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赤い記憶6 赤い記憶6

〜東京家庭裁判所・正面入り口〜

「ああ、吉田君」
「あ…判事さん…」
 吉田を呼び止めたのは、この事件の担当判事だった
 公輝に判決を与えるため、吉田は彼に調査の報告をしなければならない
「例の事件だが、捜査はどうなっているのかね?」
「はい…、その…まだ十分では…」
 本当は、すでに事件の解明は済んでいるから、吉田はそれを報告しなければならない
 だが、吉田はそれを無理にごまかした
「そうかね…?
 でも、君が担当になってからだいぶ経つ
 こっちとしては、そろそろ判決を下さなければならないんだがな」
「は、はぁ、申し訳ございません」
 そういって、裁判所に入っていく検事を見送って、吉田は息をついた
「ふぅ〜、危ない危ない…。はやく、公輝君の心を開かんと、あんまり時間もないで」
 家庭裁判所の判事は、一人当たり平均で30件以上の案件を抱えている
 判事が判決を下すスピードよりも、案件が舞い込んでくる数のほうが多いからだ
 あの判事も、まだお正月の休みが取れていなかった
 だから、わざわざ吉田を呼び止めたのだ

 吉田は、公輝の告白を聞いて以来、東京中を飛び回って証拠を集めていた
 里穂はもちろん、山元竜一やHK学園の教師など、思いつく限りの人物にあたって調査をした
 だが、公輝の心を開かせるだけの材料は、まだ揃ってはいなかった…
 そのまま、なんの収穫もなく、ただ時間だけが過ぎて行った…
 もう、明日には判事は公輝に判決を下す…
 そうなれば、隠し通すことは不可能だ
 このままでは、公輝は少年院送りになってしまう…
 そうなれば、多分、彼は二度と里穂に会えなくなるだろう
 彼にとっては、里穂は全てなのだ、この事件も、里穂が原因で起こっている
 里穂に会えなくなるとしたら、彼は悲観のあまり、自ら命を絶ってしまうかもしれない…
 死んだものはともかく、里穂にすれば、大事な友達を二人もいっぺんに失ってしまうことになるのだ
 それを防ぐには、なんとか公輝の心を開かせて、彼が心の底から、親友の命を奪ったことを悔やんでいることを判事にアピールする必要があるのだ
 だが、どうやれば公輝の心は開くのか…
 吉田は、その手がかりすら掴めていなかった…
(里穂ちゃんと面会できれば、なんとかなるかも知れんけどなぁ…)
 里穂と話すことさえできれば、公輝も心を開くかもしれない
 だが、未成年者の事件の場合、親や弁護士以外の人間の面会は、制限されている
 簡単に里穂とあわせることはできないのだ
「もう一度、調書を読んでみるか…」
 そういって、吉田は証拠品と調書を読み直していった…

 いくら読んでも、ヒントらしいものは見えてこない
 いくつか疑問はあるものの、その答えがわからないのだ
「吉田さん…、もう時間です…」
 部下の係官が、コーヒーを出しながら言った
「もう判事に、この事件の調査報告をしなければなりません…
 僕…、行ってきます…」
「ああ…」
 吉田に、それを止めることはできなかった
 これが、彼の仕事なのだ…
「…吉田さん、仕方ないですよ
 彼は、何も話してはくれないんですから…」
 そういって、部下が吉田を励ます
「わかってるよ…、こんなにしつこく調査しても、それは我々の本来の仕事やない
 オレたちの仕事は、事件の全容を解明すること…
 そういう意味では、もう仕事は終わっとるんや」
 吉田も、なぜ、あれほど彼に入れ込んでいるのかがわからない…
 吉田にだって、他にいくらでも仕事はあるのである
 その時間を割いてまで、なんで公輝の事件の調査を続けるのか…
 だが、それももう、タイムリミットだ
 明日には、もう判決は下される
 もう、公輝の心を開かせることは、できないのだ…
「それにして、中学生なのにクリスマスパーティーなんて、いいですね
 僕が中学生のころは、クリスマスは家族と過ごしてましたよ…」
 そういうと、係官は調査報告書を持って、判事の下に行こうとした
「そうやな…時代は変わったんや…」
 吉田も、中学生のころは家族とクリスマスを過ごしていた…
 吉田は、ふと机に並べた証拠品に目をやった…
 ちょうど、吉田の前に二つのトレイが並んでいる
 公輝と卓也の、当日の持ち物だ…
「…!?待った!」
 吉田は、突如立ち上がった!
「なんですか…?」
 訝しげに、係官が聞いた
 吉田の頭に、急に閃きが走ったのだ
「そうか…、そういうことやったんか…」
 吉田は、一人でなにか頷いている…
「どうしたんです?、何がわかったんですか?」
 わからないでいる係官が、さらに重ねて聞く…
「オレは、この事件の調書を読んだときから、二つのことが気になっていたんや…
 ひとつは、二人の持ち物が少なすぎること
 ひとつは、現場が池袋駅の前だったことや…」

 吉田が疑問に思っていたのは、卓也の荷物が少なすぎるということだった
 今時の中学生にしては、持ち物が少なすぎる
 そして、現場が池袋なのもおかしかった
 里穂の家は新宿だし、卓也の家も公輝の家も、池袋からは離れている
 なぜ、卓也が池袋で電車を降りたのか…
 それが、ずっと謎だったのだ
「けど、その疑問が今解けた…
 オレは見落としてたんや、事件のあった日が、クリスマスやったことを…
 それを考えれば、卓也君の荷物の少ないのはオカシイ
 イヤ、あって当然のもの…、なければオカシイものがないんや…」
「なければオカシイもの…?、あ!?」
 係官も気づいたようだ
「そうや、クリスマスプレゼントや!
 クリスマスパーティーに呼ばれて、プレゼントを持ってないわけがない!
 そして、それを踏まえて考えれば、どうして卓也君が池袋駅で降りたのかも、納得ができる!」
「…と、いうことは!?」
 吉田の顔が、ひとつの確信を覚えた
「オレは行く!、今夜中に、池袋中を徹底的に捜索するんや!
 それが…公輝君の心を開かせる、最後の鍵や!」
 そういって、吉田は裁判所を飛び出した!!

〜池袋・ナンジャタウン〜

 吉田は、一晩中池袋の街を走り回っていた
 ほんのわずかでもいい、なにかのヒントがほしかった
 目を赤く腫らしながら、ようやく、卓也に結びつくヒントを見つけた
「本当ですか!、本当にあるんですか!」
 徹夜明けだというのに、吉田は大声で言った
「ええ…事件に関係あるかわからないから、警察には言いませんでしたけど
 確かに、彼はウチに注文してましたよ…」
「みせてください…!」
 数分後、店員が袋を持ってきた
 これが、卓也がこの店に注文していたクリスマスプレゼントなのだ…
「こ、これが…」
 赤く腫れた吉田の目に、輝きが戻ってきた
「ウチも困ってたんですよ、代金は貰っちゃってたし、どうしようって…」
「これ、預からせてください、かならず、本当の所有者に渡しますから…」
 そういって、吉田は、袋を取って走り出した…
「もう時間がない…、急がんと!」
 もう、時計は九時を過ぎていた
 吉田は、すぐにタクシーを拾った!
「待っていてくれ、公輝君、きっと君の心を開かせて見せる!」


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