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赤い記憶2 赤い記憶2

「しかし、まあ、そんなウワサもありましたよ
 あれを見てください」
 担任は、そういって一枚の写真を指差した
 10月に行われたHK学園祭の写真だ
 一枚だけ、大きく引き伸ばしてある写真がある
 その写真に写っているのは、まぎれもなく公輝と里穂だった
「学園祭でやった。『ロミオとジュリエット』の一幕ですよ
 よく撮れてるでしょう?」
 少し自慢げに、担任が言った
 二人が主役を演じた『ロミオとジュリエット』
 ドレスアップした二人の表情といい、確かにいい写真だ
「おかげさまで、劇も大好評でしたよ
 私が言うのもなんですが、二人はお似合い…だったかもしれませんな」
 学園のヒロインと、人気者のカップルは、確かになんの違和感もなく受け入れられるほど、写真の中の二人は、そのまま飛び出してきてもおかしくないほどだった
「学園祭が終わって、しばらくしてから、二人が付き合ってるというウワサが流れたんですよ
 何日かしたら自然消滅しましたから、おそらくはデマだったんでしょうけど…」
 担任が言った
 たしかに、こんな劇を見せられら、そんなウワサが立ってもおかしくはない
「なるほど…、よく分かりました…
 最後に聞かせてください
 彼ら三人は、どうしていつも一緒なんですか?
 どうして、それほど仲がよかったんでしょう?」
「さぁ、それは初等部か幼稚舎の教師に聞いたほうがいいのでは?
 こっちにあがってきたときから、すでに仲は良かったですから…」
「そうですか…」
 これ以上は、聞くことはないだろう
 吉田は立ち上がり、帰ろうとした…
「しかし、まあ、いろいろとあるんじゃないですか?
 前田も、家庭が大変だったから…」
「家庭が!?」
「ハッ!?」
 !!、担任が、思わず口を滑らせてしまった
 明らかに、狼狽した様子だ
「どういう事ですか?
 彼の家庭に、どういう事情があったんです!」
 吉田が、担任に詰め寄る
「そ、それは…」
 顔を背ける担任だが、吉田は容赦なくたたみ掛ける
「教えてください!!、重要なことになるかもしれないんです!」
 デカイ顔と声で、担任を威嚇するように詰め寄る
「む、ムゥ〜…
 実は、前田は五歳のころに父親を交通事故で亡くしているんです
 つまり、ウチの幼稚舎の年中組のころですけど」

 担任が話すところは、こうだった

 五歳のころに父を無くした公輝
 彼の母は、なんというか、心の弱いというか脆い人だった
 彼女は葬儀の間も、幼い公輝の前で泣き崩れたままで、結局、葬儀は近所の人と親戚が中心になって行われた
 そんな心の弱かった彼女は、夫の死から立ち直れず、そのうち怪しげな宗教にはまりだし、家庭は無茶苦茶になっていった
 そして、四年ほど前に、その怪しげな宗教でであった男性と同棲するようになった
 公輝は、この男との折り合いが悪く、最近は常に家庭内で争いが絶えなかったらしいのだ…

「私も、何度か家庭訪問をしていたのですが、母親はまったく話にならない状態でした
 いつ出かけても、その宗教の教祖の家でお祈りをしていたり、なにかというと、怪しげな呪文を唱えたり…
 ああ、もうこれ以上はやめてください
 プライバシーに関わることですから」
 そういうと、担任は吉田が止めるのも聞かずに教室を出て行った
「そうか、そういう事情があったのか…」
 考えれば、公輝が逮捕されてから一週間以上経っているのに、彼の母親は一度も面会に来ていない
 吉田も、捜査係官になってから長い
 こういう親に問題がある家庭では、子供は考えられないくらいの苦痛を背負っているものなのだ
 無論、だからといって、人を殺していいということにはならないが…
「よし、次にいこう」
 吉田は、気持ちを切り替えて、次の訪問先へと向かった

