--- ・警報 このSSは大変グロいです。 グロいのが嫌いな方は避けて通ってください。 虫(羽虫とか幼虫)に関する描写、および人間の肉体が溶ける描写があります。 読んでいる途中で気分が悪くなった場合、すぐに読むのをやめてください。 このSSをお読みになったことで貴方の精神・肉体の健康が損なわれたとしても 作成者は責任を負いかねますので重ねてご注意願います。 --- 魔理沙はその中にいた。 気づいたらそこにいた。 そこに立ち尽くしていた。 しばし呆然とした。 「私なんでこんな所にいるんだ?」 とにかく、薄暗かった。 ところどころに、ちいさく、黄緑色の光がさしこんでいたが その全体像はよくわからなかった。 目が慣れてくると、どうやら通路の内部のようだった。 直径、3メートルほどの通路が、見渡す限り続いていた。 振り返ってみると、どうやらそちらも同じようだった。 魔理沙は、幻想郷であまり使う機会のなかった照明用魔法の詠唱法を 忘れかけた頭の引き出しからようやく引きずり出すと 遮二無二、それを実行した。 明るくなった。 空間に光が生まれた。 途端、目に飛び込んできた情報に 「・・・ひっ!?」 魔理沙は顔をひきつらせた。 そこは生命に満ち溢れていた。 みわたすかぎり、生命を謳歌するものたちで溢れかえっていた。 魔理沙が通路だと思っていた壁や天井、床は 薄い半透明の皮のうえから、血管と骨格が浮き出た肉塊により構成されていた。 その内部を通る血管は脈動していた。 「・・・な」 ところどころに、それらとは違う肉塊があった。 無数にあるそれは、赤い肉塊だった。 そいつらは、赤黒い管を伸ばし、肉壁の中に管の先を突っ込み 血管に突き刺していた。 寄生しているようだった。 「何これ・・・」 さらに、その赤黒い肉塊の一部には、夥しい数の、乳白色の小さな虫がむらがっていて そいつらが肉塊を食い荒らしていた。 食い荒らされた肉塊からは赤紫色の液体が噴出し、大きく食いえぐられた箇所からは その乳白色の虫のものとおぼしき黄色い卵の群れ確認できた。 「な、んなん・・だよ・・・」 魔理沙はひきつった顔のまま後ずさった。 足にいままでと違う感覚がした。何かを踏みつけたようだった。同時に嫌な音がした。 魔理沙はおそるおそる、視線を落とした。 そこでは、魔理沙の顔を覆えるような、巨大な紅黒い虫が、足の長い羽虫が、潰れていた。 魔理沙の足の下でそいつは、なおも、生きようともがき、長い足をジタバタとさせ、触覚を蠢かした。 魔理沙は悲鳴をあげてとびのいた。 その羽虫の、紫色の臓物が透けて見える腹からは、白いゴボゴボとしたものが噴出して どうやらそれはあの乳白色の寄生虫の卵が 潰れて中身がぶちまけたようだった。 こいつは成虫にちがいない。 「気持ち悪・・・ぐ」 魔理沙は潰れたそいつから慎重に距離をとった。 そこで気がついた。 ほとんど動かないから今まで気がつかなかったが、今踏みつけたのと同じ羽虫が 床という床 壁という壁 天井という天井 そこらじゅうに犇いているのだった。 背筋が凍り、総毛立つかのような感覚に襲われ 視界の色彩の毒々しさに遠近感も狂いそうだ。 「ぃ・・・い・・・い」 魔理沙の叫びは恐怖で染まっていて 「いやぁぁぁぁああああああ―――――――!!!!!!」 目を瞑って走り出した。 どちらへ? どっちも同じだった。 魔理沙は逃げた。 逃げまどった。 「いやぁぁあ――!!出口っ、何処・・・っ、いやああああ!!!」 逃げまどう以外を思いつくよしもなかった。 ただひたすら駆けた。 ぐちゃり 途中で、羽虫や、寄生虫や、肉塊を踏みつけた。 