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【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!Z【オリジナル】

1 :名無しになりきれ:2012/12/28(金) 20:23:29.14 P
前スレ
【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!Y【オリジナル】
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1342705887/

2 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2012/12/28(金) 20:24:37.90 P
過去スレ
1:『【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!【オリジナル】 』
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1304255444/
2:【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!【オリジナル】  レス置き場
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1306687336/
3:【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!V【オリジナル】
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1312004178/
4:【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!W【オリジナル】
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1322488387/
5:【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン!X【オリジナル】
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1331770988/


避難所
遊撃左遷小隊レギオン!避難所2
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1321371857/

まとめWiki
なな板TRPG広辞苑 - 遊撃左遷小隊レギオン!
http://www43.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/483.html

3 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/06(日) 23:37:33.61 P
>「あなたが私以外の人を抱くだなんて、そんな事は我慢出来ない!絶対に!」

高速で飛翔するアノニマスは、己の腹部分に突如として乗った、ずしりとした重量を感じた。
鎧の基本機能によって加速化された視覚が、原因を見る。マテリアだ。
確かにその心を粉砕したはずのマテリア=ヴィッセンが彼の甲冑に張り付いていた。

「馬鹿な!ムチ入れまくりの馬車に飛び乗るようなものだぞ!」

げにおそろしきはその執念!
見ればマテリアの顔は涙でぐしゃぐしゃになっているし、風圧でどろどろになっているが、
その潤んだ眼光だけはしっかりとアノニマスの面頬の奥を捉えている。

「そこまでして!そこまでしてこの俺におっぱいを押し付けたいと言うのか……ッ!?」

命懸けの献身。これが、愛ッ!
出会ってまだ数分しか経っていない女性に、ここまでさせる己の男子力が恐ろしい。
しかし申し訳ないが面倒臭いタイプの女体はNG。

「――いっかい抱いたぐらいで愛人面しやがって!この女ァーーーー!!」

何故ならアノニマスはたったいま、新たなる女体を求めて飛翔するその最中であるからだ。
これからナンパする女の子にコブ付きだと思われたくないので、腰巾着(文字通りの意味で)なマテリアがとても煩わしい。
そしてそんな煩わしさが、アノニマスにとっての今後の明暗を分けた!

>「"抱かれる"のは、許してあげても良いのではっ!?」

甲冑の鳩尾の部分に硬質な衝撃。鎧の内側に鼻っ柱を叩きつけられて、鼻梁がミシミシ音を立てた。
気付けば己の突進が、周囲の破砕音と引換に停止している。
愛溢れんばかりの抱擁で迎えに行ったファミアが、しかし指先を掠めるだけで一向に届かない。
噴射術式は止めず、吹かしている。それでも彼は、一歩足りとも進むこと叶わなかった。

「棒のようなものが床と俺とをつっかえ棒みたいに固定してッ――!」

棒は、ファミアが得物として振るっていた転経器だ。
いまもなお、アノニマスの推進力を、床板への掘削力に変換して消費し続けている。
アノニマスの甲冑への入射角は絶妙だが、それを維持しているのは他ならぬファミアの遺才膂力であった。
転経器とファミアはびくともしない。しかし、床板はそうはいかないようだ。

「ぐぬはははは!バキバキと木の粉を上げて床が砕けているぞ!このままゴリ押しで突っ切る!」

アノニマスは甲冑の噴射術式に更なる鞭を入れた。
背に展開された魔術光芒がその輝きを強め、遅々とした、しかし確実な前進を主に確約する!
瞬間、アノニマスを押さえつける転経器の穂先が下がった。ファミアが手首を返したのだ。
鎧と床とのつっかえが取り除かれ、加速力が全て前方へ解き放たれる、ほんの一瞬のタイムラグ。
その寸毫にも満たぬ時間の中で、ファミアはある悪魔的行動に出た。

「お?」

転経器の穂先がアノニマスの足の間へ突き出され、手元を高く天へ掲げたのだ。
そこへ推進全開の全裸甲冑が接触。

――アノニマスの股間に転経器の柄がめり込んだ。トップスピードで。

4 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/06(日) 23:38:49.21 P
全身鎧は、装用者を隙なく護る防御の完成形である。
だが、完全完璧一分の隙間もなく板金で塞がれているわけではない。動けなくなるからだ。
――関節の可動域。特に大きな可動部である股関節の部分は、鎖帷子によって覆われているのみだ。
そして鎖帷子の防御性能は、斬撃にこそ強いものの、打撃力はほぼ減衰なしで本体に伝わる。
ましてや、『その部分』は、アノニマスが趣味で感覚共有を全開にしている部位であった。

「――Oh...」

転経器を股間にめり込ませながら、アノニマスの切ない悲鳴が列車内に木霊した。
彼の受難は終わらない。転経器はアノニマスの前方から股の間を通って後方の床に突き立っている。
つまり、アノニマスにとって前に進むごとに上方向へ向かう角度のついた坂だ。
そして転経器は先端こそ複雑な形状をしているが、柄の部分は凹凸のない素直な棒状である。
そこにアノニマスの噴射が加わって、生まれる動きは。

――転経器をレールとして、アノニマスが股間で滑り上がっていく打ち上げ台である。

「ひぎいいいいいいいいいいッ!!」

一瞬であった。
股に棒を挟んだ男が、光に背を押されながら加速し、ファミアを飛び越え、屋根をぶち抜き、空を駆け上がった。
あとに残ったのはマテリアとファミアと赤熱した転経器、それからアノニマスの形をした陽炎のみだった。

 * * * * * *

「ぐぐぐ……色を知る前に新しい世界を垣間見てしまった。
 世界はこのアノニマスに、停滞を許してはくれぬ!性的な意味で!」

アノニマスはしぶとく生き残っていた。
車両から撃ちだされたはいいが、噴射術式があるので空中での方向制御はわりと簡単だ。
すぐ後ろの車両の屋根にへばりついて、内股になりながら、それでも彼はそこにいた。

「マヌケがァ!この俺に『列車から追放』などと言う同じ手を二度も使った時点で、既に凡策よォー!」

アノニマスは、諦めない。戦いにおいても、恋においてもだ。
好意を袖にされても諦めず、作戦を再検討し、執念深く情報を収集し、必要ならば奇襲に出る。
根気と覚悟の要る戦いだ。だがアノニマスは生来二十余年、その覚悟の試される戦場で戦ってきたのだ。
うまくいかなくて同僚である従士隊に逮捕されたこともあったが、実刑を受けたことも一度や二度ではないが、それでも。

「――諦めたら、負けなんだ。追い続けて叶わない夢などない。俺がそれを証明するッ……!!」

だからまずは断言だ。俺はモテる。
ちょっとハンサム過ぎて周りが萎縮しちゃうだけで、本当はもはや崇拝に近いほどの愛情を全人類から受けているんだと。
根拠なんていつも後付だよ。

「『栄光』には!常にそれを阻む『恐怖』が寄り添っている!
 二つは同じ位置にあるために、栄光を臨む者は恐怖をその眼に焼き付けなければならない。
 ――栄光への第一歩は、『恐怖』を認め、向き合うことッ!敵の偉大さを知り、なおも先へ踏み出す『覚悟』ッ!」

アノニマスは再びの飛翔に備え、四足獣の如く姿勢を落とした。

「どれ、退場した穴から再登場して奴らの驚く顔でご飯を食べてやる……」

背に光芒を宿し、魔力が収束し推進力を発動させる、刹那のような時間。
――ノイファが前の車両から出てきて、連結器の傍に立った。

5 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/06(日) 23:40:10.84 P
>「よいっ――しょおっ!」

ほとんど前触れ無く打ち下ろされた刃に付随する音はなく、ただ水を抜けるように刃が駆けた。
線のような余韻を空間に遺す、黒の光。それだけだ。
ただそれだけの動作で、亜音速の衝撃にすら耐える魔導鋼鉄の連結器を半ばから切り落とした。

「何ィィィィィィッ〜〜〜〜〜〜!?」

完全にタイミングを逸した噴射術が暴発し、アノニマスの驚愕を彩るように風を生んだ。
あり得ない。報告では、ノイファ・アイレルの遺才は極めて限定的な未来視だったはず。
アノニマスとモトーレンには遊撃二課就任時に一課の能力を詳細に記したレポートを配布されていた。
ノイファの項には確かに、『指揮能力、作戦実行能力に長け、それを補助する情報系遺才を持つ』とのみ記されていたのだ。
あのような剣術の存在は、報告に上がっていなかった。

「はっ……?」

そこで思い至る。
レポートの記録者は、『ボルト=ブライヤー』。

「遊撃課長!隠し玉を持っていやがったな〜〜〜〜ッ!?」

ごうん、と重い音を立ててアノニマスの乗る車両がゆっくりと減速を始めた。
ノイファが断ったのは動力車と繋がる自車両と、その後続とをつなぐ連結器。
推進力を失った車両たちが、その重さと空気抵抗によって失速し始めたのだ。

「馬鹿な!仲間がまだ三人後ろにいるのだぞ……!?」

フィン、セフィリア、スイの三名はここより更に後方の車両でモトーレンと対峙している。
確かあそこにはフルブーストもいたはずだ。
アノニマスも含め、手練三人と相対すれば確実に不利となる状況である。

(まさか、最初からこれが狙いか……!)

この列車はヴァフティア行き。
ならばノイファ、ファミア、マテリアの三名は任務として正当に任地へ行く事になる。
わざわざ列車を切り離した意味は?……考えるまでもない、後ろの三人をここに置いていくためだ。
そしてそれは、アノニマスを封じるたった一つの冴えたやり方でもある。

女三人ヴァフティアへ行く。
→アノニマス+遊撃一課の残党(男二人、女一人)はここで孤立。
→女の子が少ないのでアノニマスは寂しくて死ぬ。

「あんまりだああああああッ!」

アノニマスは吠えた。
そのどういう人生を送ったら湧いて出てくるか意味不明な悪魔的発想に彼は憤った。

6 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/06(日) 23:41:41.71 P
「置いて行くなら女の子三人を置いていけよォォォ!
 ハンプティさんと一緒にされたら確実に俺が可哀想になるパターンだろうがッ!
 もうわかっちゃったもんね!魂胆が読めちゃったもんね!」

ちなみにスイのことはボルトが報告書に男と書いていたのでアノニマスもそう認識している。
そもそも中性的な格好をしているうえにほんの一瞬しか対面していないので疑うわけもなかった。

「ノイファ・アイレル!貴様の思い通りにしはさせんぞ……!」

減速を始めたとはいえ、慣性が働いているので車両同士はまださほど離れてはいない。
噴射術式を加味したアノニマスの跳躍力ならまだ取り戻せる誤差だ。

「なんとしても女子三人の中に、混じる――ッ!!」

再度噴射術式に点火し、アノニマスが跳ぼうと身構えたその時。
さっきからずっとアノニマスを思案顔で見ていたノイファが首を傾げながら呟いた。

>「私たち全員を抱くと仰いましたけれど……本当に"抱く"だけで良かったんですねえ。」

(え……!?もっと凄いコトがあるのか?この世の中には……?)

様々な思考が頭脳の容量を巡って争う。
答えはきっとノイファが知っている。その唇から、言葉がこぼれ落ちる。

>「――ひょっとしてそういった経験がない、とか? なあんて、まさかそんな筈がないですよねえ。」

刹那、アノニマスの見る全ての世界が停止した。
色を失った視界のなか、ノイファの上気して艶やかになった表情だけが、くっきりと網膜を焼く。
風防が風を砕くごおごおという音が、耳鳴りのように頭蓋骨を乱反射する。

「ふ、ふふふ――はははははははははは!!!」

アノニマスは揺れる列車の上で器用に立ち上がり、仰け反って、哄笑した。
ノイファの言葉を戯言だと笑い飛ばすように。甲冑の各部が、鈴のようにがしゃがしゃなった。

「はははははは!はははははは!はははは――――がはァッ!!」

一際大きく痙攣したかと思うと、銀甲冑の面頬に赤い花が咲いた。
それはアノニマスの吐血だった。
鉄仮面の、隙間という隙間から鮮血を吹き出して、鎧姿は仰向けに倒れた。
金属が叩きつけられる耳障りな音が、終戦の銅鑼の代わりだった。

ナード=アノニマス。職業:従士隊遊撃二課。『甲冑使い』。
弱点:童貞をディスられると深く傷つく。 

                           To Be Continued...→

 * * * * * *

7 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/07(月) 01:17:02.27 P
「芸術は爆発だって言葉があるじゃん?わたしは異論を唱えたい。
 ――爆発こそが芸術なんだよ。頬を叩く風!火傷しそうな熱!一瞬で全てを掻き消す無情!
 爆発にはあらゆる美のエッセンスと、物語の起承転結が詰まってる!」

モトーレンは自分の『作品』を見下ろして、その暖かな光を身体いっぱいにうけて、満足そうに頷いた。
ニーグリップ=モトーレンは騎竜乗りの遺才を持つ天才だ。
しかし、彼女のもう一つの称号『護国十戦鬼』に数えられる能力の本質は、騎竜を完璧に操れることではない。
――騎竜を用いた急降下爆撃戦術によって、幾多もの戦場を焦土に変えてきた爆撃術の賜物である。

単体でもゴーレムを屠れる威力のブレスを陽動に用いた、機雷散布の爆撃。
下手すれば大陸横断鉄道の客車を爆砕して線路に損傷を与えかねないが、モトーレンは護国十戦鬼だ。 
対象だけを的確に爆殺することぐらい、目を瞑っていてもできる。

殺すつもりはなかったが、これで死んでしまっていればその程度の存在だったと上に報告するまでだ。
やがて、爆煙、晴れる――

>「……はっ、どうした。竜の吐息(ブレス)ってのはこの程度かよ?」

フィンとスイ、二人分の眼光が光失わずモトーレンを射抜いていた。
両者ともにところどころ火傷や焦げ痕はあるが、五体満足で屋根の上に居る。

(無事――?『風帝』の風で爆風は防げても、術式を狂わせたブレスは回避できなかったはず)

その特筆き異常の、答えは眼下にあった。
フィン=ハンプティの身体。その右肩から先が漆黒に染まっている。
そして彼の右眼は、モトーレンがよく知る『あの色』を得ていた。

(あれが、『魔族化』……アネクドートの報告にあった『遺才の向こう側』を覗いた者!)

タニングラードでの戦いのあと、帝国当局は協働関係にあったアネクドートに報告書を求めた。
西方なまりの強い筆致で綴られた言葉の中に、確かに目の前と一致する光景があった。
フィンはそもそも防御系の遺才使い。
だがいま彼の右腕に宿るのは、護りと対極にある『崩し』の力だった。

(『鎧の魔族』の家系はうちの馬鹿を始めとして広く派生してるそうだけど、あんな遺才、見たことない)

否、遺才ではないのだ。
魔族がその血に封じた力の残滓を間借りしている人類の遺才使いとは明確に異なる。

フィンは、祖先ではない『自分という魔族』を右腕に覗いたのだ。
新しい魔族。それまでの自分を超える、新しい力。

8 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/07(月) 01:17:48.53 P
>「お望み通り五体満足で受けてやったけど、不満があるなら何百発でも撃ってこいよ。
 その力を、風を、全部阻みながら――――退治してやるぜ」

「いいね!そういう艱難辛苦の果てに手にした希望を、一撃で爆散させるのすごい楽しみ!」

所詮は近づかねば発揮できない力。
距離を維持して戦える騎竜の的ではない。
フィンは何百発でも撃ってこいと挑発したが――モトーレンとライトウィングなら、千発はいける。
長期戦に持ち込まれても確実に倒せる自信が、彼女たちにはあった。

>「悪いけどよお!このまま引き下がるわけにはいかねぇんだ!」

厄介なのはむしろ真っ当な遺才遣いであるスイの方だ。
騎竜と同じ中距離での間合いを得意とするうえに、攻撃は変幻自在で汎用性がある。
風の流れである程度の軌道は読めるが、それでも何をしてくるかわからない不気味さがある。

(一番まずいのは、風に煽られてむりやりハンプティの間合いに引っ張られること!)

スイの風に重さはないが、フィンの右腕は下手すれば一撃で致命傷になりかねない。
急造にしてはよくできたパーティ編成だ。レンジと攻撃力をお互いに補い合っている。
スイが放った、鉄片の刃をライトウィングに噛み砕かせながら、モトーレンは爆撃のために高度を上げた。

それは不用意な動きだった。
上空には、スイが展開したかまいたちと暴風の塊が潜んでいたのだ。

「上――!?読まれてた!ハンプティを警戒して距離を取るってとこまで織り込み済みだったのね!?」

風の塊を躱す。かまいたちが逃げ遅れたモトーレンの髪の先を刈っていく。
だが、読める。騎竜乗りに最も必要な才能は、風がいかに動くかを直感で知る類まれなる嗅覚である。
風の眷属であるライトウィングの自律判断も含めれば、この程度の奇襲を食らう彼女たちではない。

――スイの戦略はさらにその先を行った。
巧妙に風の中にルートをつくって誘導された先、既に不可視の大槍が騎竜目掛けて迫っていた。
槍の正体は渦巻く風。風帝の遺才によって貫通力を付与された巨風が、すぐ鼻先まで飛来していた。
狙いはライトウィングの翼――風を手繰るが故に、風に対して最も無力な部位。

連携は完璧だった。ここを穿たれて、堕ちない竜など存在しない。
竜ならば、だ。

「――騎竜はただの竜じゃない。そして『乗り手』も、ただ竜に運ばれるだけの存在じゃあ、ないっ!」

9 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/07(月) 01:18:47.80 P
モトーレンは、風の大槍に向かって両腕を広げた。
手の間からばらばらと零れ落ちるのは小型の魔導機雷。
機雷達は渦巻く風に巻き込まれて、槍を覆うように空中へと誘われた。

「爆撃ハッピー!」

モトーレンが起爆の鍵語を叫んだ刹那、小型機雷が一斉に爆発した。
爆発に伴うものは熱と、光と――爆風だ。
大槍の周囲で発生した無数の爆風が、大槍を包むように膨張。押しつぶして、かき消した。
風とは空気の流れのことである。
水に立てた波紋同士を重ね合わせると消滅するように、別の流れを作ってやれば消すことはたやすい。

「――『風の殺し方』も、知ってるんだよ」

モトーレンは高度を下げた。
爆撃手という性質上、彼女は上に意識を払うのが苦手だ。
先ほどのように、スイに動きを読まれて罠を仕掛けられ続けたら、いずれ対応にも限界が来る。
しかしモトーレンがフィンとスイの元に降りてきたのは、そういった戦略上の意義を上回る、
純粋な疑問があったからである。

「『風帝』さあー、当たり前な顔してそいつと肩並べてるけど、怖くないの?
 ハンプティさん見るからに人間辞めちゃってるじゃん。その右腕とか、なにそれ?何で出来てんの?
 今はまだ人間とお仲間ごっこ続けてるかもしんないけどさ、いずれマジモノの魔族になったとき――
 ちゃんと人間の味方してくれるって、確証があるわけ?」

フィン=ハンプティの肉体は、もはや疑いようのないほどに人外のそれだ。
魔族。この大陸を旧時代に支配していた者達であり、人を殺す人類の敵。
身体が既に魔族のものとなっているのに、心だけは人間のままでいられるとどうして言い切れる?

「帝都には、そういう輩がたくさんいるよ。『人間難民』――二年前の帝都大強襲で魔族化したまま戻らない連中。
 ハンプティさんは、過程こそ違えどそいつらと同じ道を辿ってる。
 魔族は人間を助けちゃくれないよ? わたしたちが別に魔族を助けたいと思わないのと一緒でさ」

モトーレンは――フィンの間合いに入らないことに細心の注意を払って――指を彼に突きつけた。

「人間の味方は人間だけ。
 人間でも魔族でもない宙ぶらりんのハンプティさんは誰を護るわけ?
 ―― 一体誰が、ハンプティさんの守護を求めるわけ?
 少しでも疑問に思うなら、風帝。とっととそこから離れるべきだよ、人間ならさ」


【アノニマス:切り離された客車側にとりのこされ、ノイファの精神攻撃に倒れる】

【モトーレン:スイの風槍を爆圧で殺し、高度を下げる→爆撃を封じられる
       フィンとスイ相手に問答。あわよくば仲間割れを狙う】

【時間軸は連結器が切り離される少し前です。この問答の直後に列車が減速を始めると思って行動してください】

10 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/01/09(水) 01:43:40.12 0
苛立ちが募ります
無論、眼前に佇む、人を小馬鹿にすることが何よりも好きと思える男のせいです
しかし、この態度は自己の実力からくるものでしょう
この男は強いと感じます
獲物の前で舌なめずりは三流のすることだと語る方もいましたが……
さりとて、私も鍛錬を欠かしたことのない一端の武人
武門たるガルブレイズであるのです

ガルブレイズ……その祖はおとぎ話
バラの谷の白騎士と破壊の天使
その白騎士であると言われています
まさに騎士の鏡、私のあこがれでもあります
私は高貴なる者に伴う義務をこれから学んだといっても過言ではありません

騎士として戦の場をこのような姿勢で臨む輩を断固、許すわけにはいきません!!


両手にも力が入ります
掌にじんわりと汗が滲みだします
それは私の怒りと言い換えてもいいようなものでした
この男を切り伏せる、鋼のごとき決意を固め、眼前の優男をにらみつけます
そして、誰が期待したのかこの男、若い命が真っ赤に燃える私の心にさらに油を注ぎます

>「帝国貴族ねぇ」

「馬鹿にしてぇ!」

偉い偉いお貴族様ですか?
そういう態度、思いが形になったかのような言葉
品性を疑うような言い方
十分に私を怒らせるには十分でした
しかし、私も生の感情を丸出しで戦うなどこれでは人に品性を求めるなど絶望的です

11 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/01/09(水) 01:43:58.91 0
私は一歩を強く踏み出します
強く強く、その一歩に私の怒りの感情を全て発散させるが如く

相手も動き出します
速さ自体は早くない、武人ならごく普通
戦闘速度なら歩くような速さです

「そういう動き……それなら!」

迎え撃とうと刃をきらめかす
十分、このいけ好かないのを両断するには

「近い!なぜ!」

特殊な歩法というのでしょうか
目で見える速度より間合いを詰めるのが速すぎます

「そんな!」

繰り出される膝は腹部を正確に撃ち貫こうとします
振りぬく前、加速途中の柄で膝を受け止め
……動きが止まります

直後、後頭部に衝撃が走ります
防いだ膝からさらに伸びた踵が当たった
そのことに気づいたのは顎を列車の屋根に打ち付けた後でした
頭が揺れる……このダメージは馬鹿にできない
もう、サムちゃんが目の前だというのにこのような輩に……
私の意識が暗転してしまうの必死に堪え、芋虫のように屋根を這うことしか出来ません
立つことが出来ない、それほどの一撃
この男、態度とは裏腹にまったくの遊びのない技を使う

決して油断したん訳でも、侮ったわけでもない
純粋な敗北であったのです

体の動きがどんどんと鈍る……
もう屋根にしがみついている余裕もない
心を強く持とうとしても、体がいうことを聞きません

私の体、宙に舞う
爆風と車両が走るときに生まれる気流
それが猛烈な渦となり、その力は弱った私を飛ばすのに十分だったのです

12 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/01/13(日) 01:14:11.80 0
『飛翔』が発動した。
魔力が弾け、生じるのは暴力的なまでの加速。
振り落とされぬよう、マテリアは一層強くナードを抱き締める。

>「――いっかい抱いたぐらいで愛人面しやがって!この女ァーーーー!!」

「……っ!」

ナードの怒号に息が詰まる。涙がまた溢れてきた。
こんな変態に女として疎まれる。これ以上ないほどの屈辱だった。
自分は落ちる所まで落ちてしまったのだという絶望が、マテリアの心を残酷に蝕んでいく。

そして、だからこそ彼女は決してナードを放さない。
二人を守る。それすら奪われてしまったら、自分にはもう、何も残らない。
そんな気がしていた。

>「"抱かれる"のは、許してあげても良いのではっ!?」

風圧が生み出す轟音の中で、ファミアの声が聞こえた。
直後に激しい衝撃がマテリアの体を揺さぶる。
悲鳴のような金属音も相まって、彼女には数秒の間、何が起こったのか分からなかった。

衝撃と音によるショックでブレていたマテリアの視界が、徐々に回復していく。
まず見えたのは抉り取られたように溝の生じた床だった。
その先にあったのは転経器の石突。そして柄を踏み締める小さな足。

視線が柄を伝い、上っていく。。
何がありがたいのかいまいち分からない経文を過ぎて更に上へ。
転経器の先端が、ナードの甲冑と絶妙に噛み合い、接近を食い止めていた。

図らずもマテリアが安堵の息を零す。表情も僅かに和らいでいた。
しかしそれも、ほんの一瞬の事だった。

>「ぐぬはははは!バキバキと木の粉を上げて床が砕けているぞ!このままゴリ押しで突っ切る!」

ナードはまだ諦めていない。
ファミアが甲冑の防御力が及ばぬ床を破壊したように、
ナードもその意趣返しをしようとしているのだ。

(……そうはさせない!この距離なら狙える!甲冑の関節……その僅かな隙間を!)

マテリアは頬を甲冑に強く押し当てた。
左腕と頭部で体を固定して、右手を後ろ腰――そこに差した魔導短砲へ伸ばす。
だがそれを抜くよりも早く、再び急激な加速が彼女に訪れた。

掴みかけた魔導短砲から右手が離れる。
代わりに何か――小さな手が、マテリアの腕を掴んだ。
それから彼女がナードから引き剥がされるまで、一瞬もかからなかった。

気がつけばマテリアは、ファミアの腕の中で抱きかかえられていた。
自分の身に何が起きたのか、すぐには理解出来なかったのだろう。
マテリアは目を何度も瞬かせて、数秒の間、呆然としていた。

13 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/01/13(日) 01:14:46.45 0
「あっ……」

けれども自分の状態を理解すると、彼女は息を呑む。
そしてファミアの腕から逃れようと藻掻き出した。

「駄目!駄目なんです!アルフートさん……降ろして下さい……。私はもう、綺麗な体じゃ……」

ナードに抱かれ、抱きついた体を、ファミアに触れて欲しくなかった。
マテリアは無我夢中で足掻く。

>「ヴィッセンさん、自棄を起こしてはいけませんよ」

そんな彼女に、ファミアは諭すような声音で語りかけた。
その落ち着きように当てられて、マテリアの動きが止まる。

>「確かに鬼だなんて言われているような人たちにはかなわないでしょうね。だったら……」

ファミアの人差し指がマテリアの鼻先を、からかうようにつついた。

>「"みんなで"やっつけてしまえばいいんです。私達ならできる、そうでしょう?」

彼女の言葉は、荒れ果てていたマテリアの心に、すとんと落ち込んできた。
一人では出来ない事でも、二人なら、遊撃課なら。
自分がかつてウィットに向けた言葉が、こんな形で返ってくるだなんて、思ってもみなかった。
波立っていた心がいつの間にか、落ち着きを取り戻していた。

と――そうなるとマテリアはより正確に、自分の状態を理解する事になった。
十四歳の少女の腕に抱かれ、ぐしゃぐしゃの泣き顔と取り乱した姿を晒した挙句、
子猫のような扱いを受けた自分の現状を。
たちまち顔が熱くなっていく。

「あう……その……その通りですから……出来れば早めに、降ろして欲しいです……」

ファミアから目を逸らし、微かに紅潮した顔を両手で覆いながら、マテリアは歯切れ悪くそう言った。

(うぅ……まだちょっと顔熱い……。この子、ホントに十四歳……?)

ともあれ再び自分の足で床に立つと、マテリアはすぐにノイファの方へ振り向いた。
噴射の加速による凄まじい風圧の中でも、ファミアが上げた咄嗟の叫びは聞こえていた。
連結器を――彼女が何を伝えようとしたのか、想像するのはそう難しい事ではない。

ノイファは、流石と言うべきだろう。危なげなく自分の役割を果たしていた。
連結器は音もなく断ち切られ、後方車両が緩やかに置き去りにされていく。

>「ナード=アノニマスさん。」

そして――まだ復帰を諦めていないナードに、更なる追撃すら加えようとしていた。

>「私たち全員を抱くと仰いましたけれど……本当に"抱く"だけで良かったんですねえ。」

>「――ひょっとしてそういった経験がない、とか?
  なあんて、まさかそんな筈がないですよねえ。」

相手が規格外の変態だからこそ、身を守るのではなく攻めに転じ、機先を制する。
戦いの年季を感じさせる的確な判断だった。

14 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/01/13(日) 01:15:37.94 0
相当に痛いところを突かれたのだろう。ナードは気が触れたように高笑いを上げて――

>「はははははは!はははははは!はははは――――がはァッ!!」

「ひえぇ!?」

前触れもなく盛大に血を吐いて倒れ込んだ。

(……じゅ、呪言?恐らく対呪術式も高度に施されているだろうあの鎧を物ともせずに?
 いや、まさか……でもアイレルさんなら……なんかあり得るような……。
 あの人はあの人で、なんだか色々……歳とか分からないところがあるし……)

徐々に遠ざかっていくナードを若干びくつきながら観察し続ける。
が、最早彼が動き出す素振りを見せる事はなかった。
今度こそ終わりだ。

深く深く、息を吐いた。
恐怖に凍えきっていた心に春風が吹いたようだった。
恐れは解けて流れ去り、歓喜と安堵が芽吹いていく。

それに伴い、恐怖に抑圧されていた反動で、マテリアの気が少しだけ大きくなった。
あの変態には散々泣きを見させられた。
少しでも溜飲を下げなくては、収まりが悪いと。
両手を口元に添えて大きく息を吸う。

「へ、へーんだ!ざまーみろ!あなたなんか、そうやって一人寂しく置き去りにされるのがお似合いですよーだ!
 それに口を開けばやれ抱くだの女体だのって……そんなに人肌が恋しいなら、
 その自慢の鎧とでも抱き合ってればいいんですよ!そういう一人遊び、いかにも得意そうじゃないですか!」

そしてマテリアは叫んだ。
顔が熱い。ほんの少し喋っただけなのに呼吸が乱れて、肩が揺れる。
今度は羞恥ではなく、興奮が原因だった。

やっている事は最大級にカッコ悪いが、大声と共に先ほどまでのストレスも多少吐き出せたのだろう。
マテリアはわりと満足気だった。

けれども強がりのような興奮が冷めるのは、早かった。
呼吸が整い、気も落ち着いてから、マテリアは考える。
あの変態にはもう二度と会いたくないと。
それは生理的な嫌悪感も勿論あるが――それ以上に、
次に相まみえた時、自分の力がナードに通じるイメージがまるで浮かんで来なかったからだ。

ファミアは「私達ならできる」。そう言ってくれた。

(だけど……じゃあ、私に何が出来た?もしあの鎧の中に大声を打ち込んだら、通用していた?)

自問し、自答する。そんな訳がないと。
大きすぎる音を緩和する術式くらい、爆轟の絶えない戦場に立つ軍人なら、誰だって使える。
相手が自分の遺才を知っているのなら、対策は容易かっただろう。

声――言葉は力だ。腕力や剣術、魔法と同じように、武器になる。
その事をマテリアは知っている。
けれども本当にいざという時。
まさに今、仲間に危機が迫っているという時に、言葉だけでは戦えないのだ。

ファミアの言う事はもっともだし、嬉しかった。
それでも、仲間が本当に危ない時に、自分の力だけが届かない。
それはマテリアにとって受け入れがたい苦痛だった。

【一人反省会中】

15 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/01/14(月) 03:23:28.21 0
>「あう……その……その通りですから……出来れば早めに、降ろして欲しいです……」
なんだか赤い顔をしているマテリアを、首を捻りつつ(ファミアは今ひとつ自分がやっていることをわかっていません)
よっこいしょと床におろして、それから背後へくるりと踵を返しました。

陽炎を立ち上らせる転経器、天井の穴と視線を移して客車の出入り口へ。
髪をなびかせるノイファの背の向こうでは、後続車両が少しずつ、確実に遠ざかっていました。

――しかし、いまだ足りず。
離れてゆく車両の屋根の上ではアノニマスが四足獣のような体勢で再び背に光を灯していました。
面頬さえなかったなら表情も見て取れる程度、諦めに逃げ込むにはまだまだ近い距離です。
そして、収束した光が弾ける寸前――

>「ナード=アノニマスさん。」
ノイファが発した呼び掛けに、その動きが一瞬止まりました。
そこへ、さらなる言葉が叩きつけられます。
>「私たち全員を抱くと仰いましたけれど……本当に"抱く"だけで良かったんですねえ。」

反応してかすかに身を乗り出したアノニマスに追い打ち。
>「数々の武勲に、華々しい経歴。そしてご自分を"美の化身"とまで断ずる貴方のことですから、
> さぞプライベートも派手なのかと思いきや、意外に可愛らしいところもある様子で……。
> ああ、失礼――」

それから、止めの一撃が鼻面にねじ込まれました。
>「――ひょっとしてそういった経験がない、とか?
> なあんて、まさかそんな筈がないですよねえ。」

動きを止めて一秒。真剣な目をしているかどうかはわかりませんが、アノニマスはそこから何も言えなくなりました。
さらに数瞬。唐突に立ち上がり先ほどよりもけたたましい哄笑を上げ始めます。
そのままさらに離れてゆく後部車両の上で笑い続け、そして――
「――――がはァッ!!」
血煙が風に舞いました。

16 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/01/14(月) 03:24:30.54 0
まるで中身が入っていないかのように倒れ伏した甲冑姿は、間口に集まった一同が固唾を呑む内にもどんどんと小さくなって行きます。
その向こうの空を竜が何度も横切りましたが、アノニマスはついぞ動き出す様子を見せませんでした。
(これは――精神に作用する術式、あるいは呪いのたぐい?……そんなものまで使えるなんて)

ファミアだって、新しい命がキャベツ畑の土の下から生まれてくるわけでもないし、
コウノトリが木の枝に突き刺してゆくわけでもないことは少なくとも知識として知っています。
しかしいい年して性遍歴を中傷されて血反吐を吐き散らかす不思議人類がいるなどということには思いが至りません。
なので、アノニマスを昏倒(絶命ならこの上ないのですが)せしめた力の正体をノイファ自身に求めたのでした。

(私もいつかあんなふうになれるかな)
すでにして十分な気もしないではありませんが、向上心があるのはよいことですね。

ノイファを挟んで反対側に立っていたマテリアが口元に両手を添えて筒を作り、
それから大きく息を吸って、それを声として吐き出しました。
>「へ、へーんだ!ざまーみろ!あなたなんか、そうやって一人寂しく置き去りにされるのがお似合いですよーだ!
> それに口を開けばやれ抱くだの女体だのって……そんなに人肌が恋しいなら、
> その自慢の鎧とでも抱き合ってればいいんですよ!そういう一人遊び、いかにも得意そうじゃないですか!」

当然の評価と言えますので、ファミアには一切同情や憐憫はわいてきません。
自分も石の一つでも投げておきたいなと考え、なにか手頃なものがないかと見回すと、切断された連結器が目に入りました。
(…………こんなことまで)

ノイファの手並みをまともに目にしたのはこれが初めてのファミアにしてみると、
一体どれほど秘された技を持っているのだろうかといっそ訝しく思えて来てしまいます。

が、それはそれとしてファミアは残された連結部にちょこんと飛び降り、残っていた部品をもぎ取りました。
落っこちないように片手を壁にかけ、もう片方の手で部品を空へ放ちます。
がしゃん。

「当たった!」
なにかいい事があるかもしれませんね。

「……そういえば、ヴァフティアとはどういう街なのでしょうか」
車内へ戻りながら、ファミアは疑問を口にしました。
タニングラードは地元に近い場所なので気候風俗に関して想像も容易でしたが、
ヴァフティアに関しては書物で知る以上のことは全く知らないのです。

【おしえてノイファおねえさん】

17 :ユウガ  ◇JryQG.Os1Y:2013/01/14(月) 03:26:09.82 0
「なんだよ、意外に脆いな。」
名門だと、知りそれを、念頭にいれ、速攻を仕掛けたが。
正直、こんなに脆いとは知らなかった。
「とは、いえ。これで大人しく。」
その時、イキナリだが爆風が起きた。

「あの、二課の奴ばっかじゃねぇの」
身を屈めて、それを防ぐ。
しかし、肝心の名門の人間が居ない。
「あーあ、爆風で飛んじゃったんだね。まぁ、いっか。」


「それよりも、」
あの二人が気になる。
竜の猛攻を防ぎ、耐えるあの異才使い
「ちょっと、見てみようかな。」
(ユウガ、竜使いと対峙している。奴らを偵察するため二課の奴と合流するため進行する。二人は、攻撃してもよし)

18 :フィン=ハンプティ ◇yHpyvmxBJw:2013/01/17(木) 15:57:55.51 0
>「いいね!そういう艱難辛苦の果てに手にした希望を、一撃で爆散させるのすごい楽しみ!」

「ったく、あんたといいナードさんといい……どんだけ悪役っぽいのが好きなんだよ。
 ちょっと前まで反対の意味で似たような事言ってた俺が言うのも何だけどさ」

高揚した様子で語る竜騎士は、恐らく自身の勝利を疑っていない。
そんな彼女の様子に、フィンは苦々しい笑みを浮かべつつ先の台詞を吐き捨てる。
あわよくば魔力切れを期待していたが、この様子では本当に数百発……下手をすればそれ以上に余力がありそうだ。
鬼と呼ばれる者のその異常性能に驚愕しつつ、けれどフィンは決して弱みを見せる事はしない。
ここで『底』を見せれば、敵はそれを徹底的に攻めてくるからだ。
それに、護る者が限界を見せれば味方の士気は低下してしまう。
護りの遺才を持つ者の本能としてそれを知っているフィンは、故に泰然と構える。

敵を阻む為に
仲間を護る為に

虚勢を張る

>「これを自分のわかる箇所だけでもいい、怪我したところに貼ってくれ。それだけの時間なら俺が稼ぐ。」

そうしてフィンが竜騎士と会話を繰り広げている間に返答を返してきたのは、スイであった。
彼は背後から数枚の薬草を取り出し、フィンへと手渡す

「悪ぃ、助かる……了解。無茶はすんなよ?」

視線を竜騎士から外さずに薬草を受け取ると、フィンはスイに小さな声で礼を述べた。
フィンの遺才は、自身に影響する魔術をレジストしてしまう。
例えそれが、自身に利する補助や回復の魔術でもだ。
そうであるが故に、スイに手渡された薬草はありがたかった。
魔術ではない自然物である薬草であれば、フィンの傷の治癒に影響は少ない。
……最も、薬草を貼り付けた瞬間に煙を上げ患部が回復を始めるのは、明らかに異常であるのだが。



そして、フィンが薬草による回復を行った直後、
駆け抜けていったスイ、そして竜騎士との間に巻き起こったのは、高度な魔術戦……否、心理戦。
風を統べる者と、風と共に在る者が織りなす、綿密に計算されたかの様な空の舞台劇

スイが荒れ狂う風を繰れば、竜騎士はその風を乗り熟す。
だが、その風は布石であり、不可視の槍が天を舞う竜を地へ堕とさんと降りかかる。
必殺ではない。けれど必中の罠。

>「――『風の殺し方』も、知ってるんだよ」

だがしかし、竜騎士はその必中の罠をも食い破る
機雷が巻き起こす爆風が、計算され尽くした風の包囲網を葬り去ってしまった。

「っ……普通落ちるだろ!どんな性能だよ!?」

風を食い破られれば、次に待っているのは竜騎士による追撃。
機雷の散布に警戒しつつ、フィンはスイの前へと躍り出る。
先の二の舞を踏まない様に、予め竜の口腔へと黒く変色した異形……魔族としての右腕を向ける。
後数発もつかどうかの行為……逆にいえば最悪、後数発ならば身体は持つ。そう打算しての防衛。
そう予測して動いたフィンに対してぶつけられたのは、しかし竜の吐息(ブレス)ではなかった。


驚くべきことに竜騎士――モトーレンは、その高度を下げフィンとスイに近づいてきたのだ。

19 :フィン=ハンプティ ◇yHpyvmxBJw:2013/01/17(木) 15:58:58.98 0
絶妙にフィンの射程から外れているが、それでもその行為は危険が増すものである事に違いはない。
一撃でも見舞う事が出来れば、フィンの黒い右腕は、竜の命をも喰らえる可能性を有しているのだから。

竜騎士の行動を怪訝に思うフィン……だが、そんな彼の背中を通り越して、竜騎士――モトーレンは投げかけた。
ただの言葉を。フィンが背中に守る――――スイへと

>「『風帝』さあー、当たり前な顔してそいつと肩並べてるけど、怖くないの?
>ハンプティさん見るからに人間辞めちゃってるじゃん。その右腕とか、なにそれ?何で出来てんの?
>今はまだ人間とお仲間ごっこ続けてるかもしんないけどさ、いずれマジモノの魔族になったとき――
>ちゃんと人間の味方してくれるって、確証があるわけ?」

「……」

モトーレンの言葉。それは、ある意味では機雷よりも恐るべき暴力だった。
その暴力の名は、真実。
モトーレンが述べた通り、フィン=ハンプティの肉体は……もはや疑いようのないほどに人外のそれだ。
この大陸を旧時代に支配していた者達であり、現人類の敵。魔族。
数々の被虐とその才能が、彼をその域へと堕としこんだ。
その変質が止まる事はもはや無い。いずれ。そう遠くない未来に、フィンの肉体は完全に人外へと変化するだろう。

では……身体が既に魔族のものとなっているのに、心だけは人間のままでいられると、果たして言い切れるだろうか?
かつてタニングラードで馬車が襲撃を受けた際には、フィンの腕は彼の意志を無視し敵の獲物を喰らった。
その時の様に魔族の肉体にフィンの人格が食い殺されないと、どう断言できようか。
或いは……人間に迫害される中で人間を憎み、敵対しないと胸を張って言えるのだろうか?

>「人間の味方は人間だけ。
>人間でも魔族でもない宙ぶらりんのハンプティさんは誰を護るわけ?
>―― 一体誰が、ハンプティさんの守護を求めるわけ?
>少しでも疑問に思うなら、風帝。とっととそこから離れるべきだよ、人間ならさ」

モトーレンの言葉は、危惧は、忠告は、正しい。
彼女はその正しさの刃をフィンに突き付け弾劾する。
フィン=ハンプティは人間ではないと。化け物であると。
タニングラードを経て、遊撃課の面々が触れずにいたその傷口に、刃を突き立てる。

「……」

しばしの沈黙。それは数秒であったのかもしれないし、或いは数分であったのかもしれない。
指を突き付けられていたフィンは、少し俯いていた顔を上げ、モトーレンの眼を見る。
そして、吐き出されたフィンの言葉は――――

「スイ。俺はお前の事、好きだぜ」

あまりに唐突な言葉。現状と何ら関連性の見いだせない不可解な言葉は、
フィンの穏やかな笑みと共に在った。

「スイだけじゃねぇ。セフィリアも、ノイファっちも、ボルト課長も、マテリアも、ファミアも
 ……俺は今の遊撃課の同僚全員の事が、好きだ。大好きだ。失いたくない。だから護ってる」

それは、フィンの護るという行為が清廉な人間愛を根幹としているのではなく、
ただ単に自身の嗜好に寄るものであるという宣言。
ともすればそれは――ある意味で、人間への敵対宣言の様に聞こえる事だろう。
教会の狂信者であれば、命を狙われてもおかしくない宣言である。
だがフィンは臆することなく、それが当たり前であるかの様に告げる。

「だから俺は、呼ばれてなくても、必要とされなくても、身体が化け物になろうと、
 勝手に現れて、勝手に『お前ら』を守っていく。この覚悟は死んでも変えねぇ。変えるつもりもねぇ」

20 :フィン=ハンプティ ◇yHpyvmxBJw:2013/01/17(木) 15:59:31.70 0
……かつてのフィンであれば、所属するコミュニティを護る為の機構であったフィンであれば、
決してそんな台詞は吐かなかっただろう。人間という種族を護る為に、自害すら考えたに違いない。
けれども、今の彼は違う。フィンは、理想的な英雄である事を諦めた。我儘で、独善的になった。
大多数の人間よりも、少数の愛すべき人々を取る。人間の味方ではなく、愛すべき人々の味方をする。
そういう選択をする人間になった。

だからこそ、彼はそんな利己主義極まりない事を堂々と宣言する。
根拠もなく、理論もない、手前勝手な我儘を、それが当たり前であるかの様に言ってのける。

「――――スイ。俺の為に、俺にお前達を護らせろ。代わりに背中をくれてやる。信じられなきゃいつでも切り裂け」

拒絶への恐怖が生む小さな震えを拳を握って押し潰し、己のエゴをむき出しにして笑うフィン。
その背に背負う血色に染まった深紅のマントが、列車の風にはためき揺れる。


状況は好転はしていない……だが、悪化もしていない。
本来であれば、このままノイファ達が現れる事や、ゴーレムに騎乗したセフィリアがやってくるのを待つ。
そういう場面だったのであろう。

……そう、フィンの視界に一つの影が飛び込まなければ。

力なく中空に放り出され落ちていく――それは、少女だった。
その容姿はフィンの良く見知った人物で

「――――スイ!!風でセフィリアを拾ってくれ!!早くっ!!!!」

何があったのかはフィンには判らないが、列車の脇へと放り出されているのは間違いなく
先に駆けて行った筈のセフィリアであった。
フィンやスイの様な遺才があればともかく、セフィリアの遺才では、高速で疾走する列車から落下すれば命に係わる。
それも、見た限り意識が意識が無い……最悪の状況である。
何より最悪であったのは、セフィリアに気を取られ……フィンが自分自身への護りを薄くしてしまった事。

【黒鎧をモトーレンに向けたままの姿勢で警戒中だったが、セフィリアの姿を見て自身の足元が疎かになる】

21 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/01/20(日) 04:48:04.42 0
>「ふ、ふふふ――はははははははははは!!!」

再点火された『噴射術式』が散らす粒子の中、立ち上がったナードが哄笑を響かせる。
嗤う声は天まで届けと言わんばかりに高く、その響きは何処までも傲岸かつ不遜。
上下する胸に合わせてガシャガシャと打ち合わされる甲冑が、まるで主人に追従し囃し立てているように聞こえた。

(失敗――でしたか)

ぎり、と下唇を噛む。先の舌戦がまるで効果が無かったとなると、非常に拙い。
ナード=アノニマスの卑猥な方向へ良く切れる頭脳と、それ以上にキレのある弁舌。
ノイファが用いた言葉の刃が、万倍で返ってくるのを想像するだけで羞恥で顔から火が出そうだ。

数瞬の大笑の後、ナードの面頬に隠れた双眸がクワッと見開かれたような、そんな錯覚。
息を呑み込む。覚悟を決めなければ再起不能になるのはこちらだ。

>「はははははは!はははははは!はははは――――がはァッ!!」

虚空に放たれた呼気と、面頬に刻まれた視界確保と呼吸用の溝からにゅるりとはみ出る赤い血潮。
背面に集まった術式の粒子が臨界点を迎え、そしてぷすんと魂が抜けるかのような音とともに空砲を放つ。

「――は?」

ぐらりと仰向けに地に沈んだナードは、それきり身じろぎ一つ返事一つしなかった。
まるでしかばねのように。

「えーと………………、勝った?」

戦闘不能(リタイア)したのはナード=アノニマスの方だった。
実感が無いことこの上ない。精々挽回不可能なくらいの距離が稼げれば良かっただけだったのに。
何処でどう間違ったのか不壊の天才を倒してしまった。

どうしたものか判らず、生ぬるい笑みを浮かべながらノイファは背後へと振り返る。
そこにあったのはマテリアとファミア、二人からの超尊敬の眼差しだった。
即座に背を向けた。赤くなった顔を両手で覆う。こんな仕様もない勝ち方で賛辞を受けるのは逆に、痛い。

(ひとまず終わった。でも、これが最後だとは思えません――)

がたんごとん、と。ナードを乗せた棺が遠ざかっていくのを眺める。

(――きっと第二第三のナード=アノニマスが……うぇぷ)

この誰一人として得することのなかった戦いを、何とか真面目に終わらせようとしてはみたものの、
想像しただけで吐き気が襲ってくるのだった。

22 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/01/20(日) 04:48:39.63 0
恥ずかしさで火照った体と、込み上げる吐き気を沈めるため、全身を伸ばしてノイファは風を浴びた。
走行中に展開される風防用の結界が、本来なら立っていられないほどの豪風を千散に砕き、その残滓である程良い寒気を運んでくれる。

>「へ、へーんだ!ざまーみろ!あなたなんか、そうやって一人寂しく置き去りにされるのがお似合いですよーだ!
  それに口を開けばやれ抱くだの女体だのって……そんなに人肌が恋しいなら、
  その自慢の鎧とでも抱き合ってればいいんですよ!そういう一人遊び、いかにも得意そうじゃないですか!」

遠ざかる後部車両へ向けマテリアが叫んだ。
例え虚勢だとしても裡に溜め込むよりは余程いい。

(……おや?)

次いで、とことことやってきたファミアが連結部に下りたった。
しゃがみこんで何をやってるのかと首を伸ばした、その瞬間。

「ひぃ!?」

半分に断たれた連結器を、まるで粘土を千切るかのように土台からもぎ取るファミア。
驚きのあまり思わず悲鳴が口から漏れる。
連結器は文字通り車両と車両とつなぎ合わせる部品である。
後続車両を牽引する要として一際頑丈に造られているはずなのだ。それを一声も発せず引き抜いてみせた。
いくら天賦の遺才とはいえ、この嫋やかな四肢の何処にそんな力が眠っているのだろう。

そんなノイファの畏怖もどこ吹く風とばかりに、ファミアはもぎ取ったそれを投じる。
連結器は放物線を描き、ナードの腹部に着弾。めり込む衝撃で上半身と下半身が床を離れて宙に浮き、重力に曳かれて再び床へ。
ぷぴゅーと間欠泉のように赤い飛沫が面頬の隙間から立ち昇った。

>「当たった!」

それを確認してファミマの顔が綻ぶ。

(お、恐ろしい娘です……)

ノイファは背筋から冷や汗が噴き出るのを禁じ得なかった。
遊撃課で最年少ながら、数々の死地を彼女の機転で潜り抜けたという評判は決して過大評価ではないのかもしれない。
今の今まで半信半疑だったものの、これだけ物怖じしない行動力を見た後では改めないわけにはいかなかった。

>「……そういえば、ヴァフティアとはどういう街なのでしょうか」

「え?ああ、そうねえ。」

不意にかけられた問いかけに、故郷の情景に思いを馳せる。
天を穿つようにそびえ建つ尖塔の群れ。整然と区分けされた美しい街並み、活気に満ちた人々。
帝国南端を担う防人としての気風。そして残された惨劇の爪痕。

「とっても良い所よ。たとえば――」

23 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/01/20(日) 04:50:28.60 0
街一つを丸ごと用いた巨大な魔方陣として区画整理された『魔術都市』。
もっとも帝国内で最大規模を誇る神殿騎士団と、奉じる神である太陽神ルグス、それに街の有様から付いた別名の方が知名度は高いだろう。
すなわち『結界都市』。

都市の中心にそびえる『魔術師の塔』や、国内外のあらゆる書物が集まる『リバベリオン大図書塔』を始め、無数に立ち並ぶ尖塔群。
美しく整備された街並から観光都市としても名高く、また北端のタニングラードに対し南端に位置する街として商業都市の顔も持っている。
ハードル機構を持つ帝都エストアリアには流石に及ばないが、帝国内でも屈指の大都市。それがヴァフティアという街なのだ。

「でも――」

と、ノイファは続ける。
そんな華やかさもたった一夜で失墜することとなる。
"終焉の月"と呼ばれる集団が引き起こし、後に『ヴァフティア事変』と呼ばれる惨劇の一夜。

結界都市の魔術機構を逆手にとって行われた大規模な降魔術。
その規模は実に都市全域に渡り、老若男女を問わず多くの人間が魔物に変じた事件である。

一年前、帝都に戻る前はまだあちこちに傷痕が残っていたが、今はどうなっているのだろう。

「――と、まあそんな感じの街なのよ。
 任務内容が復興のお手伝いじゃなくて、"警護"のみってことは復興自体は帝都同様に一段落済んでるのかもね。」

長々とした説明を終え一息つこうと、持ち込んでいた携行瓶を探して辺りを見回す。
しかし当然ながらナードとのいざこざの余波を受け、影も形も見当たらなかった。
はあ、と。ため息を吐いて諦める。

「あ、そうだ。良いお店知ってるから、ヴァフティアに着いたら皆で一杯呑みに行きましょう。」

にやっと笑いながら二人を見回す。
昼間は青果店、夜は酒場へと様変わりするその商店は、色々な意味でとても面白い店だ。

「とっても良い処よ。たとえば――反撃するための作戦を練るのにとかね。」


【全壊の車窓から――今回は『結界都市』ヴァフティア】

24 :スイ ◇nulVwXAKKU:2013/01/20(日) 22:02:54.13 0
風の槍はいとも簡単にモトーレンの機雷によって掻き消された。

>「――『風の殺し方』も、知ってるんだよ」
>「っ……普通落ちるだろ!どんな性能だよ!?」
「(普通であれば、な…)」

スイは内心歯噛みした。戦場で鍛えられたスイの嗅覚は先ほどまでの戦いで勝てないことは確信している。
本能が逃げろと警鐘を鳴らすが、スイは動けないでいた。
フィンが庇うようにスイの前に躍り出て、竜に右腕を向ける。

だが、モトーレンは静かに下降し二人に近づいた。
スイは無意識にマテリアルの翠水晶に手を這わし握りしめる。
逃げろ、逃げろとしきりに本能が叫ぶ中でモトーレンはスイに疑問を投げつけた。

>「『風帝』さあー、当たり前な顔してそいつと肩並べてるけど、怖くないの?
>ハンプティさん見るからに人間辞めちゃってるじゃん。その右腕とか、なにそれ?何で出来てんの?
>今はまだ人間とお仲間ごっこ続けてるかもしんないけどさ、いずれマジモノの魔族になったとき――
>ちゃんと人間の味方してくれるって、確証があるわけ?」
「あ?」
>「……」

続けて投げかけられる言葉は、未だ魔族化した人間が戻らないことも告げられる。
恐らくモトーレンにとって言ったことは純粋な疑問であり、フィンにとっては暴力なのだろう。
しばしの沈黙の後、フィンは口を開いた。

>「スイ。俺はお前の事、好きだぜ」
「?」

そんな彼の言葉を皮切りに次々とフィンの決意と思いがあふれる言葉が流れるようにして語られる。

>「――――スイ。俺の為に、俺にお前達を護らせろ。代わりに背中をくれてやる。信じられなきゃいつでも切り裂け」
「…あぁ」

25 :スイ ◇nulVwXAKKU:2013/01/20(日) 22:03:50.75 0
恐怖もあるだろうに、フィンは笑って見せた。
スイはそれにつられるように少し笑いながらうなずき、肯定の意を示すために彼の肩胛骨のあたりを軽く叩いた。
そうしてスイはモトーレンに向き直る。

「人間の味方は人間だけ、っつー考え方、あんたそんなに強いのに結構ぬるいところで育ったんだな。俺は人間でも魔族で敵は敵だよ。」

スイは真っ直ぐにモトーレンを見つめながら静かに言う。
師父を“人間”に殺されたスイにとっては魔族も人間を同列だった。
むしろ人間は圧倒的な思考力を持っている時点でたちが悪い。そして人間の同士で戦う戦場では、裏切り裏切られるの連続である。
スイにとっては信用できるものを探すより、その場限りを利用するに限った。

だが、スイはタニングラードで仲間を頼る大切さを身をもって知った。
この場にいないボルトの言葉通りに。

「俺はフィンさんを信用してる。だからこっから離れるわけにはいかえねぇ!」

あとは、セフィリアがゴーレムに騎乗して来るのを待つだけ―――のはずだった。
視界の端に移ったのは力なく列車から落下していく彼女の姿だった。

>「――――スイ!!風でセフィリアを拾ってくれ!!早くっ!!!!」

フィンがそれに気をとられ、自身の護りが薄くなってしまった。
それを認めたスイは、問答無用で彼の手を引き、列車の屋根から飛び出す。
セフィリアの体を風で巻き上げ、スイは空中で彼女の体を出来るだけ負担が彼女のにかからないように抱える。
同時にフィンと己にも空中で足場を作り停滞させた。
その後一度ウルタール湖でも使った結界を周囲に張り巡らし、いつの間にかいた男―ユウガとモトーレンを睨み据えた。

【空中停滞中。周囲には結界】

26 :名無しになりきれ:2013/01/28(月) 22:34:40.02 P
保守

27 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/30(水) 23:28:16.74 P
モトーレンの言葉は正鵠を射たに違いなく、フィン=ハンプティは唇を噛んで俯いた。
情報通り。フィンは己の存在理由を、『仲間を護る』という行動のタガを外して破滅的な献身にまで昇華することで表現している。
故に逆説的に、相手が庇護を必要としない、あるいは護る相手がいない場合、フィンは自分がそこに居るべき意味を失ってしまう。
行き場のない自己犠牲は、ただの自傷行為に過ぎず――フィンは放っておいても自壊する。
そういう目論見だった。

(まあ、黙るしかないよね、ハンプティさんは……人間だの魔族だのは所詮言葉遊び。
 だけどそれ故に、自分の正当化に言葉を弄せば弄すほど、言い回しは陳腐になって、言い訳がましく聞こえてしまう)

だから、ここは沈黙が正解、ではある。
しかし、沈黙はフィンを護りはするが――スイとの間に生まれた不信感を拭い去ってはくれないのだ。
そこを突く。遊撃一課の防御の要たるフィンを崩せば、あとは蟻の穴から堤が溢れるように、一課をぶち折っていける。
実に論理的な破壊工作だった。

>「スイ。俺はお前の事、好きだぜ」

――だが、モトーレンの思惑を超えて、フィンは言葉を吐き出した。
出てきたのは、魔族になりかけの自分を正当化する陳腐な方便、などではなく。

> ……俺は今の遊撃課の同僚全員の事が、好きだ。大好きだ。失いたくない。だから護ってる」

ただの、心情の吐露。
それは本来語るまでもなく、皆の心にあるべき仲間の在り様。"あたりまえのこと"だった。

誰かと誰かが友達なのは、相手のことが好きだからで。
仲間に背中を任せるのは、相手のことが大切だからで。
護るためにたたかうのは、相手のことを失いたくないからで。

そんなことは、当然のことで。

――かつてのフィン=ハンプティに致命的に欠けていた、語るまでもない、"あたりまえ"の言葉たちだった。

>「――――スイ。俺の為に、俺にお前達を護らせろ。代わりに背中をくれてやる。信じられなきゃいつでも切り裂け」

人が誰かを護る理由に、正当性(もっともらしさ)なんて、いらない。
護りたいと決めた誰かが、後ろにいる。いまのフィンを構成する事象は、それだけなのだ。
フィンは英雄を辞めた。モトーレンの目の前に仁王立ちする男は――

「ただの、フィン=ハンプティ……!!」

>「人間の味方は人間だけ、っつー考え方、あんたそんなに強いのに結構ぬるいところで育ったんだな。
 俺は人間でも魔族で敵は敵だよ。」

押し出すように、スイの言葉が来た。
人も化物も敵だらけの戦場で育ったスイの理屈は、おそらくこの場の誰よりもシンプルだ。
冷酷な戦いのロジックが鍛え上げた、合理的戦闘思考に裏打ちされた刃引きをしていない論理。
ヒトであっても魔であっても、刃を向け合った瞬間から、そいつは敵で。
――背中を合わせたなら、そいつは味方なのだ。

>「俺はフィンさんを信用してる。だからこっから離れるわけにはいかえねぇ!」

(常人の理屈が、通じない――!伊達に、同じ死線は潜ってないってわけね……!)

28 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/30(水) 23:28:58.44 P
タニングラードで何があったかなど、モトーレンは知らない。
アネクドートは報告書を書いたが、それでも彼女の知りうる限りを又聞きしたに過ぎないのだ。
元老院からもらった情報と、今のフィンやスイの関係は、あまりにも違う。
何かがあったのだ。

>「――――スイ!!風でセフィリアを拾ってくれ!!早くっ!!!!」

やはりここで爆殺してしまうか――思考が固まりかけた刹那、フィンの警戒声がそれを遮った。
不用意だと思いつつも、つられて視線を向けてしまう。
フルブーストと対峙していたセフィリアが、列車の屋根から身投げしている場面だった。
弾かれるようにスイも飛び出す。フィンの手を引き、もう片方の掌がセフィリアに向けられる。

「ッ!!」

大気の圧がモトーレンの頬を叩いた。
色を伴った風が、スイの腕から先を延長するかの如く形をつくる。
爆発的に膨張した風は、セフィリアを抱擁するように包み込んだ。

「わたしとの戦闘状況にありながら、まだこれだけの風を練る余力を残して――!?」

重ね重ね、出鱈目のような魔術処理能力。
ジャンルを"風"に限るならば、魔術において鬼銘を賜る"才鬼"エクステリアの家門にも劣らぬだろう。
これも、『情報通りのスイ』を遥かに凌駕する戦闘性能だった。
スイ、フィンとその目の先のセフィリアが、風による足場で空中に安定を得る。

(チャンス――!)

安定とは言え、重量に抗うだけの、何の機動力も持たない状態だ。
空を自由に飛びまわれる騎竜からすれば、漂うだけの物体など餌食に過ぎない。
ライトウィングのあぎとが赤く燃え、とどめのブレスを三人まとめて吹き放とうとしたその瞬間。
――列車の方から、金属の断ち割られる音とよく知る者の断末魔が聞こえてきた。
思わず振り返れば、

「連結器が!?」

いくつも繋がっている列車の、ある節目から先が遠くなっていた。
何者かによって連結器がはずされ、後ろから5両ほどが切り離されたのだ。
動力車に繋がっていない後ろの車輌はみるみるうちに減速し、逆に前の列車は車体が軽くなってどんどん加速していく。
あっという間に、地平線の向こうまで差を付けられてしまった。

「あの馬鹿は何をやって――」

いた。切り離された車輌の先端で、仰向けに倒れている。
絶対防御の触れ込み名高い甲冑の、隙間という隙間から鮮血を流し、ピクリとも動かない。

「死ん、でる……? よっしゃ!」

グっとガッツポーズを決めて、それから冷静に思考を戻した。
アノニマスは馬鹿で変態で最低の屑野郎だが、従士隊でも指折りの実力者である。
モトーレンですら、これまでただの一度だって彼の鎧を貫き本体にダメージを与えたことなどなかったのだ。
何度も試したから間違いない。

29 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/30(水) 23:29:52.74 P
従士隊警護課ナード=アノニマスが全幅の信頼をおく銀甲冑"ブリガンダイン"は、
然るべき天才が着用することで防御の遺才を100%引き出せるよう設計された代物だ。
そして、防御という性質上"鬼"の銘こそ受けなかったが、他でもないアノニマスこそが鬼銘クラスの遺才能力者。

「その馬鹿を相手にして、甲冑には傷ひとつ付けず中身にだけ致命傷を負わす……只者じゃあない奴が混じっているね」

一体如何なる手段を用いたというのか。
並の魔術や呪術なら、言うまでもなく鎧が弾く。だが、それ以上の大規模術式を励起したなら痕跡が残るはずだ。
何か他の、物理や魔法の枠組みから逸脱した、異なるロジックによる攻撃。
共和国や西方のように、独自の体系を持つ戦闘技術ならば、ブリガンダインを突破できる可能性はある。

いずれにせよ、遊撃課はただの厄介者の集まりではないということだ。
まとめ役のブライヤーを失っても、機能し続けるだけの自律判断基準を全員が持ち合わせている。
――良い組織だ。

「三人、逃したか……。いや、別に逃がしてもいいんだよね」

ノイファ、ファミア、マテリアの三名は、今や遥か地平線の向こう側を走行中だ。
モトーレンが本気で遺才を発動すればいまからだって余裕で追いつけるだろうが――

(取り残された三人を引っ張っていくには少し、骨が折れるなあ。そこまでやれとは命令されてないし)

モトーレンたちが受けた命令はあくまで、遊撃一課がヴァフティア派遣の任務を放棄しないか監視すること。
そして逃げ出すようなら極秘裏に"処理"すること……言わば督戦隊としての仕事だ。
今回、大陸横断鉄道は中継駅に寄ることなく直通でヴァフティアへ向かうよう車掌に申し付けている。
極端な話、列車がトップスピードにさえ乗ってしまえば途中下車は不可能、もうヴァフティアに行くしかないのだ。
モトーレンたちはむしろ、遺才をフルに使えば『無理やり途中下車できそうな連中』――スイやフィンやセフィリアを、
途中下車しないように見張るための役としてここに送り込まれたのだった。

(丁度ピンポイントで取り残されちゃったよ、こいつら……)

満足な説明もないまま僻地の任務へ送り込めば必ず反抗されるであろうと元老院は予想していた。
遊撃一課にはそれを予期させるだけの、実績がある。実績というか前科だが。
だから本任務においては、有無を言わせずヴァフティアまで強制送付する手筈を整えてきたはずだった。
しかし、結果として遊撃課の実に半数が、ヴァフティア行きを逃れ途中下車までやってのけた。
曲がりなりにも元老院肝入りの、帝都を代表する天才たちが阻止に回っていたにも関わらず、だ。

(げに恐るべしはその行動力というか……『実現力』。机上の空論を現実に変える力!)

