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キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!避難所

1 :ジェンタイル ◆SBey12013k :10/12/19 05:57:19 ID:???
キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1291987200/


こちらのスレの避難所です
板お借りいたします

516 :ジェンタイル ◆SBey12013k :11/12/30 05:28:14 ID:???
【遅れて申し訳ありません。本スレは満杯になったのでこちらで本編です】

「なあジェンタイル君。"良い話"とは一体、何だと思うかね――?」

「暖かな読後感の残るハートフルなエピソード。そういうものじゃねえかな!」

ロスチャイルドが振ってきた話に適当な答えを寄越しながら、俺は魔法を連打する。
全て阻まれた。ロスチャイルドはその場から動いてすらいない。
どうなってんだ、戦精霊の加護とも違う――攻撃だけじゃない、なにもかもを拒絶しているような感覚。

「おや、君ともあろうものが一般論とはどういうことだねジェンタイル君。自分の意見を持たぬ者に説得力など生まれんよ。
 いいかね、良い話とは、含蓄や教訓めいたものがあって、聞き手の心に残るもの――つまり、先生の話のことだね?」

「聞き流してやるよそんなもん!」

飛び道具がダメなら、近づいてぶん殴るまでだ。
土中からフランベルジェを錬成して、三歩の踏み込みでロスチャイルドの懐に迫る。
かち上げるようにして振り抜いた逆袈裟の一閃――その名の通り炎を纏った一撃を、不可視の速度で叩きこむ!

「聞いてもらうさ。問題児に如何に学習意欲を持たせるか……教育者としてこれほど燃える課題はない」

二撃、三撃と間髪入れずに打ち込むが、その全てが指先ひとつで止められる。
態勢が崩れた俺に、ロスチャイルドの長い脚が伸びてきた。咄嗟の防御も間に合わず、脇腹を回し蹴りで抉られる。

「かっは……!」

吹っ飛んだ俺は瓦礫の上を転がって、まろび、使い物にならない腕をクッション代わりにしてブレーキをかける。
幸いにも出血はなかったけれど、肉の中で砕けた骨が神経に刺さる激痛が、腕から先を錘に変えていた。

「なんで効かねえ――?霊装なら、精霊の力で破れるはずだ――」

霊装はそもそも対悪魔を想定して開発された戦闘術だ。
たとえ悪魔を殺せても、武器精霊と戦うための技術じゃないから、精霊の力を持つ人間相手には無敵とは言えないものなのだ。

「信心が足りないな、ジェンタイル君――いや逆か。『信じるだけ』で終わっているから、所詮君はそこ止まりの人間だ」

「……ああ?何が言いてえ」

「気楽だよな、"信じる"というのは……相手に完全に依存し、己の命運やそれにまつわる一切の判断と責任を放棄する。
 信じる者は救われる、とはよく言ったものだね。全面的に信じることで、全てのしがらみから逃れられるのだから、
 確かに彼らは救われているんだよ。 ――『信じられる側』のことなんか、ちっとも考えないくせにね」

俺は掌を瓦礫にたたきつけ、魔力を土中に打ち込んだ。ロスチャイルドの足元を炎熱で溶かし、即席の落とし穴にする。
果たしてロスチャイルドは沈まなかった。陥没した地面のうえに透明な板が張ってあるみたいに、空中へ立ち続けている。
重力すらこいつを捉えられないのか?

「だから先生は、ひとつ"信じられる"ことにしてみたんだ」

――いや違う。これは"不可侵"。何者にも、物理法則にすら侵されざる絶対の存在。
そう、それはまるで、『神』だった。人の身にありながら神格を持つ、あまりにも矛盾した存在。
俺ははたと気付いた。ロスチャイルドの霊装の意味。

「お前。――『信仰』を纏いやがったのか……!」

ロスチャイルドは、――予想されていたことだが、やはり笑った。
できの悪い生徒に因数分解を理解させた達成感めいたものを快哉に載せて言葉を放つ。

「いかにも。誰かに信じてもらうことで、先生は神になった――!」

517 :ジェンタイル ◆SBey12013k :11/12/30 05:28:42 ID:???


ガウンの細胞内乱を、身体の中枢を外部に切り離すことで対処したゾンビ。
出鱈目な細胞運用の代償は、疲労。差し向けられた数体の分身は、どれもガウンの脚を止めることすら能わなかった。

「どうしようもねえな。どうしようもねえよお前。今更逃げの一手ってんじゃあ、愛しのフリントロック君が泣くぞ……?」

加護によって阻まれ、指の一振りで爆殺されるゾンビ達。
散らばった肉片や、焦げた骨の塊を踏みしだいて、ガウンは進む。その先で。

「――――?」

音が聞こえた。水音――清流のそれではなく、粘性を帯びた雫の跳ねる音。
それから何か薪でも折るみたいな快音や、落ち葉を踏むような渇いた音も続いて響く。
その意味が、その光景が、ガウンにはよくわかった。あの場所には――テイラードの死体がある。

「……お前、本当に好きな奴以外はどうだっていいんだな」

仲間の死体を陵辱されようとも、ガウンは決して激昂しない。それはあくまで死体だからだ。
戦場暮らしが長ければ、多くの魔物と対峙すれば、これより酷い光景など山ほど見てくることになる。
戦友を輪切りにしてネックレスにした鈍鬼や、人体を繋ぎあわせた鎧を見せる悪竜などを、眉一つ変えずに屠ってきた。
魔物が人を食うのは当然の摂理で、人が魔物を殺すのもまた摂理だから――そういう納得には余念がないのだ。

「語るに落ちたぞ、化物」

だから、この感情は怒りじゃない。
この世で最も罪深い自己矛盾に苛まれる、愚かな魔物に対する哀れみだ――!

>「わたしはジェンタイルにあいしてほしくて、たたかってるわけじゃない。
 ジェンタイルをあいしているから、たたかうの。みんなだって、そうだよ。
 だから……わたしの、わたしたちのあいを……やすくみないで!」

瞬間、地下通路を埋め尽くすように肉の波濤が広がった。
ガウンはいつものように加護で退けようとして――発動しない。パイ生地のように伸びる肉が、ついにガウンの素肌を捉えた。

(こいつは――毒か――!?)

自分ではないものに体内を侵食される悪寒が駆け巡る。
傭兵時代に痛覚を遮断する術を習得していたガウンは即座にそれを行使。
攻撃を受けている最中とは思えぬ冷静さで被害状況を把握する。

(どういうカラクリかは知らないが、おれの加護を突き抜けやがった。身体に入れちまったからにはもう、防ぎようがねえな)

だったらどうする?
自問に対する自答は、立ち上がりからの宣言。

「……そうかよ、でもな化物。お前のご高説に、おじさんからも言わせてもらうぞ」

518 :ジェンタイル ◆SBey12013k :11/12/30 05:29:24 ID:???
どういうわけだか肉波にガウンが呑まれた直後から、加護が復活している。だから、そのまま前へ踏み出した。
水面を走るトカゲのように、一歩一歩を流動する肉の表面へ突き刺しながら、肉の中心たるゾンビを目指す。

防ぎ用がないなら、攻める他にない。どういう毒かは知らないが、身体に回る前に倒せば問題ない。
戦精霊は副次的に戦闘継続のための治療も司っている。毒を使う相手の根源から血清を創り出すなど、彼ほどの手練なら造作も無い。
そうして約十歩の行進を経て、ガウンはゾンビの鼻先へ肉迫していた。

「愛してるだとか愛されるだとか――んなもん知るかばーーーーかっ!!」

ゾンビの肉に侵された右腕で、ゾンビの右頬を殴り抜いた。
間髪入れずに左からもストレート。渾身のワンツーブローを叩き込む。

「他人の惚気話ほど聞いててイラつくものはねえなオイ!よくもまあ化物の口から歯の浮くような告白が出たなあ!
 お前、人食った口でチュー出来んのか?出来んのか?出来ねえだろ!加齢臭よりひでえ死臭が漂ってんだよ!!」

腕から肩まで変異が侵食しても、ガウンは殴るのをやめない。殴り続けるのを止めようとしない。

「見返りのねえ愛に価値なんかあるかよ――!自分が好きなら、相手にも好きになってもらいたくなるのが『人間』だ!
 破綻してんだよお前さんは……相手の気持ちも確かめねえで、愛を押し付け続けるってのは、ただの『信仰』だ。
 それは断じて愛じゃねえ。お前さんは、あのガキを"神"にでも祀り上げる気か――!?」

その一発一発に、『略奪』の魔法を込めてある。
着弾した部分からゾンビの細胞がガウンのものに変わっていき、ガウンは以前己の身体を侵食され続けている。
お互いの身体を、自分の領域に塗り替えていくその光景はまるで――原初の戦争、陣取り合戦のようであった。
ゾンビとガウン、どちらの領地が先に征服されるのか、そういう戦いだ。

「『愛せればそれで良い』なんて言葉、おれの前で口にするんじゃねえ……!!」



>「汚い手で撫で回して悪かったな――あの世でテイラードに思う存分撫でてもらえ!」

目の前に光が溢れたとき、獣精霊はどうしてか逃げる気になれなかった。
車のライトに睨まれた猫は動けなくなって撥ねられると言うが、獣精霊はそこに恐怖ではなく救いを見たのだ。
レゾンに一撫でされたときに、怒りや執念なんかも一緒に払い落とされたみたいだ。

きっとあの光は自分を滅ぼす。実在のない自分は、滅んだらどこへいくのだろう。
そこにテイラードはいるだろうか。また主と獣が一緒になって、幸せに生きて行けるだろうか――

>『君の気持ち、分かるよ。――私もあいつらに仲間を殺されたから。でも、仕方がないんだ。
 彼らはそんな出会い方をしてしまったから、戦うしかなかったんだから、恨んでも憎んでも仕方がない』

想い起こされるレゾンの言葉。レゾンはもともとこちら側の人間だ。あれと仲のよかった二人の幹部は、この収容所で殺された。
他ならぬ、メタルクウラ。今レゾンが肩を並べるこの機械生命体がイグニスを殺害したのは報告に聞いている。
何故、この男は大事な大事な友人を殺した相手と、こうも安らかに刃を連ねられるのか。

獣精霊を宿していたテイラードは、レゾンが裏切ったとき驚愕を隠せないようでいた。
てっきり寝返ったふりをして後ろから刺し殺す算段だと睨んでいたのに、神官の戦意高揚魔法まで持ち出す始末。
本格的にロスチャイルドに牙を向いて――もう自分たちの元には戻ってこないのだと、痛烈に理解したのを覚えている。

519 :ジェンタイル ◆SBey12013k :11/12/30 05:29:54 ID:9XYzMAwX

メタルクウラの仲間の、"フリントロック"や"モン☆むす"にしたって、あいつらがブレイドを殺した張本人だ。
イグニスと違って死に様は酷いものだったと聞いている。
だから惨状を封印するように、テイラードはこの場所を"噛み潰した"のだ。

疑問が生まれると、思考は止まらなくなった。
どうして?どうして?どうして?どうして?問いはどこまでも派生し続け、答えはいつまでも見つからない。
ああ、光が来てしまう。この光に呑まれたら、もう考えることはできなくなるだろう。
人間は思考する生き物だが、獣はものを考えない。そんな獣精霊が初めて至った『思考の境地』は、しかしもう一秒も続かないだろう。

圧縮された意識の中で、もう一度『憎い』と思った。
その憎しみは主人を殺した、メタルクウラへのものではなく、考えを途絶する死の光への怒りだった。

獣は哲学しない。しかし、哲学をする獣はいる。獣精霊は――自身の問いに応えたい。
思考することで、いなくなってしまったテイラードを、ずっと傍に感じられたから――


ぎゅん、と駆け抜けた光に焼かれ、獣精霊は消滅した。


>「メタルクウラ、答えてくれ。お前達の世界の精霊樹は枯れているのか?

しかしメタルクウラは答えることができない。
獣精霊が司る現象――『弱肉強食』――力で他者を支配する魔法が、メタルクウラの身体を略奪したのだ。

いま、メタルクウラを支配しているのは純粋な"力"だ。獣精霊以上の力で以て対抗すれば、戒めを解くのは簡単だろう。
ただし、エネルギーや肉体的な暴力は使えない。その根源である『身体』が、獣精霊の支配下にあるからだ。

メタルクウラの舌を借りて、獣精霊は喋った。
思考を覚えれば、それを言語化するのは難しいことではなかった。

『何故――仲間を殺した者と、肩を並べられる?どんな綺麗事で飾ったところで、根源にあるのは変わらぬ事実だ。
 "こいつはイグニスを殺した"――!その手でお前の友人を殺した!憎むべき相手を何故助けられる!
 その加勢が何かの間違いであるならば、考えなおせ。復讐は容易だ。今すぐこいつを破壊しろ――!』

獣精霊は吠える。

『堕ちるな、レゾン・デートル! 世界なんかの為に、友人としての怒りを忘れるな――!』


【ガウン:細胞の侵食を受ける。侵食され切る前に決着をつけるべくゾンビにインファイト。ゾンビの細胞を『征服』する打撃】
【獣精霊:消滅するも、メタルクウラの身体を魔法で支配して生きながらえる。レゾンにイグニスの仇を討てと拐かす】
【次のみなさんのターンでラストです。決定リールでトドメを刺してください】


<本編ここまで>

520 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :11/12/30 09:27:27 ID:???
【レゾンさん、先にお願いしますね】

521 :レゾン ◆4JatXvWcyg :11/12/31 21:46:08 ID:???
*   *   *

『いいかい? これはお前が来たるべき日にあるべき道を辿るための大切なものだ――
くれぐれも大切にするんだよ』

『はい、お母様』

導き――それはあるべき物語への呪縛。
そこに自由意思など介在せず、只運命の操り人形と成り果てる――

*   *   *

眩いばかりの極光に曝され、獣精霊は消滅していく。
それを見て、霊装を解除する。

―― ソレデイイ、何モ迷ウ事ハナイ、強大ナル悪カラ世界ヲ救ウンダ ――

脳裏に何者かの声が響く。胸元のペンダントを外し、目の前に掲げてまじまじと見つめる。

「……一体何なんだ?」

迷いなど元より、無い――はずだった。
メタルクウラが、口を開く。だが、その口から出て来たのは、オレの問いに対する答えでは無かった。

>『何故――仲間を殺した者と、肩を並べられる?どんな綺麗事で飾ったところで、根源にあるのは変わらぬ事実だ。
 "こいつはイグニスを殺した"――!その手でお前の友人を殺した!憎むべき相手を何故助けられる!
 その加勢が何かの間違いであるならば、考えなおせ。復讐は容易だ。今すぐこいつを破壊しろ――!』

「――――!!」

その言葉を聞いた刹那、自分の中に異変が生じた。
ナンダコレハ――臓腑のさらに奥、腹の底からどす黒い物が湧き出てくるような感覚。
それが仲間を殺した相手への憎しみ――と理解するまでには、一瞬、時間を要した。
自分を律しようと特に努力しなくても、もう長らく感じた事が無かったから忘れていた。
それだけに、今や歯止めが効かない。
駄目だ、感情に流されてはいけない――世界のために、ロスチャイルドに反旗を翻すと決めたのだ。
息が苦しい……激情のあまり、呼吸すらも上手くできない。

―― 騙サレルナ、獣風情ノ言ウ事ニ耳ヲ貸スナ ―― 

虹色の石に問いかける。

「オレを導いていた……操っていたのはお前なのか? オレ自身の意思では無かったのか!?」

所構わずうるさくて、ふざけてばっかりで――どんなに絶望的な状況に置かれた時もそれを貫いたイグニス。
こんな時、アイツならどうしただろう……、思い起こすのは、笑顔ばかり――

522 :レゾン ◆4JatXvWcyg :11/12/31 21:47:53 ID:???
―― レゾ、難しい事考えんなって! 楽しけりゃ万事OKよ!

楽しければいい、それも貫き通せば信念。
自分に正直であり続ける事は本当はとても難しい事で、真に強い者だけが到達できる境地。
イグニス、お前はオレよりずっと強かった。

―― やってくれると思ってたぜぇ、なんてったってこの俺様のマブダチだからな!

それなのに、イグニスはオレの事を親友だと臆面も無く言ってくれた。
お前がいるから大丈夫、いつもそう言って無茶に突撃してブレイドに怒られていたバカ。
こんなオレに全幅の信頼を寄せてくれたバカを、裏切るのか――?

―― 信仰とか窮屈じゃねーの? 好きなようにすればいーじゃん 

神無き世界で、摂理《かみ》を頑なに信じ続けてきたのは、それが一番楽だったからかもしれない。
信仰に身を委ねていれば、何も考えなくていいのだから。大義名分のもとに堂々と思考停止していられる。
世界のために、と思っていた世界は実は現実上の世界ではない。美しく確立された体系に基づく、妄想上の《世界》だ――

>『堕ちるな、レゾン・デートル! 世界なんかの為に、友人としての怒りを忘れるな――!』

獣の一声が、背中を押す。
よくもイグニスを――コロシテヤル。バラバラにしてやる。二度と修復できないよう鉄粉と帰してやる――!
信仰も博愛も所詮嘘で塗り固められた偽善、これがオレの本当の姿――!

「ククク……」

口の端から押し殺した笑いが漏れる。感情が極限まで振り切れて、おかしくなってしまったのだろうか。
動けないメタルクウラにゆっくりと歩みを進めていく。
呟くは、生命の糸を断ち切る呪詛。禁断の即死の魔法。
ほとんど知能を持たないような最低級のモンスターにしか効かないため、普段はほぼ使い道がないが、今なら――

「なあ、お前イグニスをどんな風に殺した?
さぞかし痛かっただろうなあ、怖かっただろうなあ。同じ苦しみを味あわせてやる――!」

肩が触れんばかりに肉薄し、右手に纏わせた呪詛の魔力を見せつけながら、嗜虐的な笑みを浮かべる。
冷たい金属の装甲に手を触れる。

「これ、何だと思う? 死の魔法。抗う術もなく体がバラバラに崩れ去っていくんだ――面白いだろ?」

発動の呪文を唱えようと口を開く――。

―― 世界は美しい――ってアホかお前は。でも、お前のそんな所、嫌いじゃないぜ!

―― どうしょうもないお人よしだな、全く。危なっかしくて放っておけん。

思い出してしまった。イグニスの言葉の続きを。ブレイドの呆れたような微笑みを。
アイツらは仲間として認めてくれたオレは、何者かに操られた虚像だったのか?
イグニスが嫌いじゃないと言ってくれたオレは、ブレイドが放っておけないと言ってくれたオレは、全てが偽りだったのか?
――それを認めてしまえば、それこそ酷い裏切りだ。
だけど、それなら、この憎しみはどうすればいい? やり場のない激情はどうすればいい? 答えは一つだった。至った結論は――

「――精神力転移《トランスファーメンタルパワー》」

唱えたものは、精神力を分け与える魔法。仲間を殺された怨嗟の念を直接流し込む。
それはどんな罵倒を浴びせるよりも――もしかしたらありったけの死の恐怖を与え復讐を遂げるよりも、ダイレクトに伝わる事だろう。

「――やるよ。その怨嗟に耐えられるなら使え、呪縛を振り切ってみせろおおおおおおおおおおおおお!!」

523 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/01/01 07:17:40 ID:???
【明けましておめでとうございます
 本編のレスは私のターンは一回休みということで、ジェンタイルさんの投下の後にさせてもらいます】

524 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/01 08:04:57 ID:???
【あけましておめでとうございます。ロールの件了解しました。今年もよろしくお願いします】

525 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/02 22:07:18 ID:???
>「……そうかよ、でもな化物。お前のご高説に、おじさんからも言わせてもらうぞ」

来る。レゾンが歩み寄ってくる。
ゾンビは迎撃態勢を取るべく両拳を体の前に、足を肩幅に開き――同時にレゾンは疾駆、距離を詰めてきた。
相手の初動を読み、機先を制して潰す。傭兵稼業で鍛え上げられた純粋な戦闘技能だ。

「愛してるだとか愛されるだとか――んなもん知るかばーーーーかっ!!」

右の拳打が頬を抉るように捉えた。痛みは脳細胞の操作によって感じない。
だが視界の減少と仰け反る事までは免れない。直後に迫った左のストレートが鼻面に減り込む。

>「他人の惚気話ほど聞いててイラつくものはねえなオイ!よくもまあ化物の口から歯の浮くような告白が出たなあ!
 お前、人食った口でチュー出来んのか?出来んのか?出来ねえだろ!加齢臭よりひでえ死臭が漂ってんだよ!!」
「見返りのねえ愛に価値なんかあるかよ――!自分が好きなら、相手にも好きになってもらいたくなるのが『人間』だ!
 破綻してんだよお前さんは……相手の気持ちも確かめねえで、愛を押し付け続けるってのは、ただの『信仰』だ。
 それは断じて愛じゃねえ。お前さんは、あのガキを"神"にでも祀り上げる気か――!?」

連打、連打、連打、ガウンの打撃は絶え間なく、的確にゾンビの急所を殴り続ける。
同時に細胞に植え込まれていく魔力、違和感――肉体が『略奪』されていく。

>「『愛せればそれで良い』なんて言葉、おれの前で口にするんじゃねえ……!!」

ゾンビはされるがままに殴られ続けた。
小刻みに震え、拳を強く握り締めている。

「……で……もん」

滅多打ちにされながら、ゾンビが小さな呟きを零す。
拳に一層強く力が篭る。全身の震えが止まった。代わりに硬直、力みが訪れる。

「――ばかでいいもん!!!」

硬直は一瞬――臨界に達した力が解き放たれた。
弧を描く大振りの拳は、しかし純粋な筋力のみによって暴風の如くガウンへ迫る。

間一髪、ガウンは致死の一撃を左腕で弾き上げた。
確かな手応え、だが思うように軌道が逸れない。単純な力の差が大き過ぎたのだ。
ガウンが歯を食い縛り、体勢を落とした。
辛うじて回避が間に合い、ゾンビの打撃はガウンの側頭部を掠めるのみに終わる。
間髪入れずに、沈めた体勢を元に戻す勢いを利用したアッパーカットがゾンビの顎を跳ね上げた。

だがゾンビは怯まない。
略奪された細胞を周囲の正常な細胞で圧殺して、再生する事で侵略を凌ぐ。
摂取した莫大なエネルギーを惜しみなく使い続けた。
再び右腕振り上げる。右手で刀を模して、渾身の力を込めて振り下ろした。
ガウンは右脚を軸に体を回転させる事で回避。
同時に流れるような後ろ回し蹴りがゾンビのこめかみを抉った。
ゾンビがよろめき、踏み留まる。転倒を、脳の揺れを堪えて歯噛みした。奥歯の砕ける音が響く。

「こんなからだで……キスしてなんていえない!だきしめてなんていえない!
 そんなこと……わたしがいちばんよくわかってる!あなたにいわれなくたって!」

蹴りの衝撃そのものと、略奪された細胞を殺す過程で激しく流血しながら、ゾンビは叫んだ。
意趣返しと言わんばかりの上段蹴り――疎かになった足を容易く払われた。
倒れたところに、追撃のストンピング。額が割れて、強化された頭蓋に亀裂が走る。
それでもゾンビは屈しない。超強化された筋力で暴れ回り、ガウンを牽制して立ち上がる。


526 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/02 22:08:14 ID:???
「だからって、どうすればいいっていうの!いまさら、どうしようもないのに!
 わたしはゾンビで!にんげんになんてなれなくて!ひとをたべたことも、かえられない!」

血塗れの顔に鬼気迫る形相を宿し、再びガウンとの距離を詰める。
ガウンも、決してたじろぎはしない。
お互いに、歩み寄る。心は遠くかけ離れたまま、殺し合う為に、近づいていく。
先に動いたのはゾンビだった。単純な打撃が駄目なら、変異するまでだ。
右腕を巨大な鎌へと変貌させるべく細胞を制御――右腕の付け根にガウンの蹴りが命中して、骨が砕けた。
細胞が略奪されて変異の起点が潰された。小細工は通用しない。
瞬時に右腕を再構築、両腕を広げて突撃。面で攻めて、抱き締めて、絞め殺すつもりだ。

「わたしたちはもう!とりかえしがつかない!はたんしてる!そんなこと……わかってるもん!」

ゾンビは、『モン☆むす』は、破綻している。その通りだ。
彼女達はジェンタイルの親友、ローゼンの人格を破壊した。死に追いやった。
あの時は確かに、それが最善だと思っていたのだ。
たった『一人』の人間が犠牲になる事で人類と魔物の全てが救われる、と。
彼女達はあの時、ただ『人間』が好きだった。だからこそ平等に、冷酷に、ローゼンを犠牲にした。
だが違った。例えローゼンを首尾よく魔王の替え玉に仕立て上げていたとしても、決して救われない人間が一人いた。
ジェンタイルだ。親友を失って、彼は革命へと身を投じた。がむしゃらに、痛ましいほどに。

彼のその様を見て、始めて彼女達は、自分達が取り返しのつかない事をしたのだと気が付いた。
自分達が友達を大事に思っているように、ジェンタイルにとってローゼンは平和にも、世界にも、夢にも代え難い存在だった。
考えてみれば当たり前の事なのに、気付くのが遅すぎた。
もうローゼンの人格は終わっていて、そもそも死体すらどこにあるのか分からない。

だからせめて、彼女達はジェンタイルの救いになりたかった。
ゴーレムはほんの僅かにでもローゼンの事が忘れられるように正論を唱え続け、革命の手助けをした。
スライムは愛嬌をもって、堕天使は悪態と大先輩の話題をもって、
妖狐とゾンビは足手まといを演じ続けて、自分に意識を向けさせようとした。
そうしている内にゾンビだけでなく、皆がジェンタイルに恋に近い、しかし似て非なる感情を抱いていた。
恋よりも遥かに献身的で、破滅的な感情を。

ジェンタイルを不幸の深淵に突き落とした他ならぬ彼女達が、
彼を少しでも救いたい、愛したい、愛されたいなどと、馬鹿げた話だ。
愚かで、おこがましくて、破綻している。

「それでも……」

迫る無数の迎撃――鼻、人中、喉、心臓、鳩尾、正中線の急所が残らず打ち抜かれる。
だがゾンビの進撃は止まらず――突如、彼女の足元が炸裂した。
『待ち伏せ』――魔法による地雷を踏み抜いてしまったのだ。

片足を失ったゾンビが地に伏した。
間隙を置かずガウンが跳躍、右足を鉄槌さながらに振り上げる。
今度こそ、全体重をかけてゾンビの脳みそを踏み砕くつもりだ。

対してゾンビは右拳を地面に叩きつけて、上体を起こし、ガウンを睨み上げた。
歯を剥き出しにして、腹の底から声を振り絞り、叫ぶ。

527 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/02 22:09:29 ID:???
「それでも!すきなひとに、すこしでもしあわせでいてほしい。そうおもうことのなにがわるいっていうの!!」

そして打撃音――ゾンビの頭部は無事だった。
代わりにガウンが体勢を崩して地面に落ちて、激しく咳き込む。
ガウンが力を溜めた一瞬の間に、ゾンビは右手を変異させていた。
触手化した腕が地面を掘り進んで、ガウンの腹部を打ち抜いたのだ。

やっと捉えた。もうガウンには、暴力の嵐を掻い潜る体捌きは使えない。
ゾンビが片足を再生して、歩き出す。決着へと。
ガウンは立ち上がり、身構えて、呼吸を少しでも整えながら、待ち受ける。

「わたし……あなたのこと、だいっきらい。わたしがだいきらいなわたしのことを、なんどもなんども、おもいださせるんだもん」

ゾンビの言葉を引き金にして、両者が同時に動いた。
拳と拳が衝突する。打ち勝ったのは――人外の筋力を誇る、ゾンビの方だった。
ガウンの拳を砕き、腕をひしゃげさせて、そのまま横面を捉えた。
骨の砕ける確かな手応え――そのまま殴り抜く。

ガウンが風に吹かれた木っ端のように吹っ飛ぶ。そのまま地下通路の壁に激突して、地面に落下した。
拳に残る手応えと、倒れ伏したガウンの体を中心に広がる血溜まりに、ゾンビは勝利を確信する。

「う……あ……」

だが直後に、ゾンビもまたその場で膝を突いて、倒れ込んだ。
体内で細胞が殺し合っている。カロリーが急激に消費されていく。
ガウンが放った最後の一撃には、ありったけの魔力を注いだ『略奪』の魔法が篭められていた。

「おなか……すいた……」

細胞の殺し合いで生じた全身の傷が、修復されない。
略奪された細胞の殲滅はなんとか間に合ったが、もう回復に当てるカロリーが残っていないのだ。
殴り飛ばしてしまったガウンが遠い。カロリーの摂取が叶わない。
そのままゾンビは、動かなくなった。



【あけましておめでとうございます
 今年はいい年でありますように】

528 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/05 12:18:06 ID:???
ガウン政務官はテイラードやロスチャイルドのように、大卒枠から文民として入庁したキャリア組ではない。
戦地生まれにして戦場上がりの、ある意味では純粋培養とも言える武人。
少年時代からの戦場働きと、自分よりも年下の上司のもとで下積みをした数十年を礎に今の自分がある。
だからガウンは死に物狂いで獲得した、自分の地位と財産を何より大切にするし、家族もまたその中に入っている。

これまで得てきたものは、何一つ失いたくなかった。
自分を構成する要素の一つでも欠ければ、地獄のような戦場や戦い以上に身を削る下働きの頃に戻ってしまう。
そんな強迫観念が、危ういバランスの上で自立するガウンという人間の基礎を支えていた。
ガウンはいまの自分が好きで。そしてそれは翻せば――それまでの自分には死んでも戻りたくないということなのだから。

>「――ばかでいいもん!!!」

ゾンビの豪腕が風を巻いて奔る。
電撃のように背筋を奔る死の気配に、ガウンはガードを重ねて威力を逸らす。
冷や汗すら一瞬で蒸発する熱闘の中、ガードの上からでも伝わる衝撃に不安を拭えなかった。

(加護が働いてねえ……? もうそんな段階までイカれたか!)

