1 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/04/11(日) 02:30:21 0
まだまだ騎士Tは続くぜ!

2 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/04/11(日) 02:34:04 0


3 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/04/11(日) 02:37:00 O
3、4、8あたりが面白かったな
2は別の意味で凄かった

4 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/04/11(日) 02:38:29 0
騎士スレ懐かしいなぁ
どんな風にして終わったんだっけ?

5 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/04/11(日) 02:40:42 O
>>4
カイザーの老害で朽ちたスレが砕け散った印象だったな

6 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/04/11(日) 05:42:05 O
いつ規制されるかわからない今となっては再開するメドが立たなそうだ

7 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/04/11(日) 16:55:47 0
騎士TRPGスレ その11
http://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/anime/1270920488/

8 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/04/17(土) 22:06:42 0


9 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/04/22(木) 23:59:15 0
どうした騎士T

10 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/05/03(月) 20:45:20 P
騎士Tまだか?

11 名前:名無しになりきれ[sage] 投稿日:2010/05/12(水) 01:26:06 0
保守

12 名前:◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 03:19:31 P
山道を登る。

――騎士とはなんだ?
剣を振り、闘う者のことか。
いや、闘うだけならば戦士である。騎士には至らない。

山道を登る。

――騎士とはなんだ?
その名の通り、馬に乗り駆る者のことか。
いや、それは騎兵である。今求めている答えには届かない。

では、騎士とは何なのか。

「それは、国に仕え、民を守る。世の人の規範となるべき者にこそ与えられる称号であるっ!!」

山道を登りながら、男は叫ぶ。

どう考えても山登りには向いていない、高そうな鎧に身を包み。
金髪碧眼のその顔は、凛々しいと形容してもどこもおかしくはない。
誰が見ても、「騎士だ」と納得する容貌である。
それを裏付けるように、騎士を表す紋章が、腰に下げた剣に光る。

まるで輝いているかのように磨き上げられた白銀の鎧。
刃毀れ一つしていない、研ぎ澄まされた業物の剣。
傷が、何もない。
使われた形跡すら、どこにもない。

騎士という職が男の言う通りなのであれば、男は民を護らねばならない。
何から守る?
通り魔、強盗、殺人鬼?それは警察的役人の仕事であり、騎士の管轄ではない。
地震、津波、タイフーン?それは自然災害、守りたくても守れるものではない。
ならば何から守るのか。外敵からだ。
他国からの侵略や、民の生活を脅かす魔獣などから守るのが騎士の役目ではないのか。

では、そのような危険のない世界であったら?
好戦的な近隣国や、人食いの怪物があり得ないような世界であったとしたら。
騎士の存在は、極端に矮小化する。
国に仕えているだけの、何もしない、ただの高給取りでしかなくなる。
この男のように、頭もよくなく、それほど武芸に秀でているわけでもなく。
何の取り柄もない癖に、ただ「騎士」という矜持とプライドに凝り固まった人間が生まれてしまう。
くり返す、この男のように。

親が騎士だった。祖父が騎士だった。その父も、祖父も、騎士だった。物心ついた頃から将来は騎士になると思っていたし、
当たり前のように騎士となった。騎士らしいことは、何一つすることもないまま。
今山に登っているのだって、ここの山頂に何か邪教の本尊となっている祠があるから破壊してきてくれ、という小間使いのような命を受けたから。

男は山道を登り続ける。
評判の悪い大臣の命とはいえ、久々の、国からの命なのだ。
騎士という自分にプライドを持っている男としては、意気揚々と登らざるを得ない。


ここは数百年単位で平和な時代、騎士は必要とされていない。

しかし、裏を返せば――

13 名前: ◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 03:20:42 P
――――あの馬鹿め。何の疑いもせずに向かって行きよった。
――――あの山の祠は邪教の本尊などではない。歴とした聖域だ。
――――数百万とも言われる魔王軍の軍勢が封印されているのだぞ。
――――その力で、この国は大混乱に陥ることだろう……。
――――くっくっくっ、それでいい。このような国、滅びてしまえ!
――――ふはははは!はーっはっはっはっ!!

男は山道を登り続ける。
その先に待つのは、平和な時代を再び混沌におとしめた愚か者という汚名。
男は、何も知らない。
騎士は、何も知らない。

14 名前:死にかけの男 ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 22:51:58 O
つまるところ、彼はあらゆる意味で死にかけていた。

パトロンに捨てられ、盾の紋章を削り取り、新たな主を探す旅で鎧を整備する金も無くなった。
恥も外聞もなく塗りたくった錆止めで真っ黒な鎧は、自身のあらゆる面を忠実になぞらえた一種滑稽な外面そのもののように思えた。
生きる希望もなく、最早価値も見出だせない。
つい先刻、馬が死んだことが彼の魂をついに折った。
もう少しで次の街へ着く。そこにたどり着けば、ひょっとしたら……。そんな望みはいつの間にかぼんやりと薄れ、空腹と絶え間なく続く足の痛みに掠れて消えた。

魔法があったらな、と彼は思った。もはや彼の魂は子供のような空想に逃げることでしかその形を保てなくなっていた。

遥か昔にいた魔王とやらがいれば、敵がいれば、せめて誇り高く戦い、散る所が有れば。
踏み締める道にはいくつもの轍が重なり、あらゆる面を死にかけている男はその一つ一つを崩しながら、一歩、また一歩と坂を登っていった。


15 名前: ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/05/17(月) 23:46:15 O
坂を登りきると、そこには小さな祠が有った。
彼はふらふらとその人気の無い祠の軒下に入り込み、入り口で一度に中を覗き込んだ後、「だれか、いらっしゃ
いますか」と声を張り上げた。
返事はない。どうやら修導師のいない、とっくに忘れ去られた祠だったらしい。小さな祭壇には厚く埃が積もり、
祭壇の前に置かれたいくつかの長椅子の背には蜘蛛が巣を張っていた。

「……失礼します」

彼はわずかに逡巡した後、入り口近くの長椅子に腰を下ろし、背負っていたずた袋を足元に落とした。
空模様が怪しく、今にも雨が降りだしそうで、彼の考えでは、ほんの少し気の早い雨宿りのつもりだった。
いや、ひょっとしたら彼は何がしかの救いを求めていたのかもしれない。祠は永遠に続くと思われる静謐を保っ
ていて、とうの昔に神への祈りを忘れた彼を昔の心地へ押しやった。思い出されたのは遠い記憶。まだ修行ばか
りしていたあの頃。初めて教会に連れてこられたとき背にかいた汗と、圧倒的な何かの片鱗に触れていると言う
幽かな自覚。
彼は知らず知らずの内に前列の長椅子の背に組んだ手を置き、額をそこに擦り合わせた。深い祈り。何に対する
祈りかは解らない、彼も解ってはいないだろう。
ただ無心に、遮二無二、彼はひたすら祈り続けた。

外では雨の降り始めを示す、雨粒の葉を叩く音がパタパタと鳴り始めていた。


16 名前:◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/18(火) 03:44:34 P
降り出した雨から逃げるように、男は山道を駆け登る。
みるみるうちにどしゃ降りへと変化した雨。泥濘んだ大地に足を取られぬよう、下を向いて走り抜ける。
やがて見えてきた祠。まごうことなき目的地。一寸の躊躇もすることなく、男はそこに飛び込んだ。

「頼もう!」

返事はない。
髪を濡らす水滴を振り払いつつ一足一足踏み入れて行くと、人の気配に気付く。
椅子に座る、黒い影。鎧に身を固めた人物が、身を沈めている。
ここの邪教の信者であろうか?祈りを捧げているのだろう。
戦わねばならぬかと思ったが、どうも鎧の人物は憔悴しきっているように見える。
とりあえずは放置し、ここに来た目的を果たす。

「いざこそ、国を揺るがす邪教、この剣にて滅する!」

鞘から剣を抜き放ち、振り上げたまま祭壇へと突進する。
祭壇には、杯がひとつ。
何故か、それだけ、埃を全く被っていない。
近づくだけで圧迫されるような力を感じる。

――なるほど、聖杯というわけか。
本尊とされるに違いない。
男は、祭壇の目前に立つと、力を込めて刃を振り下ろした。

騎士叙勲の際に賜った、国家有数の名匠が鍛え上げたその剣は、やはり斬れ味も凄まじく。
まるで生肉を断ち切るように。
祭壇ごと、真っ二つに両断した。
その、聖杯を。

その瞬間である。
どす黒く、分厚い、雲の内から。
紫電の光が、雷光が。真っ直ぐに降りてきて。
祠に直撃したかと思うと。

場は、光で覆われた。

17 名前: ◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/18(火) 03:46:10 P







――その日、世界は反転した。

これは終わりの物語――








18 名前:◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/18(火) 03:47:36 P
突然の光に視界を奪われてから数秒。
目を開くと、そこにはもはや瓦礫と化した祭壇しか残ってはいない。

