登場人物  乾 紅太郎  黄泉 三木也  ラジオの声  男  操舵手の女 紅M:無尽蔵に切り倒される木々   工場から躍り上がる黒い煙   車から吐き出される排ガス   冷房で冷やされた建物の中   その日、地球は暑かった 1 ラジオ:・・・・・・から流れ込む寒気の影響で、地域により雪が降る可能性も・・・・・・ 三木也:暑い・・・・・・船室の中も操舵室も、穂先に来ても暑い!!     こんな小さな船じゃクーラーもないしな・・・・・。くそっ! 紅:暑さに対して文句を言っても仕方ないだろ。そんな炎天下で頭に血を上らせてると、   将来ハゲるぞ 三木也:なっ!?     誰がハゲだ誰が!! 紅:お前だ 三木也:なっ! おれのどこがハゲなんだ! ほらよく見ろ! フサフサだろ! 紅:なんで頭を金髪に染めてるんだ。潜入任務のたびに黒く染め直されるのに。   そうやって髪の毛が痛むようなことばかりしてるからはげるんだぞ 三木也:だからハゲてないって言ってるだろ! 紅:将来のことを言ってるんだ。お前は将来、確実にハゲる 三木也:断言すんな! 誰がハゲるか! くそっ、むかつくぜ。貸してた金とっとと返せ 紅:は? 何言ってるんだ? 金なんか借りてないぞ? 三木也:貸しただろうが! 渋谷に行ったときに。CDを買う金がないからかしてやっただろ!     輸入版のCD買うのに二千円かした! さあ返せ! 紅:・・・・・・借りたか? 三木也:貸したんだよ! 紅:そうだったかなぁ・・・・・・ 三木也:くそっ! この野郎! 操舵手の女:ほら、あんたたち、くだらない喧嘩してない。島が見えてきたよ。 三木也:本当だ。あれが古地島(ふるちじま)か・・・・・・。     照りつける太陽の熱でどこかよどんでるように見えるな 紅:任務を確認するぞ。   この島の中央に島民が残されている。島で猛威を振るう細菌から身を守る血清を彼らに届ける。   第一救助班が壊滅してから10時間。   急いで届けるぞ。 三木也:ああ、わかってるぜ     おーおー、すげえ正気によどんでやがるぜ   2 SE(足音) 三木也:日没まで、ざっと2、3時間てところか 紅:ああ。連中は昼夜関係ないからな。陽が落ちれば、視界が狭まるこっちが不利。   なんとしても、それまでに片を付けたい。それに早朝の救出班が血清を届けるのに失敗してから   すでに10時間近くが経過してる。感染者たちの体力も限界に近いはずだ。島民は感染者たちとともに建物に立てこもっているはずだから、   そこで死者が出て発症したとしたら、建物の中の生存者は確実に全滅する。なんとしてもその前に血清を届けないと 三木也:いざというときはお前が先に行けよ。血清はお前の背嚢に入ってるんだ。おれが背負ってるお前のライフルとオレのショットガンの予備弾倉より重要だろうしな 紅:ああ、そうさせてもらうよ。まずはでかい銃じゃなくてハンドガンで応戦するぞ。 三木也:了解。     おっと、早速お出ましのようだぜ 紅:最初のうちは、静かに敵を減らしていくぞ。   派手に退治するのは、向こうにこっちの存在が知られてからだ 三木也:うるせえな。そんなことはわかってるんだよ。おまえこそ、あせってライフル使うなよ。     さあ、ゾンビ退治といくか  SE(ドン! ・・・・・・ズシン)  (ドン! ドン! ドン!) 紅:いくら死んでいると言っても、人間の姿をしたものを撃つのは後味が悪いな。ん? SE(ドン! ドン!) 紅:何やってんだ三木也。早く当てないと、死人がここまでたどり着くぞ 三木也:やかましい! 俺は早撃ちは得意だが狙い撃ちは得意じゃないんだよ! 紅:やれやれ 三木也:くそっ! 当たれ・・・・・・!! SE(ドン! ・・・・・・ズシン) 三木也:ほら、見たか! ど真ん中にドンピシャリ当たったろ! 紅:さ、とっとと先に行くぞ 三木也:この野郎、今に見てろよ・・・・・・ 3 SE(ドン(ハンドガン音)ドン!だんだん多くなる)  途中から↓  (ドバン(ショットガン音)ドシッ(ライフル音)   だんだん多くなります。 紅M: UD菌。    