モトーレンは、弾薬ポーチに突っ込んでいた手を抜いた。
圧縮術式によって詰め込んだ魔導機雷はあと4桁はあるが、手にはなにも握っていない。
代わりに、手のひらサイズの彫像をポーチから取り出した。
三等身ぐらいの、幼い少女を模した、大理石製の彫刻。モトーレンはその頭の部分に唇を近づけた。

30 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/30(水) 23:30:39.84 P
「強襲班から遊撃二課へ。一課の監視は半分成功、半分失敗。三人ほど荒野に投げ出されたけど、どうする?」

囁くように声を入れる。と、少し間を置いてから彫刻が震え、振動が大気に音を作った。
音は、男の声だった。

『いま地図を参照した。そこから丸一日歩いたところに帝都から見て最初の中継駅がある。
 そこから鈍行に乗り継いでヴァフティアに向かうよう指示してくれたまえ』

穏やかだがよく通る声――演説慣れした声が、少女の彫像から響く。
モトーレンは彫像を耳に当てて、風の音に声が紛れてしまうのを防いだ。

「把握した。監視は?」
『可能なら引き続き頼みたいところだが、騎竜の活動限界があるだろう』
「実は、けっこうぎりぎり。別件での任務明けでいきなり駆りだされたから、ライトウィングもかなり疲れてる」
『結構。ではモトーレン君、君はこのまま帰投したまえ。監視はアノニマス君に任せよう』
「……それも厳しいなあ」
『ほう。理由を聞いても?』
「馬鹿は殺られた」

彫像の"向こう"で、息を呑む気配があった。

『……あの男に傷を付けられる者がいるのかね、一課には』
「どうやったのかはわからないけど、おそらく」

ふむ、と言葉を置く声があり、

『把握した。アノニマス君も連れてそのまま帰投したまえ。傷を詳しく調べてみる必要がある。
 念のため、セフィリア・ガルブレイズのゴーレムを破壊しておいてくれ』

「……? こんな荒野じゃゴーレムなんてろくに運用できないんだし、残しておいた方が、」

『荷物が増えて足留めにはなる。が、それは戦場の理屈、兵卒の理屈だ。
 ――信じられないことだが、ガルブレイズはゴーレムの単騎で大陸を渡る』

今度はモトーレンが息を呑む番だった。
だだっ広い荒野は一見傀儡重機を運用しやすい環境に思えるが、実際は真逆だ。
遮蔽物のない平野では敵の火砲の良い的になるだけだし、人の往来のない荒野には魔獣が出る。
大型魔獣ならばゴーレムで殴り殺せるが、始末におえないのはむしろ、普遍的に生息する小型魔獣だ。

ゴーレムの動力源である畜魔オーブの魔力に惹かれてやってくるその連中は、
鋼の巨人の腕の届かぬ場所に食らいついて動力部を食い荒らす。
随伴歩兵や編隊を組んで渡るならまだしも、ゴーレム単騎で荒野に出るのは自殺行為と言う他ない。
セフィリアは、そのガルブレイズの遺才は、軽々とそれをやってのけるのだ。

『徒歩以外の足は徹底的に潰しておかないと、彼らは必ず帝都に戻ってくるだろう。
 ――できることなら、一課にはこのまま全てが終わるまで、平穏に過ごしてほしい。ヴァフティアの片田舎でね』

把握、と答えてモトーレンは彫像をポーチに仕舞った。
現在、取り残された一課の人員は落車したセフィリアを救助し、列車後方のユウガと対峙している。
列車の先っぽで倒れているアノニマスをライトウィングに掴ませ、モトーレンは高度を上げた。

「フルブーストさん!」

騎竜の鞍に結びつけてあったロープを解き、地面に向かって先端を投げる。
一定間隔で結び目がついていて、手足を引っ掛けられる作りになっている。
戦場での撤退時に、地上人員に捕まらせて一緒に離脱するための延縄だ。
ユウガがこれを掴めば共にこの戦場を離脱できる。掴まなければ、彼は遊撃一課と対峙し続けることになる。

31 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/30(水) 23:31:56.28 P
「遊撃一課。ここから南に一日歩いたところに駅があるから、そこから自分らでヴァフティアに行ってね。
 間違っても帝都に戻ってこようなんて考えないように。入門ゲートで弾かれるし――」

スイに向かって、当面の食料と方位磁石の入った袋を投げながら、モトーレンは声を張り上げて告げた。

「――いまの帝都に、貴方たちの居場所はないから」

ライトウィングが口内に炎を宿す。
もはや歩くようなスピードにまで減速した列車の、一番後ろの貨物室――そこに結わえ付けられた幌に向かって、

「てーっ」

ゴッ!と貨物車を丸ごと一両飲み込む大きさの火球が騎竜のあぎとから放たれた。
雨よけのためにかけられていた幌は一瞬で塵になり、その奥の鋼の巨人を顕にした。
セフィリアの愛機、サムエルソン。その巨躯も、小さな太陽と化した騎竜のブレスに飲まれていった。

「嫌がらせ完っ了っ!じゃーね、野たれ死んでなければまた会おう!ばっははーい!」

ライトウィングの腹に踵を入れて、空中で器用に方向転換すると、騎竜の翼が一瞬だけ傍聴した。
翼膜には騎竜種が生得的に施している飛翔の術式があり、大気を抱くようにして圧縮、後方へと瞬間的に展開。

「――はいや!」

ボッ!と、生まれた真空に空気が流れこむ音だけを残して、騎竜とモトーレンは一瞬で見えなくなった。
アノニマスやユウガのような荷物を抱えてなお、ほんのまばたきほどの時間で音速に達したのだ。
鬼の名を持つ遺才遣いの、本気の騎竜繰り――それは、常人の認識できる世界から完全に逸脱していた。

さて、そんな鬼銘持ちの遺才遣いことモトーレンにとって、『ゴーレムの破壊』は得意分野を超えたライフワークである。
従士隊に転職する前、彼女は帝国軍の優秀な空撃手だった。
ライトウィングとは異なる騎竜を駆り、戦場に出る度に敵陸上軍のゴーレムを二桁は壊して帰ってきた。
だから彼女はゴーレムの効率のよい破壊の方法なども心得ているし、装甲がどの程度の攻撃にまで耐えうるのかも知っていた。
モトーレンの常識に則って言うならば、ライトウィングのブレスに耐えうるゴーレムなど、どこの国にも存在しない。
ガルブレイズの遺才は確かに厄介だが、それはあくまで乗り手が搭乗している場合の話であって。
本人が荒野で寝こけているならば、サムエルソンを大破せしめることなどモトーレンにとって容易い仕事であった。

――繰り返すが、彼女の常識に則って言うならば、だ。
そして、セフィリア・ガルブレイズのいっそ偏執的とも言えるゴーレム愛は、戦場に生きる者の常識の枠外にあった。
具体的には、コストの安さと整備性から支持されているサムエルソンが、
趣味でフルチューンされ、装甲も最上級のものに換装されているなどと――
まさかのモトーレンも思うまい、というところだ。

荒野に風が吹き、黒焦げの貨物車を洗った。
ほとんど燃えカスになってしまった幌が飛んでいき、幌によって覆われていた中身が顔を出す。
――装甲の表面に焦げ跡があるものの、破損一つないサムエルソンが顔を出した。


【アノニマス・モトーレン撤退。ユウガにも離脱を提案】
【列車が切り離され、フィン、スイ、セフィリアの三名は荒野に放り出される】
【帝都には比較的近いが、徒歩でも一週間はかかる距離。ゴーレムなら3日】
【予想以上に趣味チューンされていたサムエルソンが騎竜のブレスを生き残る】
【現在公開できる情報:帝都の入門ゲートは硬く閉ざされ、『遊撃一課の居場所がない』】

32 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/31(木) 23:42:03.54 P
【中継都市『ミドルゲイジ』】

広大な大陸を通行する大陸横断鉄道は、畢竟日を跨いでの旅程となる。
それを見越して列車の中には食事を行う食堂車や、物販を行う購買車なども連なっていて、
それらで満たすことのできない需要は道中で立ち寄る『中継都市』に頼ることになる。

中継都市とは、大陸横断鉄道の路線に定期的に存在する、宿場町と一体になった駅のことだ。
夜間の鉄道運行は危険なので、日が暮れれば鉄道利用者は乗員も乗客もここで宿をとることになる。
亜音速で航行できる大陸横断鉄道での旅が、何日もかかるのは日中しか列車が動かないからである。
とくに今の時期は、春先とは言え日照時間はまだまだ短く、今日もすぐに日が暮れた。

ジリリリリ、と列車搬入の警笛が駅のホームを震わせた。
本日最後の客を捌き、事務室で業務日報を書いていた駅長とその部下は、驚いて椅子から飛び上がった。

「今日の運行は全て終了したはずだぞ……!?」

急ぎ、事務室の鎧戸から顔を出す。
夕暮れの色を伴った風が、寒気を伴って駅長の頬を洗った。
平野に広がる中継都市で、かような突風が吹くとすれば、それは来る列車に大気が押し出されているからだ。
じきに、ホームに巨大質量が滑り込んでくる、その予備動作だった。
部下が棚から引っ張り出した、帝都より週一で郵送されてくる航行予定表を流し読みし、

「予定では、中継都市素通りでメトロサウス直行の公用列車があと一便、来ます。
 ですが、ベルが鳴ったということは……」

「列車側から架線通信で受け入れ要請が来てるってことだな。
 公用車は夜間でも平気で航行するから、本来止まるはずのなかったこのミドルゲイジに、しかし停車しようとしている」

「承認しますか?」

「するしかないだろうなあ。公用車ってことは、政府高官が乗っているだろうし」

駅長は溜息をつきながら、消灯したばかりのカンテラに火を入れる。
上着を掴んで事務所から出て、ホームの縁に立ってカンテラを虚空に振った。
遠く、闇の彼方からチカッチカッと数回光が瞬いた。応答があったのだ。
あとは、カンテラの蓋を開け閉めすることで光の瞬きをつくり、信号を何度かやり取りして、列車を適性位置に誘導する。
やがて、十分に減速した列車が空気を押しながらホームに滑り込んできた。

「おーい、お疲れさん。一体何があったんだ?」

動力室の鎧戸が開いて、列車の機関士が顔を出した。

「どうもこうもねえ。後ろ見てみろよ」

親指で指された後ろ――列車の後方には、あるべきものがなかった。
10両編成のはずの列車が、動力室から先の3両程度しか残っていなかったのだ。
最後車の連結器は、不自然な形にねじり切られ、半分から先が消失していた。

「……大型魔獣の襲撃でも受けたのか?」

「おれは動力室にいたから何があったかしらん。客室にお偉いさんがたが三人いるから、そっちに話を聞いてくれ」

33 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/01/31(木) 23:43:40.52 P
――遊撃二課の襲撃をどうにか乗り切ったノイファ、ファミア、マテリアの遊撃一課三名。
それぞれが傷を負ったり負わせたりしながら、やがて列車は『中継都市ミドルゲイジ』に辿り着いた。
駅長は後ろの客車が丸々消滅したことに仰天し、下車する一課の面々に事情の説明を求めることだろう。
場合によっては帝都に通報され、ヴァフティア行きの便を手配してもらえないかもしれない。
一課は駅長をうまく言い含めても良いし、何かしらの理由をでっちあげて誤魔化しても良い。
小市民に過ぎない駅長相手なら、賄賂だって通じるかもしれない。
いずれにせよ、ことは穏便に収める必要がある。

さしあたり、本日の宿を探すことが必要だ。
中継都市には鉄道利用者をターゲットにした土産物屋や飲食店があり、宿屋が軒を列ねている。
夕暮れ時だが、街が眠るにはまだ早い。
宿に行く前に街を散策して必要な物資を買い込むのも良いし、お茶をして疲れを癒すのも良いだろう。
旅人の多いこの街ならば、帝都や遊撃二課に関する有用な情報が得られるかもしれない。

そして、一課は街中で奇妙な一団を見かけることだろう。
闇をひっぺがして外套代わりにしたような、黒い装束の十数人からなる集団だ。
彼らは遊撃一課より一本前の列車でこの街に来て、明日一番の列車でヴァフティアへ向かう団体だ。
遊撃一課が朝一での出発を望むならば、一緒に乗り合わせることになるかもしれない。

そしてこの一団こそが、遊撃一課がこれから渦中に飛び込むとある大きな陰謀の、
被害者であり、加害者であり――他ならぬ当事者である。


【中継都市ミドルゲイジに到着。列車の補修を行わなければいけないので、一晩足留めです。
 情報収集に街に繰り出すもよし、物資を買い込むもよし、とっとと宿にしけこんで明日を待つもよしです。
 街には謎の黒装束の集団がいます。彼らもまたヴァフティアに向かっています】

34 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/02/04(月) 18:01:33.35 0
私の体、宙に舞う
爆風と車両が走るときに生まれる気流
それが猛烈な渦となり、その力は弱った私を飛ばすのに十分だったのです

薄れゆく意識の中で柔らかなものに包まれます
この感覚は気持ちいいと感じます

必至に意識をつなぎとめ私は見てしまう……
私の大切なサムちゃんが紅蓮の炎に焼かれるところを……

「いやあああああああああああああああああ、私のサムエルソンがあああああああああああ」

私の意識は途絶えました……







???「派手にやられたね〜情けないことこの上なし」

耳元に声が聞こえてきました
目は……あかない
声だけは聞こえてきます。心を抉るような声です

???「ガルブレイズのお姫様がどこの馬の骨とも分からない奴に負けるなんてねぇ……」

うるさい……

???「慢心してないと思ってても実際はねぇ……負けるつもりなんてなかったんでしょ?」

うるさい……うるさい……

???「結果、無様に地面に転がってる……」

うるさい……うるさい……うるさい……

???「恥ずかしいねぇ……カッコ悪いねぇ……名門の家名に泥をぬっちまったねぇ」


うるさい!うるさい!うるさい!

「うるさい!」

ガバリと身を起こす……どれくらい意識を失っていたかわからない
嫌な汗で服が張り付いています。心臓の鼓動も速い……当然息も荒い

35 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/02/04(月) 18:02:04.12 0
下はゴツゴツとした砂地……列車から放り出されたのでしょう
周りを見渡せばハンプティさんとスイさん……

「……申し訳ありません」

口から自然と謝罪の言葉が出ました
独断専行の上、敗北を喫し、無様に寝転がっていたのです

「自決しろと言われたら素直に応じましょう」

これは私の覚悟です
命を賭けてでもやらなければならないことができたのです

「しかし……できるので……あれば……汚名をすすぐ機会を私に与えていただきたい!」

目には涙たまります
しかし、零すわけにはいきません
私も武人の端くれ敗北で流すことは許されないのです
……許したくありません

「帝都に向かわせて下さい……」

帝都までサムちゃんなら……サムちゃん……

「サムちゃん!!サムちゃん!!」

紅蓮の炎に焼かれた私の愛機は……健在

「当然……ドラゴンのブレスに焼かれようと私のサムエルソンは無敵です」

炎となったサムエルソンは無敵なのです!

36 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/02/04(月) 18:03:46.77 0
操縦櫃を開け中を確認しようとしたのですが

「熱っ!」

ブレスで焼かれたのは夢ではなく現実……触れたらそうなるに決まってます

「皆さん……申し訳ありません……排熱が済むまでもう少し時間がかかりそうです……」

これは数時間では聞かないでしょう……
点検もしなければ行きませんし……
このタイムロスがどう響くことになるのか……

37 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/02/06(水) 20:55:07.96 0
後部車両を切り離し、ナードの脅威から逃れて、列車は穏やかに走り続けた。
精神的に疲れ果てたマテリアは前方の車両に移動して、椅子に背を預け休んでいた。

考えるべき事は沢山ある。
けれども暫くは、何も考えたくなかった。
抱えているのは、どうせ確たる答えなど出ない問題ばかり。
考えたところで答えは得られない、報われない――その事が今のマテリアには重たく感じられた。

自然と瞼が落ちる。
彼女の意識はゆっくりと微睡みの中に沈んでいった。

マテリアは夢を見た。昔の夢だ。
幼い彼女は家に一人、床に座り込んで本に視線を落としている。
と、不意に音が聞こえた。
徐々に近づいてくる、聞き慣れた足音――マテリアが、ぱっと表情を明るませて顔を上げる。
鍵と錠が噛み合う音――本を放り出して立ち上がり、扉に駆け寄った。
母が帰って来たのだ。

扉が開くや否や、マテリアは勢いよく床を蹴る。
暖かく、柔らかい感覚――母は穏やかに微笑んで、頭を撫でてくれた。
懐かしい感触。母はいつだってマテリアに優しく接してくれた――少なくとも彼女はそう感じていた。

夢が揺らぎ、移ろう。
夜だ。母の隣で眠っていたマテリアが、ふと目を覚ます。
音が聞こえたのだ。
微かな、本当に微かな音――母がベッドから抜け出して、扉を開け、家を出て行く音。
初めての事ではない。母は度々、不定期に家から離れる事があった。

一度、何故なのかを尋ねた事がある。
母は――娼婦の仕事がどういうものかを、浅く、やんわりと教えてくれた。
もっともらしく、それ以上踏み込みがたい答え――だがマテリアにはそれが嘘だと分かっていた。
超聴覚の遺才は母の声が作り物であった事を聞き取っていた。
だからマテリアはある日、ベッドから抜け出し、母の後を追って――そこで彼女は目が覚めた。

「……はれ?」

まず初めに感じたのは、ひどく不安定な浮遊感だった。
寝ぼけ眼に映る床がゆっくりと近づいてくる。分かっているのに、抗えない。

「ふぎゃん!?」

夢の内容に従って、いつの間にか体まで動いてしまったのだろう。
椅子から転げ落ちたマテリアは、床で強かに顎を打ち付けた。
あまりの痛みに声も出ないまま顎を押さえ、数秒間悶える。

「痛い……」

今日は本当に踏んだり蹴ったりだ。
いっそこのまま動かずにいたいとさえ思った。が、そうもいかない。
マテリアは目を擦りながら起き上がり、窓の外を見る。
前方に規則的に瞬く灯火が見えた。列車は駅――中継都市の間近にまで近づいていたようだ。

列車を降りると、すぐに駅長が駆け寄ってきた。
そして消えた後部車両は一体どうなったのかと尋ねてくる。
当然の対応だ。
亜音速で運行される大陸横断鉄道が損壊――それも複数の車両がまるごと損なわれるなど、ただ事ではない。
駅長の心象次第では、大事を取られる事も十分あり得る。

38 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/02/06(水) 20:56:24.91 0
(けれど……そういう訳にはいかない……)

それは任務に従い、遊撃課という場所を保つ為――だけではない。
今回の左遷は、ただの不始末の対する懲罰ではない。
タニングラードでの一件、その真意を問いに出ると宣言したボルトの失踪。
元老院は明らかに、遊撃一課に対して害意を持っている。
それが何故なのかは分からない。

だが、だからこそ、自分達はヴァフティアに行かなくてはならない。
陰謀の舞台にすら立てないまま、こんなところで宙吊りにされる訳にはいかないのだ。

駅長に向き合って、一歩前へ出た。
表情と気配を作り変える。
いかにもよそ行きと言った具合のわざとらしい笑顔へと。

「列車が損壊した理由ですか。……うーん、聞いても意味ないと思うんですけどね。
 だってこの車両、公用車ですよ?分かりますよね?私達は国命を帯びてきているんです。
 この列車に何があったにせよ、あなたが意見を挟む余地なんて、ないと思いませんか?」

至極当たり前の事を言って聞かせるような口調。
首を小さく傾げて、駅長の顔を覗き込む。

「納得出来ませんか?だったら……いいですよ、教えてあげます」

更に一歩前へ――笑みを消し去り、駅長の耳元に口をやや近づけて続ける。

「私達に課せられた任務は……ヴァフティアの警護です。ご存知ですよね?ヴァフティア。
 貿易の自由化と円滑化の為に、国の後ろ盾……従士隊の駐屯を拒んだ結界都市、南の独立自治区。
 そのヴァフティアに、帝国が新たな防衛戦力を送り込まなくてはならない……」

言葉を切り、一歩下がる。

「それがどういう事態を意味するのか……想像出来ませんか?」

再び駅長に微笑みかけた。
嘘は吐いていない。だからこそまるで淀みなく言葉を紡げた。

「もうお分かりでしょう。あなたに出来る事は明日の明朝、
 私達を差し支えなくこの駅から送り出す事だけです。
 つまらない気を回して、果たしようのない責任を負うような真似だけは、しないで下さいよ」

人が人を動かす為に必要な物は大別して二つある。
一つは飴、もう一つは鞭だ。
その内、後者はもう十分に打ち付けた。

事は一駅長の手には収まらぬものだ。余計な事をすればその身に余る責を負いかねない。
過剰なほどに、そう印象づけた。

「もしまだ納得出来ないようなら……すみませんが私は少し疲れました。
 後はこちらの二人に聞いて下さい。……ですが、お気をつけて。
 お二方に比べれば、私はまだ生ぬるい方ですから」

駅長の隣をすり抜ける際に一度立ち止まり、耳打ちする。

仕上げは二人に任せよう。
飴と鞭とは、いずれか片方だけでも効き目はある。
が、その最大の効果は両方を組み合わせてこそ発揮されるものだろう。

39 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/02/06(水) 20:58:10.18 0
一足先に街に出たマテリアは、二人が駅から出てくるのを待っていた。
不安はなかった。彼女達なら問題なく駅長を説得してくれるだろう。

マテリアは何気なしに周囲を見回す。
中継都市はその性質上、様々な人種が集う。
その服装や様相を見て、彼らがどこから来た、どんな人なのかを推察する。
ちょっとした暇潰しに興じていた。

そして――彼女は見つけた。
黒い外套を纏い街を歩く、十数人の集団を。

「うわっ」

思わず声が零れた。
何というか、露骨過ぎる。
いっそ怪しんでくれと主張する為にあの黒装束を着ているのでは、とさえ思える格好だ。

(いや……でも、なんなんだろアレ。どこかの魔術結社?それとも宗教団体?)

気になる――生来の好奇心が小さく疼いた。

(……ちょっとだけなら、いいよね?なんていうか、こう、ヒントみたいな感じで……)

髪をいじるふりをしながら右手を耳元へ。
超聴覚を発動――とは言えやっている事はただの盗み聞きだ。気分的にも抵抗がある。
ほんの少しだけ会話が聞き取れたなら、マテリアはすぐに超聴覚を解くつもりでいた。

【国命を盾に駅長を軽く脅しました。
 黒装束の集団に向けて、興味本位で盗み聞きを試みました】

40 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/02/07(木) 20:32:10.66 0
ファミアの問いに対し、ノイファは『ヴァフティアの歩き方』をレクチャーしてくれました。
タニングラードとは北と南の差はあれどどちらも帝国辺縁、似たところも多いようです。
そこで起きた事件は、比べればタニングラードでの騒動が牧歌的にすら思えるようなものでしたが。

>「あ、そうだ。良いお店知ってるから、ヴァフティアに着いたら皆で一杯呑みに行きましょう。
>とっても良い処よ。たとえば――反撃するための作戦を練るのにとかね。」
一くさり語り終えたノイファはいたずらでも思いついたような笑顔でファミアとマテリアにそう言います。

(反撃――具体的にどうすればいいんだろう……)
コンフォート感皆無になった最後尾車両(新任)を出ながら、ファミアは自分のあごをつまみました。
個人VS国家権力。
この場合の"個人"の異質さを加味してみても、小型犬の子供が灰色熊に挑みかかるようなものです。
撫でられただけでキャーン言わされてお終いになってしまうでしょう。

さしあたり腰を落ち着けて、窓の外へ目をやりながらあれやこれやと考えてみますが、
どんなルートを辿ってみても思考の終点は常に絶望でした。

近くの席ではマテリアが寝息を立てていて、
考えるだけ無駄だと悟ったファミアもそれに倣おうとヘッドレストに頭を預けて――
(いや!ひとつ重大なことを忘れている!)
即座に体勢を戻しました。

(あの人――ナード・アノニマスはもう一人についてたしかにこう言っていた。"恐らくだが自分に惚れている"と――。
 もちろん、あんなおかしい人を好きになるなんて普通では考えられない。でも……"おかしい"人が二人いない保証なんて――ない)
どうやら思い至ったのは事態の打開策ではなく新たな懸念材料だったようです。

(もしも本当に"アレ"に惚れるような人なら……いろいろな意味で障害になる!)
もはや寝ている場合ではなくなったファミアは今までとは事情の違う視線を窓の外へと突き刺しました。
ニーグリップはすでに家路の途中なので一切する必要のない警戒なのは言うまでもありませんね。

線路は継ぎ目のない工法で敷設されていて、車体はほとんど揺れることがなく、
聞こえてくるのは走行音の他は一行の呼吸の音だけ。
そんな状態にあると人はどうなるか――そう、凄く眠くなるのです。
無意味な使命感に勝手に縛られているファミアもまた例外ではありません。

接合しかけた上下のまぶたを剥離させるために指で目をこすって、改めて窓を睨みました。
そろそろ日が落ちてきて、ファミアには写り込んだ自分の顔がはっきりと見えて始めています。
窓からこちらを見る目。
家族うちで一人だけ色の違う瞳。

(青いままだったら、人からどんな風に見えたのかな)
ファミアは、五つの頃に罹った熱病のせいで変わってしまった眼の色に久しぶりに思いを馳せました。
すぐ上の兄などには割と遠慮なしにからかいの種にされたのを、今でもしっかり覚えています。

(兄さまもあんな言い方しなくたって……いくら子供だったからって許せるものじゃないわ!!
 それでなくとも病み上がりで気も弱っていたところに!)
またも余計な記憶を掘り起こしてしまったファミアは、
そのままミドルゲイジまでの道中を肉親への憤りと相席しました。
睡魔に寄りかかられるよりは良かったかもしれませんね。

41 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/02/07(木) 20:33:00.70 0
中継都市ミドルゲイジ。
本来なら始発から終点まで直行のところ、ファミアにとっては幸いなことに最初の駅で停車することになりました。
ホームに下り立って、こわばった体をほぐすために一伸び。
細く呻きながらぷるぷる震えているところに、駆け寄ってくる人物があります。
駅長だと名乗ったその人物は、もちろん一同を詰問し始めました。

>「列車が損壊した理由ですか。……うーん、聞いても意味ないと思うんですけどね」
それに対してまずマテリアがそう切り込みました。
駅長の耳元で噛んで含めるように言葉を続け、そのたびに駅長の表情が固くなっていきます。

>「もうお分かりでしょう。あなたに出来る事は明日の明朝、
> 私達を差し支えなくこの駅から送り出す事だけです。
> つまらない気を回して、果たしようのない責任を負うような真似だけは、しないで下さいよ」
そう言いながら駅長の脇を通りぬけ、その際に何やら更に耳打ちし、マテリアはその場を後に。

もの問いたげであると同時に踏み込むことを恐れているような視線を向ける駅長を前に、
ファミアはさていかがしたものかと一思案。
それから何も特別なことなどないというように駅長へ話しかけました。
「大変不躾なお願いですがいくらか用立ててはいただけませんか?予定外の事情がありまして、手元が不如意なもので」
初対面でお金の無心。人としては割と低ランクな行為です。

しかし、マテリアが駅長に何を言ったのかほとんど聞き取れなかったファミアとしては、
余計な事を口走ってそれをふいにしてしまうよりはこのほうが良いと考えたのでした。
ファミア自身はそこまで考えていないのですが、あえて全く触れないことで
襲撃自体は"予定内の事象"であるという印象を与えることもできます。

特別便が襲撃を受ける。
普通の神経の持ち主ならかかわり合いたくはない状況です。
駅長は職務があるのでそういうわけにもいかないでしょう。
しかし、自分が責任を負わなくてよい面倒に首を突っ込むみたがる質には見えません。

「このままでは任務に障りますから……何卒、お願いします。無論一筆残しますので」
図らずもマテリアの行為の補強をしているファミアは、
『ああはい襲われましたね。それがなにか?』とでも言わんばかりな関心の無さを醸し出しつつ、こう考えました。
借りられようが借りられまいが、後で実家へ念信を打って送金の手続きをしてもらおう、と。
事ここに至ってばつが悪いなどと言ってはいられません。

物見遊山気分で口座のお金をすべて持って行って、あげく国庫を当てにして任務中にそれを使ってしまったなんて、
そんな真実を告げるつもりまではさすがにないのですが。

「それと、宿が決まりしだいお伝えしますので、
 そちらに作業の進捗を報告していただけませんか?場合によっては修理を待たずに払暁の一般列車で発つ必要がありますゆえ」
どのような場合にそうせねばならないか。
もちろん、長居してぼろが出かかったときです。

【いいから金出せよ】

42 :ユウガ ◇JryQG.Os1Y:2013/02/08(金) 23:24:10.09 0
「半分は、ちゃんと、行ってくれたが、残りは残っちゃったな。」
呆れながら、戦闘態勢に入る。
(敵は、あの少女を倒したせいで、躊躇なく攻撃する。)
(二課の奴も、一人やられてるしまずいな。)
と思ったとき、ユウガに救いの手?が。
>>「フルブーストさん。」
「すまない、助かる。」
その、竜から、垂れている。ロープを掴み、
大空へ、浮かぶ。
>>「今の、あなた達に、居場所なんてないから、」
「そう言うことだ、んじゃお休み。」
ユウガは、魔道銃「インパルス」を取り出し、
煙幕式の催涙弾をスイ達に、発射する。
「嫌がらせ、おしまい。行こうか。」
とっとと撤収する。


(ユウガ、撤退に応じ合意、撤収。 スイ達に催涙弾発射)

43 :フィン=ハンプティ ◇yHpyvmxBJw:2013/02/10(日) 20:58:58.72 P
フィンが己の失策に気付いたのは、駆け出したスイに手を引かれ、異能が繰る風によって体が包まれた直後。
飛竜ライトウィングの獰猛な咢が彼らへと向けられたその瞬間だった。

「しまっ――――!?」

視界に煌々と光を灯し始めたライトウイングの口腔をその視界に捕えたフィンは、
これから己を襲うであろう最悪の予感に目を見開く。

スイがその尋常でない才によって編み出した風による障壁は堅牢である。
だがそれは、あくまで常識の範囲内での堅牢さなのだ。
眼前の竜の吐息(ブレス)は強力無比。防御の才を有するフィンが魔族の力を行使し、ようやく数度受けられるというもの。
スイ一人であればともかく、三人分の障壁を展開しつつ受けきるのは困難であろう。

更には、風の障壁が展開されたその瞬間からフィン自身の魔術に対する抵抗力が、
スイの風を阻み、展開に必要な魔力を削り続けている。

この状態で攻撃を受ければ、撃墜は免れまい。

この場面において、フィンはモトーレンのみを見ているべきだったのだ。
彼女の動きのみを注視する事こそ、防御を担うものとしてのベストな選択であった。
……だが、それも結局後付けの空論に過ぎない。
今のフィンという青年は、最小限の犠牲よりも己のエゴを優先する。
そうである以上、ここでセフィリアに注意を払わないという選択は出来なかったのだから。

せめて少しでも仲間が傷つかぬよう、フィンは無理やり体を動かそうとし――――

「!? 列車が――――ノイファっち達か!!」

その直前、ブレスが放たれる寸前の生と死を分ける正に境界の時間にそれは起きた。

高速で移動する列車、その車両の連結が突如として切り離されたのだ。
見れば、切り離された連結部は先ほどまでフィン達がブリーフィングをしていた場所の間近。
そして、直前に響いた断末魔の声は、フィンにとってどこかで聞き覚えのある声で……

>「その馬鹿を相手にして、甲冑には傷ひとつ付けず中身にだけ致命傷を負わす……只者じゃあない奴が混じっているね」

「この短時間であのナードさんの防御を打ち崩すなんて……一体どんな技使ったんだ?」

視界の端に捕えたのは、倒れ伏すナード=アノニマス。
絶対防御とでも言うべき堅牢さを誇る、天才の中の天才。
彼が倒れているという事は、即ちあの場に残ったノイファ達が勝利を収めたという事である。
その凄惨な戦いを知らないフィンは、モトーレンと同じような感想を抱き、喜色の混じる真逆の表情を浮かべる。


かくして、列車の連結解除に伴うモトーレンとの戦闘理由の喪失という偶然により、フィンの命は救われた。
否、見逃されたと表現するのが正しいか。
急激に減速していく車両。
そこから放り出されたフィンは、大地に全身を叩きつけられつつ、

>「遊撃一課。ここから南に一日歩いたところに駅があるから、そこから自分らでヴァフティアに行ってね。
>間違っても帝都に戻ってこようなんて考えないように。入門ゲートで弾かれるし――」

>「――いまの帝都に、貴方たちの居場所はないから」

爆轟を置き土産とし、恐るべき速度で遠ざかっていくモトーレンの言葉をその耳に留める事と成った。


――――

44 :フィン=ハンプティ ◇yHpyvmxBJw:2013/02/10(日) 20:59:49.93 P
「く……痛ってぇ……ったく、とことん意地の悪い奴らだったな……」

黒鎧が解除された動かぬ右腕を左手で庇うようにしながら、砂に塗れたフィンは上体を持ち上げる。
ただでさえスイの風による加護を受け辛いフィンは、着地の直前に第二課の一員と思わしき人物が
放った謎の物体を黒鎧に包まれた右腕で打ち砕いた事により、とうとう完全に風の障壁の加護を失い
慣性に従ってその全身を大地へと打ち付けられる事と成っていた。

幸いな事に、実体を伴っていた謎の物体は殆ど黒鎧によって八割方は消し飛んでおり、
残りの部分が放った濁った空気も、スイの風の余波によって吹き散らかされてはいたが、
如何せん地面との接触が与える擦過や裂傷といった傷は避ける事が出来なかった。
それでも、肉体が変質してきている影響か、以前馬車との接触で瀕死に陥ったのに対し、
今回はこの程度の怪我で済んでいるのは僥倖と言えるのだろうが。

周囲を見渡せば、少し離れた位置に確認できたのは、スイと気絶したままのセフィリアの姿。

「護れた……じゃなくて『偶然助かった』んだよな……くそっ」

仮に、最後の瞬間にモトーレンがこちらへと吐息(ブレス)を向けていれば、
或いは、ノイファにマテリア、ファミアの手により車両が切り離されなければ、
少なくともフィンはその命を散らせていたかもしれない。

「……。こうまでして俺達を潰しにかかってくるなんて、本当にどうなってんだ……?」

竜と爆轟の繰り手であり鬼の名を持つ、モトーレン
絶対無比の堅牢さを誇る護り手、ナード

その場にどっと座り込むと、フィンは自分たちに向けられた過剰な戦力を思い返し改めて疑念を抱く。
果たしてこれは、この過剰な戦力は、本当に自分たちを潰すため「だけ」に用意されたものなのかと。
策謀に疎いフィンでは答えを出せる筈も無い思考だが、それでも疑念は尽きる事は無い……。

と、フィンがそんな終わりのない思考に沈んでいた時。

>「うるさい!」

「うおっ!?」

怒号に驚きつつ振り向けば――――そこでは、気絶していたセフィリアが目を覚ましていた。
悪夢でも見ていたかのように身体を汗で濡らし、息を荒げてはいるものの、その身体に大きな怪我は無い様に見える。

>「……申し訳ありません」

意識が覚醒した彼女は周囲を見渡すと、即座に状況を把握したのであろう。謝罪の言葉を述べて来た。
独断専行と、それに伴う損害の発生……確かに褒められるべきものではない。
だが、フィンはその事を攻めるつもりは無かった。
それが自分の大切な何かを想っての行為であれば、注意こそすれ無闇に責める理由にはならないし、
それに、背中を護るといいつつ敵の接近を許してしまった点では、フィンも自身の仕事を果たしたとは言い難い。
セフィリアが無事であった事への安堵も含め、フィンは笑顔を浮かべ彼女への気遣いと若干の注意を混ぜた言葉を吐こうとし

「気にすんなセフィリア。それより怪我は」

>「自決しろと言われたら素直に応じましょう」

「……は?」

>「しかし……できるので……あれば……汚名をすすぐ機会を私に与えていただきたい!」
>「帝都に向かわせて下さい……」

(何、言ってんだ……?)

45 :フィン=ハンプティ ◇yHpyvmxBJw:2013/02/10(日) 21:00:43.51 P
固まった。セフィリアの、その言動に。
……出会った時は気づく余裕が無かった。
フィン自身も狂気と呼べる自己犠牲に突き動かされ生きていたから。

だが、己の歪みを見つめなおし、英雄志望のフィン=ハンプティからただのフィンに還った結果。
普通の青年としての感性を獲得した事で……その上で、改めて向き合った事で。

フィンは、セフィリアに異常性を感じた。

彼女は、涙を溜めつつ述べられた彼女の言葉は……どこまでも、「自分」を見ていた。
汚名をすすぐ、誇りを守る……彼女が好むそれらの言葉は、結局自身を何かから守る為のものだ。
セフィリアの言葉には、ふがいない自身の行為への憤りはあるが、他者への慈しみが存在していない。
見知らぬ他者こそ自身の是としていた、かつてのフィン。
それとは違った方向性の、歪みの前兆。そんなものを、フィンはセフィリアから感じ取った。


>「当然……ドラゴンのブレスに焼かれようと私のサムエルソンは無敵です」
>「熱っ!」

……だが結局、フィンはセフィリアに自身が抱いた危惧を語る事はしなかった。
その危惧はフィンの想像に過ぎないという事もあり、
また……フィンという青年の性質が少々仲間に甘いという事情もあったからだ。

不吉な予感を振り払うかの様に軽く頭を振ると、フィンは軋む体を無理矢理立ち上げる。
そして、無事であった自身のゴーレムに喜び、次いでその装甲の高温に怯んだセフィリアの傍へと歩み寄ると

「何やってんだ。火傷しちまうぞ」

フィンは左手で優しくセフィリアの後頭部を小突くと
そのまま左手をマントで何重にも包み混み、操縦櫃をこじ開けた。
つまり、妙に頑丈なフィンのマントと男の腕力による力技。

「よっ――――おお、開いた開いた。ちっとばかし硬かったけど、入口は壊れてなかったみてぇだな。
 後は……ゴーレムの事はよくわかんねぇけど、冷やすならスイに風を操ってもらえば早く済むんじゃねぇか?」

熱風を浴びつつマントを羽織り直すと、フィンはスイへと視線を向ける。
だが、彼の魔力の残量が判らない為か無理強いする様な事はしない。
ゴーレムから離れ、丁度いいサイズの岩へと腰かけ、口を開く。

「さて……これからどうする?何にせよ俺達はボルト課長を捜す為に帝都に戻らなきゃなんねぇ訳だが」

そこで、フィンは困った様に蟀谷を掻いた。

「俺にはゴーレムが直るのを待って線路伝いに突撃するか、もしくは帝都まで突っ走って侵入するくらいしか思い浮かばねぇ。
 正直どっちも微妙だけど、出来ねぇ事は無いと思う……けどなぁ。スイ、何か案は無ぇか?」

前者は正道だが、修理にどれくらいの時間が掛かるか不明であるのが難点。
後者は、肉体が魔族化しつつあるフィン、
風というある種移動に適した魔術のプロであるスイ、身体能力強化の恩恵がある遺才を有するセフィリア、
凡人の基礎性能を凌駕する各々の才能でゴリ押しするという力押しの邪道。

どちらもベストとかけ離れた選択肢ではあるが、何にせよ行動しなければ始まらない。
とりあえず、ゴーレムをこの場へ置いていく事と成る後者にセフィリアが反対するであろう事を見越して、
恐らく中立の立場が取れると直感で判断し、或いはより良い案を出してくれるという期待を込め、フィンはスイに判断を委ねた。

【生存。セフィリアを危惧しつつ、今後の方針を確認しようとしたが……名案思い浮かばず】

46 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/02/12(火) 01:55:41.93 0
「んぅ……っはぁ――」

椅子にもたれたまま、ノイファは背中を伸ばした。ついでにこっそりと欠伸を一回。
肩を押さえて首を回す。ごきごきと響いてはしないかと恐々としつつも、長旅で強ばった体をほぐす心地良さには抗えない。

「――予定じゃあヴァフティアまで直通ってことだった筈だけど」

程なく到着する中継都市『ミドルゲイジ』で一度停車するつもりなのだろう。
目に見えて緩やかになっていく外の景色を眺めながら、ノイファは呟く。

「まあ、この状態じゃ無理もないわね……っとと――あ」

道中、列車の機関部に異物(ナード)を噛んだせいか、列車の加減速に併せて車体が軋むのだ。
そしてその影響を、直に被ることになった者が居た。

>「ふぎゃん!?」

マテリアだ。向かいの席で、うつらうつらと船を漕いでいたのだが、思いの外眠りが深かったらしい。
そんな無防備な状態で一際大きな揺れに耐えられるわけもなく、床に顔面をしたたかに打ち付ける。

>「痛い……」
(……でしょうねえ)

内心で同意を返しつつ、ノイファは顔をしかめた。
赤みを増したおとがいは、本人の造形の良さも相まって余計に痛そうだ。
冷たい布巾の一枚も差し出したいところだが、生憎と水も、布も、先刻の騒動で行方不明のままだ。

(ミドルゲイジで色々と買いなおさないとですね……)

何度目かになる、それなりに見慣れたミドルゲイジの駅構内。
列車が空気を巻き込みながら滑るように停止するのを見届け、ノイファはため息を吐いた。


>「列車が損壊した理由ですか。……うーん、聞いても意味ないと思うんですけどね――」

半壊――というかほぼ半分近くを失った大陸横断列車から降りるやいなや、駅長に詰め寄られた。
なんとも形容のしがたいその形相も、ここの責任者という立場を考慮すれば仕方のないことだろうと思う。
そんな駅長の質問に返されたのが、先のマテリアの言葉だった。

>「納得出来ませんか?だったら……いいですよ、教えてあげます」

仕様がない、とでも言うように、駅長の耳元でマテリアが続きを囁く。
吐息のかかる距離とまではいかないが、普通の嗜好の持ち主なら思わず熱を上げてしまうだろう。
しかしマテリアの口が動くたび、駅長の表情は固さを増していく。

自分達は国命によって国防上の任務に就いている、だから余計な手間をかけさせるな。
聞こえた部分を要約すると、こうだ。
マテリアの言葉に一切嘘はない。
ただ、実情を知らないものが聞けば、重要任務なのだと勘違いしてしまうこともあるかもしれない。

(そして、それをわざわざ正さなければならない理由もありませんからねえ)

駅長に一言、二言、耳打ちを残し、マテリアは構内を抜ける。
その際に向けられた視線に頷きで返す。鞭は振るわれた。ならば次は飴を振舞う番だ。

「お役目ご苦労様です。私たちは――」
>「大変不躾なお願いですがいくらか用立ててはいただけませんか?予定外の事情がありまして、手元が不如意なもので」

間髪入れず挟まれた声に、口を開いたままの姿勢でノイファは固まった。

47 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/02/12(火) 01:57:54.93 0
(おっ――)

作り笑いの仮面はそのままに、ノイファは視線だけをファミアへと動かした。

(――お金を強請りはじめたっ!?)

もっとも表情を伺うことは出来ない。立ち居地の関係で、見えるのは柔らかそうな金髪の後頭部だけだ。
ファミアの旋毛を見つめながら、ノイファは思考を巡らせる。今の状況は非常に拙い。
具体的にいうならば、取りあえずの友好を表すために差し出している右手が、実に拙い。
これではまるで、いいから早く出すもの出せよ、と催促しているようではないか。

>「このままでは任務に障りますから……何卒、お願いします。無論一筆残しますので」

交渉を続けるファミアを遮蔽に、手を引っ込める。
そして代わりに、口を挟むことにした。

「すみませんね。列車があんなことになった原因は撃退したのですけど、その際に荷物の殆どが犠牲になりまして」

ファミアの援護として。
実際、ノイファの持ち込んだ手荷物は、身に着けていたもの以外一切合財が荒野に消えている。

「ああ、そうだ。申し送れました。私たちは――」

ファミアの話に乗ったのには理由があった。
"飴"に相当するものをどうしようか。そこを決めあぐねていたところ、ちょうど渡りに船だったからだ。
借りを作る、というのも十分な交渉材料になる場合はある。

「――帝都王立従士隊"遊撃課"の隊員です」

それが、誰もが知っているような知名度の人物、団体なら尚更だ。
今までであれば、左遷部隊である遊撃一課の知名度など、下の下もいいところだっただろう。
だが今は違う。なにせ新聞の一面にでかでかと載っている程なのだから。
官民問わずオールスターを栄転によって集めた夢の部隊"遊撃栄転小隊ピニオン"として。
 
「もっとも、私たちは一課になりますが。
 例の"二課"発足に先駆けたテストモデルだったのですけどね、今じゃあ精々斥候役といったところです」

上役は一緒なんですけどねえ、と。自嘲気に笑いながら付け加えた。
言外に元老院直属なのだと匂わせるためだ。
説明に偽りはないし、所属に関しても外套に縫い付けてある部隊章が証明してくれる。
ただ、意図的にミスリードを誘っているだけだ。

「さて……っと、取り合えず今日の分の報告書を拵えなければなりませんので、この辺でご容赦ください。
 それに早めに宿を決めておかないと、酒場のテーブルで一晩明かす、なあんてことにもなりかねませんから」

では、と告げて立ち去る。足取りは努めてゆっくりと。
やましい事は何もないと歩調で示す。
そして数歩進んだところで足を止め、くるりと振り返った。

「そうだ、ちょっと聞きたいことがあるのですけど――」

ヴァフティアに着く前に、多少なりとも統制のかかっていない情報が欲しい。
中継都市の駅長を務めているならば、旅人たちが交わしていく噂やそれに類する話も、自然と耳に入ってくることだろう。
さしあたっての情報元としては十分以上だろう。

「――ヴァフティアからの利用者も多いのでしょう?
 向こうの様子ですとか情勢など、貴方が聞いた中で特に気になったこと、なにかございませんか?」


【いいから知ってること話せよ】

48 :スイ ◇nulVwXAKKU:2013/02/17(日) 12:52:07.85 0
風の結界の向こうから竜があぎとを開くのが見えた。
仲間の安全を確保するために彼らを風でどこかに飛ばそうかとも考えたが、尋常でない竜の広範囲の攻撃は恐らくその試みすらもいとも簡単に吹き飛ばすのだろうと思い至り踏みとどまる。
ならばどうするのか、そう考えた瞬間耳障りの悪い断末魔と鈍い音が聞こえ、列車の連結が切り離されていた。

>「!? 列車が――――ノイファっち達か!!」

ちらりと見えたのは絶対防御を誇るはずのナード=アノニマスが倒れ伏している姿だった。

>「その馬鹿を相手にして、甲冑には傷ひとつ付けず中身にだけ致命傷を負わす……只者じゃあない奴が混じっているね」

全くもってその通りだと、この時ばかりはモトーレンに心の底から同意する。
して、モトーレン達の戦闘理由は無くなり荒野に取り残されるのはフィン、セフィリアそしてスイの三人と相成った。
だが帝都へと帰還するモトーレンの言葉は、この先を悩ませるのには十分だった。
ユウガの放った物体から放出されたものはフィンの黒鎧とスイの突風によって取り払われる。
先に地へ落ちてしまったフィンを追いスイも地面に降り立ちセフィリアの体を地面に横たえた。
そして、モトーレンから受け取った袋は腰帯に括り付けておく。

>「護れた……じゃなくて『偶然助かった』んだよな……くそっ」

無念ともとれるフィンの呟きが聞こえる。
スイも己の手を――マテリアルであるブレスレットを眺めながら歯噛みした。

「(師父、どうしたらいい?力が足りないんだ。フィンさんやセフィリアさんに頼ったままじゃあこの先どうなるかわからない)」

心の中でそっと呼びかける。勿論答えを出すのが自分だとわかっていても頼らずにはいられなかった。

>「うるさい!」
>「うおっ!?」

唐突の怒号と驚愕の声に思わず肩を少し震わせて、ブレスレットから意識をそらし声の方を向くとセフィリアが飛び起きていた。
彼女は少し落ち着いてから周囲を見渡し、そして口開いた。

>「……申し訳ありません」

謝罪の言葉を皮切りに、彼女の口からはきはきとだが狂気すら感じられる言葉が述べられる。
帝都へ向かわせてくれという言葉に、スイは頷いた。

「どちらにせよ俺たちは帝都に帰らなければ事が始まらない。」

涙を浮かべながら請う彼女に対し、スイはそう言葉を告げる。
近くにいたフィンの顔が、僅かに強張っていたことには全く気づいていなかった。

>「当然……ドラゴンのブレスに焼かれようと私のサムエルソンは無敵です」
>「熱っ!」

安心しろとでも言うように、セフィリアが竜のブレスに焼かれて尚損傷らしい損傷を見せないゴーレムに駆け寄る。
止める間もなく彼女は操縦櫃を空けようとして高温に手を反射で引っ込めた。
それを見ていたフィンが厳重に左手をマントで包み見事に操縦櫃をこじ開けた。

>「よっ――――おお、開いた開いた。ちっとばかし硬かったけど、入口は壊れてなかったみてぇだな。
 後は……ゴーレムの事はよくわかんねぇけど、冷やすならスイに風を操ってもらえば早く済むんじゃねぇか?」
「ん――あぁ、それなら可能だろう」

彼の言葉にスイは頷きゴーレムに向けて緩く風邪を発生させ、断続的に続くようにそのまま維持させる。

>「俺にはゴーレムが直るのを待って線路伝いに突撃するか、もしくは帝都まで突っ走って侵入するくらいしか思い浮かばねぇ。
 正直どっちも微妙だけど、出来ねぇ事は無いと思う……けどなぁ。スイ、何か案は無ぇか?」
「そうだな…、二手に分かれるというのも手だと思う。セフィリアさんはゴーレムで行けるし、俺は風で行ける。フィンさんはどちらかについて行く、という感じになるが…」

【案:二手に分かれたらどうかな?】

49 :名無しになりきれ:2013/02/20(水) 23:29:08.22 0
初心者なのだが参戦してもいいのかな…?

50 :名無しになりきれ:2013/02/21(木) 10:12:28.54 0
>>49
>>1に避難所があるからテンプレ埋めるがいいよ
それを投下して参加表明だ

51 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/02/25(月) 00:22:39.89 P
「こいつは一体どういうことです?ご説明をお願いしますよ」

カンテラを顔の横でブラブラさせながら、駅長の男は降り立った三人の女に詰め寄った。
機関士はさっさと自分の仕事に戻ってしまったし、部下は何に怯えているのか三歩後ろでだんまりだ。
若い奴はすぐ萎縮する。確かに相手は政府高官だが、この駅に自分が長だ。
全ての裁量は自分を通して行われるし旅人を留めることも追い出すことだって恣意のまま。
言って見れば、この駅という一国一城の主が自分なのだ。何を恐れることやあらん。
それに、よく見れば相手はまだ薹も立っていない若い女ばかり。
自分の娘ぐらいの年頃の少女さえいるではないか。政府からの派遣と言っても、使いっ走り程度に違いない。

掛け値なく言えば、ナメてかかっていた。
駅長はそんな自分の判断を、ほんの数十秒で撤回し、後悔することになる――!

>「列車が損壊した理由ですか。……うーん、聞いても意味ないと思うんですけどね。

先頭の女が、まるで寄ってきた羽虫を払うかのような抑揚で、そう言った。
もちろん駅長からしてみればふざけるなと言いたくなる。抗議の声を荒げようとしたが、しかし!

>「私達に課せられた任務は……ヴァフティアの警護です。ご存知ですよね?ヴァフティア。
>「そのヴァフティアに、帝国が新たな防衛戦力を送り込まなくてはならない……」

「まさか、せんそ――」

言いかけて、駅長は慌てて自分の口に手を当てた。
帝国領の南端に位置する、他国――西方エルトラスを始めとする近隣国家に隣接した結界都市ヴァフティア。
そこには自治権を持つ守備隊が居るはずだ。彼らだけでは戦力が足りないから、補充する。
指し示す事実は一つしかない。――戦争だ。戦争が起きるのだ。

>「もうお分かりでしょう。あなたに出来る事は明日の明朝、私達を差し支えなくこの駅から送り出す事だけです。
 つまらない気を回して、果たしようのない責任を負うような真似だけは、しないで下さいよ」

一気に青ざめた駅長は、駅帽を落としかねない勢いで首を縦に振った。
こんなこと、外に漏れれば最重要機密漏洩罪で縛り首は免れない。
帝都の皇下諜報局院に目をつけられでもしたら、理由をつけて家族や友人まで一緒に投獄されかねない。
ことほど左様に、侵略国家における戦時情報に関する扱いは極めて厳しい。国家の存亡に直結するからだ。

(そんな重大な任務に女三人で駆りだされて……この人らは一体何者なんだ!?)

最初の女が去り、娘ぐらいの年齢の少女がふわりとこちらにやってきた。
小動物のような、どこか頼り気のない雰囲気。
上等な衣服に官製外套をあわせているが、いかにも服に着られているって感じだ。
きっと女二人の侍女か付き人といったところだろう。束の間の安心感に、駅長はほっと息をつく。が、

>「大変不躾なお願いですがいくらか用立ててはいただけませんか?予定外の事情がありまして、手元が不如意なもので」

「!?」

いたいけな少女、まさかの金を無心――!!
人を動かすには飴と鞭が必要だが、この集団。鞭、鞭と来て――更に鞭!

52 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/02/25(月) 00:23:24.50 P
あまりに予想外すぎる要求に駅長の世界が停止する。一秒後には超高速で思考が巡る。
どうする?断るべきか。いやしかし、少女の背後には高官らしき女が控えている。
彼女は笑顔でこちらに右手を差し出しているが、求めているのは握手か現金か。

>「このままでは任務に障りますから……何卒、お願いします。無論一筆残しますので」

駄目押しにもう一声来た。
さっきの女の戦争を仄めかす発言がここでズドンとボディーブローのように効いてくる。
国家の存亡に関わる任務に非協力だったとなれば、親類縁者の枠を超えてこの街全てが投獄されてもおかしくない。
なんで巻き込まれる人数で罪の重さを測るのかは意味不明だけど。

「う、承りました……すぐに手配致します……」

もうなんか路地裏でごろつきにカツアゲ食らってる若者みたいな顔で駅長は援助を約束した。
駅の金庫は帝都の陸運院の許可を得ないと開けないので、ポケットマネーから出すことになるだろう。
そして、これは完全に憶測だが、今日貸した金は絶対に帰ってこない気がする……。

>「すみませんね。列車があんなことになった原因は撃退したのですけど、その際に荷物の殆どが犠牲になりまして」

(だからその列車があんなことになった原因はなんなんだよ……!)

言わないのだから聞けるわけもない。そこも軍事機密というわけだろう。
大型の魔獣だってあそこまで理不尽な破壊は齎さない。ゴーレムや爆撃でも同じだ。
列車が複数量丸々消失と言うのは、それほどまでに異常な事態なのである。

>「ああ、そうだ。申し送れました。私たちは――」

最後尾の女が、外套を引っ張って言った。

>「――帝都王立従士隊"遊撃課"の隊員です」

「遊撃課――!」

駅長は知っている。なにせ今日の朝刊で読んだばかりの記事だ。
帝都で選りすぐりの人材、オールスターを集めた夢の舞台を設立したらしい。
それが『遊撃栄転小隊ピニオン』、正式名称は遊撃二課。

>「もっとも、私たちは一課になりますが。
 例の"二課"発足に先駆けたテストモデルだったのですけどね、今じゃあ精々斥候役といったところです」

「ってことは、あんた達も選りすぐりのエリートってわけか……?」

53 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/02/25(月) 00:25:17.14 P
遊撃二課の面々は、そりゃあもう知らないものはないってぐらいに知れ渡っている。
何度も紙面を賑わせ、受勲回数だって両手じゃ効かない、正真正銘この国の英雄たちだからだ。
しかし今ここに居る女達を、駅長は知らない。しかし、外套の徽章が他ならぬ遊撃課を証明している。
おそらく今この女が言ったテストモデルというのが正しいのだろう。

お払い箱になったのだ。外道をこじらせて――!

>「そうだ、ちょっと聞きたいことがあるのですけど――」

用は済んだと言わんばかりに通りすぎようとした最後尾の女が、おもむろに振り返った。
まだ何かあるのかと戦々恐々な駅長は、不必要に気をつけの姿勢で傾注する。

>「――ヴァフティアからの利用者も多いのでしょう?
 向こうの様子ですとか情勢など、貴方が聞いた中で特に気になったこと、なにかございませんか?」

なにか――ある。駅長は過剰にビビるのをやめた。
提供できる情報ならある。それが、彼女たちが求めているものなのかはわからない。

「ヴァフティア行きの貨物便が、ここ最近で倍増しましてね。
 運搬品目のリストをもらったんですが、水と食料ばかりコンテナ一杯のが何箱も。
 こういう品の流れの時と言うのは、たいてい何かしらの催し事があって需要が拡大する時期なんですが、
 ヴァフティアで近く祭りをやるという話は聞きませんなあ。ラウル・ラジーノは、ほら、二年前のことがあったし」

ラウル・ラジーノと言うのは、ヴァフティアが祀る聖人に因んだ祭りのことだ。
毎年たくさんの観光客が訪れ夜通し祝う、ヴァフティアを象徴するような祭事なのだが、近年は執り行われていない。
正確には二年前。ラウル・ラジーノの晩に起きた都市規模の集団降魔事件『ヴァフティア事変』の傷跡が未だ残っているからだ。
炊き出しに混入されていた魔導薬を摂取した人間が、外法の儀式『降魔術』によって次々と魔物に姿を変えていった。
事件の首謀者とされているのは、神の力を見誤った神殿騎士の集団『終焉の月』とされているが――

「そう、この二週間ほど、我がミドルゲイジで『終焉の月』らしき黒装束姿を見かけたってタレコミが多数寄せられていましてね。
 今もこの街に滞在しているんじゃないかなあ。似た人相の連中が明日のチケットを買っていったって話も聞きます。
 もう十日くらい前の話ですが、従士隊に一報入れたら若いお役人さんが一人、血相変えてヴァフティアに飛んで行きましたよ」

その時も特別便だったが、何故か実家にお土産を買うからと言ってミドルゲイジに立ち寄って行った。
急いでいるわりに悠長なことだと思ったが、件の黒装束集団と接触しておこうという心づもりだったのかもしれない。
パンパンになった紙袋を両手に下げてほくほく顔で出立していったので、買いかぶりかもしれないが。
何故か右頬に誰かに殴られたような痣が残っていたし。

「そのお役人さんが黒装束を逮捕してなかったってことは、終焉の月とは関係ない集団だったのかもしれないですなあ」

 * * * * * *

54 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/02/25(月) 00:26:52.34 P
 * * * * * *

さて、その黒装束集団であるが、未だミドルゲイジに滞在していた。
もう二週間ほどこの街に居るが、ついに明日の朝一の便で出立する段取りがつき、今はその準備のための買い出しだ。
彼らの服装は闇を切り取ったかのような漆黒。特殊な染め方をしなければ出ないその色は、旅装としてはあまりに特異。
無論のこと、奇異の目を引いていた。そして好奇心の虜となったものの中には、駅長の追求を逃れたマテリアの姿もあった。
彼女がその遺才を発動させたらば、きっと以下のような声が聞こえてくることだろう。

「――聞こえているんだろう?無駄な誤魔化しはやめておけ、貴様は既に俺の射程圏内だ」

黒装束の集団の一人がおもむろにそう呟いた。
十数名の仲間たちは、発言した一人を振り返ったり、無視して前を注視している。

「聞こえているんだろう?俺の心の声が。フフフ……心読める奴がいたらきっと俺の存在にビビるだろうな」
「どうしたの、一体」
「相手の心を読む能力者に牽制をかけているんだ」
「……敵?この近くにいるの?」
「いや、そんな奴がいるのかはしらんが、こういうのは普段からの心構えが大事だからな」
「声に出しちゃったら意味ないと思う……」

その時、不意に集団の先頭を行く小柄な影が膝を折った。
フード越しに頭を抱え、絞りだすように声を上げる。

「くっ、"眼"が……!」

突然の悲鳴に、遠巻きに様子を見ていた通行人の一人が大丈夫かと声をかける。
肩を貸してもらって、小柄な影が立ち上がる。

「疼くんです……眼が、我が神祖の魔族『極北の炎』から生まれ落ちし魔眼"黎明眼"が、魔力に呼応して……ッ!
 離れて……死にたくなければわたしから離れてください……っ!」

丸い眼鏡の向こうの双眸を、掌で覆い隠して呻く黒装束。通行人は「お、おう……」と言って手を離した。
途端に黒装束の仲間たちが駆け寄り、小柄な影を取り囲む。

「議長!」「議長大丈夫か?」「さあこの聖水をゆっくりと点眼するんだ」「魔力の解放を抑えろ!」
「まずいな、ここは人目を引きすぎる」「"ヤツら"に俺達の存在が露見してはいけない」「馬鹿な、抑制が解けるのが早すぎる」
「それだけヴァフティアに近づいているということだろう」「――それが世界の選択か」

通行人達は、みなあんぐりと開口して一連の流れを見ていたが、やがて肩をすくめて誰彼ともなく去っていく。
ときおり、顔を真っ赤にしたり胸を押さえて痛がったり何かを振り切るようにあああと声を挙げたりする者もいた。
議長と呼ばれた黒装束の、フードが風に煽られてめくれあがった。
夕闇の中でも尚際立つ、烏色の髪。それを三つ編みに結った、ファミアより少し上ぐらいの少女であった。

「っく……魔眼を持たぬものにはわからないでしょう……」

掌の下から周囲に視線を送る眼は、非難の色に満ちていた。
そして、彼女の双眸はもうひとつ、特筆すべき色を持っていた。

燃えるような、赤。
――魔族の眼の色だ。

 * * * * * *

55 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/02/25(月) 00:28:07.07 P
 * * * * * *

【翌日:『結界都市ヴァフティア』・入門管理局】

結局特別便の再手配は叶わず、遊撃課の面々は独自の判断で明け方の普通便に同乗することとなった。
駅長が泣きそうになりながらファミアに手渡した封筒の中には、三人が一晩不自由なく滞在できる程度の額が収められていた。
ポケットマネーではこれが限界です、と駅長は絞りだすように言った。
厄介払いができる代償と思えばこの程度、はした金だと自分を強引に納得させているようでもあった。

さて、ミドルゲイジからヴァフティアは存外に近い。
ヴァフティアから見て最初の中継都市がミドルゲイジなのだ。
本当はヴァフティアには鉄道の駅などなく、馬車で少し行ったところに『メトロサウス』という終着駅があるのだが、
鉄道的に言えば、ミドルゲイジは限りなくヴァフティアに近い立地に存在した。
メトロサウスから馬車を乗継ぎ再び夕暮れにならんかと言うところで、一行はヴァフティアに到着した。

ヴァフティアも主要都市である以上は城塞があり、また隣国との折衝地点のため入門審査がある。
と言ってもタニングラードのように厳正な基準があるわけではなく――

「あ、遊撃一課の方々ですね。帝都と中継都市から連絡は受けています。こちらへどうぞ」

一般客は簡単な金属探知を受ける程度であり、政府の特命を受けている官職に至ってはフリーパスであった。
ヴァフティアは貿易都市であってもれっきとした帝国領土だ。
従士隊の守護こそ置いていないものの、その主権と防衛責任は帝国が保障するものであり、公務の際には便宜が図られる。
そこが第三都市ことタニングラードとの、大きな相違点であった。
同盟国であるトラバキアと隣接する第三都市と違い、結界都市は西方国家群が直ぐ傍にあるため、放任できないのである。

さて、遊撃課の面々が降り立った土地についてもう少し紹介しておこう。
結界都市ヴァフティア。
別名魔術都市と呼ばれる通り、古くから他国との文化の交差点として様々な様式を国内に輸入してきた。
この世界において文化の礎を築くのは魔法――特に生活に強く根付いた魔術だ。
ヴァフティアには、他国の魔術をいち早く取り入れ、洗練して帝都に上奏する毒見係のような役目があった。

同様に、人の行き来も旺盛であり、ヴァフティア出身者の実に8割は、何らかの形で他国の血を受け継いでいる。
純粋な帝国人など数えるほどしかいないし、そういう連中は早々に帝都に移住していくのだ。
ヴァフティアは、貴族のいない街でもあった。

街は中央を交差する巨大な十字路に、路地が無数に枝分かれしていく形で成り立っている。
中心部には巨大な噴水広場があり、この土地の土着神である太陽神ルグスを奉じる神殿がある。
広場から北が民家や商店の多い『揺り籠通り』、南が露天や繁華街のある『カフェイン通り』。
西へ行けばヴァフティアの叡智を集約した大図書館があり、東に行けば街の玄関口こと入門管理局があるという寸法だ。

入門管理局を抜けた遊撃課であったが、そろそろ日も暮れる。
今日のところは宿をとって、明日からの金策を考えるべきだろう。

しかし――そんな思考を断ち切るように、少女の悲鳴が路地裏より響いた!

56 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/02/25(月) 00:29:08.08 P
「っきゃあ!なんなんですか貴方たち!
 仲間とはぐれて一人になって心細く放蕩していたわたしをいきなり複数人で包囲して!」

酸欠になりそうな長台詞を叫ぶテンションで器用に喋るのは、黒のローブを羽織った一人の少女だ。
そして彼女を取り囲む三人の男たち。いかにもごろつきと言った見てくれの、人相の悪い連中だ。

「ぐへへ、そうつれなくするなよお嬢ちゃん。観光客だろ、俺達が案内してやるからよォー」
「ウヒャヒャヒャア!ヴァフティアに来たら一度は見ておきたい観光名所をくまなく教えてやるよ!」
「そして美味いもん食って買い物してェー、名産品のお土産を持たせて見送ってやるぜ、ゲラゲラゲラ!」

三人は下卑た笑みを浮かべながら、少女を路地裏のコーナーに追い詰める!
少女は怯え、しかし気丈に対応した!

「無礼です! この下賤な人間共めが! その肉引き裂いてハラワタすすりますよっ!?」

しかし三人のごろつきは、威嚇をものともしない風で笑った。

「おいおいこんなお嬢ちゃんにハラワタ食われちゃうんだってよ、俺ら!」
「ゲラゲラゲラ!雑食性の人間の内臓なんか臭くて食えたもんじゃねえのにな!」
「そもそも、内臓食うってことは俺っちのウンコちゃんも食うってことだけどおー?ウヒャヒャハア!」

「くう……だ、だったらちゃんと3日ぐらい綺麗な水の中で飼って糞出ししてから食べますっ!」

少女は劣勢だ!
そしてマテリアならば見覚えがあるだろう。
いまごろつき達に絡まれている少女は、ミドルゲイジで話題になっていた黒装束の集団の一員だ。
十数人の仲間こそ今はいないが、確かに、あの時『議長』と呼ばれていた赤い眼をした少女だった。


【ヴァフティアに無事到着】

【駅長からの話:ここ最近ヴァフティアに、祭りでもないのに水や食料がやたら集まっているらしい。
        そしてヴァフティア行きの民衆の中には、『終焉の月』に似た黒装束の集団がいたらしい。
        その話を十日ぐらい前従士隊に通報したら、若い役人が血相変えてヴァフティアに向かったらしい】

【ヴァフティアにて黒装束の一員と思しき少女を発見。ごろつきに絡まれている】

57 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/02/27(水) 23:31:51.40 P
【→フィン・セフィリア・スイ】
【帝都エストアリア:郊外・100番ハードル外側】

日が暮れて、夜が明けて、もう一度日が高く登った頃。
フィンとセフィリア、そして別ルートを辿ったスイの三名が帝都の近くまで辿り着いた。
魔獣が出るために日中しか往来できない荒野であるが、あくまでそれは常人の理屈だ。
敵のいない高度を飛行し続けられるスイ、そしてそもそも不整地踏破に長けたチューニングのサムエルソン。
彼らの能力を大いに活用し、休まず進軍を続ければ、今この時間に帝都に辿り着くことは十分可能だ。

帝都エストアリアは、その広大な敷地面積のために、外縁を城壁で囲うことができない。
あまりに広すぎるから、全方位をカバーできるほどの城壁を築こうとすれば、帝国中の石材を集めたって足りないのだ。
外側のハードルはほとんどが農地であり、都市機能が集まっているのは総面積の3分の1に過ぎない、というのも大きな理由である。

では、農地ばかりの外縁は外敵に対してノーガードで良いかと言えば、そうではない。
帝都には、敷地内のどこからでもどこへだって繋がる転移術式網、『SPIN』があるからだ。
SPINを使えば、例えば帝都の一番外側の100番ハードルから、中心の1番ハードルにさえ殆ど一瞬で移動できる。
悪意ある外来者が、帝都の敷地内にほんの少しでも攻め入ることができたら、その時点で国家的な危機に直結するのだ。
だが、城壁の及ばない範囲をSPINのサービスから切り離せば、今度はSPINに依存した産業が壊滅的な打撃を受ける。
SPINを用いずに行き来するには、この帝都はあまりにも広すぎるのだった。

帝都はどんなに外縁の土地でも、必ず外界からの侵入を防ぐ必要がある。
そして、そうできるだけの、技術がある。
ハードル――帝都を年輪のように形成する幾条もの円環に、帝都が誇る魔術師達が何代にも渡って施してきた術式。
正式なゲート以外から侵入を試みようとすれば、ハードルの境界線上において迎撃術式が発動。
瞬間的に高さ50メートルもの強固な結界障壁が形成され、領線を跨いだ者を確実に破壊――!!
足元から盛り上がるように現出するために、線を跨ぐ最中で真っ二つにされる『逆ギロチン』だ。

帝都近郊に棲息する魔獣種は長い時間で学習したためにもう近寄りもしないが、
たまに空を飛べる有翼種が気付かずに境界線を超えて、胴から真っ二つに切断されて落ちてくることがある。
そう、この結界は飛行をできる者に対しても有効なのだ――!

帝都に戻ってきた遊撃課の三人は、帝都に住む者の常識としてこの結界のことを知っている。
故に、ゲートを通る以外に帝都へ入る術がないことも、よくわかっているはずだ。
だが、ゲートへ行って手続きをしようにも、モトーレンの言葉通り、入門管理局の人間の対応は冷ややかなものだろう。

何を言っても『あなた方には入門の許可をされていない』の一点張り。
彼らが遊撃課に向ける眼は、追放処分を受けた流刑人に対するそれと同じだった。


【帝都組:案の定入門管理局では門前払い。正規の手段での帝都入りは不可能】
【現在公開できる情報
 ◆入門管理局では市民証のチェックを受ける。遊撃課のメンバーは名指しで追放処分扱い
 ◆隊商の貨物に潜り込むなど、入門管理局の眼を誤魔化すことは有効だが、よほど巧妙にやらないと見抜かれる
 ◆帝都の外縁には城壁はないが、切れ目なく広がるハードルの境界線には特殊な結界魔術が施されている
 ◆正規の手段以外で境界線を跨いだ瞬間、地面から結界障壁が凄まじい速度でせり上がってきて侵入者を真っ二つに
 ◆この壁は一瞬で50メートル近くにまで達するため、飛行手段を持つ者に対しても有効
 ◆壁には力場だが厚みがあるため、超高速でくぐり抜けようとしても捉えられる
 ◆従士隊所属の騎竜は通行可能→障壁結界をスルーできる手段がある?】

58 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/03/04(月) 00:46:38.65 0
>「――聞こえているんだろう?無駄な誤魔化しはやめておけ、貴様は既に俺の射程圏内だ」

遺才を発動するや否や、マテリアは息を呑んだ。
表情が強張り、心臓が暴れ出す。

(気付かれた――!?)

