いぢめスレ提供 注) ・グロとかあります 「美鈴。あなたクビよ」 「へ?」 急に呼び出されたと思ったら、美鈴は主のレミリアから突然解雇宣言を受けた 「えーと、あとから『実はドッキリでしたー』とか『サプライズパーティー』とか、そういうことには・・・・・・・」 レミリアなら十分有り得ると思い言ってみる しかし、それを聞き主の顔がどんどん不機嫌になっていくのがわかった 「あなたふざけてるの?これは咲夜、パチェも合意の上で決定したことよ」 「嘘・・・・・・」 レミリアの後ろで控えている咲夜を見る 咲夜は美鈴のアイコンタクトを、目を背けることで拒絶した 自分はそれまで通り門番をこなしてきたつもりだ 解雇される覚えは無い 「え・・・あの・・・・私何か、お嬢様のお気に触るようなことを?」 「それがわからない様なら、あなた重症ね。門番としては無能だと言ってるの。これがクビの理由よ」 「そんな・・・・・・・」 確かに館にやってくる魔理沙にいつも突破を許してしまっている ちなみに門番中に昼寝もよくしている そのときの無様な姿が何度も主の目に止まり それが今日の解雇宣言につながったらしい 「門番がそんなんじゃ、紅魔館のメンツに関わるわ。今日中に荷物をまとめて出て行きなさい」 話はそれだけよ、といって踵を返し部屋をから出て行こうとする 美鈴がその小さな主の後ろにすがりつく 「お願いします!これからはもっと真面目に働きますから!」 「しつこい!!」 レミリアが恫喝まがいの声を出し、美鈴の頭を掴んで万力のように締め上げる 「いだだだだだだだだだだだだだだ」 「そんなにクビが嫌なら、ここ殺してあげましょうか?・・・・・・・わかったなら消えなさい」 脅しではなく本気だというのがその口調からありありと伝わってきた 美鈴は結局、レミリアを説得して門番を続けることができなかった 少ない荷物をまとめ、わずかな路銀を受け取りこれまで守っていた門をくぐり出て行った その元門番をテラスから見つめるレミリアと咲夜 「咲夜、新しい門番の手配は?」 「今、いくつか当たっています。今のところ無職の蓬莱人が最も適しているかと」 「肝試しのときの?実力的に門番を任せるとしたら、まぁその辺が妥当でしょうね」 さっそく次の門番についての話を進めていた 「しかしやっと出て行ったわね、まったくせいせいしたわ」 「そう・・・・・・ですね・・・・・」 「何?なにか不満でもあるの?」 咲夜の歯切れの悪い返事を聞いて、レミリアが咲夜を威圧するように睨み付ける 「無能な門番ではいざという時、全体の危機につながるのよ?紅魔館の主として私の判断と処置はどこか間違ってる?」 「いえ・・・お嬢様の言う通りです」 「そうでしょ」 その回答に満足して、手にしていた紅茶を一気に飲み干す 「おかわり」 「はい」 美鈴が解雇されて1週間がたったが 新しい門番はまだ見つかっていなかった 門番は 常に命の危険が伴う仕事である そして来訪者、侵入者問わず、だれも来なければが何時間も何もしないで立っている 何もしないで長時間その場に居続けるのは以外とキツイ そんな大変な仕事だというのをみんなが知っている だから広く公募しても誰もやりたいと名乗り出なかった ちなみに美鈴を解雇した3日後、咲夜が人里に買い物に行った時、美鈴が人間の経営している飲食店で働いているのを目撃した しかし、公募を出した次の日から美鈴は飲食店のバイトをやめたらしい 咲夜には公募が原因で人里にいられなくなったのだと容易に察することができた 自分達がしたことで美鈴の新しい居場所を奪ってしまったことに後悔した 公募を出した次の週、つまり美鈴が解雇されて2週間がたった日 博麗神社の宴会の席があった レミリアと咲夜はそれに出席していた 宴会が終わりいつも通りに館へ帰ってきたときだった 「!!」 