1 名前:名無しになりきれ [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 13:54:40 0
はじめに

このスレッドはブーン系とTRPSのコラボを目的とした合作企画であります。
詳しくはhttp://jbbs.livedoor.jp/internet/7394/
をご覧下さい。

一応のコンセプトである『登場人物はAAをモチーフに』はどんなAAでも問題ありません。
でないとブーン系に疎い人はキツい物があるでしょうから。

登場人物は数多の平行世界(魔法世界やSF世界等)から現代に呼び寄せられた。
或いは現代人である。と言う設定になっております。

なので舞台は現代。そしてあまり範囲を広げすぎても絡み辛いと言う事から、
ひとまずは架空の大都市としますです。

さてさて、それでは楽しんでいきましょー。




参加用テンプレ

名前:
職業:
元の世界:
性別:
年齢:2
身長:
体重:
性格:
外見:
特殊能力:
備考:




2 名前:名無しになりきれ [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 13:57:48 0
本編スタートから二日目。捕われのミーティオ奪還作戦現在決行中


有志による超絶まとめサイト

http://boontrpg.blog41.fc2.com/



文明まとめ

:簡単に言えば、物に宿る特殊能力の素みたいな
:形はある。他の物に宿るけど、侵される事はない。
:だから宿った物を燃やしたりすれば、『文明』だけを取り出せる
:そう言った加工したりする技術職なんてのもいたり。公から闇にまで

:文明が宿る物には適性がある
:例えば過去の『妖刀』『神具』なんてのは、適性が抜群だったと考えればおkかも
:適性が不十分でも宿りはするけど、放置すると文明は離れていく

※つまり女の子みたいなモン。
 ブサメンは頑張っても引っ付かない。フツメンは努力次第で引っ付く。
 超絶イケメンはほっといても引っ付いてくる。みたいな?
 だから一つの物に複数の文明が宿るなんて事もあり得るかも?

:人によっても適性がある
:『情報干渉』系と「現象顕現』系がある。更に細分化出来るけどしんどい。
:適性は上に関係してくる。『治療系』なんて適性もアリ



3 名前:宗方丈乃助 ◆d2gmSQdEY6 [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 14:01:12 0
前スレ>>266
突撃したタチバナブリーフは4人を粉々に砕いた。
マネキン人形みたいにあちらこちらに四股をぶん投げてやがる。
俺は余りの出来事に言葉を失った。
そして、生臭い匂いに顔をしかめながら周りを見る。

やべぇ。マジでやべぇ。死んでるよ。
これは最低でも10年は出れないな。
下手したら無期懲役、いや……

「死刑だな」

俺の周りを飛ぶクソ蝙蝠が平然と呟く。
このヤロウ、言っちゃいけないことを平気で言いやがる。

「…や、やっちまった。こいつはマジでやばいぜ。
ブリーフで殺人だなんて……」

「いい弁護士を紹介してやるぞ。
オマエに自首する気があればだが。
まぁ、上手く逃れても無期懲役が関の山であろう。」

俺は考える。こいつら悪い奴らだっけ?
でも、やっぱ殺しちゃうのはまずいよな。
俺がこの世界の人間じゃないとしても、やっぱやばい。
でもここでつかまるってのはマジで勘弁だ。
ここはどうするべきだ?

「絶望が俺のゴールだ。」

【丈乃助、殺人を犯し混乱中】

4 名前:名無しになりきれ [] 投稿日:2010/07/24(土) 22:26:26 0
死ね

5 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 00:20:28 O

電話の向こうに聞こえる音は緊迫していた。
そして再び、飛峻の声。

「……ソウだナ。マユキ落ち着いて聞いてくレ。
ユズコは負傷しタ、重度の熱傷ダ。このままでは命に関わる可能性もアル」

彼が伝えた内容は、真雪を再び混乱させるのには十分だった。
重度の熱傷、要するに火傷か。柚子が、命に関わるほどの、大火傷?

「…え、それっ…て…」

叫びたい衝動をこらえて、飛峻を待つ。
何か手立てはあるだろうか?

「今から言う番号に連絡を頼ム。ウサギが出る筈ダ。良いカ?番号は――」

告げられた番号を反芻して、覚える。
なるほど、つまり彼女を頼るのか。

「ウサギも組織で動いてるなら治療施設の一つや二つは確保してるダロウ。……ソレでは頼んダ」

すまなかった、という言葉を残して、電話は向こうから切れた。
すぐさま伝えられた番号をかけなければならないのだが、真雪は呆然と画面を見つめていた。

(ユッコ…)

真雪の欠点、弱さまで受け入れて、あんなに愛してくれた子は初めてだった。
それが今は命に関わる重傷。不安で心配で、堪らない。

「柚子は、助けてくれたんだ、だから…」

そう呟きながら、兔への番号を押す。数十秒前の記憶と比べて、一旦深呼吸。
ボタンを押して、携帯耳に当てる。
ガチャリ、と音がした。

「もしもし。月崎です」

そして聞こえたのは兔の声。
飛峻の所在を尋ねられるが、聞いてなかったのでどこに居るかは分からない。

「ごめんなさい、今彼がどこに居るかは分からないんです。
でも…もうすぐ上がって来るって言ってました。
それと…こんな時ですがお願いがあるんです」

一旦言葉を区切って静かに息を吐く。

「ふぇ…リーさんが怪我人を連れてきます。
載せて…そして病院へ搬送していただけませんか?」

【無茶を承知でお願いするよ!】

6 名前:◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 09:23:55 O
>>5

「ふぇ…リーさんが怪我人を連れてきます。
載せて…そして病院へ搬送していただけませんか?」
今にも泣きそうな声で、月崎真雪が懇願する。救いを求めている。それはひょっとしたら、平時であれば兎の心
を溶かしたかもしれない。だが兎は壊れていた。兎はヘリにもたれ掛かりながら、自身を保とうと必死になって
いた。携帯電話を持つ手が酷く汗ばみ、ともすれば指から滑り落ちそうな錯覚を彼女は覚える。もちろん、そん
なことは全く無いわけだが。
「いい……ゎ、ですよ」
個を保つ。必死に己を、過去の己を再現する。“月崎真雪”に己の秘密を見破られないよう、現在の人格を押し
留め、演技する。
ばれているかもしれない。
兎はひっきりなしに恐怖を感じる。それは己の変化に対する恐怖、変化を観測される恐怖だ。最早打算などは存
在しない。あるのは恐怖のみ。恐怖から逃げたいがため、兎は“月崎真雪”の願いを叶える選択を取った。
「えぇ。連れてきてもいいゎ……ですよ」
限界が近い。視外戦術に特化した兎の脳は、通常の機能を僅かにダウングレードさせている。
「李さんも一緒に来させろ、て下さい。……でもひょっとしたら途中で戦闘に巻き込まれるかも、しれません。
気を付けなさい」
会話が終わり、兎は携帯電話を内ポケットにねじ込んだ。気分が悪い。自分が何を話していたかも余り思い出せ
ない。
『対象の圧縮は遅らせた方がいいかい?』
「……そうして頂戴。彼らがここに着き次第、彼等ごと頼むわ」
今から月崎真雪と正面きって会わなければいけなくなった事に後れ馳せながら気付き、暗澹たる気持ちになりな
がら、兎は目を瞑った。


【真雪→兎:交渉成功】

7 名前:名無しになりきれ [] 投稿日:2010/07/26(月) 00:47:34 0
100点万点中32点

8 名前:ミーティオ=メフィスト ◆BR8k8yVhqg [sage] 投稿日:2010/07/26(月) 22:51:56 0
>前スレ >>298-300

 目の前にいる彼女は、どこからか取り出した武器を両手に構え、何やらよくわからないことを言う。

>「私達は、貴女を助けに来ました、それだけは――変わりませんっ!
> 私は貴女を攻撃しません、だからお話をしましょう……」
>「みんなで、帰りましょう!」

「『みんなで』『帰る』……?」

 意味がわからなかった。目の前にいる少女は名も知らないのに、ミーティオをまるで友達のように扱う。
 どうしてお前はそんなに優しいんだ。どうしてお前はそんなに弱いんだ。

「あたしに帰るところなんか、ねーよ」

 一つ所に留まることなどできない。さすらい、さまよい、さよならを言わない人生だ。
 ここが異世界であるというのならば、帰るべき場所は一つだけある――『地下世界』。
 だけれどもそれにしたって、帰れないなら帰れないで構わない。あの天井を越えられたら、と願っていた。

 こんな形で願いが叶うことになるとは、思っていなかったが。


   『いつか、ここに帰ってこいよ』


 白いノイズが走った。

「………………ッ!?」

 実際に眼前にある景色と、かつて見た情景が交互に網膜を照らす。
 この明るい室内と、あの暗い道が。フラッシュバックがミーティオの脳裏を灼く。

 ――竹内萌芽は、ミーティオ=メフィストから『憎悪』と『殺意』を引き出した。
 植え付けたのではない。彼女の中に元から備わっている感情を、表側に引っ張ってきたのだ。
 その時――あたかも蔦が絡み合うように――関連した記憶も、忘れていた想いも、引き出された。

 彼が考えるほど、人の感情というものは、単純ではない。

「……っ、クソ、なんだよ、おい」

 殺意や憎悪など簡単に凌駕できるだけの強い感情が、彼女の中にもまだ残っていた。

「なんであたしは――――泣いてるんだよ?」

 空いた手で涙を拭う。雫はすぐに溢れてくる。片手では足りない。
 がらん。放された鉄パイプが重力に従って、乾いた声を上げた。

 もう、二度と、帰ることができない、なんて、死んでもゴメンだ。

「帰りてえよお」



【一時的に萌芽の洗脳を乗り越えました。戦意喪失】



9 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/07/26(月) 23:08:38 0
「あれれ〜私の患者が居ないよ〜?」

間延びした声。それは緊迫したこの戦場において、致命的なまでに空気を読めて居なかった……

「誰アレ……見なかった事に」

「出来ませんって……彼女がウチで用意できる最高の看護師ですし。おーい!!■■ちゃん!こっち!!はやくきてくださーい!!」

そう言い「公文の彼」は「■■」と呼ばれる人物に手招きする。ペタペタと奇妙な足音を立てる彼女はやはりどう見ても看護師にしか見えない。が…

(正直、あの子じゃあ助かる人も助からないんじゃないかと思います!!)

それが彼女に対する一見での《巡回医》と零。二人の統一見解だった。

「オサムくん!へぇへぇ…この子だねぇ?うーん、これだけ広範囲の火傷はまずいよぅ」

「よいしょ」と手持ちのカバンをおろすと彼女は開口一番にそう判断する。
やはり、公文の文明によって受けた傷を治療する本職の目で見ても相当にまずい状況なのだろう。
そこで、零は先のヘリを利用した病院搬送について指示を仰いでみる事にした。

「そうなのよ。他にも重軽傷者はいるけどこの子は特にひどいの。
 とてもじゃないけど、ここで応急治療をして他人と共に陸路で病院に連れて行くなんて無理。
 そこで、ここの屋上にあるヘリポートを利用して治療を行いながら搬送しようと思うんだけど……」

「うん。それが良いよぅ。そうときまればレスキュー呼ばないとね」

そうノロノロと無線機を取り出そうとした看護師だがそれは予期せぬ方向からの一言で無駄に終わる。

「ヘリはコチラで手配可能ダ。スグに連絡を取ってみル」

「アナタ……ありがとう。お願いするわ。でも、先客がいるかもしれないの。
 もし居たとしたら、それを追い払うか奪わないといけないから注意はしておいて。さて、そうと決まれば……」

「決まれば?」

彼の発したその質問に零は立ち上がりながら答える。
パンパンと手を祓う様な動作を見せるとぐるりと一周を見渡し目当ての物を見つけ、にんまりと笑う。

「屋上まで運ぶわよ。長い麺打ち棒が二本あったから、それとテーブルクロスを組み合わせて応急担架を作るわ」

「ナイスアイデアです」と言う間の抜けた看護師に後ろ手で手をひらひらさせる事で返答し、零は手早く担架を組み上げる。

「すごぉい……」

「凄くない……ッ!」

即席で作られた担架。それはどこか歪な形状をしており、又、人を寝かせるには少しばかり長さが足りないものだった。
しかし、それでも人を運ぶには十分な出来であり少なくとも現状で出来る事としてはなかなかに良い物でもある。
言うならば、「まぁ、緊急時だしこれで良いっしょ?」的な出来栄えだ。

「念のため崩れたりしないか確かめたけど、大丈夫みたい……
 ほら!オサムクン?は早くそっち持つ!!アラ、丁度いいわ……アナタも男なんだし後ろ側を持ちなさい」

目ざとく中華風の服装をした青年「李飛峻」を見付けた零は彼に担架を持つ様に声を掛けるとキッチンを後にする。
かくして、一行はエレベーターを用いて屋上を目指す事になった。

【状況:屋上へ向かいましょう。なお、屋上に居るヘリは今現在の零視点では進研の物となっております】
【目的:C迷子の捜索。
    E経堂柚子を助ける。】
零:【持ち物:オリシ『折りたたみ式警棒』、『重力制御』、携帯電話、現金八千円、大型自動二輪免許】

10 名前:都村みどり ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/07/26(月) 23:09:30 0
「お前、何をした?」

分らないとでも言いたそうに男は呟いた。
そして、何かを確かめるように手を振うような動きをするもそれは叶わずに、結果、滑稽な動きで笑いを誘う。
無理もない。文明と言う物はそう言う物だ。
都村が切り裂いたのはコックと文明『錬金大鍋』を対象にした接点。
言ってしまえば、彼がバイパスを新たに作らない限り今後二度と、「この『錬金大鍋』」を使用できなくしたのだ。

「……思い出した。お前、『一刀両断』の都村みどりだろ」

そう忌々しげに声に出し、吐き捨てる男。
どうやら彼も、自分が何をされたのかに気づいたのだろう。
その顔色には先程までの余裕もなければ、過度のアドレナリンによると思われる興奮も見られない。

「いかにも……。さて、貴方の「絶対有利」は崩れ去った訳ですが、如何しますか?」

そう言うと、今度はゆっくりと木刀を下段に降ろして構えを見せたままにじり寄る。
対するコックはと言うとどうすればいいのかと思考しているのだろう。
チラチラと『錬金大鍋』を見ては都村を見やるのを繰り返す。

「貴方には上訴権が認められます。今回、私の行った裁判は地方裁判に属し、後二回の控訴、上告、が貴方には認められます。
 しかし、同時に貴方の今後の行動は全て、後の裁判において証拠として提出する義務が発生してしまいますので不用意な発言は控えるべきでしょうね」

都村の吐いているパンプスの踵によりコツリコツリと言う音を立てる床タイル。
沈黙が辺りを包み、夕焼けが二人を照らす。
一分とも、一秒とも、一時間とも取れる様な沈黙は何を生むのか?見ようによっては愛し合う恋人同士にも見えるかもしれない場面を崩したのは男の方だった。

「……なあ、一つ提案があるんだ。何、悪い話じゃない。……君はまだ、俺の『適性』までは断ち切れていない、だろう?
 そんな演算をする時間は無かった筈だからな。それで……だ。
 俺としてはこの文明の適性を断たれるのは困るんだ。本職はあくまで料理人なんでね」

下手に出ながらも何処か不遜さの残る態度で、彼は提案する。
『錬金大鍋』は正しく使えば、食材に最高の調理を施す事が出来る。
それが出来なくなると言うのは、彼としては致命的なのだろう。

「だから、だ。『進研』の情報を洗いざらい吐く。代わりに俺の『適性』を断ち切るのはやめてくれ。
 勿論、その後は文明を悪用する真似は金輪際しないさ。……どうだ? 悪くないだろ?」

「成程。司法取引ですか……構いませんよ?どの道、拷問と自白剤で洗いざらい吐かせるつもりでしたし…
 貴方が協力的な態度を行うようでしたら、こちらとしても無駄な労力は避けたい限りです」

そう言うと、慎重に手錠と言う名の婚約腕輪を取り出す女。
そしてそれが男の腕に巻かれる。「カチリ」と言う誓いの音(コトバ)が全ての終わりを告げた。

「最も、貴方には既に二人の殺人罪、多数の傷害致死罪、文明不法所持罪、その他、多数の余罪がありますので恐らくは……」



「一生を牢獄で過ごす事になるのは変わりないと思いますよ?」

【状況:ナベちゃん逮捕!都村さんはこのままナベちゃんを連行するので上には向かいません】

都村:【持ち物:警察手帳、クレジットカード、無線機、携帯電話、『一刀両断』《/メタル》、『血戦領域』《ジャッジ・メント》、『身体強化』《ターミネイト》、
        『禁属探知』《エネミースキャン》、『視外戦術』《ゴーストタクティクス》、『見敵封殺』《ロックオンロック》、『攻防矛盾』《グラニード》
        (内、使用可能なのは適性のある一刀両断、血戦領域、身体強化のみ)】



11 名前:竹内 萌芽(1/5) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 00:56:44 0

「はぁ、結局僕がこっちの戦いに混ざった意味って何だったんでしょうね」

萌芽と皐月が見守る中、目の前のミーティオは涙を流していた。
その姿が、今朝の自分と重なって、萌芽はなんとなく気恥ずかしくなり、目を逸らす。

視界を飛び回るストレンジベントたちを見て、萌芽はため息をついた。

「結局コレもまったく意味なかったですね、はあ、ストレの役立たず」

”アヒャ!!? アタシのせい!!?”

反論するストレンジベントを黙殺しながら、萌芽はぱちん、と一つ指を鳴らす。
音が部屋に響くのと同時に、部屋中をアヒャアヒャと言いながら飛び回っていた道化師たちは一瞬でその姿を消した。

「ほんっと、なんだかなあですよ。せっかく真雪さんに男らしいところを見てもらおうと思ったのに」

言いながら部屋を見回した萌芽は、すでにそこに月崎真雪の姿が無いことに気付いた。

「お、あ、あれ……真雪さん?」

”アヒャ? あの娘ならさっき出てったぞ、なんか泣いてるみたいだったけど”

「お? ……お? 真雪さ……泣いて……お?」

”『女心は秋の空』って言ってな、女の子はついさっき笑ってたからっていって安心しちゃだめなんだぞ
 あの年頃の女の子はバリケードだから、特にな”

言葉の使い方と言葉そのものを間違えながら、知ったようなことを言うストレンジベント。
萌芽はただただ混乱しながら、その場であたふたするしかなかった。

「と、とにかく!! 今すぐ追いかけましょう!」

そう言って走り出そうとする萌芽の体に、一際大きなノイズが走る。

―――『時間切れ』だ。

それを実感したときには、萌芽の体は跡形も無くその場から消え去っていた。
まるで最初から彼など居なかったとでも言うように。

ただドアの前に残された、一台の赤いバイクのみが、竹内萌芽がそこに居たことを唯一物語っていた。


12 名前:竹内 萌芽(2/5) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 00:57:41 0
ブラッディファング

全長:2120mm
全幅:840mm
全高:1410mm
最高時速:340km
最高出力:320馬力
文明:『移送空間』《ムービングランド》擬似『身体強化』《ビルドアップ》擬似『永久機関』《ノイマンズドリーム》

竹内萌芽が『永久機関』《ノイマンズドリーム》に溜まった余剰エネルギーを使って作ったバイク。
動力源に擬似『永久機関』《ノイマンズドリーム》を備え、無理なスピードを出さなければ半永久的な走行を可能とする。
(本来『永久機関』《ノイマンズドリーム》には『虚数機構』が備えられていないため、『限定制御』《タイムイズバレット》で
余剰エネルギーを外に放出する分量を調整する必要があるが、こちらはそれほど多くのエネルギーを生み出せないためその必要はない。)
また走行時には『移送空間』《ムービングランド》を使用し、機体本体の速度に、機体を包む空間そのものの移動速度が乗算される。

内部には生体コンピュータが搭載されており、機体自身が独自の意志を持っている。そのため自動走行が可能。
萌芽がこの機体を呼ぶときに「Three-eight-two-one」と口ずさむが、これは彼が幼い頃に好きだった特撮番組『人がヒトを超えたとき、その力が運命を変えるようです』に由来する。
タンクの左右に4門ずつのミサイルユニットを装備しており、<SHOOTVENT>および機体搭載の擬似<SHOOTVENT>で捕捉した敵に向け、生体ホーミングミサイルを発射する。

普段は普通のバイクの形(ビークルモード)をしているが、有事の際には前輪後輪を分裂させ、血に飢えた狼を連想させる四足の<バトルモード>に変形する。
後部座席の後ろに装備された尻尾形のパイルバンカーは、主にこのときに使用される。

あとなぜこんなモンスターマシンに萌芽のような普通人が乗れるのかというと、機体に装備された『身体強化』が、搭乗者(適合者)の肉体を強化するためである。

擬似<SHOOTVENT>

ブラッディファングの制御装置兼動力源。
銃のグリップにトリガーだけが付いたような形状をしており、これをファングの起動用ドライブに差し込むことにより機体にエネルギーを供給する。
スタートアップコードは「Five-eight-two-one」グリップに向かってスタートアップコードを音声入力すると「Standing by」の声が響き、
その後起動用ドライブに差し込む(インサートする)ことにより「Complete」の音声とともに起動する。

また、ミサイルを放つとき、敵を捕捉するのにも用いられ、その場合は「Check」とグリップに向かって音声入力し、
捕捉対象に向けて赤い光のマーカー弾を命中させればよい。
捕捉対象が赤く輝いたのを確認した後、グリップに「Shoot!」と音声入力することにより、全8発の生体ホーミングミサイルが一気に相手に向かって発射される。

なお、これはあくまで”擬似物”のため、マーカー弾以外は打つことができない。


13 名前:竹内 萌芽(3/5) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 00:58:34 0

ときと時間は変わって、ここは市内某所。とある組織の保有する、とある施設。

「ぷはー、ご馳走様です。たすかりました。今朝から何にも食べてなかったんですよ」

八重子と名乗った女性から受け取ったスープを平らげた萌芽は、満足げに微笑みながら腹をさすった。

何も食べていない状況であれだけ動き回り、おまけに足からは大量出血。
よくもまああの時間帯まで意識を保てたなあと萌芽は自分で自分の神経のズ太さに感心してしまった。

「そういえば協力して欲しいんでしたっけ? いいですよ、一泊一飯の恩です」

ごろんと白いシーツの上に横になりながら、萌芽は大あくびをする。
先ほど軽く彼女たちの組織の説明を受けたが、彼はまったくと言っていいほど理解していない。

ただ、なんとなく彼らに協力してみるのも面白そうだと思った。

この少年にとってはそれだけで十分だった。

部屋から八重子が出るのを確認し、萌芽はシーツに寝転がったまま天井を眺める。

右腕の痛みが、綺麗に消え去っている。
自分が気を失ったあの瞬間に、自分が”才能”によって”あやふや”にしていた、
あの男の痛みも”はっきりと別々”になってしまったのだろう。

「あのおじさん……助かりましたかねえ?」

天井に向かってそんなことを呟いたあと、なんだか
自分がこんなことを考えているという事実がおかしくて、萌芽は笑ってしまう。

すべては自分の”敵”の、月崎真雪という名のあの少女のおかげだ。

「真雪さん……なんで、泣いてたんでしょう?」

自分のせいだろうか? ひょっとするとそうなのかもしれない。
胸にやり場の無いもやもやした感覚を感じている彼の頭の中に、ふいに甲高い声が響いた。

”アッヒャー、確認すればいいじゃないか、直接あの娘にあって。
 もるの『才能』だったら朝飯前だろ?”

「……」

ストレンジベントの声に、萌芽は無言。
しばらく沈黙が続いたあと、萌芽は搾り出すように言った。

「……だって、なんか怖いじゃないですか」

”アヒャ?”

「僕が泣かせたんなら、真雪さん、怒ってるかもしれないし。
 ひょっとしたら、もう僕となんて話したくないと思ってるかもしれないじゃないですか」

なぜだか、声が震える。自分を抱きしめるように、ぎゅっと腕に力を込め、萌芽はその震えを押さえつけた。
頭のなかで、ため息がひとつ。

”そっか、ま、アタシはもるがいいんならそれでいーんだけど、さ”

呆れたようなその声は、少しだけ納得がいかないようでいて、しかしどこか優しかった。


14 名前:竹内 萌芽(4/5) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 00:59:28 0

自分が風船のようにふくらんでいく。

むくむく、むくむく、むくむく

大きくなった自分という存在は、やがて周囲の空気や、物質や、生き物や、
そんな色々なものと区別がつかなくなる。

ごちゃごちゃして、ぐちゃぐちゃで、本質は何もかもがめちゃくちゃなくせに
表向きだけは理路整然とした体面を取り繕っているこの世界。

まるで自分みたいだ、と少年は思った。

自分と境目が分からなくなったこの空間のどこかに、彼女は、月崎真雪はいる。

謝りたいと、萌芽は思う。

それでもやはり、怖いのだ。

この気持ちは、一体なんだ?

温かさでも、冷たさでもない。ひどく”あやふや”なこの感情。

気持ちが悪い、この感情を消したい、そう思った瞬間、彼は別の場所に居た。


15 名前:竹内 萌芽(5/5) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 01:01:18 0

【接触:佐伯 零】

萌芽は、驚いたように目を見開く。
おかしい、自分は別に目の前の彼女に―――佐伯零に会いたかったわけでは……

いや、”会いたかった”のか

「こんばんは、あの……いい夜ですね?」

胸の中で、萌芽は自分に呆れていた。
彼がこの数年間、ずっと幼馴染の”彼女”を求め続けていた意味に、ようやく彼は気付いたのである。

「あ、いやその……何か用事があったってわけでも、あはは……」

自分は、ずっと”彼女”を逃げ道にしていた。
本当は”彼女”が居なくても、萌芽でない”n”のままでも、自分はきっとそれなりに楽しい人生を送れたのだ。

『あの世界』が『退屈』だったのは、きっと自分が『退屈』に逃げていたからだった。
自分が『退屈』という見方をすることで『あの世界』は『退屈な世界』になっていたにすぎない。

自分の見方次第で、そう、例えばあの世界を『退屈な世界』では無く『真っ白なカンバス』のような世界だと表現していたとすれば……

「ちょっと、聞いてみたいことがあるんですが」

自分は無意識のうちに、また”彼女”に逃げようとしていたのだ。
だから、もしかしたら”彼女”かもしれない佐伯零の元に来てしまった。

なら、訊ねてみよう。

そうすることで、この可能性への”逃げ”はきっと可能性と”向かい合うこと”に変わる。

「……あの、佐伯さん、『内藤ホライゾン』という名前に聞き覚えはありませんか?」

【ターン終了:ファングは誰かが回収するなりすればいいと思うよ!】


16 名前:八重子 ◇IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 17:27:15 0
前スレ>>304-305


当分は止みそうにない雨空を忌々しげに睨みつけ、Cは乱暴にカーテンを閉める。そろそろ別の異世界人達の診察にも向かわねばならない。

>「あー、その、これは私のペットで、」
その時、訛祢の遠慮がちな声に振り向く。
…………今、彼は何と言ったのだろう。Cの耳が正常ならば、彼は肩に留まるカラスを、ハッキリとペットだと言い切った。

カラスが、ペット?きがくるっとる。
やはり異世界人はよく分からない存在だ、と眉を顰め琳樹を睨みつけた。


>「……名前は、狂羽」

「あら、中々良い名前じゃないの」

「名前なんかどうでも良いわよ!私は!カラスが!駄目なの!
 私がカラス大嫌いだって事、貴女も知ってるでしょう!?」

半ばヒステリック気味に叫び、八重子はまあまあと宥める。
行き場のない怒りを溜め込んだまま、そのまま肩をいからせ、「外で待機しておく」と退室してしまった。
それを見送った八重子は、申し訳なさそうに訛祢に向き直り、頭を下げた。

「気を悪くしたならごめんなさいね。
 彼女、幼い頃カラスに襲われた事があって……それ以来カラスが大の苦手なの」

雨のせいか、少し冷えてきた。エアコンをつけ、適温になるよう設定した。
そして、全く手をつけてないスープに視線を向ける。

「琳樹さん、きちんと食事は取らなきゃ駄目よ。気分が優れないなら、尚更」


そう言い、八重子は立ち上がる。
異世界人の監督を任されているのは八重子だ。彼女自身としては食事を強要させるつもりはないが、監督者としての責任もある。

彼等に、もしもの事があってからでは遅いのだ。

17 名前:八重子 ◇IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 17:28:21 0
「どう?解析の方は進んでる?」

Cは、明かりの少ないこの研究室が苦手だった。
ホルマリンだとかよく分からない液体に漬けられた様々な研究対象に眉間に皺を寄せつつも、1人研究に没頭するチビで小太りの男の背中に声をかける。

「フッヒヒwwwwww問題なく解析してるヲタよwwwwwフヒッヒヒwwwwwwwww」

ボリボリと頭を掻きフケを撒き散らし、男は牛乳瓶の底のような眼鏡を妖しく光らせ、不気味に笑う。
生理的嫌悪感から、Cは研究対象であるテナードの右腕と、ピクリとも動かない101型へと視線を逸らす。

進研に来てすぐ、101型はありとあらゆる文明を破壊し始めた。
対文明破壊兵器として造られた彼としては正当な行為なのだが、進研の団員達がそんな事を知る由はない。
文明による攻撃も効かず、サポーター十数人、幹部数人の手によって、無理矢理沈黙させたのだ。

あの大惨事を思い出し、不愉快の感情を込めて101型を睨む。
無論、彼がその視線に反応する事はないが。

「それにしても、不思議なエネルギー反応だヲタね。
 義手や兵器の出来もさることながら、この2つから出される共通のエネルギー反応はこの世界には無いものヲタ」

男は小難しい専門用語を交えながら熱っぽく語る。
Cにはよく分からない話だが、簡単に言えば義手と101型が発するエネルギーはこの世界に存在するものではなく、そのエネルギーは文明のエネルギーを相殺し、分解してしまう効果を持っているらしかった。

果たして、その力は自分達に何をもたらすのか。
ただ静かに、Cの視線は義手と101型に釘つけとなっていた。

18 名前:八重子 ◇IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 17:29:14 0
* * * * * * *

>>13-14

>「ぷはー、ご馳走様です。たすかりました。今朝から何にも食べてなかったんですよ」

「お粗末様でした。それにしても、よく食べたわねぇ」

満足げに笑顔でお腹をさする竹内萌芽に、八重子は笑みを零す。
足に傷を負っていたのにも関わらず、この元気。半分あの青年に分けてやりたい位だ、等と考える。


竹内萌芽には、一足先に進研の事をつまむ程度に説明しておいた。
衣食住はこちらで用意するから、協力して欲しい旨なども。
萌芽の返事は、快いものだった。


>「そういえば協力して欲しいんでしたっけ? いいですよ、一泊一飯の恩です」

良かった。小さく安堵の溜め息を吐く。
ごろりと横になった彼に微笑みかけ、八重子はベッドのすぐ傍にあるスイッチを指差した。

「それじゃあ、何かあったらこのボタンを押して頂戴ね。
すぐに駆けつけるから」

再び琳樹の様子を見に行こうと思い立ち、パイプ椅子から立ち上がる。
仕切りのカーテンを閉め、視線が右隣の二つのベッドへむく。
萌芽のすぐ隣にはテナードが、更にその隣では前園久和が熟睡している。

彼らが目覚めたら、温かいスープを持って行ってやろう。
そして、教えてやらねばなるまい。この組織の事を、この世界の事を。
ああそうだ、カズミの見舞いにも行かねば。

そんな事を考えながら、八重子は静かにドアを閉めたのだった。


【萌芽に進研について軽く説明しました。全員が目覚めたらkwsk説明する予定です】

19 名前:エレーナ ◇SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 18:10:37 O
雨が降り続ける夜空の下、私達の宿探しは続く。


「(それにしても…何て濃い魔力なの)」


空気中に漂う魔力の靄に、顔を顰める。
私やドルクスのように、濃い障気や魔力に耐性がなければ体調不良を起こしても仕方ないくらいの濃度。
人間が酸素を摂り過ぎて酸素中毒を起こすように、私達も魔力を身体に溜め込み続ければ毒となる。
早く禁術の出所をつきとめ、正さねば。
そして帰るのだ、あの愛しい場所へ。


「(エレーナ様)」

思案の最中、ドルクスに腕を引かれ意識が現実へと戻される。
文句を言ってやろうと口を開きかけるも、緊迫したドルクスの表情で押し黙ってしまう。

「(な、何よ…)」
「(不覚でした…尾行されるッス)」

反射的に振り向きそうになって、「振り返らないで」と忠告された。
心臓がバクバクと高鳴る。
心音を聞かれてるんじゃないかとビクビクして、体から体温が消えていく。


「(ど、どうするのよ!?もし囲まれたりでもしたら……)」
「(いえ、相手は1人ッス…ただ、)」
「(? 何よ、ハッキリ言いなさいよ)」

ドルクスが押し黙る。
不安の波が私の心にどっと押し寄せる。

20 名前:エレーナ→ドルクス ◇SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 18:12:01 O
「(俺が囮になるッス、エレーナ様は逃げて)」
「ッ!ちょ、ちょっと待ちなさいよドルク」

声を荒げた私の言葉は続かず、それは発動する。
数瞬の立ち眩みの後、私の視点は通常よりも高くなっていた。
そして、『私の視線より下に』『「私」がいた』。

私が現状を理解するその瞬間、「私」が「私」に瞬間移動魔法をかけた。


そして、端から見れば、その場から碧眼のドルクスが姿を消し、漆黒の瞳を持つエレーナと傘だけが残った。


「おや、意外だね。逃げるとしたら、てっきり君の方だと思ったんだが」

・・
今はエレーナ様になった俺の目の前に現れる1人の男。
全く気配を出さず、人間にしては異様な空気を放っている。
パリッとしたスーツを着込み、右腕にアームカバーと腕章を装着した、背の高い青年だった。
左目の泣き黒子が印象的な人懐いその顔に、見覚えがあったような気がしてかぶりを振る。


「一緒に来てもらおうか、異なる世界からの小さな訪問者さん」

美青年が胸ポケットから真っ赤なペンを取り出すと、それは真紅に輝き、鎚の形へ変化する。

「…………あの人には、手を出すな」
「そうだね、君が抵抗せずに私に着いてくると約束するなら、善処しようではないか」

俺の意志を汲み取ったの、横笛をペンに戻し、右手を差し出してきた。


「いらっしゃいませ、この世界へ」

そして

「ようこそ、進研へ」

チラリと見えた腕章には、大きくアルファベットの「T」の文字が刺繍されていた。


【エレーナ:ドルクスと身体を交換、どこかへ飛ばされる】
【ドルクス:エレーナと身体を交換、進研に拘束される】

21 名前:弓瑠 ◇CqyD3bIn5I [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 18:38:54 0
黒猫と戯れる弓瑠にハルニレの声がかかる。
その内容は、彼女を落胆させるものだった。

>「ゴメンナ、オ嬢チャン。コノ時間ニコノ大雨ダ、モウ人探シハ出来ネエ」

あきとひぃに会えないという思いよりも、もうハルニレと居れないのだろうかという思考の方が強いのは何故だろうか。
幼い彼女には、分からない。
しかし、ハルニレと一緒に居たいという感情は自分でも理解できた。

少ししゅんとなりながらも待った次の言葉は、

>「良シ、決メタ。親見ツカルマデ、俺ガ面倒見テヤンヨ」

弓瑠を喜ばせるものであった。
ハルニレお兄ちゃんと一緒に居れる、と。
少し明るく笑いながら、彼に頭を撫でられ手を握られる。
片腕で抱えていた猫は頭か肩、――猫が乗りたがっていたのは頭である―に乗せて、彼と共に彼のホテルへ行こう、と思ったのだが。

>「あのさ、…………私の面倒も見てくんない?」

ジョリーの声が彼女の耳に入る。
相手は大人である。
彼女は、子供である自分ではお兄ちゃんを取られてしまう、と少し怨めしそうにジョリーを見た。
猫は、ジョリーの味方らしいが。

結局、三人と一匹はハルニレのホテルへ向かう。
弓瑠は不満そうな顔を見せ、だがしかしお兄ちゃんと一緒の部屋で寝られるという事実にすぐに嬉しそうな顔になった。

そしてここで、問題が一つ。
猫の事である。
ホテルはペット可だっただろうか、と少し悩み、彼女はそのゴスロリ服のぶかぶかした部分で隠す事にする。
もしばれてもぬいぐるみだと押し通せばいいのだ。
それにもうチェックインした客の事など、余り構いはしないだろう。

「邪魔になるなら、ころす?」

ああ、彼女の呟きは誰かに聞こえたのだろうか。

22 名前:秋人・柊 ◇CqyD3bIn5I [sage] 投稿日:2010/07/27(火) 18:41:11 0
「おいッ!秋人!!」

「んむ、どうした?」

「一旦進研に戻るぞ!」

秋人は柊のその言葉にポカン、とする。
まさか柊がそんな事を言うなど思わなんだ、明日は米が降る。
彼は、柊が深夜になっても探すつもりでいたと思ったのである。

「雨も降ってきたからなッ!」

「戻って部下に探させる、か」

「うむ!!」

力強く頷き柊は秋人の手を握り走り出す。
凡そ30手前だとは思えない行動であるが、これは恐らくお嬢様と手を繋ぐ癖が付いたせいだろう。

「てらきもす」

五文字の言葉を秋人が発する、が、しかし柊は手を離さない。
その内諦めたのか、秋人は同じように走り出した。


というわけで此処は進研。
玄関で繰り広げられるのは二人の男が手を繋ぎ雨に濡れながら帰還という何とも間抜けな光景。

「ただいまんもす」

「おかえりいいい!!」

「柊は実に馬鹿だなあ」

いつものように言い合いながら、というか、一方通行な会話をしながら彼らは進研内部へと入る。
これがボス直属の部下でありお嬢様の家族である、終流秋人と柊淳の帰還であった。

【秋柊:一旦帰還したよー(^o^)/】

23 名前:訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY [] 投稿日:2010/07/28(水) 12:21:33 0

「あははっ」

二人の女性が出ていったその瞬間に、彼女は笑いだした。
少女のようでいて、しかしどこかが狂った笑い声。
ひとしきり笑った後に、狂羽は琳樹に向かってまだ笑みの消えていない口を開く。

「聞いた?……ヒステリックは怖いわ…ふふ」

「はあ…」

ヒステリック、それはつまり狂羽を見たCの事だろう。
彼はため息を吐いてスープに手を伸ばす。
八重子という女性も言っていたが、食事はしておいた方がいい。

「ところで、リンキは私に質問とかはしないのかしら?」

「何で私の名前…まあいいべ…
 質問は、しない」

何故名乗ってもいないのに自分の名前を知っているかはさておいて。
彼のシツモン スルノモ マンドクセーベ、という呟きは狂羽の耳には聞こえなかったようである。
そしてスープを飲み込み、ただ、と呟いた。

「ただ、私と私の仲間を襲わなければいい」

「仲間、仲間ね」

彼女は呟き、そして了承する。
此処のどこかで眠っているであろう仲間は傷付けないと。

「仲間、ね、ふふふ」

仲間という単語を繰り返す狂羽に、琳樹は不思議そうな顔を見せる。
彼女はそんな琳樹に暇だから建物内を散歩しようと持ち掛ける。

「ん、いや、いいけど」

狂羽は彼の言葉に嬉しそうに笑う。
そして、ほんの小さな呟き。

あははははっ
仲間だなんて、成長したものね
…私の愛しい引きこもりさん

―その小さな小さな呟きは、残念ながら訛祢琳樹の耳には入らなかった。


【琳樹:暇をもてあましたので建物内部うろつきます】

24 名前:シノ ◆ABS9imI7N. [] 投稿日:2010/07/28(水) 13:47:09 0

シノが現代に降り立った時、既に世界は夜の闇に包まれていた。
人通りの少ない道を選んで、雨が降る中、棺桶を引きずりあてもなく彷徨い歩く。

「・・・・・・おなか、すいたな・・・・・・・・・・・・・・・」

腹の虫がぎゅるぎゅると鳴る。
通りすがる人々が物珍しげに見やる。
眼帯をつけ、棺桶を引きずるシノが、とても奇妙なものに見えたに違いなかったからだった。


ズルズル、ズルズル。
棺桶を引きずる音だけが、虚しい。

「いい、匂い」


肉が焼ける香ばしい匂いがする。
匂いを頼りに、フラフラとシノの足は動き始める。

「うわぁ・・・・・・」

足を止めた。匂いにつられて、どこかのレストランの前に来てしまったようだった。
ショーウィンドウ越しに並べられた食品サンプルを眺めるうちに、涎がだらだらと顎を伝う。

「おいしそう・・・」


しかし、シノは異世界から来た。金など持っている筈もなく。
ただ眺め、腹の虫を鳴らすしかできない事に諦めを覚え、そこから離れる。

「・・・・・・・・・・・・・あ、れ?」

とぼとぼと、レストランから退散しようとしたとき、ある物が目に入った。
レストランと建物の間のゴミ置き場。
そこに、燕尾服を着た根暗そうな男が倒れていた。

どうしよう。
シノの脳内で、選択肢が表れる。


@この男を助け、あわよくば奢らせる
Aトラブルに巻き込まれる危険性がある、故に無視する
B食べる


「B・・・・・・いや、ここは@?」

うんうん唸り、幼い頭で考える。
自分が何をすべきか、この男をどうするべきか。

「・・・・・・・もしもし、生きてますか?」


Cとりあえず、話しかける。

【ドルクスさん(エレーナさん)に接触】

25 名前:エレーナ ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/07/29(木) 09:19:09 0

>>24

>「・・・・・・・もしもし、生きてますか?」
「うう…………」

眩暈と身体の節々の痛みと雨の冷たさとetc.
覚醒する要素は幾つかあれど、頭上から投げかけられた少女の声が最大の要因だった。
上半身を起こし周りを確認する。
さっきまでとは景色がガラリと変わり、ドルクスの姿も消えていた。
いや、居ることには居る。水溜まりに映る私は、間違いなくドルクスの姿を象っている。


ドルクスが施した【精神交換】。
一方と他方の精神のみを入れ替える、一部の者にしか使えない高等魔術。


「(ドルクスッ…あの馬鹿!)」

私の体は、ドルクスはどこに居るだろう。
意識を集中させ、私の魔力の気配を探そうとする。
けども、空気中に漂う謎の魔力が邪魔をして、上手く探知出来ない。
もっとドルクスの魔力が高ければ簡単に探知出来ただろう。
これでは、禁術の気配を探ることすらままならな……。



「……え?」


私を見下ろす少女から、桁違いの魔力を感知した。
そこら中を漂う魔力とはまたレベルも毛色も違う、いいや、魔力ですらない、不
思議なエネルギー。
それに棺桶を背負うこの少女、まさか――――

「…えっと、お嬢さん」

ドルクスの口調をたどたどしく再現する。
この少女を逃してはならない。この不思議な力を持つ少女を、味方にしたい。
純粋にその思いで、話しかける。

「わた、俺の名前はエr、ドルクスッス。お嬢さんの名前は?」




26 名前:ドルクス ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/07/29(木) 09:21:22 0
「ふむ。つまりはこういう事だね?」

デスクをペンの先でカンカンと鳴らし、青年(仮名:T)は反芻する。

「確認させて貰うよ。
キミの名前はエレーナ=T=デンペレスト。連れのあの男はドルクス。
それにしても大仰な名前だね、長すぎるから愛称としてエリーと呼んでも構わないかな?駄目?ああそう…残念だ
おっと話が逸れたね、私の悪い癖だ。君達は私の見込んだ通り゛異世界人゛で、
君達の世界で起こった゛異変゛について探るべくこの世界にやって来た、と。
ところでその魔界とやらに美人は居るのかな?
私としてはキミのような貧乳幼女よりはこう、お色気ムンムンの未亡人マダムのような女性が好m……おk落ち着きなさい、
真面目にやるからその先端が鋭利な傘を下ろし賜えよ。
で、どこまで話したかな……嗚呼そうだ、禁術?だったか。残念ながらこちら側に心当たりは無いね。力になれなくて済まない。
ところで相方、ドルクス君だったか。彼は私の部下が全力で捜索している。すぐに見つけてみせるから安心しなさい。
……………………ところで君、コーヒーは飲むかい?」
「……頂きます」


一気にまくし立てまくり、言う事も無くなったのか沈黙する。
別に寒い訳でも喉が渇いた訳でもなかったが、一応貰う事にした。

目の前でコーヒーを淹れるTの後ろ姿を眺める。
この青年の異常な威圧感の前に、俺はなすがままに゛進研゛にやって来てしまった。
この建物内は、――Tの胸ポケットに仕舞われたペン含む――あちらこちらから、空気中に漂う魔力と同じ気配がする。
外よりも遥かに魔力が濃すぎて、エレーナ様の体でなければ、とうに息苦しさで苦しみ悶えていた事だろう。

「はい、お待ちどう様。ミルクとシュガーは要るかな?」
「いえ、結構ッ…です」

危ない。危うく何時もの口調で話してしまう所だった。
温かいコーヒーを一口啜り、ほっと一息つく。
その時、1人の男が入室して来る。恐らくは、彼の部下だろう。

「T様、ちょっと……」

部下らしき男がTに耳打ちする。
Tは少しだけ目を見張り、男を部屋から下がらせる。

「着いてきたまえ、エレーナ君」

俺へ笑みを向けながら言い、新しいスーツに着替える。

「前言撤回だ。゛禁術゛について、たった今手掛かりを見つけたよ。――それが、君にとって有益になるかどうかは解らないがね」



【ターン終了:ドルクス(エレーナ)とTをチャレンジへ向かわせます】

27 名前:前園 久和 ◇CqyD3bIn5I [sage] 投稿日:2010/07/29(木) 11:09:28 0
進研のとある場所の、ベッドの中で眠る五本腕のニンゲン。

「シドの街…」

彼はむにゃむにゃと言葉を口に出していた。
寝言というものだろうが言葉の意味が全く分からない。
シドの街、ただその一言である。

「誰がコクハやね……んあ?」

続けて言葉を出そうとして、しかし途中で目を開ける。
五本腕の彼のお目覚め、であった。

※この寝言はフィクションです。実際のなな板、コテハン、事件とは何の関係もありません。

彼は目をごしごしと擦り、眼鏡を探す。
恐らく忘れられているであろうが前園久和という人物は眼鏡をかけている。

「眼鏡が無い…」

「ていうか、ここどこだ」

一旦眼鏡を探すのを止めて辺りを見回す。
記憶に無い場所である。
異世界の、恐らくは病院か何か。

「猫…」

呟いて気付く、テナードは大丈夫だろうかと。
琳樹と、一応であるがあの人間の女―シエルも。

「……」

はあ、とため息を吐く。
変わったな、と自分の頭に生えた手を触って考える。
それもそうだ、人間達を心配するなんて異世界に来るまでは無かったのであるから。

「暇だ…」

色々考えた結論は暇、という事に落ち着いたのだが。


【目が覚めたよ!】

28 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/07/29(木) 19:34:18 0
「う……う"ぅあ"………………」

包帯を巻かれた喉から絞り出される声は、まるで獣の唸り声。
荒海との戦いで負った数々の傷の痛みの中、テナードは夢の中を彷徨っていた。


何もない暗闇の中を、ひた走る。
後方から迫り来る「手」の集団から逃れる為に、全力で。

「手」達は自分達を捕まえようと躍起になっている。
捕まる訳にはいかない、捕らえられたら最後、自分達の命は無い。

自分は1人ではない、大切な人が居る。
繋いだ自分のよりも一回り小さな白い手、大事な大事な  の左手。

走りに走り続けて、やっと見つけた小さな光に希望を抱いて、人知れず笑みを零す。
やっと見つけた、絶望の出口を。平和への道を!

喜び勇んで振り返った先に、あの人は居ない。
白い手の向こうには、火達磨になり体中が焼けただれた荒海が、血まみれの手で右腕を掴んでいた。

「あ"あああ"ああ"あ"あああ"ああ"あああ"あ!!」

恐怖に悲鳴を上げ、荒海を突き飛ばす。
荒海は断末魔と共に爆発の炎に包み込まれたかと思うと、驚愕の表情のあの五本
腕へと豹変した。

慌てて右腕を伸ばせども、機械の義手は音を立てて脆くも崩れ去り。
炎は五本腕を包み込んで消えてしまった。

「手」の気配を感じて踵を返し、逃げだそうにももう遅い。
足元には血の海が広がり、血まみれの「手」達が足首を掴んでテナードを引き倒す。

万力の力で締め付けられ、ミシミシと義足が悲鳴を上げる。
止めてくれ、離してくれと叫んでも、「手」の締め付けは止まらない。

バキ、ボコン。

足が折れる音、義足を根元から引き抜かれる音。
壮絶な痛みに、為す術もなく絶叫する。

「あ……あ"あ"あ…………」

光は何時の間にか消え、再び闇に閉ざされた。
打ち捨てられた片端の体では、動く事すら叶わない。

僅かに首を動かせば、目の前に血まみれの彼女が横たわっている。
残った左手で触れようとしても、後少しの所で届かない。

「ト……ウ……ナ………………!」

嗚呼、目の前で彼女が融けていく。

「…………誰か……誰か、助けてくれ…………」

誰か。誰でもいいから、この地獄から救い出してくれと泣き叫ぶ。
永遠に終わらない夢の中、誰も聞く者はいない。誰一人として。

テナードの目尻から、涙が一粒零れ落ちる。
悪夢に魘される中、無意識に動かした左手が所在なさげに虚空を彷徨っていた。

29 名前:八重子 ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/07/29(木) 19:35:48 0

同じ頃、八重子は愕然としていた。


「琳樹さん、入りますよー?」

時間的に考えて、そろそろ食事を終えただろう琳樹の皿を下げに来た。
しかし、部屋の中からは、全く彼からの返事が無い。
不審に思った八重子は、再三ノックし、ドアを開ける。

「琳樹さん、入りますよ…………琳樹さん?」

しかし、病室に琳樹も、あのカラスも居らず。
眠り続けるシエル1人が、病室に取り残されている。

「(しまった!)」

琳樹を探す為、直ぐさま病室を飛び出す。
彼は全くこの建物の構造も、組織の事も理解していない。

もし間違って他の組織――特にゼミ――に見つかればコトだ。

いや、そうでなくとも、進研の連中は喧嘩っ早い連中が多いのだ。
何か彼に能力があったとしても、いや、あってもなくてもだが……何らかのトラブルに巻き込まれる可能性がある。

もし運悪く、どこかの喧騒にでも遭遇したりだとか。
それがもし、それこそゼミの連中だったりすれば。

……嫌な想像しか浮かばない。


「(琳樹さん……!)」

八重子は建物内を全力疾走する。

万が一が起こっては遅いのだ。
早く見つけなければ。手遅れになる前に!


【ターン終了:テナードは未だ意識戻らず。八重子は琳樹の捜索を開始】

30 名前:ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/07/30(金) 00:12:10 0


「ハァーア、ヒデー目二遭ッタゼ」

どうにかこうにか、ホテルに戻って来たハルニレ一行。
ただし、3人泊まる事になった為、広めの別の部屋に変えて貰った。
どうせホテル代は三浦持ちなのだ。部屋を変える事くらい、どうって事は無いだろう。


「アラヨット」

部屋に入ったハルニレは、仮にも女性である二人の目の前でおもむろに服を脱ぎ捨てた。
しかも、器用に帽子は被ったまま、上半身だけ。

「ってちょっとォ!アンタ何脱いでるのよォ!!」
「ンア?」

茹で蛸顔負けに赤面し怒鳴るジョリーに、ハルニレはクエスチョンマークを飛ばす。
一般常識だとかデリカシーだとか羞恥心だとか、そんな物は彼の中には存在しない。

「良イダローガ、別二上半身クライ」
「良くなぁいッ!弓瑠ちゃんの教育に全ッ然良くない!」
「何ダト!俺ノコノ逞シイ肉体美ノ何処ガ教育二良クナイッテンダ!?」
「異性の目の前で裸になる時点でアウトだっちゅーの!バカニレ!」

咄嗟のジョリーの判断のお陰で、幼女の弓瑠はハルニレの裸を見ずに済んだ。
上半身裸の男とドレッドヘアの女が、女の両手によって目隠しをされた幼女を挟んで口論する図というのは中々にシュールである。

「兎に角、せめて何か着なさいよ!風邪ひくわよ!?」
「ケッ!俺ァ生マレテコノカタ、風邪ナンザ一度モ引イタコタァーネエヨ!」

腰に手を当てヒャッーヒャッヒャッヒャッヒャ!と高笑いするハルニレ。
ジョリーはこの時初めて、「バカは風邪を引かない」の意味を理解したとかしてないとか。

「弓瑠ちゃん、馬鹿は放っておいてお風呂に入ろっか」

このままじゃ風邪引いちゃうし、と高笑いし続ける馬鹿を放置し、バスルームへと向かう。
しばらくして二人がいない事に気づいた馬鹿は、ベッドの上で胡座をかいて1人反省会を開いた。


しかし、女性のシャワータイムはどうしてこうも長いのか。
退屈故に、ハルニレの意識は思考回路の海にダイヴする。

まず生活面だが、ホテルは三浦、衣服はジョリーが用意しているので問題は無い。
残る問題は金だ。財布は持っているものの、金は全てハルニレの世界から持ち出された物だ。
使える可能性は限りなく低いが……まあ、なんとかなるだろう。


31 名前:ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/07/30(金) 00:13:00 0

後は、あのエレーナとやらが言っていた「他にも存在する異世界人」の事だ。
あの口ぶりからして、複数人はいるとみて間違いないだろう。
もし、彼らがエレーナや自分と同じく能力を持っていたとして、それを上手く利用する事は出来ないだろうか。
手帳を取り出し、新たに「異世界人」について書きこむ。

「ふー、良いお湯だtt……なんでパンツ一丁なのよ貴方」
「オウ、サッキカラズットコウダゾ?」
「……………もうどうでも良いわ」

バスローブに着換えた二人を迎えたのは、トランクス一丁のロリコンだった。
ハルニレはこういう奴なんだ、と諦める。隠すのも億劫だ。
弓瑠の頭をタオルで拭いてやりながら、ジョリーは何気ない質問をする。

「そういえば、アンタ金持ってるの?」
「持ッテル訳ネーダロ、jk」
「持ってきてあげようか?」

その言葉に唖然とし、目を丸くするハルニレ。
スリをする位だから、一文無しかと思っていたが。

「ねーちゃん、昨日給料日だったからさ……」

叱られた子供のようにそっぽを向く。成程、つまりはそういう事らしい。
ハルニレが弓瑠の髪をドライヤーで乾かしている間に、ジョリーはホテルを退出する。金と衣類を取りにいったのだろう。
家があるならわざわざ泊まる必要はないのでは?とも思ったが、まあ事情があるのだろうと勝手に納得する。

「ン?」

足元を覗きこむと、弓瑠が拾ったあの猫が居た。
濡れた体を震わせ、しきりに足に体を擦りつけてくる。

「…………良シ、一緒ニ風呂入ルカ!」

黒猫を抱きあげ、上機嫌でバスルームに向かうハルニレ。しかし彼は忘れていた。

猫が大の風呂嫌いだ、という一般常識を………………。


「ただいまー…って、どうしたのその傷?!」
「………………猫ニヤラレタ」

ジョリーがホテルに戻った時、ハルニレの体中に引っ掻き傷が残っていたとか。

32 名前:ジョリー ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/07/30(金) 00:14:36 0

雨は一向に止む気配を見せない。ビジネスホテルが、たまたま家の近くにあってよかった。
ホテルから傘を借りて、ジョリーは家路を急ぐ。

「ただいまー……って、誰も居ないよね」

シンと静まり返る部屋の中を慎重に進む。姉に見つかってはお終いだ。
幸い、姉は仕事で出かけている。今がチャンスだ。

「えっと、確かこの辺に……っと!」

姉は何時もタンスの中に金を仕舞う癖がある。ジョリーはそれを小学生の時から知っていた。
30万もあれば充分だろう。ボストンバックの底の方に詰め込む。
今度は押入れやクローゼットを漁る。姉の勿体ない精神のお陰で、弓瑠にサイズがピッタリの服がたくさん出てきた。
そして、ハルニレの為の服を探す。


「ここにも無い、となると……あの部屋、だよね」

ジョリーは憂鬱な思いで、もう随分と使われていない部屋へ続くドアを見る。
入るには少し気が引けるが、あの変態と弓瑠と一緒の空間に置いておく方がもっと気が引ける。
躊躇いがちにドアを開け、まっすぐクローゼットに向かう。
虫食い穴の開いていないシャツやズボンを探し、次々にボストンバックの中に詰める。

最後に、姉の救急セットを失敬した。ドルクスとの戦闘で、ハルニレの火傷痕を思い出しての行動。
彼は頑なに、あの火傷痕を隠そうとしていた。包帯を巻けば、少しは彼も気が晴れるんじゃないだろうか。

最後に、もう一度部屋をグルリと見回し、忘れ物がないか確認する。

「あ」

その時、姉のドレッサーに置かれた写真立てを発見した。
手にとり、埃を払う。そこには、幸せそうに笑う自分と姉と、もう居ない両親が居た。

「…………嫌いだ」

誰もいない部屋に、彼女の呟きだけが反響する。

「お父さんとお母さんを見殺しにした公文も、そんな公文に頭下げる姉さんも、皆、みんな」


大嫌いだ―――――――…………。

誰も居なくなった部屋で、床に落ちた写真立てだけが、寂しく残されていた。


【服と金ゲット!】


33 名前:葉隠殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/07/30(金) 01:04:07 0
「……着装解除」

身に纏っていた「業」を解き、その鎧は融ける様に消え生身の状態に戻る
脅威は既に存在しないと判断したからだ
男と手錠をかけた都村以外は倒れたヤクザしか存在しなかったからだ

「掃討は終了した<巡回医>、ソッチの様子は?」

あらかじめ片付いたので<巡回医>に現在の様子を聞く

「こちら<巡回医>、思ったよりヤバイ事になってる合流はしばらくかかりそうだ」

切羽が詰まっているようなので、了解と返しすぐに安全と見越した末で帰還しろ告げ、
思念通信を切り、少しほっとするが何かを忘れている気がした。
考え込み僅かの時間思考した結果思い出す。

子供達の事を思い出し、すぐに英霊達を呼び出し子供達を捜すように探索させ
都村に一言告げてから自らも探索に出るために扉の前まで向かい一部分のみ着装し
力を込めて一撃で破壊し、目の前にはびっくりした顔の公文の隊員達がいたが

無視をして子供達の探索のために再び全力で駆ける。




34 名前:シノ ◆ABS9imI7N. [sage] 投稿日:2010/07/30(金) 09:25:50 0
>「うう…………」
「(あ、いきてた)」

シノの呼びかけに、男が起き上がる。どうやら死体ではなかったようだ。
少し残念に思う。そして、シノと男の目が合った。


「(あれ?)」

その瞬間、シノは男に疑問を持った。
前もって言っておくが、シノは見習いとはいえ、ゾンビマスターの端くれだ。
ゾンビマスターは見た目では無く、魂を見る者。だから、シノは不思議に思ったのだ。


   ・・・・・・・・・・・・・・・・・
何故、この男の魂が少女の姿をしているのか。



>「…えっと、お嬢さん」

我に返ると、男が立ちあがっていた。
お嬢さん、とは自分のことか。他にお嬢さんと呼ばれるような人はいないし。

>「わた、俺の名前はエr、ドルクスッス。お嬢さんの名前は?」

「・・・シノ、です」

ひょろりとしたこの根暗そうな青年は、ドルクスという名らしい。
泥だらけの姿で、ところどころ擦り傷がある。まるで、転んだか落下して出来たような傷痕。

見た目に反し、中の魂は彼と正反対だ。
眩しい金色の長いツインロールに、ぺリドットのような美しい碧眼。
おおよそ、見た目には釣り合わない魂だ。器を間違えているような、そんな感覚。


ぐぎゅるるるるるるるるるる。

「あ・・・・・・」

腹の虫が、一際大きく主張する。

「・・・・・・・・・・・おなか、すいたなあ・・・・・・・・・」

呟きは、雨音に紛れて消えた。


【ご飯くれる人にホイホイ着いていきます】

35 名前:訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/07/30(金) 22:21:09 0
「んと、どこいけばいいべ?」

「あっち」

軽い会話を交わして、琳樹は狂羽の指差す方へと足を運ぶ。
指差す、とは言ったが羽で方向を指し示しているだけである。

「…何であっちに?」

「ふふ、リンキの力になってくれる人が居るわ」

「もしくは、組織」

彼女のその言葉にてきとうな相槌を打ち、足を進める。
自分の力とはどういうことだろうか、と彼は考える。
そもそも自分の力になってくれたとして、自分はどうすればいいのだろうかとも。
訛祢琳樹という人間は異世界での目的など一切設定していないのだから。

少しぼうっとしながらも歩いていると、ドン、と誰かにぶつかったような感触がした。

「おや、すみません」

Kという腕章を付けた人物が琳樹に謝罪を入れる。
腰まである黒髪ロングの中性的な人物である。
男用のスーツを着ている点から考えて恐らく男性なのだろう。

そこまで見て自分も謝罪せねばと彼は口を開く。

「…私こそ」

琳樹がすみません、と言葉に出そうとしたその瞬間と八重子が彼を見付けたのは同時であった。


【Kと接触】

36 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/07/31(土) 01:34:12 0
さて。毎度毎度のことではあるが、状況整理の時間がやってきた。
状況はカオスを極め、裏腹に戦況は終焉へと向かっていく。ミーティオ君ルーム(今命名)はゆっくりと冷えていく最中だった。

床に散らばる四人分の血肉。部屋中を跳ね回る小動物。壁に突き刺さったブリーフ。
現状において、この場に必要なのは戦況打開の新兵器でもなく、死者蘇生の霊薬でもなく、現実逃避のタイムマシンでもなく。
なによりも必要とされているのは――

――ツッコミ役だった。

「しかし残念ながら僕たち休鉄会にツッコミ係は皐月君一人しかいない。ひいてはゼルタ君、君がこの状況に逐一突っ込みを入れたまえ。
 そうしなければ時間が動かない。誰も彼も、あまりに突飛な事態に思考が停止しているのだよ。この僕も含めてね」

「……いや、あたしも相当固まってるんだけど」

「ふむ。それでは仕方あるまいね。僭越ながら僕がツッコミ役を任じようじゃないか。――なんと!同じ顔をした人間が四人も!?」

「そこからーーっ!?」

>「…や、やっちまった。こいつはマジでやばいぜ。ブリーフで殺人だなんて……」

「気持ちは察するに余りあるよ珍妙君。僕もまさか――君のような少年がこんなことをするなんて」

「フォローと見せかけて保身に回ったーーっ!」

「それはツッコミでなく実況だよゼルタ君」

「ダメ出しされた!?って、いい加減あの死体放置で話進めるのやめよーよ!どう見ても議題はあっちでしょーっ!?」

「目的を見失ってはいけないよゼルタ君。僕ら休鉄会の本旨はミーティオ君の救出にある。
 極論を言ってしまえば、途中の中ボスなんてどうでもいいんだよ。虎穴に入らずんば虎子を得られないが、極力虎は避けるだろう?」

「じゃあ連中の闘いが終わるまで死体と一緒に待ってるの?――殺人犯と同じ部屋になんかいらんないよ!帰る!」

さりげなく丈乃助の殺人罪を肯定しながらゼルタは華麗に死亡フラグを立てる。
そのまま死体の傍を通って部屋の出入口から外へと顔を出し、

「っぎゃあ!?」

撃たれた。破裂音が連続し、火線が一閃ニ閃とゼルタの体を貫いていく。
不意打ちだった。扉の影に隠れて待ち伏せしていたのは、床に散らばる死体と同じ顔をした男が多数。
撃たれた彼女は床へと伏せる。一部始終を目の当たりにしたタチバナは、思わず声を挙げた。

「……ゼルタ君」

「テンション低いな!」

返事はすぐに返ってきた。
ゼルタはがばりと起き上がると、自身の保全よりタチバナへのツッコミを優先した。

37 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/07/31(土) 01:35:05 0
「シスターちゃんの時はもっと必死な感じだったじゃん!なんであたしだけ冷遇!?いや無事だったけどさ!」

「無事な理由を聞こうか」

「じつはあたし幽霊でしたー!死んでるので死亡フラグとか関係ねーんですうー!意識すれば思念化もできるから、銃も効かないんだよね」

「なるほど。それで物陰の男たちについてだが」

「あれえ!そんだけ!?もっとフィーチャーしてよあたしを!」

「Wikipediaに君の項目をつくろう」

「ごめんやっぱ話進めて!」

ゼルタは床を滑るようにこちらへと戻ってきて、丈乃助の後ろへと隠れた。
いつの間にか小動物の姿が消え、同時に竹内萌芽も消滅している。後に残ったのはバイクが一台。犬一匹。

「さて」

タチバナはやおら扉の方へと向き直り、最早待ち伏せの意味を喪失した男たちへ視線を向ける。
敵の数は10人。四人がブリーフで呆気無く轢死したことを鑑みるに、さしたる戦闘能力は持ち合わせていないだろう。
彼らのとる戦略は膠着。時間稼ぎ。とにかくこちらの脱出を防いで、援軍の到着か、ヤクザの包囲を待つ算段か。

背後では、皐月とミーティオの闘いにも終止符が打たれようとしていた。
完全に任せっきりだったので首尾は把握していないが、少なくとも落とした愛鉄パイプを拾おうともしない
ミーティオに、これ以上の交戦の意思は感じられなかった。そしてタチバナは、ようやく彼女の口から鍵語を得る。

>「帰りてえよお」

タチバナは双眸を閉じると、鷹揚に――一度だけ頷いた。

「人が変わるのは簡単だ。変わらないのもまた簡単だ。両者は両極端故に、到着点が分かりやすい。
 だけれど誰もが求める形はそうじゃない。変わるべくを変え、保つべくを保つ、そういう中庸な生き方がベスト。
 振り切った針が正しい数値を示すことができないように、極端な者達はとかくこの世に生きにくい」

壁に突き刺さったブリーフへと歩み寄り、まっさらな表面へ万年筆を走らせる。
描かれる極彩色の記述、情報改竄の文明効果は、『HENTAI』という文字を浮かび上がらせた。

「ならば変えよう。だから変えよう。強靭で硬質な論理の鉄槌で、世界を扁平なる更地へ!
 この世が割り切れないならば、僕らにはまだ早い――今一度足し算引き算のお勉強だ!」


38 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/07/31(土) 01:37:01 0
ブリーフが――召喚された模造タチバナが変形したブリーフが、元の形へと戻っていく。
半裸のタチバナが二人になった。否、変化はそれだけでは終わらない。片方のタチバナが反復横飛びを開始した。
高速である。やがてあまりの速さに残像でタチバナが何人にも増えて見える。

「点呼を取ろう。皐月君!――ご苦労だったね。君がいなければこの作戦は成り立たなかった。改めて君を労うよ」

残像は、さらに繁殖した。

「珍妙君!君を男と見込んでしんがりを頼みたい。女性陣の後ろをこれでもかとばかりに守護してくれ」

残像が残像をつくり、やがて部屋中にタチバナの残像が跳梁跋扈を始める。

「ゼルタ君!成仏する気がないのなら、僕らと一緒に来ないかい?望むものは用意できないが――望みを提供することはできる」

気づけば残像は残像でなくなり、一個の質量をもったタチバナに変わっていた。
ブリーフ一丁のHENTAIが、部屋を埋め尽くさんばかりの数で存在していた。全員が、いつもの薄ら笑いを浮かべている。
熱病のような光景だった。

「ミーティオ君!走れるね?今宵の主賓は君だ。僕らは全力で君の願いを叶えよう。さあ、」

大量のタチバナが、一斉にミーティオの方を向いて、付和雷同に言葉を投げた。
一糸乱れぬタイミングで、それは一人の言葉に聞こえた。

『『『『『――――帰ろうか』』』』』

団体の中心で、一人だけいつの間にかスーツを着用し直したタチバナが、万年筆を指揮棒代わりに振るう。
風切り音と共に打ち下ろした先は、部屋のたった一つの出入口――扉の向こうだった。

「――全軍突撃!」

『『『『『HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAーーーーーー!!!!』』』』』

密集した人間を湛えたダムは、いとも容易く決壊した。


【ミーティオ捕獲作戦佳境】
【反復横飛びで分身したタチバナ群体(数十人)が悪夢の突撃】
【鰊ごとBKビルから脱出する勢いで行軍】


39 名前:経堂柚子 ◇OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/07/31(土) 19:17:24 0
赤のナイトは、これからエレベーターで屋上に向かうと言った。
屋上に向かうということは、つまり真雪を置いていく可能性が高い。

「まっ…て…」

「喋っちゃだめだよぅ、噛んじゃって顔の水疱を破ったりしたら大変!
大人しくしてて、大丈夫だから、後で聞くからね」

せめて自らを簡易担架に乗せ運ぼうとする誰かに伝えなければ、と声を発した。
しかし、ほんわりとした空気を纏う看護士に止められる。
後でじゃダメなのに、間に合わないのに、と柚子は内心で悶えた。

伝えるタイミングは、すぐ訪れた。
エレベーターに乗ってしまえば、僅かな隙が出来る。

「それで、どうしたの? 何か言いたいみたいだったけど」

看護士が微笑むと、柚子は一言途切れ途切れに呟いた。

「ゆ…ユキちゃん、は? ……置い、て…ゃうの…?」

「…会いたいの?」

看護士の言葉に、柚子は小さく頷く。
その様子に、看護士は悲しげに溜め息を吐いた。

「…ごめんなさい…」

その一言だけで、柚子は理解する。
もう、会えないかもしれない。
突きつけられた事実に柚子が泣きそうになったとき、エレベーターの扉は開いた。


そして、聞こえた。これこそが、待ち望んでいた声。
彼女こそ、月崎真雪。

40 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/07/31(土) 19:18:29 0
兔からは良い返事をもらった。
ほう、と息を吐き、画面に残る兔の番号を登録する。

(これで…あとは飛峻さんに連絡して…)

そこまで考えてから、目の前のエレベーターを見る。
正確にはエレベーターでは無くその上、エレベーターの位置を示すパネル。

明らかに、動いている。

10階で一旦留まり、再びエレベーターは動き出す。
やがてぽん、と音が鳴り、目の前の扉が開いた。

「うわわっ!」

真雪は邪魔に鳴らないように身を引く。
派手な格好をした女性が先導していて、その後ろに男性二人…片方は飛峻が担架を担いでいた。
その隣には看護士が付き添っている。

そして、見つけた。これこそが絶望的事実。
顔を半分焼かれ、痛々しく担架に横たわる柚子を。

「…ユッコ!」

【柚子:気絶 真雪:合流】

41 名前:三浦啓介 ◇6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/08/01(日) 12:45:07 0
男は、困窮していた。
調理の才を持ち、それを自覚し、更には使いこなす事の出来る。
いずれは世界で右に出る者などいない料理人となる筈だったのだ。
その自分が一生を牢獄の中で暮らすなど到底耐えられない。認められない。

彼にとって進研に身を置き悪事を働くと言うのは、目的では無い。
あくまでも、最上の料理人となると言う目的の為の、手段なのだ。

「……おいおい、悪いが俺はこの一線を譲るつもりは無いぜ。
 自白剤や拷問で吐いた証言で、進研が落とせるか? 中途半端に手を出せば、大火傷するのはアンタらだぜ」
 
進研は至る所に文明を貸し出している。
規模を問わず国内の企業や、一部の公的機関にもだ。
一撃でトドメを刺せるだけの材料が無ければ。
例えば文明回収のストライキでもされてしまった日には、世論は公文への批判に傾くだろう。

だが、だからこそ。

「進研の事なら洗い浚い吐いてやる。あんな二人が何だ。何の取り柄もない、クズが二匹死んだだけじゃないか」

彼は自身の証言が金の価値を持つであろう事を知っている。
下手に出ながらも何処と無く滲む不遜さや、双子に対する暴言は、そうであるが故だ。

「あんな奴らを殺したからと言って世界が、社会が変わる訳じゃない。だが俺は違う。
 いずれ俺は各国の財界人、高級官僚、王族、ありとあらゆる人間が俺の飯を食う為に駆け回るんだ。
 愉快痛快だろ? そうなったら、アンタにゃ特別席を用意してやったっていい。さっきの女もだ。だから……」

しかし不意に、男が口を噤んだ。
不穏な沈黙が、訪れる。

そして男は急に胸を押さえ、目を見開いた。
流暢に回っていた口は苦悶の形に歪んで呼吸は止まり、
ただ水面に腹を浮かせた魚のように開閉のみが繰り返される。
ついには彼は直立の体勢すら保てなくなり、倒れ込んだ。
胸と喉を押さえながらのたうち回り、だがそれも長くは続かず、彼は小刻みに痙攣するのみとなる。
しかくして最後に上へと伸ばした手が掴もうとしたのは、都村か。
それとも、『錬金大鍋』――彼の未来か。
いずれにせよその手は届かず虚空を掻き、彼は生き絶えた。

進研は悪い組織ではあるが、悪の組織ではない。
ボスに対して表立って逆らう者はいないが、決して皆が恭順である訳でもない。
進研をただの手段、踏み台としか考えていない者もいるだろう。
寧ろ、その方が多いくらいかも知れない。

裏切りを防ぐ為の仕掛けは、当然施されているのだ。







42 名前:三浦啓介 ◇6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/08/01(日) 12:46:47 0
 
 
 
「……ふむ、愚か者が一人。何処かで息絶えたか。まあ、私にとってはどうでもいい事ではあるが。それよりも」

暗がりの中で、一人の男が呟いた。
それから声の音量を僅かに上げ、呼び付けた部下に命を飛ばす。

「例の異世界人を、ここに連れて来たまえ。五本腕と、猫人間、だったかな? それと先程確保したと言う、淑女もだ。
 目が覚めぬようなら、覚醒剤でも打ってやればいい。下らぬ道徳心とやらは無用であるから、心するように。
 もしも反抗するのであれば、君も晴れて愚か者の仲間入りだと、世話人に告げたまえ」

命を受けた部下はただ一言。

「了解しました。ボス」

ただ一言そう返して、彼の部屋を後にする。
そうして、一人の男だけが残された。
暗闇に溶け込む黒のスーツに、無造作に掻き上げた長髪。
薄暗い中で煌めく小振りな眼鏡が、冷冽な眼光により一層の研磨を掛けている。

さて、君達はボスの呼び付けに従ってもいいし反抗してもいい。
ただしそれらの行為が己の身に何を招くかは、推して知るべしである。

何せボスには、『才能』があるのだ。
例えば秋人や柊が文明に非ざる力を持っているように。
料理人の男が、裏切りを切欠として突如事切れたように。
人に『何か』を植え付ける才能が。

そしてその『何か』は、彼に近しい人物なら誰しもが植え込まれている。
命令に背けば、またしくじれば、愚か者の仲間入りとされてしまう。
それでも尚逆らおうと言うのならば、相応の対応がされる事を覚悟すべきだろう。

【ボスお借りしました
 ついでに秋人やらが文明じゃない異能を持ってるようだったので理由付けでも
 もし彼らがただの文明だとか実は異世界人だって言うなら、訂正しますので指摘をお願いします】




43 名前:前園 久和 ◇CqyD3bIn5I [sage] 投稿日:2010/08/01(日) 12:48:25 0

>「う……う"ぅあ"………………」

起き上がった彼の耳に入ってきたのは獣の唸り声のような、魘されるような声だった。
少しだけビクリ、として、しかし誰の声なのかと自分のベッドの隣を見る。
開けてしまえば楽なのだが、全く知らない人間だった場合の反応に困るだろうと少しだけ悩む。

そして数秒か、もしかしたら数分経ったその時に聞こえてきた声に彼はハッとする。

>「…………誰か……誰か、助けてくれ…………」

それは間違いなくテナードの声であり、そして彼がこの世界で無意識ながらに信用した二人目の人物である。
彼はベッドを仕切っているカーテンを開けて、テナードのベッドを見る。

「猫、」

久和はそうポツリと呟いて彼の所在無さげな左手を握る。
何故そうするかは分からない、だがそうした方がいいと、彼は思ったのである。

「……猫」

また名前を呼ぶ。
そして魘される彼を不安げに見ながら、久和はテナードが起きてくるのを待つことにしたのであった。




44 名前:弓瑠 ◇CqyD3bIn5I [sage] 投稿日:2010/08/01(日) 12:49:54 0
弓瑠は不満げであった。
お兄ちゃんの裸を見るのをジョリーに邪魔され、お兄ちゃんと風呂に入りたかったのに邪魔され、結局彼はあの黒猫と入る始末である。
むぅ、と頬を膨らませながら黒猫とハルニレを見やる。
黒猫はあろうことかハルニレに傷を付けたのだ、許すまじ、と黒猫の耳を引っ張る。

「お前は可愛くないわ、ロマ」

いつの間にか彼女が黒猫に名付けていた名前を呼ぶ。
そして彼女はハルニレを見て、

「今日私と一緒に寝よ、お兄ちゃん」

とニッコリ笑うのであった。
弓瑠はその小さな身体で彼に抱き着く。
そしてそのまま――といったところでジョリーのお帰りである。

「…む」

不満げに声を漏らし、ジョリーに声をかけた後彼女は言った。

「お腹がすいた」

、と。


【弓瑠ちゃんのお腹がすいたよ!】




45 名前:◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/08/01(日) 13:15:23 O
『あれ?』
「うまくいった?」

いや、と歯切れ悪くペリカンが答える。兎は眉を潜め、もたれ掛かっていたヘリから身を離して振り返った。

『上手くいかない。座標も特定できてるし、特に拡散するような要因は無いし。……おかしいな』
「どっちが?まさか、どちらも?」
『いや、成川遥の方は圧縮できそうだけど、異世界人の方が……』

ペリカンの複合文明、“Hello World!!”は物体を圧縮する機能を持っている。物質を0と1に置き換えて、生ま
れた数列を圧縮、保存する機能。座標さえ合えば生きている物でさえそのまま捕らえる事のできるこの文明。
だが“Hello World!!”は文明そのものを圧縮する事はできない。

『まさか、この異世界人、文明持ってる?』

ペリカンの疑問に、そんな馬鹿なと兎は呟いた。ミーティオ・メフィストはつい先ほどまで監禁されていたのだ。

監禁?

