樺太キャンペーン「導入〜その2〜」
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■ケース3 ヴィッカの場合 206X年XX月XX日豊原某教会
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【GM/アレクセイ】
「―――それで、彼女が君の話していた例の女の子ですか?」
【GM/セルゲイ】
「ああ、そうなんだよ神父様。こいつってばよ、ほら、こっちきてからずっとこんな調子でよお……」
【GM】
時刻は夜。場所は豊原のとある教会です。聖堂に椅子はなく、壁には蝋燭が灯り辺りを淡く照らしています。
【GM/セルゲイ】
「おらヴィッカ、ちゃんと挨拶しねえか。これからお前の面倒を見てくれる神父様なんだぞ」
【ヴィッカ】
「…」生気を失った顔色、落ち窪んだ目、ボサボサの髪、と年頃の少女とは思えぬ酷い有様。
【ヴィッカ】
ただ、セルゲイの言葉に反抗しようともせず、無言で彼の方を向き、神父を見る。言葉は通じているようだ。
【GM/セルゲイ】
「おいヴィッカ、聞こえてんのか?」 【アレクセイ】「構いませんよ、セルゲイ君」 何も言わぬヴィッカを少し責めるようにしたセルゲイを司祭が制する。
【GM/アレクセイ】
「さて、ヴィッカ――でいいのだね。私はそこのセルゲイ君とは旧知の仲でしてね。彼に頼まれるのであれば君の身元を引き受けるのにやぶさかではありません」
【ヴィッカ】
「…?」神父の穏やかな声を聞き、やっと彼に興味をもったかのように改めて神父を見つめる。
【GM/アレクセイ】
「しかし、何事においても自由意志というものは大切です。君の意向を無視するつもりなどさらさらありません」
【GM/アレクセイ】
「私が君の身を預かる限り、私は私に出来る事をすると約束しましょう。しかし、それが自分にとって良いことであるのか、今一度良く考えてみるといい」
【GM/アレクセイ】
「まあ、立ち直るつもりはあるのかと、ただそれだけの話ではあるのですが」
【GM/セルゲイ】
「いやだから神父様よぉ、こいつにゃ何言っても聞こえてねえって」
【ヴィッカ】
「あたしは…」セルゲイ、神父と交互に見やる。
【GM/アレクセイ】
「神の愛は無限ですが、自らを救おうとする者にこそ手を差し伸べてくれるのですから」
【ヴィッカ】
「あたしは…もう、何も、奪われたくない」搾り出すように、それだけをようやく言葉にする。
【GM/アレクセイ】
「―――ふむ」 ヴィッカの答えを受け、暫く考え込み。
【GM/アレクセイ】
「奪われたくない、ですか。いいでしょう。それは立派な答えです。武装せぬ預言者は滅びるといいますからね」
【GM/セルゲイ】
「いや神父様、仮にも聖職者がその台詞はまずいんじゃねえですか?」
【GM/アレクセイ】
「ははは。何を今更―――」
【ヴィッカ】
「…?」二人のやり取りをきょとんとして聞いている。
【GM/アレクセイ】
「ともあれヴィッカ、君の答えは承りましたよ。しかしそれには――まずはその疲弊しきった魂の器を癒すのが何よりも先ですね」
【GM/アレクセイ】
「セルゲイ君。彼女は今後、私が預からせていただきます。それで構いませんね?」 ヴィッカの両肩にそっと手を置きセルゲイの方を向く。
【ヴィッカ】
「…!?」神父のちょっとした動作にビクリと身体をすくませるも、害意がないとわかるとそのまま神父に身を預ける。
【GM/セルゲイ】
「お? あ? いいんですかい? そりゃあありがてえ。こいつはよぉ、これまでもろくな目にあってこなくてなぁ……」 眦に涙を浮かべ、ポケットからハンカチを取り出して涙を吸い込ませる。
【GM/アレクセイ】
「その話はもう何度も聞かされましたから繰り返し泣きしなくて結構です」 セルゲイには冷たい神父。
【GM/アレクセイ】
「さて、ここは寒い。奥の方に浴場がありますので身体を温めるのがいいでしょう」 ヴィッカの背を促し。
【ヴィッカ】
「あ…」促されるままセルゲイを振り返る。一瞬瞳に不安そうな光がともるが
【ヴィッカ】
「…ありがとう」小さくそれだけ呟くとそのまま奥へと向かう。
