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赤い記憶4 赤い記憶4

「なるほどね、本当にすごい選手だったんだね…」
「ええ、なにしろ、東京選抜ではウチの学園から唯一選ばれてますから」
 得意げに話す山元
 キャプテンとしては、彼のような選手がいることは嬉しいことだろう
「そこで、一つ聞きたいんだけど…
 それほど凄い選手なのに…、どうして彼をキャプテンに選ばなかったんだい?」
「え…!?」
 不意に質問され、山元は返事に詰まった
「公輝君は、サッカー部のエースだった…。だが。キャプテンにはなってない。HK学園では、次のキャプテンは、前のキャプテンの推薦で決まるそうじゃないか?」
 山元の目を見つめながら、吉田が言った
「そ、それは…、アイツは…、時々だけど、チームプレイを壊すことがあって…
 そう、夏の大会の、一回戦もそうでした…

 相手は、強豪の武蔵野中学でした
 後半のロスタイムを迎えて、3-3の同点。このままなら延長戦という所でした…
 味方が敵のパスをインターセプトして、前線に放り込んだんです
 反応したウチの2トップ…公輝ともう一人ですけど…、公輝がボールを収めました
 DFが戻りきれなかった相手は、DF一人とキーパーだけでした
 敵のDFが公輝をマークしようとしました
 当然、もう一人のFWがノーマークになります…、そこでパスを出せば、キーパーと1対1の絶好のチャンスでしたが…

「彼は、パスを出さなかった…」
 吉田が言うと、山元はコクリとうなずいた
「結局、アイツがDFをかわして、シュートを決めたから、ウチが勝ったんですけどね…
 ただ、アイツは、そういうところがあったんです
 プレイの端々に、なんというか、自分だけが決める…みたいな…
 だから…、オレはアイツをキャプテンには推薦しなかったんです…」
「なるほどね…」
 また、前田公輝という少年の断片を見つけた…
 一番目立つプレーは、彼は味方でも譲らなかった…
「その試合、卓也君や里穂ちゃんは見てたかな…?」
「もちろん、二人とも、毎試合見に来てくれましたよ
 里穂は、サッカー部でも、みんなの憧れでしたし…」
 里穂が来ると、サッカー部の連中は興奮しっぱなしだった
 あんまり興奮するから、キャプテンとしてゲームに集中させるのが大変だったと、山元が語った…
「じゃあ、君からみて、里穂ちゃんと公輝君はどうだった…?」
「どうって…?」
 山元が聞き返した
「つまり…、まあ、簡単にいうなら、付き合ってるとか、そういう風には映らなかったかな?」
「いや…、それはなかったと思います…」
 あっさりと、山元が答える
「どうして、そういえるの…?」
「だって…、いつもアイツがいましたから…卓也が…」
「…!?、それって…」
「公輝も、多分、里穂のことを好きだったんだろうけど、でも、里穂は…」
 言いにくそうな顔で、山元が頭を掻いた
 どういう風に表現していいのか、わからないようだった
「まさか、卓也君と里穂ちゃんが…?」
 じれったそうに、吉田が聞いた
「いやいや、そういうことじゃないんです
 なんて言ったらいいのか…
 だから、里穂は、誰にでも優しいから…
 里穂は、たぶん、二人の気持ちを知ってたから…」
「…!?、そうか…」
 吉田は、山元の言わんとすることを理解したようだった…
「ありがとう、参考になったよ…
 受験がんばってね」
「いや、オレ、受験は…」
 大学まで一貫教育だから、受験はありませんよ…と言おうとした山元をおいて、吉田はファミレスを後にした…

〜東京都・新宿区・高田馬場〜

 吉田は、再び里穂のマンションを訪れた
 両親は、例によって妹の病院に行っていた
「たびたびお邪魔してすまないね、どうしても、君に聞きたいことがあるんだ」
 リビングのソファーに座りながら、吉田が言った
 里穂も、ある程度の覚悟は決まったような顔をしている
「あれから、いろいろと調べたんだ、君たちの事をね…
 公輝君にとって、君はずっと心の支えだった…
 彼がサッカーを始めたのも、ファッションを磨いていたのも、君のためだった
 そして、卓也君も、公輝君とは性質は違ったが、同じ感情を持っていた…
 彼の部屋から、君の写真を集めたファイルを見つけたよ
 君は、最も大事な友達二人から、同時に同じ想いを持たれていたんだ…」
 吉田の言ったことを、里穂は冷静に受け止めた