ぎちゅっ イヤな音がした。 びゅぶっ とてつもなくイヤな音がした。 ぐちゃっ そしてそのたび ぶしゅっ 魔理沙のかわいらしい靴とソックスが びちゃ 赤紫色の体液と ごぼっ 羽虫の残骸で ぬちゃっ 汚されていった。 「ぎゃぷぁっ!?」 ころんだ。 「ぇぅ・・・な、なにこぇ・・・うっ」 エプロンがどす黒い赤紫色の液体でびしょぬれになった。 踏みつけた羽虫だった。 「ぅ・・・」 転んだ拍子にエプロンドレスごしに胸で潰した肉塊があった。 「ぅああ・・・あぁぁ・・・ぁぁああぁぁああぁ!!!」 絶望的な声をあげながら 魔理沙は自分の足や、腕や、服に付着した、蠢き、あるいは潰れた 乳白色の寄生虫どもをはらいのけた。 走った。 どれだけ走ったか思い出せないほど走った。 相変わらずここが何処なのかわからなかった。 魔理沙はその過程で何度かころび 壁に激突し 急激に下った通路を転げ落ちた それでも魔理沙は走るのをやめなかった。 振り返るのがおそろしかった。 まるで、いままで踏みつけ、通過してきたところの虫どもが 一丸になって自分を追いかけているかのような錯覚にとらわれていた。 くせ毛の金髪 ほんのり紅い艶のある頬 白い肌 長い爪 細くて綺麗な脚 フリルのよく映える、モノトーンのエプロンドレス 魔理沙を構成するそのすべてが、もはや毒々しい虫けらの血肉で汚れ切っていた。 走っても走っても出口は見えず、走る速度も衰え始めた。 目は憔悴と疲労で虚ろに近く、それでも怯えの表情が顔面に張り付いて離れない。 魔理沙の心は最早限界だった。 はやくここから出たかった。 せめて箒があれば飛べるのに。 せめて八卦炉があればぶちやぶれるのに。 せめて・・・ 「れ・・・ぃ・・む・・」 それでも健気に堪えてきたものが、喉から溢れ出しそうになる。 懇願が情けない声になって、あたかもダムが決壊するかのように噴出しそうになる。 だが、それでも魔理沙は走り続ける。 ここに友人はいない。ここに仲間などいない。 友の名を、一度でも叫んでしまえば、そこでおしまいになる気がした。 自分は泣き叫んでうずくまり、この異常な空間に呑み込まれてしまいそうな気がした。 この空間がそれを待っているようにさえ思えた。 だから魔理沙は堪えた。 涙がぼろぼろと溢れて頬についた蟲の体液を洗い流すほどなのに 怖くて怖くて精神が千切れて破綻しそうなのに 目を覆って逃避してしまいたいのに ただ寡黙に堪えて、走った。 魔理沙は努力家だった。 どれくらいの時間が経っただろう、魔理沙はいまだにここにいた。 よろよろと歩き、靴ごしに足が痛く、一歩進むたびに体液で浸水しきった靴が グシュグシュといやな音をたてていたが、魔理沙は歩き続けていた。 「・・・夢・・・」 だが 「これ・・・夢・・・ユメだろ、はは・・はひっ・・・」 それも 「は・・・夢・・夢ゆめユメ・・・誰ダよ、私ニ幻覚剤ナんカ飲ませタのハ・・・」 もう 「・・幻覚剤なラ永遠亭ノ連中かナァ?アの月兎カなァ??」 「私ガアイツラニ悪イコトシタカナァ?アア、イロイロ借リテイッテ…ヤッパリソウカナ…」 終わろうとしていた 「カリテイッタダケワタシハカリテイッタダケチャントカエスツモリダッタアイツラハエイエンニイキルンダカラカエスツモリダッタンダカエシニワタシハ」 魔理沙が歩みを止めてしばらく経った。 蟲たちは魔理沙に関心を示さなかった。 触覚をウネウネさせながら近くを通り過ぎるものもあったが 接触してくるものは皆無だった。 膝を抱えてうずくまり、通路の隅で小さくなって、顔を上げずに現実から逃避し 魔理沙はそうすることでしか、もう自我を保つことができなくなっていた。 