「こらーーー!てゐーー!!」 「へへー♪」 逃げられた、すばしっこい奴だ。 私はそこらじゅうにウサギやらにんじんやらのラクガキされた本とノートを拾い上げ、泣きそうになった。 もう、これ師匠から貰った大切な教科書だったのに……、酷いよ……。 みるとてゐが障子に隠れてこっちを見ながら嬉しそうな顔をしている。 私が怒って追いかけるのを今か今かと待ちうきうきしている様子だった。 いつもの私なら、てゐのおっかけっこに付き合ってやるところだったが、 今回はちょっと懲らしめてやることにした。 「クスン……。」 全然威張れることじゃないけどウソ泣きにはちょっと自信ある。 てゐはしばらくこっちの様子を伺っていたが、だんだんと不安そうな顔になっていき ピンク色のスカートをきゅっと握り、どうしようと言った感じであたりをきょろきょろ見回す。 「あら、どうしたのてゐ。ウドンゲの部屋の前で。」 廊下で師匠の声が聞こえると同時に、てゐは慌てて障子をぴしゃりと閉める。 「な、なんでもないよ!」 「そう、ウドンゲどこ行ったか知らない?」 「し、しらないけど……竹やぶにでも行ったんじゃないかなぁ……。」 そう、と師匠が私の部屋の前から離れると、てゐは師匠が行ったのを確認して、 いよいよ不安そうな顔をして私に近づいてきた。 「ね、ねぇレイセン……。」 「ぐすっ。」 「ねぇってばぁ……。」 私は俯いて泣きまねを続ける。 てゐが顔を覗き込むようにしても、おそるおそる私の肩を揺すっても、私は黙っていた。 てゐがおろおろし始めるのが分かる。 「……さっきのことなら謝るからさぁ…。」 「…………。」 「いいじゃん本くらい、いつも許してくれるじゃん……。」 本くらい? そろそろ許してやろうかと思ったけど、今の言葉だけは許せなかった。 全然反省してない。謝れば許してもらえると思ってる。 大切な大切な、師匠との思い出がつまってた本だったのに……。 今までのこともあって私のイライラは限界に来ていた。 バシッ! 「……え?」 てゐの足元に本とノートを投げつけ、私は冷たく言い放つ。 「じゃあそのラクガキ全部消してよ。」 「え……」 てゐを椅子に座らせる。 筆箱の中から消しゴムを取り出すと、てゐに投げた。 消しゴムはこつんとてゐのおでこに命中し、ころころと転がる。 「早く消して。」 「え、でも……クレヨンで描いちゃったし……。」 私はてゐを思いっきり睨みつける。 てゐはびくっと震えると、机に向かって本を開き、消えることの無いラクガキを ごしごしと消しゴムでこすり始めた。 いまてゐは猛烈にイタズラしたことを後悔しているはずだ。 お願い、消えてよ。レイセンに怒られちゃうよ。そんなことを考えてるに違いない。 てゐの怯えと、焦りを想像するとゾクゾクした。 「あっ!」 手が疲れ始め握力が無くなってきたのか、てゐは消しゴムを落としまった。 見逃さない。 私はてゐの座っている椅子を思い切り蹴る。 ガンッ! ひっ、とてゐは小さい悲鳴を上げると、急いで消しゴムを拾って、今度は左手で必死に消しはじめた。 しばらくすると、てゐがそわそわし始める。 右手を両足にぎゅっと挟んで冷や汗をかいている。耳がぴくぴくと動いていた。 ははん、トイレを我慢してるんだ。 「ね、ねぇ、レイセン……。」 これ以上我慢できないと思ったのか、てゐは思い切って私に向かって言葉を発した。 「………………。」 私は無視する。 てゐの小さな勇気を、懇願するような思いを、 私はいとも簡単に踏み折ることが出来るのだとてゐに見せ付けることができたと思うと、 私はある種の快感を覚えた。 「ね、ねぇ……。」 てゐは必死で両足をこすり合わせ、すがるような眼を私に向けてくる。 見れば眼にはうっすらと涙が浮かんでいた。 そろそろ限界かな。ここで漏らされてもあとあと………いやそれもアリか。 お漏らししたてゐに雑巾を投げつけ自分のおしっこを拭かせる。 漏らしてしまったことに対する羞恥と、我慢できなかった自分の情けなさで、 てゐの顔は真っ赤になる。 追い討ちをかけるように私はてゐを怒鳴りつける。 