 小さなころからの、一番の仲良しとして一緒に過ごしてきた三人…
 しかし、彼らが成長していくに連れ、その関係は微妙に変化していった
 一人の女性と、その女性に恋をする二人の男性という関係に…
「君は、それに気づいていたかい…?」
 ゆっくりと、吉田が尋ねた
「はい…、なんとなくは…」
 いつのころからだろう、卓也と公輝の里穂を見る目は、幼馴染を見る目から、一人の女性を見る目へと変化していった
 しかし、それは二人が大人の男性として成熟してきた証でもあった
 彼らは、里穂を自分だけのものにしたかった…
「おそらく、二人のうち、どちらかがその想いを君に打ち明けた…
 しかし、君は…」
 吉田は、次の言葉を飲み込み、里穂の反応を待った
「私は、二人のうち、どちらかを選ぶことはできませんでした…
 私は、ずっと三人一緒がよかったんです…」
 ようやく、事件のアウトラインが見えてきた
 本当は、もっと具体的に何があったのかを聞き出したかった
 しかし、それは14歳という、多感な年頃の里穂の心を、徒に傷つけてしまうような気がした…
 吉田は、もっと踏み込んで聞くべきか、迷っていた…

 ジャジャッ ジャジャッ ジャジャッ ジャジャッ ジャッジャ〜♪
 ジャ〜ジャ〜ジャ〜 ジャジャジャジャ〜ジャ〜♪
 ジャ〜ジャ〜ジャ〜 ジャジャジャジャ〜ジャ〜♪
 殻にくるまり 生まれることなくホンワカご飯にかけられて〜♪

 突然、里穂の携帯が大きな着信音を鳴らした
「あ、ママ!?」
 電話に出る里穂、どうやら里穂の母親かららしい
「うん、わかった、ウチはデミハンバーグ弁当でいいよ」
 どうやら、夕食の話らしい
 里穂は携帯を切った
「…変わった着メロだね」
 話に窮していた吉田は、そんなどうでもいいことを聞いた
「これ、オリジナルの着メロなんですよ
 卓也の音楽ソフトで作った、私たち三人の合作で…」
「ふうん…」
 何の気なしに答える吉田
 里穂の携帯は、F902i…そして…
「ちょっと、携帯見せてくれる?」
「え!?、はい」
 里穂は、携帯を渡した
 吉田は、携帯を裏返す
 そこには、卓也の携帯にも貼ってあった、三人一緒のプリクラが貼ってあった…
(そういえば、公輝君の荷物には、携帯はなかったな…)
 吉田の脳裏に、一つの考えが浮かんだ…
 吉田は、一昔前の機種の自分の携帯を取り出した
 里穂の携帯には、公輝の携帯の番号が載っていた
 吉田は、自分の携帯から、その番号にかけた

 ジャジャッ ジャジャッ ジャジャッ ジャジャッ ジャッジャ〜♪
 ジャ〜ジャ〜ジャ〜 ジャジャジャジャ〜ジャ〜♪
 ジャ〜ジャ〜ジャ〜 ジャジャジャジャ〜ジャ〜♪

