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○●青空に歌を●○
1○●青空に歌を●○ 投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月06日(日)17時24分40秒

どうしてこんなことになったのだろう。
きっかけなんて覚えていないし、恐らく大したことではないのだと思う。

「うわっ、ことりが来たぞ!」

おはようの代わりに浴びせられるその言葉。
私という個体が認識される数少ない瞬間だ。

「窓開けようよ、なんか急に空気悪くなったから」

誰かが笑いながら言った。
クスクスと笑い声が教室に響いて、別の誰かが窓を開ける。
2投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月06日(日)17時24分57秒

私はそんなクラスメイト達を無視して自分の席に着いた。
窓際の一番後ろ。他から無理矢理隔絶された私の定位置だ。
私が未だに此処にとどまっているのは、負けたくない、というつまらない意地。
負けるものか。
屈するものか。
例え何があったって来続けてやる。

いつまで来るんだろうねぇ。
来なくていいのに。ってか、死んでいいよ。
マジウザイよな。

コソコソと話し声と嘲笑。
3投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月06日(日)17時25分20秒

聞こえるのは“何処か”からではなく、教室中から、である。
必要ないとか、消えろとか、吐気がするほど聞き飽きた。

「ほんま、いい加減いなくなればええのにな」

この独特な喋り方、関西訛りは、帆乃香のものだ。

「おんなじ空気吸ってるなんて、考えただけで気分悪なるわあ」
「だよねー、視界に入ってきたらキモすぎて目閉じちゃうし」

よく通る声で相槌を打ちながら、次元がけらけらと笑っている。
4投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月06日(日)17時26分20秒

次元と帆乃香は、いじめのリーダー格的存在だ。
だが、実際は大したことはない。

黒幕である“彼”に比べれば。

きっと彼がいじめの主犯であることなんてクラスの大部分が知らない。
巧妙に隠しているのだ、彼は。
そう思うと、盾にされている次元たちもある意味では可哀想なのかもしれない。
もっとも、同情する気にはならないけれど。
私は大声で自分の悪口を言っている次元たちをぼんやりと眺めた。

あ。

まずい。
彼と、目が合ってしまう。
あわてて視線を外すが、些か不自然な、あからさまな逸らし方をしてしまった。
5投稿者:ごあいさつ。  投稿日:2008年07月06日(日)17時26分49秒

こんにちは。
顆粒と申します。
ちょっと前に小説を書かせていただいていました。
●○● そんな日々を。○● http://ame.x0.com/tentele/080427204237.html
●○それはきっと、幸せな●○ http://ame.x0.com/tentele/080528234912.html
今回の小説は見ての通りなのでいつも以上に震えた手で
投稿ボタンをclick☆ ……チキンです。

今までより更新速度が落ちると思いますが、
温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
6投稿者:顆粒さんの小説キター!!  投稿日:2008年07月06日(日)17時29分24秒
何気に前の小説もずっと読んでましたw
頑張ってくださいね 楽しみです^^
7投稿者:あげ  投稿日:2008年07月06日(日)17時38分02秒

8投稿者:あげ  投稿日:2008年07月06日(日)17時43分14秒
  
9投稿者: 投稿日:2008年07月06日(日)17時57分29秒

10投稿者:あげ  投稿日:2008年07月06日(日)18時03分06秒

11投稿者: 投稿日:2008年07月06日(日)23時26分20秒
綺月さんの小説が荒らされて
なんでこんな駄作がのうのうと荒らされもしてないの。
意味不明…
12投稿者: 投稿日:2008年07月06日(日)23時36分14秒
いい加減にして
13投稿者:12  投稿日:2008年07月06日(日)23時40分24秒
上間違えた
けして、☆さんのナリしたわけではないので。
14投稿者:あげ  投稿日:2008年07月07日(月)08時07分15秒
           
15投稿者:(´・ω・)  投稿日:2008年07月07日(月)16時09分11秒
彼とは、草井運地のことである。
彼は、自分の体臭がくさいからといって、すぐに人をいじめる。

ある日、私は草井運地がトイレに入っていくのを見かけた。
私は、すぐさま彼のあとを追い、男子トイレに入った。
そして運地をトイレに流した。(じゃ〜)                                             THE☆END
16投稿者:黒幕だれだー  投稿日:2008年07月07日(月)16時24分37秒
すっごい疑問。
彼っていうからには…男なんだろうなぁ。
17投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月07日(月)20時16分34秒

突き飛ばされてよろめいた私に次元が言う。

「ウザいんだよね。いつ消えてくれるの?」

続け様にお腹を蹴られて、一瞬息が詰まる。
私はむせながら尻餅をついた。
彼は教卓に座って高みの見物。

「早く死んでくれたらええのに」

くらくらする頭を押さえる。
お腹、痛い。
18投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月07日(月)20時17分01秒

帆乃香の声が頭の中でぼんやり巡る。

死んでくれたらええのに。
死んでくれたらええのに。
死んでくれたら……

「駄目だよ、それじゃ」

まるで呪いのようにループする言葉の流れを絶ち切ったのは彼の静かな声だった。
彼の唇が弓なりに反る。

「殴ったりしちゃあいけない。もっと分からないようにしないと」
19投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月07日(月)20時17分28秒

その完璧すぎる笑顔に背筋が粟立つ。
次元と帆乃香が目を見合わせた。
二人の顔には微かに恐怖の色が浮かんでいる。

「どう……するの?」

怯えた目のまま次元が尋ねた。
彼は笑顔を崩さず、しかし吐き捨てるように冷たく、言った。

「簡単だよ」
20投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月07日(月)20時18分18秒

教卓から降りると一歩ずつ近づいてくる。
私は尻餅をついたまま必死に後ろへ下がったが、
腰が抜けて力の入らない私はすぐに追い詰められた。
彼は私を跨ぐほどの距離まで来て、まるで汚いものを見るような目をこちらに向けた。

