騎士8・第六遊撃隊の洗礼・バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg###

474 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/08/16(木) 23:05:58 0
 『第六遊撃隊の洗礼』

【名前】バル・バス・バウ
【年齢】23
【性別】女
【職業】工兵・ 第6遊撃隊工兵班班長
【魔法・特技】召喚術
【装備・持ち物】異界召喚門【TORI−E】、安全ヘルメット、工具セット、流星錘
【身長・体重】160cm 49kg2000グラム
【容姿の特徴、風貌】青瞳金髪ショート外はね、ニッカポッカ、地下足袋、腹巻
【性格】 サバサバぶっきら棒
【趣味】金勘定
【人生のモットー】限りなく楽な人生の為に怠ける事はしない
【自分の恋愛観】王子様を待つなんて糞、好きになった男を王子様に仕立て上げてしまえ!
【その他】 第六遊撃隊工兵班班長、といっても工兵班はバル一人しかいない。
だが、召喚能力があるため、ドワーフやゴブリンを召喚し土木作業を指揮するのでその能力は一個招待に匹敵する。
また、異界召喚門【TORI−E】は狭い範囲ではあるが異界そのものを召喚する事が出来る。
砂漠に森を出現させたり、街にジャングルを召喚したりなど。
召喚した異界は開放型異空間で、もとのフィールドと混在する形で出現する。
範囲や継続時間は元のフィールドと召喚するフィールドの相性による。
能力的には高く評価されるが、性格的に軍機からはみ出る事この上なし。
扱いにくさの為に第六遊撃隊に配属される。



475 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/08/16(木) 23:25:37 0
 『第六遊撃隊の洗礼1/5』

コルム・クレイスは志願兵としてライゼ王国からの任命書を受け取ったとき、愕然とした。
配属先は第六遊撃隊。
騎士を志望した筈なのに、騎士団はどころか、どこの方面軍でもない。
いや、遊撃隊自体は莫迦にする訳ではないのだ。
固定した任務ではなく、臨機応変に友軍の救いとして機動力を存分に発揮する隊だ。
あらゆる状況を想定して力を発揮する、ある意味エリート部隊でもある。

・・・と言うのも第五遊撃隊まで。
第六遊撃隊は別名独立愚連隊ともいわれ、正規軍より傭兵隊に近いというのが一般の認識だ。
正規軍が行うような国境警備や軍事演習、都市の治安などとは縁遠い存在。
軍単位で動くには余りにも小さな仕事や、殆ど上層部の認可や指示の必要のないとされる任務が主だ。
隊長が騎士だという事が唯一の救いだが、年齢21歳と言う若年から大方の察しはつくというものだ。

自分でも冷静だと思っていたコルムだが、この処遇には我慢できなかった。
登城すると同時にまず行ったのは軍事務所だ。
騎士となるべく志願したのにこの扱い。
懸命の抗議にも拘らず、あっさりと門前払いを喰らってしまう。

悔しさと納得いかぬ思いで廊下で呆然と立ち尽くしていると、初老の男が話しかけてきた。
「なぜ騎士になりたいのか」と。
見たところお偉方の人間のようだが、あいにくコルムにはそれが誰かと言うまでの知識は無かった。
が、それでも良かったのだ。
正直誰でも。
この鬱憤たる思いを噴出せるのならば。

小さく咳払いをして、自分が騎士になりたい理由を初老の男に話していると・・・
突然後ろから髪の毛を引っ張られた。
しかもかなり強く引っ張られた為、首の筋が違えてしまったようで痛みが走る。
「だ、誰だ無礼な!」
首筋に手を当てながら振り向くと、女が笑顔で立っていた。

日に焼けた肌、安全ヘルメットからはみ出す外っはねの金髪、皮の鎧、腹巻、ニッカポッカに地下足袋。
背中には何故か朱塗りの気を不思議な形に組み合わせたものを背負っている。
ちょっと変わっているが、土木作業員そのものの姿をした女。
仮にも騎士を志す自分に対して無礼な仕打ちをしたのがこのような女だというのが腹が立つが、もっと腹が立つことがある。
それは土に汚れた軍手をしたてで、コルム自慢のロングツインテールの髪を握っていることだ。
頭一つ分高いの女をコルムが睨みつける。

「やあ、あんたがコルムだね。
あたしは第六遊撃隊工兵班班長、バル・バス・バウっての。
入隊の歓迎会やるから迎えにきたんよ。
それじゃ、ベルグドル准将、お話中すいませんが失礼します。」
笑顔のままバルは自己紹介と敬礼をし、その場から離れていく。
コルムの髪の毛を引っ張ったままに。


476 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/08/16(木) 23:26:09 0
 『第六遊撃隊の洗礼2/5』

コルムは二重の意味で驚いてあっけに取られてしまっていた。
この無礼な女が自分の隊の同僚だという事。
工兵とはいえ、先輩だし、班長だ。地位も上なのだろう。
だからといってこんな初対面で無礼な仕打ちは笑って許せる範囲ではない。
更にもう一つ。
自分が話していた相手が【准将】だったということだ。
ベルグドルについては何も知らないが、准将と言う以上軍の主要人物だ。
そんな人物に憧れとも鬱憤ともつかぬ事を話していたとは・・・
自分の失態に気が遠くなってしまうコルムであった。

事態の展開に気が遠くなってしまっていたが、現状はそれどころではない。
自慢のロングツインテールを引っ張られているのだ。
いくら先輩でも許しては置けない。
「ちょ、いい加減にしてください。バル班長。失礼ではないですか!」
足を踏ん張り、髪の毛を掴んで引っ張り返す。
ようやく髪の毛は解放されたが、バルからは謝罪も反省の色も受け取る事が出来なかった。

「いや〜、ゴメンゴメン。掴みやすそうで便利だったからさ。面白い髪型しているね。
それからあたしの事はバルでいいよ。班長ったって工兵班はあたししかいないんだから。」
この反応でコルムはいくつもの情報を得ていた。

工兵班は一人だけ。
想像以上に酷い隊に配属されてしまったものだと落胆してしまう。
だがそれ以上に重要な事。
バルに全く謝る気がないという事だ。
ぶっきらぼうに短く切っただけのような髪形をしている女に、自分の自慢のロングツインテールについてとやかく言われる筋合いはない。
猛然と怒りがこみ上げてくる。
大方配属に不満を持って抗議をした私を苛めているのだろう。
新兵イジメとは腐った女だ。
「さ、第六遊撃隊秘密の溜まり場で歓迎会開くから、行こうか。」
笑顔のまま促すバルに、コルムはじっと睨みつけただけで返事をしなかった。
ただ黙ってバルの後ろについていったのだった。

黙ってついて行ったが、すぐに何かがおかしいという疑念を持ち始める。
なぜならばバルは城を出て、森に入っていったからだ。
だが【秘密の溜まり場で】と言われているので、疑念を持ちつつも付いていくしかない。


477 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/08/16(木) 23:26:36 0
 『第六遊撃隊の洗礼3/5』

森に入るといっても、道を行くのではない。
鬱蒼とした木々と藪に埋め尽くされた森を掻き分けるように進んでいくのだ。
藪の背は高く、バルは太もも辺りまでだが、背の低いコルムは腰まで藪に埋もれてしまう。
地面はデコボトとして歩きにくく、笹や枝が太ももを引っかいたり腰のリボンに引っかかって歩きにくい事この上ない。

「ねえ、コルムは布槍術でも使うの?にしても無駄なリボンだよねえ。」
唐突に声をかけるバル。
城でコルムがバルを無視してから二人とも沈黙したままここまで来たので、突然沈黙を破られ驚いてしまう。
それに質問の意味がわからなかった。

布槍術とは、帯などを水に浸したり、気を通す事によって槍と化す高度な槍術だ。
本来武器でないものを武器とする暗器術でもあるが、わざわざリボンにしておく必要はない。

とはいえ、コルムは布槍術自体知らないので、応えようもない。
ただ、自分の腰のリボンが馬鹿にされているとなんとなく感じてはいた。
そんな反応のコルムにバルから更なる追撃が降りかかる。
「そのミニスカタイトローブ、可愛い以外何かとり得あんの?
こんな藪の中、引っかいて痛くない?破風症にでもなると大変よ〜。」
この言葉を聞いてコルムは確信した。
バルは自分をいたぶる為にここに連れてきたのだ!と。
言われた通り、コルムの太ももやふくらはぎは切り傷や蚯蚓腫れが無数について痛みを発信し続けている。

確信したコルムの眼にはバルの張り付いた笑みがニヤニヤといやらしい笑みになっているように見える。
だがここで弱みを見せては負けだ、と言う気がしてならない。
ギリっと刃を噛み締め、尖槍ファレトを回転させるように横薙ぎに一閃。
「心配無用です。回復魔法が使えますので!」
コルムの半径1メートルほどの藪が綺麗に切られ、開けた空間となる。
その中心でなるべく感情を抑えながら、バルに言い返して自分の足に回復魔法をかけていく。
藪に埋もれて見えなかったが、自分の想像していた以上に脚には切り傷が多い。

「あらら、こんな風に派手に切り取って痕跡残してどーすんのよ。
それにさ、敵が親切に回復魔法をかける暇与えてくれると思ってんの?」
綺麗に刈り取った藪に驚くわけでもなく、感心する訳でもなく、与えられたのは侮蔑の言葉。
そして足元にめり込む拳大の球。
驚いて見上げると、冷たい表情のバルが球を手繰り寄せていた。
長い紐の両端に錘をつけた奇妙な武器だ。
「珍しいでしょ。流星錘っての。ちょっと遊んでみよっか。」
紐を回転させながらじりじりと寄ってくる。
この状況において、コルムの頭の中で小さく何かがきれる音がした。
「先輩と思って黙っていたが、もう我慢できない。
工兵が先輩風吹かせて新兵いびるつもりなら相手が悪かったと思え!」
散々いたぶられ、我慢の限界に来ていたところで先に手を出してくれたのは助かった。
これで相手を叩きのめそうと正当防衛だ。
いや、正直正当防衛でなくてもいい。
いっそこの件で除隊処分でも下ったほうがありがたいというものだ。

尖槍ファレトを構え、一気に攻勢に出た。


478 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/08/16(木) 23:27:02 0
 『第六遊撃隊の洗礼4/5』

コルムは我流とはいえ磨き続けた槍術を持っている。
藪を掻き分けながらでも切れ目ない攻撃を続けバルを追いかけていく。
だがバルの表情からは余裕が消えない。
それもそのはず、バルは流星錘を回転させたまま殆ど使わずコルムの槍を避けているのだ。

「ちょこまかと・・・!これなら!」
突きと言う点の攻撃では躱されてしまう。
ならば・・・突き!
だがこれはフェイント。躱されるのはわかっている。
そのまま槍を戻さずに手を離し、コルムもバルに向かって突進。跳躍して飛び蹴りを見舞う。
身の軽いコルムだからこそ出来る奇襲技。
「我流って教科書にないトリッキーな動きがあるけど、いかんせん軽すぎるんだよねえ。」
槍ばかりに気を取られているところに、槍を手放すという意外。
そしてとび蹴りが来るという想定されていない攻撃だったにも拘らず、バルはコルムの蹴りをガードしていた。
転がす事が出来なかったが、それすらもコルムの想定のうちだ。
バルを踏み台にするように更に飛び、手放した槍を追うように着地。
計算されつくした位置だ。
振り向きざまにその回転運動そのままに槍を持って薙ぎ倒す!

