1 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/10/30(金) 22:06:42 0
ダークファンタジースレ
落ちたので再建しました

前スレ
■ダークファンタジーTRPGスレ 2■
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1252208621/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/study/10454/

2 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2009/10/30(金) 23:06:00 O
落ちるの早いな

3 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/10/31(土) 03:56:22 P
ゆったりと近づく【鍵】の少女。
底の無い瞳に引き寄せられるように、ふらりと足が前に


ぽすん。

「………ぁ」

額に走った小さな衝撃の原因は、視界を塞ぐ大きな背中が物語る。
堂々と宣戦布告する獣人の背後で、ミアは叱られた子供のようにびくりと身を震わせた。
彼は“ゲーティア”に関わる者なのだ。“ミア”は別人と割り切り、逃げ出したって構わないというのに――

「……どうして?」

冷えた体を、軽々と水晶の腕が攫っていった。
穏やかとすら聞こえるシモンの言葉は彼女の混乱に拍車をかける。
死んじゃったんでしょ? 私と関わったせいなんでしょ?
なぜそんな晴れやかな顔をしているの?
彼は利害でしか結ばれなかったはずの男。――それだけだったはずなのに。

「……どうして、皆…“人間”を選ぶの?」

流れ弾であろう巨大な炎の塊が飛び来る。盾となった水晶の体に吹き散らされる。
その方向に目を向ければ、剣を止めて口を開こうとするのはあの女性。
魔に堕ちてなお、魔を刈る業から離れない女性。

「月…綺麗じゃ無いの…?」

それが“門”としての魂が惹かれる気持ちでしか無いと、薄々は感じていても。

「どうして………わからない……。私……何も無いから」

やりたいこと好きなもの欲しいもの守りたい者――何も無いのだ。
世界を命がけで守った“ゲーティア”の目には鮮やかに色づいて見えたに違いない景色は、ミアには全て遠く灰色の存在だった。
七年かけて世界を見て、結局何の思いも手に入らなかった。

「どうして残してくれなかったの…アルテミシアぁっ!」

こうして叫んでいる時点で、決して真に空ではありえない証拠ではないか――そんな簡単なことすら今は気づけず。
ミアは背の杖をゆっくりと抜き取った。
震える唇に呟きを乗せる。

「――知りたい」

刹那、普段なら自殺行為にしかならない大量の術式がミアの体を覆う。
ミアは自分の魂を探り、“ゲーティア”の記憶を――抱いた思いを知ろうとしていた。
心が忘れていても、死が間を隔てても、魂に刻まれた情報なら接触できる。

――ズキン。頭頂から鉄針を撃ち込まれるような酷い痛みを感じる。
即興で編み上げた術式は高度かつ非効率。瞬く間に魔力の過剰使用が体を蝕む。
ミアは辺りに満ちる瘴気を人間の使える魔力に“変換”、不足を補った。
それは無意識に行使した、門としての能力だった。

そして少しずつ見えて来たのは――

『私だけでいい。狂気に呑まれるのは私だけで良いの。貴女はどうか真っ白でいて――ミア』

(……え?)

4 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/10/31(土) 04:00:47 P
それは、アルテミシアが自らの命を失う寸前の心の呟き。
同時にいくつかの情報が流れ込んでくる。

地獄は、古の時代にアルテミシアが己の魂を切り開いて内に構築した疑似世界だということ。
非力な人間たちが繁栄できるよう、そこに魔の大軍勢を封じ込めたこと。
地獄を抱えた魂は隔離空間に封じられたこと。
アルテミシアの精神は“閂”として門に寄り添い、眠りについていたこと。
そうして安寧が訪れ――共通の敵を無くした人の世に内紛の火が生まれ、再び混迷が世界を覆ったこと。
――世界に絶望し、“この世ではないどこか”に救いを求めた人々の集合意識が地獄を求め始めたこと。

集合意識は、アルテミシアの魂を輪廻の道に引き戻した。
そして彼女の魂を受け継いだミアが生まれる。
集合意識は現世に降りて終焉の月を誘惑し、手足とした。
それを利用して貴女を捕縛し、魂の欠片を取り込んで“鍵”として完成した。

『閂だった私はミアの精神を上書きしてその肉体に召喚され、守護していた地獄の扉から隔離された。
可哀想なことをしたと思った――……それが、今は幸いね』

教団は末法の世を説き、アルテミシアに封印の解除を迫った。
首を横に振りつづける彼女に、教団は苦痛を与え続けた。
人を憎み、世界を恐れ、人間の世に執着心など持たぬよう。

『ギルのおかげで……踏みとどまれた……けれど、もう限界。
空に浮かぶ赤い月に誘われて、このままだと私は地獄を降臨させてしまう。
不思議。彼のいるこの世界を守りたい気持ちと、刷り込まれた世界への恐れが矛盾なく両立してしまうの。
好きと嫌いが同時に頭に浮かぶの。……いえ。
本当は世界が好きよ――なのに、歪んだ何かが思考の流れを捉えて離さない。
よくよく考えれば「好き」なのに、反射の叫びが「嫌い」になる。
きっとこれが狂気なのね。教団の思い通りになってしまったわ――
……ミア。貴女には、このような思いはさせない。
奴らに刻まれた恐怖ごと、私の思いは出来る限り空に帰しましょう。私の精神と共に。
貴女は何も持たない。……けど、きっと大丈夫。
貴女は真っ白だから――いくらでも色を塗れるわ。』

ミアは気づいた。
それがいつの間にか情報の再生ではなく、優しい呼びかけへと移り変わっていることに。

『……素敵な世界であるはずなの。頭では、わかっていたわ』

「……どうして」

『世界をお願いね――……』

*  *  *
 
――長い沈黙の後。

「……知りたい」

ミアは、もう一度小さく呟いた。

「まだ……見ていたい」

【鍵】を睨み、手を掲げる。
この場で戦う者たちは、己の体にわき出るように魔力が満ちていくのを感じるだろう。

その意識は既に空に浮かぶ赤い月を捉えていなかった。

5 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/11/01(日) 22:45:28 0
門との間にギルバートとシモン。
少女の姿をした鍵から見れば途方もない巨体が二つ並んでいる。
にも拘らず。
鍵は二人を見上げながらその目は完全に見下していた。
まるで地を這う虫けらを見るかのように。

>「そこから一歩でも進みたけりゃ、俺を倒してバラバラに引き裂いてからにしろってこった。
> 気をつけな、手負いの狼は喉首に噛み付いて死んでも離さねぇって言うぜ」
「負け犬が虚勢を張っても滑稽だな。
昔のお前なら口に出す前に攻撃を仕掛けていたはずだが?」
嘲笑うかのように応え、更に一歩踏み出したとき、ギルバートよりはやくシモンが動く。
ミアを背に乗せ両腕から緋色の槍を繰り出し、その先から閃光を放ったのだ。
その行動に鍵の形相が歪む。

「あの馬鹿の不手際のお陰で・・・!
合の刻は運命の糸の集約点。何が起こっても不思議ではないが・・・。」
ギリギリと歯軋りをしながら呟く。
思えば全てはシモンが基点となっていた。
魔法陣発動のために必要な尖塔を一つ崩された為に擬似的な地獄をヴィフティアに再現し切れていない。
お陰で魔の降りたものの中にも人間を保つものもいる。
挙句に聖処女の血を吸い完全復活を遂げるはずだったものが、それが出来ないでいる。
そして今、心臓を取り込んだままクリスタルと融合したシモンは己に牙を剥いたのだ。

「我が力のお零れを得て慢心したか!!」
咆哮と共に放たれた閃光を横薙ぎの拳で殴り飛ばす。
閃光はまるで飛沫のように飛び散り、周囲へと飛び散り、コクハやオルフェノーク、そして瓦礫に埋もれたヴェノキサスにも降り注ぐ。
咆哮は大気を震わせシモンとギルバートに衝撃波として襲い掛かる。

怒りの形相となった鍵は石畳を踏み砕きながら一歩一歩近づいていく。
ゆっくりとであるはずなのに、その接近を許したのは鍵の発する瘴気の為だろうか?
「お前の力など!我が力のほんの一部でしかない!
盾になる?黙って跪いておれ!!」
鍵の少女はシモンの前足を掴むと、無造作にねじ切った。
そのままシモンの背に乗るミアに視線を向ける。

「なんだこれは?お前はなぜ私を否定する!
私たちは合一し、世界が求めた地獄を生み出すために生まれたというのに!!
その証拠にお前には何も無いはずだ!
この世界に対する執着も!希望も!」
ここに来て始めて能動的に己を拒否し、その力を振るうミアに鍵の少女が怒声を浴びせる。


6 名前:ハスタ ◇BsVisfL7IQ[sage] 投稿日:2009/11/01(日) 22:45:47 0
>「お待たせしました。そしてご助勢感謝いたします。」
「それ程待っちゃいないけどな。さすがは聖騎士腕がいい。」

で、どうやって退散願おうか・・・と言うより早くその騎士が切りかかってやがる。
その剣先には・・・・・・
「ちっ!」

快音。
ルキフェルが避けたフィオナの剣はその軌道を途中で白い槍に妨げられていた。
それによって少年の首は飛ばずに済んでいる。

「つくづく外道な連中だな・・・!!ムカつく奴を思い出させてくれた礼だ、縊り殺してやる」
フィオナの剣を遮っていた槍の他、更に三本の槍が暴徒との間を遮るように地に突き立っている。
ルキフェルの哄笑をバックに槍を振り回して暴徒の一人が突っ込んでくる、が

「素人が勝てる訳ないだろが。数に物を言わせれば勝てるとでも?」
地に立つ槍の一本を根元から蹴りつける、両端に刃を持った槍はぐるりと旋回すると
突っ込んできた暴徒の無防備な首筋にその刃を突き立てた。
その隙にホルダーから3枚の符を取り出し、気を入れてゆく。

「三元鎮守!」
放った符は眼前で三角形の頂点となり、互いを青光で結び盾となる。
先ほど剣を止める為に槍は一本だけ遠い地点に投げてしまったが、三本もあれば十分。
「そこの聖騎士!アンタじゃ暴徒相手に殺すのは抵抗があるだろうからオレが殺るぞ?」

槍を手に持って突き、あるいは蹴って宙を舞わせ、薙ぐ。
合わせて六の刃を持つ三本の槍を同時に操り、符術の盾を以って
オレは暴徒の群れを押し返し始めた。

7 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/02(月) 10:02:56 0
闇の帳をたゆたっていた。レクストはどちらが天でどちらが地かも把握できす、ただ棒を飲んだように直立不動で浮遊する。
間断なく行使されているフィオナの治癒術式によって肉体こそ生を繋いではいるものの、魔剣の呪力は確実にレクストの命まで届いていた。

(こりゃ本格的にヤベぇかもな……意識ははっきりしてんのに目覚める気配が全くねぇ)

まるで、抜け落ちた魂のように。レクストは一寸先すら光なき空間で凝然と立ち尽くしていた。
小さな箱にでも閉じ込められた心持ちである。身体は動かず、外を見ることすら叶わない。

『……よう、《俺》。調子はどうだ?』

不意に呼びかける声が聞こえた。ぎょっとしてそちらに視線を這わす、反響するその声色は――紛れもなく、自分。
目の前に煙の如く出現したのは、やはり自分だった。但し、従士服は着ていないし、背丈も低い。年のころは12歳程だろうか。
――帝都に行く前の、自分。母親を喪う前の、自分。

「見りゃ分かんだろ?――死に掛けだ」
『っは、だろうな。情けねぇ』

自嘲するように、レクストとレクストは互いに互いを笑った。ひとしきり嘲笑して、レクストはレクストに言った。

「昔の俺とご対面か。走馬灯みたいなモンだとするなら……俺もう完璧に死んでね?臨終じゃね?」
『俺にしちゃわりかし的を得た指摘だな。《俺》の生命力はもう殆ど残ってない。文字通りの死に体だな』

魔剣の呪いは生命を直に蝕むものだったらしく、こればかりは如何な治癒術式とて防げるものではない。
死にたくなかったはずなのに、やらねばならないことが山積みなのに、呪いがそうさせるのか、レクストの内心に抗いは生まれない。

「しっかし、今際の際に出てくるしちゃ芸のない選択だぜ。どうせなら死んだ母さんとかが出てくるべきだろ。迎えにな!」
『死んだ人間に会えるわけねぇだろ?あくまで俺は《俺》の深層意識――まぁ、マジ死にするまでの暇潰し兼走馬灯だな!』

えらく調子っぱずれに、幼いレクストは言った。その口調は七年後と何も変わらない。変わらないように七年間、努力してきた。
楽天的な悦楽主義者というレクストの属性は、この暗澹の時代において自分を鼓舞するための唯一解だった。

「七年前か……昔は良かったなぁ、何の憂いも苦しみもなくて、ただ笑うだけで生きていられた」
『七年後の《俺》はそう思うだろ?でもな、七年前の俺も"昔は良かった"って思ってるんだぜ。十歳越えた辺りから家業に引っ張り出されたしな』

「あれ?なにそれ右肩下がりっぱなしじゃん俺の人生!」
『別に歳重ねて悪いことばっかってわけでもないだろ?身体はでかくなったし力も強くなった。何より、やりたいことだって叶えたろ』

庶民を護る、従士。ヴァフティアを飛び出してから七年、それだけを目標に駆け抜けてきた。
レクストが言い、レクストが答える。それは自問自答であり、忘れていたことへの再確認。

『悪かろうが辛かろうが今現在の自分を全否定すんな。今だから選べるカードだってあるはずだぜ?』

勿論このまま死んじまうこともカードのうちだ、と幼きレクストはそう付け加えた。全てを諦め、楽になること。
レクストを覆うように蝕む魔剣の呪いに身を委ねれば、それは簡単に達成されるだろう。精神まで蝕まれていないのは、むしろ暁光だった。
否、抗うように差し込む光は、フィオナの治癒術式の成果だろうか――

「決まってる。俺が道を選ぶときにはな、必ず他の選択肢は潰しておくんだ。後戻りできない、後戻り『しない』ようにな!」

光によって呪いの勢いが若干弱まる。凝り固まるように拘束する呪いの靄をほぼ気合で振りぬき、レクストは背中に手を回す。
そこにあるのは間違いなくバイアネット。レクストが従士である証。残しておいた唯一の選択肢。

「『庶民を護る』――七年前から俺が見てるのは、この道だけだ。そこにぶれも迷いもねぇ――ッ!!」

抜き放ったバイアネットをそのまま砲身展開し、見果てぬ闇の帳へ向けて、確実に一回、引き金を引いた。
鋼の咆哮は極彩色の魔力光を伴なって顕現し、黒の靄を切り裂くように矢の如く飛んでいく。
光が描いたその軌跡を起点にして、レクストを閉じ込めていた昏き空間が崩壊していく。同時に、身体に活力が戻り始めた。

『わかってんじゃねぇか――なら行こうぜ、俺達の在るべき大地へ!!』
崩壊した空間のひび割れから眩い光が噴出し、レクストを包んでいく。光の帳が彼に吸い込まれるようにして、収まったとき。
レクスト=リフレクティアは、自分の身体に帰還した。

8 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/02(月) 11:17:11 0
目が覚めたらそこは戦場だった。跳ねるように起き上がったレクストに、周囲の市民達が一斉に声を挙げた。

「おお、目が覚めたか!」
「お?お?なんだこれ、どういう状況?」

目を白黒させながらレクストは辺りを見回す。剣を振るったばかりのフィオナと、なにやら巨大な十字架を掲げた少年。
二人が対峙する先に立つのは、痩身長躯の眼鏡男。その衣服にはやはり『月』の紋章があった。

(新手――!!しかもただの教団員じゃねえな)

市民が掻い摘んで現在の状況を説明する。レクストが魔剣で刺された傷を、供物の少女の血で癒したこと。
十字架の少年が空から降ってきたこと。対峙する眼鏡の男が守備隊を一瞬で屠り、我々の前に立ちはだかったこと。
と、箒に括られているはずの元黒衣が自由になっていることに気付いた。

「おいおいありがたいぜ元黒衣。全部終わったら一杯奢らせろよ――それでチャラにしようぜ」
「ふ、それまで互いに生きていたらな……無論、私は生き残る所存だが」
「言うじゃねぇか。なら俺の生存は俺に任せろ。――必ず奢りに行ってやるよ、っと!」

勢いをつけて跳ね起きると、身体の各所を回し、伸ばして挙動を確認。澱みはない。問題もない。
いざ参戦しようと対峙する連中のほうへ視線を向けると、十字架使いが十字架と符術を用いて暴徒と化した市民を屠っていた。

「待て、殺すなよ!そいつらは『まだ』人間なんだ、混乱さえ解けばやり直せる!!」

もちろん、十字架使いを非難するいわれはなにもない。そうしなければ彼が殺される。正当防衛だ。
それでも、だからこそ、レクストは駆け、彼等の間に割って入るようにして暴徒達を押さえ込んだ。

槍や剣が四肢に突き刺さるが、流血もそこそこに高速で傷が塞がり始める。どうやらフィオナの治癒術は呪いによって停滞していただけで、
その効力自体は今もレクストの身体に内在しているらしい。つまりは、幾回分もの治癒術式を身体中に溜め込んでいる状態なのだった。

「……つっても、流石に痛むぜこりゃあ……でもよ……死ぬよかマシで、死なせるよかずっとマシだ」

魔剣にさえ気をつければそうそう死なない身体である。少なくとも注ぎ込まれた治癒術以上のダメージを受けなければ。
だからこそ、暴徒に対する交渉においては最適な身体だ。無傷で無殺を貫けるのだから。

「俺はレクスト=リフレクティア。庶民を護る従士様だ。十字架、こいつらは俺に任せろ。あの眼鏡野朗に専念してくれ」

刃をシースに納めたままのバイアネットを振りぬいて、壁を作るように打ち下ろす。

「騎士の姉ちゃん、待たせたな。おかげ助かったし、今からもっと助かる」

言って、レクストは踏み出した。傷をものともしない気迫に、暴徒達が総じて一歩退がる。

(出来ればこいつら押さえ込んで、さっさと揺り篭通りに行きてぇけど……そう簡単に通してくれねぇか)
フィオナ達が対峙する眼鏡の幹部を見遣る。その身から溢れるのは魔力というより瘴気。僧侶と同じ、異能の眷属。

(ありゃ幹部クラス、だよな……くそ、こんなとこでこんな奴、最悪な組み合わせだ)
目を背けるようにして暴徒達を見据える。何れにせよ、ここを押さえたらあちらにも加勢が必要だろう。

「さて、俺もそんなに時間があるわけじゃあない。手短にはじめようぜ――話し合いをな!」
うろたえる暴徒達に、レクストはつとめて尊大にそう言い放った。


【レクスト復帰。ハスタと暴徒の間に割り込み暴徒の説得を申し出る】
【フィオナのかけまくった治癒術式が呪いで止められてた分身体に溜まってるので、素の回復力が上昇している状態】

9 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/03(火) 03:02:42 0
>>6
フィオナの眼前にルキフェルが音もなく現れる。
倒れた暴徒の剣を奪いその首元を狙うもそれは阻まれた。
「では、さようなら。おや…邪魔が入りましたか。」

>「つくづく外道な連中だな・・・!!ムカつく奴を思い出させてくれた礼だ、縊り殺してやる」

1人の戦士が現れ暴徒達へ向っていく。
必死の形相で喰らい付く暴徒を難なく撃破するその姿に
満足そうに微笑む。
「それでいいのです。生き残る為には他者を斬り捨てる。
それが人間というもの。いや、生きる者全ての理ですからねぇ。
貴方は正しい。そして、用済みのゴミは処分します。」
切り裂かれた暴徒の首が吹き飛ぶ。
ルキフェルの右腕が鞭のようにしなり、そして肉片を空へ巻き上げる。
何が起こったのかは目視する事は出来ないが。

「「た、助けてくれ!お、俺は…死にたくねぇ!!」」
暴徒の中で正気に目覚めた一部の者達が懇願するように尻餅を付き叫ぶ。
レクストの言葉が彼らの正気を取り戻させたのかもしれない。
ルキフェルは落胆したような素振りを見せ、男の背後へ回り込む。

「貴方にはガッカリしました。しかし、最後のチャンスをあげましょう。」
男の胸を手で突き破り禍々しい”闇”を植え込む。
男は首を掻き毟りながら血反吐を吐き、そして目を真っ赤に染めた。
「ウギャァァァァァァァァ」
歓喜の声と共に暴徒の体を突き破り蝿のような姿をした魔物へと変貌した。

「少しばかり、私の力を分け与えました。まぁ、”月の幹部”としての
力の範疇は超えてしまいましたがね。」
魔物をハスタへ差し向けると今度はレクストという名前の戦士を見る。

「なるほど…傷が回復していく。これは面白い。
しかし、どれだけ耐えられるか。」

周囲に砂埃を撒き散らし、レクストの元へ瞬時に迫る。
難なくレクストの真横で回り込むと右手を振り上げ手刀を
繰り出す。
鎧を通り越し肉を捲り上げるようなかつてない威力の連撃が
レクストを襲う。

「あぁ、貴方もどうです?お仲間に入られますか?」

レクストを攻撃しているとはいえ、その目はフィオナをも
捉えて放さないでいる。




10 名前:オルフェーノク ◆O6C0C9pKcx1S [sage] 投稿日:2009/11/03(火) 17:39:21 0
「戯れが過ぎたか…」
コクハの休戦の誘いに返答することなく、オルフェーノクはその歩を進める
その向かう先は、正しく人外たちの戦闘の真っただ中であった
他には目もくれず、真っ直ぐにゆっくりと歩いて行く

「我は、幾星霜もの年月を生き永らえてきた
 本来の肉体は朽ち果て、記憶までも虚無の彼方に失せた
 魂のみの虚ろな存在として、動くことも考えることも出来ず、ただ生き永らえてきた
 古代の民より与えられたこの傀儡を得て、動く体と考える脳を手に入れた
 我は今問う…
 我が何者で、何のために生まれてきた存在なのかを…」
放たれた閃光がオルフェーノクにも直撃するが、それを意に介する様子はない
尚も歩を進め、赤い月を眼前に捉えると両腕を広げて見上げた
白銀のボディには、赤い月とその輝きが鮮やかに美しく映し出されている
すると、赤い蛍のようなマナがオルフェーノクの全身から湧き上がり始めた

「あれが彼の赤い月…
 かつて、我に傀儡の体を与えた魔法文明の民が予言した終焉…
 その力、今こそ我が悲願のために!」
その場に跪くと、鎧の胸部が突如展開を始めた
頭部は後ろに折れ、胸部が完全に開き切ると内部の魔法機械システムが露わになった
その中央には、一際明るく輝く巨大な魔石が秘められていた
魔石は赤い月に共鳴するように、その輝きを青から赤へと変えていった


11 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/11/03(火) 19:03:48 0
>>10
戯れか・・・
肩をすくめ、巨大なロボットが歩いていく先を見つめた。
10代の位の全裸の少女が少女を抱えている黒装束の男に向かって何かをつぶやいている。
何を言っているかはよく分からないが、「我が力のお零れを得て慢心したか」という言葉だけははっきりと聞こえてきた。
それと同時に無数の光の弾がこちらや巨大なロボットに向かってくる。
巨大なロボットは相当ぶ厚い装甲でもあるのかびくともしないが、こちらはそうではない。
羽を起用に動かし、右に左に回避すると、巨大なロボットが突然歩みをとめた。
見ると、胴体の部分が二つに割れ、頭が後方に倒れている。
内部には機械が詰め込まれており、その隙間から青い光が見えた。
あれが動力部らしい。
いったい、何をするつもりなのか?
ロボットの意図することが分からず首を傾げるしかなかった。


12 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/03(火) 20:50:50 0
ロボットとか言っちゃダメだろおい……

13 名前:コクハ ◆SmH1iQ.5b2 [sage] 投稿日:2009/11/03(火) 21:54:49 0
>>11
訂正
× ロボット
○ 鎧

14 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/03(火) 22:26:53 0
巨大なロボットwww

15 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/04(水) 21:46:44 0
保守

16 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 19:27:10 0
保守

17 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/11/06(金) 03:39:46 0
駆ける足は軽く踏み込みは重く。
暴徒達を横目にルキフェルとの間合いを一瞬で殺し、今まで幾度と振るってきた剣は会心の一振りをもって迫る。
しかし刃圏へと捉えた男は気負う様子も無く眼鏡を拭いている。

「お姉ちゃん!!」
響く悲鳴。ルキフェルの傍らにはフィオナを姉と慕う孤児の男の子。
「イル君っ!?」
ぞくり、とフィオナの背筋が凍る。描く剣筋では諸共両断するのは間違いない。
体を捻り、腕を突っ張らせ何とか逸らそうとするが勢いのついた剣は無情にもイルへと吸い込まれていく。

――ガキンッ
後僅かという所で投げ放たれた白い槍に剣が弾かれ、その軌道は無人の地面へと叩き込まれ甲高い音を響かせた。
(助かった……)
安堵するのもそこそこに再び間合いを開けルキフェルを睨む。
幻術の類かと疑ったが魔術を使った気配は無かった。
どういう手段を使ったのか不明だが捕らえられているのは間違いなく本物のイルなのだろう。

『どうしましたか?…あぁ、これは私の玩具です。
気になさらず。』
嘲る様なルキフェルの挑発。それに無言で返すとフィオナは盾を捨てる。
左足を前に出しスタンスを大きくとった半身になると、切っ先をルキフェルへと向け、剣を顔の横まで持ち上げる。
相手の行動の後の先を取る"オクス"と呼ばれる騎士剣技の型の一つ。
僅かでも隙を見せれば即座に攻撃に移るという意思表示。

しかし膠着した状況は暴徒達の行動を促した。
一時は希望を見出しかに思えた市民達もこちらが手詰まりと見るや、包囲の輪を狭め武器を手に襲い掛かる。
「それ以上動けば貴方達から――」
『素人が勝てる訳ないだろが。数に物を言わせれば勝てるとでも?』
フィオナの静止を遮る様にハスタの声が被せられると、槍と符術を駆使して暴徒達を薙ぎ倒していく。

『そこの聖騎士!アンタじゃ暴徒相手に殺すのは抵抗があるだろうからオレが殺るぞ?』
正当防衛とはいえ殺す気満々である。
「そ、そこを昏倒くらいでなんとかっ!」
ルキフェルへの狙いは外さずにフィオナも無茶な注文を返す。
その声が届いたのかは判らないが灰色の外套を翻しハスタは暴徒達を押し返し始めた。

18 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/11/06(金) 03:44:14 0
ハスタが三槍六刃の武器と符術の青い光を閃かせ暴徒を打ち倒す。
何名か死者は出ているようだがそれでも対峙した者全てを屠っているというわけでは無さそうだ。

『待て、殺すなよ!そいつらは『まだ』人間なんだ、混乱さえ解けばやり直せる!!』
力強い声と共にレクストが戦線へと復帰。
幾度となく注いだ"治癒"の効果かその身に刃を突き立てられても即座に傷を復元しているようだ。
これも聖女の血のなせる奇跡なのか思わぬ功名である。

暴徒の説得をレクストへ任せたハスタがこちらに加わり数の上では二対一だが相手は人質を捕っている。
イルをなんとか救出しないことには攻勢へ転じることは出来ない。

「「た、助けてくれ!お、俺は…死にたくねぇ!!」」
レクストの交渉が功を奏したのか一人また一人とルキフェルへと縋る。

『貴方にはガッカリしました。しかし、最後のチャンスをあげましょう。』
心底落胆したかのように呟くと貫き手で懇願する男の胸を突き徹すルキフェル。
直後、男は絶望とも歓喜ともとれる絶叫を上げ巨大な蝿の魔物へと変貌しハスタへと襲い掛かった。