「これで、よし!」

当面の目的は達したと、朗らかな表情で振り返る。
さて、後は帰って報告するだけではあるが。
突然の行動に驚いているであろう先程の鎧の邪教の信者に、我が国教の貴さを説いてやることとしようか。
そうだ、この祠をこれから国教の祠として再利用するというのもありではないだろうか。
そんなことを考えながら、ふと、違和感に気付く。

窓の外。
祠の西側に付いた窓から見えるのは、この山の隣に聳える、別の山である。
何の力が働いているのか、立ち入る人々の方向感覚を狂わせるため、
「魔の山」などと呼ばれ、滅多に人が近づかない、あの山が見える。
そう呼ばれているにはもう一つ理由があった気がするが、それは忘れてしまった。
とにもかくにも、確かにその山は見える。
雨の中でも、薄らと。
ただ、違和感しか感じない。

窓に近付き、絶句する。
違和の正体。
魔の山の頂。
あんなものは、なかったはずだ。少なくとも、ついさっきまでは。

そこにあったのは、禍々しい造形。
一言で言うならば、魔城。
自分の目で見ている風景が信じられず、男はその場に膝を付いた。

雨空だとはいえ、外はまるで夜のように暗い。

もう、『なかったこと』には出来ない。

全ては、動き出した。

19 名前: ◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/18(火) 04:06:59 P
【名前】クーゲル=ヴェンディット
【年齢】22
【性別】男
【容姿の特徴、風貌】金髪碧眼、標準的な体躯。

過去の騎士スレテンプレから、大幅に抽出。
一応完全版も置いておくけれども、どれを埋めようと自由でいいんじゃないかな。

【名前】
【年齢】
【性別】
【職業】
【魔法・特技】
【装備・持ち物】
【身長・体重】
【容姿の特徴、風貌】
【性格】
【趣味】
【人生のモットー】
【自分の恋愛観】
【一言・その他】

20 名前: ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/05/18(火) 08:14:58 O
あの日以来、彼はどこか他人事のようにこの世の終わりを眺めていた。
あの小さな祠の小さな祭壇が壊されてから、この世は奇妙な世界に様変わりしてしまった。
子供の頃読んだおとぎ話に現れる竜が、悪魔が、魔が、全てが悪意によって形作られているかの如き残酷な形態
でもって世に現れたのだ。
竜は人を食い、悪魔は人を遊び、魔は人を蝕んだ。
特に魔に触れた者は酷かった。山と入れ替わりに現れたあの城と、それを囲う陰鬱な町から溢れる“魔”の気配
は人を狂わせ、死体を冒涜した。何らかの“法”で操ることのできるらしい“魔”も、今の世のヒトには単に毒
でしかなかったのだ。

『あの城と街を再び地の底に沈めるべし』

宿屋で事のなり行きを見守っていた彼が、王の発布した無謀な令状に従おうと思ったのは、単に武功を求めたか
らではなかった。
ひょっとしたら、これは神が与えてくれた死に場所なのかもしれない。あの日、あの場所で、何処へ向けたわけ
でもない祈りが神に届いた結果なのかもしれない。
そうであるならば、なるほど行くしかないだろう。
既に幾人かの無謀な人物達がこの試みに挑戦しようとしているらしい。国が派遣した軍隊は塵も帰らなかったと
言う、あの魔都へ赴き、方法も定かではないが封印する。
破れかぶれになった王の出した、狂気の沙汰としか思えない。だが彼の心は変わらなかった。

彼は誰にも見送られずに、最低限の旅装を持って、街の門を潜った。
どのみち“魔”に汚され、生きては帰れないと知りながら。


21 名前:黒騎士 ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/05/18(火) 08:19:00 O
【年齢】43
【性別】男
【容姿の特徴、風貌】 錆止めを塗りたくったせいで真っ黒な鎧

>>19【了解です】


22 名前:◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/19(水) 00:32:58 P
男を山に遣わしたあの大臣は、責任を追及される前に自ら命を絶った。
この世界への呪詛の念が書かれた置手紙を遺し。
その手紙には、世が変化した理由が事細かに書かれていた。
――男を、名指しして。

男は騙されたのは間違いない。だから国からの咎めは何もなかった。男は命を全うしただけ。
だがそれでも、この争乱は男が起こしたものだ。故意のあるなしに関わらず。
男は、民より逆賊の謗りを受けることになった。

街を歩けば、罵詈雑言と共に石を投げられた。
ある晩、家に火をかけられた。
それ以上に男を苦しめたのは、愛する妹が――。

悲しみは浮かべど、恨みは湧くことはない。
自業自得なのだ。
『知らなかった』で済まされないのだ。
全ては、己が撒いた種。

だから、男が王からの御触れに従おうと考えたのは、当然の帰結と言えるだろう。
自分の無知と無能が齎した結果がこの惨状だ。
なれば己の力でこの世を元の姿に戻す。
それこそが贖罪。
それこそが騎士としての務めである。

男は単身、王都を離れ。
男は単身、死路を行く。

すでに魔都へと向かった腕に覚えがある者も、数人乃至は数十人で徒党を組んでいる。
当たり前の話だ、一人きりでどうにかなるなどと考えるのはよほどの馬鹿しかいない。
男だって孤独になりたかった訳ではない。
だが、世を混乱させた張本人と共に行動しようと考える人物はいない。
それを十分理解しているから、男は孤影。

別に、ここで死んでもいい。
もう、失うものなど何もないのだ。

23 名前: ◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/19(水) 00:34:06 P
期せずして、ほぼ同時に街を旅立った、二人の男。

方や、白い騎士。
方や、黒い騎士。

2人の道が、丁度交わらんとする時。
男達の頭上で、まるで餌を見つけたとばかりに嘶く声。
人ほどもある体躯、鋼のような爪と嘴。
魔鳥が、旋回していた。

24 名前: ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/05/19(水) 20:37:40 O
すっかり荒れ果てた荒野を彼は行く。鎧の重みを黙々と受け入れながら、視線は常に少し先の地面に向けられて
いる。
魔都に近づくにつれて、幽かな魔の瘴気が彼の魂をちりちりと擦った。荒野に吹き抜ける風は瘴気の濃度を不安
定にし、吹く度に少しずつ違った狂気を彼の魂に抱かせた。時折彼はどうでもいいものに嫉妬し、怨み、憎み、
そうして暫くして、それが魔による干渉だとはたと気付いた。
彼は腰に納めた剣の柄を強く握りしめ、自身の正気を神に祈りながら、丘の向こうから少しずつ全貌を表す魔都
への歩みを強くした。
囚われていたのだろう、魔の悪意に。地に浮かぶ朧気な影に気付いた時は、既に遅い。彼は頭上からの衝撃で地
に転がされていた。必死に盾を構えようと背中に手を回すも、叶わない。地に膝を付いたまま、なんとか剣を抜
き、何であるも定かではない頭上の悪意に向けて振り回す。当たるはずもない。
ぐえぇ、と言う潰れた鳴き声から、敵が鳥の類いだとようやく気付いたのは、腹に鉤爪が打ち込まれた直ぐ後だ
った。
怪鳥の激しい攻撃に、遂には剣を取り落とし、ただ我が身を守るために必死にうずくまった。万事休すか、鎧を
突き破らんばかりの嘴の突打の中、うずくまりながら、剣を探して虚しく手をさ迷わせた。

誰か……。


25 名前:◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/20(木) 03:31:03 P
「離れよ、畜生風情が!」

たとえ世間から何と言われようとも、心はいつでも高潔な騎士である。
危険な目に遭っている人物を見過ごすことは出来ない。
見つけるとともに、体が動く。
実力は、足りずとも。