「痛っ!」

髪を掴み無理矢理立たせられる。
すぐ近くに彼の顔があって私は恐怖でどうにかなってしまいそうだった。

彼はポケットに手を突っ込み、ゆっくり出した。
その手には、カッターが握られている。
21投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月07日(月)20時18分49秒

チキチキと音をたて出てきた刃は紙を切る程度の小さなものだったが、
私にとってはジャックナイフと変わらない。
いや、チェーンソーくらいの威力さえありそうに感じた。
彼はにっこりと私に笑いかけた。



「バイバイ」


それがその刹那私に聞こえた唯一の音だった。
22投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月07日(月)20時19分24秒


私はゆっくりと目を開けることで自分が目を閉じていたことに気付く。

痛みはない。
ただ頬の横をカッターの刃が通りすぎただけだったのだ。

「ふふ」

彼が小さく声を漏らした。

「あははは」

だんだん大きくなる笑い声。
しかし彼の目は虚ろだ。
23投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月07日(月)20時20分04秒

髪を掴んだ手はそのままで、グイと強く引き寄せられる。

「馬鹿だね」

歪んだ笑みを私に向け、その手を放す。
力が抜けきった私は重力に逆らわずそのまま床に倒れこんだ。
彼はクルリと向きを変えて私から離れた。
鞄を背負い帰ろうとするのを、次元と帆乃香が顔を青くしながら追い掛ける。
まるで金魚のフンみたいに。

私はその様子を呆然と見ていた。

「あ、そうだ」
24投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月07日(月)20時20分51秒

教室を出ようとしていた時、彼が思い出したように声をあげた。
この場にちっともにつかわしくない悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「パンツ丸見えだよ、――ことり」
「!!」

慌ててスカートに手を伸ばせば、見事に捲れていた。
恥ずかしくて、悔しくて、私の顔は真っ赤になった。
25投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月07日(月)20時21分06秒

あげやコメントありがとうございます!
今までのように一つずつ返信は出来ないのですが、
とても励みになります!
時間があるときには返信したいと思います。

落ちます。
26投稿者:やっぱり変わらず上手い…  投稿日:2008年07月07日(月)20時36分47秒
読ませる力(文章力)があって話に入り込んじゃいます。
これからも頑張ってください。影ながら応援してます。
27投稿者:うます  投稿日:2008年07月07日(月)20時49分09秒

28投稿者:あげ  投稿日:2008年07月09日(水)05時54分24秒
             
29投稿者:あげ  投稿日:2008年07月09日(水)17時11分07秒


30投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月09日(水)17時58分38秒

陰口は一向に収まらない。
死んじゃえ、とか、なんで生きてるの、とか。
教室にいると息苦しくなる。

その日、私は初めて屋上へ行った。
ドアノブを回して外へ出れば、教室での出来事が嘘みたいに青く澄んだ空。
数歩進んで、耳に微かな声を捕えた。

誰か、いる。

クラスの誰かだったらどうしようかと思いながら、そっと声の方に向かう。
近付く程にその声が鮮明になっていく。
31投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月09日(水)17時59分12秒

歌を歌っているのだ。
聞き覚えのない声であることを確認して、恐る恐る声の主の方へ更に近付いていった。


そこには天使がいた。

ブロンドの長い髪、おそらく私と同い年くらいの女の子。
聞いたことのない英語の歌を歌っていた。
だけど私はその歌声を聞いて、全身が震えて鳥肌が立った。

――凄い。
32投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月09日(水)17時59分43秒

私はその天使の歌声に聞き入っていた。
歌詞ではなく、声に感動するなんて初めてだ。


「……誰?」
「えっ」

“天使”はいつの間にか歌を止め、こちらを怪訝そうに見ている。

「あ……私は……」

思わず挙動不審になる。
33投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月09日(水)18時00分28秒

ええと、なんて言えばいい?
とりあえず自己紹介?
あたふたとしていると、向こうから尋ねられた。

「六年生?」

私はこくりと頷く。
その子はふわりと微笑んだ。

「そう、じゃあ同い年だ。私はメロディー・チューバック」
「重本、ことり」

メロディーに倣って自己紹介するが、
ややぶっきらぼうな言い方になってしまった。
34投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月09日(水)18時01分11秒

一学年の人数が多いので、クラスが違うと知らない子も結構いる。
彼女は本当に私を知らないようだ。

「“ことり”?可愛い名前だね」

その言葉に少し、驚いた。
よくからかわれるネタにされていたから。

“メロディー”だって充分可愛い。
そう思ったけど、私は純粋に嬉しかった。
ようやく私は全身から力が抜けるのを感じた。
35投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月09日(水)18時01分35秒

「……歌」

この子の前でなら、私は“ヒト”でいられるだろうか。

「上手だね、凄く」

私が言うと、メロディーは嬉しそうに笑った。

「ありがとう!」

ありがとう……だなんて、久しぶりに言われた。

なんだろう、ふわふわする。
あったかい気持ち。
不思議な、気持ち。
36投稿者:あげ  投稿日:2008年07月09日(水)18時09分34秒
  
37投稿者:あげ  投稿日:2008年07月10日(木)10時46分57秒
          
38投稿者:あげ  投稿日:2008年07月11日(金)10時55分57秒
           
39投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月11日(金)20時41分47秒

「一緒に歌おうか」
「へ?」
「輪唱って一人じゃできないから」

にこにこと笑顔を浮かべているメロディー。
この子、絶対マイペースだ。
心の中で密かに確信する。
嫌な感じはちっともしないのがなんだか不思議。
ちょっと羨ましい。

「ほらほら、かーえーるーのーうーたぁが……」
40投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月11日(金)20時42分12秒

