もう22時か、
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【TRPGの】ブーン系TRPGその6【ようです】

1 :名無しになりきれ:2010/12/02(木) 22:43:46 0
はじめに

このスレッドはブーン系とTRPSのコラボを目的とした合作企画であります。
詳しくはhttp://jbbs.livedoor.jp/internet/7394/
をご覧下さい。

一応のコンセプトである『登場人物はAAをモチーフに』はどんなAAでも問題ありません。
でないとブーン系に疎い人はキツい物があるでしょうから。

登場人物は数多の平行世界(魔法世界やSF世界等)から現代に呼び寄せられた。
或いは現代人である。と言う設定になっております。

なので舞台は現代。そしてあまり範囲を広げすぎても絡み辛いと言う事から、
ひとまずは架空の大都市としますです。

さてさて、それでは楽しんでいきましょー。




参加用テンプレ

名前:
職業:
元の世界:
性別:
年齢:2
身長:
体重:
性格:
外見:
特殊能力:
備考:


2 :エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/12/03(金) 06:56:27 O
「クッ……!キリがないわ、ねえっ!そう思わない!?」

襲い来る触手を噛み千切れば、それはボトリと落ちて溶けるように消えてなくなる。
けども切断面から新たな触手が生え、再度向かってくる。
口にも出したが、キリがない。

「(あら……、ハルニレ?)」

視界の隅に、ハルニレがあの穴の中へ飛び込んで行くのが見えた。
触手を相手にしながら様子を窺うが、戻ってくる気配はない。

「…………ああ、もう!世話が焼けるわね!」

私は身を翻し、触手が追ってくるよりも早く穴へと飛び込む。
穴は想定していたより少し深かった。すぐ後ろには触手達。死に物狂いの追いかけっこが始まる。
しつこい男は嫌われるってのに!

「ハルニレ!」

見えた。穴の底に向かって、私は腕を突き出した。
ひやりとした手と、私の手が繋がった。それをしっかり確認し、私は再び飛び上がる。


「文句言わないでよね。助かっただけ有り難いと思いなさい!」

地上に出、半ば放り出すようにハルニレを降ろす。
私がハルニレを助けていた幾らかの間に、増援が増えていた。
見た目普通の少年だが、彼からも魔力を感じ取る。戦う術を持っているのだろう。
少年は私を見て目を丸くする。私のルックスに何かご不満でも?

「増援は有り難いわ。少年さん」

くっちゃべっている暇などない。
今こうしている間も、私は触手を相手に戦っているのだ。

「それじゃ、そこのデカブツは頼んだわよ!」

少年とハルニレ、それに琳樹さんへと向けて私は声を張り上げた。
ペニサスさんに乗った琳樹さんが何か言っているのを無視して、私は急降下する。

向かった先は、あの小さな人型の化け物。
私は正々堂々と真っ正面から降り立つ。それが癪に触ったのか定かではないが、化け物は腕を高く振り上げる。
それよりも早く、翼を象っていた黒いオーラが私の足に纏い、刺々しいブーツに様変わりした。

「鬼さんこちら!」

忌々しそうに化け物が振り下ろした腕は、虚しくも地を潰すだけに終わる。
その時、私は化け物の懐に飛び込んでいた。



3 :エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/12/03(金) 06:58:28 O
「ハァァアーーーー…………」

ブーツに魔力を注ぎ込み、パワーが漲る。
私は魔力が籠もったブーツを纏わせたその足を、勢い良く振り上げ――……

「ハイヤァアアッ!!」

化け物の股間に直撃。
≪切断呪文≫をモロに受け、化け物は縦に真っ二つに裂けた。

「よっし……ってええええええ!!?私が二人!?」

化け物が地に伏したことで、向こう側にいた私にそっくりな女の子がいることに初めて気づいた。

「…って、驚くのも今更よねぇ」

あちこちに顔の似た者同士がいるし。と苦笑する。
けども、一瞬だけ流れた和やかな空気は一瞬にして失せた。

「な…」

私は目を見張った。
すかさず体勢を立て直す為、女の子の隣に降り立つ。
何が起こっているのか。化け物の死骸が……、

「さ、再生している…!」

じくじくと切断面から気泡のようなものが湧き、肉と肉が絡み合う。
ほどなく、化け物は何事もなかったように立ち上がった。

「あっはははははははは!アラウミが切断如きで死ぬとでも?」

少年だった青年がゲラゲラと愉快そうに笑った。

「隙だらけだよ、悪戯少年!」

その背後にTが回りこみ、巨大な鎚を振り下ろそうとした。
それを右腕で容易く受け止め、Tごと吹き飛ばしてしまった。

「真っ二つにするんじゃダメ、ってこと?」

唸り声を上げ、アラウミは突進する。スピードが無駄に早いゴリラみたい。
ブーツで床を蹴り、私は宙を舞う。
けど逆さになって、ようやく自分の格好を思い出した。

「きゃあ!見ないでよエッチ!」

重力に従って捲れるスカートを押さえる。パンツが見えたかもしれない。
……ちょっと、喜んでんじゃないわよ変態共!燃やすわよ!



4 :エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/12/03(金) 06:59:21 O
……ん?燃やす?………………良ーいこと考えた!

「切断がダメなら、消し炭にしちゃえばいいのよ!」

再び突進してきたアラウミの肩を踏み台にするように蹴飛ばし、女の子の元へ真っ直ぐ向かった。

「アレを倒す策を……」

勢い余って壁に首をつっこみ、引き抜こうと躍起になっているアラウミを見、また女の子へ視線を戻す。

「……思いついたの。貴女の協力が必要よ」

その途端、足元に巨大な魔法陣が浮かび上がった。私の魔力で描いた魔法陣だ。

「私はアイツを消し炭にする魔法を煉るわ。
 その間、アイツの相手をして欲しいの……出来る?」


【エレーナ→佐伯:魔法を詠唱する間は無防備になるから、
 その間アラウミの相手をして欲しいの】
【ドルクス・ペニサス:VSぽろろ。必要があれば動かして構いません】
【T:VSレン。タチバナさんをサポートします】

5 :鈴木 ◆OryKaIyYzc :2010/12/03(金) 21:15:53 O
ホール内に向かう道すがら、何か妙な雰囲気を感じ取る。
文明市に特有の攻撃的な雰囲気ではなく、おどろおどろしいような危機感だ。
真っ先に察知したのだろう萌芽が、引きつった笑顔で振り返る。

「あーっと……と、取りあえずその……ここに入るのやめときません?」

それは出来ない、と鈴木が言おうとした瞬間、内部から悲鳴が上がった。
萌芽が溜め息を吐き、鈴木は頭に手を添える。

「悲鳴ね……どうにもきな臭いわ……。
 それにこの感じ。どうにも大事みたいね?」

佐伯が公文へ連絡を取ろうと携帯を取り出し、指示を出そうと口を開いた時。

「ううう……!!」

迷った末の呻き声を上げ、萌芽が内部に走って行った。
鈴木は何も言わず、視線だけを佐伯に向ける。

「ちょっと!!萌芽……どうしたの?何かを感じた。って所なのかしら。仕方無い。
 とりあえず奥に行ってみましょう。萌芽の様子が少しおかしいわ」

「了解」

佐伯の言葉に鈴木は短く答え、二人は萌芽を追った。

―――――――――――――――――――

佐伯と別れた鈴木は、先程まで乗っていたバンのドアを叩いた。
右腕には、久羽より預けられた幼い少女。
鈴木に答えるように、ドアが開く。中に居た鴨志田は訝しげな目で鈴木を見ていた。

「何です? 何でいきなり幼女連れて帰って来たんですか?」

「詳しい説明は全部後!
今そこで久羽さんに会ったのよ、それで治療と保護を頼むって言われてね」

久羽の名を聞くと鴨志田の態度が一変した。
鴨志田は昔から久羽に恋心を抱いていたのである。

「ええ! 久羽さんですか!?
何で久羽さんを見つけたのに連れて来なかったんです!
ずっと連絡無かったからこっちは心配で心配で…」

「あーもーうっさい!」

「ぴぎゃ!」

散々喚く鴨志田を掌底打ちで黙らせて、眠る幼女を押し付ける。

「いいこと? あんたが好きな久羽さんからの命令よ。
その少女を月崎本邸にて保護し、怪我を治療する事。
その後、特徴的な四人の迎えが来る筈だから、その時に彼女を引き渡す事。オーケイ?」

答えを聞く前に車のドアを閉める。
了承の代わりに、黒塗りのバンは月崎本邸へ出発した。

―――――――――――――――――――

6 :鈴木 ◆OryKaIyYzc :2010/12/03(金) 21:17:00 O
―――――――――――――――――――

「さて、と」

車を見送った鈴木は、携帯を取り出した。
掛ける相手は宗男。

「五分振りね宗男」

うんざりした様子の宗男に、鈴木は無遠慮にケラケラ笑う。
笑いが収まると、鈴木は早速本題に入った。

「あと十分位で鴨志田が幼女連れて帰って来るから、フォロー宜しく。詳しい事は鴨志田に聞いて頂戴。
それと…今真雪さんを探している分、したらばホールに回せない?
こっちで大事件が起こっちゃって、私や今この中に居る人員じゃ足りないの。
あとトラックも欲しい。関係ない被害者達をそこらへんの公園へ捨てるから」

鈴木の言葉を聞き、宗男は考え込む。それからゆっくりと確かめる様に口を開いた―――――



宗男から良い返事を貰い、鈴木は電話を切る。
携帯を懐へしまいながら、ホール内へと飛び込んだ。

「あんたら戦闘出来ない人員はサッサと避難しなさい!
逆らったり動けないようだったらトラックに詰めるわよ!」



【ターン終了:逃げ遅れた非戦闘員のフォロー】
【戦闘不能になった場合、鈴木やSPの方々によってトラックに詰められます。気張れ皆さん】


7 :竹内 萌芽(1/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/04(土) 01:21:09 0

とりあえず二体のバケモノと一人の少年から適度に距離をとり、
萌芽は四枚のカードを持ったまま彼らを睨みつけていた。

さて、意気込んでみたのはいいものの、一体どこから手をつけたものか……
萌芽が少し悩んでいると、後ろからよく響く声が聞こえてきた。

「萌芽!!」

振り向けば、そこにはこちらに走ってくる零の姿。
自分の隣まで来ると、彼女は周りの惨状を見渡した。

「萌芽……」

自分の名前を、呼ぶというよりは思わずと言った感じで彼女は呟くと、
騒ぎの真ん中にいるバケモノたちを睨みつけた。

「これ、アイツ等がやってるって事で良いのかしら?」

視線はバケモノたちから離さず、彼女は言う。
その横顔を見て、萌芽はああ、そうか、と、自分がとても大切なことを忘れていたことに気付いた。

なぜ、自分はいままでずっと、零を守ろうなどと思っていたのだろう?

あのとき”彼女”は言っていたではないか、自分は、お前に守られるほど弱くはないと。

「見ての通りです」

くすり、と笑って萌芽は、自分って本当にバカだなあと思った。
そうだ、自分が一体いつ彼女を守れるほど強くなったというのだろう?
自分は、いや、『自分たち』は、ずっと一緒に戦ってきたのではなかったか。

「しかし、私も運が無いわね。こっちに来てから下り、ずっとトラブル続きじゃない……
 もう良い。もう良いわよ。これも『ヒトダスケ』ってことね。もういい加減に愚痴を言う気にもならないわ」

「零だけが運が悪いわけじゃないですよ。今日は多分、僕たち二人とも運勢最悪ですね。
 まったく……どうしてこう、どいつもこいつもデートの邪魔ばかりするんでしょうか?」

そのとき萌芽が吐いたため息は、決して自らの不運を嘆くだけのものではなかった。


8 :竹内 萌芽(2/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/04(土) 01:22:48 0

零は目の前のバケモノたちを交互に見回し始める。

「オーケィ。大体分ったわ……あっちのお人形さんは引き受けるから萌芽は大きい奴を黙らせて頂戴。
 しかる後、あの頭の緩そうな奴を袋叩きにするわよ。」

久しぶりの彼女の指示に、萌芽はどこか懐かしさのようなものを感じた。
そういえば、いつもこうやって、自分たちの『人助け』は始まっていたのだ。
まず彼女が自分に的確な指示を出し、そして自分がその指示をもとに彼女のバックアップをする。
正直敵を一体任せられるというのは滅多にない機会だったが、
それもなんだか自分が一人前だと認められたようで、萌芽はうれしかった。

「おー、あれ、可愛い顔して意外と強そうですよね……」

「え?なに?面倒なのを押しつけないでほしい?
 男は黙って大物狙いで行きなさい。ほらお客様が来たわよ?」

「言ってませんよ。あと零、これ―――ベント・イン」

”UNITVENT”

手に持ったカードが赤く燃えて消え、そして次の瞬間現れたものを零に手渡した。
それは、どこかメタリックな色をした、黒いスカーフ。

突撃してくる人形。だが萌芽は恐れてはいなかった。
彼は確信していたからだ。―――次の瞬間、自分は零に突き飛ばされていると。

地面を転がりながら、萌芽は零に叫ぶ。

「とりあえず、それ巻いといてくださいね。役に立つのはもちろんですが、
 ペアルックでもしとけば、こんな状況でも少しはデートっぽくなるでしょう?」

そう言って萌芽は、彼女に渡したものと全く同型のこちらはメタリックグリーンで染められたスカーフを首に巻く。

”『疾風』!!”
    ストレンジベント
幼い声の自分の相棒が、一生懸命渋い声を出そうとしているのを聞いて、萌芽はちょっと噴き出した。

【UNITVENT―『切り札』―】
 竹内萌芽と任意の一人の存在をある程度”融合”させる『文明』。
 使用者は対となる『疾風』を装備した人間の精神的作用を持つ能力を使用することができる。
 これを装備することによって、佐伯零は次の三つのことが可能になる。
1:あやふやによって実体のないイメージ具現化させる
2:まわりの空間をさぐり、いち早く敵の居場所を知ることができる
3:竹内萌芽に適合している文明の使用
 3により、現在『サバイブ』に近付きかけているストレンジベントにあたらしく備わった
 【使用適応(パーフェクト・プレイ)】が佐伯にも適合される。


9 :竹内 萌芽(3/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/04(土) 01:25:01 0

ゲル状のぱっと見は可愛らしい巨大生命体に、萌芽は駆け寄る。

「まとめてベント・イン!!」

宙に放られる二枚のカードが、炎を上げて消え、萌芽の両手から小さな火柱が上がる。

”STRIKEVENT SWINGVWNT”

炎が晴れ、現れるのは2本の短い棒、その先端には赤いまるで鬼の頭のような―――

「お?」

―――違った、猫の頭のような宝石が取り付けられている。
萌芽は、その武器の性質を【使用適応(パーフェクト・プレイ)】によって一瞬にして理解する。

「ぉぉぉおおおおおお!!」

唸り声をあげながら、両手に持ったまるで太鼓を叩く『撥』のようなそれに気を集中する萌芽。
それに伴って両手に持った撥の先から赤い炎が上がる。
しかし、攻撃に隙のできやすいその攻撃を目の前の巨大スライムが見逃すはずもなかった。

襲いくる、青い触手。
しかしそれは、横から入ってきた赤く、凶暴なデザインの鎖に弾かれる。

”アッヒャー!! 久々の大活躍だぞおおおおお!!!”

がんがんと、調子に乗って暴れまわるストレンジベント。
両手に持つ撥に灯った炎が限界まで高まったことを確認した萌芽が、
気合と友にそれを目の前のバケモノに向かって振るう。

巨大な二つの火の玉が、バケモノに向かって飛び、命中した。
小規模な爆発が起き、バケモノのゲル状の体表が一瞬にして蒸発する。がしかし―――

あれだけ巨大な生命体が、この程度の攻撃で沈むはずもない。

再び伸びる触手。

いや、しかし様子がおかしい。その触手はどうやら自分を狙って伸ばされているものではないらしい。

「ハルニレ!」

見れば、化け物の根元の方に女性が居る。

「危ない!!」

萌芽の身体が、一瞬にして彼女の側に踊りでる。
零の持つUNITVENTから、彼女の身体面の能力が萌芽に供給されているのだ。

そのまま燃える二本の撥で、萌芽は彼女に襲い掛かる触手を払う。

「何をしてるんですか!!」

叫ぶ萌芽が、彼女の手元を覗き込むと、そこには彼女と手をつなぐ、男性の姿があった。
後ろ姿しか見えないが、女性にこのサイズの男性を持ち上げられるとは思えない。

”アタシも手伝うぞー!”

