囁く。
江莉は始めは驚いたが、やがて笑顔で頷いた。
勇気は江莉の手を引っ張って、皆に気付かれない様にクラブハウスへ向かった。
2966投稿者:リリー  投稿日:2008年08月02日(土)21時04分52秒
「み、みんな!!集まれ!!」
レギュラーも補欠も、全ての選手を井上は集めた。
「ここからは、もう一点もやれないし、一回でも早く得点しなければならない…。それは皆もわかるな?」
「はい!!」
部員達の目も、闘志に漲っていた。
あんなスーパープレイを見せ付けられたのだ。
燃えないわけがない。
「ん?あ、あれ?バーンズ様は?あ〜!!江莉もいなくなってる!!ちょっと、2人ともどこに行ったのよ〜〜〜!!」
甜歌は、一人で大騒ぎをしている。
「ちょっと!!郁哉!!バーンズ様と江莉、どこに行ったのよ!?」
「あ?知らねぇよ!!うるせぇな!!」
ノーアウト満塁から、結局一点も返せなかったことに対するイライラを、郁哉は甜歌にぶつける。
「何さ!!自分のヘマでチャンスを潰したからって、私に当たらないでよ!!」
「う、うるせぇって言ってんだろ!?」
郁哉は、甜歌を軽く押した。
甜歌は、尻餅を着く。
「わあああああ〜〜〜!!!痛ぁ〜〜〜い!!!郁哉にやられたあああああ〜〜〜!!!」
大声で喚き散らす甜歌を、皆はほったらかしにしている。
どうせウソ泣きだと知っているので…。
2967投稿者:リリー  投稿日:2008年08月02日(土)21時05分36秒
それに対し、聖テレベンチは活気に満ち溢れている。
「よくやった!!ななみん!!このピンチを無失点に抑えたのは大きいよ!!」
あすみの大きな掌が、七海の頭をグリグリと撫でる。
「あんなん、朝飯前やって!!」
七海は、あすみの手を払い除けたが、まんざらでもないようだ。
「でも、本当に助かったぁ〜…。私、絶対に失点すると思ったもん…」
「ご…ごめんなさい…」
エマの言葉に、有海は声を小さくして謝った。
「はい!!ワンアウト!!」
藍は、有海の目の前で親指を突き出す。
「え?な、何?細川さん…」
目を瞬かせながら、有海は藍の親指をじっと見詰めた。
「『ごめんなさい』て言ったらアウトだからね!!もう、言っちゃダメだよ?」
「細川さん…」
有海は唇を噛み締め、じっと藍の顔を見詰める。
そんな有海の肩を、愛美は軽く叩いた。
「そうだよ。ミスは誰でもするんだもん。それを助け合うのがチームメイトでしょ?だから、『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』って言おうよ」
「…はい…そうですね。ありがとう…藤本さん…。みんな…」
七海も、微笑んで有海を見詰めた。
2968投稿者:リリー  投稿日:2008年08月02日(土)21時05分57秒
「あ、そうや!!チビアリ!オノレもウチに『ありがとう』言えや!!」
「何故だ?」
「あん?オノレが欲かいてノーアウト一、二塁のピンチにしたんとちゃうんかい?それをウチが帳消しにしたったんで?」
「どちらに送球しても、あのランナーは二塁にいて、あの三番バッターで三塁に進塁していた。私のミスとは関係ない」
「オノレのミスがなかったら、五番バッターでスリーアウトやったんじゃ!!」
「あの六番バッターのことを言っているのか?あいつはピンチヒッターだから、どのみちツーアウトで出てきていただろう」
「もう、やめなよ!!ななみん!!ありりん先輩も!!折角、いい雰囲気になってたところじゃないですか!!」
藍が堪らず仲裁に入った。
あすみは、七海の頭に手を置く。
「そう。野球はミスのスポーツって、星野監督が言ってたけど…。重要なのは、ミスをした時に周りがどうカバーするか…」
そして、中村有沙を見る。
「あと、同じミスを繰り返さないこと…」
「…わかっている…。そんなことは…」
中村有沙は、七海の方を向き直る。
「何や?」
「七海…。さっきの返球は見事だった。褒めてやる」
「何や!?その偉そうな態度は!!」
また、2人は一触即発となる。
2969投稿者:リリー  投稿日:2008年08月02日(土)21時06分29秒
だが、あすみはもう2人のことは放っておいて、有海の方を向く。
「同じミスを繰り返さない…。だからね…あみ〜ご…」
「は、はい…?」
「今度、凡フライを落としたら…引っ叩くからね?」
「え…ええ…?」
途端に、有海は涙目になる。
「あはは!!ウソウソ!!今のうちに、いっぱい失敗しときなって!!」
あすみは、バシバシと有海の背中を叩く。
かなり痛い…これは既に、引っ叩かれているのではないのだろうか…?
「さあ、次の打順は、あみ〜ごからだよ!!気合いれて行きな!!」
「は…はい…!」
有海は、ヘルメットを被って金属バットを持ち、バッターボックスに向かう。
「あ、あれ?」
「どうした?あみ〜ご?」
「向こうのチーム、誰も出てこないんですけど…」
「ん?」
あすみは、相手ベンチを凝視する。
まだ、監督の井上が選手達に熱っぽく話している。
「ふふん…。今頃、熱くなったってか…?」
あすみは鼻で笑った。
2970投稿者:リリー  投稿日:2008年08月02日(土)21時07分21秒
ようやく、虹守中の選手達がグラウンドに散らばった。
全選手の白いキャップから、長い襟足の髪が出ている。
(つまり…全員レギュラーメンバー?)
有海は記憶力が良いので、よく覚えている。
「か、監督…。ど、どうしよう…」
「どうしようって…。行きなよ…」
「で、でも…全員、レギュラーですよ?私の打順になった途端に…」
「ええやん!!敵が誰になろうと、三振になるんやから!!さっさと行ってき!!」
七海が怒鳴る。
「そ、そうだよねぇ…」
再び涙目になって、バッターボックスに立つ。
そして、敢え無く三球三振…。
「うん。唯一の救いは、フルスイングの三振だってことだね」
「ドンマイや!!一木さん!!」
皆は、笑顔で有海を迎えた。
有海は、目頭が熱くなった。
「ご…ごめんなさい…」
「はい、ツーアウトー!!」
藍は、また親指を有海に突き出した。
2971投稿者:リリー  投稿日:2008年08月02日(土)21時07分51秒
しかし、虹守中のエースピッチャーの永島謙二郎は大したものだった。
続く、先頭打者ホームランのジョアンも三球三振、愛美もセーフティーバントを失敗してスリーアウトチェンジになった。
「やっぱり、さすが虹守中…。でも、レギュラーを引っ張り出したことで、面白くなってきたね…」
有海が選手として出ているので、あすみは自分でスコアをつけながらニヤリと笑った。
「もう一度、円陣組もう!!」
愛美の言葉に、皆は丸くなる。
いち早く守備位置に向かっていた中村有沙も、わざわざ戻ってきて円陣に加わった。
「さあ、ここからが本番だよ!?」
「おおー!!」
「聖テレー、ファイトー!!」
「おおー!!」
二回裏が始まった。
言ってみれば、一回表の3得点はボーナスのようなものだ。
ここから、いかに失点を抑えるか…藍の課題だ。
「よし、行くぞ!!」
バッターボックスの選手を睨む。
藍はストレートとカーブを織り交ぜ、三者凡退にした。
全て、有海の采配に拠るものだ。
守備面では、有海の存在は無くてはならないものになっている。
打撃面では、自分が有海の分までカバーすればいい…。
七海をはじめ、皆が思っていることだった。
2972投稿者:リリー  投稿日:2008年08月02日(土)21時08分20秒
今日は、これでおちます
2973投稿者:あげ  投稿日:2008年08月02日(土)21時29分16秒
2974投稿者:あげ  投稿日:2008年08月02日(土)21時37分33秒
有海がどんな活躍をしてくれるのか楽しみです

ところで甜歌と郁哉のやりとりはもしかして
2005年度(だったっけ?)のこれ→
http://jp.youtube.com/watch?v=WGKOvmg5SCY&feature=related
意識して書いたんですか?
2975投稿者:Sケンだっけ?  投稿日:2008年08月02日(土)21時56分05秒
なつかしい〜
2976投稿者: 投稿日:2008年08月03日(日)00時15分53秒
          
2977投稿者: 投稿日:2008年08月03日(日)00時43分16秒

2978投稿者:リリー  投稿日:2008年08月03日(日)20時53分19秒
2974さん
そうです
このシーン、好きだったんですよね
甜歌は「ウソ泣き」と言ってましたが、木生でレッドさんが「甜歌が泣いて凄い事になった」と言ってたし、どっちが本当なんでしょうかね?
でも、甜歌が突き飛ばされて泣き出すまで、かなり時間が空いているから、やっぱりウソ泣きなんでしょうか?それとも、後からジワジワと悔しさが込み上げてきたのか…
何にしても、懐かしい動画、有り難うございました

では、更新します
2979投稿者:リリー  投稿日:2008年08月03日(日)20時54分49秒
次は三回表。
聖テレ野球部の攻撃。
打順は、藍からだ。
謙二郎の球威は凄まじかった。
まるで、都大会出場の強豪校を相手にしているかの様な投球。
「ふえ…。容赦ないねぇ…」
でも、藍は嬉しかった。
これは、自分達を認めてくれたということだ。
藍は、この打席、この瞬間を楽しんだ。
結果は三振…だが、藍は気持ちよくベンチに戻って行く。
そして、次は四番、七海の打席だ。
「よし、行ったるで!!」
七海は大きく息をつくと、大股で堂々と打席へ向かう。
その時、調子の外れたトランペットの音が聞こえてくる。
「あん?こ、このヘタクソなラッパの音は…」
七海は観客を見渡すと…見つけた…メロディー・チューバックだ。
「あのガキ…!また性懲りもなく…」
だが、その曲は、山本リンダの『狙いうち』だった。
「お…?少しは勉強したみたいやな…」
途端に、七海はメロディーが愛しくなった。
2980投稿者:リリー  投稿日:2008年08月03日(日)20時55分54秒
「よっしゃ!!ここは、狙い打ちや!!」
謙二郎も、藍の様にストレートとカーブを織り交ぜた、絶妙なピッチングをする。
七海は、変化球は捨てる。
全て、ストレート狙いだ。
変化球は、僅かにスピードが落ちる。
もし、スピードの遅いストレートが来たら、なんとか喰らい付いてファールにするつもりだ。
この作戦は功を奏し、フルカウントにした後、なんと11球、ファールで粘った。
メロディーは疲れてしまったのか、トランペットの音が途切れがちになる。
「出たよ…。ななみん得意の『嫌がらせバッティング』…」
藍は、いつかの七海との対決を思い出す。
「ああ…。あれ、50回は繰り返したんだっけ…」
マンボウズの聖斗も、遠い目をして呟いた。
とうとう、謙二郎の集中力が切れたか…なんとも平凡なストレートが、ど真ん中に来た。
2981投稿者:リリー  投稿日:2008年08月03日(日)20時56分05秒
「来た!!狙い打ち!!」
七海は、フルスイングした。
気持ちの良い打球音がグラウンドに響く。
聖テレメンバーも、虹守中メンバーも、マンボウズのみんなも、全観衆…吉田も、羅夢も、メロディーも、滉一の父親も…全ての人間が、同じ方向の空を見た。
ボールは、再び防護ネットを揺らした。
ホームランだった。
再び、グラウンドは大歓声の渦となった。
七海は、ゆっくりとダイヤモンドを一周する
そして、メロディーと目が合うと、親指を上げて合図をした。
2982投稿者:リリー  投稿日:2008年08月03日(日)20時56分28秒
これで4対0…。
謙二郎の顔は、真っ青になっている。
その後、ショックを引き摺ったのか、続くエマにもヒットを許す。
次の中村有沙にもいい当たりを許したが、ショート遼希の好プレーでアウト、続くエリーも郁哉のスライディングしながらのキャッチャーフライでアウトになり、スリーアウトチェンジ。
三回表の聖テレの攻撃は、七海のソロホームランで追加点を一つ獲り、終了した。
謙二郎は、意気消沈していた。
決して相手をナメていたわけではないが…ホームランを許してしまった…。
虹守中の皆は、彼に声をかけ辛かった。
「そ、それにしても…なんとか早く、一点を獲らなくちゃな…」
井上は、そろそろ焦ってきた。
いくら強いとは言っても、相手は女子のチームなのだ。
そのチームを相手に、まだ得点できない。
いや、得点しなければ、いずれ負けてしまうのだ。
「遼希…。なんとしてでも、塁に出ろ!!」
「はい…!」
遼希は緊張感を隠せないまま、バッターボックスに向かう。
さっきはヒットを放ったが、もう少しで『ライトゴロ』でアウトになるところだった。
そう…さっきホームランを打った、あのライトの少女…。
自分をホームでアウトにしたのも、彼女だ。
2983投稿者:リリー  投稿日:2008年08月03日(日)20時56分49秒
遼希の打球は、カーブにタイミングをずらされて、ボテボテのサードゴロとなる。
だが、全力疾走の遼希…今度も滑り込んで、なんとか内野安打とした。
「ああ!!しまった!!大事に打球を捌きすぎたぁ〜〜〜!!!」
サードのジョアンは、頭を抱えた。
梨生奈の代わりに、不慣れなサードを守っていたので、エラーだけは絶対にしたくなかったのだ。
「ジョアン!!ドンマイ!!」
梨生奈は、声を張り上げた。
こんなことしか、今の梨生奈にはできない。
「羅夢ちゃん!!さっきのホームラン、凄かったねぇ」
「え?」
梨生奈の側にいた羅夢は、不意に声をかけられて振り向いた。
メロディーが、トランペットを片手に、人懐っこい笑顔で見上げている。
「あ、さっきのヘタクソなトランペット…やっぱりメロチューだったのか…」
「あの恐い人、メロディーが応援のラッパを吹いたから、ホームラン打てたんだよね?」
「そんなことないだろ?偶然だって!!」
「違うよ!!だって、さっき、あの人、メロディーにこうやってお礼してたもん!!」
そう言って、メロディーは親指を立てた。
「マジかよ…」
確か、メロディーは自分に懐いてたはずだ…。
七海にも懐いてしまうとなれば…やはり面白くない。
2984投稿者:リリー  投稿日:2008年08月03日(日)20時57分18秒
「あら?羅夢…。あなた、友達できたのね?」
梨生奈は、まだ身体が自由に動かせないが、なんとか身体を捻ってメロディーを見る。
「バ、バ〜カ!!友達なんかじゃ…」
「はい、羅夢ちゃんの友達の、メロディー・チューバックです!よろしく!」
「私は、木内梨生奈よ。ま、羅夢のお姉さんみたいなものね」
「お、お姉さんって…」
顔を赤くする羅夢の声を、またもメロディーは遮る。
「私は羅夢ちゃんの妹みたいなもんだから…私達、三姉妹だね!!」
「い、妹?お、おい!!勝手に…」
「こんなに可愛い妹なら、私は大歓迎よ」
梨生奈は、メロディーに笑顔を向ける。
「…勝手にしろよ…」
羅夢は、2人から離れてしまう。
「ち…!メロチューのヤツ…誰彼構わず人懐っこいんだな…」
そして、自分の独占欲の強さに気付き、密かに恥じた。
2985投稿者:リリー  投稿日:2008年08月03日(日)20時58分03秒
その間、交代したレギュラーの二番バッターは、三塁線を転がす絶妙なバントをして、自分も生き残る。
ノーアウト、一塁、二塁…。
「ひぃ…。またこの展開?」
藍は汗を拭う。
三番バッターは、さっき藍からシングルヒットを放った、日向滉一だ。
長打を打たれれば、一点は返されてしまう。
ここは慎重にいかないと…。
有海からのサインを、中村有沙から受け取る。
初球は、ボール球から…。
(何か、逃げてるみたいで嫌だなぁ〜…)
しかし、サイン無視は御法度なので、藍はサイン通りの投球をする。
その球には、魂が入っていなかった。
僅かに、ストライクゾーンに引っ掛かってしまったらしく、滉一は掬い上げるようなバッティングをして打球を高く上げた。
それが、ショート、サード、レフトのトライアングル地帯の中心に、ポトリと落ちた。
テキサスヒット…いわゆるポテンヒットと呼ばれるものだ。
滉一の父、李は、またもや大はしゃぎだ。
2986投稿者:リリー  投稿日:2008年08月03日(日)20時58分19秒
「むぅ…。あいつめ…気合が入っとらん!!」
中村有沙が、藍に歩み寄る。
「わ!大丈夫です!!自分で気合を入れなおします!!」
藍は、自分で自分を何度も引っ叩いた。
しかし、これでノーアウト満塁となった。
一回裏は、ここで無失点に切り抜けたが…。
2987投稿者:リリー  投稿日:2008年08月03日(日)21時03分19秒
今日は、これでおちます

メロディーの再登場で思い出したのですが、ピーナッツ戦で、七海がメロディーに「『となりのトトロ』なん吹かれたら、打てるモンも打たれへんわ!!」と言いましたが、今日の高校野球『報徳vs新潟県央高』の時、『となりのトトロ』で応援してましたね

明日は、更新できないと思います
どうか、ご了承下さい
2988投稿者:あげ  投稿日:2008年08月03日(日)23時58分26秒
 
2989投稿者: 投稿日:2008年08月04日(月)00時45分26秒

2990投稿者:誰にでも人懐こいメロに  投稿日:2008年08月04日(月)08時02分17秒
羅夢が嫉妬・・・可愛いですね
2991投稿者:117  投稿日:2008年08月04日(月)21時48分35秒
気がつけば、かなり久々登場の117です。
だいぶ?ストーリーは進んだのでしょうか?
先日、プロ野球を見に行ってきました。結構見応えがある試合でした。
こちらの方も、盛り上がっていますね。羅夢たちのやり取りも良い感じで。
ここ1・2年、野球から離れつつあった僕の「野球好き」の血が騒いできました!続きも楽しみです!!
2992投稿者: 投稿日:2008年08月04日(月)22時15分42秒

2993投稿者:あげ  投稿日:2008年08月05日(火)16時24分30秒
 
2994投稿者: 投稿日:2008年08月05日(火)18時40分04秒

2995投稿者:リリー  投稿日:2008年08月05日(火)20時46分36秒
昨日は、すみませんでした
実は、名古屋に行ってました
そう、中日vs巨人です
山本昌投手の200勝の歴史的瞬間に立ち会えた幸運を噛み締めてます
中日の優勝も絶望的な状況の中、200勝なるか?完投なるか?の緊張感と興奮は堪りませんでした

117さん、お久しぶりです
117さんも野球観戦なさったんですね
何のカードだったんでしょうか?
小説の中の試合も、負けないくらい面白くしたいと思います

2990さん
普段はうるさがってても、人と仲良くしてるのを見て嫉妬するって、私でもよくあります

では、更新します
2996投稿者:リリー  投稿日:2008年08月05日(火)20時48分44秒
ここで、虹守中の四番バッターを迎えることになる。
しかし、真の四番バッターは高橋郁哉で、彼の打順は六番だ。
最初からレギュラーメンバーで組んでいなかったので、打順は理想的とは言えない。
三回表で、なかなか虹守中が守備位置につけなかったのも、井上がその調整に苦しんでいたからだ。
ここは、器用なバッティングをする、エースピッチャーの永島謙二郎が四番として立つ。
ここは、一気に長打狙いで同点に追い着きたいところだが…井上のサインは、まずは一点ずつ返すこと…。
「ふ〜ん…。なるほどね…」
謙二郎は頷いた。
彼にしても、井上の指示は難しいことではない。
おそらく、相手バッテリーは予想だにしない手だろう。
藍の投球と同時に、謙二郎はバットを水平に寝かせた。
「スクイズ!?」
藍は、投げきったと同時に、慌てて駆け寄った。
その時は、もう既に謙二郎のバントでボールは地面に当たり、高く跳ね上がっていた。
処理するには、難しい打球だ。
2997投稿者:リリー  投稿日:2008年08月05日(火)20時49分06秒

「…く!!」
中村有沙が、捕球する。
「ありりん先輩…」
藍は叫びかけたが、中村有沙は既に行動を起こしていた。
ホームに突っ込んで来る遼希には目もくれず、ファーストのエマに送球したのだ。
これで、謙二郎はアウトになったが、一点を失った。
また中村有沙が欲をかこうとしたら、一点を失ってなお、ノーアウト満塁だったかもしれない。
井上の采配は、実は、この中村有沙の性格を見越したものだったのだが…。
「野球で重要なのは、同じ失敗は繰り返さない…。だな?」
「はい…」
藍は、微笑んだ。
4対1…虹守中の攻撃は続く。
続く五番バッターは、藍のカーブで三振を喫する。
有海の采配は、本当は、ゴロを打たせてダブルプレイにしたかったのだが…。
そして次のバッターは、本来ならば四番を打つ、キャッチャーの郁哉だ。
さっきは、カーブでセンターフライに打ち取った。
有海からのサインが伝えられる。
(む…?それでいいのか…?有海…。一回、こいつには見せているだろう…)
一抹の不安を抱えながら、中村有沙は藍にカーブのサインを出す。
藍は力強く頷いて、もう一度カーブで勝負する。
2998投稿者:リリー  投稿日:2008年08月05日(火)20時49分26秒
だが、郁哉は伊達に四番を任されていない。
カーブが来ることは読んでいたし、その曲がり具合も、頭よりも身体に叩き込んでいた。
完璧なタイミングで、ミートされた。
「げ…!」
藍は、打球の行方を見るのも恐ろしい。
「あ〜!!惜しい!!」
虹守中のベンチのテンションがガクンと落ちた。
郁哉は、バットを地面に叩きつける。
マンボウズのみんなが、安堵の表情を浮かべている。
「え…?もしかして…ファール…?」
ようやく、藍は後ろを振り返る。
てんてんと、グラウンドの片隅にボールは転がって行く。
「よかった…」
これで、同点に追い着かれるかと思っていた…。
しかし、これで郁哉にカーブは通用しない…と言うこともわかった。
有海は、対策を練り直す。
もう、考えは自ずと決まる。
帽子のひさしの左側を触る。
ここで、シュートを披露するのだ。
2999投稿者:リリー  投稿日:2008年08月05日(火)20時49分48秒
もう少し終盤までとっておきたかったが、このピンチでは、出し惜しみをしていられない。
そして、この有海の采配がズバリ当たった。
郁哉は、ストレートとカーブの準備しかしていなかった。
外角に逃げる球…完全にタイミングを外される。
「おお…!」
それでも、体制を崩しながらバットに当てた。
打球は、平凡な外野フライとなる。
「しまった…」
まだカウントはワンストライクだった…。
素直に空振りをしていれば…。
しかし、その落下地点は…さっき、郁哉が打ち上げた凡フライをエラーした、センターの一木有海だ。
「しめた!!」
郁哉は、走り出した。
有海は、高鳴る自分の心臓の音を聞きながら、打球を見上げる。
「野球で重要なことは…同じミスを繰り返さないこと…。同じミスを繰り返さないこと…」
呪文のように、何度も呟く。
もし、このフライを捕ったなら…あすみは自分を褒めてくれる…。
みんなが、祝福してくれる…。
有海の心は、穏やかになる。
「よし…!!捕れる…!!」
有海は、このフライを落とす気がしない。
3000投稿者:リリー  投稿日:2008年08月05日(火)20時50分11秒
「い、一木さん…!!」
急に声をかけられた。
「どいて!!」
「…え?」
その瞬間、凄まじい衝撃が有海を襲う。
「あう…!!」
目から火花が出たかと思った。
仰向けに、有海は倒れた。
「ぐ…!!」
すぐ側には、七海が転がっている…。
「…え?ふ、藤本さん…?」
七海が、駆けつけていたのだ。
また、自分がエラーをすると思って…。
同じく有海の元に駆けつけていたエリーが、転がったボールを拾いバックホームをするが、時既に遅し…。
塁上に居た、2人のランナーはホームに帰った。
これで、4対3…一点差となってしまった。
そして、打った郁哉は二塁に進んでいる。
彼は、ガッツポーズを味方ベンチに向けていた。
3001投稿者:リリー  投稿日:2008年08月05日(火)20時50分34秒
尻餅をついたままの有海の目から、一気に涙が溢れ出た。
「ご、ご、ごめんなさい…。藤本さん…わ、私が…どかなかったから…」
「せ、せやから…『ごめんなさい』は、アウトやって…」
七海は、まだ地面にうずくまっている。
「そ、それに…今のは、ウチが悪い…」
「え…?」
「一木さん、自分で捕ろう、思っとったんやろ?」
「で、でも…」
「ウチはこの試合、一木さんをフォローしよう、考えとったけど…それはつまり、裏を返せば、一木さんを信用してへんかったってことや…」
「藤本さん…」
「せやから…堪忍…」
七海は顔を上げる。
「あ…!藤本さん…!鼻血…!」
「あん?ああ…こんなん、どうってことないわ!!」
黒いアンダーシャツの袖で、七海は鼻の下を擦る。
七海の鼻から右の頬にかけて、赤い筋が真横に伸びる。
「さあ、怪我ない?立てるか?」
七海は立ち上がって、有海に手を差し出す。
「うん…!」
有海は力強く頷くと、七海の手を握って立ち上がった。
3002投稿者:リリー  投稿日:2008年08月05日(火)20時50分53秒
七海と有海は、マウンド上の藍を見詰める。
藍は、両手を挙げて「ドンマイ」と叫んでいる。
「幸い…まだ同点にされてへん…」
「そ、そうだね…」
「一木さん、野球で重要なことは…?」
「え?…ミスは仲間でカバーする…」
「それから?」
「…同じ失敗は繰り返さない…」
「そうや…。せやから、ウチは同じ失敗は繰り返さん…」
「…?」
キョトンとしている有海の肩を、七海は強く握る。
そして、ライトの守備位置へ走って行った。
同じ失敗は繰り返さない…つまり…もう、七海は有海へのフライのフォローに来ない…ということ…?
有海は、身震いした。
3003投稿者:リリー  投稿日:2008年08月05日(火)20時55分41秒
そう…中日vs巨人の報告の続きですが…二岡選手、気の毒でした
やっぱり、山本モナの件で、中日ファンから野次られてました
「安いホテルに止まってんじゃねぇ!!」
「昌はモナと違って簡単にヤラせてくれねぇぞ!!」(昌とモナの姓が同じなので)とか…
試合も良い所がありませんでした
早く、周囲の雑音がおさまるのを願ってます
素晴らしい選手なのは、間違いがないので…

では、おちます
3004投稿者:二岡だけ復帰して  投稿日:2008年08月05日(火)22時02分53秒
山本モナが復帰できないのはおかしい
結婚して家庭を持ってる二岡という人間が
不倫をしたという事実の方が明らかに悪いと思うのに。
ていうか批判してる人たちも山本モナに言い寄られたら不倫に走るかもしれないのに
一方的に二岡選手を批判してるのも許せない。

長々とすいません

しかしよく書けますね。
小説凄くおもしろいです。
3005投稿者:おお!  投稿日:2008年08月05日(火)23時49分31秒
山本昌の200勝の瞬間、生で見たんですか?
もしかしたらそれが目的でわざわざ名古屋へ?
3006投稿者:デジ  投稿日:2008年08月06日(水)03時53分29秒
只今4時間前に帰ってまいりました。では、土曜日からのコメント。
(土)でた!甜歌の嘘泣き。そして相変わらずの七海と有沙。
これは面白くなってきましたね。星野監督いつ言ってましたっけ?
(日)単独ストライク!野球の試合はやっぱりホームラン打ち上げた瞬間が一番盛り上がりますよね。僕の高校の第一戦でもホームランを打った瞬間を間近で見れたのは感激モノでした。そういえば、そのホームランをかっ飛ばしたときにも確かちょうど『ねらい撃ち』を演奏してました。
久々のベンチでの視点。ここに誕生、三姉妹?
再びノーアウト満塁のピンチ。さあ、聖テレはこの場面をどう切り返すか。
(今日)奇遇ですね。リリーさんも旅してましたか。ちょうどそのとき僕は、富山を出発して能登に向かってるところでしょうね。(初日は、石岡から金沢へ向かった。遠かった〜。)ちなみに帰りは磐越道から南へ向かって打ちに着くルートを通って帰りました。
有沙,七海痛恨の連続ミス。さらに二失点。少しピンチ。
すでにプロ野球をテレビで観戦するよりずっと面白いですよ!まあ、単に生で野球を見たことがないだけですが(笑)一度見てみたいです。
           〜ここまで〜
......とこんな感じでよろしいでしょうか。そして続きも楽しみです。
              (今日の小言)
ああ、あの問題ですか...複雑なものですよね芸能界って。それでも、一度テレビにどどーんと出てみたいと思う僕っていったい何なんでしょうか?
ちなみにさすがに戦士との会話はムリだったそうです。今妹は中学2年生です。この小説の大部分の人と同じ学年ですね。
わかりました小説の参考にしてみます。ちなみにまだその場書きの状態です(汗)
それからスレ3000越えおめでとうございます。リリーさんもこれからもがんばってください!
3007投稿者: 投稿日:2008年08月06日(水)12時55分22秒

3008投稿者:あげ  投稿日:2008年08月06日(水)14時24分35秒

3009投稿者:あげ  投稿日:2008年08月06日(水)16時45分03秒
3010投稿者:>3004  投稿日:2008年08月06日(水)17時47分12秒
二岡はまだ野球で汚名を濯ぐチャンスがあるけど、モナは100%イメージ商売だからなぁ…
キャスターとして、政治家の汚職とか教育現場の腐敗とか扱わなくちゃいけない立場で、不倫はまずい…
でも、中日ファンであるにも関わらず、二岡のことを気に掛けるリリーさんに感謝

有海と七海の交錯は残念の一言
もしかしたら有海はフライを捕れるかもしれなかったのに
でも、七海も有海のことを考えてのこと、責められませんしね
3011投稿者:リリー  投稿日:2008年08月06日(水)20時52分19秒
3004さん
そうですよねぇ
でも、モナさんは2回目ですから…
彼女、好きだったんですけど…また、復活してくれませんかねぇ

3005さん
いえ、その日を狙ったわけではありませんが、丁度、200勝を見守る形になりました
たしか、昌投手が投げるのは3日だという話しもありましたから…
ほんと、運が良かったです

デジさん、おかえりなさいませ
北陸を旅したんですか?いいですね
少し寒いけど、冬にでも行きたくなりました
3000まで到達できたのも、皆さんのかげです
これからも応援よろしくお願いします

3010
チームは別として、頑張ってる選手は皆応援したいです

では、更新します
3012投稿者:リリー  投稿日:2008年08月06日(水)20時56分41秒
打ち取ったと思った矢先の失点というのは、ピッチャーにとって肉体的にも精神的にも疲労が堪るが、藍はそんな様子をおくびにも出さない。
得点圏にランナーがいる。
次を抑えなければ、同点にされてしまうのだ。
虹守中のベンチは活気付く。
「よし、ここで一気に逆転しよう!そうすれば、謙二郎も立ち直って…」
「監督、頼みがあるんですが…」
不意に声をかけられて、井上も、他の選手達も、声のする方を見上げた。
そこに立っていたのは、ユニフォームを着たバーンズ勇気だった。
「お、おまえ…その恰好…」
目を点にして、勇気を指差す井上。
3013投稿者:リリー  投稿日:2008年08月06日(水)20時56分53秒
「バーンズ様!!今まで、どこに…」
甜歌は、言いかけた言葉を飲み込んだ。
三歩後ろに下がって慎ましやかに立っている、同じマネージャーの木内江莉を見つけたからだ。
「ちょ、ちょっと!!江莉!!あんた、バーンズ様とどこに行ってたのよ!?」
「ど、どこって…。クラブハウスよ」
「そ、そんな所で、2人っきりになって…!!な、何してたのよぉ!!」
顔を真っ赤にして、甜歌は江莉に詰め寄る。
「何もしてないわよ!!ただ、背番号を縫い付けるお手伝いをしてたの!!」
「背番号…?」
甜歌は、勇気の背中を見る。
そこには、『19』とマジックマーカーで手書きされた、花柄のハンカチが縫い付けられていた。
そのハンカチは、江莉の物だ。
3014投稿者:リリー  投稿日:2008年08月06日(水)20時57分33秒
「な、なんで、あんたがお手伝いを頼まれるのよ…?」
「な、なんでって…」
口ごもる江莉だが、勇気があっさり答える。
「だって、江莉は俺の彼女だもん。彼女じゃない甜歌に頼んだら悪いじゃん」
「………は?」
甜歌の周りの空気だけが止まっている。
「て、甜歌…?」
江莉は、甜歌の顔を覗き込む。
甜歌の視界に、江莉の顔…途端に、殺意が湧いてきた。
「な、な、な、なんで、あんたがバーンズ様と付き合ってんのよぉ!!なんで、あんたなんかとぉ〜〜〜!!!」
甜歌は、江莉の首を締め上げる。
3015投稿者:リリー  投稿日:2008年08月06日(水)20時57分45秒
「ちょ、ちょ、ちょっと…!お、落ち着いて…!甜歌…!!」
「はいはい、ケンカはやめ…!」
勇気は、江莉を守るように2人の間に立った。
「バ、バ、バーンズ様!!な、何で、江莉なんかと…!!い、いえ、いつから…!?」
「ん?夏の大会が終わってからだよ」
「は…?」
意外と短い間柄だ。
「一応、俺、野球に集中したかったから、大会が終わってから付き合おうなって決めてたんだ」
「はぁ…?」
そう短い間柄でもないらしい。
「江莉、都大会優勝の約束、守れなくてごめんな」
「い、いえ…いいんです…。そんな…」
江莉は、頬を赤らめてうつむいた。
3016投稿者:リリー  投稿日:2008年08月06日(水)20時58分09秒
甜歌の怒りの矛先は、他の選手に向く。
「ちょっと!!あんた達!!2人のこと、知ってたの?」
「はい…。知ってました…」
遼希は、おどおどしながら答えた。
「な、な、何で、ウチに黙ってたのよ!?」
「だって、面白いじゃん」
謙二郎が、悪びれもせず答えた。
「お、お、面白いって…」
甜歌の沸点は、とうに越えてしまった。
「そんなことより、頼みって何だ?勇気…」
「そ、そんなことって…!マーさん!!」
井上は、甜歌のことは無視して、勇気に訪ねる。
「はい。俺を試合に出させてもらえませんか?」
勇気も、甜歌を無視して話しを進める。
「し、試合に?おまえが…?だって、おまえ、引退したんだぞ?」
「でも、これは公式戦じゃないんでしょ?飛び入り参加ってのも、有りですよね?」
勇気はもう、出る気満々でいるようだ。
3017投稿者:リリー  投稿日:2008年08月06日(水)20時58分46秒
「な、何で、おまえ、出る気になったんだ?」
井上の問いに、勇気は真面目な顔になって答える。
「聖テレ野球部…俺達が都大会の決勝で戦った渋谷中のヤツ等より…ある意味、強いですよ…」
「え…?そ、そうか…?」
「まず、あのライト…。あんな強肩、見たことないです。そして、バッティングセンス…」
そして、勇気の視線はマウンドの藍に…。
「あと、あのピッチャーの子…。ストレートの伸びもいいし、変化球の曲がり方が半端ないっス…。配球も絶妙だし…。それに…」
「それに?」
「メチャクチャ可愛いし…」
「ゆ、勇気先輩!!」
思わず、江莉が声をあげた。
「ま、それは冗談として…あの子達に勝つことで、俺の虹守中での野球に、ピリオドを打ちたいんです…」
あの少女達に、そこまでの価値を勇気は見出した…。
3018投稿者:リリー  投稿日:2008年08月06日(水)20時59分24秒
井上は、息を一つつく。
「わかった…。じゃあ、向こうの監督に頼んでみる。もし、向こうが断ったら、ダメだからな?」
「はい…!お願いします!!」
井上は、三塁側の聖テレベンチへと走って行った。
そして、1分もしないうちに帰って来た。
「あれ…?即行で断られたのかな?」
勇気は、少し不安になった。
「向こうの監督な…二つ返事でOKした…」
井上自身、信じられないと言った表情で勇気に話す。
3019投稿者:リリー  投稿日:2008年08月06日(水)21時00分36秒
「マジで?いやぁ、男前だなぁ、あの監督さん」
勇気も、この太っ腹には驚いた。
「じゃ、じゃあ、勇気先輩…お願いします…」
次の打者になるはずだった選手が、勇気にバットを渡す。
「おう、悪いな。出場の機会、奪っちまって…」
勇気は、軽やかな足取りでバッターボックスに向かう。
3020投稿者:リリー  投稿日:2008年08月06日(水)21時01分50秒
すみません、3010さんだけ『さん』づけしないで呼び捨てしてしまいました

では、これでおちます
3021投稿者: 投稿日:2008年08月06日(水)22時26分54秒

3022投稿者:デジ  投稿日:2008年08月07日(木)04時11分34秒
おっ。勇気初出陣。いきなり面白くなってきましたね!
果たして彼の実力は、試合をどう左右するのか。続きも楽しみです!
            (今日の小言)
今日は久々に昼に小説を書きに来ました。昼に書くのもいいもんだと思いました。
なんかネタがないので今日はこれで。
3023投稿者:謙二郎www  投稿日:2008年08月07日(木)19時47分08秒
「だっておもしろいじゃん」www
3024投稿者:リリー  投稿日:2008年08月07日(木)20時59分03秒
デジさん
勇気の参戦で、試合が動き始めます
でも虹守中も、なりふり構わずになってきました
デジさんも小説をがんばってますね
いよいよ事件が起こって、核心に迫ってきた感じですね

3023さん
いかにも謙二郎が言いそうな感じかな…と、思いまして…

では、更新します

3025投稿者:リリー  投稿日:2008年08月07日(木)20時59分54秒
(む…?また、新しいヤツが来た…?)
中村有沙は、右バッターボックスに入った、勇気の横顔を一瞥する。
「どうも。よろしく」
馴れ馴れしく言葉をかける勇気に、中村有沙はプィと顔を逸らす。
「え…!?う、うそ…!!ゆ、勇気君…?な、何で…?」
藍は、動揺している。
(あ、あの人…)
有海も、勇気がバッターボックスに立ったことに驚いている。
彼は引退したはずだ…。
都大会ではエースで五番だった勇気…とりあえず、様子見のストレートのボール球のサインを送る。
「ま、あの日すっぽかされなかったら、実際に戦ってるわけだからね…。ここは、願ったり叶ったりよ…!!」
藍は武者震いをする。
何と言っても、勇気と対戦することを楽しみにしていたし、勇気が引退した今、改めて試合することを残念に思っていたからだ。
その思いを込めて、藍は勇気に速球を放る。
勇気は、球の遥か上でバットを振るう。
これで、ワンストライク。
続く第二球目も同じく空振り…これで2ストライク、追い込んだ。
3026投稿者:リリー  投稿日:2008年08月07日(木)21時00分37秒
(こいつ…。まずは、ボールの速さとバットのタイミングを計っているのだな?)
中村有沙が思う通りに、三球目以降はピクリともバットを動かさない。
足でタイミングをとっているようだが…。
変化球を中心に投げているので、ボール球が続く。
これで結局、フルカウントとなった。
次は、ストライクを投げなければフォアボールとなる。
有海は、恐くなった。
(嫌な予感がする…)
有海は、ボール球の指示を出す。
まだ一塁が開いている。
ここはフォアボールで歩かせよう…と言うのだ。
中村有沙は、一瞬、キャッチャーマスクを取りかけたが、しかし有海の指示通り、ミットを構えてサインを送る。
藍が、こちらを振り返った。
眉間にシワを寄せている。
「う…」
有海は、思わずたじろいでしまった。
藍の表情は、険しい。
自分を信用していないのか…そう、言っているようだ。
有海は、堪らず視線を逸らした。
そして藍は、何も言わずにバッターボックスの勇気の方に向き直った。
3027投稿者:リリー  投稿日:2008年08月07日(木)21時01分01秒
(つまり、わざと歩かせろってこと?冗談じゃないわ!!私の力はこんなもんじゃない!!それに、シュートをまだ投げてないじゃん!!)
藍の投げた球は、有海のサインとは違うものだった。
鋭く、曲がるシュート…。
「あれ…?」
有海は、小さく叫んだ。
「ダ、ダメ…!細川さん…!!そのコースは、バーンズさんの得意コース…」
その声は、鋭い打球音に掻き消された。
七海は、二、三歩後退したが、すぐに打球を追い駆けるのを諦めてしまった。
ホームランだ…。
5対4…虹守中の逆転…。
沸き返る、虹守中ベンチ。
やっぱりな…と口々に言う観衆。
そして藍は…マウンド上に膝を着いて、肩を落としてうな垂れていた。
「細川さん…」
有海は、藍の背中を見詰めた。
サイン無視をした結果の逆転弾…。
中村有沙が、険しい表情でゆっくりと歩み寄る。
これから彼女によって、藍は何かしらの制裁を受けるのか…。
有海は、目を瞑った。
見ていられなかったからだ。
3028投稿者:リリー  投稿日:2008年08月07日(木)21時01分26秒
だがしかし、中村有沙は足を止めた。
監督の中田あすみが、同じく藍のいるマウンドに歩み寄って来たからだ。
うな垂れている藍は、あすみが近づいていることに気がつかない。
「藍…。立ちなさい…」
「…か、監督…」
一瞬、藍の顔に戦慄が走る。
「立ちなさい…」
穏やかな声だが、厳しく響く。
藍は、恐る恐る立った。
殴られるのを覚悟して…。
「藍…。正直に答えて…」
「…はい…」
「あのシュート…有海からのサイン…?」
「…いえ…」
「あなたの判断?」
「…はい…」
まともに、あすみの顔が見られない。
3029投稿者:リリー  投稿日:2008年08月07日(木)21時01分45秒
「だよね…。有海がシュートのサインなんか出すはずないよ…」
あすみは、溜息をつく。
「だって、都大会の会場に出かけて行って、バーンズ君のバッティングを実際に見て研究したんだもん…」
そして、じっと藍を見詰める。
「有海だって…必死でチームの為に研究したんだもん…」
あすみの声は、暗く沈んでいく。
「あの子だって…一生懸命に、チームのことを考えてるんだもん…」
「…う…」
藍は、涙をこぼした。
あの時、自分の力を信じてないのか、と有海を睨みつけたが…自分の方が、有海の事を信じてなかった…。
まだ、自分はチームのエースなんだと、驕っていた…。
有海の仕事を、裏方だとバカにしていた…。
「藍…。ピッチャー交代…」
「…!?」
藍は、涙で濡れた顔を上げた。
「七海!!おいで!!」
あすみに呼ばれた七海は、キョトンとした顔で自分を指差す。
「か、監督!!殴って下さい!!私を、殴って!!」
藍は、あすみにしがみついて懇願した。
その代わり…ピッチャー交代は許して…そう、目で訴えた。
3030投稿者:リリー  投稿日:2008年08月07日(木)21時02分39秒
あすみは、冷めた目で、そんな藍を見下ろす。
「殴る?あんたを?嫌よ…」
「…え…?」
「人を殴るのってさ…何度もできないの…。凄く嫌な仕事なんだよ…」
「………」
「だけど、それでも伝えたいことが伝わるなら…学んでくれるんなら…そういう思いで殴るんだよ…。でもね…」
あすみの声は、どこまでも暗く沈んでいく。
「見込みのない者を殴ったら…それはただの『暴力』になるんだよ…」
「か、監督…。そ、そんな…」
見込みがない…?
その言葉は、殴られるよりも痛い。
「私は、子供に『暴力』は振るいたくない…」
3031投稿者:リリー  投稿日:2008年08月07日(木)21時02分50秒
ようやく、七海がマウンドに駆けつける。
「何やの?監督?」
「今から、ピッチャーお願いね」
「へ…?」
「藍…。本当だったら、あんたをこの試合から引き摺り下ろすんだけど…梨生奈があんなだから、あんたに居てもらわなきゃ困る。ライトの守備、お願いね…」
あすみは、ベンチへと戻って行く。
しかし、足を止めて藍の方を向くことなく、こう言った。
「野球で重要なのは…同じミスをしないこと…」
そして、こう続けた。
「私は悲しいよ…」
3032投稿者:リリー  投稿日:2008年08月07日(木)21時04分06秒
「細川さん…」
七海は藍に声をかけるが、彼女は何も言わずに顔を押さえ、ライトの守備位置に向かって行った。
「それから、もう一つ…」
「…え?」
七海はあすみの方を振り向いた。
「ミスをした時、仲間がカバーをしてやること…」
「はぁ…」
あすみは、今度こそベンチへ帰って行った。
「おい!遠慮するな。全力で私に投げろ!!」
ホームから、中村有沙が言う。
「あん?ええんかい?怪我するで?」
「ふん…!私を殺すつもりで投げろ!!それぐらいで丁度いい!!」
「おう!わかった!!覚悟せぇよ!!」
七海は、投球練習を開始する。
憎き中村有沙に、途轍もない剛速球を投げつける。
ボールを捕るミットの音が、グラウンド中に響き渡る。
観衆は、その度に歓声をあげた。
3033投稿者:リリー  投稿日:2008年08月07日(木)21時04分23秒
今日は、これでおちます
3034投稿者:117  投稿日:2008年08月07日(木)21時16分27秒
またもや、だいぶ日が空いてしまいましたね。再三の久々登場、117です。
質問の答えですが,見に行ったのは、大阪でのソフトバンク対オリックスです。
その日、ソフトバンクは「南海」時代の復刻ユニフォームでのプレー、
対するオリックスは2年ぶりの1軍出場となる清原選手の復帰第1戦でした。
7回には懐かしの「南海ホークスの歌」が流れましたし、番長のフルスイングも見れましたし・・・超満員で大盛り上がりでした。

さて、こちらの方も大熱戦になってきましたね。
勇気が出てきて、藍のサイン無視で逆転され・・・今後の展開が気になります。
また明日からちゃんと読んでいこうと思うので、よろしくお願いします。長々と失礼しました。
3035投稿者:膝を着く藍は  投稿日:2008年08月07日(木)21時18分27秒
あのAAを思い浮かべればいいんですよね?
3036投稿者:一応過去ログです  投稿日:2008年08月07日(木)21時33分30秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
3037投稿者:117  投稿日:2008年08月07日(木)21時39分23秒
再び117です。過去ログアップ、ありがとうございます。
まだ読んでなかった部分が過去ログに行ってしまっていたところで・・・感謝します。

そういえば、リリーさんのコメントによると、見に行った中日戦でヤジがあったようですね。
上に書きました試合でも、ほろ酔い気分のおっちゃんがオモロイヤジを飛ばしていましたよ。
「ホークスの聖地・大阪」に、南海ホークスが帰ってきたことが嬉しかったんでしょうね。
3038投稿者:あげ  投稿日:2008年08月07日(木)22時34分06秒

3039投稿者:デジ  投稿日:2008年08月08日(金)11時03分08秒
大変なことが起こってましたね。
サイン無視での逆転ホームランでにピッチャー交代。藍にとって嫌な事が続きますね。
「見込みのない...」これ言われたら藍でなくてもショック大きいですよね。僕も弓道部で同じ事を言われたら、かなり落胆しますね。(まあ、見込みというより実力的に弱いのですが(笑と泣))。
七海のピッチャー、これはさらに面白くなってきましたね。どうなる、藍。
さあ、この采配は良しと決まるか悪しと決まるか。続きも楽しみです!
             (今日の小言)
そういえば、茨城代表(常総高校)負けたらしいです。敗因に采配ミスもあったそうです。僕的にはこの小説では、吉と出てほしいです。ちなみに常総って何年か前に甲子園で優勝したこともあるそうです。
最近、何でか二年後がワクワクする僕でした。(理由は茨城のテレビ戦士が高校を受験するのであれば僕の高校に行く可能性も少しはあるから。高1なのにこうも天てれファンの僕って...なんか自分で笑えるー(爆))
3040投稿者:デジ  投稿日:2008年08月08日(金)11時08分42秒
(追加)僕の小説も一応みてください。
欲張りですがあと2〜3人ぐらい読者がほしいです。
この場で宣伝してることを深くお詫び申し上げます。
3041投稿者:人を殴るのってさ…凄く嫌な仕事なんだよ…  投稿日:2008年08月08日(金)17時53分38秒
実際の教師は、こういう思いで体罰するんだろうか?
3042投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時16分19秒
117さん
そちらの方も野球観戦でしたか
清原選手は、引退のカウントダウンが始まった感じですね
桑田投手と同じシーズンまでがんばったということも、何かの縁でしょうか
確かに、野次も野球観戦の魅力だと思いますが、私の隣にいた中日ファンの男性3人組の野次とか、くだらないお喋りが、少し耳障りでした
何か、3流芸能人の副音声を聞かせられてる様な感じで…
私の反対側の隣にいたおじさんは巨人ファンらしく、終始不機嫌そうでしたし…
でも、また機会があったら球場に足を運んでみたいと思います
東京ドームは行ったことありますが、神宮球場は行ったことないので…
デジさん
茨城出身の戦士って、たしかエリーでしたっけ?
確率はかなり低いでしょうが、もし入学してきたら凄いことでしょうね
常総高校、残念でしたね
でも、敗者もまた気高い…それが高校野球の魅力ですね
デジさんの小説、呼んでますよ
アルファベット一文字のHNが私です
とてもスケールの大きくなりそうな作品…大変だとは思いますが、期待しています
私は、読み続けていきたいと思いますので、がんばって下さい
続けていくうちに、定期的な読者さんも増えると思いますよ
3043投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時16分29秒
3035さん
あの、洸太の挿絵(笑)のことですか?
この場合、膝は着いてますが、両手はダラリと下げた状態です
3041さん
そうですね…
体罰は絶対に反対ってわけではないですが、やっぱり罪悪感は感じて欲しいですよね
では、更新します
3044投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時17分50秒
「お…!!何や?とうとう、七海が投げるんか!?」
吉田は、嬉しそうにマウンド上を眺める。
しかし、藍とあすみの会話を『TTK仕込み』の地獄耳で聞いてた梨生奈は、そんな気分になれない。
「あい〜ん…」
遠く、ライトでうな垂れている藍を、心配そうに眺める。
「わぁ…!あの恐い人、ピッチャーもできるんだ…」
メロディーは、早速トランペットの準備をする。
「ち…!七海のヤツ…!!目立ちやがって…!!」
羅夢は当然、面白くない。
「あれ?あの変な女が、ピッチャーやるのか?」
マンボウズのメンバーも、騒然としている。
マウンドと外野を交互に見ながら、聖斗は呟く。
「確かに、七海さんの球威は凄い物があるけど…コントロールは大丈夫かな?………あと…藍さん…」
地獄耳を持っていない聖斗は、藍の交代させられた理由を、球威の衰えと勘違いしている。
「ななみん!!ななみん!!ななみん!!がんばってぇ〜〜〜!!!」
一番はしゃいでいるのは、七海のことが大好きな帆乃香だった。
同じく七海のことが大好きなベンジャミンも、それなりに声を出しているが、帆乃香の声に掻き消されている。
「ありゃりゃ…。あの子が投げるんかい…。反則ちゃうん…?」
寛平は呟いた。
3045投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時18分13秒
帆乃香はそれを聞き逃さなかった。
「え?何で、ななみんが投げると反則なん?」
「ん?何が反則なん?」
「さっき言うたやん!!ななみん投げたら反則て…」
「誰がじゃ?」
「おじいちゃんが…」
「何をじゃ?」
「だから、ななみんが投げたら…」
「誰がじゃ?」
「せやから、おじいちゃん…もう、ええわ…」
こういう時の寛平は、非常にめんどくさいことを帆乃香はよく知っている。
虹守中のメンバー達も、目を白黒させている。
「な、何だ…?このスピード…」
井上は、もう少しでベンチからひっくり返りそうになる。
「やっぱ、半端ねぇ…!!すげぇな…聖テレ…!!」
勇気は、半ば笑いながら七海を見詰める。
「俺、あの子の球、打ってみてぇわ…」
「あ、あんな球、打てませんよ〜!!」
次の打者が、勇気に対して悲鳴をあげている。
3046投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時18分54秒
「甜歌、何やってるの?向こうのピッチャー代わったよ。スコア表に書き入れなきゃ…あ、あんた、勇気先輩のツーランホームラン、書いてないじゃん!!」
江莉にたしなめられ、甜歌はとうとうキレた。
「うるさい!!だったら、あんたがスコア表つければいいじゃん!!」
甜歌は、スコア表を江莉に投げつけた。
「な、何よ!?今日は、あんたがやるってことに…」
しかし、郁哉がその争いに口を挟む。
「いいよ、いいよ。江莉が書いた方が正確だし」
「うん。江莉でいいんじゃない?」
謙二郎も頷いた。
3047投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時19分05秒
とうとう、甜歌の堪忍袋の緒が切れた。
「きぃぃぃ〜〜〜!!!何さ!!何さ!!みんなして!!いいよ!!もう、こんな野球部のマネージャーなんか、辞めてやる!!」
「またぁ…。これで何度目よ?甜歌…」
「今日は、本当に辞めてやる!!そして、聖テレのマネージャーになってやる!!」
「ちょ、ちょっと!!あんた、聖テレの生徒じゃないでしょ?」
「転校するもん!!」
「て、転校って…聖テレは私立だよ?引っ越せば転校できるってもんじゃないよ?」
「試験受けるもん!!」
「試験って…たぶん、落ちるんじゃない…?」
「きぃぃぃ〜〜〜!!!もう、うるさい!!」
甜歌は、バタバタと聖テレベンチへと走って行く。
「先生…。どうします?」
溜息をつきながら、江莉は井上に尋ねる。
「ん?ほっとけ!ほっとけ!!」
井上は、七海の球をどう攻略するか、そのことで頭がいっぱいだった。
3048投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時19分39秒
続く虹守の打者は、七海の速球に手も足も出ず、三振に終わる。
だが3回裏、虹守中は一気に5点を挙げ、逆転に成功した。
次は、聖テレの攻撃だ。
「ん?何でオノレがおるんじゃい?」
あすみの側に座っている、橋本甜歌に七海が問う。
「ウチ、この回から聖テレのマネージャーになったから…」
「はぁ…?何で?」
どうせ甜歌とはまともな会話ができないため、七海は、あすみに聞く。
あすみも、困ったような顔で答える。
「ん〜…なんか、ケンカして飛び出してきたみたいね。ま、私もスコアつけるの大変だから、頼んじゃったけど…」
「ふふふ…。虹守の情報、教えてあげようか…?」
意地悪そうに笑う甜歌の顔を、呆れ果てた顔で見下ろす七海達。
「あんた…。ほんと、マネージャーとして失格やねぇ…」
一方、藍は、ベンチの端で力なく腰を降ろしている。
有海は、心配そうに藍に寄り添う様に座る。
「細川さん…」
「………」
藍は、答えなかった。
いや、耳に声が届いていないようだった。
3049投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時20分02秒
自分が消極的な采配をしてしまった為に、藍はムキになって勇気と勝負に行ってしまった…。
もう少し、藍が納得できるような配球を考えられなかったのだろうか…。
有海は悔やんだ。
「細川さん…。ごめ…」
そう言いかけて、有海は口を閉じた。
何て声をかければいいのだろう…。
有海は、本当に悩んだ。
すると、スコア表を抱えた甜歌が、藍と有海の間に割り込んで座る。
「ねぇ、ねぇ!!あい〜ん!!いい事教えてあげようか?」
「………うん」
「あのね、バーンズ様がね、あい〜んのこと、超カワイイって言ってたよ」
「………うん」
「たぶん、タイプなんじゃないかなぁ〜」
「………うん」
「コクってみたら?彼女にしてもらえるかもしれないよ?」
「………うん」
藍は甜歌の話しなど、左から右へ吹き抜けさせている。
「おい、コラ!!ジャマや!!」
七海は、甜歌の首根っこを掴み、無理矢理どける。
「ええ加減にせぇ!!」
そして、ぼんやりと地面を眺めている藍の横っ面を、思いっきり張り倒した。
3050投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時20分42秒
「………!?………ななみん…?」
藍は、張り倒された頬を押さえて、呆然と七海を見上げた。
「ふ…藤本さん…」
有海も、両手で口と鼻を覆って、ベンチから立ち上がる。
「いつまで呆けとんのじゃ!?うっとうしいわ!!自分!!」
「…え?…え?」
「監督の言う通り、ウチも、オノレをさっさとこの試合から引き摺り降ろしたいわ!!」
「………」
まだ、藍は呆然と七海を見上げている。
「自信満々にサイン無視したんやろ?それでホームラン一発打たれたくらいで、悲劇のヒロイン気取りか?」
「ひ…悲劇の…ヒロイン…気取り?わ、私が…?」
「ま、ええわ…。悲劇のヒロインの座は譲ったる!!でもな、ウチはこの試合でヒーローになったんねん!!」
3051投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時20分56秒
七海は、藍の胸座を掴んで無理矢理立たせる。
「…!?」
「オノレの力なんぞ、要らん!!ただ、ライトの位置でつっ立っとけ!!」
キャプテンの愛美は、慌てて駆け寄ってきた。
「ちょ、ちょっと!!ななみん!!ケンカは…」
「じゃかぁしい!!オノレからイテまうぞ!?ゴルァァァ!!」
七海は、凄まじい形相と怒号を愛美に向ける。
「…ふぅ…」
そのまま、愛美は気を失うかの様に、後ろに倒れた。
「ま、愛美!!」
梓彩が、咄嗟に後ろから愛美を抱き抱えた。
3052投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時21分45秒
そして、七海は藍に向き直る。
「ええか?ウチはこの試合でエースピッチャーの座をオノレから奪ったる!!今から、その背番号、ウチに寄越せや!!」
そう言うと、七海は藍を地面に突き飛ばしてうつ伏せに倒すと、そのまま馬乗りになり、縫い付けられた背番号『1』に手をかける。
ミリミリという音と共に、ゼッケンがユニフォームから引き剥がされていく。
「ちょ、ちょっと!!な、何すんのよ!?」
「じゃかぁしい!!オノレには要らんやろ!?こんなもん!!」
「や、やめてって言ってるでしょ!?」
藍の振り払った手が、七海の頬に当たる。
「いた…!!や、やりおったな!?」
「な、何よ!?あんたから先にやってきたんでしょ?」
「ムカつくわ、こいつ!!シバいたる!!」
また、七海の平手が藍の頬に炸裂する。
「い、痛い!!やったわね!?」
藍も、七海の頬を張り飛ばす。
「上等やんけ!!」
七海が藍を殴る。
「何よぉ!!」
藍が七海を殴る。
3053投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時22分26秒
「あはは!!いいぞ!!やれやれ!!」
ジョアンとエマが、2人を囃し立てる。
「もう…しょうがないわねぇ…」
エリーは溜息をつく。
「バカめ…」
中村有沙は、一瞥もしない。
「ひ、ひえええ…!!聖テレって恐い…!!もっとおしとやかだと思ってた…」
甜歌は、修羅場から身を退いている。
「せ、先生!!細川さんと、藤本さんを止めてください!!」
「やだね!!」
あすみは、有海の頼みを無碍も無く断る。
「…え?」
「とことん、やればいいよ。私、嫌いじゃないからね…」
「はい?」
「殴り合いのケンカ…」
3054投稿者:リリー  投稿日:2008年08月08日(金)21時22分43秒
今日は、これでおちます
3055投稿者:117  投稿日:2008年08月08日(金)21時41分32秒
寛平さんと帆乃香のやり取り、まさに「寛平節」炸裂ですね。面白い(笑)。
いやぁ、それにしても,恐ろしいぐらい,怖い殴り合い・・・(苦笑)。
あすみ監督も、「暴力反対」とか「殴り合いの喧嘩賛成」とか、コロコロと(苦笑)。
どうなってしまうのか、続きも楽しみです!
3056投稿者:羅瑠仔  投稿日:2008年08月08日(金)21時44分35秒
ガンバレ♪
3057投稿者:寛平は凄いよ、きっと  投稿日:2008年08月08日(金)21時44分53秒
 
3058投稿者:寛平さん凄いですね  投稿日:2008年08月08日(金)22時00分58秒
七海と藍のケンカと甜歌のマジ切れ(?)がリアルに想像できてしまいました


3059投稿者:羅瑠仔  投稿日:2008年08月08日(金)22時02分30秒
だよね。
天才
3060投稿者:さげ  投稿日:2008年08月08日(金)22時22分05秒

3061投稿者:デジ  投稿日:2008年08月08日(金)23時48分53秒
ベンチの様子
地獄耳ってっこういう時に怖いですよね。
寛平さんのボケ劇場炸裂してますね(笑)
虹守の様子なんかコントみたいでおもろいです。
聖テレの部分
七海と藍の殴り合い喧嘩激しいですね。ttkにとっては逆にわらいごとですよね。有沙以外は…(笑)でもエマとエリーが違うこと言ってるのって珍しいですね。
あすみ先生これは裏の影響でしょうかね?…続きも楽しみです!
           (今日の小言)
昨日の続きから…遼希と聖斗も茨城出身です。
やっぱりそうでしたか。Lって名前を一回みたとき、こりゃリリーさんだって思いました。有り難うございますいつも見に来てくださって。
3062投稿者:あげ  投稿日:2008年08月09日(土)17時24分21秒
3063投稿者: 投稿日:2008年08月09日(土)19時11分04秒

3064投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時02分00秒
117さん
あれは、寛平さんのギャグですが、わかって頂けて嬉しいです
デジさん
エマはトラブル好きで、エリーは平穏が好き…という設定です
茨城って、東京までどれくらいの時間がかかるんですか?
聖斗達、毎週(毎日?)渋谷まで通ってつんですよね
大変なんじゃないでしょうか?
小説、読んでますよ
がんばりましょうね
私は、今日、一ヶ月以上止まっていた小説が動き始めました

羅瑠仔さん、はじめまして
また、この小説をお願いします

では、更新します
3065投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時04分31秒
3058さん、3059さん
寛平さんに何かを感じられたのでしょうか?
この回でも、寛平さんの占いが深く関係してきます
想像できる文章作りを心がけています
そう言って頂けると嬉しいです

では、今度こそ更新します
3066投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時05分51秒
審判が、聖テレベンチに、おっかなびっくりで近寄ってくる。
「あ、あの…そろそろ、打者の方…お願いできますか?」
「あ、はい。次の打者は?」
あすみは、急遽マネージャーになった甜歌に聞く。
「え?あ、はい…。ええと…『おおき…あずさあや』さんです」
「『あずさ』です!!」
愛美の介抱をしながら、梓彩は怒鳴った。
「じゃあ…橋本さんだっけ?キャプテンの面倒をお願い。梓彩は、早く打席に…」
「は、はい」
梓彩は、慌ててヘルメットを被り、金属バットを握り締めると、バッターボックスに向かう。
「あ…!監督!!私、どうします?セーフティーバントですか?」
あすみは、マウンドを見る。
ホームランを打った、バーンズ勇気が投球練習をしている。
さっきまで投げていた永島謙二郎は、セカンドを守っている。
「いや…。思いっきり振っておいで…」
3067投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時07分13秒
勇気の球は、ストレートのみだったが、スピードは凄まじかった。
梓彩は、なす術もなく見逃し三振を喫した。
「はぁ…。そりゃ、そうだよなぁ…」
梓彩は、溜息をついてベンチに戻る。
「こら!!梓彩!!」
聞き覚えのある声が、観衆の中から聞こえてきた。
「え…?ま、まさか…?」
その声は、梓彩の嫌な予感通り…父親の、ゴルゴこと、松本だった。
「な、何で、パパがここにいるのよ!?」
「応援に来たんだよ。それにしても、何だ!!あの打席は!!」
「な、何よ?」
「最初から諦めてたら、打てるものも打てないぞ!?」
「う、うるさいな!!もう…!!」
梓彩は、逃げるようにベンチに戻った。
さすがに、七海と藍のケンカは治まっていたが…2人は腫れた頬を濡れタオルで冷やしながら、そっぽを向いている。
そして、愛美も額にタオルをあてて、ベンチに横になっている。
「やれやれ…」
梓彩は、また溜息をついて愛美の側に行く。
「橋本さん…だっけ?ありがとう…。後は、私が面倒みるから…」
「あ、はいはい…。で、スコアは三振でいいのね?」
当然の様にスコアに記入する甜歌を見て、さすがに梓彩はムッときたが、その通りなので仕方がない。
3068投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時07分34秒
そして、続く有海も早々と三振して戻ってきた。
「む…。次は扇風機の如く振り回すジョアン…。この分だと、この回の攻撃は早く終わるな…」
中村有沙は、マンボウズの一団…いや、寛平を睨む。
「試合が終わってからでは、ヤツはさっさと帰ってしまうかもしれん…。やはり、この試合中に話しを聞きだすしかないか…」
中村有沙の予想通り、ジョアンも三球三振で、四回表の聖テレの攻撃は淡白に終わった。
四回裏…七海の速球は、虹守中の選手には手が出せなかった。
三者凡退に斬って落とす。
五回表…バーンズ勇気も、まずは愛美を三振にする。
次は、藍の打席だ。
(く…!何とか打って、同点に追い着かなくちゃ!!)
藍は、自分のミスは、自分で晴らそうとしている。
しかし、そんな肩肘張ったフォームでは、勇気の速球を打てるはずもなく、藍は敢え無く三振となった。
「ふん!!せやったらウチがかっ飛ばしたる!!」
七海は、鼻息荒くバッターボックスに向かう。
途中、藍とすれ違うが、2人は目も合わさない。
「おい、七海…」
中村有沙が、七海の耳元に囁く。
「何や?」
「おまえの得意な『嫌がらせバッティング』で、一球でも多く粘れ!!」
「『嫌がらせバッティング』…?そないな名前がついとったんかい…」
七海は気分を害した。
3069投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時08分10秒
「一球でも多く?アホか!!一球で終わらせたる!!」
「バカめ!!あのピッチャーを疲れさせろと言っているのだ!!」
「何で、そないめんどくさいことせなアカンねん!!」
それは、一分でも寛平と話しをして、例の占いのことを問い質したいというのが真相だが、七海が素直に聞くとは思えない。
「確かにそうだ。おまえの力ならば、あのピッチャーの球など、容易くホームランにできるだろう…」
「…?チビアリ…?」
「しかし、野球はチームワークだ。おまえ一人が打てても、同点止まり…逆転はできん。おまえがあのピッチャーを疲労させてくれれば、他の者も打てる可能性が大きくなる」
「う、う〜ん…」
「私も、非常に助かる…」
「そ、そうか?わかった!50球でも100球でも粘ったるわ!!」
七海は、上機嫌でバッターボックスに向かう。
「ふん…!バカは扱いやすい…」
中村有沙は、寛平の元に走った。
3070投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時08分26秒
「おい、話しがある」
「ん?わ、わしか?」
やたらと落ち着き払って、しかも偉そうな態度の少女が突然話しかけて来たので、寛平は面喰った。
「ちょっと、場所を移していいか?」
「う、うん…。ええよ…」
「おじいちゃん、どないしたん?ななみん、打席に立つで?」
中村有沙に連れられる寛平に、帆乃香は話しかける。
「ああ…。おじいちゃん、この娘さんにナンパされてしもうた…」
「くだらんことを言ってないで、さっさと来い」
「…はい…」
3071投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時08分58秒
マンボウズの皆から少し離れた所まで、寛平を連れ出した中村有沙は、早速本題に入る。
「貴様、占い師だそうだな?」
「き、貴様…?ええ…はい…。占い師ですけど…」
「梨生奈を占ったそうだな?」
「え?」
「夏に、裏切られて、大怪我をすると…」
「大怪我…?傷つくって言うたんやけど…」
「同じ事だ」
「で…あの、車椅子の子が梨生奈ちゃんやろ?ああ…こういう形で当たってしもうたんか…」
「何故だ?」
「何が?」
「何故、わかった?」
「占い師やから…。当たらなかったら、商売あがったりや…」
中村有沙は、舌打ちをする。
3072投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時09分21秒
「あ、あの…何を怒ってはるの?」
「あの梨生奈という者…今、車椅子を引いている羅夢という者に裏切られ、ああやって大怪我をした…。貴様の言う通りになった…」
「ふ〜ん…。でも、今は仲直りしたんやろ?」
「そうだ…」
「よかったやん…」
「貴様のアドバイス通りにしたから、2人の仲が戻ったそうだ…」
「へぇ〜…そりゃ、おっちゃんも嬉しいなぁ〜…。何や?お礼言いに来たの?」
「そんなわけあるか!!」
チラリと、打席の七海を見る。
言いつけ通り、ファールボールを律儀に打ち続けている。
「もう一つ、占ったそうだな?」
「ん?」
「聖テレ野球部の行く末…。貴様は、解散すると、のたまわった…」
「あ…ああ…。言うた…」
「詳しく話せ!!そのことを…!!」
「ああ、なるほどな…。それを心配しとるんやな…」
「早くしろ!!時間がない!!」
中村有沙は、打席の七海を再び窺う。
七海は、おそらく10球以上のファールボールを打っている。
3073投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時09分44秒
「うん、確か、あの時は部の中から2人が抜けて、そのまま野球部はのうなるて…占ったな…」
「その、2人とは誰だ?」
「う〜ん…。それ、あの時に占わへんと、正確なことはわからんのよ…」
「何だと?ならば、今、占え!!」
「あかんのよ…。二度、同じ占いはできんのよ…」
「何だ、その設定は…」
「いや、設定っていうか…占ってもええけど、どうせ当たらへんもん…」
ふぅ…と、中村有沙は息をつく。
「それならば…解散のキッカケになる人物とは誰だ?」
「ああ…それも、わからん」
「…そんな様で、貴様の占いは当てになるのか?」
「そないなこと言うても…」
「もういい…!!貴様と話しても時間の無駄だった…!!」
中村有沙は、ベンチに戻りかけた。
「ちょい待ち!!君…ちょっと気になるんよ…」
「気のせいだ」
「いや…梨生奈ちゃんの時と同じや…。災難が降りかかる…」
「何?」
中村有沙は、ゆっくりと振り返る。
3074投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時10分24秒
「何だ?災難とは…?」
「せやから、わからん。直感的なもんなんや…」
「説明できないのなら、何とでも言える…。くだらんな…」
「それを少しでも詳しく知る為に、占いがあんねん…。あと、少しでもその災難を避ける方法も…。梨生奈ちゃんみたいに…」
中村有沙は、身体の正面を寛平に向けた。
「梨生奈は、あの通り大怪我をしたのだぞ?」
「でも、大切な人は戻ってきたんやろ?」
「………」
「ま、一つ試してみぃひん?タダでええよ…」
寛平は、ポケットから年季の入ったタロットカードを取り出す。
「タダより高いものはない…」
「ま、そう言わんと…」
まるで、花札かトランプを扱うように、チャッチャと音を立ててカードを切る寛平。
それを見ただけでも、信憑性がガクンと落ちるのだが…。
3075投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時10分38秒
「君、名前は?」
「有沙…。中村有沙…」
「じゃ、有沙ちゃん…。一枚引いて…」
「………」
言われるまま無造作に、一枚のカードを引く。
「ふ…」
引いたカードを見て、中村有沙は思わず鼻で笑ってしまった。
骸骨の様な人物が、大きな鎌を持ち、地面には人の頭、手、足が散らばっている絵柄…。
それは…『死神』のカード。
3076投稿者:リリー  投稿日:2008年08月09日(土)21時11分40秒
今日は、これでおちます
3077投稿者:117  投稿日:2008年08月09日(土)21時17分54秒
大喧嘩もどうにか収まったようで・・・試合の方は、投手戦ですか。
有沙にもこの後災難が・・・?続きも楽しみです!
3078投稿者:えー!!  投稿日:2008年08月10日(日)00時01分14秒
ありりん死んじゃうのー?
3079投稿者:デジ  投稿日:2008年08月10日(日)04時33分19秒
四回は両方とも呆気なく終わりましたね。というか何気にゴルゴさんも観戦してましたね。
有沙の口車に乗る七海。そして、仲間のために、有沙の時間稼ぎのために(笑)とことんファールを打ちまくる。なんかこれって、実力は認めてるんですかね?
寛平さん。ナンパやないだろこれかなりウケました。
そして有沙にもきましたね。寛平さんの恐怖の勘。というかこんな所にも商売道具(タロットカード)持ってきてるんですね。夜にでもまた開店するんですかね?
引いたのは嘆きと不吉と試練や苦難、絶望、そして死の意味の「『死神』のカード」。
有沙を襲う不吉とは何か(恐らく第三話目の複線でしょうね。そして『死神』のカード」のもうひとつの大きな意味が再生と更新。つまり一度有沙の身に何かが起きて、再び元に戻るって感じでしょうか)?
続きも楽しみです!
             (今日の小言)
東京から茨城は2から3時間位です。(東京へはお母さんの定期検査とかでけっこういきます。)
ちなみに僕は出身は東京です。僕は東京で生まれ千葉で育ち(ここまで四歳)今の茨城に到ってます。出身というのは生まれた場所だと思っているので、心はいつも都会っ子(のつもり)です。(でも人から見るとどうなんだろう?)
3080投稿者: 投稿日:2008年08月10日(日)11時05分42秒

3081投稿者: 投稿日:2008年08月10日(日)11時32分19秒

3082投稿者:あげ  投稿日:2008年08月10日(日)11時44分37秒

3083投稿者:気になるなぁ  投稿日:2008年08月10日(日)14時33分57秒
占いの続き
3084投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)20時58分10秒
117さん
投手戦は、書いてて楽ですね
決して手を抜いているわけではないですが、やはりサクサクと進んでいきますから…
デジさん
やはり、デジさんの小説でも出ているので、タロットカードに詳しいですね
有沙の、七海の操縦術、書いてて楽しいです

3078さん、3083さん
占いの続きから、今日は始まります

では、更新します


3085投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)20時58分41秒
「あらら…」
寛平は、そのカードを見て固まってしまった。
「なるほど…。どうやら私は死ぬらしいな…」
カードを寛平に突き返すと、中村有沙はベンチへと戻っていく。
「ま、待った…!!それを避ける方法はあんねん!!」
「何?」
今一度、中村有沙は歩みを止める。
「…まずな…この死神の持ってる『鎌』…。君、『鎌』とかに関係してない?」
「『鎌』…?」
『鎖鎌』…自分の専用武器だ…。
しかし、中村有沙は動揺を表に出さない。
「『鎌』に関係する女子中学生なんて、いるのか?」
「そんなん、知らんよ…。こうやって占いで出とるんやさかい…」
寛平は、真剣な表情で続ける。
「しかしな、君、今後一切『鎌』に触らへんかったら、この結果を避けることができるで?」
「『鎌』に触らない…?」
「ま、そない難しいことやないやろ?君の言う通り、『鎌』に関係する女子中学生なんてそんなにはおらんし…。君、農家の娘さんってこと、ないよね?」
「…ああ…」
『鎖鎌』に触らない?
つまり、探偵稼業は辞めろと…?
3086投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)20時59分02秒
「つまりな、『鎌』を使う状況が…君にとって、良くない結果を招くねん…」
「ふん…。そうか…。精々、気をつけよう…」
しかし何故、ここまでこの男は他人の未来が断言できるのだろう…?
今まで厳しい表情をしていた寛平は、途端に人懐っこい笑顔になる。
「ま、君が『鎌』にさえ触らへんかったら、災難はやって来んのやし…。そこまで恐がること、ないわ…」
「ふざけるな。恐がってなどいない」
今度こそ、中村有沙は寛平の元から離れた。
『鎌』に触らなければ、命が助かる…?
(ふん…!!無理だな…)
そう…自分は生まれた時から、死の危険にさらされてきた。
あの『鎖鎌』を握る時は、生きるか、死ぬかの勝負の時ではないのか…。
ある意味、寛平の占いは、当たっているのか…。
と、言う事は…次の戦いの時が…自分の死ぬ時…?
(な、何を考えている!!問い質す為に話しをしたのに、惑わされてどうする!!)
そう言いながら、頭を激しく振った。
「あ、ありりん、何やってるの?ほら、守備だよ!!」
エリーが、キャッチャーマスクやプロテクターを渡しに来た。
「む?七海め…。結局、凡退か…」
スコアボードの五回表の欄に、白チョークで『0』と書かれている。
3087投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)20時59分26秒
「おい。有海」
「はい…?」
中村有沙は、有海を呼び止める。
「七海が投げる間は、サインは送らなくていい」
「え?」
「あいつは、バカの一つ覚えのストレートしか投げてこない。相手の心理の裏をかく様な采配など、『豚に真珠』だ」
「『虎に真珠』じゃ!!ゴルァ!!」
マウンドから、七海が怒鳴った。
「ち…!地獄耳め…」
眉間にシワを寄せながら、七海を睨んでいたが、すぐに有海に向き直る。
「だから、また藍が投げる時まで、センターの守備に集中しろ」
「ほ、細川さんが…投げる時まで…?ま、また、投げさせてもらえますかね…?細川さん…」
「ん?さあな…。藍次第だな…。さあ、守備位置まで走れ!!」
「は、はい!!」
五回裏…虹守中の攻撃が始まる。
打順は、2打数2安打の日向滉一からだ。
「ん?レッドさんから聞いたけど…アイツの親父さん、有名人やんけ!!」
確か滉一の父、李小牧は、昔、歌舞伎町のヤクザに自宅を襲撃され、殺されそうになったことがあったそうだ。
その時、テーブルに置いてあった刑事の名刺をヤクザが見つけ、そのヤクザ達が一目散に逃げ出したおかげで助かったという逸話がある。
「よかったなぁ…。もしかしたら、あんた、生まれてこれへんかったかも知れんのやで?」
しみじみと滉一を見詰める七海だが、容赦ない剛速球で彼を三球三振にする。
3088投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)21時00分02秒
続く四番の謙二郎も、五番バッターも連続三振…。
七海は、この回を早々と終わらせた。
「よ!!『女・松坂』!!」
そんな掛け声が、観衆から聞こえた。
「『女・藤川』って呼んで!!」と、返す七海。
金本の大ファンの七海だが、投手なら、藤川球児がお気に入りだ。
(く…!やっぱり凄いなぁ…。ななみん…)
藍は、七海の剛速球に、自分のエースピッチャーの座を脅かされるかも…という焦燥感に襲われる。
そして…一言「ナイスピッチング!!」と、肩を叩いてやりたい衝動にも…。
(で、でも…。ななみんが悪いんだから…。あっちから殴ってきたんだからね…)
ベンチの、七海から一番遠い所に座った藍は、口を尖らせてうつむいた。
「おい…。なんだったら、アタイが手を貸してやってもいいぜ…」
「え?」
藍が振り向くと…そこには、何か含みのある笑いを浮かべた羅夢が立っていた。
3089投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)21時00分14秒
「手を…貸すって…?」
「だから、七海を2人でブチのめしてやろうぜ!!」
「え?わ、私、別に、そんなんじゃ…」
「ムカつくだろ?アイツ。ああいうヤツはな、先手必勝なんだよ!!」
「は?せ、先手必勝?」
「後ろから頭にポリ袋被せてな、呼吸できなくてパニックになった所を、バールの様なモノで…」
「ちょ、ちょっと…!らむりん!!途轍もなく恐ろしいこと、言わないで!!」
「羅夢!!いい加減にしなさい!!」
梨生奈が、石膏で固めた右腕で、羅夢の頭を思いっきり殴った。
3090投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)21時01分12秒
「イテ!!な、何すんだよ!?」
「羅夢こそ、何を言ってるの!?あい〜んが、困ってるじゃない!!」
あの大人しい梨生奈の、意外な一面を見て、藍は笑顔が引きつった。
「さ、ここは私とあい〜んの、2人で話をさせて…」
「ち…!わかったよ…」
羅夢は、つまらなそうにメロディーの元に行く。
「な、何?り〜な…」
「つまんないよね…。ケンカすると…」
「…え?」
「七海と…」
「あ、ああ…」
藍は、また下を向いた。
「私のこの怪我…。実はケンカが原因なんだ…」
「…え?」
「羅夢と…」
「ええ!?ウ、ウソでしょ?」
「うん。ウソ…」
2人は、しばらく顔を見合わせて…そして笑った。
3091投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)21時01分45秒
「でもね、ケンカにも、いろいろあってさ…」
梨生奈は一通り笑ってから、また話しを続ける。
「お互いの不満が募っていって、ある日怒りが限界まで達しちゃって…てのと、いきなり火山が噴火したみたいに、ドカーンってなっちゃうのと…」
梨生奈は、藍の目を見詰める。
「私と羅夢のケンカは、後者の方ね…。で…あなたと七海のケンカは、どっち?」
藍は、目を伏せる。
「後者の方…」
「だよね?そういうケンカって、仲直りしやすいのよ?」
「え…?」
「間違いないわ…。私と羅夢が、そうだもの…」
藍は、メロディーと何やら言い合いをしている羅夢の方を見やる。
「で、でも…ななみんと、らむりんは?」
「ん?」
「あの2人も、火山がドカーンって感じじゃん?」
「…ああ…。あの2人の場合は、金星に住んでるから」
「金星?」
「知らない?金星って陸地はみな火山で、毎日ドカーンなの。だから、あれが普通…」
藍は、また笑ってしまった。
3092投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)21時02分28秒
「あい〜ん…。あなた、監督に殴ってもらえなかったでしょ?」
「…うん…」
藍の顔が、暗くなる。
「でも…七海は、あなたのこと殴ってくれたよね…?」
「…え?」
「見捨ててないんだよ。七海は…」
「………」
藍は、また黙り込んでしまった。
「どうしたの?」
梨生奈が、藍の顔を覗き込む。
目に、涙が溜まっている。
3093投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)21時02分41秒
「監督…私のこと…嫌いになっちゃったかな…」
「う〜ん…」
梨生奈は、広い額にシワをよせて、空を見上げる。
「こんなウジウジした、あい〜んなら…嫌いなんじゃないかな?」
「…ウジウジ…?」
「監督ってさ…結構、突き放すタイプじゃない?口うるさくないけど…」
「うん…」
「あい〜んのクラスの、こんどんは、口うるさいけど、面倒見のいいタイプよね…」
「うん…」
「こんどんだったら、今のあい〜んを見たら、何か声をかけてくれるけど…あすみんは、絶対に声をかけないよ…」
「そ、そうかな?」
「うん…。徹底的に、シカトすると思う…」
3094投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)21時03分04秒
「ど、どうしたらいいと思う?」
「ん〜…。わかんない…」
「わ、わかんないって…」
泣き出しそうな声をあげた藍に、梨生奈は厳しい目を向ける。
「最近の教育ってさ…大人が子供を傷つけないようにって、いろいろ気を遣うじゃん…。でも、それって間違ってると思う…。甘やかしてるよ…」
「え…?」
いきなり、教育論を語り出した梨生奈に、藍は目を丸くした。
「いろんな子供がいるんだから、子供の気持ちを考えてって…。それ、逆なんだよね…」
「逆?」
「世の中には『いろんな大人』がいるの…。子供は、そんな『いろんな大人』の気持ちを考えて、学ばなければならないの…。だって、『子供』はいずれ『大人』になるんだもん」
「つまり…子供が、大人の気持ちを考えろって…?」
「そう…。そうすれば、その子供は『大人』になれるの…。自分が伝えたいことを、責任を持って伝えられる『大人』にね…」
「り〜なは…そういう大人にいっぱい会ったの?」
「うん。いろんな大人にね…。例えば、レッドさん…」
梨生奈は、吉田の方を見る。
何やら、寛平と野球談義を楽しんでいる。
「レッドさんは、野球が大好きで、お酒も大好き。ちゃらんぽらんで、いい加減で、基本的にだらしなくて…でも、凄く優しい人…。暖かい人…」
「うん…。そんな感じだね…」
3095投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)21時03分35秒
「あと、ダーさんって人がいるんだけど…」
「ダーさん?」
「その人は、メチャクチャ厳しい。体罰だって、ハンパじゃない…。でも、とことん面倒見てくれるし、守ってくれる…それに、料理がメチャクチャ美味しい…」
「へぇ…。凄い人だな…。そのダーさんって人…」
「あと、夏に原村で会った『ある人』は…静かで穏やかな性格なんだけど、凄い『ウソつき』…」
「『ウソつき』…?」
「でもね、凄く純粋な人…。心が濁っていない…澄みきった人…」
「『ウソつき』なのに、心が澄みきってる…?ワ、ワケわかんないね…その人…」
「ええ…。私もワケわかんなくて…この様よ…」
梨生奈は、ギプスで固められた両腕を、少し広げた。
「そ、その怪我って…その『ウソつき』な人が…?」
「うん。でも、これは授業料…。未熟な私が払うハメになった、授業料よ…」
「授業料…?」
「で、今日はあなたの授業の日…。授業なんだから、頭を使って考えなさい。あすみ監督の『気持ち』…」
「り〜な…。何か…凄い、大人…」
「ふふ…。成長させてもらったの。子供の気持ちなんて、全然おかまいなしって大人達に…。で、なかったら、怪我損だよ…」
梨生奈は、固まった腕で、車椅子の車輪を押して藍から離れる。
「あすみんの『気持ち』…?う〜ん…考えるのは苦手だよぉ〜…」
藍は、頭を抱えて青空を見上げた。
3096投稿者:リリー  投稿日:2008年08月10日(日)21時05分33秒
今日はこれでおちます

『行列のできる法律相談所』に、『ポニョ』の歌を歌ってる大橋のぞみちゃんが出ますね
あの子、メチャクチャ可愛いですよねぇ…
3097投稿者:>金星って陸地はみな火山で、毎日ドカーンなの。  投稿日:2008年08月10日(日)21時41分35秒
ここワロタwww
3098投稿者:おお  投稿日:2008年08月10日(日)21時43分12秒
大橋のぞみちゃんがリリーさんの御目がねに!
3099投稿者:117  投稿日:2008年08月10日(日)22時18分02秒
確かに、のぞみちゃん出てましたね。好きな芸能人が氷川さんと山田くんだそうで(笑)。

「『女・藤川』って呼んで!!」・・・急に、キャラが変わったような(笑)?
梨生奈、熱く語っていますね。どこまでも、大人・・・続きも楽しみです!
3100投稿者:たぶん氷川きよしは言わされてる  投稿日:2008年08月10日(日)22時54分15秒
山田の方が本音だろうね

レッド、ダーさん、モニーク・・・確かに全然違うタイプの大人たちに振り回された『らりるれろ探偵団』
3101投稿者:先生  投稿日:2008年08月10日(日)22時56分08秒
バールはバールの様なモノに入りますか?
3102投稿者:バールの様なモノwww  投稿日:2008年08月11日(月)00時41分39秒
 
3103投稿者:デジ  投稿日:2008年08月11日(月)01時46分50秒
(前半)意味深な占いの結果。しかし今の裏の状況で鎖鎌を使わなければ逆に危ない。う〜ん複雑ですね。
(後半)梨生奈の今までをかなりオブラートに包んだ本当の話。
しかし羅夢と七海の仲を金星という遠まわしすぎるたとえ方であらわしたり、自身の教育論は大人すぎたり、いろいろと面白みのあるいい話しですね。続きも楽しみです!
              (今日の小言)
僕の小説でクイズも実施してみた(スレを盛り上げるため)のですが、あげてくれるのは嬉しいのですが、答えてくれる人がいません。ただ単に小説を書くだけでいいのかちょっと迷ってるこのごろです。
3104投稿者:↑て、いうか  投稿日:2008年08月11日(月)02時45分29秒
クイズが難しすぎる
3105投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)20時58分35秒
3097さん
金星は、地球とほぼ同じ大きさらしいでうが、僅かに太陽に近い為、もの凄く熱いらしいです
地球は、奇跡的な位置にいる為、生物が住めるらしいんですね

3101さん、3102さん
バール(の様なモノ)は、物騒な凶器?1ということで…

3098さん、3100さん
可愛いですよねぇ、本当に…
やっぱり、ジャニーズが好きなんですね

117さん
下柳にしようかとも思ったのですが…そうすると七海がオヤジ趣味になってしまうので、藤川にしました

デジさん
クイズは面白いですよ
でも、やっぱり難しい…
私、わかりませんでした

では、更新します
3106投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)20時59分44秒
すると、周りの者達が、わらわらとグラウンドに走って行く。
「…え?…え?」
辺りを見渡す藍に、有海が声をかける。
「細川さん…。守備に行かなきゃ…」
「も、もう…?」
スコアボードの六回表の欄に、『0』の文字…。
エリーが、金属バットを溜息混じりに置いている。
またもや、三者凡退…。
ここに来て、試合は投手戦となったようだ。
藍は、横目であすみを見る。
あすみは腕組みをし、足を組んだまま、真っ直ぐにグラウンドを見据えている。
藍の方を、チラリとも見ない。
あすみの『気持ち』を考えると…明らかに自分を嫌っている…。
意気消沈しながら、外野に向かう。
「ほ、細川さん…」
「え?」
振り向くと、有海が硬い笑顔をつくっている。
「が、がんばろうね…!」
有海は、足早に藍を追い抜いて、レフトの守備位置へ走って行く。
3107投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)21時00分05秒
「あ、あみ〜ご…!!」
「え?」
今度は、有海が振り返る。
「あみ〜ごのサイン…む、無視しちゃって………ゴメン!!本当に、ゴメンね!!」
藍は、両手を重ねて頭を下げた。
「細川さん…」
有海は、親指を前に突き出した。
「アウト!」
「…へ?」
藍は、顔を上げる。
「『ごめんなさい』は、アウトでしょ?」
「あみ〜ご…」
「細川さん…ありがとう…!!」
「は…?」
お礼を言われた…?
自分が…?
何故…?
「野球部を…創ってくれて…!!」
有海は、顔を真っ赤にして踵を返すと、外野まで一目散に駆け出した。
「ううん…。私こそ…ありがと…」
藍は、また涙を拭った。
3108投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)21時00分30秒
六回裏の虹守中の攻撃は、実質四番のキャッチャー、高橋郁哉から。
「ゴルァ!!」
七海の気合の入った投球は、いくら郁哉でも簡単に打てない。
やっとバットに当てるも、高々と打ち上げてしまう。
ボールは、弧を描きながら、観衆の真上に…。
「どけ!!」
中村有沙は、構わず観衆のいる方向へ駆けて行く。
「え…?ウソだろ?」
郁哉は、思わず声をあげた。
郁哉の予想通り、中村有沙は観衆の真ん中へ、スライディングをしながら突っ込んで行った。
「いてぇ!!」
甲高い、悲鳴が聞こえた。
梓彩の父、松本が、思いっきり中村有沙のスパイクに、脛を蹴り上げられたのだ。
「いたたたたた…」
松本は、足を押さえてうずくまる。
「む?梓彩の父親か?ボヤボヤしていると怪我をするぞ?」
そして、中村有沙はゆっくりと立ち上がると、ボールの収まったミットを高々と挙げた。
3109投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)21時00分56秒
「コラ!!チビアリ!!余計なことすんな!!」
超ファインプレイをした中村有沙を、七海は怒鳴りつけた。
「何を?」
「ウチの連続三振記録を、止めんなや!!」
「そんなものは知らん!!バットに当てられた、貴様が悪い!!」
そこに、次の打者、七番のバーンズ勇気がバッターボックスに入る。
「別にいいじゃん…。連続三振記録なんて…」
「あん?」
「どうせ、俺が破ることになってたんだから…」
そう言いながら、バットを構えた。
「く…!!おもろいこと言ってくれるやん!!男前の兄ちゃん!!」
「いや…。さっきの、ファールの連発…結構、疲れたよ、可愛いお嬢ちゃん!!」
「お嬢ちゃん、言うな!!ウチは虎やで!?噛み付かれるで?」
「あはは…。昔飼ってたトラネコ思い出しちゃった…」
「何やとぉ!?おおぅ!?」
七海は、顔を真っ赤にしてマウンドを踏み鳴らす。
「バカめ…。挑発にのりおって…」
中村有沙は、溜息をつきながらミットを構えた。
3110投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)21時01分31秒
七海対勇気の戦いは、五回表の再現となった。
ただ、投手と打者が入れ替わっている。
勇気は、11球連続でファールボールを打っている。
さすがの七海も、肩で息をし始める。
「オノレ…。ワザとやっとるやろ?」
「ワザとなんかじゃないよ…。球威がありすぎるから、とんでもない方向に飛んでっちゃうんだってば…」
「何を言っとんねん!!あからさまに、カットしとんのやないか!!」
勇気の狙いも同じだった。
剛速球で押す七海の、体力を奪う作戦…。
15球目…また、ファール…。
そろそろ、皆の集中力も切れ始める…。
(あすみんの気持ち…。気持ち…。わかんないよ…)
さっきから、藍は梨生奈から出された課題に取り組んでいた。
今のあすみには、どんなに謝っても許してはくれないだろう…。
例え、土下座しても…いや、あすみは、土下座などというマネは一番気に入らないだろう…。
(お…!ちょっとだけ、わかってきたかもしれない…!あすみんの気持ち…)
しかし、こんな時に限ってこちらにボールが飛んでくるものである。
七海の衰えた球威のストレートを、勇気がライト方向に運んだのを気がつかなかった。
「あい〜ん!!ボール、行ったって!!」
エマの金切り声で、ようやく藍は顔を上げた。
3111投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)21時02分19秒
太陽の光によって、半分ぼやけたボールのシルエット…。
「え…?え…?ええ…?」
藍は、慌てふためいた。
下がればいいのか、前に出ればいいのか…。
まるで、酔っ払いの千鳥足の様に、藍の足下は定かではない。
ここでエラーをしたら…二度と自分は浮かび上がれない様な気がする…!!
頭に当ててでも、このフライを捕らなければ…!!
(いや、頭に当てたら、まるで元中日の宇野だ…!)
藍は、もう自分が何を考えているのかもわからなくなってしまった。
「細川さん!!どいて!!」
「え…?」
藍は、その瞬間、もの凄い勢いで突き飛ばされた。
「ぐえ…!!」
顔から地面に突っ伏してしまった藍…。
「うぇ…。ぺっ…!ぺっ…!」
口の中に入った砂を、吐き出しながら、顔を起こす。
3112投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)21時02分34秒
そこには、左手を高々と挙げた、少女の姿…。
「あ、あみ〜ご…?」
藍は、首を傾げた。
その直後…。
「アウトー!!」
審判の声…。
有海が、フライを捕ったのだ…。
3113投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)21時02分59秒
「あ…あみ〜ご…」
藍は、呆然と有海の勇姿を見上げた。
「だ、大丈夫?細川さん…」
有海は、手を差し出す。
「…うん…」
藍は、その手を握り締める。
「細川さん…何か、考え事してたみたいだから…」
「わ、私のこと…ずっと見ててくれたの…?」
「う、うん…。気になって…」
藍は、有海に引き上げられ、ようやく立った。
「ご、ごめんね…。あみ〜ご…」
「ツーアウト!!」
「…あ…」
「今度、『ごめんね』って言ったら、スリーアウトだよ?」
「…うん…。ごめ…」
言いかけて、藍は口を自ら塞いだ。
そして、こう言った。
「ありがとう…。あみ〜ご…」
「どういたしまして…」
その時、たくさんの身体が有海に圧し掛かった。
エマが、エリーが、愛美が、梓彩が、ジョアンが、そして七海が…歓喜の声をあげて駆けつけたのだ。
3114投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)21時03分23秒
「やったでぇ〜〜〜!!!一木さんがフライを捕ったでぇ〜〜〜!!!」
「胴上げしよ!!胴上げ!!」
「え…!?ちょ、ちょっと…!ま、待って…!」
有海の意思は尊重されず、彼女の身体は宙に舞った。
「わ〜っしょい!!わ〜っしょい!!」
「や、やめてよぉ…!は、恥ずかしいよぉ…!」
この光景を、虹守中のメンバーはシラケ気味に眺めている。
「何やってんだ…?ただのフライを捕っただけじゃん…」
それは、マンボウズの皆も同じだった。
「もしかして…あみ〜ご、初めてフライ捕れたとか…?」
次元が、呆れ顔で呟いた。
「あんたと一緒やね…。翔太…」
からかう様に、翔太に囁く帆乃香。
「うるさいな!!」
そう言いながらも、翔太は有海の気持ちがわかる。
初めてフライが捕れた日は、自分も胴上げをされたような、身体が浮かび上がった気分になった。
「あの…。何で、みんな、あんなに大騒ぎしてるんですか?」
甜歌は、不思議そうに尋ねた。
「おほほ…。まあ、大目に見てやってよ…。あ、ちゃんとさっきのプレイ、記録しておいてね」
あすみは、満足げに有海の勇姿を見守った。
3115投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)21時03分52秒
聖テレのメンバー達は、もう試合に勝ったかの様なお祭り騒ぎだ。
「イエ〜イ!!」
少女達は、お互い、ハイタッチをする。
七海と藍の手が重なり合いそうになった時、2人はハッと気付いて、顔を背けた。
「もう…!2人とも…」
そんな2人に、愛美は溜息をついた。
「何か…強いのか弱いのか…上手いのか下手なのか…よくわからないな…聖テレってチーム…」
勇気はバットを杖の様に着き、もたれながら彼女達の騒ぎを眺めた。
「いろんなヤツがいるんだ…。それが、我々のチームだ…」
中村有沙も、シラケ気味に彼女等を見ながら言った。
「ちょっと!いい加減、守備位置に着いてくれるように言ってくれない?」
球審は、中村有沙に苦情を言う。
「ち…!おい!!いつまで騒いでいる!!まだ、試合はおろか、このイニングも終わっていないのだぞ!?」
彼女の一喝で、皆はバラバラと守備位置に戻った。
有海のプレイで、息を吹き返した七海は、次の打者を三球三振にする。
これで、六回裏が終了。
虹守中一点リードのまま、試合は終盤へとさしかかる。
七回表…ラッキー7の聖テレの攻撃なのだが…三者三振に終わる…。
3116投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)21時04分15秒
今日は、これでおちます
3117投稿者:リリー  投稿日:2008年08月11日(月)21時10分55秒
あと、それから…この試合も、九回まで戦うことになります
ですから、まだ2回、聖テレにもチャンスがあります
3118投稿者:117  投稿日:2008年08月11日(月)21時11分51秒
いろいろと、面白い発言・プレーが続いていますね。
「太陽の光によって、半分ぼやけたボールのシルエット…。」、ドラマでありそうな場面です。
宇野さんとは・・・あの「おでこ」に当てたやつですよね。リリーさん、奥が深い!
そして、まさかの有海のキャッチ!まだ試合は終わっていないですが、感動(笑)!続きも楽しみです!
3119投稿者:有海の捕球  投稿日:2008年08月11日(月)21時20分04秒
1回目はエラー、2回目は七海と交錯して落球、そして3回目は藍を助けるために突き飛ばして成功!
ちょっと感動しました
3120投稿者:有海って  投稿日:2008年08月11日(月)21時34分24秒
守備位置レフトだっけ?
3121投稿者:あげ  投稿日:2008年08月11日(月)21時54分46秒
  
3122投稿者:センターだったよね  投稿日:2008年08月11日(月)21時54分57秒
しかし、有海が藍を突き飛ばすって相当突っ込んだなって感じ(笑)
でも、考え事してたらそんなに力入ってないか
3123投稿者: 投稿日:2008年08月11日(月)22時23分45秒

3124投稿者: 投稿日:2008年08月11日(月)22時29分54秒

3125投稿者:頭に当てたら、まるで元中日の宇野だ  投稿日:2008年08月12日(火)00時04分51秒
その動画
http://jp.youtube.com/watch?v=ehe_pSmWhWc

3126投稿者: 投稿日:2008年08月12日(火)00時45分59秒

3127投稿者:デジ  投稿日:2008年08月12日(火)03時44分13秒
後二回ですか。少しまずい展開ですね。
有海と藍、今回いつもと立場逆転してますね。今回活躍しない藍。なぜか強気な有海。そして感動的なキャッチ。これは活躍しているチームには分からない嬉しさですよね。
それにしても宇野って選手面白いですね。3125さんの動画で確認しました。この通り頭に当てたり、ボールの動きに夢中のあまり前の選手を追い越したり...。なんか話がそれましたが続きも楽しみです!
            (今日の小言)
すいませんでした。今度は簡単にします。
3128投稿者:リリー  投稿日:2008年08月12日(火)20時50分43秒
3125さん、ありがとうございます
伝説の『宇野ヘッド』、また見たかったんですよね
あの試合は、恐ろしいことにピッチャーが星野さんで…別のVTRでは、グローブ叩き付けて激怒してましたね

3120さん。3122さん
有海のポジションは、センターです
身体能力が並みではない七海とエリーで、有海のフォローが出来るように…という采配です
3119さんが書いてらっしゃる通り、もう有海には、そんな気遣いは必要なくなりましたが…

117さんも、『宇野ヘッド』を知ってらしたんですね
やはり、あの珍プレーを超えるものは出てませんね

デジさん
そうです、宇野選手は最高です
私も、大島選手を追い抜いた場面で、大笑いしました
あと、クイズですが…今回も難しいですね
お手上げです…

では、更新します
3129投稿者:リリー  投稿日:2008年08月12日(火)20時54分49秒
「おい、おい…。なんか、いい試合やってんじゃん。おまえ等…」
聞き覚えのある声…。
虹守中のメンバーは、一斉に振り返った。
「ま、前田先輩…!!」
皆は、去年まで虹守中に在籍していたOB、前田公輝の登場に、ベンチから立ち上がる。
去年はサードで四番のキャプテンだった公輝は、今は甲子園の常連校、叡智大学付属渓岳園高校の野球部に在籍している。
野球部だというのに、彼は髪の毛を立てている。
渓岳園の野球部の監督は、元虹守中野球部の監督…そう、公輝も、一年生ながら坊主頭免除の、レギュラーの座を獲得しているのだ。
「前田…!おまえ、練習は?」
「午後からですよ。監督が雑誌の取材を受けてまして…。ご無沙汰してます、井上先生…」
公輝は、井上に対しては、礼儀正しく挨拶した。
しかし、後輩達には厳しい目を向ける。
「5対4…?マジかよ?相手は聖テレ…お嬢様だろ?おまえ等、何、遊んでんの?」
皆は、気まずそうな顔を見合わせながら、うつむいた。
3130投稿者:リリー  投稿日:2008年08月12日(火)20時55分05秒
しかし、勇気だけは笑顔で答える。
「そう、言わんでくださいよ、前田先輩…。凄く強いんです。聖テレ…」
「おい、おい!!強いっていったって、女だろ?勇気、おまえが投げていながら、何で4点も獲られてるんだよ?」
「いやいや…。俺が投げてからはノーヒットノーランです」
「…じゃあ…謙二郎…。おまえか?」
「…!!い、いえ…。俺は…その…一失点だけです…」
「一失点だけって…。大丈夫かぁ…?これからの虹守は…」
公輝は、あからさまに呆れたという風に、頭を掻いた。
3131投稿者:リリー  投稿日:2008年08月12日(火)20時55分31秒
「そう言わずに…!!まずは見て下さいよ!!聖テレのピッチャー…!!凄いんですから!!」
「へぇ…。そんなに凄いのか…。そりゃ、楽しみだ…」
また、別な声…この声も聞き覚えがある。
「げ…!!山元先輩!!」
今度ばかりは、勇気も緊張した。
そこには、今年、渓岳園高校を夏の甲子園ベスト8まで引き上げた立役者、エースピッチャーの山元竜一が立っていたからだ。
竜一も、虹守中野球部のOBである。
「おお!?山元君?き、君まで来てたの?」
井上は、竜一のいた時代には虹守中にいなかった。
だから、彼に対しては少し遠慮があるようだ。
「はい。この間はお世話になりました。それにしても…最初から見てなかったんですが、凄い試合ですね?」
竜一は、スコアボードを見ながら言う。
初回に3失点…そして中押しされての一失点…その後、一気に5点を奪い、その後は『0』行進…。
「なるほど…。初回の失点は、サービスのつもりで力加減をしていたら、予想外の攻撃をされてしまった…て、感じですか?」
「う、う〜ん…。まあ、そういうことかな…?」
井上はお茶を濁す。
この試合は、聖テレへのリベンジだったはず…初回からそれなりの緊張感で臨んだはずだったのだ。
「で、今はようやく本気になって…勇気が投げてんのか?」
竜一は、恐縮しまくりの勇気を横目で見る。
3132投稿者:リリー  投稿日:2008年08月12日(火)20時56分07秒
「おい!!謙二郎!!おまえが投げてねぇって、どういうことだよ!!」
公輝は、謙二郎を厳しく問い詰めた。
「え…?お、俺は…」
「い、いや、これは、俺が投げたいって、無理言って謙二郎に代わってもらったんですよ!!」
勇気が、謙二郎を庇うように間に立った。
「おまえ程の男が…投げたい?一体、どんなチームなんだよ?聖テレ…」
「ほ、ほら…。今、あのマウンドに上がってる女の子…。あの子です!!」
公輝も竜一も、マウンド上の細い身体をした小柄な少女を見て、ますます信じられなくなる。
だが、彼女の第一球を見て、全てを理解した。
「………何だ………あの子………」
竜一は、半笑いを浮かべる…勇気と同じリアクションだ。
公輝は、思わず見入ってしまった。
「あの子の球…俺でも打てるかな…?」
誰に言うでもなく、小さく呟いた。
だが、竜一は、涼しい顔をしてこう言った。
「いや、別に打つ必要ないんじゃないか?」
「…え?」
その直後、七海はこの回、初めての走者を出す。
ヒットを打たれたわけではない。
フォアボールだ。
3133投稿者:リリー  投稿日:2008年08月12日(火)20時56分41秒
次の打者、木村遼希に、竜一は耳うちする。
「内角ギリギリに立って、突っ立ってるだけでいいから…」
「え…?振らなくていいんですか?」
「うん。恐がるなよ?内角ギリギリで立て」
「…はい…」
遼希は、竜一の言いつけ通り、できるだけホームベース寄りに立つ。
七海の球は、外角高めに集中する。
結局は、またフォアボール…。
「本当だ…」
遼希は、竜一の方を見ながら一塁へ走る。
七海は、悔しそうにマウンドを蹴り上げた。
「ち…!あのバカ…。何を恐がっている?」
中村有沙は、舌打ちをする。
七海は、その剛速球故、デッドボールで相手へ怪我させることを、極度に恐れている。
遼希のように、内角ギリギリに立たれると、その反対側に逃げるようなピッチングになってしまう。
その前に、あの勇気の『嫌がらせバッティング』がボディーブローのように効いていた。
疲労から、コントロールが定まらなくなったのだ。
同じくピッチャーの竜一は、たった一打席でそれを見抜いてしまったようだ。
3134投稿者:リリー  投稿日:2008年08月12日(火)20時57分02秒
とうとう3連続フォアボールで、ノーアウト満塁となってしまった。
「ち…!!タイムだ!!」
中村有沙は、七海の元に行く。
内野の者も、マウンドに集まってきた。
しかし、七海は手で皆を追いやる仕草をする。
「要らん!!要らん!!いちいち集まって来んなや!!うっとおしい!!」
「ふざけるな!!もう、これ以上一点も追加点はやれんのだぞ!?わかっているのか!?」
「わかっとるわい!!この後、ウチが3連続三振取ったったら、ええんとちゃうんかい!?」
「そ、そんな…。バックに私達もいるんだから…。打たせて捕るピッチングをしてもいいんじゃない…?」
愛美の言葉に、七海はムキになる。
「あかん!!こうなったのは、ウチの責任や!!自分で自分のケツくらい、拭いたるわい!!」
「この、大バカ者…」
中村有沙が拳を振り上げた時だった…七海の後頭部にグローブが当たった。
「いた…!!誰や!?何すんねん!!」
グローブを投げたのは、藍だった。
「オ、オノレ…!!」
七海は、顔を真っ赤にして藍に歩み寄る。
咄嗟に中村有沙は、七海を羽交い絞めにした。
3135投稿者:リリー  投稿日:2008年08月12日(火)20時57分35秒
「ななみん!!仲間が信じられないんなら、何で野球なんてやってんのよ!?」
藍は、真っ直ぐに七海を睨みつけて怒鳴った。
「ああん?」
「野球で重要なことは何!?ミスを仲間がカバーすることじゃないの!?」
「………」
七海は、思わず返す言葉を失った。
「それをさせない、ななみんは一体、何なの!?」
「じゃ、じゃかぁしい!!オノレは、そない偉そうなこと言える立場なんか!?」
そう言われた藍は、一旦、下を向いてしまうが、また顔を上げ、力強い眼差しで七海を見た。
「言えないよ…!だけど…さっき、あみ〜ごが私のミスを救ってくれて…凄く嬉しかったんだ!!ななみんは、そういう気持ちを知らないで、今、深みにはまってしまってるんだよ!?」
「…ふ、深みにはまってる…?ウチが…?」
「そんな、ななみん見るの…凄く嫌…」
「…え?」
「今、ケンカしてるけど…ななみんに…後悔して欲しくない…」
「………藍…」
中村有沙は、ようやく七海に対して羽交い絞めを解く。
「…と、言う事だ…」
そして、七海の頭をキャッチャーミットで叩く。
「いた!!…何すんねん!!」
「いいか?同じミスを繰り返すことだけはするなよ?」
そういい残すと彼女は、さっさとホームへと戻って行った。
3136投稿者:リリー  投稿日:2008年08月12日(火)20時58分17秒
藍は、有海の方を向き、手招きする。
有海がやって来る。
「何?細川さん…」
「あみ〜ご…。次のバッターが、浅いライトフライを打つなら…どんなコースに投げればいい?」
「え…?内角に速球を投げて、つまらせる当たりにすれば…」
しかし、今の七海にそれ程のコントロールは望めない。
「あと…速球を見せた後、緩い山なりのボールを投げれば、タイミングがずれて打ち損じるかもしれない…」
「ふ〜ん…。なるほどね…。と、言うこと…ななみん!!」
「…え?」
「あんたのお尻、私が拭いてあげる!!」
「…!!ウチは赤ちゃん、ちゃうぞ!?」
「こんな可愛くない赤ちゃん、いないよね!!」
「何やと〜!?」
「ケンカは後!!さ、ここは無失点に抑えるよ!!」
藍は、駆け足でライトの守備位置に戻って行った。
「いい?藤本さん…。二球くらい、速球を見せ球にして、その後、スローボールだよ?」
有海も守備位置へ戻って行く…。
2人の背中を見ながら、七海は呟く。
「ま、ええか…。ウチのケツ、拭かせたるわ…!!」
3137投稿者:リリー  投稿日:2008年08月12日(火)20時59分23秒
ここで、山ちゃんと公輝の登場です

では、おちます
3138投稿者:3106で  投稿日:2008年08月12日(火)21時43分45秒
有海の守備位置がレフトって書いてたから、あれ?って思っただけなんです
3139投稿者:リリー  投稿日:2008年08月12日(火)21時57分12秒
3138さん
ほんとだ!!レフトって書いてありますね
私のミスでした…
すみません…
3140投稿者:117  投稿日:2008年08月12日(火)22時42分38秒
おぉ、なんかすごいOBが続々登場していますね。
有沙の「いちいち集まって来んなや!!」というセリフがありますが、先日の野球観戦の時、ランナーとコーチが寄っているのを見て、
おじさんが「男同士寄るな、気持ち悪い!」とかいうヤジを飛ばしていましたよ(笑)。
何度もぶつかりながらも、気を引き締めて再び団結する・・・いいですね。続きも楽しみです!
3141投稿者:↑有沙じゃなくて  投稿日:2008年08月12日(火)23時36分53秒
七海ね
3142投稿者:デジ  投稿日:2008年08月13日(水)03時29分18秒
公輝と竜一初登場。
それにしても七海の投球フォームを瞬時に見抜くとは、竜一すごいですね。
しかし、今日の談義全体的に面白さが度を越えてますね。一生懸命景気を戻そうと必死なのは判りますが………
続きも楽しみです!
              (今日の小言)
時間はまだありますからじっくり考えてください。
この板を見てる人にはスペシャルヒント!
一回目のヒントの二つのうちの一つは赤です。
3143投稿者:あげ  投稿日:2008年08月13日(水)20時53分25秒
3144投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時53分50秒
117さん
「いちいち集まってくんな」は、確か伊良部投手がよくやってましたね
自己中なピッチャーというイメージが、彼にはあります(好きですけどね)
今はアメリカで、うどんレストランを経営しているそうです

デジさん
竜一は、マーさんの立場を危ういものにしてますね
クイズですが…つまり、残った紐は黄色か青ってことですよね?
う〜ん…わかりません…

では、更新します
3145投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時54分45秒
次の打者は、三番の日向滉一だ。
滉一も、フォアボール狙い…押し出しで得点しようと思っている。
予想通り、スピードのある外角低めのボール球が、二球ほど続く。
(よし…。これで、押し出し…。もう一点、追加だな…)
しかし、出来る事なら自分のバットで決めたかった…。
そう思った矢先…なんと山なりのスローボールがストライクゾーンに飛び込んで来た。
「…え?」
思わず、バットを振ってしまった。
しかし、タイミングが合わない。
ボールは、バットの先に当たった。
何とも中途半端なバッティング…だが、これが功を奏したのか…ファーストとも、セカンドとも、ライトとも、センターとも言い難い守備範囲に、ボールは落ち始める。
「お…?お…?こ、これは…?」
三塁ランナー及び、三塁コーチャーは、ベンチの指示を仰いだ。
これはヒットになるのか?それとも、フライになるのか…。
監督の井上は、手を振り回している。
走れ…!!と、言っているのだ。
この打球は、確実にヒットになると…。
三塁ランナーは、ホームに駆け出した。
3146投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時55分09秒
しかし、この状況は…藍が思い描いていたものだった。
彼女は猛然と、ボールに対して走っていく。
いや、滉一が打つ前からダッシュしていたのだ。
エマも、愛美も…もちろん有海も、それを見ていたから敢えて自分が捕ろうとは思わなかった。
自信満々にボールに向かって突っ込んでいく藍を見れば…。
しかし、それでも井上が『走れ』と指示を出した理由は…やはり捕球は間に合わない…と思ったからだ。
それでも、藍は懸命にボールを追う。
そして、まるで水泳選手の様に、頭からダイブした。
ボールが、グローブの上に落ちる…。
まず、ワンアウト…。
井上は、途端に両の掌を三塁ランナーに突き出した。
『止まれ』…そして『戻れ』…と言っているのだ。
藍は、そのままスライディングしながらセカンドの愛美にグラブトスをする。
愛美は、振り向き様に二塁に送球。
そこには、ショートの梓彩がベースカバーをしていた。
飛び出した二塁ランナーは、滑り込んで戻るが間に合わず、ツーアウト…。
二塁審判の『アウト』のコールを聞く前に、梓彩はファーストのエマへ送球する。
飛び出した一塁ランナーは、当然戻れることなく、スリーアウト…。
何と…虹守中にとっては痛恨の…聖テレにとっては会心の…トリプルプレイとなった。
3147投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時55分30秒
またもや、虹守中のグラウンドは歓声の渦となる。
聖テレメンバーのボルテージも上がった。
まるで、サヨナラホームランを打ったかのように、皆が頭を叩きまくる、『虐待の歓待』で藍を迎える。
「ふぇ…。トリプルプレイのスコアなんて…初めてつけるよ…。監督さん…トリプルプレイは、『{ 』で括って『T・P』でいいんですか?」
甜歌は、少し声を震わせて、あすみに尋ねた。
「う、うん…。いいんじゃない…?私も、初めて見たけど…」
あすみも、自分の部員達のしでかした事に、目を丸くしている。
皆は、猛ダッシュでベンチに戻ってくる。
藍の、あすみを見る目は輝いていた。
あすみも、今すぐ藍を抱きしめてやりたい衝動に駆られたが、ここはグッと堪えた。
有海からのサインを無視したことと、この超ファインプレイは、別として考えるべきだからだ。
藍も、少し寂しそうな顔をしたが、続く八回表の攻撃で逆転できるよう、次の打者、愛美を鼓舞した。
「さあ、まにゃ先輩!!敵の精神的ダメージは計り知れませんよ?ここを付け入りましょうよ!!」
「う、うん…!言ってくるね…!あい〜ん!!」
鼻息荒く、愛美はバッターボックスに向かう。
愛美の次は自分だ。
どうしても、塁に出てもらいたい…。
3148投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時55分53秒
対して、虹守中のベンチは、暗く沈んでいた。
「す…すまん…。みんな…。俺の所為だ…」
井上は、頭を抱えてうな垂れている。
「か、監督…。トリプルプレイは、『{ 』で括って『T・P』でいいんですか?」
スコア表を胸に抱いた江莉は、計らずとも、甜歌と同じ質問をする。
「…ん…?ああ…。それでいいんじゃないか…?」
1点リードしているにも関わらず、井上はもう、敗戦の将のような気分になっている。
「と、とにかく…まだ、こっちがリードしてるんだ!!このまま無失点で逃げ切ろうぜ!!」
勇気は、皆に呼びかけるが、ふと、こう思う。
本当に、このままいっても、自分達が勝ったことになるのだろうか…と…。
考えてみれば、聖テレは一回から今まで、ずっと同じメンバーで戦っている…。
それに比べ、自分達は4人もピッチャーを代えているし、大幅にメンバーを入れ替えてしまった。
ベストメンバーが揃ってからは、パーフェクトゲームをしているが…。
もし、このまま試合を終えたとしても、ここにいる観衆達の記憶に残るのは…間違いなく、聖テレの方だろう…。
「山元先輩…。どう思います…?」
青い顔をして、公輝は竜一に尋ねた。
「うん…。凄いと思う…」
何の捻りもない、コメントを竜一は言った。
しかし、そうとしか言い表すことができない…そんなプレイを、目の当たりにしたのだ。
3149投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時56分15秒
八回表…やはり、先のトリプルプレイが精神的に響いたのだろうか…?
愛美は、勇気の速球に臆することなく身体を全面に出して、セーフティバントを試みた。
バットの中心より下に当たり、地面に跳ね返る。
大きく、バウンドするボール…。
ピッチャーの勇気と、キャッチャーの郁哉の中間地点に、ボールは落ちようとしている。
勇気と郁哉は、ほぼ同時に駆け出した。
落ちてくるボールに手を伸ばす。
「…郁哉?」
「先輩!!」
2人の目が合った。
そして…。
「頼む!!」
「お願いします!!」
「は?」
「え?」
2人が同時に手を引っ込めた。
虚しく、ボールが内野を転がる…。
愛美は、この間に一塁に到達。
勇気の四回からのパーフェクトピッチングが、これで途絶えた。
3150投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時56分52秒
暗くうな垂れる郁哉に、勇気が苦笑いで肩を叩く。
聖テレのベンチは、またも活気づいた。
「よ〜し!!絶対に私が、つないでみせる!!」
藍は、あすみの方を向く。
あすみは、腕を組んだまま、じっと藍を見据える。
何も語ろうとしない。
「自分で考えろ」…と言わんばかりに…。
(あすみんは…私に何をやってもらいたんだろう…?)
藍は、思い悩みながらバッターボックスへ…。
ノーアウトでランナー一塁…1点差…ここは、迷うことなく送りバントだ。
(そうだよね…。私達はチームなんだ…。ここは、自分がしたいことじゃなくて、みんなが私にして欲しいことをやらなくちゃ…)
藍は、バットを寝かした。
チラリと、あすみを見る。
腕を組んだまま…さっきと表情は変わらない。
3151投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時57分05秒
勇気が、投げる。
内角に迫る速球…!!
身体を退きながらも、なんとかバットに当てる。
一塁線、ギリギリにボールは転がる。
藍は走り出す…だが、もう、勇気が迫って来ていた。
(え…!?は、速い…!!)
勇気がボールを掴んだ。
そして、二塁の方向へ振り向き、投げた。
3152投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時57分33秒
(し、しまった…!!このタイミングは…)
アウトだ…。
愛美は、懸命に滑り込むが、間に合わない…。
最悪…ダブルプレイ…?
藍は、目の前が真っ暗になった。
その時だった。
「ファール!!」
球審の声が、響いた。
「うえぇ!?」
勇気は、思いっきり背中を仰け反らせ、天を仰ぐ。
ボールは、僅かに線を越えた様だ。
「た…助かった…」
藍は、もう少しで涙を流してしまいそうになる。
その時、藍はあすみを見る。
相変わらず、腕組みをして、無表情で藍を見据えている…。
無表情…?
違う…。
あすみの頬は、ぷるぷると小刻みに震えているようだ。
怒っている………いや………彼女は、笑いを堪えているのだ。
3153投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時58分12秒
「え…?な、何が…可笑しいの…?あすみん…」
藍は、あすみの気持ちがわからない。
自分は、折角チームの為に犠牲になろうと不慣れなバントを一生懸命やっていたと言うのに…!!
「な、何よ!!もう!!知らない!!私は、私のやりたいようにやるわ!!」
藍は、頬を膨らませてバッターボックスに戻る。
「もともと、バントなんて苦手なのよ!!さっきのボールだって、打とうと思えば打てたんだ…」
そこまで呟くと、藍は、ハッと気付く。
「苦手…?苦手なことを…。私、こんな大事な場面で、何で苦手なバントをやろうと思ってたんだろう…」
再び、藍はあすみを見る。
あすみは、穏やかに笑っている。
「何、無理してんの…。自分の得意なことで、勝負してみなよ…」
あすみの声が、聞こえてきたような気がする…。
「やられたら、やり返すくらいの根性、持ってないの?」
そう…。
あすみは、そう、言っている…!!
「わかったよ…!!私、真っ向勝負する!!」
藍は、バットで勇気を指し示すと、チョイと袖を引っ張った。
「お…?何だ?イチロー気取りかよ?」
勇気は、吹き出しそうになった。
「じゃあ、俺は松坂気取りでいくか…」
勇気は、全身をバネにして、郁哉のミット目がけて、力を解き放った。
3154投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時59分41秒
「監督さん…?何、笑ってるんですか?」
甜歌が、あすみに尋ねる。
「いや…さっきの、ダブルプレイを免れた時の、あい〜んの顔…。オモロ情けないって言うか…傑作…。プププ…」
「………監督さん…。あい〜んが可哀そう…」
その時、甲高い打球音が響いた。
甜歌は、視線を前に戻す。
「え…ウソ…」
そして、そう呟いた。
ボールは、二遊間を抜け、外野を転がっていた。
「バ、バーンズ様のボールを…ヒット…?」
初めて、勇気のボールが外野まで運ばれた…。
3155投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)20時59分55秒
虹守中のメンバーは、驚愕の表情で皆、固まっていた。
聖テレのベンチは、もう、お祭り騒ぎだった。
「やったぁ〜〜〜!!!」
「あい〜ん!!偉い!!」
「ノーアウトで、一、二塁だよ!!」
「次、ななみん!!いけぇ〜〜〜!!」
皆の声援を受け、七海は大きく息をつく。
「監督…。まさか、この場面でバントや…なんて言わへんよな…」
「ん?ふふ…。自分のやりたいように、やればいいよ!!あい〜んの様にね…!!」
「おっしゃ!!いっちょ、やったるか!!」
七海はバットを頭の上で何度も旋回させながら、バッターボックスに向かう。
3156投稿者:リリー  投稿日:2008年08月13日(水)21時05分59秒
今日は、これでおちますが…

この小説の過去ログで、自分のコメントを読み直したのですが、『夏までには終わりそう』とか書いてるんですよね
でも、御覧の通り、まだ『第二試合』も終わってないんですよね
今、『第三試合』の『七回』を書いてますが、今まで広げた大風呂敷を畳むため、さらに長くなってます…
もう少し、ペースを上げる為、10レスくらい更新してもいいでしょうかね?
あまり多すぎると、しんどいですか?