次いで標的をレクストへと定めたルキフェルは瞬時に移動を終えると手刀を打ち下ろす。
攻撃の手は苛烈さを増す一方だ。
右手はレクストを打ち据え、左手はイルを捕らえている。

(チャンスは今しかないっ)
此方へ視線を配っているのは判っているがこのまま隙を伺っていても劣勢になるばかりだ。
「主よっ!不浄を裁く光を我が剣に!」
"聖剣"の光を宿した刃を構え猛然とルキフェルへと突撃するフィオナ。
ルキフェルはイルを此方へと差し出してくる。

「それを――」
寸前で身を縮め続く一歩で体を捻り剣を振り上げる。

「―――待ってましたっ!」
イルごと突き出された腕をかわし、振り上げた剣から片手を離しルキフェルの手首を掴んだ。
そのまま見た目から想像できない豪腕で引き寄せると剣の柄をルキフェルへと叩きつける。
"聖剣"の奇跡はフェイク。あくまで狙いはイルの奪還である。

体勢を崩したルキフェルからイルを手繰り寄せ胸に?き抱くフィオナ。
ルキフェルへと剣を突き付け警戒しつつ、自警団達へとイルを預けるとレクストへと駆け寄る。
レクストを背にルキフェルと対峙しながら小声で話しかける。

「レクストさん此処で戦っても戦況は覆せません。
魔を前に退くのは業腹ですけど一旦退いて体勢を立て直さないと、最悪全員魔物にされます。
私達三人であの男"ルキフェル"を引き付けて、その間に何処か拠点になりそうな所に他の人たちを逃がしましょう。
神殿へ行ければ良いのですけど此処からだと遠すぎます。何処か良い場所ありませんか?」

19 名前:コクハ ◇SmH1iQ.5b2の代理投稿[sage] 投稿日:2009/11/06(金) 23:35:32 0
巨大な鎧が動きを停止してからしばし経った。
鎧の中央にあるクリスタルから青色の成分が抜けていき、
それと言われ変わるように赤色の成分が増えていく。
これを見てるのも悪くない。
周りは戦闘中なのを気にもせず、地面に座り込んだ。
羽が地面に触れる音がする。
R:0,G:0,B:255
R:1,G:0,B:254
R:2,G:0,B:253
R:3,G:0,B:252

   :
R:128,G:0,B:128
赤の成分と青の成分がつりあったところで立ち上がった。
どうも退屈だ。
クリスタルでも壊して、スクラップにでもしてしまおうかと思ったが、
動けない相手を攻撃するのも趣が悪い。
地面をトンと蹴り、鍵と門がいる方向とは正反対の方角へ飛んで行った。


空に相変わらず赤い目玉が浮かんでいる。
前見たときと一緒だ。
外気が気持ちいい。
このまま飛んでいたいと思ったが、声が邪魔をした。
>「レクストさん此処で戦っても戦況は覆せません。
>魔を前に退くのは業腹ですけど一旦退いて体勢を立て直さないと、最悪全員魔物にされます。
>私達三人であの男"ルキフェル"を引き付けて、その間に何処か拠点になりそうな所に他の人たちを逃がしましょう。
>神殿へ行ければ良いのですけど此処からだと遠すぎます。何処か良い場所ありませんか?」
声がした方を見ると、無数の暴徒達と3人の人間が対峙していた。
3人の人間のうち一人は聖騎士で、子供をその手に抱えている。
残りは槍をもった人間と銃剣を持った人間がいた。
対する暴徒達言うと混乱しているものとおびえているものに分かれていた。
おびえているものの戦闘には魔物がいて、その近くには男がいる。
その男は銃剣を持った人間に接近し、手刀を繰り出している。
数の上では3人の人間のほうが圧倒的に不利だ。

戦いは対等なものこそ美しい。
今目の前で繰り広げられている光景は誠に持って趣にかけている。

「助太刀いたす!」
手に持っている剣に光を集め、最前線にいる魔物に向かって空中から斬りかかった。

20 名前:コクハ ◆b9hCaqglWQ [sage] 投稿日:2009/11/07(土) 01:45:46 0
だが、ふと思った。
私は魔物だ。
魔物が魔物を切るというのも裏切っているみたいで気分が悪い。
それに聖騎士たちの人数は3人。
暴徒達は使い物にならないと決まっているから、事実上一人で相手にしてることになる。
暴徒が返信した魔物もしょせんは雑魚だ。
おそらく一発で沈む。
だとすると不利なのはあの男のほうだ。

とはいえ、行動は変えられない。

「狙う対象を間違えた。魔物の君よ。死にたくなければよけろ!」
あらん限りの声を出し、対象がよけることを祈るほかなかった。


21 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/07(土) 01:57:44 0
トリップが違う。騙りですな

22 名前:コクハ ◆b9hCaqglWQ [sage] 投稿日:2009/11/07(土) 01:58:50 0
追記:トリップをばらしてしまったので変えます。


23 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/07(土) 02:04:12 O
都合よく規制が解除されたんだな

24 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/07(土) 02:11:35 0
お前とりあえず避難所来い。なな板のほうでいいから

25 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/11/07(土) 16:55:16 0
>8>9>17>18
>『待て、殺すなよ!そいつらは『まだ』人間なんだ、混乱さえ解けばやり直せる!!』
>「そ、そこを昏倒くらいでなんとかっ!」
群がる群衆の足元を薙ぎ、浮いた胴体を防御の符と蹴り足で押し退ける。
躊躇なく殺意を持って襲い掛かってくる相手には相応に刃を見舞う。
そうして暴徒達を押し返す最中に、咎めるような二人分の声。

つくづく甘すぎる、そう言い返そうとした所に更に復活した男の方が告げる。
>「俺はレクスト=リフレクティア。庶民を護る従士様だ。十字架、こいつらは俺に任せろ。あの眼鏡野朗に専念してくれ」
>「少しばかり、私の力を分け与えました。まぁ、”月の幹部”としての力の範疇は超えてしまいましたがね。」

そして、ソレに答えるより先に眼前の暴徒の一人が凄まじい変貌を遂げる。
眼前に立ち塞がった<従士様>の脇をすり抜けるようにして走り、蝿の魔物が体勢を整えるより早く
暴徒も聖騎士もいない方向へ切り込んで追い立てる。
「さすがにそこの親玉と殺りあう余裕もそんなになさそうだ・・・し、そっちの暴徒も任せるが
 油断するなよ?己の生命の前で他人なんて塵ほども障害にされない。」

背後でルキフェルと呼ばれた男や聖騎士が戦う物音が聞こえるが、こっちも油断はできない。
元が所詮一般人であるとしても、魔物と化した事によるパワーは人間を容易く凌駕する。
防御の符は三枚共がその力の前に打ち砕かれ、宙を飛ぶ翅が鬱陶しい。

三本の槍のうち二つを十字に組み投擲、手裏剣と化した槍がホバリングする蝿に向けて飛翔・・・・・・が、あっさりと回避。
不気味な牙をガシャガシャと鳴らしてこちらを嘲笑うように一直線に飛来。
残る槍を水平に保持して牙を辛うじて防ぐ・・・・・・が、じわじわと石畳にめり込んだ足が押されてゆく。
「やっぱり単純な力じゃ、敵わないよな・・・・・・でもな。」

ふ、と若干力を抜いて右手側に槍を引いて逸らす。当然前進せんとしていた蝿の体は無様に自分の力で転がる羽目に。
そこに持った槍の先端を振りぬくと、それに追従するように4本の白い刃が蝿の体に突き刺さる。
追撃に残った槍を、走りこんで蝿の頭部目掛けて突き刺す。
合わせて5箇所の傷から緑色の体液が吹き出し、街路に悪臭を撒き散らす。
「単純に自分の獲物を投げ放す訳が無い事ぐらい、その少ない頭じゃ分からなかったか。」

魔力によってリンクされた槍の刃が空中で手裏剣の状態から分解し、手元の槍の動きに引かれて突き刺さったという訳だ。
蝿の死骸から槍を引き抜き、結合して三本の槍に戻すと背を向けて歩く。
向かう先では黒い翼の魔物?が急降下していく光景。走り出そうとした瞬間後ろから圧力。
「まだ生きて・・・?!」

咄嗟に二本の槍を斜に地に突き立てて、死に掛けの蝿の突撃を地面で受け止めさせ
足元に潜り込むようにして下から槍で突き刺す・・・そして、全力で前方へ力を込める!
「ふっ・・・き飛べぇぇぇぇぇ!!!」
突撃のベクトルを逸らされた瀕死の魔物は、発条のような勢いで黒翼の魔物へとすっとんで行く。


【蝿の魔物を瀕死にすると、最後の体当たりを受け流してコクハ&ルキフェル目掛けてぶっ飛ばす】

26 名前:アラバス ◆hBr/9.Ve8Q [sage] 投稿日:2009/11/07(土) 20:58:19 0
名前:アラバス・バラバス
年齢:?歳(外見年齢80代後半)
性別:男
種族:人間
体型:ヨボヨボのガリガリ→筋骨隆々
服装:杖を突いて歩き、上半身裸、下半身にズボンのみ
能力:外見に似合わず、動きが俊敏で身体能力に優れ、暗器の扱いも得意
    物理攻撃や魔法すら耐える鋼の肉体を持つ巨漢へと変身する
所持品:杖
簡易説明:一見すると、杖を突いて歩くヨボヨボガリガリの乞食爺さんにしか見えない
       だが、その正体は裏世界では名の知れた殺し屋で、本名や経歴は一切不明
       アラバス・バラバスも適当に名乗っているだけの偽名に過ぎない

27 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 02:43:51 0
困惑する暴徒達へ説得を開始する。
レクストは両腕を広げた。右手には鞘に納めたままのバイアネットを、左手には何も持たずに指の先まで力を込める。
身振り手振りを大げさに挙動するのは相手に自分の言葉を強く印象付ける、交渉術の基礎にして奥義だ。

「まず聞かせてくれ。アンタ達はなんで俺達を襲う?――それはあの眼鏡の『月』と関係あるのか?」
「……君を殺せば、家族の安全を保証するといわれた。いつ魔物に襲われるかも解らないこの街で家族を護るには、それしかなかったんだ」

レクストの問いに、彼に魔剣を突き立てた市民が重々しく口を開いた。
助かったとはいえ、レクストを殺そうとした男である。罪の意識はあるのか、目を合わせようとしない。

男は訥々と語り始めた。あの眼鏡の男がヴァフティアで発生した魔物を一瞬で屠り去ったこと。
レクスト達が魔の眷属だと教えられ、彼等を殺せば家族に危険が及ばないようにしてくれると、武器を与えられたこと。

「本当にすまないと思ってる!でも……俺達はそれ以外に家族を魔から護る方法を知らない!だから――」

暴徒は頬に涙の川をつくりながら陳謝する。そうして、再び武器をレクストに向けて構えた。
聖人の血によって破壊された魔剣はもうないが、新たに取り出した普通の剣の切っ先はレクストの喉元を捉えている。

「赦してくれ――!」
悲痛な叫びは突進を伴なってレクストへと肉迫した。対するレクストは、躱す素振りさえみせず、あろうことか一歩踏み出した。
肉を貫き骨を穿つ鈍い音。地面には赤の雫が雨のように落ちていく。暴徒の突き出した長剣は、その先端をレクストの肩口へと埋めていた。

「な、何を……!?」

がしり、と自らに突き刺さった刃の根元を握り、さらに一歩。刀身はさらにレクストの体内を進み、ついには彼の肩を貫通して背面へ飛び出した。
血に濡れた剣の先は、もう動かない。傷口から溢れた血液が雫となって刃を伝い暴徒の手元から地面へ血溜まりを作る。

「……アンタ達は、よ。その言葉を信じて、今こうして俺を殺してるんだよな。
 ここで俺や俺の仲間に反撃を受けて死んじまったとしても、家族だけは護るつもりで殺しにきたんだよな。オーケー、それなら話は簡単だ」

レクストは近くなった彼我の距離を埋めるように、両手を前に出し、暴徒の両肩をがっちりと掴んで、そして言った。

「――今から俺を信じろ。アンタの家族は、俺が絶対護るから……あの眼鏡野朗じゃない、俺を信じてくれ!」

面食らったのは暴徒のほうだった。一体この青年は何を言っているのか。自分を傷つけた、それも殺しかけた相手に信じろなどと。
「そ、そんなこと……できるわけがないだろう!やっと掴んだ希望なんだぞ!!そう簡単に諦められるわけが――」
「うるせぇ!!」

遮るようにレクストは怒号を挙げた。呼応するようにこぽ、と血塊が口から吐き出されて吐瀉音を立てるが、彼は目を逸らさない。
血の垂れた口端をぐっと吊り上げ、無理やりに強く笑顔を作って、搾り出すように言う。

「……ま、も、ら、せ、ろ――!!」
「な、な――?」
「アンタ等あいつを信じれたんだろ!?家族を護るためならなんだってやる覚悟で、あの眼鏡野朗を信じれたんだろ!
 なら何故俺を信じない!!奴と俺の違いはなんだ?家族の為なら特攻して死んでもいいってのか?ふざけんじゃねぇ。ふざけんじゃねぇぞ……!」

握り締めた剣がミシミシと不吉な音を立て始める。やがてそれは亀裂という現象として刀身に現れ、

「俺が両方護ってやる!アンタ達も、その家族も!だから、俺がアンタを護るのを、――邪魔するな!!」

鋼鉄で鍛造されているはずの長剣が、名伏しがたき音を立てて砕け散った。
ふらりと倒れそうになるのを気力で踏み止め、レクストは身体に埋まった剣の欠片を引き抜き、それもまた、手の中で握り潰す。
拉げた金属片と成り果てたそれが地面に乾いた音を立てる頃には、彼の肩口にぼっかりと空いた刺創は既に治癒した肉で塞がっていた。

「あ……ああ…………!!」

暴徒は柄だけとなった長剣を取り落とし、さながら前後不覚の様相を呈しながら、その場にへたり込んだ。
涙を止め処なく溢れさせながら、仁王立ちのレクストを見上げ、震える声で、呟いた。

「た、助けてくれ……!お、俺は――死にたくねぇ。家族と一緒に、元の家に、帰りたい……!」

28 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 03:24:47 0
暴徒が、初めて自分の命を渇望した。それは同時に戦意の喪失であり、レクストへの懇願でもあった。
一番槍を切った男が陥落したことで最早暴徒達は暴徒でなくなり、烏合の衆は次々と剣や槍を手放していく。

「護ってくれ……こんなやり方じゃなく、誰も傷付かない方法があるなら、俺に君を信じさせてくれ……!」
「――任せろよ、この糞ったれた地獄絵図を、俺色に染め替えてやるぜ!」

そうしてレクストはへたり込んだままの男に手を差し伸べた。
男は躊躇しながらもその手を強く掴み、立ち上がるようにひっぱり挙げられる。

「頼ん――だ?」
男が何かを言いかけて、しかし言い切ることが出来なかった。自分の胸から黒い何かが生えていることに気付いたからだ。

「あ……?」
レクストは思考が停止していた。突然男の背後に『眼鏡野朗』が現れ、その手刀で男の胸を突き破ったのを見たからだ。

「貴方にはガッカリしました。しかし、最後のチャンスをあげましょう。」
冒涜的なまでに昏い声色が何かを呟き、"魔力ではない何か"を空いた胸の穴に注入していく。
男は絶望的なまでに赫い声色の悲鳴を挙げ、その姿を人外のものへと変貌させていく。

出来上がったのは、巨大な蠅だった。

「少しばかり、私の力を分け与えました。まぁ、”月の幹部”としての力の範疇は超えてしまいましたがね。」
レクストが何か思うより先に、灰色の風が脇を駆け抜ける。白の刃を握ったそれは蠅の魔物へと踏み込み、切り結び始めた。

「さすがにそこの親玉と殺りあう余裕もそんなになさそうだ・・・し、そっちの暴徒も任せるが
 油断するなよ?己の生命の前で他人なんて塵ほども障害にされない。」

護られたのだ。わかっている。そんなことは、等々承知だ。
だが。

「――てめえええええええええええええええええ!!!」

バイアネットではなかった。ただ純粋に握った拳が、目の前の外道を打ち倒せと吼える。
踏み込み脚も、引き絞る腕も、屈伸を力に変える関節各部も、赫怒と怨嗟を燃料に、付和雷同に頷いた。

だが、当たらない。感情のままに振りぬいた拳は、しかし敵を捉えない。
視界から消えるように動いた眼鏡の男はレクストの真横に回りこみ、その手刀を打ち下ろした。

「――がぁあああッ!!」
無手のはずの一撃は、魔導装甲を難なく切り裂き、レクストの背を穿った。抉り取られた肉体が、しかし間隙をおかず再生する。

「なるほど…傷が回復していく。これは面白い。しかし、どれだけ耐えられるか。」
一撃ごとに空間ごと削り取るような威力は、確実にレクストの余剰回復術式を奪い去っていく。

「あぁ、貴方もどうです?お仲間に入られますか?」
その言葉がレクストの琴線に触れた。護れるはずだった命、目の前で魔物に変えられた元暴徒。
記憶の中でそれが母親の姿と重なり、レクストのトサカが沸騰を始める。

「約束、したんだ……!必ず護るって……!!それなのにっ!てめえは!!」

怒りのあまり獲物を鞘から抜き放つことも忘れたレクストが力任せの攻勢に出ようと踏み込みかけたとき、
その前に飛び出してくる陰があった。レクストと眼鏡の男の間に立つように加勢するのはフィオナ。

「レクストさん此処で戦っても戦況は覆せません。
 魔を前に退くのは業腹ですけど一旦退いて体勢を立て直さないと、最悪全員魔物にされます。
 私達三人であの男"ルキフェル"を引き付けて、その間に何処か拠点になりそうな所に他の人たちを逃がしましょう。
 神殿へ行ければ良いのですけど此処からだと遠すぎます。何処か良い場所ありませんか?」

レクストの知らない間に人質の救出・確保を一人でやってのけた神殿騎士が、彼を背にしながら提言する。

29 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 04:48:19 0
(――!!……そうだ、熱くなってどうする。突っ込んでってどうにかなる敵じゃねぇ!)

戦闘のプロたる従士が情けない、と教導院の教官ならば叱咤しただろう。
あろうことか、仲間に身を挺して止められるまで彼我の実力差に気付かないとは。

(状況が悪すぎる……相応の準備をもって迎え撃つぐらいのつもりでいかねぇと)

「ああ、それなら……」

フィオナへ返答しかけて、思案する。どこへ匿おうか。
ここは東区の小広場。確かに神殿には遠すぎるし、近くに目立った建物もない。
ならば、魔物に対抗できる戦力のある場所へ避難させるのが最善だろう。この場所の近くでそれを満たしているのは――

「――北区の『揺り篭通り』!居住区のここなら祭に乗じた犯罪対策のために守備隊が増員されてたはずだ!」

レクストは背後を振り向き、まんじりともせず観戦していた元黒衣の姿を認めると、眼鏡の男に聴こえないくらいの声量で指示を出す。
「お前戦えるだろ?守備隊の連中とお前とで、揺り篭通りまでの血路を拓いてくれ!ここの連中を逃がす!」

「私に先陣を切らせるつもりか?」

「報酬は後で言い値をくれてやる。だから、頼むぜ……!」

返事を聞くより先に、巨大な羽音が空から響いた。どうやら上空から新たな魔物が降りてきている。
新手から目を離さないようにレクストは踵を返すとフィオナの隣に歩み出る。

「悪いな、俺としたことが柄にもなくトサカに来ちまってたみたいだ。もう大丈夫。大丈夫だとも――稼ぐぜ時間!」

踏み込みは一瞬。震脚は裂帛。踏み出すと同時にレクストはブーツに刻み込んである術式陣を発動させる。
術式は『噴射』。靴底の魔法陣は注がれた魔力を推進力に変換し、ブーストさせることで跳躍を超えた機動を可能にする。
彼がヴァフティアに来る際遭遇した賊の集団との戦いで使った移動術も、この『噴射』を利用したものだ。

踏み込んだ瞬間、彼の姿がその場の全員の視界から消え失せる。

誰もが彼を見失った刹那、風と石畳を割る音と共に眼鏡の男の傍にレクストが姿を現した。

石の地面に突き立てたバイアネットはブレーキ代わり。つんのめる勢いを利用して体勢を変え敵を捉える。
『噴射』によって得た推進力は容易にレクストを眼鏡の男の背後まで運び、さらに攻撃する隙まで用意してくれる。

「てめえが俺より速く動けるなら!小細工しまくってそれを上回ってやるぜ!!」

右足を鞭のようにしならせ、眼鏡の男の脇腹目がけて渾身の回し蹴りを叩き込む。
そして、それだけでは終わらない。男の腹のめり込んだ蹴り足を包むブーツの噴射術式にさらに火を入れる。

「俺流奥義、"ジェット蹴り"――ブっ飛べクソ野朗……!」

大人一人を軽々跳ばす噴射力が、蹴りの威力に追加され、眼鏡の男をそのまま吹っ飛ばすように圧して行く。
上空からの魔物は何故か眼鏡の男を斬りつけようとしているが、敵であることに違いない以上は考慮しない。

十字架使いが受け流した蠅型魔物の突進と交差するように、レクストは渾身の力で蹴り抜いた。


【行動:市民を『揺り篭通り』へ避難させるための時間稼ぎ。避難が完了次第自分達も撤退します】
【状況:靴に仕込んだ噴射術式でルキフェルの背後まで跳び、噴射の推進力を利用した蹴りで蠅とかち合うように蹴り飛ばす】

30 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 11:39:33 O
>>18
玩具を片手にレクストを強襲するルキフェル。
その前に再びフィオナが現れ、聖剣を突き出した。
「主よっ!不浄を裁く光を我が剣に!」
フィオナの叫び声を嘲笑うように首を回すルキフェル。
「では、その剣でこの子を殺しますか?」
玩具である子供を前に差し出す。
しかし、フィオナはその子を切り裂く事はなかった。
>「それを――」
寸前で身を縮め続く一歩で体を捻り剣を振り上げる。
>「―――待ってましたっ!」

ルキフェルの行動を読み、フィオナは見事にイルを救出した。
女性とは思えない剛の力でルキフェルの腹へ剣の柄を叩き付ける。
腹を押さえ悶絶するルキフェル。地面を転げ周り呻く様に声を漏らす。
――「ゥ・・・…ウフ…フフフ…フハハハハハハハ!!!!フゥ…」

その声はやがて笑い声に変わり、一瞬で地面から空中へ一回転し立ち上がる
ルキフェルがそこにいた。
「情が深くて、強い女か。嫌いじゃあ…ありませんねぇ。」
口元を歪ませながら自警団に守られたイルを見つめるルキフェル。
彼の興味はこの子供の生死などではなかった。
ただ、これからこの子がどう生きるか楽しみでならないのだ。
(親を目の前で殺され、孤児院に預けられ…そして今度は
孤児院の保母や仲間を殺され…てと。
見えるぞ…あの子の目に深い闇が。まだ芽でしかないが。
楽しみだ…とても。)

「貴方のような女は八つ裂きにしてあげたくなります。その甘美なる肉体を
切り刻んで差し上げましょう。」
口に滲む血の味を楽しみながらルキフェルは喉を鳴らした。


31 名前:アラバス ◆hBr/9.Ve8Q [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 11:55:32 0
アラバス「ひぃっ…!
      お、お助けえぇっ!」
市民「爺さん、こっちだ!」

揺り篭通りの方面へと逃げて行く市民たちに、どこからともなく現れた杖の老人が合流した
怯えた表情と必死の形相で、フラフラとしながら走ってきたのだ
もっとも、走ると言ってもその速度は常人の歩く速度よりも遅く感じられる
一人の若い男が、その老人に肩を貸して一緒に走り出した

アラバス「す、すまんのぅ…」
市民「困った時はお互い様だ
    さあ、死にたくないなら早く!」
アラバス「………」

老人は一瞬、冷めたような表情と目でチラリとフィオナたちの方を見た
そして、ニヤリと笑うとそのまま男に連れられて揺り篭通りの方面へと消えて行った

32 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 12:14:02 O
>>27
「どうです?貴方もお仲間に…」
ルキフェルの言葉に激昂したレクストが叫ぶ。
>「約束、したんだ……!必ず護るって……!!それなのにっ!てめえは!!」

その言葉にルキフェルは思わず笑みを浮かべてしまう。
愉快で堪らない、とでも言いたげにだ。
「守る…か。くだらない。あんな連中を守って何になりますか?
いいか、”文明的な人間”なんざ自分達が平穏でいる時だけの言い訳。
自分達の足元が脅かされればそんなものはすぐに”ポイ”と捨ててしまう。
奴らのいう”良識”や”善意”なんてものは所詮は脆いルールに過ぎない。
…だから、”お前”も。」

声色を変えてレクストの耳元で囁いた後、近付いてきたフィオナを見つめる。
「あぁ、失礼…少し言葉使いが汚かったですね。」

>「――北区の『揺り篭通り』!居住区のここなら祭に乗じた犯罪対策のために守備隊が増員されてたはずだ!」
なるほど、とルキフェルは2人が話していた内容を承知する。
彼らは一旦体勢を立て直すつもりのようだ。
>「悪いな、俺としたことが柄にもなくトサカに来ちまってたみたいだ。もう大丈夫。大丈夫だとも――稼ぐぜ時間!」



33 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 12:15:34 O
「…!?こんな時に…」
ルキフェルの動きが止まる。
手は奮え、顔に血管が浮き出ている。目が赤く、いや黄金色に混じった不可解な色を
浮かべ息も荒くなっているようだ。
懐から薬を取り出し震える手でそれをガラス管の器具で腕元へ差し込もうとするが―

>「てめえが俺より速く動けるなら!小細工しまくってそれを上回ってやるぜ!!」
凄まじい速さでルキフェルの脇腹にレクストの蹴りがめり込む。
「…なっ…」
薬を地面へ叩き落され、空中へ吹き飛ぶルキフェル。
腹を押さえながら地面へ叩きつけられる。
背後から蝿の魔物がルキフェルに覆いかぶさるように降っている。
>>25ハスタが撃破した瀕死の魔物だ。
皮肉にもルキフェルが放った刺客が彼自身を襲う結果になってしまった。
魔物に押しつぶされたルキフェル。辺りを沈黙が包む。

「グギャァァァ!!」
沈黙から一転、叫び声を上げ、血飛沫を上げる魔物。
瀕死だったそれは絶命の声を上げると黒いミミズのような
塊となって地面へ染み込んでいく。
怪物の屍の中から現れたのはルキフェル。
目を真っ赤に染め、レクストを睨む。

「―いいでしょう。5分だけ相手をします。
その間に逃げれるのならば逃げなさい。
しかしまぁ…そこそこの性能です。
”陛下”にも素晴らしい報告が出来そうだ。」

ルキフェルが指を鳴らすと同時に周囲の石や
落ちた剣がふわりと浮かぶ。
浮かんだと同時に強烈な推進力を持ってそれが
レクスト目掛け飛んでいく。
眼前で幾つもの石がまるでダイナマイトのように爆発しながら破片をレクストへと飛ばしながら迫る。


34 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/08(日) 17:40:25 O
揺りかご通りでは魔となったリフィルがパパを犯しながら貪っていた!