あらゆる攻撃行動をシャットアウトするはずの戦精霊の加護が働いていない。
こちらの全てが『征服』される前に圧倒的な手数で倒しきるはずが、ガウンは手数を防御に割かねばならなくなる。
戦況は瞬く間に不利へと傾いていった。

>「こんなからだで……キスしてなんていえない!だきしめてなんていえない!
 そんなこと……わたしがいちばんよくわかってる!あなたにいわれなくたって!」
>「だからって、どうすればいいっていうの!いまさら、どうしようもないのに!
 わたしはゾンビで!にんげんになんてなれなくて!ひとをたべたことも、かえられない!」

「だったら死ねばいいじゃねえか!人食った魔物を人類は赦さない――そういうふうに出来てんだからな、世の中!!」

もはやお互いの肉を攪拌しあうような、泥沼めいた打撃戦が展開されていた。
ガウンが殴り、ゾンビが受け、ガウンが躱し、ゾンビが吠える。
ゾンビの体はあちこちがガウンの細胞に征服され、ガウンの体も五割ぐらいがゾンビのものに置き換わっている。
殴る度に、拳から己の率いる軍が進軍し、侵略し、略奪している感覚。
細胞は、この世の誰より信頼できる無敵の大群だ。

>「それでも……」

(!――こいつ、侵略された細胞を自分で殺してるのか!?)

奪われた戦車を自爆させるように、略奪された食料に毒を仕込むように。
どうせ敵に使われるならいっそ――自分で殺す。戦略的には正解だが、精神的には、

(自分で自分の四肢を食いちぎるような真似! 一体何がこいつをここまでさせるんだ!?)

はっきり言って、異常である。
そしてその異常性、狂気とも呼べるものを表現するのに、長文を弄する必要はなかった。

――『愛』。
全てはその一言に尽き――

>「それでも!すきなひとに、すこしでもしあわせでいてほしい。そうおもうことのなにがわるいっていうの!!」

そして狂った愛は、その物量だけでガウンの"想い"を押し流した!
地面を貫通して伸びた触手が、ガウンの胴体を串刺しにしたのだ。

「っが……!」

壊れた蛇口のように血反吐が喉を逆流し、瓦礫を赤く濡らす。
ゾンビは既に四肢を揃えてこちらへと歩いている。ガウンは動けない。腹を貫かれ、磔になったいま――
相手にとって自分はもはや『殺され得る敵』ではなく『捕まえた獲物』だ。

529 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/05 12:21:44 ID:???
>「わたし……あなたのこと、だいっきらい。わたしがだいきらいなわたしのことを、なんどもなんども、おもいださせるんだもん」

ガウンは諦めなかった。
死ぬ訳にはいかない。自分には帰りを待つ家族が居る。
無残にも散ったテイラードや、警備隊長・副隊長――そしてガウンが戦場で見てきた全ての死に報いるには、生きて、戦って。
戦いによって生まれた死に贖うことは、戦いによってしかできないのだから――

振り抜いた拳に、ゾンビの拳がかち合って、そこからの勝負は一瞬だった。
加護を失いただの人間となったガウンと、もとよりバケモノのゾンビとではそもそも膂力からして話にならず。
ガウンの拳は砕け、ゾンビの拳が迫り、顎から上を打ち抜かれて、ガウンは吹っ飛んだ。

壁に背中から激突し、後頭部を強かに打って、眼の奥がプラズマみたいに激しく揺らいだ。
内蔵から何からみんな破裂して、ぐちゃぐちゃのどろどろの攪拌されたものが口から滝のように溢れ出して。

(ああ、そうか。そういうことか――)

殴り合いの末、ゾンビの真意に触れていくうち、ガウンの中に一つの回答が芽生えた。
初めて会ったときは、破滅的に献身的で心底気持ち悪かったゾンビ娘が、たった一つ貫き通した感情。
腹の中が空っぽになってから、なんとか生き残っていた肺腑で絶え絶えに言葉を紡ぎだす。

「……お前、は……恋、しちゃってんのか……」

――『恋』なのだ。

黙して届かなくたって、解り合えなくたって、誰かを懸想し続けることはできる。
見返りを求められなくてもなお想い続けるのは愛じゃなく――恋慕。

実情は違うかも知れない。ゾンビがフリントロックに抱く感情は、ただの同情から来る思い遣りなのかもしれない。
だが、きっと彼女の気づかないところで、どこかに恋する乙女はいたはずだ。

信仰とは、この世で最も一方通行で、しかし何にも隔てられぬストレートな『好き』なのだから。
精霊が信仰と引き換えに魔法の力をくれるなら、人間だって『好き』って気持ちと引き換えに力をくれてもおかしくない。

ガウンは家族と愛し合っていた。その狭いコミュニティの中で愛情を満足させていたのだ。
だが恋に際限はない。恋する者は満足しない。成就するまで、敗れ去っても、想いを失わない限り恋心は無限大だ。

だからガウンは、


――恋する乙女の雲霞の如きたくさんの、恋する気持ちに物量戦で押し負けた。


「"恋愛"って……言葉も、"愛"より"恋"のほうが……先にくるもんなあ……そりゃ……愛じゃ恋には……勝てねえわ」

身体が、命が、ゾンビの版図に蝕まれていく。
指先ひとつ動かす力も残っていない。内蔵はいくつ潰れたかもわからない。
きっと、もうあと五分もしないうちにゾンビに『侵略』され、ガウンという存在は失われるだろう。

「……若いって、いいなあ」

言葉はどこにも響かずに、男の終焉を弔う鐘となった。
ガウンはそれきり何も言わず、そして動かなくなった。

530 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/05 12:23:05 ID:???


>「なあ、お前イグニスをどんな風に殺した?
 さぞかし痛かっただろうなあ、怖かっただろうなあ。同じ苦しみを味あわせてやる――!」

レゾンは友の痛みを思い出し、義憤に心を尖らせる。
研ぎ澄まされた刃のような殺意を浴びて、獣精霊は喜色の笑みを濃くした。

――そうだ。その怒りだ。お前は決して赦してはならない。

友を殺された苦しみを共有する者として、獣精霊はレゾンを煽る。
それは自分の憎しみの成就を代行させているようで、少しだけ悔しかった。

獣精霊の本体は消滅し、いまこうやってメタルクウラを乗っ取っているのは精神の残滓に過ぎない。
身体を乗っ取れても、メタルクウラを殺すだけの力がないから、レゾンを焚きつけているのだ。
願わくば、自分が手を下したかった。

>「これ、何だと思う? 死の魔法。抗う術もなく体がバラバラに崩れ去っていくんだ――面白いだろ?」

レゾンは死を司る魔法でメタルクウラの息の根を止める算段のようだ。
そこに宿る獣精霊も一緒に死んでしまうが、元よりロスタイムのようなものだ。憂いはない。

>「――精神力転移《トランスファーメンタルパワー》」
>「――やるよ。その怨嗟に耐えられるなら使え、呪縛を振り切ってみせろおおおおおおおおおおおおお!!」

『ほう――!』

レゾンは安直な死を選ばなかった。
イグニスの死に様を怨念という形で見せつけることで、メタルクウラの精神を罪によって自壊させる。
ある意味最も罪人の死に相応しい試練へと、メタルクウラを叩き込んだのだ。

『さあ、苛まれろ――人の身体も心も持たぬ殺戮兵器として受けた己の生を!その犠牲になった者たちの怨嗟を!
 貴様は何者だ!この世界にあってもどこにも馴染まぬ特異点――きっと何者にもなれない人殺しの機械よ!』

心抉る棘も、魂刻む刃も、全てはメタルクウラ自身の罪だ。
『罪悪感』は人間が最も失ってはならない感情の一つ――人間と生きるために持たねばならない機能の一つ。
メタルクウラが己の罪を否定できなければ、魂が自死を選んで崩壊していくことだろう。

『テイラードを殺した貴様が!我々と同じところへ降りてくるのを!牙を研いで待っているぞ!
 そこでもう一度殺し、今度こそその肉を喰らってやる――!』

そして強力な精神波を浴びた獣精霊は、メタルクウラの魂から引き剥がされて成仏した。
今度こそ、どこにも痕跡を残さず消滅したのである。

あとは、メタルクウラ自身の戦いだ。



531 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/05 12:25:31 ID:???
「さあ、答え合わせも済んだことだし、そろそろ授業終了といこうか?ジェンタイル君」

「チャイムも鳴ってねえのに放課後とは随分と豪毅だな、先生!グラウンドの場所取りが捗るぜ!!」

「遊びにいけるとでも思っているのかねジェンタイル君。出来の悪い生徒は――居残りだ」

刹那、目の前の瓦礫が弾けたかと思うと、俺の首が突然何かに締め上げられた。
それが一瞬にして肉迫してきたロスチャイルドに片手一つで掴みあげられたのだと理解したときには時、既に時間切れ。

「ジェンタイル君。君は嫌いな食べ物はあるかね?先生は子供の頃ミニトマトが嫌いでね、給食に出るといつも残していた。
 あるときの担任は、給食を残すことを絶対に赦さない人でね――今思うとアレルギーとかで食べられない子もいるのに、
 まったく理不尽な要求だったなと思うのだが、とにかくその人の前でも先生はミニトマトを食べられなかった」

給食を食べ終われなかった子供はどうなると思う?と首を締められて言葉もろくに出せない俺にロスチャイルドは問う。

「――食べ終わるまで席を立つことを禁じられるんだよ。給食の時間が終わり、昼休みになってもずっと。
 それも本人だけじゃない。クラス全員が、食べ終わらないたった一人のためだけにずっと、座らせ続けられる。
 他のクラスの子供たちが楽しそうにグラウンドで遊んでいるのを横目に、40人で黙座……気が狂いそうだったよ」

「そりゃ……昼休みに遊べないってのは……小学生にとっちゃ拷問だろうな……お気持ち察するぜ、ロスチャイルド……!」

「ノー。そこは重要じゃないよ、ジェンタイル君。先生はインドア派で、昼休みも図書館で黙々と本を読むタイプだったから、
 遊びにいけなくなるのは特に問題じゃなかった。つらかったのは――周りの視線さ。
 他の子供達はとっくに食べ終わって、何も悪いことはしていないのに、貴重な昼休みを潰される。
 子供心に釈然としないその理不尽を、『連帯責任』などという何の根拠にもならない言葉で無理やり納得させられてね」

地獄のようだったよ――と、ロスチャイルドは遠い目をした。
俺は喉の筋肉に力を入れてなんとか呼吸は確保できていたけど、頚静脈を圧迫されて頭に血が溜まっていた。

「きっとその担任は、幼き先生のことを『信じて』いたんだと思う。
 食わず嫌いは食えば治せる、ドン引くほどの熱意で向きあえば、きっと先生は障害を突破できると。
 そしてクラスのみんなも、級友である先生のことを『信じて』いたんだろうね。
 いくらなんでも、ミニトマトぐらい簡単に食えるはずだ。苦手は治らなくても流しこむなどして、すぐに昼休みを解放されると」

顔に血が集まって、真っ赤になった俺の顔を見て、ロスチャイルドは憎きトマトのことを思い出したのかも知れない。
眉を歪ませ、間にシワを寄せて、述懐した。

「――40人に信じられても、先生は神になんてなれなかった。
 十歳にも満たない、ただのミニトマトが苦手な少年は、奇跡なんて起こせなかった。
 何が足りなかった?どうすれば先生はあの日、担任1人とクラスメイト39人を一人も不幸にすることなく、救い出せた……!?」

そして、俺はなんとなくわかってきた。
この、子供がそのまま大人になったような政治家は、15万人を従える宗教勢力のトップは――信じられることが心底嫌なのだ。
精霊術を極め、何万もの人間から信仰を得て、神の格を得た今でも、信頼されることに嫌悪を覚えている。
信じられていたのに救えなかった過去。信仰を利用する立場になった今だからこそ、己の力に疑問を覚えずにはいられない。

俺とロスチャイルド、動機や道程は違えど根源は同じだ。
多くを率い、多くに信頼されて戦う立場。目的と手段は別だったはずなのに、いつしか倒錯してしまった者。
だったら、俺とロスチャイルドを峻別する唯一の分水嶺は。

532 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/05 12:28:01 ID:???
「……ご教授ありがとよ、ロスチャイルド。お礼に、俺もお前に教えてやるよ」

――『仲間からの信頼』を、100パーセントの肯定で実現できるか否か!
信仰を纏って神になったのがロスチャイルドならば、俺は仲間からの信頼によって神に相対する!

「信頼は背負うものじゃねえ――背中を押してもらうことだって!」

『仲間の信頼』を"纏う"――
今の今まで成し得なかった俺の『霊装』を、この場で完成させる!

<<開眼せよ、吾が契約者よ――幾多もの死を乗り越え、仲間の骸を踏んで高みに足をかける者よ!>>

炎がロスチャイルドの腕を焦がす。ダメージにはならないが、炎には禍祓い――"禊"の概念がある。
『拘束された』という事象を浄化の炎によって祓い、俺はロスチャイルドから距離を取る。
ロスチャイルドは追わなかった。興味深げに――学術者の眼で俺を見る。
ようやく胸いっぱいに空気を吸えて、俺は深呼吸から雄叫びを上げた。

     おまえら
「聞けよ仲間達――この戦いは世界を救わない!この戦いは何も生み出さない!俺はお前らにそれを求めない!!
 だからお前ら、何も救うな!何も取り戻すな!!――俺を!お前らの仲間であるこの俺だけを助けてくれ!」

いま、この戦場で、どんな激闘を演じているとも知れない仲間達に。
もう死んでしまった奴らと、これから死んでしまうかもしれない者たちに、俺の嘆願を届けて叫ぶ。

「俺は"いい話"を望まない。血みどろの復讐譚を望む。俺は"ハッピーエンド"を望まない。後味悪い殺しの末路を望む!!
 そんな破綻した俺を、そんな倒錯した俺を、お前らは助けろ!何も生み出さない不毛な争いに、何も言わず手を貸してくれ!
 俺はお前らに応えてみせる。だからお前ら――」

ゾンビ。レゾンに。メタルクウラに。
どこかで命の瀬戸際にある妖狐や堕天使や、散ってしまったスライムやゴーレムにも。
俺の声は、届いているはずだ。そうでなくちゃ嘘だぜ、ローゼン。

「世界なんかより俺を信じろ――!!」

アサルトライフルを捨て、フランベルジェも捨て、俺は懐から掌に収まる小物を取り出した。
済んだ音を立てて蓋を開くオイルライター。火打石の火花をこよりに引火させて着火する、古式ゆかしい"フリントロック"式。
火打石を擦るホイールを、親指で弾き下ろした。生まれた炎は渦巻いて、やがて俺自身を包み込んで巨大な火柱を上げる。

「霊装――『並び立つ俺達(バッドカンパニー)』!!」

相手は十五万の信仰を背負う神格の精霊使い。
対するこっちは十人にも満たない仲間達の信頼で立ち向かわなきゃならない。
戦力差は絶望的、それでもなお俺に対して100パーセントの信頼をくれなければ、ロスチャイルドに対抗することはできない。

メタルクウラが、レゾンが、モンスター娘たちが、少しでも俺を疑えば霊装はたちまち瓦解することだろう。
分の悪い賭けだ。成功率なんかはじめから考えちゃいない、ただ俺は仲間達を信じるだけ。
だから、ここがのるかそるかの分水嶺。全員から全幅の信頼を貰えて初めて、俺は神と同じステージに立てる。

「頑張るぜ、『神殺し』。さあお前ら――返事はどうした!!」


【ガウン・獣精霊敗北】
【ジェンタイル:霊装を発動。全員がジェンタイルの声に応じることで霊装は完成します】

533 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/01/05 18:53:59 ID:???
何が起こったのか理解ができなかった。
私がレゾンの前に集まった光の粒に、フルパワーのエネルギー波を放った瞬間、私の意識は途切れてしまった。
新手のウィルスに感染してしまったのかと、再起動直後に思ったが、現在は通常のネットには繋がっていない。
前を見ればレゾンが難しい顔をして、私を見ていた。

「何が起きたんだ? 私を襲った敵はどうなったのだ?」
私は疑問をレゾンに向けて言った。
数秒後、答えは私の頭に直接伝わってきた。

「ぬおぉぉぉ!!!」
頭の中に直接データが送られてくる。
そのデータの名は怨み。
大容量の怨みは私の頭の容量がパンクしそうになるほど。
私は頭を抱えて地に膝を着いて耐えるしかなかった。

「ふぅ……一体何だったのだ?
これも見えない敵の攻撃か?」
怨みという名のデータが送られ終わるのと同時に、データの削除を実行する。
このまま残しておくのも後味が悪そうだし、何か不吉なことが起こりそうだからだ。
私は見えない敵を警戒して、戦いの構えを取り続ける。
十秒以上経っても、何も起こらなかった。

「改めて聞くが、敵はいなくなったと考えていいのだな」
私はレゾンに聞いた。

>「頑張るぜ、『神殺し』。さあお前ら――返事はどうした!!」
私がレゾンに聞いた後、ジェンタイルが私達に向けてメッセージを送ってくる。
その僅かな後に、他のメタルクウラからも通信が入ってきた。
奴らにもジェンタイルの声が聞こえたらしい。
それどころか、湖畔村に立ち寄っていたメタルクウラは、メルフィにも聞こえていたと言う。
寺でお経を読んでいたというメタルクウラからは、坊主共にも。
発展場でお突き合いしていたメタルクウラからは、お突き合いしていた相手達にも。
その他にはお笑い芸人やフリーザ軍までもが、ジェンタイルの声を聞こえていたと言う。

「聞こえてるか、ジェンタイル
今さら私がお前を信じる、なんてことは言わないさ……
さっさとロスチャイルドを倒して祝勝会にしてしまおう
こうも私達の仲間が多いのだから、盛大なパーティーになってしまうぞ、ふふふ」

534 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/06 21:52:18 ID:???
>「頑張るぜ、『神殺し』。さあお前ら――返事はどうした!!」

声が聞こえた。ジェンタイルの声だ。
助けてくれ。俺を信じろ。最終決戦への呼び声が聞こえた。

「……悪いけどさ、ジェンタイル。私はもう、動けないよ」

死の淵に瀕していた堕天使が、閉ざしていた眼をゆっくりと開く。
末端の感覚がない左腕を視界に運ぶ。石化は収まっていなかった。

「本当にありったけ、使い切ったんだ……。もう何も残ってない」

瓦礫の陰に隠された妖狐が、乾き切った唇を微かに動かして声を紡ぐ。
右手を地面に突いて、けれども力が入らない。立ち上がる事も、上体を起こす事すら出来ない。

「ごめんね、ごめんね、ジェンタイル……。わたしたちはもう、あなたのやくにたてないの」

緩やかに死という名の泥濘に沈んでいきながら、ゾンビが静かに涙を零した。
最後の最後で愛する人の力になれない事が、あまりにも悔し過ぎて。

「けど、安心しろよ。『もう一匹』……いるんだぜ」

「ううん、『もう一人』って言った方がいいのかな。……うん、きっとそうだ」

三匹が、胸にそっと手を乗せる。
そこに潜んでいた何かを呼び出す、ノックをするように。

「ずっと、みてたでしょ。ジェンタイルがどういうにんげんなのか。……おねがい、たすけてあげて」

ゾンビの胸の奥に潜んでいた『何か』は答えなかった。
代わりに彼女の中から、『光』が現れた。
陽光のように柔らかで温かいものではなく、冷たさすら感じる月光のように白々しい光だ。
光は妖狐やゾンビ、散ってしまったゴーレムやスライムがいた場所からも現れた。
それらはジェンタイルの傍らに集い、一つになって――『輪郭』を得る。すらりとたおやかな人型に。

『輪郭』は次第に『姿』へと変移していく。
より繊細に、色を得て――

月明かりのように艶やかな銀髪が、
淡く儚げな青の瞳が、
性を感じさせない純粋な美貌が、描き出された。

「私の代わりに、アイツを助けてやってくれよ。最後の晴れ舞台はアンタこそがお似合いだ」

妖狐のささくれた唇から、『光』の名前が零れる。





「お願いします――魔王、ローゼン様」

535 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/06 21:52:49 ID:???
描き出された姿は――対極の髪色や、身に纏う禍々しい鎧さえ除けば、光の勇者ローゼンと一致していた。

今ここにいるローゼンは、ゴースト――魂が魔力で覆われる事で死後もこの世に残った存在だ。
一度は神なき世界に散ってしまったローゼンの魂を掻き集めたのは、その使い魔だったシュバルツだった。
収容所に蹴撃を仕掛ける前に隠れ家を訪れ、しかしジェンタイルを説得出来ず立ち去った彼を、『モン☆むす』達は秘かに呼び止めていた。
分裂や時間停止を使えば、ジェンタイルに気付かれずに事を為すのは簡単だった。
それからゴーレムはシュバルツにこう吹き込んだのだ。

「貴方の風の精霊魔法を用いれば、この世界に散ってしまったローゼンの魂を掻き集める事が出来る筈です」と。

かくしてシュバルツは主人の為、一も二もなく彼女達の言葉を信じた。
命を懸けてローゼンの魂を掻き集めて、見事その試みは成功した。

『モン☆むす』達は歓喜した。
これで失望の底にいるジェンタイルを救う事が出来ると。
けれども一つだけ、誤算があった。

ローゼンの中には三つの人格、あるいは性質とでも言うべきものがあった。
一つは『彼女自身』、一つは『光精霊が刻み込んだ光の勇者』、そして『魔王』。
それらの内『光の勇者』は、堕天使が光精霊を改変した際に消滅した。
『ローゼン・メイデン』は、スライムと妖狐が破壊してしまった。
故に掻き集められた魂は――『魔王』としての性質のみを残していた。
魂の復活を行ったのが魔王の使い魔シュバルツだった事も、原因の一つだろう。

とにかく――『ローゼン・メイデン』は今度こそ、もうどこにもいなかった。
喜びから失意の底へと転落した『モン☆むす』達は、しかし即座に作戦を変更した。

『人と魔物の共存』こそが魔物全ての幸福に繋がる。今の世の中がそれを裏付けている。
しかし自分達だけでは力不足、どうか力を貸して欲しいと、ゴーレムが魔王ローゼンを説き伏せたのだ。

また自分達はジェンタイルの親友を利用する。
今のローゼンを見せれば、ジェンタイルをまた悲しませてしまうかもしれない。
失望が容赦無く皆の心を引き裂いたが、全員がそれを罰と信じた。

ともあれ彼女達の懇願を魔王ローゼンは条件付きで承諾した。
その条件は、ローゼン自身が「本当に人間達は共存する価値があるのか」を見定める事。

そして今――魔王ローゼンは答えを見出した。

「……貴様は、浅薄な人間だ。浅はかで、軽率で、うかつで、行き当たりばったりの出たとこ勝負で、
 でたらめで、無駄だらけで、不注意で、考えなしのアホ丸出しだ。
 正直、我が臣民たるあ奴らには、この男だけはやめておけと切実に忠告してやりたい」

光の勇者と『ローゼン・メイデン』、善良な二つの人格に抑圧され続けて極端化した毒舌を放つ。
同時に右手を前に、鋭い光の刃を創り出した。
かつて悪しき存在のみを断ち切るとされた正義の剣は今、あらゆる魂を切り裂く魔王の刃と化していた。
それをジェンタイルに突き付ける。
死したとは言え彼女は魔王――あらゆる魔の頂であり長だ。
故に臣民同然の『モン☆むす』達が傷ついていく様には、強い怒りを覚えていた。

「だが、どうしてだろうな。私も何故だか……貴様の事が嫌いになれん」

戸惑いを秘めた、どこか柔らかな声。
それは彼女の中に残った『ローゼン・メイデン』の残滓か。
それとも単にジェンタイルのひたむきさを見て無意識に好感を覚えたのか。
彼女自身ですら、答えを自覚する事はない。


536 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/06 21:53:57 ID:???
だが少なくとも――彼に尽くす『モン☆むす』達は皆、幸せだった。
死の淵に瀕しても、彼女達が幸福だった事を、皆に憑依していたローゼンは知っている。
それが例え贖罪から始まった感情だったとしても――ジェンタイルと一緒にいる時、彼女達は確かに幸せだった。

それはジェンタイルを信じる理由として、十分過ぎる事実だった。

「届けてやろう。あ奴らの想いを――」

光の刃を頭上高くへ掲げる。

「霊装――『原点回帰』《デウス・エクス・マキナ》」

その命名もまた、原点であり夢見がちな少女『ローゼン』の叫びなのかもしれない。
だが魔王と化した今の彼女が纏うものは精霊の力ではなかった。
己の眷属たる魔物達が持つ全ての力を、再び自分へと回帰させる。
まるで仲間から力を借りる勇者のような、純然たる魔王の力だ。
堕天使の、妖狐の、ゾンビの力が、掲げた刃へと集っていく。

「……持って行けよ、ジェンタイル」

「私達にはもう、一欠片の体力も残ってないけど」

「それでも、さいごまでのこったものが……ひとつだけ、あるんだよ」

風の中に霧散していったゴーレムとスライムが、魔王の力によって呼び戻される。
それでも完全な再生は敵わない。極僅かな塵芥が、辛うじて形を保っているだけだった。

「負けちゃダメだよ〜っ!ジェンタイル!だって私達み〜んな!」

「――貴方の事を、愛していますから」

力尽きて、粉微塵にされて、それでも最後に残ったもの――『心』が光の剣に宿った。
ローゼンが刃をジェンタイルに突き刺す。
微かな痛みと共に、皆の愛情が、信頼が、彼の中へと流れ込んでいく。

ローゼンは続けざまに、今度は刃を横薙ぎに振るった。
光刃は虚空を走り、その軌跡に輝きの足跡を残す。五つの輝きを。
それらは『モン☆むす』達の『命』そのものだった。

『命』もれっきとした『力』の一つだ。
ローゼンは最早使い物にならない『モン☆むす』達の身体から『命』を解き放った。
そして霊装という形でこの場に召喚したのだ。
再び、最後の最後まで、ジェンタイルの為に戦えるように。
淡い蜃気楼のような状態で、皆の姿が現れた。


537 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/06 21:54:32 ID:???
「おいおい、いいのかよ。ラストバトルだからって私は手加減しないぜ。ワンターンキル決めちまっても文句言うなよな」

堕天使が不敵に笑って強がってみせる。
どんなに辛くても、大先輩ならきっとこうする。そしてそれは、ジェンタイルも同じだった。
まるで似てない筈なのに、何故か面影を感じる。被って見える。
不思議な事だが――不快ではなかった。

「夢のようだよ。まだ君と一緒に戦えるなんて……ホント、さっさと終わらせちゃうのが勿体ないくらいだ」

妖狐が小生意気に皮肉を放つ。
何度失敗を繰り返しても、ジェンタイルは自分を助けてくれた。
文句を言ったり、皮肉を吐きながらも、絶対に見捨てたりはしなかった。
そんな彼が、妖狐は大好きだった。だから――今度は、今度こそ、彼女がジェンタイルを助ける番だ。

「ずっと、いきてるじっかんがほしかった。いまわたしは……いままでにないくらい、いきてる。いけないってわかってるけど……とってもしあわせ」

ゾンビが満ち足りたように笑う。
どれだけの肉を喰らい、血を啜っても満たされる事のなかった餓えが、渇きが、嘘みたいに消えていた。
胸の奥に暖かな気持ちが溢れている。その気持ちに従って生きていられるのなら――死ぬ事すら、もう怖くはなかった。

「神様なんて怖くないよ〜だ!私は馬鹿だから、ただジェンタイルを信じる事だけしてればいいんだもん。ふふん、羨ましいでしょ〜!」

スライムは無邪気にはしゃいで、この期に及んでも馬鹿丸出しだ。
だからこそ彼女はジェンタイルに、無条件で、際限ない信頼と親愛が注げる。
馬鹿な自分を皆が助けてくれる。ジェンタイルは許してくれる。
そんな皆と一緒に過ごした日々はとても楽しかったし――ジェンタイルには、そんな幸せの中に帰って欲しい。
その為に、今から彼女は頑張るのだ。

「一度は死んだ身です。私達の全てを――貴方に捧げましょう」

ゴーレムは今、自分達の夢――人間と魔物の共存という目的を忘れていた。
命を懸けて追い求めた夢すら忘れられるくらいに、ジェンタイルを信じていた。
自分はもう粉々に砕かれてしまった。それでもジェンタイルならきっと、生き残って自分達の悲願を叶えてくれる。
かつては世界の為に、ローゼンの為に見せた、眩しいほどの熱意とひたむきさで。
出来る事なら世界の事も、ローゼンの事も、忘れてしまうくらいに自分の事を思って欲しかった。
熱意とひたむきさの全てを、自分に注いで欲しかった。それがおこがましい高望みだとは、分かっている。
今までにないくらいに、石である筈の体が軽い。今なら、ただ好きな人の為に、どこまででも駆け抜けられる気がした。

「……ふん。皆で仲良く、足並み揃えてラスボスを倒そう、か。
 甘ったるくて堪らんが……最後くらいは、そういうのも悪くない。遅れを取るなよ――ジェンタイル」

――ローゼンが、ジェンタイルに並び立つ。
呼ぶつもりなどなかった、突き刺さるように心に馴染む、炎の賢者の名を呼びながら。


【やっぱ最後の最後には、彼女がいて欲しいなと思いまして】

538 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/08 00:57:52 ID:???