では、おちます
3157投稿者:117  投稿日:2008年08月13日(水)21時11分22秒
あら、昨日のセリフ、七海でしたか。3141さん、ご指摘どうも。
うわぁ、まさかの「トリプルプレイ」!勢いが完全に「聖テレ」に来てますね。
ゲッツー並のバンドがファールになった瞬間の藍の表情・・・なんか浮かびます(笑)。続きも楽しみです!
長いレスをするのは大歓迎ですよ。話は少しは早く進むでしょう。
3158投稿者:ぜひ、ペースを上げて更新してください。  投稿日:2008年08月13日(水)21時15分30秒
 
3159投稿者:あげ  投稿日:2008年08月13日(水)23時38分13秒

3160投稿者:デジ  投稿日:2008年08月14日(木)02時55分42秒
いきなり出ましたね。トリプルファインプレイ。ここまであっさり決まると気持ちの良いものですね。
また面白くなってきましたね。今までの雰囲気が暗雲立ち込めていただけに。見事得点に結びつけられるか。続きも楽しみです!
構いませんよ。今は夏休みで暇ですから(笑)ただ、9月になるとまた忙しくなって来づらくなりますが...。
             (今日の小言)
最近オリンピックに夢中です。みなさんは、何か注目してる競技はありますか?
3161投稿者:私も平気  投稿日:2008年08月14日(木)20時02分24秒
当分過去ログにいくこともないし
3162投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時41分16秒
3157さん、3161さん
わかりました
10レス前後を目安に更新していきたいと思います
まだ、随分長くなりそうですが、最後までご愛読下さい

117さん
こういうプレーひとつで、チームが生き返りますからね
野球に限らず、チームスポーツの良い所ですよね

デジさん
注目していた(過去形)のは水泳ですね
北島選手は、やっぱり凄い
ハンセン選手が代表落ちして、『金メダル』確実とか言われてて、「大丈夫かな」と、思ってましたが、本当に敵なしだったんですね
野球は、キューバに負けてしまいましたが、負けるとしたらキューバかな?と思ってました
決勝トーナメントには、行くでしょう
残念だったのがサッカー…というか、ガッカリです
なんと、監督の指示を無視してたとは…
あすみ監督ではないですが、采配無視は重罪ですよ
何の為に、監督が存在してるのか…サッカー選手ならわかってるハズでしょう…

では、更新します
3163投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時44分01秒
「おい…何か…勇気、肩で息してねぇか?そんなに疲れてんのかよ?」
公輝は、不甲斐ない後輩の姿に苛つきながら言う。
「いえ…。今、バッターボックスに立った女に、余計な球を投げさせられたんです…」
後輩の一人は、勇気を庇護するように説明した。
「ん?あの子か…?さっきのピッチャーの子か…」
竜一は、興味深々に七海を見る。
「あの子、四番も打つのか?ピッチングは荒削りな感じがしたから…たぶん打撃の方が得意なんだろうな」
ただ、物珍しさから見物に来た竜一だが、今は本当に来てみてよかったと思っている。
今まで野球をやってきて、初めてトリプルプレイというものも見れたし…。
「あの三番の子と、四番の子で、このチームは引っ張られているんだろうな…」
そんな竜一でも、もっと目立たない所で活躍している有海の存在には気がついていないが…。
一方、七海はバットを振るって、打つ気が満々な所をアピールする。
勇気も、それには苦笑いで応える。
かなり、藍に浴びた被安打が効いている様だ。
さっき、飽きるほど勇気の球を『嫌がらせバッティング』で打ってきた。
もう、タイミングはわかっている。
勇気の、七海に対する第一球を、積極的に振っていく。
それでも、空振りとファールでツーストライクと追い込まれる。
郁哉は、とりあえずボール球で間を入れようとするが、勇気は首を振る。
七海との対決は、早めに終わらせたかった。
さっきの『嫌がらせバッティング』のこともあるが、何やら嫌な予感がするのだ。
3164投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時44分20秒
またもや、ど真ん中に速球が行く。
(お!?いったれ!!)
七海は、殆ど無意識にバットを振った。
バットの先に、ボールは当たった。
手応えは、あった。
低い弾道だが、勇気の足下を抜ける…!!
三遊間を抜ける、ヒットになる…!!
「うぉ…!!」
勇気は、咄嗟に…いや、意地なのだろう…右足を打球の前に差し出した。
ミサイルのような打球は、勇気の足首に命中した。
「…ぐ!!」
勇気は、顔をしかめた。
ボールは、真上に跳ね上がり、サードの滉一の前に転がる。
滉一は、そのボールを掬い挙げる。
一塁に投げるか…それとも、二塁か…!!
「滉一!!こっちだ!!」
ショートの遼希が、二塁から駆け出した愛美を追い駆けている。
「遼希!!」
滉一は、遼希に送球する。
走りながら、ボールをキャッチした遼希は、全速力で愛美を追い駆ける。
3165投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時44分40秒
「…え?」
迫る遼希を、背中で感じる愛美。
「に、逃げてぇ〜〜〜!!愛美〜〜〜!!」
梓彩の金きり声が聞こえる…。
「ひぃぃ〜〜〜!!」
愛美は、懸命に走るが…遼希に、ボールの入ったグローブをはめた手で背中を強く押され、前のめりにつんのめった。
「アウト!!」
三塁審判の声が響く。
「キャ、キャプテン…!!」
一塁を駆け抜けた七海は、心配そうに転倒した愛美を見る。
自分のヒット性の当たりを、阻止された悔しさよりも、愛美の方が心配だ。
「い、いたたた…」
愛美は、掌に滲んだ血を眺めて呻いた。
「だ、大丈夫ですか…?すみません…」
気の優しい遼希は、愛美を助け起こす。
「だ、大丈夫よ…。ありがとう…」
愛美は、怪我の痛みよりも、三塁に辿り着けなかった悔しさの方が強かった。
3166投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時45分01秒
これで、ワンアウト一塁、二塁…。
惜しくも、七海の打撃は内野安打となったが、実はここが、この試合の分岐点となった。
「勇気先輩…。大丈夫ですか?」
内野の守備の者が、マウンドに駆け寄ってくる。
勇気は、七海の打球をモロに受けた右足を、爪先を立ててクルクルと回す。
「大丈夫、大丈夫!!わりぃな…!心配かけて…」
屈託のない笑顔を向ける勇気…。
皆は、安心して守備位置に戻ったが、実は凄まじい痛みを感じていた。
(へへ…。でも、こんな所で交代なんかできるかよ…!!)
勇気は、意地でもマウンドに残る。
しかし、意地ではどうにもならない程の痛みだった。
続く、五番バッターのエマには、フォアボールを与えてしまう。
踏み込む度に走る激痛が、勇気のコントロールを狂わせたのだ。
これで、ワンアウト、満塁…。
続く打者は、中村有沙。
押し出しだけは、避けなければならない…。
その意識が、勇気のストレートに球威を失わせた。
中村有沙は、『TTK』の元『戦士』…そんな球を打つのは容易い。
その打球は、高く上がる。
レフトは外野深くまで後退し、そのグローブに打球を納めた。
3167投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時45分27秒
「タッチアップ!!」
ベンチから、一斉に声があがる。
三塁ランナーの藍は、ホームに向かって駆け出した。
藍は、ホームベースの上を駆け抜けた…。
5対5…八回表で、ようやく聖テレは同点に追い着いたのだ。
またもや、蜂の巣を突いたかのような大騒ぎ…。
女子で構成された聖テレ野球部が、強豪、虹守中野球部相手に、同点に追い着いたのだ。
しかし、当然、これでは満足できない…。
あと1点を奪い、逆転する…!
今が、そのチャンスだ!!
再び、虹守中のメンバーは、マウンドに集まるが、勇気は力強く頷いて大丈夫だとアピールする。
監督の井上も、心配そうにマウンドまで駆け寄る。
「おい、おまえ…。足は大丈夫か?」
「大丈夫です!!足とは全然関係ないですよ!!」
空元気で答える勇気。
そう、答えるしかないのだが…。
「もう、これから下位打線です…。アウト一つ、何とでもなります」
そう言って、強引に井上を説得した。
そう…あと、アウト一つ…。
次のイニングで逆転して、最終回を抑える…。
それまで、何とか足が痛みに耐えてくれればいいが…。
3168投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時45分47秒
次の打者、渡邊エリーに対し、なんとストレートのフォアボール。
「う〜ん…!もう、限界かぁ〜…?」
井上は、信じられないと言った表情でベンチから腰を上げた。
勇気は、慌てて両手を挙げて輪をつくる。
大丈夫だ、と言っているようだ。
「山元先輩…。勇気のヤツ…」
公輝が、心配そうに竜一に囁く。
「うん…」
竜一は、ただ、頷く。
「でも、これで満塁になったから、アウトは取りやすいよな…」
そう…次の打者は、ノーヒットの大木梓彩なのだ。
ツーアウトなので、スクイズもない。
振るしかないのだ。
勇気の速球を…。
梓彩は、途端にプレッシャーに押し潰されそうになる。
3169投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時46分05秒
「か、監督…!!」
梓彩は、あすみの顔を窺う。
「ん?何?」
「わ、私…どうすれば…?」
「打つしかないでしょ?この状況では…」
「ど、どうすれば、打てますか…?」
「打てる方法なんて、あったら苦労はしないよ」
「そ、そんな…。教えて下さいよ…」
「あず〜…。今は、練習の時間じゃないんだ。打てる方法なんて、その時に考えておくもんだよ」
「…え…?」
「今は、試合…勝つか、負けるか…の時なんだ。だから、打てる方法なんて言ってないで、打てばいいんだよ」
「そ、その方法がわからないから、聞いてるんです!!」
もう、梓彩は泣き出しそうな声をあげている。
「悪いけど…。そこまで、私は面倒見がいい方じゃないよ。だって、私はあんたの『親』じゃないんだからさ…」
「お…親…?」
「そして、幸運なことに…今、その『親』がいるじゃないか…。え?あず〜…」
梓彩は、父を…松本を観衆の中から探す。
すぐに見つけた。
あんな濃い顔の持ち主は、滅多にいない…。
3170投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時46分40秒
心配そうに、梓彩を見詰めている…。
「パ…パパ…」
殆ど反射的に、梓彩は松本の方に駆け出した。
随分昔…何か困ったこと…恐いこと…悲しいことがあったら…梓彩は、父の元に一目散に走って行った…。
「あ、梓彩…!!」
松本も、観衆の中から抜け出し、梓彩に向かって走り出した。
「パパ〜!!私、どうしたら…!どうしたらいいの!?」
「いいか?まずは落ち着け!!深呼吸!!深呼吸!!」
「…う、うん…」
梓彩は、涙を流しながらも、言われたとおり、大きく息を吸い、吐く…。
「いいか?何も大きいのを狙わなくてもいいんだ…。三塁ランナーの七海君を、無事にホームに帰すことを考えろ…」
「で、でも…それには…ヒットを…打たなくちゃ…」
梓彩は、既に嗚咽を漏らしてしまっている。
3171投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時46分54秒
「ヒット…?ヒットなんて考えてるから、身体が硬くなるんだよ!まずはバットに当てる…。それだけ考えろ!!」
「バ、バットに当てる…?」
「まず、バットを短く持って…コンパクトに振るんだ…!!向こうのピッチャー、球威があるから、軽く当てただけでも、結構、飛ぶぞ?」
「で、でも…前に打ち返すだけじゃ…真ん前に行ったら、捕られちゃう…」
「大丈夫だって!!ほら…向こうも、逆転されるかの瀬戸際なんだ…。おまえがボールを当てて前に飛ばしただけで、勝手に慌ててくれる…!」
「そ、そんな…!相手は、都大会、準優勝のチームだよ?慌てるなんて、そんな…」
「いいか?向こうは、女の子のチームに、同点に追い着かれたんだぞ?その後、フォアボール連発だぞ?慌ててるんだよ!!今!!」
「………そうか…」
梓彩は、不思議と少し気が楽になった様な気がした。
3172投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時47分19秒
「実はな…パパも、おまえ達がここまでやるなんて…思ってなかった…」
「え…?」
「絶対にボコボコにされると思ってた…。凄くカッコ悪い…情けない試合になるって…。でも、パパはな、どんな梓彩だって大好きだし…自慢の娘なんだ…」
「パパ…」
「だから…見に来たんだ…。梓彩の試合…見に来たんだ…」
梓彩は、とめどなく涙を流す。
「私も…パパのこと…大好き…!会社をリストラされても…胡散臭い仕事してても…パパのこと…大好きだよ…!!」
松本の大きな目からも、涙が溢れてきた。
「うん!!その言葉を聞けただけで、パパ、ホームラン打った様な気分だ!!」
力強く、娘の背中を叩いた。
久しぶりだ…娘の身体に触れるのは…。
いつからだったろう…遠慮するようになったのは…。
梓彩は、力強く頷くと、バッターボックスに向かって歩いて行く。
父親の前で…逆転できたら…自分が逆転したら…どんなに喜んでもらえるだろうか…。
それを考えるだけで、梓彩はワクワクしてきた。
例え、失敗したって、父は自分を愛してくれる…。
それは、監督のあすみだって…チームのみんなだって…。
そんな素晴らしい仲間達と一緒に、野球をやっているんだ…。
楽しまなければ…今を楽しめなければ…それこそ、負けだ…!!
3173投稿者:リリー  投稿日:2008年08月14日(木)20時48分34秒
予告通り、少し多めに更新しました

今日は、これでおちます
3174投稿者:117  投稿日:2008年08月14日(木)21時12分27秒
えっ、今日のって多めだったんですか?自然にすぐ読めたので、この調子でいいと思いますよ。

勇気といい、愛美といい、白熱したプレーが続いていますね。
梓彩とゴルゴさんの親子愛・・・いいですね。なんか、僕的に久々に感動しました。続きも楽しみです!
3175投稿者:少しだったからか  投稿日:2008年08月14日(木)21時35分18秒
そんなに多いとは思いませんでした
個人的な意見ですがリリーさんさえ問題なければもう少し多くても大丈夫です
3176投稿者:ゴルゴさん  投稿日:2008年08月15日(金)00時35分55秒
サムドラの時には想像もつまないくらいハートフル
3177投稿者: 投稿日:2008年08月15日(金)00時50分03秒

3178投稿者: 投稿日:2008年08月15日(金)00時53分55秒

3179投稿者:デジ  投稿日:2008年08月15日(金)04時32分01秒
この調子でいいですよ。もっと多くてもいつもどおりに読めると思います。
激しさ有りやさしさ有りのすばらしいプレイいっぱいで読み応えがありましたね。
ゴルゴさん。すごい娘思いな父親ですね。裏の顔も知っているだけにすごい感動的なやり取りですね。これほど良い役だったら、サムドラで梓彩を出しても面白かったかなと思います。
梓彩は期待に応えられるか。そして試合の行く末はどうなるか?。続きも楽しみです!
               (今日の小言)
昨日の更新で答えとお詫びと新たな問題を書いておきました。
何日か引き伸ばしてすいません。

そんなことがあったんですかサッカーで。今日の柔道の結果より酷いですね。
水泳は快挙達成しましたね。すばらしいです。
体操とフェンシングも大健闘でしたね。
注目の競技が終わってゆく中で今後のがんばりも期待したいですね。
そういえば星野ジャパンも今日は快勝でしたね。今の状態の聖テレ同様頑張って欲しいものです。
3180投稿者:梓彩とゴルゴ  投稿日:2008年08月15日(金)19時41分16秒
感動した。泣いた。
3181投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時21分33秒
3176さん、3180さん、117さん、デジさん
ありがとうございます
親というのは、子供がどんな風になっても受け入れるべきだと思うんです(殺人とか、明らかに悪質なものは別ですが)
それが、理想の親ですかね
ネプチューンのホリケンさんのご両親は、教育者で、校長先生を務めるくらいの方らしいんですけど、案の定、ホリケンさんは勉強ができなくて…でも、お母様がテレビで、「ケンちゃんが、子供達の中で一番可愛かった」と、言っているのを見て、私も泣きそうになりました

3175さん、わかりました
これからは、このくらいのペースで更新したいと思います

では、更新します


3182投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時23分29秒
勇気は、右足首の痛みを堪え、全力で投げ込む。
梓彩は、その球速に退けそうになる腰をグッと堪え、懸命にバットを振る。
空振り…。
しかし、初めて勇気の球に対してバットを振った。
(うん…!大丈夫!!私はビビってない…!)
今までにないプラス思考…。
そして二球目…ボールはバットに掠る。
ファールとなり、ツーアウト…追い込まれてしまう。
(やった!!初めてバットに当たったぞ!!パパの言った通りだ!!)
父の顔を見る。
満面の笑顔で頷いている。
「それでいいんだ…梓彩…」と、言ってくれているようだ…。
(だったら…今度は、バットで打ち返せるよね…)
この、呆れるくらいのプラス思考…確実に、父親のDNAだろう…。
梓彩は、勇気を見据える。
(ふふ…。都大会で準優勝するくらいのチームのエースピッチャーなんでしょ?私みたいな女の子に打たれたら…ヤバイんじゃない…?)
こう見てみると…勇気は随分、余裕がなさそうだ。
そして…勇気の第三球…また、同じコース…ど真ん中だ。
これっぽっちも、打たれるなんて、思っていないのだろう…。
あとは、タイミングを合わせるだけ…。
梓彩は、当然の如く、バットをボールに当てた。
3183投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時24分09秒
梓彩の打ったボールは、真っ直ぐに勇気へと飛んでいく。
「ピッチャー返し!?」
勇気は、足を踏ん張り、グローブを反射的に顔の前に出した。
しかし、右足に激痛が…。
「う…!?」
バランスが崩れる。
「あ…!!」
そして、グローブはボールを弾いてしまった。
「よっしゃ!!」
三塁ランナーの七海は、ホームへ向けて、弾丸の様に走り出していた。
「し、しまった…!!」
勇気は後ろを振り返り、ボールを追う為に一歩前に踏み出す。
またも、右足に激痛…!!
勇気は、その場にしゃがみ込んだ。
ショートの遼希が、素早く前進してボールを手で掴み、キャッチャーの郁哉目がけ、鋭い返球をする。
郁哉がミットで受け止める。
そして、前を向く。
迫り来る七海………タイミングは完全に………アウト………。
3184投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時24分20秒
「ななみん!!」
ベンチから、藍が叫んだ。
「ゴルアアァァァァァ!!!!!」
七海は、郁哉のプロテクター目がけて、ショルダータックルの体制で突っ込んだ。
3185投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時24分39秒
ホームベースの上で、七海と郁哉が倒れている。
2人は、ピクリとも動かない。
「な…ななみん…?」
藍は、唖然としながら呟いた。
皆は、ホームベースの2人を固唾を飲んで見守っている…。
聖テレのメンバーも、虹守中のメンバーも、そして羅夢もレッドもメロディーもマンボウズの面々も…滉一の父親も、公輝も、竜一も…そして松本も…。
七海の右手は、ホームベースの上に…。
そして、その側に…土のついたボールが、転がっていた。
「セーフ!!」
球審の声…。
「うおっしゃ〜〜〜!!!」
七海が、高く跳ね起きる。
そして、ベンチに向かって駆け出した。
真っ先に向かったのは…細川藍の元…。
「やったぁ〜〜〜!!!ななみん!!」
「藍!!やったでぇ〜〜〜!!!」
2人は抱き合った。
殴り合ったことなど、忘却の彼方に消え去った。
そして、2人の周りに、聖テレのメンバーも、マンボウズのメンバーも、折り重なるように集まってきた。
3186投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時25分02秒
松本は、梓彩のいる一塁に駆け寄った。
「梓彩!!やったな!!逆転の打点だぞ!!」
「パパ!!パパ!!パパ〜〜〜!!」
梓彩は、人目もはばからず、父親と抱き合った。
あんなに、父と一緒にいることを恥ずかしがっていた少女が…。
そんな2人を、あすみはベンチから遠目で眺める。
「ふん…!何で、私が親子関係の修復まで面倒みてやんなきゃいけないんだよ…」
そして、心の中で、こう続ける。
(難田門司の隠し財産なんかより…よっぽど価値があるだろ?ゴルゴさん…)
「バーンズ様…」
一方、隣の甜歌は、心配そうにマウンド上を見詰めていた。
「いててて…」
郁哉は、後頭部を擦りながら、上半身を起こした。
そして、マウンドを見る。
人だかりができている。
「勇気先輩!?」
郁哉は、マウンドに向かって走り出した。
勇気は、右足首を抑えてうずくまっている。
もう、勇気の右足首の痛みは、我慢の限界にあった。
3187投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時25分23秒
球審はタイムをとる。
勇気は負われながら、虹守中ベンチに運び込まれる。
「勇気!!もう、交代しよう!!」
監督の井上が、勇気の肩を叩く。
「い、いえ…!!俺、投げます!!だって…俺が投げたいって、無理言って出たのに…逆転されちまって…」
勇気は、唇を噛み締める。
「勇気、無理すんな!!足の怪我が酷くなるぞ?」
公輝も、そう諌めたが、勇気は首を横に振る。
「俺が、この失点を取り返さないと…」
その時…静かな言葉が、勇気に投げかけられた。
「勇気…。交代しろ…」
「…え?」
それは、山元竜一だった。
「本当にチームのことを考えてるんなら…交代するべきだ」
「や、山元先輩…」
「うちの監督はおまえに惚れ込んでる。たぶん、おまえは推薦で渓岳園に入学するだろう…。でも…」
竜一の目は、厳しい。
「こんなんじゃ、おまえは渓岳園じゃ、やっていけない…」
3188投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時26分06秒
「やっていけない…?」
勇気は、呆然と竜一を見詰める。
「おまえは、まるで、夏の甲子園の俺を見てるみたいだ…」
「…え?」
「見てたか?8月10日の一回戦…。投手戦だったけど、五回で俺、つかまってさ…自分一人で何とかしようって焦ってた…」
その試合は、勇気も見ていた。
たしか、その後…竜一は…。
「俺は、六回でマウンドを降ろされた。エースの俺をだぜ?で、俺は監督にくってかかった。何で、俺を下げるのか…勝ちたくないのかって…。生意気だよな…」
竜一は自嘲した。
「そしたら、監督は俺にこう言ったんだ。『おまえ一人の為なんかに、この試合を壊されてたまるか』って…」
「…え…?」
「勇気…。おまえは、この試合を壊しかけてんだ…。この、素晴らしい試合を…」
勇気は、黙って竜一を見詰める。
「いいか?おまえは、このチームの九分の一にすぎない…。いや、部員が40人いるから、四十分の一だ。おまえ以外にも、いい選手はいっぱいいるぜ?虹守には…」
勇気は、郁哉を、謙二郎を、遼希を、滉一を…そしてみんなを見た。
3189投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時26分17秒
「いいから、後は後輩達に任せろ。その試合…みんなが逆転してくれたから、俺はベスト8まで行かせてもらえた…」
竜一は、勇気の肩に手を置く。
勇気は、黙って頷いた。
「謙二郎!!勇気の代わりにピッチャーだ。ライトとセカンドが交代…。勇気は、ライトの守備に着け」
井上が、指示を出す。
もう、18人…いや、19人の選手を使い切ってしまったから、勇気を下げるわけにはいかなかった。
「それから、謙二郎…。郁哉…。くれぐれもライトにボールを飛ばすなよ?」
「ライトに飛ばす?もう、一球だって打たせませんよ」
謙二郎は力強く言い切った。
「山元君…。すまんね…」
井上は、竜一に両手を合わせた。
3190投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時26分43秒
虹守中のメンバーは、それぞれの守備位置へと散らばった。
「お?向こうは、ピッチャー交代したよ?」
藍は、マウンドを指さした。
「痛めた右足で、あそこまで投げたんやな…。敵ながら、天晴れや…」
七海は、足を引き摺りながらライトに向かう、勇気の後姿を見詰めた。
ツーアウト満塁のチャンスであったが、最終打者の有海の打撃では、期待するのは、さすがに無理だった。
有海は謙二郎に三球三振にとられ、三者残塁で八回表の攻撃を終えた。
「さあ、あと八回と九回の2イニングだ。この1点を守りきるよ?」
愛美は、皆を鼓舞する。
そして皆は力強く応え、守備位置へつく。
「ななみん…。がんばって…」
藍は、やっとマウンド上の七海に声をかけることができた。
「うん。みんなであげた1点…。大切にするで…」
しかし、七海の疲労も相当なものだった。
しかも、先ほどの郁哉とのホーム上の衝突で、左肩を痛めてしまったか…。
「でも、まだ利き腕やないのが救いやな…」
弱音など吐いてられない…。
七海は、自分で自分の頬を叩いた。
3191投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時27分24秒
虹守中のベンチも、熱く盛り上がっていた。
「いいか?この回は、四番の謙二郎からだが…七番の勇気の打順までに、2点を獲っておかなければならない…。わかるな?」
井上の声には、力が篭っていた。
もう、右足を痛めている勇気には、バッティングも荷が重い。
勇気が打席に着く前に、逆転をしておかなければならないのだ。
謙二郎がバッターボックスに立つ。
そして、七海を睨む。
(俺…コイツにホームラン打たれてるんだ…。絶対に、やり返してやる…!!)
決意を込めた打席は…七海の速球を捕らえ、レフト前ヒットにする。
ノーアウトで、同点のランナーが出た。
「ちぃ…!!まだまだ、気合が足らんな!!」
七海は舌打ちをする。
「チビアリ!!コッチ来い!!」
「む?何だ?」
キャッチャーの中村有沙は、マウンドに向かう。
「ウチをシバけ!!」
「何?」
「ウチに闘魂を注入せぇ!!」
中村有沙は、ニヤリと笑う。
「ああ…。望み通りにしてやろう…」
ただし七海は、拳で殴られるとは思わなかった。
3192投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時28分09秒
気合を入れなおした七海は、次の五番打者を三振にとる。
悔しそうに、バットをホームベースに叩きつける、五番打者…。
次は、六番…本来なら四番を任せられている、キャッチャーの郁哉だ。
「何としてでも、俺がホームランを打たなきゃ、逆転できない…」
郁哉の決意も、只ならぬものがある。
「ふぅ…。こいつも、気が抜けん…」
七海は、間違っても高めに球が行かないように、低めにボールを集める。
3193投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時28分21秒
しかし、一塁ランナーの謙二郎が盗塁をした。
「む…!?」
中村有沙は、謙二郎の盗塁に反応できなかった。
これで、ワンアウト二塁…。
郁哉が長打を放てば、同点に追い着かれてしまう。
中村有沙は、完全に盗塁に対して無警戒だった。
「ち…!!」
今度は、中村有沙が舌打ちをした。
そして、ゆっくりと七海の元に向かう。
「何や?」
「おい…。私を殴れ!!」
「あん?」
「私も、闘魂注入が必要だ」
「ケケ…。お安い御用や…」
七海は、ニヤリと笑う。
中村有沙の予想通り…彼女は拳で殴られた。
3194投稿者:リリー  投稿日:2008年08月15日(金)20時41分56秒
今、大橋のぞみちゃん、Mステで歌ってましたね
手足がまた一緒になってた…可愛い!!
北京オリンピックの口パク女の子も可愛かったけど、やっぱりヘタクソでも(失礼!!)自分で歌った方が可愛いですよ
でも、本当に歌ってた子、可哀そうですよね
「おまえは容姿が悪いから、声だけだしてろ」と、国家レベルで命令されてしまったんですから…
いや、歌だけの子も、充分可愛いと思いますよ
国のイメージアップでやったこと(本当にこう思ってるところが、中国の痛いところです)が、逆にマイナスになってしまいましたね


では、おちます
3195投稿者:117  投稿日:2008年08月15日(金)21時07分46秒
のぞみちゃんたちの活躍、すごいですね!Mステ2回目ですから・・・
歌う前に宣言しておきながら、本番で戸惑っているところが本当にかわいい(笑)。

いやぁ、本当に「親子愛」は良いですね。ゴルゴさんも、あんな仕事から足を洗ったらいいのに・・・。
虹守の方も、本来の「野球」の在り方を分かり始めたんですね。
チームプレーでの、力と力のぶつかり合い・・・続きも楽しみです!
3196投稿者:ゴルゴさんは  投稿日:2008年08月15日(金)21時27分08秒
大人としては失格だけど、親としては合格。
3197投稿者:気になったんだけど  投稿日:2008年08月15日(金)22時29分34秒
二死満塁なので、フォースプレーじゃないんですか?
あと、昨日の
「三遊間を抜ける、ヒットになる…!!」
は、三遊間→二遊間?
3198投稿者: 投稿日:2008年08月15日(金)22時41分30秒

3199投稿者:たしかに  投稿日:2008年08月16日(土)01時05分42秒
でもここは虹守中陣は焦っていたので、郁也がアウトカウントを1アウトと勘違いしたのでタッチにいったのではないかと推測できます。
3200投稿者:いい父親に、いい先輩  投稿日:2008年08月16日(土)10時13分48秒
表の話しは基本的に善人だけで構成されてるから、さわやか
3201投稿者: 投稿日:2008年08月16日(土)14時28分28秒

3202投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時02分50秒
3197さん
そうですよね…
フォースプレーです
キャッチャーとランナーの激突…という、ベタなことをやりたくて…ルールを無視してしまいました
やっぱり、ルールのあるスポーツの小説は難しいですね
3199さんの説、ありがたく頂戴します
ありがとう、ございました
また、おかしな所があったら、ご指摘下さい

3200さん
私も、そう思います
書いていて、さわやかな気持ちになります
3169さんも、良い言葉を残して頂けて、嬉しいです

117さん、ゴルゴさんも、いつまでもこのままではいない…つもりです
Mステ、見てました?
あの、手足が同時になった時の、のぞみちゃんの「しまった」という顔が、また可愛かった…

今日は、行かなければならない所があるので、早めに更新します
3203投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時05分45秒
「それにしても…しんどいな…。ルールのある戦いっていうんは…」
裏の世界なら、ヤクザだろうが殺し屋だろうが、戦える自分なのだが…ルールに則ったスポーツという場では、こんなに苦労している。
「だからこそ、おもろいねんけど…」
裏の仕事は、興奮はするが、おもしろいとは言えない。
何故なら、失敗は許されないからだ。
その為には、どんなダーティーな手も使う。
しかし、表の世界に…スポーツの世界に、その価値観を持ってきてはダメだ。
弱いチームがラフプレーを連発するのは、自分達が勝てないからだ。
そんな者達は、スポーツの世界にいる資格はない。
不自由な…規則に縛られたスポーツの世界の、なんと清々しいことか…!
七海は、今感じている苦労が、楽しくてしかたがない。
でも、それは最終的に勝つからなのだが…。
七海は変化球を持っていない。
立ち上がりの速球の威力は凄まじかったが、疲れが見えてきてからは球威は失われ、コントロールも乱れてくる。
そうすると、自ずとボールは球威を抑えた、慎重なものとなる。
そう、バッターの立場からすれば、『絶好球』というやつだ。
郁哉は、バットをフルスイングした。
打球は、一直線に、外野方向に向かっていく。
有海のいる…センター方向に…。
3204投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時06分09秒
さっきは、何とか捕球に成功した有海だが、それは滞空時間の長いフライだったから…。
その打球は、ライナー性…しかも、高さ2メートルの簡易設置フェンスなど、軽々と飛び越えてしまうくらいだ。
つまり、ホームランになる…?
有海は、覚束ない足取りで、とにかくフェンスに走った。
走って、どうする…?
何もできないかもしれないが、とにかく走った。
その時、有海の視界に誰かが入り込んで来た。
藍だった。
藍は、簡易設置フェンスに足を掛けると、上まで駆け上がって跨り、グローブをはめた右手を高く足上げた。
ボールは、グローブにスッポリと入る。
「や…やった…!」
しかし、その瞬間、ぐらりと藍の身体はバランスを失う。
そして、そのまま後ろ向きに倒れていく…。
「うわ…」
ボールを捕っても、身体がフェンスを越えてしまえば、ホームランになってしまう…。
「そ、そんな…」
藍は、迫り来る地面を見ながら、そう呟いた。
そして、目を瞑った。
3205投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時06分54秒
だが、いつまで経っても身体に落下の衝撃はこない。
「…?」
自分の身体が、空中で止まっている…?
藍は、フェンス越しに逆さまの有海の顔を見た。
有海は、歯を食い縛って藍の足にしがみ付いていた。
「あ…あみ〜ご…?」
「ほ、細川さん…!がんばって…!!」
有海が、藍の身体を支えて、落下を阻止していたのだ。
「そして、こっちに戻って、ボールを捕ったこと、審判に見せなきゃ!!」
「…?」
虹守ベンチから歓声があがっている…。
どうやら、ホームランだと思っているらしい…。
3206投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時07分05秒
「ち、ちがう!!ちがう!!捕ってる!!私、捕ってる!!」
藍はフェンスに跨りなおすと、ボールの入ったグローブを、高く示した。
両手を高く挙げた郁哉が、呆然とした顔をこちらに向けている。
審判は、アウトを宣告した。
悲喜の交じり合った歓声が、沸き起こる。
「は…はは…。やったね…あみ〜ご…!!ありがとう!!」
有海は、満面の笑顔で藍を見上げながら、首を横に振った。
「ううん…。細川さんこそ…ありがとう…」
「何やってんの!!早く、ファーストにボールを送って!!一塁ランナーが飛び出してる!!」
エリーの叫び声に、ようやく気がついた藍だが、もう、間に合わなかった。
3207投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時07分46秒
虹守中の、四番、五番、六番の3人で2点を獲って逆転する…という目標は、達成されることはなかった。
右足首を痛めている勇気は、バッターボックスに入る。
そんな状態では、まともにバットを振ることも出来ずに三振…。
これで、八回裏の虹守中の攻撃は、無得点に終わった。
そして最終回…聖テレの攻撃。
3208投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時07分59秒
一番ジョアンからの好打順だ。
しかし、謙二郎の気迫の篭った投球を打つことができず、ジョアン、愛美と連続で打ち取られる。
そして、ツーアウトになって藍の打順…。
「細川さん、がんばりや!!」
七海が声をかけた。
「うん!!ここは1点でも多く獲って、次の…ラストイニング…楽にさせてあげるからね…!!」
藍は、笑顔で答えた。
「ちゃう、ちゃう!!次、投げるんは、細川さんや!!」
「…え?」
目を丸くする藍を余所に、七海は監督のあすみに顔を向ける。
「監督!!この次は…細川さんがピッチャーでお願いします!!」
七海は、まっすぐに、あすみの顔を見詰める。
「ウチ…もう、限界みたいですわ…」
あの、負けん気の塊りの様な七海の意外な言葉…。
「今日、投げさせてもろて、わかりました。聖テレのエースは…やっぱ、細川さんです…」
腕組みをして、あすみは2人を交互に見ると、静かに笑った。
「うん…。いいだろう…」
七海は、藍の方を振り返ると、親指を立てて微笑んだ。
3209投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時08分41秒
「か、監督…!!」
藍は、信じられないという表情で、あすみを見詰める。
あすみは、微笑みながら頷くだけ。
「あ、ありがとうございます!!」
藍は、頭を下げると同時に涙をこぼした。
「何してるの!!打席に入る前に泣いて…ちゃんと、ボール、見えるの!?」
「あ…そ、そうですね…」
藍は、急いで涙を拭くと、バッターボックスへ走った。
そして、藍は何球か粘り、何とかフォアボールを選んで塁に出る。
全てを、次の七海に託して…。
3210投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時08分53秒
「よっしゃ!!あと1点…いや、2点獲ったる!!」
そうすれば、藍の精神的プレッシャーは軽くなるはずだ。
「くそ…!!そう、何度もホームランを打たせるかよ!!」
三回表にホームランを打たれている七海を前にして、謙二郎は冷静さを欠いていた。
謙二郎は、大きく振りかぶって投げた。
郁哉は、ボールを受けると同時に立ち上がった。
「…!?」
ワンテンポ遅れて謙二郎がしゃがみ込む。
ボールは郁哉から、ショートの遼希に…。
藍は、鮮やかなスライディングでセーフとなる。
盗塁に成功したのだ。
「しまった…」
謙二郎は、顔をしかめた。
まったく、盗塁のことは頭に無かったのだ。
3211投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時09分28秒
「ドンマイ!!謙二郎!!」
ライトから声が掛かる。
勇気が、笑顔を向けている。
謙二郎は、力強く頷いた。
何としてでも、七海をアウトにしなければ…。
しかし、七海も負けてはいられない。
次は、何でくる…?
ストレート…?それとも変化球…?
(あの…ピッチャーの顔…。えらい気張っとんな…。あない顔をする時は、大抵、ストレートや…)
七海は、狙いを決めた。
今度は、セットポジションで構える謙二郎。
「ヨー…」
足を上げて、投げる体勢に…。
「ソー…」
そして、ボールが真っ直ぐに迫り来る…!!
「ロー!!」
七海は、フルスイングした。
3212投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時10分02秒
高い金属音…打球は、一直線に外野へと向かう。
その方向は…右足を痛めている勇気の守備位置…。
さっきの郁哉が描いた軌跡と同じ…そのままライナーでフェンスを越えてしまう…そんな打球だ。
これで、2点追加…!!
聖テレ野球部の勝利が揺るぎないものとなる。
3213投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時10分14秒
「よっしゃ〜!!」
七海は、ガッツポーズをとった。
ベンチの皆も、飛び上がっている。
だが、勇気は懸命に走った。
全力疾走だ。
足を痛めている走りとは、思えない。
そして、フェンスに背中を着けると、空高くジャンプした。
勇気は、そのまま腰砕けに地面に転がる。
誰も、打球がどうなったか目で追えてなかった。
藍は…そして七海は、足を止める。
ツーアウトなのだ…審判のコールを聞いてからでも遅くない。
「ま、まさか…」
七海が呟く。
藍は、両手を合わせて祈っている。
勇気が、グローブを高く上げる。
そこには、真っ白なボールが…。
今度は、虹守中のベンチが沸き返った。
3214投稿者:リリー  投稿日:2008年08月16日(土)18時10分54秒
では、これでおちます
3215投稿者:117  投稿日:2008年08月16日(土)21時11分06秒
フェンスに登って、捕ったはいいが、グローブだけ落ちる・・・なんて、たまにありますからね。
藍&有海コンビもよし、勇気も精一杯のプレーよし・・・まさに熱戦ですね。
長い長い9回「表」もついに最終回ですか。続きも楽しみです!
3216投稿者:いい試合だなァ  投稿日:2008年08月17日(日)00時06分41秒
 
3217投稿者: 投稿日:2008年08月17日(日)01時03分42秒

3218投稿者:デジ  投稿日:2008年08月17日(日)01時28分29秒
昨日今日とすごい攻防戦ですね。
まずは昨日の逆転打。これは友情と親子愛の勝利ですね。
そして今日の藍と有海で掴んだスーパープレイ。根性のスリーアウト。
そして最後の勇気も負けじと根性のミラクルキャッチ。
そして、聖テレ大ピンチの9回裏。大波乱の激闘を制すのは聖テレか、それとも虹守か!続きが滅茶苦茶楽しみです!
              (今日の小言)
今日は午後六時から、クラス会っぽいのがありました。
ふとおもいました。顔って変わらんもんだなと。

一応小説で実施しているクイズを掲載しておきます。今回は簡単めです。
           あるなしクイズです。
       ある               なし
       遼希               滉一
       有沙               里穂
       聖斗               瀬南
       愛実               甜歌
 
では勇気はどっち?理由もあわせて答えてください。
今後ともお互い頑張りましょう。
3219投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時00分33秒
昨日は、『ポニョ』を見に行ってたんです
宮崎駿さんは「5歳の子供の為に創った」と言ってましたが、5歳が見るには、シュールで不気味な世界でした
特に、ポニョの両親の描写が、ヤバいです
楽しかったですけどね

117さん
仰るとおり、今日で長かった『九回・表』も終わります
ペースを速めたおかげでもあります
 
デジさん
クラス会に行ったんですか?
いいですね
私は、クラス会というのが苦手でして…行ったことがないんです
別に、いじめられてたってわけではないのですが…
クイズですが…いくら考えてもわかりません…
名前を英語に変換したり、苗字も組み合わせたりしたのですが…
降参です

では、更新します
3220投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時02分39秒
結局、聖テレの最終回の攻撃は無得点に終わり、6対5…1点リードのまま最終回を迎える。
あすみは、守備位置に着かせる前に皆を集めた。
「いいかい…?ここを抑えれば、私達の勝ちだ…。今まで以上に集中して、最後のイニングを乗り越えるんだ!!」
「はい!!」
力強く応える、少女達。
「あい〜ん…。いい?あんたの後ろには、仲間がいるんだからね…。それを忘れちゃダメだよ?」
「はい…。同じミスは、二度繰り返しません…!!」
「新しいミスも…できたら、するんじゃないよ?」
あすみの言葉に、藍は思わず笑った。
3221投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時02分57秒
「とにかく…有海のサインに従っていれば、間違いはない」
中村有沙は、有海の肩を叩く。
「な…中村先輩…」
「私が頼りにしているくらいだ…。相当、珍しいことだぞ?」
「そりゃ、珍しいことだよね…」
エマとエリーは、耳うちをする。
「貴様等、うるさい!!」
そう言うと、中村有沙は守備位置に着く為に、グラウンドに向かう。
そんな彼女に、キャプテンの愛美が声をかける。
「あ…!!待って!!ありりん先輩!!円陣!!円陣組まなくちゃ…!!最後のイニングの前に…」
「お…。そうだった。すまんな…」
中村有沙は、素直に従った。
それも、珍しいことだった。
3222投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時03分21秒
虹守中の最後のイニングは、八番…下位打線からだ。
有海は、研究に行ったのは夏の都大会のため、今立っている打者の特徴はわからない。
それに、七海がマウンドに上がってからは三振だったので、どのコースが得意なのかがわからない。
しかし、やろうとしていることはわかる。
何としてでも、塁に出ようとするはずだ。
自分達が、勝利に必死になっているからこそ、同じく必死になっている相手の考えだってわかる。
おそらく、確実に塁に出ようと、大振りはしないはず…。
狙いは、一二塁間、三遊間を抜ける、低い位置を狙うヒット…。
だから、高めにボールが行っても、大丈夫なはずだ。
しかも、積極的に打ちにいくはず…。
有海は、中村有沙にサインを送る。
そのサインを、藍は受け取った。
そしてその打者は、高めのボール球に手を出して、外野へのフライとなる。
落下位置はセンター…そこには、有海がいる。
(そして…これは、私の役目だ…)
有海は落ち着いてそのボールを受け止め、センターフライとする。
ふと、左右を見る。
七海もエリーも、一歩も動いていなかった。
これでワンアウト…あと、2人…。
3223投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時03分42秒
次は最終打者だ。
ここは当然、セーフティーバントに行くだろうか…。
それとも、強振するか…。
試しに、変化球で入ってみるか…相手は左打者だから、右へ曲がるカーブで…。
有海は、中村有沙にサインを送る。
そのサインを、藍は受け取った。
藍が投げた途端に、打者はバットを横にした。
鋭く、外角に逃げるボール…打者は、思いっきりバットを伸ばすが、届かない。
やはり、バントに拠る内野安打を狙っていた。
奇襲を見破られ、相手打者はヒッティングにスイッチせざるを得なくなった。
次はストレートでストライク、そしてボールを二球続ける。
そして、決め球はもう一度、大きく曲がるカーブで三振とする。
これでツーアウト…あと、1人…。
打順は一番に戻って、遼希。
遼希はもう、涙目になっている。
センスは人一倍あるのに、こういうプレッシャーに弱いのが、遼希の短所だ。
「遼希…。肩の力を抜け…」
江莉に足首の治療をしてもらっている勇気が、声をかけた。
3224投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時04分35秒
「おまえは、このチームの九分の一…いや、部員が40人だから、四十分の一だ…。だから、プレッシャーも四十分の一にしとけよ…」
「勇気先輩…」
「四十人分のプレッシャーを背負おうとすると…俺みたいに怪我するからな?」
遼希は思わず笑った。
そして、幾分楽な気持ちでバッターボックスに立つ。
しかし、集中力は維持する…。
遼希は、もともと選球眼が良い。
僅かなコースの変化を感じ、ストライクゾーンから外れる変化球には手を出さない。
そして、ストレートには、思い切って振ってくる。
とうとうカウント2−3になる。
3225投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時04分49秒
有海は、ふと迷った。
ここは、一番の遼希を一塁に送り、次の二番打者で勝負をかけるか…。
二番打者は、バントは上手い…さっきの打席でセーフティーバントを決めている。
もしかしたら、傷口を広げてしまうかもしれない。
そこに…あの言葉が頭を過ぎる。
「同じミスを繰り返さない…」
消極的なサインを送り、藍はムキになってサイン無視をした。
これは、藍のミスで、有海のミスではない…。
しかし、野球でのミスではなくても、友達としてはミスではないか?
藍の性格を把握していなかった…自分のミス…。
そして、藍のことだけでなく、相手バッターの遼希の心境も考えてみる。
(よし…!!細川さん…)
有海は、サインを送った。
3226投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時05分10秒
中村有沙がそれを、藍に送る。
藍は、思わず後ろを振り返った。
有海は、ゆっくりと頷く。
藍も、頷いた。
そして、バッターボックスの遼希の方に正対する。
一つ息をつくと…大きく振りかぶり…高く足を上げ…背中を見せるくらい身体を捻り…腕を振り下ろし…指先からボールを解き放つ。
真っ直ぐに、向かってくるボール…。
真っ直ぐ…つまり、ストレート…?
遼希は、バットを振る。
選球眼の良さ…じっくりと球を見る、遼希の長所が短所となった。
有海は、こう考えた。
慎重なのだ…遼希は…。
下手をすれば、自分が最終打者になるかもしれない…。
まずは、じっくりと見て、確実に当てようとするだろう…。
つまり、今までにない勢いのストレートを放れば、じっくり見た分、スイングが遅くなる…。
有海は、そう考えた。
その結果…僅かに振り遅れ、藍の渾身のストレートは、中村有沙がど真ん中に構えたミットに音を立てて届いた。
空振りの三振…スリーアウト…。
聖テレ対虹守中の試合は…6対5で、聖テレ野球部の勝利で終わった。
3227投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時06分32秒
まだ、虹守中のグラウンドには、興奮冷めやらぬ観衆達が残っている。
皆、聖テレ野球部のみんなに、声をかける。
マンボウズのみんなも、まるで自分達が勝ったかの様に喜んでいる。
もちろん、帆乃香は七海に抱きついたし、ベンジャミンは遠くから微笑んで見ている。
翔太と次元は、相変わらず激励という形で藍の身体を叩きまくって、聖斗はそれにピリピリしている。
そして瀬南は、エマとエリーから逃げ回っている。
今回の試合は、勝利したことも大きいが、もっと大切な物をメンバー達は掴んだような気がする。
何より、有海の精神的な成長が、皆は嬉しくてしょうがなかった。
そして、藍がこの試合の間に立ち直ったのも、嬉しかった。
あすみは、藍と七海を呼んでこう言った。
「実はね…ななみんが私に直訴しなくても、私は最終回、あい〜んに投げさせるつもりだったんだ」
「え?」
七海と藍は、首を前に出して目を見開く。
「いや、もっと言うと、あい〜んをサイン無視の罰として、ななみんに変えた形になったけど…別にサイン無視がなくても、交代させようって、最初から考えてたんだ」
「そ…それって…どういうこと…?」
七海も藍も、ワケがわからない。
「いくら、あい〜んのストレートが速いって言っても、男子の…しかも強豪の虹守中相手では、そうは通用しない…。だから変化球で勝負しようとしても、相手もそれに慣れてくる。終盤には打ち込まれる可能性があった…」
「で…つまり、ウチをピッチャーにしたんは…?」
「うん。あい〜んと、ななみんは、ピッチャーとして全然違うタイプ…。ななみんの速球の凄さで、序盤のあい〜んの投球の感覚を相手が忘れてしまった時に、あい〜んをまた登板させようって…試合前から考えてたの」
「じゃ、じゃあ…私…まったく、無駄な気苦労を…?」
藍は、力なく笑ってしまった。
3228投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時07分54秒
「そうでもないよ。だって、本当はあい〜んには五回まで投げてもらうつもりだったし、ななみんをあれだけ引っ張るつもりもなかった。こっちだって、当初の予定を狂わされたんだからね!!」
あすみは、軽く藍を拳で小突いた。
殴られた藍は、嬉しそうだった。
「でも、ななみんも投げてみてわかったでしょ?あんな剛速球、九回通して投げるの、到底不可能って…」
七海も、素直に頷いた。
「これからは、あい〜んとななみん、2人で力を合わせて投げるの…。そうすれば、虹守どころか、今度こそピーナッツにだって勝てるし、もしかしたら、渓岳園にも…」
「ええ…!?か、勝てますか!?私達…!!」
藍も七海も、あすみに食いつくように聞いた。
「…いや、これは言い過ぎか…」
あすみの前言撤回に、2人は息を揃えてずっこけた。
一方、中村有沙は、寛平の姿が見えなくなっているのに気がついた。
「おい、レッドさん。あのマンボウズの監督はどこに行った?」
「あん?寛平さんか?これから仕事やって、帰ったで?」
「む…。そうなのか?しかし、子供達を放って、自分だけさっさと帰るか?普通…」
「ああ…。この子等、茶々山町の子やろ?すぐ隣やから、ええんとちゃう?ここに来たのも、現地集合やったみたいやし…」
「…小学生ですら、現地集合、現地解散だと言うのに…我々はまたバスに乗って学校まで行かねばならんのか…」
中村有沙はそう言って、溜息をつくが、本当はまだ占いについて寛平に聞きたいことがあったのだ。
今、このチームは一つになって、磐石な体勢になっている。
本当に解散など、するものなのだろうか…。
そして…自分の死の予言…。
まさか、チームから抜ける二人のうちの一人とは…自分のことではあるまいか…。
3229投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時08分36秒
梨生奈は、羅夢に車椅子を押され、皆を祝福に来た。
「おめでとう!!みんな!!」
笑顔で言う梨生奈に、愛美は首を横に振った。
「おめでとうなんて…。そんな他人みたいなこと、言わないで…。これは、り〜なの勝利でもあるんだよ?だって、チームメイトなんだし…」
「うん…。そうだね…。ありがとう…」
梨生奈は、本当に幸せそうに頷いた。
藍は、梨生奈の前に歩み寄る。
「ありがとう!!り〜な!!り〜なが、落ち込んでる私に声をかけてくれて…本当に助かった…」
藍は、梨生奈の手を握った。
「で…あすみんの気持ち…結局、勘違いしちゃったけど…でも、り〜なの言葉、凄く役に立った!!」
3230投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時08分48秒
羅夢は、梨生奈の顔を覗き込む。
「ん?梨生奈…何を言ったんだよ?」
藍は、羅夢にも笑顔を向ける。
「火山は、仲直りしやすいんだって!!」
「は?火山?」
「らむりんも、ななみんと仲直りしようね?」
「バ、バカじゃねぇの!?直るような仲なんて、ないっつぅの!!」
「あはは!!ななみんと同じこと言うんだね!!やっぱ、似た者同士じゃん!!ななみんとらむりん…」
「そ、その、らむりんって言うの、やめろ!!」
「じゃあ、『ダッチャ』ってのがいいの?」
「そ、それは、もっとやめろ〜〜〜!!」
羅夢は、梨生奈の乗った車椅子を思いっきり押して、藍にぶつけた。
藍と梨生奈の悲鳴が、同時に響いた。
3231投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時09分09秒
「おお、ヨッチャン!!何だよ、もう、試合が終わったのかよ?」
吉田に声を掛けたのは、あの草野球チーム『ピーナッツ』のメンバー…酒屋の三村だった。
「あ…!ミッチャン、遅いがな!!」
「だって、カミさんが配達に行けって言うんだもん…。速攻でお得意さん回って、今、終わった所なんだよ」
「凄い試合やったでぇ〜〜〜!!ほんまに、損したなぁ…」
「マジかよ!?聖テレ、虹守に勝ったのかよ!?」
スコア表を見ながら、三村は絶叫した。
「そうそう…。決勝打を放ったのが、あそこにいる子や」
吉田は、松本と談笑している梓彩を指差す。
「あ…。あの子、この前の試合では、あんまり目立たなかった子だよな?守備は上手かったけど…」
しかし、梓彩の向き合っている松本を見て、三村は素っ頓狂な声をあげた。
「マ、マッチャン!!マッチャンじゃねぇか!?」
松本は、不意に声を掛けられた為、その濃い顔を、こちらに向けた。
「やっぱ、マッチャンだよ!!何してんだよ!?今、どうしてるんだ!?」
松本の顔は、みるみるうちに青くなる。
「パパ…。どうしたの?」
梓彩は、父親の顔色が変わったことを、不思議に思う。
「じゃ、じゃあ…パパはこれで帰るから…!!マ、ママによろしくな!!じゃあ…!!」
「あ…!!ちょっと!!パパ!!」
梓彩の声を振り切って、松本は虹守のグラウンドから一目散に逃げ出した。
3232投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時09分35秒
「おい!!待てよ!!マッチャン!!」
三村は松本を追い駆けたが、まだ多くの観衆がいた為、結局、見失ってしまう。
「ど、どうしたんや…?」
吉田は、呆然と松本の逃げ去った方を見詰める。
三村が戻って来た。
「一体、梓彩ちゃんのお父さんが…どないしたの?」
「ああ…あいつ…。俺達のチームの、エースピッチャーだ…」
「はぁ!?あ、あの、ウッチャンが言ってた…背番号『18』の?」
そう…いつか帰ってくる時の為に、『18』は欠番になっていると、内村は言った。
「あいつ…会社をリストラされてから、姿を見せなかったんだが…。ねぇ、君…」
三村は、まだキョトンとしたままの梓彩に尋ねる。
「お父さん、今、どこで何してんの?」
「…え?い、今は流通関係の会社を興したって言うけど…詳しくは知りません…。あと、住所も…」
三村は、眉間にシワを寄せて顔をしかめた。
「う〜ん…。そうか…。ありがと…。じゃあ、今度会ったら、俺の所に…虹守商店街の酒屋に来るように言ってくれる?」
「え?ええ…。それはいいですけど…」
懐かしい友人に会ったはずなのに…なぜ逃げたのだろうか…と、梓彩は、父親に対して疑問に思った。
3233投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時10分07秒
虹守中のベンチでは、皆が勢揃いして、監督の井上の話しを聞いていた。
「今日の敗戦…全部、監督の俺の責任だ…。おまえ達は悪くない…」
確かに敗戦は悔しいが…選手達の顔は、清々しい。
本当に最後まで興奮した…いい試合だった。
素直に、皆はそう思った。
「で…今日の試合のこと…女の子のチームに負けたってことで、人は何か言うかもしれない…。その時は、俺が批判を受ける…!!だから、おまえ達は胸を張れ!!」
井上は力強く、選手達に言った。
そう…この試合は、自分達にとって恥にはならない…これから、チームが一丸となって戦っていく…そんな決意を皆に植えつけたのだから。
「監督…。甜歌、どうします?まだ、あっちに行ったままなんですが…」
江莉が、心配そうに聖テレベンチを見詰める。
「あ?ああ…。そうだな…。江莉…迎えに行ってくれるか?」
「…はい…」
江莉は、聖テレベンチへ走って行く。
竜一と公輝は、ただ一人ベンチに座る勇気の前に立つ。
「あ…。先輩…」
慌てて立とうとする勇気を、竜一は制する。
3234投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時10分27秒
「凄かったな…。おまえの九回の守備…」
「へへ…。俺、ピッチャーだから、あんなプレイ、初めてですよ」
勇気は、頭を掻いて照れ笑いを浮かべる。
「おまえだったら、渓岳園でも活躍できるよ」
「足の怪我、早く治しとけよ?」
「はい…。ありがとうございます」
2人の先輩の激励を受け、勇気はまた立ち上がりかけた。
「だから、立たなくていいって…!」
公輝は、勇気の肩を押さえつけて、無理矢理座らせた。
そこに、江莉に連れられた甜歌が戻って来た。
甜歌は、何故かスキップをしている。
そして、帰ってくるなり甜歌は虹守メンバーに向かってこう聞いた。
「ねぇ、ねぇ…。女の子に…しかもお嬢様学校に負けちゃったって、どんな気持ち…?ねえ、どんな気持ち?」
そう言いながら、甜歌はピョンピョン跳びはねる。
「こ…この、アマ…」
虹守メンバーは、一人残らず握り拳を震わせた。

(『九回・表』・・・終了)
3235投稿者:リリー  投稿日:2008年08月17日(日)21時14分15秒
少し長くなりましたが、試合は聖テレの勝利で終了しました

次回から、『九回・裏』になります
皆さん、「朝からダーさんが元気がない」の件、覚えてますでしょうか?
その理由が明らかになります

では、おちます
3236投稿者:117  投稿日:2008年08月17日(日)21時20分03秒
長かった9回表も無事終了・・・いやぁ、本当にすごい試合でした。
聖テレが勝って、マンボウズのメンバー&甜歌、それぞれの行動&リアクション・・・面白いです(笑)。
さて、いよいよ9回「裏」ですか。前回はどんな話だったけ・・・最後まで、読みますよ。続きも楽しみです!
3237投稿者:裏の話しのまとめ  投稿日:2008年08月17日(日)21時30分25秒
楠本の依頼でダーさん、七世、俵姉妹が山本組に殴りこみ&少女救出
ダーさんは理沙をギャフンといわせて俵姉妹のリベンジ完了
楠本も山本組を壊滅寸前まで追い込む
こんな感じ?
3238投稿者:>ねえ、どんな気持ち?  投稿日:2008年08月18日(月)00時59分12秒
これのAAってあったよね?
3239投稿者:あげ  投稿日:2008年08月18日(月)02時31分39秒

3240投稿者:デジ  投稿日:2008年08月18日(月)05時54分23秒
いやあ、すごい熱戦でした!
9回裏は聖テレのチームワークのほうが勝ってリードのままゲームセット。
そして聖テレ初の大勝利。有海の読みも見事でした。
まずは藍と七海。試合中のケンカが嘘のようですね。そして、あすみ先生こういう意図があったんですね。ピッチャー交代の采配には。なかなか守備も頭脳プレイを考えてたんですね。天てれのドラマでよくありますよね。複数の人が同時にずっこけること。あれ難しいでしょうね。タイミングとか。
次はマンボウズと聖テレ。ここは相変わらずですね。寛平さんはどこに言ったんでしょう?もしかしてこの試合の裏テーマって有海の成長ですか?
次は愛美と藍と羅夢と梨生奈の部分。愛美と梨生奈、藍と梨生奈の組み合わせはぴったりですね。やっぱり少なからずダーさんの狙い(1回戦の三回裏の「だからな…おまえ等は野球部に入って、チームワークは何ぞや、ということを学んで来い」の部分)が好影響のようですね。
しかし、藍と羅夢の組み合わせは、漫才コンビみたいですね。
そんな歓喜の雰囲気台無しの、ゴルゴさんの不審な動き。チームと何かあったのでしょうか?
次は虹守中。途中までいいところだったんですが、オチは大爆笑です。
長い9回表が終わり、いよいよ九回裏。さて、ダーさんの朝から元気がない理由とは?続きも楽しみです!
             (今日の小言)
そういえば、「ダーさんの朝から元気がない」の描写ってまだ9回表のこの日の朝の出来事ですね。二十日近く空いていると、同じ表の更新でも随分懐かしく思えますね。本当に長い激闘の描写。おつかれさまでした。

クイズは、117さんも感想の皆さんも自由に解いてみてください。クイズというのは複数で答えたほうが面白いですから(笑)
ではヒントです。
この小説での『TTK』のチームの法則を考えて見てください。
つまりヒントはフルネームです。
長々とすいません。
3241投稿者:あげ  投稿日:2008年08月18日(月)20時08分25秒
 
3242投稿者:リリー  投稿日:2008年08月18日(月)20時54分02秒
3238さん
たしか、クマのやつですよね?
あれを、参考にしました
3238さん
的確にまとめて下さってありがとうございます
『九回・表』が長すぎて、先の展開を忘れてしまった人がいても仕方がないですよね
117さん
最後まで、読んでくださるという気持ちが嬉しいです
期待を裏切らない面白いものを…という気持ちで書きます
デジさん
たくさんの感想、ありがとうございます
とても深いところまで読んで下さっていて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです
デジさんの小説も読ませて頂いています
この後、コメントを書かせて頂きますので、お互いがんばりましょう
あと…クイズですが…どうしてもわかりません
つまり、イニシャルということですか?
更に、例題を示して頂けると、助かります

では、『九回・裏』、『第二試合』最終章、更新します
3243投稿者:リリー  投稿日:2008年08月18日(月)20時55分22秒
『九回・裏』

≪2007年9/16(日)≫
午後11時30分…。
もうすぐ、日付は17日になる。
オレンジのトラックスーツに、ナイフのベルトを着けた…臨戦態勢のダーブロウ有紗は、ナットー製鉄工場跡地に足を踏み入れる。
ここは、半年前…『R&G探偵社』の次期社長、村田ちひろと初めて会った場所であり、中村有沙と共に、ジャスミンと加藤夏希と決闘をしたことがある。
その決闘は凄まじく、工場一棟を全壊させた。
ここの土地は買い手がなく、半年が過ぎた今でも、廃墟のままとなっている。
昔は暴走族の溜まり場となったり、ホームレスのねぐらになっていたのだが、昼も夜も、今は誰も寄り付かなくなってしまっている。
誰も来ない…。
つまり、ここは決闘にはうってつけの場所なのだ。
決闘…そう、今からダーブロウ有紗は決闘をする。
その相手は…楠本柊生…。
裏探偵『TDD』の『カード』の一人、コードネーム『エンペラー(皇帝)』…。
彼と彼女は、命を賭けた戦いを繰り広げることになる。
3244投稿者:リリー  投稿日:2008年08月18日(月)20時55分46秒
もう、あの男とは縁が切れたと思っていた。
しかし昨日…もうすぐ一昨日となるが…またあの男から電話がかかってきた。
これから会えないか…と…。
約一ヶ月ぶり…もう、彼女自身、楠本のことは忘れていたのだ。
伊豆半島、伊東の山本の別荘での血の惨劇…。
ダーブロウ有紗は直接その現場を見たわけではなかったが、その後のニュースによれば、それは凄惨な現場だったそうだ。
何故か組長の山本の姿は行方をくらましているそうだ。
少女達を監禁し、猥褻な行為を行っていたことが明るみになってから、山本は警察から追われる身となっている。
その山本の別荘での被害者数は、総勢15人…。
全て、山本組の女性組員だった。
その身体は、鋭利な刃物で、バラバラに細切れに切断されていた。
結局は、首の数で被害者数が断定できたというわけだ。
ダーブロウ有紗は、その話しを聞いた時、やはり楠本とは縁を切りたかった。
こんな、修羅地獄の住人とは、できるだけ自分から遠ざけたかった。
それは…自分も同じく修羅地獄の住人だと、重々承知しているからだ。
3245投稿者:リリー  投稿日:2008年08月18日(月)20時56分06秒
楠本の誘いの内容は、こうだ。
「これで最後です…。『R&G』のあなたと会うのは、これで最後です…。『約束』します…」
『R&G』のダーブロウ有紗と会うのは、これで最後…。
つまり…いよいよ、楠本はダーブロウ有紗を『TDD』へ獲得しようと、動き出したことになる。
その誘いに、ダーブロウ有紗はこう応えた。
「ならば、本当にこれで最後にしてもらおうか…。これ以上、私に付きまとうなら…これで最後にしてやるよ…」
楠本は、それで構わないと言った。
ダーブロウ有紗が『TDD』入りを断った場合、楠本の方も、それなりの行動を起こすと言っているようなものだ。
今度ばかりは、探偵社の皆に内緒にするしかなかった。
言って、どうなるものではない。
七世が一番心配していたが…『R&G』のダーブロウ有紗として無事に帰ればいいことだ…。
だが…それも叶うのだろうか…。
楠本を殺してしまえば…もう、表の世界にいられない…。
楠本に殺されてしまえば…それこそ、表も裏もない…この世からおさらばだ…。
「ま、それも私らしいか…」
ダーブロウ有紗は、自嘲気味に笑った。
3246投稿者:リリー  投稿日:2008年08月18日(月)20時56分29秒
「あなたらしい、とは…どういうことです?」
全壊した工場の瓦礫から、楠本が姿を現した。
手には…あの日本刀が握られている…。
姿は、あの日のような浴衣ではなく、高級スーツに身を包んでいる。
「居やがったのか…。楠本…」
「女性は待たせない主義なのでね…」
ダーブロウ有紗は、忌々しそうに笑う。
まるで気配を感じなかった。
やはり、『戦士』としての感が鈍っているのか?
それとも、ただ単純に、楠本の方が力量が圧倒的に上なのか…。
「私は、あなたらしさというものを、少なからずわかっているつもりなのですが…」
「あん?私らしさ?何だよ、それ…」
楠本は、月明かりに笑顔を浮かべて、静かに語る。
「あなたは…やはり、裏の世界の住人です…。あなたと『エンプレス(女帝)』との戦いで、確信しました…」
「見てたのか…?あの戦いを…」
「いえ。彼女から話しを聞いたんです。あなたは、裏の世界でなければ生きていけない人間です。私と同じです…」
「てめぇと、同じ…?」
ダーブロウ有紗は、眉間にシワを寄せる。
「お?不愉快ですか?でも、訂正はしません。魚が陸に上がって生きていけますか?それと同じことです。表の世界にいるあなたは…本当に息苦しそうだ…」
楠本の表情は、最早、哀れんでいるかの様だった。
3247投稿者:リリー  投稿日:2008年08月18日(月)20時56分47秒
「私を魚に例えるんじゃねぇよ…!!」
ダーブロウ有紗は、楠本を睨みつける。
「ならば、人魚…ではどうです?」
「人魚は、陸でも息が吸えるぜ!!バ〜カ!!」
「え?そうでしたっけ?…ああ、あと、ムツゴロウも陸で呼吸できますね…」
「結局、例えが酷くなってるぞ!!コンチクショウ!!」
「すみません…。話しを戻します…。つまり…私は、無理して表の世界にしがみ付いているあなたが、可哀そうで仕方がない…」
ダーブロウ有紗の額に、血管が浮かび上がる。
「…可哀そうだ…?私が…?」
「本当は、もっと暴れたかったはずだ…。もっと戦いたかったはずだ…」
楠本は、力説するかのように前に歩み出る。
「殺したかったはずだ…。『エンプレス』を…!!」
「てめぇ…。これ以上、近づくんじゃねぇ…」
「解放するんです!!自分を…!!」
「近づくなって言ってるだろ!!」
「私なら、解放できます!!あなたを…救うことができます!!」
「てめぇ…!!」
ダーブロウ有紗の足下に、カードが一枚飛んで来た。
それは…『世界』のカード…。
「『ワールド(世界)』…あなたを『TDD』にお迎えします…。」
3248投稿者:リリー  投稿日:2008年08月18日(月)20時57分08秒
そのカードに、ナイフが突き刺さる。
「言ったはずだぜ…!!命を懸けて、断るってな…!!」
楠本は、溜息をつき首を横に振る。
この男がよくする仕草なのだが…今回は、芝居がかった雰囲気がない。
「覚えてますか…?私達『TDD』の報酬は、現金が原則…ということを…」
「あん?ああ…そんなこと言ってたな…」
「しかし、里穂さんと愛実さんを救出しろという、あなたの依頼…お金では引き受けませんでした…」
「ああ…。だから、私もおまえの依頼を受けてやったんじゃねぇか…」
「いいえ…。そんな条件では、とてもじゃありませんが、ボスを納得させることはできませんでした…」
「何だと…?」
「ボスを納得させた条件…それは…」
「私を、『TDD』に加入させること…か?」
「そうです…」
楠本は、いつものような、おどけた態度も見せない。
「もし…あなたが加入に応じなければ…」
「へへへ…。もの凄く怒られるのか?ボスに?」
楠本は、二コリともしない。
そして、重い口調でこう言った。
「あなたを殺せ…と、言われてます…」
3249投稿者:リリー  投稿日:2008年08月18日(月)20時57分36秒
「殺す…?私を…?」
目を瞑って静かに笑う、ダーブロウ有紗。
これは、彼女の怒りが爆発する寸前を意味する。
「…はい…。残念です…」
ポツリと応える、楠本…。
「残念…?私は嬉しいねぇ…。これでおまえと殺り合える!!」
その瞬間、ダーブロウ有紗は、両腕のアーミーナイフを抜き、楠本めがけて突っ込んだ。
辺りに転がる工場の残骸が、八方に吹き飛んだ。
当然、手応えはない。
その代わり、凄まじい殺気を、ダーブロウ有紗は頭上に感じた。
楠本が、地上に降り立ちながら日本刀を振り下ろした。
そして…やはり、手応えはなかった。
背後から殺気が…。
楠本は、後ろを振り返ることなく、日本刀を背中にかざす。
二本のアーミーナイフが、刀身を挟む。
「ち…!!」
ダーブロウ有紗は、思わず舌打ちした。
完璧なタイミングで攻撃が決まったと思ったからだ。
直後、楠本は、刀の鞘で彼女の腹を突いた。
「ぐ…!!」
一瞬、呼吸困難になったが、第二撃を喰らう前に楠本から身を離した。
3250投稿者:リリー  投稿日:2008年08月18日(月)20時57分55秒
そしてダーブロウ有紗は、楠本を睨みつける。
「私を殺すだぁ…?ざけんじゃねぇ!!今の一撃…鞘で私のナイフを受けて、刀で突くことだって、できたはずだ!!」
楠本は、ゆっくりと振り返る。
「それでは、鞘が真っ二つになってしまう…」
「そんな理由で、私を殺すチャンスを逃していいのか?」
「ええ…。これから何度も訪れますから…」
「いいや…。最後だ…。もう、二度と来ねぇよ!!」
再び、楠本に襲いかかるダーブロウ有紗。
嵐の様な攻撃を、楠本は日本刀で捌いていく。
「しゅ…!!」
刀の切っ先が、ダーブロウ有紗の顔面に迫る。
「があ!!」
寸でで、ナイフで刀を上に弾く。
一回転しながら、ナイフを楠本の首筋に…。
しかしその攻撃も、刀身を立てて防がれてしまう。
ギリギリと音を立てる、ナイフと刀…そして、睨み合う2人…。
楠本の顔は…本当に悲しそうだった。
3251投稿者:リリー  投稿日:2008年08月18日(月)20時59分22秒
ダーさんと楠本の決闘で、第二試合は幕を閉じる予定です

そして、敵の組織『TDD』の全容が明らかになる予定です

では、おちます
3252投稿者:117  投稿日:2008年08月18日(月)21時09分57秒
デジさんのクイズ・・・うぅ〜ん、分かりませんね。ヒントはフルネーム?
関係ないですが一瞬、なんとか甜歌リンなんていう答えが・・・(笑)。

さて、「裏」では深刻な状況に・・・この決闘で、第2試合は終了ですか。凄まじい戦いになりそうです。続きも楽しみです!
3253投稿者:決着って  投稿日:2008年08月18日(月)23時12分57秒
どっちか死ぬの?
3254投稿者:デジ  投稿日:2008年08月19日(火)03時44分11秒
なるほど、そう言う理由ですか。これは勝っても負けてもダーさんにとって嫌な方向に進みますね。ダーさん危機迫る。
そうなると、この前の寛平さんの占いの結果とあわせてみると、つまりこれを皮切りにR&Gを一人残らず勧誘していこうというのがTDDの動きですかね?
そうなりゃ全面戦争だ。大変なことになりますね。
勝手な空想ですが...続きも楽しみです。
            (今日の小言)(というよりクイズのヒント)
最後のヒントです。
TTKの法則というのは同じ漢字が名前の中に入っているということです。
すべてみてみると...
       ある               なし
       遼希               滉一
       有沙               里穂
       聖斗               瀬南
       愛実               甜歌
       公輝               卓也
       梨生奈              羅夢
       元太               ベンジャミン
       理来               聖夜
       千秋               一磨
ゲストも合わせると、ジーナもあるに入ります。
3255投稿者:うぜー  投稿日:2008年08月19日(火)06時17分28秒
 
3256投稿者:表は健康的に野球の決闘  投稿日:2008年08月19日(火)19時05分27秒
裏は殺し合いの決闘ですか

そのギャップが凄い
3257投稿者:リリー  投稿日:2008年08月19日(火)20時55分27秒
3253さん
まだ、結末は言えません
2、3日後、結果はでますので、お待ちください

3256
そうですね
ギャップは、表・裏で狙っていた効果です

117さん
この後、凄まじい戦いになる予定です
「ダーさんの福袋」の続きも出てきますが…これも覚えてますでしょうか?

デジさん
そうですね
ダーさんと楠本の決闘は、この後、『R&G』(TTK)と『TDD』が激突するキッカケになる戦いとなります
クイズは…すみません、本当にわかりません
漢字………『木』じゃないですよね…?

では、更新します

3258投稿者:リリー  投稿日:2008年08月19日(火)20時57分12秒
「…」
ダーブロウ有紗は、一瞬、気が抜けた。
火花と共に、2人の身体は離れた。
楠本は、正剣突きの構えを取る。
決して、奇抜な戦法をとらない…まるで、村田ちひろの様な戦闘スタイル…。
今まで楠本に抱いていたイメージとは、遠くかけ離れている。
本当に真面目に…真剣に…ダーブロウ有紗と相対している…。
「ふ…」
彼女は、笑みをこぼした。
「それなら、こちらもそれなりの態度で臨まないと、礼を失するな…」
ダーブロウ有紗は、アーミーナイフを両腕のホルスターに納めた。
「ん?どうしました…?」
「ああ…。戦いはやめだ…」
「え?」
「入ってやるよ…。『TDD』…」
「ほ、本当ですか!?」
楠本の表情は、ぱっと明るくなった。
「ウソだよ!!バ〜カ!!」
ダーブロウ有紗は、高笑いをあげた。
いつも、この男には煮え湯を飲まされてきたのだ。
たまには、逆の立場を味合わせてやってもいいだろう。
3259投稿者:リリー  投稿日:2008年08月19日(火)20時57分36秒
だが、楠本のリアクションは…彼女の予想を裏切るものだった。
「酷いじゃないですか!!騙すなんて!!」
唾を飛ばしながら、楠本は怒鳴ったのだ。
「…は…?おまえ、何、キレてんの?」
ダーブロウ有紗は、一気に興醒めした。
「んだよ…。人をバカにするのは好きだけど、バカにされるのは嫌いってか?自己中野郎め!!」
しかし、尚も楠本は、顔を真っ赤にして怒鳴り続ける。
「あなたはそうやって、平気で人の心を踏み躙る…!!人の気持ちなんて、これっぽっちもわかろうとしない!!」
「んだと!?てめぇなんかに言われたくねぇぞ!!コンチクショウ!!」
ダーブロウ有紗も、怒髪天を突く勢いで怒鳴った。
「まあ、いいや…。今から私は、おまえの心じゃなく、命を踏み躙ってやるよ…!!」
「何ですって?」
「受けてみろよ!!私の必殺技…」
そう言って、両の足を踏みしめる。
「『ダーさんの福袋』…。行くぜ!!」
そして、ナイフの納められたホルスターの蓋を、素早い動きで全て開けた。
「…ん?」
少なからずも、警戒する楠本。
「まずは、『梅』の技…!!『JUMP』…!!」
3260投稿者:リリー  投稿日:2008年08月19日(火)20時58分27秒
ダーブロウ有紗は、地面を蹴って空高く舞い上がった。
「…!?」
大きな月に、彼女のシルエットが浮かび上がる。
月明かりに紛れ、地上に降り注ぐ物がある。
それは、ダーブロウ有紗が身に着けていた二十数本のナイフだった。
流星の様に迫り来るナイフ…。
避けるのが当然の選択だが…その奥の、ダーブロウ有紗のシルエットが気になる…。
もし、ナイフを無数に投げつけるのみの技ならば、彼女が『必殺技』などと呼ぶだろうか…。
そもそも、あれ等は全てのナイフだろうか…。
楠本は、驚異の動体視力で一本一本ナイフを確認する。
やはり…あの、背中に差していた一番大きなナイフがない…。
ヘタに避けたら、罠に落ちる…。
そして楠本は、この動体視力に身体を乗せる。
降り注ぐナイフ、一本一本を、刀で弾いていく。
8センチ程の小さなナイフが、楠本の左肩に刺さった。
だが、その代わりアーミーナイフは叩き落した。
負傷は、最小限に留めておく…。
一番、避けなければならない一撃…その為に、いつでも動けるようにしておくのだ。
3261投稿者:リリー  投稿日:2008年08月19日(火)20時58分48秒
その一撃が、迫り来る。
刃渡り40センチの大振りなナイフを振り下ろす、ダーブロウ有紗…。
着地と同時に、叩き付けた。
ナイフは、地面を割っていた。
冷たい感覚が、ダーブロウ有紗の首筋をくすぐる。
楠本が背後に立っていて、刀の切っ先が彼女の首に迫っていた。
「…!?」
ダーブロウ有紗は、地面に横になる形で、その斬撃を避ける。
「うらぁ!!」
地面に転がっている、ナイフの一つを蹴り上げる。
そのナイフは、楠本の顔面に飛ぶ。
楠本は、首を曲げることでそれを避ける。
間髪入れず、大振りナイフを切り上げる。
楠本は、身体を仰け反らせる。
左肩に刺さった小さなナイフに切っ先は触れ、それを楠本から抜く形となった。
身体を仰け反らせたまま、上段の構えをとる楠本…。
腹筋の力で身体を戻すと、その勢いで、刀を振り下ろした。
ダーブロウ有紗は、その大振りナイフを横にかざして、その攻撃を受け止めた。
数ミリ、足が地面に沈んだような感覚がした。
3262投稿者:リリー  投稿日:2008年08月19日(火)20時59分25秒
「ちぃ…!!」
ダーブロウ有紗は、後ろに飛び退いてナイフを構えたが…楠本は、既に目の前に迫っていた。
容赦なく楠本は、再び上段の構えで斬りかかる。
「でぇ!?」
ナイフが大振りすぎて、刀を受けるのが間に合わない。
「コンチクショウ!!」
ダーブロウ有紗は大振りナイフを捨て、真剣白刃取りで刀身を受け止めると、身体を地面に預けて、巴投げで楠本を投げた。
「お!?」
楠本は、咄嗟に足を地面に着け、背中に地面を叩きつけることは回避した。
その隙に、ダーブロウ有紗は地面に転がった二本のアーミーナイフを拾い、楠本に対して構えを取る。
楠本はゆっくりと振り返る。
「凄いじゃないですか…。真剣白刃取りなんて…初めて見ました…」
「いや…。私も、初めてやった…」
お互い、ニヤリと笑みを浮かべる。
(やべ…!楽しい…!!)
ダーブロウ有紗の身体の底から、ゾクゾクとした歓喜の震えが湧き起る。
対する楠本は、目を細くしてダーブロウ有紗を見詰める。
(惜しい…!!やはり、『TDD』に欲しい人材だ…彼女は…)
しかし、すぐに首を横に振る。
今は、彼女を殺すことに専念しなければ…もしかしたら、命が亡くなる…。
3263投稿者:リリー  投稿日:2008年08月19日(火)21時00分05秒
「さすがだな…楠本…。見事に『JUMP』を切り抜けた…!!」
「いえいえ…。あの『エンプレス(女帝)』との戦いの跡…無数のナイフが地面に刺さってました…。そして、折れた日本刀…。そこからどういう技なのか推理できたのです」
「推理?どんな?」
「ええ…。ナイフを投げただけなら、日本刀が折れるわけがない…。あれは、直接…力技で叩き折ったと見るのが自然です」
「なるほど…」
「そして降り注ぐナイフを注意して見れば、やはり、その大きなナイフがない…」
「なるほど…」
「あなたの持っているナイフで、日本刀を叩き折れる物があるとしたら、もうソレしかない…」
「なるほど…」
「つまり、『エンプレス』のおかげで切り抜けられたようなものです」
「謙遜すんなよ…。『梅』の技を破ったのは、おまえが初めてなんだぜ!!」
3264投稿者:リリー  投稿日:2008年08月19日(火)21時00分24秒
「『梅』…?ならば、当然『竹』や『松』も…?」
「ああ…。あるぜ!!今からおまえに見せてやるよ…。『竹』の技…!!」
ダーブロウ有紗は、両手でアーミーナイフを回すと、逆手に持って、身体の前でクロスさせた。
楠本も、また正剣突きの構えで迎え撃つ。
「『竹』の技は…使うナイフは二本だけですか?」
「ああ…。これだけで充分だ…」
そう言うと、ダーブロウ有紗は膝を直角に曲げ、腰を深く落とす。
楠本は、その構えから『竹』の技を推理する。
(ふむ…。これも瞬発力を利用した技か…?また上空に飛ぶことはあるまい…。来るとしたら、真っ直ぐ前か…」
あれこれ思案する楠本を余所に、しっかりと狙いを定める、ダーブロウ有紗…。
「行くぜ…!!『竹』の技…『Roam』!!」
3265投稿者:リリー  投稿日:2008年08月19日(火)21時00分51秒
「…!?」
『竹』の技『Roam』は、楠本の推理を遥かに超えていた。
気がつけば、自分の後ろにダーブロウ有紗がいる。
いや、何か殺気をはらんだ風を感じ、一瞬、身を退いたのだが、それが計らずとも『Roam』を避ける格好となった。
足下に、ネクタイの下半分が落ちている。
後ろに退くのがもう少し遅ければ、喉を切り裂かれていたかもしれない…。
「ち…!」
舌打ちの音を残すと、ダーブロウ有紗は再び姿を消した。
また殺気…!
「うおお!?」
楠本は、日本刀を振りかざして後ろに跳んだ。
脇腹に痛みが…。
高級スーツに、血が滲んでいる…。
今度は、身体を斬られた…!?
決して致命傷ではないが…斬られたという自覚がないことが恐ろしい…。
「ふ〜む…。これは、少し不味いかな…?」
楠本は笑みを浮かべてはいるが…決して笑っていられる状況にない…。
3266投稿者:リリー  投稿日:2008年08月19日(火)21時04分19秒
『Roam』は、モニークだけではなく、ダーさんも使うことができます
理由は、わかりますよね?