紅魔館の雰囲気がどこかおかしかった 普段から異様な感じはしているが どこか違和感があった 庭に着いてわかった 手、手、足、足、首、首、臓器、臓器 妖怪の死体がそこら中に転がっていた 急いで中に入ると廊下も同様に死体の山である しばらく進んでそこでようやく2人はパチュリーを見つけた パチュリーは廊下の壁にもたれていた 彼女以外にも周りには小悪魔と疲弊した妖精メイドが多数いた 「パチェ!!一体なにがあったの!?」 レミリアがパチュリーに駆け寄る 見たところ彼女は喘息の影響か息は上がっていたものの、体にこれといった怪我は負っていなかった 「知能の低い下級の妖怪が突然ここに押し寄せてきたのよ。それでみんなで応戦したのよ  一匹は取るに足らないんだけどかなりの量だったから、かなりしんどかったわ」 とりあえず全員軽症で済んだらしい ふと、レミリアがあることを思い出す 「フランは!?まさかあの子も一緒に暴れてたんじゃ!?」 脱走してないでしょうね!?とパチュリーに詰め寄る 「幸い、ここに出てこなかったわ。さっき小悪魔に部屋を見に行かせたら、眠ってたらしいわ。図太い神経してるのねあなたの妹は」 それを聞いてほっと胸をなでおろす 「しかしこの妖怪たちは一体?」 咲夜が死体の臓物から発生する異臭に顔をしかめながら尋ねる それにパチュリーが答える 「今まで美鈴が追っ払ってきたやつらなんでしょうね。もしくは美鈴が門にいたのが牽制になって入ってこられなかった妖怪ってことかしら  その美鈴が2週間も不在だったから、『行っても大丈夫』って思ったんでしょうね。  知性の低い下級妖怪だけあって中に入ったあとのことまで頭が回らなかったのね」 ここには、そいつらにとって魅力的なものがたくさんあるからずっと入りたかったんでしょうね、と最後に付け足した レミリアにも咲夜にもパチュリーにも、美鈴を解雇したらこのような事態が起こるとは予想できなかった しかし、皮肉にもやつらが明日もやってくるのはだれでも簡単に予想できた 次の日の朝 フランドールはいつも通り地下室で目を覚ました 目を覚まして、地下室の扉に歩み寄る 扉が開かないかと淡い期待を持って、取っ手に手をかける 「いたっ!!」 扉に触れた瞬間、手に激痛が走った 「???」 不審に思いもう一度触れてみる 「いたっ!」 扉に触れると激痛が走るようになっていた 「なにこれ?」 嫌な予感がして、扉を壊そうと試みる いつもならある程度力を込めれば破壊できる扉はいつになく硬かった 自分の能力を使っても壊すことができなかった 「何で壊れないの?」 考えられるのはパチュリーの魔法だけだった パチュリーが勝手にこんなことをするわけが無い 姉のレミリアがやれと言ったのだと簡単に想像できた その時フランドールの中で小さな不安が生まれた 「え・・・・・・・・嘘・・だよね?・・・・・何かの冗談だよね?・・・・・・・」 彼女の中にある『ある不安』がだんだんと大きくなってくる 扉の向こうに誰かが居るのは気配でわかっている その相手に呼びかける 「ねー、お姉様でしょ?そこにいるの?なんかね、扉を触ると痛いの。『パチュリーに結界が壊れてるよ』って伝えてくれない?」 返事は返ってこなかった 「ねえ、お姉様。私なにかお姉様が怒るようなことした?・・・・・謝るからさ・・・・この結界解いてくれない?  あっ、別に脱走したいからこんなこと言ってるんじゃないよ。ただ扉を触ると痛くて困ってるからなんだけど・・・・・・・」 だんだんと声が震えてくる 「ねぇ・・・・私いい子にするからさ・・・・・もう外に出たいって言わないからさ・・・・・・・・・・返事・・・してよ・・・・・」 扉の前にいるものが扉の前から離れていくのがわかった とうとう彼女が常に抱えている不安『姉に見捨てられる』という恐怖が爆発した フランドールは痛みも気にせず扉に張り付き、扉をドンドンと叩く 「待って!行かないで!!なんでこんなことするの!?私なにか悪いことした!?ねぇ!ねぇ!私、要らなくなったの!?  待って!待ってよ!!! やだ!やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!」 