*   *   *

通り名――Raison D'etre。苗字は語感に合わせて適当にくっつけたもの。
かつての源氏名――レーゼニア。精霊との契約等の時にしか使わぬ真名――《Rezon》

『お母様、私の名前の由来は何なのですか?』

『いや〜、それがね。出生届を適当に走り書きしたら役所に読み間違えられて受理されちまったんだよ、ハッハッハ』

『それはあんまりです……』

* *   *

>『さあ、苛まれろ――人の身体も心も持たぬ殺戮兵器として受けた己の生を!その犠牲になった者たちの怨嗟を!
 貴様は何者だ!この世界にあってもどこにも馴染まぬ特異点――きっと何者にもなれない人殺しの機械よ!』

>「ぬおぉぉぉ!!!」

地に膝を突いて苦しむメタルクウラを、複雑な心境で見下ろす。
このまま罪に苛まれて死んでしまえ、という想いと、罪悪感に打ち勝ってほしい、という願いが交錯する。
そして――彼は勝った。

>「ふぅ……一体何だったのだ?
これも見えない敵の攻撃か?」

我に返り、思う。仲間の仇に味方するなど、やっぱり無理だったのだ。
とぼけた振りして痛烈な皮肉を放ってくるメタルクウラに、自嘲の笑みを浮かべながら返す。

「今ので分かったろ? オレの本性。仲間の仇に手を貸すなんて狂ってるもんなあ!
何するか分からないぜ? 何かの拍子に後ろから刺し殺すかもしれない」

剣を抜き放ち、突きつけて見せる。
ガウンの呪いが解けた――それはもう一つの激闘が終わった事を意味していた。

>「改めて聞くが、敵はいなくなったと考えていいのだな」

メタルクウラは、剣を突きつけられて尚、聞かなかった振りをしてもう一度とぼけて見せた。
一気に毒気を抜かれた。なんて奴だ、殺されかけたというのに――イカレテやがる。
そしてなんとなく理解した。彼らはどうしようもなく歯車の狂った、破綻した者達の集まり。
それならば、その末席に加えてもらっても悪くはない。 だけど――本当は、それを決めるのは向こうの方だ。
力なく剣を下ろす。


539 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/08 01:00:15 ID:???
「お前達に謝らないといけないな……。謝ったところで到底許されないだろうが。
オレさ、この半年間、お前達を散々苦しめてきた張本人なんだよ……。
政府軍の敵兵は皆狂ってただろ? 身の危険を顧みず突っ込んでいく狂戦士がたくさんいただろ?
自分は安全な場所にいながら死に損ないを何度でも回復してまた死地に放り込んで……
なのに自分はヘタレで弱くて命が惜しくてどうしようもない奴なんだよ。
不誠実で裏切り者で偽善者で恩知らずで信念も貫けない奴なんだよ」

無意識のうちに地面に両膝を突き、両手を突く。東方の国日剣発祥の秘奥義――土下座。
これがオレに出来る精一杯の懇願だ。

「でも、今この時は必ずお前達の力になるから……仲間にしてくれるか? いや、どうか仲間にしてくれ!」

>「聞けよ仲間達――この戦いは世界を救わない!この戦いは何も生み出さない!俺はお前らにそれを求めない!!
 だからお前ら、何も救うな!何も取り戻すな!!――俺を!お前らの仲間であるこの俺だけを助けてくれ!」

ジェンタイルの声が聞こえてきた。

今まで捕らわれてきた信仰と言う名の呪縛が、粉雪のように解けていくような気がする。

――目に見えないどこかに理想の世界がある。
物質界は物事の本質の模倣にすぎず、魂によって洞察されるものこそが真の姿。
世界には理想へと近づいていく力が働いていて、いつかは必ずハッピーエンドに至る――。
それはありもしない幻を追い求める空虚な体系、独断論のまどろみ――。

>「俺は"いい話"を望まない。血みどろの復讐譚を望む。俺は"ハッピーエンド"を望まない。後味悪い殺しの末路を望む!!
 そんな破綻した俺を、そんな倒錯した俺を、お前らは助けろ!何も生み出さない不毛な争いに、何も言わず手を貸してくれ!
 俺はお前らに応えてみせる。だからお前ら――」

世界は美しくなんて無かった。 世界を救う勇者なんて最初からいなかった。哀しき宿命に誘われた魔王もいなかった。
歴史は決して、世界が高次に至る過程ではなかった。胸躍る英雄譚なんかではなかった――。
永劫回帰――不毛な血みどろの争いを繰り返し、同じ事を永久に繰り返すだけ。
生きる事に意味なんて無い。意味もなく生まれ、死んでいくだけなのだ。

だから――目に見えて、触れられる物が全て。今ここにあるものが全て。

>「世界なんかより俺を信じろ――!!」

ならば――信じてみようか、目に見えないセカイなんかじゃなく、一人の少年を。
もうオレは、世界の運命に誘われたりしない――!
虹色のペンダントを宙に放り投げる。剣を閃かせ、突き砕こうとした刹那――。

>「……貴様は、浅薄な人間だ。浅はかで、軽率で、うかつで、行き当たりばったりの出たとこ勝負で、
 でたらめで、無駄だらけで、不注意で、考えなしのアホ丸出しだ。
 正直、我が臣民たるあ奴らには、この男だけはやめておけと切実に忠告してやりたい」

「――えっ」


540 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/08 01:02:20 ID:???
目を疑った。いないと思った矢先、現実に現れてしまっていた。かつて残虐の限りを極めたという紅き薔薇の魔王――。
その顔立ちは、昔のオレとやっぱり酷似していて――。

突き砕くタイミングを失って左手で受け取った虹色の石から、思念が流れ込んでくる

『我が名はハウスドルフ――。かつて炎の四天王だった者だ。
今更砕こうなどせずとも、歴史はとうに我々が描いた筋書からは違う方向に転がり始めた――』

ハウスドルフと名乗る者は言葉を続ける。

『彼女はローゼン――の一部。
《楽園》で育まれた一点の曇りもない純粋な心を持っていた、向こうの世界でのお前のなれの果てだ。
彼女は光の勇者でもあり、魔王の力をも持っていた。
お前は光精霊がいない世界ゆえに光の勇者ではなく、魔王が未だ存在する世界ゆえに魔王にもならなかった。
だが人間としての魂の原型だけは同じ……』

「あ……」

そうだったんだ――。幼い頃に憧れた光の勇者は、世界を救えなかった愚かな勇者は、向こうの世界での自分だった。
フラクタル理論――不規則な規則性。偶然と言う名の必然。親にも等しい存在を裏切ってまで、こちら側に来た事に意味はあった。
もちろん、双子が同じ素質を持つ別の人格なのと一緒で、全くの別人だ。
楽園育ちの光の勇者と、最初の最初からグチャグチャでドロドロな人生を送ってきたオレは、きっと似ても似つかない。
それでも―― 何から何まで違っても。かつて楽園に憧れた夢見がちな少女は。 光の勇者に自分を重ねるのだ。

「信じる事に理屈なんていらないよなあ。だってオレ、こっちの世界のローゼンなんだぜ――!」

>「聞こえてるか、ジェンタイル
今さら私がお前を信じる、なんてことは言わないさ……
さっさとロスチャイルドを倒して祝勝会にしてしまおう こうも私達の仲間が多いのだから、盛大なパーティーになってしまうぞ、ふふふ」

>「……ふん。皆で仲良く、足並み揃えてラスボスを倒そう、か。
 甘ったるくて堪らんが……最後くらいは、そういうのも悪くない。遅れを取るなよ――ジェンタイル」

炎の賢者を守るは、魔王様が率いる魔物軍団。

「うひゃあ、そうそうたるメンバーが揃ってやがる。グズグズしてると終わっちまう、行くぜメタルクウラ! ロックンロールだブチ殺せえ!」

メタルクウラに目配せをして駆け出す。さあ、神殺しの始まりだ――!

541 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/10 06:47:07 ID:???
例えば大事な人が殺されたとき、人間がとる行動は様々だ。
失われた事実から逃避するために心を退行させたり、仕方なかったんだと自分を無理やり納得させたり。
取り返しのつかない現実は容赦なく人の心を蝕むから、自分を護る論理武装が人には必要だ。
いなくなってしまった人を過去にして、目の前の現実を受け入れ、強く生きていくために。

――じゃあ、『復讐』って一体なんだ? 

仇を討っても死んだ奴が生き返るわけじゃない。仇を討ってと、そいつに頼まれたわけでもない。
現実から逃避しているわけではないが、さりとて現実と折り合いをつけているわけでもない宙ぶらりんの心理状況。
よくドラマとかで「死んだあいつは復讐なんて望んじゃいない!」ってセリフがあるけど、そりゃそうだ。
死んだ奴が何かを望むわけがない。墓に花を添えるのだって、添えたいと願うのはいつだって遺された連中だ。
だから俺は上記のセリフにこう反論したい。――俺が復讐を望んでるんだ、と。
死んだ奴のことばっか優先して、遺された俺達が救われちゃならない道理なんてねーんだから。

だからこいつは、俺自身を救う戦いだ。                 プロローグ
いなくなっちまった奴のことをさっさと思い出にして、前に進むための前日譚なんだ。

【ラストバトル――『並び立つ俺達』】

霊装『バッドカンパニー』によって仲間達から吸い上げられた"信頼"が、神と戦うための鎧を形成する。
否、ここにいる仲間たちだけじゃない。この世界のあらゆる場所に散った、これまで俺達と共に戦ってきた連中からも。

平行世界に散らばる無数のメタルクウラ達が、太平洋だって沸騰させられそうなエネルギーをくれる。
悪魔と戦うために仏門を修めたバベル城下の仏教徒達が、森羅万象を掌握する悟りの真髄を垣間見せる。
湖畔村で家族と再会したメルフィちゃんとポーション精霊が、あらゆる痛みも消し飛ぶ快癒の力をくれる。
ハマちゃんやその仲間達、かに将軍でバイトするフリーザ一味が、過去から今日へと繋ぐ記憶の連綿を紡ぐ。

ロスチャイルドの十五万には遠く及ばなくたって、俺にとっちゃ一人頭が百人力だ。
比喩じゃなく、大げさでもなく、本当に掛ける百の信頼が霊装へと流れこんでくる。
精霊は魂に楔打つ存在――信じれば信じるだけ、100パーセントの変換率で力をくれる。

……俺の背中を押す人々の中に、たった一人の顔が足りないのが、酷く暗い欠落に思えた。
分かってる。それはいらない感傷だ。あいつの全てを過去にしなけりゃ、俺はここから踏み出せない。
この世界は正しくて、だからこそ優しくない。死んだ奴は死んだままだという『当たり前』が、今だけは悲しかった。

>「……貴様は、浅薄な人間だ。浅はかで、軽率で、うかつで、行き当たりばったりの出たとこ勝負で、
  でたらめで、無駄だらけで、不注意で、考えなしのアホ丸出しだ。
  正直、我が臣民たるあ奴らには、この男だけはやめておけと切実に忠告してやりたい」

――その死んだ奴の声がした。
振り返り、"そいつ"を見る。眼も、髪も、肌も、背の低さやデスクワークからくる猫背まで、同じ人間がそこに居る。

「ロー、ゼン……?」

>「だが、どうしてだろうな。私も何故だか……貴様の事が嫌いになれん」

じゃない。
鎧の装飾も、言葉遣いも、詰問するような口調も、南極みたいな眼差しも、どれひとつとしてローゼンじゃあない。
だけどそいつはどうしようもなくローゼンだった。その『信頼』は、紛れも無くローゼン・メイデンのものだった。
生き返ったわけじゃない。実体のないその姿は、死人の魂が結実した存在――ゴースト。

「……何しに化けて出てきやがった。この比喩じゃねえ方の腐れ女子め」

こいつがどういう理屈で戻ってきて、なんでこんな姿になってるのか俺はちっとも知りやしない。
――だったらきっと、やっぱり感傷は要らないんだ。こいつがここに居るってだけで、今は十分。
いつもの憎まれ口さえあれば、俺達の間に意思疎通は完璧だ。

>「届けてやろう。あ奴らの想いを――」

>「霊装――『原点回帰』《デウス・エクス・マキナ》」

542 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/10 06:50:18 ID:???
ローゼンの霊装、光の精霊剣が俺の胸に突き立つ。
それは俺が挫けたとき、迷った時、いつもあいつがそうしてくれたような――力を注ぐための刺突。
流れこんできたのは、俺の魂の最後の欠落部品たち。

>「……持って行けよ、ジェンタイル」
>「私達にはもう、一欠片の体力も残ってないけど」
>「それでも、さいごまでのこったものが……ひとつだけ、あるんだよ」
>「負けちゃダメだよ〜っ!ジェンタイル!だって私達み〜んな!」

>「――貴方の事を、愛していますから」

「……知ってるよ。ずっと前からな」

俺のために、徹頭徹尾、本気で命を懸けてくれた連中は、後にも先にもこいつらだけなんだから。
こいつらは人間じゃないけど女で。――女の子の愛に応えなきゃ、男じゃねえだろ!

>「……ふん。皆で仲良く、足並み揃えてラスボスを倒そう、か。
 甘ったるくて堪らんが……最後くらいは、そういうのも悪くない。遅れを取るなよ――ジェンタイル」

「ったりめーだ、ローゼン。俺達はいま――ようやく同じスタートラインに立ってるんだ」

出会った時から、つかみ所のない連中だと思ってた。どうせモンスターだからと諦めてさえいた。
こいつらはいつも俺の未来に先行して色々手を打つし、隠し事も沢山するし、何考えてるかわかんねーし。
真意の見えない戯れ事に苛立ったりもした。大事なことを伝えてもらえなくて、本気で怒ったりもした。
やっとわかったんだ。こいつらは最初から、俺のことが大好きだったんだ――俺だけのために戦ってくれるんだから。
だったら話は簡単だ。信じて、信じて、信じ抜く。それで俺はこいつらと、肩を並べて歩いていける。

>「聞こえてるか、ジェンタイル今さら私がお前を信じる、なんてことは言わないさ……
 さっさとロスチャイルドを倒して祝勝会にしてしまおう
 こうも私達の仲間が多いのだから、盛大なパーティーになってしまうぞ、ふふふ」

メタルクウラの快哉と、

>「うひゃあ、そうそうたるメンバーが揃ってやがる。
 グズグズしてると終わっちまう、行くぜメタルクウラ! ロックンロールだブチ殺せえ!」

レゾンの呼応が背に響いた。
これで全部だ。俺に足りないもの、俺が得たかったもの、なにもかもが俺の後ろに控えてる。
そいつはどんなに大軍の猛者たちよりもずっと強く俺の背中を押してくれる。世界の色を変えてくれる。
もう限界だ。この危機的状況にあって、俺は口端が上がるのを抑えられない。胸のすく快を叫ばずに居られない。

「みんな最高の馬鹿野郎共だぜ!」

霊装と、

「ようお前ら、想像しろ。何もかもが終わったら、打ち上げにか蟹将軍で一番良い部屋予約するぜ。
 運ばれてくる料理はどれひとつとして例外なく高い奴だ。全員生中で乾杯して、さあ、何から箸をつける?
 ちゃんと計画立てとけよ――旨い酒、旨い飯、楽しい宴のためだけに命賭けるのが今日の俺達のやり方だ!」

信頼と、

「今宵一夜が最後の夜だ。総員、かつての己に別れを告げろ。もうこれまでの俺達じゃいられない、これからの俺達と出会う夜だ!
 何も無いところからでも、何かを始められるように!何にもなれない俺達が、なりたい何かになるための快い戦いだ!」

高揚を、纏い切る――!

543 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/10 06:51:49 ID:???
「メタルクウラ!お前は殺戮機械なんかじゃねえ。誰を何人殺そうが、俺の大親友のメタルクウラに変わりはねえ!
 俺はお前の出自を否定しない!お前の罪を否定しない!俺と共に生きる友としてのお前の在り様を、全力で肯定する!!」

霊装を通して流れこんできた、メタルクウラの記憶。
俺にとってあいつは友達以外のなにものでもないが、きっと世界はそれを赦さないだろう。
んなもん俺達が知ったこっちゃないのにな。だから、俺がメタルクウラを肯定する。一切合切の罪に向き合って。

「レゾン!お前がどこから来て、何者になろうとしてるか俺は知らない。世界を救った先に何があるかもだ!
 でもな、今更仲間になるならないなんて言いっこナシだぜ。お前はとっくに俺達と、同じ方向を向いてんだから!
 ――革命の夜へようこそレゾン・デートル!俺達は、お前という運命を歓迎する!!」

ローゼンそっくりの霊装を見せたこいつは、きっと俺の知らないどこかで同じような修羅を経験してきたんだろう。
こいつの仲間を殺したのは俺達だ。俺がロスチャイルドにそうしたかったように、レゾンは俺を殺したいのかもしれない。
でも殺されてやんねー!俺が救わなくても、こいつは自分で友達の死に向き合っていける強い奴だ。
そんなレゾンが世界のことや仇の諸々と向き合い折り合ったその先に、俺への信頼を選んでくれたことが、何よりも快い。

「堕天使、ゾンビ、妖狐、スライム、ゴーレム!愛してくれて、ありがとな。照れくせーけど、これだけ言っとくぜ。
 お前らの誰かはとっくに気付いてたかもしれねーけどな。――俺もお前らのことが大好きなんだよ!!
 だから、お前らの全てが欲しい。他の誰にもくれてやらねー、お前らの外側から中身まで全部俺のもんだ!どこにもいくな!!」

笑っているはずなのに、涙が止まらなかった。
霊装を通してわかる、こいつらがもう、死ぬってことが、リアルな実感として頭の真ん中に突き刺さる。
死んで欲しくない。まだまだ一緒にいたい。

堕天使と夜通し大先輩の愚痴大会をしたい。
ゾンビに合成じゃない本物のステーキを食わせてやりたい。
妖狐をスタバに連れて行って噛みまくるのをニヤニヤしながら眺めたい。
スライムに水底が透けるぐらい綺麗な水辺がこの世界にもあるってことを教えてやりたい。
ゴーレムに――あいつの知ってることを全部聞いて、あいつの目指す世界ってやつを一緒に追いかけたかった。

こいつらを過去にしたくないのに。
俺は今から、過去と決別するための戦いをする。
世界をどうにかしなきゃって思いから始まった、この快い旅と悪くない日々に、決着をつける。

「――ローゼン!全部終わっても、お前はきっと俺の傍にはいねえんだろうな。だってお前は死んでて、俺は生きてる。
 変わりようのないことをウジウジ言ってもくだらねえな。だからお前を俺は救わない。救いを求めてしたばたしない。
 刮目して見ろよ――この俺の、最高にカッコいいところをなぁ! いいとこ見せるから、安心してくたばりやがれ!」

死んだローゼンと、今ここにいるローゼンは別の存在。わかってる。
死人は救いを求めない。救いを求めるのはいつだって生者――だったら、救いを求めた俺の代わりにお前が勝手に救われろ。
俺は柏手を打った。全てをここから始めるための、突撃ラッパを代行する。

「総員、不条理への抗いを剣に、拳に、魔法に込めろ!
 打撃で以て問いただし、血潮の中に答えを得るのが今夜の俺らの戦い方だ。
 ――たかだか15万の期待に添えずに引きこもった世界規模の反面教師を、偽りの教壇から蹴り落とせ!」

信頼を纏う霊装によって、今の俺は暫定的に精霊神格を持っている。
"俺を信じる気持ち"を対価にして、仲間達と擬似的な精霊契約を締結した。
付与する加護は、『神殺し』。これにより俺の仲間達はいま、全員が神へと攻撃を通す力を備えることになる。

       かみごろし
「始めるぞ、卒業式 を!――この戦いの勝利を以て、俺達はようやく義務教育を修了する!!」

霊装が確定し、炎の渦が晴れた先、ロスチャイルドの姿を見る。
憎むべき仇敵、倒すべき政敵、超えるべき先生。かつて世界を一度滅ぼした男を、指先に捉える。

十五万の神に相対する者たちを――前進させる言葉を叫んだ。


「さあお前ら、最初の作戦だ。――『ガンガンいこうぜ』!!」

544 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/10 06:53:16 ID:???


「なるほど一方通行の『信仰』に対し双方向の『信頼』で相対するか!
 良い発想だ、背負うものの多い先生には出来ない、泥臭い考え。模範解答ではない――だが、」

面白い。何に増しても面白い。
自分にできないことだからではない。『並び立つ俺達』は『論理戦場』の下位互換だ。
では何が面白みを発生させているのか――ロスチャイルドは知りたかった。
一人の学術者として、ほんの僅かな間だけの教え子がこの半年で何を得たか、興味があった。

「さあ来るが良い卒業生達!お礼参りは結構だが、恩師の背中は偉大にして強大―― 一回刺されただけじゃ死なないぞ?」

神格を得たジェンタイルの加護によって、敵パーティの攻撃はロスチャイルドの『不可侵』を貫通するようになっている。
つまり、これまでとは違い、相手の攻撃を自分にまで届かせない工夫が必要ということだ。
言ってみればなんのことはない。そんなことは、

(神になる前からやっていることだ――!)

ロスチャイルドは己が契約精霊に祈りを捧げる。
『変わらないこと』を対価にして魔法を生み出すのは――

「――『楔精霊』。ひとつ彼らの未来を憂い、先生から"進路調査"を伺おう」

きゅん、と空間の縮む軋みが起きて、メタルクウラに、レゾンに、ローゼンに、ジェンタイルに『楔』が突き立てられた。
痛みやダメージを起こす類のものではない。胸の中央へ突き刺さるそれは、『留めること』を司る楔精霊の精霊魔法だ。
故に、動けない。その場の全てのものが、霊体でも機械でも関係なく地面へと足を貼りつけられている。

「それでは諸君にまず問おう――君たちは先生を倒して、一体どうするつもりかな?
 ローゼン君の復讐とさっきは言ったが、その当人がここに居るんじゃその大義は失われたようなものだろう。
 まさか君たち、『ジェンくんが戦うってゆうからよく分からないけど戦う〜』などと頭の悪いことは言うまいね?
 これは子供の遊びじゃあないんだ。命を懸けるだけの理由を持たぬなら――そんな命など捨て果ててしまえ」

各々の胸に刺さった楔は、自分で抜くことは確実に不可能である。
放っておけば30秒もしないうちに心臓に至り、たとえ心臓のない者でも"存在"そのものを停滞させてしまうだろう。
ロスチャイルドは楔精霊を極めることで、己の任意のものを概念ですら自在に留めることができる。
主人を失った獣精霊を現世に留めておいたのもこのスキルによるものだ。

そして現在パーティを蝕む楔はロスチャイルドが制圧・尋問に用いる特別製の魔法。
『問いに答える』という解除条件を制約とすることで、どんな相手にも知覚されない発動速度と射程距離を得たものだ。
この楔は不可避だが、しかしロスチャイルドが問うた内容に己の持つ回答を示せば解除できる。

「先生を殺すという咎を受けてまで、この世界に求めるものとはなんだ?
 ――政治家として聞きたい。そもさん!君たちはこの世界をどう変える!」


【ラストバトル開始。ジェンタイルの加護によって全員がロスチャイルドの防壁貫通のスキルを得る】
【楔精霊の契約魔法『進路調査』:不可避の楔を穿ち、問いに相手が答えられなければ存在を停止させる(=死)】
【問いの内容:この世界に望むこと。ロスチャイルドを倒した後に、世界をどう変えようとしているのか】


【ラストバトルは大体3〜5ターンを想定しています。調整しながら最後を愉しみましょう!】

545 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/01/10 17:28:18 ID:???
>「うひゃあ、そうそうたるメンバーが揃ってやがる。グズグズしてると終わっちまう、行くぜメタルクウラ! ロックンロールだブチ殺せえ!」

「あぁ、そうだな」
私は駆けていくレゾンの後ろを歩いて行く。
最初はレゾンの言っていることが理解できなかったが、段々と理解してきた。
私達はレゾンの仲間達を知らず知らずの内に殺してしまっていた。
元ロスチャイルド派のレゾンが憎しみのために、私に害を為そうとするのも仕方がない。
レゾンにとってはロスチャイルドも私達も敵なのだから。
あの私を両断した一撃も、私をフリーズさせたのも、消去した怨みのデータもレゾンのものだったのだろう。
それでも、レゾンは私達の仲間になりたいと言ってきた。
レゾンの仲間達を殺してきたのは私達なのだが、その殺すしかない状況を作ったのはレゾンであり、ロスチャイルドなのだ。
レゾンが自身の狂気とも言える負の連鎖を断ち切るべく、私達の仲間になったのならば、私が拒める理由はない。
ただ復讐のために戦う私が、自身の仲間達の未来のために、憎しみの対象とでさえ手を組むことができるレゾンに何を言えよう。
私にできるのは、ローゼンの仇を討った後にレゾンによる裁きを受けるだけだ。
しかし、レゾンがローゼンと言うのだけは理解ができない。
似ていることは見れば分かるのだが……
この一点の疑問だけが、私の歩みを遅くしていた。

>「メタルクウラ!お前は殺戮機械なんかじゃねえ。誰を何人殺そうが、俺の大親友のメタルクウラに変わりはねえ!
> 俺はお前の出自を否定しない!お前の罪を否定しない!俺と共に生きる友としてのお前の在り様を、全力で肯定する!!」
ジェンタイルが私に嬉しいことを言ってくれるのを、私は地下から聞いていた。
何百の星を破壊し、何百の人類を滅亡させてきたクウラの記憶を引き継いでいる、私達メタルクウラが今さら罪悪感に苦しむことはない。
だが、私達の罪を含めて大親友なんて言ってくれれば、思わず笑みが浮かんでくる。
地獄で見ているか?私達の作り主であるクウラよ。
私は帝王や宇宙最強の座よりも、はるかに価値の高いものを手に入れているのだ。
お前には無かった大親友と言うものを。
だが、その嬉しささえすぐに吹き飛ぶことになった。



546 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/01/10 17:29:10 ID:???
「ローゼン……?」
私が地下から地上に戻って目にしたのは、ジェンタイルやローゼンに似たレゾン、ロスチャイルド。
それだけならばまだ良かった。
幻影に似た姿となったモンスター娘達が、死したはずのゴーレム達を含めて揃っている。
そして、死んだはずのローゼンが変わり果てた姿となって存在しているのが、私の目に入った。
レゾンのように、ローゼンのそっくりさんかと思ったが、私の知能はあのローゼンを本物のローゼンと理解している。

>「始めるぞ、卒業式 を!――この戦いの勝利を以て、俺達はようやく義務教育を修了する!!」

「ちょっと待ってくれ!頭がついていけない。
それに、私の小学校の入学はこれからだ!」

>「さあお前ら、最初の作戦だ。――『ガンガンいこうぜ』!!」

「私にコロコロやボンボンを読ませる暇さえ与えないと言うのかっ!」


>「――『楔精霊』。ひとつ彼らの未来を憂い、先生から"進路調査"を伺おう」
私がジェンタイルにボケを含めた文句を言っている間に、ロスチャイルドの攻撃が始まる。
私の胸に何かが打ちつけられて、行動の自由を奪われる。
幸いにも思考はできるようだ。
私達の行動を封じたロスチャイルドが、私達に問う。
ロスチャイルドを倒してどうするのか。
ロスチャイルドが言うように、ローゼンがそこにいるのならば、私の仇討ちに意味は無くなる。
ローゼンは私達の下に帰ってきた。
明らかに人じゃなくなっていても、私は今さら種族がどうのこうの言うつもりは無い。

>「先生を殺すという咎を受けてまで、この世界に求めるものとはなんだ?
> ――政治家として聞きたい。そもさん!君たちはこの世界をどう変える!」

「私の知るローゼンが帰ってきたのならば、ロスチャイルド先生の生死などどうでも良い。
友人達と共にいる世界ならば、どんな地獄でも私にとっては楽園だ。
私は世界に何も求めない。
世界を変えたいという思いから、私は友を失った。
いや、多くの者達が親しき友を失う運命に変えてしまったのだ。
もう、私には世界を変える資格など無い」
これが私の出したロスチャイルドへの答えだった。
今さらだから言わせてもらおう。

「地精霊の大バカヤロォォオオ!!!!!」
……あまりの怒りに声に出てしまった。

547 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/11 00:09:26 ID:???
【すいませんモンスター娘さん
魔王様に投げかけるロールがしたいので先に行かせてもらっていいですか?】

548 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/11 19:27:28 ID:???
すみませ〜ん♪
もう書き始めちゃってるんで、それを書き直すのはちょっと厳しいのでご遠慮していいですか?^^
あっ、この口調は単に角が立たないよう意識してるだけなので気にしないで下さいね^^

549 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/12 20:50:01 ID:???
>「堕天使、ゾンビ、妖狐、スライム、ゴーレム!愛してくれて、ありがとな。照れくせーけど、これだけ言っとくぜ。
  お前らの誰かはとっくに気付いてたかもしれねーけどな。――俺もお前らのことが大好きなんだよ!!
  だから、お前らの全てが欲しい。他の誰にもくれてやらねー、お前らの外側から中身まで全部俺のもんだ!どこにもいくな!!」

「なぁんだ!だったら私達、両思いだったんだね〜!あはは、嬉しいなぁ!うん……本当に、嬉しいなぁ……」

ジェンタイルと同じように、スライムも笑いながら泣いていた。
妖狐は唇を固く結んで、小さく震えながら、下手くそな演技で飄然を装っている。
堕天使が何も言わずに、細く長い吐息と共に顔を上に向けた。

「……だいじょうぶだよ、スライムちゃん。わたしたちがしんでも、わたしたちはいなくなったりしない。
 ジェンタイルがすきだったことも、すきでいてくれたってことも、なくなったりしない。
 ジェンタイルがわたしたちをだいすきだっていってくれた、いまこのしゅんかんは、たしかにここにあるんだもん」

ゾンビが穏やかに微笑みながら、スライムを諭す。
『モン☆むす』の中で誰よりも緩慢な印象を振り撒く彼女は、しかし今、誰よりも深く潔く覚悟を決めていた。

「えぇ……私達は、どこにも行きません。いつだってここにいます。
 いつか遠く過ぎ去ってしまう『今』から、いつでも貴方の背中を支え続けます。
 だから……たまにでいいです。私達を、振り返ってみて下さい。それだけで……頑張れます」

ゴーレムもまた覚悟を決めて、けれども固めた地面の下からでも溢れてくる雨水のように、未練が零れた。
過去と決別しようとしているジェンタイルに、それでも覚えて欲しいなどと、言ってしまった。
都合のいい、許されない願望だと分かっていたのに。それでも、言わずにはいられなかった。

>「――ローゼン!全部終わっても、お前はきっと俺の傍にはいねえんだろうな。だってお前は死んでて、俺は生きてる。
  変わりようのないことをウジウジ言ってもくだらねえな。だからお前を俺は救わない。救いを求めてしたばたしない。
  刮目して見ろよ――この俺の、最高にカッコいいところをなぁ! いいとこ見せるから、安心してくたばりやがれ!」

魔王ローゼンが双眸を研ぎ澄まして訝しむ。
二人の意思はまるで通じていない。当然だ。
今のローゼンには、ジェンタイルの親友だった頃の記憶などないのだから。
それを承知でジェンタイルも言っているのだろう。
だからこそローゼンもその事を追求したりはしない。

「……それでお前が満足するのなら、そうすればいい。
 私にはそうとしか言えん。私には……記憶も、意志も、何もないからな」

感情の色に乏しい仏頂面で答えた。
眠ったまま死した魔王の残滓――故に意志も理想もない。
だからこそ空っぽな自分の目的を『魔王』の名に委ねた。
魔王として、『モン☆むす』達を幸せに導く事を望みとしたのだ。

>「総員、不条理への抗いを剣に、拳に、魔法に込めろ!
  打撃で以て問いただし、血潮の中に答えを得るのが今夜の俺らの戦い方だ。
  ――たかだか15万の期待に添えずに引きこもった世界規模の反面教師を、偽りの教壇から蹴り落とせ!」

       かみごろし
>「始めるぞ、卒業式 を!――この戦いの勝利を以て、俺達はようやく義務教育を修了する!!」

最終決戦が、始まる。

550 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/12 20:50:48 ID:???
 