差し伸べられた手に落ちていた剣を握らせ、男は抜き身の剣で真っ直ぐ魔鳥と対峙する。
ほんの十分の一秒の停滞の後、蹲う重鎧より目の前の軽鎧の方が喰い易しと見たか、鳥はその嘴の矛先を移す。
その鈍色の凶器が、今、男に向け振るわれようとする。

一撃目。既の所で剣で止める。
二撃目。腹にまともに嘴の衝撃。胃の内容物が食道を駆け上がって来る。
剣を取り落とさなかったのが、我ながら天晴れと思わざるを得ない。
三撃目。いや、厳密に言うならばそれは撃ではない。
左足を食いつかれ、軽々と空へと持ち上げられる。

陸上生物を高々と持ち上げ落とし、衰弱させてから食らう習性を持った鳥がいる。
この鳥もその一種なのだろうか、それを窺い知ることは出来ないが。
万力で挟まれたような痛みの後、それから解放された先に待っていたのは浮遊感。

――死ぬ。

それを頭で理解する前に体が動いた。
握り締めた剣を、闇雲に突き立てた。
鳥の断末魔が聞こえた。

空から、落ちて来る。
瞳に剣を突き立てられ、痛みにもがき苦しむ怪鳥と。
振り落とされぬようにと、突き立った剣の柄を強く握り締める男。
ゆっくりと。
ゆらり、ゆらりと、落ちて来る――。

26 名前:黒騎士 ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/05/20(木) 23:32:05 O
手に剣の重みを感じた。それと同時にふいに攻撃が止み、彼は無心に、這いずるようにしてその場から離れた。
剣を振るう音と、鳥の低い鳴き声。背後から聞こえるそれらの音が彼を追い立てる。
足を滑らせながら立ち上がり、振り返ったとき、彼が見たのは騎士らしき人物が怪鳥に連れ去られようとしてい
る所だった。

「待て!!」

叫ぶ、無意味だ。怪鳥は大きく翼を膨らませ、魔都への方角に向けて飛び去ろうとする。必死に追いすがろうと
彼が駆け出したその時、怪鳥が今までとは明らかに異質な叫び声をあげた。ぐんと速度を落とし、力無く地面に
吸い込まれてゆく。余りにも早すぎる落下。彼は必死に駆けて、墜落したその場所へと近付いた。
首の骨を折り、事切れた怪鳥に埋もれて、命の恩人はぐったりとしていた。まだ息がある。怪鳥の死体が落下の
衝撃を和らげたらしい。
だが大怪我には違いない。
街まで戻って、はたして間に合うかどうか……。恩人を担ぎ上げ、視線を巡らせたその時、嫌がおうにもそれは
視界に入ってきた。
魔都を囲う、巨大な城壁。
いつの間にか、こんなにも近付いていたのか。
そう言えば、魔都には先に潜入している部隊が幾つかあったはず。ひょっとしたら……、彼はその望みに掛ける
ことにした。
今から街に戻っても間に合わない。
死なせるわけにはいかない。
何としてでも、助けなければならない。

乾いた風が吹く中、幾匹ものカラスに見守られながら、彼は城門をくぐった。


【STAGE:廃墟の並ぶ城下町
*日の光が苦手なのか、今は魔物とかはいないみたいです*】

27 名前:ルノー ◆y/7rc5a2hR2b [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 03:19:25 0
【名前】ルイーズ・カロン
【年齢】10代後半
【性別】女
【職業】町人/自称騎士
【容姿の特徴、風貌】男装





物心ついた頃には、彼女はスラムで暮らしていた。
暴力、窃盗、餓死、殺人、当たり前の生活だった。
未来への希望はなかった。持つ余裕がなかったのだ。
あるとも知らない未来を描くより、今日を生き延びることに必死だったから。

転機は、突然だった。
酒場で残飯をあさっていた彼女は、裏戸の隙間から吟遊詩人の歌を聞いたのだ。
それは、古い古い「正義の騎士」の歌。
それは、少女が初めて知った「理想」――「未来への希望」だった。

そして成長した少女は、武芸を磨き、職も得て、貧しいながらも誰に恥じることもない、まっとうな暮らしを送るようになっていた。

だが、世界が魔に覆われようとする今、彼女は自らの意志でその全てを捨てた。
職を辞し、部屋を売った。性別すら偽った。
町人である彼女が武具と偽りの令状をそろえ、魔都への旅路につくために。
未練はつきない。自分では役不足ではないかという懸念もある。
だが、「騎士」に憧れ、「騎士」に救われた彼女に、黙って終末を待つことなどできるはずがなかったのだ。

28 名前:ルノー ◆y/7rc5a2hR2b [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 03:21:53 0
踏みしめれば砕けてしまいそうな崩れかけた魔都の通りで、一匹の小鳥が身を震わせていた。
小さな体からは強い腐臭が発せられている。辛うじてとはいえ息があるとは信じられないほどだ。これも、魔の影響だろうか。
チ、チ、最期の叫びが、壊れた街に吸い込まれていく。

その小鳥の上に、影が落ちた。
「・・・可哀想に」
首から口元にかけてを覆い隠す濃紺の布、体型を隠す旅装束、背負った剣、軽鎧。
一見して、まだ骨格が未発達な少年のように見える。
だが、終わろうとする命に向けられたその視線は、少年というには余りに儚げなものだ。

「きっと、終わらせるからね」
思わず漏らした小さな呟き。
きっと、最後の「少女」の呟きになるだろうと、彼女は覚悟した。

>>26
動かなくなった小鳥から視線を外し、門を潜ってきた満身創痍の男性2名に向き直る。
彼女は胸に手をあて、深く頭を下げた。

「よくぞご無事で」
その声は、やや高い少年のものと言ってもなんとか通じるものだろう。
「怪しい者ではありません。僕も仲間です。
・・・怪我をしているんですね。
向こうで、騎士の一団を見つけました。・・・が」
彼女はしばし言いよどむ。だが、何かを断ち切るように息を吐き、
「いえ。あちらです」
そう言い、先導してまっすぐに歩き出した。



「・・・つきました」
彼女が足を止めた場所は、悲惨な様相だった。
石畳の通りに一体にほとんど隙間がない程、血や肉や「様々なもの」で汚れている。
彼女が見た部隊は、日が昇る前に壊滅していた。
「荷物はほとんど無事のようなので、とりあえずの治療はできるでしょう」
彼女は蒼白な顔色で、それでも平然を装って冷たく述べた。
彼女の正義感と、幼い頃のスラム暮らしの経験は共存している。
倒れた人間の荷物を奪うことに罪悪感がないわけではないが、必要なことだと割り切るべきだと思ったのだ。
彼女は口元を引き結び、一面の赤に分け入っていった。
やがて、いくつかの荷物を手に戻り、黒騎士に渡す。
「これを」
彼女自身は積極的に治療を行おうとしない。
正規の訓練を受けていない彼女は、正しい処置を知らないのだ。

「まだ、名乗っていませんでしたね。僕は・・・ルノーといいます。
幸運にも魔物に遭遇することなく、単身ここまで辿りついたはいいものの、城下が抜けられずに困っていました」
彼女は、城があるだろう方角を睨み付けた。薄い霧が、城の輪郭を曖昧に見せている。
「・・・そう。城下が、抜けられないんです。
方角はわかっている。
けれど、ある程度進んだところでこの霧が濃くなって「おかしな白昼夢」を見て、気がついたら城門に戻ってきていました。
日が沈む前に城に辿り着けなければ、どんな危険が待つかもわからないというのに」
そうして、2人に向けて頭を下げ、
「複数人数なら、まだなんとかなるかもしれません。
僕を一緒に連れて行ってくれませんか?」


【よろしくお願いします。】

性別を偽っている理由は、甘さを捨てるため、憧れた物語は古くて騎士がみな男性だったため、といった個人的なものです。
女性の騎士も存在すると思います。

29 名前: ◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 03:27:44 P
門にほど近い、一角。

「――つまりその、何百年か昔の魔王軍との戦争の終結は、かなり強引なもんだったんだろ?」
「当時の資料によれば、な。解読するのも一苦労だが」
「ここで魔王軍と戦っていた奴らもみんな一緒に封印。なんとも非人道的だなー」
「そうでもなければ、とても終わらせることは出来なかったと言うことさ」
「ん? ってことはさ。封印されてた人達も、魔王軍とともに現世してるってことなのかな?」
「可能性はないとは言えない。封印されていた間の状況など、窺い知ることなど出来やしない」
「じゃ、もし居たとして、『魔法』みたいなの使えたりするのかな? こう、ボワーッて火を出したりとか」
「……ふむ、あるかもしれないな。今の俺たちには絵空事でしかないが、その頃はまだ魔法が日常的に使われていたという話も聞く」
「へぇ。教えてもらえたりしないかな――」

