「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」 透き通った早朝の青に飲まれるように僕はペダルを踏み込む、心拍とペダルの回転数を安定させ、風を切り裂きながら、10人のチームメイトを引き連れてロードレーサーで走る。 「ラスト600m、学校までスプリント!」 吉田部長の声が聞こえた瞬間、早朝、貸切の学園内並木道をいい事に一気に、部員たちは左右に広がりスプリントし始める。 先頭で風切りしていた僕はブレーキレバーの内側にあるレバーを倒し、二段リアのギアを重くして、サドルから立ち上がりドロップハンドルの一番低い部分を握り、足に力を込めた。 「フッ・・・フッ・・・フッ・・・フッ・・・」 ペダルを「漕ぎ」から「回し」に変える。ペダルとシューズが固定されてるので押しだけでなく引きでもペダルを漕げるのだ。 車列を取っていた時にすら45km/hは出ていたのに、全員さらに加速をしていく。残り300mで既に60km超えていた、そしてラスト50mを切ると全員が無呼吸運動に入り、まだ加速していく、僕は今7番手、4 5 6 7が並んだ状態でゴールに向かっていく。 ラインを割り、大きく息を吸い、吐き出す。 足は未だに回したままに、ゆっくりと呼吸を整えていく。 僕は7番手だった。 ラインを抜けた所で残りの3人にも抜かれる。 「先行からはスプリント不利だって…はぁ…はぁ…」 ぼやきながら軽く減速して横の道へ入っていく。 何の気もなしに横を見ると“彼女”が居た。 渡り廊下から黄色のスポーツタイプの車椅子に乗る彼女は長い髪を流して、こちらを見ていた。 そして、僕も彼女から目を離すことが出来なかった。 些細な、こんな些細な僕と彼女の始まり、まだ彼女名前もしらなくて、だけどここが始まりで僕と彼女は加速し始める。 誰にも止めさせる事の出来ない、加速をし始める―― Leg ―Acceleration of start―