>「――『楔精霊』。ひとつ彼らの未来を憂い、先生から"進路調査"を伺おう」

全員の胸に魔力の楔が突き刺さる。
光と闇を制して時空をも操る堕天使にすら回避出来ない一撃だった。
すなわち、用途が限定的である代わりに高い効果を発揮する魔法だと推察出来る。

>「それでは諸君にまず問おう――君たちは先生を倒して、一体どうするつもりかな?
 ローゼン君の復讐とさっきは言ったが、その当人がここに居るんじゃその大義は失われたようなものだろう。
 まさか君たち、『ジェンくんが戦うってゆうからよく分からないけど戦う〜』などと頭の悪いことは言うまいね?
 これは子供の遊びじゃあないんだ。命を懸けるだけの理由を持たぬなら――そんな命など捨て果ててしまえ」
>「先生を殺すという咎を受けてまで、この世界に求めるものとはなんだ?
 ――政治家として聞きたい。そもさん!君たちはこの世界をどう変える!」

「……進路指導、ねぇ」

堕天使が小さく呟いた。

「そうだな……アンタを倒したら、まず大先輩に会いに行きたいね。
 どこにいるかも分からないけど、だからこそ探し回る楽しみがあるってモンさ。
 そんでもって、旅の荷物はぜーんぶジェンタイルに持たせてやるんだ。あと大先輩の好きな物とかも、忘れず聞いとかなきゃな」

徐々に胸の奥へと減り込んでいく楔を気にも留めず、堕天使は小憎たらしく笑った。
意地でも悲観的になってやるものかと、敬愛する大先輩と、愛するジェンタイルを、自分に重ねる。

「私は……皆と一緒に、どこかに遊びに行きたいなぁ。
 舌噛んだり、転んだり、頭ぶつけたり……それで皆が笑ってくれる。ジェンタイルが助けてくれるんだ。
 いっつもドジ踏んじゃう私の事が、私は大嫌いだったけど……皆のおかげで少しだけ、好きになれたんだよ」

そんな自分とも、皆とも、ジェンタイルとも、もうお別れだ。
神のいないこの世界に、天国や地獄があるとは思っていない。
ローゼンの魂がそうだったように、きっと死んだら自分達の魂も霧散して消えてしまう。
その事を思うと寂寥感が心を僅かに波立たせたが――それでもこの選択に悔いはない。

「ジェンタイルといっしょにごはんがたべたい。いっしょのじかんがすごしたい。
 あさおきたら、おはようっていって、よるねるまえには、おやすみっていいたい。
 それだけで、わたしはきっとしあわせになれる」

ただそれだけが、果てしなく遠い。
生と死の境界線が無慈悲極まる厳正さで、自分とジェンタイルを引き裂く。
だが、それでいいのだ。自分達には幸せになる権利など、ないのだから。

「ん〜……よく分かんな〜い!今まで通りでいいや〜!だって幸せだったもん!
 皆と、ジェンタイルと一緒なら、私はいつだって幸せ!
 これまでも、これからも、ずっとずっと幸せだもんね〜!」

帰れない。生き返れない。前に進めない。今に置き去りにされる。
だとしても幸せだと、ずっと一緒だと、スライムは愚かさ故に虚飾のない言葉で叫ぶ。

「私は……やっぱり、人間と魔物が共存出来る世界を、今度こそ築きたいですね。
 私達がジェンタイルを愛したように、より多くの魔物が、より多くの人間を愛せるようになって欲しいです。
 そんな世界を皆と一緒に……今度こそ、正しいやり方で」

各々が、大小様々な夢を語る。

551 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/12 20:51:48 ID:???
「けどな……そんなモン、もうどうだっていいんだよ」

堕天使が胸に沈んでいく楔を右手で掴みながら、断言した。
叶えたい夢、実現して欲しい未来、それらを自ら破り捨てる。
彼女だけではない。皆が同じ事を思っていた。

「私達はもう夢なんか見れなくたっていい。未来はいらない。世界とさよならをする覚悟はとっくに出来てる」

妖狐が穏やかな声音で続ける。その穏やかさは演技ではなく、本物の感情だった。
――自分達が死んでも、ジェンタイルの為に頑張った『今』は決して幻になったりしない。
ゾンビの言葉は妖狐の胸の奥深くにまで染み込んで、彼女の心に平穏を与えていた。

「私達はただ……明日も、明後日も、その先もずっと、この世界にジェンタイルが生きていて欲しい。
 そこに私達はいなくていい。ジェンタイルが幸せに生きてくれている世界、それだけが私達の望みです」

ゴーレムが答える、皆が共有する世界への望み――ジェンタイルが幸福に生きてさえいれば、それだけでいい。
問いに答えるという条件を解除された楔が光の粒子となって崩壊していく。

「さ〜て!それじゃあガンガンいっちゃうよ〜!そ〜れ、いっちば〜ん!」

スライムが弾むような声と共に両腕を振りあげる。
もはや実体のない彼女には液体を操作する能力は発揮出来ない。
代わりに自分自身の命を『液体の性質』に変化させて、制御する事が出来た。
液状化した命のエネルギーがうねり形状を変え、
剣に、槍に、斧に、鎚に、鎌に、矢に、拳に、千変万化の武装と化してロスチャイルドへと一斉に襲いかかる。

「あの楔は面倒だな。ゴーレム、妖狐、ゾンビ、ちょっと控えてなよ。アレで迎撃されたら厄介だろ。
 まずは私とスライムに任せときな。ああいう奴には『面』……って言うより、『無数の点』で攻めるのが相場って決まってるのさ」

堕天使が漆黒の翼を解き放ち、飛翔――翼を激しく羽ばたかせ、無数の羽を放った。

巨大な『面』はたった一本の楔で止められてしまう。
だが数え切れないほどの『点』ならば、その一つ一つに対して楔を打ち込む必要がある。
接触によって多大な効果を発揮する能力には、遠距離攻撃と数の暴力が有効だ。

とは言え、ワンターンキルなどと軽口は叩いたものの、堕天使はこれで決まるとは当然思っていない。
ただロスチャイルドの対応能力を測る。つまり小手調べが目的だ。
高速で飛来する弾幕をどう対処するのか。
それを知る事が出来れば皆が戦術を組み立てる助けになる筈だ。

552 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/12 20:53:11 ID:???
 


――皆が打ち込まれた楔を消し去っていく中で、一人だけ、未だに楔が抜けずにいた。
ローゼンだ。彼女は空っぽで、故に自分の目的を『魔王』の名に委ねた。

ローゼンは『モン☆むす』達に憑依していた。
故に彼女達がずっと幸せだった事を知っている。

それと同じようにローゼンは、彼女達がジェンタイルの為に、
魔物にとって母にも神にも等しい自分さえ欺こうとした事も、
本当に呼び戻したかったのは自分ではない事も、全てを知っていた。

その事に怒りを覚えたりはしなかった。代わりに彼女達の思いの深さを知った。
所詮自分は光の勇者に抑圧されたまま死んでいった、弱き魔王の、そのまた残りカスだ。
それでもまだ、臣民たる魔物達の為に何かが出来るのなら、躊躇う理由は何もなかった。
王として、魔物達に幸せを齎す。
それが叶うのなら自分がただの便利な道具、『機械仕掛けの神』《デウス・エクス・マキナ》でも構わなかった。

ようするにローゼンは自分を殺し、心の中に狭い狭い王国を作って、閉じ込もったのだ。
だから『世界』に対して強い思いが抱けない。
これから死んでいく『モン☆むす』達への献身は、世界に何ももたらせない。

楔が緩慢なれど着実に、ローゼンの心臓へ迫っていく。
ふと、ローゼンの意識の奥深くで、このまま停止してしまうのも悪くないのかもしれないという気持ちが芽生えた。
霊装を展開した状態で自分が停止すれば、もしかしたら『モン☆むす』達の魂をこの世に留め続けられるかもしれない。
そうなれば、きっと皆が幸せになれる。ローゼンはそのまま静かに目を閉じて、

――胸の奥に静かに蔓延していた諦観が、ジェンタイルの悲痛な面持ちに塗り潰された。

思わず右手を顔に被せた。
手のひらに覆われて暗闇に沈んだ右目の視界に、今さっき見たものの残影があった。

加速度的に疑問が膨れ上がる。
――何故あの男が。あの男のあんな表情を、自分は見た事なんてないのに。
いや、もしかしたら『モン☆むす』達の中にいる内に見ていたのかもしれない。
だがどうして今、あの男の顔が浮かび上がったのか。

『――皆が幸せになれるなんて、嘘だよ。ジェン君もあの子達も、あなたの死を幸福として受け止めたり出来る訳がない』

「なっ……」

意識の深層から、今度は声が聞こえた。
図らずも、驚愕の響きを孕んだ声が喉の奥から飛び出した。

『それに……それじゃあ、どうあってもあなたは幸せになれないじゃないか。そんなの、おかしいよ』

意識の大部分を支配していた疑問が更に膨張する。
―― 一体誰の声だ。今度こそ、あんな声は聞いた事がない。
いや、違う。聞き覚えがない訳じゃない。あれに限りなく近い声を自分は知っている。
他の何よりも身近な声、自分自身のそれに限りなく近い声。
まさかお前は、まさか、まさか――

『あなたにだって、幸せになる権利がある筈だよ。あなたが世界に何を望むのか、言ってごらんよ』

押し黙る。声の正体を考えるのはやめた。どうせ分かったところでこの戦いの中では意味のない事だ。
代わりに己の心の奥深くを覗き込み――けれどもそれは一瞬で終わった。
自分が世界に何を望むのか。そんなもの、決まっている。

553 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/12 20:55:06 ID:???
「私は……魔王だ。あらゆる魔の頂であり、長だ。その私が世界に求める事など一つしかあるまい。
 全ての魔物が幸せに過ごせる政治、社会。それが魔王の責務であり……私自身の望みだ」

ローゼンは自分を『魔王』の名で縛る事をやめた。
そんな事をしなくても、そもそも彼女は生まれながらにして王だ。
統治者たる素質――強さではなく、臣民を思いやる心は、初めから彼女の中にあったのだ。
ただ、今初めてそれに向き合えたと言うだけで。

楔の侵攻が止まった。
胸の奥から溢れる願いが、森羅万象から歩みを奪う魔法を塞き止める。

「私にはもう、その望みを叶える事は出来ん。
 ……だから、お前が叶えろ!ジェンタイル=フリントロック!
 私の夢をお前が未来に持っていけ!明日も滅びぬこの世界に苗を植えろ!
 魔王たるこの私が命を懸けて助けてやろうと言うのだ!嫌とは言わせんぞ!」

清々しく吹っ切れた叫び、同時に胸の楔が一瞬間の内に砕け散った。
冷光の刃を両手で構え、頭上へ掲げ、高く飛び上がる。
光刃を魔力によって長大化させて、雷光のごとき速度でロスチャイルドめがけ投げ放った。

「魔王の裁きを受けるがよいわ!――合わせろ!ジェンタイル!メタルクウラ!」

――まただ。半ば無意識に呼んだ二人の名は、楔のように心へ深く突き刺さる。

それだけではない。
ローゼン放った『魔王の裁き』は上空からの一点集中型の攻撃だ。
ジェンタイルとメタルクウラの攻撃を極力遮らないようになっている。
無自覚の連携――その根底にあるものは、まだ、露にはならない。


【スライム&堕天使→弾幕による小手調べ
 ローゼン→やや遅れて上空から光刃による一点集中攻撃】

554 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/12 22:13:48 ID:???
>>548
せっかくここまでやってこれたんで、できれば最後までこういうことは言いたくなかったんですけど
イエローカードね。次はないんで

555 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/12 23:57:18 ID:???
なんの事だか分かりません。僕は字面通りの意図をもってああ言ったんですよ?
もしも僕の態度が腐って見えるのだとしたら、それは僕じゃなくて見る側が呪われているからですよ

まぁ、僕にはやっぱりさっぱり心当たりはないんですけども
仮に、仮にですよ。もし次やったらどうなるんです?
レゾンさんを主体にこのスレの最後を飾りますか?
いやぁー面白くなりそうだなぁー

でも残念だなぁ
なんだかんだでここんとこの僕らは面白くやれてたと思うんですけどね


556 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/01/13 00:05:28 ID:???
>>555
あれ?モンスター娘さんか主体でしたっけ?
私はスレ主のジェンタイルさんがGMであり主体だったと思いますけど
その言い方だとモンスター娘さんが主体であるように見えますよ

まぁ、これ以上の雑談はコテハン雑談所でやりましょうよ
避難所の容量も残り少ないのですから

557 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/13 00:31:22 ID:???
>「今宵一夜が最後の夜だ。総員、かつての己に別れを告げろ。もうこれまでの俺達じゃいられない、これからの俺達と出会う夜だ!
 何も無いところからでも、何かを始められるように!何にもなれない俺達が、なりたい何かになるための快い戦いだ!」

「なりたい何かになるための戦い……」

思い返せばバベル大寺院の総帥に拾われ、ロスチャイルドに拾われ、ずっと、状況に流されるままの人生を送ってきた。
そのオレがほんの数時間前に半ば突発的に寝返り、今やかつての仇と共にロスチャイルドと対峙している。
常に誰かに仕えてきたオレが、ロスチャイルドを倒した後どうなるのか――皆目見当がつかない。
もしかしたら、とりあえず親に反抗してみた子どものようなものなのかもしれない。

>「レゾン!お前がどこから来て、何者になろうとしてるか俺は知らない。世界を救った先に何があるかもだ!
 でもな、今更仲間になるならないなんて言いっこナシだぜ。お前はとっくに俺達と、同じ方向を向いてんだから!
 ――革命の夜へようこそレゾン・デートル!俺達は、お前という運命を歓迎する!!」

オレの心中を見透かしたように、ジェンタイルの声が飛ぶ。
その言葉は、どんな高揚魔法よりもよく効いた。悩むことなんて一つもありはしない。
たとえ実情が反抗期だろうと、とっくに仲間になってしまっていたから――今更悩んでももはや手遅れ。

「ふっ、まるで優等生のチンピラ集団デビューみたいだ――夜露死苦!」

>「始めるぞ、卒業式 を!――この戦いの勝利を以て、俺達はようやく義務教育を修了する!!」

>「ちょっと待ってくれ!頭がついていけない。
それに、私の小学校の入学はこれからだ!」

「安心しろ、オレなんて義務教育行き損ねちまった!」

>「さあお前ら、最初の作戦だ。――『ガンガンいこうぜ』!!」

>「私にコロコロやボンボンを読ませる暇さえ与えないと言うのかっ!」

「いいじゃないか、コロコロやボンボンばかり読んでいると……バカになるぞっ!」

世界の命運をかけた戦いの場とは到底思えない、それこそ馬鹿みたいな会話。
この戦いが終わっても、ずっとこいつらとこんな会話ができたらいいなって――オレは何を考えている?

558 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/13 00:33:09 ID:???
>「さあ来るが良い卒業生達!お礼参りは結構だが、恩師の背中は偉大にして強大―― 一回刺されただけじゃ死なないぞ?」

>「――『楔精霊』。ひとつ彼らの未来を憂い、先生から"進路調査"を伺おう」

胸に楔が突き刺さる。
変わらない事、を対価にする精霊魔術で進路調査とは皮肉なものだ。

>「先生を殺すという咎を受けてまで、この世界に求めるものとはなんだ?
 ――政治家として聞きたい。そもさん!君たちはこの世界をどう変える!」

>「私の知るローゼンが帰ってきたのならば、ロスチャイルド先生の生死などどうでも良い。
友人達と共にいる世界ならば、どんな地獄でも私にとっては楽園だ。
私は世界に何も求めない。
世界を変えたいという思いから、私は友を失った。
いや、多くの者達が親しき友を失う運命に変えてしまったのだ。
もう、私には世界を変える資格など無い」

メタルクウラが真っ先に答える。
メタルクウラは、彼の知るローゼンが帰ってきたのだと信じ切っているのだった。
でもオレは神官故に、見た瞬間に分かってしまった。あれは死者の魂が結集した存在、ゴーストだと。
あのローゼンは魔王でしかなくて、亡霊で、この戦いが終わった時、きっとここにはいない――。
口を開きかけて、つぐむ。そんな事を今のメタルクウラに、言えるはずがない。

「どうにかならないのかよ……おいっ、四天王の大悪魔なら何かないか? 黙ってないで答えやがれ!」

虹色のペンダントに問いかける。正体現したからにはとことん利用してやる!

『……方法は無い……事も無い』

ハウスドルフの成れの果てが、煮え切らない返答を返してくる。
事も無い、の部分を、聞こえるか聞こえないかぐらいの微弱な思念で。

『君は、ローゼンの同一存在なんだよ。これが答えさ』

「まさか……」

直感的に分かってしまった。魔王をオレの中に取り込めば、魔王は生きながらえる事が出来る。

559 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/13 00:33:54 ID:???
『でもお勧めはしないな。
魔王の中に人間としてのローゼンはいなくて、君すらも魔王に乗っ取られる可能性が大だ。
魔王にそこまでしてやる義理なんてないだろ?』

>「私は……魔王だ。あらゆる魔の頂であり、長だ。その私が世界に求める事など一つしかあるまい。
 全ての魔物が幸せに過ごせる政治、社会。それが魔王の責務であり……私自身の望みだ」

>「私にはもう、その望みを叶える事は出来ん。
 ……だから、お前が叶えろ!ジェンタイル=フリントロック!
 私の夢をお前が未来に持っていけ!明日も滅びぬこの世界に苗を植えろ!
 魔王たるこの私が命を懸けて助けてやろうと言うのだ!嫌とは言わせんぞ!」

>「魔王の裁きを受けるがよいわ!――合わせろ!ジェンタイル!メタルクウラ!」

ジェンタイルとメタルクウラに声をかける魔王の姿を見て、決心がついた。
魔王の中に”ローゼン”はきっといる。
どんなに僅かだって、記憶の欠片が残っていれば、同じ形の魂を持つオレなら――きっと連れ戻せる!
答えは――出た。

「魔王と人間の王による一触即発の共同統治、なんてどうよ――!
お互いがお互いに人質とってんだもんなあ、きっと平和になるぜ!」

もしも駄目でも、魔王に乗っ取られる結果になったとしても、悔いはない。
ここで勝負しなければいつ勝負する。全てはこの時のためにあった。オレは十全を生きた――
着地する魔王の元へ、弾かれたように駆ける。

「魔王! 他力本願してんじゃねえ! 自分の望みは自分で叶えろ!
本当はまだ生きたいんだろ? 変わっていく世界を見たいんだろ?」

両手を広げて、叫ぶ。

「だったら来い! 乗っ取れ! この体、この魂、くれてやる―――――ッ!!」

560 :レゾン ◆frFN6VoA6U :12/01/13 00:37:28 ID:???
お久しぶりです。このトリップ覚えてますか?
ごめんなさい! 本当にごめんなさい! どうしても完走の時にいたくて潜入してました。
ジェンタイルさん、申し訳ありませんでした。言い訳はしません。
モンスター娘さん、訳わかんない方向に迷走しかけた時に止めて下さった事を感謝してます。
メタルクウラさん、正体不明のポッと出と組んでくれてありがとう。また連携バトルが出来て楽しかったよ。
今度こそはちゃんとやろうと思ってたのにまた迷惑かけ通しでしたね、ごめんなさい。

もしもう一度受け入れて下さるならローゼンを返して下さいますか?
駄目なら潔く去りますので乗っ取ってしまってください。
この展開を見た時に自分はこのキャラをこのために送り込んだんだな、と思いました。
だから駄目でも悔いはありません。
でももしも叶うならばもう足は引っ張りません。今この時は必ずお役にたちます。
だからどうかお願いします。

561 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/13 00:50:16 ID:???
>>555
モンスター娘さん、ごめんなさい
僕が間違っていました。全面的に前言を撤回します
確かに呪われていたのは僕のほうだったみたいです

至らぬところの多いスレ主ですが、これからも力を合わせて面白い物語を作っていけたら嬉しいです
改めてよろしくお願いします!

562 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/01/13 00:51:59 ID:???
>>560
私としては、最初にごめんなさいと言ってから堂々とローゼンやレゾンとして、あなたに帰ってきてもらいたかったです
私個人の判断では歓迎しますが、他の方々の判断次第ですね

後、こちらこそもっと上手く絡めずにごめんなさい

563 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/13 01:02:24 ID:???
>>556
あぁ、仰る通りです。僕はとても愚かな事を言っていました
訂正しなければいけません。すみませんでした


>>561
そしてジェンタイルさんにも謝らせて下さい
もしも貴方が呪われていたのだとしたら、それは僕こそが呪いの発信源だったからです
今までの僕は、胸の内側に薄汚い感情が立ち込めていました
あまつさえその事に気付いていながら、その感情に隷従してさえいました
きっとその悪意が呪いを生んでしまったのでしょう

けれども今、目が覚めました
僕の心を支配していた毒が綺麗に禊がれた気がします
どうか僕を許して下さい。そして後少しの間、僕を貴方の同僚でいさせて下さい!


>>560
すみませんがお断りします

564 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/01/13 01:10:36 ID:???
>>561>>563
失礼なことを言わせてもらいますが、レゾンさんが元ローゼンさんだと分かったとしても、ロール内でレゾンさんにあからさまなことはしないで下さいね

後、レゾンさんはもうFOしないで下さいね
せっかく勇気を出してローゼンだったことを言ったのですから、最後までやりましょうよ
私だって汚名を背負って楽しんでるのですから

565 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/13 01:26:36 ID:???
>>564
この期に及んで、そんな話が面白くなくなるような事はしません
僕はいつだって面白い話が書きたいと思っています
僕の心技の未熟故に、なかなか上手くいかない事ばかりですけど

「ローゼン」というキャラクターを確保して、それを頑なに守り続けたのも、
「ローゼンさん」の人格を否定する為ではなく、面白い事に使えると思ったからです



あと、こんな事、今しか言えないと思うので一言
僕は今のメタルクウラさんの事が嫌いじゃありません。だからそんな自分を卑下するような事を言わないで下さい。少し悲しいです

566 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/13 01:29:56 ID:???
>>564
もちろんです。レゾンさんは大切な同僚ですよ
その折では色々とありましたし、言いましたが、ローゼンさんに対しても個人的な悪感情を抱いているわけではありません。
これまで通り、楽しくやるつもりです


>>560
まずはお帰りなさい。
あなたのこの凱旋方法について肯定的に受け取るつもりはありません。
正当な理由があるわけでもなくFOした者がこんな神経を逆撫でするような身元の明かし方をすれば、
快く思う人はいないと分かっていただけると思います。
ですが過ぎたことです。ローゼンとして受け入れることはできませんが、一緒に最後まで楽しみましょう

567 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/13 01:39:32 ID:???
もしかしたら誤解されてるかもしれないので一つだけ言わせて下さいね。
この展開、は純粋に本編の事を指してるんです。
先に行かせてくださいと言った時からこうするつもりでした。

ありがとう、居させてもらっていいならそれだけで嬉しいです。

568 :名無しさん :12/01/13 18:18:46 ID:???
>>567
おかえりなさいー
外野からで申し訳ないんだけど、ローゼンさんがFOしてしまった理由ってなんだったの?
別スレで同僚だった者として、今後こういうことを防ぐ意味でも理由を明らかにして欲しいな

569 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/14 13:59:05 ID:???
>>568 ありがと、言い訳にしかならない理由ですし言うまいかなと思ったんですがそういう声もあるなら……
人目に付く場所に書いたら見苦しい事になりそうなので最悪板の総合非難所で答えさせていただきますね】

570 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/17 22:56:50 ID:???
>「私は世界に何も求めない。世界を変えたいという思いから、私は友を失った。
 いや、多くの者達が親しき友を失う運命に変えてしまったのだ。もう、私には世界を変える資格など無い」

メタルクウラの楔が弾け飛ぶ。
『世界を変えない』という答え――それを導き出した、これまでの旅の全て。
変えうる力を持ちながら、なおそれを放棄し世界を継続させる選択は、世界を愛する者ゆえだ。

>「私達はただ……明日も、明後日も、その先もずっと、この世界にジェンタイルが生きていて欲しい。
 そこに私達はいなくていい。ジェンタイルが幸せに生きてくれている世界、それだけが私達の望みです」

モンスター娘たちの楔が砕け散る。
ただ闇雲に誰かの進路に付き従うのではなく、『誰かのために』という目的を自分の足で追うということ。
その信念は、精神性は、多くの人々のために剣をとる勇者のそれと遜色なかった。

>「私にはもう、その望みを叶える事は出来ん。……だから、お前が叶えろ!ジェンタイル=フリントロック!
 私の夢をお前が未来に持っていけ!明日も滅びぬこの世界に苗を植えろ!
 魔王たるこの私が命を懸けて助けてやろうと言うのだ!嫌とは言わせんぞ!」

ローゼンの楔が爆ぜ割れる。
きっともう何者にもなれない、終わってしまった者が何かを為そうとするならば。
――生きてる誰かに託すしかないのだと。体現するのは求める救いではなく、生者への要請。

>「魔王と人間の王による一触即発の共同統治、なんてどうよ――!
 お互いがお互いに人質とってんだもんなあ、きっと平和になるぜ!」

レゾンの楔が掻き消える。
政治の初歩だ。お互いの喉先に剣を突き付け、その切っ先にて外交する、低体温の戦い。
生み出した偽りの平和を、いつか真実へと変えていけるように踏み出す、文字通り最初の一歩。

「よろしい――ならば戦争だ。先生は主権代表者として、君たちのクーデターを受け入れよう。
 武力によって己が主張を押し通せ。それが正しいと信じるなら、ここが君たちの戦場だ!」

ロスチャイルドは一部始終を見届けて、鷹揚に頷いた。
前方、スライムと堕天使の流星雨の如き攻撃の波濤と、それを貫くようにローゼンの光剣が奔る。

「さて、最初の挑戦者は堕天使君とスライム君、それにローゼン君か。先生あまり熱血バトルは得意でないのだがね。
 老婆心ながら初めに忠告しておこう。――あまり弾をばら撒くなよ、一発の価値が下がるぞ?」

対するロスチャイルドは無手。白衣を翻し、左腰に両手を添えて架空の鞘の鯉口を切る。
空気を握るようにして鞘走り、抜き放つと同時に実体化したのは、漆黒の両刃剣。
長大な刀身にしかし刃は付いておらず、長く引き伸ばした三角錐の剣身は、まるで楔に柄と鍔が生えたようだ。

「楔剣・<ゲゼルシャフト>」

571 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/17 22:59:23 ID:???
ロスチャイルドが精霊魔術によって鍛え上げた霊剣であり、刃に触れた物を停滞させる致死の兵器だ。
剣の形をとることで、魔法発動までのタイムラグを極限にまで削減する、武装級霊装と同じ運用理念の武器である。
その刃で、目の前の空間を『斬った』。攻撃が停滞する。
しかし数は無数、幾条もの拳が、幾発もの羽弾が、光の剣が、停滞した攻撃を押しのけて殺到する。
ロスチャイルドはそれも斬った。一切の間隙もなく、一瞬一瞬を漆黒の剣で切り刻む。

「どんなに無数の攻撃とて、波状攻撃ならば全てが一度に先生へ到達するわけではない。ほんの一瞬、『順番待ち』が発生する。
 一瞬あれば、一回剣を降る程度のことは造作も無い。――さあ、先生は無限の攻撃を無限に斬って君たちに勝とう!!」

そしてロスチャイルドは『停滞』しない。
剣を振りながら、無数の波状攻撃を剣一本で捌きながら、前進を始めた。
初めは歩くような速さで――しかし確実に前を踏む。

「専守防衛の理念を知っているかね。挑戦を受ける側の戦いとは常に迎撃・迎撃・迎撃だ!攻めずとも勝つことはできる。
 相手の攻撃から自分の財産と身体を守りきれば、たとえ相手を害せなくともそれは間違いなく勝利だ――」

調子が上がってきた。最早攻撃を切り止めるのに手首から先を動かすだけで可能となり、
自由になったもう片腕が白衣を探る余裕ができる。

「攻撃は最大の防御というがね、逆もまた然りなのだよ。
 極まった防御は相手を疲れさせ、そして致命的な隙を誘う――そこへ渾身のカウンターパンチ!」

空いた左指が、フィンガースナップの快音を奏でた。
バキン!と空気の凍る音がして、彼らの戦う戦場の全てが一瞬で白く凍てついた。
楔精霊の魔法によって空間の全ての物体の『分子の動き』を停滞させたのだ。
物体の温度とは分子の運動量である。分子がまったく動いていない状態を、熱力学ではこう呼ぶ。

――『絶対零度』。

「先生はそうやっていつも勝ってきた」

摂氏にしてマイナス273度を記録する、あらゆる物体が凍結する死の世界。
如何に精霊魔法を極めたロスチャイルドと言えど、この規模の空間を全て凍結させるには骨が折れた。
しかし今のロスチャイルドは端的に言ってアゲアゲであり、この上なく調子が良かった。

「炎精霊の加護を受けているジェンタイル君はともかく、他の教え子たちはこの極低温にどう対応するかな――?」


【弾幕攻撃と魔王の裁きをそれらより速い剣捌きのみで撃墜。稼いだ時間で大規模な絶対零度空間を生成】

572 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/17 23:19:46 ID:???
続きます

573 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/17 23:55:28 ID:???
「停ま……っ!? なんつう出鱈目な力だ……!」

一瞬で真っ白になった景色に戸惑っているうち、ようやく俺にも事態が理解できてきた。
凍っているんだ。何もかも、瓦礫から死体からそのへんに飛び散ってるよくわからん肉の塊まで、全部。

<<加護は間に合ったはずだが、汝、四肢に痛むところや動かないところはないか?>>

いや、正味問題ねえ。ズタボロはズタボロだし、左腕なんかとっくにイカれているけれど、指先まできちんと感覚ある。
一体何が起こったんだ、ロスチャイルドがなにかお喋りしながら堕天使たちの攻撃捌いて、そんで――
指パッチンして。その瞬間に世界が真っ白になった。

<<周囲一帯が極低温に晒されている。汝の周囲には加護による温度維持結界を張っているから気にならんかも知れんが、
  外は既に吐く息が凍るどころの騒ぎではない極寒だ>>

……確かロスチャイルドの契約精霊って『停滞』を司る楔精霊だったよな。
おおかた物体の分子運動を抑制して温度を下げたってところか……ってことは!

