このページは、@wiki で 2019年01月18日 03:38:14 GMT に保存された http://web.archive.org/web/20060516192423/http://s.freepe.com/std.cgi?id=ushi1109&pn=10 キャッシュです。
ユーザがarchive機能を用いた際、@wikiが対象サイトのrobots.txt,meta情報を考慮し、ページを保存したものです。
そのため、このページの最新版でない場合があります。 こちらから 最新のページを参照してください。
このキャッシュ ページにはすでに参照不可能な画像が使用されている可能性があります。
@wikiのarchve機能についてはこちらを参照ください

@wikiはこのページまたはページ内のコンテンツとは関連ありません。

このページをキャッシュしたwikiに戻る

赤い記憶7 赤い記憶7

〜東京家庭裁判所・第四審議室〜

「そろそろ聞かせてくれないかな…?
 君は、卓也君を刺した時に、どう感じたの…?」
 判事が、言葉優しく語りかける
「………」
 だが、例によって、公輝は口を硬く閉ざしている
 判事は首を振った…
「そんなに喋らなかったら、なにもわからないよ
 僕は、君に判決を下さなければならないんだ…
 何も喋らなかったら、僕はこのまま、判決を下すことになるよ…」
 それは、つまりこのままでは少年院行きだぞ…
 ということだが、やはり公輝は喋らない…
「仕方ない…
 僕も、いっぱい案件を抱えているんだ…
 今日中に、君に判決をくだしたいと思ってる…」
 判事が、真剣な目で、公輝を見つめる
「じゃあ、君に…
「待ってください!!!!」
 乱暴にドアを開けて、吉田が入ってきた
「なんだね、吉田君、いま審議中だよ」
 担当の捜査官とはいえ、かってに審議室に入ってくるなど失礼な話だが、吉田に礼儀をどうこう言ってるヒマはなかった
「公輝君、君は卓也君が、君から里穂ちゃんを奪おうとしていた…
 そう思っているんだね?」
「………」
 判事を無視して喋りだす吉田だが、吉田もまた、公輝に無視されている
 しかし、この証拠品は無視できないはずだった
「僕もうかつだった、君がなぜ、卓也君が池袋にいることを知っていたのか。それを聞いていなかったからね…
 君は知ってたはずだ…、卓也君が、池袋ナンジャタウンでクリスマスプレゼントを買っていたことを…
 昨日、一晩中駆け回って、ようやく見つけだしたよ」
 そういって、吉田は例の袋を取り出した
「みてくれ、これが、卓也君のクリスマスプレゼントだよ」
 吉田は、袋から中身を取り出した…
 判事は、黙って二人の行方を見守った…
「オル…ゴール…」
 吉田が取り出したのは、三つのオルゴールだった
 しかも、オーダーメイドらしい
 三つの箱には、それぞれ卓也、里穂、そして公輝の名前が入っている
「さあ、開けてごらん…
 卓也君の、君への本当の気持ちがわかるはずだ…」
 ぜんまいを巻き、公輝の前に差し出す
「う…、うう…卓也…」
 公輝は、震える手つきで、オルゴールの箱を開けた…

 チチン チチン チチン チチン チッチ〜ン♪
 チ〜チ〜チ〜 チチチチチ〜ン♪
 チ〜チ〜チ〜 チチチチチ〜ン♪

「これは…」
 その歌は、卓也と里穂、そして公輝の三人で一緒に作った『GO!GO!たまご丼』のオルゴールだった
「この曲は、三人だけしか知らない曲なんだってね
 里穂ちゃんが歌詞を作り、君が曲を作り、そして、卓也君がパソコンで作成した…」
「アイツ…」
 公輝の脳裏に、去年のことが思い出された…
 卓也の音楽ソフトで、三人のオリジナル曲を作ろうとしたときのことを…

「なんだよ、たまご丼って…
 もうちょっとカッコイイ歌詞を作ってくれよ〜」
 里穂が作った歌詞に、卓也は文句を言った
「いいじゃねえかよ、里穂がいいんだから」
「相変わらず、公輝は里穂に甘いなぁ…
 くっそ〜、これならオレが作詞すればよかった…」
「いいじゃん、早くやろうよ」
 そんなことを言いながら…夜遅くまでかかって作っていたっけ…
 理由の大半は、卓也が里穂の作った歌詞に文句を言ってたせいだが…

 卓也は、この曲を気に入ってはいなかったかもしれない…
 それでも、彼はこの曲をプレゼントに選んだ…

 それは、彼にとって、この三人で作ったものは、自分の気に入らないものであっても、大事な思い出だったからだ…

「卓也…」
 卓也との思い出が、どんどん公輝の頭にフラッシュバックされる…

 そうだ、オレたちの始まりは、オレと卓也とで、里穂の入学試験の粘土を
手伝ったことから始まっていたんだ…
 オレたちは、ずっと一緒に、里穂を守ってきたんだ…!!