【GM/セルゲイ】
「しかしよかった、よかったなぁ……頑張れよ、ヴィッカ」 セルゲイは、いやあ万事うまくいったなあ、と喜び泣きの声を浮かべている。それにしても頑張れとはどういう意味か。まあ数年後には意味がわかるんだけどね。
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それが数年前の出来事であった。そして現在――
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【GM】
ロケーションは変わらず。雪の降る日、教会の聖堂。ただし時刻は昼。
【GM/アレクセイ】
「――ッカ………ヴィッカ、聞いていますか?」
【ヴィッカ】
「は、え?や、聞いてましたよ?…その…内容は覚えてないですけど…」
【GM/アレクセイ】
「つまり私の話を耳の穴の右から左へと聞き流していたわけですね」
【ヴィッカ】
「そんな人聞きの悪い」苦笑いと冷や汗とが同時に浮かぶ。
【ヴィッカ】
プラチナブロンドのつややかな髪。豊かに張った胸と腰。数年前のやつれ果てた姿からは別人のように見える。
【GM/アレクセイ】
「全く嘆かわしい。いつもならここで倒れるまで練気をしてもらってもいいのですが……それでは用事を果たしてもらえませんからね。もう一度話ますよ」
【GM】
対する神父の様相にさほど変わりはない。全身を覆う聖装と首から提げられたメダル、そして服の上からでもはっきりと判る鍛え上げられた身体。強いて言えば、白髪が多少増えただろうか?
【ヴィッカ】
「は、はい!」いつもなら倒れるまで練気をさせられるところなのに、と疑問に思うが、苦行逃れたさからか真剣なまなざしで神父に向き直る。
【GM/アレクセイ】
「まあ、ちょっとしたお使いを頼まれてきて欲しいのですよ。なに、一、二時間もあれば済むことです」
【GM/アレクセイ】
「ここへ行って荷物を受け取ってきてください。教会からの使いだと言えば先方もわかるはずですから」
【GM】
差し出される紙のメモ。そこにはさらさらとした筆跡で住所とそして何やらエキゾチックな店の名前が記されており。
【ヴィッカ】
「判りました!お安い御用ですよ!」しばらくぶりに下界へ出られるとあって、目を輝かせて返答する。メモは内容も見ずにジーンズの尻ポケットにねじ込む。
【GM/アレクセイ】
「そうですか。ではよろしく頼みましたよ。ああ、扱いは丁寧にお願いします」
【GM】
用は済んだ、もう行きなさいとばかりにアレクセイはヴィッカに背を向けて教会の奥へと戻ろうとし。
【ヴィッカ】
「はいはい!判ってますって!」既に神父に背を向けドアの外から手をヒラヒラと振る。
【GM/少年】
「お、ヴィッカねーちゃんどっかいくの?」 と、子供がヴィッカの元へと駆け寄る。
【ヴィッカ】
「ふふん。ちょっと大事なお仕事にね!」溌剌と少年に答える。
【GM/少女】
「いいなー、私達も連れてってよー」 わらわらと孤児院のちっこいのが数人群がる。
【ヴィッカ】
「ダメダメ!神父さまの大事な言い付けなんだから!遊びに行くんじゃないのよ?」どう見ても遊びに行くような浮かれ様で子供たちをたしなめる。
【GM/少年2】
「大事なしごと……わかった、そのでけえちちでおとこをゆーわくしてくるんだろ!」 【少年3】「それだ!」 【少女2】「ゆーわくって?」 【少年2】「……さあ?」
【ヴィッカ】
「どこでそんな言葉ァ覚えた!」でけえちちを揺らし子供たちを追い回す。
【GM/少年1】
「うおー、ヴィッカが怒ったー!」 【少年3】「ババ・ヤーガでもそんなにおっかなくねーぞー!」 口々に逃げまどうジャリども。
【GM/アレクセイ】
「………いいから早く行きなさい、ヴィッカ」 どうせそんなことだろうと思ったぜとばかりに教会の中から窓を開けて呆れたツラする司祭。
【ヴィッカ】
「もう!マセ餓鬼どもめ…って。はぁーい行って参りまーす!」おどけた様子で敬礼をし、教会を後に。
【GM】
まあお使いだってビズはビズ。しっかりとこなすことが重要ですよ。
【ヴィッカ】
うい。まったくです。