今日は、これおちます
3267投稿者:だって『Roam』ですもんね  投稿日:2008年08月19日(火)21時55分31秒
 
3268投稿者: 投稿日:2008年08月19日(火)22時14分18秒

3269投稿者:117  投稿日:2008年08月19日(火)23時14分34秒
今日の冒頭、本気で怒鳴り合っているのが面白い(笑)。
ダーさんの「ゾクゾクとした歓喜」・・・少し、『裏』の感覚が・・・!?
そういえば、「松・竹・梅」もありましたね。段々、思い出してきました。続きも楽しみです!
3270投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時38分38秒
3267さん
その通りです
『Roam』を歌っていたのはダーさんとモニークの二人だからです
私のクイズは簡単すぎますね

117さん
思い出して頂けましたか?
よかったです
前半の怒鳴り合いは、実は意味があるのです…

では、更新します
3271投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時45分12秒
「『Roam』という技…限りなく『テレポーテーション』に近い技か…」
よく目をこらして見ると…オレンジの直線が、自分の周りを取り囲んでいる。
ダーブロウ有紗は、高速で移動しながら攻撃をしているのだ。
「いや…移動している瞬間を見ることができるなら、『テレポーテーション』とは言わないか…。しかし…」
また殺気を感じ刀を構えるが、今度は右腕が斬りつけられる。
「むむむ…。これでは、防御が追い着かない…。ならば…」
楠本は、刀身を鞘に収めた。
その様子を見て、ダーブロウ有紗はようやく動きを止めた。
「何だ?あきらめたのか?」
「はい。あなたを殺すのは…もう、諦めます」
「ウソだろ?」
「…はい…」
「騙されるかよ!!」
「いえね…。ちょっとばかり、居合い斬りをしてみようかな…と…」
「居合い?」
「はい…。その『Roam』とは、一瞬で移動し、一瞬で攻撃する技でしょ…?ならば、こちらも迎撃は一瞬で済ませようと…」
「ふ〜ん…。ま、試してみれば?」
そう言うダーブロウ有紗だが、心の中で舌打ちをしていた。
さすが楠本…『Roam』の対策をこの短い間に思いついた。
それも、最適な対策だ…。
3272投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時45分51秒
『Roam』…この技は、ダーブロウ有紗だけではなく、あと一人、モニーク・ローズも使うことができる。
8月の原村で、羅夢がモニークの『Roam』を体験したらしいが、結局は打ち破ることはできなかった。
ジャスミンは、捨て身の体当たりで『Roam』の発動事態を阻止したらしいが、己の身を傷だらけにした…。
いや、羅夢もジャスミンも、楠本の様な考えに至ったのかもしれない。
だが、その考えを、実行できるかどうかは別である。
おそらく、楠本は実行できるのであろう…。
実を言えば、ダーブロウ有紗の『Roam』は、モニークの『Roam』に遠く及ばない。
破壊力はダーブロウ有紗の『Roam』が上だが、スピードは段違いでモニークの『Roam』に軍配が上がる。
つまり、2人が『Roam』で対決をすれば、いくら破壊力のあるダーブロウ有紗の『Roam』でも、モニークには当たらない。
ダーブロウ有紗が、『Roam』を『松』の技に据えることができなかったのは、それが原因だ。
はたして、モニークの『Roam』を楠本が目の当たりにしたのなら、同じ対策を取ろうとするだろうか?
やはり、ジャスミンと同じく、発動前の体当たりに、考えは落ち着くだろう…。
3273投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時46分08秒
(ま、いいか…。『Roam』が通用しなくても…私には『松』の技…『アップル・シェイク』がある…!!)
『アップル・シェイク』という技も、モニーク…そして七世も使うことができる。
しかし、両腕の筋力がモノを言う力技…。
これはダーブロウ有紗が凄まじすぎて、あとの2人は『アップル・シェイク』の使用をやめてしまったくらいだ。
ダーブロウ有紗は、再び『Roam』を仕掛けた。
楠本は、鞘から刀を抜く。
…空振り…!
ダーブロウ有紗は、敢えて楠本を攻撃しなかった。
楠本の迎撃のタイミングを外す為だ。
足を踏ん張り、方向転換…今度こそ、楠本を切り裂く…!!
しかし、もう既に楠本は、刀身を鞘に納めていた。
(は、早ぇ!!)
金属音と共に、火花が散った。
3274投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時46分56秒
土煙を上げ、2人は地面に転がった。
そして2人同時に、一瞬で跳ね起きる。
『Roam』発動…居合い斬り…火花…そして、また2人は地面に転がる。
それを、また繰り返す。
ダーブロウ有紗のトラックスーツも、楠本の高級スーツも、土だらけで黄土色に染まっていく。
数回、それを繰り返した後、ダーブロウ有紗は『Roam』を中断した。
「ふぅ…!何てヤツだ…。『Roam』も通用しねぇとは…」
「ふふふ…。なら、『松』の技、披露しますか?」
「いや…。てめぇごときに、『松』は出さねぇ…!!」
「ごとき…ですか…。ふふ…。初めて言われたような気がします…」
まだ、『Roam』には伸びしろがあるはずだ。
モニークのスピードに、自分のパワーを合わせる…それが『Roam』の究極の形だ。
「モニークの武器は、爪付きグローブ…。殆ど、素手のようなもんだ…。つまり、攻撃の為には、より深く相手の懐に飛び込まなけりゃいけないわけだ…」
3275投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時47分08秒
つまり、モニークの戦法は、常に相手のカウンターを意識して戦うことになる。
普通の考えなら、カウンターを警戒して防御を固めるだろう。
ジャスミンの左腕の鉄甲、七世の金属繊維で編まれた傘がその代表だ。
ダーブロウ有紗のナイフ、梨生奈のトンファー、羅夢のヌンチャクは、攻撃と防御の交代が素早くできる。
七海の金属バット、ちひろの木刀も、攻撃と防御を兼ねるための『尺』がある。
ジョアンの鞭、中村有沙の鎖鎌の『尺』は、もっとある。
エマとエリーのボウガンは、そもそも敵からの反撃を受けない位置からの攻撃が基本だ。
だが、モニークは違う。
防御を考えないのだ…。
つまり、相手に攻撃される前に、自分が攻撃をする…。
3276投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時47分34秒
「へへ…。モニークからは、学ぶ事がいっぱいあるなぁ…。癪だけどよぉ…」
ダーブロウ有紗は、再びアーミーナイフを両腕のホルスターに仕舞った。
「ん?どうしました?」
「戦うのは止めだ。『TDD』に入ってやる」
「もう、騙されませんよ…」
「つまんねぇの!!また、おまえが怒り狂うところ、見たかったのに…」
そして、地面に両手をついて、クラウチング・スタート…。
豹のような、モニーク特有の戦闘スタイルだ。
「行くぜ!!『Roam』!!」
「む…!?武器もないのに…?」
しかし、楠本は躊躇することなく、手ぶらのダーブロウ有紗に居合い斬りを放つ。
「…!?」
ダーブロウ有紗は、いち早く前方に回転して、楠本の刃を回避した。
「早い!?」
移動と回避を、同時にこなしたのだ。
そして、攻撃…これが、モニークの戦い方…。
だが、武器は…?
それは、地面に落ちている。
さっき打ち捨てられた、刃渡り40センチの大振りのナイフ…。
それを咄嗟に拾い上げ、振り向きざまに楠本めがけて叩き付けた。
3277投稿者:がんばれ  投稿日:2008年08月20日(水)20時48分00秒

3278投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時48分00秒
しかし、楠本も振り向くと同時に日本刀を振り下ろす。
激しくぶつかる、ナイフと日本刀…。
本来なら、ナイフと日本刀では、その強度は段違いだ。
だが、楠本は制止した状態での一撃…一方、ダーブロウ有紗は『Roam』で高速移動中での一撃…。
結果、日本刀とナイフ…両者の武器は、根元から折れ、回転しながら夜空に消えた。
2人の武器は、破壊された。
だが、ここからモノを言うのが、先ほどホルスターに納められた、二つのアーミーナイフ…!
素早く取り出し、楠本目がけて突き出した。
だが…楠本の右手にも、武器が握られている…。
『趣味』の為の武器…刃先が鉤状に曲がった…恐ろしく切れ味の悪い…あのナイフだった。
ダーブロウ有紗のナイフと、楠本のナイフ…どちらが速い…?
ダーブロウ有紗は『刺す』動き…楠本は『裂く』動き…。
楠本のナイフが、ダーブロウ有紗の喉元に…。
楠本の方が…速い…。
その切っ先の曲がったナイフが、ダーブロウ有紗の喉の前を通過した。
「…!?」
痛みはない…?
出血もない…?
攻撃が、当たっていない…?
楠本の一撃は、空振りに終わったのだ…。
3279投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時48分47秒
「だりゃああああ!!!」
ダーブロウ有紗の渾身の一撃が、楠本の左肩に叩きつけられた。
それは、強烈な右ストレート…。
更に強烈なのは、その拳にナイフが握られていること…。
「ぐあ!!」
楠本の身体は、後方に吹っ飛び、工場の廃墟の残骸の中に激突して埋没した。
「はぁ…。はぁ…。はぁ…」
ダーブロウ有紗は、滝のような汗を流し、息を切らす。
右手に握られたナイフは、柄まで血に染まっている。
かなり、深くえぐった証だ。
楠本にとって…これは致命傷だろう…。
楠本の突っ込んだ残骸の山は、音も立てない…。
「ふ…!ふ…!ふ…!」
ダーブロウ有紗は、激しい息の為、うまく喋ることができない。
だが、大きく深呼吸をすると、吐く息と共に激しく吠えた。
「ふざけんじゃねぇ〜〜〜!!!!!コンチクショウがああああ〜〜〜!!!!!」
3280投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時49分25秒
雄叫びと同時に、ダーブロウ有紗は楠本の吹っ飛んだ残骸の山に駆け込むと、嵐のように暴れまわる。
木片、コンクリート片、ガラス片…全てのガラクタを吹き飛ばし、ようやく深く埋まった楠本を発見する。
楠本は、大の字に倒れている。
左肩から、尋常ではない出血…。
それでも構わず、楠本の胸座を掴み、乱暴に引き上げる。
「てめぇ!!!何で、私を攻撃しなかった!?てめぇの方が速かっただろうが!!!てめぇの方が勝ってたじゃねぇか!!!ふざけんじゃねぇ!!!」
そして、残骸の山に叩き付けた。
3281投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時49分38秒
「………」
楠本は、ただ、眠たそうな目でダーブロウ有紗を見上げるだけだった。
「さあ、言え!!言いやがれ!!!何で、私を殺さなかった!?」
「………」
「返答次第じゃ、ぶち殺す!!!」
「………」
「答えろ!!コンチクショウがぁ!!!」
楠本は、ようやく口を開いた。
「…いやです…」
「何!?」
「言いたくありません…」
「んだとぉ!?」
「だって…返答次第では、ぶち殺すって…」
「答えなくても、殺す!!!」
「…なら…言います…」
楠本は、溜息をついて目を瞑った。
3282投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時50分03秒
しかし、何故か言いよどんでいるような楠本の様子…。
ダーブロウ有紗は、苛々が頂点に達する。
「おい!!てめぇ、いい加減に…」
「あなたを、殺したくなかった…」
楠本は、唐突に言った。
「あん?殺したくないだぁ?」
「…はい…」
「てめぇ、まだ、私を『TDD』に…」
「違います…」
「…あ?」
「あなたを…愛しているから…」
「………何?」
「………あなたが…好きです…」
「………」
「………あなたを…愛している…」
「…てめぇ…。私は、そういう冗談が、一番…」
「私は………あなたを………愛している………」
「………」
3283投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時50分25秒
沈黙が、廃墟を支配する。
ダーブロウ有紗は、じっと楠本の目を見る。
睨んでいるのか…見詰めているのか…とにかく、ダーブロウ有紗は、楠本を見詰めた。
楠本も、これ以上、何も言わなかった。
もう、言うべきことはない。
何度も言えば…言葉の力は弱まる…。
口先三寸で生きてきた彼が…一番よくわかっている…。
こういう時の…言葉の無力を…。
伝わって欲しいと思う気持ちを………言葉は運んでくれないことを…。
「………」
ダーブロウ有紗は、何も言わずに後ろを向き、楠本から離れる。
そして、ノロノロと自分が放ったナイフを拾うと、そのまま…本当に何も言い残すことなく、この廃墟を立ち去った。
楠本は、まだ月明かりで辛うじて見えるダーブロウ有紗の後姿を、ずっと見送った。
「私は…もう、あなたと会うことはないでしょう…」
ふっと笑って、こう続ける。
「『約束』します…」
ダーブロウ有紗に、この言葉は届いただろうか…。
そして、決して耳に届くことのない、小さな…消え入りそうな声で、こう呟いた。
「さようなら…」
3284投稿者:リリー  投稿日:2008年08月20日(水)20時52分49秒
そういうわけで、楠本さんは、ダーさんにウソをつかれて本気で怒ってたわけです
『松』の技、『アップル・シェイク』は、第三試合で…

では、今日はこれでおちます
3285投稿者:117  投稿日:2008年08月20日(水)21時20分37秒
「アップル・シェイク」、これまた懐かしい・・・第3試合ですか。
ほほぉ!元帥、死す・・・ですか?まさかの展開に驚きました。
いよいよクライマックスでしょうか?続きも楽しみです!
3286投稿者:ええ!?  投稿日:2008年08月20日(水)21時25分24秒
元帥死んだの?
3287投稿者:楠本さんが  投稿日:2008年08月20日(水)22時02分17秒
ダーさんを好きなのは気づいてました
3288投稿者: 投稿日:2008年08月20日(水)22時21分27秒

3289投稿者:2974の者です  投稿日:2008年08月21日(木)16時27分53秒
楠本さんがダーさんを好きだったなんて・・・以外です
ユゲモノの影響で
楠本さんはミロク(後藤理沙)だと勝手に思い込んでましたw


それにしてもダーさんの福袋怖いですね
アップル・シェイクのワザ楽しみです
ちなみに↓はダーさんの福袋と関係してるMTKですが
これであってますよね?w

http://jp.youtube.com/watch?v=Dwk1Mg4UTMg
http://jp.youtube.com/watch?v=JQB3w-UEe4Q
http://jp.youtube.com/watch?v=TcULuwhevi8&feature=related
3290投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)21時02分40秒
117さん、3286さん
楠本さんは死んではいません
しかし、そう誤解されても仕方のない書き方だったと思います
すみませんでした
明日あたり、第二試合が終了する予定です

3287さん
鋭いですね

3289さん
この前のSケンの動画も、今回も、懐かしい動画をありがとうございます
楠本さんが、理沙さんが好きというより、理沙さんが楠本さんのことが気になっている…という裏設定です
ですから、いつも理沙さんは楠本さんに対してイライラしている…という感じです

『アップル・シェイク』がお披露目されるのも、随分後のことになりますので、覚えていて下されば、幸いです

では、更新します


3291投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)21時04分22秒
ダーブロウ有紗が『R&G探偵社』の自社ビルに帰宅した時、もう日付は17日に変っていた。
今日…いや、昨日は野球の試合があった為、皆は疲れたのか、一様にぐっすりと眠っている。
だから、そんなに気を使うことなく、ダーブロウ有紗は自分の部屋に戻ることができた。
だが、ドアの前まで来ると、隣の部屋のドアが開いた。
ネグリジェ姿の七世だった。
「ダーさん…。お帰りなさい…」
「ん?…ただいま…」
「遅かったのね…」
「うん…」
「どこ行ってたの?」
「はは…。何だか、奥さんみてぇだな…。出っ歯ちゃん…」
「答えて!!そのトラックスーツ…。凄い、土まみれ…。仕事じゃないんでしょ?」
「うん…。やべぇ…。ますます、浮気を問い詰められてるみてぇだ…」
「闘ってきたのね?誰と?」
「………楠本と…」
「…!?」
七世の顔色が変った。
3292投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)21時04分43秒
「あ、あの男と…?」
「ああ…」
「だ、大丈夫!?怪我は…?」
「だったら、服を脱がして確かめてみるか?」
「無事なのね?」
「いや…」
ダーブロウ有紗の顔が曇った。
「え?」
「無事じゃねぇ…」
「ど、どうしたの?」
「身体はいいんだ…。でも…」
「でも?」
その瞬間、ダーブロウ有紗は、七世を抱きしめた。
「ダ、ダーさん?」
戸惑う、七世…。
尚も、ギュッと強く抱きしめられる。
「な、何か、されたの?あの男に…」
「…うん…」
ダーブロウ有紗の篭った声が、七世の耳をくすぐった。
3293投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)21時05分06秒
「何をされたの?」
「………告白された………」
「………え?…何を…されたって…?」
「………告白………」
「…こ、告白…?」
「もう…言わねぇぞ…。コンチクショウ…」
「ご、ごめんなさい…。でも…」
「だから…何も言うな…!!」
「で、でも…こ、これだけは聞きたい…!!ダーさん…その告白に…何て…?」
「………何も言わなかった………」
「何も…?OKしたわけでも、拒絶したわけでもなく…?」
「………うん………」
「あ、相手は…何て…?」
「…もう…私と会わないって…」
「会わない…?そ、それって…」
「あの野郎…!!勝手に告白して、勝手に振りやがった…!!」
「…そ、そうなのかな…?」
「くそ…!!段々、腹が立ってきた!!…今から、あいつ、ぶっ殺してくる!!」
ダーブロウ有紗は、七世から両腕を離すと踵を返してもう一度来た廊下を戻りかける。
3294投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)21時05分42秒

「ダーさん!!」
今度は、七世が抱きついた。
「もう…どこにも行かないで!!」
「………?出っ歯ちゃん…?」
ダーブロウ有紗は、思わず足を止めた。
「いいじゃないですか!!もう、あんな男のことは…!!」
「どうしたんだ?おい…」
「こっちに来て!!」
七世は、ダーブロウ有紗の腕を掴み、自分の部屋に押し込んだ。
「な、何だよ?」
七世はドアを閉めると、少し面喰うダーブロウ有紗に駆け寄り抱きついた。
そして、キスをする。
「…?」
七世は、潤んだ目で見詰めている。
「忘れて!!あんな男のこと…!!」
そう言いながら、身体に装着されていたナイフの収まった黒革のベルトを、外しはじめる。
床に、次々とナイフが落ちる。
「…出っ歯ちゃん…?」
そして、トラックスーツのファスナーも降ろし、脱がした。
その下に着込んでいた黒いタンクトップも…。
3295投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)21時06分09秒
豊満な胸が、揺れながらさらされる。
「おい…。私、闘ってきたばかりだから、汗とか土埃だらけだぞ?シャワー浴びてから…」
「そのままでいい!!そのままのダーさんが…」
そして、トラックスーツのパンツと一緒に、パンティも降ろす。
七世は、局部に唇を寄せる。
「出っ歯ちゃん…」
じっと、七世を見下ろすダーブロウ有紗。
七世の舌は、彼女の身体の中に…。
「あ…。あぁ…」
思わず天井を扇ぐ。
そう…思い出した…。
七世は、相当上手い…。
ゾクゾクとした快感が、全身を駆け巡る。
「はぁ…。はぁ…」
一気に呼吸が乱れる。
「な…七世…」
思わず、本名で呼んでしまった。
足がふらつき、後退りする。
そして、そのままベッドに倒れこんだ。
3296投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)21時06分33秒
七世はベッドに上がると、横になっているダーブロウ有紗を見下ろし、ネグリジェを脱ぎ捨てた。
そして、身体を覆い被せる。
身体中にキスをする。
唇が触れる度に、吐息をつく。
先ほど、楠本と闘ったことによって荒ぶっていた心に、再び火がついた。
そう考えると、自分はさっき、楠本と『戦闘』という性行為をしていたことになるのだろうか…?
だから…楠本と共に過ごす時間は、いつもあんなに興奮するのだろうか…?
「ダーさん!!私を…私だけを感じて!!」
七世が、悲痛な叫び声をあげる。
心を読まれたのか…。
そんなことを考えていたら、ダーブロウ有紗の足は、大きく広げられる。
股間に顔を埋める七世。
「はああ…!!あああ…」
ダーブロウ有紗は、思わず身体を仰け反らせた。
「気持ちいい?ダーさん…。気持ちいいでしょ?」
「あ…。ああ…。いいよ…。七世…。凄くいい…」
「嬉しい…。そう言ってもらえて…」
そう言うと七世は、再び顔を埋めた。
3297投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)21時07分06秒
「あ…あ…。七世…」
ダーブロウ有紗は、細い七世の身体を抱き抱えると、上に引き寄せた。
今度は、自分が上に覆い被さる。
華奢な七世の身体を抱きしめる。
本当に…細い…。
そのまま折れてしまいそうだ…。
ガラス工芸品を扱うように、ダーブロウ有紗は七世に触れる。
七世の腕は、首に巻きつけられる。
決して大きくはない七世の胸が、大きすぎるダーブロウ有紗の胸に密着する。
2人は、濃厚なキスを交わしながら、ベッドの上を奔放に転げ回る。
「おっと…」
ダーブロウ有紗は、七世もろともベッドから転げ落ちてしまいそうになり、手摺りを掴む。
ダブルベッドなのだが、2人にとっては狭すぎる…。
再び七世を抱き寄せて、ベッドの中央に戻る。
そこで、存分にお互いの身体をまさぐり合い、口づけし合う。
身体の感覚も、意識も、混ざり合う。
「ダーさん…!行かないで!!…どこにも…行かないで!!」
七世は、ここ一ヶ月抱いてきた不安を、全て吐き出した。
「行かない…!!どこにも行かないから…」
ダーブロウ有紗は、それを全身で受け止めた。
2人は…同時に果てた…。
3298投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)21時07分31秒
2人はベッドの中央で、抱き合ったまま荒い息をついている。
しばらくはお互いに、言葉を交わすことができない。
ただ、抱きしめ合っているだけで相手の気持ちはわかる。
七世は、ダーブロウ有紗の胸に、顔を埋めた。
「…ふふ…。こんな所、パッツンが見たら…メチャクチャ怒るぜ…」
ようやく出た言葉が、照れ隠し…。
「私だって…たまには、甘えてみたいもん…」
「くぅ…!なんて、可愛いんだ…!!出っ歯ちゃん…!!」
「あ…。もう、七世って呼んでくれないんだ…」
「呼んで欲しいの?」
「うん…」
「やだね…」
その代わり、額にキスをしてやった。
「そうだ…。出っ歯ちゃん…。楠本の野郎に告白されたって…誰にも言うなよ?」
「え…?それはいいけど…。どうして?」
「デコッパチが、原村で恋をした時…私、思いっきりからかったから…」
「ダーさん!!」
七世は、ダーブロウ有紗の胸から顔を離し、厳しい顔を彼女に向ける。
「自分がされて嫌なことは、他人にもしない…!!」
「…はい…」
ダーブロウ有紗は、素直に応えた。
3299投稿者:117  投稿日:2008年08月21日(木)21時15分38秒
うん?終わりでしょうか?
あらら、元帥はまだ死んでいなかったんですか。また一波乱ありそう?
そういえば、リリーさんが“レズ表現”の天才だということを、すっかり忘れていました(笑)。
あの“野球”の激戦のイメージがものすごく、強かったので・・・レズは久々ですよね?
ダーさん、あのことちゃんと覚えていたんですね(笑)。続きも楽しみです!
3300投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)21時16分25秒
次回は、第二試合の最終回です

いよいよ、『TDD』の全容が明らかになります

では、おちます
3301投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)21時33分24秒
117さん、返事遅れました
はい、久々です
思い出したかのように書きました
こういうシーンを連続で書くと、とても疲れるんです
初期の作品は、よく書けたもんだと思います
初めての小説で、ハイテンションになってたからでしょうか…

楽しみにして下さると、とても励みになります

3302投稿者:私も思い出しました  投稿日:2008年08月21日(木)22時21分15秒
復刻版らりるれろってそういやどうなったんでしょうか?
3303投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)22時45分23秒
3302さん

そう言えば…グラスラにかまけてて、すっかり忘れていました
すみません
少しずつですが、更新しますね
3304投稿者:うわああああ!ごめんなさい!  投稿日:2008年08月21日(木)22時52分51秒
こんなすぐに更新して頂けるとは思いもしませんでした
恐縮です;
3305投稿者:リリー  投稿日:2008年08月21日(木)23時12分25秒
いえいえ…
3302さんのおかげで、思い出せたようなもんです…

復刻版『らりるれろ探偵団』
http://ame.x0.com/tentele/080504010637.html
3306投稿者:デジ  投稿日:2008年08月22日(金)04時27分56秒
お久しぶりです。
抜けていた火曜日から...
元帥が初めて見せる乱心。普段いつも落ち着き払っている元帥なだけに、気になりますね。
初登場竹の技「Roam」。確かに「junp」より強力そうな技ですね。
なぞの多い更新でした。
(水)松の技「アップルシェイク」。(やっと知ってるグループの名前が出ました。)初披露楽しみです。
先頭のシーン。大迫力ですね。
そして、意外な結末が用意されてましたね。元帥のこの戦いの目的。元帥がダーさんに恋心を抱いているという告白。かなり予想外でした。どうなる、傷心の元帥。
これだったんですか。ダーさんの元気のない理由。自分に好意を寄せていた人を自分で半殺しにいてしまったから。切ないですね。最後の方は、感動しました。
(木)かなり久々のレズですね。こういう場合だと基本的にSとMって逆転するんですね。七世のS、何気に面白いです。明日で第二試合目の最終回ですか。続きも楽しみです!第三試合目も期待してます。
             (今日の小言)
火曜日の茨城は雷雨でした。家のすごい近くで雷が落ちて家が停電したのですが、そのとき電話線とネットワークが止まってしまい、停電から一日無人島状態だったそうです。(この雷があったときなぜかこの小説のライトニングボルトが頭にふとでてきた。あらためて、ドラマでの羅夢と重なってきた出来事でした(笑))

答えを書きます。
勇気はないの方に入ります。
なぜならあるの方の戦士は歴代で同じ苗字や名前を持つ人がいるからです。 遼希は木村遼、有沙は、ダーブロウ有紗(この小説で言うチームA)と中村あやの、聖斗が渡邊エリー、愛実は篠原麻里、公輝が前田亜季、梨生奈木内江莉、元太は伊藤俊輔と伊東亮輔、理来は田中樹里、千秋は洸太レイシー
といった感じです。ちなみにゲストも含めてのジーナは加藤夏希さんです。
               
3307投稿者:デジ  投稿日:2008年08月22日(金)04時30分59秒
蛇足(加藤ジーナと加藤夏希でチームKですね。「TTK」の戦士の組合せもあったわけです)
3308投稿者:あげ  投稿日:2008年08月22日(金)09時57分11秒
3309投稿者:「Roam」は  投稿日:2008年08月22日(金)17時50分52秒
『らりるれろ』で、モニークが披露してますよ

あと、ダーさんが楠本と戦ったのは、野球の試合の後なのでは?
3310投稿者:過去ログです  投稿日:2008年08月22日(金)18時36分49秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
3311投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時41分13秒
デジさん
まとめて感想を下さって、ありがとうございました
とても、励みになります
そちらは、もの凄い状況になってたんですね
停電ですか…
現代人は電気が止まってしまったら、ほんと、活動できる範囲が狭められてしまいますね
私も、ネットがつながらなくなった時、妙に落ち着かなくなってしまいました
ああ…クイズの答え、そういうことでしたか…
私は、てっきり勇気が『ある』方に所属するものとばかり思って、しきりに共通点を探していました
でも、しっかり頭の体操になりました
「アハ体験」というものですね

3309さん
そうですね
ダーさんが元気がなかったのは、自分の苦手な男(楠本)と二人きりで会って、決闘しなければならないこと…ということでした

3310さん
過去ログ、ありがとうございます
長い間、放置されてた設定も、思い出してくだされば…と思います

では、『第二試合』の最終回、更新します
3312投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時42分09秒
天歳市の駅前広場。
もう終電も過ぎ、人通りも少なくなっている。
「ふ〜む…。もう、店仕舞いやな…」
小さなテーブルの前で座っていた初老の占い師…間寛平は、そう呟いた。
テーブルの上に並べられたカードを慣れた手つきでまとめると、輪ゴムでパチンと留めてジーンズのポケットに入れる。
「あの…。まだ、よろしいでしょうか…?」
「ん?」
寛平は、ふと顔を上げる。
そこには、高級スーツを身に纏った金髪の男が立っていた。
だが、それが高級スーツと認識できる者が、どれだけいるだろうか…。
所々が破れ、土埃にまみれ…しかも、左の肩に、大きな血の染みがついている。
いや、その肩の血は未だ出続けているようで、駅前広場の白いタイルの床に、点々と赤い斑点を残している。
それでも、一応は止血をされているようだ。
肩の血の染みの広がりようから…もっと激しく出血していてもおかしくないからだ。
グレーのスーツ、黒のカラーワイシャツを着ている為、その染みは目立たないが…。
そんな異様な姿をした男を目の前にしても、寛平は少しも慌てる素振りも見せず、平然と声をかける。
「何や?こらまた、どえらい恰好しとるやん…。楠本君…」
3313投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時42分32秒
「ははは…。お恥ずかしい…。折角、占ってもらったんですけど…結果はメタメタでした…」
楠本は、頭に手をやって、力のない笑みを浮かべる。
顔面蒼白だ…。
どうやら、怪我の状態は軽くない様だ。
「メタメタ?やっぱり、振られたんか?」
「はい。振られました…。うん…たぶん…」
「で、仕事の方は、どないなった?」
「すみません…。仕事も…メタメタです…」
楠本は、今度は笑みを浮かべない。
彼なりに、真剣な表情をつくっている。
「へ…?何で…?恋愛運はアカンけど、仕事運はええって…言うたったんやけど…ハズレたか…?」
「いえ…。ハズシたんです…。私が…」
「ハズシた…?何で…?」
楠本は、深く頭を下げた。
「やはり…私には無理でした…。ボス…」
3314投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時43分01秒
「コラ、コラ…。こないな所で『ボス』なんていいなや…。道行く人達が、何や、思うやん…」
「それでは『フール(愚者)』と?」
「そない呼び方されたら、うちがアホみたいやん…」
「では、何とお呼びすれば…?」
「カンペーでええよ、カンペーで…」
「いや、せめて『さん』付けさせて下さい…」
「当たり前や!!誰が自分自身に『さん』付けすんねん!!」
再び、楠本は頭を深く下げた。
「せやけど…そうか…。断られたんや…」
寛平は、心底、残念そうに呟いた。
「で…ダーブロウを…?」
しかし、楠本は更に頭を下げる。
「いえ…!無理でした、とは…実はこのことで…」
「何やて?殺さへんかったん?ダーブロウを!?」
「し〜!!カンペーさん!!声が大きい!!」
楠本は、頭を上げると、人差し指を口の前に持って行く。
3315投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時43分57秒
「…あ…ゴメンな…。…でも、約束がちゃうやん、自分!!」
「いえ、『約束』は破っておりません。カンペーさんの言いつけに、私は『努力します』と、言っただけで…」
「…で、約束通り、『努力』はしたと…」
「はい…」
「何やなぁ…。口上手いなぁ…自分…」
「申し訳ありません…」
楠本が『努力する』と約束した、寛平からの指令…それは、ダーブロウ有紗を『TDD』に引き入れること…そして、それが無理ならば命を奪うこと…。
3316投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時44分09秒
一度勧誘に失敗した者は、殺さなければならない…。
他の組織に獲られるぐらいなら、いっそこの手で殺してしまおう…。
そうすれば、『TDD』に対する脅威が少しでも減ることになる。
新興組織の『TDD』の自衛手段ではあるが、真の理由は、自分達が裏の世界で脅威の存在となる為である。
「タダでさえ、うち等の組織は新規参入なんやから…ナメられへん為にも、殺ってほしかったなぁ…。ダーブロウ…」
寛平は、少し恨みがましく楠本を見上げる。
「それに、もし、ダーブロウが『R&G』の他の探偵に、このこと言うたらどないするん?変な遺恨が残って、めんどくさいことになるやん!」
「どうしましょう…」
楠本も、困ったような顔で聞く。
寛平の表情は、曇る。
「しゃあない…。こうなったら…皆殺しや…『R&G』自体を…。可哀そうやけど…」
寛平は、頭を抱えた。
「ええ子達なんやけどなぁ…。野球も一生懸命がんばってて…。ほんま、可哀そうやなぁ…。あの子達…。殺すんは、ダーブロウだけにしときたかったなぁ…」
そして、こう呟く。
「有沙ちゃん…占い…こういうことやったんや…」
3317投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時44分29秒
「『タワー(塔)』も、残念がるでしょうね…」
「そうやなぁ…気に入ってたもんなぁ…。随分…。ま、ええわ。ワシの方から説得するわ…」
「納得しますかねぇ…。『タワー』…」
「そもそも、自分がダーブロウ、殺っとったら済む話やねんで?」
「…はい…」
「まあ、ダーブロウに勝てるモン言うたら、楠本君か、角田君か、高見君くらいやからな…」
「高見君?」
「あ…!な、何でもない…」
「もしかして…『マジシャン(魔術師)』のことですか?『高見君』って…」
寛平は、ピシャリと自らの額を叩く。
「アホやなぁ…ワシ…。思わず、口走ってもうた…」
「いいです…!忘れますから…。でも、『怪盗ノッポ』って、カンペーさんのことじゃなかったんですね…」
「何や?君までそんな噂信じとったんか?」
「ええ…。だって、『ノッポ』さん、一度も私達の前に姿を現してくれないんですから…」
「そう言いなや…。『ノッポ』は、えらい人見知りなんや。ワシやって、ヤツの声、聞いたことあらへんのやで…」
「そ、そうなんですか…?」
「ヤツが心を開いとるんは、ゴンタ君だけや…」
「ゴンタ君…?」
「ヤツの下男や…。その男も、『呻く』だけで喋られへんのやけど…」
3318投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時44分50秒
「でも…私、正直、ダーブロウ有紗と会いたくないんですけど…」
「ま、失恋したんなら、当然やけど…」
「どうしましょうね…。他にダーブロウ有紗に勝てる者と言っても…『チャリオッツ(戦車)』は南米に行ってしまったし…。『ノッポ』…いや、『マジシャン』はヨーロッパ…」
「ま、君には悪いけどな…ダーブロウは…ケジメつけさせてもらうで…」
「…いえ…。私のことは…お気遣いなく…」
そう言う楠本だが、やはり顔は暗く沈んでいる…。
これで、ダーブロウ有紗の…いや、『R&G』の者達の死は、免れない…。
こんなことなら、やはり自分の手で殺しておけばよかったか…。
「しかし、惜しいなぁ…。ダーブロウ…。この夢のオーダーも、叶わず…か…」
寛平は、ポケットからメモ用紙を出した。
そこには、乱筆で書きとめられた、裏探偵『TDD』のメンバー表だった。
3319投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時45分23秒
?0間寛平          『フール(愚者)』
?1ノッポ          『マジシャン(魔術師)』
?2………          『ハイプリエスティス(女教皇)』
?3後藤理沙         『エンプレス(女帝)』
?4楠本柊生         『エンペラー(皇帝)』
?5伊藤正幸         『ハイエロファント(教皇)』
?6中川翔子         『ラヴァーズ(恋人)』
?7角田信朗         『チャリオッツ(戦車)』
?8ジャスミン・アレン(予定)『ジャスティス(正義)』
?9肥後克広         『ハーミット(隠者)』
?10T−ASADA      『ホイール・オブ・フォーチュン(運命の輪)』
3320投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時45分36秒
?11秋山恵          『ストレングス(力)』
?12上島竜兵         『ハングドマン(吊られた男)』
?13箕輪はるか        『デス(死神)』
?14寺門ジモン        『テンバランス(節制)』
?15加藤夏希(予定)     『デビル(悪魔)』
?16中田あすみ        『タワー(塔)』
?17………          『スター(星)』
?18モニーク・ローズ(予定) 『ムーン(月)』
?19鍋本帆乃香(候補生)   『サン(太陽)』
?20シンパンマン       『ジャッジメント(審判)』
?21ダーブロウ有紗(予定)  『ワールド(世界)』
3321投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時46分08秒
そして寛平は、『ダーブロウ有紗』の名の上に、赤鉛筆で線を引っ張った。
「これで、空白は『ハイプリエスティス(女教皇)』、『スター(星)』、『ワールド(世界)』の三つか…」
寛平は、苦虫を噛み潰したような顔で、メモを見詰める。
「『ジャスティス(正義)』、『デビル(悪魔)』、『ムーン(月)』だって、入るかどうか…」
「ん?ああ…この3人は、ダーブロウよりかは可能性は大きい、思うんよ…」
そう言って、寛平は、ニヤリと笑う。
「特に…『デビル』…加藤夏希…」
「加藤…夏希…?加藤組長の…落とし種ですね…?」
「そうや…。占いで出たんや…」
「占い…?」
「確実に仲間になるで…。『デビル』は…。あと、『ハイプリエスティス(女教皇)』と『スター(星)』も…」
「え?だ、だって、誰を入れるのか、候補もいない状態でしょう?」
「これも、占いで出たんや…。誰かは知らんが、この2人も必ず入るで…」
自信満々に、寛平は言い切った。
「で、こんな時間に、わざわざワシを訪ねに来たんは…任務の失敗を報告に来たわけやないんやろ?」
「…はい…。私はもう、恋は忘れて仕事に専念しようと決めたところで…」
「ふん、ふん。で、仕事運をみて欲しい…と?」
「はい…。そういうことで…」
「ふ〜ん…。ま、カードを使う間でもないわ。自分、しばらく仕事運は、下降線の一途やで…」
「え…?」
楠本は、目を丸くする。
3322投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時46分31秒
「自分…女難の相が出てるで…。気ぃつけや…」
寛平は、腰を叩きながら立ち上がる。
そして、怪我をしている楠本の左肩に手を置く。
「あと…早よ、病院行った方がええで?」
そして、その左肩を、凄まじい握力で掴んだ。
ナイフでえぐられた傷口に、寛平の親指が第一間接まで喰い込んだ。
「ぐああああ!!!」
楠本は、思わず悲鳴をあげて、うずくまった。
そして、再び顔を上げた時には、寛平の姿はどこにもなかった。
傷口を押さえながら、楠本は力なく笑った。
「は…はははは…。やっぱり、ボス…メチャクチャ怒ってる…」

いつの間にか、涼しげな風が辺り一帯を包み込んでいた。
それは、残暑の終わりを告げていた。
そして…新たな戦いの始まりも…。

(『九回裏』・・・終了  第二試合『VS山本組』ゲームセット)
3323投稿者:リリー  投稿日:2008年08月22日(金)20時49分28秒
これで、『第二試合』終了です
『TDD』のボス、メンバー、人数と、全貌が明らかになって、『第三試合』に突入します
『聖テレ野球部』も、『R&G探偵社』も、事態が急変する予定です

では、『第三試合』も、これまで同様、よろしくお願いします

では、おちます
3324投稿者:あげ  投稿日:2008年08月22日(金)20時56分21秒
『審判』がシンパンマンってのがww
3325投稿者:塔のカードって  投稿日:2008年08月22日(金)21時01分34秒
もしかしてカンペーさんの作意が隠れてる??
3326投稿者:3057  投稿日:2008年08月22日(金)21時13分50秒
カンペーさんがボスっていう
想像が当たってたのでうれしい。

第三試合も頑張ってください
応援してます。
3327投稿者:117  投稿日:2008年08月22日(金)21時19分07秒
第2試合、お疲れ様でした。いやぁ、結構長かったですね。
ほぉ〜、寛平さんは「TDD」のボスだったんですか!
そして、その顔ぶれも明らかに・・・ノッポさんは、久々ですね。
さらには、帆乃香が“候補生”・・・第3試合は波乱の予感です。
最後の3行、ちょうど今の季節と同じですね。
第3試合も最後までお付き合いします。頑張ってくださいね!
3328投稿者:ひゃぁぁ  投稿日:2008年08月22日(金)21時22分15秒
ボスが寛平とは・・・・
すっごいことになりそうですね
3329投稿者:そう言えば  投稿日:2008年08月22日(金)23時07分47秒
『TDD』(Tamago Don Department)って、天てれでも寛平さんがリーダーだったもんね

第一試合も第二試合も、駅前の寛平さんのシーンで終わるってのも、凝ってますね
3330投稿者:『悪魔』は夏希  投稿日:2008年08月22日(金)23時13分53秒
これからR&Gの前に敵として立ちはだかるのか?
『太陽』の帆乃香は戦えるのか?
『女教皇』と『星』は誰なのか?
シンパンマンも敵になるのか?

謎ばかりで楽しみだ
3331投稿者:カードと人物の関係がw  投稿日:2008年08月22日(金)23時31分53秒
寛平→愚者(アホだから?)
ノッポさん→魔術師(何でも器用に作るから?)
角田→戦車(戦う男だから?)
T−ASADA→運命の輪(クルクル回ってるから?)
秋山→力(女子プロレスラーだから?)
竜ちゃん→吊られた男(バラエティーで酷い目にあってるから?)
みのぽー→死神(見た目?)
シンパンマン→審判(これは納得w)

3332投稿者:寛平さんには絶対に何かがあると思っていました  投稿日:2008年08月22日(金)23時44分21秒
あの「噂」もやはり・・?
3333投稿者:ハングドマンって  投稿日:2008年08月22日(金)23時54分17秒
不吉な絵だけどそう悪いカードでもないんですよね
タワーは名だけ聞くと天にそびえ立つ力強い印象に思えるけど
絵も不気味な最悪のカードという
個人的な印象ですけど
タロットのこんなところが面白いですね
3334投稿者:久しぶりに一気に読んだら  投稿日:2008年08月23日(土)00時54分37秒
やっぱりおもしろい
3335投稿者:ボス(浴衣ピエロ)=寛平  投稿日:2008年08月23日(土)00時56分55秒
今振り返るとヒントがいっぱいあったんですね
・楠本さんが言っていた「ボスは関西系だからアホ」
・「浴衣ピエロ」は西日本を中心に出没する
・大阪で女の子が「浴衣ピエロ」にさらわれた(帆乃香のこと?)
・寛平の商売道具と「TDD」のタロットカードという共通点
・3329さんの言うとおり「TDD」は寛平さんのMTK「GO!GO!たまご丼」のユニット名

3336投稿者:寛平さんの  投稿日:2008年08月23日(土)01時51分07秒
持ちキャラの目(△←こんな目)がピエロっぽいからたぶんそうだろうなって思ってました
ちなみにあのキャラ「最強ジジイ」って名前らしいですね(笑
3337投稿者:デジ  投稿日:2008年08月23日(土)04時32分29秒
第二試合お疲れ様でした。
最後の最後でまさかのビックリ。
「TDD」のボスが寛平さん。これは、第二試合以上の波乱が巻き起こりそうですね。その団員である楠本さんにダーさんでさえも苦戦したのにましてや案外近くにボスがいるという恐怖感。寛平さんの実力はいかなるものか?
そして「TDDの顔ぶれ」第一試合の伏線はこのことだったんですね。
そしてこのときの更新も最後の最後でしたね。そのときの伏線は『皇帝』、『女帝』、『塔』、『星』、『死神』、『太陽』、『女教皇』、『審判』、『恋人』、『力』、『悪魔』…そして『愚者』…の、計12枚のカードの人が襲ってくるということ。これを、メンバー表に当てはめてみると今後に襲ってくるのは...
間寛平、後藤理沙、楠本柊生、中川翔子、角田信朗、秋山恵、箕輪はるか、加藤夏希(?)鍋本帆乃香(!)シンパンマンと今後入る予想の二人。これが、だ三試合でよく出る人って意味でしょうか?
楠本さんが襲ってくることはないとして驚きが帆乃香と夏希。
帆乃香が候補生って敵に回ったら大部分の人が戦えないじゃないですか。ましてや、七海と表の藍にとっては友情の壊れるピンチですね。
茶々山マンボウズもどうなるんでしょうかね?
まさかの夏希さん。これって裏切りってことですか?予定だけど。そうなったらジーナどうなるのでしょうか?
最後に気になる『聖テレ野球部』も、『R&G探偵社』も、事態が急変する予定という言葉。、R&G探偵社がまた一波乱あるのはいつものことですが『聖テレ野球部』の一波乱(多分二人脱退するって話)はどうなるでしょうか?第三試合も期待してますよ!



3338投稿者:デジ  投稿日:2008年08月23日(土)04時50分32秒
コメントが長かったので(今日の小言)はこっちに書きます。
             (今日の小言)
第三試合にはR&G探偵社にも新たに、誰か加入しそうな気がするのは僕だけでしょうか?
そういえば、星野ジャパン準決勝で逆転負けしたらしいですね。決定打がほとんど巨人のイ.スンヨプだそうで...銅メダル頑張って取って欲しいものです。
ソフトボールはみごとに金メダル取ったそうです。この小説の中でだったら愛美と梓彩は嬉しいでしょうね。ソフトボールも掛け持ちなだけに。
そういえば、樹音っていつ登場するんでしょうか?
3339投稿者:デジさん  投稿日:2008年08月23日(土)10時04分01秒
あすみが抜けてますよ
あと、角田さんは『戦車』だから今回は出てこないんじゃ?
3340投稿者:吉田チャリオッツ  投稿日:2008年08月23日(土)10時19分44秒

3341投稿者:TDDの空席が二人  投稿日:2008年08月23日(土)10時42分16秒
野球部から抜けるのも二人

まさか…?


3342投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)20時46分07秒
第二試合が終わって、たくさんのコメントありがとうございます
3324さん
安直すぎましたね
T−ASADAさんとシンパンマンさんは、本名がわかりませんでした
この二人と、ノッポさんは、本名を隠して裏の活動をしている…という設定です
3325さん
野球部が解散する、という占いのことですか?
この時、寛平さんはまだ『R&G』と『聖テレ野球部』の関係を知りませんでしたので、純粋に占いで出た予言の結果ですね
第一試合が終わった辺りから、寛平さんは楠本さんから『R&G』の話しを聞いた…ということになっています
3326
そう、予想してた方もいらっしゃるんですね
「寛平は凄いよ」というのは、ボスと見抜いていた、ということだったんですね
3329さん、3335さんの挙げて下さったヒントも、その通りです


3343投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時04分31秒
3328さん、3330さん
この先も、予想を裏切りつつ、楽しい物をと、心がけます
117さん
毎回のコメント、ありがとうございました
本当に力になります
第三試合も、よろしくお願いします

3332さん
「噂」とは、「浴衣ピエロ」のことですか?
そうです
『TDD』のボス=『フール(愚者)』=『浴衣ピエロ』=寛平さんです
そして、『マジシャン(魔術師)』=『怪盗ノッポ』=高見さんです
『浴衣ピエロ』と『怪盗ノッポ』は、同一人物ではありません
3344投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時04分42秒
3331さん
カードと、その人の雰囲気を合わせて、一番ピッタリくるのを選んでみました
わかりづらいものを解説します
『隠者』が肥後さんの理由
彼は『変装』による調査が専門です
モノマネの上手い、肥後さんに、隠れて調査する『隠者』のイメージを重ねてみました
『吊られた男』が上島さんの理由
彼は、どんな肉体的なダメージも苦痛には感じず、最小限にして切り抜ける特技の持ち主です
拷問などされようものなら逆に喜び悶え、鉄砲玉として特攻しても絶対に死ぬことはありません
苦行、試練などを象徴する『吊られた男』をイメージしました
ジモンさんが『節制』の理由
いつも肉体を鍛えているジモンさんは、『節制』のイメージです
彼も、秋山さんや角田さんと同じく、肉体武闘派です
でも、秋山さんや角田さんほど強くはありません
3人は『堕弔倶楽部』というグループ名で、トリオで仕事をしている…という設定です
でも、今作品には出てくる予定はありません
3345投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時10分27秒
3333さん
タロットカードというのは、本当によく出来てますよね
22枚、全てのカードに、人生に起るべくして起る出来事が描かれていて、その組み合わせで、『どういう風にもとれる』占いの結果になる…という仕組みです
『死神』のカードも、そのものズバリ『死ぬ』と言う意味だけでなく、『一度終わって、再生する』という、救いのある解釈もされてますし…

3346投稿者: 投稿日:2008年08月23日(土)21時10分40秒
「今作品には出てくる予定」って?
この話はR&Gシリーズの集大成ですよね?
3347投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時20分40秒
3334さん
久しぶりに読んでくださったのですか?
ありがとうございます
また、お暇な時にでも、読んでやって下さい
3336さん
あれ、『最強ジジイ』って言うんですか?
まさに、この小説の寛平さんですね
3339さん
そうですね
今回、角田さんは名前のみの登場となります
『サムドラ』のモニークみたいに、また別の作品で出てくるかもしれませんが…
3340さん
それは、『吉田戦車』ということですか?
3341さん
その答えは、第三試合の序盤から明らかになりますよ
3348投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時20分59秒
デジさん
そうですね
『聖テレ野球部』も、『茶々山マンボウズ』も、少なからず影響を受けてしまいます
その所為で、第三試合は、『表』パートも深刻な状況に陥ってしまいます
ご期待下さい
野球は残念でしたが、やはりミスが響きましたね
今回、韓国は強かったです
この前の、偽装オーダー事件で負けていたら悔しかったけど、今回は正々堂々と真っ向勝負だったので、仕方ないですね
それよりも、ソフトボールは凄かった…
上野投手、肩や腕、大丈夫でしょうか?
作中の藍も、これぐらいの選手に成長させる予定です
でも、藍が大人になった時点で、オリンピック種目から消えてしまいますが…

では、更新します
3349投稿者:更新頑張ってください  投稿日:2008年08月23日(土)21時21分17秒
あと丁寧な解説やコメントありがとうございます
3350投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時25分06秒
【第三試合・・・VS『TDD』】

『一回・表』

≪2007年10/15(月)≫
「おっはよう!!ななみん!!」
藍のテンションの高い挨拶に、七海はうんざりした。
朝の通学路。
練習の為に、早めに学校に来ているので、生徒の数はまだまばらだ。
「う…。今日は、細川さんとは会いとうなかったわ…」
「そう?私は会いたかったよ!!ねぇ、『おめでとう』って言ってよ!!」
「じゃっかぁしい!!『おめでとう』も、何も、クライマックス・シリーズの一回戦に勝っただけやん!!」
今年からセントラル・リーグも、ペナントレース上位3位のチームが戦って、日本シリーズ出場を勝ち取る、プレーオフを導入した。
今年は、巨人、中日、阪神が進出し、二位の中日と三位の阪神が一回戦で激突。
中日が連勝し、ペナント一位の巨人と戦うことになる。
3351投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時25分22秒
「ふふふ…。わかってないなぁ…。今までのパ・リーグのプレーオフを見てみると…中日みたいに二位でプレーオフを戦ったチームが勝ち上がって、そのまま日本一になるケースが殆どなんだよ?」
「そんなん、偶然や!!偶然!!」
「違うよぉ…!やっぱり、勢いがつくんだって!!これで、中日の半世紀ぶりの日本一は、ほぼ決まりだね!!」
「うっさい!!第一な、ウチはクライマックス・シリーズなん、邪道やと思うとる!!あんなん、早いとこ、廃止して欲しいわ!!」
「だったら、今年は巨人の優勝になっちゃうよ?」
「ああ、それでええねん!!巨人も長いペナントを戦いきったんや!!42.195km走って、その後、上位3人で100メートル走って勝敗決めるんか?おかしいやん!!」
「まあ…確かにおかしいよね…。でも、ななみん…もし、阪神が勝ってても、同じこと言う?」
「ああ、言うな!!クライマックス・シリーズなんかで勝ち上がって日本一になっても、そない勝利、価値はない!!ウチは嬉しくも何ともないな!!」
「うっそだぁ〜〜〜!!それは、絶対にうっそだぁ〜〜〜!!」
藍は、七海を指差して笑った。
3352投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時26分08秒
「おはよう…。藤本さん。細川さん」
後ろから声を掛けられる。
花束を片手に持った有海だ。
「お!?あみ〜ご!!おはよう!!」
やはり、テンションの高い挨拶をする藍。
「やっぱり、細川さん、嬉しそうだね」
「おう、ありがとう!!あみ〜ご!!それ、私へのお祝いの花束?」
「違うよ。教室に飾るの!」
そう言って笑いながら、今度は七海の方を向く。
「…藤本さん…。残念だったね…」
心底哀れんでいる様な有海の顔に、七海はまた不愉快になる。
3353投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時26分18秒
「せやから…別に残念やないよ!!ウチが残念なんは、ペナント優勝できひんかったことや!!」
「じゃあ…昨日の試合に負けたことは…?」
「全然!!どうってことないよ!!」
「ウソをつくな…」
また、後ろから声を掛けられた。
声の主は、中村有沙だった。
「チ…チビアリ…!!」
七海の表情が変わった。
「貴様、阪神の敗戦が決まった途端、暴れまわって大変だったではないか」
「オ、オノレ…!!ばらすな!!」
七海は怒鳴ったが、もう遅かった。
藍が、腹を抱えて笑っている。
3354投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時27分04秒
朝の練習は、7時丁度に始まる。
8時には、初等部の生徒達が登校する為、素早く撤収しなければならない。
なので、1分でも無駄にしない様に5分前には集合する。
しかし、愛美と梓彩はソフトボール部の方に行ってしまった。
2年生を中心とした秋の大会が、10月下旬にある。
愛美と梓彩は、その主力として呼び戻されたのだ。
2人にとっては、おめでたい話しなのだが、やはり寂しいものがある。
藍が2年生になった時も、同じ様な寂しさを感じるのだろうか?
とにかく、キャプテンの愛美がソフトボール部の方へ帰ってしまったので、新しくキャプテンを決めなければならない。
「まさか、抜ける二人とは、愛美と梓彩のことか…?もう、2人はソフトボール部から帰って来ないとか…」
中村有沙は、独り言を言った。
3355投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時27分18秒
「何をブツブツ言ってるんですか?ありりん先輩!!」
藍が、後ろから声を掛ける。
「む?何でもない。さあ、投球練習をするぞ」
「はい。あ、そうだ!ありりん先輩!!私、ジャイロボールが投げられる様になりました!!昨日、マンボウズの練習を見てあげた時…」
「………偶然だ」
「そんなことないですって!!100球中、3球も投げられるんですよ!!」
「………それを偶然と言うのだ」
「でも、1試合に3球は投げられるペースですよ?」
「だから、その3球は、投げたい時に投げられるのか?」
「………いいえ…」
「それを、『偶然』と言うのだ。勉強になったか?」
3356投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時27分41秒
しかし、中村有沙はふと気付く。
「待て…!ジャイロボールとは、ストレートを投げた時、ボールの縫い目に指が引っ掛かって起きる変化球のことだな?」
「はい。そうです。何だ、ありりん先輩も勉強してるんじゃないですか」
「カーブやシュートと違って、握り方でどうこうできる変化球じゃないぞ?縫い目の無い軟式ボールで、どうやって投げた?」
「へ?勿論、硬式ボールで投げました」
「何!?硬式ボールで100球以上、投げたのか!?」
「はい。だって、高校からは硬式に変わるわけですし…今のうちに慣れておかないと…」
「貴様!!指を見せろ!!」
そう言いながら、藍の左手を掴む。
やはり、人差し指と中指に血豆が出来ている。
「この、バカもの!!ピッチャーのクセに、指先を痛めるとは何事だ!!」
怒鳴られた藍は、目をパチクリさせる。
「でも、何ともないですよ?ピッチャーに血豆なんて、付き物ですって…」
「………まったく…!いいか?貴様の身体は、自分一人のモノではないのだぞ?気をつけろ!!」
「…はい…」
どうも最近、中村有沙は野球部に対して熱心になってきた様な気がする。
人並み外れた個人主義だった彼女の変化…それは藍も嬉しいことなのだが、何か余裕というものが無くなってきたような気がする…。
藍は、胸騒ぎがした。
3357投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時28分50秒
7時55分頃、そろそろ初等部の子供達が登校してきた。
皆は、早めに練習を終えた。
あすみは、道具を片付け終った皆を集める。
「じゃあ、朝の練習はこれで終わりね。くれぐれも遅刻しないように。それから、今日の夕方の練習だけど…」
あすみは、一つ咳払いをする。
「私、大切な用事があって、来られません。だから、あなた達だけで練習できるかな?」
「え…?あすみん先生、どちらに?」
「うん…。ま…大切な用事としか言えないんだけど…」
「それは、野球部の練習よりも、大切ってことかい?」
七海のケンカ腰な物言いに、少し笑顔を見せるあすみ。
「どちらが大切かって言ったら…そりゃ、その用事の方だけど…どちらが好きかって言ったら、断然、野球部の方だよ」
あすみの顔は、普段よりも穏やかだった。
藍は、それにも違和感を覚えた。
「ま、大人ってのは、自分の好きなことばかりはできないんだよ」
そう言うあすみに、七海は反論する。
「そんなん、子供やって同じや!!子供、ナメんな!!」
「…そうだね…。ごめんよ…。で、私がいない時は、キャプテンに練習を見てもらいたいんだけど…」
そう…キャプテンの愛美は、ソフトボールの方に行ってしまった。
今の聖テレ野球部は、キャプテン不在なのだ。
「新しいキャプテンを決めてもらいたんだ…。今日の夕方の練習で」
3358投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時29分14秒
「だから、あい〜んでいいじゃん」
ジョアンが面倒くさそうに言う。
その言葉に、藍は慌てる。
「ですから、1年のキャプテンなんて、おかしいですよ!!ここは、やっぱり3年生の出番ですって!!」
3年生は、夏の大会で引退している。
聖テレでは、中等部から高等部にエスカレート進学する為、受験はない。
しかし、一応区切りとして3年生は部活を引退する。
だが、それでも後輩の練習相手として部活に残る3年生は多い。
ジョアンも中村有沙も、部に残っている。
ただ、成績に問題のない者だけである。
受験はない代わりに、進学試験がある。
それも普段の学業を見て、問題がなければ試験は免除される。
学年一位の中村有沙は当然、そのパターンだ。
いや、進学試験を受ける生徒の方が珍しい。
だが、学年最下位…断トツの最下位のジョアンは、その試験を受けなければならない身だ…。
しかし、ジョアンは高等部への進学が決まっている。
それは、スポーツ推薦。
ちひろと同じく、スポーツ推薦で聖テレ高等部に進学するのだ。
その部活は、ソフトボール部。
ジョアンの長打力の噂は、高等部のソフトボール部の監督の耳にも届いていたのだ。
3359投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時29分33秒
「だから、アタシはキャプテンなんて、柄じゃないんだって!!頭だって良くないし…」
「わ、私だって、バカですもん!!」
「アタシ、未だに因数分解、意味わかってないよ?」
「私だって、連立方程式、わかってません!!」
「アタシなんて、未だに一次関数、わかってないよ?」
「私だって、分数の計算、できません!!」
「…ああ…。そうなんだ…」
「………じょわん先輩…。そんな哀れみの目で見ないで…」
しばらく、居た堪れない空気が流れる…。
「あ!!そうだよ!!ありりん!!おまえがやれば?頭、超イイじゃん!!」
ジョアンは、中村有沙を指差す。
「私は、やらない」
即、彼女は断った。
「何で?最近、自己中キャラから、ようやく脱却できたのに!!」
藍は、思わず中村有沙に詰め寄った。
「貴様のその失礼極まりない発言は、多めに見てやる…」
中村有沙に睨みつけられた藍は、そそくさと身を退く。
「でも…何で、そこまでキャプテンをやりたがらないの?」
あすみも、不思議そうに訪ねる。
その質問に、中村有沙は、伏し目がちとなった。
3360投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時30分16秒
「………未来のある者に…任せた方がいいと思う…」
「未来って…!!ありりん先輩だって、充分未来あるでしょ!?」
藍が、また中村有沙に詰め寄る。
「何か、もうすぐ死んじゃう人みたいじゃないですか!!」
「いや…そういう意味ではない…。私やジョアンは、あと半年足らずで中等部を卒業するのだ。だから、3年生にこだわる必要はないだろう?」
その意見に、皆は一応納得する。
「だったら…やっぱり、あい〜んがいいんじゃない?」
エマも、藍を推薦する。
「で、でも…私も、ソフトボール部からのレンタル移籍だよ?まにゃ先輩達みたいに、長く離れることになるかもしれないし…」
どうやら、新キャプテンは簡単には決まらない様子だ。
「うん、じゃあ、夕方の練習が始まった時に、みんなで話し合って考えて。じゃあ、早く制服に着替えて教室に行きな」
あすみに急かされて、皆はクラブハウスに行き、着替え始める。
有海は、急いで着替え、いち早くクラブハウスを出ようとする。
3361投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時30分27秒
「一木さん、何をそんなに急いどるん?」
七海の問いに、有海はドアを片手で押さえ、花束を高く掲げる。
「早く花瓶に入れなくちゃ…。枯れちゃう」
そして、急いでクラブハウスを後にする。
「あみ〜ご、C組で、お花係なの?」
エマが七海に尋ねた。
「いや…。大体、一木さんが持って来てんねんけど…」
最近、教室の雰囲気が良くないからと、有海は何かと花を飾る。
(そんなんしても、雰囲気は変わらへんよ…)
未だに、クラスでは有海に対するいじめは止んではいない。
3362投稿者:リリー  投稿日:2008年08月23日(土)21時33分46秒
3346さん
はい、この作品は『R&G』シリーズの集大成のつもりで書きました
でも、もしかしたら番外編とか、書くことになるかもしれません

3349さん
いえいえ、こちらこそ、コメント感謝しています

今日から、第三試合(最終話)の始まりです
でも、前二試合よりも長くなる予定ですので、飽きずにお付き合い下されば嬉しいです

では、おちます
3363投稿者:更新お疲れ様です  投稿日:2008年08月23日(土)21時50分00秒
有海のいじめは未だ無くなってないんだ
でも有海も野球部に仲間もいるし強くなったから
解決するのかな
3364投稿者:117  投稿日:2008年08月23日(土)22時05分20秒
この第3試合を書いたのは、昨年のクライマックスシリーズの頃ですか?
パ・リーグの例を挙げてみると、僕が応援しているホークスは1位を取り続けているのに、
クライマックスで毎回負けてしまっています。どうにかならないものか・・・?

ということで、第3試合スタート!でもなんか、「聖テレ野球部」にさっそく不穏な空気が漂っているような・・・!?
続きも楽しみです!これからも頑張ってくださいね!!
3365投稿者:あげ  投稿日:2008年08月24日(日)23時02分04秒
     
3366投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時29分57秒
すみません
遅くなりました
映画の『デトロイト・メタル・シティ』を観に行ってきました
漫画も大好きだったので、期待して行きました
最高のバカ映画でしたよ
私は好きでした

3363さん
この小説は、有海の成長がテーマでもあります
でも、まだ試練を乗り越えなければなりません
見守って下さい
117さん
クライマックスシリーズは、どうにかならないですかね?
中日も3位についていれば、日本シリーズに出場するチャンスが与えられますが、ここまで離されれば阪神が行くのが当然です
117さんの無念、想像に難くないです
ソフトボールも、ヘンテコなルールでしたが、あれはアメリカが提示したルールなんですってね
アメリカは最強なんだから、わざわざ、あんなルール(ページングシステムでしたっけ?)にしなくてもいいのに…
まあ、日本は2度もリベンジの機会を与えられて金メダルですから、めでたいですね
3365さん
あげ、ありがとうございます
では、更新します
3367投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時30分55秒
有海が教室に入った時、そこには既に数人の生徒がいた。
有海をいじめている、5人グループもいる。
5人は、元々バスケットボール部に所属していたが、今は幽霊部員となっている。
おそらく、朝の練習にも行っていないだろう。
「おはよう」
有海は挨拶をしたが、誰も返事をしない。
5人グループの者達は、有海の姿を見た途端、ヒソヒソ話しをし始める。
有海はあえて気にしないように、花瓶の花を取り替える。
「ねぇ、有海。あんた、まだ野球部やってんの?」
いじめグループのリーダー格が、声を掛けた。
「うん…」
有海は短く、必要最低限の言葉で返事する。
「選手として出たってほんと?」
「…うん」
「虹守中の野球部と試合したんだって?」
「…うん」
「それで、虹守中に勝ったんだって…?」
「…うん」
グループの者達は、一斉に「ウソくせぇ〜」と笑った。
3368投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時31分30秒
「有り得なくない?虹守中に勝つなんてさ…」
「噂では、バーンズ君も投げたらしいよ?」
「それってさ、絶対に手を抜いてるよね」
「だったら、女子のチームに負けるはずないもん」
「あ…もしかしたら…」
リーダーは、意地悪そうに有海を見る。
「色仕掛けで迫ったんじゃない?『勝たせて下さいよ〜』って…」
有海の、花を取り替える手が止まった。
「あ〜…野球部、美少女揃いだもんねぇ〜…。あいつ等に迫られたら、そりゃコロっていっちゃうわ!!」
グループは、手を叩いて大笑いした。
「中田先生が監督でしょ?相手の監督に接待したんじゃないの?大人の接待…」
「何よ?大人の接待って…」
5人は、顔を寄せてヒソヒソ話しをしている。
そして、「ギャハハハ」と下品に笑う。
3369投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時31分51秒
「…あの…」
有海は、勇気を出して声を掛けた。
しかし、彼女等の笑い声で掻き消される。
「…あの!!」
思ったより、大きな声が出た。
5人は、一斉に有海を見た。
「う…」
一瞬、有海はひるんだが…もう、引き下がれないと覚悟を決める。
3370投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時32分16秒
「あの…」
「何?何か用?」
威圧の目で見る、いじめグループのリーダー…。
「あの…。私のことはいいんです…。いくらバカにされても…。慣れてますし…」
「はぁ…?」
皆は、半笑いの表情を浮かべる。
「でも…野球部のみんなのことは…悪く言わないで下さい…。そして…中田先生のことも…」
「何言ってんの?」
「うわ!何、コイツ…カッコつけてる…」
「美しい友情ってヤツ…?」
皆は、有海の言葉を、まともに受け止めようとしない。
有海は、それでも言葉を伝える。
「…バカにしないで下さい…」
「え?」
「…バカにしないで下さい…。私達を…。虹守中の人達を…」
皆は、ようやく黙った。
「あの試合をバカにしないで下さい…。みんな、一生懸命にがんばったんです…。バーンズさんだって…足を怪我しても、最後までがんばったんです。最後まで、私達と全力で戦ってくれたんです…」
「…ちょっと…。何、偉そうに説教してんのよ?」
グループの者達は、ガタガタと席を立つ。
有海は一瞬、足を一歩退いたが、思いとどまる。
(落ち着いて…。勇気を出して…。フライを捕るのと一緒…)
3371投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時32分57秒
有海は、深呼吸して、再び口を開く。
「みんなも…早く夢中になれるものを見つけたらいいのに…」
「はぁ…!?」
今度は、眉間にシワを寄せて、威圧をしてきた。
「好きなこと見つけて…一生懸命に頑張れば…人をバカにしたり、いじめたり…そんなヒマなくなるよ…」
「何、言ってんの?」
もう、リーダーの顔からは、笑みは消えている。
「私だって…もう、前よりかは、気にならなくなっちゃった…。あなた達のこと…」
「………!?」
グループの者達は、言葉を失った。
3372投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時33分12秒
「あなた達、今、バスケ部に行ってないんでしょ?戻りなよ。そして練習を頑張れば、いじめなんてしなくても、学校は楽しく…」
「うるせぇんだよ!!」
リーダーは、有海を突き飛ばす。
有海の腰がテーブルにぶつかり、その上に乗せてあった花瓶が、衝撃で床に落ちた。
そして、花瓶は粉々に砕けた。
「七海や細川と一緒にいるからって、何、気ぃ大きくしてんだよ!!小物が!!」
リーダーは、有海の胸座を掴む。
「てめぇごときが、偉そうなこと抜かしてんじゃねぇ!!」
有海の目に、みるみるうちに涙が溜まってきた。
自分の口癖…『ごめんなさい』が、もう少しで口から出そうになった。
しかし、有海はそれを押し込んだ。
『ごめんなさい』と言えば、それでアウトなのだ…。
3373投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時33分36秒
「おい、土下座して謝れ!!そしたら、許してやるよ…」
グループの者が、有海を取り囲む。
「謝れよ!!」
「謝れ!!」
皆が、口々に怒鳴り散らす。
有海は、一瞬廊下に目をやる。
まだ、七海や藍は教室に来ない…。
「おい!!何処見てんだよ!?」
「ナメてんのか!?」
今度は、小突き始めた。
しかし、有海はもう、廊下を見るのをやめた。
ここは、自分が何とかしなければならない。
自分の守備範囲なのだ。
「…謝りません…」
「あぁ!?」
「私…間違ったこと…言ってません…」
「…!?てめぇ!!」
リーダーは、有海を床に叩き付けた。
倒れた有海は、花瓶の破片が散らばった床に、手を着いた。
掌に、破片が突き刺さった。
3374投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時33分58秒
「い…痛い…!!」
有海は、血の滴る右手を押さえてうずくまる。
「う…」
皆は、顔を青くして一歩下がった。
しかし、リーダーは動じない。
「何、びびってんの?こんなの、かすり傷じゃん」
そして、舌打ちをして有海から離れる。
「いいか?覚えておけよ?謝らなかったこと…後悔させてやるからな…」
グループの者達は、教室から出て行った。
そして有海も、ノロノロと立ち上がると、教室から出て行く。
「ほ、保健室に…行ってくるね…」
誰も、有海に付き添おうとはしない。
有海は、廊下で七海と藍に会った。
「ん…?ど、どないしたん!?一木さん!!」
七海は、有海の右手の血を見て、目を丸くして駆け寄った。
「うわ!!凄い血…!!な、何があったの?」
藍も、心配そうに駆け寄った。
「へ…へへ…。花瓶、ひっくり返しちゃって…」
青い顔で、精一杯の笑顔をつくる有海。
七海は、有海がウソをついていると、一瞬で見破った。
3375投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時35分00秒
「細川さん…!一木さんを…保健室へお願い…!!」
「ほ、保健室…?」
藍は、保健室と聞いて一瞬、気後れした。
養護教員の、中川翔子の顔を思い出したからだ。
いつか、マッサージという名目で、彼女に下半身を裸にされたことがある。
しかし、有海の右手の怪我は、尋常ではない。
「わかった…!あみ〜ご…。さあ、早く行こう…」
優しく有海の肩を抱き、保健室に向かう藍。
「あ…!ななみんは…?ななみんは一緒に行かないの?」
藍が振り返った時、七海は一目散に教室へと駆け出していた。
「細川さん…。大丈夫だから…。一人で行けるよ…」
「ダ、ダメだよ…!心配だから、一緒に行くよ…」
手の怪我だから、まさか裸にはされないとは思うが…藍は有海を一人で保健室に連れて行くのは心配だった。
保健室に着いた二人は、ドアをノックする。
「は〜い」
翔子の声…。
「失礼します!」
藍は、一呼吸して、ドアを開ける。
そこには翔子だけでなく、野球部の顧問の、あすみもいた。
藍は、安堵の息をつく。
3376投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時35分40秒
「ど、どうしたの?その怪我…」
さすがのあすみも、有海の手の出血を見て慌てている。
「ちょ、ちょっと…花瓶を割っちゃって…その上にコケちゃったんです…」
有海は、七海に言った言い訳を、繰り返した。
「とりあえず、こっちに座りなさい」
翔子は、別段慌てる様子もなく、落ち着き払った声で言う。
それはそれで、養護教員として頼もしい。
3377投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時35分56秒
「ん?あす…中田先生…。どうしたの?」
翔子は、あすみを見上げる。
「まだ話しは終わってないから…。ここで待ってるよ…」
「ああ…今日のこと…?じゃあ、そこで待ってて…」
あすみは、言われるままソファーに座ると、腕を組んでじっと翔子を見る。
まるで、彼女を見張っているかの様だ。
とりあえず、翔子はガーゼを消毒薬に浸し、有海の右手の血を拭き取る。
「ああ…。毛細血管の集まっている指先の怪我だから、出血が派手になってるだけよ。傷自体は、大したことないわね…」
「あ…あの…。私、野球部なんですが…練習は…?」
「練習?そんなの、ダメに決まってるでしょ?」
「ど、どれくらいですか…?」
「う〜ん…。一週間くらいかな…」
「い…一週間ですか…」
ボールを使った練習が、一週間できない…。
有海は、力なくうつむいた。
3378投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)00時36分22秒
今日は、これでおちます
3379投稿者: 投稿日:2008年08月25日(月)00時42分50秒

3380投稿者:珠緒に仕返しを止められた七海も  投稿日:2008年08月25日(月)01時17分02秒
今度こそ堪忍袋の尾形大作でしょう
3381投稿者:有海強くなってきましたね  投稿日:2008年08月25日(月)10時22分47秒
なんか嬉しいです
親みたいですね(笑)
3382投稿者:この小説読むと  投稿日:2008年08月25日(月)12時12分53秒
本当にいじめってくだらないし、かっこ悪いって思えるよ
3383投稿者: 投稿日:2008年08月25日(月)14時33分40秒
3384投稿者:117  投稿日:2008年08月25日(月)15時00分25秒
いつもいじめられているだけだった有海・・・野球部を通して、少し強くなりましたね。すごいなぁ・・・。
一方で保健室、翔子先生とあすみ監督の密談?続きも楽しみです!
3385投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)20時56分03秒
3380さん
尾形大作って歌手でしたっけ?
今回、七海も黙ってはいませんが、それで解決につながらないんですよね
3381さん
嬉しいコメントですね
これからも、親の様な目で見守ってあげてください
3382さん
そう言ってくださると、書いている甲斐があります
117さん
今日、その密談が明らかになります
ですが、有海が強くなったことで(いつも通りに謝らなかったことで)、とんでもない事態に巻き込まれてしまいます
それは、その内書かれると思います

では、更新します
3386投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)20時57分08秒
「では…失礼しました…」
有海と藍は、保健室を出た。
しかし、藍は保健室のドアに耳を着けた。
「ど、どうしたの?細川さん…」
「し…!さっき、しょこたんが言ってたでしょ?今日のことって…。もしかしたら、あすみんの大切な用事って何かな〜って…」
「ぬ、盗み聞きなんて…!」
「し…!あみ〜ごも、おいで…」
有海も、渋々ドアに耳を近づける。
あすみと、翔子の会話が聞こえる。
まずは、翔子の声。
「それにしても…。本当にやるのかな?楠本さんと…」
(楠本さん…?)
知らない名前だ。
「仕方ないだろ?弥勒姉さんが息巻いてるんだ…」
そして、あすみの声…。
(弥勒姉さん…?)
また、知らない名前…。
「私達は、弥勒姉さんに逆らえないんだから、言う通りにしなきゃならないよ…」
どうやら、その弥勒姉さんとやらは、相当恐い人らしい。
あすみが、逆らえないとは…。
(それが、今日の用事なのかな…?)
3387投稿者:つまんないね  投稿日:2008年08月25日(月)20時57分13秒
 
3388投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)20時57分37秒
藍は、更に耳をドアに近づける。
「でもさ、弥勒姉さんよりも、恵ちゃんの方が凄いよ」
「恵が…?恵は、楠本よりも、ダーブロウに恨みがあるんだろ?」
恵…?ダーブロウ…?
(ん…?ダーブロウ…?外人…?あれ…ダー…ブロウ…?どっかで聞いたっけ…?)
「ま、楠本はいろんな所で恨み買ってるからな…。あいつの自業自得さ…。でも…」
あすみの言葉が、重く沈んでいく…。
「無事で済むとは思えないよ…。私達…」
(…!?)
無事で済むとは思えない?
どういうことだ?
一体、あすみの用事とは、何なのだ…?
「まあ、加藤組のことは、山本から依頼されたことだから、やらなきゃならないことなんだけどさ…」
(加藤組…?山本…?)
どうやら、その用事とは、山本という者から頼まれたことなのだろうか…?
3389投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)20時58分13秒
「あ…!みのぽーからの情報だけど、楠本さん、今左肩を怪我してて、全力で戦えないってさ…」
(みのぽー?外人?それとも、あだ名…?)
「楠本が怪我…?本当かい?それなら、私達にも勝ち目はあるね…!」
「それに、今回、強力な助っ人が来るそうだよ…」
「助っ人…?」
「みのぽーが、勧誘に成功したって!!」
「マジで?あ…怪我で思い出した…。恵のヤツ、怪我はどう?ダーブロウにやられた、左腕…」
「ん?まだギプスが取れない状態だよ。それでも戦うって、恵ちゃん言ってるけど…」
「ふ〜ん…。ま、あいつがどうなろうと、私は知ったことではないけどね…」
(ん?どうやら話しが見えてきたぞ…?)
藍が、そう考えた時だった。
「コラ!!細川!!何やってんの!?もうすぐ、チャイム鳴るよ!!早く、教室に行く!!」
藍のクラス、1年A組の担任、近藤春菜が赤いジャージ姿で仁王立ちしている。
3390投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)20時58分23秒
(や、やば…!こんどんだ…!!)
藍と有海は、一目散に、保健室のドアから離れた。
ドアが勢い良く開く。
あすみが、顔を出す。
そして、バタバタと駆けて行く、藍と有海の後姿を見る。
「あれ…?もしかして…聞いてた?まずいなぁ…。学校なんて平和的な所にいるから、随分、感が鈍ってきてるなぁ…」
あすみは、頭を掻いて翔子を睨む。
「あんた、何で気がつかなかった?」
「それは、あすみも同じでしょ?それに、私、戦闘要員じゃないもん…」
翔子は頬を膨らませた。
3391投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)20時58分44秒
「では…失礼しました…」
有海と藍は、保健室を出た。
しかし、藍は保健室のドアに耳を着けた。
「ど、どうしたの?細川さん…」
「し…!さっき、しょこたんが言ってたでしょ?今日のことって…。もしかしたら、あすみんの大切な用事って何かな〜って…」
「ぬ、盗み聞きなんて…!」
「し…!あみ〜ごも、おいで…」
有海も、渋々ドアに耳を近づける。
あすみと、翔子の会話が聞こえる。
まずは、翔子の声。
「それにしても…。本当にやるのかな?楠本さんと…」
(楠本さん…?)
知らない名前だ。
「仕方ないだろ?弥勒姉さんが息巻いてるんだ…」
そして、あすみの声…。
(弥勒姉さん…?)
3392投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)20時58分52秒
階段の踊り場で、一息をつく藍と有海。
「ふぅ…。焦ったぁ…。でも、これであすみんの用事ってのがわかったよ」
「え…?わかったって…?」
有海は、首を傾げて聞く。
「うん。草野球だよ。草野球!!」
「草野球…?」
「まず、あすみんとしょこたんは、弥勒姉さんって人のチームに所属してて…そのチームの監督が、山本さんって人…」
「うん…」
「で、加藤組ってチームと今夜、ナイターで試合をするんだよ」
「うん…」
「そのチームには、楠本さんって人と、ダーブロウって助っ人外国人がいて、その2人がめっぽう強い!!」
「うん…」
「で、いつも、その楠本さんって人にやられてて、恵って人も、ダーブロウからデッドボールかなんか受けて、左腕を怪我してる」
「うん…」
「しかし、その楠本さんが左肩を故障してて、全力でプレイできない。しかも、みのぽーって人が強力な助っ人を連れてくる…!」
「うん…」
「で、今夜がリベンジのチャンスだから、あすみん達は、無理矢理、弥勒姉さんって人に試合に引っ張り出されるってわけ…」
「なるほど…。凄い、細川さん…!あれだけの会話で、全て理解するなんて…。本当は、頭良いんだね…」
藍は有海に褒められて、背中を仰け反らせて胸を張った。
3393投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)20時59分04秒
「恵が…?恵は、楠本よりも、ダーブロウに恨みがあるんだろ?」
恵…?ダーブロウ…?
(ん…?ダーブロウ…?外人…?あれ…ダー…ブロウ…?どっかで聞いたっけ…?)
「ま、楠本はいろんな所で恨み買ってるからな…。あいつの自業自得さ…。でも…」
あすみの言葉が、重く沈んでいく…。
「無事で済むとは思えないよ…。私達…」
(…!?)
無事で済むとは思えない?
どういうことだ?
一体、あすみの用事とは、何なのだ…?
「まあ、加藤組のことは、山本から依頼されたことだから、やらなきゃならないことなんだけどさ…」
3394投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)20時59分28秒
1年C組の担任、佐藤珠緒が教室に向かおうと、渡り廊下に差し掛かった時、怒鳴り声に気がつく。
その声は関西弁…間違いない…我がクラスの藤本七海だ。
駆け足で、その現場まで行く。
七海は、5人の生徒達にたった一人で向かい合っている。
「ど、どうしたのぉ〜、藤本さ〜ん…」
緊迫した雰囲気が、珠緒の平和ボケした声で台無しになった為、七海は思わず舌打ちした。
「珠緒ちゃん!!何とかして下さいよ!!私達、七海に因縁つけられたんですから」
その5人グループのリーダー格が、珠緒に訴える。
「い、因縁?ど、どういうこと?」
珠緒は、七海の顔を覗き込む。
3395投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)20時59分38秒
そして、バタバタと駆けて行く、藍と有海の後姿を見る。
「あれ…?もしかして…聞いてた?まずいなぁ…。学校なんて平和的な所にいるから、随分、感が鈍ってきてるなぁ…」
あすみは、頭を掻いて翔子を睨む。
「あんた、何で気がつかなかった?」
「それは、あすみも同じでしょ?それに、私、戦闘要員じゃないもん…」
翔子は頬を膨らませた。
無事で済むとは思えない?
どういうことだ?
一体、あすみの用事とは、何なのだ…?
「まあ、加藤組のことは、山本から依頼されたことだから、やらなきゃならないことなんだけどさ…」
3396投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)20時59分40秒
「どうもこうもないよ!!こいつ等、一木さんに怪我させたんや!!」
「…え?い、一木さんが…怪我…?」
もう一度、5人の顔を見る珠緒。
「だから、その証拠はあるの?」
余裕の笑みで応える、グループの者達。
「クラスのみんなに聞いてみなよ。勝手に有海がコケたんだって」
「そんなん、みんな口裏合わせるに決まってるやん!!クラスのみんなで、一木さんをいじめてるんやさかい!!」
珠緒は、困った顔でオロオロしている。
「と、とにかく…教室に入ろう…。一木さんが戻ってきてから、詳しく話しを聞くから…」
5人グループの者達は、口々に文句を言いながら教室に戻る。
「先生…。一木さんが、本当のこと言うわけないやん…」
七海は、5人の背中を悔しそうに眺めた。
3397投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)21時00分12秒
「それに、今回、強力な助っ人が来るそうだよ…」
「助っ人…?」
「みのぽーが、勧誘に成功したって!!」
「マジで?あ…怪我で思い出した…。恵のヤツ、怪我はどう?ダーブロウにやられた、左腕…」
「ん?まだギプスが取れない状態だよ。それでも戦うって、恵ちゃん言ってるけど…」
「ふ〜ん…。ま、あいつがどうなろうと、私は知ったことではないけどね…」
(ん?どうやら話しが見えてきたぞ…?)
藍が、そう考えた時だった。
「コラ!!細川!!何やってんの!?もうすぐ、チャイム鳴るよ!!早く、教室に行く!!」
七海は、5人の生徒達にたった一人で向かい合っている。
「ど、どうしたのぉ〜、藤本さ〜ん…」
緊迫した雰囲気が、珠緒の平和ボケした声で台無しになった為、七海は思わず舌打ちした。
「珠緒ちゃん!!何とかして下さいよ!!私達、七海に因縁つけられたんですから」
その5人グループのリーダー格が、珠緒に訴える。
3398投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)21時00分49秒
「だから、その証拠はあるの?」
余裕の笑みで応える、グループの者達。
「クラスのみんなに聞いてみなよ。勝手に有海がコケたんだって」
「そんなん、みんな口裏合わせるに決まってるやん!!クラスのみんなで、一木さんをいじめてるんやさかい!!」
珠緒は、困った顔でオロオロしている。
「と、とにかく…教室に入ろう…。一木さんが戻ってきてから、詳しく話しを聞くから…」
5人グループの者達は、口々に文句を言いながら教室に戻る。
「先生…。一木さんが、本当のこと言うわけないやん…」
七海は、5人の背中を悔しそうに眺めた。
「ま、楠本はいろんな所で恨み買ってるからな…。あいつの自業自得さ…。でも…」
あすみの言葉が、重く沈んでいく…。
「無事で済むとは思えないよ…。私達…」
(…!?)
3399投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)21時01分12秒
「みのぽーが、勧誘に成功したって!!」
「マジで?あ…怪我で思い出した…。恵のヤツ、怪我はどう?ダーブロウにやられた、左腕…」
「ん?まだギプスが取れない状態だよ。それでも戦うって、恵ちゃん言ってるけど…」
「ふ〜ん…。ま、あいつがどうなろうと、私は知ったことではないけどね…」
(ん?どうやら話しが見えてきたぞ…?)
藍が、そう考えた時だった。
「コラ!!細川!!何やってんの!?もうすぐ、チャイム鳴るよ!!早く、教室に行く!!」
七海は、5人の生徒達にたった一人で向かい合っている。
3400投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)21時01分55秒
有海は、首を傾げて聞く。
「うん。草野球だよ。草野球!!」
「草野球…?」
「まず、あすみんとしょこたんは、弥勒姉さんって人のチームに所属してて…そのチームの監督が、山本さんって人…」
「うん…」
「で、加藤組ってチームと今夜、ナイターで試合をするんだよ」
「うん…」
「そのチームには、楠本さんって人と、ダーブロウって助っ人外国人がいて、その2人がめっぽう強い!!」
「うん…」
「で、いつも、その楠本さんって人にやられてて、恵って人も、ダーブロウからデッドボールかなんか受けて、左腕を怪我してる」
「うん…」
5人グループの者達は、口々に文句を言いながら教室に戻る。
「先生…。一木さんが、本当のこと言うわけないやん…」
七海は、5人の背中を悔しそうに眺めた。
「しかし、その楠本さんが左肩を故障してて、全力でプレイできない。しかも、みのぽーって人が強力な助っ人を連れてくる…!」
「うん…」
3401投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)21時05分43秒
すみません
一旦、おちます
3402投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)21時57分52秒
3392の次から、更新しなおします
3403投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)21時58分34秒
1年C組の担任、佐藤珠緒が教室に向かおうと、渡り廊下に差し掛かった時、怒鳴り声に気がつく。
その声は関西弁…間違いない…我がクラスの藤本七海だ。
駆け足で、その現場まで行く。
七海は、5人の生徒達にたった一人で向かい合っている。
「ど、どうしたのぉ〜、藤本さ〜ん…」
緊迫した雰囲気が、珠緒の平和ボケした声で台無しになった為、七海は思わず舌打ちした。
「珠緒ちゃん!!何とかして下さいよ!!私達、七海に因縁つけられたんですから」
その5人グループのリーダー格が、珠緒に訴える。
「い、因縁?ど、どういうこと?」
珠緒は、七海の顔を覗き込む。
3404投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)21時58分52秒
「どうもこうもないよ!!こいつ等、一木さんに怪我させたんや!!」
「…え?い、一木さんが…怪我…?」
もう一度、5人の顔を見る珠緒。
「だから、その証拠はあるの?」
余裕の笑みで応える、グループの者達。
「クラスのみんなに聞いてみなよ。勝手に有海がコケたんだって」
「そんなん、みんな口裏合わせるに決まってるやん!!クラスのみんなで、一木さんをいじめてるんやさかい!!」
珠緒は、困った顔でオロオロしている。
「と、とにかく…教室に入ろう…。一木さんが戻ってきてから、詳しく話しを聞くから…」
5人グループの者達は、口々に文句を言いながら教室に戻る。
「先生…。一木さんが、本当のこと言うわけないやん…」
七海は、5人の背中を悔しそうに眺めた。
3405投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)21時59分18秒
授業が終わって、部活の時間となる。
しかし、野球部の面々はクラブハウスに集合したまま表に出ない。
今から、愛美が戻ってくる間のキャプテンを決めなければならないのだ。
中村有沙の意見によって、やはり1年生から選出することになった。
来年度からは、当然3年生の中村有沙とジョアンは高等部に進学してしまうし、2年生の愛美と梓彩もほとんどソフトボール部に行ってしまうことになるだろう…。
つまり、そのキャプテンが、来年度以降、キャプテンを務めることになる。
候補は、藍、七海、梨生奈、エマ、エリー、そして有海だ。
藍は、愛美と同じく、ソフトボール部からのレンタル移籍…もし、彼女をキャプテンにしてしまったら、その時にまた決め直さなければならなくなる。
二度手間だ。
それならば、文句なしに梨生奈なのだろうが…今は怪我で学校に来られない。
まだ、両腕、両足のギプスが取れない状態なのだ。
取れたとしても、リハビリに長い時間を要する。
「ち…!羅夢のヤツ…」
七海は、思わず愚痴をこぼす。
「推薦、いいか?」
中村有沙が手を挙げた。
3406投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)21時59分40秒
「何?ありりん先輩…」
藍の言葉に何も答えずに、パイプ椅子から立ち上がった中村有沙は、ゆっくりと七海の後ろまで歩く。
そして、七海の肩に手を置いた。
「あん?」
思わず七海は振り返った。
「私は、七海をキャプテンに推薦する」
「はあ!?な、何言うとんねん!?」
一番驚いているのが、七海である。
まさか、中村有沙が自分を推薦するとは…。
「この中で、一番、野球というもの愛しているのは、藍と七海だ。有海もルールには詳しいが、如何せん歴史が浅すぎる…」
中村有沙は、ゆっくりと説明していく。
「だが、藍はソフトボール部があるし、精神が脆過ぎる。キャプテンという立場より、プレイヤーとして集中させた方がいい」
そして、エマとエリーを見詰める。
「この2人はダメだ。まだ、お互いのことにしか関心がない。キャプテンなど、務まらない…」
「ふん!!別にやりたくないよ!!」
エマは、中村有沙に向けて舌を出した。
「だから、消去法なのだが…決してベストではないのだが…ここは、七海が一番良いと思う」
「な、なんか、奥歯に物が挟まった言い様やな?仕方ないから、ウチがキャプテンかい?」
七海は、正直面白くなかった。
「貴様も、成長するチャンスだ」
中村有沙は、務めて冷静に言った。
3407投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)22時00分04秒
「あん?成長?」
「ああ…。おまえは、今まで下の立場で好き勝手暴れまわってきた…。言うなれば、『永遠の妹』というやつだ…」
「『永遠の妹』…?」
「そろそろ、姉の立場も経験しろ」
「ど、どういうことや!?」
「…後は自分で考えろ…」
中村有沙は、自分の席に戻った。
(…?ありりん先輩…やっぱりおかしい…)
藍は、今朝感じた胸騒ぎを、再び覚えた。
だが、七海がキャプテンになるということに、皆は異論はなかった。
これで、愛美達が帰ってくるまでは、七海がキャプテンを務めることになった。
そして、来年度のキャプテンも…。
「じゃあ、新キャプテン!!何か、一言…!!」
藍が、七海を無理矢理立たせた。
七海は、心底困ったように頭を掻くが、やがて息を一つつくと、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「ほ、ほんまやったら…梨生奈が一番ふさわしい思うんやけど…。実は、春の時、ウチがキャプテンやったろうかな〜って…ちょっとだけ思ってん…」
そして、しばらく間を空ける。
「それで、何だって?」
ジョアンが野次をとばす。
「静かに聞け」
中村有沙がたしなめた。
3408投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)22時00分23秒
七海は、ようやく続きを話し始める。
「でも…みんなと練習して…そして、試合をやって…改めて思った…。ウチにキャプテンは無理やって…。でも…」
七海は、言葉を詰まらせた。
そして、有海の顔を見る。
「…?」
有海も、七海の顔を見る。
「みんなが…ウチを助けてくれるんなら…がんばれそうな気がする…。みんなが支えてくれるんやったら…」
「当然じゃん!!みんなで、助け合おうよ!!」
藍が笑顔で呼びかける。
しかし、七海の目には涙が溢れている。
「え…ななみん…?」
皆は、一様に動揺した。
七海が泣く…?
初めて見た…。
七海は、有海の前に歩み寄る。
「な…何…?藤本さん…?」
有海は、キョトンとした顔で七海を見上げている。
3409投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)22時01分11秒
「ウチ…。いつか…一木さんに…一人で学級委員を押し付けたこと…あったね…」
有海が、野球部に入りたいと言った時、七海は断ったことがあった…。
あの日以来、有海が野球のルールを全て憶えて正式に野球部に入るまで、一言も口を利かなかった…。
その間、有海は一人で学級委員として、クラスの悪意と戦っていた…。
一日も休むことなく…孤独に…。
3410投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)22時01分21秒
七海は、包帯が巻かれた有海の右手をそっと握った。
「一木さん…。一人で…不安やったろ…?悲しかったやろ…?恐かったやろ…?」
「…ふ…藤本さん…」
七海の涙が、有海の包帯に染み込んだ。
「堪忍…。一木さん…。堪忍して…」
有海は立ち上がって、七海の手をそっと包み込む。
「ううん…。そんなことないよ…。だって…その間も、藤本さんが私のこと、見守ってくれてたって…知ってたもん…」
七海は、首を横に振る。
「ちゃう…!!今朝も…ウチ、一木さんを守れなくて…。痛かったね…。堪忍して…」
七海は咽び泣いた。
有海も涙を流した。
そして、藍はもちろん、エマもエリーも、ジョアンまでも…。
中村有沙は、腕組みをしてじっと二人を見守る。
そして、こう呟いた。
「…だから…私は、おまえをキャプテンに推薦したのだ…」

(『一回・表』・・・終了)
3411投稿者:リリー  投稿日:2008年08月25日(月)22時02分24秒
今日は、これでおちます

次回から、『一回・裏』になります
3412投稿者: 投稿日:2008年08月25日(月)22時29分55秒

3413投稿者:七海のレベル  投稿日:2008年08月25日(月)22時41分54秒
一気に15くらいアップしてんちゃうん
3414投稿者:一七思い出した  投稿日:2008年08月25日(月)22時46分13秒
リリーさんはレズ表現も上手いけど
女同士の友情書くのも上手い
3415投稿者:巻き込まれるという事は  投稿日:2008年08月25日(月)22時50分01秒
裏にも登場なのだろうか?
藍も?
あと、「本当は、頭良いんだね…」って、なにげにアホ扱いされてたんだね(笑)
それに気付かずに藍は・・・(笑)
これからも、頑張って下さい
3416投稿者:気になるんだけど  投稿日:2008年08月25日(月)22時52分51秒
DDTの星(スター)って 藍のこと?
確か希望とかそう言う意味だったよね。野球部でありそこに入っているR&Gメンバーの希望になっている藍を引き抜いて……
3417投稿者:デジ  投稿日:2008年08月25日(月)23時12分12秒
始まりました!第三試合。(遅いですね、はい)
野球部に入ってから強くなりましたね、有海。
保健室でのあすみ先生と翔子先生の密談を聞いてしまった藍と有海。
R&G探偵社の者だったら一回だけで波乱になってましたね。あっそれじゃあ裏の話になっちゃいますね。(笑)
あすみ先生と翔子先生の密談。それ以前に怪しいですね。
部長決め…これって結構揉めるんですよね。(これなかった第三試合の一回目xの更新から)
打って変わった今日の更新変わった今日の更新。まさかの有沙の七海推薦。確かに、単純に考えれば藍か七海か梨生奈なるでしょうね。
七海の涙。最後の部分感動しました。有沙もあまり人に対する侮辱を言わなくなって…。本当に成長しましたね。七海と有沙。続きも楽しみです。
             (今日の小言)
夏休みが終わってしまうー。なのに宿題もやってない。小説も全然区切りがつけられない!さあ、どうしましょ(笑)
3418投稿者:デジ  投稿日:2008年08月26日(火)14時00分01秒
先ほど小説にクイズを乗せたのですが載せた読んでいない人もいると思いますので、読んでいない人用のクイズも掲載します。
今日の更新でアンジェラと言う人画登場しました。いったい誰の祖先でしょう?
勘を働かせて答えてください。
ヒントは「日本とアメリカのハーフ」です。

3419投稿者:117  投稿日:2008年08月26日(火)15時59分35秒
少々、途中で荒らし?が来たようで、一瞬混乱しましたが・・・
あらら、また奇想天外な藍の想像力・・・どうにかごまかせそう?
七海が涙ですか・・・いい話ですね。続きも楽しみです!
3420投稿者:素敵過ぎる締めですね  投稿日:2008年08月26日(火)21時07分46秒
言わぬが花というのでしょうか
多くを語らない中村有沙の最後のセリフにゾクッとしました
3421投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時10分33秒
3413さん
そうですね
有海だけでなく、七海も成長させなければ…と思いまして…

3414さん
どうも、ありがとうございます
私自身、女同士の友情に憧れているところもあります

3415さん、3416さん
この先のことは、また書かれることになります
そう、先の話しではありませんが…
藍のアホ扱いですが、やはり、学年最下位ですからね…
3422投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時12分17秒
デジさん
有海と七海だけでなく、有沙も変化をつけてみました
つまり、裏を返せば今まで通りいがみ合ってばかりいては、到底対応できない事態に陥ってしまうわけですね
夏休み、終わりますね
でも、私は終わってからいろいろ何処かへ行く予定なんですが…
クイズですが、男の子ですか?女の子ですか?
日本人とアメリカ人のハーフの戦士って、以外と少ないんですよね
多いのは、日本人とオージーのハーフですよね

117さん
そうですね
時々、こうなります
藍は、何でも野球にこじつけてしまいます
そこが、救われてるんですけどね

3420さん
ありがとうございます
そう言って下されば嬉しいです


では、更新します
3423投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時13分10秒
『一回・裏』

≪2007年10/15(月)≫
赤銅色の威圧的なレンガタイルが貼られた、五階建てのビル…その全ての階が、加藤組関連の会社で埋まっている。
その最上階に、加藤組の事務所は陣取っている。
大きなどっしりとしたテーブルを前に、黒い革張りの椅子に身を預け、組長の加藤浩次は高級ゴルフクラブを磨いている。
もっとも、加藤にとってはゴルフは接待用の趣味だ。
本当に好きなのはサッカーだ。
壁には、あらゆるルートから手に入れた、一流選手のユニフォーム、スパイク、サッカーボールが飾られている。
ユニフォームだけでも見てみると…中田、中村、小野、高原、稲本など、青い代表ユニフォームが並ぶ。
海外では、ジダン、ベッカム、デル・ピエロ、ロナウド、ロナウジーニョ、カカ、ルーニー、ファンニステルローイ…一流どころが勢揃いだ。
少なくとも、山本の趣味に比べれば、すいぶん健康的である。
加藤は高校生の時、地元北海道でDFとして代表にも選ばれたことがある。
しかし、相手選手のラフプレーにキレ、ピッチ上でその相手を半殺しにしてしまってから、サッカー界から追放…。
そのまま、ヤクザの世界に堕ちてしまった。
いつかベッカムのユニフォームを床に落とした組員を、サッカーゴールの前に縛り付け、その組員に向けて地獄のペナルティーキックを100本蹴り込んだのは、恐怖の伝説になっている。
そんな加藤の前に、楠本は久しぶりに現れた。
今日をもって、加藤組との契約が終わるからである。
3424投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時13分46秒
加藤は、磨いている途中のゴルフクラブを放り出し、満面の笑顔で迎えた。
「よお!!楠本!!最後に顔見せてくれて嬉しいぜ!!」
「いえ…組長の依頼を…最後まで果たせず、痛恨の極みであります…」
楠本は、神妙な面持で述べる。
加藤の依頼は、山本組を無力化し、加藤組の傘下にし、一大暴力団組織を2人で創ろう…というものだった。
しかし今、山本組組長、山本圭壱は、未成年略取と淫行の罪で警察から追われる身に…行方は知れない。
3425投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時13分58秒
「いや…いいんだ…。目の上のタンコブだった山本組を壊滅させるところで万々歳なんだ。これ以上の成果を求めるのは、贅沢ってもんよ…。ほんと、ご苦労だったな」
加藤は、素直に楠本を労った。
楠本は、再び頭を深く下げた。
「で…どうだい?肩の怪我の具合は…?」
楠本は、左腕を三角巾で吊っている。
先月…楠本はダーブロウ有紗と決闘をした。
その時の傷である。
腕を降ろすと、やはりその重みで左肩の傷がうずくのだ。
「お気遣い無く…。これは組長の依頼とは何の関係もない、私用での傷でございまして…」
「そうかい…。俺は、是非、おまえさんにうちの組にいてもらいたいんだけどよ…」
しかし、楠本は静かに首を横に振る。
「いえいえ…。我々の組織は、二重移籍はできません」
「レンタル移籍もか?」
「サッカー選手じゃないんですから…。あ、そうそう…サッカーで思い出しました。失礼します」
楠本は、近くのテーブルに黒いアタッシュケースを置くと、蓋を開けた。
中から、濃いワインレッドのサッカーユニフォームを取り出した。
3426投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時14分16秒
「ん?そりゃ、ポルトガルの代表ユニフォームじゃねぇか?」
「さすが、組長…。一目でお分かりになるとは…。で…誰の物かと申しますと…」
楠本は、そのユニフォームを広げた。
「ポルトガル代表、クリスティアーノ・ロナウドのサイン入りユニフォームでございます…」
「おお〜〜〜!!マジかよ!?マジかよ!?本物かよ!?」
加藤は、まるでクリスマスプレゼントを貰った子供の様に、飛び上がった。
「ええ…。依頼を完遂できなかった、せめてものお詫びでございます…」
「うえぇぇぇ〜〜〜!!いいのか?いいのか?貰っちゃうぞ?後で帰せっつっても、ダメだかんな!?」
加藤は、そのユニフォームを楠本から奪うと、強く抱きしめる。
楠本は、笑顔でただ頷くのみ。
「それでは…組長…。またのご依頼、お待ちしております…」
そして、楠本が事務所から出て行こうとした時、車の…それも大型車のクラクションの轟音が、鳴り響いた。
「…!?」
楠本は、加藤と顔を見合わせる。
加藤の表情が、鋭いものとなった。
楠本はあくまでも無表情で、事務所の窓から、階下を覗く。
そこには、自動車を運搬する車…キャリアカーが、事務所ビルの前に前向きに停められていた。
3427投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時15分21秒
「んん…?はて、何処のどなたでしょう…?」
キャリアカーには、一台も車を乗せていない。
仕事の途中とは思えない。
別の暴力団の襲撃だろうか?
事務所に、多くの加藤組組員がなだれ込んで来た。
「組長!!変なヤツ等が…」
「わかってる!!どこのどいつか、調べろ!!」
加藤は、机の引き出しから拳銃を取り出す。
楠本は、じっと階下のキャリアカーを見詰めている。
ドアが開く。
中から、3人…そして良く見ると、がら空きの荷台にも、2人の人間が乗っていた。
「うん…?あれは…?」
一目でわかった。
その5人は…全て、女だ…。
『エンプレス(女帝)』…後藤理沙。
『デス(死神)』…箕輪はるか。
『ストレングス(力)』…秋山恵。
『タワー(塔)』…中田あすみ。
『ラバーズ(恋人)』…中川翔子。
「あはは…。ボスの言ってた女難の相とは…このことか…」
楠本は、もう笑うしかなかった。
3428投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時15分43秒
事務所ビルから、2人の組員が出てきた。
何やら、が鳴り立てる声がする。
5人のうち、一人…秋山恵が、前に歩み出る。
「あ…まずい…」
楠本が呟いたと同時に、恵は2人のうちの一人に、ラリアートを喰らわせる。
それを喰らった組員は、後頭部をアスファルトに叩き付け、小刻みに痙攣しながら地面を転げまわる。
そして恵は、隣の男を片手で掬い上げると、そのままボディスラムで叩き付けた。
その男は、ピクリとも動かない。
恵は小刻みに痙攣している男の首に足を乗せると、力を入れて踏み折った。
その体勢のまま、恵は上を…五階から覗く楠本を睨み上げた。
「おい!!楠本!!出て来やがれ!!」
楠本は、目を瞑って、首を横に振る。
「う〜ん…。恵さん、やる気満々じゃないか…。でも、元気そうでなにより…」
そう言うと、加藤の方を振り向く。
「いいですか?表の5人は私が相手をします。組長はここに…。組員の皆さんは、全員、ここで組長を守って下さい」
「お、おい…!!一体、ありゃ、何者なんだ?」
「山本組です…」
「何!?」
「いいですか?絶対にここを動かれないように…」
そして楠本は、窓から身を乗り出すと、五階の高さから、そのまま下へと飛び降りた。
3429投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時16分28秒
まるで、跳び箱から降りたかの様に、軽々と着地する楠本。
彼の前に、5人の女が並んでいる。
楠本は、右から順番に女達の顔を眺める。
「革命の時だよ…。『エンペラー(皇帝)』…」
理沙が、余裕の笑みで言った。
恵は、獰猛な野獣の様な目で睨んでいる。
はるかは、相変わらず何を考えているのかわからない。
あすみは、冷静にじっとこちらを見据えている。
そして、翔子…。
「あ、私は戦わないから…。衛生兵ね、衛生兵…。非戦闘員は、殺しちゃダメよ?」
そう言って、翔子は一歩下がった。
3430投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時16分40秒
楠本は、軽く笑みを浮かべながら首を横に振る。
「あ…!!おまえのその仕草…私、すげぇ嫌いなんだよね!!」
恵は足を踏み鳴らして怒鳴った。
彼女の左腕は、ギプスで固められていた。
たしか、歌舞伎町でダーブロウ有紗と戦った時に、へし折られたと聞く。
「やれやれ…。タイミングの悪い方々ですねぇ…」
「タイミング…?何?それ…」
「私、今日で加藤組との契約が終わるんです…。だから、今日ではなく、明日襲撃すれば…」
「知ってるよ…」
はるかが、蚊の鳴く様な声で言う。
「…え?」
「知ってる…」
はるかは、ニヤリと笑うと…一本だけ黒く変色した前歯を見せた。
3431投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時17分25秒
楠本は、首を傾げる。
「それにしてもわからないな…」
「ふふ…。わからねぇか?」
恵は、不敵な笑みを浮かべる。
「ええ…。はるかさん…何で歯を治さないんですか?歯さえ綺麗になれば、相当美人になれると思うんですが…。ほら、顔の上半分だけ、堀北真希に似てるって言われません?」
楠本にそう言われ、はるかは頬を赤らめた。
しかし、恵は再び足を踏み鳴らす。
「わからねぇって、そっちかよ!!」
「え?どっちだと思ったんですか?」
「こ、この野郎…!!」
恵は楠本に掴みかからんとするが、理沙が押さえつけた。
「恵…!!この男のペースに巻き込まれないで!!」
そして、楠本の方を向く。
「教えてあげるわ。私達は、山本組長の依頼と、あなたへの復讐を同時に果たす…。だから、今日…あえて今日を選んだの…!!」
「復讐…?私に…?私は、ただ依頼を真面目にこなしただけなんですが…」
「あなたには…恨み辛みが幾重にも折り重なってる…。今回のことだけではないのよ…」
理沙は、日本刀をスラリと抜いた。
3432投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時17分48秒
楠本は、首をすくめて、今度はあすみに尋ねる。
「ふ〜ん…。で、あすみさんと、しょこたんは…どうして?」
あすみは、あくまでも無表情に、淡々と答える。
「私達は、別にあなたに恨みはない…。ただ、依頼通り、加藤組長を抹殺するだけ…。そして…」
そして、何やら重そうに右手を上げる。
「あなたが邪魔するなら、殺すだけ…」
あすみは、アスファルトに黒いバスケットボール大の鉄球を叩き付けた。
3433投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時18分10秒
黒い鉄球に…1メートル程の太い鎖…そして、金属製の30センチ程の長さの柄を握っている。
モーニングスター…これが、あすみの武器…。
長身から振り下ろす、鉄球の破壊力は凄まじいものがある。
鋭利な刃物と、凄まじい破壊力の鈍器…回避の仕方はそれぞれ違う。
この二つが同時に襲ってきたら…。
(少し面倒なことになりますね…)
そして、秋山恵と箕輪はるか…。
この2人のコンビネーションは、わかっている。
恵に、はるかが影のように寄り添う。
そして恵の肉弾戦の隙から、はるかがメスで切り裂く…。
(これも、厄介だなぁ…)
最後は、中川翔子…。
彼女は、少しくらいの怪我なら、あっという間に治療して、前線に復帰させてしまう…。
(ま、セオリー通りに攻めるなら、しょこたんから仕留めるのが先でしょうが…)
非戦闘員だと彼女は言ったが、戦場にいるのだ。
気遣いは無用だろう…。
だが、それは戦闘員の4人が許さないだろう…。
そして隙さえあれば、4人のうちの誰かが事務所に侵入し、加藤組長を暗殺するのだろう…。
自分が、山本組長の別荘を襲撃したのと、同じ作戦だ…。
楠本は、また笑ってしまった。
3434投稿者:リリー  投稿日:2008年08月26日(火)21時18分42秒
今日は、これでおちます

今日、「ほんこわ」で、有海が出てましたね
3435投稿者:楠本vs女5人!  投稿日:2008年08月27日(水)00時20分48秒
女難の相!
あすみの武器は、モーニングスター!