・・・はずだった。
だが槍は横薙ぎに一閃する前に木に食い込み動きを止めてしまう。
深く突き刺さった為コルムが引き抜こうとしても抜けないのだ。
「状況を見て横薙ぎしなきゃ。こんな森の中でなにやってんの?」
心底馬鹿に知るようなバルの言葉に、コルムの顔が赤く染まる。
更に驚く事に、槍にはいつの間にかバルの流星錘の紐が絡み付いている。
軽く手首を捻っただけで槍は木から抜け、バルの手元に手繰り寄せられてしまう。

「それに、戦場では一度手放した武器は戻らないと考えるのが当然よ。」
余裕なのか馬鹿にしているのか、バルは槍をあっさりとコルムに投げて渡した。
槍を受け取りながら、コルムは羞恥と自分への怒りで頭が熱くなるのを感じていた。
だが、今はそんな余裕などありはしない。
ヒュンヒュンと不気味な音を立てながら流星錘を回転させるバルが迫ってきたのだから。

木々と言う障害物がまるでないかのように。
いや、障害物を利用するように攻撃を仕掛けるバル。
流星錘は紐の持つ場所によって間合いを自在に変えられるし、紐と言う特性上、木に引っかかってもそれを障害になる事もない。
むしろ木に引っ掛ける事によって軌道を変えコルムを打ち付ける。
「我流って守勢に回ると途端に脆くなるのよねえ。」
ぶつぶつと愚痴を言いながら流星錘を打ち付けるバル。
軌道も間合いも読めないような武器を持っておいてそんなことを言うな!
そう思っていてもすでにコルムには言い返す力は残っていない。

「それにさ、ほら、足元がお留守だし。」
「!?」
その指摘通りコルムは足を滑らせてしまう。
腰まである藪の中での戦いだ。
足元がどうなっているかだなんてわかるはずもない・・・
そう、わかるはずもないのだ。
なのになぜバルが判ったのだろう?
「あーあ、格好ばかり気にしてヘルメットの一つも被らないから、ちょっとこけただけで随分な痛手ね。」

こんな時になぜこんな事が思い浮かぶのか不思議だった。
転倒して頭を打ったせいか、視界がぶれる。
そんなぶれた視界の中、スローモーションのように流星錘が迫ってくるのが見えた。
そこでコルムの視界は暗闇に包まれた。


479 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/08/16(木) 23:27:22 0
 『第六遊撃隊の洗礼5/5』

視界が暗闇に包まれたといっても、気絶したわけではない。
何かが覆いかぶさって視界を遮ったのだ。
続いて『ゴン』という何かがぶつかった音。
驚いていると、ようやく視界が開けた。
そこには一人の男が立っていた。

「ちょっとグラスマン隊長!あんたなんで出てきてんのよ!」
「いや、もういいだろう?見てられなくってさ。」
「はぁ?あんたって人は。名前どおりガラスの心か?ちったあ厳しさを身につけなよ!」
バルと突然現れた男のやり取り。
話によると、男はグラスマン隊長。そう、第六遊撃隊の隊長の名だ。
そんなやり取りの間中、バルは流星錘をグラスマンに打ち続けているのだが、全て弾き返している。
グラスマンの竜鱗の呼吸という身体効果術なのだが、このときのコルムは知る由もない。

「まったくさー、今出てこられたらあたし嫌な女なだけじゃん。」
暫くのやり取りの後、バルはぶつぶつ言いながら背中の朱塗りの木を組み合わせたものを下ろし、小さく呪文を唱える。
すると鬱蒼としていた周囲の森が瞬時に消えうせ、小高い丘と丸太小屋が姿を現した。
「すまないな、コルム君。いささか手荒い洗礼だが我々の任務は常に危険が付き纏う。
彼女もそれが判って欲しかったからこそだ。気を悪くしないでくれ。」
「おーおー、自分だけいい子ちゃんになれてよぉござんしたね。」
コルムに優しく説明をするグラスマンの後ろでジト目で文句をつけるバル。

そしてコルムは今までのことを思い返していた。
確かにバルに指摘された数々の事は自分の欠点そのものだ。
その一つ一つが戦闘において死に直結する。
もしバルがその気だったのなら、自分は何度死んでいただろうか・・・。
怒りの感情は消え、己の力なさに恥じ入りただ俯くばかり。

「まあさ、初対面で悪かったよ。
第六遊撃隊はきっつい任務が多くてね、今ここにいるのも私と隊長だけ。
後は死んだか入院中か出張中なんだよね。
生半可な気持ちは入隊してさくっと死んで欲しくないのよ。
今なら私にいびられたと訴えれば転属も出来るけど・・・?」
先ほどまでの表情とは打って変わり、申し訳なさそうな顔のバルの言葉。
優しい言葉だが、今のコルムにはそれが辛いのだ。
「・・・ありがとうございます。自分の力の無さを痛感しました。」
「そうか・・・うん。」
コルムの言葉にがっくりと項垂れるグラスマン。
こうなるのは判っていても、やはり初の新兵配属を楽しみにしていたのだ。
「でも・・・私はこの隊で、強くなりたいです。
未熟者ですが、ヨロシクお願いします!」
力強く宣言する言葉に、項垂れていたグラスマンの顔が勢い良く飛び上がる。

ちょっと涙ぐんでいるグラスマン隊長の元、三人だけの第六遊撃隊歓迎会が始まりを告げる。
こうしてコルム・クレイスの第六遊撃隊員としての生活が始まったのだった。



508 名前:ゴロモン ◆56MON41DSA [sage 1/6] 本日のレス 投稿日:2007/08/23(木) 23:30:40 0
 【突撃!隣の晩御飯】

ライゼ王国西に広がる森林地帯。
その広大な森には古代魔法文明の遺跡が集中している。
今も尚、人に知られず森に埋もれている遺跡は数え切れない程と云われる。
その影響か、木々の育成が異常に早く、森に一歩はいれば方向感覚が狂う。
エルフや亜人種の集落がいくつか存在するが、モンスターが闊歩し、一歩道からはみ出れば簡単に迷ってしまう。
それ故人々はこの森林地帯を【魔の森】と呼び、恐れ近寄るものは少ない。
しかし、遺跡には現行文明を遥かに超越する遺物も多数あるといわれ、周辺国は競ってその発掘に力を注いでいる。

この日、ライゼ王国は多くの人々で賑わっていた。
祭りがあるわけでもなく、集まっている人々も重装備でとても観光できたようには見えない。
この人出は、一週間前に起きた地震が原因である。

魔の森は埋もれている遺跡群の影響か、数ヶ月に一度のペースで地震が起きる。
周辺国には影響が出ない魔の森限定の不思議な地殻変動。
だがそれは森に埋もれている遺跡が、崖崩れなどで新たに発見できるチャンスでもあるのだ。
広大な森の探索に軍を派遣できるほど国力のある国はまだ無く、探索は冒険者達を雇うことになる。
地震が起きれば各国は大量の探索者(エクスプローラー)を雇い、探索隊を出すのだ。
そして新たなる遺跡が発見されれば、その時こそ正規の軍の出番となる。
小さな遺跡であれば探索は容易だが、大きな遺跡ともなると、軍が総力を挙げても探索しきれない事は珍しくないのだ。

「と言うわけで、先週起こった地震により探索令が出された。」
第六遊撃隊の詰め所でグラスマンが地図を広げながら隊員たちに切り出した。
地図といっても殆どが空白となっている魔の森の地図だ。
いくつかのブロックに区分けられており、第六遊撃隊の探索担当地域を指差す。
本来正規軍部隊の仕事ではないんだが、もはやその事について口を出すものはいない。

「では今回の探索メンバーは、バル、コルム、俺、そして、アゼル、道案内を頼むぞ。」
メンバーの名前を確認するように呼ぶ。
それぞれ既に魔の森探索の為の装備は整えており、この打ち合わせも単なる確認に過ぎない。
「俺だって魔の森全部知っているわけじゃないんですけどね。」
魔の森のエルフの集落出身のアゼルが軽口を飛ばしながら荷物を担ぐ。
もはや慣れたもので、メンバーも地図の確認が終わり次第、さっさと出発しようとする。

「あぁ、待て!待て!肝心な事がまだだ!
よっぽどないと思うが、他の国の探索チーム、特にガストラとかな。
かち合っても絶対戦闘はいけないからな。ポインターフラッグ条約を忘れるなよ。」
もはや改めて説明するまでもないのだが、それでもグラスマンは言わずにはいられなかった。

遺跡探索は各国が力を注ぐ国家事業である。
とはいえ、魔の森はどの国にも属さぬ地帯。
機密性、有用性を考慮し、魔の森周辺国は一つの条約を結んだのだ。
遺跡探索で無用な戦闘、それによる突発的な戦争を防ぐ為に。
大規模な探索隊派遣は地震発生してから二週間まで。
新たなる遺跡を見つけたものは【ポインターフラッグ】という旗を遺跡の入り口に突き立てる。
【ポインターフラッグ】は探索魔法がかけられており、後から遺跡を探すときに迷う事はない。
また、刺した時間の記録が出来、特別な儀式魔法でないと抜けない事から遺跡探索権の印ともなる。
ポインターフラッグの立っている遺跡には不介入。
それがポインターフラッグ条約の概要であり、ライゼ王国もガストラ連邦もその条約機構に加入している。

こうして打ち合わせが終わり、一行は魔の森に出発したのだった。


511 名前:ゴロモン ◆56MON41DSA [sage 2/6] 本日のレス 投稿日:2007/08/24(金) 21:51:36 0
 【突撃!隣の晩御飯】

ライゼ王国を出発して二日目。
一行はアゼルの案内の元、魔の森探索担当地点に到達していた。
幸い途中でモンスターや他の探索チームと遭遇することなく、担当地域の探索を始める。
殆ど人の入った事のない原生林は視界が悪く、異界に踏み入れたが如き感覚に襲われる。

「・・・すごい・・・360度、天地全部木に覆われているみたい・・・。」
圧倒的な森の中で、コルムが思わず呟く。
他のメンバーは既に何度も探索を経験しているが、コルムは今回が初めての探索なのだ。
「いやまあ、慣れちゃうと鬱陶しくあっても凄くはないんだけどね。」
グラスマンもバルも魔の森の奥と言うことで少々緊張気味だが、アゼルは殆ど緊張した様子はない。
人間年齢に換算すると17歳と言う青年であるが、エルフの寿命は人間のそれとは桁が違う。
どれほどの歳月をこの森で過ごしてきたかは誰も知る由もないが、おそらくはこの中では最年長であろう。
そのアゼルの目から見れば、異界の如き魔の森の奥も慣れ親しんだ日常の一部なのだ。

「よーし、適度に散会して。探索を始めるぞ。」
グラスマンの号令の元、メンバーはお互いのフォローのできる距離を保ちつつ広がり、探索を開始する。


魔の森に入り、探索を開始して三日目。
洞穴らしきもの発見。
大型肉食獣の巣だった。風のように逃げる。

五日目。
探索可能最終日。
広大な魔の森の中、探索が空振りに終わることなど珍しくない。
が、一行の目の前に明らかに人為的に作られた洞窟の入り口が口をあけていた。
崖崩れによってその姿を現したのだ。

「良かったよ。無駄足になると出費も無駄になるからねえ。懐が辛くって。」
「バルさん給料僕らよりいつも余分に貰ってるじゃないですか。」
「あたしのは必要経費なんだよ!」
愚痴をいうバルに唇を尖らせてアゼルが抗議するが、短く遮断する。
そしてバルはツルハシやスコップを担いだゴブリンを数体召喚。
入り口に半ば塞いでいた土砂を綺麗に取り除かせたのだった。

「あんたの精霊召喚と違ってね、あたしの召喚するのは自我もあれば社会もある土木作業員なのさ。
時も場所も選ばずにホイホイ召喚できるって訳じゃないんだ。
こいつらだって生活があるんだからさ。
だから予め1週間とか期間を決めて召喚待機契約を結んでおくのよ。
で、一週間召喚してもしなくても拘束代金は払わなきゃならないし、仕事があれば別途支給。
それに対して軍から支給される給料は少なくてねえ、やりくり大変なんだよ?」
「・・・魔法っていってもシビアですね・・・」
「ま、ま。さあ、めでたく遺跡を発見できた事だし、きっと金一封くらい出るぞ?よかったよかった。」
単純に感心するコルム。
それとは裏腹に、隊長という役職上バルの視線が痛いのはグラスマンだ。
話題を変えようとポインターフラッグを突き立てながら冷や汗を流すのであった。


512 名前:ゴロモン ◆56MON41DSA [sage 3/6] 本日のレス 投稿日:2007/08/25(土) 21:21:26 0
 【突撃!隣の晩御飯】

「さて、めでたく探索は終了だ。帰ろうか。」
グラスマンが汗を拭って振り返るが、そこには誰もいない。
土砂を取り除いた遺跡入り口をバルが丹念に調べており、アゼルとコルムはそれを興味深そうに見ている。
何度も探索にでて、遺跡を見つけたのもこれが初めてではない。
だが、ほぼ完全に原型を留め、これほど立派な遺跡は誰にとっても初めてなのだ。