マテリアの超聴覚は、大別すると二つの術式によって行われている。
一つは聴覚のみを対象とした身体強化。
もう一つは微細な魔力線や粒子を散布し、音を共振、伝播させる集音術式。
対象を絞り、また現象や物質を生み出さない為、使用する魔力は最小限に抑えられている。
例え戦闘用ゴーレムに搭載する精査術式でも、感知出来ないほどにだ。

どうする、どうすればいい――思考が空回りする。
そもそも相手は何者なのか――先んじてこの街にも監視が送り込まれていた?
いや、本来ここに停車する予定はなかった筈――ならば一体何者?
すぐに仕掛けてこないという事は、今回の件とは無関係なのだろうか。
それとも自分を餌にノイファとファミアを誘い出すつもり――

>「聞こえているんだろう?俺の心の声が。フフフ……心読める奴がいたらきっと俺の存在にビビるだろうな」
>「どうしたの、一体」
>「相手の心を読む能力者に牽制をかけているんだ」
>「……敵?この近くにいるの?」
>「いや、そんな奴がいるのかはしらんが、こういうのは普段からの心構えが大事だからな」
>「声に出しちゃったら意味ないと思う……」

(……え、ちょっと待って、やだこれすごく恥ずかしい)

ものすごく顔が熱い。
なまじ誰にも悟られていないせいで、羞恥が自分の中に留まって、発散出来ない。
複雑な表情を浮かべながら、マテリアは顔を両手で覆った。

59 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/03/04(月) 00:48:20.64 0
(とりあえず……アレは『そういう』人達だった、と……)

>「くっ、"眼"が……!」

少女が一人、唐突に膝を突いた。
周囲の通行人が何事かと視線を集めているが、マテリアはもう、彼女達が何者かを知っている。
知っているつもりでいる。
その為むしろ、あまり直視しないように目を逸らし気味だった。
通行人達もやがて同じように、苦い表情を残して立ち去っていった。

>「それだけヴァフティアに近づいているということだろう」

けれどもふと、黒装束の一人が発したその言葉に、マテリアは振り返る。
本当に何気なくだ。自分達がこれから向かう都市の名が聞こえて、彼女は振り返った。

>「っく……魔眼を持たぬものにはわからないでしょう……」

横合いから見えた少女の顔――指の隙間から覗く色濃い怨嗟。
それを湛える瞳には――凍えるほどに鮮烈な赤が炎のように揺れていた。

(見間違い……?違う……今のは……)

マテリアは暫し、呆然としていた。
そうしている内に、ノイファとファミアが駅舎から出てきていた。
無事に駅長の説得は終わったのだろう。

彼女達と合流した後で――マテリアはふと、先ほどの少女がいた場所を振り返った。
あの時自分は、あの子の後を追うべきだったんじゃないのか。
何か明確な理由がある訳ではない――だけど何か、何でもいいから彼女に声をかけてあげなきゃいけなかったんじゃないか。
後ろ髪を引かれるような思いが、胸の奥でわだかまっていた。

60 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/03/04(月) 00:48:59.04 0
夜――マテリアはまた夢を見た。
列車の中で見た夢の続き――母の後を追う夢だ。
自分が眠るのを待ってから、密かに家を出て行く母。
それが何故なのかを知りたくて、マテリアは何度も母の後を追った。
けれどもいつも、最後には母を見失ってしまって、一人で家に帰っていた。

だが――この夢は少し違った。
母の背中が段々と近づいている。気のせいじゃない。
気持ちが弾む。石畳を蹴って母の背に駆け寄った。
あと一歩で届く。手を伸ばす。

――指先が届くその直前に、母の姿が消えた。
そして目が覚める。

汗で下着やシーツが肌に張り付いて気持ち悪い。
胸が苦しい。深く息を吐いた。
窓の外へ視線を遣る。空はまだ深い夜色のみが支配していた。

「……っ」

母を掴み損ねた右手を見る。
あと少し、あと少しで母の背中に触れられた。
しかし――

「こんな夢……なんで、今になって……」

マテリアはずっと母の死を引きずって生きてきた。
亡骸も見られず、葬儀もなしに、言伝だけで母の死を伝えられ、
その実感を得られないまま、母の背を追い続けてきた。

軍に入ったのも、弱い誰かを助ける事で、自分が人を助けられるのは
何よりもまず自分が幸せだからなのだと、そう思い込んでいたいが為だった。
それだけが人生の目的であり、拠り所だった。

だが今は違う。
今回の件に決着がついたら、またウィット・メリケインに会いに行きたい。
彼との約束を守って、守らせて、それから次の約束をしたい。
遊撃課の皆も、いつかはもっと上手に守れるようになりたい。
今はまだ――変態に泣かされて、自分よりずっと歳下の少女に抱かれて慰められるような自分でも。
自分には、新しい拠り所がある。

でも――だったらもう、母の事は吹っ切れてしまってもいいんだろうか。

そんな訳がない。
新しく大切な人が出来たからって、今まで大切だった人が、大切じゃなくなる訳じゃない。
今でもまだ、母が何者で、どうやって死んでいったのか、知りたい。

今回の遊撃課を取り巻く陰謀には、タニングラードの時と同じく元老院が関わっているだろう。
ならばこの企みを手繰っていけば、逆に政府の上層部に手を伸ばせる。
上手くいけば――母が所属していただろう、皇帝直属の組織について、情報が掴めるかもしれない。

(だけど……私には、そんな事出来ない。出来っこない。ただでさえ力不足の私が、母さんの事を気にしながら戦っていくなんて……)

だから、選ばなくてはいけない。
母の為に戦うのか、遊撃課の為に戦うのか。
けれども今のマテリアには、そのどちらが正しいのか――選ぶ事が正しいのかすら、分からなかった。

61 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/03/04(月) 00:49:33.77 0
翌日――駅に着くや否や、駅長が半泣きになりながら封筒を差し出してきた。
中には結構な額が納められている。

「……昨日あれから、何したんですか?アルフートさん」

呆れ顔でマテリアが尋ねる。
ごく自然にファミアに問いかけている辺り、彼女にも少しずつ、遊撃課の仕組みが分かってきているようだ。

それから列車に揺られ馬車に揺られ、およそ半日。
遊撃課一行はヴァフティアに到着した。
入門管理局を抜けて、街並みを見上げる。

建ち並ぶ建物――どれも流麗で、複雑精緻な模様が刻まれいてる。
噴水広場――舞い散る水飛沫が夕日を浴びて、空に光の粒子を散りばめていた。
その奥にそびえる大図書館――八階建ての本館の両脇に、『閲覧専用』の棟が併設されている。
元々あった本館の閲覧室さえもが本棚で埋め尽くされた結果――魔窟めいた、故に心を惹かれる建造物。

建物に浮かぶ紋様は微かに光を帯びていて、時折小さく波打つように揺れていた。
何故か――ヴァフティアの建築物に施された造形は、その殆どが『術式』なのだ。
限りなく効率的に、機能的に設計された無機質な建物に、魔術によって装飾を施す――ヴァフティアン・バロックと呼ばれる建築法だ。

術式とは魔力に指向性を与える為の回路だ。
故に本来は出来る限り簡潔に記すのが好ましい――筈なのだが、
ヴァフティアン・バロックはその真逆を行く。
『耐摩』や『強靭化』などの魔術を、術式としての完成度は保ったまま、装飾としての美しさ、華やかさを突き詰める。
挙句の果てには平面的な建物を彩るべく、立体的な錯覚を招く紋様さえ編み出す始末。
帝国内でも随一の魔術水準を誇るヴァフティアにしか出来ない芸当だった。

「わぁ……」

専門的な魔術師でないマテリアは精々「なんか凄い」くらいの認識しか出来ない為、呑気に感嘆の声を零している。
が、ヴァフティアに訪れた魔術師は皆、呆然として、開口一番にこう言うのだ。
「頭おかしいんじゃねーの」と。

>「っきゃあ!なんなんですか貴方たち!
  仲間とはぐれて一人になって心細く放蕩していたわたしをいきなり複数人で包囲して!」

と、不意に悲鳴が聞こえた。
聞き覚えのある声――マテリアが咄嗟に走り出す。
路地裏に駆けつけると、三人の男が一人の少女を袋小路に追い込んでいた。

62 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/03/04(月) 00:50:38.51 0
(やっぱりあの時の――)

男達の隙間越しに見える黒い外套。
中継都市で声をかけてあげられなかった後悔が鎌首をもたげる。
助けなきゃ――心の声に促されてマテリアは一歩前へ踏み出し、

>「ぐへへ、そうつれなくするなよお嬢ちゃん。観光客だろ、俺達が案内してやるからよォー」
 「ウヒャヒャヒャア!ヴァフティアに来たら一度は見ておきたい観光名所をくまなく教えてやるよ!」
 「そして美味いもん食って買い物してェー、名産品のお土産を持たせて見送ってやるぜ、ゲラゲラゲラ!」

「えぇー……」

思わずそこで、ぴたりと固まった。

>「無礼です! この下賤な人間共めが! その肉引き裂いてハラワタすすりますよっ!?」

>「おいおいこんなお嬢ちゃんにハラワタ食われちゃうんだってよ、俺ら!」
 「ゲラゲラゲラ!雑食性の人間の内臓なんか臭くて食えたもんじゃねえのにな!」
 「そもそも、内臓食うってことは俺っちのウンコちゃんも食うってことだけどおー?ウヒャヒャハア!」

(――分からない!私分からない!彼らがただのゴロツキなのか、観光ガイドなのか、それとも観光客相手の漫才師なのか!)

マテリアは頭を抱えて暫し狼狽え――しかしもう一度少女を見た。
あの男達が何者なのかは置いておいて、少なくとも少女は大の男三人に囲まれ、萎縮している。
それだけは確かな事で――マテリアが動く理由としては十分だった。

「待ちなさい!その子、怖がってるじゃないですか!
 ……それに、その、強引な客引きはリピーターの減少に繋がるからあまり良くないですよ!」

深く息を吸い、叫んだ。
相手の素性がいまいち分からない為、中途半端に強気な物言いになってしまったが。
さておき男達に人差し指を突きつけて、マテリアは更に続ける。

「とにかく、今すぐその子から離れなさい。さもないと――」

左手を口元へ。右手を戻し、左手に重ねる。
もう一度、深呼吸。

「ぶち殺しますよ、社会的に」

自在音声を発動、少女の声を再現――そして声を張り上げる。

「助けてくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」


【少女の声を使って人を呼ぶ】

63 :セフィリア ◇LGH1NVF4LA:2013/03/04(月) 00:51:19.86 0
「どうしたものでしょうか……」

なにもない草原に向けて喋りかけている
はたから見ればそうかもしれませんが、実は違います

今私は帝都が誇る結界障壁の前に立ているのです
正しく言うと目の前にはなにもありません
ただいまこの位置よりほんの半メートルでも進めば私はこの世とお別れをしてしまうでしょう

いまさら結界障壁について説明するまでもございません
帝都に、いえ、帝国に住むものなら誰でも知っている常識なのですから

なんとかならないことはないと思います
これでも貴族なのでこの手の抜け道は数多くあるので、問題はありません
……いま使えるかはわかりません

う〜ん、一番の問題は私のサムちゃんです
さすがに堅牢な防御力を誇るサムちゃんでも結界を通り抜けることはできません
実験しなくてもわかります
帝都の結界はゴーレムを破壊できるかが基準なのですから

「いっその事今回の目玉、大口径魔力砲で結界を攻撃してみるのも……」

完全に取り返しのつかないことになるのは明白です
さすがにやめておきましょう

無茶なプランAは置いておいてプランBにいたしましょうか
ご安心下さい、ちゃんとプランBはありますよ

といっても無茶が無謀になっただけですが……

「フィンとスイさんは申し訳ありませんが各自でどうにかしていただけないでしょうか?
スイさんの能力ならお二人なら帝都の結界を突破できるかもしれませんが
さすがに私のサムちゃんは無理でしょう……」

サムちゃんの操縦櫃の中に体をうずめ、一息つきます

64 :セフィリア ◇LGH1NVF4LA:2013/03/04(月) 00:51:56.17 0
「ですので私はこの結界を登りましょう!」

サムエルソンの金属の足が地面を蹴ります
ミスリル銀でコーティングされたそれは抜群の魔術伝導を誇ります

基本軍事用ゴーレムの脚部には反発術式が設定されていてその巨大な質量で跳躍した場合の負荷を
大幅に軽減する働きがあります

それを応用して、巨大な質量であるゴーレムで三次元戦闘を行うことができる人間がいます
それが出来ればたいていは凄腕と評されます

無論、私はできます

事実、クローディアさんとの戦いで私が見せています
今回はそれの応用です

結界と反発術式が触れる一瞬のタイミングで蹴れば登れるはずです
昔、挑戦したことがあるので可能であるはずです

しかし……昔は失敗しましたがいまの私にできるのでしょうか……

いえ、成功しなければ先に進めない
選択肢は他にありません
やらねばならぬのです!

術式が境界線を超えるその瞬間!
蹴る!

ゴーレムがぐんと加速し更に上へと飛ぶ

「まだまだ!!」

蹴る!蹴る!蹴る!
順調にいく……このまま私は無事に到達することができるのか?
まだまだ油断出来ません

もし、このまま登りきれば下りは同じ要領で下るのみ

65 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/03/05(火) 01:10:43.60 0
ファミアのお願いを駅長は快く引き受けてくれました。
これぞ赤心を推して人の腹中に置いた結果というものです。
――と、ひとまずはそういうことにしておきましょう。
誰だって極力、綺麗な世界が見たいのですから。

(うむー、やっぱり言葉足らず過ぎたかなあ?でもうかつなことを喋ってしまっては……)
何も言わないことで、先方に勝手に事態を想像させるという目論見は完全に成功したと言えます。
成功しすぎて色々と余計な推察をさせてしまっていますが、この際それは些事でしょう。

>「ああ、そうだ。申し送れました。私たちは――――帝都王立従士隊"遊撃課"の隊員です」
ノイファもまた、見てわかるだけの事実を告げることで相手の心象を操作していました。
帝国内のほぼすべての人間にとって、その単語の持つ意味はファミア達一課のそれとはだいぶ異なっています。

世間の風に吹き寄せられたのではなく、民衆の期待に支えられて立つ本物の英雄。
それが今、遊撃課という名前から人が受ける印象と言えます。
協力することで後に余録が得られるかもしれない、そう思わせるにはなんとか足りるでしょう。

>「そうだ、ちょっと聞きたいことがあるのですけど――」
さしあたりの用事が済んだところで発着場を後にしようとしたファミアの背に、ノイファの声、そして踵を鳴らす音が届きました。
ヴァフティア方面での動きに関しての情報提供を請うノイファに対し、駅長は不必要にいい姿勢でそれに答えてゆきます。

曰く、ヴァフティアへ流れこむ糧食の増加。
曰く、終焉の月らしき集団の目撃。

前者はともかく、後者に関しては中々聞き捨てならないものがあります。
終焉の月に関しては少なくともファミアも耳では知っているのです。
もちろんそれは、公式に発表された範囲のものでしかありませんが。

(あの事変の首謀者が、その舞台への"廊下"で目撃される……というのはなんとも不用心すぎるのでは)
事実、駅長の話によれば大規模に官憲が動いた形跡はなく、そうであるならばやはり無関係かとは思われます。
しかしながら――

(そんなあからさまに怪しい集団が何故か我々と機を合わせて南へ……これは偶然と言い切れるかな)
まあ、世の中には単にそういう服装の趣味の人もいるでしょうし、
同好の士と観光旅行などという話だってありえないとは断じがたく。
大地の囁きを聞いたなどと自称する者はとりあえず実在するのです。

――後刻。
更に恩を売っておこうとしたか、それとも動向を掴んでおいたほうが安心できたのか。
理由は定かではありませんが、とにかく駅長が取り急ぎ手配してくれた宿にて一泊。
そして翌朝。

66 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/03/05(火) 01:12:02.14 0
破損した車両の修理は間に合わず、代替の手配もかなわなかったため、朝一番の鈍行にて出立することになりました。
(高速で走るのに各駅に停まるだけで"鈍行"という名称になってしまうのも理不尽な話だなあ)
などとよくわからない同情じみた感情を抱くファミアの前に、それ以上の理不尽さを噛み締めているような駅長がやって来ます。

>「……昨日あれから、何したんですか?アルフートさん」
駅長、差し出された封筒、ファミアと視線を移したマテリアが問いかけます。
「任務への協力を要請しただけ、なん、ですが……」
まさかここまで強いリアクションが飛び出してくるとは思わなかったファミアも、思わず言葉を濁してしまいます。

「えー、と。ご協力大変感謝いたします。つきましてはこちら借用書です。
 私の署名はしてありますので、内容に不備がなければ金額の記入と駅長さんのご署名を」
なんとかそう言いながら、昨夜のうちに書き上げた借用証書を取り出しました。
二通あるのはそれぞれ債権者控えと債務者控えです。
駅長は文面をひと通り目で追うと黙って署名をして、片方を返して来ました。

「あの……よろしいんですか?」
そうたずねるファミアに、駅長は黙って頷きながら、敬礼を一つ。
おそらくは"とっとと行っちまえ"という意思表示なのでしょう。
発車ベルも鳴ったことですし、その通りにするに如くはありません。

(たぶん溜まった涙であまり見えてなかったんだろうなあ)
と考えながら車中で借用書を読み返すファミア。
それもそのはず、記載されている利息は年一パーセント。
帝国貸金業法に規定された上限金利のおよそ二十分の一なのでした。

まず最初に無理そうな条件を突きつけておいて、そこから要求を下げてゆく。
非常にポピュラーな交渉手順の一つですが、それに則ってみようとしたところであっさりと話がまとまりファミアは拍子抜け。
向こうにしてみればどうせ返ってこないお金と思っているのだから、そりゃあ利息がいくらでも構うものではないのですけれど。

滞り無く車上の人となった一行は、これまた滞りとは無縁の道中を経て、ようやくヴァフティアへ到着しました。
そしてタニングラードとはうってかわって右から左の入門審査。
入るのはすんなりだけれど出るのは難しそうだなと、ちょっと肩を落としながら門を抜けたファミアの目には――

67 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/03/05(火) 01:13:06.10 0
「わっ」
ヴァフティアの誇る建築群が映っていました。
建物自体はとてもシンプルな箱や筒の組み合わせで、いっそ牢獄か何かにすら見えました。
ただし、外壁に刻まれた装飾がなければ、の話です。
建物の壁面を彩る線はすべて術式の記述の一部であるようで、あるいは書かれ、あるいは掘られているそれは
かすかな明滅を拍動のごとく繰り返しています。

「わっ、わっ、これって夜でも光ってるんでしょうか!?」
帝都ともまた違う華やかさにちょっと舞い上がってしまっているファミアでしたが、
すべきことを思い出して落ち着きを取り戻しました。

「申し訳ないのですが実家の方に念報を入れて来ますので、少し待っていてください」
マテリアとノイファにそう言い残してファミアは入門管理へ引き返します。
外部からの出入りを監督する部署は、当たり前ですが同時に内外への連絡手段も備えているものです。

「えーと、フタゴのハハキトクっと」
あまり縁起の良くない語呂合わせで覚えていた、実家の区分番号を声に出して用紙に書きつけていると、
>「助けてくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」
まったく聞き覚えのない少女の叫びが風を裂いてファミアの耳に飛び込んできました。

ファミアはそれを聞くや瞬時に判断を下し、そして行動に移ります。
声を雄々しく無視して一切の遅滞なくペンを走らせ、念報の文面を完成させたのです。
そして流れるような動作で係員にそれを提出し、折り目正しく料金を払いました。
知らない人のトラブルに首を突っ込むものではありませんね。

ちなみに字数に拠って料金が決まる仕組みになっているので、あまり長々と事情を説明出来ません。
文章量を絞りに絞って送った文面は、以下のようなものでした。

  事故に巻き込まれてお金が必要になってしまいましたので
  指定の金額を下記の口座へ振り込んでください

お金、届くといいですね。

それはともかくとして用事を済ませたファミアは改めて門をくぐり、街へと入ります。
「お待たせし――あれ?お二人はどちらに……」
まさかさっきの叫び声がマテリアのものだとは気づいていないファミアは首を巡らせて仲間を探しました。

【もしもし、私だけど】

68 :コルド・フリザン ◆ndI.L9sECM :2013/03/06(水) 17:12:43.87 0
test

69 :フィン=ハンプティ ◇yHpyvmxBJw:2013/03/07(木) 03:02:34.15 0
結局――――フィン=ハンプティは、セフィリアの駆るゴーレムに便乗しての移動を選んだ。

スイに頼み込んでの移動では、自身の魔術耐性によって負荷を与えてしまう
また『フローレス』を駆使しての人外の膂力を用いての移動では、自身の体にかかる負担が大きすぎる
その点、ゴーレムの外部に取り付いての移動であれば、それらの問題を一挙に解決できるが故の選択であった。

……最も、一番の理由はセフィリアという少女の内面にたいして漠然とした不安であったのだが。



>「どうしたものでしょうか……」
「『結界障壁』 考えてみたら、こいつがあったんだよな……」

曲芸の如き神技で荒野を踏破したセフィリアのゴーレム。
持ち前の異常なバランス感覚によりその背に取り付き、帝都の門前までたどり着く事に成功したフィンであったが、
そんな馬鹿げた成果を残した彼は今、眼前に在るそれを認識して左腕で頭を掻く事しか出来ないでいた。

フィンが見つめる先にあるのは、一見ただの農耕地。
……だが、そこはまぎれもなく帝都とそれ以外の分ける境界線である。
そうであるが故に今、彼らの眼前には確かに見えざるそれが『在った』

『結界障壁』

帝都エストアリアを知る者であれば誰もが知っている、帝都を取り囲む不可視の防壁
外敵から、害悪から、帝都を脅かさんとする力から、国の中枢を護る為の排敵機構
魔術師たちが何代にも渡り組み上げてきた業とでもいうべき防衛線
あらゆる外敵を想定してあるであろうそれは、いかな奇策も鬼謀も秘策でさえも覆しそうな堅牢さを纏っていた。
規模こそ違えど防御という一点に特化しているフィンの眼はその堅牢さをただしく捕え、それ故に頭を悩ませる

(魔術結界……もしサフロールがこの場にいてくれたら、どうにか出来たんだろうな)

思い出すのは、魔術と領域を司る天才であるサフロール・オブテイン。
仮に彼がこの場にいれば、この結界を抜ける手段を生み出してくれたのだろう

(けど、もうサフロールはいねぇ。どこにもいなくなった……だから、この手で切り開かねぇと)

一度目を閉じ、未だ心に焼きつく失った仲間の背中を思い出しながら、再度目を開く。
……と、そうしてフィンが覚悟を決めたその時

>「ですので私はこの結界を登りましょう!」

「……は?」

間近で何か大きな物が跳躍する気配がし、地面に大きな影が射した。
驚愕と共にフィンが空を見上げれば――――ゴーレムが、跳んで……否。飛んでいた。
どういった技巧を用いているのかは判らないが、恐らく超高等な技巧に違いない
セフィリアの登場するゴーレム『サムエルソン』は、結界を足場として垂直に上昇していく

「ばっ……!?おま、何してんだセフィリア!?」

……セフィリアの行為は、結界を超えるという事だけを目的とするならば、確かに間違ってはいまい。
瞬時に展開する壁を足場として利用するなど、通常はありえない。
であるが故に。凡人には不可能で、天才のみに可能な所業であるが故に――――結界の防衛機能の穴を突けるのかもしれない。

「――――ゴーレムみてぇにでけぇ物が透明な結界を登れば、下手すりゃ一発で見つかっちまうぞ!!」

だがそれは……リスクが、高い。
ゴーレム程の物体が虚空を登っていく姿は、目撃されれば間違いなく異常事態として扱われる事だろう
勿論、運良く見つからない可能性も十二分にある。だが、安全とは言い難いのには変わりない
焦って声を出したフィンだが、その忠告はもう遅い。セフィリアは既に動き出してしまっているのだから。

70 :フィン=ハンプティ ◇yHpyvmxBJw:2013/03/07(木) 03:03:48.21 0
「……だーっ!くそ!!これじゃあ列車の焼き直しじゃねぇか!!」

遠ざかっていくゴーレムの背に見るのは、先の列車で守れなかったセフィリアが車外に放り出された光景
その時の無力感と、かつて暗い穴の底に置き去りにしてしまった仲間の姿がフィンの中で重なり
……一歩を、踏み出させた。

「仕方ねぇ……スイ、悪ぃけど俺は先に行く。
 お前なら手段は色々あるだろうから、何とかして追いかけてきてくれ!」

そして息を吸う。覚悟を決める様に

「こうなりゃ自棄だ……無理矢理押し通るぜ、結界!
 お前の守ってる帝国(モノ)より、俺には護りたい友達(モノ)があるんでな!」

叫ぶフィンの右腕に顕現するのは、黒鎧。魔族へと変質した肉。
彼はその腕を――――更に一歩先の地面へと叩きつけた。

……フィンのその行為に、当然結界は反応する事だろう。
常であれば、そうして入ってきた者は瞬く間に両断される事と成る。だが

「は――――アネクドートの刃に比べりゃ鈍で、レクストさんの剣に比べりゃ、鈍足だ……っ!!」

フィン=ハンプティは、防御の遺才を持つ『天才』だ。
こと力を逸らす、受け流す事に関しては、あのナードをすら上回る。
更にそこに、黒鎧という高硬度にして気の塊である守りの道具が加われば

超高速で地より襲い掛かる結界。その鋭利な結界を堅牢な右腕により一瞬受け止め、
即座にその力を受け流し、自身の体を吹き飛ばす推進力へと変え、
慣性に従い上空へと押し上げられ切る前に、結界の効果範囲の内側へ自分自身を吹き飛ばす。

結界を通り抜けるのではなく、一度発動させた上で受け流す
それくらいの事はやってやれない事は無い。

勿論、こんな即興での力技。どこかに無理が出ない事はないだろう。だが

「俺は、決めたんだよ――――もう、友達を一人で危険な場所に置いていかないってなああああ!!!!!!」

それでも、彼は突き進む。帝都の規範を自身の信念で、阻む。

71 :コルド=フリザン ◆ndI.L9sECM :2013/03/08(金) 12:40:11.24 0
ある場所。
帝都に向かって、一人の子供が歩いていた。
「ハァ・・・ハァ・・・クソ・・!」
見るからに疲れた顔色をしつつも、子供は歩き続ける。
「仕事を無くしてからずっと彷徨ってるが・・・」
「帝都は何処だ・・・」
今にも消え入りそうな声で、独り言を言う。
「帝都に行けば・・・仕事が見つかるのに・・・」
「こんな所でくたばる訳にはいかねぇんだよ・・・・・」
子供は、呟きつつも、必死に足を進める。帝都を目指しているようだ。
そして、どんな幸運か、その足は偶然にも帝都に向けられていた。
「喉乾いたな・・・」
子供は、何やら右手に力を込めた。
次の瞬間......その手には一つの氷塊が握られていた。
子供は、その氷を食べ始める。
「(ガリ!ガリ!ゴキ!ゴリ!)ふぅ・・・元気が出てきたぜ。さて、行くとするか。」
子供は、なおも帝都に向かって進み続ける。
子供の周辺には、凍てつく程の寒さが立ち込めていた。

72 :コルド=フリザン ◆ndI.L9sECM :2013/03/08(金) 12:42:35.49 0
【キャラテンプレ】
名前: コルド・フリザン
性別: 女(男にしか見えないが)
年齢: 14
性格: 気さくで活発
外見: 青いショートヘア。首に、マテリアルであるロケットを掛けている。
外見が男にしか見えない。口調も完全な男(俺、お前、~だぜ 等)
血筋:遠く、寒い国の平凡な家で生まれた。
装備:短剣
遺才:『大氷凍結(パーフェクト・フリーズ)』
冷気を操り、人、物を凍らせる。
機械などは動作を止めるが、
人は完全には凍らない(意識はある)ため、力づくで破られやすい。
体力を結構消費するため、多用は避けている。
マテリアル:万年雪の入ったロケット(原動力は万年雪)
前職:ある国の傭兵団に所属。
異名:不自然な冷気(リフィゲレイター)
左遷理由: 危険な能力の為、上部への謀反の可能性があると判断された。
基本戦術: 対人の場合、凍らせても結構な確立で破られるため、
短剣を芯に長刀を作り出し、斬撃と冷気で戦う事が多い。
目標: 自分の居場所を見つける
うわさ1: 食べ物に釣られやすいらしい(特にお菓子は効果てき面)。
うわさ2:夏でも冬でも、 常に自分の半径50mは寒くしていないと気が済まないらしい。
うわさ3:辞めさせられてから、1年間放浪の旅を続けているらしい。

73 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/10(日) 13:36:19.60 P
【帝都・3番ハードル『従士隊本拠』<遊撃課事務所>】

窓と扉がそれぞれ一つずつしかない、手狭な事務所の一室に、いくつかの人影があった。
中央に据えられた黒檀の応接机は、それを毎日ぴかぴかに磨きあげていた人間がいなくなって久しく、
埃だらけになってしまった棺桶のような天板を、人影達は囲んでいた。
年齢も、性別も、服装もまちまちだが、彼らは等しく右肩に揃いの腕章を装備していた。
『従士隊実働部遊撃二課』と、鮮やかな魔導縫製で文字を縫い込んである。

「アノニマス君が病欠だが、定刻だ。会議を始めようではないかね」

仕切りの音頭をとったのは、黒檀の机の一番上座に座る男だ。
そのものが光を放つかのように輝く純白の軍服姿は、帝国正規軍将校の正装だった。
彼は羊皮紙にまとめられた一連の件の報告書を、少女の形をした彫刻で文鎮のように押さえつけている。

「進行はこの僕、帝国軍中尉リッカー=バレンシアが執り行う。
 まず、遊撃一課のヴァフティア派遣についての監視任務だが――モトーレン君、君から説明を」

把握した、と頷いて立ち上がるのは、従士隊正式の装甲服に空色の飛行帽を被った女。
先の大陸横断鉄道で遊撃二課を襲撃した二人組の片割れ、ニーグリップ=モトーレンである。

「結果から言うと、任務達成率はちょっきし5割ってところかな。三人、取り逃がした。
 具体的にはアイレル、アルフート、ヴィッセンの三名はヴァフティア入りが確認されたけど、
 ハンプティ、ガルブレイズ、スイは荒野に放り出されたまま行方知れず――ってのが現状だね」

「あー?行方知れずって何よ。なんで殺っとかねーのよ、汝」

問い質しに出たのは、ここに集う者達の中で唯一平服を纏った人影。
体の要所には革製の軽鎧をつけているが、それでも尚最も身軽で気安い格好だ。
国家に縛られず大陸中に支部を持つ"何でも屋"、ハンターズギルドからの出向者。
"水使い"のフウである。
男とも女ともつかない中性的な外貌、長く伸びた髪は、銀色にも見えるが、その実透明な繊維の集合体だ。

「いや、本任務って一課の撃破と違うでしょ。帝都から追い出せればそれで良いわけで」

「元老院(ジジイ)共からは、別に一人二人ぐらいなら殺っていいよって言われていたろ。
 監視が続行できないまま不確定要素を放置しとくぐらいなら、殺っておいたほうが安心じゃん」

フウの指摘に、モトーレンは両手を挙げて下げる動きをしながら、

「ヴァフティアに行った連中が向こうで全滅しないとは限らないから、保険、保険」

「汝は心配性だなあ」

「帝都に戻ってくる芽は潰したから、大丈夫。連中に外縁を越えられるとは思わないし。
 まー"風帝"あたりなら超高度から行けそうだけど、単身だったらわたしやフウの敵じゃあないでしょ」

74 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/10(日) 13:37:25.08 P
確かに、とフウが納得して背を腰掛けに戻す。
入れ替わるように、他方からついと手が挙がった。

「一つ――拙僧からもよろしいですか?」

いっそ病的なまでに白い肌を紫の法衣で包む、線の細い女性。
法衣の紫は、帝都の土地神・月神ルミニアを奉じるルミニア神殿における、最高位を示す色だ。
そして、腰に差した祝福鋼の長剣は、彼女が同時に戦闘修道士――神殿騎士であることも表している。
"戦闘司祭" ゴスペリウス(洗礼名)だ。
バレンシアから頷きを以て発言を促されると、ゴスペリウスは静かに立ち上がった。

「一課の監視任務にはアノニマス殿が同行されていた筈。 
 帝国最高の防御力を持つ彼が、なぜいまこの場所にいないのですか?」

問われ、バレンシアはうむと再び頷いた。想定内の質問。出てきて当たり前の疑問だ。
何故なら――アノニマスはこの中で一番硬い。
アノニマスを貫通できる攻撃ならば、ここにいる全ての者が等しく致命傷を負う危険があるということだ。

「それについてはこれから話そう。まず問題のアノニマス君の容態だが、幸いにも一命は取り留めたようだ。
 ブリガンダインを開く所に僕も立ち会ったが、酷い有様だった。中が血塗れでね」

「でも、あの馬鹿の鎧は傷ひとつついてなかったんだよね。わたしがこの眼で確認してる。
 つまり、防御を貫く攻撃じゃなく、防御を迂回する攻撃……!」

再び、遊撃二課の面々の表情に戸惑いが生まれた。

「医術院から提出された検査の結果がここにある。妙なことに、アノニマス君の体自体にも外傷がみられなかったそうだ。
 透視術式で体内を精査したところ、内臓器官に夥しい出血を発見したそうだが……」

「水を使った内臓破壊なら吾にもできるぞ。だけど、ナードには効かない。前試した時あの鎧に弾かれた」

「あ、拙僧も以前内部ダメージ系の呪術をアノニマス殿に使いましたが、やはりブリガンダインに阻まれました」

「何故君たちは、揃いも揃って身内にエグい攻撃を試すのかね……」

ともあれ、とバレンシアは仕切り直す。

75 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/10(日) 13:38:38.41 P
「出血は胃袋からが大部分だったようだ。胃潰瘍の大きいのがいくつも空いていたらしい。
 ――これは推測だがね、どうもこの症状は極度のストレス性胃炎に酷似している」

「アノニマス殿は、極めて強い、胃に穴が空くほどの精神攻撃を受けて吐血したということですか?」

「おそらく。それが彼の受けた攻撃の正体だ。
 ゴスペリウス君、君は呪術の専門家だから、この手の攻撃に心当たりはないかね?」

問われ、ゴスペリウスは顎に指を当てた。

「……類似したものはいくつかあります。
 そもそも原始的な呪いとは、呪詛を相手に聞かせて心理的な不安を煽る技術ですから」

「でもさ汝ら、ナードの馬鹿の鎧は呪いも弾くんだろう?
 呪詛浴びせられたって、鎧の中に閉じこもってればノーダメージじゃないのか」

フウの疑問に、バレンシアは淀みなく応える。

「防御にも方法によって差があるのだよ。大別して二つ、『弾く』か『いなす』かの違いだな。
 実例を挙げるなら、アノニマス君が前者で、フィン=ハンプティが後者だ。
 『弾く』防御はその圧倒的な硬さによってあらゆる攻撃を受け止めたうえでダメージを無効化する。
 『いなす』防御は相手の攻撃を見極め狙いを逸らすことで攻撃自体を無効化する。そんな違いだ」

前者は常に最大の防御力を発揮し隙がないが、装甲の耐久度を超える攻撃を受け続ければ崩壊する。
後者は攻撃の見極めと、それを回避する技術、集中力が必要だが、耐久性を考慮しなくて良い。
もっと平たく言うならば、前者が硬い壁で後者がやわらかい暖簾のようなものだ。

「ハンプティは攻撃をいなすことができる。攻撃だけでなく、批判や非難さえもだ。
 誰に何を言われようと『聞かなかったこと』にして、明るく生きてこられた――第三都市の事件まで。
 だが、アノニマス君は批判を聞かなかったことにはできない。
 聞いた上で、気にしないという形でしか精神攻撃に対する防御ができないわけだね」

つまり、と誰ともなく結論を促した。

「呪術なんかじゃない。アノニマス君は、聞き捨てならない言葉を聞いて、吐血したということだ。
 それほどの精神攻撃を行える者が、遊撃一課には存在する――!!」

「一体何を言われたんだ、ナードの奴……!」

遊撃一課には化け物がいる。
帝国最高の防御者であるアノニマスが倒されたという事実は、二課の面々を警戒させるに十分だった。
そして、懸案事項は更にもう一つあった。バレンシアは座り直し、下座に向かって声をかける。

「こっちの会議は終了だ。お待たせして申し訳ないね。
 では、君の話を聞こう――フルブースト君」

76 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/10(日) 13:39:21.04 P
 * * * * * * 

バレンシアは十分な警戒を以て目の前の男と相対する。

ユウガ フルブースト。
元老院からの直接の紹介で遊撃二課に合流したこの男には、あまりにも謎が多い。
この国の者ではない――彼が『王国』と呼ぶ場所が、どこにあるかも定かではない。

この近隣で王政を摂る大陸国家はトラバキアを始めとして小国家も含めればそれこそ無数に及ぶ。
そもそも帝国が侵略国家である以上、帝国領内にも属国に落ちた王政国家はいくつも存在するのだ。
例えば東の森林地帯にはクリシュ藩国という鉱物資源に富む小国家があるし、
近いところではウルタールなんかももともとは豪商が建国した新興の王国だ。

(……というか、その地域における最大国家を『帝国』と呼ぶのだから、
 それ以外での君主政治を行う国家は全て『王国』になるわけだがね)

流暢に話す帝国語には訛りがない。となれば、帝国領内にある属国都市のいずれかの出身だろうか。
身に着けている装備品は鎧も太刀も東国風。大陸の東、大清国の意匠に似ている。
また、『眼』を通してバレンシア自身も目の当たりにしたが、彼は実体弾を発射できる携行武装も所持しているようだ。

(近・中・遠距離全てに対応可能な武装類、大仰な鎧……まるで一人で軍隊を相手にするかの如く、だな)

しかしてその戦闘能力は、ゴーレムに搭乗していなかったとはいえ遺才発動状態のガルブレイズを手玉にとるほど。
『双剣』は近接格闘に特化した戦闘系遺才だ。それを相手に無傷で制圧できる実力は並のものではない。

「問おう、フルブースト君。君は一体何者だ? 誰の思惑で動き、何を目的に我々に加勢する?
 ――君を信頼するための、1メソッドだ。偽りなく答えてくれたまえよ」


【遊撃二課:作戦会議】
【→ユウガさん:所属と目的を問う。何のために遊撃二課に協力してくれるの?】

77 :スイ ◇nulVwXAKKU:2013/03/10(日) 13:40:05.01 P
結局フィンとセフィリアと別ルートで空を駆け抜けることをスイは選んだ。
そうして、三人は結界障壁の手前で合流する。

>「どうしたものでしょうか……」
>「『結界障壁』 考えてみたら、こいつがあったんだよな……」
「あまり気にしていなかったが、そういえばあったな、これ」

以前まではそんなものは素通りできていたために、スイはすっかりこれの存在を失念していた。
はてさてどうしたものかと考えていると、セフィリアがゴーレムをゆっくりと動かす。

>「ですので私はこの結界を登りましょう!」

そう言い置いて、結界を利用し垂直に走っていく。

>「ばっ……!?おま、何してんだセフィリア!?」
「お、おおぉ……」

予想の斜め上を行く行動を取ったセフィリアにスイは感嘆の声を上げる。その横ではフィンが驚愕とも怒りともとれるような声色を示す。
ゴーレムの事を詳しくは知らないが、大地を駆け抜けたり今のような荒業をやってのける辺り、セフィリアのゴーレムがただ者ではないことだけはわかる。
そしてそれを作り上げたセフィリアの情熱も又凄まじいのだろう。
そんな事をぼんやりと考えているとフィンが一歩足を踏み出した。

>「仕方ねぇ……スイ、悪ぃけど俺は先に行く。
> お前なら手段は色々あるだろうから、何とかして追いかけてきてくれ!」
「あぁ、わかった」

フィンの言葉にスイは頷く。
そうして彼もまた、己の特性を生かし舞うようにして結界を突破していく。
自分もそろそろ行こうと、スイは再び上空へ飛んだ。
先ほど彼らが障壁結界を攻略した中で気づいたことがひとつある。
ある一定の高さに達した瞬間、途端に上へと上昇する結界の速度が著しく下がるのだ。
その辺りの位置につき、試しに石を投げてみる。
認められていないものを悉く阻むそれは圧倒的出力を持って迫り来る。
しかし、スイの目の前で目に見えてその速度が落ちた。

「…予想通りか…」

恐らく一般から見れば早いことには変わりないのだろうが、スイにとっては十二分な情報だ。
そしてもう一つ。
モトーレンがわざわざ竜から降りて関を通るとは思えない。つまり、竜と同じ速度──亜音速で飛べば突破できる可能性が高い。
あくまで可能性が高いだけで、確実に行けるかと問われれば否と答えるだろう。最早完全に賭けだ。
だが、その賭けに乗る価値はある。
スイはさらに高度を上げた。
空気抵抗を極力発生させない形で己の周囲に風の膜を張る。
深く息を吸って、先を見据えた。
亜音速までとはいかないが、それに近い速度までなら到達できる。
スイは一度踏み込み、地を蹴るような動作をして一気に加速した。
うまくいけば、結界を突破できるだろう。

78 :ユウガ ◇JryQG.Os1Y:2013/03/10(日) 22:36:33.94 0
>>「こっちの会議は終了だ。お待たせして申し訳ないね。
では、君の話を聞こう――フルブースト君」
「いえ、待ってないです。お構いなく。」
下座より、遊撃二課の元へ向かう。
(帝国正規軍の、正装。間違いなく、一課に続くらしいな。)
(しかも、情報通りの強者ぞろい、大きな事にならないといいが。)


>「問おう、フルブースト君。君は一体何者だ? 誰の思惑で動き、何を目的に我々に加勢する?
 ――君を信頼するための、1メソッドだ。偽りなく答えてくれたまえよ」

(元老院のおっさんは、この質問を、予め予想済み。バラしても良いといった。)
(ここで、言わないのは、デメリットが大きい、大人しく、言おうか)
そう思い、
「帝国軍元老院直属機密情報部、特殊行動班隊長、ユウガ・フルブースト中尉だ。」
「今回、遊撃二課に参加した理由は、」
「遊撃一課の護衛、これはもう終わった。」
「それと、もう一つ。一課のボルト課長の捜索及び、元老院への引き渡し」
「因みに、殺害も許可されている。」
「何故か、リッカー中尉貴方なら解るはずです。」
「邪魔なんです、奴は元老院にとって」
「あの、課長が我々、元老院にとって、邪魔者でしかない。」
「失踪となってますが、不確定要素が多い」
「機密情報部としても、調べていますが、彼奴の情報が少ない。故に」
「今回の作戦の助力を上の命令で引き受けました。」
「説明は、以上ですが。なにか質問は?」
(ユウガ、色々な説明する。)

79 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/03/12(火) 01:58:43.51 0
>「ヴァフティア行きの貨物便が、ここ最近で倍増しましてね。
  運搬品目のリストをもらったんですが、水と食料ばかりコンテナ一杯のが何箱も。
  こういう品の流れの時と言うのは、たいてい何かしらの催し事があって需要が拡大する時期なんですが、
  ヴァフティアで近く祭りをやるという話は聞きませんなあ。ラウル・ラジーノは、ほら、二年前のことがあったし」

「…………ヴァフティア事変、ですね」

駅長の言葉にノイファは露骨に顔をしかめた。
あの場に居合わせた者として、復興に関わった者として、過去の出来事と語られるのは何処か釈然としないものがあった。
だが何か知っていることはないかと聞いたのはこちらだし、主張したところで得られるものは僅かばかりの同情程度だろう。

「はぁ――」

年を経た分くらいは世渡りの妙味を理解したつもりだったが、根っこの部分は簡単には変わらないらしい。
自制するのに要した間はきっかり一呼吸分。表情を緩めて続きを促す。

>「そう、この二週間ほど、我がミドルゲイジで『終焉の月』らしき黒装束姿を見かけたってタレコミが多数寄せられていましてね。
  今もこの街に滞在しているんじゃないかなあ。似た人相の連中が明日のチケットを買っていったって話も聞きます。
  もう十日くらい前の話ですが、従士隊に一報入れたら若いお役人さんが一人、血相変えてヴァフティアに飛んで行きましたよ」

唇に指を当て、ふうんと、小さく零す。
もしこれが事実なのだとしたら一大事だ。しかし、ならば何故知らされなかったのかが気になる。
今回の任務を指示するにあたり、警護などより余程妥当な口実に思える。

(あるいは知らせたくなかったとか……?)

それこそ無意味だ。
噂話を消し去ることなど、どんなに腕の良い魔導師でも不可能である。
怪しい黒装束集団の情報はどこかで耳にしただろうし、そこから『終焉の月』を連想するのも難しいことではない。

なにより今の『終焉の月』に、旗頭になる人物が果たして居るだろうか。
集団とは指示を与える者が居なければ機能しない。
怪僧も、御子も、魔王も、その悉くを葬ってきた。彼等に代わる人物がそうそう居るとは思えない。

>「そのお役人さんが黒装束を逮捕してなかったってことは、終焉の月とは関係ない集団だったのかもしれないですなあ」

「そうであって欲しいものです」

返す言葉とは裏腹に、ノイファ自身の考えも駅長のそれと同様だった。
その"若いお役人"とやらが先走っただけ、結局はそういうことなのだろう、と。

(倍増した水と食料は……いざというときの下準備ってところでしょうかね)

まだ一般に広まってはいないが、ダンブルウィード、ウルタールとすでに帝国領は侵攻を受けている。
となれば南の要であるヴァフティアに、相応の準備をしておくのは決して不自然なことではない。

(……やめよう――)

そこまで考えて思考を放棄した。
突きつめていくほど、今回の命令が妥当なものと思えるからだ。
ため息を吐き出しながら、駅長へと会釈を返す。
結局、判ったことは情報が全然足りていないということだけだった。

80 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/03/12(火) 01:59:20.14 0
翌朝。ミドルゲイジで買い揃えた旅装一式を、同じく買ったばかりの鞄に詰めこむ。
軽くなった財布と、荒野にばら撒かれた着替えを思うと頭が痛くなるが、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。
なにより、自分以上に不幸な目にあっている者が目の前にいれば尚更だ。

>「……昨日あれから、何したんですか?アルフートさん」

>「任務への協力を要請しただけ、なん、ですが……」

「あー……、経費で落ちなかったのでしょうねえ」

随分と中身の詰まった封筒を、泣きそうな顔で差し出す駅長を見ながら、三者三様の感想を洩らす。
何ともいたたまれない気持ちが際限なく湧き出し、半ば逃げるように列車に乗り込んだ。
発車を告げるベルが、駅長の慟哭を代弁するように悲しげに鳴り響き、列車が軋みをあげる。

それからおよそ半日。
なにごともなくヴァフティアに到着する。
入門管理局での審査は形ばかりで、所属を証明するだけで事足りた。

「さて、と……帰ってきましたねえ」

旅行鞄を担ぎなおし、塞壁を抜ける。
夕日に染まる見慣れた街並み。大小さまざまに建ち並ぶ尖塔群。
飛行箒に跨り、建造物へ魔術装飾を刻む職人。
入門管理局からまっすぐ伸びる道の先には、噴水広場とルグス神殿がある。

薄く細めた視界が滲む。
そんなに離れていたわけでもないのに、ひどく懐かしいと思った。

>「わっ、わっ、これって夜でも光ってるんでしょうか!?」

ヴァフティアン・バロックに刻まれた術式の明滅に、ファミアが歓声をあげる。
建物に刻まれた装飾術式も、それを見て騒ぐ来訪者も、そのどちらもが地元に住んでる者としては見慣れた光景だ。

「もちろん光ってるわよ、それはもう眩しいくらいにね。
 帝都やタニングラードにあれ程立っていた魔導灯が、大通りにはほとんどないでしょう?」

唯一の例外は中央から北へ伸びる『揺り篭通り』だ。
この区画は主に民家や商店が軒を連ねているため、魔術装飾が施された建造物は他に比べてかなり少ない。
それゆえヴァフティア事変の際に、反抗の拠点となったのも『揺り篭通り』だった。
魔物は魔力に引かれる性質があるためだ。

>「申し訳ないのですが実家の方に念報を入れて来ますので、少し待っていてください」

思い出したかのように言い残し、ファミアが管理局へと回れ右する。
さすがにお金を借りたままでは気がとがめるのだろう。多分。
自分で使う分だけでないことを切に祈るばかりだ。

「りょうかーい!それじゃあ立ってるのもなんだし、そこの喫茶店で待ってましょうか」
 
ミドルゲイジからこっち、座りっぱなしだったとはいえ、振動のない椅子でゆっくりしたかった。
喫茶店の扉に手をかけたその瞬間、誰かの叫び声が通りをつんざいた。

81 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/03/12(火) 01:59:50.32 0
>「っきゃあ!なんなんですか貴方たち!
  仲間とはぐれて一人になって心細く放蕩していたわたしをいきなり複数人で包囲して!」

(――悲鳴!?)

扉に手をかけたまま視線を廻らす。
大通りに居る他の者達も、声の主が何処に居るのか判りかねている様子だった。
その中で唯一駆け出した者が居た、マテリアだ。

こと"音"に関することで彼女の右に出るものは居ない。
すでに何処からの声なのか、感知しているに違いなかった。

「……いらっしゃいませぇ。お一人様でしょうか?」

「ごめんなさい、また今度来るわ!」

職業意識が優先したウェイトレスに、半ば叫ぶように返答し、ノイファも駆け出す。
肩から提げた鞄が歩調に合わせて盛大に揺れる。
預かっておいてもらうんだったな、と後悔しその場に放り投げる。

(――こっちか)

くねった道を駆け抜け、散乱するゴミを飛び越える。
着地。外套に縫い付けてある部隊証を引きちぎり、ポケットへしまった。

>「とにかく、今すぐその子から離れなさい。さもないと――」

マテリアの声だ。近づいてきている。
襟首を伸ばして、胸元へ垂らしてある聖印をひっぱりあげる。
ヴァフティアに従士隊は駐屯していない。
ゆえに従士隊として仲裁に入っても軽んじられる可能性があった。

だがそれは決してヴァフティアの治安が悪いこととイコールではない。
従士隊に代わり、結界都市を守護する二大勢力があるからだ。
一つは『ヴァフティア独立守備隊』、そしてもう一つは――

>「助けてくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」

「全員その場から動くな!」

――太陽神ルグスを信奉する神殿騎士団である。
ノイファは乱入しながら高らかに常套句を謳いあげる。

「両手を挙げて跪きなさい。ルグス様の威光からは決して逃れられないわよ」

聖印を掲げ、帯剣していれば、十分それらしく写るだろう。
なにより、二年前まではこちらが本職だったのだ。


【ちょっと署(神殿)まで来てもらえるかな?】

82 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/17(日) 22:34:26.91 P
【帝都外縁・入門管理局監視員詰所】

円環状をしている帝都外縁には、結界障壁のラインに沿って定期的に監視小屋が建てられている。
外縁を乗り越えてくる侵入者への迎撃、という名目で配置されているものだが、
実際の任務は結界によって切断された有翼魔獣や侵入者の死体を拾って片付ける程度だ。
勤務地の辺境ぶりと、仕事内容のあまりの途方もなさから圧倒的不人気職である。
その日の当直も、中央で職にあぶれて糊口を凌ぐために応募した失業者であった。

カランカラン!と監視小屋の天井に付けられたベルがけたたましくがなり立てる。
内職の合間に妻が持たせてくれた弁当をたいらげ、春前の暖かな陽気に船を漕いでいた当直は、弾かれるように飛び起きた。
頭上のベルが鳴る。それまさに外縁に何者かが侵入し、結界が発動した報せであった。

「ああ、また運の悪い魔獣が引っかかったか?」

壁に貼ってある羊皮紙に術式で自動筆記されるのは、管轄内のどこで結界が発動したかの情報だ。
外縁を囲う結界とは言え、一枚壁ではあまりに非効率なため、外縁をいくつかのブロックに切り分けて都度結界を張っている。
ちょうど、短冊状の木板をぐるりと円柱状に並べて作った桶を思い浮かべるのが最も近いだろう。
羊皮紙に筆記された位置情報から、当直は結界発動箇所のおおまかな見当をつけてその方角の窓を開ける。
ここからでは遠すぎて何も見えない。備え付けの望遠筒を覗きこんだ。
拡大された視界の中で、男が一人、腕に纏った黒の具足で結界を殴っていた。

「侵入者――か?何をやってるんだアレは……!?」

黒の拳が、立ち上がってくる結界を殴る。
すると、不可思議なことにあらゆるものを寸断するはずの逆ギロチンが侵入者の腕を断つことができない。
腕と衝突した結界が飛沫のように魔力を飛び散らせている!

「結界を崩した――?いや違う!ほんの一瞬だが、受け止めている!!
 しかし、壁を完全に砕いたわけではない!すぐに押し返されるぞ……!!」

帝都の結界は政府管理の都市運営用超巨大魔力槽からの魔力供給で発動している。
如何に結界を凌ぐ鎧があったとしても、今度はその大出力によって真上方向へ吹き飛ばされるだけだ。
一瞬で50メートルまでかちあがる障壁の慣性が人体に加われば、その時点で肉片になってもおかしくない。

だが!黒鎧の男は仮定を更に上回った――!
右腕で結界を受け止めたその瞬間、速やかに重心を移動!身を乗り出すようにして前へ!
超高速で直上へと射出される結界の勢いを、己の体を右腕を軸とした歯車と化すことで推進力へ変換!
結果、男は高速で弾かれて前転!強烈なトップスピンをかけられた肉体が地を舐めるように転がり出た!
着地位置は、結界の内側――!!

「たった一瞬の出来事だったが……こんな冗談みたいな挙動、一体誰が真似できる!
 一瞬でも結界を受け止められるほどの鎧と、その一瞬を確実に使い切れる反射神経、それを実現する身体能力!
 全てが揃っていなければ、一つでもあの男に欠けていれば、結界内に入れたのは上半身だけだった……!」

は、と見惚れていた当直は我に返り、傍らにあるレバーを引いた。
監視小屋と入門管理局を繋ぐ、地中に敷設された有線念信によって、侵入者の存在が全政府機関へと発信される――。

 * * * * * *

83 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/17(日) 22:37:06.18 P
【遊撃課事務所・遊撃二課→ユウガ】

>「帝国軍元老院直属機密情報部、特殊行動班隊長、ユウガ・フルブースト中尉だ。」

下座から口を開いたフルブーストの言葉は、遊撃二課を再びざわつかせるのに十分だった。

「なんかさっきからざわついてばっかじゃね?吾ら。何回どよめきゃいいのよ」

「まあ、驚くべき事実ばっかだもんねえ……」

外野のコメントは置いておいて、バレンシアはほう、と思考を作る。
王国出身、という話だったが、現在の所属は帝国軍のようだ。
帝国軍中尉。部隊は違えど、階級はバレンシアと同じだ。
機密情報部という部署に聞き覚えはない。だが元老院直属ということから、特務機関であることは理解できた。

「遊撃課も特務……特務機関同士で連携とは、どうやら本当に大事らしいな」

前方、フルブーストに続いて任務の目的を問う。
特務の者は己の任務の詳細を語りたがらないものだが、彼は淀みなく答え始めた。

>「それと、もう一つ。一課のボルト課長の捜索及び、元老院への引き渡し」

ボルト課長――ボルト=ブライヤーが先般行方不明になったことは、当然遊撃二課の耳に入っている。
元老院から二課の編成を命令された時点で、既にブライヤーの失踪は明らかになっていた。
現場には夥しい量の彼の血液だけが残されていたそうだ。
致死量ではないが、生きているとしても相当に衰弱しているはずだ。

>「あの、課長が我々、元老院にとって、邪魔者でしかない。」

「あー、確かにブライヤー、元老院に睨まれてたもんね。遊撃課の件で相当突っかかってたみたいだし」

モトーレンが納得するように呟いた。
彼女はアノニマスと同じくもともと従士隊の出身だ。ブライヤーと面識があると考えて自然だろう。

>「機密情報部としても、調べていますが、彼奴の情報が少ない。故に」

フルブーストの言葉に、バレンシアは小さな違和感を覚えた。
元老院が邪魔者となったブライヤーを消すというのはわかる。至極まっとうな論理展開で結論付けられる。
しかし、その元老院から直接息のかかったフルブーストでさえ、ブライヤーの消息を知らないと言う。
つまり、

(ブライヤーの失踪に、元老院は関与していない……?)

であれば、一体誰がブライヤーを消したのか。
ひいては遊撃二課が編成される遠因を作ったとも言える遊撃課長の失踪の、本当の目的とは?

>「説明は、以上ですが。なにか質問は?

「ひとつ、聞いていいかね――」

バレンシアがフルブーストに問いを放とうとしたそのとき。
事務所に備え付けられた念信器から通信官の焦りを含んだ声が放たれた。

84 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/17(日) 22:38:28.50 P
『第一種警戒!帝都外縁座標164-43にて結界障壁を突破されました!
 侵入者は一名、黒の鎧を纏った男です!従士隊即応課の迎撃出動を要請します!』

警報を聞いた瞬間、遊撃二課の全課員が一斉にモトーレンの方を見た。

「あ、いや、まさか生身で荒野を横断してくるとは……っというか、まだハンプティさんと決まったわけじゃないじゃん!?
 ほら、侵入者一人って言ってるし!あのハンプティさんが仲間置いて一人で来るとは思えないね!」

「拙僧意見しますが、風帝が遥か上空にいた場合、監視小屋からは発見できないのでは?」

「ガルブレイズも、ゴーレムを破壊されていたのならスイと一緒に飛んでくる可能性もあるよな、汝」

「うう……ぐぬぬ……! 外縁なんて一番端のSPINからでも遠すぎるし、ライトウィングは休養中だし……」

びっしり脂汗をかくモトーレンを横目に、バレンシアはゆっくりと立ち上がった。
彼は、書類押さえにしていた少女型の彫刻像を手に取り、

「なに、僕は心配症でね――だから問題ない。既に手は打ってある。
 それよりも目の前の問題を解決しておくべきだと思う」

彫刻像の口の部分に指先を突っ込み、中から引っ張りだしたのは、真新しい羊皮紙。
金箔で縁取られ、真っ白に漂白されたそれは、政府の公式文書としての規格を満たしたものだ。
紙面には、青い髪をした少年とも少女ともつかない人物の念画と、その人物にまつわる指令文が記載されていた。

「遊撃二課に協力してもらえるのであれば、フルブースト君。君にひとつ任務を頼みたい。
 本日付けで遊撃一課の方に配属される遺才遣いが一人いてね。帝都に向かってきている彼女を、迎撃して欲しい。
 この地図を持って行きたまえ、標的の座標を捕捉する術式が施術してある」

フルブーストに向けて、指令書と地図を重ねて放った。

「対象名は『コルド・フリザン』。リフィゲレイターの異名を持つ氷雪系の遺才遣いだ。
 入門管理局で騎馬ゴーレムを借りられるよう手配してあるから、荒野に出て彼女を探し出し、迎え撃ってくれ。
 そしてこれも」

フルブーストの手に、押し付けるように握らせたのは、先ほどの彫像。
三頭身にデフォルメされた少女の形に、しかし細やかなディティールが活き活きと表情に彩りを添えている。

「遊撃二課全員にも配布しているものだが、それは甲種の中でも特に小型なゴーレムでね。
 戦闘能力はないが感覚を僕と共有しているから、距離を無視して僕と交信することのできる便利な代物だ」

では改めて、とバレンシアは居住まいを正す。

「殺しはしなくていい。――二度と帝都に近づかないよう痛めつける程度ならば、許可しよう」

 * * * * * *

85 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/17(日) 22:42:25.72 P
風を纏い、砲弾よりも速度を得たスイが、結界の到達点に近い位置に突進する。
彼女の読みは概ね当たっていた。
結界の展開が如何に迅速と言えど、50メートルもの高さに地上から伸びるとなれば相応の時間が必要となる。

一瞬が二瞬になる程度の差かもしれない。
だがスイにとって、二瞬あればそれで十分なのだ。

立ち上がってきた結界が、スイの通過した半瞬遅れで到達!
彼女の靴の爪先を掠め、皮一枚分をスライスして、しかし捉えること適わなかった。

そして更にその上空。
セフィリアの駆るゴーレムが、結界の頂点へと到ろうとしていた。

 * * * * * *

障壁結界は、その性質を『壁』として固定している。
だから壁としての厚みがあり、質量があり、故に上を跨ぐものを跳ね上げたり真っ二つにすることができる。
セフィリアと、彼女が搭乗するゴーレム・サムエルソンはその性質を逆手に取った。

高速で立ち上がる壁は、そのものが上方向への速度の塊と言って良い。
ただ触れるだけではふれた箇所が吹っ飛ぶだけに終わるが、適切に体重を乗せて、自分から跳ね上がる動作を行えば、
天に向かう慣性を得て、自分自身も大跳躍を行うことができる。

反発術式が、結界の縁を蹴るたび、速度を得てサムエルソンは天を貫く。
比例するように、操縦基の中は下方向の重力加速度がかかり、操縦者にも直接ダメージが行くことだろう。
体中の血液が足元に集まって、脳に行くはずの酸素が供給されなくなり、視界がどんどん暗くなる。

一瞬だけならば酸欠による一時的な失調を来たす程度で済むだろう。
だが、サムエルソンは休む間もなく高Gに晒され続けている。操縦桿を握るセフィリアも言わずもがなだ。
長引けば、脳が酸素を使い切り、生命を維持できなくなる。
これは賭けだった。セフィリアが操縦基の中絶命するのが先か、サムエルソンが天上へ至るのが先か――!

そして、明暗が分かたれた。
サムエルソンが結界の頂点に到達したのだ。
セフィリアは酸素の供給が再開され急速に戻りつつある視界の中、眼下を見下ろせば網膜に飛び込んでくるだろう。
地上50メートルの世界。スイがいつも見ている光景。かつて人類が追い求めた雲上の世界だ。

空と、雲と、風以外なにものもないその空間に、しかしあるはずのない『影』があった。
さあ、と春の嵐と隔絶された穏やかな風が吹く。たなびくように、ゆっくりと目の前の光景が『剥がれ始めた』。
卵の殻を剥くように、景色がひび割れを起こし、加速度的に剥がれ落ちて、その向こうに隠された物体を顕にした。

彫像だった。
三頭身の幼い少女を象った、しかし巨大な彫像だ。
サムエルソンと肩を並べても遜色ない、大人四人が組体操してようやく届くような巨躯。
岩と鋼で出来た傀儡。乙種ゴーレムだ。

『……これは驚いた。まさかここまでピンポイントに、君の予言通りにガルブレイズが動くとはな』

ゴーレムの口の部分から、男の声が放たれた。
落ち着いた、しかし通りの良い声。、演説慣れした指揮官系の声だ。

86 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/17(日) 22:44:43.72 P
「予言、なんて大したものじゃないでありますよ。
 ただ、ガルブレイズちゃんならこれぐらいのことはやってのけるだろうと、そう思っただけであります」

応じるのは女の声。まだあどけなさのとれていない、少女の声だ。
セフィリアは聞き覚えがあるはずである。しかし声の主が姿を現す前に、ゴーレムが口を大きく開けた。
シュカッ!と風を切って少女型ゴーレムの口腔から何かが射出された。
それは狙い過たずサムエルソン目掛けて飛び、金属音を響かせてぶち当たった。

サムエルソンの装甲は硬い。格闘仕様の前面装甲ならばなおさらだ。飛来物は弾かれ――ない。
『吸着』の魔術を施した術式符が装甲にべったりと張り付き、飛来物を貼り付ける。
飛来物は、剣だった。分厚く長大で、頑丈さだけが取り柄のような大剣。
その剣の名もまた、セフィリアは知っているはずである。

「対物破壊剣術」

少女の声が風に混じる。
ゴーレムの背後から、人影が飛び出した。
猛り狂う風の中、しかしまっすぐサムエルソンへと跳躍する。

「『崩』」

影が、サムエルソンの前面装甲に飛びついた。
靴裏には更に吸着符が貼ってあり、痩躯の人影をゴーレムに固定する。
伸ばされた腕が、その手のひらが、装甲に張り付いた剣――『館崩し』の柄を確かにグリップした。

「――『剣』!!」

瞬間。
ギィン!と重奏の金属音が轟き、大気の震えと同じようにサムエルソンの機体へ振動が浸透していく。
応じて、館崩しの刃先が装甲に埋まり、水でも切るみたいに刃が通って行く。
同時に、サムエルソンの巨体に縦横無尽に亀裂が入り、

「っ!」

ブリキを潰すような音と共に、サムエルソンの四肢がはじけ飛んだ。
崩壊は止まらない。剣の突き立った右肩口から左胴にかけて、館崩しが袈裟斬りに通過する。
装甲は砕け散り、魔導経絡が引き千切られ、動力器がずたずたに裂き刻まれた。
サムエルソンが、大破していく。

「戻って来ないでって、言われていたはずであります」

破壊は、爆発を伴わない。
ただ水に落とした砂糖菓子が崩れていくように、金属がひしゃげる悲鳴だけを挙げて、セフィリアの愛機が四散していく。
崩壊していくサムエルソンの中、1つだけ無事な箇所があった。

「操縦基と、それを保護する脱出機構――」

ゴーレムの基本設計として、機体と操縦基は二重構造によって空間的に隔絶されるようにできている。
それは普段の挙動によって起きるひずみを吸収するためであり、装甲が大破した際の衝撃が操縦者に直接伝わらないようにするためだ。
いまもそうやって、『崩剣』の対物破壊から操縦基を護り、緊急装置が作動して脱出機構がはたらいた。

87 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/17(日) 22:45:26.84 P
『追うかね』

砕けて剥がれた装甲材を蹴り、少女型のゴーレムの背に戻った剣士の少女に声が問う。

「いえ。この高度でありますから。
 ゴーレムの脱出機構は陸上戦闘での使用を想定されているので、こんな高さから墜ちれば中の人は即死でありますよ」

『把握。しかし、元は仲間で、しかもガルブレイズは君の後輩だろう?
 牧歌的な娘だと思っていたが、なかなかどうして君も容赦がないな』

煙の尾を引いて墜落していくサムエルソンの操縦基を見下ろしている剣士は、不意に目を伏せた。

「わたしは剣士でありますから。斬ることでしか何も護れないし、何も為せないのであります」

「把握。君は常に大切なもの同士を天秤にかけて、軽いものを斬ってきたのだな。
 可愛い後輩よりも、大切なものがあったから、君は後輩を斬ることができた」

言葉に、剣士は無言で返した。
難しいことはわからない。だけど、この生き方を変えられないことだけは確かだ。
たとえ否定の最果てでも。
肯定し続けるために、きっと自分はこれからもたくさんの大事なものを斬っていくのだろう。

「大変結構。流石は当代"剣鬼"と言ったところだね?
 それでは、我らが遊撃二課のオフィスへ戻ろうか――フランベルジェ=スティレット君」

剣士、スティレットを載せたゴーレムは、再び不可視の壁を纏って風の中に消えた。
決別のしるしのように、操縦基からたなびく煙だけが、空に一本の境界線を引き続けた。


【フィン・スイ・セフィリア→結界障壁突破成功!監視小屋に見られ、帝都に通報される】
【スティレット:結界のてっぺんまで登ってきたセフィリアを迎撃→崩剣でサムエルソン粉砕】
【セフィリアを乗せた操縦基が隕石速度で地上に落ちてきます。直撃したら即死コース】
【連絡を受けた従士隊即応課の迎撃部隊がしばらくするとやってきます。SPINが遠いので時間かかります】

【ユウガ→コルドの捜索と迎撃を依頼。入門管理局で騎馬を借りられます】
【コルド→現在地は帝都外の荒野。ユウガが依頼を承諾すれば迎撃にやってきます】

88 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/20(水) 12:29:26.46 P
【路地裏】

>「待ちなさい!その子、怖がってるじゃないですか!
 ……それに、その、強引な客引きはリピーターの減少に繋がるからあまり良くないですよ!」

追い詰められた少女が、唇を噛んで俯かんとしたその時!
路地裏の入り口あたりからごろつきたちを咎める声が放たれた!
見れば、一人の女がごろつきたちに指先を突きつけて、振り絞るように叫んでいた。

「なんだあ、姉ちゃん。俺たちに客引きのいろはを叩きこもうってのか、ああ!?」
「言うだけのことはあるじゃねえかこのアマ、嬢ちゃんへの助け舟がイコール俺たちへの適切なアドバイスに繋がっているぜ」

ごろつきたちは口々に薄汚い言葉で勇気ある女を評している。
街中ならばまだしも、ここは日の届かぬ路地裏。
夕暮れ時の現在ならば尚の事、女が一人から二人に増えたところでゴロツキ共への逆転は見込めまい。

>「とにかく、今すぐその子から離れなさい。さもないと――」
>「ぶち殺しますよ、社会的に」

だが、女は己の特質をよく理解し、その適切な扱い方を熟知していた。

>「助けてくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」

すぐそこで涙目になりながら口をもごもご動かしているはずの少女の声が――何故か路地の入り口から響き渡った。
発生源は、駆けつけた女の喉。
たった二三言聞いただけの少女の声質を完璧にトレースし、己の口から放ったのだ。
路地裏の外、大通りの方から道行く人々のざわつきが伝わってくる。
何事かと、こちらに近寄ってくる気配もだ。

「兄貴、マズいぜ。通行人がいくら集まったってどうってことないが……」
「ああ、ここは中央噴水広場にほど近い路地裏だ。下手すると奴らが――来る!」

ごろつきたちの懸念は現実となった。
耳を澄ませずとももはやすぐそばまで聞こえてきている。
路地裏から路地裏伝いに、尋常ならざる速度で近づいてくる者の気配――!
軽い足音を響かせて、息一つ乱さぬ追跡者の姿が、反対側の路地から飛び出してきた。

>「全員その場から動くな!」

その手に掲げたるはこの街の土着神、太陽神ルグスを象る聖印。
腰に帯びる得物こそ、"奴ら"の制式装備であるバスタードソードではないが――

>「両手を挙げて跪きなさい。ルグス様の威光からは決して逃れられないわよ」

帝国に在って唯一、皇帝に剣を捧げぬ存在。
奉じる神の奇蹟を振るい、己が隣人を護り戦う、ヴァフティアにおいては最強の戦闘集団。

「――神殿騎士か!!」

ごろつきの一人が、震えと共に呼ぶその名。
貿易の保障のため帝国従士隊の管轄外であるここヴァフティアには、市民有志からなる独立守備隊が存在する。
多くは退役した軍人や騎士従士、あるいは彼らに教えを受けた若者で構成されている守備隊であるが、
現役の戦闘職に比べれば後塵を拝さざるを得ず、異国と隣接するこの街を全て任せるには荷が勝ちすぎる。

だが、ヴァフティアには彼らが居る。
帝都やその他帝国に散在するどの都市よりも、ルグス神殿は大規模だ。
『神』の名の下という、国際的な垣根にとらわれない勢力として、神殿騎士を多く擁するためである。
国家公務員である従士を多く配備すれば諸国からの追求は避けられないが、
神殿騎士はあくまで神に剣を捧げ、国家に属さぬ存在だ。彼らは帝国の利益のために動かない。
それでも、街の守護という点でこれほど心強い存在もないのだ。

89 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/20(水) 12:30:39.30 P
「くそ、アドバイス女と神殿騎士で、路地の前後を押さえられた!どうする兄貴、押し通るか?」
「馬鹿言え!相手は一人とは言え神殿騎士だぞ!」

「……あの、神殿騎士って、そんなに強いんですか?」

狼狽するごろつきたちに、絡まれていた少女が首を傾げて問うた。

「おいおい嬢ちゃん、どこの田舎から来たんだ!?
 神殿騎士ってのは、俺らの使うような魔術とはまったく異なる体系の魔法『聖術』を使う連中だぜ」
「奉じる神が伝承に遺す"奇蹟"を、小規模ながらその身に再現する術……こいつが滅法強いんだ」
「ちいと条件に縛られるってのが難点だが、先の帝都大強襲じゃ魔族とも渡り合っていたらしい」
「とにかく、この街で奴らに逆らうってのはイコール死!を意味するんだ……!」

しかし、現状、ごろつきに残された選択肢はあまりに少ない。
神殿騎士の巧妙な位置取りによって――路地の入り口近くはアドバイス女に、奥の方は神殿騎士に押さえられている。
押し通る可能性があるとすればアドバイス女の方だが、神殿騎士に無防備な背中を晒す愚は避けたい。

「く……!」

出口のない思索が、極限状態のごろつきたちの脳裏で煮詰まった、そのとき。

「――わかりました。大人しく任意同行します」

絡まれていた少女が、両手を頭の上に置き、膝を地面につけた。
目を剥いたのはごろつきたちの方だった。

「いやいやいや!違うだろ、嬢ちゃんは違うだろ、雰囲気的にさあ!」
「ホールドアップ要求されてんの多分、俺たちの方だぜ!?」

「ええ?あなたたち、なにか悪いことしたんですか?」

「してないけどさあ!!」

「はっ!確かにこの薄汚い人間共、いかにも朝晩一人づつ殺人してそうな顔してますっ!
 これは顔面有罪――!!」

「ぶっ飛ばすぞこの糞ガキ!」

無抵抗の意を示しながらごろつき共を見上げ、ぎゃーすか喧嘩している少女は、不意に俯いた。

90 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/20(水) 12:31:44.85 P
「あえてしょっ引かれることで、神殿騎士の本拠に合法的に殴り込みをかけようというわたしの作戦が、
 あなた達顔面終身刑のせいで"わや"になっちゃったじゃないですか」

「しょっぴかれた時点で合法的もクソもねーだろ……」

「くっ……眼が……!」

ごろつきが溢した刹那、少女の体が一瞬だけ膨張したように見えた。
不可視の力が風を伴い、路地裏にいる全員の頬を叩く。

「お、おい嬢ちゃん……さっきから俯きっぱなしでよく見えてなかったけど……
 その『眼の色』、どうしたんだ?」

少女の双眸。そこに収まっているはずの2つの眼。
その輝きが、より強い『赤』へと変わっていた。

「く……が……あ、離れて!死にたくなければわたしから離れてください!ここにいる全員!!」

突然人が変わったように叫ぶ少女に、ごろつきの一人が心配そうに近づいた。

「大丈夫か、お嬢ちゃ――」

「ッ!!」

伸ばされた手を、少女が振り払う。ボッ!と風を弾く音がして、少女の右腕が凄まじい速度で振られた。
肉を叩く音が続き、ごろつきは払われた自身の腕がありえない方向に曲がっていることに気が付いた。

「ああああ!? 腕が!俺の腕がぁ!」

驚異的な力で払われたことで、関節が脱臼し、関節駆動域を超えて曲がったのだ。
神経をちょくせつ抉られるような痛みがごろつきを襲い、彼は野太い悲鳴を挙げた。

「ご、ごめんなさい……でも、まさかこんなに早く活動限界が来るなんて……!」

跪いた少女が、右腕を抑えながら苦しそうに言葉を捻り出す。
薄暗い路地にあってもよく見えることだろう。少女の右腕が、黒い甲殻に覆われ始めていることに。

「っ!」

そして少女は、膝だけで跳躍した。
その速度は砲弾もかくや。一度路地の壁に激突し、石壁を大きくえぐってそこから更に跳躍。
アドバイス女の脇を抜けて、路地の外へと飛び出した。
大通りから、どよめきと悲鳴、そして建築物を抉りながら跳躍の足場にしたであろう破砕音が聞こえてくる。
少女の双眸の赤い二つの光が、路地裏に立つ者の網膜にいつまでも残り続けた。

 * * * * * *

91 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/20(水) 12:33:08.98 P
『議長』は、大通りの建物を壁伝いに飛び回りながら、『揺り籠通り』を目指していた。
仲間とはこの街ではぐれてしまったが、これだけ大きな騒ぎを起こせばきっと気づいてくれるだろう。
怪我の功名とも言うべきか。

(しかし――世の中には神殿騎士なんてものがいるんですね。ずっと引きこもってたからわかんなかったです)

魔導灯の柱を蹴り、尖塔を駆け登る。
ヴァフティアン・バロックの瀟洒な魔術文様のひとつひとつに指をかけ、体重を載せ、体を上へと飛ばす。
この街は縦横十字の大通りを除いて、細かい路地ばかりで形成されているため道に迷いやすい。
土地勘のない彼女は、一度中央噴水広場まで戻ってから揺り籠通りへ向かうことを選択した。

(魔族とも渡り合える聖術使い達……わたしたちの障害となりうる存在ですね)

尖塔の上から行くべき方角を確認し、再び宙に身を躍らせて街中へとダイブした。
庇を貫き、雨樋を破壊し、着地点に子供が居たので強引に身を捩って直ぐ傍の地面に墜落。
粉砕された石畳から起き上がり、再び跳躍しようとしたその時――

人混みの中に、一人の少女の姿を見つけた。
あたりを見回しながら街を彷徨っている姿から察するに、誰か待ち合わせの人を探しているのだろうか。
柔らかな髪、仄かに赤いが白い肌、体型に合っていない外套など、小動物のような微笑ましさすら感じる。
だが、少女には一つ、群衆と異なる外見上の特質があった。

「その眼――」

少女の双眸は、他の誰とも異なる色をしていた。
ちょうど、議長と同じ様に、人ならざる者の眼。
議長は思い出す。
愛読している帝都出版発行のオカルト情報誌『黒の教科書』の読者投稿コーナーに、先月このような文章を投稿したのだ。

『南の果ての街にて仲間を募ります。前世の記憶に覚醒された方、世界の陰謀にお気付きの方、魔眼をお持ちの方、
 腐敗した国を変える聖戦士として共に戦いましょう。 連絡待ってます 極北の炎 』

そして今、たくさんの仲間から手紙が届き、共にここヴァフティアへと集まってきている。
ならばこの少女も、そんな議長の呼びかけに答えた『魔眼持ち』の一人に違いない。
議長は、右腕を手早く包帯で隠して押さえ、少女に駆け寄った。

「ヴァフティアへようこそ!私は『極北の炎』、皆からは議長と呼ばれています!
 『黒の教科書』を読んでこの街に来てくれたんですねっ!早速魔眼を持たぬ者には分からぬ話をしたいのですが……。
 もうすぐそこまで追手が来ています。どこかに匿ってもらえる場所はありませんか?」

これだけ派手に立ちまわったのだ。
路地裏の連中が追ってこないにしても、守備隊や神殿騎士とやらのお仲間が来ないとも限らない。
早急に、この目立つ格好を隠せる場所が必要だった。


【路地裏:絡まれていた少女(=議長)が突然覚醒。人外の力で路地を脱出し、街中へ逃げ込む】
【議長:人混みの中にファミアを発見。眼の色からお仲間と勘違いし、匿ってもらえないか打診】

92 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/03/21(木) 12:34:19.62 0
頂上に至るまでに私には強烈な加速による衝撃が加わります
脳に至るべき血液が回らなくなり視界が黒くなります
ブラックアウトと言うらしいです
騎竜手がなるという話は聞いたことがありますが
ゴーレム乗りが体験することは私が初めてかもしれませんね

意識を持っていかれないようにしながらの操縦……
求められるのは神業ともいうべき繊細な挙動
なんと、ゴーレム乗り冥利に尽きることか!

