したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50 | まとめる |  | 

【大正冒険奇譚TRPGその6】

1名無しさん:2013/09/02(月) 21:38:31
ジャンル:和風ファンタジー
コンセプト:時代、新旧、東西、科学と魔法の境目を冒険しよう
期間(目安):クエスト制

GM:あり
決定リール:原則なし。話の展開を早めたい時などは相談の上で
○日ルール:あり(4日)
版権・越境:なし
敵役参加:あり(事前に相談して下さったら嬉しいです)
避難所の有無:あり
備考:科学も魔法も、剣も銃も、東洋も西洋も、人も妖魔も、基本なんでもあり
   でもあまりに近代的だったりするのは勘弁よ

2◇u0B9N1GAnE ::2013/09/02(月) 21:39:45
「おいお前、さっきの突きはなかなか鋭かったぞ。
 だが俺には遠く及ばないな!いいか、手本を見せてやる――」

ダーが膝を曲げ、深く重心を落とす。

――君達は、決して油断をしてはならない。
彼は酷く自惚れの強い人間だが、それは卓越した才があるからこそだ。

ダーが地を蹴る。
強烈な風圧と共に、彼は瞬きの間に君達の眼前にまで肉薄した。
位置取りは己とマリーの間に鳥居を挟むように――理想的な多対一の位置取り。

「どうだ、見たか!いや!見えなかったろ!
 そしてチビガキ!相手をぶっ飛ばしてえ時はな!こうやんだよぉ!!」

大地を慄かせる激甚な震脚、体重の全てを打点に乗せる精緻な体幹の捻転。
猛烈な勢いを秘めた靠撃が君達へと襲いかかる。

鳥居が足を浮かさせる事すら出来なかったほどの重量だ。
まともに受ければ骨は砕け、臓腑を著しく傷める事になるだろう。


【鳥居が投げ飛ばせないほど重くなったり、マリーの突きを躱せるほど身軽になったり
 急速な接近からの体当たり攻撃です
 威力は二人をまとめて吹っ飛ばして、戦闘不能にするくらい余裕なレベルです】

3鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 21:40:34
鳥居は少しずつ少しずつだが成長している。と思う。
それはまるで、さざれ石のイワオとなりて、苔の生すほどの成長速度で。

それならば今回、目の前で直立するダーは一体鳥居に何を与えてくれるというのだろうか。

フェイとの戦いでは人それぞれに、大切な人の順番があると言うことを実感した。
それは今まで生きてきて考えてもみなかったことだ。でも、思い起こしてみたらそうなのだ。
鳥居の一番好きな人はあくまでも今はなき母親であって、それ以外の人は平たく同じ。
もとから順番なんてなく、命を大切にしたら人間らしいし、皆が喜ぶという幻を信じていただけ。

ジャンとの戦いで、鳥居は「愛しているものの代わりを奪ってくれば?」と言った。
それは鳥居の本性だったのかも知れない。
でもマリーは「それでは奪われた者の気持ちはどうなる?」と否定。
それが鳥居にはわからなかった。
本当に人間愛を持っている者なら、それを理解できたはずなのに。

やはりこの吸血鬼として生きた数百年は永すぎたのだろう。
10歳の子どもだったころの心を失うほどの年月。
夢という幻の霧のなかで独り、鳥居は彷徨っている。
だから、母になってくれるかも知れないものを探している。
初めて会ったアカネ。暗殺者マリー。出会った者に対して、常に希望を抱いている。
優しいアカネに、強い意志をもつマリー。鳥居は彼女たちに幻想を抱いている。
自分の母親に対して思う幻想を重ねている。だがそれは幻想であって真実ではない。
そう、鳥居は人間を美しく装飾してみているのだ。

4鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 21:40:56
でも目の前のこの男は…。

びくともしなかった。鳥居は完全にダーを甘くみていた。
この男は、頼光とは違う。そんな後悔をしても遅かった。
相撲を挑んで組んでみたものの、ダーの身体は恐ろしいほどに重い。
それに鳥居の能力を分析する思考力。

(この男、強いです…。でも負けられないのです)
自分の心の中の幻を守るために鳥居は戦っている。
マリーたちとの絆は生まれつつある、そう信じているだけで孤独がほんの少しまぎれることも事実。

(もう仕方ありません。炎の神気で作った俵を更に炎上させて、
そのあと円の中心に収束させ、僕ごと彼を燃やします。
僕は彼に潰されてしまうかもですが、もしかしたら炎の神気の操作を上手くできるかもしれないし…)
そう思った瞬間だった。マリーの刺突。木の葉のように宙に舞う巨体。
目の前の光景に鳥居は目を疑った。なんとマリーの短剣のうえにダーが立っている。

改めて鳥居は驚愕する。鳥居を上回る力。マリーの突きをかわす速さ。無駄のない身のこなし。
しかし、鳥居は諦めない。彼はマリーたちを守ると言っている。そこに隙があると思考する。

>「どうだ、見たか!いや!見えなかったろ!
 そしてチビガキ!相手をぶっ飛ばしてえ時はな!こうやんだよぉ!!」

「ぶっとばす?守るんじゃなかったんですか?でも僕は今、大切な絆のためにマリーさんの盾になります!
あーかっこいいです!貴方なんかよりも、ちっちゃいのにマリーさんを守る僕のほうがずーーーっとかっこいいです!」
ダーを見つめながら意識を集中する。そしてジト目でアカネに視線を移す。それは水の術の催促のしるし。
次の瞬間、周囲の炎の円が激しく燃え出し、ダー、マリー、鳥居の三人を土俵の中央とした炎の壁を作りあげる。
それは炎の神気の遠隔操作だった。作り出されたのは、まさに背炎の陣。
ダーがそのまま体当たりを慣行すれば、吹き飛ばされたマリーも鳥居も焼け死んでしまう。
でもそんなことできる?そんな一か八かの鳥居の挑発とハッタリだった。

【ダー君がどんな動きをみせようとも、鳥居はマリーの盾となってダー君を両手で受け止めようとします】

5◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 21:41:26
【行動判定】

>>4


>「ぶっとばす?守るんじゃなかったんですか?でも僕は今、大切な絆のためにマリーさんの盾になります!
 あーかっこいいです!貴方なんかよりも、ちっちゃいのにマリーさんを守る僕のほうがずーーーっとかっこいいです!」

「――あぁ?」

短い言葉、冷酷な響き――深い怒りを宿した眼光が君を見下ろす。
同時にダーの挙動が変わった。

上体を激しく捻転、右脚を軸に左足で円を描く。
体当たりに乗せる筈だった勢いの全てを回転力に変換。僅か一瞬の体捌き。
そして腕を振り上げ――回転と遠心力、そして重力を乗せて振り下ろす。

上半身を一つの巨大な鎚のごとく扱う、劈掛掌の技巧。
その威力は、武の達人であるダーが術の補助と共に行えば、岩をも容易く砕くほどに絶大だ。
――たった一撃であったとしても、だ。

「ぬわぁあああああああああにが守るだ!せっこい真似しやがってよぉ!」

鉄槌をも凌ぐ重打撃が、豪雨もかくやに降り注ぐ。
劈掛掌の打撃は円の動き。
故に一撃一撃が、次の打撃への予備動作となる。
その結果生み出されるのは――絶え間なく続く重連撃。

「テメェさっきからいちいち生意気なんだよ糞ガキが!
 だが安心しな!俺は心が広えからよぉ!それでもちゃーんと守ってやるよ!
 ――なにせテメェは!これから自分の身も守れねえくらいに、めったくそになるんだからなぁ!!」

ダーの連撃は恐ろしいほど重く、そして速かった。

だが――何故だろうか。
ほんの僅かにではあるが、彼の速さが鈍っていた。
勿論速いには速いのだが、最初に見せた目にも留まらぬ高速移動ほどではない。

その違いは本当に軽微だ。
しかし大事なのは『速さの落ち具合』ではない。
『一体何故、ダーの速さが落ちているのか』だ。

【挑発にマジギレ。体当たりに使う筈だった勢いを全て打撃に乗せて鳥居君を集中攻撃
 なんか微妙にだけど速度が落ちているような?】

6 ブルー・マーリン ◇Iny/TRXDyU:2013/09/02(月) 21:48:54
>「見事な手前……だが、無駄だよ。檻から逃れんとした者の行く先は――更に窮屈な檻の中だ」

「どんな窮屈な檻であっても、俺は絶対にそこを抜けだすさ!」
と、強気で言うが

(コイツはちとヤベぇな…体の動きを制限させてやろうと思ったが外れたか…チッ!)

>「それで……その銃。私はそういう物には疎いのだがね……さっき『何発』撃ったかな?
 次に弾を込めるまでには『何秒』かかる?」

「応えるわけにゃあいかねぇな!」
ニヤリと笑いながら言う

>「他に、何か聞きたい事はないかね?答えられる限り、答えよう。話せる事はなんでも話そう」
「じゃあこれから死ぬかもしれない男に冥土の土産に教えてくれよ!」
内心、死ぬつもりはないがね、と思いながら言う

「アンタ…何歳だ?好みの女性のタイプは?童貞か?家族はいるのか?
親友は?心は?目的は?これから俺達を殺す時に慈悲はないのか?なんで俺達を殺そうとして迷ってやがんだ!!」
それは、くだらない、本当に下らないマシンガンのような質問ばかりであった

「アンタの目的は果たされたのか!!?」

だが、ブルーは本気でこれを知りたいと思っていた、特に最後のは…

>「本当に、そこにいて大丈夫かね?」
「ちぃいっ!」
そこから一気にジャンプしてその場を離れ、超人的な速さの駆け足で倉橋達の元へ向う

目的はただ一つ、なにかを恐れている男のやる気を出させるためだ

>「お、お、お前なんぞこれで十分よ!いけ!吸精蔓!」
「てめぇっ!」

と、武者小路の前まで来ると

「歯をくいしばれ!」
そのままの勢いで武者小路の頬を殴る

吹き飛ばされる武者小路、しかし吹き飛ばされる前にその武者小路を掴む

「なにを恐れているが知らない!俺はてめぇのように魔術やら妖術はつかえねぇ!
てめぇの身に何が起こっているかも知らん!だがよぉ!
今殴られた時、痛いか?苦しかったか?悔しかったか!?」
と、ゆさぶりながら聞く

7 ブルー・マーリン ◇Iny/TRXDyU:2013/09/02(月) 21:49:24
「てめぇはなぁにを迷っている!
前みてぇな勢いはどうした!?怖いのか?
あのツァイが怖いのか?何が怖いんだ?その力か?
てめぇの腹の中や魂に巣くうその力が怖いのか!?」

「てめぇは!妖術師で男だろ!」
と、言うと同時に武者小路の『男の勲章』を服の上から鷲掴みにする

「痛いか?痛いよなぁ?痛いに決まってるよなぁ!?」
苦痛に歪む武者小路の顔

「だったらまだいい!痛いという事が感じられるのならばっ!
それは人である意外にない!」

ここまで一分以下の時間である!
そしてパッと手を放す

「ふん、女に頼られる男、でなく女に頼る男…か…
足は引っ張るなよ?…ん?なんだその目は?悔しいのか?
こんなにボロクソ言われてもなんも言い返さないのか?悔しくないのか?
そうかそうか、お前は結局、『男』ではないのだな?」

と、今度は挑発すると

「クソの役にも立たないならその辺に隠れてろ!この役立たず!」
彼は、ブルーは、武者小路に何が起こっているのかは大方わかっているのだ
だから彼は武者小路を怒らせる事をした。

力を使うたびに自分がなくなる?ならば力を使いながら自分を増やせばいい。
窮鼠猫をかむ、今の状態は窮鼠虎をかむ、追いつめてやれ、力に飲み込まれるなら逆に飲んでしまえ。
手に余る力などない、どんな力も、意思が、とてつもない意思があれば、握り込むことは可能なのだ

「さぁてツァイ?さっき何秒で弾込めが終わるのかと聞いたな?
やっぱ教えてやろう、それは『1秒以下』だ…」

言い終わらないうちに銃に目にもとまらぬスピードで弾を込めると同時に走り出す

(…魔力かぁ、いい思い出全っ然ないんだよなぁ…。
でも、使えるっちゃ使えるのかな…)

【武者小路さんに説得(物理他)】
【足の裏に微量な魔力を込め始める、でもよく見ると魔力の込め方が下手すぎて足の裏に塗られる前に拡散してたりする】

8 双篠マリー ◇Fg9X4/q2G.:2013/09/02(月) 21:50:04
ダーの人間性は最低だ。
だが、決して軽んじていい相手ではない。
この地獄絵図の中、まともに動けない人間を平然と連れ回せ
尚且つ、まだ他者を守ろうとする余裕もある。
だからこそ、万全の手を打った。

まずは鳥居とダーの勝負、もしダーがジャンのような人間だったのなら
マリーは鳥居が勝負を仕掛けるのを止めたが、敢えて黙っていた。
ダーの性格から鑑みて、きっと鳥居のことを見かけだけで判断し油断すると読んだからだ。
予想通り、ダーは完全に油断しきっている。
ウェイトの差はあるだろうが、大人を投げ飛ばせるほどの腕力がある鳥居ならば
互角に組み合い、押し切れる可能性がある。
それを確実なものにするために、あかねの目潰しで視界を潰し動きを止める。
これで完全に押し切れるはずだった。

ダーは鳥居の突進を受けていても微動だにしていない。
加えて、その態勢のまま鳥居に講釈をするほどに余裕も見せている。
そして、そのままダーは鳥居の頭に手をのせる。
その瞬間、脳裏を過ぎったのは先ほど指一本で屍人の首を折った様だ。
おそらくは今、ダーはソレをやっているのだろう。
だが、手加減からなのか、それとも、鳥居が頑丈なのか、まだ鳥居は何かに耐えられているようだ
そうなるとダーも相手がただの人間では無いと分かったのか
更に力を加えようと構える。

その瞬間、マリーは動いた。
今、ダーの意識は完全に鳥居へ向けられている。
自信はあった、幾人もの悪人をこのタイミングで狩っていた経験が裏付けている。
「(このまま脳天にブッ刺してやる)」
マリーは思い切り、短剣を突き出した。

9 双篠マリー ◇Fg9X4/q2G.:2013/09/02(月) 21:50:22
だが、しかし、確実な手応えをマリーは感じることが出来なかった。
マリーは自身の目を疑った。
いかにも鈍重そうな男が、刺突を交わすだけではなく、その短剣の上に立っているのだから
「煩い!自分が満足したいが為に他者を犠牲にするお前がその言葉を使うな!」
ダーを振り落とそうとしたが、その前にダーが飛び上がり、間合いから離れる。
ダーが着地した瞬間、先程までの身軽さが嘘に思えてくるほどの重い着地音と振動を感じる。
「(失念していた。そうだ、この男は結界ごと破ろうとしていた
  つまるところ、この男もジャンと同じように術を使うことが出来るということ)」
ダーの一挙一動に気をつけながら、マリーは考える。
今までの奴の動きから察するに重力を増減させる能力と考えてみていいのか
屍人の首を折ったり、岩のようにビクともしなかったのは自身を重くしたから
逆に、自身を軽くしたからこそ、あんな真似が出来た訳か
だが、ダーの能力がどのようなものか、分かっても現状の打破は難しい
何故ならば…
「速い」
ジャンとは違い、ダンの能力は一度発動してしまえば後は、つまみを回すように
重力を調整すればいいだけの状態に加え、その調整も特別な動きを要さない為
それを読むことが出来ないからだ。
そして、現にマリーは為す術無く眼前への接近を許してしまった。
体重を軽くすることで急激な加速を可能にし、その勢いを殺すことなく
打撃の威力に加え、自身を重くすることで破壊力を増させる。
破壊力の方程式を最大限に利用した攻撃は正しく圧倒的な破壊力を有する。
それが確実に迫って来る中、鳥居が咄嗟に放った挑発がダーの怒りを買った。
マリーの身を容易く砕く一撃は、全て鳥居へ向けられる。
そして、次々と重たい一撃が鳥居へ降り注ぐ中、マリーは何もできず立ち尽くしていた。
確かに今ダーの意識は鳥居へ向けられ、隙を突くことが出来る
しかし、そうしても結果は先程と変わらないはずだ。
ならば、どうする?
ギリギリまでダーの動きを見る…とにかく、今はそれだけしかない。
見れば見るほどダーの動きはムダがない。
このまま接近戦を続けても勝ち目は薄いだろう。
と、ここでマリーが異変に気がつく
猛攻を続けるダーの動きが、なんとなくではあるが、見え始めていることに気がついた。
ダーの動きに目が追いついた訳ではない。
ダーの動きが少しずつではあるが落ちていくのが見える。
「(疲れか…それとも何か別の理由があるのだろうか
  考えろ、今現在ここにあって、さっきまでなかったのは)」

【ダーが遅くなっている原因は今の環境にあると思って、原因を考える】

10◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 21:50:51
>「ふっざけんなくそじじい!!どうせ肝心な事は答えないくせによおおお!!」

ツァイは何も答えない。ただ目を細めるのみだ。
ただそれだけの所作が、何よりも雄弁に肯定の意を語っている。

>「アンタ…何歳だ?好みの女性のタイプは?童貞か?家族はいるのか?
  親友は?心は?目的は?これから俺達を殺す時に慈悲はないのか?なんで俺達を殺そうとして迷ってやがんだ!!」

続くブルーの問い――ツァイの表情は変わらない。

>「アンタの目的は果たされたのか!!?」

だが最後の一声だけは違った。
彼の眼が見開かれ、眼光の色が変わる――絶対に君達を殺すのだという、苛烈な敵意の色。
即ち、彼の目的はまだ、果たされてはいない。

>「大体よお!こっちとら遥々海を越えてお前らの国を助けに来た救国英雄だぞ!
 それが来てみたら訳の分からねえ死体にまみれているわ!会う奴会う奴襲ってくるわでよぉ!
 な ん で 助けに来た俺たちを襲うんだこの野郎!
 悪いのはこの呪災起こした奴だろうがよ!
 それとも何か!?俺たちを殺したらなんかいい事あんのか?ああ!?

そしてそれは――君達を殺す事で、果たされるのだろう。

>「あんたたち!迂闊に動くんじゃないよ! 
 あの喰えない御仁、私達が詰所の家捜しをしてる間に、空き地のそこらじゅうに鉄杭を仕込んでる筈だ。
 私達は罠だらけの檻の中に閉じ込められてるって事だよ!
 移動する時は、地面によく注意するんだ!
 結界の『線』を『面』に起こすまでには、数秒の誤差がある。気付けば避けられない間じゃない!」

冬宇子が叫ぶ。彼女はとても聡い。それに冷静だ。
忠告があったとは言え、既にツァイの術の性質と戦況を理解している。

だが――何の問題もない。
例え種が割れていようとも、避ける事は能わない。
彼は己の結界術に多大な自負を持っていた。

>「物騒なことしやがって!どうしてもこの頼光様の武勇伝を増やしてぇようだなぁ!」
>「このくそじじぃが!おめーの結界術は種を見せすぎだ!
  どこにどれだけ仕込んでいるかは知らねえけどよぉお!虱潰しにして全部抜いてやっ……」

そう、例え彼が何をしようと、ツァイにはそれを上回る自信がある。
剣印を握り、頼光を睨む。
再度の銃撃に備えて結界の防壁は展開したままだ。

>「――――――いけない!!!」
>「あ、う……ぬ……」

しかし――何も来ない。
拍子を外す為の見せかけと言った風でもない。

>「お、お、お前なんぞこれで十分よ!いけ!吸精蔓!」

結局、放たれたのはお茶を濁すような木行の術。
何をするまでもなく、それは結界壁に裁断された。
被害はまるで無かった。が、いまいち釈然としない。

11◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 21:51:20
>「てめぇっ!」

そうして訝しんでいると――ブルーが叫び、地を蹴った。
隙を突くつもりだろうか。
だが、ツァイは動作一つ意志一つで結界を追加展開出来る。
そこに足運びを加えれば、彼に接近する事など――

>「歯をくいしばれ!」

――そう叫びながら、ブルーは頼光を殴りつけた。
予想外の出来事にツァイは僅かに目を剥き――しかし、これは好機だ。
問いに答えるとは確かに言ったが、仲間割れを始め、隙だらけの所を見過ごすまでの義理はない。
彼は剣印を二人へと突きつけて――

>「聞きたいことはないか――冥土の土産をくれるってのかい?

ふと、視界の外から声が聞こえた。倉橋冬宇子の声だ。
絶妙な間だった。この問いに答えを返すまでは、ブルー達を殺す訳にはいかない。
それは自分が立てた誓い――贖罪に反する事だ。

>冥土の土産ってなァ、殺される者に真実を伝えてやろうってぇ、せめてもの慈悲だろう?
>この期に及んで言えない事があるなんて、あんまりじゃないのかい?」

彼女の言う事は、至極もっともだ。

>「その男も言っていたように、何故私らが殺されなきゃならないのか?
  それくらいは教えとくれよ!
  訳も判らずに死んだんじゃあ、成仏なんかできゃしない。」

――前触れもなく、風が吹いた。
結界に包まれた詰所の敷地内に、風が。

>「ツァイ・ジン――!あんたは一流の術士だ。
  生憎と私は、補助符が無けりゃ五行の術も満足に使えない三流以下でね。
  敵いっこないってこたァ分かってる。
  あんたが、どうあっても私を殺すってなら、きっと死ぬことになるんだろうさ。
  それでも、私は知りたいんだよ!この国に何が起こっているのか。真実を。」

ツァイの口元が微かに動く。
風は、まだ止まない。

>「私らに呪災の淵源を探られちゃ、都合の悪いことでもあるってのかい?
  ええ?亡国士団の旦那?
  捨て駒だったあんたらが、何故中央に戻れたのかねえ?!それも呪災の直前に!」

>「ねえ!答えとくれよ!
 あんたは『私らが誰なのか。何のためのここに呼ばれたのか』知っているのかい?」

「……いいや、知らないな。私には答えられんよ」

拒絶的な回答――だが、まるきり無意味でもない。
私には答えられない――それはつまり彼以外に、冬宇子の問いの答えを知る者がいる。
彼よりも立場が上の者が。そういう事だ。
無意識に零れた失言といった風でもない――彼なりの、せめてもの答えなのだろう。

12◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 21:51:40
>「さぁてツァイ?さっき何秒で弾込めが終わるのかと聞いたな?
  やっぱ教えてやろう、それは『1秒以下』だ…」

仲間割れが終わったのだろう――ブルーが凄まじい速度の再装填を見せる。
彼は手も足も速い。機敏だ。
老いたツァイの眼では、その速度は見切れない。
だが、だからこその結界術だ。
彼らが結界を破る術を持たない以上、彼の優勢は揺るがない――

「――む」

不意にブルーの足から氣――魔力が漏れ始めた。
何をするつもりか、ツァイにはすぐに予想が立てられた。
戦闘時における予測とは、自分がされて困る事を想定すればいいのだから。
つまり――ブルーは結界に対する干渉力を得ようとしているのだ。

とは言え付け焼刃の技術なのだろう。
魔力は殆ど定着しないまま拡散している。

それでも、いや、だからこそ――今すぐに、仕留めねばならない。
右手で拳を固め、指の隙間に鉄杭を挟む。左手には剣印を。

そして――――突然、ツァイの足元が隆起した。
無数の亀裂が走り、そこから爆発的な勢いで吸静蔓が伸び出してくる。

「これは……!」

先の質問は時間稼ぎだった。
ツァイがその事に気付いた時には、もう遅い。
彼の体は蔓に絡め取られ、完全に自由を奪われていた。

冷汗が滲む。
不味い――このままでは、やられる。
『約定』が果たせない――『目的』が果たせない。
冷ややかな風が、彼の頬を責め立てるように叩いた。

「……さっきの問いは、時間稼ぎか」

そして――この発言もまた、時間稼ぎだ。
自分は決して負ける訳にはいかない――その一心で思考を巡らせる。

「やはり私には……こういう事は向いていなかったようだ。参ったよ。私の負けだ」

時間を稼がなくては。
ならば狙うべき相手は――あの若く勇猛な男、ブルーだ。
この状況で最も自分への殺傷力を持っているのは彼だ。

「……思えば、君の問いにまだ、答えていなかったな。
 君達への冥土の土産のつもりが、私の置き土産になってしまったが……
 約束は約束だ。答えておこう」

彼は戦闘中でも構わず、もう一人の男――頼光に食って掛かっていた。
なまじ強い力を持つからこそだろう、即決即断という事を知らない。
故に自分をすぐに仕留めようとはせず、話に乗ってくる筈だ。

13◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 21:51:58
「確か……私の歳だったか。それなら今年で五十四になる。
 家族は国と共に死んだよ。友と呼べる者は……思えば一人もいなかったな。
 ……それについて、未練は無いがね。女性の好みは……」

一瞬の沈黙。

「……そうだな、強い女性がいい。私はどうも、意を決するという事が苦手でね。
 お陰で君達にも負けてしまうし……女性と交わる機会も、逃し続けてしまったんだ。
 だから……この手を掴んで、引いてくれるような人が、好きだったよ」

遠い過去を懐かしむように視線を細めながら、くつくつと、ツァイが笑った。

「……慈悲は、少し掛け過ぎてしまったようだ。
 私も、君達を殺すのが、間違った事だとは分かっていたからね……。
 後は、なんだったかな……あぁ、私の『目的』か。それなら――」

再び、風が吹いた。
これまでとは違う、激しく鋭い風――それがツァイを戒める蔓を千々切り裂いた。
ツァイの全身が自由を取り戻す。

右拳に二本の鉄杭を。左手は剣印を。
鉄杭の間に線が走る。そして彼は、その線から面を生み出せる。
長短自在の、裁断結界を。

「――これから果たされる」

ツァイが右手を突き出す。
その先にはブルー・マーリン。
――君へと目掛けて、剣状と化した結界が猛然と迫る。

もし君がそれを避ければ、結界はそのまま伸び続け――君の後方に居る冬宇子と頼光を貫くだろう。
もし避けなかったのなら――結界は君を貫いてから、そのまま君の仲間達を貫く事になる。

要するに君は――『やるしかない』。
付け焼刃だろうが、ろくに使いこなせない力だろうが、それでもだ。
やらなければ、死ぬ。少なくとも君の仲間達は、確実に。



また、これは君達が気付くかどうか分からない事だが。
先程のツァイの戒めを解いた風には、呪力――氣が含まれていた。
ツァイのものとは違う。だが君達にも覚えのあるだろう氣が。


【なんか風が吹いたらツァイを縛ってた蔓が切れちゃいました。
 伸縮自在の結界を横に伸ばす事で、剣のようにして冒険者を貫くつもりです】

14鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 21:52:36
土俵の円として作り上げられた炎の神気は、
鳥居の遠隔操作で激しく燃え出し周囲に炎の壁を生み出している。
そんな中、鳥居に向けて繰り出されるのはダーの重い連撃。

>「テメェさっきからいちいち生意気なんだよ糞ガキが!
 だが安心しな!俺は心が広えからよぉ!それでもちゃーんと守ってやるよ!
 ――なにせテメェは!これから自分の身も守れねえくらいに、めったくそになるんだからなぁ!!」

「わあ!」
わあわあと悲鳴をあげながらも鳥居は何とか攻撃を避けていた。
ダーのそれは一発一発が岩をも砕く破壊力。しかし円の動きならばその軌道は読みやすい。
おまけに鳥居には吸血鬼の身体能力がある。
それにその動きは、先ほどマリーの刺突を避けた目にも止まらない動きではなかった。
今までのダーの行動、組んだときの重さ。マリーの刃物に乗るその身体の身軽さから
彼は自分の重さを操っているのだと鳥居は理解していた。
それならば何故、この連撃の速さは僅かながらに遅いのか。

(……遅い理由が理解できたら、もっと遅くする方法がわかるかも)

暗殺者のマリーとは違い、鳥居に対してはそんなに速さを必要としていないからだろうか。
それとも連撃技の特性からか。そのほかの理由か。
今の攻撃は回避や突撃の動きとは違い、高度な重心移動を必要としているからこそ遅いのだろうか。
そもそも遅いということはどういうことなのか。

(もしかして…、あの巨体で軽くなるってことには僕たちには分かりえない何かしらのデメリットがあるのかも。
もしかしたら空気抵抗がすごくなるとかです。でわ、少し試してみましょう)

「ふっふっふ。僕に致命傷を与えるためにはもっと速さが必要ですよダー。
それともそれ以上の速さは出せませんか?マリーさんの攻撃を避けたときみたく
恐ろしく軽くなってみてはいかがですか?」
そう言って両手を突き出し、練りだした炎の神気で火炎の竜巻を生み出す鳥居。
それは周囲の炎の壁と相成って、上昇気流とともに激しい気流の乱れを地上に生み出した。

「自作自演で人を守って喜こぼうとするなんてまるでオボコの人形遊びです。
立派な大人のすることじゃありません。精神的に未熟なもののすることです!」

【攻撃を避けながら、火炎の竜巻をダー君に放ちました】

15ブルー・マーリン ◇Iny/TRXDyU:2013/09/02(月) 21:53:05
>「確か……私の歳だったか。それなら今年で五十四になる。
 家族は国と共に死んだよ。友と呼べる者は……思えば一人もいなかったな。
 ……それについて、未練は無いがね。女性の好みは……」
>「……そうだな、強い女性がいい。私はどうも、意を決するという事が苦手でね。
 お陰で君達にも負けてしまうし……女性と交わる機会も、逃し続けてしまったんだ。
 だから……この手を掴んで、引いてくれるような人が、好きだったよ」

「強い女性が好み…ね…あんたとは出会い方が違えば友達になれたかもな」

そういっている間に距離残り僅かにせまる

>「……慈悲は、少し掛け過ぎてしまったようだ。
 私も、君達を殺すのが、間違った事だとは分かっていたからね……。
 後は、なんだったかな……あぁ、私の『目的』か。それなら――」
「――これから果たされる」

眼前にせまる結界よければ味方にあたる…なれば!

「チィイイイイッ!!
やってやらぁ!!」

と、叫ぶと同時に結界の一本を『蹴り上げた』

「とりゃあっ!」

と、同時に空高く飛び上がる真上からその剣の形をした結界に『乗る』

「あちっ!あちあちあちちゃ〜!!」

わめきながらもその結界を上を『走る』、かなりバランスが危険ながらも『走る』

普通じゃあり得ない光景だ、まさか『剣の上に立つ』などという行動をだれが予想しただろうか…

彼の魔力、氣の特性は『無』

無、とは変化がもっとも起こしやすい特性だ
だからこそ彼はこれを扱うことをためらった

もしかしたら…今のような状況じゃないことになっていたかもしれないから…

「でぇいっ!」

と、そんな光景を見ている間にツァイの眼前には足の裏が見えた

見えた同時に頭部に強烈な衝撃が走る

蹴ったのだ、ツァイの顔を思いっきり、と同時に足場が足場なせいかその場から転び落ちる

ツァイもまた数メートル吹き飛ぶ

「あいででで…」

その場から転んで背中を軽く打ちつけて背中をさする

【結界の真上に乗ってそのまま走ってツァイの顔を思いっきり蹴る】

16◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 21:53:33
「ちっ……!このっ……!クソッ!ちょこまか動き回んじゃねえよ!
 ぬわぁにがカッコイイだテメェ!超だっせえ真似しやがって!」

ダーは大柄だ。横幅も広ければ背も高い。
反して鳥居は、小さく背も低い。
そして『低い』という事は『遠い』という事だ。
故に、打撃が当て難い。

ダーは自分より弱い者が好きだ。
とは言え流石に、鳥居と同じ背丈の子供を甚振った経験は『そんなに』ない。
手馴れない相手にいまいち適応しかねているようだった。

>「ふっふっふ。僕に致命傷を与えるためにはもっと速さが必要ですよダー。

「あぁん!?見くびってんじゃねえぞ!テメェのチビさ加減にも、もう慣れて――!」

>それともそれ以上の速さは出せませんか?マリーさんの攻撃を避けたときみたく
>恐ろしく軽くなってみてはいかがですか?」

ダーの怒声が途切れた。
鳥居の中から強い陽の――炎の力を感じる。
瞬間、ダーの身に流れる『打』の血脈が持つ天性の才が、無意識化での思考を加速させた。

――もう気付かれたか。自分の術と、その欠点に。
認めたくない事だが、相性が良くなかった。始まり方も。
相手が自分自身や味方への被害――熱による体力の消耗も考えられないド素人だからこそ、こんな状況が生まれた。
炎に囲まれて、気流が著しく不安定な状況。体を極限まで軽く出来ない状況。

強烈な気流を伴って、炎の竜巻が放たれる。
体を軽くした状態では堪えられない。吹き飛ばされる。
だが――

>「自作自演で人を守って喜こぼうとするなんてまるでオボコの人形遊びです。
  立派な大人のすることじゃありません。精神的に未熟なもののすることです!」

「――甘えんだよ、この糞ガキがッ!」

憤怒の咆哮――そしてダーは地を蹴った。

「俺が何年!この術を使ってきてると思ってやがるボケッ!力をろくに使いこなせてねえテメェとは違えんだ!