凄い展開になってきました
3436投稿者:モーニングスターって何ですか?  投稿日:2008年08月27日(水)00時33分31秒
 
3437投稿者:第2章でクリフトに装備させるでしょ?  投稿日:2008年08月27日(水)00時58分16秒
あれがそうです
3438投稿者:デジ  投稿日:2008年08月27日(水)01時44分45秒
最初から面白い裏舞台ですね。これも長そうですね。
ゴルフとサッカー…ゴルフが趣味と言うのは知っていましたがサッカー好きもほどがありますね、加藤さん。
元帥VS後藤さん、見のぽー、秋山さん、あすみ先生、翔子先生。
最初から「TDD」は争いですか…やる事が激しいこと(笑)
明日も登校するあすみ先生と翔子先生。ここで傷ついてたら怪しまれますね。続きも楽しみです!
             (今日の小言)
テレビ戦士って「ほんこわ」によく出ますよね。(今日見てないけど)
昼間も4チャンネルで拓巳とあかりとジーナが、「ラジかるっ」に出てたようですし。今日はテレビ戦士が久々にたくさん移ってたんですね。

あと、問題書くの忘れていたので、書きます。
藍は田、遼希は木、梨生菜は木、エリーは水、有海は一、、滉一は日、羅夢は田、有沙は|、ダーさんは夕(折角なのでこの小説に出てる人を選んでみました。)
では、七海は何でしょう?
まずは、ダーさん以外を考えてみると分かりやすいですよ。
この問題はノーヒントです。

もうひとつのほうのクイズのヒントです。
この小説の中にもいますよ!(先ほどの中にはいません。)
皆さんどうぞお考えください。僕の小説もよろしくお願いします。


3439投稿者: 投稿日:2008年08月27日(水)02時12分16秒

3440投稿者:裏は過激だなぁ  投稿日:2008年08月27日(水)02時19分36秒

3441投稿者:これがモーニングスター  投稿日:2008年08月27日(水)02時19分38秒
持ってるお姉さんは、気にしないで下さい(笑)
http://www.rivertop.ne.jp/rivertopsabu/omosiro/620.html
鉄球は、バスケットボール大ということですから、あすみ先生がどんだけ怪力か・・・(汗)
3442投稿者:ジャスミンの武器  投稿日:2008年08月27日(水)02時28分35秒
http://www.rivertop.ne.jp/rivertopsabu/omosiro/fen.html
3443投稿者:ありりんの武器  投稿日:2008年08月27日(水)02時29分25秒
http://www.rivertop.ne.jp/rivertopsabu/omosiro/buki/axs/kkamass1.html
3444投稿者:楠本・理沙・ちひろの武器  投稿日:2008年08月27日(水)02時32分08秒
http://www.rivertop.ne.jp/rivertopsabu/omosiro/buki/nihhhhon/tokin.html
3445投稿者:ダーさんの武器  投稿日:2008年08月27日(水)02時33分31秒
http://www.rivertop.ne.jp/rivertopsabu/nif/m9taiw.html

このカタログからは、こんなとこでしょうか
3446投稿者:恵の武器  投稿日:2008年08月27日(水)02時41分07秒
http://jp.youtube.com/watch?v=qN0B1kBgRrU
3447投稿者: 投稿日:2008年08月27日(水)02時44分00秒
ちなみに、動画の中でラリアートを喰らってる黒と黄色のタイツのプロレスラーが、2006年夏イベに出てたパラダイスKです
3448投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時50分51秒
おお!!この武器のカタログは役に立ちそうです
upありがとうございました
スタン・ハンセン、カッコいいですね
パラダイスK(川田さん)のやられっぷりも見てて気持ちがいいです
3437さん、3441さん、モーニングスターの解説、ありがとうございました
本来なら、私がしなければならないことですね
デジさん
「ラジかるっ」のことは知りませんでした
何で出たんですか?
天てれ関係ですか?
他チャンネルなのに?
できれば、詳しく教えてもらいたいです
クイズですが、この問題も難しいですねぇ…
名前の一部ですか?
3340さん
表と裏は、雰囲気を変えていきたいと思います
ですが、第三試合では『表』と『裏』が段々曖昧になっていきます

では、更新します
3449投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時52分05秒
「何が、可笑しいんだ!!てめぇ!!」
恵が、いきなり楠本にラリアートを喰らわせる。
ギプスをはめている、左腕でである…。
楠本は飛び上がって、恵の左腕に足を乗せた。
「…?硬い…?」
石膏で固めた硬さではない…何か、もっと重い…冷たい…金属?
楠本は、そのまま後ろに跳んだ。
恵は、構わず楠本に向かっていく。
加藤組の事務所前に植えられている街路樹の枝に、楠本は飛び乗った。
だが、恵は楠本の乗っている街路樹に、ラリアートを喰らわせた。
メリメリと軋んだ音がする…。
「マ…マジですか…?」
街路樹は真っ二つに折れて、ゆっくりと道路に倒れた。
それと同時に、楠本は前転しながらその場から逃れた。
ふと前を見詰めると、長い足が…。
その足は、ゆっくりと左足を上げる。
そしてそのままの姿勢で力を溜め込んでいるようだ。
まるで、野球のピッチャーのような恰好…。
3450投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時52分32秒
重い、金属の臭いが、楠本の頭上に感じられた。
「…!?」
今度は、楠本は後転で逃れる。
その直後、アスファルトが粉々に砕けた。
楠本は、視線を上へ…。
あすみが、剛速球を投げ終えたピッチャーの様に、右腕を振り下ろしている。
右手には、鋼鉄の柄…そして鎖…その先に付いているのが、黒い鉄球…。
「ふふ…。なんだ…打ち返さないの…?」
あすみは、ゆっくりと顔を上げる。
「打ち返す…?もろに危険球じゃないですか…」
「でも、退場はしないよ!!」
あすみは、第二球の構え…。
また、楠本へ鉄球が振り下ろされる。
「うお…!!」
また、後ろに跳びはねる。
そこには、日本刀を構えた理沙が…。
「覚悟!!」
楠本は、振り下ろされた刀を寸ででかわし、懐からナイフを取り出して構えた。
そう…切っ先の曲がった…『趣味』用のナイフだ…。
3451投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時52分58秒
「ふ〜ん…。そんなオモチャで、私達4人と戦うつもり?」
理沙は、刀を構える。
「いや…。こんなオモチャでしか戦えないですよ…。だって、左腕が使えないんですよ?刀なんて振り回せません…」
「ま、私達もそれを狙ってたんだけどね…」
理沙は、容赦なく斬りかかる。
一瞬、楠本はナイフで受け止めようとしたが、無謀なことと悟り、またもや身をかわした。
「左腕が使えねぇ!?根性のねぇヤツ!!」
恵が、後ろから迫り来る。
「私だって、左腕をダーブロウにへし折られてんだぞ!?」
金属プレートを仕込んだギプスを、楠本の後頭部に叩き込む。
しかし、手応えはない。
楠本は、恵の足下に転がり、アキレス腱を狙ってナイフを滑らせる。
これで、恵は動けない…殺すことなく、敵を一人戦闘不能にできる。
だが、恵の影が、ゆらりと揺れる。
「…!?」
楠本のナイフを握る手首から、血が噴き出た。
「おお…!!」
堪らず、恵から離れる楠本…。
そう…箕輪はるかだ…。
「う〜ん…。これはしんどいぞ…」
ハンカチを細く裂いて手首に巻くと、ようやく楠本は真顔になった。
3452投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時53分50秒
鉄の臭い…。
ふと、上を見る。
あすみの…真っ黒な鉄球が、迫っていた。
「うわぁ…」
本当に、楠本の顔に余裕が無くなった…。
ナイフを鉄球にかざす。
二つの金属は、削り合いながら火花を散らした。
僅かに鉄球の軌道が外れる。
楠本の革靴の数ミリ先に、鉄球は落ちる。
そして、ナイフをあすみに向ける。
(女性だから可哀そうだけど…顔を切り裂くか…)
3453投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時54分06秒
しかし、下からまた、鉄の臭い…。
鉄球が下から跳ね上がり、楠本の顎を打ち抜こうとしている。
「おおっと…!!」
楠本は、咄嗟に上半身を仰け反らせた。
その、不自然な体勢を、あすみは見逃さなかった。
そのまましゃがんで、楠本の足を回し蹴りで払った。
「ぐ…!!」
楠本は、背中をアスファルトに打ちつけた。
後頭部も、しこたま打ってしまったらしい。
「いたたた…」
鉄球は、容赦なく楠本の腹に、振り下ろされようとしている。
3454投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時54分39秒
「ふん!!」
思いっきり、楠本は腹筋に力を込めた。
鉄球は、楠本の腹の上で跳ねた。
「お!?」
あすみは、さすがに仰天する。
その隙に、楠本は横に転がりながら、あすみから離れた。
そしてそのまま腹を抱えてうずくまる。
「ちょ…ちょっと…タイム…。呼吸が…」
楠本は、小刻みに震えて腹を抱え込んでいる。
相当、痛かったらしい…。
「タイムだぁ…!?そんなの、あるか!!」
恵が襲いかかる。
「なら、仕方がない…」
楠本は、すぐに起き上がると、ナイフを構える。
右に身体を傾ける。
恵の影が、同じ方向に揺れた。
「…よし!!」
急遽、楠本は恵の左側に潜り込み、彼女の脇腹を切り裂いた。
恵の黒いタンクトップがパックリと裂け、日焼けした肌がさらされる。
その肌に、赤い線が走り、やがてそれは大きくなり、一気に鮮血が溢れ出た。
3455投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時55分25秒
「う…!!ち、ちくしょう!!やりやがったな!!」
恵は、右手で左脇腹を押さえて楠本を睨む。
足下のアスファルトが、赤い斑点で染まっていく。
その斑点が、やがて水溜りとなった。
「ご、ごめん…。恵ちゃん…。援護できなかった…」
はるかが、恵の影から出て来た。
いや、実際に影から出てきたわけではなく、彼女はギリギリまで存在を消す事が出来る為、いきなり目の前に現れた様に感じるのだ。
楠本は、それを限界まで待って見極め、攻撃に転じたのだ。
「ち…!!やっぱり、『TDD』三強ってのは、伊達じゃねぇな…!!」
もう一度、恵は左腕を真っ直ぐ水平に構え、攻撃態勢をとる。
「恵ちゃん!!ダメ!!コッチ来て!!」
「あん!?」
翔子に呼ばれ、恵は思わず振り返る。
「治療してあげるから、コッチに来なさい!!」
「かすり傷だよ!!こんなもん!!」
「どこの世界に、内臓がズル出しになる『かすり傷』があるのよ!!早く来なさい!!」
「内臓ズル出し…!?ウソつけ!!」
「そのまま戦ってりゃ、近いうちに…少なくとも5秒後にはそうなるわよ!!」
3456投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時55分47秒
楠本は、翔子の言葉に頷いた。
「ええ…。しょこたんの言う通りですよ。早く治療を受けた方がいい…」
「ああ!?てめぇに…敵にそんなこと言われる筋合いはねぇぞ!?」
「敵?いやいや…我々は同じ『TDD』…。仲間じゃないですか…」
「うるせぇ!!てめぇは、殺すべき敵だ!!」
しかし、2人の間に理沙が割り込む。
「いいから…。ここは、あすみと私に任せて…あなたは、翔子にさっさと治療をしてもらいなさい」
「み、弥勒姉さんまで…!!」
翔子は、間髪入れずに言う。
「5分で縫ってあげる!!早く!!」
「5分だぁ…?遅い!!3分で縫え!!」
「そんなの、いくら私でも縫い目がガチャガチャになっちゃうよ!?」
「ああ、それでいいよ!!早くしろ!!」
恵は、楠本を睨みつけながら、一旦、戦線を離脱する。
「ん…?はるかさんは…?」
楠本は、一瞬、はるかの姿を見失った。
「しまった…!!まさか、事務所へ…?」
楠本は、事務所ビルの入り口へ駆け出した。
3457投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時56分45秒
「ふふ…ここだよ〜ん…」
楠本の耳元で、はるかの声…。
「…え?」
はるかは、楠本の影に隠れていたのだ。
首筋に、チクリとした痛み…。
「おおっとと…!!」
楠本は、ナイフを振り払った。
はるかは、間一髪、その攻撃を避けた。
楠本は、咄嗟に首を押さえる。
掌に血が滲んでいる。
それほど、酷い出血ではない。
理沙、あすみ、はるかの3人が、楠本の前に、じりじりとにじり寄る。
「むむむ…。これは…本当に困った…」
ふと、恵と翔子の方を見る。
麻酔なしの状態だろうか…翔子は脅威の手さばきで、恵の脇腹の傷を縫いつけている。
恵は、真っ直ぐにこちらを睨みつけている。
彼女の最前線の復帰は、時間の問題だ。
3458投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時57分07秒
いくら楠本でも、『TDD』の戦闘要員を4人も同時に相手するには、苦戦する。
だが、もっと彼女等は激しく波状攻撃をしても、いいくらいだ…。
何か、まだ全力を出していないような気がする。
「ん…?何やら変ですね…」
楠本は、構えを解いた。
「あれ?どうしたの?『エンペラー』…」
理沙も、日本刀を降ろした。
「あなたがたこそ…どうしたんです?私は今、構えていないのです…。ご自由に、どこからでもどうぞ…」
しかし、彼女達は誰も楠本に襲い掛かろうとはしない。
「ふ〜ん…。な〜るほど…」
「何よ?」
理沙は、怪訝な顔になる。
「あなたがたは…私を殺すとか言ってますが…どうやら、その気はないみたいですねぇ…」
彼女達は、顔を見合わせる。
「そして…いつでも、事務所に忍び込んで加藤組長を殺すことだってできたはずです…。さっきの、はるかさんみたいにね…」
楠本は、はるかを指差す。
「さあ…。話して下さい。あなたがたの狙いは何です?」
理沙は、ふっと笑うと、髪を掻き揚げてじっと楠本を見詰める。
「半分正解…。でも、半分間違いよ…」
3459投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時57分32秒
「半分…?」
楠本は、首を傾げる。
「まず、正解は…あなたを殺すつもりはないってこと…」
やはり…と、楠本は思った。
「そりゃそうでしょう…。仲間同士の殺し合いなんて…ボスが許すはずがない…。まだ、メンバーが全員揃っていないぐらいなんだし…」
続きは、理沙が言った。
「それから…あなたと本気で殺し合いをするんだったら…私達のうちの何人かは、既に死んでいるでしょうね…」
「はい…。私は相手が本気を出さないと、本気を出せないタイプですから…。で、間違いの方とは…?」
「間違い…?ふふ…」
理沙は、冷たい微笑みを楠本に向けて言う。
「加藤組長のこと…。彼は、キッチリと殺すわ…」
「…?何ですって…?」
「ただ…殺す役目は、私達じゃないってこと…」
「…?誰です…?まさか…『チャリオッツ(戦車)』…?」
「ふふ…。違うわよ…」
「誰ですか?」
「さて、誰でしょう…」
その時、どこからか、バイクの音が…。
「…!?」
楠本の頭上に、バイクが飛び越えて行く。
あの、空のキャリアカーの斜めになった荷台から、ジャンプ台の様に発射されたのだ。
3460投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時58分12秒
「…!?あ、あれは…!?」
バイクに跨っている人物は…真っ黒な革のライダースーツをキッチリと着込み、フルフェイスのヘルメットを被っている為、顔が確認できない。
体つきから見ると…女性の様だ…。
しかも、背中には黒い革のリュックサック、同じく黒い革のケースに入った、長い棒を背負っている。
あの長さ、太さから見ると…刀…?
バイクは、加藤組の事務所ビルの三階に、窓をブチ破って突っ込んだ。
侵入なんてものではない…。
突入だ…!!
3461投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時58分33秒
「だ、誰です!?あ、あのバイクに乗っていた者は…!?」
この4人以外の女性の戦闘員など…『TDD』にはいないはず…。
「く、楠本さん…!!い、今のは…」
加藤組の組員達が、事務所ビルから、どっと出てきた。
「な、何をやっている…!?加藤組長を、守りに行け!!」
楠本は、珍しく怒鳴った。
しかし、その組員達は、理沙、はるか、あすみ、そして復活した恵によって、一瞬で殺された。
日本刀で背中を斬り裂かれ、メスで喉を掻き斬られ、モーニングスターで頭をカチ割られ、鉄板プレートを仕込んだ腕に首をへし折られ…。
事務所入り口に、4人は立ち塞がった。
そして、楠本にこう言った。
「ふふ…。今度は、私達があなたを通さないわ…」
楠本は、呆然としながら、事務所ビルを見上げる。
階段を駆け上がる、バイクのエンジンの爆裂音が聞こえる。
「だ…誰なんです…?『彼女』は…」
楠本の質問に、理沙は得意気に答えた。
「助っ人よ…。いや…新しい、私達の仲間…」
「…え…?」
「『デビル(悪魔)』よ…」
3462投稿者:リリー  投稿日:2008年08月27日(水)20時59分14秒
『デビル』と言えば…あの人です

では、今日はおちます
3463投稿者:117  投稿日:2008年08月27日(水)21時08分22秒
なるほど、あすみ先生の武器は「野球部監督」だけに鉄球ですか。みのぽーの薄い存在感も結構効果あり!
『デビル』・・・?なるほど、あの人ですか。久々ですよね?続きも楽しみです!
3464投稿者:ラジかるです!!  投稿日:2008年08月27日(水)21時44分57秒
ttp://jp.youtube.com/watch?v=eZTIgF2dXTo&feature=related
ttp://jp.youtube.com/watch?v=TUeB09_R8y4
3465投稿者: 投稿日:2008年08月27日(水)22時37分54秒

3466投稿者:デビルかっこいい〜  投稿日:2008年08月27日(水)23時35分05秒
MGS3のエヴァみたい!
それともT2のT-1000でしょうか
唸るエンジン音が聞こえてきそうです
3467投稿者:デビルがあの人ということは  投稿日:2008年08月28日(木)00時21分14秒
自分の親を殺しにいくの?
3468投稿者: 投稿日:2008年08月28日(木)00時47分09秒

3469投稿者:リリー  投稿日:2008年08月28日(木)21時11分23秒
117さん
あすみ先生の武器というか、戦闘スタイルは、結構悩んだんです
野球に絡んだものがいいなぁ…でも、ボールをぶつけるってのも何かなぁ…と思い、女性らしからぬものに…
3464さん
ありがとうございます!!
珍しいですよね、民放で天てれを見られるのは…
ジーナのニュース原稿を読むところ、スタジオの人が「しかりしてるなぁ〜」と、関心してましたね
何か、自分の娘が褒められてるみたいな誇らしい気分です(娘はいませんが)
滝川クリステルみたいな、女子アナの線もあるなぁ、と思ってしまいました
あと、嶋大輔さんは、昔、天てれドラマに出たことがあります
たしか、舞が主役で、「誰にも怒られないで呑気に暮らしたい」みたいな願い事が叶う…みたいな内容です
3466
ありがとうございます
映画のワンシーンを思い浮かべて頂けると、とても嬉しいです
私も、ターミネーターの乗りで書きました
3467さん
今日は、その『デビル』と加藤組長の対面です

では、更新します
3470投稿者:リリー  投稿日:2008年08月28日(木)21時13分58秒
バイクで事務所ビルに突入した『デビル』は、凄まじいスピードで階段を駆け上がる。
途中、駆けつけてきた組員達を、容赦なく轢き殺していく。
そして最上階…加藤組の事務所へ…。
事務所のドアを、ブチ破るバイク。
ガラスが粉々になって、部屋の中に散らばった。
ウィリー走行の形で突っ込んで、ドア付近に立っていた組員を前輪で壁に押し潰す。
続けて、その場でスピンターンをし、回りの組員達を弾き倒す。
そして、床に倒れた組員の身体の上に、バイクの後輪を乗せる。
『デビル』は、その組員を後輪で踏みつけた状態で、スロットルを思いっきり回した。
「ぐあああああ…!!!」
後輪が高速回転し、組員の身体を削り取っていく。
事務所内は、血の雨が降り注ぐ。
「ひえ…!!」
「うわぁぁぁ…!!」
組長の加藤も、組員達も、血の雨を頭から被ってしまった。
せっかく楠本から貰った、サイン入りユニフォームも、血で真っ赤に染まった。
3471投稿者:リリー  投稿日:2008年08月28日(木)21時14分11秒
「こ、殺せ!!何やってんだ!!殺せ!!」
加藤の怒鳴り声…組員達は一斉に銃を『デビル』に向ける。
『デビル』は、いち早くバイクから降りると、組員達に向かって『何か』を投げた。
「が…!!」
「ぐぅ…」
「げぇ…!!」
バタバタと倒れる組員達。
「な、何だ…?」
仰向けに倒れた組員の額に…まるで忍者が使う様な、手裏剣が突き刺さっていた。
3472投稿者:リリー  投稿日:2008年08月28日(木)21時14分42秒
組員が怯んだ隙に、『デビル』は背中の細長いケースから、真っ赤に塗られた鞘の、刀…いや、長ドスを取り出す。
そして、鞘から刀身を抜く。
刀の反射光が、加藤の目を射した。
「ぐ…!!は、早く、殺せ!!殺せぇ!!」
加藤の声よりも早く、『デビル』の身体は反応した。
残った組員達を、バッタバッタと、斬り払っていく…。
気が付けば、この事務所内で息をしている人間は、加藤と『デビル』…2人だけになった。
3473投稿者:リリー  投稿日:2008年08月28日(木)21時14分58秒
『デビル』は、長ドスの先を、加藤の喉元に向ける。
フルフェイスのヘルメットの、フェイスガードの部分が真っ黒に光っていて、顔を窺うことができない。
ただ、ピッタリと身体にフィットしたバイクスーツが、女性らしい丸みを帯びたフォルムを形作っている。
「う…!うぅ…!!」
今の加藤はまさに、蛇に睨まれた蛙…。
「だ…誰だ…」
『デビル』は答えない。
「や…山本組の…モンだな…?」
『デビル』は答えない。
「山本の命令で…こ、この俺を殺しに来たのか…!?」
『デビル』は答えない。
「て、てめぇ…!!面くれぇ、見せろぉ!!」
加藤は絶叫した。
せめて、自分の命を奪う者の顔を知っておきたかった。
だが、『デビル』はようやく口を利いた。
そして、加藤にとって、意外な言葉を吐く。
「…お父さん…」
3474投稿者:リリー  投稿日:2008年08月28日(木)21時15分44秒
死体で埋まった事務所内…一瞬、空気が固まった。
「………何………?」
聞き違いか…?
この暗殺者は…今、何と言ったのか…?
「おまえ…今、何て…」
「お父さん…」
もう一度、『デビル』は言った。
間違いない…『お父さん』と言った…。
その『お父さん』とは、何者だ…?
いや…この事務所で生きている人間は、もう自分しかいない…。
「お…おまえ…誰だ…?」
加藤の言葉に、『デビル』はヘルメットをゆっくりと脱いだ。
長い黒髪が、なびく。
そして…目鼻立ちのクッキリと深い、整った、美しすぎる顔…。
鼻筋は高く通り、目は猫の様に大きく吊り上がり、唇は小さく整って…だが、しかし…強い意志を孕んだ顔…。
「…は…?」
若い頃、女遊びが派手だったことがあったが…こんな顔の女に会ったことがない…。
いや、こんな上玉、会ったら忘れないはずだ…。
「誰だ…?おまえ…?」
加藤は、もう一度訊ねた。
3475投稿者:リリー  投稿日:2008年08月28日(木)21時16分24秒
「初めまして…。夏希です…」
彼女は、何の感情も表さないまま、名乗った。
「な…夏…希…?」
加藤は、本当に記憶にない。
「加藤…夏希です…」
「…加藤…夏希…?」
自分と同じ姓を名乗っている…?
「…だ、誰だ…?誰なんだ…。おまえ…」
さっきから、娘だと言っている…。
だが、どう見たって目の前の女は二十歳を越えている…。
自分はようやく40を越えたから…二十歳前の時に生まれた娘…?
確かに、何人かの女性と関係は持ったが…。
「は、母親は…?母親の名前を教えてくれ…」
加藤の問いに、夏希と名乗る女はやはり無表情で答えた。
「…知りません…」
「は…?」
そして、こう続ける。
「そして…あなたが私の父と知ったのは…つい最近のことです…」
3476投稿者:リリー  投稿日:2008年08月28日(木)21時17分01秒
事務所ビルの外では、楠本と女5人衆が睨み合っていた。
楠本は、彼女達と事務所の最上階を交互に見ながら問う。
「…『デビル』…?ボスのメンバー表に書いてあった名前は…確か…」
「そう…。元『TTK』…四天王の加藤夏希よ…」
理沙は、ニヤリと笑った。
「…見つけたんですか…?そして…仲間に引き入れたんですか…?」
「ええ…。みのぽーのお手柄ね」
そう言って、はるかの肩に手を置いた。
はるかは、嬉しそうに歯を見せて笑った。
「…どうやって…?」
信じられないと言った風の楠本…。
3477投稿者:リリー  投稿日:2008年08月28日(木)21時17分12秒
「ふふ…。悔しいでしょうね…。あなたは、同じ元『TTK』、四天王のダーブロウ有紗を仲間に引き入れられなかったんですもの…」
「ダーブロウだぁ!?あんなヤツ、私は仲間なんて認めねぇぞ!!」
恵は、いきり立って叫んだ。
「あなたの意思は関係ないの…。ボスが所望しているんだから…」
理沙は、恵に冷たい言葉を投げる。
「し…しかし…」
慌てふためく楠本…彼の心中は、容易に察することができる。
「そう…。加藤組長は…加藤夏希のお父様よ…」
「な…何故…?」
そうだ…何故、彼女は自分の父親を殺す依頼を受けたのだ…?
理沙は、含み笑いをする。
「一度やってみたかったんですって…」
「何を…?」
そして、呆れ果てた様な顔で、彼女は言った。
「親殺し…」
3478投稿者:リリー  投稿日:2008年08月28日(木)21時18分04秒
今日は、これでおちます
3479投稿者:デジ  投稿日:2008年08月28日(木)23時50分36秒
昨日の異種武器格闘技から一変次々と切り倒す久々の登場の夏希さん。
そういえば、『TTK』の人は科学的人工授精で生まれているから、親が直接この姿を見てないんですよね。(まあ、組織のものから子供へ知らされる事はあるのでしょうが。)
親殺しを一度やってみたかったってそもそも一度しか殺せませんよね。
続きも楽しみです!
             (今日の小言)
偶にはちひろにも登場ほしいと思う(学生寮に住み込みなんじゃ、無理でしょうが。)そういえば、この小説のちひろってスポーツ推薦だけど頭のほうはどうなんでしょうか?

あまりクイズを答える人が少ないので問題の再掲載と大ヒント!
藍は田、遼希は木、梨生菜は木、エリーは水、有海は一、、滉一は日、羅夢は田、有沙は|、ダーさんは夕(折角なのでこの小説に出てる人を選んでみました。)
では、七海は何でしょう?
まずは、ダーさん以外を考えてみると分かりやすいですよ。
苗字を漢字にしてみると…
他の人もどうぞお考えください。
3480投稿者:夏希の武器ってこれ?  投稿日:2008年08月29日(金)00時01分51秒
http://www.rivertop.ne.jp/rivertopsabu/omosiro/2t4.html
3481投稿者: 投稿日:2008年08月29日(金)00時41分31秒

3482投稿者:デジ  投稿日:2008年08月29日(金)11時31分45秒
クイズのほうの答えを片方小説で発表しました。
答えが知りたい方は、小説へ、先ほど再掲載したクイズの答えはまだです。
3483投稿者:リリー  投稿日:2008年08月29日(金)19時35分10秒
デジさん
その通り、一度しかできませんね
夏希のクレイジーっぷりを感じて頂けたら…と、思いました
ちひろは、出てきますよ
第三試合で終わりなので、この後(といっても長いですが)必ず出てきます
前作の主人公なので、結構スペシャルな感じで登場させたいと思います
この小説の、ちひろの頭ですか?
悪くはないですが、正直言って正規の受験では、聖テレに受からないと思います
愛実が、塾に行き、更に家庭教師をつけまくって、合格できるかどうか…というレベルに、聖テレはあります(裏金を使わなければ)
甜歌は、気の毒ですが…聖テレに受からない…という設定です
『R&G』でも、裏金を使わなくても合格できたのは、有沙、梨生奈、エリーの三人だけです(しかも、有沙と梨生奈はトップ合格、エリーも梨生奈と数点差の僅差…という設定です)

クイズは…わかりませんでした…
人種をヒントで教えて下されば、わかったんですが…それじゃあ、すぐにわかってしまいますね

では、更新します

3484投稿者:リリー  投稿日:2008年08月29日(金)19時37分57秒
事務所内…初めて会う、父と娘…。
しかし、感動の対面などでは決してない…血と死の臭いが、2人の周りに充満している…。
夏希が口を開く。
「『TTK』…」
「何?」
「『TTK』という組織…覚えていますか…?」
「う…」
覚えている…。
まだ、下っ端のチンピラだったが、その度胸と才覚で、大物組長を次々と襲撃…自分の所属する組の縄張りを、一気に大きくした。
警察に追われている所を、ユダヤの大富豪の使い…という者に、声をかけられた。
その大富豪は、『ラビ』と名乗った。
加藤の遺伝子…精子を、彼等は高く買いたいと申し出た。
彼等は、世の中のありとあらゆる才人と罪人の精子、卵子を買い集め、最強の暗殺者集団を創ろうとしている…と、打ち明けた。
彼は、何かの冗談だと思ったが、金が手に入るならと、話しに乗った。
そして、警察から逃れられるだけの資金を、加藤は手に入れた。
3485投稿者:リリー  投稿日:2008年08月29日(金)19時38分16秒
それから10年後…若くして『加藤組』を立ち上げた時に、また『ラビ』の使いは現れた。
『自分達の見る目は正しかった。また、あなたの遺伝子が欲しい…』と、申し出て、前の倍の報酬で彼の精子を買っていった…。
その、一度目の精子で生まれたのが…この、夏希と名乗る女…なのか…?
「そう…私…あなたの娘です…」
途轍もない悪寒が、加藤の背筋に走った。
この女が…自分の精子から生まれた…最強の暗殺者…?
呪われた運命の…娘…?
3486投稿者:リリー  投稿日:2008年08月29日(金)19時38分37秒
「う…ぐ…ぐぇぇぇ…」
加藤は、思わず吐いた。
目の前にいる女が…おどろおどろしい…汚れた存在に思えたからだ…。
その女が、自分の遺伝子を受け継いでいることが…。
「あら…。悲しいわ…。自分の娘を前にして…」
初めて、夏希は表情を崩した。
冷たい微笑み…。
加藤は、あらん限りの声で怒鳴った。
「ふ、ふ、ふざけんじゃねぇぞ!!てめぇ!!お、お、俺の娘だぁ…!?てめぇなんか、知らねぇぞ!!知るもんかよ!!」
「ふふふ…。お言葉ですけど…もう一人、あなたには娘がいますのよ…」
「…何?」
「私の…最愛の妹…」
二回目の…精子提供の…?
また加藤は、腹の底から胃液が込み上げてくるのを感じた。
「妹は、母親がイギリス人なの…。ハーフでね…可愛い子よ…」
夏希は、ライダースーツの胸ポケットから、写真を出す。
「御覧になります…?名前はジーナと言うんです…」
しかし、その写真は、銃声と共に弾けとんだ。
加藤が、拳銃で撃ったのだ。
そして、悲鳴にも似た声をあげる。
「や、やめろぉ!!そ、そんな汚らわしいモノ…この俺に見せるんじゃねぇ〜〜〜!!!」
3487投稿者:リリー  投稿日:2008年08月29日(金)19時38分54秒
「汚らわしい…?」
夏希の顔から、また表情が消えた。
「おお、そうじゃねぇか!!さ、さ、最初から…暗殺者として…生まれてきた…バケモノじゃねぇか!!」
「…バケモノ…」
夏希の顔は、人形の様だ…。
魂の抜けた…人の温もりの抜けた…。
これが、生まれながらの殺人者なのか…?
彼女に比べれば、ヤクザなど、まだ善良に見える…。
「自分の娘を…バケモノと…?」
そして…彼女は目を瞑る。
そのまま…うつむいて…。
長い髪の毛が垂れ下がり、表情は窺えない。
怒りに震えているのだろうか…それとも…悲しみにくれているのか…。
だが、彼女の感情は、そのどちらでもなかった。
彼女は顔を上げる。
「あははははははは!!!」
目を見開き、口を大きく開け…笑っていた…。
3488投稿者:リリー  投稿日:2008年08月29日(金)19時39分12秒
加藤は…再び背筋が寒くなった。
何だ…?この女…。
これが…自分の娘…?
「な、何が…可笑しい…?」
「あははははははは!!!」
夏希は笑い続けている。
何が可笑しいのか…笑い続けている…。
いや、可笑しいのではない…。
目が笑っていない…。
その前に…感情などあるのか…?この女に…!!
「な、何が可笑しいんだよ!!おい!!」
「あははははははは!!!」
「や、やめろぉ!!笑うな!!笑うんじゃねぇ!!
3489投稿者:リリー  投稿日:2008年08月29日(金)19時39分33秒
「あははははは………」
急に、夏希は哄笑を止めた。
そして、また無表情に…。
呻くような低い声が響く。
「これが笑わずにいられましょうか…」
「…何…?」
「やはり私の父は…最低の人間でした…」
「………」
「これで何のためらいも、負い目も、罪悪感も感じることなく…依頼を完遂することができます…」
夏希は、背中のリュックを背中から降ろすと、中に入っていた物を取り出した。
「感謝致します…。お父さん…」
それは…20数本の束になった…ダイナマイトだった…。
「て…てめぇ…!!それで…何を…」
加藤は、革張りの椅子に、腰を落とした。
そのダイナマイトが、加藤の前の机に置かれる。
「私達姉妹の存在を全否定した、お父さん…。ならば私は、あなたの存在を…この世から消します…」
夏希の、父親を見詰める瞳は、何処までも暗く、深い…。
「骨一本…残しません…」
彼女は、長ドスを振り上げ…下ろした…。
3490投稿者:リリー  投稿日:2008年08月29日(金)19時40分09秒
事務所ビルの外…。
楠本は、理沙の言葉に一瞬、反応を遅らせた。
「え…?な…何ですって…?」
「だから…親殺し…」
「………まぁ…そりゃ…親がいなけりゃできませんね…」
そして…一瞬また、考え…大きく目を見開く。
「じゃ、じゃあ…夏希さんが『TDD』に入った理由は…?」
今度は理沙ではなく、直接入団交渉をした、はるかが答える。
「…そう…。加藤組長を殺せるから…」
「…え…?」
また、楠本は怪訝な顔になる。
「…最初、あの人、取り付く島もなかったんだよね。で、今、あんたのお父さんが私達に命を狙われてるから…私達と敵対してもいいから、とりあえず入らない?って、言ったんだ…」
「…で…その時、初めて自分の父親の事を…?」
「…うん。結構、驚いてたね…。で、次は私が驚いちゃった…」
そう言いながらも、はるかは、まるで淡々と話していく。
「…その加藤組長…父親を殺させてくれるなら…『TDD』に入るって…」
「…これはまた…何て言ったらいいのか…」
その直後、加藤組の事務所のあるビルの五階から、爆発音が…そして、炎が…。
「…な…?」
楠本だけでなく、理沙も、はるかも、恵も、あすみも、翔子も…一斉にその燃え立つ炎を見上げた。
3491投稿者:リリー  投稿日:2008年08月29日(金)19時40分40秒
「お…おお…」
唖然と、噴き上がる炎を見上げる楠本。
「うわ…。やり過ぎだろ…。これは…」
理沙も、少なからず驚いている。
「でも…これで、依頼は完了だね…」
あすみは、一息つきながら言った。
「正直、『エンペラー』と戦って、無傷で済むとは思わなかったからさ…」
その、あすみの言葉に、恵は不愉快になる。
「無傷だぁ…?私はキッチリと傷つけられたよ!!」
「…しょうがないじゃん…。進んで怪我するのが、恵ちゃんの役目だよ…」
はるかの言葉に、翔子も頷く。
「うん。その為に私もいるんだしね…。でも、これで終わった、終わった…」
楠本は、まだ呆然と燃え上がる事務所を見詰めていた。
「ん…?どうやら戻って来たみたいだね…」
理沙の言葉に、楠本は事務所ビルの入り口に視線を落とす。
ライダースーツに身を包んだ…今度はヘルメットを被っていない…素顔をさらした女が姿を現す。
彼女が…元『TTK』…四天王…加藤夏希…!!
3492投稿者:リリー  投稿日:2008年08月29日(金)19時41分01秒
「紹介するわね…。『TDD』の新しいカード…『デビル』の加藤夏希さんよ…」
楠本の後ろで、理沙が囁いた。
整った…いや、整い過ぎた顔立ちの女が、こちらに向かって歩いてくる。
だが、彼女の長い髪の毛先は僅かに炎で縮れ、身体からは、血と焦げた臭いが…。
死の臭いが、こびり付いている…。
自分の父親を殺した女…。
楠本は努めて冷静に、紳士的な対応で夏希に相対する。
「………よろしく………。『エンペラー』の楠本柊生と申します…」
楠本は、夏希に握手を差し延べたが、彼女はそれを無視して彼の脇を通り過ぎた。
「………教えて下さいよ…」
楠本の声に、夏希は足を止めた。
「どんな気持ちです…?親殺しをした気持ち…」
夏希は、楠本の質問に、静かに…淡々と答えた。
「親殺し…?………私にとって…普通の『殺し』よ…」

(『一回・裏』・・・終了)
3493投稿者:リリー  投稿日:2008年08月29日(金)19時41分45秒
今日は、これでおちます
3494投稿者:あげ  投稿日:2008年08月29日(金)20時41分48秒

3495投稿者:117  投稿日:2008年08月29日(金)20時59分17秒
華麗なバイクの乗り回し・・・夏希さん、久々登場ですね。
よく考えてみると、加藤組長・夏希・ジーナと・・・加藤っていう名前、「天てれ」では多いんですね。
見事に父親を吹き飛ばした?夏希、物語はどう展開するのでしょうか?続きも楽しみです!
3496投稿者:デジ  投稿日:2008年08月29日(金)23時48分10秒
科学的人工授精で生まれたとはいえ、加藤さんの子には違いの無いんですよね。しかし、父親を刺殺するのでなく爆殺しますか。過激ですね。
そうですね…「TTK」にとってはただの殺しですね。(苦笑)
物語がこのあとどうなるか?続きも楽しみです。
           (今日の小言)
今、読感とともに小説を書いている変な気分です。。ついに夏休みが終わるー。皆さんの今年夏の思い出はなんですか?僕はやっぱり、北陸旅行2泊3日のたびですね。
ところで、あすみ先生と翔子先生の密談を聞いていた藍と有海は、裏でも出るんですか?
3497投稿者:夏希さん  投稿日:2008年08月30日(土)00時36分14秒
クールでイカレててカッコいい
3498投稿者:あげ  投稿日:2008年08月30日(土)16時35分11秒

3499投稿者: 投稿日:2008年08月30日(土)16時54分28秒

3500投稿者:なっきぃ好きです。  投稿日:2008年08月30日(土)20時42分53秒
リリーさんに質問です。
夏イベに行ったこととかありますか?
いきなりですいません。
3501投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時02分25秒
117さん
そうですね、加藤の姓は多いです
加藤という苗字も多いですけどね
『一七同盟』でも、夏希さんとジーナは姉妹でしたし、加藤さんは二人のご先祖様でした
デジさん
読感というのは、読書感想文ですか?懐かしいですね
二度と、書きたくありませんけど…
北陸ですか…海産物とかいっぱい食べたいですね
藍と有海ですが、裏にも多大な影響を及ぼす予定です
3497さん
私も、夏希さんのような美人過ぎる人は、カッコいいと思います
美人過ぎて、生身の人間じゃない様な気がします(失礼)
3500さん
夏イベですか?行ったことないです
でも、教育フェアには行ったことあります
2006年で、出演者は、スチームが勇気、有海、千秋、羅夢、ジョーキが愛美、拓巳です
司会は、楠本さんでした
その時に、私は楠本さんのファンになりました
では、更新します
3502投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時04分22秒
『二回・表』

≪2007年10/16(火)≫
細川藍は、毎朝同じ時間に聖テレジアの校門を潜る。
だが、今日に限り、七海にもエマにもエリーにも…ジョアンにも中村有沙にも出会わなかった。
「…あれ…?どうしたんだろ…?もう、みんなクラブハウスの方に行ったのかな?」
自分が一番最後ということにならない為にも、藍は駆け足でグラウンドを横切る。
既にラクロス部、ソフトボール部の練習が始まっていて、随分遠回りで行かなければならない。
「あ、あい〜ん!!おはよう!!」
愛美と梓彩が、藍に手を振った。
「おはようございます!!まにゃ先輩、あず〜先輩!!」
藍も、弾けんばかりに声を張り上げる。
3503投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時04分56秒
愛美と梓彩は、秋の大会に向けて、一時的にソフトボール部に戻っている。
2人は、背中に大きく白い文字で『根性』と書かれた、赤いTシャツを着ている。
その文字は、顧問の近藤が毛筆で書いたものをプリントしたものだ。
国語教師の近藤、さすがに達筆だ。
「あの…ななみん達、もう来ました?」
愛美と梓彩は顔を見合わせて、2人同時に首を横に振る。
「あい〜んが、一番早く来たと思うよ」
「そ、そうですか…」
首を傾げながら、クラブハウスへ急ぐ藍。
ドアにも鍵がかかっていたので、部員全員に渡されていた合鍵で開ける。
当然のことながら、中には誰もいない。
3504投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時05分19秒
「う〜ん…。新しいキャプテン、決めたばかりだって言うのに…。ななみんめ…。昨日の感動の涙はなんだったんだ…」
藍は、一人で小言を言いながら、制服からジャージに着替え始める。
そこに、またドアが開く音が…。
有海だ。
「あ、おはよう…。細川さん」
「おはよう、あみ〜ご!!ねぇ、ななみん達と会わなかった?」
「う…ううん…。それよりも…」
「それよりも?」
「今朝の新聞、見た?」
「新聞?そんなの、私が見るわけないじゃん…」
「…そう思って…持って来たんだ」
有海は、藍の前に折り畳んだ新聞を出す。
「…ん?」
「テレビ欄の裏…」
藍は、新聞を手に取る。
「お…?ニュース番組で、中日特集やるんだ…」
「細川さん…」
「あ、ごめんね」
藍は、テレビ欄を一枚めくる。
「…?」
そこには、とあるビルの消火活動を行っている消防車のカラー写真が、デカデカと載っていた。
3505投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時05分57秒
「ん…?ここ…どこ…?天歳市…?こんな火事、あったんだ…」
「記事のタイトル、読んでみて…」
写真の右側に、縦長で大きなゴシック体でこう書かれていた。
『暴力団事務所、襲撃される』
「ぼ、暴力団…?ヤクザの事務所…?」
「その、暴力団の名前…見て…」
藍は目を凝らして、記事を読む。
「ええと…天歳市内の暴力団組織…加藤組…?」
「ねぇ…。加藤組って…中田先生が言ってたよね…?」
有海は、心配そうな顔を藍に向ける。
「加藤組って…草野球チームのことじゃなくて…ヤクザのことだったの…?」
つまり…昨日、あすみが言っていた、大切な用事とは…ヤクザの事務所の襲撃…?
藍も、思わず身震いした。
3506投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時06分12秒
「で…でも…あすみんは…普通の学校の先生じゃん…。ヤクザを襲撃って…」
「細川さん…。中田先生は…?」
「…ううん…。まだ会ってない…」
「と、とにかく、初等部のグラウンドに行こう…。もしかしたら、もう来てるかもしれないし…」
その時、バタバタと慌しく駆け込む音が聞こえる。
「ふぅ…!!ま、間に合った…?」
クラブハウスの狭いドアに、七海、エマ、エリー、ジョアンが、肩をぶつけながらなだれ込んで来た。
「な、ななみん…?」
そして、しばらくたって、中村有沙が余裕の表情で到着した。
3507投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時06分32秒
皆は、初等部のグラウンドに走って到着した。
「遅い!!みんな!!何してたの?」
そこには、もう、あすみが待ち構えていた。
「あ…。あすみんだ…」
藍は、安堵の息をついた。
いつものあすみが、グラウンドにいる…。
ヤクザの襲撃なんて、何かの間違いに決まっている。
「すんません!!」
新キャプテンの七海は、一層速く駆け出した。
その七海を、藍は追い駆けて聞く。
「ねえ、何で今日はみんなして遅れたの?」
「あん…?う〜ん…ちょっと…ゴタゴタがあってな…」
「ゴタゴタ…?何それ?」
「ゴタゴタは、ゴタゴタや」
それ以上、七海は語ろうとしなかった。
そして、皆は遅刻のペナルティーとして、グラウンドを10周を命じられた。
藍は、こんなことでも、途轍もなく嬉しい。
これも、いつも通りの、あすみだからだ…。
3508投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時06分53秒
いつも通り練習をし、いつも通りの時間に練習を終える。
そして、いつも通り、あすみは皆を集合させる。
「あの…監督…」
藍は、あすみに思わず声を掛けた。
「何?あい〜ん…?」
「え…あ…あの…だ、大丈夫…ですか…?」
「ん…?大丈夫?…何が…?」
「い…いや…身体とか…何ともないですか?」
「………至って健康だけど…?どうしたの?」
「え?い、いや…な、なら、いいんです…」
「…何なの…?」
「いいえ!!何でもありません!!お話しどうぞ!!」
藍は手刀を振りながら、一歩下がった。
「…変なの…。ま、いいや…。で、新キャプテンは、ななみんに決まったのね?」
「はい!!」
七海は、勢い良く返事をした。
「ま、異論はないけど…それでも、キャプテンに決まった翌日に遅刻するとは、いい根性してるじゃないか」
「はい!!えろう、すんません!!」
そして、勢い良く頭を下げる。
「…関西弁って、謝っても深刻そうに見えないところが損だよね…。でも、一つ屋根の下に暮らしてた者が皆、遅刻したんだね…。これからは気をつけるように…」
その時、中村有沙が咳払いをした。
3509投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時07分37秒
「おい…。七海…」
「…わかってる…!!」
何やら、言い合っている2人に、あすみは聞く。
「何?どうした?」
七海は、あすみに正対すると、背筋を伸ばす。
「あの…私達…藤本七海と、チビアリとジョアンとエマとエリーの5名…今日の部活は休ませてもらいたいんですけど…」
「ん…?何で…?」
あすみは、キョトンとした顔で問う。
「ええ…。ちょっと、私用なんです…。あ、これ、保護者のレッド…吉田さんからの手紙です」
そう言って、七海はポケットから、封筒に入れられた手紙をあすみに渡す。
その手紙を読む、あすみ。
「ふ〜ん…。吉田さんのお仕事に関係することね…。ま、それなら仕方ないか…。わかった。受理するよ」
あすみは、手紙を自分のポケットに仕舞った。
「ちょ、ちょっと…!じゃあ、今日の部活は、私とあみ〜ごだけってこと?」
藍は、慌てて口を挟んだ。
有海も、少し不安げに、そして寂しげな顔を七海に向けた。
「う〜ん…。そういうことになるかな…。堪忍、細川さん、一木さん…」
両手を合わせる七海。
「ま、今日はいい機会だ。あみ〜ごのバッティング練習、猛特訓するよ!!」
あすみの言葉に、また有海は、不安げな顔で七海を眺めた。
「しゃあないな…。覚悟しとき…一木さん…」
3510投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時08分24秒
昼休みの初等部…屋上には、いつもの様に羅夢が一人で日向ぼっこをして横になっていた。
もう、そこには限られた者以外訪れることはない。
だから、羅夢は折り畳みのビーチチェアを持ち込み、それに横になって束の間の昼寝を楽しんでいた。
「あ…!羅夢ちゃん!!やっぱりいた!!」
そこに、その『限られた者』、メロディー・チューバックが上がってきた。
「…何だよ…。今から気持ちよく眠ろうって時によ…」
羅夢は、メロディーの顔を見ることなく、めんどくさそうに答えた。
「うん。ごめんね。で、今日はね、羅夢ちゃんに紹介したい人がいて…」
「…あん?」
羅夢は、ようやく身体を起こす。
「おいおい…。ここは、アタイのお気に入りの、安らぎの場所なんだからな?あんまり人を連れてくんなよ」
「え?だって、ここは羅夢ちゃんのお家じゃないでしょ?誰が来てもいいと、メロディーは思うの…」
「わかったよ…!めんどくせぇな…と、羅夢は思うの…」
メロディーの口調をマネする羅夢だが、メロディーは気付いてないのか、後ろを向いて、連れて来た者を手招きで呼んだ。
「樹音ちゃん!!おいでよ!!」
「樹音…?」
3511投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時08分43秒
羅夢は、樹音という名を聞いたことがある。
羅夢と同じ6年生の、川?樹音だ。
いや、実際に見たこともあるが話したことはない。
頭も良いし、運動神経も抜群…リーダーシップもあり、みんなからの人気者だ。
そして、自分のことを『サルに似ている』と豪語する。
給食でバナナが出れば、自ら進んでサルのマネをする…サービス精神の持ち主だ。
当然、羅夢は樹音のことを気に入らなかった。
そんな樹音を、何故、メロディーは紹介するのだろう?
そう思っているうちに、その…樹音が階段から屋上に上がってきた。
「へぇ〜…。屋上って、上がれたんだ…」
愛嬌のある笑顔で、空を仰ぎ見る樹音。
「うわ…。良い景色…。私、2年生からここにいるけど、何で今までこんな所、来られるって知らなかったんだろう…」
「そりゃ、屋上には上がっちゃいけないからだよ」
羅夢は、再び寝そべりながら言った。
「え…?そうなの?」
樹音は、少し驚いた様子だ。
「で、何で細田さんは、ここに上がってるの?」
「それは、アタイは悪い子だからだよ!!イイ子ちゃんは、とっとと出てった方がいいと、羅夢は思うぜ?」
「あはは…!!私も、怒られるのは慣れてるから、ここにいたいと、樹音は思うよ」
どうやら、羅夢にとっては迷惑なのだが、樹音はここが気に入ったらしい。
3512投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時09分02秒
「ち…!別にいいけどよぉ…。もう、ここに誰も連れてくるんじゃねぇぞ!!」
羅夢は、苦々しく呟いた。
「うん、それ賛成!!本当のイイ子ちゃんがここのこと知ったら、多分、先生に告げ口されちゃうかもね」
樹音は、鉄柵いもたれ掛って下のグラウンドを覗く。
「おい、あんまり身を乗り出すなよ?下から見えちまう…!」
しかし、メロディーはつまらなそうに口を尖らせる。
「ええ〜?もう、ここにお友達を連れてきちゃダメ?」
「そうだ、ダメだからな?…あ、そうだ。おい、メロチュー!!何で、アタイに樹音を会わせたんだ?」
「あ…そうだ…。ほら、樹音ちゃん…」
「ん?はいはい…」
樹音は、改めて羅夢の前に歩み出た。
「ねぇ…。細田さんは野球部の人達と知り合いなんでしょ?」
「あん?」
「だったら、私を紹介してくれないかな?野球部に…」
「…何で?」
「うん。私、中等部の野球部が、男の…しかも、虹守中の野球部に勝ったって聞いてさ、すっごい興奮したんだよね」
「…で…何で、アタイにそんなこと言うんだよ?」
少し、羅夢は不愉快になった。
樹音が、まるで七海を褒め称えているように思えたからだ。
3513投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時09分23秒
「私、中等部に進学したら、野球部に入ることに決めた!!」
「…ふ〜ん…。入ればいいじゃん…」
シラケ気味に言う羅夢。
「違う!違う!今!!今から、練習とか参加させてもらおうと思って…」
「今から?…で、何度も聞いてるんだけどよ…。何で、アタイが紹介しなきゃいけねぇの?」
「だって、細田さん、野球部の人と知り合いでしょ?」
「知り合い…?まぁ…知らねぇ間柄じゃねぇけどよ…」
「知り合いって言うか、仲が良いでしょ?」
「あん?まぁ…アイツとは、仲が良いっていうか…小さい時から一緒だったから…」
「へぇ〜…。七海先輩とは、そんなに深い付き合いなんだ…」
「ああ…!?七海だぁ…!?」
羅夢の言った、『アイツ』とは、梨生奈のことだったのだが…。
「冗談じゃないよ!?何で、アタイがあんなヤツに紹介しに行かなきゃなんねぇんだよ!!」
七海の名前が出た途端、羅夢の怒りが爆発してしまった。
「だってさぁ…。初等部の生徒が、中等部の部活に参加させてもらえるなんて、思えないからさぁ…」
「アタイが間に立っても、立たなくても、ダメな時はダメなんじゃねぇの?やってみたいんなら、自分で言いな!!」
素っ気無く羅夢は言って、またビーチチェアに背中を預けた。
3514投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時09分42秒
「でもさ…。羅夢ちゃんも、野球部に入るんでしょ?」
「あん!?誰が入るって!?」
メロディーの言葉に、また羅夢は上半身を起こした。
さっきから、ちっとも身体を休ませることができない。
「え?違うの?入らないの?」
「入らねぇよ!!アタイは、あんなヤツと野球なんて、しねぇからな!!」
羅夢の言う『あんなヤツ』とは、当然、七海のことだ。
「なんだぁ…。メロディー、中等部に入ったら吹奏楽部に入って、羅夢ちゃんのことを応援したいって思ってたのに…」
メロディーに続き、樹音もつまらなそうに呟く。
「なぁ〜んだ…。細田さん、野球部に入らないのか…。じゃあ、樹音一人でがんばるしかないか…」
ここで、『私も、入るのをやめる』と言い出さない樹音を、羅夢は少し気に入った。
「じゃあ、今日の帰りに私、野球部やらせてもらえるかどうか聞いてみようかな…」
その時、メロディーは楽しそうにはしゃぎながら、羅夢に聞く。
「じゃあさ、羅夢ちゃん、今日の帰りに野球部の見学、一緒に行こう!!樹音ちゃんの練習してるところ、見ようよ」
だが、羅夢は、そんなメロディーに素っ気無く答える。
「あ…悪いけど、アタイ、今日は用事があって早く帰らないといけないんだ。それから…」
樹音の方を向く。
「野球部の連中も、今日はほとんどいないと思うぜ」
「え…?そうなの?用事って何?」
「あ?まぁ…用事は用事だよ」
羅夢は、急に口ごもる。
3515投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時10分03秒
その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「んだよ!!おまえ等のおかげで、全然、昼寝ができなかったじゃないか!!」
怒鳴られた樹音は、キョトンとした顔で、羅夢の顔を眺める。
「昼寝?細田さん、いつも授業中寝てるって噂だよ?」
「う…。噂になってるのかよ…。あ、それから…『細田さん』って呼ぶのやめろ!!首筋が痒くなっちまう!!」
「じゃあ、何て呼べばいいの?」
その時、メロディーが割り込む。
「野球部の藍ちゃんからは、『らむりん』って呼ばれてるよ」
「おい!!おまえ、勝手に喋ってんじゃねぇ!!」
羅夢は、メロディーをキッと睨む。
「『らむりん』?可愛いじゃん!!わかった、今から『らむりん』って呼ぶね」
「だ、だから、その『らむりん』もやめろ!!」
またもや、メロディーが口を挟む。
「何で?『らむりん』、可愛いじゃん。私、藍ちゃんから『めろりん』ってつけてもらったよ」
「ああ、そうかい!!そりゃ、よかったな!!『けろりん』!!」
「『めろりん』!!」
「はい、はい!!わかったよ!!『へろいん』!!」
羅夢は、大股でズンズンとメロディーと樹音の間を通って、屋上の扉に向かう。
「じゃあさ、また気が向いたら、私と一緒に野球部の見学に行こう!!『らむりん』!!」
樹音が、羅夢の背中に声をかけた。
羅夢は、何も言わずに屋上から立ち去った。
3516投稿者:リリー  投稿日:2008年08月30日(土)21時11分29秒
夏希さんに続き、樹音の登場です
もう、第三試合(最終話)なので、今まで出てこなかったキャラが、一気に登場する予定です

では、おちます
3517投稿者:117  投稿日:2008年08月30日(土)21時18分25秒
「表」の話でも、裏の話が出つつありますね。つい、ハラハラドキドキ!
樹音も久々ですね。「野球部入るのやめる」とか言わないのが、また樹音らしくていいです。
最後の羅夢とメロのやり取りが微笑ましい(笑)。続きも楽しみです!
3518投稿者:3500  投稿日:2008年08月30日(土)21時41分07秒
ありがとうございます
自分も同じです。
2006の教育フェアに行って楠本さんのファンになりました。

ホント小説面白いです。
3519投稿者:じゃあ  投稿日:2008年08月30日(土)23時48分18秒
リリーさんと横すれ違ったかもしれないね
3520投稿者:デジ  投稿日:2008年08月31日(日)04時42分33秒
表にまで感染しかけている裏の空気。
愛美も梓彩も親に関係のある人とつながりがあるし、藍と有海も裏の怪しい話を聞いてしまったし野球部全員が裏に関連する事になりますね。
おっ!2回裏にも何かありそうですね初等部はじじめての。R&G探偵社の者が一斉早退ですか。この日の夜がまた裏になる感じですね。
初等部久々と言いましょうか初めての樹音登場。猿キャラは健在ですね。
おっ!野球部志願ですか。メロディーも。こりゃまた来年も野球部は賑やかになりそうですね。(羅夢も嘘ついてますしね。)どこまで初等部は面白いんでしょうか?言い争いは挙句の果て、けろりん。でもヘロインって(笑)
裏が100%戦闘なだけに、裏の雰囲気化になりつつある表も面白くなって来ましたね。(いつも面白いですが)
続きも楽しみです!
             (今日の小言)
ちひろ(文章中には出ているが会話はなし)ジーナ(文章中にも出ていない)あと出てないのはこれだけですかね?
ところで、前から気になっているんですが
  [初等部]              [中等部]
メロディ5年C組17番        エマ1年A組10番
帆乃香5年C組31番         藍1年A組31番 
樹音6年A組5番          梨生奈1年B組7番
羅夢6年D組24番          有海1年C組2番                          七海1年C組29番
  [高等部]            エリー1年D組36番
                  愛美2年B組3番 
ちひろ1年B組33番         梓彩2年A組4番
                  有沙3年B組22番
                  ジョアン3年D組34番
この番号どうやって考えたんですか?なんか明らかにおかしい番号の人もいるんですが...... 
3521投稿者:デジ  投稿日:2008年08月31日(日)05時01分57秒
クイズが忘却の彼方に置いてかれそうなのでの答えこの辺で描いておきます。
藍は田、遼希は木、梨生菜は木、エリーは水、有海は一、滉一は日、羅夢は田、有沙は|、ダーさんは夕
これは、それぞれの名前の最初の漢字の部首です。
藍は細だから田、遼希はただの木だから木、梨生奈も遼希と同じ理由で木、エリーは渡だから水、有海は一だからそのまま一、滉一は日だからそのまま日、羅夢は細だから田、有沙は中だから|(そのままたてぼうといいます)、ダーさんは夕だからおまけで夕(タと夕が似てるから勝手に付けてただけです)
よって七海は藤で部首がくさかんむりだから『草』が正解です
3522投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時11分13秒
117さん
「自分」というものを持っている人が好きですね
この小説の樹音は、何のしがらみも受けずに「野球がやりたい」という欲求を第一にしてます
その対極にあるのが、有海をいじめているグループですね
3518さん
3519さんの言う通り、同じ場所で同じ時間を過ごしたんですね
私は東京在住なので、今年も行けるかもしれません
デジさん
表と裏の境界線が、段々曖昧になっていくのが、第三試合(最終話)の特徴です
今日で、『二回・表』は終わりますが、その直後から『二回・裏』がスタートします
出席番号ですか?
「あいうえお」の五十音順です
有海が「2番」で、エリーが「36番」なのは、「い」と「わ」の順番です
おかしい番号というのは、帆乃香のことですか?
彼女は転入生なので、一番最後の番号となっています
初等部(全4クラス)は1クラス約30名、中等部(全4クラス)と高等部(全7クラス)は1クラス約36名です
クイズは、部首かな?と思いましたが、有沙の『|』、ダーさんの『夕』というのに混乱しました
では、更新します
3523投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時13分42秒
放課後の初等部のグラウンド。
広いその中に、たった3人…なんとも寂しい光景である。
藍と有海と、顧問のあすみだ。
藍は、投球用ネットに投げ込みを行っている。
あすみは、有海のバッティングの練習に付きっ切りになっている。
有海は、昨日怪我をした右手が完治してない為、左腕一本でバットを振るっている。
非力な有海にとって、片腕でバットを振るうのは結構、きついものがある。
だが、右打者の有海にとって、左腕の強化は必要不可欠だ。
守備は一応こなせるようになったが、バッティングではチームの足をグイグイと引っ張っている有海…。
有海が打席に立った時、無条件でアウトを一つ、相手に与えてしまうことになるのだから…。
あすみは、ほとんどの部員が休んだ今日、有海のバッティング力を向上させるいい機会と割り切って、熱心に指導している。
そんな、あすみの姿を横目で何度も窺う藍。
どう見ても、普通の…気の良い男勝りな、女教師…。
加藤組を…暴力団を壊滅させるような女には見えない…。
「あい〜ん…。さっきから、全然集中してないね?どうしたの?」
後ろを向いたまま、あすみは藍に声をかけた。
「い…いえ…!!な、何でもないです!!」
後ろに目でもついているのだろうか…?
藍は、一心不乱に投げ込みを行った。
3524投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時14分04秒
「あの〜!!すみませ〜ん!!」
誰へともなく、大きな声が響く。
校舎側を、3人は一斉に向いた。
初等部の生徒が2人立っていた。
上級生と下級生の様だ。
下級生は制服、もう一人の上級生は体育用のジャージ姿だ。
「…ん?私達…?」
あすみは、立て膝からゆっくりと立ち上がる。
「はい…!あの…お願いがあるんですけど…」
ジャージの方の、上級生が緊張の面持ちで切り出す。
「お願い?」
「あの…私、初等部の6年生なんですが…今から、野球部で一緒に練習させてもらうことはできないでしょうか?」
「…?初等部の生徒さん…?あなた、名前は?」
「はい、川?樹音と申します!!」
ピンと背筋を伸ばして、樹音は自己紹介をした。
「う、うわ〜〜〜!!て、ことは、中等部に入ったら、野球部に入るってこと?」
藍は、練習を放り出して樹音に駆け寄った。
「え…ええ…。そうなんですけど…」
噂に聞く藍に迫られて、樹音は嬉しく思いながらも圧倒された。
「で、できれば、今、一緒に練習したいんですけど…」
3525投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時14分34秒
「う〜ん…。今から?一緒に…?」
あすみは、困ったように頭を掻いた。
「いいよ、いいよ!!もちろん、いいよ!!ね?あすみん、いいでしょ?」
藍は、ハイテンションであすみに問う。
しかし、あすみは奥歯に物が挟まった様に話しだす。
「いや…やっぱり、初等部の生徒が、中等部の部活に参加するって、問題があると思うよ…。怪我したりすると、いろいろ面倒だし…。いや、気持ちは嬉しいけどね…」
あすみは、困ったような…しかし、やはりどこか嬉しそうに微笑んで言う。
「ええ〜〜〜…。そんなぁ〜〜〜…。いいじゃないですか!!折角、入ってくれるって言ってるんだし…」
藍は、口を尖らせる。
「いえ、いいんです…。私が無理言ってるわけですから…」
「でも…」と、あすみは続ける。
「練習はダメだけど…野球で遊ぶのは自由だよ」
「遊ぶ?」
藍と樹音は、同時に尋ねた。
「うん。キャッチボールくらいは、全然問題ないよ。あい〜ん、くれぐれも怪我のないように遊んであげな」
「は…はい…!!」
藍の顔は、途端に明るくなった。
「ありがとうございます!!」
樹音は、膝に額がつくほど腰を折り曲げて礼を言う。
3526投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時14分56秒
「ねえ、グローブは持ってる?部の物もあるから、貸してあげようか?」
藍は、さっそく先輩らしく樹音の世話を焼く。
「いえ…持って来てます」
そう言って樹音は、リュックの中から真新しい、ワックスでピカピカ光る黄土色のグローブを取り出した。
「わ…!!用意してたんだ!!気合入ってる!!でも、そのグローブの真新しさ…野球、やったことは?」
「ないです!」
元気良く、堂々と答える樹音。
その潔さが、藍の気に入る所となる。
「わかった!!じゃあ、最初は近い距離でキャッチしよう…。あ、めろりん、あんたも野球部に?」
今、気がついたという様に、藍はメロディーに目を向けた。
「ううん。私はただの見学」
「なんだ…。そうなの…。でも、やりたくなったら、いつでも言ってね?」
藍と樹音は、まず5メートルほど離れて正対する。
「じゃあ、行くよ」
藍は、まず下投げで樹音にボールを放る。
それを難なく受け止める樹音。
「お?中々筋がいいじゃん」
「ありがとうございます!!」
そして、10球は投げた所で、早くも藍は上投げでボールを投げた。
樹音にとって、それも問題ない。
そして、その日のうちに、なんと樹音は普通に藍とキャッチボールができるまで上達してしまった。
3527投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時15分16秒
「うわぁ…。凄いな…あの子…」
有海は、羨ましそうに樹音を眺める。
「このままだと…来年は私、補欠に逆戻りみたいですね…」
そう呟く有海の頭を、あすみは軽く叩いた。
「何、言ってるの…。あみ〜ごも、練習次第ではどこまでも上達するよ。それに…あみ〜ごにしかできない、特技もあるし…」
「特技?」
「異様な記憶力の良さ。そして、絶妙な配球の組み立て…」
「そ、そうですかね…」
有海は、少し嬉しそうに微笑んだ。
「でも、バッティングも、あみ〜ごの武器にしていくからね?覚悟しな!!」
「は、はい…」
「じゃあ、片手で素振り、あと30回!!」
「さ、30回も!?」
「じゃあ、50回!!」
「ひぃぃ…」
もう、無駄口を叩くことなく、素振りに集中する有海。
厳しいが…決して甘えさせてくれないが…暖かい先生…。
そんな、あすみが、ヤクザなんかと戦えるはずがない…。
有海は、汗を流しながらも、無理矢理自分を納得させた。
3528投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時15分34秒
こうして、たった3人の…いや、樹音も入れての4人の練習は終わる。
「どうも、ありがとうございました!!今日は無理を言って申し訳ありませんでした!!」
「ううん。いいんだよ。中等部に入ったら、本格的な練習をつけてあげるからね」
そう言うあすみに、樹音は深々と頭を下げる。
「それじゃあ、細川先輩もありがとうございました。楽しかったです!!」
「うん、私も楽しかったよ、『ずね』!!」
「『ずね』…?」
「うん。あんたのあだ名!!気に入った?」
「あはは…『ずね』…!!いいですね。初等部でも、私、そう呼んでもらいます!!」
「よかったねぇ、ずねちゃん!!藍ちゃんにあだ名つけてもらえて…」
そう笑顔を見せるメロディーに、藍は言う。
「お〜い!!めろりん!!だから、私のことは『あい〜ん』って呼んでよ!!」
「あ、そうか…。じゃあ、バイバイ!!あい〜ん!!」
メロディーは、大きく手を振った。
そして樹音は、最後まで礼儀正しい態度で部を後にした。
「うわぁ〜!!やった!!やった!!これで、新入部員、一人ゲットだぁ〜〜〜!!」
有海と手を取り合って喜ぶ藍を、あすみは暖かい笑顔で見守った。
3529投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時15分54秒
クラブハウスで着替える藍と有海。
唐突に藍は、有海に言った。
「あみ〜ご…。早く着替えて」
「え?何で?」
「今から、あすみんを尾行するよ」
「ええ!?び、尾行!?」
目を丸くする有海を、藍は真剣な顔で見詰める。
「だって…加藤組のこと…気にならない?」
有海の表情は暗くなる。
「………でも…そんなの…聞き違いだったかも知れないよ…」
「聞き違い?『加藤組』って言葉を聞いて、その日に、その『加藤組』が襲われちゃったんだよ?」
「で、でも…先生の後を着けるなんて…」
そう言う有海だが、藍も、決して気分の良い表情はしていない。
「…私…早く安心したいんだ…。あすみん…ヤクザなんかと関係ないって…!!だから、尾行するんだよ!!」
「…!!」
自分は、心配したくないから無理矢理自分を納得させて考えるのをやめた。
しかし、藍は安心したいからこそ、真実を突き止めようとする…。
これが、藍と自分の決定的な違いなのか…。
これが、自分が藍を眩しいと思う…所なのだろう…。
有海は、ただ黙って、藍の目を見詰めながら頷いた。
そして、2人は職員用通用門の側で隠れて、あすみの帰りを待った。
3530投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時16分33秒
「ねぇ…。細川さん。も、もし、先生がヤクザと戦ったのが本当だったら…どうするの…?」
不安で仕方がないといった表情で、有海が尋ねる。
「どうするって…。あみ〜ごはどうする?」
藍も、困った様に有海に聞き返す。
「わ…私は………」
有海は、そのままうつむいて黙った。
藍は、覚悟を決めたように力強く言う。
「私は…それでも、あすみんに着いて行く…!!どんなことがあったって…あすみんは、私の大好きな先生だもん!!」
「………わ、私は…」
「あ、あみ〜ご!!身体、隠して!!あすみんが来たよ!!」
3531投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時16分45秒
職員用出入り口から出てきたあすみは、カジュアルな軽装で颯爽と歩いて、通用門へ向かう。
その際、門の詰め所の守衛に軽く挨拶した。
しばらく経って、藍と有海は追い駆けるように門へ走る。
「ん?君達…ここは先生用の門だよ?」
詰め所の守衛は、受付口から身を乗り出して2人に言った。
「あ…いえ…私達、ちょっと先生に用があって…」
「さ、さようなら…」
慌てて門を通り抜けた2人は、あすみの背中を遠くから見ながら、着かず離れず尾行を開始する。
そんな2人を、更に遠目で見る…5人組がいる…。
有海をいじめている、グループの5人だ…。
そのリーダー格の少女が、携帯電話を取り出して、話を始める。
「もしもし…。今、学校を出たから…。一人になった所を、お願いね………。報告はしなくていいから………」
そして、冷たい笑みを浮かべると、2人の…いや、有海の背中を見詰めた。
3532投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時17分02秒
あすみは、学校へは電車通勤をしている。
理由は、車の免許を持っていないということだ。
排気ガスを撒き散らす車には、乗るつもりはないらしい。
もう少し近い所に住んでいれば、混雑する電車を避け、自転車で気持ちよく通勤したいと、あすみは言っていた。
徒歩通学の藍と有海にとっては、なんとも都合のいい話しだ。
あすみは、天歳駅前に到着する。
「先生、このまま電車に乗って帰っちゃうんじゃない?」
「う〜ん…。そうだね…。今日、ヤクザと戦った証拠が掴めるとは限らないし…」
「まさか、証拠を掴むまで毎日尾行するの?」
「………私は、続けるよ…。だって…早く安心したいもん…」
「でも、証拠を掴むまで続けるってことは、それまでずっと不安になってるってことで、もし証拠を掴んだら、やっぱり先生はヤクザと戦ったってことになって、結局は安心できないんじゃ…?」
有海にそう指摘された藍は、しばらく固まった。
「………ねえ…。思い切って聞いてみる?」
「き、聞くって…先生に直接?」
藍の提案に、有海は戸惑った。
3533投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時17分34秒
「うん…。だって、こういうのは、早めにはっきりさせた方がいいよ!!」
「で…でも…」
「だったら、私一人で聞きに行くよ。あみ〜ごはここで待っていて…」
「あ…ほ、細川さん…」
弱々しい有海の声を振り払い、藍はあすみへ近づいていく。
ヤクザと戦ったんですか?と聞いて、正直に答えると思っているのだろうか…?
いや、藍のことだから思っているのだろう…。
あすみが、自分達にウソを言うはずがないと…。
3534投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時17分51秒
「!?」
だが、藍は途中で足を止めた。
一人の男が、あすみに近づいて来たからだ。
その男は髪の毛を金髪にして、高級そうなスーツをキッチリと着込んでいる。
そして、骨折でもしているのだろうか…三角巾で左腕を吊っている。
藍は、慌てて有海の元へと戻って来た。
「あ、あみ〜ご!あみ〜ご!!あ、あの男の人…誰?」
「い、いや…私、わからないけど…」
「ナンパかな?あすみん、美人でカッコいいから…」
「ん?なんだか、待ち合わせっぽいよ…」
その金髪の…まるでホストの様ないでたちの男は、旧知の知り合いのノリで、あすみに話しかけた。
「うそ…!も、もしかして…彼氏?」
藍は、あすみに聞こえてしまうのではないか、というくらいの声で叫んだ。
有海は、人差し指を口の前に持って来て、必死で藍に訴えかける。
3535投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時18分26秒
しばらく、お互い話し合う二人。
そして、駅へは向かわず、繁華街の方へ歩いて行った。
「あれ…?どこに行くんだろう?もしかして、デート?」
藍は、一人でテンションを高くしている。
「あ…!グズグズしてたら、2人を見失っちゃう!!あみ〜ご!!早く!!早く!!」
「………細川さん………目的が変わってきちゃってる…」
呆れ果てた有海の声などおかまいなしに、藍はあすみと金髪男の後を追う。
3536投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時18分36秒
その時、2人は声をかけられた。
「待った!!あい〜ん!!あみ〜ご!!ちょいと待ち!!」
「え…?」
ギクリとして後ろを振り返る。
こんな街中で、あだ名で呼び止められた…?
そこには、折り畳みのテーブルと、椅子を小脇に抱えた、少年野球チーム『茶々山マンボウズ』の監督の…間寛平が立っていた。
「カ、カンペーさん!!ど、どうしてここに…?」
「それはコッチの台詞やがな…。ここは、オッチャンの仕事場やさかい…」
「ああ…。占いの…」
「で、君等は何で、こんな所におるの?もう、暗くなるで?危ないで?」
「あ…その…。ちょっとお買い物…」
藍は、わざとらしく笑いながら答えた。
「ふ〜ん…。お買い物ねぇ…」
カンペーは、おもむろに有海の顔を見る。
「…!!」
有海は途端に表情を硬くした。
カンペーは、ゆっくりと口を開く。
「でもな…。君等は、もう帰った方がええで…」
3537投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時18分54秒
「へ…?か、帰る…?」
藍は、今まで見たことのない厳しい表情の寛平の顔をまじまじと見た。
「うん。今すぐ帰り。ようないことが起こるで…」
「よ、よくないこと…?」
藍と有海は、顔を見合わせる。
「それは、占いですか?」
「…うんにゃ…。大人としての教育的指導や…」
「あはは…!!らしくなぁ〜〜〜い!!」
寛平を指差しながら、藍は笑った。
「ええから、言う事を聞き!!」
珍しく、寛平は怒鳴った。
一瞬で黙ってしまう藍…。
有海の目には、涙が溜まる。
3538投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時19分17秒
しかし、次の瞬間には、寛平は穏やかな笑顔を2人に向けた。
「ええから、はよ帰り。おっちゃん、2人が心配やねん…」
「は、はい…。すみませんでした…」
藍は、素直に頭を下げた。
「オッチャンも…キツイこと言うて、ゴメンね…」
寛平は、そのまま2人の側を通り抜けると、テーブルを開いて道端に置いた。
「じゃあ、オッチャン、お仕事やさかい…。気ぃつけて帰り…」
「は、はい…。失礼します」
「さ、さよなら…」
藍と有海は、深く頭を下げると、天歳駅前の賑わいを通り抜けた。
そんな2人の背中を、寛平は溜息をついて見送る。
「ま…それでも、運命は変わらんよなぁ…」
そう言うと、おもむろにポケットから商売道具のタロットカードを取り出し、その中から一枚を抜き取った。
そのカードの絵を見ながら、また寛平は溜息をつく。
「『雷』に撃たれて、崩れた『塔』から落ちる『2人』て…あの2人のことなんやからなぁ…」
それは…塔の様な建造物に雷が落ち、そこから瓦礫や人が、まっ逆さまに落ちている絵柄…??・La Maison de Dieu …と書かれた『塔』のカード…。

(『二回・表』・・・終了)
3539投稿者:リリー  投稿日:2008年08月31日(日)21時21分36秒
今日は、少し多かったですね

第一試合から、放置されてた謎が、ようやく明かされました

そして、もう一つの謎は、次回の『二回・裏』で…

では、おちます
3540投稿者: 投稿日:2008年08月31日(日)22時20分42秒

3541投稿者:117  投稿日:2008年08月31日(日)22時22分34秒
樹音、なかなかの情熱&努力家!いいですね。
あすみ監督の尾行を始めた藍&有海・・・「裏」と絡み合う。
一方で、最後のカンペーさんの呟き、そして“いじめグループ”の行動は?続きも楽しみです!
3542投稿者:藍と有海だったのか  投稿日:2008年08月31日(日)22時51分09秒
野球部から抜ける二人って…
3543投稿者:オッチャンも…キツイこと言うて、ゴメンね…  投稿日:2008年09月01日(月)00時31分43秒
寛平のギャグだw
3544投稿者: 投稿日:2008年09月01日(月)00時52分54秒

3545投稿者:デジ  投稿日:2008年09月01日(月)06時34分53秒
樹音、捕球力けっこうありますね。野球部に入ってから面白くなってきそうです。
裏に染まり始めた藍と有海。そして最後の文章。なるほど。
野球部から抜ける二人ってこの二人の事だったんですか。
早くも波乱含みな展開を見せる野球部の運命。この先どうなる?
続きも楽しみです!
            (今日の小言)
「崩壊、逆境、災難、落雷、火遊び、火災、おごり、堕落、地位を失う、落下、失敗、城、病院、建物、16番目の大アルカナ、火星」こんな意味を持つ「塔」のカード。縁起でもない事ばっかりですね(苦笑)あっそれじゃああすみ先生もそうか(笑)

3546投稿者:あげ↑  投稿日:2008年09月01日(月)17時26分30秒
3547投稿者:あげ  投稿日:2008年09月01日(月)17時32分23秒
 
3548投稿者:あげ  投稿日:2008年09月01日(月)19時16分32秒
           
3549投稿者:リリー  投稿日:2008年09月01日(月)20時46分37秒
117さん
ここに来て、今まで広げた風呂敷を畳みにかかります
少し、展開が急になると思いますが、最後までお付き合いよろしくお願いします

3542さん
そうです
予想通りでしたか?

3543さん
寛平さんは持ちギャグの数がすごいので、こういう遊びがいろいろできます

デジさん
あすみは、背が高い…というだけで『タワー(塔)』に決めました
仰る通り、不吉なカードなんですけどね

あげ、ありがとうございます

では、更新します
3550投稿者:リリー  投稿日:2008年09月01日(月)20時48分45秒
『二回・裏』

≪2007年10/16(火)≫
天歳駅前の雑踏から抜け出た藍と有海は、もう一度繁華街の方を振り返る。
「帰ろうか…。細川さん…」
有海の呼びかけに応じず、藍は黙ったままだ。
「ねぇ…。細川さん…」
もう一度、有海は呼びかけるが、藍はそのまま繁華街の方へ足を運ぶ。
「細川さん?」
有海は、胸騒ぎがした。
「私…やっぱり、確かめる…」
「え?」
「あすみんの正体…」
「え…?え…?」
振り返って、戸惑う有海の顔をじっと見る藍。
3551投稿者:リリー  投稿日:2008年09月01日(月)20時48分55秒
「さっきの寛平さんの言葉で…私、確信しちゃった…」
「か、確信…?」
「やっぱり、あすみんは良くないことに巻き込まれてるんだよ…。今、考えてみると、あの金髪の男も胡散臭い感じだった」
「あ、あの男の人が…?」
「うん。たぶん、ヤクザと関係してるのかもしれない…。私、あの2人を追い駆ける!!」
そう言うと、藍は駆け出した。
「ほ、細川さん!!」
「あみ〜ごは、帰って!!私、一人で確かめる!!」
藍は、人ごみの中に走って紛れていく。
3552投稿者:リリー  投稿日:2008年09月01日(月)20時49分15秒
有海は一人取り残され、ただ藍の背中を眺めていた。
寛平に諭されて、真実を追うことが断念できると、少し安心した自分に気がついた。
でも、藍はそれでも納得しない。
もし、あすみがヤクザと何らかの関わりがあったら…。
有海は藍に聞いてみたが、藍も自分に聞き返してきた。
自分は、答えられなかった。
「ダメだなぁ…。私は…」
一人呟きながら、有海は歩き始める。
そして、考え…悩み続けた。
もし、あすみがヤクザと戦っていたら…。
もし…?
『もし』の話しをして、どうする?
藍は何と答えた?
それでも、あすみに着いて行く…大好きな先生だから…。
そうだ…『もしも』のあすみなんかより、今まで一緒に過ごしてきた、あすみだけを見るのだ。
「私だって…先生が…中田先生が大好き!!」
有海は、携帯電話を出し、藍に掛けた。
3553投稿者:リリー  投稿日:2008年09月01日(月)20時49分50秒
長身のあすみに、高級スーツを着た金髪男の二人連れ…傍から見て、相当目立つはずだ、
藍は、辺りを見回しながら2人を探す。
途中、何度も人にぶつかりながら…何度も謝りながら…。
その時、藍の携帯が鳴った。
送信主は、『あみ〜ご』…。
「もしもし?あみ〜ご?」
走りながら、藍は電話に出る。
〔細川さん…。私…私も、先生のこと大好き!!〕
「へ?」
藍は、足を止めた。
〔どんなことがあったって…例え、どんな人だろうと、私は先生に着いて行く!!〕
「…うん…」
〔だから…逃げるの、やめるね…。私も、細川さんと一緒に先生を探す!!そして、一緒に聞こう…。加藤組のこと…〕
「…うん!!じゃ、じゃあ、私、このままあすみんを探すから…あみ〜ごは、繁華街に着いたらまた電話ちょうだい!!」
知り合ってから、弱気な少女だった有海…。
それが、どんどん強くなっているような気がする。
3554投稿者:リリー  投稿日:2008年09月01日(月)20時50分34秒
〔うん、わかった。じゃあ、また後で…〕
「ま、待って…!あみ〜ご!!」
〔ん?何?細川さん?〕
「あのね…私、あみ〜ごとは友達なんだけど…」
〔うん?〕
「これからは…親友になれそう!!無理の親友!!」
〔………細川さん〕
「な、何?」
藍は、照れながら聞いた。
〔…それを言うなら、『無二の親友』ね…。『二人といない、親友』って意味…〕
「あ、あははは!!わかってるわよ!!知っててボケたの!!」
藍は、電話でわからないだろうと、真っ赤になった顔を隠さず言い放った。
3555投稿者:リリー  投稿日:2008年09月01日(月)20時50分46秒
〔でも、ありがと…。私なんかを…親友なんて…〕
「そ、そんなこと言わないでよ…。こ、こんな私なんかで良かったらさ…」
〔後悔しない?私みたいな、つまんない子、親友にしてさ…〕
「後悔!?そんなこと、あるわけないでしょ!!『無理矢理にでも親友になってやる!!』…だから、『無理の親友』!!」
〔…ぷ…。くくく…〕
「へへへ…」
しばらく、笑い声で通信する2人…。
〔じゃあ、また後でね…〕
「うん!!待ってる!!我が親友!!」
藍は、携帯を切った。
3556投稿者:リリー  投稿日:2008年09月01日(月)20時51分19秒
有海は携帯を切った。
そして、藍のいる…そして、あすみのいる繁華街へ走り出す。
その時、声をかけられた。
「ねえ、ねえ…。俺達とも親友になってよ!!」
ギクリとして、後ろを振り返る。
ヒップホップ系とでも言うのだろうか…ダブダブの服をだらしなく着た15〜20歳の男達、7人が、歩道いっぱいに並んで有海を見ていた。
ニヤニヤと…悪意に満ちた目で…。
3557投稿者:リリー  投稿日:2008年09月01日(月)20時51分30秒
「………」
今の、藍との電話での会話を聞いていたのだろうか?
まず有海は、不愉快になり…そして、恐怖を感じた。
何も言わず、繁華街へ向かう。
「ねぇ、待ってよ」
また、声をかけてきた。
不安から、有海の心臓が激しく鼓動する。
「君、可愛いね。一緒に遊ばない?」
有海は、無視を決め込む。
「その制服…君、聖テレだろ?」
「ひゅ〜!!お嬢様じゃん!!」
「お嬢様は、こんな下賤な輩とは、付き合わないの?ねぇ!!」
有海は、無視して繁華街へ急ぐ。
早く、藍に会いたい…!!
「君…一木有海ちゃんだろ?」
「…!?」
自分の名前を知っている…?
有海は、思わず足を止め、後ろを…彼等を振り返った…。
そこには…ナイフの切っ先が…。
3558投稿者:リリー  投稿日:2008年09月01日(月)20時52分36秒
確実に、二人の運命は動き始めています

では、おちます
3559投稿者:117  投稿日:2008年09月01日(月)21時12分23秒
ついに「裏」にも登場した藍&有海。
さらに絆も強くなって、これからという時に・・・有海に恐怖の刃が!?
名前を知っているということは、例の“いじめグループ”?ただの不良?
何やら、カンペーさんの占いの予言通り・・・続きが気になります!
3560投稿者:無理の親友ww  投稿日:2008年09月01日(月)22時13分13秒
最初は言い間違いなのに「無理矢理にでも親友に」と名文に変えちゃった藍すごい!

雷って、あすみの事件のこと?
3561投稿者:有海どうなるんだ  投稿日:2008年09月01日(月)22時23分32秒
気になる
3562投稿者: 投稿日:2008年09月01日(月)23時26分29秒

3563投稿者:デジ  投稿日:2008年09月01日(月)23時44分00秒
早くも裏登場ですか。有海と藍。
有海には、早くも一難が!?どうなる有海!
一方、それを知らない永遠の親友を約束したばかりの藍。「無理の親友」って(笑)
この二人の運命がどう転がって退部に行き着くか。(少なくとも前半ではないと予想しています。)
R&G探偵社の召集も気になる2回裏。続きも楽しみです!
             
3564投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時54分17秒
117さん
不良達の目的は、そのうち明かされます
今日は、まだですが…

3560さん
実は、昔こういう勘違いをしたことがあります…
『雷』は、この後に起きる衝撃的事件のことです

3561
今日のところは、まだその安否はわかりませんが…

デジさん
この『二回・裏』が、二人の運命のターニングポイントとなります
ストーリーは、急激に動き始めます

では、更新します
3565投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時55分54秒
「あ…あのぉ…」
「ん?はいはい…」
寛平は、テーブル前に立つ、何ともパッとしない風体の男を見上げた。
「あ、あなた…占い師ですよね…?よく当たるって評判の…」
「ああ…。はいはい…。よぉ、当たるで」
寛平が、早速タロットカードをチャッチャと音を立てて切る。
「まあ、掛けなはれ…。さあ、どうぞ…」
「え?ああ…はい…」
男は、小さな折り畳み椅子があったのに、今、ようやく気がついた。
こんな小さな椅子に座って、大丈夫なのだろうか…と、男は思いながら座った。
案の定、座った途端にバランスを崩した。
3566投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時56分05秒
「え…え〜と…。私…」
「あんた、学校の先生やろ?」
「へ…?な、何でわかったんですか?」
男は、青いジャージを着ていた。
しかし、カバンはビジネスに使うような黒い革のカバンだ。
そんなスタイルで仕事をしているのは、学校の教師くらいしかいない。
「ま、占い師やからな…。それから…中学校の先生…ええと…あと、運動の部活を教えてへん?サッカー…いや、野球や!!」
「う、うわ!!な、何で、そんなことまでわかるんですか!?」
男は、ガラガラの濁声を張り上げて叫んだ。
「何でって…せやから、占い師やから…」
いや…実は、寛平はこの男を知っているからだ。
そう…この男は、虹守中学校野球部顧問、マーこと、井上雅史だった。
3567投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時56分23秒
先月の今頃だったろうか…井上が監督を務める虹守中野球部は、お嬢様学校の聖テレ野球部に負けてしまったのだ。
寛平は、聖テレ野球部の応援で、茶々山マンボウズの少年達と一緒にその場にいたのだ。
だが井上の方は、大勢の観衆の一人だった寛平のことを、当然気がついていない。
寛平の的中の謎は、そのことを巧妙に利用したものだ。
「そ、それで…その…占ってもらいたいことは…」
「ああ、仕事のことやろ?」
「へ?」
「おそらく…部活のことやな?なんか、先月くらいに試合で負けてから、あんまり調子ようない…それで、悩んでんねんな?」
「いえ…。確かに先月、負けた試合がありましたが、あれから部員は一枚岩になって…練習試合でも連勝です…」
「…ああ…。そら、知らんかったわ…」
「え?知らなかった?」
「いや…何でもない…」
もう、寛平は適当に感で答えるのをやめた。
「それで…何やって?」
「ああ…はい…。私…実は…恥ずかしながら…その…恋をしてしまいまして…」
「恋?ああ…恋愛相談やな?」
三十路過ぎの男の恋愛相談とは、珍しい…と、寛平は思った。
「その…とある、学校の…野球部の先生で…いや、同性ではないです!!その…女の人で…野球部の監督で…」
「ふん、ふん…。その、監督さんのチームに負けたんやな?」
「え…?あ…はい…!その通りです!!」
井上は、再び目を丸くした。
3568投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時57分08秒
「そ、その、監督さんの写真です!!どうです?背が高くて美人でしょ?」
井上は、少しハイテンション気味に、寛平に携帯電話の画像を見せる。
そこには、だらしない笑顔の井上と、営業スマイルの凛々しい女性が映っている。
(やっぱり…)
寛平は、笑いを堪えるのに苦労した。
その女性は、やはり我が組織、裏探偵『TDD』の『カード』の一人…『タワー(塔)』の中田あすみだった。
あの試合の後、頼み込んで一緒に撮ってもらったのだろう…。
「ほら…彼女、凄くイケてるでしょ?だから…やっぱり…その…恋人とか…」
井上は、まるで恋する乙女の様にモジモジしている。
表の人間が、裏の人間に恋をする…あまり、好ましいことではない…ここは、ウソ、デタラメを言って諦めさせよう…と、寛平は思った。
3569投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時57分19秒
「うん。彼女な…恋人、おるで…」
「は…?」
「おるんよ。恋人…」
「そ…それは…占い…?」
「ううん…。そのお姉ちゃん、さっき男と一緒に歩いとった…」
「さ…さっき…?い…いや…でも、歩いてただけでしょ…?友達かも知れない…」
「ううん…。腕、組んどった…」
「で、でも、ほら…仲の良い兄妹だったら…腕くらい組むことだって…」
「キスしとった…」
「………!!で、で、で、でも…海外生活が長い人なら…挨拶程度に軽いキスくらい…」
「思いっきり、ディープなヤツや…」
「………で、で、でも、でも…ラテン系だったら…」
「もう、諦めや…」
「…はい…」
井上は、力なくうな垂れた。
3570投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時57分55秒
占いではないので、寛平は井上から代金は取らなかった。
それ以前に、こんなにも落ち込んでいる男から、金を毟り取るのは気が退けた。
しかし寛平は、この気の毒な男へ、せめてもの手向けに一言付け加えた。
「あ…自分な、新しい出会いが待ってるで?」
「え…?新しい出会い?」
「うん。そやなぁ…。来年の…春くらいか…。野球が縁で、ええ人と出会うよ」
「はぁ…。ありがとうございます…」
井上は、失恋の痛手から抜け出せないまま、寛平の前から去った。
3571投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時58分09秒
すると、間髪入れずに一人の学生服姿の少年が寛平の前に立つ。
「ん?」
その、眼鏡をかけた真面目そうな少年は、緊張で顔を真っ赤に強張らせながら寛平を見詰めている。
緊張なのか、もともと赤ら顔なのか…。
「あ…あの…。ぼ、ぼ、僕も…う、う、占ってもらいたいことが…」
「ふ〜ん…。お兄ちゃんも恋の悩みか?」
「え…!?ど、どうしてわかったんですか!?」
「お兄ちゃん、高校生か…中学生やろ?学生の悩み言うたら、勉強のことか恋愛や。その緊張具合やったら、恋愛やな。さっき撃沈したお客さん、見たばかりやろ?」
「…は、はい…。その通りです…」
「ま、座り…」
寛平は、少年に椅子を勧める。
「あ…。僕、中学生です。3年生…。下ノ国中学の…。名前は、洸太レイシー…。変わった名前でしょ?ハーフなんです…」
「ふんふん。お兄ちゃん、眼鏡取ったら、男前やん?」
「そ、そうですか?」
洸太は、慌てて眼鏡を取った。
3572投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時58分50秒
「…あんなぁ…お兄ちゃん…。オッチャン相手に眼鏡取っても、しゃあないやん…」
「あ…そ、そうですね…」
洸太は、慌てて眼鏡をかけ直す。
「せやけどな、お兄ちゃん…。オッチャンの占いは高いで?諭吉一人は貰うてるで?」
「…は、はい…!僕、2か月分のお小遣い、持ってきました」
洸太は、財布から五千円札を2枚出した。
3573投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時59分01秒
「一ヶ月、一葉も貰うてんの?羨ましいなぁ…。オッチャン、君くらいの年には働いて家計を助けてたで…」
「は、はぁ…。そ、それは…占いですか…?」
「うんにゃ…。屑鉄拾いとか、活版印刷の文字拾いとか…下向いて拾ってばっかりやけどな…」
「はぁ…」
「下向くんはもう、嫌やから、上を向いて…未来を見て生きていこう…思うて、占いの道に入ったんや…。で、その占いのノウハウを教えて貰うた師匠と出合うたのが…」
「あ…あの…。僕、塾に行かなきゃならないんで…早く占ってもらえませんか…?」
「…そやね…。じゃ、その娘、どんな娘なん?」
「…そ、そりゃ…も、もう…おしとやかで…優しくて…その…可愛くて…」
「まぁ、好きな娘には、大体、みんなそう言うわ…。もっと、特徴のあること言うてくれへん?」
「あ…そ、そうですね…。その子…お嬢様なんです…。でも…その…女の子ですが、野球やってて…」
「野球?お嬢様で…野球?」
「…はい…」
「写真、持ってる?」
「あ…は、はい…」
洸太が生徒手帳から出した写真…おそらく集団写真を切り抜いた物だろう…洸太とその少女が写っていた。
どこか、のどかな田舎の森の中で、二人とも半袖のTシャツを着ているので、夏に撮ったのだろうか…。
だが、寛平は、その写真に写っている少女…有海の顔を見た途端、電流に撃たれたような刺激が脳を駆け巡った。
3574投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時59分38秒
寛平は、有海の写真を見たまま、動かない。
「…?あ…あの…?」
洸太が声をかけた途端、寛平は手元のタロットカードをテーブルの上で掻き回す。
そして、何やら裏を向けたカードを様々な位置に並べ、凄まじいスピードで開いていく。
そして、また集め、また掻き回し、また並べ、また開く…。
それを3〜4回程繰り返すと…懐から携帯電話を取り出し、掛けた。
3575投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)20時59分56秒
「もしもし、ワシや!!『タワー(塔)』か?『エンペラー(皇帝)』も一緒におるやろ!?」
「…?…?…?」
洸太は、何がなんだかわからない。
寛平は、洸太の視線に気がつくと、聞こえないように声を潜め、その場から離れた。
「…ええか?今…あんたの教え子…あみ〜ご…言うたか…?その娘の未来が見えた…。今、危険な目に合うとる…!助けに行くんや!!」
〔あ、あみ〜ごが…!?た、確かに、あい〜んと二人で私を尾行してたのには気がついてはいましたが…。き、危険とは…?〕
さすがに冷静なあすみでも、声が上擦っている。
「さらわれたんや…。ごっつい、悪意の塊りや…。その悪意が、あの娘の周りでトグロを巻いとる…」
〔だ…誰に…?い、いえ…ど、どこにさらわれたんですか!?〕
「それを、今から占うんや…。ええか?電話はそのままにしとき…今から居場所を占って教えるさかい…」
そして、寛平はテーブルに戻ると、再び占いを始める。
「あ…あの…。僕の占いは…?」
洸太は、不安と焦りの声を、寛平に向ける。
「あ?ああ…堪忍!!今、大切な仕事が入った!!今日は店仕舞いや。コレ、返すから…。ホンマ、堪忍!!」
寛平は、五千円札二枚を洸太に突き返すと、また占いに没頭する。
もう、何を話しかけても無駄な様だ…。
洸太は溜息をついて、その場から離れた。
3576投稿者:リリー  投稿日:2008年09月02日(火)21時00分33秒
今日は、これでおちます
3577投稿者:あげ  投稿日:2008年09月02日(火)21時01分24秒

3578投稿者: 投稿日:2008年09月02日(火)21時01分46秒

3579投稿者:洸太まだあきらめてなかったんだwww  投稿日:2008年09月02日(火)22時56分40秒
にしてもタイミング悪いというかなんというか……
そこで弟みたいに裏の世界へ心1つ(?)で助けに行ったらカッコいいのに。
3580投稿者:洸太は  投稿日:2008年09月02日(火)22時58分47秒
有海に何が起こったか、知らないからね。
知ってたとしても、行かないかな(笑)。
3581投稿者: 投稿日:2008年09月02日(火)23時13分36秒

3582投稿者:洸太の恋  投稿日:2008年09月02日(火)23時22分01秒
上手くいくといいけどなw
3583投稿者:私的には  投稿日:2008年09月02日(火)23時29分24秒
洸太の気持ちに気付かず、有海に「お兄ちゃんみたいな存在」って感じで緩〜く断られてほしい
ちょっと、お笑いっぽく(笑)
3584投稿者:マーとあすみは  投稿日:2008年09月03日(水)00時15分53秒
絶対に無理だろうなw
3585投稿者:デジ  投稿日:2008年09月03日(水)00時52分43秒
相も変わらず人気なんですね寛平の占いは。
マーさん登場?あの試合はこんなところにも影響がありましたか。
洸太のタイミングの悪い登場。そして、前回の有海に振り掛かかっていた魔の手は人攫いですか。仕組んだの多分あのいじめっ子ですかね?
間に合うか!?あすみ先生、寛平さん。続きも楽しみです!
            (今日の小言)
3574の更新の慌しい動きがガリレオの変な数式を書く部分みたいで笑えました。
こういうところをみると、ほんとに凶悪組織を立てようとしている人間かと思う。悪とはいえ表面上は、あんなに人にやさしく接せられる人が(そこが、思う壺なのでしょうが)。しかし、寛平さんの占いは何故よく当たる?
3586投稿者:ある意味  投稿日:2008年09月03日(水)00時58分14秒
洸太タイミング良かったよね
早めに分かってもらえて・・・洸太じゃなく寛平さんにだけど
3587投稿者: 投稿日:2008年09月03日(水)01時44分19秒

3588投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時49分52秒
3579さん、3580さん、3582さん
こんなに洸太のことを応援して下さる方々がいるのですね
なんか、洸太を幸せにしてあげたい気になります
と、言っても3583さんの言われる展開も洸太らしくていいですね

3584さん
ええ、こちらは私も無理だと思います

デジさん
寛平さんが『TDD』を設立した理由も、この『二回・裏』で明かされることになります
まだ、少し先ですが…
寛平さんの占いがよく当たるのは、才能(異能)としか、いい様がないですね

3586さん
そうですね
洸太は、知らないうちに有海を助けたことになるんですね

では、更新します

3589投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時50分42秒
藍は、あすみを見つけた。
裏通りに続く、細い道に差し掛かる所で、例の金髪の怪しげな男と共にいた。
あすみは、携帯電話で誰かと話している様だ。
そして、何故か落ち着かない様子…。
金髪の男は、退屈そうにビルの壁に寄り掛かっている。
藍は、有海に電話を掛ける。
しかし、呼び出し音が鳴るだけだ。
そして、留守番サービスにつながる。
「あ、あみ〜ご!!あすみん、見つけたよ。画廊『モディリアーニ』の角にいる!!早く来て!!」
藍がそう吹き込み終えた時、あすみは、金髪の男に何やら話しかける。
いや、強く訴えかけているようだ。
だが、金髪の男は何やらニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、首を横に振る。
あすみは、そんな男の態度に憤ったのか、強くアスファルトの道路を蹴ると何処へともなく走り出した。
「え…?え…?」
藍は、とりあえず、あすみの後を追い駆けた。
「は、速い!!」
自分も、足の速さには自信はあったが、あすみの足の速さは尋常ではなかった。
まるで、世界陸上にも出られるのではないか…そんな速さだ。
しかも、100メートル走のペースで、マラソンを走っているかの様な…凄まじい体力だ。
3590投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時51分02秒
時々、あすみはその足を止める。
そして、携帯に耳を預け、何やら話しをし、また走り出す…その繰り返しだ。
そのお陰で、藍は何とか振り切られることなく、あすみを追える。
あすみが立ち止まって携帯で話しをしている間に、自分も有海に電話を掛ける。
またもや、留守番電話だ。
「はぁ…はぁ…。あ、あみ〜ご…。あ、あすみん…凄いスピードで…移動してる…。だ、だから…また、落ち着いたら…電話するから…」
そうこうしているうちに、また、あすみは走り出した。
「うわ!!ま、また…?い、一体、どこに行くの!?」
藍は、ヘトヘトになりながらも、懸命にあすみに着いて行く。
あすみの表情から察するに、何やら切羽詰った様子である。
漠然とした不安が、藍の胸を支配する。
あすみは、段々と人通りの少ない、裏寂れた地区へと入っていく。
道は細くなり、整備の状態も悪くなる。
走りやすい状況ではない。
それでも、藍は必死にあすみに着いて行く。
このまま逃してしまったら…二度と、あすみには会えない…そんな、嫌な予感がするのだ。
3591投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時51分42秒
〔はぁ…はぁ…。あ、あみ〜ご…。あ、あすみん…凄いスピードで…移動してる…。だ、だから…また、落ち着いたら…電話するから…〕
さっきから、藍の留守電のメッセージを、その不良は何度も繰り返して聞いている。
「へへへ…。いいなぁ…。この、『はぁ、はぁ』言ってる声…」
その不良は、有海の携帯電話を握り締めて悶えている。
「なぁ、その子、一緒に歩いてた子だろ?その子もメチャクチャ可愛かったじゃん!おい、ここに呼べよ」
別の不良は、そう言って有海の肩を抱き寄せた。
有海はもう、声も泣く震え、泣きながら縮こまって床に座っている。
ここは、資金難で改修工事中のまま長い間中断しているライブハウスで、有海と不良グループの者以外、誰もいないし誰も来ない。
「バカ野郎!!余計なモンは、ここに連れて来るんじゃねぇよ!!頼まれたこと以外は、しなくていいんだよ!!」
その不良グループのリーダー格の少年は、そう仲間に怒鳴った。
3592投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時51分53秒
「た…た…頼まれた…?だ…だ…誰ですか…?」
有海は、震えた泣き声で、そのリーダーに聞いた。
「お?やっと、お口を利いてくれたんでしゅかぁ〜?お嬢様ぁ〜?」
ステージから飛び跳ねて、有海の前に降り立つリーダー。
それだけでも、有海はビクンと震える。
「でも…依頼人の名前は、言えないんですぅ〜〜〜」
そう言いながら、右手にナイフ、左手でスタンガンを持って、有海の顔に突きつける。
「ひぃ…!!」
有海は、涙で濡れた顔を背けた。
「へへへ…。可愛い声…。どんな泣き声で叫ぶのかなぁ〜?」
そう言いながら、スタンガンのスイッチを押す。
青い火花が、有海の顔の前で弾ける。
「いや!!いやぁぁ!!」
有海は、顔を覆って泣いた。
3593投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時52分22秒
「ねぇ…。チクって痛いのがいい?それとも、ビリって痺れるのがいい?どっち?」
有海は、小刻みに震える顔を、ただただ、横に振る。
「どっちもイヤ?だったらさ…」
リーダーの手は、有海の白い制服のスカートをゆっくりと捲り上げる。
「制服、ぬぎぬぎしてさぁ〜…生まれたまんまの姿、僕達に見せてよ〜」
「や、や、やめて…。やめて下さい…」
有海は、座ったまま後退りするが、後ろに不良達が立っているので、逃げられない。
3594投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時52分34秒
「へへへ…。裸の写真、ばら撒かれたくなかったらよぉ…。俺たちのこと、誰にも言うなよ?」
「い…言いません…。言いませんから…。お願い…。私を…お家に帰して…」
不良達は、口々に「カワイイ」と、はしゃぎ立てた。
「でも、ダメだよ〜ん…。まずは、あみ〜ごの裸の写真を撮れって依頼だもん…。後は、俺たちの好きにしていいって…。それが依頼料代わりだもんね〜」
「…!?だ、誰なんですか!!そ、そんな…酷いこと…あなた達に頼んだの…」
「だからさぁ〜…依頼人のことは話せねぇって言ってんべ?あみ〜ごは、おバカさんなんでしゅか〜?」
またも、下品な笑い声をあげる不良達。
「なあ、自分で脱ぐか?それとも、俺達が脱がすか?どっちか選べよ!!」
「う…うぅ…」
頑なに、腕と足を抱えて、身体を隠す有海。
「しょうがねぇなぁ〜〜〜…。おい、剥いちまえ!!」
不良達は、有海の身体を押さえつける。
「い、いやぁ〜〜〜!!!やめてぇぇぇ〜〜〜!!!助けてぇ〜〜〜!!せ、先生〜〜〜!!」
「はい。おまたせ…。あみ〜ご…」
その声に、有海も、不良達も、一斉に出口の方を振り向いた。
そこには…汗まみれで息の荒い、長身の女…中田あすみが立っていた。
3595投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時52分58秒
「ここ…だよね…。あすみんが入っていったの…」
そこは、もう看板も降ろされた、改修工事中なのか取り壊し中なのか、どんな店だったのかもわからない建物だ。
「ぜ、絶対に怪しいよなぁ…。ほとんど、廃墟だもん…」
藍は、深呼吸して息を整えると、覚悟を決めて建物の中に入った。
『フルース・ブラザーズ』、『SPACE FAIRY』、『KIZZ』、『Our Treasures』…。
アマチュア・ロックバンドのポスターやチラシ…。
どうやら、ここはライブハウスだったらしい…。
「ご、ごめんくださぁ〜い…」
藍は、恐る恐ると建物の奥に進む。
真っ黒に塗られたドアを開けると…やたらと広い空間に出た。
そこには…あすみの背中…そして…その先には…数人の…柄の悪そうな男達…その真ん中には…有海が…。
「あ…あすみん…?あみ〜ご…?」
藍は、そっと様子を窺った。
「どういうこと…?」
有海が泣いている…。
電話がつながらなかったのは、有海がさらわれていたから?
つまり…あすみは、有海を助ける為に走っていた…?
しかし…何故、有海はあんな不良達に捕まってしまったのだろう…?
そして、何故、あすみはそれを知ったのか…?
3596投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時53分20秒
「何だ!?誰だぁ!?てめぇは!!」
「いきなり現れやがって!!コラァ!!」
不良達は口々にがなり立てる。
一通り、静まってから、あすみは、ゆっくりと口を開く。
「私…その子の学校の先生なんだ…。だから…解放してやってくれないかな?」
そのあすみの言葉に、不良達は顔を見合わせた。
「て、てめぇ!!警察に言ったんじゃ、ねぇだろうな!?」
あすみは、軽く首を横に振る。
「言ってないよ。ここは、お互いに一番良い方法をとろうよ…。ね?その子を返して…」
有海は、涙で泣き濡れながら、あすみを見る。
「せ、先生…。先生〜〜〜…」
あすみは、穏やかな笑みを有海に向ける。
「いいから…。あみ〜ご…今すぐ、助けてあげるからね…」
「先生…ごめんなさい…。私…」
「…ん?何?」
しかし、2人の会話を不良のリーダーは邪魔をした。
「お互いに一番良い方法?おお、そりゃいいねぇ…」
そう言いながら、有海とあすみの間に、ずいっと立つ。
「だったらよぉ…。先生があみ〜ごの代わりに、ストリップしてくれよ…」
3597投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時53分42秒
「おまえが、『あみ〜ご』って言うな…」
あすみは、ポツリと呟いた。
「ああ?何だって!?」
「いや…何でもないよ…。ストリップ?それで、その子を返してくれるの?お安い御用だよ」
その言葉を聞き、不良達ははしゃぎまわった。
「先生…」
有海は、わなわなと泣き震えながら、首を横に振る。
「さあ、早くその子を解放して!!」
「ダメだ!!まず、先生が脱いでくんなきゃよぉ!!」
「う〜ん…。教え子の前で脱ぐのは…ちょっと恥ずかしいかな…」
「グダグダ言ってねぇで、早く脱げ!!このガキ、剥いちまうぞ!?」
そう言いながら、有海のスカートを乱暴に上に引き上げた。
「いやぁ!!」
有海は、泣き声をあげて、その場にしゃがみ込んだ。
「おら、立て!!このガキ!!」
リーダーは、有海の長い髪を掴んで引き上げる。
「やめて!!あみ〜ごに、酷いことしないで!!」
藍は堪らず、不良達の前に姿を現した。
3598投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時54分25秒
「あ、あい〜ん…!!」
あすみは、藍の方を振り返る。
「お!?何だ?また、出てきやがったな?」
「おい!!こいつ、一緒に歩いてた子じゃね?」
不良達が、また色めき立った。
「あ、あい〜ん…!!何で、出てきたの?」
「あ…。あすみん…やっぱり、私が追い駆けてたの、知ってたの?」
「いいから、あんたは逃げて!!この場は、私が何とか…」
「イヤ!!私だって、あみ〜ごの親友なんだ!!先生だけに恥ずかしい思いはさせない!!私も一緒に脱ぐ!!」
その藍の言葉に、またも不良達は下品な歓声をあげた。
「バ、バカなこと言ってんじゃないよ!!」
あすみは、藍の頬を殴った。
しかし、藍はそんなあすみの顔を見て微笑んだ。
「嬉しい…。先生…。殴ってくれた…」
「あい〜ん…」
「私…先生のこと…好きだよ…。先生と一緒なら…恐くない…!!」
「………」
あすみは、不良の方に向き直ると、その場に土下座した。
「お願い!!ストリップでも何でもするから…!!この子達は…この子達は逃がしてあげて…!!」
3599投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時55分16秒
「いいから、脱げってんだろ!?」
「グズグズすんじゃねぇ!!脱げや!!コラ!!」
不良達は、もう、『脱げ』の一点張りだ。
「せ、先生…!!」
藍は、土下座するあすみの肩に手を掛ける。
その時、藍は見た。
床に転がっていた、錆び付いたボルトを、あすみが握った手に隠したのを…。
「ふぅ…。しょうがない…。じゃあ…脱ぐとしようか…」
そう言いながら、あすみは立ち上がり、左手で後頭部を掻き、右手で左肘を触った。
3600投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時55分28秒
(え…?)
その、あすみの仕草に、藍と有海は同時に気がついた。
(こ、これは…『盗塁』の…サイン…?)
そう…『投げたら走れ』…のサイン…。
あすみは、両手を胸元に持って行く。
口笛が鳴り響く。
不良達は、誰もが、服のボタンに手をかけた、と思っている…。
しかし、それは違う…。
これは、セットポジション…素早く左膝を上げ、右腕を振り下ろす。
「イテ!!」
不良のリーダーは、有海の肩を掴んだ手を放す。
「あみ〜ご!!あい〜ん!!」
あすみは、叫んだ。
3601投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時56分11秒
その瞬間、有海は真っ直ぐに、あすみと藍の元に駆け込んだ。
「あみ〜ご!!大丈夫!?」
藍は、有海を抱きしめた。
「ほ、細川さん!!先生!!」
有海は、震え声で叫んだ。
「早く!!逃げて!!」
あすみは怒鳴ったが、藍と有海は同時に言い放った。
「嫌です!!」
「え…?」
「私…先生と…一緒に戦います!!」
「わ、私も…」
あすみは、呆然と2人の教え子を眺めた。
「あ…あんた達…」
その時、不良のリーダーが、ナイフを振りかざしながら目の前まで迫っていた。
「てめぇ等…!!逃がすかよ!!」
ナイフが、有海を襲う…。
「…!?」
藍は、有海を抱きしめて、背中をそのリーダーに向ける。
ナイフが…藍の背中に…。
3602投稿者:リリー  投稿日:2008年09月03日(水)20時56分41秒
今日は、これでおちます
3603投稿者:>こんなに洸太のことを応援して下さる方々がいるのですね  投稿日:2008年09月03日(水)21時04分05秒
ひょっとしてリリーさん、洸太を何の考えなく出した?
3604投稿者:・・・全面戦争だもんね  投稿日:2008年09月03日(水)21時13分55秒
 
3605投稿者:117  投稿日:2008年09月03日(水)21時18分11秒
カンペーさんの占いには、おなじみのメンバーが次々と現われますね。
あすみ監督と有海&藍の師弟愛といいますか・・・感動ものです。
藍に刃が・・・?続きが気になります!
3606投稿者:洸太哀れw  投稿日:2008年09月03日(水)21時25分32秒
 
3607投稿者:盗塁のサインで救出とか  投稿日:2008年09月03日(水)21時59分54秒
こんなピンチの時に、野球を織り込む描写ってすごい。
3608投稿者: 投稿日:2008年09月03日(水)22時57分24秒

3609投稿者:ええ所で  投稿日:2008年09月03日(水)23時46分56秒
登場かな?
所で、キャラってどうやって決めたんですか?
3610投稿者: 投稿日:2008年09月04日(木)01時01分50秒

3611投稿者:デジ  投稿日:2008年09月04日(木)01時19分45秒
表の雰囲気がそのまま残った感じの裏。いいですね。
こんなピンチに野球の引用。確かにこれが一番分かりやすいでしょうね。裏の感じに慣れきらない藍と有海なら。
そして最後。有海を庇った藍の背には…続きが気になります!
            (今日の小言)
藍と有海のコンビに『一七』の時の最後の部分の表現があっても面白いかも。(グロさは求めませんが)
3612投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)20時54分36秒
3603さん
まあ、ここで洸太を出しておけば、おもしろいかな?という程度でしたね
原村で完全に失恋したという、つもりでしたから…
3606さんのおっしゃるとおりです
3604さん
もうすぐ、全面戦争に入ります
117さん
藍とあすみの関係も、書いてて面白いです
藍と有海の友情も『一七』では、描けなかったので、今回、いっぱい描写してみました
3607さん
裏の話しで、表をにおわせると、物悲しさも倍増するかな…と…
3609さん
キャラというと、戦士のあてがきですか?
自分のイメージですかね
里穂だけは、イメージとはかけ離れてます
2004年の夏イベ限定のキャラですからね
デジさん
『一七』の時のような、トンデモ結末にはなりませんが、二人の行く末を、見守ってください