体の悲鳴とは裏腹に心を歓喜の声をあげます
困難とは人を成長させるッ!
私はこれを乗り越えればゴーレム乗りとしてもう一つ上の高みにいける!
剣でも……ゴーレムでも……鬼を名乗れない非才な私ですが、まだ上があると思えます!

意識が刈り取られそうになる直前、ふっと体が軽くなります
結界の頂上に至ったということでしょう……
あとは降りるだけ……

頭を振る
視界が徐々に回復する眼下に広がる田園風景
さらに向こうには帝都の建物が白んでみえます

「綺麗……」

思わず見とれてしまう絶景……たかだか50m
地上で走れば10秒とかからない距離
しかし、ほとんどの人が見ることがない高さです

一面に広がるパノラマ……私の思考をほんの少し奪ったそれが剥がれ始めたのです
私がおかしくなった?幻術?急加速の後遺症?
恐らくはどれでもないでしょう
転移魔法でこういう出現の仕方があると聞いたことがあります

割れた先から出てきたのは少女の彫像
出現の仕方から邪神像と思えてしまいます

「なぜゴーレムが!」

ゴーレムを転移させるなんてこと聞いたこともない!
しかも、こんな上空にピンポイントで!
カンッ!と乾いた金属音が響き渡ります
もしこれが爆弾であったのならば私は空で木っ端微塵
死んでしまっていたでしょう

93 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/03/21(木) 12:34:51.61 0
張り付いたのは見たことのあるもの

「なんで!」

そして、次に飛び出してきたものに3度めの驚きの声が

「どうして!」

いえ、むしろ先ほどの金属音の正体……
「館崩し」で気づいていました
あの人が来ることを……

冷静に分析するとこの場に逃げ場なんてものはありません
噴射術式を使えば……いえ、もう遅いでしょう
「館崩し」の時点で使ってない時点でもう詰んでいます
などと考えられるのは奇跡と言っても良かったです

>「『崩』」

「この……この……この……」

怒りがこみ上げてきます
いえ、怒りだけではありません
憎しみや嫉妬……あらゆる負の感情が溢れんばかりに湧いてきます

「――『剣』!!」

「スティレェェェェェェェェェェェェェット!」

尊敬の念も親愛も敬称も全て捨てましょう
もう彼女を先輩とは思わない……一匹の鬼、敵として見ましょう!
粘土細工にてこを入れるかのようにばらばらになる私のサムエルソン……
緊急脱出装置で作動させなんとか操縦櫃とコアを守る
それが精一杯でした

「私のサムエルソン……破壊したこと……絶対に忘れない!」

>「戻って来ないでって、言われていたはずであります」

「いいえ、私は戻る!戻ってあなたを切る!」

彼女の情けが癇に障る……私を見下すな!

「必ず!必ずだ!覚悟していろ!」

落下する操縦櫃を巧みに操作します
最早、自力で助かる道はありません
姿勢を整え、少しでも被害を少なくする他ありません

「魂魄百万回生まれ変わろうと恨み晴らすからなァァァァァァァァァァァァァ!」

私の絶叫がのどかな田園風景にこだまします

【セフィリア自身は落下から助かる術はなし、助けて!】

94 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/03/23(土) 21:48:53.34 P
<誘導>

遊撃左遷小隊レギオン!の避難所の避難所
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/17427/1364042859/

現行避難所がアクセス不安定のためこちらをお使いください

95 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/03/25(月) 00:01:58.02 0
マテリアは叫んだ。
目的は無論、助けを――人を呼ぶ為だ。
この街には今、中継都市で見た少女の同行者達がいる筈だ。

少女は仲間とはぐれてしまったと言っていた。
あの黒衣の集団――彼らはきっと今、少女を探しているだろう。
ならば彼女の声を使って助けを呼べば、それを呼び寄せる事が出来るかもしれない。

>「兄貴、マズいぜ。通行人がいくら集まったってどうってことないが……」

数とは、非常に単純な強さだ。
チンピラ共が言う通行人のような烏合の衆ではなく、少女の同行者という共通項を持った集団なら尚の事。
あれだけの人数がいれば、この場を収めるには十分過ぎる。

>「ああ、ここは中央噴水広場にほど近い路地裏だ。下手すると奴らが――来る!」

それに万一、少女の仲間達が声の届く範囲にいなくとも――まだ『彼女』がいる。

>「全員その場から動くな!」

薄汚れた路地裏に、凛と響き渡る戒めの声。
助けを呼んだ張本人のマテリアですら、反射的に身が強張ってしまう。
紛れもなく『彼女』の声だ。

>「両手を挙げて跪きなさい。ルグス様の威光からは決して逃れられないわよ」

チンピラ共と少女を挟んだ向かい側に、ノイファ・アイレルが立っていた。
外套に縫い付けられていた部隊章はなく、代わりに突きつけるのは煌めく聖印。
片手は腰の剣に添えられていて、その佇まいはまさしく――

>「――神殿騎士か!!」

厳粛な神の信徒、神殿騎士に相違なかった。

>「くそ、アドバイス女と神殿騎士で、路地の前後を押さえられた!どうする兄貴、押し通るか?」
>「馬鹿言え!相手は一人とは言え神殿騎士だぞ!」

>「……あの、神殿騎士って、そんなに強いんですか?」

少女の問いに、チンピラ共が懇切丁寧に答えを述べる。
そう、彼ら神殿騎士は神の奇跡を天より借りて、戦う事が出来る。
そして何より――彼らはいつだって、全身全霊を戦いに注げるのだ。

例えば窮地に陥った時、乗り越えなくてはならない壁に直面した時。
『自分の最も大切な人』が傍にいてくれたら。
人はそれだけで心強く、安らかでいられるだろう。
いつも以上に頑張る事が出来るだろう。

神を敬愛する彼らは常に、その状態にあるのだ。
とりわけ、天蓋を統べ、万里を照らすルグス神の信徒はその傾向が顕著だ。
陽の光差す所全て、ルグス様の御目が届く所。
陽の光が届かぬ地があるならば、自らがその代行者となるのだ、と。

(彼らがビビるのも無理はない……。合同訓練の時は、正直私も気圧された覚えがありますもん)

と、そこで少女の様子が気になった。
神殿騎士に扮したノイファは、端的に言ってかなり『嵌って』いる。
それこそ味方である自分ですら畏れを禁じ得ないほどに。
あの子は大丈夫だろうかと、視線を向け――

96 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/03/25(月) 00:02:40.27 0
>「――わかりました。大人しく任意同行します」

「……へ?」

思わず呆けた声が零れた。
少女は両手を頭の後ろに重ねて、その場に跪いた。
それは軍属時代に何度も見た姿勢――降伏の意思表示だ。
怯えていると言うには、どうも様子がおかしい。
一体何故――困惑している内にも、チンピラ共と少女の会話は進んでいく。

>「あえてしょっ引かれることで、神殿騎士の本拠に合法的に殴り込みをかけようというわたしの作戦が、
  あなた達顔面終身刑のせいで"わや"になっちゃったじゃないですか」

――不意に、少女の声が変わった。
微かな震えを帯びた、何かを堪えるような声色。
直前にチンピラ共が上げた怒声に萎縮してしまったのか。
そう思ったが――

>「くっ……眼が……!」
>「お、おい嬢ちゃん……さっきから俯きっぱなしでよく見えてなかったけど……
  その『眼の色』、どうしたんだ?」

(――違う!これは、あの時と同じ……!)

少女は眼を抑え、苦しんでいる。
中継都市で見た時と同じだ。
ただ一つの違いは――あの時は、こんなにも凶暴な力の奔流など、感じなかった。

>「く……が……あ、離れて!死にたくなければわたしから離れてください!ここにいる全員!!」
>「大丈夫か、お嬢ちゃ――」

悲痛な叫び声――それから先の事は、一瞬だった。
チンピラの差し伸べた手を少女が払う。
ただそれだけの事を、マテリアの眼は捉えられなかった。

代わりに音がよく聞こえた。
まず空気の弾ける音――それから筋肉が断裂し、関節の外れる音が。

>「ああああ!? 腕が!俺の腕がぁ!」
>「ご、ごめんなさい……でも、まさかこんなに早く活動限界が来るなんて……!」

黒い甲殻に覆われていく少女の腕――少女が地を蹴る。
ほんの僅かな膝の屈伸運動、ただそれだけで彼女はマテリアの遥か頭上へ跳躍した。

着地音――音源を咄嗟に目で追う。
壁だ。凄まじい慣性によって、一瞬、少女は壁に着地しているかのように見えた。
そして、彼女は再び壁を蹴る。
石壁が抉れ、刹那の内に少女はマテリアの視界から消え去った。

「何……あれ……」

マテリアは動揺し、動けなかった。
あんな小さな子供が、何故あんな姿に――まるで見当など付かない。
だが――あの姿そのものには、心当たりがあった。
同じ遊撃課の仲間に。あるいは、このヴァフティアの過去に。

「魔族化……?それとも降魔……?」

マテリアの呟きを塗り潰すように、大通りから幾つもの音が聞こえた。
どよめき、悲鳴――石畳や建築物の砕ける音。

97 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/03/25(月) 00:04:19.50 0
追わなくては――マテリアはそう判断した。
中継都市で見た恨めしげな視線と、失望を宿した声を思い出す。
あの姿がなんであれ――彼女を放ってはおけない、と。

「ごめんなさいノイファさん!その人の腕、お願いします!」

哀れなチンピラの治療はノイファに任せ、大通りへ。
両手を耳元に添え、超聴力を発動。
心音や呼吸音は――覚えていない。
こんな事になるだなんて思ってもいなかった為、意識して聞いてはいなかった。

(――けど、あれだけ派手に移動すれば……十分聞こえる!)

移動に伴う破壊音は街の中央にある噴水広場へ向かっていた。
マテリアもそれを追うように駆け出し――

>「ヴァフティアへようこそ!私は『極北の炎』、皆からは議長と呼ばれています!

不意に少女が声を発した。

(誰かに話しかけてる……?このタイミングで?)

一体誰に――とは思いつつも、彼女が足を止めているこの状況は好機だ。
今なら追いつけるかもしれない。
マテリアは大通りには出ず、そのまま路地を走る。
超聴力を発動した状態なら反響音で路地の構造を把握可能だ。
人の多い、混乱した大通りを通るよりも素早く移動出来るだろう。
  
>『黒の教科書』を読んでこの街に来てくれたんですねっ!早速魔眼を持たぬ者には分からぬ話をしたいのですが……。
> もうすぐそこまで追手が来ています。どこかに匿ってもらえる場所はありませんか?」

(見つけた!……って、アルフートさん!?なんであの子と……?
 いや、でも、これはとにかく好都合……!
 アルフートさんの力なら、あの子を安全に確保出来る筈!)

一旦路地に身を隠し、右手を口元へ。

「――アルフートさん。今、傍に女の子がいますよね?
 事情は後で説明しますから、その子を確保して――」

ファミアに声を飛ばし――しかし、ふと思い留まる。

結局、少女のあの腕はなんだったのだろう。
それに彼女が属していた黒衣の集団は?
降魔を思わせる姿、黒装束、ヴァフティア――否が応でも一つの事件と団体を連想させる。
ヴァフティア事変、そして終焉の月。
昨晩ノイファからも、それに纏わる通報があったと話を聞いている。

ただの偶然で済ませてしまうには、話が出来過ぎている。
確かめなくては、もっと深く知らなくては――強迫観念に似た知識欲が鎌首をもたげる。

98 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/03/25(月) 00:05:07.42 0
「――いえ、ごめんなさい。何も聞かず、暫くその子に付き合ってあげて下さい。
 出来れば屋内か、路地へ……通りから目に付かない場所へ、お願いします」

声を飛ばし終えると――マテリアは魔力を練り上げる。
細く細く糸のように。そしてそれを織り上げて、身に纏う。
幼い頃、母の背を追いながら学んだ魔術、情報通信兵としての一技能――変装術式。

丸眼鏡、烏色の三つ編み、小さな背格好、黒いローブ、そして紅い瞳。
少女の姿を装って、路地から噴水広場へ出る。
少女自身の声で助けを呼び、更にこれだけの騒ぎが起きたのだ。
あの黒装束の集団がこちらに気付くのは、時間の問題だろう。
彼らが来る前に、一度ノイファへ声を飛ばす。

「ノイファさん。あの子……ミドルゲイジで聞いた話と関係があるかも知れません。
 私、あの子に成り代わって、あの子の同行者と合流してきます」



【成り代わりを画策しました】

99 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/03/27(水) 12:32:37.57 0
一人。
見回せども、知った顔は見えず。
呼べども、答える声はなし。
「これはまさか……お二人とも迷子に!?そろっていい年なのに!」
へたれのくせに絞め殺されかねないような台詞をすらり言えてしまうのもまた、若さの故でしょうか。
まあ、そんなレベル(挨拶ができないだとか食器の使い方が悪いだとか)で見るのならファミアだって十分いい年です。

「うーん、どこへ行ったんだろう……広場の方、かな」
ファミアはさらに呟きながら歩を進めて行きました。
先ほどの台詞が『正直』という美徳の発露なら、この行動は蒙昧さの顕現と言えます。
土地勘もなしに待ち合わせ場所から離れて人探しはあまりにも高難易度。
外国へ出かけて自分を見つけてくるほうがまだしも可能性があるというものです。

逆に向こうのほうでファミアを呼んでいる可能性もあるので、一度立ち止まって耳を澄ませてみました。
しかしようやく聞き分けた声は夕餉の献立に悩んでいたりファミアにはよくわからない術式構成を呟いていたり
腕が折れたことを嘆いていたりと、至って日常的な喧騒の一部でした。
(やっぱりヴィッセンさんみたいにはいかないなあ……)
いってしまったらマテリアの立場がありゃしません。

なおも耳に手を当てながら歩いて、だんだん噴水の細部まで見えるあたりまで来ました。
そこでようやく異質な、しかし馴染みのある音がうずまき管を走り抜けます。
石を蹴り砕いているような、あるいは石を叩き割っているような音です。
(遊撃課配属以降、ファミアもしょっちゅうそんな音を出していますね)
それは円を描くようにファミアの前方へ至り――
>「その眼――」
――そして紫水晶と鳩血玉は出会いました。

珍しい色だな――、と自分のことをいつもどおり棚に上げた感想をファミアは抱きました。
生まれついてその色、という人はいないわけではないものの、通常はもっと薄い色合いをしているものです。
貴石と見紛うほどの深い色彩はファミアの視界の中で大きさを増して行き……
>「ヴァフティアへようこそ!私は『極北の炎』、皆からは議長と呼ばれています!」
眼前までやってきてそう言いました。

>「『黒の教科書』を読んでこの街に来てくれたんですねっ!早速魔眼を持たぬ者には分からぬ話をしたいのですが……。
> もうすぐそこまで追手が来ています。どこかに匿ってもらえる場所はありませんか?」
まさに喜色満面とした様子で言葉を続ける議長。
向こうには心あたりがあるようですが、ファミアにはそんなもの一切ありません。
しかし、推察するための材料はいくつか出てきていました。

(まず第一に壁面を跳躍して移動していた。次に、"極北"という称号。
 さらに、どうやら私のことを知っている様子。すべてを重ね合わせると――
つまりこの人は父方の親戚ね!)
いやな一族です。

100 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/03/27(水) 12:33:55.29 0
アルフート家は何しろ古くから嫁ぎ嫁がせ婿の出し入れでやってきた家なので、他家と比しても縁戚がやたらと多いのでした。
向こうがこちらを知っていても、こちらでは顔すら見ていないなんてこともままある話。
("議長"ということはこっちで会合か何かあったのかな?そこでトラブル――というところかしら)

議長の勘違いを同じく勘違いで受け止めたファミアは、同族のために何ができるかを考えました。
(匿う、といっても……。アイレルさんはこの街にもお詳しいようだから助力を得られるかもしれないけど――)
――けれど、自らもまた渦中の身。
ついていてあげたいのはやまやまですが、責任が持てません。

うー、むーと唸りながら考えてみても妙策は浮かばず。
そんなファミアの耳に、求めてやまなかった知った声が飛びこんできました。
>「――アルフートさん。今、傍に女の子がいますよね?
> 事情は後で説明しますから、その子を確保して―― 」
マテリアによる遺才での遠距離伝達でした。相変わらずファミアはびくりとしてしまいます。

>「 ――いえ、ごめんなさい。何も聞かず、暫くその子に付き合ってあげて下さい。
> 出来れば屋内か、路地へ……通りから目に付かない場所へ、お願いします」
(ヴィッセンさんは事情を知っているようだけれど、聞いている暇はなさそう――となると、やはり)

「わかりました、ひとまずはこれを」
ファミアは言うなり支給の外套を脱いで議長に着せました。
ファミアには大きいサイズのそれは、少し背の高い議長にもやっぱり大きくて、
お陰でもともと着ていた黒いローブがほとんど見えなくなりました。
襟を立てておけば顔もある程度隠せるでしょう。

それから議長を先導して歩き出します。
向かう先は――ルグス神殿。この街の最大勢力の本営でした。
今この場で自分たち以外に最も信頼出来る存在でしょう。
"議長が今行きたくないスポットランキング"を作成したら上位三位に入ってきそうな場所ですが、
文字通りファミアは知ったことではありません。

「あの……失礼かもしれませんがお名前は?ご存知でしたら申し訳ありませんが、
 わたくしはアルフート伯ヴァエナールが末娘、ファミアと申します。」
歩きながら、ファミアはおずおずと議長に尋ねました。
どこかで会っているなら、名を聞けば記憶を引っ張り出せるかもしれないと考えたからです。
もちろん――これが初対面なので思い出しようがないのですが。

【話は署の方で】

101 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2013/03/27(水) 23:18:33.92 0
「チッ!!」

結界と黒鎧が接触をしたのはほんの数瞬に過ぎない。
だが、ほんの数瞬であるにもかかわらず、そこに発生した衝撃は強大であった
力を受け流す事に関しては比類ないフィン=ハンプティでさえも、思わず舌打ちをする程の威力
帝都を守護する結界防壁は、その名に恥じぬ性能を有していた。
しかし――――

「痛ってぇ……っ!!」

フィンという男は、その結界をすらも超えた
地面を転がり強かに体を打ち付けるも、その五体に目立った傷は無い
常軌を逸した才能と、人智を外れつつある肉体で行った『力技』
それがこの結果を生み出したと聞けば、結界の設計者は大いに呆れる事であろう

そうしてフィンは、帝都へと踏み込んだ
その行為が自身が人間を外れている事を再認する事となろうとも、
それでも、踏み込んだのだ。全ては信愛する者たちを護る為に

「くっ……痛がってる場合じゃねぇ、セフィリアの補助に行かねぇと……
 まあ、あいつのゴーレムを打ち崩せる奴なんて早々いない――――」

だが、その気持ちを抱いてセフィリアゴーレムが居る筈の場所を仰ぎ見た
フィンの眼に飛び込んできたのは信じがたい光景であった

102 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2013/03/27(水) 23:20:35.76 0
「『崩』」
「――『剣』!!」

大剣「館崩し」
それを携えるはフランベルジェ=スティレット
放つは鬼の域に至った才『崩剣』
その矛先は――――セフィリア=ガルブレイズ

「なっ……」

愛すべき友人が、愛すべき友人を、破砕していた
衝撃のあまり一時的に思考が飛んだフィンであったが、それも一瞬
次の瞬間には、本能的とでもいう反応速度で駆け出していた

スティレットに対して思う事はある
何故、こんな事をするのか。一体、何を知っているのか。
……だが、そんな事よりも。
今、失われかねないセフィリアの命の方が、フィンにとっては重要であった

無意識に再度フローレスを展開させ、人外の膂力を持って落下予測地点へと駆け寄る
上空から降り注ぐゴーレムの破片をいなし、或いはその腕によって破砕し

>「スティレェェェェェェェェェェェェェット!」

憎悪の炎を燃やしながら落下するセフィリアが乗っているであろう操縦基、
その真下までたどり着いた。だが――――

「……くそっ! 勢いが付きすぎてる、俺じゃ受け止め切れねぇ!!」

垂直に落下してくる金属塊が有するエネルギーは、フィンが逃がせられる域を超えてしまっている。
このまま受け止めれば、自身が即死しかねない。
スイが間に合えばこの落下の勢いを弱められるのだろうが、今のフィンには周囲の状況を確認出来る程の時間は無い

「……けど、やるっきゃねぇよな……友達(ダチ)を見捨てるのは、御免だっ!!!!」

迫り来る金属塊を前に、フィンはその両腕を広げ、己が持ちうる力を結集する
それはセフィリアの為でもあり、自分の為でもある行為だった
ここでセフィリアを見捨てれば、フィンはフィンでなくなってしまうから――
だからフィンは、英雄的な勇気でもなく、聖者の様な使命感でもなく
自分の大切なものが失われることへの恐怖を抱き、震えを抑え空を睨む
生存本能の発現か、自身の両腕、そして膝から下までが黒鎧に包まれていく事にすら気付くこともない

【受け止め用意、だが現状では最低でも重症】

103 :ユウガ ◇JryQG.Os1Y:2013/03/30(土) 21:13:53.38 P
「おいおい、あの障壁を突破するって、無茶したな。」
流石の、ユウガでさえやったことがない。
(一課、やはり侮れないな。)
>>「なに、僕は心配性でねーーーだから、問題ない。既に手は打っている。
それよりも目の前の問題を解決しておくべきだと思う。」
「目の前の、問題?」
(予め、これを予想してたのか?)
>>「遊撃二課に協力してもらえるのであれば、フルブースト訓。君に一つ任務を頼みたい。
【中略】」
(まずは、態度で示せか。)
「了解した。ターゲットは」
聞くと、どうやら、遺才持ち。
(相性は、わかんねぇな。氷か。)
>>「そしてこれも」
バレンシアから、無理矢理小さなゴーレムを押しつけられる。
「なんだ?これ」
>>「遊撃二課全員にも配布しているものだが、それは甲種の中でも特に小さなゴーレムでね。
戦闘能力はないが
感覚を僕と共有しているから、距離を無視して僕と交信することのできる便利な代物だ。」
「ふうん。助かるよ。」
>>「殺しはしなくていい。ーーー二度と帝都に近づかないように痛めつける程度ならば、許可しよう。」
「了解した。では」
ユウガは、そこから立ち去る。
それから、数秒後には、外の街道からも消えていた。


とっとと、騎馬ゴーレムも借り
外へ出て暫くすると、ターゲットらしき物を見つける。
(わかんねぇな。男か女か判断つかねぇや。ここは一端話しかけるか。)
そう思い、ユウガはコルドに近づく。
「こんにちわ、何をしているのかな?」
(彼女って言ってたから、女声のはず。)
【殺すにはまず挨拶から】

104 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/03/31(日) 01:56:41.27 0
>「――神殿騎士か!!」

踏み入った路地裏は、何が起こっていたのか一目で把握できる、そういった状況だった。
こちらを見て慌てふためく、お世辞にも善人とは言えない風体をしたゴロツキが三人。
顔を伏せて怯える黒ずくめの小柄な少女。そしてその少女を庇うように三人組を牽制するマテリア。

(状況対応マニュアルに申請してみましょうかねえ……)

独立守備隊と神殿騎士団の共同実習で使う教本に載せるよう交渉してみようか。
そんな益体もない考えがノイファの頭をよぎる。

>「くそ、アドバイス女と神殿騎士で、路地の前後を押さえられた!どうする兄貴、押し通るか?」
>「馬鹿言え!相手は一人とは言え神殿騎士だぞ!」

男たちが気色ばんだ叫び声をあげる。

「そうそう。刃向わない方が身の為よ?」

腰に吊るしたレイピアの柄に指を伸ばし、ブーツの靴底を擦り付け、音を響かせ間合いを詰める。
状況への対応や立ち居振る舞いから察するに、男たちはただのチンピラだ。
捨て鉢になってまで活路を見出そうという気概は、おそらく持ち合わせていない。

>「……あの、神殿騎士って、そんなに強いんですか?」

助かった安堵からか、それとも状況の推移に付いていけないだけか、静寂を破って少女が口を開いた。
自分に絡んでいた三人のゴロツキへ、小動物さながらに小首を傾げる。
問われた三人は見合わせた顔に一瞬冷笑を浮かばせ、観光ガイドも舌を巻く速度で一斉にまくしたてる。

>「とにかく、この街で奴らに逆らうってのはイコール死!を意味するんだ……!」

(あ、私たちってそんな風に認識されてたんだ)

最後に締めくくりとばかりに口を揃えた男たちの言葉を耳にして、ノイファの肩が目に見えて落ちた。
少し、いやかなり痛烈な一言だった。

身寄りのない子供を引き取って教育を施し、安息日には炊き出しをし、太陽神の教えを分け隔てなく教え。
魔獣被害が出たという報告を受ければ、休みを返上し征伐に出掛け。
ヴァフティアに住む人々の安全を守るため、東へ奔り、西に走り――

(――って、打ちひしがれてる場合じゃないですよっ!)

頭を振るい上体を持ち上げる。
ゴロツキたちの視線がめまぐるしい勢いで左右へ走っている。逃げ道を模索しているのだろう。
出会いがしらに植え付けた恐慌からは既に持ち直している。時間をかけ過ぎた結果だ。

「なにも取って食おうっていうんじゃないのだから、大人しくしょっ引かれなさい!」

さらに一歩。
解り易いよう歩幅を大きく差し出しながら、ノイファは指をかけた鍔を打ち鳴らす。

105 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/03/31(日) 01:57:14.95 0
>「――わかりました。大人しく任意同行します」

路地裏に響く承諾の言葉。
声色にはいかにも渋々といった風の低音が雑じっている。
しかし、返ってきた声はこちらが想像していたものよりも遥かに若く、高いそれだった。

「そうそう、素直でよろしい……って、え?」

威嚇のために半ばまで晒したままの刀身を鞘にしまうその途中、ノイファは間の抜けた声をあげる。
思わず二度見した先に居るのは、両手を頭の後ろで組み、地面に蹲った"少女"。

(えっと……どういうことですか!?)

視線をマテリアへ、次いで三人のゴロツキたちに。
だが、四人全員が一様に、疑問符を浮かべた表情を少女に差し向けるのみだった。

>「いやいやいや!違うだろ、嬢ちゃんは違うだろ、雰囲気的にさあ!」
>「ホールドアップ要求されてんの多分、俺たちの方だぜ!?」

どうにも微妙な空気の中、真っ先に正気を取り戻すゴロツキ三人組。
地に伏せた少女を引き起こし、なぜか必死の形相で互いの立場を説明しだす。

(なんなのでしょうね……これ)

にわかに巻き起こる罵声の応酬をノイファは生暖かい目で見つめることしかできなかった。
いったい何処で間違えたのだろう。正直早々に見捨て、役所に向かったほうが良いのではとすら思えてくる。
なにより、見知らぬ土地に一人置いてきたファミアのことも心配だ。
目を離すと何をしでかすかわからない的な意味でだけど。

地面の小石をつま先で蹴って、そのまま所在なさげにぷらぷらと揺らす。
髪の毛を一房抓んでくりくりと巻いてみる。

(そろそろ終わって――)

いい加減飽きてきたところで視線を元に戻し、口を開こうと思ったその瞬間――

>「ああああ!? 腕が!俺の腕がぁ!」

――ばぎんっ、と。硬質な物体を叩きつけたような音が響き、次いで男の悲鳴が木霊した。
ゴロツキの腕の肘から先が、人体の可動域を遥かに超えた方向に捻じれている。

「な、貴女……っ!」

ノイファは少女を見て絶句。その右腕から先がフィンと同様の真っ黒い甲殻で覆われている。
黒いローブから伸びる禍々しい鋼腕。
その様が二年前の惨状をノイファの脳裏に浮かび上がらせる。

(まさか、また!この街で――)

視界が赤に染まった。炎に燃える街。阿鼻と叫喚が支配する夜。
目を閉じ、そして見開いた。腰を屈め脚を滑らせる。

(――させるものですかっ!!)

引き抜かれるレイピアが、鞘口を支点に大きくたわむ。
床石を踏み抜かんばかりに靴底を叩きつけ、軌跡を描いた切っ先を少女めがけ突き入れた。

106 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/03/31(日) 01:57:48.31 0
銀光が虚空を奔る。だが、少女はそこに居ない。
放たれた矢もかくやの空中に身を躍らせ、壁を蹴りつけ更に跳ぶ。

>「魔族化……?それとも降魔……?」

マテリアが呆然と呟きを零す。

「……どっちかしらね。まあどちらにしても碌なことにはなりそうもないわ」

壁に拳を打ち付けながら、舌打ち。
ノイファは苛立ちを隠そうとしなかった。
ようやく復興を遂げつつあるヴァフティアに、また厄介ごとが持ち込まれたのだ。

>「ごめんなさいノイファさん!その人の腕、お願いします!」

「ちょっと、マテリアさん!どうするつもりなの!?」

声を置き去りに、マテリアは既に走りだしていた。
おそらく先ほどの少女を追いかける心算だろう。
出来るならば自分もそうしたいところだ。
しかし彼女の言うとおり、怪我を負って呻いている者を置き去りにするわけにもいかなかった。

「はあぁ……っ。あー、もう!貴方こっち来なさい」

捻じれた腕を慎重に掴み、負傷の具合を確かめる。
折れてはいない。
が、それだけに聖術で治療できる範疇を超えていた。

「外れた腕が伸ばされて……ずれて嵌まったのね。これは無理かな」

骨折であれば真っ直ぐにしてから術式を施せば事足りる。
だが、脱臼となると話が違ってくる。もう一度外して元の位置に嵌め直さなくてはならないからだ。
となると魔術や薬で眠らせるなりしないことには、激痛で治すどころではないのだ。

「仕方ないから神殿まで運びましょう。もう少し我慢してちょうだい」

ルグス神殿に行けばどちらかは確保できる。
殴って気絶させるという手もあるにはあるが、変に接ぎ直しでもしたら後が面倒だ。
それに自分のならいざ知らず、他人のをやるとなると若干怖い。
やはり慣れた者にしてもらうのが一番だろう。

「さてと、行きましょっか。
 ……いいから、ここでのことは不問にしてあげるから、早くなさい」

神殿と聞いて二の足を踏む男たちを叱りつけ、ノイファはため息を吐くのだった。


【とりあえず署まで】

107 ::スイ ◇nulVwXAKKU:2013/03/31(日) 01:59:09.64 0
下から圧倒的質量が迫り上がってくるのにも怯まず、スイはさらに加速し己の出せる最高速度に到達する。
ごお、という音ともに半瞬遅れて結界が到達、それは靴の先を少しかすった。
しかし高速で飛んでいる中での僅かな振動は確実にスイに伝わる。
ある程度衝撃を受け流すために一度宙返りしてから体勢を整えた。

「あっぶね…よかった、通過できた…」

勝率が半々の賭に勝った気分はまさにこんな感じなのだろうと、小さくため息を吐き出す。
しかし、足下から感じた殺気に、スイは思わず下を向いた。
そこにいたのは、ゴーレム――しかもスイが見た中では大きい部類に入るそれ。
そのゴーレムの口から何かが射出される。
あれは、

「…スティレット先輩…?」

驚きもない、ただ確認のために呟いた。
セフィリアのサムエルソンに貼り付きあっという間もなく、その遺才によって打ち崩す。
セフィリアの怨嗟とも取れる叫びが上空まで響いてきた。
本当の先輩後輩に当たるセフィリアにとって、スティレットが二課に付き、そして彼女のゴーレムを再起不能なまでに破壊された事が怒りに触れたのだろう。
その気持ちもわからなくもなかった。
しかし、スイはスティレットのしたいようにすればいいとも思ってもいる。

>「戻って来ないでって、言われていたはずであります」

スティレットの言葉が小さく響く。
操縦基だけが空中に残り、重力に従い落下していく。
スティレットとゴーレムはそれを見届けないうちに飛び去っていく。
それにスイは気がついてはいたが、それよりもセフィリアの救出が先決と判断し、そして落下先にフィンがいることに気がついた。

>「……けど、やるっきゃねぇよな……友達(ダチ)を見捨てるのは、御免だっ!!!!」

このまま高速で落下していく操縦基を受け止めるつもりなのか、その足は踏み出されることはない。
それどころか、フィンは気がついていないのだろうが、彼の足下から膝までが黒鎧に包まれていっていた。
これも不味い。
そう感じたスイは一気に力を爆発させた。
操縦基を支えるように竜巻が発生し一気に落下速度が減速する。
それでもフィンに重傷を負わせるのは目に見えていた。

「フィンさん!!そいつを殴れ!!」

受け止めるな、流れてくる力を僅かにでも別方向に変えろと言う意味を込めてスイは叫ぶ。
かつて見た黒鎧の力ならば、恐らく操縦基は塵となって風化したように崩れ落ちるだろう。
しかし殴った衝撃によって変えられた力の流れはセフィリアに影響し、殴られた方向にと彼女の体が飛んでくるに違いない。
そうすればその先にスイが風によるクッションを作ればいいし、万一そこまでの力がなかったとしても、その程度の力であればフィンは無傷で彼女を受け止めることが出来るはずだ。
スイはそう確信し、さらに風に力を込めた。

108 :コルド& ◆EVcvH4f9VlpQ :2013/04/01(月) 03:35:06.63 i
>「こんにちわ、何をしているのかな?」

「………んぁ?」
帝都に向かい歩いていたコルド。
向こうの方からやって来た、騎馬ゴーレムに乗ったユウガに突然話しかけられ、
少し驚くも冷静さを保ちつつ、完全な男の口調、声で返答する。

「………何でェ、アンタ?何してるかって、見りゃ分かるだろ。歩いてんだよ。」

ユウガに奇異の視線を向けつつも、続ける。

「……何処の誰かかは知らんが丁度いい。俺は帝都までいかなきゃならねェんだ。」
「折角騎馬ゴーレムもあるんだ、俺をちょっくら帝都まで連れてってくんねェか?」
「何、無理にとは言わねェ、場所だけでも教えてくれりゃあそれで良いんだ。」

相手が自分を殺しに来たとも知らずに、自分の目的を告げる。
コルドの周りには依然として、異常な程の寒さが立ち込めていた。

【返答。自分がターゲットとも知らずに、帝都まで連れて行って欲しいと頼む。】

109 :コルド・フリザン ◆ndI.L9sECM :2013/04/01(月) 03:36:31.06 i
>>108
名前の表示がおかしくなってた、大変失礼しました

110 :名無しになりきれ:2013/04/07(日) 02:42:59.93 P
保守

111 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/07(日) 23:55:39.12 P
【ヴァフティア市内の大路地】

様々な民族や文化が入り乱れるこの街において、雑踏とは花畑のような色を持つ。
とくにいまは春先、帝国南端であるヴァフティアは日が落ちても暖かい。
誰も彼もが、陰鬱とした色合いのしみったれた防寒着など脱ぎ捨て、思い思いの鮮やかな装いで街を歩いている。

――それ故に、闇色の装束で全身隈なく覆い隠した人影の存在は想像以上に人々の目を惹いた。
一人だけなら季節感のない馬鹿で済んだかもしれないが、それが十数人規模の集団ともなると誤魔化しが効かない。
ましてや、二年前に似たような格好の集団だ引き起こした事件の傷跡は、まだまだ癒えてやしないのだ。

『こちら市街警備八班、市井より通報のあった黒装束集団を捕捉。
 接触し、職務質問を行います。武装の使用許可を。――許可下りました。良好です』

ヴァフティアの主要な通り、その脇に林立している魔導飾灯には、照明の他にもう一つ役割がある。
望遠術式と念信を組み合わせ、飾灯から見える景色を情報として集積し、処理する機構。
二年前の事件から、魔術建築に長けたヴァフティアが独自に開発し、独立守備隊が採用する街頭監視システムである。

映像情報は架線念信によって一度市内の集積基に送られ、隣接する独立守備隊支部にて係官が精査を行う。
常時百名を維持する監視係官が、市内を多角度から精査し、対象人物や物体を見つけ出す。
通称『後ろ指』。南の要衝であり戦略価値も高いこの街を、事変の反省から更に硬く護るためのシステムだ。

「二年前の事変以来、この街じゃめっきり黒の外套を着る人はいなくなった。
 みんなあの事件を思い出したくないのだろうし、無用な疑いを掛けられるのは嫌だからな」

独立守備隊制式の、軽鎧に身を包んだ隊士四名が、路地から路地へと駆け抜けながら現場へ急行する。
彼らとは異なる場所の話になるが、丸眼鏡の少女が三人のごろつきに絡まれたのも、
ここヴァフティアにおいて黒装束を纏うリスクについて実地を交えて説明しようという仏心によるものであった。

こと、その姿についてヴァフティア市民はナーバスだ。
表立って石を投げるようなことはしないが、常に警戒し、少しでも不審ならば即通報するような、
表面張力によってなんとか決壊を免れているぎりぎりの衆人環視がこの街にはあった。
人混みをかき分け、本部から指示のあった住所に辿り着き、隊士達は確かにその集団の姿を目に収めた。

黒装束の、集団。
十数人からなり、周囲の人々が一様に距離をとっているために、人混みの中で浮島のように孤立している。
隊士達のうち、班長の腕章をつけた壮年の男が唇を舐め、胸に下げた黒曜石の首飾りを撫でた。

「見つけた……!接触するぞ、総員第二種戦闘体勢に移行しろ」
「班長、通報にあったリーダー格と思われる少女の姿が見えません」
「別行動をとったか……?仕方ない、そちらの捜索は他班に任せて残りを職質するぞ」

部下三名の応の声を背に、班長は先陣を切って人混みを抜けた。
歩く速度は速いが、急いでいる風は出さない、よく訓練された体運びだ。
人間、自分に向かってくる者には敏感に反応するが、雑踏における対向者には無頓着だ。
班長の歩法は、その微妙な認識の狭間に滑りこむような、気取られにくい近づき方であった。

「もしもし、お急ぎのところ失礼。少々お時間を頂きたいのだが、よろしいかな?」

内輪で何やら話し合っていたこともあり、黒装束の集団はほとんど班長の接近に気付かなかった。
振り向いた彼らの、黒のフードに隠されていた表情がはっきりとする。

112 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/07(日) 23:57:15.70 P
班長の第一印象は、

(若いな……)

十数人の集団。その殆どが、年端もいかぬ少年少女によって構成されていた。
その中で唯一、十代後半であろう背の高い少年――おそらく彼が暫定のリーダーだろう――の肩に手をかける。
普通にしていれば何の圧力も痛みも感じない、しかし振り払おうとしても離れない巧妙な手の置き方だ。
一瞬だけ驚いたような顔をした少年は、しかしすぐに表情を取り繕うと口端を歪めてこう言った。

「ほう、この俺にここまで接近を許すとは貴様、只者ではないな……!」

言われた班長はこう感じた。

(こいつ……私が只者ではないことを見抜いたか……!)

と、片方は言葉に出して、もう片方は内心でお互いのことを評価し合った二人は、暫し熱く視線を交わした。

「ヴァンディット、ずっとお喋りに夢中だったんだから気付くわけないじゃない。
 聞いてもいないのにヴァフティアの解説、もうかれこれ三十分も」

彼の腹ぐらいの背丈しかない少女の指摘に、ヴァンディットと呼ばれた年長の少年は一瞬だけ目を剥いた。

「ッフ、この俺が警戒を忘れるほどに、この守備官の気配の消し方は見事だったということだ……」

(こいつ……私の気配の消し方が見事だということまで見抜いていたのか……!!)

若き戦士の将来有望さに戦慄していた班長ははっと我に返った。
若者に褒められてついテンション上がってしまったが、職務を忘れてはいけない。

「実は、市民から君達のその格好について通報があってな。
 差し支えなければ、君たちがこの街へ来た目的と、―― 一緒に行動していた少女について聞きたい」

瞬間、ヴァンディットの目の色が――これは比喩的な意味だが――変わった。
彼だけではない。黒装束の少年少女たち、その全てが身を固くしたのだ。
それは硬直ではなかった。背の低い少女が、袖から何かを取り出して班長へ放った。
投擲物がゆっくりと描く放物線の頂点、班長の目の前のあたりで、それは花開いた。

「閃光術式――!?」

言葉どおりの結果が路地を満たした。
耳をつんざくような大音声と一緒に、莫大な光の束が空間を駆け巡る。
それらは一瞬にして守備隊含む通行人の目を晦ませ、予め眼と耳を保護していた黒装束の集団が駈け出した。

「く、待て……!」

日頃の訓練の賜物か、守備隊士達の復帰はほんの数秒で叶った。
しかし、その数秒が黒装束達に逃走の機会をもたらした!
隊士達は、黒装束の背中が小さくなる前に、彼らの後を追って走りだした。

 * * * * * *

113 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/07(日) 23:58:06.34 P
* * * * * *

【→マテリア:中央噴水広場】

黒装束の集団が、魔導飾灯に照らされた路地を駆け抜ける。

「ヴァンディット、どうする!?あいつ、議長のこと追ってた!」
「あれはヴァフティア独立守備隊の鎧……こんなところまで元老院の息がかかってるの?この街は安全だと思ったのに――!」
「あの守備官の身のこなしは本物だ、いつまでも逃げ切れるものではないぞ、ヴァンディット」

仲間たちに問われ、ヴァンディットは口端を上げて答えた。

「クク……なにを恐れる必要がある?いくら只者でなかろうが、奴とて所詮は人間じゃないか。
 ならば簡単だ、二度と俺たちを追うことが出来ないように返り討ちにしてやれば良い」

彼の強気な提案に、仲間たちはおお……と感嘆の声を挙げた。
ヴァンディットはそれを受けて一度頷き、そして言った。

「――――議長がな」

「あーんもうやだこのクソ他力本願ーー!」

と、前方が開けている。
路地から市内中央の噴水広場へと出る道だ。
何もしなくとも端へ避けて道をつくってくれる通行人に感謝しながら、十数人は一人も掛けることなく広場へ飛び出した。

「あれは――」

そこで、彼らは一つの人影を見た。
揃いの黒装束を纏い、黒髪を三つ編みにし、大きな丸メガネをかけた、少女の姿。
そしてその双眸こそは、彼らの旗持ちである証。

「議長!!」

114 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/07(日) 23:59:31.62 P
ヴァンディットは息を切らしながら、それでも確かに議長の前に駆けつけた。
彼女の両肩を掴み、振り向かせ、自分はその背後に隠れる。

「議長、無事だったか!この街で『ちょっと本屋に寄ります』って言ったきりはぐれてから、随分心配したぞ。
 だがまあ、こうして再会できて何よりだ。もう俺の傍を離れるんじゃあないぞ」

女の子の背中に頭を埋めて隠しながら言う台詞としては、多分世界で一番説得力がないことだろう。

「議長、ヴァンディット、追手が来てる!」

背の低い少女が注意を喚起し、ヴァンディットは身を震わせてまた言った。

「独立守備隊に追われているんだ。議長のことを探していた。
 おそらくここも元老院の魔手を逃れられなかったのだ……とにかく追手を潰して通りを出るぞ」

議長と呼ばれた少女――マテリアが扮するその姿は、ヴァンディット達が走ってきた方を見て気付くだろう。
独立守備隊の装備を着込んだ四人の隊士が、人混みをかき分けてこちらに向かってくるのを。
班長の腕章を付けた壮年の男が、こちらを指さして言った。

「ようやく追いついた……そして探し人も見つかったようだな。
 黒装束の集団十余名、そしてその頭目の少女。……悪いようにはしない、一緒に来てもらおうか」

班長の男が腰に下げた伸縮術式付きの警杖を抜き、二メートルほどの長さに展開して構える。
先端では、麻痺の術式が魔力の紫電を散らしていた。
その居住まい、身のこなしから、班長の男が相当の訓練を積んだ手練であることがわかる。
対する黒装束の集団は、これだけの人数がいて、誰ひとり戦う意志を見せなかった。
『議長』と彼らが呼ぶ少女に、頼り切っているのだ。

「頼むぞ……議長の魔眼『黎明眼』ならば、人間如きキャベツの漬物のように畳んでしまえるよな……!」

ヴァンディットのあまりに頼もしくない声援を背に受けて、そして班長の男が動いた。
警戒心をはたらかせない独特の歩法で、まずは動きを抑えこみにくるつもりだ。


【マテリア:黒装束の集団が合流。だけどオマケで守備隊もついてきた】
【守備隊は無傷で確保しようと動きますが、抵抗すれば容赦なく麻痺杖が飛んできます。
 NPCバトル・決定リールあり】

115 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/11(木) 00:09:15.58 P
地上50メートルから墜落を始めた、サムエルソンの脱出機構。
セフィリアを積載したそれは、数十秒後に名実ともに棺桶へと名前を変える代物だ。
『崩剣』は、脱出機構を破壊しなかった。
射出された脱出機が安全に地上へ戻れるよう設計された落下傘が空中で花開き、一瞬で風にもっていかれた。
既に速度は、ゴーレムの耐衝撃性を遥かに超える域へと突っ走っていた。

>「スティレェェェェェェェェェェェェェット!」

臓腑の底から絞り出した怨嗟の声も、駆け抜ける風ががなり立てる轟音に掻き消される。
やがて、脱出機構が先端部分から崩れ始めた。
重力加速度によって生まれた強烈な空気抵抗が見えざる壁となり、構造的に脆い部分を破壊し始めたのだ。

だが、ある高度を突破した時点で、物理的破壊力を秘めた空気抵抗がやわらいだ。
スイの魔術が追いつき、脱出機構を包み込むような竜巻を発生させたのである。
機体表面を這うようにして横切っていく風が、今度は失われたパラシュートの役目を代行。
速度は目に見えて遅くなり始めたが、それでもなおこのまま地面に激突すれば破壊は必定であろう。

>「フィンさん!!そいつを殴れ!!」

スイの叫びはその直下、地上を走る黒き影へと確かに届いた。

>「……けど、やるっきゃねぇよな……友達(ダチ)を見捨てるのは、御免だっ!!!!」

黒という色を纏って疾駆するのは、フィン・"最終城壁"・ハンプティ。
結界障壁を突破する際にも見せた漆黒の甲殻は、右腕だけを染めていたのが今や四肢へと版図を広げている。
大地を掴み、身を前へ飛ばすその膂力は既に人ならざるモノの領域。
だがその人外の力を以てしても、墜ちてくる巨大質量は彼を殺すに余りある威力を秘めていた。

だが、黒の魔人は止まらない。
止まる性(さが)など、あの第三都市の雪の中に捨ててきた。

拳を突き出す。
黒鎧――フローレスを纏ったフィンの拳が直上、突っ込んできた脱出機構の真芯を捉えた。

轟のうなりを上げていた風が消え、代わりに震えを作ったのは大地だった。
フィンの拳が機体に触れた瞬間、望んだ崩壊は起きず、しかし別の破壊が発生した。
彼の足元から背後にかけての地面の土が、ざながら逆瀑布の如く上へと飛沫を上げたのだ。

土色の津波が高く吹き飛び、土壌を失った大地が大きく抉れの傷跡を残す。
馬車の通行によって何度も踏み固められた土は、地盤と変わらぬ硬度を宿す。
それを畑のように掘り起こしたのは、フィンの遺才技能『受け流し』と、異貌鎧装フローレスの脆化能力によるもの。
フローレスが地盤を脆くし、そこに巨大質量による衝撃を受け流して叩きつけ、緩衝材としたのだ。

殺しきれなかった衝撃と、フローレスによる脆化の影響を受けて、脱出機構は今度こそ崩壊した。
慣性が、中に護られていたセフィリアの身と、ゴーレムの心臓部たるコアを宙高く飛ばし、一人と一つは放物線を描いた。
荒野に頭から墜ちる――寸前で、スイの魔術が風を産み、彼女を助けるクッションとなった。

セフィリアは、生還したのだ。

 * * * * * *

116 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/11(木) 00:11:57.00 P
 * * * * * *

無事とは言いがたい結果ではあるが――遊撃課の三人は、どうにか帝都への潜入に成功した。
しかし彼らにとって、帝都へ辿り着くことは手段の一つであって目的ではない。
帝都で何かを為すために、彼らは帰ってきたのだ。

課長・ボルトの失踪。
彼らの知らないもう一つの『遊撃課』。
フランベルジェ=スティレットの離反。

そして――元老院の陰謀。

謎は山積みであり、どれひとつとして容易く真相へ届くことは叶わぬだろう。
しかし遊撃課の面々に、まったくの足がかりがないわけではない。
帝都は彼らの住む街だ。馴染みの店や、住まいのある横町や、書類しか置いていない事務所もある。
左遷先の遊撃課を放逐されたのだ、もとの職場に戻ってみるのもいいだろう。
知ろうという意志さえあれば、知るべき情報を得ることは難しくないはずである。

だが、忘れてはいけない。
列車を襲撃した騎竜乗りが、去り際に残した言葉を。

――『今の帝都に、あなた達の居場所はない』

その意味を、遅からず彼らは知ることになるだろう。


【帝都への潜入に成功。SPINを使って帝都内を自由に行き来することができます】
【探索パート。パーティ分離、再集合も自由です】

117 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/13(土) 11:59:22.06 P
【→ファミア】

議長の赤い双眸と、視線で交差する紫の一対――
人ならざる眼の持ち主たる少女は、議長の求めに応じてまず外套を脱ぎ払った。

>「わかりました、ひとまずはこれを」

官給品と思しき瀟洒なデザインの外套が、議長の肩に被せられた。
背が高い方の議長をして、ゆとりのあるサイズの長衣は、黒装束を完全に覆い隠してしまった。
春先に重ね着をする理由は防寒ではないだろう。しからばこの配慮は、

(わたしの格好を衆人環視から隠すための……?)

人がよく知らぬ相手の姿を記憶に留める際、強く印象に残るのは服装と体格だ。
次いで髪型、最後に顔――よって、重ね着によって服装を変え体格を大きく見せることは、
追跡を捲く方法として大変に理にかなっている。

(初対面でこの思い切りの良さ、そして的確な追跡封じの手腕……。
 どうやらこの御仁、相当に場慣れ――被追跡慣れしていると判断できます!)

議長は外套の襟を忘れず立てながら、紫の眼の少女の手際に舌を巻いた。
自分とそう変わらない歳だというのに、きっと魔眼を持つモノゆえの苦労や苦悩があったに違いない。
どこへ行っても石を投げられ、背を追われる日々。
きっと毎日が地獄だったはず。

「この業界における相当の玄人とお見受けしました……!」

土地勘のない街では渡りに船だ。
少女は先行し、こちらに同伴を促している。どこまでも付いていこうと思った。
その小さな背を追いかけて、街中を行く道すがら、少女は振り向いて言葉を投げてきた。

>「あの……失礼かもしれませんがお名前は?ご存知でしたら申し訳ありませんが、
 わたくしはアルフート伯ヴァエナールが末娘、ファミアと申します。」

(なにそれ……かっこいい!)

貴族の名乗り。その響きの流麗さに議長はうっとりとした。
彼女は平民層の帝都市民であった。
実家は縫製品を取り扱う商店を営んでおり、自分もまた母の仕事を継ぐものと決められていた。
変わったのは、二年前からだ。

あの日、議長を取り巻く環境は大きく破壊を得たものの、幸いにも家族は全員無事で、再会もすぐに果たされた。
僅かながらも、かつてと変わらぬ平穏を頼って、生きていくことができた。
だが議長は、その平和から取り残された。
身体の弱い娘を慮って父親が没落貴族から買い付けた『赤』の装眼具。
二年前の帝都大強襲で、人々が魔へと堕ちた諸悪の根源。

議長はあの夜、変貌していく己に恐怖し、『恐怖することができる』理性の維持に絶望した。
あの時点で狂うことができたなら、きっといまよりも幸福に生きられたことだろう――
暫しの忘我から、議長は現実に戻ってきた。

「名前。わたしの名は『極北の炎』、それだけです。
 かつてどう呼ばれていたかなんて、いまのわたしには意味のない言葉ですよ……フフ……」

無駄なポーズをつけて、議長は問いをはぐらかした。
人間だったころの名を口にすることに厭いはない。ないが。
――化物になってしまった自分が、かつて人であったことにしがみついているようで、悲しいのだ。

「それに、わたしとあなたは過去にお会いしているはずですよ?
 ああいえ、思い出せなくても仕方はありません、遠い悠久の、過去のことですから――」

118 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/13(土) 12:00:37.09 P
多分前世とかそんな感じの過去で。
議長は運命みたいなものを信じるタイプだった。主に雑誌の影響だった。

「それよりも、あなたの『真名』はなんと言うんですか?
 わたし達の間では、その名で呼び交わしたほうが色々と都合が良いとおもいます。
 わたしの仲間たちに紹介する際も、馴染みが良いでしょうから」

 * * * * * * *

「ここって――」

紫の眼の少女、ファミアの後をついて、路地を行き、大通りを横切り、噴水広場を経由して、
辿り着いたのは巨大な建造物だった。広場に面していて、幅の広い階段が高く続いている。
林立する柱には、この場所を象徴するモニュメントが据えられていた。

天恵と豊穣の意匠。
太陽神を奉じるルグス神殿であった。

「ファミアさん、まさかあなた――」

議長は目を剥いてファミアの方を見た。
このルグス神殿は、先刻路地にてごろつき共が恐怖していた神殿騎士の棲息域だ。
あのレベルの戦闘者が、組織を組める規模で存在する場所だ。
議長や、彼女が招聘した者達の、天敵となりうる者の総本山。
そんな場所に、『匿ってくれ』と頼んだ議長を連れてきた意味。

「――攻撃は最大の防御と、そういうことですねっ!」

単純な話だ。
敵に追われている際、必死こいて逃げ切るよりも、相手を撃滅してゆっくり帰った方が良いときもある。
ましてや議長達はこのヴァフティアを拠点に活動する心づもりなのだ。
遅かれ早かれ激突する『運命』の相手であるならば、ここで叩いておくのは十分に納得できる戦術だ。

(流石ですファミアさん……用兵のなんたるかを体現しています!)

そして出会ってすぐにここへ攻めこむということは、二人でもこの神殿の戦力を撃滅可能という自信の現れだろう。
議長とて半端な武人に遅れを取るつもりはない。
だがその自信を以てしても、強い強いとみんなが言う神殿騎士を相手取るには二の足を踏んだものだ。
ああ、なんと頼もしい味方であることか。議長は感極まった。

「でも、ちょっと待っていてくださいファミアさん。敢えて時期尚早だと言わせていただきましょう。
 何故ならこの街にはまだ魔眼の使い手達が散っています。わたしが喚んだ仲間たちです。
 彼らの到着を待ってから、万に一つの逆転もない盤石の態勢で、戦いに臨もうじゃないですか」

議長は外套の隙間からあたりを見回す。
帝都にも神殿はあったが、ここまで大規模なものはなかなかお目にかかったことがない。
土地神のルミニア神殿にしたって、ここの半分ぐらいの大きさしかなかったはずだ。
幸いにも神殿騎士たちは議長達に不審を感じていない。
こういう場所の巡礼者は、大抵自身を戒めるかのように分厚い外套を着こむものなので、議長にも違和感がないのだろう。

「戦略的な要所を把握しておきたいです。ファミアさん、ここの地理にはお詳しいんですか?

 * * * * * *

119 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/13(土) 12:01:28.85 P
【→ノイファ】

>「はあぁ……っ。あー、もう!貴方こっち来なさい」

腕を脱臼して悲鳴を上げた兄弟分を不安そうに診ていたごろつき達は、神殿騎士が荒っぽく手招きするのに従った。
彼女は呻く兄弟の腕を、動作の荒さとは裏腹に丁寧な手さばきで触診し、結論を出した。

>「外れた腕が伸ばされて……ずれて嵌まったのね。これは無理かな」

「む、無理って!神の奇蹟とやらでなんとかならないのかよう!
 確か太陽神ルグスの聖術なら、豊穣の奇蹟で肉体の治癒力を促進して治したりできるはずだろ!」

「でもよ兄貴、その方法は出血や骨折みたいな単純破壊には効果的だけどよ、
 いまの脱臼みたいに身体が傷ついてるんじゃなく関節がずれてるだけとかだと、
 かえってズレが固着して悪化することになりかねねえんじゃないのか?」

ごろつきたちが外野でぎゃあぎゃあ騒いでいるうちに、神殿騎士は外れた腕を手早く固定して立ち上がった。

>「仕方ないから神殿まで運びましょう。もう少し我慢してちょうだい」

神殿、という言葉に反応したのは脱臼した男だ。
彼は小さく呻くだけだったのがみっともなく大口を開けて顔を歪め、

「神殿だけは嫌だぁああ!神殿騎士こわいいいい!」

男は脱臼の痛みよりも、神殿騎士に対する恐怖で喚いた。
その様たるや、子供が医術院に行くのを嫌がるかの如しである。

「こら、我慢しろ!このお姉さ……んん?お姉さんだよな?うん、お姉さんはお前のために連れてってくれるんだぞ!
 わがままを言うんじゃあない!――お兄ちゃんだって怖いんだから!」

>「さてと、行きましょっか。……いいから、ここでのことは不問にしてあげるから、早くなさい」

「なんでそんな平然としてんだよこの女ぁ――!」

当の神殿騎士の女は、慣れているのかどこ吹く風だ。
神殿での治療は、お代が殆どかからない(少額の寄付のみ)ので貧困層は大助かりなのだが、
その分結構荒っぽい治療や、痛みで暴れた時など屈強な騎士たちが複数人で抑えこみにかかるので、
毎年結構なトラウマを子どもたちに植え付けていくのだ。
このごろつきなどは、そんな恐怖を払拭できないまま大人になってしまった類であろう。

結局、ごろつき達の懸命な説得により、男は神殿へ連行されることを納得した。
両サイドから兄弟に支えられて、神殿騎士の後ろをついて路地を出た。

 * * * * * *

120 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/13(土) 12:02:13.47 P
「なあ騎士さん。俺たちは、別にあのはらわた娘に危害を加えようとしたわけじゃあないんだぜ」

神殿の方向へずんずん進む神殿騎士の背に、無事な方のごろつきは声を投げた。

「だた、あのお嬢ちゃんは黒装束を着ていただろ?この街で――このヴァフティアでだ。
 帝国民で、二年前のあの事件を知らないとも思えねーし、よしんば知らなかったとしても、
 この街の人間が黒尽くめの姿を異様に警戒しているのは街を歩けばわかるはずだ」

言葉を引き継ぐように、もう片側のごろつきは言った。

「そういう連中が一人や二人じゃない、集団でこの街をうろついてる。
 最初は喧嘩でも売ってんのかと思ったが、どうもそうでもないらしい。
 もしかしたら、本当に何にもしらないんじゃないかって思って、声をかけてみたんだ」

結果的に、あの黒装束の少女も結構なアッパーテンションで煽り返してきたので、
口論という形で神殿騎士に発見されることになってしまったが。

「でもさっきの件で確信したよ。あんたも見ただろ?あのお嬢ちゃんの右腕。
 この街で、また何かが起き始めているんじゃあねえのか?
 二年前、俺たちの親や友達まで奪っていった、あのヴァフティア事変の再来が――」

靴裏の石畳の感触が、大理石を叩く音に変わった。
広場から神殿へと到着したのだ。

「あんた、神殿騎士だろ。
 俺たちにはこうして頼むことしかできないけど――だけど頼むよ。この街を護ってくれ」

ごろつき達は言った。

「哀しみのない明日を、望ませてくれ」


【ファミア→議長と共に神殿へ到着。勘違い続行中。議長は外套によって隠れています】
【ノイファ→ごろつきと共に神殿へ到着。ファミア達が神殿へ到着した直後】

121 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/04/15(月) 18:59:45.60 0
さて、セフィリアの心理描写をいままでは彼女自身口から語っていたが、しばらくはその役目を譲ることになる
なぜか?
理由は簡単、彼女の内面が黒くなりすぎたからだ
考えてもみて欲しい、うら若き乙女が憎悪に駆られ殺意を持って行動する
その内面を描写する身にもなってほしい

私は御免被るね
ということでここからは私の目線で彼女を語っていくとしよう
あ、私?
そんなことはどうでもいいじゃないか……
さ、さっそくだが彼女、セフィリアが無事に地面に両足で立てたところから語り始めようか……

セフィリアは生還した……
五体満足でしかしながら全身擦過傷に彩られながらも生還した

その足取りはふらつく、空中での無理な機動、フィンの殴打による衝撃、スイの風によるブレーキ
そして……信頼しようとしていた者の決定的な裏切り……
それらすべてが彼女の足取りを不確かなものとさせた

まあ、裏切りというのはあくまでセフィリアの目線であることを強く明言しておこう

「…………ありがとう……ございます」

肺の底にある淀んだ空気をなんとか絞り出したかのような謝罪
いや、感謝の言葉か……案外そのどちらでもないかもしれないがね

彼女は先ほどまで衝撃でまだ熱を持つ自らが身を寄せていたものに寄りかかる
手を伸ばし優しく指を這わす

「ごめんなさい……」

これはまごうことなき謝罪の言葉だ
自身が手塩にかけてきた愛機、それも彼女はゴーレムに意識があると思っている
そんな彼女が、この四肢損失の状況はどう思うだろうか?