為されるがままに気流に吹き飛ばされるのではなく、自ら飛ぶ先を選んだのだ。
炎による熱波は彼を鳥居の頭上へと押し上げる。

「そして、この忌々しい結界!コイツを蹴る事で!!」

足に氣を巡らせ、寺院を守る結界を蹴る。
生じるのは強い反作用、強大な加速度。

「これならテメェがッ!どんだけチビだろうと関係ねえよなぁ〜!!
 喰らいやがれ!ぶっ潰してや――」

と、勝利を確信した事で、ダーは少し冷静さを取り戻した。
そして思い出す。自分の目的はあくまで君達を守る事。
ここで鳥居を踏み潰してしまうのは、少し不味い。

故に彼は跳ぶ先を変更――君達からやや離れた地点に降り立った。
仕切り直しだ。

17◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 21:54:28
「――ちっ、思ったより面倒くせえなぁ」

ダーは顔を顰め、頭を掻きながら、そうぼやいた。
それから鳥居を見下ろし、人差し指を突きつける。

「オイ、チビガキ。今ので一つ『死に』だからな。
 よーく分かったろ。俺の方がテメェなんぞよりずっと強えし、カッケーんだよ。
 もう二度とナメたクチ利くんじゃねーぞ。んでもって大人しく守られとけって」

――とは言え、正直に言って君達の面倒だと、ダーは考えていた。

相手が生み出す強力な熱波は今のように逆利用出来る。
だが、そこから急降下攻撃に繋げれば、そのまま相手を死なせてしまう。それでは意味がない。
さりとて、周囲の炎の壁が生み出す気流の乱れ、それ自体を消し去る術は、自分にはない。
故に体を極限まで軽くする事は出来ない。最大速度を発揮出来ない。
有用な手札を一つ潰された。

「……ったく、本当に……『面倒くせえ』なぁ、畜生。あっちいし」

そう、あくまで『面倒』だ。
熱波で飛ばされない程度に軽くなる事は出来るし、鳥居の小ささにも慣れた。
炎のせいで汗は掻いているが、体力の消耗という程ではない。

「言っとくけどよぉ。俺の術の欠点を見つけて……それでいい気になってんじゃあねえぞ。
 そりゃあ速く動けりゃ色々やり易いぜ。
 俺のナリを見て油断したタコをさっさと仕留めたりよぉー」

ダーが構えを取る。
足幅を広めに取り、重心は深く落とす。
腕は肘を僅かに曲げて、胸の高さに。

「だがな、所詮はただの小細工……手品の類に過ぎやしねー。
 テメェらは今から後悔する事になるぜ。この俺から小細工を奪っちまってよぉ。
 これじゃあもう――『マジメ』にやるしかなくなっちまったじゃねえか」

瞬間、ダーの放つ雰囲気が変貌した。
威丈高な態度相応に迸っていた強者の気配が更に一段上へ、細く鋭く精錬されている。

18◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 21:54:56
彼が動く。
右手の平が下向きに半円を描き、地面を擦る。
汗に土や砂が付着して、遠心力によって君達めがけ飛ばされた。
彼の術は自分の重さを変えるもの――それは分泌物である汗にも適応可能。
一粒一粒が彼自身よりも重くなった砂弾が鳥居へと迫る。

流れるような動作でダーが地を蹴った。
女性ほどの自重に、巨漢の筋力――多少遅くなったとは言え、速度は未だ十分。
一瞬の内にマリーの眼前へ。

彼の上体が波を打つ。
波とは加速する力、無と全の相転移。
それを打突に適応すれば――高速かつ炸裂的な重連撃と成る。

「見せてやるぜ、テメェに見えるもんならな……八閃翔――ッ!!」

八閃翔――またの名を翻子拳。
「拳の密なるは雨の如し、脆快なること一掛鞭の如し」と評されるその拳は、
ダーの術を併用する事でまさしく神速の打拳と化す。

だが――双篠マリー、君はもう十分に彼の動きを見てきた。
その上、彼は周囲の炎によって最大速度を出せないでいる。
この期に及んで彼の打拳を見切れないのならば――最早、暗殺者の名を冠する資格はない。
命と共に、落としてしまうといいだろう。



ところで――確かに君達は彼の術の欠点を理解した。
しかし、その対策は完璧ではない。
彼はまだ、炎の上昇気流を利用した緊急回避を使える状況にある。
致命打を与える事は難しいだろう。



【鳥居→汗が染み込んだ事で馬鹿みたいに重くなった砂かけ攻撃
    威力的には普通の人間が食らったら砂が体内にめり込んだ後で
    肉やら内臓に穴を開けながら下に沈んでいく感じになる筈です。余裕で死にます
 
 マリー→急接近からの連続突き
      飛ばされない程度には軽くなっているので、最高速度ではないけど、それでも超速いです】

20倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 21:59:41
>>10-13
>>15
頼光を叱責し張り飛ばしたアレク――ブルー・マーリンが、空になった拳銃に装弾。
視線は油断無くツァイの動作を伺い、足元に独特の――"氣"が漏れ始める。
彼は何かを仕掛けるつもりなのだ。
一方、冬宇子がツァイと言葉を交しながら、密かに地中に這わせていた蔦の根も、もはや成長に十分な時間を経た。
機は熟した。ツァイの動きを停めるのは今しかない。

「令!剛發芽促!!」

冬宇子が呪言を発する。
ツァイの佇む地面、その直下まで成長していた根が一斉に萌芽し、爆発的成長を以って彼の身体に絡み付く。
両脚から胴体に這い上がり、腕ごと拘束。
指の一本一本までもが、蔓に絡め取られ、結界を発動するための剣印を結ぶことさえ叶わない。
ツァイは立ったまま、緑色の蓑虫さながらに、首から下を葉をなす蔦に緊縛されてしまった。

>「……さっきの問いは、時間稼ぎか」
>「やはり私には……こういう事は向いていなかったようだ。参ったよ。私の負けだ」

老結界師が、苦笑交じりに言葉を漏らす。
彼の結界術発動には、『手』の動作が不可欠だ。それさえ禁じてしまえば、次の一手は打てない。

「相手が一流だからって、黙って殺されるわけにはいかないんでね。
 言ったろ?"補助符を使わなければ――"って。三流術士にだって、これくらいの術は使えるのさ。
 さァ、今度こそ、ちゃんとした『回答』を貰おうかねぇ?」

薄笑いを浮かべて冬宇子は言う。
好奇心を満たそうとする女の執念は凄まじい。それを知る為に、如何な危険があろうとも、
知った後に、どんな結末が待ち構えていようとも、女は走り出した欲望を収めることが出来ないのだ。

>「……思えば、君の問いにまだ、答えていなかったな。

冬宇子の狂気染みた追求を躱すように、ツァイはブルーへと視線を移し、語り始める。
大部分は、ブルーがツァイの気を逸らす為に投げ掛けた意味の無い質問への返答だったが、
何処かに核心に迫る手掛かりが含まれているやも知れず、冬宇子も耳を傾けぬわけにはいかなかった。

>「確か……私の歳だったか。それなら今年で五十四になる。
>家族は国と共に死んだよ。友と呼べる者は……思えば一人もいなかったな。
>……それについて、未練は無いがね。女性の好みは……」

>「……そうだな、強い女性がいい。私はどうも、意を決するという事が苦手でね。
>お陰で君達にも負けてしまうし……女性と交わる機会も、逃し続けてしまったんだ。
>だから……この手を掴んで、引いてくれるような人が、好きだったよ」

冗々と語られる身の上話。その他愛ない内容に、冬宇子が苛立ちを募らせる最中、
詰所の敷地内に『氣』の乱れが生じた。

>後は、なんだったかな……あぁ、私の『目的』か。それなら――」

敷地を覆う方形の結界の内部に、一陣の風が吹き抜ける。
風は竜巻となってツァイの全身を取り巻き、剃刀の如き烈風が、纏わりつく蔦を切り裂いた。
道術によって起こされた風だ。術才は低くとも、陰陽師として道術を嗜んだ経験が、冬宇子にそれを感知させた。

>「――これから果たされる」

細切れになった緑葉の渦から、初老の男が、傷一つない姿を現した。
ツァイが右手を突き出す。
拳に挟まれた二本の鉄杭の間に、青白い霊光が結ばれ、それを基点に起された平面が一直線に伸びる。
瞬きの間も与えず、ブルー・マーリンの鼻先へと。
並外れた反射神経を持つブルー。避けることは造作ない筈だが、彼が避ければ、霊力の剣が背後の冬宇子を貫く。

21倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:00:39
>「チィイイイイッ!!やってやらぁ!!」

先刻から、ブルーの身体から微かに立ち昇っていた、不安定な『氣』―――
道術魔術などの術式の斎整を経ぬ、原始的な『生命のエネルギー』の如きそれを、彼は足元に集約し、靴のように纏う。
爪先を天に向けて跳躍―――!
氣を帯びた足が、霊光を弾き、伸延する剣の軌道を逸らした。
そして、着地は、剣状を成す結界の上へ。
支えるツァイは重みに耐えかねて、剣先が、片側だけに錘を載せたシーソー遊具のように傾いて地面を穿った。

>「あちっ!あちあちあちちゃ〜!!」

ブルーは、綱渡りさながらの不安定さで結界の刃を走り、術士の眼前へ。
膝頭を高く引き上げて足裏を突き出し――前蹴りがツァイの額を捉えた。
足場が悪かったせいか致命傷には及ばなかったが、ツァイは全ての結界を失い、大の字に地面に打ち伏していた。

また、風が吹き始めた。
詰所の前庭を冷風が渡る。呪力を帯びた道術の風が―――。

道術で風を起こすのは、中々に高度な技量を要する。
陽から陰に――流動する氣の道に、風は生じる。
陽の氣と陰の氣を、狙いの位置に瞬時に練り上げなければ、風を操作することは出来ない。
それも、頑丈な蔦を刻むほど強力な烈風を、複雑かつ繊細に、変幻自在に操る腕前。
卓越した技量を持つ、高位の道術使いでなければ不可能だ。
冬宇子が、かつて出会った道術使いの中で、その水準に達する者が二人いた。
王付きの呪医にして宮廷道士のフー・リュウ。そして、日本の寒村、日ノ神村で相見えた女道士、伊佐谷―――。
もっとも、道術発祥の国においては、その程度の力量を持つ道士は、珍しくないのかも知れぬが。

居場所は判らぬが、謎の道術使いが、この戦いを監視している。
何処かに隠伏し、ツァイを手助けしている。
まるで、彼に課せられた役割を果たせるか、裏切りはせぬかを、見届けるかのように。
その者こそ、求める問いの解を――冬宇子達がここに居る理由を、知る相手なのかも知れないのだ。
ともかく、ツァイ一人を相手に戦っていては、埒が明かないのは確かだった。

冬宇子は木行の呪言を唱えた。
ツァイを拘束した蔦は、烈風に切り裂かれはしたが、未だ呪力を失ってはいない。
蔦は再び生長し、初老の男の年の割りに剛健な身体を、地面に縫い付けた。
そうして冬宇子は、着地に失敗し背中をさすっているブルーへと目を向ける。
唇に微笑。けれど、視線に棘を潜め、

「いつも、いい仕事をおしだねえ……本当に頼りになる男だよ。
 でも、あんたは子供……怖いもの知らずで、苦労知らずの、願えば何でも叶うと思っている、甘やかされた坊ちゃんだ。
 ついさっきまでの、あの男と同じでね。」

ちら、と、頼光を視線を送り、にわかに表情を怒りに変じた。

「何を迷っている――怖いのか――だって?フザけるんじゃないよ!このガキが!!
 ジンの言っていた通りだ……あんたは子供だ。自分を省みることも出来ず、何を怖れるべきかも知らぬ愚か者さ!
 あの男をけしかけて……もしも、あの男の身に、取り返しのつかぬ事が起こったら、どうするのさ?!
 責任取れんのかい?!
 なァにが船長だよ!あんたは、人の上に立つ器じゃないね!
 あんたの下らない根性論に振り回されて、命の危険に晒される船員どもが気の毒でならないよ!!」

朱を差した唇を歪め、憎々しげに言い捨てた。
万が一、頼光の身に『取り返しのつかぬ事』があったとしても、冬宇子にとって意味するところは『戦力の喪失』だけだ。
孤立無援の異国の地においては貴重な戦力であるが、もとより同じ力量の同業者であれば、誰でも置換可能な存在だ。
なのに何故、彼の危機を前にして、冷静さを失うほどに取り乱してしまうのか。
自分自身、整理のつかぬ感情が、一層冬宇子を苛立たせた。

22倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:01:08
冬宇子は、ふい、と、ブルーから顔を逸らし、ツァイに歩み寄った。
擦れ違い際に、頼光に囁きかける。

「何処かに術士がいる……"風"を読んで。
 お前には木行の才がある。体内に居るモノの力を借りずとも出来る筈だ。」

ツァイは意識を回復しているようだった。横たわる男の腹を跨いで、腰を下ろす。
この体勢ならば、蔦を切られても直ぐには動けまい。

「女をその気にさせて、『言えない――教えられない――』なんて、焦らしてばかり。随分卑怯じゃないのさ。」
 
上からツァイの顔を覗き込み、蔦まみれの右手に、かろうじて握られていた鉄杭を取り上げた。
蔦を操作して、剣印に近い形に結ばれていた左手を開かせ、渾身の力を込めて奪い取った鉄杭を振り下ろす。
金属の楔が肉厚の掌を貫き、地面に固定した。

「おイタは駄目よ!亡国士団の旦那!
 私の望みは、あんたの命じゃない――情報さ。大人しくしててくれる限りはね。」

腰帯から抜いた懐剣を首筋に突きつけ、片手で道士服の合わせ襟を乱す。

「ツァイ・ジン―――!あんたって、本当に魅力的よ。
 あんたが、昔、気の強い恋人に見捨てられたのはね、きっと、あんたが煮え切らなかったせいさ。
 今だってそう。殺す気でいながら、私らが死ぬとは思ってない。あんたは迷ってる。
 だから真実を話せないんだ。」

冬宇子は、懐剣で自らの指先に小さな傷を付け、露わになったツァイの胸に文字を描いていった。

「生憎と、私は、そんなに強い女じゃないが、あんたを導いて口を割らせるの事は出来るのさ。
 傷ついて動けぬ相手に、營目の術を掛けるくらいの事はねえ!」

『營目(えいもく)』とは、自らの氣を他者と同調させ、意のままに操る呪法。
胸に記した血文字は、常ならば符に刻む筈の呪文字。
符を使わず肌に描いたのは、風の影響を回避する為だ。

「今度は私の質問にも答えてもらうよ!――――我が血に於いて命じる!令!走弃口!!」

身体の『筋』を表す薬指を曲げ、舌口を表す中指と薬指を真っ直ぐに伸ばして両手をつき合わせ、印を結んだ。
ツァイは熟達した結界師だが、ブルーの攻撃による意識喪失から十分に回復してはいない今ならば、
術の支配下に置ける可能性がある。
そして、この状況は、戦いを監視している道術使いにとっても、甚だ不都合な筈だ。
道術使いは、必ず仕掛けてくる。ツァイが戦闘不能となれば、姿を現すやもしれない。

隠れたツァイの協力者を炙りだすための戦術だった。
しかし、これは、単身では取れぬ戦術だ。
背後を任せられる戦力――洞察力に富み、機敏で、腕の立つ、味方が居なければ成り立たない。
冬宇子は、あれほど罵りながらも、ブルーや頼光を、戦力としては信頼していたのだ。


【倒れたツァイに、拷問紛いの意地悪をして、營目の術をかける】
【術にかかれば、あら不思議、いろいろ喋っちゃいます。身体拘束付きの自白剤みたいなものと思って下さい。
 風使いを誘き出す戦術だったりも】

23 鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:02:07
吸血鬼の身体能力をもつ鳥居は小さくてすばしっこい。
あの動物の「猿」にもひけをとらないほどに。いやそれ以上の動きを持っている。
なので鳥居に致命傷を与えられないダーは痺れを切らして跳躍。
瞬時に己の体を軽くしたのだ。そう、彼は自ら跳躍し上昇気流を利用。
足の裏に練り上げた気を展開させてフーの結界と反発。
ド迫力の身のこなしをもって、鳥居に反撃を仕掛けんとする。

が、思いとどまるかのように遠くに着地。

>「オイ、チビガキ。今ので一つ『死に』だからな。
 よーく分かったろ。俺の方がテメェなんぞよりずっと強えし、カッケーんだよ。
 もう二度とナメたクチ利くんじゃねーぞ。んでもって大人しく守られとけって」

「……」
鳥居は目を皿のように見開き無言。
ダーは激情はしていたが、己の主義のために踏みとどまり手加減したのだ。
でなければ今の流れで鳥居は確実に踏み潰されていた。
そしてさらに瞠目すべきはその戦闘センス。結界と反発をすることにより方向転換し、
さらに加速度を増す攻撃など鳥居にはまったくの想像外の動き。

>「……ったく、本当に……『面倒くせえ』なぁ、畜生。あっちいし」
>「言っとくけどよぉ。俺の術の欠点を見つけて……それでいい気になってんじゃあねえぞ。
 そりゃあ速く動けりゃ色々やり易いぜ。
 俺のナリを見て油断したタコをさっさと仕留めたりよぉー」
>「だがな、所詮はただの小細工……手品の類に過ぎやしねー。
 テメェらは今から後悔する事になるぜ。この俺から小細工を奪っちまってよぉ。
 これじゃあもう――『マジメ』にやるしかなくなっちまったじゃねえか」

ダーは面倒と悪態をつきながら真面目にやるしかないと宣言。
その後、身構えると雰囲気が豹変。流れるような身のこなしで砂弾を放つ。

(目潰し!?)否、小細工はしないと彼は言った。
鳥居は理解できないまま、しかし砂弾の得体の知れないを攻撃を怪訝に思い、
炎の神気を右手に纏うと回避しながら砂弾を払う。これはダメもとの本能的な動き。
だが、それが功をそうした。 重さを孕んでいたダーの汗は一瞬で蒸発し、砂弾はただの砂と化す。

「いたたたぁ!」
ただ汗を蒸発しきれなかった砂弾が鳥居の爪先に落ちて彼を悶絶させる。

ダーの思わせぶりな態度は鳥居の恐怖心を煽り警戒心を強めた。
だがそれが逆に幸運だったのだ。ぼけっとしたまま砂を手で受け止めていたなら
今頃鳥居は血の海のなかにいたことだろう。

(砂を重くした?いえ、僕の燃やした砂はそのままサラサラになって飛んでゆきました。
ということはこの汗で湿った砂が重いということです。この砂の重さの正体は彼の汗です。
あくまでも重く出来るのは自分の体。もしくは体の一部だったものなのです)

24 鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:02:25
砂弾による負傷は右足の爪先だけ。すぐに再生する。
でもその間もダーはマリーへと迫り、恐るべし技「八閃翔」を繰り出していた。
あの大男の筋力でマリーよりも軽いのであれば、単純に考えてダーはマリーよりも速い。
かと言って重くなるのは技の衝突する刹那のみ。
仮にマリーが何らかの手段で対抗したとしてもダーはこの地上において
無重力下のような回避行動が可能。
炎の上昇気流はダーの攻撃時の精度を落とすものの回避行動にはまったくの効果が無い。
逆に炎の上昇気流がダーを上へ上へと加速させる。
だからといって炎を消してしまえば高速移動の攻撃が待っていることだろう。

「ん〜〜〜〜〜」
鳥居の想像ではマリーに勝ち目はなかった。
ダーの速さや破壊力に対抗する必殺技のようなものなどあるのだろうか。
だから自分が何とかしなければ。 眉根を寄せて思考する。

「あ!相手を叩く瞬間に攻撃を重くするのであれば、重力に逆らう上への攻撃ってどうなるのでしょうか?」
何かを閃いた鳥居は吸血鬼の身体能力で跳躍。それは屋根に一っ飛びできるほどの力。
そして最高到達点に達すると炎の翼を噴出させて更に上昇。
火誉山での巨大粘菌との戦いで見せた炎を纏った上空からの突撃。
それを慣行するつもりだった。
あの時と違い、吸血鬼の体であれば威力は倍増、というか捨て身で行ける。
ぎりぎりまで落下速度を落とさずに炎の翼で自身の軌道の修正も可だ。

「もしかしたら貴方に屈辱を味合せてあげることができるかもしれません。
敗北を味わってこそ、人は成長できるものなのです!」
【上から鳥居が落下攻撃(両手に拳固を作ってダー君に突撃。
その威力は大男でも軽く骨折するほど)衝突時には鳥居も骨折しますが暫くしたら回復します】

25 双篠マリー ◇Fg9X4/q2G:2013/09/02(月) 22:03:00
鳥居が身を挺してダーの攻撃を捌いている中、マリーはダーの動きを観察していた。
鳥居が躱したダーの眼前に迫ろうともマリーは微動だにしないほど全神経を集中して見ている中
マリーはあることに気がついた。
「(拳の速度にムラが出始めている)」
一見、同じ速さで打ち出しているダーの拳だが、よく見てみるとその速度にムラが出ているのが分かった。
ただ真っ直ぐ打ち出した場合は、その変化は微妙であるが、上下に打ち出した場合、その変化は顕著に出ている。
上に打ち出した場合は、初速が早く、インパクト直前にガクンと遅くなる。
下の場合はその逆で、初速が遅く、インパクト直前に加速する。
ここでマリーの脳裏に閃が走る。
「(そうか、奴は自身を軽くしているから、あの体躯で動ける
  だが、過剰に軽くしたことによって、気流の影響を諸に受ける
  奴の動きが遅く感じたのは、この周りを囲む鳥居の炎によって発生した上昇気流によって
  発生した浮力がやつの動きを阻害しているからか)」
どうやら、鳥居も同じことに気がついたらしく、ダーに向かって火を放った。

だが、それを読んでいたかのようにダーは鳥居の炎を利用し、カウンターを仕掛けようとするが
それをやめ、間合いをあけるだけに留めた。
「(感情のままに動くやつだと思ったが、多少自制することは出来るようだな)」
あくまでもダーの目的は、行動不能になった自分らの保護だ。
ろくに動けなくすることはあっても、殺してしまっては元も子もないからだ。
このような状況でもダーは未だに「手加減」を意識している。
そう思った矢先、その希望的考察も危うくなってきた。
手の内が明かされたのか、先程まであったダーの余裕が失われ、闘気を感じる。
危うい状況ではあるが、それだけダーが追い詰められているということでもある。

次の瞬間、ダーが動く、鳥居に向かって砂を投げつける。
目くらましの後、また接近しての連撃かと考えた刹那、眼前に巨体が迫る。
完全に先手を取られたが、先ほどとは状況が違う、ダーの手の内も弱点も知り得、存分に動きを見た。
全神経を集中してダーの打撃に対処する。
「舐めるなぁ!」
皮膚を切れ、衣服が契れながらもマリーは紙一重でそれを躱す。
何度か打撃を躱した後、身を屈め、拳を固める。
マリーはダーと打ち合いをするつもりだ。
勝算は十分にある。ダーの打撃は驚異的なものだが、その威力は当たる直前に自重を重くしたことによるものだ
つまり、体重が軽い状態で打ち出した拳の威力はそれよりも劣るはずだ。
そこに全力で拳を打ち込めば、ダーのプライドごと拳を破壊することも不可能ではないはずだ。

刹那、ダーを見上げるマリーの視界に鳥居の姿が見える。
鳥居による上からの攻撃、マリーは好機と捉える。
ダーの多少なりとも鳥居に向けば、自身の反撃が通る確率は増すし
気がつかなければ、そのまま、鳥居の攻撃が通る。
「もらったぁ!!!」
暗殺者として鍛え上げてきた肉体を全て使い、文字通り全身全霊の一撃をダーの拳めがけマリーは放った。

26 ◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:04:11
>>22


容赦なく手の甲に突き立てられる鉄杭に、ツァイは苦悶の声を漏らす。

>「ツァイ・ジン―――!あんたって、本当に魅力的よ。
  あんたが、昔、気の強い恋人に見捨てられたのはね、きっと、あんたが煮え切らなかったせいさ。
  今だってそう。殺す気でいながら、私らが死ぬとは思ってない。あんたは迷ってる。
  だから真実を話せないんだ。」

「……見捨てられた……か……。もしそうだったら……どれだけ……良かった事だろうな……」

脳震盪と激痛によって白み、混濁する意識の中で、彼は小さく呟いた。
そして目を背けていたかった過去が、君の言葉を切欠に彼の心に蘇る。



――ツァイ・ジンはかつて、とある国で法務官を務めていた。
裁く対象は専ら軍法違反者と――叛逆罪や不敬罪を適用された国民だ。
彼が仕えた王はお世辞にも有能とは言えぬ男で、そのくせ矜持だけは一人前だった。
故にツァイの一族は――殆どの者は表立っては口に出来なかったが、国中の嫌われ者だった。

ツァイ自身も、その事には気付いていた。
暗愚な王に従い、国民を裁き続けるのは、決して正しい事ではない、とも。
なにより自分は人を裁くに相応しい人間ではない、と。
軍民、皆に嫌われながら生きていくのは、辛かった。

だが――だからと言って、どうすればいいのかまでは、分からなかった。
ツァイ一族はずっとそうやって生きてきたのだ。
他の生き方など、分かる筈がなかった。

『――アナタって、いっつも辛そうな顔をしてるわよね』

そしてそれが、彼が初めて彼女――王女から受けた言葉だった。

『……辛そう、ですか?』

『うん、仕事の後は特にね』

『……いえ、そんな事は』

『あーあー、別にお父さんにチクろうとか、そういう訳じゃないから。
 ただ……『自分は本当はこう思ってるんだ』って事ってさ。
 誰かに知ってもらえると、少し気が楽にならない?』

彼女はツァイの心中を見透かしていた。
その事は確かに彼女の言う通り、彼の心に僅かな穏やかさを齎してくれた。

それから彼は何度も彼女と会って、言葉を交わした。
そうしている間だけは、自分という存在が深く認められたようで、心地良かった。

――身分の違いと言うものをまるで考えてくれないせいで、
いつ王の目に留まって機嫌を損ねないかと、戦々恐々とはさせられたが。

27 ◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:04:52
『――私ね、この国を出て行きたいと思ってるの。窮屈で、退屈な、この国を』

ある時、彼女はツァイにそう言った。

『あ、勿論今すぐじゃないよ?大人になったら、いつかは……ね』

『――それが、君の……?』

『……そう、『本当はこう思ってるんだ』って事。
 誰かにこれを話してしまいたくて、私、アナタに声をかけたの。
 同じものを持ってるアナタになら話せるし、聞いてくれると思った。
 ……ズルいよね』

『……私は、あの時、君が話しかけてくれて良かったと思っている。
 それに今も……話してくれて、嬉しいよ』

その時の彼女の明るんだ表情は、今でも鮮明に思い出せた。

そしてまた数年の歳月が流れ――大人になった彼女と、ツァイは歩いていた。
見せたいものがあるのだと、彼女は言っていた。
連れて行かれた先は、宮中で最も高い場所にある――彼女の部屋だった。

――無論、誰かに見られでもしたら間違いなく一族郎党総死刑は免れない為、
結界術を最大限に活用する羽目になったのも、今となっては貴重な思い出だ。

『……先祖が知ったら、さぞ嘆かれる事だろうな』

『まっさかぁ。王女様のお願いを果たす為に使ったんだから、むしろ名誉な事じゃない?』

『……それで、見せたいものと言うのは?』

『ん……ほら、アレ見て』

彼女が指を差す先には、大きな山があった。隣国との国境だ。

『私、ずっとあの山の向こうに行ってみたいと思ってたの。
 ここからじゃ見えない世界……私の知らない世界に。
 それが私の夢だった。知ってたよね?』

ツァイは無言で頷く。
彼女が次に何を言おうとしているのかを、何となくだが、悟りながら。

『その夢を、叶える事にしたよ。……もう、準備は出来てるの。今夜、この国を発つつもり』

『……寂しくなるよ』

真っ先に感じたのは、それだった。
この国の外で無事に生きていけるだろうかと、不安も感じた。
だが、それを理由に引き止めようとは思わなかった。

28 ◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:05:24
『うん、知ってる』

少し悪戯っぽく、そして嬉しそうに、彼女は笑って――

『――ねえ、アナタも一緒に来ない?』

それから、そう続けた。

ツァイは呆然として、彼女を見る事しか出来なかった。

『あの山の向こうは……私の知らない世界。
 そして、誰もアナタを知らない世界だよ。ね……行こうよ、私と』

彼女は手を差し伸べた。
誰も自分を知らない世界――人を裁き、殺さなくても良い世界。

『……私は』

行きたかった。彼女と共に。
だが――ツァイは煮え切れなかった。
自分の職務は一体誰が引き継ぐのか。
一族が代々受け継いできた使命を自分が終わらせてしまっていいのか。

『……少し、考える時間をくれないか。三日後……三日後までには、答えを出そう』

彼はそう答え――けれども、その二日後の晩に、彼のいた国は滅んだ。
たった一晩の内に―― 一体どのようにしたのかは誰にも分からなかったが、
王都に侵入した敵国の軍勢が王宮を攻め落とし、王を暗殺したのだ。

そして――殺されたのは王だけではなかった。
王妃も王子も――王女も皆、殺されていた。
王族さえ生きていれば、国はまた蘇る事が出来る。
生かしておいて占領後の統治の道具とするよりも、国を完全に滅ぼす事を選ばれたのだろう。



その後――追って侵略してきた敵軍によって、王都は完全に占拠された。
ツァイは捕虜となり――その煮え切らぬ気質故に、王女を追って命を絶つ事も出来ず、
清へ――亡国士団に流れ着いた。

>「生憎と、私は、そんなに強い女じゃないが、あんたを導いて口を割らせるの事は出来るのさ。
  傷ついて動けぬ相手に、營目の術を掛けるくらいの事はねえ!」

祖国を取り戻したい訳ではなかった。
あの国はもう、王族――彼女と共に死んでしまった。
土地を取り戻したところで、決して蘇りはしない。

ただ、あの山が欲しかった。
彼女が越えたがっていた山――その頂上に、墓を建てたい。
彼女がついぞ辿り着けなかった世界を、せめて見てもらいたい。

それがただの自己満足に過ぎないと分かっていても、堪えられないのだ。
自分のせいで彼女の望みが絶たれてしまったのだという、現実に。

だから――あの山を得る為なら、清王からの褒賞を得る為なら、ツァイは何だってする。
出来るか出来ないではない――しなくてはならないのだ。
君達を、殺さなくては――

29 ◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:06:09
>「今度は私の質問にも答えてもらうよ!――――我が血に於いて命じる!令!走弃口!!」

故に彼は――あえて君の術を深く受け入れた。
そして問いに答える。

「……何故、私達が……ここへ戻ってこれたのか……。
 そうじゃないんだよ……こうも考えられる筈だ……。
 私達はあの戦場から……遠ざけられたのだと……」

風が吹く。荒々しく、彼の声を妨げんとするかのように。

「私は……君達が何者で……何の為にここにいるのかは知らない……。
 だが……それを知る者が誰なのか……それなら……知っているかもしれないな……」

しかしツァイの言葉は止まらない。

「彼は私に……君達を始末しろと命じた……。
 国の機密を……国防情報を探っているのだから……殺されても文句は言えない……。
 そうすれば王に……私の働きがが褒賞を与えるに足るものだったと献言してやってもいいと……」

代わりに――風が止んだ。
最早、制止は無駄だと理解したのだろう。

「そう、彼は……」

風が離れ、訪れた静寂の中で、ツァイは続ける。

「……フー・リュウは、私にそう言ったよ」

瞬間、彼は蔦にまみれた右手で冬宇子の腕を掴んだ。
流れにあえて身を任せる事で温存してきた余力で、一瞬だけ君の術に抗ったのだ。

「これでもう、後戻りは出来ない。腹を決めたよ。さぁ……やってくれ」

虚空の先を見上げ、今もこの言葉を聞いているだろう風の主に向けて、彼はそう言った。

30 ◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:06:30
 


――風は結界の外から吹き込んでいた。
その方角は――迷宮のような街路を歩いてきた君に正確な方角が分かるかは微妙なところだが、
フー・リュウの寺院がある方からだった。

その風には纏まりと言うものはなく、ただ漠然と吹いてきているだけだった。
けれども、それがある時を境に正確な形と軌道を得始めるのだ。

――人は姿なき風の形と流れを、草木が揺らぎ、踊る様を見て初めて理解する。
木行使いたる君が風の流れを読めるのも、その為だ。

それと同じように――結界の外から吹き込む風は、
倉橋の腰帯に挟まれたフーの符を揺らす事で、高度な制御を得ているようだった。
即ち彼女の持つ符は、連絡手段であると同時に術の中継地点――座標特定の用を成す物という事だ。

ツァイの周囲から離れた風は結界の上空に集まっていた。
渦を巻きながら纏め上げられ、一本の巨大な奔流と化しているのだ。

その強烈な風圧が、機は熟したと言わんばかりに急降下を始めた。
着弾予定点は言うまでもなく――ツァイによって腕を掴まれた、倉橋冬宇子だ。
束ねに束ねられた風は最早、不可視の圧倒的な破壊力だ。
直撃すれば女の細首くらい容易くへし折れてしまうだろう。

31武者小路 頼光 ◇Z/Qr/03/Jw:2013/09/02(月) 22:07:01
結界を展開したツァイへ吸精蔓をけしかける頼光の表情は攻勢に出た者のそれではない。
無駄な努力だとわかっていながらもせずにはいられない。
相手への攻撃が目的なのではなく、自分の中の何かを紛らわすためのもの。
畏れている。
自分の中の得体のしれない何かを。
そして失われていく自分自身を

虚勢を張り隠しているつもりでも、この場にはそんなものが通じる人間は一人もいない。
>「歯をくいしばれ!」
「はぁ?いきなりなにうぉ!?」
間抜けな反応が終わる前に頬に走る衝撃。だが倒れることは許されない
面食らった状態で掴まれ捲し立てられ、ようやく我に返り怒声を発しようと口を開いた瞬間
「きさ・・・!
>「てめぇはなぁにを迷っている!
その後語られるブルーの言葉に頼光の顔から血の気が引いた。

自分の知らぬ事をこの男は知っている。
自分自身の事なのに自分よりも昨日今日会ったばかりの男が。
「おまっ、なに……う、うぉおう……ぎゅええええ、も、?げる!」
驚愕と共に開いた口から吐き出される台詞はまたしても阻止される。
男の急所を握られては言葉も続けられない。

叫ぼうにも急所を握られ言葉を発することも動くこともできずに一分間。
痛いかと聞くブルーへの返答はかろうじてパクパクと口を動かすのみ。
ようやく解放された時には泡を吹いてその場に崩れ落ちる

蹲り泡を吹く頼光にブルーは更に辛辣な言葉を吐きかけた。
言葉の一つ一つが頼光の安いプライドに突き刺さり、怒りのボルテージが上がっていくが、それでも頼光は動けない。
「貴様ああ!覚えていろよおお!!ぜってーにぶちのめしてやるからなぁ!!!」
どれだけ虚勢を張ろうとも急所を押えて蹲った体勢から動けはしないのだ。
腰をトントンと叩き、一刻も早く回復する事を促すこと以外には