そう言ってストレは下にいる男性に絡みつくと、その身体を自分たちと同じ高さまで引き上げた。


10 :竹内 萌芽(4/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/04(土) 01:27:38 0
「文句言わないでよね。助かっただけ有り難いと思いなさい!」

男性をどやしつける女性、その姿を見て、萌芽は驚いた。
似ている、いやそれどころではない。”存在”を直接認識することができる萌芽の”感性”には、
目の前の女性の”存在”が、零と全く同じに映ったのだ。

(全く同じ……だけど、全然違う?)

まるで、そう。植物の葉っぱの形の一つ一つは全く違うけれど、その根っこは同じものであるように
その存在の”根っこ”の部分というか、そういうものが彼女たちは完全に一致していたのだ。

そして、零のほうがその根っこまでの距離が異様に短いような……

自分で自分が何を考えているのか、彼は分からなくなりそうだった。

「増援は有り難いわ。少年さん」

周りで、ストレンジベントが襲い来る触手を弾いている。

「それじゃ、そこのデカブツは頼んだわよ!」

はっと気付いたときには、もう彼女はどこにもいなかった。
一体なんだというのだろう?

”もる!! もる!! アタシだんだん疲れてきたー!!!”

「あーもう、うっさいですね! 出番だなんだとかで始めからはしゃいでるからですよ!」

とりあえず、萌芽は目の前の敵を倒す作業に戻ることにした。

「おッ!!」

二本の燃える撥を使い、少年はバケモノの体表を何度も殴る。
連続して起こる爆発。一瞬だけバケモノの身体がわずかに削れるが、それもすぐに修復してしまう。

「あーもう、これはこのバケモノを根元から消し去るしかなさそうですね。
 でもこの触手邪魔臭ッ……そこのおじさんたち!!」

後ろにいる二人の男性に、萌芽は叫ぶ。

「ちょっとあいつの足止め、お願いしてもいいですか?
 ちょっとの隙さえ作ってもらえれば、僕があいつを吹き飛ばします」

にこり、と萌芽は笑った。その手には人差し指と中指で挟んだ、赤く輝く一枚のカード。

「大丈夫です、今僕は”最強の爆弾”を持ってるんですから」

カードには、道化師のヌイグルミのシルエットをかたどった、金色の絵が描かれていた。

【ターン終了:手札『FINALVENT』足止めさえしてくれれば、発動します】


11 :名無しになりきれ:2010/12/04(土) 10:56:35 0
文明を武力に用いるアウトローの元締め・文明市の支配人以下戦闘員達との折衝に金の力を存分に使い、
これまた金の力で文明購入の橋を渡したタチバナ達休鉄会一行。命も安全も文明も、最早金で買えないものはなかった。
とまあ金の魔性というかその力を思い知らされたタチバナは、待っていた休鉄会の元へ戻り、

>「肝が冷えたってレベルじゃなかったわよ!」

説教されていた。

>「今回はたまたま、た ま た ま幸運だったから良かったようなものの! 
  一歩間違えたらそれこそ命取……ってちょっとぉ!聞いてるの!?」

タチバナは全力で聞き流していた。馬耳東風もかくやの聞き流しっぷり。
それはもう、全裸で正座でお叱りを受けねばならないレベルの失態だったが、タチバナとて何も考えずに身を投じたわけではない。
金を持っているというただ一点のおいてのみの自信だったが。

>「時にタチバナさん。ちょっと良いかしら?」

エレーナが去り、すわ支配人に文明について案内してもらおうと踵を返すと、そこには蝙蝠女――ペニサスが立っていた。
彼女はタチバナの頭に手を寄せ、そして。

>「ていっ」

デコピンを打たれた。三連発である。

>「今回はこれで許してあげる」
>「さっきのアレ、私だって怒ってるんだから。……あんまり、ああいう死に急ぐような真似はしないで頂戴よぅ」

柔和な笑みに少しだけ影を落とすと、額を摩るタチバナを尻目にペニサスは去っていった。
打たれた額がじんじんと痛む。いつもはすぐに消える痛みが、何故だか酷くゆっくりと染みていく気がした。

《いいやつらじゃん》

「……うん。こうやって人から顧みられるのは随分と久しい気がするよ。悪くない気分だ」

苦笑し、ふと気付いた。
能面のように微動だにしないか、狂気染みたアルカイックスマイルを貼り付けるだけだった顔面が、自然に笑みを浮かべている。
苦笑いだとか、そういう人間らしい表情など生まれてこのかたした覚えがなかったのに。

(不安定になっているのか……僕らしくもない)

ただその変化は、なんとなく居心地が良かった。

12 :名無しになりきれ:2010/12/04(土) 10:57:29 0
>「うわぁあっ!?」

傍にいた仮面が素っ頓狂な声を挙げ、弾かれるようにそちらを向くと、そこには人影が一つ増えていた。
見たタチバナが、一時停止をかけたビデオ映像のように止まる。硬直する。そこに居たのはタチバナだった。
『タチバナと完全に一致する外見の男』だった。双子なんてレベルじゃなく、髪型に到るまで同一。

タチバナは目を僅かに開き、開いたままの口から言葉を零す。
ゆっくりと。

「「………………これは驚き桃の木山椒の木だね」」

――仮面の背後にいる男と、ピタリ同じタイミングで、面白いぐらいに同じ声音で、そう呟いた。


               【誰が為に鐘は鳴り、君が為に金は無く】
 

>「見たまえ、動く私の等身大マネキンがある!鏡要らずだね!」

対面の男が二の句を継いだ。
言葉回しまで酷似していて、しかしタチバナの脳裏には異論が浮かぶ。

「少し違うね。ほら、僕と君の顔にある"ほくろ"の位置に注目したまえ。左右反転……丁度鏡写しになっているだろう」

指で示したほくろは、なるほど男とは左右対象に点在している。
『鏡要らず』とはまさしくその通りであり、同時にタチバナの記憶が一瞬の映像を喚起する。

(これは――昨夜のシャワー室。あそこで鏡に映った『僕ではない僕』にそっくりだ)

あの夜、髪を解いたにも関わらず鏡には変わらずオールバックのタチバナが写っていた。
『そのタチバナ』と、今目の前にいるタチバナと鏡写しのような男とは、今度こそほくろの位置までピタリと一致するのである。

(この符号は――伏線は。一体何を意味するんだろう)

何かのフラグの立つ音が、幻聴として聞こえた気がした。

>「いやはや、世の中には同じ顔を持つ者が三人いるというが!運命の巡り合わせとしか言いようがないね!
  おっと紹介してなかったね、私の事はTとでも呼んでくれたまえ!それから……」

『T』と名乗ったタチバナそっくりの男は、仮面の人物を引き寄せて言う。

>「私の妹の久羽だ。『仲良くしてやってくれたまえ』」

「――――ッ!! ……なんと」

そこに居たのは妹だった。無論Tの妹であるのは間違いないが、彼女は――彼女の顔は、正しくタチバナにも覚えがある。
『精霊指定都市SENDAI』――タチバナの故郷で共に暮らしていたたった一人の血を分けた妹と、逸然に同一だったのだ。
そして同時に核心に至り、確信を得た。異世界人。平行世界。同じ顔の、同じキャラ立ちのする二人。

(『平行世界同位体』――この世界のどこかにはいるだろうと思っていたが、こうも早く邂逅するとは)

没入する思考の外で、タンクローリーに引火したかのような地を揺るがす大爆裂が発生した。

13 :名無しになりきれ:2010/12/04(土) 10:58:27 0
>「やっほー精霊使い、昨晩ぶりだね!あのメス達は元気?」
>「すごいだろう?地下で怨み声が聞こえるなーって来てみればビーックリ!
  コイツ、文明実験とやらでぐちゃぐちゃになっちゃった集合体だってさ!」
>「コイツを封じるには、これしかない。モチ、僕は渡す気は更々ない」

レン。
昨夜、BKビルで対峙した化物使い。『世界制服』を背に担う人外の少年。

「君は、」

>「何人でも良いよ。僕達を倒せるものならね……行け、アラウミ、ぽろろ!」
>「皆さん、私達はあのスライムを食い止めます」
>「そういえば聞いた事があるね。昔の文明研究者達の実験の産物が旧市街地の何処かに埋められたとか何とか……そぉい!」

「君たちは、」

>「思ったより早い再会になっちゃったね?」「あれ?アンタ、≪分身霊≫でも使ってんの?」
>「僕はこの世界が憎い。僕を生んだ世界が憎い。だから滅ぼしてやるのさ。そして僕は『征服者』になる」
>「僕が、この世界の秩序(カミ)になる」

急転する事態、流れていく思考、加速する展開。
一気に置き去りにされたタチバナは、ゆっくりと呼吸しながら、重々しく言葉を吐いた。

「空気を読みたまえよ……!!」

いよいよタチバナの正体を探っていこうというときにこれである。
昨夜もそうだったが、どうにもこの小さなゾンビマスターはタチバナの謎解きパートの際に限ってやたらエンカウントしてくる。
ダンジョンで宝箱の回収をしている最中に出てくる雑魚モンスターのようで、タチバナはそれを蛇蝎のごとく嫌っていた。

「何もかもが浅いね君は。浅慮で浅薄だ。世界が憎い?残念だったね、世界は君のことなどこれっぽっちも気にかけちゃいない。
 分かるかい、一方通行の横恋慕でしかないのだよ君の想いは。どうしようもない構ってちゃんでしかない。
 子供の理屈だよ。振り向かせたいのなら自分を磨いて、振り向くだけの価値のある男になりたまえ。ネットに書いてあったから間違いない」

レンの殺傷圏内にも関わらず、絶賛バトル中のTに目もくれず、タチバナはずんずん歩いて行く。

「僕はバトル系のキャラじゃないからね。いいかい、想いを伝え合うのに拳は要らない。言葉だけで十分だ。
 そういう肉体労働はハルニレ君やドルクス君に任せればオールオッケーで、しからば僕は頭を使おう。頭脳で君に肉迫する」

大気を抱擁するように腕を広げ――いつものあのポーズ。
呼応するように、陥没した空間の上、地上から影が降ってきた。

「三名様ご案内ーっ!」

タチバナとレンとの間に新たな人影が墜ちる。落下を感じさせない、猫のように柔軟な屈脚で勢いを殺して着地する。
彼我に割って入るようにして降り立ったのは、文明市の支配人――スーツ姿の若い男。
同時にレンは気付くだろう。その右肩に、紐で結った短冊状の紙片、栞が刺さっているのを。

「おーっと安心召されよ?バトルキャラらしくちゃあんと解説してあげるからさあ!
 『万象中断《ブックマークアヘッド》』――ぼっちゃんの『右肩』を中断した。正確には運動神経の伝達をだ」

14 :名無しになりきれ:2010/12/04(土) 11:03:22 0
お客に手を出されちゃ困りますなあ、と支配人はほくそ笑む。
胸を逸らして息を吸い、

「お客様の中にアウトローの方はいらっしゃいませんかァーーーッ!?」

遠くからはぁい、と挙手の声が聞こえた。いくつも連続し、重なった。
『文明市』はアウトロー御用達。石を投げれば当たるほど、それこそ掃いて捨てるぐらいにはいらっしゃる。
そして彼らは残念なことに、逃げ遅れもしなければ逃げすらしていない。戦闘能力があるから。戦うだけの力を持っているから。

「ここに我々の聖域を侵すもの在り!しからば今こそ我ら剣を取り迎撃し撃滅せよ!――平たくいうなら好きなように料理して!」

よく通る声がしたらばホール中に響き、そして一つまた一つとアウトロー達に呼応の声が挙がる。
やがてそれは、巨大な決起の渦となり、集団の内包する暴力が解き放たれる。

「ヒャッハー!敵だ敵だ!この平和な街でこんなチャンスそうそうないぞ!試し斬るぜ切るぜKILLぜ!!」
「一狩りいこうぜゲハハハハ!!オラッそこの触手を討伐して剥ぎとってやるぜ!そして素材を集めて武器を作るぜ!」
「モンハン新作買えなかった恨み妬みつらみを無関係のこいつで発散してやるぜグヘヘヘヘヘ」
「おれはゴッドイーターのほうがいいなあ」

アウトローたちが、そのリモコンで、爪切りで、孫の手で、マウスパッドで、侵入者達を迎撃する。
したらばホールは血が流れ肉広がる惨劇の現場から、血湧き肉踊る戦禍の渦中へとその姿を変えていく。

「ガキに化物二匹……見るからに金もってなさそうなツラだし負債回収できるまで今夜は寝かさないゾ☆
 って、あれェーゴネ得さんがなんで二人!?そうかどっちかがドッペルさんかこっくりさんかなんかそういうのだな!
 ただでさえムカツク面が二人!だけど1足す1が2以上になるのが人間の底力ってもんだ。ウザさ当社比で100倍近いね!」

タチバナと、同じ顔のTを交互に見比べ、そこに少しの差異も認められなかった支配人は狂った。
躁状態のようにからからと笑うと、スーツの胸ポケットから更に栞を抜き出しタチバナ達へ突きつける。

「俺が定数に間引いたげるよ」

「まあ待ちたまえ支配人君。そしてよく思慮するんだ。――所持金も二倍。羽振りも二倍。そうは思わんかね」

「二人居ても素敵!」

支配人はタチバナを押しのけ、槌を構えるTを護るように立ちはだかる。

「その腕章、『進研』のでしょ?文明貸出しの胴元がこんなアングラに何の用か知らないけどくれぐれも死んでくれるなよ」

折衝がめんどくさいんだ、と補う支配人の傍でタチバナは満足気に頷きレンを見る。

「秩序《カミ》になると行ったね。だが人が在り続ける限り、常に秩序は崩され、神は幾度と無く死んできた。
 だから今回も例に違わず君を破壊し、君を降そう。だって僕ら――」

打ち合わせたように支配人も口を開き、

「「――アウトローだもん」」

嫌なとこだけ付和雷同に同調した。
ネットに書いてあったから、間違いない。


【文明市のメイン顧客・アウトロー達が参戦。各戦闘の文明サポートモブ及びやられ役としてお使い下さい】
【支配人がレンの右肩に『万象中断』をぶち込む。右肩の神経伝達を中断。タチバナは棒立ち。支配人はTを最優先で守ります】

15 :李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2010/12/04(土) 11:21:57 0
「痛い痛い痛い!姉ちゃん足踏まんといて!」

「ふうン、犯罪者っテ感じでは無さそうだナ。
 ……と言うカ、アレ。オワリが見張ってル筈の連中だろウ?」

繁華街の一角。
さしたる興味も無い露店商の陳列品を手に取りながら、飛峻は隣に居るジャージ姿の兔に声をかける。

Cafe・Takaokaに居るという自分達以外の異世界人集団。
その監視のため尾張を残し榎を尾行した三人だったのだが、どういうわけだがお互いの対象が接触してしまったのだ。

「姉妹、らしいナ。確かに貌の造りは似ているカ」

そして現在、榎がその妹に絶賛折檻中。というわけである。
説教だけでなく、何やら真剣な話も交わされている様子なのだが、この距離からでは怒声や悲鳴くらいしか聞き取れない。
その辺は兔の能力に期待するとしよう。

(そういえば、あの連中を監視してるなら尾張も来ている……か)

一旦榎たちから視線を外し周囲へ走らせる。しかし尾張の姿は何処にも見当たらない。
もっとも、以前はビルの非常階段という人気の殆どない場所でもしてやられたのだ。
声や足音はおろか衣擦れや息遣いまで一切の音を遮断する彼が、人ごみに紛れたのなら発見するのはまず不可能だろう。

「見つからんナ……マア、仕方ないカ」

探すのを諦め、再び榎たちに視線を戻した飛峻は思わず感嘆の声をあげた。
次いで聞こえる悲鳴も当然のことといえよう。
榎慈音が妹に、それはそれは見事な頭突きをぶちかましたのだ。

「アンタ、そいつ等がどんな奴か分かって言ってんの!?アイツ等は異常者よ!アンタが関わっていいような奴らじゃないの!」

人目も憚らず榎が声を荒げ、一方の少女も負けじと食い下がる。

(……文明調査官が血相を変える程の手合いか)

その連中を追っているのは誰あろう異世界人の集団。
同じく異世界人たる飛峻にとっては興味を惹かれる話だ。
気づかれる危険はあるが近寄って詳しい内容を聞きたい、そう思う程には。

だが、その必要は無くなった。榎姉妹の会話が打ち切られたからだ。
妹を突き飛ばし慈音が足早に立ち去る。
残された少女は、姉から渡された紙切れを手に仲間と相談している。

「さテ……ト。俺達は変わらずエノキを尾行するのカ?」

銀細工のアクセサリーを元の場所に置きながら、飛峻は兔に問いかけた。

16 :タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/12/04(土) 18:32:48 0
>>11
>>12
>>13
>>14