間違いなく前回までの方式で彼女について語っているならば、謝罪の言葉というものを辞書で引く必要はなくなるだろう
まあ、あれだ
彼女の精神はマイナスの状態で非常に不安定と言える

122 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/04/15(月) 19:00:10.51 0
さあ、この敗北の底から向け出すためにどう動くのか?
その選択肢は多岐にわたるだろう
目的はひとつしかないがね……

「遊撃2課を潰します……」

ここで遊撃2課と言ったのは彼女にある最後の理性の砦が仕事をしたからだろう
実質は……

「そして、スティレットを……」

ここで本音が漏れるのは砦の建築年数的に致し方無いだろう

「倒す!」

見開いた目はメガネ越しにも鬼気迫るものがあるとフィン、スイ両名には感じられるだろう
若輩なれど、鬼になるために鍛錬を積んできた才女
凄みというものは一端のものがあるだろう
いまはただの吠える狂犬ではあるがね

思い出したかのようにゴーレムに備え付きの念信機をとりだす
乱雑にチャンネルを合わすとすぐに反応があった

「テンニース!頼みたいことがある!」

彼女が怒鳴るように呼びかけたのはアルフレッド・テンニース
ガルブレイズ家に仕える執事のうち、セフィリア付きのものだ
彼女が帝都でもっとも信頼している人物でもある
名字で呼ぶのは昔からの癖だ

「なんでしょう、お嬢様?いまは任務でお出かけのはずでは?」

いやに冷静に対応するのは彼が一流である証左ではある
頭のなかではありとあらゆる可能性を思考しているだろう

「一身上の都合で休職したわ!それよりも頼みたいことがあるの!」

またお嬢様が暴走したのか……優秀な執事は頭痛がしてきた
この勢いは帝都転覆を狙う悪の秘密結社でも見つけたのだろうか?

今回はとびっきりの厄介事だろうと覚悟して我が姫の次に出る言葉を待った

「剣鬼にサムエルソンが破壊された……念信機の発信場所で場所はわかるでしょ?
核は無事だから回収に来て!あと私の屋敷片付けをしておいて!」

それだけいうと彼の姫は通信を切った
無論、直後に優秀なるテンニースが頭を抱えたことは言うまでもないだろう

いまやセフィリアは復讐の鬼だ
はからずも彼女が望んでいた鬼になったわけだが、まあ、称号ではないから何の意味もないがね

123 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/04/15(月) 19:00:48.23 0
「私はこう思います……」
彼女は唐突に語りだす
自身の復讐は自分だけでは難しい……
フィンやスイも利用しなければならない。そういう打算が彼女の口を動かした
……後ろめたさはなかっただろうさ

セフィリアは目的のためにもう手段を選ぼうとはしない

「2課の面々は私達に帝都来るなと頑なに言う
なぜでしょうか?」

セフィリアは冷静に言葉を紡ぐ
装いである冷静さはある意味、狂気ともいえるが……

「私達が帝都にいると向こうになにか不都合があると言えます
これはみなさんもわかっているでしょう?」

さあ、どうやって話を持って行くべきだろうか……
思考を巡らせる

「プライヤー課長は生きています」

切り出す
断言するような口調で強く

「私達とプライヤー課長があうと非常にまずいのでしょう
だから、接触させないようにしている……また、頑なに帝都への侵入を拒むということは
課長は帝都似います。それも元老院の手には落ちてはいないということでしょう」

ここではっきりとセフィリアは元老院の名を口に出した

124 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/04/15(月) 19:01:06.30 0
「課長のことです……
私達が帝都をブラついていれば接触してくることでしょう
さすがに、宿に泊まるのは危険ですので私の屋敷を拠点に課長との接触を図りましょう」

ガルブレイズ家は軍人の家系にして名門貴族
セフィリア自身はあまり自覚はないが末娘という立場上、家族に非常に愛されている
その愛娘の個人宅、貴族の屋敷が軒を連ねる場所にある、防備は万全といえた

軍の中でも非常に立場が強い父親も元老院の圧力にそうやすやすとは屈するわけにもいかないだろう
しばらく滞在する分には帝都で宿をとるなど鶏がかまどに入って寝るようなまねをするよりは遙かに安全といえる

と……セフィリアは考えていた

「私、ハンプティさん、スイさん、非常に都合のいい事に戦闘力では現在の遊撃課でもなかなかに高いと思います
これが一緒になって行動すれば襲われても、遅れをとることはないでしょう」

ユウガ、フランベルジュに連敗している奴がどの口でほざく

「ここで私が目的地などを提示出来れば良いのですが……
プライヤー課長が向かいそうな場所には検討がつきません
どこか良い場所はないでしょうか?」

彼女は笑顔で2人に聞く、冷えきった笑みに農村の優しい風が吹き付ける

【私が仕切る! コアは執事が回収!拠点は私の家を使って! でも、どこいけばいいかわかんない……】

125 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/04/15(月) 22:06:42.79 0
名を尋ねるファミアに、議長は自嘲めいた笑みを返して来ました。
>「名前。わたしの名は『極北の炎』、それだけです。
> かつてどう呼ばれていたかなんて、いまのわたしには意味のない言葉ですよ……フフ……」

その様子を感じ取ったファミアは、即座に理由を推察します。
(そうか、"極北の炎"は僧号ということね……つまり――)
――つまり議長は修道院送りにされたのだ、と。
問題のある子弟を寺に叩きこんで外界と接触させないなどというのは、今のご時世でもありふれた話です。
場合によってはファミアだってそうなっていたかもしれません。

(なるほど、そう考えるとあの黒衣にも納得が……)
大体の宗教において、粗衣粗食は望ましいとされていることがほとんど。
黒ないしは類似の濃色も、修道服にはよく採用されるものでした。
しかしルグスの法衣の色ではない=出家先が違うので、
このまま神殿に連れて行ってその足で元の修道院へ送還される心配はまずなし。

などと見当違いの方向へ思考を走らせるファミアに対し議長はさらに言葉を続けます。
>「それに、わたしとあなたは過去にお会いしているはずですよ?
> ああいえ、思い出せなくても仕方はありません、遠い悠久の、過去のことですから――」
(あー、やっぱり会ってるんだ……。過去、と言うと、やっぱり私が病気をする前かしら)
ファミアが熱病を患って以来、父ヴァエナールはあまり娘を表に出そうとはしなくなり、それからおおよそ十年。
議長が実際に縁者だったとしても、覚えていないことに無理がない程度の時間ではあります。

>「それよりも」
「はい」
議長は話題を変えようとしているようでした。それについて行くファミア。

>「あなたの『真名』はなんと言うんですか?」
「はい?」
残念ながらついて行ききれませんでした。
うーん、と一声唸ってそれからあごを一つまみ。

ファミアは"家の中の火"を司る古い神さまの信徒でしたが、特に洗礼名などはありません。
異名と言えるものは唯一つ、幼年学校時代のものだけでした。

126 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/04/15(月) 22:08:08.04 0
幼年学校というのは教導院への入学前に事前教育を受けるための私学です。
その性質上、教導院の卒業者の質にはたいへんなばらつきがあります。
(最近では中退したりする人までいますし)
それを嘆いたある騎士が有志を募って開設したものなのです。

公的機関ではないために金銭面での負担は大きく、必然的に貴族、豪商の子弟のみが入学することになるのですが、
教育方針として『先ず一剣の勇を練る可し』という標語を掲げています。
事至っても自ら剣を振るえないようでは大業など成せないという、筋者のような思想の所産でした。

さて一剣の勇と言いましても実際に技だけ磨けば良いということではなく、
それを発揮するための環境を整えるということが重要視されています。
つまり、身の回りのことは自分で行いましょうということです。
(これは教導院でも似たような指導を受けるのですが)

となると当然、炊事やら洗濯やらを自分で行う機会も巡ってきます。
家では人を使ってやらせることが当たり前だった坊ちゃん嬢ちゃんたちでも、
必要となればそれなりにはこなせるようになるものです。
無論ファミアだって例外ではありません。
――が、ある日のこと。

雲一つないのに吐いた息が凍って足元に落ちそうなくらい寒かったその日。
演習中、たまたま郷里のものによく似た野菜が自生しているのを見つけたファミアはそれを採取。
食事当番だったのをよいことに慣れ親しんだ料理を作ろうとしたのです。

塩干しにされてかちこちになっていた豚の脂身がとろけるまで煮こまれ、
そこへたっぷりと散らされた鮮やかな赤い野菜が彩りを添える、いかにも食欲をそそるシチューが出来上がりました。
ですが、それを喜んで食べたファミアの小隊は、その後の演習に参加出来ませんでした。

入っていた野菜が全て野生の唐辛子だったからです。

屋内であれば刺激成分を含んだ湯気が風に吹き散らされることもなく、事前に察知できたかもしれません。
しかし不幸にも現場は寒風吼える屋外。
そこに温かい食事となれば、なおのこと気づくより先に口へ運んでしまうものです。

味は北のものよりもだいぶマイルドでしたが、
それでも即座に喉と胃をやられてのたうち回った学友たちはその時のトラウマから赤い野菜全般を食べられなくなる有り様でした。
また、ファミアが赤いものを手にしているとそれがなんであれ恐怖からひきつけを起こす始末。

それが――忌むべき二つ名"不吉なる紅"の謂れでした。

127 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/04/15(月) 22:09:27.40 0
ファミアにしてみれば田舎で普通に食べていた料理であんな騒動になるとは思いもよらず。
(そう、加減を間違えたのではなく北ではそれが標準です)
そんなことが幼年学校時代最大のハイライト。
唐辛子なのに苦い思い出です。

「えー、と。えへへ」
曖昧な笑みでスパイシーな過去を覆い隠すのがファミアには精一杯でした。

何とか誤魔化し誤魔化し歩くうち、ようやく目的地へ着きました。
立ち並ぶ柱、伸びる階、神話の一節を伝える浮き彫り、聖印……。
巨大な建屋の目一杯を基材とした精緻で流麗な細工による芸術。
美辞麗句をいくつか連ねた程度では過言になどなりようもないその威容は、
数多の信仰を集めるルグスの神殿にふさわしいものでした。

>「でも、ちょっと待っていてくださいファミアさん。敢えて時期尚早だと言わせていただきましょう。
> 何故ならこの街にはまだ魔眼の使い手達が散っています。わたしが喚んだ仲間たちです。
> 彼らの到着を待ってから、万に一つの逆転もない盤石の態勢で、戦いに臨もうじゃないですか」
まず単純に建造物としての価値を堪能しているファミアを議長がたしなめます。

(そういえばさっきも仲間がどうとか……他にも修道院からの脱走者が?あ、その人達のリーダーだから"議長"なのか)
ようやく称号の由来が腑に収まりましたが、それはひとまず置くとして。

>「戦略的な要所を把握しておきたいです。ファミアさん、ここの地理にはお詳しいんですか?」
「詳しいとは言えません……。たしかに少し安直だったかもしれませんね、ここは目に付き過ぎます」
今から一緒に殴りに行くつもりの議長と違って、ファミアは神殿を間違いようのない待ち合わせ場所としてしか見ていません。
しかし誰でもまず目が向く場所であるなら、もちろん"追手"の目もまた同様。
ファミアはそう考えました。

「でも……お仲間の方と連絡がつかないのであればやはり動きまわるものでは……」
今日もファミアは棚の上でステップです。
連絡がつかない仲間を置いて歩きまわった結果としてここにいるのですから。

「落ち合う場所については何か――」
周囲を見渡しながら言いかけた言葉が途中で途切れ、視線が一点に固定されました。
「――地理に関しては解決できそうですね」
切れた言葉に別の言葉を接ぎつつ、ファミアはノイファへ向けて手を振りました。

【明るいところで待ち合わせ】

128 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/04/18(木) 02:56:17.62 0
視線を感じる。
困惑と、不穏の混じったざわめきも。
原因は何となく分かる。

ついさっき彼女が起こした遁走劇と――それだけではない。
身を包む魔力が投影する情報、少女が纏った黒衣――これのせいなのだろう。
かつての惨劇を想起させるような格好だ。決して快いものではないに違いない。

(……居心地が悪い。すごく……)

軍を左遷された時の、軍法会議を思い出す。
周りに誰一人として味方のいない、孤立無援の感覚。
ただひたすら終わりを待つしかない、胸が気持ち悪くなるような時間。

あの少女も、同じ気分を味わっていたのだろうか。
このヴァフティアで、ミドルゲイジで。

(そりゃ……あの子に何の非もないって訳じゃない……。けど、だからって――)

>「議長!!」

ふと広場に響く大声が、マテリアの思考を中断した。
周囲を見回す――こちらに駆け寄ってくる黒衣の一団が視界に入る。

(かかった――!)

上手く少女の仲間達に合流出来た。
このまま行動を共にして――機会を見て彼らの正体と目的を聞き出す。
それまでは変装を悟られてはいけない。受け答えは慎重に行わなくては。

幸いな事に、マテリアは議長の『眼』の事を知っている。
いざという時はそれを不調の口実に出来る。
だから、とにかく落ち着いて、あの子の声色と喋り方を再現――

「――あぁ、やっと見つけました。まったく皆して迷子になって……」

>「議長、無事だったか!この街で『ちょっと本屋に寄ります』って言ったきりはぐれてから、随分心配したぞ。
  だがまあ、こうして再会できて何よりだ。もう俺の傍を離れるんじゃあないぞ」

マテリアの演技をぶった切って、黒衣の男――ヴァンディットは彼女の背に回り込んだ。
まるで少女を盾にするように。
――掴まれた肩が、痛い。

>「議長、ヴァンディット、追手が来てる!」
>「独立守備隊に追われているんだ。議長のことを探していた。
  おそらくここも元老院の魔手を逃れられなかったのだ……とにかく追手を潰して通りを出るぞ」

元老院――その言葉がマテリアの意識を捉えたのは、ほんの一瞬だけだった。
一体何故、彼らの口から元老院の名が出てきたのか。
その疑問よりも、彼らに対する形容し難い不信感が、胸に渦巻いて止まなかった。

>「ようやく追いついた……そして探し人も見つかったようだな。
 黒装束の集団十余名、そしてその頭目の少女。……悪いようにはしない、一緒に来てもらおうか」

故に彼女は、ヴァンディット達を追ってきた守備隊に対して、完全に後手に回ってしまった。
相手は四人、既に警杖と制圧用の術式を展開されている。

正直言って――早くも殆ど『詰み』だ。
彼女の技能と才能はそもそも、こんな状況に陥らない為の物なのだから。
――僅かな希望を懸けて、背後の一団を振り返る。

129 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/04/18(木) 02:58:24.25 0
>「頼むぞ……議長の魔眼『黎明眼』ならば、人間如きキャベツの漬物のように畳んでしまえるよな……!」

「……っ」

予想していた答え――出来れば外れていて欲しかった。
彼らは自分に――この少女に頼り切っている。
こんな小さな子供の肩に、誰にも助けてもらえない孤独を、頼られる事の重圧を、預け切っている。
――あの子はずっと、こんな気分を味わってきたのだろうか。

しかし――この子達もまだ若く、或いは幼くさえある。
そして――弱かった自分と、弱い自分と、被って見える。
だから心底憎めない。腹の底の据わりが悪い。中途半端な苛立ちが胸の内側を刺している。

(……正直、事情はまったく分からないけど……一つだけ、言える事がある。こんな事は……間違ってる)

あんなに小さな子が、こんな孤独と重圧を感じなくてはならない事も。
こんなに小さな子供達が、同じ子供に頼らなくてはならない事も。
全部だ。全部、間違ってる。

(だから――何とかするんだ。まだ何も分かっていないけど、それでも、私が!)

突き詰めた話、ここでマテリアが守備隊と事を構えなくてはならない理由は、ない。
変装を解いて背後の子供達を拘束して、身分を証明すれば、事情を聞き出す事は出来る。
あの少女も、仲間を使えばおびき出せる筈だ。

けれど、それでは駄目だ。
この子供達に銃を向ける。痛い思いをさせる――そんな事は絶対におかしい。

(まずはこの場を切り抜ける……!全てはそれから――!)

前を向く。守備隊の一人が距離を詰めてきている。
残りの三人は後方で麻痺の術式を展開し、待機。
――厄介なのは後方の三人だ。

不審な動きをすれば、即座に術式を放つのだろう。
自分ではなく、後ろの子供達に。
自分が彼らなら、そうする。

意識を失った人間は重い。相手が運びやすいよう、体を動かしたりしないからだ。
麻痺も同様――三人も麻痺させれば、逃走の難易度は不可能なまでに跳ね上がる。
かと言って向こうを先に排除しようとすれば、班長の男はその隙を見逃さないだろう。

130 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/04/18(木) 03:00:09.09 0
故にマテリアは一歩前へ――そして両手を頭の後ろへ運んだ。
あの少女が取った姿勢と同じ――降伏の意思表示だ。

両手を僅かに耳に被せる――超聴覚を発動。
近づいてくる男、班長の呼吸を聞く。

人は激しく素早い運動をしようとする時、息を吐くか、止めるように出来ている。
息を吸いながらでは、力のある行動は出来ない。
上辺をどれだけ取り繕おうと、その呼吸は誤魔化せない。

班長が目前にまで接近してきた。
跳躍一つで組み付ける間合い。
後は呼吸――――息を吸った。

地を蹴り、懐深くに飛び込む。
伸ばした警杖の間合いの内側――術式も打撃も届かぬ死角へ。
姿勢は低く――後方に控える三人の隊士が自分を視認し難いように。

一瞬だ。一瞬、判断を遅らせれば――後ろ腰から魔導短砲を抜く。
そして班長の肩越しに三連射。術式は相手と同じく制圧用の麻痺術式。

変装術式を被っているから、後ろの子供達に砲身は見えないだろう。
それでも不自然な事には違いないが――やむを得ない。
相手は守備隊。白兵戦では、あちらに一日の長がある――全力で掛からなくては、自分が負ける。


【班長の体をブラインドに、まずは後ろの三人へ発砲】

131 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/04/18(木) 03:01:21.16 0
薄暗い裏路地をノイファは黙々と歩く。
職業柄からか半ば癖になった地面を擦るような歩法。
重心を安定させることで急場への即応が可能になることと、足音が小さくすむことが利点である。
教わったばかりの頃は、まるで殺し屋のような歩き方だと嘆息ばかりしていたことを思い出す。

(後ろの人たちを送り届けた後はどうしましょうかねえ)

歩幅を大きく取りながら、ノイファは思考する。
マテリアは少女を追いかけ行方が知れず、ファミアに至っては入門口へ置いてきたままだ。

(まあ、本来なら赴任の手続きをするべきなんでしょうけど……)

役所に行ったが最後、面倒かつ身動きもままならないような仕事に当てられるのが目に見えている。
あるいは誰でも良さそうな使い走りの任務で飼い殺しにされるか。
どちらにしても、黒ずくめの少女をそのままにしてというのは、精神衛生上よろしくない。

衛生上よろしくないと言えば、今居る裏路地も然りだ。
日の当たらない場所特有のすえた臭いや、ところどころに散らばったままのゴミ。
後ろから聞こえてくる苦悶の声を耳にしながら、早足になってしまうのも仕方がないことなのだ。
途中で放り投げてきた荷物の安否も、眉間に皺を刻む要因の一つだった。


>「なあ騎士さん。俺たちは、別にあのはらわた娘に危害を加えようとしたわけじゃあないんだぜ」

大通りに出たところで、背後から声をかけられた。
振り返る動作に合わせ回収した鞄が肩からずり落ちる。

「……はらわた娘?」

なんとも物騒な別称に眉をひそめながら、背負いなおした。
首を傾げ熟考。黒ローブの少女のことか。

>「だた、あのお嬢ちゃんは黒装束を着ていただろ?この街で――このヴァフティアでだ。
  帝国民で、二年前のあの事件を知らないとも思えねーし、よしんば知らなかったとしても、
  この街の人間が黒尽くめの姿を異様に警戒しているのは街を歩けばわかるはずだ」

路地裏での勢いはすっかり鳴りを潜め、三人組の一人が静かに言葉を紡ぐ。
結構な人が見受けられる大通りにも、黒い服装をしたものは居ない。
それ程、ヴァフティアにおいて黒い装束は忌み嫌われているのだ。

「黒装束の……集団、ね」

ぎり、と噛み締めた奥歯が鳴った。
"終焉の月"と関係あるかどうかは、この際後回しで構わない。
ことは最早、明確な異常として結界都市に存在しているのだ。

132 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/04/18(木) 03:02:29.41 0
>「あんた、神殿騎士だろ。
  俺たちにはこうして頼むことしかできないけど――だけど頼むよ。この街を護ってくれ」

男たちの声に力がこもる。声に交じっているのは怯えと、それよりも強い祈り。
かつん、と。靴底に伝わる感触が硬質のそれへと変わった。

>「哀しみのない明日を、望ませてくれ」

見上げれば、陽光を照り返し白く輝く太陽の象徴。
そびえたつのは、ヴァフティアを覆う結界の要たるルグス神殿。
拳を握りしめる。今、この時に、自身がヴァフティアに居ることには必ず意味がある。

「もちろんよ――」

ノイファは振り返る。
縋るような六つの眼差しを真っ向から受け止め、笑顔で返した。

「――そのために、私は帰ってきたのだもの」

握っていた拳を開き、男たちへ差し出す。
つながれた手のひらが熱を帯びる。この熱の一つ一つが"命"なのだ。
決して絶やしてはならないと冷たくなった弟の手に、水洞に沈んでいった堕天使の少年に、誓ったものだ。

「まあ、取りあえずは『哀しみのない明日』のために、その腕を治しに行きましょうか?」

満面の笑みで男の手を掴んだまま、空いてる片手の親指で神殿を指し示した。
先刻、いろいろと口汚く言ってくれたことを忘れたわけではない。

「なあに、ちょっと痛いかもしれないけれど。
 貴方のためを思ってのことなのだから我が侭言わないわよね――っと」

ふと移した視界の片隅に、見慣れた姿が飛び込んできた。
こちらに向けて手を振る小さな影。ファミアだった。
日差しが強いからだろうか官給品の外套は脱いでいる。
その代わりに、ファミアの後ろに隠れるように佇む少女が、大き目の外套ですっぽりと体を覆っていた。

「……ちょっと用事が出来たから、後は貴方たちだけで行きなさい。
 神殿騎士のアイレルの紹介って言えば悪いようにはしないと思うから。じゃあ、またね」

三人組を見送ってから、ゆっくりとファミアたちの方へ歩きだした。
一歩、また一歩と近づくにつれ、違和感が増していく。
儚げに俯く仕草や背格好が、裏路地で見た少女に似ている気がする。

「おまたせー。合流する場所を決めてなかったけど、何とかなってよかったわ。
 ところでそちらの人はどちらさま?」

ファミアの肩に手を置いて、その後ろに隠れる人物へと身を乗り出す。
相手が行動を起こした場合にファミアを引き寄せられるようにだ。

「ひょっとしてどこかで一度会ったことあるかしら……ねえ?」


【ファミアと合流。後ろの人物あやしくない?】

133 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2013/04/22(月) 00:35:32.08 0
地へと引き寄せられるかの如く加速する金属塊
それはもはやゴーレムの部品に在らず
轟音と共に落下を続けるそれはまさしく『破壊』の体現であった
人から乖離しつつある肉体ですらも、その圧倒的な破壊の前には無力に等しい

だが、それでもやらねばならない
やらなければ死ぬからだ
友人か、或いは自身の心が

故に逃げず、故に立ち止まらず
震える躰を大地へ縫い付け、最良の答えを求め。フィン=ハンプティは思考を極限まで加速させる
どう受ければ、どう動けば、どうすれば仲間を救えるか
例え得られるものが涅槃寂静程の確率であろうとも、友と己を護る為、己が機能の全てを行使せんとする


>「フィンさん!!そいつを殴れ!!」

……そんな状態であったからこそ。
スイの言葉を受けた時、思考を置き去りにして体を動かす事が出来たのであろう
黒い拳は、風でその力を削がれた金属塊を捕え――――


大地を瀑布と変えつつ――――フィンはセフィリアの命を拾う事が叶ったのを理解した

――――

>「…………ありがとう……ございます」

「気にすんな。流石にありゃあ、誰だって予想外だろ」

開口一番に礼の言葉を述べたセフィリア。足元は少々おぼつかない様に感じられるが、
それでも致命の傷は見受けられないのは幸いと言えるだろう。
そんな彼女の礼に対し、地面に胡坐をかいたフィンは左腕で右腕を抑えつつ、笑顔で気にするなと言った。
一見お気楽すぎる反応だが、それはどことなく様子のおかしいセフィリアを気遣っての事だ
暫くの間セフィリアの様子を危ぶみつつ見てきたフィンは、なんとはなしに今の彼女の様子がおかしいのを感じているのだろう。
最も、それはあくまで直感に過ぎず、フィン自身も確信を持ってどこがおかしいと判っている訳ではないのだが……

>「テンニース!頼みたいことがある!」

やがて、落ち着きをとりもどした様に見えるセフィリアは、
ゴーレムの残骸へと手を伸ばすとどこかへと連絡を始めたようだ。
それを横目に、フィンは自身の体の具合を確認する
結界といい、先の残骸への対応といい、短時間に無茶をし過ぎているという自覚はある
以前のままの自分であれば、絶命してしかるべき負荷だ
故に、自身の怪我を確認しようとしたのだが……

「怪我は……ねぇな」

驚くべき事に、細かな掠り傷や痣等を除けば、フィンの肉体に怪我らしい怪我は存在しなかった
何とはなしに袖で口元を拭えば、そこには血液が付着していたが、これも口内を切っただけの様だ
相変わらず世界はモノクロで、右腕は動かないが……至って健康そのもの
覚悟しているとはいえ、自身の肉体に起きている変化に、フィンは複雑な表情を作る

……余談ではあるが、口に溜まる程の量の血液。それを袖で拭うまで気付けなかった。
その事が指し示す一つの結論に、この時点でフィンは辿り着いていない。

134 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2013/04/22(月) 00:40:05.35 0
・・・
連絡が一段落付いたのだろう。セフィリアはフィンとスイの方へと向き直るとそう語りだした。
それは、今後の行動指針の打ち出しと、とある推測

>「2課の面々は私達に帝都来るなと頑なに言う なぜでしょうか?」
>「プライヤー課長は生きています」

「……俺はお偉いさんの機嫌を損ねたから飛ばされたのかと思ってたけど、
 確かに、ただの憂さ晴らしにしちゃあ金を賭け過ぎてる気がするんだよな」

思い出すのは、ここまでの道中で対峙した面々。
いくら問題児の集まりである遊撃一課とはいえ、『鬼』を筆頭に、憂さ晴らしで使うには過剰すぎる戦力と労力だ

「そう考えると、ボルト課長がお偉いさんが聞かれたくねぇ情報を握った、
 もしくは都合の悪い行動をしようとしたからこその措置……そう考えるのはアリかもしれねぇ」

フィンは左腕で右肩を撫でつつ、眉間に皺を寄せる

「……そんでもって、そのボルト課長が捕まってないから、助力をしかねない俺達を帝都から弾き出した、と」

冷静に、筋道立てて語るセフィリア。
彼女の話をフィンなりに判断した結果は『有り得る』というものであった
最も、それはあくまで可能性が高いという事に過ぎない上、頭脳労働の担当ではないフィンなので
明確な穴を見落としている可能性もある。
だが、それを自認しつつも、フィンは今セフィリアが述べた予測を前提として動くことを決める
課長の無事を信じたいのもあるが……何より、眼前の脅威を強大と見ておけば、自分たちの生存確率も上がるからだ。

>「課長のことです……私達が帝都をブラついていれば接触してくることでしょう
>さすがに、宿に泊まるのは危険ですので私の屋敷を拠点に課長との接触を図りましょう」

そして、セフィリアは今後の行動の為に自身の家の屋敷を使う事と、一緒に行動する事を提案した
フィンとしては、どこか危なっかしい今のセフィリアに同行するのに特に反対する理由は、無い

>「ここで私が目的地などを提示出来れば良いのですが……
>プライヤー課長が向かいそうな場所には検討がつきません どこか良い場所はないでしょうか?」

だが……次にセフィリアの口から問われた事に対し、フィンは一瞬答えを躊躇ってしまった
それは答えを持ち合わせていないからではなく、答えを持ち合わせているからこその戸惑い
言いづらそうに左手で頬をポリポリと掻いていたが……やがて、困った様な顔で口を開く

「あー……娼館街なんてどうだ?」

一瞬場に流れた気がする微妙な空気。それを察するも、フィンは困った様な表情のまま続ける

「ボルト課長、娼館街が大好きだったからな。何かしらの情報はあると思うんだよ。
 それに、あそこには昔の仕事で護衛した客も結構いるから、話も聞き易いだろうし……」

常とはうって変わって、歯切れの悪い言い方をするフィンは、
そこまで言ってからセフィリアとスイの二人を交互に見る

「……けどさ、ああいう場所に女と子供を連れて行くのって、すげー不自然だと思うんだよな
 だから、二人は酒場とか飯屋とかの基本を回って貰って、俺が娼館街を担当してもいいぜ。
 その辺りの判断は、任せる」

フィンとていい年齢だ。通い詰めた経験こそ無いものの、娼館の存在理由くらいは知っている。
であるが故、二人の判断次第ではその地点は自分だけで情報収集を担当してもいいと言う
……あくまで余談だが、身長の関係かフィンはスイの事を自分よりかなり年下だと思っている

【情報収集先として娼館街を提案】

135 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/25(木) 00:07:22.94 P
ヴァンディットは、己の砦としていた少女が踏み込むのを見ていた。
彼は拳を振り上げ、見えずとも背を押すことはできるとばかりに声援を挙げる。

「いいぞ!『極北の炎』、その全開を見せてやれ……!」

他力本願丸出しな黒衣の少年に対し、双眸と眉とを並行にして背の低い少女が言う。

「あたしは初めて見るけれど、ヴァンディット、議長がどうやって戦うか知ってるの?」

「知らん!」

ヴァンディットは議長から目を逸らさずに即答した。
仲間たちから信じられないものを見たような視線が人数分突き刺さるが、彼はそんなことはお構いなしで、

「俺もお前らと同じだ。『黒の教科書』に載っていた、あの投稿に呼ばれてここまでやってきた。
 目印に黒の装束、待ち合わせはヴァフティアと来たもんだ。すぐに只事ではないと気付いたさ」

彼は帝都に程近い小さな村で、畜羊を営む牧童だった。
ときおり魔獣退治に駆り出される程度で、賊にも狙われず、本当に平和な村であった。
ヴァンディットは、自分がこの小さな村で、派手ではないが確かな幸せを得て暮らしていくのだと、疑っていなかった。

だが――
帝都へ出稼ぎに行った者が持ち帰った本の中に、ほんの数行程度の文章があった。
それは、その雑誌の読者が趣味で書き込む、伝言掲示板のようなもの。
多くの人々にとって、価値のない戯言。

『――世界を変えてみたい人、この指止まれ』

要約するとそんな内容の文面に、彼はどうしようもなく心を惹かれた。
まるでその文字群が世界の小さな欠落で、栓を抜いた湯船のように自分の肉が渦を巻いて吸い込まれていくような錯覚を得た。
ささやかな幸せ以外は何もない村で、その他には何も知らず生きていくと信じていた自分の。
世界がひび割れを起こして、その向こうに広く透き通った『外』が広がっているようだった。

その世界を超えて、そのしあわせを捨てて、ここまで来い。そう言われていると感じた。
いざなわれた場所まで辿り着いたとき、何もない自分でも、世界を変えられるのか。
もっと大きな未知を知った時、ヴァンディットは自分が片手に握る幸せを、躊躇うことなく放り投げた。

彼は無手で村を飛び出した。
そして中継都市で、議長と出会い、仲間たちと出会った――

「議長は何か"持っている"奴だ……。俺はそれが何なのか、見届けるためにこの街へ来た。
 お前らだってそうだろう?自分にないものを他者に見て――そして、自分がそれを持てないことを辛いと感じる者達。
 呼応したのは、そういう連中のはずだ……!」

ヴァンディットの眼は、ただのヒトの眼は、異貌の少女の背中を見据えて離さない。
その小さな背中の向こうに新しい世界を捉えて、彼は言葉を零した。

「さあ、煌くが良い"世界"の片鱗――!」

眼前。議長が守備官へと疾走する。

136 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/25(木) 00:08:12.44 P
 * * * * * *

班長は、対峙した少女がこちらの懐に飛び込んできたのを認めた。
不意を突かれたのは、彼女が両腕を頭の上につけて、投降の姿勢をとったからだ。
無論、それだけで肉迫を許すような腑抜けた訓練をしている守備隊ではない。
真正面から杖をぶち当てに行った。身長差があるので救い上げるような一撃だ。
しかし当たらなかった。どういう理屈か、当たる直前で目測を誤ったかのように軌道がズレた。

(警杖の間合いの中に――、だが!)

少女の踏み込みが、こちらの構える警杖を掻い潜って腕の中へと身体を打ち込んできた。
二メートルほどの警杖は、リーチを活かした武器ゆえに、手元へ入られると弱い。
班長は、己の得物の特性を熟知している。

(懐に飛び込んで、狙うのは首か?腹か? ……そのどちらも防御を完了している!)

少女が取り回しの効きやすい短剣で近接攻撃を狙ってきたとしよう。
杖術を修めた者の基礎として、苦手な間合いへ詰められることなど想定の範囲内だ。
だから動じない。守備隊の着込む軽鎧は、密着攻撃にこそ最大の防御力を発揮するよう設計されている。

(一撃を耐え切り――そのまま捕縛する!)

既に手元のソケットを操作し、警杖は半ばで二本に分割されている。
両手に一つづつの短棒となった警杖、その双の先端に纏わせた麻痺術で、抱擁するように背中からぶち当てる。
それで終わりだ。想定内の攻撃を、班長は待つ――

(――来ない?)

瞬間、背後で音が弾けた。
首だけで後ろを見ると、控えさせていた三人の部下が術式の紫電に当てられて崩れ落ちるところだった。
三人が、同時にだ。攻性術式の属性は麻痺。射出手段は、

「魔導砲――初めから部下達が狙いか!」

少女が掲げたバレルの短い魔導砲が、きっちり三撃分の魔力煙を砲口から吐き出していた。
一拍の間があって、三人の人間が石畳に付す重い音が連続した。
あえて別の者に肉迫することで想定を踏み外した攻撃を見舞う――
恐ろしく乱戦慣れした手練の一撃が、決して弱者ではない守備官達を一瞬で沈黙させた!

「だが!逃げ場をなくしたな……!」

少女はこちらに密着している。
この態勢からどちらに身を飛ばそうとも、班長はワンステップで追いすがることが可能だ。
そして両手には制圧の光を宿した短杖がある。
左右から挟み込むように降らせれば、今度こそ全ての逃げ場を塞いで打撃できる。

(部下達が麻痺してしまったので大勢を連行することはできないが!
 首謀者一人を拘束できれば全てに帳尻が合う!
 黒装束の集団が少女と合流してから急に強気になったということは――暴力を少女に頼っている証左だからな!)

「話は詰所で聞かせてもらうぞ――!」

攻性術式効果の最も高いとされる動脈付近の首筋めがけ、仮借ない紫電のあぎとが打ち下ろされる。


【三人の部下を制圧成功。しかし班長に前方、左右の逃げ場を塞がれ警杖による打撃が来る】

137 :ユウガ ◇JryQG.Os1Y:2013/04/28(日) 21:07:23.32 0
「ふぅん。王都にねぇ。」
(こいつがターゲットか、なら。)
「悪いけど、そいつはダメだ。」
馬ゴーレムを飛び降り、そのまま爆裂式のクナイを放つ。
馬ゴーレムには、乗られて逃げられたら大変なので、防護の術式を張ってあり。
「ゴルド・ブリザン お前を殺す」
続けて、魔動銃インパルスで、連射で五発放つ。
ふつうなら、これである程度ダメージを与えられるはず
(ユウガ、ゴルドに先制攻撃。)

138 :スイ ◇nulVwXAKKU:2013/04/28(日) 21:08:42.30 0
放物線を描いて飛んでくるセフィリアと何かの物体をスイは風を発生させて受け止める。

>「…………ありがとう……ございます」

おぼつかない足取りの中セフィリアはそう言い、フィンは気にするなと笑顔で言った。
今のセフィリアからはどこか薄黒いものがスイには感じられた。と言うか散々戦場で感じてきたものだ。
憎しみ、悔しさ、何よりも最も彼女の固執する誇りを汚された憤り。
なんとなしにスイはそれらをひしひしと感じていたのだ。
それから彼女は誰かと連絡を取り始める。
フィンは自身の怪我の確認を始めたようで、スイはあっという間に手持ちぶさたになる。
ならば仲間の状況を確認しておこうと二人の姿を注視した。
セフィリアは致命傷は負っていないが、全身が掠り傷を負っている。
フィンの方はと振り返ったときに口元を袖でぬぐっていた。その袖は僅かな血によって汚れる。
不自然なところからの出血にスイは疑問を感じるが、かといって何かがわかるわけでも無いので意識の端にとどめておく事にした。
連絡が終わったセフィリアがフィンとスイの方へ向き直り口を開いた。

>「2課の面々は私達に帝都来るなと頑なに言う なぜでしょうか?」
>「プライヤー課長は生きています」
>「……俺はお偉いさんの機嫌を損ねたから飛ばされたのかと思ってたけど、
 確かに、ただの憂さ晴らしにしちゃあ金を賭け過ぎてる気がするんだよな」

彼女の口から飛び出した推測はかなり信憑性の高いものであり、フィンも思い当たる節があるのか同意する。
セフィリアが冷静に立てた筋道にフィンが所々に推測を入れつつ考えを纏める。

>「課長のことです……私達が帝都をブラついていれば接触してくることでしょう
>さすがに、宿に泊まるのは危険ですので私の屋敷を拠点に課長との接触を図りましょう」
>「ここで私が目的地などを提示出来れば良いのですが……
>プライヤー課長が向かいそうな場所には検討がつきません どこか良い場所はないでしょうか?」

居場所の提供と、情報の収集を提案したセフィリアは問いかける。
スイは腕を組んでじっと考え込み、フィンは戸惑ったような顔をして左手で頬を掻いていた。

>「あー……娼館街なんてどうだ?」

微妙な沈黙がその場に落ちるが、フィンは理由を説明する。
曰く、ボルトは娼館街にちょくちょく通っていて、同じく通っている人の中にはフィンが過去護衛した人物もいるから、と言うことだった。

>「……けどさ、ああいう場所に女と子供を連れて行くのって、すげー不自然だと思うんだよな
>だから、二人は酒場とか飯屋とかの基本を回って貰って、俺が娼館街を担当してもいいぜ。
>その辺りの判断は、任せる」

子供というのは自分のことだろうかと頭をひねりつつスイは考える。
しばらく考えたあとようやくスイは口を開いた。

「…なら俺は従士隊本拠に行こう。その娼館に行ったところで俺が何か出来るとは思えない。情報は一つでも多い方がいいだろう?」

二人を見据え、自分の考えを述べる。

「もちろん、手伝いがいるならついて行こう。」

子供と間違われたことを訂正するのは、またいつかでいいかとぼんやりと思いつつ、スイは言った。

【別行動提案、スイは従士隊本拠に行くことを希望。
 お二方のどちらかが望めばそちらについて行きます。】

139 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/29(月) 16:13:08.24 P
議長の要請に、ファミアは穏やかに首を振った。

>「詳しいとは言えません……。たしかに少し安直だったかもしれませんね、ここは目に付き過ぎます」

「ですね……。戦いの口火を切るにしても、この場所は敵の視線が多いとわたしも思います。
 多勢に囲まれないよう、壁か通路を利用したヒットアンドアウェイを検討いたしましょう」

ファミアという強力な戦術的ブレーンを加えた二人は、今一度自分たちの立つ施設を見回す。
見るからに巨大な神殿だ。柱など天を衝いていそうだし、螺旋階段が瀑布のように行き交う人を上下に抽送している。
議長は帝都の出身であるが、仮にも一国の首都たる帝都の主神であるルミニア神殿が、
お世辞にもあまり流行っているように見えないのに対し、ヴァフティアのそれは残酷なまでに絢爛だ。

「結界都市の土地柄、とでも言うんですか……。
 これだけ多くのものが混在していて、どれも中途半端な印象を受けないというのは、匠のワザを感じます」

議長の認識から少し飛躍した話をするが、強力無比な戦闘魔法である『聖術』が、
その習得人口において魔術に大きく水を空けられるのにはいくつかの理由がある。

まず、そもそもの習得が困難であること。
教導院を始めとしたあらゆる教育機関で初歩から学ぶことができ、学術として修めることもできる魔術と異なり、
聖術は修道士として神殿に就職し、神殿騎士と呼ばれる位階に到達するまで修行を重ねるところから始まる。
己の剣を神に捧げることで、初めて神の奇蹟をその手に振るうことを"学ぶ"ことが許される。
そこから更に、神と契約し聖術を使いこなすための修行が始まるのだ。

そして、習得した術の行使のため踏むべき手順が多いこと。
魔術は儀式や術式という形で総括化された命令式に魔力を通すことで、誰でも容易に発動が可能だ。
専門的に修めることで、必要な状況に応じて臨機応変に術式を組み上げ魔術を創作することもできる。

比べて聖術は聖句と呼ばれる呪文を神に捧げて奇蹟の降臨を請う必要がある。
神の奇蹟を再現する魔法のため、術者がアレンジを加えることが難しい。
奇蹟を改造するという行為そのものを神に対する不敬と捉える考え方があるからだ。
また、己の信奉する神がカバーしていない奇蹟を扱うことができない。
西方エルトラスの戦闘神官アネクドートが苦慮していた点はここにある。
例えば伝承において天から降臨する逸話のない神を奉じる神殿騎士は、『落下制御』の聖術が使えないのだ。

さらに、神の怒りに触れるような行いをするとリアル天罰を受ける……
等々、神殿騎士になるのも、神殿騎士で在り続けるのにも様々な苦労と制約を受けるのだった。
閑話休題。

「あのステンドグラスなんて素敵ですねっ!ちょっと向こうの方にも行ってみましょう」

議長は包帯をしていない方の腕でファミアの手を引き、もはや当初の目的をすっかり忘れて先へ誘った。

>「でも……お仲間の方と連絡がつかないのであればやはり動きまわるものでは……」

「でもでも、何もしないで待ってたら日が暮れる前に寝ちゃいますよ」

ファミアの尤もな諫言もテンション上げ目になった議長の耳には入らなかった。
ほぼ強引に引っ張られるようにして、二人の少女は陽光の差し込む聖堂を進む。

140 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/29(月) 16:14:11.64 P
>「落ち合う場所については何か――」

ファミアが何かを言いかけた。
不思議に思って議長が振り向くと、紫水晶の双眸が議長ではない方を見ていた。

>「――地理に関しては解決できそうですね」

誰かへ向けて手を振るファミア。
つられるようにそちらを見ると――

「ッ!?」

びくり、と身体が硬直するだけに留まったのは僥倖であった。
下手をすれば一目散に背中を向けて逃げ出し――周りに点在する神殿騎士達に捕らえられていただろうから。

>「おまたせー。合流する場所を決めてなかったけど、何とかなってよかったわ。
 ところでそちらの人はどちらさま?」

ファミアに親しげに話しかける女性。
特別背が高いというわけではないが、背筋が整っているのと纏う凛とした雰囲気が、彼女を長身に見せている。
女はファミアの肩に手を起き、身を乗り出すようにしてこちらを見てきた。

>「ひょっとしてどこかで一度会ったことあるかしら……ねえ?」

路地裏でアドバイス女と共に道を塞いできた、あの女騎士だ。
ぞぞぞ……と、議長は己の背筋を這い上がってくる寒気に身震いした。

(まさか。こんなに早く追いつかれるなんて――!)

この女。既に確信を持ってこちらに問いかけてきている。
今はファミアの肩の上でおとなしくしている右手が、いつ拳となって降ってきてもおかしくはない。

それに、女騎士とファミアの関係性が不明だ。
議長をここへ連れてきたのは他ならぬファミアだ――裏切られたのかという思いが最初に浮かぶ。
だがそれを議長は頭を振って掻き消した。ファミアとて魔眼を持つ者、神に刃を向ける者だ。
己を滅ぼすとわかっている相手に、その高すぎるリスクを承知で内応などするだろうか。
そして気づく。自分自身が、このヴァフティアに来るまで神殿騎士という存在を知らなかったことを。

(同じくこの街に始めてきたファミアさんに、この女は素性を隠して近づいた……。
 仲間と合流させて一網打尽にするために。まさに今、この場がそうであるように――!)

議長は速やかに覚悟を決めた。
何を犠牲にしても、ファミアを見殺しにするわけにはいかない。
議長にはファミアや他の仲間達をこのヴァフティアに招集した責任がある。
親元を逃げ出してきた自分にとって、最早最後に残った"家族"とも言うべき共同体の構成員だ。

「ファミアさん、逃げてください。この女は神殿騎士、わたしたち魔眼遣いを滅ぼす者……!
 わたしが時間を稼ぎます。ほんの少しですが、魔眼を全開に――その隙にあの天窓へ!」

議長が指さしたのは、遥か天上に存在するステンドグラスの天窓だ。
目測で20メートル近い高さだが、議長基準で考えるなら十分届く高さだ。
……ファミア基準でも、案外届くかもしれないが。

141 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/04/29(月) 16:15:38.88 P
議長は懐に手を入れた。
引っ張りだすのはほんのりと青く色づき透き通った水晶製の短剣だった。
指先に刃を当て、少しだけ押しこむと、ぷつりと音がして血の珠が指紋の上に乗った。
幅広の透明な刃の腹に、血の浮いた指先で線を引く。
何の術式も通していない、純粋な魔力の燐光が短剣の上で輝きはじめた。

「遺貌骸装(いぼうがいそう)――『千年樹氷』」

己の武装の名を呼んだ刹那、水晶の剣が軋むように鳴動した。
水晶――石英という鉱物は、透き通っているように見えてその実幾つもの結晶構造の集合体である。
結晶は外部に露出した際、枝のような形状をとるが、たった今、議長の掲げた短剣からその"枝"が無数に飛び出した。
枝は無軌道に見えて全てが女騎士へと殺到する!

数えきれないほどの細く鋭い枝群は、よく観察すれば躱すことが可能だが、外側から回りこむように追ってくる。
やがて逃げきれなくなり、檻のように対象を閉じ込めることだろう。
そしてそれこそが、議長の狙いであった。

(枝の一本一本は氷のように脆く、儚い……。
 だけども、破壊される際に威力を吸収するから、一度に全ての枝を破壊することは不可能なはずですっ!)

女騎士の拘束が成立すれば、千年樹氷などその場に打ち捨ててかまわない。
とっととファミアを追って逃亡すべきだ。
議長の手を離れた瞬間、遺貌骸装はただの水晶の剣に成り下がるのだから。

「さあ、ファミアさん逃げ――ぐっ!?」

振り向き、ファミアへ逃走を促そうとした議長の動きが止まった。
胸に、光が突き刺さっていた。天から落ちるように議長を磔にする光の柱は、『杭』の形状をとっていた。
聖術に詳しい者ならば判別がつくかもしれない。
議長の身体を貫いているのは、ルミニア式の永続型呪術狙撃だ。

「こんな時に……『元老院』……!!」

あ、と議長の口から声が漏れた。
それを皮切りにして、彼女の身体が鳴動の二文字を確かにしていく。

「ああああああ――――!」

右腕に巻いていた包帯が弾け飛んだ。
覆っていた内容物の急激な膨張に耐えられなくなったのだ。
黒の鎧装。それは右腕だけでなく、四肢だけでもなく、既に胴から首の上にかけてまで彼女を侵食している。

「死にたくなければ伏せてください――!!」

制御のきかない四肢が、拳を握って大理石の床へと突きを放った。
数百年の年月をかけて参拝者の靴裏に磨き上げられてきた神殿の床が、世界の終わりを思わせる響きを立てて崩壊した。
議長を中心に、すり鉢状の巨大な打撃痕が、現在進行形の破壊を伴って神殿を駆け巡る。


【議長:ファミアと共にノイファに遭遇。ファミアを逃がすため時間稼ぎに】
【謎の呪術狙撃を受けて硬直、その後例の甲殻を全身に纏って床ドン】
【「こんな時に……『元老院』……!!」】

142 :コルド・フリザン ◆ndI.L9sECM :2013/05/01(水) 16:08:58.00 0
王都に連れて行ってくれないかと頼み込んでいたコルド。
相手が馬から降りた瞬間、前職からの経験だろうか、殺気を感じ取って距離を取る。
同時に、前まで自分のいたところで爆発が起こる。どうやら武器だった様だ。

>「ゴルド・ブリザン お前を殺す」
「……殺しにくるなら、名前の情報ぐらいはちゃんとしとけよ。俺はコルド・フリザンだ。」

続けて相手の銃から五発の弾丸が放たれた。
だが、その時彼女の手は猛烈な冷気をまとっていた。
そして、その手を弾丸に向ける。その瞬間ーーーー
弾丸は凍り付いて、地に落ちた。
「危ねえな……殺しにくるなら、殺される覚悟もあって当然だよな?」

ギロリとユウガを睨みつけ、周りの温度を下げはじめる。
すると、半径50mが真冬の温度ぐらいにまでなってしまった。

「(さーて、このぐらいまで温度を下げれば人間なら動きが鈍るはずだ……)」
「(これ以上下げる事もできるが、何せ体力消耗が大きいんでな……)」

そして、先の尖った氷塊を三個ほど形成し、ユウガの方に飛ばした。

「(さて、どう出る……?)」

143 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/05/03(金) 16:22:58.92 0
ノイファが一歩近づくごとに、繋いだ手に伝わる力が強くなって来るのがはっきりと感じ取れました。
>「おまたせー。合流する場所を決めてなかったけど、何とかなってよかったわ。
> ところでそちらの人はどちらさま?」
目前に立ったノイファが肩にかけた手にも、また力がこもっています。
「えっと……」

その予期せぬ外部からの入力に戸惑い情報の出力が遅れるファミアをよそに、
ノイファはなおも身を乗り出してさらに一言。
>「ひょっとしてどこかで一度会ったことあるかしら……ねえ?」
明らかな尋問口調に釣られて後ろを振り返れば、個人メドレーをしている議長の目。

しかし、その眼球の遊泳はすぐに決意を込めた視線となって定められ、そして議長が口を開きました。
>「ファミアさん、逃げてください。この女は神殿騎士、わたしたち魔眼遣いを滅ぼす者……!
> わたしが時間を稼ぎます。ほんの少しですが、魔眼を全開に――その隙にあの天窓へ!」
「えっ、アイレルさん神殿騎士だったんですか!?」
頓狂な声とともに視線を前に戻すファミアの、その"前方"に議長の背。

ファミアの腕を引っ張って位置を入れ替えた議長は素早く一動作。
>「遺貌骸装(いぼうがいそう)――『千年樹氷』」
一声とともに何らかの術を起動しました。

「議長さん落ち着いてください!あの人は私の同僚で、決してあなたに害をなす人ではありません!」
枝葉を伸ばす氷はとりなすファミアの声すらも飲み込んで行き、既に向こう側を見通すことは不可能でした。
ノイファがやすやすと遅れを取るとはとうてい思えませんが、
かといって神殿内で一太刀浴びせてその後が無事に済むともまた思えません。

実態がどのようなものであれ、ファミアたちの身分は元老院直属という扱い。
ルグス神殿側からすれば中央の偉いさんの肝煎りがシマでやんちゃしてるように見えるでしょう。
(とにかく止めないと……誤解がすぐ解けるにしても、従士が神殿に捕縛されるなんてぜんぜん笑えないっ!)
――誤解でなかった場合、という想定はファミアの中にはありませんでした。

振り向いてなおも逃げようと口にしかけた議長に、
やはり「逃げる必要はないですから!」とファミアが言いかけたところで――
>「――ぐっ!?」
物理的な手段によってその声は切断されました。

(物理? いや、これは魔術! 一体どこから!? ……ああ、そんなことより!)
議長の胸に突き立った杭の出どころを首を巡らせて探ろうとしたファミアでしたが、
優先すべき事項があると思い直し議長の体に手をかけます。

(完全に貫通してるから横向きに寝かせる。出血が増えるから杭は抜かない。ええと、あとは……)
傷病処置の手順を脳内で反芻しながらとりあえず横臥姿勢を取らせようとするファミアの動きを、
刺さった杭の分だけ押し出されてきたような議長の声が止めました。
>「こんな時に……『元老院』……!!」

しかしその言葉の意味を問う声は、絶叫と、文字通りの絹を裂くような音にかき消されて――
>「死にたくなければ伏せてください――!!」
それから、白亜の神殿に黒い風が吹き荒れました。

144 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/05/03(金) 16:25:45.21 0
ファミアはまずころりと後転。顔のあったあたりを打撃が通り過ぎました。
それから議長の言いつけ通りに伏せた体勢を維持して次の一撃も回避。
最後に手の力だけで跳躍して真上からの鉄槌打ちを避けつつ距離を取りました。

(まずい、これは……これは本当に……!)
もう"やんちゃ"で済む事態ではありません。
そしてそれを神殿内に引き込んだのはファミアです。
しかも目撃した人間はものすごく多いでしょう。
つまり言い逃れもできません。

(か、かくなる上は不肖私めが彼女を誅せしめて贖いを……)
社会的に自分が助かる道はそれしかない。
普段絶対使わないような単語を交えつつそう決意を固めたファミアでしたが、しかし――

(でも、親族を見捨てるなんて……)
それはもうあっさりと折れました。
本来、これこそが誤解なのですが。

(ということは、殺傷せず、させず、この場を収める……)
無理難題に思わず天を仰いだファミアの目に、沈む前の最後の陽光に透けるステンドグラスが映りました。
視線を議長に戻して、それから再度天窓へ、議長を通って、最後に床へ。
(何とかなる……できる!)
どうやら策が浮かんだようです。
「アイレルさん、援護を!」

議長の背後をとるべく回りこむファミアは、氷殻を脱してきたノイファに対し列車内での戦闘時と同様に一声。
あの時と違うのは、突撃するのがファミアの方だということ。
議長は自分の周辺をくまなく殴りつけているのでどこから近寄っても大差は無さそうですが、
それでも正面は避けたいのが人情というものです。

位置を変えたファミアはそこで低い姿勢を取り、体を縮めて力を溜め込みました。
そして議長が腕を振りぬいた勢いで完全に背を晒した瞬間、全身を伸ばしてその力を開放。
床すれすれを滑るように飛翔し、床に無数に刻まれたひびの一つに転経器の石突を突き立てて強制的に速度をゼロに。
なんとか間合いのうちに入って、まずは第一段階を成功のうちに終えました。

あとは議長を抱き抱えて、一緒に天窓から外へ出るだけ。
ひびだらけとはいえ床は石造り。二人分の跳躍に必要な力にじゅうぶん耐えてくれるはずです。
ステンドグラスの大きさも、そのままぶち抜いていくのに不足はないでしょう。
あとは議長が素直に抱えられてくれるか、だけです。

まあ、離脱が成功したところでその後に全く展望が開けていないのですが、
ともあれ無関係の人間への被害を抑えることを優先しなくてはなりません。

【宇宙(そら)へ――】

145 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/05/05(日) 23:32:23.69 P
>「魔導砲――初めから部下達が狙いか!」

魔導弾は命中した。
後方に控えた三人の守備隊員が体の自由を失って、倒れ込む。
これで少なくとも、後ろの子供達を巻き込む事はなくなった。
だが――

>「だが!逃げ場をなくしたな……!」

それは眼の前の男に一手譲ったという事だ。
相手の間合いに飛び込んでおきながら、攻撃を仕掛けない。
致命的な手落ちだ。

>「話は詰所で聞かせてもらうぞ――!」

左右から分離された警杖が迫る。先端には麻痺の術式。
直撃すれば意識ごと身動きを奪われる。
避けなくては。だが何処へ逃れればいい――

(左右は無理。なら後ろ――)

も駄目だ。
後ろに向けて走る逃げ足よりも、追い足の方が速いに決まっている。
屈んで躱す――それも出来ない。。
相手の狙いは首元――マテリアが纏う議長の姿での首元だ。
実際に打撃を喰らう部位は胴体になる。避けられない。

(――だったら、せめて……!)

左腕を上げ、左方から迫る警杖――それを振り回す腕を防いだ。
だが男と女の膂力差がある。完全には受け止められない。
体が右へと揺らいで――右の一撃が直撃する。

「がっ……!ぁ……ぐ……」

麻痺の紫電が全身を駆け巡る。
筋肉が強張り、神経が痺れ、体の自由が著しく失われる。

――しかし完全にではなかった。
不完全とは言え防御を果たし、また直撃した部位も胸部――
肋骨へのダメージは深刻だが、少なくとも術式の効果は最大限ではなかった。

そして何より、身に纏った変装術式。
その魔力が僅かに麻痺の魔力を相殺、消耗させていた。
お陰で殴られた部位だけ、布が焦げ穴が開いたように、本来の姿が露出してしまったが。
後ろからは見えないだろう。問題ない。

鉛のように重い右手を上げ、砲口を守備隊長に向ける。
狙いは大雑把に腰、体の重心――そして立て続けに発砲した。
目的は相手を倒す事ではなく、避けさせる――距離を作る事。

辛うじて失神は免れたとは言え、自分にはもう素早い動きは出来ない。
これだけではただの悪足掻きだ。
相手が無理に距離を詰めてくる理由はない。きっと避けてくれるだろう。

牽制の為に砲口は相手に向けたまま、左手を口元へ。
そして酷く咳き込み、苦しげに呼吸を荒げる。
――男の声で発したそれを、隊長の後方で倒れた守備隊員達の元へ飛ばした。
彼らの声は分からないが、例え知人だろうと咳や呼吸音だけでは声の違いなど判別出来まい。

146 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/05/05(日) 23:33:05.79 P
「……お連れの方々、体調が優れないみたいですね」

左手の陰から精一杯の薄笑いを覗かせる。
いかにも「やってやったぞ」と言わんばかりの笑みを。

「私も丁度……体調良くないんですよね……。
 手足が痺れたり……肋骨とか、痛かったり……。
 何か伝染しちゃったかも……しれませんね……」

小さな呻き声、微かな咳き込み――それらを周囲に居合わせた通行人の中にも織り込む。
相手は守備隊だ。仲間を、街の人間を、守らなくてはならない。
――最悪の可能性を無視出来ない。

(正直、かなり卑怯なやり方だけど……すみませんね。
 真っ向勝負じゃ勝ち目がないんです)

左手を口から離し、後方に向けて小さく手を振る。
打ち合わせはなくとも、この状況だ。
逃げろという意志くらい伝わるだろう。
左手を口元に戻し、魔導砲での牽制も続けながら、マテリアはゆっくりと後退する。

ある程度距離が離れたら、彼女も守備隊長に背を向けて逃走を始める。
だが彼女はまだ『麻痺』の影響が抜けきっていない。そう遠くまではいけない。
自在音声でのまやかしも、いずれはただのブラフだったとバレるだろう。

「路地へ……逃げ込んで下さい。そうすれば……彼らにはもう、私達を追う術はありません」

それでも一度路地に逃げ込みさえすれば――もう一度、自在音声が活用出来る。

枝分かれした無数の道、その全てに足音を発生させる。
加えて壁を蹴る音、屋根の上での足音、破砕音を段々と遠くへ。
守備隊が議長の目撃情報を持っているなら、欺瞞の効果はより期待出来る。

「……これでもう、誰も私達を追跡出来ません」

最後の仕上げに――身に纏った魔力の織り布、変装術式。
それを脱ぎ捨て、自分の後方に広げる。垂れ幕のように。
そして何事もない、誰もいない風景を映し出した。
――先ほど開けられた穴がある事に気付き、それを一撫でして塞ぐ。

「それに邪魔も入らない――だから少し、お話しましょうよ」

147 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/05/05(日) 23:33:49.18 P
声音を戻し――魔導短砲を足元に置いた。

「先に言っておきますね。あなた達が議長と呼ぶあの女の子は、私の仲間が保護しています。
 保護ですよ、保護。傷つけるつもりはありません。
 ……それに少なくとも、私達も、元老院とは仲がいいとは言えません」

マテリアはこの子供達を打ちのめしたい訳ではない。
それは彼らとの関係が敵対的であるかどうかとは、また別の所にあるものだ。

「なので……これから幾つかの質問をしますが、これは尋問じゃありません。
 決してあの子をダシに秘密を聞き出そうだなんて事はしません。
 事が終われば、あなた達の元へ返すと約束します」

だが、その『事』が何を示し、何を以って終わりなのかは明言しない。
卑怯なやり口ではあるが、それはそれ、これはこれだ。

「私は――出来る事なら、あなた達と敵対したくないんです。
 勿論、この街を無闇に混乱に陥れるような事は許しませんけどね。
 だからフェアに行きましょう。あなた達も、私に聞きたい事があるなら、是非聞いて下さい」

無論――その全てに真実を返すとは限らないが。
やや後ろめたい気もするが、それはお互い様だと自分に言い聞かせる。

「それでは、まず……そう、あなた達は……あの議長という子は何者なんですか?
 それに何故この街へ?それもわざわざそんな格好をして。
 ……それと、あなた達と元老院の関係は?」



【勝てそうにないので逃走。路地に逃げ込み、音と視覚でごまかしをした後で子供達に質問】

148 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/07(火) 00:37:51.62 P
【→フィン <翌日> 帝都・14番ハードル娼館街】

どんな社会にも暗部と呼ばれる裏が存在するように、帝都にもまた光の届かぬ闇の領域がある。
脚光の中にある歴史の表舞台と、その影となって多くの人から知られざる裏の舞台。
そして光と影には、その二つの交わる陰陽の境界線が必ず存在する。
表社会と裏社会の交差する場所。
表の住人と裏の住人が、唯一同じ道ですれ違うことのできる場所。
風俗街である。

娼館『ブラックウィドウ』の新人ボーイ、彼は名前をランゲンフェルトと言ったが、
内勤のシフトを終えてビラ配りに出る際に、一つ珍妙な噂を耳にした。
先日、娼館街の片隅で起きた刃傷事件。
その現場を彷徨く不審な男が度々目撃されているらしい。

「風体は普通の旅人といった感じだが、裏の住人には分かる血の臭いを漂わせている」
「ときおり右腕を抑えてふらついている」
「娼館街の上客ばかりを捕まえては、"ある常連客"について質問をしている」
「その常連客とは、どうやら先日の刃傷事件の被害者のようだ」

先輩ボーイ達が外勤から帰ってきてバックヤードでおしゃべりしていた情報である。
彼らは、不審者について特に重大には捉えていないようだった。
当然といえば当然、娼館街においてその程度の血なまぐさい事件や不審者など日常茶飯事だ。

退勤後の嬢に無償で店外デートを強要しようとする者や、
出勤前の嬢に無償で同伴出勤をお願いすべく部屋まで突き止め迎えにいく者、
リップサービスを本気にして恋愛関係に持ち込もうとする者など枚挙にいとまがない。

しかし、件の不審者はそれらの狂人共とはどこかが違う。
その男は、娼館で働く娼婦達には一切目もくれず、その客である男達にばかり執着しているのだ。
なんと斬新な変態であろうか。

「ランゲン、ちょっとこれから時間作れ」

未知の不審者の存在に舌を巻いていると、事務所からチーフが顔を出して彼を呼んだ。
ランゲンフェルトはビラ配りのために羽織ろうとしていた店外活動用の上着をロッカーに戻して振り向いた。

「何でしょう、チーフ」
「上得意様のお帰りだ、ご自宅までお送りしろ。表に馬車をつけてあるから」

得意客の送迎は、娼館従業員の重要な仕事の一つだ。
特に『ブラックウィドウ』のような高級店の場合、その客層も自ずと富裕層や貴族が多くなってくる。
彼ら上流階級の社会では、自分がどこの店を贔屓にしているかを知られるのは弱みを握られたも同然だ。
そうでなくとも、単純に治安の悪い娼館街に金持ちを放り出すのは蟻の穴に角砂糖を置くようなものである。
娼館側もそれを分かっているから、お客様がお帰りの際には腕に覚えのあるスタッフに送迎を任せるのだった。
ランゲンフェルトも、入店試験の際に『どれだけ使えるか』をテストされた覚えがある。

「承知しました。支度をしてきます」

彼はボーイの制服の袷を解いた。
上等な絹のタキシードがはらりと床に落ち、彼の裸身がバックヤードの蜀灯に照らされる。
傷ひとつない背中とは裏腹に、四肢は包帯によって痛々しく重梱包されていた。

「相変らず酷い傷だな。一体何やらかしたらそうなるんだ?」

先輩が興味深げに包帯を眺めながら問うてきた。
ランゲンフェルトは、その色眼鏡に隠された双眸を伏せて答えた。

「烙印ですよ。不相応な愛を求め続けた罪の、刻印です」

 * * * * * * 

149 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/07(火) 00:38:32.94 P
 * * * * * * 

ブラックウィドウのボーイは基本業務においては支給されるタキシードに身を包むが、
送迎のような特別業務の際は私服による勤務が許可されている。
と言っても、こういった業界における文脈的な"私服"とは、上下黒の背広であるのが一般的だ。
ランゲンフェルトもその例に漏れず、いつもの黒眼鏡に、一張羅としての黒背広を着込んでいた。

「アポイント……ですか。ハルシュタット様」

送迎客に挨拶し、馬車の上座に乗せ、御者に目的地を書いた羊皮紙を渡したランゲンフェルトは、
"風呂あがり"の血色の良い上客から本日の予定を聞いた。

「ああ。少し昔になるが、民間に護衛を外注していた時期があってなあ。
 その時に世話になった若造から、今日になって急に連絡があったんじゃ」

恰幅の良い老人であるハルシュタットは、現役時代から毎週欠かさず娼館に通い続けているベテランだそうだ。
その経験に裏付けられた知識は娼館街の全ての店を網羅しているとさえ言われ、
常連客達からは生涯現役の風俗王として崇められ、あるいは相談役の長老として慕われている。

「なんでも、他の常連客のことでいくつか聞きたいことがあるから会って欲しいとか……」

「……お会いになられるので?」

「知らぬ仲ではないしのう。何度か命を救ってもらった借りもある。
 それに、前途ある若者が真っ当な道から儂ら好き者の未知へ踏み外そうとしておるんじゃ。
 ――好き者として、全力で引っ張りこんでやらんとのう?」

ハルシュタットは言って、豪快に笑った。
ランゲンフェルトはちっとも笑えなかった。

(常連客について嗅ぎまわっている男……それは件の不審者ではないのですか?)