とうとうてゐは泣き出してしまうが、夕食の時間になると私は容赦なくてゐを引っ張って食堂に連れて行く。 師匠や姫にばれないよう、私の様子を見ながらおどおどするてゐ。 だが私に慈悲は無い。 みんなの前、てゐをリーダーとして慕っているイナバたちの目の前で、 私は先ほどのてゐの失態を高らかに公表する。 耐え切れなくて真っ赤になって逃げ出すてゐ。 いい。 十分に興味を引かれるスクリプトだ。 だがここではグロならまだしも生々しいスカトロ物は禁忌とされている。 そういうことならまぁしょうがないか。トイレくらい許してやろう。 「きゃ!」 私はてゐの腕を乱暴に掴むと、椅子から引きずりおろす。 そしてそのままてゐをぐいぐいとひっぱって、私はてゐをトイレまで連れて行った。 トイレに着くとてゐは慌ててドアを開け、急いで中に入る。 ドアの前でてゐを待っている私の頭の中に、ふとある考えが浮かぶ。 もしてゐがようをたし終わってトイレを出るためドアを開けようとしたとき、 そのドアが開かなかったらてゐはどう思うだろう? 私の口元がいやらしく緩む。 そういえば昔てゐにトイレに閉じ込められたことあったなぁ。 あのときてゐは私を閉じ込めてることを忘れちゃってそのまま寝ちゃったんだよね。 すごーく怖かったよ、てゐ。 みんな私のことを忘れちゃって、もう永遠に死ぬまでここに閉じ込められてるのかなって思うと、 気が狂っちゃうかと思ったよ。 ね、てゐ。 トイレのドアの横には、昔てゐがこしらえた外側用のカギがまだ残っていた。 取り外してしまおうと思ったときもあったが、取り外そうとするとてゐは、 これはあたしの自信作なんだからダメ!と駄々をこねた。 今思い出すだけで腹が立つ。 まさか自分がこんな目に遭うなんて考えなかっただろうね。 自信作なんだってね。じゃあ充分味わおっか、ねぇ、てゐ。 私は外側からカギをかけた。 ざーっと水の流れる音がした。 がちゃがちゃ 「あ、あれ……?」 中からてゐの声が聞こえる。 がちゃがちゃ! 「開かないよ……。ねぇレイセン、そこにいるの……?」 てゐは不安そうな声でドアノブをがちゃがちゃとまわす。 もちろん聞こえてるわよ、てゐ。あなたの心の中の不安な気持ちも、ちゃあんとね。 でも私は無視する。 「ねぇ開けてよレイセン!!ヘンなことしないでよぉ……!!」 ガチャガチャとドアノブが大きな音を立てる。 だんだんてゐの声に心細さがかかっていく。 てゐの必死さがよく伝わってくる。 私もてゐに閉じ込められたとき、同じこと言ったんだよ。でもてゐは開けてくれなかったよね? 私はトイレの電気のスイッチに手を伸ばすと、電気を切った。 「きゃっ!!やだ!!ねぇレイセンお願いだからやめて!出してよ!!」 てゐがドンドンとドアを叩く。もう泣きそうだ。 きっとてゐは怖くてたまらないはずだ、真っ暗で、寒くて、いつ出られるかも分からない狭い個室の中。 てゐの恐怖を思うと、私の心はゾクゾクとした。 「ごはんよー。」 師匠の声が聞こえたので、私は、はーいと返事をする。 わざと、てゐに聞こえるように。 てゐのたった一つの希望を、へし折って絶望させるためだ。 てゐは、もしかして私が偶然トイレの前にいなかったから、自分の声が聞こえなかったんだ。 と自分に言い聞かせているはずである。だから私が帰ってくればドアを開けて貰えると思ってた。 でも私はずっとトイレの前にいた。ずっと笑うのをこらえながらてゐの声を聞いてた。 それをてゐに分からせるためだ。 師匠にはてゐはお腹が痛いと私の布団で寝ている、とでも言っておけばいいだろう。 信じてくれるに決まってるよ?だって私はてゐと違っていい子だもん。残念だったね、てゐ。 私は鼻歌を歌いながらみんなのもとへと向かった。 б ふう、お腹いっぱい。おいしかった。 晩ご飯を食べた私は、一通りくつろいだ後てゐを閉じ込めていたトイレへと向かった。 もう怒りの熱などとうに冷めていた。 ただてゐの泣き顔を見たかった。てゐの怯えきった心を感じたかった。 