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■ケース4 ムーンの場合 2069年初夏 豊原市内
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【GM/フィクサー】
「もう少しだぜお嬢ちゃん。そこの角を……曲がったところだ」 大通りで無人タクシーを降りてから目当ての物件まで徒歩で向かう……フィクサーとムーン。
【GM】
中年で小太りのフィクサーは、暑いのか胸ポケットからハンカチを出して額の汗を拭う。
【ムーン】
「結構大きいのね。立地条件も…悪くない」
【GM/フィクサー】
「ああ。それに格安だぜ。前の持ち主がちょっとしたヘマこいてケチついてな」
【ムーン】
まだ頭しか見えないが、多分あれなのだろうと当たりをつけつつ。
【ムーン】
「ふぅん…ロケットでも打ち込まれたの?」
【GM】
怪しい宗教的装飾が施された建物の姿が徐々に大きくなっていく。
【GM/フィクサー】
「ああ。お脳のラリったジャンキーがパンツァーファウストぶちこんでな」
【GM/フィクサー】
「あとは鉛玉も大量にぶちこまれたから多少壊れちゃあいるが……修繕の手配もこっちでしてやるよ。ほら、着いたぜ」
【ムーン】
「そう…まあ、それなら良いわ」
【GM/フィクサー】
「いい物件なのは間違いないさ。ディビッドの知り合いとあっちゃ無碍にはできねえよ。刑事様は怖いからな」
【ムーン】
「ありがと。私からも宜しく言っておくわ。…精霊の加護も消えてないみたい。良い物件ね」
【ムーン】
元が元だ。結界の維持も楽だろう。
【GM/フィクサー】
「俺にはそのあたりよくわからんね。もし何か悪いモンが出てもそこまでは責任持たないぜ」
【ムーン】
「そんときゃ自分でぶっ飛ばすわよ。中を見ても良い?」
【GM/フィクサー】
「頼もしい言葉で」 言いながら物件のドアロックを解除して中へと足を踏み入れ。
【GM/フィクサー】
「焦げた家具が残ってたり中は散らかってるぜ。邪魔なら回収業者にそのへんも頼んでおく」
【ムーン】
「そうね。お願いするわ。必要なものは選り分けておくから」
【GM/フィクサー】
「はいよ。で、だ……ディビッドが言うことにはお前さん、俺らのようなクソ稼業をやるつもりだそうだが……お脳の方は大丈夫か?」
【ムーン】
「……ま、そうね。あんまり普通じゃないのかも知れないけど」
【ムーン】
「ドロップ組は何処にだって居るものよ。貴方の知り合いにも、居ない?」
【GM/フィクサー】
「そう言われると………反論できねえなあ」 思い出すように指を一本折り、二本折り、瞬く間に片手の指は全て折られ。
【ムーン】
「でしょ? だからまあ、何かあったら今後とも宜しく。自分で言うのもなんだけれど、それなりの力はあると思うわ」
【ムーン】
顔の前で、指をくるくると回しながら
【GM/フィクサー】
「いいぜ少し控えめなその態度。自信満々でやって来て2秒でおっ死ぬバカよりはよほどいい」
【ムーン】
「ふふ、どうも。最初に宜しくするのは、契約書類かしら」 瓦礫の隙間から、幾つかの儀礼用の祭具がもぞもぞ動く。アレだ。精霊パワー。
【GM/フィクサー】
「たいした手品じゃねえか。んじゃあ契約するってことでいいな? けれどまあ、その前に――」
【ムーン】
「――?」
【GM/フィクサー】
「――残高見せな、お姉ちゃん」 この世は金だぜ、と指で輪を作る。
【ムーン】
カラカラ笑い出し
【GM/フィクサー】
「今ならきれいな偽造SINもまとめてセットでお値段据え置きだ。安くしとくぜ?」
【ムーン】
「―そうね、全くその通りだわ。ふふ…これで足りる?」 残高を表示したコムリンクを見せながら
【GM/フィクサー】
「おいおい案外持ってやがんな……」 ひゅう、と口笛を吹き。
【ムーン】
「SINもお願い。それと…此処の持ち主としての口座も欲しいのだけれども」
【GM/フィクサー】
「ああ、手配してやるよ。けれどもまあ、こういう時は残高じゃなくて色のいいクレッドでも見せておけ。いつも正直者でいることなんかねえ。レッスン1だ、お友達」
【ムーン】
「成る程。覚えておくわ、お友達。死ぬ前に、そう言う事も覚えないとね」