「ねー、たいちょー。このまま帰るのって、もったいなくない?」
アゼルが意味深な笑みを浮かべる。
コルムも口には出さないが、初めての探索で初めての遺跡。
しかもこれほどの規模の遺跡、中に入ってみたいし、何かあるかもしれない。
そんな予感に胸を膨らませていた。
そしてそれはグラスマンも同じだ。
ただ隊長という責任上言い出せなかっただけなのだから。

「バル、なにか判るか?」
「・・・こりゃすごいわ。ここんとこ、メイズメーカージュヌヴィエーヴってある。
もうちょっとまってな。」
グラスマンの問いにバルが門柱らしき物の隅を指差す。
言われなければ気付かないであろう場所に、うっすらと【メイズメーカージュヌヴィエーヴ】と刻印されている。
大規模な古代遺跡の四割がジュヌヴィエーヴ作である事から、その名の意味するところは大きい。
それがグラスマンの背中を押す最後の一押しとなった。

「うん、せっかく見つけたんだし、コルムは初めてだしな。
何事も経験をつませなければならないというのも隊長の務めであって・・・」
「・・・ジュヌヴィエーヴ【ろ-8式改】だね。この型番ならいける!」
「たいちょー、ぶつぶつ言っていないで、バルさん分かったって。」
「あ、ああ。うん。」
「・・・・。」

自分自身に色々良い訳をしているグラスマンを他所に、バルはダンジョンの構造を把握していた。
気のない口調でトリップしているグラスマンに呼びかけるアゼル。
そしてそんなやり取りにちょっと気の抜けるコルムであった。

バルはおもむろに入り口付近の壁にノミを入れ始める。
響き渡るノミ打つ音。
暫くの後、遺跡の壁の一角がくりぬかれた。
「やっぱりねえ。魔法集積回線がここを通ってる!」
刳り貫かれた壁の向こう側は空洞となっており、魔力が循環する回線が何本も走っていた。
小さく呪文を唱えると、バルはその穴に手を突っ込む。

数分後遺跡は鳴動を始め、目の前に見えていた入り口が沈んでいく。
その代わりに新たなる入り口が姿を現した。
バルが魔法集積回線を組み替えて、正しい入り口を出現させたのだ。
「まだ奥の方の組み合わせとかトラップ解除あるから、先行ってて。」
手探りで操作をしながらバルが三人を促す。
「よ、よし!みんな・・・あれ?」
「たいちょー、早く行きましょうよ。」
「・・・。」
熱血をするグラスマンを残して既にアゼルとコルムは遺跡の中に入っていたのだった。


513 名前:ゴロモン ◆56MON41DSA [sage 4/6] 本日のレス 投稿日:2007/08/26(日) 21:05:36 0
 【突撃!隣の晩御飯】

すっかり空回りをし、あたふたと遺跡に入るグラスマン。
既にウィル・オー・ウイゥプを召喚して光源の確保をしているアゼルとは対照的である。
そんな姿に突き刺さるコルムの冷たい視線。
三人の遺跡探索が今始まったのであった。

遺跡には守護モンスター・遺跡の影響で異常繁殖した動植物・トラップ・遺跡の実験の産物など、様々な危険が溢れている。
だがそれと同様に、ともすればその危険そのものが大いなる宝となる。
限られた光と澱む空気の中、否が応でも三人の緊張感は増していくのだった。

時折震動と共に鳴り響く轟音。
罠の作動なのか、バルの操作による遺跡の作動なのか。
それすらも判らぬ中、三人は進んでいく。
バルの操作のおかげでもあるのだが、遺跡内は全くといっていいほど分岐がない。
不思議なことに、何らかの部屋などすらもないのだ。
一本道で奥へ、そして下へと続いていく。
「たいちょー、これって・・・」
「うむ・・・」
「この構造、地下に隔離実験室でもあるような感じですね。」
流石に不思議に思ったアゼルに、コルムが冷静な意見を述べる。

分岐や部屋の少なさもさることながら、守護モンスターや動植物も全くない。
またアゼルからこの遺跡内に全く精霊力が感じられない、と言う意見も出る。
俄然コルムの意見が信憑性が増すというものだ。
もしこの地下隔離実験遺跡なのでは?という意見が正しいとすれば、かなり重要な遺物の発見も期待できるのだ。

慎重に歩みを進めて行き、どれほど立っただろうか?
三人は空気に湿気が混じり始めた事に気がついた。
だが通路は唐突に終わりを告げていた。

「バルがいると助かるのだがな、仕方がない!」
行き止まりの通路だが、その壁だけは他の壁に比べて損傷がある。
いかにも【更に続いています】といっているのだ。
グラスマンは大きく息を吸い込むと、助走をつけて体当たり!
見事にその壁を粉砕したのだった。

「地底湖だ!」
壁を粉砕して向こう側に転がったグラスマン。
そして通路から覗き込むアゼルが驚きの声を上げた。
通路の向こう側は開けた空間となっており、十数メートルの岸の向こうには広大な地底湖が広がっていたのだった。

最奥の空間に入る三人がまず見つけたのは、岸に横たわる大きな魚。
先ほど岸に上がったばかりなのだろうか?まだピクピクと動いていている。
不思議そうに見るグラスマンとアゼル。
コルムは地底湖を覗き込んでいた。
初めて見る地底湖の珍しさもあったが、湖底に光る何かが視界の隅に映ったから。
揺らめく湖面を不思議そうに見つめるコルム。
その小さな波の間から突然何かが飛び出してきた。

「キャァアア!」
突然の事に回避も出来ず、湖から伸びてきた何本もの触手に搦め獲られてしまった。
触手は不気味な発光をしてぬめりを強調させている。
コルムの太ももや腕、首や腰に巻きつき四肢を封じて、湖に引きずり込もうとする!


515 名前:ゴロモン ◆56MON41DSA [sage 5/6] 本日のレス 投稿日:2007/08/27(月) 22:17:04 0
 【突撃!隣の晩御飯】

地底湖に響く絹を裂くようなコルムの悲鳴。
辺りを探索していたグラスマンは恐るべき速さで駆けつけた。
「コルム!力を入れろ!」
「は、はいっ!」
湖に引きずり込まれないよう力を込めるコルム。
そしてグラスマンは剣を抜き、上段から振り下ろす!

が、伸縮性に飛んでいる上、粘液に覆われている触手は伸びこそすれど断ち切られはしなかった。
達人が剣を振るえば、喩えこの触手といえども両断す事は出来ただろう。
しかしグラスマンは剣術が下手糞で、さほど鍛錬もせずに徒手空拳に頼ってきた。
そのツケがこのような形で現れるとは!
己の不甲斐なさに奥歯がギリリと音を立てる。
だが今はそんな場合ではない。
予想はしていたが、コルムが力なく倒れようとしているのだから。

「糞!やっぱりな!」
このての触手には大概毒や麻痺の効果があるものだ。
装備の関係上、地肌の露出が多いコルムはまともにその効果を受ける。
剣と盾を投げ捨て、コルムの胴に手を回し引き摺り込まれるのを防ぐ。
グラスマンにも触手は這いよってきたが、鉄の鎧を着込んでいる為、麻痺攻撃を受けることはなかった。

だが、このまま引き合いを続けていても負けることはあっても勝てることはない。
相手は触手を離せばすむのだが、こちらはコルムの体力の問題もある。
「アゼル!」
叫ぶグラスマンだが、既にアゼルは行動に移っていた。
弓を引き、じっと湖面に狙いをつけているのだ。

そして・・・放つ!
矢は勢い良く湖に沈んでいく。
湖底は暗く、当たったかもわからないが数瞬後・・・。
コルムに巻き付いていた触手が飛び上がるように離れて湖に戻っていく。
「でかした!」
「いや!手ごたえはあったけど急所じゃなかったっぽい。来ます!」
突然終わった引っ張りあいの為、コルムを抱えた為転がるグラスマン。
アゼルは真っ暗な湖底が見えていたのだろうか?
いまだ警戒を解かずに二の矢を湖へと放つ。

次の瞬間、湖面が大きく膨らんだかと思うと、何か大きな塊が飛び出してきた。
「任せろ!!」
麻痺したコルムを入り口付近に寝かすと、飛び出てきた何かに向かってグラスマンが飛び出す。
湖面高くに飛び出したそれは、重力の助けも得て勢い良くグラスマンに飛び掛った。

大きく息を吸い込み、竜鱗の呼吸を発動。
身体硬化と持ち前の身体能力でがっちりと落ちてきたそれを受け止めた。


516 名前:ゴロモン ◆56MON41DSA [sage 6/6] 本日のレス 投稿日:2007/08/28(火) 22:50:52 0
 【突撃!隣の晩御飯】

湖面から飛び出てきたそれをクロスガードでがっちり受け止めるグラスマン。
暗い地下空間の中、ウィル・オー・ウィスプの光に照らし出されるそれはまるでタペストリーの一部のようだった。

身体硬化しているとはいえ、上から圧し掛かるそれを抱えあげていることは流石に出来ない。
体捌きを以ってそれを投げ飛ばそうとするグラスマンは・・・すぐ横でショートソードを抜くアゼルは・・・
光に照らされたそれを見た。

全長2mほどの異形の姿。
大きな渦を巻き、突起のある殻を背負い、多数の節足脚、巨大な鋏を一対。
そして殻からでている一目で人とは違うといえるが、人型をしている身体。
人型部分の頭とわき腹にはアゼルの矢が深々と突き刺さっている。
馬と人が合成させた姿がケンタウロスならば、これはヤドカリと人が合成した姿だ。

「「ゴ、ゴロモン!?」」
「あ、隊長?」
グラスマンとアゼルが驚きの声を上げるが、ゴロモンと呼ばれたそれも驚きの声を上げていた。
しかし時は止まってくれない。
驚きのあまり体捌きを謝り、息を吐き出してしまったグラスマンはゴロモンの重さを支えきれず倒れてしまった。

「・・・あんたら何やってんの?」
地底空間入り口、すなわち遺跡の終点にやってきたバルがランタンで照らしながら目を点にしていた。
この場面だけ見れば、ゴロモンがグラスマンを押し倒しているようにも見えるのだ。
「えっと・・・ゴロモンが隊長を押し倒してるとこ。」
「人の趣味や恋愛にとやかく言う来はないけどさぁ・・・」
「ち、ちがーう!ゴロモン!早くどけ!」
アゼルが説明するが、嘘は言っていない。呆れるバル。
グラスマンの抗議の声が虚しく響くのだった。


「で、お前なんでこんな所にいるんだ?別荘建てるからって長期休暇とったんじゃなかったのか?」
ようやく一息つき、グラスマンが不機嫌そうにゴロモンに尋ねる。
コルムはバルに粘液を洗い流してもらい、アゼルの応急薬によって麻痺状態から回復していた。
まだ少し痺れが残るものの、不思議そうなゴロモンを見ている。
この二人は今回が初対面だったのだ。

「そう、俺、別荘建てた。湖の中。
晩飯食べてたら急に隊長、入ってきた。飯の邪魔する奴悪い奴。強盗かと思って様子見てた。」
ゴロモンは半水棲亜人で、地下水脈を辿り地底湖を見つけた。
そしてここに別荘を建てようとにしようと休暇をとっていたのだ。
岸に打ち上げられていた魚は晩御飯だったというわけだ。
ゴロモン視点から見ると突然何者かが壁を突き破って侵入してきたというわけだった。

「・・・そうか。晩飯中邪魔しちゃって悪かったな・・・」
どっと疲れるグラスマンだが、悪い事は続くものだ。
頬をかきながらバルが口を開く。
「えっと、隊長?あれから色々調べてみたんだけどさ。
どうやらこの遺跡はジュヌヴィエーヴのダンジョン試作品みたいで・・・」
この遺跡は何らかの為に作られたものではなく、単にダンジョンそのものの習作だったのだ。
ダンジョンの構造や仕掛けの作動テストの為に作られたダンジョン。
当然部屋もないわけだし、遺跡そのものは歴史的価値はあるとしても、遺物もあるわけもないのだった。