声は扉の前にいたものにもしっかり届いていた 扉の前にいたのはフランドールの予想したようにレミリアだった 地下から出るとパチュリーがそこにいた 「妹様の声、ここまで聞こえてたわよ。いいの?事情を説明しなくて・・・・かなり不安がってたわよ」 「いいのよ、話さなくて。本当のこと聞いたらあの子絶対『一緒にやる』って言い出すでしょ。」 フランドールが出てくれば被害が悪化する。というのが紅魔館全員の共通認識だった 昨日の晩のうちに、レミリアがパチュリーに頼んでフランドールの地下室の扉にかなり強力な結界を張った フランドールが出ようとするのを防ぐのはもちろんのこと 万が一地下室に妖怪がやってきても外側から扉を開けられないようにするためである 「張ってから言うのも何だけど。妹様のこと、もっと信頼してあげたら?」 「・・・・・あの子一回スイッチが入ると止まらなくなるでしょ?あいつらを撃退した後、あの子を止められるほどの余力は無いわ」 その晩も、また次の晩も毎日毎日、夜に妖怪はやってきた ほとんどがレミリア、咲夜、パチュリーで片付けられる 妖精メイドも応戦するが大した戦力にならない 力の差は圧倒的だが多勢に無勢。必ず被害は発生する 「咲夜、昨日の被害は?」 「はい、メイドが6人怪我、全て軽症です。そして行方不明のメイドが12人です」 「そう・・・・・・・」 行方不明というのは妖怪に食べられたか、恐怖に耐えられず紅魔館から逃げ出したかのどちらかである 後者のほうが圧倒的に多い しかし館のところどころから、メイドの羽や衣服が出てきているのでもしかしたら半々の割合ではないかと咲夜は思う 2人のいる部屋の窓ガラスは割れたままである 修理するまで人員が回らず、労力のほとんどが妖怪の死体の処理にあたっている そして数人が食事の準備にあたっている 穴を掘って埋める。その作業は細身の妖精メイドでなくとも重労働である 死体を扱うため、肉体的にも精神的にもかなり堪える まだ紅魔館の中も外も、作業が追いついていないため死体だらけである その死体にも虫がわき始めていた 「先ほどの報告で、死体だと思って引きずっていたら実はまだ生きていて反撃を受けたとのもあります。  幸いかなり弱っていたらしくて、メイドも大した怪我は負わず、妖怪も直後に事切れたそうです。現在全員に注意を促しています」 「そう・・・・・・・」 レミリアはさっきからこの返事である 気分転換に外のほうを見ると、窓にだれかの脳漿が張り付いており、2人とも気が滅入った 「やはりフランドール様にもご協力を」 「だめよ、そんなことしたら狩っているうちにどんどんエキサイティングしちゃって、気付いたら敵味方関係なく消し炭よ」 「では霊夢に協力を仰ぎましょうか?」 一度、魔理沙に手伝ってもらったことがあった。美鈴についての負い目もあったたこともあり自分から志願した 彼女は最初、奮闘した しかし弾幕ごっことは違う生々しい殺し合いに耐え切れず その場で嘔吐し、リタイヤした 「霊夢なら昨日頼みに行ったわ」 「どうでしたか?」 昨日の博麗神社 「というわけで、紅魔館の周りに大きな結界を張ってほしいの」 レミリアは霊夢に協力を仰いだ 「レミリア、悪いけどそれは出来ないわ」 しかし断わられた 「なぜ、規模が大きすぎるから?」 「いえ、時間さえかければ結界自体張れるわ」 「じゃあなぜ?お礼ならはずむわよ?」 「違うわ・・・・・・・・・・私が『博麗の巫女』だからよ」 その言葉にレミリアは疑問を持った 「??・・・・『博麗の巫女』ならなお更、妖怪を野放しにしていていいの?」 「妖怪が暴れれば私は動く。結界も張るし、直接退治もする。でもそれは人間vs妖怪の話」 「なぜ?・・・・・・だから報酬ならちゃんと・・・・」 「それが問題なの。今回は妖怪vs妖怪。あなた達の異変やイベント、お遊びにならいくらでも付き合ってあげるわ  けれど妖怪同士の抗争で博麗の巫女がどちらかに肩入れすることはできない。 『博麗の巫女』がそんなことをすれば幻想郷の均衡は必ず崩れる。