【ムーン】
向こうから見れば、カモにでも見えるのだろうか。表情に出さないように、必死で顔筋を抑える。
【GM/フィクサー】
「そうさ、タフに生き残りたいなら日々是精進、お勉強が大切だぜ」 仕事の分を越えて、このランナー一年生とのやりとりを楽しんでいる自分に気付く。
【GM】
人を育てる楽しみなんて――会社を離れてから長く味わっていないものだ。
【ムーン】
「業に入れば…か。日本の諺だっけね。オーケィ、頑張るわ。コーチ」
【ムーン】
今日のこれも、忘れないようにしよう。まあ、忘れたら死ぬだけだ。
【GM/フィクサー】
「大丈夫さ、お前さんなら、大丈夫だ」 彼女の答えは常に賢明だった。はなからこれだけ口が回って頭が巡れば、さすがに2秒で死ぬことはないだろう。10秒くらいは、保つはずだ。そこから先は? そりゃもう、適正と才能だよ。
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――2070年晩冬、豊原
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【GM】
今日の樺太は晴れているが、しかし昨日まで降り続いた雪が路面に積もっている。
【GM/ウィルーテリ】
『今日で半年か。………随分と慣れたようだね』
【GM】
通りを歩くムーンの傍にまとわりつく精霊が、マンディンには聞こえぬ念話を囁く。
【ムーン】
「ええ、お蔭様で。アレからは健康そのものよ」同じく念話で答え
【ムーン】
脇から突然出てきたおばあちゃんを避ける。
【GM/ウィルーテリ】
『それは結構。私達は共生関係だ。君が健康というのは私にとって誠に喜ばしい』
【ムーン】
「貴方の方は? この前はアラスカがどうとか言っていたのだけれど」
【GM/ウィルーテリ】
『ああ、先日のアレか……概ね殲滅したが、全てをこの世界から排除するには至らなかった。痛恨の極みだ』
【GM】
おそらくアストラル体で出掛けて行って殴り合ってきたのです。
【ムーン】
「そう…やはり、私一人の力では厳しいのね。可能な範囲でなら。手を貸したい所だけれど」流石に出来る事が限られる。
【GM/ウィルーテリ】
『――――ほう?』 そのムーンの答えを聞くや精霊が弾んだ声を出す。もし、人の顔が形作られていれば満面の笑みを浮かべていること間違いなしだ。
【ムーン】
「共生、でしょう? 最も、私が出来る事が、そうあるとは思わない」目を街中に向ける。蛍光盤の文字を追いつつ…そういえば、今日は駅前のスーパーのタイムサービスだったような。
【GM/ウィルーテリ】
『それではムーン……君の斜め前方を走るあのライトバンを追ってくれたまえ。今すぐだ』 精霊が勝手にムーンの右腕に介入して、手を挙げる仕草をさせる。そのムーンの動きを無人タクシーのカメラが捉え、モーション判別機能によって乗車意志とみなしてムーンのすぐ傍の路上まで滑り込み。
【GM/ウィルーテリ】
『小物だから見逃しても良かったのだがな。君がそう言ってくれるのなら――是非もない』 嗚呼、さよならタイムサービス。
【ムーン】
「…はっ?え、ちょっ…」しまった…といってももう遅い。大人の判断でノーカウントにするには、その、この自由精霊と言うやつは…
【ムーン】
「…前のライトバンを追って」…言う奴は、朴念仁過ぎる。
【GM/ウィルーテリ】
『持つべきものは理解のある相棒だな。私は幸せ者だよ』 そこまで短い付き合いではない。今、この異常型精霊はとても御機嫌だ。
【GM】
某かを駆逐することが存在意義である彼?にとって、この状況は食事を前にした人間も同じである。
【ムーン】
「…言っちゃった手前、良いんだけれど、さ」 こうなれば、赤字にならないことを祈るしかない。攻撃呪文ないのに!ひどい! 
【GM】
ムーンを乗せた自動タクシーはバンと付かず離れずの距離を取り続け―――
【ムーン】
「…偉大なるロアのお導きがありますように…」 
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【GM】
てなわけで本編はこの続きからになります。