では、更新します
3613投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)20時55分47秒
「触るな!!」
あすみは、またもやピッチャーの投法の様に、不良のリーダーの脳天に、拳を叩き付けた。
凄まじい衝撃音と共に、不良のリーダーは床を跳ねた。
「ぐえ…」
踏み潰されたカエルの様な声をあげ、不良のリーダーは床に転がる。
一瞬…その場は静寂に包まれる。
残りの6人の不良は、床に倒れている自分達のリーダーに、恐る恐る近づく。
彼の首は…有り得ない方向に曲がっている…。
「お…おい…」
「せ、先輩…?ど、どうしたんスか…?」
「ま、ま、まさか…!!し、し、死んで…」
ピシャリという音が響く…。
あすみが、自分の額に手を当てた音だ。
そして、彼女はしかめっ面で、こう答えた。
「しまった…!!力の加減を…しくじった…」
藍と有海は、呆然とあすみの横顔を見詰める。
「あ…あすみん…?」
「せ…せ…先生…」
まさか…あすみが…殺人を…?
3614投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)20時56分13秒
「てめぇ〜〜〜!!よくも〜〜〜!!!」
残った不良達は、一斉にあすみに襲いかかる。
「せ、先生!!」
「あい〜ん…。あみ〜ご…。目を閉じて…」
「え…?」
「お願いだから…見ないで…」
悲しげに呟くあすみの顔を見て…藍と有海は、無意識に目を閉じた。
骨と骨がぶつかる音…呻く声…何かが潰れる音…そして、倒れる音…。
何も音が聞こえなくなり…まずは藍が、恐る恐る目を開けた。
あすみが立っていた。
その周りに…不良達が転がっている…。
生きているのだろうか…それとも…死んでいるのだろうか…?
有海は、まだ震えながら、ギュッと目を閉じている。
「あ…あすみん…」
藍は、彼女の背中に声をかけた。
あすみは、何も応えない…。
「おやおや…。やってしまいましたか…」
後ろから、男の声が…。
藍と有海、そしてあすみは、振り返る。
あの、左腕を三角巾で吊った金髪の男が…壁に寄り掛かって、呆れ顔で立っていた。
3615投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)20時56分49秒
「楠本…」
あすみは、呟いた。
「楠本…?」
確か…保健室で、あすみと翔子が話していた…名前…?
楠本という人物と戦うと…言っていた…。
「う〜ん…。表の人間の前で…殺してしまうなんてね…。冷静なあなたらしくない…。ま、それだけ気が動転してたんですね…」
楠本と呼ばれた男は、目を瞑って首を横に振った。
「あんた…来ないって言ったのに…」
「でもね…ボスに直接命令されちゃいましてね…。ほら、ダーブロウ有紗さんの件で、随分、評価を下げちゃったもんですから…」
ダーブロウ…その名前も、聞いた…。
3616投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)20時57分10秒
「でも…私が来て、やっぱり良かったでしょ…」
そう言いながら、自由に動く右手でスーツの懐を探る。
「いくら、あなたでも…教え子に自ら手をかけるなんて…できないですもんね…」
楠本が懐から出したのは…先が鉤状に曲がった、奇妙な形をしたナイフだった。
「へ…?」
藍は、思わず声をあげた。
この男は、そんな物を出して、何をするつもりなのだろう…?
「大丈夫ですよ。苦しむことなく終わらせます…。それが…私が精一杯できる…思いやりです…」
まさか…自分達は殺されるのか…?
やはり…この男はヤクザで…あすみは、何らかかの形で、関与している…?
有海が、震えながら藍の身体を抱きしめた。
藍も…その曲がったナイフを見詰めながら、有海の身体を抱きしめた。
3617投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)20時57分36秒
その時、あすみの長い足が、藍と有海の頭上に伸びた。
楠本のナイフは、回転しながら床を転がる。
「…?どういう、つもりです…?」
楠本は、あすみを、じっと見据えた。
あすみも、楠本を睨んでいる。
「ああ…。わかった…。せめて、自分の手で殺したいと…」
「違う…!!」
力強く、あすみは言った。
「殺させない…」
「はい?」
「この子達を…殺させない…」
「…ん…?んん…?んんん…?どういうことでしょう…?」
わざとらしく、首を傾げる楠本…。
「この子達は、私が守る!!どうしても、この子達を殺すと言うなら…私はあんたを殺す!!」
聞いたことのない…低く響く…あすみの声…。
「私を…?殺す…?」
「ああ…」
「いや…それは…ボスも敵に回す…て、ことですか…?」
あすみは、ふっと口元を緩めた。
「…ま…そういう事になるね…」
3618投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)20時58分05秒
「あ…あすみん…?」
藍と有海は、呆然と…あすみの顔を見上げる…。
「あい〜ん…。あみ〜ご…。心配はいらないから…」
いつもの、優しい、あすみの笑顔…。
「ふ〜ん…。でも、ボスの手を煩わせることはできないなぁ…。仕方ない…ちょっとまだ、左肩は痛いけど…頑張っちゃいましょうか…」
楠本は、三角巾を取り払い、ゆっくりと左肩を回す。
「でも、仲間のあなたを殺すつもりはないんで…。そこはご安心を…」
「殺すつもりはない…?私は、殺す気、満々なんだけど…」
そう言いながら、また藍と有海を横目で見る、あすみ。
「ごめんね…。もう一度、目を瞑っててくれない…?」
「あ…あ…あすみん…」
藍の目からも、涙が溢れ出た。
あすみは…自分達を守る為に…命を懸けようとしている…。
やはり、あすみはヤクザと戦った…。
しかし…やはり、あすみは自分達の先生だ…。
大好きな…先生なのだ…。
「はい、はい、はい…。ヤメ、ヤメ…。ヤメや…」
聞きなれた声…。
藍と有海は、その声の方を見た。
そこに立っていたのは…さっき駅前で会ったばかりの…間寛平だった。
3619投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)20時58分31秒
「カ…カンペーさん…?」
藍は、素っ頓狂な声をあげた。
何とも、この異常な事態にそぐわない…緊張感の欠片のない…人物の登場に…藍は一瞬、力が抜けた。
しかし、あすみと楠本が同時にあげた声に、また戦慄が走った。
「ボス…!!」
「ボスも…ここに…?」
「ええ…?」
またも、藍は声をあげた。
ボス…?寛平が…?
この男は…少年野球チーム『茶々山マンボウズ』の監督で…占い師で…チャランポランな…オモロイオッチャンの…間寛平なのではないのか…?
ボスとは…一体、何なのだ…?
藍の…有海の頭は、混乱した。
「この子等を殺すんは…少し待ってくれへん…?」
「はぁ…。ボスがそう仰るのなら…」
楠本は、素直に引き下がった。
そして寛平は、あすみの方を向いて言った。
「で…あすみ…。おまえ…ほんまに…ワシを敵に回すんか…?」
「…!!」
あすみの身体に、緊張が走ったのが、藍にも有海にも伝わった。
「ちょいと、この子等を試させてもらうで…。結果によっては…ま、ええわ…。ワシを敵に回せばええ…」
寛平は、藍と有海の前に出ると、ポケットから、例のタロットカードを出した。
3620投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)20時59分02秒
「カ、カンペーさん…」
藍は、震えながら寛平を見上げる。
有海は、藍にしがみ付いて、寛平の方を見ることができない。
「あ…。あい〜ん…。あみ〜ご…。恐がらんでもええよ…。ちょっと、占い、やってみぃひん…?」
「う…占い…?」
寛平はしゃがみ込んで、震えている藍と有海の視線まで降りると、例の如く、タロットカードを切り始める。
「さ、あい〜んも、あみ〜ごも…一枚、カードを引いてんか…?」
「え…?カードを…?」
「うん…。よ〜〜〜ぉ、考えて引きや…。君等の運命が…このカードに懸かっとんのやさかい…」
厳しいのとは違う…冷たいと表現すべき目で…寛平は2人の少女を見た。
恐がらないでいいと言いながら…どうしたって恐ろしくなってしまう…。
藍は、震える手で一枚のカードを引いた。
そして、有海は震える人差し指で、一枚のカードを指し示す。
「うん…。このカードでええんやね…?」
寛平は、二枚のカードを見た。
「………楠本君…。あすみ…。決まりや…」
「え…?」
楠本とあすみは、同時に声をあげる。
「この2人…『TDD』に入団させるで…」
「はぁ…?」
楠本は、口をあんぐりと開けて、寛平の背中を見詰めた。
3621投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)20時59分56秒
「これ…見ぃや…」
寛平から、一枚ずつカードを渡される、あすみと楠本…。
あすみが受け取った、藍の引いたカードは…裸の女性が、二つの壷の水を川に注ぎ、そして空に満面の輝く星の絵柄…???・L'Etoile…と書かれた『星』のカードだった。
「『スター(星)』…?」
あすみは、藍の顔を呆然と見詰める。
楠本が受け取った、有海の引いたカードは…白いベールと冠を被った女性が、分厚い書物を持ち、開いている絵柄…?・La Papesse…と書かれた『女教皇』のカードだった。
「『ハイプリエスティス(女教皇)』…?この子が…?」
楠本は、有海の顔を怪訝そうに見詰める。
当の藍と有海は、何が何だかわからない。
3622投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)21時00分14秒
「そうや…。今から、この子等に、『スター』、『ハイプリエスティス』のコードネームを与える…」
「ちょ、ちょっと、待って下さいよ!!」
今まで余裕の表情を崩さなかった楠本が、ようやく慌てふためいた。
「『TDD』ですよ?裏の世界の探偵ですよ!?こんな、普通の女子中学生に、勤まるワケ、ないじゃないですか!!」
「楠本君…。君、中学生の時、どんな子やった?」
「え…?ま、まぁ…頭脳明晰、スポーツ万能、カリスマ性に溢れ、女子にはモテモテ…2月14日は、カカオ豆の相場が大きく変動する程の…」
「ウソは無しやで?」
「………人より、コンプレックスの多い…根暗な少年でした…」
「あすみ、君は?」
「…やたらと背が高いことを男子にからかわれて…毎日追い掛け回して、ぶん殴って…色気も何もないガキでしたよ…」
「ま、そんなもんや…。理沙はレディース、恵はプロレス志願、はるかはガリ勉、翔子はアニメオタク、角田君に至っては、いじめられっ子やって…」
「…ボスの中学生時代は…?」
「あん?その頃はワシ、猿やった…」
寛平は、笑わせようとしたのだろうが…そんな雰囲気ではない。
3623投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)21時01分05秒
「みんな、平凡な子供やったんやろ?でも、この子達は…少なくとも、才能の片鱗は見えるわ…」
そう言いながら、寛平は藍と有海の頭を、優しく撫でた。
「それにな…以前…占いで出たんや…」
「占い…?」
「楠本君…。君、夏前くらいに、ダーブロウとジャスミンをスカウトしたやろ?」
「…ええ…。その時も、見事にふられましたが…」
「そん時な、ワシ、占うたんよ…。あの娘等を…」
「占った?」
「いや、結果的に占ったことになったんやけど…。で、『R&G』と戦うことになる『カード』のメンバーが出たんや…」
「…!?誰です?」
「『フール』、『エンペラー』、『タワー』、『エンプレス』、『ストレングス』、『デス』、『ラバーズ』、『ジャッジメント』、『サン』、『デビル』…そして…」
寛平は、藍と有海に視線を移す。
「『スター』、『ハイプリエスティス』…」
「その時点では、『デビル』…夏希さんは入団していなかった…。つまり…これは、運命だと…?」
「そう言うことや…。ワシの占いにハズレはない…」
3624投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)21時01分19秒
楠本とあすみは顔を見合わせる。
「なるほどね…。『チャリオッツ』や『マジシャン』がいないのが、ちょっと心もとないですね…。てことは、ジャスミンさん、モニークさんは、今の所、仲間にならないってことでしょうか?」
「それに、『ジャッジメント』や『サン』なんて…戦闘で役に立つとは思えない…」
「いや、参謀や諜報員として役に立ってくれるでしょう…。しかし、私はこの子達が役に立つとは思えない…」
楠本は、そう言いながらジロリと藍と有海を睨んだ。
さっきから3人は、藍と有海を置いてけぼりにして会話を進めている。
それが2人にとって、途轍もなく不安な気持ちにさせる。
3625投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)21時01分43秒
「せやから…君達が『役に立たせる』んよ…」
寛平の言葉に、楠本とあすみは一瞬、固まってしまった。
「…え…?今…何と…?」
「せやから…あい〜んは、あすみが…あみ〜ごは、楠本君が、立派に育てて役に立つようにするんや…」
「ちょ、ちょっと…!!つまり…」
あすみも、慌てて寛平に突っかかる。
寛平は、ニヤリと笑うだけだった。
「あい〜んは戦闘要員として、あすみが鍛え、あみ〜ごは作戦参謀として、楠本君が指南する…。ええな?」
「え、え、ええことないです!!ええことないです!!」
楠本は、首をブンブンと横に振る。
「あすみ…君はその方がええやろ…?で、なかったら…ワシ等の正体を知ったこの子等は…」
あすみは、眉間にシワを寄せるが、ゆっくりと頷いた。
「あ…あすみん…」
藍は、不安げにあすみを見上げる。
「大丈夫…。私に任せて…。悪いようにはしないから…。でも、不安なのは…」
あすみは、楠本を睨む。
「この男に…あみ〜ごを預けなければならないこと…」
「私だって…不安ですよ…」
楠本の顔も、血の気が退いている。
3626投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)21時02分06秒
「そうや…あすみ…」
寛平は、指をチョイチョイと動かして、あすみを呼びつける。
「何ですか?」
「こうなったからには…君はもう、聖テレを辞めた方がええな…」
「…え!?」
あすみと共に、驚きの声をあげたのは、藍と有海だった。
「や、辞める…?あすみん…聖テレを辞めるの…?」
泣き出しそうな藍と有海の顔をじっと見詰めるあすみだが、すぐに寛平の方を向き直す。
「や、やはり…そうですね…」
険しい表情ながら、あすみは素直に従うしかなかった。
「野球部は!?野球部はどうなるの!?」
藍は、あすみにしがみついた。
「残念だけど…今は、野球を楽しんでいる事態ではないんだよね…。それ以前に…私は…先生でもなんでもないんだ…」
「…へ?」
藍も有海も、ただ目を丸く見開くだけである。
3627投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)21時02分58秒
「先生じゃない…?あ、あすみんは…一体…?」
「私は…」
あすみが、言いよどんでいると、寛平が口を挟んできた。
「詳しい話しは、ワシがこの子等を送りながらするわ…」
そして、楠本とあすみに向かって、裏探偵『TDD』のボスとして命令を下す。
「せやから、君等は早く『例の場所』へ、山本組長をお迎えする用意をせな…。もう、理沙が山本組長と接触してる頃や…」
その命令に、楠本は溜息をついた。
「やれやれ…。昨日まで加藤組に着いていたんですが…今度は山本組か…。相変わらず節操無いですね…。私…」
「しかたないやん…。『山本組の復興』…これが、山本組長の依頼なんやから…。それに、前の警護の依頼、全く遂行でけへんかったんやし…。負い目もあるわ…」
「私が、原村で手に入れた『難田門司の隠し財産』で…復興の援助をしてあげなきゃいけないんなんて…。あんな男の為に…」
あすみは、悔しそうに呟く。
加藤組…?山本組…?原村…?隠し財産…?ヤクザの依頼…?
藍の頭の中は、様々な憶測と不安でグルグル回る。
3628投稿者:ええええええええ――――!!!  投稿日:2008年09月04日(木)21時03分08秒
藍と有海がぁ!?
3629投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)21時03分21秒
「山本組…?そ、それも…ヤクザなの?あすみん…」
あすみは、藍の顔を見ることができず、何も言わずにこの建物から、楠本と共に出口に向かう。
「あすみん!!」
藍は、もう一度叫んだ。
「………私達………これから………どうなるの…?」
あすみは振り返り、今度はしっかりと藍の…有海の顔を見た。
「あんた達は…これから、私とずっと一緒だ…。私が…あんた達を…守るから…。心配しないで…」
そして、こう続けた。
「ごめんね…。みんなと…ずっと、野球がしたかったね…」
3630投稿者:あげ  投稿日:2008年09月04日(木)21時05分17秒

3631投稿者:リリー  投稿日:2008年09月04日(木)21時05分43秒
今日は、多かったですね

きりの良い所で…

3628さん
二人が『TDD』に加入するのは、とても無茶な展開だったので、寛平さんの占いには逆らえない…という設定にしたのです

では、おちます
3632投稿者:魅音  投稿日:2008年09月04日(木)21時15分00秒
あげです
3633投稿者:117  投稿日:2008年09月04日(木)21時21分20秒
ついに、「裏」事情を知ってしまった、藍と有海。
それぞれ、まさかの「TDD」入りですか!?これは急展開!
一体どうなってしまうのか・・・続きも楽しみです!
3634投稿者:これはおもしろい展開  投稿日:2008年09月04日(木)22時56分54秒
「R&G」VS「TDD」楽しみ
3635投稿者: 投稿日:2008年09月04日(木)23時06分52秒

3636投稿者:デジ  投稿日:2008年09月05日(金)02時30分00秒
うん、確実に狂ってますね。藍と有海の運命。そして、野球部の運命。
まさかの『TDD』入り!?敵と見方が混同する表になってしまいますね、この先。
ここまででさえも、予想外な事が多い第三試合。しかもまだ序盤。行く末がまったく分かりません。いったいどうなる?この続き。見逃せません!
            (今日の小言)
かなり戦慄の走った今回の更新でしたが、そういえば、襲ってくる人の中の?が二つある時点からこの二人の運命となんか関係あるのかなと思っていたらまさかそれが当たりとはね。(キャストが最初のままな訳ですからどちらにも入っていないキッズと洸太か聖テレの七人、マンボウズの面々、虹守中の人々+OB、R&G探偵社の元メンバーしかいないわけで、消去法で、虹守中の人々+OBとマンボウズの面々(最初から帆乃香以外)は、野球部としてだけの出演だと思ったからまず消えて、次にR&G探偵社の元メンバーが裏切る訳が無いと思うのでこれも消去。キッズの五人もそれほど、関係ないだろうと思い消去。残るは聖テレの七人(中等部の藍、有海、梓彩、愛美、初等部の帆乃香、樹音、メロディー)となる訳だが、第二試合の最後にあった『TDD』のスタメン表から帆乃香と第三試合のこの波乱の中で2回にはじめて出た樹音はありえんと思い緊急消去。さらにこの時点で愛美は、浜津さんが、もう出てしまっているのでこれも可能性が低いとし消去。これで四人となるわけだが、共通の部分がある二人が入ると思われ、最終的に藍と有海(学年)の組み合わせしか考えられなかったため(さらにこの二人であればR&Gとも関係が深いので裏切られたと知ったら小説も面白くなりそうだなと思ったので)藍と有海と考えました。)()は話が進んでいくごとに僕が感じた推理です。
普通に考えたら本当にちひろも必要のような気がしてきました。(過去に一人でも勝ったことがある人がいますから。)
長々と独り言すいません。
3637投稿者:あすみ…  投稿日:2008年09月05日(金)02時40分59秒
やばい泣ける
3638投稿者:この先を想像しただけで  投稿日:2008年09月05日(金)20時37分41秒
泣けてくる
3639投稿者:あげ  投稿日:2008年09月05日(金)20時46分26秒

3640投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時11分02秒
魅音さん、あげ、ありがとうございます
117さん、二人はこれから『表』と『裏』の間で苦しむことになります
『表』も、あまり楽しい雰囲気ではなくなってしまいますが…
3634さん、二つの組織は、そのうちぶつかりますが、まだ、先の話です
ただ、もの凄く長くなると思います
デジさん、いろいろ予想してくださったのですね
有り難いです
でも、やはり鋭いところを予想してくださいました
でも、前に『藍=スター』と、見事に予想してた方がいましたね
あれは、見事でした
3637さん、3638さん
泣けてくるとは、とても嬉しいお言葉です
今後も、この小説の最後を見守ってください

では、更新します
3641投稿者:菜央  投稿日:2008年09月05日(金)21時16分11秒
最近この小説を読み始めました!
そしてはまってしまいまして(汗)

ダーさんなど、私は知らないんですが、この小説を読むと、
なんだかいい人なんだなぁと思いました。

今後も頑張ってください。
次回作も期待しています!
3642投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時16分15秒
もう、時刻は6時半を過ぎた頃だろうか…。
ダーブロウ有紗、七世、中村有沙、ジョアン、エマ、エリー、七海、そして羅夢…。
『R&G探偵社』の面々は、焼け焦げたビルディングを見上げていた。
「ここが…加藤組の事務所か…?」
中村有沙は、自分の姉…ダーブロウ有紗に問う。
「ああ…」
必要最低限の…短い返事をするダーブロウ有紗。
春に、自分達と死闘を繰り広げた、加藤組…。
『R&G』が、壊滅させる依頼を引き受け、そして断った…その標的…加藤組…。
その加藤組が…もう、跡形も無く木っ端微塵になってしまった。
「一体…誰や…?あの加藤組を…いや…あの楠本を相手に…」
七海には、どうしても信じられなかった。
あの『恐ろしい男』が着いていながら…何故、加藤組は壊滅してしまったのか…。
いや、誰がここまでできたのだろうか…?
「楠本…?そんなに強いヤツがいて、それでもこの有様だってんなら…もっと強いヤツが襲ってきたんじゃねぇの?」
ジョアンは、一人だけ気楽な口調で言った。
「そんなヤツ…そう、ゴロゴロおるかい…!!」
ここにいる者は、ジョアン以外は全員、楠本という男の恐ろしさを味わっている。
「ま、それを探る為に、私達が来たんだけどな…」
ダーブロウ有紗は、惨たんたる廃墟と化した、加藤組事務所ビルへと歩を進める。
3643投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時16分59秒
その入り口から、天歳署の刑事、テルこと菊池輝一と、ケンキこと中尾賢樹の2人が出てきた。
「あ、ダーブロウさん…。お疲れ様です」
「今、鑑識が記録をとり終えましたので…どうぞ、お入りください」
2人は敬礼をして、彼女等を迎えた。
「おう、ご苦労!!それで、中の物は自由に触っちゃっていいの?」
「はい。持ち帰らなければ…」
「ふ〜ん…。わかった」
そう言うダーブロウ有紗だが、そこにいる誰もが、彼女が幾つか証拠の品を持ち帰る気だと、わかっていた。
そのダーブロウ有紗と七世を先頭に、白いセーラー服の少女達は、加藤組事務所ビルへと足を踏み入れる。
テルとケンキも着いて行く。
当然、エレベーターは使えない為、階段で最上階の事務所まで昇らなければならない。
「おい、パンツ見るんじゃねぇぞ!?」
羅夢はスカートを抑えながら、テルとケンキを睨む。
「み、見ないよ!!」
ケンキは、ムキになって怒鳴った。
「ケケ…。オノレのパンツ見て喜ぶモノ好きがおるかい!!」
「おい、コラ!!今、何て言った!?」
七海の言葉に、羅夢は当然突っかかる。
「お?何や?やるんか?ゴルァ!!」
「うるさい…!静かにしろ」
うんざりしながら、中村有沙が呟いた。
3644投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時17分22秒
壁には、無数のヒビが走っている。
それだけ、『爆発』の衝撃は凄まじかったのだろう。
新聞では、『火災』と表記されていたが、ダイナマイトによる『爆発』が事実なのだ。
「大丈夫?崩れたりしないよね…?」
エマは不安げに、エリーに話しかける。
「ここ、逃げるような窓もないじゃん…。崩れたりしたら、アウトだよ…」
「怖いねぇ〜〜〜」
2人の声が、階段に響く。
「だから…静かにしろ。崩落のキッカケの音が聞こえないではないか…」
中村有沙は静かに一喝する。
エマとエリーは、口を抑えて耳をそばだてた。
3645投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時17分41秒
一行は、三階を通り過ぎる。
「ん…?おい、気をつけろよ…。血だ…」
ダーブロウ有紗は、右に避けながら後ろの者達に言う。
「何かしら…?タイヤの跡…?」
七世は、顔を顰めながらその跡を見る。
階段の踊り場に、カーブしながら、血でこびり付いた、タイヤの跡…?
そして、人形を模ったチョークの跡…。
どうやら、轢き殺した際の血糊の様だ。
「わかったぜ…。これは…バイクのタイヤだ」
羅夢も呟く。
「こんな狭い階段を昇っとんのやで?バイクに決まっとるやん…。アホちゃう?」
「んだと!?コラ!!」
羅夢が七海に怒鳴ると同時に、中村有沙は後ろを振り返り、2人の額を指で思いっきり弾いた。
「いて!!」
「な、何すんねん!!」
「うるさい、しずかにしろ…という意味を込めたデコピンだ。理解しろ」
そう言いながら、また前を向いて階段を昇る。
「偉そうに…!!」
七海は、中村有沙の後姿を睨みながら呻いた。
3646投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時21分42秒
その血糊は、上へ昇るにつれ増えていく。
人形のチョークも増えていく…。
壁も焦げ跡が濃くなってきている。
そして、最上階…加藤組の事務所に到着した。
そこは…もう、悲惨の一言しか出てこない様な有様…。
中にあるもので、原形を留めているものは皆無だった。
修羅場には相当慣れているはずの探偵達も、この惨状には言葉を失った。
そして…羅夢が言った通り、モトクロスバイクの骨格らしき物が部屋の中央に転がっている。
犯人はバイクで三階のガラス窓から突入し、ここまで加藤組組員達を轢き殺しながら、一気に最上階まで駆け昇った、というわけだ。
3647投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時21分54秒
「遺体は?」
ダーブロウ有紗は、2人の刑事に聞く。
「正確な数がわかりません。だって、ほとんど、黒こげでバラバラ状態で…。身元もまだ判明してないくらいで…」
「ここまでやるか…?普通…」
ダーブロウ有紗の口から、そんな言葉を聞くとは思わなかったが…皆も同じ感想だ。
「相当…恨みを込めた感があるわ…。もし、暗殺者の仕業なら、ここまで徹底的に破壊しないもの…」
七世は、ハンカチで口を覆いながら辺りを見回す。
「な、なあ…。そこら辺に、バラバラの死体が飛び散ってないだろうな?」
ジョアンは、爪先立ちでソロソロと移動する。
聖テレジアの制服は真っ白な為、すすが着くと目立ってしまう。
「う〜ん…。出来得る限り、遺体は回収しましたが…」
困った様な顔で、テルも頭を掻く。
「一体…誰やねん…。こないなこと…」
七海は、この惨状を作り上げた犯人を思うと、思わず身震いした。
3648投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時22分34秒
「む…?これは、何だ?」
中村有沙は、床の一点をじっと見詰める。
「何だ?何を見つけた?」
ダーブロウ有紗は、視線を妹に向ける。
「ちょっと、こっちに持って来い」
「貴様が来い」
「何を!?」
「気持ち悪いから、触らない」
中村有沙の言葉を聞いて、エマとエリーは思わず抱き合う。
「げ…!もしかして、歯茎のついた歯とか…?」
「ひぃぃ!!」
3649投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時22分47秒
そんな2人を、ダーブロウ有紗は押し退けながらズンズンと進む。
「ち…!!しょうがねぇな!!」
そう言いながら、中村有沙の視線の先を見る。
「…?」
それは遺体の一部ではない…。
溶けた金属の様だ。
「チビアリ…!ハンカチ…!」
「…自分のを使え」
「持ってねぇ」
「…ち…!女として、終わってるな?貴様…!!」
渋々、ハンカチを姉に渡す。
3650投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時23分23秒
その黒く溶けた金属を、ハンカチで包み込む。
「ダーさん…?それは…?」
七世もその金属を見詰める。
じっくりと、観察を始める一同。
大きさは、掌に乗る程度…。
円形の様な、何か、突起が四方に出ている…。
真ん中に穴が開いている…。
テルとケンキは、その金属についての情報を提供する。
「ああ…。鑑識も何か疑問に思っていたみたいです」
「遺体にも食い込んでいた物もあって…。爆発の際に飛んで来たものではないか…と言ってましたが…」
しかし…ダーブロウ有紗は、この金属にどこか見覚えがあった。
「そう言えば、同じ様な物がそこらにあるぜ?」
ジョアンは、床を見渡して言う。
「全部、集めて持って来い!!」
そうして掻き集めた謎の金属は、合計8つ…。
どれも原形がハッキリしない。
「おっと…」
思わず手を滑らせて、一つの金属を床に落とした。
その金属は、縦に落ちると床に突き刺さった。
3651投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時24分02秒
「…ん?」
ダーブロウ有紗の脳裏に、閃くものがあった。
そして…その閃きは、一種の脅威と変わっていく。
「ああ…。わかったぜ…」
「…え?」
一同は、ダーブロウ有紗に注目する。
「こりゃ、手裏剣だ…」
「手裏剣!?」
テルとケンキは、素っ頓狂な声を上げた。
「手裏剣って…あの…?」
「じゃ、じゃあ…犯人は…忍者…?」
思わず半笑いになる、テル。
「まあ、忍者じゃねぇけど…手裏剣を武器に使うヤツを…私は知っている…」
3652投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時24分13秒
その言葉に、『R&G』の者は戦慄する。
「ま、まさか…!?」
「あ…あの…女…?」
皆、同じ人物…女の顔を、頭に思い描いた。
「女?犯人は女なんですか?」
「まさか…!!女一人で…ヤクザの組を壊滅に追いやったとでも…?」
驚愕の表情を隠せない、2人の刑事に、ダーブロウ有紗は苦笑いを向ける。
「おいおい…。私達だって、女だぜ?」
そして、すぐに顔から笑みを消す。
「そう…あの女…。加藤夏希…」
3653投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時24分53秒
「一体、どういう事やねん!?何で…夏希…さんが…加藤組を…?」
あの、恐れ知らずの七海が…この場に本人がいるわけでもないのに…思わず『さん』付けしてしまった…。
そこまで、恐ろしい女なのだ…加藤夏希という女は…。
暗殺組織『TTK』の元『戦士』であり、最強の4人『四天王』の一人…いや、その筆頭…。
加藤夏希、ダーブロウ有紗、ジャスミン・アレン、モニーク・ローズ…この4人の中でも、実力は抜きん出ている。
「四天王…」
羅夢も、深刻な表情で、じっと考え込む。
羅夢は梨生奈と共に、この夏、原村でモニーク・ローズと戦い、一応勝利を納めたが…。
いや、あれは『勝利』ではない…。
ただ、『生存』できた…というだけだ…。
梨生奈、千秋、瑠璃、そしてジャスミン…様々な意思と力が働いて、生き延びることができただけなのだ。
それ程、実力が桁違いなのだ…『四天王』は…。
「そうだよ!!夏希さんは…ジーナを表の世界に残す為に、日本を発ったハズじゃないか!!」
ジョアンも、思わず声を荒げる。
七世は、困った様な顔でダーブロウ有紗を見詰める。
「おい…。貴様…何か知っているな…?話せ…」
中村有沙は、凄まじい形相で睨む。
「わかったよ…。白状してやらぁ…」
ダーブロウ有紗は、その高い鼻から息を吐き出すと、今まで皆に秘密にしていたとある事実を語り出す。
3654投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時25分16秒
「加藤組として私達と戦った、楠本…。そして、私達を利用して楠本と戦わせた、理沙という女…。私が歌舞伎町で捕まえた恵という女…。ヤツ等は、『TDD』という組織の一員だ…」
「『TDD』!?」
「何だ?その『TDD』とは…?」
矢継ぎ早に、質問が飛ぶ。
ダーブロウ有紗は、その質問の嵐が治まるのをじっと待った。
「まず…ヤツ等は、私達と同業だ…」
「同業…?ヤツ等も探偵か?」
「探偵と言っても、裏探偵…。裏の人間御用達の探偵だ…」
「なるほど…。『TTK』と大差ないな…」
中村有沙は、そう言ったが、ダーブロウ有紗は首を横に振る。
「いいや…。ヤツ等に言わせれば、大きく違うらしい…」
何だか、『TDD』のスポークスマンになったような感じで、気分が悪いが…。
「ヤツ等は、自分勝手に依頼人を見つけて交渉することができるそうだ。ギャラは半分、自分の物にできるらしい。それで、加藤組と山本組と…仲間同士で戦うハメになることも…」
「へへ…!!マヌケなヤツ等!!」
羅夢はそう言って笑ったが、ダーブロウ有紗は、そんな彼女に人差し指を突きつける。
「おい、笑い事じゃねぇぞ!!それを避ける為に、私達が利用されたんだぜ?ダッチャ、おまえも被害にあっただろ?」
「…あ…!」
そう…梨生奈と共に、楠本に拷問され、殺されかけた…。
「ち、畜生!!あいつ等…!!」
「今頃、怒ってんじゃねぇよ!!」
ダーブロウ有紗は、説明を続ける。
3655投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時25分53秒
「で…ここから、一番重要な話しに入るんだが…。私とジャスミンは…その楠本に呼び出された…」
「呼び出された…?」
皆は、一斉に怪訝な顔をする。
ダーブロウ有紗は、溜息をついて目を伏せた。
「ヘッドハンティングされた…」
「ヘッドハンティング…?」
「つまり…私とジャスミンは…『TDD』に入らないか…と、誘われたんだ…」
「な…?」
皆は、唖然とした表情で、ダーブロウ有紗を見る。
「いや…私とジャスミンだけじゃない…。夏希も、モニークも…『四天王』を4人とも、仲間に引き込もうとしてやがった…」
3656投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時26分06秒
「で…貴様は何と…?」
中村有沙の目は、益々厳しいものとなる。
「決まってんじゃん!!即行で断ったぜ!!」
「あ〜〜〜!!まさか…!!」
いきなり、ジョアンが大声を張り上げた。
「ジャスミンが『R&G』を辞めたのは…その『TDD』に入る為…?」
「違うぜ!!デッパリンダ!!ジャスミンは、モニークが心配だったんだ…。今頃、必死でモニークを探してるところだ」
今度は、羅夢が慌てふためく。
「お、おい…!!ま、まさか…モニークは『TDD』に入らないだろうな…?」
「………ああ…。それが一番恐い…。だからこそ、私はジャスミンがモニークの後を追うことを許したんだ…。ジャスミンが抜ける代わりに、モニークもヤツ等に渡さない…ということだ…」
「で…一番、無警戒だった夏希を…ヤツ等の仲間にしてしまった…と、いうことか…?」
中村有沙は、腕組みをして、眉間にシワを寄せて呟く様に言う。
「私も、あの女は日本にいないと思ってたからな…。甘かったぜ…」
ダーブロウ有紗は、珍しく自分を責めた。
3657投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時26分36秒
「あの女…。もしかして…私達の前に立ちはだかるなんて…ことはないか…?」
中村有沙の言葉に、エマとエリーは抱きしめ合って震え上がる。
「そ、そんな…!!私達、夏希さんなんかと戦いたくないよ!!」
「…大丈夫だ…。そん時は、私が夏希と戦う…」
そう言うダーブロウ有紗だが、顔は深刻だ。
「おい、まさか、ビビっとんやないやろな?」
怒鳴られるのを覚悟で、七海は軽口を叩いた。
「へへ…。だったら、パッツン、代わってみるか?」
「…!!」
いつものダーブロウ有紗じゃない…七海は、いよいよ嫌な予感がした。
「で、でも…もう、楠本とは、無関係になったんでしょ?山本組の襲撃に手を貸したんだし…」
七世の言葉に、今度は中村有沙が素早く反応する。
「山本組の襲撃!?何だ!!それは…!!」
溜息をつきながら、話し始める、ダーブロウ有紗。
「おまえ等が、野球を見に名古屋に行ってた日に…ちょっとな…」
しかし、彼女の顔が、急に曇る。
「どうした…?」
その表情の変化を、中村有沙は見逃さない。
「楠本は…こう言った…。仲間の誘いを断った者は…殺すことになっていると…」
「………!?」
その言葉に、一同は言葉を失った。
3658投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時27分01秒
「へへ…!!ま、そりゃ、私だけの問題だからな…。おまえ等が心配することじゃねぇよ…」
そう言うダーブロウ有紗に、七世は怒鳴った。
「心配することじゃない!?バカなこと、言わないで!!」
「…出っ歯ちゃん…」
「心配するに決まってるでしょ!?ヤツ等が…ダーさんの命を狙ってるってことじゃない!!今、この時でも…!!」
中村有沙も、静かにだが、口を開く。
「貴様の命など、どうなろうと興味はないが…我々、『R&G』がナメられるのは、我慢がならん…」
そして、事務所…いや、事務所だった空間から立ち去りながら言う。
「犯人がわかったのなら、こんな所に長居は無用だ…。さっさとヤツ等の襲撃に備えるべきだ…」
皆も、ダーブロウ有紗の顔を深刻そうに眺めながら、中村有沙に続く。
「ダーさん…。私達…一緒に…戦いますから…」
そう言い残し、七世も焼け焦げた廃墟から立ち去った。
「あの…」
テルとケンキが、青い顔をして、ダーブロウ有紗に話しかける。
「私達…とんでもないことを聞いてしまったんですが…」
「あ…?ああ…このことに関しては、警察もノータッチで頼むわ…。たぶん、手に追えねぇと思うし…。ただ…」
「ただ…?」
「レッドさんと、サムガーと、テンカリンだけは…何とか守ってやってくれ…。その3人は…やっぱり、表の世界の住人だからな…」
どこか、悲しげな笑みを浮かべるダーブロウ有紗に、テルもケンキも胸騒ぎがした。
3659投稿者:リリー  投稿日:2008年09月05日(金)21時30分59秒
すみません
高校生クイズを見ながらでしたから、更新が遅くなりました

菜央さん、初めまして
新しい読者さんが増えると、とても嬉しいです
最近読み始めたということは、『サムドラ』は未読ですか?
この小説は、『SAMURAI DRIVE』と『らりるれろ探偵団』という小説の続編なので、わからない所がありましたら、言って下さい




では、おちます
3660投稿者:そう言えば  投稿日:2008年09月06日(土)00時47分47秒
ジョアンだけ今まで戦ってなかったんだな
3661投稿者:あげ  投稿日:2008年09月06日(土)08時29分03秒
 
3662投稿者: 投稿日:2008年09月06日(土)12時03分04秒

3663投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時14分51秒
3660さん
ジョアンは、今までの話しではあぶれてしまったんですね
これから、活躍する場面が出てくると思います

では、更新します
3664投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時16分21秒
もう、すっかり日が落ちた高級住宅街を、藍と有海は、寛平と共に歩いていた。
まだショックを隠せない2人に、寛平は、本当にどうでもいいような冗談を引っ切り無しに言っている。
だが、藍も有海もそれに笑うような余裕は、まだない。
何もかもが、突然過ぎる。
有海が、不良達にさらわれる。
あすみが助けに来たが、その不良達を殺してしまう。
寛平は、裏探偵『TDD』のボスで、あすみの殺人を目撃した自分達を仲間にする、と言い出す。
殺人を犯した…いや、自分達に見られたあすみは、聖テレを辞める。
そのまま、野球部もなくなる…。
そして…自分達も…その『裏探偵』とやらにならなければならない…。
自分達の意思とは、関係なく…。
3665投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時16分34秒
「あの…」
寛平の軽口を遮るように、藍は言う。
「私達も…人殺しにならないと…いけないんですか…?」
震える声でそう問う藍に、寛平は優しく微笑む。
「あい〜ん…。探偵って…何やと思う?」
「…え?」
「どないな仕事と思うとるん?」
「…それは…事件とか、いろいろ解決したり…」
後が続かず、藍は有海の顔を見る。
有海も、遠慮がちに意見を述べる。
「あと…困っている人を…助ける仕事…ですか…?」
「2人とも正解や…」
寛平は満面の笑みで答えた。
3666投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時17分13秒
「で…世の中には、いろんな人が困っとるんよ…。この世の中は…。その人を助けたり、抱えてる事件を解決するんが、探偵や…」
「ヤ、ヤクザも…ですか…?」
藍の顔が強張る。
「…そうや…。でも、ヤクザを差別したらアカンな…」
「さ、差別…?」
「困っとる人を、頼まれたら助けるんが、探偵や…」
「で…でも…『裏探偵』って…」
有海は、今にも消え入りそうな声で囁いた。
「ん?気になる?『裏』ってところが…?」
藍も有海も、小刻みに震えながら何度も頷いた。
「せやから…『表』の世界で堂々と頼み難い、『困った人』が、ぎょうさんおるんよ…。その人達を、助けてあげるモンが必要や…」
「そ、それが…『裏探偵』…ですか?」
3667投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時17分33秒
寛平は、顎を擦りながら、ニヤニヤと笑いながら、言葉を続ける。
「ま、『裏』の人間を相手しとった方が、お金は儲かるしな…」
それが本音なのだろう…。
「わ、私達も…『裏』の人間に…例えば、ヤクザに協力しなくちゃ、いけないんですか?」
不安がる藍と有海に、寛平はこう告げる。
「せやけどな…。ワシの『TDD』は、自分で仕事を選べるんよ…」
「選べる…?自分で…?」
「そう…!自分の気に入った仕事…自分が助けたい人を選べるんや…。せやから、君等が助けたい人を君等が選べばええんや…」
ふと、寛平は足を止めた。
藍も有海も、慌ててその場に留まった。
「あすみは…君等を助けたかったから、助けたんや…」
その言葉に、有海はまた目に涙を浮かべた。
「先生…」
「もう、先生やない…」
寛平の声は、冷たかった。
3668投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時18分09秒
「ど、どうして…カンペーさんは…『TDD』なんて、作ったんですか…?占い師ってのは…ウソなんですか…?」
藍の涙混じりの質問に、寛平はゆっくりと答える。
「ううん…。占い師が本業や…。人の未来が…どうしようもない未来が、見え過ぎて困ってまうくらいのな…。そういうの…辛いんよ…」
「辛い…?」
「うん。何かな、その未来を思いっきり捻じ曲げてみたくなった…言うんかな…」
「未来を捻じ曲げるって…どういうことですか?」
「ワシの占いは、絶対に当たる…。しかし、途轍もない力を持った者なら、その結果を捻じ曲げることができるんや…。並大抵なことやないけど…」
3669投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時18分30秒
寛平は遠い目で、早くも瞬き始めた星々を見上げた。
「最初は、ワシ一人でやっとった…。せやけど、しんどうなってな…。親友の…ノッポってヤツと一緒にやった…。それが『TDD』の始まりや…。いや、そん時はそんな名前やなかったな」
そして、2人の顔に視線を戻す。
「聞いたことない?『浴衣ピエロ』に『怪盗ノッポ』…」
「…あ…」
藍と有海は、同時に声をあげた。
「へへへ…。オッチャン、有名人やろ?」
照れ笑いをする寛平は、更に話しを続ける。
「で、大阪で帆乃香と会った…」
「ホノカハン…と…?」
「あの子は、可哀そうな子やった…。連れ子でな…義理の父親から虐待されとった…。道端で寂しそうに膝を抱えてる帆乃香を見てたら…未来が見えたんよ…」
寛平の目は、ガラス玉の様に空虚な物となった。
「み、未来って…?」
「殺されるんや…。その、義理の父親に…」
「…!?」
藍も有海も、言葉を失った。
3670投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時18分55秒
「で…ワシは助けた…。未来を捻じ曲げた…」
「ね、捻じ曲げたって…言うのは…?」
「奪った…帆乃香を…」
「奪った…?」
「その、義理の父親を…ブチ殺してな…」
寛平の顔から、一瞬、体温が消えたかの様に感じた。
「嫌!!」
有海は、耳を塞いでその場にしゃがみ込んだ。
「あ、あみ〜ご…!!」
藍は、有海の肩を抱きしめた。
「ゴメンな…あみ〜ご…。せやけど…そうせなかったら…帆乃香は死んどった…」
「あ…あすみんも…同じということですか…?カンペーさんが、ホノカハンを助けたように…」
「う〜ん…。どうやろ?今度、本人に聞いてみ。…で、ワシは気がついたんや…。こうやって、人助けしても、キリがない…。人殺しを延々と続けていかなアカンくなるて…」
寛平は、再び歩き出した。
「せやから、いっそのこと商売にしたろ…と…」
「しょ、商売?」
藍は、有海を抱えながら、慌てて寛平の後を追い駆ける。
「それで、仲間を集め出した…。組織の名前を『TDD』にしたんは…ノッポ、帆乃香に続く、3人目の仲間や…。今はワシの秘書兼、諜報員兼、作戦参謀をやっとる。あい〜んも、あみ〜ごも会うてるで?」
「あ、会ってる…?誰ですか?」
「ま、それは実際、顔を見てみ。いや、覚えてへんかもしれんな…。コードネームは『ジャッジメント(審判)』や…。これ、ヒントやで?」
3671投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時20分01秒
「『ジャッジメント』…?」
藍は、この前も英語で赤点を取ったので、『ジャッジメント』の訳はできなかった。
有海はさすがに『ジャッジメント=審判』とはわかるが、そんな所に頭が回らない。
「で、まぁ、実質、組織の細かなルールはそいつが作った。ワシはそないなもん、考えるの、めんどくさいねん。そしたら、諭吉1000万人以下の仕事は請けるなと…。で、なかったら、組織は維持できひんのやて…」
「諭吉1000万人って…1000万円?そ、そんなお金…誰もが払えるものじゃ…」
「うん。せやから裏の人間がお得意さんになるんよ…」
「じゃ、じゃあ…私達…今回のことで、1000万払わないといけないんですか?」
寛平は大笑いして首を横に振った。
「今回のことは、不足の事態や。頼んだモンもおらんしな。その代わり…君等を貰うた…」
「…!!」
そう言う寛平の目に、藍は寒気を感じた。
「だ、大丈夫…。ありがとう…細川さん…」
有海は、ようやく藍の助けから離れて歩く。
そして、寛平に言った。
「私は…帆乃香さんの様に、未来を捻じ曲げられたんですか…?」
その質問に、寛平は困ったように顔を顰める。
「どうなるんですか…?これからの私達は…」
「…それは…まだ、わからん…。一度捻じ曲げてしもうた運命は、こんがらがった糸みたいなモンや…。さすがのワシでも、もう、わからんわ…」
3672投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時20分18秒
そう言っている間に、3人は、ある高級住宅前に着いた。
「あ…ここ…私の家です…」
有海は、門の前まで駆け寄ると寛平に礼をした。
「ふぇ…。凄い豪邸…。やっぱ、あみ〜ご、お嬢様じゃん…」
藍は、溜息をつきながら目の前の一木邸を眺めた。
3673投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時20分42秒
「あみ〜ご…。こんなに遅うなって…家の人は心配せんの?」
「父は仕事で海外にいることが多くて…。母も忙しいんです。ですから…」
寛平は、しばらく上を向いて考える。
「ふ〜ん…。わかった…。あい〜んは、一人暮らしやったね…?」
「…は、はい…」
「明日…学校が終わったら、下ノ国町の、上下峠の別荘地においで…。『TDD』のみんなに、君等を紹介するさかい…」
途端に、不安げな表情で藍と有海は見詰め合った。
「あ、あの…あ、あすみんも…そこに来るんですか?」
「うん?ああ、来るで。『TDD』のメンバー、全員集まるわけやないけどな…」
あすみも来る…その一言で、どれだけ安堵できただろう…。
「わ、わかりました…。部活が終わってからになりますから、少し遅く…」
そう言い掛けて、藍は気付いた…。
野球部は…もう、なくなったのだ…。
有海は、また顔を覆って泣いた。
「…待っとるで…。まあ、また忙しぃなるよ…」
寛平は、藍の肩を叩いてまた歩き始めた。
「ほな、あみ〜ご…。サイナラ…」
藍は、慌てて有海に駆け寄ると、彼女の手を握った。
「あ…じゃ、じゃあ、あみ〜ご…!!明日、絶対に学校に来てね…」
「う…うん…」
3674投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時21分02秒
「あ…!!ちょっと!!待って!!カンペーさん!!」
藍に声をかけられ、寛平は振り向いた。
「ん?何や?」
「ど、どうして…あみ〜ごは、あの不良達にさらわれたんですか?」
有海も、その藍の質問に顔を青くする。
「そ、そう…。あの人達、誰かに頼まれたって…言ってました…。私の名前も知ってたし…」
「誰ですか?あみ〜ごに酷いことしろって、頼んだのは…!!教えて下さい!!」
そう…その者達が、自分達をこんな境遇に叩き落すキッカケをつくった…。
野球部を潰す、キッカケを…自分達が裏の世界に身を置くことになったキッカケを…!!
「…それは…依頼なん…?」
寛平は、淡々とした口調で…無表情で問う。
「…う…」
1000万円などという大金は、払えない…。
しかし、次の瞬間、寛平は、いつもの人懐っこい笑顔を見せる。
「わかった。調べといたるわ。お金は要らんよ…。その代わり…」
「その代わり…?」
寛平は笑顔のまま、2人に言った。
「働いて返してな…」

(『二回・裏』・・・終了)
3675投稿者:リリー  投稿日:2008年09月06日(土)21時21分17秒
今日は、これでおちます
3676投稿者:あげ  投稿日:2008年09月06日(土)22時44分48秒

3677投稿者:シンパンマンって  投稿日:2008年09月06日(土)23時07分59秒
結構、重要な役なんですか?
3678投稿者:デジ  投稿日:2008年09月07日(日)01時21分50秒
すいません。見逃せませんといっておきながら、ちょっと所用で早く眠ってしまい、昨日の分を見ることができませんでした。
まずはみれなかった昨日の分から。
R&G探偵社がやっと今の境遇を理解しましたね。こりゃあ、ちひろも高確率で裏に登場するでしょうね。そういえば、R&G探偵社VSTDDは15人VS22人の闘いなのだが、戦闘を全く経験したことのない甜歌と経験してなくはないけど、事件があるたびに早期リタイアするレッドさんは問題外として、今R&G探偵社を脱退しているジャスミンも参戦できませんし、実際のところ主戦力は12人しかいなくなってしまいますね。これって結構やばい状況ですよね。今入院中の梨生奈も復帰できなかった場合かなり不利な状況なりますね。(R&G探偵社が最終的に勝利を勝ち取るのでしょうが。どんな対決をしてくれるか見物ですね。)
しかし、今回の更新、やけに有沙が他の者と比べて大人っぽく見えますね。成長したんでしょうかね?
夏希さんは、最終的にダーさんVS夏希になるんですよね。「サムドラ」でも二人の1対1の対決はなかったからこれも楽しみです。
さてもう一方のTDDの今日の更新。
このような形で「TDD」創設の発端を喋るとはこれも驚きでした。
つまり話を簡単にすると寛平さんと帆乃香との出会いが「TDD」のきっかけとなったということで宜しいのでしょうか?帆乃香罪深いですね。(笑)
藍の成績も相変わらず悪いようで、なぜか安心しました。(不思議笑)
そういえば今日で二回が終わったんですね。お疲れ様です。あと七回、がんばってください。続きも楽しみにしています!
              (今日の小言)
僕が予想する展開、とりあえずハッピーエンドなのだが野球部解散。だが七海は野球をするよりもリーダーシップで比較的にみんなに先導できることよりも大切なことに気付いて終わる。
3679投稿者:ダーさんvs夏希  投稿日:2008年09月07日(日)02時08分07秒
サムドラでも確かあったけど、バッサリと省略されてしまったんだっけ?
3680投稿者:デジ  投稿日:2008年09月07日(日)04時07分09秒
(今日の小言追加)
金曜日にナイトサイクリングをしました。
夜のサイクリングは最高でした。軽くR&G探偵社の探偵達(夜行性だから。(夜に探偵の活動をするのが多いから。)あたりまえか(笑))になった気分がして、楽しかった一件でした。夜最高!
関係無い話ですみません。誰かに話さずにはいられなかったもので。
なんとなくこの件終了後に藍と有海には、R&G探偵社に入って欲しいと思うデジでした。(本格的にTDDに染まったらまず無理でしょうが)
3681投稿者:あげ  投稿日:2008年09月07日(日)10時03分50秒
 
3682投稿者:寛平さんは  投稿日:2008年09月07日(日)10時27分47秒
お金のことを、○○円ではなく、○○(肖像画の人物)何人と言うけど、5千円と1万円の肖像画が同じ聖徳太子の時代の時、何て言ってたんでしょう?
3683投稿者: 投稿日:2008年09月07日(日)14時33分41秒

3684投稿者:117  投稿日:2008年09月07日(日)21時06分58秒
ついに、藍&有海も「TDD」の裏探偵に・・・?
なるほど、帆乃香もそういうことで。しかし今はあんなに明るいのに、TDDに?
更新はまもなくでしょうか?続きも楽しみです!
3685投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時09分20秒
3677さん
シンパンマンは、重要というか、便利な役どころです
基本的にチャランポランな寛平さんと、超・人見知りのノッポさんが、どう考えても組織を維持できるわけではないですから
デジさん
たしかに、『TDD』のメンバーは22人(の予定)ですが、今回の戦いに絡む探偵は、12人だけです
ですけど、『R&G』の不利な状況は変わりませんが…
どうやって戦わせようか、悩んでます
有沙が大人っぽくなった…というのは、おそらく寛平さんの占いを受けたからでしょう
後ほど、とある人物から語られる「怖いもの知らずは、世間知らず。怖いことを知るのは、大人になること」という言葉がありますが、有沙は、『怖い』という感覚を知ってしまった…と、いうことです
この小説の着地点は、まだ決まってませんが、ハッピーエンドにしたいと思ってます
夜のサイクリング、楽しそうですね
私も、自転車で走り回るのが大好きです
ジョギングよりも健康的にカロリーを減らせるらしいですし…
3682さん
寛平さんがお金の数え方を「○○何人」と表現するのは、直接的に値段を言うのがいやらしい…という考えからです
指を一本立てたりするのと同じです
でも、確かに、その時代はどうしてたんでしょうね…
「大きい太子、小さい太子」と言い分けていた…と、しておきますか…
小銭は、大した額ではないので、そのまま口にするのでしょう
では、更新します
3686投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時13分32秒
117さん
藍も有海も帆乃香も、自分で自分の運命を決めることができない…勝手に運命の激流に流されてしまう悲劇の真っ只中にいます
有沙が温泉で言っていた「自分で自分の主導権を取る」という言葉が、この小説のテーマの一つとなってます

では、今度こそ更新します
3687投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時15分50秒
『三回・表』

≪2007年10/17(水)≫
いつもの様に、7時丁度に聖テレジアの校門を潜る七海だが、今朝は藍にも有海にも会わなかった。
寝坊をしているのか…それとも、キャプテンの自分よりも早くクラブハウスに入ったのか…。
「昨日も遅刻したしなぁ…。今日は一番乗りしたろ、思ったんやけど…」
七海は急いでクラブハウスに向かった。
途中、グラウンドで、今はソフトボール部に戻っている愛美と出会った。
「おはよう!!ななみん!!」
「あ、おはようさん!キャプテン!!」
「ちょっと…!今は、ななみんがキャプテンなんでしょ?」
「あ、そ、そうですけど…。キャプテン達が戻ってくる間だけです」
「何、言ってるの。これからずっと、ななみんがキャプテンをしていかなきゃ!!」
「…あ、そうや…!キャプ…愛美先輩、藍、見ませんでした?」
「あい〜ん…?ううん。まだ見てないわね…」
「そうですか…。じゃ、愛美先輩、ソフトボール、がんばって下さいね」
「うん!!ありがと!!ななみんも、がんばってね!!」
愛美は、ソフトボールの練習グラウンドへと駆け出して行く。
そんな愛美の背中を見詰め、七海は呟く。
「愛美先輩と梓彩先輩が戻ってくるまで、ウチが野球部をちゃんとせんとな…」
七海も、クラブハウスへと駆け出した。
3688投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時16分36秒
「ん?」
クラブハウスのドアに、鍵が掛かっている。
つまり、自分が一番乗り?
藍や有海は、まだ学校に来ていない、ということか?
もうしばらくすれば、中村有沙やジョアン、エリー、エマが来るはずだが…。
とりあえず七海は、制服からジャージに着替え、初等部のグラウンドへと向かう。
そこには、あすみがいるはずだろうと…。
しかし、あすみの姿もなかった。
「…ん?何や?顧問も遅刻かい?」
ただ一人、初等部のグラウンドに、七海はポツンとたたずむ。
「しゃあない…。みんなが来るまで、ランニングでもしよ…」
黙々と一人で走っていると、中村有沙がやって来た。
「おい。貴様だけか?」
彼女は、遠くから七海に声をかけた。
「何や…。二番手はチビアリかい?」
未だに、藍と有海は来ない。
そして、少し経ってエマとエリー…それから5分程経って、ジョアンが到着した。
七海は、いよいよ藍と有海の遅れが気になってきた。
3689投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時17分43秒
「何や、何や…?さっそく、新キャプテンのウチは、ナメられとんのか?」
七海は、不愉快そうに呟いた。
それに、中村有沙も頷いた。
「ふむ…。同い年だからか…?藍と有海のやつ…。気合を入れなおしてやるか…」
「おいおい。気合を入れるんは、キャプテンの役目やぞ?でしゃばんな!!」
「…ま、貴様がそう言うなら、任せよう…」
ジョアンも不満を隠さない。
「それにさ、あすみんも来てないじゃん!!監督のクセにさ…!!」
「二日酔いなんじゃないの?」
「最近、ストレス溜まってて、お酒を飲みすぎたとか…?」
エマとエリーは、キャッチボールをしながら会話に入る。
「ま、ええわ!!ウチが監督の代わりにノックしたる!!みんな、守備位置に着け!!」
そんな七海に、ジョアンはしらけた様な視線を送る。
「でもさ…アンタのノックって、みんな外野に飛んじまうじゃん…」
「せやったら、オノレも外野に行け!!」
「やれやれ…。あみ〜ごも来てないしね…。いいよ。アタシがライトやるよ。レーザービームもやってみたいしね」
「あれは、一朝一夕では、でけへんよ…」
「さあ、どうかね?アンタができることなら、アタシにだってできるさ!!」
そう言うジョアンだったが、彼女の放ったレーザービームは、キャッチャーの中村有沙が全力でジャンプしても届かない程、上を通過し、初等部の校舎のガラスを割った。
後でわかったことなのだが、創立30年の聖テレジア女子学園で、ガラスを割った生徒、第一号は、ジョアン・ヤマザキだということだ…。
3690投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時18分39秒
ジョアンが割ったガラスの掃除をみんなでしているうちに、時計は8時を回ってしまった。
結局、藍と有海、そして、あすみは朝の練習に来なかった。
「何やねんな…!まったく…!!」
七海は不機嫌なまま、クラブハウスで制服に着替え、中等部に戻る。
教室に向かう廊下で、有海の後姿を見つけた。
「おい、コラ!!一木さん!!」
ビクンと肩が揺らし、有海は後ろを振り向いた。
「ふ、藤本さん…」
すると、彼女はすぐに目を伏せてしまう。
「何で、今朝、練習に来ぃひんかったん?」
ズイ、と歩み寄る七海に、ますます有海は顔を下に向ける。
「ご、ごめんなさい…。今日…ちょっと、身体の調子が悪くて…」
「ん?どないしたん?風邪?」
「そ、そうじゃないけど…」
「ふ〜ん…。ま、ええわ。明日はちゃんと来なアカンで?」
七海は有海の肩を強めに叩いた。
すると、また有海は肩を揺らして後退りする。
「…?」
有海の様子がおかしい…七海は、また彼女の身に何かあったのか、と疑った。
3691投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時19分32秒
「…あ、有海…!」
例の、有海をいじめている5人組が、教室から出てきて驚きの表情を浮かべている。
そして、何やらヒソヒソと耳うちをし、身を翻すと教室に戻って行こうとする。
だが、七海は『TTK』仕込みの地獄耳を持っている。
彼女等が何を囁き合っていたのか、全て聞こえていた。
「有海のやつ、学校に来てるよ…」
「マジ?私、絶対に休むと思ってた…」
…こう、囁き合っていた…。
七海は、両手で有海の肩を掴むと、身体を真正面に向けさせた。
「一木さん!!何があったん?」
「え…?」
「昨日…あいつ等に、何かされたん?」
「う…ううん…。何もないよ…」
有海は笑顔を見せるが…表情が硬い…。
「ウソやろ?何かされたんやろ?」
「だ、だから…」
有海は、困ったように…再び笑顔をつくる。
だが、目には涙が…。
3692投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時20分33秒
「ええわ!!ウチがあいつ等に直接聞いたる!!」
「あ…ふ、藤本さん…」
弱々しい有海の声を振り切り、教室に入ろうとする七海。
そんな彼女の背中に、元気すぎる声が飛ぶ。
「あ〜〜〜!!ななみん!!ゴメン!!」
振り向くと…そこには両手を顔の前に合わせた藍が立っていた。
「藍…!!」
七海は、始めは面喰ったが、段々と眉間にシワを寄せ、藍に歩み寄る。
「何で、今朝、練習に来ぃひんのや!!」
「だから…ゴメン!!」
今度は、身体を深く折り曲げる。
「理由を言わんかい!!理由を!!」
「寝坊した!!ゴメンね!!」
「寝坊…?おいおい…カンベンしてぇな…!!最近、たるんどるで!?」
「うん…?昨日は、ななみんが遅刻したよね?」
「う…。あ、あれは、寝坊やない…」
「じゃあ、理由は?」
「そ…それは…て、何で、ウチが責められんとアカンねん!!ホンマ、反省が足りんな!?」
「だ、だから…ゴメンなさいって…」
再び、藍は両手を合わせて高く掲げた。
3693投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時22分07秒
「まったく…」
七海は溜息をつくが、その視線の先に、不安げにこちらを見詰める有海の姿を捉える。
「…あ、そうや!!こんなことしてる場合やなかった…!!あいつ等に聞きたいことがあんねん!!」
3694投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時22分47秒
そして教室に入りかけた時、校内放送が響く。
「中等部の生徒の皆さん、おはようございます。今朝は、緊急集会があります。直ちに体育館に集合して下さい」
「…ん?緊急集会…?」
一瞬、教室内のスピーカーを見上げる七海だが、すぐに5人組の方へと向かう。
「ちょっと!あんた等!!」
しかし、その5人組はさっさと教室から出て行こうとする。
「おい、どこ行くん?」
「は?体育館だけど…。放送、聞こえなかったの?」
「話しがあんねん!!」
「私等は、ないよねぇ?」
七海を押し退けて、彼女等は教室を出て行った。
その際、廊下にたたずむ有海を、ジロリと睨んだ。
有海は、彼女等から目を逸らした。
そして、また何やら囁き合い、体育館へと向かった。
その囁きも、七海には聞こえている。
「もしかしたら…あいつ等、土壇場でビビって何もしなかったんじゃないの…?」
「ち…!!使えねぇヤツ等…!!」
七海は、一言一句、聞き逃さなかった。
「あいつ等…?あいつ等って何や…?」
3695投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時23分50秒
七海は疑問を抱きながらも、一旦、体育館へ向かう。
そこには、一年生から三年生まで集められ、整然と並んで集会の始まりを待っている。
中々、職員達が集まらない。
その間、賛美歌を歌わされる。
そうこうしている内に、ようやく中等部の校長が舞台に立った。
校長は、どう切り出そうか悩んでいる風だが、ようやく口を開く。
「え〜…。みなさん、おはようございます。今日、皆さんに集まってもらったのは…ええと…大事なお話しがあるわけでして…」
いつもは、流暢に話しだす校長だが、何か歯切れが悪い。
「皆さんの体育の授業をみて頂いていた、中田あすみ先生…1年生の皆さんはよくご存知だと思いますが…。その中田先生が、急な都合で学校を離れることになりました…」
体育館が、どよめき声で響く。
「へ…?監督が…?」
辞める…?学校を…?
3696投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時24分28秒
思わず、A組の方を見る七海。
エマも驚いて、こちらを見ている。
しかし、藍は真っ直ぐに舞台上の校長を見ていた。
別段、驚いたという風ではない。
「…?」
一瞬、七海は不思議に思ったが、すぐに校長の方へ向き直る。
「え〜…理由は…実家の方の都合だと言う事です…。急な話しで驚かれた様ですが…中田先生も残念がられておりました…」
(都合…?都合って…何や…?)
「先生は?その、中田先生はどこにいるんですか?」
誰かが叫んだ。
それを皮切りに、次々と質問が舞台上の校長に飛んだ。
男勝りでサバサバとした性格のあすみは、生徒達から人気があったのだ。
3697投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時26分06秒
「え〜、これは、中田先生の個人的な都合と言うことで…今日も、皆さんにお別れを言うことなく、学校を離れることを申し訳ないと、おっしゃっていまして…」
その後、校長は、あすみが担当してた体育の授業は、とりあえず初等部と高等部の体育教師が交代で兼任する形をとる…という話しをした。
しかし七海は、その件をあまり覚えていない。
あすみが…急に…学校を辞める…?
急すぎる…!
それでは、野球部はどうなる?
七海が呆然としている間に、集会は終わり、皆、厳かに体育館を後にする。
しかし、七海はクラスの列から離れ、担任の佐藤珠緒の元へと走った。
「ちょっと…!先生!!中田先生が辞めはるって…どういうことですか?」
だが、その珠緒も困惑の表情で、首を横に振るだけだ。
「私も…今朝の職員会議で知らされたばかりなの…。詳しい話しは、聞かされてないわ…」
「中田先生は?学校に来とらんの?」
「うん…。ご実家にもう、帰られたということだわ…」
「実家ってどこ?」
「…う〜ん…。ごめんなさい…。よくはわからない…。ただ、保健の中川先生が、中田先生の私物を届けて下さるってことだから、中川先生なら、知ってるかも…」
どうやら、職員間でも、事の真相は伝わっていない様だ。
3698投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時26分51秒
「…じゃ、じゃあ、野球部はどうなるんですか?」
この質問には、珠緒は答えることができた。
しかし、とても言い難そうに…。
「あのね…野球部は…廃部ってことになったわ…」
「…へ?」
「顧問の先生がいなければ…学校の部活動と認められないから…。だから、初等部のグラウンドも…使えなくなったって…」
「な…?な…?」
七海は、ただ呆然と、珠緒の顔を見詰めることしかできなかった。
3699投稿者:リリー  投稿日:2008年09月07日(日)21時29分08秒
今日は、これでおちます
3700投稿者:運命の指図聞かず(強引にねじふせ)  投稿日:2008年09月07日(日)21時40分03秒
ただ魂の叫びの(命じるがままに)
なんてとこですか?ww

なんかこれ思いだしたらついでに、リリーさんが書くヘタレ聖夜を見てみたくなりましたww
3701投稿者:デジ  投稿日:2008年09月08日(月)04時03分24秒
話がいきなり急展開を迎えましたね。
野球部廃部は覚悟してましたが、これほど早く解散するとは予想外でした。
表のコンセプトだった「聖テレジア女子学園中等部と、その野球部のメンバーを中心とした青春スポコン小説」が、いきなり途絶えましたね。
表まで裏に染まりつつある中。裏の「TDD」の動き一つ一つが表に影響してきそうですね。続きも楽しみです!
            (今日の小言) 
「どうやって戦わせようか、悩んでます。」という言葉からするとまだかきおえてないということですか?(文脈からたしかにな整理しますと、前七回で止まっていると言ってましたから7,8,9回の裏が「R&G探偵社VSTDD」の激突という感じですか?確かに長くなってきそうですね。同時に決闘までずいぶん間が空きますね。そこまで、R&G探偵社の更なる危険(以外に藍と有海と帆乃香)を知らないということですか?それまでの合計八回の(表四つと裏四つ)更新で、どう話が転がるか楽しみなものです!ゆっくり考えてください。闘いの火蓋まではまだ時間はありますから!) 最近予測が過ぎてますね。すいません。

3702投稿者:デジ  投稿日:2008年09月08日(月)05時20分29秒
(今日の小言その2)
久々にクイズです。
ある三人(Fさん(七海)Hさん(藍)Iさん(有海))がある場所について話しています。いったいどこのことを言っているでしょう?一人だけ違う場所の事を言ってるひとがいます。(全部ではなく一つだけ「」が完全に違います。)それは誰でしょう?
F「西のほうやったよね。あと鯱もすごい有名やね」
H「有名なところいっぱいあるよね。」
I「有名な所といったらあの高さからは飛び降りる勇気でないよね」
H「最近マスコットキャラできて有名になったよね」
I「昔はそこが都だったときもあったんだよね。どんな感じだったんだろうね?」
F「この前、歴史や地理でやったわ。サミットここで開かれたこともあるらしいんやて。あと、ここが舞台のドラマ多いやね。」
I「お笑いにロザンって言うコンビいたけど、その片割がここの大学卒業って聞いたけど」
F「修学旅行で行く学校もあるやね。テレビ戦士の中でもいるかな?」
H「じゃあ、今度遊びに行こっか?」
I、F「賛成〜」
いじょうです。ヒントはもういっぱいありますから書きません。
(「」中のロザンは、宇治原さんのほうでお願いします。と最後の二行は無視してください。)少しレベル落としてみましたが簡単すぎですかね?
3703投稿者:有海達と七海達の立場が  投稿日:2008年09月08日(月)20時51分49秒
逆なのも新鮮ですね
3704投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時14分49秒
3700さん
聖夜ですか?
実は、まだ頭の中にある『らりるれろ探偵団』の続編に、ミスト+ポチを出そうかと、おぼろげながらに考えてます
書くかどうかは、未定ですけどね

デジさん
そうですね
最早、聖テレ野球部の話しではなくなりましたね
これからの『表』は、全然爽やかではない展開になっていきます
すみません…
あと、最終決戦まで、描いておかなければならないエピソードもあります
クイズの答えは、京都か奈良ですね
ウソはマスコットキャラ(せんとくん)ですか?
ならば、京都です

3703さん
今まで七海達が、有海達に秘密を持っていましたが、今度は、それが逆になりましたね
お互い、秘密を隠したままラストへ向かって行きます

では、更新します
3705投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時16分22秒
教室へと戻る生徒の列を、養護教員の中川翔子はじっと見詰めていたが、藍の姿を見ると笑顔で手招きをした。
「…う…。しょこたん…」
藍は一瞬、顔を顰めるが、溜息をついて列から離れると、翔子の元へと向かう。
「…何ですか?」
翔子は、同じA組のエマが通り過ぎるまで待ってから、話題を切り出す。
「あなた、私のことを、ボス…寛平さんから?」
「はい。聞いてます」
翔子も、あすみと同じく、裏探偵『TDD』のメンバーだ。
おかしいと思っていたのだ。
この翔子、教師らしからぬ言動が多すぎた。
自分も、マッサージと称してセクハラをされた。
あすみと翔子が教師としてこの学園に潜入した理由は、まだ明かされてない。
いずれ、理由は話されると、寛平は言っていたが…。
3706投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時16分58秒
「あ、あみ〜ごも来たわね」
翔子は、C組の列から有海を呼ぶ。
有海も、怪訝そうな顔をして翔子の元へ…。
ここに、『TDD』のメンバー、『ラバーズ(恋人)』、『スター(星)』、『ハイプリエスティス(女教皇)』の3人が揃うことになった。
が、そんなことは、ここにいる3人以外、知る者はいないが…。
「あすみん…こんな、急にいなくなるんだ…」
藍は、翔子を睨みながら呟いた。
「ちょっと…。そんな恐い顔で私を見ないでよ…。あすみがいなくなったのは、私の所為じゃないもん…」
「あすみんがこの学校を去ったっていうのに…何で、しょこたんはまだいるんですか?」
「だって、私、人殺ししたワケじゃないし…」
翔子は、まるで他人事のように気軽に言った。
3707投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時19分07秒
「それにね、まだこの学校には用があるのよ…」
「用…?それは…?」
「ふふ…。あなた達が知る必要はないわ…。これは、私の任務だから…」
そして、次はD組の生徒の列が…。
翔子は、エリーが通り過ぎるのを待った。
今まで黙って聞いていた有海は、ようやく口を開く。
「あの…。今日、本当に中田先生とは会えるんですか?」
「…もう、あすみのこと、先生って呼ぶのはやめたら?…ま、もちろん、会えるわよ。むしろ、今まで以上に深い関係になれるんだけどね」
「私…いつまでも、先生と生徒という関係でいたかった…」
有海は、悲しげな顔でうつむいた。
「あら…。そう?私はあなた達が仲間になったって、ギザうれしす、なんだけど…」
「ちょっと!!もう、私に…あみ〜ごにも、変なことはしないでください!!」
藍は、翔子をキッと睨んだ。
3708投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時19分37秒
「変なこと?変なことって?」
「…マ、マッサージとか言って…私を………て、覚えてないんですか!?」
「覚えてるよ。バッチリと…。あい〜んのお尻、白くて柔らかくて、ギガントかわゆす…」
「わ、わ〜〜〜!!言わないで!!」
「…!?静かに!!」
翔子は、七海が曲がり角から姿を現したのに気がついた。
『TTK』の元『戦士』達は、地獄耳を持っている。
この会話は聞かれては厄介なことになる…。
もちろん、藍や有海は、七海達が暗殺組織『TTK』に身を置いていたことも、今は『R&G探偵社』の探偵で、『TDD』とこの先、敵対関係になることなど、知らされていないが…。
3709投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時20分46秒
七海は、まっすぐに翔子の元へと歩み寄る。
「…?」
藍や有海に用があるのではなく、自分に用がある…?
「何?藤本さん…だっけ?私に何か用?」
「中川先生、中田先生の…連絡先、知ってはるんですか?」
「…え?何で?」
「中田先生の私物…中川先生が送るって…佐藤先生が…」
しばらく、翔子の目は宙を彷徨う。
「…どうしたん?中川先生…」
七海は、翔子のリアクションを怪しんだ。
「ううん。細川さん達にも同じこと聞かれたものだから…。ええとね、教えちゃダメって中田先生から言われてるの」
「…!?な、何でなん?」
ここから、翔子は『TTK』顔負けのウソデタラメをつらつらと口走る。
「中田先生ね、結婚するのよ」
「え…!?結婚…!?」
七海は大きな目を更に大きくし、藍と有海の顔を見た。
ぼぅっとしてた藍は、慌てて七海に同調する。
3710投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時21分02秒
「け、結婚って…本当ですか?」
少し、棒読み気味に藍が聞く。
今の七海には、そんな藍の不自然さに気付く余裕は無い様だ。
「これは、仲の良かった私だけに教えてくれたことなんだけど…中田先生は、凄いお嬢様なのよ…。それで、お父様の決められた男の人と結婚することになって…。何でも、産まれる前から決まってた相手らしくて…」
何とも、現実感のない話しだが、ウソというものは、中途半端にリアルなものを言うより効果はあるのだ。
3711投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時21分36秒
「で、この結婚はもちろん、中田先生の納得するものではなくて…。だから、まだこの学校で働きたい中田先生は、それが悔しくて、みんなには一切理由を告げず、この学校を離れたのよ…」
この話しを聞き、七海は何とも悔しい思いでいっぱいになった。
「政略結婚って…!!いつの時代の話しやねん!!」
翔子は、七海に気付かれること無く、藍と有海にウィンクをする。
藍も有海も、七海を騙していることに罪悪感を覚える。
自分達だけ、あすみの学校を辞めた理由を知っているし、これからも会い続けることになるからだ。
「野球部は…野球部はどうすんねん!!こんな、突然…のうなってしもうて…!!」
握り拳を震わせる七海の肩を、翔子は優しく抱きとめた。
「中田先生もね、野球部のこと…本当に残念だって言ってたわ…」
そして、七海の艶やかな長い黒髪を撫で始める。
「でも…あなたの気持ち、私もわかるわ…。もし、寂しくなったら、いつでも保健室にいらっしゃい…。その時は、先生が話しを聞くわ…」
そう言いながら、七海を胸に引き寄せ抱きしめた。
「あ…」
今度は、七海に食指を動かす気だ…と、藍は勘付いた。
翔子の美少女好きを、七海に教えてやりたくて仕方がない。
「ほっといて!!」
七海は翔子を突き飛ばすと、廊下を駆け出して行った。
「あらら…。嫌われちゃったかな…?」
翔子は、苦笑いをして藍と有海を見る。
「あんまり、ななみんをからかわないで下さい!!私達だって…ななみんと同じ気持ちなんだから!!」
藍も有海も、翔子の側から離れ、教室へ向かった。
3712投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時21分55秒
七海が教室に帰って来た時、その場は、あすみの辞職について話題騒然だった。
涙ぐんでいる者もいる。
おおかたの生徒達は、ショックを隠せないようだ。
それだけ、あすみは皆から慕われていたのだ。
七海も、あすみのことを思い出す。
巨人ファンだということもあり、ユニフォームの件では衝突したりもした。
しかし、野球好きということでは、変わりはない。
練習も厳しかったが、ぐんぐんと自分達が力をつけてきたと、実感できた。
試合の采配も的確だった。
時に厳しく叱りつけたり、またはおだてながら自信をつけさせ…何だかんだで、試合は無敗だった。
大人の草野球チームに引き分け、強豪の虹守中学野球部に勝った。
あすみが監督だったから、本当に野球部は楽しかった…。
その野球部がなくなる…。
七海だって、もし今、一人なら、涙を流していたはずだ。
その時、あの、例の有海をいじめている5人グループの声が、すすり泣いている教室の雰囲気を切り裂いた。
「中田先生ってさ…本当は辞めたんじゃなくて、辞めさせられたんじゃないの?」
「ああ…この間の、虹守中の野球部のことで…?」
「有り得る!!有り得る!!」
爆笑し合っている5人組に、七海は無表情で歩み寄る。
3713投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時22分40秒
「なぁ…。虹守中の野球部が…どないしたん…?」
5人組の何人かは、七海の出現に顔を青くしたが、リーダー格の少女は、不敵な笑みを浮かべる。
「知らないの…?噂になってるよ?」
「…噂って…何や?」
また、5人組は顔を見合わせてクスクスと笑い合った。
七海の怒りは沸点に達した。
「言わんかい!!噂って、何や!!」
七海の机を叩く音が、教室中に響く。
皆、静まって七海を見た。
3714投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時22分53秒
リーダーの少女は、鼻で笑いながら、勿体つけたように話し始める。
「あんた達さ…一ヶ月前くらい…虹守中の野球部と試合したでしょ?」
「…それが、どないしたんや…?」
「で…勝ったんだって…?あんた達…」
「…そうや…」
「それ、あんた達の実力で勝ったと思ってるわけ?」
「…あん…?」
七海は、眉間にシワを寄せた。
再び、5人組はひそひそと話し合う。
「…あ…。やっぱり、知らないんだよ…」
「どうする?教える?」
「ちょっと、可哀そうじゃない…?知らないままの方が…」
七海は、今度は机を蹴っ飛ばした。
「言えや!!一体、何やねん!!オノレ等!!」
3715投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時23分46秒
「ひぇ…!!やっぱ、七海ってコワイ!!」
教室中の少女達は、一斉に立ち上がった。
それでも、5人組の少女達は、ニヤニヤと悪意の笑みを止めることはない。
「あんた達が勝った理由…中田先生が、虹守中の野球部の先生に接待したからなんだって…」
「せ…接待…?接待って、何や!?」
「身体売ったんだってさ…。中田先生…」
リーダーがそう言った途端、そのグループの者は大笑いした。
「だってさぁ、そうでもしなきゃ、勝てるわけないよねぇ?」
「虹守中だって、聖テレの野球部なんかに本気で戦うワケ、ないじゃん!!」
「でもさぁ、そこまでやる?たかが野球の試合だよ?」
「こんなことで辞めさせられるって…頭、悪すぎじゃん?」
3716投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時23分58秒
そんな彼女等の嘲笑を聞きながら、七海は下を向き、大きく息を吸い…そして吐いた。
「………あんた等なぁ………。あの試合………見たん…?」
「…え?」
彼女等は、笑い声を止め、七海を見る。
「なぁ…。見たんか…?」
七海の問いに、彼女達は半笑いで答える。
「見てるワケ、ないじゃん…」
「私達、そこまでヒマじゃないよねぇ?」
そして、また笑い声をあげた。
しかし、七海は口元に笑みを浮かべて5人組を見る。
「ヒマやない…?ヒマやろ…?自分等…」
笑顔に反して、七海の声は震えている。
3717投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時24分39秒
「他人のこと…そない、とやかく言うて…。ヒマやなかったら、そんなことしとらんよ…。ホンマ…ヒマってあかんな…」
「え…?」
「あんまりヒマすぎると…人間って…腐っていくんやな…」
七海の言葉に、5人組は、少し不愉快な顔を見せる。
「腐ってる…?私達が…?」
「ケ…!何、偉そうなこと言ってんの?コイツ…」
「ウザくない?コイツ…」
「身体売って、勝ったクセにさ…」
「それで、野球部も無くなったんじゃない?」
七海の頭の中で、何かが切れた音がした。
もう、七海は喋らない。
喋りたくない…。
話しても無駄だ…こういう輩とは…。
ただ、拳を叩き込むだけ…。
七海が一歩、踏み出そうとした時だった。
「ダメ!!藤本さん!!」
誰かが、後ろから抱きついた。
「…!?」
有海だった…。
3718投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時25分05秒
「藤本さん!!ダメだよ!!」
「い…一木さん…?」
「暴力振るったら…ここから…この学校、辞めさせられちゃうよ!!」
有海は、目をギュッと瞑り、必死で七海を押さえつけている。
「放せや!!ええねん!!こんな学校、未練なんかないわ!!」
「ダメだって!!ヤケを起こさないで!!」
「放せって、言うてるやろ!!」
七海は、有海を振り払った。
『TTK』の訓練を受けた者の投げ技…有海の身体は、ふわりと浮いた。
「…あ…!!」
有海は、床に身体を叩きつけられた。
教室中は、しんと静まり返った。
「…一木…さん…?」
七海は、呆然と床に倒れている有海を見詰めた。
「…一木さん…」
もう一度、有海に呼びかける七海…。
ワンテンポ遅れ、悲鳴が教室中に響いた。
「一木さん!!しっかりして!!」
その悲鳴に背中を押された様に、七海は有海に駆け寄ると、彼女を抱え上げ、教室を飛び出した。
3719投稿者:リリー  投稿日:2008年09月08日(月)21時26分02秒
今日は、これでおちます
3720投稿者:あげ  投稿日:2008年09月08日(月)22時35分28秒

3721投稿者:野球部がなくなって  投稿日:2008年09月09日(火)00時43分28秒
何もかも悪い方向に行ってる感じ。
辛いねえ。
3722投稿者:『らりるれろ探偵団』の続編?  投稿日:2008年09月09日(火)01時05分28秒
楽しみ!!
3723投稿者:あげ  投稿日:2008年09月09日(火)12時46分21秒
3724投稿者:がんばれ  投稿日:2008年09月09日(火)13時09分53秒
3725投稿者:たのしみ  投稿日:2008年09月09日(火)13時59分49秒
3726投稿者:あげ  投稿日:2008年09月09日(火)17時02分12秒
3727投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)20時50分53秒
3721さん
これから七海は『表』の世界では辛いことばかりになります

3722さん
まだ、構想中です
その前に、書いておきたい話しもあるので…
早く書かないと、また主人公がOGになってしまいそうで…

3724さん、3725さんも、激励のお言葉、ありがとうございます

では、更新します

3728投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)20時53分18秒
保健室…有海はベッドに横たわって眠っている。
頭には、冷たいタオルが乗せられている。
七海は、有海の寝顔を眺めながら、しっかりと彼女の手を握り締める。
「…藤本さん…。一木さんは、心配いらないから…」
養護教員の翔子は、そう七海に声を掛ける。
しかし、七海は首を何度も横に振った。
「ウチ…。最低や…」
力なく呟く、七海。
「怒りに任せて…暴れまわって…一番傷つけたらアカン人を…傷つけてしもうた…」
有海の手を、自分の額まで持って行く。
「ほんま…堪忍な…。一木さん…」
ドアがノックされ、開く。
担任の佐藤珠緒だ。
「中川先生…。一木さんの具合は…どうですか?」
「心配いらないですよ。頭を少し打ったみたいですが、しばらく休ませておけば大丈夫だと思います。一応、病院に行って検査をした方がいいですが…」
「そうですか…。ありがとうございます…」
珠緒は翔子に頭を下げると、今度は七海に話しかける。
「藤本さん…。校長先生が…呼んでらっしゃるわ…」
「…ウチ…退学ですか?」
七海は、有海の寝顔を眺めながら言った。
3729投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)20時54分13秒
「まさか…!そんなこと、先生がさせないから…。大丈夫よ」
そんな珠緒の言葉に、七海は首を横に振る。
「ちゃう…。ウチ、退学にして欲しいんよ…」
「…え…?何で…?」
珠緒が、泣き出しそうな声をあげる。
「…中田先生がおらんようなって…野球部が廃部になってもうて…ウチはヤケ起こしてケンカしてもうて…一木さんを傷つけて…」
一つ息をつき、また言葉を続ける。
「…ウチ…もう、この学校…居らん方がええ…」
「そ、そんなこと、言わないで!!」
珠緒は、七海の肩を後ろから抱いた。
「だったら…!一木さんは…?一木さんはどうなるの?また、一人ぼっちになっちゃうじゃない…!!」
その言葉にも、七海は首を横に振る。
「一木さんは…もう、一人やないよ…。細川さんもおるし…他の野球部のみんなも…」
野球部という言葉を言ってしまった七海は、言葉を続けることができなくなった。
3730投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)20時54分43秒
「でも…それじゃあ、藤本さんが一人になっちゃう…」
珠緒は、優しく七海を椅子から立たせた。
「先生も着いてるから…。藤本さんは、一人じゃないよ…。さあ、校長室へ行こう…?」
七海は、悲しげに有海の顔を見詰め、珠緒と共に保健室を出て行った。
そしてしばらくして、翔子は寝ている有海に声を掛けた。
「ねぇ…。あみ〜ご…。起きてるでしょ?」
「…はい…」
ゆっくりと、有海は上半身を起こした。
3731投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)20時55分12秒
珠緒の口添えもあって、七海は厳重注意ということで許された。
教室で暴れた理由も、野球部が廃部になってムシャクシャして…ということにした。
例の、有海をいじめている5人組が、あすみを中傷した…とは言えなかった。
根も葉もない噂だが、身体を売って野球の試合に勝利したなど、あすみの名を汚したくなかったからだ。
今朝、ジョアンが初等部の窓ガラスを割ったばかり、ということもあり、「やはり野球部は無くしてよかった」…などと中等部校長に言われる始末…。
総合学園長の武川は残念がってくれはしたが、どうにも心が篭っていないように感じた。
七海は、うつむきながら廊下を歩く。
「あ…ななみん…。どうだった?」
不意に声をかけられ、顔を上げると…そこには細川藍がいた。
「藍…」
七海は、思わず涙を流した。
「や、野球部が…のうなってしもうた…」
「な…ななみん…」
「野球部が…。ウチ等の野球部が…」
七海は、藍に駆け寄り、すがり付いて泣いた。
藍は、何も言わずに七海を抱きしめた。
野球部がなくなった理由…いや、あすみが聖テレからいなくなった理由…。
言える筈がなかった…。
(ごめん…。ななみん…本当に、ごめん…)
言葉にならない、藍の謝罪…。
藍は、七海を抱きしめることしかできなかった。
3732投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)20時55分35秒
初等部のグラウンドに、ジャージ姿の樹音が、グローブを片手にたたずんでいる。
「…あれ…?どうしたんだろ…。今日は、野球部、遅いなぁ…」
そこに、メロディーが通りかかる。
「あ、ずねちゃん!!今日も、野球部やっていくの?」
そう言いながら、メロディーは真っ直ぐに、樹音に向かって走ってくる。
「うん。でもね、みんな遅いんだよ。もう中等部って、授業、終わってるよね?」
窺えるわけがないのだが、樹音は中等部の校舎がある方を、背伸びして見た。
「ふ〜ん…。どうしたんだろうね。今日は、お休みなのかな?」
「でも、先生もあい〜んも、そんなこと言ってなかったよ」
樹音は、メロディーと共に首を捻る。
その時、メロディーは下校途中の羅夢の姿を見る。
「あ、らむりんも来た!!お〜い!!らむり〜ん!!」
「コラ〜〜〜!!!らむりんって言うな〜〜〜!!!」
結構、遠くからだったのだが、羅夢は猛烈な勢いで走ってきた。
「あはは…。『らむりん』って言えば、むこうから来てくれるから楽だねぇ」
メロディーは、無邪気に笑って樹音を見た。
「めろりん…。あんた、引っ叩かれても知らないよ?」
樹音は呆れた様な笑みで答える。
そしてメロディーは、樹音の言う通り、本当に頭を張り倒された。
そんなに強くは殴っていないのだが、親にも殴られたことのないメロディーは、それだけでも号泣した。
3733投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)20時55分55秒
メロディーが泣き止むのを待ってから、樹音は羅夢に訪ねた。
「ねぇ、らむり…細田さん。野球部の人達、いつまで待っても来ないんだけど…。何か知らない?」
「あ?知らねぇよ。何で、アタイが知らなきゃいけねぇんだよ?」
「そうか…。細田さんでも知らないか…」
「あと、『細田さん』はやめろって言っただろ?あと、『らむりん』は、もっとやめろ!!」
「何て、呼べばいいの?」
「羅夢でいいよ!!単純なことじゃねぇか!!」
「じゃあ、羅夢!!一緒にキャッチボールしようか?」
「ああ!?やらねぇよ!!」
「ねぇ、羅夢も一緒に野球部に入ろうよぉ〜」
「だから、入らねぇって、言ってんじゃん!!何度も言わすな!!」
その時、不意に後ろから声が掛けられた。
「ふ〜ん…。野球部に入りたいって人、うちの他にもおるんやね…」
聞き覚えのある、関西弁…?
羅夢は後ろを振り向いた。
そこにいたのは…少年野球チーム『茶々山マンボウズ』の…鍋本帆乃香だった。
「へ…?帆乃香…?何で、おまえ…ここにいるんだよ…」
羅夢は、目を丸く見開いて帆乃香を見た。
「何でって…この恰好見て、わからん?」
帆乃香は…白いセーラー服にスカート、そしてベレー帽、赤いリボンの…聖テレジアの制服を着ていた。
3734投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)20時56分47秒
「…お、おまえ…!!もしかして…転校してきたの!?聖テレに?」
「うん。今日は見学なんよ。明日から、正式に転校するんよ。今、おじいちゃんが校長先生とお話してる」
もう、すっかり泣き止んだメロディーは、帆乃香に駆け寄った。
「ねぇ!!ホノカハン、5年生だったよね?メロディーと同じクラスになるかな?」
「…う〜ん…。確か、C組に入る、言うてたな」
「わあ!!C組だったら、メロディーと同じだ!!やったぁ!!友達になろうね!!」
メロディーは、帆乃香に抱きついて喜んだ。
「うん。よろしゅう、メロディー」
「ううん。『めろりん』って呼んで。あと、『メロ』でも、『メロチュー』でもいいよ」
「『めろりん』が一番、可愛いやん。『めろりん』にするわ」
そう言った帆乃香だが、少し悲しそうな顔で羅夢を、そして樹音を見る。
「せやけど…あんた等、やっぱり噂、知らんのやね」
「噂…?」
羅夢と樹音は、顔を見合わせ、同時に帆乃香を見た。
「何?噂って…」
樹音は、何やら嫌な予感がした。
「うん…。あのな…野球部…廃部になったらしいで…」
「はぁ…!?廃部!?」
羅夢は、樹音よりも大きな声を出した。
3735投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)20時57分08秒
「何でだよ!?何で、廃部なんかに…」
羅夢は、帆乃香の肩を掴んで激しく揺らす。
「ちょ、ちょっと、らむりん、痛いて…!!」
気に入らないあだ名…『らむりん』と呼ばれた羅夢だが、そんなことに、いちいち引っ掛かっていられない。
「何かな、野球部の監督やってた…あの、背の高い先生、おったやん…」
「あ、ああ…。あの、おっかねぇデカ女…」
「中田先生が、どうしたの?」
「…うん…。学校、辞められはったらしいで…」
「…え?」
これには、樹音もショックだった。
昨日、一緒に練習をするのを快く許してくれた…あの、あすみが…。
「顧問がいなくなってしもうて…自動的に野球部も廃部やて…。うち、ショックやわぁ…。野球部に入りとうて、聖テレに入ったんやけどな…」
帆乃香は、つまらなそうに足下の小石を蹴った。
そんな帆乃香を、羅夢は睨みながら聞く。
「な…何で…おまえは、そんなこと知ってんだよ?」
「ん?うち、情報収集は得意なんよ…。それにしても、ななみん…悲しがっとるやろうな…」
「七海のことなんて、どうでもいいんだよ!!」
羅夢は吐き捨てる様に言った。
3736投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)20時59分50秒
「…ん?やっぱり、羅夢も野球部に入りたかったの?」
そう言う樹音に、羅夢は唾をまき散らしながら怒鳴った。
「違うよ!!アタイのことじゃねぇ!!」
そう…梨生奈が…このことを知ったら、どれだけ悲しむだろう…。
一日でも早く怪我を治して、野球をやりたがっていたのを、誰よりも側で見て知っていたから…。
「でも…ほんと、残念だなぁ…。じゃあ、私、ソフトボール部にでも入ろうかな…」
樹音はそう呟く。
「うん。うちもな、ソフトボール、やろう思ってる…。あい〜んもいるしな…。ななみんは、どうするんやろ…」
帆乃香も、そう呟き、樹音のグローブの中のボールを手に取った。
「うち、もともとソフトボールの投げ方しかできひんから…」
そして、樹音から数メートル離れると、ボールを胸の前に持っていって構える。
ソフトボールの下から投げる投法で、樹音に向かってボールを投げた。
「お!?」
かなり球威のあるボールを受け止めて、樹音は軽く驚いた。
「おう、帆乃香。待たせたな。さあ、帰ろ…」
ヒョコヒョコとした足取りで、寛平が初等部の校舎から歩いて来た。
聖テレ野球部が崩壊する…そう、占った男である。
寛平の言うとおり、聖テレ野球部は呆気なくその短い活動期間を終えたのだ。
3737投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)21時00分25秒
「おじいちゃん。遅い!!」
「ごめんな。校長先生のお話し、長いねん」
そう言って寛平は、側に駆け寄ってきた帆乃香の頭を撫でた。
「お?あんた、羅夢ちゃんやな?久しぶり」
寛平は、手を挙げた。
「…どうも…」
羅夢は、軽く会釈した。
「明日から、帆乃香がこの学校に来るさかい…。仲良うしたってな」
「うち、もう友達作ったよ。覚えとるやろ?この子、めろりん」
「ああ、ごっつヘタクソなラッパ吹いとった…」
「メロディー・チューバックです。よろしく」
メロディーは、寛平から結構酷いことを言われたのだが、笑顔で自己紹介した。
「寛平さん、占いってそんなに儲かるんですか?」
羅夢は、少し疑いの眼差しで寛平に聞く。
「ん?」
いきなりな羅夢の質問に、寛平は首を前に出す。
「だって…聖テレって、入学金や授業料、半端なく高いんですよ?」
失礼な話しだが、羅夢には、寛平が経済的に豊か…というイメージが湧かなかった。
「ああ…。まあ、高いって言えば、高いかな…。せやけど、帆乃香がどうしても行きたい、言うなら、行かせてやりたいやん…」
「おおきに!!おじいちゃん!!」
帆乃香は、寛平に抱きついた。
3738投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)21時00分57秒
羅夢は、今度は帆乃香に向けて言う。
「…あと、帆乃香って、頭、すげぇ良いんだな…」
「ん?どうして?」
「…?試験、受けたんだろ?入学試験…。半端なく、難しかったろ?」
「あ…ああ…。帆乃香な、こう見えても頭ええねん…。な?おじいちゃん?」
「ああ…。帆乃香は、賢い、賢い…」
寛平は、本当に愛しそうに目を細めて、帆乃香を見詰めた。
「せや、帆乃香…。はよ、帰ろう。寄らなアカンとこもあるし…」
「あ、そやったね。ほな、らむりん。ななみんに、よろしく言うといて」
帆乃香は羅夢達に手を振って、寛平と共に初等部の校門へ向かう。
「七海になんか、よろしく言うか!!後、『らむりん』って、やめろ!!」
正直、羅夢はいちいちそう言うのに、疲れ始めてきた。
「それにしても…梨生奈に何て言おうかな…。野球部の廃部のこと…」
放っておいても、七海達から話しは聞くと思うが…。
「いや…アタイの役目は、どうやって梨生奈を元気付けるか…だな…」
千秋との失恋をした時の梨生奈を、どう元気付けただろうか…?
いや、あの時は、ワケがわからないまま自分が号泣して、逆に梨生奈に慰められたのだった…。
ほとほと、羅夢は自分が情けなくなった。
3739投稿者:リリー  投稿日:2008年09月09日(火)21時01分17秒
今日は、これでおちます
3740投稿者:すごく切ない…  投稿日:2008年09月09日(火)21時30分00秒
七海…
3741投稿者: 投稿日:2008年09月09日(火)22時52分28秒

3742投稿者:辞められはる  投稿日:2008年09月10日(水)00時35分26秒
という言い方はあまりしないと思います
関西では「辞めはる」だけで敬っていることになります
嫌いな相手にも使います
「あのおっちゃんおしり触ってきはんねん」といった具合です
3743投稿者: 投稿日:2008年09月10日(水)01時33分11秒

3744投稿者:あげ  投稿日:2008年09月10日(水)12時07分07秒
3745投稿者:あげ  投稿日:2008年09月10日(水)17時50分51秒
3746投稿者:あげ  投稿日:2008年09月10日(水)20時30分45秒
  
3747投稿者:聖夜も早く書いてよ  投稿日:2008年09月10日(水)20時32分50秒
一年戦士の可能性大だから
3748投稿者:リリー  投稿日:2008年09月10日(水)21時08分07秒
3740さん
この先、せつないと言うか、元気のない七海が続く事になりますが…

3742さん
どうも、ありがとうございます
関西の友達がいないものですから、吉本の芸人でしか関西弁に触れられないのです
これからも、おかしな表現があったら、ご指摘下さい

3747さん
聖夜も、中一ですからね
翼や理来も一緒に卒業するんですかね?
今回が凄く長い話しなので、次は短めの話しにしようかと思ってます
でも、今年中に発表できるかどうか、わかりません
それでも、お待ち下さい

あげコメントもありがとうございます

では、更新します

3749投稿者:リリー  投稿日:2008年09月10日(水)21時09分29秒
授業が終わり、いつもなら部活動の時間なのだが、七海はそのまま制服姿で帰宅することになる。
廊下で行き会ったエマとエリーが、七海に声を掛けた。
「ねぇ…。本当に、野球部、なくなっちゃったのかな?」
七海は、足を止めたが、2人の方には顔を向けないまま答える。
「うん…。のうなった…。何や?2人とも、野球部に未練あるん?」
2人は、七海の問い掛けに、困った様に顔を見合わせた。
「未練って言うか…私、野球のこと、良く知らなかったけど…」
「今までやってきたことが、急にできなくなるって…何か、寂しいよね?」
「正直言って…かなり面白くなってきたとこなんだよねぇ…」
「ねぇ、ななみん!!本当に、このままでいいの?悔しくないの?」
七海は、ふっと笑って、改めてエマとエリーの顔を見た。
「あんた等の、そんな言葉が聞けただけで…ウチは満足や…」
そして、階段を降りる。
エマとエリーは、一階へ降りる七海を見下ろして、なおも声を掛ける。
「ねぇ、ソフトボール部に入るって手もあるよね?」
「あい〜んや、まにゃ先輩、あず〜先輩もいるしさ…」
七海は振り返ることなく、こう答えた。
「ウチは…野球以外は…やらん…」
そして、2人を見上げてこう言った。
「あと…もう、うちを『ななみん』呼ばんといて…。野球部を思い出してしまうさかい…」
3750投稿者:リリー  投稿日:2008年09月10日(水)21時09分52秒
七海は、下駄箱に向かう途中、保健室に寄ることにする。
有海の容態を知りたかったのだ。
有海はあの後起き上がり、保健室内で自習をし、給食も食べたということだ。
しかし、七海はお見舞いに行き渋った。
せめて帰る前に、直接有海に謝りたかった。
だが、保健室はもぬけの殻だった。
「ん?先生もおらん…。どこ行ったん?」
「一木さんを病院に連れてったらしいよ…」
七海は、後ろを振り向いた。
そこには、A組担任でソフトボール部顧問の、近藤春菜が立っていた。
「…近藤先生…」
「卓造じゃねぇって!!」
「…いや…ちゃんと、近藤先生って言うたけど…」
「え…?そ、そう…?そうだっけ?」
「先生自身、ワケわからんよう、なってない?」
「あんたの所為だよ!!まったく…。で、その…なんだ…」
「…?」
近藤は、何故か七海に対して気を遣っているようだ。
やはり、野球部廃部のことを気にしているようだ。
3751投稿者:リリー  投稿日:2008年09月10日(水)21時10分27秒
「はっきり言って下さいよ…。先生らしくもない…」
「そ、そう…?じゃあ、言うけど…」
近藤は、軽く咳払いをして七海の顔を真っ直ぐに見る。
「藤本…。あんた、ソフトボール部に入りなさい!!」
「…ウチが…?」
野球以外はやらないと、エマとエリーに言ったばかりなのだが…。
「細川もいるし…伊倉や大木だっている…!さっき、うちのクラスのエマや、D組の渡邊も誘ったんだけど…」
「ああ、それで、あいつ等…」
「で…藤本、あんたの長打力と肩の強さ、伊倉達から聞いてるよ。はっきり言って、あんたが欲しい!!」
そう言ってもらえて、正直、七海は嬉しかったが…。
「ふ〜ん…。で、移籍金は幾ら?」
「バカ言ってんじゃないよ!!」
そう怒鳴った近藤だが、次の瞬間には心配そうな顔をして七海を見詰める。
「あんた…早く打ち込めるものを見つけて、がんばった方がいいって…。だって…」
「だって…?何ですか?」
「あんた、部活以外、イマイチって言うか…全然ダメじゃん!!」
「…そうやけど…」
今度は、少し不機嫌になる。
「だからさ、部活、やりなよ!!藤本!!」
3752投稿者:リリー  投稿日:2008年09月10日(水)21時10分52秒
「おおきに…。先生…。でも…」
「まあ、あんたに言わせれば、ソフトボールは野球とは違うって感じかもしれないけど…」
七海は、首を横に振った。
「ちゃうよ。そういうことやない…。でも、ウチ…大人の草野球チームや、虹守中の野球部と試合やって…思ったんやけど…」
「…ん?」
「あれ以上の興奮を…ソフトボールで…同じ世代の女子と戦って…得られるとは、思えへんのよ…」
「あ…!!やっぱり、ソフトボールを甘く見てるね?一度やってみたらわかるよ!!野球とは一味違う難しさがあるんだよ!!」
「いや…別に、そういうわけやないけど…」
七海は、苦笑いをした。
「でも…今は、まだ新しいことに取り掛かろうって気持ちには…」
近藤は、溜息をついて七海を見詰めた。
「ま、無理強いはしないけど…一応、考えてみてよ…」
「うん。おおきに…」
七海は、近藤に深く頭を提げる。
「ほな、サイナラ…。竹山先生…」
「カンニングでもねぇから!!」
近藤の怒鳴り声を背中で聞いて、七海は今度こそ下駄箱に向かった。
3753投稿者:リリー  投稿日:2008年09月10日(水)21時11分30秒
七海は、中等部の校門へ向かう途中、グラウンドに目をやる。
そこには、ソフトボール部の練習が行われていた。
愛美と梓彩に交じって、藍の姿も見える。
ソフトボール部の、背中に『根性』と書かれた真っ赤な練習用Tシャツに身を包んで、キャッチャーに向かって投球練習をしている。
下投げで、速球を放る、藍。
そんな藍を見ていると、七海はまた涙が出そうになる。
藍は、ソフトボール部に戻った…。
野球部がなくなった今、戻るのが道理なのだが…七海は寂しい思いでいっぱいだった。
また、藍と汗を流したい…。
でも、彼女とは野球をやりたいのだ…。
ソフトボールでは、やはり心の隙間を埋めることはできないのだ。
よく見ると、バッティング練習をしているジョアンの姿も窺える。
ソフトボール部に入る、という条件で、ジョアンは高等部に進学することができる。
いわゆる、ちひろや藍と同じ、スポーツ推薦だ。
野球部が廃部になった今、高等部に行く前にソフトボールに慣れる為にも、ジョアンはそこに身を置いている。
その事情もわかるのだが…やはり、七海は寂しかった。
3754投稿者:リリー  投稿日:2008年09月10日(水)21時11分52秒
「あ…!!危ない!!」
ジョアンの放った打球が、七海の方へ飛んでく。
「逃げて!!」
声が聞こえる。
「逃げる…?誰が…?ウチが…?」
ソフトボール用の大きなボールが、七海に迫る。
「何で…?何で逃げなアカンの?」
七海は、すぐ横に植えられた桜の木の太い枝をへし折ると、それをバットの様に構えた。
「ヨー・ソー、ロー!!」
そのボールを、七海は打ち返した。
真っ直ぐ、ジョアンに帰って行く。
ジョアンは、その打球を、素手で掴んだ。
「…七海…」
ジョアンは、呆然と七海を遠くから眺めた。
「凄い…!!今の見た…?」
他の部員達は、感嘆の声をあげる。
「ななみん!!コッチおいでよ!!一緒にやろう!!」
そう、手を振りながら愛美は叫んだ。
3755投稿者:リリー  投稿日:2008年09月10日(水)21時12分15秒
「でも…」
藍の方を見る、七海…。
藍は、こちらをチラリとも見ず、一心不乱に投げ込みを行っている。
何とも寂しい思いを、胸に抱く。
もし、誘われるままソフトボール部に入っても…この寂しい思いは晴れることはないだろう…。
「やっぱり…アカン…」
七海は、そのまま校門に向かう。
「ウチは…野球やないと…」
しかし、愛美は諦めずに叫び続ける。
「ねぇ、ななみん!!おいでったら!!」
七海は、その声を振り切って足を速める。
その時、後ろから中等部校長の声が飛ぶ。
「コラ〜〜〜!!誰だ!?桜の枝を折ったのは!?」
「…!?」
足早というより、駆け足で七海はその場から離れた。
只でさえ、今日の騒動で校長から睨まれているのだ。
アメリカの大統領になれる訳でもあるまいし…七海はトンズラを決め込んで、校門を駆け抜けた。
そんな状況でも、七海は有海が心配でたまらない。
「一木さん…。今頃、病院に行ってるんやろうか…。何ともないなら、ええんやけど…」

(『三回・表』・・・終了)
3756投稿者:リリー  投稿日:2008年09月10日(水)21時12分35秒
今日は、これでおちます
3757投稿者:ヨーソーロー  投稿日:2008年09月10日(水)21時17分00秒
プラズマ回遊w
3758投稿者:あったあった  投稿日:2008年09月10日(水)21時40分25秒
 
3759投稿者: 投稿日:2008年09月10日(水)23時00分11秒

3760投稿者:あげ  投稿日:2008年09月11日(木)13時13分34秒
3761投稿者:あげ  投稿日:2008年09月11日(木)17時18分56秒
3762投稿者: 投稿日:2008年09月11日(木)18時51分04秒
3763投稿者: 投稿日:2008年09月11日(木)20時49分38秒

3764投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時51分38秒
3757さん、3758さん
2004年、懐かしいですよね
「ヨー・ソーロー」は、エマとのコンビネーションの必殺技『ヴォヤージュ±』の掛け声です
そう言えば、お笑い番組で藍が審査員で出てましたね
「お笑い芸人は、女子中学生を笑わせられるか」という企画で
山本高弘さんに対して、藍の上から目線の評論が面白かったです
でも、山本さんは、女子中学生をシラケさせるネタをワザとやってましたよね
もっと面白いことが、できたような気がするんです

あげコメント、ありがとうございました

では、今回から『三回・裏』です

更新します
3765投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時52分36秒
『三回・裏』

≪2007年10/17(水)≫
「あい〜ん。良かったら乗っていきなさいよ」
部活を終えた藍が、一人帰路を歩いていると、真っ白なオープンカーが横付けしてきた。
運転しているのは、聖テレジア女子学園中等部養護教員の中川翔子。
いや、裏探偵『TDD』の『カード』の一人、『ラバーズ(恋人)』の中川翔子。
「しょこたん…。あみ〜ごは?」
「あみ〜ごなら、一足早くアジトに送ったわ」
「アジト?」
「下ノ国町の上下峠の別荘地にあるわ」
「ああ…。カンペーさんから聞いた。いいです。私、一人で行けますから」
「遠いわよ?どうやって行くつもり?」
「電車で下ノ国町まで行って、あとは、バスが通ってるでしょ?」
「う〜ん…。でも、それだったら時間かかっちゃうよ?」
「ん?『TDD』って、時間厳守なの?」
「…そうじゃなくって…。早く、あみ〜ごの側に行ってあげた方がいいかな…って…」
3766投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時52分56秒
「…どういうこと?」
「とある別荘を、とりあえず私達のアジトとして、ボス…カンペーさんが買い取ったんだけど…そこ、ヤクザも間借りしてるから…」
ヤクザと聞いて、藍は慌てふためいた。
「ヤ…ヤクザ…!?」
「山本組…。加藤組の壊滅を依頼したところね。あ、そうそう…。その山本組の組長ってロリコンだから、あみ〜ごみたいな可憐な美少女は、大好物なんじゃないの?」
「ちょ、ちょっと…!!そんな連中の中に、あみ〜ごを置いてきたんですか?」
「まぁ、弥勒姉さんとか恵ちゃんとかいるから、変なことはされないと思うけど…」
弥勒姉さん、恵…聞いた名だが…。
「でも、2人とも依頼主の機嫌を損ねてまで、あみ〜ごを守る義理はないと思うから、100%大丈夫とは言えないかも…」
「あ、あすみんは!?」
「ん?まだ着いてなかったよ」
「ヤ、ヤバイじゃないですか!!早く、行かないと!!」
「だから、乗っていかない?って誘ったんだけど…」
「乗っていきますよ!!早く!!」
藍は、ドアを飛び越えて助手席に座った。
翔子は、車を発進させる。
「ふふ…。このままホテルに直行しちゃったりして…」
「え…?」
青い顔をしている藍を、横目で見て笑う翔子。
「冗談よ…」
3767投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時53分36秒
上下峠の別荘地に、真っ白な洋館はあった。
翔子の白いオープンカーは、アールヌーヴォー様式の優雅な青銅製の門を潜り抜ける。
「うわ…。すご…」
藍は、昨日の有海の自宅を見た時と同じリアクションをとる。
しかし、ここの屋敷は、有海の家よりも更に豪華さは上だった。
その上品な洋館にそぐわない、黒光りする無骨なベンツが、広い庭に数台停まっている。
山本組の車なのだろう。
そんなベンツに交じって、カーキ色の軍用ジープが…750のオートバイが…そして、真っ赤なフェラーリも停まっている。
「あ、このフェラーリ…。楠本さんも来てるんだ…」
楠本…あの、金髪のホストの男…。
一応、有海の教育係ということだが…。
3768投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時53分49秒
車を降り、大きなドアの玄関に向かう2人を、人相の悪い…2人の男が出迎えた。
「お帰りなさいやし!!翔子姉さん!!」
「もう…!私のことは、しょこたんって呼んでって言ってるでしょ?それに、あい〜んが恐がってるじゃないの!!」
藍は、翔子の身体の後ろに隠れながら、2人の男を見る。
「しょ、しょこたん…。こ、この人達…」
「うん。山本組の組員さんね」
「や、やっぱり…」
「でも、最近までは、山本組は女の人のみで構成されてたんだけどね。楠本さん達に壊滅寸前まで追い込まれて、急遽男の組員を大量に入れたんですって…」
しかし、翔子は少し不愉快な顔を見せる。
「でも、男とか女とか…強さには関係ないんだけどね…」
そう…あすみは、一人であの不良達の…息の根を止めた…。
3769投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時54分08秒
ドアを通り抜ける翔子と藍の前に…大勢の柄の悪い男達がたむろしている。
皆、山本組の組員達だ。
「おい、翔子姉さんを奥の部屋にお通ししろ!!」
野太いヤクザの声が響く度、藍は肩を震わせた。
「さ、山本組長に見つかる前に、早く部屋に入るよ」
「…え?」
「言ったでしょ?山本組長、ロリコンだって…。あい〜んなんて可愛いから、一発で目をつけられちゃうよ!!」
翔子は、藍の手を引っ張って、急ぎ足で応接室へと向かう。
応接室のドアを開けると…派手な真っ赤なタイトスカートのスーツを身に着けた女…全身真っ黒な服に身を包んだ死神の様に顔色の悪い女…迷彩の軍服に身を包んだ筋肉質な女…そして…黒革のライダースーツ姿の…美しすぎる女…。
そして、部屋の片隅で小さくなって床に座っている…有海…。
「連れて来たよ。もう一人の可愛い新人を…」
翔子は、藍を部屋に入れる。
「ほ、細川さん…」
弱々しい声をあげて、有海は藍に駆け寄った。
目は真っ赤に泣き腫らしている。
相当、不安だったのだろう…。
「あ、あみ〜ご…。大丈夫だった?」
藍は、有海を抱きしめた。
3770投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時55分15秒
「ち…!!またガキかよ…!!いつから『TDD』は、保育所になったんだ?」
迷彩服の女が、藍達を睨みつけながら舌打ちをした。
「…う…」
藍も、一瞬気後れした。
こんな怖い女達に囲まれて…本当に有海が気の毒だった。
「恵ちゃん…。これもボスのご意向なんだから…」
真っ黒な死神の様な女が、迷彩の女を恵と呼ぶ。
この女が、『ダーブロウ』なる者に腕を折られた…秋山恵…。
そう言えば、彼女の左腕は大きく膨らんで真っ直ぐに伸びている。
長袖の軍服で窺えないが、おそらくギプスで固められているのだろう。
真っ赤なスーツの女も口を開く。
「みのぽーの言う通りだよ。文句があるなら、ボスに言いな。こんな子供をいじめるんじゃないよ?」
「わかったよ…。弥勒姉さん…」
恵は、素直に従った。
黒い服の女が、『みのぽー』…赤いスーツの女が、あすみでさえも頭が上がらないという『弥勒姉さん』…。
(じゃあ、この人は…?)
ソファーに足を組んで座っている、髪をショートカットにしたライダースーツの女を見詰める藍。
本当に…人形の様に美しい…いや、この世の者ではない…魂がこもっていないような…そんな美しさなのだ。
ふと、その女は藍に目を合わせた。
「…う…」
蛇に睨まれたカエルの様に…藍は動けなかった。
3771投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時55分39秒
しばらく藍を見据えたその女は、興味を失ったかのように、視線を外した。
「…ふぅ…」
藍は、安堵の息をつく。
「…あの人には気をつけて…」
翔子は、藍の耳元で囁いた。
「…え?」
「あの人…本当にヤバイから…。まさに…『デビル(悪魔)』…」
「『デビル』…?」
すると、またその『デビル』と呼ばれた女は、藍に視線を向けている。
「…!!」
まるで、聞こえているぞ…とでも言いたげな目…。
藍は恐怖から、強く有海を抱きしめた。
「あれ…?楠本さんは?」
翔子は、応接室を見回して聞く。
「ああ!?あんなヤツ、知るかよ!!」
恵は、何故か怒鳴り声をあげた。
「ひぃ…」
有海はガタガタと震えながら、藍にしがみ付いた。
「もう…。恵ちゃん、そんなに怒鳴らないで…。その度に、あみ〜ごが泣いちゃうんだから…」
翔子が、有海の頭を優しく撫でながら言う。
3772投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時56分04秒
「だから、そんなガキ、とっとと追い出せってんだ!!ここはガキの来るとこじゃねぇんだ!!」
容赦なく怒鳴り散らす恵。
「う…うぅぅ…」
とうとう、有海は声を押し殺して泣いた。
「あ、あみ〜ご…。あ、あすみんが来るまで、外に出てようか…?」
藍は、有海の肩を抱きながら応接室を出ようとする。
「い、いや…!!外も…怖い…!!」
有海は、なおも藍に強くしがみ付く。
「そ、そうか…。ヤクザが…」
本当に、有海にとって…いや、自分にとっても、ここは針のむしろだ。
「ああ!!もう!!うっとおしいな!!うるせぇから、黙れよ!!」
恵の怒鳴り声はまだ響く。
「…うるさいわねぇ…」
静かな声が…。
その声の主は…先ほど翔子に『デビル』と呼ばれた、ライダースーツの女…。
「あ?」
恵は、その女を睨みつける。
「あんたの喚き声の方が、よっぽど耳障りだよ…」
「何だと!?」
恵は、顔を紅潮させ、その『デビル』の前に、足音も荒く進み出る。
3773投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時56分46秒
「もう一度言ってみろよ…。夏希さんよ…」
どうやら、この女の名前は、夏希と言う様だが…。
夏希は、恵に視線を合わせることなく、冷静に口を開く。
「ここはガキの来る所じゃない…?あんたの方が、躾のなってないガキに見えるんだけど…」
「…!!」
恵は、もの凄い形相で、夏希を見下ろす。
「へっへっへ…。さすが元『TTK』の四天王筆頭と呼ばれた、加藤夏希さんだ…。この私相手に、恐れ知らずもいいところだな?」
「『恐れ知らず』…?いいえ…私は、誰に対しても『恐れない』んだよ…」
「てめぇ!!」
恵は、右腕で夏希の胸座を掴んだ。
しかし、夏希は振り払うことなく、そっと恵の右腕に手を掛ける。
すると…恵の身体は空中で一回転し、高価そうな大理石のテーブルの上に叩きつけられた。
そのテーブルは、真っ二つに割れてしまった。
「…わ…!!」
「ひぃぃ…!!」
藍と有海は震えながら身を寄せ合う。
3774投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時57分11秒
「ぐ…!!こ、このアマ!!」
恵は、腹筋の力ですぐさま立ち上がる。
「上等だ!!表に出ろぉ!!」
「よしな…。左腕だけじゃなく、右腕も使いものにならなくなるよ…」
ようやく、夏希は恵を見上げた。
「私は、ダーブロウみたいに甘くない。へし折るんじゃなく…引き千切る…。あんたの腕を…」
3775投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時57分42秒
「上等だ!!やってみろよ!!」
口から泡状の唾をまき散らして、恵は叫ぶ。
その唾を迷惑そうに手で遮りながら、夏希は『弥勒姉さん』なる人物の方を向く。
「やっちゃっていいの…?理沙…」
『弥勒姉さん』の名前は…理沙と言う様だ。
「ああ…。大切な仕事が控えてるから…引き千切るのはカンベンしてやって…」
「へし折るのは?」
「うん。それなら翔子の治療でラリアートくらいはできそうかな…」
恵は、今度は理沙の方に咆哮を向けた。
「おい!!弥勒姉さんは、私がコイツに敵わねぇとでも思ってるのか!?」
「あんた…ダーブロウに負けたんでしょ…?ダーブロウよりも強い夏希さんに、勝てるわけないじゃない…」
理沙は、しらけた様な口調で恵を諭す様に言う。
「あ、あれは、負けたんじゃねぇ!!まだ、私は…」
「それよりも…やるの?やらないの?」
夏希は、めんどくさそうに呟く。
「ああ!?やってやるよ!!さっきからそう言ってんだろ!?まずは、表に出ろ!!」
「表に出る?いいえ…。表に追い出されるのは…あんた、一人よ…」
3776投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時58分07秒
その時、また応接室のドアが開いた。
「おや?騒がしいですね…。もうすぐ、ボスがみえますよ」
部屋に入って来たのは、金髪のホスト…楠本だった。
「楠本…!!てめぇ…!!」
恵は、楠本に対しても睨みつける。
「おっと、怖いな…恵さん…。私への恨みは、この前、晴らしたでしょう?」
苦笑いしながら、楠本は藍と有海にも軽く手を挙げて挨拶し、わざわざ夏希の隣に座る。
「この前は…どうも…」
楠本は、夏希に会釈した。
「ええ…。この前は失礼しましたわね…。楠本さん…」
夏希は冷たい笑みで、そう答えた。
「ち…!!」
恵は、心底楠本が気に入らないのか、ようやく夏希の側から離れた。
「あ、藍さんに有海さん、何やってるんです?この壊れたテーブル…早く片付けて…」
「…え?」
藍は、突然楠本に名前を呼ばれ、戸惑った。
「新入りは、こういう時に小まめに働いて、心象を良くしておかないと…。これ、私の店の教育方針ね…」
「は…はい…」
藍は、有海と共に、真っ二つに割れたテーブルを片付け始める。
3777投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時58分30秒
そこに、夏希も手を貸した。
「…え?」
恐る恐る、夏希を見る、藍と有海。
「…私も、新入りだから…」
夏希は、そう言ってウィンクした。
「…そ、そうなんですか…?」
少し、藍は夏希に対して安心した。
「いえいえ…。夏希さんはVIP待遇ですから…。この2人のお子チャマ達とは、立場が違います…」
そう言って、楠本は夏希の肩を抱いてソファーに座らせた。
そしてそのまま、夏希の手を握る。
「肌理細やかで、スベスベして…美しい手ですね…」
「それは、どうも…」
「手相、診てさしあげましょうか?」
「え?あなたも占いが…?」
「まあ、私の場合は、職業柄の話題づくり程度ですけど…」
そう言いながら、楠本は夏希の手を見詰める。
「ん…?あなた…生命線が、異常に短いですよ…?これは、長生きできませんね…」
「うふふ…。そんなのわかりきったことよ…。親殺しをしておいて、長生きするつもりはないわ…」
親殺し…その言葉を聞いた藍は、思わずテーブルを床に落とした。
「しっかり運べ!!」
恵の一喝に、藍は顔を青くして、再び運び始める。
3778投稿者:リリー  投稿日:2008年09月11日(木)20時59分31秒
『三回・裏』は、全て『TDD』の場面となります

今日は、これでおちます
3779投稿者:117  投稿日:2008年09月11日(木)21時28分18秒
久々です。何かと忙しくて、なかなか来れませんでした。
だいぶ話が展開していますね。
帆乃香は「聖テレ」に転校、有海と藍はついにアジトヘ・・・続きも楽しみです!
3780投稿者: 投稿日:2008年09月11日(木)22時17分51秒

3781投稿者:デジ  投稿日:2008年09月12日(金)04時33分25秒
久々です。理由は117さんと同じです。
かなり展開が進んでいる感じが驚きでした。
今更ですが、寛平さんの占いは「野球部から二人抜ける」と言ってましたが、二人どころか全員術なく散る結果になりましたね。
帆乃香ってまだ聖テレに来ていなかったんですね。TDD手回し早いですね。聖テレの前ってどこに登校してたんでしょうか。
帆乃香のせりふから言うと、帆乃香は「TDD」で、諜報員の役目ですかね。
なんだか七海も「らりるれろ」の梨生奈と似たような末路を辿る気がして心配です。七海も表舞台に経って随分経ったから裏の雰囲気が薄れてきた気がします。こんどんからのオファー、受けますかね?七海。
藍と有海はアジトに到着。恵さん、みのぽー、夏希とは初対面ですね。
それにしても恵さんのセリフ「いつからTDD」は保育所になったんだ?」
確かに三人子供が混じってるとは言え笑えました。そしたらR&G探偵社は「TTK」はどれだけ保育所なんだと思いました(笑)
喧嘩腰の恵さんを一歩も動じず形勢有利に跳ね返す夏希。さすが「元TTK」の四天王と言った感じですね。あれ?、四天王って夏希とダーさんとあと誰でしたっけ?
「TTK」時代の実力ではダーさん≦夏希ですか。今はどうでしょう?
では、続きも楽しみです。
             (今日の小言)
来週テストです。さらに、明後日(もう明日)から、天てれの夏イベの日(九月十五日)まで(石岡の)お祭りで週末まで忙しく、またしばらくコメントできません。ただ、暇があれば、見には来ます。
ところで、夏希は「元TTK」の四天王ですよね?「サムドラ」では、ちひろに負けています。豪腕の恵さんと理沙でさえ、「ダーさん≦夏希」のダーさんに苦戦楠本さんに至っては敗北していると言う始末。つまり、ちひろがいれば勝てるんでしょうか?いずれにせよ窮地に立ち始めている事は確かですね。

クイズの答えです。
三人の話しているところは京都でI(藍)の四行目セリフです。
リリーさんの仰るとおりです。
追加で次のコメントで解説します。
3782投稿者:デジ  投稿日:2008年09月12日(金)05時15分31秒
(訂正)(京都でI(藍)の四行目セリフ)→(京都でH(藍)の四行目セリフ)ですね。すいません。
まず一行目の「鯱」→これはしゃちほこと読みます。しゃちほこ、つまり金のしゃちほこで金閣寺をあらわします。
三行目の有海の(〜あの高さからは飛び降りる勇気でないよね)飛び降りるとは「清水の舞台から飛び降りる」つまり、清水寺を指します。
本日の答えの「最近マスコットキャラできて有名になったよね」マスコットキャラ。これはせんとくんです。平城京遷都から1300年を記念して、作られたマスコットキャラのことです。平城京は奈良時代、つまり奈良に都があったときの奈良の話ですから、この時点で違うことになります。
有海の「昔はそこが都だったときもあったんだよね。どんな感じだったんだろうね?」京都が都だったのは、6〜700年前、室町時代のことです。
七海の「この前、歴史や地理でやったわ。サミットここで開かれたこともあるらしいんやて。あと、ここが舞台のドラマ多いやね。」サミットとは京都サミットのことです。
有海の「お笑いにロザンって言うコンビいたけど、その片割がここの大学卒業って聞いたけど」京都大学ですね。トップクラスの大学です。
ドラマは、刑事ものが多いですね。
七海の「修学旅行で行く学校もあるやね。テレビ戦士の中でもいるかな?」
これは創造にお任せします。多分一人はいるんじゃないでしょうか?
以上です。長々と失礼しました。
3783投稿者:あげます  投稿日:2008年09月12日(金)15時17分33秒
3784投稿者:上げ  投稿日:2008年09月12日(金)16時26分35秒
3785投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時03分40秒
117さん、お久しぶりです
忙しい中、読んで頂き、感謝です
第三試合になって、表も裏も激動な展開になってきました
今は、この散らかした状況を、どう片付けようか悩んでますが、期待を裏切らないようにしたいと思います
これからも、よろしくお願いします

デジさんも、お久しぶりです
野球部は、「二人が抜ける」というのが、きかっけとなり崩壊するという予言でしたので、全員いなくなってしまいました
帆乃香は、小蓮田小学校から聖テレに転校してきました
茶々山マンボウズは、寛平さんが監督をしている、という縁で参加しているのです
小蓮田のチームにも顔を出している、という設定です
どうして、寛平さんが少年野球の監督をしているのか(野球のことを、あまり詳しく知らないのに)というと…気まぐれか道楽でしょうね
ちひろは、確かにサムドラで夏希さんにたった1分の短時間で勝ってますが、あれは奇跡に近いものです
サッカーに例えると、夏希とちひろの実力は、ブラジルと日本くらいの差があります
でも、日本はアトランタオリンピックでブラジルに勝ちましたよね?
10回やって1回勝てればいい方で、その1回目で、ちひろがたまたま勝ったのでしょう
クイズは、正解しましたか…初めてですよね?