「……首輪を付けられてるのかもしれない、もしかしたら。成川遥と共に監禁されていたなら」
『ん?』
「成川遥は成龍会首領の娘よ。どう言う経緯で一緒に監禁されていたのかは知らない、けれどそんな要人を異世
界人なんて化け物の近くに拘束しただけで置くかしら?」
『殺してほしかったのかも』
「かもしれない。でも、そうだとしても、何らかのイレギュラーに対しての策が必要だわ」

それが首輪か、とペリカンが呟き、どうする?と兎に尋ねた。このまま何もしないわけにはいかない。

「しょうがないわ、成川遥だけでも捕まえて頂戴」
『オーキードーキー』

短いロードの後、【保存しました】の文字がペリカンのディスプレイに浮かぶ。シンプルに。
成川遥は捕まえられた、と兎は息を吐いた。収穫がゼロでは無くなったと言うことだ。朝日にはこれである程度
顔向けできるだろう。

『ところで、首輪ってどんなのだろう?』
「さあ?多分爆弾か何かでしょう。大方、副鼻腔あたりに仕掛けられてるのよ。それを制御してるのが文明って
わけ」

多分時限式ね、と兎は笑った。ご愁傷さまだわ。


46 名前:◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/08/01(日) 13:16:43 O
鰊は必死に足止めしていた。やつらの突撃は凄まじい。もう何人殺されたかわからない。
実際のところ、彼らは帰ろうとしているだけなのだが、鰊にそんなことがわかろうはずも無い。
職務に誠実であれ。鰊の考えだった。職務以外の事には特に注意を払わない彼だったが、職務についてだけは、
変質的なまでに拘りを貫いてきた。
やらないこととやることが解っていただけだとも言える。慇懃で無礼な男だった。

(おや)

突撃の指向性が変わる。見れば、ついさっきまでいた美少女の片割れが消えていた。疑問を抱き、解決に向かう。
すなわち鰊は電話をした。

「兎、どう言うことだ」
「片方しかうまくいかなかった」
「どうすればいい、捕まえるか?」
「イ`、捕まえなくていいわ。妹でもないのに爆発されたら困るし」

そこでその鰊は死んだ。頭上から鉄パイプが降ってきたのだ。ふむ、と鰊は思う。よくわからないが、このまま
足止めすればいいらしい。肉の壁で押し止めている現状、そう長くは持たないが。

脳が劣化してきている。鰊は薄々感づいていた。コピーし過ぎたのだ。歩みは遅いが、根本的な死が近付いてき
ている。
潮時だ。


【ペリカン→成川遥:捕獲
鰊s:無意味に足止め。次のターンまでに全部殺しちゃってください

※ミーティオさんの頭に爆弾を仕掛けました。部屋から出た時点でカウント開始、十二時間で頭が吹き飛びます。
適切な施設で適切な治療を受けてください】


47 名前:ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/08/02(月) 09:20:47 0
「良ーい?今度弓瑠ちゃんに手を出したら、絶対に通報してやるからね!このロリコン!」
「サッキカラ一々ウルセーゾ、ジョリー!分カッテルッツッテンダロ、何度モ言ウナ!!」

雨の降る繁華街の中、弓瑠を挟んで口論するハルニレとジョリーの姿があった。
服も新しい物に着換え、弓瑠の要望で、傘を差して三人はとあるレストランへと向かっている最中だ。
二人の口論の内容は、察して解るように弓瑠の事である。

時間は少々遡る。
猫と共に風呂に入り、ひっかき傷の山をこさえて猫を洗い終えたハルニレ。
弓瑠はハルニレに傷を付けた猫の耳を引っ張り、「お前は可愛くないわ、ロマ」 と叱りつける。

「オイオイ、女ノ子ガソンナ乱暴ナ事シチャ駄目ダロ」

ハルニレは弓瑠の手から猫を取り上げてたしなめる。
しかし弓瑠は反省してないのか、ハルニレを見上げ、満面の笑みを浮かべる。

>「今日私と一緒に寝よ、お兄ちゃん」

明るい声でそう言うと、ハルニレの体に抱きついた。
彼女の心境を知る由もないハルニレはその細い首に手を回し、笑顔で返す。

「良イゼ、何ナラ寝ル前ニ面白イ話デm「あ、アンタ何してるのよォオ―――――――ッ!!」

常識人のお帰りだった。
ジョリーが帰って来た瞬間目にしたものは、ほぼ全裸のロリコンと幼女が抱き合うという衝撃的なシーン。
二人にどんなやり取りがあったか知らない彼女は、真っ先にハルニレを悪だと判断。
結果として、現在ハルニレの右頬に真っ赤な痛々しい掌の跡が残る事となった。

「クソー、思イッキリビンタシヤガッテ……コレダカラ年増ハ」
「何 か 言 っ た?」
「べッツニー………………ン?」

何かに気付いたハルニレの足が急停止する。

>「わた、俺の名前はエr、ドルクスッス。お嬢さんの名前は?」
>「・・・シノ、です」

雨の中、傘を差さない一組の珍妙な男女がいる事に気付いたからだ。 
一人は、巨大な棺桶を担いだ奇妙な少女。もう一人は、先程出会ったばかりの人間。

「オイ、テメー!」

確か、ドルクスと呼ばれていた男。しかし、様子がおかしい。
ハルニレと戦闘していた時の覇気が、全くといっていいほど感じられない。 まるで別人だった。
それに、一緒にいたあの少女……エレーナは何処へ消えたのか。 代わりに一緒にいる少女は何者なのか。


>ぐぎゅるるるるるるるるるる。
>「・・・・・・・・・・・おなか、すいたなあ・・・・・・・・・」


この空気を読めない、場違いで呑気な音が鳴り響く。
少女の呟きを聞いたジョリーが、反射的にハルニレを見上げる。
どうしろってんだ、と怒鳴り散らしてやりたい気分だったが、この男にも色々と聞きたい事がある。


「オ嬢チャン、俺ガ飯食ワセテヤルヨ。ドルクストヤラ、テメーニモ色々ト聞キテエ事モアルシナ」

【ハルニレ:二人をディナーに招待】

48 名前:小鳥 ◇x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/08/02(月) 14:07:26 0
『す、すばらしくカオス』

 ひくりひくりと顔をひきつらせながら蛍光色の猫は呟く。
 このビル内において神の如き視点を所持する彼は、その様相を端的にそう言い
表した。

『どうしよう、なんかもうおれ全然ついてけない。つっこみとか入れる余地もな
い。色んなものに対応する気力もわかない』

「ご愁傷様です、小鳥」

『うん……』

 素っ気ない合成音声。
 その主は一心で一つの窓をのぞき込んでいた。

 何があるのだとそちらへ移動する。
 物理法則を組み込んでいないこのスペースでは、移動方法はどうしても空中浮
遊のようになってしまう。短い前足で空を掻きながらその肩にたどり着いた。

『……子供?』

 窓の中では、小さな子供がふらふらとビル内の廊下をさまよっていた。
 迷宮化が解除された際、あらぬ場所に移動させられてしまったらしい。
 荒い画質ではわかりづらいが、その不安そうな様子は見て取れた。

「葉隠准尉が保護していた者と見られます。迷宮化解除の際にはぐれたのでしょ
う」

『あ、ああ、あの何かものすっごいおにーさんね』

「出口に向かっている様子はありません。保護が必要と見られます」

『うん、誘導灯とか点けてみる?』

「それには及びません」




49 名前:小鳥→ ku-01◇x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/08/02(月) 14:08:32 0
言ったKu-01の瞳が淡い緑に発光する。
 高度AIの情報処理に発生するそのエフェクトに、小鳥は目を輝かせた。

『やっだなにそれ格好良い、おれもやりたい!』

「サイバーダイブを解除します。小鳥、回線使用の許可を」

『えー? 帰んの? もうちょっと遊んでってよ』

「お断りします」

『に、にべもない! わ、わかったよ……どうせ許可しなくてもあんた出れるじ
ゃんよう』

 器用に猫の口を尖らせながら、管理者権限を発動する。
 接続されたデバイスを確認。認識終了。
 そのデータをこっそりと記録して、『じゃあばいばい』と"退室"の準備をするKu-01
に呼びかけた。

『また遊びに来てよ。場所用意するから』

「……物理空間を用意していただけるならば、考えなくもないです」





 そうして、Ku-01は傾いた視覚領域を立て直す。かしゃりとモノアイが音を立て
た。
 接続良好。異常はない。
 エネルギー残量にもまだ余裕がある。

「運行に問題なし」

 機械に繋がっていたウィップコードを抜き去り、少し考えてから三つ編みを解
く。
 癖もなく広がった人工頭髪を、頭頂より少し下で結い直した。

「それでは行動を開始します」


【子供を保護するため、現実世界へ復帰】

50 名前:八重子 ◆IPF5a04tCk [] 投稿日:2010/08/03(火) 23:21:55 0

廊下を駆ける八重子。一向に訛祢が見つからない事に、彼女は焦燥していた。
まさか、手遅れだったのか。しかし、運は彼女に味方したらしい。


「はぁ、はぁ、琳樹さん!」

琳樹の肩越しに八重子の姿を視認したKは、踵を返す。
そして、八重子が向かって来る方向とは逆の方へ去っていった。

八重子はKの存在には気づかず、琳樹の目の前で一旦ストップし、肩で息をする。
現在地を確認し、八重子はゾッとした。なんと、彼は危うく「ゼミ」の敷地内に入ってしまう所だったのだ。

「(か、間一髪ってまさにこの事ね……)」

ハァーッ、と長く深い溜息を吐く。安堵と疲れからくるものだった。
額の汗を拭い、琳樹に微笑みかけ、彼の腕を掴んだ。

「戻りましょう、琳樹さん。色々と説明したい事もありますし」

ゼミの敷地内から離れるように、もと来た道を歩き始める。
こんな所に長居は無用だ。

そろそろ、あの猫人間や五本腕も目を覚ましている頃だろう。
腹も空かせているだろうし、スープを持っていってやる事にしようと思い立った。


「八重子!」

後方から声がかかる。
二人分のスープ皿とコップを載せた盆を持ったまま振り向いた。
Cだ。より露出度の高いボンテージとピンヒールに着替え、訛祢を挟むように並んで足並みを揃える。
手に、カルテではない書類を手にしていた。

「その書類、何なの?結構ぶ厚いみたいだけど」

「ああ、これ?あの猫頭、右腕に妙なモノ仕込んでたみたいだから、研究班に解析を頼んだのよ」

Cの話を要約すると、こういう事である。
猫頭の彼、テナードの傷を治療する際、次々と文明が使用不可能になるというアクシデントが発生。
まさかと思い解析すると、彼の右腕が文明の効力を無効化させてしまう事が判明。
やむを得ず、右腕のみを分離して治療したという。

「で、これがその報告書って訳──……っと、着いたわね」

ピタリとCの足が止まる。2、3度のノックの後、Cはドアノブに手をかけた。


51 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/08/03(火) 23:26:28 0
「(………………?)」

何かが左手に触れるのを、テナードは直感的に理解した。
霞が掛かったような脳で、無意識にそれが人の手である事を理解した。

特筆するものでも無いが、左手も義手だ。
感触や物を掴んだりする事は出来るが、温度や気温といったものを感じる感覚は既に存在しない。
故に、彼は少し驚いていた。失われた筈の「人の温度を感じる」感覚が、左手に戻っていたから。
この手は誰のものだろう。それを確かめたくて、ゆっくりとぎこちない動きで手を握り返す。

そしてそのまま、テナードは静かに覚醒した。

「……ここ、は……?」

喉が渇いているせいで、掠れたような酷い声が漏れた。
起きぬけの寝ぼけ眼で、起き上がろうとする。

「いっ!…………っ痛う……」

起き上がった瞬間、腹部に数瞬痛みが走り、反射的に身体をくの字に折り曲げて強張らせた。
痛みに耐えられず、右腕で体を支えようとして違和感を覚える。

右腕が、無い。肩から先が、まるで最初から何も存在しなかったかのように、消失していた。
朧気な記憶の中、誰かが自分の右腕を取り外した事を思い出す。
参ったな。そんな事を呑気に考え、フと自分の左手と繋がれた相手を見る。

「い、色白……?」

驚きが入り混じった声が出る。
手の主は、所々に包帯を巻いて患者服を着た、色白の五本腕だった。

「…………えっ、と。……お…おはよう?」

何と言えば良かったのか分からず、何故かおはようの挨拶をしてしまった。
とりあえず、この気まずい空気を何とかしたいと願った結果がごらんの有様である。

「失礼するわよ」

全く知らない声と軽快なノック音の後、二人の女と、その間に挟まれた1人の男が入室する。
その内、二人はテナードの記憶に新しい。
男の方は訛祢琳樹。盆を持った女は、あのビルで自分達を助けてくれた女性、八重子だ。

「あら、思ったより元気そうね」

テナードにとって、唯一面識のない女──Cが顔を覗きこむ。
彼女が看護長だとは知る由もないテナードは、眉を顰め顔を逸らす。 無論、見えそうな谷間を見ないように、だ。

「お腹、空いてるでしょ?」

テナードと五本腕のベッドの間にある丸椅子に座り、八重子はスープを差し出す。
スープを見た途端、テナードの胃袋が鳴る。そういえば、朝から何も食べていなかった。
有り難く受け取ろうとした所で、問題が発生した。
右腕が無いので、自分で食べるどころか、受け取る事が出来ないのだ。 それを伝えると、Cは呆れた顔で返した。

「右手が無いなら左手を使えばいいじゃないの……」

それもそうだった。
気恥ずかしさと共に盆ごと皿を受け取り、膝に乗せて左手て食べる事にした。
食い辛いことこの上なかった。


52 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/08/03(火) 23:35:18 0
「食べながらでいいから、私達の話を聞いてくれる?」

暫くして、八重子がそう切り出した。食べる手が止まり、八重子を凝視する。

「私達は「進捗技術提供及び研究支援団体」、通称進研。まあ、簡単に言えば色んな所に「文明」を貸し与えたりする組織ね。
 ここは、進研が所有する建物の一つ。貴方達、相当酷い傷だったから此処に運んだのよ」

唯一医療施設があったから、と締めくくった八重子の言葉を、今度はCが引き継ぐ。
ピンヒールの踵を鳴らし、ガーターベルトに仕舞っていた鞭を片手に教鞭を取る。

「進研には、数多のサポーターと彼等に指令を出す20人余りの幹部、そしてボスという構成で成り立っているわ。
 他にも幹部達をまとめる幹部長、ボス直属の部下や極秘任務実行隊なんてのも存在するらしいけどね。
 サポーターは進研の敷地内では規定の団員服を着用する事を義務付けられ、幹部ごとにチーム編成される。
 それなりの功績を残して幹部に昇進すれば、ボスに認められた証として"アルファベット"を名乗る事を許され、様々な特権を与えられるわ。
 ……ま、わざわざアルファベットを名乗らずに幹部をやってる奇人もいるけど」

そう言うと、肩を竦める。成程、アルファベットが書かれた腕章を付けた人間は幹部という事か。

「ああそうだわ。肝心な事を忘れるとこだった」

ヒュン、と鞭が鳴る。指示棒のように振り回すのは彼女の癖なのか。 耳障りな音だが、敢えて何も言わず静聴する事にする。

「この組織にはね、内部に幾つか派閥が存在するわ。正確な数までは知らないけどね。
 それぞれが、それぞれの野望や志を持って活動している。反りが合わない幹部やその部下達は、無論お互いに非常に仲が悪いの。
 それこそ、小競り合いなんて日常茶飯事レベルね」

それは組織として如何なものか。危うく喉まで出かけたツッコミを飲み込み、Cの説明に耳を傾ける。

「その中で、私達は「チャレンジ」という派閥に属しているわ。進研の中では、かなり異端な存在ね」


「進研の殆どが、荒くれ者で悪事を働いたり暴れる事が好きな連中が多い。
 けど、「チャレンジ」ではそういうのは一切御法度なの。ま、リーダーの意向ね。
 お陰で他の派閥に見下されたり、ボスからの信用も低いわ。だからこそ、出来る事もあるんだけどね」

静かな病室に、ピンヒールが床を踏み鳴らす音がよく響く。
喉が渇いたのか、鞭で器用にマグカップを取り、中身を一気に飲み干した。

「で、ここからが本題よ。私達は、通称「ゼミ」と呼ばれる過激派組織と争ってるわ」

「…………それが、何だ?」

「貴方達の力を、貸してほしいの。勿論、タダでとは言わない。
ここに住む間の生活面は、私達が全面的にサポートするわ。 食事も衣服も寝床も、貴方達の身の安全も、私達が保証する」

テナードは他の面子に目配せする。 ああは言っているものの、彼女らが何を考えているのか、皆目見当がつかない。

「…………もし、断ったら?」

「どうもしないわ。どちらにせよ、私達は貴方達を保護する義務がある。
 ただ、貴方達の身の安全の保証は無くなるかもしれないけどね」

まるで脅しだ。可愛い顔して、結構えげつない女である。ここは、今は黙って彼女らに従うのが得策だろう。
彼女らの領域に居る限り、自分達の命は彼女らの掌の上とも考えるべきか。

「…………分かった。協力すると約束しよう。但し、元の世界に帰るまでだ」

【ターン終了:進研の構成とかもろもろ設定作らせて頂きました
       こんな設定付け足したいとかあったらCを喋らせるなり何なりして下さい】

53 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/08/05(木) 21:49:18 0
「ア、アァ。了解ダ」

有り合わせの道具で瞬く間に簡易担架を組み立てた少女「佐伯零」に促され、飛峻は慌てて持ち手を掴む。
有無を言わさぬその口調に半ば反射的に従ってしまったが、飛峻と対面のオサム君以外の三人は医療の心得があるのだから適材適所と言えよう。

「……アンタも色々と大変そうだナ」

「ハハハ……」

思わずオサム君と苦笑いをしつつ、続けて響く合図の声で同時に担架を持ち上げる。
向かう先はエレベーター。屋上で待機している手筈の兎たちの下へ柚子を搬送するためだ。

既に展望ホール内のヤクザは掃討されており、飛峻たちの行く手を阻む者は居ない。
地面に伏したヤクザたちの内、まだ息のある者が時折苦しげな呻き声を挙げるが誰も気に留める様子はなかった。

(しかしどうしたものかな)

先頭を行く佐伯を眺めながら飛峻はため息をつく。
気がかりなのは彼女の言った言葉。柚子を助けることに夢中でその可能性をすっかり失念していたのだ。
つまり、彼女達と兎達が敵対しているかもしれないという可能性をである。

武術を修める者ならば種類はなんであれ、相手の立ち居振る舞いから実力を推測することは出来る。
ましてや裏社会で活動していた経験もある飛峻にとって、その能力は研ぎ澄ませざるを得なかったものだ。

飛峻の対面に位置するオサム君。
訓練を受けているようだがヤクザたちと同程度かやや上。荒海クラスには到底及ばず打倒するのは容易。

そして医師と看護師。
医師は戦闘経験がある上に、特異な光を帯びた右目が放つ威圧感は相当のもの。
看護師に関しては未知数。今のところ特筆すべきは異様な歩方か。

最後に佐伯零。
負傷の痕が見受けられるが、おそらく4人の中で彼女こそが最大戦力。
外見だけなら少女のそれだが、修めた技術は破格。万全の状態で対峙したとして果たして勝てるかどうか。

(負傷分を差引いても無理だな。こちらに不利な要素が多すぎる)

万一戦闘になったとして負けは必定。また、心情としても手助けしてくれた彼女達と一戦交えたくは無い。
となれば如何にして回避するかが問題なのだが。

「ところデ。オサム君だったかナ?」

エレベーターに乗り込むや飛峻は一番無害そうな一人を選んで声をかける。

「さきほどサエキが言っていた先客、君たちの敵なのダロウ?何ていう相手なんダ?」

「え……っと、ああ。『進研』のことですね」

兎たちの属す組織が進研かどうかはこの際問題ではない。
名前さえわかれば後はそれを伝え"演技"してもらうだけだ。
彼女に伝達する方法は口に出す必要は無い。三浦の言葉が事実ならば思い浮かべるだけで事足りるはずなのだから。

54 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/08/05(木) 21:52:28 0
「うわわっ!」

最上階に到着した飛峻たちを出迎えたのは真雪だった。
声が聞えるのと同時に担架の上の柚子の目から涙がこぼれる。

「…ユッコ!」

「マユキ……俺が一緒に居ながらスマナイ……」

真雪が絶句するのも無理は無い。
それほど柚子の負った怪我は深いのだ。

それゆえに一刻を争うものでもある。

「……搬送を済ませよウ。非常階段から屋上のヘリポートに行けるはずダ」

ショックを受けている真雪を促し、屋上へ続く階段をひた走る。

(着いたか、さて後は――)

先導の佐伯がドアを重々しい音を立てて開け放つ。
そして、そこに鎮座している物体を見て、飛峻は――先ほど真雪がそうしたように――絶句した。

ヘリポートに着陸している一機のヘリコプター。
機体形状から「フライングエッグ」の愛称で呼ばれるOH-6の派生型。
胴体両側面に武装用のハードポイントを増設した軽攻撃機AH-6リトルバード。
しかもご丁寧に機銃で飾られてすらいる。

(――これはごまかすの無理じゃないカナ)

思わず放心する飛峻だが、何時までも呆けてるわけにもいかない。
すでに場には剣呑な空気が漂い始めてしまっている。

「……アー、コノ娘が連絡した要救助者ダ」

(担架に寝ているのはマユキの友人。他の4人が敵対する組織は『進研』、特に戦闘の彼女はかなりの実力者だ)

ヘリの前に立っている兎に声をかけながら、伝えるべき情報を頭の中に思い浮かべる。
兎が上手く佐伯たちを"騙して"くれることを期待しながら。


55 名前:エレーナ ◇SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/08/07(土) 03:06:17 0
>「・・・シノ、です」

目の前の不思議な力の気配を醸し出す少女は、名をシノと名乗った。
奇抜な格好から(というよりも背負った棺桶を)見るに、彼女も異世界人だと私は判断した。
しかし、これだけ近距離にいて禁書の気配を感じない。
つまりは、彼女は無理矢理召喚されたわけではないのだろう。…恐らく。
私はシノから視線を逸らした。なんとなく、彼女に見透かされている気がした。

……何を?

>「オイ、テメー!」

これは幸に入るのか、それとも不幸に入るのか。
私達にかけられた声は、聞き覚えのある特徴的なダミ声。

「ハ、ハルニレ!何でココに!?」

問題発生。こういう時に限って遭いたくない奴と遭遇するなんて!
最悪だ。彼ことハルニレは、少なからず(今は私だけど)ドルクスに敵対心を持っているに違いない。
ここでもう一度戦闘を仕掛けられたらどうなるだろう。
魔法を使いこなしきれない私にとって、圧倒的不利な戦いとなるだろう。
それだけは避けなければ!!

「ハルニレ!今私は貴方と戦う気はないわ、落ち着いて話しあいまsy……」

>ぐぎゅるるるるるるるるるる。
>「・・・・・・・・・・・おなか、すいたなあ・・・・・・・・・」
>「オ嬢チャン、俺ガ飯食ワセテヤルヨ。ドルクストヤラ、テメーニモ色々ト聞キテエ事モアルシナ」

「…………………ほぇ?」

ハルニレ達は歩きだす。私は一人取り残されそうになったのに気付き、慌てて追いかける。
色々ツッコミ所がある筈なのに無視なんだろうか。
これは私が突っ込まなきゃいけないんだろうか。


「…………………………………………どうしてこうなった?」


56 名前:ドルクス ◇SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/08/07(土) 03:07:15 0
ここに来るまでの道中、Tから様々な事を教えてもらった。
この世界に存在する「文明」、「進研」についてetc。長いので割愛させてもらう。

「さて、着いたぞ」

白い扉の向こうから、声が聞こえる。
複数人の声。エレーナ様の魔力を使い神経を集中させる。
……何人か、禁術の気配を纏っている。まさか、この中に異世界人が?
更に集中し深く探ろうとした時、Tの手がドアノブに掛けられた。

「ちょま」
「はーッハハハHAHAHAHAHAHAHAHA!失礼するよチャレンジと愉快な仲間達諸君!!」

今にも破壊しそうな勢いでTは無礼講にもドアを乱暴に開ける。
「病室では静かに」のポスターは完全無視かこの黒子野郎。
Tが出入り口を塞ぐように立っているから、入るどころか中の様子を見ることすら難しい。

「そんなに警戒しないでくれ賜えよ!嗚呼それともこの私の美貌に酔いしれているのk「ねーよ!」

分かりきっていてもツッコまずには居られなかった。
クッ、恐るべしエレーナ様のツッコミ体質。

「そんなにハッキリ言わなくても…まあ良いか。
 皆が溜息を吐く程に見とれる私の美貌と、今回こんな狭っ苦しい病室を訪れた理由にさしたる因果は無いからね」

どうしてそうなる。幸せな脳味噌の持ち主なんだろうな、ある意味羨ましい。

「ほほう、君達が噂の異世界人達かね。ん?そこの少年、私の顔に何か付いてるかな?
 私?ああそうだ、自己紹介しなくてはね。私の事は「T」、とでも呼んでくれ。
 派閥は改革派「赤ペン」。夢に出るまで脳に刻みつけておくといい」
「夢に出るとか悪夢のレベルだろjk…」
「ところで、だ。こんな場所に敵対関係である筈の私が何の用かと言いたげな顔だね!
 入っておいで、エレーナ君!彼らは、君と同じく異なる世界からの訪問者達さ!」

俺のツッコミは無視され、手を引かれて病室へとエスコートされた。男だけど。いや今は女だけど。

特徴のない平凡そうな少年。優しそうな顔立ちをした女性。猫の頭を持つ片腕の男。
露出度の高いボンテージを着た女。余計に腕の生えた(恐らく)女性(いや、男か?)。

……………濃い。濃すぎる。一部を除いて誰が異世界人だか分からないぞ、このレベルは。



57 名前:ドルクス ◇SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/08/07(土) 03:08:03 0
「(ん?)」

そして最後の1人。
眼鏡を掛け、キリン柄の妙な服を着た、俺。

俺?

「え、エレーナ様!?」

仰天し、脱兎の如く駆け寄る。

「そんな、折角精神交換してまで貴女を逃がしたっていうのに……!」

まさか、エレーナ様まで捕まっていたとは、何とトロ臭いお方か。
しかし、自分はこんな珍妙な格好をしていたっけか。
自分はこんな髪の色だったか。まず、眼鏡なんて掛けていただろうか。
彼は、エレーナ様では無かったのだ。
失念していた。"並行世界の異なる自分"の存在が居ることをすっかり忘れてしまっていた。

「"エレーナ様"?一体どういう事かな、エレーナ君?」

案の定、疑念の視線を含んだTの言葉が俺にふりかかり、額に冷や汗がぶわりと湧き出る。

「いや、あの、アハハ…………」
「……エレーナ君、人は嘘を吐くと汗の味が変わるらしいのだが、一体どんな味なんだろうn」
「スイマセン嘘吐いてましたサーセンだから舌舐めずりしながらコッチ来ないで欲しいッスーーーー!!」

変態から一番離れた、地味な少年のベッドの側へと逃げ込む。
しばらくの間変態との睨み合いが続いたが、諦めたかのように視線を逸らしたのだった。


58 名前:T ◇SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/08/07(土) 03:09:15 0
彼女(?)との無言の睨み合いを一旦中断し、私はチャレンジのメンバーへと向き直った。
後で、一連の彼女の言動について問いただすとしよう。しかし、先ずはこちらの用件が先だ。

「あー……まあ、彼女の名前はエレーナ=T=デンぺレストの筈なんだが……まあ良いだろう。
 彼女?は「私が保護した『異世界人』だ」。そこの彼らと同じくね」

エレーナ君の存在は、私にとっても彼らにとっても、重要な存在となりうるだろう。
『チャレンジ』は、異世界人を守る"義務"がある。彼女は、本来ならば彼らが保護していなければならぬ存在なのだ。
だが、今「エレーナ君は私の手元にいる」。これは大きな好機だ。チャンスだ。

「理解して頂けたかね?君達は大変なミスを犯したのだよ。とても重大なミスを。
 しかし、私が言いたいのは脅しではない。いわば、交換条件だよ、諸君」

大股でエレーナ君に近づき、その小さく華奢な体を持ち上げ両腕に抱える。レディ(かどうかは判断がつかないが)は優しく扱うものだ。

「突然で悪いが諸君、『彼女を保護しきれなかったミスを報告しない』代わりに!私を『チャレンジ』のメンバーに入れてほしいのだよ!
 私には野望がある!その為には君達の力が必要なんだ!『TOEIC』を裏切る事になるが構わないさ!大いなる野望の前には然したる支障ではない!
 勿論、君達と組織のルールに従おう!どうだね!?悪くない話だろう!!??」

ドゥーユーアンダスタンッ!?とばかりにジョジョ立ちよろしくポーズを決める。拍手が来る事はない。
静かだ。静かすぎる。何が悪かったのか。私の意思表示が足りなかったのか。
エレーナ君を差し出すだけでは足りなかったか。何か無いかと視線を泳がせる内に発見する。

「そこの君!そう、猫頭の君だよ!片腕が無いままの食事とは辛かろう!?この私が手助けして差し上げようじゃないか!」

エレーナ君を降ろし、取り出したりまするは胸元のペン。色は三色ペンならぬ七色ペンだ。
使用する色は≪黄緑≫、即ち≪補佐≫。必要な物は≪右腕≫。

「≪アライク・アシスト≫!」

壁に素早く「右腕」と書きこむ。断じて落書きではない。書き終わった瞬間、壁の一部が盛り上がる。
それは腕の形を形成していき、猫頭の右肩に吸い寄せられるようにはまる。即席義手の完成だ。

「腕が戻るまでは、それで過ごしたまえ。男相手に『ハイ、あーん』なぞする気はないのでね。
 ……さて、これで私が君達に協力する、という意思は伝わったようだね。宜しく頼むよ、チャレンジ諸君」


【ターン終了:エレーナさんはハルニレさん達に着いていきます、TがTOEICを裏切ってチャレンジの仲間入り】

59 名前: ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/08/10(火) 01:48:24 0
>>久和、テナード、訛祢、萌芽、エレーナ(ドルクス)

進研にて各々の時を過ごす君達の元に、人影が訪れる。
それらはどれもが同じ体格、同じ格好、そして同じ性能をしていた。
それらは、人間では無かった。
文明『人型傀儡』≪マリオネット≫。
主に危険な工事や救助の現場にて使用される、人型の物に宿る文明である。
然程珍しい物では無いが用途が用途である為に、個人や企業で大量に保有している事はまず無い。
例えば文明を取り扱う企業の、頂点に立つ男でもなければ。

『諸君、今すぐ異世界人を私の元に連れて来たまえ。
 抵抗や下らぬ温情などは誰の為にもならぬので、見せぬように』

自律意思を持たないマリオネットは託された音声を再生しながら、君達の手を引く。
そうして君達は進研のビルの最上階へ、進研の『ボス』の元へと招かれた。
都市を一望出来る――分り易い『支配者』の、『勝者』の空間がそこにはあった。

「いい部屋だろう? ……歓迎の挨拶は省かせてもらうよ。既に各々受けているだろうからね」

君達の正面、部屋の中央よりも少し奥に設けられたデスクに腰を掛けた男が言葉を紡ぐ。

「君達をここへ呼び付けた事には、当然幾つかの意味がある。
 まず初めに……これらを見るといい」

言いながら、彼はデスクから腰を上げて一歩横に動く。
そうしてデスクに並べた幾つかの物品を君達に見せる。
純白の刀、魔法の本、機構の右腕。

「どれも、君達がこの世界へ持ち込んだ物だ。今や所有者は我々……と言うより私だがね。
 もしも返せと言うのならば……その通りにしてあげよう。
 そして、改めて奪わせてもらうよ。君達をこの場、このビルから追い出してね」

一息の沈黙を置いて、彼は続ける。

「と、これが君達を呼び付けた理由の内の二つだ。
 つまり君達の財産は今や私の財産である事を明確にして。
 並びに、この世界での君達の立場を教えておこうと思ってね」

微かな嘲笑を、彼は零す。

「さあ、良いのだよ? 別に「自分の財産を返せ」と叫んでも。
 ただその行為の果てに君達が辿る末路について、私は一切の保証をし兼ねるだけだ。
 この現代にて、君達がどれだけ生き永らえられるのか見物ではないか」

君達には、ただ一人でこの世界を生き抜く術があるだろうか。
化物としか言いようの無い姿形で、人の世を生きていけるだろうか。
何の才覚も無しに、社会を渡り切れるだろうか。
特別な『才能』があったとしても、それは君が遍く無限の『敵』から身を守るに足る物だろうか。

「――不可能だろう?」

彼の声には、現実の音律が含まれていた。

「もっとも君達が我々よりも遥かに下劣な連中に下り、
 豚の餌よりも劣悪な庇護を貪ると言うのならば、或いは……だがね」

それもまた、一つの選択肢ではある。
だがその道を選ぼうものなら君達は。
この物語から遥か彼方の闇に沈み、歩んだ道も名も残らぬだろう。

60 名前: ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/08/10(火) 01:49:29 0
「そのような結末は嫌だろう? だが、そうなる。
 私の機嫌を損ね、この進研から追い出されようものならば。
 この世界において必要な物とは、無二の至宝でも一騎当千の力でも無ければ特異な才覚でも無い。
 揺るがぬ立場なのだよ。他の物は、あくまでそれを得る為の物に過ぎないのだ」

そして、と彼は言葉を繋ぐ。

「君達三人はそれを、宝を持っていた。持って来た。ならば私は、君達に立場を与えようではないか。
 この進研の中で、少しばかりの実験を我慢すれば人並み以上の待遇が得られると言う、立場を」

三人と言うのはつまり久和、テナード、訛祢の事である。

「分かったね? それでは君達は帰ってよろしい。君達の身辺の世話は当面、
 チャレンジの連中に任せている。……まったく、現状に甘んじるとはつまり、停滞ですら無い。
 周りを取り巻く環境が不変でない以上、退化でしか無いと言うのに。連中ときたら。
 まあ、仲良しこよしの下らん連中だが、却って適任と言った所か」

僅かな嫌悪を表情に滲ませて、彼は言う。
しかして多少話が逸れたが今度こそ、君達三人に部屋を出ろと手振りを交えて命じた。

「あぁ、重ね重ね言っておくが。妙な気は起こさぬ事だ。
 この世界には連帯責任と言う言葉があってだね。君達が罪を犯せば、
 その罰が及ぶのは君達のみに留まらない。例えば猫面君、君は随分とここの面々と仲良くなったようだね?
 そして五本腕君、君はどこぞのビルで愉快な双子と関わりを持ったようじゃないか。
 最後に……訛祢君だったかな? 君は確か……そのビルの近くで一人の少年と心安らぐ一時を過ごしていたね。
 それに、今も眠り続けているあの少女……と言っていいのかは少々剣呑であるが。
 とにかく実はだね、彼女にはこの場に並んでもらいたくて覚せい剤を使用したのだよ。
 結局彼女は目覚めはしなかったが……もしも君が馬鹿げた暴挙に出ると言うのなら、
 私は彼女に君の説得役を担ってもらいたいと思っている。
 ふむ、しかしその為には彼女が目覚めねばならない。となれば投薬量を増やすのも已む無しとなるかな?」

進研の中での事は言うまでもなく。
彼は君達の行いを、関わりを、仔細に掌握していた。
更に言えば不非兄弟は既にこの世にはいない。
当然彼はその事を知っており、だがそれを久和に伝えるつもりは毛頭無かった。
仮に知られたとしても、しらを切るなり開き直るなり、逆に脅迫するなり。
と言う事が出来る『立場』に、彼はいる。

ともあれ三人が部屋から出て、マリオネット達に連れられていくのを見届けて。
彼は残った二人、即ち竹内萌芽とエレーナ、君達に視線を滑らせた。

「それで……今度は君達に関してだが。君達は彼らと違い『宝』を持っては来なかった。
 残念だがそれでは、私は君達に『立場』を与える事は出来ないな。
 ……おや? しかしよくよく考えてみれば、君達には宝は無いが『力』があったではないか。
 先の三人とは比べ物にならない『力』が」

勿体ぶった語り口だが、彼の言わんとする事はつまり。

「その力を、是非私の為に振るってくれたまえ。
 よもや、嫌とは言うまいね? 君は随分沢山の女性と関わりがあるようだが、
 次の対面の際に彼女達が首だけになっているのはもっと嫌だろう?
 もっとも、その方が君達の本来あるべき姿なのかも知れないが」

一頻り言い終えて一呼吸置き、次に彼はエレーナ
――少なくとも見た目は――に眼光の矛先を向ける。

「君もだよ。淑女……とは言い難いが、かと言って紳士でもない。
 非常に呼称に困るが、ひとまずは便宜上……『君』で良しとしよう。
 『君』にも大切な人がいるだろう? ならば大人しく従う事だ。
 私は君達が有用かつ有益であり続けてくれれば、それに相応しい待遇を用意する事を渋りはしないのでね」

61 名前: ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/08/10(火) 01:51:06 0
次に言葉を繋ぐ声は、「さて」だった。

「ところで君達は『イデア』と言う物を知っているかな?
 少年の方は、『アイツ』から名称くらいは聞いているかね。
 『君』は……故郷の伝承に或いは、と言った所か。まず、伝承を伝える物自体が失われてしまってはいるだろうが。
 あぁそうだ。故郷と言えば、三代目の王女はお元気かな? 逃げ延びた事までは知っているのだが、それ以降は流石にね。
 幾ら『君』達の種とは言え、もうお亡くなりになってしまっただろうか。エメラルドブルーの瞳が麗しいお方だったが」

ふと過去を思い返すように、彼は視線の焦点を消失させる。
しかしそれも、長くは続かない。

「……話が逸れたな。イデアとは、君達に探してもらう物の事だ。
 とは言えこの世界の人間も、深くは知らない。
 精々名称だけ、それもお伽話の類だと断じられている」

言いながら、彼は先程見せた『宝』の内の一つ。
純白の刀を君達に見せ付ける。

「……この刀が何故『宝』であるか分かるかね?
 よく切れるから、折れず欠けず曲がらぬから、脂に汚れぬから……ではない。
 そのような物が、この世界で何の役に立つ。文明を用いれば再現すら可能ではないか」

見たまえと、彼は一言。
そして部屋の中央に彼の言う三つの『宝』を置いた。
取り分け純白の刀は床に深く、突き立てられている。

「時に、一般的な……哲学におけるイデアがどのような物かは、分かるかね。
 ……一般教養の域からは少々逸脱しているが故に、一応は説明をしようか。
 甚く単純に述べるのならば、イデアとはこの世の万物を影とした時に、物体――原型に当たる物だ。
 例えば花。花にはそれこそ様々な種類があるが、それらは全て影に過ぎないのだ。
 そして無限の花々、影を辿った先にはイデア――つまり花の原型がある」

言いながら、彼はデスクの横に立て掛けてあった、この世界の刀を手に取る。
それを抜き、刀剣の方を床に放り捨てた。
刀は小気味いい音を奏で――それからひとりでに、床を這い始めた。
純白の刀を中心に、円を描くように動いたそれは、ある一点に達すると途端にぴたりと静止する。

62 名前: ◆6bnKv/GfSk [sage] 投稿日:2010/08/10(火) 01:52:16 0
余談ではあるが、この現象は『イデア』を知る者にしか呼び起こせぬ物だ。
イデアには『心の目で見る』物である側面があり、つまりそれは『認識』に繋がる。
自分やその持ち物が『イデアから伸びた影の上にある物である』と強く認識しない限り。
この現象は起こらない。
つまり異世界人同士が対峙したからと言って、どちらか一方が転んだりはしないと言う事だ。

また異世界人の多くは特異な『才能』を持っており、場合よっては人間であるか怪しい風体も。
挙句の果てには人の形をしてはいるが人間でない者さえいる。
彼らは『人型のイデア』から生まれてはいるが、それぞれ別の影の上に立つ者達だ。
故にそれぞれが干渉し合う事はない。
三浦啓介が尾張をイデアへの指標と見定めたのは、
彼が『特殊な才能はなく、しかしこの世界からかけ離れた世界の存在』であるからなのだ。

「分かるかね。この直線の、いずれかの彼方には……『イデア』がある筈なのだ。
 武器の、機械の、本の『イデア』がね。君達にはそれを探してもらう。
 無論用意な事ではない。様々な妨害が入るだろう。『イデア』の事は知らずとも、
 『私の命を受け動く君達』を捕捉するくらいは、他の組織とて可能である筈なのでね」

しかし、君達にはそれに逆らう術はない。

「だが、見事その命を果たしてくれた時は、私は相応の対価を惜しまないよ。
 この世界で極上の立場を求めるも良し。……元の世界へ帰りたくば、叶えよう。
 『アイツ』に出来て私に出来ぬ事など、一つしか無いのでね」

――今は、まだ。

「それでは、そろそろ君達も去りたまえ。良い働きを期待しているよ」

63 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/08/11(水) 01:03:07 0
(……結局、アレで良かったのかしら…?)

ううん、ううんと言う特有の駆動音と共にエレベーターは上層に向かっていく。
その不協和音に耳を傾けながら零は思案していた。内容は荒海について、……

(荒海銅二が死んだ。か。やったのは殉也……じゃあないわね。
 ……もし、私がその場に居たらきっと足手まといになっていたかもしれないけど、けど)

後味の良い物ではない。
深い知り合いと言う訳ではないが人が一人。零にとって名前のある、顔のある、形のある人が一人死んだのだから。
しかし、それを責める事が出来る者などは居はしない。だが、だからこそ零にとっては、自ら己を責めるに足る事だった。

(出来なかったんだ)

そして、無力を噛みしめる。それに死んだのは恐らく荒海だけでは無い。
少なくとも荒海やあのコックの攻撃を受けた怪我人は一人残らず死亡したとみて構わないだろう。

(けど、……代わりに助けられるかもしれない人もいる)

そう思い、零はユズコと呼ばれた少女を見やる。
酷い火傷だ。生きて居るのも奇跡に近いかもしれない。それでも少女は生きたいと願った。

(私のRoleは、役割は、果たせたのかしら?)

もしかしたら、別な行動をとれば誰一人命を落とすことなく戦いを終わらせる事が出来たのかもしれない。
しかし、もしかしたらその為に零自身が命を落としてしまっていたかもしれない。
もしかしたら、もしかしたら、とDilemmaha(ジレンマ)は終わらない。

《ピンポーン》

終わりの見えぬ自己問答に浸っていた零だったが、気がつけばエレベーターは最上階へと到着していた。

「よし。……!?」

ドアが開いた瞬間に、飛び込んでくる人の顔。それに驚いた零は一瞬だが足を振り上げようとし、踏みとどまる。
人だ。しかし、問題はその人物が敵意を持って居る人物で無いという事。

64 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/08/11(水) 01:03:49 0
「うわわっ!」

「ッツ!?」

踏みとどまるが、生じた勢いは止まらない。たたらを踏むように勢いを殺し走り出す。
結果、零は先導するような形で先に階段へと駆けてゆく形になる。
後ろから聞こえる会話に耳を傾けながら先行し危険が無いかを見極める零。

(……あの人、「ユズコ」さんの知り合いだったみたいね)

駆け足で階段を昇り駆けて行くと、恐らく屋上につながっていると思われるドアが待ち受ける。
ゆっくり振り向き後ろの人物達を確認すると、徐に扉に手を掛けて一言だけ注意を促した。

「もしかしたら銃撃されるかもしれないから、下がってて……」

言い切り、一つ深呼吸をしたのちに覚悟を決めて零は扉を開ける。
壁面を駆け抜けて居た時のように心地良い風が頬を撫で、髪をもてあそぶ。
そんな黄昏時のヘリポートで零が見た物は予想通りの先客だった。

「やっぱり。どうしよう……」

らしくない弱気な呟き。
それを洩らし、思案しようとした時だ。零達に先んじてヘリへと向かう人物がいた。

「……ッ!?」

失念だった。成程、確かにそう考えてしかるべきだったのだ。
未だに名も知らぬ青年はゆっくりと、しかし、しっかりとした味方に対する様な足取りで歩み行く。

「まさか……ね。オサム君?」

「言われなくても分ってます…セイフティなら既にはずしてありますよ」

見えないように細心の注意をはらいオサムはホルスターへと手を伸ばす。
生じた衣擦れ音が嫌に零の耳に残った。

【状況:屋上についたは良いが李飛峻に一抹の不信感を抱く。
    兔から何らかの嘘を吹き込むか銃撃でもして李、真雪を回収、撤退をどうぞ】
【目的:C迷子の捜索。
    E経堂柚子を助ける。】
零:【持ち物:オリシ『折りたたみ式警棒』、『重力制御』、携帯電話、現金八千円、大型自動二輪免許】

65 名前:都村みどり ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/08/11(水) 01:04:53 0
息絶えたコックを見下ろし、行儀が悪いとも思ったが舌打ちをする都村。
やはり、世の中そうそう上手くはいかない。と言う事らしい。
どうやら舌うちに気がついた増援の隊員が一人、声を掛けてくる。

「都村さん……その、進研の尻尾を掴めなかったのは残念ですが……」

「ええ。気にしてません。そもそも、ここに来た目的は別ですからね。
 しかし、流石に五分も使用していると疲れます……」

「文明の特殊使用は精神に負担が強いですからね。
 ここは後発の小隊に任せてお休みになられては?」

気遣う隊員の言葉に若干頬を緩める都村。

「ええ、お願いします。ですがその、前に……」

その前にやっておかなければならない事がある。
ひゅんひゅんとバトンのように/メタルを振ると瞬間移動を行う都村。
移動した先はエレベーターの前。都村のやっておきたい事……
それは、荒海銅二の生死の確認だった。もしんば荒海が生きていたとしたらこの上ない程の情報源だからだ。

「偶にはセイギノミカタをしても罰は当たらないでしょう?」

丁度、そばに居た隊員に向けるように呟き、都村は居合の様に/メタルを構える。

「あ、都村さん。例のスケットさん、上の方に向かったみたいですよ?」

「そうですか……ん?葉隠さん?え?はい。……分りました。
 丁度、佐伯さん達も上に向かったようですし中々見つからないようなら合流した方がいいと思います」

都村に保護するべき一般人が居る事を告げる葉隠。
その会話を聞いた隊員の一人が声を掛けようとしたが走り出す葉隠。
道を開ける隊員達、都村はその様を見て何処となく可笑しくなってしまう。

「良い事。なのでしょうね……
 さて、始めますか……『一刀両断』《/メタル》!!」

表層だけの単純使用された/メタルにより真っ二つにされるエレベーターのドアー。
ガタリと言う重々しい音を立てて金属製の扉の欠片が崩れ落ちる。

「やはり……」

思った通り。と言いたげな様子で荒海の確認を行う。

そして、砕け散った触媒を拾い集めると都村は近くの隊員に声を掛けた。

【状況:都村さんの二日目終了。荒海さんの『崩塔撫雷』を破壊しておきました】

都村:【持ち物:警察手帳、クレジットカード、無線機、携帯電話、『一刀両断』《/メタル》、『血戦領域』《ジャッジ・メント》、『身体強化』《ターミネイト》、
        『禁属探知』《エネミースキャン》、『視外戦術』《ゴーストタクティクス》、『見敵封殺』《ロックオンロック》、『攻防矛盾』《グラニード》
        (内、使用可能なのは適性のある一刀両断、血戦領域、身体強化のみ)】

66 名前:◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/08/11(水) 09:14:29 O

「……アー、コノ娘が連絡した要救助者ダ」

 風が吹いている。幽かな風だ。太陽は既に傾き、空は確実に青さを失いつつある。黄昏までもうじき、とはい
かないが。
 春の日差しは肌に熱を沈着させる。ヘリポートには遮蔽物はなく、すべては日差しの下に晒されたままだ。舞
台みたいだわ、と“私”は思った。大量の照明に照らされた。そう、嘘が真実になるところだ。

(担架に寝ているのはマユキの友人。他の4人が敵対する組織は『進研』、特に先頭の彼女はかなりの実力者だ)

 苦労しつつ、李の目の動きからそこまで読み取る。どうやら彼は私の文明の効果を勘違いしているらしい。思
考を読むのは得意ではないのだ、ましてや視覚に頼って読み取るのは。
 けれど、大体の事は把握できた。

「こんにちは、国家公安委員会の者です」

 その瞬間、その場にいる全員が奇妙な既視感を憶えたはずだ。

『この人は、遥か昔に出会った事のある人だ』

 例えるなら小学生の頃の親友のように、今では名前すら思い出せない“過去の人”。記憶の奥底に封印された
子供の頃の友人、原初の友人。もしくは初恋の、もしくは大切な家族の。今の己の趣味趣向に何かしらの影響を
与えた“彼”あるいは“彼女”。
 擬態。
 兎は、鏡だった。“視外戦術”で読み取った、相手の望む“最高の人”を己の人格にトレースする。己を騙す。
己の人格を書き換える。ロールをそのままに、キャラクターをすり替える。
 相手を騙す為に、己を騙す。

「“素直”と言います。どうも助けになれるようで。
任務中、同僚が李さんと偶然接触した時にですね、上が保護しろと。怪我人が出たと聞いたので、それならつい
でに運ぼうという次第で。
理由?知りませんねえ。私たちはただの駒ですから。
ええ、成龍会に関する任務です。守秘義務がありますので、任務について詳しい事は言えないのですが。“こん
なモノ”を持ち出すんだから、大体どんな事をやろうとしてたのかわかるでしょ?」

 ヘリを指差しながら、ペリカンに目配せをする。ヘリに怪我人を運ばせたら、李と真雪を“圧縮”。重武装し
たリトルバードは、そんなに沢山の人を乗せられない。何故か尾張は“圧縮”できなかったのだ。

「いやはや、それにしてもまさかこんな事になるなんて。
エライ事ですよ、成龍会が潰れたら何もかもオシマイだ。元締めがなくなってしまったんだから。
この街の抗争はきっと酷いことになるでしょうねえ」

【兎:全員にとって“長い間会っていない友人”になりました。嘘が通りやすくなったはずです。代わりに
まゆきんは強烈な違和感を
李さんは『不信だが何故か嫌うことのできない』『兎の雰囲気が前と違う』事態に不信感を持つかも
リトルバード:中にはペリカンと尾張がいます】


67 名前:シノ ◇ABS9imI7N [sage] 投稿日:2010/08/12(木) 12:24:42 0
>「オ嬢チャン、俺ガ飯食ワセテヤルヨ。ドルクストヤラ、テメーニモ色々ト聞キテエ事モアルシナ」

現れた三人の人間。その内、ドルクスと知り合いと思われる男が話しかけてきた。
男の言葉を受け止め、頭の中で反芻する。つまり、自分の食事代を支払ってくれるという事か。

「ありがとう、ございます」

棺桶を引きずり、シノはハルニレの隣に並んだ。
長身と帽子で顔は見えなかったが、「きっと良い人なんだな」という印象を彼女は受け・・・・・・・・・


「(・・・・・・・・・・・・・・・え?)」
硬直する。見える筈の男の肉体を、視認することが出来ない。
その目で見るのは、魂のオーラとエネルギーからくるイメージのみだ。
しかし、その手はしっかりと隣の女の子の手を握りしめていた。
つまり、『魂が実体化している』のだ。
こんなパターンは、シノにとって生まれて初めてだった。

「あの・・・・・・・・・」

男に話しかけようとしたが、言葉が上手く出てこない。
何と言えば良いのか、シノには全く分からなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

男から視線を逸らしたシノの目に、とあるポスターが目に入った。
それは―――――――――――――――――・・・。



シノ達は某レストランに居た。時刻は既に夜中の九時を回り、休日のせいか人もまばらだ。

「すいませーん、おかわり!」

そんな中、シノはレストランの大食いメニューに挑戦している真っ最中だった。
内容はサーロインステーキ(170g)20人前を40分で食べきれば10万円を贈呈。出来なければ料金は全て支払わされる。
それにしても、その華奢な体のどこに入るのか。出された食事をどんどん胃に納めていく。

ゾンビマスターというものは、精神力とエネルギーを大幅に消耗する。
そしてゾンビは本来死体だ。吸血鬼の力の力を借りてはいるものの、恐ろしく燃費が悪い。
故に、普通よりも何倍ものエネルギーを摂取しなければならない為、とんでもない食事量になるのだ。


「ぷはー、おいしかったです!まさか全部たべてタダだなんて、さいこうですね!」

フードファイターも真っ青な量を平らげ、シノは笑顔で対して変わり映えしないお腹をさする。
一部始終を見ていた店の従業員達は目を丸くし、店長は渋々20万円を支払った。

トマトジュースを啜りながら、ハルニレとドルクスを見やった。
シノから見れば、異常な二人。肉体を持たない者と、肉体と魂が違う者。
幼さ故に、彼らの会話に入れないシノは、壁に立てかけた棺桶を踵でつつく。

「(そうだ、宿はどうしよう――――――――・・・・・・・・)」

まさか彼らが自分と同じく異世からの来訪者とは露知らず、シノは呑気にジュースをちびちびと啜るのだった。


68 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/08/14(土) 09:08:13 O
(こんなのって、無い)

柚子の顔を見ながら、真雪は泣きそうになるのを耐え、置いて行かれないよう走る。
屋上に続く扉に辿り着いた時には、真雪の息は上がっていた。
扉が開かれた時に目に入ったのは、一台のヘリコプター。
真雪には、そのヘリコプターの危険性など分からないし、装備された物すらも分からない。
しかし、それが搬送用ヘリでは無い事は、流石に分かった。
搬送用にしては、コックピットが小さい。

「やっぱり。どうしよう……」

目の前の女性がそう呟く。何か不都合が有ったのだろうか。
この男女と兔の間に、何が有ったのか。
不穏な空気が流れ始めた時、飛峻が前に出た。

「……アー、コノ娘が連絡した要救助者ダ」

「……ッ!?」

すぐ前で、息を呑む気配がする。
表情は伺えないが、二人して剣呑な顔をしているのを容易に想像出来た。
相談する声が、微かに聞こえる。
男性が懐から何かを取り出すのが見えた。まさか、柚子も居るこの場で戦闘を始めるつもりか。

「あの、」

「こんにちは、国家公安委員会の者です」

二人を止めようとした真雪の声は、兔の言葉にかき消された。
それと同時に入り込む既視感、そして違和感。
きん、きん、と能力が警鐘を鳴らすのに、何故か彼女の言葉に耳を傾けてしまう。

(何で? 何で? もぅ何も分からないよ…!)