「・・・あ、あの、まあいい経験になりましたし・・・。」
がっくりとうなだれるグラスマンを何とか慰めようとコルムが声をかけるのだが、他三人の笑い声にかき消されてしまうのであった。


517 名前:ゴロモン ◆56MON41DSA [sage 6/6] 本日のレス 投稿日:2007/08/28(火) 22:51:29 0
 【突撃!隣の晩御飯】

【名前】ゴロモン
【年齢】35
【性別】雄
【職業】第六遊撃隊隊員
【魔法・特技】 液体の支配・触手・電撃・再生
【装備・持ち物】 なし
【身長・体重】 2m*2mほど・200キロ。身体を構成する水の量により大きさ重さ共に変動する
【容姿の特徴、風貌】ヤドカリに人間の上半身が生えているような外見。
【性格】 結構素朴
【趣味】食べる事
【人生のモットー】食う・寝る・戦う
【自分の恋愛観】子宮があれば種族問わず
【一言・その他】
半水棲亜人種マルムンド族。
ヤドカリに人間の胴体が生えているような外見。
しかし人間部分は魔法動作を行なう為に発生した擬態であり、生命活動には影響がない。
本体の頭は人間部分の下腹部にある。
人間部分は緑色でぶつぶつが多く、鰓や鰭がある。表情はなし。

この生物ヤドカリから進化したように見えるが、実は海月から進化した生き物。
身体の90%が液体で出来ている。
ヤドカリ部分は液体に高圧をかけているためかなり硬い。
そのはさみや殻の攻撃・防御力はかなり高いといえる。
反面人間部分は柔らかく、軟体生物の様相を呈している。

液体支配能力と、海棲生物の特徴をいくつか併せ持つ。
その代表的なモノは電気鰻の電撃であったり、頭(人間部分の下腹部に当たる)からの神経毒を持つ複数の触手攻撃であったりする。
また、基本的に下等動物なので再生力も高い。
ちなみに電撃は再生能力の高さを当て込んだ半自爆技。
体のつくりからして、後方が完全な死角になる。
陸上活動も可能だが、乾燥状態では余り長時間は耐えられない。

種族としては大河・海岸岩場などに集落を作り、人間と交易ができる程度の知能知性、社会性を持っている。
基本は蛮族。なのでゴロモンのように兵として軍に入るのは稀なケース。
戦闘能力は高いが、当然のように規格化などできるはずも無く、第六遊撃隊にまわされる。

ちなみにゴロモンと言う名前は仮名。
本来の名前は人間には発声不能な為、グラスマンがそれっぽい発音を宛てた。



541 名前:ゴロモン ◆56MON41DSA [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/06(木) 22:23:13 0
 【バーバリアンズ】

ポロロッカで仲間になったルゥが隊員に顔見世をしていたある日。
砂漠の蛮族ムルム族のルゥと水棲亜人種の蛮族マルムンド族のゴロモン。
本来出合うはずのない二人が運命の悪戯により今出会ってしまった。

「・・・・・」
「・・・・・」
まじまじと見詰め合う二人。
そこに言葉はない。
しばしの沈黙の後、動いたのはゴロモンだった。
「・・・食うか?」
「食うっす!ゴチになるっすよ!」
どこからか取り出した大きな魚を受け取り、齧り付くルゥ。

「うーん、蛮族同士通ずるモノがあったようだな。」
様子を見ながら安堵の息をつくグラスマン。
それとは裏腹に小さく舌打ちをする他のメンバー達。
蛮族同士の対面に必ず戦いになるだろうと第六遊撃隊のメンバーは密かに賭けをしていたのだった。

「プハー!うまかったっす!」
「お前の食いっぷり、イイ。」
「見たところ、強いっすね?」
「俺、マルムンドの戦士。強い。そして弱さも知っている。」
「上等!」
周りから見ると会話が成立しているのかどうかもわからないやり取りの後、それは起こった。

**パァンッッ!!**

弾ける様な音が響き渡る。
直後、ゴロモンの頭部が粉々になって飛び散った。
恐るべき速さのバトルハンマーの一撃が炸裂したのだ。
まさに一撃必殺。
・・・それが人間相手ならば・・・
ゴロモンの人間部分は魔法動作を行う為の擬態でしかない。
それが切り取られようと潰されようと生命活動には支障がないのだ。

振りぬいた体制のルゥに襲い掛かるゴロモンの巨大な挟みの一撃。
横薙ぎされた一撃はルゥを吹き飛ばすに十分な威力を持っていた。
頭を潰し勝っていたと思っていたところの一撃をまともに喰らい吹き飛んだ。
ゴロモンもこれで倒せたなどとは思っていない。
追撃するべく、節足を忙しく動かし襲い掛かる。


542 名前:ゴロモン ◆56MON41DSA [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/06(木) 22:24:12 0
「たいちょー、どう見ます?」
「うん、スピードやバネはルゥ。パワーは互角。特殊能力はゴロモン。」
「頭潰されてるし、肉弾戦だとルゥですかー。」
「そうだな。ゴロモンはフィールド効果によって強さの幅が大きいしな。
長期戦に持ち込まれて頭が再生すると魔法が使えるようになるから代わってくるかもしれん。」


そんな外野の話を他所に、ルゥとゴロモンの戦いは続く。
閉じれば巨大なハンマーと化すゴロモンの鋏。
それを容赦なく叩き込む!
だがルゥの素早く体勢を立て直し、なんと片手で受け止めたのだ。
ギリギリと力比べをする中、余った手でハンマーを叩き付ける。
片方の鋏で受けるが、ゴロモンの体勢が大きく傾いた。

ゴロモンは一見して甲殻類のような身体だが、その実海月の一種である。
降格部分は内部の水に圧力をかけて硬くしているのだ。
剣や矢に対しては強い耐性を持つが、ハンマーのように衝撃を中に伝えるものには弱い。
水は固体より振動を伝えやすいのだ。
とはいえ、生半可な衝撃が効くような体ではない。
ルゥの一撃が如何に凄まじいかを物語っているといえよう。

体勢の崩れたゴロモンに更に一撃を加えようと振りかぶったルゥだったが、恐るべき速さで距離をとる。
戦いの中で培われた第六感がその危機を伝えたのだ。
ゴロモンの下腹部から・・・正確に言うと本体の口からだが・・・
触手がルゥを追って伸びてくる。
「い・・・いやぁああああ!!!」
触手を見てルゥは叫びながら近くにあった木に飛び登り距離をとる。
「おい、テメェなにやってんだ!?」
「いや、あれは無理っす!キモイっす!生理的に駄目っす!!」
戦いを見ていたムタがルゥに檄を飛ばすが、ルゥは涙目で首を振るのみ。
全身に鳥肌がたつほど嫌悪感に襲われていたのだ。

それもそのはず。
ルゥが育った砂漠ではただいるだけで水分が奪われていく。
そこで触手のようなモノを出そうものなら即座に水分が奪われ死に絶える。
故に砂漠にはこのような生命体はいないのだ。
ヌタヌタと粘液にまみれ蠢く内臓が如き触手は普通の人間が見ても生理的に嫌悪感を引き起こす。
それが砂漠で育ち始めて見た、そしてそれが自分を襲ってきたとなれば逃げたくなるのも当たり前だろう。


543 名前:ゴロモン ◆56MON41DSA [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/06(木) 22:24:48 0
「おい、お前それでも戦士かよ?逃げるのか?」
「ううぅ・・・」
木の上でそんなやり取りをしている中、木の下ではゴロモンが機を窺っていた。
殆ど頭も再生し、魔法も使えるようになった。
勝負どころと、ゴロモンは巨大な鋏でルゥのいる木を切り倒しにかかっているのだ。

「むがあぁぁあ!」
メキメキと音を立てながら倒れだす木の上で、ルゥは一つの決意を固めた。
叫び声と共に跳躍。
着地したのはゴロモンの背負う渦巻状の貝殻の上。
そこら中に突起がでているのでつかまるには不自由しない。
「や、やっぱりここには届かないっすね!?」
激しく動いて振り落とそうとするゴロモンにルゥが不敵な笑みを浮かべながら確認。
そして殻の部分にハンマーを叩き込む。
一撃、ニ撃・・・
鋏は届かず、視線も通らないので触手も上手く攻撃できない。
もはや打つ手なし・・・
と言うわけではない。

「・・・?降参するっすか?」
動きを止めたゴロモンに首をかしげながら声をかけるが、それがルゥの最後の言葉となった。
突然襲い来る強力な電撃。
ゴロモンの最後の切り札だ。

バチバチバチと言う音が響き、ゴロモンとルゥは閃光に包まれる。

そして暫くした後。
微妙にいいにおいを放ちながら黒焦げになった二人が倒れて動かなくなっていた。
「なんだこりゃ?ったくしゃあねえな。今回はノーカンにしておいてやるぜ」
溜息をつきながらムタが首を振って戦いの終わりを告げた。


隊長の称号・バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg #############

591 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 投稿日:2007/09/24(月) 23:56:18 0
 【隊長の称号】

三年前、グラスマンは第六遊撃隊隊長の任を拝命し、詰め所へと向かっていた。
騎士の叙勲を受けてからというもの、馬に乗れば落馬し、ランスのトーナメントでは相手はシード状態と笑われる。
剣術でもまともに打ち合うことすらままならない。
そんな状態で戦場に出ても隊列を乱しこそすれど、戦果を挙げるなどあるはずもない。
その結果が第六遊撃隊隊長任命だ。
前任の隊長が部下に叩き出された為、その後任を押し付けられたというわけだ。
傍から見ればどう見ても左遷。
騎士としての出世の道は閉ざされたも同然である。
だが、グラスマン本人は至って平然と受け入れていた。
堅苦しい部隊に配属されるよりは、自由が効く第六遊撃隊は望むべくところだったからだ。

しかし、そんな喜びも第六遊撃隊詰め所の扉を潜った瞬間、脆くも打ち砕かれることになる。
抽象的な意味でなく、物理的に、だ。
「おはよう!このたび隊長に任命されたグラスマン・・・・だ!」
扉を開き挨拶をした瞬間、コメカミに鈍い衝撃が走り意識は暗闇へと落ちていった。

どのくらい意識を失っていただろうか?
覚醒し、慌てて起き上がると正面には骨太な女が座っていた。
無造作な髪、日焼けした肌、あからさまに土木作業員の姿。
そして何よりも自分を見下す目線が印象的だった。
「起きたかい、坊ちゃん。あたしはバル・バス・バウ。ここの工兵班班長だ。」
「あ、ああ、よろしく。」
覚醒して間もない為まだはっきりしない頭でとりあえず返答をする。
室内にはバル・バス・バウの他、剣士と重戦士と怪しい生物がいた。
「俺、××ご・ろ×△×・×モン××。」
順に自己紹介をするメンバーだが、最後の怪しい生物の名前は聞き取る事が出来なかった。
声の大きさが悪いのではなく、人間には聞き取りも発音も不可能な音だったからだ。

「ああ、そいつはマルムンドの戦士でね。ソレとかオイとか呼べばいいよ。」
???な顔を浮かべるグラスマンに気付いたのかバルが補足を入れる。
だがグラスマンはその説明には納得がいかなかった。
仲間をソレやオイと呼ぶような扱いはしたくないのだ。
「いや、そういう訳には行かないだろ。」
「はぁ?坊ちゃん、なに言い出してんの?」
自分の説明にはむかったのが気に入らなかったのか、バルがグラスマンを睨みつける。
だがそれをあえて無視してグラスマンは考え込む。

「よし、お前は今日からゴロモンだ。
僕が隊長になった以上、みんな仲間だ。愛称でもいいから名前で呼ぼうよ。」
「わかった。俺、今日からゴロモン。」
「・・・っち。好きにすればいいさ。そんなことより仕事が入ってんだからさっさと行くよ。」
なるべく穏やかに言ったつもりだったが、それでもバルには気に入らなかったようだ。
険悪な空気に場が凍りつくが、ゴロモンがあっさりと受け入れた為、バルもそれ以上追求しなかった。