35 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 20:02:31 0
「……どうして、皆…“人間”を選ぶの?」
ミアがどこからともなく問いかける。
シモンは僅かに引き出した意識から、ミアのその言葉を受け止めた。
(俺は…確かにかつては人間である事すら捨てた男だ。だが…ここの連中に出会って気づいた。
人間の姿をしている以上、運命のようなもんだろう。俺は自然に人の温もりを求めていた。
だから…ミア。俺はこうしてお前らのためにオマケの命を使ってるんじゃないか…!)
そんな叫びも結局クリスタルの意識に飲まれ、最後まで口から言葉を紡ぐことはなかった。
ただ、ミアは、座っているクリスタルナイトの背中が、僅かに温かいような気がしたことだろう。

「我が力のお零れを得て慢心したか!!」
シモンの攻撃を鍵の少女が拳で弾く。それは赤い飛沫となってシモンはおろか周囲を巻き込んだ。
ブワッ
それの殆どを受け止めたのは…シモン――クリスタルナイトの背中から生えた水晶の翼だった。
「お前の力など!我が力のほんの一部でしかない! 盾になる?黙って跪いておれ!!」
クリスタルナイトの前足に少女の光輝く拳が直撃した。
「グオォォ…!!」
圧倒的な魔力の塊は、あっさりと彼の前足を粉砕してしまった。
続いてもう一撃。両の前足は破片となって周囲に飛び散り、ちょうど
跪くような格好になった。

「グゥゥ…」
飛び散った破片がシモンの肉体に刺さり、あちこちに傷を作っている。
「なんだこれは?お前はなぜ私を否定する!
私たちは合一し、世界が求めた地獄を生み出すために生まれたというのに!!
その証拠にお前には何も無いはずだ! この世界に対する執着も!希望も!」
再びの激しい攻撃。シモンはギルバートの善戦により辛うじて止めを免れていた。
(俺は…無力なのか? ほんの一部の力…? そうか…
それならば…)
『ほんの一部の力、見せてやろう』
シモンの声なのか、クリスタルの声なのかは定かではないが、そういう声が響いた。
傷ついたクリスタルナイトの翼が淡い光を放ち、その後ろの方向にゆっくりとミアを降ろす。

途端、閃光が起こったと思うと、クリスタルナイトは翼と後ろ足を使って跳躍し、
蹄の先から二本のランスを突き出して少女に一撃を浴びせると、そのまま
垂直上昇し、赤い月を見上げるヴァフティアの空へと向かっていった。

36 名前:シモン ◆71GpdeA2Rk [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 20:38:02 0
ヴァフティアの上空を、瀕死のクリスタルナイトが駆けていった。
一羽ばたきする毎に、膨大な魔力が消費されていく。シモンに連動するクリスタルたちから、
まだ僅かに力が分け与えられていた。
薄れゆく意識の中、シモンは街中の阿鼻叫喚を目にした。
そこでは魔物と化した人々と”まだ無事な”人々が、絶望的な争いを繰り広げ、
それを必死に食い止めようとするレクスト、フィオナらの姿があった。

レクストは重傷を負っている。そこに新たに巨大な怪物が出現した。…ピラルであった。
シモンは右の後ろ足を突き出すと、レクストの後ろから猛スピードで迫るそれにめがけて
一撃を放った。何とそれは切り離された後ろ足だった。強力な力を纏い、槍のように尖ったそれは、
瞬く間にピラルの”コア”を貫通させ、大爆発を起こさせた。
かつての宿敵のあっけない最期を一瞥すると、シモンは一気に城門の外へと羽ばたいた。

(これまで…か。”至高の財宝”クリスタルを抱いて死ねるたぁ、
何とも皮肉な人生だったな… さて、と…
確かに俺たちはてめえから見れば”ほんの一部”なのかもしれねえ。
だがよ…俺らだって必死に生きてんだ…それだけは心に刻んどけよ…)
シモンの最後の脚に膨大な魔力が集まる。意識が壊れることを覚悟で、
彼はめいっぱいクリスタルから魔力を吸い込んだ。魔力の塊となった脚が切り離され、
ゆっくりと郊外の平原へと落下していく。
(じゃあな…)

そして、シモンは翼を数回小刻みに羽ばたかせてホバリングし、脚に狙いを付けると、
急降下して魔力の塊めがけてダイブした。
大爆発――

それと同時だった。
クリスタルの一つが壊れ、魔力が大量に消費されたことにより、
ヴァフティアを覆う禍々しい魔力が急激に減少した。
魔物化した市民たちも、軽度な者は人の姿に戻り、重度の者も比較的経度に落ち着いていった…

月は一時的にとはいえ、みるみるうちに元の姿を取り戻し、
街に優しい乳白色の光を照らしはじめたのである。
人々の絶望が、希望へと変わった瞬間であった。

37 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 21:18:13 0
「負け犬が虚勢を張っても滑稽だな。
昔のお前なら口に出す前に攻撃を仕掛けていたはずだが?」
「その負け犬なら首に綱付けて囲っちまったよ。
 生憎と俺は紳士なんでね。馬上名乗りを上げて正面からぶちのめす方が楽しいんだよ」

言いつつその馬鹿馬鹿しさに自分でくつくつ笑い出す。
その背に聞き覚えのある声が落ちてきた。

「…待ってくれ。その前にこいつを乗せるのが先だ」
「おい、シモン。悪いが――――!?」

ちらりと向けた視線が固まり、ついで信じられないといった様子で向き直る。
おいおいおい誰・・・ってか何だよこいつは?いや、でもこの声―――

「…ギルバート。俺はどうやら死んじまったらしい…
 情けねえ。ようやく自分がどういう人間か分かったと思ったらコレだ。」
「おい、ちょっと待て―――」
「…だが、俺は最後にお前らと関われただけでも幸せだったと思う。仲間ってのは良いもんだな…」
「待てよ、お前何訳わかんねぇ事―――」
「さあ行け!俺はしばらくミアの盾になってやる。お前は死ぬなよ」
「おい!ふざけんな!」

怒声を上げ、シモンの胸倉を掴もうとする。が、掴む胸倉が無かった。
手に伝わるのは人間を感じさせない、水晶の冷たさだけ。

「ふざけんじゃねぇ!何が死んだだよ、だってお前・・・生きてるだろーが!喋ってるだろ?生きてるんだろ!?
 一人だけカッコつけて消えるなんざ許さねーぞ!クソッ、ふざけんなよ、おい」

認められない。認められる訳が無い。
そもそも死んだって何だよ。死んでも生きてた奴だっていたじゃねーか。
歯を食いしばり、拳で冷たく硬い水晶を殴りつけた。

「・・・てめーには干し肉一枚分借りがある。
 貸したままで消えるなんざ絶対に許さねぇぞ!分かったな!くそっ」

言いたい事はまだ風呂桶10杯分はあったが、状況はそれを許さない。
悔しそうにシモンを睨むと、首のロケットの鎖を引きちぎり、シモンの背に乗ったミアに投げ渡す。

「そいつは預けたぜ。あと、シモンのふざけたケツを蹴飛ばしてやってくれ。
 ・・・なぁ、ミア―――あいつは頼まれた事でもないのに、身の丈以上の事をやろうとした。
 始末は俺たちで付けようぜ。果てしなく長い物語にも、結末は必要だ。だろ?」

言い切って歯を見せて笑うと、背を向けて少女に向き直る。

38 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/08(日) 21:19:19 0
「なんだこれは?お前はなぜ私を否定する!
私たちは合一し、世界が求めた地獄を生み出すために生まれたというのに!!」

少女が初めて怒りをあらわにしていた。
その怒りに任せ、人ならざる力を振るってシモンに襲い掛かる。
素早くその腕を蹴飛ばして外し、次いで腕を地面すれすれに伸ばす。

「待てっつーんだよお嬢さんよ。てめぇの相手はこの俺だ。
 言っただろ?俺は紳士だから―――」

下げた腕を振り上げる。そこここで地面が割れ、赤く光る魔力線が大量に出現した。

「―――てめぇみたいな見た目女の子でも手加減しねぇ」

それまでに予め伸ばしていたのだろう、きらきらと赤く光る糸が次々に巻きつき鎖と化し、
一瞬で少女に何重にも絡み付くと、その動きを拘束した。
少女の動きに一瞬間に合わなかったが振るった拳は外れ、シモンの片足を砕いた。

「ちっ」

一つ舌打ちし、一回転して裏拳を叩き込む。あっさりと止められた。
こいつ、なんつー馬鹿力だ・・・!さらに次の一撃がシモンの足をもう一本砕く。

「てめぇの相手は俺だって言ってるだろーがこのクソ化けモンが―――!!!」

咆哮したギルバートの身体がねじれ―――銀色の狼へと変異する。
しかしその瞳は怒りに燃えていても狂気は無く、もう一つ咆哮すると、少女に向かって破城槌のごとく突進した。

――負けられねぇ、負ける気がしねぇ―――!

「おおらああぁぁぁぁああああッ!!!!」

少女の振るった腕が狼を突き飛ばすと、ギルバートが空中でくるくると回転しつつ人へと戻り、
そのまま魔力の鎖を振り回すと少女を地に叩きつける。
まるで大鎚を叩き付けたかのように瓦礫が飛び、砂塵が舞った。
お互いに致命的な一撃を与える隙を伺いつつ、闘いの場は大通りへと動いてゆく。


その時、世界が白く染まった。


一瞬空も街も全てが白い光に包まれ、誰もが視線を街の中心へと向ける。
その閃光が収まった時、空からは赤い目玉が消え失せ、月がその姿を取り戻していた。

「おい、一体どういう―――まさか―――シモンか?」

唖然として呟き、はっと気付く。シモン、それに一緒にいたミアはどうした?

39 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/10(火) 20:29:55 0
保守

40 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/10(火) 21:28:48 P
>「おい、一体どういう―――まさか―――シモンか?」

再訪した薄闇の中、耳に届くのは林立する建造物に反響する咆喉と絶叫のみ。
二人がいた場所は無音だ。光をなくした貴石が散乱しているだけで、誰もいない。
――不意に発生する、小刻みで軽い振動音。
音源は【鍵】の少女の周囲に散乱する石畳の破片だった。跳ねるように震えている。

「“石謡”」

刹那、石片が浮上。無数の打撃音、風を切る音。互いを弾き合って不規則な軌道を得たそれらが少女を裂く。
呪文はギルバートのすぐ後ろからだった。気流の操作で気配を誤魔化しただけだ。

「ええ、彼よ」
悲鳴なような音に紛れて微かな返答をこぼす。

「……馬鹿な人」
その呟きは吐き捨てるように。

「…本当に馬鹿。欲深くて、色好みで、先走って、無謀で――見ず知らずの小汚い女、利用するつもりだった癖に結局」
その先を口にしようとして、一瞬の抵抗。それでも吐かずにはいられなかった。

「結局それで…死ん……で…
なのに――少しだって後悔してない、馬鹿な人………嫌いよ。大嫌い……あんな……人…」

言葉に反して流れた滴を、人差し指ですくう。何年ぶりだろう。
その手を眺めていると、有り難く、苦く、奇妙な程あっさりと実感できた。
(どうしたって…私、人間ね)

―――"真に哀れなるは、かのモノがどうしようもなく人であった事―――"

「――【鍵】。私は希望も執着も無い。でもそれは私が門だからではないの。
私に希望が無いのは、私の未来を祈ってくれた人のいた証なの」
魔力を切らした石塊が次々と落下する中、止まらない涙を持て余すような静けさを纏って【鍵】を見据える。

「取り替えたキャンバスには、望むように色を塗れ、って。
……私、どんな絵の具を集めればいいのかわからないわ。知らないもの。――でも見てみたい」
彼女はまだ気づかない。それを人は希望と呼ぶと。
指を鳴らす。瞬間、石塊が髪の毛一本ほどの動きも止める。

「だから、戦う」

もう一度指を鳴らす。石が爆ぜる。付与した式は一斉に消滅した。
だが彼女は編み上げる直前で待機させた術式をまだ幾種類も保っている。
今だからこそできる、コストパフォーマンスを無視した力技だった。

そして次いだ言葉はギルバートに宛てたもの。

「――5分」
相も変わらず理解しにくい言葉で精一杯言葉を紡ぐ。
「シモンの背中にいる間、出来る限りの術を編んだ。
今から5分。貴方を全力で援護できる」

(死なせない)

「……大怪我したら、返してあげないから」
預かった胸元のロケットを指した、笑っていないようで笑っているような、冗談に見えないな――そんな表情の冗談を付け加え、

「今なら鍵の力も弱まっているはず。
――終わらせましょう。また新たに始めるために」

41 名前:コクハ ◇b9hCaqglWQの代理投稿[sage] 投稿日:2009/11/10(火) 21:33:05 P
ルキフェルに刃が触れようとした瞬間、ルキフェルが突然吹き飛ばされ、剣が空を切った。
目の前にはレクストが立っている。
どうやらレクストがルキフェルを突き飛ばしたらしい。
>ルキフェルが指を鳴らすと同時に周囲の石や
>落ちた剣がふわりと浮かぶ。
>浮かんだと同時に強烈な推進力を持ってそれが
>レクスト目掛け飛んでいく。
>眼前で幾つもの石がまるでダイナマイトのように爆発しながら破片をレクストへと飛ばしながら迫る。
背後から爆音が聞こえてきた。
おまけに魔力のようなものも感じる。
何を使うのかは分からないが、このままレクストの目の前に立っていれば巻き添えになるのは確実だ。
人間離れした跳躍力で地面をけり、大空に舞い上がった。
【レクストとルキフェルの間に着地。ルキフェルが攻撃を開始した直後に跳躍開始】

42 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/10(火) 22:11:47 O
レクストと対峙する中、一陣の風のような存在がルキフェルの眼前に迫る。
>「助太刀いたす!」

声の方向を見ると、魔物か人か。
どちらとでも見受けられるような1人の戦士がいる。
こちらの攻撃に巻き込まれないように地面を蹴り付け空へ飛び去っていく。
「蝿…ですか。目障りになる前に潰しておくのもいいですね…」
ルキフェルの目が赤色に染まり空の一部が黒くなる。
空へ舞い上がろうとする戦士に、上空を切り裂くように黒い空間が出現し何本もの鋭い”何か”が降り注ぐ。
それは人間の屍。無数の屍が垂直に串刺しにされたまま、刃先を向けている。
それは高速の矢のように羽ばたこうとする戦士目掛け突撃する。
その顔、その容姿に暴徒だった民たちは驚愕する。
自分達が殺すはずだった兵士や、騎士。この街を守っていた者達であったからだ。

ルキフェルは首を回しながら小さく鼻で笑った。
暴徒だった彼らの逃げ惑う姿を拝見しながら。
「やはり他人は信用できません。自分である程度はやっておいて
正解だ。」

>>36
魔都と化していたヴァフティアの空に白い光が何かを齎した。
それが希望という名の夜明けに近付くものであることは
ルキフェルにも理解できた。
「チッ…この光。もう少しこの余韻を楽しみたかったものですが――」
言いかけたそれを止めて、ルキフェルはスキップするようにレクストと
コクハの動きを翻弄する。
「確かに、これで魔物への変異は収まっていくでしょう。
しかし…そんなものは一時的なものでしかない。
闇は、人が生まれ持って得た芽です。
魔術や言葉ですら、人の心の闇は消せやしない…そうでしょう?」

逃げ惑う民達の中で、イルだけがルキフェルを睨んだまま動かない。
憎しみに染まった赤い色の目が、ルキフェルだけをただ見つめている。

「絶望が希望に変わっても、人は変わりません。
この先も、ずっと。それを証明してくれたのは何者でもない。
貴方達自身だった。どんな者にも闇はあると。」
民達を指差しニヤりと笑う。
それぞれが後ろめたい心に駆られその場を去っていく。
誰もがその心に黒い闇に気付いたかのように。





43 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/11/10(火) 23:19:15 0
重厚なカーテンが幾重にも掛けられた広間にて、老占い師が一心不乱に水晶を覗き込む。
大量の脂汗をかきながら翳していた手を止め、重々しく声を発する。
「・・・陛下。赤き月が消失しました・・・」
「ん〜〜。予定より早いな。世界の反発力とやらが勝った、という事か?」
「恐らくは・・・」
水晶球からの光は赤から白に変っている。
その光は弱々しく、部屋の大きさを推し量る事はできない。
ぼんやりとした光の中、老占い師と陛下と呼ばれた者の足元だけを闇の中に浮かび上がらせていた。
「プランBだ。明朝には軍を出す。将軍に伝えておけ。」
「は・・・。」
帝国領の隅にありながら有数の都市でもあるヴィフティア。
その規模と魔法都市と言われるほどの機能は帝国の支配力が強くは及ばない。
だからこそ、ヴィフティアだったのだ。
終焉の月教団を御子を使い動かし、鍵を作り上げ、ヴィフティアを実験場とした。
結界能力の強いヴィフティアならば地獄化を都市内に限定できる。
また実験が失敗してもヴィフティアは無事ではすまない。
異常現象災害の為の救助という大義名分で堂々と兵を送り込めるのだから。
「それまでは・・・ヴィフティアの地獄をもう少し見物しようか。」
闇の中ぼんやりと浮かび上がるその者は愉悦の笑みを浮かべながら水晶球へと視線を送る。

##########################################

ギルバートに叩きつけられ、粉塵の中、鍵はゆっくりと立ち上がる。
「・・・この程度か?」
凄まじい勢いで叩きつけられたにも拘らず鍵には傷一つない。
体に巻きつく鎖を鬱陶しそうに眺めると、鎖を掴み無造作に引いた。
鎖は鍵の体に食い込み、肉を切り裂き、骨を断つ。
だが・・・切り裂かれた肉は、断たれた骨は鎖が通り過ぎた瞬間に再生する。
「儀式を経て蘇った我が肉体は不滅!
貴様如きがどう足掻こうと滅びはせぬわ!!!」
恐るべき方法で鎖の戒めを解くと、握った手に力を込める。
そこから発せられるは黒い雷!
黒い雷は鎖を伝いギルバートを焼き尽くさんと走る。

「そして!赤き月とヴィフティアの八本の尖塔から無限のエネルギーを受ける私は無敵だ!!」
残った手を振るえばそこからいくつもの竜巻が生まれ、周囲の建物を粉砕し瓦礫が降り注ぐ。
そこから発生した真空の刃が周囲に巨大な爪あとをつける。




44 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/11/10(火) 23:19:26 0

圧倒的な力を見せる鍵はギルバートを見ていなかった。
既に眼中にないのだ。
鍵の視線はクリスタルナイトと化したシモンを探していた。
が、既に時は遅かった。
ヴィフティア全体を揺るがす大爆発が起こったのだ。
「ば・・・ばかな!!!!!」
絶叫と共に鍵の口から大量の血が溢れ出る。
それが何を意味するか、鍵は見えずとも、教えられずとも判っていた。
シモンの死。
それはクリスタルの破壊を意味し、同時に鍵の心臓の破壊を意味しているのだから。

シモンの力は確かに鍵の力の一部でしかない。
しかしそれは致命的な一部。
聖処女の血を浴び復活したほかの部分とは違い、心臓は魔に落ちたシモンの血を吸って復活した。
即ち不滅の力が宿っていなかったのだ。
だからこそ、シモンを一撃で殺さず足をもぎ無力化しようとしていたのだ。
だがそれも最早無駄に終わったといえよう。

更にクリスタルの一つが壊れたことにより魔法陣が崩れ、エネルギーの供給が止まる。
それを顕すかのように鍵の体には細かいヒビが無数に入り始める。
強大な力を維持するエネルギーが足りなくなり、体を保てなくなりつつあるのだ。

>「――【鍵】。私は希望も執着も無い。でもそれは私が門だからではないの。
>私に希望が無いのは、私の未来を祈ってくれた人のいた証なの」
「・・・・!
何を馬鹿なことを・・・!
お前はその存在自体が門だ!お前の人格など・・・門という器に張り付いたラベルでしかない!
絶望しろ!そして世界の絶望と同調し、私を受け入れ地獄を呼べ!!」
一瞬の絶句の後、鍵は血走った目で叫ぶ。
だがミアの決意を、そしてその心を揺るがす事はできなかった。
ミアは力強くギルバートに語りかける。
>「今なら鍵の力も弱まっているはず。
>――終わらせましょう。また新たに始めるために」
「な・め・る・な・よ!!!!!!
例え心臓が潰れようとも!体を維持できなくとも!あの男を殺し貴様を侵す力と時間くらい無いと思うてか!!!」
狂乱しながら腕を振り下ろすと、それは不可視の力となってギルバートに襲い掛かる。
まるで巨大な岩を落とされたかのようにギルバートを中心にオルフェーノクとヴェノサキスも巻き込み地面が陥没する。

45 名前:コクハ ◇b9hCaqglWQの代理投稿[sage] 投稿日:2009/11/11(水) 00:45:03 P
>「蝿…ですか。目障りになる前に潰しておくのもいいですね…」
「助けに来たというのにその仕打ちはないでしょうが…」
なんか知らないがものすごく悲しい。
レクストからは敵と認識され、ルキフェルからも厄介者扱いされている。
>「やはり他人は信用できません。自分である程度はやっておいて正解だ。」
「同じ魔物なんですから。そんなこと言わずね」
半ば泣きそうな顔でルキフェルの方へ視線をやり、指をはじいた。
空から降ってきた無数の躯の軌道がそれ、それた躯たちはレクストたちのほうへ降り出した。

>>36
その直後、白い光があたりを包み込んだ。
でも、すぐに白い光が消えた。
民たちは蜘蛛の子を散らすように逃げまどい。辺りは騒然としている。
そんな中、イルがルキフェルのことをにらんでるのに気付いた。
その瞳は赤く冷たい。
きゅっと握られたこぶしは震え、怒りの深さを現している。
でも、それを実行に移すことはない。
憎しみをぶつけるだけの力がないから。
不憫だ。
ただ一方的に蹂躙され、肉親の愛情にも恵まれず一人っきりで生きていかねばならない。
とてもじゃないが見ていられない。
だから、言葉を発した。
「憎い?憎いのならかかってきなさい。我々を殺したいんでしょ?」
そして、もっている剣をイルの目の前に向かって放り投げた。

46 名前:フィオナ ◇tPyzcD89bAの代理[sage] 投稿日:2009/11/11(水) 07:35:25 0
『――北区の『揺り篭通り』!居住区のここなら祭に乗じた犯罪対策のために守備隊が増員されてたはずだ!』
フィオナの問いに対するレクストからの返答。守備隊員も同様のことを言っていたことを思い出す。
「揺り篭通り……。」
祭でほぼ無人となった居住区に配備された守備隊。つまりは現状で最も被害の少ない戦力といえる。
さらには揺り篭通り特有の住宅が連なることで構成される複雑に絡み合った通路。
これも魔物の巨躯ではそのアドバンテージを生かせず対して此方には地の利となるだろう。

「この上無いですね!」
フィオナは短く肯定を返すと元黒衣の男へ指示を出すレクストを隠すようにルキフェルへ正対した。
嘲笑を伴い立ち上がるルキフェルへと間髪居れず打ち込むこと数合。
しかしその全てが高速の体捌きを捉えられず虚しく空を斬る。

『悪いな、俺としたことが柄にもなくトサカに来ちまってたみたいだ。もう大丈夫。大丈夫だとも――稼ぐぜ時間!』
だが本来の役割は果たせたようだ。指示を終えたレクストが気合に満ちた声で告げる。
長靴へと仕込まれた術式を開放し神速で跳躍、不意に動きを止めたルキフェルを蹴り飛ばす。
狙ったのかその先ではハスタにいなされた蝿の魔物と交差する。

―――激突。
絶叫と共に爆ぜる蝿の魔物。
屍を踏み越え現れるのは真紅の双眸で睨め付けるルキフェル。
さらには交差の直後に上空から現れた漆黒の剣を携えた黒ずくめの堕天使。

『―いいでしょう。5分だけ相手をします。』
地の底から染み出すような声でそう宣言するとルキフェルはパチンッと指を鳴らす。
直後周囲の石や持ち主を失った武器がゆっくりと浮かび上がり爆発的な推進力で此方へと飛来する。
射線上にいる味方であろう魔物にもお構いなしである。
堕天使は翼をはためかせ回避。残るのは強力な一撃の代償か体制を崩しているレクストだけだ。

「させません!」
フィオナはレクストの前へと躍り出ると正眼に構えた剣を振るい弾丸の様に迫るそれらを叩き落し、あるいは弾いて軌道を逸らす。
次弾に備え再び剣を正眼へと戻すと眼前では中空に逃れた魔物を攻撃するルキフェルの姿。
どういうことなのか、味方同士というわけではないのだろうか。
堕天使の方は助けに来たと言っていた気がするのだが。

47 名前:フィオナ ◇tPyzcD89bAの代理[sage] 投稿日:2009/11/11(水) 07:35:53 0
思案すること数瞬。
それを断ち切るように遠方より響く轟音。
次いで膨れ上がる白い光。
また異変かと危惧するも、その光が消えた後に感じるのは魔素の減少。
ヴァフティアを覆う息苦しいまでの瘴気が霞んでいくのが判る。

期せずして訪れた好転。
そして先刻から展開されているルキフェルと堕天使の攻防も同じなのではないだろうか。
二体の強大な魔を相手取るのは不可能だがそれが一対一対三なら話は変わってくる。
ルキフェルの注意が堕天使へと向いている今なら出し抜くことも可能かもしれない。
蝿の魔物の相手をしていたハスタも今はフリーな筈だ。

「レクストさん。敵は完全に仲間同士とは言えないようです。
そして今ならルキフェルの虚をつけるかもしれません。」
フィオナは傍らのレクストへと耳打ちする。

「私が正面から斬り込みますからその隙を突いてください。」
しかし、と心配そうなレクストへと笑みを返し――

「――大丈夫です。こう見えて結構頑丈なんですよ?」
得意げに告げる。

「それでは。お願いします!」
言葉と同時にルキフェルへと駆け出す。
脇に構えた剣先を地面を擦る寸前まで落とし一直線に間合いを詰める。
ルキフェルの攻撃を堕天使が此方へと弾き飛ばしてくるが怯むことなく走り抜ける。
彼我の距離後数歩という所で大地を蹴りそれまでの直線的な動きを弧を描く軌道へと変える。
地を這うかのような低姿勢で数歩を踏破すると体ごと剣を大上段へと振り上げ叩き付けた。




48 名前:アラバス ◆hBr/9.Ve8Q [sage] 投稿日:2009/11/11(水) 13:02:18 0
アラバス「おお…くわばらくわばら…」
市民「爺さん、大丈夫か?」

揺り篭通りには、避難中の市民が続々と集まっていた
空が元に戻ったが、それでも危険極まりない状態であることに変わりはない
老人は体を抱え、恐怖に身を震わせていた
老人に肩を貸した若い男は、その背中をさすって心配そうに見つめていた

アラバス「あんたのお陰で助かったよ
       わしゃ杖が無いと立つこともままならなかったんじゃ…」
市民「困った時はお互い様だと言ったろう
    この揺り篭通りなら安全らしい
    それに、あの人たちが守ってくれるよ」

老人は涙を流しながらお礼を言い、若い男は笑みを浮かべながら応対する
周囲では、家族や友人の無事を確かめ合う者、一時の安堵に胸を撫で下ろす者などが居た
まだ不安と恐怖におののいている者も居り、混沌とした状態であった