「メタルクウラ!ローゼン!レゾン!無事か!?」

魂になってるモンスター娘たちはともかく、ローゼンや生身のレゾンがこの極温に耐えられるだろうか。
メタルクウラだって、極端に冷えればどんな影響があるかもわからない機械生命体だ。
それ以前に分子の動きが抑制されてるってことは空気も凍ってるってことだから、結界解いたら満足に動けるかどうかもわからねえ。

「――まあ、彼らの安否は置いておいてだ。もう一つ気にせねばならぬことがあるのではないかね、ジェンタイル君」

ざく、ざくと霜を踏む音と共に、白い霧の向こうから、人型の影がぼんやりと現れる。
真っ白な背景に白衣を溶けこませたロスチャイルドが、真っ黒な剣を提げて歩いてくる。

「ッ!!」

俺は即座に飛び退こうとして、靴が瓦礫に張り付いていることに気付いた。
加護結界による温度維持で靴は温かいままだけど、瓦礫は低音だから温度差で結露して凍りついてしまったのだ。

「先生は思うのだよ。ユグドラシル革命戦線は、ジェンタイル=フリントロックを旗持ちに掲げて活動している。
 彼らの結束は固く、目的意識も強い。個々の能力も戦闘に特化していて、先生の二人の部下もやられてしまったよ。
 ――全てはきみのためだ、ジェンタイル君。きみが彼女たちに戦いを強いて、我々に敗北を強いている」

「だったら何だってんだ、ロスチャイルド。お前だってエストリスのリーダーとして、お前の目的のために戦わせてきたろ。
 それが正しくないだなんて思っちゃいねえよな?俺だってそうだよ。俺はあいつらに戦いを強いてる。
 『力を借りてる』なんて偽善的な言い方はしねえよ。俺のやりたいことのために、あいつらの善意を使ってる」

ロスチャイルドは相変わらず、つかみ所のない笑みで肩を竦めた。

「そうとも。君と先生は同じだ、組織の頂点として、下の者を使用する権利があり――下の者を使用した責任を問われる。
 実際、君たちは世界を変えるために、このディストピアを終わらせるために、政権のトップである先生を殺しにきたのだろう。
 ――君は前線に出てくるべきではなかったよ、ジェンタイル君。トップを殺せば戦争が終わるのは、なにも悪役に限るまい」

さく……と、まるで羊羹に爪楊枝でも刺すみたいに、ロスチャイルドの手から剣が放たれた。
細く、薄い楔形の剣が、俺の胸の中心を貫き、柄まで埋まって背中を突き破った。

「過激派武装組織の頭目なんて、殺されて当然だと思わないかね?」

俺だって元の世界じゃチンピラをやってたから、殺しただの殺されただのはたくさん経験した。
銃で頭を撃たれたこともあるし、ナイフで刺殺されたこともある。……後で生き返ったけれども。
身体の重要な器官を刺されたときに、まず感じるのは痛みや灼熱感じゃない。
取り返しの付かない怪我をしたという"喪失感"だ――

「あ……!」

気道を貫かれて言葉も満足に発せないまま、俺は血の泡を吐いて伏した。

574 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/01/18 19:52:06 ID:???
>「私は……魔王だ。あらゆる魔の頂であり、長だ。その私が世界に求める事など一つしかあるまい。
> 全ての魔物が幸せに過ごせる政治、社会。それが魔王の責務であり……私自身の望みだ」
ロスチャイルドの束縛から解放された私は、ローゼンが出した答えに対して、もう私の知るローゼンが存在しないことを悟った。
私がいなかった間に何がローゼンを変えてしまったのか、私には分からない。
ただ、ロスチャイルド達がローゼンを殺した理由は理解したつもりだ。

>「魔王の裁きを受けるがよいわ!――合わせろ!ジェンタイル!メタルクウラ!」
本格的に戦闘が始まっても、私の体は動けないでいる。
ロスチャイルドと戦うことはただの八つ当たりなのではないのか?
私が本当に戦うべきなのは、ローゼンを私の友人から魔王へと変えた者達ではないのか?
それらの考えが、やがてはこの魔王と化したローゼンを本当に信じて良いのか、と言う疑問に移っていく。

>「攻撃は最大の防御というがね、逆もまた然りなのだよ。
> 極まった防御は相手を疲れさせ、そして致命的な隙を誘う――そこへ渾身のカウンターパンチ!」
ロスチャイルドによって戦場が凍結された。
絶対零度の宇宙空間でも私は自由に行動ができるのだが、この場所は真空である宇宙空間ではない。
私の体の隙間などに入り込んでいた空気さえも凍結し、私は再度身動きが取れなくなった。

>「メタルクウラ!ローゼン!レゾン!無事か!?」
もう駄目だ。
心も体も戦える状態ではない。
ジェンタイルよ、一緒に帰ろう。
私はこの情けない思いを視線に込めてジェンタイルに返す。
口の中の空気まで凍結されているのは幸いだった。
喋ることができたなら、この情けない思いを吐き出してしまっていただろう。

>「過激派武装組織の頭目なんて、殺されて当然だと思わないかね?」
>「あ……!」

「………………ッ!!!!!」
私がジェンタイルとローゼンから離れなければ、こんなことにはならなかった。
私が憎しみに囚われず、最初にジェンタイルを止められていれば、こんなことにはならなかった!
私が腑抜けずにいたら、こんなことにはならなかった!!
私が魔王になってもローゼンはローゼンだと信じていれば、こんなことにはならなかったっ!!!
私は……またしても友を失ってしまうのか?

575 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/01/18 19:52:50 ID:???
「嫌だ……そんなのは嫌だぁーーー!!!!」
私の人工知能やエネルギー炉が猛り狂い、凍結された空間を溶かすほどの膨大な熱を発生させ、私の体は再び動き出す。
音をも後方に置き去りにせんとする速度で、ロスチャイルドに貫かれて倒れたジェンタイルの下に行き、ジェンタイルの体を抱え上げると、瞬間移動を実行した。
私とジェンタイルの体はロスチャイルドの前から消え、レゾンの前に現れた。

「レゾン!!私を直したようにジェンタイルも治してくれ!!
私の大切な親友を失わせないでくれ……頼む!!」

576 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/22 20:57:52 ID:???
皆の楔が消滅した。
それでもジェンタイルは、メタルクウラは、ローゼンの攻撃に合わせようとはしなかった。
ロスチャイルドによる絶対零度の展開もその一因ではあったかもしれない。だとしても事実は事実だ。変わらない。
だがよく考えてみれば、二人の行動は当たり前の事なのだ。
彼女は魔王ローゼンであって、二人の親友のローゼン・メイデンではないのだから。

そんな事は分かっている。
なのにどうしてか、ローゼンは困惑していた。胸が締め付けられるような苦しさを感じていた。

>「だったら来い! 乗っ取れ! この体、この魂、くれてやる―――――ッ!!」

そんな中、不意に聞こえた声――レゾン・デートル、この世界のローゼンに相当する存在。
両手を広げて、体を明け渡してやると叫んでいた。
魅力的な誘いだった。生き長らえられるから、だけではない。
彼女の肉体を得れば、自分がローゼンと同一の存在であると示せば、二人は自分を信じてくれるかもしれない。
胸の奥で蠢くこの感情から逃れられるかもしれない。

レゾンの傍へと着地を果たしたローゼンは一瞬躊躇った素振りを見せた。
それから意を決したように双眸を細め、レゾンへと手を伸ばして、

「……やめておけ。私はあくまで魔王だ。お前の思っているような事は起きん。
 そもそも……それは四天王の残滓だぞ。そいつの言う事を鵜呑みにして、どうすると言うのだ。
 お前みたいなお人好しと、この私の魂が、相容れる訳がなかろう」

彼女の手の中にある虹色の欠片を指差して、そう言った。
これでいい、と自分に言い聞かせる。

胸中を這い回る苦しさ、それをローゼンは弱さだと断じた。
かつて人間だったローゼンの残滓か。
あるいは単純に、光の勇者に抑圧され続けた無能な魔王の弱さなのか。
どちらにしてもこの戦いには不要なものだ。
信じてもらえない。だからどうした。元々、連携を図った事自体が気の迷いだったのだ。
信頼、そんなものがなくたってロスチャイルドに勝つ事は出来る。
奥歯を食い縛る。苦い苦い弱さを噛み潰して、噛み殺して、ロスチャイルドを睨んだ。

『駄目だよ、ロスチャイルド先生は強い。誰が欠けても、きっと勝つ事は出来ないよ』

「――っ!黙れ!神くらい殺せなくて何が魔王だ!信頼なぞ無くとも……あ奴一人くらい!」

頭の中に響く幻聴を、声を荒らげて掻き消す。
そしてローゼンは再び光の剣を作り出し、

>「先生はそうやっていつも勝ってきた」

――直後に周囲一帯が極寒に支配された。
ロスチャイルドが精霊魔法によって、世界を絶対零度の空間へと塗り替えたのだ。
森羅万象が凍る世界の中で、しかし霊魂であるローゼンは物理的な束縛を受けはしない。
だが凍り付いた空気は音を伝達せず、また彼女の視界を最悪の状態に貶めていた。

視覚も聴覚も意味を成さない世界で辛うじて、たった一つだけ見えるもの。
それはジェンタイルの姿だった。
炎精霊の加護によって絶対零度の侵食を免れた彼の居場所だけがよく見えた。

ローゼンはそちらへと一歩踏み出した。
侵食を防ぐ事が出来たのなら、今度は逆に再侵食する事だって出来る筈だ。
温度には下限はあっても上限はない。絶対零度を作るよりも容易にこの世界を破壊出来るだろうと。
そう告げる為に歩み寄っていく。あと一歩といったところで肩を叩こうと手を伸ばした。


577 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/22 20:58:38 ID:???
>「過激派武装組織の頭目なんて、殺されて当然だと思わないかね?」
>「あ……!」

一瞬だった。純白に潜んで飛来した漆黒の剣が、ジェンタイルの胸を貫いていた。

「……え?」

何が起こったのか、すぐには理解出来なかった。
ジェンタイルが血の泡を吐いて倒れてから、ようやく事態が頭に流れ込む。

咄嗟にジェンタイルを抱きかかえた。
視界が滲む。ジェンタイルが死んで、炎精霊の加護が失われたのか。
違う。ローゼンの視界を滲ませているのは涙だ。彼女は泣いていた。
質量もぬくもりもない涙が零れ落ちて、ジェンタイルの頬を濡らす。

「嘘……嘘だ……こんな……」

自分でも何に対して嘘だと言っているのか分からなかった。
ジェンタイルが死の淵に瀕している事になのか。
それともそんな事で自分が泣く筈がないと思っているのか。

>「嫌だ……そんなのは嫌だぁーーー!!!!」

叫び声と共に、凍り付いた世界が瞬きの間に溶け落ちた。
同時にメタルクウラが駆け寄ってきて、ジェンタイルに触れる。
滲んでいた視界が更に揺れた。瞬間移動だ。

>「レゾン!!私を直したようにジェンタイルも治してくれ!!
 私の大切な親友を失わせないでくれ……頼む!!」

メタルクウラが声を張り上げる。
緊迫した、予断を許さない状況だ。

だと言うのに、ローゼンは何も出来ない。
言葉を失ってただ涙を零す事しか出来ない彼女は『魔王』からは程遠い、何処にでもいる『乙女』のようだった。
それはローゼンにとって、いっそ消えてしまいたいほどに悔しい事実だ。

――私は何も出来ない、消えてしまった方がいい。惨めだ。消えてしまいたい。
無力感が魂を満たしていく。今のローゼンはゴースト、魂そのものだ。
肉体のある生物よりも更に、精神状態がその存在を大きく左右する。
頭の中でリフレインする望みの通りに、彼女の体は徐々に、しかし確実に薄らいでいく。

『出来る事は、あるよ』

反響し続ける自己嫌悪を塗り潰すように、再び幻聴が聞こえた。
同時に体の消滅が止まった。

『僕の代わりに、叱ってあげてよ。向こう見ずで、お馬鹿で、
 だけど誰よりも真面目に皆の事を……世界の事を考えてくれる、僕の自慢の親友を』

薄れて透けた魔王ローゼンの中に、微かな残影が見える。
魔王にそっくりで、けれども陽光のように柔らかな金髪を揺らして、穏やかに微笑む『ローゼン・メイデン』が。

578 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/22 21:02:37 ID:???
『ほら、言ってやってよ。……いつまで寝ているつもりなんだい?』

「……いつまで、寝ているつもりなんだい?」

『君は前にも、こうやって僕を泣かせてくれたよね』

「……君は前にも、こうやって僕を泣かせてくれたよね」

記憶が、蘇る。
ゾンビ娘が脳を失っても友達を、最愛の人を覚えていたように。
魂に刻み込まれた記憶が、目覚めていく。

『あの時言った筈だよ。僕は君を追いかけてここまで来た。
 今だってそうだ。皆が君を追いかけて、ここまで来てくれたんだ。
 なのに肝心の君が寝ていてどうするのさ』

「あの時……いや、そろそろまどろっこしいな。つまりはこういう事だろう?」

『ん……そうだね。今の君ならきっと、僕が何を言わなくても、僕の言いたい事を言ってくれる』

魔王ローゼンが小さく笑った。
魔王の不敵な笑みと、乙女の穏やかな微笑み――その二つが、重なり合う。
二人の笑みが融け合って、一つになった。

ローゼンは一度目を閉じる。
笑みを消し去って、真剣味を秘めた双眸を開いてジェンタイルを見つめた。

「『さあ、起きろアホジェン!ここで死んじゃったら、君の頑張りはなんだったんだ!
  君の夢は!君を愛した皆はなんだったんだ!
  世界を変えて、世界を救う!君がかつて目指した夢が二つとも、目の前に転がってるんだぞ!
  ここで叶えなきゃいつ叶えるんだ!立てよ!君の最高にカッコいいところを見せてみろ!
  それとも僕を心配のあまり成仏も出来ない地縛霊にでもするつもりかい!そりゃ余計なお世話ってもんだよ!』」


579 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/22 21:03:27 ID:???
 


――ジェンタイルは『モン☆むす』達の状態を魂と称したが、それは正確ではなかった。
ここにいる彼女達は肉体が死んだ後に解き放たれる人格の残滓ではなく、生命そのものだ。
肉体の中で緩やかに死んでいく筈だった命を、そのまま呼び出したものだ。
一瞬の、しかし激しく輝く閃光のように力を発揮出来るように。

故に彼女達は無力な魂とは違い、体があった頃の力や性質を保っている。
例えばスライムならば『水分との同化』『液状』と言った、種族の性質を。
つまり――

「あれは……なんだか分からないけどヤバい!」

妖狐が叫ぶ。
『野生的直感』によって、ロスチャイルドの絶対零度を事前に察知したのだ。
『動物』である彼女は極寒の世界に耐えられない。
瞬時に生命力の全てを削られて、消滅してしまうだろう。

「スライムちゃん!皆の防護を!」

「わ、わ……ま、任せといて〜!」

ゴーレムの指示――間断なくスライムが液状化した体を飛ばす。
全員をドーム状の液体の膜で包み込んだ。

「頼りないなぁオイ!手を貸してやるよ!」

その膜の時間を堕天使が止めて、擬似的な隔離空間を作り出す。
僅かに遅れて世界が凍結した。

「うっわ……助かったよスライムちゃん、堕天使ちゃん。けどこれ、どうする?」

「ジェンタイルは炎精霊の契約者です。じきにこの冷気を焼き払ってくれる事でしょう」

彼女達は待機を選んだ。ジェンタイルへの信頼故の選択だった。
やがて予想した通りに極寒の世界は崩れ去っていく。

「おいおい、随分と手間取ったじゃないか。そんな調子で大丈夫……」

堕天使が憎まれ口を叩こうとして――胸を貫かれたジェンタイルを目の当たりにした。
絶句、それは一瞬だった。驚いている場合じゃない、動けと自分に言い聞かせる。

「スライム、ぼさっとすんな!行くぞ!皆……足止め頼む!」

スライムの手を掴み、指を弾く。時間が止まった。
ロスチャイルドを振り返り、しかし攻撃を加える事は思い留まった。
時間は止まっている。今この瞬間、世界の支配者は堕天使だ。彼女の筈だった。
だと言うのに何故か、今仕掛けてもロスチャイルドを殺せる気がしなかった。

「……言っとくけどな、別に私は怖気付いた訳じゃないぜ。
 ただ、お前をぶっ殺すのはジェンタイルの役目ってだけだ」

人差し指を突きつけて強がりを飛ばす。
それだけ済ますと、堕天使はスライムを連れてジェンタイルの傍へ飛んだ。

580 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/01/22 21:04:02 ID:???
時間停止を解除した。

「何やってんだよジェンタイル……!こんなしょっぱい終わり方、認めないからな!」

再度右手で快音を奏でる。ジェンタイルの傷口の時間のみを止めた。
楔剣を引き抜いて放り捨てた。血は溢れない。

「……死んじゃ駄目だよぉ、ジェンタイル。大丈夫、私が貴方の後ろにいるから。
 貴方が倒れそうな時は、代わりに私が倒れてあげるから」

スライムが液状化した体を傷口から注ぎ込み、血管と臓器を修復する。
今、彼女は生命力そのものだ。つまりこの行為はまさしく、命を分け与える行為だった。

――残った三匹の魔物達は、ロスチャイルドの前に立ちはだかる。

「……ここは、とおさない」

ゾンビが淡々と、だからこそ揺るぎない口調で宣言した。

「ジェンタイルの治療が終わるまで、お相手しましょう」

そこにゴーレムが静かに、しかしさながら城壁といった気迫を帯びて並び立つ。
妖狐は二匹の後ろ、後衛として援護に回った。三日月のように鋭い眼光がロスチャイルドを刺す。

「弾幕が駄目なら……発想の逆転をしようじゃないか。目に見えない攻撃を、君はどうやって凌ぐのかな?」

妖狐の幻術――三匹の姿が幻に包まれて消えた。周囲一帯に『ただの風景』の幻影を張ったのだ。
だが妖狐が騙せるのは視覚のみ、注意して聞いてみれば幾つもの姿なき足音が聞こえる。
しかしそれすらも、妖狐のフェイクだ。後衛だった筈の彼女が前に出て、その俊敏性を活かして駆け回っているのだ。

ゾンビはその場から一歩も動かず、変異させた右腕を伸ばして刺突を。
ゴーレムは大きく跳んで距離を詰め、硬質化した右の手刀を振り下ろした。



【フルシンクロ、応急処置、足止め】


581 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/24 00:14:44 ID:???
魔王が一瞬躊躇うような素振りを見せた後、手を差し伸べてくる。
自分が自分で無くなるとは、どのような感覚なのだろう。自分から誘っておきながら、恐怖に目を固く閉じる。
その感覚は――いくら待っても来なかった。

>「……やめておけ。私はあくまで魔王だ。お前の思っているような事は起きん。
 そもそも……それは四天王の残滓だぞ。そいつの言う事を鵜呑みにして、どうすると言うのだ。
 お前みたいなお人好しと、この私の魂が、相容れる訳がなかろう」

魔王が静かに窘める声が聞こえる。目を開けると、魔王はオレの持つ虹色の宝石を指さしていた。

「オレは……お人好しなんかじゃない……」

それだけ言うのがやっとだった。魔王の言う通りなのだ。
置かれた境遇に流されるままに罪を重ねてきたオレが、光に愛された穢れ無き少女を呼び戻せるはずがない。
でも、だとしたら、オレは、どこに向かえばいい?

【ぷくく、振られてやんのかっこ悪っ! お人好し? いいえ、ヘタレです。とりあえず笑えばいいと思うよ!】

「うるさいよ!?」

珍しく、生命精霊が茶々を入れてきた。
イグニスが、いつも詰まらない事で悩んでいるオレを笑い飛ばしてくれたみたいに。
精霊なりに気をつかったのだろう。この戦いを戦い抜けばきっと――進むべき道が見える、そんな気がした。

582 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/24 00:17:56 ID:???
【レゾ、来る!】

不意に、生命精霊が警鐘を鳴らす。死の危険が迫った時の、百発百中の危険感知。
分かったからといって、それでどうにかなるかは別問題だ。
忘れもしない、レーゼニアが死んだあの日。死ぬと分かっていながら成す術がない恐怖と言ったら――ない。
でも、今のオレなら、生命精霊が教えてくれさえすれば百発百中で生かし切れる。
オレにはあの二人と駆け抜けた日々と、ロスチャイルド――先生から学んだ、仲間を生き残らせるための神聖魔法の数々があるのだから。

「碧き星の息吹よ、永久に枯れぬ光よ、汝が子を氷炎の暴虐より護れ―― 生存加護《サヴァイヴ》!」

上位防御魔法を紡ぎあげる。生物が生存不可能な過酷な環境から身を守る魔法だ。対象は、自分とメタルクウラ。
モンスターにかけて即死でもされたらシャレにならない。ジェンタイルは《炎の賢者》だ、よもや必要無いだろう。

>「メタルクウラ!ローゼン!レゾン!無事か!?」

答えようとして、空気が凍りついていて声が出ない事に気付く。

>「過激派武装組織の頭目なんて、殺されて当然だと思わないかね?」
>「あ……!」

漆黒の剣がジェンタイルの剣を貫き――ゆっくりと倒れ伏す。

「――ッ!!」

死にさえしなければ、生命精霊の回復魔法で何とでもなる。だから一秒でも早く――。
駆け寄ろうとするが――足が地面に凍りついて動けない。

>「嫌だ……そんなのは嫌だぁーーー!!!!」

もがいていると突然氷が解けて、勢い余って前のめりに転んだ。

>「レゾン!!私を直したようにジェンタイルも治してくれ!!
 私の大切な親友を失わせないでくれ……頼む!!」

顔を上げた時、目に飛び込んできたのは、ジェンタイルを抱き懇願するメタルクウラ。

>「何やってんだよジェンタイル……!こんなしょっぱい終わり方、認めないからな!」

>「……死んじゃ駄目だよぉ、ジェンタイル。大丈夫、私が貴方の後ろにいるから。
 貴方が倒れそうな時は、代わりに私が倒れてあげるから」

堕天使とスライムが応急処置を施し。

>「ジェンタイルの治療が終わるまで、お相手しましょう」

>「弾幕が駄目なら……発想の逆転をしようじゃないか。目に見えない攻撃を、君はどうやって凌ぐのかな?」

ゴーレムとゾンビと妖狐が、ロスチャイルドの前に立ちはだかる。

「ああ……こういう事か……」

前にロスチャイルドから、ミニトマトが食べられなかったトラウマ話を聞いた事があるが、まさしくこんな気持ちだったに違いない。
途方に暮れる、とはまさにこの事を言うのだろう。
全員が、オレが必ずジェンタイルを復活させると信じているのが嫌というほど伝わってくる。
お前達も分かっているはずだろ? 光精霊無きこの世界では、死んだ者は生き返らないって。
一目見た時に分かってしまった。ジェンタイルは死んでいた。おそらく即死――致死の兵器で急所を突かれての当然の結果。
魔王様は、ただ泣いていた。勘弁してくれ――泣いても無理なものは無理だ。ごめん、――そう言おうとした時。
ふと、ジェンタイルに重なるように真紅の髪の少女の姿が見えた。ジェンタイルの契約精霊――炎の精霊。
気のせいか、何かを迷っているように見える。

583 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/01/24 00:21:03 ID:???
「――あっ」

ジェンタイルは、蘇生術が一般的な向こうの世界から来た炎精霊の契約者だ。当然、炎精霊も向こうの世界出身で。
炎精霊の持つ属性を思い起こす。初歩が、全てを焼き尽くす破壊。次の段階が、変化と錬成。
そして真に極めた者だけが到達できる境地が、浄化と――再生。極めていないとは言わせない。彼は《炎の賢者》なのだから!

「見てろよ、ミニトマトぐらい食ってやる――お前達のジェンタイルを絶対生き返らせてやる!! ――霊装だ、生命精霊!」

一瞬の変化――霊装を発動。精霊とのシンクロ率を極限まで上げる事で、炎の精霊とダイレクトに会話するためだ。
片膝をついて炎の精霊に目線を合わせ、語りかける。

「炎の賢者の契約精霊……お前なら契約者を生き返らせる事が出来るはずだ。お前にはその力がある!」

炎精霊は表情を変えない。まるでそんな事は分かっている、とでも言わんばかりに。

「――ッ!」

突如、情報が流れ込んできた。炎精霊の記憶。旅の始まりに、交わした約束――”この旅では蘇生はしない”。
それは世界を変えようと思った、少年の願い――。炎精霊の想いが、分かってしまった。
運命の激流に呑まれ皆が始まりの約束を忘れても、契約精霊である自分だけは、契約者の想いを貫こうとしているのだ。

「分かったよ、君の気持ち」

微笑んで、炎精霊の頭にそっと手を置く。

「だがお前の契約者はなあ、もうそんな我が儘が許される立場じゃないんだよ」

微笑んだまま実も蓋も無く言い放ち。

「ジェンタイルがこのまま死んだらお前野良精霊だな――野良精霊ぐらい簡単に消せるんだぜ?」

ハッタリ効かせた脅しをかけて。

「正直言うとさ、死んだ人が生き返る世界ってどんな物か想像がつかないんだ。多分色んな歪みが生じてるんだと思う。
だけどこっちの世界から見るとやっぱり憧れの的で……。
それはきっと大切な人を失いたくない、という気持ちの行きついた果て、だと思うよ」

次に語るのはやっぱり本心。

「頼むよ、こいつらにオレと同じ思いをさせたくないんだ……ごめんウソだ。
自分と同じ苦しみを味わえばいいと、心のどこかで思ってる……。
だから、このままジェンタイルが死んだら、オレはずっと苦しむ……」

駄目押しの泣き落とし。

「ところでオレって結構エロくね? 好きなだけ触っていいから! お願いします!」

最後に、霊装発動しているのをいい事に、形振り構わぬ切り札。《炎の賢者》の契約精霊がエロいとは世も末だ――。
とにかく、これだけあの手この手で口説き倒せばどれかが引っかかったはずだ。頼んだぞ、炎精霊――!
展開している光の粒を全て両手に集め、ジェンタイルの胸に触れる。

「炎精霊によると……お前相当悪い奴だったらしいなあ。どうせ悪役目指すなら完璧な悪役になれ! 
偉いセンセイぶっ倒して世界を支配しちまうぐらいにな! ―― 起死回生《パーフェクトヒール》!!」

集めた魔力の全てを、注ぎ込む!