駆け込んで来た足音に、雑談をやめそちらに注意を向ける。

「どうした?」
「人が来たんだけど、怪我人がいるらしくて、すぐ治療してほしいらしいの!」
「わかった、すぐに運びこめ!」
「救急具はまだあるよな?」
「仮眠ベッド、一つ開けといて!」

「大丈夫、ただ気絶してるだけさ。そんなに血相変えてるもんだから、大事かと思ったぜ。じき、目も覚ますだろう。
 ……あんたらも、あの気が触れた令に従って来たんだろう? ったく、とんでもねぇ話だよな」

傭兵の男は、笑って言った。

【傭兵部隊・ベースキャンプ】

30 名前: ◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 03:29:26 P
【リロードを……!
>>29はスルーで】

31 名前:◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/21(金) 04:26:11 P
常ならば、あの高さから落ちたのであれば大怪我である。治療を受けたとて、しばらくは戦うことなど出来やしないだろう。
しかし男はやがて目を覚ますと、体に多少の軋みを感じつつも何事もなく立ち上がる。
傷はあるが、決して大したものではない。
矛盾しているか?
常ならば、である。
男は、ただの人間だった。
しかし今、確実にただの人間ではなくなりつつある。

あの雨の日。世界が変わったあの日。
封印の聖杯を両断した瞬間に、その場を多い尽くしたあの光。
溢れ出した魔の奔流が、男の体に影響を及ぼしていた。
男の体に、「魔」が息づいている。

「魔」に、近づいている――。

目を覚まし、状況を確認する。気付けば、既に魔都へと到着していたようだ。
近くにいるのは先ほど魔鳥に襲われていた黒い鎧の男と、見覚えのない少年騎士。
どうやら自分を治療しようとしてくれたらしい。その心遣いに礼を述べ。

「我はヴェンディッド家が長子、クーゲル。……あの逆賊、クーゲルだ。
 ……目的が同じであるならば、態々道を違えさせる必要はないだろう」

自分がこの災厄の原因であることを隠すことはない。
背負って行くべき罪なのだ。

「信頼出来ねばいつでも後ろから突き殺してくれれば良い」

そう言って軽く笑い。
一所に留まる時間的余裕などないと、男は先陣切って北へ。城のある方角へ歩き出す。
ルノーと名乗った少年が語る、『白昼夢』とは何なのか。それだけが気にかかる。

32 名前:黒騎士 ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/05/22(土) 00:37:43 O
幸運にも、彼は城門を潜って直ぐに人に会うことができた。ルノー、と名乗る華奢な少年。なぜ彼がこのような
危険な所に居るのか、気にならないではなかったが、それよりも彼にとって命の恩人を救うことのできる喜びの
ほうが勝っていた。
案内された血生臭い部屋で、恩人の治療をする。幸いなことに、思ったよりも傷は浅かった。焦っていたのだろ
うと、彼は安堵と自虐の入り交じったため息を吐いた。見間違えたのだ、とんだ間抜けだ。いや、そんな事より、
助かりそうで良かった。

「城下が、抜けられないんです。
方角はわかっている。
けれど、ある程度進んだところでこの霧が濃くなって「おかしな白昼夢」を見て、気がついたら城門に戻って
きていました。
日が沈む前に城に辿り着けなければ、どんな危険が待つかもわからないというのに」
「複数人数なら、まだなんとかなるかもしれません。
僕を一緒に連れて行ってくれませんか?」

治療の途中、少年が頭を下げてきた。部屋の窓から覗く城の影が、霧に覆われてぼやけている。
『白昼夢』
彼は、それはいったいどう言うことなのかを思案しながら、手を止める事無く二つ返事で了承した。彼にとって、
少年もまた恩人の一人だった。
と、不意に今まで気を失っていた命の恩人が呻き声を一つあげて、身を起こした。彼は恩人に水を飲ませながら、
ここまで来た経緯を簡略化して話した。そして深く、深く感謝をする。騎士の古くからある令にのっとって、こ
の魂をいつか必ず貴公に返すと約束した。

「我はヴェンディッド家が長子、クーゲル。……あの逆賊、クーゲルだ。
 ……目的が同じであるならば、態々道を違えさせる必要はないだろう」
「信頼出来ねばいつでも後ろから突き殺してくれれば良い」

クーゲルは早々に起き上がり、部屋を出て、城に向けて歩み始めてしまった。慌てて少年と共に立ち上がり、彼
を追いかける。

「待て、クーゲルどの。こちらは未だ名前すら言っていない……」

進む毎に、霧は少しずつ濃くなる。前に進めば進むほど、己の姿すら見失う。

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵

「…………」

霧の外、柱が腐り落ちた廃屋の屋根の上。誰にも気付かれないまま、彼らを見つめる黒いローブを羽織った人物
が、みすぼらしい杖で輪を書き、ポツリと一節詩を詠んだ。

【謎の人物:霧の中にいるPC達全員に幻覚を見せる】

33 名前:ルノー ◆y/7rc5a2hR2b [gt;gt;29よりsage] 投稿日:2010/05/23(日) 04:28:27 0
同行の申し出は、二つ返事で許可された。白い騎士は、意外なことに傷が浅かったようで、すぐに身を起こした。
感じのいい騎士たちだ。これなら、きっとうまくやっていけるだろう。
・・・そう思った矢先のことだった。

「我はヴェンディッド家が長子、クーゲル。……あの逆賊、クーゲルだ」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。思考が止まる。
その名と所行は聞いていたが、まず彼女はそれを噂としか思っていなかったのだ。
もし、事実なら・・・刹那、頭が沸騰しそうになる。
だが怒鳴りつける寸前、クーゲルの言葉が冷水のように降りかかる。
「信頼出来ねばいつでも後ろから突き殺してくれれば良い」
その小さな笑みは、噂から思い描いた逆賊の像とはかけはなれたものに思えた。
混乱する。硬直する。そんな彼女を置いて、クーゲルは腰を上げた。
「ま、待ってください・・・!」
慌ててならって戸口へと向かう。
ふと鼻先に覚えのある腐臭を感じた気もしたが、まとまらない思考の渦にかき消されてしまった。



密度を増した白霧の中、3人は進んでいた。
遠い魔城の姿は、既に薄い影としか見えなくなっている。
また、前を進むクーゲルは、背後のルノーから突き刺さるような視線に気づいていることだろう。
ルノーの視線には、敵意、猜疑と困惑が交互に現れている。
斬りかかる様子はないが、警戒を解く気配もない。

と、ルノーは突然小さく声を上げ、歩みを鈍らせた。
視界に不自然な歪みが生じたのだ。霧でぼやけたのとは違う。
「まただ。目が・・・」
変化は急速だった。視界が波立ち、輪郭線が渦を巻く。彼女は声を張り上げた。
「足を止めてはいけません。一度でも止まれば、元の方向を見失う・・・!」
撹拌された色彩はほどなく秩序を得て、新たな像を結び始める――

白霧が、黒煙にとって代わる。
崩れて長く放置されていたはずの石畳や建物に、「たった今壊された」様相が現れる。

そして、絶望にのたうち回る、大勢の鎧姿。

頭の中に、声が響く。

――嫌だ!置き去りなんて嫌だあぁぁ!!――
――王め、魔法使いめ、騙したな!!俺たちごと魔王軍を封印するなんて、聞いていないぞ!――
――これが正義か!?何が国だ、何が世界だ!!――

鎧姿たちは、おとぎ話で見た古い兵士たちと同じ装いのように見えた。
彼女は唇を噛みしめ、吐き捨てた。
「でたらめを・・・っ」
瞬間、鎧姿たちがの動きが止まった。ぐるり、と全ての首が同じ動きで回る。視線に囲まれる。
怯んだ隙に、鎧姿たちは這いずりよってくる。口の端から泡を吹き、すすり泣き、神を呪いながら。