眉間にシワを寄せて、横たわる柚子を見やる。そして、一つ頷いた。

柚子を生かしたいならば尚更、兔と飛峻にこの場を任せるしかない。
泣きそうな顔で、真雪は再び前を向いた。
【皆様にお任せ】

69 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [] 投稿日:2010/08/14(土) 22:19:23 O
保守

70 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/08/19(木) 00:29:44 0
背後に聞える微かな衣擦れ。
そしてその中に隠蔽された硬質な機械音。
不信感を煽ったのは目の前に鎮座する武装ヘリか、それともそれに歩み寄る自分か。
どちらにせよ今こそが土壇場であることは間違いないだろう。

「こんにちは、国家公安委員会の者です」

こちらの意図を読み取った上での兔からの援護射撃。

「――ッ!?」

今までとまるで別人のような兔の対応に振り向きそうになるのを堪える。
これ以上不審な態度を取るわけにはいかない。
だが何故自分は彼女のことを「一緒に功夫を詰んだかつての友」と、一瞬とはいえ思ってしまったのだろうか。

(……なるほど)

見ればその場に居る者達もどこか毒気を抜かれたような顔になっている。
つまりこれこそが彼女の持つ能力。
それが此方に呼ばれてから目の当たりにした超常の能力に依るものなのか、それとも三浦のように人心掌握に特化された話術なのかは知れないが。

(なんにせよ、好都合だ)

兔に問うのは後で良い。
なにせ彼女は自分の思惑を読み取り、それを完璧に、完全に演じてくれているのだから。

「……君達の助けガ、機転が無けれバ、自分だけでは如何しようも無かったダロウ。改めて礼を言わせてくレ」

兔が説明を終えた瞬間を狙い、両手を広げて歩み寄る。
懐柔すべき相手の目処は事前の観察ですでにたっている。
それは医者でも、看護士でも、ましてや先頭に立つ少女でもない。

「アリガトウ、オサム。コノ恩は忘れなイ」

彼だけが、この最も人が良さそうで騙され易そうな彼だけが、一度も視線を他のメンバーへ泳がせ無かった。
この場での意思決定権の持ち主。それが彼なのだろう。

(マユキが疑心暗鬼にならなければいいのだが……)

真雪だけはこれが茶番だとわかってしまっているに違いない。
手助けしてくれた彼らに感謝しているのは本心からだが、それでも今していることは戦闘を回避するための手段に過ぎないのだから。

元はといえば自分が柚子から目を離さなければ回避できたこと――

胸の奥に淀む自責を押し込め、今なお銃から手を離すか決めあぐねているオサムへ、打目押しの一手を打つ。

「――ソレと申し訳ないガもう一つ頼まれてくれないカ?
コノ娘をヘリに乗せるのを手伝ってホシイ」

71 名前:訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/08/20(金) 08:22:02 O
なにやら高圧的な男との一方的な会話から開放されて数分。
彼はもう病室に戻ってきていた。

「いらいらすんべなー」

彼が誰にイライラするかといえば進研のボスにである。
彼が何にイライラするかといえばシエルへの所業である。
しかし男は原因なぞ気にしてはいない。
イライラするものはイライラするものである。
突拍子も無くいきなりクズだのと言われる事には笑いしか出ないが。
どうせクズですもの。
、とどこかの誰かが開き直ろうとしたその時に彼は口を開く。

「くぅ」

「"くぅ"…?」

「私の好きな人の名前だよ、ヤンデレルートまっさかりだったけど」

「……へぇ」

彼の言葉を聞く烏はクスクスと含みのある笑いを零す。
分かりやすい伏線ですね、狂羽たんペロペロしたい。
とは上記に書いたどこかの誰かの言葉である。だがどこの誰かは琳樹には分からない。
しかしである、男はその様な事は気にせずに立ち上がる。

「脱ぐか」

「リンキ大丈夫?頭大丈夫かしら?」

「だって私、訛祢琳"樹"だべ?脱ぐ流れだってブロイト先生が」

「私は止めないけれど、羞恥は無いの?
 私は嬉しいから止めないけれど」

大事な事なので二回言いました。
だがしかし琳樹の様な痩せた上に白い肌など誰が見たいだろうか。
腐ったお姉様方だろうか?
そういうサービスも忘れてはいけないと彼は私達に教えてくれているのだろうか?
私達って誰さ。

と、そこまで喋っていた二人の会話はドアの開く音で遮られたのであった。

72 名前:◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/08/20(金) 08:24:55 O
ガチャリ、とドアが開いた。
ドアを開けた張本人であるKという腕章を付けた長髪で眼鏡をかけた男は入ってくると同時に言葉を口から紡ぎ出す。
そして言葉を発しながらもニヤニヤとした笑いを絶やさない彼は其処に居る全員に馬鹿にするように見回すのである。

「おやおやおや、間抜けな顔が勢揃いですね皆さん。ああああ、八重子さんは久しぶり、久しぶりですねえ。
 …どうしました?間抜けな顔を更に間抜けにして。
 ああ、すみませんすみませんごめんなさい。私がゼミの人間だから、ですね?
 少々裏切り者の顔を見たくてですね、いやいや、ゼミは関係ありませんが」

Tを一瞬だけ、ほんの一瞬だけ冷たい視線で見遣る。
勿論、その一瞬が終わればすぐにニヤニヤ笑いに戻るのであるが。

「私の単なる趣味趣向、ではないですがその様な物です、気にしないで下さい。
 それとそこのどてらの方、先程はぶつかってしまいすみませんすみません、申し訳ありませんでした。
 しかし、しかし私共の文明動物である≪狂烏凍結≫、通常狂羽で手を打って下さいな。どうやら適合しているようですし、…陰鬱な顔にはちょうどいい文明ではありませんか?」

そう狂羽を指差して言うのである。
彼は、自らが陰鬱と評した訛祢琳樹の睨む顔を楽しげに見つめた後に、チャレンジの人間を見た。
そうして大げさに両手を上に挙げるポーズをしながら、彼は途切れる事無く。

「……おや、おやおや、どうしましたチャレンジの方々、武器なんて構えて。
 私はゼミの中でも穏健派の部類ですよ、安心安心、ご安心くださいあなた方と戦いに来た訳じゃありません。
 私は異世界人の保護をしに来ただけですよ、いえ、チャレンジに任されているのは知っていますがね。
 しかししかし、しかしですよ、この様な大役、あなた方のような間抜けに務まりますでしょうか?」

「故に私もお手伝いしましょう?……何、別に私達の方に異世界人を一人か二人渡せばいいのです。
 分かりますか?私の言っている事が、分かります?ねえ、分かります?」

そこでふう、と一旦口を閉じる、がしかし他の人間に口を出される前に彼はまた喋り始めた。
相変わらずの人を馬鹿にしたような笑い顔で、異世界人の一人を指差す。

「そこの地味な少年、否、いやいや竹内萌芽ですっけ?貴方はどうですか?
 あともう一人は誰でも宜しいですがね」

地味な少年、竹内萌芽の顔などは決して見ずに、しかし指は決して下ろさずに。
そこでKはあ、と短く何かを思い付いた、もしくは思い出したような声を出した。
そのまま指差す腕を下ろして呟く。

「……ああ、そうそう、そうですね、シエル・シーフィールド以外が好ましい。
 寝ている人間を渡されても楽しくありませんので…。結局、楽しければいいですよね。
 『楽しいが正義、愉快が正義』、この言葉好きなんですよね、誰が言ったんでしたっけ。
 いやぁ、どうでもいいですがね」

「つまりつまり、そういう事です、分かりましたか?阿呆な頭でも分かりましたか?ねえ?」

皆を見回して言うがやはり返事などは求めていないようで、最後の締めとばかりに声を出す。
阿呆な頭を持っているとやはり阿呆な顔になるものですね。
等という感想も忘れずに、である。

「しかししかし、異世界人二人は絶対ですよ?
 ああ、竹内萌芽と前園久和の組み合わせなんか面白いですね。
 地味な青年と五本腕の人間の共同活動、ああ、愉快愉快、愉快至極」

「さあさ、さあさあ、ゼミに来て頂けるのはどの方です?」

【ゼミからお越しのK様が異世界人を所望です】

73 名前:◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/08/20(金) 08:26:31 O
名前:K
職業:ゼミの幹部さん
元の世界:現代
性別:不明
年齢:34
身長:175
体重:64kg
性格:基本的に敬語だが人を馬鹿にする言葉をよく発する。あと言葉を繰り返すのとか好き。
外見:ニヤニヤとした顔に腰まである黒髪、黒縁眼鏡、目立たない黒スーツにKと書かれた腕章をつけている。

特殊能力:二撃必殺《ショットitキラーズ》
一撃目に攻撃を当てた場所に連続して攻撃を当てれば相手は気絶、もしくは死に至る?
連続しないと意味無いよ!
あと黒い二丁のハンドガンとショットガン

備考:「進捗技術提供及び研究支援団体」、通称進研の過激派であるゼミの幹部。
部下に慕われているかは然程気にしていない様子。
そんなんだから部下に慕われないんだ。

74 名前:ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/08/20(金) 11:33:28 0

>「すいませーん、おかわり!」

少女の快活な声が、閑静なレストランの中で反響する。
店員やハルニレ達が唖然として見守る中、少女もといシノはみるみるステーキを平らげる。

ハルニレもどちらかといえば人よりよく食べる方ではある。
だが、もしシノが食べた量を全て食えるかと聞かれれば、迷わず首を横に振るだろう。
見てて胃もたれするような光景だった。

「(マ、アレ全部タダッテダケマシト思ウベキカ……)」

なるべくシノの方は見ないようにしながら、音を立ててパスタを啜る。
普段のジョリーならその行為を咎めただろうが、彼女はシノの食いっぷりに目を奪われている。
ハルニレは静かに全て食し終わると、男――ドルクスへと視線を向けた。

「ナア、アノ女ハドウシタ?」

最初に指摘したのは、一緒にいたエレーナの事に関して。
格好や先程の口ぶりからして、目の前の男は彼女の従者か何かだろう。
出会ってまだ半日も経っていないが、見た目幼い彼女を一人きりにするような男ではないように思えた。

それに、ハルニレは目の前の男に奇妙な違和感を感じていた。
他人の感情に人一倍鋭いハルニレにとって、今のドルクスがドルクスでないように思えた。
ドルクスという男の中に、まるで別の誰かが入っているような、そんな奇妙な感覚。


そう、気配が全く違うのだ。対峙した時に感じた、生物とすら感じられない、何かの塊のような――――――――……。


「ハルニレ?」

ジョリーの心配そうな声で、思考の海から脱却する。
シノは食事を終えたらしく、店長らしき男から金を貰っていた。あれを全部完食とは流石だ、と舌を巻く。

トマトジュースを飲むシノとドルクスをそれぞれ見やる。そういえば、彼らは泊まる宿はあるのだろうか。
尋ねたところ、案の定だった。しばらく考え込んで、ハルニレは妙案を思いついた顔で二人にこう持ちかけた。


「ナアオ前ラ、ゲーム二参加シネーカ?」

ジョリーを含め、何のことだから理解しかねるといった表情の彼らにメモ帳を交えて説明する。
あくまでもコレはゲームであると説明し、"少年を殺す"事に関しては伏せておいた。
一人よりは仲間がいた方が心強いだろうから、という彼なりの判断だった。


「俺ガゲームノ提案者二、オ前ラモ参加出来ルヨウニ言ッテヤルカラヨ。
 衣食住付キデ金ハ全部向コウ持チダ、悪イ話ジャナイダロウ?」

【ターン終了:ゲームの参加を提案。承諾するなり却下するなり自由です】

75 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/08/21(土) 20:35:40 0
カチリと言う確かなトリガーハンマーの引きあがりを告げる音。
じんわりと汗ばんだオサム氏の首筋を眺めながら零は辺りを視線だけで見渡していた。

(逃げる様な場所はおろか遮蔽物も機銃の方向からして存在していない。
 もし、逃げ場る必要があるとすれば、屋上から飛び降りる。がベストでしょうね……)

そう計算を巡らす……
しかし、そんな零の思いとは裏腹に、事態は転回して行く。

「こんにちは、国家公安委員会の者です」

柔らかいソプラノボイスが響き、風音を遮る。

「“素直”と言います。どうも助けになれるようで。
任務中、同僚が李さんと偶然接触した時にですね、上が保護しろと。
怪我人が出たと聞いたので、それならついでに運ぼうという次第で」

その彼女の言葉を聞き、零の脳裏に猛烈な「違和感」がこみ上げてくる。
例えるなら、思い出してはいけない断片化された記憶の配列をそのまま見せられたような……
そんな映像が零の脳裏に違和感として出力されていた。

(やっばぁ…頼むわよ……オサム君)

「理由?知りませんねえ。私たちはただの駒ですから。
ええ、成龍会に関する任務です。守秘義務がありますので、任務について詳しい事は言えないのですが。“こん
なモノ”を持ち出すんだから、大体どんな事をやろうとしてたのかわかるでしょ?」

そう告げ素直氏は言葉を区切る。
それに対して、返答した彼の言葉は零にとって耳を疑う様な内容だった。

「国家公安委員会で素直。……素直昂瑠主任でよろしいでしょうか?ご協力いただき感謝いたします」

(え?)

そして、畳み掛けるかのように青年もまたアクションを起こす。

「……君達の助けガ、機転が無けれバ、自分だけでは如何しようも無かったダロウ。改めて礼を言わせてくレ……
 アリガトウ、オサム。コノ恩は忘れなイ」

「いいえ。僕達は公務を執行しただけです。
 でも、君も人が悪いな……委員会のエージェントなら先に言ってくれれば良いのに」

まるで幼馴染の様に言葉をかわす二人。
その様を見て零はふと思い立った……もしかしたら、彼らは本当に公文関係者なのではないのだろうか?と。
そして同時に、そう思い始めてからはそうとしか思えなくなっていた。

(でも……)

「――ソレと申し訳ないガもう一つ頼まれてくれないカ?
 コノ娘をヘリに乗せるのを手伝ってホシイ」

「え?えぇ。そうですね」

だが、一抹の不安と言う物は後々に後悔としてその芽を息吹く。ゆえに人はそれを嫌うのだ。
そして何より、佐伯 零と言う少女はとても気真面目だった。この違和感を見逃す事は出来おうはずがない。

76 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/08/21(土) 20:36:40 0
「まって!何か、何か気持ちが悪い……上手く言えないけど何かがおかしい気が……」

「は?…あぁ!!そう言えば佐伯さんはこういった事はご存じないんでしたね?
 こちら、国家公安委員会の素直昂瑠主任です。以前、日本でのサミットが開かれた時にお世話になった方です」

「え……でも、うぅん。そんな訳は……」

「まぁ、ご存じなくても仕方ないですよ。三浦氏の直近の方の一人で普段は研究しかしてないですし」

その言葉がキーワードだった。まるであるべき物がはまる様な、そんな安心感。
確かにその通りだった。零はこちらの世界の事を、いや自分の事さえもわからない。
しかし、そんな零にとっても判断基準となる様な人物はいる。三浦啓介……彼の部下だと言うのだならば……

「そうね。疑ってしまってごめんなさい。少し疲れているみたいで……」

心配はいらない。彼女は仲間だ。

「そうときまれば、さっそく搬送して貰わなきゃ……でも、これじゃあ全員は無理ね」

そう告げ、先程自身が全力で攻撃したヘリコプターを見やる。ダメだ。狭すぎる。
外見から見た広さではどう考えても精々四人が限界と言ったところだろう。とてもこのメンツが全員は無理だ。
そこで誰を乗せるべきかと思案し、いったん辺りを見回す。視線に入るのは医者、看護婦、そして見知らぬ少女。
今、この状況下で誰を優先させるべきか?そんなことは火を見るより明らかだった。明らかだったが…

「アナタ、この子……ユズコさんの知り合いの方。よね?付き添いで一緒に行ってもらえないかしら?」

零の選んだ人物は、この状況下で最も必要のない人物だった。だが、それはあくまで理想論だ。
例え彼女が何の役に立てなくとも、彼女はユズコの恐らくは友人……きっとそばに居たいと思っている。
そう零は思い彼女を選んだのだった。




「じゃあ、後はあの人に、お願いね……」

 「あ、昂瑠さんと呼べばいいのでしょうか?……あの、彼女達の事、よろしくお願いします」

搭乗員が全て乗り込み発進準備が整った直後、零は呟く。
するとその事に気がついたかのように『昂瑠』は近寄ってきた。零は謝罪も、感謝の言葉もまだだったと思い口を開く。

「いやはや、それにしてもまさかこんな事になるなんて。
エライ事ですよ、成龍会が潰れたら何もかもオシマイだ。元締めがなくなってしまったんだから。
この街の抗争はきっと酷いことになるでしょうねえ」

「そうかもしれない。でも……だからと言って巻き戻しは出来ない。
 それに私にはその代わりに出来る事もある。だから、私はそれをするだけですよ」

そう、きっとそれが記憶の無い彼女にとっての正解なのだから。

【状況:ヘリの発進準備を整えました。離脱しちゃってください】
【目的:C迷子の捜索。 】
零:【持ち物:オリシ『折りたたみ式警棒』、『重力制御』、携帯電話、現金八千円、大型自動二輪免許】

77 名前:ku-01 ◆x1itISCTJc [sage] 投稿日:2010/08/21(土) 22:23:59 0
 一般企業のスペースではもはや無い、成龍会の事務区域。
 ku-01がボディを横たえていた制御室から程近い廊下の突き当たりに、その子供たちは身を寄せ合っていた。
 年長らしい少年は、妹が泣き出さないようになだめすかすのに必死で周りを伺うことも出来ていない。

 そんな二人にの元へと寄って行き、ku-01は膝を突く。
 そうしてやっとku-01の存在に気づいたらしい少年は、はっと顔を上げて慌てたように少女を自分の身の後ろへやった。
『いやぁ兄弟愛って素晴らしいよねぇ』そんな上司の言葉がデータベースから再生される。

「あ、あのっ、僕ら迷っちゃって、迷っちゃっただけなんでっ」

 その様子にどう対応すれば良いのか。
 ku-01に未成年保護に関するプログラムは少ない。この年頃にも意味を認識でき、かつ不安感を与えない語彙を検索する。

「どうもこんにちわ、担当の者です」

「たんとう?」

「あなた達を先ほどまで保護していた者に代わり、お出口へとご案内いたします」

「お、お兄さ……お姉さん? 迷子センターの人?」

「……そのようなものです」

 確かにこのビル内にはそういったものも存在したであろう。
 一時的にその身分を借用することとする。
 ゆっくりと頷くと、こわばっていた少年の表情が徐々に和らぎ、安堵のものと成った。

 兄のその様子からリラックスしたのか、今にも泣き出しそうに口を戦慄かせていた少女も、瞬きを繰り返してku-01を見上げる。

「ぼ、僕らお母さんとはぐれちゃったんだ! お母さん、さっきの地震でどっかに行っちゃって!」

 一瞬安心からため息を吐いた少年は、急激に身をこわばらせてそうku-01に訴えかける。
 さっきの地震とは最初の迷宮化のことであろう。
 奥に入り込んでしまっていた彼らのような者達以外の一般客は、既に皆、主人たちの誘導によって避難を終えているはずである。

 そして、先ほどまで見ていたビル内に残っていた一般客は、ku-01の把握できる限りでは目の前の彼らだけだった。

「大丈夫です、お母様なら先に避難なされました。ご安心くださいませ」

「そう、なの?」

「はい。それでは行きましょうか」

 片手で少年の手を取り、もう片方の手を少女に向かって差し伸べる。
 恐る恐る小さな手が握り返したのを確認しku-01は、ゆっくりと立ち上がった。

78 名前:◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 01:38:15 O
「そうかもしれない。でも……だからと言って巻き戻しは出来ない。
 それに私にはその代わりに出来る事もある。だから、私はそれをするだけですよ」
「なるほど、いい答えだ。
いつか貴女が迷ったなら、その言葉を信じるといい
何よりも先ずその言葉を」
兎は佐伯にそう返し、コクピットに乗り込んだ。
「ペリカン。お願い」
返事はない、けれどすぐに変化は起きる。李と真雪の周辺の空間が歪み、捩れ、やがて二人の姿と歪な背景との
区別がつかなくなった頃、弾けるように背景が元に戻り、そこにいた二人は消えた。
ジリリ、とペリカンのHDが鳴る。“圧縮”したのだ。二人は解凍されるまで時間の感覚を失うことになるだろう。
「ご協力、感謝しますよ」
後部に収まった尾張と柚子とサイを確認した後、挨拶代わりに窓の外の、公文の隊員達に手を挙げる。
「上げて」
『鰊はどうなってる?』
「“ここにいる分”はやられたみたいだ」
『恨まれても知らないぞ』
ロータの音が大きくなる。回転数が上がる毎に振動は増え、耳障りな情報が兎の脳を蝕む。
「修理に出すべきよ」
顔をしかめながら毒づき、イアカバーを着け、目を閉じる。五月蝿いのは、嫌いだ。
「着いたら起こして」
兎がそう呟いた時、腹を裏側から持ち上げられるような不快感の後、ヘリは不規則に揺れ、直ぐ様安定し、ビル
を離れた。
余り上手くいかなかったな、ふと思う。シニフィアンの腕を奪われてしまった。
(まあ成龍会は予定通り潰せたし、三浦の娘も頭領の娘も異世界人も……よく分からないイレギュラーも手に入
った
まだ三浦は勘違いしたままみたいだし、これで何とかトントンかな)
陽が温かい。
ぬるま湯のような暖かさだ。
色々な事があった。と思いを巡らしながら、欠伸を打つ。
不快感と疲れと、判別不可能な何もかもがない交ぜになったまま、兎は静かに眠りに落ちた。



79 名前:尾張 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 01:41:58 O

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵

 その知らせを聞いた時、初めはそいつが何を言っているのかわからなかった。ソファーに座り込んだ娘はただ
俯いて、タイル張りの床の交差の、ある一点を見つめていた。
そいつは警察で、俺よりも年上だった。脂で固まった髪の、跳ねたように飛び出した部分を揺らしながら、どこ
か恐れるように俺に対して同情の言葉を並べ立てていた。そいつの顔はニキビの痕があばたになっていて、思い
返してみると、向かい合っているのが不快だった。
だがその時、俺はこの世で一番、何もかもが理解できていない男だったのだ。
いや、ただ単に認めたくなかったのかもしれない。俺はいつだって傲慢で、自分の前しか見ていなかった。それどころか、それが正しい事だと己に強いていた。
努力は報われると信じていた。ほとんど宗教のように。
おまじないに甘えていたのだ。逃げていた、と言い換えてもいい。
しかし実際には、それは努力ですらなくて、単なる惰性だった。惰性で多くの敵を殺し、仲間を失った。

「奥さんの事は、残念としか言いようがありません」

そいつは俺を恐れていた。こんな惨めな男を、ハンカチで額の汗を拭いながら、同情していた。
 まだ娘は動かない。なにもかもが止まっている。動くのはそいつの口だけだ。
もうすっかり日は沈んで、死体安置室の前の廊下は肌寒くなっていた。秋特有の空気だ。窓がどこか開いているのかもしれない。

何も考えられない。

冷静でいようとして、致命的に失敗している。冷静でいていいのかすら、迷っている。
俺は怒るべきなんじゃないのか?しかし、何に対して?

「本当に、ええ、偶然だったんですよ。あそこで爆弾が爆発したのは。
狙ってやったとは思えません。だって、おとつい点検したんだから」

俺は黙っていた。死に体の犬のように。実際、俺は犬だったのかもしれない。
今でもきっと、その通りなのだろう。

妻の死に顔は娘には見せられなかった。
妻の顔は無くなっていた。

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵



80 名前:尾張 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 02:01:46 O
 泥に浸かったような息苦しさの中、目が覚める。天井の、幾つも並んだ正方形をしばらく眺め、たった今見た
夢を反芻する。混乱の中、幾つかの事柄を思い出し、今ある状況に疑問を持つ。
ここはどこだ。
起き上がろうと盲目的に掴む物を探した右手が、幾つかの物を払い落とす。騒音。それは頭の痛みを増幅させ、
苛立ちとも、怒りともつかない感情を湧き上がらせる。あまりよろしくない。風邪をひいているのか、頭が回ら
ない。
 ようやく机の端を掴んで、起き上がろうと力を込めれば、放り出されたような感覚の後、惨めに床に這いつく
ばっていた。衝撃の余韻に息を詰まらせる。机を引き倒したらしい。
 薄暗い。夜だろうか?それともブラインドを下ろしているだけか。ここは、事務所のように見えるが、わから
ない。誰もいないのか。

 これは、何かの機会なのだろうか?例えば、逃げ出すことについての。

 わからない、何もかもが。情報が足りない。頭が回らない。記憶も酷くおぼつかない。吐く息は不快な湿気を
帯びている、咽に張り付いた痛みが水分を欲している。頭の内側で、誰かが絶えず戸をノックしている。大した
表現じゃないな、と感想を漏らす。もっと上等な表現があるはずだと数秒考え、やがてその無意味さに気付き、
頭を床に着けた。
 頬をすり合わせた床の冷たさが、わずかに思考を安定させる。
「こりゃ、ひどい」
 僕の机が、と誰かが呟いた。頭を動かして見上げれば、眼鏡を掛けた貧相な男が苦労しながら机を起こしてい
た。床に散乱した書類を、引き起こした机の上にいい加減に積み上げ、窓を開ける。
空が赤い。夕方、ではない。この空気の冷たさは朝だ。
「悪かったね、そんな所に寝かせて。まあ、理由はあるんだけど」
 そう言いながら男はこちらに手を差し伸べた。怪しかったが、回らない頭はその手を取ることを選択した。そ
の時初めて、自分の右腕を肩まで覆う黒い手袋に気が付いた。
「腕の調子は良いみたいだね」
『お前は誰だ?』
「その質問に答えるのは、皆を呼び出してからにしようかな」
男は向かいのソファーに座り、間の座卓にノートパソコンを置いた。既に起動してあるようだ。
「ペリカン、解凍を頼む。」
『把握した』

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵

 解凍された“彼ら”に、朝日は笑いかけた。
「ようこそ、『ユーキャン』へ。君たちは今日からここの住み込みの社員だ。
 給料は“情報”と生活費。仕事の主な内容は噂をばら撒くことと、うわさをかき集めること。
 ちなみこの建物はすべからく僕のもので、三階から上は、マンションになってる。好きに使ってくれていい。鍵はここにある。
 すべからくってのは、申し遅れたね。僕の名前は朝日。この会社の社長をやってる」
 何か質問はあるかい?そう言って、朝日と名乗った男はソファーに深く腰掛けた。

【三日目:早朝】
【場所:ユーキャン所有のビル(小さい)(古い)(カビ臭い)】
【ペリカン:李、真雪を解凍
朝日:質問受付中

兎:自室で寝ている
柚子:ビルのどこかの部屋に監禁中
サイ:ビルのどこかの部屋に監禁中
成川遥:ビルのどこかの部屋に監禁中】



81 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/08/23(月) 12:42:12 0
現状報告。

>>38
『『『『『――――帰ろうか』』』』』

変態が増えた。
『帰りたい』と次げたミーティオの肩に手を置いた後の展開だった。
皐月の脳内の処理速度はオーバーヒートを始めていた。
きっと真のラスボスはコイツに違いない。

「セリフだけ恰好いいのになんで毎回オチをつけるんですかあああっ!?」

皐月の叫びに、タチバナは爽やかな笑顔で返してくれた。

>「――全軍突撃!」


>『『『『『HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAーーーーーー!!!!』』』』』


かくしてあっさりと扉を突き破り――――



(今日、この騒動に巻き込まれて、私が学んだ事……)


(常識は、捨てよう……)

脱出への進軍を開始した。
気のせいかも知れないが大量に人間を大量のタチバナが押し出しながら歩いているという悪夢のような光景が目の前に広がっている。

「あ、そうだ、ミーティオさん」

横を歩くミーティオに、ロザリオから引き剥がした小さな結晶の欠片を、差し出す。

「これ、仲直りの印です、よかったらどうぞ」

薄く輝くそれを手にもって、皐月はにこりと笑った。




「で、結局ここなんですよね」

カフェ・アルマーク。
とりあえず、この場に居る全員が集まれる場所がここしかなかった。
あのウェイターの姿が見当たらないが、多分必要な時には横にいて気障なポエムの一つでも言ってそうなので皐月は気にしない事にした。

「とりあえず、皆さん、お疲れ様でしたっ」

乾杯の音頭をタチバナに任せると、変態的に煩そうだったので、皐月はとりあえず宣言した。

【脱出、アルマークへ帰還】
【結晶1→0、ミーティオへ譲渡】


82 名前:木羽塚 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/08/23(月) 12:43:09 0
…………

手をつないでいる小学生くらいの男女。
旗から見たらそうとしか描写できない二人は、交互に声を出した。

「そういえば」「ゼミは一体」「なんで公文を」「乗っ取ろうなんて」『思ったんだい?』

最後の一言は二人同時に。

「……お前等、何も知らないで協力してたのか?」

それに答えたのは髪の長い少女、木羽塚だった、面倒くさそうに頭を掻いて、はぁ、とため息をつく。

「別にアタシが言い出した訳じゃネェから、勘違いすんなヨ?」

「わかった」「わかった」

「『ゼミ』は一つの答えを出したんだヨ、『文明とは何だ?』っつー問いに対してナ」

お前等はナンだと思う? と目線で問うと、二人はまた同時に声を上げる。

『便利な道具』

「ぁー、まぁその認識でいいんだけどヨォ、ゼミが出した……、下した結論はヨ、文明ってのは『到達点』なんじゃねーかって事だ」

『到達点?』

「そう、到達点、例えば拳銃型の文明があるだろォ、お前等はどう使う?」

『撃つ』

「じゃあペン型の文明があったら?」

『描く』

「そう、この世のほとんどの文明はその物体の使用方法に縛られている、そしてそれにもたらされる効力もだ」

「どういう意味?」「例えば?」

「拳銃の文明なら弾丸に超威力を付加、ペン型の文明なら書いた文字や絵を具現化、大体そんなもんだろ?」

「それはそうだけど」「それが何?」

「つまりだ、拳銃の文明ってのは『銃』って概念が持つ『射撃と破壊』の、進化した先なんじゃねーカって事だ
 基本構造の延長上の、物体が進化した先の最終地点、それが『文明』である――ゼミはそう結論を下した」

「それは少し」「無理やりじゃあないかい?」

「そうでもない、ミウラだかミサカだかって学者が言ってただろ? 文明は細分化してモノに宿る、あるいは残留し堆積し移り変わる事で移動する……だったっけカ?」

「それは知ってる」「あと三浦な」

「そうそう三浦三浦……、じゃあさっきの例で例えてやろうか、一口に『拳銃』つってもよ、それだけでいろんな種類があるだろぉ?
 口径、重量、装備、仕様――元をたどれば火薬と筒で、『銃』ってくくりに入れりゃ威力特化、速射性能、搭載兵器、キリがネェ」

『つまりそれが文明における『粉塵説』と『水銀説』に対応すると?』

「少なくともゼミはそー思ったみたいだナ、ペンだって同じだ、鉛筆ボールペン筆万年筆その他もろもろ。
 『書き記す』という為に生まれた概念が進化に進化を重ねて、技術を堆積し進化を分岐させここまで発展してきた。
 ――それは人間の社会も、本当の意味での『文明』も同じだろォ?」

83 名前:木羽塚 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/08/23(月) 12:44:19 0
「だからこれらは『文明』と呼ばれると」「そう結論付けたの?」

「例外もあるけどな、自我を持った文明なんて何から発展したのかわかりゃしねーし、生き物かも知れんが」

「だったら」「貴女の右手は?」

「人間の手は『道具を使う』為に進化したもんだゼ、だったらアタシの『文明開化』はその延長と言っていいだろーヨ」

「それは少し」「強引過ぎない?」

「逆に言うと、アタシの存在がゼミに核心を与えたんダ、『文明開化』で進化しきった文明の共通点を見つけちまったんだよ」

『共通点?』

「アア、ゼミがアタシにやらせた『開花』で進化した文明は、全部が全部その『基本能力を延長させたモノ』だった。
 ナイフなら切断能力を――物理的概念的問わずに、『斬る』、銃なら『撃った対象を破壊する』って具合にな?
 アタシが見てきた限り、ごく一部を除いて、文明はその基本形状から察せられる性能を特化させたモンだ。
 耳かきからレーザーが出てきたりしねーし、ティッシュが爆発したりもしねェ」

「それが『進化の到達点』である、と」

「何かをする為に作られた道具の、最終地点、それが文明。 ……ゼミはそう判断し、そして公文へのクーデターを決定した」

『何故?』

「その推察が正しければ文明の支配者が世界の支配者になれっからだよ。
 通信交通情報武力、ありとあらゆる物体が、その性能を進化させきった到達点、それらの管理者はまさしくこの『文明社会』の頂点だ」

「でも公文は」「それを行っていない」

「そりゃ文明自体がオーバーテクノロジーだからナ、解析自体も完全じゃねーし、だから委託なんて面倒くさい形で管理してんだロ」

ただし、と木羽塚は言う。

「もし解析が終わったら? 文明を安全に完全に自由に管理できるようになったら? オーバーテクノロジーがタダのテクノロジーに成り果てたら?
 ゼミの連中は『文明』を『物体の進化の到達点』と定義した、逆を返せばそれは人間がたどり着きうる『未来の前借り』に他ならない」

「つまり」「最終的には」「文明の解析は」「行える、と?」

「ゼミはそう信じた、流石に明日明後日でどうこうなる問題じゃねーが、十年後は誰にもわかんネー。
 そしたら文明の貸し出しを委託業務なんて面倒くさい形にする必要はネェ、それらを管理し、文明に通じた人間や組織は引き抜くか消されるだろう。
 つまり、どういった形でアレ――吸収か解体かはわからんが――進研という存在は消滅する」

「……ああ」「やっと納得した」

「だからその前に公文を何とかする――もちろん正面突破の武力行使じゃ意味がネェ。
 合法的に世間様から理解を得て文明を管理する立場にならないといけない」

「だから」「私たちが」「僕達が」『呼ばれたのか』

「理解したか? ゼミがこれから公文に仕掛けるクーデターは単純明快。
、 、 、 、 、 、、 、、 、 、 、  、 、 、 、 、 、 、 、 、 、、 、 、 、、 、、 、 、 、 、、 、 、、
進研が所持している以外の、公文が公式的に使用を許可した全ての文明を暴走させる。

社会が混乱したところをゼミが横からいけしゃあしゃあと、文明を操作し暴走を鎮火させて、
世間に『誰が文明を管理すべきなのか』をはっきりわからせてやる、って感じだナ」

「早い話」「マッチポンプか」

「そのとーり」

84 名前:木羽塚 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/08/23(月) 12:45:00 0
木羽塚が口にした『文明』への考察が、真実であるかどうかわからない。
それが真実かどうかではなく、それを『真実だと思って行動する者が居る』というのが問題なのだ。
狂信と引き換えにするのは、申し分ないぐらい、『文明』に触れていたからこその毒薬を、ゼミは飲み下していたのだった。

「もっともチャレンジは別の考えがあるみたいだけどな――ただ、実際公文から、進研の有能な人間への引き抜きは来てるんだヨ、
 進研の人間が持ってる文明に対してのノウハウは有用だからナ」

それを差っぴいてもゼミはぶっとんだ連中の集まりだから、あんま関係ネーけどな、と木羽塚は続ける。

「一部のアルファベットは世界どうこうより、テメーの文明手放すのが嫌だったり、そもそも公文が嫌いだったり、ただ暴れたいだけだったりだしな」

「何でそんな」「性格破綻者ばかりが」

「アタシに聞くな」

「……まあいいや」「気にしないでおこう」「僕等のジャミング」「何時使う?」
                  、 、、 、 、 、、 、 、 、 、
「もーちょっと待て、何せ未だ二日目が終わったばかりだからな」

鮫の用に、という表現が一番正しい。
木羽塚は、笑う。

「お楽しみは、これからだ」



…………。

「あぁ、そうそう、補足しとくわ」

『補足?』

「アタシの右手な? こりゃミッシングリンクの補完だよ」

「ミッシング」「リンク?」

「古代文明なんか見るとわかりやすいダロ、生物の進化もそう、長い歴史上には時折、説明できないような進化が起こる。
 数学史なんか面白いゼ、オイラーっつー馬鹿みたいな天才一人が人類の数学レベルを数百年は跳ね上げた。
 そういう対文明に対する『梃入れ』の役割が、アタシの『文明開化』だ」

「……」「……」

黙る二人を気にせず、木羽塚は笑う。

「『文明』は人が作り上げてきた……だがそれらを壊すものも、歴史上には居るよなァ、アタシが『文明』を急成長させる――『梃入れ』するのに対して、『文明』そのものを破壊する何かが」

「それは」「何?」

「今はまだ気にする段階じゃねーかもしれネーが……、かつて存在していた『文明』を壊してきた者、そいつがアタシの対極だ、そいつならアタシを殺せるかも知れネーなぁ」

「それは」「私たちに対してじゃなくて」

「そう、そいつはこの世界にとっての天敵だよ――『文明』で成り立ってる今の社会の天敵だ、だからサァ……」

木羽塚は、笑顔で言う。

「そいつを完全掌握できれば、世界はアタシ等のモンだよなぁ?」

【ゼミの目的→公文の乗っ取り、『文明』の支配、最終的な世界征服】
【木羽塚の目的→『対極』との遭遇】

85 名前:寡頭正人 ◆Ipct4RPqyjkz [sage] 投稿日:2010/08/23(月) 15:42:05 0
名前:寡頭正人 (かとう まさと)
職業:大学生
元の世界:不明
性別:男
年齢:23
身長:180
体重:70
性格: 爽やかな好青年だが(略
外見:短髪のオールバック、白いジャケットとパンツ
特殊能力:スポーツ万能、家事もそつなくこなす
備考:爽やかな好青年。他の世界から来たようだが、いつ・何処で
何処から着たかは語ろうとしない。
平行世界と文明に対して、激しい憎しみを持っている。


86 名前:寡頭正人 ◆Ipct4RPqyjkz [sage] 投稿日:2010/08/23(月) 15:47:38 0
「大丈夫ですか?」

歩道橋で苦労しながら昇っている老婆に、青年は手を差し伸べた。
爽やかな笑顔、それに安堵した老婆は手を取り上がっていく。

「悪いねぇ、お兄さん。あんたみたいな人がいるってことは
まだこの世も捨てたもんじゃないってことかねぇ。
最近じゃ文明なんてもんが流行っているらしいけど……」

老婆の言葉に青年は一瞬、顔を曇らせる。
そして憎悪のような黒い影が彼の全身を覆う。
だが、すぐにそれは元の穏やかな笑顔に変わった。

「そうですね、文明は確かに危険なものかもしれません。
でも、使う人間が正しい心を持っていれば心配するようなことには
ならないと思いますよ。
そう、正しい心があれば。」

――そうですよね、三浦さん――

青年は老婆の手を引き、再び階段を上り始めた。

(ミーティオ奪還作戦 同日 歩道橋にて)

87 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 21:53:11 0



≪…――――この時間は、予定を変更してビル襲撃事件報道特別番組をお送りしています。
 これまでにお伝えして来た通り、指定威力団体同士の抗争と見られる今回の事件ですが、
 複数の目撃情報から、警視庁公安部文明課の介入があった事が明らかになって来ました。
 取材に対して当局担当者は「事実関係は現在確認中の段階であり、正式なコメントを――…≫



……

並べた椅子の上に大きな紙袋を置いたお客様が、ワンセグケータイを開いていた。
少し遅めのランチか、かなり早めのディナーのデザートをゆったりと楽しむつもりらしい。
五月のほどよい微風が流れ込むオープンテラスは、陽光と共に入客もやわらいでいる時間帯だ。

「お冷のおかわりはいかがですか――?」

フォークが止まったところを見計らって目線で確認した。
水滴の浮かんだグラスをコースターごとトレーに回収する。
新しく用意したグラスにミネラルウォーターを注ぎなおして一礼。

「――お客様、申し訳ありません。
 あまり大きな音量ですと他のお客様のご迷惑ですので、ご協力ください」

小さなヘッドフォンを外して照れくさそうにコクンと頷いたお客様に会釈を返す。
ケータイとは別の音楽プレイヤーを再生しながらテレビを視聴していたようだった。

「ごゆっくりどうぞ」

もう一礼してテーブルを離れた後、ちらりと振り返った。

≪…――引き続き情報が入り次第お伝えします。尚、この時間に放送を予定しておりました、
 "魔導少女プリズム☆カレンAdrasteiA"は、改めまして以下の日時に放送いたします――…≫

生放送特有の間のあと、やや緊縛間が薄れたアナウンスが画面端のテロップと共に流れる。
実際の所、キャスターにとっては時間つなぎの原稿でしかないのだろう。
けれど、録画予約を無駄にした方としては――――

――――不意に、ウィンドチャイムが鳴る。
青空営業中の今日は、お客様が鳴らすはずのない音色が。
本来のエントランスのドアの方から聞こえたということは、きっと……絶対にそうだ。


「―――待ってくださいっ!」


私は、反射的に声を上げてしまっていた。

88 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 21:54:21 0

店長が強引にお願いした臨時ヘルプとは言え、仮にも就業時間中に姿を消してしまう給仕。
挨拶もなしにテラスを通り抜けて店舗の中に入ろうとしていたその人は、開口一番こう言った。

「―――というわけで、だ。これより俺は休憩時間に入る」

「何が『というわけで』ですか。そんな横暴は許可できません」

「午後の礼拝の時間なんだ」

「説得力ありません」

「ロッカールームにアル=クルアーンだって置いてる」

「タブーのアバターみたいな人が……本当に?」

「本当さ。疑うなら何節か諳誦してやるが」

「暗記してるんでしたら、更衣室まで取りに行く意味がないのでは」

「……いや。向こうに行かないとダメだ。テレビは休憩室にしかない」

「テレビが必要な礼拝って、それ新興宗教か何かですよね」

「礼拝ってのは例え話だ。実は毎週見てるアニメがあってな。
 何て言ったか……プリズマ――」

「――え……祇越さんもプリズム☆カレンお好きなんですか!?」

「ああ――――そう、それだ。プリズンカレン。
 すでにオープニングを見逃しちまってる筈だからな。
 今ならCM開けに間に合う。あの自称とかげ星人が好きなんだ」

「……ボロを出しましたね。その手にはかかりません。
 ネメシスは無印の最終話で元の世界に帰っていますから。
 ちなみに後日あらためて放送するそうなので、教えておきますね」

「話のわからんメイドだな」

「ウェイトレスです」

「そいつは奇遇だな。俺はウェイターなんだ」

「そんなの見れば―――って、その制服はどうしたんですか!
 "福猫飯店"……? ひょっとして、あの福猫飯店です?」

「ああ……残念ながら、その福猫飯店だろうな」

「というよりも、そんな格好で歩いて来たことが信じられません。
 よく見たらボロボロじゃないですか……まさか、またどこかケガして――
 ――ああ、やっぱりっ! それならそうと、最初から素直に言ってください!」

「……騒ぎ過ぎだ。こういうのは慣れたもんじゃないのか。俺もお前も」

「それはそうですけど……だって痛そうじゃないですか!?
 平気なんですか? フロアにはどれくらいで戻れそうですか?」

「とても痛い、おそらく死ぬ、たぶん半年後」

ぶっきらぼうにそれだけ言って、祇越さんは黙ってしまった。

89 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 21:55:55 0

―――こうなれば持久戦だ。私は落ち着いた表情を浮かべて"誠意"を送り続けた。
しばらくポケットを探っていた祇越さんは、何故か「はんにゃ」と呟くと、
軽く肩をすくめて、下げ戻す仕草と同時に大げさな溜息を吐いた。

「――――わかった。お前にだけは話しておく」

「はい。どうせそうおっしゃると……はい?」

私は、踵を返す動作に入りかけていた足首をあわてて止めた。
不意打ちだった。返答があったことよりも、その真剣な声色が。

「……例によって厄介事に巻き込まれてな。
 おかしな文明持ちから出先で襲撃された上に、
 突入して来た特殊部隊からも構成員と誤認されて――」

「――もう、出まかせでしたら結構です!
 私、祇越さんがそんな嘘を言う人だなんて、
 ……思ってはいましたけど……心配してるのに」

沈黙。私は一人で勘違いしていたのだろうか。
彼が私の隣をすり抜けるようにして通路を進む。
半開きのドアの縁に片手を掛けた所で動きを止めた。

「―――すまないな、和泉」

「……謝らないでください」

私は無意識に握りこぶしを作ってしまっていた。
さっきまでなら自分の腰に当てていたのだろうと思う。
今は……この人に向かって振り上げようとしているのだろうか。
行先がわからなくなって、うつむいたままエプロンにぎゅっと押し付けた。

「呆れて何を言えばいいのかわからないだけです。
 普段は暇そうに店内をウロウロしているくせに、
 必要な時にはどこかでフラフラしているなんて。
 早番しかいなかった午前中は大変だったんです。
 祇越さんが居ない間に入客が大勢あって……」

「……だろうな。客の方が俺に合わせてくれる商売が何処かにありゃいいんだが」

「あきれた言い草ですね。いっそのことホストにでも転職なさったらどうですか?」

「プレイヤーは客本位の感情労働さ。アレは本数が増えてからが辛かったな―――」

「だから、もういいです。救急箱は休憩室のロッカーの上にありますから」

「―――どうしてもハダを痛ませちまうのさ、俺の場合は」

ハダ……はだ……もしかして、肌?
聞き間違いかと思ったけれど、痛むというとそれしか思いつかない。
本数というのは、お酒のボトルだろうか。それとも煙草かもしれない。
お酒、煙草、偏った食事、それから夜更かし……全て祇越さんの好物だ。
普段からスキンケアの天敵と仲良くしている人が、肌荒れを気にするなんて――


「――あ。私、からかわれて……!」


気付くと休憩室のドアはもう閉まっていて―――結局、何も教えてもらえなかった。

90 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 21:56:31 0
読みにくいんだよ、氏ね


FOしといてヌケヌケと書き込むじゃねぇ


さっと死ね支障

91 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 21:57:17 0

《…――以上、現場からの中継でした。……続報が入っています。
 事件発生当時、現場付近で所属不明の小型ヘリコプターが飛行していた事が新たに分かりました。
 街頭防犯カメラが捉えた映像から軍用機の特徴が確認されており、専門家が特定を急いでいます。
 その一方で当時のビル内部の状況は、事件発生から数時間が経過した今も依然として不明のまま――…》



……

この街で、何かが不思議なコトが起きようとしている。
それはおそらく、もう始まってしまっているのだ。
私達のマルアークにも大きな変化があった。
文明常用者たちの襲撃。傷付いた店舗。
臨時に掛けられた大きな灰色のシート。
その向こうで昨夜から続く現場検証。
店長は大忙しで飛び回っている。
祇越さんは、よくわからない。

それから小さな変化もある――


『で、結局ここなんですよね』【>>81


――それは、新しく常連のお客様が増えたこと。

「いらっしゃいませ。
 オープンカフェレストラン"マルアーク"へようこそ」

トレーを拭いていた手を休めて、アレグレットでエントランスへ。
不安はある……それでもウチには頼りになる店長がいる。
頼りないけれど祇越さんも、一応、たまにはいる。

「何名様でしょうか?
 ただいま禁煙席と喫煙席をお選びいただけます」

私にできるのは、こうしてお客様を誠実に出迎えることだけだ。
お辞儀の角度は大丈夫? 背筋は真っ直ぐ伸びている?
何より今、私は綺麗に笑えているだろうか――――

92 名前: ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 21:59:44 0
【[こちらオープンカフェレストラン"マルアーク"不定期営業中]
 各種パーティー、宴会、合流・分岐、状況整理シーンのお供に】

93 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:02:25 0
おかえり。待ってたよ

94 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:10:31 0
調子に乗んな。3ヶ月ルールじゃねぇぞ、ここは。
死んでろ

95 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:11:43 0
>>91>>92
永久に失踪してろクズ

96 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:12:57 0
何しに戻ってきたの?お前ウザいんだよ
二度と来るな、消えろ

97 名前:エレーナ ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:13:04 0

ハルニレがパスタを、シノが大量のステーキを胃袋に収める中、私は何も食べる気になれなかった。
否、この表現には語弊がある。ドルクスは本来、空気中に散らばる魔力を使って活動している。
そのため、食事を摂る必要がない。要するに、食欲なんてものは存在しないのだ。

>「とりあえず、皆さん、お疲れ様でしたっ」

「(あら?)」

少し離れすぎたテーブルで、少し変わった格好の人達が騒いでいる。
アフロだのツナギだの面白い格好だな、と遠目に見ながらそんなことを思う。
その中にいる黒髪の眼鏡の少女と目が合い、すぐに目を逸らしたけれども。

>「ナア、アノ女ハドウシタ?」
「ふへ!?」

ボーっとしていたせいで、声を掛けられただけで変な声をあげてしまった。
あの女とは……私(と体を交換したドルクス)の事か。

「え、エレーナ様なら、その、宿を探している途中ではぐれてしまって……」

我ながら苦しい言い訳だ。
けれども彼はその言葉に納得したのか、黙りこくってしまった。


「(ドルクス…………)」

やることがないと、自然と思考を巡らせることに集中してしまう。
これから自分はどうするべきか。
決まっている。ドルクス(正確には私の体)を見つけるのだ。
この街の何処かにいるということは検討がついている。後は虱潰しに探し出すだけだ。

後は、宿だ。野宿は真っ平御免だし、かと言ってアテがある訳でもなし。
どうしたものか。

>「ナアオ前ラ、ゲームニ参加シネーカ?」

「げ、ゲーム?」

メモ帳と彼の説明によると、どうやらゲームとは人探し。
内容は、小柄な白髪の少女を探すこと。この街にいることは分かっているらしい。

>「俺ガゲームノ提案者ニ、オ前ラモ参加出来ルヨウニ言ッテヤルカラヨ。
  衣食住付キデ金ハ全部向コウ持チダ、悪イ話ジャナイダロウ?」

…………確かに、悪い話ではない。食事も宿も提供してくれるとは願ってもないことだ。
聞けば、少女を捕えた大男も、白髪の少女も、そうそうお目にかかれるビジュアルではない。
見つけるのは難しいことではないだろう。

「そのゲーム、乗る、ッスよ。わた、俺もエレーナ様を探さなくちゃいけないんだし」

混乱を招くのも何だし、今は、正体を隠しておこう。
どうせこの体を借りるのも、ドルクスを見つける、それまでの間なのだから。


【ゲームに参加!休鉄会さん達と絡めるチャンスかもです】

98 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:14:09 0
ウェイター死ね

99 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:14:50 0
消えろゴミ

100 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:16:01 0
意味不明の中身のないレスしか能がないクソ死傷
マジで害悪だ

101 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:16:56 0
(´・M・)帰ってこなくていいのに…

102 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:17:08 0
ぶっ飛ばすぞ師匠アンチども
黙って見てろ

103 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:18:02 0
てめぇこそぶっ飛ばすぞ
くそ従士

104 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:18:56 0
不定期参加(笑)のクソニート死傷
どうせ現実世界じゃ何の価値も無いゴミニートなんだろうなw

105 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [] 投稿日:2010/08/24(火) 22:20:31 0
(´・M・)やめてくれよ、師匠の唯一の楽しみはなな板でTRPGをすることだけなんだ。
     それも気が向いたときに。普段は鬱病で、午後4時起床の毎日なんだぞ

106 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:22:41 0
>>103
るせーぞボケ従士隊舐めるなよ

さっさと消えろ、(師匠に)ぶっとばされんうちにな

107 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 22:54:20 0
とりあえずどっちも落ち着けって
ウェイターじゃなくてマルアークをRPしてると思えば納得のターン廻りだろうが

108 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 23:04:50 0
存在自体がうざいんだよね、師匠って
例えるなら、服の中に入ったカメムシ級のうざさ

109 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 23:11:11 0
服の中にカメムシ入ったことないからわからない

ていうか御前等、素直になれよ。本当は師匠大好きなんだろ?

墓場は暖かくて気持ちいいぜ?

110 名前:寡頭正人 ◆Ipct4RPqyjkz [sage] 投稿日:2010/08/24(火) 23:49:27 0
>>91
カフェマルアークに、寡頭正人の姿があった。
帰還してきた彼らを待ち受けるように。


≪…――――この時間は、予定を変更してビル襲撃事件報道特別番組をお送りしています。
 これまでにお伝えして来た通り、指定威力団体同士の抗争と見られる今回の事件ですが、
 複数の目撃情報から、警視庁公安部文明課の介入があった事が明らかになって来ました。
 取材に対して当局担当者は「事実関係は現在確認中の段階であり、正式なコメントを――…≫

「物騒ですね、最近は。僕もショックですよ、とても。」

店員からウエットティッシュを貰うと何度も手を拭く。
そして、紅茶を口に含む。
何度も口の中で嚥下させ、ようやく飲み込むと
>>81帰還した者達を品定めするかのように見つ始めた。
スマートフォンの液晶には、タチバナの顔・皐月の顔が
映し出されている。

「なるほど。彼らも、僕と同じか。」

爽やかな笑みを浮かべ、数本のジンジャーエールをカフェの冷蔵庫から
取り出す。
帰還したタチバナ達の前に置き、コップを並べた。
勿論、店長に倍のチップを払って。

「いきなりですみません。僕は、貴方達が何をしてきたか。
多くは語りませんが、把握しているつもりです。
そこで、これは僕からのささやかですが祝杯です。」

そして名刺を配り始める。

「僕は、寡頭正人。文明犯罪から人々を救っている者です。
以後、お見知りおきを。」


111 名前:ドルクス ◇SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/08/25(水) 21:21:59 0
「(”イデアを探せ?”随分とフザけた話ッスね)」

無駄に高圧的で傲慢な、進研のボスだと名乗ったあの男。彼は自分ともう一人の少年、竹内萌芽にイデアの探索を命令した。
それも、従わなければここから追い出すだの、挙句には人質ときた。これでは脅迫だ。しかし、だからと言って歯向かうわけにもいかない。
今何処にいるかも分からないエレーナ様にもしもの事があれば……考えたくもない。

「(ま、探す間はエレーナ様の捜索も出来るって事だし……ポジティブに行こう、ポジティブに)」

向こうが利用するなら、こちらも利用してやるまでだ。
どうせイデアなんてそうそう見つかるものではない。なるべく時間を稼ぎつつ、急いでエレーナ様を探し、保護するとしよう。
そうしよう。

「(……それにしても、この世界にもイデアがあったとは驚きっスね)」

とはいっても、概念は異なるらしいが。
俺達の世界の『イデア』は、代々上流魔族が管理する、世界の均衡を保つ為の宝だった。
しかしこちらの世界では、全ての万物の原型となった存在のものを指すらしい。
花であれば花の原型、武器であれば武器の原型、といった具合に。

「まあ簡単に言えばドラ○もんのフ○ルミ○ーとタ○ゴ○ピーミ○ーを足して2で割ったようなものだよ」
「いきなり出てきて分かり辛いネタを出さないで欲しいッス」
「分からない人はggrks。女性には私が手取り足取り腰取り…おk、その鋭利な刃物は仕舞いたまえよ」

エレベーターの入り口で待機していた変態(T)と合流し、病室に向かう。

「つーか何でおr…私達の会話知ってるんスか。アンタこの階から一歩も動いてないでしょうに」
「HAHAHAHAHAHA、そんなもの私の<アライク・アイズ>でお見通しさ!君のリボンにつけさせてもらった」
「いつのまに!?」

リボンを取ると、布地の片面が銀色の鏡のようになって俺の顔を映していた。
よく見れば、Tの片目も銀色の鏡のようになっている。どこの邪気眼だ。
・…………………………エレーナ様の体のせいか、それともこの変態のせいか、妙にツッコミ気質になってしまった。
本来俺ってボケの筈だったのに……と物思いにふけつつ病室の扉を開けた。


>>71
>「脱ぐか」


「って何してるんスかアンタァーーーーーーーー!!」

光速を超える勢いで訛祢琳樹の脱ぐ手を阻止させる。
ここにツッコミはいないのか。それ以前に女性とかその他の目とか気にならないのかこの人は!

>「だって私、訛祢琳"樹"だべ?脱ぐ流れだってブロイト先生が」
「今は脱いじゃ駄目ッス!誰ッスかブロイト先生て!」
「それじゃあ私も」
「脱ぐなーーーーーー!」

依然として脱ぐ手を止めようとしない訛祢氏、それを止める俺、ノリで脱ごうとする変態、プライスレス。
女性陣(Cさん)は「余所でやれ!!」とヒステリーを起こし、他の面々は何も言わない(多分固まってる)。
訛祢氏が烏と会話しているように見えるのは気のせいで済ませてしまっていいものなのか。


112 名前:ドルクス ◇SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/08/25(水) 21:22:58 0
>ガチャリ、とドアが開いた。
見覚えのない男(女?)の登場に呆気に取られ、室内が静寂に包まれる。
が、Kを除く全員が各々の武器を構え、男を見据えた。敵、ということなのか?
だがしかしこの男、Kは敵意は無いと言い張り、嫌味な笑顔を振りまきながら何処ぞの蝙蝠妖怪よろしく御託を並べる。
……………穏健派と主張する割に、静かに殺気の気配を見せるとは笑わせてくれる。
チャレンジの面々を馬鹿にしたように用件を全て言い終え、再び訪れた静寂を破ったのは――――ボンテージの女性だった。

「ふざけないで!誰があんた達なんかに!!」

ヒュンッと振るわれたムチがKに襲い掛かる。
けれども、ムチはKに届くか届かないかギリギリの位置でTによってとめられ、Tは口を開いた。

「要約すれば、『お前らだけずるいんだよゼミにも異世界人寄越しやがれこの阿呆共』……という訳だね、K氏」

Kが肩をすくめる。肯定も否定も無い、あるとすれば殺伐とした空気と沈黙だけだ。
チャレンジの面々は未だに警戒心を解いていない。敵対する組織(T談)なのだから至極当然か。

「これはあくまでも私個人の意見だが……この件は君だけが決めることではないと思うな、K氏。
 ボスは、異世界人の世話はあくまでもチャレンジに任せると仰っていた。本来なら、まずチャレンジのリーダーに話を通すべきだと私は思うがね」

ぐるりと室内を一望し、再びKに視線を向ける変態T。

「…だが生憎、我らが親愛なるA氏は留守のようだし。ここは監督を任された八重子氏の見解を聞きたいね」
「わ、私ですか?」

突然話題を振られた八重子さんは、何とも言えない表情で俯く。
「悩める女性の横顔……ふつくしい……」と隣のへヴン顔の変態がほざく。
とりあえず変態のむこう脛を全力で蹴飛ばす。無表情で足を抱えて静かに悶絶する変態。
以上のやり取りの後、八重子さんは面を上げた。

「…私だけでは判断の仕様がありません。時間を、下さい」

その言葉を聞いた瞬間、変態が立ち上がる。回復するにしても早すぎる流石変態汚い変態。

「君はモノローグで何度私を変態と連呼すれば気が済むのかね」
「モノローグとか言うな全員反応に困ってんだろうがコラ」
「君レスが進む毎に口悪くなってるよね、キャラチェンジのつもりかな?」
「お前は脳みそと人生をチェンジしろ変態」

もう一度むこう脛を蹴飛ばす。ジャンプで避けられた。
華麗に爆転を決め、着地した瞬間を狙って回し蹴りを決める。
それすらも避け、変態はKの方へと首だけをぐるりんと動かした。ちょっとしたホラーだ。

「そういう訳で、ちょっとしたシンキングタイムが欲しいのだよK氏」
「……構いませんよ。でもそんなに長い時間は待てませんから」

そう言って不気味な笑みを残し、Kは退出した。
………………………どうしろってんですかね、この空気。

113 名前:T◇SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/08/25(水) 21:23:56 0
「言っとくけど、私は反対だからね!」

ヒステリック気味にそう切り出したC氏。怒る気持ちは分かるが今は落ち着いて欲しいものだ。
怒りを見せてしまってはこちらの負けだ。……とは言っても、彼女は元々こんな性格だから仕方ないか。

「ゼミは只でさえ変な連中が多いんだから!そんな所に異世界人達を渡すなんて、私は絶対反対よ!!」

ヒスてる彼女を宥めすかし、もう一度八重子氏へと視線を合わせた。
今、この場でまともに話が取り合えるのは彼女しかいないからだ。

「元々過激派だった私を信用出来ない事を理解した上での意見だ。聞き流してくれて構わない」
「………………」
「ゼミが信用出来ないのは分かる。だけどこれはある意味、チャンスなんじゃないかと思ってるんだ」

疑問と驚きが入り混じった表情の八重子氏と視線がぶつかる。C氏のヒステリックも止まった。
誰もが私を見ている。奇妙な静寂が病室を包んでいる。

「チャレンジ諸君。君たちはこのまま、ゼミと内輪同士でいがみ合い続けるつもりかい?
 このままではいけないと私は思う。今は彼らと手を取りあい、和睦するべきだと私は思っている。
 彼らだって進研を守ることに必死なんだ。目指すべきものと進むべき道を間違えてはいるけれど」
「分かってはいます、でも」
「彼らを止めたい気持ちも理解しているつもりだ」

「だったら…!」と言いかける八重子氏を制し、今度は異世界人達へと体の向きを変える。

「具体的にゼミが何をやらかそうとしているのか。問題はそこだ。彼らの目的が判らない以上、こちらも行動に移せないからね」

キリンどてらの青年、一見平凡そうな少年、猫顔の大男、中性的な五本腕、そしてエレーナ君。
誰を差し出しても申し分ないだろう。ゼミにとって異世界人の存在そのものが貴重だろうから。


「今は手を取り合う『フリ』をするんだ。表向きはK氏の所望するように彼らの中の誰か二人を献上し、和睦の意を示す」

                         だがその実態は


                「ゼミの内情を探るスパイ、なんてどうだろう?」


病室内が完全に静まった。声を上げる者は誰もいない。
「ハーイ行きたい人きょーしゅ!」とか言える雰囲気(何故か変換出来た)でもない。
やはり駄目だったか。分かり切っていたとはいえ、これは危険な賭けだ。
……そう簡単に賛成してくれる筈もないか。
会議は依然、難航中だ。

【Tが厚かましくも異世界人をスパイとしてゼミに送り込もうぜ作戦を提案。そして丸投げ】


114 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/08/26(木) 07:31:49 0
ヘリに乗り込む直前、真雪は後ろを振り返って頭を下げた。

「柚子を助けてくれてありがとう」

その言葉が届いたかどうかは分からないが、看護婦の彼女が手を振っていたので伝わった事にする。
柚子が運び込まれるのを待ってから、真雪はヘリの中へ入った。
狭い空間の中で、絶句する。

「お、尾張…さん…?」

彼の片腕が無い。意識も無い。
自分が逃げ出してから今までの間に、何が有ったのか。
訊きたいが、今の状況でははばかられる。
真雪が言葉をためらって居る時、ちょうど兔が乗り込んだ。

「ペリカン。お願い」

兔の声の一瞬後、風景が歪む。
歪みきった次の瞬間、視界が弾け―――

115 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/08/26(木) 07:33:35 0
真雪達は薄暗い部屋の中に居た。

(何だろ…頭が痛い…)

脈拍に合わせて痛むので、偏頭痛だろう。
不快の原因を探そうと視線を上げる。何も分からなかった。
目の前の眼鏡の男性が、真雪達に笑いかけた。

「ようこそ、『ユーキャン』へ。君たちは今日からここの住み込みの社員だ。
 給料は“情報”と生活費。仕事の主な内容は噂をばら撒くことと、うわさをかき集めること。
 ちなみこの建物はすべからく僕のもので、三階から上は、マンションになってる。好きに使ってくれていい。鍵はここにある。
 すべからくってのは、申し遅れたね。僕の名前は朝日。この会社の社長をやってる」

何か質問はあるかい?そこまで一気に言って、朝日は口を閉じた。

質問と言われても、理解出来ない事だらけのこの現状ではすぐには浮かばない。
それに、どこまで訊ねて良いのだろう。
下手な事を聞くと取り返しのつかない事になる気がする。
痛みで頭が回らないのも質問が出てこないのに拍車を掛けていた。

(でも、これだけは)

柚子が無事で有ることは聞いておかなければいけない。そのためにヘリに乗り込んだのだ。
「あの、ユッコ…あの重傷の子はどうなりました? 大丈夫ですか?
…会えますか?」


【真雪:取り敢えず柚子の事を聞いてみた
原因不明の頭痛と、それを伴う判断力の低下
嘘発見器能力も下がっているので嘘吐き放題】

116 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/08/27(金) 02:29:47 0
「「殺ァァ!!」」

剣呑な言葉と同時に左右から二人。
そして頭上からは音も無く三人目が襲い掛かる。

自身の研鑽がどこまで達したのかが知りたくて裏稼業を渡り歩く日々。
こういった手合いに襲われるのは既に慣れた。

左から来る長身の膝を蹴り砕いて、そいつの肩を足場に跳躍。
頭上から襲ってきたチビの頭を両脚で挟み、勢いをつけてを捻る。
ゴギンッと頚椎が破壊される音と、続けて受身も取れずに地面に叩きつけられる音が響く。絶命。

残った一人は物の数秒で二人が倒されたことに狼狽してか、驚愕の表情で叫んでいる。
随分と息の合った連携だったが、成程、兄弟ならそういうものなのかもしれない。

片足を着いた長身は「逃げろ」と言っているのに、そいつは怒りと困惑を眼に浮かべたまま身の程も弁えず抗戦の構えを崩さない。
ならば仕方が無い。――むしろ好都合だ。

手にした刃を振りかざし、死に物狂いで駆けてくる。
血が飛沫いた。

「……!?」

口をぱくぱくと閉開しながら何事か言おうとしているようだが声にならない。
貫き手で喉を抉られているのだからそれも当然だろう。絶命。

残った長身は足を引きずりながら命乞いをしている。
そんなに懇願しなくとも戦意の無い奴に興味は無い。だが後に禍根を残すのは良くないな。絶命。


「人殺しは楽しいか、――?」

名を呼ばれた。よく見知った顔だ。
何故こんな所に。もしかしたら止めに来たのだろうか。

「ゴミ掃除みたいなものだ……」

答える。

「……お前は技に溺れている」

睨みあうこと数瞬、同時に間合いを詰め、互いに打突を繰り出す。
交差。
――そして、銃声が響いた。

117 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/08/27(金) 02:31:16 0
唐突に、意識が世界とつながった。
ヘリポートで何とかオサムたちを欺ききった後、そこからの記憶が綺麗さっぱり無い。
残っているのは平衡感覚のズレと――

(――嫌な夢を見ていた気がする)

寝覚めが悪かったとき特有の焦燥感。
そもそも寝ていたのかどうかも妖しいところだが。

どこか煤けた、有体に言えばボロくて黴臭い一室。
部屋の中はブラインドを下ろしているため薄暗く、時間の感覚も曖昧にならざるを得ない。
隣に居るのは真雪と尾張、テーブルを挟んで向かいのソファーには眼鏡をかけた男。

「ようこそ、『ユーキャン』へ。君たちは今日からここの住み込みの社員だ。
 給料は“情報”と生活費。仕事の主な内容は噂をばら撒くことと、うわさをかき集めること。
 ちなみこの建物はすべからく僕のもので、三階から上は、マンションになってる。好きに使ってくれていい。鍵はここにある。
 すべからくってのは、申し遅れたね。僕の名前は朝日。この会社の社長をやってる」

深々とソファーに腰掛けた男、朝日が笑いながらそう口にする。

(そも、今はどういう状況だ?)

兔に頼んだのは柚子を然るべき治療施設へ搬送すること。
とてもじゃないがこのうらびれた一室がそうだとは思えない。

こちらの疑問を感じ取ったのか、それとも最初からそうするつもりだったのか、朝日は「何か質問はあるかい?」と続けた。

(質問か――)

改めて問われるまでもない。疑問だらけの世界。
聞きたいことは山程ある。

「あの、ユッコ…あの重傷の子はどうなりました? 大丈夫ですか?
…会えますか?」

口火を切ったのは真雪。
彼女にしてみたら至極当然の質問だろう。

「……コチラの世界に連れて来られてからわからない事だらけダ。
喚ばれた理由、帰る方法、当たり前のように使われている特殊な能力、『進研』に『成龍会』。
挙げていったらキリがナイ」

一旦言葉を区切る。
実際のところ今話した部分の優先度はそれ程高くは無い。
元居た世界に帰りたく無いと言ったら嘘になるが、今すぐ帰れるとも思ってはいないからだ。

「ガ、まあそれはおいおい教えてもらえば良イサ。
さしあたってはそうだナ……彼女の言ったとおりユズコの容体ト、後は俺が背負っていた少女がどうなったのか教えて欲シイ」

先に根幹に関わりそうな質問を列挙したのは本命の比重を軽く見せるため。
慌てる乞食は貰いが少ない。とはよく言ったものだ。要するにまだ、化かしあいは続いているというのが飛峻の考えだった。

118 名前:宗方丈乃助 ◆d2gmSQdEY6 [sage] 投稿日:2010/08/27(金) 15:15:10 0
>>38
>「珍妙君!君を男と見込んでしんがりを頼みたい。女性陣の後ろをこれでもかとばかりに守護してくれ」

「お、おう!分かったっす!!」

なんだかさっきから体が妙に軽い。
何なんだ?まぁ、気にすることでもねぇか。
俺は女の子たちを守りながらビルを出て行く。

>「――全軍突撃!」
>『『『『『HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAーーーーーー!!!!』』』』』
>密集した人間を湛えたダムは、いとも容易く決壊した。

「お、お……すげぇ!!なんだよこれぇえええええ!!」

軽く漏らしながら、タチバナさんの痴態を見届ける。
なんだか知らないけど、この人はとんでもない力を持っているらしい。

>>81
>「あ、そうだ、ミーティオさん」

>横を歩くミーティオに、ロザリオから引き剥がした小さな結晶の欠片を、差し出す。

>「これ、仲直りの印です、よかったらどうぞ」

「よかったぁ!やっぱみんな仲良くが一番っすよ!」
2人の姿に、思わず自分の手を差し出そうとする。
でも、なんかおかしいな。
あれ?手が。

おかしい。手が、まるでデータの塊のように消えていく。

「お前では、異能は使いこなせなかったようだな。」

空の上で、蝙蝠が残念そうに呟く。
そして、飛び去っていった。

「お、おい……これどういう。」

>「で、結局ここなんですよね」

みんながカフェに帰っていく。
俺は、その後を追っていく。
でも、間に合いそうに無い。
俺は、1人。タチバナさん達に声をかけた。

「俺、なんか……急ですけど。ここまで、みたいっす。

ハハ……すいません。マジで、みんなは……元の世界に戻ってください。
俺、祈ってますから。」


目の前にカーテンが落とされたように暗くなる。
その瞬間、俺の体は消え去った。
1つのアフロのカツラを残して。


【丈乃助、謎の現象でこの世界から消滅】

119 名前:シノ ◆ABS9imI7N. [sage] 投稿日:2010/08/29(日) 16:35:45 0
>「ナアオ前ラ、ゲーム二参加シネーカ?」

唐突に切り出された提案。彼曰く、それはゲーム。

>「俺ガゲームノ提案者二、オ前ラモ参加出来ルヨウニ言ッテヤルカラヨ。
 衣食住付キデ金ハ全部向コウ持チダ、悪イ話ジャナイダロウ?」

「やりますやりますやらせて下さいッ!!!何時からですか!?報酬はどのくらいですか!?」

衣食住付きと言われて、誰が断るだろう。
特に、この世界に来て右も左もない、一文無しの彼女にとっては。


「・・・・・・・・・あ、ご、ごめんなさぃ・・・」


思い切り音を立てて立ち上がったので、店内にいる殆どの人間がこちらを見る。
視線と己の行動を恥じ、縮こまるように椅子に座りなおす。


「(・・・・・・・・・・・・・・あれ?)」

胸元に違和感。ポケットに手をつっこむ。
引き抜かれたのは、一枚のカードと、古ぼけた羊紙皮。

「(【塔】のカード・・・・・・・・・・・・?)」

暗雲たちこめる空を背景に、無数の赤い火の玉に囲まれた漆黒の建造物の絵。
建造物の中央に、一際大きな火の玉が、髑髏を象っている。
破ってしまいたい衝動にかられる。とても不気味だ。

カードを見ないようにポケットの中にしまい直す。
もう一枚、羊紙皮の方を開く。そこにはたった一文、こう書いてあった。


【カードの運命(さだめ)に従え】


「(カードの・・・・・・運命(さだめ)・・・・・・・・・・・・?)」

他に何か書いてないかと羊紙皮の裏面を見るが、何もない。
もう一度、表面を見返す。特に変わった様子はない。
となると、やはり手がかりはカードだ。
見たくないが見なければならないのジレンマの中、恐る恐るカードを見直す。

「(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カードの、絵が・・・)」

変わっている。さっきまで無かった絵が、追加されている。
そこには、髑髏の火の玉に寄り添うように、一人の少年が笑顔で立っていた。


【ゲームに参加するよー(^o^)/】

120 名前:訛祢 琳樹 ◇cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/08/30(月) 17:59:35 0
「スパイ?」

私が行ってもいいけどなあ、等と訛祢琳樹は思考する。
しかし行ったとこで何か役に立つのかという心配もあったのである。
勿論チャレンジ側に居ても役には立てないだろうが…。

「あら、やればいいじゃない」

「……でも」

「相変わらずねリンキ
 でもやればいいと思うわよ? どうせ私がメモでも何でも持ってこっちに伝えられるんだから」

「ああ、…確かに」

相変わらず、という言葉を疑問に思いつつも成る程と納得する。
そして彼は他の者の顔を少し見回してから口を開いた。

「あの、私が行こうか?」

先ほどの狂羽の話も交えて皆に伝える。
どうせここでは役に立てないのだ、ならばスパイにでもなんでも立候補してやろう。
それに狂羽も何故か乗り気である。

「……異世界人を二人って言ってたべ?」

「エレーナさん、きてくれないかい?
 何か、失礼かもしれないけど私と似た雰囲気がしてやりやすいというか……」

同位体ですもの琳樹さん。
あの女琳樹を誑かしやがって殺す。
、と狂羽が誰にも聞こえない様に鳴いたのには触れないでおく。


【反対意見が出なければおっちゃんスパイ確定でーす】

121 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/08/30(月) 22:50:54 0
「かくして……事件は終わりを告げた。なんて……」

クスッと笑いを上げ、零は下の階に向けて歩き出す。
それに習うように他の面々もゆっくりと屋上を後にする。

「もうしばらくしたら搬送指定した病院から連絡もあるでしょうしね……佐伯さん?」

「なぁに?」

立ち止まり、振り向く零。

「いや、ようやく終わりましたね……って」

「そうね。さ、早く下に行きましょ?私たちの仕事はまだ終わって無いのだし」

そう言うと、答えは聞いてないと言いたげに零は走り出す。
その光景は長い一日の終わりを告げていた。



「あら……」

再びエレベーターで十階に戻った一向。そこで彼らが目にした物は何とも言えない不思議な光景だった。

「くくくく……アンタ達何やってんのよ」

二人の子供に良い様に遊ばれる大の大人二人。
遊ばれているのはサイガと殉也だった。二人とも何とも形容しがたい顔で、一行を正確には零を見ている。
そして、その後ろに控えるゼロワン。彼女はというと軽く会釈をしていつもの無表情に戻るがその表情はどこか楽しげだ。
その様がなんともおかしくて、零はころころと一きしり笑い、質問を投げかける。

「この子たち、迷子の子達ね。親御さんにはもう知らせた?」

そして、その返答を聞き「うん」と頷く零。

「分ったわ。それじゃあ……悪いんだけど私は色々調達してから帰るから先にばぁぼんハウスに帰っていてちょうだい」

調達する物?とオウム返しに聞いてくるとなりのKY(オサム)
ここは異世界、つまり零をはじめとしたこちら側の世界に来てしまった者達にとっては色々と入用なのだ。

「服とか食べ物とか、他にも色々!!
 あぁ、そうそう。もし帰った時に必要な物があったら電話し、て……!?」

言いかけ、零は恐る恐ると言った様子でその携帯電話を取り出す……
問題無い。携帯電話は生きている。その事は問題ない。

「うん。してちょうだい。後、ゼロワン。
 ……非常に言い辛い事なのだけれども、もし、二日以上私と連絡が取れなくなったらその時は私の何だったかしら……
 登録があったでしょ?あれを破棄しなさい」

ギュッと携帯を握りしめる。問題無い。この携帯電話は使用が可能だ。
それどころか『傷一つ付いていない』つまりは新品同様、『充電も満タン』だ。
この時、彼女は今までの腑に落ちない点の共通項を理解した。


【状況:烏が鳴くから帰ろうぜ?何かほしい物があれば調達(日用雑貨などの範囲内で)します】
【目的:ミッションコンプリ−ト 】
【持ち物:オリシ『折りたたみ式警棒』、『重力制御』、携帯電話、現金八千円、大型自動二輪免許】


122 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/08/30(月) 22:51:45 0
「ありーしたー」

閑静な住宅街。その中にひっそりと佇む見慣れたコンビニ。
そこで貯金を「全額おろした」零は奇しくも昨日と同じように変な中身のサンドイッチを咥えながらリンゴジュースを片手に食事をしていた。

「結構あるわね。何のためにこんな貯金を持ってたんだか……」

他にもいくつかの洗剤の類を購入した零は先程の疑問の答えについて思いはせる。
佐伯 零の異常な点。それは自身の行動を阻害する要素が排除されるという点だ。
分りやすく言うなら、彼女にとって障害となる様な不利要素が排除され、代わりに有利な状況に変えると言う物だ。

「もっと早く気が付くべきだったわね。もしかしてこれが私の異能って奴なのかしら?」

葉隠 殉也の神冥滅甲、Ku-01の電脳戦術、そして、佐伯 零の絶対不可侵……
そこまで考えて零は頭を振った。あり得ない事だと。
そもそも、自身の異能は既に分っている。佐伯 零の異能は超人的なボディポテンシャルだ。
そうなればこの異変は何だと言うのだろうか?