アラバス「………」
市民「どうしたんだ、爺さん?」
アラバス「お主、本当にそう思うか?」
市民「へ?」
アラバス「本当にそう思うのかと聞いておるんじゃよ」

いきなり老人の雰囲気が変わり、酷く冷たい目で若い男を見上げる
さっきまでのひ弱な感じは消え去り、圧倒的なまでの威圧感に見下ろす男の方が気圧された
よく見れば、辺りは人気のない裏路地であった
そして、杖が無ければ満足に立つことも出来ないはずの老人が綺麗に2本足で立っている

市民「い、いや…、この揺り篭通りは道が狭くて入り組んでいるから…
    そ、それに、あの人たちが守って…」
アラバス「そういう目先の理屈は聞いておらんよ」
市民「いや、そもそもあんたなにも…
    ヴゲッ!?」

言い終わる前に喉を針で刺し貫かれ、若い男がその場に倒れ込む
白目を剥いて口から涎を垂れ流したまま、事切れて動かなくなってしまった
それを冷たい目で見下ろす老人の冷たい笑み
その手には、透明の毒液に濡れた異様に細長い針が数本握られていた

アラバス「脅威は何も目の前にだけ現れるものではない
       わしのような者も居るのではないか、ということじゃ」

慣れた手付きで男の死体を裏路地の奥に引っ張っていくと、布を被せて隠してしまう
老人は小柄でひ弱な体型だったが、特に苦もなく運んでしまった
この男こそ、裏の世界で名の知れた老齢の殺し屋である
とりあえず「アラバス・バラバス」と名乗っているが、もちろん本名ではない

アラバス「あの男が派手にやってくれたおかげで何の苦もなく潜入できた
       …さあてと、希望の光とやらを消しに行くかの」

先ほどと同様に杖を持ち直すと、腰の折れたヨボヨボ爺さんに戻ってフラフラと歩き出す
誰もそのみすぼらしい老人を希望への刺客とは思いもしなかった
       

49 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/11(水) 14:35:25 O
標的以外を殺す殺し屋は三流以下

50 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/11(水) 20:23:08 O
>>48
張任「この雑魚がぁぁぁ!!!」

51 名前:ハスタ ◇BsVisfL7IQの代理投稿[sage] 投稿日:2009/11/12(木) 19:27:01 0

【名前】ハスタ ◆BsVisfL7IQ

【本文】
>41>42>45-47
蠅の魔物を受け流すのは思ったよりも腕に負担がかかったらしく、だるい。
だがそうも言っていられない。こっちは揺り篭通りに人々を避難させなきゃならない。
既に女騎士が突貫しに行ったが・・・ふと、一人の少年と魔物の姿が目に入った。

>「助けに来たというのにその仕打ちはないでしょうが…」
「いや、どう見てもさっき追撃しにかかってただろうが。」
なんとなくその魔物の呟きに反射的に返してしまう。だが、こいつは紛れも無く敵だ。
少年諸共に目掛けて降ってくる亡骸どもを、白い槍で弾く。
亡骸を貫くソレは弾かれる事でわずかに角度を変え、また別の亡骸を逸らし連鎖的に僅かな空間を作り出す。
そこをもう一方の腕に持った槍で弾く事で少年やそのそばの市民への攻撃を防ぐ。

>「絶望が希望に変わっても、人は変わりません。この先も、ずっと。それを証明してくれたのは何者でもない。
>貴方達自身だった。どんな者にも闇はあると。」
怒りか、怨念か。驚きはしても尚少年が動かない。
なので、その眼前に立って魔物達との視線を遮る。
>「憎い?憎いのならかかってきなさい。我々を殺したいんでしょ?」
黒翼の魔物の言葉と共に降ってきた剣を、手にとらぬように槍でそのまま打ち返す。
「闇?はっ、闇なんぞあって当たり前だろう。闇があるという事実は絶望になんぞなりはしない。
 闇の存在はそれを照らす光を証明するだけだ。」


俺は、白い4本の槍を周囲に突き立てて、黒翼の魔物を睨み付ける。
「そこのお前・・・外見から察するにベースは人間みたいだが、心まで魔に呑まれかけてるみたいだな。
 多少力を持っていれば例え同じ魔物でも襲い掛かり、敵意があれば無力な者にも争いを挑む事実がそれを示しているよ。
 普段なら狩ってる所だけど、今は相手をしている暇がないんでね・・・踊ってろ!『仁針双克』!」

横目に従士達が眼鏡の男に攻撃を仕掛けるのを見て、こっちはこいつを引き受けるのが役目だと判断。
抜き打ちで放った二枚の符は、青い光の弾丸となって黒翼を追尾して空を翔ける。
一つは空中で打ち返した剣に追いついて炸裂。その爆炎を隠れ蓑に回り込んで頭上からもう一つの光弾が襲い掛かる。
「(符の残りは13枚、これ以上は乱発は難しいな・・・・・・。)」

青の光弾が魔物を襲っている間に、俺は『四瑞』を手に裏をかく方法を思案する。
【イルを庇うようにコクハの前に立ち塞がる。軽く挑発してから符術による攻撃。】




52 名前: ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/12(木) 20:32:49 0
「守備隊、それから戦闘経験のあるものから順に俺に続け。北区まで突っ切るぞ」

元黒衣はハンドサインで進軍を促しながら、避難者達の一番槍を担っていく。
続くのは守備隊の生き残り、従軍経験者、退役守備隊員達。各々の得物を掲げ、力なき者達を庇うようにして進む。

ふと見回せば、降魔術の影響は民家にまでは及んでいないらしい。
建築物用の結界は都市防衛結界とは別の魔導回路で動いているため、地獄化を免れているようだ。

降魔されるのは、往来に出ていた市民達。
そのために住人達が皆外に出てくるラウル=ラジーノの前夜祭を決行日に選んだのだ。

「この地獄に私も一枚噛んでいたと思うと、我ながらあまり気分の良いものではない、が」

別に、こうなることを知らされていなかったわけではない。敬虔なる教団員である彼にとって教義は絶対。
人の命も、自分の命すらも、二の次である。それは離反という形となった今では何の意味もなさない形骸だが。

(終末思想……真なる救いを得るには一度全てを無に帰さねばならない。この街はその先駆けだ)

全てを破壊する、そのための下地。都市防衛結界をインターセプトし、降魔の外法を用いて地獄化の為の力場を生成する。
現在街中で起こっている無差別な降魔術は、あくまでその副産物。炊き出しに混入した魔導薬の誘導性により、少しばかり降魔率を上げたに過ぎない。
全てがつつがなく完了すれば、この街そのものが、正確には結界に護られた領域全てが現世から切り離されるはずだった。

「貴様、ジルド――!裏切ったか……!」

元黒衣達が向かう前方に三人の男が躍り出た。全員が黒衣に身を包み、全員が武装している。
元黒衣をジルドと呼ぶ彼等は、その外見が示す通りの出自を持っていた。すなわち、『深淵の月』の教団員。

「その紋章、第5分隊――降魔兵団の連中か。小間使いの私を知っているとは光栄だな」

「降魔を施術せずに武装小隊長まで上り詰めた貴様を我らが知らぬ訳があるか――!」

パチリ。と音がすると同時、三人の男達の体躯が隆起し劇的な変貌を始めた。
黒衣の下に収まっていた肉体は見る間に人外の、異形のそれへと形を変えていく。

「残念だジルド。貴様が何故住民共を率いているかは聞かぬ。裏切りの因子は今ここで喰らい尽くす――!」

左から――虎、熊、獅子。三人の黒衣達はそれぞれが巨大な猛獣へと変身していた。

教団の外法、降魔制御術。予め降魔オーブに施術した術式によって異形化を制御し、積極的な戦闘力へと変える術。
魔物となってもその意識は人のままであり、また人間への立ち戻りも自在。路地裏でピラルが用いていた術だった。


53 名前: ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/12(木) 20:59:09 0
「そうか。聞かずとも語ってやろう――未来には、それが必要だ」

元黒衣、もといジルドは三人の降魔化が完了する前から駆けていた。武闘派の運動能力を存分に駆使し、彼我の差を無にする。
同時に懐から取り出したるは黒曜石の短剣。斬撃戦には不向きなそれを、ジルドは胸の前に翳し、術式を発動する。

「『顕刃』――!!」

黒曜剣に注がれた魔力は刀身に刻まれた術式回路によって一つの指向性を得る。
刃の顕現。黒曜石の刃の先から、魔力によって構成された擬似的な刀身が現れ、刃長不足と耐久性を補う。
すなわち、ジルドの手にあるのはもはや短剣ではなく、一振りの長剣。半透明に淡く輝く刀身は、鋭く、強い。

「この街は既に破壊された――!」

まず仕留めるは熊。中央の要を潰せば隊形に乱れを起こし、硬直を誘うことが出来る。
横薙ぎの豪腕を屈むことで回避し、追撃の逆腕を長剣で斬り飛ばす。飛んだ腕を熊の急所――鼻面へと蹴り込み、怯ませる。

「破壊したのが我々ならば――創り直すのも我々だ!ならば私は資産たる市民を殺さない。新たなる世界の再建のために!」

無論その硬直を見逃さない。叩きつけた腕ごと貫通するように長剣を突き刺し、熊の頭部を穿ち、貫き、破壊する。
仕留めた。あとは両端の――どちらを先に潰すか、その逡巡の間隙に、ジルドは脚が何者かによって固定されていることに気付いた。

「詭弁だ……人間が残っていては真なる白紙は完成しない……!全て消えるべきなのだ……!!」

「――――なっ!!?」

熊だった。熊が残った腕で、ジルドの脚をがっちりと掴んでいる。頭を潰され最早瀕死の身体で、最期のあがきだった。
気付いたところで離脱の機は逸された。視界の両端で虎と獅子が同時に爪をジルドへ打ち下ろしているのがスローで見える。

やられた。初めから中央を捨てて確実に命をとる算段か。ジルドの教団での戦法を熟知している、元同僚だからこそできる芸当だ。
もとより自己の命に対する観念が薄い(そういった、使命のためならば簡単に命を投げ出せる人間性も敬虔な教徒そのものだ)
ジルドは目を閉じた。どうせなら、目には見えぬ神に祈って死ぬのも悪くない。割りと本気でジルドはそう思った。

肉を穿つ音。

同時に、後ろから声が挙がった。一人ではない、誰かと誰かが、付和雷同に言い放った。

「「人外共が……人の世界を人間抜きで語るなよ――!!」」

果たして、覚悟していた死は訪れなかった。目を開けると左右の異形たちはその身体にそれぞれ剣と槍を生やして絶命している。
ジルドの後をついてきた守備隊の面々が、その得物で虎と獅子を斃していた。見事に急所を狙って一撃で仕留めているのは流石である。

「――ジルドとやら、アンタは『月』だったんだろう?何故仲間を斃してまで、俺達を助ける」

まだ若い、しかし頬に塩の線を刻んだ守備隊員が、獅子から剣を抜きながら言う。
足元の熊が力尽きたのか、ジルドの脚も自由になっていた。

「別に他意はない。ただ、私は知っているんだ」

――『俺が両方護ってやる!アンタ達も、その家族も!だから、俺がアンタを護るのを、――邪魔するな!!』

「博愛主義者の綺麗事だが、それを誰かが美談に変えてやることもできる」

言って、ジルドは再び道を拓き始めた。いつのまにか空の眼球は消え、降魔騒ぎも沈静へ向かっているようだ。
誰かの思惑があり、それを害した誰かがいる。今はその事実だけで、充分だった。

揺り篭通りが見えてきた。そうして避難者達の行軍は、一先ずの落着を得た。


【避難者サイド:揺り篭通り到着。避難完了】
【レクストサイドのレスも近いうちに書きますので、今しばらくお待ち下さい】

54 名前:コクハ ◆b9hCaqglWQ [sage] 投稿日:2009/11/12(木) 21:38:53 0
>「闇?はっ、闇なんぞあって当たり前だろう。闇があるという事実は絶望になんぞなりはしない。
> 闇の存在はそれを照らす光を証明するだけだ。」
「それは違うわ。光と闇はともに存在する。光がなければ影も生まれないし、影がなければ光りも生まれない。光と闇が生まれた時から一心同体なのよ。あなたのその考え間違ってるわ」
どこかの世界では光すら届かない闇があるようだが、少なくともここでは違う。
槍ではじき返された剣がこちらに向かってくる。
なぜか知らないが異様に動きが遅い。
「だから、必要がなければ、あなたたちと争うつもりはない。でも、闇の同胞達を傷つけるなら容赦はしない」
ハスタが槍越しに睨みつけるのと同じように睨みつけた。
>「そこのお前・・・外見から察するにベースは人間みたいだが、心まで魔に呑まれかけてるみたいだな。
> 多少力を持っていれば例え同じ魔物でも襲い掛かり、敵意があれば無力な者にも争いを挑む事実がそれを示しているよ。 」
「闇に飲まれた?何を言ってるの?私の心は初めから闇よ。同胞たちを殺す意図があるのなら、避けろ!なんて叫びはしない。街を守るために同胞である市民を殺したあなたたちと一緒にしないでほしい」
光の弾が二つ打ち出された。
そのうち一つがスローペースで進んでいる剣に炸裂し、爆発。
視界が爆炎に覆われ見えなくなった。
これじゃあ、剣を取りに行く暇もない。
異様に動きの遅い剣のことを恨みたい気分だ。
でも、まあ、そんなことを言っていても仕方ない。
「酸素によって生み出されたものよ。我が体に集い、炎を防ぐ盾となれ」
呪文によって生じた赤い光が全身のいたるところからわきあがっているのを確認することなく爆炎に突っ込み、剣を手に取った。
そして、そのまま、勢いを利用し、ハスタに向かって下から上に切りかかった。


55 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/14(土) 01:11:18 0
「―いいでしょう。5分だけ相手をします。その間に逃げれるのならば逃げなさい。
 しかしまぁ…そこそこの性能です。”陛下”にも素晴らしい報告が出来そうだ。」

(陛下――だと?)

恐らくは黒幕の名前だろう、ルキフェルの呟きにレクストが眉を顰める。この国で陛下と呼称を受ける人間は一人をおいて他にない。
ときの皇帝――レクストが属する帝都王立従士隊が守護する皇帝陛下そのひとである。

(どういうこった……?なんであの眼鏡野朗の口から『陛下』なんて呼び名が出る?なんかの暗示か?)

思索と逡巡は臨戦の脳内を埋めるがしかしルキフェルの猛攻は結論を待たない。
彼がパチリと指を鳴らすと、まるで糸に吊られたように周囲に散乱していた剣や瓦礫が浮かび、レクストへと飛来する。
風を切る速さは弾速。そして何よりも特筆すべきは――

(――術式の気配がまったくなかったぞ!?)

速度に差こそあれ、術そのものはレクストの兄が使用する浮導術とさして変わらない。
しかし今のルキフェルからは術式を組む挙動も、予め陣を敷いていた様子もない。式を破棄してこの威力は常軌を逸している。

「やっべ――!」
通常の術式ならば遅れをとることはなかっただろう。加えてレクストは『噴射』を使った渾身の蹴りを放った直後である。
軸足一本では慣性を殺しきれず、硬直は免れない。致命的な隙に、致命的な威力を持った瓦礫の散弾が叩き込まれる――!

「させません!」

短く叫んで、フィオナがレクストの前に躍り出た。彼の眼前で展開される光景は、さながら鉄火場の鎚合奏。
一つ一つが容易く命を奪えるであろう飛来物を、フィオナは剣で正確に捌いていく。弾き、逸らし、叩き落し、連続する金属音。
それら全てが沈黙する頃には、ルキフェルは既に上空へ現れた黒翼の魔物を迎撃し始めている。仲間じゃなかったのかあいつら。

「あっぶねええええええええええええ――た、助かった!面目ないぜぇ!!」

フィオナに感謝しながら体勢を立て直し安堵するレクストだったが、危難はまだ去っていなかった。
背後から触手の魔物が襲い掛からんとしていることに、レクストはおろかフィオナすら気付いていない。
ピラルである。触手を効果的に用いて挙動の音を消し、しかし充分な速さをもってレクストへと迫る!

果たしてピラルの強襲は、叶わなかった。矢のように上空から落ちてきた棒状の物体が、彼の降魔オーブを貫いたのだ。
魔力の尾を引くそれが馬のような生物の脚だとピラルが理解するころには、耐久限界を超えたオーブが爆発を起こしていた。

「おわっ!?今度は何だ!」
轟音が響き、レクストの後ろ髪が爆風に煽られる。慌てて後ろを振り向くと、そこには最早何者もおらず、
ただ爆発の余韻と塵になって名残のように風に浚われる魔物の残骸のみ。とうとうレクストはピラルの存在に最後まで気付かなかった。

次の瞬間。爆発と同時、否、それを凌駕する大爆発が尖塔のほうで起こり、強風が街を吹きぬけた。
思わず瞑った眼が視力を取り戻すと、街の様相が一変していた。目に見える変化ではないが、街に満ちていた魔の気配が散逸し、
それに伴なって徘徊していた魔物の中には再び人の姿を取り戻すものまでいた。何よりも、月が元に戻っている。

「街を覆う魔法陣の一部が壊されたんだ!この糞忌々しい降魔結界が薄れてくぞ!!」

レクストは知らない。尖塔付近で起こった大爆発の真相を。『誰が大爆発したのか』ということを。
ただ事実を事実として受け止め、前を向くのみである。

シモンという男の死を、

仲間の死を、彼は知らない。

56 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/14(土) 02:06:21 0
「レクストさん。敵は完全に仲間同士とは言えないようです。そして今ならルキフェルの虚をつけるかもしれません。」

状況に好機を見出したのか、フィオナが駆け寄って耳打ちしてきた。
確かに、突如現れた黒翼は最初ルキフェルに斬りかかっていた。そしてルキフェルもまた、黒翼ごとレクストを狙っていた。
そして今、連中は地対空の人外決戦をやらかしている最中だ。隙はある。充分創り出せる。

「私が正面から斬り込みますからその隙を突いてください。」
「お、おい――あの超絶人外バトルの中に真正面から突っ込むってのかよ?命足りてねえぞ!」

常人の立ち入れる領域なのだろうか、いう疑問。
それから、そんな危険な役目を彼女にやらせるという躊躇。

「――大丈夫です。こう見えて結構頑丈なんですよ?」

そんなレクストの懸念を感じ取ったのか、フィオナは柔らかく、しかし強かな笑みで告げる。
なんて強い女だ、とレクストは思う。その強固な意志の前に、反論すら憚られるようで二の句を継げない。

「――それでは。お願いします!」
「――ああ。任せてくれ」

同時、フィオナは跳んだ。疾り、駆ける。疾駆。姿勢の低いその構えは、相手のアドバンテージを無にする効果的な方策だ。
迎撃の散弾は彼女の頭上を通過していく。たまに来る低い弾道の瓦礫はレクストが援護砲撃で粉砕する。
フィオナが剣を振り上げ、両者を分断するように斬撃。それを受けた黒翼は十字架使いの方へと飛んで行った。

「絶望が希望に変わっても、人は変わりません。この先も、ずっと。
 それを証明してくれたのは何者でもない。貴方達自身だった。どんな者にも闇はあると。」

フィオナの剣を受けながらルキフェルが訥々と語る。体調が思わしくないのか、どこか顔色に難がある。
それも含めた、好機――!!

「そりゃ誰にだって後ろ暗いとこはあるだろうさ――俺にだってある。後悔だって沢山してきた」

レクストの声。しかしフィオナの後ろに控えていたはずの彼は、そこにいない。
どこにもいない。

「お前の言ってることもよくわかる――わかってやれる。でもな、でもだ……」

連続して魔導弾が飛んできた。ルキフェル目がけて、純粋に『攻撃』の属性を付与した魔力の光が着弾する。
それはルキフェルにとってさしたる障害にはなり得ないだろう。しかし。

「人間の悪いとこばっかあげつらって解ったようなツラしてんじゃねえ――!!人間にあるのは闇だけじゃねえだろ!
 光だってある!そんなショボい闇なんかよりよっぽど尊い光が人にはある――俺が護りたい"ヒト"ってのは、そうあるべきで、実際そうなんだよ!!」

フィオナが命懸けで拓いた道に、その僅かな間隙にレクストは己が命運を力任せにねじ込む。
彼は、下にいた。フィオナが剣を叩き込む、その寸毫が如き時間差の活用を――『噴射』の機動力が実現する。

「お前のその能力、異能、人知を超えた力か――そういうの、嫌いじゃねえ。むしろ心躍るね。大好きだ」
だが。でも。しかし。

レクストは圧縮された時間の中でゆっくりと正確に、バイアネット構える。
自己の中に脈打つ回復術式の残滓、治癒聖句の余剰分――それら余った生命力を魔力へと変換し、還元する。
体感で組み上げる術式は攻性魔術。バイアネットの刀身に描かれた紋章は破壊力特化の豪斬撃。

息を吸い、言う――
「――お前のことは大嫌いだけどなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

横薙ぎの一閃。一閃というにはあまりにも甚大な威力を秘めた一撃が、ルキフェルの胴へとぶち込まれた。

【フィオナが作ったルキフェルの隙へバイアネットをフルスイング】
【このターンでルキフェルが退けば揺り篭通りへ。退かなければ戦闘続行】

57 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/14(土) 14:28:38 0
>>45
>「同じ魔物なんですから。そんなこと言わずね」

上で羽を生やした魔物が声をかける。
ルキフェルは首を横に振りながら溜息を吐いた。
「同じ魔物…ですか。人間であった貴方が私と同じだと?
フフ…くだらない。実に、くだらない。」
地上に降り立った魔物はイルに向け剣を放り投げた。
しかし、イルはそれを掴もうとせずにいる。
「「僕は、お前が憎い。憎いけど…でも、僕は嫌なんだ。
これ以上、誰かを傷付けたりするのは。」」
まだ幼い少年の思わぬ言葉に、思わずルキフェルの笑みが消え去る。
イルは憎しみを宿してはいるものの、それでも何か大切なものを
無くしていないとでもいうようにただルキフェルを睨みつけている。

「…ほぅ…素晴らしい子ですねぇ」

苛立ちながらイルに向け歩き出す。しかし、それを1つの声が阻んだ。
>「闇?はっ、闇なんぞあって当たり前だろう。闇があるという事実は絶望になんぞなりはしない。
>闇の存在はそれを照らす光を証明するだけだ。」

「貴方ですか…まぁ、任せましたよ。ね?仲間…なんでしょ?私達は。」

ルキフェルは背後の魔物に目線を向け、ハスタとイルの前より姿を消す。


58 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/14(土) 14:44:11 0
>>47>>55
ハスタとコクハから逃れたルキフェルの前に現れたのはフィオナ。
華奢な女性とは思えないスピードで眼前に現れる。


―「させません!」

素早い弾丸をものともせず次々に叩き落していく。
その軌道は標的のレクストから逸れ、地面に爆発し
風穴を空けていく。
>「それでは。お願いします!」

声と共にフィオナが凄まじい勢いでルキフェルへ向け
剣を振り下ろした。
「…くだらない。その程度で…私を倒せるつもりですか…。」
その剣をルキフェルは片腕で白羽取りする。
剣先がびくともしないほどの強力で完全にフィオナの動きを掌握した。
腕の血管は浮き出ていおり、息も荒い。
「あの薬を落とされたのは計算外でした…アレが無ければ
彼を押さえつけれない。私もどうなるか分かりませんしね…!!」

”俺をもっと笑顔にしてくれよ”
その時、フィオナには確かに聞こえた。
ここへ向う前に聞こえたそれと同じ声を。
深い闇からの叫びを。
ルキフェルは明らかに疲労している様子だがそれでも尚、もう一方の
腕を突き出しフィオナに衝撃波を放つ。
凄まじい勢いで放たれたそれはフィオナの鎧すら吹き飛ばして見せた。

「…ハァハァ…終わりです。これで…!!」
更にフィオナへ追撃を放とうとした時、背後より声。

―「そりゃ誰にだって後ろ暗いとこはあるだろうさ――俺にだってある。後悔だって沢山してきた」

59 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/14(土) 15:05:27 0
「…な…!?」

ルキフェルは振り返る。
しかし、声の主は何処にもいない。
見えたのは”光”。彼が最も忌み嫌う物がルキフェルの全身を叩いた。
光の弾を全身に受けながら片膝を付く。
「…グ…あと、少し…時間を…」
胸を押さえつけもがき苦しむルキフェル。顔が蒼白に変わり息も
上がり始める。

―「人間の悪いとこばっかあげつらって解ったようなツラしてんじゃねえ――!!人間にあるのは闇だけじゃねえだろ!
 光だってある!そんなショボい闇なんかよりよっぽど尊い光が人にはある――俺が護りたい"ヒト"ってのは、そうあるべきで、実際そうなんだよ!!」 ―

閃光と共にレクストが迫る。身動きの取れないルキフェルにそれを避ける余力は残っていなかった。
しかしルキフェルは笑う。自嘲なのか、嘲笑なのか。
分からないまでも逆に追い詰められた男は笑った。

―「――お前のことは大嫌いだけどなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

一閃。光と共に放たれたそれはルキフェルの体に強烈な一撃を与え
地面へと叩き付ける。
その衝撃で眼鏡は吹き飛び木っ端微塵。
ルキフェルはうつ伏せのまま地面にめり込んでいる。
「…フフ…最高だ。やはりニンゲンは…面白い。」
乾いた笑い声を上げて、ルキフェルは目を閉じた。

―数分後―

目を覚ましたルキフェルは何事もなかったかのように立ち上がる。
その傍にいるのは赤い服を着た美しい女性。
胸に白い紋章を刻んでいる。少なくとも教団のそれではない。
―「究極の闇が齎される日も近いな。」―
女は立ち上がったルキフェルに薬を渡し、無表情のまま言った。
そしてルキフェルの手に金色の破片を渡す。
「見つかったんだね。」
子供のような笑みを浮かべ破片を自らの体へ吸い込んでいく。
空を曇り空が包む。雨が降り始め、晴れたはずの光は
再び闇へ落ちていった。



60 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/15(日) 23:04:04 0
保守

61 名前:ハスタ ◇fmAKADpWIqWy[sage] 投稿日:2009/11/16(月) 21:59:21 0
>54>58
>「それは違うわ。光と闇はともに存在する。光がなければ影も生まれないし、影がなければ光りも生まれない。
>光と闇が生まれた時から一心同体なのよ。あなたのその考え間違ってるわ」
「そうか?光と闇しか存在しなかったら間に人間の人格がいなくなるとオレは思ってるんだけどね。」
左手を後ろに回し、槍の一本を引き抜いてコクハに向けて突きつけるように構える。

>「闇に飲まれた?何を言ってるの?私の心は初めから闇よ。同胞たちを殺す意図があるのなら、避けろ!
>なんて叫びはしない。街を守るために同胞である市民を殺したあなたたちと一緒にしないでほしい」
「だったら、お前は最初っから人間じゃないってことだな。それに・・・・・・人間が人間を殺すのはごく自然だろ?『人間は共食いをする生き物だ。』」

その瞬間、抑え切れない悪意が冷徹な声の形を取る。
爆炎の向こうから飛来する黒翼の死神が振り上げる剣を、右手に握った槍で受ける。
炎を突き破った直後にコクハは ぞわり 、と不快感を全身に感じるだろう。
元々戦士であった上に魔物化により強化された力は当然片手で受けきれるものではない。
それでもなぜ受け止めているのか・・・それは剣と槍の間に張り巡らされた白い糸のようなものだ。

「さて、ここで問題。オレの槍の残り三本はどこにいったでしょう?・・・なんて言うまでも無いわな。」
とてつもなく細く、糸と化した『四瑞』。それが、剣の威力を殺しまたコクハの全身に纏わりついてきている。
その『糸』は周囲の構造物などを巻き込む事で巧みに力を殺している。

「・・・・・・で、その仲間がいなくなってアンタはどうするんだろう・・・ねッ!」
視線だけでルキフェルがいなくなった方向を示し、相手の意識が逸れた隙を狙い左手を引く。
コクハの全身に絡みついた糸につながっているのではなく、コクハのその翼に纏わりついた『糸』。
左手の力が滑車代わりの各建造物を巻き込み、普通の人間の腕力を超える力でコクハの翼をずたずたにせんと引き絞られる!