592 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 投稿日:2007/09/24(月) 23:58:12 0
机の上に地図が広げられ、バルが任務の説明をし始める。
ライゼ王国、東に流れるタータルス大河。
その対岸の商業都市ハイネスに大規模な盗賊団が現れ、流通が滞りがちになっている。
河族ならライゼも対抗しやすいのだが、盗賊団が現れるのは商業都市ハイネスの更に東。
アナキア大砂丘に出没するのでライゼとしても表立って討伐対を出す事が出来ないのだ。
商業都市としてあらゆる勢力の傘下にはいる事を拒むハイネスはライゼ王国からの討伐隊の提案を拒否している。
そこで、第六遊撃隊がその身分を隠して討伐するとなったのだ。

バル・バス・バウが説明している間、剣士がグラスマンに小声で事の成り行きを話していた。
グラスマンが扉を潜った瞬間、その腕を見るために流星錘でコメカミを一撃した事がバルであることを。
そしてあっさりと倒されて失望している、とも。
その話を聞いてグラスマンは思い出していた。
前任の隊長が戦闘中に逃亡しようとしたのを見て、バルが半殺しにしたことを。

「おいおい、坊ちゃん。号令かけとくれよ。あんたの仕事だろ?」
「あ、うん、そうだね。それじゃ早速準備を・・・ああ、みんな出来てるみたいね。じゃあいこうか。」
説明を終えたバルが馬鹿にしたようにグラスマンを促す。
戸惑いながらも声をかけ、部屋を出た。
四人を率いるが誰もグラスマンを隊長と認めていないことは明白すぎる。
いきなりのされ、初日から盗賊団討伐の為に国外へ出発。
前途は多難であった。


593 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/25(火) 21:25:13 0
 【隊長の称号】

ハイネスに到着し、数日後。一行はアナキア大砂丘を歩いていた。
大河タータルスが悠久なる時間をかけて形成した大砂丘。
河砂は通常の砂漠の砂とは違い細かく、足をとられやすい。
気候が安定していて暑さがないのが救いだろうか。
見渡す限りが砂の世界であった。

ここまでの道のりは順調そのものだった。
船の手配、ハイネスへの通行許可、宿の手配、討伐傭兵への登録。
バルが全ての段取りを取っていたのだ。
曰く、工兵の仕事は土木作業だけでなく事前の手配全般と後始末なのだそうだ。

そして今、地図と六分義を持つバルを先頭にして、目的の商隊と合流を果たしたのだ。
商隊頭に討伐傭兵証みせ、隊列に加わる。
広大な砂丘を闇雲に探すより、こうやって商隊に加わって襲ってくるところを迎撃するのだ。
護衛にもなるし、それがそのまま討伐に繋がるというわけだ。

討伐の時はあまりにまあっけなく訪れる事になる。
商隊に加わったその夜にそれが起こったのだから。

野営地を襲う突然の砂嵐。
砂漠ならともかく、河砂によって出来た砂丘に起こる様なものではない。
当然気付く者はその異常さに気付くが、篝火をなぎ倒し灯りを消し去るほどの砂嵐を前に何が出来るというのだろうか?
ただただ飛ばされぬように身を固めるだけであった。
砂嵐自体は数十秒で去って言ったが、当然のようにそれだけで済むはずもない。
代わって訪れるのは矢の雨。
狙って放たれたものではないが、あちらこちらで運の悪い者の悲鳴が上がる。

嵐で機先を制し、矢の掃射の後訪れるものは当然のように略奪者の襲撃。
下卑た咆哮をあげながら駆け寄る無数の殺気の塊。
僅かに残った篝火の残りかすと雲に隠れがちな月明かりの中、始まる戦い。
ここに至り商隊の護衛に統制など望めるはずもなく、その戦いは一方的なものとなっていく。
まともに戦えば勝てない相手ではない。
だが既に戦意は喪失し、打ち合うよりも背中から切られる方が多いくらいだ。

そんな中、ただ一角、盗賊達を退ける一団がいた。
かける声も併せる目もない。
ただ掻い潜った修羅場の数ゆえに成り立つ意思疎通。
剣士は素早い動きで相手の手と足を斬り、戦闘力だけを奪い次の相手へと向かう。
重戦士とゴロモンはその装甲を生かし、突き進んでいく。

その頃グラスマンはというと、盗賊の一人に剣を叩き落されていた。
勝ちを確信し切りかかろうとする盗賊に、グラスマンは徒手空拳で対抗しようと構える。
が・・・盗賊のコメカミに錘が食い込み血飛沫が舞う。
グラスマンを殴ったときの錘は硬く紐を丸めたものであったが、今は実践と言うことが鉄の錘になっている。
「坊ちゃんよ!あんた弱いんだから隅っこに隠れてなって。」
流星錘を振り回しながら怒鳴りつけるバル。
グラスマンが礼を言う暇もなく一瞥もせずに次なる相手を求め乱戦へといってしまった。


594 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/25(火) 21:26:07 0
盗賊にとっては予期せぬ出来事だった。
本来ならばこれは狩りだ。
周到に用意し、相手の反撃も殆どない一方的な殺戮のはずだった。
事実そうなっていたのだが、思わぬ反撃で動揺が広がる。
「く、くそう。だがな、こっちにはつぇえ味方がいるんだ!絶望しやがれ!
先生!ワルワの砂荒らし!出番だぜええ!」
手下全体に広がる動揺を収めようと、盗賊頭は切り札を切る。
爆発音と共に砂丘の一角が消え去り、代わりに巨大なサンベルトスネイクが現れた。
そしてその頭に乗る黒衣の存在。
その黒衣から放たれるプレッシャーは辺り一面を覆い、それが間違いなく悪名高き『ワルワの砂荒らし』エルガイアであることを物語っていた。
「・・・・!な、なんだって?」
絶句の後に搾り出されるバルの言葉が全てを物語っていた。
が、それ以上の時間も与えられなかった。


601 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/27(木) 23:24:15 0
 【隊長の称号】

巨大なサンベルトスネイクはその巨体に見合わぬ動きで滑るように野営地まで到達。
その巨体を存分に活かしてあらゆるものを跳ね飛ばす。
護衛・馬車・盗賊・・・
更に降り注ぐは岩石のように固められた砂の雨。
「な、何しやがる!俺たちまで殺す気かああ!!」
「クハーッハッハッハ!貴様らが弱いからいけないのだ!」
敵味方問わず加えられる攻撃に盗賊頭が吠えるが、エルガイアはまるで意にかえす様子はない。
うろたえる盗賊頭を後ろからゴロモンが挟みで切り取る。
本来ならこれで依頼主死亡だ。助っ人であるエルガイアは戦う理由はなくなる。
しかしそこはエルガイア。
目的の為の戦いではなく、戦いの為の目的でしかない。
盗賊頭を殺した直後、ゴロモンは巨大サンベルトスネイクに飲み込まれてしまった。

「ちっ!いくよ!蛇相手にしても埒が明かない。見た感じありゃ作り物だ。
作り主の方を潰せば消える!」
召喚術を修める者としてのバルの見立ては正しかった。
砂術師であるエルガイアが強化し作り出した半擬似生命体。確かにエルガイアが倒されれば無力化するだろう。
だが、間違いは巨大なサンベルトスネイクよりエルガイアの方が圧倒的に強いという事だ。
ゴロモンは飲み込まれ、剣士は岩砂の雨に撃たれ気絶。
エルガイアに立ち向かうのは重戦士とバルの二人だけなのだ。

厚い装甲で被弾に構わず重く強い攻撃を仕掛ける重戦士。
変幻自在な間合いと軌道の流星錘で攻撃をするバル。
そして砂を操り、様々な攻撃を繰り出すエルガイア。

この三人の戦いは苛烈なものになったが、やはりバルが最初に脱落した。
攻撃手段を持っていても所詮は戦いが本職ではない工兵なのだ。
三人の中では戦闘力で大きく劣る。
砂の弾丸を無数に受け、砂丘を転がり落ちる事になる。
一方、重戦士は砂の弾丸を受けてもその厚い装甲が防ぎ、かまわず一撃を加えるのだがまるで当たらない。
重戦士とエルガイアの速度の差は大きく隔たりを持ち、戦いが進むに釣れその差は更に大きくなっていく。
「クハハハハ!弱い!弱すぎるぞ!」
エルガイアが早くなっているのではない。
砂の粒子が鎧の間接部分に詰まり、重戦士の動きを封じているのだ。
やがて動く事が出来なくなった重戦士はエルガイアの作り出した流砂にただ徐々に沈んでいく恐怖を味わう事になる。

「詰まらんな。せめて断末魔くらいは楽しませてくれ。」
既に腰まで沈んだ重戦士を放置して、ようやく起き上がったバルへと向きかえるエルガイア。
その背には砂で作られた矢が無数に浮かんでいる。
「死ね!」
絶望的な宣言と共に砂の矢が飛ぶ。
もはや防ぐ事も出来ず、目を硬く閉じるバルに降りかかる砂。
そう、砂の粒なのだ。
恐る恐る目を開けると、バルの前にグラスマンが仁王立ちをしていた。

「・・・なんで?」
「僕は隊長だよ?部下を守るのは当然さ。」
驚きのあまり言葉の出ないバルにグラスマンがにっと笑いかける。
「貴様、どういうことだ?確かに矢に当たったはず・・・。」
「・・・」
突然の乱入者にエルガイアも不思議そうに声をかけるが、グラスマンは応えない。
雲が風に流され月明かりが差し込む中、グラスマンの顔がいつもからは考えられないほど険しく変わった。
それは味方であるバルすらも言葉を失うほど・・・。
いや、味方であるからこそ、その変わりように言葉を失ってしまったのだ。


602 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/27(木) 23:25:27 0
 【隊長の称号】

舞い上がる砂を残し、グラスマンの身体が消える。
エルガイアの横を通り過ぎ、既に首まで沈んだ重戦士を片手で掬い上げる。
「貴様・・・」
その行動にプライドを傷つけられながらも、力量を読み取りエルガイアは喜んでいた。
久しぶりに殺し甲斐のある相手に恵まれた、と。
気絶した重戦士、剣士を抱えバルの元へ降ろすまでエルガイアは何もしなかった。
これは「殺しの感覚を忘れない為の殺し」ではない。
「殺しを愉しむ為の殺し」なのだから。
不意打ちで殺すのは容易いが、それではエルガイアの気がすまない。

「あんた・・・」
穏やかな顔で二人を降ろすグラスマンに声をかけようとするが、バルの口からはそれ以上の言葉が出てこない。
そんなバルにグラスマンは竜鱗の呼吸の説明を手短に済ます。
その能力と欠点を。
呼吸を止めるという制限の為、長くは持たないであろう事も。
だから・・・エルガイアを足止めしているうちに二人を起こして逃げるように、と。
「・・・一分でいい。戦い続けとくれ。
一分後、逃げていい。行きがけの駄賃であの蛇を砕いてくれればね。
あれは砂を媒体にした擬似生命体だ。飲み込まれた・・・ゴロモン、は溶かされちゃいないだろ。
後はこっちで何とかするからさ。」
絶望的な戦いに赴こうとするグラスマンにバルが声をかける。
振り向いたその目に映るバルの瞳は自己犠牲を決意した者の目ではなかった。
だから・・・
「わかった。」
短く言い残し、エルガイアの元へと進んでいった。

「私はエルガイア、通称『ワルワの砂荒らし』!貴様を殺す者の名だ、よぅく記憶しておけい! 」
もちろん逃がす気などなかったが、逃げもせずに向かってくるグラスマンを見てエルガイアの目が三日月のように愉悦に細まる。
そうして、二人の熾烈を極める戦いが始まった。

砂が吹き荒れ、槍と化し、壁と化す。
だが鉄の硬度を持つグラスマンはそれをことごとく砕いていった。
間合いを取り砂での攻撃を仕掛けようとするエルガイアに、間合いを詰めて近接格闘線に持ち込もうとするグラスマン。
両者の戦闘は拮抗したものだった。