――ずるいよ。ずるいよ――
――何もしらずに、安穏と生きてやがる――
――ズルイヨ、ミンシュウ・・・ズルイヨ、セイギノミカタ――

鎧姿たちは、足を止めさせようと群がってくる。
鎧姿たちの体は幻影である。よって接触することはできず、肉体的な害は一切ない。
だがもし心折れ、一瞬でも足を止めてしまえば、そこで城への道は閉ざされる。
・・・ルノーは、自分が窮地に立たされていることを認めざるを得なかった。
「黙って・・・っ、黙ってください・・・!!」

【昔の魔王封印の様子を幻覚に見る。ルノーは劣勢】

34 名前:◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/23(日) 11:37:12 P
男には焦りがある。
これから同行者となる者の名前すら聞かず、自分の名前のみ告げるだけでさっさと進もうとしてしまう。
男が多少高慢な性格ではあったことを差し引いても、少し異常なほどだ。
その姿は、傍目からみれば「急ぎすぎている」ようにしか写らない。

男には焦りがある。
先刻からこの体を支配する、あの城へと早く向かわなければならないという焦燥感。
魔都にて目を覚ましてからは、その昂りが最早無視出来なくなってしまっている。

男には焦りがある。
一刻も早く世に恒久的な平和を取り戻さねばならない、という正義感から来るものであればどれだけ幸せなことか。
本能が、囁きかけているのだ
まるで――この体は自分の物ではないかのように。

先頭立って進んでゆくと、やがて瞳に映る光景が色を変えてゆく。
足を止めるな、という彼の声が聞こえる。なるほど、これが白昼夢か。
取り囲む無数の鎧兵士たち。こちらの歩みを止めようと、届かぬ手を伸ばしてくる。
ここに来る前、些少調べたから知っている。この鎧どもの言っている言葉の意味を。

その口から零れる呪詛の念。少しでも耳を傾ければ、足が止まってしまうことだろう。
しかし男は周りを見渡すと、口を開き、声を張り上げ――

「現在を生きるものとして、貴殿らには礼を申し上げたい! 諸君の犠牲の上で、我らは長き間幸福に浸ることが出来た!
 そこに貴殿らの同意がなかったことは分かっている! 恨みが募るのも確かであろう!
 しかし我らとしては数百年前、世代にして数十世代も前になる! 先祖の愚行を、我らが償う道理はない!
 その怒りの行き場がない? そんなことはない! そもそもがあの魔の城、魔の軍が全ての元凶ではないか!
 それを滅せんというのが我らである! 諸君らに変わり、我らが諸君の恨みを晴らして見せよう!
 しからばどうかここはひとつ、我らを通して貰えぬだろうか!」

その姿は気が触れている。いかれている、と言い換えてもいい。幻覚に向かって、説得している。しかもかなり自分勝手な理論で。
当然、何が変わる訳ではない。周りの鎧による行動の阻害は緩和されることはない。
しかし男は晴れ晴れとした表情になり。前を見据え。一歩一歩踏み出す足に力が籠る。

歩みは止めぬまま、体の後ろに両の手を伸ばす。幻覚ではない存在に触れたことを理解すると、男は掴む。
手か、鎧の一部か。それは今はどうでもいい。後を歩いているはずの二人であらばそれでいい。
振り向かなくてもいい。引っ張ってゆくことができればいい。先達する自分が迷わなければいい。
例え二人が惑わされその歩みを止めてしまったとしても、自分が歩いてゆくことが出来れば、きっと――。

「抜けた……のか?」

再び周囲の色が変わり、そこには幻覚を見る前と同じく、廃墟のような城下が広がっている。
二人を掴んでいた手を離すと、男は息を吐く。しかしそれも刹那のこと、すぐに聳える城に足を向け始める。
周りが見えていないかのように、相も変わらず、先頭切って。


35 名前:黒騎士 ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/05/24(月) 01:15:42 O
これは……と彼は息を呑んだ。怨み言、すすり泣く泣き声、絶望の呟き。魂を犯す狂った光景。何千もの死が、
一斉に叩きつけられる。
彼はその中で、不思議と静かな心地だった。事象がひどく俯瞰的に観察できる。かと言って、何か現実に行動を
起こせるわけではない。既に足は止まっており、取り付かれたように、彼はその光景に見入っていた。
不意に腕を引かれていることに気付く。止まっていた歩みは堰が切れたように流れるように動き、やがて嘘のよ
うにすんなりと霧を抜けた。

「……クーゲル殿?」

彼を引っ張っていたのは、クーゲルだった。横を見れば青白い顔のルノー少年も不思議そうにクーゲルを眺めて
いる。
クーゲルは歩みを止めず、まるで一種の機械のようにそのまま城へ向かおうとしていた。
まて、と彼は叫ぶ。明らかに様子がおかしい。体調を崩しているルノー少年の為にもここは休息を取るべきだろ
う。いくらなんでも、急ぎすぎと言うものではないのか……。そう考えてクーゲルに追い付こうと大股に足を踏
み出したその時。

「まさか、“夢”から抜け出してみせるとはねぇ……」

いつの間にかクーゲルの正面に、ゴツゴツした長い杖を持った、影のように黒いローブを羽織った腰の折れた老
婆が立ち塞がっていた。彼は歩みを止める。否、歩みを止めさせられる。
体が、動かない。まばたきすらできない。どうやら他の二人もその状態に陥っているらしい。風の吹く音がやけ
に大きく響く。

「そんなに急いで何処へ行くのさ?
まさか、あの騎士共のように魔王を倒しに来たって言うんじゃないだろうね……」

そんな貧弱な装備で、と老婆はせせら笑った。そして直ぐに表情を引き締め、だけれど、と言葉を続ける。

「そこの二人、黒いのと白いの。特に白いのか。随分“魔”に浸っているねえ。
ひょっとしたら素手で幽霊すら掴まえれそうなほどに」

眼球が乾く。最早話など聞いていられないと言うところで、老婆は一度ふむと頷き、杖で床を二度叩いた。
急に、体は動かないまま、まぶたと口を動かせるようになる。

「おっと、ワシだってこの都に探し物があってきたんだ。殺されちゃあ叶わないからね。このままで話を続ける
よ……。
あんたらはどうせ魔王を封印しに来たんだろう?だがそれは今のままじゃ到底叶わな
い。
と言うわけで、ちょっとお使いを頼まれてくれんかね?そこまで“魔”に感染しているのなら、容易い仕事さ。
“ある物”を取ってきてもらうだけだから。
引き受けてくれるなら、そうだね、うまくいったら報酬としてヒントをあげよう。魔王の封印の仕方って奴をさ。
……さてさて、どうするね?」



36 名前:ルノー ◆y/7rc5a2hR2b [sage] 投稿日:2010/05/25(火) 03:15:07 0
怨嗟の渦に崩れ落ちそうになった、その時だった。
無数に響いて輪郭すら曖昧になった呪詛を切り裂き、一つの確かな声が響いた。

右手が引かれる。
負の荒波に抗う力をなくした精神に代わり、物理的な力が体を前へ運び始める。
顔を上げる。
そこには、真っ先に心を折った未熟な彼女を呆れるでも責めるでもない、見惚れそうなほど前だけを見すえた横顔。

――思い出す。ああ、こうであった。憧れた騎士とはこうであった。
彼らの背後には、心弱く力無き民。彼らは、その弱さを責めない。彼らは、その弱き民を守り導くために刃を掲げていた――

不意に、前へ進む感覚が消失した。

崩れ落ちそうになる体を膝で支えると、そこは既に、シンと沈む元の廃墟だった。
一度も振り返らないクーゲルと、一度だけ気遣わしげにこちらを見やった黒騎士は、既に歩みを進め始めている。
そしてルノーは愕然とした。
警戒心を都合よく忘れて守られる側となり、あまつさえ、羞恥よりも受け入れる気持ちが先に出た、情けない自分に気がついたのだ。
――ただ民として守られることを拒否して、この地に足を運んだというのに!