そんな状態の頼光は復讐を誓う。
一つはブルーを思い切り殴りつけて叩き伏せる事。
もう一つは自分自身がツァイを叩き潰して勲功を立てる事。
この二つをすることで肉体の恨みも、串刺しにされたプライドの恨みも晴らせる。

しかしそれを果たす前にツァイは絡め取られていた。
吸精蔓がツァイの足元からあふれ出し絡め取ってしまったのだ。
以前の頼光ならば自分がやったと疑わなかったであろうが、今の頼光にはそれがなぜかわかってしまう。
自分とブルーが競り合っていた内に冬宇子が自分の吸精蔓を利用して術を仕掛けていたのだ、と。

術への反応はよくなった頼光だったが、戦術や駆け引きに関しては町のチンピラと大差がないレベル。
ブルーの行動がツァイに与えた心理的影響などには気づけはしなかった。
それは幸運だと言えよう
ただでさえ復讐の片方をもってかれたというのに、それにブルーの行動が大きく貢献していたなどとわかってしまえば心理的なダメージがさらに大きくなるのだから。

戦闘終結のあとの尋問は頼光にとっては必要性を感じることができない退屈な時間。
未だに敵を倒す=武勲、それが全てなのだから。
故に完全に気が抜けていた。
ツァイの捕縛という形で戦いは終結し、つらつらと何やらを話始めている。
頼光にはどうでもいい事であり、気の抜けた表情で腰をトントンとするのみであった。

しかしそれは大きな間違いであった。
戦いは未だ終わってはおらず、ツァイを捕縛していた蔦が切れてしまったのだ。
そして即座にツァイの攻撃が迫る。
剣状態に伸びる結界。
同一線上にいるブルーは躱せようとも、冬宇子や自分がこれから反応して間に合うものなのか!?
いいや間に合いはしない。
その結果がどうなるかは容易に予想でき、死の迫った感覚は引き延ばされてまるでスローモーションのようにその一部始終を捉えていた。

32武者小路 頼光 ◇Z/Qr/03/Jw:2013/09/02(月) 22:07:23
なんと、ブルーが伸びる結界に『乗った』のだ。
触れれば裁断される結界の上に!
流石にこれはツァイも想定外だっただろう。
載られた重みで剣は傾き、冬宇子にも頼光にも届きはしない。
ブルーはただ乗るだけでは飽き足らず、剣の上を走りツァイにケリを食らわせたのだ。

「……す、すげえ……」
思わずこぼれた感嘆の言葉にハッとして口を閉じる頼光。
その動きはあまりにも凄まじく、一瞬ではあるが恨みを越えてしまったのだ。

蹴り飛ばされたツァイは瞬く間に蔦に絡め取られ、床に張り付けられる。
ということは、そう、またしても頼光の出番がなく戦いは終わってしまったのだ。
冬宇子がブルーに何やら喚き立てているがそんなことどうでもよかった。
二度もチャンスを棒に振るい何もできなかったことに比べれば。

そのショックが凄まじく、もうブルーへの恨みが何やらどうでもよくなってきた。
急所の痛みも引いて起き上がろうとしたところ、冬宇子が近寄ってきて囁いた。

>「何処かに術士がいる……"風"を読んで。
> お前には木行の才がある。体内に居るモノの力を借りずとも出来る筈だ。」

「え、お、おう!……いや、えっ!?……えぇ!?」
冬宇子の囁きはいくつものことが含まれていた。
ツァイ以外の術者がいる。
風を読んで察知しろ、と。

確かに敵が一人ずつという決まりはありはしない。
が、全く気付きも想定もしていなかったのだ。
風を読んで察知しろと言われ思わず請け負ってしまったが、頼光は【風を読む】と言われてもどうすればいいかなどわかりはしない。
才能があると言われても全く実感もないし知識もないのだから。
だがそれはあくまで人間頼光の話。
今の頼光は正確に言えばもはや人間ではない。
そう、人間ではないのだ。
それよりなにより頼光が二度見してしまった言葉。
>体内に居るモノの力を借りずとも出来る筈だ。」
最後に付け加えられた言葉を思い出し、頼光はハッと冬宇子を見やる。

既に冬宇子はツァイの尋問に取り掛かっており、口をはさめるような状況ではないが、頼光はまじまじと見ていた。
……知っていたんだ。
いや、詰所の中で既にそんな予感はしていた。
それを確認することはどうしても恐ろしくできなかった。
だがこれではっきりとした。
ブルーも、冬宇子も、知っているのだ。
自分だけが知らぬ自分自身の異変。
酒の臭いも味も感じられなかったことのその原因を。
そしてその行き着く先を。

我が身に降りかかる何かにカタカタと震えながらも、頼光はあたりを警戒しつつツァイの言葉に耳を傾けていた。
ここに至りて事の重大さが、危機的状況が、身をもってようやく自覚できたのだ。
>「……フー・リュウは、私にそう言ったよ」
「なんだとぉ!?フーってあのフーなのかよ!」
その名前に頼光の震えが止まり、大声を出した。
ツァイに自分たちを襲い殺すように命じた黒幕は自分たちにジンを連れてくるように依頼をしたフーなのだから。
思ってもみなかった裏切りに声を荒げる頼光。
その頭に着いた牡丹の花の蕾の葉が風を感じ揺れる。

「あっちか!だが、遠い!?」
それは頼光の感覚に直接繋がり、反射的にその方向を振り向いた。
振り向いた先に寺院がある事は頼光は知らぬことだが、確かに感じる。

33武者小路 頼光 ◇Z/Qr/03/Jw:2013/09/02(月) 22:07:50
感じたのは風の来た方角だけでなく、風がどこに向かおうかとしているかもだ。
近い分より細かく頼光には感じられる。
漠然と吹いていた風が一点に集まり、巨大な奔流と化して急降下することが!
それを制御しているのが冬宇子の腰帯にひらひらと揺れる符だという事も。

頼光は全てを悟った。
連絡用の現身の符などと言いながら亭の良い監視の符だったのだ。
一方的に連絡を切り、自分たちを監視し、最後には攻撃中継用の符となるのだと。
「あんのクソヤロォ!王に引き合わせるっていったくせによぉ!助けてやったのにこれかあ!!」
ブルーへの恨みがフーへの恨みにすり替わった瞬間であった。
愚鈍な頼光は同時に二つの事を考えるというような高度な思考機能を持ち合わせていない。
ところてんの様にブルーへの恨みが押し出されてしまったのだ。
歯ぎしりをしながら吼えるが今はそれどころではない。

迫る風の奔流を防ぐにはツァイの結界が有用なのだろう。
だがそのツァイは冬宇子の腕を掴んでいる。
束ねに束ねられた風の本流は恐るべき威力であり、にがさまいと掴んでいるツァイもただではすむはずはない。
ギリギリのところで離れる……頼光ならばそうするし、皆がそうであった。
冒険者になる前の頼光の世界では。
だがそうではない、そうはしない人間もいることを頼光は知ったのだ。

ブルーは先ほどの蹴りの反動で倒れており、間に合いそうもない。
何より、頼光は風の動きを一番最初に察知し初動は既に切っている。
駆けながら頼光は感じていた。
ツァイはここで死ぬ気なのだと。
冬宇子を道連れにしてこのまま風の本流に飲み込まれるのだと。
今の頼光には不可視の風が見えており、このままでは間に合わないことも理解していた。
駆け付けるだけではだめなのだ。
決死の覚悟で腕をつかむツァイを振りほどき、奔流から逃れるなどできるわけはない。

>あのツァイが怖いのか?何が怖いんだ?その力か?
>てめぇの腹の中や魂に巣くうその力が怖いのか!?」
>「クソの役にも立たないならその辺に隠れてろ!この役立たず!」
刹那、頼光の脳裏にブルーの罵詈雑言がよみがえる。
湧きあがる殺意とところてん方式に押し出されて忘れ去られていく畏れ。
「この俺様をぉ!!!武勲を立てて華族になって栄耀栄華を極める予定の頼光様を舐めるなあああ!!!」
口から自然と洩れる咆哮と共に頼光の身体が加速していく。

風の本流が叩きつけられると同時に冬宇子の身体がブルーに叩きつけられた。

ブルーはその動体視力で一部始終を捉えていただろうか?
急加速した頼光は冬宇子を掴んでいる手に狙いを定める。
老いたツァイの腕に振り下ろされる頼光の手刀は人のものではなく鋭利な爪が生えた猛獣のそれであった。
鋭い爪は難なくツァイ右手を切り落とし、そのまま冬宇子をブルーの方向へと突き飛ばしたのだ。
驚くべきは精密な力加減であった。
ツァイの腕を大根でも斬るかのように切り落とした右手と冬宇子を最小限の力で突き飛ばした左手。
それなりの衝撃はあったであろうが、風の奔流に比べれば、という奴だ。
「その腰帯の符だ!フーがよこした奴だ!あれで風を操ってんだ!破っちまえ!」
頼光の叫びが届いた直後、風の奔流は激突し頼光は吹き飛ばされた。

ぎりぎりのタイミングだったが故に風の奔流も冬宇子を追尾することはかなわなかったのだろう。
更にいえば、不可視の風を感覚で【観る】ことのできていたからこそ、身を翻し直撃を免れたのだった。

よろよろと起き上がった頼光の頭の牡丹の蕾の先がほのかに色づいていた。

34◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:08:33
ダー・ジョンは天才だ。
少なくとも単純な武術勝負になれば、彼は大陸随一の拳士だろう。
その彼が放つ八閃翔はまさに炸裂の豪雨とでも言うべき秘拳だ。
最初の八手を避けられた者すら数えるほどしかいない。
そこから攻勢に転じられた者となれば――皆無だった。

>「舐めるなぁ!」

「――っ!なんで!なんで避けてんだよテメェはよぉおおおおおおお!!」

当たらない。
服や皮膚を掠め、血を流させる事は出来る。
反撃だって許していない。
どう考えたって自分が優勢――なのに決まり切らない。

「くぉの糞アマ!さっさと……喰らいやがれッ!」

かつてない経験による苛立ち。
それがダーの打拳をほんの少しだけ乱れさせた。
軌道が外に膨らんで、マリーへの到達時間が極々僅かにだが、伸びた。
本当に小さな乱れ――だが一流の戦闘者同士の間では、それが致命的な隙になる。

マリーが構えた。
最小限の足捌きで打突の内側へ。
回避運動による体重移動をそのまま最速の行動準備として。
拳を固め――

(――ッ!やっちまった!コイツは……やべえ!)

ダーが己の失敗を悟る――だがもう遅い。

>「もらったぁ!!!」

ダーの拳を迎え討つように、反撃の拳が放たれる。
彼の術はあくまで重さを変える術だ。
密度を変えている訳ではないのだから、肉体的な強度は変わらない。
だがダーは打拳の直前、まだ拳を緩めている状態。
そこに全力の突きを打ち込まれれば――拳が砕けてしまう可能性は十分にある。

(だが甘いぜ!この周りの炎があれば俺ぁいつでも上へ逃げられんだ――)

ダーはにやけ、そして逃げ場である空に視線だけを向けて――

>「もしかしたら貴方に屈辱を味合せてあげることができるかもしれません。
  敗北を味わってこそ、人は成長できるものなのです!」

そこには既に鳥居がいた。

「なにィ――――ッ!?クソッ!テメェ!なんでテメェがそこにいやがるッ!」

完璧な二段攻撃だった。
鳥居の攻撃を回避しようとすればマリーへの対応は間に合わない。
マリーの拳を避けようとすれば鳥居の直撃を貰う。
急造にしては出来過ぎているくらいの連携攻撃――流石のダーも完璧には躱し切れない。

35◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:09:05
(ヤバいのはあのガキだ!『重さ』を操る俺だからこそ実によく分かる!
 あの高さ、速さでガキが降ってきたら流石の俺様もかなり痛え――
 いや、痛えじゃ済まされねえ!骨が砕けて!『中身』をぶち撒けかねねえぞ!)

故にダーは――鳥居の攻撃に直撃する。
そして吹っ飛ばされた。不思議なくらいに軽々と。
街路の壁に叩き付けられて、彼が呻き声と共に血を吐いた。

血を吐くくらいで、済んでいた。
鳥居の体重が軽く見積もって十貫強(およそ40kg)だとしても、
それなりの高さから炎と重力による二重の加速を得て落下してきたのだ。
彼が心中で見積もったように、骨が砕け、血と臓腑をぶち撒けていてもおかしくない。

「ふっ……ふはっ……ふひひひ……痛え……なぁ〜……。
 思いっきり背中打っちまったじゃねえか……。こりゃ内臓を痛めちまったか……?
 こんな事なら内功練んのサボンじゃなかったぜ……だが、まぁよ――」

なのに彼は血を吐き、息を乱しながらも、まだ笑いを零し、喋る余力がある。

「――俺はまだ、戦えるぜ」

先の攻防で――最もダメージを受けたのは、彼ではなかった。
それは――鳥居呪音、君だ。

ダーはあえて君に吹っ飛ばされたのだ。
――君が背中に生み出した強烈な炎と、急速落下による風圧に。
故に彼は君自身への直撃だけでなく、拳を砕かれる事すら避けてのけた。

結果――君は地面に直撃した。
つまり本来なら関節という緩衝材があり、肉も脂肪も詰まったダーを破壊して尚、
骨折を免れないほどの打撃力を――全て自分の身で受けてしまったのだ。
要するに君は、ダーによって飛び降り自殺を強いられたようなものだった。

「で?そこで無様に転がってるチビガキ。こりゃどう見てもオメェの負けって奴じゃねえの?
 だったら……オラ、成長してみろよ。十分過ぎるくらい屈辱的だろ?
 糞袋まで地面にぶち撒けて……さっさとしてみせろよ、せ、い、ちょ、う、って奴をよぉ〜!」

地面に散らばった鳥居を見下して、ダーは君を罵る。

「あぁそうだ。言っとくけどオメェがそんなザマになったのは俺のせいじゃねーぞ。
 自分から死ににいく奴を守る事なんか出来ないってよく言うもんな。まぁとにかくよ」

一旦言葉を切り、深く息を吸って、彼は叫ぶ。

「出来やしねえだろ!?出来る訳ねえよなぁ!だって負けてんだもんよぉ!
 負けていい事なんかある訳ねえだろ!?薄っぺれえんだよオメェの言う事はよぉ!
 例えばよ、最初から最後まで勝ちっぱなしの人生がありゃ……まぁ俺の人生の事なんだけどよ。
 それが一番いい人生に決まってるよな!負けてねえんだもん!
 分かるか?負ける事に価値なんざねえんだ!そんなモンに価値を見出すのはソイツが根っからの負け犬だからだ!
 クソまじい餌を美味い美味い言いながら食わなきゃやっていけねえ奴がそんな馬鹿げた事を考えんだよ!
 誰の受け売りだか知らねえが、負け犬にはやっぱ負け犬の知り合いがいるって訳だ!」

例えば――もし、さっきマリーが拳ではなく左手の仕込み短剣を伸ばしていたら。
短剣一本分、間合いが長くなっていたら――きっと攻撃は届いていた。
少なくともダーの指が二本は失われ、拳は永遠に破壊され、更に重要な血管を傷つけられていたかもしれない。
――君達は敗北や屈辱だなんて物に価値を見出すべきではなかった。

36◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:09:35
「さぁて……と、そんじゃまぁ……そろそろ『決着』と行こうぜ。
 もうオメェらはおしまいだよ。チビガキ、オメェその体を治すのにどんだけ時間がかかんだ?
 俺は……五秒もありゃあオメェの頭を踏み躙れるとこまで行けっけどよ……それより速いのか?え?」

ダーが一歩、前に出る。

「女、オメェもだ。そのガキを庇いながらじゃもう俺の拳は避けられねえよな」

お互いの間合いの数歩外、そこまで来て、一度止まった。

「オラ……言ってみろよ。『守って下さい』ってな。オメェらにはもう、それしかないぜ。
 もし言わねえんなら……そんなに死にに行きてえならよぉ。
 俺が守れなくても……仕方ねぇよなぁ〜……」

直後に、君達の体が重くなった。
汗だ。ダーが自分の汗を極限まで軽くして霧散させ、君達に付着させた後で重くしたのだ。

(汗はオメェら自身が掻いてる汗とも交じり合って馴染んでるし、服にも染み込んでる。
 そう簡単に拭えるモンじゃねえ……自分を焼いて蒸発させてみっか?
 いいや無理だね。砂と違って肉には『焦げ付き』ってモンがあるんだぜ……)

と、ダーが一つ咳き込んだ。
血混じりの咳だ。

(……ちっ、流石にさっきのは利いたぜ……まっ、これで終わりだけどよ……。
 まずはチビガキ、オメェからだ。言うならさっさと言えよ。
 そうすりゃオメェは助かるんだ。助けてやる。それは絶対だ。
 もしそれでも言わねえんなら……そりゃ死にてえと思ってると見るしか、ねえよな)

彼の歩みは、内臓の損傷があるからか、ゆっくりだ。
彼が君達の元へ到達するには多少の時間がかかる。
勿論、マリーが仕掛けてくれば彼はそれを迎撃するだろう。
重くなった体では、例え鳥居を庇いながらではなくとも、彼には敵うまい。



【炎の翼の熱風と落下の風圧に吹っ飛ばされる事で、直撃を回避。
 霧散した汗を冒険者達に付着させ、重くしました。
 まずは鳥居君を踏み潰すつもりです。
 それなりにダメージを負っているので、重くなり具合は気合を入れれば立っていられるくらいです】

37◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:11:00
 
 
 
「――生還屋はん」

「あん?なんだよ」

あかねと生還屋は、君達の戦いを見守っていた。
街の構造上すぐに隠れられるような場所はなかったので、いるのは一つ前の曲がり角だ。
すぐに駆けつける事の出来る距離ではないが、援護しようと思えば出来ない事はない。

「……マリーはんと鳥居はん、勝てるよね?」

「ハッ、知るかよ。オメーと違って俺は周りの警戒で……」

「生還屋はん」

僅かな声色の変化――生還屋があかねを見る。
彼女の眼は希望的な答えが欲しくて生還屋に縋っているようなものではなかった。
むしろ「何か答えを見つけ、それがあっているのかを確かめたい」と言った眼だ。

「……勝てるだろうよ。アイツらがそれに気付いてりゃの話だがよ」

あかねの表情に僅かに喜色と安堵が浮かぶ。
だが直後――何かが破裂する音が聞こえた。
火薬じゃない。むしろ水の詰まった風船を地面に落としたような――振り返る。

「――っ」

音源は鳥居だった。
凄まじい速度で地面に直撃した鳥居が、『飛び散っている』のが炎に照らされ遠目にも見えた。

(あ……あかん!アレじゃ鳥居はんは回復するのに精一杯や!
 炎を操る余裕なんてない……!
 もしそんな事をすれば……鳥居はんは回復出来ないまま死んでいってまう……!)

それは正しい事であり、間違いでもあった。
生と死の狭間、紙一重の断行――危険とは、生き残る為にむしろ必要になる時がある。
その事を、あかねは理解出来ていないのだ。

確かに吸血鬼の力を使わずにいれば、君は死ぬだろう。
だがそれはすぐにではない。僅かながら、猶予が存在する筈だ。
その間であれば、君は炎の神気を使う事が出来る。

38◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:11:21
風が降り注ぐ。
風読みの技能はなくとも、その恐ろしい圧力はツァイにも感じられた。
自分は間違いなく死ぬ。この右手に掴んだ彼女と共に。
後の事は――分からない。フーが約束を果たす保証はない。
だがやれるだけの事をやった。
自分は決して逃げる為に、彼女の願いを捨てて死んでいく訳ではない。
自己満足には違いないが――自分は心を苦しめずに死んでいける。

――筈だった。

>「この俺様をぉ!!!武勲を立てて華族になって栄耀栄華を極める予定の頼光様を舐めるなあああ!!!」

叫び声が聞こえた。いや――むしろ咆哮とでも言うべき大音響だった。
次にフーのものではない風を感じ――次の瞬間には、右肘から先がなくなっていた。

「な――」

驚愕の声を上げる間もなく、彼は落ちてきた風の爆撃に吹き飛ばされた。



――けれども、ツァイはまだ生きていた。
倉橋を引き剥がされて、フーは風の軌道を僅かに変えたのだ。
その為ツァイは辛うじて風の直撃を免れ、吹き飛ばされるのみに留まった。
とは言え――

(この出血は……最早止まるまい……)

右腕を失い、出血が激しい。
完全に動けなくなるまで、恐らく一分もない。

(だが……まだ、手はある……)

それは決して正しい手ではない。
卑劣で、穢らわしい手だ。
――それでも構わなかった。

ツァイの出血が収まる。完全にではないが、先ほどまでとは比べ物にならないほど。
あと数分生き長らえ、術を使うだけの猶予が得られた。
傷口の縁に巻きつけた、倉橋冬宇子――君がくれた治療用の符によって。
氣の流れを整えて、出血を抑えていた。
それはつまり――本来この符を得る筈だった男を見殺しにしたという事だ。

「符を……ありがとう……助かったよ……
 礼が出来ないのが……残念でならない……本当に……」

左拳に鉄杭を二本――剣印は必要ない。
詰所の敷地を囲う結界も消えた。

「だが、もう迷いはない……君達を殺すよ。
 君達にも、私達と同じように願いがあるだろう。私達と違って未来もある。
 それでもだ。それでも……君達を殺す」

剣印は敵意、害意に明確な形を与える為の物。
結界の檻は相手を仕留めるべき罪人であると定義する為の物。
どちらも精神を固めるのが目的――それらは最早、必要なかった。

彼の腹の底にはもう炎が灯っている。
煮え切らない男の決意を固め、命が完全に散り果てるまで消える事のない炎が。

39◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:11:59
左手の鉄杭から剣状結界が静かに伸びる。

――結界とは基本的に、特定の場所への出入りを禁じるもの。
すなわち空間を制圧するものだ。
そしてその『制圧」という事に関して、剣状結界は最高峰の性能を持つ。

例えば一匹の羽虫が飛んでいたとして。
それが自分のすぐ傍にいたら、その動きを目で追う事は困難だ。
だが離れた場所を飛んでいたのなら、動きを追う事は容易い。
その軌跡を指でなぞる事だって出来る。
羽虫だろうが、黒豹だろうが、鳥だろうが、全て。

つまりツァイはただ、君達をなぞるだけでいい。
鉄杭の先で――射程自在で、質量のない、剣状結界で。
もう先ほどのように、剣状結界に乗って移動などさせない。
当たらない、防がれると思ったら、結界を消す事だってツァイには出来る。

外周の結界を消した為、並行して地面からの結界壁を作り出す事も可能だ。
結界壁は逃げ場を塞ぎ、また相手の足元に出せば相手は移動せざるを得ない。

結界壁で追い詰め、剣状結界で断つ。
逃げ場などない――必殺の結界術だ。

それが今――――閃いた。



【結界壁で逃げ場を塞ぐ&回避を強制して体勢を崩す。
 そこを剣状結界で滅多切り。
 剣の射程が自在で質量がなく、かつ距離がある為、ツァイからすれば「なぞる」だけでいい。
 止めたり防いだりしようとすれば一瞬消して再び出現させる。
 
 優先順位は頼光≧ブルー>>>>>>倉橋
 倉橋に対しては、ぶっちゃけ二人に向けて剣状結界を斬りつけている内に死ぬだろうし、それでいい程度】

40 武者小路 頼光 ◇Z/Qr/03/Jw:2013/09/02(月) 22:12:51
「見たか毛唐!誰がビビッているかもう一度言ってみやがれ!!」
吹き飛ばされた余波も収まらぬうちに起き上がった頼光が吼えた第一声がこれであった。

ビシッと指を突き付ける先にはブルーと冬宇子の姿。
だが、冬宇子の腕をつかんだままのツァイの右腕を見て勝ち誇った表情が曇る。
自分がしでかしたこととはいえあまり気持ちのいいものではないものだ。

が、頼光よりも頼光を見る冬宇子とブルーも驚くだろう。
頭に咲く牡丹の花の色着き。
付きつける指には鋭い爪が生え、腕は獣人。
何よりも睨みつける目はもはや人のものではなく獰猛なる猛獣のそれなのだから。

しかし真に驚くべきことは頼光本人がその変化に気づいていないという事だ。
今は興奮状態だからなのかもしれない。
嗅覚と味覚、そして新たに人としての容貌を頼光は失ったのだ。


>「符を……ありがとう……助かったよ……
> 礼が出来ないのが……残念でならない……本当に……」
背後から聞こえるツァイの声。
その声に驚きながらゆっくりと振り向けば、確かに右腕を失い血を流すツァイがいた。
「お、おい、やめとけ。
その腕、実は義手でしたなんてオチじゃねえんだろ?
痛くないはずがねえのに何やるき出してんだよ……!」
人の腕を切るなどと言う体験は初めてであっても、確かに生身の腕だった。
そういう感触があったのだ。
手首切るだけでも死ねるというのに、腕一本切り倒されたらショック死してもおかしくはないのだ。
にも拘らずツァイはより強い決意をもって立ったのだ。

>「だが、もう迷いはない……君達を殺すよ。
> 君達にも、私達と同じように願いがあるだろう。私達と違って未来もある。
> それでもだ。それでも……君達を殺す」
「止めとけって言ってんだろぉおお!
何なんだよこの国の連中はよぉ!どいつもこいつも!
ごらぁ!マジで殺すぞ!」
ツァイに向け手をかざし、力を込めるとそこには神気の炎が渦巻く。
これこそが冷気の呪いが渦巻く中でブルーの様に鍛えられていない、冬宇このように術の心得がない頼光が消耗せずに活動できた理由。
霊獣の力の顕現が著しくなり、鳥居と同じように神気の炎を扱えるようになっていたのだ。

肉体を超越する意志の力。
頼光はそんなものが実在することは知らない。
目の前に立つ品詞の老人がまさにそれを体現しているなどとは!
しかし本能で感じる。
その覚悟の強さを!
反面、神気の炎を扱えたとしてもツァイの覚悟に比べれば頼光の吼え声など虚勢にしか過ぎない事も。

41 武者小路 頼光 ◇Z/Qr/03/Jw:2013/09/02(月) 22:13:15
剣状結界が静かに伸び振るわれる
「そんなもん出してもよぉ!今の俺には止まって見えるんだよ!
気を込めりゃこんなもん……!」
達人の振るう剣閃ではない。
老人がなぞるだけの速さである。
獣眼の頼光には言葉通り止まって見え、ブルーがしたように気を込めた手でならば掴むことも造作がない。

が、そこははやり頼光である。
如何に優れた機能、力、術を持っていたとしても重要なのは使い所、使い方。
そういった意味ではただ力を得ただけの頼光と、十分な年季を積んだツァイには雲泥の差があった。

結界の剣閃を掴んだと思った手は空を切り、消えた剣状結界は頼光のこめかみあたりで再構築されたのだ!

「なぁあああ!?」
刀身が消えてすり抜けるなどとは全くの想定外!
慌てて身を縮め剣閃をやり過ごそうとしたのだが、あまりにも間がなさ過ぎた!

それと同時に放たれる神気の炎。
だがそれは気弾というにはあまりにも弱々しいものだった。
ツァイの覚悟に気圧され、剣の消失と再出現にあわてたため気は拡散してしまい、小さな火の玉になってツァイの足元に落ちていくのだった。

が、それでも十分な効果を発揮するであろう。
ツァイの足元には蔦が破った床、結界に裁断された大量のウッドチップ。
それらが風によって程よく混ぜ合わされている。
そして何より、アルコール度数の高すぎる酒が先ほど大量にばらまかれているのだから。
小さな火の玉はそれらに火をつけ一気に燃え広がる。
炎の余波はツァイの導着を舐めて駆けあがろうとするだろう。

一方こめかみあたりに突如再出現した剣閃を身を縮めて躱そうとした頼光は、黒髪を舞い散らしていた。
恐るべきは剣状結界の切れ味か。
頼光の頭は河童の様に切られ頭頂部には何も残っておらずツルっとした地肌が露出していた。

頭部が切り取られるよりは……とは頼光の場合は一概には言えない。
頭頂部から生えていた牡丹の芽も切り取られていたのだから!
「…………ぎゃがっ!」
がくがくと震えた後、小さな悲鳴と共に両目両耳鼻口の七孔から血を吹き出し倒れる頼光。
微かに動いていることから死んではいないようだが、ショックで気絶したか動けないか。
指は手も人のものに戻り、あとから見れば眼も人のものになっていることに気づくだろう。

頭の牡丹を切り取ったことにとって、苗床としての進行が止まったのであろうか?
いいやそうではない。
より凄惨な方向への転換でしかないのだから。

42 鳥居 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:13:43
鳥居は地面にバラバラになりながらダーの言葉を聞いていた。
確かに不味い御飯を旨いといいながら食べるのは負け犬だ。
でも大概はそんな人間ばかりなので、こんな気持ちでいたら人は喜んでくれる。
それにアムリタサーカスで働いている者は頼光をはじめほとんどが負け犬のジンガイ。
尖ってる感じの本物の妖怪なんていない。
でも退治されることもなくのらりくらりと生きている。
どぶ水を飲みながらでもその精神は高尚とまではいかないが
ある意味事足りており、腐りかけているバナナのような人生だ。

それが敗北を知らないダーにはわからない。
死なない鳥居が生を理解できないのと同じように。

ダーは鳥居に成長してみろと言った。
敗北はなんの糧にもならないと言った。
でも鳥居の心に生じたたった1つの実感。
それは怒り。正義の怒りでも何でもないただの怒り。
なんでこんな目にあわされるのかという不条理に対する怒り。
鳥居は吸血鬼の力を右手に集中する。

(再生する時間がないのでしたら右手一本で充分です。
あとはこいつで…)

割れて鋭利な刃物と化した左手の骨に汗をこすりつける。
そして神気で焼き、こびりつける。
これでダーの汗の重さを封じ込めた棒手裏剣の完成だ。
弱ってるダーが果たしてこれを避けられるであろうか?

「あなたは敗けを知らないから、ものごとの考え方に表しかないんです。
負けたものの、つまり裏側からものごとを見るめを持たないから、
相手の気持ちになれない。だから傍迷惑なのも知らない」

血と内臓の海のなか、鳥居は力を振り絞って骨の棒を投てきした。

「だから、僕たちはあなたを、拒絶します!」
風をきって骨が飛ぶ。同時にこの場から全ての炎の神気が消滅。

【重い汗を焼きつけた骨の棒手裏剣をダー君投げる】
【あとはマリーさんにおまかせ】

43 鳥居 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:14:13
>「あなたは敗けを知らないから、ものごとの考え方に表しかないんです。

「……やっぱオメェ、大間抜けだぜ」

>「負けたものの、つまり裏側からものごとを見るめを持たないから、
  相手の気持ちになれない」

「弱っちい奴らは……餌なんだよ。強え奴を満足させる為だけの、家畜だ。
 その家畜が何を考えてようと……俺の知った事じゃねえぜ」

>だから傍迷惑なのも知らない」

「ハッ、オメェらだって……突き詰めりゃ自分の満足の為に俺を殺してえんだろ?
 俺がどんだけ迷惑してるかなんて、考えもせずによぉ……。違いはただ、強えか、弱えか……それだけだぜ」

>「だから、僕たちはあなたを、拒絶します!」

「ほざくだけなら自由だよなぁ!だがな!それを許すか許さねえかは!『強者』(オレ)が決める事なんだよぉおおおッ!!」

骨の棒手裏剣が放たれる。

(間抜けが――ッ!!俺の術は軽重を自在に切り替えられるからこそ意味があんだ!
 ただ重てえだけの骨に何の意味がある!しかもオメェは今!腕だけの力しか使えてねえ!
 それも俺の汗が染み込んで、重くなった腕のなぁ!そんなモンがよぉ――)

――当たる訳がない。神気の炎が消えた今、ダーは際限なく自身を軽く出来る。
体力の消耗による術の効率の低下は――鳥居と、鳥居が投擲した骨に施した術を解除すれば補える。
生じる風の流れをなぞるように、ダーは軽やかに骨手裏剣を躱してのけた。

「そして――――ッ!炎を消しちまったのは大失敗だぜチビガキよぉ!!
 この軽さと!その重さ!女ァ!テメェが俺に勝てる可能性は!最早微塵も存在しねえ!
 今度は避けられねえぜ!喰らえッ!八閃翔――――」

「――いいや、ちゃうで。炎を消したのは……間違いやない、鳥居はん」

戦場に微かに届いた声――あかねの声だ。
直後、上空から大水が降り注いだ。いづなの力を使った水氣の術だ。
マリーに付着した加重の汗が洗い流され――ダーの着衣に、髪に、大量の水が染み込んでいく。

「もしさっき、炎が消えとらんかったら……アンタは多分、また空に飛んで逃げとったやろうな。
 そしたらこの水は……当たっとらんかった。なぁ、おデブはん?
 アンタ――衣服に染み込んだ水までは、軽く出来へんのとちゃう?」

「な……なにぃいいいいいいいい!?この俺の術を……!テメェ小娘!よくも――!」

「――まだ終わりやあらへんで。炎が消えても、その熱はまだ地面に残っとるやろ。そこに水を被せれば……」

――大量の水蒸気が発生する。瞬く間に、即席の煙幕の出来上がりだ。

「ウチだけじゃ、ここまでは出来んかった。鳥居はん……よう、頑張ったな……。
 そしてマリーはん、悪いけど後はお願いや……ウチらを『守って』や……」

「ッ……!く、見えねえ……!クソッ!あのアマ、何処に……!」

双篠マリー、ダーは君を見失った。今なら、接近出来る。
体を軽くしても纏わりつく水が重りとなり、逃げられはしない。
それでもダーは手練だ。すんなりと暗殺まではさせてくれないだろう。
だが、君の方が一手先んじる事が出来る。それは確実だ。
ようやくだ。ようやく対等以上の条件で、仕掛けられる。
仕留めるなら――今しかない。

44倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:15:42
>>38-39

アレク――こと、ブルー・マーリンの蹴撃による脳震盪で、
意識朦朧のツァイは、冬宇子の營目術による尋問を抗わずに受け入れた。
苦痛に歪んでいた顔が、徐々に強張り、虚ろな表情へ。
焦点の合わぬ眼は虚空の一点を見詰め、唇だけが、訥々と、言葉を紡ぎ始める。
体内の氣の流れ――経絡を操られた被術者と術者の間には、言葉を要せぬ黙契が成立している。
ツァイは、冬宇子が『知りたい』と望む事柄を無言のうちに察知して、彼の知り得る限りの情報を披瀝していくのだ。

>「……何故、私達が……ここへ戻ってこれたのか……。
>そうじゃないんだよ……こうも考えられる筈だ……。
>私達はあの戦場から……遠ざけられたのだと……」

―――何故、私達は『ここ』にいるのか―――
『呪災の只中に、冬宇子達が、この国に居合わせた意味とは?』
それは、自身を巻き込む災厄の正体を暴こうとする冬宇子にとって、必ず知らねばならぬ、第一義の問いであった。
『ここ』とは、現在地――警備詰所のことでもあり、呪災に見舞われた清国そのものをも指している。
ツァイは、前者について語っているのか。
ならば、冬宇子達が意図的に遠ざけられたという、『あの戦場』とは一体――?