だから私は干渉しない。あくまで中立。  報酬の大きいほうに加勢したら私は傭兵と変わらないじゃない。それに今回は門番を解雇したあなたの自業自得よ」 その口調はいつもお茶を飲んでいる時の和やかな感じでは無く、機械に録音させた声のように淡々とした口調だった レミリアは一瞬、霊夢が2人いるのでは?と思った いつもの霊夢は向こうの部屋にいて、煎餅でもかじりながらお茶でも飲んでいるのではないか? しかし、自分の目の前にいる巫女が正真正銘、自分の知っている博麗霊夢である その霊夢の態度に腹を立て、レミリアは言ってしまった 「はっ!『博麗の巫女』ってのは随分と冷たいのね!何者にも中立でいるってのはさぞ気分がいいのでしょうね!!!」 後にレミリアは咲夜に語る この言葉を言ったことは、たとえこれから何百年生きても後悔し続けるだろうと・・・・・ 霊夢にその言葉を言い終わってレミリアは後ろを向き、館へ帰ろうとした その時 「え!?」 自分の襟の後ろをつかまれて思いっきり引っ張られた レミリアの体が軽々と宙を舞う その間、手にしていた日傘が落ちていくのが非常にゆっくりに感じられた ドンッ 「かはっ!!」 レミリアは思いっきり縁側に仰向けの形で叩きつけられた 「何するのよ!!」 レミリアが抗議する そのレミリアに霊夢は馬乗りになる その顔は 憎悪でも憤怒でもなく ただ泣いていた 「霊夢?」 レミリアが霊夢に話かける スッとゆっくり霊夢の綺麗な手がレミリアの首にかかる 「!!」 振り解こうと抵抗するも、吸血鬼であるはずのレミリアの力でもびくともしなかった 手に力を込めながら霊夢が話始める 「あんたに何がワカルノヨ?人の中にも妖怪の中にも交われない、他人に関心が持てず、依存することは許されない  たかがその辺の雑魚の大群に襲われたから何?こっちは博麗ってだけで挑んでくるやつもいるのよ。  中立が羨ましい?そのせいでこれまでやりたくてもできなかったことがたくさんあるのよ・・・・それで私が冷たいですって?・・・・」 首に手のあとがくっきり残るほど強く締め上げる 「私がどれだけつらい思いをしたかも知らないで!!知ったような口をきくな!!!」 霊夢の手にさらに力がこもる 「ぐっ」 レミリアの首は窒息どころではなく、圧迫骨折させる勢いである 人間の、しかも少女とは思えないほどの握力だった レミリアの意識が遠のく寸前 神社に遊びに来ていた萃香によってなんとか霊夢は止められた そのおかげでレミリアは今こうして咲夜と会話ができている 「それは大変でしたね・・・・」 「ええ、今度ちゃんと謝らないと」 「でも怒ったってことは、裏を返せば『本当は助けたくても助けられない』から霊夢はイラついてたのではないでしょうか?」 「そういえば・・・・・」 咲夜のおかげで気付くことができた 少しだが気が楽になった 「ありがとう、おかげで力が湧いてきたわ」 「その意気です、今夜でやつらを根絶やしにして差し上げましょう」 夜になった、月が一番高いところに昇っている レミリア、咲夜は紅魔館の廊下にもたれかかっていた 「なんとか、全部追っ払いましたね」 「ええ、そうね」 レミリアは当然無傷 咲夜は腕に擦り傷を負った程度である 咲夜の怪我は天井に張り付いて待ち伏せしていた妖怪に、不意打ちを受けたものである 一瞬時を止めるのが遅くなり軽く腕を引っ掻かれた さすがにかなりの数を相手にしたので2人の疲労は完全にピークに達していた 「ここ数日ベットで寝てないわね」 「そうですね・・・・・・・」 ベットは妖怪の返り血で使い物にならない 部屋の中で寝ようとしても、空気がこもってしまい異臭で眠ることができない 建物は半壊状態で、そこら中に大きな穴が開いている 外から新鮮な空気が流れてきている廊下のほうが眠るのにまだ適している それはメイドにも同様で皆廊下で眠っている 寝込みを妖怪に襲われても対処できるように、咲夜とレミリアが見える範囲を寝床にしている パチュリーと小悪魔は図書館で眠っている 本を守るためにまだ図書館内への進入を許していない だから紅魔館では現在2番目に清潔なところである 1番清潔な場所はフランドールのいる地下室である 時折近くを通りかかると彼女の叫び声が聞こえてくるらしく あれから一睡もしないでレミリアのことを呼び続けているのでは?