〜東京都・新宿区・高田馬場〜

 新宿にあるマンションが、里穂の家だった
 たった一つの事件の手がかり、ナイフに残っていた指紋の持ち主
 とにかく、彼女から情報を聞き出さなければ、事件は伸展しない
 エレベータを上り、彼女の家に向かった

 調書によれば、事件のあった12/25は、里穂の父親は仕事で出張中、母親もインフルエンザで入院していた妹の付き添いで、病院に泊まる予定だった
 つまり、あの日、彼女は一人だったということになっている
 吉田がチャイムを鳴らすと、里穂がドアを開いて出迎えた
「飯田里穂ちゃんだね…?」
「はい」
 写真で見たとおり、かなりの美少女だった
「いま、ご両親はいるのかな?
 僕は、こういうものだけど…」
 吉田は、自分の名刺を渡した
「前田公輝くんの事件で、ちょっと聞きたいことがあるんだ…
 入ってもいいかな…?」
「…はい、どうぞ」
 吉田は、里穂の家に招きいれられた
 キチンと片付いた、いいマンションである
「いま、お父さんたちは、妹の病院に言ってるんです
 どうぞ、座ってください」
 そういって、吉田はリビングのソファーに座らされた
「どうかな…?、少しは落ち着いたかな?」
 里穂が出したコーヒーをすすりながら、吉田が尋ねた
「ええ、少しは…。まだ信じられないけど…」
 うつむいたまま答える里穂
 顔も表情もハッキリ見えないのに、その姿もまたかわいかった
「じゃあ、少し質問してもいいかな…?」
 倍以上も年齢の離れた相手に、ドギマギしながら吉田は聞いた
 里穂は、コクリ…とうなずいた
「じゃあ、まずは、君たちのことについて聞かせてほしい…
 三人とも、ずいぶんと仲がよかったんだってね?」
 やんわりと、相手を傷つけないように尋ねた
「はい」
 小さな声で、里穂は答える
「どうして、そんなに仲がいいんだい?
 幼稚舎の頃から、ずっと一緒だったらしいけど」
 時間をかけながら、ゆっくりと聞き出す吉田
「それは…、ハッキリ覚えてます…
 HK学園の幼稚舎の入学試験の時のことです…

 幼稚舎の入学試験だから、彼らが三歳の頃の話である
 HK学園の入学試験の実技では、五人一組になって、それぞれが粘土で何か好きなものを作るというものだった
「私、そのとき、ドロシーちゃんを作ろうとしてたんです
 おばあちゃんに買ってもらった、とっても大事にしてたお人形…
 でも、私、上手に作れなかった…
 その時なんです、一緒に粘土を作ってた公輝と卓也が私を手伝ってくれたんです
 あの時、二人が何を作っていたかは覚えていません。でも、二人とも自分の粘土もそっちのけで、私を手伝ってくれたんです
 私、すごくうれしくて…」