 公輝の目から、とめどなく涙があふれ出た…
「公輝君…、確かに、君と卓也君は、里穂ちゃんをめぐって、ライバル同士だったかもしれない…
 でもね、それと同時に、彼は君にとっても、最も大切な友達だったはずだ
 君が里穂ちゃんに告白して…、二人が付き合い始めたとしても…
 卓也君は、きっと君の事を恨んだりはしなかったと思う…
 なぜなら、彼にとっても、君は、誰よりも大切な親友なんだから…」
 吉田がそういうと、公輝は机に突っ伏して号泣した
「卓也…、卓也…ゴメン…、オレは…オレは…」

 もはや、言葉にならない心の悲鳴であった…
 音を立てて崩れるように、公輝の心は開かれたのだった…

 公輝の涙は、そのまま止まることを知らないようだった…
 一時間経っても、二時間経っても…
 だが、吉田も判事も、それを止めることはしなかった…

 夕暮れが近づくころに、ようやく公輝は落ち着いてきた…
 徹夜明けの吉田よりも、さらに真っ赤に目が腫れあがっている
「じゃあ、そろそろ、君に判決を下そう…
 君は、自分の容疑を認めるね?」
「はい」
 泣きすぎて、声も嗄れてしまっていたが、ハッキリとした口調で答えた
「最後に、ひとつ聞こう
 君は、卓也君を刺したとき、どんな気分だった?」
 二つの真剣な眼差しが、公輝に注がれる
「オレは…、里穂が自分のもとから離れるのが、一番イヤでした…
 卓也を刺したとき、卓也の目は、何が起こったのか、まるでわかっていなかった…
 アイツは、オレを何も疑ってはいなかった…
 すぐに、里穂の悲しむ姿が思い浮かびました…
 オレは、とんでもないことをやってしまった…
 オレと、オレの一番大事な人から、その一番大事な友達を奪ってしまった
 そう考えると、オレはもう、何も考えられなくなりました…
 だから…」
 吉田たちの質問に、何も答えなかった…というわけだ
「よくわかった…
 君のしたことは、当然、許されることではない…」
「はい」
 判事が、調査報告書に、なにかを書いた
「だが、君は自分のやったことをキチンと理解し、反省している…
 当法廷において、君を保護観察処分とし、君を保護観察施設に送致した後、君には更生のための教育を受けてもらう
 君が、本当に友達を殺したことを悔やみ、その罪を償いたいと思うなら、君は、社会に復帰することができるだろう…
 その時、君は何を一番にすればいいのか、わかっているね?」
「はい」
 公輝は答えた
 判事は、それで満足したように、ペンを置いた
「それでは、これにて、本法廷は閉廷する!」

  こうして…、この事件は終わりを迎えた…
 公輝は、保護観察処分となり、社会復帰へ向けた更生教育を受けることとなった…
 判事は、審議室を去る間際、吉田にメモを渡した
 公輝に判決を下すさいに書いていたものである

『職務規定違反については、今回に限り恩赦とする』

 それだけが書いてあった…

「お疲れ様です…」
 部下の係官が、吉田に熱いコーヒーを入れた
「おお、サンキュ」
 この数日、走りつかれた吉田には、なによりのご馳走だった
「よかったですね、保護観察処分ですんで」
 そう、これで、吉田の苦労も報われるというものだった
「まあな、しかし、結局、最後に彼の心を開いたのは、卓也君の友情やった
 ほんのわずかなすれ違いが、この悲劇を生んだんや…」
 吉田が言った…

 ひょっとすれば、普通に告白していれば、公輝は里穂と付き合っていたかもしれない
 だが、それをやる自信が公輝にはなかった
 彼は、ずっと里穂に依存して生きてきたのだ
 それを失うことの恐怖が、それを許さなかった…
 もしも、公輝が里穂のことを卓也に相談していたら…
 卓也は、公輝のために、自分から引き下がっていたかもしれない…
 そんなことを考えているうちに、吉田は深い眠りについていた…

 FIN


楽天市場

[戻] [無料HP作成]