ツァイの瞳が微かに揺らいだ。彼の意識は混濁しているように見受けられる。
しばし言葉が途切れ、また語り出す。

>「私は……君達が何者で……何の為にここにいるのかは知らない……。
>だが……それを知る者が誰なのか……それなら……知っているかもしれないな……」

黒免許持ちの冒険者が、呪災の只中にある清国に差遣された理由――それを知る者とは?
詰所の前庭に、今もこの耳障りな風籟を響かせている『風使い』なのだろうか――?

>「彼は私に……君達を始末しろと命じた……。
>国の機密を……国防情報を探っているのだから……殺されても文句は言えない……。
>そうすれば王に……私の働きがが褒賞を与えるに足るものだったと献言してやってもいいと……」

確かに、この国の法に依るならば、冬宇子達は、殺されても文句の言えぬ立場にある。
国家機密窃盗罪――国防上の重要機密たる王都構造図を持ち出すことは、殊に戦時下では重罪に値する。
しかし、冬宇子が図面を所持している事を知るには、
この異国の女が、詰所の中で何を探し、何をしていたのかを、把握していなければならない。
団長室での冬宇子の行動を、監視していた者がいる――というのか?
その人物は、おそらくツァイ自身ではない。
図面を荷物入れに忍ばせたあの時、密室の中にいたのは、頼光とアレクの二人だけ。
外から覗き見ることも不可能だ。扉は閉ざされ、窓には覆いが掛かっていた。

ふっつりと風音が途切れた。話は核心に近づいていく。
冬宇子は、ツァイの顔を見下ろしながら、息を呑んで次の言葉を待った。

>「そう、彼は……」
>「……フー・リュウは、私にそう言ったよ」

発言と同時に―――蔦に巻かれ地面に縫い付けられていたツァイの右手が、ぐい、と持ち上がった。
腕に絡む蔦の葉は、茶色く枯れて風化している。
高位の術者の念は、それだけで術式への抗拒となり、破魔の力を持つ。
冬宇子の術が破られたのだ。
結界師の力強い手が、女の細腕を掴み、肘の関節を容易く捻り上げる。
痛みに呻く冬宇子は、男の腹の上から立ち上がることも出来ない。

45倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:16:09
冬宇子は、身体に風のそよぎを感じた。
散然と吹き付ける呪力の風は、『ある箇所』を境に精緻な操作を得て、上空に纏められ、縒り上げられて、
さながら昇龍の如き、一本の大気の奔流と化していた。
蔦の木っ端を巻き上げる旋風が、うねる龍の動きで、冬宇子を目掛けて降下。
このままでは腕を捕える男ごと、風の刃に身を穿たれて骨肉を散らすことになる。

見開かれた冬宇子の瞳に映る、ツァイの姿が消えた。
次に目に入ったのは、逆さまの詰所建屋、そして闇夜の空―――眩めく視界の中、頼光の声が聞こえる。

>「その腰帯の符だ!フーがよこした奴だ!あれで風を操ってんだ!破っちまえ!」

『ある箇所』とは、冬宇子の腰帯――道士フー・リュウが映し身の媒介にしていた紙人形。
そうだ――この人形が、風の術の中継地点だったのだ。
術式不全の通信障害に見せ掛け、映し身の姿だけを解除したフーが、紙人形の視界を通して
冬宇子を監視していたのだとすれば、ツァイの吐露した言葉にも、合点がいく。

冬宇子達を、この場所に寄越したのは、フー・リュウ!

清国に到着して間も無く出会った宮廷道士フーは、冒険者達に親切に接し、呪災の状況と術理を
詳細に説明してみせながらも、肝心な事を隠している風情で、どうにも、不審な印象が拭えない人物だった。
呪災と原理を同じくする『実験』に携わってはいたが、呪災の発生には無関係だ―――と語る彼の訴えを、
仮初めにも受け入れてしまったのは、清軍元校官ジンの存在があったからだ。
さらに、国家機密である『実験』の内容――不老不死の実現――を、冬宇子が看取したことに、
フーが酷く狼狽していたことも、彼への疑いを削ぐ一つの要因となった。
弱味を握ったつもりでいた油断が仇となったのか。

ジンの妻と娘は、確かに、仮死状態に陥っていた。
あと少し処置が遅れていれば、命を失っていたであろうほど、重篤な状態だった。
妻子への愛情ゆえに、生気狩りという非道に身を堕とした、呪災の被害者ともいえるジンが、
フーと共謀して冬宇子達を欺いているとは考え難い。

冬宇子達を、ジンの元に向かわせたのはフー。
しかし、警備詰所の情報を提供し、地図を描いてくれたのは、ジンだ。
一体、これをどう考えれば良いのだろう――――?

背中に強い衝撃を感じて、ようやく視界が定まった。
気がつくと、冬宇子の身体はブルー・マーリンの腕にすっぽりと収まり、抱き止められていた。

>「見たか毛唐!誰がビビッているかもう一度言ってみやがれ!!」

こちらを向いて息巻く頼光。
その大声に、はっと我に返った冬宇子は、自分の右腕に捕り付いているものを目にして、卒倒しそうになった。
道士服の黒袖を着けた男の前腕が、切り口も生々しく血を滴らせながら、冬宇子の肘を固く握っている。
あの時、生薬の包みを手渡してくれた大きく暖かな手――それが、男の身体から切り離されて此処にある。
左手の刺し傷に加えて、右腕の切断――出血は著しく、止血が間に合わなければ命が危ない。
ブルーから地面に降ろされ、肘に捕り付く切断肢を外した直後、掠れた男の声が耳に届いた。

>「符を……ありがとう……助かったよ……
>礼が出来ないのが……残念でならない……本当に……」

向けた視線の先――半獣人と化した頼光の背後で、
老結界師が、身体に巻き付く蔦の枯葉を毟りながら、ゆっくりと立ち上がっていた。
言葉通り、彼は、冬宇子の渡した治癒符を使っていた。
彼が救ったという瀕死の男の為に、と譲った符を。
しかし、あの治癒符に致命傷を即治させる程の効果が期待できぬことは、精製した冬宇子自身が誰より知っている。
ツァイは、ほとんど気力だけで、身体を持ち堪えさせている。

46倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:16:36
弱光を放つ結界は全て消え失せ、地面に据え置いた角灯の薄明かりだけを頼りにした視界。
失った腕の疵から血を流している男の顔は蒼白で、
見詰める冬宇子は、何故だろう――自身が彼の身を案じていることに気付いた。
自分達に殺意を向け攻撃する男のことを、冬宇子は、どうにも憎めずにいる。
薬草庫で冬宇子の身体を気遣ってくれた彼の、他意の無い優しさが、心の何処かに染み付いてしまっている。

>「だが、もう迷いはない……君達を殺すよ。
>君達にも、私達と同じように願いがあるだろう。私達と違って未来もある。
>それでもだ。それでも……君達を殺す」

これまで何処か倦怠を帯びていた初老の男の瞳が、凄愴な光を放ち、赫として燃えていた。
負傷した左拳に握られた二本の鉄杭。
不動の覚悟が剣印を不要とし――再び、剣状結界が振るわれる。

ツァイの狙いは、獣人頼光と、結界を弾く霊才を持つブルー。
冬宇子の存在など、歯牙にもかけていない。
人外の膂力を誇る二人さえ始末してしまえば、術才に劣る女一人を片付けることなど、
無敵の結界術を誇る彼にとっては赤子の手を捻るようなものだ、とでも考えているのだろう。

>「そんなもん出してもよぉ!今の俺には止まって見えるんだよ!
>気を込めりゃこんなもん……!」

愚かにも、顕現自在の刃を掴もうとする頼光。
察したツァイが結界を解除。
焦る頼光の身体から、火氣――炎が迸り、
刹那の間、立ち昇った炎は、直ぐに拡散し火の玉となって散っていく。
獣人の頭頂部すれすれに再出現した剣先が、つむじに綻ぶ牡丹の蕾を頭髪ごと削ぎ落とす。
頼光は、短い悲鳴を上げ、頭部の孔という孔から血を噴き出して倒れた。

流石は手練の結界師だ。
すでに頼光の弱点を見抜いている。
頭頂の牡丹は、霊樹を体内に宿す、木行の化身たる者の象徴。
頼光は気を失い痙攣していたが、命に別状は無い筈だ――と、冬宇子は踏んでいた。
花を切られたからといって、植物そのものが枯れてしまうことは無い。『苗床』の本質は体内の深層にあるのだ。
頼光が放った火の玉は、撒き散らされた酒と、蔦の木っ端に引火して、
ちろちろと、地面を舐めるような炎が広がり始めていた。

ブルーが、ツァイの気を引き付けるように動いている。
冬宇子は、腰帯から紙人形を乱暴に引き抜いた。
白紙を握り潰す掌には、炎が作る陰影だけではない、"影の如きもの"が纏わりついているように見える。
ジンとの戦いの折、怒りに我を忘れて、フーの映し身に問いをぶつけた時―――
あの時と似通った状況に際して、冬宇子自身も意識せぬうちに、同じモノが、手の中に顕れていたのかもしれない。

47倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:16:53
フー・リュウは、冬宇子達を『ある場所』から引き離すために、使いを依頼し、映し身の符を通じて監視していた。
そして、協力者のツァイに、殺すことを命じた。
營目術の影響下にあったツァイは嘘を吐けない。彼が事実を誤認していない限り、これらは事実なのだ。
フーの方が一枚も二枚も上手だった。冬宇子は、彼の思うままに騙され続けていたのだ。

戸惑いと混乱は怒りに変わっていく。
けれど、どれほど悔しさが募ろうとも、遠隔地にいるフーに影響を及ぼす術を、冬宇子は持っていない。
出来ることは、この戦場から、フーの存在を除外することだけだ。
冬宇子は、紙人形を頭から二つに引き裂き、足元で燃える炎の中に投げ入れた。
次いで、ツァイに向き直り、声を上げる。

「りた・のここ や・な・む・い よ・み・ふ・ひ―――べるふ とらゆらゆ べるふ!」

治癒符を精製する際に込める祝詞を逆さまに読み、効果を打ち消す『さかしまの呪言』だ。
ツァイに渡した治癒符の効能は、超常の力で、魂――霊体を『振る』ことによって起こす生命力の向上。
『振る』われた霊体は、生命力を『奮る』い起こされて、治癒力を昂める。
あの治癒符は、冬宇子の祈念を媒介に、常世(とこよ)の神の加護を得て、超常の力を引き出している。
ならば冬宇子の祈念を以って、反作用の効果を発揮することも出来るのだ。

ツァイの腕――正確には、腕のあった場所から流れ落ちる鮮血を眺めて、
冬宇子は、さらに、印を組み呪言を唱える。

「鎮大災伏!」

冬宇子の身体を覆うように、不可視の円蓋が出現。
炎の侵入と熱気を防ぐ。

「霊護結界だよ。随分と見縊ってくれたようだが、私にだってこれくらいの結界は作れるんだよ。
 あんたほどの術士なら直ぐに見抜くだろうから、種を明かしておくが、
 効果を持続させる為には、印を解けないし動けもしない。
 不自由な結界だが、あんたの剣みたいな結界を弾く事くらいは出来る筈さ。」

すさまじい笑みを浮かべ、挑発の視線で、冬宇子はツァイに問い掛ける。

「さて、どうする?
 ご自慢の結界も、飛び道具も使わずに、どうやって私を殺すのさ?
 まずは、私に印を解かせて――それから、絞め殺すのかい?それとも殴り殺すか?
 動けば余計に出血する。私が殺されるのが先か?それとも、あんたの意識が無くなる方が先か――?
 生死をかけた我慢比べになりそうだねえ!」

とはいえ、冬宇子は、ツァイが先に倒れたならば、手を尽くして彼の命を救うつもりでいた。
彼自身がそれを望んでいないことは判っている。
ツァイは、悔悟に満ちた人生の終着を、この戦場に求めている――"彼の後ろにいる女"が、そう言っている。
だが、そんなことは、知った事ではない。

フーと対峙する前に、まだまだ彼には語ってもらわねばならぬことがある。
ツァイがフーの配下となった経緯とは――?亡国師団が呪災において成した役割とは――?
呪災発生の首謀者はフーなのか――?そして、呪災は、何の為に、どうやって起こされたのか――?

彼には彼の願いがあるように、冬宇子にも叶えねばならぬ願いがある。
互いの願いが相容れぬものならば、どちらかが相手の願いを断ち切って、自分の願いを叶えるしかないのだ。
冬宇子には、ツァイの想いを踏み躙っても、知らねばならぬことがあった。


【フーの紙人形を焼き捨てる】
【治癒符の反作用呪文で効果を打ち消す。剣状結界を防ぐ霊護結界を張って、ツァイを挑発】
【霊護結界は、物理的および霊的な攻撃を弾きますが、生きている者の侵入は防ぐことはできません】

48双篠マリー ◇Fg9X4/q2G:2013/09/02(月) 22:17:34
意識は全て拳だけに集中していた。
虚を突かれ焦るダーの反応も目には止まらず、ただ只管に向かってくる拳を見つめ
自身が振るう拳を硬め、細かく機動を修正しながら、それを迎え撃つように打ち出す。
思考はただそれだけを打ち抜くことだけしか考えない。
気が遠くなるほどの長い刹那の中、マリーの拳は真っ直ぐそこへ向かっていく
だが、しかし、ダーの拳はまるでそれをあざ笑うように遠のいていく
完全に空振りで終わったと理解した瞬間、間延びしていた時間が戻りマリーは直様思考を切り替える。
ダーはどうやら、鳥居の攻撃を喰らって吹っ飛んだように見えたが…見合わない。
あの鳥居がぐちゃぐちゃになっているほどの衝撃を受けたはずなのに
ダーはダメージは受けているようだが、未だに戦える状態だ。
ここから考えられることは一つ、確実にさっきの攻撃が失敗したということ
しかし、マリーは落胆していない、先程まで打つ手が無かったと思っていた相手となんとか殴りあえる
ということがわかったからだ。
加えて、相手は今手負いだ。勝ち目は少しずつ見え始めているという確信がマリーを奮い立たせる。
「臥薪嘗胆はこの国のことわざだろ?まさか、知らないのか
 確かにお前の言うとおり、敗北を甘んじて受けるような奴は負け犬だ。
 だが、真の勝利者とは敗北を糧にし勝利に繋げる者のことだ
 敗北をその程度の見方でしか考えないお前は負け犬よりも敗北に近い」
そう言い放ってマリーは再び構えた。
「お前が半死人に手を出すなら、私はそれを狙うお前を殺す
 だから、お前のような人のなりした豚の守りはいらない、さっさとかかッ…」
突如感じた重さにマリーは思わず膝を尽きかけた。
それがダーの術によるものであるのは直様理解した、しかし、この状況ではどうすることも出来ない。
体液が染み付いている衣服を脱げば、いくらかマシになるだろうが、そうする間は無い。
(イチかバチかに賭けるしかないか)
態勢を何とか保ちながら、マリーはダーを睨む。
真っ向から挑むのはこの状態では無理だ。唯一隙を伺えるとするなら
やはり、ダーが鳥居を攻撃する瞬間しかないだろう。
確かにその手は一度失敗した。だが、それ以外に逆転の一手は無い。

49双篠マリー ◇Fg9X4/q2G:2013/09/02(月) 22:17:51
そう思った矢先、死に体の鳥居が動く
渾身の力を込めて放った鳥居の骨は、ダーにかすることなく躱され
そして、再びダーは自身の術で軽くなり向かってくる。
「これまでか」
破れかぶれで拳を出そうとした瞬間、滝のような水が降り注いでくる、
それが茜の術によるものだと理解するよりも先に、自身の体が軽くなっていることに気づく
自然と体が動く、ダーは今突然の介入者に戸惑っている格好のチャンスだ。
ダーに迫ろうとした瞬間、視界を水蒸気が覆う。
直様進行方向を変え、ダーの背後へ回り込むように動いた。
視界が覆われたダーが今最も警戒しているのは、先程まで自分の居た方向だと思ったからだ。
そして、狼狽えるダーの声を聞いた瞬間、マリーは背後から飛びかかると即座に首を締め上げた。
「一撃で仕留めようと思ったが気が変わった。お前は苦しんで死ね
 後悔して死ね、詫びて死ね、口いっぱいに敗北を噛み締めて死ね」
ダーの耳元で冷たくそう囁きながら、マリーは一層強く締め付ける。
「この短い間、お前に二度も負けた。
 二度も虚をついて攻撃したが、どちらもダメだった。
 正直焦ったよ。自分のやり方が通用しないんだからな
 だから、余裕が無い中必死で考えた、どうしたら逃がさずに殺せるか
 これが答えだ。こうやって完全に密着してしまったら重さなんて関係なくなるからな
 重くなって道連れにしようとか考えても無駄だ。その前にお前の首を掻っ切る」
今度は明るい口調で囁き、プライドを汚す。
「今お前の命は私の気分次第だ。生きたいか?なぁ生きないかぁ!?
 だったら、四つん這いになって豚の真似をした後で、私の質問に答えろ
 お前は自分の意思でここまで来たのか?違うならこと細かく話せ
 さぁてどうする?やるか?やらないのかぁ?やらないならこのままシめるだけだ」

50◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:18:26
白に染まり切った視界。何も見えない。
音も聞こえない。心臓の音が煩わしい。
ふと――白霧が揺れた。

「そ……こだぁああああああああああ!!喰らいやがれッ!!」

がむしゃらに突きを繰り出す。
空を切る、霧が揺れる――暗殺者が動いたからか、それとも彼の突きの余波か。
それすら分からない。乱れていく呼吸を整える余裕すらない。
そして――突然、背後から組み付かれた。
女のものとは思えない膂力で首が締められる。

(や……べえ……意識が……首を締められて……もう何秒経った……?飛んじまう……)

締め方が的確だ。気道ではなく頸動脈を確実に圧迫している。
脳に血液が供給されないと――人間はものの十秒ほどで意識を失ってしまう。

>「一撃で仕留めようと思ったが気が変わった。お前は苦しんで死ね
  後悔して死ね、詫びて死ね、口いっぱいに敗北を噛み締めて死ね」

だが、不意に首を締める力が、極僅かにだが緩んだ。

>「この短い間、お前に二度も負けた。
 二度も虚をついて攻撃したが、どちらもダメだった。
 正直焦ったよ。自分のやり方が通用しないんだからな
 だから、余裕が無い中必死で考えた、どうしたら逃がさずに殺せるか
 これが答えだ。こうやって完全に密着してしまったら重さなんて関係なくなるからな
 重くなって道連れにしようとか考えても無駄だ。その前にお前の首を掻っ切る」

>「今お前の命は私の気分次第だ。生きたいか?なぁ生きないかぁ!?
  だったら、四つん這いになって豚の真似をした後で、私の質問に答えろ
  お前は自分の意思でここまで来たのか?違うならこと細かく話せ
  さぁてどうする?やるか?やらないのかぁ?やらないならこのままシめるだけだ」

――どうやらこの女は、自分に屈辱を与えねば気が済まないらしい。

(……この期に及んで、しみったれた事しやがって!馬鹿が!)

まだ勝てる。本当ならばもう負けているなどとは、ダーは考えない。
最後の最後に詰めを誤るのは負け犬の特徴だし、やはり自分は生まれついての勝利者だった。
傲慢な彼は、ただそう考えるだけだ。
苦悶に歪んでいた彼の口元に、薄汚い喜色が滲む。

「が……分かっ……た……答える……から……」

答えるも何も――彼は誰かに従ったり、頭を垂れたりはしない。
自分がこの世で一番強いと思っている底抜けの間抜けだからだ。
垂れさせられる事も恐らくないだろう。
彼は自分の力さえ正確に把握出来ていないのだ。
そうしなければならない状況でも、自分の勝利を疑えないに違いない。
例えば――今のような状況でも。

51◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:18:50
(豚の真似だぁ?んなモン誰がするか!後でテメェにさせてやるぜボケ!
 何を知りたがってんのか知らねえけどよぉ〜!
 答える意思を見せりゃ簡単には殺せねえだろ!んでもって!)

ダーが素早くマリーの両腕を掴んだ。そして――

「ぶひゃひゃひゃひゃ!間抜けが!これでもう俺の首を締めたりなんか出来やしねえぜ!
 力比べなら負けっこねえもんなぁ!このまま後ろにぶっ倒れて!テメェを押し潰してやるぜ!
 俺の首を掻っ切るだぁ!?やれるモンならやってみやが――」

――次の瞬間には、彼の首には短剣が刺さっているだろう。
双篠マリーが左腕に装着する篭手は、手首の動作一つで仕込み短剣を展開出来る。
腕を掴まれたままでも、彼の首を突き刺すくらい容易い事だ。

「げぼっ……がっ……あ……?」

一瞬、ダーには何が起こったのか分からなかった。

(な……あ……熱い……!?首が……!刺しやがったのか……!?
 どうやって……じゃねえ……!このままじゃ……やべえ……!)

掴んだマリーの腕を強引に引き剥がし、投げ飛ばす。
壁か地面に叩きつけてやるつもりが、力が入らなかった。
首から短剣が抜けて出血が加速する――どの道、刺されたままでいる訳にはいかない。

(まだだ……!まだ何とかなる!傷口の上の部分だけを重くすりゃあ……傷は閉じて、出血は……)

止められない。刺された頸動脈は片側だけとは言え、完全に断裂している。
外部への出血は止められても、内部――気道への流血が増えるだけだ。

「ぶ……がっ……う……ごっ…………ひ……」

自らの血に溺れ――呼吸が乱れる。術の精度が落ちる。傷口が塞げない。
ダーが膝から崩れ落ちる。

(血が!血が止めらんねえ!立て……ねえだと……!)

ダーは地面に倒れ伏し、藻掻き、呼吸を詰まらせ――挙句の果てに失禁までしていた。

(やべえ!やべえ!やべえ!このままじゃ……まさか……!この俺が……ま……)

ダーが縋るように、首の動きだけでマリーを見上げた。
絶対の強者を気取っていた彼が今、豚のような有様で地に転がって、糞尿に塗れて死んでいく。
それはただの豚畜生よりも、ずっと惨めな死に様だった。

52ブルー・マーリン ◇Iny/TRXDyU:2013/09/02(月) 22:20:22
>「見たか毛唐!誰がビビッているかもう一度言ってみやがれ!!」

「!……」

あぁ、そうか…と、ブルーは思う
彼は今、後悔していた

(俺は…やっぱ『上に立つ者』よりは『前に立つ者』なんだなぁ…)

と、ボンヤリと考えながら冬宇子の言葉を振り返る

>「何を迷っている――怖いのか――だって?フザけるんじゃないよ!このガキが!!
 ジンの言っていた通りだ……あんたは子供だ。自分を省みることも出来ず、何を怖れるべきかも知らぬ愚か者さ!
 あの男をけしかけて……もしも、あの男の身に、取り返しのつかぬ事が起こったら、どうするのさ?!
 責任取れんのかい?!
 なァにが船長だよ!あんたは、人の上に立つ器じゃないね!
 あんたの下らない根性論に振り回されて、命の危険に晒される船員どもが気の毒でならないよ!!」

(…やっぱ俺、親父の血は薄いよ……指揮官はやっぱり俺には向いてないね)

と、自分を嘲笑う

「ク、ククッ、ククク…」

今、彼には一つしか見るものはなかった

ジンの指の動きだ
ただ、ただ、それしか見えてない、ただ、それの『動き』だけを…見ていた

今の彼の表情を見たものは、一瞬だが動死体と見間違うだろう、それほどに青白く、生気がなかった
だが動死体と違って、感じるものがある…ただ一つ、…殺気、ただの殺気
その殺気の『形』は…ひどく歪んでいた
殺気にも種類がある、もっともよくみられる殺気は射抜く殺気だ
標的を定め、その標的を殺す、相手を震わせる殺気
それが通常の殺気の形だ
だがブルーの『今』のまとっている殺気は違う、それはまるで…
いうなれば…ネズミを狙う猫、イタチを狩るタカ…シカを狙うライオン、そして…人を狩る悪魔のようであった…

ツァイの出す剣状結界
常人であれば一瞬で切り刻まれる者

乗ろうとすればすぐに消え、着地した瞬間に切られる、そんなツァイの攻撃を避ける手段は、彼にはあったか?

…ない、ないならば…足場を作ればいいのだ

「……行くぞっ!」

その瞬間、彼はツァイの結界にまた乗った
当然、乗る前にその結界は消える


その瞬間を彼は狙った

「…ふっ!」

術であれ、なんであれ、消える際にはラグがある、同時に痕跡も
彼は一瞬だけ爪先だけを乗せる、一瞬でも乗せるだけでいいのだ…だって…

「…」

53ブルー・マーリン ◇Iny/TRXDyU:2013/09/02(月) 22:21:15
彼は何かをけって飛んでいる、…なにを?
足場を…どうやって?空気なんてまだ彼には蹴れないはずなんだよ?
蹴れないなら作るんだ…無理だよ、できたとしてもブルーにそんな才能はない、作れるわけがないんだ
どうして?…だって彼にはそんな、魔力や妖力量はそれなりにあっても、使うのはできない、術もまともに使えないのに、どうしてできるんだい?
どうして使えないと思うんだい?…だって…彼がそういうのを使うときは、必ず精神面の不調に襲われるからだよ
よく見てごらん?今の彼は…『空っぽ』だ

「…」

『何か』をける、『何か』を作る
手を異常な速さで動かし、作り、できたものを空中に投げる
そのできたもの、それは…魔力や妖力の塊、質量を引き寄せる、塊

彼は足場を作っている、彼にはこんな風なことはできない
『普通』の彼の状態だったら…ね
もちろんそんな彼の軌道は見やすい、当然ツァイからすれば簡単に『なぞれる』…『はずだった』

「…」

ブツブツと何かをしゃべる、そしてツァイが指をかざすと…彼の姿が消える
同時に何かがツァイの腕に当たった…それは『塊』だ

そしてブルーは消えたのではない、見れば……今の彼を見れば、異様な、本当に異様な姿であろう
早い、とにかく早いのだ…その足場を作る速度も無論、…それに乗る速度も

「…」

そんな速さで動けば当然、空気抵抗に襲われる…しかもこの速さにもなれば、その空気が刃にもなって襲ってくる
頬が裂け、服が切れ、…爪もはがれかけ…

だがそんなものに気にも留めない、…気に留めるモノがない

「…」

そして、そんな彼の動きをなぞるのは難しい…もはや残像すらできてる
だが、それ以上に…重かった、彼の片腕が重いのだ
まるでセメントで固められたくらい…いや、実際そうだろう
…妖力使い、魔力使いがいれば見えるはずだ…そしてツァイも気づく…さっきブルーの放った塊が、どんどん重くなってきていることに

そしてついに、ブルーがツァイの前に来る

「…詰みだ…」

目の前に来たブルーの瞳には…何も映っていなかった
そしてツァイの顔に向けて…こぶしが向かってきた

当たった瞬間、…なぜか、彼は…非常に気分が悪くなってきた、…生理的な意味で、胃からこみあげるものがあった

【要約すると、ブルーから生気が感じられなくなる、魔力による足場作り、足場に乗るのがめっちゃ早いし慣性の法則とかを無視している】
【そのうえなぞろうにも片腕がどんどん重くなる、その間に目の前に立って顔面にパンチ、あのキックよりは痛くないけど…?】

54ブルー・マーリン ◇Iny/TRXDyU:2013/09/02(月) 22:21:33
>「見たか毛唐!誰がビビッているかもう一度言ってみやがれ!!」

「…!…」

その瞬間、ブルーは理解した
自分がどれだけ愚かだったのかを
自分がどれだけ軽率だったのかを

自分がどれだけ、仲間を想っていなかったのかを

(…あーあ、やっぱり、俺は上に立つべき人間じゃあ、なかったな…)

後悔と、反省が彼の心を包み込む
しかし、彼は言った

「…もう、やめようや」

ツァイのその行動を見て、つぶやいた

「…いい加減、もう、やめようや…」

その瞬間、ツァイの前には青い、ブルーのコートが見えた

ブルーは、さっきの言葉を言った瞬間、そのコートを一瞬で脱いで投げたのだ

視界が遮られる、それほどにこのコートは大きい

切り刻んだところで、先ほどまでいた場所にブルーはいない
見あたらない、全然、見当たらないのだ、右、左、左右を見ても

ならばどこに?そう考えた瞬間、ツァイは影が見えた

「こっちだよ…そろそろ、終わらせないと…」

右手を振り上げようとした瞬間、乾いた打撃音のようなものが響く
右手を動かない、見ると血が噴出している

撃たれたのだ、上から、ブルーの銃によって

「もう、…限界に近いだろう…休め」

その言葉が聞こえた瞬間、顔面に衝撃を受ける

いつものブルーなら蹴っていた、今のブルーは…『殴って』いた…
上から、垂直に
いうなれば、拳骨だ…

【コートを投げて視界を遮ってその間に高く跳躍する】
【その後、右腕をすぐさま打ち抜き、頭上から殴る、あたったらすごく痛い】
【…痛いだけ…】

55◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:22:17
まずは一人――頼光の頭頂部に生えた苗を切り落とし、ツァイは心中で呟く。
気を失った彼にとどめを刺すのは、いつでも出来る。

着衣に炎が燃え移る――関係ない。
どの道、焼け死ぬよりも、失血で死ぬ方が先だ。

次に仕留めるべきはあの欧州人――ブルー・マーリンだ。
彼の持つ超人的な俊敏性は脅威だ。一刻も早く無力化する必要が――

>「りた・のここ や・な・む・い よ・み・ふ・ひ―――べるふ とらゆらゆ べるふ!」

倉橋冬宇子が呪言を唱え、たちまち右腕の切断面、そこからの出血が再び勢いを増した。
治癒符の効果が打ち切られたのだ。

目が眩む――から足を踏みながらも、辛うじてツァイは持ち堪えた。
今倒れたらもう、立ち上がる事は出来ないと分かっていた。
咄嗟に右下腕に鉄杭を二本突き刺す。そして結界を展開した。
切断面の内側から、血管を堰き止める結界を。
より不完全にはなったが、止血は出来た。

この陰陽師の女は――強かだ。
今度こそ何も出来まいと思っていても、決して折れない。
的確に、こちらの首筋に喰らいついてくる。
優先すべき順番を間違えたか――そうだ。どの道、彼女を狙えば、あの欧州人もこちらへは向かってこれまい。

袖の裡から鉄杭を新たに取り出す――傷と失血、衣服に燃え移った炎で手元が覚束ない。
数瞬の遅れ――左拳に鉄杭を握り、剣状結界を伸ばす。

>「鎮大災伏!」

響き渡る硬質な音――弾かれた。

>「霊護結界だよ。随分と見縊ってくれたようだが、私にだってこれくらいの結界は作れるんだよ。
  あんたほどの術士なら直ぐに見抜くだろうから、種を明かしておくが、
  効果を持続させる為には、印を解けないし動けもしない。
  不自由な結界だが、あんたの剣みたいな結界を弾く事くらいは出来る筈さ。」

凄絶な笑み――失血による体温低下、それとはまた違った悪寒が背筋を伝った。

>「さて、どうする?
 ご自慢の結界も、飛び道具も使わずに、どうやって私を殺すのさ?
 まずは、私に印を解かせて――それから、絞め殺すのかい?それとも殴り殺すか?
 動けば余計に出血する。私が殺されるのが先か?それとも、あんたの意識が無くなる方が先か――?
 生死をかけた我慢比べになりそうだねえ!」

「……手は……まだあるさ」

ツァイは掠れた声で呟く。

「だが……まずは……君を仕留める所から……始めねば……な……」

そしてブルー・マーリンへと向き直った。

>「…もう、やめようや」
>「…いい加減、もう、やめようや…」

「いいや、やめないよ……いい加減かどうかは……私が決める事だ。君が決める事ではない……」

ブルー・マーリンにとってこの殺し合いがどんなものであれ――ツァイにとっては必要な事なのだ。それこそ自分の命よりも。
そして、最早ブルーに冬宇子を庇うように動く必要はない――――来る。

56◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:23:03
ブルー・マーリンが地を蹴った。
同時に視界の大部分を黒が覆う――彼が投げたコートだ。
即座に斬り裂く――が、既にブルーの姿は見えない。
あの一瞬で一体何処へ。

焦燥、思索、決断――自身の右方に結界壁を、格子状に築き上げた。
ツァイには右腕がない。必然、そこは斬撃の死角となる。
自分がブルーならば、右へ右へと回り込む戦術を取る。

だが――いない。結界壁は虚空を裂くのみだった。
ならば何処へ行ったのか――

「――悪いが、読めているよ」

上だ。
ブルー・マーリンに『それ』を意図していたかは分からないが、
ツァイの頭上。そこにだけは――結界壁は展開し得ない。剣状結界のみでしか対応出来ない。
自分ごと両断する訳にはいかないからだ。

ブルーは的確に、あるいは結果的に、ツァイの『急所』を見抜いていた。
だがそれ故に――ツァイもまた君の行動が読めてしまった。

ブルーが拳銃を構える一瞬前――ツァイは既に剣状結界を振り上げていた。
一手早い。足裏に魔力を展開して防御するにも間に合わない。
そして――――ツァイの体が一瞬、強張った。