「・・・申し訳ありませんでした」
未熟な自分が恨めしい。唇から広がる錆の味を吐き出すように口を開いた、その時だった。

>「まさか、“夢”から抜け出してみせるとはねぇ……」
とっさに剣へと伸ばしたはずの手は、髪の毛一本ほども動かなかった。

>「そこの二人、黒いのと白いの。特に白いのか。随分“魔”に浸っているねえ。
ひょっとしたら素手で幽霊すら掴まえれそうなほどに」
(魔に・・・!?まさか、会う前の戦いで?)
直後、声と目だけが解放される。
>「おっと、ワシだってこの都に探し物があってきたんだ。殺されちゃあ叶わないからね。このままで話を続けるよ……。
>あんたらはどうせ魔王を封印しに来たんだろう?だがそれは今のままじゃ到底叶わない。
>と言うわけで、ちょっとお使いを頼まれてくれんかね?そこまで“魔”に感染しているのなら、容易い仕事さ。
>“ある物”を取ってきてもらうだけだから。
>引き受けてくれるなら、そうだね、うまくいったら報酬としてヒントをあげよう。魔王の封印の仕方って奴をさ。
>……さてさて、どうするね?」

おそらく、直接的に「お使い」の遂行できるのはルノーではない。
よって、判断そのものは感染者にゆだねざるを得ない。

「・・・好きに言ってくれますね」
だが、だからといって黙っていられるはずもない。

「高みにいなければ交渉一つできない、臆病な外法使いめ。
貧弱な刃というならば、この時限りは好都合です。怯弱な老婆を一人切り伏せるにはふさわしい。
怪しげな術をかけているからと、油断しないことです。
物忘れが激しくても、さっきの『夢』くらいは覚えているのでしょう?」
正直なところ、大部分は八つ当たりである。
だが、この得体の知れない相手の余裕を少しでも崩し、何かしら情報を引き出せればという考えもあった。

「先ほどは城への行く手をはばんでおきながら、今度はヒントを与えるという。
あなたはどちら側なんですか?僕たちをどう利用する気ですか?
代償を意図的に隠される恐ろしさは、先ほど嫌と言うほど見せてもらいました。
あなたがそれをしていると判断すれば、すぐにでも刃を向けますから、そのつもりで――」

37 名前:◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/25(火) 19:36:42 P
「ルノー、と、言ったか。少し落ち着くといい」

畳み掛けるようなルノーの言葉に、男は制止の声を上げる。
確かにこの老婆が信じられない気持ちはわかる。男だって、不信感はある。
ただ、動くことが出来ない以上、どれだけ強い語調で喋ろうとそれは強がりにしかならず。
それ以上に――。

「違和感はあったのだ。幻覚を見せるのであれば、同士討ちさせるなど、被害は簡単に与えられるはず。
 だが、戻されてしまうだけなのだろう?何度でも、挑戦出来さえする。
 まるで――強さを持たぬ者を、危険から遠ざけようとしているようではないか?」

篩をかけていたのではないか、と男は考える。
あの幻覚に心乱される事なく、先に進む事が出来る者。そのような者こそ、挑む資格があるというもの。

「利用されているとしても、それはそれで構わぬさ。こちらは何もわからぬ状態なのだからな。
 ――少しぐらいは、藁にもすがる」

一呼吸。

「ということで、我は従っても構わないと思ってはいる。――ひとつ、気になることもあるしな」

頭の奥から、声がする。

何をしている? そのような不審人物の言葉に耳を傾けるな!
寄り道をするな、城へ向かえ! 早く! 早く! 早く! 早く!
早く! 早く! 早く! 早く! 早く! 早く! 早く! 早く!
早く! 早く! 早く! 早く! 早く! 早く! 早く! 早く!

――一体、この声は――

38 名前:黒騎士 ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/05/27(木) 01:57:12 O
「……ふ、ふふ。ワシはそこまで善人ではないよ。まあ、悪党、と言うほどでもないけれど」

クーゲルの言葉に、どこか寂しそうに老婆は答えた。フードから僅かに覗く口元は、何かを堪えるように強く結
ばれている。一度彼女は空を見上げ、何かを確かめるようにじっと眺めた後、上を向いたまま、本を取ってきて
くれないかい?と呟いた。

「図書館にある、“クタァト”って言う本でね。人の皮で装丁されてるから、きっと直ぐにわかる。
彼処は薄暗いから幽霊が沢山いて、ワシのように体の弱った人は直ぐに魂を追い立てられて、体を奪われちまう
のさ
……とても近づけない」

取ってきてくれたら、白い霧を追いかけとくれ。
ワシはいつもその中に居る。
そう言ってクーゲルに図書館の位置を教えた後、彼女は白い霧に紛れ、消えた。

「クーゲルどの、どうしましょう」

彼は彼女が消え、動けるようになると同時に、クーゲルに話しかけた。

「奴は邪神の宗教家です。どうも信用ならない。
……しかし図書館になら、この街がどうしてこうなったのか、何か情報があるかもしれない」


39 名前:ルノー ◆y/7rc5a2hR2b [sage] 投稿日:2010/05/28(金) 05:21:59 0
>「ルノー、と、言ったか。少し落ち着くといい」
「ですが・・・!」
>「違和感はあったのだ。幻覚を見せるのであれば、同士討ちさせるなど、被害は簡単に与えられるはず」
のど元まで出かけた反論は正論に押し戻され、無意味な呻きとなった。
それきり口をつぐむ。元より、無謀・未熟の自覚はあった。

>「ということで、我は従っても構わないと思ってはいる。――ひとつ、気になることもあるしな」
ルノーは憮然とした表情で、それでも無言でもって了解を示した。
全く、器が大きいのか楽観すぎるのか。羨ましいほど落ち着いたものだ、と彼女は思った。
・・・だというのに。

「落ち着けなんて・・・あなたこそじゃないですか」
どうして、このようなふて腐れた呟きを落としてしまったのか。危ういなどと感じてしまったのか――
頭を振る。これ以上奇妙なことを言えば、自分の至らなさに惨めになるだけである。

やがて老婆は姿を消し、体に自由が戻った。
軽く伸びをしながら、黒騎士とクーゲルの会話に耳を傾ける。

>「奴は邪神の宗教家です。どうも信用ならない。
……しかし図書館になら、この街がどうしてこうなったのか、何か情報があるかもしれない」
確かに、一瞬で壊滅したのでない限り、逃げ延びた人が残した資料があってもおかしくはない。
と、ルノーは眉を跳ね上げ、口を挟んだ。
「封印の内部がどうあるかはわかりませんが、封印された人々は、この街のどこかに隠れ住んでいたのでしょうか。
今も子孫が生き延びている可能性は、あるのでしょうかね。
死んでいたとしても、図書館の幽霊が本当に存在するなら、それが彼らかもしれませんね」

だとすれば、と続ける。
「かつて封印に用いられた『魔を御する法』を知り得る者に接触できる可能性がでてきましたね。
うまくすれば、あの得体の知れない老婆の指図を受ける必要もなくなるかもしれません。信用ならないのは同意見ですから。・・・まあ」

最後にルノーは目を伏せ、ややためらいがちに付け加えた。
脳裏に、あの幻が浮かんでいた。冬の金属のように、触れた思考がパチリと痺れて痛みが走る。
「・・・封印されていた兵たちが魔王よりも僕たちを恨んでいるようなら、彼らは敵になってしまいますが」
そう言い、胸のうちの淀んだ何かをはき出すように息を吐いた。

40 名前:◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/05/29(土) 08:03:57 P
その図書館は広くなく、些かこじんまりとしていた。
在りし日にも来館数がそれほど多かったとも思えない、狭く寂れた図書館。
とはいえ、蔵書量が常なる建築物より格段に多いから図書館と呼ぶのだ。
そこにあるのは無数の書籍。単行本、文庫、新書。崩れかけた本棚に、机や床に。

「この中から探し出すというのは……中々に骨の折れる作業ではあるな」

図書館のどの辺りにあるのかぐらい聞いておけばよかったか、とため息を吐きつつ独りごちる。
だがあの老婆の口振りからすると、すぐ分かる場所に置いてあるはず。少なくとも態々本棚まで目を通す必要はないはずだ。
しかしこの街がどうしてこのようになったか調べるのであれば、そうともいかない。
並んでいる本棚の規則性から、見当を付けて、探して……。
調べる価値はあるとはいえ、それはあまりにも途方もないことに思えてくるものだ。

「まだ日は高いとは言えど、そう長居もしてはいられぬ。
 一時間、程だろうか。探し続けられたとしても」

手分けして探してもいいが、何が起こるか分からないこの魔都、例え少しの間でも単独行動はさせることは出来ない。
それは男の傲慢な自己犠牲の精神の表れでもある。このように行動を共にしているのだ、この二人は我が守らねばならない。
騎士として。由緒正しき騎士として、だ。
――まったくもって、傲慢な。

