○月×△日 しとしとと、梅雨時の雨音をBGMに執筆に耽る。しかし、そのペンは途中でピタリと止まり私は頭を抱える。今日だけで、6度目の行動だ。 原因は、絶望的な程のネタ不足。記事の半分どころかまだ1面しか書き終えていない。得意の捏造をしようにも、ネタ自体が 無いのでねじ曲げようがないのだ。虚しく雨音と時計の針の音だけが響く。頭を抱えて小一時間、私はのっそりと机を立つと傘を持って扉の錠を外す。「気分転換でもしよう・・・」 傘を片手に妖怪の山を散策する。目的地は特に無い。ただ、雨音を聞きながら静寂な森を歩くと、気温の低さも相まってか 記事を何とか仕上げようとフル回転して熱を持った脳が少しずつ冷めていくのを感じた。最も、それは束の間のことであったが。 しばらく、歩いていると見覚えのある顔に出会った。椛の模様が入った盾を持った白狼天狗だった。折角、冷めて来ていた脳が再び熱を帯び始める。 正直、この白狼天狗は苦手だ。会う度に怪訝な表情で睨んでくるし、この前取材に行った時は噛み付かれそうになった。何が気に入らないのかは 知らないが格下にこのような態度を取られると、私もいい気分ではない。しかし、相変わらず今回も怪訝な表情で私を睨む。何時もなら、 笑顔で流せるが、今日はそうもいかない様だ。あの時程では無いが、やはり全身の血液が沸々とたぎり始めた。白狼天狗が哨戒任務に戻ろうと飛び去ろうとした刹那、 私は瞬時に距離を詰めると白狼天狗の右足首を掴み、力任せに雨でぬかった地面に叩き付けた。顔面から、泥に叩き付けられた 白狼天狗は驚愕の表情を一瞬見せた後、怒りの表情で自慢の太刀に手を掛けようとする。しかしまた、一瞬で距離を詰めると、 その右手首を捻り上げて鳩尾に一発、鼻っ柱に一発ショートパンチを打ち込み動きを止める。ところが鼻血を出しながらもまだ、こちらを睨んで来たので 頭を抑え付けて膝蹴りを二発打ち込こんだ。すると、堪らず地に伏してしまった。こうなれば、後はこの前と同じだ。中心部だけでなく、脚・腕等の末端部も満遍なく砕いていく。 そのたびに、白狼天狗は悲鳴を上げようとするが叶わない。あらかじめ喉を潰しておいたので、声にならないのだ。ある程度蹴り終えて冷静 さを取り戻した私は、ボロ雑巾になった白狼天狗の服を全て脱がすと、近くにあった川に服を流した。白狼天狗は、痛みと羞恥で声にならない嗚咽を漏らしている。 私は、肉体的な暴力に加え、精神的な暴力にも愉悦を見出だしたようだった。「んー私、どんどん化け物じみて来てるなぁ。あ、私は化け物だったか」なんて一人芝居を演じた後、帰宅した。