584 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/29 15:57:20 ID:???
>「嘘……嘘だ……こんな……」
>「嫌だ……そんなのは嫌だぁーーー!!!!」

ジェンタイルを刺殺した瞬間、メタルクウラとローゼンが目の前に現れた。
予想以上に復帰が早い。もう十秒程度は停めていられると見立てていたが、なるほどそんなにリーダーが大事か。
所詮ユグドラシル解放戦線は、ジェンタイル=フリントロックという無能を祀り立てるだけの烏合の衆に過ぎない。
実力の伴わない頭に、主体性のない手足――互いに互いの足りない部分を求め合う、共依存的な集団だ。

(だからまず、ジェンタイル君を殺して出方を見ようと思っていたのだが……なかなか面白い結果が出たな)

結論。こいつらは頭の保護を最優先に動く。その過程で自分の命を盾にすることすら厭わない。
今だって、ジェンタイルを助けるよりは、攻撃直後のロスチャイルドを狙うべきだった。
もちろんそれを見越した構えがロスチャイルドにはあったわけだが、それでも敵側からすればそれが模範解答だ。

――何故なら、今さらどうあがいたところでジェンタイルは既に死亡しているからだ。

極めた精霊魔法で討ち損じるロスチャイルドではない。楔魔法は確実に対象の命を停滞させる。
視線だけでメタルクウラの瞬間移動を追うと、レゾンの元へと回復処置に回したようである。
無駄なことを、と思った。レゾンの生命魔法ならば命を繋ぎ止めることは容易かもしれないが、それも普通の死の場合だ。
精霊魔法によって齎された死を、同じ精霊魔法によって覆すというのは、相当な習熟と奇蹟のようなタイミングを要求する。
レゾンが如何に生命精霊と分かり合っていようとも――都合よく誰にも邪魔されないような状況でもない限り、蘇生は不可能だ。
そしてロスチャイルドは、都合よくそれを傍観してやるつもりなど欠片もなかった。

>「……ここは、とおさない」
>「ジェンタイルの治療が終わるまで、お相手しましょう」
>「弾幕が駄目なら……発想の逆転をしようじゃないか。目に見えない攻撃を、君はどうやって凌ぐのかな?」

しかし、行く手を遮る影が3つ。
ゾンビ、ゴーレム、妖狐の三体がロスチャイルドの前に立ちはだかった。

「出た。出たな、そろそろ出てくるんじゃないかと思っていたところだよ、君たち。
 ジェンタイル君を蘇生するには先生が邪魔だものな。君たちとしては死んでもここを通すわけにはいかないだろう。
 ――君たち自身は、とっくに死んでいるくせにね。なかなか笑える冗談だ」

幻影が霧の如く周囲を包み、三体の姿を覆い隠す。見えるのは瓦礫と、空と、向こうのジェンタイル達のみ。
おそらく姿を消すタイプの幻術だ。気付いていないだけで、既に喉元へ刃が迫っているかもしれない。
音を頼りに敵の位置を特定しようにも、周囲を駆けまわる足音に紛れて情報を撹乱され続けていた。

「目に見えない攻撃を、どう凌ぐか――ならば先生もまた、『逆転の発想』をしよう」

神速の剣さばきで地面を斬りつける。
ほぼ一瞬にして瓦礫の転がる地面はひし形に切り取られ、そこに立つロスチャイルドごと崩落した。
下には空洞があった。――悪魔たちが脱獄用に掘削した地下トンネルである。

「先生の回答はこうだ。――『付き合う必要はない』」

ロスチャイルドが地下に潜ったその直後、カロンッ、とコンクリートタイルの上を跳ねる球状の物体がある。
楔精霊の魔法によって停滞させ封じ込めたテイラードの『噛み砕き』。
最初に収容所全体を噛み潰したのと同規模・同威力のエネルギーがその封を解き放たれた!


【地下のトンネルに逃げ込む。予め停滞させて持ち込んでいたテイラードの『噛み砕き』を解放。
 もんむすはおろかメタルクウラ達にまで及ぶ範囲攻撃。                        続きます】

585 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/30 03:08:55 ID:???
うっわ。また死んだ。
モンハンもハード変わってから操作が難しくなったよなー、また慣れなおさなきゃだぜ。
俺は買ったばっかりの3DSを閉じて、ベッドの上に放り投げた。さすがに目が疲れた、水中戦ちょう難しい。

<<おい、通信切るな!吾一人で戦わなくちゃならんだろうが!>>

いーよもう、どうせ俺もう2乙しちゃったし、あとはベースキャンプで肉焼きながら待ってるだけだもん。
大体スタートボタンと電源ボタンの位置が近すぎるんだよ、何度誤爆してリセットかけたことか。

<<ふふふ。修練が足らんな汝。吾なんか買って一月で1000時間プレイして村クエクリアしたもんね>>

それ寝てる時以外は常時モンハンやってんじゃねえか。
いや、なんぼなんでもそこまで廃人にはなりたくねえなあ。1000時間勉強に費やせば、司法試験にだって受かっちまうぜ。
つまりお前がモンハンをやっていなければ、お前は弁護士になれてたってことだよ!
お前のモンハンは、弁護士という輝かしい将来を捨ててまでやりたいゲームだったのか?

<<ん?ん?なんか吾、説教されてる!?>>

いやはや、ゲームは面白いな。次はマリオカートをやろうぜ。

<<よかろう。あっでもちょっと待っててねこいつ倒したらセーブするから>>

おう。じゃあ俺それまでジャンプ読みながら待ってるわ。
おっ、ハンターハンターが今週も載ってるじゃん。最近の富樫はよく働くなー。そろそろ休んでくれねーと逆に不安になるわ。
……ところでさあ。

<<なんだ汝>>

お前、誰よ?

<<………………わからないか>>

うん。なんかぼやーっとは記憶にあるんだけどな、うまく思い出せねえんだ。
深く思い出そうとすると、胸のあたりに凄い痛みが起きるんだ。それで、だんだん考えるのが億劫になってきて……。
つうか、俺、誰?なんでお前とゲームばっかやってんの?全ッ然わからん。たった今生まれたばっかみたいな気持ちだ。
右も左もわかんねえのに、右とか左って言葉は知ってる。記憶がないのに、言葉や知識が普通に使えるアンバランスさに寒気がする。

――このままでいいのかなあ、俺。

<<いいんだ。汝は何も考えなくて良い。もう何も強いられることはないんだ>>

そうかあ。そりゃ気楽でいいなあ。
自分が誰なのかとか、知りたい気持ちも少しはあるけど、この気楽さに比べたらカスみたいなもんだ。
俺、ここでこうやってゲームやったり漫画読んだりばっかしてるけど、一体どこなんだ?

<<ここは、『淵』だ>>

586 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/01/30 03:09:28 ID:???
俺と対面でゲームをしていた『誰か』は、穏やかな声でそれに答えると、そっと優しく俺の頭を撫ぜた。
するとたちまち、眠くなってくる。駄目だ、これからマリオカートをこいつとするつもりなのに、今寝たら――

>『さあ、起きろアホジェン!ここで死んじゃったら、君の頑張りはなんだったんだ!』
>「炎精霊によると……お前相当悪い奴だったらしいなあ。どうせ悪役目指すなら完璧な悪役になれ!」

色のない空から、雨のように言葉が降ってくる。
言葉の雨粒が俺の頬を打つたびに、ザ……ザ……と狭まる視界にノイズが走った。

<<雑音が邪魔か?汝が望むなら、音をこの世界から消し去ることもできるぞ>>

「いや……良い。消さなくて良い。――消さないでくれ」

何故か。調節を間違えたシャワーのように強く額を叩く温雨が、とても心地よかった。
一滴一滴が、水の中に沈む身体に浮力を与えるみたいに、ゆっくりと俺の身体が浮上していく。
もっとこの声を聞いていたい。この声に――応えたい。そう感じた。

<<待て。汝はまたむこうへと戻るつもりか。戻れば再び苦しみと、痛みが汝を傷つける。無慈悲な死が汝を襲う>>

「だけど、呼ばれてるんだ。こんなにも考えることが面倒なのに、行かなきゃって気持ちだけはどこからか湧いてくるんだ」

<<それは単なる義務感ではないのか。強制されて、強迫されて、無理矢理に行かなければならなくなっているのではないか。
  汝を突き動かすものはなんだ。それらは、ここで満たせるものではないのか?>>

そいつの口ぶりは、言葉の中身とは裏腹に、どこか挑戦的な響きがあった。
まるで誘導尋問みたいに、こいつに問われたことを自然に思考するようになる。胸に疼痛を抱えながら、思いを馳せる。
そう。確か、俺は望んでいたはずだ。何を?世界を。誰と?――あいつらと。

「欲しいものがあるんだ。そしてそいつは、この水面のむこう側にしかないものだ。
 俺はそれを向こう側の奴らと一緒に求めてる。そしてその連中の中に、お前もいたはずだ」

俺は無意識のうちに手にとっていた3DSを、強く握る。
それだけで、任天堂ブランドの頑丈さを誇るゲームハードは、まるで砂糖菓子みたいに砕け散った。

「それに、苦しいことや、痛いことだってあるけれど、向こう側はきっと楽しくもあるんだぜ。
 ゲームじゃ満足できない、リアルの楽しみ。そんなとこのパーティにお呼ばれしたんなら、行かないわけにはいかねえだろうが!」

俺は手を伸ばす。水面はまだ遠い。
深い、深い水の底からここまで随分浮いてきたけれど、どうやら俺一人の力じゃここが限界みたいだ。
あと少しなのに、ほんの1メートルも泳げば水面から顔を出せるのに、足が思うように動いてくれない。
『死の恐怖』という錘が、俺を水底へと絡めとろうとしてくるのだ。

<<――吾が契約者の両手をとれ!沈もうとしている『死の淵』から、引っ張り上げて目を覚まさせるのだ!!>>

俺のとなりで水面を見上げていた、赤い長髪の少女が、水面へと声を張り上げた。
それから俺と目を合わせて、ほんの一瞬だけ微笑むと、水底へと沈んでいった。

587 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/01/30 07:08:19 ID:???
>「『さあ、起きろアホジェン!ここで死んじゃったら、君の頑張りはなんだったんだ!
>  君の夢は!君を愛した皆はなんだったんだ!
>  世界を変えて、世界を救う!君がかつて目指した夢が二つとも、目の前に転がってるんだぞ!
>  ここで叶えなきゃいつ叶えるんだ!立てよ!君の最高にカッコいいところを見せてみろ!
>  それとも僕を心配のあまり成仏も出来ない地縛霊にでもするつもりかい!そりゃ余計なお世話ってもんだよ!』」

「ローゼン……」
ジェンタイルをレゾンや治療のできるモンスター娘達に任せた私は、ローゼンの方をじっと見つめていた。
魔王と変化させられていても、ローゼンの奥底は私の知っているローゼンのままであった。
今のローゼンに私の知るローゼンが残っていたことによる嬉しさと、信じきれずにこのような事態にまでなってしまった後悔の念。
今の私の顔はこの二つによってぐちゃぐちゃになっているのであろうな。

>「先生の回答はこうだ。――『付き合う必要はない』」
ロスチャイルドのエネルギーが地下へと落ちていく。
それと同時に私達全員を全滅させようとする高いエネルギーを、私は感知することができた。

「ローゼン。
今のお前を今まで信じることができずにいて、すまなかった」
私は全身からエネルギーを放出させて、ジェンタイル達を守る球状のバリアを作り出す。

「今度こそはお前達を命に代えてでも守ってみせる」
私の作り出したバリアとロスチャイルドの放ったであろうエネルギーが激突した。
全力で放ったバリアが今にも吹き飛ばされそうになるが、それを今度こそ親友達を守るという決意だけで、バリアを展開し続けた。

588 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/04 00:55:34 ID:???
>「出た。出たな、そろそろ出てくるんじゃないかと思っていたところだよ、君たち。
  ジェンタイル君を蘇生するには先生が邪魔だものな。君たちとしては死んでもここを通すわけにはいかないだろう。
  ――君たち自身は、とっくに死んでいるくせにね。なかなか笑える冗談だ」
>「目に見えない攻撃を、どう凌ぐか――ならば先生もまた、『逆転の発想』をしよう」

ゾンビの触手とゴーレムの手刀が届く寸前で、ロスチャイルドの姿はその場から消えた。

>「先生の回答はこうだ。――『付き合う必要はない』」

地面を切り抜いて地下、悪魔達が掘った逃走用の地下道へ逃げ込んだのだ。
代わりに残されたのは凝縮された魔力の塊――漂う獰猛な獣臭がそれは獣精霊のものだと告げている。
獣の直感を持つ妖狐でなくとも「ヤバい」と分かるほどの脅威が、地面に跳ねた。

「ようこちゃん……!」

ゾンビやゴーレムと違って、妖狐には再生能力も高い防御力もない。
『噛み砕き』が爆ぜれば彼女に生き延びる術はない。さりとて今からでは離脱も間に合わない。

「ちょっといたいかもしれないけど、がまんして」

故にゾンビは――ロスチャイルドを貫く為に伸ばした触手を振り回した。妖狐をぶん殴る勢いで。
そして妖狐は猛然と迫る触手を、蹴った。
自前の脚力に加えてゾンビの腕力を上乗せして、砲弾のごとく跳躍したのだ。

直後に不可視の牙が周囲一帯に降り注ぐ。
ゾンビは身体強化、ゴーレムは硬化の性質をもってそれに堪えた。
それでも恐ろしい重圧が彼女達に膝を曲げさせる。
いかに身体を強化、硬化しているとは言え、無尽蔵の魔力を基に放たれた精霊魔法を耐え切るのは不可能だ。

「穴倉に逃げ込んで……それで誘っているつもりですか?」

それでもゴーレムは屈しない。
身体は言うまでもなく、精神さえもを強く保つ。
この状況を最も容易く切り抜ける方法は『ロスチャイルドを追う事』だ。
そうすれば自分達もこの『噛み砕き』を逃れる事が出来る。

だが、そんな事はロスチャイルドだって予想しているに決まっているのだ。
一つしかない入り口を使うにしても、穴を掘って地下に逃げ込むにしても、
それらを察知して彼が『モン☆むす』達を迎撃する事は容易い。

ならば彼女達が取るべき戦術は――徹底的にロスチャイルドの『思い通り』に背く事だ。

「わるいけど、わたしたち、ジェンタイルひとすじなの。だから、おんなじことをいわせてもらうよ」

言いながら、ゾンビが倒れ込む。
『噛み砕き』の圧力に負けたのではなく自分の意思で――力強く拳を握り固めながら。

「貴方に付き合う必要はありません」

ゴーレムも彼女を倣う。
極限まで強化した腕力と重く固い拳が、重力と『噛み砕き』の後押しを得て地面を穿った。
鋭い破壊音が響く。彼女達の拳を中心に亀裂が生まれ、瞬く間に周囲へと駆け巡る。
そして、地盤が崩壊した。

「じぶんからぼけつにとびこむなんて、すてきなこころがけだね。そのままねむっていればいいよ」
 
「『停滞』……恐ろしい力でしたが、果たしてその状況で何を停めると言うのです。
  周りの岩?空気の流れ?ああ、忘れてました。考える事をやめてみるのも悪くないかもしれませんよ」

589 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/04 00:57:01 ID:???



治癒魔法を受けたジェンタイルは、けれどもまだ目を覚まさない。
まだ、だ。ローゼンは信じていた。ジェンタイルは絶対に生き返る。目を覚ますと。

>「ローゼン。今のお前を今まで信じることができずにいて、すまなかった」
>「今度こそはお前達を命に代えてでも守ってみせる」

「……ううん、気にしないで。クウ君はよくジェン君と喧嘩してたけど、それはジェン君が嫌いだったからじゃない。
 好きだったからこそ、でしょ?それと同じだよ。
 僕の事を友達と思ってくれているからこそ、クウ君は簡単に『私』を信じられなかった……だよね?」

今、ローゼンは完全に『ローゼン・メイデン』だった。
慈しみに満ちた微笑みも、お人好しを極めた考え方も、全て『ローゼン・メイデン』のものだ。

記憶と人格には、密接な関係性がある。
例えば親に愛されずに育った子供は、いつか自分が大人になった時に、やはり子供を愛せない親になる携行があるように。
多重人格とは幼少期に凄惨な体験を忘れようとするあまり、断片化してしまった記憶から生まれるものだと言われるように。
魔王ローゼンは己の魂に染み付いた『ローゼン・メイデンの記憶』を得た。
それはつまりローゼン・メイデンの人生の全てを体験して、深く共感する事と同義だった。

「だけど……駄目だよ。クウ君が死んだら、きっとジェン君がまた悲しむよ。
 だから命に代えてでも、だなんて言っちゃ駄目だ」

魔力を集めた右手を頭上に掲げる。
魔物と化したローゼン・メイデンは種族の特性と同じ要領で、『光の属性』を操る事が出来た。
かつて『光精霊』『光の勇者』によって魂を塗り潰されようとしていた時の名残だ。
彼女の魂は『光そのもの』によく似た側面を持っているのだ。

「僕が守る。君が命をかけて皆を守るなら、その命を僕は守るよ」

そして光には『魔祓い』の性質がある。
その力を用いればメタルクウラの助けとなれる。
彼を死なせる事なく、皆が無事でいられる。

<<――吾が契約者の両手をとれ!沈もうとしている『死の淵』から、引っ張り上げて目を覚まさせるのだ!!>>

だと言うのに、不意に聞こえた声がローゼンの心を乱した。
ジェンタイルの方へと振り返る。彼女はジェンタイルに助かって欲しいと願っていた。
けれども「ジェンタイルを助けたい」という願いも、同時に胸の内に秘めていた。

590 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/04 00:57:21 ID:???
自分の手でジェンタイルを助けたい。
だがそれをしてしまえば、メタルクウラとジェンタイルを比べてしまっている気がして、怖かった。
彼女は『光の勇者』じゃない。どこにでもいるような、ただの乙女だ。
完全な平等に徹する事など出来る訳がない。

しかし彼女には経験がなかった。
死ぬまでずっと『光の勇者』だった彼女には、『不平等に誰かを助けた事』がなかった。
だから踏ん切りがつかない。本当にそれをしていいのか分からないのだ。

「……おいおい魔王様、酷いじゃないか」

葛藤の泥沼に沈むローゼンの背後で声がした。
堕天使だ。立ち尽くすローゼンに歩み寄りながら、彼女は続ける。

「アンタに出張られちゃ私達の見せ場がなくなっちまうよ。
 ほら、アレだ。『魔王様が手を下すまでもありません。ここは私めが』って奴さ」

軽口を叩きながらローゼンの肩を掴んで引いて、自分と場所を入れ替える。

「さっさと行きなよ。それとも私じゃ役者不足だって言う気かい?」

振り向かないままの、ぶっきらぼうな口調だった。

「さてと……悪いけど、アンタにだけいいカッコはさせないぜ」

「だって、私達だって守りたいんだもん。私達の大好きなジェンタイルを」

アクアが液状化した身体を操り、メタルクウラのバリアを覆って補強する。
液状の膜は流動して、降り注ぐ威力を外側へと受け流す。
加えて堕天使が時間遅延の魔法をかけた。
バリアに破壊力が浸透していく現象を限りなく緩慢にしたのだ。


591 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/04 00:58:38 ID:???



ローゼンはジェンタイルに歩み寄った。彼の傍で立ち尽くす。
心の中で響く自問の声は途絶えない。
本当にこれでいいのか、自分はメタルクウラを蔑ろにしてしまっているんじゃないのか、と。
あと一歩が踏み出せない。いつも自分の前を行って導いていくれた親友は今、目の前で倒れ伏している。

【……まったく、そんな下らん事でいつまで悩み続けるつもりだ】

ふと、ローゼンの頭の中で、その可憐さに似合わない冷ややかな声が響く。
それは『魔王ローゼン』の言葉だった。
『ローゼン・メイデン』の記憶と人格が蘇ったからと言って、『魔王ローゼン』の人格が消えた訳ではない。
この期に及んでうじうじと悩み出した乙女に、痺れを切らした魔王が乖離したのだ。

【あの機械生命体が、自分ではなくジェンタイルを助けにいった事で腹を立てるとでも思っているのか。
 あれはそんな奴ではないと、お前は知っている筈だろう】

『ローゼン・メイデン』と記憶を共有した魔王は、彼女の全てを知っている。
彼女がメタルクウラと過ごしてきた時間も、ジェンタイルに抱く思いも、全てを。
だからこそ今の状況がまどろっこしく、また哀れだった。
光の勇者の宿命に縛られ続けてきた彼女に深く同情していた。

【お前はもう、光の勇者じゃないんだ。一度くらい、なってみるのも悪くなかろうよ】

『……なってみるって、一体何に?』

けれども乙女の問いを受けると、魔王は不敵な笑みを浮かべる。

【決まっているだろう。お前の大好きな、悪い子になるんだよ】

光の勇者として生まれて、人として当たり前の感情さえ抱けなかった乙女が、
今初めて自分の気持ちに正直になれるのだとしたら――それはとても、小気味いい事だろうと。

【泣こうが笑おうがこれでお別れなんだぞ。最後の最後まで『光の勇者』で、お前はそれで満足なのか?】

甘言と脅迫の使い分け――飴と鞭の話術が乙女の心奥を突き刺して、本心を抉り出す。

『……嫌だ。そんなの、嫌だよ。だって僕は――』

叩き起こされた思いは叫び声となって、今初めて形を得る。

「僕は、ジェン君が大好きなんだ!ごめんクウ君!さっきは偉そうな事言ったけど……僕、今からクウ君を後回しにする!
 いけないって分かってる。酷い事を言ってるって分かってる。
 でも、好きなんだ!この世の誰よりも!世界の平和なんかよりもずっと!僕はジェン君が好き!」

ローゼンがジェンタイルの前で跪く。
徐々に体温を失いつつある彼の両手をしかと掴んだ。

「だからお願い!目を覚ましてよ!もう二度と会えなくたっていい!君に生きていて欲しいんだ!」


【土葬、バリア強化、お願い】

592 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/02/05 23:03:37 ID:???
治癒魔法をかけたジェンタイルを、息をのんで見守る。
刻一刻と時が過ぎていく。ジェンタイルは未だ目を覚ます様子を見せない。
まだだ、諦めるのはまだ早い。否、目を覚まさないはずがない! 不意に、炎精霊の声が聞こえた。

><<――吾が契約者の両手をとれ!沈もうとしている『死の淵』から、引っ張り上げて目を覚まさせるのだ!!>>

「――だそうだ。魔王様……いや、ローゼン、あとは任せた!」

彼は揺れているのだ。生のざわめきと、死の安らぎの狭間で。それを引き戻せるのは、ローゼンしかいない。
解き放たれた『噛み砕き』をバリアで防ぐメタルクウラと、背中合わせに立つ。

「命に代えても、なんて言うな。メタルクウラ、お前は生き残れ――!
見ず知らずの世界に一人残されるなんて、あんまりな罰ゲームだ」

最高位防御魔術を組み上げるべく、印を結んでいく。
目を閉じると、風に揺れる精霊樹の葉のざわめきが聞こえるような気がする。
それは生のざわめきの音――大丈夫だ、この世界はきっと生き返る。
かつて先代魔王から人間の手に取り戻したいと思った、艶樹生い茂る森と、せせらぐ澄み切った水と、豊饒の大地擁する世界。
こうなって初めて分かった、それは先代の魔王自身が、どんな形であれ、大事に守ってきた世界だった。

>「さてと……悪いけど、アンタにだけいいカッコはさせないぜ」

>「だって、私達だって守りたいんだもん。私達の大好きなジェンタイルを」

堕天使とゾンビがメタルクウラのバリアを強化する。もしかして、出る幕は無かっただろうか。
それならそれに越したことはない。

「駄目押しでもう一つ、いいかな? ――星霊守護結界《シールドオブイージス》!」

バリアに重ねるように、魔法の結界を展開する。

593 :ジェンタイル :12/02/10 23:04:35 ID:???
土日のうちにレスします

594 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/13 03:04:56 ID:???
なんか自キャラの名前間違えてました
ジェンタイルさん、すみませんが脳内修正お願いします

595 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/13 04:31:13 ID:???
>「わるいけど、わたしたち、ジェンタイルひとすじなの。だから、おんなじことをいわせてもらうよ」
>「貴方に付き合う必要はありません」

「まいったな。愛を囁いたつもりはなかったんだが、フられてしまったようだ。
 どの道、生徒と先生の恋愛など――神聖なる学び舎では死罪だがね!」

ゴーレムによって砕かれる地盤。
地下道に崩れ落ちる瓦礫の中で、ロスチャイルドは再び剣を放った。
豪雨のごとく降り注ぐ瓦礫を、瀑布の如く押し潰すその圧力を、無数の剣撃で全て『粉砕し』、空が開けた。
粉々になった瓦礫の合間から見えるのは、噛み砕きの重圧を逆手に取ったが故に面を下げたゴーレムとゾンビ。目が合った。

「忘れているかも知れないから再確認だ。先生は卑しくもラスボスだぞ?――力押しが許されるのは中ボスまでだろう」

"噛み砕き"は本命ではない。その程度の攻撃で魔物娘たちを行動不能にできるなどと、はじめから期待していない。
だが、確実に行動の余地は狭まる。その中で、彼女たちが『ロスチャイルドの思惑に背いた』選択肢を考えれば良い。
後の先ならぬ『後の後』を確実に取る戦術――圧倒的な手駒の豊富さが、その迎撃を可能にした。

ノーモーションで突き出された両手の楔剣が、重力に引かれて落下してくるゴーレムとゾンビの胸を間髪入れずに貫く。
それはあまりに流麗な動作で、そうなっているのが当たり前みたいに、彼女の命を『停滞』させた。

「まず二匹」

噛み砕きが止み、効果範囲に残るは遠くにジェンタイルの一団。妖狐は戦闘領域の遙か外だ。
ロスチャイルドは瓦礫の上を軽いステップで飛び歩き、再び地上に姿を表した。

「先生ちょっとよくわからないから質問してもいいかね。
 『命に代えても誰かを守る』……諸君の大好きな自己犠牲だが――君たちは、遺された者の気持ちを考えたことがあるのかね」

血と脂に染まった瓦礫を踏みしめながら、一歩ずつ距離を詰める。

「迷惑だろうなあ。頼んでもいないのに勝手に命を掛けられて、勝手に守られて、勝手に死なれて。
 守った方は死ねばそこで終わりかも知れないが、守られた方はその先も一生、『自分のためにあいつは死んだ』という事実を、
 忘れることも出来ずに背負い続けていかねばならないのだから――これは、一種の呪いだよ。そうは思わんかね」

頭目であるジェンタイルを喪った解放戦線などものの数ではない。
あれらの個々の戦闘能力には目を瞠るものがあるが、誰も彼も誰かを守るときにしかろくに真価を発揮しないガラクタばかり。
ジェンタイルを殺された怒りに燃えて能力を向上させる可能性は大いにあるが、加護を失えばそもそも攻撃は届かない。

「結局のところ、『守りたがり』は『死にたがり』でしかないのだよ。
 自分のためだけに、格好良い死に場所を求めているに過ぎない。相手の弱みに漬け込んで、気持ち悪い善意を押し付けるんだ。
 ――気分はどうだね偽善者共。なんだかんだ言って、誰かの犠牲になる自分が、結構好きだったりするだろう……?」

憎しみでは、誰も殺せない。
歴史上、最も多くの人の命を奪ってきた感情は――正義だけなのだから。

「ローゼン君。レゾン君。メタルクウラ君。
 そんな風に誰かのために自分の身を削ってきた君たちだが、今回ジェンタイル君が死んでしまったね。
 君たちはどうなっていくんだろう。また別の弱者を探して勝手に命を掛けて守るのかな?
 ならば先生は、その別の誰かも殺してしまおう。歪んだ愛の繰り広げる、終わりのない鼬ごっこをしようじゃないか……!」

両の手に握った黒剣を、さながら黒翼の如くはためかせ、踊るように姿勢を戦闘に傾ける。
刹那、倒れこむジェンタイルの亡骸から、生命力が花開くように爆発した。力の波涛に押し出されるよう、言葉が飛んでくる。

「つまり、俺はこう言えばいいわけだ。
 メタルクウラ、ローゼン、レゾン。俺のために死んでくれ――俺も、お前らのために死んでやる!!」

確かに殺し、『停めた』はずのジェンタイルが、立ち上がってこちらを見ている。
その双眸には、魔力の光が宿っていなかった。代わりに――溢れんばかりの生気が輝いている。



596 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/13 04:31:37 ID:???
『理想の死に方』でアンケートをとってみよう。
沢山の子どもや孫に見送られて大往生とか、悦楽の限りを尽くして腹上死とか、痛みも未練もなく一瞬で死ぬとか。
"死"を人生の締めくくりと捉えるなら、どんな風に死にたいかは人間にとって最後の命題と言えなくもない。
中でも男の子――特に、少年漫画が大好きな男の子にとって、『誰かを守って死ぬ』っていうのは最大級の栄誉だ。
だって格好良いんだもん。俺たち男の子は、誰でも一度はそう考える。

そう。格好良いんだ。憧れるのだ。誰かを守って死ぬことにじゃない。
『誰かの為に命を掛けられる』、そんな自分で在りたいんだ。命張ってでも守りたい奴が傍にいる――そんな人生であって欲しいんだ。
自己満足でも!押し付けでも!そいつのためなら命だって投げ出す覚悟に偽りなんてない。
だったら、欲しい言葉は一つだけだ。

「押し付けがましい自己犠牲が気持ち悪いって話だったよな、ロスチャイルド――なら俺からの反論だ。
 あいつが死ぬなら、俺も死ぬ。俺が死ぬから、お前も死ね……命に代えても守るのが、一方通行だって誰が決めた?
 誰かが俺を命がけで守るなら、俺もそいつを命がけで守ってやる。そういう運命共同体なんだよ、俺たちは――」

『生き返った』俺は、うまく動かない足腰に無理やり克を入れて立ち上がる。
メタルクウラがいて、堕天使がいて、スライムがいて、レゾンがいて、ローゼンがいて――その向こうの、先生を見据える。

「――俺たちは、大親友なんだから」

かつてないほどに、体中に力が漲っていた。
今の俺は神だから、信者の信仰状態にモロに影響を受ける。仲間達の命がけの覚悟が、俺に莫大な力をくれていた。
殉教って言葉があるけど、己が信ずる神のために命を擲てる人は多くない。
救いを求めるから神に頼るのに、その神のために死ねる奴なんてそうそういないからだ。
だが、俺たちの蜜月は違う。仲間達にとって、俺は神であると同時に大親友で。親友の為なら死ねる友達がいのある奴ばかりだ。
一端の宗教とは信仰の密度が違う――俺のことが大好きな奴らなのだ。力が湧かないわけがない。

「ようお前ら、最後の作戦だ。――ロスチャイルドの"神性"を、引っぺがすぞ」

死んでみて、悠久に近い時間ずっと考えてたどり着いた、ロスチャイルドの強さの『穴』。
信仰を身に纏うことで自分を神に押し上げたロスチャイルドだが、常識的に考えて、人間が神みたいな振る舞いを出きるわけがない。

信仰対象としての『神』は、偶像だ。当然だが人間ではない。
人知の及ばぬ災害や、疫病や、不幸や、理不尽――そういった脅威に抗うために創り出された『人間よりも上位の存在』なのだから。
人間じゃどうしようもない災厄を、どうにかしてくれると期待された存在が、人間らしくあってはいけないのだ。
だからキリスト教も、仏教も、道教もヒンドゥーもイスラムも儒教もゾロアスターもユダヤも神道も。
『人間には不可能な振る舞い』を"神っぽさ"と定義することで神という偶像を創りだしてきた。

だから、人間は神にはなれない。そこに『人間臭さ』がある以上、そいつは偶像ではなく人間そのものだからだ。
では人間は偶像にはなれるのか?――なれる。偶像、イコール直訳でアイドル。
テレビの向こうの完璧に演技されたアイドルは、素顔を知らぬ者にとっては偶像だ。
多くのファンから支持を集め、ヒットすることで歴史に名を刻むアイドル達の在り様は、人というよりも神のそれに近い。

――人間は神にはなれないが、人からなんらかの偶像を経て神に近くなることはできる。
それは、俺の嫁でもアイドル声優でもワンピースの作者でもシャフトの名監督でも東方プロジェクトの原作者でも――
その演技に、あるいはその創作物に、多くの支持(信者)を得て人口に膾炙すれば、神っぽさを獲得できるのだ。

ロスチャイルドは出会った時から、常に自分のことを『先生』と呼び、言動の端々で教師らしさをアピールしていた。
当時俺はキャラ付けの一環だと思っていたが――いや、その『キャラ付け』こそが、ロスチャイルドの偶像なんだ。
意図的にロスチャイルドという存在から"本人"を排し、ひたすら『教師』というペルソナを被り続けた。
その徹底した演技が、『先生という偶像』を作り上げ、そこに信仰を集めて神格に成り上がったんだ――!