【『糸』の罠にコクハを嵌めて、翼に攻撃。】

62 名前:コクハ ◆b9hCaqglWQ [sage] 投稿日:2009/11/17(火) 03:46:47 0
>「だったら、お前は最初っから人間じゃないってことだな。それに・・・・・・人間が人間を殺すのはごく自然だろ?『人間は共食いをする生き物だ。』」
「そう…なら永遠に食べあって死ねがいいわ」
剣が槍によってたやすく受け止められた。
人間がこの剣を受け止められることはまずない。
だとすると目の前にいる人間は本当人間か?
>「さて、ここで問題。オレの槍の残り三本はどこにいったでしょう?・・・なんて言うまでも無いわな。」
そんなことを疑問に感じていたが、答えは別のところにあった。
翼のあたりを見てみると、糸が左の翼に何本からからみついていた。
剣で切りつけた瞬間に糸で翼をからめとられ、勢いが殺されたのだろう。
糸が建物の周りで輪を描き、その先はハスタの左腕のほうへと延びている。
どうやら、この人物が糸を張り巡らせたのは間違いなさそうだ。
発言から推測するに槍を糸に変化させて、実現させたらしい。
>「・・・・・・で、その仲間がいなくなってアンタはどうするんだろう・・・ねッ!」
フェイクだ。
ハスタの言葉を無視し、剣で糸を切ろうとした。
だが、それよりも早く左手が引かれ左の翼が糸によって切断された。
「ぐっ…ぎゃあぁぁ」
支えを失ったからだが、地面に向かって落下しだした。
反射的に残っている翼をはばたかせる。
揚力が残っている翼に生じ、体の片方が持ち上がり、落下しようとする力が弱まった。
とりあえずこれで直撃という事態は免れた。
片方の翼をはばたかせ、地面に着地。
「槍を糸に変えるなんて面白いことをするじゃない。まさかトラップを仕掛けてあるなんて思いもしなかったわ。でも、一つ重要なことを忘れてない?」
地面に向かっている糸を手でつかみ、呪文を唱えた。
「光と対をなし、命ある時から存在しているものよ。その名は闇。その名において力をお与えください」
黒く染まった魔法陣が手の甲に現れ、指先が黒く染まる。
「体に触れることさえできれば、いくらでも武器を無力化できることをね」
指先を染めた黒は少しずつではあるけど糸を侵食し、糸と化したハスタの槍を真っ黒に染めだした。
【糸により羽が切断された。落下したコクハは着地すると同時に糸をつかみ、糸を闇属性に変え始めた(侵食されれば、使い物にならなくなります)】


63 名前:名無しになりきれ[sag] 投稿日:2009/11/18(水) 01:52:30 O
保守

64 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/19(木) 00:52:27 0
保守

65 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/11/19(木) 03:42:08 0
気合一閃。
地を蹴り大上段へと振り上げた剣を雷光の如く叩き降ろす。

『…くだらない。その程度で…私を倒せるつもりですか…。』
速度、威力ともに最高に達した斬撃をルキフェルは事も無げに片手で掴み止めた。
「くっ……。」
押せども引けども微動だにせず動きを封じられる。
フィオナを睨み付けるルキフェルの双眸は爛々と朱を放ち、剣を繋ぎ止める腕は異様な程血管を浮き立たせている。

『あの薬を落とされたのは計算外でした…アレが無ければ
彼を押さえつけれない。私もどうなるか分かりませんしね…!!』

”俺 を も っ と 笑 顔 に し て く れ よ ”

朗々と響くルキフェルの声。しかしそれ以上にフィオナの意識へと叩きつけられる異質な声。
初めて対峙した時に聞いた底知れぬ深淵よりの呼び声。
硬直したフィオナの腹部にぴたり、とルキフェルの手が添えられる。
ぞくり――と背を走る悪寒。

ドンッ!

フィオナが身を捩るのとほぼ同時、凄まじい勢いで衝撃波が放たれた。

「あ……くっ……。」
わき腹を掠めた衝撃波はサーコートとその下の鎖帷子を引き千切り素肌が外気に晒される。
剣を保持するのも不可能な程揺さぶられ、たたらを踏んで後退。
掠めただけだというのに意識が飛びそうになった。直撃を受けていたら命は無かっただろう。

『…ハァハァ…終わりです。これで…!!』
ルキフェルは追撃の構え。対するフィオナは笑みを浮かべ――

「――そうですね。こちらの……勝ちです!」
炸裂する光。全てを灼く様なそれを浴びルキフェルの動きが止まる。
そして閃光を?き分け迫るレクスト。

『――お前のことは大嫌いだけどなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!』
裂帛の気合とともに叩き込まれるバイアネット。
不意を討たれたルキフェルは吹き飛び、大地へと叩きつけられる。
うつ伏せに伏したまま笑うかのように暫く体を震わせ、がくりと糸の切れた人形の様にその動きを止めた。

「あ痛た……、助かりました。こちらは何とかなりましたね。」
フィオナはわき腹を抑えつつレクストに話しかけると、剣と盾を拾い上げもう一方の戦いへと目を向けた。

66 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/11/19(木) 18:20:50 0
>62
>「槍を糸に変えるなんて面白いことをするじゃない。まさかトラップを仕掛けてあるなんて思いもしなかったわ。
> でも、一つ重要なことを忘れてない?」
「あん?」

コクハの唱える呪文が完成すると、指先からどんどんと糸が漆黒に染まってゆく。
>「体に触れることさえできれば、いくらでも武器を無力化できることをね」
「いや待て、そんなの一度も聞いてねぇぞ?!畜生!・・・・・・なんて言うとでも思ったか?」

にやり、と笑みを返すオレの黒瞳には今恐らく薄っすらと青が混ざってきているだろう。
浸食されつつある物も含めて、糸と槍の全ての輪郭がぐんにゃりと歪む。
元の形から開放されたそれらは、オレの両手に集い一抱えも二抱えもある球体を形作る。
それは形を失った薄青の魔力の塊。そのところどころが闇の黒に染まっているのだが・・・それもだんだんと青に還元されて球が肥大化する。
「確かにその方法だと『四瑞』じゃあんたにダメージは与えられなくなるが・・・この『四霊』ならどうだ?!」

回転。両手を中心に集った魔力塊は、下方からのゴルフスイングのような軌道を描く途中で姿を変える。
無形の魔力は所有者の意思に応え、その意志を体現する。それは巨大なウォーハンマー。
「無属性の魔力の槌を、受けられるもんならなぁ!!」
ほぼ0距離から放たれた一撃はコクハへ接触する瞬間に無音・無色の爆発をもって更なる追撃を与える!

振り切った後、再び形を失った球体は元の白い板に姿を変えて手元に収まる。
至近距離からの一撃、その結末を見ることなくオレは聖騎士と従士の二人の方を振り返る。
「とっととずらかるぞ!これ以上相手をしている時間が惜しい。し、これで死ぬとも思えない。
 途中で連中が妨害を受けてたらそっちも手伝ってやらなきゃいけないしな。」

そう声をかけて、揺り篭通りへの道を走り出す。

67 名前:コクハ ◆b9hCaqglWQ [sage] 投稿日:2009/11/20(金) 15:23:22 0
>>66
>「確かにその方法だと『四瑞』じゃあんたにダメージは与えられなくなるが・・・この『四霊』ならどうだ?!」
ぞわり。
嫌な空気がした。
糸から手を離し、飛びのこうとするが、その時はすでに遅かった。
貿易センタービルと同じ高さはあろうかと思われる槌が天から落下し、コクハの体がぺしゃんこになった。
さらに爆発が加わり、コクハの脳髄・臓物・コクハを構成するありとあらゆるものはこの世から消えてしまった。
だが、この爆発で持消えないものは一つだけあった。
クレーターの中心部に黒い剣が転がっている。
その剣はあれだけの爆発を受けたにもかかわらず、傷一つなく、怪しげな光を放っていた。
【コクハ死亡。いままでお付き合いくださりありがとうございます。いろいろと迷惑をかけてすみませんでした】

68 名前:銀河鉄道電車男曹長@∃∀∞【*Д*】+∇+[http://blog.goo.ne.jp/anco-suki/] 投稿日:2009/11/20(金) 18:53:06 0
【登場作品】株式会社UPLの宇宙戦艦ゴモラ続編に大ゴモラ大銀河シリーズ。
【機体名称】大ゴモラ零号ウルトラスーパーハイパースペシャルデラックスパーフェクトアンリミテッドアルティメットエターナルエンドレスエイトインフィニティーエボリューションバージョン。
【全能力値】全ステータスが超究極∞以上を遥かに越えている不沈艦&無敵&不死身&最強最大最高最良。
【全習得技】ショックカノン&プラズマビーム副砲&パルスレーザー砲塔&オールディメンションブレイクインパルスリアクションブラスター主砲&煙突ミサイル&波動カートリッジ弾&波動缶詰開放兵器。
【秘密兵器】宇宙魚雷&光子魚雷&量子魚雷&フェイザー砲&大ゴモラ砲&大ゴモラ三連砲&大銀河砲&回帰時空砲&マイナス時空砲&次元反動砲&異次元領域エネルギー砲&超空間亜空間霊界砲。
【特別装備】グランドフィナーレファイナルラストステージエンドオブザワールド全知全能自由自在転送技術瞬間移動移動圧縮凝縮衝撃驚愕一点集中臨界収束パラレルワールドアナザースペースクラッシャーガトリング波動砲。

69 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/21(土) 01:30:25 0
バイアネットを振り抜くと、それは意外なほどに軽く、しかし確かな手応えを残して打音を奏でる。
ルキフェルは胴体こそ真っ二つにならなかったものの、それ以外の責め苦を全てその身に受けて吹っ飛んでいく。

「…フフ…最高だ。やはりニンゲンは…――面白い」

残響にように呟きを風に混ぜながら残りの呼気を肺から追い出し、やがて失速して地面へと叩きつけられるようにして沈む。
そうして彼は、それ以上動かなくなった。数十人もの人間をその手にかけた悪魔のような男が、あっけないほどに沈黙した。

「面白いだろ、人間――これからもっと面白くしてやるから草葉の陰から眺めとけ!」

息を大きく吐きながら強化術式と戦闘加護を解き、バイアネットを畳む。
背後の物音に振り向くと打撃された箇所を押さえながらフィオナが吹っ飛んだルキフェルを見送っていた。

「あ痛た……、助かりました。こちらは何とかなりましたね」

「流石に二度も死線くぐるのは御免だったぜ……そっちの傷は大丈夫かよ?結構無茶やっただろ」

外装を抉られたのか、脇腹のあたりから眩しい肌が露出している。鎧に守られていた絹肌は傷一つなく滑らかで、
騎士であるが故か適度な薄い肉が艶かしいくびれと陰影を醸している。まだ寒い季節ではないので風邪を引くことはないだろうが、
どちらかというとレクストの方が眼に毒だ。わざと視線を逸らしてそれを視界に入れないようにしながら、十字架使いの方を見て、

「おいおい……あの武装をどういう風に使ったらこんな芸当ができるんだよ……」

クレーターが出来上がっていた。どれほどの質量と大きさが激突したのか、石畳は大きく抉れ更地になっている。
衝突に際に爆発も起こったのか、所々が焼け焦げ石畳の下の砂層はガラス化していた。

あの黒翼の魔物が居た痕跡はどこにも見つからず、まるでそこには初めから何者も存在していなかったような風である。
唯一の名残を挙げるなら、中央噴水と同じくらいはある巨大なクレーターの中心に一振りの剣が転がっていた。

黒剣。フィオナのものと大きさはさして変わらない、しかし漆黒に染まったバスタードソード。
黒翼の魔物が振るっていた唯一つの刃であり、そこに彼女が存在した証左。傷一つなく、光を放ってすらいる。

(降魔犠牲者の忘れ形見、か――墓代わりにでもしてやるかな)

彼女とて魔物に変わってしまったのは本意でないはずだ。例え敵として立ち塞がった相手の遺留品でも、
このまま埋めてしまうのはあまりにも不憫である。見たところ、それなりに価値のあるものであることだし。

クレーターの中心部まで駆け下りて、柄を握って拾い上げると、それは驚くほど手に馴染んだ。
応急処置用の滅菌布を刃の部分に丁寧に巻き付け、腰の武装ベルトのハードポイントに挟みこむようにして差した。

「とっととずらかるぞ!これ以上相手をしている時間が惜しい。し、これで死ぬとも思えない。
 途中で連中が妨害を受けてたらそっちも手伝ってやらなきゃいけないしな」

クレーターの外から十字架使いが声を張り上げ、北区へと駆け始めた。
今のところルキフェルは昏倒しているが、命までは奪えていない。ツメが甘いのではなく、意図的に防がれたのだ。
ここで止めを刺す選択もあったが、この昏倒自体が罠である可能性と、避難組の安否を考慮するにそんな時間はなさそうだ。

「俺達も行こう。揺り篭通りに行けば街を魔物から奪い返す足がかりが出来るし、物資の補給も必要だ。壊された装甲とかも換えなきゃな」

クレーターから這い上がるとフィオナを促すようにして先行し、しかしレクストは途中でその足を止めた。
後ろを付いてくるフィオナの方を振り返り、やっぱり視線を逸らしたままで、バックパックから布製の薄上着を取り出した。
装甲の下に着込む緩衝用の綿着、その予備である。

「あー、なんつうか、色々見えまくりでヤバいからよ。これ使ってくれ!」

レクスト19歳。
教導院の寮生活、そして従士隊の宿舎と男所帯ばかりで過ごしすぎたせいか、未だに初心であった。



70 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/21(土) 01:35:28 0
(揺り篭通りの連中は無事か……?あそこは守備隊増員されてるし祭りの中心からも遠いから大丈夫だとは思うけどよ……)

降魔されたのは炊き出しを口にした者達。そして炊き出しは街の中心で行われていた。
揺り篭通りは露店を出す店も多く、北区にいるうちは炊き出しを食べに行くなんてことはないとは思うが。
全ては希望的観測だった。そしてそのレクストの儚き願望は、あまりにもあんまりな形で裏切られることになる。

「な、な、なんだこれ――!!」

揺り篭通りの入り口に、巨人が居た。
巨人がその豪腕を唸らせ、魔物の群れを薙ぎ払っていた。
腕を一振りするごとに突風が吹き荒れ、それ以上の規模でもって大量の魔物達が宙を舞う。

「ゴーレムか、これ……なんでこんなもんがうちの地元に!」

三階建てほどもある巨躯のほとんどは精霊樹材とミスリルで構成されていて、ところどころ悪趣味な塗装がされていた。
塗装は極彩色の魔導顔料で、淡く光るその色彩は文字を夜空に浮かび上がらせている。

『リフレクティア商店協賛』

「スポンサーついてるぅぅぅぅぅ!?」

「おおレク坊!無事だったか!!尖塔のほうで大爆発があったらしいから心配してたんだぞぉ!」

不意に声を投げかけられ、反射的に視線を遣ると兄がいた。いつものバーエプロンを纏ったティアルドが、
手元にある魔法陣に指を走らせ術式命令文を書き綴りながら器用にも手を振っていた。

「兄貴!よかった生きてたか……ってのは置いといて"これ"は一体なんなんだよ!」

「あー!?」

「こ、れ、は!こ、の、デ、カ、ブ、ツ、は!一体何でどっから出てきたんだよォ!!」

聳え立つゴーレムをびしりと指差しながら、レクストは兄と同様声を張り上げて質問する。
彼我の距離は未だ30メートルほどあり、ほとんど怒号の飛ばし合いに近い会話だった。

「二足歩行型タイタン級陸戦ゴーレム『インファイト1号』ちゃんだ!かっこいいだろ!?欲しいっつってもやんねーぞ!」

「かっこいいし欲しいけど!なんだってこんなもんがこんなとこで揺り篭通りの門番やってんだ!?」

「それはな「ヴォオオオオオオオ!!」

しかし返答を聞くことは適わなかった。駆けるレクスト達へ無数の魔物達が飛び掛ってきたからである。
インファイト一号ちゃんに敵わないと見て少数のこちらを狙ってきたのだろうか、如何せん数が多すぎて対応しきれない。

「おい兄貴、こいつらどうにかし――」

そんなレクストの叫びさえも飲み込まれた。それ以上の悲鳴が、魔物達から挙がったためである。
魔物達の巨躯に阻まれてよく見えないが、包囲網の外側から雄叫びのような声が挙がって、蒸気が立ち昇っている。
やがて叫びと蒸気の連鎖はレクスト達のところまで続いてきて、彼に襲い掛かっていた魔物さえもその餌食となった。

力なく崩れ落ちる魔物達。その身体は何かで濡れており、ゆっくりと、しかし確実に異形の体躯を融かしていく。
蒸気が昇り、やがて視界が晴れた先に見えたものは、意識を失った人間達が折り重なるようにして倒れた光景だった。

「――弱った魔物に高濃度の聖水を浴びせると、降魔された人たちも人間に戻せるみたい」

平坦な声の解説にはっとしてそちらを見ると、紐と革を組み合わせた投石器を両手からぶら下げて、高台から見下ろす少女が一人。

「……リフィル!」

あくまで希望的"観測"だった。無事なんてもんじゃない。揺り篭通りは既に、反撃の狼煙を煌々と燃え上がらせていた。

71 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/21(土) 01:38:49 0
「戦争が起こるかもっつったろ?だから北部の『武装都市ロトヴィア』からパーツごとに個人輸入してよ、
 圧縮術式使って極秘裏に組み上げてたんだよ。知ってたのは搬入業者と親父だけだな!」

揺り篭通りに迎え入れられてから、ティアルドに現在の状況と概要をおおまかに聞いた。
どうやらやっと通信が回復したらしく、他の区の守備隊とも連携をとってどうにか防衛体制の立て直しを図っているそうだ。

「一時はとんでもない量の魔物が押し寄せてて、いっぱい殺していっぱい死んで、どうなっちゃうかと思ってたけど」

所帯なさげに早歩きでうろうろしながらリフィルが補足する。腰に巻いたガンベルトには聖水の小瓶が大量に装填されていた。
これを投石器で投擲し魔物にぶつけ、割れた瓶の中身を浴びせることで降魔の解除をしているようだ。
レクスト達を救ったのも同じ手法で、特に非力な子供達は専ら痛めつけて無力化した魔物を人間に戻す作業を請け負っているらしい。

「いきなり尖塔のほうで爆発が起こって、結界の中に立ち込めてた暗雲が消えて魔物の動きが鈍くなったの」

降魔の甘い連中の中には自力で人間に戻った者もいたらしい。そこからヒントを得て、聖水で浄化する発想に至ったそうだ。
的当ての名手であるリフィルは自ら聖水投擲の役を買って出て、そして結果を出した。

「一旦魔物化した奴らで今人間でいられる連中は、みんなリフィルちゃんには頭が上がらんよ」

肉屋の主人がそう賛美して、周りにいた大人達が異口同音に頷いた。いずれも身内を救われた者達である。

「へぇっ、流石は俺の妹!こりゃ俺以上の偉人になるかもなあ!!」

「基準を一緒にしないで愚兄。――生まれながらの出来が違うから」

「おいおい謙遜すんなよなよゴハァッ!!?」

頭骨に蹴りを入れられ、盛大に地面に伸びる。大の字のままレクストは、そして思い至って兄に聞いた。

「そうだ、東区のほうから避難民が来てないか?俺達もさっきまであっちに居たんだけどよ」

「ああ、守備隊に先導されてた連中だろ?大丈夫、ちゃんと来てる。酷かったらしいなそっちは――お前、刺されたんだって?」

ティアルドの声にリフィルがピクリ肩を震わせ、こちらを見た。その瞳には当惑の色がある。
兄が知らないうちに重傷を負っていた事実と、それにまるで気付かなかった自身への困惑だろうか。
無理からぬことである。何故ならその傷は、跡形もなく癒えきっているのだから。

「……まあ、刺されたっちゃあ刺されたけどよ、優秀な術者のお陰でサッパリ治っちまったよ。元気元気。そんなことより親父は?」

「揺り篭通りの北端、町はずれの城壁までご出張だ。結界が弱まったせいか外からも魔物が入り込んできたらしくてな、
 守備隊の連中と一緒に討伐に行ってる。しばらくは帰ってこねえだろうから、会うなら行って来いよ」

そういえば通りの入り口にいる守備隊の数が妙に少ないと思っていた。姿を見かけない元黒衣達も外壁防衛に行ったらしい。
どちらにせよ街を取り戻すには守備隊の協力が不可欠――会いにいくほかないようだ。

「つーわけで」

レクストはおもむろに起き上がり、同行してきたフォオナとハスタへ向き直る。
彼女達も戦闘の疲れと傷を癒す必要があるだろうし、武器や物資の補給を考えると前線にじっとしているわけにはいくまい。
ここでしっかりと準備を整え、万全万端でヴァフティア奪還に乗り出すべきだろう。

「俺はこれから守備隊の連中と話つけに揺り篭通りの外壁部まで行くぜ。
 ここはしばらく安全だろうから、休むなり武装整えるなりしといてくれ。俺と一緒に外壁まで来てくれるならモアベターだ。助かる」



【揺り篭通り到達完了。守備隊の力を借りるためレクストは外壁部へ】

【通りには飲食店から術具店、武具屋など様々な店があり、傷の手当て、兵糧や武器の補充、防具の補修等ができます】


72 名前: ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/21(土) 02:52:17 0
―ヴァフティアの外れ 洞窟内部

「ニンゲン如きに負けるとは、愚かだな」
洞窟の中、薄暗い闇の中で複数の男女がルキフェルを囲み嘲笑していた。
体のそれぞれに紋章のような物を記している。

「しかし、ニンゲンは油断は出来ない。かつての敗北を忘れた分けではない筈だ。」
その中で1人、無表情のままの美女が呟く。
男女は口々に笑みを浮かべながら頷いた。
「殺し甲斐があるということだな。」

ルキフェルの隣に、青い魂が舞い降りる。
ルキフェルは心底嬉しそうに笑っている。
笑みを浮かべたまま、影に小さく声をかけた。

「もうすぐ、会えますよ。貴方の…大切な――」

影は何の事か?とでも言うように顔を向ける。
女性のような、それでいて恐ろしく低い声で言う。
「……ワタシハ、ワカラナイ。タダ…タタカウダケダ…」
影が姿を現す。その姿は、虎と龍の合成された魔人。
邪悪な魔物のようでありながら
一部分はニンゲンであった頃の姿を残している。

「門の争奪戦以来ですか…随分待ちました。
しかし、人の命を弄ぶのも――中々楽しいものです。」

73 名前: ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/21(土) 03:24:20 0
―同時刻 教団内部

「これは…!?」
教団の最深部、リュネのいた部屋の隣で1つの死体が見つかった。
数年は経過しているであろうその白骨化した遺体は四股が砕け散り、
そしてその傍らには「幹部」の証である金眼が転がっていた。
そしてその背格好、衣服。それはある男に酷似していた。
「まさか…いや、そんな筈は。」
ボロボロに朽ち果てた黒い衣装。そして、眼鏡。
「ルキフェル様…この死体はルキフェル様の物か?いや、そんな筈はない。
ルキフェル様はまだご存命だ。」

1人の幹部候補が口を開いた。
「何故…幹部の証である金眼がここにある?
おかしいとは思っていたが、何故ルキフェル様は今もなお
金眼を得ていない?」

「そ、それは…あの方は病弱が故に…」

顔を見合わせ狼狽する。
ここにある死体は何なのだ?と自問するが故に。

「もしも、だ。もしこの死体が俺達の知っているルキフェル様だとするならば…
今、生きているルキフェル様は…誰なんだ?」



74 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:45:39 0
「…本当に馬鹿。欲深くて、色好みで、先走って、無謀で――見ず知らずの小汚い女、利用するつもりだった癖に結局」

ぽん、とミアの頭に手を載せ、少し乱暴に頭を撫でる。
ちょうど初めての、そして久しぶりの邂逅の時のように。

「あいつが選んだ事だ。野郎・・・笑ってやがったぜ。
 あいつは手元で最強のカードを切って、クソ野郎どもの身包み引っ剥がしたんだ。
 なぁ、だから後は俺達がケリをつける。一緒に、な」
「―――今から5分。貴方を全力で援護できる」
「十分すぎる。居眠りしちまうかもな」
「……大怪我したら、返してあげないから」

ひょっとしたら初めて見たかもしれない、彼女の笑顔。あるいは四度目か。
ああ、畜生。いい女だ。こいつ守って死ぬなら、悪くない―――
呟きは心の中に留め、地を蹴った。

「な・め・る・な・よ!!!!!!
例え心臓が潰れようとも!体を維持できなくとも!あの男を殺し貴様を侵す力と時間くらい無いと思うてか!!!」

少女が狂気の宿った叫びを上げ、圧倒的な衝撃波が地を這い空を裂く。
蹴った足を大きく回転させて振り下ろし、地を踏み抜く。
その衝撃で人の背丈ほどの瓦礫がめくれ上がり、盾となってミアとギルバートを守り、少女の視界を塞いだ。
さらにその瓦礫の背後から無数の魔力線が上下左右に走り、壁に、地に繋がれ道を作る。

「さてお嬢さん。簡単な問題だ。右か?左か?それとも上か?」

声が聞こえたのは一瞬。一呼吸置いた次の瞬間、瓦礫が砕け散り、無数の破片が少女を襲う。

「―――前だ」

その破片と共に狼が紅い焔の線を連れ、銀色の閃光となって真っ直ぐに突進してきた。
破片は重力場に妨げられ地に落ちるが、狼のスピードはその身体能力のみならず、ミアの助けを得て恐ろしく早い。
さらに、狼と少女の間には歴然たる体重差があった。
重力は誰にでも平等だ。ちょうど先程の犀と化したディーバダッタとギルバートと同じ事―――

「ガァァァアアアウッ!!!」

咆哮と同時に狼が少女に激突し、石壁を叩いたような音と共に大きく突き飛ばした。

「ミア!飛ばせ!!」

間髪入れず人に戻ったギルバートが叫ぶ。肉体の力では不可能な運動で、ギルバートの体が大きく飛翔した。

「おおらぁぁぁあああッ!!!」

先に張り巡らせた魔力線を引いて鋭角に軌道を変え、ギルバートの体が弾丸のように少女の上へ落下する。
右拳の銀指輪が紅く光り、少女の頭を撃ち抜いた―――かのように見えた。

75 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:53:22 0

(外した――――!)