ガードを固めあらゆる攻撃を打ち砕くグラスマン。
装備も軽装なので重戦士のように鎧の隙間に砂が詰まって動けなくなることもない。

しかしそれもほんのわずかな間でしかない。
ただの組み手ならばいざ知らず、『ワルワの砂荒らし』の二つ名を持つエルガイアを相手にするのだ。
その運動量は比類なきものとなり、グラスマンの体内酸素は急激に消費されていく。
更に細かすぎる砂は機動力だけでなく、その拳の威力まで奪っていく。
「クハハハ!貴様、鉄の体を持っているのか!?だがもう切れがなくなってきているぞ!」
砂の壁を砕く文字通りの鉄拳を喰らい身をのけぞらしながらも、その余裕は失われない。
傷やダメージ自体はエルガイアのほうが負っているにもかかわらず、だ。
徐々に戦いの趨勢は逆転していく。


603 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/28(金) 22:37:45 0
 【隊長の称号】

砂の中から飛び出た砂の塊に顎を直撃され吹き飛ばされるグラスマン。
拳大の砂塊だが、その実数トンの砂を魔力で圧縮した砂爆砲なのだ。
「ぐはっ!!」
強い衝撃とともに呼吸が切れ、鉄の硬度が失われてしまう。
そこに容赦なく追撃の砂弾が降り注ぐ。

永遠にも似た一分にようやく到達しようとした時だ。
「久しぶりに楽しかったぞ!『鉄人』の二つ名を俺自らが与えてやろう。
あの世へと持っていけい!」
とどめを刺そうと砂に魔力を込めるエルガイアの背後に、巨大な槌が形成されていく。
かける時間に見合うだけのものだった。
砂爆砲の数十倍の威力を持つ恐るべき攻城槌は周囲の砂を巻き上げ引き込み続ける。

「・・・ああ、ありがとうよ!一分だ!」
最後の力を振り絞り、大きく息を吸い込んで跳躍!
エルガイアの槌の形成はまだ終わっていない。
「最後に悪あがきを!逃がすものかよ!」
跳躍したグラスマンをさえぎるように首をもたげるのは巨大なサンベルトスネイク。
だがそれはかえって好都合というものだ。
狙いは逃げることではなく、サンベルトスネイクなのだから!

鋼鉄の弾丸と化したグラスマンはサンベルトスネイクの頭を一撃で打ち抜く。
サンベルトスネイクは大きく反り返りその巨体を砂に落とし、だらしなく顎を広げている。
通常蛇類はその柔軟にして強靭な筋肉と体構造から打撃は効き難い。
にもかかわらず、一撃で顎の骨を砕き脳に衝撃を伝えたグラスマンの体当たりの威力を推して知るべし!

それと同時に砂丘は湿原へと姿を変えていた。
「異界召還!スネイル大湿原!!ゴロモン!きっちり仕事しな!」
突然の異変の元はバルだった。
朱塗りの異界召還門を地面に突き立て、この一帯に大湿原を呼び寄せたのだ。
通常の砂漠ならばこのような召還はできなかっただろう。
ここが河によって作られた砂丘であり、水属性が強かったからこそ、だ。
崩れ落ちるサンベルトスネイクの顎から這い出たゴロモンは複雑な呪印を紡ぎだす。
その周囲に集まる水の量は圧倒的なものだった。

一方、いきなり媒体であり武器である砂漠が湿原に変わってしまったエルガイアの砂の槌は途中で形成が止まってしまう。
「ええい、させるかああ!」
ぬかるんだ足を何とか踏みしめ、砂の槌をゴロモンへと放った。
このまま手をこまねいて術の完成を待っているわけにはいかないのだ。
未完成とはいえ、呪文詠唱中のゴロモンを殺すだけの威力は十二分にある。


605 名前:バル・バス・バウ ◆b/b/b1TgYg [sage] 本日のレス 投稿日:2007/09/29(土) 20:20:10 0
 【隊長の称号】

放たれる砂の槌がゴロモンに到達する瞬間。
粉々に砕けて四散した。
未完成とはいえ、全てのものを貫通粉砕するだけの威力はあったはずなのに!
「ば、馬鹿な!化け物か!?」
驚きのエルガイアの声にこたえるように砂煙の向こうに現れたのはグラスマン・グラスハーツ!
グラスマンが身を挺してゴロモンの盾となったのだ。

そして呪文は完成する。

「重水蛟瀑布!!」
湿原だからこそ成し得た超高レベルの水呪文。
繰り出されるは津波の具現。
巨大な水塊は恐るべき圧力を以って凡てを打ち砕く砲と化す。
ここが砂丘ならばエルガイアはこれを防ぐこともできたかもしれない。
だが今は大湿原。
身を守る砂はない。
「ぐがあああああ!おのれえええええ!」
まともに術を喰らいながらも大気を震わせる咆哮を残し押し流されていくエルガイア。

「これで死んだとも思えないが・・・な・・・。」
グラスマンが崩れ落ちながら零した呟きとともに、戦いは終わりを告げたのだった。


「隊長、気づいたかい?」
目を覚ますと、すぐ脇にバルの顔があった。
気絶したグラスマンに肩を貸し、ハイネスに向かって歩いているのだ。
剣士と重戦士はまだ気づいていないようで、ゴロモンの背に乗せられている。
「はは・・・やっと隊長って呼んでくれたね。」
自分で歩きたいが、力がまったく入らない。
仕方がなくバルに肩を貸してもらったまま答えるが、バルは顔を背けてしまった。

「勝てると思ってたわけじゃないよね。何で逃げなかったんだい?」
暫くの沈黙の後、顔を背けたままのバルがボソッと呟くと、グラスマンの顔にもう一度笑顔が宿る。
「僕は隊長だよ?僕が隊長になったからにはみんな仲間だ。」
「・・・っち。あんた騎士の癖に隊長に向いてないよ。」
「・・・はは・・・まあ、そうだよね。こうやって部下に肩を貸してもらえないと歩けもしないんだから。」
切って捨てたようなバルの返答に弱弱しい笑みで俯くグラスマン。
「だけど・・・あたしらは仲間だ。
肩書きだけの奴の踏み台になるのは真っ平ごめんだけどね、戦友に肩を貸すのは悪くないもんさ。
これから頼むよ、グラスマン隊長。」
「ああ!」
ようやく顔を向けるバルに力強くうなづくグラスマン。
こうして第六遊撃対隊長グラスマン・グラスハーツが誕生したのだった。

 了




騎士8・月と森と毒茸・ドクターマッシュ ◆ROOMbGwr5o #########

626 名前:ドクターマッシュ ◆ROOMbGwr5o [sage] 本日のレス 投稿日:2007/10/06(土) 00:11:29 0
【月と森と毒茸@】
大陸と島を分け隔てる大海。
そこは大渦巻きと竜巻が群発発生する恐るべき海域である。
人魔共にそこを越える事は至難を極め、それ故お互いの交流は無いも同じであった。

しかし今ここに大陸側へと向かう一隻の船がある。
一転して凪の海で周囲を深い霧に包まれながらも、快調に船は駆けてゆく。
波を切る音も無く、静かに、滑るように・・・
その船の甲板に一人の女が立ち、気持ちよさ気に夜空を見上げていた。
この深い霧の中にあっても天に輝く月の光を確実に捕らえているのだ。

そして数日後。
相変わらず霧に包まれている船はようやく陸に到着した。
だが接岸することなく、そのまま内陸へと進んでいく。
音も無く、揺れる事も無く進む船には既に生きているものは誰一人としていなかった。
触れれば切れてしまいそうな鋭く尖る三日月を見上げる女を含めて誰一人、だ。
浜辺を越え、森に差し掛かったところで女は船を下りた。
さまよえる霊魂によって作られた船は音も無く、また海へと帰っていく。

「・・・ここからビスティーム大樹海ね。50年も前の地図だけど、あってそうじゃない。」
地図を広げながら見上げる女の先には巨大な木の群れが立ちはだかっていた。
大陸と東の島を隔てるもう一つの障壁。
方向感覚を狂わせ、危険な生態系をなす大樹海。
しかし何より恐ろしいのは、樹海そのものが一つの生命のように蠢き、開拓者を拒む事だった。
それが大陸中央にある魔の森と双璧をなすビスティーム大樹海なのだ。

「着いた早々ビンビン来るわ。月の波動・・・。思ったより早く旅は終わりそうね。」
それを知ってか知らずか、女は何の迷いも無く樹海へと入っていく。
東の島で聖域を守っていたが、モンスターによりご神体を破壊され、代わりとなるものを求めてやってきた女。
巫女でありながら使命の為にリッチと転生したナナミである。

ナナミが一歩樹海に足を踏み入れたとたん違和感を覚える。
まるで異世界に入り込んだ異様な感覚。
しかしナナミが求めるに足る月の波動はこの奥から発せられているのだ。
こうしてナナミの樹海探索が始まった。

広大な樹海であるが、ナナミは迷うことは無い。
強き月の波動に向かい一直線に歩いていくだけなのだから。
そしてこの危険な樹海の中を一直線に歩けるだけの力も持っていた。
樹海に入ってから数日。
朝と無く夜と無く襲い掛かる危険な生物や奇怪な植物を切り払い、ただひたすら前へ前へ。
そしてついには開けた土地へと行き着いたのだった。
そこでナナミが見たものは・・・

それを目にしたときはさすがにナナミも驚いてしまった。
森が突如として途切れ、一転荒涼とした大地。
その中心にまるで絡み合うように立つ二本の木。
その枝が抱きかかえるようにソレはあった。
まるで満月のようなその球体。
その球体こそが、ナナミがたどってきた強い月の波動を醸し出していたのだ。
「やった!これこそご神体にふさわしいわっ!」
思わず声を上げ喜ぶナナミ。
その喜びゆえにまったく気づかないものがあった。


627 名前:ドクターマッシュ ◆ROOMbGwr5o [sage] 本日のレス 投稿日:2007/10/06(土) 00:11:44 0
【月と森と毒茸A】
「おや、怪しい来訪者ですねえ。」
声をかけられて初めて気づいた。
木の近くに誰かがいたのだ。
それをよく見ると・・・
(キノコがシイタケ焼いてるううううぅ!?)
人間大のキノコ・・・いや、キノコ型の怪人が串で刺したシイタケを焚き火にかざしていたのだ。
「怪しいってあんたにだけは言われたくないわよっ!」
思わず本音が口から出てしまってからあわてて口を押さえるがもう遅い。
串シイタケを齧りながらキノコ怪人が近寄ってくる。
密かに悪臭雲の呪文を虚空に描きながら、様子を見るナナミを上から下まで見回すキノコ怪人。
よく見ると白い白衣を着込んでおり、片手には酒の瓶が握られている。
暫く見回すと、キノコ怪人の表情が和らいだ。
「きゃははは!なかなか言いますねえ。私はドクターマッシュ。
その格好からするとタカマガハラからですかな?
50年ほど前にタカマガハラの大妖が戯れに魔海域を作ってからパッタリと来訪者が途絶えていたものですが・・・
ようこそ、タカマガハラの友人よ。歓迎しますよ〜。」
酒臭い息を撒き散らしながらドクター・マッシュは名乗り、ナナミを焚き火のほうへと案内をした。
意外と友好的な対応に、悪臭雲の呪文をキャンセルしてついていくことにする。
何かあればいつでも倒せる。
それよりも情報を引き出すだけ引き出してから、という判断の元だ。

焚き火までくると、酒瓶や樽が散乱している。
かなり酔っ払っているようで、ナナミが勺をしながら話を促すとドクター・マッシュは聞きもしないような事まで話してくれた。

元々は人間の巫蠱の徒だったが、キノコの味付けを錬金術的に味付けをして食べたらこのような体になってしまったということ。
年齢は100程までは数えていたがもう何歳かも覚えていないなどなど。
「元の体に戻ろうと研究をしているのですか?」
というナナミの問いに、ドクターマッシュは大爆笑しながら答える。
「そんなつもりはまるで無い」と。
キノコ怪人の体になってから頭脳は冴え渡り、人の寿命の枷も取り払われた。
それより何より、自身から生成される胞子は様々な巫蠱の術の材料となってくれるのだから。