あげコメントも、ありがとうございます

では、更新します
3786投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時15分38秒
「ところで『エンペラー(皇帝)』…。あんた、今までどこに行ってたの?」
理沙は、楠本をコードネームで呼んだ。
「どこに?ちょっと山本組長にご挨拶を…。加藤組に付いてた時、少し無作法をしましたので…」
「少し…?よく言うよ!!」
吐き捨てるように呟く、理沙。
どうやら楠本は、この場にいる殆どの者に、良く思われていないようだ。
「組長…ビビってたでしょ?」
「ええ…。そりゃ、まぁね…」
「組長がビビるのを知った上で…挨拶に行ったんでしょ?」
「ええ…。そりゃ、まぁね…」
「ほんと…いい性格してるよ…」
それっきり、理沙は楠本と話をするのをやめた。
すると、またドアが開く。
「あ…あすみん…!!」
藍は思わず、駆け寄った。
ドアを開けたのは…今はもう、聖テレの教師でも、野球部の顧問でもない…裏探偵『TDD』の『カード』の一人、『タワー(塔)』の中田あすみだったからだ。
「…あい〜ん…。来てたんだね…。あみ〜ごも…。恐かったでしょ?」
あすみは、2人の頭を優しく撫でた。
「せ、先生…」
有海は、緊張の糸が切れ、あすみに寄り掛かって泣き崩れた。
藍も、もう何日も会ってなかったかと思えるほど…あすみが恋しかった…。
3787投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時16分03秒
「おい、あすみ!!ガキの面倒は、おまえが見ろよ!!」
恵が、ふんぞり返ってソファーに座りながら言った。
「恵…。この2人を、いじめてないよね?」
あすみは、目を据わらせて恵を睨む。
「いじめた…?ふん!!勝手にメソメソ泣いてたんだよ!!うぜぇったらねぇぜ!!」
恵は、あすみともケンカをする勢いだ。
「…テーブルが壊れてる…。あんたが暴れたの?」
「違ぇよ!!夏希のヤツがやったんだ!!」
恵にそう言われ、あすみは夏希の方を向く。
夏希は、しばらくあすみを見上げるが、すぐに視線を逸らした。
隣に座る楠本は、軽く手を振ってあすみに挨拶する。
「さ、こっちにおいで…」
そんな楠本を無視して、あすみは藍と有海の肩を抱きながら、部屋の隅へと誘う。
藍も、頭をあすみの肩に寄り添わせる。
心底安心できるのだ…あすみの側は…。
「あとは、ボスだけね…。ボスは?」
翔子が楠本に聞く。
「確か、あなたがボスを連れてくる手筈よね?」
「いいえ…。私は店に顔を出してからここに来ましたから…。『ジャッジメント(審判)』が連れてくるんじゃないんですか?」
「ああ…。シンパンマンが…」
翔子は呟いた。
3788投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時16分27秒
「しかし、しょこたんの付けた、そのあだ名…最高ですね」
「だって、顔が丸くて、アンパンマンにギザクリソツなんだもん。それに、あの人、本名教えてくれないし…」
「ま、『ジャッジメント』本人も気に入ってるみたいだから、それでいいんですけど…」
そこに、また恵が口を挟む。
「おい…。まさか、あのクソガキを連れてくるんじゃねぇだろうな?」
「…ん?どうでしょう…。一応、あの子もメンバーですからね…」
恵が言う『クソガキ』とは…寛平の孫娘…と、表向きにはなっている、鍋本帆乃香のことだ。
当然、藍も有海も寛平から聞いて知っている。
彼女も、『TDD』の『カード』の一人なのだ。
しかも、創設時のメンバーだ。
『フール(愚者)』の寛平、『マジシャン(魔術師)』のノッポ、『サン(太陽)』の帆乃香、『ジャッジメント(審判)』のシンパンマン…この4人から『TDD』は始まったのだ。
もっとも、『マジシャン』のノッポは、寛平以外、誰も会ったことがない。
そこから、メンバーを一人、また一人と増やしていって、目標の22人まで、あと3人…となっている。
空席の『カード』は、『ジャスティス(正義)』、『ムーン(月)』、『ワールド(世界)』の3枚…。
何度も話題に出てくる『ダーブロウ』なる人物は、『ワールド』のコードネームを与えられるはずだった。
しかし、度重なる勧誘を撥ねつけられ、もう今は諦めたそうだ。
藍は、寛平は勿論、帆乃香にも会いたくて仕方がなかった。
一人でも、知っている者が増えれば、もっと安心できるはずだ。
「ねぇ、あい〜ん…あみ〜ご…。ななみん達は…どんな様子だった?」
あすみは、暗い面持ちで2人に尋ねた。
3789投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時17分14秒
「…ななみん…泣いてました…」
藍は、重い口を開く。
「そう…。他のみんなは…?」
「じょわん先輩は…高等部でソフトボールをやらないといけないから、ソフトボール部に入りました。まにゃ先輩とあず〜先輩は、もう、完全にソフトボール部に…。私も…」
「他の一年生…エマとエリーは?」
「こんどんに、ソフトボール部に入らないかって、誘われてました。まだ、返事はしてないみたいですけど…」
「ななみんは?」
「…誘われたけど…まだ、そんな気にはなれないみたいで…」
あすみは、溜息をついた。
「…可哀そうなこと、しちゃったね…」
「先生…」
そんなあすみが、一番辛そうだと…藍も有海も、そう感じた。
3790投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時17分30秒
何度目だろうか…またドアが開いた。
「あ…!カンペーさん!!」
藍は思わず口走った。
そして…。
「ホノカハン…」
そこには、間寛平、そしてその孫娘…という設定の、鍋本帆乃香が立っていた。
「やっほ〜!!あい〜ん!あみ〜ご!」
帆乃香の姿…今自分達が着ている、同じ聖テレジア女子学園の制服を見て、藍と有海は目を丸くした。
「へ…?聖テレの制服…?何で…?」
「ああ…。うちな、明日から聖テレの生徒やねん!!どう?似合ってる?」
帆乃香は、そう言って、2人の側に駆け寄った。
3791投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時17分51秒
「おう、あい〜ん、あみ〜ご…来たんか…。うん、これで揃ったか?」
寛平は、振り返り、後ろにいる誰かに言った。
「はい。ボスが占った時に出た『カード』は、これで全員です」
最後に、部屋に入って来た人物の顔を見た有海は、思わず声をあげた。
「あ…!あの人…」
「ん…?誰…?」
藍は、この男に見覚えがない。
丸顔で、優しそうな中年の男にしか見えないが…。
「ほら…。ピーナッツの試合の審判をしてくれた…あの、おじさんだよ…!マンボウズの試合も、審判してたよ!!」
「…そうだっけ…?」
記憶力の良い有海は当然覚えているだろうが…藍は、審判の顔など、いちいち覚えていない。
「彼が『ジャッジメント』…シンパンマン…。ボスの秘書…そして諜報員でもあり、作戦参謀よ…」
翔子は、囁き声で2人に教えた。
寛平に『TDD』の設立を助言し、ものぐさな寛平に代わって組織の管理を任されている男である。
ちなみに、戦闘力は皆無。
女の翔子にも、腕相撲で負ける程である。
だが、日本中…いや世界中の犯罪組織の経営に腕を振るった…裏の世界では名の知れた存在である。
名が知れたと言っても、幾つもの名前を使い分けているので、彼の本名は知られていないが…。
3792投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時18分15秒
「お?君が加藤夏希君か?いやぁ〜、おおきに…。我が『TDD』に入ってくれて…」
「いえ…私のような、はぐれ者に声を掛けて頂いて…感謝の極みです…」
夏希は立ち上がり、深々と寛平に頭を下げた。
「それに…『親殺し』の機会を与えてくださったこと…本当に感謝致します…」
そう言って、夏希は冷たい目で寛平を見た。
「お…親殺しって…」
藍は、震え上がった。
やはり、さっき夏希が口にした言葉…聞き違いではなかった。
「ん?何、驚いとるん?うちかて、親を殺したかったわ…。ま、おじいちゃんが殺してくれはったけど…」
あの、可愛らしい帆乃香が、何と恐ろしい言葉を口にするのか…。
彼女は今、完全に『TDD』の『サン』になっている…。
藍も有海も、半歩、帆乃香から遠ざかった。
「ちなみに、その夏希さんの親って…加藤組の組長さんのことやけど…」
「…え!?」
つまり、加藤組を襲撃をしたと言うことは…その場に、彼女もいたのか…?
「も、もうやだ…。ここ、怖い…」
藍は、その場にしゃがみ込んだ。
「あい〜ん…ソファーに座る?」
帆乃香は、藍をソファーの方へ誘うが、その横には、ドッカリと恵が座っている。
「い、いい…。立ってるから…」
藍は、深呼吸をして立ち上がった。
3793投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時18分38秒
「いやいや…。それは、ええねんけど…。こんなごっついお屋敷を見つけてくれたんも、夏希君やろ?ほんま、おおきに!!」
夏希は頭を上げて、寛平に上辺だけの笑顔を見せる。
「いえ…。ここは、元『TTK』のアジトでもありましたから…」
「うん?ここが…?」
これには、他の者も少なからず動揺する。
「そして…『TTK』が壊滅した場所でもあります…」
「………と、言う事は…『ラビ』達はここでお亡くなりに…?」
『ジャッジメント』こと、シンパンマンは、何故か笑いを堪えたような顔を見せる。
「ええ…。今、山本組長が使ってらっしゃる地下室…。あそこで『ラビ』達は死にました。ちなみに殺したのは、私の妹です…」
「そうですか…。では、妹さんに『Good Job』と、お伝え下さい…」
シンパンマンは、そう言って親指を立てた。
3794投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時19分04秒
「…?君…何で、そんなに嬉しそうなん?」
寛平は、首を傾げて自分の秘書を見た。
「いえね、『TTK』には煮え湯を飲まされたことが何度もありまして…」
「え?そうなん?」
「7年前…香港のマフィアの事業拡大に手を貸してた頃…『TTK』のジャスミン・アレンとモニーク・ローズに、組織を壊滅させられまして…」
「ああ、あの時、自分、あそこに居ったん?」
「いえ…タイの麻薬王との商談に向かっていて…私は命を落とさずに済みました…」
「ふ〜ん…。でも、ジャスミンもモニークも、『TDD』に誘う予定なんやから、恨みはきれいさっぱり忘れるんやで?」
その会話を聞いていた有海は、ふらりとよろめいた。
「…!!あみ〜ご…!!大丈夫?」
「だ…大丈夫…」
さっきから『殺す』とか『死ぬ』とか…日常会話の様に飛び交うこの空間…。
学校や街で、戯れに聞く言葉とは…重みが違うのだ。
「せやから、あみ〜ご…ソファーに座りって…」
帆乃香は、有海にソファーを勧める。
しかし、隣には恵が…。
「い、いい…。立ってる…」
有海は、藍にしがみ付きながらも気丈に立った。
3795投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時19分35秒
「ま、ええか…。ほな、みな座り…。ほら、あい〜んも、あみ〜ごも…」
一番奥に位置するソファーに、寛平は座った。
「あすみと帆乃香が、2人を挟むように座るとええ…。恐かったやろ?2人とも…。ほらほら、恵!あんたは一番隅っこに座り!!」
「…わかりましたよ…!」
ブツブツと文句を言いながら、恵は場所を移動した。
何とか、寛平は藍と有海に気を遣ってくれるようだ。
「ええ…これで、今回の仕事のメンバー、12名、全て揃いましたね?」
『ジャッジメント(審判)』のシンパンマン一人が立ち上がって、皆を見回す。
『エンペラー(皇帝)』の楠本柊生。
『エンプレス(女帝)』の後藤理沙。
『デス(死神)』の箕輪はるか。
『ストレングス(力)』の秋山恵。
『タワー(塔)』の中田あすみ。
『ラバーズ(恋人)』の中川翔子。
『デビル(悪魔)』の加藤夏希。
『サン(太陽)』の鍋本帆乃香。
『スター(星)』の細川藍。
『ハイプリエスティス(女教皇)』の一木有海。
そして…『フール(愚者)』の…ボス…間寛平…計12名…。
3796投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時19分57秒
まだ他に仲間はいるらしいが、今回の仕事に参加するのは、これだけらしい。
「しかし…男3人に女9人…。随分、偏った編成ですね?ボス…」
このシンパンマンの言葉に、恵が噛み付いた。
「女だからって、ナメてんじゃねぇ!!てめえなんか、戦闘じゃ、役にたたねぇクセに!!」
しかし、シンパンマンは冷静に答える。
「戦闘だけで、組織が維持されてる訳ではないでしょう?しかし、私の言葉が女性差別に受け取られたのなら、謝罪します。すみません」
「………別にいいんだけどよ…。でもな、偏ってるって言ったら、ガキが3人もいるってのが、そうじゃねぇのか!?」
恵は、帆乃香、藍、有海を睨みつける。
「ひ…」
有海は、隣に座るあすみにしがみ付いた。
「大丈夫…」
あすみは、有海の手を握った。
「ガキって言うな!!うちの方が、『TDD』じゃ、先輩やぞ?」
帆乃香は、臆することなく恵に言い返した。
「おぉ…恐ぇ…。すみませんね、先輩様…!!」
恵は鼻で笑いながら、ソファーに背中を仰け反らす。
「これも、ボスの占いの結果です。でしょ?ボス?」
「ん?ああ…。そうやね…」
話を聞いていたのか、聞いてないのか…シンパンマンに向かって何ともいい加減な返事をする、寛平。
そんな寛平が、裏探偵『TDD』のボスとは、藍はどうしても思えなかった。
3797投稿者:リリー  投稿日:2008年09月12日(金)21時21分10秒
『三回・裏』は、最終決戦前の、改めて『TDD』のメンバー紹介といった感じです

では、おちます
3798投稿者:117  投稿日:2008年09月12日(金)21時29分46秒
最近、何かと忙しすぎて・・・来れない時もありますが、よろしくお願いします。
シンパンマンさん懐かしい・・・今ごろどうしているのでしょうね?
「TDD」の一員として、少し冷めている帆乃香、なんか斬新でいいです。
夏希さんも相変わらずの印象で・・・続きも楽しみです!
3799投稿者:戦闘員が12人中7人  投稿日:2008年09月12日(金)21時54分58秒
なら、「R&G」といい勝負になるんじゃ?
3800投稿者:毎日、楽しみ  投稿日:2008年09月12日(金)22時29分41秒
 
3801投稿者:あげ  投稿日:2008年09月13日(土)17時25分57秒
 
3802投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)20時56分45秒
117さん
シンパンマンさんの本名がわからないので、そのままシンパンマンという名で登場しました
どなたか、ご存知の方、います?
あの人、スタッフさんですよね?

3799さん
そうですね
やっぱり、全員戦闘員では組織は維持できませんから…
楠本さんの様に、戦闘も作戦参謀も出来る人はいますが、シンパンマンの様に専門的にやってる人の方が優れてます

3800さん
ありがとうございます
今日も、よろしくお願いします

昨夜のデジさんの質問に、答えてない部分がありましたので、お答えします
四天王は、夏希、ダーさん、ジャスミン、モニークです
それぞれ、スペード、ダイヤ、ハート、クラブと強さの階級が付けられはいますが、絶対的なものではありません

では、更新します

3803投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)20時57分49秒
「あ、あの…あすみん…。仕事って…何…?ヤクザと戦うの…?」
藍は不安げな顔で、あすみに聞いた。
「これから、ボスが発表するから…」
しかし、あすみにはわかっている…。
これから繰り広げられる戦い…自分にとっても、藍にとっても、有海にとっても、辛いものになると…。
それは寛平もわかっていて、そんなにストレートな表現はしないと思うが…。
「今回の仕事の依頼主は…ボスです…」
「…!?」
シンパンマンの言葉に、皆は、一斉に驚きの表情で寛平の顔を見た。
「そ、そんなに見詰めんといて…。照れるやん…」
寛平は、そう言ってボケたが、皆はクスリともしない。
「どう言うことです?ボス…?」
理沙は、寛平を睨む。
「理沙…。恐いて…。う〜ん…今回はな、我々『TDD』が、裏の世界で生きていくのに…避けては通れない問題なんよ…」
寛平は、咳払いを一つし、言葉を続ける。
「『R&G』…」
この言葉に、またも皆は反応する。
「随分、ナメられたなぁ…。あの子等に…」
楠本…理沙…翔子…恵を順番に見回す寛平…。
その4人は、申し訳無さそうに視線を逸らした。
「このままには…でけへんやろ…」
3804投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)20時58分09秒
「だ、だからって…ボスまで、出陣するというのは…」
楠本は、半笑いで寛平に言った。
「せやから、占いで出たんやから、しゃあないやん…。それに、これは楠本君にも責任はあるんやで?」
「…う…」
「君が、ダーブロウをキッチリと殺しといてくれれば、こんなややこしいことにはならへんかったんや…」
「…それを言われると…返す言葉はないです…」
楠本は、更に小さく縮こまった。
寛平は、溜息をつく。
「ま、これを含めての、占いやったと思うわ…」
それを聞いた恵は、握り拳をパチンと叩いた。
「じゃあ…もう一度、ダーブロウと戦えるってわけか!?」
そして、舌なめずり…。
「へへ…。今度こそ、あのアマに地獄を見せてやるぜ…!!」
「無理よ…」
夏希が、静かに口を開く。
「ああ…!?」
恵は立ち上がって、正面に座る夏希を見下ろす。
「あんたがダーブロウに勝つなんて…10年経っても無理…。いや、10年後には、更に無理ね…」
「んだとぉ!?コラ!!」
隣の理沙が、恵の迷彩の袖を引っ張った。
「座りなさい…。恵…」
3805投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)20時58分29秒
そして、理沙は冷たい視線を向け、夏希に問う。
「あなたなら…ダーブロウをキッチリと葬ってくれるってこと?」
夏希は、乾いた笑みで理沙を見詰める。
「ええ…。彼女は私が殺す…」
「親殺しの次は、仲間殺し?」
「仲間?ダーブロウが…?まさか…。『TTK』の時代から、殺したくてしょうがなかったわ…」
そして、恵を見上げる。
「あんたなんかより、『ダーブロウを殺したい』って感情は、私の方が長いの…」
「ふん…!!じゃあ、さっさとダーブロウと戦って来い!!それで、殺されちまえよ!!」
恵は、ドッカと腰を降ろす。
「仇は、私がとってやるからよ…。安心して死ねよ」
そう憎まれ口を叩く恵だが、夏希はもう、彼女に対して何も答えなかった。
「そ、その…ダーブロウって人を殺すのが…私達の仕事なの…?」
「で、できません…。そ、そんなこと…」
藍も有海も、涙を浮かべてあすみを見詰める。
あすみは、何とも答えられずにいる。
本当に辛いのは、ダーブロウ有紗と戦うことではない…。
その他の者達…そう…七海達と戦うことなのだ…。
3806投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)20時58分48秒
「いやいや…。あい〜んとあみ〜ごは、やることが別にある」
あすみの代わりに、寛平が2人の質問に答える。
「や、やること…?」
「それは…別室で、あすみから聞くとええ…。二階の部屋がええかな…。あすみ、2人を連れて行って…」
「は、はい…」
つまり…話しは、ここから本題に入るのだろう…。
『R&G探偵社』の抹殺指令…。
七海や中村有沙達を…殺す指令の…。
「では、失礼します…。じゃあ、行くよ。あい〜ん、あみ〜ご…」
「う、うん…」
藍と有海は、共に立ち上がり、あすみに着いて行く。
「ほな、また後でな。あい〜ん…。あみ〜ご…」
一度、応接室から出たら、ヤクザの大群が…。
2人は、あすみにしがみ付く様に、部屋を出た。
「お?あすみ姉さん!!どちらへ?」
ワラワラと、ヤクザ達はあすみに駆け寄る。
「二階に行くだけだよ。むさ苦しいから、寄るんじゃないよ!!」
あすみの一喝に、ヤクザ達は苦笑いしながら離れた。
「ふぇ〜…。あすみん、凄い…」
藍は、心底あすみを頼りにした。
3807投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)20時59分08秒
「お?あすみじゃねぇか…!!久しぶりだな?」
地下へ続く階段を上がって来た男…山本組組長、山本圭壱がいやらしい笑みを浮かべている。
「組長…。お久しぶりです…」
あすみは、藍と有海を背中に隠し、頭を下げた。
この男が、ロリコンで悪名高い…そして、未成年の監禁と淫行罪で警察に追われている、山本組長…。
藍も有海も、益々あすみの背中に身を寄せて隠れた。
「おまえが原村で見つけた隠し財産で、こうやって、また山本組を旗揚げすることができたぜ…。感謝してるぜ?」
「いえ…。山本組長をお守りできなかったお詫びです…。本当に、申し訳ありません…」
あすみは、また頭を下げた。
原村で見つけた隠し財産…?
原村と言えば、今年の夏の…?
いつ、そんな物を見つけたのだろう…?
「申し訳ない…?その気持ちがあるんならよぉ…」
山本はニヤけた顔で、あすみの長身に隠れている、二人の少女を覗く。
「その子達…後で俺の部屋に寄越してくれよ…」
(げ…!?や、やっぱり…?)
藍と有海は、身を寄せ合って、山本の視界から逃れる。
「へへへ…。可愛いねぇ…。2人とも…。その制服…聖テレのお嬢様か…?」
鼻の下を伸ばして、山本は近づいてくる。
3808投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)20時59分27秒
「こ、この子達は…ちょっと…」
あすみは、山本と2人の少女の間に立った。
「何だよ?」
少し不機嫌な顔で、あすみを見上げる、山本。
「この子達も、『TDD』のメンバーなんです…」
「あ?この子達も…?何だよ…。貢物じゃねぇのかよ!?」
ちっと舌打ちをする山本だが、すぐにイヤらしい微笑を復活させる。
「じゃあ、依頼するぜ…」
「依頼…?」
「この子等を…俺の愛人として、雇ってやる…。幾らだ?」
(サ、サイテー!!コイツ…!!)
藍は、有海を抱きしめた。
有海も、藍を抱きしめる。
「あの…。いい加減にしてもらえませんか…?組長…」
あすみの声が、ワナワナと震えている…。
怒りに震えている…?
「ヤバイ…!!あすみん…!!」
周りには、ヤクザが…。
こんな所で、また戦うつもりか…?
今度の相手は、不良ではない…ヤクザなのだ…。
3809投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)21時00分04秒
「ええと…。カンベンしてもらえませんか?組長…」
低く篭った声…。
「…!?」
山本は、青い顔をして声のした方を見た。
そこには、楠本が立っていた。
「その子達は、大切な…未来の『TDD』を背負って立つ財産なんです…。ですから…」
楠本は、何の感情も出さない顔で、山本を見据える。
「カンベンしてください…」
山本の顔から、あぶら汗が滴り落ちる。
そして、ガタガタと震える。
「わ、わ、わ、わかった…。カ、カ、カ、カンベン…してやる…」
山本は、回れ右をして、地下へと続く階段を駆け降りた。
そして、ドドド…という床から轟く音…。
どうやら、階段を踏み外したらしい。
「あ、そうだ…。組長、そこの部屋…人が死んだことがあるらしいですよ…。4人も…」
楠本は、階段の上から追い討ちをかけた。
3810投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)21時00分37秒
「た、助かった…。今日一日だけで…確実に私の寿命、何年かは減ったよ…」
藍は、ここに来て、何度心臓が高鳴り、そして安堵し…これを繰り返したことだろう…。
「楠本…。あんた…何で…?」
あすみは、楠本に声を掛ける。
「ん?私だって、有海さんの教育係ですから…。さあ、二階に行きましょう…」
楠本は、先に一人で螺旋状になった白い手摺りの階段を駆け上がった。
3811投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)21時02分45秒
応接室では、ボス、寛平の『依頼』…いや、『命令』の本題に入っていた。
「それじゃあ、あの2人が席を外したから本題に入るわ。楠本君とあすみには、昨日伝えておいたことやけど…」
その場に居る物は、身体を前のめりにする。
「『R&G』と…決着をつけるで…」
「よっしゃぁぁぁ!!」
恵は、拳を握って歓声をあげた。
夏希は、僅かに鼻から息を漏らし、静かに微笑んだ。
しかし、理沙は緊張を隠せない。
「つまり…それは、やはりダーブロウが『TDD』に入らなかったことによる…報復ですか?」
「ん…?まあ、それもあるけど…それぞれ、復讐したいことがあるんやないの?理沙もそうやろ?」
寛平は、理沙の顔を覗き込む様に言った。
勿論、理沙は力強く頷いた。
もともとは、理沙達が俵姉妹を痛めつけたことが発端なのだが、あの行為には、加藤組と…いや、楠本と闘う依頼を放り出した『R&G』に制裁を加える意味もあったのだ。
それを、『R&G』に報復されてしまった形になってしまった。
このまま引き下がれば、『TDD』と『R&G』の力関係のバランスは傾いてしまう。
3812投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)21時03分02秒
「でも、あい〜んとあみ〜ごは、どうするんですか?だって、友達なんですよ?酷すぎません?」
翔子の言葉に、恵は吐き捨てる様に言い放つ。
「ケ…!!ガキの仲良しごっこに気を遣えってか?関係ねぇじゃん!!それに、あいつ等の力なんて要らねぇだろ!?」
だが、寛平は首をゆっくりと横に振った。
「いいや…。あの2人にも力を貸してもらうで…」
「…!?」
それには、この場にいる者も、皆驚いた。
3813投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)21時03分56秒
「そ…それは…どういうワケで…?」
翔子も、まさかあの2人が今回の戦いに駆り出されるとは思っていなかった様だ。
「どういうワケ…?そんなん、占いで出たからや…。あの2人も今回の戦いに参戦するて…」
淡々と寛平は答えた。
「う…占いって…」
皆は、そんな答えに呆れたが、寛平の占いはハズレないことを、よく知っていた。
「へん…!ま、それであのガキ2人が死んでも、構わないけどね、私は!!」
恵の言葉に、帆乃香は噛み付いた。
「死なへん!!あい〜んも、あみ〜ごも、死なへんわ!!」
「ああ、そうかよ…!」
恵は、意地悪そうな眼差しで帆乃香を見る。
3814投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)21時04分23秒
しかし、寛平はあくまでも穏やかに、そして飄々と言葉を続ける。
「せやから、そうならん為に、楠本君とあすみを、あの2人の教育係にしたったんや…」
「教育係…?」
皆は顔を見合わせた。
それに、シンパンマンが事務的に答える。
「藍さんは、戦闘員として…あすみさんの片腕になる為、特訓を受けてもらいます。そして有海さんは、作戦参謀として楠本さんに教育してもらうのです」
「戦闘員…?作戦参謀…!?」
驚きの声と共に、理沙はソファーから立ち上がった。
そんな理沙の顔を楽しそうに見上げながら、寛平はニヤリと笑う。
「そうや…。今回の作戦総指揮は…あみ〜ごやで?」
「じょ、冗談じゃねぇっすよ!!」
恵も、立ち上がった。
「あ、あんなガキの命令を聞けって…!?この、私達が…!?」
「んにゃ…。それを決めたんはワシやから、結局、ワシの命令とちゃうん…?」
相変わらず寛平はとぼけた顔をしているが、この言葉の裏には、自分の決めた事には絶対服従をしてもらう…と言う無言の圧力があった。
3815投稿者:リリー  投稿日:2008年09月13日(土)21時08分05秒
明日、明後日と外出する予定です
もしかしたら、明日、早い時間帯で更新するかもしれません

では、おちます
3816投稿者:あげ  投稿日:2008年09月13日(土)21時11分38秒

3817投稿者:117  投稿日:2008年09月13日(土)21時14分04秒
リリーさんも忙しいんですね。明後日もということは、「夏イベ」見れないんですか?

やはり・・・藍と有海は、「R&G」と戦うことに・・・?
野球としての作戦指揮は立派なものなので、案外活躍するかもしれませんが・・・七海たちと対決となると・・・続きも楽しみです!
3818投稿者:昨日の更新分ですが  投稿日:2008年09月14日(日)01時04分39秒
シンパンマンの『Good Job』と、ジャスミンとモニークのエピソードには
天てれに元ネタがあるのでしょうか?
3819投稿者:デジ  投稿日:2008年09月14日(日)06時09分05秒
少しだけ暇ができたので今日はコメントします。
帆乃香の性格、裏と表でギャップがありますね。気が強いのは同じらしいですが。
先が全く見えない展開になってきました。
「TDD」にいる以上は戦うか作戦参謀か諜報員かどちらかにつけということでしょうか?
有海が作戦総指揮者ですか。これも予想外でした。
確実に藍と有海と帆乃香が「R&G」の少女たち(ダーさんは除く)と戦う感じになってきましたね。この戦いで一番心配なのは、やはり七海ですね。偶然にも七海の心を開くきっかけになった人ばかりですから。おそらくこれがリリーさんの小説で主役が辿る道といったところでしょうか?
続きも楽しみです!
            (今日の小言)
そういえば、最初のキャストで「TDD」のメンバーは謎のままでしたね。これは、一緒にしてしまうと先がこんがらがってしまうだろうという配慮ですか?
3820投稿者:あれか・・・  投稿日:2008年09月14日(日)07時31分33秒
 
3821投稿者:リリー  投稿日:2008年09月14日(日)11時24分02秒
117さん
夏イベは、録画をします
去年のは、本当に面白かったです
また、楠本さんが脚本を書いているんだったら、期待大ですね
野球と裏の戦いは、何かと違うと思いますが…作戦参謀としての能力は折り紙つきですから
3818さん
いえ、特にエピソードはありません
ジャスミンとモニークのエピソードも、『サムドラ』や『らりるれろ』で、チラリと語られたものです
モニークの背中の傷は、その時、青龍刀で斬りつけられた…という話しもあります
デジさん
お忙しい中、ありがとうございます
『TDD』では、新規加入のメンバーには必ず大きな役目を背負わせることにしている…という設定です
今回、普通の中学生の有海に作戦参謀をやらせるという、無茶もその為です
もちろん、その下につく者は、恵さんの言うとおり「冗談じゃねぇっすよ!!」ですが…
七海も、この後試練が続くことになります
行方を見守って頂きたいです
最初のキャスト表で、『TDD』のメンバー表を出さなかったのは、混乱を避ける為と(おそらく、『TDD』って何だ?てことになるでしょうし)それだけでネタバレ(寛平がボスとか、帆乃香が実は裏に人間、藍や有海のその後など)になってしまうからです
3820さん
あれ…とは?

では、早めですが更新します
3822投稿者:リリー  投稿日:2008年09月14日(日)11時26分05秒
藍と有海は、それぞれ別室へと招かれた。
藍はあすみと、有海は楠本と…。
当然、有海は泣き出しそうな顔で、藍とあすみを見詰める。
「いいかい?『エンペラー』…。あみ〜ごに妙なマネをするんじゃないよ?」
あすみは、充分、楠本を牽制する。
「しませんよ…。するわけないでしょ?これから私の可愛い弟子になるんですから…」
楠本は、さっさとその一室へと入る。
「あみ〜ご!!」
藍は、有海に書け寄るとその手を強く握った。
「さ…。あい〜んも、こっちに来るんだ…」
藍は、何度も有海を心配そうな顔で見返り、あすみと別室へと入っていく。
有海は重い足取りで、楠本の入った部屋へと向かう。
その部屋は書斎に使われていた様で、重厚な机と椅子が部屋の隅に置かれていた。
楠本は、その黒革の椅子に座り、クルクルと回転しながら遊んでいた。
机の前には、アンティークチェアが置かれている。
回りながらも楠本は、そのアンティークチェアを指差す。
どうやら、座れと言っている様だ。
「…失礼します…」
有海は顔を青くしながら、遠慮がちに椅子に座る。
3823投稿者:リリー  投稿日:2008年09月14日(日)11時26分31秒
すると…有海が腰掛けた途端、椅子はバラバラに崩れ、柔らかな絨毯の上に有海はしこたま腰を打った。
「あははは…!!ひっかかった!!ひっかかった!!」
楠本は、まるで子供の様にはしゃぎ出した。
「ふふふ…。君が部屋に入る前、この椅子にナイフで切れ目を入れておいたのです…」
得意気に語り出す楠本だが、すぐにその笑顔は消える。
有海がシクシク泣き出したからだ。
「あ…。だ、大丈夫…?腰、打った?怪我したの?ねぇ…?」
楠本は引きつり笑いで有海に駆け寄った。
「もう…。いや…。何で…?何でこんなことに…?」
有海は、楠本のイタズラ云々よりも、急転してしまった自分の境遇に、心底参ってしまったのだ。
「過去に…過去に戻りたい…」
原村で、洸太がタイムトラベルの話しをしてくれたことを思い出す。
8月の…あの楽しかった時に、戻りたい…。
有海は、今、真剣にそう思っている。
3824投稿者:リリー  投稿日:2008年09月14日(日)11時26分50秒
一方、あすみと藍の部屋…。
藍は、あすみから分厚いファイルを渡された。
「…?これは…?」
両手に重く圧し掛かるファイルと、あすみの顔を交互に見る藍。
「練習メニュー…。あい〜んには、これを毎日やってもらうよ」
「練習メニュー?」
藍は、恐る恐るファイルを開く。
それには、図解でピッチャーの投球フォーム、肩の筋力、下半身強化のトレーニングなどが示された書類が綴じられていた。
「こ、これは…?」
まだ、野球部を存続させるつもりなのか…藍の曇った顔が、一瞬晴れる。
だが、ゆっくりと顔を横に振るあすみ…。
「残念だけど…これは『野球』の練習メニューじゃないよ」
「…へ?」
「『コレ』を投げてもらう為の、練習メニューだよ」
あすみは、藍の持つ開いたファイルの上に、『何か』を乗せる。
「な、何?『コレ』…」
野球のボール大の球体…だが、黒光りしている。
『コレ』もまた、重い…。
3825投稿者:リリー  投稿日:2008年09月14日(日)11時27分09秒
得体の知れない物に対し、僅かに怯えた藍は、一歩引き下がる。
その時、ファイルの上の黒い球体が、転がり落ちた。
「あ…」
のんびりとした表情で、藍はその落下する物を眺める。
「危ない!!」
あすみは、咄嗟に藍の足下に倒れこみ、その落下する物を掴み取った。
「…!?あ、あすみん…?」
そんな、あすみの必死な姿を、藍は驚きと共に、奇妙に思う。
「い…いや…。こんな物を、何の説明もせずに渡した私が悪かったね…」
ゆっくりと立ち上がると、あすみは藍の持っているファイルを受け取り、今度は掌の上にその黒い球体を乗せる。
改めて、感じる重み…そして、金属のひんやりとした感触…。
先ほどのあすみのリアクションもあり、藍は直感で、この物体が「恐ろしい物」と認識した。
「このファイルはね、『コレ』を遠くに…そして正確に投げる為のトレーニング法が書かれているんだ」
あすみは、藍の目の前に、そのファイルを開く。
不安の感情を隠すことなく、藍はあすみの顔を見上げる。
「あ…あの…。あすみん…『コレ』…」
『コレ』は…白いヒモを付ければ…漫画などでよく見る…爆弾そのものではないか…?
「ごめんね…。あい〜ん…」
再び、あすみは謝った。
「こんなものじゃなくて…あんたには白球を思いっきり投げさせてあげたかったよ…」
3826投稿者:リリー  投稿日:2008年09月14日(日)11時27分30秒
そして、有海と楠本の部屋…。
ようやく泣き止んだ有海に、楠本は赤、青、二つのファイルを渡す。
「…?これは…?」
有海は、それらのファイルを触ることもできない。
「いいから、開いてみなさい」
楠本にそう言われ、有海はまず赤いファイルを開いた。
何やら文字や数字が、ギッシリと詰め込まれている。
赤いファイルには、12枚の書類が綴じられていた。
一枚一枚には、タグが付いていて、『ア』〜『シ』までのカタカナが書かれていた。
「…?こ、これは…?」
「じゃ、次は青い方…」
事務的な楠本の言葉…。
有海は、青いファイルを開く。
それらも、赤いファイル同様、何枚か書類が綴じられていた。
青い方の書類は、全部で15枚。
『A』〜『O』までのアルファベットのタグが付いている。
「…?」
有海には、これが何なのか、さっぱりわからない。
3827投稿者:リリー  投稿日:2008年09月14日(日)11時27分49秒
有海は恐ろしすぎて、質問することもできないでいる。
「これが何なのか…ゆっくりとお家で読みなさい…」
そんな有海の心情を察してか、楠本はその二冊のファイルを机の脇に置いた。
「お家で…?」
「はい。宿題です」
「宿題?」
「学校でも出るでしょ?宿題です。三日間で、このファイルの内容…全て覚えなさい」
「お、覚える…?こ、これを…?み、三日で…?ぜ、全部…ですか…?」
有海は青い顔をして、再び二冊のファイルを開いた。
「あみ〜ごの学校では、宿題をやってこなかったら、どんな罰がありますか?」
「え…?い、いえ…。私、宿題を忘れたこと、ないです…」
「…あ、そうですか…。あみ〜ごは、優等生ですね…」
楠本は、つまらなそうに呟いた。
「じゃあ、いつも宿題を忘れてくる友達は?」
「え?…ええと…」
有海は、すぐに七海の顔を思い浮かべる。
だが教師達は、そんな七海をもはや見放している様で、別段、どうということもない。
近藤だけは、烈火の如く叱り付けるのだが…。
3828投稿者:リリー  投稿日:2008年09月14日(日)11時28分17秒
「もし、宿題をやってこなかったら…そうですねぇ…。山本組長のお部屋に、一泊してもらいましょうか…」
「え…?ええ…!?そ、そんな…!!」
有海の身体は、一瞬にして鳥肌に覆われた。
「あすみから聞いてますよ。あなた、記憶の天才なんでしょ?三日もあれば、充分ですよ…」
そう言って、楠本は有海の両手を優しく握った。
だが有海は、さっと手を引っ込め、楠本に対して汚らわしい者を見るような眼差しを向ける。
「う…。傷つくなぁ…。お年頃の女の子から、そんな目で見詰められると…」
楠本は例の如く、悲しそうに目を瞑ると、首を横に振った。
「あ、それから、もう一つ宿題が…」
「え?も、もう一つ…ですか?」
有海は、悲鳴にも似た声をあげる。
「はい…。この宿題は、難しいですよ…」
「難しい…?」
この膨大な書類を三日で覚えるのは、まだ優しいとでも言うのか?
「この宿題を忘れたペナルティは…そうですねぇ…。山本組長のお部屋に…あい〜んが泊まってもらいましょうか?」
「え…!?そ、そんな…!!わ、私の宿題なのに…!!」
藍が、あの山本の毒牙に…有海は、それだけでも泣き出しそうだった。
「その方が、あなたは必死になると思いまして…。そうでしょ?」
楠本は、心の底から楽しそうな顔をする。
3829投稿者:リリー  投稿日:2008年09月14日(日)11時28分54秒
そして、有海の前に写真を5枚並べた。
「…!?」
それらに写っていたのは…有海のよく知っている人物だった。
「この子達ですよ…。昨日、あなたをチンピラに襲わせたのは…」
「え…!?」
この5人は…いつも有海をいじめている…グループの者達…。
「こ、この人達が…?わ、私を…?」
有海の目から、涙が溢れ出す。
「ふふふ…。やっちゃいましたねぇ…。この子達…。一線を越えちゃいました…」
楠本は、本当に…楽しそうだ。
「いじめなんて、学校ではよくあること…。平和な学校内で限れば、教師もいじめっ子を守り、許すでしょう…。でも…それを学校の外に持ち出してはいけなかった…」
彼の声に、殺気がこもる。
「しかも…自分達の手を汚さずに、チンピラに襲わせるなど…いじめを越えてしまっている…」
有海は、ただただ、涙を落とす。
ここまで醜い悪意を…向けられたことがなかったから…。
3830投稿者:リリー  投稿日:2008年09月14日(日)11時29分08秒
「あみ〜ご!!」
楠本の怒声が響く。
「…え!?」
有海は、怯えた表情で楠本を見詰めた。
「泣いている場合ではないですよ…。どんな手を使っても構いません…。この子達に…復讐を果たしなさい…。それがもう一つの宿題です」
「ふ、復讐…?わ、私…そ、そんなこと…」
「それができなければ…あなたは、『TDD』のメンバーになれない…。あい〜んもね…」
有海には…楠本の目から人間の体温が感じられなかった。

(『三回・裏』・・・終了)
3831投稿者:リリー  投稿日:2008年09月14日(日)11時29分53秒
今日は、これでおちます

明日は、更新を休みます
3832投稿者:あげ  投稿日:2008年09月14日(日)11時40分03秒

3833投稿者:あげ  投稿日:2008年09月14日(日)13時46分59秒
3834投稿者: 投稿日:2008年09月14日(日)14時54分27秒
3835投稿者:あげ  投稿日:2008年09月14日(日)20時54分42秒


3836投稿者:あげ  投稿日:2008年09月15日(月)03時48分26秒
3837投稿者: 投稿日:2008年09月15日(月)09時10分33秒
3838投稿者:復讐って・・・  投稿日:2008年09月15日(月)10時26分04秒
段々、有海が裏に染まっていく・・・
3839投稿者:小説統一スレで  投稿日:2008年09月15日(月)11時20分12秒
えらい話題になってるで
3840投稿者:それだけ  投稿日:2008年09月15日(月)11時21分24秒
リリー人気がある
3841投稿者:あげ  投稿日:2008年09月15日(月)15時45分15秒
 
3842投稿者: 投稿日:2008年09月15日(月)16時05分01秒

3843投稿者:あげ  投稿日:2008年09月16日(火)16時09分38秒
3844投稿者:あげ  投稿日:2008年09月16日(火)17時34分51秒
3845投稿者:もしかして  投稿日:2008年09月16日(火)17時37分42秒
リリーさん、舞台観に行きはりました?
3846投稿者:あげ  投稿日:2008年09月16日(火)18時09分30秒

3847投稿者:楠本のか?  投稿日:2008年09月16日(火)18時11分24秒

3848投稿者:あげ  投稿日:2008年09月16日(火)20時15分19秒
3849投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)20時57分29秒
昨日、深夜に帰ってきました
3845さん、3847さん
いいえ、行きたかったですが、ちょっと違う用事で離れてました
現役戦士も多数、お客さんとして見に行ってたみたいですね
観に行った方々、羨ましいです

3839さん、3840さん
たしかに、いろいろ話題にして頂けたようで、有り難いです
次回作が話題になってましたが、あかりと千帆の話しが先にくると思います
でも、全然構想が固まってません
あちらのスレッドで言って頂いた方もいますが、やはり、完結しないまま終わるっていうのは、私はしたくありません
終わらせる構想ができてから(半分以上は書き上げてから)発表するようにしてます
ですから、もし私が途中で更新をやめてしまった時は(前にもありましたが)何らかの事情でパソコンが使えない状況か、手元にパソコンがない所にいるのか、もしくは死んでしまったか…だと思って下さい
ですから、このグラスラも、終わり方がまだ決まってはいませんが、必ず完結させたいと思います

3838さん
その、復讐の話しが、『四回・表』から始まります

では、更新します
3850投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)20時58分52秒
『四回・表』

≪2007年10/18(木)≫
いつもは6時には起き、7時には学校に着いているはずだった。
だが野球部がなくなった今、その必要はなく、七海は随分久しぶりに遅くベッドから這い出した。
「………」
二段ベッドの上の階で、しばらくぼーっと天井を眺める。
「あかん…。学校…行きとうない…」
野球部がなくなって、あの聖テレで他の楽しみを見つけることは、七海には不可能だった。
阪神タイガースの壁掛け時計を見てみると、7時5分。
「まだ、10分は寝てられるやん…」
七海は再び布団を被った。
そこに、ルームメイトの中村有沙が入って来た。
ジャージを着ている。
今朝も走ってきたのか?
野球部がなくなったのに?
3851投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)20時59分17秒
「おい、まだ寝ているのか?」
中村有沙は、律儀に赤い絨毯の上を歩いてベッドに近づく。
七海の領地を侵さないことには神経を使っている。
裏を返せば、七海に自分の領地は絶対に侵させない…というメッセージでもあるが…。
「…オノレこそ…何で、わざわざ早起きして走っとんねん…」
テンションの低い突っ込みを、七海は入れた。
「私は、別に野球の為に走っていたのではない」
「…あん?」
「ちひろも同じく、朝早く走っているのだろうと…思いながら走るのだ。そう考えれば、なんと気持ちのいいことか…」
「ああ…。さよか…」
七海は、布団の中に深く潜った。
そんな七海を見て、中村有沙は溜息をつく。
「貴様は…人生の大半が野球部だったのか?腑抜けるのもいい加減にしろよ?」
「うっさい…。ほっとけや…」
「貴様がそんな調子では、探偵稼業にも影響が出る」
「…仕事は、ちゃんとやるよ…」
「いいか?私は貴様のドジの為に死ぬのは御免だからな?」
「…?死ぬ…?何や?それ…」
「…何でもない…」
中村有沙は、再び部屋を出て行った。
3852投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)20時59分40秒
結局、七海は一番遅くに学校へ向かった。
ジョアンは、ソフトボール部の朝練習で7時前には出掛けて行ったし、中村有沙はもちろん、エマもエリーも早起きの習慣がついて、七海が朝食を食べる頃にはもういなかった。
そして、七海はこれも随分久しぶりに、満員電車で学校に向かう。
天歳市の中心地へ向かう電車内は、サラリーマンの出勤時刻とモロに被ってしまう。
(うわ…。こんな、へヴィーやったっけ?ラッシュアワー…)
七海は、入り口ドアに押し付けられながらも、外の風景をぼんやりと眺めた。
(これからは、いつもと同じ様に早く登校しようか…いや、時間潰すのもしんどいな…。あ、そうや…遅刻したったらええねん…)
そんなことを考えていると…七海のスカートの中に、手が入り込んできた。
「…!?」
人口密度の高い車内で、七海は振り返るのが一瞬遅れる。
(だ、誰や…!!ウチのケツ、触ったんは…!?)
周りのサラリーマンを睨み回す七海…。
そんな七海の視線に気が付く者もいるが、その表情に焦りや罪悪感はない。
(ん…?シロか…?)
探偵という職業柄…いや、『TTK』仕込みの読心術で、その人間が何を考えているか、おおよそ想像はつく。
しかし、誰も七海の視線に対して無反応なのだ。
(く…!!もう、どこか目の届かん所に離れて行ったんか!?)
心の中で、舌打ちをしながら、七海は決心する。
(もう、ええわ…。明日からウチ、不登校になろ…)
3853投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)21時00分06秒
七海が重い足取りで学校の正門を潜り抜けた時、朝練習を終えた藍をはじめ、ソフトボール部の者達と、ばったりと出くわした。
「………」
一瞬、七海は言葉に詰まった。
「お、おはよう…。ななみん…」
藍の挨拶も、何故かぎこちない。
「お、おはようさん…」
七海は、伏し目がちに藍の側を通り抜ける。
その時、藍は思い切って声を掛ける。
「ね、ねぇ…。ななみん…。ソフトボール部に…」
「ごめん…」
七海は短く答えると、足早に校舎へと向かう。
愛美も梓彩も、困った顔で七海の背中を見送る。
「あのバカ…。いつまで落ち込んでやがる…」
ジョアンは、呆れ顔で呟いた。
「あいつらしくもない…」
3854投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)21時01分02秒
教室に入る途中、今度は有海と会う。
「おはよう…。藤本さん…」
今度も、相手から挨拶を受ける。
「おはようさん…」
そして、またもやテンションの低い挨拶を返す。
テンションが低いのは、有海もそうなのだが…。
「一木さん…昨日は…堪忍…。あんなこと、してもうて…」
「う、ううん…。いいよ…。全然、大したこと、なかったから…」
よく見ると、有海の目の下には大きな隈ができている。
「どないしたん?一木さん…。あんまり寝てへんの…?」
「あ…う、うん…。ちょっと…勉強で…」
何故か、焦り気味な返事をする有海。
七海は一瞬奇妙に思ったが、それ以上に追求する気力もなかった。
3855投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)21時01分23秒
「そやな…。一木さんはええね…」
「え?」
「野球部がのうなっても…勉強できるし…学校は意味のある所やさかい…」
そう言いながら、力のない笑みを浮かべる七海を、心配そうに見詰める有海。
「藤本さん…。藤本さんにとって学校は…意味のない所なの…?」
「うん…。ウチ、野球部の為に来てたようなもんやから…」
そして、悲しそうに笑う。
「アホみたいやろ?スポーツ特待生でもないのに…」
七海はそのまま教室へと入って行く。
3856投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)21時02分01秒
七海の後から、有海も教室に入るが…例の…有海をいじめるグループの者達と目が合った。
「…!!」
有海は突然、目眩に襲われる。
そして、呼吸困難に陥る…。
有海は、よろけながら教室を出た。
そしてトイレに向かう。
吐き気がする…。
しかし、何も出なかった。
今日も食欲がなかった為、朝食は抜いてきたからだ。
「ふぅ…。ふぅ…」
涙を洗面台に落としながら、有海は気持ちを落ち着かせた。
楠本から出された宿題…。
そのことを思うと、気持ちが重くなる。
あの5人に復讐をする…。
できるのか…?自分に…?
楠本は言った。
これを乗り越えなければ、この先、自分は生きていけないと…。
確かにそうだ…。
あの5人の顔を見ただけで、ここまで気持ちが滅入ってしまう…。
これから先…ずっと…。
3857投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)21時02分23秒
「大丈夫…?あみ〜ご…」
後ろから声を掛けられた。
顔を上げて鏡を見る。
そこに映っていたのは…細川藍だった。
同じ『TDD』の…『カード』…。
「細川さん…!!」
有海は、藍に抱きついた。
「あみ〜ご!!」
藍も、有海を強く抱きしめる。
有海は、藍の胸の中で泣きながら呟く。
「細川さん…。勇気をちょうだい…」
「…?あみ〜ご?」
勇気?勇気とは何だ?
確かに、自分達はとんでもない裏の世界に足を踏み入れてしまったのだが…。
「私…復讐するの…」
「復讐!?誰に?」
「私を襲った…男の人達…」
「…ああ…。あの、あすみんが…」
殺した…と言い掛けて、藍は言葉を切った。
学校で…表の世界で口にする言葉ではないから…。
3858投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)21時03分00秒
「その…男の人達に…私を襲うように命令した人達…。その人に…私は復讐をするの…」
「な、何で…?」
「それが…宿題なの…。楠本さんからの…」
それに…その宿題を果たさなければ…藍が山本の慰み者に…。
そんなことは、藍は知る由もないが…。
「そ…それで…あみ〜ごは、誰に復讐するの?」
「私を…いつもいじめてる人達…」
「あ…あいつ等…!?あいつ等だったの?あんたを…いや、私達を…あんな目に遭わせたの…」
有海を救う為に、あすみは殺人を犯した。
そして、聖テレを辞めることとなり、野球部もなくなった…。
その上、自分達は『TDD』に強制的に入団させられ、裏の世界に…。
3859投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)21時03分14秒
「ねぇ…細川さん…。あの人達…復讐されて当然なのかな…?私…復讐しても…いいのかな…?」
「あ、あみ〜ご…」
「ねぇ…細川さん…」
「あ、あみ〜ごは…復讐なんて…似合わないよ…。いいじゃん…もう、放っておきなよ…」
しかし、有海は涙に濡れた顔を上げ、藍に訴える。
「いや!!言ってよ!!できるって…!!」
「…?あみ〜ご…?」
「あみ〜ごはできるって…!!復讐するべきだって…!!言って!!お願い!!」
藍は、どうしていのかわからなかった…。
だが、こう言う以外、何も思いつかない…。
「私は…あみ〜ごがどうなっても…ずっと親友だから…。安心して…」
3860投稿者:リリー  投稿日:2008年09月16日(火)21時03分41秒
今日は、これでおちます
3861投稿者:小説の中の藍が  投稿日:2008年09月16日(火)21時42分22秒
有海に「あんた」ってなんか変な感じ
3862投稿者: 投稿日:2008年09月16日(火)22時47分03秒

3863投稿者:復讐って  投稿日:2008年09月17日(水)00時51分39秒
具体的にどんなことすんの?
3864投稿者:それ言ったらダメじゃね?  投稿日:2008年09月17日(水)01時04分26秒
 
3865投稿者: 投稿日:2008年09月17日(水)01時14分28秒

3866投稿者: 投稿日:2008年09月17日(水)01時21分50秒
3867投稿者:残っててよかった  投稿日:2008年09月18日(木)17時38分45秒

3868投稿者: 投稿日:2008年09月18日(木)17時55分36秒

3869投稿者:復旧!!  投稿日:2008年09月18日(木)20時11分43秒
 
3870投稿者:リリー  投稿日:2008年09月18日(木)20時51分21秒
3867さん、3869さん
復旧しましたね
よかったです
もう少し時間がかかると思ってたもので…

3861さん
そうですね、七海に言うならまだしも…
やはり、「あみ〜ご」と言ってあげないと

3863さん、3864さん
その内、明かされることになると思います
もう少し、待っていてください

では、更新します
3871投稿者:リリー  投稿日:2008年09月18日(木)20時52分36秒
七海は、教室内でただ一人…机に突っ伏していた。
できるだけ、エネルギーを使いたくない…。
誰とも話したくなかった。
あの、藍や有海にでさえも…。
彼女達と、野球以外で一緒にいる姿が想像できないのだ。
ただ何となく一緒にいて、止め処ない会話をする…そんな仲ではないから…。
野球をする…そんなシンプルで強い結びつきが、自分達にはあった。
目的の為に、自分達は集まっていたのだ。
目的を失った集団の醜さは…この教室の連中を見て知っている。
その中でも最も醜悪な集団の会話が聞こえてくる。
「ねぇ…。あいつ等…全然連絡がとれないんだけど…。誰か知ってる?」
「知るわけないじゃん。あんただけでしょ?あいつ等と面識があるの…」
「そうだけどさ…。何か、警察が動いたって話しも聞くし…」
「や、やばいよ…。私達も厄介なことに巻き込まれたら…」
「何、びびってんだよ!!証拠はないじゃん!!堂々としていろよ!!」
七海は、この『TTK』仕込みの地獄耳が時々邪魔になって仕方がない。
(何をコソコソ話しとんねん…。どうせ、ロクでもないことやろ…。アホらし…)
始業のチャイムが鳴る。
そして、七海にとって退屈な、意味のない時間が延々と続くことになる。
3872投稿者:リリー  投稿日:2008年09月18日(木)20時53分10秒
昼休み…七海は何の気なしにグラウンドに目をやる。
そこには…投球ネットに向けて一心不乱に投げ込みを行う、藍の姿が見えた。
「…?藍…?」
ソフトボールの練習かと思いきや…彼女は上投げ…野球の投球フォームで投げ込んでいる。
「何や…?藍のやつ…。野球の練習してるで…」
藍もまた、野球を引き摺っているのだろうか?
いや、またどこかで野球をする為に、今から猛練習をしているのか…。
前向きな藍の姿を見て、七海は自分が情けなくなった。
だが、藍の表情を見て、奇妙な印象を持つ。
何か…藍の顔から悲壮感が漂っているのだ。
楽しんで練習をしていない…?
少なくとも、ポジティブな理由で練習をしている様な気がしない…。
それでも、今の七海には深く考える余裕も気力もない。
気分転換に教室から出ようかと、七海は出口に向かう。
教室の後ろの方で、有海をいじめている5人組が何やら談笑している。
いや、一人いない…4人である。
何かの用事で席を外しているのだろうか…?
彼女等の話題は、その今席を外している者の陰口だった。
「ホンマ…アホらし…」
七海は、足早に教室から出て行った。
3873投稿者:リリー  投稿日:2008年09月18日(木)20時53分37秒
一人の少女が、駆け足で階段を駆け登っていく。
有海をいじめている、5人グループのうちの一人だ。
そう…新学期早々、肝炎で入院し、有海と七海と珠緒の3人で作った千羽鶴を送られた少女。
そして、そんな有海に、ホルマリン漬けのカエルをプレゼントするという仕打ちで返した…少女である。
彼女は焦っていた。
委員会の仕事で一人呼び出され、今、あのグループから離れてしまっている。
今教室で、彼女達は自分の陰口で盛り上がっていることは、容易に想像できる。
何故なら、あのグループは、必ずその場にいない者の陰口を叩くことになっているからだ。
5人揃っていれば、有海や七海、人気のある藍、美しすぎて目立つエマやエリー、学年トップの梨生奈、そして近藤や珠緒といった教師の陰口で盛り上がる。
あのグループは、人の陰口以外の話題で盛り上がることはないのだ。
自分の教室がある階まで辿り着いた時、有海とすれ違う。
「…!?」
カエルのホルマリン漬けを送った手前、僅かな罪悪感を感じたその少女は、咄嗟に視線を有海から外す。
あの時送られた千羽鶴…随分不恰好な物もあったのだが、正直、嬉しく思ったことは紛れもない事実だったから…。
「何をそんなに急いでいるの?」
有海は、その少女に言葉を投げかける。
「…え?」
珍しい事に…有海の方から声を掛けてきた…。
3874投稿者:リリー  投稿日:2008年09月18日(木)20時54分10秒
「い、急いでるって…何が…?」
怪訝な顔で、有海を見詰める。
有海も、僅かに笑みを浮かべ、その少女を見詰める。
「急いでるんでしょ?そんなに息を切らして階段を駆け登るなんて…」
「あ、あんたには関係ないでしょ!?」
こんなことをしているヒマはない…。
今頃、あのグループの者達は、自分の陰口で盛り上がっている…。
気が気でないのだ。
「そんなに気になる?」
「…え?」
「自分の陰口で、みんなが盛り上がってるの…」
「…!?」
彼女は、言葉を失った。
あの有海が…自分に対して、こんな挑発的な態度をとるとは…。
「あ、あんた…!!何、生意気言ってんのよ!!有海のクセに…!!」
「ふふ…。何で、私みたいないじめられっ子が、こんな事言うのかって顔をしてるわね…」
余裕の表情…今までの有海と違う…?
3875投稿者:リリー  投稿日:2008年09月18日(木)20時54分43秒
戸惑っている少女を余所に、有海は言葉を続ける。
「だって…あなたは…あのグループの中で…一番、立場が弱いから…」
「…!?な、何ですって!?」
彼女は、一気に頭に血が昇った。
自分が…いつもいじめている有海に…ナメられている…?
「あなたが入院している間…あの人達、凄かったよ…。何て言ってたか、教えてあげようか?」
「う、うるさい!!」
少女は、有海を突き飛ばした。
有海は廊下に尻餅をつきながらも、じっと彼女の顔を見詰める。
「あなた、あの中で一番弱いから…私にあのカエルをプレゼントする役を押し付けられたんでしょ?」
「な…何を…」
図星である。
あのリーダー格の少女に、当然のように命令された…。
千羽鶴のお礼だと言って、プレゼントを渡せ…と…。
断ることなど、できなかった…。
自分が、いじめの標的になるのを恐れて…。
3876投稿者:リリー  投稿日:2008年09月18日(木)20時55分12秒
有海は、ゆっくりと立ち上がる。
「気持ち悪かったでしょ…?あなたも…」
「…え…?」
「あのカエルのホルマリン漬けに、包装紙でラッピングしたのも…あなたなんでしょ?」
「…う…」
また、図星だった。
彼女が、吐き気に耐えて、内臓をさらけ出したカエルの入った瓶詰めに恐る恐る包装する姿を、あのグループの者達は遠巻きで笑って見ていた。
…「有り得ねぇ〜!!」…
…「よく、あんなキモイことできるよねぇ〜」…
…「私だったら、絶対に吐いてるよ!!」…
悲しかった…。
そう…自分だって、被害者だったのだ…。
3877投稿者:リリー  投稿日:2008年09月18日(木)20時55分24秒
「ねぇ…。疲れない?あのグループにいると…」
有海の目は、心を深くえぐってくる。
「だって、陰口を言われるのが恐くて、トイレに行きたくなくてもトイレに行って、本当に行きたい時には行けないなんて…」
「…うぅ…」
「帰り道、全然違う方向なのに…みんなが別れるまで、ついて行ったり…」
「…あ…うぅ…」
「バスケ、本当にやりたかったんでしょ?でも、みんなに合わせて退部しちゃったり…」
そう…決して上手な方ではなかったが…バスケが好きだった…。
バスケ部を、辞めたくなかった…。
「ねぇ…。正直になろうよ…。嫌なんでしょ?もう…あのグループが…」
有海の言葉に…彼女は…黙って頷いた。
3878投稿者:リリー  投稿日:2008年09月18日(木)20時55分43秒
「そう…やっぱり嫌だったんだ…」
有海は、悲しそうな顔で、彼女を見詰めた。
そんな有海に、彼女は心が少し軽くなった。
「あ、当たり前じゃない…。あんな…性格の悪いヤツ等…。一緒にいたくないよ…」
「うん、うん…。いじめられたくないもんね…。わかるよ…」
「何で、私、あんなヤツ等と一緒にいなきゃならないんだろう…。本当に…情けないよ…」
「あのグループから…離れなれないの…?」
「む、無理だよ…!!あいつ等、恐ろしいんだもん…!!本当に…!!」
「知ってる…。だって、私、不良みたいな人達に襲われたもん…」
あの有海の言葉に、彼女は顔を青くした。
「…え…?や、やっぱり…あんた…襲われたの…?」
有海は、そんな彼女を無表情な顔で、じっと見詰める。
「やっぱり…あなた達だったんだ…」
「…う…!!」
彼女は、足早にそこから立ち去ろうとする。
「待って!!」
有海の声は鋭く、静かな空間を切り裂いた。
3879投稿者:リリー  投稿日:2008年09月18日(木)20時56分02秒
「私…あの人達に…復讐しようと思ってる…」
「え…?」
およそ有海らしくない、物騒な言葉に、彼女は思わず振り向いた。
「ねぇ…。協力してよ…」
有海は…冷たい笑みを浮かべている。
「きょ、協力…?バ、バカ言わないでよ…!!そ、そんなこと…」
「あなた達のやったことは…犯罪だよ?まさか、このまま逃げられると思ってないよね?」
「…う…」
脅迫している…?有海が…自分を…?
「ふ、ふん…!!証拠はないんでしょ!?私達があんたを襲わせたって…」
「確かに、証拠はないよ。でも、他の証拠ならあるんだけど…」
有海は、そう言うと携帯電話を高く掲げた。
これは…昨日、楠本から渡された、録音機能付きの携帯電話…。
〔あ、当たり前じゃない…。あんな…性格の悪いヤツ等…。一緒にいたくないよ…〕
自分の声が…流れている…!?
「あ…!!あんた…!!さっきの会話…録音してたの…!?」
有海は、再び冷たい笑みを浮かべて彼女に迫る。
「ねぇ…。協力してよ…。私の復讐…」

(『四回・表』・・・終了)
3880投稿者:リリー  投稿日:2008年09月18日(木)20時56分51秒
『表』の話しとは思えない、ドロドロの展開ですが…

今日は、これでおちます
3881投稿者:ホラーですね  投稿日:2008年09月18日(木)21時31分33秒
もはゃ
3882投稿者: 投稿日:2008年09月18日(木)22時14分09秒

3883投稿者:有海  投稿日:2008年09月18日(木)22時17分05秒
怖い・・・
3884投稿者:まだまだ  投稿日:2008年09月18日(木)22時26分52秒
始まったばっかりなんだろうな
残りの4人(特にリーダー)にどう制裁を加えるのか…
3885投稿者:どうなるんだ  投稿日:2008年09月18日(木)22時56分58秒
続きが気になりすぎる
3886投稿者:あげ  投稿日:2008年09月18日(木)23時25分41秒
3887投稿者:リリーさんが大変だけど  投稿日:2008年09月18日(木)23時27分19秒
更新の量もう少し増やしてもらえると有り難い
3888投稿者:がんばれ〜  投稿日:2008年09月19日(金)01時37分55秒
3889投稿者:あげ  投稿日:2008年09月19日(金)13時40分16秒
3890投稿者: 投稿日:2008年09月19日(金)16時34分33秒
3891投稿者:あげ  投稿日:2008年09月19日(金)17時16分03秒
3892投稿者:頑張れ〜  投稿日:2008年09月19日(金)19時04分05秒
あげ
3893投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時34分12秒
3881さん、3883さん
やはり、怖いですね…
しかも、あの有海ですから…
でも、これくらい急転直下な展開なんですよね
3884さん、3885さん
このエピソードは、とりあえず『五回・表』まで持ち越しとなります
お待ちください
3887さん
そのうち、また更新数を増やすことになるかもしれません
『六回・裏』、『七回・裏』のエピソードが長すぎるんです
あの、虹守中との試合の、第二試合『九回・表』よりも長いですから…
大変とかではないでうから、いいですよ
むしろ、読む方が大変かな…と…
3888さん、3892さん
激励の言葉、感謝致します
あげコメントも、ありがとうございます

では、『四回・裏』、更新します
3894投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時35分19秒
『四回・裏』

≪2007年10/18(木)≫
本当に、何もない一日だった。
いや、何もしない一日だった。
七海は、この『一日』が『毎日』になるのを恐れた。
この気持ちは、確か聖テレジアの初等部に入った時から感じていたことだった。
だが、野球部という充実した日々を経験した後では、その虚無感は増大された。
校門に向かう七海は、グラウンドの方を敢えて見ない。
活気溢れる、ソフトボール部…。
自分が益々惨めに思えてくる。
今度は下手投げで投球練習している藍。
すぐに七海の姿を捉えた。
「………」
何も声が掛けられない。
しかし、愛美は臆することなく声を張り上げた。
「ななみ〜ん!!こっちにおいでよ〜!!」
途端に、七海の足は速くなる。
愛美の声を振り払うかの様に…。
3895投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時36分05秒
「ち…!!」
バッティング練習をしていたジョアンは、ボールを一つ掴む。
そして、ノックの要領で七海に向けてボールを弾き飛ばした。
ボールは、ライナーの軌道で七海の後頭部へ…。
「…あ!!」
周りの皆は、顔を青くして叫んだ。
ボールは…七海の後頭部を直撃した。
七海は、頭を抱えてうずくまった。
「あ…あのバカ…!!避けろよ!!」
ジョアンは、そう言って舌打ちした。
「む…無茶言わないで!!じょわん先輩!!」
愛美は、悲鳴にも似た声でジョアンを怒鳴った。
「ま、いいや…。これで、いくら何でもシカトすることはないだろ?」
当然、七海は烈火の如く怒り狂い、こちらに向かって来るだろう。
まずは、七海をグラウンドに引き込んでしまおう…というのが、ジョアンの乱暴な作戦だ。
3896投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時36分24秒
だが、七海は頭を抱えたまましゃがみ込み、中々立ち上がらない。
「ちょ、ちょっと…じょわん先輩…」
梓彩も、顔を青くしてジョアンの袖を引っ張った。
「う…うん…。やべぇかな…?」
ジョアンは、ようやく焦り出した。
「な、ななみん…!!大丈夫!?」
藍は、七海に向かって駆け出した。
すると、途端に七海は立ち上がり、ふらふらとした足取りで、校門へ走り出していった。
「ななみん…」
追い駆けるのを諦めた藍は、悲しげに溜息をつく。
そして、ボールが直撃した時に落としたのであろう七海の白いベレー帽を拾い、グラウンドへ戻って行く。
一緒に住んでいるというジョアンに手渡して返してもらおうと考えていた時、グラウンドではそのジョアンが、後輩の愛美に説教をされ、頭を垂れていた。
3897投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時37分05秒
七海は痛みと怒りに頭を混乱させながら、校門を潜り抜けた。
その時、門の側の棕櫚の樹の下で、有海の姿を見かけた。
有海は誰かと話をしている…?
相手は…有海をいじめているグループの一人…?
また、有海は何か嫌がらせをされているのか?
七海は、足を止めかけた。
だが、今の混乱した自分では、また興奮状態になり暴力沙汰になってしまうだろう…。
七海は…見て見ぬ振りをした。
これは、自分の為?有海の為?
罪悪感が圧し掛かる。
(もう…嫌や…!!)
七海の大きな目に、涙が溢れ出してきた。
自分がこんなに、薄情だとは思わなかった。
自分がこんなに、気力がないと思わなかった。
自分がこんなに、マイナス思考だと思わなかった。
七海は…自分のことを、こんなに嫌いだとは…思わなかった。
3898投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時37分27秒
学校の敷地内を出た七海は、足を止めて後ろを振り返る。
青銅の大きな門。
生い茂る木々。
真っ白な校舎。
外面だけは、立派な学校…聖テレジア女子学園…。
(もう…ウチは…この学校に来ることは…あらへん…)
大嫌いな学校…。
大嫌いな自分…。
でも…大好きだった友達…。
大好きだった野球部…。
(あい〜ん…。あみ〜ご…。まにゃ先輩…。あず〜先輩…)
心の中で呼びかける。
一度も呼んだことのない、あだ名で呼びかける。
もう…皆で白球を追い駆けることもない…。
有海は、きっと藍が守ってくれる…。
(さよなら…)
七海は、もう振り返ることなく、駅へ向かう道を走って行く。
3899投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時37分55秒
猛烈な自己嫌悪を抱えたまま、七海は虹守駅行きの電車に乗る。
それに、まだジョアンにボールをぶつけられた後頭部がズキズキと痛む。
午後4時半…まだ学生やサラリーマンの帰宅ラッシュにも、買い物帰りの主婦ともかち合わず、車内は空いていた。
しかし、七海は座席に座ることなく、ぼんやりと車窓から外の景色を眺めている。
(もう…この風景を見ることもないんやろうな…)
七世やダーブロウ有紗は、自分の不登校を許すだろうか…?
いや、授業料のバカ高い聖テレを退学すれば、それだけで探偵社の財政を救えるはずだ。
とは言っても、公立中学…校区内通学に従えば、虹守中学に通うことになるだろう…。
虹守中の野球部…彼等は、自分を受け入れてくれるだろうか…?
いや、おそらく女子の部員は認めないはずだ。
いつかの試合で、自分の力は認めさせたはずだが…。
あの甜歌と同じ、マネージャーをやらされるのがオチだろう。
そんなことを考えていると…まただ…今朝と同じ…七海のスカートの中に、手が入り込んできた。
「…!?」
その手の感触は…覚えている…!!
今朝は少し触れる程度だったが、今度は自由にスカートの中を弄っている。
指が、下着の中に入る…意外と小さな手…?
ラッシュアワーとは違う…今は、ガラガラに空いた車内…七海は思いっきりスカートの中を触る手の、手首を掴んだ。
3900投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時38分39秒
「痛い…!!」
…?女の声…?いや、少女の声だ…。
しかも、聞き覚えがある…。
七海は振り返った。
「痛いやん…!!放してぇな、ななみん!!」
「帆乃香…!?」
七海は、その少女の顔を見て、素っ頓狂な声をあげた。
帆乃香の悲鳴と七海の驚愕の声で、数少ない乗客の視線が2人に集まる。
「へへへ…。こんにちわ…」
罰の悪そうな顔で、帆乃香は笑った。
七海が驚いた理由は3つ。
まず、何故、帆乃香がこの電車にいるのか?
そして、今朝の痴漢も帆乃香の仕業だったのか?
最後に…帆乃香の身に着けている服は…?
白いセーラー服…ベレー帽…赤いリボン…聖テレジア女子学園初等部の制服だった…。
3901投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時38分59秒
「あ…あんた…。な、何で…?」
聞きたいことは、山ほどある。
しかし、何から聞こうか迷うほど、あり過ぎる。
七海が言葉を失っていると、帆乃香は例の如く抱きついてきた。
「ななみん!!ななみん!!ななみん!!」
その勢いに押され、七海は出入り口ドアに背中と後頭部をぶつけてしまった。
そう…あの、ジョアンにボールをぶつけられた後頭部…。
「い、痛!!」
七海は、小さく叫んだ。
またも、乗客達は2人に注目する。
営業回りだろうか…書類に目を通している中年のサラリーマンが、「近頃のガキは…」と言いたげな目でこちらを睨んでいる。
「ほ、帆乃香…。ちょ、ちょっと、放れてぇな…」
興奮状態にある帆乃香を、まずは落ち着かせなければ…。
「ななみん!!これから、ずっと一緒に学校通おうな?」
帆乃香の、幸せそうな笑顔…。
「通うって…帆乃香…あんた…?」
やはり…帆乃香は、聖テレに転校してきたのだ…。
3902投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時39分23秒
とりあえず、七海は虹守駅一つ手前の駅で、帆乃香と2人で降りた。
駅のホームのベンチに、2人は並んで座る。
「へへへ…」
帆乃香は、足をブラブラと揺らしながら、七海を見詰める。
七海は、戸惑った表情で帆乃香を見た。
「ええと…まず…」
七海が混乱していると、帆乃香が立ち上がり、頭を下げた。
「堪忍!!ななみん!!」
「…へ?」
「痴漢のマネなんて…つい、イタズラしてもうた…!!ななみんを驚かそ、思うて…」
すっかり忘れてた…。
そうだ…七海は今日、二回も痴漢にあったのだ。
「今朝のも…あんたなん?」
帆乃香は、両手を顔の前で合わせる。
「うん…。ごめんな。朝は、あんなに混んどったもんやから、声をかけられへんかった…」
「ま、帆乃香やったんなら…もう、ええわ…。キモイおっさんに触られるより、随分マシやし…」
しかし、痴漢のマネなどと…あまり愉快なイタズラではない…。
3903投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時40分06秒
「で…帆乃香…。あんた、ホンマに聖テレに…?」
「うん!!」
帆乃香は、元気よく明るく答えた。
「な、何で…?」
「ななみんに会いたかったから…!!当たり前やん!!…らむりんから聞いてへんの?」
「らむりん…羅夢か…?」
「昨日、らむりんに、『ななみんによろしゅう』って伝えて、言うたんやけど…」
「あ、ああ…。ウチと羅夢は、滅多に喋らんもん…」
しかし、この帆乃香…どうやって聖テレに…?
3904投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時40分38秒
「ど、どないして…?」
そう…聖テレに入るには、あの難しすぎる試験問題や、厳しい面接をパスしなければならない…。
それができなければ、藍やちひろ、そしてこれから高等部に入るジョアンの様に、スポーツ推薦か…?
いや、初等部からのスポーツ推薦など、聞いたことがない。
と、言う事は…七海や、ジョアン、エマ、羅夢と同じ…?
「裏金で入ったんよ!!」
七海が、一瞬考えを廻らせたその言葉を、帆乃香はあっさりと口にした。
「う…裏金…?」
「うん!!結構、有名な噂やで?聖テレは裏金渡せば、アホでも受かるって…」
占い師という職業は、そんなに儲かるものなのか?
帆乃香は、意地悪そうな笑みを浮かべると、ベンチに再び座り、七海の耳元に囁く。
「ななみんも…そうなんやろ…?」
「…!?」
七海の驚く顔を、帆乃香は心底楽しんで眺めている様だ。
3905投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時41分05秒
「なあ、ななみん…。うちの家に遊びに来ぃひん?」
「へ…?帆乃香の…家に…?」
「ヒマなんやろ?野球部がのうなってしもうて…」
「………」
七海は、また気分が落ち込んだ。
そう…このまま探偵社に帰っても、何もやることがない…。
「うちもや…。ななみんと野球がやりとうて、折角おじいちゃんに仰山お金を出してもろうて聖テレに入ったのに…」
帆乃香は、唇を尖らせて天井を仰いだ。
「これじゃあ、何の為に聖テレに入ったんか…わからん!!」
七海も、溜息混じりに呟く。
「ウチな…もう、聖テレ辞めようか…思うてん…」
「へ…?」
今度は、帆乃香が素っ頓狂な声をあげた。
「明日から…学校行くの、やめようて…思うとったんよ…」
帆乃香は、慌ててベンチから立ち上がり、七海の目の前に顔を持って行く。
「アカン!!アカン!!ななみん、辞めたらアカンよ!!そんなん、うち、ますます聖テレに入った意味がのうなるやん!!」
困った様な顔で、帆乃香を見詰める七海は…そんな彼女の気持ちもわからないでもない…。
「なあ、ななみん!!家においで…。ゆっくり、お話ししようや…。家、小蓮田市にあんねん…。虹守を少し過ぎてまうけど…。な、おいで…?」
「………」
返事に困った七海だが、帆乃香の勢いに圧される形で小蓮田のある家までついていくことになった。
3906投稿者:リリー  投稿日:2008年09月19日(金)20時41分23秒
今日は、これでおちます
3907投稿者: 投稿日:2008年09月19日(金)20時45分47秒

3908投稿者:大丈夫です  投稿日:2008年09月19日(金)22時16分28秒
有海の雰囲気にはホラーも合ってます
3909投稿者:あげ  投稿日:2008年09月19日(金)22時17分01秒

3910投稿者: 投稿日:2008年09月19日(金)22時54分05秒

3911投稿者: 投稿日:2008年09月20日(土)07時53分39秒

3912投稿者:117  投稿日:2008年09月20日(土)13時21分36秒
また久々になってしまいました、117です。話がさらに進んでいますね。
有海は自信を持ったのか、少し冷徹に。そんな有海もなかなかいいかなぁと思います。
そして、七海に近づいた帆乃香。こちらも怪しい雰囲気をかもし出していますね。続きも楽しみです!
3913投稿者:デジ  投稿日:2008年09月20日(土)14時13分58秒
久々です。テストが終わりやっと、羽を伸ばすことができました。
117さん同様さらに進みましたね。
まず日曜日から。
楠本さんお茶目ですね。子供相手にドッキリって...
そしていきなり無理難題な宿題を課しましたね。計二十七冊の書類の暗記。これはまあ、問題は無いでしょう。しかし問題は、二つ目の宿題。あのいじめっ子五人に復讐をすること。確かにこれは果たさなければならない問題ではありますが...。さあ、どのような手口で復讐するか?
一方、あすみさんと藍の場面。元顧問と生徒という間柄だっただけにこっちにはやはり温かみがありますね。しかい、あすみさんの武器の鉄球の表現「白い紐をつければ爆弾そのもの...」は、ウケました。
三回裏終了ですか。野球だと序盤から中盤戦あたりに差し掛かるところですがこの物語の中盤はまだまだ先になりそうですね。このあとも、楽しみです!
長いので火曜日の分のコメントは次にします。
3914投稿者:デジ  投稿日:2008年09月20日(土)15時44分02秒
火曜日の分のコメント
野球部がなくなったことで欝気味の七海。立ち直れるでしょうか?
昨夜復讐を誓った矢先にまたいじめられた有海。複雑な心境ですね。
一方表では精一杯明るい性格を維持する藍。
野球部の廃部と、裏の世界を知ってしまった事は、兎角、影響が大きい用ですね。(何をいまさら分かりきったことを言ってるんだとおもわれそうですが。)続きも楽しみです!
水曜日何かあったようですね。
木曜日
マイナス思考一直線の七海。これから先も苦渋のときがもっとあるというのに。七海だけはいきなり窮地に立ちはじめましたね。
そして強くなったと同時に裏に染まったことで冷徹さまで強くなった有海。ますます復讐をどうするか楽しみになってきました。
昨日。
久々の七海と帆乃香のツーショット。そして裏なのに明るい雰囲気。帆乃香は何か企んでいるのでしょうか?続きも楽しみです!
3915投稿者:意志を持つマリオネット  投稿日:2008年09月20日(土)15時51分42秒
マリオネットには2種類ある。
1つは、ただ本当に他人の言われるがまま動いている“意思のない”人形
もう1つは、自分の意思を持ち自分の考えで動いているけれど、実は別の人間の思惑どおりに動かされている“意思のある”マリオネット
意思のない側は目を覚ませば操り糸を断ち切れるだろう
意思のあるマリオネットは……?