しかしそれでも発狂に至ることはなかった。 魔理沙の心は罅割れて剥離し今にも瓦解しそうだったけれども 強い娘の心にはまだ余裕があった。 誰も助けてくれなくても、誰も傍にいてくれなくても 魔理沙は― 気づくと真っ暗だった。 魔理沙は自分が眠ってしまっていたことに気づいた。流石に疲れたのだろう。 どれくらいの時間を経たのかはわからなかったが、精神状態が少し良くなった事と 体の疲れが癒されたことから、大分時間が経っているだろうと推測した。 体にまとわりつく蟲の感触などはなかった。あの卵を産み付けられたらどうしよう ずっとそう怯えていたことがバカらしくなった。 「・・・私らしくないぜ」 苦笑して、起き上がろうとして、動けないことに気がついた。 魔理沙は混乱した。パニックだった。半泣きで動こうともがくが痛いだけだった。 周囲が真っ暗であることもそれに拍車をかけた。 ひとしきり混乱したあと、まず視界を回復させようと思いつき、最初のときのように 照明魔法を詠唱して、自分の頭上に灯りを灯した。 それがいけなかった。 自分は通路の中にいるのではなかった。自分は肉壁でできた部屋の中にいた。 いや、部屋というより天井のない壷とでもいうべきなのかもしれない。 そこの肉壁に、魔理沙は、手足をめり込ませて動けなくなっていた。 「ナ・・・ンだよっ、離れ・・・離れて!取れない!とれないよ!!!いやああああ!!」 魔理沙は首を回して腕を確認して、絶望した。肉壁は自分の腕にまとわりつくように 張り付いて、ほとんどどこまでが自分の腕なのかわからなくなっていた。 反対の腕も同じだった。脚を見る過程で、魔理沙は自分の服が半分溶けているのに気づいた。 そして両の脚もまた腕と同じだった。同じだった。 魔理沙は掌や足首を動かそうともがいた。感覚がなかった。それだけでなく ただ動かないだけではない、何か奇妙な違和感を覚えた。 魔理沙は恐ろしい仮定を思いついた。一瞬、いやだいぶ躊躇した。 見るのが怖かった。見たくなかった。だがそうしてもいられなかった。 照明魔法を、この薄く透けた肉壁の、魔理沙の腕が呑み込まれているところに近づけ 肉壁を最大の光度で照らしてみた。 魔理沙の手首から先は、無かった。 魔理沙は半狂乱で現実を拒絶しようとしたが、光景があまりにリアルで叶わなかった。 掌がなかった。手首がなかった。そして魔理沙の肘から先の腕の骨が、うっすらと 肉壁の内部で同化しているのが見えるのだ。 魔理沙の筋肉が、血管が、肉壁に沿って拡散し、肉壁の血管と結びつき まさしく自分が壁と同化していることがありありと見てとれたのだ。 そして 今まで気づかないふりをしていたが あたり一面 この広大な壷の中 その壁面に付着している 人間の胴体のような形をしたものは 魔理沙は自分の左にある、一番近いものに視線を向けた。 灯火をそれに向けて照射し、透けたものを見て、愕然とした。 それは皮膚だった。 人間の、顔、肩、胸、そのカタチが残った皮膚だった。 眼・鼻・耳・口、そして体毛がなかった。壁と同じ色をしていた。 内臓がなかった。頭蓋が無かった。骨が見えなかった。 だが脳髄はあった。脳髄だけが肉壁の中で肉壁の中の"骨"に接合していた。 魔理沙は理解した。こ い つ は 生 き て い る いや、生 か さ れ て い る の だ 今になってなぜか理解できた。自分が今まで踏みしだいてきた蟲がなんなのか あの寄生した肉塊の正体が。あの生態系の正体が。 ここは並列処理型のスーパーコンピュータだった。 ただ電気とシリコンウエハーと貴金属ではなく、血と肉と骨で構築される 人間の脳髄を集めて作られたスーパーコンピュータだったのだ。 