そして話はこの場所についてに移って行く。
「このビスティーム大樹海は一つの生命体と言って良いでしょう。
しかし、この沙羅双樹はその中にあって異端の存在なのです。
見なさい、この荒涼とした大地を。
沙羅双樹が大地の養分を全て奪い、他者を駆逐した結果なのですよ。
そしてその集大成があの枝に包まれた抱月という果実なのです。
私はこれが何なのかを研究しているのです。」
高らかに宣言するドクター・マッシュの話を聞きながらナナミは状況を整理していく。
この沙羅双樹と抱月と呼ばれる果実が何なのかはわからないが、これだけ強く月の波動をかもすものならばご神体として申し分ない。
ぜひとも聖域に持って帰りたい。
これを研究しているというからにはそれを申し出たとしても譲ってもらえることは無いだろう。
見たところ酔っ払いの狂キノコだ。それほど力を持っているとも思えないが、既に仕込みはしてある。


628 名前:ドクターマッシュ ◆ROOMbGwr5o [sage] 本日のレス 投稿日:2007/10/06(土) 00:12:00 0
【月と森と毒茸B】
様々な打算と計算を寄り合わせ、ナナミは決意をした。
「ドクター・マッシュ。私はタカマガハラから来た月の巫女です。
この沙羅双樹と抱月をご神体として持ち帰ることに決めました。」
にこやかに宣言すると、ドクター・マッシュの表情が険しいものへと変わった。
「ほう、そうですか。しかし私もこれを研究する者。その申し出は了承するわけにはいけませんねえ。」
酒を瓶からラッパのみをしながら帰ってくる言葉は想定済みのものだ。
ナナミはに立ち上がりながら更に宣言する。
「それでは、力づくでも・・・!」
「よろしい!では私も力に訴えることにしましょう!魔道カルタ展開!!」
妖艶な笑みを浮かべるナナミに対し、ドクターマッシュも立ち上がる。
どこから持ち出したのか、数枚の板が宙を舞い分解、その周囲へと散らばっていく。

「いまさら何をしても無駄よ。すぐに私の下僕にしてあげる。」
ナナミの戦闘は酒を飲み交わし始めたときから始まっていたのだ。
勺をするのに見せかけ、酒にアンデッド化の薬を混ぜておいたのだから。
指先一つでその効力を発揮し、ドクター・マッシュの体を蝕み始める。
「きゃははは!既に一服盛っていたとは見事です!
しかし私とて巫蠱の徒の端くれ!この程度・・・!」
身体を蝕む薬に気づき、白衣を広げる!
白衣の内側には無数の試験管が取り付けられており、すばやい手で何本かを取り出し飲み込んでいく。
更にはまるで頭を掻きフケを落とすかのように胞子を落とし飲み込んでいく。
「ヤモリの目玉!ムカデの左32番目の足!サルファバルーンの汁!ヨウ素!そしてぇワタクシ特製胞子!
それらを体内溶解炉で調合!!・・・ぼぇええええ・・・」
むぐむぐと飲み込んだ後、派手な嘔吐をするドクター・マッシュの姿にナナミの妖艶な笑みも引きつってしまう。

だがそれは酔っ払いが吐いた訳ではなく、体内で調合した薬がナナミの薬を除去したのだった。
「ふぅ〜。分析によると、あなた、リッチですね?」
吐き終わってすっきりしたのか、また酒を飲みながら展開した魔道カルタを操作しながらナナミの正体を言い当てる。
あっさりと片がつくと思っていたが、意外と力を盛っていたことに対し驚きはしたが、負ける気はしない。
なぜならばナナミの二つ名は月夜の巫女。
沙羅双樹と抱月から放たれる強い月の波動はナナミを極限まで強くしてくれるのだから。

「おとなしく下僕になっていれば幸せだったものを!」
力溢れるその手を振るい、放たれる術は「創傷」。
治癒魔法を応用したその術は防ぐ手立てが殆ど無い上、今のナナミが使えば致命傷を与えて有り余り威力を発揮する。
実際にドクター・マッシュの身体には無数の傷ができ、その傷一つ一つが恐ろしく深いものだった。
あまりの大きさに傷はダメージだけでなく、身体的機能すらも奪っていく。
沙羅双樹にもたれるように寄りかからなければ立っていることすらできないように。
「きゃははは!すばらしい!あなたはこの沙羅双樹と抱月から出る力を自らのものとしているわけですか!
しかぁあし!それは何もあなただけの特権ではないのですよ?」
狂気を含んだ笑いをあげながら、この期に及んでまだ分析を続けているのだ。
そして、おもむろに沙羅双樹に手を当てると・・・致命傷だった無数の傷が瞬時に消えた。
「このキノコの身体になってから、このような事もできるようになりました。
キノコと同じように、他の生物からエネルギーを簡単に吸収できるようにね!」

ずいと寄るドクター・マッシュに思わず一歩引いてしまうナナミ。
酔っ払い特有の酒気と、得体の知れない狂気、そして何より、自分の手が二つ潰された事に対し警戒を強めたのだ。
「だったらこういうやり方だってあるのよ!」
気圧されながらも人差し指を掲げ、光弾を発生させる。
これほどの大樹海ならそこに飲まれた死者の数も夥しいものになるだろう。
本来呼び寄せるだけのものだが、今ならどれだけの死者でも操ることができる。
・・・が、光弾が導く霊はただの一体たりとてなかった。


629 名前:ドクターマッシュ ◆ROOMbGwr5o [sage] 本日のレス 投稿日:2007/10/06(土) 00:12:13 0
【月と森と毒茸C】
「ん〜〜、それは霊を導きアンデッドモンスターを召還する術のようですねぇ。」
展開する魔道カルタを操作しながら術を見極めるドクター・マッシュの声が続く。
「しかぁし、残念ながらこのビスティーム大樹海には死者は存在しません。
なぜならば、この樹海自体が一個の生命体であり、生も死もその活動サイクルの一環でしかないのですから。」
それはナナミにとって衝撃的な宣告だった。
今の状態でアンデッド召還ができないと言う事が、その言葉が正しいことを証明している。
すなわち、リッチとしての能力も大きく制限されるということなのだから。
「せっかくなので、私も似たようなことをして差し上げましょう!出番ですよ!」
その言葉と共に周囲の地面が割れ、うめき声を上げながら這い出てくる無数の人影。
ぼろぼろの服に、傷ついたからだ。虚ろな目。
その姿はまさにゾンビそのものだったが、唯一つ特徴があった。
それは頭に生えたキノコだ。
「開拓者やあなたのように沙羅双樹を狙うもの達です。
もっとも、今ではよき協力者ですけどね。」
得意げに話すドクター・マッシュにナナミは強い嫌悪感を抱いた。
この這い出てきたものたちは死んではいない。
だが、生きてもいないのだ。
「協力者って、キノコを脳に寄生させて操っているんじゃない!」
「きゃははは!それは主観的問題であり、私にとっては間違いなくよき協力者ですよ。
それに、あなたは死者を操る。私は生きたまま操る。何か違いがありますか?
魔法によって操っているわけではないので、ディスペルでも防げません、念のため。」
吐き捨てるように言うナナミの声もドクター・マッシュの狂気には届かない。
おいしそうに酒を煽りながら無数のキノコに操られた者達に襲われるナナミを見物している。

「・・・使いたくなかったけど、楽にしてあげる意味でも、ね!!!」
ナナミの身体から赤黒いオーラが放たれて広がっていく。
『死の宣告』
即座に命を奪う強力な呪である。
赤黒いオーラに触れたキノコに操られたものたちはバタバタと倒れていく。
その死体は即座に土に返っていくのは沙羅双樹が養分として吸収しているからだった。
沙羅双樹の周りの土地が荒涼としているのはこういったわけなのだ。
本来生物が入り込める場所ではない。
ナナミのように沙羅双樹によって力を得るか、ドクター・マッシュのように更に養分を吸収するもので無ければ・・・。

バタバタと倒れていくキノコ人を見ながらドクター・マッシュはあわてていた。
分析結果はすぐに出たのだ。
赤黒いオーラは留まる事を知らぬように広がり、このままでは自分までその効力を受ける、と。
「大技を出してきましたね!それでは、決着をつけようではありませんか!
きゃはははは!ミノフスキー胞子散布開始ぃ!!!」
大きく酒をかっ喰らうと酒瓶を放り投げ、ドクターマッシュは頭の笠をかきむしる。
そこから溢れる胞子は鈍く光りながら広がっていった。

その胞子がナナミの赤黒いオーラに触れると強く光、その数を増していく。
まるで侵食されるかのように、その光と勢いを増していくのだ。
「くくくく、その胞子は魔力を無限に消費するだけのものです。
しかぁし、リッチであるあなたはそれだけで十分な危機となるのですよ!」
その言葉通りだった。
赤黒いオーラを侵食しきり、いまやナナミを囲むように漂う。
火を起こそうとも風を起こそうともその発動体が魔力である以上、それは胞子に餌をやっているに過ぎない。
手に持つ大麻を振るおうともそれは胞子をかき混ぜるにしか過ぎない。
そして何よりも、ナナミがリッチである事が致命的なのだ。



630 名前:ドクターマッシュ ◆ROOMbGwr5o [sage] 本日のレス 投稿日:2007/10/06(土) 16:06:31 0
【月と森と毒茸D】
本来アンデッドモンスターはこの世界とは相反する存在である。
生命を捨て、負の命を魔力によって保っている。
ターンアンデッドでアンデッドモンスターが消滅するのは聖なる力で負の命を保てなくするためだ。
この場合は保っている魔力自体を消し去ってしまうのだが・・・

魔力を奪われるにつれ、ナナミの姿が変貌していく。
少女の風貌が徐々に肉が透け、眼球部分が爛々と赤く光っている。
「きゃはははは!安心しなさい。程よく消えたらこのフラスコに入れて私の研究材料の一つにして差し上げますのでね。」
勝利を確信したドクター・マッシュの声が響き渡る。
リッチとなり、強力な力を得たのだが相性が悪すぎる。
だから、ナナミはリッチであることを捨てた。
正確にはリッチであることの特性、利点を、だ。

足に力を込め、一歩、また一歩と歩み寄る。
それはより濃いミノフスキー胞子に身を晒す事でもある。
近寄るにつれどんどんナナミの姿は変貌し、今や完全に骨だけの身体となってしまっている。
「ん、ん、ん〜〜。自棄はいけませんねえ。
あまりそういうことをやられると捕獲するタイミングを逸して完全に消し去ってしまうではありませんか、キャハ!」
楽しげに見つめるドクター・マッシュだが、ナナミは自棄になったわけではない。
一種の賭けではあるが確信めいたものを持っていた。
そしてその確信めいたものはこの一歩で事実となる!

更に一歩踏み出したとき、ナナミの身体の崩壊が止まったのだ。
それはミノフスキー胞子による魔力吸収と、沙羅双樹と抱月からの月の波動の加護の鬩ぎ合い。
近づけば近づくほど月の波動の加護は強くなり、この一歩で魔力吸収量を超えたのだ。
「???」
ドクター・マッシュも即座に異変に気づくが、理解するには至っていない。
理解するまで数秒とかからないだろうが、それで十分だ。
一気に駆け寄ったナナミは術ではなく、手に持った鈍器でドクター・マッシュを殴り倒した。
「ぶべっ・・・ひぃいいいい・・?!」
思考の最中、突然の物理的な攻撃になすすべも無く転がり悲鳴を上げたのだった。
そんな這い蹲るドクター・マッシュに差し伸べる手は青白く光っていることは言うまでも無い。

「あなたもライフドレインできるのでしょう?じゃあ、力比べしてみましょう?」
ギュッと握り笑みを浮かべながら提案しているのだが、その行動は凶悪そのものだった。
この力比べ、既に結果がわかっているのだから。
キノコのように他の生物のエネルギーを吸収するドクターマッシュのライフドレイン。
そう、【生物】からだ。
当然【死者(リッチ)】であるナナミからエネルギーを吸収できるはずも無い。
更に殴り倒したのは生命エネルギーの供給源である沙羅双樹から引き離すと言う目的もあったのだ。