一部の皮膚や筋肉が、炎に焼かれ続けた事で熱硬直を起こしたのだ。
それは身体の構造の変化だ。
腕が切り落とされた事と同じように――意志の力も及ばない。

「くっ……!」

一手が逆転した――銃声が響く。
ツァイの左腕を銃弾が貫いた。
苦悶の呻き声――鉄杭を取り落とす。

>「もう、…限界に近いだろう…休め」

そしてブルー・マーリンは――ツァイを殴りつけた。
石のように硬化した動死体の皮膚に減り込み、削ぎ飛ばせるほどの蹴りを使わず。
ただ殴り倒す事を選んだ。

それが一体何故なのかは分からないが――殴り飛ばされたツァイは、地に倒れ伏した。
もう立つ事は敵わないだろう。

しかし、ブルー・マーリンは――彼にとどめを刺さなかった。
ブルーは強い。それ故だろうか、命を奪おうと掛かってくる者にすら、不殺の姿勢で挑んでしまう。
それは命取りだ。

――大抵の場合、彼自身にとってではなく、他の誰かにとって。

「まだ……だ……まだ……やれる事は……ある……」

ツァイの左腕は熱硬直を起こしている。が、それは表面的なものだ。
熱はまだ内部までは浸透していない。
動作は緩慢になるが、無理矢理に動かせない訳ではない。

57◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:23:42
銃弾が神経を断ってしまったのか、最早拳を握る事すら出来ない。当然鉄杭も。
だが周囲には、結界壁の為に配置しておいた鉄杭が残っている。
ツァイはそれに這い寄って――左手を振り下ろした。
鉄杭が突き刺さり、筋肉の収縮によって固定される。
そして、もう一本――これで二本の鉄杭が保持出来た。

「結界を……移動に使えるのは……君だけでは……ない……私にだって……当然……」

剣状結界を展開する。地面に向けて。
結界の切先は地面に突き刺さる事で止まり――そのまま結界を更に伸ばした。
結果生まれるのは――逆向き、ツァイを押し飛ばす推進力。
向かう先は――倉橋冬宇子の元だ。
彼女の展開する結界に、体半分、入り込んだ。

「もう……君を絞め殺すほどの力も……残っていないが……これで十分だ……。
 結界を解いて……一回り小さく再展開する暇が……君にあるかな……?
 あと……二人……まだ……十分……やれる……」

このまま倉橋冬宇子を仕留め、頼光も始末し、最後にブルー・マーリンを殺す。
――そんな事、無理に決まっている。
だが彼は本気だ。本気でそれを成すつもりでいる。成せるかどうかなど、考えもせずに。
やり切ろうとする事が大事なのだ。
だからこそ失敗や敗北を予期して、立ち止まる事はない。

剣状結界が伸びる。
発光の刃が冬宇子の首元へ迫り――その直前で止まった。
そのまま亀裂が走り、崩壊していく。
明らかに今までとは違う消失――ツァイが意識を失ったのだ。
倉橋冬宇子、君を決死の形相で睨みつけたままで。

血を失いすぎた。
意志の力だけでは補い切れないほどに、彼の失血は進んでいた。
彼は既に、限りなく死の淵にいる。
助けるつもりなら、素早い処置が必要だろう。



――それから暫くして、ツァイが目を覚ます。
彼は辛うじて命を繋いだようだった。

「……生かしたのか、私を」

暫く呆然とした後で、ツァイがそう零した。
左手は動かない。拘束を受けているのか、単にそこまで回復していないのか。

「黙っていても、君なら直ぐに見抜く事だろうから……言っておくが。
 ……私は、後戻りは出来ないよ」

例え命を救われようとも、自分が確かに恩を感じていようとも、それに報いる事はない。
返せるのは仇だけ。打ち明けようとも、打ち明けまいとも、すぐに悟られる事だ。
結果が変わらないのならば、せめて潔い方を――それは諦めとは、また違うものだ。

「……聞きたい事、か。分かった……答えよう」

最早ツァイには營目の術に抗う余力はない。
口を閉ざしていても、意味はない。

58◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:24:16
――フー・リュウと手を組んだのは、いつからなのか。

「……フー・リュウに手を貸すと決めたのは、君達と出会ってからだ。
 彼の方から接触があった。君がさっき燃やしてしまった、あの符を介してね」

符は一枚しかなかった。もし二枚あったのなら、それも風の爆撃の座標特定に使っていた筈だ。
符が機能しなくなった時には既に、外は宵闇に満ちていた。
役立たずの符に、常に視線と意識を配ってはいられなかっただろう。
例えば前方に大量の動死体がいて、その上、突然背後から声をかけられでもしたら。
腰帯から符が抜け出る際の、ほんの僅かな擦れに気付くのは難しかった筈だ。

詰所の中で一度あった、腰帯に挟んだ符の微かな動き。
あれは符が腰帯に――いざと言う時の座標特定の為、戻ってきた際のものだった。

ツァイには、フーの語った提案や身分が真実だと確信する材料はなかった。
一応、宮仕えにしか知り得ない事を二、三語られはしたが――それだけだ。
それでも、様々な「もしも」を考えれば、信じる他なかった。

どうやら、フーが君達を殺そうとしたのは、計画的な事ではないようだ。
少なくともジンと対峙した時点では、そのつもりはなかった筈だ。
あの時点で殺す気があったのなら、ジンの埋伏拳について語る必要はなかった。

ツァイがフーに目をつけられたのは、全くの偶然だろう。
丁度タイミングよく、君達を始末する為の道具が見つかった。
フーからすれば、その程度の事だったに違いない。

――何故、追い払われたと思ったのか。何か異変の前触れがあったのか。

「……理由がない。自国の兵で代わりを立ててまで、私達を呼び戻す理由が。
 もう十分に働いたという訳でも……ないだろうしね……。
 それに、北方戦線に送られてきたのは……どうも兵士だけではなかった。
 学者や、私達のようではない……生粋の術師が混じっていたように見えた」

――呪災が起きた時、何を見たのか。

「呪災が起きた時か……。あの時私は……強い氣の起こりを感じた。
 ……北だ。遥か北の方からだった。北方戦線で何かがあったのだろう。
 少なくともパオはそう思い……だがそれを認めたくなかった……恐らくは、だが」

亡国士団は所詮、国を亡くした者達の寄せ集めだ。
ブルー・マーリンの言葉を借りるなら、繋がりはあっても、真に深い絆はない。
だがその中でもパオはまだ若く、一方的である事も多々あったが、団の仲間を大事に思っていた。
北方戦線――未だ尚、清国に歯向かう敵国の地。
怪僧と、怪僧に愛された王女を抱える露西亜側との繋がりもある。
呪災の発生源としては真っ当過ぎるほど真っ当だ。
だからこそ、認めたくなかったのだろう。

「さぁ……今度こそ、もう語れる事はない。とどめを……刺すといい。
 やれるだけの事はやった……そろそろ……彼女に詫びに行っても……いい、加減だろう……」

願いを捨てて、後戻りする事は出来ない。さりとて君達を殺す事も出来ない。
最早進退は窮まった。これ以外に自分が選べる道はない。
後悔も、心残りもある――彼女にも顔向け出来るとは思っていない。
が、詫びる事が出来るくらいには足掻いたつもりだ。
ツァイの視線が静かに、冬宇子が帯に差した懐剣を捉えた。

59◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:24:39
 
 
 
 
 
――ダーが苦しみ、藻掻きながら息絶えた頃、君達は寺院の前で合流を果たす事になるだろう。

「あん?おいおいオメーら、ジンとか言う軍人はどうしたんだよ。
 まさか死なせちまったんじゃねーだろうな」

「……生還屋はん、それを言ったらウチらだってフェイはん連れてきとらへんで」

君達はこれまでの経緯や収集した情報の交換を行うだろう。
それが門の内か外かは分からないが――フーが君達に何かをする素振りを見せる事はない。
君達が門を越えて寺院の中に入ろうとも、彼は無言でそれを一瞥するくらいしか、しないだろう。

フーは生粋の術師だ。戦士ではない。
攻性の術を的確に打ち込める距離で、寺院の結界を維持しながら君達全員を相手取れるだけの戦闘経験はなかった。
下手に足掻く事はかえって命を縮める事になると判断したようだ。
大人しくしていれば、まだ自分には利用価値が――結界役や情報源、仲介役として――ある事を理解しているらしい。

「……えっと、つまり……これまでの事を纏めると――――どうなるん?」

「なんだよ、今の意味ありげな沈黙。オメーって本っ当にアホなんだな。
 ……んなこたぁよ、あの野郎に聞きゃすぐ分かる事だろ」

「……それって、生還屋はんも分かってへんだけとちゃうの?」

「オメーと一緒にすんなよ。色々確証はねーが、少なくともアイツは何かを隠してやがる。
 それさえ分かってりゃいいんだよ。
 聞きゃ一発で分かる事をあれこれ考えるのは、間抜けがする事だぜ」

「……なんか納得行かへんけど、まぁいいわ。
 確かに言う通りや……なぁ?フーはん?」

あかねの視線の先にはフーがいた。
殆どが燃え落ちてしまった本堂を背に、君達の話が終わるのを待っていた。

「……あぁ、分かってる。全部話すよ。君達に歯向かっても、損しかないからね」

もう、とぼけた調子を演じる必要もない。
静かで抑揚に乏しい声音で、彼は答えた。

「とは言え……正直、もう殆ど全部読めてるって人も、いるんじゃないかな。君達の中には。
 だからまずは、君達が聞きたい事を言ってくれよ。そうすれば俺も話しやすい。
 分かりきった事、どうでもいい事を喋って……君達を苛立たせるのは、俺にとっても得策じゃない」



【尋問タイム。聞きたい事は?】

60◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:24:55
【これまでの簡易なまとめ
 
 フーは不老不死の法を探してるらしい
 でもフーの研究は上手くいってなかったらしい
 この辺りには不死の王と、それが眠る遺跡の伝承があるらしい
 フーはこの呪災を起こしてはいない(と彼は言っている)
 なんか女性の描かれた巻物があったり
 フーはツァイを使って冬宇子達を殺そうとした
 
 冒険者招致の依頼は呪災が起こる前に出されていたらしい
 依頼を届けにきたのは軍人だったらしい
 フーの寺院、ツァイの手習所、ジンの住居周辺には何故か、住民の避難や避難所の構築が行われていなかったっぽい

 呪災の発生源はどうも北方で間違いなさそう
 北方戦線には呪災が起こる前に、学者や戦闘には役立ちそうにない術師が集められていたとか
 
 「冒険者達は不老不死を見つけちゃうよ」的な事をジャンに吹き込んだ日本人女性がいたとか
 
 (ここに記されていない事は多分GMがど忘れしてるだけです)】

61 鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:25:40
鳥居はダーのことは許せなかったが
なにも殺すことはなかったと思う。
だからやきもきしていた。
じゃあ、どうしたらいい?
と、マリーに聞かれたとしても答えられない。
あの狂った映画監督、スペルヴァイザーのときのように
生かせなかったのか。選択の余地を考えるも、もうよくわからない。
生殺与奪の権利はマリーにあるのみだ。

人は自分と、自分に関係するもの以外はいらない生き物なのかもしれない。
自分と同じ価値観に反するものは、見ていて気持ち悪いかもしれない。
そうなにか言い訳染みた自問自答を繰り返すだけで
命は大切なものと叫ぶこともできない鳥居。
いつまでも小さな水溜まりを飛び越せないでいるような気持ち。

――ダーの躯を無力感を湛えた目でみつめる。
するとやって来るのは倉橋たち。
鳥居はなるだけ気づかれたくない気持ちで肉体の再生に集中した。
こんな姿をブルーにみられるのはいい。彼はほとんど他人だからだ。
でも、頼光にはなんと思われるだろう。
いつも、サーカスでコキツカウからバチがあたったとか。
それと倉橋は女、だから、
やだー、あのこ完全に負けちゃってる(笑)
そう思われたら顔から火がでる。
健康男子たる鳥居にはそんな一面もあった。

62 鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:25:55
鳥居の血生臭いのが
生まれたての赤ん坊の匂いに変化すると
彼はよろよろと立ち上がる。

そしてこれまで体験したことを語り出す。
まずフェイ老人はどうしたのということから始まり、話は脱線して森羅万象風水陣のこと。
その中では小さな世界はが構築されており、
誰かの死が他のものに命を与えるらしいということ。
そこで一番言いたかったことは自分の生命力を使い、子どもたちが息を吹き替えしたという事実。

そしてフェイの弟子の子どもたちを瀕死にした呪いの寒波のこと。
この国は戦争の最中とのこと。
ゴセンネンマエの神話。大陸をおさめた王の話。
その王は不老不死の方法を少年に見つけ出させて
不老不死になったあと、それを独占するために
少年を何処かに閉じこめたこと。
その後、悪政を尽くしたため、少年と同じ所へと幽閉されたらしいということ。
その幽閉された場所、つまり今の遺跡には宝の眠っている噂もあり、
遺跡は大陸じゅうに無数もあるということ。
しかし、この国のまわりには二、三個しかないらしいということ。
それらのことを鳥居は、ペラペラと小さい口を動かしてよくしゃべった。
あと、ジャンとマリーの会話。
日本人の女とジャンのいきさつについてはこれからマリーに
聞くこととなるだろう。

63 鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:26:14
「うむむー…」
冬宇子たちの話を聞いてフーを怪しみ始める鳥居。
彼女たちが殺されそうになったのは、
とんでもない秘密を知ってしまった、
もしくは知ってしまいそうになったからだろう。
フェイの話ではフーは悪い人ではないと言っていたから
殺すのにはそれなりに大きな理由があるのだと思う。
人の命よりも大切な理由がだ。

それに付け加えられマリーから聞いたのは、謎の日本人の女の話。
だから鳥居は、何か罠に掛けられたような気分。
日本人が不老不死の方法を手にいれようとしている。
そんな情報を広める理由とはなんなのだろうか。
単に鳥居たちは遺跡の保護を嘆願されたはず。
それに呪災が起きる前に遺跡の保護の嘆願が
出されたということは何かの計画性があったということだ。

つまり呪災は人為的に起こされた可能性が高い。
誰かが、不老不死の実験に失敗して起きてしまったとか
不死の王の仕業とかでもないのかもしれない。
だが、その理由ではフーが知られて困るということとなにも結びつかない気もする。

ならばと鳥居は仮定する。
呪災の犯人がフーだということに。
それが明るみに出てしまえば彼は不老不死の研究を続けられなくなってしまうかもしれない。
想定外だったのは呪災の範囲がおもったよりも拡大し、
侵攻が早かったということ。
他には呪災に一枚噛んでいた日本人の女が裏切ったということ。

北方の遺跡の付近を動死体だらけにしたら普通の人間は誰も近付けない。
いわば動死体のバリケードが出来上がり
不老不死の秘密の眠る遺跡を守ることもできるのだ。
でもこれはあくまでも仮定に過ぎない。
フーは鳥居たちが遺跡を守るということに積極的だったはずだ。
そのために人を連れてこいと言われたのだから。

「あの、あなたは日本人の女性を知っていますか?」
鳥居は自分の考えを固めるために、フーに問うてみた。

64武者小路 頼光 ◇Z/Qr/03/Jw:2013/09/02(月) 22:28:48
>>57
それは壮絶という言葉が当てはまる光景であった。
消耗しつくし、腕を失い全身を焼かれ、強力な打撃を受け、それでも殺すという執念の塊。
意識を失ってなお放たれるがごとき殺気。
冬宇子の結界に半身のめり込ましたまま気絶したツァイの形相が全てを物語っている。

戦いが終わりこと切れる寸前のツァイに幾本もの蔦が伸び絡め取っていく。
「ぶじゅらぁあああああ!!」
蔦の元をたどれはそこには頼光がいた。
倒れたままの姿勢で完全に気となった右手を伸ばし蔦となった指を伸ばしているのだ。
それはもはや頼光と言っていいのだろうか?
七孔から血を吹き白目を剥く形相は人のものを越えている。
口からは血の泡を飛ばしながら意味不明の言葉とも吼え声ともつかぬ声を出している。

頼光が何をしているかはすぐにわかるだろう。
それは【捕食】である。
蔦はツァイの傷口に取りつき血を、命を、吸い取っているのだ。
切り飛ばされた蕾の為に、ダメージを負った苗床の為に、己が生きるために。

剥きだしの本能が、尽きかけたツァイの命を貪っているのだ。
が、それを阻止したのはツァイの命を吸い取り意識を取り戻した【人間頼光】であった。
立ち上がり必死に己の指である蔦を引きちぎり投げ捨てる。
「俺は……!ヒトクイには、ならねえ……」
食い尽くすはずだった命を拒否し、足取りもままならぬままそれでもはっきりと言い切った。

頼光はこの戦いを通じ知ってしまったのだ。
己がもはや人ではなくなった事を。そしてそれが取り返しのつかない事を。
その上で、頼光は生きるための本能を拒絶した。
自分が人足らしめるために不可欠であると感じていたから。

見下ろす先のツァイは頼光の意図とは別にその命を救われていた。
ツァイの命を貪るために取りついた蔦は本体から分離され、生命の危機にさらされていた。
植物の生命力の恐るべきはここにあり。
分離された蔦は新たなる苗床にツァイを選び、寄生したのだ。
貪るために取りついていた場所はそのまま傷口を塞ぐ役割を果たし、宿主を助けるために生命力を分け与える事すらも。
これによりツァイは生命の危機を脱するであろうが、寄生融合されて人と言えるのであろうか?

しかし頼光にとってツァイの行き先などどうでもいい事だった。
破った敵よりも自分自身の行き先の方が不安定であり、重要なのだから。
「くそおぉ、俺河童みたいになってるじゃねえか。どうすんだよこれええ!!」
己の頭頂部が綺麗に刈り取られていることに気づき、愕然としていた。

思い出してほしい、頼光が今回大陸に来た訳を。
鳥居の元でサーカスの猛獣として火の輪くぐりをして髪の毛が燃えたことがそもそもの発端だったのだ。
自慢の長髪が燃え、サーカスに見切りをつけて大陸行を決めたのだ。
そんな頼光が河童状態にされたのであれば、相応の衝撃があると言えるだろう。
意識を取り戻したツァイを冬宇子とブルーに任せ、頼光は休憩室へと消えていってしまった。
ツァイへの報復よりも、尋問よりも重要な事の為に。

尋問が終わったころに頼光は休憩室から戻ってきた。
何処から引きずり出したか、大きな布を頭から被って。
宿直用の布団を切り裂きローブの様に被って河童頭を隠しているのだ。
「おう、終わったか?
もうこんな場所にゃあ用はねえ。
黒幕があのフーのやろうってわかったんだし、早く戻ってぶちのめすぞ。
この俺様に舐めた真似しやがって!!!」
河童になった頭と気になった右手を隠し、被った布から左手をだし握り拳を見せる。

大陸に来てから散々振り回されてきたが、ようやくはっきりとした【敵】が判ったのだ。
怒りと恨みと鬱憤をぶつけるべく頼光は一刻も早く寺院に戻るように二人に促した。

65武者小路 頼光 ◇Z/Qr/03/Jw:2013/09/02(月) 22:29:11
寺院前に出来立てのダーの死体の前で合流を果たした。
このような状況で死体に対しすでに感覚がマヒしているが、巨体が血の河を作っているのはいい気分ではない。
ましてやこの状況を作ったと容易に想像がつくマリーから漂う殺気の余韻の方がインパクトが強かった。
以前殺し屋だと本人から聞いてはいたが、その時は本気になど聞いていなかった。
だが今、それが真実であると叩きつけられたかのような感覚に襲われていた。

そんなマリーを避けて鳥居に目をやると、今の頼光にはそれだけで分かった。
が、そのことに対する配慮という言葉は存在しない。
「あ、糞ガキ、お前も人間やめちまったのかよ」
思わずこぼれる言葉。
だがそこに侮蔑も嘲笑もない。
それは完全に同病相憐れむものなのだから。

大きくため息をつく頼光。
合流後にそれぞれがカクカクシカジカとお互いにあったことを話し合うのだが、そこでも頼光はほとんど何も喋らなかった。
いつもならば針小棒大に己の手柄と武勇伝を並べるであろうに。
喋らなかっただけでなく、聞いてもいなかった。
もう何があったのであろうとも関係ないのだから。
フーという明確な【敵】が設定された時から頼光の思考は更に単純化され、視野狭窄状態になっていた。
やる事は一つしかないほどに。

>「……なんか納得行かへんけど、まぁいいわ。
> 確かに言う通りや……なぁ?フーはん?」
>「……あぁ、分かってる。全部話すよ。君達に歯向かっても、損しかないからね」
あかねの視線の先にフーが立っている。
自分が何をしたか理解し、その上でのうのうと!

フーの存在を確認した瞬間、頼光がはじけた。
「この腐れ外道が!てめーが誰に何したかぁ!!!」
もはや取引や情報収集などという言葉は存在しない。
置き去りにされた布から飛び出た頼光は河童のような頭と完全に木になった右腕を晒しながらフーに飛びかかる。
「この落とし前つけてやらぁああああ!!!」
怒りに完全に我を失った頼光。
止めなければフーを殺してしまうであろう。

●詰所
【結果的にツァイの手当てをしたことに】
【河童頭恥ずかしいので布を被っています】

●寺院前
【マリーやべぇ!鳥居人間やめちゃったのかよぉおお!】
【フーにブチキレ、飛びかかる】

67倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:31:59
>>55-58

頼光が地面を這う蔦に放った炎が、男の道士服に燃え移る。
ブルー・マーリンに殴り飛ばされ、地面に伏したツァイは、それでも尚、諦めるということをしなかった。
上半身を起こした男の、失った右腕に迸る鮮血。
残った左腕にも銃弾を撃ち込まれ、拳を握ることも出来ぬ彼は、左の掌を二本の鉄杭で貫き、結界の基点とした。

>「結界を……移動に使えるのは……君だけでは……ない……私にだって……当然……」

掌に突き出す鉄杭の先端から、剣状結界が伸びる。
地面に突き当たった結界を、更に伸延。
地面を押す伸延の反作用が、基点となるツァイの身体を持ち上げ、冬宇子の元へと運ぶ。
落下するツァイの肩が、冬宇子の展開する緩衝結界に侵入した瞬間、発光と共に不可視の壁が消失した。
冬宇子の緩衝結界は、物理的、霊的な衝撃を弾く効果が持つが、生命の波動には脆弱である。
練精した氣を持つツァイほどの術士であれば、触れただけで、簡単に破壊されてしまう。

>「もう……君を絞め殺すほどの力も……残っていないが……これで十分だ……。
>結界を解いて……一回り小さく再展開する暇が……君にあるかな……?
>あと……二人……まだ……十分……やれる……」

満身創痍の男は、諦める事を忘れたかのように、不屈の意思を以って攻撃を続けていた。
冬宇子達を殺す目的も、報酬も、自身の命すら度外視して、あたかも、『目的に向かう意思』に殉じることだけが、
彼にとっての救いであるかのように。
鬼気迫るその姿は、凄愴で、美しくすらあった。

服を焼き皮膚を焦がす炎を背に纏い、男は、鉄杭の刺さった掌を向ける。
ツァイの読み通り、結界の大きさを変えて瞬時に再構築する技量など、冬宇子にはない。
霊光の切っ先が、冬宇子の喉元へ―――!

今しも、剣状結界が冬宇子の喉を貫くという刹那、唐突にその伸延が止まった。
剣に細かい罅割れが走り、薄氷を叩いたように砕け散って、消滅。
同時に、ツァイが崩れ落ちた。
多量の失血、全身の火傷――気力だけで立ち上がっていた老結界師の身体は、ついに限界に達したのだ。
切り倒された老木のようにゆっくりと傾き、鉄杭を構える体制そのままに、仰向けに倒れ伏す。

冬宇子はツァイの横に跪いた。
一枚ずつしか無い手持ちの五行補助符のうち、水符は、ジンとの戦いで消費してしまっている。
脱いだ外套を男の身体に被せて軽く掌で叩き、未だ燻る着衣の火を消し止めた。

>「ぶじゅらぁあああああ!!」

頭頂の蕾を刈り取られ、気絶していた頼光が、奇声を上げた。
木行の化身たる男の身体から幾条もの蔦が伸び、ツァイの腕の傷に絡み付く。
巻き蔓が紅葉するように赤く染まり、吸血していると知れた。
頼光に巣食う霊樹が、失った養分を補おうとしているのだ。
冬宇子は、腰帯から懐剣を抜き――破邪顕正の力を備えたその霊刀で、ツァイを捕食する蔦を断ち切った。

>「俺は……!ヒトクイには、ならねえ……」

蔦を引き千切り、苦悶する頼光。
―――裡なる霊樹の欲求に抗うとは……あの男、思っていたよりも骨のある男なのかもしれない―――
ツァイの左手を貫く鉄杭を抜き取りながら、冬宇子はそんな事を思った。

焼け爛れた男の手を、そっと握った。
營目の術を応用し、自らの氣を男の身体に送り込む。
深い呼吸を繰り返し、途絶えそうな経絡の氣の流れを整えようと試みた。
ツァイを死なせる訳にはいかない。彼には、まだまだ聞かねばならぬ事がある。
そして何より、冬宇子自身がもう少しだけ、この初老の男と話をしていたかった。

68倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:32:31
生命の流れは微弱であった。
冬宇子が少しでも気を抜けば、握った手の中から、命が零れ落ちてしまいそうなほどに。
奈落に落ちかけている男の生命を、崖の上から引き揚げて、腕一本で、かろうじて引き留めているような状態だ。
やがて、男の瞼が微かに震え、うっすらと見開かれた。

>「……生かしたのか、私を」

意識を取り戻したツァイは、浅い溜息を吐く。

>「黙っていても、君なら直ぐに見抜く事だろうから……言っておくが。
>……私は、後戻りは出来ないよ」

口端を曲げて、乾いた笑みを漏らした。
たとえ命を救われようとも、命のある限り、冒険者達を殺す事を止めない――彼はそう言っているのだ。
冬宇子は答える。

「用があるから生かしたんだよ。余計な気遣いは無用さね。
 あんたには、まだまだ、答えて貰わなきゃならない事があってね。」

――フー・リュウと手を組んだのは、いつからなのか。
――亡国士団の王都帰投を、北方戦線から遠ざける為だと思ったのは何故か。何か根拠があるのか。
――呪災が起きた時、ツァイ自身は、何を見たのか。
三つの疑問を、順に投げかけた。

>「さぁ……今度こそ、もう語れる事はない。とどめを……刺すといい。
>やれるだけの事はやった……そろそろ……彼女に詫びに行っても……いい、加減だろう……」

奄々とした苦しい息の下で、質問に答え終えたツァイの眼から、次第に光が消えていくのが判った。
虚ろな瞳が、それで楽にしてくれ――とばかりに、冬宇子の腰帯の懐剣をなぞる。

「まァ、そう急くんじゃないよ。
 あんたと話がしたいって人間が、ここに、もう一人いるのさ。
 今から三十年余前―――あんたはとっても可愛い青年だったって、"彼女"、言ってるよ。
 ちょっと煮えきらないところもあったけど、それは優し過ぎるせいだ…ってね。」

意味ありげな表情で、ツァイの顔を見下ろす。

「私の母親は死者の口寄せを生業とする梓巫女だった。私も子供の頃は、よく憑巫(よりまし)をしたよ。
 要するに、死者と口を利くのは私の職能でね。」

視線を上に――ちょうど、ツァイの枕元あたりに座っている女の顔に留めて、

「"彼女"――あんたの"守護霊鑑"だがね……大した霊能だ。
 生前の姿情のままに顕れて、私に話し掛けてきてね。
 自分は決して、あんたを見捨てちゃいない――って。他にも、いろいろと、あんたのことを教えてくれたよ。
 この世ならぬ者の力を借りたからには、願いを聞いてやるのが、梓巫女の流儀ってものだ。
 ―――"彼女"、あんたと話をしたいんだとさ……しばらくの間、身体を貸してやるよ。」

始終浮かべていた不機嫌な表情を、一瞬だけ崩し、悪戯っぽく笑って、冬宇子は目を閉じた。

守護霊鑑とは、いわゆる守護霊。
血縁者や生前に親しかった者は、死して尚、生者の外背(そとも・背中)に宿り、その者を見守り続けている。
通常のそれは、死者の魂のほんの僅かな欠片であり、在りし日の光の残渣のようなものでしかない。
確かに、外背に宿り見守ってはいても、意識もなければ言葉も持たない、透明な意思体のような存在だ。
むろん口寄せの技術を持つものであれば、その欠片から死者の魂を手繰り寄せて、霊を招くことも出来るのだが、
今回はその必要も無かった。
霊位の高い者や霊能に優れた素質の持つ者は、生前の姿情そのままに、生者に付き従っている事があるのだ。

霊を察知する能力のある者ならば、目にすることが出来るだろう。
冬宇子の身体に、淡く輝く光の粒子が取り付き、輪郭がぼやけていくのを。

69倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:35:28
「ツァイ――わかる?私だよ……私…ずっと傍にいたんだよ。」

口調も、声色も、明らかに冬宇子のものとは違っていた。
冬宇子を包む光の粒子が形を定め、別人の姿を描いていく。
意思的な濃い眉を持つ、活発そうな――けれど何処かに、高貴な身分に相応しい気品を漂わせた乙女の姿へと。
大輪の花が綻ぶような笑顔でよく笑うさまが目に浮かぶ、明朗美麗な顔立ちだった。
しかし、霊体となって顕れた彼女の顔は、深い憂悶に沈んでいる。

「私、アナタの嘆きを見ているのが辛かった……私のせいで後悔するアナタが……」

冬宇子に憑依した女が、依り代の身体を通じて、ツァイに語りかけていた。

「――――ごめんなさい。アナタを苦しめているのは、私だね。
 私が、アナタを選んだ理由はね……
 アナタは優しいから、秘密を――いつか国を出て行くって決心を――打ち明けたら、
 きっと、私を護ってくれるって、そんな打算があったのも事実。私、ずるいよね……」

ツァイの顔を見詰めて、佳人は暫し黙り込む。

「だけど、これだけは嘘じゃない……私、アナタにも自由になって欲しかった。
 アナタが、そう望むらなら。すべてを捨てて。
 あのちっぽけで因循な国からも……固陋な王――私の父からも……辛そうな仕事からも。」

冬宇子の――いや、ツァイの想い人の瞳から、涙が溢れた。

「なのに………私のせいで、アナタの一生を縛ってしまったんだね。足枷になっているのは私……」

佳人の頬を伝って落ちる雫が、ツァイの顔を濡らす。

「ちゃんと聞いてたよ……私に、あの山をくれるって約束してくれたよね。
 あの日、一緒に見た国境の山を……私、とてもうれしかった……!
 ……でも、本当は……それよりも……もっと、アナタにして欲しい事があったの。」

掌を握る手に、微かな力が込もった。

「アナタが生きているうちに伝えたかった―――自由になって……!私からも、後悔からも……!」

はらはらと頬を流れる涙を拭いもせずに、彼女は、円けく笑った。
雨にしとど、濡れた牡丹の蕾が、綻ぶような笑顔だった。

「言いたいことを言ったら、何だか軽くなっちゃった……
 私、もうすぐ、"あっち側"に行くんだわ……そんな気がする。
 でも、忘れないで……"私の一部"は―――これからも、ずっと、傍にいるよ。
 アナタが生きているうちは、ずっと……!」

再び輪郭が揺らぎ、女の身体の周囲に光の粒子が舞っていた。

「アナタは、三日後に答えをくれるって約束を守れなかったけど、私だって、アナタを利用していた卑怯者……
 おあいこだよ。
 私に詫びる必要なんてない。アナタの思い通りに生きて。
 そうして、いつか本当に、"来るべきその日"が来たら、私、きっと迎えに来るから……!」

散り散りに舞って大気の中に溶けて――やがて光の粒が消え去った時には、
佳人の姿は既に無く、ツァイの傍らには冬宇子が座っていた。

かつての想い人の願いを知ったツァイは、何を思うだろう――?
冬宇子には知るすべもないが、頼光が放った寄生蔦は、主から切り離されたことで、
新たな宿主への救命の綱へと変化していた。しかし、ツァイは、それを受け入れようとはしなかった。
自らの死期を悟った男の、最後の矜持だったのかもしれない。

けれども、彼が生を望みさえすれば、寄生蔓は体内へと侵入し、生命を救うであろう。
このまま、なつかしい想い人と共に、旅立つことを望むのなら、それも果たせぬでもない。

70双篠マリー ◇Fg9X4/q2G:2013/09/02(月) 22:36:17
「…」
地に伏せたダーを見下しながら、マリーは短剣についたダーの血を拭った。
そして、深く息を吐くと鳥居たちのほうへ振り返る。
「…どうした?」
ちょうど合流していた頼光たちに殺しの現場を見られてもマリーは淡々とそう話して
それぞれの様子を伺った。
当然ながら各々の反応はいいものではないのは確かだ。
だが、マリーはそれを意にせず平然と振舞う。
「それぞれ私に言いたいことがあるのかも知れないが、それは後だ。
 とりあえず、お互いの結果報告といこうか」
そう促すと我先にと言わんばかりに鳥居が話を切り出し始めたので
マリーはそれに続いて話す。
「まぁとにかく、君らがここに来る前にフーの依頼は済んでた訳だ。
 それよりも、この依頼「我々」と「亡国士団」の他にも別の勢力が関わっている可能性がある
 見て分かると思うが、先ほどこの寺院が襲撃をうけてな
 その襲撃犯が亡国士団所属のジャンという男だったわけだ。
 そいつは極私的な理由でここを襲ったと言っていたのだが、
 どうも我々がここに来ること…不老不死の秘宝を探していることを日本人の女に知らされていたそうだ
 ただ、ここで少し引っかかるのは何故その女が我々も知らなかった目的の秘宝を知っていたか…だが
 いまここで何をどう言おうと答えは出ないだろうな」
そう言いながらマリーは生還屋に視線を向けた。
そもそもこの依頼はこの男から話が始まっている。
この男を締め上げればもしかしたらこのもやもやとした謎がある程度明かされる可能性もあるが
迂闊に手を出す前に逃げられるのは確実だ。
今はただこうして視線を向けることしか出来ない。
「忘れていたがこの死体(ブタ)はただの暴漢だ。
 自作自演で英雄になる協力しろと脅迫してきたんでこうしてやった
 …まぁ私からは以上だよ」