「それを確かめるために、ここまで来たんだしね」

そう呟き、免許証の住所欄を見る。もう自宅は目と鼻の先だった。
彼女は自身の事を調べるため自宅へと向かっていた。最初にこの世界に転移してきた時にはリスクから判断して断念したが今はそれ所ではない。
この明らかに異常な状態を調べれば元の世界に帰るための足がかりになるかもしれないのだ。ならば、多少のリスクなどは問題では無かった。

「さ、行きますか。……」

思うのは今頃、ばぁぼんハウスに居る同じ境遇の者たち。
零はそっと目を閉じて、もしかしたら見納めになるかもしれない仲間達に謝罪した。

123 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/08/30(月) 22:55:27 0
佐伯邸。そこはとても異常だった。一見すれば普通の一軒家。しかし……

「なに?これ……家具はおろか、テレビや食器、ガス、電気、水道……食料は無いけど、この分だと、衣服やその他の消耗品もここにあるわね……」

もはや異常と言うレベルでは無かった。異質、異界、異な場……佐伯邸の中は、中だけは普通の一軒家だった。
しかし、誰も居ない筈の家の中が埃一つ落ちて居ない程に清掃されているか?
傷一つない食器があるか?シミ一つないシンクがあるか?浴室は湯を張った事さえもない程に光り輝き、水垢も無い。
そこはまるで彼女が認識した瞬間にそこにある様に存在していた。これを異様と表現しない者などいないだろう。

「考えられるのは、私が他の世界についての記憶を持って居ないという事と、私がこの世界に来た経路って所かしら?」

とりあえずと言った風体で着替え、薄汚れた服を洗濯する零。やはり問題無く洗濯機は衣服を洗浄していた。

「私には以前の世界の記憶が無い。そして、この世界に転移する直前はどこかへと向かい漂っていた……
 そもそも、これが私だけときまった訳ではないのよね。でも、私の知っている異世界から来た人々は皆こんな事にはなっていない」

「つまり、これは私のみの異能ととらえるのが普通。けど、ここまで現実に干渉する様な能力は普通はあり得ないわよね?
 だって、こんな風に目につく物すべてに対して効果を発揮するなら絶対にどこかで大きな矛盾点が生じるもの……」

その当理だ。そして、零はその矛盾点に気がついた。だからここにきて確信を得て、この推理を行っている。

「後は、まさかの発想だけど私が狂っている。……なんて事は無いだろうし。あと一押し。あと一押しなのに……ダメね」

考えても答えにたどり着けない。あと一つ、何かの決定打があれば答えへと行けるのだ。しかし、その決定打が余りにも答えに近すぎる。
そう結論づけ失意の内に脱衣所からキッチンへと向かった時、彼女は思いもよらない人物と遭遇する事になる。

「こんばんは、あの……いい夜ですね?」

その人物はとは竹内萌芽。何かと事あるごとに零の前に現れる青年だった。
三度の遭遇。しかし、今の零には彼から何かの情報を引き出すなどという選択肢は浮かびすらしなかった。

「何の用?……今はアナタと遊びたい気分じゃないのよ?」

「あ、いやその……何か用事があったってわけでも、あはは……」

「嘘。アナタが現れる時は大体なにか用が、いえ、勝手に用件を述べていきたい時だけじゃない」

論破。既に彼女は萌芽の性格を見抜いていた。そう、頭で無く心で。はっきりと。
そのぞんざいな扱いに対し、彼はうーとでも形容する様な言葉を呟き、思案する様な表情を見せ、そして顔を上げる。
その顔には今まで彼女が感じていた嫌悪感はなぜか無く、代わりに交じるのは……ほのかな親しみ。

(私は、かつての私は彼を知っているとでも言うのかしら……?)

「ちょっと、聞いてみたいことがあるんですが」

おずおずと言った様子の萌芽に「なぁに?」と先を促す。互いに悪意と言う物は持ち合わせてはいない。掛け値なしの世間話だ。

「……あの、佐伯さん、『内藤ホライゾン』という名前に聞き覚えはありませんか?」

しかし、それ故に竹内萌芽は発してはいけない『ブロックワード』を発してしまった。

「A??!?!?????■■!?■■●■!???」

「ひぃ!いやぁぁああああああああああああああ!!」

薄闇を月明かりが切り裂くリビングで少女は狂ったように頭を床に、壁に叩きつけ、自らを破壊し始める。
忘れたい、存在してはならないキオクよ消え失せろ。とでも言うように。
【状況:おめでとう!もるもるは個人ミッション「佐伯のキオク』のフラグメントを立てました!!】
【目的:佐伯の記憶を蘇らせ■■・■■に戻すor開きかけたキオクを閉じる】
【持ち物:オリシ『折りたたみ式警棒』、『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許】

124 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/08/31(火) 00:34:20 0
>>81
>>118


すっかり日も傾いた夕方の街を、タチバナ達は凱旋する。
ぞろぞろと大所帯で――大体50人くらいのタチバナと、あとはミーティオ、皐月、丈之助、ゼルタ。
はじめはそのあまりに珍妙で奇っ怪な光景に大衆の注目を大いに集めたが、やがて皆

『どーせどっかの馬鹿が何かの文明使ってアホなパフォーマンスやらかしてんだろ』程度の認識に収束していく。
この国は、この世界は、『不思議』に対しての体制が高い。文明という不思議の体現ともいうべき概念があるからだ。
『なんでもあり』はやがて人の意識を麻痺させる。それが当たり前になったこの世界に、非日常の市民権はない。

>「で、結局ここなんですよね」

「そりゃやっぱ、ここなんだよなあ」

「当然の如くここだよねー」

「全てはここから始まったのだからね。僕らの回帰すべき場所といったらやはり、」

「「「「「――ここだねHAHAHA!!」」」」」

《ここまでずっとふえたまんまかよ。ひゃっきやこうか》

――『カフェ マルアーク』。

そう、ここが全てのスタート地点にして、ターニングポイント。
ミーティオと食事し、丈之助と邂逅し、皐月と出会い、ウェイターと刃を連ねた。
ならば日常への回帰点もまた、ここであるべきなのだろう。――帰るまでが遠足なのだから。

だが、

最後の最後で、全て元通りというわけにはいかなかった。

>「俺、なんか……急ですけど。ここまで、みたいっす」

ミーティオ達が先に入店して行く中、最後尾でしんがりを守っていた丈之助が声をかけてきた。
搾り出すように、悲痛な声で。その表情には哀色が宿り、その年相応に丈のある身体は――

「――珍妙君?」

消滅し始めていた。末端から繊維を解くように、肩から先などはもう完全に消え去ってしまっている。
そう、その光景はまるで、電脳の情報体が零れ消えていく様だった。そんな映画の演出と目の前の状況は、酷似していた。

>「ハハ……すいません。マジで、みんなは……元の世界に戻ってください。俺、祈ってますから」

「君は、一体……」

タチバナが問いを紡ぐより早く。休鉄会員第三号にして創立期から共に戦ってきた少年は、欠片も残さず消え去った。
否、唯一遺ったものがある。丈之助の残滓とも言うべきそれは、彼のアンデンティティたるアフロ。そのカツラ。


125 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/08/31(火) 00:35:17 0
タチバナは一度だけ鼻をスンといわせて、

「……珍妙君。何があったかは知らないが、『君がもうここにいない』ことは理解した。
 そして、君が最期の最期まで僕らの幸福を望んでくれていたことも」

アスファルトを転がるカツラを拾い上げ、なんの躊躇いもなく装着する。オールバックがアフロになる。
その下で常に無表情か狂気の笑みを貫いていたまなじりが、一瞬だけ真剣なそれになる。

「ならば背負おう、君の想いを。なに、僕の背中はイナバ製だからね、100人乗っても大丈夫だ。
 君一人背負い込むことに何の問題もないさ――行こう」

ゆっくりと立ち上がると、タチバナは振り返る。
同行した休鉄会の面々が、そこでタチバナを待っていた。

《たちばなー?》

「今行くよ。さあ、今夜は宴だ。飲んで食べて吐いて吐いて吐いて顔面で受け止めようじゃないか」

《またあたらしいしゅみかいたくした!?》

「鉄板で焼けばあら不思議、まさかの名物もんj」

《とうきょうみんにあやまれーっ!!》


【マルアーク店内】

店内は慄然としていた。

帰ってきた『新規お客様一行』の後ろから、ぞろぞろと同じ顔をした男達が入店してきたのだ。
その数おおよそ50!そしてその中心にいるアフロな一人を除いて、全員がブリーフ一丁という出で立ち!
さらに我が物顔で空席を占領した50人の変質者達が、一斉に『あなたのスマイル』を注文した為に――

マルアーク側は非番のバイトを緊急招集し、スマイルの量産体制に入っていた。

「タチバナさんさ、当然のように居るこのブリーフ軍団消えたりしないの?」

「残酷なことを言うねゼルタ君。生まれた命をそんな簡単に扱うなんてああ嘆かわしい、亡者としてどうなんだねそれは!」

「ええーっ説教!? いや、でも、こういうのって一発ネタっていうか出落ちっていうか……
 そろそろ新章突入じゃん?ほら、BKビル編も終わったことだし、流石に章跨いで引っ張るネタじゃなくない?」

「メタ発言は慎みたまえよゼルタ君。実のところを言うと僕にも詳細はわからないんだ。ノリで増えたからね。
 ははは――里子にでも出そうか。『なまえはたちばなです。23さいオス、おとなしくていいこです』といった感じで」

「いやいやいや!誰が引き取るのよこんなナマモノ!ブリーフ一丁で恥ずかしげもなく徘徊するし!」

「羞恥に関しては見解によりけりだね。彼らはきっとこう考えるだろう。――『パンツじゃないから恥ずかしくないもん!』」

「どう贔屓目に見てもパンツだからそれーーっ!!そのセリフ言っていいのは魔法少女だけだから!」

「浮遊霊の分際で詳しいねゼルタ君」

「異世界人のアンタもね、タチバナさん……」

「まあそれはさておき、今日は僕がみんなの労を労うために乾杯の音頭を取ろう。――まず服を脱ぎまs」

>「とりあえず、皆さん、お疲れ様でしたっ」

本日この瞬間、五月一日皐月がおそらく世界中で一番空気を読んだ瞬間だった。

126 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/08/31(火) 00:36:28 0
タチバナを除く全員が、皐月にみかって親指を立てた。タチバナは無言でそっと姿勢を正すと、アフロが回転して飛んだ。
ぼひゅっ……と音を立ててアフロはテーブルを転がると、そのテーブルの唯一空いた席――丈之助の場所へ一人でに収まった。

「既に気づいている者もいるかもしれないが――珍妙君の『下の人』が消滅した。
 この件については移動式アフロ置き場君から伝言を預っている。『みんなが元の世界に帰れるよう祈ってます』。
 さて、ここで僕から君たちに質問したい。君たちは――元の世界に帰りたいかな?」

タチバナの問いは召喚二日目にしてようやく原点へ回帰する。マルアークでだからこそ起こすべき議題だ。
事情がどうであれ、彼らは自らの意志を無視してこの世界に連れてこられている。竹内萌芽の言う『作為者』に。

「過程はどうあれ珍妙君は死んだ。もういない。死者に対して生者ができるのは墓に花を手向けることと、
 涅槃に笑顔を向けることだけだ。死人は救いを求めない。救われなきゃいけないのはいつだって残された者達だ。
 何の因果か世界を異にしてしまった僕らは、突如としてニ次元軸へ放り出されてしまった点と線のようなものだ。
 直線が平面の中で市民権を得るにはどうしたら良いだろう?――互いを重ね合わせればいい。図形が出来上がる」
 
一息。

「僕らで図形を作ろう。それが珍妙君の、そして僕らの願いの交差点。『異世界人の相互扶助』。
 この世界にはまだまだ道に迷った異世界人がいるはずだ。片っ端から仲間にいれていこう。
 僕らには情報が必要で、それ以上に人手が必要だ。この世界に対して結論を出す為の時間もね」

饒舌癖が災いし長々と論じたが、言いたいことはひとつだ。

「当面の僕らは迷える異世界人を仲間に迎え入れること――つまり、『異世界人狩り』だ!」

ここまで喋ってようやく給仕されたコーヒーをミルク砂糖ドバドバで飲み干し、喋り疲れを潤した。

「さて、今日はもう遅いしそろそろお開きにしようか。また明日ここで会おう。
 宿が不安な者は雑魚寝でいいならアクセルアクセスの内部を開放しよう。今なら添い寝のオプション付きだ。
 ああ、ここの会計は心配しなくていい。僕は紳士だからね女の子に払わせるようなことはないさ」

《ほとんど50にんたちばながのみくいしただいきんだけどな》

「さあそこの麗しいウエイトレス女史!お勘定を速やかに遂行してくれたまえ。そう、スマイル×50も忘れずに。
 会計は……ほう、少々お高くついたが払えないこともないね。よござんしょ、と僕は呟きながら財布から紙幣の束を
 取り出すのであった。――ん?この紙幣は使えない?」

レジの前でウエイトレスが微妙な顔をしている。
それもそのはず、タチバナが出したのは『タチバナの世界の現金』なのだ。当然諭吉も英世も描いていない。
どこか知らない国の紙幣とでも思われているのだろうが、いずれにせよ使用できないことは確かだ。

127 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/08/31(火) 00:37:47 0
(『一筆NEW魂』で紙幣の情報を変えるか? いや、文明が浸透した社会で対策がされていないわけがない)

「ツケは……効かない?ですよねー」

「あの、キャッシュが無理でしたらカードでのお支払いもできますが……」

「カードか、SSBカード(SENDAI CENTRAL BANK)は使えるかな?」

「は……えすえす……? えっと、でしたら身分証明になるもののご所持は?」

「持ってないなあ」

「うーん、職場の方の連絡先は」

「それもないね」

「じゃあ何やってる方なんですか!?」

「驚いた! ここじゃあ僕は無職じゃないか!」

「えーっ!そんな立派なスーツお召しになってるのに!?」

「はははお嬢さん、君は接客業に従事しておきながら人を見かけで判断するのかね」

「見かけで判断してたらとっくに通報してますけど!?」

「オーケーわかった。僕の負けだ。ここに臨時従業員を50人ほど置いていくから、皿洗いとかに活用したまえ」

「皿洗いにしか使えなさそうな連中じゃないですか!」

そんなこんなで、どうにかタチバナ5人で手を打ってもらい(掃除もできた)なんとかタチバナは会計の危機から脱出した。
しかしこれは切実な問題である。これまで金に困ったことはなかったが、持ち込んだ財産が使えないとなると、

「休鉄会集合ー。いいかね諸君、切実に資金がない。これは非常に問題だ。日々を生きる糧が得られない。
 どうにかして凌ぎを考えなければならない。このままでは皐月君が背徳系シスターとして芸能界デビューすることになる」

>>74

>「ナアオ前ラ、ゲームニ参加シネーカ?」

と、そんな彼らへ渡りに船とばかりに新たなイベントが。

>「俺ガゲームノ提案者ニ、オ前ラモ参加出来ルヨウニ言ッテヤルカラヨ。
  衣食住付キデ金ハ全部向コウ持チダ、悪イ話ジャナイダロウ?」

>「そのゲーム、乗る、ッスよ。わた、俺もエレーナ様を探さなくちゃいけないんだし」


「――その話、僕らも詳しく聞きたいね。特に衣食住全部相手持ちってところを入念に!」

男二人に少女が三人のテーブルは、45人と一人のHENTAIによって包囲されていた。

《どんなあくやくだ》

その通りである。


【チームオブハルニレさんとこの会話を盗み聞き、46人体勢で包囲。参加意志アリ】
【残りタチバナ:46機   マジ金欠】
【休鉄会名簿:・タチバナ ・皐月 ・ミーティオ ・ゼルタ ・丈之助(故) ・ウェイター(?) ・モル太】

128 名前:テナード ◇IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/08/31(火) 18:43:55 0
こんな時、何をすればいい。何を言えばいい。何を考えればいい。
頭痛と吐き気と眠気を訴える頭では、まともに思考する事すら出来ない。

テナードの放心状態に近い頭は、目の前のやり取りがどこか離れた場所で行われているような奇妙な錯覚を引き起こしていた。
進研のボスと名乗る男の前に連れられてから、どうも体調が優れない。気怠げに溜め息を吐き、項垂れる。

無論、そんな彼が他人の話を聞ける状態ではなく。突然病室に来訪したKを、ただ喧しそうに睨むだけ。


「全く、異世界人を寄越せですって?頭沸いてんじゃないの!?」

「お、落ち着いてC……」


異世界人を寄越せと言い出したKに対し、ヒステリックに叫ぶC。彼女もまた、『病室では静かに』のポスターを無視する1人だった。
てんやわんやと話し合う内に、事態は意外な展開を迎えていく。

>「ゼミの内情を探るスパイ、なんてどうだろう?」

自分の組織を裏切り、チャレンジの傘下に入った新入り、T。彼が出した突飛な提案に、病室は異常なまでの静けさに包まれた。
Cと八重子が目を見合わせる。テナードも驚きに顔を上げ、Kに候補として挙げられていた前園久和と、竹内萌芽を見やる。

「…………この二人に、゛スパイ゛なんて危険な事やらせる気か?」

Tにそう問いかけたテナードの声には、明らかに怒気が含まれていた。二人にそんな経験があるとは思えないし、第一作戦にしては少々無謀にも思えた。
恐らく、それは発案者である彼も分かっている事だろう。だからこそ、余計に腹が立ったのだ。だが、他に案がある訳でも無かった。

>「あの、私が行こうか?」

そんな緊迫とした空気を、訛祢琳樹の呑気な声が破壊した。
曰く、彼の烏(狂羽と呼んでいた)を使ってのスパイ行為。…しかし、彼の肩でカァカァと鳴くその烏は、敵対するゼミの所有物だったのではなかったか。少し不安だ。

>「エレーナさん、きてくれないかい?
 何か、失礼かもしれないけど私と似た雰囲気がしてやりやすいというか……」

更に、訛祢はエレーナとの行動を所望した。指名されたエレーナと訛祢を交互に見る。

「(……似てる、というよりは………………)」

いや、これ以上考えるのは止めよう。
似ているどころか、一瞬全く同じに見えたのは目の錯覚だろう。恐らく、きっと。


【ターン終了:異論ナシの方向で】

129 名前:尾張 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/08/31(火) 19:33:40 O
「あの、ユッコ…あの重傷の子はどうなりました? 大丈夫ですか?
…会えますか?」
わずかな間の後、朝日の唐突な質問に困惑したような表情をつくりながら、しかし確
かな意思を持って月崎真雪はそう質問した。
「……コチラの世界に連れて来られてからわからない事だらけダ」真雪の後に続いて、慎重に言葉を選びながら
李が呟く。 喚ばれた理由、帰る方法、当たり前のように使われている特殊な能力、『進研』に『成龍会』。挙
げていったらキリがナイ、と。
「ガ、まあそれはおいおい教えてもらえば良イサ。
さしあたってはそうだナ……彼女の言ったとおりユズコの容体ト、後は俺が背負っていた少女がどうなったの
か教えて欲シイ」
奇妙な間が空く。と言って、不快な間ではない。朝日はどこか懐かしむように二人を見つめて、しばらく目を閉
じたあと、疲れたように笑いながら口を開いた。
「そうか、君たちはまだ若いんだったな」
朝日はつい先ほど俺が引き倒した机の引き出しを開け、幾つかのクリアファイルを取り出し、その中身を漁って、
三つの資料をソファーとソファーの間のテーブルに放った。
「文明の事が大体書いてある。知りたいことがあるなら後で読むといい。とは言え、そいつもまだ説の一つに過
ぎないんだけどね」
 ところで尾張くんは質問しなくていいのかな?朝日が思い出したようにこちらに話しかけてきた。一々紙に書
くのが面倒だったので、首を横に振る。質問が無いわけではなかったが、今ある事象を優先した方が良いように
思えたのだ。気を失っている間に何があったのか。それを早く知りたかった、と言うのもある。
俺の動作に、そう、と朝日は頷いた。朝日の目が少しだけ揺れる。僅かに口に隙間を作り、前歯の先を素早く舐
める。ほんの一瞬の所作。
「大火傷を負ってた娘ね、生きてるよ。まだちょっと痕が残ってるけれど、それもじきに消える。
今は上で寝てるよ、後で会いに行ってみればいい」
そう言えば。と朝日が不思議そうに真雪に質問した。
「キミ、どこで彼女と知り合ったんだい?だってあの娘は……。
……ああ、ごめんごめんキミは“向こう側”の人だったね。配慮に欠けていた。謝るよ」
朝日は両手を合わせて真雪に頭を下げ、李に向き直る。
「君が背負ってた娘ね、残念ながら逃げてしまった。
参ったね、あの娘は三浦くんの娘だったから、いい情報を持ってると思ってたんだけど」
頭を掻いて、朝日は肩をすくめた。
「まあ過ぎたる事はなんとやら、だ。
後は何か質問はあるかい?
あ、そう言えば。李くんや尾張くんはともかくとして、真雪くんは完全なるパンピーだからね。日々の生活を侵
害するようなアブナイ情報を聞きたくないようなら、先に言ってくれるとありがたい。聞かせないようにするか
らさ」
さて。もし質問が無いようなら、本格的に今後の身の振り方の相談といこうか。朝日は歳に似合わない、悪戯を
する餓鬼のような表情を作った。
君たち二人、“異世界人”の方針をはっきりさせなくちゃ。
もっと俗な話なら、真雪くんは家族に無断で外泊した事になるからね。そこら辺、いろいろ注意深くならなくち
ゃいけない。



【尾張、真雪、李:文明の資料(簡易版)を手に入れた!
文明の資料(簡易版):文明についてごくごく一般的な事が書かれている資料。機密性や重要度は低い

朝日の嘘1:サイは『ユーキャン』のどこかに監禁されています。逃げてはいません】


130 名前:寡頭正人 ◆Ipct4RPqyjkz [sage] 投稿日:2010/08/31(火) 22:00:06 0
10年前――

「君、大丈夫?」

夕暮れの公園で、泣いている少女に少年だった寡頭正人は
手を差し出した。
少女は、誰かから虐めを受けたらしく怪我をしていた。
正人はそんな彼女を放っておけなかった。
すぐに、傷の手当てをし公園のベンチに座らせた。

「大丈夫だよ、僕がいる。僕が、君を守ってあげるよ。」

正人は笑みを浮かべ、その少女に名前を聞いた。
少女は答えた。月崎真雪と。

「そうか、じゃまた会おう。でも、いつでも僕は君を
見ているよ。」


正人は最後まで笑みを消さず、家路へ向かう少女を見送った。
そして、彼女が視線から消えた瞬間。
その笑顔は微笑から、口を吊り上げんばかりの笑いに変わっていた。

―現在

「ええ、成龍会は壊滅しました。それと、異世界人も脱出したようです。
ええ、はい。分かりました。監視を続けます。」

スマートフォンでの会話を終え、正人は真雪のことを思う。
彼女は無事だろうか?
まだ、自分のことを覚えているだろうか?

正人は無表情のままカフェマルアークへと向かった。

131 名前:竹内 萌芽(1/7) ◆JgKFqnlwIw [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 02:10:24 0

暴れる少女の前に立つ竹内萌芽が、目の前で何が起こっているのか理解するまで、数秒かかった。

「お!!? な、何してるんですか!! 佐伯さん!!!」

叫びながら、萌芽は暴れている少女を押さえ込もうとするが、少女の力は恐ろしいほどに強い。
ゆえに体力面にまったく自信のない彼が弾き飛ばされるまで、そう時間はかからなかった。

地面に背中から叩きつけられた彼が、「ぐぇっ」という踏み潰されたカエルのような声を出す。

「ったた……あーもう、馬鹿力はあいかわらずってことですか」

背中をさすりながら、どうしたものかと彼は考える。
目の前の少女は、自分の”昔の名前”を聞いた瞬間”こうなった”。
つまり自分のせいで彼女が暴走したのは日を見るより明らかだ。

彼女が自分の幼馴染の”彼女”であるにしろ、そうでないにしろ、
とにかく目の前の彼女を止めないことには話もできない。

”おい、もる!! 早くしろ!!”

突然頭のなかに、少女のような甲高い声が響く。
言うまでも無く、ストレンジベントの声であるが、しかし「早くしろ」とは一体何を―――

”カードだよカード!! まだ一枚残ってたろ!?”

「あ……」

すっかり忘れてた、と、萌芽はポケットの中から一枚のカードを取り出す。
カードに描かれているのは、血のように赤い色をした『鎖』。

”まったく、何のためのアタシだよ……とっとと発動しちまえ! 後はアタシが何とかするから!!”

「わかりました、お願いしますよストレンジベント!! ベント・イン!!」

”SWINGVENT”

萌芽からみて右側の、彼の頭ぐらいの高さの空中に、小さな赤い火の玉が出現する。
そこからものすごい勢いをもって飛び出すのは、血のように真っ赤で、凶悪なデザインをした長い鎖。

宙を舞うそれは、まるでウミヘビのように身をくねらせ、
暴れまわっている佐伯零に巻きつき、動きを封じる。

”アッヒャッヒャ!! どーだ! アタシにかかればこんな小娘の一人や二人……”

佐伯に巻きついた鎖から、得意げな声が響く。
どうやら今回の武器は、彼女そのものが”取り憑いて”操るタイプのものらしい。

佐伯が床に倒れ動けないのを確認した萌芽が、とりあえず彼女の側にいこうとしたとき、
ふいに彼女を捕縛している鎖から、ぎちっ、というなんとも不吉な音が響いた。

”アヒャ!?”

困惑した様子のストレの声。次の瞬間それは絶叫に変わる。

”あだ!? あだだだだだだだ!!! 痛い!! 痛い痛い!! もる!! 助けて痛い!!”


132 名前:竹内 萌芽(2/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 02:12:36 0

暴れる少女と、それに内側から千切られそうになっている鎖。
それを見ながら、萌芽は一つため息を吐いた。

「”一人でなんとかする”んじゃなかったんですか?」

”ムリ!! ムリムリ!! この女マジ力強すぎ!!
 お願いもる!! 意地悪なこといってないで助けてえええええ!!!”

冗談抜きに引き千切られそうになっている彼女を見ながら、萌芽はもう一度ため息を吐いた。
そのあと、右手をゆっくりと顔の横にまで上げ、人差し指を立てる。

ふいに、その人差し指が、まるでヒモのように”伸びる”。
触手のようにうねうねと動くそれは、狙いを定めると真っ直ぐに目の前に倒れる少女の額に突き刺さった。

実のところこれは萌芽が、”世界が自分だと認識できるもの”の境界を伸ばして佐伯に繋いだだけなので
佐伯零に物理的なダメージはまったくない。

「ま、とりあえず僕の”昔の名前”がNGワードだったみたいなんで、
 そこのところだけ、うまく記憶を改ざんしておきますね。
 大丈夫、痛くないですよ―――ちょっとくすぐったいかもしれませんが」

そう言って萌芽は佐伯零の記憶と、自分の意識を”あやふや”にする。
さきほどの記憶をたどって、その事実が記憶されている領域を、”あやふや”にした。
とりあえずこれで、しばらくの間、彼女の意識はNGワードから”なんとなく”反れるだろう。
その間に、彼女がこのことを『どうでもいい記憶』として忘れてくれることを願うばかりだ。

零の体から力が抜ける。
脳の状態から察するに、どうやら眠ってしまったらしい。
安定したらしい彼女の寝顔を見ながら、萌芽は少しだけ微笑む。

そして、どうせ記憶を見ることができるのだし、この場で彼女が”彼女”なのかどうか調べてしまおうと
彼女の脳が記憶している、ずっと昔の記憶にまで意識を潜らせる……そして

ばちっ

―――いやな、音がした。


133 名前:竹内 萌芽……?(3/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 02:13:42 0

「お……?」

見えない”なにか”に吹き飛ばされた少年は、先ほどと同じ様に床を転がった。
ただ先ほどと違うのは、少年が頭を抱えていることとその顔から冷や汗がとめどなく溢れ出ていること。

「なんだ『お』? ……今の記憶」

いつの間にか口調が、この世界に来るまでの”それ”に変わっていることにも気付かず、
彼は身を抱え、必死に先ほど自分が垣間見た記憶のことを整理しようとする。

「うそだお、そんなはず……ないお。だって、だって僕は!!」

”それ”は、ありえない、いや、”ありえてはならない”記憶だった。
自分が彼女に最後にあったのは、5年前の……そう、12歳のときの、夏。
あの金曜日に、近所の公園の池に牛乳パックのボートを浮かべ、沈んだ。
そうだ、それが正しいはずだ……

……なら、なぜ

「なんで―――なんで”土曜日の記憶”があるんだお!!?」

”彼”は完全に混乱していた。
自分がはたして竹内萌芽なのか内藤ホライゾンなのかということすらどうでもよくなるくらいに、動揺していた。

それが佐伯零の頭にあった記憶なのか、それとも彼の脳内に”封じられていた”記憶が、
零の頭の”封印”に触れたことで偶発的に呼び起こされてしまったものか、それはわからない。
ひょっとすると、その両方なのかもしれなかった。

それすらもどうでも良かった、だって、だってこの記憶が本当なら、一体、今まで生きてきた自分はなんだというのだ?
『退屈』にあれほど苦しめられ、『世界』に絶望し、嫌悪していた自分は、一体なんだったというのだ?

「『全部嘘だった』とでも言うのかお!!?」

竹内萌芽なのか内藤ホライゾンなのか、それすらも”あやふや”で、
今までの人生すら本当か嘘か分からなくなってしまった少年は、頭を抱え込み、深くうなだれた。

存在すら”あやふや”な今の”彼”をあえて名付けるとするなら
それは『名無し』という、空虚で、無責任で、投げやりな表現にしかならないだろう。
ただし、その名にふさわしい『自由さ』を、現在の彼は欠片ほども持ち合わせていなかったが


134 名前:名無し(4/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 02:15:25 0

名前すら無くなった少年は、しばらくその場で膝を抱えうなだれていたが、
ふいにその口が開かれ、彼の、同年代の男性より少し高い声が、”そいつ”に向かって呼びかけた。

「……いるんでしょう?」

口調は、萌芽の敬語にもどっていた。しかし、やはりそれでもなにかが足りない。
竹内萌芽を竹内萌芽たらしめていたその過去の思想や記憶は、先ほどの出来事でとっくに崩れ去ってしまっていた。
ゆえに今の”彼”は萌芽と呼ぶには、色々なものが欠けすぎている。

「それは私のことでしょうか?」

とぼけた声が、部屋の隅から聞こえた。
どこからともなくゆっくりとあらわれるのは、青い毛並みをした一匹の猫。
少年は彼のほうには目も向けず、相変わらずうなだれたままで言う。

「佐伯さんはさっきから身動きをまったくとってないし、仕事を終えたストレはまったく喋らない。
 ……まるで、時間が止まってるみたいに。それで、なんとなくキミがいるんじゃないかと思ったんです」

「なるほど、間違いではないですね。もっとも、私はいつでも”どこにだって居ます”が
 それにしても、意外と冷静そうですね?」

不思議がっているような、からかっているような、どっちともつかない”あやふや”な表情で猫が聞く。
少年は、それに対し小さく怒ったような声で言った。

「僕は……僕は『あのとき』一体何をしようとしていたんだお……?」

それに対し、猫は相変わらずとぼけた声で答える。

「『あのとき』……? はて? なんのことやら、ネコの私にはとんとわかりかねますが」

それに構わず、少年は、『あのとき』の、『内藤ホライゾンだった』口調のまま、続ける。

「うすうす感じてはいたんだお、『なんで僕は、世界がこんなに面白くないのか』って
 みんなに話しても、『それは誰でも感じることだから』って笑われるだけで、
 たしかにそうなのかなとも思ったけど、僕のこれは『みんなのそれ』とは明らかに性質が違う」

少年は、そこで言葉を止めると、やがて、認めたくないことを言うとき特有の掠れた声で言った。

「ツンのせいだったんだお? ツンが、僕の記憶を封じ込めていたんだお
 僕が……僕が”もう二度とあんなことをしないように”!!」

激情する少年に、しかし猫は動じず、ただその姿を静観している。

「おかしいと思っていたんだお、僕の”才能”をつかえば、
ツンが世界のどこにいるのか探ることなんて容易にできる!! 実際そうしたお!!
でも……いなかった。”あの世界のどこにもツンはいなかった”!!
だから、心の底では、ずっと理解してたんだお。ツンはもうどこにも居ない、もう会えない。
……ツンは、もう死んじゃってるんだって」


135 名前:名無し……(5/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 02:17:59 0

言葉の切れた少年は、また深々とうなだれ、黙ってしまった。

「辛かったのですね」

ふいに、猫が口をひらく。
同情している様子はまったくない。ただ淡々と事実を述べている、そんな口調だった。
顔を上げた少年は、それに対し皮肉とも自嘲ともつかない言葉を返した。

「でも、それも全部”嘘”だった」

「はて、そうでしょうか?」

首をかしげながら、猫はのこのこと彼の右隣に歩いてきて、その場に座る。

「……どういうことです?」

また竹内萌芽のほうの口調になりながら、彼は訊ねた。

「月崎真雪、というのでしたか、あのお嬢さんは」

その名前が出て、初めて萌芽は顔をあげ、猫のほうを見る。

「あのかたは、”他人の嘘が分かる”のでしょう?」

そこまで聞いて、『名無し』は呆れたというよりは、失望したようにため息を吐いた。

「会ってその直前に、”嘘吐き”呼ばわりされましたよ
 さすが真雪さんですね、僕の本質を見事に見抜いたわけだ」

はは、と力のない笑い声をこぼす『名無し』。
その横顔には、つねに”面白いこと”を探しもとめていた竹内萌芽の面影はまったく感じられない。

「でも、彼女も結局は今、あなたのことを『萌芽』と呼んでいる。
 初対面の相手から逃げ出すほど嘘が嫌いな彼女が、はたしてその名を嘘だと思って呼んでいるでしょうか?」

「それは……」

黙る少年に、猫は相変わらず感情の篭らない声で、続ける。

「あなたは、”ここ”に来てからいろいろな人に会いましたね?
 利用されて、逃げられて、痛い目もみて、優しくされて、傷つけて
 ……そして、今、あなたは傷ついている。その”痛み”のことを月崎真雪は、なんと言うのでしょうね?」

そう言って、猫は歩き出す。
そのしっぽごしに、名無しの少年は声をかけた。

「……慰めてくれたんですか? もしかして」

猫はそれには答えず、こちらに訊ねてくる。

「あなたは、誰ですか?」

それがなんだか照れ隠しのように思えたので、少年はくすりと笑った。

「僕は『萌芽』。―――『竹内萌芽』です。
 竹の内に萌える芽で、『竹内萌芽』。とりあえずは、そうです。きっと」


136 名前:竹内 萌芽(6/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 02:20:14 0

”おいどうしたよもる!!?”

ふと気付けば、目の前に倒れる零を拘束している鎖が、ぎゃーぎゃーとうるさくわめいていた。

「……どうもしませんよ、うるさいですね」

”もる”と呼んでくれる彼女の声が、少しだけうれしくて。萌芽は少し微笑んだ。

”打ったとこ、そんなに痛かったのか!?
   ―――なんで泣いてるんだよ!!?”

言われて萌芽は頬をぬぐう。そこには、未だに目から溢れ出る暖かい液体が付着していた。
まったく、今日はよく泣く日だな。
そんなことを思いながら、萌芽はぐじぐじと顔を手で撫で回す。

「なんでもないですって、ほんと」

言いながら萌芽は、もう暴れる様子もない零の体から、絡みつく赤い鎖を消す。
赤い炎に包まれ、燃え上がるように消えるそれを見ながら、萌芽は寝ている零の顔を見る。

彼女に対して、とりあえず、今は何かを聞くつもりはない。
あの記憶の封印は、おそらく彼女自身がしたものだろうし、彼女が自分の前から消えたのだって
結局は自分に非があったのだから文句を言う資格もない。

―――だから今は、ただ、『準備』をしよう。

”それならいーけどさ……それでこれからどーすんだよ、もる”

「佐伯さんをこのままにはしとけないでしょう? とりあえず起きるまではそばにいますよ」

言いながら、萌芽は先ほど零が暴れたときに壊れてしまった窓ガラスから、空を見上げた。
いくつか雲が残っているものの、先ほど小雨を降らせていた雨雲は殆んど消え、
空には綺麗な月が昇っている。

ふいに、萌芽は両手を水を掬うときのように合わせ、月に向かって掲げ上げる。
ぽおっ、とその両手の間に光が集まる。それは、さながら空から降り注ぐ月の光を、
少年がその両手に掬い取っているかのようだった。

その光は、やがて小さく集まり、羽を持って、そして空に飛び立った。
それは、いやに羽の色と柄が派手なのに、体だけは真っ白な、『蛾』だった。
昆虫にはありえない、長い尾羽を風になびかせて、全部で十二匹のそれらは、空に浮かぶ月に向かって、ゆっくりと飛び立つ。

”なんだよ、アレ”

不思議そうに聞いてくるストレに、萌芽は笑って

「ちょっとした『保険』ですよ」

そう言った。


137 名前:竹内 萌芽(7/7) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 02:22:47 0

眠っている佐伯の横で、萌芽は床に座って、考え事をしている。

考えているのは、進研のリーダーと名乗る、あの男のこと。

あの男は、世界の前では、自分の才能など無力だと、そう言っていた。

たしかにそうかもしれない。人間ひとりの力なんてたかがしれている。

ならば、『世界』を味方につけたなら?

もしくは、そう―――

―――”自分が『世界』そのものになってしまった”としたら?

そこまで考えて、萌芽は再び傍らに眠る佐伯の顔を見やる。

(また……また僕は……)

ひょっとしたら、また、自分は繰り返すのかもしれない。

”また彼女の『敵』になる”のかもしれない

それでもきっと、今できる最大限の策はこれしかない。

真雪も佐伯も、誰だって傷つけさせるものか。

いつの間にか大事な人を傷つけていても、それが彼女たちのいつだって笑ってられる未来を消すものだとしても

これしかできない

今の自分にできるのは、彼女たちを守るために邪魔になるもの

その全てを壊しつづける。

ただ、それだけだ

【ターン終了:萌芽、ちょっとだけ大人になる。の巻き】


138 名前:記憶:竹内 萌芽 ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 02:23:47 0

暗い公園。他の子どもたちは全て帰ってしまったそこで、少年と少女は向かい合っていた。
親に怒られるのを覚悟して遊んでいる……と言うにしては、その二人の間に流れる空気は、あまりに殺伐としすぎていた。

「あんたのやっていることは、”この星に存在した人類全てに対する冒涜”だわ」

両手に持つ、二本の棒の内の一本を少年に向けながら、厳しい口調で少女は言う

「”ぼうとく”? ……おー、難しいことはわかんないけど……なんで怒ってるんだお?」

「とぼけないで!」

少女が一括すると同時に、あたりに暴風が吹き荒れる。
まるで少女の怒りに、あたりの風や空気まで怒り狂っているように

「私がいつ、あんたに”助けて”なんて言った!?
 私はいつから、あんたに助けられるような弱い人間になったのよ!?
 はっきり言って”余計なお世話”なのよ!! あんたの今してることは!!」

それに対し、少年の方は困ったような、怒っているような、”あやふや”な表情になる。

「ツンは、いつもそうだお。そーやって一人で抱え込んで、僕には何も言わないで
 そのくせ、都合のいいときだけ、いつも僕を利用して!!」

少年の表情が、歪む。
それは、まるで”泣くのを我慢している”ような……

「僕は……僕はただ、キミのちからになりたいだけなのに、なのに……」

彼の表情を見て、少女は顔に戸惑いの色が現れる。
少女は顔を俯かせると、こちらも泣きそうな声で、言った。

「私のためだと思うのなら……いますぐやめてよ、こんなこと」

「やだお!! だって、だって今の、『この世界』はあまりにツンに……」

「なら!!」

少女の強い声が、彼の言葉を遮る。
再び視線の上がるその顔には、泣きそうでありながらも、迷いのない、
子ども独特の意志の強さが見られる。

「なら……私はあんたを倒す。
下水道に居た、目無しの白ワニや、理科室の呪われた人体模型と同じように」

少女の周りに、風が集まり始める、その様子を少年は、
どうみても必死に強がって、意地になっているようにしか見えない表情で、じっと見つめていた。

【記憶:これは、あくまでただの記憶に過ぎない。記憶は、きっと事実と同義ではない、と思う】


139 名前:弓瑠 ◇CqyD3bIn5I [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 09:44:06 0
あ やせいの へんたいが とびだしてきた!

と、テロップを出した所で今まで黙々とハルニレの膝に座っていた弓瑠が口を開く。

「お兄ちゃん達に近寄るな変態!」

そして何故かハルニレとシノだけを護るように一人のタチバナに傘で攻撃し始めた。
他の二人は護らなくて良いのだろうか。
因みに攻撃箇所はブリーフの中心部分、つまりペニスである。

「お兄ちゃん以外の変態は死ね」

それだとお兄ちゃんも変態扱いしてる事になると思うのだが。
しかし彼女はそんなことはお構い無しにタチバナを睨み付けた。
ゴスロリ幼女が黒猫を抱えて一人の男を睨み付けているこの状況、一部の変態は喜びそうですね。

「ロマ、後であれ引っ掻いてよ。…汚ならしいけど我慢してね」

ボソリと呟かれる言葉にロマは慌てたように嫌だ嫌だと鳴く。

結局、ジョリーに取り抑えられるまでタチバナのペニスへの暴行は続いたという話だ。


140 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 09:56:17 0
先制攻撃で挨拶を封じてよかった。
皐月は心からそう思った。
注文した紅茶を一口すすって、やっと一息ついたところで、気がついた。

(あれ、アフロの人は……?)

確か店内に入るまではいたはずなのに。
その答えは、いつのまにかアフロになっていたタチバナが告げていた。

>>126
>「既に気づいている者もいるかもしれないが――珍妙君の『下の人』が消滅した。
> この件については移動式アフロ置き場君から伝言を預っている。『みんなが元の世界に帰れるよう祈ってます』。
> さて、ここで僕から君たちに質問したい。君たちは――元の世界に帰りたいかな?」

「……帰りたいです」

元の世界へ帰りたい。
  、 、、 、 、、 、 、 、
 そのためにわざわざ、危険を覚悟で『竹内萌牙』がいるらしい場所へと足を運んだのだから。

(でも、手段を得欄出られる段階は過ぎたのかも知れませんね)
  、 、 、 、 、 、
 自分のやり方で行動してみるべきか、それとも、まだ休鉄会の面子と一緒に行動し続けるか。



タチバナはふざけた男だが(それはもう)、真面目な事を言う時は、しっかりという男だ。

>「過程はどうあれ珍妙君は死んだ。もういない。死者に対して生者ができるのは墓に花を手向けることと、
> 涅槃に笑顔を向けることだけだ。死人は救いを求めない。救われなきゃいけないのはいつだって残された者達だ。
> 何の因果か世界を異にしてしまった僕らは、突如としてニ次元軸へ放り出されてしまった点と線のようなものだ。
> 直線が平面の中で市民権を得るにはどうしたら良いだろう?――互いを重ね合わせればいい。図形が出来上がる」

皐月は頷く、自分の目的の為に。

>「当面の僕らは迷える異世界人を仲間に迎え入れること――つまり、『異世界人狩り』だ!」

「狩っちゃ駄目でしょうっ!」

そして毎回オチをつける男なので、既に構えておいた輪ゴムをその顔に向けて発射した。

「あと、数を元に戻しなさい! 今すぐ! 他のお客様の邪魔な上に見苦しいですっ! あとすげぇ目立つ!」

HAHAHAHA、という高笑いと共に、支払いへ向かうタチバナ(多分本体)。
だが、財布から紙幣を取り出すや否や、ウェイトレスとあれこれやり取りを始めた。
どうやら、元の世界、というかタチバナの世界の現金が使えないようだ。

「あの……私一応お金持ってますけど、これで――」

量産型タチバナに関しては放逐しておくほか無いが、本体だけの分なら払えるだろう、と口を挟もうとした、が。

>>127
>「休鉄会集合ー。いいかね諸君、切実に資金がない。これは非常に問題だ。日々を生きる糧が得られない。
> どうにかして凌ぎを考えなければならない。このままでは皐月君が背徳系シスターとして芸能界デビューすることになる」

皐月は爽やかな笑顔のまま、別のウェイトレスを呼びつけて、諭吉さんを一枚取り出しながら告げる。

「お会計お願いします。 そこの量産型ブリーフとは別で」

141 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 09:57:29 0
(質素に生活しても、三万円じゃもって数日ですよね……)

タチバナのいう『金が無い』とは至極もっともの話なのである。
背徳系シスターになるつもりはさらさら無いが、由々しき事態なのは間違いない。

(どうせ自分の世界じゃないんですから、誰かから適当に奪――駄目です、ごめんなさい神様、私は罪深い事を考えました)

そんなことを脳内であれこれ考えていると

「あれ? 社会の外敵――じゃなくてタチバナさんは?」

視界内に居ない。
急に不安になって周囲を見回すと、案の定増殖したのが大挙してテーブルを取り囲んでいた。

>>127
>「――その話、僕らも詳しく聞きたいね。特に衣食住全部相手持ちってところを入念に!」

「何はた迷惑な事してるんですか貴方はーっ!」

台詞に沿うように、少女の声が高らかに上がる。

>>139
>「お兄ちゃん達に近寄るな変態!」

「本当にその通りですごめんなさいっ!」

カツカツと歩みよって、しかしタチバナが大量に要るので背の低い彼女はぴょいこらジャンプして様子を伺おうとし、やがて無駄だと気がついてしぶしぶ椅子の上に上って見下ろす形となった。

「あのー、本当にすいません、その、非常に怪しいですけど多分悪人じゃないのでどうかまずはお話を……」

【体よく接触】



142 名前:長多良 椎谷 ◇Zb4I7XyuC6 [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 22:04:52 0
私は長多良 椎谷(ながたら しいや)。
まだ二十歳と若く新進気鋭の、しかししがないフリーの記者である。
友人から譲り受けたカメラを首に、同じく万年筆型のレコーダーを胸ポケットに、
ついでに最近買った眼鏡を掛けて、今日も今日とて記事のネタを求めて町を彷徨っている。
懸念事項であった、眼鏡と一緒に買い直した革靴が靴擦れを起こさないかと言う不安も、問題ないようだ。

とは言え最近は、記事のネタには困らないようになってきた。理由は二つある。
一つは、最近やたらと「文明」とやらの関わる事件が増えてきて、その事件や、
ひいては文明そのものについてある事無い事でっちあげればそれで記事が一つ出来上がりだ。
オカルトに科学、社会現象と手広く使えるネタであるのもありがたい。
そしてもう一つは、

「・・・おやおや、こりゃまた随分と『真っ赤』な人達だ。あんな人数で、あんな所で何してんだ?」

その文明を、私が手に入れたからだ。
この眼鏡、値は随分と張ったが大枚をはたいただけの価値はある。
適性のある買い手が中々いなかったとかで割引がきいたのも僥倖だった。
とは言え、これは言い逃れの余地なく不法所持と闇取引だ。
老後の私から苦情の手紙が来るのではないかと言うくらいには、貯金通帳が悲惨な事になったが。

とにかく私はこれを【真っ赤な秘密】(シークレッド)と名付けた。
売人曰く「アンタほどネーミングセンスの無い客も珍しい」だそうだ。
私の感性が理解出来ないとは、まったく哀れな男だった。

私の職業柄これ程役立つ物もそうはない。
何と言っても秘密を抱えた人間が赤く染まって見えると言うのだから、
いやはやこれのお陰で随分と楽に記事を書かせてもらった。

無論、これだけでは真相に至れぬ事も多いが、
他にも幾つか購入した文明を併用すれば大体の事は記事に出来ると言うものだ。

おっといけない。
独りよがりな考え事が冗長になるのはつくづく私の悪癖である。
ひとまず私は、この見つけた秘密を逃さぬように彼らが根城としている喫茶店へと足を踏み入れる。
カフェ・アルマークか。天使ね、なるほど確かにウェイトレスは天使の美しさだ。
何処となく触れ難い、水に濡れた刃を思わせる怜悧な雰囲気がまたいい具合に神聖さを感じさせる。
並んでいるウェイターは何か腹立たしいが、不思議と嫌いになれない顔立ちをしていた。

一言で言うと、悪くない。
こう言う街中のささやかな名店を取り上げて、つらつらとレビューすると言う企画
をどこぞやに持ち込んでみてもいいかも知れないな。
問題はささやかな名店では間口が広すぎて客層を上手く貫けない事だ。
いっそ喫茶店に絞るか。それがいい。
ささやかな名喫茶、都会の名喫茶・・・名喫茶に代わるキーワードが欲しい所だな。

「・・・何だコレは」

などと考えながら店内を見渡してみると・・・思わずそのような愕然の声が零れた。
遠目には真っ赤であった事も相まってよく分からなかったが、
何とあまり広くはない喫茶店を席巻しているのは五十は下らないのではないかと
思われる同じ顔をしたブリーフ男だったのだ。

いや何故にブリーフ。
大真面目に言っている私が馬鹿みたいじゃないか。死んでしまえ。

それはそうと穏やかな雰囲気が文面から伝わる記事にするつもりだった喫茶店は、
一躍ホラースポット全集の筆頭に載せても見劣りしない恐怖の館に成り果ててしまった。
あぁもったいない。
あと一週間も早くこの光景を見ていれば今頃出回ってるゴールデンウィークの
ホラースポット全集はもっと人気が出ただろうに。

143 名前:長多良 椎谷 ◇Zb4I7XyuC6 [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 22:06:44 0
まあ過ぎた事を悔いてもどうしようもない。
これはこれで、ホラーに文明とそれなりに汎用の利きそうなネタだし良しとしよう。
・・・そう、初めこそ驚いたが、こんな荒唐無稽な光景の裏には文明があるに決まっている。

「あー、失礼。この集まりの代表の方はどちらにいらっしゃいますでしょうか。
 私こう言う者でして、出来れば皆様の取材がしたいなと・・・。
 あ、この喫茶店の方も後で取材したいのですが・・・はい、ありがとうございます」

正直言ってこの口調は慣れないが、社会人たるもの公私混同する訳にもいくまい。
さておき私は数えるのも億劫な同じ顔の彼らと、随所にアクセントとして散りばめられた方々へ名刺を配る。
ちゃんと列挙するとシスターにセーラー服の少女に鉄パイプを担いだツナギの女性にションベン臭そうなガキに
何か棺桶持ってる死臭のしそうなガキに極めつけにロリコン臭のする男だ。

何だコイツら、頭おかしいんじゃないのか。
職業柄、頭がおかしい奴を見る事はそう珍しくもないので態度には出さないけれども。
ついでにお冷を運んで来てくれたウェイトレスに礼を述べ、名刺を差し出した。

そう言えばこの状況は世に言う所の逆ハーレムと言う奴では無いだろうか。
知り合いのゲームライター君が新しいネタが欲しいとうなされていたな。
何故か増殖した主人公が協力して一人の女性を落とすギャルゲーはどうかと後で提案してみよう。
この業界、恩を売っておくに越した事はない。

さて、ようやく名刺を配り終えた所で、私はブリーフの男性方に導かれるまま
代表者らしき・・・やはり周りの彼らと区別の付かない男性の前に歩みを進める。
しかし名刺を手帳や財布とは別に箱ごと持ち歩いていて正解だった。
名刺切れを起こしてはみっともない。

「さて・・・それでは取材を始めさせて頂きます。なに、取材と言っても
 簡単な質問を幾つかするだけですので。気軽にお答え下さい。
 あぁ、出来れば周りの・・・見目麗しい女性の皆様にもお答え頂ければ幸いです。
 あとそこのロリコン・・・失礼、保護者さんにもお願い出来ますか?」

しかしこの男性の群れはやり難い。
私は記者である事と生来の性癖が相まって、自分の思考を文章として思い起こす癖がある。
あるのだが、そこで問題となるのが「この男性の群れ」だ。
これでは「この男性の」「群れ」なのか、それとも「この」「男性の群れ」なのか。
イマイチ判別がつけ辛い。ちなみに補注しておくと前者である。
かと言って「この同じ顔をした男性の群れ」ではどうにも冗長だ。
私は時に内容に対して長い文章を書く事も求められるが、普段からそれでは些か拙い。
やはり文筆から滴るインクを身銭に変える事を生業としている以上、
日本語を自由自在に操れるようにならなくてはいけないだろうと言うものだ。
うむ、今更だがまた思考が脱線した。

ともあれ、初めの質問は決まりだ。

「えーでは、まず・・・皆様の名前から、お聞かせ願えますか?」

同時に、万年筆型レコーダーの録音ボタンを押す。
だが実の所、この万年筆は既に録音機能を損ねているのだ。
代わりに宿っているのは・・・そう、文明である。

【稚児の自爆】(アナタノオナマエナンデスカ)と、私が名付けた文明だ。
これは質問の答えを強制的に自白させる文明だそうだ。
ただし、初めは秘密でも何でもない情報からしか聞き出せず、
質問を重ねる事で秘密の度合いが高い情報にも答えが得られるようになる、と言う物だ。
要するに、
「みなさーん、おなまえはー?「なんさーい?」」「きょうはどこからきたのかなー?」「しょうらいのゆめはー?」
って事らしい。自爆と自白を掛けてみたのだが、やはり売人の表情は芳しくなかった。重ね重ねふざけた男だ。
いずれ公文辺りに情報をリークしてやりたい所だが、それで私の闇取引まで露呈してしまっては事だ。
どうにかしてあの男を破滅させてやりたいものだが、なんとかならないだろうか。

144 名前:長多良 椎谷 ◇Zb4I7XyuC6 [sage] 投稿日:2010/09/01(水) 22:07:55 0
また思考が逸れてしまった。
閑話休題。

「何歳ですか?」

この質問に特に意味はない。
単に質問の段階を増やすだけだ。

「ではお仕事は?」

途端に、先程数えてみたところ四十六人の同じ顔をした・・・たしかタチバナさんだったか、
が「無職」と異口同音の合唱を披露してくれた。
正直、背骨が氷の模造物に挿げ替えったのではと錯覚を覚える程に、場の空気が凍り付いた気がする。
この社会の害悪め。

「この社会の害悪め・・・失礼、つい思った事が口に出ました」

さあ気を取り直して。
とは言え些細な質問と言うのもいざとなると思いつかないものだ。
これはいざと言う時に備えてリストを作っておいてもいいかもしれない。
・・・ではなくてだ。さっさと質問を考えなくては。
ふむ、そうだな。

「今日は何処からお越しになられたのですか?」

出身地、まさかこれを言い淀む人間などそうは居まい。


(休鉄会とハルニレ達に接触。出身地を質問)






名前:長多良 椎谷
職業:フリーの記者
元の世界:現代
性別:男
年齢:20
身長:170くらい
体重:60くらい
性格:自分の事が一番大事
外見:安物のスーツに取材道具。中肉中背
特殊能力:特になし、闇取引で得た文明を複数所持

145 名前:エンド ◆je/ZF68zTU [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 12:14:48 0
名前:E(エンド)
職業:警官
元の世界:この世界
性別:男
年齢:30歳
身長:180cm
体重:70kg
性格:冷静
外見:警官の服、ホルスターに拳銃(SIG P220)
特殊能力:目視したものをコピー出来る、何らかの文明?
備考:現代で警官をしている男。表家業は普通の警官だが、
ある目的を持ってこの世界にいる。

(参加希望です。よろしくお願いします)


146 名前:ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 21:11:03 0
>>127
>「――その話、僕らも詳しく聞きたいね。特に衣食住全部相手持ちってところを入念に!」


その言葉と共に現れたのは、40人はゆうに超えるブリーフ一丁の変態の集団だった。
同じ髪型に同じ顔に同じ体つき、そして同じ声。
薄笑いを浮かべるそれらによって、ハルニレ達は完全なる包囲網を敷かれてしまっていた。

「悪夢だわ。私、きっと雨に打たれたせいで悪夢を見てるんだわ……!」

ジョリーが蒼褪めて呟く隣で、ハルニレは無表情で変態の集団を見据える。
極めて特異な状況の中、ハルニレは身じろぎひとつしない。
その時、緊迫した空気を裂くような大声が店内に響き渡る。

>「お兄ちゃん達に近寄るな変態!」

>「本当にその通りですごめんなさいっ!」

弓瑠だ。同時にブリーフ集団の外側から聞き覚えのない少女の声。
弓瑠は素早く傘を構え、内緒でホテルから連れ出していた猫を片手に"お兄ちゃん"の膝から飛び降りる。
そして、ブリーフの一人に攻撃を開始した。何故か股間を重心的に。

>「お兄ちゃん以外の変態は死ね」

ズブリ、と嫌な音を立ててブリーフ男の股間に刺さる傘の先端。
しかし一撃では満足しないのか、連続的に刺す、刺す、刺す。
蓮コラも真っ青な、股間が寒くなる瞬間である。

「や、やめなさい弓瑠ちゃん!もう充分よ!」

尚も傘でブリーフ男を叩きのめそうとする弓瑠を押さえつけるジョリー。
しかし、未だにジョリーの腕の中でもがき続ける彼女に対し、ハルニレはこう諭した。

「弓瑠、――――傘ッテーノハ、『刺ス』為ジャナクテ『差ス』為ニアルンダゼ?」

「何うまい事いったみたいな顔してんの!?止めるの手伝いなさいよ!!」

ニヤニヤ笑うハルニレにがなるジョリー。
てんやわんやと騒ぐ二人を余所に、ハルニレの視線は弓瑠にフルボッコにされた男へと向け。

「(……!)」

ブリーフ男が、『文字通り』立ち上がった。
弓瑠につけられた傷痕一つなく、まるで初めから何もなかったかのように。

ハルニレの行動は早かった。
シノが使用した銀食器を掴み、それらをブリーフ集団に向けて放つ。
鈍い銀色を放つステーキナイフは、寸分の狂いなく新たな犠牲者(ブリーフ男の一人)の脳天に突き刺さる。
ドサリ、と倒れこむ男。しかし、男は薄笑いを浮かべたまますぐさま立ち上がった。
集団に視線を巡らせるハルニレの目が、同じ顔の中で唯一服を着た男…タチバナを捉える。

147 名前:ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 21:11:50 0
>「あのー、本当にすいません、その、非常に怪しいですけど多分悪人じゃないのでどうかまずはお話を……」

そう言って椅子の上から言葉をかけた少女の目には、この状況はどう映っただろうか。

ハルニレの手に握られた新たなステーキナイフの切っ先。
それは、寸分の狂いなくタチバナの首筋にピタリと押し当てられていた。

鼻と鼻がくっつきそうな至近距離で、目深く被った帽子の隙間から炎を彷彿とさせる紅い右眼がタチバナを射抜く。


「……………………『ゲーム』ニ、参加シタイノカ?」

ニヤリ、とハルニレは笑う。ナイフを離して身を引く。
椅子に座りなおすと、弓瑠も暴れるのを止めてハルニレの膝に飛び乗る。
ハルニレの問いに答えた彼らに対し、ハルニレはオホン、とわざとらしい咳払いをする。

「マ、『ゲーム』ノ内容ハ簡単ニ言エバ『人探し』ダ。
 期限ハ(多分)無シ、衣食住諸々ノ面倒ハ『ゲーム』ノ発案者ガ出シテクレル事ニナッテイル」

ドルクス達に示したように、メモ帳の絵を交えて説明する。

「ルールハ単純、コノ『白髪の少女』ヲ見ツケ出シ、発案者ノ元ヘ連レテイクダケ。簡単ダロウ?」

と、その時、ブリーフ集団をすり抜けて、一人の男が参入してきた。


>「あー、失礼。この集まりの代表の方はどちらにいらっしゃいますでしょうか。

迷わずタチバナを指さす。
男は納得したように、その場にいる全員に名刺を配っていく。

> 私こう言う者でして、出来れば皆様の取材がしたいなと・・・。
> あ、この喫茶店の方も後で取材したいのですが・・・はい、ありがとうございます」

ハルニレは手渡された名刺を見る。しかし、彼はこの住人でない上に、元々学はない。
つまるところ、文字が読めないのだ。

「えっと……ナガタラ、さん?ですか?」

ジョリーが確認するように読み上げる。なるほど、彼はナガタラという名前らしい。
男は一瞬ハルニレ達を汚物を見るような目で一瞥すると、空いていた席の一つに座った。

>「さて・・・それでは取材を始めさせて頂きます。なに、取材と言っても
> 簡単な質問を幾つかするだけですので。気軽にお答え下さい。
> あぁ、出来れば周りの・・・見目麗しい女性の皆様にもお答え頂ければ幸いです。
> あとそこのロリコン・・・失礼、保護者さんにもお願い出来ますか?」

長多良のロリコン発言にジョリーがクスクス笑ったが、ハルニレが睨むとそっぽを向く。
そして、長多良の質問タイムが始まった。


148 名前:ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 21:13:07 0
>「えーでは、まず・・・皆様の名前から、お聞かせ願えますか?」

「ハルニレだ」

「榎 寿里です。皆はジョリーって呼んでます」

>「何歳ですか?」

「…25」

「先月19になりました」

>「ではお仕事は?」

「「……………………」」

途端に二人とも黙りこくる。
当然だ。かたや少年少女ばかりを狙う犯罪者、かたやスリや麻薬密売などで生計を立てる犯罪者。
言えるわけがない。

そんな二人にはお構いなしに、長多良は少し考えるように間を置き、今度はこんな質問をしてきた。


>「今日は何処からお越しになられたのですか?」

ほんの一瞬、ハルニレの思考が停止する。
さてどうしよう。まさか「異世界から来ましたー」なんて言っても信じてはもらえないだろう。
寧ろ精神の病院を紹介されてしまうかもしれない。


「…………ガ、外国ダ」


ハルニレが咄嗟についた嘘。これが吉と出るか、それとも凶と出るか。
それは神と目の前の男のみぞ知る。

【ターン終了:休鉄会の皆さんにゲームの説明。それと長多良さんに嘘ついちゃいました】

149 名前:エンド ◆je/ZF68zTU [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 21:42:26 0
闇夜の住宅街を、1人の警官が走る。
彼の名前は遠藤。別名・エンド。

凄まじい俊足で、前方の車を追っていく。
車に乗っているのは文明犯罪を行っている人物。
しかし、遠藤の俊足は車の速度を上回る。
後部のバンパーを足で蹴り上げ、車を強制的に停止させる。

「諦めろ、君はもう逃げられない。」

エンドは無表情のまま顔の前で人差し指を振り子のように動かし、車から
降りてきた男を挑発する。
激昂した男が、何度もエンドの体に銃弾を放つ。
文明で強化したそれは意図も容易くエンドの体を撃ち抜いた。

(数分後)

車の前には、体を切り裂かれた犯罪者達の惨めな姿が転がっていた。
まるで鋭利な刃物に切られたかのような傷を心臓に受けて。
事件現場には公文の命令を受けた警察の姿もあった。
その中に、1人。先ほどの銃撃を受けて死んだはずの男。
エンドの姿があった。何事もなく、無表情のままで。

【遠藤、公文の警官に紛れ込む】


150 名前:エレーナ ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 22:18:46 0
何が起こった。
私の脳内がフリーズする。

>「――その話、僕らも詳しく聞きたいね。特に衣食住全部相手持ちってところを入念に!」
>「何はた迷惑な事してるんですか貴方はーっ!」
>「悪夢だわ。私、きっと雨に打たれたせいで悪夢を見てるんだわ……!」
>「お兄ちゃん達に近寄るな変態!」

禁術の気配を感じたと思ったら、現るは半裸…寧ろ下着一枚のみの変態集団。
まるで分身のように姿形がそっくりな彼らは、ぐるりと私たちを取り囲む。

「な、何これ…」

ジョリーの言うとおり、まるで悪夢だ。
しかし、これだけは言わせてほしい。

「アンタ、アフロじゃなくてオールバックだったの!?」

ビシッと指さす先は、元アフロのオールバックの男。
あれは被りモノか何かだったのか。
それに、この感覚は何だろう。
彼の胸ポケットと、私たちを取り囲む変態集団から、魔力に近い何かを感知した。

「(これってまさか、増大魔法の応用か何かかしら?)」

だとしたら、この男は自分と同じ魔法を使える人間ということになるのか。
しかし彼自身から魔力は感じない。ということは。

「(文明、だったかしら。この世界の魔法に似た能力……)」

そう考えるのが妥当だろう。

>「あのー、本当にすいません、その、非常に怪しいですけど多分悪人じゃないのでどうかまずはお話を……」
「ん?」

集団の陰から、少女の頭が飛び出してきた。先のオールバックの仲間か。
近づいてきて初めて気付いたが、彼女からも、禁術の気配と不思議な魔力を感じる。
しかしそれは、私の魔力ともシノの持つエネルギーともオールバックの持つ能力とも違う、また新しい力。

「って、ハルニレ!?」

フと目を離した隙に、ハルニレとオールバックが一触即発の雰囲気。
喧嘩っ早い男だと思ったが、手が早すぎる。

>「……………………『ゲーム』ニ、参加シタイノカ?」

と思ったら、スッと身を引く。
洒落にならない騒ぎだったことを、彼は自覚しているんだろうか。


151 名前:エレーナ ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 22:20:25 0
〜以下中略〜

色々あって、また変なのが来た。

>「あー、失礼。この集まりの代表の方はどちらにいらっしゃいますでしょうか。

>迷わずタチバナを指さす。
>男は納得したように、その場にいる全員に名刺を配っていく。

> 私こう言う者でして、出来れば皆様の取材がしたいなと・・・。
> あ、この喫茶店の方も後で取材したいのですが・・・はい、ありがとうございます」

言っておくが、私はこの世界の文字は読めない。
まず、文字など必要ない。テレパスや部下の蝙蝠達を使うのが手っとり早かったから。

>「えっと……ナガタラ、さん?ですか?」

ジョリー、ナイス。
質問をしてもいいかとの問いに、私は少しためらった。
けれども断る理由もない。 適当に答えるとしよう。

>「えーでは、まず・・・皆様の名前から、お聞かせ願えますか?」
「エレー……じゃなかった、ドルクス、ッス」

危ない危ない。いきなり正体を明かしてしまうところだった。

>「何歳ですか?」
「えっと……27です」

あながち嘘ではない。
ドルクスの身体年齢を人間の時間に換算すれば、それくらいの年齢だ。

>「ではお仕事は?」
「吸k…ハウスキーパーをやってます」

これも嘘ではない。断じて嘘ではない。
従者も執事も似たようなものだ。きっと。

>「今日は何処からお越しになられたのですか?」
「………………………え……」

どうしよう。そこまで考えてなかった。
この世界に来たばかりで、地理に詳しい訳でもないし……。

>「…………ガ、外国ダ」
「そ、そうです!ここには観光みたいなもんで…」

アハハハハハハ、ハァ………………。
…疑われない事を祈ろう。


152 名前:ドルクス ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 22:21:50 0
>「…………この二人に、゛スパイ゛なんて危険な事やらせる気か?」

Tがスパイ案を提案して数分後。
猫頭の男、もといテナードの怒りの籠った視線と声がTに向けられた。
Tはそれを聞いて俯く。やっぱりか、みたいな表情で。

「…すまなかった、やっぱりこの案は無しの方向d>「あの、私が行こうか?」 ……え?」

Tが驚く。俺も驚く。スパイに立候補するなんてどこの莫迦かと、阿呆かと。
意外も意外、スパイ案に賛成したのは訛祢琳樹その人だった。
Tと顔を見合わせる。無謀というかチャレンジ精神旺盛というか。
ゼミに渡すには勿体ないな、とTが一人呟く。
しかし、話はこれだけでは終わらなかった。

>「エレーナさん、きてくれないかい?
 何か、失礼かもしれないけど私と似た雰囲気がしてやりやすいというか……」

「お、オr…じゃなかった、私?」

まさかのご指名。どうしたものか、とTに視線を向ける。

「君が良い、と言うならば、是非やってほしいところなんだが……」

Tは肩を竦める。しばらく考え、俺は決断した。

「…………………その、私でよろしければ」

握手しようと、手を差し出す。
仲間として、同じ魂を持つ人間として……。

「ッ!?」

ビクリと体が跳ねる。特大の殺気を体中にぶつけられたような感覚に陥る。
一体、今の殺気は誰のものだったのだろう。
ふと訛祢さんの肩に止まった烏の視線が、何故か妙に恐ろしく思えた。

【ターン終了:チームスパイ、結成】

153 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 22:59:43 0

ジジイは、勝手にひとの手をとって言った。

「その君の眼は主の賜物なのでしょう。大切にしなさい」

おれは、その手を乱暴にふりはらって答えた。

「かんけいない。おれはたのんでない」

「……聖司。主の思し召しを受け入れられないというのは、悲しいことです」

「おれはふつうの目でいいのに、どうして?
 "押し売り"っていうんだろ、そういうのは」

「それは、君が幸福を見つける為に主が与え給うた祝福なのだと、私は考えています」

「うそだ。じゃあおれの背中はどうしてこうなったんだよ?」

「それは……」

言葉につまったジジイは、カソックの隠しポケットから煙草をとりだした。
しかめっつらで煙を吸いこんだかっこうのまま、動かないし、しゃべらない。
祈った後と考えごとをする時はいつもそうしていることを、おれは知っていた。

「それは、だな―――」

それから、ジジイが"けいけん"な神父のフリをしているのがめんどうになった時。

「―――そりゃあ、ボウズに地上を歩く喜びを教えたかったに違いない。
 天上にはビアガーデンもハンバーガーショップも無えんだろうからな」

「そんなこと……もうおぼえてない」

「いいから、もう泣き止めボウズ。折角のギフトがそろそろ腫れ上がっちまうだろう。
 いつか女子修道院の中まで視れるようになったら、俺に詳しく様子を教えるんだぞ」

「……マザー・ツキザキにいいつけてやる」

「こいつは手厳しいこったな。俺はあのバアさんが苦手なんだ。
 今度ハンバーガーを食いに連れて行ってやるから、黙っててくれないか。
 はは! そんな顔をするな。主は自由意志に基づく取引までは禁じていないからな」


そうして笑いながら肩に置かれた掌の重さと温かさを、今でも覚えている―――――


154 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:00:57 0

―――――誰かの手が、浅い裂傷で熱を持った俺の肩を揺さぶっていた。


「―――起きてください! ねえ祇越さん、起きてくださいってば。
 ああ、もう。いったい午後はどこをほっつき歩いていたんですか!」

「……よせ和泉……傷口が開く……バンテージを巻いたばかりなんだ……
 ……耳元で騒ぐな……出る時に言った……フライヤーを撒きに街まで――」

「――ですから、どうやったら50人も集客できるんですかっ!?」

「……お前、何を言って……くっ!?」

不意に訪れた"天からの眼"のヴィジョンが、一気に意識を覚醒させる――――


     "『『『『『――ここだねHAHAHA!!』』』』』"


――――主よ。


この俺にロクでも無いモノを視せるのがよほど好きらしいな貴様……!!