これからどうやっていじめてやろうか、考えるだけで自然と口から笑みがこぼれた。 トイレの前に着くと私は緩んだ口元を締め、怒った顔をする。 耳を凝らすとなかからてゐのすすり泣く声が聞こえる。 バタンッ!! カギを外し、ドアを一気に開くと、驚き仰天しているてゐを引っ張り出す。 てゐの冷えた柔らかい手は、かすかに震えていた。 「………なさい……。」 下唇を噛み、涙をぽろぽろ零しながらてゐは呟く。 「ごめん……なさい……。もう、ヒック、……いたずら…しないから、ヒック。……許して……グスッ」 涙とはなみずでてゐの顔はぐしゃぐしゃだ。 私の心がくすぐられる。 どうしよっかなぁ。 てゐのその顔、すっごく可愛いよ。もっと、もっといじめたくなっちゃう。 パァン!! 「きゃ!!」 私は思いっきりてゐの頬をはたいた。 「謝ったくらいでどうにかなると思ってるの?  あの本はね、もう手に入らないくらい高価な本なの。それなのにあなたは!!」 てゐの襟をぐいと掴み、睨み、見下す。 私が怒っていることをてゐに焼付け、逆らえなくするためだ。 私の手の中で、すぐそこで、てゐが生きてて今までないくらいにがたがたと震えている。 てゐの震える呼吸を、私は手で感じる。 「ごめんなさい、……ごめんなさい……!!」 バカみたいにてゐは謝り続ける。 てゐ、そんなんじゃ面白くないよ。もっと私を楽しませてよ。 「うん、でもまぁ、過ぎたことは仕方ないかな。今回だけは許してあげる。」 「……本当……もう、怒らない??」 てゐの眼にちょっとだけ光が見える。 もう怒らない?と、何度も確認するように聞いてくる。 ふふ、よっぽど怖かったのかぁ、私に怒られるの。 「うん、怒ってないよ。許してあげる。」 「あ、ありがとう……!」 「じゃあ今から一緒にお風呂はいろっか。」 「うん!」 単純なやつ。もう泣きやんでしまった。 バスタオル持っておいで、と言うと、自分の部屋にとてとてと小走りでてゐは向かった。 純粋で、無垢で、可愛いてゐ。 大好きだよ。 б 私は、てゐの頭を洗ってやる。 丁寧に丁寧に、髪の毛の一本ずつを洗う感じで。 いつもなら、てゐと一緒に入ると、シャンプーの中身をボディソープに変えられたり、 バスタオルに水をかけられたりするのだが、今日はおとなしかった。 私がてゐを調教したのだと思うと嬉しかった。 同時に強調という言葉に、私は興奮を覚えた。 頭を洗い終えると次は背中だ。 てゐの背中。ちっちゃくて白くて、すべすべ。 ボディスポンジにたっぷりと泡をつけ、優しく優しく背中を撫でるように洗ってあげる。 気持ちいい?てゐ。と聞くと、てゐは、うん。と答える。 そう、と私も優しく微笑む。 てゐの背中、傷つけてみたいなぁ。 そう思うと私は、人差し指の爪を立て、ボディスポンジで洗うと同時に、 ばりっ、とてゐの背中を思いっきり引っ掻く。 「あっ、……!!」 てゐは悶える。 ごめんね、ちょっと痛かったね。 私は今つけたばかりの真新しい引っ掻き傷に、石鹸をごしごしと塗りこんでいく。 「ひっ、…んっ……!!」 てゐは顔を歪める。 きっと傷にしみるのだろう。 けどてゐは私に何も言わない。 痛いよ!とか気を付けてよ!とか、何も。 言いたくても言えないんだよね、てゐ?私が怖いから。フフ。 てゐにお湯をかけて石鹸を落としてやると、 私はまたてゐの手をとって湯船まで連れて行く。 こうすることで、どっちが偉いのかをてゐに認識させるのだ。 いつもなら浴槽に飛び込むてゐも、今日は私が浸かった後に、ゆっくりと入ってきた。 私は嬉しかった。こう、眼に見えててゐが調教の成果を見せるのが。 「ねぇてゐ、もぐりっこしようか。」 「え……?」 ザバッ!! 「がぼがぼっ!!がばっ!!!」 私はてゐの頭を掴んで湯の中に沈める。 水中で、酸素を求めあがくてゐが見たかった。 ふふ、息が出来ないと苦しいでしょ。 でもてゐは今私が頭を押えてるから、息が出来なくて苦しくってたまらないんだよね。 てゐは私の手を必死で掴み、暴れる。 一瞬私は手を離してやると、酸素を求めて、てゐが勢いよく水面から飛び出す。 