と推測するものもいる 吸血鬼なので一ヶ月は食事を取らなくても死にはしないので、扉はまだあれから一度も開けられていない 「かなり疲れたから取りあえず寝るわ」 「わかりました」 レミリアはかなり疲れたので夕方まで起きないかもしれないと思った しかし、レミリアは夜明けの数時間前に起こされることになった 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 当然、となりで眠っていた咲夜が叫び声をあげた 驚きレミリアは目を覚ます 「なに!!どうしたの」 咲夜は腕を押さえてうずくまっていた 「う・・・腕が・・・・」 見ると咲夜の片腕は通常の3倍は腫れ上がっていた 色は真っ青で一目で危険な状態だとわかる 「しっかりして!!咲夜!」 レミリアは一目散に永遠亭に咲夜を抱えて飛んで行った 永遠亭の手術室の前 レミリアは虚ろな目で座っていた 手術を終え、八意永琳が出てくる 「咲夜は!?」 「だいじょうぶよ、命に別状は無いわ、治れば手も今までどおり使えるわ」 それを聞いて安心する 永琳の話によると、咲夜の腕を引っかいた妖怪の爪にいた雑菌のせいでこうなったらしい すでに治療法は見つかっており、素早い治療を行うことができた しかしあと数時間放置しておいたら、腕を切断しなければならない自体まで進行していたそうだ 病原体は咲夜の全身に回っているためしばらく入院の必要があるらしい 咲夜は人間である、どんなことで命を簡単に落とすかわかったものでは無い だから咲夜をよろしく頼むと言って永遠亭に置いて帰った とっさのことで日傘を忘れたが、幸い日の出前だったので要らなかった 紅魔館に帰るとメイドの数が大幅に減っているのがわかった 「咲夜がああなるのを見せられたら誰だって逃げ出したくなるわよ」 咲夜の容態を知らせに行った時、パチュリーから説明を受けた そして朝がやってきた レミリアはパチュリーの図書館で眠っている パチュリーはそれを尻目に本を読んでいた 小悪魔は妖精メイドの手伝いにかり出されているためこの場にいない パチュリーは非常事態だからといって読書を欠かさない 本を読むことが彼女の生きがいである ふと 「ひっ!!」 彼女が開いた本のページに手のひら大の大きな緑色の虫が押し花のように潰れ、張り付いていた 少し湿り気が感じられたので最近のものだとわかる あまりのことに驚き、パチュリーは読んでいた本を投げ捨てた 図書館への妖怪の進入は未だ許してしない しかし館内の妖怪の死体のせいで虫がわいて、その虫が扉の隙間や通気口から入ってきたらしい 本に防虫対策は施してあるが、これはそんなもので何とかなる代物ではない パチュリーは本棚から違う本を取り出し、恐る恐るページをめくり始めた 妖精メイドは2人1組となり死体の処理にあたっていた 仕事を行うパートナーは毎日違う 昨日まで一緒にこの仕事にあたっていたメイドは、昨夜のメイド長の姿に恐怖して逃げ出した このときメイドの数は門番がいなくなる前に比べの半分もいなかった 穴を掘りながらその一匹のメイドは考える 自分は安定した居食住を求めて働いているのだ 今はそれがままならない 他のメイドは、主に恩義や忠誠、館に愛着があって残っているものばかりである 自分にはそこまでの義理も愛着も無い メイドは半数以下といえど結構な人数である 自分ひとりが抜けたからどうだというのか その日また行方不明のメイドが一人増えることになった その日の夜もまたさらに次の日も、連日妖怪たちの襲撃は続いた メイドの数はかなり減っていた レミリアもなんとかしなければとあれこれ考えていた そんなとき 「大変です!!レミリア様!!」 