「和泉、那葉に連絡を取って非番のスタッフに呼び出しをかけろ。
 但し、明日の早番と今日の明番の連中は後回しでいい。
 後からオーナーにも形だけはワンコール入れとけ」

「え……? あ、はい。わかりました」

「今夜、タローは入ってるのか?」

「はい、キッチンで。クローズまでです」

「遅番にはジョウマも居たな。それならリアガードは持ち堪えられる。
 問題はヴァンガードの方か。チッ、この指示だけは出したくなかったが……
 本当に最悪の状況になった場合は、俺が許可する―――――綾凪を呼べ」

「……っ。綾凪さん、ですか。お言葉ですが――」

「――わかってる。悪魔の力を借りる覚悟をしとけってコトさ」

「それでも、彼女の謹慎を解く前に他に講じ得る手段は残されているのでは?」

「例えば?」

「たとえば……たとえば……ええ、と。"神様に祈る"とか?」

「―――いいか、和泉。"この世界に"神が存在するなら、そいつは無能の極みだ。
 ヤツが真っ当な仕事さえしてりゃ、こんな悪夢は実現しなかっただろうからな!!」

俺は上着だけマルアークの制服を引っ掴み、オープンテラスを目指しながら考える。
舞台役者が入れ替わり立ち代りであるならば……幕間を繋ぐ黒具はどうあるべきか。

155 名前:ウェイター ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:02:09 0
『当面の僕らは迷える異世界人を仲間に迎え入れること――つまり、『異世界人狩り』だ!』【>>126

「センダイとやらではどうだか知らないが、マラク議定書は店内での羊猟を禁止してるぜ。
 ―――それと、オールバックス中隊には可及的速やかな衣服の着用を要請したいが」

『何歳ですか?』『今日は何処からお越しになられたのですか?』【>>144

「聞こえなかったのか? 店内でのナンパ行為はマルアハ条約違反だ。
 ―――名刺を受け取るのは勝手だが、インナーに仕舞うんじゃない!」

『僕は、貴方達が何をしてきたか。多くは語りませんが、把握しているつもりです』【>>110

「店外でのストーキング行為のカミングアウトもマラーイカ協定に抵触してる。
 ―――だからと言って、クロッチに差し込んで保管するのも止せ!!」

『お兄ちゃん以外の変態は死ね』【>>139

「性的暴行及び殺人は"まるあーくよいこのしおり"の"してはいけません"の項を開け。
 ―――お着替えの時間を守れないバッド・ボーイズは、後で反省レポートを提出するんだ」

『…………ガ、外国ダ』【>>148

「出身より職業と現金は? "天使詰所御成敗式目"のお膝元じゃ食い逃げは御法度だ。
 ―――Holy Fxxk!! 誰でもいい、早くあのヌーディスト・サムライに服を着せてやれ!!」

『休鉄会集合ー。いいかね諸君、切実に資金がない。これは非常に問題だ。日々を生きる糧が得られない。
 どうにかして凌ぎを考えなければならない。このままでは――』【>>127

「――ああ。このままじゃ、カフェテラスがヴェイヨ・レンケネンの彫刻庭園になっちまう。
 服が着れないなら、その小洒落たポップ・アートを残らずアクセロリクセスに放り込め。
 明日の朝一番の航空便で生まれ故郷のフィンランドまで発送されたくなけりゃな……!!」

人体の神秘の精髄によって埋め尽くされた視界の片隅で、軽い何かがホップする気配がある。
身長6フィート未満の生物には適応困難なこの環境に、どうやら小動物が迷い込んだらしい。

『あのー、本当にすいません、その、――』【>>141

「……やれやれ。お前もか背徳系シスター。
 そんな格好で椅子の上に立つもんじゃない」

そろそろと椅子に乗って爪先立ちをする姿は、どうにも放っておけない。
俺は、その華奢な細腰を後ろから両手で支持して僅かにリフトアップさせた。
そのままクレーンゲームで景品のぬいぐるみを吊り上げる要領で三番テーブルへ運ぶ。
少女のリアクションもパーミッションも待たなかったが、信頼関係とは違う。面倒だったからだ。

『――非常に怪しいですけど多分悪人じゃないのでどうかまずはお話を……』

間抜けな絵面ではあったが、ハングド・ガールは目標の座席に対し"真上からの"着席を完了。
食い散らかされたステーキ・プレートが散乱する三番テーブルが交渉事に適するかは未知数。

「ビズの話は結構だが、首輪の鈴の残りには気をつけろ――――」

顔に火傷と引っ掻き傷の囚人服に、ドレッドを含めた装身具が過剰で手癖の悪そうな女。
ゴスロリを冒涜した眼つきの悪いロリそのいちと、棺桶にキャラ負けしているロリそのに。

『吸k…ハウスキーパーをやってます』【>>151

この中で最も人畜無害そうな男でさえ、ドレスコードを超越したホワイト・タイだった。

「――――向こうの連中は、非常に怪しい上に多分悪党だ」

156 名前: ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:03:26 0
【本編中に登場した議定書/条約/協定/しおり/式目等は全て架空の物であり、
 当該条項に反するか否かで関係者各位の選択のリスクが増減する事は無い】

157 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:13:03 0
読みにくいんだよ、引きこもり
いいからさっさと首吊るか手首切れ

158 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:14:05 0
結婚してくれ

159 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:14:25 0
まだ生きてたのかよ支障
もういいから消えろよ

160 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:15:30 0
不定期参加(笑)さん、いちいち絡んでくんな、うざいから

161 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:17:14 0
なんでブーンだけそんなに執着してんの?
いつも通り失踪すればいいのにw

162 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:18:33 0
やめろよおまえら。
師匠は治外法権だって言ってるだろうが

163 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [] 投稿日:2010/09/02(木) 23:18:53 0
板違いクソTRPGスレあげ

164 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [] 投稿日:2010/09/02(木) 23:20:24 0
治外法権か、じゃ殺してもいいの

165 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:21:57 0
ただのポエマーを一部の馬鹿が持ち上げるから
奴も図に乗るんだよ
さっさと消えればいいのに
現実からも

166 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:23:51 0
>>155
不愉快なんだよお前
消えてくれないかな

167 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/02(木) 23:25:26 0
師匠の中の人が死にますようにって毎日神社に祈っておくわ

168 名前:シノ ◆ABS9imI7N. [sage] 投稿日:2010/09/03(金) 00:36:01 0

>「――その話、僕らも詳しく聞きたいね。特に衣食住全部相手持ちってところを入念に!」
>「何はた迷惑な事してるんですか貴方はーっ!」
>「悪夢だわ。私、きっと雨に打たれたせいで悪夢を見てるんだわ……!」
>「お兄ちゃん達に近寄るな変態!」
>「な、何これ…」
>「――ああ。このままじゃ、カフェテラスがヴェイヨ・レンケネンの彫刻庭園になっちまう。
> 服が着れないなら、その小洒落たポップ・アートを残らずアクセロリクセスに放り込め。
> 明日の朝一番の航空便で生まれ故郷のフィンランドまで発送されたくなけりゃな……!!」

「わぁ・・・・・・」

謎のブリーフ集団の出現。
十人十色の反応を示す中、シノも驚きを隠せずにいた。

「す、すごぉい・・・・・・・・・・・・・・・!」

ただし、感動という意味においてだが。

「(新しいタイプのゾンビマスターでしょうか!?しかも倒れてもすぐに立ち上がるなんて並みの術者じゃありませんね!)」

しかも変に勘違いしていた。

>「あのー、本当にすいません、その、非常に怪しいですけど多分悪人じゃないのでどうかまずはお話を……」
>「……やれやれ。お前もか背徳系シスター。
> そんな格好で椅子の上に立つもんじゃない」

「ふぇ?」

一人興奮していると、ウェイターらしき男に抱きかかえられた少女がシノの隣に座る(というか座らされる)。
少しばかり気まずい空気が流れる。

「・・・・・・・・・こ、今晩は・・・」

ぺこりと頭を下げる。サイドテールの先がぺちりと顔に当たった。

>「あー、失礼。この集まりの代表の方はどちらにいらっしゃいますでしょうか。
> 私こう言う者でして、出来れば皆様の取材がしたいなと・・・。
> あ、この喫茶店の方も後で取材したいのですが・・・はい、ありがとうございます」

「? おじさん誰ですか?」

いつの間にか現れた乱入者。そして言われるがまま、質問に答える。

>「えーでは、まず・・・皆様の名前から、お聞かせ願えますか?」

「シノです!」

ニッコリと、笑顔で。


169 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 19:37:22 0
一つ目の世界の記憶は彼女が断片的に覚えて居た最も新しい世界の記憶だった。
その世界で彼女は認める事の出来ない結末を否定し、世界を書き換えた。
二つ目の世界の記憶は動乱の世界の記憶だった。
その世界での彼女の役目はアルファベットをもじった武器を作る事。武器を作り彼女は死んでいった。
三つ目の世界では異世界の抗体達が群れる戦場で人間と呼ばれる病原に向け大がまを振い、
四つ目の世界ではとある化生の蘇りとされ、
さらなる別の世界では■■・■■と呼ばれる少女は平和に学生として生きて居た。ただ女友達はいなかったが。
更に別な世界では結果的に「友に」殺され、その向こう側の世界では生贄としてその友を殺した。

そうだった。幾度となく続く演舞曲の中で彼女は役割を果たし続けて居た。
その筈だった。

「だが、最後は違った。そして、これからも違う」

なにも無い空間で響く声。
そこはなにも存在していない、ただまっ白いゼロスタートであるのみ。

「よう。」

そこで「これから」と「これまで」は邂逅する。

「よ、う……」

「しばらく見ない内に随分、えろえろな趣味になったんだなwww」

見知った影はかつての様におどける。
そう、彼女はそれが何であるか?それを知っていた。
なぜならここは彼女の歩んできた歴史の迷宮。記憶の本が無数に並び、それが本棚と化し、並んでいる。

「バッ!?これってアンタの服でしょ!?///
 そ れ よ り も !この事、知ってたんだ?」

そう、この本棚全てが彼女と言う存在が歩んできた歴史。すなわち記憶。
今、過去、未来、並行世界、別な可能性!!その全てがここには記してあり、その全てを彼女は記憶している。

「あぁ、知ってた。なんでかって?僕はね?バッドエンドは好きじゃあないのさ。
 それに、同じ事を繰り返すのにも秋田。間違えた。飽きた!!」

「はいはい。……ねぇ、一つ聞いても良いかしら?」

「ヤダ。悪いが僕にはもう発言権が無くてね。それ以前に、僕ももうすぐ消える。力にはなれない」

「だが、最後に■■、君への助言は出来るよ。
 恐れるな「世界」は常に君に味方する様に出来ている。ただそれだけさ」

「なによそれ……相変わらず答えは聞いてないんだ?」

そして、零の意識はあやふやに交わった混沌へと飲み込まれる。

170 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 19:39:36 0
「フラグは立ったな」

一体何時だろうか?まだ目覚めぬ零を見つめる萌芽に声を掛けるモノがあった。
振り返り、見遣ればソレはまるで災難の様に萌芽の世界にも浸透する。

「別の世界では世話になったね。内藤ホライゾン……いや、今は竹内萌芽。だったかな?
 最初に言っておくが、ゼロに手を出すなよ?そいつは僕が予約を入れてるんだ!そう、前の世界の頃からね!!」

ソレは影だった。姿かたちこそ佐伯 零と同じだが、まるで別物。いわゆる、ドッペルゲンガーと言う奴だ。
嘯いた影に萌芽は非難とも取れるような言葉を浴びせるが……

「ハハッ!!男は皆、乾巧って奴なんだよ!!」

ドッペルゲンガーはそう冗談めかす。馬の耳に念仏、と言う奴だ。
その影はケラケラと下品に笑いソファーに腰掛け、煙草を取り出し、そして萌芽の目を見つめる。

「いや。ね?ホライゾンには教えておこうと思ったのさ」

この状況、更に萌芽の敷いた網を簡単に破り、そう、まるでいきなりそこに現れるように現れた彼女に萌芽は興味からか声を掛けた。

「おいおい。しっかりしてくれよ?それとも魔女が珍しいのか?」

これだからゆとりはと魔女は一蹴し、足を組み、煙草を引っ張り出す。

「この娘と、お前さん。それから後、幾人かの異世界から飛ばされてきた者達。そのうち一部の存在はな、この世界に選定された者なんだ。
 とある目的でこちら側に呼ばれた者たち。しかし、世界はそれを良しとはしなかった。ゆえに世界はその目的をぶっ潰すために癌細胞を仕込んだのさ。
 そして、その癌の中でもゼロとお前さんは特別なのさ。なんせ特異点だからな。だが、優先度ではやはり過去に部がある」

過去が未来を創るんだからね?と言い聞かせるように告げる暗闇。

「だが、萌芽。君は違う。君は未来の特異点だ。だから、世界からのバックアップは受けて居ない
 それをまずは知らせておきたかった。だから、他人の痛みまで請け負うなんて無茶は止めろよ?」

気遣いの言葉だろうか?そうとは聞こえないような言い方で全てを見透かしたカミサマは助言を行う。

「そう、バックアップ。「支援」て奴さ」

「おっと、質問は聞かないよ?全部を言う事は出来ないんだ。「ブロック」されてしまうから。
 だから、君にはこっちの言いたい事だけを言わせてもらう」

そう告げ、徐々に薄れて行く影。どうやらそろそろタイムリミットらしいなと言う声もかすれている。

「あぁ、言い忘れていたよ。僕の名はN#%rl?t凵覇p。以後よろしく」

そして、新しい朝が始まった。

【状況:零 過去の会話を忘れたうえで眠っています(記憶を閉じるルート)
    萌芽 零の異常の意味「支援」について情報を得ました。】
【目的:三日目へ】

【支援について:支援とは端的にいえば目的を果たす際の補正。世界側からのバックアップであり効果のほどは非情に些細だが決定的な場合が多い。
        使用に関しては異世界人限定で、その効果は直接的ではない事が絶対条件】

171 名前:愛内檸檬斯く語りき ◇OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 00:16:53 0
むかぁしむかし、真雪ちゃんがまだ小学校にも上がっていなかった頃。

その日、真雪ちゃんは近所の子からいじめられていました。
悪戯をした小学生の子達の嘘を見破って、その子達が怒られてしまったからです。

「ひっく、ぇぐっ…まゆき、わるくないもん、わるくないもん…ふぇえ…」

泣きながら、自分は悪くないと主張します。
左膝の擦り傷が痛いのでしょう、立つ様子はありません。
そんな彼女に、手が差し伸べられます。

「君、大丈夫?」

その男の子は真雪ちゃんの傷を手当てし、ベンチに座らせました。

「大丈夫だよ、僕がいる。僕が、君を守ってあげるよ。」

彼は笑ってそう言いました。真雪ちゃんは嬉しかったみたい。
名前を聞かれて、答えて。
お家に帰る時間になりました。

「あー、かえらなきゃ…」

「そうか、じゃまた会おう。でも、いつでも僕は君を見ているよ。」

「うん! やくそくよ、またたすけてね!」



ここまでが、真雪ちゃん自身から聞いたお話。
その後、真雪ちゃんはずっと待ってたんだって。ずっと、ずっと。
ちゃんと助けてくれる筈だって、寡頭くんは約束を守ってくれる筈だって、そう信じて…。

それでも彼は来なかった。所詮口約束だったのね。
相談されたからそう答えたら、真雪ちゃんは豹変した。

「もういらない、いらない! まもってくれないかとうくんなんか、いらない!
まゆきもまゆきのやくそくもまもってくれないなら、かとうくんなんかいらない!」

小さな頃から真雪ちゃんはこんな性格だったのね。
…私はこの台詞をずっと覚えてる。だって、「約束を守らないならお前は要らない」この思いだけで、あの子は…


私のお父さんを殺したんだ。







真雪ちゃんはあの朝の約束を聞いていたみたいだったけど、あの中国人『李飛峻』は約束を守るかしら。
そして真雪ちゃんは、いつか彼を要らないって、殺すかしら。


172 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 00:17:48 0
「大火傷を負ってた娘ね、生きてるよ。まだちょっと痕が残ってるけれど、それもじきに消える。
今は上で寝てるよ、後で会いに行ってみればいい」

真雪は安堵の溜め息を吐く。
その言葉に嘘は無いようだし、取り敢えずは信用して良いだろう。

「そう言えば」

朝日の言葉に真雪は視線を上げる。彼は不思議そうな顔をしていた。

「キミ、どこで彼女と知り合ったんだい?だってあの娘は……。
……ああ、ごめんごめんキミは“向こう側”の人だったね。配慮に欠けていた。謝るよ」

「……はぁ…?」

“向こう側”。その言葉が意味する事象は何だろうか。真雪は考える。

一昨日―――今気が付いたが、壁に掛けられて居る時計が朝であることを示していた―――
尾張に会ってから、真雪の周りには不思議な事ばかり起こる。
萌芽や飛峻に出逢ったこと、BKビルでの出来事。昨日まで、真雪は日常と非日常の間に居た。

(じゃあ、今はもう非日常なんだ…)

今も続く意味が分からない頭痛、いつの間にか居た訳が分からない部屋。
きっともう、日常には帰られないのだろう。

「まあ過ぎたる事はなんとやら、だ。
後は何か質問はあるかい?
あ、そう言えば。李くんや尾張くんはともかくとして、真雪くんは完全なるパンピーだからね。日々の生活を侵
害するようなアブナイ情報を聞きたくないようなら、先に言ってくれるとありがたい。聞かせないようにするか
らさ」

名前を呼ばれた気がして再び視線を戻す。しまった、全く話を聞いていなかった。
様子を見るに、出された質問に答え終えて新たな質問は有るかと訊いているのだろう。

「さて。もし質問が無いようなら、本格的に今後の身の振り方の相談といこうか。
君たち二人、“異世界人”の方針をはっきりさせなくちゃ。
もっと俗な話なら、真雪くんは家族に無断で外泊した事になるからね。そこら辺、いろいろ注意深くならなくち
ゃいけない」

その言葉で気が付き、真雪はポケットから携帯を取り出す。
画面に出ている着信履歴はいずれも同じ日。発信元は月崎家と、両親から。
力無く笑って、何事も無かったように携帯をしまった。

(身の振り方、ねえ…)

突然言われても、ピンと来ない。今まで流される様に行動していたのだから当たり前だ。

(まず、私は何がしたいんだろう…?)


173 名前:月崎真雪 ◇OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 00:19:34 0
昨日、尾張や兔や萌芽に会って話を聞いた時点で、真雪の目的は達成してるのだ。
後ひとつ、『自分の能力や異世界人に出逢った意味』については、
漠然とし過ぎて目的とは言えないだろう。

(今、私に有る目的は…)

置いて行かれたくない、独りになりたくない。ただそれだけ。

(ダメだ、こんなんじゃそれこそ置いてかれちゃうよ)

流される内に見える目的も有ると言うが、今まで流されていたのだ。
それで見つからないのはどうなんだろうか。

(そもそも、独りになりたくないって言う思考がどうにかしてる気がする…)

そうだ、今は飛峻や尾張が居るが、彼等は“異世界人”なのだ。
いずれ帰ってしまうし、帰らねばならない筈。
ならば、彼等が居なくなった後でも続いていく何かを見つけなければ。
思考の糸口を見つけた真雪は一旦顔を上げた。
ならば、真雪の目的は心の中に有る。





【真雪:取り敢えず二人の発言待ち
目的1:自分の能力を『穏便』に、日常が『改善』するような方法で消滅させること
目的2:孤独にならないこと】


174 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 01:42:20 0
>>139,>>140,>>144,>>146,>>150,>>155,>>168

>「――ああ。このままじゃ、カフェテラスがヴェイヨ・レンケネンの彫刻庭園になっちまう。
  服が着れないなら、その小洒落たポップ・アートを残らずアクセロリクセスに放り込め。
  明日の朝一番の航空便で生まれ故郷のフィンランドまで発送されたくなけりゃな……!!」

給仕に来たのか制止に来たのか定かじゃないが、タチバナは林立する自身の向こうに見知った顔を見る。
BKビルではぐれたウェイターだった。ところどころ傷だらけで、かつ疲弊の見て取れる表情をした彼は、それでも弁舌滑らかだ。

「やあ、待っていたよウェイター君。ここマルアークは君の生息地。これだけ大量の餌《突っ込みどころ》を引っ提げて来店すれば、
 皐月くん以上の突っ込み属性をもつ突っ込み職人の君ならば必ず食らいついてくると信じていた。釣果は期待以上の……いやはや大漁だね!」

言う傍で、量産型タチバナの一人が幼女に股間を責められていた。

>「お兄ちゃん以外の変態は死ね」

>「本当にその通りですごめんなさいっ!」

「ははは君、世の中に変態がいなかったら年二回有明ビックサイトで開催される祭典はそこまで隆盛を誇らなかったという話だよ。
 そんな経済流通の一端を担う人種が死滅したらああもう!この国に待っているのは緩やかな衰退さ。――僕は変態じゃないがね」

それはもう、虐められていた。虐げられていた。むしろ虐殺である。世の男性諸兄が夢想するような『愛のあるいぢめ』ではなく、
殺意の篭った痛恨の連撃だった。タチバナ(その23)はたちまちHPを0にされて死亡した。タチバナ(その38)がザオリクを唱えた。生き返った。

>「性的暴行及び殺人は"まるあーくよいこのしおり"の"してはいけません"の項を開け。
  ―――お着替えの時間を守れないバッド・ボーイズは、後で反省レポートを提出するんだ」

「なんと。そろそろ寝間着に着替える時間じゃないか」

《げっ》

「あれ、タチバナさんパジャマとか着るの?服着ないで寝るイメージしかないけど」

《そのしつもんはだめ〜〜っ!!》

「よく聞いてくれたゼルタ君。僕も以前までは全裸就寝派だったんだがね!最近インターネットショッピングにて
 これを購入したんだ。寝汗をよく吸い取り、かつそのまま風呂にも入れるという優れもの!」

「あーわかった!水着でしょ、それもビキニ型のピッチリしたやつ!うん、まあ常識的に考えてないけどそこまで……」

「スクール水着(女児用)だ」

「何ィィィィイィィイィィィィイイイイイイッッ!!!???」

《つっこみきれなくてキャラほうかいしたーーーっ!?》

「不甲斐ないねゼルタ君。やはり突っ込み歴半日の君では荷が勝ち過ぎたか。皐月君やウェイター君を見給え。
 前者はオーソドックスな『テンション高め突っ込み』、後者はジョーク風の『シュール突っ込み』。
 ウェイター君のそれは突っ込みがそのままボケにも転ずるという高等テクだ。いやはや同慶の至りだね?」

《うらやましいんだ?》

「打てば響くという意味での突っ込みと言えば皐月君だが、ウェイター君はその突っ込みにすら突っ込みを重ねてくるね。
 そしてさらにそれを皐月君が突っ込むことで一種の永久機関《ノイマンズドリーム》が完成する」

「……その話に中身はあんのか?タチバナ」

「良い質問だミーティオ君。有り体に言うなら――閑話休題さ。それじゃあそろそろ時間軸を本編に戻そうか」

175 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 01:43:18 0
一方そのころ本編ではッ!
タチバナ(その29)が殉職していたッ!!

囚人服を着た長身の男が、何の躊躇いもなく食卓のナイフをタチバナへ叩き込んだのだ。
この痛恨の一撃はクリティカルヒットに至り、オーバーキルでタチバナ(その29)は即死した。
タチバナ(その38)がザオリクを唱えようとしたがMPが足りなかったのでザオラルとベホイミで代用した。

>「あのー、本当にすいません、その、非常に怪しいですけど多分悪人じゃないのでどうかまずはお話を……」

「君は本当に僕の死に対して耐性がついたね皐月君……」

初期の彼女ならば必死こいてでもタチバナを延命しようとしたのだろうが。
そんな、人前で平然と放屁するようになった結婚五年目の伴侶を見るような生暖かい視線を、しかし皐月へ送れない。
気付けば首筋にナイフを当てられている。囚人服の男が、まったく知覚できない速さでタチバナ(本体)を制圧する。

>「……………………『ゲーム』ニ、参加シタイノカ?」

男はニヤリと笑った。
タチバナは無表情のまま、鷹揚に頷いた。

「君はその『ゲーム』の発起人に口利きができるようだからね。是非とも僕らもあやからせて欲しい」

囚人服はタチバナから離れると、椅子に身を沈めた。
タチバナを討ち取った幼女も、猫を伴って男の膝上にもどっていく。

>「ルールハ単純、コノ『白髪の少女』ヲ見ツケ出シ、発案者ノ元ヘ連レテイクダケ。簡単ダロウ?」

メモに書かれた似顔絵は、タチバナの知らない幼女。
『ゲーム』とは人探しゲームのようだった。すなわち、この街のどこかに潜伏しているこの幼女を誰が先に発見できるか。
それで成功の如何に関わらず衣食住は保証してもらえるのだから、

(見つけても敢えて連れていかず匿って、ゲームの進行を遅らせるのも手か……その間はずっとタダ飯だからね)

「うっへえ、タチバナさん、これなんかヤバげな雰囲気じゃない?不特定多数の食い扶持を保証できるような
 財力のある人間……組織かもだけど、それが一人の女の子を血眼で探すなんて」

「尋常じゃあない。――その通りだゼルタ君。だからこそ、『真実を見極める』為にこの件に関わるのもアリなのだよ。
 場合によっては僕らが独断的かつ独善的にこの少女を保護できる。――衣食住はそのままにね!」

《やっぱそっちがねらいか!》

タチバナ達が『ゲーム』への参加如何を議論していると、量産型タチバナの衆人環視をかき分けて一人の男が入ってきた。

>「あー、失礼。この集まりの代表の方はどちらにいらっしゃいますでしょうか。
  私こう言う者でして、出来れば皆様の取材がしたいなと・・・。
  あ、この喫茶店の方も後で取材したいのですが・・・はい、ありがとうございます

渡された名刺には『長多良 椎谷』と癖のないゴシック書式で印字されていた。
職業はフリーランスのライター。タチバナ達を嗅ぎつけてきたあたりゴシップ系の記者なのだろう。

>「えーでは、まず・・・皆様の名前から、お聞かせ願えますか?」

「僕はタチバナ。地元では『超絶必殺暗黒魔竜タチバナ』と呼ばれているよ」

>「聞こえなかったのか? 店内でのナンパ行為はマルアハ条約違反だ。
 ―――名刺を受け取るのは勝手だが、インナーに仕舞うんじゃない!」

流石のウェイターの突っ込みも、渡された名刺を一斉にブリーフの中に仕舞い込むタチバナ達には焼け石に水だ。
長多良は胸のレコーダーらしきもののスイッチを入れると、タチバナ達へ次々に質問を投げかけた。

176 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 01:44:05 0
>「何歳ですか?」

「17歳と2200日を過ぎたところだね」

>「ではお仕事は?」

「フリーランスの社会人をやっている」

《人はそれを?》

「――無職と言うね」

>「この社会の害悪め・・・失礼、つい思った事が口に出ました」

「失敬な。無生産市民は市政の華じゃないか。第五次産業(在宅ネット監視業)従事者の数は裕福さのバロメータだからね」

>「今日は何処からお越しになられたのですか?」

「精霊指定都市SENDAIからさ――んん?」

滑らかに答えを口から放り出して、しかしタチバナは違和感に口を詰む。
タチバナも異世界人である以上、見るからに一般人である長多良には出身を偽るつもりでいた。
余計な疑惑を背負い込む愚策は避けたかったし、何より正確な出身を述べて通じるとも思わなかったからだ。

(今の『答え』は……僕の意志か? なにやら意識のストッパーを素通りして出てきた気がするが)

既に文明の術中にあるタチバナにとって僥倖とも言うべきは、『精霊指定都市SENDAI』というネーミング。
同音異字の都市名が、この世界にも存在するということ。

(酔いが廻っているのかな?ともあれこれ以上詮索されて余計なボロが出ないとも限らないね)


177 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 01:45:14 0
長多良の質問が一通り終了するのを見計らって、タチバナは手を叩いた。

「さて諸君、そろそろマルアークもラストオーダーだ。僕らは会計を済ませてしまったし、あまり長居をするのも良くない。
 知り合いの飲食店アルバイトは『閉店間際まで居座る客マジ殺したい』が口癖だったからね。ともあれ――」

ハルニレへと向き直り、

「今夜の宿はどこかな?明日から少女捜索に加わるとして、この人数でぞろぞろ歩いても効率が悪い。二手に別れよう。
 この街は広いからね、マルアークの向かいに聳える駅の向こう側とこっち側のどっちを探すかで丁度チームを分割できそうだ」

この街は大都市だけあって巨大だ。故に駅向こうとこちら側は完全に断絶し趣の異なる街並みを築いている。

マルアークのあるこちら側は比較的新しい新市街。高層ビルが並び若者が闊歩している。BKビルもこっちだ。
駅向こうは昔ながらの街が広がる旧市街。高級住宅街や寺社仏閣、大きな公園もある。車通りが少なくて静かな街だ。

「分けるのはいいけどよタチバナ、そこのロリ同士のチームとかできちまったらどうすんだ」

「その場合は責任ある大人たる僕がだね」

「却下だな。ハルニレっつったか?保護者のあんたが――痛ぅっ」

喋っていたミーティオが突如目頭を押さえて顔を顰める。

「おや、頭痛かねミーティオ君」

「わかんねーけど、BKビル出てきたときから時々鼻の奥が痛くなるんだ。すぐ治るから気にしてねーけどな」

「養生したまえよ。なにせこれから――頭痛の種はばんばん増えるからね!!」

《はんせいしろよーーっ!!》

閑話休題。とタチバナは区切り、皆へと結論を配布した。

「宿へ向かう道すがら、明日新旧どちらの市街へ向かうチームに入るか各自決めておいてくれ。
 僕は――そうだね、人数の少ない方に入ろうか。ライター君も引き続き密着取材をしてくれ給え。克明に僕らを記録するんだ」

マルアークを辞した休鉄会と囚人服――ハルニレと名乗った男の集団はぞろぞろと夜の街を行く。
新市街の眠らないコンクリートジャングルは、彼らの足跡をそっと照らしてすぐに掻き消した。


【新市街と旧市街で探索のチーム分けを提案。今夜はもう遅いので提供された宿へ】
【伏線その1:『稚児の自爆』の術中にはまり始めている
   その2:ミーティオ君に仕掛けられた爆弾。まだ時間的には大丈夫?】
【休鉄会名簿変化なし】

178 名前:葉隠 殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 04:07:56 0
「バイバーイ!」

母親と再会したため悪戦苦闘した子供の世話から解放され
手を繋いだ兄妹が母親の近くで手を元気よく振り別れの挨拶をしていた。
その安堵し、子供達を見やる母親と楽しそうに手を振る子供達の様子を
目に焼き付ける。そしてもう一度いや何度も再認識する
自分はこの親や子供達の絆―――繋ぐ手を二度と離させないためにも
軍人となり―誰かを守る者になったのだと。
毎度思うのだからやはり死ぬまでこの考えは変わらないだろうと思う。
内心、そんな自分に呆れながら

「忘れるものか……絶対に忘れるつもりなどない」

小さく呟きながら力一杯敬礼をする。
手を引かれた子供達の後姿が消えるまで続けた

「さて…とりあえず帰ることとしようか」

公文が用意した車を待たせていたので、その車に乗り込むと
ばぁぼんハウスへと向かう。


ばぁぼんハウスへの帰還への最中、車の窓から外の景色を見ていた
相変わらず雑多としており自分の世界ならば
この場所は人類の宿敵である神達の格好の狩場となっているだろう
と考えながら少しぼーとしながら眺めていたが―――

突然、ザラっとする感じと覚えがある瘴気に肌が粟立つ
その瞬間、即時に車を止めさせる

「ここで止めろ。少し用が出来た先に帰っていてくれ」

素早くドアを開けて人混みの中を一生懸命見ていると
見覚えのある神父服を着た黒人の男がこちらを見ていた
そして自分が気が付いたと分かったのか背を向け、何処かへと歩みだす
男を見失わないようにそこから必死になって駆け出した。



179 名前:葉隠 殉也 ◆sccpZcfpDo [sage] 投稿日:2010/09/05(日) 04:57:23 0
追いかけていく内に廃墟となった教会に入っていく
そして朽ち果てた聖堂で黒人の男が一人
あちこち欠けているキリスト像を見ていた
ギシギシと鳴る木製の扉を開けて自身も足を踏み入れた
そのまま歩みながら近づくと神父はゆっくりと振り向く
そして完全に振り向くと姿が変わり黒い少女趣味の服を着た少女が
そこに居た。

「…なぜこの世界にいるナイアラトホテップ!!」

その言葉は相手の本質を突き暴く言葉であり、その醜い本体を現すが一瞬で少女に戻る
少女はその様子に動じず、むしろ嬉しそうに

「あら、嬉しいわね私の名前を言ってくれる人間が居てくれるなんて…
でも私は彼の貌の一つで今はちょっと特殊な人間のようなものよ」

その言葉の意味を理解できなかったが、少女は承知していたようであり
説明を始める。

「早い話が力の大半を取り上げられちゃったのよ、なんかつまんないから
平行世界全ての貌に喧嘩吹っ掛けたんだけど、結局負けちゃってね
力を取り上げられてこの世界に追放されちゃったのよ監視付きでね」

まるで他人事のように笑いながら自らの境遇を語る彼女は
やはり自分の世界を蹂躙した存在と似ていた。
自分でさえ無関心――共通点が一緒だからだ

「…貴様の目的はなんだ?」

本題を切り出すとこれ以上詮索しない事につまらなそうな顔をして
口を開く。

「せめてこの世界での名前ぐらいは聞いてくれても良いのに…
まぁいいわ、本題に入りましょうあなたはこの世界が歪だと思わないかしら?
多数の世界から異世界人を呼ぶ…これでも十分歪だけどそれ以上にこの世界は歪なのよ」

「何を言っている?」

「これ以上は言えないわね制限に引っかかるから言えるギリギリの事が一つ…図書館に行きなさい
私の貌の一つを倒したのだから分かたれた内の一つの世界の本来の姿を知っているのだからね…」

その言葉を最後に最初から居なかったように消えてしまう何の痕跡も無かったように
彼女は何を伝えようとしていたのかはそしてその情報が信用できるものかすら分からないが
わざわざ姿を現したのだその言葉を信じてみても良いのかもしれないと思い始めていた
その情報を与えてくれた相手が少し癪に触ったが。

【かつての宿敵のお陰で目標が出来たようです】


180 名前:長多良椎谷 ◇Zb4I7XyuC6 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 00:00:45 0
さて、突然だが私は現在幾つかの文明を所有している。勿論違法所持だ。
とは言えバレなければ持っていないのと変わらないので特に問題は無い。
今回は複数ある私の文明の内一つを、ピックアップして紹介してみようと思う。
心情描写が何処となくドキュメンタリー風であるのは職業柄である。

ご紹介するのは私が今掛けているこの伊達眼鏡、【真っ赤な秘密】だ。
ドキュメンタリーではなく通信販売の宣伝文句の冒頭みたくなってしまったが構わず続けよう。
この文明は何とレンズを通して見た人間が抱えている秘密の度合に比例して、相手が赤く染まって見える優れ物なのだ。
街を歩いていると視界のあちこちに原色に染まった人間が点在する為非常に目に優しくないのも特徴だ。
だがネタと言う物は何処に転がっているか分からないし、それを補って余りある程にこの文明は便利である。

実際この喫茶店とブリーフ四十六鬼夜行も、この文明のお陰で見つけた訳だ。
このブリーフ野郎共が鬼と言うよりは悪夢を誘う夢魔であり、何より夜行ですら無いと言うツッコミは受け付けない。
ツッコミ所を自分で先んじて埋め立てる事で相手のツッコミを封じる高等技術である。
覚えておいて損は無い。まあ他人が無償で得をすると言う事は私にとっては損であるので誰にも教えるつもりも無いが。

しかし、おかしな話だ。
私の持つ【真っ赤な秘密】とはまた異なる文明、【稚児の自爆】を先程仕掛けた彼らの事である。
なおこの状況においては「可笑しい」でも意味が通じてしまうので補足するが、「不可解」と言う意味でおかしいのだ。
私は彼らに名前や年齢、仕事に出身地と……割りとどうでもいい質問ばかりをした筈だ。

だと言うのに何故、彼らは嘘をついている?

【稚児の自爆】自体に相手が嘘をついたかどうか、つまり効果がちゃんと発動したのかを確かめる機能は無い。
無いのだが、【真っ赤な秘密】が見せてくれる彼らの姿は回答を重ねる度により濃厚な赤に染まっていった。
職業の段階で変化する人間もいれば、名前の時点で既に変調を示した人間もいた。
明らかに、おかしい。いや……これは最早、異常と言うべきだ。
名前も、年齢も、仕事も、出身地も明かせないだと?

……スクープの匂いがするじゃないか。

>「わかんねーけど、BKビル出てきたときから時々鼻の奥が痛くなるんだ。すぐ治るから気にしてねーけどな」

鉄パイプの女性が言葉を伴い歩み出るに伴い、何故か私の足は一歩後ずさりをした。
そう、私の意思に反して……だ。これはまさか。

「失礼ですが、そちらの女性……確かミーティオ様でしたか?前触れもなく凶暴化して人に噛み付くような持病をお持ちだったりはしませんよね?」

「……さぁどうだろうな?目の前のいけ好かない面をかち割りたくなる病気なら今まさに発症しそうなんだがな」

181 名前:長多良椎谷 ◇Zb4I7XyuC6 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 00:02:35 0
冗談だ。私の質問もそうであるが、彼女の返答もである。
何せ、「私の革靴が何も反応を示さない」のだから。
そう……何を隠そう私のこの革靴、実はこれもまた文明なのだ。
その名も……と言っても私が名付けたのだが【逃走本能】(バイバイハザード)だ。
例によって売人のクズ野郎はネーミングセンスが欠如しているなどと抜かしていた。
社会の害悪め、死んでしまえ。死ぬ前に私が使えそうな文明は譲って欲しいものだが。
ともあれこの【逃走本能】だが、効果は至って単純。
自分にとって危険な物を察知して自動で逃げさせてくれるのだ。
となれば彼女が実は私を冷酷無慈悲なる鉄パイプで打ち据えんとしていたと言うのが、先の【逃走本能】発動の順当な解なのだが。
思いの外彼女は常識人のようであり、何よりさっきの私はまだ殴られるような発言をしていた訳でもない。まだ、であると言う自覚はある。
となると、彼女に一体何があるのか。
考えられるのは接触、飛沫、飛沫核のいずれかが感染経路となる感染症だろうか。
はたまた、実は彼女の体内に爆弾でも埋め込まれている……等と言うのは流石にフィクションの見過ぎだろうか。
いやいや、記者たる者自分から事実の可能性を狭めてどうすると言うのだ。
さて、とにかくだ。詰まる所現状はこう言う事になる。

彼らは秘密を抱えていて、私は彼らのお仲間が何らかの密やかなる危機を抱えている事を知っている。
ならば私がすべきは、一つしか無いだろう。

まずは……とっておきの営業スマイルからだ。

「率直に申し上げますが……皆様方は、嘘をついていますね?実は私……余り大きな声では言えませんが、文明を持っておりまして。
 おっと、この事で私に脅迫を試みるのはやめた方がいい。徒労に終わるのが目に見えていますし、
 皆様方も恐らくは親方日の丸に寄り添えるような堅気ではないでしょうからね」

さっきのやり取りを見るにあのハルニレとか言うロリコン野郎が一番手っ取り早い手段で
口封じをしてきそうだが、残念ながら私にはこの【逃走本能】がある為特に問題は無い。ざまあみろロリコン。

「とは言え、私もまたその事で貴方達を脅迫するつもりは無いのですよ。私が望むのは……そう、ただの取引です。
 私は記者ですからね。貴方達のお友達の誰かに関する……致命的かも知れない情報を持っておりまして。
 その情報と、皆様の秘密を交換しませんか?」

誰がその情報に関わるのかは教えない。個人が特定出来てしまったら検査なり何なりで、私との取引に応じず看破出来てしまうかも知れないからだ。
また致命的かも知れないと言う事は、致命的でないかも知れないと言う事でもある。
その辺はまあ、彼らとて分かっている事だろう。

「信用なりませんか?ですが私はあえて言いましょう。信用して下さいと。
 何せ私は記者ですから。信用を失ってはやっていけませんのでね。あぁ、でも回答は出来れば急いでもらいたい所です」

街を歩いていたらあまりにも真っ赤な連中がいたのでつい立ち寄ってしまったが、

「実は私、今日は用事がありまして。取材の予定を前倒しして欲しいと言われてしまいましてね。三浦啓介氏、知ってますよね?
 まったく彼は気紛れでいけない。やっとの事で頼み込んだ取材を反故にされては堪らないので、さあさあどうぞお返事を。
 急いで下されば彼のサインくらいは頼んできますよ?お会いするのは、まあ多分無理でしょうけどね。知り合いとかならまだしも……ねえ?」

(ミーティオの爆弾を逃走本能で察知。詳細は明かさず、タチバナらの秘密と交換条件を提示。三浦啓介の名を口に、チーム分けの基準にでもなれば)


182 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 01:07:52 0
>>155
>「……やれやれ。お前もか背徳系シスター。
> そんな格好で椅子の上に立つもんじゃない」

抱きかかえられた。
運ばれた。
降ろされた。
以上、3行で表す皐月さんの現在の状態。

「……っ、背徳系だとかそれ以前に婦女子の腰に無断で触らないで下さいっ!」

しかしそれに対しては何処吹く風で、彼は更に続ける。

>「ビズの話は結構だが、首輪の鈴の残りには気をつけろ――――」
>「――――向こうの連中は、非常に怪しい上に多分悪党だ」

ごめんなさい。
怪しいのは、一目でわかりました。

「というか、他に何かいう事は無いんでしょうか……心配かけたとか、黙って居なくなって悪かったとか……」

そういうモラルを求めても無駄な人なのは、一日少々の付き合いでよくわかっていたので、ぶつくさと呟くだけだったが。

閑話休題。



>>147
>「……………………『ゲーム』ニ、参加シタイノカ?」

タチバナの首に突きつけられるステーキナイフと、見たことの無い人。
台詞が片言なのが、逆にこの場でそれが脅しでないとわからせる空気を出していた。

>>175
>「君はその『ゲーム』の発起人に口利きができるようだからね。是非とも僕らもあやからせて欲しい」

タチバナは乗り気のようだし、少なくともこの状況で別行動を取るのは得策で無いように思えた。

(まだ使えませんし……ね)

喉元のロザリオをもてあそびながら、様子を伺う。
要約すると、一人の女の子を見つけ出して連れて行く、という事らしい。


183 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 01:08:52 0
>>144
途中、現れた記者を名乗る男の質問に、周囲の変態達(一まとめ)が答えていく。
その矛先が自分にも向いたので、反射的に答えてしまった、が。

>「えーでは、まず・・・皆様の名前から、お聞かせ願えますか?」

「へ、えーっと、五月一日・皐月です」

>「何歳ですか?」

「14歳です」

>「ではお仕事は?」

「中学生で、普通のシスターです……」

>「今日は何処からお越しになられたのですか?」

「登校中に気がついたらここにいたんですよぅ……」

皐月は欠片も知る由は無かったが。
年齢以降の二つの質問の答えに関して、目の前の記者の持つ眼鏡型の文明は確か反応していた。
鮮烈な真紅へと。

184 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 01:09:45 0
それから、記者は耳打つ様にタチバナと……相手の代表者だろう、二人に何かを語り始めていた。
交渉かそれに類する物だろうが、首を突っ込んでも仕方ないと思って、特に耳を立てるような真似はしなかった。

記者とタチバナ達がなにやら話を終えた後、休鉄会は彼らの言う『ゲーム』に参加する事になるらしい。
ただ、その点についてぽつりと疑問が沸く。

「あの、その女の子、連れて行ったあとはどうするんですか……?」

つい先ほど、銃弾やら文明やらが飛び交う空間に居た事で、多少なりとも『現状』がどういうものか把握している。
少なくとも、ウェイターの言葉をそのまま鵜呑みにするわけではないが、彼らがその少女を見つけ出して何をする気なのかがわからない。

だが、タチバナの言葉にそれは遮られた。

>「さて諸君、そろそろマルアークもラストオーダーだ。僕らは会計を済ませてしまったし、あまり長居をするのも良くない。
> 知り合いの飲食店アルバイトは『閉店間際まで居座る客マジ殺したい』が口癖だったからね。ともあれ――」

>「今夜の宿はどこかな?明日から少女捜索に加わるとして、この人数でぞろぞろ歩いても効率が悪い。二手に別れよう。
> この街は広いからね、マルアークの向かいに聳える駅の向こう側とこっち側のどっちを探すかで丁度チームを分割できそうだ」

確かに、その理由を聞くのは明日でもいいだろう。
ただこの人数を収容できる場所があるとは思えないので出来れば誰かに間引いて欲しい気分だった。

>「宿へ向かう道すがら、明日新旧どちらの市街へ向かうチームに入るか各自決めておいてくれ。
> 僕は――そうだね、人数の少ない方に入ろうか。ライター君も引き続き密着取材をしてくれ給え。克明に僕らを記録するんだ」

「正直土地勘が無いのでどっちでもいいですけど……どっちかといえば新市街かなぁ……見る物多そうですし……というか私完全に足手まといじゃありません?」

       、 、 、、 、 、 、 、 、
出来れば保険をかけておいたミーティオやゼルタの傍に居たくもあるが、それは追々決まるだろう。
ともあれ、やるべきことは決まったらしい。
彼女の長い二日目は終わった。
そして三日目が始まる。

【心は新市街地拠り】
【結晶→0】

185 名前:シノ ◆ABS9imI7N. [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 01:12:28 0
>「さて諸君、そろそろマルアークもラストオーダーだ。僕らは会計を済ませてしまったし、あまり長居をするのも良くない。
  知り合いの飲食店アルバイトは『閉店間際まで居座る客マジ殺したい』が口癖だったからね。ともあれ――」
>「今夜の宿はどこかな?明日から少女捜索に加わるとして、この人数でぞろぞろ歩いても効率が悪い。二手に別れよう。
  この街は広いからね、マルアークの向かいに聳える駅の向こう側とこっち側のどっちを探すかで丁度チームを分割できそうだ」

その言葉に続くように、全員席を立つ。シノはその動きをボーっと見つめていたが、慌てて立ち上がり、棺桶を担ぐ。
ホテルに向かうハルニレ達の後ろを着いていくシノ。さながら、母親の後を着いていく子アヒル。

>「却下だな。ハルニレっつったか?保護者のあんたが――痛ぅっ」

「えっと・・・・・・・大丈夫ですか?」

突然顔を押さえたミーティオに、シノも不安そうに声をかける。

>「わかんねーけど、BKビル出てきたときから時々鼻の奥が痛くなるんだ。すぐ治るから気にしてねーけどな」

>「失礼ですが、そちらの女性……確かミーティオ様でしたか?前触れもなく凶暴化して人に噛み付くような持病をお持ちだったりはしませんよね?」

>「……さぁどうだろうな?目の前のいけ好かない面をかち割りたくなる病気なら今まさに発症しそうなんだがな」

「け、喧嘩はいけません!『汝、隣人を愛せ』と主が仰って・・・・いま・・・・・・・ごめんなさ・・・ぁぅ」

今にも掴みかかって喧嘩しそうな二人を仲裁しようと間に入る。
しかし、二人の視線と剣幕に負け、口をつぐんだ。

「(はぁ・・・・・・私の弱虫・・・・・・)」

俯いてとぼとぼと着いていく。長多良達の話は完全に聞いてなかった。
軽い気持ちでチラリ、とゼルタを見る。彼女もまた、肉体を持たない者だった。
だが、今のシノにはどうでもいいことだった。 強いて言うなら、「この世界の魂ってこんなに濃いものなの?」程度の認識だった。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ホテルに着き、皆がみな、チーム分けについて思案していた。
シノは黙って【塔】のカードを見ていた。
ニッコリ笑ってこちらを見る少年を黙視していたが、突然名案を閃き、勢いよく立ちあがる。

「あ、あの!カードで決めるのはどうでしょうか!?」

全員がこちらを見たので、「ぁ、あの・・・」と少しまごつぐが、キッと顔を上げる。
エプロンのポケットから、カードの束を広げ見せる。 全て、タロットカードだ。

「このカードに書かれた数字で、チームを分けませんか?奇数なら旧市街地、偶数なら新市街地という具合で!」

そう言うと、天井に向かってカードの束を放り投げる。カードは紙吹雪のように舞い、バラバラと降り注ぐ。
殆どのカードは床に落ちたが、人数分のカードだけが、室内にいた全員の手にすっぽりとおさまった。

「皆さんが掴んだカードは、どれもカードの運命(さだめ)によるものです」

シノが掴んだカードは、【吊られた男】のカード。
男の代わりにシノに瓜二つの少女が吊られた、13の数字が書かれている。

「さあ、皆さん。カードを捲ってください」


【ターン終了:タロットカードでチーム分けしましょー!】

186 名前:長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 01:14:47 0
そう言えばまだ二日目である事を失念していました
「明日は取材があるから朝が早いんですよ」ってな感じに脳内補正お願いします

187 名前:シノ ◆ABS9imI7N. [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 01:27:41 0
【修正
>男の代わりにシノに瓜二つの少女が吊られた、13の数字が書かれている。

12番目ですごめんなさいorz】

188 名前:皐月 ◆AdZFt8/Ick [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 01:36:55 0
>>185
>「け、喧嘩はいけません!『汝、隣人を愛せ』と主が仰って・・・・いま・・・・・・・ごめんなさ・・・ぁぅ」

途中で台詞を止めた、恐らく自分より年下であろう少女の肩に、皐月はぽふりと手を置いた。

「なんだか、とても気が合いそうです……大丈夫です、主は貴女の行いを見て下さってますよ」

そして仲裁を聞かない二人には何か罰でも下ればいいのに、と素で思ったが、口には出さなかった。



ホテルについて(想像していたよりは上等だった)、一同に解したその場で、シノが言う。
>「あ、あの!カードで決めるのはどうでしょうか!?」

彼女が取り出したのはタロットカード……大アルカナ22枚、それをばっ、と上に放り投げた。

「わっ」

どういった仕組みかわからないが、無警戒だった皐月の手に収まるように、タロットが落ちて来た。

>「このカードに書かれた数字で、チームを分けませんか?奇数なら旧市街地、偶数なら新市街地という具合で!」
>「皆さんが掴んだカードは、どれもカードの運命(さだめ)によるものです」

皐月の手に飛び込んできたのは18番……『月』のカード。
それも、裏向きだった。

「……!!」

カードの意味は……隠れた敵・幻想・欺瞞・失敗、そして逆位置の意味は

『過去が蒸し返される』

「……っ」

奥歯が鳴るのを押さえられず、皐月の眉間が一瞬険しく寄った。

(……偶然、ですよね。 そう、単なるぐーぜん、『五月一日・皐月』に『月』が来るなんて面白いじゃないですか、あははー)

笑えない。
それでもつまらない冗談は、心に入った皹を静めるのには十分だった。

(だけどコレがもし、意図的に……あるいは何らかの要素で、必然的に私の手元に来たのなら……)

皐月はシノをちらりと見て、軽い微笑を向けながら。

(この子の傍から離れない方が、いいですね)

「えっと……18番、『月』のカードです」

【タロットは18番、月のカード】
【トラウマ誘発】

189 名前:弓瑠 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 02:18:23 O
変態への罵倒は止む。
股間への暴行も止む。
そして少女は幽霊の男に抱き付いた。

長多良の言葉をあまり聞いていなかった弓瑠はハルニレの手を握り歩いていた。
そして我らが城へと帰るのである。
タチバナ…いや、変態が居るのは不安であったがハルニレが良いと言うのであれば仕方無い、と腹をくくる。

話半分に言葉を聞き流し欠伸をする。
と、ハルニレばかりを眺めていた彼女の手に何かが落ちてきた。

「タロットカード…」

そう、それは弓瑠の言う通りタロットカードであった。
少し驚きながらマジマジとそれを見る。
そこに描かれているのは死神。
数字は「13」である。

「死神の、正位置」

終末、破滅、離散、ネガティブな言葉の羅列。
死神であるが故に致し方無い。

「私の神様はそんなにネガティブが好きなのかしら」

神様なんて信じては居ないが。
何か腑に落ちないのでそう呟いておく事にしたようだ。

「お兄ちゃんは、どう?」

大好きな大好きなハルニレお兄ちゃんにも結果を聞く。
恐らく偶数、奇数で別れるのだろうからあわよくば奇数である様に願いつつ。


【タロット:13番、死神のカード】

190 名前:ハルニレ ◇YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 10:57:50 0
ベッドに腰掛け、始まるチーム分け会議。その時、シノが勢いよく立ちあがった。

>「あ、あの!カードで決めるのはどうでしょうか!?」
>「このカードに書かれた数字で、チームを分けませんか?奇数なら旧市街地、偶数なら新市街地という具合で!」

「……成程、名案ダナ」

そう言うと、シノはそのカードを勢いよく天井へと放り投げた。
数々のカードが床へと落ちる中、ハルニレとジョリーの手の中にスルリと、カードが入っていった。

>「皆さんが掴んだカードは、どれもカードの運命(さだめ)によるものです」
>「さあ、皆さん。カードを捲ってください」

その言葉とともに、ハルニレとジョリーはカードをひっくり返した。

「悪魔……ハッ、俺ラシイナ」

ハルニレが掴んだカードは悪魔≪THE DEVIL≫。数字は15。絵の中の悪魔が禍々しい笑みを浮かべている。
詳しくは知らないが、カードの意味は裏切り、拘束、堕落だった気がする。まさに自分にピッタリの言葉だ。

>「お兄ちゃんは、どう?」

ハルニレの隣に座っていた弓瑠がハルニレに尋ねる。結果を見せると、弓瑠は心なしか嬉しそうな表情をした。
更にハルニレの向かいに座っていたジョリーのカードはどうなのか、と盗み見る。

「……恋人≪THE HEART≫?」

それは、偶数番号6のカード、恋人≪THE HEART≫。どうやら、彼女とは別行動をすることになりそうだ。
それぞれのカードも決まったらしく、ひとまずはチーム分けは終了、といったところか。

「サァ、子供ハ"オ寝ンネ"ノ時間ダゼ」

ハルニレの両手が弓瑠の頬を包み、普段のしわがれたあの声とは全く違う、優しい声が部屋に響く。
すると、弓瑠の目がトロンと融け、彼の腕の中で安らかに寝息を立て始めた。
更に、傍にいた皐月とゼルタをグイと引き寄せると、彼女らもまたハルニレの腕の中で崩れ落ち、眠りにつく。
自分の意思で、触れた相手を眠らせる。これが、ハルニレの能力【エルム街の悪夢】。

「コッカラハ濃厚ナ『大人ノ時間』トイコウジャナイカ」

眠る三人の少女を腕に抱いたまま、ハルニレは妖しい笑みを浮かべる。
その図は、あのタロットの絵の、三人の生贄の少女を抱える悪魔の笑みと瓜二つだった。


191 名前:ハルニレ ◇YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 10:58:49 0
ベッドに並んで寝かされた弓瑠・皐月・ゼルタ。三人とも、よく眠っている。
ジョリーは弓瑠の頭を撫ぜると、ミーティオに手招きした。

「えっと、ジョリーだったか。どうした?」

「うん、まあちょっとね。さっき、鼻の奥が痛むって言ってたでしょ?」

「ああ。時々、チクッてこう、刺すような焼けるような……」

うっ、と呻き、ミーティオはまた顔を覆う。また痛みが襲ってきたのだろう。
その様子を見ていたジョリーは、何かを決心したように一人頷く。

「ミーティオ、目を閉じてて」

「? …分かった」

後ろを振り向き、タチバナや長多良がこちらを見ていないことを確認する。
ハルニレにだけは見せたこの能力を、信用出来ない、あの長多良とやらには特に見せたくはなかった。

「(≪透明少女≫!)」

右腕を思念化し、ミーティオの顔へと潜行させる。目を閉じさせたのは、彼女を怖がらせたくないが故だ。
姉の医学書を読んでいたから覚えている。鼻の奥には、確か空洞があった筈。
そこに、何かあるのかもしれないと。ズブズブとミーティオの顔の内側をまさぐらせる内に、右手が何かを捕えた。

「(何だろ、これ……?小さくて固くて……)」

手で包みこめるサイズだったので、それを右手と一緒に思念化させて、一気に引き抜く。
ミーティオはその衝撃で顔を顰めて小さく呻いたが、顔を覆うのを止めた。

「……痛みが、消えた」

パチクリと目を丸くする。自然と二人の視線が、握り拳を作ったジョリーの右手に集中する。
ジョリーが黙って拳を開き、掌を見せる。BB弾のような、小さな何かが掌でコロコロと転がった。

「「…………何、これ」」

自然と、二人の疑問の言葉も重なった。


【タロット:ハルニレ→15番・悪魔のカード               】
【     ジョリー→6番・恋人のカード               】
【ハルニレ:子供たち(一部除き)を眠らせて長多良さんの質問タイムを設ける】
【ジョリー:ミーティオの爆弾を知らずに除去。まだ爆弾とは気づいていない】

192 名前:ハルニレ ◇YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 11:08:34 0
>>189-190の間に追加

>「さて諸君、そろそろマルアークもラストオーダーだ。僕らは会計を済ませてしまったし、あまり長居をするのも良くない。
> 知り合いの飲食店アルバイトは『閉店間際まで居座る客マジ殺したい』が口癖だったからね。ともあれ――」
>ハルニレへと向き直り、
>「今夜の宿はどこかな?明日から少女捜索に加わるとして、この人数でぞろぞろ歩いても効率が悪い。二手に別れよう。
> この街は広いからね、マルアークの向かいに聳える駅の向こう側とこっち側のどっちを探すかで丁度チームを分割できそうだ」

時刻を確認すれば、弓瑠くらいの年ならばとっくに夢の中の時間帯。
メンツの中には、心なしか眠たげな顔をした者もいる。確かに、そろそろ出るべきか。

>「却下だな。ハルニレっつったか?保護者のあんたが――痛ぅっ」

痛みを訴える声が上がる。声の主はミーティオと呼ばれていた少女。
目頭を押さえ、痛みに堪えるかのような表情を浮かべている。

>「おや、頭痛かねミーティオ君」

>「わかんねーけど、BKビル出てきたときから時々鼻の奥が痛くなるんだ。すぐ治るから気にしてねーけどな」

「鼻の奥?」

ジョリーがピクリと反応し、少し考えるかのような素振りを見せる。
そんなジョリーにハルニレは一瞬疑問を感じた。
その横で長多良が取引がどうのと言っていたが、生憎ハルニレは応じる気はなかった。
しかし、とある単語が飛び出したことで、長多良の言葉に意識を集中せざるを得なくなった。

>「実は私、今日は用事がありまして。取材の予定を前倒しして欲しいと言われてしまいましてね。三浦啓介氏、知ってますよね?
  まったく彼は気紛れでいけない。やっとの事で頼み込んだ取材を反故にされては堪らないので、さあさあどうぞお返事を。
  急いで下されば彼のサインくらいは頼んできますよ?お会いするのは、まあ多分無理でしょうけどね。知り合いとかならまだしも……ねえ?」

「……ミウラ、ケイスケ」

異世界がどうのと言っていた、あの謎の男。ハルニレにゲームを持ちかけてきた張本人。
サインなどは要らないがこの男、三浦と関わりがあるなら、何か新たな手掛かりが掴めるかもしれない。
が、今は構う気になれなかった。

「……………秘密ガ知リタケリャ、勝手ニ着イテキナ」

そう言って膝の上の弓瑠を抱えて立ち上がり、出口へと向かう。ジョリーも立ち上がり、レジを済ませてハルニレの後を追う。
しかし、ハタと立ち止まってタチバナの方へ振り返った。



193 名前:ハルニレ ◇YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 11:09:21 0
「オイ、マサカソイツ等モ連レテク気カ?言ットクガ、ソイツ等ノ面倒マデハ見キレネーゾ」

ソイツ等、と指さすのは45人のブリーフ集団。残念ながら、この集団の衣食住まで見る気はない。
ホテルに入ると、ロビーでフロントの受付嬢がしかめっ面をして出迎えてくれた。
後ろに続くメンバーを見て、またか、と言わんばかりの表情だ。

「一緒ニ泊マル奴ガ増エチマッタ。新シク部屋ヲ用意シテクレ。ナルベク隣接シテルト有難インダガ」

「…………こちらになります」

924 名前:ハルニレ ◆YcMZFjdYX2[] 投稿日:2010/09/06(月) 07:57:16 ID:7XuWRVB.0
ベッドに腰掛け、始まるチーム分け会議。その時、シノが勢いよく立ちあがった。

>「あ、あの!カードで決めるのはどうでしょうか!?」
>「このカードに書かれた数字で、チームを分けませんか?奇数なら旧市街地、偶数なら新市街地という具合で!」

「……成程、名案ダナ」

そう言うと、シノはそのカードを勢いよく天井へと放り投げた。
数々のカードが床へと落ちる中、ハルニレとジョリーの手の中にスルリと、カードが入っていった。

>「皆さんが掴んだカードは、どれもカードの運命(さだめ)によるものです」
>「さあ、皆さん。カードを捲ってください」

その言葉とともに、ハルニレとジョリーはカードをひっくり返した。

「悪魔……ハッ、俺ラシイナ」

ハルニレが掴んだカードは悪魔≪THE DEVIL≫。数字は15。絵の中の悪魔が禍々しい笑みを浮かべている。
詳しくは知らないが、カードの意味は裏切り、拘束、堕落だった気がする。まさに自分にピッタリの言葉だ。

>「お兄ちゃんは、どう?」

ハルニレの隣に座っていた弓瑠がハルニレに尋ねる。結果を見せると、弓瑠は心なしか嬉しそうな表情をした。
更にハルニレの向かいに座っていたジョリーのカードはどうなのか、と盗み見る。

「……恋人≪THE HEART≫?」

それは、偶数番号6のカード、恋人≪THE HEART≫。どうやら、彼女とは別行動をすることになりそうだ。
それぞれのカードも決まったらしく、ひとまずはチーム分けは終了、といったところか。

「サァ、子供ハ"オ寝ンネ"ノ時間ダゼ」

ハルニレの両手が弓瑠の頬を包み、普段のしわがれたあの声とは全く違う、優しい声が部屋に響く。
すると、弓瑠の目がトロンと融け、彼の腕の中で安らかに寝息を立て始めた。
更に、傍にいた皐月とゼルタをグイと引き寄せると、彼女らもまたハルニレの腕の中で崩れ落ち、眠りにつく。
自分の意思で、触れた相手を眠らせる。これが、ハルニレの能力【エルム街の悪夢】。

「コッカラハ濃厚ナ『大人ノ時間』トイコウジャナイカ」

眠る三人の少女を腕に抱いたまま、ハルニレは妖しい笑みを浮かべる。
その図は、あのタロットの絵の、三人の生贄の少女を抱える悪魔の笑みと瓜二つだった。

194 名前:記憶:竹内 萌芽(1/2) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 11:17:52 0

その場所は真っ暗でじめじめとしていた。
コンクリート製の通路の隣には、絶えず汚い水が流れており、
その空間に満ちる異臭がそこからしているということは、もはや疑いようがない。

そこは、”彼ら”の住む町の地下を流れる下水道だった。

普段は作業員くらいしか入らないその場所を、
どう見ても小学生くらいにしかみえない二人の子どもが歩いている。

「暗いお〜……臭いお〜……怖いおー!!」

一人は、涙目で前を歩く少女の後ろを歩く、異常なまでに外見上の個性の欠落した少年。

「だぁー!! もう!! 男の子でしょうが!! 黙って歩け!!」

それに対しもう一人のほうは、自分の片割れの無個性さをうめようとしているかのように
いやに特徴的な格好をしている。
まず、目に付くのはその金髪。クセがあるせいか、頭の両側で二つ結びにしたそれは、全体的に軽くウェーブしている。
しかし、なんといっても一番特徴的なのは、その服装である。
上半身は白、下半身は赤の和装。
おおよそその場に似つかわしくない、神社などで巫女さんなどがよく着ているそれを身にまとう少女の腰には
木製の短い棒が二本さしてある。

「ツンは理不尽だお!! ってか早く帰ろうおー、絶対ただの噂だお!!
 『下水道の人食い白ワニ』なんて!!」

「噂かどーか調べるためにここに来てんでしょうが!」

少女が右腰にさしている方の棒で、ライト付きのヘルメットを被った少年の頭をぽかんと叩く。
その衝撃に流されるままに、頭を下に向けた少年が、頭を押さえながら少女の顔を見ようとして
―――そして、その目が大きく見開かれる。

少年のその様子に気付いたようで、少女が腰の棒を引き抜き、構えをとりながら後ろを振り向いた。

「―――出たわね」

そこにいたのは、体長2メートルはあろうかという巨大なワニだった。
少年のヘルメットのライトで照らされるその姿は真っ白で、
そして何よりそのワニの姿を異様にしていたのは、口の付け根の、
本来あるはずの場所に、目が付いていないという事実だった。

「ひ、ひえええええ!! ほ、ほんとにいたおおおおおお!!!」

泣きながらその場でUターンし、逃げ出そうとする少年の首根っこを、無常にも少女の右手が掴む。
右手に持っていた棒を口にくわえ、少年を掴むまでの動きにあまりに無駄がなかったことから察するに
この少年が逃げ出すということは、もう二人にとってはある種の”お約束”と化しているのだろう。

「アレを退治するためにここに来たんでしょーが、まったくあんたは……」


195 名前:記憶:竹内 萌芽(2/2) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 11:18:40 0

ぐるる、と目の前の白ワニが喉を鳴らす。
少年のほうは、もう逃げることを諦めたようで、涙目になりつつも
少女の斜め後ろに立ち、軽く両手を広げた。

「ツンは鬼だお! 死んだら化けて出てやるお!!」

「はいはい、そしたらそのときは私が退治してあげるわよ」

この奇妙な子どもたち二人がやっていることというのは、
在り来たりな表現をするなら”正義の味方”という、現実にはおおよそありえなそうなものだった。
二人は町に溢れる奇妙な噂を調べ、実際にそれが人に害を及ぼすと判断したものを駆除してまわっているのだ。

もっとも、いつも乗り気なのは少女のほうで、少年のほうは、たんに彼女に引っ張りまわされているだけだったが。

がッ、という短い咆哮と同時に、白い怪物が自動車なみの速さで二人に突撃する。
一瞬にして少女に攻撃できる間合いにもぐりこみ、そして彼女の体を真正面から食いちぎった。

―――はず、だった。

「どこに目ェ付けてんのよ!!」

ワニの真上に、先ほど確かに体を食いちぎられたはずの少女の姿があった。
両手に振りかぶった二本の棒のさきからは、真っ赤な炎がめらめらと輝いている。

「ツン……そのワニさん、もともと目なんてついてないお?」

ぼおっ、と少年の前に巨大な火柱が上がる。
ものすごい勢いで燃えあがるそれに、少年はちょっとやりすぎではないか、
と、中にいる少女のことが心配になったが、やがてその火柱が消え、
そこに黒焦げになったワニの死体と、その上に立つ少女の姿を見つけて、ほっと胸をなでおろした。

「あんたを倒した相手の名前は、”通りすがりのおせっかい”よ、覚えておきなさい」

黒焦げになったワニの死体に向けて、少女は名乗る。
それは、この二人のやっていること、そのものの呼び名でもあったし、
この二人という纏まりの名前、チーム名のようなものでもあった。

……この記憶もまた、竹内萌芽が忘れさせられていたことの一つである。


196 名前:竹内 萌芽(1/4) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 11:21:15 0

眠る零の隣で、萌芽は頬杖をつきながら、「そんなこともあったなあ」と思っていた。
考えて見れば、記憶を”忘れさせられて”いたこの五年間というもの、
ツンとしたイタズラの数々なら山のように覚えていたが、
その合間にやっていた”おせっかい”のほうは完全に記憶の中から消えていた。

たしかに、”おせっかい”は彼が”あんなこと”をした一つの原因でもあったが、
実際に彼をその行動に走らせたほうの記憶を消せてないあたり、彼女もわかってないなあと
萌芽はくすくすと笑う。

そのときだった

「フラグは立ったな」

ふいに、聞き覚えのない声が、部屋の中に響く。つられて振り向いて、萌芽はぎょっとした。

そこにいたのは、まるで墨を頭からかぶってしまったかのように、
頭の先から足のつま先まで真っ黒な、しかし形だけは佐伯零だという異様な存在だったからだ。

そもそも、こいつはどこから沸いて出てきたのだろう?
この佐伯邸内には、念のため全域に渡って自分の”認識の網”を張り巡らせていたというのに
それを欺いてここまで来たと言うのだろうか?
いや、なんとなくではあるが、こいつは”あの猫”と似たような匂いがする。
つまり、もともと外に居て、ここまで自分の”認識の網”をかいくぐって来たわけではなく、
まさに、文字通り”沸いて出た”のではないか?