150 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/07(火) 00:39:15.20 P
ハルシュタットは上客だ。単一の顧客としてだけではなく、常連全体に強い影響力を持つ大物だ。
その安全を預かる身としては、滅多な危険に彼を晒すわけにはいかない。
ランゲンフェルトとてそこらのチンピラに遅れを取るつもりはないが、一人で守れるものには限界があるのだ。
迷っているうちに、馬車は走り出してしまった。

「ハルシュタット様、その会談、このランゲンフェルトも同席してよろしいでしょうか」

馬車の窓から流れる景色を見ながら、ハルシュタットへ同行を申し出た。
彼が自分で雇っている護衛もいるにはいるが、ご帰宅までが娼館のカバーすべきサービスの範囲内であろう。
娼館街を駆け抜ける馬車は、やがてハルシュタットが男と待ち合わせをするポイントに辿り着いた。

果たしてそこには男がいた。
旅人のような風貌に、派手さはないが細やかな意匠を施したマントを羽織っている。
ランゲンフェルトはすぐ傍に馬車を停めるよう御者に指示し、完全に停車する前に客室から飛び降りた。

(おや――何でしょうかこの既視感は、)

馬車に乗ってこの男に近づく、という動作に妙なデジャビュを感じる。
答えは喉のところまででかかっているのだが、明確なイメージと結びつくことがない。
ともあれ、確かに不審人物ではあった。
身体の重心のバランスが妙だし、精悍な顔立ちをしているが、その目は盲人のように曇っている。
光が見えていない、ということはないのだろう。ランゲンフェルトの接近に、男は反応したようだった。

「お初にお目にかかります。
 ハルシュタット様のお供をさせていただいております私、ランゲンフェルトと申します。
 本日はハルシュタット様とのご面談をご希望とのことですが、卿の安全の確保のため、私を通してご歓談をお願い致します」

馬車の中で、ハルシュタットから聞いた名前。目の前の男の名前を口に出す。

「フィン=ハンプティ様でいらっしゃいますね。……本日はどのようなご用件でございましょうか?」


【→フィン 娼館街。常連客でフィンとも面識のある富豪・ハルシュタットにアポ取り成功】
【しかし刃傷事件を嗅ぎまわっている不審者と思われているため、娼館の新人ボーイ・ランゲンフェルトが仲立ち】

151 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/05/10(金) 14:50:02.68 0
(……どうやら"当たり"のようですねえ)

慌てて息を呑みこむ動作。逃げ場を探して四方を廻る視線。
少女の一挙動を見つめたまま、ノイファの表情から弛みが消える。
ファミアの背後で縮こまる少女は間違いなく路地裏で見たそれだ。

既に疑惑は確信へと変わっている。
ならば、今最も危ういのは背を向けているファミアだ。

「ファミアちゃん――」

肩に置いた手に力を込める。
引きずり倒してでもファミアを彼女から離さなければならない。

>「ファミアさん、逃げてください。この女は神殿騎士、わたしたち魔眼遣いを滅ぼす者……!
  わたしが時間を稼ぎます。ほんの少しですが、魔眼を全開に――その隙にあの天窓へ!」

しかし、ノイファの懸念は全く外れることとなる。
少女はファミアを害そうとはせず、むしろ一直線にノイファを狙って行動を起こした。

「――っ、その若さで随分と戦い慣れてるじゃない!」

少女が懐から短剣を取り出す。鋼鉄ではない青く透き通った刃が陽光に煌めく。
斬撃か刺突か、どちらにせよ一目で呪術的な意味合いが強いと判る代物の間合いに居座るのは得策ではない。
ひとまずファミアを諦め、飛び退きざまに魔力を練り上げる。

>「遺貌骸装(いぼうがいそう)――『千年樹氷』」

水晶の刃が振るわれたのは、少女自身の指先。
ただその一動作だけで、青白い光を発し短剣が爆ぜた。

「……これはちょっと手間だわねえ」

口端を吊り上げながら、ノイファはひとりごちる。
身廊を覆い尽くすように伸びた無数の枝刃。それがまるで爆ぜたかのように見えた光の正体だった。
放射状に伸びた枝の一本一本が、空中で一斉に向きを変え、ノイファ目掛け殺到する。

「時間差による包囲攻撃か、大したものね。だけど――」

ノイファの指が、右目を隠す前髪をかき分ける。
指の動きに追随するように、爛々と光る右眼から紅い粒子が零れ、空中に線を残した。

「――そんな大雑把な攻撃じゃあ、私は捕えられないわよ」

真正面を見据えたまま、ノイファは後ろへと倒れるように体を傾ける。

152 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/05/10(金) 14:51:26.63 0
直後、真上から降ってきた刃が目の前を通過して床へ突き刺さった。
一歩、二歩と、続けざまに降ってくる刃を躱しながら後方へ跳躍。這うような姿勢で着地。
放たれた矢のように、一転して前方へ駆け出す。

「よっ、と」

歩幅に合わせて迫る左右からの刺突を、長椅子の背に飛び乗ってやり過ごす。
そのまま椅子の上を足掛かりに、さらに前へ。

(くっ……もう、ですか)

ずきり、と右眼が悲鳴をあげた。のめりそうになる体を奮い立たせ、推進に変換。
眼のさらに奥。脳髄が灼け尽くようなこの痛みは『未来視』の処理限界が近いことを知らせる警鐘だ。
思いのほか早く訪れる限界に舌打ち。

無理もない。すでに数十を超える"先の世界"を視ているのだから。
こちらの動きを追尾し無尽に軌道を変える剣枝は、想像していた以上に眼への負担が激しい。

「だけれど、ここで無様な姿を晒すわけには……いかないのよねえ!」

三度空中に身を躍らせながら、ノイファは吼える。
神を祀る聖堂で神殿騎士が敵に膝を屈するわけにはいかない。

硝子が割れるような澄んだ破砕音と、飛び散る結晶の欠片。
その悉くをかき分けて少女との間合いを詰める。
彼我の距離は残り僅か。数秒後に迫る五本の枝を凌ぎきれれば、刃圏の内だ。

「これで!捉え――」

前後左右、更には上からの同時攻撃を床を転がり回避。
零れた血涙が空中に散り、ブーツの靴底が床を擦る。

「――なっ!?」

既に腰元に伸びていた腕は、しかし剣の柄を叩くだけに終わる。
無数の剣枝が奏でる鈴の音のような葉鳴りが、一斉に止まった。
目の前に広がる光景に認識がついて行かず、ノイファは無防備に立ち竦む。

>「こんな時に……『元老院』……!!」

昆虫標本。
最初に思い浮かんだ感想はまさにそれだった。
苦しそうに声を絞り出す少女は、その身を光の杭で貫かれていた。

153 :ノイファ ◆QxbUHuH.OE :2013/05/10(金) 14:52:33.59 0
(ルミニアの攻性聖術。いったい何処から……)

ノイファは周囲に視線を巡らせる。
少女を縫い止める光は、月神の信徒が操る聖術に間違いなかった。
ルミニア信仰が盛んな帝都で同様の術を見たことがある。

狙撃者の姿は見当たらない。
もっとも、視界の殆どは縦横に伸びた『千年樹氷』が占めているのだから当然ともいえた。

>「ああああああ――――!」

少女の口から漏れていた弱々しい苦悶が、力の篭った叫びに取って代わった。
声に呼応し引き起こされるのは、路地裏で見た変容の再現。
右腕が、四肢が、全身が、内から膨れ上がり真っ黒い甲殻に侵食されていく。

>「死にたくなければ伏せてください――!!」

絶叫に混ざる警告は誰へ対するものなのか、顕現した"魔"は黒い暴風を床へと撃ちつける。
激しい鳴動を伴い大理石が粉砕され、穿たれた破壊の痕跡が放射状に奔る。

「冗談でしょ――!」

声を荒げながらノイファは駆けた。
ばらばらに引き裂かれた長椅子が宙を舞い、聖人ラウル・ラジーノの討伐行が描かれた壁画が無残に崩れ落ちる。
間断なく繰り返される振動に足を取られながら、飛来する瓦礫を抜刀し斬り払う。
額に浮かんだ汗の粒が動きに合わせて空中に散った。

>「アイレルさん、援護を!」

地獄の様相を呈する神殿の中、いまだ暴れ狂う少女を挟んで向こう側で、ファミアが叫んだ。
あの破壊の最中どうやら無事だったらしい。背後から接近し何事か策を講じる様子だ。

「もうこっちも限界なのだけど……、なあんて言ってられないわよねえ!」

震える足に活を入れ、抜き身の白刀を掴み真正面から間合いを詰める。
闇雲に振るわれる鉄槌の如き腕は、まともに喰らえば一巻の終わりだ。
しかし、攻撃圏内に身を晒さなければ陽動は勤まらない。

(真っ向から受け流しつつ、体も崩す。途方もない要求ですねえ)

振りかぶられる豪腕に合わせて、ノイファは上段に構えた刀を峰に返す。
振り下ろされる拳打の上から斬撃を被せる。狙いは腕そのもの。勢いを乗せ、軌道を逸らし、無人の空間を振り抜かせる。
いかに人知を超えた力を振るおうとも、人体を土台としている以上その可動には限度がある。
一度乱れた体勢は次の拳を遅らせ、二の打ちが遅れればその分受け流しが容易になる。

「それじゃあ、後はお願い」

四度目の拳を受け流し、ノイファは後方に跳ぶ。
入れ替わるように少女の背後にファミアが滑り込んだ。
おそらくファミアは、その剛力をもって少女を神殿の外に投げ飛ばす心算だろう。

魔族化した少女を外に出すのは些か危険とも思えるが、望むところでもあった。
日の光が射す空の下は、ルグスの神官にとって本領を発揮できる場所でもあるのだから。


【まさか一緒に飛んで行くとは思ってもいない模様】

154 :ユウガ ◇JryQG.Os1Y:2013/05/12(日) 00:53:25.76 0
>>弾丸は、凍り付いて、地に落ちた。
「危ねぇな……殺しにくるなら、殺される覚悟もあって当然だよな?」
「まぁ、出来るなら、やってみ………ほう。凍気か。」

あっという間に、周りが真冬並の寒さになった。
おそらく、あのコルドとかいう奴の仕業だろう。
「こんなので、動きを鈍らせるだと? 笑止!」
ただ、ユウガも、機密情報部の人間。
体の鍛え方が、普通の人間とは、違う
氷塊を、通常温度と、同じようにさっと避ける。
(さて、どう行くか。アイツには殺すなとか言われたし
まぁ、格闘で仕留めるしかないか)

先ほどの、爆裂式のクナイを牽制代わりにし、
「貰った。」
コルドの、首元を、若干本気の回し蹴りで、蹴る。
(最低でも、動きが鈍れ、最高できせつ、だったらいいな。)

155 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/12(日) 13:13:26.08 P
【→セフィリア・スイ <翌日> 帝都・3番ハードル従士隊本拠】

帝都王立従士隊がその本拠を構える3番ハードルは、その他の官公庁も密集する実質的な合同庁舎となっている。
1番ハードル、帝都最奥部に聳える天帝城が立法の中心地だとすれば、3番ハードルは司法と行政の要だ。
中でも司法機関の要衝たる従士隊本拠は、しかしその重要性に見合わぬ小規模さで街の片隅に鎮座していた。
僅か一軒家四棟程度の平屋。それが従士隊本拠に与えられた敷地である。

と言っても、このちっぽけな小屋の中に従士隊の全てが入っているわけではない。
少し専門的な話になるが、帝都を網羅している転移術式網――SPINの恩恵を最大に受けているのだ。
本拠内にはいくつかの仕切りに隔てられたSPINの"駅"があり、各部署の者達は与えられた符牒を使ってそこに入る。
"駅"は、市内に広く点在する各部署の宿舎を含む拠点へと繋がっているのだ。
すなわち、本拠は各部署の拠点とを繋ぐターミナルの役割を果たす。
実質的に距離を無視して行き来できるSPINによって、本拠と"駅"を通すだけで無限の敷地拡張が可能なのである。

そんなわけで、必然的に土地代の高い中心部のハードルでは小さな建屋をつくり、
そこからSPINで一瞬で行き来できる先に広大な土地と建物を用意するのが、帝都における箱モノの定石となっていた。

話は戻るがその小さな小さな従士隊本拠には、一つだけそこを拠点とする部署がある。
それは最近増設されたばかりの課で、人数も少なく、新たにSPINを開設する予算も与えられなかった部署。
遊撃課だ。

「…………うぅ」

帳簿に万年筆を走らせていた通信官が、ついにプレッシャーに耐えかねてうめき声を挙げた。
フィア=フィラデル通信官――遊撃課と他のセクションを取り持つ、遊撃課唯一の事務員である。
管理職であるボルトを除けば、遊撃課が与えられる仕事はほぼ全てにおいて実働任務だ。
しかし組織が人間の集まりであり、その職務に少なくない金銭が絡む以上、どうしても必要になるものがある。
書類と、それを扱う事務員だ。

例えば軍隊においては、戦闘を行う兵士の約五倍の人数が、後方支援や兵站輸送などで動員される。
官庁においてもそれは同じで、前線で実動員が存分に力を発揮するために必要なものが、いわゆる書類仕事なのだ。
書類仕事と一口に言っても、その業務は多岐にわたる。
課員から上がってくる主語不在の報告書を、きちんと誰が読んでも分かりやすいようにまとめ直す仕事があり。
人格破綻者どもが現場でまき散らした副次被害の補填や、経費の使途を明確にして管理部門へ請求する仕事があり。
――殉職した課員の出向元への説明や、遺族へ書く手紙なども、最終的な清書は事務員が行う。

遊撃課は、基本的に任務のある度招集される形で実働に向かうため、いわゆる勤怠管理からは開放されている。
つまりは事務所に赴く必要がない。必然的に、事務員と顔を合わせる機会がない。
フィラデル通信官は、書類上の名前とぼんやりとした念画でしか、己の同僚を知ることはなかった。

だが――今本拠で茶をしばいている"遊撃課"が、彼女の『同僚』ではないことを、フィラデルは知っていた。
この帝都において、『遊撃一課』と『二課』の違いを判断できる、本当に極わずかの人間だった。

 * * * * * *

156 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/12(日) 13:14:27.64 P
(なんでこの人達、我が家みたいな自然さでここに居座っているのよぅ……)

フィラデルはいつもとかわらぬ涼しい顔で報告書を書いている体で、上目遣いにちらりと応接間を見た。
五人の余所者が、そこで紅茶のカップを囲みながら談笑している。
ついこの前まで六人だったが、全身甲冑の奇人がどこかへ行ったらしく、今は五人だ。

「その後のフォローは万全かね、ゴスペリウス君」

従士服の女が扇状に差し出したトランプから一枚を引きながら、長身の男が声を放った。
埃ひとつついていない純白の軍服、黒髪をオールバックにした頭の上には、少女型の小さな彫刻を置いている。
帝国軍二等帝尉、ゴーレム乗りにして護国十戦鬼に数えられる、リッカー=バレンシアだ。

「拙僧確認しますに、委細良好です。あの"人間難民"が、帝都を出る際に仲間を募ったのは予想外でしたが……。
 概ね問題はありません。かわりなく、拙僧の大陸間弾道呪術『白鏡』は対象を捕捉しています。
 今は昼ですが、目に見えない薄さで月もまた天に存在するものですから」

答えたのは紫の法衣に身を包む、ルミニア神殿の戦闘司祭・ゴスペリウスだ。
線の細い体躯を誤魔化すようにぶかぶかの法衣を着ており、手元で何をしているのかわからないのが恐怖。
ときどき法衣の中で何かが暴れているのは本当に何を飼っているんだろうか。

甲冑男がいなくなったいま、見た目からして奇特なのはこの二人であった。
一課の方の遊撃課も、負けず劣らずの奇人集団だと関係各所からの苦情やボルトの愚痴で聞き及んでいるが……。

(見た目からして奇抜なのは反則よね……!)

そして、応接間に居座る集団の末席にいる少女に、フィラデルは見覚えがあった。
大剣を脇に立てかけ、応接椅子に身体を深く沈み込ませるようにして体操座りをしている彼女は、
他の連中の会話にもババ抜きにも参加せず、膝を抱えて俯いていた。

("剣鬼"フランベルジェ=スティレット……遊撃一課の課員ね)

彼女はこの応接間に居る人間の中で唯一、遊撃一課から二課へと配置換えを行った課員だ。
では――と、フィラデルは思い至る。
では、他の課員達は一体どこへ行ったのか?
どうして、遊撃二課とか言う聞いたこともない連中が、この事務所に我が物顔で居座っている?

フィラデル通信官は、遊撃一課がいまどこで何をしているのか、知らなかった。
ボルトが失踪して以来、リフレクティアが元老院からの下命を持ってくることもなくて。
束の間の定時帰りを満喫していた矢先に、遊撃二課が現れたのだ。
今回の任務の詳細は、彼女には知らされていなかった。
課員それぞれに直接下された任務であるために、遊撃課という部署を通していないからだ。

(みんなどこへ行ったの……一体この街でいま、何が起こってるの……?)

と、そこへ事務所のドアに設置された郵便受けがカタリと鳴った。他のセクションからの書類だ。
どうやら昨日の警報――帝都外縁に侵入した賊の"処理"の結果が回ってきたようだ。
フィラデルは落ち着かない足取りで郵便受けから書類を抜き取り、自分のデスクでそれを開けた。
長ったらしい前文や、官庁独特の迂遠な言い回しを取り除いて、要約することには――

157 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/12(日) 13:15:14.22 P
【報告・昨日一五三五時発生の外縁侵入者について】

結果:撃墜:遊撃二課・スティレット課員
   詳細は下記添付念画参照

昨日慌てて出て行ったのはこれか、とフィラデルは一人で納得する。
二枚目には、迎撃班が現地で確認した賊の残骸などが念画として収められている。
フィラデルはページをめくって、

「――――!!」

息を呑んだ。
念画に写っていたのは、地盤ごと陥没したようなクレーターに、乙種のゴーレムの破壊されたあとだった。
四肢は砕け散り、胴体部はひしゃげ、脱出機構と一体になった操縦基はぐしゃぐしゃになっている。
これでは中の人は助かるまいと、見ただけで判断できるほどに。

そして、ひしゃげてはいても、人目でそれとわかるものが一つある。
戦闘用ゴーレムが個体識別のために装甲に描く、パーソナルマークだ。
それは純粋な軍用のものとは違い、騎士団が使うような、家紋にも似たデザイン重視の印。
フィラデルはそのマークに覚えがあった。

――遊撃一課の課員、セフィリア・ガルブレイズのパーソナルマークだ。

撃墜したのはスティレットで。
撃墜されたのは、彼女が妹のように可愛がっていた後輩、セフィリアだった。

フィラデルは思わず席を立った。
表でトランプをやっていた遊撃二課の連中が、何事かとこちらを注視する。
五対の双眸に射抜かれて、その中にスティレットの感情を思わせない眼があって、フィラデルは真綿で首を締める音を出した。

「……!」

視線から逃れるように、フィラデルは事務所から飛び出す。
駆け、まろび、事務靴のヒールが砕け、ひどく不恰好な姿になりながらも、太陽の下へ走った。

(どうして……どうしてあの人たち、あんな眼ができるの……!!)

従士隊本拠を抜け、三番ハードルの街中を走り、人混みの中を泳ぐようにしてかき分ける。
魔導飾灯の林立する石畳を駆け抜け、国内有数の高層建築の隙間を縫うように行く。
とにかくあそこにいたくなかった。少しでも遠ざかっていたかった。

158 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/12(日) 13:16:17.18 P
人混みを泳ぐようにして。
泳いで。

(…………え?)

気付けばフィラデルは、本当に泳いでいた。
脚が浮いて、口からは絶え間なく白い泡が登っている。
周囲の人々が悲鳴を挙げ、奇異の眼でこちらをみてくる。
もがく手には確かな水の抵抗があり、風景が薄膜一つかぶせたみたいに遠くなる。

彼女は水の中にいた。
それも、池や川に飛び込んだのではない。往来の真ん中で、全身が水に浸かっているのだ。
当事者であるフィラデルには気づくよしもないが、球状に浮いた巨大な水の中に、彼女は囚われていた。
呼吸ができなくて、頭は一瞬でパニックになる。

「汝さあー」

水の向こうから、こちらへ向けて放たれる言葉がある。
酸素を欲してますます過熱する頭にも、その声が誰のものであるか判断する理性は残されていた。

(遊撃二課……ハンターズギルド百人長、"水使い"のフウ……!)

「汝なんで逃げ出したの。別に汝を自由にさせてたところで何ができるわけでもないとは思うんだけどさあー。
 目の前で逃げ出す奴がいたら反射的に掴まえちゃうだろ、ハンター的に考えて」

男とも女とも知れぬ中性的な風貌に、軽鎧を纏った平服。
帝都に本拠を置く何でも屋集団、ハンターの中でも指折りの実力者で、無論のこと遺才使いだ。
『彼』は、召喚した巨大な水球にフィラデルを封じ込めて、その表面をつるりと撫でた。

「でもなあー。吾たちのこと詳しく知ってる奴に、あんま外出歩かれるのも芳しくないってリッカー言ってたもんなあ。
 遊撃一課もまだナードを殺った連中が三人くらい残ってるし……連絡とられたら厄介だよなああああああ?」

げら――とフウは引きつけを起こしたように笑った。

「げら、げら、げら。殺っとく大義名分ゲェーーーット!
 しょうがないよね!?情報流されたら困るもんね!?ここで殺っとかないと将来困るもんね!?
 これは言わば未来への投資――!今日のぶっコロが、明日の吾をプッシュする!
 今日殺れることは明日に回しちゃ駄目だ!殺るべきこと殺ってからご就寝!」

フウの哄笑が往来に響き渡る。
このままあと一分も水球を維持し続ければ、なんの手も下すことなくフィラデルは溺れ死ぬだろう。
フウは殺る気だ。

「最善の明日はッ!今日を頑張った奴にしか訪れねえんだよおおおお――!!」


【→スイ、セフィリア 時系列:帝都について翌日、従士隊本拠を訪れるべく三番ハードルを訪ねたところから】
【遊撃一課唯一の事務員・フィア=フィラデル通信官が水使いフウの攻撃をうけて溺れ死寸前】
【フィラデルと遊撃課員は直接の面識はないか、面接で会った程度。ただし、お互いに存在は知っています】 

159 :セフィリア ◇LGH1NVF4LA:2013/05/15(水) 20:48:11.23 0
やあ、久し振りだね
さて、前回はどこまで話したか……
ああ、セフィリアが課長を探しに行こかという話だったね
どこにいくか?
彼女の疑問にたいして答えたのはまあ、予想通りフィンだった

>「あー……娼館街なんてどうだ?」

セフィリアの表情が一瞬、凍りついた
先程までの笑顔のまま固まったんだ
周りの空気まで凍らせるには十分だったよ

「……さすがに私とスイさんが行くべき場所ではないですね
しかし、ハンプティさんもあえてそういう場所を提示するということは
それなりに根拠があるのでしょう……」

言葉に薔薇程度の刺を含ませて、フィンへと送り返した
フィンは悪く無いと俺からもひと言添えておくよ
むしろ婦女子を前によくぞ言ったと褒めてあげたいね

「……しかたありません
私とスイさんは他に可能性がありそうな
そうですね、従士隊本部などはどうでしょう
課長なら近辺で情報収集しているかもしれません」

ここでこんなを提案するあたり、セフィリアの図太さが出ているようである
大胆というか蛮勇というか……けっして勇気があるとは言えない行動ではある
幸いにしてスイが乗ってくれたからよかったものの……
とんだモストデンジャラスコンビだぜ

「……まあ、詳細は私の屋敷で詰めましょう
こんなところで話すのも気分が悪いです」

まさに吐き捨てるように言いやがった
珍しく本気で嫌がっていやがる
自分が負けた場所に居続けるというのも嫌な気分だろうさ

SPINで移動しセフィリアの個人宅へと向かうことにした
晩餐と言える席で作戦会議を行い、結局ふた手にわかれることにした
出てきた料理はセフィリアにしてはごく質素なものだった
他2人がどう思ったかは俺の知ったことじゃないがな

夜、皆が寝静まったころ、回収されたサムエルソンのそばに立っている人影
もちろん我が愛しのセフィリア様だ
一晩中後悔に苛まれる姿はそれはもう痛々しかった

次の日、ゆっくりと起床した
日が高くなったころ本部がある3番テーブルへと向かった
それはそうだろうある程度人通りがないとなんの意味もない
人っ子一人いないところを歩いていては襲って下さいと言っているようなものだ
とんだ張り切りガールのいっちょ上がり、そんな愚かなまねはさすがにしなかった

陽の光と行き交う人々の熱気で3番テーブルはほどよい陽気といったところだ
ウィンドウショッピングや観光には最適だ
帝都の官公庁を見学する素振りを見せながら町中を練り歩くスイとセフィリア

このまま、観光して終われるならよかったのに
そうはイカの塩辛というもんだ

160 :セフィリア ◇LGH1NVF4LA:2013/05/15(水) 20:48:41.83 0
突如弾ける悲鳴、逃げ惑う民衆
どこに向かえばいいか、セフィリアは知っていた
人が走る逆に向かえばいい、そこにこのトラブルの原因がある
しかし、それは間違いだ
ここで目立つようなことをするのは馬鹿だ
大人しく周りに合わせて逃げればいい
トラブルの解決、今回の目的にほんのちょっぴりも関係ない
だが……

「スイさん!行きましょう!」

逆に走りだすのがセフィリアである
こういう根本で振れない彼女は俺は非常に好意的に感じてる

まあ、結果的に言うとそれが一番正しい選択だったってのはこいつらにとっては
幸運だったんだろうね

>「最善の明日はッ!今日を頑張った奴にしか訪れねえんだよおおおお――!!」

現場に到着した2人の目に飛び込んできたのはかなりはっちゃけた魔術師だ
人一人飲み込んでるでっかい水球もあるからそういうことなんだろう

地下で威張り腐った奴みたいな事言うね
こういう奴ははっきり言って嫌いだね
品性がない……

「あのひとは確か……フィラデルさん……」

見知った顔である
このまま見捨てることはできない
まあ、この場所にきたということはそんなつもりなんてまったくないんだけどな

「スイさん!すぐに水球を吹き飛ばして下さい
私は……」

腰にぶら下げたふた振りの宝刀を抜き……

「魔術師の首を狙います!」

町中で凶事を働くような奴、喋り方までクレイジーな輩
切ってしまっても構わないだろう

剣士が魔術師を圧倒する方法は先制攻撃で一撃で仕留める
これしかないだろう
まあ、セフィリア自身も様子見の一撃だろう

踏み込み自体は殺る気満々、鋭い
いままでよりも殺すことに迷いがない踏み込みだ

【フウの首筋を狙い踏み込み駆ける、必殺の一撃を放つ スイへは水球をどうにかして欲しいと依頼】

161 :スイ ◇nulVwXAKKU:2013/05/19(日) 18:51:27.76 0
話し合いの結果、スイとセフィリアは従士隊本部へと、フィンは娼館街へと調査に赴くことに決定した。
翌日。
人々の行き交う間を縫って、セフィリアとスイは従士隊本拠へ向かう。
この人混みであれば、誰も己達の顔を注視してみようなどという酔狂な輩はいないであろう。
そういう判断の下で二人は行っていたのだが、やはり順調にいくことは出来なかった。

唐突に上がる悲鳴、加速する人の動き。
その現象に対するセフィリアの動きは速かった。

>「スイさん!行きましょう!」

弾かれるように駆けだしたセフィリアにスイは慌ててついて行く。
この騒ぎは恐らく今自分たちが為そうとしていることに関係が無い可能性が高い。
それだというのにセフィリアには躊躇いというものが無かった。
正義感からなのか、それともその異常な誇りの高さ故なのか。
どちらともわからぬまま、二人は騒ぎの中心地にたどり着く。
そこには余りにも奇妙な光景が広がっていた。
僅かに浮いた水球の中で藻掻く人物、そしてその傍でけたたましい笑い声を上げながら立つ、中性的な人物。

>「あのひとは確か……フィラデルさん……」
「…お、本当だ。」

水球の中の人物を認めたセフィリアが言った名前に、スイは合点がいった。
成る程、どこかで見たかと思えば、従士隊唯一の通信官の名前だ。
さすがに知っている人物の命が危機にさらされているといえば、このまま知らぬふりをして退却するなどあり得ないことだろう。

>「スイさん!すぐに水球を吹き飛ばして下さい
>私は……」
>「魔術師の首を狙います!」

素早く両腰にある剣を抜刀しセフィリアはそう言い残して魔術師へと襲いかかる。

「了解!!」

スイも素早く水球の元へ駆け寄り、少しだけ水に触れた。
魔術師の意識がセフィリアに向いているおかげか、スイが水に飲み込まれることは無い。
それを確認してから、スイはフィラデルの手首を掴んだ。

「体を丸めろ、受け身を取れ!」

フィラデルにそう言い渡してから、右足を一歩引き、足を踏ん張らせる。
水も風も互いに流動体であるから、それなりに相性は悪い。
だが今は四の五の言っている状況下では無い。
ぐ、とフィラデルの手を引くのと同時に、爆発的に風を発生させた。
風で壁のようなものを生成し、水は通れないようにしてからフィラデルの体を引き抜こうとした。

162 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/20(月) 01:02:42.00 P
【→マテリア ヴァフティア:噴水広場】


班長の放った挟み撃ちの双撃が、議長と呼ばれた少女の背中を襲う。
既に付与済みの麻痺術式は、雷撃術を応用し対象の運動神経に打撃を与えて動けなくするもの。
随意動作を封じる一方で、意識ははっきりしているので、尋問に適した魔術である。

(多少痛みはあるだろうが――悪く思うな!)

双杖を突き立てる。
紫電が大気を叩く音が、柏手のように響き渡った。

>「がっ……!ぁ……ぐ……」

少女の悲鳴。
それも絹を裂くような可愛らしいものではなく、紫電によって強制的に収縮した肺から漏れる低い音だ。
横隔膜が一気に強張り、肺の中の空気を全て押し出す。

制圧はこれで完了だ。
洗練された帝国式の麻痺術を直撃で受けて、動ける者など例を見ない。

「――――おお!?」

しかし、目の前の少女は確かに動いた。
右腕。そこに平時のような柔軟性はなく、肩から繋がる一本の棒のように掲げられる。
その先には、先ほど後ろの部下達を倒したあの魔導砲があった。
引き金が、震える指先で複数回引かれた。
内部で激発用の機構が動き、ハンマーの先端に据えられた小型のオーブが砲塔に術式を運ぶ。
一拍置いて、こちらへ向けて構えられた砲口に光が満ちた。

「……くっ!」

慌てて飛び退くと、極彩色の弾頭魔力が班長の前髪を灼き、空を横断していった。
それで終わりではない。
二発目、三発目が次々と虚空を駆け抜け、その度に班長はバックステップを余儀なくされた。

「麻痺術が完全ではなかったのか……!?」

よく見れば、術をぶち当てた部分に焦げ付きが起きている。
衣服に穴が空いたかと思えば、そうではない。焦げたのは少女の身体を覆う薄膜だ。
魔力で作り出した膜で自身を包む魔法――防護か変装の魔術だ。
おそらく前者。麻痺術式がそちらに先に干渉し、少女本体への導通が滞ったのだ。

「ならば、もう一度当てて麻痺を確実とするのみだ……!!」

短杖は二本とも健在だ。
既に動きを鈍らせつつある議長へ再度近づいて二発目を当てることなど班長には容易い。
だが、彼が即座に追撃を踏み出すことはできなかった。
音が聞こえたのだ。

(――咳の音?)

男の、噎せ苦しむ声だ。
無論、戦闘中にその程度のことに意識を割く必要などないが――
議長が。黒装束のあの少女が、地面に伏してなお、こちらを見ている。
してやったりといった笑みをたたえて……!!

163 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/20(月) 01:03:39.61 P
>「……お連れの方々、体調が優れないみたいですね」

振り向く。
部下達は倒れ伏したまま動かない。
しかし、確かに咳の音は彼らから聞こえた。

>「私も丁度……体調良くないんですよね……。手足が痺れたり……肋骨とか、痛かったり……。
  何か伝染しちゃったかも……しれませんね……」

また。咳の声が来た。
今度は彼らの大捕り物を見物していた通行人達の、どこかから、確かに。
そして少女が呟いた言葉の意味。

「まさか。伝染型の呪詛か――!?」

呪詛。
魔術や聖術、符術などと並ぶ『魔法』のカテゴリの一つ、"呪術"の一種だ。
大陸で最も普及している魔術と異なり、呪術は極めてニッチな起源を持つ魔法体系だ。
特にその中でも『呪詛』と呼ばれる技術は、その目的から民間人が修めることを帝国法で禁じられている。

目的とは、"他者への災厄喚起"。
呪詛は何らかの物質を媒介にして、何らかの災厄を引き起こす魔法だ。
魔術に比べまったく洗練されておらず、発動へのプロセスは不明瞭な点が多く効率も悪い。

だが、強力だ。
他人を害するという目的においてならば、どんなに研究を重ねられた魔術でも話しにならないほどに強烈だ。
ひとたび発動すれば、もはや止めることは叶わず対症療法的な手段でしか抵抗のしようがないのだから。

タニングラードで騒動を引き起こした『零時回廊』も、とどのつまりは強力な呪詛を媒介する呪物である。
呪詛を媒介する物質は実に多様で――最も多く用いられるのは空気や水のようなありふれたものだ。
何を隠そうこのヴァフティアにおいて二年前起きた事件も、炊き出しの水を媒介に使った大規模呪詛だった。
もしこの黒装束の少女が、『大気』を媒介にする呪詛を使ったとしたら……!

「貴様――!!」

班長は、"二年前"を知っている。
この街がどういう危難に晒され、何を失って、それを取り戻すために必死に頑張ってきたかを知っている。
単純に、許せないと思った。
しかし、それ以上に街の人々の身を案じる心があった。
携行念信器をとり、本部に繋いで声を立てる。

「こちら市街警備八班! 噴水広場にて対象"黒装束"の頭目が伝染型の呪詛と思しき魔法を使用!
 既に通行人に何人か被害が出ている!至急交通封鎖と応援人員の派遣を願う!
 こちらは被疑者の確保を――!」

班長が顔を上げたとき、既に少女はこちらに背を向けて路地裏へ逃げこむ最中だった。

「咳や喉の痛みを感じる者はいるか!?少しでも体調に異変を感じたら守備隊に申し出てくれ!」

地面で伸びている部下達を蹴って起こし、班長は少女を追って路地へ飛び込んだ。
ヴァフティアは路地の街だ。
大通りを基礎として無数に伸びる枝葉のような路地は、この街特有の複雑さを持っている。
少女の姿を見失った班長は、僅かに聞こえる足音や破砕音を頼りに、手探りで前へ進むしかなかった。

 * * * * * *

164 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/20(月) 01:04:33.80 P
 * * * * * *

>「……これでもう、誰も私達を追跡出来ません」

『議長』に促されるようにして路地へと逃げ込んだ黒装束の集団。
彼らは自分たちが議長と呼んでいた少女の姿が、掛布を剥がすように変わっていくのを見た。

「誰、この女……!?」

黒装束のうち、幼い娘が率直な感想を漏らした。
そこに居たのは、地味目な議長とは似ても似つかない派手な容姿をした女性だったからだ。

>「先に言っておきますね。あなた達が議長と呼ぶあの女の子は、私の仲間が保護しています。

言葉に、黒装束の集団が色めき立つ。
安心ではない。"保護"という言葉に剣呑さを感じたのだ。

>「なので……これから幾つかの質問をしますが、これは尋問じゃありません。
>「私は――出来る事なら、あなた達と敵対したくないんです。
>「それでは、まず……そう、あなた達は……あの議長という子は何者なんですか?

矢継ぎ早に飛んでくる質問に、黒装束達は混乱した。
何故なら、彼らの殆どは、議長からとくに何も聞かされていなかったのだ。
唯一、ヴァンディットだけは、最年長ということもあって色々と相談を受けていたようだが、
肝心の彼は腕を組み両目を閉じて黙って女性の話を聞くだけだった。

「ヴァンディット」

仲間の少女の問いに、ヴァンディットは閉ざしていた双眸を開いた。

「ああ、わかっている。俺とてここまで来てだんまりを決め込むつもりはない。
 だがな、一つ言わせてもらおうか、議長」

黒装束が全員共通サイズのため、一人だけ丈が短すぎる彼は、
議長だった女に向かって人差し指をつきつけ、言った。

「俺たちは混乱している。いいか、一つ、これだけは理解してもらいたい。
 "知らない土地で仲間とはぐれて、ようやく再会したと思ったら中身が十歳も年をとっていた。"
 ―― 一体なにがあった?どんな呪詛を受けたら十年分も年老いるというんだ?」

ヴァンディットは、目の前にいる女が己の探していた"議長"だと信じて疑わなかった。
何故なら彼らにとって、誰かが議長に成り代わる理由を探すほうが難しいからだ。
元老院の手によるものであれば、成り代わりなんて迂遠なことなどせず、皆殺しにしてしまう方が楽で早い。
わざわざ変装術まで用意して、若作りまでして、ヴァンディット達に接触した理由が分からない。

165 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/20(月) 01:05:31.17 P
「だが、質問に質問で答える間抜けな俺ではない。
 それはそれとして議長のクエスチョンに対するアンサーを行おうじゃないか。
 あんたが俺たちの知る議長で、しかし一気に年を食ったせいで記憶にボケがあるという体でな」

ヴァンディットは懐から刃物を取り出した。
短剣のようにも見えるが、柄の部分が筒状になっていて、棒を差し込むことができる形状になっている。
槍の穂先だ。それも十字槍――帝国の治金術ではまだまだ高価な代物だ。

「おっと、身構えなくても良い。別にこれであんたをどうこうしようってわけじゃない。
 こいつは議長、あんたにもらったものだ。遺貌骸装『遠き福音』……まだ半適合だがな」

ヴァンディットは懐から更に伸長術式つきの儀礼杖を取り出して、穂先を取り付けた。
術式によって自動化されたソケットが、ひとりでに目釘を杖につきたて穂先を固定。
彼は手応えを確かめるように狭い路地の中で二三度槍を振った。壁にぶつかり、金属音が木霊する。
瞬間、十字槍が淡く輝き、路地の上を飛び回っていた烏が空中で何かにぶつかったかのように停止し、落ちてきた。

「『遠き福音』……この槍が立てる音を聞いた者は、『この槍に向かって進めなくなる』。
 辿りつけない場所から響く福音を、地に伏して耳にする不信心者のようにな。
 ことほど左様に、遺貌骸装の性質は、魔導具というよりかは呪物に近い」

烏は脳震盪を起こしていたようだが、復帰するとすぐに飛び去っていった。
どうやら進行を阻害するのは音を聞いた一瞬のみのようだ。

「この"遺貌骸装"……言ってみればこいつは『武器の魔族化』だそうだな。
 詳しい原理は知らんが、構成している鉄の一部を魔族の血液に置き換えているらしい。
 ヒトが魔族の血を以て遺才を使うように、武器が遺才を持つ……そんな代物だ」

槍から穂先をはずし、懐に再びしまうと、ヴァンディットは女性を見た。

「俺たちは、議長の呼びかけに呼応した者達。この遺貌骸装を、この街にもたらしに来た者。
 『人間難民』――というのが、議長の名付けた俺たちの集まりの名前だな。
 議長がこの遺貌骸装をヴァフティアに持ってきて何をしようとしているか、俺たちは知らない。
 俺たちが知っているのはここまでだ。さあ、次はこっちの質問に答えてもらおう」

一つ、意図的に説明を省いたことがある。
彼ら――ひいては議長と元老院との関係だ。
あいてにとっての不明要素は残しておく。交渉事のセオリーの一つだ。
仲間の少女が不安そうな顔をしてこちらを見るのに頷き、ヴァンディットは問う。

「議長でないなら、あんたは一体何者だ。わざわざ議長に成りすましていた理由は一体?」


【守備隊班長を捲くことに成功!】
【路地裏で黒装束の集団『人間難民』と邂逅】
【"遺貌骸装"と呼ばれる特殊な武装を見せられる→重要キーワード『武器の魔族化』】

166 :コルド ◇ndI.L9sECM:2013/05/20(月) 23:25:43.64 P
>>154
>「こんなので、動きを鈍らせるだと?笑止!」
普通と変わりなく動き、氷塊をたやすく避けるユウガ。
その素早い身のこなしに、コルドは少し感心する。
「……へー。アンタ中々やるじゃねーか。」
「これじゃー、冷やす必要はないねー。(疲れるしな。)」
そう言って周りの温度を元に戻した。
>「貰った。」
「ん?」
ドカッ!
突然、ユウガの回し蹴りが飛んで来た。
「くっ……」
回し蹴りに対応しきれず、若干食らって体勢を崩す。
「……俺に一撃食らわすたァ、やるねェ、アンタ……だが、甘いッ!」

態勢を崩した拍子にユウガに向けていた背中から、突然太い氷柱を生やした。これでダメージを狙うつもりだろう。
「(これをよけられた奴はいないが……なにせこの身体能力、避けられるかもな……)」

167 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2013/05/26(日) 01:41:35.01 0
あらゆる味方を平等に守るという事は
守る相手を一人の人間として見ていないという事で、
突き詰めて言えば、味方でさえあればそれがどんな下種であろうと守るという事でもある

仮にそんな生き方をする人間がいるとすれば、その人物はきっと鎧の様な人なのだろう
誰かの傷を引き受ける事。それのみを自己の存在意義と位置付け、ただそれのみの為に生きる。
使用者(なかま)がどのような人間であるかは問わず、モノの様にひたすら傷つき、最後には壊れ捨てられる
それこそが、仲間を平等に守る人間に求められる素養なのだから

……だが、それでも。そんな不毛な生き方にも残す物はある
どれだけ歪んでいようと、間違っていようと
その時、その生き方によって守る事が出来た命は、確かに在るのだ

――――

セフィリア、スイの二人と別れた後、フィンは早々に事件現場の捜査を開始した。
だが、しかし……捜査当初の感触は、お世辞にも芳しいとは言えないものであった
通りを歩く客である男達に(商売女はフィンが客でないと知るとそっぽを向いた)声をかけ、
以前に護衛をした事のある店の従業員にも話を聞きに行ったりしたものの、結果はなしのつぶて
情報収集は、開始直後から早々に行き詰まりを見せていた
このまま何の成果も無く二人の元に戻る事になるのでは……フィンがそう思い若干の焦りを覚えていたその時

運良く―――或いは運悪く。
フィンの呼びかけに耳を貸してくれる人物が見つかった
ハルシュタット……恰幅のいいその老人は、フィンが民間護衛会社に勤めていた頃に、
何度か護衛の任務を請け負った相手である。
当時のフィンの過剰なまでの自己犠牲を隠さない勤務態度は顧客に得体の知れぬ不安感を与えてしまい、
結果、良くて数度の付き合いで顧客が離れていく事が多かったのだが、
このハルシュタット翁は顧客達の中でも例外的に、フィンを贔屓にしてくれていた客であった
余程懐が広い人物であるのか、あるいは人を使い捨てる事に感慨を抱かない世界の住人であるのか
それはフィンには知る由も無いが……とにかく、この巡り合いを逃さぬよう、
情報収集に焦るフィンは、早々にアポイントを取り付ける事と成った。

……

168 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2013/05/26(日) 01:42:14.40 0
待ち合わせ場所は、娼館街の一角にある薬屋の前であった
娼婦や客である男性向けの薬を扱うその店の前に所在なく佇むフィンはいかにも怪しげであり、
通常の街であれば従士隊が駆けつけてきそうなものであるが……ここは娼館街
怪しい人物など掃いて捨てる程居る、帝都の影の部分
そうであるが為、フィンを気に掛ける様なもの好きは居なかった

ハルシュタットを待つ間、薬屋の外壁に書かれた落書きを眺めていたフィンであったが、
その視線は響いてきた馬蹄の音によって強制的に移動する事となる
見えてきたのは、悪目立ちせずそれでいて判る者には一角の人物が乗っている事を知らせる高価な造りの馬車
残念ながら色を解せない今のフィンにはその造りの良さは理解出来ないが、
それでも真っ直ぐにフィンの立つ方向へと向かってきた事で、フィンはその馬車が待ち人のものであると察する

(……っ。馬車が近づいてくると、轢かれたのを思い出して凄ぇ嫌な感じがするぜ)

かつて馬車の突進によって半死半生の状態へ叩き込まれた事を思い出し、眉間に皺をよせ半歩後ずさるフィン
そんなフィンの動きに対応するかの様に馬車の客室から飛び降りてきたのは、一人の男
上下の黒背広を羽織ったその男は、丁寧な動作で口上を述べた

「お初にお目にかかります。
 ハルシュタット様のお供をさせていただいております私、ランゲンフェルトと申します。
 本日はハルシュタット様とのご面談をご希望とのことですが、卿の安全の確保のため、私を通してご歓談をお願い致します」

「俺はフィン=ハンプティだ。宜しく頼……む?」

挨拶を返し男の顔を見たフィンは、そこで湧き上がる違和感に首を傾げる
眼前に立つ、ランゲンフェルトと名乗った男。
フィンは……どうも眼前の男に見覚えがある様な気がしたのだ
だが、どうも思い出せない。果たして、自分の意識が朦朧とした……それこそ、夢現の間に遭ったかの様な曖昧な既視感。
痛みの無い筈の腕が痛みを訴えるかの様な感覚を覚えたフィンは、結局思い出す事を放棄した
どれだけ頑張ろうと、思い出せないものは思い出せないし、それに今優先すべき事でもない様に感じたからだ
そんなフィンに、ランゲンフェルトは問いかけを放つ。怪しんでいるという態度を見え隠れさせながら

「フィン=ハンプティ様でいらっしゃいますね。……本日はどのようなご用件でございましょうか?」

「できればハルシュタットさんと直接話させて欲しいんだけどな……まあ、いいか。
 ひょっとしたら、ランゲンさんが俺の知りてぇ事を知ってるかもしれねぇし」

警戒を隠さないランゲンフェルトに対し、フィンは困った様に髪を掻くと、一度大きく息を吐いた。
そして眼前の男の眼を、その色を認識できない瞳で真っ直ぐに見据える

「俺は――――ハルシュタットさんにある人の情報を聞きたいんだ。その人は、この街の常連だった筈の人で」
「名前は、ボルト。ボルト=フライヤー」
「ついこの間、この街で失踪したって言われてる人だ」

放たれたフィンの言葉は、ただの直球
裏の世界の住人の様式美である腹芸や化かし合い。そういった要素の一切ないただの言葉。
……情報を扱う事に関してのプロであるマテリア辺りがこの切り出しを聞けば、稚拙さに失笑するかもしれない
それほどまでに、裏表のない単純な切り出し
当然といえるだろう。
フィンはマテリア程に情報操作に特化していなければ、ノイファの様に人心掌握に長けてもおらず
ファミアの様なある種のカリスマも持ち合わせていないし、クローディアの様な計算力もない
だから、こうして端的に問う事しか出来ないのである

「もし、ハルシュタットさんとランゲンさんがその人について何か知ってるなら――――教えてください。お願いします」

だが、その直球は軽くない。
頭を下げるフィンの言葉は、少なくとも以前の英雄の仮面を被っていたフィンでは決して放つ事のないであろう重みを持っている
生半可な気持ちで騙して利用すれば、食い破られそうな。それ程の覚悟が込められている

【フィン→ボルトの事で何か知らないか直球で聞く】

169 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/26(日) 14:17:45.76 P
議長は、再び魔性の姿へと変貌しつつも、心だけはヒトの理性を保っていた。
この体躯は抑制が効かない。
操られているのではなく、まるで一つの身体に二つの魂が同居しているかのようで。
その"ふたつめ"の魂は、言わば物心もつかない幼子だ。
ただ感情と、そして好奇心だけで深淵へと踏み込もうとする愚者だ。
振りかざした拳が、議長の意思の一切の介在を許さず、ファミアへと振るわれる!

(逃げて――!)

最早喉さえも自由には動かず、声にならない叫びは肺腑で止って出てこない。
ファミアの、この街で初めて出来たただ一人の理解者の、小さな頭はこの槌撃に耐えられないだろう。
潰してしまう。叩き潰してしまう――。

「……ッ!!」

打ち降ろされた拳は、しかし空を切り、床を更に無残に打ち砕くのみに終わった。
ファミアが躱したのだ。さながら後退するエビのような挙動で、皮一枚掠めて彼女は退避を成功させた。
常軌を逸した動作。それでいて正確な位置どりとタイミング。流石は魔眼遣いと言わざるを得ない。
しかし感心している場合ではなかった。

黒に染まった四肢は未だ健在で、爆裂しそうな威力をその甲殻の内に秘めている。
振って、翳せば、這いまわる蟻と獣の如き質量差を持ってここにいる全ての人を血に染めるだろう。
――無論、それを黙って受け入れるほど、ヴァフティアの者達は腑抜けていない。

女神殿騎士、ノイファと呼ばれた彼女がこちらへと踏み込んできていた。
千年樹氷による囲いを食らったはずだ。千本を数える樹氷の檻をどうやって脱出したというのか。
見れば、檻は一切破壊されずただ空を囲っていた。

いかなる手段を用いたのか、ノイファは千を数えるほどの追尾性のある枝から逃げ切ったのだ。
それこそ、未来でも見えない限り不可能な業。議長の驚愕をよそに、不随意の豪腕がノイファへ振るわれる。
その側面に銀の閃きがあったかと思うと、正確にノイファの頭を吹っ飛ばすはずだった腕が、明後日の虚空を抉った。

「!?」

己のものではない意思が、不可解に疑問を持って呻く。
議長も同感だったが、彼女に唯一許された視覚が、起きた現象を理解した。

(剣の峰を……滑らせるようにして!)

原理としては至極単純。
向かってくる豪腕の側面に、峰を返した長剣を引っ掛けるようにしてぶつけたのだ。
ノイファの扱う剣は、刃元から鋒へ向かって緩やかな弧を描いている。
これは斬撃の際に円弧の軌道をとることで刃と対象との摩擦力を局所集中する狙いのものだが――

(円弧の刃側が威力を集中させる作用を持つということは――峰側は"威力を分散させる"!)

高いところから飛び降りた場合、平地よりも斜面に着地した方が衝撃が少ないのと同じ理屈だ。
例えばゴーレムの装甲なども、砲撃の威力を逃がすために傾斜をつけてある。
平面に対し垂直にぶつかれば威力はタテ一方向のみに伝わり、反作用も大きくなるが、
傾斜にぶつかればタテ・ヨコの二方向。当然威力も二分の一……!!

さらにはノイファはその巧みな剣捌きにより、峰をレールとして議長の拳を滑走させた。
まともに受ければヒトの身体など血煙に変わる威力と重さを、"受ける"のではなく"流す"ことで防ぎきった!
峰を当てる箇所、タイミングから足運びまで、どれ一つ欠けても彼女は生存していないだろう。
ノイファはその賭けに勝利した。軌道を変えられた拳に引っ張られるように、議長の態勢が崩れる。

170 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/26(日) 14:18:30.24 P
>「それじゃあ、後はお願い」

その声は誰に向けてのものだろうか。
応じるように、無防備となった議長の胴体へ衝撃が来た。
眼だけを動かして下を見れば、

(ファミアさん……!?)

ファミアがこちらの腹のあたりにしがみついていた。
逃げてと言ったのに。彼女は未だここへ居て、そして議長を羽交い絞めにしようとしている。
身体の動きがとまった。万力の如く胴を締め付けられている。

(まさか――)

ビシ……!と、大理石の床を蜘蛛の巣のようにヒビが覆った。
起点となったのは、ファミアの両足。屈み、バネとして力を蓄えた彼女の対の靴。

刹那。
大理石の四散と激音を追い風に、ファミアは全ての膂力を解き放った。
議長を抱えながら、直上へ向けて大跳躍。
空気抵抗の壁を突破し、吹き抜けの天井まで20メートルはあろうかという空間を一瞬で貫き、なお止まらない。

目の前に天井のステンドグラスが迫ってきて――ぶつかる、と思うより速く――それを突き破った。
ヴァフティア開闢より二百年近く、補修と術式加護を繰り返しながら歴史を刻んできた、
霊験あらたかな工芸美術の粋が、たったひとりの少女の跳躍によっていとも簡単に粉砕した。

(まさか――ファミアさん、わたしと一緒に逃げるつもりで……!)

議長はファミアに逃げろと言った。自分が時間を稼ぐから、その隙に一人で逃げろと言った。
しかし、ファミアは残った。残って議長を連れて逃げた。――連れて行ってくれた。
仲間を見捨てて逃げることを、ファミアは良しとしなかったのだ!

(ああ、わたしは良い仲間を持ちました――!)

171 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/26(日) 14:19:22.30 P
天窓を突き破って、彼女たちはヴァフティアで一番高い場所で風に包まれていた。
空は夕映えに赤く、大辻を中心とした街の俯瞰が地平線のあたりまで続いている。
横殴りの陽光が、議長を照らす――その胸に突き立った杭を、少しずつ溶かすようにして砕いていく。
ルミニア式聖術は月神の奇蹟再現。
故に、日の当たらない場所では強力だが、太陽の下ではルグスの加護とぶつかり、負ける。

だが完全ではない。
杭は少しだけ砕けたが、大部分が議長の胸に刺さっている。
月は太陽よりも下位の光源だが、いま杭として顕現しているのは聖術として練り上げられた力だ。
ただ陽の光に当てただけでは、その散漫な光の力だけでは、全てを砕くには遠い。
それでも、議長は己の意思で喋るだけの主導権は取り戻した。

「……だ、駄目です!今は太陽の光に当たっていますけれど、
 このまま市街に落ちたら――これだけ傾いた陽は、建物に邪魔されて路地に入って来ません!
 そうなったら、再び月の術が上位に立ってしまいます!」

ヴァフティアは路地によって構成された街だ。
中央広場や大通りならまだしも、この街の大部分である路地はこの時間帯、日がほとんど差さない。
日陰に入ってしまえば、月光の杭は力を取り戻し、今度こそ取り返しのつかない破壊を繰り広げるだろう。
議長の覚悟は、本人も驚くぐらい、速やかに決まった。

「ファミアさん……今度こそ、お別れです。
 いまがお昼ならまだ助かる術もありましたが……ここまで日が暮れてしまってはもうだめです。
 じきに街へと墜ちて、今度こそわたしは前後不覚の化物へと成り下がります」

既に彼女達は重力の見えざる手に絡め取られ、ゆるやかな自由落下へとフェーズを移行しつつあった。

「わたしとて、無用な破壊は望みません。だから、わたし自身の責任を以て"けじめ"をつけます。
 だけど……醜い有様を、あなたにだけは、見せたくありません。どうかここで別れてください」

議長は、自分と同じくらいか、下手すれば年下にも見えるファミアの頬を撫でた。
この紫の瞳の少女の"真名"は、ついぞ知ることもなかったが、今となってはそれで良いのかもしれない。
別れがつらくなる。

「さあ、行ってください……最後にあなたのように心優しい『人間』に出会えて良かった……!!」

神殿の上部、尖塔の側面を滑るように落ちていく二人の人影のうち、片方――議長の方が先に建物の影に重なった。
瞬間、月光の杭が力を取り戻し、黒の甲殻が破壊の光をその内部に満たし始める……!
議長の意識は、そこで途絶えた。

172 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/05/26(日) 14:20:05.97 P
 * * * * * *

大聖堂の床と天窓に甚大な被害を受けたルグス神殿であったが、
意外にも怪我人などの人的被害は軽微に済んだ。
ここは神殿。手練の聖術使いたち、ルグスの神殿騎士の総本山だ。
特にルグス式の聖術は防御に特化しており、早い段階から防性結界"聖域"の奇蹟再現が各所にて展開していた。

「なんだったんだ、今のは……!」
「床が!ステンドグラスが!二百年の歴史がぁ!」
「お、おい今の女の子、術式もなしに真上に跳んでいったぞ、本当に人間か……!?」

破壊の余波が止み、聖域を解除した神殿騎士たちが一般客の避難誘導や状況検分に駆けつけてきた。
大理石の磨き上げられた床は今やクレーターのようにくぼみ、破られたステンドグラスの残骸がいびつな色を降らせている。
天窓の向こうには、夕暮れの空と染まった雲が流れていた。

「報告――!大聖堂にて発生した敵性存在の位置を確認!現在ここ大聖堂の真上20メートル地点!
 このまま自由落下にて落ちてきます。予想落下地点は――大ルグス像!」

大ルグス像は、ルグス神殿の入り口近くに立っている大神像のことだ。
豊穣の象徴として麦を掲げたポーズで立っており、不作の年などは"あてつけか"とばかりに石をぶつけられる。
長年にわたってそういう歴史を歩んできたので、表面には海綿のように穴が空いて鳥が住んでいる。

"議長"と呼ばれた魔族と、彼女を外に連れ出したファミアが十数秒後に到達する地点がそこだった。


【議長→ファミアと共にヴァフティア上空へ。直射日光に当たって陽に弱いルミニア杭が若干劣化。
    ただし聖術として組まれた杭とただの日光ではやっぱり聖術の方が強い。
    このまま夕暮れ時の市街地に墜ちれば日陰になるので今度こそ魔族化完了】

173 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/05/29(水) 02:13:50.56 0
>「それじゃあ、後はお願い」
「……はい!」
後事を託されたファミアは、期待に背を押され夕暮れの空へ飛び出しました。
そして――
(――全力過ぎた)
途方に暮れていました。

なにせ体のあちこちが肥大、変性した議長を抱えてですから力加減がわかりません。
じゃあとりあえず全力で、と思って跳んでみればステンドグラスどころか音の壁すら破りかねない勢い。
自己評価が根拠なく高いのは困ったものですが、不当に低いのもまた考えものですね。

終わりかけている今日を偲ぶかのような真っ赤な陽光を受けて、議長の胸の杭はぼろぼろと崩れていきます。
タニングラードで"迎撃"されかけたトラウマから下ばかり見ているファミアは気づいていませんでしたが。
大きい街に来たら、そこを空から見なければいけない決まりでもあるのでしょうか。

>「……だ、駄目です!今は太陽の光に当たっていますけれど、
> このまま市街に落ちたら――これだけ傾いた陽は、建物に邪魔されて路地に入って来ません!
> そうなったら、再び月の術が上位に立ってしまいます!」
(月の術……ルミニアの攻性術式!)

議長の叫びにようやく術式の正体に合点がいったファミア。
何か対策はないかと頭を捻ってみますが、どうも芳しい答えは得られません。
議長の言どおり、まず日当たりの悪さが上げられます。
さらに、これから日が落ちて月が出ればなお術の力は増すばかり。

>「ファミアさん……今度こそ、お別れです。
> いまがお昼ならまだ助かる術もありましたが……ここまで日が暮れてしまってはもうだめです。
> じきに街へと墜ちて、今度こそわたしは前後不覚の化物へと成り下がります」
(たしかにこの時刻ではもう……いや、太陽神の神殿なら必ず……でも間に合うか……)

そんなふうに音と火花と煙を立てて脳を全速回転させ始めたファミアの頬に手が添えられました。
>「さあ、行ってください……最後にあなたのように心優しい『人間』に出会えて良かった……!!」
その言葉とともに手は胸元へ降りてきて、そしてそこで運動の方向を変えました。
議長の前方、まだ残る陽光の中へとファミアを押し出すように。

ファミアが思わず議長の顔を"見上げ"ると、その向こうには天窓が。
さらにその奥には――。

174 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/05/29(水) 02:19:44.84 0
ファミアは突き出された手をとっさに掴んで自らを影の中へ引き戻します。
行けと言われて行くわけにはいきません(声に出すと辛い文です)。
なぜか。

どう考えても逃亡者扱いされるからです。
神殿を破壊した怪物と一緒に外へ出て、怪物だけ戻ってくる。
こういう場合、普通は戻って来なかった者が最も疑われますね。

というわけでファミアはさらに議長の腕を手繰り寄せ、ラ・マヒストラルを繰り出しました。
本人の意志に反して暴れだそうとする議長をどうにか制御し、天窓へ。

その窓はより多くの陽光を採り込むべく他よりもだいぶ大きく作られていて、
またそのままの光の色を通すため無色のガラスが使われています。
それを粉碎して光の雨と化さしめながらファミア達は再度の参拝。

そして議長を固めたまま――大ルグス像の頭部に叩っ込みました。

像は長い歴史の歩みの中でそうとう脆くなっていて、議長はたやすく埋まります。
そこから抜け出すまでのほんの少しの間でしょうが、動きを止めておけるかもしれません。
ルグス像の肩口に降り立ったファミアはそこから流星の如く飛翔、床へと降り立ちました。
神殿騎士が怪我人の救護に手を取られているのを幸い、神殿内を目指すものの元へ駈け出します。

向かう先には――鏡。
太陽神信仰とは切り離せない神具です。
これもまたルグス像に陽光を当てるためにいくつか据えられているものでした。
魔導灯や松明ではないところに、「偽物の光なんぞ浴びてられるか!」
とでも言いたげなルグスのこだわりを感じますね。

ファミアは一抱えもあるそれをむしり取るなり跳躍。
新たにステンドグラスを粉砕して二百年の歴史のページをまた一つ破り捨てて神殿の屋根へ。
ルグス像の上まで駆け戻ると鏡をかざして光を頭上から(もう頭はないけれど)当てました。

しかし――
(たぶん、これだけじゃ足りない……)
鏡で送り込めるのは、先ほど杭を溶かしきれなかった陽光の、さらに何分の一かでしかない光です。
もう一手、決定的な何かが必要でした。

【レフ板係】

175 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/05/31(金) 00:42:10.47 0
>「ああ、わかっている。俺とてここまで来てだんまりを決め込むつもりはない。
  だがな、一つ言わせてもらおうか、議長」

「あぁ……すみません、言い忘れてましたね。私は……」

>「俺たちは混乱している。いいか、一つ、これだけは理解してもらいたい。
 "知らない土地で仲間とはぐれて、ようやく再会したと思ったら中身が十歳も年をとっていた。"
 ―― 一体なにがあった?どんな呪詛を受けたら十年分も年老いるというんだ?」

名乗りを紡ごうとしていたマテリアの口が、ぽかんと開いたまま固まった。
そう捉えられるとは予想外だった。

「いや、あの、私は……」

>「だが、質問に質問で答える間抜けな俺ではない。
 それはそれとして議長のクエスチョンに対するアンサーを行おうじゃないか。
 あんたが俺たちの知る議長で、しかし一気に年を食ったせいで記憶にボケがあるという体でな」

そう言いながら――ヴァンディットと呼ばれた青年は、懐から刃物を取り出した。
咄嗟に右手を口元へ、左手を耳に添える。
この狭い路地は音を武器にするには適した地形だ。
もし彼が刃物をマテリアへ突き出しても、その切先が届くまでに、音は何百回と路地を反復出来る。
音を耳孔に打ち込むには十分過ぎる試行回数だ。
束ねた音なら静かに、痛みもなく、三半規管だけを殴りつけて彼を無力化出来る――

「おっと、身構えなくても良い。別にこれであんたをどうこうしようってわけじゃない。
 こいつは議長、あんたにもらったものだ。遺貌骸装『遠き福音』……まだ半適合だがな」

「……いぼう、がいそう……?」 

聞いた事のない名称だ。
刃物――十字型の槍の穂先に柄を装着するヴァンディットの所作を、マテリアはじっと見ていた。
彼は出来上がった槍を無造作に振るう。
壁に衝突した穂先が軽やかな金属音を奏で――マテリアの眼の前に鳥が一羽、落ちてきた。

「……鳥?なんで、いきなり……?」

>「『遠き福音』……この槍が立てる音を聞いた者は、『この槍に向かって進めなくなる』。
  辿りつけない場所から響く福音を、地に伏して耳にする不信心者のようにな。
  ことほど左様に、遺貌骸装の性質は、魔導具というよりかは呪物に近い」

マテリアは黙したまま、考え込む。
遺貌骸装――興味深い物だ。だが、あくまで『興味深い』止まり。
使い方次第では強力な兵器としても使えそうだが、決して特別な物には見えない――

>「この"遺貌骸装"……言ってみればこいつは『武器の魔族化』だそうだな。
  詳しい原理は知らんが、構成している鉄の一部を魔族の血液に置き換えているらしい。
  ヒトが魔族の血を以て遺才を使うように、武器が遺才を持つ……そんな代物だ」

「はっ……?な、ちょ、今なんて!?」

思わず声を荒げて聞き直してしまった。
武器の魔族化だなんて、聞いた事がない。
急速に思考が加速する。

魔族化――という事は、あの武器には生命が宿っているのだろうか。
一昔前、人造人間――ホムンクルスの生成に成功したと発表した錬金術師がいた。
だが実際に学会に提出されたのは、単に死肉を用いたゴーレムだった。
いかに魔法が万能でも、人為的に命を創り出すなんて事は、人には出来ない。
それは『奇跡』の領分だ。

176 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/05/31(金) 00:43:16.68 0
ならば、この遺貌骸装はどうやって作られたのか。
魔族の血に置き換えるという事は、元となる血が必要なのだろうか。
また、それを任意に指定出来るのか。
そして、もし、これが量産出来たとしたら――

(――恐ろしい、兵器になる。私達よりも大量に調達出来て、扱いやすい兵器に……。
 まさか、私達がお払い箱を食らったのは……)

まだそうと決まった訳ではないが―― 一つの可能性が、浮かんできた。

(……もし、そうだとしても……私達をああも強引に左遷する理由にはならない。
 より優れた代役が出来たからと、正規のやり方で良かった筈……。
 それに栄転小隊なんて花形部隊を作る必要も……。まだ……まだ何かがあるんだ……)

彼――バンディットは議長から遺貌骸装を託されたと言っていた。
あの子はこれの製法を知っているのだろうか。
だとしたら――その確保の為、或いは漏洩防止の為、元老院があの子に熱を上げていても納得出来る。

>「俺たちは、議長の呼びかけに呼応した者達。この遺貌骸装を、この街にもたらしに来た者。
  『人間難民』――というのが、議長の名付けた俺たちの集まりの名前だな。
  議長がこの遺貌骸装をヴァフティアに持ってきて何をしようとしているか、俺たちは知らない。
  俺たちが知っているのはここまでだ。さあ、次はこっちの質問に答えてもらおう」

分からない事は――まだまだ多い。
あの子が何故、あんな体になってしまったのか。
遺貌骸装などと言う代物を持っているのか。
元老院との関係は。
どうして遺貌骸装をヴァフティアに齎そうとしているのか。
それらを知るには――直接本人に聞くしかないようだ。

「……えぇ、約束でしたからね。お答えしますよ」

>「議長でないなら、あんたは一体何者だ。わざわざ議長に成りすましていた理由は一体?」

答えは――簡単だ。
だが、答える事は――難しい。

「私は……マテリア・ヴィッセン。従士です。遊撃課は御存知ですか?
 今、世間で知られている彼ら……私達はその、前身のようなものです。
 用済みになって……この街に左遷されてきた、ね」

少なくとも――元老院と仲良しではない。
それだけ分かってもらえればいい。

「あの子に成りすましていた理由は……勿論、あなた達をおびき寄せて、捕まえる為ですよ」

言葉を一度区切る。
溜めを作って、気を持たせる為ではない。
ただ単純に、続きが言い辛かった。

「……あの子は、この街の人に、怪我をさせました。
 恐らくは魔族のものであろう、腕と力で」

決して正当な防衛とは言えない暴力だった。
それが彼女の意図に沿ったものであれ、沿わぬものであれ。

「私はあなた達を捕らえるつもりでいました。
 人に怪我をさせて、この街に困惑と魔族の力を持ち込んで……よからぬ事をするつもりでいるのだろうと」

ですが、とマテリアは言葉を繋ぐ。

177 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/05/31(金) 00:44:02.12 0
「あなた達はまだ子供です。私は、あなた達にひどい事はしたくない。
 何かをやめさせる為に暴力に頼ったり、脅しつけたりする事は。
 だからあなた達を助け、ここまで連れて来ました。勿論あの子にだって……同じ事を思っています」

それはただの自己満足でしかないが、同時にマテリアの本心でもあった。
それから彼女は、ですから、と続けた。

「すみませんが……また少し、質問をさせて下さい。
 あなた達は……この街に来て、どれくらい経ちましたか?何をしました?
 まだ然程、時間は経っていないでしょうし……した事と言えば、迷子になったくらいですか」

マテリアは静かに――噛んで含めるような口調で続ける。

「なのにもう、一人怪我をさせているんです。
 あなた達が……あの子が目的を達成するまでに、一体何人が怪我をすると思いますか?」

分かる筈がない。
一体何人に怪我をさせればいいのかも、怪我だけで済ませられるのかすらも。
それはとても、恐ろしい事だ。

「人に怪我をさせるって事は……その人が元通りになるまでの時間を、人生の一部を、不当に奪うって事です。
 そんな事をしてまで……しなくちゃいけない事って、あると思いますか?
 あなた達がしようとしている事は……自分よりも小さな女の子を盾にしたり、
 人に痛い思いをさせて、その人生の幾分かを削ってまで、しなくちゃいけない事ですか?」

一度、考えてみて欲しかった。
こんな小さな子供達が、人に怪我をさせて、大勢から忌避の視線を受けて、自分より小さな子供を盾にして。
そんな事は――絶対におかしい。その事を、分かって欲しかった。

「それが分からないままでいる事って……すごく、怖い事だと思いません?
 少なくとも、私は……とても怖いです。あなた達がそんな事に、身を投じてしまうのは」

と、マテリアが表情を笑みに変える。
少し苦味を帯びた、弱いイメージを与える笑顔だ。

「だから、確かめに行きたいんです。あの子に。
 でも……実は私、恥ずかしがり屋なんですよ。ほら、変装とかしてたのも、素顔を隠す為だったりして。
 なので、もし良かったらでいいんですけど……皆さんも、付いて来てくれませんか?」

小首を傾げて尋ねる。
命令はしない。お願いするだけだ。
それが彼らに対する自分の接し方だと、マテリアは決めていた。

(さて……ノイファさん達はどうしてますかね)

あの二人の事だ。
何か問題が起こるとは思えないが――むしろ面倒なのは、どうやって合流するかだ。
路地を通りながら、守備隊の接近を感知したら適時、自在音声で回避するか。
それとも目印になる黒衣を脱いでもらって、表を通るか。

178 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/05/31(金) 00:45:06.82 0
とにかくマテリアは両手を耳に添える。
それから数秒――音を聞き取るのに、少し時間が掛かった。
ノイファの心音と呼吸音の拍子が少し速まっている。
何か激しい運動をした証拠だ。

そしてファミアに至っては――音が聞こえない。

(そんな……また!?……いや、違う!)

空だ。彼女はノイファの遥か上空にいた。
故に集音用の魔力粒子が届くまでに時間差があったのだ。

(一体何をどうすればそんな所に!?だけど……これは良くない!
 どういう状況なのかは分からないけど、それだけは分かる……)

自分が彼女達に出来る事は――何もない。

「……すみません。ちょっと、近くに守備隊がいるみたいでして……。
 今移動するのはリスクが高いです。少し、ここで待機しましょう……」

自分の仲間が――議長を保護していると言った彼女達が、異常な状況にある事。
せめて、この子供達から、それを隠す――マテリアに出来たのは、それだけだ。



【回答&子供達に問いかけ→合流しようと思ったら何かヤバそうだし迂闊に動けない】

179 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/02(日) 05:40:09.78 P
【セフィリア・スイ→三番ハードル大通り vsフウ】

フィア=フィラデルは薄れゆく意識の中でぼんやりと過去に揺蕩っていた。
めまぐるしく移り変わっていくのは自分自身に蓄えられた知識や光景。
ヒトは自らの命が危険に晒された際、無意識のうちに記憶から助かる方法を検索しようとする――
いわゆる走馬灯現象というのはそのようにして起こるのだと言う。
だが、どれだけ過去を辿っても、水球の中に囚われて窒息する状況から助かる方法など分かりやしなかった。

(死ぬの――?)

私、死ぬの?
まだ何も為せていないのに。何一つとして満足していないのに。
フィラデルは母の背を見て育った。
彼女の母親のように、幸せな結婚や、子供に囲まれた暮らしを自分も得るものだと疑っていなかった。
実際は、仕事に追われて家庭を築く相手も見つからなければ、家事もままならない。
ただ老いていくだけの両親と、頭痛の種ばかりの任務を両軸に、自分の人生は走り出してしまった。

決して手放しに幸せだと言える人生ではなかった。
しかし、家に帰れば両親がいて、愛犬がいて、友達とは週末の小旅行を計画していて。
僅かな幸せをつむぐようにして彼女は走ってきた。

いま、その走りが終わろうとしている。
往来で意味不明な魔術にかかって溺死するという、考えうる限り最悪の終わり方で――
死ぬのはもちろん嫌だ。
それ以上に、フィラデルには生きたい理由があった。

(私はまだ、何も知っちゃいないのに――!)