「ごはっ!!ぷはぁっ、はあっ!はあっ!!」 ザバッ!! 「がぶっ!!がは!!」 間髪いれずまた私はてゐを押さえつける。 じゅう数えるまでもぐろうねー。と私は言うと、 いーち、にーい、さーんとわざとゆっくりゆっくり数える。 相変わらずてゐは、私の手の中で愛くるしいほどにもがき、苦しむ。 たまらない快感。 数え終わり、てゐに酸素を吸うことを許してやると、 私から離れるように浴槽から上がり、泣きじゃくりながら脱衣所へと向かって逃げた。 ふふ、逃がさない。 私はじりじりとにじみよるようにして脱衣所へと向かう。 「どうしたのてゐ、ひとりで上がっちゃって。」 「エグッ!……れ、れいせんの…うぐっ、ヒック……うそつき!」 「?どういうことかな?」 「……グスン、おこって、ないって……えぐっ!……言ったのにぃ!!」 てゐは途切れ途切れにそう言う。 「そうだよ、怒ってるよ。怒ってないわけないじゃん。」 そう言って、私はてゐを絶望させる。 てゐの涙は、より私を狂わせ、より私をエスカレートさせる。 泣けば泣くほど、てゐは知らずの内に自分の首を、自分で締めるのだ。 けど泣かなかったらって言ったって許すわけじゃないよ。てゐ。 てゐが泣かなかったら、私が泣かせてあげる。 「ほら行くよ。」 服を着終わったてゐの腕を、私はまた引っ張る。 「そうだ、てゐご飯まだでしょ?お腹すいたよね?」 てゐは私と眼もあわさないでいたが、私の言葉をきいて、 思い出したようにお腹の辺りをさすった。 「温めて持ってきてあげる、ちょっとだけ待っててね。」 б くつくつと、おいしそうな音を立てる。 今日の夕ご飯は、てゐの大好きなハンバーグ。 私は食器をかちゃかちゃと揺らし、お皿を部屋の前まで持ってくる。 「おまたせー。」 てゐはちゃんと部屋で待っていた。 偉い偉い。 目の前に置かれた大好物を見て、てゐはよだれを飲み込む。 ふふふ、そんな意地汚いところも大好き、てゐ。 「食べさせてあげる。ほら、あーん。」 私はハンバーグを一口大に切ってやると、フォークでさして、てゐの前まで持ってきてやる。 だが、いいよ、自分で食べるから。とてゐは拒否する。 いらっ ガシャ!! ジュッ 「!!いやああああ!!!」 私はてゐの耳を引っつかみ、てゐの顔をちりちりになった皿の鉄板のところに押し付ける。 じゅっという音がして、てゐは右頬を押えながら熱さにのた打ち回る。 私は転げまわるてゐの襟をがっと掴んで引き寄せる。 「あーん。」 今度は冷たく冷たく言う。 てゐはまたかたかた怯えながら、あ……、と小さく口を開ける。 てゐがフォークを咥えると、フォークを通しててゐが震えているのが分かった。 その感覚を味わっていたかった私は、てゐがハンバーグを噛んでいる間も、 ずっとフォークを咥えさせる。 「んぐ、」 一口目を食べ終えると、すぐに二口目を口に運んでやる。 てゐはねこじただ。熱いのか一口咥えるごとに、てゐは手足をこわばらせる。 ふふ、面白い。熱くてたまらないんだよね、てゐ。 でも吐き出したらどうなるか、分かってるわよね?てゐ。 涙をぽろぽろ零しながら自分の大好物をほお張るてゐ、すっごく可愛いよ。 б 私は今てゐと一緒に布団の中にいる。 一緒に寝よ、てゐ。と言ったら、小さくうなずき、 自分の部屋からでっかいにんじんの形のクッションを持ってきた。これが無いと眠れないのだという。 ぷっ、ばっかみたい。 クッションを抱いているてゐを後ろから抱きかかえるようにして、 私はてゐの髪を撫でている。 てゐはずっと静かに黙って、にんじんのクッションをきゅっと握っている。 そうだよね、いまこの部屋でてゐの味方なのはその枕だけだもんね。 もしてゐが朝起きて、その大切な枕がずたずたに切り裂かれたら、 どう思うかなぁ、てゐ。 でもてゐも私の大切な本をだめにしたんだから、おあいこだよ? 怒れないよね、てゐ。あなたはまた泣くんでしょう? どんな顔するのかなぁ。 明日からたっぷり可愛がってあげるよ、てゐ。 そう思い私はてゐを抱きしめて眠りに落ちた。 Fin