やはり人間の反応ではない。拳は空を切り、地面に小さなクレーターを作っていた。
だが―――――

「―――捕まえた」

にやりと笑い、左腕を上げる。見れば、左手を経由した魔力線が少女の左手に幾重にも絡みつき、捕らえていた。
ぎりぎりと魔力線を引き寄せ、互いに左手を封じられた状態で、顔を突き合わせるような近距離で向き合う。

「言っただろ?さあ、馬上名乗りを上げて、正面から、槍試合だ」

右拳のストレートを叩き込む。その重さも、早さも、先程とは比べ物にならない。
ああ、それにしてもムカつく化け物だ。何よりもその外見がふざけている。
先程のガチムチマッチョの方がよっぽど親しみを感じる。心置きなく殴れるからな。

「なぁ、聞けよ。俺は面倒な事が大嫌いでね」

もう一発。今度はこめかみを狙ったフックだ。人並みにこめかみが痛いのかは知らないが。

「この"ステッペル"だってホントは面倒くさくて使いたくねぇんだよ。
 こんなチマチマ伸ばして操るなんてのはどう考えても合わないだろ」

ウルフィ・ステッペル―――猟師が使う、縄を使った罠の一種だ。野生の狼を捕らえるのに用いる。
紅く光る魔力線にはその名が付けられていた。

「でもな、昔グレイってダチの師匠がクソ真面目な堅物でよ。
 そいつがこういう小細工も覚えとけってうるさかった」

左頬に痛みが走り、世界が揺れる。平手とは恐れ入った。
傍目にはさぞかし酷い光景に見える事だろう。構うものか。

「何が言いたいかって?
 いいか。死んだ奴が生き返るとか、二人が一つになるとか、この世界を変えてやるとか―――
 そーゆー話は俺は大ッ嫌いだ。ましてや、何だ?あの嬢ちゃんを器にして地獄を呼ぶ?
 ふざけるなよ!人は自然に死ぬから精一杯生きるんだろうが!!
 いつか死ぬからこそ、その一瞬その一瞬を必死で描いてんだよ!!
 それを、んな簡単に誰かの生を終わらせるとか面倒くさい事を許すか!!」

口の中が切れ、血混じりの唾を地に吐き捨てる。お返しにカウンター気味の顎を入れてやる。

「俺は嬢ちゃんの生き方を見届けて、ついでにそれなりに楽しい思いして、しかるのちに死ぬんだよ。
 テメェなんかにあいつはやらん。あいつが俺を助けて死んだのは、そんな面倒くさい事の為じゃねぇ
 勿論この世界もテメェにやらん。あいつが世界を守ったのは、誰かが好き勝手にぶっ壊す為じゃねぇ」

ひたいが切れ、左目に血が流れる。何でもいい、見えれば問題ない。

「―――自分の絵が描きたけりゃ、与えられた色を使ってテメェで描け。このクソ化け物がぁ―――ッ!!!」

赤く紅く燃える瞳と指輪、そして言葉が、幾度も繰り返し少女を襲った。

76 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/11/22(日) 23:37:19 0
>48>65>67>69>70
アッパースイングでハンマーを叩きつけようとした瞬間、脳裏で声がささやく。
コレデハタリナイ、モット、モット!と。
一旦ハンマーを空振りさせ、中空でタメを作る。周りから吸収したソレが四霊に取り込まれさらに巨大化。
それを眼前で見ればもはや絶壁のような圧力を発しているだろう大槌を、振り下ろす!

最早目を開けていられ無いほどの爆発。
再び目を開いた時には周囲は大惨事と化していた。
>「おいおい……あの武装をどういう風に使ったらこんな芸当ができるんだよ……」
「ハハ・・・・・・ちと調子に乗りすぎた、n・・・げふっ。」

白い板となった四瑞を左手に、右手で口元を押さえると自身の血で少し赤黒く手が染まった。
「はっ、随分空気がすっきりしたな。にしても・・・・・・案外初心なんだなぁ、従士サマ?」
右手を握り締めて乱雑に口元を拭って気取られぬようにし、軽口を叩く。
実際クレーターのあたりだけ周囲よりも更に瘴気が薄い。まるで何かに削られたように瘴気が消費されている。

あまり心配をかけまいと我先に揺り篭通りへ向かう道中、壁に体を預けもう一度口中に溜まった血を吐き出す。
そうして片隅の路地を見やると、ある一体の死体に目が行った。不自然なぐらい損傷の少ない死体。
何となく、心の片隅に記憶して再び路地を駆ける。

>「俺はこれから守備隊の連中と話つけに揺り篭通りの外壁部まで行くぜ。
> ここはしばらく安全だろうから、休むなり武装整えるなりしといてくれ。俺と一緒に外壁まで来てくれるならモアベターだ。助かる」
揺り篭通りでは、住民達によるちょっとした拠点が出来上がっていた。
ここまで街が凄惨な状態であるにも関わらず、人々の表情は明るいとまでは言わずとも覇気がある。
やはり、人間っていうのは抗う生き物でなきゃな。そう、呟いてからレクスト達へと向き直る。
「そういや、名乗ってなかったな。俺はハスタ。“四瑞”のハスタ。所謂ハンターって奴だ。
 ・・・・・・で、もし外壁に行くのに余裕があるなら2、3分待ってくれないか?すぐ終わる。」

そう言って、道具屋の方へ向かう。レクストとすれ違う瞬間だけ彼にのみ聞こえるように囁く。
「途中、妙な死体を見つけた。気をつけた方がいい、敵が人外だけとも限らなさそうだ。」

道具屋でインクと筆を買うと、路地の壁に背をつけて座る。
自身の四方に四分割した槍を突き立てて周囲を囲むと、懐から取り出した10枚の紙に何事かを書き付ける。
紙一杯に広がるものは絵の様であり文字の様な図柄。
まるで精密な機械の様に図を描くと、紙をホルダーに収める。
「若干手順は簡略化したが・・・さっき消耗した符の劣化代用品ぐらいにはなるだろ。待たせた。」

【符を十枚簡易作成、補充しレクストについていく。】

77 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/24(火) 00:25:03 0
保守

78 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 01:45:38 P
>「な・め・る・な・よ!!!!!!
>例え心臓が潰れようとも!体を維持できなくとも!あの男を殺し貴様を侵す力と時
間くらい無いと思うてか!!!」

その髪は国造りの大蛇もかくやと乱れに乱れ、その叫びはそれだけで人の胸を抉り抜くような憤怒が込もっていた。
景色が捻れる。空気が一瞬の疎、次いで凄烈な密でもって周囲を打つ。
――当たれば、死ぬ。
ミアは――動じなかった。
ただ事も無げにひょいと袖を顔前に掲げただけ。
刹那、爆音のような音と共にめくれあがった石畳が二人を守る。

>「―――前だ」
「“祝福”」
石の防壁が砕ける。身体能力を高められた狼が銀の弾と化して踊り出る。
――背後のミアに注いだ小さな石片は掲げた袖に払われ、落ちた。

>「ミア!飛ばせ!!」
「“飛………、ん…」
咄嗟に式を組み換え、ある程度の浮力を前方への推進力に振り替えて発動。
男が飛んだ。速い。ミアが目で追うには速すぎる。
勘で式を終了させ、感覚が現実に追くのはその一瞬後だった。
そして視界に飛び込んだのは、互いを間合いに捉えて組み合う二人。

>「―――捕まえた。
>言っただろ?さあ、馬上名乗りを上げて、正面から、槍試合だ」

不敵な言葉が低く風を震わせる。
それが幾度と無く続く、命の削り合いの合図となった。
風を切る音。叫び。呻き。打突音。何より煩い、自分の心音。
どちらとも分からぬ血しぶきが月下に仄光る石面を彩る度、
ミアの表情が微かに、夜風にそよぐ綿毛ほどの密かさでもって微かに揺れる。
人を超えた者同士の一騎討ちだ。立ち入る隙があるはずもない。それがもどかしい。

(ギルバート……)

>「ふざけるなよ!人は自然に死ぬから精一杯生きるんだろうが!!」

(………え?)


79 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 01:48:01 P
(……自然に…死…?)

>「いつか死ぬからこそ、その一瞬その一瞬を必死で描いてんだよ!!」

先ほどと異なる汗・心音の存在を彼女は認めざるを得なかった。戦場にも関わらず、だ。
死は彼女の中で絶対的な恐怖の対象だった。
理解できない。
思考が拒否を始め、ミアは我知らず首を振って額を押さえていた。
考え方よりも、何よりも信じられない。死を受け入れてあのように強く光を放てるものなのか?
できない。できっこない。自分はそう思う。
――なのに。
何だろう。心臓が息をしづらい程に締まって、鼻の奥の骨の辺りが痛い。
何だろう。これは期待?憧れ?彼の考えに対して?

>「それを、んな簡単に誰かの生を終わらせるとか面倒くさい事を許すか!!」

(……あれ……何か……)

ギルバート。
顔面から血を垂れ流し、バックは路地、武器は拳、相手は女。
馬上試合?何の間違いか。
だが――ミアの目には泥臭い今のその姿が――死を受け入れ生を叫ぶその姿が、人として酷く――魅力的に見えた。

彼の言葉は刹那的に生を送る獣と決定的に異なる言葉、“終わりを知る生物”人間の言葉。
生の価値、死の意義、何一つ理解していなくても、彼の姿は強く彼女を惹きつける。
それが意味するのは、死の恐怖からの解放であったから。

「――ギルバート………」

>「―――自分の絵が描きたけりゃ、与えられた色を使ってテメェで描け。このクソ化
け物がぁ―――ッ!!!」

(じっとして…いられない……私にできることは……!)

ミアは腕を振った。刹那、肌が湧き立つような感覚と共に吹き出る魔力が収束を始める。
夜闇を貫く血色の糸が一斉に震えた。
収束の先は【鍵】を捉えた魔力線だった。
糸は魔力を高め――ゆっくり、暁色へ輝きを転じていく。
華々しく命を燃やす銀の騎士の馬上試合、雄々しく刃を振るうその場を強固に保とうと――
また極度に高まった糸の魔力はギルバートの腕にも流れ込み、力を与えていく。

(お願い……………ギル……!)


80 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 04:56:49 0
――轟音。
大気が振るえ、空気がたわむ。

爆発音の後、フィオナが見つめる先には縁が隆起した巨大な窪地が出来上がっていた。
黒翼の堕天使は直撃を受け消滅したのか周囲を見回してもその姿を確認できない。
窪地の底、中心部には一振りの黒剣が墓標の様に突き立っている。
これ程の惨状を引き起こした一撃を受けてもなお、剣は欠ける事無く刀身は怪しげな光を照り返していた。

(生前はさぞ卓越した剣士だったのでしょうね……)
かなりの業物であろう剣と二人掛かりでなんとか出し抜いたルキフェルを翻弄した技量。
降魔の犠牲とならなければ肩を並べ共に戦う道もあったのかもしれない。

「至高なる天空におわす神よ。彼の者の魂に憐れみを……。」
聖印を握り締めたフィオナの口から自然と祈りの言葉が紡がれる。

『とっととずらかるぞ!これ以上相手をしている時間が惜しい。し、これで死ぬとも思えない。
 途中で連中が妨害を受けてたらそっちも手伝ってやらなきゃいけないしな』

フィオナがあまり行うことのない聖職者としての本分を全うしているとそれを嗜めるように声が響いた。
声の方を見るとハスタが身振りで「急げ」と指示を出しながら駆けて来る。
そうだった。これで終わりではない。
先に逃がした市民や守備隊達と『揺り篭通り』で合流しヴァフティアを魔より奪還するという仕事が残っているのだ。

『俺達も行こう。揺り篭通りに行けば街を魔物から奪い返す足がかりが出来るし、物資の補給も必要だ。壊された装甲とかも換えなきゃな』

ザリザリと瓦礫と化した石畳を踏み分けよじ登ってきたレクストもハスタに続く。
その腰には拾ってきたのだろう剣が布を巻かれ差されていた。
フィオナも遅れないよう走り出そうとしたその時、レクストが立ち止まり此方を振り返るとまたついっと視線を逸らす。
なんだろう、とフィオナが首を傾げるとバックパックから薄手の上着を取り出し――

『あー、なんつうか、色々見えまくりでヤバいからよ。これ使ってくれ!』

――差し出した。

「へ?」

思わず間抜けな声が出てしまう。
『・・・・・・案外初心なんだなぁ、従士サマ?』
ハスタも口元に手をあてくつくつと肩を震わせている。
(色々見える……?)
フィオナが視線を下へ、自分の体へと向けるとルキフェルの衝撃波を受けた際だろうか脇腹の辺りの上衣とその下の鎖帷子、更にその下に着けていた鎧下の服までがごっそりと無くなっている。
腰の辺りは言うに及ばず胸の下部分を辛うじて覆う程度だった。

「なっ、なななななな……。」
フィオナは何かを言おうとして、しかし次の句が告げられずに――
「――うわあああああああああん!」
泣き声と共に従士の顔面へとグーパンチを叩き付けた。

81 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 04:58:26 0
「あ、あのあのっ。ご、ごめんなさいっ!」
揺り篭通りへの道すがらフィオナは延々とレクストに謝罪していた。
気を使って衣服を差し出してくれたレクストをあろうことかガントレット付きの拳で殴り倒したのだから当然と言えば当然である。
今着ているのはその時渡された綿着である。
さすがにぶかぶかだったので袖の部分は折り返されているが。

レクストの機嫌が直ったのは――というかそれどころではない状態が発生したからだが――揺り篭通りへと到着した時だった。
先に此処へと逃げてきた市民、守備隊は無事だった。
それどころか商店街は独自の戦力で魔を撃退してすらいた。

「ヴァオオオォゥ!」

轟く雄叫び。唸る豪腕。
その身に纏うは『リフレクティア商店協賛』の文字。
手広い商売と店員の個性でヴァフティア市民なら知らない者は居ない商店街の名物、リフレクティア商店が揃えた戦術級ゴーレムの一団である。
どうやらレクストはそのリフレクティア商店の一員、つまるところ家族らしい。
先程から兄と思しき人と楽しげなやり取りをしている。
と、思った矢先。今度は妹だろう小柄な少女の蹴りを側頭に受け悶絶していた。

(神殿の皆は無事でしょうか)
仲睦まじいその様子を見て思わず神殿の同僚の安否が心配になった。
(ま、まあ団長が居れば大丈夫でしょうけど……)
が、二振りの大剣を軽々と振り回す偉丈婦を思い出し、ややげんなりとしつつ不安を振り切る。

『そうだ、東区のほうから避難民が来てないか?俺達もさっきまであっちに居たんだけどよ』
大の字に地面に伸びたままのレクストがティアルドへ問いかける。
対する答えは是。
市民は手当てを受け、守備隊や元教団員のジルドは外壁防衛へ赴いたとの事だった。

『つーわけで』
『俺はこれから守備隊の連中と話つけに揺り篭通りの外壁部まで行くぜ。
 ここはしばらく安全だろうから、休むなり武装整えるなりしといてくれ。俺と一緒に外壁まで来てくれるならモアベターだ。助かる』
やおら起き上がったレクストが此方へと声をかけてくる。

「勿論ご一緒します。此処まで来て仲間はずれは無しですよ?」
フィオナは笑顔で答えると商店街の一角、神殿ご用達の店へと駆け込んだ。

【レクストに同行。店で損耗した武具の補充をします。】

82 名前: ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 13:20:23 0
―7年前 ゲート争奪戦―

呆然とする1人の少年を、金髪の青年が見つめている。

「どうしたの?そんな顔して。」

青年は天使のような笑みを浮かべて少年に聞いた。
少年は己の無力を唯、嘆いているようだ。
青年はそれを見て、つまらなそうに1体の魔物と、それに立ち向かう男を
睨んだ。

「ねぇ、強くなってよ。強くなって、俺をもって笑顔にしてよ。」

少年の目に焼きつくのは絶対的な闇。それまでの天使のような笑みを
浮かべていた青年は消え去り目の前には形容し難い存在が――居た。
少年から離れた青年は凄惨な殺戮を楽しんで眺めていた。
まるで楽しい劇を見ているかのように。
ずっと、笑っていた。その光景を少年は深い記憶の中に封印しているのだろう。


――現在 揺り篭通り前

「さぁ、始めましょうか。…と言っても私ではありませんがね。」

黒衣の紳士、ルキフェルの横には女の姿。
右腕に龍の紋章、そして左腕には虎の紋章を刻んでいる。
「地獄から蘇りし者。
貴方の力を、見せる時が来ました。さぁ、行きなさい。」

女性は無表情のまま揺り篭通りへ歩いていく。
全身に禍々しい闇を纏いながら。
それを見届けたルキフェルの姿が黄金の光に包まれる。
それまでの壮年の紳士からは一変し、若い青年の姿になった彼がそこにいた。

「自分が信じていたモノ、その全てがたとえ敵だとしても貴方は戦えますか?
フフ…面白い暇潰しになりそうだ。ねぇ、お母さん。」

女は一瞬立ち止まる。しかしすぐに踵を返し通りへ向っていく。

「さて、少し楽しんだら帰るとしましょうか…”帝都”に。」

【揺り篭通りへ刺客を送る】

83 名前: ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 13:28:51 0
【訂正】

「ねぇ、強くなってよ。強くなって、俺をもっと笑顔にしてよ。」

(失礼しました)



84 名前:ヴァイガン ◆LcsXp64T2A [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 17:41:03 0
名前:ヴァイガン
年齢:?歳
性別:男
種族:竜人と人間のハーフ
体型:優男
服装:聖職者が着るようなローブを着用
能力:ドラゴンの血から「竜魔石」と呼ばれる特殊な魔石を精錬することができる
    竜魔石そのものを媒体とし、元になったドラゴンの力を魔法のように行使できる
所持品:火竜の魔石、雷龍の魔石
簡易説明:かつて超高度な魔法文明を築き上げていた竜人の末裔
       一見すると気弱な優男だが、目的のためには手段を選ばない非情な本性を持つ
       親の遺言に従い、竜人の築いた栄光の歴史を知るための探求の旅を続けている
       だが、最近そんなことには嫌気が差しており、成り上ろうと目論む

85 名前:ヴァイガン ◆LcsXp64T2A [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 17:57:42 0
【残念ながら、私はこの町に来てからロクなことがなかった】
【この地域にはドラゴンはほとんど生息しておらず、そもそも足を踏み入れる理由はない】
【だが、それでも私がここに来たのには「理由」があった】
【それは、古今東西の魔法に関する書物が揃うと言われている図書館の存在である】
【そこで私は、竜人の文明に関する情報を調べたかったのだ】
【ところが様々なトラブルに巻き込まれて逃げ延び、今では槍を片手に魔物と喧嘩だ】

「な、なんで僕がこんなことを…」
【冗談ではない】
【親の遺言に従って続けているこの旅にも、いい加減嫌気が差していた】
【私の頭には、竜魔石を使って成り上ろうという野心が首をもたげている】
【竜人の末裔たる私だけが作れるドラゴンの力の源】
【これこそ正しく、選ばれた者だけが持てる英雄の力なのだろう】

「うぐぁっ!」
【だが、魔物の尾の一撃を喰らい、吹っ飛ばされてしまう】
【巨大な丸太で殴られたような凄まじい衝撃が全身を走り、痛みなど感じる余裕はなかった】
【ドラゴンの尾に打たれて死んだという祖父も、こんな最期だったのだろうか】
【とにかく、私のちっぽけな野心などここで消えてしまうのだろう】

守備兵「救護班!救護班!
      一人やられたぞ!早く!」
「………」

86 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/25(水) 20:36:58 O
新規は避難所と外部避難所で挨拶をすること
そしてコテが挨拶を返してくれたら必ず返事を返せ
礼儀を忘れるな
またこれは強制ではないが名無しの皆さんへの挨拶も添えると印象がいい

87 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 21:54:20 0
>75>79
鍵の発生させた重力場は大通りに巨大な穴を穿つていた。
巨大重力は大通りのみならず地下下水道網まで崩壊させ、更に地下の古代ヴィフティア遺跡空間まで穴を開けていたのだ。
そこに残るは崩れ落ちる瓦礫のみで、ギルバートもミアも鍵の姿も既になかった。

極限まで高められた人狼の身体能力にミアの・・・門の魔力を注ぎ込む。
最早それは人の視界には捕らえられぬ戦いとなっていた。
木々がなぎ倒され、地面が穿たれ、屋根が吹き飛ぶ。
その数瞬後に激突音と破壊音が遅れてやってくるのだ。

お互い魔力線で左手を封じられた状態で至近距離で超スピードの打ち合いが続く。
凄絶な撃ち合いの中、糸はミアの魔力をギルバートに注ぎ込みながら暁色へと変る。
その変色は鍵にとっては苦痛の象徴だった。
徐々に鈍っていく鍵の動きにギルバートは一気に畳み掛けた刹那。
鍵の顔から険が取れた。
「やっ・・・い、いた・・い・・・。だめ・・・。」
最早それは鍵ではなく、幼いミアの顔。
涙を溜めた瞳でギルバートを見上げ、怯えた様に声を上げた。

今は戦いの最中であり、相手は鍵である。
それでもギルバートに与えた影響は大きく、一気に攻守が交代した。
「あはははは!優しいのね!お じ さ ま !!」
一旦そうなってしまえば最早立て直す機会などは与えはしない。
強力な攻撃と共に二人は体制を崩し、落ちていく。


>81
それは突然のことだった。
轟音と共に屋根を突き破り何かが降ってきた。
その衝撃は凄まじく、店内の惨状を形容する言葉が見つからない。
これだけの衝撃にも拘らずフィオナに影響がなかったのは奇蹟といえるだろう。

立ち込める土煙の中、小さな人影が動く。
その小さな人影の視線を感じた瞬間、フィオナの身につけていた全ての聖印が砕け散った。
凄まじいプレッシャーが店内を満たすが、小さな人影は視線を外すとそのまま扉の吹き飛んだ入り口から出て行った。


ズルリ・・・ズルリ・・・
重いものを引きずるような音と共に鍵は揺り篭通りに出た。
大きな音に避難していた市民達が駆けつけるが、遠巻きにしたまま近づく者はいない。
男を片手で引きずる少女が何者かはわからずとも、本能的にどういったモノかは感じていた。
取り囲む全てのものが戦慄し動けずにいる中、鍵はゆっくりとだか確実に歩を進める。
周囲の人間たちなど目に入っていない。
その先に立つ者は・・・ミア・・・。
鍵は大きく息を吸い、言葉を発する。
ただ一人ミアに向けた言葉であるにも拘らず、取り囲む全ての人間の耳に届くであろう声で。

「こ・の・程・度・だ!お前の希望などっ!!!!!」

引きずっていたギルバートを突きつける。

88 名前:ディーバダッタ ◆Boz/6.SDro [sage] 投稿日:2009/11/25(水) 22:02:05 0
僅かに漏れ出た呻き声でまだ死んでいないことが判るが、満身創痍でいつ死んでもおかしくない状態だった。

「・・・だが・・・それでも・・・お前が羨ましかった・・・。」

先ほどの声とは打って変わり疲れ果て絞り出すような声と共に、ギルバートを掴んでいた鍵の右手が崩れ去った。
完全に燃え尽きは灰のように形をなくした。
そしてギルバートは力なくミアの胸に倒れこむことになる。
「羨ましかった・・・
私の心臓と共に死んだ男のために涙を流せたお前が・・・」
崩れた右手から徐々に崩壊は腕を上ってゆく。
ミアには判るだろう。
もはや鍵の状態が手の施しようもないという事を。
「なぜお前は門でありながらミアなのだ?
なぜ私は鍵であるだけなのだ?
お前と私をわかつたモノは・・・なんなのだ?」
ボロボロと崩れ、既に右半身が失われても尚、鍵は倒れる事無かった。

未だ魔力糸が絡みつく左手を掲げると、大通から光の柱が立ち、魔石が飛来する。
それはオルフェーノクの魔法機械システム中央に秘められていた巨大な魔石。
太古の昔より定められた鍵と門の開錠儀式に際してのバックアップ。
いわば9本目の光の尖塔ともいえる。
本来何らかのトラブルで鍵へのエネルギー供給ができなくなった時の為の。

「もはやそれを考える時間はない。
だから・・・門・・・いや、ミアよ・・・。代わりに考えてくれ・・・。
この脆弱な・・・だがどこまでも優しい希望と共に・・・。」
既に体は殆ど残っていない。
急速に崩れる最後の左手で魔石をギルバートの体に沈めると、ギルバートの傷が癒えていく。
それと共にミアの体にも魔力が満ちてゆく。
ギルバートの体内に溢れる魔力がミアにも流れ込んでいるのだ。
「だが忘れるな。世界は絶望に満ち溢れている。
私たちを生み出すほどに・・・!
既にお前の閂はなく、鍵も消失する。お前は一人体内に地獄を孕み・・・」
鍵は途中で言葉を止めた。
そして改めて・・・
「一人じゃなかったわよね・・・。」
自嘲するような笑みと共にそれ以上は何も言わなかった。
いや、もはや言えなかったのだ。

鍵の最後に残った左半分の顔が崩れ、灰のように宙に消えていく。
「・・・さようなら・・・姉さん・・・」
空耳のような最後の言葉を残し、鍵は・・・完全に消え去った。

それと共に光の尖塔と魔法陣は消え、瘴気も霧散した。
街に未だ蠢く魔達もそれと共に崩れ去り、死に絶える。
その魔物たちは元は金眼を賜った終焉の月の幹部達。
金眼とは「鍵」の一部であり、人間の内部の魔への門を開き魔物かするというものだったのだ。
故に本体の鍵が消滅した今、全ての金眼は砕け魔物たちも無に還る。

街全体の状況を把握するには今しばらく時間はかかるだろう。
だがこの揺り篭通りで見ていた人々は感じていた。
魔は・・・去ったのだ、と。
そして街は救われたのだ、と。

89 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/26(木) 02:16:18 0

ぽすん。


気絶していたかと思われたギルバートの右手が突如動き、ミアの頭を軽く撫でる。
同時に左手が服の内ポケットを探り、パイプを取り出した。
が、愛用のそれは首の辺りでぽっきりと折れ、使い物にならなくなっていた。

「・・・畜生。禁煙だ――――」

眼を閉じたまま呟き、パイプを投げ捨てる。
次いでしっかりした足取りで立つと、既に半ばまで塵と化した少女に視線を向ける。
その眼はひどく透明で―――同時にどこか寂しそうでもあった。

「馬鹿野郎。何のためにあんな無様に殴り合ったと思ってる。
 ・・・誰にも自分が何者かなんてわかんねーんだよ。
 皆、それを探してる。互いに手を貸して、少しづつ色を重ねている。
 それが人だ。それが―――生きるって事だろうが」

ミアと少女で何が異なったのか―――運命などと簡単な言葉で片付けられるとは思わない。
きっと、その根底の想いは変わらず―――そしてそれはごく小さく、単純な違いなのだ。
だが、そこまでは口に出さなかった。恐らく答えは人の数だけあるものだから。
既に風に吹き散らされ、少女の姿はそこになかった。だが、もう一つやり残した事がある。

胸に手を当てる。ゆっくりと手を動かすと、魔石が姿を現した。
その光は薄れ、僅かに中心部で明滅する様は、弱弱しい心臓の鼓動のようだ。

自分は人狼だ。体の傷は満月の近い今、夜を待てばたちどころに癒える。
しかし、魔石はそれ以外に重要な影響を及ぼしていた。記憶の補完。
ギルバートの中で点々と欠片を残していた記憶が、線で結ばれ、今全てが繋がっていた。
その記憶が、この長い物語での自分の最後の仕事を示していた。

