アフターSS−橘アデニウム− 「ん、これで終わり、ですね」 少女はふ、と息を吐くと背もたれにもたれかかって、一つ伸びをする。 ここは詩歌藩国のイリューシア音楽院学生寮。 イリューシア音楽院−数々の音楽人を世に輩出した、わんわん帝国でも指折りの名門音楽院である。 一時期はアイドルとして名をはせた彼女にも、学生となれば当然予習と宿題は山のように課せられる。 一流名門学院のそれらもまた、量、質共に一流なのであった。 音楽院での生活は充実している。 最高の設備に最高の講師、そして志の高い学友達。 毎日が発見と成長と北斗羅漢撃の連続。 しかし最近何か物足りなさを感じる。 あの熱狂。 あの歓声。 あの解放感。 「あー…ステージで歌いたい…」 周囲の期待とプレッシャーで潰れがちだったあの頃からすれば、信じられない言葉だ。 だけど私の中でその想いは日に日に強さを増す一方。 演歌とかアニメソング?とかを歌わされて、たくさん苦労してたくさん落ち込んでたくさん頑張ったあの頃から− 私は、やっと私の歌を見つけられそうです、プロデューサー。 「ま、その前に明日の講義ですねー」 橘アデニウム。 その前途に勇気の祝福を。 Thank you for playing. But here comes New Idol! アフターSS−神楽?− 「だーかーらー、私にはその気はありませんてっばー!それよりも次の候補生をー!」 間。 「むううう、ホントに社長は何考えてるんですか。そんなに私のプロデュース能力が信頼できないのかしら」 ずんずんと肩を怒らせて廊下を進む。 「ギリギリだったけど神楽さんはAランクアイドルまで行ってくれたのにー。のにー…ギリギリだったけど」 あれから朝はちゃんと起きるようにしてるし、叙○苑に行くときは黒烏龍茶を飲むようにしてるし、大神官パワーでなんか化粧のノリもいいのに。 「それでなーんで私がデビューする話になるんですか。羞恥プレイですか。皆どころかお日様にまで笑われちゃいますよ」 そりゃ神楽さんがレッスンやってる後ろで一緒に踊ったり、ステージの裏で一緒に歌ったりもしましたけど、アレはあくまで神楽さんを応援する為であって決して私がヤリタカッタダケーなんてことはない。 ないったらない。 とはいえ現状は芳しくない。 プロデューサーはプロデュースするアイドルが居なければ仕事にならない。 仕事が出来ないとお給金は出ないし(いちおあることにしておいてください)、お金がないと叙○苑にも行けない。 「むーんむーん…どうしたものかなー…んん?トレーニングルームが開けっ放しになってる…誰も居ないし」 どうやら誰かが鍵を掛け忘れたらしい。 ふらっと入ってみるとポージングレッスンに使う大鏡が目に入った。 「……誰も、いませんね」 上着を脱ぐ。髪をゴムで留める。あっちのお肉とそっちのお肉ををこっちに大移動。 「あー、あー、コホン」 P歌唱中… きゅーんきゅーん、きゅーんきゅーん わったーしのかーれーはー だいしーんかーん♪ 「うーん、私もなかなか捨てたもんじゃありませんねー。こう、大人の女性の魅力をウリにしてセルフプロデュースー、なーんて」 その様子が『偶然にも仕掛けられていた』カメラ越しに、社長他数名のプロデューサーにバッチリ目撃されていたのは言うまでもない。 なお、彼女が後日デビューさせられるかどうかは、また別の話である。 Thank you for playing. But here comes New Idol!