その意図と結果を理解したドクターマッシュは慌てた。
急いで試験管を何本か取り出し、口に放り込む。
「水銀!ムルム族の髪!黒胡椒!リン!金毛羊の蹄!胞子!・・・雷火網!!」
むぐむぐと租借しすると、爆炎と雷が網のようになって口から吐き出される。
それ自体は恐るべき破壊力を持つものであったが、今のナナミの魔法無効化能力はそれを遥かに上回る。
雷火網を掻き分け、がっちりとドクターマッシュの手を握り締めた。
完全なる【詰み】の状態である。
「ひょ・・・ひょええええ・・・・・」
「ほっほっほっほ!こう干からびてしまっては胞子も出せないでしょう?」
見る見るうちにドクター・マッシュは干からびていってしまった。
反面、ナナミは力を取り戻し身体も元に戻っていく。
カサカサと音がしそうなくらい干からびたドクター・マッシュは即座に土へと帰り沙羅双樹の養分になってしまった。
起死回生の攻撃で見事ナナミが勝利を飾ったのであった。


631 名前:ドクターマッシュ ◆ROOMbGwr5o [sage] 本日のレス 投稿日:2007/10/06(土) 16:06:59 0
【月と森と毒茸E】
「きゃはははは!やりますね!まさか私を倒すとは思いませんでしたよ!」
ナナミが振り向くと、沙羅双樹の根元にドクター・マッシュが生えていた。
確かに殺し、その身体も魂も沙羅双樹の養分になったはず。
にも拘らず、可笑しそうに酒を煽っている。
「基本ですよ基本!重要システムのバックアップをとっておくことなんてね!」
にやりと笑いながら不思議そうな顔をするナナミに説明をする。
そう、ドクター・マッシュは最初から沙羅双樹の根元に自分の胞子を付着しておいたのだ。
有り余る養分を吸収し、菌糸の状態から一気に身体を生成したのだった。

「さて、既に分析は終わっています。一応聞きますが抵抗しますか?」
「ふん、酔い醒ましも作れず酔っ払ったままの奴に私がやられるとでも?」
完全に勝ちを確信したその言い草にナナミの頬が引きつる。
分析されてしまっていては確かに分が悪いだろう。
それでも言わずにはいられなかったのだ。
だが、その言葉がドクター・マッシュの心に突き刺さった。

「失礼な!酔い覚ましくらい・・・・体内溶解炉調合!!」
勝利を確信していたからこそ反応してしまったその言葉。
安い挑発に乗ってしまった。
実際酔い覚まし程度どれだけでも作れる。
見る見るうちにドクター・マッシュから発せられていた酒気が消え酔いは完全に醒めた。
そう、醒めてしまったのだ。
「ふふふふ、いかがですく・・・く・・・くぁああ・・・
ひっ・・・ひいいいい」
勝ち誇り酔いのさめた声でナナミに宣言していたドクターマッシュに異変が起きた。
ガクガクと震えだし、表情が怯えたものになる。
魔力を消費する胞子を放出するのもとまり、頭を抱えてうずくまってしまう。

「ひっ・・ち、違うんです、これはカリでは無く笠なんです!
そんな目で見ないでくださいっ!」
ドクター・マッシュは錯乱して転がっていた。
「胸を張っていただけじゃないですかっ!反り返るなんていわないでっ!
違う!私は猥褻物じゃないぃぃぃいい!!」
アルコール中毒感謝の禁断症状である。
あまりの錯乱ぶりにあっけに取られるナナミだが、我に返りドクター・マッシュの首根っこをつまむ。
このままもう一度ライフドレインを行えば今度こそ終わりだろう。
「おっお願いです・・・お酒・・・くださいぃ・・・」
命より酒を懇願するその姿は先ほどまでの狂気も何もあったものではない。
もはや見苦しいまでの域にナナミは眉をひそめながら別の感情がわきあがっていた。
哀れすぎる・・・、と。

このまま殺されると悟ったドクター・マッシュは、錯乱する中で何とか頭を回転させることに成功した。
「待ってください。み、見たくは無いですか?あれの正体を・・・!
成長が早すぎてじっくり研究できないから・・・リミッターをつけてあるのですっ!
それを解除します。だから・・・!」
本来なら苦し紛れの言い訳にしか過ぎないだろうと切って捨てるところだ。
だが、酔っ払っている時のドクターマッシュは紛れも無く狂気の天才。
実際に何かが仕掛けてあっても不思議ではない・・・


632 名前:ドクターマッシュ ◆ROOMbGwr5o [sage] 本日のレス 投稿日:2007/10/06(土) 16:07:27 0
【月と森と毒茸F】
暫くの逡巡の後にナナミは酒瓶を手にとっていた。
「げふぃぃ〜〜〜。生き返りましたよ。
ああ、安心してください。取引したからにはもう危害を加えることはありません。」
一瓶一気飲みをして正気(?)を取り戻したドクター・マッシュはいやらしい笑顔を浮かべながら沙羅双樹の根元へとしゃがみこんだ。
魔道カルタを展開させて形成された実験器具を使い、一つの薬品を作り上げていった。
「さて、これをかけると私の仕込んでおいた菌糸が死滅して沙羅双樹は本来の力を発揮するでしょう。
その結果、どのようなことが起こるかは私にもわかりません。
一つの生命体ともいえるビスティーム大樹海にあって唯一の異端。
それを解き放つことになりますが、よろしいですか?」
「ええ」
もって回った言い方で警告するが、ナナミの返事には躊躇が無かった。
そんな迷いの無い反応に不満そうにしながらその手に持つ試験管から薬液をたらした。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばしの沈黙の後・・・抱月に異変が起こっていた。
抱月が放っていた鈍い光は強さを増して集約し、一直線に点に光る月へと突き刺さる。
そしてゆっくりと、ゆっくりと抱月が割れた。
そこから現れたのは十二単を身にまとった光り輝く美しい女だった。
『私の枷をはずし、月の神の巫女が我が復活に立ち会うとは何たる縁。
私は月の精霊、カグヤ・バンブーステイ。
汝に祝福があらんことを・・・
そして大地よ、森よ、ありがとう・・・』
実際に見るのはナナミも初めてだった。
それは月の神に仕える精霊だったのだ。まさかこのような異邦の地で目にすることになるとは。
ご神体にふさわしいと思うのもそのはず。まさに神の使いそのものだったのだから!
深々と頭を下げるナナミに鈴のような声をかけた後、カグヤ・バンブーステイは光を辿り月へと昇っていった。

その光景の余韻からさめるまでたっぷり数分を要した。
ナナミが我に返ると、沙羅双樹はすっかり枯れ落ちもはや月の波動は感じられなくなっていた。

結局ナナミの目的は果たせることができなかったが、それほど落胆は無かった。
リッチである自分には時間が十分にある。
それより、着いた早々これほどの体験をしたことに喜びを感じていた。
これから先、どれほどのことが待ち受けているのだろうか、と。


それから暫くドクター・マッシュと旅を続け、別れてからもご神体探しの旅を続けている。
今でも時々天の月を見上げながら思い出す。
時間感覚の希薄なナナミにとって、ビスティーム大樹海での出来事が去年のことだったのか100年前のことだったのかはっきり覚えていない。
だがドクター・マッシュとカグヤ・バンブーステイの事は鮮明に覚えている。
生態は真逆でも共に時間に囚われぬ生物なのだ。
また会うこともあるかもしれない。そんなことを思い浮かべながら・・・


633 名前:ドクターマッシュ ◆ROOMbGwr5o [sage] 本日のレス 投稿日:2007/10/06(土) 16:08:12 0
【名前】ドクター・マッシュ
【年齢】100以上
【性別】男
【職業】巫蠱の徒
【魔法・特技】 巫蠱術・錬金術
【装備・持ち物】魔道カルタ・薬品入り試験管多数・酒
【身長・体重】 170センチ65キロ
【容姿の特徴、風貌】人間大のキノコに手足顔がついている。白衣着用
【性格】 マッドサイエンティスト・躁鬱病
【趣味】研究
【人生のモットー】エンジョイアンドエキサイティング
【自分の恋愛観】なし
【一言・その他】
錬金術的味付けをしたキノコを食べてきのこ怪人になってしまった男。
酒が手放せず、常に酒気を纏酒臭い。
酔っている時は狂気全開のマッドサイエンティストだが、酔いが醒めると錯乱して欝状態になる。

巫蠱:言うならばバイオテクノロジスト。毒と薬のエキスパート。



騎士よ、今こそ立ち上がれ#Old age・騎士0 ◆AGE1uTajjE#############

717 名前:騎士0 ◆AGE1uTajjE [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/10(木) 21:48:15 0
【騎士よ、今こそ立ち上がれ#Old age】


世界の開闢神話は数あれど、それを確かめる術はない。
唯一ついえることは始まりがどうであれ、ここに世界があり、勃興を繰り返すということだけだ。
そして今、一つの世界がその隆盛を極めようとしていた。
多種多様な生物が満ち溢れ、力を、知恵を、文化を花開かせる。
大地に広がる文明は燦然とした光を放ち、そして、翳ってゆく。

この世界に起こった文明は魔力と科学を融合させ、爆発的にその版図を広げていった。
話はその文明の中心地。
重力や物理法則を無視した無数の塔の一つ。
埃一つない廊下を歩く一人を、もう一人が見つけ声をかけるところから始まる。

「フリーザァアア!俺は人間をやめるぞおおお!!」
「おや、ディオさん。とうとう機士になられるので?」
呼び止められ、嬉しそうに応えるのは小柄で尻尾の生えた無毛の男。
その体は肉ではなく、機械によって構成されている。
魔道科学が発達したこの世界で、人は不安定な肉体を捨て機械の体へとシフトチェンジするものが増えてきていたのだ。
声をかけた方は金髪にて痩身。しかし筋肉はその服の上からもその存在を誇示している。
だが、何より特徴的なのは口からはみ出る牙と漆黒の瞳。
その瞳に湛えられるのは純然なる悪、だった。
「ああ、来月の四日にな。」
興奮気味に告げるディオの言葉に少し考えるフリーザ。
そしてにやりと笑う。
「さすが我が友ディオさんです。来月四日を抑えるとは・・・」
フリーザの笑みに応えるようにディオもにやりと笑う。
「ああ、大安吉日だ!」
親指を立てて力強く応える。
しばしの談笑の後、話はディオの父親へと移る。
「しかしよくカーズ博士がお許しになりましたね。」
「親父は確かに偉大だけど、考えが古いんだよ。
いつまでも不安定な受肉状態に拘っているからな。
説得に今までかかってた。」
「確かに・・・しかし博士は偉大な方ですし。
この間見せてもらいましたよ。フェンリルという新生物。
まだ幼体でしたが、博士の唱える究極生物の研究から生まれたそうで。」

ディオの父親カーズはこの世界でも有数な魔道科学博士である。
七魔王による感情エネルギー変換システムを実用化させ、それを平行世界によって運行する。
後の魔界と呼ばれる世界を作ったのだ。
システムはこの世界の根幹を成すものの一つとなっている。
そのほかにも、遺伝子操作によってさまざまな生物を創造している。
遥か後の世に、モンスターと呼ばれるものたちだった。
しかし、世論は機械化に傾いており、カーズ博士と議会の間で軋轢が生じていた。

「説得に成功したということはあれの小型化に成功したので?」
「ああ、これさ。」
そういって差し出したのは掌に乗せられた黒い箱。
これを見てフリーザは驚いた。
それはスタンド発生装置。
最小のものでも1Mをきることはなかった装置が掌サイズになっているのだから。
「驚きました・・・まさかこれほどとは・・・!カーズ博士も認めるわけですね。」
「クロロ博士の幻影旅団チームが総力を傾けた結晶さ。」
フリーザとディオの談笑は続く。


718 名前:騎士0 ◆AGE1uTajjE [sage] 本日のレス 投稿日:2008/01/10(木) 21:49:09 0
その頃、カーズ博士は培養槽の前で物思いに更けていた。
傍らには巨大な狼、フェンリルが丸くなっている。
世界は機械化に進み、息子ディオまでも自分と道を違えた。
まるで自分の今までのことを全否定されたかのように感じていたのだ。
議会で惑星機械化政策を告げられた時よりも打ちひしがれている。
「私は・・・私の夢は・・・間違っていたのか・・・?セルよ!」
培養層の中、形成されつつある緑色の人型生物に力なく語りかける。


この数十年後、カーズ博士と究極生物軍団と機械化へと進む世界との戦いが始まるのだった。
機械化した者【機士】と生物の頂点を目指す【騎士】の戦いが・・・

遥かなる未来、古代文明としか語られぬ失われた文明【エデン】の物語である。



オープニングだけで完!