「やっぱり!」
 このマンションのどこかから、公輝の着メロが
聞こえてくる                     殻にくるまり 生まれることなくホンワカご飯にかけられて〜
「ここや!」                          光り輝く卵のお味 トロリトロリととろけます
 そこは、里穂の部屋だった                   あ〜あ〜卵丼 どうしてそんなに優しいの
 年頃の娘の部屋に勝手に入るのはいけない事
かもしれないが、吉田はかまわずに部屋に入った         あ〜あ〜卵丼 どうしてそんなに美味しいの
「どこや!?」
 音を頼りに、吉田は携帯を探した               GO!GO!卵丼 他人丼には負けないぞ!
「ここか!?」                        GO!GO!卵丼 親子丼にも負けないぞ!
 そこは、里穂の部屋の壁際にあるベッドの隙間である
 吉田は、そこに手を伸ばし、落ちていた携帯を拾った
 携帯の画面に、吉田の番号が表示されている
 間違いなく、公輝の携帯である…
「それは…」
 里穂が、そこで固まっていた…
 機種は、やはりF902i。そして、例のプリクラも貼ってある
 おそらく、三人でおそろいのを買ったのだろう

 ベッドの横に落ちていた携帯電話…
 これこそが、あの日、この部屋であったことを物語っていた…

〜東京家庭裁判所・第四審議室〜

 いつものように、公輝は弁護士に付き添われ、そこに座っていた
 相変わらず、うつむいたままだが…

 コンコン…

 部屋をノックし、吉田は審議室に入った
 弁護士のほうを見るが、すぐに顔を背けた
 国選弁護士である彼は、これ以上、面倒はゴメン蒙りたいという所だった
 しかし、今の吉田にとっては、弁護士などどうでもいいことであった
 今日こそは、公輝になんとしても喋ってもらわなければならない
 そう、どんなことをしてでも…
「公輝君…
 そろそろ、本当のことを話してくれないかな?
 あの日、いったい何があったんだい…?」
 言葉柔らかに、吉田が話し出した
「………」
 しかし、公輝はだまったままだった…
 彼の心は、硬く閉ざされている
 それを破るためには、少々の荒療治もやむを得ないだろう
「実はね、昨日も里穂ちゃんの家に行ったんだ…
 そこで、これを見つけたんだ…」
 吉田は、昨日、里穂の部屋のベッドの脇から見つけた携帯を取り出した
「…!?」
 あきらかに、公輝の顔色が変わった
「どこで見つけたのかは、言うまでもないだろう
 僕は、どうしてソコに、君の携帯があったのかを考えたんだ…」
「………」
 公輝の顔が、どんどん青ざめている
「あの時、いったい何があったのか、いろいろと考えてみたよ
 …もしも、君がこのまま何も喋らなければ、僕が自分で推理したことを、この場で披露してあげてもいい…」
 そこまでいって、吉田は公輝の顔をしっかりと見た
 あの時何があったのか、吉田は、もう察しがついている
 自分の口で言うか、それとも…
「…わかりました、すべてお話します」
 ついに、公輝はすべてを喋る気になった…

 オレが里穂を好きになったのは、9年前、親父が死んだときでした
 オレのお袋は泣き崩れ、どうにもならなくなり、親戚の人は代わりに葬式の準備をしていて、とてもオレにかまってるヒマはなかった…

 あの時、オレのそばにずっといてくれたのが、里穂でした
 里穂は、何も喋らなかったけど、ずっとオレの手を握ってくれていた
 あのときの、里穂の手の温もりは、今でも忘れられない

 それからは、オレは里穂のためにがんばってきました
 山ちゃんにさそわれたサッカーも、里穂が応援してくれたから、誰よりも遅くまで残って練習した
 里穂をいじめるやつがいれば、絶対に許しませんでした
 オレは、里穂を守る…ナイトになりたかった…

 里穂に、女を感じ出したのは、去年の夏ごろからでした…
 中学に入ると、里穂はグっと大人っぽくなって、女らしくなっていった…

 それまでの、里穂を守りたいという気持ちとは別に、里穂を自分のものにしたいという気持ちが、日増しに強くなっていきました…
 でも、オレと同じ思いを持ってるやつが、もう一人いることを、オレは知ってました
 もちろん、卓也のことです
 アイツは、ひねくれもので皮肉屋だけど、絶対に里穂のことだけは馬鹿にしたり、皮肉ったりはしなかった…
 アイツが、オレと同じ気持ちでいることは、すぐにわかったんです
 オレ達は、親友から、恋のライバルになっていった…
 オレは、サッカーで頑張れば、里穂の気持ちを掴めるんじゃないかと思ってた…


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