「ロスチャイルドの『先生キャラ』を全力で否定するんだ。
 手段は問わねえ、命を掛けてでも!あの野郎にこれ以上先生を名乗らせるな――!!」


【ジェンタイル復活】
【遅れてすいませんでした。次でラストになります】

597 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/02/13 18:26:18 ID:???
>「僕は、ジェン君が大好きなんだ!ごめんクウ君!さっきは偉そうな事言ったけど……僕、今からクウ君を後回しにする!
> いけないって分かってる。酷い事を言ってるって分かってる。
> でも、好きなんだ!この世の誰よりも!世界の平和なんかよりもずっと!僕はジェン君が好き!」

「行ってこい!!
それが私の望みでもある!」
ローゼンが言う好きは、きっと私には永遠に手に入れることができない好きなのだろう。
私にはそれがとても羨ましくもあり、何よりもその好きが愛しく思えた。

堕天使やスライム、レゾンの協力もあって、何とかロスチャイルドの攻撃を防ぎきることはできた。
だが、ロスチャイルドはまだまだ健在で、戦いは終わってはいない。
ロスチャイルドは悠然に私達に歩み寄り、話しかけてきた。
ロスチャイルドに何を言われようが、私は自分からは手を出さない。
ロスチャイルドが勝手に喋っていてくれるならば、その分だけ時間は稼げるはずだ。
私はレゾン達を信じている。
きっと、ジェンタイルを助けてくれるはずだ。
そして、ロスチャイルドの話に区切りが着き、ジェンタイルは狙っていたかのようなタイミングで復活した。

>「――俺たちは、大親友なんだから」

「そう言うことだ、ロスチャイルド。
友情とは一方通行では成り立たない。
お互いの命を預けるに値する友人のためだからこそ、私は戦うのだ」

>「ようお前ら、最後の作戦だ。――ロスチャイルドの"神性"を、引っぺがすぞ」
>「ロスチャイルドの『先生キャラ』を全力で否定するんだ。
> 手段は問わねえ、命を掛けてでも!あの野郎にこれ以上先生を名乗らせるな――!!」
神性とは、確か人々に信仰されてるから得られるのであったな。
湖畔村の水精霊が村人に信仰された神であったように、ロスチャイルドも信者によって信仰されているのなら、信者の信仰心を無くさせるのが一番だ。

「後は任せたぞ」
私はそう言って瞬間移動でこの場から去る。

598 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/02/13 18:26:45 ID:???
私は悪魔の技術者達を預けたメタルクウラの下に現れた。
それと同時に他のメタルクウラ達も続々と集まってくる。
奴らも私を介して、今までのロスチャイルドと私達のやり取りを見聞きしていたのだ。
するべきことはもう皆が理解している。
私は99人の原作性能のメタルクウラを引き連れて、ロスチャイルド一派が所有するテレビ局に瞬間移動した。

99人の原作性能のメタルクウラによる圧倒的な暴力により、すぐにテレビ局は陥落する。
私達は陥落したテレビ局の放送機材を使い、とある映像を全国のテレビに流す。
その映像は、今までのロスチャイルドとの戦いから得たロスチャイルドの音声データと姿を使った、実に濃厚なロスチャイルド受けのガチホ〇映像。
放送機材と私を直結させ、私がジェンタイル×ロスチャイルドのアブノーマルな絡みを想像することで可能とした荒業である。
この想像を全国のテレビに放送させ続けることができれば、信者が抱くロスチャイルドに対する皆を導く先生としてのキャラは、確実に先生役のガチ〇モ用〇V男優に変わるはずだ!

599 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/14 21:26:06 ID:???
>「ローゼン君。レゾン君。メタルクウラ君。
 そんな風に誰かのために自分の身を削ってきた君たちだが、今回ジェンタイル君が死んでしまったね。
 君たちはどうなっていくんだろう。また別の弱者を探して勝手に命を掛けて守るのかな?
 ならば先生は、その別の誰かも殺してしまおう。歪んだ愛の繰り広げる、終わりのない鼬ごっこをしようじゃないか……!」

「……うーん、言いたい事は色々あるんだけど。とりあえず一つだけ」

ジェンタイルの手を握ったまま、ローゼンはロスチャイルドを振り返った。

「ジェン君は弱っちくないし、まだ死んでなんかいない」

乙女の声音に魔王の眼光を添えて、凄む。
言い終えると同時に、ジェンタイルの手が自分から離れていく感覚を覚えた。
それはつまり、彼が立ち上がったという事で。
思わず目が潤んで、相好が僅かに崩れる。
胸が苦しいくらいに締め付けられて、けれどもその感覚は不快じゃなかった。
愛しい人が自分の元から離れていく事が――とても、とても嬉しかった。

>「つまり、俺はこう言えばいいわけだ。
  メタルクウラ、ローゼン、レゾン。俺のために死んでくれ――俺も、お前らのために死んでやる!!」

ジェンタイルの言葉がローゼンの奥深くに突き刺さる。
既に死んでしまった彼女をこの世に繋ぎ止める楔のように。未練のように。

嬉しい、嬉しい、嬉しい――ジェンタイルが自分の為に死んでくれる。
こんなに嬉しい事があるだろうか。
やろうと思えば一緒にゴーストになって、共に永遠に過ごす事だって出来る。
死なない二人と一人の機械、また三人で一緒になって遊べる。
ゴーストには勇者の使命も公務員の仕事も大学受験もない。
戦ったりせずに、精霊と契約する要領で自然界に溢れる魔力を食みながら過ごしていれば、きっと永遠に存在していられる。
そんな風に暮らせたら――どれだけ楽しい事だろう。

「……嬉しいなぁ。自信を持って言えるよ。僕は今、世界一の幸せ者だ」

だけど、そんな事にはさせられない。
ジェンタイルに生きていて欲しい。
死んでもゴーストになれるのなら生きていなきゃ意味はあるのか、とか。
自分がいなくなった後でジェンタイルが誰かのものになってしまうのではないか、とか。
細かい理屈や疑問が全て些末に思えるくらいに、ただ、ジェンタイルに死んで欲しくなかった。

美味しいご飯を食べて、色んな地を旅して、学ぶ楽しみを知って、
自分が今まで感じてきた喜びをジェンタイルにも感じて欲しかった。

好きな人を見つけて、その人に思いを伝えて、人生を分かち合って、
自分が得られなかった喜びもジェンタイルには手にして欲しかった。

>「――俺たちは、大親友なんだから」

「あぁそうさ。だから僕はこう言うんだ。『気持ちだけ、受け取っておくよ』ってね」

小さく小さく、呟いた。
ジェンタイルはきっと、いや絶対に、本気で言っている。
本気で自分達の為なら死んでやれると思っている。
でもローゼンは、そんなのは嫌だった。
何がなんでもジェンタイルに死んで欲しくない。
例えジェンタイルがそれを心から望んでいたとしてもだ。

――だったらどうすればいいのかは、もう分かっていた。


600 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/14 21:26:56 ID:???
>「ようお前ら、最後の作戦だ。――ロスチャイルドの"神性"を、引っぺがすぞ」
>「ロスチャイルドの『先生キャラ』を全力で否定するんだ。
  手段は問わねえ、命を掛けてでも!あの野郎にこれ以上先生を名乗らせるな――!!」

ジェンタイルの示した最後の作戦。
『モン☆むす』達は自分達が何をすればいいのか、即座に理解した。
それはとても心苦しくて、受け入れがたい手段だった。
いっそ「残酷だ」と、ジェンタイルを罵る事が出来れば。そう思えるくらいに。

「……あー、クソ。仕方ないよなぁ。惚れた弱みって奴だ」

堕天使が僅かに天を仰いで、右手を目元に被せて呟いた。
今の自分の表情を、誰にも見られたくないと言わんばかりに。

それでも彼女達はやる。
愛するジェンタイルが「やれ」と言ったのだから、やらない手はない。

「おいジェンタイル」

深い溜息を吐いてから、堕天使がジェンタイルを振り返る。

「お前の事、嫌いじゃなかったぜ」

「素直じゃないなぁ堕天使ちゃんは〜。ねぇジェンタイル。私もね、あなたの事大好きだったよ〜」

「けっ、なーにが私も、だ。当てつけてくれちゃって。……そんじゃ、行くか」

堕天使が指を弾く。
行使するのは時間停止ではなく――時間加速。
効果を周辺一帯ではなく自分のみに限定する事で、残った力を最大限に活用する。
地を蹴った。加速した時間の中なら、ロスチャイルドの剣技も辛うじて見える。
全てが後出しで行動出来る。茨のごとき斬撃を掻い潜って、懐に潜り込んだ。

スライムは堕天使の後を追う。
身体を液状化させて『停止』の剣戟を回避する。
斬られたのなら斬られた部分だけを切り離し、致命的な一撃のみを躱して接近。

そして――堕天使はロスチャイルドの左腕に、スライムは胴体にしがみついた。

「これなら、アンタは私達を『停止』出来ねえ」

この状態で二匹を『停止』させてしまえば、それは自分を戒める不凍の枷を作る事に他ならない。
『停止』して、『停止』させる事を目的としたならば、ロスチャイルドの精霊魔法は意味を成さない筈だ。

601 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/14 21:28:19 ID:???
「……とか、そういうチャチな事を言うつもりはねえよ。
 女が男に抱きつく理由なんて、一つしかないもんなぁ」

堕天使が不敵に、獰猛に笑う。

「私達はね〜、元々『人間』が大好きな子の集まりだったんだよ〜。
 中でもジェンタイルは一番のお気に入りだったけど〜……ほら、競争率とか高そうだし。
 あなたもなかなか悪くないかな〜、なんてね〜」

彼女達はロスチャイルドを『愛する』つもりだ。

『先生』は『生徒』に手を出してはならない。
それは法の曖昧な学校という社会の中で、数少ない絶対の不文律だ。
故にほんの僅かにでも可能性があれば、それどころか根も葉もない噂だけでも、
『生徒に愛された先生』は、もう『先生』でいる事を禁止される。
ただの『男』に引きずり下ろされる。

「そういう事だよ。私達はね、愛する人の為なら……愛だって捨てられるのさ。
 何が言いたいのかって、つまりは……ここまで言ってるんだから察して欲しいなぁ。恥ずかしいじゃないか」

姿なき声と共に、何者かがロスチャイルドの足に抱きついた。
妖狐だ。幻影で姿を隠した妖狐が殺意も殺気もないままに、再び間合いを詰めていた。

「ま、そんな訳でさ……愛してるぜ、『人間』」

「うん、大好きだよ〜。一緒に死んであげても、いいくらいにはね〜」

人間の大好きな魔物達が、心からの愛を込めて、狂気的に微笑んだ。

602 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/14 21:30:52 ID:???
 
 

ジェンタイルに死んで欲しくない。
ロスチャイルドを『先生』の座から引きずり下ろす。
二つの目的はローゼンの中で、極々自然に溶け合った。
自分のすべき事が、当たり前のように理解出来た。

「……ロスチャイルド。あなたはいつだって、僕らの事を分かったつもりいたよね。
 でも違う。僕達はジェン君がジェン君だから、ジェン君が大好きだから、命を懸けて戦ってたんだ。
 ジェン君が弱っちいからとかじゃ、ないんだよ」

ローゼンの声は『諭す』ような音律だった。

「その事をあなたが理解出来なかったのか、それとも認めまいとしていたのか、僕には分からない」

まるで先生が出来の悪い生徒に向けるような声色で、彼女は語る。

「ただ……一つだけ、僕が『教えて』あげるよ。僕は、ジェン君の事が、大好きだって事を」

それがローゼンの見出した『先生』の倒し方だった。
ロスチャイルドが今まで散々そうしてきたように、こちらも『教え』の押し売りをしてやればいい。
勝手に相手を見下して、『先生面』して、『生徒扱い』してやるのだ。

不意に、ローゼンの体が青白い光に包まれた。
全身を構成する魔力を冷気に変化させているのだ。
狙いは言うまでもない。
彼女とジェンタイル、二人の魔力を融和させて放つ極大消滅魔法。
あれならロスチャイルドの『停止』だろうと、それを構築する魔力ごと消滅させられる筈だ。
隣に立つジェンタイルに手を差し伸べる。

だが――今のローゼンにとって魔力とは肉体そのものだ。
魔力を使い切ってしまえば彼女の魂はこの世に留まれない。
再びこの世界に散り散りになって、消滅してしまうだろう。

>「後は任せたぞ」

「……こっちこそ、『後は任せたよ』」

そんな事はローゼンにも分かっていた。
分かった上での行いだった。

「さあジェン君。終わらせよう。君の『物語』の最後を、僕の命で飾らせて?」

彼女は今、ここで、死んでしまいたいのだ。

「君が僕らの為に死んでしまう前に、君の為に僕を死なせてよ」

全ては――愛するジェンタイルの為に。



【モン娘→ロスチャイルドを愛する事で『人間』『男』に引きずり下ろす
 ローゼン→ロスチャイルドに『教え』を押し売りする事で『生徒』に引きずり下ろす。
      命と引き換えの極大消滅魔法、準備完了】

603 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/02/16 23:03:21 ID:???
>「ローゼン君。レゾン君。メタルクウラ君。
 そんな風に誰かのために自分の身を削ってきた君たちだが、今回ジェンタイル君が死んでしまったね。
 君たちはどうなっていくんだろう。また別の弱者を探して勝手に命を掛けて守るのかな?
 ならば先生は、その別の誰かも殺してしまおう。歪んだ愛の繰り広げる、終わりのない鼬ごっこをしようじゃないか……!」

「ジェンタイルは必ず立ち上がるさ。この物語の、主人公なんだから!」

そう言って、剣を構えた瞬間。背後で生命力が爆発するのを感じた――。

>「つまり、俺はこう言えばいいわけだ。
 メタルクウラ、ローゼン、レゾン。俺のために死んでくれ――俺も、お前らのために死んでやる!!」

殉教なんか金輪際してやるものか、ずっとそう思ってきたが――。

「そこまで言ってくれる神のためなら、剣を捧げて死ぬのも悪くはないな」

つい先刻まで敵の頭目だった人間相手にどうしてここまで思えるのか。
昔からずっと、世界を救ってくれる炎の賢者を待ち焦がれていたからかもしれない。
それだけではない。
この半年間は、レジスタンスのリーダーが、自分の今の状況を打破しにきてくれるのを、心のどこかで待っていたのかもしれない――

>「ようお前ら、最後の作戦だ。――ロスチャイルドの"神性"を、引っぺがすぞ」
>「ロスチャイルドの『先生キャラ』を全力で否定するんだ。
 手段は問わねえ、命を掛けてでも!あの野郎にこれ以上先生を名乗らせるな――!!」

ロスチャイルドの先生キャラをぶち壊すべく、彼と過ごしてきた時間を思い出す。
ヤバイ――先生キャラ以外のロスチャイルドが思いつかない。
彼はオレにとって、いつでも完璧な先生であり続けた。
常に完全無欠な先生の仮面をかぶり続けて、本当の自分を見せられる相手はいるんだろうか。
きっといない。そう思うと、ロスチャイルドが急にとても哀れな存在に思えてきた。

604 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/02/16 23:04:56 ID:???
>「後は任せたぞ」
>「これなら、アンタは私達を『停止』出来ねえ」

メタルクウラ達は瞬間移動し、モンスター娘たちは、ロスチャイルドに取りついて拘束する。
何か先生キャラをぶち壊す秘策があるのだろう。

「やれやれ、アタシの出番のようだね」

何も思いつかないでいると、突然、背後に立つ者がいた。
そこにいたのは、霊験あらかたな髪型――具体的に言えばパンチパーマの女性。
バベル大寺院総帥――私のお母様である。

「お母様、どこからわいてきたのですか!?」

彼女の前では、私は従順な娘に成り果てる。
彼女はどんなに滅茶苦茶だろうと、理屈を超えたところに存在する母キャラであり――
母とは、縁を切ろうが揺らぐことの無い絶対的な地位だ。

「アタシの前では空間や時間など意味を成さないんだよ、大悪魔だからね!」

【やはり来たか、太母《グレートマザー》よ――】

ハウスドルフが呟いた。

「グレート……マザー……?」

【彼女の正体は太母《グレートマザー》原型の化身の大悪魔。
太母とは、全ての人間が共通して心の奥底に持つ母のイメージだ】

唐突過ぎて理解が追いつかないが、ただ一つ分かった事は……
母そのものである彼女の力を借りれば、ロスチャイルドの偽りの先生キャラを破壊できる!
息子へと、一介の人の子へと引き摺り下ろす事が出来る!

605 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/02/16 23:06:40 ID:???
「お母様、お願いがあります。私に憑依してください!」

【何を言ってるんだい、最初からそのつもりだよ。
アタシは安売りの野菜召喚ぐらいしか出来ないけどお前なら――アイツに肉薄できるだろ?】

普通なら無理だっただろうが、ロスチャイルドはすでに左腕と胴体にしがみつかれた状態。
右腕一本だけなら――

「ええ、必ずやって見せます! ――身体全強化《フル・ポテンシャル》」

身体能力全てを極限まで強化。
次の瞬間、お母様が乗り移る。私の霊装に変化が現れる。身に纏うはフリル付きのエプロン。
左手には買い物かごのようなバスケット、右手にはスーパーの安売りの大根。
そんなふざけたビジュアルでありながら、今の私はガイアでありデメテルでありイシュタルでありキュベレーでありトゥアハデダナーン――
要するに母の属性を持つあらゆる女神であり、人類全ての母なる存在なのだ。

「ロスチャイルド! 覚悟!」

地面を蹴り、一息に接近する。
斬撃を掻い潜る間に、髪が一房切り飛ばされ、安売りの大根が千切りになって散った。
そして――千里のような数メートルを走り抜け、スライムの逆側からロスチャイルドを掻き抱く。

「ロスチャイルド、今までよく頑張ったね――。
本当の自分を見せられる人も頼れる人もなく、人の身でありながら全国民の信仰を背負ってたった一人で……。
辛かったでしょう、寂しかったでしょう……。
でもそれも今日で終わり。もう寂しい思いをする事もない。一人では逝かせないから――」

私は微笑んだ、聖母のように、悪魔のように。
長い銀髪を手で梳きながら耳元で囁くは、死の安らぎへの甘美な誘い。
買い物かごに並々と入っているのは、何故か安売りのミニトマト。

「あなたは本当に立派な”子”だった……。
ただ一つ、ミニトマトを食べられないのだけが玉に傷だと私は思う。
さあ口を開けて!」

ミニトマトを強引にロスチャイルドの口へ投入する事を試みる。
子に勝手に期待を押し付け、それを強要する。これもまた母。
人間である限り、何人たりとも太母《グレートマザー》の呪縛からは逃れられない。
それは文字通り、聖母にして悪魔――。
全てを受容する暖かな光と、全てを支配し飲み込む闇の深淵。そのどちらも真実だ。

>「君が僕らの為に死んでしまう前に、君の為に僕を死なせてよ」

とどめの一撃の算段は出来ているようだ。あとはジェンタイルが決断をするだけ――。
私は、容赦ないミニトマト攻撃を仕掛けながら、ジェンタイルに言った。

「ジェンタイル……やるのです!
呪いの様に生き、祝いの様に死に――伝説の最後をその命で飾る、それが……魔王!!」

606 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/17 01:31:17 ID:???
いやー、流石ベテランのコテとでも言うべきでしょうか!
超面白いですね! あ、勿論これは皮肉ですよ!
予想のはるか斜め下に転がり落ちていく、とでも例えたらいいんでしょうか
なんでしたっけ?聖母にして悪魔、光にして闇でしたっけ?
あまりに陳腐でありがち過ぎて、ついでに脈絡がこれっぽっちもなくて、まったく思いつきもしませんでしたよ!
あんな助っ人がいたならどうしてもっと早く呼ばなかったんですか!
人が悪いなぁもう!それとも悪いのは頭の方なんですか?
最後の最後までご都合主義に頼りきりで、この遊びを何年続けていればそんな風になれるんでしょうね!

607 :名無しさん :12/02/17 02:46:43 ID:???
スレ主のジェンタイルさん
モンスター娘さんとレゾンさんに何か言うことはありますか?
無ければこのレスを無視して本文をお願いします

608 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/21 07:14:47 ID:???
(気付いたか――さあここからが正念場だ。彼らの『否定』を、先生が否定し切れるか)

ジェンタイルが『神化』のからくりに気付くことは織り込み済みだった。
当初の唯人であった頃ならばともかく、今は彼もまた神の一席。立場が変われば、見えてくるものも違ってくる。
己を神たらしめているものが何であるかは、神であるならば容易にわかるはずのことだ。

(どこまで自分を、信じられるか――!)

ロスチャイルドはジェンタイルを侮らない。ただ公正に公平に、彼の力量を推察する。
しからば、彼本人の実力は恐るに足らなず、厄介なのはその取り巻き達であるという評価に変化はない。

>「後は任せたぞ」

メタルクウラがまず消えた。瞬間移動だ。
一秒、二秒、三秒待つが襲撃は無し。この場面で逃亡はないだろう、ならば伏兵となったか――

>「けっ、なーにが私も、だ。当てつけてくれちゃって。……そんじゃ、行くか」

前方、堕天使とスライムが動いた。
超高速の挙動を見せる堕天使はロスチャイルドの剣戟を掻い潜り、液状のスライムは剣によるダメージを負わない。
ロスチャイルドはメタルクウラを警戒しつつの防戦一方となり、彼女たちに肉迫を許してしまった。
胴に、腕に、組み付かれる。

>「これなら、アンタは私達を『停止』出来ねえ」

「なるほど、己が身を枷として先生の動きを封じてきたか――だが甘い。先生の攻撃手段は『停滞』だけではない」

片腕は自由だ。剣を握れる。
如何に強力な存在力を持つ魔物達であっても、首を落とされたり心臓を貫かれれば戦い続けることはできない。
そして彼女たちは今やロスチャイルドの懐の中――彼の剣術を持ってすれば、まばたき一つする間に二匹とも刻める。

>「……とか、そういうチャチな事を言うつもりはねえよ。女が男に抱きつく理由なんて、一つしかないもんなぁ」
>「そういう事だよ。私達はね、愛する人の為なら……愛だって捨てられるのさ。
>「うん、大好きだよ〜。一緒に死んであげても、いいくらいにはね〜」

(大した覚悟だ……愛に殉ずるために、己の気持ちに嘘をつけるとは――!)

足にも不可視の枷が嵌った。妖狐だ。
ロスチャイルドには彼女たちを切り刻むことができた。しかし、迂闊にそれをすることは自殺行為だった。
殺せば、彼女らは死ぬ。
『愛された』いまの状態で彼女たちを殺せば、それは『無理心中』となり生徒との恋愛を強く肯定することになってしまう。
『殺したいほど愛してる』と、他ならぬ自分に納得させてしまう。
納得してしまうほどの真に迫る絶対性が、今の彼女たちからは感じられる。

やはり、魔の物。
人間じゃこうはいかない――最も根源的な感情である"愛"を、容易く変容させ得るなど。
多くの好感情を糧にしてきたロスチャイルドだからこそ、その破滅的な狂気に気付く。

609 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/21 07:15:17 ID:???
「化物だな君たちは、本当に――!」

面白い。実に面白い。面白すぎて腹に力が入り、脱糞してしまいそうだ。
いや、いっそそれでもいいかもしれない。女の子に囲まれてうんこを漏らす男など、誰が好きになるだろう。
魔物娘たちの愛の呪縛から逃れるのに、それは非常に効果的な方法に思えた。

>「ただ……一つだけ、僕が『教えて』あげるよ。僕は、ジェン君の事が、大好きだって事を」

ローゼンは語る。
それは『会話』ではなく『教授』だった。『教える』ことで、ロスチャイルドとローゼンの立場を逆転させたのだ。
すぐにロスチャイルドが『教え返せば』、また立場は元に戻るだろう。しかし、

>「さあジェン君。終わらせよう。君の『物語』の最後を、僕の命で飾らせて?」

ローゼンは既にジェンタイル以外の者の言葉を耳に入れようとしていない。
ロスチャイルドは反撃できない。ローゼンは、既に会話をできる状態ではない。
二人だけの世界を築くことは、論撃による戦いの全てを否定し、ある意味での『勝ち逃げ』へと移行していた。

そして、レゾンが来る。

>「ロスチャイルド、今までよく頑張ったね――。
 本当の自分を見せられる人も頼れる人もなく、人の身でありながら全国民の信仰を背負ってたった一人で……。

「知ったふうな口を聞くなよレゾン君。先生は政治をしたかったから政治家先生になっただけだ。
 本当の自分を見せられないのは社会生活上大なり小なり誰でもそうなのだから、先生一人が辛いなどとは言わないさ」

上から目線の、押し付けがましい、勝手な事情の酌量。
"仮面をかぶっているから可哀そう"などという身勝手な価値観の押し付けは、まさしく『母』の体現。
レゾンは、その奥に居る『誰か』は、ロスチャイルドを子供扱いしようとしている――!

>「あなたは本当に立派な”子”だった……。
 ただ一つ、ミニトマトを食べられないのだけが玉に傷だと私は思う。さあ口を開けて!」

次なる言葉を放とうとした顎を掴まれ、無理やり口を開かされる。
そこへ、赤々と光を反射する瑞々しい小粒の実が飛び込んできた――



610 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/21 07:15:40 ID:???



ロスチャイルドの『神性』は消えた。
当然だ、『男』で『生徒』で『子供』の三段否定を食らえば、いくらあの男でも教師ぶっちゃいられない。
ここが正念場。あいつが弱体化しているうちに、致命打になりうる一撃を叩きこむ。
お膳立ては――既に整っていた。

>「君が僕らの為に死んでしまう前に、君の為に僕を死なせてよ」

ローゼンが魔力の塊と化し、俺の動かない左腕へとまとわりついて持ちあげる。
ここに神と化した俺の炎魔法を合わせれば、史上最強の極大消滅魔法が完成する。
でもそれは、魔法として消費されるローゼンの完全消滅を意味していた。
そんなことは、とっくの昔にわかっていた。

「……週刊少年ジャンプなら、ここでお前を使うのを躊躇うんだろうな。
 そんでその偽善を貫いて、ラスボス倒せてお前も助かるご都合主義な最良の一手を見つけるんだろう」

俺は、ローゼンを消したくなかった。
もう昔のこいつには戻れなくても、残りかすみたいな偽りの魔王でも。
それでもローゼンを消してしまうという選択を、する俺じゃないと。俺は俺を信じていた。

「だが!俺は、俺を裏切るッ! ローゼン!お前の選択を『尊重』するぜ――!!」

都合の良い自己弁護かもしれない。
『ローゼンが望んでいるから』という意味のない理由で、自分に嘘を付くことを正当化してるだけかもしれない。
だけど――俺は。
こいつが死ぬほど俺のためを想ってくれた結論を、嘘に変えたくないから――!

ここでローゼン・メイデンの魂を消費せずとも、もっと他に皆が助かる方法があるかもしれない。
今はみつからなくとも、問題を先送りにして、家に帰って風呂に入った拍子にでも思いつくかもしれない。
そうなれば、ローゼンは無駄死にだ。死ななくて良いはずのロスチャイルド討伐で、命を落とす結果になるかもしれない。
紛れなく俺の責任。俺の判断ミスがローゼンを死なせることになる。それでも……俺は撃つ。

十字架を背負って生きるなんてシャバいことは言わねえ。
――後悔したらそんときは真っ直ぐ俺も死んでやる!

「行くぞローゼン。ここが最後の『いいとこ』だ――刮目して見てやっから、派手に死にやがれ!!」

俺は左腕のローゼンと、右腕に纏わせた炎魔法を結合。
相反する属性の力がせめぎ合い、瀬戸際に全ての力を消滅させる極狭領域を形作る。
領域の形は、剣だった。細身で、長身の、レイピアみたいな光剣だ。剣先の向こうにロスチャイルドを捉える。

「――ッ!?」

そのとき、ロスチャイルドからとてつもない力の奔流が立ち上った。
それはあたかも、せき止められていたダムが、開かれたかのようだった。
神性を、取り戻していた。



611 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/21 07:16:25 ID:???