小悪魔が息も絶え絶えにレミリアの元にやってくる 「妹様が!!フランドール様が地下室に居ません!!」 「なんですって!!」 レミリア、パチュリー、小悪魔は地下室に向かった 地下室の扉は開いていた 「どうして開いてるの?結界の力が切れたの?・・・・・・・・・」 扉が残っていたので、フランドールが破壊したとは考えにくい 「いえ、恐らくたまたまやって来たやつの中に結界と相性のいいやつがいたのでしょうね、そいつがきっと扉を開いてしまったのよ」 突然大量の妖怪が押し寄せて来て驚いて屋敷の外まで飛び出したのではないか?と皆が推測した 3人は彼女を見つける手がかりはないかと地下室の中に足を進める 「なにこれ?」 一つの壁一面に妖怪の死体が貼り付けられていた 赤や青の血で文字やサイン、絵が描かれており 生首や臓器、目玉がアクセントとしていたる所に壁にちりばめられている 肉片のついた骨が壁の前に遊歩道のように敷かれている 腸が壁のふちをぐるりと一周しており、額縁を想像させた それはまさしく壁に描かれた巨大な『絵画』だった 「地下室に入ってきた妖怪を皆殺しにして、閉じ込められたうさ晴らしにこの絵を描いてから、脱走したのでしょうか?  それにしてもこの絵、私の故郷で毎年やっている絵画コンクールに申し込んだら、金賞は確実ですね」 「あなたの妹、美術の才能ありそうね。しっかりと勉強したらいい画家になるんじゃない?」 「あたり前じゃない、私の妹よ。・・・・・絵を描くとストレス解消につながるのかしら・・・・・・・・・・・・」 全員、壮絶な光景を見せられて、冗談の一つでも言わなければまともな精神を保てなかった ふと、レミリアは振り返り扉の内側を見た 「!!!」 扉には妹のものと思わしき血の手形が大量に付着していた それが四六時中痛くても扉を叩き続けた結果だとわかった 妹が閉じ込められていたことでかなり精神的に追い詰められていたことを壁と扉を見て理解した フランドールがそんな精神状態でこの絵を描いたのか 想像するだけでレミリアは胸が締め付けられる思いだった フランドールの捜索はメイドの数名に任せた 本当は総動員して探したいが今の状況ではそれはできない 雨が降ってきたら、日陰のないところに迷い込んでしまったら、暴れているのを巫女やスキマ妖怪に見つかったら・・・・ 風通しがよくなった廊下を歩きながらレミリアは妹の心配をしていた パチュリーがこちらのほうに歩いてきた 両手に荷物を持っていた、後ろにいる小悪魔も同様である 「どうしたのパチェ?これからお出かけ?」 「ごめんなさい、これからしばらく魔理沙のところでお世話になろうと思うの」 「えっ!?」 貴重な本をあげる代わりに泊めて欲しいと頼むらしい あれからパチュリーは虫の挟まった本をたくさん見つけた 図書館にある本は虫によってどんどん汚れていった 彼女は恐る恐るページを開く環境に耐えられなかった 虫と一緒に暮らす環境に彼女はがまんできなかった 「以前、魔理沙に手伝ってもらったでしょ、あれ以来魔理沙、塞ぎ込んでるらしくて心配だったの。  それに魔理沙の協力があれば、妹様も早く見つかると思うの」 もっともらしい理由をつけて紅魔館を出て行く 「パチェ、また戻って来てくれる?」 「当たり前じゃない、私たち友達でしょう?」 その言葉を信じレミリアは友人を送り出した 咲夜、フランドール、パチュリー、小悪魔 全員が今紅魔館にいなかった レミリアは美鈴を解雇したことを深く後悔した レミリアは残っているメイド全てを捜索に出した フランドールだけでなく美鈴も探すよう命じた 紅魔館にはもうレミリア以外いなかった そのころ解雇された門番、紅美鈴は森の中で野営をしていた 門番の夜勤も野営もあまり変わらないので特に不便に感じることは無かった ただ森の中で食べ物を調達するのは難しいいため空腹だということはある 解雇されて一週間、人里で働いて暮らしていた しかし紅魔館の門番の公募が広く出回って、元門番として広く知られている自分は人里にいることができなかった