紅魔館の主レミリア・スカーレットは悩んでいた。 原因は黒ネズミこと霧雨魔理沙である。 紅霧異変以後、魔理沙は紅魔館に度々現れるようになっていた。 霊夢と魔理沙の二人の影響で紅魔館は以前とは大きく変化した。 それ自体はいい、とレミリアは思う。 里の人間からは恐れられ紅魔館の外には知り合いを殆ど持たなかった従者も外の世界に楽しみを覚え、 読書が趣味で外には一歩も出なかった友人も外出する喜びを覚え、 一人で地下に籠もっていた妹も外に外出するということを思い出した。 そう、それだけならば良かった。 例え、外に出かけてもいずれは皆帰ってくる。 ならばこの一時の寂しさも我慢しよう。 だが、奴は、霧雨魔理沙は最愛の妹を、最大の友人を、最高の従者を奪っていった。 今や三人とも魔理沙の家から帰ってこない状況だ。 おそらくこのまま手をこまねいて見ていては魔理沙の寿命が尽きるか、ひょっとしたら尽きても戻ってこないかもしれない。 それだけは許せない。 最愛の家族を魔理沙の魔の手から取り戻さなければならない。 レミリアは決意を固め、紅魔館から日傘を差して飛び立った。 タイトル:孤独「ロンリネス」 霧雨亭は元は魔法の森の中にある小さくて、でも一人暮らしには十分大きいそんな家だった。 しかし、魔理沙が幻想郷中から少女達をさらってくるたびに改築が繰り返され、 今では数十名を囲む大きな屋敷と変わっていた。 レミリアは魔理沙の欲望のままに膨れ上がった霧雨亭を見下ろす。 魔理沙の家に近づく途中、さきほど違和感を感じた。 おそらくそれが警報結界になっているだろう。 じきに魔理沙は出てくる。 逸る心を抑えながらレミリアは待っていた。 しばらくして霧雨亭のドアが開き、魔理沙が出てきた。 空中に浮かぶレミリアを確認し、箒に跨ってレミリアと同じ高さまで上昇してくる。 「おう、レミリア久しぶりだな」 「ええ、久しぶりね。今日は三人を帰してもらいに来たわ」 「フラン達のことだな。そろそろ来ると思ってたぜ」 二人は空中に浮遊したまま睨みあう。 「貴女がパチェの書庫で魅了の魔法書を発見したことは知ってるわ」 「そうか、なら話が早いぜ。そう今やフランもパチェも咲夜も霊夢もチルノもアリスも リリカも妖夢も幽々子も橙も藍もリグルもミスティアも鈴仙も慧音も、私の虜だ」 「貴女が何を飼おうが知ったことじゃないわ。けど、フラン、パチェ、咲夜、霊夢は返してもらうわよ」 「ふん、最近へたれてきたお前が弾幕ごっこで私に勝てると思ったのか? お前も私のハーレムの一員にしてやるぜ」 魔理沙がニヤリと笑って、レミリアから距離をとる。 「フランの力は知ってるでしょう?」 「ああ、姉の力は大した事ないが、妹はすごいな」 「そう、フランの力は凄いわ。でも、不思議に思ったことはない? 姉の力が何故妹に及ばないか」 「何が言いたいんだ」 魔理沙がいつでも魔法を放てる体勢に入って問う。 そんな魔理沙を見てレミリアが顔を獰猛な歪んだ笑い顔にして言った。 「姉はお姉さんだから……制御してるのよ」 「くっ!」 レミリアのセリフが耳に入ると同時に魔理沙は全力で星弾やレーザー、スパークを放つ。 パチェの書庫で手に入れた魔法書によって今の魔理沙にはマスタースパークとノンディレクショナルレーザーを 同時に発動することのできる魔力が備わっている。 だが、レミリアの動きはそれら全てよりも速かった。 「遅いわよ、魔理沙」 魔理沙の視界から一瞬で消え去ったレミリアは魔理沙の後ろ側に浮かんでいた。 「わ、私より速い奴なんて幻想郷にはいないぜ」 「普段のだんまくごっこの時なら、ね」 レミリアは懐から一枚のスペルカードを取り出し宣言した。 するとレミリアの手の中に紅く光る槍が現れる。 「な、なんだ。グングニルじゃないか。そんなの放つときの体の角度を見ていれば簡単によけられるぜ」 「これは私の封印した力の一つ。フランを地下に長い間封印することになった力。その名も孤独「ロンリネス」」 レミリアの手の中にある槍をゴクリとした目で見る魔理沙。 「じゃあ、この力その身で味わって御覧なさい」 レミリアがまた魔理沙の視界から消える。 今度は魔理沙もその瞬間に高速で自宅に向かって動いた。 しかし、あと少しで自宅にたどり着けるというところで、 紅い槍が魔理沙を背中から貫き穂先がお腹から突き出たところで止まった。 「ぐっ! ……って痛くない」 確かに紅い槍は刺さっているが、痛みは感じない。 魔力も変わった感じはしないし悪影響は何も出ていないようだ。 魔理沙はそのまま速度を落とさずにドアを突き破って叫んだ。 「フラン! 霊夢! 助けてくれ!」 レミリアの眼には確かにロンリネスの槍に貫かれた魔理沙が霧雨亭に突っ込むのが見えた。 「勝負あり、ね」 魔理沙の叫び声が聞こえたのか、廊下の奥からフランドールや咲夜、パチュリーが飛び出してきた。 「「魔理沙! どうし……た……の」」 心配そうな顔をして駆けつけようとしたフランドール達が不思議そうな顔をして立ち止まる。 「皆、どうしたんだ。早く助けてくれ、レミリアが、私を」 「何で私魔理沙と一緒にいるんだろ。咲夜、パチェ帰ろうよ」 「そうですね、フランドール様。レミリア様がお迎えに来てくださっているようです」 「不思議ね、何だか夢を見ていた気分だわ」 フランドール、咲夜、パチュリーの三人が順番にそう言って魔理沙の横を通り過ぎて家の外に出ていく。 「お、おい! フラン! パチェ! 咲夜! 私はそっちじゃないぜ」 「魔理沙、ばいばい」 「な……」 フランが振り返らずに別れの挨拶をするのを魔理沙は愕然としながら見送った。 すると、家の奥から更に他の住人が出てきて家から出て行く。 彼女らは魔理沙に一声も掛けずに去っていった。 誰もいなくなった家で魔理沙はうめき声を漏らす。 「何なんだこれは。確かに私の魔力で皆メロメロだったはず」 「私の槍の力よ」 魔理沙が顔を上げるとレミリアが目の前に立っていた。 「あの槍の名前はロンリネスの槍。身に受けたものは孤独の運命に支配される。 フランがかつて暴走したとき、私はこの力であの子を止めた。 その時から魔理沙も知ってるあの日まで、フランは地下で一人の運命になったわ。 魔理沙の力でいつ運命から逃れられるかしら」 「何だって……」 それ以降、魔理沙のことを口にしたものはいない。 終