遊撃一課の追放、遊撃二課の存在、元老院の思惑。
彼女が同僚と信じてきた者達が、いまどこで何をやっているのか、どうして自分だけが残されたのか、
知らずに死ねるかと、そう思っていたはずなのだ。

「いや……!」

もがくほどに衣服が水を吸って重くなり、身体を水底へと引きずり込んでいく。
水圧に肺が締め付けられて、白い泡がぼこぼこと口から出て行くのがわかる。
身体のどこにこれだけの空気が入っていたのかと疑問になるほどに。

「死にたくない……!!」

冷たい水の底を掻くように、指先を伸ばす。
水の膜を通した、ぼんやりとした街の明かりだけが、ゆっくりと冷えていく手の先を照らした。
意識が、遠のいていく――

180 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/02(日) 05:41:03.71 P
>「体を丸めろ、受け身を取れ!」

不意に、温かい何かが彼女の伸ばした手をとった。
女性の手。フィラデルよりも若く、力に満ちた手だ。
手は、水のものではない"透明"を纏っていた。
泡――空気だ。

「ごぼ――!」

空気の塊が口の中に滑りこみ、中を満たしていた水を残らず追い出した。
そのまま気道をこじ開け、肺へと潜り込み、直接酸素を叩きこまれたフィラデルの視界が一気に覚醒する!
声に従うままに、蹲るようにして身体を丸めた。
引っ張られる。

ざぱん!と石畳の上で水柱が発生した。
水の塊の中から引き抜かれたフィラデルは、そのまま地面にバウンドしそうになって、巻き上がった風に拾われた。
眼鏡を失ってしまってぼやける視界の中、二つの人影がある。

フィラデルを救った手の主は、紫の長髪を束ね、西方民族の貫頭衣を旅装に仕立てた姿。
そしてもう一人、フウへと飛びかかっている双剣の主は、眼鏡の奥にぎらついた感情を湛えている。

「貴女たちは――」

ぼんやりとだが、見覚えのある二人だとフィラデルは思った。
死に瀕して幼少の頃にまで遡っていた記憶が、急激に現在まで戻ってくる過程で、二枚の念画を拾い上げた。
二人の顔と名前は、すぐに一致した。

「遊撃一課――"風帝"スイと"切り裂き眼鏡"のセフィリア・ガルブレイズ……!!」

いなくなったはずの彼女たちが、しかしいま、そこにいた。
フィラデルを、フウから護るように位置取りしながら――確かにそこに立っていた。

 * * * * * * 

181 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/02(日) 05:41:56.76 P
"水使い"フウは、ハンターズギルドと呼ばれる民間請負業者組合の一員だ。
ハンター。その職務は多岐にわたり、わたり過ぎ、これがハンターの仕事だと言えるものは何もない。
とどのつまりは、『何でも屋』。
便所掃除から用心暗殺まで、誰からの依頼でもどんな依頼でもこなす、代行業の総称だ。
フウはその中でも特に特定人物の殺害――いわゆる殺し屋を専門的に請け負うハンターであった。

彼は殺しに美学を持たない。
それが仕事だと割り切っているからだが――殺せればなんでも良いと思ってもいるからだ。
決して快楽殺人者ではない。
ただ、ものごとの解決を如何に迅速に後腐れなくやるかと突き詰めていった結果、
相手を殺すという結論に達する確率が以上に多い、短絡思考の持ち主であった。

殺すことが多いということは、当然殺される機会もまた増大する。
フウというハンターは、殺し慣れている以上に、"殺され慣れ"をしていた――。

>「魔術師の首を狙います!」

眼前、石畳を砕くほどの踏み込みが来た。
極限まで無駄な動きを削ぎ、ただ左右の剣で敵の首を刈るだけの存在に身を落としたセフィリアの動きは、
フウをして目で追えるものではなく、ただ黒の影の躍動として写った。
反応などする暇はなく、双剣のあぎとが魔術師の喉笛へと噛み付いた。

ギシィ……!と、切れ味の悪い鋏を獣の毛皮に入れたかのような音がした。
まったくの無防備で剣を叩きこまれたフウの首、その白い肌にはほんの少しも刃が通っていないのだ。

「"水"ってよおおおお〜〜。人間の身体の大部分に含まれているらしいよなあ〜〜。
 瑞々しいお肌の"みずみずしい"の部分は『水』!って意味なんだなああ!」

交差する刃の上で、フウの顔が獰猛な笑みを浮かべた。

「お肌の水分を操り!硬化させた!!
 『確実に殺れる』って思った時でも命綱を手放さないのがプロって奴だな――『双剣』!!」

フウが笑顔のまま顎を引き、ガルブレイズの額へと己の先頭部を叩きつけた。
頭突き――皮膚表面の水分を硬化させることで威力を増した一撃で、ガルブレイズから距離をとる。

「やああああっぱり!ニーグリップの奴、仕事が甘い……!!
 遊撃一課の死に損ない共が二匹も入り込んできてるんじゃん!
 それともアレか汝、こうなることがわかって一課と連絡とりに逃げ出したのかあああ?」

フウが首をコキコキと鳴らし、セフィリアとスイを眺め回しながら息を吐いた。

「遊撃一課のトップ・オブ・死に損ないのフィンさんがいねーな。ようやくくたばったのかな?
 そりゃ大変結構、あいつに壁やられるとマジイライラで寿命が捗るからな」

言いながら、フウは腰の工具ベルトに革紐で吊っていたスキットルを手に取る。
親指で蓋を弾いて開けると、

「そうら、滑れ!」

空いた口をセフィリアへ向けて振った。
水音を立てて透明な中身が石畳――セフィリアの足元をおびただしく濡らす。
それは水だったが、無論のことただの水ではなかった。
微細な魔力を帯び、術式効果を発揮している。

182 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/02(日) 05:44:24.46 P
「粘度を上げ極限にまでヌメらせた水は!物体との接触面の摩擦を限りなくゼロにする!
 既に汝の周囲三メートルは踏んだ途端に際限なく滑り歩行もままならぬ領域……!!
 ヌルヌル地獄でエロい生き物になっちまいな!」

それは、近接戦闘を主とする剣士にとって、見た目以上に深刻な状況である。
剣士が己の得物――鉄の塊である剣を振るうには、振り回されないように踏ん張りが必要だ。
だが地面にばら撒かれた潤滑水がそれを阻害する。
強力な力を振るおうとすればするほど、より大きく地面に触れた足が滑るのだ。
何よりも、一歩踏み出そうとしただけでひっくり返りそうなほどに足元が悪い。
もしも転べば、それこそ致命的な隙を的に対して晒すことになる。

そしてフウは跳んだ。
スイによって砕かれた水球を、再構成しながら自身の足元へ展開し、その上に座って宙へ浮いたのだ。

「会いたかったぞ『風帝』〜〜ッ!
 遊撃一課において唯一、広域殲滅が可能な大火力魔術師!
 アイレル女史あたりと組まれると非常に厄介だが、ここで殺っとけるなら良い幸先だな!
 だってお前……どう考えたってセフィリアの奴とは相性悪いもんなあああ!?」

フウの座る水球が、ゆっくりと縮み始める。
体積が減っている――フウが水球にぴたりと張り付けている両の手のひらから、水がどんどん吸われているのだ。

「吾は"水使い"――水の形状!性質!そして三態を自由自在に操る遺才遣い!
 話変わるけど蒸気機関ってあるだろう?帝国内でも魔導機関の整備されてない地方ではまだまだ現役のはずだ。
 ありゃ水を沸騰させて体積を急激に膨張させ、その爆発力を動力に変換しているそうでなあ。
 あんな鉄の塊を動かせちゃうほど、蒸気の持つパワーってのは凄いのだ」

フウは、右の掌をスイに、左の掌をセフィリアへそれぞれ向ける。
色素の薄い掌の、指紋という指紋の隙間から染みだした水が、熱した鉄板に落とした水滴のように泡立った。

「――"風"ごときに!同じことができるかああああッ!?」

瞬間……フウの両掌が爆発した!
発生したのは掌から吹き出す超高温の蒸気!!
フウが体内に取り込んだ莫大な量の水を一瞬にして蒸発させ、一気に膨張した水分が全て掌から放出された!
生身で吹きつけられれば火傷はおろか美味しく調理されてしまう凶悪な熱風がセフィリアとスイを襲う。

「遺才魔術『ヴェイパーカノン』――!」

この蒸気砲は強力だ。、
スイの風で結界を張ったとしても熱は風を通して伝わり焼き殺す。
セフィリアに至っては、地面が滑って逃げることすら叶わないであろう。
それでいて、毒でもなく炎でもない"蒸気"は、都市景観を一切破壊しない環境に配慮した凶器であった。

殺しを専門とする魔術師肝煎りの一撃が、彼らを襲った。


【フィラデルの救出に成功!】
【セフィリアの足元にめちゃくちゃヌメる水を撒く→歩くこともままならない潤滑地獄に】
【スイ・セフィリアへ高温蒸気を大量に吹き付ける範囲攻撃魔法『ヴェイパーカノン』発動】

183 :ノイファ ◆taXKZgQH5w :2013/06/04(火) 00:21:13.81 0
「わわっ」

先ず地面が揺れた。
大理石の床に放射状の亀裂が走る。

「は、ええぇっ!?」

次いで目の前から二人が消失。
少女を羽交い絞めにしたファミアが諸共上空に跳躍したのだ。
思わず気の抜けた声を発しながら、二人の軌跡を追ってノイファは視線を上げる。
そして、彼女に任せたことを心の底から後悔した。

「――ぜ、全員退避ぃい!」

盛大な破砕音を響かせて、天井のステンドグラスが砕け散った。
実に二百年もの歴史を刻んできたそれは、見るも無残な破片となって床に降り注ぐ。
砕け散った硝子をまともに浴びれば、人を殺傷するのに十分な威力だろう。

中でも、とりわけ危険な位置に居たのはノイファ本人だった。なにせ直下である。
最初は点に見えた破片群が、重力という加速を得て、瞬き一つの内には視界いっぱいに迫っていた。

(拙いっ――)

舌打ちを残して身を投げ出した。
磨き抜かれた大理石の上を滑るように移動。
ひしゃげた長椅子の脚に、後頭部を強かに打ち付け、止まる。

「――なんとかやり過ごせ……あ」

頭の痛みで涙目になりながら目を開けると、硝子の破片の悉くが空中で静止していた。
神官たちが顕現した"聖域"が落下を食い止めたのだ。

何せここはルグス教徒の総本山である。
一般信者への警告と自身のことで手一杯だったノイファの他にも、聖術の遣い手は山ほど居る。
その中でも利け者の術者たちが、危険を最小限に留めるべく行動を起こしていたのだ。

「……助かったー」

ぶつけた後頭部をさすりながら、ノイファはごろんと仰向けになった。
疲労が激しい。千年樹氷、少女との打ち合い、そして今、どれを取っても一手誤れば敗北していた。
見る影もなくなった内装に、随分と風通しの良くなった天窓、視界に映るのは破壊し尽くされた神殿。
それでも、人への被害は軽微で済んだ。

「……救えましたかねえ、今度は」

誰にともなく零し、ノイファは一瞬口元をゆるめ、直ぐに引き締めた。

184 :ノイファ ◆taXKZgQH5w :2013/06/04(火) 00:22:09.49 0
>「なんだったんだ、今のは……!」
>「床が!ステンドグラスが!二百年の歴史がぁ!」
>「お、おい今の女の子、術式もなしに真上に跳んでいったぞ、本当に人間か……!?」

恐慌から立ち直った誰彼かが、我先にと先程目にした光景を喚きたてていた。
そんな喧騒の中、ノイファはのろのろと立ち上がる。
まだ終わっていない。
神殿内の破壊は食い止めたが、件の少女が活動を停止したわけではないのだ。

>「報告――!大聖堂にて発生した敵性存在の位置を確認!現在ここ大聖堂の真上20メートル地点!
 このまま自由落下にて落ちてきます。予想落下地点は――大ルグス像!」

「随分と高く飛んだのねえ」

神殿の入口から声を張り上げる若い神殿騎士の報告を聞き、ノイファは半ば呆れながら口端を吊り上げた。
ファミアの遺才は超筋力。手袋を媒介に豪腕を発揮するだけと思っていたのだが、そうではない。
身体能力、ひいては瞬発力も爆発的に高めるのだろう。
極めてシンプルなだけに、ありとあらゆる状況下で十全に活用できる能力だ。

「さてっと、もうひと働きしないとよねえ」

呆然と佇む信者をかき分け、救護に追われる神官たちを避け、入口を固める騎士の肩を叩く。
何事かを言いかけた神殿騎士に、胸元から引き出した聖印をかざして黙らせた。
太陽の威光を示す真円に輝きを表す意匠、刻まれた聖句はルグス神殿騎士団の証。
聖印の外円に飾られた麦穂は聖騎士を、中央に嵌った紅石は『聖女付き』を意味する。

剣を携え、盾を構えた人垣が割れる。
それとほぼ同時に、上空から降ってきた黒い塊がルグス像を微塵に粉砕した。

「う、うわー……後の処理どうしようかしら……」

背後で巻き起こる呻き。信仰の拠り所ともいえる大神像が破壊されたのだから無理もない。
ため息を吐き出し、ノイファは思考をやめた。後のことはとりあえず置いておく。

(今はそれよりも――って、うん?)

音もなくルグス像跡地に降り立ったファミアが、懸命な表情で巨大な鏡を高々と掲げていた。

(え、あれって……、まさか!?)

視線を巡らす。無い、あるべき場所にそれが無い。
神像に陽光を当てるための集光鏡が一つ、根元からもぎ取られていた。

185 :ノイファ ◆taXKZgQH5w :2013/06/04(火) 00:23:07.76 0
素人目には一風変わった鏡程度に見えるかもしれない。
しかし集光鏡はただの鏡ではない。魔導工学の粋を集めて造られた逸品なのだ。

滑らかなカーブを描く鏡面は錬金術による固形化が施されているため傷一つ付くことはない。
さらには聖術を何重にも施し聖別されており、有事の際には結界の増幅器としても使われる。
極めつけはその台座である。
高価な軍用ゴーレムなどの装甲にも用いられる流体術式と感知術式により、自動で太陽の向きに併せるのだ。
難があるとすれば一体成形のため、交換する際は丸ごと作り直さないとならない点だろう。

「……一任務中の損害総額更新にでも挑戦するつもりなのかしら」

つまりは、かなり高価な代物なのである。
一基だけでもそれなりの邸宅が賄えてしまう程度には。

(だけど……ファミアちゃんだってそんな酔狂のためにやってるわけじゃない、はず)

ならば、何故。鏡を天高く掲げる理由は何か。
――当然陽の光を集めるためだ。
陽光で照らす理由は。
――少女にとどめをを刺すため、あるいは無力化するのに必要だから。

最後まで少女の近くに居たファミアだからこそ、その何かを掴んでいるに違いない。
じっと眼を凝らす。微細な変化も見逃さないように。

「――分かったわよ、ファミアちゃん!」

少女の胸元から黄金の色をした粒子が立ち昇っている。
記憶を総動員。そこにあったのはルミニアの聖術によって顕現した"杭"だ。

(あの子に変化が起きたのは……光の杭で縫い止められてから!)

空を見上げる。時間は日没間近。
太陽は既に地平線に沈もうとしていた。

「こういう、ことよねっ――」

疲れ果てた体を奮い立たせ、ありったけの魔力を練り上げる。
空へと突き上げた手で、光を掴む。本来の用途で使うのならば、晴天の日中でしか使えない奇跡。
だから当然、対象を灼き尽くすほどの熱量は望むべくもない。
だが今必要なのは、"太陽の光"そのものだ。

「――"白光"っ!!」


【ファミア目掛けてソーラービーム発射】

186 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/06/05(水) 13:37:36.70 0
鈍い音が通りに響いた
剣を振って鈍い音、まあ、結果は一つしかねぇ
セフィリアの剣は止められた

フウの魔術で皮膚の水分を集めて硬化させる
ご丁寧に御自ら説明してくれたのでたぶんスティレットの嬢ちゃんでもわかるだろう
……多分な

「お肌の水分を移動させたら他の部分はいまカサカサ肌なんですね」

セフィリアにも余裕がある
まあ、防御の種がわかったてのは大きい
ここで一つある可能性が生まれた
魔術師と剣士の戦いで一合目が止められたんだからな

本人も遊撃二課のやつを一撃で殺れるとは思っていなかっただろう

冷静に後ろに一息に飛んだ
戦い続けるなら至近距離のほうが有利だろう
だが、セフィリアはスイがフィアを助けたのを視界の端に捉えていた

案の定、フウは次の行動に出た

>「そうら、滑れ!」

これはまずい
剣士にとって足を封じられるのは行動、すべてを封じられたに等しい
セフィリアもすり足すらままならない地面に身動きをとることができない
動けないが故、フウのご高説を聞く余裕と言うものもあった

>だってお前……どう考えたってセフィリアの奴とは相性悪いもんなあああ!?」

セフィリアはニヤリと笑ったことをフウのやつは気づいてはいないだろう
スイとの相性が悪い?
そんなはずがない

セフィリアの遺才はなにも技術を向上させるものではない
実際には身体能力を向上させるものであることは常々言っていたことだ

187 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/06/05(水) 13:37:54.41 0
すべてがすべてのスペックで超一流には勝てないが間違いなく一流を誇る
技、力、速さ、すべてでセフィリアのたゆまぬ努力で双剣史上最高の遺才となった
セフィリア・ガルブレイスに相性の悪い相方などは存在しない

本人は最高の剣士を目指しているあたり
意思と才能がミスマッチしているのがなかなかに悩みどころではある

だが、いまのセフィリアには敵を倒すというただ一点のみ
復讐心により目的と才能が一致している
スティレット・フランベルジュに勝つ、遊撃二課に勝つという目的が彼女を真の実力を発揮させる

「スイさん!私の前に真空を作って下さい!私も壁を作ります!」

セフィリアはメガネをとると石畳の端を正確に垂直方向に踏んだ
これなら滑らない、なにをしようとしているのか、もうわかっただろ?
そう……

「畳返しって知ってます?」

石畳に染み込んだ潤滑水のおかげで驚くほど簡単に成功した
いくら力が強化されている状況でもなにもなかったら難しかったはずだ
メガネを取り、遺才を強化したセフィリア
つぎの行動は……

「スイさん、逃げましょう!目的は達成されました」

この場合、目的というのはフィアの救出と課長に自分たちの存在を認識させること
この二つは達成された
ゆえの提案である
しかし、セフィリアの頭の中はこうだ
これ以上、フウと戦うにはフィアは邪魔だ
こいつがいたら足手まといにしかならない
というなんとも冷徹な打算からだ

セフィリアがこういう判断を下すのは戦士としては成長だろうが
俺はどことなく納得出来ない……

【畳返しで遺才魔術ヴェイパーカノンを防御、スイさんには真空を作り、ヴェイパーカノンの緩和とこの場からの撤退を提案】

188 :ユウガ ◇JryQG.Os1Y:2013/06/07(金) 00:14:28.57 P
「やれやれ、いい加減に諦めたらどうだい?」
背中から、生えた。氷の槍をひらりとかわし、そう言うユウガ。
挑発にも取れるが、ユウガは、
(いい異才使いなんだよなぁ、うちで働いてくんないかな。)
などと、暢気なことを思っていた。
まぁ、無理だと思うが、
「依頼は、依頼なんでねそろそろ終わらせようか。」
そう言い、ユウガは、一気に距離を詰め、ゴルドの懐に飛び込む。
『加速』
ただでさえ、早いユウガのボディブローを更に加速させ
『衝撃』
ゴルドに衝撃のエネルギーをそのままぶつける。
この魔法は、衝撃のエネルギーを、一点に集中させて、相手に放つものである。
「ゼロ距離からの魔法だ。吹き飛べ!!」
(ユウガ、ゴルドにボディブロー+衝撃。
ボディブローには加速付き)

189 :スイ ◇nulVwXAKKU:2013/06/09(日) 20:06:29.07 P
フィラデルの意識がしっかりしていることを確認し、スイはセフィリアの向かった先を見た。
距離をとったセフィリアが無傷であり、また相手も無傷であることを認識する。

>「会いたかったぞ『風帝』〜〜ッ!
 遊撃一課において唯一、広域殲滅が可能な大火力魔術師!
 アイレル女史あたりと組まれると非常に厄介だが、ここで殺っとけるなら良い幸先だな!
 だってお前……どう考えたってセフィリアの奴とは相性悪いもんなあああ!?」
「…俺は会いたくなかったかな…。」

フウが高らかに笑い声を上げながらそう言ってくるのに対して、スイはげんなりと顔をゆがめる。
先ほどのセフィリアの攻撃を防ぎきったということはそれだけの力量があるということだ。
言葉からしても遊撃二課であることは取れるし、それに選ばれるということは間違いなく強いのだろう。
そんな人物に覚えられているのは厄介でもあり、力を認められているということなのだろうが――今この場で会いたくは無い人物でもあった。
フウの座っていた水が見る見るうちに小さくなっていく。
攻撃の前兆であることは明確であり、スイはゆっくりと風を集め始めた。
同時にフィラデルの腕を掴んで傍に寄せる。

「立てるな。いいか、俺の傍から離れるなよ」

フウの腕がセフィリアとスイに向けられる。

>「遺才魔術『ヴェイパーカノン』――!」
>「スイさん!私の前に真空を作って下さい!私も壁を作ります!」

襲い来る高出力の蒸気からスイはフィラデルを脇に抱えて出来る限りの高速で一気に距離を取り、同時に蒸気に向かって風を放ち、蒸気の範囲に上昇気流を発生させる。
距離さえ取れば蒸気は上方へ向かって飛んでいく上、熱も即座には伝わらない。
それに加えて風を送り込んで温度を下げてしまえば距離をとった二人に被害が及ぶことは無い。
同時にスイはセフィリアの言葉通りに彼女の前に風を発生させ、空気を一斉にどけて、簡易的な真空もどきを作り出す。
セフィリアが無事回避したのを見て、スイはフウを見た。

「誰が、セフィリアさんとの相性が悪いと?ノイファさんは、俺の本質を理解して上手く使ってただけだよ。俺の能力は、サポートする相手は選ばない」

それに、スイは間違っても遺才のみに頼っているわけでは無い。
元は対人戦闘術を得意とする表がいたのだ。
実際経験ではむしろそちらの方が多い。
だからスイはあえて遺才とは言わず能力と言った。

>「スイさん、逃げましょう!目的は達成されました」
「了解した!!」

セフィリアの体を風で持ち上げ、スイは撤退行動を取った。

【風を使って撤退行動開始】

190 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/16(日) 13:55:26.90 P
【→フィン】

"彼ら"は、ずっと前からそこにいた。
街角に、燭灯の影に、側溝の中に、屋根の向こうに。
この帝都のありとあらゆる"物陰"に、息を潜め、微動だにせず存在していた。

彼らに下された命令はたったの二つ。
『耳を澄ませ』。
そして特定の言葉を耳にしたならば、行動を起こせ。

特定の自我を持たず、無数の個体の全てを統括する"自分"は、その命令を実直に守っていた。
平時はただの器物たれ。誰の邪魔にもならぬ路傍の石であれ。
有事は無双の英雄たれ。ただ求むるを果たす、これもまた器物であれ。

雇い主にどこまでも都合の良い条件を課された彼らは、故にずっと待っていた。
己を果たす機会を。
英雄になる時を。

そしていま、彼らの耳目の一部が、ある男二人の会話に注目している。
片方の男が、彼らに配布された手配書の特徴によく似ていたからだ。
あとはその疑念が決定的になるのを待つだけ。
あの言葉が、男の口から出るのを待つだけ――。

 * * * * * *

>「できればハルシュタットさんと直接話させて欲しいんだけどな……まあ、いいか。
 ひょっとしたら、ランゲンさんが俺の知りてぇ事を知ってるかもしれねぇし」

ハルシュタット卿の知り合いだというこの男、名前をフィン=ハンプティと言うが、
彼はランゲンフェルトの仲立ちに対しなんとも微妙な顔をしながらも承諾をしてくれた。
男から発せられる妙な既視感にランゲンフェルトは戸惑うが、ありがたいことは確かである。

「私の知り得る情報であれば、惜しむことなく提供致しましょう。
 それが、我々双方にとって得になるでしょうから」

とは言え、ランゲンフェルトとて特段に事情通というわけではない。
裏社会の住人に名を連ねる者ではあるが、そもそも帝都に来たのがつい最近のことだ。
上京前は、帝国外縁のとある田舎で反社会的な勢力の重鎮をやっていたものだが……
帝都ではただの風俗店の下働きである。嬢の送迎すらしたこともない木っ端のような存在だ。

では、この男はどうだろう。
風体からして妙なこの旅人は、ランゲンフェルトたちの住まう裏の世界へ足を踏み入れようとしている。
だが、ただ興味に惹かれて踏み込んだだけのビギナーには見えない。
既に何度か、裏社会における修羅場、鉄火場――死線を潜ってきた匂いがする。
無意識に漂わせる、同類にのみ香る鉄と火と血の匂いだ。

>「俺は――――ハルシュタットさんにある人の情報を聞きたいんだ。その人は、この街の常連だった筈の人で」

男は、人を捜していた。

>「名前は、ボルト。ボルト=フライヤー」

ランゲンフェルトは息を呑んだ。

>「ついこの間、この街で失踪したって言われてる人だ」

ボルト――その名に憶えがあったからだ。

191 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/16(日) 13:56:24.86 P
そして同時に馬車のカーテンの向こうでも、ハルシュタットが無言の驚きを得る気配があった。
おそらく、フィンは核心を突いたことに無自覚だ。彼は純粋にボルトという人間を捜してここに来た。
それはフィンにとって、『ボルト=ブライヤー』なる言葉が人の名前以上の意味を持たないが為だ。

(しかし――我々は違う!)

ボルトという名に、人名以上の意味がある。
事象の琴線を指で弾くようなその言葉は、水で満たされた盆を宙へ投げ出すスイッチだ。

>「もし、ハルシュタットさんとランゲンさんがその人について何か知ってるなら
  ――――教えてください。お願いします」

ランゲンフェルトは色眼鏡越しに馬車を見た。
意図的に、ハルシュタットの姿はランゲン側からしか見えないように位置取りしている。
カーテンの隙間から見える老体は、神妙な顔でゆっくりと頷いた。

話せと、そういうことだ。

「良いでしょう。お話します。貴方のお探しのその男について」

ランゲンフェルトはハルシュタットに首肯を返すと、フィンへ向き直って話し始めた。

「ボルト=ブライヤー……彼は確かにこの娼館街の常連客です。それもただの常連じゃない。
 並外れた選球眼を持ち、限られた予算で最大限満足度の高いプランを構築。
 嬢個人との交渉によって、店側も考慮しなかった嬢それぞれの個性に合わせたサービスの自己開発。
 客の身でありながら業界の振興と発展に陰日向から貢献していた――伝説の遊び人です」

ハルシュタットが客側から強い影響力を持つ人物だとすれば、
ボルトは店側に対して大きな存在感を持つ男であった。

彼自身には商才はなかったが、嬢の特質を掴むのが巧みで、その活かし方を知っていた。
実際、いくつかの娼館からは支配人待遇で引き抜きの話すら持ち上がっていたほどだ。
生憎とボルトも政府高官の類の人間なので、引き抜きが叶うことはなかったが……。

「こちら、ハルシュタット卿は風俗関係の遺才をお持ちですが、ブライヤー氏は常人です。
 常人でありながらその頭脳は業界の至宝とまで呼ばれ――故に、この度の失踪は我々に大きな動揺を与えました」

ボルトはこれからの業界に必要な人間だ。
彼はいかなる店にも縛られぬ性産業の無垢な旅人(縛られるのは結構好きだったようだが)。
風俗街の灯りの隙間へ、野生とプライドを両輪に駆け回り、豊穣をもたらしてきた守り神だ。

長期の任務なのか、今まで何度かしばらく来店しない期間があっても、彼は必ず戻ってきた。
そのボルトが、失踪――。

「我々は、氏の失踪を業界過激派による拉致だと睨んでいます。
 どこかの風俗店に監禁され、毎日のように強制サービスの責め苦……想像するにお労しい。
 ブライヤー氏の消息はこの界隈で最もホットな話題です。故に私達も、氏を捜していたのですよ」

不意に馬車のカーテンが開いた。
それまで黙っていたハルシュタット卿が、窓から顔を乗り出して、フィンと初めて対面した。

192 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/16(日) 13:57:28.63 P
「久しいのう、ハンプティ。折には世話になったものじゃ」

よろしいのですか、とランゲンフェルトが問う前に、ハルシュタットは右手を挙げてそれを制した。

「ボルト=ブライヤーの動向については、今をもってまだ何も掴めてはおらん。
 ワシら常連組合からもハンターや私兵を使って探らせてはおるんじゃがの……。
 そうやって放った調査員が、一人も帰ってこないのじゃ」

ボルトが失踪して二週間ほどが経ち、その間にハルシュタット達は十数人の調査員を出した。
極秘裏に情報を集めさせていたが、皆あるところまで辿り着いたと同時にぱたりと報告が途絶えるのだ。
そうして十数人も姿を消し、やがて誰もがこの問題を触れてはいけない"タブー"と理解した。

「一体この街で何が起きているのか、ワシらはまったくわかっておらん。
 ただ一つ言えることは、ブライヤーの行方を探すことをよく思っとらん第三者がおるということじゃ。
 それが敵対風俗組織によるものなのか、はたまたもっと大きな陰謀の最中におるのか……。
 いずれにせよ、ワシらはこの問題について、そろそろ手打ちにすべきかと思案しておる」

手打ちに。
すなわち諦めるということだ。
ボルトという人間が、初めからいなかったかのように、危険な問題に触れず、だんまりを決め込もうとしている。
そうしなければ、もっと多くの被害が出ることを思い知らされたからだ。

「ハンプティ、お前さんがどういう理由でブライヤーを捜しておるのか知らんが、悪いことは言わん。
 この件からは手を引くべきじゃ。ワシらの放った追手もまず間違いなく殺されておる。
 帝国は魔術国家じゃ、死体も残さず掻き消す方法なぞいくらでもある――」

ハルシュタットの言葉が最後まで音になることはなかった。
ほんの一瞬。
ランゲンフェルトとフィンのなにげない瞬きのタイミングが重なった刹那の瞬間。

ハルシュタットが消えた。
音もなく、光もなく、熱や気配などあるはずもなく、ほんの一瞬で人間一人が掻き消えた。

「――――ッ!?」

ランゲンフェルトが声にならない驚愕を発する。
ついさっきまでそこに居たはずの、それも要人仕様に改造された馬車の中にいた老人が跡形もなく消滅したのだ。
御者席に座る護衛に至っては主の消失に気付いてすら居ない。

ちゃりん、と遅れて音がした。
金属片が石畳を跳ねる音。ちょうどハルシュタットの顔があった場所の真下に、二枚の金貨が落ちている。
一体どこから――?疑問が形になる前に、御者席から護衛の悲鳴が聞こえた。

193 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/16(日) 13:58:13.46 P
「あっぐ……!!」

護衛の右肩から棒状のものが生えていた。
それは短い槍だった。右肩を貫き、馬車の壁面に護衛を縫い止めている。
ランゲンフェルトの判断は一瞬だった。

「ハンプティさん――!」

隣に立つ男へ向かってできたのは、注意喚起の一言だけ。
ランゲンフェルトにそれ以上の余裕はなかった。彼は横っ飛びに地面へダイブし、石畳へと伏せた。
次の瞬間、馬車が槍まみれになった。
全方位から投擲されてきた短槍が、馬車のあらゆる場所へと突き刺さったのだ。

「狙撃――?どこから!」

馬車の傍にいたフィンと護衛がどうなったか確かめる術はない。
頭を上げれば確実に頭蓋骨を射抜かれるだろう。
だが、限られた視界でわかることが一つだけあった。

狙撃の発射点。
それは無数にあった。
街角に、燭灯の影に、側溝の中に、屋根の向こうに。
揃いの外套を身にまとった人影が、それこそ無数に立っていたのだ。
彼らは諸手に短槍を持っていた。馬車に突き刺さっているのと同じものだ。

「これだけの人数の接近に気付かないとは――!」

人影は今をもってなお増え続けている。
どこかからやってくるのではない。『まるで初めからそこにいたみたいに』、しかし突如として出現するのだ。
まばたきをするごとに視界の中の人影が増えていく。既に数えで百を超える襲撃者が展開していた。

「これは……認識阻害の術式ですか……!」

襲撃者の得物は投槍だけではなかった。
ある者は長槍、ある者は鎧通しの短剣、ある者は鉄も叩き潰せそうな戦鎚――
思い思いの武器を装備した外套姿たちが、石畳を滑るようにしてこちらへ肉迫してきた。
無感情にして無慈悲の刃が、フィン達へと襲いかかる――!


【フィン→】
【ハルシュタットからの情報:ボルトの消息は風俗街側でも探しているが、調査に出した人員が尽く消されている】
【話をしている最中にハルシュタットが突然消滅。あとに残された金貨が二枚】
【直後、全方位から投擲槍による狙撃。同時に"認識阻害"を解いて無数の襲撃者が出現、襲い掛かってくる】

194 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/17(月) 00:59:07.69 P
【マテリア→】

>「私は……マテリア・ヴィッセン。従士です。遊撃課は御存知ですか?
 今、世間で知られている彼ら……私達はその、前身のようなものです。
 用済みになって……この街に左遷されてきた、ね」

偽議長――マテリアと名乗った女性が、己の所属を明らかにする。
遊撃課。その名称に、黒装束の子どもたちはにわかに色めき立った。

「遊撃課……遊撃栄転小隊か……!?」

ヴァンディットを始めとする少年少女たちにおいて、遊撃課とはまさに英雄の生きた証拠のようなものであった。
官民問わず選りすぐりの手練だけを集め、帝国の暗部に投入される帝都最高権力者の直属機関。
華やかに報道される裏で、その任務内容については一切明かされていない。
存在が喧伝される一方で、名と所属以外の全てが謎……少年少女にとってこれほど心躍らされる存在もない。

「っくう……サイン、サインが欲しい……!!色紙はあるか!?」

「ないけど。紙製のものならこれがあるよ」

背の低い少女が旅嚢から一冊の綴じ本を出した。
藁紙を羊皮紙で装丁した、帝国内では比較的安価で流通されている"軽本"と呼ばれる書物だ。

「これはヴァフティアに着いた時に買っといた南方出版の軽本小説『イービル愛-右手疼くけど恋がしたい-』じゃないか!
 まだ読んでない上に表紙買いしたからここにサインを頼むのは気が引けるが!引けるが!!
 いっそこの"遠き福音"の柄にでも書いてもらうか!?」

本と頭を器用に抱えて悩むヴァンディットだったが、しばらく煩悶してから何かに気付いたように頭を上げた。

「よく考えたら遊撃課って、元老院直属の部隊じゃないか……! 敵か!?
 いやしかし、遊撃課は全部で6名、あんたの顔も名前も載っていなかったはずだが……」

「ヴァンディット、この女、左遷されたって言ってた」

「ん。ということはつまり、いまの遊撃課はメンバーの総入れ替えがあったということか?」

なんのために。決っている。
元老院の意思がより届きやすいように、トップダウンの命令系統に満たぬ者を弾いたのだ。
いま目の前にいる女が本当に"あの遊撃課"なら、こうして自分たちと対峙していることがそもそもおかしい。
元老院からはとうの昔に討伐命令が出ているのだ。有無をいわさず処理されているだろう。

すくなくとも、マテリア=ヴィッセンはいまこの場においてすぐに敵となる存在ではない。
ヴァンディットは意味のない警戒を解いた。
そしてその判断はすぐに覆された。

>「あの子に成りすましていた理由は……勿論、あなた達をおびき寄せて、捕まえる為ですよ」

やはり敵か、と気の早い者が何人か身構える。
勝てるはずのない相手に、無謀にも向かっていこうとする。
彼らを抑えていたのは他ならぬヴァンディットだった。年長故に、力量差をすぐに理解していた。
マテリアが紡ぐ、次の言葉こそが彼らに最大の動揺をもたらした。

195 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/17(月) 01:00:13.07 P
>「……あの子は、この街の人に、怪我をさせました。 恐らくは魔族のものであろう、腕と力で」
>「私はあなた達を捕らえるつもりでいました。
>「あなた達はまだ子供です。私は、あなた達にひどい事はしたくない。
> 勿論あの子にだって……同じ事を思っています」

マテリアは語る。
人間難民達がこの街へきて何をしてきたか、どれだけの人の生活を侵したのか。
それは咎められなければならない罪で、穿たれるべき罰であるか。

>「人に怪我をさせるって事は……その人が元通りになるまでの時間を、人生の一部を、不当に奪うって事です。
>「それが分からないままでいる事って……すごく、怖い事だと思いません?
>「だから、確かめに行きたいんです。あの子に。

議長が何を考えてこの街へ来たのか、それを知らなければ何も始まらない。
マテリアは知ろうとしている。ヴァンディット達がいままで触れずにいた、禁忌とも呼べる領域を。
最後に、現状ここを動くことが上策でないことを告げ、彼女は待機を提案した。

議長が魔族化し、この街の人間に怪我を負わせた。
その事実はヴァンディット達にも十分すぎる動揺を与えることになった。
彼らに浮上した感情。それは『信じられない』とか『議長がそんな人間だったなんて』とかの驚きではなく。

「やっぱりか……」

ある種予測のついていた事象への、諦めであった。
彼らは知っていたのだ。議長が体内に宿した、魔性の咎について。

「何度か同じ事が、この街に来る前からあったんだ。
 半ば発作的に、双眸が赤く変化し、身体の一部が異形のものとなる――人間の魔族化だ。
 その度に俺が遺貌骸装で押さえ、ルグスの聖水を飲ませて沈静化していたんだが……間に合わなかったか」

魔族化は聖水を服用させることで一時的に沈静化することは経験則でわかっていた。
ただし、帝都の主神であるルミニアの聖水では駄目だった。
他の神殿の聖水をいくつか試し、そしてヴァフティアから取り寄せた太陽神のものが一番効果があることまで突き止めた。

「議長がヴァフティアという街を選んだのは、
 実際のところ自身の魔族化を最も沈静化できるルグスの加護下だったからなのかもしれない。
 別に理由があるのかも知れないがな」

ヴァンディットはマテリアを見た。
外見こそ派手だが、その双眸には芯が通っている――彼のマテリアに対する印象だ。
それは今でも変わらない。そして、決定的に異なる信念を持っている相手だと、彼は理解した。
マテリアは『良い人』だ。だからこそ、ヴァンディットは退けない。

「議長に会うと、そう言ったな。
 会ってどうするんだ。また俺たちに話して聞かせたように、『人を傷付けてはいけない』と諭すのか。
 ああ、間違っちゃいないさ、正論だ。不器用だが、やさしさすら感じる。
 だがな――多分それは、議長に言っちゃいけない言葉なんだ」

マテリアは気付くだろう。
先ほどまでマテリアを囲むようにして留まっていた子供たちが、音もなくヴァンディットの後ろに移動していることに。

196 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/17(月) 01:02:09.68 P
「確かに俺たちは未熟で、議長に至っちゃもっと子供だ。
 あんたは子供にひどいことをしたくないと言ってくれた。だけど、そんな大人が世の中に何人もいると思うか?
 この国は侵略国家だ。弱いものに容赦をしない。相手が子供だからって、見逃してくれる大人はそうそういない。
 実際、この国で一番の"大人"の集まり――元老院は、議長に杭を打ち込んで、容赦なく殺そうとした!」

ヴァンディットは懐に手を入れる。
十字槍の遺貌骸装『遠き福音』は先程の実演のあと、分解してしまってある。
再び再使用するには棒柄に穂先をとりつけて槍を完成させる必要があるが――
穂先を懐から抜き、腰に差した伸縮式の棒柄に接続して武装を再起動するまでに、マテリアはゆうに十回は彼を攻撃できるだろう。

だから、この場面で遺貌骸装は発動できない。
その至極真っ当な読みを印象づけるために、ヴァンディットはわざわざマテリアの前で組立から実演したのだ。

「シーナ!」

ヴァンディットは仲間の名前を呼びながら懐から穂先を抜き放った。
穂先を虚空に叩きつけるように振るうと、背後から差し出された棒柄がその接続部に狙い過たず直撃した。

シーナと呼ばれた背の低い少女が、自前の伸縮杖を伸ばして穂先にぶち当てたのだ。
衝撃でパーツを撓ませながらも、接続部同士が金属音を立てて合致し、ほんの一瞬で槍は完成した。
遠き福音と名付けられた十字槍が、魔性の赤色を槍身に纏わせる。

だが、それでも遅い。
何故なら遺貌骸装がその特質を発揮するにはどこかにぶつけて音をたてる必要があるからで、
十分な音を出すには、勢いをつけて振るわなければならないからだ。

この長槍の握りを持ち替えて振るうのに、どれだけ膂力に優れた者であっても一瞬以上の時間がかかる。
マテリアにとっては一瞬さえあればヴァンディットを制圧するのに充分であろう。

だから、既に手は打ってあった。
槍を持ち替えるより早く、金属のぶつかり合う音が路地裏に木霊した。

ヴァンディットが掲げた槍身、その表面に高速で石が衝突したのだ。
子供たちの一人が、投石器を使い打ち出した石だった。
遺貌骸装『遠き福音』――音を聞いた者にそれ以上の前進を許さぬ魔槍の効果が発動する――!

「弱い子供にとって、信用できるのはそれ以上に弱い連中だけなんだよッ!
 理解者は二人もいらない!俺たちだけが、議長の傍にいられる!
 議長より弱くて!議長を頼るしかできない俺たちだけがだ……!!」

言うだけ言って、子供たちは踵を返しマテリアへ背を向けて逃走を開始した。


【人間難民→議長に会いたいというマテリアの要請を拒否】
【遺貌骸装『遠き福音』の効果が発動。福音を聞いた者は音響源(槍)の方向へと進むことができなくなる】

197 :コルド・フリザン ◆ndI.L9sECM :2013/06/17(月) 20:15:57.31 0
>>188
「てめーが襲ってくっから戦ってんだよオタンコナスがッ!!」
やはり氷柱は躱されてしまった。あの身体能力では無理もないだろう。

>「依頼は、依頼なんでねそろそろ終わらせようか。」
「………チィッ!」
相手がこちらに迫ってくる。
ここまでずっと放浪の旅を続け、疲労が溜まっていた彼女には、その攻撃に対する対抗手段など無かった。

>『加速』
>『衝撃』
「!!!」

衝撃のエネルギーをモロに食らい、吹っ飛んで行く。
人間をも凍りつかせるほどの異才を持っていても、女という「性別の壁」だけは越えられないのだった。

(……………あっちにでっけえ都市がありやがるな………)
(もう少しだったって訳か………だが、このザマ………)
(チッ、情けねーぜ……俺は平穏に……過ごしたかった……だけなのによ…………)

そのまま、ドォオン!と音を立て、地面に着弾する。
それと同時に、彼女の目の前は暗転した。
当たりどころが良かったのか、幸い骨は折れていない。だが、意識は完全に失われていた。

【コルド 気絶】
【戦闘不能】

198 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/23(日) 15:11:23.75 P
【→ファミア・ノイファ】

その日、聖堂勤務の当直であったとある神殿騎士は、自分の職場の受難を一部始終目の当たりにすることになった。
二百年の歴史を誇るステンドグラスは無残にぶち破られ、夕映えの空が顔を見せている。
神殿騎士は己の展開した聖域結界の下に参拝者を匿いながら、朱に染まった天井の穴を見上げていた。

「パパぁ、また怪物が降ってくるの……?」

結界の下で、礼拝客と思しき少女が不安げに父親に問う。
既に上空へと飛び立った敵性存在が、飛行能力を持たずそのまま自由落下してくることは報告により全員が周知だ。
故にガラスの破片が落ちきっても結界は維持。
しかしいかに堅牢を誇るルグスの聖術であっても、高空から重力加速度を乗算された大質量を防ぎきれるかは不安が残った。

「大丈夫だよ、お嬢ちゃん。悪い怪物はルグス様がやっつけてくれるからね」

神殿騎士は聖術を維持しながら腰を曲げ、涙目の少女に微笑みかけた。
嘘ではない。自分たち神殿騎士は奉じる神の地上代行者だ。
彼らの拳はすなわちルグス神の拳、彼らの刃はすなわちルグス神の刃。
神殿騎士によって怪物が討伐されたならば、それはルグス神がやっつけたことになるのだ。

かくいう彼も若いころは娼館へ行って「ほ〜らこれがルグス様の性域だぞぉ」とやるのが持ちネタだった。
騎士団長に見つかってボコボコにされてからは死んでもやらなくなったが。

「ルグスさまって強いの……?」

「もちろん強いさ。あんな怪物なんてすぐに倒しちゃうぐらいにね。
 ほら、大ルグス像を見てごらん。あんなに大きくて強そうだろ?怪物なんて一発で――」

ずどん、と地響きに近い音がした。
神殿騎士が大ルグス像を指さした瞬間、ルグス神の顔面が爆発した。

「一発でやられた――!?」

再び降ってくる瓦礫、大ルグス像の頭部の破片、挙がる悲鳴、涙も止まった足元の少女。
ヴァフティア開闢二百年(以下略の大ルグス像をいともたやすくえげつなく破壊したのは、

「敵性存在を確認!大ルグス像の頭部に何故か頭から突っ込んで埋もれています!!」

「なんでだ――!?」

誰からともなく挙がった疑問は全ての者の代弁であろう。
自由落下だとしても大ルグス像に突っ込むまでには距離が足りない。
何者かが別の推進力を与えて敵性存在をルグス像の顔面にぶち込んだのだ。

「そういえば敵性存在がここを離脱したとき、ひっついていた女の子がいたよな……!」

199 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/23(日) 15:14:03.77 P
ひっついていたというか、敵性存在の方が跳躍する彼女に拘束されていたというか。
とにかく、この度の天井破壊と大ルグス像の顔面崩壊に関わっている人間が一人いる。
顔は見えなかったが、小柄な少女であった。それと思しき人影が、ルグス像の肩に立っていた。
あいつか――!と義憤を燃やす神殿騎士の肩を、視覚外から叩く者がいた。

「なんだ、いま大ルグス様の御尊顔を粉砕した不届き者の人着を同定するのに忙し――い!?」

ずい、と突き出されたのはルグス神殿の聖印。
それ自体は彼も所有している、ルグスの戦闘修道士の身分を表す証明証に過ぎないが……
真ん中に彼のものとは違う意匠が施されていた。
陽光を受けて輝く紅石――"聖女付き"と呼ばれる特務クラスの役職を意味する意匠だ。

「し、シスター・アレリイ!お戻りになられていたので?」

聖印を見せる女神殿騎士――特務で帝都へ赴いた後何故かそっちに居着いてしまった彼女を一瞥した神殿騎士は、
両足を揃えて神式の敬礼をした。聖女付きは明確に上役なのだ。

周囲で同様に大ルグス像を見上げていた騎士たちもアレリイに向き直して敬礼を行う。
故に、彼らは決定的な瞬間を見逃すこととなった――
大ルグス像に敵性存在を叩き込んだ少女が、神殿の集光鏡を一基もぎ取って奪い去っていく瞬間をだ。

すべては、いともたやすく、そしてえげつなく――完遂された。
それなりに高給取りである神殿騎士達の年収換算でおおよそ二十年分が、根本から引っこ抜かれてルグス像を駆け登る。

ちなみに神殿の運営資金は基本的に寄付、喜捨であるが、それだけじゃこの規模の神殿を維持するのは難しい。
よって神殿内で護符や神像などを販売して副収入としているわけだが――神像を掘っているのは彼ら神殿騎士だ。
あと何体神像を掘ればこの損害を補填できるだろう。セット販売やプレミア付けなど商法も工夫しなければなるまい。

>「――分かったわよ、ファミアちゃん!」

集光鏡を持っていった賊がルグス像に再び降り立ったとき、アレリイ特務が何かを悟ったかのように手を空に翳した。
紡がれる聖句は――『白光』。専守防衛のルグス神殿においてほぼ唯一の砲撃系攻性術式である。
上役である彼女が白光を放とうとしている先には、鏡を奪い去っていった賊の少女。

「そうか、あの賊を狙撃しようというわけですね!?皆、シスター・アレリイを援護するぞ――!!」

神殿騎士の呼びかけに呼応した同僚たちもまた、自らの修めた陽光投射の奇蹟再現を行使する。
白光は散漫している太陽の光を収束させて対象へと放つ熱閃の聖術だ。

昼間行えば一瞬で敵を焼き尽くすほどの強力無比な切り札となり得るが、この暮れの空ではどうだろう。
複数人の神殿騎士が一斉に陽光を収束させたために、辺りが日の暮れ以上に暗くなる。
反比例して、彼らの手元が強い輝きを満たし、

>「――"白光"っ!!」

アレリイ特務の号令によって、それは確かに放たれた。
日中に行うよりかは細い、しかし強靭な力をもった光の線が、幾条も束ねられて一撃と化す。
白光の群れは狙い過たず賊の少女へと殺到し、彼女の持つ鏡へと吸い込まれた!

反射する。
その先には――魔獣と化した敵性存在!!

 * * * * * *

200 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/23(日) 15:15:00.09 P
 * * * * * *

意識を失い、肉体の主導権を奪われた議長は、その時ようやく頭をルグス像の残骸から抜き出したところだった。
赤く、しかし何も映さないその瞳が、外の景色として最初に視界に入れたのは、
溢れそうになる白い光の群れだった。

「――――!!」

異形と化した剛爪で光を遮る。
一瞬で爪が焼き尽くされ、ほんの少しの停滞のあと光は真っ直ぐこちらへ進んできた。
魔獣の胸、そこに突き立つ月光の杭を――正確に撃ち抜く!
光として上位にある日光。それも聖術として練り上げられた光が杭を貫く。
崩壊は一瞬だった。風化し、崩れるようにして砕かれていく月神ルミニアの聖術。

「あ――!あ――!!」

その破壊に従い、のけぞりと痙攣を繰り返す議長。
やがてその発作の間隔が長くなっていき――止まった。

同時、議長の身体が爆裂四散した。

赤い爆閃。地上で展開していた結界を風が叩き、追うようにして甲殻や肉の破片が降ってくる。
異形の爪、牙、翼……硬く、あるいは柔軟な肉体のパーツが細切れとなって結界に弾かれた。
しかし、群衆は気付く。

「血が一滴も、降らない……?」

破壊された生き物の肉片がこれだけ四散しているのに、それらが内包するはずの血液が降ってこない。
あれだけ巨大な魔獣が砕かれたならば、循環する体液もまたぶち撒けられなければ道理に合わない。
落ちてきた肉片の断面を見れば、半ば炭化して、雫の滴りすらなかった。

それでも、神殿に発生した敵性存在が破壊されたことを疑うものは誰も居なかった。
既に日も落ちてしまった大聖堂、咆哮と怨嗟の叫びの主は、絶命し、跡形もなく消滅していた。
危機は去ったのだ。

 * * * * * *

201 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/23(日) 15:15:50.36 P
【夜・ルグス神殿大聖堂】

半壊した大ルグス像をどう処遇するかについて議論するには、今日と言う日は既に暮れ過ぎていた。
補修をするにしても、撤去するにしても、損傷の状況を細部まで確認するには充分な明るさが必要だ。
そうでなくても天井には3つも大きな穴が空き、星の輝きが太陽神の聖堂に満ちている。
破片が降ってきても危険なので、夜半の大聖堂には立ち入り禁止令が敷かれ、夜明けを待つことになった。

「う……あ……」

議長が目を覚ましたのは、街の灯りを夜風が運んでくる高台の上だった。
大ルグス像の顔面跡地。ヴァフティアを一望できる空の上だ。
意識の覚醒に従い、弾かれるようにして飛び起きる。

「皆さんは――ファミアさんは!?」

独りごち、次いで身体を確かめる。
黒の外套は魔族化の際に吹き飛んでしまったらしく、帝都を出る時に着てきた町娘の服だけとなっていた。
それも、胸の部分に真円の、拳大の大穴が、焦げ跡と共に空いている。

幸いにも議長は発育途中にあったので、そこまで過激な格好にはなっていなかったが。
傍に、『何故か』巨大な鏡が安置されていたので、自分の姿を確かめるに、

「わたし、人間に戻れてます……?」

ぺたぺたと頬を触ると、若く瑞々しい弾力が指先に返ってきた。
眼鏡もどこかへ行ってしまったが、魔族化が始まってからは素通しだ。正味問題はない。
冷静に、今の状況を鑑みる。

「今夜は月が出てる……」

これまで、月の出る夜は毎晩魔族化の発作に悩まされてきた。
その度に、ヴァンディットを始めとした仲間達に押さえつけられ、ルグスの聖水を飲んで沈静化していた。
今日は聖水を服用してから既に5時間は経過している。
いつもなら、とっくに魔族化が始まっていてもおかしくはなかった。

「そしてこの胸の穴。呪縛が解かれたと、そう思って良いのでしょうか」

意識は途絶えたが、何が起きたかは感覚が知っていた。
太陽神ルグスの聖術が、議長を縛っていたルミニアの聖術狙撃を打ち祓ったのだ。

202 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/23(日) 15:16:42.75 P
議長は目の前の鏡を撫でた。
映る自分。そのさらに奥に、二人分の人影がある。
ファミアと、神殿で激突した女騎士、ノイファだ。
彼女達へ、議長は振り向いた。

「……全て、お話しします。わたしに何が起こって、何をしにこの街へ来たのか」

この女性たちは、信頼できる。
ファミアは最後まで自分を助けようと足掻いてくれた。
ノイファは実際に自分を魔の淵から助けてくれた。

自分がこれからこの街でやろうとしていることに、協力者は不可欠だ。
しかしそんな打算とは別のところで、これまで自分と仲間たちが、弱き幼子の身で戦ってきたことを、
誰かに吐露したかった。その苦しみを、その抗いを、知って、認めて欲しかった。

「少し、時間のかかるお話ですので、どこか落ち着ける場所に匿っていただけませんか……?
 安全が確保でき、もしも私が再び魔性に転じても――被害を漏らすことなく滅ぼしてもらえる場所に」

悲観的な要求ではなかった。
目の前の彼女たちならば、もう一度自分が魔族と化しても、きっと救おうとしてくれるだろう。
それに応えたいと、そう思ったのだ。

「そこで、お話しします。元老院が画策する、しかし多大な犠牲を擁する大規模作戦について。
 元老院は、鍵となる私の魔性の名をとって、本作戦をこう呼びました」

魔族・『極北の炎』が、その双眸の宿す魔眼が、眠らぬ街の光を湛えて言葉を継いだ。

「――――"黎明計画"と」


【議長の魔族化解除・ルミニア杭の除去に成功!】
【時間軸は夜へ→議長の要請:全部吐くので安全な場所に匿って下さい】

【夕方から夜までの間にファミアさんとノイファさんがどんな逃亡劇と言い訳をしたのかはお任せします】

203 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/24(月) 00:27:21.85 P
【→セフィリア・スイ】

解き放った殺意の濃霧、乳白色の死神――ヴェイパーカノン。
その温度で大気を蒸し上げ、前方広範囲に渡って生存不能の領域を作り上げる。
大通りを白く染めた風は、離脱を潰す前準備によって確実に敵を殺戮するはずだった。

>「スイさん!私の前に真空を作って下さい!私も壁を作ります!」

セフィリアの弾くような声で固着していた戦場に色が戻った。
彼女は一歩踏み出すこともままならぬ潤滑の沼地で――恐れず一歩を踏み出した。

「馬鹿な、何故滑らない……!?」

フウの撒いた潤滑液は対象の摩擦係数をほぼゼロにする脅威の代物だ。
このレベルになると、普通に立っていることすら非常に困難になる。
人間が二本足で直立する場合、両足で地面を挟み込むような形でバランスをとっていることが多いからだ。
だが、セフィリアは一切体幹をブラさない。
姿勢の制御に地面との摩擦を使用せず、自身の体内の重心制御だけで完結させているのだ。

「達人ってレベルじゃないだろう、それ――!」

双剣。左右に同質のものを持つことで発動する遺才体術が、脅威の平衡を意のままにしている。
セフィリアは一歩前へ踏み込み――石畳の端を震脚で踏み込んだ。
ズゴッ!と小気味いい音をたてて石畳がせり上がった。
梃子の原理、シーソーのように持ち上がった石畳は襲い来る殺人蒸気からセフィリアの身体を遮蔽した。

「魅せるねぇ〜〜〜ッ!だが、石って奴は容易く熱を通すと思うよ吾は!!」

ヴェイパーカノンが石畳を強烈に加熱する。
石は金属ほどではないが高い熱伝導性を誇る材質だ。
山火事のあと赤熱した石の上で肉を焼いたのが、人類初めての調理だと言われるが、まさにその再現が起きようとしていた。
セフィリアは石畳の影に隠れている。ならば石畳ごと熱して、

「石焼セフィリアとしてスタッフが美味しくいただいてやるよ!!」

高熱の蒸気が石畳に吹き付ける。
しかし――どれだけ吹きつけても、石畳が赤熱する気配がない。
石畳の表面に透明な膜があって、それが蒸気を尽く弾いているかのようだ。

「まさか……風帝、お前か!!」

セフィリアが畳返しを行う前にスイに指示を出していたのを思い出す。
石畳の前に真空が発生していた。
空気は言うまでもなく優秀な断熱材であるが、それは熱を伝導する空気中に物質が少ないからだ。
すなわち密度が低いために、熱が伝達していくのに非常に時間がかかる。

では、真空――『密度がゼロ』の場合はどうであろうか。
答えは考えるまでもなく目の前にあった。
ヴェイパーカノンを上昇気流をつくることで空に逃したスイは、こちらを睥睨して言った。

>「誰が、セフィリアさんとの相性が悪いと?
 ノイファさんは、俺の本質を理解して上手く使ってただけだよ。俺の能力は、サポートする相手は選ばない」

「――――ッ!!」

フウは歯噛みした。
スイの遺才魔術は広域殲滅用の攻撃特化型だと決めてかかっていた。
だが、蓋を開けてみれば実に多彩なサポートと、そしてセフィリアの防御まで見事にやってのけたのだ。

204 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/24(月) 00:28:10.49 P
「く、くくく……げらげらげら!!
 舐めてかかってこのザマか、こりゃナードの奴を笑えないな吾も!
 だがな遊撃一課……貴様らの失策はこの吾に反省の時間を与えたことだ……!
 何故なら吾の攻撃はまだ終了していないッ!」

通常、蒸気とは無色透明のものである。
我々が目にする白い気体は厳密には気体ではなく、密度の極端に薄まり散乱した液体としての水に過ぎない。
空に雲が生まれるのと同じ理屈で、急激に冷やされた水蒸気が分子単位で水に変わっているのだ。
ことほど左様に、水蒸気は高温を維持することが非常に難しい。
体積が膨張しているために、表面積も増え、したがって外気にさらされて冷える効率が高いからである。

だが――フウの遺才はその常識をいともたやすく覆す!
極まった水質制御の遺才魔術が、膨張した体積のまま、熱湯の温度を維持して敵を襲う殺人濃霧を実現させた。
同じ高熱を武器とする火炎系の魔術に比べ、物理的な破壊力に劣るが敵を蒸し殺すだけなら必要充分!

何よりの強みは殺傷可能温度の霧が戦場に漂い続けることにある。
敵が近接型の場合迂回しなければフウに近づけず、遠距離型なら濃霧が姿を遮蔽して狙いをつけることもままならない。
攻防一体の戦場創出型魔術兵装、それがヴェイパーカノンなのである。

「ヴェイパーカノンは未だこの場に残留し続けている。
 風で吹き飛ばすか?その瞬間、がら空きになった本体の方を蒸し焼きにしてやるよ……!!」

故に、フウとその遺才にとってもっとも弱点となる戦術が一つある。

>「スイさん、逃げましょう!目的は達成されました」

――せっかく形成した有利な戦場が無意味となる、戦術的撤退である。

「何ィィィィ!?」

フウにとってこの敵の行動はなにからなにまで誤算だらけだった。
フウの必殺技を凌ぎ切ったことで勢いを我が物としたこの状況で、迷わず逃げの一手を打ってきた。
常人ならば、ここで一気に畳み掛けてくるだろうし、フウはそれを想定し迎撃する準備をしていた。
だがセフィリアは彼我の状況を理解したうえで、ヴェイパーカノンの特性を正確に把握し撤退を決めた。
適切なタイミングをわきまえた行動だ。

(流石に"双剣"ガルブレイズの末裔……!よく練り上げられた戦術眼だな!)