その後、ずっと人目をはばかり森の中で過ごしていた あの門こそが自分の居場所だった 門番を解雇されたことが美鈴には悔しくて悔しくてしょうがなかった 今の美鈴は紅魔館がどんな状況になっているか知るよしもなかった フランドールが脱走し、パチュリーが出て行き、メイドを全て出払わせて2週間がたった 未だに2人は見つかっていない しかし2週間たったこの日 レミリアは一人で館にやってくる妖怪を全て駆逐した 「初めからこうすれば、良かったわ・・・・・」 今までいろいろなものを庇いながら戦ってきた、そのせいで力を加減せざるをえなかった しかし今、敵は自分ひとりに向かってくる 吸血鬼に下級妖怪がどれだけ集まっても敵うはずがない だがそのせいで館は半壊どころではすまなくなっていた 「やっと終わった・・・・・・」 体の力が抜け床にぺたりと座り込む 「!!」 レミリアの周りにあった死体だと思っていた妖怪が2体起き上がり噛み付いてきた 「このっ!!」 レミリアがとどめを刺そうと手を振り上げる しかし 「壊れろ!」 その声と同時に2匹の妖怪は跡形もなく消し飛んだ 「え?」 突然の出来事にレミリアは呆然とする 「やった!美鈴。今2つ一緒にキュッってできたよ」 「すごいですね〜、練習したかいがありましたね」 そう言って美鈴はフランドールの頭を撫でていた 「フラン・・・それに美鈴も・・・・」 捜索中の2人が戻って来てくれた その事実にレミリアは感動する 「美鈴、わたし他に生き残っているのがいないか見てくる」 「わかりました、ついでに死体も消してくれると助かります」 「はーい」 フランドールはうれしそうに廊下の向こうに消えていった レミリアは美鈴と2人きりになる 「美鈴・・・・・・・」 「ほら立ちましょう、いつもの調子はどうしたんですか?」 美鈴はレミリアを立たせて、服の汚れを払う 「驚きました、わたしがクビになってからこんなことになっているなんて・・・・・・」 これまでの顛末をレミリアに説明した 森の中で野営中、フランドールの気配を感じ誰よりも早くフランドールを保護しこれまで行動を共にしていた 紅魔館とかかわりの無い今の自分に、フランドールを館まで届ける義務は無い。そう思ったからだ 昨日偶然あった鴉天狗に今の紅魔館の状態を聞いて急いで戻ってきた 「ダメですよフラン様をいじめちゃ・・・・会って最初の頃、自分は捨てられたって言ってずっと泣いてましたよ  家族の温もりに飢えているんですから、もっと構ってあげて下さい」 「自分でも酷なことをしたって思ってるわよ。これから埋め合わせはちゃんとするわ・・・・・フランにもあなたにも」 「え?」 「あなたがこれほどの存在だとは思ってもみなかったわ・・・・」 「いやそんな・・・それほどでも・・・」 急にほめられ美鈴は照れる レミリアが美鈴に手を差し出す 「だからもう一度、うちで門番をやってはくれないかしら」 元雇い主の言葉を聞いて、困ったような顔をした 「履歴書とか持ってきてないんですけど、いいですか?」 その冗談にレミリアはくすりと笑う 「そんなの全然かまわないわ・・・・・」 「では」 そう言って美鈴も手を差し出す これで紅魔館はもとの姿に戻る フランドールは無事帰ってきた 美鈴は戻ってきてくれた 咲夜はもうすぐ退院する予定である パチュリーと小悪魔も妖怪が全滅したのだから戻って来てくれるだろう メイドも館を修復して、門番がいてくれれば戻ってきてくれる 時間は掛かるかもしれない けれど紅魔館は確実に再生に向かっている それだけでレミリアはうれしかった パシッ 「え!?」 美鈴が差し出した手を払った レミリアは何が起きたかわからなかった 美鈴は怒っていた しかし表情は崩さない 「これまで身を粉にして働いてきていきなりクビ?そしたらやっぱりいるから戻って来い?私のこと馬鹿にしてるんですか?」 その口調はいつもと変わっていない それが逆に怖かった 「そんなんだから、フラン様に影で『あいつ』呼ばわりされるんですよ。