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【著者に聞きたい】五木寛之さん 『人間の覚悟』 (1/2ページ)
■老いる時代に見いだす価値
静かな語り口で大切な「気づき」を与えてくれる本である。
五木さんは本書の冒頭にこう記す。「そろそろ覚悟をきめなければならない」と。
覚悟とは何か。それは諦(あきら)めることである。諦めるとは明らかに究めること、つまり期待感や不安などに目をくもらせることなく、事実を真正面から受けとめることであると五木さんは言う。
「人は期待感をこめてものを見てしまうもの。だからいま資本主義が断末魔の叫びをあげてのたうちまわっている事実を直視せず、《何とかなる》と思いたがる」
わが国では統計上だけでも毎年3万人以上が自殺、そして無差別殺傷事件が頻発。人がこれほど自損と他損に走る時代があっただろうか。
「人が老いるように時代も老います。坂の上の雲を目指した時代は終わり、私たちはいま地獄に向かう下山の時代に入りました。日本でこれほど自損行為と他損行為が頻発するのは《まもなく地獄がやってくる》という予感が社会全体に満ちてきたからでしょう。天変地異を予感した小動物が異常な行動をとるようなものです。この時代は数十年は続くと考えたほうがよい」
12歳のときに平壌で敗戦を迎え、人間のなす「悪」を嫌というほど体験し、作家となってからは時代を凝視し続けてきた五木さんならではの時代観といえる。