セフィリアの印象から剣士のイメージが強いが、ガルブレイズはもともと指揮官系の血筋だ。
例えば遊撃課長のボルト=ブライヤーが両腰に剣を提げているのも、起源を辿ればガルブレイズのそれに行き着く。
優秀な指揮官だった当時のガルブレイズ当主が、部隊の長を務める者に双剣を装備させたのが始まりだと言われる。
片側の剣は自身の戦いに使い、もう片側の剣は部下へと向け指揮を執るのに使う。
敵味方双方に常に刃を向けて初めて指揮官を名乗れるのだと、そう教えたのだ。

>「了解した!!」

スイが快諾を示し、フィラデルを抱えたまま風を展開する。
セフィリアの身体を風が包み、その身に矢の如き速さを付与した。

「逃がすか……!」

フウが叫び、展開していたヴェイパーカノンを収束させもとの水球に変える。
風魔術と異なり水は大気中からすぐに取り出せるものではない。
大量の水を操ろうと思えば、どうしても自前である程度は用意する必要がある。
風とは桁違いの出力を誇る代償として、そうした制限と展開速度の遅さが水使いの短所だった。
それを補うための術式が、ヴェイパーカノンなのだ。

「蒸気のパワーを舐めるなよおおおお!」

205 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/06/24(月) 00:29:14.24 P
そして風使いに対する長所を探した場合、やはり最初に出てくるのが質量ゆえの単純なパワーだ。
風使いは身軽に宙を泳ぐようにして飛ぶが、水使いの飛翔術はそれとは決定的に性質が異なる。

「ヴェイパーカノン:モード<コントレイル>!!」

水球を体内に吸収しなおしたフウは、新たなる術式を発動させた。
足裏、膝裏、腰、そして背中から一対ずつ、ヴェイパーカノンの術式陣が展開する。

「――斉射!!」

刹那、体内で魔術的に超圧縮された蒸気が各部の術式陣が噴出した。
見えない巨人の手に胴を掴まれて思い切り振り回されたかのような動きで、フウは空へと飛翔した。
一瞬で町並みの稜線を越え、民家の屋根へと着地するや否や再び飛翔術を発動。
石葺の屋根が剥がれ落ちる音を置き去りに、フウは飛び石を伝うように民家の屋根から屋根へと飛ぶ。

「見つけた!」

スイ達へはすぐに追いついた。
決して遅いわけではないが、風を受けて飛ぶ飛翔術に比べ蒸気噴射は最高速で大きく上回る。
初動がどれだけ遅くとも、敵が逃げ続ける限りは必ず追いつける自信がフウにはあった。
そして、自信は現実のものとなった。

逃走するスイ達の前に、ヴェイパーカノンの蒸気を引き連れてフウは着地する。
蒸気を噴射して着地の勢いを緩和するというよりかは石畳に吸収させ、破壊しながら降り立った。

「あの場面で逃げの一手ってのは、戦術的に見ればすごく正しい。吾だってそーする。
 でもなあ……たとえそれが正解だとしても、吾の前から逃げるなよ」

瓦礫を払いながら、フウはアルカイックな笑みを向けて言った。

「『黎明計画』の重要な材料だから、お前ら殺しちゃ駄目だって言われてんのにさぁ。
 ――背中見せられたら殺りたくなっちゃうだろ?ハンター的に考えて」

フウは指を鳴らした。
途端、スイが脇に抱えていたフィラデルが痙攣し、苦しみもがき暴れ始めた。
スイへ向かって何か言おうとしているのか、顔をスイへと向けて口を開ける。

「溺れるってマジつらいよな……溺れて『水を飲む』のってすごく苦しいらしいぞ」

フウが言った瞬間、フィラデルの口から大量の水が噴射された。
それはスイが防御するよりも早く彼女の顔面に纏わりつき、水球となって頭部を覆った。

「風の刃で水を断つか!?どーやったって自分の頭ごとかち割るしかなさそーだけどなあああ!?」

フウの哄笑が再び響く、ここは帝都3番ハードルの大通り。
SPINの駅は遠く、飛翔箒は他人のものが転がっているが、フウの速度に勝れるものではない。
水使いフウから、逃げられない。


【フウ→逃亡を図るスイ達に水の飛翔術(初動は遅いが超高速)で追いつき、回りこむ。
    フィラデルが飲んだ水を操作しスイの顔面に浴びせることに成功、頭部を水球に閉じ込める
    通常の物理攻撃やスイの魔術では頭部を傷付けず水球を割ることは非常に困難。
    また高温の壁であるヴェイパーカノンが漂っているためフウを直接攻撃するのも高難易度】

【重要な情報:『黎明計画』 『材料だから殺せない』】

206 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/06/26(水) 15:10:11.76 0
沈み、翳りゆく陽光。
比例して減速してゆくルミニアの杭の崩壊。
(駄目だ、やっぱりこれだけじゃ……!)
その焦燥の中に、文字通り一筋の光明が差しました。

>「――分かったわよ、ファミアちゃん!」
聖堂に響く声に顔を上げると、聖術の構えをとるノイファの姿。
背後に居並ぶ騎士たちもそれに倣って詠唱を始めました。
やはり実戦の経験が多い人は理解が早いものだなあと感心することしきりなファミアの視界に、何やら違和感が。

「あれ?」
よく見ると、照準がずれている騎士が何人もいることに気が付きました。
というか、ノイファ以外の全員がファミア本体を狙っているように見えます。
(……まさか、私を賊と勘違いして!?)
「いやっ、違うんです私は……!」
違いません。

>「――"白光"っ!!」
弁明を遮るようなノイファの号令一下、術式が放たれました。
「ひゃあ!」
ファミアは反射的に鏡を体の前におろして光を反射。
ゆるく湾曲した鏡面はかすかなずれを補正して、入射した全てを議長に叩きつけます。

瓦礫と化した頭部からようやくはい出てきた議長の赤と、鏡の縁から下を覗き込むファミアの紫。
幾度目かの交錯は、議長が掲げた自らの腕によって遮られました。
しかしその遮蔽もまた一瞬。束ねられた光は比喩でも誇張でもなく議長を貫き――

>「あ――!あ――!!」
そしてこれもまた嘘偽りなく、木っ端微塵に打ち砕きました。
「…………!!」
眼前に突如として出現した凄惨な現場に、ファミアは久しぶりの嘔吐&失神を敢行しかけました。が――

>「血が一滴も、降らない……?」
足下に蠢く民草の言葉通り、四散した肉片は血を滴らせることはなく、
甚だしくは触るだけで灰となって崩れるようなありさま。
それでもあんまり愉快な状況ではないけれど、とりあえず意識を手放すことは避けられたようです。

ファミアは頬を拭って一息。それから改めて周囲を見渡しました。
とても敵意のこもった視線とぶつかりました。目を逸らします。
同じく敵意に満ちた眼差しに出迎えられました。

どうやら騎士修道士司祭参拝客、みんなに敵の首魁と思われているようです。
まあ、神殿の被害の半分以上がファミアの手によるものですし、むしろ自然な結論といえましょう。

とは言え流れが自然だからといってそれに身を委ねる訳にはいかないものです。
ファミアはおもむろに飛び降りて議長の元へ。そのぐったりとした体を抱きしめると
「……えへへ」
可愛く笑ってごまかしながらルグス像の残骸へさらに一撃、両足で踏み切って跳躍。
今度は加減もばっちり、綺麗に屋根に着地して、そのままみんなの視界から消え――

207 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/06/26(水) 15:11:33.16 0
「――おい、逃げたぞ!追え!」
騎士の一人が口を開き、別の騎士がそれに呼応。
あっという間に点呼や指示の声が聖堂を埋めてゆきました。

下手に動かずに留まっていればノイファの口添えも得られたでしょう。
しかし、走りはじめた集団心理にはもはや理知の付け入る隙間などなく、
騎士たちは「見敵必殺!」と言い交わしながら街の各所へ展開していきます。

『GOGOGOGOGO!!』
『クリアー!』
『フォックストロット、エコーと合流しアルファのリリーフへ向かえ!』
『ハートセブンにてボギーらしき敵影の目撃証言!』

飛び交う念信を拾い聞きしながら、ファミアは物陰に身を押し込めていました。
さすがにこの広い街で、日が落ちかける中たった二人を追うというのは土地勘があるにしてもなかなか難しいようです。
一方でそれのないファミアが逃げるのもこれまた難業。
それでも。
抱えていた議長を、着ていた黒い外套の"残り"で背に括りつけて両手を開け、闇を縫うようにひた駆けました。

視界を確保しつつ照明から逃れるために高所へ、あるいは捜索隊の背後をとって同じ方角へ。
街を縦横に飛び回り、多少なりとも手薄に見える箇所を辿って、行き着いた先。
そこはガラスや石像の破片が散らばり、素通しになった窓からの月光が顔のない神像を闇から切り出している……
「……戻ってきちゃった」
ルグス神殿でした。

聖堂の入口には綱が渡され立入禁止の札が貼り付けられていましたが、
ファミアが潜り込んで中から議長を引っ張りこむ程度の隙間は十分にありました。
人の気配は皆無。一息つくくらいはできそうです。
(しかし、これからどうすれば……ヴィッセンさんともはぐれたままだし)
マテリアにしてみれば幸運この上ないことですね。

さしあたって、自分たちだけで素直にごめんなさいはもはや通じそうにありません。
むしろ神経を逆なでして終わりそうです。
だからといって逃げ続けるのは論外。本気でそうするならヴァフティアを離れることになります。
が、そうなれば追手が元老院になるだけの話。

となると誰かに仲裁に入ってもらうほかありません。
ありませんが、これにもまた問題が。
仲裁に入ってもらえそうな人物は、ファミアの伝手では二人だけ。
貴族である父ヴァエナール、そして同僚にして聖騎士、ノイファ――しこうしてその正体は特務官フィオナ・アレリイ――。

そう、どちらも今この場にはいない人物です。
まだしも現実的なのはもちろんノイファの方ですが、
それですら接触を図る前に捕縛されて吊るされて天日干しにされるのが落ちでしょう。
ほとぼりが覚めるまで潜伏し、警戒が緩んだところでつなぎを取るというのが精一杯でしょうか。

208 :ファミア ◆mCdqLO6Z6k :2013/06/26(水) 15:12:30.20 0
とりあえずはもう少し見つかりづらいであろう場所へと身柄を移します。
そう、ルグス像の肩の上です。
頭が完全に崩れ落ちその分のスペースが空いているので、ど真ん中にいれば下から見つかる恐れは無さそうです。
他方、上には一切の遮蔽物がないので夜が明けて検分が始まる前にはここを離れなくてはいけません。

それまではしっかりと休息を取ろうと、ファミアは背負っていた議長を下ろして横たえました。
その脇で自分も横になって、大きく息を吸います。
吸った息を細く吐き出していると、本人の意志に反して瞼がすぅ、と降りました。

――目を閉じていたのは一瞬だったのか、あるいはもっと長い時間だったのか。
ガラス片を踏みしめる音が天井に跳ね返って、ファミアはそれを聞くなり跳ね起きました。
しかし足音の主を確認すると一安心。それは、ノイファでした。

「ア――ィレルさん、良かった」
思わず大きくなりかけた声量を無理に抑えこんで、ファミアはノイファに呼びかけました。
さらに背後でも気配が。
声のせいか議長が目を覚ましたようです。

議長はファミアがそうしたように跳ね起きるなり、放置された神鏡に自らを写して、顔や体を検めはじめました。
ノイファ、ファミアの二人と、まず鏡の中で、ついで直接視線を交わした議長は、気負うでもない様子で口を開きました。
>「……全て、お話しします。わたしに何が起こって、何をしにこの街へ来たのか。
> 少し、時間のかかるお話ですので、どこか落ち着ける場所に匿っていただけませんか……?
> 安全が確保でき、もしも私が再び魔性に転じても――被害を漏らすことなく滅ぼしてもらえる場所に」

少なくとも最後の条件は即座に叶えられるでしょう。
何故なら――ファミアと議長はまだ気がついていませんが、既に聖堂は包囲されているからです。

ファミアは警戒の薄いところを選って移動していました。
もしも、それが意図的な配置であったとしたら――?
そう、ファミアは戻ってきたのではなく、戻ってこさせられたのです。
彼らが最もよく知るこの場所へ。

とはいえ、一番の味方とは労せずして接触出来ました。
今度こそよけいなことをせずにいれば、今以上に状況が悪くなることもそうそうないでしょう。

【現場に戻ったら張り込まれていた ※現場は「ゲンジョウ」と発音しましょう】

209 :ユウガ ◇JryQG.Os1Y:2013/06/26(水) 23:35:17.44 0
「任務、完了。」
コルドを、吹っ飛ばし、きせつさせたのを確認し、
一息ついでに、のびをする。
(はぁ、この時だけは少し、罪悪感が芽生えるよなあ。)
ユウガは、若くして歴戦をくぐり抜けた戦士。
それなりの量の、死に際を見てきた。
(惜しい奴、だったよ。生きていれば、また会おう。)
「さてと、あいつに連絡するか。」
腰より、小型ゴーレムを、取り出し
「リッカー中尉、私だ。対象者『コルド・フリザン』の迎撃に成功。これより帰投する。」
そう伝え、スイッチをオンにしたまま、騎馬ゴーレムにまたがり、王都に向かう。

210 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2013/06/27(木) 00:15:42.31 0
情報を得る為ならば、例えば靴でも喜んで舐める
そういった覚悟をすら持って頭を下げたフィンに、ハルシュタットの意を受けたランゲンフェルトは答えた
それは値千金の、恐らくは社会の裏側に属する彼らでなければ知り得ぬ情――――


>「ボルト=ブライヤー……彼は確かにこの娼館街の常連客です。それもただの常連じゃない。
>並外れた選球眼を持ち、限られた予算で最大限満足度の高いプランを構築。
>嬢個人との交渉によって、店側も考慮しなかった嬢それぞれの個性に合わせたサービスの自己開発。
>客の身でありながら業界の振興と発展に陰日向から貢献していた――伝説の遊び人です」

「え……お、おう……」

……確かに裏側に属する人間しか知り得ぬ情報であったのだが、
真剣な表情で語るランゲンフェルトが語る内容に、フィンは引き攣った顔で答えるしかなかった

(悪ぃボルト課長……流石にこれはちょっと……)

まあ、男の夜遊びに長けている訳でもないフィンなので
ボルトの行動の偉大さに気付けないのは当たり前であるのだが――より重要な情報はここから
馬車から顔を出したハルシュタット本人が語る言葉からであった

>「ボルト=ブライヤーの動向については、今をもってまだ何も掴めてはおらん。
>ワシら常連組合からもハンターや私兵を使って探らせてはおるんじゃがの……。
>そうやって放った調査員が、一人も帰ってこないのじゃ」

ボルトの失踪に対する風俗業界の過激派が起こした事件だというランゲンフェルトの推測
仮にも暴力が隣人である世界に生きる人間が放った追手の消失、それに伴う“タブー”の存在
更に一向にボルトの情報が上がってこないという近況……

211 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2013/06/27(木) 00:17:40.76 0
成程。これだけ見れば絶望的な話だろう。ハルシュタットが手を引くと言うのも理解出来る
だが、この現状は別の視点―――ここに至るまでの帝国の理不尽な動きと、ボルトの能力の高さ
それを知る遊撃課一課の視点で見れば、紛れもない大きな光明であった

「……つまり、こんだけ躍起になって痕跡をを消して回ってるって事は
 ボルト課長が生きてる可能性はかなり高いって事だよな」

仮にボルトが既に死んでいるのなら、わざわざ追手を消すという一種のリスクを犯す必要はない
何故ならば、死体を完全に消すだけでボルトが持っていた情報の大半は消滅するからだ
それをせずにこうまでしてボルトに接触を試みようとする者を排除するという事は

ボルトが逃げ切っているか、もしくは生きた状態で捕えられている
即ち、追っていけばいずれボルトに辿り着く事が出来る可能性、それが極めて高いと考えられる

勿論、既にボルトが殺されており、敵が異常なほどに
執念深く痕跡を消しているという可能性はまだ残っているが、それでも今までの手探りの状況に比べれば
遥かに希望がある事は確かだ

フィンはその情報を提供してくれ、かつフィンの身を案じてくれてたハルシュタットに礼を言おうとし

「なっ!?」

直後、ハルシュタットが消失した
瞬きする間、本当に一瞬の間に起きた人間の消失
コインの音を残し、ハルシュタットは消え去ってしまった。そしてその現象に驚く間もなく――――

>「ハンプティさん――!」

ランゲンフェルトの言葉とほぼ同時に、それは襲ってきた

212 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2013/06/27(木) 00:19:04.55 0
槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍――――

数えるのも馬鹿らしくなる無数の、短槍による襲撃
それは馬車を蜂の巣と化し、馬車の近くにいたフィンも瞬く間にその槍の影に埋もれてしまった
見れば――――周囲には数多の人影揃いの外套を身に着けた者たち
これまでその存在すら認識できなかった者たちが、次々とその数を増やしていっている

まさに『詰み』の状況
先の奇襲と合わせて、手練れの者でさえどうあがこうと生き残る事が出来ぬであろう局面

だが

「……はは!こいつはいいタイミングだぜ!」

ここに居るのは、その局面を覆せる数少ない例外の一人

「探そうと思った襲撃者が、わざわざ出てきてくれるなんてな
 ……こんなに沢山いるなら、どれか一人くらいは課長の事とハルシュタットさんの事、吐いてくれるだろ――っと!」

鎧の遺才を持つ者にして、人外の域へと足を踏み入れた男……両腕と両足を黒鎧で覆った、フィン=ハンプティ
彼の周囲1m程の地面には、肩から血を流す護衛の男が転がされており、その領域に投擲された槍は一本も刺さっていない

そう、一本もだ
彼に向けて放たれた全ての槍は、在る物は軌道をずらされ、またある者は経年劣化でもしたかの様に無残に砕けていた
いつかの洞窟の様に動ける範囲が狭い場所であるならばともかく、これだけ開けた場所ならば
フィンにとって全ての槍に対処するのは――――容易い事であった

そんなフィンの対処にも臆する事無く……いや、そもそも臆するという感情が希薄なのか
襲撃者達は様々な武器を手に肉薄して来る
ただ、作業の様に命を奪うための襲撃を敢行する
そんな彼らを眺め見て、フィンは獰猛な笑みを浮かべランゲンフェルトへと声をかけた

213 :フィン=ハンプティ ◆yHpyvmxBJw :2013/06/27(木) 00:20:40.78 0
「なあ、ランゲンさんは、ハルシュタットさんの護衛を任されてたんだし、かなり強いんだろ?
 だったらさ、この場を切り抜ける為に俺に手を貸してくれねぇか?
 とりあえず――――この第一波は俺が全部防ぎきるから、その間を縫って襲撃者の数を減らして欲しいんだ」

「そんでもって、こいつら全滅させて……無理そうなら、出来るだけ再起不能にした上で何人か捕まえて、
 ボルト課長とハルシュタットさんの行方吐かせようぜ!
 喋らない相手に『喋って貰う』のは、ランゲンさん達の業界の十八番だろ?」

「まあ、攻撃受けそうになったら俺の近くに来てくれりゃあなんとかするからさ――――宜しく頼むぜ!」

笑顔で語るフィン……今宵の襲撃者達には、運が無い
遺才級の技能があるのならともかく、たかが訓練された刃如きでは、或いは淡白で無機質な攻撃では、
フィン=ハンプティに触れようがない
それどころか、受け流された周囲に無数に居る味方の刃による同士討ちすら「引き起こされる」事だろう
もしくは、黒鎧に触れる事でその武器と肉体を損壊させる者も出るかもしれない

本当に運が無い。以前の、英雄志望であったフィン=ハンプティであったならそこまではやらなかったし、やれなかった
だが、今のフィン=ハンプティは普通の人間の様に、大切な者を贔屓する。そして、その味方の為ならば容赦はしない

防御の才と魔族の肉体を用い瞳を深紅に変えたフィンは、マントを翻し、その能力を駆使した『撃退』を開始する――――!

【フィン→黒鎧と遺才をフルに使用し、防御開始。ランゲンフェルトに共闘を提案】

214 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/06/29(土) 20:06:10.46 0
遅くなってすまねぇな!
金も実力もあるが、胸はないセフィリア・ガルブレイズの時間だ

前はたしか……あれか
軍人家系らしい鮮やかな撤退を指揮したところまでだったか
合理的な判断ってやつなんだがな

俺はいまいちきにくわねぇ
正しい判断だとは思うがな……あんなのはセフィリア・ガルブレイズじゃねぇ
あそこで立ち向かって、こそのセフィリアだろうに

あの遊撃課の事務員を助けようとしたあとはよかったのに……
っと愚痴ってばっかじゃ始まらねぇ

とっとと続きといこうか

スイを上手く利用して、逃走を図った二人だったが……
ところで、スイっていうかこの手の遺才魔術師は凄まじいな
汎用性の塊だ
セフィリアもさぞかし戦術を立てやすいだろうな
なんでもできるからな

まあ、ここで一つ確認させてもらうが、空気の特性をちゃんと把握してるセフィリアも凄いんだからな
しっかりお勉強してきた証拠だ
これがどっかの剣鬼の姉ちゃんじゃこうはいかねぇだろ
正しい資質、軍人として、貴族として、剣士として、いままで培ってきたもんが噛みあって来やがった
セフィリアとって最も不幸だったことは騎士として、道を貫こうって気持ちが成長を阻害してきた
いま、勝つことに徹しようとする姿勢が彼女を強くさせてる

まったく可愛げはないけどな

フウって奴もさすが遊撃二課に選ばれるだけのことはある
埋立地の二課とおんなじぐらい優秀かもな

すぐに追ってきやがった

水を推進力にして空をかっ飛んできやがった
ガキのおもちゃかこいつ……

しかし、追ってくるために、全推力を後ろに集中させてるのか
術式陣がすべて後ろに回ってる
セフィリアもよくそれを観察していた

こいつ、自分はだいぶ上からのつもりだろうが実のところ
人間2人抱えたスイに全力を出さないと追いつけない

追いついた速さを考えても、スイと比べてそう突出した実力でないと判断できる
長距離走者と短距離走者の差、などといろいろ考えた結果、そういうふうに至った

セフィリアは冷静だった

フウのやつが古代彫刻のような静かな笑みを浮かべてるが
その表情はセフィリアにこそ、相応しい

215 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/06/29(土) 20:07:03.15 0
セフィリア達の退路を塞ぐ形で降り立ったフウ
石畳を叩き割って降り立った様子は、巨人が踏みしめたかのように割れた
セフィリアはそれを虎のような眼光で見つめる

>「あの場面で逃げの一手ってのは、戦術的に見ればすごく正しい。吾だってそーする。
 でもなあ……たとえそれが正解だとしても、吾の前から逃げるなよ」

「お褒めに預かり光栄です。でも、せっかく見逃してあげたのに、わざわざ追いかけてくるなんて……」

セフィリアはやれやれといった様子でずれたメガネを直した

「私たちは別にあなたを殺す理由はありませんから、同僚を助けたらそれで終わりだったのに……
おっと、あなたも一応は同僚でしたね」

竜の逆鱗を撫で回すような言葉、明らかに挑発してる
こういう手合いに挑発は効かないとわかってる

むしろ、相手がこちらが強がって、とでも錯覚してくれれば儲けモンだろう

>「『黎明計画』の重要な材料だから、お前ら殺しちゃ駄目だって言われてんのにさぁ。
 ――背中見せられたら殺りたくなっちゃうだろ?ハンター的に考えて」

なかなか興味深いことをいってるな
黎明計画……?
殺してはいけない……

きな臭さしかねぇな……
ん、ということはこいつらはオレたちを利用してるってことだよな……
あ……こいつはやべぇ

216 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/06/29(土) 20:07:20.55 0
「……私が材料?殺してはいけないと手心を加えられていた?
つまりはそういうことでしょうか?
私、結構優秀な成績で学校でましたし……そんなに馬鹿じゃないと思うんですよ
どっかの剣鬼さんと違って……

……だから、私の解釈って間違ってないんですよね?」

残念だ……フウ、あんたはすごいやつだったが踏み抜いちまったよ
特大の埋設式魔導機雷をな……

横でフィアが鯉のように口をパクパクさせていたが、まるで見ていない
スイの顔に水がまとわりついてもどこ吹く風……

もはやフウしか見ていない
さて帝都のというか、3番ハードルの大通りはさっきセフィリアが畳返しができ、かつヴェイパーカノンを
遮断できる程度には大きい

大きい石を扱うということは、建築技術を誇示する意味合いもある
官公庁が集中する第3ハードルは誇示するにはうってつけ
他のハードルよりも大きめの石を敷いている

セフィリアは思う、おそらくはこのフウに剣での一撃は通らないだろう
剣以外のものといっても手頃なものはない、所詮は平和な街なかだ
さっきまでは

平和から程遠いこの一角……
街の住人はすでにいない
セフィリアはさっきと同じように足をあげ……

勢い良く踏み込んだ
次は石畳が立ち上がることはなかった
代わりに真っ二つに割れた

ここまできたらもう分かるだろうが、セフィリアは割れた石をつかむように手を伸ばす
スイも汎用性に優れていると評したが、こっちも負けてはいない

軽々とそれを持ち上げるもちろん、片手で
いや、片手づつにだ
巨大な石剣とかした石畳、それを持ったセフィリアは駆け出した
体を捻り、遠心力を利用してフウにその巨大な塊を叩きつける!

たとえ水の威力が強かろうが最早この一撃を止めれすべはないのかも知れないなぁ

【スイさんへ 上手い救出方法が思い浮かばなかったので、術者をぶっ殺して止めることにします】

217 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/06/29(土) 20:10:17.06 0
>>216はちょっとなしでお願いします

218 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/06/29(土) 20:18:41.51 0
「……私が材料?殺してはいけないと手心を加えられていた?
つまりはそういうことでしょうか?
私、結構優秀な成績で学校でましたし……そんなに馬鹿じゃないと思うんですよ
どっかの剣鬼さんと違って……

……だから、私の解釈って間違ってないんですよね?」

残念だ……フウ、あんたはすごいやつだったが踏み抜いちまったよ
特大の埋設式魔導機雷をな……

横でフィアが鯉のように口をパクパクさせていたが、まるで見ていない
スイの顔に水がまとわりついてもどこ吹く風……

もはやフウしか見ていない
さて帝都のというか、3番ハードルの大通りはさっきセフィリアが畳返しができ、かつヴェイパーカノンを
遮断できる程度には大きい

大きい石を扱うということは、建築技術を誇示する意味合いもある
官公庁が集中する第3ハードルは誇示するにはうってつけ
他のハードルよりも大きめの石を敷いている

セフィリアは思う、おそらくはこのフウに剣での一撃は通らないだろう
剣以外のものといっても手頃なものはない、所詮は平和な街なかだ
さっきまでは

平和から程遠いこの一角……
街の住人はすでにいない
セフィリアはさっきと同じように足をあげ……

勢い良く踏み込んだ
次は石畳が立ち上がることはなかった
代わりに真っ二つに割れた

ここまできたらもう分かるだろうが、セフィリアは割れた石をつかむように手を伸ばす
スイも汎用性に優れていると評したが、こっちも負けてはいない

軽々とそれを持ち上げるもちろん、片手で
いや、片手づつにだ
巨大な石剣とかした石畳、それを持ったセフィリアは駆け出した
地面に触れて火花が星のようにきらめく
体を捻り、遠心力を利用して燕のように跳躍、フウにその巨大な塊を叩きつける!

たとえ水の威力が強かろうが最早この一撃を止めれすべはないのかも知れないなぁ
石剣といえば聞こえはいいがぶっちゃけただの石の塊だ
不細工で趣きもへったくれもないが威力だけは間違いないだろう
人に当たればちょっと見せられないものになるだろうよ

それでフウをサンドイッチにしようってんだからな
いや、間にミンチを挟むしハンバーガーだなこいつは

【スイさんへ 上手い救出方法が思い浮かばなかったので、術者をぶっ殺して止めることにします】
※変更点 フウを叩くから、挟んで潰すへ変更

219 :スイ ◇nulVwXAKKU:2013/07/01(月) 01:57:29.91 P
逃走の中で感じたのは、猛烈な空気の変動だった。
不味い、そう思ったのと同時にフウが激しい音を立てて着地する。
回り込まれた。まわりを見渡しても大通りという見晴らしが良く、平坦な場所しか無い。

>「『黎明計画』の重要な材料だから、お前ら殺しちゃ駄目だって言われてんのにさぁ。
 ――背中見せられたら殺りたくなっちゃうだろ?ハンター的に考えて」

フウが笑みをその顔に貼り付けたまま言う。
途端、隣から何かしらの圧力のようなものを感じて、スイはセフィリアをそっと伺った。
尋常で無い圧力はどうやら怒りから来ていたようだ。セフィリアはあくまでも静かに、しかし淡々とフウに問う。
フウが指を鳴らし、そして抱えていたフィラデルが暴れ始めた。

「っ、おい!!」

慌てて抱え直そうとして、彼女の口から吐き出された水が己の顔へと向かってきた。
反射的に息を詰めたのが幸いした。
その水は気道に進入すること無く、スイの顔を覆う。

>「風の刃で水を断つか!?どーやったって自分の頭ごとかち割るしかなさそーだけどなあああ!?」

フウが勝ち誇ったように笑い声を上げる。
それを聞きながら、静かに手に風をまとわせた。
フィラデルにしたのと同様に、水の中に手を突っ込み纏わせた風を無理矢理己の気道にたたき込み呼吸を行う。
そして吐き出した息を操り顔の周りに薄い膜を張る。
再び空気の気道を確保したところでスイはその膜から徐々に水に向かって圧力を加える。
顔からある程度離したところで小さな鎌鼬を踊らせ、四散させた。
水から解放された直後にセフィリアがフウに向かって巨大な石を投げたのを認める。
フィラデルを抱え直し、セフィリアの元に走る。
彼女の手を有無を言わさずつかみ、空中へ飛んだ。
スイの最大の懸念は、フウのあの蒸気の力だった。
恐らくあの石も蒸気の圧力によって跳ね返される可能性が高い。
ならばその跳ね返すための時間、そして体勢を立て直す時間を最大限に利用することにした。
向かう先は建物の密集する地帯。

「セフィリアさん、よく聞いてくれ。さっきから見る限りはフウは広範囲に何も無い場所で攻撃していることが多い。だから、あそこに行く。
 あそこなら、俺の矢が使える!セフィリアさんにはフウの誘導をして欲しい!!」

入り組んだ路地裏に着地し、セフィリアの手を離す。
スイがやろうとしていることは、あの湖でやった技と同じものだ。
矢筒の底を蹴り上げ飛び出した矢達を風で様々な場所に飛ばす。
後はフウがこちらに来るのを待つだけだ。

【圧力で水から脱出、路地裏に入る。フウへの迎撃準備】

220 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/07/04(木) 00:21:24.48 P
>「やっぱりか……」
>「何度か同じ事が、この街に来る前からあったんだ。
  半ば発作的に、双眸が赤く変化し、身体の一部が異形のものとなる――人間の魔族化だ。
  その度に俺が遺貌骸装で押さえ、ルグスの聖水を飲ませて沈静化していたんだが……間に合わなかったか」

「……ミドルゲイジであれだけ騒いでましたからね……何となく、そんな気はしていました」

>「議長がヴァフティアという街を選んだのは、
  実際のところ自身の魔族化を最も沈静化できるルグスの加護下だったからなのかもしれない。
  別に理由があるのかも知れないがな」

もしそうだとしても――その『沈静』が持つ意味は必ずしも字面通りではないのだろう。
まだ幼い子供が、一体どれ程の苦悩を重ねれば、そんな決断が出来たのか。想像も付かない。
マテリアは表情を曇らせ、口を噤む。

>「議長に会うと、そう言ったな。
  会ってどうするんだ。また俺たちに話して聞かせたように、『人を傷付けてはいけない』と諭すのか。
  ああ、間違っちゃいないさ、正論だ。不器用だが、やさしさすら感じる。
  だがな――多分それは、議長に言っちゃいけない言葉なんだ」

「……どういう意味ですか」

>「確かに俺たちは未熟で、議長に至っちゃもっと子供だ。
  あんたは子供にひどいことをしたくないと言ってくれた。だけど、そんな大人が世の中に何人もいると思うか?
  この国は侵略国家だ。弱いものに容赦をしない。相手が子供だからって、見逃してくれる大人はそうそういない。
  実際、この国で一番の"大人"の集まり――元老院は、議長に杭を打ち込んで、容赦なく殺そうとした!」

ヴァンディットが叫ぶ――マテリアは何も言葉を返せなかった。
彼が言った事は、きっと本当の事だ。
元老院ならやる――国益の為なら人一人の命くらい容易く犠牲に出来るのだと、マテリアは知っていた。
だが、それでも――この子達は止めなくてはならない。

「……それを収めて下さい」

『遠き福音』を再び取り出したヴァンディットに、マテリアはお願いする。

「私は……音を操る魔術が使えます。物を壊したり、人を傷つけたり……
 そういう事は出来ませんが、代わりに速いですよ、とても。
 そしてやり方次第では……人を転ばせて、暫く立ち上がれなくする事も出来ます。
 痛みはない筈ですが、それでも私はあなた達を攻撃したくない……だから、やめて下さい」

沈黙が路地裏を満たす。そして――

>「シーナ!」

ヴァンディットが動いた。
穂先を背後の虚空へ向けて振り被り――そこにシーナと呼ばれた少女が伸縮杖を打ち込む。
互いの体格差による死角を利用した連携。よく考えられている――が、まだ遅い。
槍を組み立てた一瞬で、マテリアは息を吸い込んだ。
後は吐き出すだけでいい。
次の一瞬で、ヴァンディットは地に伏す事になる――筈だった。
『遠き福音』の音が響いた。マテリアが音を吐く一瞬を待たずして。

「なっ……!」

驚愕が思わず声となって、吸い込んだ息を吐き出してしまった。
と、視界を何かが縦断する。直後に足元で硬質な音。
下を向く。石ころが転がっていた――伸縮杖と同時に投擲していたのだ。

221 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/07/04(木) 00:22:05.38 P
>「弱い子供にとって、信用できるのはそれ以上に弱い連中だけなんだよッ!
  理解者は二人もいらない!俺たちだけが、議長の傍にいられる!
  議長より弱くて!議長を頼るしかできない俺たちだけがだ……!!」

言うや否や、子供達は一斉に背を向けて逃げ出した。
足が前に進まない。追えない。

ならば音を彼らの耳に撃ち込むか――いや、駄目だ。
子供達はこの狭い路地を密集して走っている。
その状態で強引に転ばせれば、酷い怪我を招きかねない。

(でも……逃がしはしませんよ!)

ここから逃げた所で、彼らの状況が好転するとは思えない。
路地を出れば人目がある。また守備隊に見つかったら――今度は遺貌骸装で難を逃れるつもりでいるのか。
だがそれがいつまで保つだろう。守備隊には数の利がある。

体力の消耗戦になれば勝ち目はない。
何度でも繰り返せる待ち伏せや狙撃を躱し続けるなんて出来っこない。
いずれ誰かが倒れ、やがて皆が倒れる。
だから見過ごせない。絶対に。

その気負いが――マテリアの視線を無意識の内に、足元に落とさせた。
視線の先には魔導短砲――それを使えば『遠き福音』を狙撃して、破壊するか、弾き飛ばすか出来る。
撃てば彼らに追いつける。反射的で、故に冷たい判断だ。
一瞬遅れて、マテリアは自分が何を考えていたのかを自覚する。

(っ……何を馬鹿な事を!そんな事、出来る訳がない!)

射撃は決して苦手ではないが、かと言って得意な訳でもない。
至って普通な、訓練を受けた軍人並み。
射程圏内の人に当てるくらいなら容易いが、槍の穂先や柄を確実に狙える程の精度はない。

それに何より――例え狙う先が槍の穂先でも、ここで短砲を拾う訳にはいかない。
もし拾ったら自分も彼らの中で、『議長を殺そうとする大人達』と同じになってしまう気がした。

(あの遺貌骸装とやらは……そう長く続くものじゃなかった!
 だったら私の追跡を完全に振り切るには何度も音を鳴らす必要がある筈……。
 他の子を巻き込まない為に、彼が最後尾に立って!)

試しに足を上げ――そして前に向けて踏み出した。

(……やっぱり、行ける!)

進める。『遠き福音』に向かって近づく事が出来る。
すぐさまマテリアは石畳を蹴った。
マテリアは常人の範囲内でなら俊敏な方だ。
互いの距離が埋まり切るのは時間の問題。
故に――ヴァンディットはもう一度、『遠き福音』を使わなくてはならない。

マテリアが左手を耳に被せた。遺才を最大限発揮する為の姿勢。
彼女の集音術は聴覚の強化だけで為されるものではない。
散布した魔力の糸や粒子で音を吸収、伝播、増幅させる事によって、
本来なら届く事なく消えてしまう筈の、遠くの音さえもを引き寄せている。
声を飛ばす際も、基本的な仕組みは同じだ。

222 :マテリア・ヴィッセン ◇C.//sLZ/mM:2013/07/04(木) 00:22:54.73 P
(だったら……今まで試した事はなかったけど、
 自分の声以外の音……その行く先を操作する事だって出来る筈!
 糸と粒子の流れを操作すれば!)

『遠き福音』がもう一度振るわれる――既に対策は講じてあった。
槍の穂先に魔力の糸を絡め、彼我の間にある空間には魔力の粒子を満たす。
そうして生じる振動を、音を吸収させ――上空へと受け流した。

「やった!やっぱり出来た!……じゃなくて!『これ』、お返ししますよ!」

左手を耳元から口元へと移す。
そして音を飛ばした――『遠き福音』が奏でるものに寸分違わず似せた音色を、子供達の前方に。
無論、音色のみを真似た所で、それに『遠き福音』の効果が宿る訳はない。
遺貌骸装の本質が呪いだと言うのなら、病がものによっては風や水を介して広がるように、音はただの媒体に過ぎないだろう。

だが――真似ただけの音にも、意味はある。
子供達はその音の効果を知っている。
頭の中で、音と効果に因果関係が結ばれている。
例え実際には呪力など無くとも、反射的に怯んでしまう可能性は十分にある。

そして一瞬でも彼らが足を止めたなら、こちらは大人で元軍人。
素早く距離を詰めて、『遠き福音』の柄を掴むくらいの事は――そう難しい事ではなかった。

「……弱い子供が信じられるのは、自分よりも弱い存在だけ……でしたか」

先ほどのヴァンディットの言葉を、マテリアは繰り返した。

「……私は、さっきも言いましたけど、左遷された身でしてね。大人ってほど、大人じゃないんです。
 だから……私も、あなた達を信じてますよ。あなた達がとても優しくて、心からあの子を大事に想ってて……
 本当はもっと……慰めのような優しさじゃなくて、確かな救いをあの子に与えてあげたいと思っているって」

彼らだって、心の何処かでは分かっている筈だ。
元老院を相手に、彼らの勝ち目なんてこれっぽっちもないという事を。
大人の徹底された数と力は、少しばかり便利な道具くらいで覆せるものではない。
議長の持つ魔族の力は確かに凄まじかった。その動きはマテリアには見切れなかった。
が、それすらも、三剣の持つ対魔物用の戦術マニュアルを少し応用すれば、容易く攻略出来る程度のものに過ぎないだろう。

勝てる訳がない。それでもあの子の傍にいられる。
それはとても優しい事だ――マテリアの言葉なんかよりもずっと、不器用過ぎる優しさだ。

だけどその一方で、諦めにも似ている。
マテリアはこんな小さな子供達が、諦めに溺れていくなんて絶対に嫌だった。

「お願いします。私に、あなた達を助けさせて下さい。
 絶対に、あの子を悲しませたりしません。
 あなた達が今見ている未来よりも、もっといい未来を掴んでみせます」

マテリア・ヴィッセンは、強くない。
遊撃二課どころか、並の――と言うのも変な表現だが――戦闘用の遺才使いには敵わないだろう。
問題だって多く抱えている。母の真相か、遊撃課の今か、自分にとってどちらが大事なのかも分かっていない。
それでも今この瞬間、彼女はそんな事は忘れていた。
ただ、この子達を助けたい、不幸にしたくない――それだけを考えて、言葉を紡ぐ。

「だから……私を信じて下さい。
 あなた達のような子供に、こうしてお願いする事しか出来ない……
 そんな弱い私を……信じて下さい」


【遺才で遠き福音の音に指向性を与え逸らす→猫騙し→もう一度お願い】

223 :ノイファ ◆taXKZgQH5w :2013/07/08(月) 01:25:13.55 0
朱に染まったヴァフティアの空を、純白の光槍が切り裂いた。
ノイファの放った一条はファミアの掲げる鏡を目掛け――
そして神殿騎士たちが放ったそれらは、ファミア本人を目指して虚空に光の尾を残す。

>「ひゃあ!」

鏡の影にすっぽりと体を隠したファミアが、短い悲鳴をあげた。
集光鏡が"白光"を弾き返し、反射収束された光が黒殻の魔獣となった少女に襲いかかる。

>「あ――!あ――!!」

遮ろうと持ち上げた巨大な爪を、胸に突き刺さる呪いの杭を、砕かれた少女はびくんとその巨体を震わせた。
まるでひきつけを起こしたかのように数回体が跳ね、やがてそれすらも止まる。
誰もが勝利を確信したその瞬間、少女の体が四散した。

「――なっ!?ファミアちゃん!!」

少女が居た場所を中心にして、深紅の爆閃が空中に広がる。
結界に降り注ぐ夥しい量の攻殻、肉片、歪な形をした爪や牙。
爆発による被害はないものの、眩暈を起こして倒れるものも少なくない。

普通であれば顔を背けたくなるほどの惨状の最中、ノイファは爆心地から目を離さずに仲間の名を叫んだ。
あの爆発を真近で浴びたのだ、無防備な状態であったなら最悪命を落としかねない。

(お願いだから、どうか……無事で……)

空中を覆う赤い光が次第に薄れていく。
そこにはひょっこり顔をのぞかせるファミアの姿が。

「……ああ、良かった。ファミ――」

「最優先目標の消滅を確認!ただしッ、仲間と思しき賊は存命!繰り返す!賊は存命ッ!!」

おーい、と。腕を振りながら仲間の名を呼ぼうとするノイファの声は、望遠鏡を手にした騎士の叫びにかき消された。
俄かに殺気立つ神殿騎士に神官たち。さらには一般信者までもが手ごろな残骸を武器として立ち上がる。
対してファミアは、少女を抱きかかえると可愛らしく小首を傾げ――

「ちょっ、なんで逃げるの!?」

>「――おい、逃げたぞ!追え!」

一目散に逃げだした。神殿騎士たちがそれを追って忙しなく駆け出す。
ノイファの静止の声も、虚しく響くだけで効果の程は全くなかった。
度重なる疲労からか、それとも諦めからか、頭を抑えながらその場に腰を降ろすのだった。

224 :ノイファ ◆taXKZgQH5w :2013/07/08(月) 01:25:53.08 0
ルグス神殿の最奥に位置する一室。
先刻の騒動は、神殿内のいたる箇所に大小様々な傷痕を刻んだが、この部屋だけはその唯一の例外だった。
広い半球形の部屋の中に、段のついた長台がいくつも置かれ、その上に並んだ無数の蝋燭が炎を揺らしている。

「……住み慣れた地を離れての慣れぬ仕事、ご苦労様です」

部屋の中に居るのは二人。
一人は少女。幼い顔立ちと華奢な身体を長衣に包み、開かぬ両眼でしっかりともう一人を見つめている。
ルグス神殿における最高位の術者にして当代の聖女ルフィア・ラジーノその人だ。

「勿体無いお言葉、いたみいります」

もう一人であるノイファは、聖女の前に傅き頭を垂れていた。
帝都でのこと、遊撃課のこと、そして神殿を襲った惨事のこと、それらの報告を済ませた上での所作だ。

「……事の顛末は理解しました。
 つまり、神殿および大ルグス像を完膚なきまでに破壊して、今なお逃走を続ける二人組の襲撃者が居る。
 というのは全くの誤解で、実際は貴女と同じ部署で働く仲間だと……そう言うのですね?」

搾り出すような聖女の声を耳にして、垂れたままの頭をより一層沈ませる。
足を組みながら椅子の肘掛に頬杖を付き、片手で短杖の柄頭をギリギリと鷲掴みにしている所など見る訳にはいかない。

「正しくは片方が、ですが」

破壊総額が大きい方というのは寸前で呑み込んだ。
これ以上機嫌を損ねる愚は避けるべきだ。

「ただ、魔に変じた少女にしても彼女自身の意思かは怪しいかと……。どうにも腑に落ちない点があります」

少女が変容する切欠となった"ルミニア杭"のことだ。もっとも、あの聖術自体に人を魔に転じさせるような効果はない。
しかし狙撃者が鎮圧後に姿を消したことを考えると何らかの意図があったように思えた。

(魔に連なる者を暴走させ、破壊を、混乱を撒き散らす、……それが目的なのでしょうか)

ノイファは言葉を紡ぐのを止め、頭を一度振る。穿った考えだ、と思考を否定しようとした。
少女は狙撃者に対して『元老院』と口にしていた。帝国領内における南の要を混乱させて果たして益があるだろうか。
だが、タニングラードと同じ理由だとすればどうだろう。ノイファは頭を上げる。

「……『元老院』と、あの少女は言っていました」

ルフィアの眉が、ぴくんと跳ね上がる。

「なるほど。これは裏でなにやらドロドロとしたものが渦巻いていそうな名前が出てきましたね。
 神殿の修繕費と、私たちの安息を破ってくださった慰謝料の請求先はもう少し詰めないといけないようです――」

顔に笑顔と、こめかみに青筋を浮かべ、ルフィアは穏やかな声で忌々しそうに吐き出した。

「――まあ、それはそれとして、貴女の仲間ともう一人には少しばかり怖い思いをしてもらいましょう。
 多少の罰は必要ですからね。そうね……屈強で頑強で強面で息を荒げた騎士団の皆さんと駆けっこなんかはどうかしら。
 ああ、フィオナ。貴女はここで待っていれば大丈夫です。二人とも必ず神殿に戻ってきますから」

「……それは予言ですか?」

"先読み"とも"天啓"とも呼ばれる聖女の言葉に、ノイファはため息を吐きながら聞き返した。

「いいえ、そうなるように追い立てるからですよ」

225 :ノイファ ◆taXKZgQH5w :2013/07/08(月) 01:27:14.02 0
ヴァフティアの街が夜の闇に包まれ、魔導灯の明かりが結界都市の大通りを照らし出す。
無人となった神殿大聖堂。その中でノイファはただ一人、瓦礫を踏みしめていた。
天井に開いた三つの大穴から差し込む月明かりで、足元が把握できる程度には明るい。

「――ん……本当に戻ってきたわね」

天井の方から感じる息遣いと物音に、崩れそうな階段を慎重に登っていった。
半ばから崩れたルグス像の肩の上から、顔を覗かせるファミアと視線が交わる。

>「ア――ィレルさん、良かった」

見知った顔に会えた事の安堵からか、ファミアが大きく口を開いて、慌てて両手で覆った。

「別に普通にしゃべっても大丈夫よ」

その仕草に思わず笑みをこぼし、ノイファは片手を挙げる。
挨拶のためではない。階下で待機する騎士たちに『待て』と合図を送ったのだ。
後ろ手に持った念信器を通して、血気盛んな幾人かの昂ぶりが伝わってくる。
送信域を開放しているためどっちにしろ会話はすべて筒抜けなのだ。

そうしたことには意味があった。
聖女の取り成しがあるにしても、真実を聞かないことには殺気だった彼らは納まりが付かない。
だが一度真相が分かってしまえば元々善良な者たちだ、怒りを義憤に転化して力となってくれるのは想像に難くない。

>「……全て、お話しします。わたしに何が起こって、何をしにこの街へ来たのか」

目を覚ました少女が、静かに、言葉を紡ぐ。

>「少し、時間のかかるお話ですので、どこか落ち着ける場所に匿っていただけませんか……?
 安全が確保でき、もしも私が再び魔性に転じても――被害を漏らすことなく滅ぼしてもらえる場所に」

それまでざわめいていた念信が、次第に静けさを増していく。
自らを討ち滅ぼしてくれという切なる決意が、神殿を取り囲む皆にも確かに届いているのだ。

>「そこで、お話しします。元老院が画策する、しかし多大な犠牲を擁する大規模作戦について。
 元老院は、鍵となる私の魔性の名をとって、本作戦をこう呼びました」

――黎明計画、と少女は言った。
ノイファは拳を握り締める。ようやく復興を遂げようとしているヴァフティアを、再び血で染めようというのか。
手近な柱に拳を叩き付けた。念信器にノイファ自信の苛立ちがノイズとして響く。

『……皆、聴きましたね。二年前のあの夜を、あの悲しみを、再び繰り返そうとする者たちが居ます。
 私たちに与えられた役目は無辜の人々が心安らげるように行く道を、未来へと歩む先を、照らすことです。
 それを己が欲望のためだけに妨害しようとする者を、私は決して許さない!』

念信器に直接、声をぶつけた。

『心に燈った熱を、湧き上がる義憤を、叩きつけてやりましょう。
 後悔したくないから、すべてを賭して護り抜きましょう。――"私たち"の最高にカッコ良いところを見せ付けてあげようじゃないですか!』

226 :ノイファ ◆taXKZgQH5w :2013/07/08(月) 01:28:55.00 0
一息に捲し立て、上がった息を深呼吸することで取り戻す。
念信器の送信域を切って、そのまま投げ捨てた。

「まあ、このくらいで良いかしらね」

小さく呟いて、ノイファは少女の目を真っ向から見つめた。
よくよく見てみれば大分幼さが残る顔立ちだ。
この小さな身で、いったいどれ程の業を背負わされているのだろう。

「私は貴女の言葉を、覚悟を信じる。
 だから、この街で最も貴女の望みに適う場所に連れて行ってあげる。
 でもそれは貴女を殺すためじゃない。護るためによ」

ゆっくりと近づき、手を差しだした。

「ちょっと騒がしい場所だけど……きっと退屈はしないから。
 まあ私と、私の頼りになる仲間に任せなさい」

少女を庇うように立つファミアへと、ノイファは顔を向ける。
この場に姿は無いがマテリアだって居るのだ。

「それじゃ行きましょうか。そうそう、お腹空いてるでしょう?」

目指すは揺り篭通りにある青果店兼酒場。
ノイファの知る限り、最も強く頼りになる人物が居る場所だ。


【『リフレクティア青果店』に向かいます】

227 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/07/15(月) 18:32:34.36 P
全方位から襲い来る槍の瀑布から逃れ地に伏したランゲンフェルトが、
共に襲撃を受けたフィン=ハンプティの安否を確認できたのは槍の第一波が終息してからのことであった。
帽子を抑えながら、色眼鏡越しに見上げたそこには、

>「……はは!こいつはいいタイミングだぜ!」

「なんと、無傷……!?」

フィンが五体満足に立っていた。
足元には最初の一撃で肩を貫かれた護衛が、しかしそれ以上の傷を負わず呻きながら転がっている。
フィンの足元、半径にして1メートルほどの空間は、まるで何事もなかったかのように平穏だ。
――そこ以外の全ての石畳が、降ってきた槍によって林と化しているにも関わらず!

(あらゆる方向から襲い来る槍を……一つ残さず防ぎきったとでも言うのですか!)

地面に突き立った槍を見れば、他のものと違う傾き方で刺さっているものや、
砕かれて破片と化しているもの、それすらも超えてもはや砂状になっているものまで様々だ。
決してこの槍が安物の粗悪品というわけではない。
事実、最初の襲撃で魔導繊維で織られた特注の背広を着た護衛が肩を穿たれている。

(そういえば……聞いたことがあります。
 ハルシュタット卿がかつて敵対組織から100名の暗殺者を差し向けられた折に、
 卿本人は愚か味方の誰にも傷を負わせず凌ぎ切った凄腕の護衛がいたと……)

あらゆる攻撃を躱し、いなし、弾き通し、どこにどう逃げれば安全かを的確に判断。
そうして示した安全地帯への道を、全ての味方が退避し終えるまで守りきった、業界ではそれなりに有名な逸話だ。
対象一人を護り通す護衛は珍しくない。
だが、"彼"は、その目に写る全てを護ろうとし、誰ひとり傷つけることなく実際にやってのけた。
もはやその有り様は鎧という領域を越え、いつしか呼ばれた二つ名が、

「そうか、この男が、『最終城壁』――!!」

その後結局、派遣元の都合によりハルシュタットの元からは引き上げ、
更に職場の人間関係に難があってどこぞかへと左遷されたと聞いていたが。
最終城壁は、帝都に帰ってきていたのだ。

>「なあ、ランゲンさんは、ハルシュタットさんの護衛を任されてたんだし、かなり強いんだろ?
 だったらさ、この場を切り抜ける為に俺に手を貸してくれねぇか?

既に戦場は動いている。
襲撃者達は投擲槍による攻撃効果が薄いと判断したのか、武器による白兵戦に切り替えてきている。
最終城壁ことフィン=ハンプティは、肉迫してくる敵の集団に臆することなく自然な構えで相対した。

>「そんでもって、こいつら全滅させて……無理そうなら、出来るだけ再起不能にした上で何人か捕まえて、
 ボルト課長とハルシュタットさんの行方吐かせようぜ!
 喋らない相手に『喋って貰う』のは、ランゲンさん達の業界の十八番だろ?」

「簡単に言って下さいますね……どんぶり見積もりでも50は下らぬ数の敵を相手に!」

言いながら、ランゲンフェルトは前転する。
一瞬前まで自分が伏せていた石畳に、巨大な斧が打ち込まれた。
飛び散る破片がこちらに届く前に、態勢を立て直したランゲンフェルトの痛烈な回し蹴りが斧の使い手を穿った。
鞭のようにしなった右足の爪先――革靴の先端に施された『反発』の術式が発動。
側頭部を打ち据えられた襲撃者の一人は、風車のように回転しながら吹っ飛び、何人かの味方を巻き込んで地面を転がった。

「――手早く済ませましょう。私には、撒かねばならないビラが残っている」

 * * * * * *

228 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/07/15(月) 18:33:22.62 P
襲撃者達は、作戦が瓦解するのを確信した。完璧に組まれた襲撃のはずだった。
不確定要素を排するため、周囲には人払いの術式を幾重にも施し、人間は愚か溝の中のネズミですら一匹残らず排除した。
誤算があるとすれば、口をふさぐはずだったハルシュタットの姿が忽然と消失したこと――
そして、かつて『最終城壁』と呼ばれた凄腕の護衛、フィン=ハンプティの存在である。

「馬鹿な――」

言葉が出てきた。自己を複製した彼らにとって、コミュニケーション手段としての会話に意味はない。
ここに居る全ての襲撃者は自分自身であり、故に意思の疎通を意識して行う必要がないからだ。
喉を突いて出てきた音は、むしろ内心の驚きが閾値を超えて漏れ出てきた、『ひとりごと』に近い。

「馬鹿な」「何故だ」「数の差は圧倒的のはず」「なぜ抗える」「なぜ覆される」

"彼ら"は消して脆弱な存在ではない。
一人のオリジナルの劣化複製とは言え、その戦闘技術は生きているし、遅れを取らぬよう訓練もしてきた。
いまここに居る襲撃者は全部で50人。単純計算で言えば、同等の実力の者が同数居なければ覆せぬ戦力差だ。

それに、どれだけ強力な人間でも、人間である以上には限界がある。
単純に襲撃者の50倍強い人間がいたとしても、50人の襲撃者と互角に渡り合える道理はない。
こちらは50回まで致命傷を看過できるが、相手もそうとは限らないからだ。

「数の利すらも覆す何かが、あるというのか?」

なんの遺才も持たないはずのボルト=ブライヤーを、取り逃がした時のように。
眼前、ランゲンと呼ばれた黒服の男が地面を舐めるような低姿勢で石畳を駆ける。
そうすることで襲撃者同士の影に隠れ、同士討ちを誘うと同時に狙撃のリスクを下げているのだ。
また単純に、身を低くした黒服の姿は夜間には視認しづらい。
気づけば足元に彼がいて、

「良い靴をお召しですね。やはり社会人たるもの、身だしなみは足元からです」

こちらの足に触れて何らかの術式を発動する。
効果はすぐに判断できた。足が動かないのだ。地面へと強固に『吸着』されている――。
黒服の背後から、弧を描くようにして大型のメイスが振るわれた。味方の攻撃だ。
ランゲンは横っ飛びに回避する。足が地面へ縫い付けられている襲撃者は、逃げられない。

味方によるメイスの一撃をまともに受けた襲撃者は、身体をくの字にして吹っ飛んだ。
あとには地面にくっついたままの革靴が一対残るばかり。
吹っ飛んだ際に脱げたのだ。

「やはり、貴方がたは綿密な連携を強さの礎としているようだ。
 仲間の回避を前提にした巻き込み攻撃など、その最たるところでしょう」

襲撃者達は互いの運動能力を正確に把握している。
仲間がギリギリ回避できて、しかし敵は回避できないタイミングで、仲間もろとも攻撃を加えるのは、
多対多の戦闘において非常に有効な戦術だ。
ギリギリまで味方が敵を抑えこんでおけるので、単純に攻撃の成功率が高い。

「貴方がたが最も嫌うのは、自分たちで完結している連携の輪――その『和を乱される』こと。
 そして生憎とですが……そういうのが得意なのですよ、私は」

遠くで風を切る音がした。
投擲槍の第二波の準備が整い、一斉に射出されたのだ。
共通意思によって一瞬でその事実を把握した襲撃者たちは、巻き込まれぬよう一様に身を引く。
残されたのは、フィンと呼ばれた男とランゲン、そして地面に転がる護衛の一人。
ランゲンが振り向かずに叫んだ。

「――『最終城壁』氏!!」

 * * * * * *

229 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/07/15(月) 18:34:15.70 P
 * * * * * *

ランゲンフェルトは叫んでから、言うまでもなかったことだと理解した。
隣で襲撃者との白兵戦を敢行していたフィンは、既にその技能を開放していたのだ。
迫り来る投擲槍の第二波。第一波よりも数は少ないが、先程よりも狭い範囲に攻撃が集中している。

だが、相手はフィン=ハンプティだ。
防御において絶対の信頼を持てる彼にとり、この程度の波状攻撃などめくらましにもならないだろう。
白兵戦を挑んできた無謀な襲撃者達のように、砕かれて弾かれて終わりだ。

(――何か、違和感が?)

ランゲンフェルトがそれに気付いたのは、フィンの庇護下に入ろうと姿勢を低くして走っていたが故だ。
地面に転がる、倒された襲撃者達……彼らは息をしていなかった。
死んでいるのか、しかし血の一滴も石畳を汚していない。
よく注視すれば、襲撃者達は死体どころか人間ですらなかった。

(これは!『人形』――それも極めて原始的な、がらくたの寄せ集めを人の形にしただけの!)

襲撃者の顔面は木製のちりとりだった。髪の毛は箒の毛束だった。
腕はいくつも繋げられた空の食料缶で、指は分解された万年筆だ。
一人だけではない。地面に転がる襲撃者の全てが、適当な器物を繋げてつくった人形だった。

(馬鹿な、戦っていた時は確かに人間だったはず……)

事実、ランゲンフェルトが格闘戦を演じた時は、相手の体温や吐息、血のぬめりまで全て実際のものだった。
彼がふっ飛ばした襲撃者が遠くの方で失神しているが、外套の隙間から見える肌はやはり人間だ。
地面に転がっている、人形の襲撃者達は、フィンが殴り砕いた者達だが――

(最終城壁氏に殴られた者だけが、人形となって崩れ落ちている……?)

それが何を意味しているのかランゲンフェルトにはわからない。
目をこすろうとして、拳にはまだ先ほどの格闘戦でついた血糊が付着していることを思い出し、拭うためのハンカチを取り出して、

「拳の血糊が消えた……?」

230 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/07/15(月) 18:35:24.80 P
たしかに少なくない量が、彼の拳を染めていたはずだ。
襲撃者の鼻っ柱を殴りつけた際に、勢い良く噴いた鼻血が付着したのだ。
だが今は、拭った覚えもないのに綺麗さっぱりと消えている。
まるで殴った感触から血の暖かさまで、『そのように認識させられていた』かのように――!

「気をつけて下さい、最終城壁氏!彼らは何かが変だ!」

フィンに注意を喚起しながらランゲンフェルトは辺りを見回し、そして一つの視線に気付いた。
通りの隅、ゴミ箱の上にいる灰色の猫だ。
猫は首輪の代わりに、細い鎖でペンダントに加工された十字架を首から提げていた。

一つの違和感。
人はおろか鴉やネズミさえも存在しないこの空間に、猫がいて。
そしてその猫は確かにこちらを双眸に捉え、『唱えた』。

「――遺貌骸装『偏在する魂』」

鎖の先で十字架が赤く輝く。
同様の色が石畳に転がる人形の無数の残骸にも宿り、磁力に引かれるようにして浮き、収束していく。
残骸達はフィンの背後の空間へと集まり、やがて巨大な人型を形成した。
巨人は、外套の残骸が寄り集まって変貌した巨大な黒衣を纏い、

「人間の姿に――!?」

不可視の膜がその巨躯を覆うようにして、巨人の容貌が変化した。
大きさはそのままに、しかし肌があり、髪があり、唇の赤もある人間の男の姿になったのだ。

巨人はフィンを挟み潰すように両腕を振るう。
そこへ、ダメ押しのように投擲槍の第三波が、フィンだけを狙って注ぎ込まれた!


【襲撃者達と交戦】
【襲撃者はフィンに殴られるとがらくたで構成された人形の姿で崩壊】
【完全に人払いされたはずの空間に何故か猫は一匹。首から下げた十字架が赤く光る】
【遺貌骸装『偏在する魂』発動】
【襲撃者の残骸があつまって巨人の姿となり、フィンを抑えこんだところへ投擲槍の第三波】

231 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/07/16(火) 00:55:22.90 P
【→スイ・セフィリア 帝都大通り】

「ほらほらほらほら!早く呼吸を確保しないとおおおおおおお!
 その金魚鉢みてーな水球が汝を確実に窒息させるぞおおおおお!」

フウの操る水球――フィラデルの肺腑から飛び出したそれが、スイの顔面を覆う檻と化す。
皮膚に密着しているために、刃で斬り裂けば自分自身を傷つけかねない。
況や、相手は大火力を売りにしている広域殲滅型魔術師・スイだ。

(情報によれば、スイの能力は威力と範囲重視の主砲タイプ……。
 ゆえに!針に糸を通すような精密な風のコントロールは苦手と見た!)

それも、呼吸を阻害され酸欠になった頭では、魔力の操作は困難を極めるであろう。
フウの放った水球を解除するには、ナイフで林檎の薄皮だけを剥いていくような器用なコントロールが不可欠。
刻一刻と思考力を奪われていく鉄火場で、スイにそれが出来るだろうか?
否!できないと、確信したからフウはこの戦術を選んだのだ!

(スイは封じた!あとはセフィリアの奴を遠距離からちくちくと削り殺しにしてや――)

ドゴォ!と石畳の砕ける音が飛んできた。
見れば、セフィリア・ガルブレイズの杭を撃つかのような裂帛の踏み込みが、石畳を真っ二つに割っていた。

>「……私が材料?殺してはいけないと手心を加えられていた?つまりはそういうことでしょうか?
 私、結構優秀な成績で学校でましたし……そんなに馬鹿じゃないと思うんですよ
 どっかの剣鬼さんと違って……

セフィリアの、眼鏡の奥の双眸から感情が読めない。
しかし乾いた唇からは、幽鬼のように静かでしかし背筋に走るもののある言葉が紡がれていた。

>「……だから、私の解釈って間違ってないんですよね?」

セフィリアが顔を上げ、眼光がこちらを射抜く。
フウは直感的に理解した。
武人には怒りで冷静さを失い自滅する者と、怒りの原因を排除するために冷徹さを得る者の二種類がいる。
こいつは後者だ。それも極端な――!

「プッツンきたかセフィリアちゃんよおおおおおおお!?
 どっかの剣鬼さんにゴーレムぶっ壊されて墜落した双剣(笑)さんが何か言ってますけどおおおお?
 ガラクタ処分してもらえて良かったじゃねえの!」

フウの選択は即座だった。
キレてむしろクールになるタイプの人間に最も効果的なのは、実のところそのまま煽り続けることだったりする。
表向き冷徹でいても、キレるということはつまり煽りを真に受けているということだ。
冷静さを失うタイプは、一旦キレると逆上するためそれ以上の煽りは耳に入らない。
しかし冷徹タイプは逆だ。キレたあとでも、冷静であるが故に、煽りを聞き流すことができない。

「そんなんだから汝は何時まで経っても――剣鬼に勝てないんだろ?」

返答は言葉ではなく岩だった。
セフィリアが両手にそれぞれ掲げた、二つに割れた石畳の両片。
それを羽ばたくようにして両側から振るったのだ。

「げらげら――冗談だろ、片方何キロあると思ってんだ汝それ!!」

セフィリアが得物としている石畳の破片は、それぞれがセフィリアの身長ほどもありそうな大きさだ。
重さにして片方でも200キロは下らないであろうそれを、あろうことか片手で掴み、しかも二個!!

(『双剣』ガルブレイズの末裔は、剣以外のものでも遺才を発揮できるって聞いていたが――!)

232 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/07/16(火) 00:56:04.60 P
つまりそれは、同じ大きさ・形のものが一対あればなんでも自在に操れるということだ。
セフィリアはいま自分の体重より遥かに重い岩塊を振り回しているが、本来それは物理的にありえない現象。
実現させているのは、『遺才』という全ての理に優先する魔の極致に他ならない。
最早壁と言うべきレベルの岩塊が、左右からフウを挟み殺しに迫ってくる!

「ふひっ――」

変な声が漏れた。
しかし戦闘を重ねた意識は、その経験は、確かにフウの身体を動かした。

「コントレイル!!」

クロスさせた腕、その掌の先に術式陣が展開。
体内に圧縮貯蔵した水を一気に開放し、先ほどの飛翔術を同じ原理で蒸気を噴射する。
左から来る岩を右手の噴射陣で。右から来る岩を左手の噴射陣で。
己の身体を時速200キロで飛ばせる噴射術式が、迫り来る岩鋏を食い止める!!

「ぐ、ぐぎぎギギギ……!!」

フウは押されていた。
相手は岩だ。水より重い。つまり水よりもパワーがあるということだ。
その圧倒的なパワーを売りとしているフウにとり、単純に力負けする相手こそが相性最悪なのだ。

「出来損ないの左遷部隊如きに……遊撃栄転小隊が負けるかぁぁぁぁぁ!!」

ずん……と鈍い音を立てて二枚の石畳が完全に閉じきった。
中にフウを挟んだまま、一分の隙間もなくぴっちりと。
だがフウは潰されていなかった。
閉じた岩畳の側面に、穴が開いていた―― 人一人が通り抜けられる程度の大穴だ。
そこからフウが転げ出てきた。身体のあちこちから出血し、衣服が殆どボロ布のようになりながら、しかし五体満足で。

「"雨垂れ"ってよぉ〜〜〜〜。長いこと同じ場所にポツポツ降ってると、岩にも穴が空いたりするんだぜ〜〜〜。
 いま、それと同じことが起きた!超高速の"雨垂れ"が、迫り来る石畳に穴を空けた!!」

フウは足裏から蒸気を噴射してバックステップ、セフィリアから距離をとる。

「出来損ないの遊撃一課にお似合いの、取るに足らない女だよ汝は、ガルブレイズ。
 ことあるごとに先輩、先輩ってフランベルジェを引き合いに出すけどよおおお……。
 裏切られても尊敬の念が捨て切れないのか?それとも後輩根性が染み付いてるのか?」

いずれにせよ、とフウは言った。

「――汝にゃ"剣鬼"は越えられねえよ、諦めろ」

そして――フウはスイを見た。
そろそろ窒息していても良い頃合いだからだ。
しかし、視線の先でスイは予想外の行動に出ていた。

「こいつ……貫手を自分の顔面に……!?」

スイは己の頭を覆う水球に貫手を突き込んでいた。
貫手は風を纏っている。その風が、指先を伝ってスイの口へ注ぎ込まれる!

(『呼吸』!こんな方法で呼吸をしているのか……!)

そして空気を吸えば吐くのが呼吸だ。
スイの吐息は口から出て水球の内側に気泡として溜まり、水球と顔面とに空間をつくる。
彼女が呼吸を繰り返すごとに、さながら風船を膨らますかのように水球の中に空気が溜まっていく――!

「拙い――!」

233 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/07/16(火) 00:56:48.94 P
フウが気付いた時には既に、水球は最初の三倍近くに膨れ上がり、水球の内側には充分な量の空気が溜まっていた。
スイが風魔術を発動させるのに足りる量だ。
発動したのは――内側から外側に向けての鎌鼬!!

パァン!と膜の弾ける音がして、水球が弾け飛んだ。
石畳を水滴が浸し、夕日を浴びて輝く飛沫の中にスイの紫の髪が風を孕んで踊る。
精密操作が苦手なスイが、極限の状況で編み出した脱出方法。
無理やり肺腑に風をぶち込み、その吐き戻しを利用することで水球の内側に風をつくる。

(内側から外側へ向かって起こす風の刃なら、自傷する危険がない分精密性は要求されない……!)

広域殲滅魔術師が、己の得手と不得手を理解した上で、最も有効な戦術を組んできた。
場数では負けていないはずだった。
しかし、土壇場の発想力で上回られた――!

水球から開放されたスイはフィラデルを抱えたまま飛ぶと、セフィリアの手をとって再度飛翔する。
だが無駄だ。フウの飛翔術ならばスイがどこへ逃げようと追いついて追撃を食らわせられる。
スイは路地の入り口に降り立った。セフィリアを降ろし、自分は路地の中へと駆け込んでいく。

(地形を利用する気か……確かに吾の能力では複雑な地形で全力を出せまい。
 しかし!汝はこの路地ばっかの街のギルドで百人長にまで上り詰めた凄腕ハンター!
 路地に逃げた程度で振りきれるようなチャチなハンティングはしない……!)

路地の入り口にはセフィリアが立ちはだかっている。
彼女はしんがりとしてスイの逃亡の時間稼ぎをしているのだろうか。

「……殺さないって言ったけどな。
 全員殺っちゃだめってだけで、一人二人ぐらいならオッケーとも言われてるんだ吾ら。
 双剣の如き、『薄い』遺才の一人ぐらい見せしめに血祭りに上げたって一向に構わないんだぜぇぇぇぇぇ!!」

叫びながらフウは跳ぶ。
背中からヴェイパーカノンの白煙を立て、一瞬にしてトップスピードに乗った。

「あの世でも汝は草葉の陰から先輩の背中見てるだけなんだろうなあああああ!!」

飛翔の速度の中、蒸気を充填した拳を引き、セフィリアへと照準をあわせる。
自身の加速度と噴射の速度を乗算した拳の一撃は、岩はおろかこの路地の建材すらも砕き尽くすだろう。

「ヴェイパーフィスト!!」

蒸気機関を模倣した体内昇華により、速度に加え圧倒的な馬力も付与された拳が、セフィリアを襲う。
防御すれば盾や鎧は意味をなさず、回避すれば――路地ごと破壊して全てを殲滅する!


【セフィリアの挟み込み攻撃を岩に穴あけることで離脱→中ダメージ】
【路地裏に誘い込もうとしているのを看破したうえで、セフィリアを煽りまくりながら攻撃】
【ヴェイパーフィスト:蒸気によって加速し馬力を得た拳の一撃。解体業の鉄球並の威力
           極めて重いため防御も貫きいなすのも困難、かわせば路地崩壊】

234 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/07/21(日) 04:22:19.59 0
ここで今更補足するほどのことでもねぇと思うが一言言っておく

うちのセフィリアちゃんは先日のあれからずっと、怒ってる
栄転小隊とかいう当てこすりもいいところ隊名、自分たちを裏切った先輩、そしてなにより弱い自分にだ
でも、貴族としての品格だとか、騎士としての矜持が表層の冷静さを保たせていた
それもいまはだいぶ怪しくなって、歪んだ感情がにじみだしてるがな

そして、目の前の馬鹿はさらに火に油を注ぐ……何度も何度も
セフィリアの理性は沸騰寸前、いつやかんの蓋がぶっ飛んでもおかしくない


>「ガラクタ処分してもらえて良かったじゃねえの!」

これにはセフィリアも爆発寸前になる
しかし、ゴーレムが潰されたのは自分のせいだと無理矢理言い聞かせて踏みとどまった
だけど……

>「そんなんだから汝は何時まで経っても――剣鬼に勝てないんだろ?」

何もかもが吹き飛んだ
ぶっ殺すと覚悟を決めて振りぬいた石塊
ぶっ殺したという結果にたどり着くことはなかった

手に感じたのは反発力、石同士がぶつかった瞬間的なものでなく
常に押し返そうとする力

フウが水圧で石を押し返そうとしていたのだ
セフィリア自身もフウのこの行動は予想済みだった
そして、その上でもはさみ潰せると確信していた

しかし、フウは想像の上を行く

>「出来損ないの左遷部隊如きに……遊撃栄転小隊が負けるかぁぁぁぁぁ!!」

削られていく石塊、負けじと力を込め潰そうとする
攻防の動き事態はゆっくりと力と力がぶつかる
歯を食いしばるフウ、冷酷な目でそれを見つめるセフィリア
額には汗が滲む、どんどん溢れていく

低い音が大通り全体に響く、静かだが威圧的な音だった
岩が閉じ、間からは鮮血が滴り落ちる……ことはなかった
滴り落ちるはただの水、フウがだしたものだけだった……

>「出来損ないの遊撃一課にお似合いの、取るに足らない女だよ汝は、ガルブレイズ。
 ことあるごとに先輩、先輩ってフランベルジェを引き合いに出すけどよおおお……。
 裏切られても尊敬の念が捨て切れないのか?それとも後輩根性が染み付いてるのか?」

235 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/07/21(日) 04:22:42.56 0
そんなことはないと言い返したかった……
しかし……

>「――汝にゃ"剣鬼"は越えられねえよ、諦めろ」

「うるさい!黙れえぇッ!」

前に踏み出した足とは逆にセフィリアは後ろに下がった
スイに手を掴まれて、空中に身を浮かす

>「セフィリアさん、よく聞いてくれ。さっきから見る限りはフウは広範囲に何も無い場所で攻撃していることが多い。だから、あそこに行く。
 あそこなら、俺の矢が使える!セフィリアさんにはフウの誘導をして欲しい!!」

スイに連れて来られたのは路地、確かにここは狭い
ここならフウも好き勝手にはできないだろう
スイは路地の奥で無数の矢を浮かせ、全方位から攻撃するつもりだ
確かにそれならフウの意識外の部分にも攻撃でき、すべてを完全に防ぐことは難しい
それにさっきまでのセフィリアとの戦いで傷を負っている
最大のチャンス到来というわけだ

――とは、上手くはいかないものだ

>「双剣の如き、『薄い』遺才の一人ぐらい見せしめに血祭りに上げたって一向に構わないんだぜぇぇぇぇぇ!!」

>「ヴェイパーフィスト!!」

セフィリアの『双剣』という遺才、フウは薄いといった
これは紛れもない事実だ、現にセフィリア以外のガルブレイズ一門、例えば当主であるセフィリアの父とて、剣以外では
発揮されることはないし、セフィリアよりもはるかに弱い

遊撃課でも、戦闘系遺才では決して最強とは言えず、実際問題フィンに勝てる望みは薄く、ノイファには実戦経験で圧倒され
ファミアには一撃を貰えば敗北し、スイには奇襲以外で勝つ方法はない

『双剣』という遺才は弱い
ガルブレイズ家の地位も初代当主こそ、圧倒的な武力で名を馳せたが、今日に至っては個人として才覚に依存しているところが大きい
指揮力や作戦立案能力、政治力、財力、内政手腕等などだ
世間一般でガルブレイズが遺才使いの一族であるという認識は薄い
そもそも当人ですら自分たちの偉才を把握しきってはいない
複数のものを扱える者はセフィリアの前を遡ると数百年はあるだろう

双剣のガルブレイズという看板は軍に二本差の文化を根付かせたからだと思っているものも多い、
初代当主は剣1本でドラゴンを……っと話が脇にそれ過ぎたな

セフィリアは決して強くはない、それでもそれなりの戦果を上げてきたのは彼女努力の賜物だろう
努力は人を裏切らない……耳障りのいい言葉だ
しかし、いままさにセフィリアは裏切られようとしている
彼女が培ってきた武の力……フウのヴェイパーフィスト、その衝撃で、撃滅で、抹殺の一撃によってである
この圧倒的力の前ではセフィリアはなすすべもない
スイに囮を頼まれたが、そんなこと達成する前にバラバラだ

236 :セフィリア ◆LGH1NVF4LA :2013/07/21(日) 04:23:01.32 0
まあ、あれだ。いまのセフィリアにこれを阻むすべはない……

「……げるな……よ」

セフィリアはつぶやく

「ふざけるなよッ!」

セフィリアは叫ぶ

「私の努力はッ!遺才なんて言葉で説明されてたまるかッ!」

迫るフウ、セフィリアは動かない

「こんな状況、『双剣』じゃ、絶対に勝てない……でも、勝ってみせるッ!
私は『双剣』を乗り越えるッ!!」

キッとフウを睨みつける
腰にぶら下げた剣に手をかける
セフィリアは知っていたガルブレイズの真の偉才を……

なぜセフィリアは以上にゴーレムの操縦が上手いのか……
どうして初めて触ったものでも両手に持ちさえすれば操られるのか……
鳥の羽根ですら扱えるのか……

「我が宝剣よッ!力を……かせェェェェェェェェェッ!!」

喜んで、我が麗しのお嬢様
あなたの努力は扉を開く、新たなる境地への扉を
だけど、まだ第一歩、優しい俺だからだぜ?

ヴェイパーフィストがセフィリアの肌を捉える瞬間
神速の白刃が路地裏に煌めく、フウの拳はセフィリアを捉えることができなかった……

【セフィリアが真の偉才を発揮、フウのヴェイパーフィストを上回るスピードで一撃を放つ】

237 :GM ◆N/wTSkX0q6 :2013/07/21(日) 23:13:14.99 P
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【TRPG】遊撃左遷小隊レギオン![【オリジナル】
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