重国籍と外国人の参政権の最近の動向

国際韓・朝研 研究会用資料 05/2/26 

(2006年1月一部修正)

近藤 敦  

 

はじめに:二重国籍の容認傾向

 

 平和主義、民主主義、人権擁護、国際貿易を促進する手段として、重国籍の増大を歓迎

する見解が増えている。欧州評議会は、1963年に重国籍削減条約を締結したが、1997年の

条約で重国籍については各国独自の選択に任せる中立の立場を表明した。1974年にドイツ

連邦憲法裁判所は重国籍を「悪弊」とみたが、1998年に連邦行政裁判所が重国籍回避の原則

は国際的には衰退しているとみる。

 

 1990年代以降:南米:コロンビア、ドミニカ、エクアドル、コスタリカ、ブラジル、

メキシコ、欧州:スイス、イタリア、スウェーデン、フィンランド、その他:オーストラリア、

インド、フィリピン。

 

各国の重国籍容認の度合い

1 難民等、国籍放棄が困難なもの:日本でも

2 国際結婚で生まれた子:西洋諸国は、一般に選択制度なし

3 民族的出身者:ドイツでも、(日本の日系ブラジル人?)

4 経済的損失を被る者の特例:ドイツでも

5 経済共同体市民の相互主義:ドイツでも

6 国際結婚の配偶者:オランダでも

7 定住国で生まれたか、育った者:オランダでも

8 その他の国内外国人:重国籍全面容認国

9 外国邦人:インドやフィリピンでも

 

表 国内居住者を中心にみた場合の各国における重国籍の状況

 

生地主義

生地主義の優勢な混合形態

混合形態

血統主義の優勢な混合形態

血統主義

重国籍には

非常に寛容

 

アメリカ

カナダ

ニュージーランド

オーストラリア

イギリス

アイルランド

ベルギー

フランス

 

 

ポルトガル

トルコ

イタリア

ギリシア

スウェーデン

フィンランド

重国籍には

かなり寛容

 

 

 

オランダ

スペイン

ノルウェー

重国籍には

かなり制限的

 

 

ドイツ

 

 

 

オーストリア

デンマーク

重国籍には

非常に制限的

 

 

 

 

ルクセンブルク

日本

 

近藤敦『外国人の人権と市民権』(2001、明石書店)133頁。ただし近年、アイルランドが、

イギリスやオーストラリア同様、子どもを産みに入国する非正規入国者の流入を防止すべく、生地主義の

要素を弱め、永住者ないし一定期間の居住者の子どもに対してのみ適用するようになってきた。また、

オランダの実務が重国籍の全面的容認をやめ、デンマークがかなり制限的な法改正をした一方、

フィンランドが法改正により全面的容認に移行した。

 

1 「移民国家」化と国籍取得原理

 

「移民受け入れ国(country of immigration)」と「移民送り出し国(country ofemigration)」

前者の質的基準:入国時の永住型移民;量的基準:定住する事実上の移民の増大

国籍取得方法:出生に伴う生地主義と血統主義;後天的な帰化と届出

移民送り出し国(血統主義)、移民受け入れ国(生地主義)居住主義、送→受(出自主義)

 

図 国籍取得原理の4類型

領域(地縁)原理  家系(血縁)原理

生地主義

血統主義

居住主義

出自主義

←出生による国籍取得

←後天的な国籍取得

 

2 重国籍の増大要因

 

冷戦の終焉、徴兵制の縮小や廃止、移民の増大、国際結婚の増大、国際法の変化、条約

移民受け入れ国:1)生地主義と血統主義の併用、2)国際結婚の増大と男女の平等、

3)移民増大に伴う社会統合のための帰化・届出要件の緩和

移民送り出し国:1)移民受け入れ国との関係強化、2)在外邦人の人権擁護

旧植民地との結びつき。(送→受:民族的出身者との結びつき)

 

3 重国籍の反対と賛成の論拠

 

反対論:忠誠の衝突、二重兵役義務、外交上の保護が不可能、外国政府の影響、二重投票、

特権的優遇賛成論:国の安定、移民の統合、安定した将来計画、人権擁護、複合的な

アイデンティティに対応 

 

表 重国籍をめぐる国と移民にとっての競合する利益 

 

 プラス

 マイナス

 

 

 

移民

・複数の国で国民と同じ権利を享受

・複数の国での義務を負担

 

・重層的なメンバーシップと忠誠の認知

 

 

 

 

送り出し国

・経済発展の促進

・国内政治における海外移住者の

 

・送金の奨励

 不適正な影響力を認める

 

・受け入れ国での組織的なロビー活動展開

 

 

 

 

受け入れ国

・外交政策の目標を支援する

・市民の忠誠を分裂させる

 

・移民の帰化を奨励する

・移民の国籍への適応を遅れさせる

 

・国境を超えた忠誠の現実を認識する

・国籍の意義と価値を弱める

 

 

 

 

4 日本国憲法の「国籍離脱の自由」の解釈問題

 

憲法222項「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」。

移民送り出し国における「自国の国籍を離脱する自由」と「自国の国籍を離脱しない自由」

移民受け入れ国における「外国の国籍を離脱する自由」と「外国の国籍を離脱しない自由」

性質説の場合、国籍離脱の自由は、性質上、日本国民の国籍を離脱する自由とのみ解する。

「何人も」という規定を重視する立憲性質説の場合、国籍離脱の自由は、個人の意思を尊重する

「国籍自由の原則」について、国籍の喪失の側面を定めたものと解し、国籍を離脱する自由だけ

でなく、国籍を離脱しない自由も保障するために、重国籍の容認を憲法上要請する規定と解する。

 

5 各国の外国人参政権の新展開

 