すいませんコテハン忘れていました。上記がタチバナのレスです

17 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/12/05(日) 02:01:22 0
(意外に早い。でも見きれないほどでもないか……)

振り向き様に振り回される両腕(りょうかいな)をかわし、回り込むように背後をとる。
萌芽にあぁは言ったが、実際問題として零が相手をしている人形は手ごわい。
単純にスペックが高いと言う事もあるがより問題なのは手の内が見えないと言う事だ。
試しに二、三、攻撃を掻い潜り反撃を試みたがその全てが大して効いてはおらず、逆に強引に押し切られたと言う事もあり零は反撃を控え守りに徹している。

踊る様に避けた先に振り下ろされる鋭い爪。零はそれを蹴り払い相手の行動を遮る。
その際の衝撃で飛び散るなんだかよく分らない液体を避けるように、半歩前進し腹部を蹴り飛ばし勢いを利用して回る様に距離をとったのだが、
流された髪が首に巻きついてしまう。その様に零は小さく舌打ちし払いのけた。

「髪、長過ぎて邪魔ね……縛るか」

そうして、零は両手で髪をかきあげ縛るために固定を始めた。
その最中にも背面越しに攻撃を読みスウェーイングを真逆に用いる事で惹きつけながら攻防を開始。
一つ二つ、さらに重ねて……四つ、五つ!!繰り出される暴力を読み切って、それをかわし距離を保ち続ける。
見えないと言う状況下の中、手が届くか届かないかの合間。ようやく髪を纏め終わった零は反撃に転じるべく動き出す。

「さて、ちょっと離れなさいな!!」

そうして放つ反撃はまさに竜巻一線。遠心力を付け、連続で叩きつけられる蹴りの暴風。それが人形を襲う。
一つ、二つと攻撃は続き、奇しくも先程の攻撃と同じように計五発の蹴りがクリーンヒット、止めに中段蹴りで吹き飛ばす。
そして、零は余裕を持って背を見せつけ、萌芽に手渡されたスカーフで髪を縛りとめる。

「ポニーテール……っと、……へぇ。面白い冗談ね」

その動作を終え、振り向き追撃を開始しようとした時、そこには不思議な光景が広がっていた。

「よっし……ってええええええ!!?私が二人!?」

「…って、驚くのも今更よねぇ」

自分がもう一人居る。その足元には真っ二つに切り裂かれた人形。
その様を見て零はフムと頷き、呟く。

「どうにも!……今日は厄日ね」

その言葉の意味。それは真っ二つになっている人形を指している。
零の目が確かならばソレは徐々に元の姿に戻り始めていた。

「な、再生している…!」

そう言葉を発し、もう一人の零はそばに降り立ってくる。

「お疲れ様。どうやらこの辺がアレの手の内って事ね」

じくじくと切断面から気泡のようなものが湧き、肉と肉が絡み合う。そのグロテスクな外見は筆舌にしがたい……
ほどなく、人形は何事もなかったように立ち上がり、咆哮を上げる。どうやら再生する事で蓄積されたダメ―ジも回復したらしい。

「あっはははははははは!アラウミが切断如きで死ぬとでも?」

「アラウミ?」

零はその聞いた事のある、いや、忘れようがない単語を聞き、オウムの様に返す。
アラウミ。アラウミと言えば荒海銅二だ。
しかし、彼は……
そこまで考え、零は思考を中断する。どうせ考えても意味の無い事だからだ。

18 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/12/05(日) 02:03:09 0
「真っ二つにするんじゃダメ、ってこと?」

「ダメって言うよりかは再生力の方が上って事でしょう。
 どうせやるなら、徹底的にやらないと意味がないってことよ」

そう返す姿は奇妙な事この上ない。
なぜなら、同じ顔をした人物同士で会話しているのだから。

そうこうしている内にアラウミは体勢を完全に立て直したらしく、素早いがしかし鈍重な動きで突っ込んでくる。
既に「何度となく」攻撃を見きりかわしてきた零にとって、その直線的な動きなどもはや目で追う必要すらない。

「はいはい…ッ!!」

もう一人の自分が宙へと避難したのに対し、零は見きっていると言う事もありカウンターに持ち込む。
しかし、繰り出すのは足かけだ。これではアラウミを止める事など出来よう筈がない。筈がなかったのだが……直線的な軌道を描きアラウミは宙を舞う。
アラウミが宙を舞った訳。それは直撃の瞬間に『重力制御』を発動させた為だ。
UNIT VENTを通し零にも効果を発揮し始めた文明ストレンジベント。
その効果の一つ、『使用適応』により今の彼女は文明の使い方を完璧に理解している。そしてその対象は『重力制御』も変わりがない。

「力点に対して、支点を設け、作用点が存在する。って所ね。そして、それに対して加速度を制御する事で……」

轟音。重ね続けて一、二、三つ。それは全てアラウミが発したもの。発せなければならないもの!!

「力学とか知らないけどこれぐらいわね?」

そう言葉を占める零。彼女がやった事は単純に足かけをした事(支点を作った事)、重力を制御して荒海を加速させた事それだけだ。
つまる所、これが本当の戦闘時における文明の使用法。それを零は学習した通りに再現したのだ。
しかし、アラウミはその攻撃(自爆)をものともせずに立ち上がり雄叫びをあげる。
それを眺めつつ、零はこっち戻ってきた自分を見やる。

「アレを倒す策を……思いついたの。貴女の協力が必要よ」

「具体的には?」

その途端、彼女の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。その光はどこか禍々しく、神秘的な色をしていた。

「私はアイツを消し炭にする魔法を煉るわ。
 その間、アイツの相手をして欲しいの……出来る?」

質問。それに対する答えなど聞く前から決まっている。

「魔法?胡散臭いけど要は火葬って訳ね?」

「ふぅん……時間を稼がのは構わないのだけど……」

瞬間、零の右手に眩い光が灯り輝く。

「 原 形 を と ど め て 居 る 必 要 は 別 に 無 い の で し ょ う ?」

そして、光が収まった瞬間。握られているのは四枚の紙片。
TRICK VENT、STRIKE VENT、ACCEL VENT、FINAL VENT……
つまりは萌芽の持つ文明の効果を本格的に使用する事が出来るようになってきたという事だ。

「準備が出来たら合図なんかしなくて良いから放って頂戴。
 下手に気取られて、入りが浅かったら目も当てられないもの……!!」


19 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/12/05(日) 02:04:12 0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

未知の存在、止められない?
ためらいを持てば、この瞬間もまた罪無き声が消されてゆく……
その様を見て感じるのは痛みと怒り、そしてそれを無くしたいと言う誓い!!

「選ばれし者だけが手にする力か……ついて来れるなら、……」

ついて来なさいと言う声はかき消され、後に残るのは「白い和装の少女」の残像のみ。
あふれだす感情がこの身体を突き動かし、衝動となって零を駆り立てる。
しかし、彼女は知らない、分らない。何故、自分がこんなにも熱くなるのか?感情が激しく燃え上がるのか?その訳を!!

「ま、知る由もないがね」

そして、その場に居る全ての要素をあざ笑うようにソレは足を組む。

「どう思う?にゃんこ大将軍様?」

「君は……いつもそんな感じですね。うすらとぼけている様で実はいつでも真相のすぐ隣で欠伸を欠いている。
 君なら言わずとも分っているでしょう?今回もまた、傍観に徹するだけですよ」

人知れず、人に見られず、気取られず。ソコと言う場所に猫と魔女はお茶会を開いている。
漂う、マスカットフレーバーを満足げに魔女は猫に問いただす。

「万が一にもゼロとホライゾンがやられたらどうするんだ?」

「あり得ませんよ。少なくとも貴女の大事なお友達はそう出来てるのですから。
 そして、あの少年にはサバイブがついている……」

「ハッ!だが、今のこの状況は予想外だろ?
 世の中なんてみんなそういう風に出来てるのさ!!僕もそれで寝首を掻かれた事が何回もある」

「貴女の場合は参考になりません。
 死ぬ事はおろか、存在をやめる事も使命を放棄することも許されずに何万周回も世界を繰り返させてきたのだから」

会話の中、零はアラウミを追い詰める。
空中にバラ撒かれたカードを連鎖的に使用し、彼女はアラウミに反撃の余地すら与える事無く一方的に虐殺して行く。

「そうかいそうかい。でも、それはお前も同じだろ?最も僕は続ける気そのものが無かった口だけどさ。
 だが、お前さんは続けるために調整をしているんだ。なら、何故傍観を貫く?」

「それは私が猫だからです。猫の手も借りたいとは言いますが、実際猫の手など借りても何にもなりませんでしょう?」

「怠け者な狐と矛盾した猫か……本当にいいコンビだよ。
 さて、お次はいよいよ異世界から来たのにもかかわらず居付ったて言う変わり者の所だな」

そうして、その奇妙なお茶会が終焉を迎えた時、BGM代わりとなっていた闘争は終わりを迎える。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【状況:時間稼ぎ中。好きなタイミングで魔法をぶっ放して構いません】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許 UNIT VENT←new】

20 :ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2010/12/06(月) 21:37:32 0
「ドースッカナー……」

ぽろろは自分にきづいていないのか、上にいる触手がハルニレを襲うことはない。
しかし、こんな深い穴では地上に登れない。おそらく彼がここにいることは、誰も気づいていないだろう。

「コレデ埋メラレタラ最悪ダナ」

万事休すだ。ハルニレは出鱈目に巨大なぽろろを見上げた。
ふと、ぽろろに触れたらどんな感触がするのだろうという疑問にかられた。
彼は変なところで空気が読めず、その気まぐれな性格故に、ハルニレはナイフを振り上げた。

「ソォイッ!」

ズブリと嫌な音を立てて、腕ごとナイフがぽろろに突き刺さる。
感触としてはウォーターベッドに似ている。あまり気持ちのいいものでもないので、一気に引き抜く。

「ン?」

ぽろろにつけた傷が治らない。それどころか、傷口から体液のようなものが漏れてきた。
何かヤバい。後ずさりしはじめたハルニレに、数多の触手が、刺された場所やその周辺から生え、襲ってきた。
いくつもの触手が、ハルニレの顔や体に絡みつく。

「ッコノ、気持チ悪ィ……!」

>「ハルニレ!」

触手と格闘するハルニレに、聞き覚えのある声が届いた。直感的に、触手を振り払うように腕を上げる。
掴むのは、温かな人の手。しかし、その手が誰のものか理解し声を張り上げる。

「ッ、駄目ダエレーナ!オメージャ無理ダ!」

その時、新たな気配が現れる。しかも二つ。まさか触手か、瞬間的にハルニレはナイフを構える。

>「何をしてるんですか!!」

>”アタシも手伝うぞー!”

杞憂だったらしく、味方だった。ハルニレの周りを何かが絡みつく。
エレーナの腕を掴んだまま目を瞑っていると、地上に放り出され、尻餅をついた。
それを見たゼルタが、触手を避けながらハルニレに駆け寄る。

「ハルニレさん!」

「ゼルタ!」

>「文句言わないでよね。助かっただけ有り難いと思いなさい!」

「別ニ文句ナンザ言ッテネーシ、助ケテクレナンテ言ッタ覚エハネエ!何ダソノ上カラ目線ハ!」

「ちょちょちょっ!喧嘩してる場合!?」

エレーナが鬼のような形相でハルニレをどやしつけ、負けじと言い返す。
にらみ合い、一触即発の空気が流れる。先に視線を外したのはエレーナのほうだった。

>「それじゃ、そこのデカブツは頼んだわよ!」

飛び立つエレーナ。いつのまにか増えていた少年は、早速ぽろろを攻撃し始める。
ハルニレは、自分の持つナイフを見下ろした。Qから貰ったそのナイフを。
脳裏に、先ほどの現象が蘇った。もしかしたら、このナイフでならコイツを倒せるんじゃないかと確信していた。


21 :ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2010/12/06(月) 21:40:22 0
>「ちょっとあいつの足止め、お願いしてもいいですか?
  ちょっとの隙さえ作ってもらえれば、僕があいつを吹き飛ばします」

「ふ、吹き飛ばすって、どうやって……」

突然の少年の提案に驚くゼルタ。なぜなら、少年が見せたのは、一枚のトランプのようなもの。

「イイゼ、本当ニ吹ッ飛バセルナラナ。ソレト……」

触手が少年に襲いかかる。ハルニレはそれを見逃さず、ナイフで斬り落とした。

「俺ハマダ25ダ。オジサンジャネー」

切り落とされた触手は、回復することがない。ドロドロと体液が流れ、ぽろろが鳴き声のようなものを上げた。
怒り狂うぽろろが次々と触手を向けてくる。ハルニレはそれをナイフで退ける。

「よーし!あたしだって、ただ立ってるわけじゃないんだから!!」

その戦いぶりに、優勢なハルニレに後押しされるように、ゼルタは勿論、他のアウトロー達も触手に立ち向かっていく。

「! オメーラ、一旦離レ……!」

突然、何かを感づいたハルニレは声を張り上げる。
しかしそれより早く、触手の一部が瓦礫の山を持ち上げ、瓦礫の雨霰を降らせた。
それらは例外なく、ハルニレ達にも降り注ぐ。

「ッ、ウラァッ!!」

ハルニレは迷わず、傍にいた萌芽達を突き飛ばしていた――――――――――――――……。

・―――――――――――――――――――――――・
意識が朦朧とする。しかし、意識を失っているわけではなかった。
誰かの泣き声が聞こえる。ゆっくりと視線を上に向けると、それはゼルタのものだった。

「ゼルタ……?」

「ハルニレさん、バカだよ、あたしは死んでるのに……こんな無茶……」

ゼルタが必死に、泣きながらパイプのようなもので瓦礫を退かそうとしている。
やがて気付く。自分の下半身が、瓦礫によって下敷きにされているのを。

「ハハッ、ザマアネエヨ……」

22 :ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2010/12/06(月) 21:42:19 0
視線を彷徨わせると、すぐ側にあの少年らしき、トランプを持った腕が見えた。
死んでいるのか、と血の気が失せるのを感じる。しかし生きているらしく、腕が動いた。
ハルニレは動く手でゼルタの足を掴み、自分の声が聞こえるように座らせる。

「ゼルタ、聞ケ。俺ハ自力デ脱出出来ル。オ前ハアノ地味ナガキヲ助ケルンダ」

「で、でも……」

「行ケ!アノバケモン倒セルノハ、アノガキダケナノカモシレネーンダゾ!」

ゼルタはしばし呆然としていた。ハルニレが何を言っているのか分からないと言いたげに。
その時、悲鳴と咀嚼音が聞こえた。瓦礫で動けなかった誰かが食われたらしい。
ハルニレの視界の隅にも、触手が見えた。

「ハヤクシロ!食ワレタラ終ワリナンダゾ!」

兎が跳ねるように、ゼルタは萌芽の元へと向かった。
その直後、ハルニレの腕に冷たいものが当たる。それは加減を知らない強さで、絡みつく。

「(クソッ、腕、折レテヤンノ……)」

右腕に引き攣るような痛みを感じる間に、瓦礫から引きずり出され、視界がどんどん高くなる。
やがて、視線はぽろろの顔らしき部分まで到達した。鼻と鼻(ぽろろに鼻はないが)がくっつきそうな距離だ。

「ハッ……ワザワザ近ヅイテクレルトハ、ゴ苦労ナコッテ」

ガパリと大口を開けるぽろろ。口の向こうは、闇だ。
ハルニレは≪/メタル≫を持った腕を、ぽろろの眉間に、勢いよく突き刺した。

「【エルム街の悪夢】!!」

ぽろろが断末魔のような咆哮を上げた。そして電気ショックでも受けたように、ピタリと動きを止める。
ハルニレの体は触手をすり抜け、重力に従って地へと落ちていった。

【ターン終了:ぽろろの瓦礫の雨霰攻撃。受けるなり回避なりお好きにドゾー】
【ハルニレ→萌芽:怪我を負った場合、ゼルタが介助します。ぽろろの動きを止めましたので攻撃をどうぞ】


23 :◆SQTq9qX7E2 :2010/12/08(水) 14:26:32 0
『お前が!お前が父さんを殺したんだ!!』
『止めるんだ久羽!馬鹿なこと言うんじゃない!』

……私?高校生だった頃の、私と、兄さんだ。
制服を振り乱して、子供みたいに喚き散らして、兄貴に羽交い絞めにされて。
部屋の隅で、女の子がうずくまっている。檸檬に庇われるように抱きしめられた、幼い真雪が。
………ああ、これは。父さんの葬式のときの記憶だ。

