■2070年7月某日   ―――豊原郊外ロシア正教会 【サイコ野郎】「………あのう」 【アレクセイ】「何かな?」   司祭が男の頭部を掴んだままその体を引きずっている。 体といっても、両の手足は完全に破砕し今や頭部と胴体のみ。 まさしく芋虫か達磨同然という見るも無惨な状態だ。 残された頭部と胴体にしても衣服は千切れ装甲は歪に歪んでいた。 それでも生存していられるのは、男の生身は既に脳と脊椎のみの重サイボーグ故である。   【サイコ野郎】「このまま俺ちゃんを警察に引き渡したりするの?」 【アレクセイ】「いいや」   司祭が敷地の門を開き、男の体をぽいと道路に投げ捨てる。   【アレクセイ】「助けを呼んで帰りたまえ。そして二度とここに立ち入らないことだ」 【サイコ野郎】「は? そりゃ一体どういうことですか! お慈悲!?」 【アレクセイ】「そう思いたいならそう思えばいいだろう」 【サイコ野郎】「うそお! サービス良すぎない!? 俺もう殺されるかもと諦めたのに!」 【サイコ野郎】「いいんですかそんなことして! 俺様これからもヴィッカちゃん狙っちゃうよ?」 【アレクセイ】「勝手にしたまえ。ヴィッカもいい歳をして私に世話を焼かれても渋面をするだけだろう」 【サイコ野郎】「鬼ですねあんた」 【サイコ野郎】「でも俺わるいこですよ? そういうのを野放しにしていいの? してくれる方がいいんだけど!」 【アレクセイ】「世の悪を全て裁くことが私の仕事ではない」 【アレクセイ】「確かに君はこれまでに無数の命を殺めているだろう。そしてこれからも繰り返すだろう」 【アレクセイ】「だが、それを理由として君を裁くような義務など私にはない」 【サイコ野郎】「そりゃ助かった! あなたいい人だ!」 【アレクセイ】「ただしこの土地と子供達については私の責任が及ぶ範囲だ。次は警告も何もないと知りたまえ」 【サイコ野郎】「わかりました! 二度と来るか!」 【アレクセイ】「いい答えだ」   その言葉と共に教会の門がガシャリと閉じられ、司祭は男に背を向けて去っていった。   【サイコ野郎】「……………」 【サイコ野郎】「………おっかねぇー」   男はもぞもぞと道路を這いずりながら回線を開く。   【サイコ野郎】『こんばんは! 姐さんですか?』 【サイコ野郎】『あのう、ちょっと迎えとかを寄越して欲しいんですが……』   数十分後、黒塗りの車が現れて男は無事に回収された。