自分も小説を書いているのですが、↑はいつか題材にしたいテーマだったりします。
なんだかこの話の登場人物って意思のあるマリオネットが多いなぁと思いまして。意思のない人形はらりるれろの羅夢が分かりやすいでしょうか?
意思のあるマリオネットが解放されるには、リリーさんはどうすればいいと思いますか?
3916投稿者:あげ  投稿日:2008年09月20日(土)17時30分09秒
   
3917投稿者: 投稿日:2008年09月20日(土)17時38分37秒

3918投稿者:あっげげ  投稿日:2008年09月20日(土)19時45分14秒
 
3919投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時01分21秒
3908さん
そう言われれば、有海には幽霊の役も、それに怯える女の子の役も、両方合いそうですね
117さん
お久しぶりです
このところ、登場人物の周辺が激変しております
有海は、自信というか、崖っぷちに立たされて、不慣れなことをやってる…と言う感じです
デジさん
デジさんも、お久しぶりです
テストだったんですね、お疲れ様です
「白い紐をつければ爆弾そのもの」…ベタだなぁ、と私も思いました
一日、一日の丁寧なコメントも、ありがとうございます
有海、そして七海の今後も、ご注目下さい
3920投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時01分34秒
3915さん
なかなか、難しいテーマに挑むんですね
小説、楽しみになってきました
意思のあるマリオネットというのは、盲目的に従っている(洗脳されている)のとは違う、自分の使命をわかっている人なのではないでしょうか?
例えば、政治家の汚職に積極的に加担する秘書とか…
そして、自分がその使命に翻弄されているのを充分承知している…悲劇的結末になろうとも、優先されるべき何かをわかっている…それが、意思のあるマリオネットではないでしょうか?意思のないマリオネットは、自分が幸せになれると、無条件に信じる、危険な人物です
例えれば、新興宗教にのめり込んでいる人です
意思のあるマリオネットが解放されるには、自分がその使命に向いていない…と、諦められれば…と、思いますが…

では、更新します
3921投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時05分14秒
七海と帆乃香は茶々山駅を降り、少し歩いて小蓮田市に入る。
帆乃香の家は、小蓮田市の天歳市寄りの外れにあるのだ。
通学時間は、およそ1時間か…。
「なあ、帆乃香…。8時に学校に着くのに、何時に起きるん?」
「うん?そやなぁ…。おじいちゃんに朝ごはん作らなあかんし…5時半くらいかな?」
「5時半…?すご…」
「せやけど、聖テレに行きたいって言い出したんは、うちやもん…。しゃあないやん」
帆乃香は笑顔で答えた。
七海の場合、目覚めれば、ダーブロウ有紗によるホテル並の朝食が並んでいる。
如何に、自分が恵まれた立場にいるのか…。
またもや、七海は自己嫌悪に陥る。
「あ、ここやで。ここがうちの家や」
「…ここ…が…?」
目の前の建物を見て、七海は拍子抜けしてしまった。
木造二階建ての…築50年くらいの古いアパート…。
殆ど消えかけた毛筆で書かれた『雨間荘』の木の看板…。
どう見ても、風呂なし、トイレ共同…家賃は、5万を下回るだろう…。
『R&G探偵社』の、緊急避難拠点になる『天心荘』よりかは、しっかりとしているが…。
こんな質素な所に住んでいて…どうやって裏金を捻出したのだろう…?
いや、これからの学費を払い続けることができるのか…?
3922投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時05分35秒
「ふふ…。ボロイやろ?家…」
七海の心を見透かした様に、帆乃香は笑う。
「ん…?あ…いや…」
七海も、何と言ったらいいのか、困った。
「でもな、心配せんでもええよ…。おじいちゃんな、お金の使い方、おかしいねん」
「おかしい?」
「うん。まず、住む所は屋根と壁さえあればええって…お金仰山持ってても、こんなボロアパートを住処にするし…」
お金を持ってても、住居にそれを使わない…?
「着る物も、裸やなかったら何でもええやろ?ってバーゲンセールスのダサい安もんしか買わへんし…」
着る物にも無頓着?
「せやけど、食べるもんにはお金を使うんよ。粗末な物を食べると、人間が粗末になる…言うて…」
食事には惜しげもなくお金を使う?
ダーブロウ有紗にそっくりだ。
「それから…うちの為にも、お金を使う…。今回の聖テレ入学もそうやし…」
「ええ、おじいちゃんやん…」
「まあね…。でも、世間から見れば甘やかしすぎ…て映るんやないの?」
そう言いながら、錆びた階段を帆乃香は駆け上がる。
赤い錆びの粉がパラパラと落ちる。
七海は、恐る恐る階段を上る。
雨で染みになった、一室のドアを開けた帆乃香は、七海に手招きをする。
七海は複雑な気持ちで、誘われるまま部屋に入った。
3923投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時05分52秒
「おじゃまします…」
当然、寛平がいると思って中に入った七海だが、部屋には誰もいなかった。
「あれ?カンペーさんは?」
「ん?おじいちゃん?さぁ…。仕事やないと思うけど…」
帆乃香は、冷蔵庫の扉を開けて、飲み物を取り出していた。
外国製の100%オレンジジュース…。
その冷蔵庫は、こんな狭くて古いアパートに不釣合いな大きな物だった。
中には、様々な食材が詰め込まれている。
なるほど…食事にはお金を使うという言葉に、ウソはない様だ。
「狭いとこやけど…座って…」
綺麗に片付いた部屋…いや、余計な物が、何もないのだ。
帆乃香は卓袱台の上にオレンジジュースを乗せた。
「おおきに…」
そう言いながらも、七海はジュースに手を出さない。
気分が落ち込んでいることに、変わりはない…。
それでも、帆乃香は七海の訪問に、嬉しそうに彼女を見詰める。
3924投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時06分11秒
「なあ…ななみん…。ホンマに聖テレ辞めるん?」
少し、帆乃香の顔が曇る。
「うん…。ま、ウチが勝手に言うてることやけど…」
「な〜んや…。決定したことやないんやろ?」
帆乃香の表情は、それだけでも晴れた。
「いや…ウチが学校へ行かへんって決めることはできる…。不登校や…」
「そんな…。悲しいこと、言わんでよ…」
そう言いながら、身を寄せてくる帆乃香。
「帆乃香…。友達、できた?」
「うん?うん…。同じクラスの、めろりん…」
「ああ…。あの、ヘタクソなラッパ吹き…」
「それから、6年生のずね…」
「ずね?」
「川?樹音って子…。その子も、野球部に入りたがってたよ」
「ほんまに…?」
七海は少し嬉しくなったが、すぐに虚しくなる。
「あと、らむりんな」
「アイツのことはええよ!!」
つまり、結局野球が縁で知り合った仲なのだ。
3925投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時06分45秒
「あと…ななみん…。うち等、友達やな?」
「…うん…?まぁ…そうやな…」
「せやったら…別に学校を辞めること、ないやん…。友達と会うだけでも、学校って楽しいで?」
「友達と会うだけ…?楽しないよ…そんなん…」
七海には、そういう関係は理解ができない。
何の目的もなく、ただ馴れ合いの様に一緒にいて、煮詰まっていく関係など、ない方がマシなのだ。
「ななみん、中等部に友達おるやん…。あい〜んとか、あみ〜ごとか…」
「確かに、友達やけど…あの2人は戦友なんよ…」
「戦友?」
「一緒に戦っていく友達や…。戦場以外で会うても…楽しないんよ…」
「…ふ〜ん…そんなもんかな…?」
「そんなもんや…。目的のないモン同士が集まっても…うっとおしいだけやん…」
七海の脳裏には…有海をいじめている5人グループの顔が浮かぶ。
「目的…?目的か…。せやったら…うちが、ななみんの目的になったろか?」
「へ…?ウチの目的…?帆乃香が…?」
七海には、帆乃香が何を言っているのか、わからない。
3926投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時07分37秒
「せやから…ななみんは、うちと一緒にいることで…楽しみを見つければええ…」
帆乃香は、身体を七海に摺り寄せる。
「…?帆乃香…?」
「うち…ななみんの…目的になる…」
「どうやって…?」
「こうやって…」
帆乃香は、自らの顔を七海の顔に近づける。
そして…僅かに唇が重なる。
「………」
七海は、帆乃香の顔を黙って見詰める。
「…何とか言うてよ…。ななみん…」
「さいなら」
七海は立ち上がりかけた。
3927投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時08分12秒
「ああん!!待ってよ!!ななみん!!」
帆乃香は、七海の左腕を掴むと、全体重をかけて引き寄せた。
七海はバランスを崩し、畳の上に尻餅をついた。
そして、砂壁に後頭部を打ち付けた。
「い…痛…!!」
またしても、ジョアンにボールをぶつけられた後頭部が痛む。
帆乃香はその隙に、七海の身体の上に馬乗りになった。
眉間にシワを寄せて、七海は帆乃香を睨む。
「どいてよ…」
「そんな怖い顔で見んといてよ…」
悲しげな笑顔で、帆乃香は答える。
「ウチのこと、好きって…こういうことやったん?」
「…あかん…?」
「女同士やんか…。ウチ等…」
「こういう愛も、あってええと思わん?」
「マセガキやな!!」
七海は、帆乃香の身体を突き飛ばした。
3928投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時08分34秒
「ひゃ!!」
帆乃香の身体は、ゴロリと畳の上を転がった。
そんな帆乃香に、七海は容赦なく怒鳴りつける。
「ウチはな、気が滅入ってんねん!!こんな悪ふざけするんやったら、帰るで!!」
帆乃香は素早く立ち上がると、居間とドアを結ぶ線上を塞ぎながら言う。
「ふざけてなんかないよ…!!うち、ほんまにななみんに学校、辞めてもらいたないねん!!」
「そんなん、ウチの勝手やろ?」
「ううん!!勝手にはさせん!!」
帆乃香は、再び七海の側に座り、身を寄せる。
七海は、少し腰をずらして帆乃香を避ける。
「うち…目標に向かって頑張る、ななみんが好きなんよ…!!憧れてるんよ…!!」
「勝手にウチに憧れられても、こっちは迷惑や!!」
「迷惑でもええ!!でも…今のななみん…自分でも嫌いやろ?」
「…な…?」
痛い所を突かれた…。
「うち、ななみんの為になるなら…何でもしてあげたいんよ…。何でも…」
帆乃香はそう言うと、七海にしがみ付いた。
3929投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時09分37秒
「何でも…?つまり…どないすんねん…?」
「せやから…うちにできる事…」
帆乃香の手が、七海の細い脚に触れる。
そして、膝から太ももへと這い上がっていく。
七海は、帆乃香を睨みつけながら言う。
「電車の中での痴漢の真似事…ありゃ、本気やったんやな?」
「…うん…」
帆乃香の手は、そのまま七海のスカートの中へと入っていく。
指先が、下着に覆われた、敏感な部分に触れる。
七海は、帆乃香の腕を掴んだ。
「ほんまに怒るで?」
そして、その手をスカートの中から出した。
「ええよ…。うちを嫌いになってくれてもええ…。でも…うちに…出来る限りのことはさせて…」
帆乃香の目は、潤んできている。
「嫌いになってもええ…やって?」
「うん…。うちの気持ち…ななみんに贈りたいんよ…。その後は…ななみんに任せる…」
帆乃香は、七海の胸に頭を寄せる。
「うち…ななみんを追い駆けて、聖テレに来たんや…。うちの気持ちも…考えてよ…」
「帆乃香の…気持ち…?」
涙交じりの帆乃香の声に…七海は掴んでいた腕をそっと放した。
3930投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時10分48秒
「ななみん…?」
帆乃香は、涙に濡れた目を、七海に向ける。
「わかった…。好きにしたらええ…。でも…これで、ウチとあんたは…これっきりやで…?ええか…?」
この七海の言葉に、帆乃香は安らかな笑みを浮かべる。
「うん…。どっちにしろ、これっきりになるんやったら…」
帆乃香は、七海の膝の上に乗る。
そして、ぎこちない、幼いキスをする。
これは当然、遊び程度…。
七海にとって、退屈極まりない時間を過ごすことになるのだろう。
学校と同じ…。
「…待って…」
「何?ななみん?」
「服…脱がんの…?」
「服…?ああ、脱ご!!」
帆乃香は、慌てて胸のリボンを解き始めた。
そんな帆乃香の手を、七海は握る。
「脱がしっこしぃひん?」
「脱がしっこ?うん!!やろ!!」
3931投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時11分13秒
「じゃ、ウチが脱がしたるわ…」
七海は、帆乃香の白いセーラー服を脱がし始める。
心の底から、サディスティックな感情が湧きあがった。
所詮、これからする帆乃香の行為は、背伸びをした幼いものだ。
そんな彼女を、滅茶苦茶にしてやりたい衝動に駆られる。
もう、七海は自暴自棄になっていた。
どんな形であれ、自分に好意を寄せている少女に、かなりショッキングな体験を味合わせようとしている…。
おそらく、更なる自己嫌悪に陥るだろうが…もう、七海は自分の本能に従うことにする。
帆乃香は、もう二度と自分に近づくことはないだろう…。
でも、それでいいのだ…。それで…。
聖テレから…全ての縁を捨て去ろう…。
七海は、帆乃香の下着をも取り払い、一糸纏わぬ姿にした。
「今度は、うちが脱がしたる!!」
帆乃香は、軽く興奮状態にあるのか…たどたどしい手つきで七海の制服を脱がす。
下着に手を掛けた時、七海はわざわざ腰を上げて脱がしやすくしてやった。
「うふふ…。ななみんの裸や…。きれいやなぁ…」
帆乃香は、七海の靴下だけは脱がすことなく、七海の肌に自らの肌を密着させた。
そして帆乃香は、コアラの様に七海の身体に抱きつくと、胸に顔を埋める。
とは言っても、七海の胸は僅かに膨らんでいるだけなのだが…。
3932投稿者:リリー  投稿日:2008年09月20日(土)21時12分16秒
今日は、これでおちます
3933投稿者:117  投稿日:2008年09月20日(土)21時21分55秒
久々のレズですか?
帆乃香の行動は、本当に七海が好きなのか、それとも別の目的なのか・・・続きも楽しみです!
3934投稿者:あげ  投稿日:2008年09月20日(土)21時50分51秒

3935投稿者:あげ  投稿日:2008年09月20日(土)22時28分25秒
3936投稿者: 投稿日:2008年09月20日(土)23時07分29秒
初めまして^^*
実は隠れながら見ていました←
夏休み前からパソコンが壊れていて今日やっと見ることができたのでひたすら読んでいましたw
帆乃香と七海のレズ楽しみです!
更新頑張ってくださいね。
3937投稿者:ボロアパートの一室に少女が二人  投稿日:2008年09月20日(土)23時59分38秒
これはエロいですねぇ
エロチックですねぇ
3938投稿者:デジ  投稿日:2008年09月21日(日)02時33分28秒
今日二度目ですね。
『雨間荘』って。また出ましたね。リリーさんの言葉遊び。今度は『アメマ〜』ですか。
『天心荘』。サムドラで出てたアパートですね。懐かしいです。そういえばサムドラのときの雰囲気すっかり消えましたね。表世界に慣れてきたんですね。そろそろ裏の時代の自分たちを少し考えなくてはならないところに来てるのでしょうか?
たしかにお金の使い方はダーさんそっくりですね。
そして、七海と帆乃香の、レズでしょうか?第一試合序盤の七世以来ですね。七海の長い夜はこれからどうなるか!続きも楽しみです。
              (今日の小言)
過去の話を二つ
リリーさんの小説の七海って結構泣くキャラでしたね。第二試合は燃えに燃えていたからさすがに涙はありませんでしたが。
そういえば、野球部って発足してたった5ヶ月廃部になったんですね。
それにクライマックスになるとほかの人と立場が逆になるのもリリーさんの小説の七海の特徴ですね。
もう一つ。『TDD』のカードで帆乃香は「サン『太陽』」になってますが、実際の帆乃香とどういう関係があるんでしょうか(これも言葉遊びですか?)藍と有海もイマイチ分かりません。
それともそれが運命ということですか?
3939投稿者: 投稿日:2008年09月21日(日)13時36分17秒

3940投稿者:あげ  投稿日:2008年09月21日(日)14時49分54秒
3941投稿者:らりるれろ更新してください!  投稿日:2008年09月21日(日)20時08分20秒
お願いします!
3942投稿者:待ちよし  投稿日:2008年09月21日(日)20時18分40秒
 
3943投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)20時59分06秒
117さん
はい、久々です
帆乃香の真意は、この回が終わる頃には明らかになっています
慧さん、はじめまして
夏休み前と言うと、第2試合の『九回・表』ですね?
それからずっと読んでくださったのですね
ありがとうございます
これからも、よろしくお願いします
3937さん
ボロアパートって、何か昭和チックな感じがしますね
とは言っても、昭和の時代は、あまり覚えていませんが…
デジさん
七海は、天てれでも結構泣いてましたよね?
目薬疑惑もありましたが…
帆乃香の『サン(太陽)』は、太陽の様に明るい子…というイメージです
あと、「幸福」を意味するカードを与えた、寛平さんの心遣いもあるでしょう
藍の『スター(星)』も「希望」、有海の『ハイプリエスティス(女教皇)』も「教養」と、二人のイメージに重ねています
3941さん、3942さん
そうですね、そろそろ『復刻版・らりるれろ探偵団』も更新したいと思います

では、更新します
3944投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時00分28秒
六畳間の狭い部屋で、二つの華奢で未発達な裸が、重なり合っている。
「あ〜…ななみんの身体…あったかい…」
帆乃香の声が、七海の胸から僅かに漏れる。
彼女の息が、七海の身体をくすぐった。
少し身震いさせながら、七海は帆乃香をどうしようか、考える。
(さて…どうしたろか…。とりあえず『TTK』の『誘惑』を使うたろか…?こんなガキにするんは、初めてやけど…)
それでも、少々手加減をしたものでなければ、彼女に大きなショックを与えてしまうだろう…。
そんなことを考えていると…いきなり七海は仰向けに押し倒された。
畳に、七海の後頭部が当たる。
「痛…!!」
ジョアンにボールをぶつけられた後頭部…何度も感じた痛み…。
帆乃香が、七海を見下ろしている。
「えへへ…。うち、ななみんを襲ってまお…!」
帆乃香は、そう言って笑うと、目を瞑って七海の唇に自らの唇を近づける。
まるで、タコの様に尖らせた唇で…。
(ま、ええわ…。『先攻』は帆乃香に譲ったろ…)
七海も、目を閉じた。
そして、そのまま帆乃香のキスを迎える。
3945投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時00分50秒
すると…七海の唇の隙間から、小さな温かい物がスルリと入って来た。
「…!?」
それは小刻みに揺れながら、七海の口の中を踊る。
「ん…ぐ…?」
帆乃香の舌…?
さっきまでは唇を硬くすぼませていたのに…?
七海は、思わず目を開く。
帆乃香はゆっくりと七海の唇から舌を離す。
「あかんよ…ななみん…。目ぇ、瞑って…」
そう言いながら、七海の瞼を唇で閉ざす。
そして、額、頬、唇、顎…耳…そのまま首筋…。
(な、なんや…?これ…)
このキスの技術…子供のものか…?
いや、自分だって帆乃香と変わらぬ子供だが…その技術は『TTK』で訓練されたものだ…。
帆乃香はどこで、こんなことを覚えた…?
そう考えているうちに、帆乃香のキスは七海の身体を南下していた。
3946投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時01分14秒
「う…」
七海は、身体を起こしかけたが、すぐに肩を掴まれ横にされる。
「おっと…。今度は、頭ぶつけんといてね…」
帆乃香はそっと、七海の頭に手を回す。
「すごいタンコブ…。じょわん先輩も酷いことするなぁ…」
「…?ほ、帆乃香…?」
「へへ…。帆乃香な、ななみんのストーカーやねん…」
そして再び、七海の身体に唇を這わせる。
「…ふぅ…」
七海は息を吐いた。
「あは…!よぅ見ると…ななみん、薄〜い産毛が生えてきてる!」
帆乃香は、七海の股間に顔を近づけて笑った。
「あ…!ちょ…」
「あかん!!よぅ見せて!!」
咄嗟に股間を覆う七海の手を、帆乃香は払い除けると、そのままぎゅっと握る。
「キラキラ光ってる…。きれいやなぁ…」
「あ、あんまりじっと見んといてよ…」
七海は、弱々しい声をあげるが、それは途中で切れる。
帆乃香の舌が、股間の筋に押し付けられたからだ。
3947投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時01分35秒
生暖かく柔らかい感触が、七海の身体の中に入り込む。
「はぅ…!!」
七海は大きく身体を仰け反らせた。
「ほ、帆乃香…!!そ、そんな所…」
また、声は途切れる…。
強張らせていた身体中の筋肉が、帆乃香の一舐め毎にやわらいでいく。
それは身体だけではない…。
今までわだかまっていた心も…。
暖かいお湯の中に、身を沈めている…そんな感覚に包まれた…。
ここ3日間、心身に沈殿していた鬱憤も倦怠も…消え去っていくかの様だ…。
七海の閉じられた目から、涙が滲む。
ひび割れた地面を、雨の雫が濡らす様に…その涙は心の傷を癒していく。
全身の力は、完全に抜け去った。
生まれたての赤ん坊が母親の愛を一身に受ける様に…七海は、帆乃香からの愛を無条件で受け入れる。
3948投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時01分59秒
その時だった…。
いきなり、七海は両足を高く掲げられた。
「…へ…?」
両足の間から、帆乃香の意地悪な笑みが覗く。
「ふふふ…。ここからが本番やで?」
今、自分の恥ずかしい所を全て曝け出してしまっている姿勢…。
「あらら…。ななみん…恥ずかしい恰好やなぁ…。大事な所、全部丸見えやで?」
「ちょ、ちょっと…!な、何を…!!」
七海は、抜けきった全身の力を再び呼び起こし、慌てて起き上がろうとした。
しかし、一瞬遅かった。
帆乃香の指は、七海の敏感な部分を刺激した。
「あ…!!はぁぁ…!!」
また、全身から力が抜けた。
「どう?気持ちええやろ?」
帆乃香の指は、七海の股間の筋を弄びながら開いていく。
「ほ、帆乃香…!!な、何してんの!?」
七海は両手を畳に着き、何とか懸命に起き上がろうとする。
だがその度に帆乃香は、微妙な力加減で七海の恥部を弄繰り回し、それを許さない。
「あ…!!ああああ…!!!」
七海はまた、不本意な絶叫を強いられる。
3949投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時02分20秒
「何してんのって…言ったやん…。帆乃香がななみんの為に、できることをしたるって…」
指の腹は、股間の割れ目の肉を優しく撫でながら中へと侵入していく。
「あ…!ま、待って!!待ってって…!!」
悲痛な叫びをあげる七海。
だが、帆乃香は聞く耳を持たない。
「好きにしてええって…ななみんが、うちに言ったんやで?」
帆乃香の指は、襞に覆われた柔らかい蕾を外に晒す。
「うふふ…。可愛らしいな…。ここ弄ったら、ななみん、どんな声出すんやろな…」
「や、やめぇ…」
その直後、七海の声は悲鳴に変わる。
その悲鳴は苦痛によるものではなく、快楽と羞恥の入り混じったもの…。
「あああ…!!!ひああああ!!!」
頭に抜ける様な高い声が、狭い六畳間に響き渡る。
「あ、ななみん…。ここ、一応ボロアパートやから、そんな大きな声出したら隣近所に丸聞こえになるで?」
そう言いながら、帆乃香は七海の顔と恥部を交互に見ながら、楽しそうにいたぶり続ける。
「や、やめ…やめ…やめてぇ…」
七海の帆乃香を見詰める目は、涙で濡れる。
「ああん…。そないな目で見られたら…うち…もう、あかん…」
うっとりとした目で、七海を見下ろす帆乃香。
3950投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時02分55秒
「ななみん…。感じてんの…?ヒクヒク動いてるで…?」
快楽の鼓動を、じっと見詰める帆乃香は、そっと指で蕾に触れる。
「ひぃ…!!」
七海の身体は、ビクンと脈打つ。
股間の襞だけでなく…肛門も、規則正しいリズムで動き出す。
「お尻の穴も…」
帆乃香は息を吹きかけた。
「はぁぁ…!!あ、あかん…!!そないなこと…!!」
「ん?なぁに?」
「は、恥ずかしい…」
「何?何やって?」
「は、は、恥ずかしいよぉ…!!」
七海の涙は、もうとめどなく流れている。
そう…快楽が大きい程、七海は号泣する性質なのだ。
「うん…。わかってる…。ななみん…メチャ恥ずかしいで?」
七海は、身体の芯から熱くなる。
何故、自分は年下の…しかも小学生の少女に、こんな痴態を演じているのか…。
恥ずかしさ…屈辱…そして、快楽が、複雑に絡み合って七海の頭を駆け巡った。
『先攻』を敢えて帆乃香に譲った七海だが…これでは、自分が攻めに転じる前に、コールド負けを喫してしまう。
3951投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時03分17秒
帆乃香は、不定期に七海の快楽の蕾を刺激する。
「あ…。ああ…。ああ…」
その度、七海の足は、筋肉の筋を浮かべてピンと突っ張る。
「あはは…!!おもろ!!ななみんの反応、おもろ過ぎるわ!!」
まるでオモチャで遊んでいるかの様な、帆乃香…。
いや、実際に七海の身体をオモチャにしている。
「それに、今、ななみんの顔、凄いことになってる…」
涙に濡れ、歯を食い縛って耐えている七海の顔に、帆乃香の顔が近づく。
「メチャ、不細工になってるで?」
帆乃香は、行為、言葉、あらゆる手段で七海を責める。
「でも…いやらしいわぁ…。エッチやなぁ…」
七海の身体に追い被さり、帆乃香は耳元でそっと囁く。
「そろそろ、イキたいんとちゃう?」
「はぁ…。はぁ…。はぁ…」
七海は、涙で濡れた視線を帆乃香に向ける。
「うん?どないやの?ななみん…。言うてくれんと、うち、わからん!」
帆乃香の指が、七海から離れる。
「あ…ああ…!!帆乃香…!!」
その離した手を、七海は掴んだ。
3952投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時03分41秒
「何?どうして欲しいの?」
帆乃香は、再び指を七海の股間に近づける。
「イカせて欲しいの?」
帆乃香の覗き込む目に、自分の顔が映る。
懇願する顔が、何度も縦に動いていた。
無意識に…自分は帆乃香の軍門に降っていたのだ。
「口で言うて…」
「…え…?」
「イカせてって…口で言うて…」
「う…。イ、イカせて…。お願い…」
屈辱にまみれた言葉が、素直に出た…。
信じられない…負けん気の強い自分が…。
しかも…これは『TTK』の『誘惑』ではないか…?
自分が何故、術中にはまってしまっているのだ…?
「せやったら…帆乃香からも、お願いや…」
「…?」
「…もう、学校辞めるなんて…言わんといて…」
帆乃香の目も七海同様、潤んでいた。
「うち、ななみんといつまでも一緒にいたい…!!もう、これっきりなんて…言わんといて!!」
3953投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時04分02秒
「ウ…ウチ…。ウチは…」
七海は、答えあぐねていた。
「お願い…。ななみん…。うちの為に…うちに会う為に…学校に来て…」
帆乃香の指は、七海の性器を僅かに掠めた。
「は…!うぅ…」
それだけでも、七海の身体は芯から震えた。
この溢れ出そうとしている快楽の衝動を、早く外へ解放してやらなければ…!
「ななみん…。お願いや…」
帆乃香の声が、涙で震えている…。
帆乃香は…こんなにも自分を愛してくれている…。
野球部が潰れ、抜け殻の様になった自分を…。
帆乃香は、野球をしている自分を見て好きになってくれた…。
それなのに…こんな自分を…。
3954投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時04分25秒
「や…約束する…」
「………」
「約束する…」
「…え…?」
七海の言葉に、帆乃香の反応が遅れた。
「ウチ…学校に行く…。帆乃香と…いつまでも一緒にいたい…」
「…ななみん…」
快楽の解放など、もう、どうでも良かった。
この自分の気持ちを、帆乃香に伝えたかった。
「す、好きや…。帆乃香…!!好きや!!」
「う、うちも…!!」
2人は、強く抱き締め合う。
お互いの体温…温もりを確認するかの様に…。
帆乃香は、顔を七海の下半身へと移動させ、性器に舌を這わせる。
「…ああ…!!」
燻っていた快楽の感情が、再び揺り動かされた。
「はぁ…!はぁ…!!はぁ…!!!」
一呼吸毎に荒くなる吐息…。
身体の中の、もう一人の自分が、内部から強く叩いている…。
早く、外に出してくれと…。
3955投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時04分53秒
「ああん!!…ああ!!」
七海の身体は跳ねだした。
帆乃香は、しっかりと七海を捕まえる。
「あ…!ああ…!!あああ…!!!」
小刻みに震える七海の身体…。
頭の天辺から足の先まで、快楽の波が流れていく。
それと同時に、自分の体温も外に一気に放出したかの様に感じた。
急に心細くなる…。
冷たい深海へ沈んでいくのか…それとも、永遠に広がる宇宙空間を漂っているのか…。
(誰か…!!誰か…ウチの側に来て…!!)
心の中で、七海は叫んだ。
(ウチを…抱き締めて…!!)
その時、七海の身体を暖かな空気が包み込む。
「…!?」
七海は、ふと目を開く。
「ななみん…。大丈夫…?」
帆乃香が、心配そうな眼差しを七海に送っている。
「あ…あ…あ…」
滝の様に流れる涙…。
嗚咽が溢れる…。
3956投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時05分15秒
「わああああ〜〜〜!!!」
七海の感情が、一気に噴き出す。
帆乃香に強く抱きついた。
「安心して…。ななみんには…うちがついてる…」
帆乃香は、七海の頭を優しく撫でた。
「うちが…ななみんを守る…」
そんな帆乃香の言葉に、七海は号泣で答えるしかなかった。
この安心感…随分久しぶりだ…。
そう…七世…。
『チーム7』が解散した4月から…。
今まで溜め込んでいたフラストレーションが、帆乃香を七世に置き換えることで爆発したのか…。
いや、ただ単純に、誰かに甘えたかったのかもしれない…。
『永遠の妹』…中村有沙にそう言われたことを思い出す。
梓彩は父親の松本に、自分のことを『妹にしたい』…と話した。
そう…相手が誰であろうと、年下だろうと…自分は、ずっと誰かの『妹』なのかもしれない…。
それが、自分という人間なのだ…。
まるで成長していない…。
でも、それでいいのだ、と…七海は思った。
3957投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時05分36秒
今日は、これでおちます
3958投稿者:あげ  投稿日:2008年09月21日(日)21時10分45秒

3959投稿者:117  投稿日:2008年09月21日(日)21時11分09秒
帆乃香も一応「TDD」の候補生だけあって、こんな巧みな誘惑を?
ジョアンにボールを当てられて、その後も何度もぶつけている後頭部。今後の展開に関係が?続きも楽しみです!
3960投稿者:Lって  投稿日:2008年09月21日(日)21時16分59秒
リリーさんなの?
3961投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時35分09秒
はい
『L』は、他の小説にコメントする場合のHNです
『リリー』の頭文字です
今、復刻版『らりるれろ探偵団』も更新しました
『グラスラ』の現在(2007年10月)の、2ヶ月前の出来事の話しです
つまり、梨生奈が大怪我をする前(きっかけとなった)話しです
そちらの方も、よろしくお願いします

では、今度こそおちおます
3962投稿者:リリー  投稿日:2008年09月21日(日)21時36分19秒
あと、117さん
帆乃香の超越した性技の数々、この正体も、この回には判明いたします
3963投稿者:あげ  投稿日:2008年09月21日(日)21時45分49秒

3964投稿者:あげ  投稿日:2008年09月22日(月)08時57分09秒
 
3965投稿者:リリー  投稿日:2008年09月22日(月)19時03分12秒
あげ、ありがとうございます
今日で、『四回・裏』は終わります

では、更新します
3966投稿者:リリー  投稿日:2008年09月22日(月)19時04分33秒
2人は、裸のまま畳の上に寝転びながら、お互いの手をしっかりと握って見詰め合っている。
「…なぁ…。帆乃香…」
「なあに?ななみん…」
無邪気な帆乃香の笑顔を見詰めながら、七海は複雑な気持ちになる。
「あんた…いつ、あんなこと覚えたん…?」
「あんなこと…?」
「い、言わんでもわかるやろ…!!」
七海は顔を真っ赤にして目を逸らした。
「はは…!可愛ぇな…。ななみん…」
帆乃香は上半身を起こすと、七海にキスをした。
しかし、帆乃香の顔は悲しげに曇る。
「どないしたん?」
七海も上半身を起こした。
「無理矢理や…」
「無理矢理?」
帆乃香は再び畳に背中を着け、木目のくっきりと浮き出た天井を仰ぐ。
「うちとお爺ちゃんな…本当の家族、ちゃうねん…」
「…へ…?」
帆乃香の横顔を見詰める七海…帆乃香の目尻が光っている。
3967投稿者:リリー  投稿日:2008年09月22日(月)19時04分52秒
「うち…赤ん坊の時に親が離婚して…でも、すぐにお母ちゃんが再婚したんよ…」
帆乃香は、身の上を語り出した。
あまり幸せな話しではないようだが…七海は理由を聞いた責任がある。
それを、しっかりと受け止めようとする。
「その再婚した男は…最初は優しかったよ…。でも、お母ちゃんが病気で入院すると…うちを…」
帆乃香は声を詰まらせた。
「帆乃香…」
七海は、遮り掛けた言葉を飲み込む。
「暴力は、まだ、がまんできた…。でも…身体を汚されるんは…ほんまに辛かった…」
そう言うと、帆乃香は目を固く瞑る。
涙が、絞り出された。
「挙句の果ては…その男の、ろくでもない連れに奉仕させられるようになって…。男、女、関係無しや…」
「ほ…帆乃香…」
「こんなこと…覚えとぅなかったよ…」
同じだ…。自分と…。
こんなことは『TTK』…裏の世界のことだけの話しだと思っていた。
「せやけど…役に立つこともあるんやね…。こうやって、ななみんの心を癒すことができたんやから…」
そう言って、帆乃香は涙で濡れた目を細めた。
3968投稿者:リリー  投稿日:2008年09月22日(月)19時05分12秒
「カ、カンペーさんは…?」
そう…帆乃香と寛平は、どういうつながりがあるのだろう…?
2人の苗字が違うのは、ただ、母方か父方、どちらかの姓だと思っていたから…。
「赤の他人や…。ほんま、道端で会っただけの関係やで…」
「他人…?」
「それでも、いろいろ相談に乗ってくれた…。お母ちゃんの病気が段々悪なっていくこととか…」
「その男に乱暴されたことも?」
帆乃香は、首を横に振る。
そして、話しを続ける。
「そんでな…お母ちゃんがとうとう死んでもうた時…うち…」
帆乃香は、目を開けて七海を見る。
「誘拐された…」
「誘拐!?」
目を大きく見開いた七海に、帆乃香は少し笑顔になった。
「うん…。うち、お爺ちゃんに誘拐されてん…」
「………」
七海は言葉を失った。
自分も、相当複雑な人生を歩んできたと思ったが…。
表の世界で普通に、幸せそうに過ごしてきていると思っていた帆乃香も…。
何も言わない代わりに、七海は帆乃香を抱き締めた。
3969投稿者:リリー  投稿日:2008年09月22日(月)19時05分33秒
帆乃香は、七海を玄関口まで送る。
「ほな、ななみん。明日、学校でね」
「うん。て、言うても、初等部と中等部…別々やけどね…」
「同じ敷地内やん!いつでも会えるよ!!」
「…うん…。そやね…」
七海は、微笑みながらドアを開け、外に出る。
「待って!!ななみん!!」
帆乃香は裸足のまま外に飛び出し、七海に抱きついた。
そして…キスをする。
それは、ぎこちない…幼いキスに戻っていた。
「誰かに見られたら…ややこしいことになるで…?」
「ええもん…。うちは別に…」
「ほな…さよなら…」
「ほな…」
錆びた階段を降りる七海を、じっと見送る帆乃香。
七海は、角の道を曲がる前に振り返り、手を振った。
帆乃香は両手を振り、飛び跳ねて応えた。
3970投稿者:頑張ってください  投稿日:2008年09月22日(月)19時05分49秒
らりるれろもお願いします。
3971投稿者:リリー  投稿日:2008年09月22日(月)19時05分56秒
帆乃香は、アパートの部屋に戻ると、叫び声をあげた。
「わ…!!びっくりした!!」
居間には、飲まれることなく放置されていたオレンジジュースを…『デス(死神)』…みのぽーこと、箕輪はるかが正座して飲んでいた。
「い、いつの間に、入って来たん!?」
「…入って来た…?ううん…。入って来たのは、あんた達の方…」
「…つまり…最初からこの部屋に…?」
「…うん…」
「…つまり…うちとななみんの…ことも…バッチリ?」
「…うん…」
「うわぁ…!メチャ恥ずいやん…!!」
帆乃香は、顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「…気にしないで…。私は、ただの影だったから…」
「あんた…押入れの中に隠れてたん?」
「…ううん…。部屋の片隅に…。体操座りで見てたよ…」
「うそ…!!全然、気ぃつかへんかった…!!」
「…だって、それが私の特技だもん…」
戦闘力では平均以下の帆乃香はともかく…元『TTK』の『戦士』の七海でさえ、気がつかなかった…。
いや、あの楠本でさえも、喉を掻き切られそうになる程の接近を許す…。
己の存在を徹底的に消し去る…これが、はるかの最大の武器なのだ。
3972投稿者:リリー  投稿日:2008年09月22日(月)19時06分30秒
「…それにしても…どうやって『R&G』の探偵と接触を図るのかと思ってたら…。あんた、末恐ろしい子供だね…」
「影やとか言うておきながら…。しっかり覚えてるやん!!」
帆乃香は足を踏みしめながら、はるかと卓袱台を挟んで胡坐をかく。
「…あの、ななみんとか言う子…これで、あんたの思いのままの人形になったわけだ…」
「まだや…。これから信頼関係を結んでいかな…」
「…信頼関係?最後には裏切るんだから…。さっさと情報を吸い取れるだけ吸い取っちゃいなよ…」
「ん?それはもう、始まってるよ?」
帆乃香は、通学カバンから携帯電話を取り出し、耳にあてる。
「ななみん、今、通りがかりのお婆ちゃんから、小蓮田文化会館への道を聞かれてるわ…」
「…ん…?」
「ななみん、ええ子やわ…。茶々山駅と反対方向やのに、ついて行って説明してあげてる」
「…それ…盗聴…?」
「うん。コレ、付け替えたんや…」
帆乃香は、フェルトで手作りした、たこ焼き型お守りを、はるかに見せる。
「…それは…?」
「いつか、ななみんにあげたお守りや…。可愛いやろ?この中にガチャポンのカプセルが入ってて、うちのメッセージが入ってるんやけど…」
帆乃香は、巾着の口を開け、カプセルを取り出す。
「あ…。グルグルに巻き付けたテープが取られてる…!ななみん、メッセージを開けて読んだな?もう…絶対に開けるな、言うたのに…」
しかし、帆乃香は笑顔を戻す。
「でも…これで、ななみんはもう、付け替えたお守りを開けることはないな…。これは好都合や…」
3973投稿者:リリー  投稿日:2008年09月22日(月)19時06分52秒
「…あ、なるほど…。付け替えたお守りに…盗聴器が入ってるんだ…」
はるかは、ポンと手を打った。
「そや」
帆乃香は、得意顔で応えた。
「…でも、取り替えるんだったら、カプセルだけにした方が良かったね…」
「…?何で…?」
「…だって、例えば、そこの縫い目の糸の数…新しいお守りも同じにした…?」
「へ…?何で、そこまで?」
「…気が付かれるでしょ…?この前貰ったのと違う物だって…」
「ウソ…!!普通、気がつく…?」
「…私ならね…。て、いうか、『TDD』の『カード』なら、大抵気が付くよ…。『R&G』も…いや、元『TTK』も同じだと思うよ…」
「わ…。ヤバイやん…」
「…う〜ん…。あの、ななみんって子、見るからにうっかり者の単細胞だから、すぐには気が付かないと思うけど…。隙を見つけてまた取り換えた方がいいよ…」
「わ、わかった…。早速、明日ななみんと会って、付け替えるわ…」
帆乃香は、まだ裏の人間の驚異的な力を理解しきれていなかった。
3974投稿者:リリー  投稿日:2008年09月22日(月)19時07分13秒
「…でも…あの、身の上話し、どこまでが本当なの…?」
「ん?みのぽーは、どこらへんがウソやと思うん?」
「…あの、見事な性技の数々…義理の父親に無理矢理教え込まれたってところ…。あんた、ノリノリだったじゃん…」
「へへ…。やっぱり?うち、大好きなんよ…。ああいうの…」
「…あんた、ろくな大人にならないね…。弥勒姉さんか、しょこたんみたいな…」
「うへぇ…!!エロい大人やなぁ…。後は?」
「…ボスが…あんたを誘拐したって所…」
「ん?別にウソは言うてへんで?」
「…その『誘拐』をボスに依頼したのは、あんた…。そして、『誘拐』じゃなくて『強盗殺人』…。その義理の父親…ボスに殺されたんでしょ?」
「ふふん…。言えるわけ、ないやん…。お爺ちゃんが、只者やないなんて…」
「…でも…まあ、あんたがちゃんとやってくれて、安心したよ。弥勒姉さんも納得するし…」
はるかは、音もなく立ち上がる。
「あ…!!やっぱり理沙のやつ、うちのこと、信用してへんかったんやな…?」
「…じゃあ、私はこれで…」
はるかは、玄関へ向かう。
「あ、そうや…!!あんたが、このお守りを付け換えてくれたらええんやないの…」
帆乃香が、振り返った時…はるかの姿はもう、なかった。
3975投稿者:リリー  投稿日:2008年09月22日(月)19時07分35秒
「ほんま…神出鬼没やなぁ…。いや、まだそこらへんにおるのかもしれん…」
帆乃香は、注意深く辺りを窺った。
警戒を解くことなく、帆乃香は盗聴用の携帯に耳を傾ける。
もう、七海はお婆さんの案内を終えたようだ。
「ななみん…。ごめんね…」
そう言い掛けて、帆乃香は口を噤んだ。
まだ、はるかが、この場にいるのかもしれない…。
(うち…ななみんを裏切ることになるわ…。でも…)
携帯電話を握り締める。
(ほんまに好きやねんで…?ななみんのこと…。そして…)
携帯電話に口を寄せ、囁く様に言葉を吐く。
「ななみんだけは…うちが守る…」

(『四回・裏』・・・終了)
3976投稿者:リリー  投稿日:2008年09月22日(月)19時08分39秒
3970さん
ありがとうございます
では、『らりるれろ』の方も、少し更新しておきます

次回から『五回・表』です
では、おちます
3977投稿者:ありがとうございます!!  投稿日:2008年09月22日(月)19時12分41秒

3978投稿者:117  投稿日:2008年09月22日(月)21時30分43秒
復刻版「らりるれろ」更新もお疲れ様です。一方で、「グランドスラム」も次回は5回ですか。結構早いような?
なるほど、そんな過去が・・・と思いきや、しっかり盗聴機も仕込んで、帆乃香コワ(笑)。
それにしても、みのぽーは神出鬼没ですね(笑)。続きも楽しみです!
3979投稿者:最後のけなげな「裏切り」がいい  投稿日:2008年09月23日(火)00時09分24秒
いじらしいよ
3980投稿者: 投稿日:2008年09月23日(火)00時51分12秒

3981投稿者: 投稿日:2008年09月23日(火)12時37分35秒
3982投稿者:あげ  投稿日:2008年09月23日(火)13時32分22秒

3983投稿者:名無しさん  投稿日:2008年09月23日(火)13時32分42秒
このレスを見たら
7日後以内に死にます
無残な姿で死にます
回避する方法は1つ
このレスをコピペしてほかのスレに7つ貼る事です。
100%これをやってください
本当に死にます

3984投稿者:あげ  投稿日:2008年09月23日(火)14時42分18秒

3985投稿者:リリー  投稿日:2008年09月23日(火)20時43分38秒
117さん
そうですね、早いです
最近、ペースを速めていることもあるでしょう
この休みの間、随分書き溜めておくこともできました
何とか、終わりが見えてきました

3979さん
帆乃香の行動は、この後大きくストーリーに関わってきます
帆乃香も、任務と愛情の板ばさみで、辛い立場です

あげコメント、ありがとうございます

では、更新します
3986投稿者:リリー  投稿日:2008年09月23日(火)20時44分03秒
『五回・表』

≪2007年11/2(金)≫
昨夜、中日ドラゴンズが、約半世紀ぶりに日本一に輝いた。
もし、今も野球部が続いていたら、藍はハイテンションではしゃぎまわり、七海はそんな彼女にうんざりしていることだろう…。
だが、七海からも藍からも、野球という存在は完全に消えていた。
藍は、10月末から始まった、ソフトボール都大会に忙しい。
その大会で、藍はエースピッチャーとして無失点記録を伸ばしていた。
愛美も梓彩も、正レギュラーとして二遊間を守り、藍をバックアップしていた。
ジョアンは3年生の為、試合に出ることはなかったが、いつもベンチに入り、声援を送った。
結局ソフトボール部に入らなかったが、エマもエリーも、そして有海も、応援に駆けつけた。
中村有沙も、車椅子の梨生奈も応援に来た。
だが…七海だけは、応援に来た事がなかった。
それどころか、藍とも有海とも、最近、言葉を交わすことがない。
授業中は机に突っ伏して爆睡し、休み時間になれば、どこへともなく姿を消す。
七海は、完全に学校で孤立していた。
3987投稿者:リリー  投稿日:2008年09月23日(火)20時44分26秒
ただ、そんな七海とつながっている者が、ただ一人いた。
それは…初等部5年…鍋本帆乃香…。
七海は、帆乃香と会う為だけ、学校に来ていた。
短い休み時間の時は、敷地内の初等部と中等部の境目にあるベンチに腰掛け、他愛もない雑談をする。
七海は、それだけでも幸せだった。
今日も、二時限目と三時限目の間の休み時間に、2人はそのベンチで落ち合った。
はっきり言って、七海は帆乃香とどんな話しをしていたか、覚えていることは少ない。
でも、それでいいのだ。
それが、安らぐのだ。
「ねぇ…ななみん…」
帆乃香は、七海の耳元に口を寄せる。
「明日からの土日…家に来ぃひん…?」
「…土日…?」
「お爺ちゃん…その日、留守なんよ…」
七海は、頬を赤らめ、黙って頷いた。
3988投稿者:リリー  投稿日:2008年09月23日(火)20時44分55秒
「やはり、ここにいたのか…」
不意に声を掛けられた。
中村有沙だった。
七海は振り返ることなく、うんざりした表情で答える。
「何や…?何か、ウチに用かい?」
「ああ…。用がある…」
「早よ、せえ…!!時間が勿体無いわ…!!」
「時間が勿体無い…?今の貴様がそれを言うのか?」
「ああん!?何や!?ゴルァ!!」
ようやく、七海はベンチから立ち上がり、中村有沙の方を向いた。
殺気立つ七海とは対照的に、帆乃香は中村有沙に笑顔で手を振る。
だが中村有沙は、そんな帆乃香を無視し、七海に歩み寄る。
「明日…そして明後日…土曜と日曜だが…藍達、ソフトボール部の大会の応援に来い」
「土日…?アカン…!!その二日は、ウチ、忙しいねん!!」
「忙しい…?ふん…!!何もしてない貴様が吐く台詞ではないな…」
「オノレなぁ…。ほんま、ケンカ売りに来たんかい…?」
七海は目を据わらせて、睨みつける。
帆乃香以外の人間に対し、七海は随分荒んだ人間関係を展開していた。
3989投稿者:リリー  投稿日:2008年09月23日(火)20時45分18秒
「ケンカなど売るか…!!くだらん…。誘いに来たのだ。藍達の試合を見届けろ。準決勝と…決勝の…」
「はぁ…?それこそ、くだらんな…!!ウチに何の関係があるん?ソフトボールごときの試合、何でわざわざ見なアカンの?アホちゃう?」
その七海の言葉に、今度は中村有沙の目が据わる。
「くだらないだと…?藍達の…仲間の大切な試合だぞ…?よくもそんな口が利けたものだな!?」
「仲間?何や?それ?誰が仲間?ソフトボールなんかに、うつつを抜かし取るヤツ等、仲間やないもん…」
「貴様…!!」
中村有沙は、七海の胸座を掴む。
しかし、七海はヘラヘラと笑いながら言う。
「どないしたん?チビアリ?熱ぅなって…。自分のキャラ、勘違いしてへん?」
その瞬間、凄まじい衝撃と共に、七海の目の前が真っ白になった。
「ひゃ…!!ななみん…!!」
帆乃香が悲鳴をあげる。
中村有沙が、七海の額に頭突きを喰らわせたのだ。
「な、何やぁ!?ゴルァ!!」
七海も、頭突きを返す。
「ぐぅ…!!」
中村有沙は、額を抑えて二三歩、後退りをした。
「ゴルアアアア!!!」
そして七海は、助走をつけて跳び蹴りを放った。
「う…!!」
中村有沙は、後方に生い茂る垣根に背中から突っ込んだ。
3990投稿者:リリー  投稿日:2008年09月23日(火)20時45分42秒
「どつき合いなら、いつでもやったんど!?かかって来いや!!ゴルァァァ!!」
七海は、顔を真っ赤にして咆哮をあげた。
「…貴様…!!」
中村有沙は垣根の葉が飛び散る程に駆け出し、七海に組みかかる。
「何や!?やるんかい!?」
2人とも、組み合いながら地面を転げ回る。
下着が丸見えになることも構わず、2人は凄まじい取っ組み合いのケンカを繰り広げる。
ビリビリと布が裂ける音…。
七海の制服も、中村有沙の制服も、引き裂かれていく。
「ちょ、ちょっと…!!ななみん…!!ありりん…!!やめてぇな!!ちょっと!!」
帆乃香は悲鳴をあげて2人を止めようと試みるが、とてもではないが中に割り込むことなどできない。
「だ、誰か!!2人を止めて!!誰か、来てぇ〜〜〜!!!」
帆乃香は、初等部の校舎の方へ走っていった。
初等部の若い2人の男性教師がすぐに駆けつけるが、制服が引き裂かれ、半ば半裸状態になった七海と中村有沙を見て、思わず躊躇した。
「な、何やってんの!?先生!!はよ、止めな!!」
帆乃香に背中を押され、2人の教師は七海と中村有沙の間に割って入った。
そして…予想されたことなのだが…2人の教師は、興奮状態の少女達にノックアウトされた。
これも後でわかったことなのだが…創立30年の聖テレジア女子学園で、取っ組み合いのケンカをし、更に教師を殴った生徒、第一号と第二号は、藤本七海と中村有沙…ということだ…。
中村有沙は既に養護教員の中川翔子を殴ってはいるが…これは正式な記録には残っていない…。
3991投稿者:リリー  投稿日:2008年09月23日(火)20時46分00秒
とりあえず、制服がただの白いボロ布と化した為、七海と中村有沙は体育用のジャージに着替えさせられる。
中等部の校長は2人に激怒、今日はもう家に帰させる為、保護者の吉田に電話を掛け、迎えに来てもらうことにした。
2人は仏頂面で、校長室に立たされていた。
2人の担任も、申し訳無さそうに佇む。
教頭が校長室に入って来た。
「どうでしたか?教頭先生。吉田さんは、いつ頃お見えになりますか?」
「い、いえ…それが…吉田さんは足のお怪我で病院へ検査を受けに行かれ、お留守でした…。それで…」
「それで…?」
「代わりに出た、何か、豪快な感じの女性が…『めんどくさいから、迎えに行かない。構わないから、2人ともぶん殴ってくれ』…と…」
「…は…?」
校長は、あんぐりと口を開けた。
「デカアリや…」
「ふん…!!あの女らしいな…」
七海と中村有沙は、お互いそっぽを向きながら呟いた。
3992投稿者:リリー  投稿日:2008年09月23日(火)20時46分19秒
校長は、こめかみを押さえて唸る。
「まったく…!!この2人の粗野な行動は、家庭環境に問題あり…ということだな…」
校長の言葉を聞き、七海は苦笑いをした。
「ま…そりゃ、そうやな…」
そんな七海に、担任の佐藤珠緒は、泣き出しそうな声で怒鳴った。
「…もう…!!藤本さん…!!自分が今、どういう立場なのか、わかってるの!?」
「ん…?わかってるよ…。退学やろ?ちゃっちゃとやってんか?」
「ふ、藤本さん…。何で?こんな子じゃなかったのに…」
珠緒は、顔を覆って泣いた。
「ちょ、ちょっと…。泣かんといてよ、先生…。敵わんなぁ…」
七海は呆れるように溜息をついた。
「とにかく…2人をこのまま教室に戻すわけにはいきません…」
眉間に深いシワをつくり、校長は七海と中村有沙を睨む。
「ええ…。他の生徒達も動揺しますし…」
教頭も面倒なものを見る様に、2人に視線を向ける。
3993投稿者:リリー  投稿日:2008年09月23日(火)20時46分44秒
結局、七海と中村有沙は授業後まで、礼拝堂の掃除をさせられることになった。
「今の貴様は…腐っている…」
ステンドグラスを雑巾で乾拭きしながら、七海を見ることなく、中村有沙は語りかけた。
「そんなん…オノレに言われんでも、わかっとるわ…!!」
七海は、溜息をつきながら答える。
「私は…貴様をキャプテンに推薦したことを、猛烈に恥じている…」
「ふん…!!勝手に推薦しといて、何抜かしとんじゃ!!」
「貴様は………もう、いい…」
中村有沙は、本当に深い溜息をついた。
長い沈黙が続く。
その間、2人は36枚ある礼拝堂のステンドグラスを拭き終えた。
「さ…。終った、終わった…。ほな、ウチはもう、帰るで」
七海は大きく伸びをすると、キリスト像の十字架の端に、雑巾を引っ掛けた。
「チビアリ、後片付けは任せたわ」
「貴様…!!何と、罰当たりな…!!」
「あん?オノレ、そない熱心なクリスチャンやったっけ?」
「…そういうわけでは、ないが…」
中村有沙は…寛平の占いを受けてから、死というものを意識するようになってしまった。
今度『鎌』を手にした時…自分は死ぬ。
あれから、自分の武器、鎖鎌を手にしたことはない…。
もし、使う様な状況になったとしたら…それが、自分の死ぬ時…なのである。
3994投稿者:リリー  投稿日:2008年09月23日(火)20時47分09秒
「いいか?七海…。貴様は、野球部のキャプテンとしては失格だが…」
「ああん?何やと?」
「探偵として…『チームN』のパートナーとしては…それなりに働いてもらわねば困る…」
「…?何、言うとんのや?」
「腑抜けた貴様の所為で、死ぬのは御免だからな…」
キリスト像に掛けられた雑巾を取り去ると、中村有沙は礼拝堂を後にした。
「何やねん…。あいつ…」
七海は首を傾げて、中村有沙の後姿を見送る。
「しかし…こればかりは、あいつの言う通りやな…」
両手で、パンパンと顔を叩く。
「仕事は仕事…。切り替えな…」
いつか、ぶつかり合った楠本という男…。
あの戦いに、生き延びたことは奇跡だった。
金属バットで滅多打ちにしてやったが…正直、また会うことは遠慮したい…そう思わざるを得なかった。
そして…『TDD』に寝返った…加藤夏希…!!
「来るなら、来んかい…!!やったんど…!!」
七海は低く呻くと、礼拝堂の出口へと歩いていく。
3995投稿者:リリー  投稿日:2008年09月23日(火)20時53分07秒
中日ドラゴンズ日本一…この件、なんか虚しくなりました
まだ、日本一のチャンスは消えたわけではありませんが、私はクライマックスシリーズ大反対派なので、今年の中日が日本シリーズに関わる資格はないと思います
ソフトボールの様なトーナメント方式にするのはどうでしょう?
・リーグ一位と二位がまず戦い、一位が勝ったら、それで決まり
 三位の出場権も、同時に消える
・二位が勝ったら、一位は三位と戦う
 勝った方が二位と戦い、その試合に勝てば晴れて日本シリーズに出場…
これぐらい、リーグ一位の優位を保たねば、この長丁場が軽く見られかねません

今日は、これでおちます
3996投稿者:117  投稿日:2008年09月23日(火)21時09分24秒
僕も、プレーオフは大反対!だって、ソフトバンクもひどい目にあっていますから。
そういえば、王監督が辞任するそうで。成績不振に体調不良・・・残念ですが、仕方が無いです。

「TDD」が現われたせいで、様々なすれ違い、衝突・・・みんなの心がバラバラに。
今後どう影響していくのか・・・続きも楽しみです!
3997投稿者:広島ファン  投稿日:2008年09月23日(火)21時40分08秒
長年Bクラスのカープファンからすれば
Aクラスに入れば望みがあるってのは
すごく応援のしがいがある
今のカープじゃ優勝は無理だけど
とりあえず3位に入ればって考えると
応援にも熱が入るよ
3998投稿者:あの  投稿日:2008年09月23日(火)22時12分41秒
「私はクライマックスシリーズ大反対派なので、今年の中日が日本シリーズに関わる資格はないと思います」の所、どう意味なんでしょうか?
3999投稿者:>めんどくさいから、迎えに行かない。構わないから、2人ともぶ  投稿日:2008年09月23日(火)22時15分52秒
ワロタwww
ダーさん問題が何なのか分かってるのか?wwwwwww
4000投稿者:99  投稿日:2008年09月23日(火)22時17分07秒
失敗;


>めんどくさいから、迎えに行かない。構わないから、2人ともぶん殴ってくれ。

ワロタwww
ダーさん何が問題なのか分かってんのか?www
4001投稿者:あげ  投稿日:2008年09月24日(水)01時44分24秒
 
4002投稿者: 投稿日:2008年09月24日(水)02時17分06秒
4003投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時04分38秒
117さん
王さん、お疲れ様…と言いたいです
やはり、大病をしている人を、またWBCの監督に担ぎ上げたらいけません
王さんは、随分長い間、ホークスの監督をしていましたね
辛い時代もあったと思いますが、ホームラン王、そして第一回WBCn優勝監督として、栄光のもと、送り出した方がいいですね
その点、星野監督も、どこかで復活させてほしいです
マスコミも世間も、叩き過ぎです
勝負事なんだから、絶対的なものではないんです
やるからには、「金メダルを目指す」と言うに決まってるんだから、「散々期待させやがって」みたいな恨み言は、やめた方がいいと思います
それよりも、監督に背信行為をして負けた、オリンピック・サッカー代表の方を、責めるべきです

野球部がなくなってから、七海は荒れまくりです
でも今日、変化が起きます
4004投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時05分29秒
3997さん
そうですよね
そういう意味で、盛り上がることもあるんですよね
クライマックスシリーズの功罪は、いろいろあるのだと思います

3998さん
つまり、阪神や巨人と、随分離されてしまっているので、クライマックス・シリーズは辞退するべきでは…と、私は思うのです
巨人や阪神のファンは、気が気でないし、首位攻防戦も、イマイチ熱くなれないんじゃないでしょうか?
これが、クライマックスシリーズの罪の部分だと思います

4000さん
ダーさんは、学校の出来事なんて、本当に興味ないのでしょうね
でも、もう4000ですか…
早いですね

では、更新します
4005投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時10分33秒
「しょこたん、おる?」
七海は、保健室に寄る。
そこに、カバンやら私物を置いている。
今日、七海は徹底的に教室から隔離されたのだ。
「はい、いるわよ」
何やら生徒名簿に記録を書き込んでいる翔子は、顔を上げて七海を見た。
「礼拝堂の掃除、終わったから、ウチ、もう帰ってええんやろ?」
「うん…。いいけど…ちょっと、ケガの具合、見せてよ」
「ええよ、こんなもん…。それより、チビアリの方が酷いケガやないの?ソッチの方、見たれや」
4006投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時10分47秒
しかし、翔子は困った様な笑顔を浮かべる。
「う〜ん…。だって、ありりん、絶対に私の世話にはならないって…言うもんだから…」
「…?何で?」
「ギザ嫌われたみたい…」
「ま、チビアリは、自分とサムガー以外はみんな嫌いやからな…」
「サムガー?誰?」
「ああ…ごめん。高等部の村田ちひろや…。有名人やから、知っとるやろ?」
「ちひろ…?ああ、あの剣道の…!!ギザカッコよすだよねぇ〜!!あの子…!!」
翔子は、目を輝かせてはしゃぎまわった。
「最近、あの子、見てないけど…?」
「ん?知らへんの?あいつ、肩書きは『剣道家』やで?学校の授業はそっちのけで、日本中を剣道の試合と合宿で飛び回っとるわ」
「いつ頃まで?」
「ん…?たしか…冬休みくらいには帰ってくるんとちゃう?」
何故翔子が、ちひろの動向を気にしているのか、七海は少し疑問に思った。
4007投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時11分14秒
「ふ〜ん…。剣道一筋か…。いいねぇ…打ち込めるものがあってさ…」
翔子の言葉を聞いて、七海は途端に不機嫌になる。
七海は…その打ち込めるものを、突然に、理不尽に取り上げられたからだ。
「じゃ…ウチは、これで帰るから…」
カバンを肩に突っ掛け、七海は保健室を出た。
「あ…ななみん、待って…」
「あん?」
七海は、保健室のドアの隙間から、顔を覗かせる。
「最近…あい〜んや、あみ〜ごと話してる?」
「…ううん…」
「そう…。あい〜んは、まだ友達っていうか…ソフトボール部の仲間がいるからいいけど…。あみ〜ごは…」
「そんなん、ウチは知らんよ…。ウチ、一木さんの保護者やないもん…」
七海は、吐き捨てる様に言った。
「保護者じゃない…?今まで何かと気に掛けてきたんじゃないの?」
「もう、ええやん…!!一木さんかて、いつまでもウチに守ってもらわなあかん様じゃ、先が思いやられるわ…!!」
「そうじゃなくて…」
翔子は、溜息混じりに言う。
「あみ〜ご…最近、友達関係、変わったみたいだからさ…」
「あん…?」
七海は、翔子の言葉が気になった。
4008投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時11分47秒
「変わった…?どういうこと…?」
「やっぱり…気が付いてなかったんだね…」
翔子はそう言って呆れた。
確かに、ここ2、3週間、七海は教室内のことには無関心だったし、学級委員の仕事も再び有海に任せっきりだった。
それでも、有海がいじめられた、という話しは聞かなかったので、別段気にしてなかったのだが…。
4009投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時12分37秒
「まあ、あみ〜ごも、いつまでもななみんの世話になってないってことよ。それはそれで、良い事じゃないの?」
「うん…。まあな…」
どうにも、歯切れの悪い返事をする七海。
自分が一方的に友達関係を断っておきながら、複雑な心境だ。
やはり、またどこかで野球部のみんなと、一緒に打ち込めるものを探したい…と、欲しているのだろうか…?
(ま、ええわ…。ウチには帆乃香がおるし…)
七海は、無理矢理にも自分を納得させた。
「ほんじゃ…ウチはもう、帰るよ…」
七海は、そのまま翔子の方を振り向くことなく、昇降口へと歩いていった。
翔子は、七海が遥か遠くに行ってしまったと確認してから、ふっと微笑んで呟いた。
「ななみん…あみ〜ごとあい〜んの変化に気が付いてないか…。ありりんも、他の探偵も…」
そして、窓際まで歩くと、ブラインドを少し開けた。
そこから窺える校庭では、中村有沙がジャージ姿で今帰ろうとしている所だった。
「ありりん…」
翔子は、うっとりとした目で中村有沙の後姿を眺めた。
「ありりん…。ありりんだけは…死んで欲しくない…。絶対に…」
翔子の目に、涙が光った。
4010投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時13分00秒
七海は、中等部の校門ではなく、初等部の敷地内へ向かう。
帆乃香と待ち合わせをしているからだ。
中村有沙とキャットファイトを繰り広げた場所のベンチに、帆乃香は腰掛けて待っていた。
「帆乃香、お待たせ」
「あ、ななみん…!遅い!!」
嬉しそうに…それでも頬を膨らませて、帆乃香は七海に駆け寄った。
「ごめんな、礼拝堂の掃除をしてたんよ…。ごっつステンドグラスあんねん…」
「ななみん…。コレ…」
「…?」
帆乃香の差し出した手には、紺と金の刺繍の、聖テレジアの盾形エンブレムが握られていた。
「ありりんとケンカしてた時、引き千切られたんよ。はい、返すわ」
しかし、七海は首を横に振る。
「ううん…。これは、帆乃香にあげるわ…。破れた制服は、また新しいの買うし…」
「ほんま?嬉しい!!うち、これ宝物にするわ!!」
そう言いながら、帆乃香は、そのエンブレムを胸に抱き締めた。
4011投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時13分43秒
七海と帆乃香は肩を並べて、初等部校門へ向かう。
もう、殆どの初等部の生徒達は帰ってしまった様で、周りには人影はなかった。
だからこそ、七海に見えたのだ。
初等部の校舎の裏へと向かう一団が…。
「あ…あれ…」
七海は、足を止めた。
その一団は…6人…。
その中の一人は…一木有海だった。
そして、残りの5人は…その有海をいじめている、あのグループの者達…。
「…な、何で…?」
もう既に校舎の陰に隠れてしまった有海達の方を、見詰め続ける七海。
あの有海といじめグループが…何故、初等部に…?
あの方向には、初等部と一緒になった体育館、そして屋内プール、そして校内図書館がある。
人目につかない所である…。
有海は、まだいじめられている…?
自分が気が付かなかっただけ…?
七海は、急に胸が締め付けられた。
4012投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時14分13秒
「どないしたん?ななみん?」
帆乃香は、七海の顔を覗き込む。
「…ん?」
「あっちの方向…。何かあった?」
「ううん。何でもあらへん。はよ、帰ろ。帰宅ラッシュに巻き込まれたら敵わん」
「そやね。エロオヤジに痴漢されたら敵わんもん」
「痴漢?帆乃香、どの口が言うとん!?」
七海は、帆乃香を追い駆けた。
帆乃香はケラケラと笑いながら、校門を抜ける。
七海は、そのまま帰路に着くことにした。
今、見かけた有海の姿を、見て見ぬ振りをする…。
もう、有海とは仲間ではないのだ…。
もし、今、あのグループの者達にいじめられるのだとしても…それは、有海の問題…。
有海一人で、解決しなければならない問題だ…。
様々な複雑な気持ちを押さえ込み、七海は帆乃香と学校脇の街路樹の散歩道を歩く。
4013投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時15分03秒
しかし、七海は、はたと足を止める。
「…?ななみん?」
帆乃香の声が、聞こえない。
有海は…野球を通じて強くなった…。
あの、自信なさげで気の弱かった、有海…。
自分に非がなくても、先に謝ることでしか自分を守れなかった有海…。
でも、野球部に入ってから、確実に変わり始めていた…。
今、自分は野球部がなくなって自暴自棄になっているが…一番、辛いのは、有海なのではないのか?
自分を強くしてくれた…いや、これからも強くしてくれる野球部がなくなって…一番悲しいのは…不安なのは…有海なのではないのか?
そして、その有海が今…野球部という拠り所を失くした有海が…あの卑劣な5人組の餌食にされようとしている…。
いや、され続けてきたのかもしれない…!!
4014投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時15分21秒
七海は、ポツリと呟く。
「やっぱり…あかん…」
「あかん?何が?」
「ウチ…最低や…」
「…は?最低って…?何が…?」
「ごめん!!帆乃香!!今日は…一人で帰って!!」
「…え!?な、何で!?」
帆乃香は、泣き出しそうな声をあげる。
「よ、用事を思い出したんよ…!!」
そう…大事な用事…!!
七海は、聖テレの校門に向かって走り出した。
4015投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時15分42秒
(ごめん!!ごめん!!ごめん!!一木さん!!)
七海は、息を切らして初等部校舎へ向かう。
有海とあの5人組が向かった、校舎の裏へ…。
涙が込み上げてきた。
(ウチは…自分のことばっかり…!!)
足がもつれて転びそうになる。
気が焦ってきているのが、自分でもわかる。
(辛いのは…ウチだけやないのに…!!)
永遠の妹…それは、ただただ、甘えるだけ…迷惑をかけるだけ…。
(約束したのに…!!一木さんを守るって…!!約束したのに…!!)
遂に、こぼれ落ちてきた涙を拭う。
(友達やのに…!!ウチら…戦友やったのに…!!一緒に戦ってあげへんかった…!!)
これから、有海をあの5人組から救ったら…一緒にソフトボール部の応援に行こう…。
そして…一緒にソフトボール部に入れてもらおう…。
今度こそ、戦友に…いや、親友になろう…!!
4016投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時16分27秒
初等部と中等部が合同で使っている体育館に辿り着く。
2階建ての体育館…1階は初等部、2階は中等部が使っている。
2階からは、バスケットボールの弾む音が聞こえてくる。
あの、5人のいじめグループは全員元バスケットボール部だ。
春の段階から幽霊部員となり、今は完全に辞めてしまっている。
あの5人組がそのバスケ部に近づくとは思えない。
1階では、バレー部が…そして、ネットを挟んで体操部が使っている。
その隣にある第3アリーナでは、卓球部…。
全てのアリーナは、部活が使用している。
体育館に向かったとは思えない。
校内図書館か、それとも初等部屋内プールか…?
図書館には、常に司書がいる。
屋内プールには、この季節、誰も使っていないハズだ。
勿論温水プールで、一年を通じて使用することはできるのだが、初等部1年や2年といった低学年が使う底の浅いプールもある為、部活には使えない。
いじめの場所に選ぶのなら、屋内プールが最適だろう。
七海は、屋内プールの重い入り口を押して開ける。
しんと静まり返った、暗い廊下…。
シャワー室の方から、水の流れる音が聞こえる。
そして…「キャハハハ」という、数人の笑い声…。
悪意の篭った笑い声だ…!!
今、有海は何をされているのだろう…?
4017投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時16分56秒
「い、一木さん!!」
七海は、駆け出した。
あの下品な笑い声に、近づいていく…。
シャワー室のドアを、勢いよく開ける。
七海の足下に…聖テレの白いセーラー服が…脱ぎ散らかされている…。
そして…下着も…。
「…!?」
床が濡れている…。
タイルで覆われたシャワー室の片隅に、靴と靴下を脱いだ、裸足の少女が5人、背中を向けて群れていた。
皆は、掃除用のホースやデッキブラシを手にしている。
「ほらほら…!!こっち、顔向けろよ!!」
「臭ぇんだよ!!おまえ!!」
「洗ってやるから、じっとしてろ!!」
「なあ、このクレンザー、振り掛けてやろうぜ?」
「キャハハ!!それ、いいねぇ!!」
彼女らの足の隙間から、濡れた素肌が見える…。
それは、小刻みに震えている…。
この11月の寒さの中、裸にされ、ホースで水を掛けられ、ブラシで擦られている…。
「一木さん!!」
七海は、悲痛な叫び声をあげた。
4018投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時17分21秒
「…!?」
彼女等は、一斉に七海の方を振り返った。
「…え?」
驚きの声をあげたのは、七海も同じだった。
その、少女達の中に…有海がいたのだ。
「…ふ…藤本…さん…?」
有海は、目を丸く見開き、七海を呆然と見詰めている。
「…い…一木…さん…?」
いじめられていたのは、有海ではなかった…?
いや…それどころか…そのいじめグループの中に、有海がいる…?
しかし…いじめグループは、有海を入れて5人なのだ…。
いつものいじめグループの中に…誰かいない…?
「…ま…まさか…」
七海は、シャワー室の隅で、顔を覆って、全裸で震えている少女に近づく…。
その泣いている少女は…いじめグループの…リーダーだった…。
4019投稿者:リリー  投稿日:2008年09月24日(水)21時17分58秒
今日は、これでおちます
4020投稿者:117  投稿日:2008年09月24日(水)21時20分06秒
しょこたんがちひろの動向を?ちひろ再登場もあるのでしょうか?
有海がまさかの形勢逆転!この後の展開も気になります!
4021投稿者:出た―!!いじめのローテーション  投稿日:2008年09月24日(水)21時20分53秒
リアルすぎて怖い……。

でも有海が仲間にした他のメンバーも許すとは思えないけど……。
4022投稿者:へー、リアルなんですかこれ  投稿日:2008年09月24日(水)22時46分32秒
女のドロドロした部分はよくわかりません
トロトロした部分もよくわかりません
4023投稿者: 投稿日:2008年09月24日(水)23時07分27秒
あんたのコメントも、よくわからん
4024投稿者:あげ  投稿日:2008年09月25日(木)18時16分48秒
 
4025投稿者: 投稿日:2008年09月25日(木)18時36分07秒
あげ〜
4026投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時42分47秒
117さん
もちろん、ちひろは登場しますよ
でも、まだまだ先です
冬休み…という伏線がありますので…

4021さん
こういう、大逆転という現象は珍しいかもしれませんが、いじめっていうのは、狭い身内でグルグル回してるって印象があります
このグループの顛末は、今後を見てもらいたいと思います

4022さん
ドロドロしてるのは、女だけではないと思います
トロトロしているのは、女の方が多いと思いますが

あげ、ありがとうございます

では、更新します
4027投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時44分17秒
「…な…何で…?」
七海は…驚愕の表情で、グループのリーダー…いや、元リーダーを眺める。
「ひ…ひ…ひ…ひ…」
元リーダーは、引きつけを起こしたかのように、泣いている。
身体を両手両足で固く閉ざし、七海に対して助けを乞うような目を向けている…。
寒いのか、悲しいのか…両の鼻の穴からは、鼻水が長く垂れ下がっている。
「うわ…!!汚ぇ!!こいつ、鼻水垂らしてやがる…!!」
「洗え、洗え!!洗い落とせ!!」
ホースを持っている少女は、元リーダーの顔面に水を浴びせかけた。
そして、他の少女がデッキブラシを顔に突き付けた。
「ひぃぃ…!!や、やめてぇ…!!」
元リーダーは、悲鳴をあげる。
「ほらほら、もっとキレイにしましょうね〜〜〜」
クレンザーの白い粉が、振り掛けられた。
髪の毛が真っ白に染まる。
「な…何やの…?これ…」
七海は、泣き叫ぶ元リーダーと、今だに呆けた表情で佇む有海の顔を、交互に見詰めた。
4028投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時44分36秒
「…なぁ…。一木さん…。何やの…?これ…」
七海の小さな疑問の声は、いじめグループの少女達の嘲笑に掻き消された。
有海は、困った様な…いや、悲しそうな顔を…伏せた。
ワケがわからない…。
今、裸にされ、冷水を浴びせられている少女は…いじめグループのリーダー格だったはずだ…。
一番、力を持っていたはずだ…。
一番、立場が上だったはずだ…。
それが…何なのだ…?この彼女の置かれた状況は…?
いつの間に、こんな立場の大逆転が…行われたのだ…?
「ほらほら!!身体も見せろよ!!」
「洗ってやるからさ!!」
いじめグループの少女達は、デッキブラシで元リーダーの手足を押さえつけた。
元リーダーは、冷たいタイルの上に仰向けにされ、その裸を晒した。
「ギャハハ!!こいつ、こんなに毛深かったんだ!!」
「ほら、ここにも振りかけろ!!」
黒々とした陰毛の上に、クレンザーの白い粉が掛けられた。
そして、その上を容赦なくデッキブラシが押し付けられ、擦られる。
「やめて!!やめてぇ〜〜〜!!痛い!!お願いだから…お願いだから、やめて!!」
元リーダーの悲鳴が、七海の身体を突き動かした。
4029投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時44分56秒
「やめい!!オノレ等、やめんか〜〜〜!!!ゴルアアア!!」
七海は、自分の身体が濡れる事も構わず、元リーダーといじめグループの間に割って入った。
「何やっとんのじゃ!!おい、コラ!!一木ぃ!!」
七海の怒鳴り声に、有海はビクンと肩を揺らした。
「………」
有海は、何も答えない。
「おい…。オノレ…何してんねん…」
今度は低く呻く、七海の声…。
「………」
有海は、まともに七海の顔を見ることができない。
「まさか…オノレ…いじめる側にまわったんやないやろな…?え…?おい…。ウソやろ…?なぁ…」
有海は、下を向いたままだ。
「いじめられる辛さを…一番わかってたはずや…。自分は傷つけられても…人を傷つけるなんて…できひん子やったはずや…!!」
有海は、ますます顔を伏せる。
「なぁ…一木さん…!!ウソやろ?…ウソって言ってぇな…」
七海の目から、涙がこぼれた。
「うわ…!!何?七海のヤツ、泣いてるよ…」
他のいじめグループの少女達は、クスクスと笑った。
「じゃかぁしい…!!!オノレ等は、黙っとれぇ!!!」
七海の一喝に、少女達は一瞬で口を閉ざした。
4030投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時45分20秒
その時、七海の足首を、冷たい手が握った。
全身ずぶ濡れになり、ガタガタと震えている、元リーダーだ。
「た、た、たすけて…。たすけて…七海…」
「………」
七海は、複雑な気持ちで彼女を見下ろす。
今まで、彼女のことは気に食わなかった。
しばき倒してやろうと思ったことは、一度や二度ではない。
今の状況も、自業自得だと言うこともできる。
しかし…これは、あまりにも酷すぎる…。
それに…何で、有海がこの醜悪極まりないいじめグループに入っているのだ?
彼女に、何があったというのだ?
「なぁ…。一木さん…。こんなことして…楽しいんか?こんなこと…野球よりおもろいんか?」
七海は、いまだに押し黙っている有海の肩を力強く掴んだ。
有海の細い身体は、それだけで折れてしまいそうだ。
「…痛いよ…。藤本さん…」
ようやく有海は、口を開いた。
七海は、思わず手を離した。
4031投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時46分00秒
「………楽しくなんか…ないよ…」
相変わらず、七海の目を見ることはないが、有海は自分の気持ちを口にした。
「せ、せやったら…何で…?」
「…楽しくないけど………安心はできる…」
「…へ…?」
「いじめられるより………いじめてる方が………安心はできる………」
有海の…信じられない言葉…。
「………これは………正当防衛ってやつなんだよ………」
「…!!」
七海の頭に、血が昇った。
「な、何、眠たいこと抜かしとんじゃ!!オノレのやっとることは、最低のことやねんぞ!?自分が安心したい為に、他人を…」
「藤本さんに…そんなこと言われる筋合いはない!!」
「…!?」
思いがけぬ有海の反論に、七海は言葉を失った。
4032投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時46分29秒
「藤本さんが言ったんじゃない!!いじめられる方にも原因はあるって…!!強くならなきゃいけないって…!!」
確かに…4月当初…七海は有海に、そう言ったが…。
「た、確かに言うたよ!!せ、せやけど、あれは、こういう意味やのうて…」
「こういう意味だよ!!」
有海の声の方が、大きくなった。
「いじめられない様に…強くなる方法なんて…これ以外にないんだよ…!!」
「で、でも…一木さん、野球部に入ってから強うなったよ!!こないなことせんでも、強くなったよ!!」
「なってない!!野球をやってたからって何?確かに先生や藤本さん、部のみんなには認められたけど…それは嬉しかったけど…だからって、いじめが止んだことはなかったもん!!」
確かに…有海が人から認められ、尊重されるのは野球部限定だった…。
「偉そうに言わないで!!」
「…な、何やて…?」
「私に…どんなことが起ったか…どんな目に遭ったか…何も知らないくせに…!!」
「せ、せやったら…な、何で、ウチに話して…」
「話す!?藤本さんに!?教室では眠りっぱなし!!休み時間になったら、どこかへ行っちゃう!!私に話しかけようともしないで…!!どうやって、相談するの!?」
「…う…」
七海は、何も言い返せない…。
「私は…自分の身を守っただけ…!!やらなきゃ、やられてた…!!私は…悪くない!!」
いつに間にか…七海は有海に圧倒されていた。
有海はたった一人で…孤独に…クラスの悪意と戦い続け…そして、こういう『答え』を導き出したのだ…。
おそらく…安易に出した答えではない…。
苦しみ、苦しみ、苦しみ抜いて…出さざるを得なかった…答えなのだ…。
4033投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時46分53秒
「ほら、聞いただろ?七海、おまえは邪魔なんだよ!!」
「今は、私達が友達なんだ!!」
「おまえは、初等部のガキとイチャイチャしてりゃいいんだよ!!」
イジメグループの者達は、口々に野次を飛ばした。
「さ、こんなヤツは放っておこう!!あみ〜ご」
グループの中の一人が、そう言った時…七海の中の、何かが切れた。
「…あみ〜ご…?誰や…?」
有海も、グループの少女達も、七海の殺気を感じた。
「誰や?今、あみ〜ご、言うたんは…」
あみ〜ご…これは、野球部での、有海の呼び名だ…。
戦友の…親友の…証しだったはずだ…。
何故、彼女等ごときが、その呼び名を使うのか…?
「オノレ等が、あみ〜ご、言うなぁぁぁ〜〜〜!!!ゴルァァァ!!!」
顔も…目も真っ赤にして…七海は吠えた。
「…ひぃ…!!」
いじめグループの少女達は、思わず一歩引き下がった。
だが、有海だけは怯まない。
しっかりと真っ直ぐ、七海を見据えて、こう言った。
「藤本さんは…一度もあみ〜ごって…呼んでくれたこと、なかったね…」
4034投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時47分20秒
「………!!」
七海は、頭を殴られたかのような…目眩を起こした。
気が遠くなる…。
もう、これ以上、ここにはいられない…。
有海の顔を、見ることができない…。
七海は、何も言わずゆっくりと踵を返すと、ふらついた足取りでシャワー室の出入り口へ向かう。
「な、七海…!!待って!!待ってよぉ…!!行かないで!!お願い!!行かないでぇ!!」
元リーダーの泣き声も、七海には届かない。
涙も出ない…。
早く…この狂った現場から、立ち去りたかった。
「ほら!!おめぇ、何勝手に喋ってんだよ!!」
「おめぇなんか、助けてくれるヤツ、いるかよ!!」
「散々、私達をコキ使いやがって!!」
「私の陰口…あることないこと、言いふらしやがって!!」
また、いじめグループの少女の口汚い罵りが聞こえてきた。
もしかしたら…この中に、有海の声も加わるのだろうか…?
(き…聞きとうない…!!)
七海は、一気に駆け出した。
身体をぶつけながら、屋内プールのドアを開ける。
そこで…ようやく七海は呼吸をすることができた…。
4035投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時47分53秒
シャワー室では、まだまだ少女達の残酷な狂宴が続く。
「さあ、あみ〜ごも、やってやんなよ!!」
有海は、デッキブラシを渡された。
「あみ〜ごが、一番コイツに恨みあるでしょ?」
「そうそう、散々いじめられたもんね、あみ〜ご!!」
醜い笑顔達が、有海を取り囲む。
有海は、じっと元リーダーの顔を見下ろす。
「…あ…あ…有海…。お、お願い…許して…。お、お、お願いします…」
涙とよだれと鼻水でグシャグシャになった元リーダの顔を、有海は、ただただ見下ろす。
そして有海は、デッキブラシを高く振り上げた。
「…え…?」
いじめグループの者達の顔から、笑顔が消える。
「…ひぃぃ…!!」
元リーダーは、頭を抱えた。
有海は、くるりと身体を返すと、デッキブラシをタイルの壁に、思いっきり投げつけた。
デッキブラシの叩きつけられた音が、シャワー室に響いた。
皆は、何も言えずに有海を見詰めた。
4036投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時48分14秒
有海は、彼女等の顔を見ることなく呟いた。
「いじめられた恨み…?だったら…私は、あなた達にもあるよ…」
「…!!」
彼女達は、言葉を失った。
「私は…もう…帰る…」
有海も、力ない足取りで出口へ向かう。
「か、帰るの…?」
「も、もう少し遊ぼうよ!!あみ〜ご…!!」
声をかけられた有海は、深い溜息をつき、やはり彼女等の顔を見ずに言う。
「私を、あみ〜ごって呼ばないで…」
有海は、小さく呟いた。
「何?」
はっきり聞こえなかった為、いじめグループの少女達は耳を傾けた。
4037投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時48分32秒
しかし、有海は違う言葉を、今度ははっきりと伝える。
「あなた達…あんまり調子に乗らない方がいいよ…?」
「…え…?」
いじめグループの者達は、その有海の言葉に戸惑う。
「私の気分次第で…明日は誰がいじめられるか…わかんないから…」
「えぇ…!?」
彼女達は、蒼白になった顔を見合わせた。
「ほんと…あなた達って…救えない…」
有海は、自分の靴下と靴を拾い上げ、そのままシャワー室を出る。
そして、屋内プールのドアを開ける。
遥か先、先に出た七海の後姿が小さく見える。
淋しげに、背中が小さく丸まっている…。
「…救えないのは…私の方だよ…」
有海はその場にしゃがみ込み、顔を覆って嗚咽を漏らした。

(『五回・表』・・・終了)
4038投稿者:リリー  投稿日:2008年09月25日(木)20時50分01秒
今日は、これでおちます
4039投稿者:あげ  投稿日:2008年09月25日(木)21時01分47秒

4040投稿者: 投稿日:2008年09月25日(木)21時31分10秒

4041投稿者:117  投稿日:2008年09月25日(木)21時54分12秒
「いじめなきゃ、いじめられる」・・・いじめの連鎖とでもいいましょうか?
よく「中学生日記」などでも取り上げられていたような深い内容ですね。
自分をいじめたリーダーへの報復と、どうしょうもない自分の気持ちの間で揺れ動く有海・・・
デッキブラシを壁に打ちつける光景・・・有海の気持ちが痛々しいほど伝わりました。
4042投稿者:いじめられる方も  投稿日:2008年09月25日(木)23時57分34秒
いじめる方も地獄
それが、いじめ
4043投稿者:あげ  投稿日:2008年09月26日(金)21時52分58秒

4044投稿者:いじめなければいじめられる  投稿日:2008年09月26日(金)21時55分04秒
殺さなければ殺される

あめぞうでいじめとバトロワものが受ける理由ってそんなところもあるのかな?
4045投稿者:更新まだ?  投稿日:2008年09月26日(金)22時49分35秒

4046投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時04分37秒
4045さん
すみません
遅くなりました
急に行かなければならない所ができまして…
少し、遅いですが、更新します

117さん
この復讐は、楠本さんからの宿題ですからね
しかし、これで潰れてしまえば、とてもじゃないけど『TDD』の一員は勤まらない…
有海も、難しい立場です

4042さん
まさに、いじめの怖さはそこですね

4044さん
こういう、突然に、強引に二者択一を迫られるという状況は、不幸だと思います
いじめも、バトロアもそういう二者択一の連続なんですよね

では、更新します
4047投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時05分52秒
『五回・裏』

≪2007年11/2(金)≫
七海は、薄汚れた安っぽいドアを何度も叩いた。
すぐに、そのドアが開かれる。
恐る恐る、怪訝な顔をドアの隙間から出したのは、鍋本帆乃香だった。
「ななみん…?」
「ほ…帆乃香…。ウチ…来てもうた…」
「ど…どうしたん…?」
有海を助け出す為に、一人で帆乃香を帰したが…実は有海がいじめグループに入り、今までそのグループのリーダーだった少女をいじめていた…。
その原因をつくったのは、七海でもある。
心が不安定になった七海は、1分、1秒でも早く、唯一の友人、帆乃香の顔を見たかった。
その為、小蓮田市にある帆乃香のアパートまで来たのだ。
「ねぇ…。あがっても…ええ…?」
「う…うん…でも…」
帆乃香は、少し困った様な顔になり、部屋の奥へ視線を向けた。
「ええよ、ええよ…。あがってもらい」
寛平の声が聞こえてきた。
「あ…。寛平さん…?」
今はもう、午後6時…。
今日は天歳駅まで仕事に行かないのだろうか?
4048投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時06分31秒
「お…お邪魔します…」
七海は、遠慮がちに部屋にあがる。
夕飯の、いい匂いが漂っている。
狭い卓袱台に、炊き込みご飯と豚汁、さんまの塩焼きが乗っていた。
「たしか、さんまがもう1匹くらいあったな…。帆乃香、ななみんの分も焼いてあげ」
「うん」
帆乃香は、食事を中断して、台所に立つ。
4049投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時07分00秒
「あ…おかまいなく…」
「ええから、ええから…。遠慮せんで、ななみん」
「あ、ありがとうございます…」
七海は、畳に額が着くほど頭を下げた。
「ん?何や?今日のななみんは、大人しいなぁ…」
寛平は、そう言って笑うと、コップのビールを飲み干した。
こんなのんびりとした老人が、帆乃香を誘拐したという…。
「あの…今日は、お仕事じゃ…?」
「ん?ああ…。今日は休みや…。でも、遊んでたわけやないで?」
寛平は、七海に電子ジャーの中の炊き込みご飯をよそう。
「この中のキノコ…採ってきたんや…」
「キノコ?」
「上下峠で」
「上下峠?」
上下峠…1年前、裏の世界から解放された土地だ…。
4050投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時07分35秒

「ん?上下峠がどうかしたん?」
「あ…い、いや…で、でも…山に生えてるキノコ、勝手に採ってきて…もし、毒キノコやったら、ヤバない?」
「ん…?まあ、もしワライダケが交じっとったとしても、笑いながら死ねたら本望やね」
「ウチは…無理矢理笑うて死んでも…」
「無理矢理でも、笑うたらええねん。暗く落ち込みながら死ぬよりかな…」
そう言いながら、寛平は手酌でビールを注ぐ。
寛平は…いつか、七海達の聖テレ野球部が崩壊すると、占った。
そして、梨生奈が夏に裏切られて傷つくとも…。
どちらも的中した…。
今、その寛平がいる…。
「カ、カンペーさん…!!」
七海は、畳の上に手を着いた。
4051投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時07分58秒
「な、何や?」
寛平も、胡坐から即座に正座した。
「あ、あの…占って欲しいことがあんねんけど…」
「占い?」
「これから…ウチ…どうしたらええのか…」
「うん?」
「どうしたらええのか…教えて下さい!!」
寛平は、困った様に顎をさする。
「う〜ん…何や、占い言うよりも、人生相談みたいやなぁ…」
「お金は…払います…」
「ええよ、ええよ!!お金なんて…」
そして、膝をピシャリと打つ。
「よし!!教えたるわ。まずは…」
「ま、まず…?」
「夕飯…腹いっぱい食べなさい」
帆乃香が、焼けたさんまを運んできた。
4052投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時08分38秒
遠慮がちに…それでも3杯おかわりした七海は、改めて寛平に対して正座する。
寛平は、例の如くタロットカードをトランプの様に切り始めた。
「せやけど…どういう心境の変化や?確か、ななみんは占いは信じんとか、言うとったやろ?未来は、自分で切り開くもんやって…」
七海は、恥ずかしそうにうつむいた。
「ウチ…あの頃より…弱なったんよ…」
しかし、寛平は首を横に振った。
「弱なったんやない…。大人になったんや…」
「お、大人に…?」
寛平は、黙って頷く。
「大人になると…弱なるの…?」
「弱なるとはちゃうな…。『怖いもん』を知るんや…」
「『怖いもん』を…知る?」
「『怖いもん知らず』って言葉あるやん?あれ、言い方を変えれば『世間知らず』ってことやからな…」
「世間知らず…」
「つまり『怖いもん』を知って、その上にその『怖いもん』に挑むのが…『強い』ってことや…。大怪我した、り〜な…強うなったんやないの?」
『怖いもの』に挑む…?
梨生奈は、夏、モニークに挑んだ…。羅夢も…。
自分にとっては…楠本…そして…加藤夏希…。
あの有海も…『怖さ』を感じながらも、挑んでいった…。
しかし、あれは『強さ』ではない…!!
4053投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時08分58秒
「ま、ええわ…。でも、ななみんの聞いてること、範囲が広すぎてちょっと解り辛いわ。もっと、具体的に言ってくれへん?」
「え…?う…うん…」
とは言っても…どこまで具体的に言えばいいのか…。
探偵としての話しもしなければならないし…。
「お爺ちゃん、ななみん、困ってるやん…。何でもええから、占ってあげればええやんか」
帆乃香の言葉に、寛平は首を横に振る。
「いい加減な占いはできん…。いい加減な結果しか出んくなって…結局、ななみんの為にはならん…」
しばらく、七海は悩んだが、やがて意を決した様に口を開いた。
「ウチ…今…ダメ人間なんよ…」
「は…?」
寛平は、ポカンと口を開けた。
「そんな…!!ななみんは、ダメなんかやないよ!!」
そう叫ぶ帆乃香の口を塞いで、寛平はもう一度聞く。
「で…何やって?」
「せやから…もし、ウチがこのままの人生…言うか、生活を続けてたら…どうなるの…?」
「ん…?ん…?ん…?」
寛平は、天井を見詰め、考え込む。
そして、視線を七海まで下ろし、無表情で答える。
「ええよ。占ったる…」
4054投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時10分13秒
七海の選んだカードを、寛平は表に向ける。
そのカードは…道化師の様な男が肩に荷物を担ぎ、足下に犬が付き従っている絵柄…Le・Mat …と書かれた『愚者』のカードだった。
しかも…逆向き…。
「こ、これは…?」
「『愚者』…。愚かもんってカードや…」
「お…愚かもん…?」
「うん…。無計画…無鉄砲…成長なし…。ま、お先真っ暗…てヤツやな…」
「はは…。まさに…『愚かもん』やな…。ウチにピッタリやん…」
七海は、力なく笑った。
「せやけどな、このカード、正位置やったら、結構ええ意味のカードなんやで?」
「…え?」
「何のしがらみもなく、勝手気ままに人生を謳歌する…」
「勝手きまま…?」
それも、今の七海を象徴している…。
「とにかく…今のままでは…ウチはアホな人生を送るってことやな…」
七海は、溜息をついて逆向きの『愚者』のカードを見詰めた。
4055投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時10分34秒
「ななみん…これはちょっと…厄介なカードやで…」
寛平は、相変わらず無表情で七海を見詰める。
「厄介…?」
七海は、眉を寄せる。
「お先真っ暗になるんは、ななみんだけやないんよ…」
「…え?」
「あんたの周りにいる人も…巻き添えを喰らう…」
「ま、巻き添え…?」
「うん…。せやから、『愚かもん』なんよ…。『愚かもん』は、被害を自分だけで塞き止められん…」
あの有海の変化…あれも、自分の愚かな行為の巻き添えだとでもいうのか…?
「ど、どうしたらええの…?ウチは、どうしたら…?」
青い顔で、寛平に詰め寄る七海…。
寛平は、カードの絵の、犬を指差す。
「…?犬…?」
「うん。あんたに付きまとう犬がおる…。その犬を…近づけんことや…。その犬は…あんたを崖に誘い込み…突き落とす…!」
「犬…?犬って…誰…?」
「う〜ん…こればかりは、わからん…」
いつもそうだ…。
寛平の占いは、肝心なことがわからない。
4056投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時10分55秒
「せやけど…こうすれば、とりあえず助かる…。あんたも…周りの人も…」
寛平は、『愚者』のカードを正位置に戻す。
「…?」
「自由に…勝手気ままに…逃げるんよ…」
「逃げる?」
「うん。逃げる…。何も気にせず、全てを放り出して…逃げる…!!」
「逃げれば…ウチは…」
「うん。助かるよ…」
「周りの人間も…?」
「そう…周りの人間も…」
七海は、複雑な気持ちになった。
今ある問題から…困難から…逃げ出す…?
対立状態にある…『TDD』からも…?
それが、自分を助け、周りの人間も…有海も助ける…?
七海は、夕飯と占いの礼を言い、探偵社のある虹守町へと帰って行った。
4057投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時11分36秒
七海が帰った後、帆乃香は怖い目で寛平を睨んだ。
「お爺ちゃん…。ななみんに付きまとう犬て…うちのこと…?」
「ん?そうや…。帆乃香のことや…」
寛平は、二本目のビールを取りに、冷蔵庫のある台所に向かう。
「うちが…ななみんを…崖に突き落とすって…?」
「何や?帆乃香、自覚しとったんやないの?」
「…うん…。そうやけど…」
帆乃香は、顔を曇らせてうつむいた。
「わかってることを教えへんってのは…占い師として良心が痛むけど…ま、只やったしな…」
居間に戻った寛平は、親指の力だけで、王冠を開けた。
「その代わり…災難を避ける方法を、大サービスで教えたったんよ…」
そして、コップにビールを注ぐ。
「『敵に塩を送る』って…正しくこのことやで…」
寛平は、上唇に泡をつけて、コップのビールを飲み干した。
その時、『吉本新喜劇』のテーマソングが携帯電話から鳴った。
「ん?楠本君からや…」
4058投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)00時12分04秒
今日は、これでおちます
4059投稿者: 投稿日:2008年09月27日(土)00時56分34秒

4060投稿者:デジ  投稿日:2008年09月27日(土)05時28分19秒
久々です。学校が忙しくてぜんぜん来れません。
(日)帆乃香、テクニシャンですね。さあ、七海の心はこれからどうなるか?
(月)二人の友情はかなり深くなりましたね。そして、やはりこちらもすごいと思える存在感の無さ。でも、日向と影では合わんという意味なのか帆乃香とみのぽーって組み合わせが会わないと思うのは僕だけか?
(火)有沙七海を目覚めさせようと必死ですね。チームメートなだけに。(創立30年の聖テレジア女子学園で、取っ組み合いのケンカをし、更に教師を殴った生徒、第一号と第二号は、藤本七海と中村有沙…)何気に名誉なことをした気が(笑)。
(水)4000突破おめでとうございます。
帆乃香以外の「TDD」の人にも死んで欲しくない感情ってあるんですね。夏希には無いでしょうが。
「TDD」の方は「R&G」の人たちすべてを把握しているという意味でしょうか?確かに敵にとっては曲者ですしね。ちひろは。
そして、急転直下の展開。いつの間に、楠本さんの宿題を済ませたのか不明ですが復習するだけの課題のはずなのになぜ、いじめグループの中にいて、いじめる側になっているのか?
4061投稿者:デジ  投稿日:2008年09月27日(土)05時29分27秒
続きです。
(木)『TDD』によって、心が邪と化した有海。ただ、最後の立場は健気ですね。
『いじめられた恨み…?だったら…私は、あなた達にもあるよ…』そりゃそうですね。彼女らもいじめる側にいたのは事実ですからね。
(今日)ついに接触「TDD」。でも、この家庭は帆乃香が夕食作っているのか(笑)
怖いものを知ったという言葉これまた第一号と第二号が、藤本七海と中村有沙になりましたね。さて、「チームN」の両者が怖いものの存在を知ったことにもなりますね。
七海のカードは...「愚者」ですか。純粋さ/未成熟/
「ロマンス、無軌道、未知の人、無責任、愚行、無知、狂人、無限の可能性、0番の大アルカナ、風のエレメント」という意味らしいですが確かに意味は「崖の縁に立つ若者。彼は恐れない。生きるも死ぬも同じ運命。ならば足の向くまま気の向くまま、すべてを悟り、それを信じるものは自由になれる。愚か者と呼ばれることさえ彼は恐れない。」らしいですから、まあ、意味にせよカードにせよ当たりで片付けてよかとでしょうね。
付き纏う犬と出た帆乃香。親友になったのに、守ると誓ったのに逆らえない上(寛平さん)からの命令は、自分の有無に関わらず実行するしかない。
こちらの立場も難しいですね。
七海、有海、帆乃香の運命これからどうなる?
そして楠本さんの、電話の内容は?続きも楽しみです!
           
4062投稿者:あげ  投稿日:2008年09月27日(土)07時57分33秒

4063投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)13時50分20秒
今日も、出かけたら帰ってこれませんので、早いですけど更新します

デジさん
お久しぶりです
忙しい中、読みに来て頂き、ありがとうございます
有海の復讐は、一応完結しました
新しい課題が、楠本さんから出されます

帆乃香も、板ばさみの状態です
寛平さんの占いで、やはり自分は七海を『崖から突き落とす』存在と、釘を刺された状態でもあります

では、更新します
4064投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)13時50分46秒
上下峠の別荘地…。
ここに、一際目立つ白い洋館が、『TDD』のアジトだ。
山本組の組長、山本圭壱も、この洋館を仮住まいとしている。
その洋館の敷地内に、赤いフェラーリが入る。
運転席には楠本柊生…助手席には一木有海…。
楠本は有海を先に降ろすと、車から降りる前にボスである寛平に電話を掛けた。
「あ、ボス…。今、『ハイプリエスティス(女教皇)』をアジトに送りました。………はい。今日、新しい課題を出したいと思いますが…」
楠本は、まだ玄関の前で立って待っている有海の方へ視線を向けながら、少し声を潜めた。
「本当に…いいんですか…?その………『ハイプリエスティス』に………?」
寛平から何やら返事を貰った楠本は、深く頭を下げた。
「はい………はい………わかりました…。出すぎたことを………はい…。仰せのままに…」
電話を切った楠本は、溜息をついて車から降りた。
「ん?あみ〜ご…。どうしました?中に入ったらどうです?寒いでしょ?」
有海は、困惑した顔を楠本に向ける。
「だ、だって…」
「ああ…。山本組の組員さんが怖いんですね…。それは、すみませんでした…」
山本組というよりは…組長の山本に会いたくないのだ。
4065投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)13時51分15秒
二階の書斎に着くまで、有海は山本には会わなかった。
いや、楠本と一緒にいる為、山本の方から顔を出さなかったのだろう。
とにかく、赤いファイルと青いファイルの暗記、そして有海を陥れた者達への復讐に続き、新たな課題が有海に与えられることになる。
「その前に…その復讐の課題…。詳しい報告をお願いします」
有海は、たどたどしいが、何とか楠本に説明をした。
口にするのもおぞましい話しだったが…。
楠本は、黙って有海の報告を聞く。
「なるほど…。つまり…復讐をしたと言っても…最終的には、そのリーダーの少女だけ…ということですね…?」
「…ダ…ダメ…ですか…?」
有海は、心拍数が上がった。
もし、楠本がこの復讐を認めなければ、藍が山本の毒牙にかかってしまう…。
「あみ〜ご…」
「は…はい…」
じっと有海を見詰める、楠本…。
有海は、もう、生きている心地がしない。
「グッジョブです…。よくやりましたね…」
楠本は、笑顔で親指を出す。
4066投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)13時51分42秒
「…え…?」
有海は、拍子抜けしてしまった。
「リーダーに…つまり、集団の頭に標的を絞って叩くという作戦…一番、労力を使わず、尚且つ効果的な戦略なんですよ」
「そ、そうなんですか…?」
ただ単に、できるだけ人を傷つけたくなかった…という、消極的な考えから導き出した作戦だったのだが…。
楠本は、有海の復讐劇の総括を始める。
「先ずは、一番立場の弱い者から攻略していき、彼女等が犯罪を犯した…という事実を突いて、一人、また一人と仲間を増やす…」
そして、その後は、有海が何もしなくても勝手に彼女等が盛り上がった。
グループの者は、皆、あのリーダーの少女に不満を持っていたのだ。
今までリーダーが怖くて意見が言えなかったが、皆が同じ気持ちを持っていたということで、気が大きくなった。
つまり、これは有海の復讐の手を離れ、グループの者達によって完遂されたのだ。
見事な省エネ戦略だ…と、楠本は絶賛した。
「それに、次は誰がいじめられるかわからない…という恐怖感を、他の者達にも植えつけた…。これで、彼女達は精神的な安定を得ることなく、不安と猜疑心の中で生きていくことになる…」
楠本は、本当に楽しそうに、低い声で含み笑いをした。
「あなたは、完全に彼女達を支配したのです…」
そんな楠本に、有海はぞっとした。
「あなたは…本当に…天性の策士だ…。参謀として…私はおろか…『ジャッジメント(審判)』や『ハイエロファント(教皇)』をも超える逸材です!!」
悪魔の様な男に、そんな賛辞を送られても、有海は嬉しくなかった。
「あみ〜ご…。あなたは、きっと『TDD』をも支配する様になるでしょう…」
有海は…自分が恐ろしくなった…。
4067投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)13時53分31秒
「それでは…新しい課題です」
「は…はい…」
有海は、また新たな緊張感に包まれる。
「ええと…あの二つのファイル…持ってきましたか?」
「あ、はい…」
カバンから、有海は赤、青、二冊のファイルを取り出した。
「あみ〜ご…。このファイルには、何が書かれていると思いましたか?」
「お、おそらく…ある人物達の…強さとかプロフィール…ですか…?」
「その通りです」
楠本は、微笑んだ。
書類には、一枚一枚、腕力、瞬発力、判断力、俊敏性…20を超える項目が、数値で表記されていた。
そして、身体的特徴や性格など…。
「今から…あみ〜ごには、将棋をやってもらいます」
「しょ…将棋…?」
「はい。ご存知でしょ?」
有海は、首を横に振る。
「私…ルールとか…全然知りません…」
「そうですか?でも、あみ〜ごならすぐに覚えられますよ…。でも、あなたには将棋ではなく、将棋のようなものをやってもらいたいんです」
「将棋の…ようなもの…?」
有海は、楠本の言っている意味がわからない。
4068投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)13時53分59秒
楠本は、二冊のファイルを左右の手に持つと、有海の前に高く掲げた。
「いいですか?今から…この赤いファイルの『ア』〜『シ』の12と、青いファイルの『A』〜『O』の15を駒にして戦わせるんです」
「…え…?戦わせる?」
「そして…あみ〜ご…。あなたは、赤いファイルのチームを、必ず勝たせる…」
「…?…?…?」
いよいよ、有海はわけがわからなくなった。
「つまり、各数値を参考にして、シミュレーションを行ってもらうんです。この12対15の戦い…どんな組み合わせでも構いません」
「シミュレーション…?組み合わせ…?」
「別に、1対1にこだわることはありません。1対2とか、2対3とか…強さの違いや相性を考えて、1対5なんてのもいいでしょう…。この駒は使えない、と思ったら、使わなくても結構です」
「つ…つまり…どんな形であれ、赤のチームが勝てるように…組み合わせを考えればいいんですね?」
「そうです。赤のチームの、完全勝利を目指してください」
それならば、そんなに難しい課題ではない…。
数値を参考にすると…人数は少ないが、赤のチームの方が、青のチームの方より総合力は上だ。
しかも、赤のチームの『ア』の駒…。
ずば抜けた数値を示している…。
誰にぶつけても、何人ぶつけても勝つことができる…トランプで言うなら、ジョーカーの様な存在だ。
駒は全部使わなくてもいい、と言われたが、この『ア』の駒一つでも勝つことは可能かもしれない。
いや、だからこそ、使わない…後ろに控え、戦闘の大局を見守らせる…という選択もある。
その次に強力な駒『エ』、そして『ク』をフル活用する…という手もある。
4069投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)13時54分23秒
早速分析を始めた有海を、楠本は頼もしそうに見詰めた。
「あ…そうだ…!青のチームの、『A』、『C』、『G』、『K』、『O』は抹消してください」
「え…?抹消…?」
「使わなくて結構…。使えない駒ですから…」
ただでさえ、戦力的に劣っている青のチームから、5つも駒が減る…?
この中で『A』と『O』の二つは、戦闘力は皆無。
外しても戦局には影響はない。
『C』、『G』、『K』の3つの離脱は、青のチームにとって痛手だ。
特に…『C』の駒…。
青のチーム、最強の『B』に順ずる強さを誇っていたのに…。
これで、ますますこの課題の難易度は下がってしまった。
しかし…この課題に何の意味があるのか…。
「あ…あの…これは…一体…」
戸惑う有海を余所に、楠本は実にいい加減に、面倒くさそうに答える。
「いえいえ…ただ、あなたのシミュレーション能力を見極めたいだけですので…。あまり肩の力を入れずに取り掛かって下さい」
そして、最後にこう付け加えた。
「期日は…12月の15日です」
4070投稿者:リリー  投稿日:2008年09月27日(土)13時56分09秒
今日は短めですが、きりのいいところでおちます

4071投稿者:なるほどね  投稿日:2008年09月27日(土)23時47分52秒
TTK対TDDを駒にして、数値で力を再現して盤上で戦わせるわけか
AとOはレッドさんと甜歌かな
CGKはちひろがいそうに見えるけど・・・後誰だろ?
4072投稿者:グラスラ人物紹介より  投稿日:2008年09月28日(日)00時59分05秒
【R&G探偵社・社員名簿】
?1・吉田永憲
?2・ダーブロウ有紗
?3・ジャスミン・アレン
?4・岩井七世
?5・俵有希子
?6・俵小百合
?7・村田ちひろ
?8・中村有沙
?9・ジョアン・ヤマザキ
?10・近藤エマ
4073投稿者:パート2  投稿日:2008年09月28日(日)00時59分36秒
?11・木内梨生奈
?12・渡邊エリー
?13・細田羅夢
?14・藤本七海
?15・橋本甜歌
4074投稿者:3319,3320,3795より  投稿日:2008年09月28日(日)01時21分50秒
『フール(愚者)』の…ボス…間寛平
『ハイプリエスティス(女教皇)』の一木有海
『エンプレス(女帝)』の後藤理沙。
『エンペラー(皇帝)』の楠本柊生。
『ラバーズ(恋人)』の中川翔子。
『ストレングス(力)』の秋山恵。
『デス(死神)』の箕輪はるか。
『デビル(悪魔)』の加藤夏希。
『タワー(塔)』の中田あすみ。
『スター(星)』の細川藍。
『サン(太陽)』の鍋本帆乃香。
『ジャッジメント(審判)』のシンパンマン。
4075投稿者:デジ  投稿日:2008年09月28日(日)06時52分22秒
すると、有海はもう「R&G」社員を把握してしまったということですか。気の毒ですね。
さて、『A』,『C』,『G』,『K』,『O』の人の抹消の件。
4072,73さんの名簿から破棄するのは(掲載してくれてありがとうございます。)...レッドさん、ジャスミン、ちひろ、梨生奈、甜歌 。
確かにレッドさんと甜歌は捨て駒ですね。ジャスミンも、どこかへ行ってしまったから除外。梨生奈も、まだ、車椅子生活だから、こちらも大丈夫だろうと見ましたか。ちひろは、表の人間だし剣道の関係でいないと見て、これも破棄か?まあ、戦闘総合力が結構下がりますがこれが戦況にどう影響するか楽しみなものです!
            
4076投稿者:デジ  投稿日:2008年09月28日(日)06時54分00秒
久々の今日の小言を再開します。             
            (今日の小言)
ところで今気づいたのですが、両方とも社長的役目の人は権力ばかりで、戦闘能力は、皆無な気が?
多分こうなるであろう駒(()のある人は、除外とされた人)        ダーさん                  寛平
七世                    有海&楠本
俵姉妹                   後藤
ジョアン                  中川
エマ&エリー                みのぽー
羅夢(&梨生奈)               夏希
七海&有沙                 あすみ&藍
(ジャスミン)                帆乃香
(ちひろ)                  シンパンマン
う〜ん、やはりダークホースは、彼方ダーさん此方夏希か?
「R&G」のことだから梨生奈も、加勢に入るだろうし、ちひろも帰ってこれれば、戦いを覚悟するだろうからやはり誰に誰をぶつけるか迷うところだ。有海、どうする?                 
  