1 新たな定住型:ロシア(バルト海沿岸諸国評議会コミッショナー)、スイスの2州

2 互恵型から定住型に移行:アイスランド

3 新たなEU加盟10カ国:エストニア、リトアニア、スロバキア、スロベニア:定住型

4 既存のEU諸国での定住型への移行:ウイーン州(2006年)、ベルギー(選挙権のみ)、

ルクセンブルク(選挙権のみ)

5 アジアでの動き:地方選挙権:韓国、住民投票:韓国、日本

 


表 外国人の参政権・被選挙権・住民投票権の関連データおよび国内居住者の重国籍



















居   特  (被)  備

住   別   選   

期   な   挙

間   要   年

     件   齢









(住民型)

 

 

 

 

 

 

 

アイルランド

×

15日。イギリス国民は国会選挙権も。住民投票。18歳(21歳)。常居所。

(定住型)

 

 

 

 

 

 

 

スウェーデン

×

×

3年、EU市民と北欧市民は短期(30日)。18歳。

ノルウェー

×

×

3年、北欧市民は短期(選挙の年の3月31日)。18歳。

デンマーク

×

×

3年、EU市民・北欧市民は短期(7日)。住民投票(諮問)。18歳。

フィンランド

×

×

2年、EU市民・北欧市民は短期(51日)。住民投票(諮問)。18歳。

アイスランド

×

×

5年、北欧市民は3年。住民投票(拘束、諮問)。18歳。

オランダ

×

×

5年、EU市民は短期(42日)。住民投票(諮問)。18歳。

ベルギー

×

×

5年、憲法・法律・欧州人権条約への忠誠の宣誓。被選挙権×。18歳。

EU市民。投票義務。市長と助役の被選出権×。

住民投票(諮問)は、16歳。全住民。

オーストリア

×

×

2006年からウィーン市区議会議員●、区長、副区長、建設委員×。16歳。

他はEU市民△、市長、助役の被選挙権は×。18歳。

住民投票(拘束、諮問)を認める州は多い。

スイス

×

×

ヌーシャテル州は永住(5年ないし10年)かつ州に1年、被選挙権×

ジュラ州は州に10年かつ当該自治体に3年。ヌーシャテル州とジュラ州の選挙権は州レベルも。ヴォー州は10年かつ州に3年。アッペンツェル・アウサーローデン州は、自治体ごと(Wald、Speicher)。18歳(?)。住民投票(拘束、諮問)。

ロシア

×

×

永住。2002年の外国人の地位に関する連邦法。18歳(21歳)。

住民投票(拘束)。

 

イスラエル

×

×

永住者

 

ニュージー

ランド

×

×

1年の永住(0〜2年)。1975年8月22日以前に登録したイギリス臣民の被選挙権は2002年に廃止。

オースト

ラリア

1ヶ月。サウス・オーストラリア州は

他州でも1984年1月26日以前登録のイギリス臣民は国、州、自治体で△

 

アメリカ

×

×

タコマパーク市など5自治体。(+ニューヨークとシカゴは教育委員選挙)

 

韓国

×

×

×

永住許可資格を取得して3年以上居住している永住者。

継続して居住できる外国人(条例上は永住者)に住民投票(拘束)、19歳。

日本

×

×

×

×

自治体が永住者(10年が原則)に住民投票(諮問)、18歳(13、15、20歳)。

(互恵型)

 

 

 

 

 

 

 

ベルギー

×

×

EU市民。投票義務。市長と助役の被選出権×。18歳。

住民投票(諮問)は、16歳。全住民。

ルクセン

   ブルク

×

×

5年。被選挙権×。EU市民:5年。

義務。候補者リストの半分以上国民。市長と助役の被選出権×。18歳。

 

フランス

×

×

EU市民。市長と助役の被選挙権×。18歳。

ドイツ

×

×

EU市民(3ヵ月)。バイエルンとザクセン州は市長選挙権・助役の被選出権×。18歳(ニーダーザクセン州は選挙権16歳、長の被選挙権23歳以上65歳未満)。

ハンブルN州以外は、住民投票(拘束・諮問)を認める。

ギリシア

×

×

EU市民。市長の被選挙権×。18歳(被選挙権21歳)

イタリア

×

×

EU市民。市長の被選挙権、助役の被選出権×。住民投票(諮問)。18

スペイン

×

×

EU市民は短期。ノルウェー国民は3年。18歳。

 

ポルトガル

×

EU市民は短期(6ヵ月)。選挙権が2年、被選挙権が4年のポルトガル語公用語国民(ブラジル、カボ・ヴェルデ)。他は選挙権が3年(アルゼンチン、チリ、エストニア、イスラエル、ノルウェー、ベネズエラ、ペルー、ウルグアイ)、

被選挙権が5年(ペルー、ウルグアイ)。ブラジル国民は国会選挙権も。

住民投票(拘束)。18歳。

 

(伝統型)

 

 

 

 

 

 

 

イギリス

EU市民は短期(3ヵ月)。英連邦市民(約50)・アイルランド国民は国会選挙権も。18歳(21歳)。住民投票(拘束)。

カナダ

×

×

ノヴァ・スコシア州などでイギリス臣民に

 

 

○は一定の条件ですべての外国人に参政権や住民投票権を認めている、重国籍には非常に寛容である。

●は特定の地域がすべての外国人に参政権や住民投票権を認めている、重国籍にはかなり寛容である。

△は特定国出身の外国人に参政権や住民投票権を認めている、重国籍にはかなり制限的である。

▲は特定の地域が特定国出身の外国人に参政権や住民投票権を認めている、重国籍には非常に制限的である。

×は外国人の参政権や住民投票権を認めていない。

無は住民投票制度が無い。

空欄は調査中。