『言っただろう久羽!真雪が父さんを殺すはずがない!殺せる筈がないんだ!』
『人殺し!父さんを返せ!父さんを、返せええ!!』

悲しみが泉のように沸いて、それは止まることを知らなくて。
いっそ、涙と一緒にこの怒りや悲しみも流すことができたなら。

『殺してやる!この悪魔!切り刻んでやる!!』
『おい檸檬、真雪を安全なところへ!俺が久羽を止めている間に…早く!』

悲しみは憎悪へ、そして一気に殺意へと変わる。
檸檬におぶられ、私を檸檬の背中越しに虚ろな目で見つめる真雪と目が合った。
その時、私は確かに見たのだ。真雪の唇が微かに動いたのを。

『この、ひとごろし』

夕焼けに染まる部屋が、私の視界が、白と黒の単調な色へ変わっていく。
渦のように歪んで、ぐるぐると回る、廻る―――――――――――――――――――……。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「……ゆ、め?」

目が覚めると、私は瓦礫の中にいた。起き上がろうとすると、頭痛が襲ってきた。
頭を強打したのか。あの男にナイフを渡してから、記憶がな……。

「俺の下で何してんだこの変態兄貴!」
「おはよう久羽、出来れば退いてくれると嬉しいんだがね。何せ君は重…」

顔面に一発お見舞いしてやるのを忘れずに、私はTの腹の上から退く。
やっぱりというべきか、あちこちボロボロだ。が、治してやると言っても、擦り傷や軽い打撲だけだ笑うだけ。
気を遣っているんだ。私の≪異能≫が、著しく体力を消耗するのを、彼は知っている。

「今久羽がやるべきことは、別にあるはずだよ」

それだけ言うと、槌を肩に抱え、足を引き摺りながらタチバナの元へ向かう。
私にはただ見送ることしか出来ない。兄貴が頑固だということは、重々承知だから。
今私がやるべきことは――……。

「……アレを、どうやって止めるかだな」

刀を掴み、暴れまわるぽろろを見上げた。加勢が加わったものの、アイツの動きは止まることを知らない。
兎にも角にも、動かなければ始まらない。止まっていては、意味がない。


24 :◆SQTq9qX7E2 :2010/12/08(水) 14:28:27 0
【side・T/橘一生】

>「まあ待ちたまえ支配人君。そしてよく思慮するんだ。――所持金も二倍。羽振りも二倍。そうは思わんかね」
>「二人居ても素敵!」
「そういう現金なところ、私は嫌いじゃないよ支配人君」

Tを差し置いて、タチバナ君も支配人君も二人して勝手なことを言い合っている。
金銭に関しては常に久羽に任せているから、僕は無一文に近いんだが……まあ良いか。嘘をついてるわけでもなし。

>「その腕章、『進研』のでしょ?文明貸出しの胴元がこんなアングラに何の用か知らないけどくれぐれも死んでくれるなよ」
「HAHAHAHAHA、ご心配なく。死んだら久羽に殺されてしまうのでね。簡単には死ねんよ」

死んだのに殺されるって日本語としておかしくないか?

「(言葉の綾というやつだ。それに、久羽君ならやりかねんと思わんかね?)」

否定はしないが。Tは口を噤み、突然の侵入者――レンを見る。

>「秩序《カミ》になると行ったね。だが人が在り続ける限り、常に秩序は崩され、神は幾度と無く死んできた。 」
「何故か。所詮、神は人によって作られてきたからだ。諸行無常。何物も、神にはなれない」
>「だから今回も例に違わず君を破壊し、君を降そう。」
「「だって僕ら――」」

「「「――アウトローだもん」」」

一句一音違うことなく、三人の声が重なった。打ち合わせでもしてるのかお前ら。

「しかし、神か。どこの世界にも、同じようなことを考える奴がいるもんだね」

どっかの誰かさんみたいに?そう問いかけてみたが、Tは何も答えない。
僕の声が自分にしか届かないのをいいことに、都合の悪そうな質問には何も答えないのがコイツだっけ。

「さて、反撃といこうか」

Tはそう言うと、レンとの間合いを詰めることなく、横に大きく薙ぐように槌を振るった。
防御出来ない側、つまりレンの右側を執拗に攻める、攻める。

「どうしたんだい?さっきまで余裕そうな表情だったじゃないか!もっと楽しんだらどうだい!?」

HAHAHAHA!と余裕ぶっこいて右側を狙う、とにかく狙う。
久々に大暴れできるからテンション上がってるんだろうか。

「……時に思うのだが」

何だ。Tが指差す先は、今まさに瓦礫の山を放り投げようとする触手。

「瓦礫の雨は流石にアウトだと思わないかね?」

槌がペンに戻り、ペンの先から青い線が迸り、地面に何かを描く。
書き終えた途端、地面が大きく抉れ、僕らの頭上を庇うかのようにドーム状の盾に変化した。

「ふう……今のは食らったらアウトだったね」

瓦礫がもう降ってこないことを確認し、青犠牲《アライク・アポカリプス》を解除する。
刹那、レンの顔のドアップが、目一杯に映った。

「ばぁーか」

頭蓋骨に衝撃が走る。痛みとともに、意識が遠のいていく―――――。

25 :エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/12/08(水) 14:29:32 0
【side/エレーナ】
>「魔法?胡散臭いけど要は火葬って訳ね?」
「まあ、似たようなものよ。これが完成するのに結構時間がかかって……」
>「ふぅん……時間を稼がのは構わないのだけど……」

もう一人の私の手が、光り輝く。
手に握るのは、四枚のカードのようなもの。

>「 原 形 を と ど め て 居 る 必 要 は 別 に 無 い の で し ょ う ?」

それからは、とにかく筆舌に尽くしがたい活躍を見せ付けられた。
カードを使いこなし、アラウミを追い詰めていく。頼もしい限りね。
私も気兼ねなく、魔力を煉ることが出来る。

魔法陣がグルリと一回転。外円から炎がほとばしり、ゆっくりとそれは形を作っていく。
やがて出来上がるのは、――――……

「……あれ?狐?」

……九つの尾を持つ、黒色の巨大狐になってしまった。どうしてこうなった(AA略

「な、なんでこうなったかよく分かんないけど…行けッ!」

私の合図に応えるように、九尾の狐が吼え、アラウミに飛び掛かる。
燃え盛る歯でかぶりつき、鉄板のような尻尾で薙ぎ払い、身体に炎を纏わせ、体当たり。
その姿は雄雄しく、そして美しい。予想以上に成功していたようだ。

「やれー!やっちゃえー!ほらそこ、ワンツー、ワンツー!」

私は狐を操作する手前、円から動くことは出来ない。故に、自然と応援に回る。
アラウミはボコボコのフルボッコだ。再生が追いついていない。

「オーッホッホッホ!さあ、そろそろフィニッシュよ!」

私がサッと腕を上げると、狐は空を仰ぎ、グヮバッと口を開いた。
熱気が集中し、それは巨大な、それこそアラウミをすっぽり包めそうな炎の玉が顕れる。

「サルの丸焼きにしてやるわ!食らe――……」

刹那、突如狐が攻撃を止める。炎の玉が縮み、消滅した。

「ちょっと、何してるの!早く仕留め……」

すると向きを変え、もう一人の私の首根っこを咥え、自分の背中に放り投げた。
今度は目にも止まらぬ早さで私の首根っこを咥えて飛び上がった時、瓦礫の山が降り注いだ。

「わわわわわっ!?」

死に物狂いで狐の背中に跨る。狐の身体は熱くない。ふわっふわのもっふもふだ。
狐が器用に瓦礫を避ける中、もふもふしたいのを堪え、私は目を凝らし、ドルクスやTを探し始めた。



26 :ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2010/12/08(水) 14:30:52 0
【side/ドルクス】

「……な、何て無茶苦茶な…」

俺は瓦礫の山を静かに周辺へ降ろし、ペニサス様が【盾の呪文】を解除した。
リンキさん、ペニサス様は共に無事だ。くw…Qは気絶しているが問題はないと思う。
それより、ハルニレさんやゼルタさんはどこだろう。あの少年も、エレーナ様も。

>「【エルム街の悪夢】!!」

聞こえてきた断末魔のような鳴き声と、ハルニレさんの声に上を見上げた。
何かが落ちてく……ハルニレさん!?

「危ないッ!」

翼を展開させ、一直線にハルニレさんの元へ飛び、すんでのところでキャッチ。
全く、冷や冷やさせられっぱなしっスよ……

「あ」

視界が傾く。振り返ると、翼が消えていた。

「こんなところで魔法切れええええぇぇぇぇ……」

結局、ペニサス様のクッション魔法で助けられる結果となった。
俺カコワルイ。顕れた特大クッションに埋もれながら、俺は静かに凹むのだった。

【エレーナ・黒狐:アラウミを仕留めるのに失敗。さえきんを乗せてメンバー探し】
【ドルクス:ハルニレを救助。魔法切れのため役立たず化】
【ペニサス:メンバーを回復・介抱します】
【T・Q:Tはレンに頭突きされ気絶。Qも同じく気絶中】

27 :レン ◆ABS9imI7N. :2010/12/10(金) 23:45:37 0
レンは軽く目を見開き、能面のような表情で右肩に刺さった栞を凝視する。
タチバナとTは、輪の中心にいるレンに向けて言い放った。

>「秩序《カミ》になると行ったね。だが人が在り続ける限り、常に秩序は崩され、神は幾度と無く死んできた。 」
>「何故か。所詮、神は人によって作られてきたからだ。諸行無常。何物も、神にはなれない」
>「だから今回も例に違わず君を破壊し、君を降そう。」
>「「だって僕ら――」」

>「「「――アウトローだもん」」」

不気味なまでにシンクロする三人。
そして開始されるのは、

>「さて、反撃といこうか」

Tによる怒涛の反撃。

>「どうしたんだい?さっきまで余裕そうな表情だったじゃないか!もっと楽しんだらどうだい!?」

Tは、封じられたレンの右腕を執拗なまでに狙い打ちにする。
右腕が使えないレンは、左腕や足を使って防御するしかない。
しかし、レンにとってこれは非常に面白くない事だった。
いつも見下していた人間が、自分より優勢に立っている。自分だけではない、あのアラウミやぽろろまでも。

「………………調子に乗るなよ、人間共が!」

反撃出来ないレンの代行をするかのように、ぽろろが瓦礫の豪雨を降らせる。
勿論、レンには瓦礫の雨の動きが読める。
もし読めなかったとしても、問題はない。アラウミが盾代わりになってくれるから。

「さあ……まずは、あのチョーシこいてくれちゃったオニーサンに『オシオキ』しなくっちゃね」

T達は盾を作り出し、ガードしている。狙うなら、それを『解除した瞬間』だ。

脚部に意識を集中し、ロケットスタート。
幸か不幸か、ジャストタイミングでTが盾を解除した。

「ばぁーか」

頭部を仰け反らせ、防御させる暇もないスピードで頭突き。
今度はTが仰け反り、倒れた。間髪入れず、動かない右腕を遠心力の応用でぶるんと振るった。
それは支配人の右側の横っ面をはっ倒す。

「さっきのお返しだよ」

ニンマリ笑ったその時、ポロリと右腕が肩から『抜け落ちた』。
ボトリと床に転がる、栞が刺さった右腕を、レンは「あーあ」の一言で済ませた。

「やっぱり50年も身体をそのままにしてたのが悪かったかなぁ」

まあいっか、とタチバナの方へ向く。爛々と輝くその瞳に映るのは……。
先ほどから武器として使っていた小さな緑色の斧を弄くり、レンは笑う。


28 :レン ◆ABS9imI7N. :2010/12/10(金) 23:46:18 0
「これさ、貰い物なんだ。名前何だっけ…ラクナントカっていうんだけどさ。
 何でも、切った部分が爆発するんだって。まだ見たことないんだけど……」

言いながら、レンは残像を残し消え失せる。
そして次の瞬間には、タチバナの目と鼻の先にいた。


「アンタで、試してみようか?」

上段に構え、それを一気に、振り下ろす。

斧の刃先はタチバナの右肩を捉え、食い込む。
そしてスッパリと、右腕を――――――綺麗に、切断した。

「ありゃ、爆発しなかったか。残念」

タチバナの右腕を手に取り、切断面をしげしげと眺める。
背後からぐじゅり、と咀嚼音がし、レンは振り返った。

「あーー!こらアラウミ、それ僕の腕!」

時既に遅し。アラウミはペロリとレンの右腕を平らげてしまった。

「あーあ。まあ良いや、丁度代用品があるし」

レンはそう言うと、右肩が出るように上半身の服をはだけさせ、
タチバナの右腕と自分の肩の切断面をベチャリと引っ付けた。
切断面同士が接着したその瞬間、肉が糸のようにシュルシュルと動く。
そして、まるで初めからレンのモノだったかのように、タチバナの右腕は引っ付いた。

「ん。こんなもんかな……動かすにはちょっと時間掛かりそうだね」

その時、軽快な音楽がどこからか流れてくる。
レンはポケットをゴソゴソ探ると、携帯電話を取り出し、慣れた手つきで操作した。

「レンですけどぉ。……ああ、アンタか。うん、ジュンチョーチョージュン。
 ……ハァ、ケーシチョー?シンシガイチね、おkおk、今いくよー」

通話を終了させ、携帯電話をポケットに戻す。

「よーし、移動するよアラウミ」

パンパン、とアラウミの肩を叩き、ぽろろの出てきた穴へと向かう。
ぽろろの残骸へ歩み寄り、まるで長年戦った戦友をいたわるかのような視線をぽろろへ向けた。

「まだまだ暴れ足りないだろう?もっともっと殺したいだろう?おいで……」

すると、ぽろろの口らしき所からドロリと、青いゲル状のものが吐き出された。
生きているかのようにグニョグニョと動くソレを大事そうに抱え、タチバナ達の方へ振り返る。

「じゃ、また会おうね。精霊使いと愉快な仲間達さん」

ニッコリ笑うと、レンは穴の中へ飛び込んでいった―――――――――。


29 :レン ◆ABS9imI7N. :2010/12/10(金) 23:47:32 0

【新市街地・とある路地裏】


「この辺で良いかな、っと」

レンが今いるのは、新市街地のとある路地裏。
人通りがほとんどなく、レンに気づく者は居ない。

「さて、連絡があるまでココで待機か。メンドーだなあ」

レンは一人ぼやく。これから新市街地を襲う訳だが、タイミングを見計らなければならないらしい。

「ん?」

物音がしたので視線を向けると、一人の男がぐるぐる巻きにされ転がされていた。
ジッとレンはその男を見つめる。

「……ああ、おなか、減ったなあ……」

ニンマリと、レンの唇の端が吊りあがる。
男は、得体のしれない恐怖から、逃げ出そうともがく。


「いただきます」


狭い青空の下で、ゴキリ、と嫌な音が響き渡った。


【レン:タチバナさんの右腕ゲット。サブさん食べちゃった。ごめんなさい】

30 :月崎文子 ◆OryKaIyYzc :2010/12/13(月) 15:19:50 O
.

月崎本邸。
当主たる文子は、自室で溜め息を吐いていた。

(全く…使えない…)

二進数にて得た情報によると、鈴木は真雪を追わず何故か文明市にて発生した問題に手を付けている。
余計な事をしている暇が有るなら早く真雪を攫って来れば良いものを…
引き続き二進数を操り、情報をかき集める。
とある情報を確認した瞬間、文子の表情が一変した。
―――――――――――――――――――
宗男に携帯を用意させ、文子は未だ自室に引きこもっている。
二進数で得た情報を元に、とある番号へと掛けた。

「やあ、はじめまして…第十三世界―――通称『モンスターワールド』のレン君?」

レンと呼ばれた相手は驚き、次に警戒した。
全く知らない相手から、電話番号から名前まで当てられたからだろう。
その様子を全く気にせず、文子は楽しそうな声で誘う。

「君に頼みが有る。なに? メリットが無い? 信用仕切れない?
全く、君はつまらんことに拘るなぁ」

敢えて挑発的な態度を取り、勝負に出る。相手が聞く態度を取ったなら勝利だ。
そして、文子は勝った。

「ああ、ただ一つだけの要求さね。
次に出逢う、ヘアバンドをした少女。彼女を、『なるべく無傷』で月崎本邸に連れて来て欲しい。
報酬は…そうさねぇ…魂の乗り換えショー、それを面白く楽しませてあげよう。
なんなら、君の目的に協力したって構わない。どうだい?」



【レン君に真雪誘拐のお願い】
【月崎文子(?):自らの目的の為月崎真雪の体を自分が乗っ取りたい】

31 :鈴木 ◆OryKaIyYzc :2010/12/13(月) 15:21:07 O
.