なぜだか萌芽はそう思った。

「別の世界では世話になったね。内藤ホライゾン……いや、今は竹内萌芽。だったかな?
 最初に言っておくが、ゼロに手を出すなよ?そいつは僕が予約を入れてるんだ!そう、前の世界の頃からね!!」

それを聞いて、こんなやついたっけ? と萌芽は考える。
すぐにそれに思いあたるふしを見つけ、それと同時に確信した。

「前の世界で世話に……ってことは、やっぱり佐伯さんはツンだったんですね!?」

ツンは、あの少女は『神憑き』とかいう妙な”才能”を持っていた。
世界と自分を”あやふや”にできる萌芽は、彼女に憑いているというその神様の姿こそ見えなかったが、
自分とあやふやになった世界のなかに”降りたった”、”こういう存在”の気配をその身をもって知っていたのだ。

「それにしても、予約って……ツンをレンタルビデオかなんかみたいに言わないでください!」

「ハハッ!!男は皆、乾巧って奴なんだよ!!」

笑う”影”。
イヌイタクミとは、萌芽が子どもの頃好きだった特撮番組『人がヒトを超えたとき、その力が運命を変えるようです』
の主人公の名前である。
さて、つまりどういうことだ? と、萌芽は、その主人公の特徴を考えてみる。
導き出した答えは

(……猫舌?)

そんなわけないか、と首を左右に振って、そして、気付く。
……こいつ、男だったのか?


197 名前:竹内 萌芽(2/4) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 11:23:41 0

それが分かった瞬間、萌芽はなぜだかとても不愉快な気分になった。
自分は、確かにツンとずっと一緒にいたが、
そういえば彼女が”神”と呼ばれる存在とどんなコミュニケーションをとっていたかまでは知らない。

”予約していた”というのは、つまりはこいつとツンが、そういう関係だったということではないのか?

「……で、何の用なんです? この通り、佐伯さんは寝てるんですけど」

ムッとした口調で聞く萌芽、それに対して影のほうは気にした様子もない。

「いや。ね?ホライゾンには教えておこうと思ったのさ」

なれなれしい”そいつ”の態度に、萌芽は更に表情を猛らせる。
さながら、それはずっと女の子に飼われていた飼い犬が、
主人にできた恋人に牙をむき出しにして襲い掛かろうとしているような、そういう表情だった。

「ふん、そうですか、ならもったいぶらずにとっとと教えてくださいよ。
 そんでもって、とっとと僕とツンの前から消えてください。
 大体、あなたは何なんです? カミサマにしては、なんというか『変』ですよね?」

その言葉に、”そいつ”はバカにしたようにハッ、と笑う。

「おいおい。しっかりしてくれよ?それとも魔女が珍しいのか?」

これだからゆとりは、とか言ってタバコをとりだす”そいつ”の言葉に、萌芽はちょっとだけ安堵する。
よかった、女の人だった。
いや、安心するのはまだ早い。こいつがレズビアンだということも考えられる。
タチバナや自分をスカウトしてきたあのKとかいう男を見て、萌芽は確信していたのだ。
―――『世界は、変態で満ち溢れている』と。

「この娘と、お前さん。それから後、幾人かの異世界から飛ばされてきた者達。そのうち一部の存在はな、この世界に選定された者なんだ。
 とある目的でこちら側に呼ばれた者たち。しかし、世界はそれを良しとはしなかった。ゆえに世界はその目的をぶっ潰すために癌細胞を仕込んだのさ。
 そして、その癌の中でもゼロとお前さんは特別なのさ。なんせ特異点だからな。だが、優先度ではやはり過去に部がある」

何を言っているのか、さっぱりわからない、
が、自分が世界の癌細胞というその言葉だけにしてみれば、萌芽は大いに身に覚えがあった。

自分と彼女が、『敵』として対峙しなければならなかった理由。
それはまさに、彼が”そういう存在”になりかけていたからに他ならなかったからだ。

「だが、萌芽。君は違う。君は未来の特異点だ。だから、世界からのバックアップは受けて居ない
 それをまずは知らせておきたかった。だから、他人の痛みまで請け負うなんて無茶は止めろよ?」

自分を心配しているかのような、彼だか彼女だかわからない”そいつ”の言葉。
助言ではあるのだろうが、まったくもってありがたくないと萌芽は思った。

「『バックアップ』……ねえ」

「そう、バックアップ。「支援」て奴さ」

そういって”そいつ”はタバコを燻らせる。
会話が止まって、萌芽が何を聞いたらいいものかと考えていると

「おっと、質問は聞かないよ?全部を言う事は出来ないんだ。「ブロック」されてしまうから。
 だから、君にはこっちの言いたい事だけを言わせてもらう」

そんなことを言って、そいつは体を薄れさせ始めた。


198 名前:竹内 萌芽(3/4) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 11:24:33 0

「あぁ、言い忘れていたよ。僕の名はN#%rl?t凵覇p。以後よろしく」

おおよそ発音できていない、いや、もしかすると”名前を認識できないレベルの存在”なのかもしれない。
彼女の周りにいた、そういう存在を、萌芽は少なくとも何柱か知っていた。

気付けば、窓から朝日が差し込んできている。
結局徹夜になってしまったな、と萌芽は立ち上がり、窓の外を見た。
茜色に染まる町並み。朝のすがすがしい空気。

おおよそさっきまで、あんな妙な存在と出くわしていたとは思えないほどに、
その光景はあっけないまで、『日常』そのものだった。

ちなみに、今の彼は”分身”であり、本体は寝ているも同然なので、
徹夜をしたからと言って、彼の体調にはまったく支障はない。
栄養補給の面が少し不安ではあるが、そっちは八重子のほうでなんとかしてくれるだろうと萌芽は思った。

ふと、後ろのほうで「ううん」と言うちいさな声が聞こえる。
見れば、眠気まなこの佐伯零が、半身を起こしてこちらを見ていた。

「あ、佐伯さん。起きました?」

何事もなかったかのように、萌芽はにこりと笑顔を向ける。

「よっぽど疲れてたんですね、急に意識を失ったと思ったら眠ってるんですもん。
 ちょっとびっくりしちゃいました」

昨日のあの記憶をごまかすために、うまく代替用の嘘を吐いて、
まだぼーっとしている彼女に手を差し出す。

「送っていきますよ、まだこの時間だと、女性が一人歩きするには危ないですから」

『あいつ』もそろそろここを嗅ぎ付けているだろうしと、萌芽は零の手を引き、
入り口の扉を開けた。


199 名前:竹内 萌芽(4/4) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 11:25:49 0

外には、想像通り、竹内萌芽の産みだした真っ赤なバイクが止まっていた。

「いい子ですね、ファング。さすが僕の作品です」

萌芽がにこにこして車体を撫でると、ファングはうれしそうに、ぐるる! とマフラーを鳴らした。

零を後部座席に乗せ、萌芽はバイクを走らせる。
ちなみに萌芽は、自動二輪免許を持っていない。
が、どうせこの車の動力は、何百ccとかで表せるものでもないので、べつに法律には違反していないだろう。
ヘルメットもちゃんとつけているし

「ねえ、佐伯さん」

走りながら、萌芽は後部座席の零に声をかけた。

「今日は、その……僕もあなたたちと一緒に行動したいんですが、どうでしょう?
 いや、別に何かをたくらんでるとかじゃなくて
 ……あの、ちょっと大事な人を怒らせちゃったかもしれなくて、
 それであやまりに行くまで、心の整理をしたいというか……
 まあ要するに、ちょっと帰りづらいんですよね」

もちろん理由はそれだけではなかったが、
萌芽はでもこれも案外自分の本心なんだろうなと、苦笑いした。

【ターン終了:文明を使っているという時点でこのバイクは違法なのではなかろうか】


200 名前:◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/09/06(月) 16:23:38 O
「……さてさて、そろそろ良いでしょうかね」

彼はボソリと呟きチャレンジ側の病室へ向かう。
その顔にニヤニヤとした笑みは無くただただ無表情であった。

「……」

病室のドア、その前で立ち止まる。
そして彼は無表情だった顔に笑みを貼り付けるのである。
ニヤニヤと、貼り付けられた笑みをそのままにドアを開く。
ガチャリと言う音を立ててそれは開いた。

「おやおやおや、握手等してどうしました。
 …もしやもしやあなた方が私共の方に来ていただけるのですか?」

開くと共に言葉を発する。
皆が此方を見るのも気にせず、彼はただ笑い喋り馬鹿にするだけである。
そうして彼は訛祢琳樹のYESを聞き、満足したように頷いた。

「ああああ、中々面白い組み合わせですねぇ?分かりました、さあ行きましょう?」

彼は二人の手を引っ張り病室から出る。
そして異世界人二人の意思など構わず素早くチャレンジ側から離れていくのであった。

「彼処は、気に入らない」

小さく、本当に小さく呟く。
チャレンジ等と言う物は気に入らないと、現状維持など面白くないと。
何故だろうか、少しだけ寂しそうに誰にともなく呟いた。


――――――――…。

「さてさて、此処があなた方の部屋です。男女二人部屋で我慢してくださいね?
 それとそれと、勝手にゼミ内を歩かれても困るので鍵を閉めておきます。
 人を呼ぶ際は備え付けの電話を使ってください。分かりましたかぁ?」

異世界人を部屋に案内し、そして中に押し込め鍵を閉める。
部屋の内部は質素な物、と思いきやキッチン風呂完備と中々豪華であった。
押し込める時に部屋を見回したKはキッチンはいらないと思うのですが、と等と呟く。
そして彼は一度頷いて部屋の前から離れていくのであった。

そして、携帯で何処かに電話をかける。

「木羽塚さん、面白い手駒が出来ましたので異世界人狩りでも如何です?
 貴女の求める『対極』と出会えるかもしれませんよ?」

彼はそう言った。
『対極』はチャレンジ側にあると知りながら、である。

201 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:13:58 0
「文明の事が大体書いてある。知りたいことがあるなら後で読むといい。とは言え、そいつもまだ説の一つに過
ぎないんだけどね」

朝日が放ってよこした3つの書類。その内の一つを拾い上げ、飛峻は目を走らせる。
"civilization"と銘打たれた鑑と、その後数ページに渡りずらりと連なる専門用語。
視界を埋め尽くす文字の渦に早々とリタイアしたくなりはしたが、それでも最低限の情報くらいはと黙々と読み耽る。

(つまり柚子や荒海が使ってた力は全てこの文明に依るものなのか……)

文に曰く――文明とはあらゆる物質に宿り、その特性に則った効果を発揮する。
これだけならただのツールの延長線に過ぎないが、文明はさらに特徴として使い手を限定する。
そして適正者たちは、その深度によって文明の力を何処まで引き出せるかが決定される。

(まあ小難しいことは解らんだろうし、残りはそれこそ後で読めばいいか)

序文を斜め読みし、この世界特有の異能――即ち文明――についてのあらましを頭に叩き込んだところで飛峻は書類をテーブルに戻す。
ふと向かいに目を向ければ、折りしも朝日が真雪に頭を垂れている真っ最中。
資料に目を通す傍ら、柚子の容態が回復に向かっていることに関しては聴いていたのだが、その後は書類を読み解くのに没頭して聞き逃していた。
その間に何かがあったのだろう。もっとも、当の真雪は不可解な顔で疑問符を浮かべているようだが。

「君が背負ってた娘ね、残念ながら逃げてしまった。
参ったね、あの娘は三浦くんの娘だったから、いい情報を持ってると思ってたんだけど」

そう言えば、と飛峻に向き直った朝日が肩を竦めながら少女が逃げ出したと口にした。
柚子の話題と織り交ぜて安否を聞いたのは、指向性を持つ真雪の能力を頼みとしてのことだったのだが。

(……反応無し。か)

飛峻はちら、と真雪を横目で見るが朝日の言葉に対して一切の反応は無い。
それはつまり本当に少女が逃げ出したことになるわけだが――

「――ふぅン。あの少女はミウラの娘だったカ……。
ミウラとはビルで一戦交えたガ、今回の騒動の中心、あるいはそれにかなり近しい人物なんダロウ?」

真雪の能力とて万能では無い。体調が悪かったり、他の懸念事項があればおそらく精度も落ちるだろう。
本人から聞いたように抜け道だってある。

「ソレにウサギとの仲も随分険悪だったようだし……ソノ娘に逃げられたとあっては、残念だったナ」

ゆえに飛峻はわざとらしくカマをかける。三浦の娘。その重要性は他に類を見まい。
その程度のことは飛峻ですら解る。
だというのに目の前の男、朝日はまるで残念がっている風も無く、逃げ出したと事も無げに口にしたのだ。

202 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/09/07(火) 22:15:18 0
「まあ過ぎたる事はなんとやら、だ。
後は何か質問はあるかい?
あ、そう言えば。李くんや尾張くんはともかくとして、真雪くんは完全なるパンピーだからね。日々の生活を侵
害するようなアブナイ情報を聞きたくないようなら、先に言ってくれるとありがたい。聞かせないようにするか
らさ」

だが朝日は揺れない。
仮にも一国一城の主、腹芸は得意とするところだろう。あるいは本当に逃げ出したという線もあるが――

(――おそらく前者なのだろうな)

無論証拠は無い。現状ではただの推論に過ぎない。
だがアパートの一室を自由に使える以上、機会を見て探ることも出来るだろう。

「さて。もし質問が無いようなら、本格的に今後の身の振り方の相談といこうか。
君たち二人、“異世界人”の方針をはっきりさせなくちゃ。
もっと俗な話なら、真雪くんは家族に無断で外泊した事になるからね。そこら辺、いろいろ注意深くならなくち
ゃいけない」

”方針”と朝日は口にした。
飛峻を含む異世界人の方針、それは突き詰めれば本来の世界への帰還。それに尽きるのだろう。

『なるほど、道理で夢見が悪いわけだ。元居た世界に帰る、か……それはどうでも良い。
俺の目的はこの力を、技を、誰かの救いとなるそのために振るうこと。それがあいつの”願い”だったのだからな』

だが飛峻は違う。それは重要では無い。
この世界には守るべき者が居て、挑むべき者が居る。自分を正道へ引き戻した友が狂ったように口にしていた台詞。
「誰かを守るための力」適うことの無かったその願いがここなら適えらるかもしれない。
飛峻は何時ものたどたどしい日本語ではなく、流暢な母国語で呟くとソファーに座りなおしながら朝日と向かいあう。

「ウサギにも言ったことだガ……マユキは俺の恩人でナ。
彼女が安心して日常を過ごせるようにするコトが俺の目的、元の世界に戻るのはソノ後ダ」

自分たちはその糸口を教えることが出来る。兎がかつて言ったことだ。
そのためには自分たちに雇われろ。とも。

「ソノためにウサギに雇われたのだからナ。だからソノ対価に見合うまでオマエたちの仕事を手伝うサ」

203 名前:ドルクス ◆SQTq9qX7E2 [] 投稿日:2010/09/07(火) 23:26:20 0
「さて、エレーナ君に訛祢君。健闘を祈っているよ」

Tが俺の頭にポンッ、と手を置く。

「(え?)」

その時、一瞬だけだが、視線がグラリと揺らぐような錯覚に陥った。

>「おやおやおや、握手等してどうしました。
 …もしやもしやあなた方が私共の方に来ていただけるのですか?」
>「ああああ、中々面白い組み合わせですねぇ?分かりました、さあ行きましょう?」
「痛ッ!ちょっと、あんま強く引っ張……!」

突然現れ、俺の抗議も意味をなさず、Kは何か呟きながら俺と琳樹さんの手を引っ張り歩く。
挨拶する暇もなく、みるみる、俺達はチャレンジから遠ざかっていく。
気に入らない、とどこか悲しそうに呟くKに、少しだけKの本当の顔を見た気がした。


「ここが、オr…私達の部屋……」

俺はキョロキョロと部屋を見回す。
Kは俺達が外に出ぬよう鍵をかける、と言い残してサッサと出ていってしまった。
二人で生活するにしては充分すぎる条件が、この部屋にはあった。
ただ問題があるとするならば……。

「えっと…琳樹さん、でいいんですよね?」

この男、訛祢琳樹。「元」の俺の平行世界の自分自身。
しかし、今の俺の体はエレーナ様のもの。
自分の平行同位体だからこそ、琳樹さんと生活する事に少し警戒していた。
理由は察してくれると有り難い。俺だって男だし。

「さっきも言いましたけど、これからよろしくお願いしm…ッ!?」

体が傾く。 平衡感覚が掴めず、激しい頭痛に襲われる。
立っていられなくなり、琳樹さんによりかかり、体を預ける形を取る。

「うっ…ううっ…………!?」

激しい動悸、ノイズのような音。 魂が引っ張られる感覚。
これは…………まさか…………!

「(精神交換の術が、解けかかっている…バカな!術は完璧に…)」

それにしても、なんてタイミングなんだ!
今、術が解けてしまえば、元の体に戻ったエレーナ様はかなり混乱する事になるだろう。
いいやそんな事より、今気を失ってしまってはいけない。何故なら、

「(術が解けて気絶してしまえば、エレーナ様が 素 っ 裸 に…………!!)」

エレーナ様のドレスは、エレーナ様の魔力によって作り出されている。
気絶するという事はつまり、魔法が解けてドレスが消失してしまうという事。
それだけはなんとしてでも阻止せねば!!

「り、りんき、さ……………!」

しかし、俺の願いとは裏腹に、意識はどんどん薄れていく。
琳樹さんの腕の中で最悪の未来を予想しながら、俺は意識を手放した。

204 名前:ドルクス ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/07(火) 23:33:41 0
傍から見れば、俺は僅かに体を揺らしただけに見えただろう。
体が体験した記憶が脳内で再生される中、俺はただ己の未熟さを悔んでいた。
今頃、エレーナ様は琳樹さんの腕の中で裸体を晒しているに違いない。
琳樹さん、きっと驚いてるんだろうn……何だろう、殴りたくなってきた。

「ん?」

ふと見ると、俺の手は一枚のカードを握っていた。

「隠者………タロットカード?」

記憶を辿ると、どうやら俺はハルニレと愉快な皆さんで『ゲーム』とやらをする事になったらしい。

「(って、T!何故ここに!?)」

俺のすぐ横でハルニレ達と話すT。いや違う。Tではない。
すぐさま記憶を辿ると、この男はタチバナという男らしい。

「俺は隠者のカードッス。これで、決まりましたね」

全ての体の記憶を再生し終わり、全てを把握した。
俺はハルニレ達と、旧市街地へ向かう事になったらしい。
進研は、確か新市街地方面。…逆、方面か。 エレーナ様を迎えにいくのは、少し先になりそうだ。
カードをシノさんに返し、俺は彼らの話を聞く。

>「サァ、子供ハ"オ寝ンネ"ノ時間ダゼ」

その時、ハルニレの両手から、魔力を感じ取った。
違う、これは……何だ?さっき出会った時は感じなかったのに。
彼だけではない。皆が皆、そこかしこから魔力ともつかない何かを発している。

>「コッカラハ濃厚ナ『大人ノ時間』トイコウジャナイカ」

三人の少女を腕に抱き、そう言うハルニレ。その笑顔は止めろ。洒落にならない。
子供が見たら泣いてしまいそうだ。…って、今はそんなのどうでもいい。

「スイマセン、ちょっと待って欲しいッス」

俺はガリ、と自分の人差し指を噛んで血を出し、長多良さんに近づく。

「怖がらないで欲しいッス。殺すつもりはないッスから」
「でも、俺の事を知ってるジョリーはともかく、アンタはちょっと信用ならないッス。だから、呪文をかけさせてもらうッスよ」

俺は長多良さんの額に、人差し指の血で円を描き、その上に十字のようなバッテン印を付けた。
血で描いたそれは少しばかりの光を放って、直ぐに消える。

「安心して下さい。呪文っていっても、おまじないみたいなもんですし、体に害はないッスよ」
「俺達の秘密を誰かに教えようとしても、出来なくなる呪いッス」
「悪く思わないで下さいッスよ。これも、この世界で生きる為ッスから」

長多良さんを安心させるために、俺は微笑む。
最も、彼の目にどう映ったかは俺の知る由ではないが。

【エレーナ:3日目に入るまで寝てます(気絶)。全裸なので服でも着せてやって下さい。】
【ドルクス:元に戻りました。カード→9番・隠者(旧市街地)】
【漏洩防止術:情報(これから話すドルクス達の秘密)を第三者(ドルクス達以外の一般人・異世界人問わず)に教える事は不可能。
 口頭や筆跡、意図的に写真などを見せようとすると体が拒絶する(上手く喋れなくなる、腕が動かなくなる等)
 自白剤や文明を使用した場合、第三者の記憶からその情報のみが抹消される(長多良の記憶からは消えない)。
 また、悟られるか悟られないかギリギリのラインのヒントや、あやふや等で第三者の方から知った場合は何も起こらない】

205 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/09/07(火) 23:55:59 0

「今日から、ここで生活してもらうわ。何かあったら、そこのテレフォンを使って頂戴」

八重子の案内によりテナードと久和が連れてこられたのは、とある部屋だった。
先の病室よりも少し広めのそこは、デスクにソファにTVとなんでも揃っている。

「どっかの誰かさんみたいに、あんまりウロチョロするんじゃないわよ。探すの面倒だから」

Cの誰かさんに対する厭味が含まれた忠告を小耳に挟みながら、テナードは部屋を軽く見回す。
そして、一番最初に感じた素朴な疑問を、八重子にぶつける。

「此処、誰かが前に使ってたのか?」

「……何故、そう思ったの?」

八重子の疑問返しに、テナードは壁にかけられた物を指差す。
ハンガーにかけられた、八重子と同じデザインの、皺ひとつない進研のサポーター団服だ。

「あの服のデザインからお前の部屋かとも思ったが、あれは明らかに男物のもんだ。
 それに、埃がないから一瞬気付かなかったが、ここ数年前まで誰かが使っていた跡がある」

デスクの上には、出しっぱなしの筆記用具や書類等がそのまま放置され。
しおりを挟んだままの本や、無造作に放っておかれたTVのリモコン。

「死んだか行方不明で、家主がいなくなった部屋……違うか?」

まるで、ついさっきまで誰かがここで生活していたような気配を、テナードは感じていた。

「…………………」

「お喋りの時間はここまでよ。私達だって、何でもかんでもペラペラ喋る訳じゃないんだからね」

俯いて何も言わない八重子の代わりに、Cが苛立ちをこめた声でそう切った。
八重子の肩を抱きながら踵を返し部屋を出ようとし、改めてテナード達の方を振り向いて言った。

「あ、そうそう。夜間は部屋の鍵を閉めさせてもらうわ。万が一が起こったらコトだからね」

それだけを言い残すと、Cと八重子は今度こそ部屋から出て行った。

206 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/09/07(火) 23:57:21 0
「ったく、これじゃ監禁と一緒じゃねーか」

ブツクサと言いながら、テナードはカーテンをずらして窓の外を見降ろす。
部屋はかなり高い位置にあるらしく、飛びおりて逃げる事は不可能だろう。

「(ま、右腕返してもらうまでは逃げる気はないがな)」

ボスと呼ばれていた男の言葉を思い出す。
彼は右腕を返す気はないと言っていた。力ずくで取り返そうとすれば、それ相応の対応をさせてもらうとも。

また、彼は自分に従うなら相応の地位に就かせてやろうとも言っていた。
実験と言っていたが、おそらくロクなものではない事は明白だ。

だったら、今は従う他ないだろう。元の世界に戻る方法を探しながら。
いずれ、隙を見て右腕を取り戻せばいい。障害の壁は高いだろうが…………なんとかなるさ。

「しかし、ルームメイト(?)がまさかお前とはな」

苦笑交じりに、クルリと色白の五本腕へと振り向く。
この世界で最初に出会ったのも、あの戦いの場へ行き、今こうしてここにいるきっかけも、この男だった気がする。

「そういや、お前の名前って何だっけ?マエゾ……えっと…」

人の名前を覚えることが得意ではない彼は、それでも必死に思い出そうと唸る。
そしてやっと思い出したのか、ポンと手を叩く。

「そうだ!マエゾノクワ!」

ビシッと色白改め久和を指差し、クイズを当てた子供のように嬉しそうに笑う。
人を指差す事はマナー違反、という常識は彼にはない。

「改めて名乗っておこうか。俺はテナード。当分の間は宜しくな、久和」

今はコンクリートの右腕を差し出し、テナードは笑ってそう言った。


【テナード・久和:進研内の一室で共同生活開始】
【部屋には色々あるので好きに使ってください。部屋の構造は琳樹さん達がいる部屋とほぼ一緒かも?
 部屋は高い位置にあり、夜間は鍵がかけられるので脱出不可。誰かが以前に使用していた形跡アリ?】


207 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 00:03:05 0
夜明け……それは闇を掃う為にあるのではない。
夜明けとは又、夜闇に包まれるために訪れるものなのだ。
夜、暗闇に包まれて隷属の世界から有るべき姿に戻るために……

「ううん……」

そして、夜が明ければ人は再び元の生活に戻る。佐伯 零もまたその理には逆らえなかった。
目が覚めた彼女の目に飛び込んできた世界は変わらずそこにあり、昨日の出来事が事実だと言う事を物語る。


所で、彼女は昨日一体何をしたのだろうか?
BKビルで仕事を終えて、二輪車を公文の整備士に引き渡して、「自宅」で調査を行い……

「あ、佐伯さん。起きました?」

竹内萌芽という青年と会話をして……

「よっぽど疲れてたんですね、急に意識を失ったと思ったら眠ってるんですもん。
 ちょっとびっくりしちゃいました」

(話の最中に眠ってしまった……んだ)

「送っていきますよ、まだこの時間だと、女性が一人歩きするには危ないですから」

記憶があやふやなのは疲れがたまっていたから。そう言えば昨日は徹夜に近かったなと思い零は納得する。

「そう……そうなのかしら?」

そう言い、立ち上がる零。
どうやら、まだ寝ぼけて居るらしく若干のふらつきながらの起立は不安定。
その為、零は壁に手をつきながらの形になる。

「そうね。足も無いし、お願いするわ」

そう告げる零。
その三分後に「服が生乾き〜」と絶叫をする事になるのだがそれは割愛させてもらおう。

「いい子ですね、ファング。さすが僕の作品です」

「そんな事はどうでもいいわよ……こんな服装でバイクにまたがるなんて思いもよらなかったわ」

そう言って刺々しい外見のバイクのまたがる零。
デザイン的に余り好みではないがそれでも乗せてくれるというのだ。多少は我慢しようそう言い聞かせまたがる彼女は年相応の服装になっていた。

「出して」

その一言で発進するファング。
エキゾースト音はゆがみ無い吹き抜ける様な音。高周波音の様に甲高いピーコックとは対照的なのがとても印象に残る。

(YZFみたいな音ね……)


208 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 00:04:23 0
「ねえ、佐伯さん」

走りながら、萌芽は後部座席の零に声をかけた。
本来ならヘルメット越しの会話などエンジン音に遮られ全く聞こえないのだが、萌芽の声はなぜかはっきり聞こえた。
恐らくは何らかの異能なのだろう。彼も異世界から来た人間だ。そう言った異能を持っていても不思議はない。

「今日は、その……僕もあなたたちと一緒に行動したいんですが、どうでしょう? 」

「なぁによ?又、何か良くない事でも考えてるの?」

「いや、別に何かをたくらんでるとかじゃなくて
 ……あの、ちょっと大事な人を怒らせちゃったかもしれなくて、
 それであやまりに行くまで、心の整理をしたいというか……
 まあ要するに、ちょっと帰りづらいんですよね」

「ふぅん」

揺れるタンデムで風が髪をさらうのを感じながら萌芽の言葉に耳を澄ます。
彼の言葉を吟味するように飲み込む……

「良いんじゃない?私は構わないし……好きにしなさいよ。
 でも、私たちだってやる事がある訳じゃないし、今日はまだ暇よ?」

急カーブに揺られる体を抑えるため萌芽のおなかに手を這わせ、耳元に近い位置で声を掛ける。
どうかしている。と彼女自身も思っていた。本来なら元の世界へ帰るために行動を行わなければばならないと言うのに……
しかし、奇しくも現実とはそういう物だ。幸いアテはある。ならば待つのも手の内になるだろう。

「んーそうねぇ。デートしよう?
 戻っても良いけど、アンタ、彼女どころか友達もいなそうだしお礼代わりに付き合ってあげるわよ?」

そう、とんでもなく失礼なことをのたまった彼女は即座に「あ、アンタの為ってわけじゃないのよ!」と否定するがそれはもうあとの祭りだった。

「あー!///なんか調子が狂う!」

萌芽の小言に対して零はヘルメットを背中に押しつけ必死の抵抗を試みる。
その時だった。密着しているがゆえに誤魔化しようがない空腹を告げる腹音が聞こえたのは……

【状況:三日目です。とりあえずはこの先の選択次第で行動分岐】
【目的:デートorばぁぼんに帰る】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許】

209 名前:訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 14:22:38 O
女性が倒れそうになったので腕で抱き止めました。
、と思ったら何故か彼女が裸になりました。
訛祢琳樹のおかれている状況は大体こんなものである。
彼はポカーンとしながらエレーナを見、てはいけないので彼女をベッドに寝かせ女性用の服を探す。

「服、服、?」

「此処にあるわ、リンキ」

狂羽が翼でロッカーを指差す。
中には本当に服が入っていた。
何故分かっただとか、そのような事は訛祢琳樹という男は気にしない。
なのでとりあえず笑顔を向けて礼を言う。
……この世界で笑顔になったのは初めてではないだろうか?

「ありがとう狂羽」

「その笑顔もいいわ、リンキ萌え」

「えっ」

「えっ」

なにそれこわい。

、とそんなこんなで恐る恐るエレーナに服を着せる。
襲おうだとかそのような気は彼には無いが、やはり女性の体には反応しそうになる。
どこがだって?
男のシンボルって事だよ、言わせんな恥ずかしい。

「……とりあえず、これでいいべか」

服を着せ終わりふぅと溜め息を吐く。
何故か着せ終わってから恥ずかしくなってきたらしく顔がほんのり赤くなる。

「………」

「私の裸を散々見た癖に未だ慣れていないのか琳樹」

「え?」

「どうしたの、リンキ?」

「い、いや、なんでもないべ」

彼の耳には今は亡き恋人の声が聞こえた気がしたのである。
だがまあ、あまり深くは考えずに今は風呂に入る事にする。
女性と一緒に居るには臭いと思ったのだ。

「……うわ、くさ」

服を脱ぎ嗅いでみる。
案の定臭かった、死にたい。
とは彼の心情である。

まあとりあえず、全裸になり服を洗濯カゴにぶちこむ。
そして彼は、風呂場内に入ったのであった。


【お風呂だよ!】

210 名前:記憶:竹内 萌芽 ◇6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 22:22:46 0
その日は朝からよく晴れていて、空にはわたあめみたいな小さな雲が、
ゆったりした風に乗って、のんびりと空を泳いでいた。

「おーなーかーすーいーたー」

テーブルに突っ伏した少女が、目の前で料理をしている少年を横目で見ながら言う。
エプロンを付け、フライパンを火の上で踊らせながら、
少年は自分の後ろで手をじたばたさせている少女を、「もうちょっと待ってお」となだめる。

フライパンの中で炒めていたものを茶碗に盛り、別の大皿をその上にあてがってひっくり返す。
皿の上から広がるのは、かぐわしいスパイスの香り。
今日のご飯はカレーチャーハンだ。

目の前の大皿に盛られたそれを確認した少女が、まってましたとばかりにがばりと起き上がる。
しかし右手に握ったスプーンで、整えられた米の山を崩そうとする少女の手を、
横から入ってきた少年のおたまが制した。

少女が「なによ」と睨みつけると、少年はにこりとしてて言う。

「食べる前には『いただきます』だお」

「そういうとこはしっかりしてるわよね、あんた」

呆れたように言いながらも、少女は素直に手を合わせて『いただきます』を言った。

ツンの家には、いつも大人がいなかった。
別に親が居ないというわけではないそうなのだが、少なくとも少年は彼女の両親というものにあったことがない。
なので、食事はどうしているのかと彼女に訊ねたことがあったのだが、
それに対し、彼女は店屋物で適当に済ませているという返答だった。
どうやら彼女自身、料理というものがそんなに得意ではないらしい。

そんなわけで少年はときどきこうやって、彼女に料理を作るため彼女の家を訪れていた。

「なんていうか、あんたってほんと料理だけはできるわよね」

「おっお、伊達に母子家庭で一人息子やってるわけじゃないお?」

聞き方によっては嫌味とも取れなくはない少女の言葉。
しかし、少年はそれが、彼女の恥ずかしがり屋で人のことを素直に褒められない性格からきていることをよく理解していた。

「あんたさ、将来料理人になりなさいよ。
 それで自分の店とか持てばいいじゃない。カレーチャーハンの専門店、とかさ」

「おー? それはちょっと大げさだお」

「いいじゃない。別に夢があるわけでもないんでしょ? それに、もしそうなったら……」

そこで少女は言葉を切った、口にやったスプーンをくわえながら、
目をわずかに少年から逸らす。

「てッ、手伝ってあげてもいいわよ、あんたの店。
 ……べ、別に深い意味とかはないんだからねッ!!」

なんで彼女が恥ずかしそうにしているのか、少年にはさっぱり分からなかったが、
ただ、その提案はとても魅力的だったので

「……考えとくお」

そう言って笑った。


211 名前:竹内 萌芽(1/3) ◇6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 22:25:22 0
とんとんとん、と包丁がまな板を叩く音。
市内某所、ばぁぼんハウスのキッチンでは、エプロンをした少年がせっせと朝食の準備をしていた。
―――竹内萌芽である。

隣には、それを手伝う女性―――ku-01―――の姿もある。

食材を刻む萌芽の姿を、じーっと見つめてくる彼女。
……正直すごくやりにくい。

「あの、大丈夫ですよ? 別に毒とか入れませんから、そんなに警戒しなくても……」

中華鍋が温まったのを確認し、大さじ一杯の油を注ぐ。
油をなじませ、まずは野菜を炒めようと思ったところで、がしっ、と手を掴まれた。

「なんですか……? 見てたんだからわかるでしょう? 別に怪しいものは……」

訝しんで01の顔を見やると、彼女の視線は自分ではなく、自分の手に持ったまな板の上に注がれていた。
まな板の上にあるのは、たまねぎ、にんじん……そして、ピーマンである。

なぜピーマンを強調したかと言うと、
それは彼女の視線が分かりやすすぎるくらいにその緑色の野菜に集中していたからだ。

「……嫌いなんですか、ピーマン?」

ロボットなのに? と萌芽は首を傾げる。

「だめですよ、好き嫌いしちゃ」

問答無用で中華鍋のなかに野菜を放り込もうとする萌芽、
ふたたびがしっ、とつかまれる手。
にらみ合う二人の視線が、ばちばちと音を立てる。

そしてしばらく同じようなやりとりが繰り返され

「……わかりました、わかりましたよ。キミの分だけピーマン抜きにします」

―――結局萌芽が折れた。


212 名前:竹内 萌芽(2/3) ◇6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 22:26:27 0
用意した料理をテーブルに並べ、席に着く。
未だに皆の視線が痛い気がするが、特に気にしない。

まったく、先ほど零にデートしようなんて言われたときは、本当に心臓が爆発するかと思った。
彼の知る「ツン」は間違っても彼にそんなことを言ってくる少女ではなかったからだ。

(ツンも大人になったってことですかねえ……)

そのわりには成長してない部分もあった……走行中に絶えず背中に押し付けられてた胸とか。
似たような年頃の真雪に比べ、なぜこんなに差があるのだろう?
まったく神様は理不尽である。

当然だが、言ったら殺されそうなので絶対口にはしていない。

あのときはとりあえず、彼女の腹の虫が食料を欲していたようだったので、

「まずは、ご飯にしましょうか?」

と提案し、とりあえずはばぁぼんハウスに行くかということになって今に至るわけなのだが、

はたしてこれでよかったのだろうか?

まあ良かったのだろうと、萌芽は思う。

デートなんて言われても、正直何をしたものか分からないし、
それにまたこうして、目の前で彼女が自分の作ったカレーチャーハンを食べるのを見ることができたのだ。

(『キミと居られれば、どこだってデートコースです』……か)

言えるわけがない、こんなクサい台詞。
なんとなく零と目があった気がして、萌芽はあわてて目を逸らし、食事に戻る。

やっぱりカレーチャーハンはいい、カレーでもチャーハンでもなく、
そしてカレーピラフとも見た目でまぎらわしい。そういう”あやふや”なところが、
自分がこの料理を気に入っている理由の一つである。

気を逸らそうとしてそんなことを考えているが、萌芽は内心ひどく動揺していた。
心臓は早鐘を打っているし、顔は彼女と目が合っただけで真っ赤である。

いけない、さらに何かで気をそらさねば、と彼はチャーハンを口に運びながら意識をぼやけさせた。
昨夜の『保険』がどうなっているか、調べるために。


213 名前:竹内 萌芽(3/3) ◇6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 22:27:51 0
ぼやけた意識の中に、大量の『景色』が映る。
それはさながら、監視カメラの映像を大量のモニターで見ているような、そんな光景だった。

「あ! 今日テストだって忘れてた!! どうしよー!!」
「お、あの姉ちゃんいいケツしてんなー」
「『文明』とはなんだ、『文明』とはなんだ、『文明』とはなんだ……」

『景色』と友に、聞こえてくるのは『声』。

(『あの子たち』は、順調に仕事を進めてるみたいですね)

ぼやけた意識を元に戻すと、調度皆が食事を終えた頃だった。
もちろん自分も、もう食事を終えている。

ちなみに、ここにいる萌芽は本体ではないので、
彼が食事をしたからと言って寝ている萌芽の本体に栄養が補給されるということはない。
『分身』に供給された栄養は、『分身』の消滅と友に崩壊し、世界に霧散するのである。

さて、と萌芽は立ち上がる。
何をすればデートなのかはたしかにわからないが、
女の子から誘われておいて、それをなあなあにするというのは、
男としてあまりになさけないだろう。
そう思い、萌芽は軽く深呼吸をして、零の前に立つと、言う。

「と、とりあえず昨日のビルがあったあたりに行ってみませんか?
 そ、その……うまくエスコートできるか分かりませんが、楽しい時間にしてみせます!」

顔を赤らめながら、目を彼女と合わせないようにしっかり閉じ、萌芽は言う。
差し出した手は小刻みにふるえているし、どうにも格好がつかない。
まったく、こんな自分が真雪や零を守ろうなんて、本当に大丈夫なんだろうか?

前途多難だなあと、萌芽は心の中で深くため息を吐いた。

【ターン終了:デートは男からさそうもの、らしいぜ?】


214 名前:ストレンジベント ◇6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 22:29:02 0
色んなものがごちゃまぜになって、もはや黒にしか見えなくなった空間。
そこで虹色の服を着た真っ赤な道化師は、じっと目を閉じ、
自分の中から湧き上がってくる大きな力を感じていた。

「『フェノメノン』か……あれのせいで、アタシともるとの”繋がり”がさらに濃くなってる。
 『サバイブ』は、案外……本当に早く実現するかもしれないな」

一人呟く、その黒い空間に、ふいに別の声が響き始める。

―――それで彼は何をするつもりなんだい?―――

「アヒャ? あー、プルーフ、だっけか……いたのか」

―――正確には『プルーフ』は消えたよ、ここに在るのはただの『残響』―――

―――私たちは約束したわ。
   あいつが真雪を守るって言ったから真雪を預けたんだ。
   彼に真雪を守るつもりがないなら、私はここにある力を使って再び発現してでも……―――

凄みをおびる声に、彼女は平然とした態度で応える。

「安心しろよ兄弟。もるは、ちゃんとあの娘を守ろうとしてる。
 何をしようとしてんのかはさっぱりだけど、でもそれだけは分かる」

言って彼女はため息を吐いた。

「相棒にくらい何しようとしてるか話してもいいと思うんだけどな。
 アヒャヒャ……アタシもまだまだ、信用されてないってことなのかもね」

ダイスロール:レス時間末尾
【偶数:UNITVENT:STRIKEVENT:SWINGVENT】
【0 :ACCELVENT:GUARDVENT:ADVENT―シエル・シーフィード―】
【奇数:NASTYVENT:SWORDVENT:CONFINEVENT】

【全ての数:+FINALVENT】


215 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 23:41:40 0

『やあ、待っていたよウェイター君』【>>174

「こっちも待ちわびてたぜ、オールバック。
 何せ、店が客に求めてるモノは四つあるからな。
 オーダー、キャッシュ、もしくはクレジット、そしてオールバックだ」

『ここマルアークは君の生息地』

「牙を圧し折られた挙句に谷底へ突き落とされた狼のテリトリーなんざ、爪の届く範囲だけさ。
 他人のナワバリだって自覚があるんなら、その社会的肉食獣の群れを他所へ移動させやがれ」

『これだけ大量の餌《突っ込みどころ》を引っ提げて来店すれば、
 皐月くん以上の突っ込み属性をもつ突っ込み職人の君ならば必ず食らいついてくると信じていた』

「……何やら誤解がある様だが、店が求めるオールバックってのは実際には三種類しか存在しない」

『釣果は期待以上の…――』

「先ず、オーダーが早いオールバック。
 次に、キャッシュの払いが良いオールバック。
 又は、クレジットがゴールド以上のオールバック―――この三種類だ。
 理解出来たら、この件の何もかもが終わった後で、もう一度キャッシャーまで出頭しろ」

『――…いやはや大漁だね!』

216 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 23:42:27 0
死ねウエイター

217 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 23:42:46 0

『……っ、背徳系だとかそれ以前に婦女子の腰に無断で触らないで下さいっ!』【>>182

腰から掌ふたつぶん上にホールドに適した"ひっかかり"があったなら話は違っただろうな。
仔猫みたいに首根っこを引っ掴んでテーブルまで引き摺って行かないだけありがたく思え。

「気をつけろ。非常に怪しい上に――…」


      "モラルを求めても無駄な人"


―――ほう。ひょっとすると、そいつは俺のコトか?

「…――多分悪党だ」

だとしたら、男を見る目がある修道女だ。こちらも当初の接客方針を変更する必要がある。
プリンセスに傅くが如く丁重に抱きかかえてやる心算でいたが、テディベア扱いで充分だ。

『というか、他に何かいう事は無いんでしょうか……』

呟きは聞こえなかった――

      "心配かけたとか、黙って居なくなって悪かったとか……"

                         ――聞こえなかったが、"視えた"

「……触るぞ、ツユリ」


何故かわからないが、俺は感謝の言葉を咄嗟に声に出来ないでいる。
だから代わりに、"断りを入れてから"少女の髪を撫でることにした。

「――――心配してくれたんだろ?」

218 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 23:43:35 0
失せろ 不定期参加(笑)

219 名前: ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 23:43:41 0
【取扱注意。結晶数0で二日目を終えている結果【>>184】と矛盾する可能性がある為だ。
 夜半、皐月の夢――日付の境界――にて追想した時点で結晶生成とするのがベターか。
 また、紳士的とは言い難い給仕に対して乙女心の都合がつかない場合もあるだろう。
 無論、その場合は「感謝される描写」だけが在ったコトにしてくれて構わない】

220 名前:Interlude ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 23:44:58 0

『皆さんが掴んだカードは、どれもカードの運命(さだめ)によるものです』【>>185

「一つ教えてくれないか、棺桶ロリ」

手に収まったカードの違和感に、給仕は絵柄を見るコトもせず訊ねていた。

「運命の女神ってのはパーティ・ジョークにでも凝ってるのか?」

給仕は手首を翻して"世界"の正位置を滑り飛ばし――

「そうでなけりゃ……」

――続いて、自分にディールされていた"二枚のカード"を放り捨てた。

「……とんだイカサマだぜ、こいつは!」

エッジからテーブルに落下した"もう一つの運命"が、アンバランスにスピンする。

『コッカラハ濃厚ナ『大人ノ時間』トイコウジャナイカ』【>>190

「―――悪いが、俺はパスだ。
 未だに"おしゃぶり"が手放せないベイビー・ボウイなもんでな」

給仕はボックスから"おしゃぶり"を一本銜えて部屋を後にする。
ドアが閉じる音と共に、"審判"の逆位置がテーブルで静止した。

221 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 23:45:24 0
>>219
いいからさっさと首吊れ、リアルに
もしくは身投げしろ

222 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 23:46:45 0
あのさ、いい加減横から勝手にからで来ないでくれる?
師匠とか言われて持てはやされてるが、あんま調子に乗るなよ
それか事前に避難所で確認取れ
いい加減にしろ

223 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 23:53:12 0
タチバナが拾ってんだしウェイターも折り込み済みってことだろ
求められて参加するのは普通だし、文句あるならタチバナに言えよ

224 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 23:56:06 0
師匠信者の従士を正当性の根拠にするのは間違ってるぞ

225 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/08(水) 23:57:26 0
師匠が投下するせいで、誰かのレスの水を指すことになると
いい加減気付いて欲しい
というよりも、投下するたびに水を差してるんだがな

226 名前:ウェイター ◆T28TnoiUXU [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 00:00:56 0

背後で、重い鉄扉が不自然なほど静かに閉じる。
―――星の無い夜だ。街の排気音が不自然に遠い。

「くっ……!」

打ちっ放しのコンクリートに跪いて、項垂れる。
一瞬の間で無限に繰り返される、五感の喪失と覚醒。
事象のイデアを直視する能力――天からの眼――の反動。
明日の朝には回復する筈だ。それまで眠ってしまえばいい。
子供の頃に聞いた、誰かの調子外れな子守唄を口ずさみながら。
立ち上がろうとしてバランスを崩し、今度は両膝をつく羽目になった。

「One sheep, Two sheep, Three stray sheep...」

確か、向こうにフェンスがあった様な気がする。
……いや、階下からのドアだったか? わからない。
視覚、聴覚に続いて平衡感覚と記憶すらも麻痺し始める。
もういい。その先で俺を待っているのが何だって構いやしない。
今夜だけ……夜明けまでの間だけ俺の存在を支えてくれるというなら。
救いを求める己の魂にも、零れた祈りにすら気づかぬまま、その先へ俺は――――


「……主よ」


――――縋る様に、手を伸ばす。

227 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [] 投稿日:2010/09/09(木) 00:06:58 O
は?
いつまで投下してんだ、お前
ここはお前の作文置場じゃねぇんだよ

228 名前:長多良 ◆SKMWc74INaYB [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 00:07:55 0
批判がしたいならスレに参加して酉を付けてするべきだと思います
それが出来ないのは単に卑怯者が匿名の仮面を被り、利他的行為の旗を掲げて荒らしをしているのと同じです
何が言いたいってつまり、ウンコ臭いんで肥溜めから出てこないで下さいな

229 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [] 投稿日:2010/09/09(木) 00:09:39 O
うるせぇんだよクズコテ
猫と喧嘩でもしてろや

230 名前:エレーナ ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 00:10:47 0
――――――――――――=====さま?どこいくの?

――――――――――――…………エレーナ、これから私は、うんと遠いところへいかなきゃいかないんだ

――――――――――――いや、いかないで、

――――――――――――エレーナ、君は良い子だよね、良い子でお留守番出来るよね

――――――――――――いや、いや、おいてかないで、どこにもいかないで

――――――――――――必ず帰るから、ね?そうだ、代わりの存在を置いていこう、君が寂しくないように

――――――――――――おいていかないで、=====さま、おいてかないで、


―――――――――――――――――――――――――ひとりに、しないで




「んぅ…………?」

あたまがいたい。まっくら、なにもわからない。
めをこらしてよくみると、しらないへや。しらないばしょ。

「どるくす、どるくす」

こわい、こわい、こわい。ここはどこ?どるくすはどこ?

「どこ、どこにいるの、どるく」

べしゃり。
わたしのてがすべって、ころりんところげおちる。
はながいたい。きっと、ベットからおちたんだ。きっと、そうだ。

「どるくす、どるくす、」

こわれたにんぎょうのように、わたしはどるくすをさがす。
こわいよ、どるくす。ひとりはこわいよ。

「あ、いた」

わたしのベットからすこしはなれたベットで、どるくすがねている。
おぼつかないあしどりで、どるくすがねているベッドをめざす。
どるくすのちかくで、あかいめをしたからすさんがこっちをみている。
こわいけど、ひとりはもっとこわい。

「どるくす、おきて、どるくす」

からだをゆさぶっても、どるくすはおきてくれない。
いつもなら、ちゃんとおきてくれるのに。どるくすのいじわる。
おきてくれないから、ベットによじのぼって、もぐりこむ。


「おやすみ、どるくす」



231 名前:エレーナ ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 00:12:12 0
雀の喧騒が聞こえる。差しこんでくる光。全てが、朝を教えてくれた。

「あれ?」

私は、なんでこんなところにいるんだろう。
いやそもそも此処はどこだ。何故私は、見たこともない場所にいるんだろう。

「私、ハルニレ達とゲームに参加して、それで……」

そこから記憶がない。少しめまいがしたと思ったら、気づいたらここに。
ぺたぺたと自分の顔を触る。金色の巻いた髪は紛れもない私のもの。
……着ている服は違うけど。

「…………術が、解けた?」

そうとしか考えられない。
ならば、ここは術をかけられてから、ドルクスがいた場所?
ベットから降りようとして身じろぎすると、何かに触れた。

「ドル、クス?」

いや、違う。魔力を全く感じない。
それに、髪の色や体格が少し違う。姿はドルクスだけど、ドルクスじゃない。
ドルクス似の男に触れようとすると、カァ、と鋭い烏の鳴き声。

「お前のご主人様?手を出すつもりじゃなかったの、ごめんなさい」

烏に言葉が通じるかどうか分からないけど、一応謝罪しておく。
どうやら男はまだ眠っているみたいだった。
髪に触れ、少しだけ頬をつんつん。…私よりもち肌ってどういうことよ。

「とにかく、元のドレスに着替えなきゃ」

何時も着ていたドレスをイメージして、魔法を発動させる。
淡い青の光が私の着ている服を包みこみ、元のドレスに―――――――――……

「……………………もどら、ない?」

青い光が出て、それだけで終わってしまった。
どうして?いつもならパッと黒ドレスが出てくるのに………?

「魔法が、使えないってこと…?」

理由は分からないけど、多分そういうことになる。
どうしよう。魔法が使えないんじゃあ、ドルクスの気配を探る事もできない。

「そうだ、シャワー」

体が汗でべたついている。とりあえずオフロに入ろうと行動する。
シャワールーム、あるといいんだけど。

【状況:三日目突入、魔法が使えない】
【シャワータイムだよ!】

232 名前:訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 02:43:46 O
「早く来て琳樹、遅いわよ!」

「あ、ああ、待ってくれ※※」

「待たない」

「ひ、酷い!」

「だって琳樹は私の奴隷でしょー?」

「……奴隷ってお前」

「じゃあ譲歩して従者」

「はいはい、分かったから待ってほしいッスよ※※様ー」

「ふふ、仕方ないわね」

「………はあ、俺なんでこんなに尻に敷かれてるんだか」



『どるくす、おきて、どるくす』

うるさいなあ、俺は未だ寝ていたいんだ。
この心地の良い緩やかな死から起き上がりたくは無い。
それに、俺は"どるくす"とかいう名前じゃあない。

『おやすみ、どるくす』

ああおやすみ、※※。
愛してるよ。

さあ共に眠ってやろう、だからお前が生きろよ訛祢琳樹。
※※が好きな俺ではなく、※※を殺したあの女が好きな私。

お前なぞ、否、私なぞ永遠に生きればいい。
死の世界には来させない。……嗚呼、此処は心地が良いんだ。

233 名前:訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/09/09(木) 02:45:04 O
何か夢を見た気がする、と彼は呟く。
だが思い出そうとしても砂嵐が酷く思い出せないのである。
何故だろうかとぼうっと呆けたまま考える。
しかしまあ、分かるわけもなく目を擦り呆けた頭を元に戻そうとした。

「おはよう、リンキ」

「……ああ、おはよう狂羽」

エレーナにもおはようと告げようと思い辺りを見回す。
が、誰も居なかった。

「え、エレーナさん?」

「(またあの女か……)」

何故だか知らないが心配になってくる。
故に部屋を探して回る、のが狭い部屋なのですぐに見付かる。
彼女はシャワーを浴びているようだ。
だがしかし心配が行き過ぎて頭の回らない琳樹はシャワールームの扉を開け……。

「※※!」

誰かを呼んだ。
なのに自らの出した声にノイズがかかり彼自身も自らが何を言ったかがよく分からない。

まあ、彼は置かれている状況によって訪れる感情にのまれ気にする余裕は無かったのだが……。
ただただシャワールームの扉を開けた事に対する後悔と、エレーナの裸を再び見てしまった恥ずかしさだけである。

「あ、ご、ごめん…」

顔を赤くして謝る。
そしてゆっくりと扉を閉めてシャワールームから遠ざかり座り込む。
彼はそのままエレーナが出てくるまで見られた本人でも無いのに言葉にならない言葉を発し、恥ずかしさに悶えるだけであった。


【おっちゃんsnegタイムだね!】
【果たして※※とは誰だったであろうか、私には皆目見当もつきませぬ】

234 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/09/10(金) 15:06:36 0
>>180,>>182,>>185,>>189,>>190,>>204,>>220

【ホテル:売店ホール内】

「――あれ、タチバナ。何やってんだ?こんなところで」

ミーティオがぶらぶらとホテル内を散歩していると、ホール内の机で貸出のノートパソコンを広げているタチバナに出会った。
彼女が身に纏っているのはいつものツナギではなく、ホテル備え付けのバスローブだ。
相棒の鉄パイプ『隕鉄』はローブのベルトに帯剣するように挟んであった。

「少しやっておきたい作業があってね」

タチバナは画面から目を離さず応える。

「へえっ。どんな?」

ミーティオはディスプレイをチラ見するが、字が読めないので意味が無いことに気付いた。

「Wikipediaにゼルタ君のページを作っていた」

「あれ本気だったのかよ。無駄なところで律儀な奴だなアンタ……」

「ふふふゼルタ君の微妙な顔が目に浮かぶようだよ。――なんと、もう削除議論が為されている!?
 暇なウィキペディアン共め。いいだろう、ならば論争だ。一人一人説き伏せ論破してくれる……!」

鬼気に迫るスピードでキーをタイプし始めるタチバナを尻目に、ミーティオは自販機の前に立つ。
懐からクリップで纏めたむき出しの諭吉札を取り出すと、一枚自販機に食わせて一番高い飲み物のボタンを二回押した。
一本をタチバナへと投げ、一本のプルを片手で開けると、礼を言うタチバナの向かいのソファに沈んで静かに缶を傾ける。

休鉄会メンバーは一様に、ハルニレから当面の活動資金を受け取っている。

その額ざっと諭吉五枚。『発起人』の口座から無制限に引き出せるようだったが、余り懐を温め過ぎるのもよくないと判断した。
『相手の懐具合を知る』――そんな文明があってもおかしくない。さらにはそれを悪用する人間がいてもおかしくない。
長多良という男の存在が、そういう懸念をより明白にしてくれた。

あれから――マルアークを辞したあと、一行は新市街にあるビジネスホテルへ到着した。
ハルニレが『発起人』から提供された宿だ。1フロアを貸しきっているらしく、休鉄会用に新たな部屋を割り当ててもまだ足りていた。
今日からはここがベースキャンプとなる。一同は一端の休息を摂り、今は夜明けまでの長い自由時間だった。

「そういやブリーフ連中はどうしたんだ?ホテルに入ってから見てねーけど」

「流石に50人全員を泊めるのには無理があるからね。5人はマルアークの仮眠室、残りは適当に街へ散っているよ」

45人のタチバナ達には、全員に五諭吉ずつ持たせて適当な宿を探すよう申し付けた。
ビジネス街である新市街には宿がいくつも点在している。満喫や健康ランドも含めれば宿には困らないだろう。
本体の方のタチバナも与り知らぬことだが、このホテルの別フロアにも空きがあったので何人か泊まっているのだ。

「見たまえミーティオ君。こちらの世界のWikipediaには『文明』について詳しく載っているよ」

「読めねーっつの」

「恐ろしい力だよ。『文明』の何が恐いって、適合さえすればどっかそこら辺のおっさんでも軍事規模の力を持ちうるということだ。
 それも、極めて受動的に――『文明』は『降って湧く』ものだからね。ある日突然テレビのリモコンからビームが出たりする。
 分かるかい?この世界の人々は常に、自己の意志如何に関わらず自分自身が日常を破壊してしまう恐怖と隣合わせに生きているんだ」

「……無駄に煽るなよ」

235 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/09/10(金) 15:07:48 0
「純然たる事実だよ。文明は普段から縁深い器物に宿りやすいそうだからね、つまりは愛用品さ。
 君の『隕鉄』に文明が芽生える可能性だってある。もしも一振りで街を焦土に変える文明が宿ってしまったら?
 知らずにそれを使ってしまったら?そしてその場に罪のない人々、君の知人や友人だっているかも知れない」

「そうなったら、あたしはまず自分の首に縄がかかるかどうかを心配するだろうよ。法律とかどうなってるんだ?」

「一応『文明法』『特殊事態文明法』というのがあるようだね。それから『公文』と呼ばれる文明犯罪の警察機関が存在する。
 マルアークでの戦闘後にウェイター君が警戒していたのはこれか。――ともあれ、この世界は思ったより平穏ではなさそうだよ」

ミーティオにはなんとなく、タチバナが言外に含ませた意味が理解できた。
外面こそ無表情だが、きっと饒舌家にして悦楽主義のこの男は内心で満面のニヤケ面を湛えているに違いない。

「……っは、あたしに言わせりゃそんな爆弾抱えて生きてる割に世の中博愛主義ばっかでタルいけどな。それに、」

自らの眉間を指先で突付く。

「――頭痛が治ったんだ。あのジョリーって娘の、ありゃ多分文明だな。頭ん中に手ぇ入れて、『頭痛の種』を直に取り出した」

ミーティオが指先に載せる、BB弾ほどの小さな物体。
彼女にBB弾を鼻に入れて遊ぶ趣味がないのであれば、瓦礫を吸い込んだか鼻腔内に結石のできる病気かなんかだろう。

「『ブリューゲル』のあるあたしの世界でもこんなことできやしなかった。文明ってのはなんでもできるんだな……違うか。
 『なんでもできる文明がある』『何かできる文明』のバリエーションが多いっつーか……上手く言えねえけど」

「適性さえあれば誰でも容易に『なんでもできる』――非常に再現性の高い力というわけだね」

「少なくとも、『能力がないから虐げられる』『能力があるから迫害される』……そういうのがないだけ、この世界は魅力的だぜ」

缶の中身を飲み干したミーティオはおもむろにそれを放る。
へろへろと宙を進んだ缶はやがて重力のままに墜落すると思いきや、急上昇のちダストシュートでゴールテープを切った。

「まあ難しい話はわかんねーや。つうかアンタとまともな議論交わそうってのがそもそもの間違いだったな。
 あたしはもう寝る。そうだ、風呂ってのは存外に気持ちいいぞ。足伸ばすには狭っ苦しいのが難点だけどな」

ソファから身を起こすろ、ミーティオは自室へ爪先を向けた。再びぶらぶらと圧のない歩き方で去っていく。

「ああ、おやすみ。明日は君とは別行動になるね、皐月君含むロリチームの面倒はよろしく頼むよミーティオ君」

彼女は振り返らず、ただ片手を挙げて了解の意を示した。
見送るタチバナの眼下、ノートパソコンの傍には、ホテル到着時に棺桶搭載型ロリ――シノと名乗る少女から受け取ったカードがある。
額面は第五のアルカナ、『教皇』。タチバナは旧市街探索のメンバーになるようだった。

236 名前:タチバナ ◆Xg2aaHVL9w [sage] 投稿日:2010/09/10(金) 15:10:16 0
【大人達の濃密な夜】

サブタイトルを間違えた。正しくは『ドキッ!男だらけの濃厚ミッドナイト(ポロリもあるよ』である。
何をポロリするのかは想像にお任せしたいところではあるが、まあブリーフの中のお宝的なものだろう。

「やあ、盛り上がっているかな?」

ノートパソコンを小脇に抱えたタチバナがハルニレの部屋を訪れたときには、子供組は既に寝室へ移動していた。
ミーティオやジョリーの姿もないことから彼女たちは子供組の子守にでも回されたのだろう。
従ってこの部屋には四人のおっさんが一同に介するだけの非常に微妙で絶妙な空間が形成されていることになる。

「ウェイター君はどこへ?」

誰ともなしに問いかけるが、返って来た答えを統合するにウェイターはおっさん率急上昇に耐えきれずドロンしたようだった。
ただでさえ皐月へのナチュラルセクハラをライフワークにしているような男である。無理もない。
タチバナは内線で適当な食べ物とつまみのルームサービスを頼むと、部屋備え付けの冷蔵庫から酒をいくつか取り出した。

「さて、明日の探索チーム分けはあらかた決まったかな。僕とゼルタ君は奇数、ミーティオ君は偶数だ」

これで未確定なのは時の人物長多良のみである。
もっとも、この夜の結果次第では『永遠に未確定のまま』でいることもなきにしもあらず。
少なくともハルニレはそういうつもりなのだろうとタチバナは察する。そういう覚悟が見て取れた。
ドルクスは緘口の呪い的なものを長多良にかけて終わりにしていることから、案外平和主義なのかもしれない。

同じく博愛主義のタチバナとしては、うまく平和的に誘導しておきたいところである。

「囚人君達にもまだ話していなかったことだが、まず聞いてくれたまえ。僕とその愉快な仲間達は、これで一つの団体だ。
 『休鉄会』――それが僕らのコミニュティの名称さ。まだ申請はしていないがNPO(非営利団体)みたいなものだと認識してくれ。
 そして僕らは『ある一定の目的』の為に動いている。このゲームへの参加は、単に活動資金のシノギでしかないんだ」

ワインボトルのコルクを抜き、グラスに注ぎながら述懐する。
決定的な発言を、こともなげに放つ。

「――僕らはこの世界の人間じゃあない。全員が別の世界から不本意に連れ込まれた平行世界間拉致被害者だ。
 『休鉄会』はそういった異世界からの迷い人を保護し、相互に助け合い、最終的には皆が望む形でこの世界に決着をつける、
 つまりは帰るか帰るまいかを自己の意志で選択できる立場になることを目的としているんだ」

突拍子もない真実の伝え方であるが、この発言の裏には二つの狙いがある。二者二様のカマかけがある。
ハルニレとドルクス――休鉄会に負けず劣らず珍妙なメンツを引き連れた彼らに対しては、『彼が異世界人であるか』を判断する餌。
長多良に対しては、この異世界人発言でただの頭のおかしな団体だと認識してくれればそれで良い。

結果如何では三者に対立が起きてもおかしくない。いつでもアクセルアクセスを顕現できるよう警戒しながら、
伏魔殿と化した議論の渦中へタチバナは身を投ずる。ポロリするのは股間でなく首になるかもしれないのだから。


【ホテル到着。大人たちの濃密な夜へ】
【タロット結果:タチバナ・ゼルタ→旧市街組 ミーティオ→新市街組】
【タチバナの基本方針:平和的に議論を進めながら、ハルニレやドルクスが異世界人であるなら仲間に引き入れたい】
【いきなり真実暴露】


237 名前:尾張 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/09/10(金) 22:06:32 O
方針。
冷たく固い右手に、左手を触れさせながら、俺は朝日の言葉を頭の中でなぞった。強張った筋肉が、元に戻ろう
と軋む音を身体の中に聞き、薄暗闇のなか、窓から射し込む日の輪郭が埃を通して浮かび上がるのを見る。と同
時に、分散してゆく思考に幽かな苛立ちを覚える。
娘の所へ、帰らなければならない。目的はそれだけだ。それだけの筈だ。
何故か、兎の姿が頭の中にちらつく。何かを忘れている。欠落している。
「ウサギにも言ったことだガ……マユキは俺の恩人でナ」
ぽつりぽつりと、李が話し始める。考えてみれば、不思議な絵面だ。朝早くの無個性な事務所。大人一人と子供
二人が、無個性な眼鏡の会社員と真剣に向き合っている。
客観的に見て、俺はこの中でどんな役割を演じているように見えるだろう。
保護者か。
「彼女が安心して日常を過ごせるようにするコトが俺の目的、元の世界に戻るのはソノ後ダ。
ソノためにウサギに雇われたのだからナ。だからソノ対価に見合うまでオマエたちの仕事を手伝うサ」
「……やっぱり、若いね。主義って奴か。
元の世界に帰ったら何の意味もないのに、律儀な若者だ」
君は?と朝日は真雪に尋ねる。暫くして、返事が無いことに焦れたのか、ちらとこちらに目を向けた。
『元の世界に戻りたい。
協力してくれるなら、お前達に従おう』
俺が渡したメモを声に出して読んだ朝日は、こちらは分かりやすくていいね、と笑った。
「真雪くんは、存分に悩めばいい。本当の事を言うなら、兎と僕は意見が違っていてね。僕はあんまり一般人を
巻き込みたくなかったんだが。
さて、真雪くんが方針を決めるまで、ちょっと話を進めようか」
朝日の持つ空気が変わった。その事に気が付き、反射的に脹ら脛に力を込める。突っ張ったような感覚。本来は
走る準備の動作。沸き上がる危機感。
これは、人殺しの纏う空気だ。
「君たちに方針があるように、この会社、『ユーキャン』にも方針がある」


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


金儲け、
と朝日は端的にユーキャンの方針を示した。
「残念だけれど、君達は僕らにとって金儲けの一環に過ぎないんだ。善意だとかボランティアとか、そんなもの
じゃあない。僕らは、君達の手助けをすることである程度金になると踏んだからこうしている。
まずそれを念頭に置いてほしい」
ペリカンから、CPの冷却ファンの喧しく回る音。遠くから工事の音が聞こえる。
「そんなに緊張しなくてもいいのだぜ。
僕らが君たちを利用して金儲けをするように、君たちも僕らを利用して君たちの思う通りの事をすればいい。
例えば李くんは真雪くんを助ければいいし、尾張くんは帰るための情報を集めたらいい。
その過程で金儲けができるなら、僕らは喜んで協力するよ」
それはつまり金儲けにならなければ絶対に助けないと言うこと。
「僕らはあくまでツールだ。
僕らは君たちに仕事を与えるけど、でもそれはそこまで君達を拘束するような仕事じゃあない。あくまでそれは
デッドラインだ。絶対にやらなければならない簡単な仕事。【必要行動】って奴だ。
君達は君達を優先してくれて構わない。そして、うまく理屈をこねて僕らを利用するんだ。
“金儲け”だよ。僕らを動かすならそこの理屈しっかり組み立てるんだね」


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


238 名前:尾張 ◆Ui8SfUmIUc [sage] 投稿日:2010/09/10(金) 22:08:34 O
「さて、と。随分長く話し込んでしまったな。
要するに、僕らは君たちを拘束しない。【必要行動】さえ満たしてくれれば、君たちは『ユーキャン』と言う組
織を利用できる。満たしてくれなければあぼーん。『ユーキャン』はご利用できません。
そう言うことだ」
『その話なんだが朝日、情報を買い取ってくれ』
割り込むように、ペリカンが話し出した。
『BKビルで手に入れた情報なんだが、なんでもこの街で加速器の――』
はいはいはい、と朝日はペリカンの相手をし始めてしまった。会話の内容は良く聞き取れない。こちらが放り出
された形になる。
真雪は黙ったままで、李はじっと何かを考え込んでいる。やや気まずい沈黙。
俺は少し考えた後、李と真雪にこんなメモを手渡した。
『自分の中で、この世界の情勢が掴めない
方針が見えない
だから、しばらくは君達の目的に付き合おうと思う』
彼らの反応を見る前に、朝日がペリカンの対応から戻り、真雪と李に部屋の鍵を押し付けるように掴ませた。
「ごめんごめん、今日の君達の仕事、【必要行動】を決めておくから、それまでに兎を起こしてきてくれないか
い?
404号室にいるんだが、多分扉をノックしたら起きると思う。ああ、覚悟してくれよ。彼女は朝が弱いんだ。
ついでにビルの中を探検もしてくるといい。そのくらいの時間はあるはずだ。
ちなみに、その鍵は社員になった人に必ず渡す物だ。社員には上のアパートの部屋を割り当てることになってて
ね。社員証の代わりと言っていいから、無くすなよ」

尾張くんは、右腕の説明があるから残りたまえ。

239 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 投稿日:2010/09/11(土) 09:09:09 O
「ハッ…」

「何やらキングクリムゾンを食らった気分だ…」

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
テナードの起床を待っていたと思ったらいつの間にかテナードと二人きりで知らない部屋に居た。
な…何を言っているか分からねーと思うが俺も何をされたのか分からなかった。
頭がどうにかなりそうだった。
文明とか順番飛ばしとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

「これも…文明なのか。……いや違うだろうが」

そうぶつぶつと呟いていた久和はテナードの声にハッと我に返る。

「あ、ああ、宜しくなテナード」

戸惑いつつも握手をする。
伸ばしたのは何故か右の二本目であった。
肘の少し上辺りから伸びているその腕は少々握手には向いてないのではないかと思われるのだが彼はそんな事は気にせず、というか戸惑っているせいで分かっていないと言った方が良いだろう。
そうして握手を済ませた彼はあ、と思い出したように言葉を発する。

「なあ、ビルのあの時さ。何で助けてくれたんだ?」

質問。
不非兄弟以外の者に助けられた事など一度も無い彼には不思議で仕方無いのである。
不非も、虐めから守るのではなく身体や心の傷をケアするだけであったが…。
しかしそれでも久和が幸せであったのだからそれは救いと言えるのだろう。

「なあ、何でだ?」


【質問タイム】

240 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/09/11(土) 16:05:37 0
「〜〜に対して公安文明課は非常手段として実戦配備予定の改修二輪車を実戦投入し〜〜」

ブラインド越しに入ってくる若干の日の光。
さしこむ日を避けるように窓際の柱に背もたれながら零はTVを見てため息をついた。
理由は昨日の深夜辺りから放送しているらしいニュースの社会コーナーだ。

「そりゃ、真昼間に戦闘ヘリと生身でバトるバイクなんてあったらニュースにもなるわよねぇ」

はははと乾いた笑いを零しながらTVのチャンネルをめぐらす。
あの後、赤面しながら萌芽に連れられてばぁぼんハウスへと戻ったのだが、そこで渡されたのが一面に自分自身が載せられたスポーツ紙だった。
恐らく、今頃は都村やオサムを始めとする公文の面々はこの件に対する対処でてんてこ舞いだろう。

「殉也は、図書館を捜しに行くのだったっけ?……となるとゼロワンよね」

そう殉也に話題を振る零。何故、話しかけた相手が彼かと言うと単純にその場に居る人物が彼だけだと言う為だ。
彼女を乗せてきた萌芽とゼロワンはキッチンに引きこもり朝食を作ってくれている。
又、サイガは朝早くに起きて書置きをしてどこかへいったらしい。
ゼロワン曰く、「ミミズがのたうち回ったような字でこの近辺の事を調べてみる」と書いてあったとのこと。

「そう、連れて行って……も役に立つかしらねぇ?
 まぁ、あの子も自分で考えて動けるみたいだから、大丈夫だと思うけど」

そう言い、朝刊を見て回る。幸いなことに顔は映っては居ないようだった。

(顔が割れてるから外を出歩けませんじゃ申し訳が立たないからね!)