それは、一定以上の温度と湿度の中でのみ発生する、南方特有の特殊な細菌だった    人体を温床とするその細菌は、生者だけでなく死者にまで感染する。    人間の死体に感染したUD菌は、その死体を動かして、地上に満ちあふれた食料、つまり生きている人間に襲い掛かるのだ    使者に噛まれた生者は、そこから細菌に感染し、熱病に似た症状に見舞われる。    そしてやがて死に至り、死んだ後に、生ける死者として、獲物を求めて動き回る。    動き回る死者を止めるには頭部を破壊するしかない    もしくは温度が下がり、菌の活動が停止するかだ。    しかし、温度の高い場所でしか発生しないUD菌が、気温により死滅するということはまずありえない話だ。 三木也:畜生、きりがねえ SE 銃声 紅:すっかり囲まれたな。移動しながらだから仕方ないが。うまく逃げ道を作りながら中央部に行くぞ SE 弾切れ 三木也:くそっ、こんなときに弾切れか     紅、換えの弾倉を頼む 紅:了解 ・・・・・・うっ!   しまった! ゾンビに背嚢を掴まれた! 三木也:なにやってるんだ! 早く背嚢をはずせ! ゾンビと力勝負じゃ勝ち目ないぜ! 紅:でも血清が! 三木也:囲まれるぞ! とりあえず廃棄して後から回収しろ! 紅:くっ・・・・・・ SE カチャカチャ    三木也:よし! 走るぞ! SE 足音 紅:三木也、換え弾倉だ! 三木也:ああ、しかしライフル片手で操りながら換え弾倉手渡せるなんてお前ぐらいだよな。     お前のエージェント・アビリティはむかつくぜ。 紅:・・・・・・よし、うまく逃げ切れたみたいだ。   一旦戻って背嚢を回収しよう SE 足音 紅:・・・・・・あったか? 三木也:いや 紅:ゾンビが持っていったのか? 三木也:仕方ない。血清がないんじゃあ、これ以上進んでも意味ないぜ。とりあえず     弾丸が切れる前に船に戻るか 紅:いや・・・・・・ 三木也:は? なにがいやなんだ? こんなだだっ広い島の中で、さっきのゾンビがどこに     背嚢を持っていったかなんてわからねえだろ?     とっとと船に戻って何か飲もうぜ。     後は他の人間に任せればいい。まったくSD課が統合されてから、嫌な任務が多くなったぜ 紅:三木也 三木也:あん? 紅:村はずれの野原に、早朝の作戦で使った血清があるはずだ 三木也:・・・・・・は? 紅:一緒に降下した救助班の人間たちは、死者にとって格好の獲物だったが、血清の入った箱は   連中にとってはただの箱のはずだ。興味本位で開けられていない限り、そのまま取り残されているはず。   それを確保しよう 三木也:・・・・・・マジでいってんのか? たしかに、連中に自分の意思で血清を持ってくほどの知能は残ってないが、     何でもいじくり回すようなやつらだぞ。血清が残されてる可能性なんて低いだろうが。 紅:行くぞ三木也 SE 足音 三木也:・・・・・・なあおい、紅。前から言いたかったんだけど、おまえ、ちょっと頑張りすぎだって。     おいこら、人の話しきいてんのか? 4 SE 草原 紅:あったぞ、箱はやっぱり無事みたいだ。   この草むらのおかげだな。付属していたパラシュートはなくなってたみたいだけど   箱は開けられてないみたいだ。   中に血清や治療道具があるはずだ。 三木也:でもこっちはもう弾切れだぜ 紅:ああ、こっちもとっくに弾切れだ。   よし俺が囮なる。 三木也:囮? 紅:ああ。俺が死者たちを引き付けて、村と反対のほうに走る。   お前はその間に、箱の中から血清を取り出して、それを村まで届けてくれ。   村まで行けば、どの建物に立てこもっているかはすぐわかるはずだ。   建物の周りにゾンビがいるからな。そうなったらお前のほうが中に入りやすい 三木也:あほ。そりゃそうだが、そんな危険な作戦に協力できるか。     大体、ハンドガンの弾丸も銃に入ってるだけなんだろ。任務では     自分の命が最優先だ。     あるかないかわからない血清のために、自分が死んだらしょうがねえだろ 紅:いや、もとはといえば、血清を失ったのは俺のミスが原因なんだ。