状況は混沌を極めていた。

ゴーレムを完膚なきまでに打ち倒す佐伯と、火狐を生み出す少女。
触手と戦う萌芽と冴えない青年、それと久羽。もう一人は触手の麓だ。
怪物を操る青年と対峙する一生と、『一生にそっくりな』青年。プラス支配人。
そして、鈴木の言うことなんざカケラも聞かない野郎共。

状況は混沌を極めていた。



嫌な予感に、鈴木は振り向く。
予感は当たっていた。触手が瓦礫をバラまく。

「うわっちょっと…」

触手から距離を取っていた事と、降り注ぐ岩を確実に見ていた事。
そして、蛾を追っていた時に手に入れた『身体強化』のおかげで、当たらずに住んだ。
周りを確認すれば、触手を相手にしていた奴らはほぼ全滅。一部喰われてるし。
一生も気絶している。仕方ない…仕方ない?

(どちらかと言えば、チャンスかも)

そして、鈴木は動く。
一生を抱え、外に運び出した。トラックと黒塗りのバンの二種類有るが、バンの方に一生を詰める。
内部に入れば、何だか良く分からない特大クッションが出現していた。
それを横目に、鈴木の仲間達は気絶している奴らを次々と外に運び出す。
その中に久羽が居るのを見て、鈴木は駆け寄った。

「ちょっと待った!」

「どうしました、何か問題でも?」

止められた男の顔に疑問符が浮かぶ。
鈴木は久羽の仮面を外す。男の疑問符は、驚嘆に変わった。

「久羽さんっ!?」

「そう。そういう事なのよ。だから、公園行きじゃなくて本家行きでお願い」

「はい、了解しました!」

元気良く動いた男はやっぱり久羽のファンで、久羽を大切に扱いながら外に連れて行く。
それを見守ると、鈴木は特大クッションの方に向かった。

「はあい! 大丈夫じゃなさそうねぇ!?」

何だか凹んで居るようだが、鈴木は特に気にしない。
クッションに飛び乗って、いきなり本題に入った。

「いきなりで悪いんだけど、この後予定は有るかしら?
付いて来て欲しい所が有るんだけど…まあ、了承しなくても拉致しちゃうんだけど」

【終了:TとQは月崎本邸行き。そしてドルクス勧誘】

32 :タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/12/15(水) 01:48:53 0
腕を盗られた。気を取られ、切り取られた。
満を持してバトルを始めたTがレンの頭突き一発で沈み、さんざん強キャラアピール(笑)してた支配人がビンタの一撃で落ち。
瞬く間に孤立無援と化したタチバナは、反応する暇もなくレンの持つ手斧で右腕を肩口からバッサリとやられた。

「――――――っ!」

タチバナの表情は変わらない。閾値を超えた痛みは脳が遮断するように"弄って"ある。
が、流れ出る血は止められない。心臓に近い太い血管が外からも見えていて、そこから滝のように鮮血が噴く。
彼は喪失した自らの肩に手のひらを当て、

「『万象中断(ブックマークアヘッド)』――!」

小さい明滅のあと、時間を止めたかの如く出血はピタリと止まった。

「あっ、俺の文明いつの間に!」

頬を張られて吹っ飛んで、瓦礫に身体の半ばまで埋められた支配人が自由な方の半身を振り回しながら叫ぶ。
タチバナが用いたのは支配人の胸ポケットからこっそり一枚抜いておいた栞型の文明『万象中断』。出血を中断したのだ。
もっとも、栞の明滅は支配人のそれとは比べ物にならないほど弱く、出血も一番太い血管からの血を止めるだけに終わっている。

「……僕の適合率ではここまでか。不安定なのは不安だが、そこはそれ緊急措置の応急措置だ」

少しずつ血の滲み出る肩を抑え、眼前のレンを見る。
血の気のない少年はタチバナと同じように右腕がなかった。中断された腕でのビンタは流石に負担が大きかったらしい。
違うのは、そこから先の措置。

>「ん。こんなもんかな……動かすにはちょっと時間掛かりそうだね」

レンは、タチバナの腕を、まるで接木のように、まるで積み木のように、まるで吊木のように。
プラモデルでも作るかの如く、己の切り口に接合した。癒着する音。融合するように接合する。

「なんと」

>「レンですけどぉ。……ああ、アンタか。うん、ジュンチョーチョージュン。
   ……ハァ、ケーシチョー?シンシガイチね、おkおk、今いくよー」
>「じゃ、また会おうね。精霊使いと愉快な仲間達さん」

レンは肉塊から珍妙な物体を回収すると、地盤の下にポッカリと空いた穴へと飛び込んでいった。
何からなにまで勝手きままに引っ掻き回しただけの少年は、最後まで何の説明もなくその場を辞した。

「…………いやはや」

タチバナは息をつき、ようやく臨戦の緊張を解く。
敵は去り、文明市は壊滅状態。各所で勃発していた戦闘は終焉し、今は事後処理に追われる者たちの姿があった。
血を流し過ぎたせいで足取りが覚束無い。Tやその妹は応援に駆けつけた者達に回収され、タチバナは仲間の元へと戻ることにした。

「誰か止血と輸血のできる者はいないかな?――そろそろ僕も、限界だ」

瀕死のホタルのようにチカチカしていた栞もいよいよその光を失い、はらりと地面に落ちる。
同時に、辛うじて血止めしていたタチバナの肩から再び盛大に出血し、そこでタチバナの意識は途絶えた。


【戦闘終了。タチバナは失血のショックで意識不明に】
【メンバーの治療と現状の整理をお願いします。次ターンで復帰し行動指針を決めます】

33 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/12/17(金) 00:22:37 0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《FINAL VENT!!》

エコーがかった「女性の様な」電子音が鳴り響き、最後の紙片は零の手に消える。
背面には生き物としての形をしたオブジェとなり果てたアラウミが必死の再生を行い、再起を試みている。
しかし、それももう不可能だろう。
腕、足、首、全身をくまなく破壊された上に対峙した相手は無傷なのだから。

「これで、show downよ!」

アラウミに対し零は最後の切り札『FINAL VENT』を行使する。
世界を構成する要素にfull chargeされ、不可視で不可侵なチカラが体を駆け巡り、一気にカタチを帯びて行く!
そして現界するその直前。チカラは爆ぜる……

「失敗……?」

思わず声に出して落胆するが、それは間違いだ。
FINAL VENTは確かに発動した。だがそれは不完全な形であり、佐伯 零の深層心理におけるイメージを具現化すると言った方法に留まったのだ。
そして、その結果が……コレだった。

『kyAAAAAAAAAAAAAANNNNNNN!!』

耳を擘く様な悲鳴が轟き、業火を纏いて漆黒影縫九尾裂狐が零の真横を駆けて行く。

「ッ!?狐?」

暴れ回り、本能的な攻撃を行うその様を見て彼女は何とも言えぬ不快感を感じ、そして、一方で安堵する。
その対象はアラウミと言う存在の終わりを感じたからなのか?それとも、目の前に存在する異形のものの為か?
どちらとも言えない感覚を振り切り、アラウミの相手を任せると零は萌芽と先のドッペルゲンガーを捜す。
幸いにももう一人の自分はすぐに見つかった。彼女は五芒星を中心にした魔方陣(?)の中心で指示を出している。
しかし、萌芽は見つからない……

(萌芽……!どこ!?)

頭を一巡させ見渡すと、例の巨大な化け物は未だに絶賛臨戦態勢であり、その様から零の脳裏に嫌な予感がよぎる。
バックコーラスに破壊音を垂れ流しているこの場所だ。当然、辺りは廃墟と化している。人が倒れていても見つかる由は無い。
仮に、萌芽が倒れていたとしよう……誰も気づかないのではないだろうか?

(……ッ!!)
生きているかどうかと言った事は、先に手渡されたスカーフからおぼろげだが感じ取るれるもののその反応は非常によわよわしい。
もし、怪我をしていたら、生きてはいるものの重症だったとしたら……
そこまで思考が追い付き、決断を下す。とにかく今は彼を見付けなければならない。
仮に無傷なら憎まれ口でも叩いておけばいい話だが、そうでなかったら……もし、そうでなかったら。
頭の中に渦巻く複雑な感情。その行きつく先は全て「嫌だ」と言う否定の感情。

(ねぇ……?どうしてこんなに否定したくなるの?
 だって、アイツは訳分らなくて、自分勝手で、その癖、変に近くに居て!どっちかって言うと好きになれないタイプなのに!!)

嫌いなのに…!と思う心とは裏腹な彼女の本音。
しいて名を付けるならソレはLOVE(アイ)と言う名の表裏一体、矛盾と言う名の真逆が重なる一つのカタチ。裏表(ツンデレ)ラバー。

34 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/12/17(金) 00:24:05 0
(なんで、こんなにも傍に居なければならないって思えてくるの!!)

「あぁ!!もう、なんなのよ!!私はどうしたいのよ!!アンタは一体何なのよ!!
 こう言うはっきりしない曖昧なのが一番嫌なの!!白黒はっきりしてよ!!」

最後に「私!!」と叫び締めくくる。吐き出す息は妙に白く感じた。
そうして、イノセントで気違いじみた感情論をぶちまけて走り出そうとした時だ。突然、彼女の体は空中に投げだされる。

「きゃっ……?」

一度頂上まで上り詰めた体は、ゆっくりと降下。ほよんとした漆黒の毛皮の質感が零の体を包み込まれる。九尾の狐だ。
結果的に零とエレーナは狐にしがみつく様な形で降りかかる瓦礫と言う名の災いから退避を図る。

「グッ……」

振り落とされないように身を屈める零。何処となくもれた言葉から滲むのは焦燥と言う感情……
焦り、しかし見落とさないように萌芽を探していた時、零の視界に鈴木が入ってくる。

(瓦礫の方は一段落ついてる……合流しよう)

「鈴木さん!!こっち!!上です!!」

「ごめん!ちょっと下ろして!!あそこに知り合いが居るの!!」

一人よりは二人、二人よりは三人。そして三人寄らば文殊の知恵。とまでは行かないがそれでもこう言った場面では人手がほしいものだ。
零はありったけの腹筋を用い、腹式呼吸で二人に向け声を張り上げた。

【状況:鈴木と合流を図る】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許 UNIT VENT】

35 :榎 慈音 ◆YcMZFjdYX2 :2010/12/17(金) 19:58:45 0
「(どういう事よ……)」

こみ上げる吐き気を無理やり押さえこむ。
路地裏に血の臭いが蔓延する。頭が割れそうな錯覚に陥りそうになる。

「(聞いてないわよ、こんな事……)」

白洲が捕まえたという文明犯罪者の確保の為に来たはずなのに、
目の前で繰り広げられているのは、蓮コラも真っ青なカニバリズム。
あの青年を捕まえるべきか、慈音は決めかねていた。
しかし、自分もあの死体の仲間入りをするのではないかと思うと、体が上手く動かない。

「(念のために銃を携帯しておいて良かったわ)」

威嚇用の、ではあるが。応援を呼ぶか。
辺田辺りなら、射撃は勿論の事、最悪盾にしてしまえばいい。
そうと決まれば、だ。慈音は携帯電話を取りだした。

「(辺田、聞こえる?)」

『慈音さん?どうしたんですか?』

「(アンタ、今何処よ)」

『えっと、アトリエ百貨店です。都村さんのお使いで。ビロ君もいます』

男二人で百貨店とか寒いわ、と言いたいのを我慢した。アトリエ百貨店。
ここから5分もかからない。一人より三人だ。

「(辺田、GPS機能使ってこっちに来なさい。ビロに応援を送ってくるように言って。いいわね?)」

『えちょまっ慈音さん、アンタ何しt』

「(頼りにしてるわよ、相棒)」

通話を切る。辺田とて馬鹿ではない。すぐに何かを察知してくれるはずだ。
慈音は震える足を無理やり抑え、青年の前に躍り出た。

「動かないで。警察よ」

青年がこちらを向いた。何だ、と言わんばかりに。
携帯していた銃を向け、慈音は鋭く言った。

「貴方を殺人容疑で逮捕します。抵抗すれば………………痛い目、見るわよ?」



36 :ジョリー ◆YcMZFjdYX2 :2010/12/17(金) 20:00:31 0
「着いた。ここよ」

ジョリーは目の前の一軒家を指差した。
普段から持ち歩いている鍵を使い、ドアを開ける。

「ほら、靴脱いで。上がって上がって」

メンバーを先導し、ジョリーはパソコンのある慈音の部屋へ移動する。
部屋の中は殺風景で、慈音の性格が見て取れた。

「えっと、パスワード入力……っと」

ジョリーは慣れない手つきでパソコンを開く。
そして、ファイルに掛けられたパスワードを解いた。

「あったあった!これを印刷すればいいのね」

「うへー……すげー量だな。あたしは読めねーけど」

印刷をクリックし、ファイルの内容がどんどん印刷されていく。
ジョリーはそれをクリアファイルに次々と押し込んだ。
これを持ち帰れば、タチバナ達も喜ぶだろう。

「…………ん?」

ふと、とあるファイルの一つに目がいった。こちらもパスワードが掛けられている。
試しに教えられたパスワードを打ち込むと、あっさり開いた。面倒くさがりな姉らしい。
何気なく流し読みしていくジョリー。ミーティオはつまらないな、と鉄パイプを弄る。
やがて、印刷が全て完了した。

「おい、終わったぜジョリー。帰ろう…………ジョリー?」

ジョリーは無言だった。視線がパソコンの画面に釘付けだ。
ミーティオは画面を覗き込むが、文字が読めないことを思い出した。
しかし、ジョリーの表情でただならぬ事態だということは察した。

「なあ、何が書いてあるんだよジョリー!教えてくれよ、なあ!?」

ジョリーは、目を伏せた。震える唇が、ミーティオの問いに答える。

「……………7年前の、市立美府中学校火災事件。死傷者500人にも上る大事件よ」

「そ、それが、どうかしたのか?」

ジョリーは、画面の一つを指差す。それは一人の男の写真。
目が、恐怖と疑惑で見開かれたまま、囁くような声で言った。


「木羽柄通(きばつか・とおる)教諭、当時25歳。死因……………………焼死」


その男は紛れもない、数時間前まで一緒にいた筈の、ハルニレだった。


【慈音:次ターンで辺田が駆けつけます。同行していたビロ君は公文の元へ】
【ジョリー:現在地、榎宅。学研や進研に関する情報を入手】


37 :夢:竹内 萌芽(1/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/18(土) 14:01:37 0
きれいな夕日が、廊下の窓から校舎の中へと差し込んできている。
そこは、放課後の小学校の廊下だった。

誰も居ない、夕暮れの校舎の中を一人の少年が歩いている。
彼の名前は内藤ホライゾン。この小学校に通う生徒である。

「おー……まいったおー」

目の前に広がる長い廊下を見ながら、
やっぱりツンについてきてもらえばよかったな、と彼は思った。

放課後の学校は別世界だ、などと表現されるように
生徒の皆帰ってしまった校舎の中は、賑やかな昼間とかなりのギャップがある。

今、その場所を支配しているのは、『何』が出てもおかしくないような、不気味な静けさ。
実際、その『何か』の何体かと接触し、そして倒している彼にしてみても、
いや、逆に言えばそんな彼にだからこそ、その光景はとても不気味で、恐ろしいもののように思えた。

少しおどおどとしながら、それでも何とか自分の教室の前にたどり着いた彼は、
教室の中に、見知った顔があることに気付いた。

(キュー……? 何してるんだお?)