ミアの握り締めた手を我が手で包むように取る。
その中には、先程預けた銀のロケットがある。

90 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 投稿日:2009/11/26(木) 02:19:02 0

(アルテミシア―――悪いな。最後にもう一仕事できちまった)

胸のうちで呟くと眼を閉じ、静かに幾つかの言葉を紡ぎ始める。

「其は忌まれし門を制す閂にして鍵。其は月下にたゆたう薄光にして砕く光芒。
 今、己が道を選びし迷い子に険しき路を切り払う力を与えよ。
 願わくば其が自ら選び、自らの足で歩む道に幸多からん事を。
 エル・クリーグ・ルスメイル―――エル・エスト・ルスメイア
 ・・・ルーネル・アルテミシア」

直後、握り締めた手の内から蒼く眩いばかりの光が溢れ出し、
やがてそれは細く長く伸びてある一つの形を成してゆく。
極めて繊細な装飾の施された、長く美しい銀色の物体。
月の力を形にし、7年の間封印の内にあった"器"の為だけの武器―――アルテミスの銀弓だ。

しかしミアの力が万全でない為か、その弓には弦がない。
今まで伸ばしていた"ステッペル"を全て消し、一本に凝縮すると、その銀弓に弦として張る。
矢もない。確か本来自らの魔力を矢として撃ち出すものだが、まだ今のミアにそこまでの力はないだろう。
右手の小指にはめていた指輪を外し、強く握り締めた。

シャルトマイト・ミスリル銀は超希少な魔法金属だ。
この指輪一個でも豪邸が二つ三つ建つ程の価値があるが、気にも留めなかった。
やがて一時的に与えられた膨大な魔力に負け指輪が変形し、細く長く伸びて銀の矢へと形を変えた。

無言のまま銀弓を握り締め、しばらくの間、魔石を眺める。
この世に明確な正邪など存在しないのと同じように、この魔石も地獄を開く鍵にもなれば、
誰かを導く光にもなり得る。それを選ぶのもまた、人でなければならない。

やがて視線を逸らし、ミアを見て軽く歯を見せて笑った。
同時に握っていた手を離し、ミアの手に銀弓と矢が残る。

「ミア。もうお前はあらゆる意味で自由だよ。他ならないお前が、この長い物語の幕を引くんだ。
 今、お前にはその資格がある。いや、義務がある。お前の為に―――お前と、彼女の為に。
 こいつは、俺が持ってく荷物じゃない。それに―――抱える女は、一人で十分だ」

断ち切るか、継ぎ行くか。
全ての始まりに全ての終わりを託し、ギルバートは手の魔石を高く空へと放り投げた。

91 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/27(金) 02:18:41 0
轟音。その発生源は先刻フィオナが入ったばかりの武具屋にあり、ハスタと共に彼女を待っていたレクストがそちらを振り向いた頃には、
入り口から全裸の少女が、少女を言うにはあまりに禍々しい気風を纏った名伏しがたき"何か"が、店の入り口から堂々と出てくる所だった。
少女が引き摺るズタ袋のような物体は、否――ズタ袋のように痛めつけられた人間は、レクストにとって既知のものだった。

「駄犬……!!」

ギルバートだった。対峙する方向にはミアもいる。思わず助けに参じようと踏み出すが、しかし足がそれ以上の進軍を拒否していた。
"あれ"は、彼の手に負えるものではない。そしてなによりも――彼が手に負うまでもなく、少女はその半身から滅び始めていた。

「・・・さようなら・・・姉さん・・・」

何事か呟いて、少女の姿が塵と消える。同時にヴァフティア全域に漂っていた瘴気が失せ始めた。
弱らせて無力化した『解除待ち』の魔物達が聖水に頼るまでもなく一斉に人間へ戻っていき、街中各所から挙がっていた阿鼻と叫喚が薄れ行く。

「……行こう。あいつらにあいつらの決着があるように――俺達もこの現状にオチをつけようぜ」

壊滅的に崩壊しておきながら奇跡的に倒壊を免れた武具屋から土埃にまみれたフィオナをハスタと二人がかりで助け出す。
そしてこれから始まるであろう彼等の決着から、一人二人役者の足りない彼等の幕引きから目を背けるように走り出した。


揺り篭通りはヴァフティアを南北に貫くメインストリートの北半分である。
故にその道幅は広く、その道程は長い。普通に歩けば一刻以上かかる距離であるが、移動手段は何も徒歩だけではない。

ヴァフティアの市内交通と言えば観光地ということもあり前時代風な馬車鉄道が主であるが、
商人の多い揺り篭通りにはもっと効率的な移動手段が幾つか存在する。例えば空を進む『箒』がその類である。

「元黒衣に預けといてよかったぜ……兄貴に渡しといてくれたらしい」

レクスト達は機上の人となっていた。尖塔から脱出するときに用いた最新式箒をティアルドから受け取ってきたのだ。
元々数人乗りである箒は疾風の如き加速で彼等を空へと運んだ。疾駆するのは揺り篭通り上空を走る箒専用誘導路『ミルキーウェイ』。
魔力によって編まれた光条は『箒』に内臓された自動航行術式と連動して安全かつ迅速に目的地へと導いてくれる。

「飛ばすぜ舌噛むなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

自動起動の風防術式によって風圧の影響を無視し、レクストはさらに鞭を入れる。典型的なスピード狂のアクセルハッピーだった。
慣性は順調に箒を電光石火の領域まで引き上げ、ヴァフティア北区の縦断はつつがなくゴールへと到達した。

ティアルドが言うには、守備隊の主戦力と父親がここで外部から侵入してきた魔物との防衛ラインを張っているらしいが。
はたしてそれが見えた。ミルキーウェイを抜けると途端にスピードが落ち、慣性制御によって放り出されることさえなかったが、
急激な速度の変化は平衡感覚に支障を与えたようで、レクストの視界はぐるぐると回転していた。焦点がまるで合わない。

「なんだ従士じゃないか。遅かったな、それにこの瘴気の晴れ具合……どうやら地獄化は失敗したようだな」

箒から放り出されるようにして降り立った三人を目敏く見つけたジルドが歩いてくる。
右手に黒曜石のナイフを、左に鉄槍を担いながら、咥え煙草を燻らせて余裕の表情だった。

「お前かっこつけるのはいいけどなんでパンツ一丁なの!?いや剥いだの俺だけど!そのまま放流したのも俺だけど!」
「っふ、私の服は生涯『月』の正装、黒衣と決めている……それ以外を纏うぐらいならば謹んで殉じよう」
「すげえ、羞恥心が忠誠心にガン負けしてるぞ!!お前かっこいいな――俺は死んでも嫌だけど!!」

ひとしきり互いの無事を確かめ合ったのち、満を持してレクストは切り出した。

「街を取り戻す算段をつけにきた。守備隊の部隊長に通してくれ――あと、自治会長のリフレクティアっておっさんも一緒だろ?」
「構わんが、自治会長――あの男、本当に退役守備隊員か?」
「あん?どういうことだよ」

不穏な含みにレクストが問う。ジルドは珍しく苦々しげな表情を作って呟いた。

「武装小隊長をやっていたからには、腕には自信がある。謙遜するまでもなく、『月』の中でもそれなりの戦力として数えられるだろう。
 そんな、指折りの武闘派として鳴らしていたこの私ですら、あの男には敵わなかった――正直、化物だ」

92 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/27(金) 03:12:13 0
ジルドに促されるまま外壁部の最前線まで出ると、まず視界に飛び込んできたのは山だった。
小山である。構成する要素は血と肉と脳漿と咆哮。赤黒い肉塊と化したそれらは一様に禍々しい異形の体躯をもっていた。

小鬼、魔獣、蛇竜、醜鬼、邪鬼――
ヴァフティア周辺に跋扈する魔物達である。非常に好戦的で、また高い戦闘能力を有する。
結界によって街への侵攻することは阻まれているが、街から出た商隊を襲ったり、結界の弱い小規模な村を滅ぼしたりするため、
定期的に討伐を繰り返さなければならない。ヴァフティア開闢数世紀において人類と鎬を削りあってきた人類の敵。

それが、結界が弱まった機を狙って大挙してきたという。中と外から同時に攻められることで、ヴァフティアは陥落するはずだった。
『月』の計画は完璧である。唯一誤算があるとすれば――それは人間側のしぶとさ、強かさ、そして戦闘能力を甘く見すぎていたことだろう。

「ふむ、六十匹殺って二発受けたか。――衰えたな、俺も」

骸の山の傍で、一人の初老が立っていた。長剣の血糊を払い、肩と腿に受けた裂傷へ治癒術式をかけている。
そこに好機を見出したのか、一匹の巨大な魔獣が咆哮しながら飛び掛った。石畳が砕けるほどの勢いで初老へ迫る。

そこまでだった。そこからは見えなかった。辛うじて眼で追えたのは初老が剣を振り上げる瞬間のみ。音すら置き去りにして。
次の刹那には、既に四肢をバラバラに切断された魔獣が地面へと転がっていた。つかつかと歩み寄り、頭蓋に剣を立て止めを刺す。

リフレクティア翁――レクスト達の父親にして、当代最強の自治会長は全てを終えてからこちらを向いた。

「誰かと思えば馬鹿な方の息子か――」

「アンタ自分の息子をそういう見分け方してたのかよ!――ちなみに兄貴は?」

「残念な方の息子」

「よかった若干グレード高い気がするぜ!」

ああ、妹の毒舌はこの男からの遺伝だ。と、レクストはしみじみ感じる。父親は剣を納めると血の海から歩み出てきた。
よく見ると父親の立っていた場所だけ血に濡れていない。あそこから一歩も動かずにこの死体山を築き上げたというのだろうか。

(昔っから激強だとは思ってたけどよ……ここまで最強すぎると逆に死亡フラグっぽいよなぁ。死ぬなよ親父?)

「どうやら街中の降魔騒ぎは収まったようだな。あとは外から入り込んだ魔物を虱潰しに探して消すだけだ」

「それなんだけどよ、ここの守備隊が今街で一番人数多いから、他のとこと連携とって一気に畳みかけようぜって話――」

これからの予定をまくし立てようとしたところで、レクストは言葉を噤まずにはいられなかった。
父親の目が、その色が、まるで別人のものへと変わっていた。大きく見開かれている、その視線の先はレクストではなくその背後。
つられるように振り返ったレクストは、親子そろって同じ表情を得ることとなる。

すなわちそれは、絶望的なまでの驚愕。冒涜的なまでの狼狽。
酷く口が渇く。指先が灼熱のように痛み、脚が震えて上手く直立できなくなる。声が出なかった。

「あ……あ、な、んで……どうして」

搾り出すように、呻きあげるように、レクストは言った。それは自分への語りかけだったのかもしれない。

「母さん……!?」

黒く縮れた髪は間違いなく、肉付きのいい脚は間違いなく、小皺に刻まれた目元は間違いなく、
三人もの出産を経験した寸胴腰は間違いなく、かつてよく叩いたなで肩は間違いなく、かつて抱かれたその腕は間違いなく。

七年前に死んだはずの、魔物に変えられレクストを襲い最期は父親によって葬られたはずの、
そして何よりレクストが出奔した原因であるはずの、故人。リフレクティア夫人。

母親が、七年前の姿そのままに――そこにいた。

【外壁部にてルキフェルの送り込んだ母親と邂逅】

93 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/11/27(金) 22:33:06 0
「おい、馬鹿な方の息子」

「なんだよ製作者」

不測の事実に対峙して、リフレクティアの父子は呟く。言葉は怜悧、思考は冷静。感情は未だ現状に追いつかない。
だからこそできることがあった。現実を許容した精神が如何なる反応を吐き出すかわからない以上、麻痺してるうちに動くべきだ。

数奇か数偶か必然か、不意を打たれたレクストとその父親の対応は、その一点において完全なる同意だった。

「ありゃなんだと思う」

「見ての通り、母さんだろ」
                
「ふむ、次の質問だ。――あれの"中身"はなんだと思う?」

「――人の皮被るタイプの魔物か、術師、あるいは傀儡術……どちらにせよ、ヒトじゃねえな」

ふ、と父親は息をついた。それは笑みのようであり、裂帛の発奮でもあった。
すらりと長剣を抜き放つと、体内に内燃している魔力を奮い立たせ、爆発的な身体強化を生み出す。
魔力感知の得意でないレクストですら、隣にいるだけで灼熱のような力の奔流に身を焦がされそうになった。

が、
それを制したのもまたレクストの右腕だった。父親の踏み込みを妨げるように、ずいと一歩前に出る。
言った。

「アンタに二度も殺らせてたまるかよ――半分背負わせろ」

「な、おい――」

何も聞かず、何も答えず、レクストは疾駆する。バイアネットの砲門を開いたまま、照準を母親へと合わせて。

(至近距離から最大出力の魔導砲で塵一つなく消し去る!それでいい。それで終わりだ。それ以上の憂いは――いらない!)

「――『騎士』!――『十字架』!――あの女を止めてくれ!!俺が殺る……!」

母親の姿をしたアレが魔物であれ駆動屍であれ、こんな高度な術を用いるのは『月』かそれに順ずる組織的なものだろう。
従って、はっきり個人を特定できる呼び名はマズい。マークによって動きを読まれる恐れが跳ね上がる。

従士隊で培った集団戦闘術。フィオナとハスタがそういった事情を理解しているかはともかくとしても、意図が通じたのは確かだった。
弾かれるように二人が動き出すのが視界の端に見える。軽く頷きを返すと、レクストはバイアネットの術式を発動した。

術式リソースが許すありったけの魔力をつぎ込んで、砲塔内部へ甚大な破壊の奔流を生み出す。
展開した照準表示枠の経線と緯線が照準の向こうで母親の姿を捉えた瞬間。何も考えずレクストは引き金を引いた。

補足した領域だけを綺麗に消し飛ばす極太の光条がバイアネットの砲門から迸り、大気を焼いて彼我の距離を駆け抜ける。
近隣の建物を巻き込まないよう仰角は高めに設定。星ひとつない揺り篭通りの蒼空を、極彩色の魔導砲が貫いた。


【フィオナ、ハスタに助力を要請。成否を問わず至近距離から最大出力の砲撃】

94 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2009/11/29(日) 00:47:32 0
保守

95 名前:ハスタ ◆fmAKADpWIqWy [sage] 投稿日:2009/11/29(日) 18:57:45 0
>「飛ばすぜ舌噛むなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
「はっ、まだまだ温いぜもっと飛ばせぇぇぇ!!」
箒上にスピード狂が二人もいればロクな事になるはずもない。
間に挟まれたフィオナの意見は完全に素通りされてしまっているだろう。

外壁へ向かう為の安全(?)な移動手段のはずだったのだが、この速度では
ある意味最も危険な移動手段だったかもしれない。

そのまま外壁の最前線へと向かうと、そこに見えたのは肉と骨の山。
その光景は、先ほど商店を襲ったアレと同一の隔絶した光景であるように思われた。
「・・・・・・あのおっさん、人間の領域をちと踏み出してないか?」
そう一人ごちで、レクストが旧交を暖める間に一人わずかにはずれて化け物達の死体を検分する。
「ただ力任せなんじゃなくて、熟練者故の観察眼が半端じゃないのか。もろい部分を綺麗になぞって斬ってる・・・。」

――――その時、ゆらりと不穏な影が急に現れた。
ソレの纏った闇に自然と体が反応し、その方向を見る。見た目は普通の女性だが、どう見ても普通じゃない!
レクスト親子と違っていたのは全く面識が無いこと。それが一歩だけ早く対応の準備を進める行動に出た。
右手が腰のホルダーに伸び、先ほど作った符を5枚引き抜く。左手は背に負った四瑞を組み立て武器を形作る。
「早速使うハメになるとは。《簡易・五芒醒力 双腕強化》!」
空を舞った5枚の符が背筋と両腕に張り付き赤い光を放つ。武器を右手に持ち帰るのとレクストの声がほぼ同時。

>「――『騎士』!――『十字架』!――あの女を止めてくれ!!俺が殺る……!」
どこか悲壮さを感じられるその声に初めてその態度を訝しんだが、すぐさま音を立てずに跳躍。
右手に握った武器は遠めに見れば、ただの白い大きい『L』に見える。その正体は大鎌。左手は軽く力を込め、徒手。
跳躍からの落下の勢いも含め、女に大鎌を振り下ろしたが・・・・・・

重々しい金属音と共に、鎌は服一枚裂いたのみで完全に停止。
横目にレクストとフィオナの姿を捉え、どう動くかを一瞬で判断。
「硬ぇ?!・・・・・・が、【上げるぞ】!!」
大鎌の一撃に対して全くこちらを注視しない女も、こちらが左腕を思い切り握って振りかぶるとわずかに体を逸らす。
だが、それは単なるフェイント。鎌から手を放した右手の肘が鎌と女を板ばさみにして捻じ込まれる。

零距離からの強化された打撃でやっと痛痒を覚えたのか、女が虎の印の描かれた左手を無造作に振るう。
「ソレを、待ってた!」
ガードを解いたオレの胸元で裏拳が直撃。肋骨を折り砕き、凄まじい衝撃に体が吹き飛ばされる。
一撃を受ける瞬間、オレの左手が極細の四瑞の糸を女に絡める。

魔に属する者達の力は常軌を逸している。だからこそ魔の一撃を受けて糸を引く際、手が引きちぎられぬように手を強化した。
吹き飛ばされた勢いが周囲の糸を猛烈な速度で引っ張り、最終的に女の体に直接戻ってくる。
結果として、女の体はマリオネットのように糸で宙に浮く事になる。オレの体は近くの建物の外壁に叩きつけられめり込んで停止。
「後は・・・・・・任せた。」

【状況:糸で女を宙に拘束。壁に叩きつけられ重傷。】

96 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/30(月) 06:39:09 P
「はぁ……は……っ」
激しく息をつきながら、ミアは揺り籠通りの一角で足を止めた。
周囲には血と汗に汚れた仲間たちがいた。だがその存在は、認識はしていても、目には入らない。
唇を震わせ血の気を失い、視線を向けた橙色の輝きの先に彼女たちがいたから。

>「こ・の・程・度・だ!お前の希望などっ!!!!!」

ずるり、ずるり。【鍵】の叫びと共に擦過音が止まる。
――見たくない。
歪む視界。拒否する思考。胸を占める絶望感。
そうだこれは夢だ現実じゃないただの映像だ遠くの出来事だ私は知らない!!。
叫ばずにいられたのは、崩れ落ちずにいられたのは、彼の微かな呼吸を幸運にも感じ取ることができたからだった。
【鍵】が一歩一歩、足を進める。
ミアは我知らず後退り、掠れた息を吐いた。
「……来ないで……」

近づく距離。
今まで出したこともないようほど大きく甲高い声で叫んだ。

「来ないで! 止まりなさい!!」

その時。カチャン……退いたかかとに何かが触れ、高く音をたてた。
それは拳大の透明な一片。シモンが遺したクリスタルの破片。ナイフのように鋭利だった。
気がつけば、拾い上げていた。
(知っている。私にできるコト。私にできる最後のコト)
暗い場所から言葉が這い上がってくる。
――かつて“彼女”がしたように――このまま、首に――

「これ以上近づいたら……っ」

……しかし。実際、その震える腕は一度も道を逸れることなく、【鍵】の方向に向けられていた。

「これ以上近づいたら……攻撃する」

霧散しかけた式を立て直し、魔力を集め直し、ミアは再び戦う意志を見せた。
それがこの魔術の街で彼女が与えられたモノ。死の恐怖に逃げるのとは違う、明日を追って生きていける力。
何ができるか、勝算があるのか、何一つわからずとも、彼女はまだ――

97 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/30(月) 06:45:46 P
>「・・・だが・・・それでも・・・お前が羨ましかった・・・。」
対峙する【鍵】が力無く口を開いた時、ギルバートの体が解放されて前のめりに倒れた。
欠片を放り出し、抱き留める。
傷口の熱さと染みる血の冷たさにおののいて――その意識の片隅で、静かに【鍵】の置かれた状況を理解した。
(……限界、だったんだ)
崩壊を進めながら、羨ましい、わからない、とうわごとのように呟く【鍵】。
細かな灰色の砂が落ちていく。砂がカラになった時、彼女の命は終わるのだ。

>「なぜお前は門でありながらミアなのだ?
>お前と私をわかつたモノは・・・なんなのだ?」
少女に死の恐怖があるのかはわからなかったが、少なくともそこには“嘆き”が見えた。
だが。それを思いやれる精神性は、ミアには未だ無い。

>「もはやそれを考える時間はない。
>だから・・・門・・・いや、ミアよ・・・。代わりに考えてくれ・・・」
ミアは冷然と言葉を叩きつけた。
「……知らない。わかっても言わない。【鍵】になんて教えない。都合良く頼まないで。
貴方は最期の願いを託す資格もない。落胆して死ねばいい。……当然の報いよ」

正直、いい気味だとすら思っていたのだ。
少女が突然、残り少ない命の時を消費してまで魔石を呼び寄せ――腕に抱くギルバートの胸に押し付けるまでは。
「――っ! 何を」
ぽすん。頭の上に置かれた大きな手に言葉を止められる。そして気がついた。傷が癒えていく。
>「この脆弱な・・・だがどこまでも優しい希望と共に・・・。」
信じられない思いで少女に、また優しいとは言わずとも真摯な言葉を返したギルバートに目をやる。
ミアは少女が……酷く“透明”であることに、やっと気がついた。

(どうして……)
僅かに緩んだ敵意の隙間を通って、ミアの心に初めて迷いが宿る。

>「だが忘れるな。世界は絶望に満ち溢れている。
>既にお前の閂はなく、鍵も消失する。お前は一人体内に地獄を孕み・・・」
(……なんで、警告なんか)
心臓がおかしな打ち方を始める。
何か、自分は取り返しのつかない間違いを犯してしまった……そんな気がした。

>「一人じゃなかったわよね・・・。」
僅かな間を置いたその言葉。寂しげで、儚い。耳にした瞬間――“間違い”の感覚が痛いほど胸を苛み始めた。

(……違う。私は彼女と何も変わらない。
流れに逆らわず、疑問も持たず、ただ押し流されるままでいた――
でも、私は“結果的にミアでいられた”。何で? わからない。
私たちは違うのかもしれない。違わないのかもしれない。もしかしたら私はただ幸運だっただけかもしれない。
そうよ……彼女は“双子”。もう一人の私。
一歩道が違えばきっと私は、世を嫌って地獄をおとして狂ったように笑って……狂ったように泣いてから、きっと今の彼女と同じ顔をする。
それできっと同じ言葉を吐く。“何でこうなったの”って。
報いを受けるべき体で当然のように、私も彼女みたいに嘆いているはず――)

「待って……」
呟く。急激なリズムで循環しだした血の熱を逃がすようにふらふらと歩を進め、未だ残る少女の左半身に手を伸ばす。
滑らかな肌。しかし触れた瞬間、それは風に消えた。言い様のない戸惑いと喪失感が胸を締めつけた。
人の形を急速に失っていくソレを前に、ミアは行き場を無くした手を下ろすことも忘れ――

>「・・・さようなら・・・姉さん・・・」
「私……それでも、門だから……その…それに……妹、欲しいと思ったことも…あったから……
だから貴方も……
貴方も……一人じゃない――」

風に散らされた骸がミアの鼻先を掠め、消えていく。
その拙い言葉が魔の気の完全な消失に間に合ったことを、ただ祈るばかりだった。

98 名前:ミア ◆JJ6qDFyzCY [sage] 投稿日:2009/11/30(月) 07:02:32 P
ミアは【鍵】の消えた後の場所を暫く見つめていたが、暖かなものが右手に触れたのを感じて振り向いた。
知らず固く握りこんでいた手を促されるまま開く。そこにはあの銀のロケット。
いつの間にか魔石を反対の手に持った彼は、困惑する彼女に何の説明も無いままに目を閉じ、どこか憶えのある呪文を紡ぎ始めた。
>「願わくば其が自ら選び、自らの足で歩む道に幸多からん事を。
>エル・クリーグ・ルスメイル―――エル・エスト・ルスメイア
>・・・ルーネル・アルテミシア」
(ん……今の呪文……この、弓……?)
女性用なのかやや小振りな銀弓。
施された精緻な装飾は神話を示し、女神のモチーフの横に古代語の彫り込みがあった。

   『……、……。ええ、終了です。必要な呪文は全て教えたわ。
               教えた理由? ……………秘密、です――』

……二人は弓に視線を落としたまま暫しその場で向かい合った。
沈黙を破ったのはギルバートだった。深く思い返すような表情から一転、歯を見せて笑ってみせた。
手が離れる。銀弓と矢をミアの手に残したまま。

>「ミア。もうお前はあらゆる意味で自由だよ。他ならないお前が、この長い物語の幕を引くんだ。
>今、お前にはその資格がある。いや、義務がある。お前の為に―――お前と、彼女の為に。
>こいつは、俺が持ってく荷物じゃない。それに―――抱える女は、一人で十分だ」
他人の運命に翻弄され、長い重荷を背負わされたはずの彼にもまた、手を下す権利はあったように思う。
だがそれを義務とするのが誰かと問われれば……やはり、ミアなのだろう。
「……ありがとう」
その言葉を合図とするかのように、彼は高々と魔石を放り投げた。優美な放物線を描き、みるみる高度を上げていく。
ミアは弓を構え、ゆっくりとひきしぼった。少し重くは感じはしたが、体が自然と動いた。

(少しでも地獄を開く要素となるものを、残しておくわけにはいかない)

「――捨てるべきものは、ここで捨てていく」
迷い無く決断し、右手を開く。力を解放された銀の矢が弧を描き、正確に魔石の元を目指す。
鏃が石の中心に突き刺さる。一瞬の静止。
石は千々に砕けてヴァフティア中に散り、硝子を割るような澄んだ音が響き渡った。

(……でも。私の行動は、根本的な解決じゃない。
乱れた国に人が絶望したから、積みかさなって【鍵】を生んだ。
今、この魔石を砕いても、根本の絶望には何の意味も成さない)

「……捨てられないあの子の絶望は、私が引き受ける。」
パラパラと降り注ぐ石の欠片を受けながら、ミアはそっと弓を降ろした。
そして息を吐き、共に空を見上げるギルバートの横顔をじっと見つめる。真剣な決意を秘めて。
彼が視線に気づくのを待ち、彼女は厳かに続けた。

「―――私、帝都に行くわ」

突拍子も無い言葉だが、いい加減な気持ちでないことは目を見れば伝わるだろう。
「この国はきっとおかしい。おかしくなって乱れて、人が絶望した。人が絶望して、意識が集まって、彼女が生まれた――
私はその絶望の正体を確かめに行く」
(どうにかしたいとか、できるとか、わからない……でも知らないままでいたくない)
「私、あの子を知りたい。私――あの子の魂の片割れだから。
知れば……答え、見つかるかもしれないし」

――言い切った、その数瞬後のことだった。
強い光を宿していたはずの彼女の目が不意に揺れた。
ふっとギルバートから逃れるように視線をそらし、ついには下を向く。
能動的な意志を持つことはできた。それを表明することもできた。
ただ、意志疎通が苦手な人間にとって難しいのはコレなのだ――「お願い」という奴だ。
「……ギル。だから、その……」
どこか自信なさげに彼女は続けた。