メロディーが歌い出したので、それにつられて口を開く。

かえるの歌って……。
最初はそう思っていたけど、歌っているうちに楽しくなってきた。
なにより、メロディーの声が綺麗で。
ずっと聞いていたい。

まさかかえるの歌でこんな気持ちになるだなんて。
歌い終わって顔を見合わせると、私達は笑い合った。

「すごい!楽しかったあ!」
「でしょ?」

学校でこんな風に笑える日が来るとは思わなかった。
しかも、かえるの歌で。
41投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月11日(金)20時42分41秒

私とメロディーはその日から度々屋上で会うようになった。
雨だと屋上へ出られないので、私の部屋にはてるてる坊主が吊されている。

一緒に歌うのはもちろん楽しくて、メロディーの歌を聞くだけでもとても楽しかった。
メロディーは私がいじめられているということを知らない。
だから、普通に接することができる。

教室であった嫌なことを忘れられるわけではないけど、
毎日学校に来ようと思えるくらいに、
メロディーの存在は私の心の支えになっていた。
42投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月11日(金)20時43分24秒

「私はね、外で歌うのが好きなの」

メロディーが空に向かって両手を伸ばす。
私も真似して右手を上に伸ばしてみた。
当たり前だけどなにも掴めず、空気を握り締める。

「どうして?」
「空が青いから。空が、広いから」

私は、空の向こうを見た。
ノッポのビルが突き刺さる更にずっと遠くまで続いている。
43投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月11日(金)20時43分50秒

「包まれてるの……守られてるんだよ。とっても暖かくて、安心できる」
「う……ん、よく、わかんない」

私が言うと、メロディーはくすくすと楽しそうに笑った。

「たくさんの人と一緒に歌いたいなあ、屋上で。
こんな風に青に包まれたらきっと凄く優しい気持ちになれるんだよ」


確かに空の広さに安心するかもしれない。
でも、私はメロディーの歌声に包まれているときが、一番安心できる気がした。
44投稿者:顆粒さんの小説大好きです  投稿日:2008年07月11日(金)20時53分32秒
文章の感じとか話の展開とか
ずっと読んでいたくなっちゃいます。
帆乃香と翔太のが特に好きでした。
今回のも期待してます。
頑張ってください*
45投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月12日(土)21時58分25秒

先生に用事を頼まれて時間をとられたので、私は急いで鞄に荷物を放り込んでいた。
早く、早く、屋上へ行きたい。

「ねぇ、ことり」

本当に急いでいたので、教室に私と彼しか残っていないことになんて、
彼に声を掛けられるまで気が付かなかった。

彼の声に私の体は自然と氷つき、油のささっていない機械のようにぎこちなく彼を見る。

彼はゆっくり窓に近付いていく。
私はただ黙ってそれを見ている。

窓を開放した彼が振り向いて私を見た。


「“ことり”は、空を飛べるのかなあ」
46投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月12日(土)21時58分52秒

小さく笑みを漏らす。
ヒュウと窓から風が吹き込んで彼の短い髪を揺らした。

突然彼が私の手首を掴んで引っ張った。

「きゃあ!」

自分のものと思えない高い声が出た。
そんなことを気にしている間もなく、私と彼の位置が逆転する。
彼が背にしていた窓は私の目の前へ。

「なに……ひゃっ」
47投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月12日(土)21時59分21秒

戸惑っていると、彼が私の首を捕まえた。
むしろ押さえ付けたと言うべきか。
目に映るのは空ではなく地面。
窓から身を乗り出しているような格好にさせられる。

「や……やだあ!やめて、離して!」

落ちてしまう、と心が反射的に認識する。

私が叫ぶと、彼は更に強く私を押さえた。
無理矢理前のめりにされて爪先で立たざるをえなくなる。
48投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月12日(土)22時00分10秒

「やだ、離して、怖いっ、落ちちゃう!」

膝が震える。
私は必死に叫び続けた。

「離して、離してっ」
「離していいの?」

彼が至極楽しそうにくつくつと笑った。

「離したら落ちちゃうよ?いいの?
ああ、もしかして、落ちたいの?
それともやっぱりことりは空を飛べるの?」
49投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月12日(土)22時00分57秒

どうしてこんなに冷ややかに吐き捨てられるのだろうと思う。
なんだか地面が近く感じた。
落ちている?
落ちていない?

「いやだ、助けてっ!」

頭の中は真っ白で、考える前に心で叫んでいる。
恐怖という感情が私を支配する。



「なんて、ね。ことりは本当に馬鹿だね」
50投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月12日(土)22時01分36秒

彼は感情の込もっていない声で言った。
ゆっくり手を離され踵が床に付いたのを感じた私はそのまま力が抜けて座り込んだ。
安心感からか、まだ余韻の残る恐怖からか、自然と視界が滲む。

「なんで……こんなことするの」

指先も、唇も震える。
思っていたよりずっと自分の声は弱々しかった。

顔だけ彼の方を向いた途端、頭の横に彼の足が飛んできた。
壁に叩きつけられた音に反応すら出来ない。
51投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月12日(土)22時02分26秒

「なんで?理由なんて、ないよ。ただむかつくんだよ、お前が」


それだけ言うと、彼は私に背を向け何もなかったかのように教室を出て行った。

私はその後しばらく座り込んだままでいたが、
ふらついた足取りでメロディーがいる屋上へ向かった。

「あ、ことり、遅ぉい!」

頬をぷくりと膨らませて拗たように言うメロディーに、どうしようもなく安心する。
思わず、涙が出るほど。
52投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月12日(土)22時03分08秒