「…」
倉橋たちの話をマリーは険しい顔で聴き終えると何も言わず寺院の中へ入っていった。
焼け落ちた本堂の前でフーは待ち構えるように佇んでいた。
開き直った素振りにマリーは一瞬殺意を覚えたが、それを抑え、フーに話しかけようとした瞬間
それより先に激昂した頼光がフーに襲いかかる。
「気持ちは分かるがぁ!!!」
頼光の背後からタックルで押し倒すと、即座に腕を決め押さえつける
「お前の気持ちは痛いほど分かるが、もう少し落ち着け
 ここで奴を殺したらこの異変を止めることができなくなるぞ」
頼光をなだめつつ、マリーはフーに視線を向ける。
「開き直ってよかったな、下手にとぼけていたなら、私もコイツと一緒にお前を殺していたところだ
 …私から聞きたいことは一つ、今回の災害の原因、これは眠りから覚めた不死の王による復讐からか
 それとも何かしらの軍事計画の失敗によるものか、それとも一個人の私利私欲によるものか
 もしくはそれ以外か、私はそれが知りたい」

71◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:37:14
>>67-69
>「まァ、そう急くんじゃないよ。
  あんたと話がしたいって人間が、ここに、もう一人いるのさ。
  今から三十年余前―――あんたはとっても可愛い青年だったって、"彼女"、言ってるよ。
  ちょっと煮えきらないところもあったけど、それは優し過ぎるせいだ…ってね。」

倉橋冬宇子が何を言っているのか――ツァイは、すぐに理解する事が出来なかった。
若き頃の己を知る『彼女』――そんな女性は、一人しかいないに決まっているのに。

>「私の母親は死者の口寄せを生業とする梓巫女だった。私も子供の頃は、よく憑巫(よりまし)をしたよ。
  要するに、死者と口を利くのは私の職能でね。」

思い込んでいるのだ。
自分は彼女の夢を奪った――そんな自分の傍に、彼女がいてくれる筈がない。
筈がないし、いてもらっていい筈がないと。

>「"彼女"――あんたの"守護霊鑑"だがね……大した霊能だ。
  生前の姿情のままに顕れて、私に話し掛けてきてね。
  自分は決して、あんたを見捨てちゃいない――って。他にも、いろいろと、あんたのことを教えてくれたよ。

しかし冬宇子の言葉が重なるに連れて、徐々に理解が追いついてくる。

「……まさか……彼女がいるのか……?そこに……?」

力尽きた筈のツァイの上体が微かに起き上がる。
そして冬宇子の視線が向く先を、彼は見た。
――だが、何も見えない。あるのは夜闇に染まった虚空だけだ。

やはり――自分には見えない。見えていい筈がなかったのだ。
落胆と、それよりも遥かに大きな、救いを期待した自分への嫌悪が心に滲む。

何気なく、ツァイは冬宇子へと視線を戻した。
なんの期待もせず、ただ声が聞こえたから、程度の理由で。

> この世ならぬ者の力を借りたからには、願いを聞いてやるのが、梓巫女の流儀ってものだ。
  ―――"彼女"、あんたと話をしたいんだとさ……しばらくの間、身体を貸してやるよ。」

そして、彼女を見た。

>「ツァイ――わかる?私だよ……私…ずっと傍にいたんだよ。」

言葉が出なかった。呼吸すらも忘れていた。

>「私、アナタの嘆きを見ているのが辛かった……私のせいで後悔するアナタが……」

「っ、違う……!何故君がそんな……全て私のせいじゃないか……私のせいで、君は……!」

>「――――ごめんなさい。アナタを苦しめているのは、私だね。
  私が、アナタを選んだ理由はね……
  アナタは優しいから、秘密を――いつか国を出て行くって決心を――打ち明けたら、
  きっと、私を護ってくれるって、そんな打算があったのも事実。私、ずるいよね……」

「よしてくれ……君は私を信頼してくれていた……私がそれを裏切った……それだけだ……」

彼女は強かであり、弱くもあった。
己の夢を叶える為の打算を立てる賢しさを持っていながら、冷徹になり切れない優しさがあった。
だから分かる。彼女が今紡いだ、己の打算を悔いる言葉――それさえも打算なのだ。
まるきり全てではなくとも、自分の罪悪感を和らげる為の計算がそこにはあるのだと。

72◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:37:35
>「だけど、これだけは嘘じゃない……私、アナタにも自由になって欲しかった。
  アナタが、そう望むなら。すべてを捨てて。
  あのちっぽけで因循な国からも……固陋な王――私の父からも……辛そうな仕事からも。」
>「なのに………私のせいで、アナタの一生を縛ってしまったんだね。足枷になっているのは私……」

ツァイは無言で、ただ首を横に振る。
彼女を足枷にしたのも、自分自身だ。
彼女を死なせてしまったという重すぎる罪を、彼は償いの枷で打ち消したかった。

>「ちゃんと聞いてたよ……私に、あの山をくれるって約束してくれたよね。
  あの日、一緒に見た国境の山を……私、とてもうれしかった……!
  ……でも、本当は……それよりも……もっと、アナタにして欲しい事があったの。」
>「アナタが生きているうちに伝えたかった―――自由になって……!私からも、後悔からも……!」

その可能性には彼女だって気づいている筈だ。
それでも彼女は、それを嬉しかったと言ってくれた。
自由になれと言ってくれる。

>「言いたいことを言ったら、何だか軽くなっちゃった……
  私、もうすぐ、"あっち側"に行くんだわ……そんな気がする。
  でも、忘れないで……"私の一部"は―――これからも、ずっと、傍にいるよ。
  アナタが生きているうちは、ずっと……!」

それがツァイには、途方もなく嬉しかった。
王女の零した涙が彼の顔を濡らす――そして彼もまた、泣いていた。

>「アナタは、三日後に答えをくれるって約束を守れなかったけど、私だって、アナタを利用していた卑怯者……
  おあいこだよ。
  私に詫びる必要なんてない。アナタの思い通りに生きて。
  そうして、いつか本当に、"来るべきその日"が来たら、私、きっと迎えに来るから……!」

王女の姿が薄らいでいく。
彼女を引き止めたい、引き止めなければ――ツァイは咄嗟にそう思った。
やっと会えた彼女に、もう少しだけ、自分の傍にいて欲しい。
――自分の結界術なら霊体を閉じ込める事だって出来る。

これが気の迷いだとは、分かっている。
彼女がそんな形でこの世に留まる事を望む筈もない。
全て分かっている――

「――待ってくれ」

ツァイが掠れた声で彼女を呼び止めた。
そして結界を創り出し、あちら側へ旅立とうとしている霊魂を引き留める。

「すまないが……君の頼みは、聞けそうにない」

それは、やっと出会えた彼女を、もう二度と手放したくないが故。
――ではなかった。

「初めてなんだ……君の事を、こんなにも穏やかに想う事が出来たのは……。
 王女でもなく……私が死なせてしまった、償うべき人でもなく……
 ただ君を想う事が……やっと、出来たんだ……」

行って欲しくない。傍にいて欲しい。
彼女は優しい。望まなくとも、自分が願えば、きっとそれに応えようとしてくれる。
それでも――駄目だ。彼女はずっと自由を望んでいた。
その彼女を、自分が縛り付ける訳にはいかない。

73◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:38:01
「答えは今、ここで返すよ……私はこれからも君の事を想いながら、君の為に、生きていく。
 もう償いではなく……そうして生きていたい私の為にね」

――人が為すあらゆる行いは、突き詰めれば全て自分の為だ。
人助けだって自分の欲求を満たす為である事には違いないし、
誰かに屈服する事ですら、逆らう事による不利益よりも屈服を選んだだけに過ぎない。
償いだってそうだ。そこには絶対に自分の望みが付き纏う。
償いたい。償う事で楽になりたい。彼女の為に生きたいと言う願望。
彼女の為に生きる事すら、彼女の望みを奪った自分を満たす事に繋がってしまう。
ツァイをずっと苦しめてきた、その進退両難が、今やっと消え去った。

――結界が消える。今度こそ、彼女は居なくなってしまう。
それでも、もう迷いはなかった。
心穏やかに、ツァイは彼女を見送る事が出来た。

「あの山は……絶対に手に入れてみせる。君が見たかった世界も、見て回る。
 いつかまた君に会う時が来たら……それを話すよ。楽しみに……していてくれ」

――ツァイは生きる事を望んだ。
その精神の動きを契機に、体内に侵入した植物は彼に深く寄生するだろう。
もうまともな人間の体ではいられない――だがツァイがその事に狼狽える様子はなかった。
彼にとって、自分の体が人間のそれであるかどうかは、そう重要な事ではないのだろう。
やや複雑な気分になる事はあっても、大切なのは彼女の事を想い、生きていく事。
それさえ出来るのなら、つまり今の所はまだ――彼が己の体のあり方に嘆く事はなかった。

「君達には……本当に迷惑を掛けた。償いは必ずする。
 この命ばかりは、渡す訳にはいかなくなったがね……」

「だが、少しだけ時間をくれないか。……今からでも、彼を助けに行きたいんだ。
 ……もし良ければ、さっきの符を、もう一枚だけ貰えないだろうか」

君達はその頼みを断る事が出来る。
自分達の命を奪おうとした彼に報いを与えようとする事も。
だが彼は植物の寄生によって体力を、完全にではないにしても回復している。
その上、最早君達を殺す必要も、この場に留まる理由もないのだから――
報復がしたければ北京の市街を駆け回る羽目になる。
それはあまり賢い選択ではないだろう。

74◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:38:20
【寺院にて】

>「この腐れ外道が!てめーが誰に何したかぁ!!!」

頼光が叫ぶ。憤怒を露わにして襲い来る彼に、フーの顔が見る間に青褪める。
苦味を帯びた表情が彼の心中を語る。
やはりこうなったか――だが、黙って殺される訳にはいかない、と。

こうなった時の為に、袖の内側には何枚もの符を隠してある。
袖に収めた右手の指先がその内の一枚に触れた。
鳥居の目の治療に使った符――『盲目』を移し、封じた符。
これを使えば頼光を躱す事は出来る。
だが同時に『自分はいざとなれば『そういう手』を使うつもりだった』と悟られる事になる。
そうなったら後がないかもしれない。
だからフーは――符を抜かなかった。

>「気持ちは分かるがぁ!!!」

そして直後に、双篠マリーが頼光を背後から押し倒した。
そうだ。自分にはまだ利用価値がある。誰かがこうしてくれると、信じていた。
フーは汗の滲んだ右手を符から離し、深く息を吐く。

>「開き直ってよかったな、下手にとぼけていたなら、私もコイツと一緒にお前を殺していたところだ
 …私から聞きたいことは一つ、今回の災害の原因、これは眠りから覚めた不死の王による復讐からか
 それとも何かしらの軍事計画の失敗によるものか、それとも一個人の私利私欲によるものか
 もしくはそれ以外か、私はそれが知りたい」

「……どれも間違いじゃない。だけど元を辿れば……原因は俺だ。
 君達が地下室から持ち帰ってくれた物があったろう。アレは俺の、不老不死の研究資料なんだ。
 清はもう直に大陸を統一する。だから王は次の事を手がける事にしたんだ」

貿易体制の整理、首都近辺の治安回復――今回の依頼である遺跡の保護も、その一環の筈だった。

「……もう察しは付いてるんだろうけど、王は俺のような宮中の道士に一つの使命を課した。
 王は全きお方だ。もしあの方がずっとこの国を治めてくれたなら、清の栄華はきっと永遠に続く……。
 王自身もそう思ってる――だから俺達に、不老不死の法を見つけ出すように命じたんだ」

フーが懐から数冊の書物を取り出した。
マリー達が地下室から持ち帰ってきた物だ。

「これの為に、君達には苦労をかけた……だけど実は、これには何の価値もないんだ。
 ただ未練がましく縋り付いてしまっただけで……俺の研究はまるで成果を上げてなかったんだよ。
 だから俺は……『既に完成したもの』を、探す事にしたんだ。
 術師としては最悪の選択だ。それでも……どうしても俺が王に不老不死の法を捧げたかった」

「それで目を付けたのが……君達がフェイから聞き出した、不死の王の伝説だ。
 俺は流れを操る術が使える。風と水……風水を。遺跡の位置を見つけ出すのは簡単だったよ。
 不死の法なんかより、ずっと……けれど俺一人でその遺跡を掘り起こすなんて出来る訳がない」

「だから今度は宮中や軍に風説を……噂を流した。北の戦線付近にヤバい呪物の眠る遺跡がある。
 北の連中はその情報を既に掴んでいるかもしれない……ってね。そうすりゃ軍が動く。
 呪物絡みなら、俺の専門だ。俺は王付きだけど、俺の弟子を軍に貸すって形で遺跡に送り込める。
 ……全て、失敗に終わったんだろうけどね。これが事の顛末だ」

語り終えると、フーは項垂れて深く嘆息を零した。
だが語らねばならない事は、まだまだ残っている。

75◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:38:38
>「あの、あなたは日本人の女性を知っていますか?」

鳥居の問いに、フーが顔を上げる。
やや困惑したような表情――それから躊躇い気味に、冬宇子とあかねに視線を向けた。

「いやいやいや、それはちゃうやろ。えーっとな、ちょい待ってや。今説明するから――」

あかねがジャンとの最期の会話をフーに説明する。

「――君達が、不死の法を?いや、じゃなくて……そんな女には俺だって知らない」

「……そうやってしらばっくれる事は誰にでも出来んだぜ」

生還屋が穿った視線をフーに向ける。

「……もしその女が俺の味方だったとしても、不死の法の事を口外した時点でそれは裏切りだ。
 だったら俺がソイツを庇う理由はないだろ?本当に知らないんだ。
 俺に協力者なんていない。全部、一人でやった」

「……なるほどねえ」

生還屋はまだ、納得しているようには見えなかった。



【呪災の引き金となったのは自分。実際にどういう経緯で呪災が起きたのかまでは知らない
 この件に関して協力者はいない。全部一人でやった(とフーは言っている)
 日本人の女性とやらに心当たりはない】

76倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:39:45
>>71-73

水汲み場は湧き水を利用しているようで、
腰ほどの高さの石垣に埋め込まれた竹筒の先から、清水が流れ出していた。
流水には悪氣が溜まりにくい。未だ冷気の呪いに汚染されてはいない筈だ。
倉橋冬宇子は咽せ込みながら、掌に溜めた水で、生薬の粉末を飲み下した。
警備詰所で手渡された包み。その中には、咳止めと補陽の効能のある生薬が幾種類か詰められている。
しばし咳き込み、呼吸が落ち着くと、今しがた口にした薬剤を処方してくれた男の顔が、頭に浮かんだ。

「ちょっと前までは自分が死に掛けてたってのに……まったく、律儀な男だよ。」

彼が助けたという行きずりの男を救う為に、と、治癒符を求める男の顔を思い起こして、冬宇子は呟く。
王都警備詰所での戦い―――結果として、ツァイ・ジンは命を取り留めた。

王女に憑依されている間、霊体の感情に呑み込まれぬように防護を固めた意識の奥で、
冬宇子は、彼女とツァイの会話を聞いていた。

口寄せを通じて、亡き王女との逢瀬を果たしたツァイは、生きることを望んだ。
切り離されて主を失っていた吸精蔦が、生を希求するツァイの感情に反応し、体内に取り込まれていく。
呪力を帯びた蔦が彼の身体に寄生。新たな宿主の命を救うために傷を塞ぎ、樹液を分泌して失血を補う。
切り落とされた腕の傷は、樹皮のような罅割れた瘡蓋で塞がれ、
酷い火傷を負っていた胴体は、若木の幹の如き緑掛かった色の皮膚で修復されていた。

頼光が捕食のために放った蔦。死者の声を聞く冬宇子の霊媒の能力。
守護霊鑑として三十余年、ツァイに付き従っていた王女の想い。
頼光とツァイの氣の相性……
幾つもの偶然が齎した、一種の奇跡だった。

けれど、寄生蔦は、生長の為に宿主の精気を必要としただけで、その共生は仮初めのものでしかない。
そう遠くない未来に、ツァイは寄生蔦に体内を侵食され尽くし、食べ残された果物の皮のような無残な屍を晒すのだろう。
行き着く先、宿命づけられた、あさましい死に様。
高位の術士であるツァイは、それを直感的に理解している筈だった。
それなのに―――
黄泉へと旅立つ、かつての想い人を見送る男の顔は、穏やかで、満たされていた。

「初めて出会ったものが、『本物』だった―――か……」

男と別れた詰所の方向を振り返り、冬宇子は呟く。

ツァイの王女への想いは、紛れも無く『本物』だった。
本物であるがゆえに、捨て去ることも、弄ぶことも出来ずに、彼は、その檻の中に囚われてしまった。
結界師としての並外れた技量、大国におもねれば重用されたであろうに。
亡き王女への想いゆえに妻の一人も娶らず、滅びた故国への未練も捨てられず、
亡国志団などという捨て駒に等しい傭兵部隊に流れ着き、叶う見込みの無い志に向かって、戦う日々。
彼は半生を棒に振ったに等しい。

後悔を捨て、自由になって、生きて欲しい―――王女の願いを聞いたツァイは、
これからも王女を想い、王女のために生きていくと誓った。
亡きひとの、思い出と鎮魂のために生きていく。それが己の幸福なのだと。
理知的で老成した男が垣間見せた、若人を凌ぐほどの、愚かで、狂おしい、情熱を振り返るにつれて思う。
『想い』―――『いとしい者を想う気持ち』の、なんと不条理なものか。

本物の『想い』はおそろしい。
いつか必ず、どんな形にしろ、失うことが判っていながら、いや――失ってしまった後でさえ、
手にしてしまったら最後、心に楔を打ち込まれて、囚われる。
そこから逃げ出すことが出来なくなってしまう。

77倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:40:52
冬宇子は思う。
―――偽物でいい―――自分は、偽物で充分だ、と。
偽物であれば、何処かにあるかもしれない本物を傷つけずに、弄ぶことが出来る。
偽物なのだから、最初から無いも同然だ。無いものを失っても悲しむ必要なんかない。
それでいて、心の何処かで、想いのために生きる男と、想いを寄せられる女の姿に、憧れを感じてもいたのだ。

整理の付かぬ思いを抱えたまま、冬宇子は、闇に沈む街路を黙々と歩いた。

瓦屋根の民家が連なる王都の一角、
暗闇と静寂の中に、時折、徘徊する動死体の足音と呻き声だけが聞こえる。
軒下の影は黒々と濃く、その下を歩いていると、わだかまった夜の闇が圧し掛かってくるようにも思われた。
『軒下も三寸下がる、丑三つ時』――という言い回しがある。
家の軒先すら眠りこけて垂れて見える、不気味なほどに静まり返った真夜中の形容であろうか。
時刻は丁度そのあたりか。
あと一刻もすれば夜が明ける。

嘆願所じきじきの招集。遺跡保護の依頼を受けて、飛行機で日本を発ち、パオの打ち上げた花火を被弾して墜落。
この国に降り立ったのが夕刻。
清国に到着し、呪災に巻き込まれてから、まだ半日も経っていないというのが嘘のようだ。
夜を徹して歩きづめ。加えて三度の戦闘。
女給暮らしの不摂生、夜には強いが、さすがに疲労が溜まっていた。
無尽蔵の体力を誇るブルーと、半ば人外と化している頼光にとっては、造作ない運動なのかもしれないが。


>>54

冬宇子は、ふっと思い出したようにブルー・マーリンを見遣って、口を開いた。

「さっきは悪かったね……"人の上に立つような器じゃない"――なんて言っちまって。」

少々バツが悪そうな調子で、冬宇子は言う。
ツァイとの戦いの折、霊樹に侵食されつつある頼光を焚き付けるような激を飛ばしたブルーを、
『迷うことすら出来ない愚か者』、『何を畏れるべきかも知らぬ子供』、と手酷く罵っていたことを思い出したのだ。

『どんな力も意思さえあれば、己の手に握りこむことが出来る』という彼の持論の中にも、一部の真理はあり、
まるで間違いであるとは言い切れぬ。
けれど、頼光と同様に、自らの裡に宿る悍ましい存在を畏れている冬宇子にとって、
ブルーの言葉は、これまで挫折や葛藤を経験したことのない、無邪気な青年の口から出た
空論のようにしか思えなかったのである。
事実、彼もまた、完全には制御できていない不安定な力を抱えている。

「私の言った事、あんまり気にしないどくれ。
 誰にだって虫の居所が悪い時ってのはあるもんだろ?苛々して、つい口から出ちまったんだよ。」

ブルーは、同じ目的のために清国を訪れた同業者、この異国の地においては貴重な協力者だ。
彼は、素直で純朴な好青年であり、捻くれた所がまるで無い。
少々思慮に欠ける部分はあるが、そこがまた扱い易い。人間としては、冬宇子も好感を持っている。
さらに、戦力としても一流で、戦闘力の乏しい冬宇子にとっては、この上なく頼もしい存在でもあった。
自分を翻弄する呪災の正体を暴きたい――という冬宇子の目的は、彼の存在を抜きにしては叶えられそうにない。
彼がどんな持論を抱えていようと、遺恨を残すような仲違いをしてしまうのは損だ。
そんな賢しい打算を企てる分別が、冬宇子にはあった。

「そう落ち込まれちゃ、こっちとしても気が咎めるよ。
 確かに、あんたにゃ、冷静な判断力の要る『船長』なんて仕事は不向きかもしれないが、
 別に、向かなきゃ成れないって訳でも、成れなきゃ命を取られるって訳でもないんだろ?」

短い間とはいえ、共に困難を潜り抜けてきた者への気安さで、つい遠慮の無い言葉が口をついて出る。

「ジンの言った事……覚えてるかい?
 あんたにとって、一番大切なものを――考え方の筋道の、芯になるものを見つけろって。
 ……若いから、時間はたっぷりある――って、あの男は言ってたが、
 一生の問題ならそれくらいの猶予はあるかもしれないが、そうもいかぬ問題もあるだろう?」

78倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:42:29
青年の顔を見詰めて、冬宇子は続ける。

「あんた、船主の息子なんだろ?
 それにもう、二十歳(はたち)を三つも出てる。
 家業を継いで立派な船長になり、船員の命を預かる立場として、それに相応しい分別と判断力を身に着けるか。
 それとも、戦闘狂いの武人として、自由に生きる道を選ぶか。
 真剣に迷うことが出来てるかい?
 あんたの芯になる部分は、どちらか――そろそろ、決断する時期が来てるんじゃないのかい?」

ブルーから視線を逸らして、星一つ無い曇天の闇空を見上げた。
迷う事すら恐れて半端な生き方をしている自分の口から、こんな言葉が出るなんて、何だか滑稽な気もした。
さりとて、同い年とも思えない、世故に長けぬ青年に対し、それなりに誠実に彼の事を思うなら、
他に伝えるべき適当な言葉が、冬宇子には見当たらなかった。



>>74-75

宮廷道士フー・リュウとの出会いの場――民の避難所となっていた道教寺院に、辿り着いた頃には、
明け始めた東の空が厚雲の端を白々と染めていた。

使いに出ている間に、寺院はすっかり様変わりしていた。
火事があったのだろう、本堂と蔵の幾つかが焼け落ち、未だ煙が燻っている。
避難民は、土塀に囲まれた広い敷地内に野営用の簡易テントを張り、そこに身を寄せているようだった。
呪いの侵入を防ぐ結界が維持されているところを見ると、フー・リュウは、未だこの寺院内に寄留しているらしい。

殺そうとした相手――冬宇子達が、この場所に戻って来る事を予測していながら、
彼が居場所を変えなかったのは、冒険者達に対する自身の価値を確信しているからであろう。
実際、冬宇子は、彼への報復を考えてはいなかった。
自分を欺き、ツァイをそそのかしたフーに、怒りを禁じ得なかったが、
王宮や政府に顔が効く彼は、呪災の只中にあるこの国で、外国人である冬宇子達が、身の安全を図る為にも、
帰国の便宜を図るに於いても、得がたい手蔓であることには違いなかったし、
何より、呪災の淵源を突き止め、自身がこの国に居合わせた意味を知りたい――と望む冬宇子にとって、
フーの存在が鍵となることは、間違いなかった。

寺院の門前で、冬宇子達は、マリー、あかね、鳥居、生還屋との再会を果たし、
各々、二手に分かれて使いに出て以降の、互いの体験と情報を伝えた。

フー・リュウは、焼けた本堂の前に佇んでいた。
殴りかかろうとする頼光をマリーがいなし、フーの尋問を開始する。
一通り質問に答え黙り込んだフーに、冬宇子は歩み寄り、やにわに襟首を掴んで平手で頬を打った。

「あんたがそそのかした男からの伝言だよ。"仕事を下りる"――ってさ。
 おや?なんだい、その顔は?私達が無事に帰って来たことが、そんなに意想外だったかい?」

苛立ちの滲む皮肉たっぷりの口調。しかし、それ以上に彼を罵るようなことはしなかった。
フーはフーの目的の元に動き、冬宇子は冬宇子の目的の為に動いている。
ここで自分達の命を狙ったことを糾弾しても意味がない。
肝要なのは理由を明らかにすることだ。それが冬宇子自身の目的に通ずる。
表情を失った宮廷道士の顔を見据え、怒りを静めるために一度大きく溜息を吐いて、冬宇子は先を続けた。

「要するに……
 あんたは、五千年前に不死の王が封じられたという遺跡の場所を特定した。
 その墳塋(ふんえい)だか遺跡は、露西亜と国境を接する北方にある。
 北方戦線に送られていた学者や術士は、宮廷道士フー・リュウの息の掛かった者達だ、と。
 そして……呪災の背景――遠因を作ったのは、あんただが、
 誰が、どうやって、呪災を発生させたか――直接の原因までは知らない、と。
 これで、合ってるかい?」

79倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:42:48
不死の王の遺跡が北方にある――という話は、冬宇子にとって、少々意外だった。
マリー達と情報を共有してから、フーの話を聞くまでの僅かの間、
冬宇子は、件の遺跡が王都にあるのではないか、と推測していたからである。

ツァイほどの術士が、呪災発生時の巨大な氣の異変を捉え損なう筈がないのだから、
呪災の発生源が北方戦線付近であること――これはまず確定と考えて良いだろう。
ならば、問題の遺跡も北方にある、と考えるのが妥当だ。
しかしそれでは、王都に展開されている、不自然な空白地帯の説明が付かない。
王都には、特定の一帯に、まるで市民や下級兵の出入りを嫌ったかのように、派兵を外された拠点や
避難所が設置されていない箇所があるのだ。

冬宇子がフーの話を聞く前に、組み立てていた推理はこうだ。

――――不死王の遺跡が呪災の引き金になった―――これはフーの見解と同じだ。
しかし、遺跡の場所は王都――清軍が王都に敷いた空白地帯が、遺跡の位置に関係している。
呪災の少し前、件の遺跡が何者かに盗掘され、不死の法を成すに不可欠の呪物が、
北方に持ち出されたとの噂が立った。
事の真偽を確かめるには、遺跡の内部を調査する必要がある。
不死の法追求は、秘中の秘――清国内においてもごく少数の関係者にしか明かされていない極秘事項である。
軍人や国内の者に探らせて下手に情報を掴まれるよりも、いっそ、何も知らぬ異国人を使った方がいいという判断か、
日本の嘆願所に冒険者派遣の依頼が出された。
そうして三日前、北方の地に持ち込まれた呪物によって、呪災が引き起こされた――――と。

けれども、フーの言葉を信じるならば、遺跡そのものが北方にある。
その位置を知る者は、今のところ彼一人。若しくは、ごく近しい弟子筋の術士にしか伝えてしない。
冬宇子は、どうにも、王都の空白地帯の謎が、頭に引っ掛かって仕方が無かった。
手荷物の中から、折り畳んだ紙を取り出して広げる。詰所から持ち出した王都の防衛拠点を記した地図だ。

「国防機密のど真ん中に触れる地図だが、堅いことは言いっこ無しだ。
 だいたい、私が、"これ"を持ち出したこたァ、あんた、もう知ってる筈さね。
 見てみなよ、この一帯……×印――兵の派遣を取り止めた拠点が、四箇所あるだろ?
 同じく、そのあたりにゃ難民のための避難所も設置されてなかった。
 まるで、この一帯への人の出入りを、意図的に避けているようにも見えるじゃないか。
 フー・リュウ…あんた、随分と軍にも顔が利くようだが、
 軍が敷いたこの空白地帯についても、何か、心当たりがあるんじゃないのかい?」

答えを待ち、フーの表情を伺いながら、更に問う。

「日本の嘆願所に、遺跡保護なんて名目の依頼を出したのも、あんたの差し金なのかい?」

不死王の遺跡を特定したのがフー・リュウであるのなら、
その遺跡を調査するために人手を要したのも彼だと考えても、矛盾は無い。
しかし、既に北方に、弟子筋の術士を送っておきながら、異国の冒険者まで呼び寄せるというのも妙な話だ。

80倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:43:12
「さてと、もう一つ……これだけは、どうしたって聞かなきゃねえ!
 言っておくが、私だって術士の端くれ。無理に口を割らせる法なら心得てるよ。
 私らの側は七人……これだけの数を向こうに回しては、流石の宮廷道士様とて、そう簡単に抵抗できまい?」

横に並んでいる冒険者の数を示威する。威圧的な視線で、ツァイの顔をはすかい見て、

「―――何故あの詰所で、私達を始末しようとしたのさ?
 不意をついて殺す機会なら、最初から、いくらもあった筈だ。
 いつ、何の切っ掛けで、私らが邪魔になったのか、さァ、答えて貰おうか?」 

冬宇子は更に畳み掛ける。

「あんたが、私達の"始末"を依頼した結界師――あの男は、
 マリー達の命を狙ったジャンって奴と同じ、亡国士団って部隊の人間なんだとさ。
 あんたは、それを――あの男の所属を知ってて利用したのかい?」

ここ数十年の大陸の騒乱で、故国を失った武人や術士が、主な成員だという亡国士団。
そんな寄せ集めの傭兵に等しい者達が、呪災の直前に、確たる理由も無く王都に帰投されたという事実が、
冬宇子にはどうにも解せなかった。
それについてフーが情報を持っているのなら、何かを吐露するのではないか――と期待しての揺さぶりだった。

思索は、ジャンという男に冒険者の情報を伝えたという、"日本人の女"へと及んだ。
ジャンはマリーを、『神殺し』と呼んだという。
神殺し――その呼称をマリーに使うのは、日ノ神村での一件を知る者以外に有り得ない。
冬宇子達冒険者が、寒村に祀られていた出来損ないの神格を滅ぼしたことを知る者は、そう多くない筈だった。
すなわち、事件の関係者と嘆願所の人間に絞られる。

ふっと冬宇子の脳裏に、奇矯な考えが走った。
その女は、果たして、この世に生きている人間なのだろうか――或いは―――?
真実がどうであれ、フーがその女を知らぬと言うのなら、現段階でそれを確かめる術は無い。
飛躍した思考から逃れるために、冬宇子は軽く頭を振った。
そして、表情をやや緩め、フーの顔を覗き込むようにして、

「協力者はいない――って言葉、ありゃ本当かい?
 いや、別に、この期に及んで疑ってる訳じゃあないが、陰謀の影に女あり、なんて言うしね。
 まァ、協力者なんて類の者じゃあないのかもしれないが、
 あんたが後生大事にしてるっていう幼馴染――…の、絵姿に、是非、私もお目に掛かりたいもんだね。」

大陸の古書やアラビアン・ナイトには、絵の中に魂を封じ込められた美女の逸話がある。
鳥居の話に聞いた、写真以上に生々しい生気を発していたという美人画に、
冬宇子は、一方ならぬ興味を抱いていたのだった。


【ブルー君に罵ってごめんねの会話】
【フーへの質問
 ・兵の居ない拠点とか避難所の無い、王都の空白地帯は何なのか?
 ・嘆願所に遺跡保護の依頼を出したのは、フーなのか?
 ・亡国士団について
 ・絵姿の美人に会わせて…いやいや、見せてくれない?】

81◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:43:54
>「あんたがそそのかした男からの伝言だよ。"仕事を下りる"――ってさ。
  おや?なんだい、その顔は?私達が無事に帰って来たことが、そんなに意想外だったかい?」

冬宇子の皮肉に、フーは何も言葉を返さない。
返答しようがしまいが、自分の一挙一動が彼女の苛立ちを招くに違いない。
だったら、余計な事を口走らぬように心がけた方が、まだマシと言うものだ。
彼はそう考えていた。

冬宇子はこれまでの返答を纏めると、懐から折り畳んだ紙を取り出した。
フーの眼の前に広げられたそれは、今いるこの都市の地図だった。

>「国防機密のど真ん中に触れる地図だが、堅いことは言いっこ無しだ。
 だいたい、私が、"これ"を持ち出したこたァ、あんた、もう知ってる筈さね。

「……これが、どうかしたのかい?」

>見てみなよ、この一帯……×印――兵の派遣を取り止めた拠点が、四箇所あるだろ?
 同じく、そのあたりにゃ難民のための避難所も設置されてなかった。
 まるで、この一帯への人の出入りを、意図的に避けているようにも見えるじゃないか。

地図の片端を手に取り、目を凝らす。
確かに、この寺院とその周辺には、本来為されるべき派兵が行われていなかった。

>フー・リュウ…あんた、随分と軍にも顔が利くようだが、
 軍が敷いたこの空白地帯についても、何か、心当たりがあるんじゃないのかい?」

「……なんだ、これは。俺は知らないぞ。こんな事……誰が、なんで……」

フーの表情には狼狽が色濃く浮かび上がっていた。
この派兵の取り止めは、つまりその一帯の住民を見捨てる事と同義だ。

彼自身も不死の法の為に呪災を起こし、多くの人を死なせているが――決して意図しての事ではない。
だが、これは違う。明らかに意図して民を見殺しにしている。
その事にフーは、心から衝撃を受けているようだった。