「一緒に、来てくれない……?」

99 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/01(火) 05:07:01 0
「お邪魔しまーす……。」
年季が入り過ぎ軋んだ音を上げる樫の戸を開け敷居を跨ぐ。
『地精の武具店(ドワーヴン・ウェポン)』と銘打たれたその店は商店街の隅に居を構え多くの神殿騎士達に愛用されていた。

「邪魔するのなら帰ってくれ。ってなんじゃ、聖騎士の嬢ちゃんかい。」
店の奥、重厚な造りのカウンターの向こうから皮肉気な声をかけてくるのは店主のゴードン。
厳つい顔に白い髭を蓄え、筋肉質でずんぐりとしたエール樽の様な体。
伝承に登場する大地の妖精そっくりな風貌で"ドワーフの親方"と親しまれているがれっきとした人間だ。
本人も凄腕の鍛冶師としての一面を持つその種族の名を気に入っており、遂には店の名前にまでしてしまったというわけである。

「なんじゃい、随分とボロボロじゃのう。まあ外は大変だったようじゃからな……。その辺の適当に着替えるといい。」

「あはは……助かります。で、実は今手持ちが無いので神殿につけておいて頂けると……。」

「あん?ワシらを助けるために駆けずり回ったんじゃろう?代金はいいから持って行け。」

「い、いえいえ!そういう訳にはいきません!後できちんとお支払いします。」
むむむ、と二人で睨み合うこと数分。ゴードンは「ふん。」と呟くと台帳にサラサラと書き付けると鞘ごと外して置いてあったフィオナの剣を抜く。

「こっちも酷いもんだ。何を斬ればこうなる?」
甲冑を着けた不死者、幾多の魔物、ルキフェルの放った瓦礫の弾丸と酷使された剣は所々刃毀れしていた。
しげしげと眺めた後、先程よりも大声でぼやき店の奥から鞘に収まった一振りの長剣を持ってくるゴードン。

「この間鍛ったやつじゃ。こいつも持って行け。」
鞘から引き抜くと独特の澄んだ音を立てて現れるやや細身の剣。
鈍い光を放つ剣身は滑らかな曲線を描き刃先を形成し切先へと集約される。
一見してわかる程の高純度の鋼で鍛えられたハンド・アンド・ア・ハーフソード。

「綺麗……。」
フィオナも思わず息を呑み眼を奪われる程見事な長剣だった。

「ワシはちょっと外の連中と話をしてくるわい。更衣室なんぞないからの。」
そう言って出て行くゴードンの声で我に返り、いそいそと着替えを済ませ剣帯に鞘を差す。
さて二人を待たせてはいけないとフィオナも出ようとしたその時、凄まじい衝撃を伴い天井を突き破り現れる闖入者。
もうもうと立ち込める煙が治まり、視界が晴れるとそこには満身創痍の男を引きずる裸の少女。

「何者ですか!?」
誰何と同時、剣の柄へと手を伸ばし即座に臨戦態勢を整えるフィオナ。
見た目こそ少女だが纏う気配は街を闊歩していた魔物のそれを遥かに凌駕している。

――バキンッ!
一睨み。それだけで首から下げた聖印が音を立てて粉々に砕け散った。
バジリスクの持つ石化の魔眼もかくやという程の眼光に一歩も動けなくなる。
それでも気力を振り絞り一歩踏み出そうとした瞬間、少女は興味を失ったように視線を外し男を引きずったまま外へと出て行く。

「助かった……?」
フィオナが安堵の溜息をついたとほぼ同時、それまでのプレッシャーに耐えかねたのかぎりぎりで倒壊を免れていた柱が悲鳴を上げた。

100 名前:フィオナ ◆tPyzcD89bA [sage] 投稿日:2009/12/01(火) 05:08:16 0
「いいいいいいいいぃぃいぃぃやぁああああぁぁぁぁぁぁあ!?」
暗雲晴れ渡り蒼穹を取り戻したのヴァフティアの空を疾駆する一影。
最新鋭の飛行箒。その上では前後をスピード狂に挟まれ一人抗議をあげる声が虚しく響く。
たった一日、二度のフライトで箒が嫌いになった聖騎士フィオナの声である。

レクストとハスタの手によって奇跡的に完全倒壊を免れた店内から助け出された直後、二人に促されるまま箒へと機乗。
ヴァフティアの上空を縦横に走る箒専用路『ミルキーウェイ』をひた走り外壁部へと一直線。
着いた頃には叫びつかれたのか、はたまた途中で気を失ったのかぐったりとしたフィオナの姿があった。

気分も回復し、深淵の月の元教団員ジルドに案内され外壁部最前線へと歩を進める。
道中レクストとジルドの楽しげな声が聞こえるがそちらには頑として眼を向けない。少々目のやり場に困る者が居るからである。
目的地に近づくにつれ山となった無数の魔物の死体が見えてくる。
積み重なった死体はそのほとんどが急所への一撃で倒されているようだった。余程の手練が此処に居るのだろうか。

「まったく呆れた化け物っぷりだな。」
ジルドの声に視線を向けてみると長剣を振りぬき魔獣を屠る初老の男。

「あの方は……リフレクティア自治会長!?」
なるほど納得である。ヴァフティアに住む者であればリフレクティア翁の理不尽なまでの強さを知らないものは居ない。
かつて行った神殿騎士団と守備隊の演習試合では彼一人に散々にやられたのは神殿側の黒歴史として今なお残っている。

最前線部隊と合流を終えると状況を確認するためレクストは父親でる自治会長と話し込み、ハスタは難しい顔で魔物の死体を検分し始める。
フィオナはなんとなく手持ち無沙汰になり負傷した守備隊員の手当てへとあたることにした。
リフレクティア翁の鬼神が如き活躍のお陰か重症者は居らず、負傷者のほとんどがかすり傷程度で済んでいる。

奇跡は使用せず、包帯と湿布での治療に当たっていると突如として現れる強烈な死の気配。
神に仕える者であるフィオナがその対象を誤ることは無く視線の先に立つのは一人の女性。
一見すると普通の女性だが間違いなくすでに死亡している。

仲間の方へと目を向けるとレクストは信じられないといった様子で呆然と立ちすくみ、ハスタは既に符を放ち戦闘態勢を整えている。
フィオナも治療の手を止め、立ち上がると同時に抜剣。
レクストとハスタ、二人が同時に走り出しレクストは砲をハスタは大鎌を構え――

『――『騎士』!――『十字架』!――あの女を止めてくれ!!俺が殺る……!』
レクストの叫びが響き渡り、ハスタが大鎌を女性へと叩きつけた。
しかしその一撃は甲高い金属音と共に弾かれ返す拳がハスタを打ち付け弾き飛ばす。

『ソレを、待ってた!』
ハスタが吹き飛ばされた直後、まるで女性が蜘蛛の巣にかかった蝶の様に中空で縫い止められた。
目を凝らすと糸を成す魔力の残滓が見える。
だが女性も激しく身を捩り糸を引き千切ろうと凄い勢いでもがき始める。
ならば、とフィオナは短剣で自身の掌を斬り付けると腕を振るいハスタの編んだ糸へと血を飛ばす。

「此処は主のおわす庭。邪なる者よ、汝立ち入るを許さず!」

血が付着した箇所を中心として発現する"聖域"の奇跡。砕かれた聖印の代わりに血液を介しての神との交信。
本来魔の進入を拒む結界を形成するのだが今はその内に魔を閉じ込める牢獄を作り上げる。
初手にこれを使ったのでは容易に回避されてしまう。ハスタの拘束があって初めて可能となる手だった。

聖光の充ちる聖域内では女性が動きを止め、糸に締め付けられた箇所から焼き焦げたように煙を上げる。
そしてダメ押しとばかりに魔力糸と聖域の二重の牢獄に囚われた魔へとレクストの砲撃が極彩色の閃光を伴い叩きつけられた。

101 名前:ルキフェル ◆7zZan2bB7s [sage] 投稿日:2009/12/01(火) 18:02:03 0
>>93>>95>>99
>「――『騎士』!――『十字架』!――あの女を止めてくれ!!俺が殺る……!」
>「此処は主のおわす庭。邪なる者よ、汝立ち入るを許さず!」
>「後は・・・・・・任せた。」


【…コレガ…痛み】
フィオナの攻撃が魔を痛めつける。
トドメとばかりに迫る光弾が直撃するその刹那、巨大な閃光弾がそれを阻んだ。
目の前には、赤と金のローブを纏い突如として出現した金色の髪の青年。
「また…お会いしましたねぇ。」
声質こそ違うが、言葉遣い仕草。あの男に間違いはない。
そしてレクストにとっては7年前の忌まわしい出来事の際に出会った
あの青年。
ルキフェルとは似ても似つかない青年は大振りに手を広げながら3人に挨拶をした。
そしてゆっくりと魔物の肩を叩く。
「どうです?実の息子に甚振られる気分は…」

レクストの母親の姿をしたそれは、攻撃を受け止め”泣いて”いた。
涙を流していたわけではない。しかし…彼女の心は、魂は慟哭していた。
「コノテイドノ…痛みでは…足りない」
体中を闇で覆いながら尚も魔物は3人へと迫る。

「アッ〜タタタタタタ。そう早まらなくていいですよ。
楽しみは後に取っておくのが私の主義です。」
子供が駄々を捏ねるように足踏みをしながら3人の方を見る。

「反魂。神が最も忌み嫌う禁断の術…神魔術の1つです。
やはり素晴らしいものだ。あぁ、これですが間違いなく貴方の母です…魂はね。しかし、今は我々の僕。
意思は在ったとしても抗う術はありません…」

ルキフェルは黄金の光を手の平の上に乗せ、その中に魔物を包んでいく。
それは闇ではなく、フィオナ達が扱う光の魔術のそれに酷似していた。
「貴方達がこの街で奮戦してくれたお陰で、素晴らしい力を開発できそうです。
これで陛下の思い描く世界が作れるでしょう。また、お会いしましょう…帝都で。」

青年は意地悪な笑みを浮かべたまま金の光となりその場から消え去った。
空には、嫌なくらいの青空が広がったまま。

【謎の青年、魔物と化したレクスト母を連れ帝都に帰還】



102 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/02(水) 02:07:14 0
「硬ぇ?!・・・・・・が、【上げるぞ】!!」
「此処は主のおわす庭。邪なる者よ、汝立ち入るを許さず!」

「――おおおおおおおおおおおああああああああ!!!!」

糸と奇跡の二重結界が母親を拘束し、その強靭な挙動を僅かに遅らせる。
その針の穴を通すような寸毫たる間隙へ、レクストは全身全霊を込めた至近砲撃を叩き込んだ。

稼動限界ギリギリまで溜めに溜めた『破壊』の魔導極光は空間を喰い散らしながら母親の元へと届き、
その命なき体躯を跡形もなく世界から切り取る一撃。照準越しの視界から、敵影が消えうせる――そのはずだった。

「――また…お会いしましたねぇ」

極光を凌駕する閃光の華が咲き、砲撃を阻害する。軌道を無理やり逸らされた魔導砲は揺り篭通りのミルキーウェイを穿って果てた。
瞬いた眩光に視界を奪われ、眼球がその機能を取り戻したときには、母親の前に青年が一人。金の髪を揺らす、細身の美丈夫。
レクストは知っていた。信じがたいことに、その姿は七年前に目に焼き付けた仇敵とまるで変化していない。

「どうです?実の息子に甚振られる気分は…」

だが、それだけわかれば十分だ。

「会いたかったぜ金髪野朗……!」

無心でもなく、焦燥でもなく。ただひたすらに敵意だけが先行する。知っていた。この男は、かつてこの街を、母親を――!
呼吸一つで停止していた身体を前へ押しやり、無呼吸の身体挙動でバイアネットを振りかぶる。
無言で、無想で、無意で、無体で、獰猛に犬歯を見せながらも感情を凍結させた一撃は、袈裟斬りの軌跡でもって金髪へ迫る。
それが。

「コノテイドノ…痛みでは…足りない」

母親の亡骸が、母親の声で呟いた。
阻まれる。金髪によって命を拾った母親が、今度はその細腕をバイアネットのブレートにかち合わせ、それ以上の斬撃を止めていた。
動揺が心を滑るより早く、刃を引いたレクストへ対応するように反対側の細腕から拳が繰り出される。

「がっは……!」

受け止めたはずなのに。バイアネットでの防御は間に合っていたはずなのに。
盾にしていたバイアネットが、恐ろしいほど簡単に、接合部から砕け、拉げ、破壊された。
防御を貫いてなお拳の勢いは止まらず、レクストの鳩尾へと突き刺さる。肺の中の空気を残らず吐き出しながら宙へ投げ出される。

地面へ伏せって、武器を失って、初めてレクストへ感情が追いついてきた。打たれた痛み、呼吸できない苦しみ、
絶望感、焦燥感、冒涜感、喪失感、苦悩感、崩壊感、虚脱感、失意感、そして――敗北感。

「どう……して、だ」

バキリ、と頭の奥で何かが砕ける音がした。食いしばった奥歯が砕ける音だと理解する頃には全てが悪状況へと向かっている。

「てめえは何がしたいんだ……!!」

辛うじて立ち上がろうとして、しかし不可視の圧力に押しつぶされる。それは母親の骸から放たれる甚大な魔力であった。
余波だけで訓練された人間をこうも容易く叩き伏せるほどの魔力を内包している。冗談のような光景だった。

一瞬で心が折られそうになる。足が震え、腰が抜けて力が入らない。
額のどこかを切ったのか、流血が目に入って視界の確保すら間に合わない。ハスタは重傷、フィオナも動けない。
ざり、と石畳を踏む音に見上げてみれば母親の血色のない顔がレクストを捉えていた。
降ってくる死への覚悟も定まらないままに、母親の拳が注がれようとして、

「アッ〜タタタタタタ。そう早まらなくていいですよ。――楽しみは後に取っておくのが私の主義です。」

まるで場にそぐわない、しかしそれが却って不気味さを増大させる駄々のような声が母親を制した。

103 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/02(水) 02:56:53 0
「反魂。神が最も忌み嫌う禁断の術…神魔術の1つです。やはり素晴らしいものだ。
 あぁ、これですが間違いなく貴方の母です…魂はね。しかし、今は我々の僕。意思は在ったとしても抗う術はありません…」

謡うように語るそれは禁忌の外法。死者を甦らせ下僕として使役する未知にして危知の術法。
それはつまり、母親そのものであるという証左。レクストが二度目の死を与えようとしていた骸は、紛れもなく母親だった。

ただそれだけの事実が。

ただそれだけ故に何の緩衝も干渉もなく。

レクスト=リフレクティアの精神を完膚なきまでに穿ち尽くした。

「あああああああああああああああああああああッッ!!!!!!!!」

涙は出ずとも心は哭き叫ぶ。今までどうにか保っていた喫水線、人か魔かの分水嶺。
魔物であったなら、術師であったなら、たとえ母親の姿をしていても斬れる自信があった。覚悟があった。
レクストの精神の根付いている"生き様"というべきものか、無辜の民を護るためならば如何なる感傷も排そうと動いていた。

それが。
敵となったのは魔物でも術師でも偽物でも駆動屍でもなく、冥府から甦りし母親その人であるという現実。
そしてそれを二度も手にかけようとしたという己の罪悪。母親が自らの仇を護ったという状況。

それら全てがレクストという人間の人格を形成する軸の部分を根元から叩き折ってしまっていた。

「貴方達がこの街で奮戦してくれたお陰で、素晴らしい力を開発できそうです。
 これで陛下の思い描く世界が作れるでしょう。また、お会いしましょう…帝都で。」

「帝都だと……?――てめえを!このまま!行、か、せ、る、かァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

弾かれたように走り出す。どくり、と何かが鳴動した。気配は腰――ベルトに差しておいた剣。名も知らぬ剣士の忘れ形見、漆黒の両刃剣。
反射的に柄に手をかけると、それは驚くほど手に馴染んだ。一気に引き抜く。布が自然に風化し、刀身が露になった。

彼我の距離は10メートル程度。一歩踏み出すごとに歩調は軽くなり、同調するように澄んだ刀身が歓喜の震えで応える。
呼応は剣だけではなく。力が漲ると共に胸の内からどす黒い精神の澱とも言うべき何かが沈殿していくのが分かる。

まるでそれを糧にするかのように、赫怒と怨嗟を起爆剤として黒剣とレクストは前へ駆け出す。
前方では金髪の青年が既になんらかの術式を起動していた。聖術にも似たその光は、彼等を包み込み――

「――ぶち殺せ」

レクストは黒剣を横薙ぎに振り抜いた。横に薙ぐ。ただそれだけの動作で、しかし生まれた結果は尋常ならざるものであった。
まず最初に石畳が砕け散った。次に大気が片っ端から抉られていき、砕かれた地面が風化するように塵になっていく。
轟音が連続し、風の鳴動が止んだときには、金髪と母親が逃げ去ったあとの空間と、その後方10メートルにわたって抉り散らされた地面だけが残っていた。

「……殺り損なった。仕留め切れなかった。――助けられなかった。なんてザマだ。ふざけんな――ふざけんなよ!!」

全てが終わって、後には傷痕だけが残った。身体にも、街にも、心にも。黒剣を地面に突き立て、膝をつく。
今度こそ、レクストは慟哭した。呻くようだったその喘ぎは数秒と持たずに雄叫びのような嘆きの雨へと変わっていく。
誰も動けなかった。同じ思いを共有したはずの父親や、共に戦った仲間でさえ、そこに手をかけるのは憚れるような気がして。

レクストの慟哭が止むまで、果たして四半刻とかからなかった。

104 名前:レクスト ◆N/wTSkX0q6 [sage] 投稿日:2009/12/02(水) 03:34:32 0
東の空が白んできた。長かった夜が終わり、魔は去り人の領域が広がり始める。
朝日が照らした街の惨状は、人々の心に忘れ得ない爪跡を刻みつけていった。

重傷のハスタは寝かせておくとして、レクストとフィオナはボロボロになった街を復旧する手伝いに明け暮れた。
瓦礫の中巻き込まれた人も相当数いるようで、父親が寸分違わず巨岩を細切れにする様に舌を巻いたりした。

東西南の町の外から侵入した魔物が街を飛び交い、守備隊の騎竜に焼かれたり箒隊に撃墜される光景がそこかしこに見られ、
竜騎兵が竜のエサに困らないとホクホク顔で言うのを怪訝に眺めたりした。

黒剣はまた元のただ黒い剣に戻ってしまって、今もレクストの腰にある。鞘はなく、刀身を包むはやはり布だ。
どうせだからと名前をつけた。黒い刃の剣で『黒刃(こくは)』――聞いた父親は爆笑し、なんとも言えない目で彼を見た。

バイアネットは砲とブレードの接合部から真っ二つにされてしまったが、あまりに綺麗に真っ二つにされたので
案外早く直るらしい。鍛冶屋とティアルドが顔を突っつき合わせながらそんなことを口走っていた。

リフィルは脇目も振らず復旧作業に没頭しているレクストに何かを投石器で投げつけてきた。
小瓶に入ったそれは直撃によって結構なダメージを被ったレクストへ降り注ぎ、傷と疲労がたちどころに回復した。
なかなかに上等な回復薬だったらしい。何も言わずに人ごみに紛れて行ってしまったが、後で何か奢ってご機嫌取りに奔走しよう。

いずれミアやギルバートとも合流するだろう。シモンがいないことに気付いたレクストはどんな反応をするだろうか。
死んだという事実を受け止めきれず街を駆けずり回って探すだろうか。形見として倉庫部屋に置いてあったナイフを見つけるだろうか。
こんなナリだが悪い奴じゃないと、フィオナやハスタに紹介できなかったことを誰よりも悔やむだろうか。

全ては未来であり、今考えるべきはここにある。

(帝都、か。奴の言ってた『陛下』って呼び名も考えるとどうもキナ臭ぇ……)

金髪の青年は母親を連れて行くときたしかにそう言った。『帝都で会いましょう』
それはつまり、この先知れぬ物語においての伏線なのだろう。手がかりはそこにある。真実を知るために。
レクストを帝都へ呼ぶために、あのような口上を述べたのだ。決着をつけるためにも、行かないわけにはいかないだろう。

(――そうだ、帝都行こう!)

もともとレクストは帝都王立従士隊である。帝国管理局に今回の『ヴァフティア事変』の詳細を報告する必要がある。
馬車で10日の距離だが、ヴァフティアを出て南の街から通っている大陸間横断鉄道を使えば三日で着くことだろう。

思い立って、レクストは早朝の空を見上げた。
ときおり迸る魔導弾の閃光が飛行種の魔物を穿つ以外は静かな空。美しい空。

朝日が眩しく目を焼いた。
叫び疲れて、嘆き疲れて、哭き疲れて。レクストは眠るように目を閉じた。為したこと、為せなかったこと、反芻するように心へ浸透させる。
再び目を開いたとき、その双眸には強い決意と覚悟の光が爛々と輝いていた。

「……俺は帝都へ行くぜ。戻るっつった方がいいのかもわかんねえけど、とにかく売られた喧嘩は買って勝って克つ!」

やおら立ち上がり、先程までの嘆きを感じさせない強い笑いと意志の眼でフィオナとハスタを見据える。
朝日の逆行と相まって、レクストは歳相応の精悍さから少し大人になったような気がした。
彼女達はどうだろう。この一連の事件を通して、世界に対してスタンスを変えるようなことはあるだろうか。

共に行きたいと、そう思った。
だから、率直に頼むことにした。

ぱしりと頭の前で両手を合わせ、若干に苦笑いを含ませて、レクストはこう言った。

「物語はもう走り出してる。途中下車なんざどこでもできるが、ここは一つ――終着駅まで付き合ってくれ」


【奪還編終了  レクストは帝都へ向かう意志を表明】

105 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 本日のレス 投稿日:2009/12/03(木) 03:35:20 0
ヴァフティアの揺り篭通りを一人歩く。
リンゴを齧りながら―――愛用のパイプがお釈迦になり、口寂しいので―――ゆっくりと北へ。
日差しは暖かく、空だけを見れば先日の騒ぎが嘘のようだ。

街は散々に痛めつけられたものの、今は人々が協力し合い、再建に努めている。
そんな中、あれだけ凄惨な目にあったというのに、人々の顔は決して暗くはない。
ギルバートは改めて人間の強さというものに舌を巻く思いだった。


途中、いくつか見知った顔を見かけた。
ミア達が塔の中で出会ったという、フィオナと名乗った生真面目そうな女騎士。
化け蛸と戦っている時乱入して来た、ハスタというやさぐれた男。
それにレクストとその父親、それに兄貴の三馬鹿だ。

最初の顔は軽く手を振ってみせた。二番目には軽く頷いて通り過ぎる。
三番目はめんどくさいのでスルーした。


人気のない静かな一角に辿りつく。
元々は"月"の塔が立っていた場所だが、今は塔も崩れ落ち、
その瓦礫もあらかた片付けられ、草むらと石畳が広がっている。

その片隅に、小さな石碑があった。
上に十字架と、青く透き通ったクリスタルの欠片がはめ込まれている。
十字架には真新しい白い花輪がかけられていた。事前に誰か来ていたようだ。
その前に立ち止まり、じっと眺める。街の喧騒は遠く、ひどく静かだ。

「よお―――そっちはどうだ?結局、俺は逝き損ねちまった」

かなり長い沈黙の後、ギルバートが口を開く。

「お前、故郷は何処だ。女はいるのか?―――悪いな。連れて帰ってやれなくて」

懐から小さな酒瓶を取り出すと、石碑の前に置いた。
石碑には文字が刻まれていた。―――"シモン・ペンドラゴン"

「なあ、聞いたか?ミアの奴、『一緒に帝都に行ってくれるか』だとさ。
 あの流れで『断る。あばよ』とでも言うとでも思ったのかね?はは、笑っちまうよな。
 アレじゃ男も寄りつかねぇぜ、実際。
 ―――まぁ、これから学んでいくんだよな。
 新しい事も―――出会いも、心も。それが、人なんだし」

一瞬、それに相槌を打つかのように風が草を揺らして流れた。

「そう・・・それとお前のコレ、借りるぜ。何、借りるだけだ。いつかまた返しに来てやるよ」

そう言って、腰に巻きつけた"コカトリス"を示す。
あの日、バラバラに壊れたのをレクストの兄貴に直してもらったものだ。

―――何故、お前は俺達を助けた?

心の内で呟く。血が繋がった相手でも、長い時を過ごした相手でもない。金にもならない。
ムカつくクソ野郎に最後っ屁を食らわしたかったのか?それもあるかもしれない。
いや、やはりお前も人間でありたかったんだろう―――それだけの、シンプルな答えなのだろう。

そう、結局の所、思考するという事はどれだけ物事を単純にしてゆくかという作業なのだから。

106 名前:ギルバート ◆.0XEPHJZ1s [sage] 本日のレス 投稿日:2009/12/03(木) 03:40:39 0

「お前が墓参りとは、明日は雨か。ギル」

再び黙り込んだギルバートの背に、静かな声が降ってくる。
肩をすくめてため息をつき、振り返る。いつの間に現れたのか、グレイが立っていた。

「・・・お前は二言目にはそれだな。まだこんなトコウロウロしてたのか」
「街を出ようと思ったらあの騒ぎだ。お前、責任取るか?」

グレイが石碑に視線を移し、軽く帽子に手をやる。

「・・・親しかったのか?」
「ああ。・・・いや、そうでもなかったな」
「何だ、そりゃ」
「何でもいい。付き合え」

別の酒瓶と、小さなグラスを一組取り出す。琥珀色の液体が二つのグラスに注がれた。

「友に」
「亡き友に」

同時にグラスを干し、逆さにしてみせる。グレイがギルバートの顔をしげしげと眺めた。

「で、お前は吹っ切れたのか?」
「・・・どうかな、わからん。まだ自分を許した訳じゃない。
 でも、今は自分の中で少し納得してる。俺は決して貧乏札を引いた訳じゃないし、
 与えられたカードを、自分の意思で切った。他の人々と同じ、どれも俺の描く道筋だ・・・ってな」

グレイが頷き、グラスをポケットにしまう。
そして珍しく、何やら戸惑ったような迷うような、妙な眼をした。

「何だよ?」
「・・・・・・これは、独り言なんだが。
 俺はこれから"ホーム"に帰った後・・・帝都に行く。
 7年前―――仲間の居場所を"終焉の月"に売った狼がいた」

じっ、とグレイの眼を睨むように見る。グレイは眼を逸らし、石碑を見つめていた。

「その時そいつを追った"送り狼"が一人殺されたんだが―――新しい情報が入ってね。
 もっともこの話は極秘だから、例えば組織を抜けたような奴には教えられないんだが」

裏切り者―――7年前。頭の中でカチリ、と音がし、記憶が幾つか繋ぎ合わさる。
だが一方で、かつてと違って思考はひどく冷静でクリアだった。
そうだ―――仕残した仕事があるとすれば、これこそが俺が背負う荷物。
確かめねばならない。直接に。決して復讐の為ではない。今は、はっきりとそう言える。

「グレイ。何でかわからんが、礼を言いたい気分になった。・・・ありがとう」
「そりゃ不思議だ。気持ち悪いから俺はもう行くぜ―――気をつけろよ、兄弟」

お互い同時に拳を突き出し、打ち合わせる。確かな手応えを感じた。
遠ざかる背中を見送り、綺麗に晴れた空を見上げる。

行かなければならない。帝都へ。仲間と共に。

この長い物語は、始まりの終わりに過ぎないのだ――――



――――― To Be Continued.


■ダークファンタジーTRPGスレ 3■

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