「馬鹿な!三重の否定を食らって、どうしてまだ"神"でいられる!?」

ジェンタイルの問いに、口から一筋の朱を零したロスチャイルドは答える。

「何重だろうが同じ事だよジェンタイル君。『先生』は、先生にかけられた否定を一つ一つ切り返しただけだ。
 君たちが三重の否定で先生に迫ろうというのならば、先生は更なる否定を3つ重ねよう」

ロスチャイルドは、先生に対する否定を否定した。
レゾンと、その向こうにいる『誰か』へ向けて語る。

「確かに先生はミニトマトが嫌いだ。食べられなかったことが原因で色々とつらい思いをしたことも話したね?
 だが――嫌いなものも食べれるように克服するのが大人というものだよレゾン君。
 青臭くて、えぐみが濃くて、どろどろしたこの野菜を食べられるようになった先生は、もう『子供』じゃないんだ」

レゾンに憑依していた悪魔の影が吹き飛んだ。
母性の体現者――故に、彼女と相対する者は子供扱いされるが、逆説子供であることを否定すれば母性は維持できない。
形を失い、存在を崩壊させ、消え去ってしまったのだ。

「そしてローゼン君。君は先生に『教える』ことで生徒と教師の立場を入れ替えようと試みたようだが。
 君がジェンタイル君を大好きだなんてことは、とうの昔にしっているよ。本人が大声で申告してくれたからね。
 ――既に知っていることをもう一度言われたところで『教えた』ことにはならんよ。それはただの……確認だ」

ローゼンに聞こえているかはわからない。
だが声に出して言うことが肝要、ますます神性を取り戻していくのが実感できる。
ようは心の持ちようなのだ。『教えられた』という主観が、その敗北感こそが彼を神ではなくしていたのだから。

「で、でも!その二つはお前の考え方次第で覆せるかもしれねえ!
 だけどお前を決死の覚悟で『愛した』そいつらの想いは!お前一人で変えられるものじゃないはずだろう!?」

ジェンタイルは驚愕そのものといった表情で叫んだ。
若いな、とロスチャイルドは内心で苦笑する。若すぎる。酸いも甘いも知らないガキが、論壇で先生に勝てるわけもない。

「そうだな、最後の否定は――こういうことさ」

白衣をめくって、その下のスラックスを見せる。
股下を中心に茶色い染みができていた。今もゆっくりと広がりを見せるそれは、ただならぬ汚臭を放っている。
まさか、と真っ青になったジェンタイルが零した。

「漏らしやがったのか、うんこを……!!」

心の中で快哉を叫びたくなった。
素晴らしい理解力だ。おかげでますます神の力が戻ってくる。
ロスチャイルドはミニトマトを噛み潰したとき、同時に迷わず脱糞した。公衆の面前で粗相をするのは、とても気持ちよかった。

「善き哉。先生は脱糞した。わかるかね、この意味が。
 先生とか、生徒とか、禁断の愛とかそんなものの前に――うんこを漏らした人間など、誰が好きになるものかよ」

つまりはそういうことだった。
どんなに見目麗しい男でも、どんなに富を重ねた男でも、キムタクだって羽生名人だってウィリアム王子だってビルゲイツだって――
うんこを漏らした男に寄ってくる女はいない。
他がどれだけパーフェクトな男でも、うんこを漏らした瞬間から人間のクズのような扱いを受ける。
ロスチャイルドは自らその位置に自分を突き落とすことによって、魔物娘たちの愛を否定したのだ。

「わ、わかんねえだろ!愛の形ってのには決まりがねえ!
 うんこを漏らしてしまう情けない姿にキュンとくるダメンズウォーカーがいたっておかしかねえだろ!
 それに、人間の価値ってたった一度の失敗で終わっちまうものなのかよ?
 今は情けねえクソ漏らし野郎かもしれねえ。だけど、お前の今後の行動で挽回だってできるはずだ!……諦めるなよ、恋愛を!!」

612 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/21 07:16:56 ID:???
未だほかほかと湯気を立てるパンツを履き続けるロスチャイルドは不遜の表情で仁王立ち。
片や親友の犠牲を受け入れ完成した極大消滅魔法を構えるジェンタイルは、必死の表情でフォローしていた。

「そういう問題ではないのだよ、ジェンタイル君。『うんこを漏らした男に愛される資格などない』、そう言っている。
 それとも何かね、君は――君を慕ってくれる健気な魔物娘たちに、クソ漏らし野郎を愛せと強要するつもりかね――!」

「ぐううううう……!!」

ジェンタイルは青い顔に脂汗をいっぱいに浮かべて絶句した。
決死の覚悟でロスチャイルドを神の座から引きずり降ろせたはずなのに、起こってはいけないアクシデントはそれを水の泡に変えた。

「良かったな魔物娘君たち。
 君たちの愛しのジェンタイル君は、心優しいジェンタイル君は、君たちをクソ漏らし野郎に靡く変態にはできないらしい。
 当然だよな、うんこの詰まったパンツを履いてドヤ顔するような教師を、愛せる者などこの地球上には存在しない」

今、極大消滅呪文を撃たれても生き残る自信がロスチャイルドにはある。
人間の尊厳を失ったことにより『人間らしさ』すらも否定し、限りなく完全な神に近い存在へと昇華されている。
うんこをもらした者に敵などいない。失うものが最早何一つないからだ。

「トイレ以外の場所での排便は気持ちが良いなあ。歌のひとつでも――校歌のひとつでも歌いたい気分だ。
 おっと、丁度良い頃合いだな。そろそろNHKで『みんなのうた』が放送する時間だ。
 先生の政策の一環で、エストリス修道院の校歌は必ず流すようにしているんだ。みんなでご清聴したまえよ」

ロスチャイルドは懐からスマートフォンを取り出すと、ワンセグTVを起動した。
収容所は僻地にあるが、遮蔽物が全壊してくれたおかげで電波はよく届いた。
特権階級だけが独占している魔導技術の恩恵で、ホログラム投影されたテレビの画面。
そこに写っていたのは、ジェンタイルによってガンガン掘り続けられるロスチャイルドの姿だった。

「なんだ、これは……?」

画面の向こうで、何故か実際よりいくぶんか逞しくなった全裸のジェンタイルが腰を振っている。
ばちゅっ!ばちゅっ!と生々しい水音の立つ度に悩ましい表情で喘ぐロスチャイルドもまた、どことなく筋肉質だ。
二人は頬を上気させながら、時折平手で尻を叩くスパンキングも織りまぜながら、野良犬のように舌を出して息をしていた。

『『んぎもち゛いい゛いぃ゛いい!!!』』

まったく覚えのない行為を続ける違和感バリバリの二人は、やがて痙攣するように背筋を伸ばす。

『ぬふぅ……』

白目を向きながら、画面の向こうのジェンタイルとロスチャイルドは同時に達した。
絶頂の興奮冷めやらぬまま、二人は余韻を楽しむように唇を合わせ、攻守交替とばかりにネコとタチを入れ替わった。

ロスチャイルドのやおい穴から抜かれたジェンタイルの(不自然に大きい)一物には、所々茶色い物体が付着している。
浣腸や腸内洗浄が十分でなかったり、プレイ前に何かを食べていると、あんな感じになるのだ。
それはBLだとかやおいだとかヤワなものじゃ断じてない、マジモノの絡み合い。

例えうんこを漏らしていても、気にせず愛してくれる者はいる。

「メタルクウラの奴、やってくれたぜ……!どうだロスチャイルド、こいつが答えだ!!」

――クソをひり出す穴に突っ込む、ガチホモ達である。



613 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/21 07:17:38 ID:???


三重の否定に否定を返されたからどうした。四重目の否定をぶち込んでやればいいだけだ!
おそらくメタルクウラが勝手に編集したであろうガチホモ映像を愕然と見つめるロスチャイルドに、俺は追撃の言葉を撃つ。

「こいつは全国ネットだよなぁ、どうするロスチャイルド。信者連中にとって、お前は最早先生じゃなく受け専のガチホモだぜ!」

「だからどうしたというんだねジェンタイル君……!ガチホモだろうがなんだろうが、先生が神であることに依然変わりはない!」

ロスチャイルドは平静を装っているが、どうにも余裕のない様子だ。
当たり前だよな、何故か自分の顔をした奴が気持ちよさそうに掘られてる……普通の奴なら、気分が悪くなって当然だ。
俺はローゼンやメタルクウラと関わっているうちにガチホモネタにすっかり耐性ができたが、それはスタンダードじゃない。
まして、俺とロスチャイルドじゃ失うものが違いすぎる。

「そうじゃねえんだよロスチャイルド。
 こんだけインパクトのある映像を見せられたら、大衆はどうしてもお前の顔を見る度にあれを思い出す。
 ロスチャイルドという人間に対する認識に、『先生』よりも『ガチホモ』のほうが優先される。
 お前の信者たちは、お前を深く信じれば信じるほど、ガチホモ疑惑が螺旋のように深く広くなっていく……!」

キリスト教が、異教の神を魔物として討伐する内容を聖書に記したように。
聖書は言わずもがな、世界中で最も多く売られている書物だ。敬虔なクリスチャンも数多い。
そうやって、超大規模で超長期的なステルスマーケティングによって、唯一神はただ一つの神足り得たのだ。

「お前にとって『先生』と『ガチホモ』は同列だが、多くの人はそうは思わない!
 人々の認識が形作る『偶像』においては、よりインパクトのあるほうこそが真実となるッ!」

俺は消滅魔法を持ってないほうの指でロスチャイルドを差した。

「――つまり!たった今お前はガチホモとして人々に受け入れられた!」

「…………!!」

ロスチャイルドが黙った。初めて、俺の言葉で絶句した。
即興で練り上げた理屈が奴の正鵠を射たらしかった。このまま畳み掛ける!

「真実は違うかもしれない。お前はガチホモじゃないかもしれない、人々の勘違いで、お前は不相応な評価を得たかもしれない。 
 ――でもよ、ロスチャイルド。お前を信じた人々の気持ちは『本物』だ!これからそれを、真実に変えていこう!!」

「良い事を言ったつもりかね、馬鹿なことを!これは風説の流布だ、風評被害だ。
 先生の望まない、事実無根のレッテルを!看過するわけにはいかんよ、正当な再評価を要求する権利がある!」

そうだ――ロスチャイルドには汚名を払うチャンスがある。
権力者であり政治家であるこいつは記者会見を開ける。多くのお堅いメディアの前で、虚言であることを説明できる。
映像のおかしいところを一つ一つ洗い出して、合成であることを立証できれば、疑いを晴らすことができるだろう。
だから。俺はこいつをここで殺す。殺しきる。
ガチホモのまま死ね、ロスチャイルド。

614 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/21 07:18:00 ID:???
「そも、こんなふうに人の尊厳を貶めるのが君たちのやり方かね。これは殺すよりも外道な、名誉を穢す行為だ。
 君たちの行いが明るみに出れば、先生の信者たちは義憤によってより強く先生に力を貸してくれるだろう。
 なりたての半端な神じゃ指先一つ触れること能わぬ、最強の神だ――」

「ロスチャイルド」

俺は言った。

「先生だろうがガチホモだろうが関係ないよ。――お前はお前だろ?」

それは何度も重ねては切り返された『偶像の否定』ではなく。
ロスチャイルドという個人に対する『個性の肯定』だった。
最後の最後までぎりぎりで水際を保っていたロスチャイルドの神性が、パキンと音を立ててはじけ飛んだ。
ロスチャイルドが被った『先生』という仮面が砕け散り、その奥の素顔が見えた瞬間だった。

「そいつがお前の死に顔だ!ロスチャイルドーーーーーッ!!」

俺は右足で強く踏み込み、鞭のようにしならせた右腕で極大消滅魔法の剣を振るった。
逆袈裟からかち上げるようにして描かれた銀弧は、ロスチャイルドの右腰から左肩にかけて刃傷で縦断した。
鎖骨を破壊して、ロスチャイルドの手から滑り落ちた楔剣が瓦礫の上に突き刺さる。

「神を殺すぞ、お礼参りだ!ぶちかませ――お前ら!」

間髪入れず、俺は仲間達に叫んだ。


【ラスト1ターン。ハイパーフルボッコタイムです】

615 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/02/21 18:45:48 ID:???
>「神を殺すぞ、お礼参りだ!ぶちかませ――お前ら!」
ジェンタイルの声を私は聞いたような気がした。
ジェンタイル達の下に戻り力を貸したかったが、ここにいる私には、ロスチャイルドの神性が完全に消え去ったかどうか分からない。
私が放送を止めてしまったせいで、ロスチャイルドの神性を消し去ることができなかったら……
そのことで悩む私の肩を、他のメタルクウラが叩く。
彼は私にジェンタイル達の下に行けと、言わなかった。
お前の妄想は生温い、私に変われと言って、原作性能の馬鹿力で私の放送を奪い取りやがった。
メタルクウラ随一の変態は、ドラゴンボール改のオープニングをバックに、自らをジェンタイルとロスチャイルドの絡みの中に混ざっていく。
そのメタルクウラがオープニングの曲に合わせて、どっかんどっかん(ロスチャイルドとジェンタイルを)突いてる
どっかんどっかん(メタルクウラの)パラダイスと非常に楽しんでいた。
私は元気玉がロスチャイルドとジェンタイルの尻の穴で弾け飛ぶ様子を、テレビ局のモニターで見ながら、ジェンタイル達の下に戻った。

私がジェンタイル達の下に戻った時、ロスチャイルドは弱っていた。
皆が上手くやってくれたようだ。
私もとどめの一撃をロスチャイルドに放つとしよう。
私は両腕を高く上げて、黒いスパークを伴う黒い高エネルギーの球体を作成する。
クウラ一族の最強の技の一つ、100%デスボール。
私はこの黒い球体をロスチャイルドに向けて、放った。

「これで最後だっ!!」

616 :ジェンタイル ◆SBey12013k :12/02/24 00:12:56 ID:???
キャラクター分担型リレー小説やろうぜ!避難所2
http://yy44.kakiko.com/test/read.cgi/figtree/1330009944/

容量オーバーが近いので次スレを立てておきました
埋まったら使ってください

617 :メタルクウラ ◆XpZoV3OomU :12/02/24 01:22:24 ID:???
>>616
ジェンタイルさん、乙です

618 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/26 04:39:03 ID:???
>「行くぞローゼン。ここが最後の『いいとこ』だ――刮目して見てやっから、派手に死にやがれ!!」

ロスチャイルドの神性は失われた。
これで全てが終わる――筈だった。

>「馬鹿な!三重の否定を食らって、どうしてまだ"神"でいられる!?」

ジェンタイルが切迫した叫び声を上げる。
最終決戦はまだ終わっていなかった。

かつてのトラウマを噛み砕き、剥ぎ取られた仮面を再び被り、ロスチャイルドは神の座に舞い戻った。
そして神性に満ちたロスチャイルドの体から――『モン☆むす』達は離れている。
弾き飛ばされた訳でも、振り払われた訳でもない。
彼女達は間違いなく自分の意思で、ロスチャイルドから距離を取った。
心の底から愛を注いだ男から、思わず飛び退きたくなるほどの事が起きたのだ。

>「で、でも!その二つはお前の考え方次第で覆せるかもしれねえ!
  だけどお前を決死の覚悟で『愛した』そいつらの想いは!お前一人で変えられるものじゃないはずだろう!?」

それは――

>「そうだな、最後の否定は――こういうことさ」

>「漏らしやがったのか、うんこを……!!」

――脱糞だった。
捲られた白衣の下で、スラックスに茶色い染みが滲んでいた。
周囲に腐卵臭によく似た、吐き気を誘う悪臭が漂う。パンツから零れた便がスラックスの裾へと滑り落ちた。

>「善き哉。先生は脱糞した。わかるかね、この意味が。
  先生とか、生徒とか、禁断の愛とかそんなものの前に――うんこを漏らした人間など、誰が好きになるものかよ」
 
「畜生――!野郎、やりやがった!」

「うわ、わ、やだやだ!混じっちゃうよぉ〜!」

堕天使が目を剥いて怒鳴り上げ、しかし更に後退る。
スライムと妖狐も同様だった。
特に、足にしがみついていた妖狐は二匹よりショックが大きかったようだ。
飛び退いた拍子に倒れ込んで、小さく震え、涙目になっていた。

>「わ、わかんねえだろ!愛の形ってのには決まりがねえ!
> うんこを漏らしてしまう情けない姿にキュンとくるダメンズウォーカーがいたっておかしかねえだろ!
  それに、人間の価値ってたった一度の失敗で終わっちまうものなのかよ?
  今は情けねえクソ漏らし野郎かもしれねえ。だけど、お前の今後の行動で挽回だってできるはずだ!……諦めるなよ、恋愛を!!」

>「そういう問題ではないのだよ、ジェンタイル君。『うんこを漏らした男に愛される資格などない』、そう言っている。
> それとも何かね、君は――君を慕ってくれる健気な魔物娘たちに、クソ漏らし野郎を愛せと強要するつもりかね――!」

「……っ!言え!言えよジェンタイル!このクソ野郎にキスしてやれってな!
 お前がそう言えば……私達はなんだってやれるんだ!だから――!
 あぁ、クソ!さっさと立てよ妖狐!泣きたいのは私だって同じなんだぞ!」

怒りと、焦りと、悲痛が綯交ぜになった表情で、堕天使は我鳴り立てる。
自分達がほんの少しの間だけ尊厳を捨てれば、この戦いはジェンタイルの勝利で終わる。
頼むから言ってくれと、懇願を込めた視線でジェンタイルを見つめた。

619 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/26 04:40:19 ID:???
>「ぐううううう……!!」

だが、ジェンタイルは言えなかった。
最低最悪の汚辱を、『モン☆むす』達に強いる事が出来なかった。

>「良かったな魔物娘君たち。
>君たちの愛しのジェンタイル君は、心優しいジェンタイル君は、君たちをクソ漏らし野郎に靡く変態にはできないらしい。
>当然だよな、うんこの詰まったパンツを履いてドヤ顔するような教師を、愛せる者などこの地球上には存在しない」

「馬鹿野郎……!なんで、なんで言わないんだよ……!」

それは彼女達にとってとても嬉しい事で――同時に、悔しい事でもあった。
最後の最後で、自分達はジェンタイルの役に立てなかったのだ、と。

>「トイレ以外の場所での排便は気持ちが良いなあ。歌のひとつでも――校歌のひとつでも歌いたい気分だ。
> おっと、丁度良い頃合いだな。そろそろNHKで『みんなのうた』が放送する時間だ。
> 先生の政策の一環で、エストリス修道院の校歌は必ず流すようにしているんだ。みんなでご清聴したまえよ」

余裕を完全に取り戻したロスチャイルドは懐からスマートフォンを取り出し、操作して――

「なんだ、これは……?」

――起死回生の一撃に、自ら飛び込んだ。
CGと合成音声によるロスチャイルドの濃厚ホモビデオ。
それは信者達に大きな衝撃を与えただろう。
が、それ以上に、ロスチャイルドに対して驚愕と、怒りと、焦燥を植えつけていた。

神であるかどうかは、心の持ちよう――ロスチャイルド自身が思っている事だ。
故に彼は追い詰められていると自覚してしまう事で、更に追い詰められる事になる。
自縄自縛の、悪循環の渦へと飲み込まれていくのだ。

>「先生だろうがガチホモだろうが関係ないよ。――お前はお前だろ?」

そしてついに――神は堕ちた。

>「そいつがお前の死に顔だ!ロスチャイルドーーーーーッ!!」

ジェンタイルが地を蹴り、深く踏み込んだ。
極大消滅魔法の剣が逆袈裟の軌跡を描く。
血飛沫が飛び散って、楔剣がロスチャイルドの手を離れた。
ついにジェンタイルの攻撃が届いた。

>「神を殺すぞ、お礼参りだ!ぶちかませ――お前ら!」

「ハッ!いいねえ!ラストバトルってのはこうじゃないとなぁ!」

メタルクウラのデスボールに真っ先に続いたのは堕天使だった。
両手の指を弾き、光と闇の魔力をもって時を操る。
もう命を惜しむ必要もない。自分自身の時間を極限まで加速させて駆け出した。
翼を広げて高く飛び上がり、そして急速落下。
放たれた踵落としが雷鳴の鋭さと戦斧の重さで、ロスチャイルドの肩に減り込んだ。
着地の重心移動に合わせて右の拳で頬を抉るように殴り抜く。
その反動で左拳で弧を描き、下から左脇腹、肝臓を穿った。
更に連打、連打、連打――時間加速による秒間数十発の打撃の嵐を叩き込む。

620 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/26 04:41:07 ID:???
「楽に死なせてもらえると思うなよクソ野郎!嬲り殺しにしてやる!」

「あ〜!ズルいよ堕天使ちゃん!こういうのは順番こでしょ〜!」

スライムの上げた抗議の声に、堕天使が振りかぶった拳を止める。
やや不満気に、それでも次――スライムに順番を譲った。

「えへへ〜、やった〜!ありがと〜堕天使ちゃん!」

スライムが明朗に笑い、

「それと、ごめんね妖狐ちゃん。私の番でこいつ死んじゃったら」

直後に悍ましいほどに鋭利で冷たい、氷の刃のような面持ちへと、笑顔を豹変させる。
遊び感覚で人を殺し、おやつ感覚で人を喰らう、魔物の本性を剥き出しにした。

だが醸し出される殺気とは裏腹に、スライムの手はゆっくりとロスチャイルドに触れた。
液体の薄い膜が彼の全身をゆっくりと包んでいく。

細胞の中には液体があり、その液体には浸透圧がある。
細胞外部の液体が、細胞内部の液体よりも浸透圧が弱い場合、外部の液体は細胞内部へと流れ込む。
そうなった場合、何が起こるか――細胞が内圧に耐え切れず、破裂するのだ。
本来ならばそうなるまでには長い長い時間がかかるが、スライムの体は彼女の意思によって自在に操作出来る。
液体の膜は緩やかに、ロスチャイルドの細胞を破壊して、体の奥深くへと浸透していくのだ。
皮膚が、肉が、神経が破裂して生まれる痛みは、さぞや凄まじい事だろう。

「いつまで耐えていられるのか、見物だね〜。あははは〜!」

スライムの表情が再び――その命に宿した残忍さは残したままに、明るい笑顔へと戻った。

「あははは〜じゃないよ、もう。おかげで急がなきゃいけないじゃないか」

呆れた様子で妖狐が愚痴と溜息を零し、それから双眸を研ぎ澄ます。

「これが本当に最後なんだ。私がやれば出来る子なんだって事、ジェンタイルにちゃんと覚えておいてもらわないとね」

体を構成する生命力を激しく燃やす。
致命傷は負ったものの治療を受けて、ロスチャイルドとの戦闘中も殆ど消耗せず、
今の今まで残してきた命の全てを費やして、彼女は己を押し上げる。
順当に生きていればいつか辿り着けた筈の高みに、一時的に足をかけた。
二本だった狐の尻尾が三本、四本と増えていく。

そして分身の幻影が作り出された。
無数に現れた幻が一斉にロスチャイルドへ跳びかかり、彼を滅多刺しにする。
今の妖狐ならば『刺された』と強く思い込ませる事で、相手に本当に傷を追わせる事が出来た。

「ん、こんなもんかぁ。……次があれば、きっと、もっと上手く出来るのになぁ」

妖狐は少しだけ切なげに呟いて、ロスチャイルドに背を向ける。
まだ――次が控えているのだから。

621 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/26 04:41:30 ID:???
「いいえ。カッコよかったですよ、妖狐ちゃん。きっと、ジェンタイルが忘れられないくらいに」

ロスチャイルドの背後で、ゴーレムが動き出していた。
神性を失ったただの精霊魔法が、ジェンタイルの加護によって祓われたのだ。

ゴーレムの手が刀の形を模した。
『硬化』の性質を帯びた手刀はそれだけでも必殺の武器となり得るが――それだけには留まらない。
水晶は圧電体と呼ばれ、圧力を加えられると電気を生み出し、逆に電圧が加わると変形して振動する性質を持っている。
彼女は今、自分の脚部に水晶の性質を発現させていた。
ロスチャイルドに一歩また一歩と歩み寄る度に電気が生まれ、それによって腕部を超高速で振動させる。
超振動を帯びて万物を切り裂く刃と化した手刀を穏やかに掲げた。
そしてジェンタイルの描いた逆袈裟の刃傷と交差させるように、鋭く振り下ろす。

「これが貴方が今まで、多くの人に与えてきた痛みです。
 死ぬ前に、犯した数々の罪を悔いなさい。……なんて事は言いません。
 ただ苦しんで死に、地獄の奥深くに落ちていきなさい」

地獄に落ちろ――その言葉と示し合わせたように、ロスチャイルドの足首を何者かの手が掴んだ。
もう残っているのは一匹しかいない。ゾンビだ。
ゴーレムと同じく『停止』から抜け出したゾンビが、地の底からロスチャイルドに這い寄っていた。

「みんな、ひどいよね。よってたかってあなたをいじめて」

ゾンビの面持ちは穏やかな微笑みで――けれどもそれは飢えた獣の形相へと一変する。

「でも、それももうおわり」

言葉と共に立ち上がり、牙をロスチャイルドの首筋に突き立てた。
生物災害の体現者である彼女は『感染』の性質を秘めている。
その力によって、『死』がロスチャイルドに感染していく。

「あなたはこのせかいからいなくなるの。のこるのは、ひげきだけ。
 あなたがえがいた、なんのいみもない、ぎせいとかなしみだけ。
 ねえ、これがあなたのじゅーじつしたじんせいだったの?こんなもので、まんぞくだった?」

最後の問いに、果たしてロスチャイルドは答えるのだろうか。
だが彼がどう答えたとしても、意味はない。最早何も残らない。
その答えもろとも、死が彼を飲み込んだ。


【リンチ→殺害】

622 :モンスター娘s ◆n5lYZLejnQ :12/02/26 04:41:51 ID:???
ジェンタイルさん、スレ立て乙でした

623 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/02/27 22:47:23 ID:???
>「確かに先生はミニトマトが嫌いだ。食べられなかったことが原因で色々とつらい思いをしたことも話したね?
 だが――嫌いなものも食べれるように克服するのが大人というものだよレゾン君。
 青臭くて、えぐみが濃くて、どろどろしたこの野菜を食べられるようになった先生は、もう『子供』じゃないんだ」

「まさか……食べた!? お母様っ!?」

その言葉と同時に、自分に憑依している悪魔が消え去るのが分かった。身に纏う霊装が解除される。
ロスチャイルドが、まるで子どもに言い聞かせるように語る。
暴かれた虚構、本当は子どもなのはオレの方なのだ。
でも何かがおかしい、バベル大寺院総帥亡き今、オレに親にあたる人物はもういないはずなのに……。

>「そうだな、最後の否定は――こういうことさ」

「あぁ……」

ロスチャイルドが、想像を絶する手段で神性を取り戻す。当たり前だ、人間業じゃない。
これには、顔を引きつらせながら後ずさるしかなかった。
そして、余裕綽々のロスチャイルドが、スマートフォンでTVを起動する。
そこに映し出されたのは……筆舌に尽くしがたい映像だった。

>「なんだ、これは……?」

「そうか、そうだったのか……先生はガチホモだったのか!」

>「だからどうしたというんだねジェンタイル君……!ガチホモだろうがなんだろうが、先生が神であることに依然変わりはない!」

「ガチホモだからオレをわざを男性形に改造した……そうだろ!?
いくらスプラッタだったからって間違えるのはおかしいと思ってたんだ!」

>「そうじゃねえんだよロスチャイルド。
 こんだけインパクトのある映像を見せられたら、大衆はどうしてもお前の顔を見る度にあれを思い出す。
 ロスチャイルドという人間に対する認識に、『先生』よりも『ガチホモ』のほうが優先される。
 お前の信者たちは、お前を深く信じれば信じるほど、ガチホモ疑惑が螺旋のように深く広くなっていく……!」

「オレがガチホモが苦手なのを知ってて隠し続けてたんだろ……。
隠す事なんて無い、ガチホモでもいいじゃないか! 先生なら許す!」

>「――つまり!たった今お前はガチホモとして人々に受け入れられた!」

624 :レゾン ◆4JatXvWcyg :12/02/27 22:49:40 ID:???
この期に及んで、ロスチャイルドは、ガチホモ疑惑を必死で否定しようとしていた。
無理も無い。普通の感覚では先生とガチホモは両立しない。

>「先生だろうがガチホモだろうが関係ないよ。――お前はお前だろ?」

そうだ――先生という偶像が砕け散った今、はっきりと認識できる。
ロスチャイルドはオレにとって、先生だろうがガチホモだろうが関係がないのだ。
もっと、決して揺らがない地位がある。

>「神を殺すぞ、お礼参りだ!ぶちかませ――お前ら!」

その言葉を皮切りに。
メタルクウラのですボールが炸裂する。
続いてモンスター達が、ロスチャイルドを嬲り殺しにする。無邪気に、邪悪に、華麗に、残酷に。

もはや何もしなくても、ロスチャイルドは死ぬだろう。出る幕がない、というやつだ。
それでも、オレは走った。剣を右手に。
憎き敵に自分の手で一矢報いたい、一瞬でも早く苦しみを終わらせてやりたい、二つの想いを胸に。
かつて、護るためにしか使わぬと誓った剣で、ロスチャイルドの左胸を刺し貫く――。

「ロスチャイルド、あなたは神ではない、そして、人間ですらなかったんだ――
お前は罪も無い人達を、多くの部下たちを、アイツらを死に追いやった殺人鬼だ……!」

返り血を浴びるのも構わず、ロスチャイルドに再び抱きつく。
今度は母親としてではなく、息子として。

「どうして助けてやらなかったんだよ、父さん……!
オレを自分好みに改造した程のガチホモのくせに一度だって手を出さなかった……
ガチホモ以上に父親だったってことだろ!?」

父親――それは、大量殺人犯だろうが、ガチホモだろうが、人間ですらなくても、決して揺らがない地位。
拾われてしまったのが、運の尽きだ。

「父さん自分の事は先生と呼ぶようにうるさかったからな……やっと呼べた。
全ての生命に生まれてきた意味がある、父さんは教えてくれたよね。
でも、生きる事に意味なんて無いんだよ――。
これだって終わってしまえば、意味も無く繰り返す争いの歴史の1ページに過ぎない。
安心して。どんな聖人君子も、極悪人も、最期は平等、朽ち果てて土に還るだけ――。
そうだ、お前なんて骨一本残らず消え去ってしまえ――永劫回帰《ディグラデーション》」

跡形も無く消えてしまえ、無様な姿をこれ以上曝させはしない――
唱えたのは、通常長い時間をかけて行われる死体の土への分解を極限まで早める魔法。
ロスチャイルドの体が、指先から、足先から、少しずつ砂となって、朽ちてゆく――。
最後まで抱きついた姿勢のまま、誰にも聞こえないように、呟いた。

「やっと会えたね……。さよなら……父さん」

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