(それにしても)
人の皮の装丁、か。
そのような書物。魔書、禁書の類いに決まっているではないか。

もう一度周りを見渡す。
さっきから考えているのは、ここに沢山いるという"幽霊"のことで。
先程の会話でもあったが、何か知っているのであればこちらに有益な情報を聞くこともできる。
果たして、対話出来るのかどうかも定かではないが。

男は一歩足を踏み出す。何かを踏んだか、乾いた音がした。
割れた曇り硝子の窓から風が吹き込み、床に散乱した本のページをめくる。
前が見えないといったほどではないが、その場は薄暗く。
奥にゆけば、もう少し暗くなるだろう。本当に"幽霊"が出たって、少しの違和感もない。
埃の匂いが鼻について、男は一度だけわざとらしく咳き込んだ。

――心の底からの声は、まだ聞こえている。
もしやこれが本当の自分自身の意思なのかと、疑ってしまうほどに。

【昼前】

41 名前:黒騎士 ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/05/30(日) 22:33:06 O
「ありませんなあ……」

本棚を漁り、題名を見て、元に戻す。彼はそんな作業を延々、黙々続けていた。
てっきり何かの規則に沿って並べられているだろうと思われた本はその実、首をかしげたくなるような並び順で、
作業は酷く非効率な物になっていた。
彼がそう言えばと気付いたのは、何らかの詩集であろう本を閉じ、棚にしまった時だった。
あの二人に名前を教える機会をすっかり無くしてしまっていたのだ。
“幽霊”とやらがいつ現れるやもしれない、緊張の中の単純な作業。それに疲れ始めていた彼は、少し離れた所
に居る二人に、自己紹介でもして気を紛らせようと思い立った。彼らもきっと疲れているだろうから、それに彼
の名前は人を笑わせたり、驚かせたりできる類いの名前で、子供の頃は良く馬鹿にされたが、今ではそれを冗談
の種として扱って久しかった。
そうときまれば、と作業の流れで思わず手に取ってしまった本の埃を払い、決心した。この本を確かめたら二人
に名前を明かそうと。
その本は皮で装丁されていた。とは言え、この図書館の本は何故か上等な物ばかりで、殆どが皮で装丁されてい
た。それが人の皮であるかは確かめられないので、いちいち本を開いて、題名を確かめなければならないのだ。
表紙の題名は痛みすぎていて、読解は困難だった。

「……“炎”?変わった題だな」

目的の物とは違うと解ったが、題名に引かれて数ページ捲る。詩集のようだ。この図書館に来てから、詩集しか
見ていないような気がする。そう思いながら、彼は戯れにその本の詩の一節を、声に出して詠んだ。

急激に、何かが吸い取られてゆく。それが何かは解らない。解ろう、と努力しようにも、代わりに入り込んでき
た何かがそれを邪魔した。
一瞬の出来事。
彼は膝をつき、呆然と目の前の光景に目を奪われている己に気付いた。
本棚が丸々一つ、燃えていた。

「なんだ、これは」

己の中に何かが打ち込まれた事が解る。魂に、何かを刻み付けられた。何かを犠牲にして。
魔法。
吐き気を感じながら、思考を纏める。これは、魔法か?これが?彼は混乱しながら、寒気を感じながら、助けを
求めるように周りを見回した。

「ひっ」

さっきまで確かに居なかった、自身をすっかり囲む、乳白色の体を持つ何かに……“幽霊”に気が付いた。

【魔法:“炎”が扱えるようになった。
魔:魔法を覚えた事で魔に強く感染、生者からまた一歩遠退き、幽霊が見えるようになる。

*ゆうれい に つかまって うごけない!!*】

42 名前:ルノー ◆y/7rc5a2hR2b [sage] 投稿日:2010/06/01(火) 21:03:59 P
一冊ずつ手に取ってはパラパラと捲って戻す、単調な作業は緊張感を麻痺させる。
顔を上げても本、下げても本、視界で動くのは2名の騎士のみである。
ちなみに、距離をとった探索はクーゲルに却下されている。
「僕、この戦いが終わったら司書になるんだ・・・」
縁起の悪い独り言をこぼし、またしても外れだった本を隙間に戻そうと手を上げる。
真面目な話、騎士の次に魅力的な職業かもしれない。騎士物語はもちろん、本そのものが嫌いではない。
・・・最も、この魔都に踏み入れた時点で単なる夢想に過ぎないが。

と、ルノーは隙間に手を差し入れたまま首をかしげた。何かがひっかかり、うまく戻せない。
のぞきみると、棚の奥に四角いものが見える。手に取るとそれは、文字が刻まれた歪んだ長方形の板を何枚も紐で束ねたものだった。
製本に携わる者が作ったようには見えない。皮も紙もない状況下で、素人が残したものということだろうか。
2人に声をかけようとした、その時だった。

右方向から熱風が首筋を舐め上げ、薄暗い館に光が満ちる。
振り向いたルノーの目に、火の塊と化した本棚が飛び込んできた。
木切れを足下に放る。駆けだす。棚の正面にいた黒騎士に目をやる。怪我はない。幸いだ。
炎は瞬く間に広がろうとする。舌打ちし、左右にある本棚を引き倒し、蹴り飛ばす。それでも既に燃え移っている。
とっさに首に巻いていた布を外し、懐にある水筒の中身を染みこませて広げ、覆う。燃え広がることさえ抑えられればいい。
不味い空気が、喉に絡む。

「何があったんですか!?」
膝をついたまま動かない黒騎士に問いを投げつける。
・・・返答は、無い。
不審に思って揺さぶろうとし、はっと触れずに手を止めた。
突然の怪異、図書館の幽霊――

――彼処は薄暗いから幽霊が沢山いて、ワシのように体の弱った人は直ぐに魂を追い立てられて、体を奪われちまうのさ――
「聞こえます?動けないんですか?しっかりして下さい!」
今更ながら呼びかける名前を聞かなかったことを悔やむ。
自分には幽霊を視認することも、引きはがすこともできない。
どうすればいい?魂を守るためには何が必要だ?
・・・魂と肉体とを、強く接続し直せればよい。
それはつまり、肉体の存在・感覚を強く認識し直すということ。ならば・・・

「――すみません」
ルノーは剣を抜いた。
向けるのは峰。上段に構え、足の黒い鎧に覆われていない部分を狙って振り降ろした。

43 名前:◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/06/07(月) 04:06:37 P
――それは一冊の本だった。

何気なく手に取った。それは何の変哲もない硬い表紙の黒い本。
題名は書いてはいなかったが皮装丁ではないし、求めている本とは違うことは確かだ。
何事もなく棚に戻すべき本。実際に他の似たような本は全て気になど留めなかった筈だ。

男は熟読していた。
横からのぞき見てみるとわかるが、その本は白紙だった。
何も書いてない。劣化して黄ばんだ紙が頁を捲れど延々と続いているだけだ。
しかし男の目はまるで文字でも追うように瞳を動かし、指を忙しなく動かす。
男は熟読していた。
身を焦がす炎にも、気づかぬ程に。

男が異変に気づいたのは、些か周りが明るすぎることに違和を感じた時だった。
その時には既に目の前に炎があり、慌てて男は視線を動かし二人を探す。
視界に捉えたのは、膝をついて動かない黒騎士と、それに呼びかけるルノーの姿。
慌てて近寄る。あの老婆の言っていた"幽霊"か、将又全く別の何かか。
男が打つ手を逡巡している間に、ルノーは剣の峰で黒騎士の足を打ち抜いた。

その刹那、一瞬黒騎士の周りの空気が揺らぐのを感じて。男はそこに手を伸ばし。
――まるで何かを採取でもするかのように、幽霊を黒騎士から『力づくで』引き剥がした。
もしや男には最初から見えていたのか。今となっては、窺い知ることは出来ない。
尚も黒騎士に纏わり付こうとする幽霊を羽虫でも追い払うかのように手で振り払う。表情すら変えずに。

「立てるだろうか? 平気か? 何か体に不具合は……」

見渡す。本棚が燃えている。本棚は一つきりではない。その隣にも本棚はある。その隣にも、その隣にもだ。
燃え移る速度は、決して遅くはない。

「しかし……これはまずいな」

図書館という、ある意味では一番火を避けねばならない地にて、炎が燃え盛っている。
燃料となり得る紙は膨大。空気は乾燥していて埃も多く、火事にこれほど適した場所がありようか。
ルノーが燃え広がらぬよう処置をしてくれていたようだが、焼け石に水だ。濡れた布の下でくすぶり続ける炎は、やがて侵食する。

「探索は中止だ! 逃ぐるしかあるまい!」

その判断は早かった。
ルノーを追い立て、負傷しているかもしれない黒騎士を肩に担ぎ、せめてもの手がかりにと男は適当に本を拾う。
男はあくまで殿を勤めようとする。
進む際には先陣を。
退く際には殿軍を。
いつ何時でも、盾で有り続けねばならないのだ。

44 名前: ◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/06/07(月) 04:09:04 P
遅くなってごめん。
こういう時に連絡が付きにくいのはきついかなと感じるので避難所作ろうかとも思うけど、必要?

