ゲッコウ「手向け」 「そうですか……チヒロは」 「すいません。私がいたらないばかりに」 「いいのです。某も間に合わなかった……墓はどちらに?」 「国が見下ろせる丘に、私の仲間達とともに」 トクトクトクトク お墓に酒を手向ける 「お主と酒を酌み交わす約束はかなわなかったな。うまいか? 主は、某の弟子の中で誰よりもまっすぐな太刀筋をしていた。もう一度手合わせしたかったな」 「はぁっ!!」 「やぁぁっ!!」 「もっと踏み込んでこい!!」 「はい」 「たぁっ!!」 「はぁぁっ!!」 「最後の一撃は某でもやっとでござったよ」 「まだ余裕があるんですね。防げないような必殺の一撃、まだまだ修行がたりませんね」 「必殺の一撃……それは何のためでごさるか?」 「私の道を切り開くためにです」 「道?」 「はい。この手で護りたいものを護るために。得るために」 「てっきり人を切るためのものかと思ったでごさるよ」 「いえ、切る為の物です。師匠には怒られるかもしれませんが、 私は、護るためにこの手を血で汚さなければいけないのならば、迷いません。 私が先陣をきって、この手を汚しましょう。大事なものを汚させないように」 「そのために自分の身を砕き続けると?」 「はい」 「まっすぐな覚悟だな。某はしばらく旅に出ようと思う。正直、主ほどしっかりとした道がまだ見えていないでござるよ。 某が帰ったとき、主の覚悟に答えられる答えを見つけてくるでごさるよ。そのときは酒を酌み交わそう」 「留守の間、この国は私に任せてください」 「某が帰ってくるまで死ぬな」 「はい」 「酒を酌み交わせなかったのは残念だが、主の覚悟の答え見せてもらったでごさるよ。だから安らかに眠れ」 (ああ、そうでござった。某ガ見出した答えは「正義を貫く」でごさるよ。幼稚でござろう) ―いえ。師匠らしい、いい答えだと思いますよ― 「!!……気のせいでござるか。最後の手向け某の剣を」