咲夜さん以外あなた誰かを労ったことありましたか?愛情を持って接したことありますか?」 どんどんまくしたてる 「私にも誇り、プライドというものがあります。門番やってることです。これが私のアイデンティティです。 でもあなたはそれを踏みにじった。クビにされてから今日まで私がどれだけ悔しい思いをしたかあなたにわかりますか?」 美鈴の一方的な言葉でレミリアは反論するのを忘れていた 「それではさようなら、私より優秀な門番が見つかるのを切に願ってます」 そういって踵を返し館から去ろうとした ここで美鈴に去られては紅魔館はもう戻らない それに恐怖したレミリアは美鈴の足につかまり彼女を引き止める 「待って!お願いだから考え直して。待遇ももっと良くするから」 いつかの日と立場が入れ替わっていた 「離して下さい、それにこれは給金の高い低いの話じゃないんです・・・・それに今のあなたのそんな無様な姿を私は見たくありません」 レミリアはそれでも美鈴にくらいついた 「お願いだから戻ってきて、みんなあなたがいないと困るの!」 その鬱陶しさに美鈴はレミリアの腹に空いているほうの足で思いっきり蹴り上げた 「ぐっっふう!!」 これまで紅魔館を守ってきた蹴りだ、その威力は伊達ではない 腹を押さえうずくまるレミリアに美鈴が言葉をかける 「覆水盆に帰らずってことば知ってますか?わたしの国の故事成語です。あなたのしたことは真にそれなんです」 そういってその場から去っていく 「最後に一つ、過去にあなたや咲夜さんパチュリー様が紅魔館に不在の時でも紅魔館は無事でした、なぜだと思います?  それはフラン様も私同様に外にいる妖怪に対してのプレッシャーになってたからです。  私を倒して中に侵入してもフラン様に出くわせばひとたまりもありませんからね。私が抑えられるのは下級の妖怪だけです  今回は私だけがいなかったから下級の妖怪しか来ませんでした。  フラン様を大事にしてあげてください。あの方は私以上に紅魔館を守っています。それでは今までお世話になりました」 レミリアが顔を上げたとき、美鈴は姿はもう無かった そのレミリアの後ろからフランドールがやって来た。 どうやら館をぐるりと一周してきたらしい 「あれ美鈴は?」 フランドールがレミリアに駆け寄る と思ったらあっさりレミリアを素通りした 「ちょっと、フラン!あなたどこに行くの?」 「え?美鈴のところだけど。こないだ一緒に行っていいって聞いたら、いいですよって言ってくれたから・・・・・」 美鈴と一緒にここを出て行くらしい レミリアの顔がショックで蒼白になり そんな姉にお構いなしで妹は言葉を続ける 「だって、美鈴ね。私が泣いてたときね、ぎゅって抱きしめて頭なでてくれたの。  森の中で一緒に寝るときも毛布の中に入れてくれてとても温かたったし、血も飲ませてくれた  豪華なご飯は無かったけど・・・2人で食べるととっても美味しかった。今まで一人で食べてたから知らなかった  能力の練習してくれたときも、えらいねって褒めてくれたし、私の話もちゃんと聞いてくれた・・・」 次から次へとフランドールの口から美鈴のことが出てくる それだけのことをして妹が懐かないわけがない 言い終わると、美鈴の名前を大声で呼んで、フランドールは廊下の向こうへ消えていった しばらくして外から妹と元門番の2人の楽しそうな声が聞こえてきた ポツンとその場に残るレミリア 「ははは・・・・・・・・・あはははははははははははははははははははははははははははははは」 乾いた声が廊下に響きわたる これで元通りだと思っていた 天国が一瞬で地獄に切り替わりレミリアはただただ笑うしかなかった しかも美鈴が言ったことが本当なら、フランドールがいなくなった今、もっと強力な妖怪が紅魔館にやってくる 事態がさらに悪化した 咲夜は病み上がりで戦えず、パチュリーたちも戻っては来てくれない 紅魔館が再生するのはもうありえないと悟った レミリアはその運命を受け入れるしかなかった fin