次々に撃ち出される無数の光弾が飛び交い、互いの体をかすめてゆく。 光線が互いの体を貫こうと、空を駆け抜けた。 途切れることの無い弾幕と、漆黒の翼と七色の輝羽の羽ばたきによって奏でられる音が響き渡る。 ここは、狂気のダンスホール――。 「……お姉さま、昔よりずっと強いのね」 「ええ、いつかあなたを殺すために、ずっと経験を積んできたのよ!」 2人の吸血鬼の舞踏を、館の住人達は固唾を飲んで見守っていた。 パチュリーと小悪魔によって張られた結界が、流れ弾をはじき返す。 決して途絶えることのない流れ弾の雨の中、咲夜が声を上げた。 「……フィナーレ、のようですよ」 レミリアがその手に握るのは、血に染まったような紅色の神槍、スピア・ザ・グンニグル。 フランドールがその手に握るのは、燃え盛る炎獄の炎の槍、レーヴァティン。 「……これで最後だね、お姉さま……私たち、どんな結末でも、受け入れようね?」 「おかしな子ね、悲しむことなんて何も無いでしょう? ……さあ、殺してあげるっ!」 それぞれの槍が、それぞれの魔力が、勢いよくぶつかり合う。 ――反発ののちに、再び衝突。そしてまた、反発。 ――それならば、と互いの胸へ伸ばした槍が、空を斬る。 再び光弾が飛び交うが、いずれも相殺。 死闘を制したのは、七色の輝羽を揺らす金髪の少女、フランドール・スカーレットだった。 グンニグルを葬った炎獄の槍を、レミリアの胸に突きつける。 「……何故よっ! なんで、私が……妹なんかに、負けなきゃならないのよぉぉっ!」 フランドールの左手で床にねじ伏せられたまま、レミリアが叫ぶ。 必死に身をよじるが、体勢を立て直すことなど出来なかった。 「パチェ、助けてよ、ねえっ! 私たち親友でしょう!?  美鈴、咲夜ぁ! どうして! どうしてみんなこいつなんかを求めるのよっ!」 惨めにもがくレミリアの瞳をしっかりと見据えて、フランドールは槍を突き刺した。 レミリアの心臓が、鼓動を止める。 動かなくなった姉の髪を優しく撫でると、フランドールは悲しげに言った。 「私……お姉さまのそんな姿、見たくなかったよ……  たとえ虚勢だったとしても……お姉さまの強い姿が……大好きだったのに」 ――紅魔館に、朝の光が差し込む。 新しく作られた、紫がかった桜色の日傘をさして歩いていたフランドールが、ふと足を止めた。 「咲夜、おはよう」 「お早うございます、フランお嬢様」 「咲夜は起きるの早いね。時間を操れるとしても、ちゃんと休まないとだめよ」 「お気遣いありがとうございます」 ううん、と言って笑うと、フランは窓から身を乗り出して、門番に声をかけた。 「おはよう、美鈴!」 「おはようございます、フラン様」 「今日もまた遊んでくれるかしら?」 「ええ、もちろんですよ。お仕事が終わるまで待っていてくださいね」 「わかった、楽しみにしてるわ! 門番のお仕事、頑張ってね!」 「はい!」 最後に手を振って、くるりと窓に背を向け、ふたたび咲夜に視線を向ける。 「それじゃあ、私は図書館に行ってくるね」 「かしこまりました、朝食はそちらへ運ばせていただきますね」 「うん、いつもありがとう。じゃあ、行ってきまぁす」 ふわりと空気に乗って、図書館へと急ぐフランドール。 彼女の笑顔に顔をほころばせながら、咲夜はより一層気合を入れた。 何の気なしに美鈴の様子をうかがってみると、美鈴も頬を叩いて気合を高めている。 咲夜はくすくすと笑うと、厨房へ向かう足を速めた。 「パチェ、こぁ、おはよーっ」 「お早う、フラン」 「お早うございます、フラン様」 図書館のドアが開いて、フランドールが顔を出す。 彼女は、嬉しそうに出迎えるパチュリーと小悪魔に駆け寄っていった。 「ねえこぁ、この前借りたこぁのおすすめの本、すっごく面白かったよ! はい、返すよ」 「もう読んでしまわれたのですか? ……パチュリー様に劣らないほどの読者家ですね」 「うん、面白い本はすぐに読み終わっちゃうの!」 楽しそうに談笑する二人を微笑ましそうに見つめていたパチュリーの表情が、ふいに翳る。 そして――どこか陰鬱な声で、しかし、あくまで優しくフランドールに尋ねた。 「……ねえ、フラン」 「なぁに?」 「フランは……レミリ……レミィのこと、好きだった?」 しばしの間。 小悪魔が気まずそうに様子をうかがう。 しかし、彼女の予想に反して、フランドールの答えは前向きなものだった。 「……一度も、私を見てくれることは無かったけど。  いろんな人に迷惑をかけちゃったみたいだけど。  私のたったひとりのお姉さまだもん、大好きに決まってる。  ……私の罪は消えないけど、私は前を向くよ。  私には、パチェ、こぁ、美鈴、咲夜……大切な人がいっぱいいるんだもん」 パチュリーと小悪魔の表情から、翳りが消える。 安心したように笑いながら、パチュリーが言った。 「こぁ、フラン、紅茶を淹れるわね」 「ありがとうございます、パチュリー様」 「……ねえ、パチェ、こぁ、紅茶、私が淹れてもいい?」 「それじゃあ、お願いしようかしら」 「はい、ぜひお願いします!」 「そういえばフランの紅茶は、まだ飲んだことが無いわね」 「うん、はじめてだけど、美味しい紅茶を淹れるからね!」 フランドールと話すようになってから、小悪魔はよく笑うようになった。 それを喜ぶパチュリーもまた、よく外出をするようになり、健康に一歩近づきつつある。 美鈴も咲夜も、果ては妖精メイドたちまでもが心優しき主のために頑張るようになり、 紅魔館の雰囲気は、以前と比べて格段に良くなっていた。 かつて、フランドールが幽閉されていた地下室。 持ち主の居なくなった薄紅色のナイトキャップが、誰にも気づかれることなく、悲しげにそこに在った。