それにひとかけらでも可能性が残されているなら   俺はその可能性にかけてみたい・・・・・・   それに・・・・・・生者が死者に負けるなんて格好悪いだろ? はは 三木也:な・・・・・・     勝手にしろ、このばか! 紅:ああ、後は任せたぞ・・・・・・ 三木也:おい 紅:ん? 三木也;お前には二千円貸してるんだ。後でちゃんと返せよな 紅:ああ、わかった SE ドン! 紅:さあ、俺はこっちだ!   みんな俺のほうに来い! SE 足音 三木也:さて、箱の中に血清はあるか・・・・・・?     あった。よし、急ごう     ・・・・・・死ぬんじゃねえぞ。こっちはお前の背中を守るように頼まれてるんだからな・・・・・・ 5 三木也:どこだ、くそっ、こっちは急いでんだ SE 足音 三木也:あった、ゾンビの群がってる建物。     教会・・・・・・か。なるほど。まあ確かに、神にもすがりたい心境だっただろうな・・・・・・。     じゃ、やるか     いくぜっ!! SE バッ! 三木也:・・・・・!! よし! 教会の真ん前に瞬間移動成功だ。     入り口に鍵がかかってるな。だったら・・・・・・ SE ガラスの割れる音 男:うわっ! だ、だれだっ!! 三木也:おっと、待った。本島から派遣されてきた救助隊の人間だ。今からそっちに行くぞ。     いいな?  男:あ、ああ。   他の救助隊は? 我々は助かるのか? 三木也:もうしばらく我慢すれば、救助隊の本体がやってくるはずだ。とりあえず、     この血清を病人に与えてくれ     俺はまだ外に用があるんだ 男:おい、どこに行く気だ 三木也:野暮用が残っててね 男:外にはあれがいるんだぞ? あれは、あれは一体何なんだ? 三木也:・・・・・・さあ、地獄が満席なんだろ SE 足音 三木也:たしかに外はゾンビだらけだな。もう一度瞬間移動で切り抜けるか     二度目は消耗が激しいが・・・・・・     でも、やらなくちゃならない     ・・・・・・ん? 紅M:ゾンビとの距離を開けすぎないように、でも離れすぎないように・・・・・・   くそっ、かえって疲れるな   村の反対側に誘導して、一体一体活動停止にして、   撃って、逃げて、撃って、逃げて   ・・・・・・最後についた場所は切り立った崖だった   なんてこった・・・・・・   手足がかけられる場所もない。   道がなくなってる崖ならまだ飛び降りることもできたのに。   ゾンビは・・・・・・もうすぐそこだ。確認できるのは4体。一体どれぐらいまで増えるのか   ハンドガンに弾はもうないし、ゾンビと素手でやりあうのはぞっとしない話だ   いや、状況の有利不利など関係ない。今までも幾度となく危機的状況に追い込まれたことがあるんだ   肝心なのはただひとつ、やるか、やらないかだ   来いよ! 相手になってやるぜ!   その時、拳にゆっくりと、白いものが落ちてきた。   これは・・・・・・まさか・・・・・・。雪・・・・・・?   温度が低くなるとゾンビは動けなくなったはず。   周りを見るとゾンビたちは次々と倒れていっていた。 三木也M:雪に触れて倒れていくゾンビたちの上にさらに雪が積もっていく。     ・・・・・・本来ならUD菌なんてものは、この国じゃ発生するはずがないものなんだ。     それが環境破壊による温暖化で、現れるはずがない場所に現れた。人間は自分たちの首を絞めていることを     気づかないふりをするのが得意だからな。EMEで取り扱う事件のほとんどは、結局は人間の自業自得だ。     このまま地球の温暖化が進めば、本州を死者が歩き回る日も近いかもしれないな・・・・・・。 紅:三木也・・・・・・ 三木也:紅、無事だったか 紅:あれからいろいろ考えたんだが、やっぱり、お前に二千円なんて借りてないだろ 三木也:な!?     何言ってんだ! 確かに二千円貸しただろうが! ふざけた事言ってないで返しやがれ! 紅:いいや、やっぱり借りてない。どこに俺が借りたっていう証拠があるんだ 三木也:この野郎すっとぼけやがって! いいからとっとと金返せ! このばか! 紅:借りてない金を誰が返すか、この馬鹿! 三木也:ふざけんな、この馬鹿! 紅:馬鹿! 三木也:ばか! 紅:馬鹿! (ばかばか言い合う)