>「日本の嘆願所に、遺跡保護なんて名目の依頼を出したのも、あんたの差し金なのかい?」

「いや……違う。俺じゃない。……分からないよ、本当だ」

>「さてと、もう一つ……これだけは、どうしたって聞かなきゃねえ!
  言っておくが、私だって術士の端くれ。無理に口を割らせる法なら心得てるよ。
  私らの側は七人……これだけの数を向こうに回しては、流石の宮廷道士様とて、そう簡単に抵抗できまい?」

抵抗などするつもりはない。
その気があるなら、もっと距離がある時に事を起こしていた。
フーはここから逃げる訳にも、分の悪い勝負で殺される訳にもいかない。
そうなれば結界が維持出来ず、今ここにいる避難民達全員が死ぬ事になる。
自分が全ての発端だとしても、いや、だからこそ、彼らを見捨てる事がフーには出来なかった。

82◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:44:14
>「―――何故あの詰所で、私達を始末しようとしたのさ?
  不意をついて殺す機会なら、最初から、いくらもあった筈だ。
  いつ、何の切っ掛けで、私らが邪魔になったのか、さァ、答えて貰おうか?」 

「……フェイもジンも、余計な事を教えすぎたんだよ。
 俺が不死の研究をしている……それだけなら、国家機密には違いないけど、良かったんだ。
 だけど、不死の研究をしている奴がいて、この辺りには昔から不死の王の伝承があって、
 それで呪災が起きていたら……原因が何なのか、誰だって予想が付く。
 ……今思えば、焦り過ぎだったな。交渉材料として、手札を切らせておけばよかったよ」

だが、冒険者達が自分の非道に目を瞑ってくれたとは限らない。
実際、マリーなどは間違いなく糾弾――或いは断罪に走っていただろう。
そう考えればやはり、始末する他に手はなかった。

>「あんたが、私達の"始末"を依頼した結界師――あの男は、
  マリー達の命を狙ったジャンって奴と同じ、亡国士団って部隊の人間なんだとさ。
  あんたは、それを――あの男の所属を知ってて利用したのかい?」

「……?そりゃ、知っていたよ。でなきゃ交換条件なんて出せない。彼らが帰投を命じられたのは……
 恐らく、王に約定を守るつもりなんてなかったからなんだろうけど、それを利用させてもらったんだ」

今ひとつ、気の抜けた答えだった。
返答を誤れば命にさえ関わる――その事はフーにもよく理解出来ている筈なのにだ。
恐らく確彼自身にも自覚はないが、確証のない確信を基に喋っているからだろう。
それくらいしか考えられない、で思考が完結しているのだ。

>「協力者はいない――って言葉、ありゃ本当かい?
  いや、別に、この期に及んで疑ってる訳じゃあないが、陰謀の影に女あり、なんて言うしね。
  まァ、協力者なんて類の者じゃあないのかもしれないが、
  あんたが後生大事にしてるっていう幼馴染――…の、絵姿に、是非、私もお目に掛かりたいもんだね。」

「……だから君を、始末しておきたかったんだ。君は勘が良くて……性格が悪い」

背中に括りつけていた巻物の紐を解きながら、フーはそう言った。
静かに、沈んだ語調――心の底に深く沈めた失望の表面を突かれたような声色だった。

フーが絵巻を広げて見せる。
ただ墨で描かれているとは思えないほど瑞々しく、生命の波動さえ感じられる、明朗で闊達そうな女性の姿絵。
だが眼と感覚を凝らしてみれば分かるだろう。
その絵は脈を打ち、また墨に見える画材は紙の中を、小川のように絶えず循環しているようだった。

「確かに……彼女もまるで関係がない訳じゃない。君が知りたいのなら、話しておこうか……。
 ……彼女は、釘・留(ディン・リウ)。知っての通り俺の幼馴染で……俺と同じ宮中呪医。
 そして……不死の法の研究を命じられた術師の一人だ」

「彼女は金行を得手としていた。……特に金行の不変性や、
 金から転じて刃の持つ、深く突き刺さるという概念を、術として扱う事に。
 概念に釘の姿を与え、何かを突き刺し、留める……心身の状態のような形のないものでも、そうする事が出来た」

「……この世の全ては、五行の輪……大きな循環の中にある。それは人間も例外じゃない。
 死ねば魂は陽気として天へ、魄は陰気として肉体と共に地へ帰る。
 だけど彼女は……自分の術なら、肉体と魂魄を、この世界に対して平行に、『今』のまま固定出来ないかと考えたんだ」

「そして試した。自分の体で……」

フーの言葉がそこで一度途切れた。
何処か顔色が悪いように見える――『その時』の事を思い出してしまったのだろう。

83◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:44:37
――施術を終えて、彼女はまず試しに自分の腕を切ったらしい。
そしてその傷は、時が巻き戻るかのように消えた――だが実験は失敗だった。
彼女はこの世の大いなる流れ――言わば理に睨まれてしまったのだ。
輪から外れたものを引き戻すべく、彼女は存在そのものを細切れに引き裂かれ、融かされて、世界の循環に流されてしまった。

「この絵は……五行の輪に溶けてしまった彼女を、俺が掻き集めて、封じた物さ。
 フェイの爺さんに手を貸してもらってね、この絵は一つの閉じた世界になってる。
 絶えず世界中に拡散しようとしている彼女の存在を、無理矢理この中に閉じ込めたんだ」

その流体が墨のように黒く見えるのは、
無数の色、存在――五行に満遍なく融けてしまった彼女を強引に一箇所に纏めているからだ。
絶えず絵が循環しているのは、拡散の方向性を逸らし続けているが故。

もし彼女に何かしらの意思があったとしても、絵から出た瞬間、
彼女は再び、一滴の墨を湖に落としたかのように存在を消滅させられてしまうだろう。

フーは何も言わないが、彼が何としても不死の法を見つけ出そうとしたのは、王だけではなく、彼女の為でもあったのだろう。
彼女はまだ生きている。ただ世界の法則に睨まれたばかりに、肉体や精神の形――存在を保てなくなっているだけだ。
真の不死の法ならば、この世の理すら抑え付けられる筈だ。
その術理を解明すれば、彼女を助けられるかもしれない。
かもしれない、だ。それでも、やるしかなかった。

「……その女が協力者じゃねえって事はよく分かった」

不意に、生還屋が口を挟んだ。

「けどな……んなこたぁ、どうでもいいんだよ」

生還屋の右手が作務衣の懐に潜る。

「違え、知らねえ、俺じゃねえ、いねえ……ってよぉ。
 それで「はいそうですか」って訳にはいかねえんだよ。それくらい分かんだろ?」

取り出されたのは匕首――動死体共相手にはまるで用無しだったが、人間相手になら話は別だ。
切先がフーを睨む。

「オメエ一人がやったってんじゃあ説明のつかねえ事がいくつもあるよなぁ。
 言えよ。誰を庇ってやがんだ?
 ……その間抜けな女の絵をもう一度引き裂いてやれば、喋る気になるかよ?え?」

生還屋とフー・リュウ、両者の間に流れる空気の質が、明らかに一変した。
フーは瞬時に一歩飛び退き、絵巻を背に隠す。右腕は僅かに曲げられて、既に袖の内にあった。
生還屋も重心を落とし、右足を半歩後ろに下げる。いつでも跳びかかり、フーとの距離を詰められる構えだ。

だが――正直な所、生還屋は困惑していた。
彼には類稀な勘の良さがある。その勘が、何も告げてこない。
彼は嘘を吐いていないのか――しかしそれでは説明が付かない事がある。

84◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:44:54
「……もしかして」

張り詰めた空気の中で、あかねがポツリと呟いた。そして続ける。

「フーはんはメインやないんとちゃう?」

「……何言ってんだ?オメェ」

生還屋が不可解な表情で彼女を振り返った。
目つきは剣呑――阿呆らしい戯言に付き合ってる気分ではないと語っている。

「あー、えっと、なんて言えばええんかな……」

その雰囲気にやや気圧されたのか、まごつきながら、あかねは言葉を探す。

「……だから、こう……協力者やったんは、フーはんの方やった……とか……ないかな?」

自信無さげな、あかねの言葉。

「意味が分かんねえ事を……いや、ちょっと待て」

生還屋は呆れたように溜息を吐き――しかし、思い直したように思案を始めた。

――確かに今回の件は、フーが主体になって起きたにしては無駄が多い。
わざわざ知人を巻き込むような形で避難場所の空白地域を作る必要はない。
いや、それ以前に彼の独断で出来るような事でもない。亡国士団の帰投にしてもそうだ。
ならば一体誰が主犯なら、全ての出来事に利益が生じるのか――

「……おい、疑って悪かったな。どうやらお前は黒幕じゃなくて、マヌケだったらしい。
 話はもういいぜ。その代わり……そろそろ最初の約束を果たしてくれよ」

唐突な話題の転換――フーは理解が追い付かずに、怪訝そうな表情を浮かべた。

「まさか忘れた訳じゃねえだろうな。……王様に会わせてくれって言ってんだよ」

85◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:45:27
 


――生還屋の頼みは特に支障なく聞き入れられた。
拒否権などフーにとっては無いようなものだったし、
結界の維持はジンの代わりに、彼が寄越した埋伏拳が行える。
土行は元々、要石のように『土地を保護する』という性質がある。
また水を堰き止め、吸収する性質も、水行の応用で生み出された結界の維持には効果的だ。
それでも無人には違いないが、埋伏拳の子鬼達曰く――

『ジンガ本気デ三発ブチ込ンデ、クタバラネー奴ガイルッテ?
 ソリャ、ムシロ見テミテーナ。連レテキテクレヨ』

――との事だった。

ともあれ君達は、寺院を出て暫く歩く事になる。
王宮に着いてからは日本への依頼が本当にあったのかを確認、武器の一時預かり、
その間に諸々の手続きが裏で行われたりと、煩わしく時間はかかったが滞りはなく――君達は清王との謁見が許可された。

謁見の間への道には、両脇に背の低い石柱が並んでいた。
石柱の頂上部には陰陽五行の象徴、五芒星が刻まれている。
ある柱はそこに炎が灯り、また別の柱の上には方位磁針のように緩やかに回転する刃が浮かんでいた。
水、木、土を掲げる石柱も同じようにある。

五行との感応を測る事で、敵意や武器の存在を感知する機構だ。
王への敵意があれば炎がそれに感応して燃え盛り、
凶器を隠していれば刃がそれを持つ者を刺し示す――と言った具合だ。

無事に大廊下を抜けると、謁見の間へ繋がる扉が独りでに開き――

「――や。や。よく来てくれたね。どうもありがとう。
 なんか色々大変だったみたいだけど、怪我はなさそうで良かったよ、ホント」

王座に座したその男は、どうにも覇気に欠けて見える人物だった。
体は大柄、着衣も紅と金を基調とした豪奢な物で、薄金色の頭髪と、
部分部分を見る分には如何にもそれらしい風体をしている。
なのに雰囲気だけが、不釣り合いなほどに柔和だった。

「フーちゃんも、最近どう?捗ってる?ほら、アレ……研究の方さ」

和やかな笑顔はそのままに問いかけ――フーは答えられない。

「……なんか、胡散くさない?あの王様」

あかねが小さく零した。
フーがぎょっとして目を剥いたが、王には聞こえていない様子だった。

「んー……もしかしてちょっと残念な感じ?ま、仕方ないよね。
 今ボク達、研究どころじゃないもんねえ」

「あ、でもお客様にはそんな事関係ないからね。
 誠心誠意おもてなしするつもりでいるから心配しないでね。
 ……もっとも」

「その前に面白い土産物を披露したくて仕方ないって顔した人が、いるみたいだけど。
 うん、いいよいいよ。ホラ、ボク王様だからさ。そういうのは慣れてるから」

王が薄っすらと笑みを浮かべる。
唇と双眸が描く曲線には、和やかさとはまた違う雰囲気が宿っていた。
その視線が生還屋に向けられる。

86◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:45:49
「……ちょっと違うな。お披露目したいのは土産話だ」

「へえ、そうなの。でもそういうのも慣れっこだよ。
 皆、ボクに自分がどれだけ凄い事をしたのか知って欲しいみたいでね。
 でも最近は……あまり聞いてないなぁ、そういう話。だから聞かせてよ。すごく楽しみだ」

王の浮かべる笑みに喜色が浮かぶ。
生還屋も呼応するように、挑発的に笑った。

「――この呪災。アンタ起きるのが分かってて、それを待ってたろ」

そして切り出す。

「ちょ……!生還屋はん、そんな口の利き方……」

「んー、いいのいいの。気にしないよ。ボクが聞きたいって言ったんだからねー」

慌てふためくあかねを、王は和やかに宥める。

「無礼講って事か?そりゃいいぜ、話しやすい」

「……で、どうしてそう思ったんだい?」

「あぁ?街中に避難所を用意したのはアンタだろ?
 少なくともアンタの許可なしに、首都の兵を勝手に動かして、
 ついでに前線に送り出すなんて真似が出来る奴がいるとは思えねえ」

「……あぁ、そうだったそうだった。実はとある筋から情報があってね。
 万一に備えて準備をしておいたんだ。すっかり忘れてたよ」

「へえ……じゃあ、このアホの周りにゃ避難所を設置しなかったのも、アンタの指示って事だよな」

生還屋がフーを顎で示して、問うた。

「設置されてなかった……?いや……ボクは知らないなぁ。
 だってそんな事をする意味、動機がないだろ。指揮系統の間ら辺で、誰かが余計な事をしたに違いないよ。
 フーちゃんは……今ちょっと難しい研究をしててね。彼に先を越されたくない人は大勢いる筈だよ」

楽しんで、試すような口調。

「まるで上手く行ってねえ不老不死の実験だろ?
 ……あぁ違った。まるで上手く行ってねえどころか、
 大失敗をやらかした女の幼馴染の実験だったか?邪魔するまでもねえよな」

「……フーちゃん、喋っちゃったのかい?参ったなぁ…………まぁいっか。
 えっと……確かにフーちゃんの実験は進んでなかったらしいけど、
 だからってボクが彼んちの周りを動死体だらけにする理由は……」

「あるさ。戦力と、足止めだろ?多分アンタ……コイツの企みが失敗する事も、分かってたんだ。
 だから戦力が欲しかった。呪いの冷気の中でも三日三晩はしゃぎ回れるような奴らがな。
 このアホが避難民の保護で手一杯になって、命を奪う相手がみぃんな動死体になっちまえば、
 フェイは教え子、えーと……ジンだったか?ソイツは妻と娘。そいつらは死ぬ。
 復讐っつー動機を与えて、二人を自分の手元に呼び戻せる。遺跡の攻略に踏み出せる……筈だった、だろ?」

清王は言葉を発さず、ただ柔らかに微笑んでいた。
生還屋はそのまま語り続ける。

87◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:46:16
「つまり……不死の王についても、アンタは知ってた事になるだろうな。
 亡国士団を呼び戻したのもアンタだ。
 連中が何かの間違いで不老不死を手にしちまったら……そりゃあ面倒な事になるもんなぁ。
 他にも色んな事が、アンタの仕業って事なら説明が付く。試しに何か、聞いてくれてもいいんだぜ?」

答えはない――だが不意に音が響いた。
拍手の音だ。

「凄い凄い。君の言う通りだよ。君達みたいな人材を気軽に寄越してくるだなんて、日本が羨ましいなあ」

王の表情は変わらない。声色も、所作も、何も変わっていない。
極めて自然で、寸分違わぬ笑顔のまま――酷く不自然に、柔和な雰囲気だけが消えていた。

「……人が何人も死んでるんやで!アンタん国の人や!なのにそんな言い方!」

だが、あかねには、その事に気付けなかった。
人の、それも自国民の死をまるで気にもしていない素振りに動揺して、彼女は叫ぶ。

「……じゃあ、なんだい」

王の顔から、笑顔が消えた。
冷徹な気配を緩和していた物が無くなって、その落差が悪寒となり、あかねを襲った。

「深刻な反応をして欲しいのかい?だったらお望み通り……君達はここから帰せないな」

その言葉と同時に、君達の周囲に十を超える刃と、それを構えた黒衣の兵士が現れた。
厳密には――彼らはずっとそこにいたのだ。
水行を身に纏う事で気配を極限まで殺し、待機していた。
そして今、明確な殺意を抱いた為、水行による気配の相殺が失われ――

「……なんて、冗談だよ。ね?ボクがいかにもそれっぽい態度をしてたら、皆肩が凝っちゃうでしょ?
 これくらいの方がいいんだよ。誰にとってもね」

「こうなる事も分かってましたってか?……張り合いがねえな、つまんねえ」
 
生還屋がそう吐き捨てる。
王は気にした様子もなく、再び笑顔を浮かべた。柔和な雰囲気も元通りだ。
冒険者達を囲んでいた兵士達は、君達が気がついた時には既に見えなくなっているだろう。

88◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:46:41
「ま……今のは面白い話を聞かせてもらったお礼さ。
 ボクは日本とは仲良くしたいと思ってるんだ。君達に危害を加えたりはしない。
 それに……君達の仕事は、これから始まる訳だしね」

「あ、そうそう。君達の土産話、とても良く出来ていたけど、少し添削が必要かな。
 まず、勘違いされてたら嫌だから言っておくけど、君達の飛行機が墜落したのはボクのせいじゃないよ。想定外だ。
 運が無いんだねえ君達……。まぁおかげ様で、ボクも馬と車……じゃなくて、飛車と角?を取り戻せず仕舞いだけど」

「それと、日本はこの事をちゃんと知ってるよ。
 貴重な呪具が多く保管されているだろう遺跡があるから、人手が欲しい。呪具は山分け。
 そう依頼したんだ。……言いたい事は何となく分かるけど、それは黙っていて欲しいなあ」

「あと、民が死んでるって君は言ったけど……死んだのは極一部だ。
 知っての通り、大概の場所には呪災対策を講じておいた。都外も例外じゃない」

「……まぁ、民以外なら確かに大勢死んでる。厄介な北の連中は、特にだ。
 亡国士団もほぼ全滅。これで戦争は終わりだ。もう清に歯向かう力を持った国は残ってない。
 呪災に先手を打てたのはボクらだけだからね。
 これから先、この大陸で、戦争で人が死ぬ事はない。……当分の間はね。
 総合的に見れば……案外ボクは大勢の命を救ったのかもしれないよ?」

「んー……あと、何か質問ある?言いたい事でもいいよ?」

にこやかに、王は君達に問いかける。

「え、えと……じゃあ、ウチら、亡国士団のジャンって人と会ったん……やけど……
 あの人最後に、不老不死の事を日本人の女の人に聞いたって……。
 王様なら……その女の人の事も、何か……」

あかねは取るべき態度を決めかねているようで、ひどく歯切れ悪くそう尋ねた。
対して王は――黙っていた。非の打ち所のない笑顔も、柔和な雰囲気も、忘れてしまったようだった。
完全に素の状態で、何かを考え込んでいる。

「……いや、ちょっと分からないかな。それ以外は?何かない?」

ようやく発した言葉は素っ気なく、彼は笑顔を浮かべ直そうともしなかった。
日本人の女性――その件について、これ以上の追求を喜びそうな雰囲気でない事だけは、確かだった。

89 鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:47:11
数刻ぶりに再会した頼光の外見は変っていうか
頭を布で隠していて、右手は木みたいにになっていて
フーにいきなり襲い掛かるという切羽詰まった感じ。
でもその行動に、鳥居はふと日本にいて、
サーカスをやっていたことを思い出していた。

どこにいても、どんな体験をしてきても頼光のぶれない心の身勝手さは
頼光を頼光でいさせている。
自我を守るために駄々っ子みたいに飛びかかっていった、
人としてのはしたなさみたいな、それでいて矜持のようなもの。
その変わらぬ頼光の様相に日本に戻った錯覚が鳥居の心に一瞬だけ甦る。

でもその行動を、鳥居は自身の赤い瞳に映しているだけ。
マリーに止められるのをみているだけ。
内心、うん。と納得して安心をしながらみているだけだった。

そして、フーと冬宇子と生還屋たちの会話を聞いたあと、王宮に向かう道すがら、いろいろと考えてみる。
真実とか、嘘とか、どうして人は求めるのかとか。
それとフェイ老人のこと、ジャンのこと、ダーのこと。
いったい、何が正しくて何が間違っていたのか。麻痺しかけていた感情をもう一度動かして考えてみた。
つまり真実と正しいことについて。

鳥居は思う。
この国にきて、恐ろしいことばかり体験をしたきたと。
それは今まで鳥居が、見てみないふりをしてきたことであり
人のもつ情念といった根源てきな感情、原動力といったもの。
この世界はまるで、感情か魂で蠢いているかのようだということ。

それなのに。

自分は空っぽ。

鳥居は自分の感情が信じられなくなっていた。
本当に心からそう思っているのか。
吸血鬼の体に弱々しくへばりついている子供の魂は
本当は他人の不幸を笑っているのではないかと。

(ぼくみたいに、みんなこどくに……、みんなふこうになればいい)

そう思ったときもあった。
否、それは今も鳥居の傍らで眠っている。
我ながらゲスいと苦笑する。
傷口を自分でかきむしる感覚。
それを打ち消すが如く、もう一人の自分が現れて…

(孤独が人を狂わすくらいにつらいってことを、ぼくは知っていたはずです。
だから、みんなを笑顔にしたいって思っていたはずです)

だからアムリタサーカスを運営している。
人を喜ばせるために、相手方が何を求めようとしているのか知ろうとする。
快楽を与えるものが、拒絶されるわけがない。
それで人と繋がろうとしている。

90 鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:47:34
鳥居は頼光にたったったっと小走りで近づき上目遣い。

「ねー頼光、体のほうは大丈夫ですか?
先程、あなたはぼくに、人間やめちまったのかよとか
言っていましたが、ぼくたちって神気をあてられたときから
変な子になってしまっていたのではないでしょうか?
ま〜、ぼくはもとからみたいなものですが
頼光は人間だったから心配です。このまま神気が暴走して
アムリタサーカスを続けられなくなっちゃったら
ぼくはかなしいです。だって…」

まだ、頼光はサーカスのことを好きになっていなって思うから。
そう言おうとしたとき、王宮が見えた。
いよいよと思った鳥居は深呼吸。

ついに王と謁見する。
そして、冒険者たちに起こったすべてのことが
一つに繋がって、明かされた。

これが、真実?

まただ。と鳥居は思う。
王でさえ私欲のために生きている。
そう感じた。
人の感情さえ利用している。

鳥居が大切に思うもの。
憧れているもの。
それをこの王は道具のように扱っているのだ。
これでは狂おしいほど奪うことを求めたジャンさえも
かわいそうに思う。

>「……いや、ちょっと分からないかな。 それ以外は?何かない?」

「はい、あります」
静かに王をみつめる鳥居。
王の威厳、王に対する畏怖、それは
怒りにも似た感情が消し去っていた。

「単純な質問です。どうしてあなたは不老不死になりたいのですか?
人は生きているからこそ、目的が生まれて、生きていることを
とても実感できるのかもと思います。その実感は時には己を壊してしまうほどの
痛切な祈りのようなものです。
ぼくは数百年生きてきましたが、死なないってことは
すべてを薄らぼやけて見せてしまうものだと思いました。
だって、一度しか見れないかもしれないって思ったら
人は貴重に思うし永遠に繰り返されると思ったら
飽きて見なくなってしまいますから」

鳥居の心は子供であって、王とは違う。
まして不完全な不老不死。
吸血鬼なのだ。
なぜ不老不死になりたいの?
そんな子供じみた疑問を
投げ掛けてしまう鳥居だった。

【王様にどうして不老不死になりたいの?って質問】

91 ◇u0B9N1GAnE ::2013/09/02(月) 22:48:09
>>90


「数百年?……君が?」

王の眼の色が変わった。
言葉通りの意味で――虹彩が濃褐色から金色へと。

王の姓は、天(ティエン)と言う。
天は五行の循環、世界を覆い統べる物――その血筋は五行全てに高い適性を持っていた。

特に王は火行と金行――火行の持つ『照らす』という概念と、
金行の持つ不変性、転じて『真理性』の概念を術として扱う事に、極めて優れている。
王は己の眼に火氣と金氣を宿す事で、見つめた物の情報を読み取る事が出来た。

「……君は良い子なのか、それとも頭が悪いのか……或いはその両方か……。
 ボクがさっきの彼らを呼び戻しはしないかと、考えなかったのかい?
 ……いや、まぁ、しないけどさ」

王は笑みを浮かべ直すと、それはさておき、と君達に視線を配り――

「どうやら君達への仕事はキャンセルだ」

そして、そう続けた。
完璧だった笑顔に不純物が混じる。
相手をからかうような、愉悦の色だ。

「なにせ、その子はいつでも何度でもボクと会えるらしい。十年後でも……百年後でも。
 つまりボクは既に不老不死だったのさ。大事な国民を犠牲にする必要はなかったみたいだ」

「……そんな訳ないよねぇ。不老不死だからって、二度と見られない物は沢山あるさ。
 そうじゃないように思えるのは……君がそういう風にしか見て来なかったからじゃないかな?
 それにね、見たくなくなる事と、見られなくなる事は、全く別の事だよ」

「それで……不老不死になりたい理由だっけ?決まってるじゃないか。ボクは王様なんだ」

「……国の為だよ」

ふと、彼の顔から笑みが消えた。

「清は大陸を統一した。だけど、それが何かの終わりって訳じゃない。
 英吉利、仏蘭西、独逸、露西亜、……そして日本も、中国大陸をパイみたいにバラバラにしたがるに決まっている。
 それを甘んじて受け入れる訳にはいかない。中国を制覇した以上、ボクには全国民を守る義務がある」

「呪災を最後の決め手にしたのは、その為だ。道術の呪いなら、欧米諸国は門外漢だ。
 ボクらが戦後の復興の主導権を握れる。清と、日本がね。……狙われているとしても、味方は必要だ」

「国を守り続ける……誰にも任せられる事じゃない。例え自分の子供にでもだ。
 だから、ボクは死ねない。……それが理由だよ」

92武者小路 頼光 ◇Z/Qr/03/Jw:2013/09/02(月) 22:48:51
「気持ちは分かるがぁ!!!」
マリーにタックルされ、倒れたところで瞬く間に腕を決めて押さえつけられてしまった。
が、組み伏せられても口は止まらない。
「ごらああ!あいつは俺様を利用して挙句に殺そうとしたんだぞ!
お前らだって同じようなもんだろうが!
止めるんじゃねえ!!ぶち殺さなきゃ収まりがつかねえ!!」
火を吐く勢いで罵る頼光。

冬宇子がフーに平手で打つのを見ても喝采はない。
自分がそれが出来ぬことへの苛立ちの方が勝るのだ。
「ごら〜冬宇子!何平手打ちなんかしてやがる!
匕首持ってんだろ!いつもの癇癪はどうした!!」
むしろ頼光にその匕首が飛んできそうなことを口走るのだ。
マリーが言う通り、この場の誰もがそれをわかっていてあえてフーに手出ししないのであるが、残念頼光にはそこまで回る頭はないようだった。

だがそれも徐々に収まっていった。
なにも諦めたわけではない。
罵声をやめ、組み伏せるマリーを跳ねのけようともぞもぞと動いているのだ。

> 私らの側は七人……これだけの数を向こうに回しては、流石の宮廷道士様とて、そう簡単に抵抗できまい?」
特に冬宇子がフーを脅す為に言ったセリフには耳ざとく反応し
「おい、出番みてーじゃねえか。俺を押さえている場合じゃねえんじゃねーのか?」
などと言ってみるが、冬宇子の意図をちゃんと理解しているマリーにそんな言葉が通じるはずもなく、つく隙すらもない。

半ば人外と化した頼光は、単純な膂力や素早さでいえばマリーを遥かに凌駕しているはずだ。
にも拘らず全く身動きが取れないのは、関節を決め、重心移動を制御されてしまっているからである。
それを悟ったのはフーの話が殆ど終わった頃だったので肝心な事は情報はさっぱり入っていない。
もっとも、ちゃんと話を聞いていたとしても頼光の理解力でフーの話がどれほど理解できたかは大きな疑問符が付くところだ。
「……はぁ〜〜、白けた。もう、いい。暴れねえから離してくれよ。
しかし、おめー暗殺者ってのは本当だったんだな」
大きなため息をつき、大人しくなり拘束を解かれた頼光はマリーをまじまじと見る。
先ほどの殺気でも十分すぎるほど判っていた事なのだが、やはり身をもってその技量を知ると違った思いがある。

「なんかもうどうでもよくなったわ……」
とフーへの怒りはいったん落ち着いた、というわけでもない。
フーの王への忠誠や幼馴染の話などほとんど耳に入っていなかったし、聞いていてもどうも思わなかったであろう。
どんな事情があろうとも自分たちを殺そうとした事は事実なのだから。
諸々も事情が入り組みすぎて理解できないし、それ以上に言葉通りどうでもよくなったのだ。

もともと熱しやすく空きやすい性質ではあったが、人の持つ【執着】が薄れてきているのであろうか?
それは判断しかねるが、もっと大きな要因は単純に疲れて思考が鈍化しているのだ。
頼光の意志を離れて霊樹が蔦を伸ばしツァイの養分を、命を吸収しようとしたのはそれが必要であったからだ。
しかし頼光はそれを己の意志で拒絶した。
人の命を啜る、それを拒否したのは自分が人である為の最後の一線であると思ったからだ。
しかしその代償は確実に現れる。

今まで謂わばなすがままであった頼光が自分の意志で反抗し今なおその力を拒絶している。
だが今まで頼光がどれほど霊樹霊獣に助けられていたかわかっていない。
戦闘力だけの話ではない。
これまで当たり前のように冷気の呪いを跳ね返し無尽蔵とも思える体力を提供されていたのだが、今それが滞り始めている。
故に頼光は人並みに消耗し、思考能力が低下してきているのだ。
それでもまだ立っていられるのは頼光がいくら拒絶しようとも完全には拒絶しきれていないからである。

思えば大陸に不時着してから戦闘の連続。
寝ずの強行軍で疲労も極地に達しているのだ。
呪いも怒りも何もかもを投げ捨ててこの場で横になり眠りたい衝動に駆られる。
あかねと生還屋が核心へと近づいているというのに、気怠そうな目で見ているだけだった。
その言葉で出るまでは。

>「まさか忘れた訳じゃねえだろうな。……王様に会わせてくれって言ってんだよ」

93武者小路 頼光 ◇Z/Qr/03/Jw:2013/09/02(月) 22:49:26
「な、な、なにい!?王様にあえるのか!?
おおおお!あ、いやおめーこんな格好でどうすんだよ。
謁見の格好じゃねえ!!
あーいやいや、武勲の男武者小路頼光としてはこのままの方が如何にも激戦してきたって感じで好印象か!?」
途端に目に光が戻り、先ほどまでの消耗しきった表情が嘘のように生き生きとしだす。
戦いの連続でもはや着物がボロ布かでいえばボロ布という評価に軍配が上がる姿。
いや、それだけならまだ着替えればいいが、綺麗に反り取られたような河童頭に樹木のようになってしまった右腕。
こんな状態で王に会うというのは頼光の面子が許さない。
が、王に会えるチャンスを見送る事などできはしない!
結局のところ、様々な打算を働かせこのままの状態で王宮へとそして清王との謁見に臨むことにしたのだった。

王宮へ向かう途中、鳥居が駆け寄ってきて上目づかいで話しかけてきた。
その態度にどことなく違和感を覚える。
怪しげなサーカス団を率いて数百年を生きている、それでいて中身は子供でどことなく人を小馬鹿にしたよう態度、それが頼光の知る鳥居なのだ。
もちろん頼光自身が小馬鹿にされるに足る存在で、自然な反応でしかないのだが……

「糞ガキが大人を気遣ってんじゃねーよ。
おめーは元に戻っただけだろ。
暴走だか何だかしなくても俺は華族になるんだから、サーカスなんて続けねえつーの!」
鳥居が吸血鬼に戻ったことは感覚的にわかっていた。
それとは裏腹に今の鳥居は力なく不安に押し潰されそうになっているただの子供のように見えるのだ。
だからと言って頼光に慰める言葉などボキャブラリーとしてあるはずもなく、ただいつもと変わらぬこれまで幾度となくサーカス団内で繰り返された返事を返すのだった。

鳥居に言い放った後、顔はそっぽを向きその視線はブルーへと向けられる。
「おい毛唐、おめー大丈夫か?
西洋人だから判ってなさそうだけどな、東洋には東洋の礼儀ってもんがあるんだ。
粗相したら俺の出世の目が潰れるんだからな、礼儀作法は俺を手本にするようにちゃんと見てろよ?」
照れ隠しに使われたブルーにはいい迷惑であるし、ブルーもお前が言うな状態であろう。
しかし頼光は王に会えるという事ですっかり舞い上がり本気で手本になる気満々であった。


大廊下を抜け謁見の間で清王からの歓迎の言葉が送られた。
戦乱を勝ち抜いた大陸の新たなる覇者。
清王は大柄で豪奢ないでたち、ではあったが、言葉は気さく、悪く言えば軽い。
そして何より、雰囲気が余りにも柔和であった。
地獄の閻魔大王のような姿を想像していた頼光は少々肩すかしな気分であったが、先にあかねがそれを言葉にしてしまった。
「ごら!小娘が無礼なこと言うんじゃねえ!」
片膝をつきながら、自分も同じことを思っていながらも小声であかねを叱りつけた。

>「あ、でもお客様にはそんな事関係ないからね。
> 誠心誠意おもてなしするつもりでいるから心配しないでね。
> ……もっとも」
そのあとの清王のこの言葉を聞き頼光の顔が綻んだ。
が、清王は生還屋に水を向ける。

水を向けられた生還屋は大凡王に対する口のきき方ではない、むしろ敵に詰め寄るかのような言葉。
あかねすら懸念し声をあげるが、清王は全く気にせず話を続けさせるのだ。
生還屋は順を追って全ての黒幕が王である事を突き付けていく。
突き付けられている王はまるで生徒のテストの採点をしているかのような雰囲気だ。
かなりわかりやすく説明されているのではあるが、頼光の頭では早々についていけなくなっていた。
だが、それでも清王の拍手と上機嫌な言葉が生還屋の推論が正しいという事を告げていた。