そこにいたのは、彼と、彼の幼馴染の共通の友人である少女、素直キュートだった。
放課後の教室で、自らの席の、机の上に座る彼女。
その手に握られているのは、どうやらプリクラのようだ。

(あれって、たしかこの前三人で遊んだときに撮った……)

そう、それは一週間ほど前、映画を見に行ったついでに入ったゲームセンターで、
ツンとキュートが二人で撮ったものに違いなかった。

普段からあまり人付き合いが得意でないツンは、
飽くまで自分はうれしくないといった態度を装いながら、
女友達と初めて撮ったそれを、最近よく自分に見せてくる。

本人は顔には出していないつもりなのだろうが、よほどうれしいに違いない。

ツンがキュートと仲良くなれて本当によかった、そうホライゾンは思っていた。
思っていた……の、だが

38 :夢:竹内 萌芽(2/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/18(土) 14:02:24 0

「お?」

目の前で、ハサミをとり出したキュート。
一つの支点で連結された、冷たいその二つの刃の狭間に、
彼女は照れたように笑う幼馴染の顔写真を持っていき、そして―――

「な、何してるんだお、キュー!!」

―――彼女は、彼の見ている前で、幼馴染の写真を切り裂いた。

「な、内藤くん……!!」

驚きの声を上げる少女。
大きく見開かれた二つの目が、
彼女がこの写真を切り裂くまで自分の存在に気付かなかったということを表している。

「なんで……どうしてこんな……!」

床に落ちた、真っ二つになっているプリクラを拾い上げながら、
掠れた声で少年は言う。
それに対し、彼女は顔を俯かせた。

「……だってさ、疲れたんだもん」

「お……?」

少女の言葉を聞いた少年は、
始め彼女が何のことを言っているのか分からなかった。

「ツンちゃんてさ、自分じゃ滅多に話しかけてこないし、
 流行の話題にものってこないじゃん? そのわりには私の横にいっつも居るし、
 なんか最近、他の友達から私が冷たい目で見られてる気もするし、
 正直さ、疲れちゃったんだよ……あの子とトモダチでいるの」

だから、彼女の言葉の真意を少年の頭が理解したとき、
彼はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。

「お……でも、でもキュー、
ツンと、三人で遊んだときもあんなに楽しそうにしてたじゃないかお」

苦し紛れにそういう幼い少年、それに対する少女の叫び声が少年に止めを刺した。

「それは内藤くんがいたから!!」

「!!」

その言葉のあまりの衝撃に、目を見開いて驚きの表情のまま止まってしまう少年。
そんな彼を置いて、目を押さえたキュートは走って教室を出て行ってしまった。

39 :夢:竹内 萌芽(3/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/18(土) 14:03:09 0
これはどういうことなんだ、という言葉が、少年の働かない頭の中でぐるぐると回っていた。
だんだんと、少年は自分の体がぶるぶると震えだすのを感じた。
震える身体を押さえるために、強く身を抱く。

しかし強くなりすぎた身体の振動は止まることがなく、
しまいにはなぜ出るのか解らない涙がぼろぼろと彼の目から流れ落ち始めた。

「お……おっ……なんで、なんで……」

なんでこうなってしまうのだろう? そう少年は言おうとしたが、
しかし嗚咽がひどくて言葉にならない。

この”才能”のせいでクラスでも目立たず、
文字通り”空気のような存在”となってしまう自分と友人でいてくれるツン。
放課後は自分と”いたずら”をするか、さもなくば『人助け』、
そのせいで彼女は自分以外に友人と呼べる存在もなかった。

そんな幼馴染のことを、ホライゾンは心の底ではとても心配していた。

だからやっとツンに自分以外の友達ができたことを、
ホライゾンは自分のことのように喜んでいたのだ。

なのに―――

(こんなの……ひどすぎるお!!)

これまでにも、ツンを傷つける存在は多く在った。
クラスのハデ系の女子や、ツンに少し気のあるイタズラ好きの男子。
そして人間たちの日常を脅かす、居てはならない『存在』たち。
やっと自分以外の味方ができたと、そう思ったのに、
その味方も影でツンを傷つけ、そしてあろうことかその原因となったのが自分だったなんて
関節的に自分ですらツンを傷つける原因となってしまうなんて

そして、彼は思った。

―――この『世界』は、なんで彼女にとってこんなにも優しくないのだろう? と。

(そうだお……)

全ては、この世界が悪いのだ。
なら、こんな世界は変えてしまえばいい。
彼女にとって優しく無い世界など、消してしまえばいい。
自分にはそれができる。それができるだけの『才能』がある。

(世界を僕とあやふやにして、
 世界を僕とツンにとって都合のいいものに創り変えるんだお。
 そう、僕が―――)

―――僕が”世界になってしまえば”いい。

夕暮れの教室で、幼い少年はそう決意したのだった。

40 :竹内 萌芽(1/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/18(土) 14:04:44 0
心臓の音が、やけに大きく聞こえた。
ゆっくりとしてかすかな自分のそれに加えて、不安そうに早鐘を打つ誰かの心音。

(ツン……?)

ぱらぱらと砂の落ちる音。
薄暗く狭い空間で、竹内萌芽は意識を取り戻した。
それにより、うっすらとして消えかかっていた彼の分身が再び存在を取り戻す。
背中に軽い痛みが走るが、それ以外は特にどこかが痛いというわけでもない。

そうだ、自分はあのバケモノの攻撃に巻き込まれて……

”もーるー、やっと起きたか。頼むからなんとかして!! 正直これはキツい!!”

真上から声が聞こえた。
見れば彼の真上の瓦礫には赤い鎖が網状からまり、ぷるぷると震えている。
どうやら彼女のおかげで自分は死ぬのを免れたらしい。

「おー……ストレ、おはようございま……!?」

彼が呑気にあいさつをしようとしたとき、瓦礫の中からふいに浅黒い肌の少女の顔が”生えた”。
よく見ると見覚えのある顔だ。

たしか昨日、皐月やタチバナと一緒にいた少女である。

「お、キミ、ゆ、幽霊だったんですか!?」

確かに生命反応のやけに小さな少女だなとは思っていたが、
実際瓦礫をすり抜けられると正直かなりビビる。

助けを呼んでくる、と言う幽霊少女に、萌芽はそれには及ばない、と答えた。

「気配でわかります、あのバケモノの動き、誰かが止めてくれたんですね。
 さて、じゃあ行きますかストレ。なんだか外で零が心配してるみたいですし」

先ほどから赤く輝き、辺りを照らしていたカードを広い挙げ、萌芽は鍵語を口にした。

「ストレンジベント、『ファイナル・ベント・イン』」

カードが赤より紅い炎をあげながら、燃え上がり始めた。

41 :ストレンジベント ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/18(土) 14:10:36 0
ごちゃごちゃと様々なものが混ざり合い、黒にしか見えなくなった空間。
そこで小さな紅い道化師が、両手を広げたまま、目を閉じていた。

どくん、どくん。
ちいさな彼女には大きすぎる心音が、あたりの空間に響いている。

「アヒャヒャ、感じるぞもる。この感覚、ずっと待ってた、『サバイブ』の片鱗!」

ばちり、ばちりと紅い稲妻が彼女のまわりで何度か爆ぜ、そしてそれは発動した。

「『最適検索』《ググレスカ》発動!!」

ふいに彼女の周りの黒の中に、無数の小さな白い四角形が現れる。
その四角の一つ一つに映し出されているのは、彼女のなかに点在する文明のエッセンスたち。

(敵はでっかくて柔らかい……なら……!!)

映し出されたそれらのうちのいくつかを彼女は選び出すと、
彼女はそれを掴んで、その小さな紅い手でぐちゃぐちゃと揉みほぐす。

ばちり、ばちりと言う音と友に、あたりの黒い空間が赤い光に染まる。

「いっくぜーもる、これが最初のファイナルベントだ!!」

いつも狂気染みた笑みが浮かんでいるその口を大きく開けると、
ストレンジベントは揉みくちゃにされて丸く団子状にしたそれを
ごくりと飲み込んだ。
―――――――
――――――
―――――
――――
―――
――



42 :竹内 萌芽(2/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/18(土) 14:11:52 0

どん、という大きな音と友に、瓦礫から紅い光の柱が天に向かって伸びた。
光の柱が消え、そこに現れるのは瓦礫に開いた大きな穴。

たん、という軽い音を立ててその瓦礫の上に一人の少年が降り立った。
―――竹内萌芽である。

「ふう、おまたせしましたカイブツくん。僕、参上です」

言いながら、萌芽はその手に持った撥をゼリー状の身体を持つ化け物に向けた。

”STRIKEVENT-NOISYVENT-ACCELVENT”

紅いエネルギー体が、炎のように彼の体を纏っている。
両足には真っ赤なブーツ、右腕には変わった形をした大きな腕時計。

「行きますよ」

ブーツを履いた足に力を籠める。
それによって生み出されるのは、ACCELVENTに零の運動能力が加わった超加速。
目にも留まらぬ速さで巨大な化け物の頭上に躍り出た彼は、
両手に持った撥を振りかぶり、叫んだ。

「ストレ!!」

”あいさー!!”

彼の呼び声に答えて、真っ赤な鎖が飛んでくる。
くるくると蚊取り線香のような螺旋状に回転する彼女は、
やがて凶悪なデザインの真っ赤な円盤に変化した。

”太鼓”としての機能を持ったそれは、ぴったりと化け物の頭に張り付き、
それに向かって、萌芽は両腕の撥を振り下ろす。


43 :竹内 萌芽(3/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/18(土) 14:13:10 0
どかん、とでも表現できそうな音が空間を轟き渡った。
NOISYVENTによって増強された音エネルギーが、
真っ赤なエネルギー波となって、太鼓から化け物の透明な体内に流し込まれる。

「はっ……!!」

どん、どん、どん、どん。
連続して響き渡る、魂すら揺らすような重低音。
撥が真っ赤な太鼓を叩くたびに、そこから音の振動によって生まれる小さな炎が上がる。
その色は―――




     朱





どんどんどんどんどんどん。
音はどんどん早くなり、萌芽が太鼓を叩く動きが加速する。
地面を走るように、空を駆けるように加速する旋律。
それによって生み出される炎。
太鼓の中央から、円周へと広がり、
やがて萌芽と太鼓を包み込むように赤々と燃え上がるそれは、
まるで羽を広げた紅い大鳥。
そう、それは南の方位を守るとされる四神が一柱―――



     朱

     雀



どん どどん どどん どんどん……
やがて音は跳ね上がるようなリズムで踊り始める。
そのリズムは、まるでひな鳥が飛び上がる前の助走。
太鼓から化け物の体内に送られる紅い波動が、
化け物の身体を構成する水分子を高速振動させ、
それが限界まで高まったとき、少年は叫んだ。

「いきますよ!! 必殺―――」



    天   朱

    翔   雀



どかん、という巨大な音と友に、膨大な量の音エネルギーが化け物の体内に送り込まれ、
増幅した音のエネルギーが、化け物の身体を構成する水を蒸発させ始める。
一瞬にして蒸発した大量の水分子が、周りの冷たい空気にふれ平衡を失い、爆発する。
その瞬間、少年は左腕のリストウォッチについているスイッチを押した。

”-Start up!!-”

44 :竹内 萌芽(4/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/18(土) 14:14:33 0
高い声と友に、少年の体感時間が異様に遅くなる。
まわりの時間がほぼ完全に停止した空間のなかで萌芽は大きく手を広げた。

FINALVENTのもう一つの効果、
『限界突破』《エクストリーム》は使用者の能力を文字通り限界を超える勢いで底上げする効果を持つ。
『限界突破』や『大暴走』などの系統の文明は、たいてい使用者に多大な負荷をかけるが、
この文明はその中でも、最も使用者に負担の掛からないものの一つだった。

《エクストリーム》の後押しを受け、爆発するように膨張する萌芽の”存在”。
異世界人とアウトローで溢れ変えるその場所を、彼の”存在”は一瞬で包み込み、
そしてその空間の中心で今まさに爆発しようとしようとしている怪物に向け、
萌芽は今起ころうとしている爆発とまったく逆の波形を持つエネルギー波を具現化すると、放った。

”-Time Out!!-”

巨大な火柱が上がった。
本来、この空間内全ての人間を巻き込むはずだったその爆発は、
彼が超高速で逆波形のエネルギーを爆心地に向かって放つことにより、最小限に抑えられていた。

火柱から少し離れた場所に、竹内萌芽は降り立つ。

ふらり、とよろける彼。

その身体を、誰かが支えてくれた。

「あはは、ご心配、おかけしました」

支えてくれた誰かさんに向かって彼は笑うと、
萌芽は心配そうな彼女に向かってブイサインをした。

【ターン終了:ぽろろ、撃沈】

45 :くじら/ホエール/W ◆6ZgdRxmC/6 :2010/12/18(土) 14:16:08 0

部屋の床から上がる巨大な火柱を、ホエールは眺めていた。
腕を組んで直立する彼女のその顔は、彼女にしては珍しく、無表情である。

「……あたしらも、ひょっとしたらああなってたかもしんねーってワケね」

あの怪物を見て、彼女はなんとなく感じていた。
あれは、自分が生み出され、
まだ”三人だったころ”の玉崎タイヨウたちが受けた『実験』が産みだしたものなのだろう、と。

「まったく、無事に生まれられてよかった、ってか」

どこか自嘲するように彼女は言うと、その場から立ち去ることにした。

「!!」

と、その彼女の目の前を、真っ白な、機械仕掛けのコウモリが横切った。

「ひょっとして……あれが?」

彼女は強化された脚力でそのコウモリを追いかけたが、途中で見失ってしまった。

一瞬だけ、そのコウモリの横を歩く、鎧を纏った騎士のような怪人が見えた気がしたが、
まるであたりの薄暗闇にまぎれるようにして、その怪人も消えてしまった。


46 : ◆IPF5a04tCk :2010/12/19(日) 00:01:20 0
したらばホールの外は、大混乱に陥っている。
だが、逃げ惑う人々達に紛れて、一匹の猫が尻尾を揺らし、会場から出てきた。
弓瑠にロマと呼ばれ、可愛がられていたあの猫だ。

その猫とすれ違うように、一人の男が会場内へ入っていく。

「いやー、すげー人だな」

白髪に黒スーツ、左腕の腕章の上でMの刺繍が踊っている。進研幹部長、Mだ。
しかし、纏う気配は、彼のものではなく、全く別のもの。
男は足元の猫に気づき、まるで友人に話しかけるように声をかけた。


「何だ、あれほど見張ってろって言ったろー?」

Mに化けた男は、若々しい声を発し、ロマを持ち上げる。
猫も負けじとニャア、と一声鳴く。すると、男は眉を顰めた。

「リムジン?月崎?…………ははぁーん、結構面白そうな事になってんじゃん」

その時、男の視界を白い何かが横切った。
それを目で追いかけていると、一人の女性がそれを追い掛けていく。

「あー……白洲くじら?だっけ」

女性がこちらを振り向く。男の推測通り、女性は進研幹部の一人、ホエール。
男は心底楽しそうに、悪戯を企む子供のような笑みを浮かべた。

「S君の付き添いで来たんじゃないんだな。
 さっき、S君が女の子と一緒に居る所を、新市街地の方で見かけたんだが……」

* * * * * * * * * * * * * * * *

ホエールを見送り、男は再び猫へと視線を向けた。
ニコリと微笑むその顔は、突如として羽毛に覆われる。
次の瞬間、男がいた場所に、一羽の大烏が居た。烏はロマをその両足で掴み、大空を羽ばたいた。




47 :ミツキ ◆IPF5a04tCk :2010/12/19(日) 00:05:01 0
10分ほど経った頃、烏は月崎家本邸に辿り着く。
中庭に降り立ち、烏は誰もいないことを確かめて、人間に『なった』。

「ここ来んのも久しぶりだなー。ここの柿の実取ろうとして怒られたことあったっけ」

ニャア、とロマが相槌のような鳴き声を発する。
男は顔を顰めて一言、「馬鹿、余所様の柿が一番美味いからに決まってんだろ」と返した。
一人と一匹の漫才もそこそこに、ロマと視線を合わせるようにしゃがみ込み、男はロマに告げた。

「良いか、絶対に目ェ離すんじゃねえぞ。何があってもな」

ロマは胸を張るように反らし、ナァウと鳴いた。男はそれに満足したように頷き、立ち上がる。

「んじゃ、そろそろオレ行くよ。まだまだやる事があるんでな」

男は、再び大烏に『変身した』。バサリと両翼を広げ、烏はロマにウインクする。
そして飛び立つ直前、烏は人の言葉でこう言った。

「幸運を祈ってるぜ、≪テナード・シンプソン≫」

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

ミツキは今、月崎家本邸に居る。
Q幹部長の命令で、此処に訪問するように、とのお達しが届いたからだ。
訳も分からずとにかく来て見れば、着いたら着いたで何の事情もなしに案内された。
そして現在、とある部屋に通され、こうして待機しているわけだが。

「あーもう煩い!アンタ達静かにしてよ!」

ミツキは遂に我慢できなくなり、二人に怒鳴り散らした。
何故かぐっすり眠っている探し人の「娘」の僕を名乗る、柊と秋人に対して。
テナードを待ってカフェの前で待機していたミツキに、一本の電話。
それがQ幹部長からの指示だったのだが、その直後にこの二人が現れたのである。
異世界人を探すのが先決だ、何かあったらどうするんだ、というミツキの言葉に対し。
アイツ等なら大丈夫だろ!と柊のあっけらかんとした答え。
結局、十数分の口論の末に、ミツキと101型、秋人と柊がこの場所に訪れる結果となった。