45 名前:ルノー ◆y/7rc5a2hR2b [sage] 投稿日:2010/06/07(月) 05:17:46 0
>>44
いてくれて良かった!
確かにあってもいいと思います。話が込み入ってきそうなこともありますし、総合避難所だけでは不便でしょう。
公開プロキシから書き込める設定の場所だと個人的に助かります。

46 名前:黒騎士 ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/06/08(火) 21:19:25 O
>>44お任せしますよ〜


47 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/06/12(土) 01:54:16 0
はい

48 名前: ◆upyMD4kkOM [sage] 投稿日:2010/06/12(土) 23:40:26 P
……もしかして避難所待ち?
あわてて急ピッチで作ってきました。

http://yy703.60.kg/test/read.cgi/charaneta2knight/1276353303/

49 名前:黒騎士 ◆8aGdLHwtaE [sage] 投稿日:2010/06/13(日) 09:38:29 O
じくじくと痛む、足の刺し傷を撫でる。これのお陰で正気に戻れたとはいえ、感謝で苦しみが癒えるわけではな
い。彼は誰に対する物でもない、怒りと苦しみがない交ぜになった魂を抱えながら、ほとんど引き摺られるよう
に図書館を出た。
いや、彼の魂は恐怖していたのだ。自身に刻み込まれた邪悪な呪文の一節に。予感していたのだ、たった一節、
されどそこから全ては腐ってゆくと。
逃げていたのだ。怒り、苦しむことによって。己の未来が黒く塗り潰されてゆく霊感から。無意識に、底無しの
沼に足を捕られたことを、忘れようとしたのだ。

「本は」

磨耗したまま、肩を担ぐクーゲルに尋ねた。返事はない。それならば、答えは決まったようなものだった。
彼は項垂れた。

「私のせいで、すまない」

赤々と燃える図書館の前の石畳に、クーゲルの肩を離れてへたり込む。失敗した。あの老婆からは何も聞き出せ
ないだろう。
しかし、報告はしなければならない。
彼は目の前の炎から目を離して、白い霧を探した。

「なかなか面白いことをやってくれるねえ、あんた達は」

いつの間にか、彼等を囲むように白い霧が押し寄せていた。霧の中から、あの老婆の声が聞こえる。

「まあ、仕方ない。どうせ“あれ”も写本だからね。
無くしたのは惜しいが、星の廻りが悪かったんだろ」

しかし、契約は契約だ。と老婆が悪戯をするような、妙に楽しげで、明るい声で話を続けた。

「当たり障りの無いヒントをあげよう。
まあ、参加賞みたいなもんさ。大したヒントでもないけれど、丸っきり意味がないって訳でもない。
―――お前達が魔王に打ち勝とうって言うなら、“道具”に頼るしかない。心身の成長は見込めないから、この
街ではそんなものは磨り減っていくのみだよ。
いいかい“道具”を拾って、使うんだ。この魔都には人知を超えた凶悪な武器や、呪文や、薬がそこかしこに転
がっている。
魔王すら手が出せないような代物がね。
“魔”にとり殺される前に魔王に打ち勝つには、それしかない」

笑い声が霧の中から、響く。嘲笑、と言うわけではなくて、本当にただ面白がっているだけのようだ。

「いやはや、あたしはすっかりあんた達が気に入ったよ。
実に面白い芝居だ。
ぜひあんた達の芝居を、最後まで観たいもんだねえ」

【老婆への質問タイム:好きに質問して、答えさせて下さい
質問することがなければ老婆は立ち去ります】
【遅れてすみません】

50 名前:ルノー◇y/7rc5a2hR2b [sage] 投稿日:2010/06/15(火) 07:10:00 0
痛みますか、ごめんなさい──開きかけた唇は、無意味な上下運動を繰り返したのち静止した。
炎を目にして呆然とうなだれる黒騎士の顔を、まともに見られない。申し訳なさと、負の感情への困惑。
>「本は」
「・・・大丈夫ですよ!クーゲルさんが拾ってくれた中になにかあるかもしれませんし!」
うわずった声を上げる自分が嫌いだ。こんな言葉、黒騎士の救いになるわけもない。
それでも、追われるように言葉をつなぐ。今、これ以外の行動を知らないから。
「そもそも、あんな姑息な老婆に期待なんて、最初から!僕は、幻術なんて卑怯な技は美しくなくて、嫌いです・・・から・・・」
失速した幼い言い訳は、図書館を覆う炎の中へ落ちて消えていった。

しばらくして、黒騎士の視線が炎を離れて例の白霧へ向かった。
響いた声はなぜか楽しげで、腹から溢れた不快感が自然と視線を険しくする。
老婆は【魔王に打ち勝つためには道具に頼れ】と告げた。
有益な情報ではあるが、相変わらず意図が読めない。
>ぜひあんた達の芝居を、最後まで観たいもんだねえ」
「遠慮せず、ぜひ一緒に舞台へどうぞ。際から突き落としますから。・・・本当に、わからない人です」
何とか探れやしないかと思いながらも何もできず、ルノーは白霧が晴れるまで事態を静観していた。



老婆が去り、ほどなくして。
「【道具】なんていきなりいきなり・・・なんでそんなものが?信じろと?信じたとして、どうやって探せと・・・?」
ぼやき、何気なくクーゲルが持ち出した書物に視線を移したルノーは、目を瞬かせた。
「これ、拾ってくれてたんですね」
そこには、図書館で目にしたあの薄い板の束が紛れていた。
板には文字と図が刻まれているが、非常に読みにくい。年月のせいもある。だが、それ以上に刻み方が略式で乱雑なのである。
「本棚の奥にありました。古いものですね。資料というより、走り書き・・・きっと、切羽詰まった状況で書かれたもので・・・これって・・・指令書?」
刻まれているのは、この図書館周辺の略図のようだ。城と図書館の中間に位置する一つの建物の一つを指した、【決行】という言葉も読み取れる。
また、ルノーは左下隅に記された紋様に見覚えがあった。
「この紋様は・・・あの【白昼夢】で見た兵士の鎧にもありました」
つまり、これは旧魔王討伐軍の指令書であるということ。
「封印の後のものか前のものかはわかりませんが、でたらめに探すよりはよさそうですね。・・・他に持ち出した本はどうでしたか?」

そんな会話をしばし交わした後。ルノーは唐突に首を傾げて図書館方向へ振り向いた。
炎の中から、誰かに声をかけられた気がしたから。
「・・・お2人、何か言いましたか?」
魔にほとんど浸食されていないルノーにはわからない。だが、二人の騎士には聞こえたことだろう。
居場所を失い、力無く宙を漂う幽霊たちの囁きが。

『燃えてしまう』『居場所がなくなる』『またどこか、暗いところに』
『・・・あれ?どうして天、見える?』
『あの嫌な結界、今ないから』『僕らを見捨てた結界、今ない』『【まふうじ】結界、今ない』
『出られる?』『昇れる?』
『昇り方、わからない』『汚れちゃったし』『でも昇りたい』『昇りたい』
『考えよう』『考えよう』『考えよう』『考えよう』


「・・・?気のせいです・・・よね?」
炎の上、風が一筋吹いて、囁きは遠ざかっていった。

【・質問→すみません、何も思いつきませんでした・・・
・古い指令書から、旧魔王討伐軍のある集合場所を知る(演出未定、自由)
・図書館の幽霊→魔の封印下では昇天できなかったが、今ならできるかもしれないと騒いでいる】

51 名前:名無しになりきれ[] 投稿日:2010/06/26(土) 13:44:58 0
頑張って。

騎士TRPGスレ 11

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