そう、自分から言い出したのだから。

「そう?まぁ、無理はしないでね。
 あ、良い匂い!!」

そんな会話で空腹を紛らわし、朝の占いを眺めていた時。零の鼻孔を香ばしい香りが刺激する。

「って……凄い見た目ね。ドライカレー?じゃあ、「いただきます」」

スプーンの口をつける部分を手の甲で弾いてキャッチ。
そして、何故か立っている旗を避けるようにして炒飯ともピラフともドライカレーとも言えない不思議な料理を口に運ぶ。

「あ……これ、おいしい……」

あむあむと咀嚼し、飲み込む。スパイスが食欲を進めて箸、いやスプーンが進んで行く。

「ふぅ…ごちそうさま!」

そして、気がつけば完食していた。さり気無く立てられた旗が直立しているのがシュールさを醸している。

「ありがとう。おいしかったわ。アナタ、料理の才能でもあるんじゃないの?
 元の世界に戻れたら調理師の学校にでも言ったらどう?」

そう声を掛けるが萌芽は何かに気を取られてるのか上の空の様だった。
じぃと見つめてみる。一、ニ、三、


241 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/09/11(土) 16:08:48 0
(ちょっと、寂しい…)

見つめてみたが、ついに心折れ、(´・ω・`)ショボーンとしようとした時に萌芽が「さて、」と立ち上がる。
その姿を若干のじと目で見やり、そっと心の中でため息をひとつ……

(はぁ……コイツはぁ)

そんなこと思いつつ、萌芽の鈍感さを嘆く。
そして、立ち上がった萌芽は〇の前の方へといそいそとやってくる。
そこで、零は一言言おうと口を開こうとするが、それは先に声を発した萌芽に遮られる。

「と、とりあえず昨日のビルがあったあたりに行ってみませんか?
 そ、その……うまくエスコートできるか分かりませんが、楽しい時間にしてみせます!」

こちらから声を掛けようとした彼女にとって、萌芽の言葉は不意打ちだった。
思わず、口どもってしまう零。

「う、うん……」

まさかの萌芽からのアプローチ。彼女はそれに驚いてしまったのだ。
一瞬だけだが心の片隅で朴念仁…と罵倒した相手からの申し出に動揺激しく、差しだされた手を普通に取ってしまう零。

「あのビル……あぁ、BKビルね。確かにあそこはデートコースにはよさそう。
 なら、そこに行きましょうか?」

そう萌芽に声を掛け、零はジージャンを手に取る。

「それじゃあ、行ってくるわね?
 貴方達ならさほど心配はいらないと思うけど気をつけて……」

そう、一言だけ念を押すように告げて零は裏口へと向かう。その右手で萌芽の手を握ったまま。


「で?どんなプランなのかしら?
 ショッピング?映画館?お金ならそれなりにあるから大丈夫よ?」

揺れるファングのタンデムで零は問いかける。


【状況:BKビルでデート】
【目的:特になし】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許】

242 名前:寡頭正人 ◆Ipct4RPqyjkz [sage] 投稿日:2010/09/11(土) 17:00:35 0
>>155
≪店外でのストーキング行為のカミングアウトもマラーイカ協定に抵触してる。
 ―――だからと言って、クロッチに差し込んで保管するのも止せ!!≫

寡頭は笑みを消し去り、無表情のままホットドッグを声の主の口へ
挿入する。
何かまだ言っているようだが、気にしていては仕方ない。
「嬉しいなぁ、僕に話しかけてくれて。でも、少し用が出来た。
すまないけど、失礼させて貰えないかな?」
そして、一礼すると店を出て行った。

>>171
「思い出すな、あの日もこんな朝だった」
寡頭は、朝日が昇る中バイクを走らせていた。
目的地がスマートフォンに表示されている。
アラートと共に辿り着いたその場所は、何処かのアパート。
そして、投資先でもある。

「あ、どうも。”法人”の寡頭です。
今月分の資金をお渡しに来ました。」

そしてトランクケースを取り出すと、彼らが待つ部屋へ向かった。

【ユーキャンへ資金提供を行うため、尾張、李、真雪の元へ】

243 名前:長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB [sage] 投稿日:2010/09/11(土) 21:58:14 0
死臭少女のばら撒いたタロットカードの一枚が私の手元へと降り注ぎ手中に収まった。
随分と豪気な事である。テーブルに並べて一人につき一枚捲らせるとかでは駄目だったのだろうか。
拾うに際しての手間を顧みないとは実はこの少女、中々の傑物の器を有しているのかもしれない。
なんとなく底知れなさを表現してみたが多分すっ呆けている・・・俗に言うところの天然なだけだろうとは思う。
とりあえずカードは回収しておき、然る後に手渡すとしよう。私とて人並みに親切心は持ち合わせている。

それに信用や、ひいては信頼とはこのような些事から手掛け積み重ねるものだ。
初っ端から脅迫紛いの取引を持ち掛けておいて何を、などと言われそうだが・・・それはあくまで脅迫「紛い」なのである。
そもそも真に公正な取引など滅多にあるものでは無かろうよ。
私は取引自体は、ギブアンドテイクの精神に則りとてもフェアな条件を提示したと自負しているのだ。

さてそう言えば私のカードは何だったのだろうか。
と言うか私の元にもカードは極々自然に落ちてきたが、これは世間一般において巻き込まれ型と呼ばれるものだろうか。
自分で言っておいてなんだが随分と狭い世間一般である。記者たるもの世界は広く保ちたいものだな。
あぁ、また思考が逸し始めた。もうさっさとカードを見てしまおう。

「愚者のカードですね。数字は・・・ゼロ。正位置の暗示は天才、自由、冒険、勇気、チャンス・・・と言った所ですか」

つまりこの取材は天才である私がシャッターチャンスを追い求めて冒険する自由と勇気の物語であると言う訳だ!
他にも暗示は幾つかあった気がするが、実は過去にちょっと記事にしたくらいなので記憶にない。
それはそうと知り合いの漫画家に今度ネタの提供でもしてやろうか。
フリーの記者が全ての不義に鉄槌を下すべく、夜の街を駆け回る。素晴らしいじゃないか。
・・・そう、正義は我にあり、だ。

それにしてもこのロリコン見事に奇数を引き当てやがったな。
こっちの方がロリは多いと言うのに、数より質を重んじるタイプか。
こちらは十四歳と十一歳、と十九歳。平均すると十四と・・・六の羅列か。
あのションベン臭いガキが何歳かは聞いていなかったが、きっとあの男にはこちらの女性陣など行き遅れの年増に見えているのだろう。
つくづく気持ち悪いぞ、うん。

「……………秘密ガ知リタケリャ、勝手ニ着イテキナ」

「ありがとうございます。さては三浦氏のサインが効きましたね?・・・冗談ですよ
 まあ私は記者ですし、ついて来んなと言われても勝手にパパラッチしますがね」

ともあれ保護者公認でストーキングの許可が出たのはありがたい。無論冗談である。
と言うかよくよく考えたらこのションベン臭いガキと死臭少女は何処の娘なのか。
こんな年端もいかない子供が夜遊びとは、どこぞの雑誌に若者の風紀の乱れを風刺したエッセイでも送り付けてみるか。
いや・・・もしかしたらこのロリコン野郎とセーラー美少女が生みの親である可能性も否めない。
それならば夜遊びではないな、うん。いずれにせよ風紀の乱れには変わりないではないか。と言うか、なお酷い。

>「オイ、マサカソイツ等モ連レテク気カ?言ットクガ、ソイツ等ノ面倒マデハ見キレネーゾ」

「腐れロリコン死滅しろ。そもそも面倒も何も他人の金で飯食ってるんじゃなかったかコイツ。……いえいえ、何でもありませんよ。えぇ何でもありません」

おっと、つい口が滑った。最近失言が増えた気がする。
何せ【逃走本能】があるお陰で滅多な事では怪我一つしないのだから、そりゃあ人を舐め腐るようにもなる。
全く便利な道具とは人を堕落させるようだ。私のような高潔な人間さえもを絡め取るとは文明恐るべし。また一つネタが出来た。

さて閑話休題。
そう言えば彼はホテルの部屋を取ったようだが、「増えた泊まる奴」に私は含まれているのだろうか。
・・・いる事にしておこう。最悪居直ってやろう。自宅に帰ってもいいが今からでは面倒だ。

244 名前:長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB [sage] 投稿日:2010/09/11(土) 21:59:57 0
>「「…………なに、これ」」

と言う訳でホテルの一室に着いた私だが・・・何故か私の両足は早速部屋から立ち去ろうとしていた。
部屋に入ってすぐのバスルームへのドアノブを掴み退室を拒む私は、正直言ってとても間抜けだと思う。
いや、敢えて言おう。間違いなく間抜けだと。
私としては可及的速やかにこの状況から脱出したいのだが・・・まあ原因は何となく察しがつく。
さっきからそこでこそこそしていた女性二人だ。
どうでもいいが記者相手に本当に隠し事がしたいのなら、まず所持品がカメラになっていないかどうかを疑うべきだ。
女性の盗撮は然程趣味ではないので、今回は特に何もしていないがね。

「えーと・・・ミーティオさん、非常に申し訳ないのですが一歩こちらへ来て頂けますか?」

怪訝かつ嫌そうな顔をしながら、彼女が一歩。
特に【逃走本能】に変化はない。となると今度は、

「どうも。では・・・確かジョリーさんでしたね。同じく一歩、お願いします」

私が歩み寄ってもよかったが、それではあの二人のどちらが【逃走本能】が発動している原因なのかいまいち分からない。
さてやはり不満げな表情と共に彼女も一歩・・・踏み出した途端に【逃走本能】の逃げ足が明らかに出力強化された。
何が悲しくて大真面目に一人でドアノブに捕まって小芝居をせねばならんのだ。
いやしかし、これは表現方法による観測者に与える心証の変化を考えると中々興味深い。
私はこの通り非常に真剣にドアノブにしがみついているのだが、私の今の状態を第三者の視点から描写すれば、
「男が超真剣な面持ちでドアノブにしがみつきながらへっぴり腰で小刻みに震えている」となる訳だ。
間抜けだな、うむ間抜けだ。つまりこれはチャップリンが言う所の「人生はクローズアップで見れば悲劇。 ロングショットで見れば喜劇」
との格言に繋がる・・・あぁもうそこのクソアマ下がれ。全身が辛い。

「・・・ふむ。カードが一枚減ってしまうのは惜しいですが、そうなっては隠し立てする必要もありませんね。
 多分それ、ヤバいですよ。「うばしゃあ」とか言いながら殺人ウィルス散布するカプセルかも知れませんし、もしかしたらマジで爆弾かも知れませんね。
 まあ兎に角、「何か分からんけどヤバい」です。何故分かるかって?そりゃあ文明様様ですよ。
 ところで【文明様様】って言う文明とかどうでしょう。ルビに困る所ですが・・・ああ忘れてました。それ持ったままこっち来ないで下さいね」

交渉に使えるカードを損ねたのは口惜しい所だが、まずは命あっての物種だ。
【逃走本能】の出力状況からしてあの鼻糞然の何かが脅威を発揮するのはまだ先ではあろうが。強いて言うならこの思考が漏れ出てしまったら彼女に殺されかねないと言うのが目下最大の危険か。

「どうでもいいですけど、それ傍目から見たらどう見てもハナクソですよね。増々こっち来ないで下さい」

だがやってみたくなるのが人間の怖いもの見たさと言うものだ。直後に鉄パイプが飛んできたが問題なし。
・・・おい待て部屋の備品を投げるんじゃあない。人様の迷惑や気持ちを考えられない若者とはまったく嘆かわしいな。
それよりも閑話休題である。

と、今しがた気が付いたのだが私のこの状態は靴を脱げば万事解決じゃないか。【逃走本能】は文明である為適合者たる私無しに一人歩きはしないだろうし。
とりあえず万一を考えて手近に置いておくとしてひとまずは部屋履きのスリッパを拝借するとしよう。うむ、一段落である。
ちなみに余談ではあるが一段落は「ひとだんらく」ではなく「いちだんらく」が正しい読みである。前者は話し言葉としては通じるが厳正な意味では日本語では無い。
まあ言葉など意味が通じれば何でもいいのだがね。どうせなら正しいものを使いたいじゃないか。

> 「怖がらないで欲しいッス。殺すつもりはないッスから」
> 「でも、俺の事を知ってるジョリーはともかく、アンタはちょっと信用ならないッス。だから、呪文をかけさせてもらうッスよ」
> 「安心して下さい。呪文っていっても、おまじないみたいなもんですし、体に害はないッスよ」
> 「俺達の秘密を誰かに教えようとしても、出来なくなる呪いッス」
> 「悪く思わないで下さいッスよ。これも、この世界で生きる為ッスから」

245 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 投稿日:2010/09/11(土) 22:00:41 0
む、しまったな。【逃走本能】を脱いだ直後にこうなるとは何とも運がない。
と言うより大抵の場合この手の事は「もういいか」と思った瞬間にやって来るものだな。
まるでシャッターチャンスではないか。
ほんの一瞬気を緩めた隙にそれが目の前を通り過ぎていった時にはもう、運命の女神とやらに殺意を抱かざるを得ないね。
というか人の額に血を塗りたくるな気持ち悪い。
まったくこれだから常識の無い輩は嫌いだ。

ともあれ、成る程。
つまりこの……確かドルクス君だったか。
彼の言葉を短く要約すると、こうなる訳だ。

「自分達には、明かされては困る秘密がある」と。
浅慮だな。火のないところに煙は立たぬと言うのに、何故わざわざ自分から天高く立ち上るような狼煙を上げるのだろうか。
まあ好都合ではあるから良しとしようか。

> 「囚人君達にもまだ話していなかったことだが、まず聞いてくれたまえ。僕とその愉快な仲間達は、これで一つの団体だ。
>  『休鉄会』――それが僕らのコミニュティの名称さ。まだ申請はしていないがNPO(非営利団体)みたいなものだと認識してくれ。
>  そして僕らは『ある一定の目的』の為に動いている。このゲームへの参加は、単に活動資金のシノギでしかないんだ」

「何ともネーミングセンスに欠けた名称ですね。それでその目的と言うのは、聞かせて頂けるのですか?」

うむ、やはり私のネーミングセンスは甚く正常である事が判明したな。
それにしても名も歳も出身地も仕事も明かせぬような連中で構成された非営利団体か。
荒唐無稽過ぎて笑いが込み上げてくるな。
さて、どうあれ私は藪をつついた訳だが、鬼が出るか蛇が出るか……

> 「――僕らはこの世界の人間じゃあない。全員が別の世界から不本意に連れ込まれた平行世界間拉致被害者だ。
>  『休鉄会』はそういった異世界からの迷い人を保護し、相互に助け合い、最終的には皆が望む形でこの世界に決着をつける、
>  つまりは帰るか帰るまいかを自己の意志で選択できる立場になることを目的としているんだ」

……驚いた。このブリーフ男、赤く染まらないじゃないか。それどころか赤が薄まった。
つまり彼は今、確かに「秘密」を吐露した事になる。
異世界人によって織り成す相補扶助組織「休鉄会」?
馬鹿馬鹿しい。あまりにも、あまりにも荒唐無稽だ。
だが、だからこそ


……スクープの匂いがするじゃないか。

246 名前:長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB [sage] 投稿日:2010/09/11(土) 22:02:11 0
そうとも。例え彼ら自体を記事にする事が出来無くとも、彼らが巻き起こす事件などを記事にする事は出来るだろう。
それだけでも十分、スクープにはなり得る。
差し当たってこのブリーフ男だな。『現代を生きる全てのビジネスマンに!もう一人の貴方を貴方に!』
……むう、やはり何処か通販の臭いがする。いや、逆にこれをオカルト系の雑誌に載せてみるのはどうだろう。
ドッペルゲンガーに通じる仄暗さがありながら何処かシュールなこのタイトルなら……うむ、早々に企画を練ってみるか。
おっと、いけない。取らぬ狸の皮算用をしている場合ではないぞ。私には可及的速やかにすべき事がある。
まず第一に、

「失礼、少々お時間を頂きたいのですが。いえ、ちょっと電話を一本。貴方達の事を誰かに伝えるつもりはありませんし、恐らく本当に出来ないのでしょう。
 ただ……ん、あぁやっと通じたか。相変わらず君は電話に出るのが遅いな。なに?そんな事より要件は何かって?まったく、ビジネスライクは美徳だが
 あまり度が過ぎると友人を無くすよ。何?私は友人ではない?ははは何だ、君にもユーモアのセンスがあったとは驚きだ。
 うむ、それで要件の方だが……もし私が近日中にくたばったり、明らかに様子がおかしくなったり、行方不明になったりしたら
 今日、ラウンジホテルの……号室に宿泊していた連中を探りたまえ。とびきりのスクープが手に入るぞ」

予防線を貼らなくてはね。
ちなみに「号室」の前に並ぶ三点リーダは単に部屋番号を確かめる為に備え付けの電話を見ていたと言うだけだ。
決して呪いとやらで言い淀んだ訳ではない事を明示しておこうか。下らぬ誤解を招いてはつまらないのでね。

「そう言う事だ。……あぁ、君が物分りのいい友人で良かったよ」

秘密を知った私が彼らに殺されないように。
また必要とあれば私に彼らを守らせる為にも。

「お待たせしました。それでは、お話を続けましょうか。いえ、始めましょうと言うべきですね」

そう。

「……ビジネスの話を」

彼らは私に記事のネタを、上手く行けば「私が悲願とする目的」の役にも立ってくれるかもしれない。
ならば私も、彼らを繋ぎ止める為の対価は惜しむべきではないだろう。

「貴方達は問題が山積みだ。先程解決した金銭面というのも、山の中のほんの一握りでしかない。
 そうですね。差し当たって「異世界人を保護し助けあう」とは言っても、具体的にはどうやってそれを実現するんです?
 この現代社会で名も顔も知らない人間を手探りに探しますか?それは砂漠に放り込まれた一粒の砂金を探すようなものだ」

そう、彼らには致命的な不足分がある。

「そこで……もし貴方達さえ良ければこの私が、ここ最近の不可解な事件についての情報提供をしてあげましょう。
 表世界のニュースになるようなものなら兎に角、裏社会のそれを探るには、貴方達は情報網も人脈もないように思えます。
 元より身分証明や社会的地位を持たない異世界人なら、裏社会に身を鬻いでいる可能性は高いと言うのに」

だからこそ付け込めるのだ。
付け込むと言えば聞こえは悪いが、交渉の余地があると言う意味である。

「勿論タダとは言いませんが……何も法外な、いえこの取引自体が既に法の外側なのですが。
 足元を見た対価を望んだりはしませんよ。ただ私が紹介した事件の真相や、折々に見た……まあとにかく
 ネタになりそうな話を持ってきてくれればそれでいい。それを私が追求して、また新たな事件に繋がる事もあるでしょうしね」

彼らとしても悪くない取引だと思うのだが、どうだろうか。

「と言う訳で、如何ですか?お互いのニーズを満たす、決して損な取引ではないと思いますが」

(情報提供の持ちかけ。対価は事件の真相やネタのタネ。ちなみに彼はハルニレやドルクスも十把一絡げに休鉄会と勘違いしています)

247 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 10:46:25 O
「ウサギにも言ったことだガ……マユキは俺の恩人でナ。
彼女が安心して日常を過ごせるようにするコトが俺の目的、元の世界に戻るのはソノ後ダ」

飛峻の言葉を聞いて、真雪の胸が痛くなる。ときめきじゃない。申し訳なさに、だ。

「ソノためにウサギに雇われたのだからナ。だからソノ対価に見合うまでオマエたちの仕事を手伝うサ」

逃げ出した自分を、飛峻は恩人だからと言ってまだ見捨てずにいる。
余りに優しさが眩しすぎて、前が見れない。俯いて、膝に置いた手を眺めた。

飛峻の方針を聞いたのだから、今度は真雪か尾張の番だ。
それでも真雪は、朝日の言葉に答えられなかった。
怖いのだ。答える事で自分の矮小さが見抜かれる事が。
そして、その先に自分が見捨てられる事が何よりも怖い。

この非日常を独りで生きられるような強さも、
今ここで日常に帰る選択を取るような強さも、月崎真雪は持ち合わせていない。


『元の世界に戻りたい。
協力してくれるなら、お前達に従おう』

尾張の言葉を読み上げる朝日の声。シンプルな力強い決意が有った。
ああ、やっぱり尾張さんは強いな。真雪は縮こまりながらそう思う。
怯える真雪に、朝日は明るく言った。

「真雪くんは、存分に悩めばいい。本当の事を言うなら、兎と僕は意見が違っていてね。僕はあんまり一般人を
巻き込みたくなかったんだが。
さて、真雪くんが方針を決めるまで、ちょっと話を進めようか」

その一言を口にした途端、空気が変わる。その場に居る全員が緊張するのが分かる。
その空気を知らない真雪は、ただひたすら怯えていた。




248 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 10:48:02 O
朝日の言葉で、酷いが故に納得した事実がある。
金儲け、そして相互利用。

「さて、と。随分長く話し込んでしまったな。
要するに、僕らは君たちを拘束しない。【必要行動】さえ満たしてくれれば、君たちは『ユーキャン』と言う組
織を利用できる。満たしてくれなければあぼーん。『ユーキャン』はご利用できません。
そう言うことだ」

何を目的として動くにしても、それは知っておかねばならなかっただろう。
それを教えてくれて良かったと、パソコンと話す朝日を眺めて真雪は思う。
と、尾張からメモが回ってきた。読もうとするが、朝日に阻まれる。

「ごめんごめん、今日の君達の仕事、【必要行動】を決めておくから、それまでに兎を起こしてきてくれないか
い?
404号室にいるんだが、多分扉をノックしたら起きると思う。ああ、覚悟してくれよ。彼女は朝が弱いんだ。
ついでにビルの中を探検もしてくるといい。そのくらいの時間はあるはずだ。ちなみに、その鍵は社員になった人に必ず渡す物だ。社員には上のアパートの部屋を割り当てることになってて
ね。社員証の代わりと言っていいから、無くすなよ」

鍵を握らされ、あっという間に部屋の外に出る。
朝特有の冷ややかな空気が心地良い。頭痛も収まったようだ。
頭痛の原因が大した物では無い事に安堵する。
真雪は一つため息を吐き、外を眺めたまま飛峻に尋ねる。

「ねえ…どうして私を助けようとしてくれるの?
私を恩人だと言うけど、私は大した事はしてないわ」

別に答えなくても良いけど。そう続けて、朝焼けの街並みから飛峻に視線を移した。

「あのね飛峻さん、ずっと側に居るって…約束、してくれる?」

真雪の言葉で、その場に沈黙が流れる。


249 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 10:49:35 O
その中で、記憶が朧気に姿を表した。


『うん! やくそくよ、またたすけてね!』
『所詮口約束だったのね。』
―――こんな約束は破られるモノなのに?


思い出した瞬間、真雪の顔が恐怖に歪んだ。

「…ごめん今のやっぱ無し! 忘れて!」

まるで照れているかのような言葉。しかし表情は依然として怯えたままだ。

「そうよ! こんな事してるより早く行かないと却って待たせちゃうよ!」

何も考えず、逃げ出す。
そして階段を登ろうとして、

「ふぎゃっ!」

転けた。飛峻がそばに来ると、転けた体勢のままごめん、と呟いた。

「あ、どうも。”法人”の寡頭です。
今月分の資金をお渡しに来ました。」

そんな折り下の階から聴こえた声に、真雪は頭に出来たたんこぶを抑えながら起き上がる。

「お客さん、かな?」

【とりあえず廊下には出た】

250 名前:シノ ◆ABS9imI7N. [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 15:09:42 0
「(暇だなあー・・・・・・)」

ソファーに腰掛け、ボーッと天井を見上げる。
手にはつぎはぎだらけのウサギの人形『モンティ』を抱え、はふぅと溜め息を吐く。
ここにいるのは、シノとジョリーとミーティオ、そして夢の中の皐月、弓瑠、ゼルタ。
突然寝てしまった三人をそのままにしておくわけにもいかず。
眠らされなかったシノ達で隣の寝室に運び、今に至る。

「(あ、あの人・・・ウェイターさんだっけ?あの人どこにいるんだろ)」

一人、ゲームの参加を拒否して出て行ったウェイターを心配する。
どこか気分が優れないような顔をしていた。
シノの本来の性格が相まってか、気になって仕方がなかった。

「ちょっと、様子を見に行くだけ・・・」

確か彼は、ホテルの屋上へ向かっていた筈。
シノはジョリーとミーティオに一言断り、部屋を出てトテトテと屋上へ向かう。

>「One sheep, Two sheep, Three stray sheep...」

屋上への入り口、鉄の扉を挟んだ向こう側で、歌声が聞こえてくる。
子守唄にしては調子外れの、それでいて安心する唄。

「ウェイターさん!?」

扉を開くと、ウェイターがうつ伏せになって倒れていた。
急いで駆けよって揺さぶると、何かに縋るかのように手を伸ばす。

>「……主よ」

「しっかりして下さい!今運びますから!」

その手を反射的に握り返し、シノは軽々とウェイターを担ぎ上げる。
大人5人分もある棺桶を日常的に持ち歩いてる彼女にとっては造作もないことだ。




ビシリ。



251 名前:シノ ◆ABS9imI7N. [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 15:11:22 0
「え・・・!?」

夜空に響く、空気が割れるような音。
果たしてそれは、常人には聞くことすら不可能な『魂の復活』の予兆。

「まさか・・・・・・誰かが『メイク・ザ・ゾンビ』を!?」

ウェイターを担いだまま、屋上のフェンスに飛び乗って夜の街を見渡す。
『メイク・ザ・ゾンビ』にしては、あの空気は異常だった。
ピリピリと肌を刺す夜独特の冷たい空気。

「! もしかして≪複合体≫の生成・・・だとしたら!」

フェンスから飛び降り、鉄の扉を力任せに開ける。
階段の段差を全て飛び越えて踊り場まで着地し、また段差を飛び越える。
そうしてジョリー達の待つ部屋の前までたどり着き、これまた力任せに扉を開けた。

「すみません!これ、持ってて下さい!」

ジョリー達にウェイターを押しつけ、シノはゼルタの元ヘと駆けよる。
顔を真っ赤にし、汗だくのまま眠り続けるゼルタの額に触れると、険しい表情でジョリー達へと告げる。

「ジョリーさん、なるべくゼルタさんの体を冷やしてください!」

後、絶対に部屋を出ないでくださいね!と付け加え、シノは再び部屋を飛び出した。
今度は棺桶と、手にウサギのぬいぐるみを抱えて。


BKビル内。
キープアウトの線をくぐり抜け、シノの足が目指す先は展望フロア。
多数の魂の『跡』を感じる。しかし肝心の魂達がいない・・・どういうことだろう。

「あーれれぇー?なーんでこんなところに子供がいるのかなぁ?」

戦場の跡地のような場にふさわしくない、少年のような声。
シノが振り向いた先には、クセのある金色の短髪の少年。
その横には、ドクロを思わせるような、真っ赤な半透明の縦に長い繭のような何かが設置されていた。

「関係者以外は、立ち入り禁止なんだからな・・・・・・・って」

シノを見た少年の目が少しだけ見開かれる。
その次に少年が見せた表情は・・・・・・笑みだった。

「アッ・・・・・・・・ははははははははは!コイツは驚いたよ!ガキのゾンビマスターだなんて!」

きゃらきゃらと笑う少年。年はシノと変わらないようにも見える。
繭をそのままに、少年は人とは思えない厭らしい笑顔でシノに近寄る。

「初めまして。ボクはレン、上級ゾンビマスターなんだからな」

ダボダボの服の背中から、レンは巻物のようなものを取り出す。
バサリと開かれたそれには、墨汁でデカデカと『世界制服』と書かれてあった。


「夢はおっきく、世界征服もとい『世界制服』!よろしくなんだからな、チビッ子!」


ダイスロール:次ターンの最初のレス番号末尾
【奇数    :荒海の復活】【0、4を除く偶数:不非兄弟の復活】【0:鍋男さんの復活】
【4:複合体、誕生】

252 名前:テナード ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 15:15:13 0
>「なあ、ビルのあの時さ。何で助けてくれたんだ?」

挨拶もそこそこに、久和が切り出してきた一言。
その言葉から読み取れる感情は、純粋な疑問と好奇心に近いもの。

>「なあ、何でだ?」

テナードはその言葉を聞き、目を伏せた。少しばかりの沈黙が流れる。

「なんで、だろうな」

依然、視線は爪先に向けられたまま、ボソリと呟く。
掛け時計の秒針の音が、静かな部屋でいやに大きく響いて耳障りに思えた。

「本当に、分からないんだ。気づいたら、足が勝手に動いてたんだ。
 理由とかそんなの関係なくってよ、ただ助けなきゃって思ってさ」

あの時を振り返ると、ほぼ感情に任せて動いていた気がする。
いつもなら自分の利害だけを考えて行動していただけに、「らしくない」と何度も思った。

「そういや、どうやってあそこまで行ったか教えてなかったな。カズミがよ、あ、カズミってのはな……」

どっかりとソファに座り、久和が消えて再び現れた時の事を語る。
カズミの事、タクシーでビルにつっこんだこと、他に出会った人たちのこと。

「お前を見つけた時、本当に良かったって……何でだろうな、お互い初対面のはずなのにな」

ハハハ、と自嘲的な笑みを浮かべる。答えになっていないのは分かり切っていたが、今の彼にはこう答えるしかできなかった。
しかしふと考えて、どこか納得したように「ああ」と小さく呟く。

「目だ。目が、似ていたんだ」

誰の、とは言わない。怖くて言えない。

"人殺しだった頃の俺の目"だなんて、恐ろしくて口が裂けても言えなかった。


「もう寝よう。眠れる時に寝とかないとな」

はぐらかすように言い、二つあるベッドの内の一つへと向かう。
彼にとって久々のベッドに腰掛け、向かい側の久和へ呼びかける。

「何かあったら起こしてくれ。怖くてトイレに行けない時とかな……冗談だって!そう怒るな」

怒る久和を宥め、ケラケラと笑う。
そういえば、こうして誰かと話して笑うというのも、久しい気がしてきた。
ひとしきり笑うと、ゴロン、とベッドに寝転がり、久和に笑いかけて言った。

「おやすみ、また明日」



253 名前:永久にループする記憶の断片の中で ◆IPF5a04tCk [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 15:16:41 0
『逃げたぞ!あっちだ!』

駆ける、駆ける、とにかく駆ける。全速力で、追っ手から全力で逃げる。
息をするのも苦しい。だが走らなければ追いつかれる。殺される。

『ハァ……ッ、ハァ…………!もっ、むり……!』

テナードの腰の大きさまでしかない子供――ジュニアが音を上げる。
力もなくスピードもない、所謂足手まといだ。でも、これでも仲間だ。見捨てるわけにはいかない。

『ジュニア、二手に分かれよう。この向こうの噴水で待っててくれ』

ジュニアは必死な表情でコクコク頷く。追っ手達はテナード達の会話を聞いていない。
テナードのサインを合図に、入り組んだ通りの中へ飛び込み、二手に分かれた。

『オラァ!待ちやがれ500万ユーロォオ!!』

追っ手達の狙いはテナード一人。それは彼自身が分かり切っていることだ。
いつものように撒いて、事前に打ち合わせしていた場所で落ちあえばいい。


『よし、この辺り………か……?』

待ち合わせ場所に、ジュニアはいなかった。それどころか、待ち合わせの場所すらなかった。
あるのは暗闇だけ。漆黒の暗闇、ただそれだけ。前も後ろも横もない、永遠に続く、闇。

暗転。


「ここは…………研究所?」

荒れ果てて朽ちたそこは、忌まわしい記憶の一つ。

人の気配を感じ、振り向く。それは、初めて見る、一人の男。
見覚えのない、黒の長髪に見慣れない格好。髪が邪魔して、三日月のような笑みを見せる口元だけしか見えない。

「…………誰だ、お前」


「あの子なら来ないよ、検⊇番β=Φ\ηН」


男はテナードの額に手をかざす。激痛がテナードの体中を襲い、絶叫する。
腕が取れる、足が取れる、傷跡という傷跡から血が噴き出す。


『テナード?』


救いの場所は、どこにあるのだろう。答える者は、誰もいない。

【ターン終了:3日目へ】


254 名前:? ? ? ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 19:20:20 0
≪殺気がだだ漏れだよ、T≫

まさに不機嫌です、と言いたげな表情(カオ)で、Tがこちらを振り向いた。
普段の黒い瞳の片方が、鈍いシルバーにすり変わっている。
≪アライク・アイズ≫か。
何を見ているか知らないが、Tが怒りを露わにするとはよっぽどのことだろう。

「何時から起きていた?永遠(トワ)に眠っていればよかったものを」
≪つれないねえ『タチバナ君』、キミは何時からそんな子になってしまったんだい?≫

Tの眼付きが鋭くなった。私は肩を竦めてTに頬笑む。
けれども笑っていられる状況でなくなってしまった。
この子が自我を取り戻しつつある、つまり私の”術”も切れかかっているということだ。


≪弱ったねえ……君にはもう少しだけ、お世話になるつもりだったんだけど≫

「私は、ちがう、僕はもううんざりなんだ!さっさとかえしてくれ!」


誰もいないのに一人叫ぶTを見れば、誰もが不審に思うだろうなと可笑しく思う。
出ていけと言われても、そういう訳にはいかない。
あの子が来てしまった以上、姿を見せるわけにはいかないのだから。

「う…………ううう………………!!」
≪ごめんねぇ…何もかも終わったら、カエシテあげるから≫

項垂れるTの頭を、よしよしと撫でてやる。幼子をあやす父親の気分だ。
透けて向こう側が見える腕でTを抱き込み、私の体は完全に同調した。

「さあ、行こうかね」

Tの腕章を左腕に、髪をかきあげてオールバックに。
今日も私は、『T』になる。


255 名前:エレーナ ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 19:21:25 0
「はぁー……」

水を吸った長い髪が体に巻きついて、少し鬱陶しい。
ぬるい湯の雨が、べたついた肌に心地いい。

「シャワーって、やっぱ良いわよねー…魔界に持って帰りたいわ」

なーんてね、と冗談を口にする。

でも、シャワーに限らず、人間の産物とは本当に便利だと、この世界にきて改めて実感させられる。
魔法とは違う、この世界の摂理と法則を最大限に活かした科学とやらの力の結晶。
私達は魔法があるから、シャワーやバスタイムなんて必要ない。
せいぜい、遊戯として嗜む程度。

「(それは置いといて…だんだん『思いだして』きたわ)」

精神を交換してからの、体の記憶が徐々に『再生』される。
あのドルクスに似た青年は訛祢琳樹。他にも異世界人達がいる。
進研や、スパイのことも、この世界の『映画』のように再生されていく。

「(このリボンが、盗聴器みたいなものなのね…)」

片面だけ、今は銀色に輝くリボン。
このリボンで、タチバナによく似た、Tと名乗っていたあの男と意思疎通を図れるらしい。

「…T?」

冗談のつもりで、試しに呼びかけてみた。
でも、何も応答がない。銀色がキラキラと輝くだけだ。
なんだか、ちょっぴり残念な気持ちになった。

>「※※!」
「ふぇ?」

シャワーの音に混じって、誰かの大声が聞こえた。
何故か私の名を呼ばれた気がして、反射的に振り向いて、フリーズした。

「り、りんき、さ……?」

>「あ、ご、ごめん…」

琳樹さんは顔を真っ赤にして、そそくさと立ち去っていく。
私はフリーズしたまま、けれどすぐに我に返って叫んだ。


「あ、謝るくらいなら最初から見ないでよ、バカーーーーッ//////!!」



256 名前:エレーナ ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 19:25:31 0
『HAHAHA、よくある「ヒロインのシャワータイムに相手が入ってドキッ☆」ってやつだね。それなんてエロゲ?』
「ひゃわぁあ!?」

落としたリボンから聞こえたバリトンボイスの笑い声に飛び上がる。
バスタオルを巻いて、おっかなびっくりリボンを拾い上げる。

「タt……T?」
『おはようエレーナ君。まな板胸を見られた今の気持ちを一言』
「×ね!!」

おおおっかない、とTは笑う。何よ、こっちの気も知らないで。
頬に熱を感じながら、リボン越しのTを睨みつける。

『冗談はここまでにして…そちらは今どんな状況だい?』
「……琳樹さんと一緒に、知らない部屋にいるわ。今のところ、何もないわよ」
『ふむ…では何か進展があったら連絡してくれたまえ』

分かったわ、と返事をしたところでTの姿が消えた。
連絡…また同じようにリボンに呼びかければいいんだろうか。
リボンを巻きなおしてバスローブを羽織り、バスルームを出た。

「えっと…つ、次からノックしなさいよね、ノック!」

分かった!?と琳樹さんに念を押す。
何だかこの感じ、懐かしい。
どうしてだろう。シャワー中に誰かに覗かれたことなんてないのに。


「そ、そうだ!お腹すいたし、朝ごはんにしましょうよ!ね?」

この甘痒くて複雑な気持ちを払うかのように、私はそう提案した。


【ターン終了:朝ごはんを食べよう!】

257 名前:小林莉奈(1/2) ◇6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 23:10:56 0

夜明け前。
市内の旧市街地の中を、ジャージ姿の一人の少女が走っていた。
名前は小林莉奈。月崎真雪のクラスメートであり、愛内檸檬のテニス部での後輩でもある。

時期は五月、最近暖かくなってきたとはいえ、
明け方となるとまだまだ、厳しい寒さが彼女の肌を刺す。
それでも彼女が走っているのは、8月に控えたインターハイに、レギュラーとして選ばれるため。
今年で三年になる愛内檸檬。憧れの彼女と友に、彼女にとっての最後の戦いに自分も赴きたい。
その願いが、今、この寒い中彼女を走らせる原動力になっているのだった。

「はぁ……それにしてもムカつくなー」

ここ二日ほど、彼女はとある出来事に囚われている。

(月崎ってば……なぁーにが『アタマ沸いてる』よ!!)

彼女は明るくて人懐っこい性格である。
ゆえに普段、正面切って人に敵意を向けられる事が少ない。
ようは好かれているということなのだろうが、しかしこういう人間の欠点として
たまに敵意を向けられると、慣れてないがゆえにそれに耐えられないというのがある。
今の彼女は、まさにその状態なのだった。

「だいたい気にいらなかったんだよねー、いっつも暗いしさ、アイツ。
 そのクセ愛内先輩に気に入られて……あーもう!!」

しばらくはランニングで気が反れていたのだが、
やはり体が慣れてくるといらないことが頭に流れ込んでくる。
なんでこんなことに自分が意識を取られなければならないのか、
まったく、全てはあの月崎の……

もういっそこの止め処ないイライラを、走る速度に変換してしまおうと
彼女がさらに足を進めるスピードを上げようとしたとき、ちょうど目の前の電柱にとまっていた『それ』が目に入った。

「うわッ!! 何これ!! 気持ち悪ッ!!!」

白い体に、無駄に派手な柄の羽。尻から伸びた長い羽が風になびいている。
―――それは巨大な『蛾』だった。

生理的嫌悪感から、背筋に冷たいものがぞわぞわッと走る。

どうでもいいようなことでイライラするわ、気持ちの悪いものは見るわ。
まったくなぜ自分がこんな目にあわなくてはならないのか

そう思うと同時に彼女は、思い立つ。
この気味の悪いモノを殺すことで、自分のこの胸に溜まったフラストレーションを発散できるのではないか、と。

彼女はゆっくりと履いているスニーカーを脱ぎ、目線の高さの位置に止まっている『それ』に
一歩、また一歩と近づいていく。そして『そいつ』が射程距離に入ったとき、彼女は思い切りそれを『そいつ』にむかって叩きつけた。

「わ、わわわ!!!?」

結果から言えば、彼女の行動は失敗に終わった。
狙っていた『蛾』は、驚いて飛び上がり、攻撃してきた彼女のまわりを飛び回ったのちに、空へと舞い上がる。
驚いて尻餅をついた莉奈は、右手に靴を持ったまま、空に飛んでいく『そいつ』の姿を見送っていた。


258 名前:小林莉奈(1/2) ◇6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 23:13:08 0
「なによ……なんだってのよーーーー!!!」

まだ明け方の住宅街のド真ん中で、彼女は叫ぶ。
はっ、と気付いてあわててその場から立ち上がり、周りを見渡した。

よかった、どうやら周りの住民が起きたということもないようだ。
ほっ、と息を吐いて、彼女は靴を履きなおすと、そのまま逃げるようにその場から立ち去った。

「まったく、こんなことになるなんて……!! 全部……」

走りながら彼女は、あれ、と思う。

「全部……月崎……さんが……?」

そうだ、全部あの少女が、月崎真雪が悪いのだ。少なくとも先ほどまで自分はそう思っていたはずだ。
なのになぜだろう? ―――今、自分はいまいちその感情に現実味が持てない。

「……ま、いっか」

結局、彼女はそのことについて深く考えないことにした。
自分にはインターハイという目的があるのだ。余計なことに気を取られている暇などない。

ヒトという生き物は、他人とのかかわりの中で生きていく。
好きな人の言葉で成長するというのは確かにあるが、
どちらかというと、この年頃の人間は自分の嫌いな人間にどう対応するか、
ということを模索しながら、それを成長につなげる、ということの方が圧倒的に多い。

彼女は気付かない。
自分が今、”未来を奪われてしまった”のだということを。
月崎真雪に対する嫌悪感が、彼女を変化させる。
その可能性は彼女が不幸にもあの『蛾』に出会ったことで絶たれてしまった。

まあ、しかし別にこんな事態は珍しいことでもなんでもない。
人間の運命などというものは、たいてい当の本人はまったく知らないところで決まってしまっているし
そして、人間がその理不尽を意識することなどまずないからだ。

しかし、それが『ある特定の個人』の意思によるものだとしたら?
今、ここにいるすべての人間の未来を、自分の都合のいいように操作しようとしている、
―――そんな存在がいるとしたら?

それを許す理由が、はたして『世界』の方にはあるのだろうか……

竹内萌芽が、月崎真雪のためにやろうとしていることというのは、つまりはそういうことなのだった。


259 名前:竹内 萌芽(1/2) ◇6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 23:14:30 0
「それじゃあ、行ってくるわね?
 貴方達ならさほど心配はいらないと思うけど気をつけて……」

そう言いながら、零は部屋に残った二人に背を向けた。
左手にはジージャン。右手には……自分の手。

先程よりは落ち着いたとはいえ、未だに竹内萌芽の心拍数は高いままだった。
彼女とつないだ左手が、異様に汗ばんでいるのが分かる。
汚いとか思われてないだろうか? 大丈夫だろうか?
と、そんなささいな事でどうしようもなく不安になってしまう。

別にすぐ隣に居るのだから、零自身に聞いてしまえばいいのだろうが、
そんなことを考えられるほど今の萌芽は冷静ではなかった。

外に停めてあるファングの前まで来て、零がジージャンを羽織る。
つながれていた彼女の手が離れてしまって、萌芽はなぜだかさみしいような、悲しいような
とても耐え難い感情に囚われる。

思わず彼女を抱きしめそうになって、なにをやろうとしてるんだ自分は、と、
頭を左右に振って行動しそうな自分を押さえ込む。

どうかしている。本当に。

”アッヒャー、もるってば乙女ー”

(うるさいですよ、黙っててください)

心のなかで、からかってくるストレをどやしつけ、
すでにタンデムに乗る彼女の前に座り、キックでファングに動けと命令する。

走り出すバイク、すると腰に手を回す零から心なしか弾んだ声で言った。

「で?どんなプランなのかしら?
 ショッピング?映画館?お金ならそれなりにあるから大丈夫よ?」

「……お」

言われて、萌芽の頭の中が真っ白になる。

どうしよう、そういえば零をデートに誘うことで頭が一杯で、その先のことは何にも考えてなかった。
っていうか、自分は今、何円持っていたのだったか?

(忘れてたけど……い、一文無し……でしたよね、僕)

よくは知らないが、デートというのは一般に男のほうが金銭面を負担するものではないのか?
それができない男は格好悪いとさげすまれるのだと、モテないくせにそういうことにヤケに詳しい友人から聞いた覚えが……

(ど、どうしましょう……!!?)

ちょっとだけ考えて、そして萌芽は答えを出した。

「と、とりあえずBKビルまで行きましょう? それからはお楽しみってことで!!」

それは、どちらかと言えば、答えというより『言い逃れ』に近いものだった。
しかもさりげなく自分のハードルまで上げている。

なんだか泣きそうになりながら、萌芽はBKビルの前に向けてファングを走らせた。


260 名前:竹内 萌芽(2/2) ◇6ZgdRxmC/6 [sage] 投稿日:2010/09/12(日) 23:15:43 0
BKビル前のその様子を見て、萌芽は数秒思考停止していた。

そこにあったのあビルのまわりをうろうろしている警官の姿と、
周りに張り巡らされた『立ち入り禁止』を表すテープ。

だんだんとその様子を彼の脳が正常に認識し始める。

(……どうしよう)

ちょっと考えれば分かりそうなものだ、昨日あれだけ自分たちが大暴れしたこの場所が、
今日も正常に機能しているわけがないではないか!!

(僕のバカあああああああああああああああ!!!!!)

真っ赤なバイクにまたがって、ヘルメットを被ったまま空を仰ぐ少年。
はっきり言って、ものすごく目立った。

「そ、そうです、この辺りってけっこう賑やかで、
 なんていうのか、デートにはうってつけって感じじゃないですか?」

苦し紛れに、後ろの零に向かって笑いかける萌芽。
手ごろな駐車禁止でない路上にファングを駐車すると、
彼はその真っ赤なバイクから降り、タンデムに座る彼女に手を差し出す。

「ちょっと歩いてみましょう? きっと楽しいこと、見つかりますよ」

辺りを見回すと、近くの電灯に『七板通り』の文字が見えた。
周りには若い人間も多いし、デートコースとしては申し分ないだろう。

「そんなわけで、お留守番お願いしますねファング。 お回りさんが来たら、速攻で逃げるんですよ?
 あなたがバイクなのにシャフト方式だっていう事実に気付いたバイクマニアのお兄さんとかについていっちゃだめですよ?
 もし誘拐されそうになったら、怪我しない程度に噛み付いてもいいですからね?」

ブラッディファングというこのマシーンのフロント部分には、犬の口を思わせる攻撃装置が備わっている。
もともとは戦闘形態(バトルモード)になったとき、近接戦闘をすることを考えて付けた装備なのだが、
今の走行形態(ビークルモード)でも別に問題なく使用できる。

元気よく「がるる!!」とマフラーを鳴らすファングに軽く手を振りながら、
萌芽は零と友に七板通りを歩き始めた。

彼らの左右には、様々な店が並んでいる。

【ブティック:Original character】
【雑貨:ダークファンタジー】
【ゲームセンター:HERO】
【花屋:ノースフィリア】
etc……

「おー、どれが面白そうですかね?」

できるなら零の負担を減らすため、できるだけ金が掛からず、
なおかつ、見ているだけで二人の会話がはずみそうなものがいい。
とすると、ブティックや、なんだか怪しげな雰囲気を放っているあの雑貨屋などがいいのではないだろうか……

【ターン終了:えー、このレスは実際のなな板スレとは全然関係(ry】

261 名前:訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY [sage] 投稿日:2010/09/13(月) 03:21:42 O
部屋の隅で踞る彼に聞こえてきた声の主は裸を見てしまった彼女、エレーナであった。

>「えっと…つ、次からノックしなさいよね、ノック!」

分かった!?と念を押されるがノックしたら良いのだろうかと言う思考が彼の脳を占める。
いやそもそもノックしたとしてシャワー中に聞こえるだろうか。
まあ、どうでもいいのだが…。

>「そ、そうだ!お腹すいたし、朝ごはんにしましょうよ!ね?」

何か焦ったようにそう言うが朝飯と言われても材料は何も無い、と思われる。

「ううん…」

確かに飯を食べたいと腹が主張するがしかし飯は無い。
さて、どうしたものかと首を傾げる彼の耳には何かの鍵が開き、そのまま扉の開く音が聞こえた。

「おはようございます!朝御飯をお持ちしましたよ!冷めない内に食べてくださいね?」

お盆を持った黒髪ロングの中性的な人物が部屋に入ってくる。
お盆の上の料理をテーブルに置いていくその顔に、琳樹は見覚えがあった。

「あの、Kさん…?」

「へ!?……ち、違いますよ!私はKの兄弟のく、空流和胡です!」

「そ、そう?」

「はい!」

確かに、彼はこんなに人懐こい笑顔を見せる感じではなかった。
…まあ、兄弟と言われれば納得できなくも無いので彼は納得してみた。

ありがとうと言うといえいえと笑う相手を見てやはりKとは違うと彼は思った。
しかし、それと同時に不思議に思うことが一つ。

「あの、もう出ていっても…」

「あいえ、そのご飯、私の手作りなのでお口に合わなかったらごめんなさいしないといけませんから!」

しょぼんとして早く食べてみてくださいと催促する。
少し戸惑いながらも頷きテーブルに置かれた料理に手を付ける。
勿論いただきますも忘れずに。

「うん、美味しいよ」

「あ、ありがとうございます!」

嬉しそうに顔を綻ばせて礼を言う空流は、そのまま失礼しました!と言葉を発して、閉まったドアに額をぶつけた。

「い゙っ」

短く声を上げ逃げるように外へ出て鍵を閉める。

「う、ああああ、痛いです。慣れない事はするものじゃないですねぇ。
……ですがですが、美味いと言わしめたので私の勝ちですよ。……嗚呼、額が痛い…」

そして胸ポケットから取り出した眼鏡をかけながらも、中に居る彼らに聞こえぬように、呟いた。

【け、げふん、空流さんマジどじっこ】

262 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/09/13(月) 22:36:32 0
世の中と言う物はどうしてこうまともに出来ているのだろうか?と、零は思った。
その理由は目の前に張られているキープアウトテープ。立ち入り禁止の立て札。

沈黙からゆうに五秒ほど。竹内萌芽は空を仰ぎ、絶望の後に盛大に頭を抱え込んだ。

「あはははははははは!!!!」

そして、それを罵倒するように笑い声を上げる零。
どうやら、デートは早くも障害によって阻まれたようだった。

「そ、そうです、この辺りってけっこう賑やかで、
 なんていうのか、デートにはうってつけって感じじゃないですか?」

「ちょっと歩いてみましょう? きっと楽しいこと、見つかりますよ」

「そうね。……確かにデートスポットみたいだけど、くくく…
 でも、アナタらしいと言えばらしいわ……っと、ありがとう」

そう礼を述べ萌芽の手を取ってファングから降りる。
しかし、着る服を間違えたなと零は思った。
そう、今の彼女は佐伯邸にあった服を拝借しているのであり、とてもバイクに乗る様な服装では無いのだ。

(ミスったなぁ……シャツワンピとか着るんじゃなかった。
 オイルとかついてないわよね……)

服装を確認するがシミらしいものは無い。
ちなみに、今の彼女の服装は丈の少しあるシャツワンピの上にジージャン、下はレギンスとパンプスと言う「普通」の物だ。

丹念に服の乱れを整え、辺りを見回す。

【ブティック:Original character】
【雑貨:ダークファンタジー】
【ゲームセンター:HERO】
【花屋:ノースフィリア】
etc……

どれも零の興味をそそるには十分すぎた。
それを確認し、その後に駐車の為手押しで路肩へ向かった萌芽の方を見るとこちらに歩んでくる途中の様だった。

「おかえり。それじゃあ参りましょうか?
 どこも面白そうだけど……何処に行こうかしら?」

「おー、どれが面白そうですかね?」

本当だ。と言いたそうに萌芽は辺りをキョロキョロとする。
優柔不断という奴だ。

「ちょっと……」

きょろきょろ。きょろきょろ。

「ねぇ……#」

きょろきょろ。きょろきょろ。きょろきょろ……

「あー!イライラするわねぇ!!
 ここ!!こっちの雑貨屋行くわよ!!」

そう言い零は雑貨屋へと向かっていく。
後ろから付いてくる萌芽が何か謝っていた様だが頭に血が上っている彼女には聞こえなかった。

263 名前:佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 投稿日:2010/09/13(月) 22:38:08 0
【雑貨:ダークファンタジー】

「へぇ……ルシファーの翼か。
 面白いアクセサリーね」

零は店主らしい小太りで中年の女性に勧められた髪留めを眺めていた。
何処となくコウモリを連想させるような形が小悪魔的魅力を引き出すのだとか説明を受けたが、元々その髪留めは零の趣味ではなかった
ならば、何故見ているのかと聞かれても困るのだが……

「こっちには……なにコレ?」

そう言い、生活雑貨らしき物体を持ち上げる。微妙に重たかった。

「変なの……テケリリとか聞こえるし……
 ん?どうしたの?……それ?」

その良く分からない物を下に降ろし、零は萌芽の見ている方へと寄り、覗き込んでみる。

「なにそれ?」

【状況:デート中。ただいま雑貨屋です】
【目的:特になし】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許】

264 名前:ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/13(月) 23:25:18 0

時間帯は真夜中。ジョリー達が隣室に引っ込んだのを確認し、ハルニレは部屋のソファーにどっかり座りこんだ。

>「ウェイター君はどこへ?」

「シラネ。死亡フラグ発言残シテドッカイッチマッタヨ」

部屋はハルニレを含んだ男4人というむさ苦しい空間になり果てている。
ハルニレ個人としては華が欲しいところだったが、致し方ない。
これから話す事は、おおよそ幼い彼女らには関わらせる必要性を感じなかったからだ。

>「さて、明日の探索チーム分けはあらかた決まったかな。僕とゼルタ君は奇数、ミーティオ君は偶数だ」

「ヘエ、ンジャア俺ァアンタ達ト組ムッテエノカイ」

ハルニレは口許を押さえ、心底可笑しそうにクツクツ笑う。楽しみで仕方がない、といった表情だ。
これで全員決まった。この長多良とかいう男とあのウェイターも含めて、であるが。
一旦整理すると、である。

旧市街地はハルニレ、タチバナ、ドルクス、弓瑠、ゼルタの五人。
新市街地はジョリー、シノ、皐月、ミーティオ、ウェイター、長多良の六人。

しかしながら、あのウェイターは参加するどころか拒否をほのめかす発言を残してドロップアウト。
長多良はまず参加者として認めていいものか。
それに加え、長多良から自分達に対してかなり敵意に近い感情を感じた。
三浦に近しいかもしれない人物だからと同行を許可したが…警戒はしておいて損はない。


>「囚人君達にもまだ話していなかったことだが、まず聞いてくれたまえ。僕とその愉快な仲間達は、これで一つの団体だ。
 『休鉄会』――それが僕らのコミニュティの名称さ。まだ申請はしていないがNPO(非営利団体)みたいなものだと認識してくれ。
 そして僕らは『ある一定の目的』の為に動いている。このゲームへの参加は、単に活動資金のシノギでしかないんだ」

>「何ともネーミングセンスに欠けた名称ですね。それでその目的と言うのは、聞かせて頂けるのですか?」

「人間性ガ欠落シテル奴ニ言ワレタカネーダロウヨ」

タチバナのネーミングセンスに長多良がケチをつけ、更にハルニレがつっこむ。
何とも険悪な雰囲気(何故か変換出来た)が流れる。女子が居なくて正解だったように思う。

ワインに口をつけ、ハルニレはタチバナの言葉を待つ。
残念ながら、ハルニレにはNPOが何たるかを知らない。が、タチバナの言いたいことは理解した。

>「――僕らはこの世界の人間じゃあない。全員が別の世界から不本意に連れ込まれた平行世界間拉致被害者だ。
 『休鉄会』はそういった異世界からの迷い人を保護し、相互に助け合い、最終的には皆が望む形でこの世界に決着をつける、
 つまりは帰るか帰るまいかを自己の意志で選択できる立場になることを目的としているんだ」

全て、この言葉によって。

265 名前:ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/13(月) 23:26:34 0
「異世界人、ネェ」

タチバナの言葉を聞き終えても、ハルニレの態度はさして変わらなかった。
お気に入りのククリナイフを宙に放り投げ、キャッチの繰り返し。何度目かのその動作を、ナイフの刃先を指で受け止める事で終了する。

「ソレヨォ、何ヲ根拠ニ信ジロッテンダ?ン?」

異世界人の証明を見せたドルクスはともかく、タチバナ達が異世界人だという証拠はどこにもない。
もしかしたら、彼らこそが異世界人を呼び出した張本人かもしれない。
しかし、それはタチバナも承知してのことだろう。
もし彼らが呼び出したのなら、こんなまだるっこしい真似はしないだろう。

「……ハッハァ!面白クナッテキタジャネーカ、ナァ?」

長多良は今の会話を聞いて、どこかに電話をかけ始めた。
電話の内容に興味がいかないハルニレは、目の前のタチバナにとびきりの笑顔を向ける。
その笑みに善意はない。純粋にゲームを楽しまんとする、蟻を踏み潰し蝶の羽をもぐ子供の笑みだ。
元々足りない呂律と酔っ払っているせいか、ますます子供っぽい笑顔に見える。

>「お待たせしました。それでは、お話を続けましょうか。いえ、始めましょうと言うべきですね」

>「……ビジネスの話を」

どうやら、長多良の電話は終了していたらしかった。
ビジネスと聞いて、ハルニレは無言で眉を顰める。いよいよもって、この男の目的が分からなくなっていた。
長多良の話が相変わらず長いので要約するが、

・異世界人である自分たちには圧倒的に「情報」が足りない
・そこで長多良が情報提供し、自分達も長多良にスクープになりそうなネタを持ってくる

つまりはこういうことだろう。

「マ、俺ハ何ダッテ良イゼェ。俺達ガ不利ニナラネーッテ保証ガアルシヨォ」

そう言ってドルクスを一瞥する。いざとなったら、異世界について詳しい彼やあの女を問い詰めればいい。
今はこの世界で、今までの人生とは一味違う時間を楽しむのも一興だ。既に死んでいるハルニレにとっては可笑しな話だが。彼は今この状況を楽しんでいた。

「良イゼ、長多良。要ハ手前ガ望ム”ネタ”トヤラヲ持ッテクリャ良インダロ?オ安イ御用ダ」

「無ケリャ作レバイインダシ」と、犯罪者の亡霊はケラケラ笑った。


ところで、とハルニレはタチバナを見る。

「アンタヨォ、タチバナ、ダッケカ…………ドッカデ、会ワナカッタカ?」

タチバナに寄りかかり、その首に両腕を回して固定する。
アルコールで正常な判断を下せないハルニレは、もっとよく確認しようと顔を近づけ、タチバナの顔を覗き込む。
傍から見れば危ない図だが、彼にとっては至極どうでもいいことだ。

「ンー…………」

顎に手を当て、考える素振りを見せる。大の大人が、自分と同じくらいの男の膝に乗っかっている様は、何とも滑稽な図だ。
しかしそれは、父親の出したナゾナゾの答えを必死に考える子供のような、そんな無邪気さが見て取れた。

「ヤッパリ、ドコカ……デ……?」

タチバナの顔を覗き込んだ刹那、ハルニレの視界と体が傾いたのは、ほぼ同時。
そのまま急速に、ハルニレの意識は闇の海へと沈んでいった。

266 名前:ジョリー ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/13(月) 23:28:15 0
「あれ?どこ行くのシノちゃん?」

外に出て行こうとするシノに声を掛ける。あのウェイターを探しに行くとのことだった。
ジョリーは軽く忠告するだけで見送った。そして二人はまた談笑に戻る。内容は長多良から、とある話へと変わった。

「あのさ、ジョリー。さっき頭に手入れたのって、…文明ってヤツなのか?」

「…………………………………はぁああ?」

文明という単語がミーティオの口から出た途端、ジョリーの表情が怪訝なものへと変化する。

「あのロリコンも言ってたけど、私のは『ブンメイ』とやらじゃなくて私の超能力なの!!」

再度言っておくが、ジョリーは文明の事については無知と言っても過言ではない。
麻薬運びや軽犯罪に手は染めているものの、文明の存在については全くといっていいほど知らないのだ。
更に、メディアに殆ど興味のない彼女は、TVのニュースや新聞なども見ないタチである。

「…じゃあ、他の文明を見たこととかは「無い!」

それ故に、自分の文明を超能力だと信じてやまないのである。


「あれ…ゼルタちゃん?」

激しい息遣いが後方から聞こえたので振り向く。先までぐっすりと眠っていたゼルタの容態がおかしい。
大量の汗を流し、顔を真っ赤にしている。明らかに普通ではない。

「ちょっとゼルタちゃん!しっかりして…熱ッ!!」

ちょっと額に手を触れると、まるで熱した鉄板に触れたかのような熱をもっていた。
これはいよいよもって異常だ。こういった事態には慣れてないのか、ミーティオも狼狽えている。

「ど、どうすりゃいいんだ……?」


>「すみません!これ、持ってて下さい!」

「え、ちょっとシノちゃ…わっ!?」

乱暴にドアを開けた張本人、シノは、自分よりも大きなウェイターを担いで帰ってきた。
ジョリー達が質問する間もなく、気絶しているウェイターを押しつけ、ゼルタの元ヘ駆け寄っていく。

「お、重いぃぃいい…!」

成人男性を支える程の力は、ジョリーにはない。それでも何とかウェイターをソファーに寝かせる。
シノは深刻そうな表情でゼルタを見ている。ゼルタの額に手をやると、ジョリー達の方を振り向いた。

>「ジョリーさん、なるべくゼルタさんの体を冷やしてください!」

「ま、待って!シノちゃん!!」

しかし、シノは呼びかけに答える事なく去っていく。
ミーティオは早急にシノを追いかけ始め、ジョリーは文字通り、壁からハルニレ達の居る隣室へと「飛びこんだ」。

267 名前:ジョリー ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/13(月) 23:30:35 0
「ハルニレ!タチバナさん!ドルクスさん!あとメガネ!」

事のあらまし(といってもゼルタの容態とシノの行動についてだけだが)を説明した。
そして直ぐにハルニレの異常事態にも気付いた。高熱に大量の汗、ゼルタと同じ症状なのだ。

「とにかく、今すぐ二人の体を冷やして下さい!私はシノちゃんを追います!」

シノには部屋で待っていろと言われた。しかし、あの様子はただ事ではなかった。
もしかしたら、ゼルタやハルニレの異常事態に何か関係があるのかもしれない。ジョリーはそう直感した。

「直ぐ戻りますから!待っててください!何かあったら私のケータイに連絡を!」

唯一、ジョリーの番号が登録されてあるハルニレの携帯電話をタチバナに押しつける。
再び壁をすり抜け、ジョリーもシノ達の後を追いかけ始めた。


【BKビル:裏口】

「こ、ここって……BKビル?」

シノを追ってたどり着いたのは、ジョリーもよく知るBKビル。
ミーティオが裏口で手招きしている。ジョリーが駆け寄ると、ミーティオが呟く。

「ここ、昼間居た場所だ…」

「シノちゃん、こんなところで何してんだろ?」

【10F:展望フロア】

>「あーれれぇー?なーんでこんなところに子供がいるのかなぁ?」

どこからともなく聞こえてきた言葉。
心臓が飛び上がりそうで思わず叫びかけるのを、ミーティオの手が制する。

>「初めまして。ボクはレン、上級ゾンビマスターなんだからな」

>「夢はおっきく、世界征服もとい『世界制服』!よろしくなんだからな、チビッ子!」

「な、何よ、ゾンビマスターって…ポ○○ンの見すぎじゃない?しかも漢字違うし」

子供が高らかに世界制服と書いた巻物を見せびらかす。はっきり言ってちょっとウザい。
出るべきか否か、迷う。何か明らかに敵っぽいオーラを出している。

「おい!お前たち!」

「げ」

突然向けられた明かりに目を細める。多分、ビルの警備員だ。

「ここで何をしている!!」

【ハルニレ:ゼルタと同じく高熱を発して気絶中
 ジョリー&ミーティオ:シノを追ってビルへ、警備員に見つかっちゃって超ヤバい】

268 名前:エレーナ ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/15(水) 23:31:33 0

>「おはようございます!朝御飯をお持ちしましたよ!冷めない内に食べてくださいね?」

盆を持ち、ドアを開けて現れた人物。
黒い長髪の中性的な顔立ちのその人は、いそいそと盆の上の料理を並べていく。
琳樹さんと一緒にその横顔を見ているうちに、自然とある疑問が口から飛び出した。

>「あの、Kさん…?」「もしかして、Kさん…?」

琳樹さんと被った。彼も、私と全く同じ考えのようだった。
眼鏡を掛けていないけど間違いない。Kさんだ。

>「へ!?……ち、違いますよ!私はKの兄弟のく、空流和胡です!」
>「そ、そう?」
>「はい!」

どうみてもKさんです本当にありがとうございました。琳樹さんあっさり騙されてるし。
でも、Kさんがこんな爽やかな笑顔する筈ないし、双子って可能性もなきにしもあらずな訳で。
とりあえずその言葉を信用して、これからは和胡さんと呼ぼう。

明らかに反応が怪しかったけど。怪しかったけど。ぁゃιぃけど。

>「あの、もう出ていっても…」
>「あいえ、そのご飯、私の手作りなのでお口に合わなかったらごめんなさいしないといけませんから!」

「(あら、意外と律義なのね)」

しょげた顔をしながらも、早く食べてくださいと急かす和胡さん。
言われるがままに、美味しそうな匂いを漂わせる食事に手を伸ばす。

「……お、美味しい!すごく美味しいわ!」

>「うん、美味しいよ」

>「あ、ありがとうございます!」

嬉しそうに笑顔を綻ばせる和胡さん。眩しいです、眩しすぎて目がくらみます。
でも、美味しかったのは本当だ。ドルクスが作る料理より美味しいかもしれない。
和胡さんはよっぽど興奮していたのか、そのまま回れ右をして立ち去ろうとした。
盛大にドアにぶつかった。

>「い゙っ」

「だ、大丈夫!?」

急いで何か冷える物と冷蔵庫の中を探している内に、和胡さんは部屋から出て行った。
私は保冷剤を片手に茫然と見送り。

……………諦めて、席について食事の続きを再開した。

269 名前:INTERMISSION ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/15(水) 23:33:02 0
進研本部・最上階のとある一室。
私は床に片膝をついて、通称「ボス」と呼ばれる男の背を凝視する。

「お嬢様の捜索…ですか?」
「ああ。昨日から行方が分からないらしくてね」

簡単に説明するとだ。
昨日の夕方頃、弓瑠お嬢様の二人の世話係が、街中であろうことか弓瑠お嬢様から目を離してしまった。
捜索も空しく、雨のために断念し一旦帰還したとか。
説明を受けて手渡された写真には、目付きがこれでもかとばかりに厳しい一人の少女が写っていた。

私も初めてみる、ボスの娘。名は弓瑠。年は10歳ほどか。

「それなら、マリオネットを使って捜索を……」
「いや、その必要はないよ」

私は仮面の下で眉を顰めた。
何を考えているんだ、ボスは。
さっき「お嬢様を捜索しろ」と言っておきながら、「その必要はない」だって?


                ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「君はこう考えているだろう。『娘を捜索しろと命じながら、何故捜索の必要は無いなどと言うのか?』」



淡々と語るその声から、彼の感情を読み取ることは不可能だ。
眼下の街を一望出来る窓に映る景色を、この男はどんな思いで見下ろしているのだろう。

「ちょっとした『実験』をしたいのだよ」


その内容を聞いて、やはり私は眉を顰めた。と同時に、一つの結論に達した。


私の様な人間は、『ボスを理解しない方が得策』なのかもしれない。
えてして、権力者とは常人には理解しがたいを考えを持っているということだ。



…………「復讐鬼の私」が、他人の事を言えた義理ではないけれど。

270 名前:INTERMISSION ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/15(水) 23:34:51 0
ボスの部屋から退室し、日光のあまり差さない薄暗い廊下を歩く。
この建物の構造上、仕方のないことだ。私自身、余り光は好かない。

「やあ、ご機嫌麗しゅう。Q幹部長」

「………………消えろ、『裏切り者』。俺はお前が大嫌いだ」

この男、幹部の一人、T。気配もなく背後に現れるこの男が、気に食わない。
ムカつく所は多々あるが、何より常に余裕綽々と言いたげな薄ら笑いが、癪に障る。
おまけに、この男は自分の組織を裏切った。
しかも、あのへっぴり腰のチャレンジに移籍。何を考えてるんだか。


「つれないなあ、前はあんなに仲良くしてくれたのに」
「話しかけんな着いてくんなお前と親睦を深めた覚えは前にも後にも一切ねえ!!」

HAHAHAHAHAと余裕満面の笑みのこの男が憎たらしい。
速度を上げても密着して追いかけてくる。
遂に私は諦めて、股間に強烈な蹴りを叩きこんだ。
見事に崩れ落ちる変態。ざまあみろ。

「次に話しかけてみろ、今度こそお前の股間を使い物にならなくしてやる」

唾と共に吐き捨て、私はTに背を向ける。
今は弓瑠お嬢様の捜索が先だ。変態に構っている暇はない。

「ああそうだ変態、ボスから伝言だ」

この変態と一秒でも同じ空気は吸っていたくないのだが…致し方無い。
振り向く事はしないが、足を止めてTへと伝言を伝える。

「ボスは、お前等が保護した異世界人とやらの力量を測りたい、だそうだ。
 そんな訳で、今から俺の任務にソイツ等を同行させろだとさ。それだけだ」

返事がない。蹴りが効きすぎたか?と少しだけ心配になる。
いやいや、何で心配するんだ私。
ああもう一々ムカつくな変態の癖に!!

「おい、聞いてんのか変t……」

振り返った先に、あの変態は居なかった。
私は苛立ちをこめて盛大に舌打ち、足音高らかにその場を後にした。
とりあえず、チャレンジに向かおう。

…………あの変態に再び出会いませんようにと願うばかりだ。

【エレーナ:食事中】
【Q幹部長:準備が整い次第、弓瑠お嬢様の捜索を開始】

271 名前:進研幹部長・Q ◆SQTq9qX7E2 [sage] 投稿日:2010/09/15(水) 23:37:15 0
名前:Q(正式名:不明)
職業:進研幹部長
元の世界:現代
性別:不明
年齢:不明(20代?)
身長:不明(165位?)
体重:不明
性格:短気だが根は優しい(かもしれない)
外見:Qと彫られた仮面を被り、素顔は一切晒さない
   白を基調としたぶ厚いコートを羽織り、内側に文明を隠し持っている

特殊能力:≪絶対惨殺≫
     …日本刀型の文明。
      斬りつけた相手の血の臭いを覚え、相手を文字どおり「細切れにするまで」自動追跡を止めない文明。

備考:進研幹部長の一人。派閥云々やイデアには一切興味無し。
   とにかく素性を隠し、特に素顔だけは絶対に見せようとはしない。
   チャレンジやTに好意的な感情は持っていない様子。
   武器として、他にも≪一刀両断≫≪身体強化≫を所持。

目的:進研、あるいは公文にいるかもしれない父親と親友の仇を討つこと。



272 名前:竹内 萌芽(1/3) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 00:16:04 0

店の中に入ったのは木製の壁に、木製のカウンター。
店内の装飾が全て木で統一されたそこは、昔やったRPGの世界のようで、萌芽はちょっと胸をときめかせる。

「へぇ……ルシファーの翼か。
 面白いアクセサリーね」

店の外では「イライラする」とか言っていた零も、今は楽しそうにアクセサリーを見ている。
よかった。この店に入ったのは間違いではなかったようだ。

改めて萌芽は、【雑貨:ダークファンタジー】の店内を見回す。
今、零と萌芽がいるのは店内中央に位置する陳列棚の前だ。
目の前の陳列棚もそうだが、この店には妙なものばかりが並べられている。

店の壁に立てかけられているのは、西洋のラウンドシールドや、魔法使いが使ってそうな細い樫の杖。
カウンターには古びたコインなども置いてあるし、それだけ見るとアンティークショップのようだが、
少し目線をずらせば、なぜだか等身大の女の子のフィギア(下の方にフィオナと書かれている)があるし、
陳列棚に置いてあるのもうさぎのヌイグルミだったり、『理性のペンダント』とかいうオカルトアイテムまがいのものだったりと、
どうにもこの店の商品には一貫性がない。

……大体なんでこの店は、こんなに鍵やら閂やらの品揃えがいいのだろう?

そんなことを思いながら店内を見回していると、木製のカウンターの上に古びたトランクが置かれているのが目に入った。
その上にちょこんと腰掛けた女の子の人形が、じーっとこちらを見ている。

(あれ……? あの人形、今……)

―――動いたような?
そう思った萌芽が、その人形をよく目を凝らして見てみると、
どうやらその後ろに白くて人間の掌ほどのサイズの生き物が居て、その人形を動かしているらしいことが分かった。
それは、一匹の『蛾』だった。

(シっ、一号(シモン)!!? こんな所でなにしてるんですか!?)

それは今日の明け方、萌芽がその”能力”を持って産みだした一匹目の『蛾』だった。
萌芽が近寄ると、蛾の方も萌芽に気がついたようでびくり、と体を跳ね上がらせる。

(だめじゃないですか、こんな所でサボってちゃ。
 二号(ヤコブ)や三号(ヨハネ)たちもちゃんと頑張ってるんですよ?)

萌芽が小さく叱りつけると、シモンはその鳥の羽のような形の触角をしょんぼりとさげる。

(『懐かしい気がした』って……キミ、今朝生まれたばっかりじゃないですか)

萌芽にしか認識できない、思考を直接送り込むという会話手段で言い訳してくるシモンに、
萌芽はあきれたようにため息を吐く。

まあでもたしかに、『この子たち』を作るのにはこの世界の月の光を使ったわけだから、
多少はこの世界のことを知っていても無理はないか。
または自分の”あやふや”のせいで、シモンとこの世界の誰かの記憶が混線しているということもありえるし。


273 名前:竹内 萌芽(2/3) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 00:16:51 0

「なにそれ?」

「お!!?」

突然後ろから、しかもすぐ近くから聞こえる零の声に、萌芽の心臓が跳ね上がる。
とっさに人形の後ろのシモンを引っつかみ、カウンターの向こうに投げ飛ばして、萌芽は零に向き直った。

「あ、あの……この人形、綺麗だなって。あはは」

っていうか……顔が近い。今更だけど体の暖かさとか、髪の毛の香りとかこの距離だと普通に伝わってくるし。
どぎまぎしながら、萌芽が人形に目をやる。
うん、確かに綺麗な人形だ―――まるで生きてるみたいに。

「おー、えと、男の子がこういうのに興味持つって、やっぱアレだったりしますか……?」

少しだけその人形に見とれていた萌芽だが、視線に気付き、おそるおそる零に訊ねてみる。

ふと思い出してカウンターの奥のほうにちらと視線を送ると、じと目のシモンが恨めしそうにこちらの様子を眺めていた。

(『自分たちに働かせておいて、自分はデートか』って……まあそういわずに働いてくださいよ
 っていうか、キミがこの人に見られると、とってもまずいんですってば)

彼ら『十二匹の蛾』は、萌芽の”才能”をある目的のために引き絞って作った萌芽自身の”分身”である。
もっとも、『蛾』の効果は飽くまで本来の目的を達成するための『保険』で、本当の目的はまた別にある。

萌芽の本当の目的、それは真雪と零を人質に取られている今の状況をなんとか打開すること。
そのためには、進研のリーダーと名乗るあの男をなんとかしなければいけないが、
生憎彼は今、それをどうやったものかと考えているところである。

なので今、萌芽は、念のための『保険』として、『蛾』を使って市内の人間から無差別に真雪と零に対する敵意を奪い取っている。
これがうまくいけば、とりあえずは進研のリーダーが気まぐれに彼女たちを処刑しようとしたとしてもそれをしようがないだろう。
殺そうとする側に敵意さえなければ、殺すにしても殺しようがないはずだから。
もし、たとえ敵意を持たずに人を殺せる人間が居たとしても、『蛾』さえ見ていれば関係がない。
それだけの『しかけ』を、萌芽はあの『蛾』たちに、すでに仕込んでいた。

ただ、これをやっていることを零にバレるのはかなりマズい。
彼女のほうは完全に忘れてしまっているようだが、自分は昔、これと似たようなことをしようとして、
その結果零を失うことになったのだ。

自分たちには、この楽しい今さえあればいい。
あのお互いにとって辛い過去のできごとなど、零には思い出して欲しくはないし、
自分だってもう二度と零を失いたくはない。

だから極力、彼女の記憶が戻ってしまうような事態は、少なくとも自分が悪いことをしている今は避けたかった。

「名のある人形師さんとかが作ってるんでしょうかね……やっぱり。
 いや、その。全然わかんないんですけど、なんかこういう店にあるし、そうなのかなって」

言いながら萌芽はその人形の両脇を抱え、顔の高さまで持ち上げてみる。
一瞬目があった人形が、こちらにウインクした気がして、ぎょっとした。

いったん人形をトランクの上にもどし、目をぐしぐしとこすって、もう一度人形を見てみる。
……うん、普通の人形だ。

「この人形、生きてたりしませんよ……ね?」


274 名前:竹内 萌芽(3/3) ◆6ZgdRxmC/6 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 00:17:31 0

そんなわけないと言う零に、萌芽はちょっとだけ口角を吊り上げる。
彼は人形の両腕を握って持ち上げ、彼女の目線のあたりにまでそれを持ち上げると

「分かりませんよ、聞いたことありませんか?
 人形師が心を込めて造り上げた人形には魂が宿るんです。
 ひょっとしたら、この人形にも心があって、喋ったりするかもしれませんよ?」

そう言ってにこりと笑った。

萌芽は、人形の両腕を動かしながら、自分の才能で彼女の脳内に『声』を飛ばす。

《あら、御機嫌よう
 まったく私に生命がないだなんて、あなたは随分と失礼なことを言うのね?》

自分の”才能”を生かした、即席の腹話術。
人形の見た目から想像した、高飛車でどこかお高く留まった少女を演じながら、彼は続ける。

《さて、この通り私は喋れるのだけれど、
 実はこれは貴女の前にいるこの男のおかげ。で、彼がなんで私をわざわざ喋れるようにしたかというと、
 ちょっとこの男、貴女に言いたいけど言えないことがあるから、私に代弁して欲しいんですって
 まったく、意気地のないことこの上ないわ》

やれやれ、と人形は両手の平を上に向けて『呆れた』というポーズをとる。
無論、萌芽の手によって、である。

そして人形は右手で零の方を指し、言った。

《「あなたのその服装、とても可愛らしいです」って
 まったく、こんな簡単なこともロクに伝えられないなんて、
 あなたも随分面倒臭い男を相手にしているものね?》

やるだけやって、萌芽は照れ笑いを彼女に送る。

ちょっとだけクサかったかな、とか反省しながら。
照れ隠しに頬をポリポリとかいた。

【ターン終了:一方そのころシモンはカウンターの下で、
       こっそり脱出をたくらんでいるのであった。】


275 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 00:47:42 O
「久和、大丈夫?」

「ん、ああ、お前か」

不非弟が声をかけてくる。
弟はハッキリしないから苦手だ。

「そうそう、俺俺」

不非兄が声を返してくる。
兄は性格が悪くて苦手だ。

「たけしかい…?」

「ああ、たけしだよ、だからこの口座に」

「じゃなくて大丈夫か?」

兄弟が交互に口を開く。
兄弟は心配してくれるから好きだ。

「大丈夫、慣れたからな」

「……辛かったら言ってよ」

「怪我なら自分でも治せるし、心配すんなって」

「そうか」

ここまで話してふと気付く。
兄弟、否、こいつは一人じゃないかと。

「おう、……ところでお前、どっちだ?」

「兄か弟か、か?」

「…さあ、どっちだったかな」

そうニコリと笑みを浮かべて不非が俺を刺した。
そこで世界が崩壊する。
どろどろと溶けていく白黒の双子がこちらを恨めしそうに見る。
ああ違う、白黒じゃない。
アオとミドリ。
……そんな色はあっただろうか?

276 名前:前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 00:48:43 O



そこで起き上がる。
目を開ける。眩しい。
苦しい、目が潰れてしまいそうだ。

「何だ、これ」

目を開けて見ると本当に眩しく頭が痛くなってくる。
いつもと全てが違うような感覚。
圧迫されるような錯覚に陥る。

「白と黒、は?」

いつもの見慣れた心地の良い二色が視界から減っていた。
窓の外を見るも結局は同じ。
白と黒が少なすぎる。

「何、で」

病気か何かだろうか?
異世界に来たせいでおかしくなってしまったのだろうか?
ふと、知らぬ間に一筋の涙が流れていた。

ああ、いつの間にやら世界は名も知らぬ色に満ちていたのである。


【視界に見知らぬ色が増えた】

277 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 02:28:08 0
「最初の仕事は目覚ましカ……そういうのは隣に住む可愛い幼馴染の仕事だろうにナア?」

空気が冷たい。
押し付けられた鍵を指先で玩びながら、同様に部屋から追い出された形の真雪に向け飛峻は軽口を弄する。
朝日との対談からこちら何処か塞ぎがちの真雪。
少しでも緩和できればと思ってのことだったのだが、どうやら空回ったらしい。

(……考えろ、考えるんだ俺!アレか、そうかアレか!
柚子のことが気がかりで戯言に付き合ってられる状況じゃ無いのか!!)

並外れた洞察力を持ち、こんなときこそ頼りになりそうな尾張は居ない。
失った右腕。その代替品の説明を受けるため部屋に残ったからだ。

「アー……アサヒも言ってたダロウ?ユズコなら問題なく――」

「ねえ…どうして私を助けようとしてくれるの?
私を恩人だと言うけど、私は大した事はしてないわ」

別に答えなくても良いけど。と、紡がれる真雪の問いに飛峻は眉根を寄せる。
真意を掴みかねる。他愛もない質問などでは決して無い。それだけ真雪の声には硬質な響きが含まれていた。

「あのね飛峻さん、ずっと側に居るって…約束、してくれる?」

(随分と根が深そうだな……無理も無い、か)

この場で肯定を返すのは容易い。
だがそんな空約束が何の解決にもなら無いことは他ならぬ真雪が一番解っているだろう。
ゆえに沈黙。

「…ごめん今のやっぱ無し! 忘れて!」

先に静寂を破ったのは真雪。しかし声に勢いは戻ったものの、表情は恐怖に凍る。
気づきたくない事実に辿りついたのか、それともトラウマを掘り返したか。
どちらにせよ余りよろしくない方向に思考しただろう結果、逃げ出すように踵を返し、階段へ脚をかけるのだが――

「待テ、マユキ。そんなに急ぐと危ナッ、ア……」

「ふぎゃっ!」

――その脚を盛大に踏み外す。
受身も何も有ったものでは無い。したたかに頭を打ち付ける様は見ているこっちも痛みに悶えそうだ。
飛峻は顔を顰めながら駆け寄る。対する真雪は突っ伏したまま「ごめん」と小さく呟くのみ。

「そういえばアノ時もこんな状況だったナ。
ナア、マユキ。どんな強者でも如何な達人であってモ、孤独には勝て無いものダ。
本当に辛い時、心細い時に受けた温もりは決して忘れはし無イ――」

今度は手を差し伸べることはしない。
隣にしゃがみ、真雪自身の脚で立つのをじっと待つ。

「――だから、やはり、マユキは俺の恩人ダ」

278 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 02:31:08 0
「あ、どうも。”法人”の寡頭です。
今月分の資金をお渡しに来ました。」

階下から聴こえる男の声。

「お客さん、かな?」

たんこぶを擦りながら立ち上がった真雪が疑問符を浮かべる。

「だろうナ。
しかしまア……お世辞にも綺麗とは言えない見た目から些か心配だったガ、資金提供してくれる組織があるようだナ」

朝日が示した相互利用の方針。
互いが互いに利用し合い、互いの益を交換し合う。
それは『ユーキャン』にとっては金であり、飛峻たちにとってはそれぞれの目的となる。

(『今月分』の資金、か……何れその資金の対価に俺たちが饗される時が来ないとも限らんな)

そんな時が来ないよう精々気張るしかない。
朝日が垣間見せた雰囲気は一般人が纏うそれとは明らかに一線を画していた。
いざとなれば何者をも切って捨てる厳しさを持った者のそれだ。

「……さテ、確かに早く起こしに行くとするカ。簡単な仕事も出来ないと思われるのも癪だからナ。
そう言えばオワリが寄越したメモには何て書いてあったんダ?」

真雪を促し、尾張から渡されたメモを取り出させる。
直後に鍵を押し付けられたせいで、クシャクシャになった紙片を階段の手すりに押し当て、引き伸ばし、解読可能となったそれに目を通した。

『自分の中で、この世界の情勢が掴めない
方針が見えない
だから、しばらくは君達の目的に付き合おうと思う』

メモに書かれているのは三行の文。
簡潔にまとめられたそれは尾張の協力が得られることを示していた。

「コイツは重畳。オワリの手腕はビルで充分味わったからナ……百人力ってやつダ」

4階へと続く階段を登りながら飛峻は苦笑する。
奇しくも尾張に出し抜かれたのが、今と同じく階段を登っている最中だったからだ。

「403……404っと、ココか。オーイ、ウーサーギー。ウーサーギー」

そうこうしている内に兔の居る404号室の前に着いた。
飛峻は息を吸うと、朝日に言われたとおりドアをノックする。
備え付けのドアホンが自己主張をしている気もするがそこは無視。
最初は控えめに、それでも効果が無いと判るとノックの音は次第にゴンッからメゴッと致命的に変化していった。

279 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:18:08 0
3 名前:宗方丈乃助 ◆d2gmSQdEY6 [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 14:01:12 0
前スレ>>266
突撃したタチバナブリーフは4人を粉々に砕いた。
マネキン人形みたいにあちらこちらに四股をぶん投げてやがる。
俺は余りの出来事に言葉を失った。
そして、生臭い匂いに顔をしかめながら周りを見る。

やべぇ。マジでやべぇ。死んでるよ。
これは最低でも10年は出れないな。
下手したら無期懲役、いや……

「死刑だな」

俺の周りを飛ぶクソ蝙蝠が平然と呟く。
このヤロウ、言っちゃいけないことを平気で言いやがる。

「…や、やっちまった。こいつはマジでやばいぜ。
ブリーフで殺人だなんて……」

「いい弁護士を紹介してやるぞ。
オマエに自首する気があればだが。
まぁ、上手く逃れても無期懲役が関の山であろう。」

俺は考える。こいつら悪い奴らだっけ?
でも、やっぱ殺しちゃうのはまずいよな。
俺がこの世界の人間じゃないとしても、やっぱやばい。
でもここでつかまるってのはマジで勘弁だ。
ここはどうするべきだ?

「絶望が俺のゴールだ。」

【丈乃助、殺人を犯し混乱中】

4 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:26:26 0
死ね

5 名前:月崎真雪 ◆OryKaIyYzc [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 00:20:28 O

電話の向こうに聞こえる音は緊迫していた。
そして再び、飛峻の声。

「……ソウだナ。マユキ落ち着いて聞いてくレ。
ユズコは負傷しタ、重度の熱傷ダ。このままでは命に関わる可能性もアル」

彼が伝えた内容は、真雪を再び混乱させるのには十分だった。
重度の熱傷、要するに火傷か。柚子が、命に関わるほどの、大火傷?

「…え、それっ…て…」

叫びたい衝動をこらえて、飛峻を待つ。
何か手立てはあるだろうか?

「今から言う番号に連絡を頼ム。ウサギが出る筈ダ。良いカ?番号は――」

告げられた番号を反芻して、覚える。
なるほど、つまり彼女を頼るのか。


【無茶を承知でお願いするよ!】


280 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:19:59 0
265 名前:ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 [sage] 投稿日:2010/09/13(月) 23:26:34 0
「異世界人、ネェ」

タチバナの言葉を聞き終えても、ハルニレの態度はさして変わらなかった。
お気に入りのククリナイフを宙に放り投げ、キャッチの繰り返し。何度目かのその動作を、ナイフの刃先を指で受け止める事で終了する。

「ソレヨォ、何ヲ根拠ニ信ジロッテンダ?ン?」

異世界人の証明を見せたドルクスはともかく、タチバナ達が異世界人だという証拠はどこにもない。
もしかしたら、彼らこそが異世界人を呼び出した張本人かもしれない。
しかし、それはタチバナも承知してのことだろう。
もし彼らが呼び出したのなら、こんなまだるっこしい真似はしないだろう。

「……ハッハァ!面白クナッテキタジャネーカ、ナァ?」

長多良は今の会話を聞いて、どこかに電話をかけ始めた。
電話の内容に興味がいかないハルニレは、目の前のタチバナにとびきりの笑顔を向ける。
その笑みに善意はない。純粋にゲームを楽しまんとする、蟻を踏み潰し蝶の羽をもぐ子供の笑みだ。
元々足りない呂律と酔っ払っているせいか、ますます子供っぽい笑顔に見える。

>「お待たせしました。それでは、お話を続けましょうか。いえ、始めましょうと言うべきですね」

>「……ビジネスの話を」

どうやら、長多良の電話は終了していたらしかった。
ビジネスと聞いて、ハルニレは無言で眉を顰める。いよいよもって、この男の目的が分からなくなっていた。
長多良の話が相変わらず長いので要約するが、

・異世界人である自分たちには圧倒的に「情報」が足りない
・そこで長多良が情報提供し、自分達も長多良にスクープになりそうなネタを持ってくる

つまりはこういうことだろう。

「マ、俺ハ何ダッテ良イゼェ。俺達ガ不利ニナラネーッテ保証ガアルシヨォ」

そう言ってドルクスを一瞥する。いざとなったら、異世界について詳しい彼やあの女を問い詰めればいい。
今はこの世界で、今までの人生とは一味違う時間を楽しむのも一興だ。既に死んでいるハルニレにとっては可笑しな話だが。彼は今この状況を楽しんでいた。

「良イゼ、長多良。要ハ手前ガ望ム”ネタ”トヤラヲ持ッテクリャ良インダロ?オ安イ御用ダ」

「無ケリャ作レバイインダシ」と、犯罪者の亡霊はケラケラ笑った。


ところで、とハルニレはタチバナを見る。

「アンタヨォ、タチバナ、ダッケカ…………ドッカデ、会ワナカッタカ?」

タチバナに寄りかかり、その首に両腕を回して固定する。
アルコールで正常な判断を下せないハルニレは、もっとよく確認しようと顔を近づけ、タチバナの顔を覗き込む。
傍から見れば危ない図だが、彼にとっては至極どうでもいいことだ。

「ンー…………」

顎に手を当て、考える素振りを見せる。大の大人が、自分と同じくらいの男の膝に乗っかっている様は、何とも滑稽な図だ。
しかしそれは、父親の出したナゾナゾの答えを必死に考える子供のような、そんな無邪気さが見て取れた。

「ヤッパリ、ドコカ……デ……?」

タチバナの顔を覗き込んだ刹那、ハルニレの視界と体が傾いたのは、ほぼ同時。
そのまま急速に、ハ

281 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:21:01 0
277 名前:李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg [sage] 投稿日:2010/09/16(木) 02:28:08 0
「最初の仕事は目覚ましカ……そういうのは隣に住む可愛い幼馴染の仕事だろうにナア?」

空気が冷たい。
押し付けられた鍵を指先で玩びながら、同様に部屋から追い出された形の真雪に向け飛峻は軽口を弄する。
朝日との対談からこちら何処か塞ぎがちの真雪。
少しでも緩和できればと思ってのことだったのだが、どうやら空回ったらしい。

(……考えろ、考えるんだ俺!アレか、そうかアレか!
柚子のことが気がかりで戯言に付き合ってられる状況じゃ無いのか!!)

並外れた洞察力を持ち、こんなときこそ頼りになりそうな尾張は居ない。
失った右腕。その代替品の説明を受けるため部屋に残ったからだ。

「アー……アサヒも言ってたダロウ?ユズコなら問題なく――」

「ねえ…どうして私を助けようとしてくれるの?
私を恩人だと言うけど、私は大した事はしてないわ」

別に答えなくても良いけど。と、紡がれる真雪の問いに飛峻は眉根を寄せる。
真意を掴みかねる。他愛もない質問などでは決して無い。それだけ真雪の声には硬質な響きが含まれていた。

「あのね飛峻さん、ずっと側に居るって…約束、してくれる?」

(随分と根が深そうだな……無理も無い、か)

この場で肯定を返すのは容易い。
だがそんな空約束が何の解決にもなら無いことは他ならぬ真雪が一番解っているだろう。
ゆえに沈黙。

「…ごめん今のやっぱ無し! 忘れて!」

先に静寂を破ったのは真雪。しかし声に勢いは戻ったものの、表情は恐怖に凍る。
気づきたくない事実に辿りついたのか、それともトラウマを掘り返したか。
どちらにせよ余りよろしくない方向に思考しただろう結果、逃げ出すように踵を返し、階段へ脚をかけるのだが――

「待テ、マユキ。そんなに急ぐと危ナッ、ア……」

「ふぎゃっ!」

――その脚を盛大に踏み外す。
受身も何も有ったものでは無い。したたかに頭を打ち付ける様は見ているこっちも痛みに悶えそうだ。
飛峻は顔を顰めながら駆け寄る。対する真雪は突っ伏したまま「ごめん」と小さく呟くのみ。

「そういえばアノ時もこんな状況だったナ。
ナア、マユキ。どんな強者でも如何な達人であってモ、孤独には勝て無いものダ。
本当に辛い時、心細い時に受けた温もりは決して忘れはし無イ――」

今度は手を差し伸べることはしない。
隣にしゃがみ、真雪自身の脚で立つのをじっと待つ。

「――だから、やはり、マユキは俺の恩人ダ

282 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:24:51 0
5 名前:民明書房[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 22:23:40 0
雄臭い文才溢れる兄貴達が民明書房より刊行した書籍からの抜粋だアッー!                   
                                                    
出典を見かけたらあまさず追加保存しろよ。                                 
漢字の字体や仮名遣い等の差異は原典出版の年代の差異による。                         
記載順は読み仮名50音順。                            
                                          
                                                   

6 名前:民明書房[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 22:25:41 0
愛巣体(あいすてい)                                          
                                                 
 清朝において同性愛者が異性愛者を手篭めにすることを指した言葉。手篭めにするとはいえ、
大抵の場合は文字通りに素直な愛情が込められているときに使われている。
しかし、満州人の夜汁 専牌(やじゅう せんぱい)は、自分の後輩を手篭めにするとき、
自分の屋敷の屋上で日光を浴びながらくつろいでいる時に、もてなしとして出した
茶に薬を盛った。そして後輩が昏睡状態に陥っている間にことを済ませたという逸話がある。
 このことが清朝後期に訪れたイギリス人に伝わり、お茶の中に薬を入れたこともあり
「愛巣体」と現地の言葉との造語で「アイスティー(Ice Tea)」と呼ばれた。イギリスでは現在でも
好事家の間で同性愛同士の交情を「アイスティー」の隠語で言い表している。
アメリカでは、この逸話がアイスティーと似た発音で「I stay」という隠語で広まっていると
言われている。                                                  
                                                            
 「愛巣体」の行為自体は清朝の滅亡とともに姿を消したといわれているが、この話を元にした
成人向けビデオが日本でも作られている。しかし、インターネットに流出した映像のみが確認できる
のみで、オリジナルのビデオテープは未だ見つかっていない。                             
                                                           
民明書房刊『中国故事成語集』より抜粋                                   

                                                               
亞雨徒 素達歩(あうと・すたつふ)                                      
戦国時代、雨が降る中での行軍や合戦でよく見られた体の動かし方。
特に雨季などで行軍や合戦に支障をきたすため、すばやく動けるように独特な歩き方を開発した集団がいた。
この集団は衆道を嗜む者達であったが、ある夜、情事に及んでいるとき突如この歩き方を閃いたという。
臀部及び括約筋の力の入れ方により、足場の悪い場所でも平時と変わらないような移動速度で動くことができた。
このため、偵察・潜入・後方撹乱・物資の輸送等迅速さを求められる場面でその能力を発揮した。
また、この歩き方に熟練した者は暴風雨や雪、吹雪でも平らな道を行くが如くであったという。
しかしながら弱点もあった。この歩き方は衆道を嗜むものでないとできないが、
本隊を離れて行動中にひと気のないところで情事に及んでしまう者達が出たことである。
これがもとで敵の偵察に行動を看破されてしまう事も有った。
このような弱点があったが、戦国期を通して「亞雨徒 素達歩」を身につけた者達は活躍し、
江戸時代でも飛脚や籠などを生業にする者達もいた。
明治以降は次第に受け継ぐものが減っていった。戊辰戦争でその多くが命を落としたことが原因といわれている。
彼らの脅威が逆に官軍の過剰な攻撃をもたらしたとも言われている。
太平洋戦争中に「亞雨徒 素達歩」を身に付

283 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:26:33 0
8 名前:民明書房[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 22:27:53 0
アナルドルフ・ウィヒトラー
(1889〜1945)                                                                   
          /_⌒ヽ⌒ヽ     
         〃\     ヽ    
    />   ;l!'  ヾ、 、   ゙:、   />              
  < </\  i|l!    ヾ、,,.l|l! < </\ 
 <\> <\> r ` ゚` :.; "゚`Y^!<\> <\>  
  \/> >  J   ,_!.!、  トリ \/> > 
    </    |  !!!!!!  |     </   
          ヽ、 --- ,/゙
           ヽ、____/
                                                                
ホモは一人残らずガス室送りだ!!
ホモを見つけ次第通報すること!!!!
                             
上は党大会演説時の写真

 ドイツの政治家。オーストリアのハッテンマルク出身。
学生時代は画家を目指していた。特に、男性同士が絡み合っている絵が得意だった。しかし、
風俗を乱すものとしてオーストリア官憲に捕まったこともあった。第一次世界大戦が起きると
ドイツの志願兵として参戦。西部戦線のサウナラントで負傷したが優秀な伝令兵として括約した。
化学兵器の影響で一時的に肛門に負傷をして入院していた。ドイツの敗戦を知って落胆したが
彼は政治の世界へ踏み入れることをケツ意。また、化学兵器の影響で増大した肉棒は元に
戻らなかった。                                     
                                    
 政治の世界へ踏み込んだウィヒトラーは得意の弁舌と魅力的な肉棒でアッーチス党の党首に
上り詰めた。ヨゼフ・イグッベルスを側近にして宣伝戦術を展開。1933年に政権を獲得すると
ヘルマン・ゲイリングなどを起用して軍事力を強化した。それと同時に同性愛者やユダヤ人を
迫害する政策を実行。同性愛者への迫害はユダヤ人へのそれよりも一層苛烈を極め、特に
ウィヒトラーの腹心ハインリヒ・インムラーの迫害振りは後世に伝えられるほどだった。
                                            
 「加熱した欲望はさらに危険な領域へと加速していく」という演説で有名な第二次世界大戦が
始まると、占領地で同性愛者の迫害、虐殺を行った。ソ連と開戦したときも「モスクワより
西からハッテン場を一掃せよ」と命令を下した。日本が参戦した際は「三千年間鍛え上げた
UTAMAROが我等の味方だ」と演説した。                             
                                             
 1943年ドイツ軍がスターリンクルルァドで敗北すると戦局は徐々に悪化し、1944年連合軍が
オフッマンディーに上陸すると敗勢は覆しがたいものになった。1945年連合軍が首都ケツリンに
突入すると最期の時が迫ってきていることを悟り、地下壕で愛人のウホッ・ブラウンと結婚式を
挙げ4月30日拳銃で肛門を撃ち自殺、ウホッ・ブラウンも服毒自殺した。
                                               
 遺体は直ちに火葬されたが、その際愛人のウホッ・ブラウンが男であったことに周囲は初めて
気が付いた。このことも含め、かつては同性愛の絵を多く描いたこともあるウィヒトラーが何故
同性愛者を迫害・虐殺するようになったかは未だ研究中である。
                                                    
 迫害・虐殺の反動からか、戦後はアッーチス狩りが同性愛者によって行われた。
現在ドイツの教科書にはウィヒトラーの嗜好ついて「なぜ男なんだ」と記載されている。
                                                
民明書房刊『ドイツ人物史 近現代編』より

284 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:29:43 0
9 名前:民明書房[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 23:01:00 0
雨浮徒                                  
                                     
乱世の時代において、有力な武将は必ず忍びを用いていた。
忍びには根来・雑賀・乱波など様々なものがあり
その中の1つに雨浮徒と呼ばれる集団があった。
                                            
雨浮徒は肉体を鍛え上げることで甲冑を着けての集団戦に優れており
また衆道に長けた者も多かったため、各国の武将は雨浮徒を求める事が多かった。
このため、雨浮徒以外の者が仕事を得るために雨浮徒を装う例もあった。
                                              
しかし、雨浮徒達が編纂した律名鑑には
彼らは任務の際に自らが雨浮徒であると発覚した場合には
里を追放されるという非常に厳しい掟について記されており
本物の雨浮徒は雨浮徒とは名乗らないため
現在残っている雨浮徒の逸話のほとんどは偽の雨浮徒と思われる。
                                              

偽雨浮徒で有名なものとして
只之(一説には南蛮で修行したとも言われる)
代某(短筒で暗殺を行った。亀を用いた術も使ったらしいが術の詳細は不明)
端之(全ての気配を消して任務を行えた)
の3人が挙げられ、現在の調査で彼らは関東の狸峡衆だったことが判明している。
                                              
なお、偽の雨浮徒の記録は明治時代にも残されており
この者は兎のように跳ねる特技を持っていたようである。


飯田スピーチ(いいだすぴーち)
                                  
只野一仁(ただのかずひと)は幼少期から弁論の才があり高校時代には全国から一目置かれる存在となった。
大学進学後も弁論部に籍を置き羽田剛(わだつよし)と幾多の名勝負を広げた。
卒業後は単身渡米し、早口とキレ味抜群の言い回し主体から緩急をつける老獪な術を身につけアメリカ屈指の弁士E-RODを驚愕させたこともある。

渡米から4年後、只野は日本に戻り北海道に居を構えて全国の弁論大会に出場する。
ここでも素晴らしい成績を収め只野神話なる物も囁かれるまでになった。
しかしそこに只野のアメリカ時代の恩師ブランとその弟子で天才の誉れが高い新鋭真枝建太(まえだけんた)が立ちはだかる。
真枝はその才能の片鱗を存分と見せ付ける圧巻の弁論内容で只野不利の状況は否めなかった。
これを打破すべく只野はなんとある一節を通常では考えられない遅さで読み始めた。
あまりの遅さに何を喋ったかは測定不能という記録が残っているほどである。
これには会場がざわつきブランと真枝も少なからず動揺した。只野の一転攻勢の試みは成功したのだ。
しかし結局只野は僅差で破れ日本での初黒星、逆に真枝は初白星を挙げた。
この異様ながら強く印象に残る名勝負は開催地飯田市の名から「飯田スピーチ」と名付けられた。

現在日本プロ野球で活躍する多田野投手と前田投手の投げあい、
そこで繰り出された超遅球にこの名勝負の面影が見えたのは筆者だけではないはずだ。
                               
民明書房刊『日本の弁論の歴史』より

285 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:30:42 0
10 名前:民明書房[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 23:07:15 0
飯河 玄西郎
Iikawa Gennishirou
(1836〜1867 日本)

江戸時代末期の長州藩の武士。
当時、長州藩は倒幕のための情報収集をしており、
玄西郎も素性を隠して清野某と名乗り、江戸城出入りの染物屋にて手代を務めるかたわら
得た幕府の情報を長州に横流ししていた。
幕府側も、玄西郎が出入り商人の中にいてスパイ活動を行っていることは把握していたが
それが誰なのかは分からず、そのため幕府の部外秘の情報が漏れる度に
「飯河玄西郎」と名を挙げて牽制するも、玄西郎の情報リークは全く止む気配がなかった。

しかし1867年、江戸城の小姓が染物屋の清野某に暴行されたことがきっかけで
清野某=飯河玄西郎であることが判明すると、自らの肛門に刀を刺して自害した。
その後の倒幕の裏には、玄西郎の捨て身の情報リークがあったとされる。

現代においても、不利な情報リークをする者に対して江戸幕府と同様の手段をとる者がいる。
その文言は「飯河玄西郎」転じて「いいかげんにしろ」というものであるが
やはり当時と同様、乱発したところで効果は全くない。
                                   民明書房「男色光明社伝」より


伊倶都(いぐ・みやこ)
(明治33(1900)年〜昭和7(1932)年)

 大正〜昭和初期の小説家。阿都一(あつ・はじめ)と並んで男色の小説家として有名。
伊倶自身は当初男色に興味を持つことは無かった。転換期は兵役時、シベリア出兵に
行ったときだった。
雪中に孤立した際に、廃屋の中で兵士が裸になり男同士で暖めあう体験が彼を
同性愛の興味を眼覚めさせた。
復員後、この体験を『夜裸無衣家』の中で記述、民衆に大きな衝撃をもたらした。
この作品は特に若い 兵士が物珍しさや度胸試しで購読するする者が多かった。
同時に、風紀を乱す者として特高警察にマークされた。
 それと察した伊倶は、朝鮮半島に渡り名前を「イグツ」と朝鮮語風の読み方に
変えたが官憲に捕まり、懲罰的に再召集され折りしも満州事変のため東北三省で
戦いが起きていたがそこへ送られ昭和7年2月、ハルビン攻略戦で戦死した。
後、シベリアに連れ去られた兵士が酷寒の中、裸でお互いを暖め合ったかどうかは定かではないが、兵士達に読まれた伊倶の話が受け継がれいる可能性はある。

現代の男色家たちが、射精時に「イグッ!」と言うのは、伊倶へのオマージュの
意味も込めている、と評論家・山川純一氏は語っている。

民明書房刊「伊倶都全集 第1巻『我こそが艶美無双也』」あとがきより

286 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:32:05 0
11 名前:民明書房[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 23:24:03 0
池田大坊(いけだ・だいぼう)
   ,rn         -=-::.       .  rinn
  r「l l i.n    /       \:\    ni l l h  
  | 、. !j  ..|           ミ:::|    i !.:  |  
  ゝ  f  .ミ|ヾミミヽ  rz彡‐`ヽ|;/    ゝ ".ノ  
  . |  |   .| 、_tッ、,゙ ' r' rtッ_‐ァ /ヽ   .|  |   
   」  L  .| `ー 'ノ  !、`ー ' ∂>   へ-ヘ   
   iヾ‐' |  / . ,イ   'ヽ    |_/   |   |   
   |  じ,  |   ゚´...:^ー^:':..  ゚ / |    |   |   
   |   ヽ \、r ζ竺=ァ‐、  / /   _/   ;|   
  . \   `-ノ^\i ___ /_/;ヘヘノ    /   
    ヾ   ノ ハヽ  |_/oヽ__/    /     ,/   
      \   /    /       /ソ   ノ   
       "ゝy'   /o     O ,ヾ   /     
         l    l        ノ |       
         |   .| o     O    |       
         |   .|    ┌─┐  .|

池田大坊
青森県出身。立教大学卒
学生時代に暴力団との抗争を行った際に相手暴力団員を射殺したが
証拠不十分により不起訴となっている。
その後塗料会社に勤務していたが、「自分を売る」というスローガンで
私的な講演サークルを作り活動するようになる。
後に会社を退職し宗教法人を設立。現在に至る。

最も代表的な教義としては、同性愛のみを至上とする点である。
学生時代に本人が同性愛ビデオに出演した経緯もあり
男性向けAVを制作・販売している。
一方で同性愛を表だって宣言することは控えるよう促してもいるが
信徒による同性愛の強要が問題となっている。
この同性愛を認める教義により、諸外国では活動規制や
活動禁止の処分を受けているケースもある。

○宗教法人としての活動
現在は下北沢に本門となる大会館を持ち、信徒を多く抱える。
また信教についてカミングアウトを必要としない教義でもあり、隠れ信徒を含めると
その数は国内だけで数百万人規模になると思われる。
信徒は男性器の増大の効果があるという『大棒宝練化強』の題目を唱える。
しかしこれら信徒による強引な勧誘もあり、問題点を指摘する声も多い。

主に機関紙「整茎新聞」「大坊文明」にて池田大坊の活動や発言、論文が発表され
信徒は定期的にそれを読むことで教義の再確認を行っている。
経典は持たないが、著書である「陰茎革命」の精読と
出演ビデオ「真夏の夜の淫夢」の定期鑑賞は不文律とされている。
また「勉強会」の名目で集まり、多人数でこれらの活動を行う。
                                              
                                              

287 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:32:58 0
12 名前:民明書房[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 23:26:33 0
○活動の問題点
上記の「勉強会」は往々にして信徒同士による性行為を伴い
しばしばその際の行為強要や性病感染により信徒や元信徒が訴訟を起こしている。
加えて非信徒(信徒からは『ノンケ』という符丁で呼ばれる)がこの「勉強会」の場で
行為を強要されるケースもある。拳銃で脅されたという被害者も出ている。
しかし教団や他の信徒からの圧力により、訴訟に及ぶものは一部であり
多くは被害届すら出せない状態に置かれている。

訴訟を封殺する一方、教団や信徒を批判する言論に対しては
「訴えるから覚悟しろ」や「弁護士に相談したから覚悟しろ」等の高圧的態度を取り
これらによって逆に教団が各方面から威力業務妨害や脅迫で訴えられている。

信徒獲得のために学生向け就職セミナーや商品販売を装って勧誘を行っており
行政から勧告を受けたケースも数度ある。

池田大坊が学生時代に出演した同性愛ビデオで確認する限り
男性器は包茎でサイズも平均以下であるが
ネットでこの点を指摘した場合には
時間帯を問わずに「この人はホモじゃないだろ」や
「大坊はズル剥け巨根」等の書き込みが行われる。
これは教団と信徒による組織的なネット監視が行われている端的な例である。

○教団の事業
ビデオレーベル、サウナ、寿司・うどん・喫茶等の飲食店
温泉宿、プロ野球チーム、学校法人、さらには政党までも持つ。

○有名人の信徒
川合俊一、おすぎ、ピーコ、(故)水野晴郎、多田野数人、松平健
リチャードギア、エルトンジョン、タイソンゲイ等

(ウィヒペディア「池田大坊」より出典)

288 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [sage] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:34:45 0
移蓮筆                                           

室町時代、日本では和歌を吟じるのが流行していたのは有名であるが、和歌を吟じるには、まず美しい筆運びが最重要であった。
この時、万葉かなを美しく書くために作られたのが「移蓮筆」という流派である。
『その筆の動きはまるで池を移ろう蓮の葉の如く』と言う意味を持つこの筆運びは、
とにかく遅いが正確かつ美しい字を書けるため、流行した。
但し、多人数で吟歌する場合にはこの筆運びは勿論迷惑だったため、
顰蹙を買い結局1人あるいは気のおける仲間内でしか使われる事は無かった。
なお、現在野球で見られる球速の遅い球種である「イーファスピッチ」の由来は先述した「移蓮筆」に由来するのではないか、
と指摘する学説もある。

民明書房刊 「日本源流を学ぶ」より                           

the IMP(internal monosexualizer for pharmacists)                       

分子式:C8H9O3                              

化学構造式:                              
OH
|
C6H5
|
COO
|
CH3

1893年、ドイツの薬学者ハッタンノ・ウィヒによって合成された。
ウィヒや同僚のニッペ・ヤパナ・デービシュらは研究に没頭するあまり、日頃から頭痛に悩まされていた。
当時、ヤナギの木からサリチル酸という鎮痛作用のある物質が分離されていたが、これには強い胃腸障害という副作用があった。
この問題を解決すべく研究を重ねていた二人だったが、決して裕福とはいえない彼らの研究費は底を付きかけていた。
そんなある日、ウィヒおよびデービシュの先輩、カズ・ナリッヒ・トゥドゥネが
「全裸絵画のモデルを一緒にやろう。モデル料はお前たちの研究費に充てるから」と、半ば強引に2人を誘った。
当時のドイツでも男性同士の好色は禁忌とされており、水面下で嗜む者が多かったが、
トゥドゥネはその世界に魅入られ、後輩の二人と交わる構図の絵画のモデルとなった。
5マルク(当時の一般労働者の月収はおよそ70マルクとされる)のモデル料を受け取ったトゥドゥネは
約束どおり後輩の二人にそれを譲り渡し、
ほどなくアセチル酸へさらに化学反応を加えることで副作用の少ない物質を分離することに成功した。
多くの学者を招いた研究発表の場において、この物質を二人は試飲してみた。
すると、鎮痛・解熱効果は従来どおり、しかも心配されていた消化器への障害はあまり認められないという効能が見られたが、
さらに予期せぬ副作用が。

トゥドゥネと交渉した経験があるとはいえ異性愛者だったウィヒ、デービシュの二人も、
なぜか人目をはばからず互いの男根をむさぼり、求め合うようになった。
忘我の極みへと到達した彼らの発表は中止せざるを得なくなり、この会合自体も
歴史から抹消されることとなった。
この物質は「薬学者のための内面を単一性愛化する物質」の英語の略称、「IMP」と名づけられ、精製が禁じられることとなった。

なお、現在発表されている「アスピリン」の分子式はC9H8O4である。                
また、アジアの血を引いていたデービシュの末裔が日本国内の化学物質メーカーの創始者であるという説もあるが定かではない。
                                                  
民明書房刊『中世ヨーロッパ裏歴史』より                              
                                          
                                            


289 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:49:18 O
[9]佐伯 ◆b413PDNTVY [sage] 2010/07/26(月) 23:08:38 0
「あれれ〜私の患者が居ないよ〜?」

間延びした声。それは緊迫したこの戦場において、致命的なまでに空気を読めて居なかった……

「誰アレ……見なかった事に」

「出来ませんって……彼女がウチで用意できる最高の看護師ですし。おーい!!■■ちゃん!こっち!!はやくきてくださーい!!」

そう言い「公文の彼」は「■■」と呼ばれる人物に手招きする。ペタペタと奇妙な足音を立てる彼女はやはりどう見ても看護師にしか見えない。が…

(正直、あの子じゃあ助かる人も助からないんじゃないかと思います!!)

それが彼女に対する一見での《巡回医》と零。二人の統一見解だった。

「オサムくん!へぇへぇ…この子だねぇ?うーん、これだけ広範囲の火傷はまずいよぅ」

「よいしょ」と手持ちのカバンをおろすと彼女は開口一番にそう判断する。
やはり、公文の文明によって受けた傷を治療する本職の目で見ても相当にまずい状況なのだろう。
そこで、零は先のヘリを利用した病院搬送について指示を仰いでみる事にした。

「そうなのよ。他にも重軽傷者はいるけどこの子は特にひどいの。
 とてもじゃないけど、ここで応急治療をして他人と共に陸路で病院に連れて行くなんて無理。
 そこで、ここの屋上にあるヘリポートを利用して治療を行いながら搬送しようと思うんだけど……」

「うん。それが良いよぅ。そうときまればレスキュー呼ばないとね」

そうノロノロと無線機を取り出そうとした看護師だがそれは予期せぬ方向からの一言で無駄に終わる。

「ヘリはコチラで手配可能ダ。スグに連絡を取ってみル」

「アナタ……ありがとう。お願いするわ。でも、先客がいるかもしれないの。
 もし居たとしたら、それを追い払うか奪わないといけないから注意はしておいて。さて、そうと決まれば……」

「決まれば?」

彼の発したその質問に零は立ち上がりながら答える。
パンパンと手を祓う様な動作を見せるとぐるりと一周を見渡し目当ての物を見つけ、にんまりと笑う。

「屋上まで運ぶわよ。長い麺打ち棒が二本あったから、それとテーブルクロスを組み合わせて応急担架を作るわ」

「ナイスアイデアです」と言う間の抜けた看護師に後ろ手で手をひらひらさせる事で返答し、零は手早く担架を組み上げる。

「すごぉい……」

「凄くない……ッ!」
即席で作られた担架。それはどこか歪な形状をしており、又、人を寝かせるには少しばかり長さが足りないものだった。
しかし、それでも人を運ぶには十分な出来であり少なくとも現状で出来る事としてはなかなかに良い物でもある。
言うならば、「まぁ、緊急時だしこれで良いっしょ?」的な出来栄えだ。

「念のため崩れたりしないか確かめたけど、大丈夫みたい……
 ほら!オサムクン?は早くそっち持つ!!アラ、丁度いいわ……アナタも男なんだし後ろ側を持ちなさい」

目ざとく中華風の服装をした青年「李飛峻」を見付けた零は彼に担架を持つ様に声を掛けるとキッチンを後にする。
かくして、一行はエレベーターを用いて屋上を目指す事になった。

【状況:屋上へ向かいましょう。なお、屋上に居るヘリは今現在の零視点では進研の物となっております】
【目的:C迷子の捜索。
    E経堂柚子を助ける。】
零:【持ち物:オリシ『折りたたみ式警棒』、『重力制御』、携帯電話、現金八千円、大型自動二輪免許】

290 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:51:46 O
電話の向こうに聞こえる音は緊迫していた。
そして再び、飛峻の声。

「……ソウだナ。マユキ落ち着いて聞いてくレ。
ユズコは負傷しタ、重度の熱傷ダ。このままでは命に関わる可能性もアル」

彼が伝えた内容は、真雪を再び混乱させるのには十分だった。
重度の熱傷、要するに火傷か。柚子が、命に関わるほどの、大火傷?

「…え、それっ…て…」

叫びたい衝動をこらえて、飛峻を待つ。
何か手立てはあるだろうか?

「今から言う番号に連絡を頼ム。ウサギが出る筈ダ。良いカ?番号は――」

告げられた番号を反芻して、覚える。
なるほど、つまり彼女を頼るのか。

「ウサギも組織で動いてるなら治療施設の一つや二つは確保してるダロウ。……ソレでは頼んダ」

すまなかった、という言葉を残して、電話は向こうから切れた。
すぐさま伝えられた番号をかけなければならないのだが、真雪は呆然と画面を見つめていた。

(ユッコ…)

真雪の欠点、弱さまで受け入れて、あんなに愛してくれた子は初めてだった。
それが今は命に関わる重傷。不安で心配で、堪らない。

「柚子は、助けてくれたんだ、だから…」

そう呟きながら、兔への番号を押す。数十秒前の記憶と比べて、一旦深呼吸。
ボタンを押して、携帯耳に当てる。
ガチャリ、と音がした。

「もしもし。月崎です」

そして聞こえたのは兔の声。
飛峻の所在を尋ねられるが、聞いてなかったのでどこに居るかは分からない。

「ごめんなさい、今彼がどこに居るかは分からないんです。
でも…もうすぐ上がって来るって言ってました。
それと…こんな時ですがお願いがあるんです」

一旦言葉を区切って静かに息を吐く。

「ふぇ…リーさんが怪我人を連れてきます。
載せて…そして病院へ搬送していただけませんか?」

【無茶を承知でお願いするよ!】

291 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:53:16 O
さて。毎度毎度のことではあるが、状況整理の時間がやってきた。
状況はカオスを極め、裏腹に戦況は終焉へと向かっていく。ミーティオ君ルーム(今命名)はゆっくりと冷えていく最中だった。

床に散らばる四人分の血肉。部屋中を跳ね回る小動物。壁に突き刺さったブリーフ。
現状において、この場に必要なのは戦況打開の新兵器でもなく、死者蘇生の霊薬でもなく、現実逃避のタイムマシンでもなく。
なによりも必要とされているのは――

――ツッコミ役だった。

「しかし残念ながら僕たち休鉄会にツッコミ係は皐月君一人しかいない。ひいてはゼルタ君、君がこの状況に逐一突っ込みを入れたまえ。
 そうしなければ時間が動かない。誰も彼も、あまりに突飛な事態に思考が停止しているのだよ。この僕も含めてね」

「……いや、あたしも相当固まってるんだけど」

「ふむ。それでは仕方あるまいね。僭越ながら僕がツッコミ役を任じようじゃないか。――なんと!同じ顔をした人間が四人も!?」

「そこからーーっ!?」

>「…や、やっちまった。こいつはマジでやばいぜ。ブリーフで殺人だなんて……」

「気持ちは察するに余りあるよ珍妙君。僕もまさか――君のような少年がこんなことをするなんて」

「フォローと見せかけて保身に回ったーーっ!」

「それはツッコミでなく実況だよゼルタ君」

「ダメ出しされた!?って、いい加減あの死体放置で話進めるのやめよーよ!どう見ても議題はあっちでしょーっ!?」

「目的を見失ってはいけないよゼルタ君。僕ら休鉄会の本旨はミーティオ君の救出にある。
 極論を言ってしまえば、途中の中ボスなんてどうでもいいんだよ。虎穴に入らずんば虎子を得られないが、極力虎は避けるだろう?」

「じゃあ連中の闘いが終わるまで死体と一緒に待ってるの?――殺人犯と同じ部屋になんかいらんないよ!帰る!」

さりげなく丈乃助の殺人罪を肯定しながらゼルタは華麗に死亡フラグを立てる。
そのまま死体の傍を通って部屋の出入口から外へと顔を出し、

「っぎゃあ!?」

撃たれた。破裂音が連続し、火線が一閃ニ閃とゼルタの体を貫いていく。
不意打ちだった。扉の影に隠れて待ち伏せしていたのは、床に散らばる死体と同じ顔をした男が多数。
撃たれた彼女は床へと伏せる。一部始終を目の当たりにしたタチバナは、思わず声を挙げた。

「……ゼルタ君」

「テンション低いな!」

返事はすぐに返ってきた。

292 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:55:16 O
「お前、何をした?」

分らないとでも言いたそうに男は呟いた。
そして、何かを確かめるように手を振うような動きをするもそれは叶わずに、結果、滑稽な動きで笑いを誘う。
無理もない。文明と言う物はそう言う物だ。
都村が切り裂いたのはコックと文明『錬金大鍋』を対象にした接点。
言ってしまえば、彼がバイパスを新たに作らない限り今後二度と、「この『錬金大鍋』」を使用できなくしたのだ。

「……思い出した。お前、『一刀両断』の都村みどりだろ」

そう忌々しげに声に出し、吐き捨てる男。
どうやら彼も、自分が何をされたのかに気づいたのだろう。
その顔色には先程までの余裕もなければ、過度のアドレナリンによると思われる興奮も見られない。

「いかにも……。さて、貴方の「絶対有利」は崩れ去った訳ですが、如何しますか?」

そう言うと、今度はゆっくりと木刀を下段に降ろして構えを見せたままにじり寄る。
対するコックはと言うとどうすればいいのかと思考しているのだろう。
チラチラと『錬金大鍋』を見ては都村を見やるのを繰り返す。

「貴方には上訴権が認められます。今回、私の行った裁判は地方裁判に属し、後二回の控訴、上告、が貴方には認められます。
 しかし、同時に貴方の今後の行動は全て、後の裁判において証拠として提出する義務が発生してしまいますので不用意な発言は控えるべきでしょうね」

都村の吐いているパンプスの踵によりコツリコツリと言う音を立てる床タイル。
沈黙が辺りを包み、夕焼けが二人を照らす。
一分とも、一秒とも、一時間とも取れる様な沈黙は何を生むのか?見ようによっては愛し合う恋人同士にも見えるかもしれない場面を崩したのは男の方だった。

「……なあ、一つ提案があるんだ。何、悪い話じゃない。……君はまだ、俺の『適性』までは断ち切れていない、だろう?
 そんな演算をする時間は無かった筈だからな。それで……だ。
 俺としてはこの文明の適性を断たれるのは困るんだ。本職はあくまで料理人なんでね」

下手に出ながらも何処か不遜さの残る態度で、彼は提案する。
『錬金大鍋』は正しく使えば、食材に最高の調理を施す事が出来る。
それが出来なくなると言うのは、彼としては致命的なのだろう。

「だから、だ。『進研』の情報を洗いざらい吐く。代わりに俺の『適性』を断ち切るのはやめてくれ。
 勿論、その後は文明を悪用する真似は金輪際しないさ。……どうだ? 悪くないだろ?」

「成程。司法取引ですか……構いませんよ?どの道、拷問と自白剤で洗いざらい吐かせるつもりでしたし…
 貴方が協力的な態度を行うようでしたら、こちらとしても無駄な労力は避けたい限りです」

そう言うと、慎重に手錠と言う名の婚約腕輪を取り出す女。
そしてそれが男の腕に巻かれる。「カチリ」と言う誓いの音(コトバ)が全ての終わりを告げた。

「最も、貴方には既に二人の殺人罪、多数の傷害致死罪、文明不法所持罪、その他、多数の余罪がありますので恐らくは……」



「一生を牢獄で過ごす事になるのは変わりないと思いますよ?」

【状況:ナベちゃん逮捕!都村さんはこのままナベちゃんを連行するので上には向かいません】

都村:【持ち物:警察手帳、クレジットカード、無線機、携帯電話、『一刀両断』《/メタル》、『血戦領域』《ジャッジ・メント》、『身体強化』《ターミネイト》、
        『禁属探知』《エネミースキャン》、『視外戦術』《ゴーストタクティクス》、『見敵封殺』《ロックオンロック》、『攻防矛盾』《グラニード》
        (内、使用可能なのは適性のある一刀両断、血戦領域、身体強化のみ)】

293 名前:名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中 [] 本日のレス 投稿日:2010/09/16(木) 20:59:40 O
電話の向こうに聞こえる音は緊迫していた。
そして再び、飛峻の声。

「……ソウだナ。マユキ落ち着いて聞いてくレ。
ユズコは負傷しタ、重度の熱傷ダ。このままでは命に関わる可能性もアル」

彼が伝えた内容は、真雪を再び混乱させるのには十分だった。
重度の熱傷、要するに火傷か。柚子が、命に関わるほどの、大火傷?

「…え、それっ…て…」

叫びたい衝動をこらえて、飛峻を待つ。
何か手立てはあるだろうか?

「今から言う番号に連絡を頼ム。ウサギが出る筈ダ。良いカ?番号は――」

告げられた番号を反芻して、覚える。
なるほど、つまり彼女を頼るのか。

「ウサギも組織で動いてるなら治療施設の一つや二つは確保してるダロウ。……ソレでは頼んダ」

すまなかった、という言葉を残して、電話は向こうから切れた。
すぐさま伝えられた番号をかけなければならないのだが、真雪は呆然と画面を見つめていた。

(ユッコ…)

真雪の欠点、弱さまで受け入れて、あんなに愛してくれた子は初めてだった。
それが今は命に関わる重傷。不安で心配で、堪らない。

「柚子は、助けてくれたんだ、だから…」

そう呟きながら、兔への番号を押す。数十秒前の記憶と比べて、一旦深呼吸。
ボタンを押して、携帯耳に当てる。
ガチャリ、と音がした。

「もしもし。月崎です」

そして聞こえたのは兔の声。
飛峻の所在を尋ねられるが、聞いてなかったのでどこに居るかは分からない。

「ごめんなさい、今彼がどこに居るかは分からないんです。
でも…もうすぐ上がって来るって言ってました。
それと…こんな時ですがお願いがあるんです」

一旦言葉を区切って静かに息を吐く。

「ふぇ…リーさんが怪我人を連れてきます。
載せて…そして病院へ搬送していただけませんか?」

【無茶を承知でお願いするよ!】

【TRPGの】ブーン系TRPGその4【ようです】

( 新着 : 0 件 / 総件数 : 293 件 )