 そうして、三人とも入学試験に合格し、それから仲良くなった…
 三人の仲は、そんな昔の出来事から始まっていたのだ
「なるほどね、それで…?」
「それからは、どんなときも三人一緒でした
 海に遊びにいくときも、初めてのお泊り会も、私の家でやったんです
 すごく楽しかった…
 公輝も卓也も、本当に仲が良かったんですよ
 公輝は、小学二年生からサッカーを始めて、すぐにレギュラーになって、本当にスポーツ万能で、それに、よく小さいこの面倒とかも見てくれて、ウチの妹も、よく公輝になついてました
 卓也は、パソコンが好きで、三人が主人公のゲームを作ったり、インターネットで、いろんなものを調べたり
 去年は、占いのソフトを作って、特許を取ったりしてました」
 里穂は、三人の思い出を、楽しそうに話し出した
 一年生の頃の学園祭で、里穂が学ランを着て、三人でコントに挑戦した話や、里穂がデパートで迷子になったときに、卓也が警備室の防犯カメラをいじくって、里穂を発見した話
 そして、公輝がサッカーの大会で得点王になった話など
「なるほど、本当に仲が良かったんだね」
 どう考えても、殺人事件に発展するほどのことが、三人の間にあったとは思えない
 そう思うくらい、三人は仲が良かったのだ
「じゃあ、事件のあった日のことを聞かせてもらえるかな…」
 重苦しい口調で、吉田が言った
 明るい里穂の表情も、やはり曇ってしまう
 少し咳払いをして、吉田は例の物を取り出した…
「これが…、凶器のナイフなんだけどね…」
「…!?」
 里穂が、思わず目をそむける
 ナイフには、まだ生々しい血痕が残っていた
「ゴメン、驚かせたかな…
 でも、聞いてほしい。このナイフの柄には、君の指紋が残ってたんだ
 どうして、このナイフに君の指紋が残っているのかな?
 なにか、このナイフに、心当たりがないかな?」
 吉田が、凝視するように里穂を見つめる
 里穂は、何か知っているはずだ
 吉田は、祈るような気持ちだった。なにしろ、これが唯一の手がかりなのだから
「それ…」
「え…!?」
 里穂が口を開いた
「そのナイフ…、ウチのです…」
 !!!!
「ええ!!!」
 吉田が、驚きのあまり叫んでしまった
「じゃ、じゃあ、このナイフは、君のウチから、公輝くんが持ち出したってことだね?」
 吉田が確認する
 里穂は、小さくうなずいた
 凶器のナイフが、里穂の家から持ち出したものであるということは、つまり、公輝はあの日、里穂の家を訪れていたことになるのだ
「詳しく、話してくれるかな?」
 自分を落ち着かせながら、吉田が言った
「…、あの日は、クリスマスでした
 ウチは一人になっちゃうから、だから、三人でパーティーをしようって、それで、公輝はウチに来たんです」
「三人ってのは、君と卓也君と、公輝くんだね?」
「はい」
 よくよく考えてみれば、あんなに仲のいい三人なら、クリスマスパーティーの一つや二つ、やっていてもおかしくはない
「それで、君の家では何があったんだい?」
 身を乗り出しながら、吉田が尋ねた
 だが、里穂の表情は、どんどん暗くなっていく
 その場の空気も、まるで凍りついたように固まってしまった…
「・・・!?」
 里穂の頬を、涙が伝っている
 思い出すのが、相当につらいようだ
「ご、ごめんなさい…、今は…、まだ言えません…」
 そういうと、里穂はそのまま押し黙ってしまった…
 これ以上聞いても、彼女を傷つけてしまうだけだろう…
「わかったよ…、僕のほうこそ、突然やってきてすまなかった…
 落ち着いたら、また話してくれるね?」
「…はい」
 それだけ聞くと、吉田は立ち上がりマンションを立ち去った…

 結局、肝心なことは分からなかったが、大きな収穫があった
 事件の直前、公輝は里穂の家に行き、そこでナイフを持って出て行った…

 里穂の家で、何があったのか、それはまだ分からない
 だが、それでも、事件はようやく伸展を見せた

〜???〜

 九年前…オレが五歳のころに…父さんが死んだ…
 母さんは、泣き崩れたまま、父さんの棺にとりすがったままだった
 これから、オレはどうなってしまうんだろう…
 いいようのない不安に、オレは言葉もでなくなった…

 でも、たった一人、オレのそばを離れず、ずっと手を握ってくれる人がいた
 里穂だった…
 何も言わなくとも、その手から伝わってくる温もりが、オレを支えてくれた…
 あの時、里穂の温もりを感じていなかったら、オレはどうなっていただろう…
 オレは、あの時から…里穂を好きになった…

〜保護観察施設・拘留室〜

 夢から覚めると、公輝は新しい朝を迎えた
 事件を起こして以来、頻繁に同じ夢を見るようになった
 里穂を、初めて好きになった時のことを…

 父が死に、母は立ち直れないくらいに壊れてしまった…
 あの時から、里穂は公輝にとって唯一の心の支えだった
 里穂のためなら、なんでも出来る
 少しでも里穂にいいところを見せたい、そう思ってサッカーをはじめた
 人よりたくさん練習して、誰よりも活躍した
 ファッションだって、常に厳しくチェックしていた
 里穂に嫌われたら、自分は生きていけない…そう思っていた…


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