「こ、ことり?どうしたの?私、何か悪いこと言っちゃった?」

慌て私の背中をさするメロディーに首を振る。

「大丈夫、ごめんね」

そう言ったつもりだけど、
しゃくりあげているせいでメロディーにうまく伝わったか分からない。

メロディーは心配そうに私を見てから、小さな声で歌い出した。
53投稿者:あげ  投稿日:2008年07月12日(土)22時03分36秒
  
54投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月12日(土)22時03分38秒

知らない曲。
だけど優しい曲。

歌い終わると、メロディーが言った。

「大丈夫だよ、私が、元気になるまで傍にいてあげる」


その言葉に私の涙は余計に止まらなくなってしまった。
55投稿者:あげ  投稿日:2008年07月12日(土)22時52分23秒

56投稿者:あげ  投稿日:2008年07月13日(日)10時04分27秒
           
57投稿者:あげ  投稿日:2008年07月14日(月)07時32分26秒
   
58投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月14日(月)20時15分55秒

無視や陰口だけじゃなく、あんな風にされると、体力がもたない。
私の心はもう本当にぼろぼろで、メロディーがいなかったらきっと……。

負けたくない、そう意地を張っていられるのも限界が近かった。
そんな日。

教室を出た所で、トイレから帰ってきたらしい樹里亜とぶつかりかけた。
その拍子に樹里亜が手を拭いていた淡いピンク色のハンカチがその手を離れる。
ふわりと床に落ちてしまったハンカチを躊躇いながらも拾い上げる。

「えっと、ど、どうぞ」
59投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月14日(月)20時16分35秒

樹里亜は無表情で私からハンカチを受け取った。
汚いものに触るように人差し指と親指で摘んで冷ややかな視線をハンカチに送っている。
私は身動きが出来ず唾を呑み込んだ。

樹里亜はそのまま私の横を通り過ぎ、ごみ箱の上で、手を開いた。


ピンクのハンカチが、ごみ箱の中へ落下していく。
それを私は固まったまま見ていた。

「あれ、捨てちゃったの?」
60投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月14日(月)20時17分13秒

ジーナがごみ箱を覗き込んで樹里亜に言った。
樹里亜は平然と言い放つ。

「うん、だって、触られちゃったんだもん。汚いから、もういらない」
「そっかあ!それじゃ、仕方ないね」

能天気なジーナの笑い声がした。


心が、砕けてしまう。


私、何のために頑張ってるの?
わからなくなって、苦しい。痛い。
61投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月14日(月)20時17分45秒

彼女達にしてみれば日常の一部。
なんてことない、普通のこと。

だけど。

それは普通じゃないよ。

泣きそうになったのを必死で堪えて、息を吐いた。
屋上へ、行こう。
天使の所へ。

そうやって階段を登って、いかに自分に余裕がないかを知る。


今日は雨だった――。
62投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月14日(月)20時19分25秒

あげありがとうございます!
ジーナと樹里亜はほんと申し訳ない配役ですね……。
ごめんね二人とも。

落ちます。
63投稿者:あげ  投稿日:2008年07月14日(月)20時21分41秒

64投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月15日(火)17時54分39秒

屋上に出られない日にはメロディーと会えない。
私はどうしようもなくなってその場に立ち竦んだ。


まだまだ清潔な白さの目立つ踊り場の壁には汚れがひっそり自己主張している。
私は雨がコンクリートに叩き付けられる音を聞きながらぼんやりそれを眺めた。



『私はそんなにいらない人間ですか?』
65投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月15日(火)17時55分30秒

不意に目に入った一文にぎょっとした。
腰を屈めてよく見ると何やら文章が書かれている。

鉛筆……いや、ボールペンだ。
消えないように、何かの決意か。

中々年期が入っているようにも見えるが、
壁が塗り替えられて潰されていないということはそう古いものではないはずだ。

私はその文章を指でなぞりながら目で追っていった。
66投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月15日(火)17時56分31秒

『私はそんなにいらない人間ですか?

生きるかちがないと言われないといけませんか?

私が死ねばみんなうれしいだろうね
つくえに置いた花びんが本物になっちゃうね

死んだら私も楽になれるだろうね
消えろって言われなくていいんだもん
かたがぶつかった時にはらわれたり
きたないって言われなくていいんだもんね』
67投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月15日(火)17時57分04秒

心臓が痛いくらいに飛び跳ねている。
字をなぞる指先は微かに震えていた。
ゆっくり足から力が抜けて私はその場に座り込んだ。

やっぱり、いじめってヤツはどんな所にも、どんな時も存在するのだ。
この人はどうなったのだろう。
どうしたのだろうか。


視線を壁に巡らせると、もう少し離れた所に更に数行ほど書かれていた。
68投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月15日(火)17時57分44秒

『死んじゃえって言う
みんなが言う

だから私は、死んじゃおうかと思う

うれしいでしょう?
私もだよ もう会わなくてすむ
私もあなた達が大きらいでした

みなさん さよ』

「……っ」

その文章を読み終わる前に、私は目を反らしてしまった。
口を手で押さえたのはある種の反射。
声が漏れてしまわぬように両手で息すら通らない程きつく押さえる。
69投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月15日(火)17時58分36秒

「……っ!……っ!」

頬を涙が伝っていく。
怖い。
怖い。

左腕がジリ、と熱く痛んだ。

死という漢字が頭をぐるぐる取り巻いて、私を追い詰める。
死ぬ、それは実行するのも、口に出すのも、
それどころか文字を思い浮かべるだけでこんなにも恐ろしい。
70投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月15日(火)17時59分18秒

ウザいとかキモいとか死ねとか消えろとか、聞き飽きた。
だけどそれは傷付いていないということではない。

こんなに痛くて苦しくて、
その感覚が麻痺していないことだけが、私にとって唯一の救いなのかもしれない。


私はそんなにいらない人間ですか?
そんなに汚いですか?
生きる価値がないと言われないといけませんか?
私が死んだら、あなた達は本当に嬉しいですか?