「Q幹部長も人が悪いんだから……こういう事なら最初っから教えてくれればいいのに……」

ブツクサと文句を言いつつ、ミツキは弓瑠を盗み見た。
この少女のことを、秋人と柊がお嬢様、と呼んでいたのを思い出す。

「(……まさか、ねー)」

脳裏をよぎった予想を速攻で振りはらい、苦笑する。あのボスに限ってそんな事はないだろうと。
その時、101型が何かに反応するかのように襖を見やった。

「いっちゃん、どしたの?」

その問いには答えず、101型はまっすぐ襖へ歩み寄り、手を掛けた。
その向こうから現れたのは……………一匹の猫、だった。

「な、なんでこんなところに猫が?」

猫は101型やミツキには目もくれず、弓瑠の元へ一直線に向かう。
起きて、起きてと言わんばかりに、猫は弓瑠の顔をペロペロ舐める。

「どこから来たんだろ?」

その問いに、秋人も柊も首を傾げる。ただ一人、101型は、無表情で猫を見つめ続けていた。

48 :テナード ◆IPF5a04tCk :2010/12/19(日) 00:09:11 0
場所は変わり、新市街地。
未だにテナードは、久和を探していた。時間が経つにつれ、人通りも多くなってくる。
それに比例するかのように、テナードの焦りも大きいものへと変化していく。

「(クソ……思ったより人が多すぎる!何より……見分けがつかん!)」

テナードは一人頭を抱えた。東洋人の顔が皆一緒に見えるテナードにとって、この状況は最悪だ。
久和は魔法によって、顔の形も少々変わっていた。見つけるのは至難の業だ。
ボサボサの髪を掻き、溜め息をつく。探し人が増えた事に対する嘆きからだ。

「一旦引き返すか……………ッ?」

グラリと、視界が揺らぐ。人の波が、揺らめく。


『ギ………k……ル……』


眉間を抓って声にならない悪態を吐き、額に手をやる。脂汗が滲んでいた。
また何時もの頭痛、それに幻聴だ。ここのところ、酷い気がする。
クスリを飲んでいないせいか、と直ぐに察した。飲んだのは確か3日前ほどだった。

テナードの体は常に不安定で、何時どのような副作用が起こるか分からない。
幻覚やフラッシュバック、痛覚や触覚などの感覚神経の一時的な麻痺、頭痛もその一つだ。
その為、テナードはかかさずその症状を抑える薬を服用していた。
ジュニアに持たせず自分で持っていれば良かった、と後悔しても後の祭り。

「(クッソ、最悪のタイミングだ……)」

人混みから一時的に離れ、人通りの少ない路地裏の壁によりかかった。
息を吐き出し、四角い空を見上げる。イタリアと同じ青い空だ、と密かにそう思った。
人の波から外れたこの場所は、やけに静かに感じられる。

「…………!」

僅かな風の流れに乗り、運ばれてきた臭いにテナードは顔を顰めた。
血の臭いだ。しかも、かなり近い。嫌な発想がよぎる。

「…………だぁあもう!クッソ!」

自然と、足が動いた。もしかしたら、また昨日のようなトラブルに巻き込まれてしまうかもしれないのに。
それでも、彼の足は着実に、血の臭いのもとへ進んでいく。

>「貴方を殺人容疑で逮捕します。抵抗すれば………………痛い目、見るわよ?」

壁越しに覗くと、警官らしき女性が、血まみれの青年に警告を発している。

「(何て気配してやがる、あのガキ……)」

血まみれの青年からは、おおよそ人ならざる気配を感じた。
状況から察するに、彼女一人ではあの青年を捕まえる事は不可能に近いだろう。
いや、それは彼女とて分かっているのではなかろうか。
だとしたら、彼女にも策があるのか。

「(もしも危なくなったその時は……だな)」

【???→W:Sの居場所を教える。新市街地にいるってことにしといて下さい】
【ミツキ・101型・秋人・柊→月崎邸】
【テナード:レンと慈音さんを少し離れたところから様子見】

49 :月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2010/12/21(火) 00:36:54 O
結局榎を追うことにした三人。
榎がもう一つ角を曲がった所で、真雪は後ろから声を上げた。

「ねぇ…何か、怖いんだけど……」

しかし、声量が小さすぎたのか二人は止まらない。
涙目になりながらついて行くと、真雪はそれを見た。

ぐちゃぐちゃとなる音、遠くの真雪達にも血の臭いが届く。
恐怖と痛みに歪む顔の下の体は、骨を見せてえぐり取られていた。
いや…その男は喰われていた。

思わぬ所でカニバリズムを目撃した真雪は、その場にへたり込んでしまった。

それでも、その光景に勇敢に挑む者が居る。

「動かないで。警察よ」

榎だ。
彼女を動かしているのは、きっと使命感なのだろう。
そして立ち上がった真雪は、その使命感を無謀だと感じた。


向かい合う榎と、顔を真っ赤に染めた青年。
真雪達と、漂う血の気配に集まってきた野次馬は、遠巻きに成り行きを見守っている。

緊張感の中で、真雪は二人の腕を引っ張った。

「ねぇ、榎さんを助けるの…?
止めようよ…逃げようよ…あれは、無理だよ…」



【結局慈音さんに付いて来ちゃった。野次馬に紛れてます】
【ネガティブ発言】

50 :エレーナ ◇SQTq9qX7E2:2010/12/24(金) 20:45:21 0
>「ごめん!ちょっと下ろして!!あそこに知り合いが居るの!!」
「分かったわ。狐!」

ドルクス達の姿を確認し、私は少女が促すままに下へ。
傷だらけになりながらも、どうやら命に別状はなさそうだ。

「エレーナ様!ご無事で!」
「貴方達は大丈夫どころの問題じゃなさそうね……」

チラとハルニレ達を見る。ペニサス様が治療に当たっているが、だいぶ苦しそうだ。
ドルクスも魔力を使い果たしたとみていいだろう。

>「はあい! 大丈夫じゃなさそうねぇ!?」
「きゃあっ!?」

私はいきなりぬっ、と現れた謎の美女に驚いた。

>「いきなりで悪いんだけど、この後予定は有るかしら?
 付いて来て欲しい所が有るんだけど…まあ、了承しなくても拉致しちゃうんだけど」

突然の誘拐発言。この人は何が目的なのか。
予定と言われれば娘(弓瑠)探し。しかしそれは完了している……

「…………あれ?弓瑠ちゃんは?」

一同(意識ある者)が首を横に振る。まさか、死んだ?
と思いきや、この謎の美女達が保護してくれていたようだ。有難い。

「月崎家?ってところに弓瑠ちゃんがいるのね。そうと決まればいきましょ……って、あら?」

全員集合したはず。なのに、一人だけ足りない。

タチバナさんは何処?

「あーあ、ヒデー目に遭った」

げんなりとした表情で、瓦礫の奥から誰かが首を突き出してきた。
私の記憶が正しければ、文明市の支配人だとか言ってた奴だ。

「おい、アンタ等確かコイツの仲間だったよな?」
「え、仲間って―――――――――――――ッタチバナさん!!」

支配人の肩を借りるようにして、意識を失ったタチバナさんが現れた。
その姿に、私は言葉を失った。―――――――――――――――――右腕が、無い。

「あの変なガキに腕取られて、このザマさ。今は俺の『万象中断』で止血してある」

ドルクスがタチバナさんを受け取り、ペニサス様が傷の具合を看る。
祈るような私の想いも虚しく、ペニサス様は首を振った。


51 :エレーナ ◇SQTq9qX7E2:2010/12/24(金) 20:46:13 0
「……無理ね。腕のイメージがあやふやすぎる」
「そんな、どうにかしてよ!魔人なんでしょ!魔法使えるんでしょう!!?」
「ゼルタちゃん。魔法は万能じゃないのよ……残念だけど、こればっかりは無理だわ」

そんな……とゼルタちゃんは俯いた。絶望に打ちひしがれている。
重苦しい空気に包まれる。……とペニサス様は何かを思い出したように視線を支配人に向けた。

「取られた、って言ってたわよね?燃やされた、とかの間違いじゃなくて?」
「ああ、肩から掻っ捌かれただけだ。ただあのガキ、自分の肩に縫い付けてたけど」

それを聞き、ペニサス様は再び俯いた。

「…………消失した訳ではない、なら蘇生は出来なくても……?」

しばらくすると、ペニサス様は顔を上げて支配人に質問する。

「彼、どこに行ったか分かるかしら?」
「確か……電話でシンシガイチ、とかケイシチョウとか言ってたな」

それを聞くや否や、ペニサス様は今度は私に視線を移す。

「エレーナ、あの子を追って!今すぐ!タチバナさんの腕を取り返すの!」
「と、いうと……?」
「消失していない、ということは!また繋ぎ直せるかもしれないわ!」

そういう事か。

「分かりました。ドルクス、貴方は一緒にタチバナさん達を守ってて」
「了解」
「繋ぎ直せるタイムリミットは少ないわ。頼んだわよ!」

私は頷き、謎の美女、鈴木さんに向き直った。

「ドルクスやタチバナさん達の事、よろしくお願いします」

私はそれだけ告げると、蝙蝠の翼を広げ、舞いあがった。

【エレーナ:新市街地・レンの元へ向かいます】
【同行したい方は狐を使って下さい】
【ドルクスとペニサス達は本邸へ】


52 :李 飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2010/12/25(土) 20:41:56 0
鉄錆びの臭い。何処か懐かしささえ感じるのは何故だろう。
否、答えは判りきっている。それが幾度と無く嗅いだものだからだ。

(これは――)

飛峻は兔と顔を見合わせる。兔も首肯。最早間違いない。
風に乗って鼻を刺すのは血臭。

>「ねぇ…何か、怖いんだけど……」

後ろからは真雪の声。察知したのだろう。しかし立ち止まっている暇は無い。
榎への尾行を再開してからまだ然程経っていない。だというのに、辺りの雰囲気は明らかに、劇的に、変化している。

(段々と濃く……距離が近づいたからってわけじゃない)

街中で、白昼に、堂々と、現在進行形で、殺されているのだ。

「まだ日も高いってのに随分豪勢なことだ」

飛峻の声は常と違って冷たく平坦。
血に中てられたのか、抑揚も無い代わりにたどたどしさも無い。
角から覗く先に居るのは蹲った少年と、縛られ転がる男。

「喰われてる方も災難だったな。あれじゃ逃げられんものな」

少年は男を咀嚼してた。むしゃむしゃと、バリバリと。
喉首に噛り付いては血を啜り、腹に喰らい付いては腸を啄ばみ、腕の先から足の先まで余す事無く丹念に味わっている。
その行為自体は言うに及ばず、少年が発する雰囲気も尋常のそれでは無い。

>「貴方を殺人容疑で逮捕します。抵抗すれば………………痛い目、見るわよ?」

拳銃一丁を頼みに歩み出るのは榎。
だが意味は無いだろう。少年はおそらく罪だと思っていまい。それどころか一般的な法社会に生きているのかすら怪しい。
職業的使命感から出た行動なのだろうが、無謀に過ぎる。
とはいえ折角見つけた手がかりである榎の危機を、徒に見てるだけではよろしくあるまい。

>「ねぇ、榎さんを助けるの…?
 止めようよ…逃げようよ…あれは、無理だよ…」

飛峻が脚を踏み出そうとしたとき、見計らったかのように、くいと袖が引かれた。
振り返れば涙で目を腫らせ地面にしゃがみ込んだ真雪が、それでも必死に引き止める。

(ああ、そうだったな……)

見下ろす飛峻の視線に温度が戻る。
幾分か前までの自分は真雪を随分と放って置いてしまったようだ。
さぞ心細かったに違いない。まったく、これでは会わせる顔が無いではないか。

「すまなかったナ、マユキ。デモ、折角見つけた手がかりダ、精々恩を売っておくとしよウ。
 何、心配は要らナイ。危ないようならサッサと逃げるサ」

腰をかがめて目線を合わせ、涙を拭う。
隣に居る兎に真雪を任せ、ひらひらと手を振りながら、改めてゆるりと一歩を踏み出す。

「ヤア、また会ったナ。マア、正直に言うと通りで見かけてから気になって付いてきたんだがナ。
 それより相手はかなりの遣い手のようダ。義を見てせざるは何とやらと言うシ、微力ながら加勢しよウ」

端から尾行してたことは隠し、榎の隣に立って何時でも動けるよう両脚のスタンスを広げた。

【たまたま見つけただけですしー。ってな感じで加勢。】

53 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/12/30(木) 20:21:27 0
「分かったわ。狐!」

零の願いに応じ、狐はゆっくりと下降して行く。
始めこそ胡散臭いと思っていたが、実際にこうして触ってみるとしっかりとした息吹を感じさせる意外さに驚いていた。

「なんていうか、矢でも鉄砲でも龍でも悪魔でも、何でも持って来いって感じね……」

彼女の知っている「知識」では魔術とは現実を捻じ曲げ奇跡を起こす技術となっている。
知識だけでは否定もできたが、これでは疑う余地すらなかった。

(どこよ?萌芽……)

降下する事で開けてくる地表の様子を見て、零は萌芽の姿を探し始める。
その時、音が聞こえた。

どん、と……

「太鼓?」

どんどんどんどんどんどん。
どん。どどん。
どん!どん!どん!
刻むビート音はどこか和太鼓を思わせる重厚なもの。
それは速度を求めるドラムに比べて心に響く様に深く重い。

(間違いない。萌芽だ!!)

直感で萌芽と判断した彼女だが、それには訳もある。
手渡されたスカーフを通じて零に直接伝わる脈動は今聞こえる音に狂い無く直結している。
竹内萌芽は生きている。それも確実に。この音を奏でている!

(どこ?どこよ!?)

どん どどん どどん どんどん……
生存を確認できたのならば話は早いと言わんばかりに零は萌芽を探すため辺りを見渡す。
ぐるぐると視界を回していく内にスポットライトが当たるステージを怪物の頭上に見つけ、その上を凝視する。

「見付けた!!」



54 :佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/12/30(木) 20:29:15 0
居た。だが変化はその瞬間に起きる。
今までの様な刻みつけるビートでは無い……締めに使う様な一際大きい「どん!!」と言う音が響いた瞬間に「何かがはじけた」
少なくとも傍から見て居る分にはそうとしか表現できず、又、実際に弾けていた。
今、この瞬間。怪物の頭が爆ぜ、火柱として燃え上がる!

「萌芽!?」

驚きに一瞬だが肩をびくつかせた零だが、自然とそれに対する恐怖は感じなかった。
なぜなら竹内萌芽を失うと言うよくは分らない。ただどろどろとした嫌な気持ちの方が上回った。
そして、竹内萌芽を失う……。そう思っただけで零は巨大な火柱が立ち上がる場所へと飛び降りる。
意味は無いのかもしれない。状況を考えればこの火柱を作ったのは萌芽その人である。
ならばその結果に対して何も手を打って居ない筈は無い。
そう彼女は理解しているのだが、体は一向に足を止める気配すらなく速度を上げ続けている。

(なにしているのかしら……)

こんなのキャラじゃない。そう自嘲さえしていると言うにそれでも足は止まらない。
そうして、瓦礫に立つ萌芽を見つけた。

「もる……ッ!?」

ふらりとバランスを崩す萌芽。そのままならばそのまま倒れて瓦礫に埋まっていたかもしれない。
しかし、それは抱きしめるように受け止めた零により防がれた。

「あはは、ご心配、おかけしました」

「この、ッ!!もやしっ子……」

照れるように笑いかけVサインを見せる萌芽。
そんな彼に零は本音を憎まれ口で隠す、そして二人は連れ添って歩き出す。
見れば鈴木や生き残ったと思われる人たちが二人を見ていた。

【状況:月崎邸へ】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許 UNIT VENT】

55 :愛内檸檬 ◇OryKaIyYzc:2011/01/03(月) 23:16:39 0
檸檬は、気絶して運ばれた二人を見守っていた。
久羽と、一生。血の繋がりの無い兄姉の額に、堅く絞ったタオルを乗せる。
傷だらけで運ばれてきた時は泣きそうになったが、その時の手当てのお陰で二人とも安らかに眠っていた。

「こんな事しか出来なくて、ごめんなさい…」

檸檬の口からため息が漏れる。
自分は、二人の事を何も知らなかった…いや、今でも、知らない。
血の繋がりの事も、消息が絶えた時に何をしていたのかも、
…二人が、何を目的として動いているのかも。

ふと、祖母から聞いた話を思い出す。
二進数と言う力。月崎の血のみ扱える、『情報』の能力。
祖母は手に入れるべきではないと言うが、このままでは終われない。

檸檬は知りたいのだ。何が有ったのか…その 何かを。

そっと立ち上がり、檸檬は祖母の言っていた、倉庫へ向かった。
そこになら、二進数の扱い方が分かるような本が有るに違いない。
伝授されなくとも、見様見真似でやってみる価値は有るはずだ。


56 :鈴木 ◇OryKaIyYzc:2011/01/03(月) 23:17:41 0
「みんな見事な程怪我人ね…重傷人から先に運びましょうか」

誰をどのように運ぶべきか。
鈴木がそんな事を考えて居ると、後ろからエレーナと呼ばれた少女の声がかかった。
振り返ると、真剣な顔をしたエレーナが居る。

「ドルクスやタチバナさん達の事、よろしくお願いします」

少女の外見に見合わない真摯な眼差しに、鈴木は微笑みと共に答えた。

「ええ、確かに頼まれたわ! 気を付けて!」

エレーナは飛び去ってしまった。あの、ゾンビを操る青年と戦う為に。
真雪と同じくらいの年齢。
そんな少女に相手をさせるのは酷だが、月崎家に向かうメンバーにアレを相手にする気力はもう無いだろう。
勿論、鈴木はアレには敵わない。
だから、自分が出来る事をやるしか無い。

(そう言えば…佐伯さんは?)