しかしなぜそんなことが解るのだろう?答えは簡単だった。 魔理沙の背骨は既に胴体から寸断されていたのだから。 魔理沙の背骨は既に溶け、神経細胞のみが、肉壁の中から伸びてきた神経細胞に 接続され、まだ一部ではあるが、この巨大な情報系の有する情報のごく一部が 魔理沙の脳に流れ込んできていたのだ。 あの長い長い通路は実はただの円環だった。獲物が抵抗できなくなるまで 疲れ果てさせるための罠、そしてあの蟲と肉塊は この巨大な生命計算機と共生関係にある生態系だった。 肉塊は通路から老廃物を養分として得、育ち、その肉塊を喰って蟲が育つ。 その蟲の役割は― 来た 天井から何か細長いものが垂れてくるのが見えた。それはあまりにも長かった。 そして近づいてくるにつれ、それは、実は 太 長 い ことが理解できた。 そいつは蛇腹状の体をくねりと曲げると、先端についた触手で捕まえた人間を 魔理沙と同じように疲れ果てて眠ってしまったのであろう人間を そして麻酔でさらに深い眠りに陥れ、肉壁と同化するまでは覚醒しないであろう人間を 触手の先から出る粘液で、肉壁に接着し、また来たときと同じように にゅるにゅると天井へ戻っていった。 ―蟲はあいつの食料なのだ。 魔理沙は恐怖を感じなくなっていた。それが肉壁から流れ込む血液に含まれる 特殊な薬物によるものであるのはすぐに理解できた。 心臓の鼓動が聞こえなかった。既に自分の心臓は動いていないのだろう。 自分の頭の中に、何か別のことを考えている部分ができあがっていくのが、 そしてそれがだんだんと大きくなり、自我と、思考を保つのが困難になっていくのが 理解できた。 それにつれて、今までどうにか保っていた照明魔法の灯りが薄くなり、ついに消えた。 魔理沙は自分がどこまで壁と同化したのか、わからなくなった。 私はなんでこんなところにいるんだろう。 どうしてこんなところに入り込んだんだろう。 ・ ・ ・ 「んー、今日はこんなもんでいいや」  モニタの前で背伸びするのは月の姫。深夜というには大分時間が過ぎていた。 眼前ではMMOのログアウト画面が表示され、次いでOSのデスクトップが現れる。 姫のしなやかな指がキーボード上のpowerキーを押すと、OSは瞬時に終了動作を終え 端末の電源はすみやかに消灯した。  処理の速さに、姫は満足を覚えた。 「ねぇ、えーりん。最近うちのメインフレーム凄い高速化したわね」  遅い遅い夜食に付き合うのは月の頭脳だ。 永琳はにこりと微笑み、因幡の淹れた茶を啜る。 「ゲーム以外にも使ってくださってもいいのですよ」 「ゲームでも十分すぎるくらい高速化したのが解るわ」  姫の声色は、それは上機嫌なものだった。なにしろ以前までは 幻想入りしたポンコツマシンを修理して使っていたのだから。 「ちょっと、あのスキマ妖怪から、式の計算速度で侮辱されて」  それを永琳は刷新した。最早永遠亭の主要な部屋すべてに端末がある。  姫は一瞬きょとんとした風だったが、口元を隠して上品に、苦笑した。 「まったく・・・永琳は対抗意識が旺盛ね、それで、勝てたの?」 「ええ」  だが 「式を超えた式、超式神とでもいいましょうか。そんなものをちょっと、ね」  そのシステムがどこにあるのか、どんなものなのか、誰も知らない。 新しいハードウェアが検出されました。 ヒューマノイド フィメイル ブレイン x1 MARISA KIRISAME デバイスドライバを自動的にインストールします。 このデバイスは正常に動作しています。                  [OK][詳細]