痛みをちっとも感じませんか?
71投稿者:あげ  投稿日:2008年07月15日(火)18時05分47秒

72投稿者: 投稿日:2008年07月15日(火)18時14分44秒

73投稿者: 投稿日:2008年07月15日(火)18時20分18秒
 
74投稿者:あげ  投稿日:2008年07月15日(火)18時42分51秒
がんばれ
75投稿者:あげ  投稿日:2008年07月16日(水)08時02分22秒
           
76投稿者:あげ  投稿日:2008年07月16日(水)13時44分54秒
 
77投稿者:あげr  投稿日:2008年07月17日(木)09時04分56秒
       
78投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月17日(木)20時02分36秒

昨日とは違って、今日は晴天だった。
もし雨が降っていたら、私は学校を休んでいただろう。
俯きながら歩いていると、後ろから声を掛けられた。

「ことり?」
「えっ……メロディー」

メロディーは私の方へ駆け寄ってきた。

「屋上以外で会うなんて初めてだね!」
「う、うん」
79投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月17日(木)20時03分05秒

私は曖昧に頷きながらメロディーに分からないように辺りを見た。
クラスメイトはいないだろうか。

「昨日は雨で残念だったな、ことりと会えなかったから」

学校まで後数十メートルしかないのに、私には随分遠く感じられた。

見られていたらどうしよう。
私よりメロディーが心配だった。
私と仲良くしていることが分かったら、彼に何をされるか……。
80投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月17日(木)20時03分33秒

「あの、ごめん。私職員室に用事があるから、先行くね」
「そうなの?分かった、また放課後ね」

私が早口で言うと、メロディーは疑うことなく私に手を振った。
小走りで学校に向かいながらほっと胸を撫で下ろす。


大丈夫だよね、見られてないよね?
81投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月17日(木)20時04分14秒

放課後まで何事もなくいつものように罵詈雑言を浴びせられるだけだった。
普段なら辛い言葉も、今日はメロディーのことが心配で
あまり耳に入っていなかったのかもしれない。

終礼が終わって、私は急いで屋上へ行こうとした。
しかし、ドアが開かない。

不思議に思って見ると、彼が開かないようにドアを押さえていた。
いつの間にか、教室に残っているのは私と彼と次元と帆乃香だけになっていた。

にっこりと彼の唇が美しく、醜く、三日月型に曲げられた。



「最近、仲のいい子がいるらしいね」

82投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月17日(木)20時04分50秒

その言葉に血が引く。
唇が震えながらかすれた声でなんとか返す。

「何……何のこと?」
「メロディー、って名前だったっけ」
「し、知らない!」

私が言うと、彼は楽しそうに目を細めた。

「ふぅん、それじゃ、あの子が何されても、ことりには関係ないってことかあ」

「!」
83投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月17日(木)20時05分53秒

わざとらしく弾んだ声に思わず俯かせていた顔を上げて彼を見る。

「な、にを、するつもり……?」
「ことりには、関係ないでしょう?」

軽くあしらうように彼が言う。
ああ、なんて奴。

「メロディーには何もしないで!」

今まで彼に言ったどの言葉より切実に。
泣きそうになった。
自分の弱さに、どうしようもなく。
84投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月17日(木)20時06分08秒

「もう会わないから……お願い」

私がもっと強ければ、彼の言葉なんて気にしないのに。
だけど私は弱くて、これ以外にどうしていいのか分からなかった。

せっかく出来た友達。
それでも、メロディーが傷つくよりずっとマシだ。
私は、一人で戦う。


彼がこれ以上ないくらいの笑顔を浮かべたことを、私は見ないふりをした。

85投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月17日(木)20時06分52秒

あげありがとうございます!
頑張ります!

落ちます。
86投稿者:あげ  投稿日:2008年07月18日(金)05時59分03秒
         
87投稿者:麻佳  投稿日:2008年07月18日(金)12時00分26秒
●○● そんな日々を。○● 
●○それはきっと、幸せな●○読んでました☆ 
今回の○●青空に歌を●○ もすごい面白いです!!
続きも楽しみにしてます(^^♪頑張ってください☆
88投稿者:あげ  投稿日:2008年07月19日(土)06時01分53秒
           
89投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月19日(土)15時41分48秒

屋上にいつものようにメロディーがいて、
私はいつもとは違ってゆっくりメロディーに近づいていく。
この一歩ずつが、カウントダウン。

「メロディー……」

私が声を掛ければ、メロディーは待ってましたと言わんばかりの
きらきらした笑顔で振り返った。
耳につけていたイヤホンを私に差し出して言う。

「ね、聞いて聞いて、この曲すっごく、素敵なの!」
90投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月19日(土)15時42分28秒

痛い。
痛い、痛い。

心が痛くて張り裂けそうで、涙が出そうで。
それでも喉で詰まった声を必死に外へ送り出す。

「もう私、ここには来ない」

私の言葉にメロディーは笑顔のままで固まってしまった。

「え?なに、何の冗談?」

つまんないよ、と言いながら笑うメロディーに首を振る。

「もう来ない」
91投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月19日(土)15時43分22秒

へらりと顔を崩してみせる。
きっと演技だなんて気付かれない。

「なんかさあ、つまらないって言うか……メロディーに会いたくないんだよね」

あなたは私を救ってくれた。
どうしようもなく苦しいとき、あなたの存在に支えられた。
だからね、今度は私が守るんだ。

こんなやり方しか出来ないけど、これから私は独りだけど、
それでもメロディーが彼に何かされるより、全然いい。
92投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月19日(土)15時43分48秒

「だから……」



ばいばい。


私が背を向けてもメロディーは何も言わなかった。


鞄を背負って独り帰る私は、いつも以上に孤独な気がした。
いや、事実、いつも以上に、孤独になってしまったのだ。
ポツリ、と頬に雫が降ってきた。
93投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月19日(土)15時44分35秒

空を見上げるといつの間にか青空は真っ黒な雨雲に隠されていた。
雫はすぐに土砂降りになった。
私はその中をずぶ濡れになって歩く。


「……う……っふぅ」

雨の音がうるさくて、ちょっとの嗚咽くらい簡単に掻き消してくれる。

「ひっ……く、……うぅ」
94投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月19日(土)15時45分03秒

頬を濡らしている冷たい物が雨なのか涙なのか、そんなことどうでもよかった。
この雨が、悲しみを全部、全部洗い流してくれたらいいのに。

そうして私を強くしてくれたらいいのに。



私は天使に別れを告げた。
天使の羽がもがれてしまう前に。


95投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月19日(土)15時45分25秒

>麻佳さん
コメントありがとうございます!
前作、前々作とは質の違う小説ですが、楽しんでいただけているなら幸いです。
>86さん・88さん
あげありがとうございます!