今更ながらその事に気付き、辺りを見回す。

「あはは、ご心配、おかけしました」
「この、ッ!!もやしっ子……」

イチャイチャするバカップルがそこに居た。
―――――――――――――――――――

57 :鈴木 ◇OryKaIyYzc:2011/01/03(月) 23:18:51 0
―――――――――――――――――――
車をもう一台用意させ、月崎家に運ぶ。
自力で動ける人は自力で歩かせて、鈴木はタチバナと呼ばれた青年を担いで運んだ。
気絶しているもう一人の青年は、ペニサスと呼ばれていた女性に任せる。
久羽と一生、そして弓瑠と呼ばれる、久羽に任された少女。
彼等が眠る隣に、今連れてきた二人を並べる。
…弓瑠の隣に、帽子の青年を置かなければならない気がした。
「さて、治癒しましょう…
力尽きただけなら寝かしてほっとくんだけど…コレじゃあ、ね?」

一息ついている一団にそう告げると、鈴木は棚から消毒剤と包帯を取り出す。
その時、そっと襖が開かれた。

「…あなた達は?」

現れた檸檬は、急に増えた人数に訝しげな視線を寄越す。
その瞳に、鈴木が口を開いた。

「彼らは云わば―――一生さん達の仲間です。
一生さん達に合流するため、月崎本邸に滞在して貰っています」

鈴木の言葉に、檸檬は「…そう」と頷く。
確認するかの様に、檸檬は部屋を見渡した。しかし、とある一点にて視線が固定される。
次いで、檸檬はその視線の先へ向かった。持っていた数冊の本を、横に置く。

「鈴木、彼は…?
一生兄さんが用意した悪戯にしては、悪質じゃない…」

タチバナの顔を見つめ、泣きそうな声で呟いた。
未だ、彼の右腕は無い。
一生とは鏡写しのその顔を上からのぞき込んでいる檸檬に、鈴木が答えた。

「彼は…一生さんの元の世界や、私達が今ここに住んでいる世界。
それとは全く異なる世界から現れた、『一生さん』の『平行世界同位体』です」


58 :鈴木 ◇OryKaIyYzc:2011/01/03(月) 23:19:59 0
鈴木が持ってくる間に、檸檬は新しいページを開いていた。

檸檬は礼を言い、今度は洗面器の上に手を翳す。
洗面器の水が蛇のように持ち上がり、傷口に付いた。
中身がみるみるうちになくなると、檸檬はため息を付いた。

なんだなんだとざわめき始める一団に、檸檬は説明する。

「月崎家の秘術『二進数』を使い、彼の体に応急処置を行いました。
傷口には“既に傷口は塞がっている”と言う情報を上書きし、
水に“血液の役割を果たす”と言う情報を上書きして傷口から注がせていただきました」

檸檬は視線をタチバナの顔に移し、様子を見ながらまた口を開いた。

「あとは、彼が目覚めてくれるのを待つだけです」

【ターン終了:タチバナさんの手当てをしました】
【二進数:見えない触手を使い、情報を上書きしたり記録を吸い取る能力。
物質にも肉体にも精神にも使える。
月崎の血にしか扱えない秘術】


59 :レン ◇ABS9imI7N:2011/01/04(火) 13:33:08 0
軽快な電子音と振動が着信を告げる。
誰からかと訝しみながらも、レンは通話ボタンを押した。

「・・・・・・誰だ」


>「やあ、はじめまして…第十三世界―――通称『モンスターワールド』のレン君?」

レンの目が大きく見開かれた。
知らない相手、しかも只の人間ではないことを察した。

>「君に頼みが有る。」

「頼み?名前も名乗らない奴の頼みなんか聞きたくないね。
 何か報酬でもあるなら話は別だけど?」

相手の正体も目的も分からない。
レンの強気な口調の返答は、呆れたような声色に染まっていた。

>「全く、君はつまらんことに拘るなぁ」

挑発ともとれるこの言葉。
まだ子供の域を出ない彼は、まんまとそれに乗せられた。

「へえ、言ってくれるじゃないか。
 ・・・何が望みだ?」

>「ああ、ただ一つだけの要求さね。
次に出逢う、ヘアバンドをした少女。彼女を、『なるべく無傷』で月崎本邸に連れて来て欲しい。
報酬は…そうさねぇ…魂の乗り換えショー、それを面白く楽しませてあげよう。
なんなら、君の目的に協力したって構わない。どうだい?」

>「動かないで。警察よ」

その時、第三者の介入で会話は中断された。
会話で気づかなかったが、野次馬が集まってきていた。

>「貴方を殺人容疑で逮捕します。抵抗すれば………………痛い目、見るわよ?」

「・・・・・・だってさ。じゃ、また後でね」

レンは通話を切った。
周りを一瞥し、へら、と笑う。

「何だよ。僕は見せ物じゃないんだよ?」

次の瞬間、数人の首が飛んだ。
レンが振り回した、鎌に反応出来なかった数人の首が、ゴロリと地面に転がった。

「逮捕?出来るもんならやってみなよ」

刃先についた血を振り払い、慈音と李を睨みつける。

「冥土に送ってやるよ、二人仲良く……ね?」

逃げる人々の悲鳴の中、レンの声がクリアに響いた。
レンは二人を見据え、飛びかかった。

【レン→慈音・李:攻撃。真雪にはまだ気づいていない】
【シノは飛ばして下さい】

60 :タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2011/01/06(木) 03:02:06 0
平行世界の自分。
鏡写しにそっくりで、同じ名前で呼ばれる存在。
だけれど二人は境遇も、言葉も思想も別のもの。住んでる場所は地続きじゃない隣。
それは、世界に3人いるという自分のそっくりさんとどう違うのだろうと考えたことがある。
だって、同じ顔をしているのに、やっぱり三人は言葉も思想も住居も違うのだ。
違いなんて、あってないようなもの。両者を唯一隔てる定義は、並行。『本来交差し得ないもの』。

物理法則をねじ曲げて、倫理と正義にさよならして。

そして・せかいは・つながる――


「――は、」

眼が覚めればそこは知らない天井だった。
知らない天井とは言うけれど、人生においては知ってる天井の方が少ないだろう。
従って、この場合は知らない天井と称すのではなく、天井そのものをきちんと描写してしかるべきだ。

「和風の天井だ」

和風の天井だった。タチバナはよく通る声でそう描写を口にするすると、ゆっくりと起き上がろうとして、転んだ。
手を付こうとしたからだ。付こうとした手がないからだ。ようやく現状を理解する。
右腕は、肩からすっぱりと喪失していた。

「今回も回想はなし、と。まだまだフラグが足りないか、そもそも回収すべき伏線がないか……」

残った左腕で目頭を揉む。髪の毛に手がかかった。どうやらオールバックは解かれているらしい。
文明市で、あれだけの煤を被っておきながら体がどこも汚れていないのは、
今タチバナが起きた布団に寝かせられる段階である程度まで拭き清められたからだろう。見れば傍にタライがあった。

「こうして命を繋ぎ止め、布団に伏せられているということは、誰かが僕を死地から掬い出してくれたということかな?」

ゆっくりと視界にものを入れていく。品の良い和風家屋の内装に、何人かの人間が座し、もう何人かは伏せていた。
文明市で共に戦い、共に傷ついた者達。見ない顔も居るが、分断された戦場にはつきものだ。
タチバナの傍には、一人の少女。楚々とした愛嬌のある顔立ちの、しかし女性的な貫禄も併せ持った女。

「ありがとう。君たちの尽力によって僕という命は今日もまだここに在る。それが喜ばしい事だと早々に気付くべきだった。
 一体我々休鉄会に何が起こったのか――あのレンという少年のことから何まで僕は寡聞にして知らない。知らなければならない」

垂れた前髪を再び上へ掻き上げながら、誰ともなしにタチバナは独白する。述懐し、陳述する。

「――状況を説明してくれ。そして僕が僕の為に、君たちと共にできることを」


【覚醒。状況説明を要求、必要な行動を質問】

61 :◇H9T8l.lOZQ:2011/01/06(木) 09:33:39 0
時は戦国、厭、戦国とは言っても主人公達の居るであろう世界の時間を遡った様な戦国では無いのだが。
主人公とは誰か、と尋ねられると答えられはしないがとにかくそうなのである。
東の軍が西の軍に夜襲をしかけ、戦に身を投じる男の帰りを待つ女共が眠り、東軍の大将が前祝いとばかりに酒を煽っている。
まさにその時であった。
一つの黒い影が酒を煽る男の首を刎ねたのは。
「へっ、ざまあねえな。
 見張りも付けずに酒飲んでるなんて噂に違わぬうつけっぷりだぜ」
黒い装束を血に染め、男の首を乱暴に手に取りながら言葉を吐き出す。
其れの正体は、格好からして忍者と言うものなのだろう。
西軍の為に動く影。…否、そうではない。
「西の方が金積んでくれたからなぁ。これでやっと新しい刀が買えるぜ。
 やっぱり世の中は何事も金と効率だよな」
「あとちくわ、ちくわ買えるわ。やべえな。
 やっぱりおやつはちくわでござるな^^」
そう呟いた彼は思い出した様にこれが金になるのだ、と首をしっかりと腕に抱く。
そしてその時である。彼が光に包まれたのは。
うおっ、まぶしっ。とでも呟く暇も無く彼の意識は遠くなっていく。
しっかりと持っていた金になるはずの首も取り落としてしまった。
そうして最後に彼が思ったのは、死んでしまうのだろうかという不安と、死ぬとすれば最後の言葉がちくわとは少し間抜けではないだろうかと言う思考であった。


「ハッ なんだ夢か」
次に彼が目覚めた場所は良く分からない場所である。
木では無く石のようなもので作られた……何なのかは彼には理解できないが巨大な物。
意味が分からない彼はとりあえずてっとり早く夢オチで済ませる予定である。
「爆発オチは勘bぶべらっ」
いきなり何かが飛来し彼の顔に直撃する。
ほとんどの人間がそうするように、一体何だ、とそれを手に取って確認した。
「何…だと……」
それはつまり形容すると人間の生首の様な何かであり、まあ何かと言うか生首そのものであった。
つまり何が言いたいかと言うと、まただよ(笑)という事である。
生首を飛ばしたと思われる張本人を見るが恐らく気付かれて居ないだろう。
因みに彼は今返り血に塗れており、そんな人間がこんな物を持つと通報間違い無しだ。
それに忍者と言うものがこんな堂々と突っ立って居るのはおかしい。
結論的に言えば、彼はとりあえず身を隠す場所を探す事にしたのであった。

【レン達に接触? 生首に直撃しただけですが】

62 :◇H9T8l.lOZQ:2011/01/06(木) 09:35:10 0
名前:笠松 ニノ
職業:忍者
元の世界:戦国時代的な、あれで
性別:不明
年齢:20
身長:170
体重:60kg
性格:何事にも効率を重視する。口調は荒っぽいが根は優しいっぽい。
所謂ツンデレ的なあれ。でも性別不明のツンデレとか誰得?
外見:少し長めの茶髪。黒い目立たない忍者装束を着ている。刀やらクナイ装備。
特殊能力:空蝉
発動すれば、単体攻撃であればダメージの量や質に関係なく二回までなら100%無効化できる。
発動までに時間がかかる為盾になってくれる仲間がいないぼっちには不向き。

備考:効率を重視しすぎたせいでついたあだ名は効率厨。でも足を引っ張る味方を助けたりすることもあるからこいつ訳分からん。
ちくわ美味しいよちくわ。


新規です。宜しくお願いします。

63 :テナード ◆IPF5a04tCk :2011/01/07(金) 18:21:33 0
血の臭いに釣られてか、野次馬というギャラリーが増えてきた。
大体がアウトローな連中だが、ちらほらと一般人もいる。

>「ねぇ、榎さんを助けるの…?
  止めようよ…逃げようよ…あれは、無理だよ…」

>「すまなかったナ、マユキ。デモ、折角見つけた手がかりダ、精々恩を売っておくとしよウ。
  何、心配は要らナイ。危ないようならサッサと逃げるサ」

たまたま耳に入った男女の会話。テナードは、その片方の声に聞き覚えがあった。

>「ヤア、また会ったナ。マア、正直に言うと通りで見かけてから気になって付いてきたんだがナ。
  それより相手はかなりの遣い手のようダ。義を見てせざるは何とやらと言うシ、微力ながら加勢しよウ」

「(アイツ、昨日の…………!)」

昨日、BKビルで出会った、アジア特有の顔立ちをした青年だ。
思わず声をかけようとし、ハタと思いとどまる。
青年は、こちらの本当の姿しか知らない。話しかけたところで、向こうは気づかないだろう。

「(しかし、このまま高みの見物という訳にも……)」

その刹那。

「げふらばッ!?」

何か重量のある物が、テナードの頭上に降ってきた。
勿論食らった方はたまったものではなく、テナードはうつ伏せるように倒れる。間抜けである。
そして、「降ってきたモノ」といえば…………。


64 :テナード ◆IPF5a04tCk :2011/01/07(金) 18:22:19 0
>「ハッ なんだ夢か」

人間だった。特筆するとすれば、血まみれの忍者だった。
忍者は敷いているテナードの存在には全く気づいていないらしい。
そして流れるようなタイミングで飛んでくる生首。スプラッタ系ギャグにありがちな場面だ。
一瞬何が起こったのか、双方理解できていないようだった。周囲もであるが。

「…………お、り、ろ、よテメェーーーー!!」

とりあえず、いつまでも土台代わりにしている忍者を払いのけようと立ち上がる。
しかし、忍者の立ち位置が悪かったのか、傍から見れば、肩車の姿勢になってしまっていた。

「オイコラ降りろ!重てぇんだよ!」

テナードが降ろしてやればいい話なのに、本人は頭に血が上っていてそれに気づかない。
しかし、数メートル先では今にも戦闘が始まろうとしていた。

>「逮捕?出来るもんならやってみなよ」

少年の目が、殺意と殺気に満ちている。そしてその矛先は、まっすぐ女警官と青年に向けられているのだ。
テナードは何か気を逸らすものはないかと周りを見回す。そして、視線は頭上に向いた。

「! おい上の、それ貸せ!」

そういって半ばもぎ取るようにして受け取ったのは、忍者が手にしていた生首。
気持ち悪いとか不謹慎とか言っている場合ではなかった。

>「冥土に送ってやるよ、二人仲良く……ね?」

「どおりゃぁあッ!!」

少年が二人に襲いかかるその瞬間、テナードは生首を投げつけた。
猛スピードで投げられた、それは、見事少年の頭部にヒットした。

「ッしやァ!」

忍者を肩に乗せたまま、ガッツポーズを決める。
しかし、すぐに視線の先が自分に向いたことに気づくや否や、テナードは背中を向けて逃げ出す態勢を取った。
忍者を肩に乗せたまま。

【ターン終了:ニノさんに接触。生首アタックでレン君の意識をちょっとだけこちらに向けてみるテスト】

65 :追記 ◆b413PDNTVY :2011/01/07(金) 22:19:04 0
>>57>>58の間に、こんな文章が入ります

―――――――ここから――――――――
鈴木の言葉を聞いた檸檬の顔は、途端に青ざめた。
震える指で、タチバナの顔の輪郭をなぞる。

「じゃあ、コレが…異世界の、一生兄さん…
それなら、早く彼の腕を何とかしないと…このままだと、死んでしまうわ」

青ざめたまま、泣きそうな声で檸檬はそう言った。
傍らに置いていた本を急いで開き、目当てのページを見つける。
開いたまま何事か呟き、両手をタチバナの右肩へ翳す。
ふわりと空気が動き、傷口が凍ったかの様に出血が止まった。

「…鈴木、水を持ってきてちょうだい」

檸檬の呟きに答え、水を持ってくる。
―――――――ここまで――――――――


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