が、清王の上機嫌な顔もあかねの一言によってそれが薄皮一枚である事を露呈した。
笑顔が消えた途端、あかねの、いやあかねだけではない。
全員の周囲に刃と黒衣の兵士が現れたのだ。
言葉を発する事すらできぬほどそれはあまりにも急でそして確実なる殺意。
こうなって頼光は理解した。
今までどことなく「うさんくさい」とあかねと同様に思っていたが、今自分の目にしているのは紛れもなく乱世を勝ち抜いた清王。
そしておそらくは、居並ぶ刃の倍以上が自分たちと王都の間に潜んでいるのであろうことを。

94武者小路 頼光 ◇Z/Qr/03/Jw:2013/09/02(月) 22:49:46
ごくりと生唾を飲み込んだときには清王はまた柔和な顔に戻り、兵士たちはいつの間にか消えていた。
だが、確かにいるのだ。
いるはずなのに見えない、という事がここまで恐ろしい事だと頼光は初めて知る事になる。。

そのあとに続く清王の言葉に、自分が日本の代表として見られている事。
そして危害を加えることはない、という旨があり頼光は本来の目的を思い出し、すっかり気圧されていた自分に気が付いた。

あかねに続いて鳥居が不死になる目的を、必要性を王に問う。
呪いによってだが不死性を得ている鳥居にとって、不死への渇望や感覚は違うのだろう。
その感覚の違いの為か、王の目の色が抽象的でなく変わった。
それはそうだ。
渇望した不死を目の前の子どもが「あ、それ持ってるけどそんないいものじゃないよ」などと言われたのだから。
じっと鳥居を見極めるかのように見つめ、感想を漏らした。
その後自分たちへの仕事を取り消すと言い出したのだ。
取り消す、不要、となると役に立たない→褒美もない、となる。
頼光の思考はいたって単純だった。

そんな頼光を余所に、清王は不死の必要性を話す。
国を治めていく為に、列強から、帝国主義の荒波から中国大陸を守るために、と。
そして日本はパートナーとして選ばれた、と。
そう、大陸の新たなる覇者清は日本をパートナーと選び、日本はその代表として自分たちを遣わしたのだ。
となればこのまま引き下がるわけにはいかなかった。

「いやいやいやいや、成程成程。流石は清王様!
申し遅れました、ワタクシめは日本でも武勇に優れ、高貴な家督を持ちながらもそれを捨て己の武勲をもって華族となる事を目指す者。
名を武者小路頼光と申します」
もちろん何が成程なのかなんてわかっていないし、家督もない三男坊で親に勘当されただけであるがここぞとばかりに都合よく並べ立てる。
胸を張って清王に向かい自己紹介を済ますと、多分に芝居がかったしぐさで鳥居の頭を押さえ下げさせる。
「いやー小娘や糞ガキ……あ、いや無知な子供が無礼を働き申し訳ない。
特にこっちは不老不死って言っても見た目と同じように中身も子供のままで成長しないので私もこまっておるのですよ、わっはっは!」

傍若無人で礼儀知らず。
言う言葉は大きいだけで薄っぺらく、もちろん実力も伴っていない。
しかもフーに騙され怒り心頭であったはずの頼光。
真の黒幕と明らかにされた清王の前にもかかわらず、怒ることなくむしろ不恰好ながらも礼儀を尽くしている。
意外にも思えるかもしれないが、これは頼光にとっては当たり前の態度であった。

頼光の目的は華族になって栄耀栄華を極める事。
それすなわち、権威に縋っているのだ。
頼光の傍若無人さは無頼のものではなく、身分の上下関係における差別意識にあるのだから。
即ち、清王>日本の華族(頼光)>清の廷臣(フー)>日本の庶民(仲間たち)という序列が出来上がっているのだ。
であるからして、フーに殴りかかろうとしたが清王にはへつらうのは純然たる階級差に起因しているのだった。

「しかし清王様も人が悪い。
そういう事であれば最初に行っておいてもらえればこの武者小路頼光、存分にこの武勲を振るいましたのに。
訳も判らぬ状況で奮戦してこのように着物もボロボロになってしまいましたがね、何のこともありません。
まあ、連れの連中もそれなりに活躍しましたが、ね。」
仕事を取り消されたのを何とか取り戻そうと考え巡らせながら喋っていたのだが、もちろんうまく考え付くわけもない。
徐々に話があさっての方向に向かっていることに気づきながらも修正することもままならなかった。
「あーそれでですな、日清友好のためにいつでも尽力しますぞ。
ただまあ、こちらについてから呪災のなか戦いづめで、歓待の宴と寝床をいただければ英気を養いより活躍できますな。
あ、もちろんわたしくめは全然平気なのですが、この連中には過酷な道中でしたので!」
あくまで自分のメンツを保ちつつ、連れを気遣う優しさも見せつつ、清王の役に立つという事も見せつつ。
いろいろ詰め込んだので結局何が言いたいかわかりにくい印象を与えてしまったかもしれない、
だがそれとは裏腹に、馬鹿だけに扱いやすそうだ、という印象を持たせるだろう。
更に
「あ、えーまあ、それで……ゲフンゲフン、褒美の方は日本国へ私の華族承認を勧める礼状でも書いていただければ、うぇひへへ」
小さく付け加えたこの言葉がその印象を不動のものにするかもしれなかった。

95倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho ::2013/09/02(月) 22:52:22
>>81-88
>>91
石柱が立ち並ぶ通路を抜けて入った広間は、意図的に照明が落とされているのか、薄暗かった。
部屋の最奥は、緩やかな階段を経て壇上に玉座。
両脇に据えられた灯篭が、揺らめく陰影を落とし、玉座の主の霊験神秘な雰囲気を高めている。
灯る炎には火行の術式が施されているのが判った。
灯篭だけではない。この広間だけに留まらず王宮の敷地全体に、冬宇子程度の三流術士には
存在も気取られぬほどの複雑高度な五行の術式が、幾重にも張り巡らされている筈である。

清国宮廷――謁見の間。
対面した清王は、北方騎馬民族の血筋によるものか、薄金色の髪を持つ大柄な体躯の持ち主だった。
年齢は四十手前だろうか。柔和な表情と、砕けた口調。
一国の王たる身分にはおよそ不釣合いなほどの飄々とした態度も相まって、厳しさを感じさせない。
けれど、表層の軽さだけでは覆い切れない、何処か底知れぬ気配を醸し出している人物だった。

生還屋とあかね……さらに鳥居の問い掛けに応える清王の言葉を、冬宇子は黙って聞いていた。
―――数百年の生を経た吸血鬼―――
そう称する鳥居の正体を見極めようとするかのように、見詰める王の虹彩が金色に輝く。
身体に帯びていた火氣と金氣が、一瞬、鋭さを増した。
仕事の取り消しを口にした清王に対し、立て板に水の勢いで繰り出される武者小路頼光の弁解。
おべんちゃらが途切れると、冬宇子は、頼光を見遣って口を挟んだ。

「安心おしよ。"仕事を取り消す"なんて、心にも無いことなんだから。
 ええ?そうじゃないのかい、国王様?」

腕を軽く上げて、親指で鳥居を指し示し、

「あんたは、この生成り小僧とは違う――"完璧な不老不死"を望んでいる。
 おや、失礼…じきに大陸を統一する、清の国王陛下に対する口の利き方じゃなかったねえ。」

鳥居呪音の不死性は特殊だ。
ちょっとした精神の変調や外的要因で、生身と不死の狭間を行き来する不安定なものである上に、
何より、鳥居には、年を経たものならば樹木や動物すら醸し出している、あの独特の深淵な気配が無い。
端的に言うと――"死の匂い"がしないのだ。
彼の託つ孤独や寂しさは、まるで、大人に思うように構って貰えない子供が捏ねる駄々のように浅薄で、
数知れぬ死を見送ってきた者の寂寥、達観の如きものが感じられない。

江戸初期の生まれだと言う彼の身の上を、冬宇子は、妄想か催眠暗示による思い込みではないか、と疑っていた程だ。
十歳児の外見よりも幼い印象。
生の辛苦とは無縁の、甘やかされて育った子供のように我侭で、汚れを知らない。
永遠に無垢なまま――変化することのない、人形めいた不死性とでも言おうか。

おそらくそれは、彼の幼児性に起因するものであろう。
幼児は感情も思考も曖昧だ。我が身に起きた事象に対し、感情を定め、分析し、整理することが出来ない。
自我の未熟さゆえに、ただ、起きた事を受け止め、受け流すだけ。経験による智の積み重ねが生まれない。
清王は、金行を宿した眼で、そんな鳥居の本質すら見抜いているようだった。
彼が目指しているのは、人形のような不老不死ではない。
肉体も、智性も、完璧な形での『永遠なる生』である筈だ。

96倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho ::2013/09/02(月) 22:52:47
玉座へと視線を移し、冬宇子は続けた。

「……と言っても無礼講って話だったよね。なら遠慮なく、お言葉に甘えさせてもらうよ。
 呪災は、あくまで過程―――あんたの宿願は未だ道半ば―――…
 だから私らを、この国に呼んだんだろう?」

呪災発生の大本には清王の思惑がある―――生還屋の追及は、実に見事だった。

フー・リュウは、王都に展開されている空白地帯の謎を知らなかった。
旧来の防災計画を変更し、対策拠点を設置しなかった一帯――
そんな場所があることにさえ気付いていなかったと言う。
日本の嘆願所に依頼された『遺跡保護の人材派遣』についても、彼の働き掛けによるものではない。そう断言した。
フーが真実を言っているのなら、二つの出来事を差配したのは、一体何者なのか。

それらが可能な者、という観点から推測していくと、
各拠点への派兵を見送る決議が出来るのは――『軍部』…それも上層部の者でなければならない。
遺跡保護の嘆願は、『清国政府』より直々の依頼という触れ込みであった。
嘆願受理の当日、その日のうちに黒免許持ちの冒険者を掻き集め、現地に出発させた嘆願所の対応も、
依頼の出所の確かさを裏付けている。
清国において、『軍』、『政府』、双方に、権限を発揮できる者とは―――?

大陸全土を襲った呪災は、"不死の法の研究"が、発端となっている。
そもそも、不老不死を望み、研究を命じたのは誰か――?
清国の国体は絶対王政。君主が統治の全権能を持ち、自由に権力を行使することが出来る。
国王は政治の最高権力者であると同時に、祭祀の長であり、軍の総帥でもあるのだ。
動機と権力の両面から――自ずと浮かび上がって来る名があるではないか。

謁見の作法に従い、王座が据えられた壇の下に起立する冒険者達。
鮮やかな青緑色の旗袍に身を包んだ冬宇子は、清王の顔に視線を留めたまま、言葉を連ねた。

「……大陸の事情は知らぬが、不死王の遺跡を探るのは、禁忌にでも触れるのかい?
 表立っては下せぬ命令を、あんた自身は禁忌を侵さずに、果たす事が出来たって訳だ。」

傍らに佇む八卦衣の男――フー・リュウを見遣り、皮肉を交えた口調で言い放つ。

「そりゃ、成功の前例があるんなら、それに習いたいのが人情ってモンさねえ。
 まるで研究が上手くいっていない上に、まだか、まだか、とせっつかれりゃ、禁断の法に触れたくもならァね。
 しかも、急かした相手は、巒頭(らんとう・地理風水)の達人だってんだから。
 手段を持つ者なら、尚のこと、手を出さずにはいられない……!」

生還屋は特異な勘の持ち主だ。
フー・リュウの言葉の真偽を見抜き、起こした推論を元に、王に鎌をかけて見せた。
結果――少々乱暴とも思える王都の空白地帯の謎も含めて、全てが的中。
災害対策拠点の設置されていない一帯は、『森羅万象風水陣』の使い手――フェイ老師と、
かつて清軍の英傑と呼ばれた男――ジン、
野に下った二つの稀有な戦力を、王の手中に収めるためだけに敷かれた布石だったのだ。
偶然にも、フーと接触した冬宇子達によって、その目論見は挫かれてしまったことになる。

「道士の兄さん……少しは、腹を立ててもいいんじゃないのかい?
 そこの王様は、あんたの呪医としての腕前を見込んで、せっついていたんじゃあない。
 別口から不死の法に迫る方法を探っていて――たまたまあんたが、打って付けの能力を持っていたってだけだ。
 要するに、フー・リュウ…あんたは、この呪災を起こすために必要な、手札の一枚だったのさ。」

肩を竦め、小さく溜息を吐きながら、

「何も、利用されてたのは、あんただけじゃないがね。
 私らも……清国にとっちゃ日本に一枚噛ませるための、日本からすりゃ清国に恩を売るための、
 使い勝手のいい駒だったってことだ。
 はん……!やはり黒免許なんてロクなもんじゃなかったよ。」

97倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho ::2013/09/02(月) 22:53:12
日露戦争――ポーツマス条約締結の数年後、
露・独・仏・英・米・日は、小国勃興、群雄割拠状態の支那大陸の騒乱に干渉しない内約を交した。
列強との内約の手前、表立って清国に協力出来ぬ日本は、あくまで民営の組織を通した民間人の派遣という形で、
腕前の確かな冒険者を清国に送り込んだのだろう。

冬宇子は、再び清王に視線を戻して言った。

「まァ、そのお陰で、口封じに始末されちまう……なんて心配は無用って訳だ。」

呪災は、清国の大陸統一を推進する為に、意図的に起こされたもの。
そして、日本政府はそれを承知していた。
日本が統一後の修交、協力を見据えて、冒険者を差遣していたのならば、清王の冒険者達への扱いが、
そのまま、この国の信用を量る為の指標となる。大使相当の価値を持つ人間に、危害は加えられない筈だ。

色素の薄い王の瞳を見据え、冬宇子は、意地の悪い薄笑いを浮かべて見せる。

「しかし、日本への借りは高くつくだろうねえ。
 満州の租借権…いや、割譲……北方を丸ごと剥ぎ取られちまうかもしれないよ。
 そんなこたァ、ただの『駒』が、口出しする必要も無いってかい?
 国同士の駆け引きは、賢明な名君の腕次第ってことかねぇ。」

皮肉は、一種の意趣返し。
日本の軍部が満州を狙ってるという噂が、清王の耳に入っていない筈が無い。
いざ清が大陸を統一し、国体が安定した後は、日本にとって、隣の大国は脅威に変じる。
露西亜と清の接近を牽制するためにも、国境の満州を押さえるべきだという論説が、度々新聞を飾っていた。

「話は変わるがね、あんたも承知の通り、冒険者ってなァ官人じゃないんだ。
 仕事を請けるかどうかは、本人の意思次第。
 請けた仕事を途中で放り出したとて、報酬がフイになるだけで罰則なんかありゃしない。
 要するに、仕事をほっ放って、逃げちまってもいいってことさ。
 もし、私らが、この仕事を断ったら―――国王陛下…あんた…どうするつもりだい?」

試すような口調。
けれど言葉とは裏腹に、冬宇子は、呪災絡みの仕事を降りるつもりなど、毛頭無かった。
事情も知らされず、二つの国の狭間で手駒のように利用されていたことは、耐え難いほどに腹立しかったが、
だからこそ、未消化のまま帰国することなど考えられない。
呪災の全容を詳らかにして、『納得』しなければ、収まりが付かないのだった。
第一、全てを知らねば、この馬鹿げた災害を引き起こした連中を、嘲笑ってやることすら出来ないではないか。

「さてと、その、『仕事』とやらについて聞こうか。
 そりゃ、無論、不死王の遺跡の攻略ってんだろうが、
 あんたが呪災の原因を知っているかどうかで、仕事の危険と難易度は大きく変わる。
 ……陛下、呪災の発生を画策していたのは、あんただが、
 具体的に、誰が、どうやって、この呪災を発生させたのか――どこまで正確に把握しているのさ?
 話してもらおうか。仕事を請けるかどうかは、それからだ。」

呪災の淵源に向かえば、マリー達にジャンを嗾けた正体不明の『日本人の女』と、相間見える機会が必ず訪れる。
そんな確信めいたものが冬宇子にはあった。
――『冒険者が不死の法を見つけ出すのを阻止すれば、自分達が親父や兄貴を生き返らせてやる』――
女はジャンに、そう伝えたという。
日本と清の密約まで含めて、冒険者がこの国に差し向けられた事情を知っていなければ、出来ない発言だ。
彼女…いや、彼女を含む一味も、おそらく、不死の法を狙っている。
一味が、王を出し抜き、先んじて呪法を完成させることを目的に動いているとしたら、
不死王の遺跡で、互いが接触する可能性は極めて高い。


【清王に質問1:日本政府の手前、冒険者を殺すとか出来ないよね。もし、仕事断ったら私達をどうする気?】
【ちょっとゴネてみせたけど、仕事請ける気満々。】
【清王に質問2:王様は呪災の発生原因をどれくらい把握しているの?】

98◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:53:40
>「あ、えーまあ、それで……ゲフンゲフン、褒美の方は日本国へ私の華族承認を勧める礼状でも書いていただければ、うぇひへへ」

延々と垂れ流されるなんとも愚昧な戯言を、清王はにこやかに微笑んだまま聞いていた。
頼光が一頻り喋り終えると何度か頷いて――それから深く溜息を吐いた。
そして唐突に王座から立ち上がり、冒険者達――頼光の傍へと歩み寄る。

「どうやら君は……自分の身の程と言うものが分かっていないようだ」

静かな呟き――穏やかな響きは微かにも残っていない。
金行を帯びた鋭い眼光が、頼光を見下ろしている。

が、不意に、王の口元が緩んだ。
それから彼は頼光の肩に腕を回す。
さり気なく他の冒険者達との距離が開くように、引き寄せていた。

「……君は華族だなんて小さな器に収まるべき人間じゃない。
 日本という国でさえも……君の器には小さ過ぎるくらいだ」

目と目をまっすぐに合わせて、王は真剣な口調でそう告げた。

「……いいかい。確かに日本は清よりも優れた国だ。……今はまだ、ね。
 だが……日本は小さいよ。今は良くても、土地と資源に劣る日本は、いずれ世界について行けなくなる。
 ……いや、そうじゃないな。もっと率直に言おうか」

「ボクは君を、とても高く評価している。君が欲しいんだ。清の為に働いてもらいたいと思っている。
 その為なら……地位も、富も、君が望むがままの物を用意してもいい」

無論――清王の言葉は嘘に塗れている。
唯一、君が欲しいという事だけは本心だが――それも当然、頼光の才や武勲故ではない。
頼光は過去に一度、転生術の媒体となっている。
不老不死とは少し異なるが、研究対象として確保しておいて損はない。

「……ま、考えといてよ。色よい返事を期待してるからさ」

頼光の肩を軽く二三度叩いてから、清王は玉座に戻った。
国使同然の頼光を強引に確保して日本の心証を損ねる事は出来ない。
が、もし彼が自分から清に来る事を望んだのなら話は別だ。
無論、嘆願中に行方不明に――と言った形での拉致も出来るが、何にせよ本人の同意があって損はない。
彼の人格を考えれば、望ましい結果は十分期待出来る。

99◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:54:37
>「安心おしよ。"仕事を取り消す"なんて、心にも無いことなんだから。
  ええ?そうじゃないのかい、国王様?」

「あ、バレちゃった?やだなぁ。そう言うのはボクの口からバラすからこそ面白いのに」

>「あんたは、この生成り小僧とは違う――"完璧な不老不死"を望んでいる。
  おや、失礼…じきに大陸を統一する、清の国王陛下に対する口の利き方じゃなかったねえ。」
>「……と言っても無礼講って話だったよね。なら遠慮なく、お言葉に甘えさせてもらうよ。
  呪災は、あくまで過程―――あんたの宿願は未だ道半ば―――…
  だから私らを、この国に呼んだんだろう?」

「……物分かりが良くて、賢い。それに美人だ。君は理想の女性だねえ。
 どう?仕事が終わったら、こっちで暮らさない?なーんて……」

>「……大陸の事情は知らぬが、不死王の遺跡を探るのは、禁忌にでも触れるのかい?
  表立っては下せぬ命令を、あんた自身は禁忌を侵さずに、果たす事が出来たって訳だ。」

「……いや、別に?そんな事はないよ。
 でもボクがそれを命じた後で呪災が起きたら、ボクのせいになっちゃうでしょ。
 それを理由に「お前には大陸の統治は任せられない。我々が分割統治する」なんて論調に持っていかれたら……面倒じゃないか。
 だけどまぁ、フーちゃんは良くやってくれたよ」

>「そりゃ、成功の前例があるんなら、それに習いたいのが人情ってモンさねえ。
  まるで研究が上手くいっていない上に、まだか、まだか、とせっつかれりゃ、禁断の法に触れたくもならァね。
  しかも、急かした相手は、巒頭(らんとう・地理風水)の達人だってんだから。
  手段を持つ者なら、尚のこと、手を出さずにはいられない……!」

>「道士の兄さん……少しは、腹を立ててもいいんじゃないのかい?
  そこの王様は、あんたの呪医としての腕前を見込んで、せっついていたんじゃあない。
  別口から不死の法に迫る方法を探っていて――たまたまあんたが、打って付けの能力を持っていたってだけだ。
  要するに、フー・リュウ…あんたは、この呪災を起こすために必要な、手札の一枚だったのさ。」

「……まさか、彼は怒ったりしないさ。だって彼がここまでしたのは、ボクの為だけじゃない。
 リウちゃんの為でもあったんだろ?その割合は……可哀想だから聞かずにおいてあげるけどね」

「……あ、一応言っとくけど、彼女の失敗はボクのせいじゃないよ。むしろ期待さえしてたさ。
 それが駄目だったから、仕方なく君を利用したんだ」

>「何も、利用されてたのは、あんただけじゃないがね。
  私らも……清国にとっちゃ日本に一枚噛ませるための、日本からすりゃ清国に恩を売るための、
  使い勝手のいい駒だったってことだ。
  はん……!やはり黒免許なんてロクなもんじゃなかったよ。」
>「まァ、そのお陰で、口封じに始末されちまう……なんて心配は無用って訳だ。」

>「しかし、日本への借りは高くつくだろうねえ。
  満州の租借権…いや、割譲……北方を丸ごと剥ぎ取られちまうかもしれないよ。
  そんなこたァ、ただの『駒』が、口出しする必要も無いってかい?
  国同士の駆け引きは、賢明な名君の腕次第ってことかねぇ。」

「んー、そうだねぇ。ものは考えようさ。ボクは日本とは仲良くしたいと思ってるし……
 ……厄介な露西亜との間に勝手に入ってくれると言うなら、それも有難いかな」

にこやかに王は語る。
君達が他所で余計な事を口走るとは思ってもいないようだ。
危害を加えずに口を封じる術を、既に用意しているのだろう。

100◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:55:02
>「話は変わるがね、あんたも承知の通り、冒険者ってなァ官人じゃないんだ。
  仕事を請けるかどうかは、本人の意思次第。
  請けた仕事を途中で放り出したとて、報酬がフイになるだけで罰則なんかありゃしない。
  要するに、仕事をほっ放って、逃げちまってもいいってことさ。
  もし、私らが、この仕事を断ったら―――国王陛下…あんた…どうするつもりだい?」

「……君達冒険者は、とても優れた機構だ」

「と言うのも、君達は国使同然の存在として派遣されておきながら、同時に個人としての性質も失っていない。
 だから大使のように丁重に扱えと言いながら、仕事を受けるかどうかは個人の自由と主張出来る。
 だけど……君達が国使であるか個人であるかを選べるのは、何も君達だけじゃない」

「君達のお上……国だって同じ事を考えるし、同じ事が出来る。
 成功すればこちらの国使のお陰だから一つ貸し。
 でも、もし何か面倒な事になった時は……それは君達の個人的な失敗だ」

「君達が仕事を蹴れば、ボクは呪いを暫く放置して、もう一度使いを出して別の人材を派遣してもらうか。
 あるいは自前の戦力で遺跡を攻略しなくちゃならない。いずれにせよ損害が出る。
 その責任は本来なら、責任感のない国使を送ってきた日本に負わせたい所なんだけど……」

「……君達は多分、トカゲの尻尾になるよ」

「……けど、そんな事は今は関係ないよね。もし仕事を蹴られたらかぁ……そうだなぁ。
 仕方ないから、こちらからも追加の報酬を出すよ。
 それくらいしか出来ないけど……君達ならきっと引き受けてくれると、ボクは信じてるよ。ね?」

>「さてと、その、『仕事』とやらについて聞こうか。
  そりゃ、無論、不死王の遺跡の攻略ってんだろうが、
  あんたが呪災の原因を知っているかどうかで、仕事の危険と難易度は大きく変わる。
  ……陛下、呪災の発生を画策していたのは、あんただが、
  具体的に、誰が、どうやって、この呪災を発生させたのか――どこまで正確に把握しているのさ?
  話してもらおうか。仕事を請けるかどうかは、それからだ。」

「……簡単だよ。不死王の遺跡に封じられているのは、不死王だけじゃない。
 伝承では確か……彼を不死にした少年も、そこに幽閉されたと言われている」

「……今回の呪災なんだけどさ。もし不死という現象を、伝染する呪いのように
 組み直して振り撒けるとしたら……それは王様じゃなくて、その少年の方だと思わないかい?」

「そうさ。不死の法を編み出し、そして地の底へと囚われた少年は、きっとまだ生きていたんだ」

「つまり相手は、ただの兵士に捕らえられて、そのまま生き埋めにされちゃうような子供だ。
 術才は凄いんだろうけど、対策さえしてしまえば何も怖くないさ。
 呪災を起こしてくれたお陰で……対策の仕方は、もう分かってるしね」

「正直言って……後はその子を連れてくるだけでいい。
 人助けみたいなものさ。どうだい?まさか難しいとは言わないよね?」



会話を終えれば、王は君達に歓迎の宴を手配するだろう。
振舞われるのは補陽の効果が強い食事や酒――きりきりと働いてもらう為の準備を、宴という言葉で飾っただけだ。
またその途中で『王都の地図を持ち出した件』『不死の研究を宮仕えの道士から聞き出した事』についても触れられる事になるだろう。
本来なら外患罪に相当するが、それが必要な事だったとは十分理解出来る。
『だから土行の術を用いて、その情報を君達の心中に『埋伏』させてくれるだけでいい』と。
つまり記憶は確かにあるが、表層化させられない――口外出来ない状態にすると言う事だ。
もっとも――口外出来なくなるのが本当に地理情報のみなのか、施術を受けるまで君達には確かめようがない。

術を施された後で、何故か些細な手違いで、つい先ほど交わした会話の内容まで
口に出来なくなっている可能性も――なきにしもあらずだ。

101◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:55:21
――さておき、およそ四半日の休息を得た後、君達は不死の王の遺跡を目指す事になる。

「市街地の動死体はもう殆ど処理が済んでるよ。
 時折妙な個体がいたらしくて、それは捕獲するよう言っておいたけど。
 なんでも人を襲わず、特定の行動や場所に固執する個体がいたそうでね」

「なんか、ひたすら鍛錬を繰り返す太った動死体とか……面白そうじゃない?見ていくかい?」

「ま、それらを解剖、分析すれば……君達がしくじったとしても、ボクは安心だ。……冗談だよ」

「都外に車を用意してある。……原始的な方のね。
 彼らの脅威は数と接触による冷気の感染だけど……開けた地形なら馬には到底追いつけない。
 国を出てからは動死体共とまた出会うだろうけど、相手にする必要はないさ。
 ゆっくりしていればいい。……墜落する飛行機よりかは、乗り心地もマシだろうしね」

とは言え――馬車の移動速度は道の状態が良くても精々、時速20km程度。
清の首都、北京から北方にある遺跡に辿り着くには――少なくとも半日はかかる。
小刻みに、不規則に揺れる馬車の中での十二時間は、決して快適とは言えないだろう。
もっとも――その後で、日の沈んだ薄暗闇の中、君達は周囲に動死体の蔓延る遺跡に乗り込まなくてはならない。
その事を考えればむしろ、馬車の中での半日は至福の時だとすら言えるかもしれない。

――遺跡からやや離れた地点に、小高い丘があった。
馬車のような目立つ物を安全に停められるのは、そこが最後になる。
それ以降は多少の地形の隆起や窪みはあるが、馬車で通過しようものなら間違いなく動死体に察知される。
動死体共の数は北京で遭遇した時とは比べ物にならない。
清と北方両軍の兵士の殆どがそのまま動死体に成り果てたのだ。
亡国士団や一部の優秀な兵士は動死体化を免れたかもしれないが――
――それはつまり、突然動死体の群れに放り込まれたに等しい。
結局、生き残る事は出来なかっただろう。

「……なぁにが、後はその子を連れてくるだけ、だ。あのクソッタレ……。どうすんだよ、コレ」

生還屋が眼下に広がる光景を見下ろして、そうぼやいた。



【遺跡の周りには動死体がわんさかいます。
 馬車を使えば素早く突破出来ますが、間違いなくバレます。
 馬車を使わなければ、身を隠せない事もない地形です。
 遺跡に乗り込んだとしても、不死の法は遺跡の地下にあります。
 地下向かう必要がありますが、悠長に入り口を探していては動死体達に襲われてしまうでしょう】

102鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:55:58
馬車に揺られながら、鳥居呪音は悶々と考えていた。
清王の言ったこと、見られないことと、見ないことは違う。
その意味を…。

鵺の洞窟で、神気の力で人の子に戻った。
そのときから、何百年ぶりかに太陽の下の世界をみた。
嬉しくてはしゃいで、ホマレヤマでは倉橋冬宇子に抱きついた。
それは自分が拒絶されうる存在では最早ないと思っていたからだ。

予想通り、倉橋はいい香りがした。
だから鳥居は「お母さんのかおりだ〜」とか言ってしがみついた。
だが、頭に思いっきり握り拳固をお見舞いされた。

そう、倉橋は鳥居の母親と同じ術者だが、当然本当の母親ではない。
細い糸を手繰り寄せるかのように、繋がりを求めても
それは所詮紛い物。ほんものではないのだ。
故に鳥居は悟る。
母親と同じ存在を、この世ではもう二度と見ることはないだろうと。
母親のように鳥居を愛してくれる人なんてすでにいないのだ。
必死に世界に目を凝らして見ても何もない。ただの無常の繰り返し。

それなら自力で孤独を埋めるしかないのだろう。
だから鳥居は、不死の王に会ってみたいと思った。彼が何を見ているのか知りたいと思った。
不老不死に成り立ての清王では、ダメ。と思う。
そして、倉橋が言葉にした完全なる不老不死。
不老不死に完全なる状態があるのなら、その者はいったい何を見るのだろうか。

103鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:56:22
馬車の窓の、カーテンの隙間から差し込む光は紅く、
すでに夕闇を孕んでいる。もうすぐ日は沈むのだろう。

ここで鳥居は、結構長い間自分が無言だったことに気がつき
頼光を指でつつくと…

「ね〜、頼光の好きな食べ物はなに?」
唐突にしつもんを浴びせた。
日本に帰ったら、それを食べさせてあげたいと思っていた。
なぜなら清王に頼光をとられてしまうことはアムリタサーカスにとって
一番の大打撃なのだ。

そして、倉橋のほうをむく。
清王が言っていたように、よくよく
あらためてみると、倉橋は綺麗だった。
でも、鳥居にとっては他人に近い。

まるで何かに追いかけられているかのように
清王を問い詰めた冬宇子。
その思いのうちというか、強さのようなものは
いったいどこから来るのだろう。
彼女が何かを求めているから?
鳥居は気になっていたことを思いきって聞いてみた。
今の倉橋はある意味、清王よりも話しかけ辛い感じだったが…。

「……あのぅ、倉橋さんと頼光は王様に気に入られちゃったみたいですね。
でも倉橋さんは、あの人こと、どう思います?
…正直な方ですよね。普通ならあれほど正直にものは語らない。
自国の国民に少しでも犠牲者がでたのなら、
少しは悲しい素振りくらいみせるはずだし
嘘でも泣いてみせるのが一国の王の姿ではないでしょうか。
あのような人と日本が仲良くできるとアナタは思いますか?」

これは鳥居の遠回しな悪口。
もちろん綺麗事だけでは国を統括できないことは理解しているつもりだ。
だが、フェイ老人とその小さな弟子たちを救うのに、鳥居たちがどれほどの苦労をしたのか、
彼は理解しているのだろうか。
言葉一つで簡単に多くの命が奪われる。
こっちは目の前の命一つ救うのにいっぱいいっぱいなのにだ。

この鳥居の発言に倉橋が同調するとしたら、
浮かれ気分の頼光に冷や水を被せることができるかもしれない。
そして冬宇子の内面も少しは垣間見ることができるかもしれない。

104鳥居 呪音 ◇h3gKOJ1Y72:2013/09/02(月) 22:57:28
馬車の速度が徐々に緩やかになり、止まった。
遺跡についたのだろうか。
生還屋に続いて馬車から飛び降りた鳥居は息をのむ。

>「……なぁにが、後はその子を連れてくるだけ、だ。あのクソッタ レ……。
どうすんだよ、コレ」

丘から見下ろした薄闇の遺跡に徘徊する無数の動死体。
この遺跡の地下に不死の王。それと少年がいる。

(こんな寂しい場所に…閉じ込められているなんて……)
少年が呪災の原因となっているのならそれも頷ける。
動死体の群れと辺りに漂う冷気は少年の怨念を
具現化しているようにも見えた。

「あんなに広い遺跡じゃ、入り口をさがすのも骨がおれちゃいますね。
倉橋さんは呪災の発生源とか感知できますか?
闇雲に入り口を探して見つけるなんて奇跡の技ですよね。
何かよい案とかありますか?」

鳥居はいつになく慎重だった。
はぐれたら終わり。動死体に見つかっても終わり。
入り口の探索時間に比例して上昇してゆく動死体との遭遇率。
ここは慎重にならざるおえなかった。



新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)



■ したらば のおすすめアイテム ■

俺の後輩がこんなに可愛いわけがない(1)特装版

黒猫たんが可愛くないはずないっ!

この欄のアイテムは掲示板管理メニューから自由に変更可能です。



おすすめ: ブログ 検索JP ショッピングサーチ ダウンロード 動画検索 ウェブフォント・デコもじ 電子書籍・forkN URL共有・uuu.mu 繋がるブログ・mondju 写真を漫画風に・MANGAkit 麻雀・ワンセット スマホブログ・Tracenote iPhoneアプリレビュー・Boom App ガイド 住まい Wiki
read.cgi  無料レンタル掲示板 powered by Seesaa