落ちます。
96投稿者: 投稿日:2008年07月19日(土)17時07分09秒

97投稿者: 投稿日:2008年07月19日(土)20時43分40秒

98投稿者: 投稿日:2008年07月19日(土)20時47分53秒
○●それはきっと、幸せな○●
から、読んでいて
楽しかったです!!
前、優花っていう名前でした!
99投稿者:がんばれ  投稿日:2008年07月19日(土)20時49分25秒

100投稿者:あげ  投稿日:2008年07月20日(日)08時50分57秒
          
101投稿者: 投稿日:2008年07月20日(日)16時35分29秒

102投稿者: 投稿日:2008年07月20日(日)16時37分53秒

103投稿者: 投稿日:2008年07月20日(日)20時21分42秒
彼って誰だ!!
気になるww
104投稿者:あげ  投稿日:2008年07月21日(月)07時29分35秒
   
105投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月21日(月)20時38分49秒

朝から気分は最悪だった。
メロディーにはもう会えない。
でも私が学校に行かなければ、彼はメロディーに何かするだろう。
ため息ばかり出てしまう。

憂鬱なまま下駄箱を開けて、首を傾げた。

「あれ?」

上履きがない。
106投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月21日(月)20時39分36秒

今更こんな典型的な、もしかしたら一昔前のいじめ。
彼ではないということは簡単に察しがつく。


樹里亜とジーナ。

こんなことをするのはおそらく彼女達だ。
靴下のまま教室に行き、楽しそうにお喋りしているジーナ達の所へ。
手が震えてしまわないように拳を握った。

「私の上履き、どこにやったの」
107投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月21日(月)20時40分07秒

先程までの笑い声がピタリと止む。
樹里亜とジーナは顔を見合わせてにやりと笑った。

「ねえ、何か聞こえた?」
「聞こえなーい」
「空耳かなあ」
「あは、多分そうだよ!」

樹里亜の嫌味ったらしい言い方も、
ジーナの至極楽しそうな声も、私を痛めつける。

そうやって都合のいいように私の存在を消すんだ。
108投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月21日(月)20時41分16秒

掌に爪が食い込むのを意識しないと私はその場に黙って立っていられなかった。
もうどうせ何を言っても無駄だ。
そう思って私は教室を出た。

ドアから一歩踏み出した途端、背後で皆の笑い声が聞こえた。



探せば上履きは案外すぐに見付かった。
下駄箱の近くのごみ箱に無造作に放り込まれていた。
109投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月21日(月)20時42分02秒

「ほんと、典型的すぎて笑っちゃう」

一人呟く。
もちろん本当には笑えない。
上履きを拾い上げ、抱き締めた。


きっとこれが、独りってこと。
独りで戦うってこと。


涙が零れないよう、これ以上弱くならないよう、私は歯を食いしばった。
110投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月21日(月)20時43分02秒

>瞳さん
前スレに続いてコメントありがとうございます!
帆乃香の役どころが全然違いますが、どうなんでしょう……。
>103さん
“彼”について気にしていただいて嬉しいです!
(全然触れられないかと思いました……!)
彼の正体については、もう少しお待ち下さい。

あげなど、ありがとうございます!

落ちます。
111投稿者:彼か〜  投稿日:2008年07月21日(月)22時37分49秒
でも確かに彼腹黒そうなので納得しました
112投稿者:楽しみです  投稿日:2008年07月21日(月)22時42分11秒
 
113投稿者:あげ  投稿日:2008年07月22日(火)05時42分48秒
       
114投稿者: 投稿日:2008年07月22日(火)07時43分36秒
帆乃香の役どころが違いすぎるのも
いいんじゃない?
115投稿者:あげ  投稿日:2008年07月23日(水)10時14分06秒
             
116投稿者:あげ  投稿日:2008年07月24日(木)07時38分34秒
        
117投稿者:あげ  投稿日:2008年07月24日(木)15時06分30秒

118投稿者:胡夜  投稿日:2008年07月24日(木)16時26分35秒
んー判らん。
彼…誰?
該当者既出の次元以外3人共当てはまる!
1人は苗字で2人は名前の方ですが。
壁のボールペン、誰だろう…まさか。

更新頑張ってください!
119投稿者:あげ  投稿日:2008年07月24日(木)23時19分42秒


120投稿者:あげ  投稿日:2008年07月25日(金)07時53分56秒
   
121投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月25日(金)15時18分36秒

いじめは前より酷くなった気がする。
私の心の問題もあるかもしれないが、
樹里亜たちがやたら率先していじめをするようになったのだ。

彼に比べればくだらないガキみたいないじめ。
それでも私は少なからず傷付いていた。

「くだらないよね。あいつら、馬鹿だ」

彼が言う。
自分の思った通りにいっていないことに不満を抱いているようだった。
122投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月25日(金)15時19分11秒

「ばれたら続けられないのに」

ゾクリ、と背筋を悪寒が走る。
彼はいつまでこんなことを続ける気なのだろう。
何故こんなことをするのだろう。


分からない。
わからない。
ワカラナイ。


他人の心の内を想像しようと思えるほどの余裕なんて、今の私にはない。
123投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月25日(金)15時19分46秒