4077投稿者:「ある人物達」だから  投稿日:2008年09月28日(日)08時16分12秒
まだ、名前までは知らされていない
配慮かな?
4078投稿者:しょこたんvsジョアンて・・・  投稿日:2008年09月28日(日)10時07分17秒
一方的に、しょこたんがボコられる気が・・・
4079投稿者:あげ  投稿日:2008年09月28日(日)19時11分28秒

4080投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)20時54分44秒
4071さん、デジさん
そうです
『A』、『C』、『G』、『K』、『O』は、それぞれレッドさん、ジャスミン、ちひろ、梨生奈、甜歌です

4072〜73さんがあげてくださったメンバー表から、推測して下さい

その対戦予想、当たっているのもあります
4077さんの仰る通り、有海は皆の名前は知らず、ただの記号として対戦相手を決めることになります
ですから、あすみvs七海なんて、残酷な組み合わせを、意識せずにやってしまうかもしれません

4078さん
確かに…しょこたん、有沙にボコボコでしたからね

では、更新します
4081投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)20時56分06秒
時刻はもう、午後9時を回った。
例の、ピーナッツと試合をした、あの堤防公園のグラウンド…。
夜間照明によってつくられた長い二つの影…。
マウンド上の人物は、一心不乱に、キャッチャーをしているもう一人に向かって投げ込みを行っている。
しかし、その投げたボールは相手に届くことなく、一歩手前で転がる。
何度やっても届かない…。
マウンド上の人物は、しゃがみ込み、肩で息をした。
「今日は、もうやめておこう…」
キャッチャーを務めていた人物…女性が、立ち上がって声をかけた。
そして、その白球…いや、黒球を拾う。
マウンド上の人物…いや、少女は、野球のボールよりも遥かに重い物を投げていたのだ。
「だ…大丈夫…。あすみん…」
「肩を壊すよ…。今日は…もうお終いだよ…。あい〜ん…」
その2人は、細川藍と中田あすみだった。
4082投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)20時56分26秒
「だ、だって…これができるようにならなきゃ…あみ〜ごが…」
藍の声が、涙混じりに震えている。
「あみ〜ご?あみ〜ごが何だって言うの?」
あすみは、藍の様子がおかしいことに気がついた。
「あみ〜ごが…山本組長に…」
とうとう、藍は涙をポロポロと落とした。
「はぁ…?ど、どういうこと?」
「く、楠本さんに…言われたんです…。課題をこなすことができなければ…あみ〜ごを…山本組長の部屋に送るって…」
「な、何だって!?く…楠本のヤツ…!!」
あすみの声は、怒りによって震えた。
「…え…?ち、違うんですか…?」
「違うよ!!そんなこと、私がさせるもんか!!できなければ…今回の仕事は参加しなくていいから…」
「え…?そ、それでいいの?」
「いいんだよ!!だから…あい〜ん…。無理しないで…」
「…よ…よかったぁ〜〜〜…」
藍は、あすみの胸に飛び込んで、号泣した。
「よし、よし…。怖かったね…。不安だったね…」
あすみは、藍の頭を優しく撫でながらも、余計なプレッシャーを与えた楠本に殺意を覚えた。
おそらく…有海も同じプレッシャーを与えられたに違いない…。
4083投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)20時56分47秒
肌寒い11月の夜…大量の汗を掻いたので、風邪をひくおそれがある。
車を持っていないあすみは、藍の一人住まいのアパートに送る前に、銭湯に連れて行く。
大きなヘルスセンターに行けば、知り合いに遭遇する恐れがあるので、小さな個人経営の銭湯に行くことにした。
「あ…!しまった…!私、水着持ってきてなかった…!」
藍は、そう言って笑う。
「水着は禁止…!!銭湯の人に失礼でしょ?」
あすみは、そう言って、藍の額を指で弾いた。
嬉しそうに痛がる藍…。
懐かしい、夏合宿…。
涙を堪えながら、藍は汗で冷たく濡れたスポーツウェアを脱ぎ始めた。
あすみは、もう既に服を脱ぎ終えていた。
藍は、あすみの裸をじっと見る。
そう言えば、あすみの身体を初めて見る。
スラリと伸びた、美しい身体だが…背中と肩…そして太ももの筋肉が発達している。
「何?あい〜ん…。ジロジロ見ちゃって…」
「い、いえ…その…綺麗な身体だなぁ〜って…」
藍はそう言いながら、慌てて服を脱いだ。
4084投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)20時57分17秒
「あい〜んの身体も、白くて綺麗だね。それに意外とふくよかだし…」
あすみにそう言われ、藍は途端に身体を隠す。
「ちょ、ちょっと…!!恥ずかしいじゃないですか…!!」
「こりゃ、翔子のやつに気に入られるわけだ…」
「あ…!!しょこたんが変態って、あすみん、知ってたでしょ?」
「うん…。でも、翔子の一番のお気に入りは、ありりんなんだけどね…」
「ありりん先輩が…?ま、納得…」
あすみは考える。
翔子は、どうするつもりだろう…。
これから『R&G』との全面戦争に入るのだが…当然、中村有沙とも戦うことになる。
そして、藍や有海も、この戦いに参加することになれば…野球部の部員同士で殺し合いをさせることになる…。
いや、殺し合いをさせてはいけない…。
藍や有海を、殺すわけにはいかない…。
そして…七海や中村有沙達を、殺させるわけにも…。
楠本や理沙に殺させるのも避けたい…。
特に楠本…。
あの男、殺人を趣味として楽しむ様な人間だ…。
自分が手を汚すしかない…痛みも与えず…一瞬で…。
4085投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)20時57分38秒
しかし、とある人物の顔が浮かぶ。
『デビル(悪魔)』…加藤夏希…。
(あの女…元仲間相手に…)
自分の父親である、加藤組長を葬った女…。
あすみは、あの女が恐ろしくて仕方がなかった。
血の通った人間ではないように思えた。
「何やってんですか?あすみん、早く入ろうよ」
「…ん?そ、そうだね」
藍に促され、あすみは古いガラス戸を開けて浴室に足を踏み入れた。
やはり、最近はヘルスセンターのおかげで昔ながらの銭湯は客足が遠のいているのか、藍とあすみの他に客はいなかった。
番台の老婆も、物珍しそうに若い2人を見ていたぐらいだ。
「うわぁ〜、こんなに広いお風呂を独占って…原村で朝5時に露天風呂に入った時以来だぁ〜」
広い浴槽だが、藍とあすみは、身を寄せ合って入った。
そして充分身体を温めた後、同時に湯船から出た。
4086投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)20時57分59秒
「あすみん、背中流してあげるよ」
「そう?」
「ねぇ、さっき番台のお婆さんに言われたね。美人姉妹だねぇ、って…」
「ふふ…そうだね」
「あすみん、兄弟いる?」
「いないよ」
「私も…」
それっきり、藍は何も言わずにあすみの背中を流し始める。
間近で見て気がついたのだが…脇腹付近、何やら小さな窪みを見つけた。
「あすみん…。これ…傷…?」
藍は、迂闊なことを言ったと、また黙って背中を流す。
しばらくして、あすみは答えた。
「うん。いつだったかな…?『TDD』に入る前…とあるチンピラに後ろから刺されちゃった…」
「ええ…!?さ、刺された…?」
「未熟者だったんだね…。刺されるまで気がつかなかった…。今は、随分人の気配に敏感になったけど…」
あすみは、自嘲気味に笑った。
「あい〜んとあみ〜ごに、聞き耳を立てられても気がつかなかった…。加藤組襲撃のこと…」
「あ…」
藍の、背中を流す手が止まる。
4087投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)20時58分19秒
「だから…あい〜んやあみ〜ごが、こうなったのは…私の責任なんだよ…」
「ち、違うよ!!私達がこうなったのは…あの、あみ〜ごをいじめてた…」
そう言い掛けて、藍は口を閉ざした。
「ん?どうしたの?」
「な…何でもない…」
今日、有海はその者達に復讐を果たした…。
楠本に別荘へ連れて行かれる前、有海は泣きながら藍に報告したのだ。
そして…「こんな私を、嫌いにならないで」…と、懇願された。
藍の視界が、歪みはじめた。
涙が溢れ出してきたのだ。
藍は、あすみの背中に額を着けた。
「…?あい〜ん…?」
「あすみん…」
藍は、あすみの身体にしがみ付いた。
「どうしたの?」
あすみは、身体をよじって藍を見る。
藍は、涙で濡れた目をあすみに向ける。
そして、目を閉じ、顔を近づけた。
4088投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)20時58分39秒
あすみも、同時に目を閉じた。
藍の唇とあすみの唇が触れた時、あすみは目を開き、藍の肩を掴んで引き剥がした。
「…あすみん…」
眉を下げ、藍は悲しげな眼差しをあすみに送る。
あすみは、首を横に振った。
「ダメだよ…。私達は…生徒と先生…」
「勝手なこと、言わないでよ!!」
藍の怒鳴り声が、浴場に響いた。
「もう、先生じゃないって、この前、言ったじゃん!!で、今はまた先生と生徒の関係に戻ったの?勝手だよ!!」
「あい〜ん…」
「私…あすみんのこと、先生とも、お姉ちゃんとも思わない…!!ただ…」
「…ただ…?」
「側にいてよ…」
再び、唇が重なった。
あすみも、同性愛の経験はあった。
学生時代、女子高だったのだが、何度も年上、年下に関係なく告白を受け、誰に対しても拒む事はなかった。
あすみは、今度は藍の身体を強く抱き締めた。
藍も強く、あすみにしがみ付く。
4089投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)20時58分59秒
「藍…」
あすみは、唇を藍の首筋に移す。
「はぁ…。あすみん…」
藍は、吐息を漏らす。
白く、滑らかな、藍の若い身体…。
あすみ自身も、そんな身体に触れることで、心が安らいでいく。
唇は、藍の胸に…。
同年代の少女に比べ、ふくよかな胸…。
白く、柔らかい乳房、薄い色の乳首…。
藍の何もかもが愛しい…。
「はぁぁ…」
藍は、身体を仰け反らせる。
後ろにひっくり返ってしまわないように、あすみは藍の背中にそっと手を回す。
2人は、タイルの床に横にあると、身体を重ねた。
藍が、あすみの身体の上になる。
潤んだ目で見詰め合う2人。
藍は、あすみの胸に顔を埋めた。
そして…あすみの乳首を思いっきり吸った。
4090投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)21時00分01秒
「ふふ…。まだ赤ちゃんだね…。あい〜んは…」
そう言ったあすみだが、それも仕方がないと思う。
藍は、中学生でありながら、親元を離れて一人暮らしをしている。
スポーツ推薦で聖テレに入学したが、実家は神奈川県にあるのだ。
中等部からのスポーツ推薦は前例が少なく、今までの生徒は都内に住んでいた。
遼に住めるのは、高等部から…。
たまたま藍の親戚が、天歳市内でアパート経営をしていたので、そこに住まわせてもらっているのだ。
本来なら、まだ甘えたい歳なのだろう…。
「あすみん…。いつまでも…こうしていたいよ…」
藍は、あすみの胸に顔を埋めながら呟いた。
そんな藍が、不憫に思ったか、それとも共感したのか…。
あすみは、無意識に言葉を吐いた。
「逃げようか…。あい〜ん…」
「…え?」
藍は、顔を上げた。
あすみは、天井を虚ろな目で見詰めている。
「このまま…2人で…逃げようか…」
4091投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)21時00分23秒
この、あすみの言葉…本気なのか?
それとも、その場限りの淡い願い事なのか…?
「だ、だったら…3人で…!!」
「3人?」
「あ、あみ〜ごも…一緒に…」
あすみは、藍の目を見詰め、そして微笑む。
「そうだね…。あみ〜ごも…一緒だ…」
その時だった。
「…まさか…本気で言ってないよね…」
「!?」
藍の身体を押し退けて、あすみは身体を起こして浴槽の方を見た。
そこには…『デス(死神)』…みのぽーこと、箕輪はるかが、首まで湯に浸かり、頭にタオルを乗せ、じっと2人を見ていた。
「ぎゃああああ〜〜〜!!!」
藍の絶叫が、浴室に響いた。
「ど、どうしたね!?お客さん!!」
番台の老婆が、何事かとガラス戸を開けた。
4092投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)21時01分00秒
「い、いえ…!!すみません…。ちょっと、ゴキブリが…」
あすみは、咄嗟のウソをつく。
「あんれ!?ゴキブリ?そりゃ、失礼しました!!どこに行きましたか?」
「い、いえ…!!いいんです!!排水溝に流しましたから…」
横目で、浴槽の方を見るあすみ。
そこには、はるかの姿はなかった。
「そうかい?でも、すまんかったねぇ…。ゴキブリなんて、出たことなかったのに…。それだけ、古くなったんかねぇ…この銭湯…。そろそろ潮時かねぇ…」
老婆は、寂しそうに呟いた。
「い、いえ…!!お気になさらずに…!!私、好きですよ!!ここのお湯…」
「そうかい?そう言ってもらえれば、嬉しいねぇ…」
そう言いながら、老婆はガラス戸を閉めて、番台に戻る。
湯船に、ボコボコと泡が立ち上る。
そして、ゆっくりと、はるかは顔を出した。
「…酷いよ…あすみ…。私をゴキブリ扱いなんて…」
「ひ、酷いのはどっちよ!!コソコソと…覗き見するなんて…!!」
藍は身体を隠し、泣きべそをかきながら、はるかを睨んだ。
「…コソコソ…?覗き見…?失礼な…。堂々と見てたよ…。あんた達が気がつかなかっただけ…」
「どちらにしても、失礼よ!!私達の…あんなとこ…」
藍はそう言い掛けて、顔を真っ赤にしてゴニョゴニョと言いよどんだ。
4093投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)21時02分02秒
「あんた…初めからいたの?」
あすみの質問に、はるかは首を横に振る。
「…つい、2,3分前に…入って来たんだよ…。ちなみに、お金は払ってないけど…」
「入って来た…?」
全然気がつかなかった。
「…ショックを受けることはないよ…。それが私の特技なんだから…」
「それは知ってるけど…。でも、まさか入って来たことにも気がつかないなんて…」
藍と愛し合ってたからか…?
やはり、こんなことは、これっきりにしておかなければ…。
「…だから、ショックを受けないで…。ボスだって、私の気配に気がつかないんだから…」
「…ん?あんた、知らないの?」
「…何が?」
「ボスは…誰の気配にも気がつかないんだよ」
「…気がつかない?」
「うん。それが、ボスの特技」
「…?それ、特技って言うの…?」
はるかは、首を傾げた。
頭に乗せたタオルが、ずり落ちて湯船に沈んだ。
4094投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)21時02分23秒
「例えばさ…ウサギの耳は、何で長い?」
「…物音を…聞きやすくする為でしょ…?」
「馬の目は、何であんなに離れてる?」
「…視界を広くして…ライオンの接近を早く知る為でしょ…?」
「それは、天敵から素早く逃げ出す為の進化だよね?ライオンにそんな必要はある?」
「…あ…。なるほど…」
はるかは、ポンと手を叩いた。
その拍子に、しぶきが顔にかかる。
「ボスは、何者の気配を気にする必要もない…。ボスは…来る者を拒まない…。だから、はるか…。あんたの特技は、ボスの前では無意味なの…」
「…私は、ボスに反旗を翻す気なんか、更々ないよ…。それよりも、あすみ…。さっきの言葉…」
あすみは、ちらりと藍を見る。
「本気なわけ…ないでしょ…」
藍は、わかりきっていたことだが、やはり悲しかった。
「…ま、それを聞いて安心したよ…」
「はるか…。あんた…私が裏切るんじゃないかって…見張っているんだね…?」
「…うん…」
はるかは、何の気負いもなく、素直に頷いた。
4095投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)21時02分46秒
「…何にしても、ボスは弱点なしの最強の『カード』なんだから…裏切りの素振りも見せてはダメだよ…。これ、私からの忠告ね…」
「ボスに弱点がない…?あんた、本当にボスのことを知らないね」
「…ん…?」
「これはボス自身が言ってたことだけど…」
「…ボスが、あんたに自分の弱点を教えたの…?」
「そう…。聞きたい?ボスの弱点…」
「…いい…。聞きたくない…。知ったとしても…私にはどうすることもできないし…。第一、何もしないしね…」
はるかは、そう言いながら湯船から立ち上がる。
何と、はるかは…あの全身黒の服を着ていた。
「あ…あんた…服着たまま、お風呂に入ってたの…?」
「…うん。私、自分の裸を他人に見せたくないから…」
「…別に、見たくないけどね…」
「…そういう私は…あんた、藍、弥勒姉さん、帆乃香…いろんな裸を見たけどね…。あと、一人…」
「あと一人…?」
しかし、はるかは藍の顔をじっと見ると、何も言わずに歩き出す。
びしょびしょに服を濡らしながら、はるかは音もなくガラス戸を開け、浴場から出て行った。
おそらく、番台の老婆は彼女に気付くことはないだろう。
4096投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)21時03分27秒
藍は、はるかを見送りながら、あすみに聞いた。
「ね…ねぇ…。ボス…カンペーさんの弱点って…?」
「ん?聞きたいの?あい〜ん?」
「う…うん…」
「ボスには、欠点は多いよ。人間としてね…。でも、弱点は一つしかない…。それが、結構、大きな弱点なんだ…」
「そ…それは…人の気配を読めないってこと?」
「ん?それはボスの特技って言ったでしょ?」
「空気が読めないこと?」
「ははは…!!それは欠点だね」
「アホなとこ?」
「それは、ボスのいい所…」
「い、一体、何が弱点なの…?」
「それはね…」
あすみは、勿体つけたように間を取り、ようやく口を開く。
「『怖いもの』を知らないってこと…」
「『怖いもの』を知らない…?それって…弱点なの…?」
「うん…。弱点…。最強ゆえに…それがボスの弱点なのよ…」
「…確かに…聞いたとしても、どうしようもないね…」
2人は、その後急いで身体を洗うと、そそくさと風呂からあがった。
4097投稿者:リリー  投稿日:2008年09月28日(日)21時03分54秒
今日は、これでおちます
4098投稿者:あげ  投稿日:2008年09月28日(日)23時59分10秒
 
4099投稿者: 投稿日:2008年09月29日(月)00時48分29秒

4100投稿者:この小説の最後の方で  投稿日:2008年09月29日(月)00時54分06秒
TDDは解散かな?
4101投稿者:怖いよな  投稿日:2008年09月29日(月)20時02分28秒
みのぽー
4102投稿者:リリー  投稿日:2008年09月29日(月)21時07分56秒
4100さん
この小説の最後は、まだ書いていませんので、どうなるか私もわからないんです
終わり方も決めていませんし…

4101さん
たしかに、怖いですねぇ
いきなりお風呂場に現れたら…

では、更新します
4103投稿者:リリー  投稿日:2008年09月29日(月)21時08分55秒
『R&G探偵社』に、天歳警察署の刑事、テルこと菊池輝一と、ケンキこと中尾賢樹の2人が訪ねてきた。
もう既に、受付時間は過ぎていたのだが、警察の依頼だけは別である。
社長室で出迎えたのは、例の如く社長の吉田、ダーブロウ有紗、そして秘書の俵姉妹。
ようやく、小百合は首からコルセットを外すことができた。
「で、何や?また、ややこしい事件か?」
相変わらず、吉田の足はギプスで固められている。
テルとケンキは、困った様に顔を見合わせ、本題に入る。
「ええと…都内中の遺体安置所から…検死をする為の遺体が…盗まれまして…」
「はぁ…?」
その場に居た4人は、同時に声を出した。
「その…盗まれた遺体の…特徴は…?」
2人は、また顔を見合わせる。
「特徴というか…盗まれた遺体は、12体で…」
「12!?」
4人は、また同時に声をあげた。
「つまり、東京23区内の遺体安置所から、ごっそりと盗まれて…」
ケンキの説明の途中で、ダーブロウ有紗が質問する。
「盗まれた遺体の共通点は?」
「え?」
「もしかして、若い女の遺体ばかりなら…犯人はネクロフィリアの変態と予想がつくが…」
4104投稿者:リリー  投稿日:2008年09月29日(月)21時09分27秒
これにも、ケンキは困り果てた表情で答える。
「それが…盗まれた遺体には、まったく共通点がないんです」
「何だって?」
「ええと…5歳から87歳の男女の遺体、12体です」
「詳細は…5歳女性、8歳男性、14歳女性、15歳女性、18歳女性、22歳男性、24歳女性、35歳女性、42歳男性、65歳男性、72歳女性、78歳男性…」
ダーブロウ有紗は、それを聞いて思わず仰け反った。
「うわ…。見事にバラバラだな…」
「一体、犯人は何が目的なんや?そもそも、巨大な犯罪組織なんやないのか…?」
テルとケンキの情報によると…一晩に一体ずつ、遺体が盗まれている…年齢の若い順に盗まれている(5歳の少女が最初に盗まれた)…盗まれた安置所は、点々としていて、規則性はない…。
「う〜ん…。まったく、犯人の目的が見えんなぁ…」
吉田は、腕を組んで天井を見上げた。
「最初に盗まれたのが10月20日…それから毎日一体ずつ、12日連続で消えている…」
ダーブロウ有紗は、何とかこの盗まれた遺体の規則性、共通点を見出そうとしている。
「若い…10代に女が集中してるな…?」
「はい…。ですから、事件当初は、やはり死体が趣味の異常性欲者による犯罪なのではないか…というのが、警察の見解なんですが…」
だとするならば、老人の…しかも男性の遺体が盗まれている意味は…?
とにかく、犯人を見つけ出す他、謎は解けそうにない。
吉田達は、この依頼を引き受けた。
4105投稿者:リリー  投稿日:2008年09月29日(月)21時09分51秒
テルとケンキは、探偵社のビルの出口に向かっていると、今帰って来たばかりの藤本七海と鉢合わせになる。
「おや?七海ちゃん…。今、帰ったの?」
「あ…。こんばんわ…。何やの?また、事件?」
七海は、軽く会釈をした。
「うん…。まあね…。詳しい話しは、ダーさんから聞いてよ」
「あれ?ジャージ?何で?学校で池にでも落ちたの?」
七海は、いつもの白いセーラー服ではなく、緑色の体育用のジャージを着ている。
「…ん…?ま、まあ、ええがな…」
そう言えば、今日は中村有沙と取っ組み合いのケンカをして、お互いの制服をズタズタに引き裂いたことを忘れていた。
今日は、もっと強烈な…ショックな出来事があったから…。
「でも、こんな夜遅くに帰るなんて、危ないよ?」
「はは…!!ウチが、大人しく襲われるとでも思う?」
そう言って笑い飛ばす、七海。
「ま、危険な依頼ばかりを持ち込む俺達が…偉そうなことは言えないよな」
テルは、頭を掻きながら苦笑いをした。
4106投稿者:リリー  投稿日:2008年09月29日(月)21時10分13秒
危険な依頼…。
今回の依頼のことを言っているのか?
「どんな依頼なん?そない、ヤバイの?」
「ヤバイというか…何か、不気味な事件なんだけど…」
ケンキは、チラリとテルを見るが、どうせ後で聞くなら同じか…と呟き、七海に今回の事件を伝える。
「遺体が盗まれた…?12体も…?」
七海も、この奇妙な事件に、思わず顔を顰めた。
「七海ちゃんは、どう思う?この犯人の意図…」
意見を求められ、七海は困った様な顔で笑う。
「ウチは…分析担当やないもん。ひたすら犯人をどつきまわすのが仕事や…」
「ああ…肉体労働担当ね…。俺達と一緒だ…」
「でも、どつきまわすのはカンベンしてよ?裁判で犯人有利になっちゃうから…」
2人の刑事はそう言って笑うと、そのまま探偵社を後にした。
4107投稿者:リリー  投稿日:2008年09月29日(月)21時10分34秒
「おい…。貴様、今までどこをほっつき歩いてた?」
上の階へ昇るエレベーターの前に、中村有沙が腕組みをして立っていた。
「そんなジャージ姿で街中を歩いていたのか?恥ずかしいヤツめ…」
「ふん!!ほっとけや!!」
七海は、中村有沙を避けるように、エレベーターではなく、階段へ向かう。
「夕飯は?」
「食べてきたよ」
「おそらく、デカアリは無理矢理貴様に夕飯を食わすぞ?」
「知ったこっちゃないわい!!」
「…どこで夕飯を食べたのだ?」
「カンペーさんち」
「む…?寛平?」
中村有沙の声が変わったのに、七海は気がついた。
4108投稿者:リリー  投稿日:2008年09月29日(月)21時10分54秒
「ん…?どないしたん?」
「貴様…。寛平の家に行ったのか…?」
「そう、言うてるやん…」
「まさか…あの胡散臭い占いを、してもらったわけではないだろうな…?」
「占い?してもろうたけど…」
「何!?何を、占ってもらったのだ!?」
「な、何や…?何をそんなに興奮しとるん?」
「いいから、話せ!!どんな占いをしたのだ!?」
中村有沙の慌てようは尋常ではない。
七海は、奇妙に思った。
4109投稿者:リリー  投稿日:2008年09月29日(月)21時11分17秒
「な、何でもええやん!!オノレに関係あるんか!?」
いや…関係はある…と、七海は思った。
自分の所為で、周りの人間に災難が広がると、占いで出たのだから…。
それを避けるには…全てを投げ出して逃げる事…。
「も、もしかしたら…何や?チビアリも占いに興味あるんか?」
「…ない…!!そんなものには…」
「せやったら、もう、ええやろ!?」
七海は階段へ向かう。
「まさか…不吉な結果が出たのではあるまいな?」
中村有沙は、尚も声を掛けた。
七海は、その声を振り切るように、階段を駆け登った。

(『五回・裏』・・・終了)
4110投稿者:リリー  投稿日:2008年09月29日(月)21時11分49秒
今日は、これでおちます
4111投稿者:あげ  投稿日:2008年09月29日(月)22時29分46秒
がんば
4112投稿者:まだ執筆中だったんですか!  投稿日:2008年09月29日(月)22時48分47秒
それにしても長いですねぇ
本にしたら何ページになるんだろう…?
4113投稿者:またもや  投稿日:2008年09月29日(月)23時03分00秒
新しい事件が勃発?
死体が盗まれたって・・・
『TDD』と関係があるの?
4114投稿者:72歳女性以外の女性  投稿日:2008年09月29日(月)23時05分22秒
欲しい
4115投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時46分20秒
4111さん、ありがとうございます
ラストがなかなか決まらず、苦労してますが、励まされます

4112さん
今回、本当に長いですよねぇ
登場人物が多くて、内容も詰め込みすぎた為、なかなか終わりません
サムドラも長いと思いましたが、今思うと短かったですね

4113さん
はい、この事件も、後に関わりが出てきます

4114さん
5歳〜35歳ならOKですか?
ストライクゾーンが、広いですね

では、更新します
物語の中では、クリスマス・イヴです
4116投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時47分03秒
『六回・表』

≪2007年12/24(月)≫
クリスマス・イヴ。
世間には、いや、この日本には、クリスチャンはそんなに多くはないが、毎年この時期になると、人々は浮かれまくっている。
昨年は記録的な暖冬で、雪の降る日は殆どなかった。
しかし、今年はそれなりの寒さで、2,3日前から雪がちらりと降ってきた。
学校は冬休みに入っていて、少々の雪の中でも、野球少年達は堤防公園のグラウンドに集まって、練習に励んでいた。
細川藍は、久しぶりに茶々山マンボウズの皆と会う。
少年達は、白い息を吐きながら藍の元に集まる。
「あい〜ん!!何だよ!!もう、来なくなっちゃったのかと思ったよ!!」
翔太、次元、瀬南、ベンジャミン…そして聖斗、他の少年達も、満面の笑顔で走り寄って来た。
「ごめんね、ずっとソフトボールの方が忙しかったから…」
藍は、両手を合わせて頭を下げた。
「あの…野球部がなくなったって…本当なんですね…」
聖斗は、残念そうに顔を曇らせた。
「うん…」
藍は、短く答えるのみ。
4117投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時47分35秒
「あの変な女…どうしてる?」
翔太も、心配そうに藍に七海のことを訪ねた。
「うん…。元気だよ…」
またも、短く答える。
ベンジャミンが、藍の顔を食い入る様に見詰めている。
「こ、今度、一緒に連れてくるからね…」
藍は、ベンジャミンが不憫でならず、いい加減な約束をしてしまった。
「あれ…?ホノカハンは…?カンペーさんは?」
藍は、本当はわかっている質問も、敢えてした。
2人は、これから始まる全面戦争に備え、マンボウズに顔を出していない。
もしかしたら、マンボウズはそのまま解散してしまったのだろうか?と、藍は心配して見に来たのだ。
「監督も、帆乃香も、全然来ないんだよ…」
次元は、つまらなそうに呟いた。
聖斗は、藍に訪ねる。
「帆乃香は、聖テレに転校したんでしょ?藍さん、知ってるんじゃないんですか?」
帆乃香は、聖テレへ転校してからマンボウズの練習に来なくなった。
寛平も…。
「う…うん…。同じ敷地内だけど…初等部と中等部だから、あんまり会わないんだ…」
藍は、ウソをつくことに胸を痛めた。
4118投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時47分55秒
「で…マンボウズはどうしてる?試合とかは…?」
「ああ、この間の試合、勝ったぜ!!」
翔太はそう言うと、自慢げに笑った。
「え…?勝った?」
「ベンジャミンなんて、またホームラン打ったんだよな?」
ベンジャミンは、次元に背中を叩かれ、前によろめいた。
「で、でも…監督は…?」
「監督ですか?ああ、監督は…」
聖斗がそう言い掛けた時、何やら叫びながら、土手から駆け降りる男がいる。
「お〜い!!みんな〜〜〜!!」
「ん?誰?あの、おじさん…」
「ああ、あの人が僕達の新しい監督です」
「…え?」
あの男の顔…見覚えがある…。
「あ〜〜〜!!!あず〜先輩のお父さんじゃないですか!!」
「あ、あれ?き、君…あい〜ん君じゃないか!?」
茶々山マンボウズの新監督は…大木梓彩の父、ゴルゴこと、松本政彦だった。
4119投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時48分45秒
藍は、目を白黒させながら松本を見る。
1ヶ月程前、監督不在で野球練習をしているマンボウズを、ぶらりと散歩をしている途中で見掛け、ノックをしてやったのがきかっけらしい。
「で、でも…あず〜先輩から、何も聞いてないよ…?」
「ああ…。あいつ…また俺のことを、鬱陶しがってさ…。恥ずかしいから、誰にも言わないって言うんだ…」
松本は、本当に悲しそうに呟いた。
「そんなこと言ってても、あず〜先輩は、本当はお父さんのこと、大好きなんですよ」
藍はそう言って、松本を慰めた。
少年達は、松本の元に集まってきた。
「監督、遅いよ!!」
「ああ、すまん、すまん」
「監督がなかなか来ないから、俺達、凍えそうだったよ!!」
「え…?どういうことだ?」
「その暑苦しい顔見てると、寒さなんか吹き飛ぶからさ」
少年達は、まるで焚き火にあたる様に、両手を擦り合わせながら松本の顔に向ける。
「な、何だとぉ〜〜〜!!お前等〜〜〜!!!」
「わ〜!!怒った!!怒った!!」
松本は、逃げ惑う少年達を追い掛け回す。
どうやら、松本は、マンボウズの少年達とうまくやっている様だ。
4120投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時49分13秒
「よかった…。マンボウズは…まだ残ってたんだ…」
藍は、心底安心した。
寛平や帆乃香がマンボウズから姿を消したことは、少なからず藍にも原因があるからだ。
自分は、野球を取り上げられたが、この憎めない少年達からは、野球が取り上げられることはなかった。
それに、松本は子供の相手も上手そうだ。
しかも彼は代走と言っても、甲子園出場経験者だ。
寛平よりも、的確な指導と采配をしてくれるに違いない。
梓彩も、内心は父親が子供達の為になっていることを、誇りに思っていることだろう。
「よし…!!久しぶりに、私も野球の練習、やってみようかな!!」
藍は、スタジアムジャンパーを脱いだ。
今まで、『野球もどき』の練習はしてきた。
黒い、金属でできた球を投げてきた…。
久しぶりに、白球を思いっきり投げてみたかった。
その時、藍の携帯のメールの着信音が鳴った。
「…?」
脱いだスタジアムジャンパーのポケットから、携帯を取り出す。
『送信主…タワー』…。
藍の表情が強張り、そして小さく呟いた。
「私…行かなくちゃ…」
4121投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時49分37秒
一方、有海は、高級マンション『レインボウハイツ』に足を向けていた。
そこには…かつて、有海をいじめていた、5人グループの元リーダーが住んでいる。
1ヶ月前、彼女は有海から復讐を受けた。
有海の差し金により、同じグループの者から裏切られ、壮絶ないじめを受けたのだ。
裸にされ、水を掛けられ、クレンザーを頭から掛けられ、デッキブラシで身体を擦り付けられた…。
会社を経営しているので家は金持ち、成績優秀、スポーツ万能、背が高く、顔も可愛らしく、人気者で、何不自由なく育った彼女…。
そんな彼女の人生の中で、これ以上ない屈辱だった。
彼女は、あの日から不登校になった。
そして…冬休みを期に、聖テレジアを退学する。
冬休み明けに、この地域の公立中学の虹守中に転校するのだ。
彼女の両親は、娘がいじめに遭ったと学校に訴えたが、学校はそれを最後まで認めなかった。
逆に、これ以上騒ぎ立てるなら裁判を起こす、と脅された。
いくら会社経営をしている身でも、資金力では聖テレに敵わない。
泣き寝入りをするしかなかった。
有海は、彼女が転校をするその前に、直接会いたかったのだ。
4122投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時50分16秒
彼女の部屋番号を、インターホンで押す。
〔はい…?どちら様でしょうか?〕
彼女の母親の声。
上品で透き通るような声…。
「あ、あの…。同じクラスの…学級委員の…一木です…」
〔ああ、学校のお友達?ちょっと待ってて下さいね。あの子に知らせますので…〕
しばらく時が過ぎる。
有海は不安だった。
おそらく、会いたくない、と泣き叫んでいるのか…。
それとも、そいつが私をいじめたんだ、と訴えているのか…。
すると、再びインターホンから、その母親の声が聞こえてきた。
〔どうぞ、お入り下さい〕
「…え?」
有海は、意外な返事に戸惑った。
ガチャリと音が鳴り、自動扉のロックが解除された。
4123投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時50分40秒
エレベーターで八階まで昇り、彼女の住む部屋に到着する。
ドアを開けてくれた元リーダーの母は…よく似た美人だった。
自分の母親よりも、随分若そうだ。
有海は、元リーダーの部屋に案内される。
「お友達の一木さんよ」
「…入って…」
暗く沈んだ声…。
「お邪魔します…」
有海は、そっとドアを開けた。
元リーダーの少女は…広いベッドの上で、縮こまって膝を抱えていた。
怯えた表情で、有海を見ている。
「それじゃあ…ゆっくりお話しでもしてくださいね…」
元リーダーの母親は、退室する前に有海の耳元に囁いた。
「…お願いします…」
彼女の声は、悲痛に満ちていた。
有海の胸は、押し潰されそうだった。
4124投稿者:あげ  投稿日:2008年09月30日(火)20時51分04秒

4125投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時51分06秒
有海は、しばらく立ったまま、元リーダーの少女を見詰めた。
彼女は、有海から目を逸らした。
「…座っても…いい?」
ビクンと、肩を震わせる。
そして、小刻みに頷いた。
いや、ただ震えているだけなのかもしれない。
有海は、柔らかい絨毯の上に、正座する。
「よく…会ってくれたね…」
有海の言葉に、彼女は涙混じりの声で答える。
「だ…だって…。会わなかったら…バラすんでしょ…?あんたを…襲わせたこと…」
なるほど…いまだに、彼女は有海に心を支配されているのだ。
有海は、部屋を見渡した。
NBAのバスケット選手のポスターが貼られている。
本棚の上に、3つのバスケットボール。
一つはインテリア用、一つは随分使い込んだ形跡のあるボール、もう一つは、虹守町のバスケクラブで優勝した時、皆で寄せ書きをした記念ボール…。
その横には、トロフィーや盾が並び、壁のコルクボードには、優勝した時の集合写真。
赤いユニフォームを着た、小学生時代の彼女。
この頃から頭一つ、皆より高い。
ナンバーは『4』…キャプテンナンバーだ。
その写真の彼女の顔は、自信に満ち、可愛らしく輝いていた。
4126投稿者:クリスマスイブってことは  投稿日:2008年09月30日(火)20時51分23秒
将棋もどきの宿題はもう終わったんだ。
どうしたんだろう?
4127投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時51分26秒
「バスケ…好きなんじゃない…」
有海は呟いた。
「今も…好きなんでしょ?」
元リーダーは、ただ、頷く。
「何で、辞めちゃったの?」
彼女は、その質問に涙をこぼした。
「どうしたの?」
しばらくして、彼女は嗚咽を漏らしながら答える。
「辞めたんじゃない…。辞めさせられたの…」
「…誰に?」
「…パパに…」
有海は、じっと彼女を見詰めた。
「良かったら…話してくれない?」
彼女は、しばらく声もなく泣いていたが、やがてゆっくりと話し始めた。
「私…聖テレ…初等部の5年生から入ったじゃない…?」
そう…彼女は、虹守小学校から途中で受験をして、聖テレジアに入ったのだ。
「…パパは…自分のステータスの為に…私を、お嬢様学校に入れたかったの…。会社のお得意さんの娘が…聖テレに通ってるから…」
無理矢理、彼女は聖テレを受験させられたらしい。
「私、入りたくなかったから…虹守小の友達と別れたくなかったから…試験問題、ワザとデタラメ書いて、落ちようと思って…」
しかし、彼女の父親は、裏金を払って彼女を合格させた。
そして彼女は、余計な金を使わせたと、父親からこっ酷く怒られた。
4128投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時52分45秒
それでも、文武両道で、可愛くて、5年生にしては背が高く大人っぽかった彼女は、聖テレでも人気者になった。
有海も、実は当時、彼女に憧れていた。
初等部の頃は、彼女はいじめなどしていなかったのだ。
まだ、虹守のバスケクラブに通っていたし、そこで元同級生にも会えたからだ。
しかし、中等部に入ると共に、彼女はバスケを禁じられる。
もっと、勉強に身を入れさせる為だ。
梨生奈、エリー、そして有海が、進級試験の上位3位を取った為、彼女は初めて上位3位から順位を落とした。
「つまり…バスケを辞めさせられたのは…私達の所為…?」
有海は、またもや胸が押し潰されそうになった。
そして…この上位3人の中で…一番弱い有海を…いじめの標的にしたのだ…。
仲の良かったあのグループの者達も、無理矢理自分につき合わせてバスケ部を辞めさせた。
傲慢な父親と同じことをしていると、自己嫌悪に陥り、また有海をいじめて憂さを晴らす…。
これが、彼女がいじめの常習犯となった経緯である。
4129投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時53分06秒
「…ごめんね…。こんなの…あんたをいじめる理由になんか…ならないよね…」
彼女は、顔を覆った。
「…仕返しされても…仕方がないよね…」
咽び泣く彼女を、じっと見詰めていた有海だが…やがて静かに語り掛ける。
「あの4人のことだけど…」
「…え…?」
「2対2になったり、1対3になったり、いまだにお互いで、いじめ合ってるの…」
「………」
「あの4人は…まだ地獄の中にいる…」
「地獄…?」
「あなたは…深く傷ついたけど…やっとその地獄から抜け出すことができた…」
有海は、優しく微笑む。
「おめでとう…」
「…有海…」
「虹守中学には…昔の友達がいるんでしょ?」
「…うん…」
「楽しくなるよ…。学校が…」
元リーダーは、小さく頷いた。
4130投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時53分43秒
「あ、そうだ…!!もし、虹守中に行ったら…野球部の人に聞いてみてよ。私達、八百長で勝ったんじゃないから…」
そう言って、有海は笑った。
元リーダーも、罰が悪そうに笑う。
「…私ね…バーンズ君に…憧れてたんだ…」
「ああ…。バーンズさんね…」
「カッコよかったでしょ?」
「うん。カッコよかった…。あ、でも…あの人、彼女いるよ…」
「え?ウソ!?」
「野球部のマネージャーの…江莉さんって人…」
「なぁ〜んだ…。彼女いるのかぁ…」
そして、2人は笑い合った。
しばらく、取り留めのない雑談を楽しんでいると、有海の携帯にメールの着信音が…。
『送信主…エンペラー』…。
有海の顔色が変わる。
「…?どうしたの?」
元リーダーは、有海の表情が強張ったことを、不思議に思う。
「私…行くね…」
有海は、ふらふらと立ち上がった。
「も、もう…?どこに…?」」
有海は、蒼白な顔で、消え入りそうな声で言う。
「…地獄…だよ…」
4131投稿者:リリー  投稿日:2008年09月30日(火)20時55分28秒
4126さん
将棋もどきの宿題の結果は、『六回・裏』で発表します

では、これでおちます
4132投稿者:あげ  投稿日:2008年09月30日(火)20時57分18秒

4133投稿者:117  投稿日:2008年09月30日(火)21時14分01秒
またまた久々の117です。
少し前の話を振り返ると、12体の遺体が消えた事件。一体どうなっているのか?
そして今回、カンペーさんと帆乃香が野球に来ないという・・・てか、ゴルゴさんが新監督になっているんですね(笑)。
裏の方のお仕事はどうしているのでしょうか?
また、有海はいじめグループの元リーダーと語らい。そういう原因もありそうですよね・・・続きも楽しみです!
4134投稿者:あげ  投稿日:2008年09月30日(火)21時45分38秒
前から思ってましたが、名前のない登場人物をここまで
生き生きと動かせるなんてさすがリリーさんですね。
4135投稿者:あげ  投稿日:2008年09月30日(火)22時38分02秒

4136投稿者:いじめのリーダー  投稿日:2008年09月30日(火)23時31分54秒
可愛かったのか
勝手にブスを想像してた
4137投稿者:しばらく悲惨な話が続いてたから  投稿日:2008年10月01日(水)01時30分42秒
今回のマンボウズや、リーダーと有海の和解にはホッとした
4138投稿者:リリー  投稿日:2008年10月01日(水)21時19分54秒
117さん
お久しぶりです
盗まれた遺体の謎も、近いうちに(?)明かされると思います
マンボウズやいじめの問題も、きっちりとしておきたいと思いました

4134さん
いじめのリーダーは、こんなに出番を増やすはずではなかったんです
でも、いじめ問題が結構、深い所まで関わってきたので、名前はないですが、重要な役どころとしました

4136さん
ですから、リーダーの容姿もそんなに決めてはいなかったんです
でも、女の子から支持を得るには、やはりルックスは大事なんじゃないかな…と思いまして…

4137さん
そうですね
もともと、『表』の話しは、こういうホッとするものでしたから…

では、更新します
4139投稿者:リリー  投稿日:2008年10月01日(水)21時20分31秒
有海は、マンションの廊下をふらついた足取りで歩く。
もう一度、『エンペラー(皇帝)』…楠本からのメールを見る。
『Party is Open!』
これは、全面戦争の合図…。
いよいよ、この日が来たのだ。
裏探偵『TDD』の…初仕事…。
息も絶え絶えで、有海はエレベーターのボタンを押す。
そして、エレベーターに乗り込むと、その場にしゃがみ込んでしまった。
「どんなことを…させられるんだろう…。戦争なんて…怖い…」
有海は、自分自身を、ギュッと力強く抱き締めた。
いつの間にか、エレベーターは一階に到着した様だ。
「あなた?大丈夫?」
エレベーターに乗り込んで来た女性が、うずくまっている有海に声を掛けた。
「あ…はい…!だ、大丈夫です…!」
慌てて顔を上げた有海は、驚きの声をあげる。
「な、中川先生!!」
「あら、あみ〜ご!!どうしたの?」
聖テレジア女子学園養護教師…そして…裏探偵『TDD』の『カード』、『ラバーズ(恋人)』の中川翔子も、その大きな目を見開いて、有海を見詰めていた。
4140投稿者:リリー  投稿日:2008年10月01日(水)21時21分39秒
「せ、先生こそ…。どうして…?」
「どうしてって…ここ、私の家だもん…」
「え…?ここに住んでるんですか?」
「うん。最上階の角部屋…。14階1号室ね」
「かなり…いいお部屋じゃないですか…」
「うん。でもね、結構、安く買えたのよ」
「ど、どうして…ですか?」
「何かね、1年前、変な不良かなんかが中に忍び込んで、部屋の中をメチャクチャに壊しまくったらしいの…。それで、部屋の価値が下がっちゃったみたいで…」
翔子の言う、変な不良が暴れまわったという話しは…まだ『TTK』の『戦士』だった、梨生奈と羅夢の『チームR』が、村田ちひろ、中村有沙と戦ったことを指している。
そう…あの部屋は、今は翔子の住居になっているのだ。
「あみ〜ごは、どうしてここに?」
「あ…その…友達の家がここにあって…」
「ああ…。例の、あみ〜ごをいじめてた子?トドメを刺しに来たの?」
「ち…違います!!」
「それよりも、随分顔色悪いじゃないの?あみ〜ご…。私の部屋に来る?診察してあげましょうか?」
「い、いいです…。結構です…」
有海は、咄嗟に胸元を両腕でガードした。
翔子のことは、藍から聞いて知っている。
4141投稿者:リリー  投稿日:2008年10月01日(水)21時22分03秒
「実は…楠本さんからメールが…」
有海は、携帯のメールを翔子に見せる。
「ああ…。これ、私の所にも来た…。弥勒姉さんから…」
翔子の表情が、硬くなった。
翔子もまた、『R&G』との全面戦争を歓迎しない一人だ。
中村有沙と…戦わなくてはならないから…。
「それじゃあ、今から上下峠のアジトに集合ね。あみ〜ご、一緒に来る?」
「い、いいえ…。楠本さんと、虹守駅前で待ち合わせしてますから…」
「あら?そう?じゃあ、またアジトで会いましょう…」
翔子は、一人エレベーターに乗ると、上へのボタンを押す。
「あ、待って!!」
閉まりかけたドアに、有海は身体を捻じ込んで、無理矢理開けた。
「わ!な、何?」
翔子は、目を丸くした。
「い、一体…戦争って…誰とするんですか…?」
有海の必死な顔を見詰めながら、翔子は無表情に言う。
「聞いても、しょうがないでしょ?誰が相手でも、私達は、この仕事をやらなきゃいけないの…」
そして、悲しそうに呟く。
「…何が…自由労働の組織よ…」
4142投稿者:リリー  投稿日:2008年10月01日(水)21時22分27秒
細川藍と一木有海が、『TDD』の全面戦争のメールを受け取る、30分前…。
滅多に履かない長いスカート姿の藤本七海は、茶々山駅行きの鈍行列車に乗り、雪のちらつく景色を眺めていた。
冬休みに入り、クリスマス・イヴということで、車内は込んでいた。
七海は、出入り口のドアに寄り掛かり、約10分の乗車時間をやり過ごす。
天歳駅に停まると、乗客は一気に降り出す。
座席は空いたのだが、七海は立ち続けることにする。
茶々山駅まで、3分もかからないからだ。
七海は、チョコレート色の紙袋を、大切に抱えている。
中には、手作りのケーキと、マフラーが入っている。
二つとも、女らしいことなら一通り何でもできる、七世に教えてもらったのだ。
ケーキ作りは、ダーブロウ有紗も得意なのだが、編み物は七世にしかできない。
これらは、帆乃香へのクリスマスプレゼントなのだ。
寛平の占いから、もうすぐ2ヶ月が経とうとしている。
いまだ、『TDD』からの襲撃もない。
『R&G』の探偵達の間にも、緊張感と警戒感は薄れてきた。
それよりも、『東京都内大量遺体盗難事件』の捜査で、皆は忙しい。
主に、ダーブロウ有紗、七世、俵姉妹の4人で捜査をしている。
この事件も依頼を受けてから2ヶ月が経とうとしているが、手掛かりはゼロなのだ。
4143投稿者:リリー  投稿日:2008年10月01日(水)21時25分15秒
3時に家に来てくれ、と帆乃香は言った。
七海は、腕時計で時間を確認する。
まだ、2時半…。
(少し、早う着いてまうな…)
早く着くよりも、遅れた方が失礼ではない、と聞いたことがある。
どこかに寄って時間を潰そうかと考えるが、茶々山町は小さな町…。
さほど娯楽もない町である。
そう考えていると、早くも電車は茶々山駅に到着した。
電話をして、約束の時間よりも早く家に向かうことを、知らせることにする。
4144投稿者:PartyisOpen!  投稿日:2008年10月01日(水)21時25分17秒
04年度生放送のテーマですよね。冬イベのレイシー兄弟&優梨愛が懐かしい。
でもまた藍も有海も関係ない年じゃ……。

そう言えば、リリーさんの小説で優梨愛って出てきましたっけ?
4145投稿者:リリー  投稿日:2008年10月01日(水)21時25分32秒
電車を降りると同時に、帆乃香へ電話をする。
帆乃香は携帯を持っていなく、備え付きの、今時珍しいダイヤル式の黒電話につながる。
〔もしもし、間です〕
帆乃香の声だが、彼女は寛平の方の苗字を名乗った。
「もしもし。ウチや。七海や」
〔あ、ななみん…。どないしたん?〕
「うん。ちょっと、はよ、着いてもうた。3時前やけど、家に行ってもええ?」
〔うん…。ええよ…〕
「クリスマスプレゼント、楽しみにしてな。いや、あんま期待してもろても困るな…。どっちやねん、て感じやけど…」
〔ううん。ありがと。楽しみにしてるで…〕
「…?帆乃香…?元気ない?」
〔そんなこと、ないで…。じゃ、また後でな…〕
「うん…。ほな…」
電話を切った七海は、帆乃香の沈んだ声に首を傾げたが、早く会いたいと焦る気持ちが、彼女にこれ以上注意深く考えることを放棄させた。
4146投稿者:リリー  投稿日:2008年10月01日(水)21時26分15秒
茶々山町寄りの、小蓮田市内にある帆乃香の住居、『雨間荘』に、藤本七海は着いた。
まだ、2時45分。
約束の時間よりも、15分早い。
七海は、紙袋をじっと見詰める。
折鶴も満足にできない、不器用な手で編んだマフラーだが、帆乃香は喜んでくれるだろうか?
帆乃香のことだから、どんな物でも笑顔にはなってくれるとは思うが…。
まるで、恋人に会うかのような甘酸っぱい気持ちで、七海は身震いした。
例の、赤錆の粉が落ちる階段を、小刻みなリズムで駆け登る。
そして、雨の染みがついたドアを、軽くノックする。
「はい。どうぞ」
「へ…?」
聞いた事のない、女の声がした。
七海は思わず、表札を確認する。
表札と言っても、ヘタクソな字で書かれた小さな紙片なのだが…。
『間』と、滲んだマジックの文字で書かれている。
4147投稿者:リリー  投稿日:2008年10月01日(水)21時26分40秒
「間違いやないよな…」
七海は、その表札を見詰めて、しばらく考え込む。
「どうぞ、お入り下さい」
もしかしたら、帆乃香の母親か…?
「お、お邪魔します」
七海は、ドアを開けた。
もう少し、深く考える余裕が彼女にあれば、この先の彼女の…『R&G探偵社』の命運は、変わってきたのだが…。

(『六回・表』・・・終了)
4148投稿者:リリー  投稿日:2008年10月01日(水)21時34分06秒
4144さん
そう言えば、優梨愛は出してませんでしたね
04年の戦士で、優梨愛だけですね、出ていないのは…
冬イベ、『ヴォヤージュ±』、歌えばよかったのに…

次回から、恐ろしく長い『六回・裏』となります
つまり、いよいよ『R&G』と『TDD』の決戦となります

では、おちます
4149投稿者:『TDD』には  投稿日:2008年10月01日(水)22時01分31秒
グラスラが終わっても続いてほしいな
次は、『TDD』には珍しく良い意味の人助けの話で
4150投稿者:117  投稿日:2008年10月01日(水)22時11分37秒
「Party is Open」って、あの懐かしの曲でしたよね?優梨愛、そのうちぜひ出してほしいなぁ・・・。
今日の最後の意味深な一言・・・続きも気になります!
4151投稿者: 投稿日:2008年10月01日(水)23時21分14秒

4152投稿者:age  投稿日:2008年10月02日(木)01時22分31秒
 
4153投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時49分23秒
4149さん
私も、寛平さんとか楠本さんとかしょこたんなど、『TDD』のキャラクターで何かできそうかな?と思いますが、戦士じゃないんですよね
ですから、天てれ小説と言えるのか…という点で難しいかな?と思います
あと、基本的に1000万以上の仕事しか、しませんしね…

117さん
今まで、優梨愛を出そうと思ったことが、一度もなく…
別に、嫌いというわけでなく、本当に今まで出てなかっただけなんですよね
でも、小説に書くとなると、難しい子かな?と思います
最後の意味深な一言は、いきなり判明します

では、更新します
4154投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時50分40秒
『六回・裏』

≪2007年12/24(月)≫
七海は、玄関口に立つ。
台所には、誰もいない。
「お邪魔します…」
七海は、居間の方を覗き込む。
誰だかわからないが…派手な、赤い服を来た女が、卓袱台の前に正座の姿勢で座っている。
「あ…あの…。ウチ…」
「はい。帆乃香から聞いてますよ。藤本七海さんでしょ?」
「は、はい…」
「どうぞ…。あがって下さい…」
「ほ、ほな…。失礼します…」
七海は、着脱にやたらと時間のかかるブーツを脱ぐと、居間に足を踏み入れる。
やっと、赤い服の女の顔を確認した。
若い、美しい女だ…。
どう見ても、20代前半…帆乃香の母親とは思えない。
いや、そもそも、帆乃香の母親は死んだと聞かされた。
すると…姉…?
4155投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時50分59秒
七海が、帆乃香との関係を聞こうかと躊躇していると、その女が口を開いた。
「帆乃香から聞いてます。ほんと、可愛らしいお嬢さんね」
優しく微笑む、その女だが…何か、作り物めいている印象を受けた。
「あ、ありがとう…ございます…」
「座って…」
勧められるまま、七海も卓袱台を挟んで正座する。
七海は、不安げに部屋を見渡す。
見渡す間でもない…。
帆乃香の姿は、どこにもない。
「あ…あの…」
「帆乃香ですか?」
「あ…はい…」
本当は、この女の帆乃香との関係を聞きたかったのだが…確かに帆乃香の行方も気になる。
女は、途端に笑顔から、困った様な表情に変える。
「帆乃香は…ここにはいません…」
4156投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時51分32秒
「…はい…?」
七海は、目を丸くした。
赤い服の女は、言葉を続ける。
「あなたには…会えないと…」
「会えない…?」
「会わせる顔がないと…言いまして…」
会わせる顔がない…?どういうことだ…?
「で、でも…さっき、電話で…」
「元気、なかったでしょ?帆乃香…」
「…ええ…」
「帆乃香は…今日まで、ずっと悩んでましたわ…」
「悩んでた…?な、何をですか…?」
「あなたに…悪いことをした…と…」
「…え?…え?」
意味がわからない…。
帆乃香が、悩んでた?自分に悪いことをした?
身に覚えがない…。
4157投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時51分50秒
「あ…あの…。あなたは…帆乃香とは、どういった…」
まずは、この女の関係を知らなければ…。
七海は、やっと聞きたかった質問ができたのだが、その女はまったく違う話しを始めた。
「ええと…あなた、寛平さんから占いをしてもらいましたよね?」
「…え…?はい…」
占いの話し…何故、そんなことを…?
「たしか、あなたに付きまとう犬に、気をつけろ…と、言われませんでした?」
「………はい…」
いや…何故、この女はこのことを知っている…?
「その犬が…あなたを崖に突き落とすと…」
「…はい…」
「その犬が…あなたを破滅に追い込むと…」
「………」
七海は、全身に寒気を覚える。
臨戦態勢をとらなければ…。
この女から…危険な香りがする…!!
「帆乃香が…その、犬なのよ…」
女の表情が…裏のモノに変わった…!?
4158投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時52分13秒
七海は、正座の姿勢のまま、後ろに跳んだ。
そして、戦闘態勢をとる。
だが、七海はギョッとした。
赤い服の女の後ろに…黒い服の女が立っているのだ…!!
い…いつの間に…?いや、最初からいたのか…?
こ、この状況…聞いたことがある…!!
この2人の女の特徴…俵姉妹を…痛めつけた…『TDD』…後藤理沙…箕輪はるか…!!
(やばい…!!)
七海は、踵を返すと、玄関へと走った。
いや…それならば…敵は、もう一人いる…!!
玄関の安っぽいドアが、粉々に砕け散る。
「…う…!?」
細かな木の破片やササクレが、七海に降りかかる。
そして、視界に大きな掌が飛び込んできた。
その掌は、七海の首を掴んだ。
「ぐ…!!う…!?」
喉が、押し潰される…?
「ぎゃははは!!!捕まえたぜ!!仔猫ちゃんをよぉ!!」
そう…もう一人の女…秋山恵…!!
4159投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時53分13秒
「ぐ…あああ…!!」
七海は、首を掴まれたまま上に持ち上げられた。
恵は、凄まじい握力で、七海の喉を圧迫する。
「ぎひひひひ…!!マヌケなヤツだぜ…!!まんまと罠に引っ掛かりやがった!!」
(わ…罠…やと…!?ど、どういうことや…!!ほ、帆乃香が…?)
薄れ行く意識の中、七海の頭は混乱している。
「細い首だぜ…。あと少しで、ヘシ折れそうだぜ…」
恵は、舌なめずりをして、苦悶の表情の七海を見上げる。
「殺したらダメよ…。恵…」
赤い服の女の声が、後ろから聞こえる。
「でもよぉ…。脆すぎるぜ…この仔猫ちゃん…。その気がなくても、殺しちまいそうだ…」
(こ…仔猫…やと…?)
薄れ掛けた意識が、戻って来た。
「ウ、ウチは…虎や!!」
七海の右膝蹴りが、恵の顎に炸裂した。
「ぐぅ…!!」
僅かに、恵の握力が弱まる。
「ゴルァァ!!」
右足の裏を、思いっきり恵の顔面に向かって蹴りつけた。
それと同時に、その反動で、恵から逃れることに成功する。
4160投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時53分36秒
「うぐぅぅ…!!」
顔面を押さえて、恵はよろめいた。
七海は床に着地すると、大きく開かれた恵の足の間を目がけ、すり抜ける。
まずは、この部屋から外に出なければ…!!
「はい…。お部屋に戻って…」
「…!?」
七海の目の前に、一本だけ黒く変色した歯を見せて笑う、顔色の悪い女が…。
箕輪はるかが、腹ばいになって、いつの間にか玄関の外で寝そべっていたのだ。
「き、きしょいねん!!どけや…」
七海が、はるかの顔面にパンチを放った時、鋭い痛みが拳に走った。
「…ぐ!?」
拳をつくった左手、人差し指から小指にかけて、一直線に傷が走っている。
はるかの手には、手術用のメスが…。
「てめぇ…!!」
七海は、恵に左足首を掴まれる。
「う…うわ…!!」
凄まじい力で、七海は部屋の奥へ投げつけられた。
そのまま台所、居間を通り抜けて、ガラス窓をブチ破って外に出てしまう勢いだ。
4161投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時54分05秒
(し…しめた…!!あの、ゴリラ女…!!力は強くても、やっぱりアホやで…!!)
このまま外に出ることができる…!!
しかし、七海はその寸前で抱き止められた。
「大丈夫?」
「…!?」
赤い服の女…後藤理沙…!!
「ふふ…。『R&G』…いや、『TTK』の女の子って…ほんと、可愛い子ばかり…」
理沙は長い舌を出すと、七海の頬をベロリと舐めた。
「な、何すんねん!!」
七海は、理沙に裏拳を放った。
「おっと…」
しかし、その一撃は難無く受け止められた。
「あら…怪我してる…」
先ほど、はるかに斬りつけられた指の傷を、理沙は、またも舐める。
「ふふ…。美味しい血…」
「…!?ゴ、ゴルァ!!」
理沙の手から無理矢理左手を抜くと、今度は右ストレートを放つ。
4162投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時54分34秒
「はい」
またも、理沙は容易く七海の右手首を掴むと、今度は後ろ手に捻りあげた。
「ぐああ!!」
七海の右腕が軋む。
「くくく…。ほんと…脆そうな首ね…」
理沙は、七海の首筋に噛み付いた。
「ぎ…!!あああああ〜〜〜!!!」
鋭い痛みに、七海は悲鳴をあげた。
ギリギリと、理沙の歯が七海の首に喰い込んでいく。
「ああああ…あああ〜〜〜!!」
七海は、懸命に自由になる左手で、理沙の髪の毛を掴む。
「グリャアアア!!!」
そしてそのまま、理沙を前方に投げつけた。
理沙の身体は、そのまま回転し、畳の上に叩きつけられた。
「いたぁ〜〜〜い…。髪の毛、抜けちゃったじゃない…」
理沙は、髪を掻き揚げながら、七海を睨んだ。
「ぐ…ふぅ…。ふぅ…」
七海は、噛み付かれた首を押さえて呻く。
血が滴っている…。
4163投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時55分38秒
「オ、オノレ…!!」
七海は、ハイキックを繰り出す。
しかし、その攻撃も、理沙の左手一本で受け止められた。
「…!?」
「あらら…。スカートを履いたままハイキックなんて…可愛い顔してはしたない娘ねぇ…」
理沙は、七海の足に爪を立てると、黒のストッキングを引き裂いていく。
「…う…!?」
理沙の手は、そのストッキングの裂け目に入り込み、七海の素肌を撫で回していく。
そして、その手は太ももから股間へと伸びる。
「や、やめぇや!!」
七海は、もう片方の足で跳び上がると、理沙の脇腹に蹴りを入れた。
「…ぐ…!!」
堪らず、七海の足を放す理沙。
「そこを、どかんかい!!」
もう、理沙ごと体当たりをして、窓から外へ脱出してやろうと考えた時、凄まじい衝撃が後頭部を襲う。
ガクンと、視界が揺れた。
「ぐ…ふぅ…!!」
七海は、前のめりで畳に突っ伏した。
「け…!!これで大人しくなっただろ…!!」
恵のウエスタンラリアートが炸裂したのだ。
4164投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時56分28秒
「恵…!!あなた…」
理沙が怒鳴りかけたが、恵はそれを制止する。
「大丈夫だ。金属プレートが入っている左腕でやってねぇ。かなり手加減したしな…」
「が…あ…あ…」
何とか息を吹き返し、呻く七海。
「やっと、手加減ってものを覚えてくれたのね。嬉しいわ、恵…」
理沙は、恵に笑顔を向けると、今度ははるかを手招きする。
「みのぽー、お願い」
「はいよ…」
はるかは、うつ伏せに倒れている七海の側にしゃがむと、メスを取り出す。
そして、サクサクと手際よく、七海の服を切り裂いていく。
殆ど全裸に剥かれてしまって、ようやく七海は意識を取り戻した。
「な、何や!?これ…」
自分が、裸にされたことに気がついた七海は、素早く起き上がろうとする。
だが、はるかのメスが、七海の喉元に突きつけられた。
4165投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時56分54秒
「ぐ…」
七海は、これ以上動くことができない。
「ふふ…。ごめんなさいね。あなたが逃げ出さないように、裸にさせてもらったから…」
理沙が、七海の身体を舐めるように見下ろしながら言う。
「逃げださへん為に…?」
「そうよ。いくらなんでも、裸で外へ逃げる気は起こさないでしょ?」
「ふ〜ん…。それで、ウチをマッパに…?」
七海は、チラリと窓の方を見る。
「ウチを…どうするつもりなん?」
「私達のアジトにご招待するわ…」
「アジト…!?」
敵の…『TDD』の…巣窟…?
「ど、どこや…?その、アジトがある所は…?」
「ふふふ…。あなた達に馴染みのある所よ…」
「…ウチ等に…?」
「『TTK』が…終焉を迎えた館…」
「…!?上下峠の別荘地か…!?」
「正解よ!!」
何と…あの、忌々しいラビ達が買い取った洋館を、今度は『TDD』が…?
4166投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時57分27秒
「ウチを…『TDD』のアジトに連れて行って、どうするんや?」
「あなたは、チケットよ…」
「チケット?」
「『TDD』対『R&G』の試合…いえ、殺し合いの招待券…」
「ウ、ウチを、人質にするつもりか…!?」
「そうよ…。あなたを使って、今度は『R&G』の探偵達を罠にはめる…」
このことだったのか…寛平の占いは…。
自分の周りの者を…巻き添えにする…。
だからこそ、『愚者』…。
「ウ…ウチは…みすみす、オノレ等の思惑通りにならんからな…」
「ほほほ…!!諦めなさい…!!あなたは、私達と一緒にアジトに行くしかないわ…!!そこで、あなたに素敵なお洋服を着せてあげるから…」
「ふ〜ん…。それまで、ウチが大人しくしてるとでも…?」
不敵に笑う七海に、3人は怪訝な顔で見合わせる。
「甘いわ!!」
僅かな隙をつくと、七海ははるかの頭部に蹴りを放つ。
「痛い…」
はるかが、一瞬メスを持つ手を喉元から外すと、七海は飛び跳ねて、窓の方へと突っ込んでいく。
「な、何ですって!?」
理沙の声を、背中で聞く。
七海は、そのまま窓をブチ破ると、階下の駐車場へと飛び降りた。
4167投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時57分50秒
(ふん!!オノレ等に捕まるくらいなら、ストーリーキングにでも何でも、なったるわ!!)
梨生奈や羅夢にもできたのだ。
自分にだって、これぐらい…!!
しかも、敵の…『TDD』のアジトの場所もわかったのだ。
このまま、探偵社まで戻り、報告しなければ…!!
しかし、自分は今、素っ裸…。
その前に辿り着けるのか?
むしろ、警察に捕まった方が…いや、保護された方が都合がいい。
それで、あの女どもは手出しができなくなる。
その為には、着地と同時に一瞬で手の届かない所まで逃げ出さなければ…!!
こんな恰好だが、できるだけ人通りの多い道を走るか…。
自分が今、思春期真っ只中の少女ということは忘れよう…!!
4168投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時58分16秒
七海は、丁度真下に停めてあった車の屋根に飛び降りた。
「よし!!」
七海が、車の屋根からボンネットに飛び降りようとした時だった…。
バスケットボール大の黒い鉄球が何処からともなく飛んで来て、そのボンネットを紙の様にクシャクシャにした。
車内で、エアバックが一気に膨らむ。
「おお…!?」
その衝撃で、七海は車から転げ落ちた。
「な…何や…!?コ、コレ…」
七海は、黒い鉄球が飛んで来た方向を見る…。
そこには…長身の…見覚えのある、女の姿が…。
「あ…。あ…」
七海は、すぐに言葉が出てこない…。
何と呼べばいいのか…。
自分は、何と呼んでいたのか…。
「久しぶりだね…。ななみん…」
その女が、先に言葉をかけた。
「監督…!!」
七海はワンテンポ遅れて、元『聖テレジア女子学園中等部軟式野球部』監督、中田あすみに言葉を返した。
4169投稿者:リリー  投稿日:2008年10月02日(木)20時59分06秒
今日は、これでおちます
4170投稿者:117  投稿日:2008年10月02日(木)21時15分59秒
なるほど、何やら凄まじいことに・・・しかも、ここで監督登場ですか。
七海を人質にとり、R&GとTDDと直接対決に!?続きも気になります!
4171投稿者:あげ  投稿日:2008年10月02日(木)22時11分09秒
 
4172投稿者:あげ  投稿日:2008年10月03日(金)00時51分42秒
    
4173投稿者:過去ログ  投稿日:2008年10月03日(金)01時07分08秒
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544a.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544b.html
http://221.254.11.166/log/tentele/080114213544c.html
4174投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)20時53分29秒
117さん
役者が揃ったところで、ここで唐突に対決に入ります
でも、『六回・裏』は今までで一番長いので、対決も長くなりますが…

あげ、ありがとうございます

4173さん
過去ログ、貼ってくださってありがとうございます

では、更新します
4175投稿者:あげ  投稿日:2008年10月03日(金)20時54分26秒

4176投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)20時57分14秒
「な…何で…監督が…こ、こんな所に…?」
七海は、ただただ口と目を大きく開いて、あすみを見詰めた。
いや、この鉄球を…投げたのも、あすみなのか…?
あすみは、無表情で…いや、僅かに悲しみの色を浮かべながら、七海に一歩、また一歩と近づいていく。
「おお!!グッドタイミングだぜ!!あすみ!!」
恵が、七海の飛び出した窓から、顔を出して叫んだ。
「…へ…?」
呆然と、七海は、恵を見上げた。
(あ…あの、ゴリラ女…今、監督の名前…呼ばへんかった…?)
何故…?
知り合い…?
つまり…仲間…?
「おい、コラ、クソガキ!!そこで大人しくしてろよ?今から私が、おまえをとっ捕まえてやるからな!!」
恵が、七海を指差している。
「…は…!!」
しまった…!!
できるだけ、遠くへ逃げなければならなかったのだ。
4177投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)20時57分35秒
「恵…!!手を出さないで…!!」
あすみが、怒鳴った。
「この子は…私に任せて…」
今度は、低く篭った声で言う…。
決まりだ…。
あすみは…『TDD』の…一員だったのだ…。
今思えば、初めて会った時…気が付かれることなく、後ろに立たれた…。
やはり、あの時、警戒をしておくべきだったのだ…。
「監…いや…あすみ…!!」
七海は初めて、あすみを呼び捨てにした。
「オノレ…!!やっぱり…!!」
しかし、その次の言葉が出てこない…。
言いたいことは、山ほどあるのに…。
何故、自分達に近づいた…?
何故、野球部なんかの監督になった…?
何故、野球を教えてくれた…?
何故、楽しい思い出をつくってくれた…?
敵なのに…。
敵なのに…!!
4178投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)20時57分57秒
七海は、真っ赤な目であすみを睨みつける。
その目からは、涙がこぼれ落ちる。
「ななみん…」
あすみは、声をかける。
「さあ…部屋に戻ろうか…」
まるで、野球部の監督だった時の様に…。
「そんな恰好じゃ…寒いだろ…?」
まるで、先生だった時の様に…。
「風邪ひくよ…」
七海は、声を搾り出して叫んだ。
「偉そうに、言うなやぁぁぁ〜〜〜!!!ヴォケェェェ〜〜〜!!!」
七海は、号泣しながらも、あすみに向かって駆け出した。
まだ、気持ちの整理がつかない…。
自分は、あすみに対してどうしたいのだ?
拳を叩き込みたいのか…?
それとも…その胸に抱きつきたいのか…?
4179投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)20時58分23秒
その時だった。
「…!?ななみん…!!」
あすみが、華奢な七海の身体を抱き締めた。
「…!!」
一瞬、七海は安らぎに包まれた。
そうだ…やはり…自分は、あすみに抱きつきたかったのだ…。
どうかしている…。
敵なのに…。
七海は、そっと目を閉じた。
4180投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)20時58分41秒
「ぐ…!!」
あすみの呻き声に、七海は目を開く。
「…え…?」
七海の目の前に…手裏剣…?
「な、何や…?コレ…?」
あすみの右肩に…十字手裏剣が突き刺さっている…?
「一体…どういうつもり…?『タワー(塔)』…」
またもや、聞き覚えのある声が…いや、今度は安らぎではない…恐怖を呼び起こす声が聞こえた…。
あすみの肩越しに、女の姿が見える…。
黒い革のライダースーツに…手には、赤い…長ドス…。
そして…まるで人形の様に…美しい…しかし、魂のこもっていない…女…。
「あ…。あ…」
七海は、またもや言葉を失った…。
「久しぶりね…七海…。『キラー・タイガー』…だったっけ…?」
「加藤…夏希…」
そして、七海は慌ててこう付け加えた。
「…さん…!!」
4181投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)20時59分03秒
加藤夏希…元『TTK』の四天王の一人…。
その夏希が、美しくも冷たい目で…あすみと七海を見下ろしている。
「で…もう一度聞くわ…。『タワー』…」
『タワー』…?『TDD』での、あすみのコードネームか?
「どういうつもりなの?」
「ど、どういうつもりって…?あなたこそ、何が言いたいの?『デビル(悪魔)』…」
『デビル』…加藤夏希の、『TDD』でのコードネーム?
『TTK』でのコードネームは『デーモン・ハート(魔王の心臓)』…似たようなものか…。
「どうして、あなた、七海を助けたの…?」
助けた…?あすみが…?自分を…?
「ななみん…いや、七海は、生かしてアジトに連れて行く手筈でしょ?あなたこそ、どういうつもりなの…?」
夏希は、あすみの鋭い眼光を、軽くいなしながら言う。
「別に…命まで獲らないつもりだったわ…。でも、チョコマカ逃げられたら面倒くさいじゃない…。だから…」
「だから…?」
夏希は、赤い鞘から長ドスを、ゆっくりと抜いた。
「手足を斬り落として、ダルマにして運んじゃえばいいのよ…」
長ドスの切っ先は、七海に向けられた。
4182投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)20時59分22秒
「な…な…夏…希…さん…」
七海は、ガクガクと震えながら、腰を地面に落とした。
雪の僅かに積もった地面は、身を凍らせるような冷たさだったが、今が真夏でも、同じく凍えそうな心境になっていただろう。
「あ、あんた、バカじゃないの!?そんなことをしたら…七海は死ぬわ…!!」
あすみは、七海を庇う様に前に立った。
「大丈夫よ。すぐに止血すれば…」
「止血…?翔子もいないのに?」
「『コレ』を使うのよ…」
夏希は、背負ったリュックから、何かを取り出して放り投げる。
あすみの足下に『コレ』は転がる。
「『コレ』を使えば、医療の素人でも止血はできるでしょ?」
夏希の言う『コレ』とは…ガスバーナー…だった…。
「…!!」
あすみは、無言でそのガスバーナーを蹴っ飛ばした。
まるで七海の視界から遠ざける様に…。
そして、心底汚らわしいモノを見る様な目つきで夏希を睨み、こう叫んだ。
「この、悪魔!!」
「ふふ…。だから…ボスは、私に『デビル』のカードをくれたのね…」
七海は…ただ震えて2人の対峙を見ることしかできない…。
4183投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)21時00分26秒
気がつくと、七海の腰を降ろしている地面が、暖かくなっている…?
その暖かさは、ジワジワと広がっている…?
失禁している…。
1年前、村田ちひろと戦って、圧倒的な恐怖を与えられた時と同じ…。
あの時から…まったく、自分は成長していない…。
無計画、無鉄砲、そして…成長なし…。
寛平の占いの結果…。
逃げ出せば…周りを巻き込むことはない…。
全てを放り出して、逃げ出せば…。
この場合…逃げ延びることは、ほぼ不可能…。
全てを放り出す…?
全て…?
つまり…『命』を放り出す…?
自分が死ねば…人質にとられることもないし…『R&G』の仲間達が罠にはめられることもない…。
自分が死ねば…全ては終わる。
自分が死ねば…。
4184投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)21時00分46秒
「ゴルアアアア!!!」
七海は吠えると、立ち上がる。
「…!?」
「!!」
あすみと夏希の視線は、七海に向く。
「やってみんかい!!ゴルァァァァァ!!!」
夏希に向かって、特攻を仕掛ける七海…。
「殺せやぁぁぁぁぁ!!!!!」
夏希は、長ドスを構える。
袈裟斬りにするつもりか…?
それとも、首を刎ねるのか…?
しかし、七海を襲った衝撃は、斬撃に拠るものではなかった。
後頭部を、凄まじい力で殴りつけられた…衝撃…。
「ぐ…うぅ…」
七海は、地面に倒れこむ。
そして…ゆっくりと意識が暗闇に包まれる。
声が聞こえる。
「だから…私に任せろって…言っただろ…?」
あすみだ…。
あすみが、七海の頭を殴ったのだ。
4185投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)21時01分18秒
「ふぅ…。簡単に捕らえられると思ったけど…意外と梃子摺っちゃったわね…」
理沙が、アパートの階段を降りてきた。
そして、夏希に厳しい視線を送る。
「『デビル』…。あなた…何で、ここにいるの?」
夏希は、相変わらず感情のない顔で微かに笑う。
「『タワー』が…七海を逃がすおそれが、あったから…」
「何…!?」
あすみは、夏希の胸座を掴む。
「あなた、この子達の…野球部の先生だったんでしょ?青春ドラマの乗りで裏切られたら、たまったもんじゃないからねぇ…」
「貴様!!」
あすみは、夏希を殴りつけた。
夏希は、僅かによろめいた。
「あすみ!!」
理沙は、あすみの前に出て首を横に振る。
「ふふふ…。本来なら、お返ししてあげる所だけど…いいわ…。あなたに手裏剣を当てちゃったから、これで御相子ってことね…」
夏希は、口元に滲んだ血を拭き取ると、その場を立ち去ろうとする。
4186投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)21時01分49秒
「待って!!」
あすみが、夏希を呼び止める。
「何?まだ、殴り足りない?今度は、私も大人しく殴られたりしないわよ?」
「違うよ…。あんた…本当に七海の両手足を、斬り落とすつもりだったの?昔の仲間を…」
夏希は、あすみの問いに失笑した。
「私は、父親を殺した女よ?昔の仲間といっても、他人でしょ?何を遠慮する必要があるのかしら?」
そして…人間らしい、一切の感情を捨て去って、こう言った。
「『昔の仲間』だろうが…『今の仲間』だろうが…殺したい時に…私は殺す…」
夏希はそのまま『雨間荘』の敷地内から立ち去って行った。
4187投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)21時02分01秒
はるかと恵も、二階から飛び降りて来た。
「ねぇ…。このガスバーナー、貰っておくよ…。何かに使えそうだし…」
はるかは、夏希の持ってきたガスバーナーを拾い上げる。
「おい、よくやったな!!よくぞ、あの女を殴ってやった!!」
恵が、あすみの肩を叩いた。
「う…!!」
あすみは、顔を顰めて肩を押さえた。
「わ、わりぃ…!!大丈夫か?あすみ!?」
青い顔をして謝る恵に、あすみは無理矢理笑顔をつくって頷いた。
「まったく…!!これから全面戦争だっていうのに…。夏希ったら…仲間に怪我をさせるなんて………あ、彼女には、仲間なんて関係ないのか…」
理沙は、携帯を取り出してメールを打ち始める。
「さてと…戦争開始のメッセージ…。まずは、翔子に送ろうかしらね…。あと、楠本のヤツにも…」
「じゃ、じゃあ、私はあい〜んに送るよ…」
あすみは、『Party is Open!』とメールを打つと、細川藍に向けて送信した。
4188投稿者:リリー  投稿日:2008年10月03日(金)21時02分17秒
今日は、これでおちます
4189投稿者: 投稿日:2008年10月03日(金)21時19分25秒
あげます
4190投稿者:Everybody,Peace!andHappy!  投稿日:2008年10月04日(土)00時04分05秒
みんな、平和!幸福!
4191投稿者:あげ  投稿日:2008年10月04日(土)07時32分17秒

4192投稿者:夏希  投稿日:2008年10月04日(土)12時21分33秒
やっぱり怖い
4193投稿者:あげ  投稿日:2008年10月04日(土)13時30分33秒

4194投稿者: 投稿日:2008年10月04日(土)14時13分16秒
4195投稿者:あげ  投稿日:2008年10月04日(土)17時35分24秒

4196投稿者: 投稿日:2008年10月04日(土)17時49分11秒

4197投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)20時57分57秒
凄い数の、あげコメントですね
ありがとうございます

4190さん
『Party is Open!』の詩が、皮肉な内容になってしまいましたね
少なくとも、七海や藍、有海にとって、PeaceでもdHappyでもない展開になっていきます

4192さん
ガスバーナーで止血…
やっぱり、怖いですよね

では、更新します
4198投稿者:あげ  投稿日:2008年10月04日(土)20時58分26秒

4199投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)20時59分18秒
『R&G探偵社』の、社長室に、ダーブロウ有紗は東京都内の地図を広げて唸っていた。
『東京都内大量遺体盗難事件』に手を着けて、もうすぐ2ヶ月になる。
まったくと言っていいほど、手掛かりがつかめない。
犯人が、その遺体で何かをしたのなら、僅かながらも足跡は残しそうなのだが…。
巨大冷凍庫で、12体の遺体を保管しているのなら、もうお手上げだ…。
「う〜ん…!!プライドが傷つくぜ!!解決できねぇ事件なんてよぉ…!!」
「プライドの使い方、間違っているぞ?」
「ん…?チビアリ…!!」
いつの間にか、社長室の入り口に中村有沙が腕組みをして立っていた。
4200投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)20時59分29秒
「解決できない事件があっても、当たり前だ…。人は完璧な存在ではないだろう?ましてや貴様など…」
「うるせぇよ!!てめぇ、何か悟ったような物言いだな?ええ?おい?」
「悟ってなどいない…。ただ…完璧主義は虚しい、と思うようになってな…」
「あん?」
「人は、いつか死ぬのだし…」
「…おまえねぇ…。最初から年寄りじみたヤツだとは思っていたが…最近、拍車がかかってきたな?」
「貴様が、いつまで経っても幼稚なのだ。漫画しか読まないし…」
「漫画だけ読んでりゃ、世の中のことは大体わかるんだよ!!おまえの読んでる本の方が、頭悪くなるぜ!!」
「埴谷雄高の『死靈』のことを言っているのか…?貴様には理解ができないか…。日本語で書いてあるのだが…」
「私は半分、アメリカ人なんでね!!」
「ああ…だから、日本語も英語も、中途半端なのだな…」
「おまえ…!!それ、ハーフの人への禁句だぞ?コンチクショウ!!」
そう言いながらも、久しぶりの姉妹喧嘩は、ダーブロウ有紗にとって楽しかった。
4201投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)20時59分53秒
「お、そうだ…。パッツン、どこ行った?」
「七海?何故、私に聞くのだ?」
「おまえのパートナーだろうがよ!!」
「仕事以外で、あいつのことなど知るか!!」
ダーブロウ有紗は、溜息をついた。
「おまえ…最近、パッツンの様子がおかしいことに、気がついてるだろ?」
「ああ…。野球部がなくなってから、あいつは腑抜けになった…」
「いや、それもそうだけどよ…。何か…あいつ、危うい感じになったっていうか…」
「危うい…?」
「何か、迷いっていうか…恐れっていうか…」
「迷い…?恐れ…?」
「あ、そう言えばおまえにも感じるんだよ…。どうかしたか?お前等…」
自分と七海の共通点…それは、寛平に占ってもらった…ということ…。
自分は、寛平に『死ぬ』と予言された。
このまま探偵稼業を続け…『鎌』を手にした時に…。
あれから中村有沙は、自分の武器『鎖鎌』を手にしていない…。
おそらく、七海も不吉な結果が出たのだろう…。
寛平の占いの的中率の高さは…梨生奈の大怪我、野球部の解散で証明済みだ…。
4202投稿者:ワロタwww  投稿日:2008年10月04日(土)21時03分51秒
「ああ…だから、日本語も英語も、中途半端なのだな…」
「おまえ…!!それ、ハーフの人への禁句だぞ?コンチクショウ!!」

とりあえずリリーさんにはそんな偏見がないことを祈ってますwww
4203投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)21時05分59秒
「別に…何もない…」
「………」
ダーブロウ有紗は、中村有沙がウソを言ったことに気付いた。
これ以上、追求しても素直に喋るとは思えないが…。
その時、ダーブロウ有紗の携帯が鳴った。
『ダブル・フィシャーマンズ・ノット・オールド』…俵有希子だ。
「ほい、私だ。どうした?ミミー」
〔はい…。こちら、ミミー…〕
有希子も、コードネームの長ったらしさから、『ミミー』と名乗るようになった。
4204投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)21時06分23秒
〔今、多摩川の田園地帯で…近所の住民から、悪臭がするという情報がありまして…〕
「うん、うん。それで?」
〔見つかりました…。捜索してた…遺体の…一つが…〕
「おお!?そりゃでかした!!どれが見つかった?」
〔ふ…腐乱が…かなり激しいので…詳しいことは、解りかねますが…〕
「おい、大丈夫か?」
〔やばいです…。限界です…。ジョーが吐いてます…〕
「おい!!『あしたのジョー』かよ!!根性見せやがれ!!」
〔はい、がんばります…。ええと…肌のシワやたるみの感じから…だいぶ高齢だと思われ…ペニスと睾丸が確認できますので…おそらく…78歳の…男性ではないかと…〕
「なるほど…。写メール送れ」
〔げ…。マジですか?当分、リゾット関係が食べられなくなりますよ?〕
「私は平気だ!!早く、送れ!!」
今夜の夕飯はイタリアンでリゾットにしようか…とダーブロウ有紗は考えた。
4205投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)21時07分29秒
ダーブロウ有紗の携帯に、腐乱死体がどアップで映し出される。
「う〜ん…。おい、キンタマとチンポが映ってねぇぞ!!」
〔は、はい…。も、もう一枚…〕
二枚目の画像が送られてきた。
「うん!!このクタビレ具合は、おそらく78歳のジジイだ。ケンキの携帯に送っておくわ」
〔い、いきなり送るんですか?〕
「ああ…。メチャクチャ可愛い娘の写メだって言って、送ってやるよ」
〔ダ、ダーさん…鬼畜すぎる…〕
「よし、ご苦労だった。地元の警察に任せて戻って来い。今夜の夕飯は、トマトリゾットだぞ」
〔う…えれえれえれ………〕
「うわ!!吐きやがった…!!」
ダーブロウ有紗は、一方的に電話を切った。
「貴様は…本当にいい性格をしているな…」
中村有沙は、呆れ顔で呟いた。
「ん?今頃気がついた?なぁ、この死体、放置されてどれくらい経ってると思う?」
「見せるな…」
そう言って、中村有沙は携帯の画面から目を逸らした。
すると、今度は『クリムゾン・レイン』…岩井七世からの電話が鳴った。
4206投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)21時08分18秒
「ん?今度は出っ歯ちゃんか?」
そう呟き、ダーブロウ有紗は携帯に出る。
〔『マッド・エッジ』ですか?『クリムゾン・レイン』です。〕
「ミミーとジョーが、78歳のジジイの遺体を見つけたぜ?おまえの方は?」
〔はい、私も見つけました!!子供の遺体です!!場所は多摩川の個人所有の山の中です!!〕
「ん?今度も多摩川…?ほほぉ…。こりゃ、多摩川を総出で捜索だな…。で、どの遺体だ?」
〔ええと…だいぶ野犬が食い荒らしてますね…。待って下さい…。今、散らばった所、つなげてみますんで…〕
「…出っ歯ちゃん…。おまえ、ミミーやジョーと違って、プロだねぇ…」
〔…う〜ん…胸の下から下腹部にわたって、空っぽです。内臓から食べられたみたいです。生殖器も見当たりません…〕
「頭部は?確か、5歳の女の子は、随分髪の毛が長かったぜ?」
〔ええと…頭部、頭部…。ん?あ!!ありました!!髪の毛が落ちてます!!だいぶ長いですね…〕
「顔は?」
〔下顎がありませんが…5歳の子って、右目の下にホクロがありましたよね?…確認できます。おそらく5歳の女の子です〕
「写メ、送ってくれ」
〔了解〕
4207投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)21時08分36秒
上顎から下のない、女児の頭部の画像が送られてきた。
眼球もカラスにえぐられたのか、なくなっていたが、右目下のホクロも確認できた。
「出っ歯ちゃん、すまないが、このままミミー達と合流してくんねぇか?今から『チームN』と『チームE』とデッパリンダを連れて、そっちに向かう」
「む…?私も行くのか?」
中村有沙は、思わず顔を顰めた。
「多分、多摩川に全ての遺体が捨てられてると思うぜ。これでこの事件、解決に近づいた!!」
〔そうですね…。では、『ダブル・フィッシャーマンズ・ノット』達と連絡をとってみます〕
「おう。じゃあな。また後で」
ダーブロウ有紗は、携帯を切ると、今度は5歳の女児の遺体の写メールを送る。
「よし、今度はテルに送ってやれ…」
4208投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)21時09分10秒
中村有沙は、溜息をつく。
「やれやれ…クリスマスだというのに…。何が悲しくて腐乱死体と聖夜を過ごさねばならないのだ…」
「け…!!何で、この国はイエス様の誕生日にセックスしまくるんだよ!!おかしいだろ?殆ど仏教徒のクセによ!!」
「言っておくが、私はセックスなどしないし、一応クリスチャンだ」
「え?そうなの?」
「聖テレは、キリスト教系の学校だろう?」
「ああ…。そうなんだ…。私は、ただ何となくカッコつけて『聖テレジア』なんて名前にしてたのかと思ったぜ。あの学校…」
「貴様…入学案内、読んでいなかったのか?」
「だって、私が通うわけじゃねぇもん!!じゃ、早速仕度しろ。パッツンが帰り次第、多摩川に出発だ」
「…デカアリ…。武器は…要らないよな…?」
「ん…?鎖鎌か…?うん…まぁ…別に戦うわけじゃねぇもんな…。でも、山に入って捜索すると思うから、持っていけば便利かも…」
「いや…必要ないだろう…」
「いやいや、必要だ!!おまえの必殺技…何だっけ?『流星の舞』?あれで、山の草とか木、刈り取ってくれよ。それで捜索がだいぶ楽になる」
「わ、私は、芝刈り機か!?」
「いいじゃねぇか!!な、鎖鎌、持ってけよ?」
4209投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)21時09分36秒
「………」
中村有沙は考えた。
『鎌』に触れたら、自分は死ぬ…そういう予言を自分は受けた…。
しかし、遺体の捜索で死ぬ事などあるのか…?
いや、戦闘で死ぬとは限らない…。
事故という可能性も…。
いや、これで試してみればいい。
これで死ななければ…生きて虹守町に戻れれば…もう、あのふざけた占いに振り回されることはない…。
これは、自分にとって都合がいいのだ。
もし、戦闘の時にこの占いのことを気にし出せば、必ず隙が生まれ、それが命取りになる。
遺体捜索という比較的安全な仕事で、占いの真偽を試すことができる…。
「………わかった…」
中村有沙は返事をした。
「………」
ダーブロウ有紗は、そんな妹の顔をじっと見詰める。
「…?何だ?」
ダーブロウ有紗は、ゆっくりと語り出す。
「チビアリ…。それだ…。おまえに感じる、迷いと恐れ…」
「………気のせいだ…」
中村有沙は、社長室から出て行こうとする。
4210投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)21時09分58秒
すると、またもやダーブロウ有紗の携帯が鳴る。
送信主は…『キラー・タイガー』…。
「お!?チビアリ、待て!!その、パッツンからだ!!」
「…?」
ダーブロウ有紗は、携帯に出る。
「おう、パッツン。今、どこだ?今から………」
ダーブロウ有紗の顔色が変わった。
「どうした…?」
中村有沙がそう問いかけた途端…。
「てめぇ!!コンチクショウ!!何で、てめぇがパッツンの携帯を使ってやがる!!」
「…!!」
凄まじい形相で怒鳴る姉を見て、彼女は一瞬にして悟った。
七海に…何があった…?
中村有沙は、『TTK』仕込みの地獄耳をそばだてた。
〔まあ、まあ…。そう、興奮なさらずに…〕
低く、篭った声…。
「楠本!!」
中村有沙は、思わず叫んだ。
〔おや?妹さんもいらっしゃるんですね?それは良かった…。まさしく、そのパートナーの一大事ですからねぇ…〕
4211投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)21時10分30秒
「てめぇ…。もう、二度と私と会うことはないと…言いやがったのを忘れたのか!?」
〔これは電話でしょ?会ったということにはならないでしょう?〕
「屁理屈言ってんじゃねぇ!!」
しかし、加藤組の襲撃で、やはり死んでいなかったのか…。
「それよりも、パッツンのことだ!!まさか、てめぇ…」
〔無事ですよ。丁重に扱ってますから、ご安心を…〕
「今、何処にいる!?」
〔アジトです〕
「だから、アジトは何処にある!?」
〔それは教えられません…〕
「ち…!!て、てめぇ…」
その時、中村有沙がダーブロウ有紗から携帯を取り上げた。
「チ…チビアリ…!!」
「貴様、頭を冷やせ。私が対応する…。もしもし…?」
〔お!?妹さんの、有沙さんですね?どちらも『ありさ』さんなので、ややこしいですが…〕
「ほっとけ…。で、用件は何だ?」
〔いいですねぇ…。お姉さんは、どうにも興奮してしまって話しにならないようでしたので、助かります〕
「いいから、早く話せ。この私だって、実は冷静ではないのだ…」
〔わかりました…。では本題に…〕
楠本は、一呼吸おいて、言葉を続けた。
〔戦争しませんか…?私達…『TDD』と…〕
4212投稿者:有沙の芝刈り機  投稿日:2008年10月04日(土)21時10分44秒
何気にほしくなったww
4213投稿者:リリー  投稿日:2008年10月04日(土)21時15分31秒
4202さん
はい、私にはそんな偏見はありませんが、二ヶ国語を操るハーフの方に、憧れを抱きます
でも、ウェンツの様に日本語しか喋れない人もいるのでしょうが…

4212さん
確かに、芝刈り機としても有用ですが、庭がメチャクチャになってしまいます

では、これでおちます
4214投稿者:117  投稿日:2008年10月04日(土)21時54分15秒
ゆっことダーさんのやり取りに(笑)。それに対して、遺体の表現が・・・。
案外、次々と見つかっていますね。しかし、一体何の目的で?
「TDD」との対決の行方も気になります!
4215投稿者:リリーさんの  投稿日:2008年10月05日(日)19時31分33秒
今までのお話が読んでみたいです!
どこにありますか?
サムライ・ドライブや、らりるれろ探偵団などもあればうれしいです。
4216投稿者:あげ  投稿日:2008年10月05日(日)19時48分28秒

4217投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)20時58分49秒
117さん
遺体盗難の件は、まだ当分物語りに関わってこないので、忘れないでいて下さい
ダーさん、罰当たりですよね

4215さん
『らりるれろ探偵団』は、復刻版があります
ときどき、更新をしております
http://ame.x0.com/tentele/080504010637.html
また、時間がありましたら読んで下さい
『サムライ・ドライブ』はもう、過去ログが見れなくなってしまいましたね


では、更新します
4218投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)20時59分30秒
その後、社長室に、吉田、ジョアン、梨生奈、羅夢、エマ、エリーが集められた。
七世と俵姉妹には、急いで戻ってもらうことにした。
七海が…『TDD』に拉致され、人質にとられてしまった。
その後、全裸で椅子に拘束され、猿ぐつわもされた七海の写真が送信されてきたので、どうやら拉致されたのは本当の様だ。
七海は、『TDD』のアジトで監禁されているそうだ。
画像の七海の様子を見れば、リンチや拷問など、傷つけられていることはないらしい。
その七海を獲り返す為に、今から『TDD』の言う、全面戦争に応じなければならない。
場所は、楠本とダーブロウ有紗が闘った…ナットー製鉄工場跡地…。
もちろん、敵の罠の真っ只中に飛び込まなければならない。
「アタイは行かないよ!!」
羅夢が開口一番、言い放った。
「ら、羅夢…!!あなた、七海が捕まったのよ!?」
車椅子の梨生奈が、羅夢をたしなめた。
「そんなの、アイツがドジだからだよ!!何で、アイツの為にアタイ等が危険を冒さなきゃいけねぇんだよ!!」
「いくら仲が悪いからって…仲間でしょ?心配じゃないの!?」
「アタイは、梨生奈が心配だ!!梨生奈は怪我が治ってないから、ここに残るんだろ?アタイもここに残って、梨生奈を守る!!」
「わ、私のことは心配いらないわ!!」
しかし、ダーブロウ有紗は2人の会話に口を挟んだ。
「いや…ダッチャの言う通りだ…」
「ダ、ダーさん…?」
梨生奈は、ダーブロウ有紗の意外な言葉に戸惑った。
4219投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時00分22秒
「いや、別にパッツンを見捨てろって話しじゃねぇ…。ここを空っぽにするのも、どうかと思うんだよ」
ダーブロウ有紗は、梨生奈と吉田を見る。
「少なくとも、私達には怪我人が2人いるんだ。ま、レッドさんは五体満足でも戦力にはならないけどよ…」
「面目ない…」
吉田は、その長身を小さく縮めた。
4220投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時00分51秒
「ヤツ等の別動隊が、『R&G』の本部であるここを急襲しないとも限らねぇ」
ダーブロウ有紗は、羅夢の前に歩み寄る。
「ダッチャ、おまえはここに残って、レッドさんとデコッパチを守れ!!」
「…!!わ、わかった…!!」
「そしてな…もし、ここを襲ってきたのが、楠本か夏希だったら…逃げろ!!2人を連れて、逃げろ!!」
「…!!ふ、ふざけんな!!アタイは逃げたりなんか…」
ダーブロウ有紗は、羅夢の頬を両手でピシャリと叩くと、強く挟んだ。
「無理すんな…。ダッチャ…。2人の為だ…」
「………わはった(わかった)………」
「よし…」
ダーブロウ有紗は、満面の笑顔を見せる。
「死ぬなよ…?」
「ら、られがひぬかよ!!(だ、誰が死ぬかよ!!)」
「へへ…。デコッパチ、おまえ、身体が動かない分、頭を動かせよ!?」
ダーブロウ有紗は、ようやく羅夢の頬から手を放し、梨生奈の方を向く。
「はい…。頭脳労働は、任せて下さい…」
梨生奈も、そう言って微笑んだ。
4221投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時01分19秒
「あ、あの…ダーさん…。ワシは…?」
吉田が、遠慮がちに発言する。
「ん…?」
「羅夢は肉体労働担当、梨生奈は頭脳労働担当、ワシは何をすれば…?」
「レッドさんか?レッドさんは…運担当!!」
「運!?」
「ああ。レッドさん、『TTK事件』で全身骨折で入院、『難田門司事件』でも全身骨折で入院…今回も、全ての不運を引き受けてくれ!!」
「か、身体がもたんわ!!」
そう、悲鳴をあげる吉田に、梨生奈は笑顔で言う。
「大丈夫ですって…。私達、あの『原村トリオ』ですよ?絶対に、生き残れます!!」
「そうだよな…。アタイ達、あの修羅場をくぐってきたんだ!!死んでたまるかってんだ!!」
頼もしそうに、ダーブロウ有紗は『原村トリオ』を眺める。
「よし…!こいつ等は大丈夫そうだな…」
そして、今度は中村有沙、エマ、エリー、ジョアンの方を見る。
「さて…おまえ達は…私と一緒に、ナットー製鉄だ…」
「う…。やっぱり…?」
エマとエリーは、涙目になって抱き合っている。
「また、楠本と…それに夏希さんと…戦わなきゃいけないなんて…」
「大丈夫だ!!お前等『チームE』は後方支援!!最前線には、私が立つ!!」
4222投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時01分42秒
「おい、私達は…?」
そう聞く中村有沙を、ダーブロウ有紗はじっと見詰める。
「…何だ?」
「いや…おまえ達は、2人とも中距離攻撃のエキスパートだろ?この私の中距離支援を頼む」
「ふん!!アタシだって、接近戦は得意だぜ?私も最前線に立たせろよ!!」
ジョアンは、面白くなさそうに言う。
「加藤組の時も、山本組の時も、アタシだけ戦ってなかったんだ!!今度こそ、思いっきり暴れまわりたいね!!」
だが、ダーブロウ有紗は首を横に振る。
「いいか?この戦いは、チームワークが肝になる!!」
「チームワークだと?」
「ああ…。はっきり言ってな…楠本、夏希…この2人は、私より強い…」
「おい、珍しいな…。貴様が素直に認めるとは…」
「うるせぇ!!チビアリ!!ここからが問題なんだ!!『R&G』の中で、私の次に強いのは、誰だ?」
「ん?ジャスミンがいない今…七世だろ?」
ジョアンが答える。
ちなみに、武器を持たない状態で素手での殴り合いをさせたら、ダーブロウ有紗の次に強いのがジョアンだ。
「ああ…。で…その出っ歯ちゃんより確実に強いのが…理沙って女と…恵って女だ…」
「何故、わかる?」
「実際に戦ったからさ!!出っ歯ちゃん、私がいなかったら、確実にその2人に殺されてたよ…」
そこまで、力が離れているとは…皆は静まり返っている。
4223投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時02分13秒
「つ…つまり…単純な比較をすると…楠本>夏希さん>ダーさん>理沙>恵>七世さん…?」
梨生奈が、不安げに呟いた。
ダーブロウ有紗は、人差し指を横に振る。
「いや…『TDD』にはボスがいる…。そいつが、また強いらしい…。楠本の上にそのボスが来て、恵って女と出っ歯ちゃんの間に、また誰かが入るかも…」
「おいおい!!何、しみったれたこと言ってんだよ!!そんなの、気合でぶっ飛ばしてやりゃいいんだよ!!」
そう怒鳴る羅夢に、ダーブロウ有紗は更に怒鳴る。
「だから、おまえにはデコッパチがついてなきゃダメなんだよ!!自分の強さのスタンスがわかってなきゃ、全滅する戦いだぞ!?これは!!」
そして、中村有沙、ジョアンの方に向き直る。
4224投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時02分26秒
「でな…お前等2人が力を合わせれば…恵って女と出っ歯ちゃんの間にくる誰かってのが…お前等だ…」
「…!?」
2人は、顔を見合わせた。
「チビアリ、デッパリンダ、ジェリー、ぷるぷる、そして私…。私達、5人1チームで、ヤツ等と一人ずつ戦っていくんだ…!!」
「5対1で…?」
「ああ…。私だって、本当は楠本や、夏希や、そのボスってヤツと、1対1で戦いたいんだ!!それでもプライドを押し込めて、5対1で戦う!!いいか?デッパリンダ…!!チームプレイに徹しろよ…?」
「………わかったよ…」
ジョアンは、納得せざるを得なかった。
「そうだ、チビアリ。パッツンの武器、金属バットも持って行け」
「む?何故だ?」
「今から、大雑把な作戦を言ってやらあ」
先ずは、七海の救出が優先…。ダーブロウ有紗と中村有沙、ジョアンの3人で敵をかく乱している間に、『チームE』が七海を発見する。
そして、5人で七海を救出後、一人ずつ5人で…いや、七海も戦闘ができる状態であれば6人で対戦し、確実に敵を減らしていく…。
この場合、近距離攻撃2人、中距離攻撃2人、遠距離攻撃2人のバランスのとれたフォーメーションがとれる。
七海とエマのコンビネーション、『ヴォヤージュ±』も使える。
4225投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時02分45秒
「なるほど…。大雑把だな…」
中村有沙はそう言って、溜息をついた。
「うるせぇ!!だったら、もっといい代案を言ってから文句言え!!あ、それからパッツンのトラックスーツも持ってってやれ。あいつ、今、素っ裸だろ」
「で、ダーさん…。あいつ等は、何時にナットー製鉄跡地に来いって?」
吉田は、壁掛け時計を気にしながら聞いた。
「ん?9時だよ」
「9時か…。せやったら、七世と俵姉妹は間に合わんなぁ…」
「ああ、あの3人は、真っ直ぐここ、『R&G』に向かわせてる」
「へ…?ここに…?」
「あいつ等は攻撃よりも守備に力を発揮するタイプだからな…」
そして、ダーブロウ有紗は、羅夢を見る。
「おまえほど、守備のヘタクソなヤツもいねぇ…。いいか?ヘタに敵へ突っ込んでいくんじゃねぇぞ?」
「わかってるよ!!」
羅夢はむくれたが、梨生奈の肩に手を置く。
「梨生奈の言うことを聞いていれば…アタイは大丈夫だ…」
中村有沙は、ゆっくりとソファーから立ち上がり、社長室のドアへ向かっていく。
「作戦会議が終わったのなら、私は仕度をしに行く…」
4226投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時03分08秒
七海のいない部屋に、中村有沙は入る。
七海がいないにも関わらず、彼女の領域を侵さないよう、律儀に赤絨毯の上を歩く。
自分の領域へ辿り着くと、クローゼットからジェラルミンケースと黒地にライトグリーンのラインの入ったトラックスーツを引っ張り出す。
この中には、9月以来、触ることのなかった鎖鎌が入っている。
やはり…この武器を手にしなければならない運命か…。
運命…自分が死ぬ運命…。
(何を言っている…?生きるか死ぬか…それが私の人生だったはずだ…)
何故、死ぬことにこんなにも怯える?
表の世界が…楽しかったから…?
ちひろとの出会い…。
聖テレ野球部…。
「そうだった…」
七海の金属バットとトラックスーツを届けなければならない…。
七海と無事に合流できるのなら…。
中村有沙は、七海との領地の境界線に立つ。
「非常事態だ。文句は言うなよ…」
誰に言うこともないが、中村有沙はそう断りを入れ、七海の領地に足を踏み入れた。
4227投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時03分28秒
ここから、部屋は阪神タイガース一色となる。
時計、クッション、パソコン、マウスパッド…すべてがタイガースグッズ…。
「ふん…七海め…。面倒をかけてくれる…」
壁のハンガーに掛けてある、黒地に黄色のラインのトラックスーツを取り、壁に立て掛けてある黄金の金属バットを掴む。
「貴様が、簡単にくたばることはあるまい…。必ず受け取れよ…七海…」
そう言うと、自分の領地へと移る。
ジェラルミンケースを開く。
中に納められた、鎖鎌…。
研ぎ澄まされた刃…。
これに触れれば…もう、後戻りはできない…。
鎖鎌に手を伸ばす…。
その時、携帯が鳴った。
「…?」
非通知…。
探偵社の者ではない…。
出ようかどうか、迷っていたが、結局中村有沙は通話ボタンを押した。
〔もしもし…。ありりん…?〕
幼い、少女の声…。
「帆乃香か!?」
中村有沙は、何故、帆乃香が今、このタイミングで電話を掛けてきたのか、疑問に思った。
4228投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時03分50秒
〔はい…。帆乃香です…〕
たしか、七海は帆乃香の家へ向かって、『TDD』に拉致されたはずだが…。
「帆乃香!!貴様、今日、七海と会わなかったか!?」
〔はい。会いました…て、いうか…今、同じ建物の中にいます…〕
「な、何…!?お、おまえも一緒にさらわれたのか!?」
〔違います…〕
「ど、どういう事だ…?」
〔ありりん…。聞いて…!!うちも、そない長く喋ってられへんのよ…〕
「む…?」
聞きたいことは、山ほどある…今、どこにいるのか?何故、七海と一緒にいるのか?何故、自分の携帯の番号を知っているのか?自分の意思で電話を掛けてきたのか?
だが、帆乃香が、何故か自分に伝えたいことがあるらしい…。
何故、自分に…?
〔ありりん…。お爺ちゃんに…占うてもろたでしょ?虹守中の試合の時…〕
「…ん…?」
〔うち、後でお爺ちゃんい聞いたんよ…。それで…『鎌』に触ったらアカン…て、言われへんかった?〕
「………」
〔触ってへんよね?『鎖鎌』に…〕
「………」
中村有沙は、ジェラルミンケースの中の、鎖鎌を見詰める。
〔ねぇ!!答えて!!重要なことや!!触ってへんよね!?〕
「…ああ…。まだ…触っていない…」
4229投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時04分11秒
〔あぁ…よかった…。まだ、触ってへんかったんや…〕
電話口の帆乃香の声は、心底安堵しているようだった。
だが、中村有沙は、とある確信を得た。
「帆乃香…貴様…いや、寛平も…『TDD』の者だな…?」
〔…!!〕
今度は、帆乃香が言葉を失った。
「貴様…今、『鎖鎌』と言った…。寛平は、占いで『鎌』としか言っていない…。つまり、私が『鎖鎌』を振り回す様な女子中学生…と、知っているのだ…貴様は…」
〔………〕
沈黙の中に、溜息が聞こえる。
「貴様が…七海を…罠にはめたのだな…?」
中村有沙の声に、殺気が篭る。
〔…せやから…ゆっくりお話しはできん、言うてるやろ?〕
帆乃香の声も変わった。
「ならば…早く、用件を言え…」
〔ええか?これは敵も味方もない、忠告や…。お爺ちゃんの占いを信じ…!!〕
「何?」
〔ええか?『鎖鎌』に触んなや?〕
「どう言う事だ?」
〔せやから…!!ありりんは、戦うな、このまま逃げぇ、言うてるんや!!〕
「貴様…!!何を言っている?」
4230投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時04分30秒
〔ありりんは信じひん思うけど…死んで欲しくないんよ…〕
「何故、貴様が私の身を案じる?」
〔正確に言うとやな…ありりんに死んでほしない、て考える人間が『TDD』におるんよ…。その人に頼まれて、うちが今、電話しとんのや〕
「…?誰だ…?その人間とは…?」
〔言うな、言われとる…〕
中村有沙は、大きく息をついた。
「ふん!!貴様、そんなことを言って、少しでもこちらの戦力を削ごう、という作戦か?」
〔ちゃ、ちゃうよ!!そんなんやない!!ええか?ほんま、お爺ちゃんの占い、甘くみんとき!!鎌に触ったら、死んでまうで!?〕
「そうやって、私を動揺させようという…作戦か…。なるほど…セコイ集団だな…『TDD』とは…」
〔ああん!!もう、頑固モンやな!!もう、これ以上は話してられへん…!!ええか?絶対に鎌に触ったらアカンで?〕
「くどい…」
〔くどくても何べんでも言うたる!!ええか?そのまま、逃げ!!言うたで?うち、言うたかんな!!〕
そして、電話は切れる。
中村有沙は、携帯をじっと見詰める。
「…逃げろ…だと…?このまま…?」
鎖鎌に、視線を落とす。
「ふざけるな…。これで、覚悟はできた…!!」
中村有沙は、しっかりと…鎖鎌を…その手で掴んだ。
4231投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時04分49秒
今日は、これでおちます
4232投稿者:117  投稿日:2008年10月05日(日)21時09分21秒
いよいよ、R&GとTDDの直接対決へ・・・「嵐の前夜」という感じですね。
レッドさんは運担当。>「全ての不運を引き受けてくれ!!」(笑)。
帆乃香、というよりは有沙を心配している人物とは?その思惑は何なのか?続きも楽しみです!
4233投稿者:リリー  投稿日:2008年10月05日(日)21時10分17秒
梨生奈と吉田は。。。異常なプレイをしていた。梨生奈の壷にはレズプレイ用の玩具が。。。さらに吉田のアナルは梨生奈とつながっていた。ダーブロウ有紗は驚愕の顔を見せた。「な、なんで?」有紗は言った。すると梨生奈は「ハン、今更なによ!」と腰を振りながら言った
4234投稿者:しょこたん自重www  投稿日:2008年10月05日(日)21時23分13秒

4235投稿者:ついに来たな  投稿日:2008年10月05日(日)22時06分25秒
全面戦争
4236投稿者:あげ  投稿日:2008年10月05日(日)23時53分31秒
    
4237投稿者: 投稿日:2008年10月06日(月)01時56分36秒
4238投稿者: 投稿日:2008年10月06日(月)18時16分53秒

4239投稿者:リリー  投稿日:2008年10月06日(月)21時13分45秒
117さん
有沙を心配しているのは、4234さんが正解を言っています
レッドさんは、二作連続で大怪我して途中リタイア…という役ですから
これは、敢えて意識してやっています
それで、今回はレッドさんは、どうなるのか?お楽しみに

4235さん
いよいよ、全面戦争です
そして、有海の宿題『将棋もどき』…つまり、対戦カードが、今日、発表されます

では、更新します
4240投稿者:リリー  投稿日:2008年10月06日(月)21時16分01秒
上下峠のアジトの応接室には…今回の戦争に参加する『TDD』のカード達が勢揃いしている。
いや、『スター(星)』の藍と『ハイプリエスティス(女教皇)』の有海と『サン(太陽)』の帆乃香、そして『ラバーズ(恋人)』の翔子は、別室で待機している。
そして、『ジャッジメント(審判)』こと、シンパンマンも、席を外している。
応接室にいるのは、『TDD』の戦闘要員だけである。
4241投稿者:リリー  投稿日:2008年10月06日(月)21時16分19秒
「え〜…それでは、皆さんに一つずつ封筒を手渡します」
『エンペラー(皇帝)』の楠本は、皆に大型の封筒を配っていく。
「何だ?こりゃ?」
『ストレングス(力)』の恵が、封筒をピラピラと振りながら掲げる。
「はい。この封筒の中に、あなたがたの対戦相手の顔写真とプロフィールが入っております」
「…!?」
皆の顔に、緊張が走る。
「つまり…この中に入っている人間を…今夜は仕留めてもらいます…」
恵は、大慌てで封筒を乱暴に破り、中の書類を見る。
「あぁ…!?何だぁ!?『ジョアン・ヤマザキ』…?誰だよ!?この雑魚!!何で、私がこんなヤツと戦わなきゃいけねぇんだよ!!」
「ほらね…。怒られると思ったんだ…」
楠本は、やれやれ、と息をつく。
「『ジョアン・ヤマザキ』…?私もそうだよ…」
『デス(死神)』のはるかも、封筒の中を覗いている。
「あ…?みのぽーも?どう言うこった?」
恵は、楠本に殺気漲る視線を向ける。
「ああ…。つまり…恵さんとみのぽーさんが、タッグを組んで、このジョアンという子と戦う…ということですね…」
楠本は、2、3歩後退りしながら言った。
4242投稿者:リリー  投稿日:2008年10月06日(月)21時16分48秒
「ふざけてんのか!!2対1で戦えだと!?」
恵は、もの凄い形相で立ち上がった。
「おい!!ダーブロウと戦うヤツは誰だ!?私と交換しろ!!夏希、てめぇか!?」
しかし、『デビル(悪魔)』の夏希は、静かに首を横に振る。
「残念だけど…そうじゃないわ…。ふざけてる…。この私が…『チームE』ごときの相手…?」
夏希の掲げた2枚の書類には、『近藤エマ』と『渡邊エリー』の写真が…。
「ま、一応、私一人で2人を仕留めろってことらしいけど…」
そう言って夏希は、恵の顔を見上げて笑った。
恵は、舌打ちをしながら、理沙の方を向く。
「弥勒姉さんか?」
だが、『エンプレス(女帝)』の理沙も、首を横に振る。
「私の相手は…『中村有沙』。ダーブロウの妹よ…」
「おい、あすみは!?」
「私は、この子。らむりんだよ…」
『タワー(塔)』の、あすみの見せた写真は、『細田羅夢』…。
恵は、ゆっくりと憤怒に染まった顔を、楠本に向ける。
「ちょ、ちょっと…。怖いですよ…。恵さん…スマイル…。スマイル…」
楠本は、引きつった笑顔で後退りする。
4243投稿者:リリー  投稿日:2008年10月06日(月)21時17分13秒
「楠本!!てめぇだな!?おい!!私と交換しろ!!」
「ち、違いますよぉ…!!ほら、見てください…」
楠本の出した写真は3枚…『岩井七世』、『俵有希子』、『俵小百合』…。
「じゃ、じゃあ、一体、ダーブロウの相手は、誰だ!?」
「ちょ、ちょっと…ボス…。フォロー入れて下さいよぉ…」
楠本は情けない声をあげながら、『フール(愚者)』の、寛平の後ろに隠れた。
「ワシや…」
「………え………?」
「せやから…。ダーブロウを相手すんのは、このワシ…カンペーちゃんで〜〜〜す」
寛平は、アホみたいな顔をして、ダーブロウ有紗の顔写真を高く掲げた。
みな、クスリともしない。
「ボ、ボスが…?た、戦うんですか…?」
皆は、呆然とした目で、寛平を見詰めた。
4244投稿者:リリー  投稿日:2008年10月06日(月)21時17分33秒
寛平は、恵に両手を見せて、とにかく座れ、と促す。
「恵、落ち着け…。これ、楠本君が決めたことやない…」
「ど、どういうことですか?」
「これはな…あみ〜ごが決めた、対戦カードや…」
「な、何!?あ、あのガキが…!?」
一気に、恵の顔が、真っ赤に鬱血した。
「あんな、ガキに、こんな大事なことを決めさせるなんて、ボス、いよいよボケたのか!!??」
「恵!!失礼なこと、言うな!!」
寛平は、鋭い眼光で、恵を睨んだ。
「…う…」
恵は、思わずソファーの上に腰を落とした。
4245投稿者:リリー  投稿日:2008年10月06日(月)21時18分14秒
「ワシ、最初からボケとるやん…?」
一転、寛平はそう言って笑った。
「…ボス…笑えないっす…」
恵は、顔面蒼白になって、呟いた。
「でも、説明はしてくださいよ…。何で、あの子に今回の作戦の総指揮という大役を…?」
理沙も、寛平に複雑な視線を送っている。
「うん?そやなぁ…。楠本君。君だったら、ダーブロウの対戦相手、誰にするん?」
楠本は、急に寛平に聞かれて考えあぐねる。
「…そうですねぇ…。『エンプレス』、『デス』、『ストレングス』…の3人で、有紗さんと戦わせます」
それを聞いて、心中穏やかではないのが、『ストレングス』の恵だ。
「3人…?3人って、何だ!?この私一人で…」
「はい、そこで興奮しない!!」
恵は、理沙に怒鳴られた。
4246投稿者:リリー  投稿日:2008年10月06日(月)21時18分26秒
寛平は、楠本の提案に、軽く首を捻る。
「ふ〜ん…。君やのうて?」
「ちょ、ちょっと、ボス…。知ってるくせに…。私が有紗さんに…」
「ふられた」…と言いかけて、楠本は口を閉ざした。
「夏希君やのうて?」
「夏希さんは…元『TTK』で、有紗さんも手の内は知っているでしょうし…」
それを聞いて、夏希は楠本を横目で睨む。
「舐められたものね…。この私も…」
楠本は、恵に夏希に、恐縮しまくっている。
4247投稿者:リリー  投稿日:2008年10月06日(月)21時18分54秒
「あすみは…?」
「う〜ん…。はっきり言って、有紗さんの相手は、力不足かと…」
「はっきり言ってくれて、どうも…」
あすみは、腕組みをしながら淡々と答えた。
それに、楠本は慌てて答えた。
「いや、誰かと組ませるのなら、充分、勝てる可能性はありますが…」
「フォローはいいよ…。別に…。『エトワール』で会った時から、こりゃ勝てないな、とは思ったもん」
寛平は、おもむろに自分を指差す。
「ほな、ワシは…?」
「とんでもない!!ボスの手をわずらわせるなんて…!!」
「それや…!!」
寛平は、自分を指していた指を、楠本に向ける。
「…はい…?」
「君が参謀として作戦を立てたら、そういう『私見』や『先入観』や『気配り』が入り込んで、中々ベストな作戦、いうんが立てられへん。それは他の参謀、『ジャッジメント』や『ハイエロファント』でも同じや」
「…はぁ…」
「でも…あの可愛らしい参謀…あみ〜ごは違うで?あの子は、そういうもんに縛られず、冷静にデータだけを見て判断しよる…」
「そ、それは、ボスの仰せの通り、あみ〜ごには、我々も敵も名前を教えず、単なる記号…『駒』として考えさせたわけですから…」
「『駒』かよ…!!私等は、あのガキの!!」
恵は、不愉快そうに吐き捨てたが、寛平は満面の笑みを見せる。
「せやから…こういう見事な布陣を敷けるんや…」
4248投稿者:リリー  投稿日:2008年10月06日(月)21時19分16秒
「見事…ですか?」
理沙は、まだ納得がいかない様だ。
「中々、理に適っとるで?まず、攻撃力が凄まじい楠本君を、敵の中で守備力の堅い、『岩井七世』、『俵姉妹』にぶつける…」
「いささか、オーバーワークでもあります…。私、まだ左腕が完治してないんですよ?」
「それは、データを打ち出した『ジャッジメント』に文句言い…。それから、攻撃力、機動力、共に一流の夏希君…」
夏希は、ちらりと寛平を見る。
「遠距離から厄介な攻撃を仕掛ける『近藤エマ』と『渡邊エリー』を、早い段階で仕留めて無力化させる…」
「こちらは、いささか物足りないわ…。ライオンをウサギと戦わせるなんてね…」
「あと、恵とはるかを組ませる辺り…ほんまにあみ〜ごは、わかっとるわ…」
もう、恵はむくれてしまって、何も言わない。
「理沙も、あすみも、この相手なら負けることはないやろ…。目的は『TDD』の完全勝利やから…。それから…」
寛平は、ダーブロウ有紗の顔写真をまじまじと見詰める。
「ムコウの『最強』と、コチラの『最強』を敢えてぶつける…。あみ〜ごも、おもろいことを考えるわ…」
「おもろい…?」
「『最強』同士言うても…『狼』の最強と…『犬』の最強をぶつけるんやで…?」
「ボス…」
楠本は、寛平の表情が…一瞬、邪悪なモノに変わったのを見逃さなかった。
「自分のことを『狼』や思うてるヤツを…『犬』やったと思い知らせる…」
寛平の小さな目の奥に垣間見える闇は、果てしなく深い…。
「おもろ過ぎるで…。あみ〜ご…」
間寛平と出会って、『一匹狼』から『飼い犬』となった楠本は…やっと自分を許せる気になった。
4249投稿者:リリー  投稿日:2008年10月06日(月)21時20分08秒
前に、デジさんが対戦予想をしてらっしゃいましたが、当たったものもありますね

では、これでおちます
4250投稿者:たしかにこれなら確実に  投稿日:2008年10月06日(月)22時34分34秒
倒せますね。予定通りなら・・・
4251投稿者:あの・・大変失礼ですが  投稿日:2008年10月06日(月)23時09分28秒
TDDとTTKが戦う事になった理由って何でしたっけ?
すっかり忘れてしまって・・・
何話に書かれてるかだけでも教えてください
4252投稿者:>4251  投稿日:2008年10月07日(火)00時06分22秒
?加藤組が山本組を潰すため、『TDD』の楠本を雇う。
?山本組が加藤組を潰すため、『TDD』の理沙、恵、はるかを雇う。
?理沙が、楠本と戦うのを避ける為、『R&G』に加藤組潰しを依頼。
?『R&G』は楠本と戦うが、依頼を途中でキャンセル。
?楠本が、ダーさんとジャスミンをヘッドハンティングするが、これを拒否。
?拒否られた為に、『TDD』は『R&G』を潰すことにする。

4253投稿者: 投稿日:2008年10月07日(火)00時49分32秒

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