辛くて。
苦しくて。
泣いてしまいそうで。
負けてしまいそうで。



(メロディー、元気かなあ)


ぼんやり考えていると、彼がいきなり私に持っていた物を投げつけてきた。
カッターだ。
突然のことに反応仕切れず、右腕に命中する。

「きゃっ!」
124投稿者:梨杏  投稿日:2008年07月25日(金)15時20分11秒
更新した!
私この小説好きです。
がんばってください
125投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月25日(金)15時20分31秒

思わず悲鳴をあげる。
しかし、落下したカッターは刃がしまわれていた。
そのことを認識しても、こめかみがドクドクと脈打っていた。

「ことりも、そう思うでしょ?」

私はひたすら首を縦に振った。彼の唇から小さく笑いが漏れる。

「ねえ、ことりは」

冷たい、機械みたいな目に射抜かれて、息も出来ない。



「          ?」


126投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月25日(金)15時21分20秒

まるでそんな価値がないとでも言いたげに。
だけど私は彼の問掛けに何も返すことができなかった。



“ねえ、ことりは


何のために生きてるの?”



――私はそんなにいらない人間ですか?
  生きる価値がないと言われないといけませんか?
127投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月25日(金)15時21分44秒

あげ&コメントありがとうございます!
“彼”の名前が出てくるのはかなり最後のほうなのですが、
“彼じゃない人”はもうすぐ出てくるので
“彼”の正体も分かってしまうと思います。
もっと上手く隠せたらよかったんですけど……うう、精進せねば!

落ちます。
128投稿者:梨杏  投稿日:2008年07月25日(金)15時23分08秒
とっても上手いです。
129投稿者:あげ  投稿日:2008年07月25日(金)15時37分00秒

130投稿者:空白の部分は  投稿日:2008年07月25日(金)21時14分13秒
何ていってるんだろう
あぶり出しできたらいいのに
131投稿者:あげ  投稿日:2008年07月26日(土)08時30分35秒
   
132投稿者:ねえねえ!  投稿日:2008年07月26日(土)08時44分55秒
彼って誰?裕太?
133投稿者:ちゃんと見なよ  投稿日:2008年07月26日(土)08時53分17秒
空白の部分も彼のヒントも書いてあるよ
134投稿者:えええ  投稿日:2008年07月26日(土)09時02分34秒
彼って、誰えええええ??
135投稿者:ほんっと  投稿日:2008年07月26日(土)09時14分23秒
知りたいんだけどお〜
136投稿者:応援してます!!  投稿日:2008年07月26日(土)22時09分45秒
これからも頑張ってください
更新楽しみにまってます!!
137投稿者:今日は更新なしか  投稿日:2008年07月26日(土)22時29分53秒
   
138投稿者: 投稿日:2008年07月26日(土)23時25分25秒

139投稿者:あげ  投稿日:2008年07月27日(日)07時01分08秒
 
140投稿者:あげ  投稿日:2008年07月27日(日)08時17分51秒
マヂで、うまい!
141投稿者:麻佳  投稿日:2008年07月27日(日)13時48分49秒
81のあるとこを読むと彼ってあの人かなぁって
心の中で予想してるんですけど、誰なのか楽しみです♪
メロディーとことりはどうなるんだろう??
続き楽しみにしてます♪
142投稿者:あげ  投稿日:2008年07月27日(日)16時34分07秒

143投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月27日(日)19時16分32秒

ばしゃ、という水音と
腕に感じた冷たさの原因が同じだとすぐには気付けなかった。

「キャハハハ!引っ掛かったよ、馬鹿じゃん!」

ジーナの楽しそうな声を合図に教室中から笑い声をぶつけられる。
左腕がべっとりと赤い液体で染められていた。
しばらく思考が働かず、私は固まった。

「汚いから、早く洗ってきたらどう?」

汚いから、を強調して樹里亜が嘲笑混じりに言うのを聞いてもまだ動けない。
144投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月27日(日)19時16分59秒

ぐらりと視界が揺れるような感覚に襲われ、ようやく私は教室に背を向けていた。

水道まで走って勢いよく蛇口を捻る。
不必要なほどの水が激しく流れた。
腕を流水に浸して赤を洗う。

突然の事に驚いたというのもある。
だがそれだけではなかった。


よりによって赤。


145投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月27日(日)19時17分25秒

胃から何かせり上がってくるのをなんとか落ち着かせる。
赤い液体が比較的簡単に取れたことにはホッとした。


朱が頭を支配する。


後悔と不安が入り交じり、立っているのも億劫だ。
流しの淵に手を着く。
苦しい、息が止まりそう。


不意に足音と人の気配を感じて振り返ると、向こうから男子が一人歩いてきていた。


同じクラスの翔太だった。

146投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月27日(日)19時18分02秒

私は反射的に一歩下がる。
翔太は一瞬だけ私に視線を寄越した後、ごく普通に私の隣の蛇口を捻った。

「……大変だね」

呟くように言われた声が翔太のものだと気付くのに少しの時間を要した。
だって、話しかけられるなんて思っていなかったから。

「まあ、何もしてない俺の言うことじゃないけど」
「わ、私と話すといじめられるよ?」

恐る恐る言うと、意外にもあっさりした返事。

「別にいいよ、どうでも」
147投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月27日(日)19時18分33秒

翔太は私の悪口を言わない。
助けてくれるわけでもない。
変な奴だと思う。

「怖くないの?」
「怖くはない」

さらりと言ってのける翔太は、やっぱり変な奴。

「でも、“何もしてない”んだから、臆病と言えばそうなのかもね」

やや自嘲気味の言い方。
どうしてだろう、信用できる気がした。
ねえ、と呟く。

「生きてる理由って、なんだろう」
「生きてる理由?」
148投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月27日(日)19時19分00秒

馬鹿だ、私。
こんなこと聞いたってなんにもならない。
だけど、翔太なら答えてくれるんじゃないかと根拠もなく思った。

「私は、何のために生きてるのかなあ」

私が言うと、翔太は大して考える風でもなく答えた。

「そんなの、ないよ」

ない?

予想外の返事に翔太の方を見る。
やっぱり、翔太も……。
そう思ったけど、翔太の言葉はまだ続いていた。
149投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月27日(日)19時19分38秒

「理由がないと、生きてちゃいけないの?」
「え?」

翔太は水を止めて、私を見た。


「それなら多分俺達は、生きるために生きてるんだと思う」


目を見つめられて、逸らせなくなる。
翔太は受売りだけどね、と付け足した。

それはつまり、生きてていい、って、ことなの?
馬鹿な質問だったのだと改めて思う。
150投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月27日(日)19時20分11秒

左腕がジリ、と熱く痛んだ。
理由なんて、なくっていいんだ。
ただ私は此処に居て、生きている、それだけで。

「ありがとう」
「……別になにもしてないけど」

そう言いながらもはにかむ翔太はなんだか眩しく見えた。

「ありがとう」

私はもう一度言った。
ちょっぴり暖かい気持ちになれた気がした。
151投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月27日(日)19時20分25秒

あげ&コメントありがとうございます!
“彼じゃない人”は翔太でした〜!
ってことで、“彼”もほぼ確定されるかと……。
はっきりと分かるのはあと少し先になります。

落ちます。
152投稿者:あげ  投稿日:2008年07月27日(日)19時22分15秒
  
153投稿者:あげ  投稿日:2008年07月27日(日)22時19分25秒
キタァァァァァァァァァ
154投稿者: 投稿日:2008年07月27日(日)22時45分31秒
翔太の役も全然違うやん!
155投稿者: 投稿日:2008年07月27日(日)23時01分08秒

156投稿者:あげ  投稿日:2008年07月28日(月)10時42分14秒
   
157投稿者:がんばれ  投稿日:2008年07月28日(月)11時15分52秒

158投稿者:麻佳  投稿日:2008年07月28日(月)11時21分58秒
翔太のキャラいい!!
「それなら多分俺達は、生きるために生きてるんだと思う」
ってのが心に響きました☆
私「生まれてこなければよかった」とか「何のために生きてるんだろ?」とか
すごいことを思うことあるんです。。でもこれ読んでちょっと軽くなった気がします
159投稿者:胡夜  投稿日:2008年07月28日(月)15時40分44秒
深いなぁ。
こういう小説見ると、
私が低学年のとき受けてたいじめはみみっちいですね。

翔太謎キャラ。
こういうタイプのがいじめられると一番危ない。
と、思うのは私だけですかね。
さて、“彼”はどうするんだろーね。
ことりも死ぬのが恐いならまだ余裕ある。
メロディーはどうなったんだろう…。
壁の決意は誰のだろう。
気になる!
160投稿者:あげ  投稿日:2008年07月28日(月)16時09分32秒
すごい、うまいです。
更新、待ってますね。

彼って・・・誰かな〜〜?ドリックの誰かかな・・・?
161投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月28日(月)20時50分18秒

私が濡れた腕をハンカチで拭いて教室に戻ろうと向きを変えると、
翔太があのさ、と小さな声で私を引き止めた。

「俺の知り合いに、天使がいるんだよね」
「……は?」

突然の言葉に私はぽかんとしてしまった。
翔太はそんな私には構わず続ける。

「歌が大好きで、よく屋上で歌ってる」

それって……。
喉まで出かかった声を飲み込んで、私は黙って翔太の話の続きを待った。
162投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月28日(月)20時50分36秒

「最近凄く楽しそうだったのに、何日か前から元気なくってさ。
どうしたのか聞いたら、『友達に嫌われた』んだって」

ぎゅ、と心が締め付けられた。

「自分が悪いかもしれないから謝りたいのに、クラスが分からないんだって」

翔太が困ったように眉を下げる。
そうしてその困ったような、淋しそうにも見える瞳を私に向けた。

「事情、ちゃんと説明してあげてよ」
163投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月28日(月)20時51分03秒

暫くの静寂。
静まりかえった廊下に響いたのは、私の声だった。

「い、言えるわけ、ない」

言えるわけないよ。だってこれは私のエゴだ。

「いじめられてて、皆に嫌われてて、
私のせいでメロディーにまでなにかされそうでっ」

自分の弱さがどうしようもなく憎い。
最初から縋るべきではなかったのかもしれない。

「こんな風にしか、守れないんだもん……っ」
164投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月28日(月)20時51分49秒

私は服の裾を握りしめて俯いた。
目頭が熱くなる。

翔太が少しの間を空けて小さく言った。

「メロディーは、そんなの気にしない。
ことりがいじめられてるとか、自分がいじめられるとか」
「分からないよ、そんなこと」
「分かるよ」
「なんで?」
「経験者だから」
「え」
165投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月28日(月)20時52分11秒

驚いて顔を上げると、翔太は苦笑いを浮かべていた。
私の横をスッと通り過ぎたので、思わず背中を追って振り返る。

「死んだら楽になれるかもって思ったこともあったなー。
今思えば馬鹿馬鹿しいけど」

飽く迄軽い口調。
顔は見えない。

「生きてていいって、理由なんてなくていいんだって、
死ねとか、消えろとか、痛いけど、
そんなこと気にしないでいいんだ、って教えてくれた子がいた。



だから俺は、此処に居る」


166投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月28日(月)20時52分45秒

翔太の言葉は、痛いくらい胸に響いた。
もしメロディーがいなかったら、私は何をしていたか分からない。

先程の翔太の言葉がメロディーからの受売りだったというなら、
私は二度もメロディーに救われたことになるということだろうか。

翔太がこちらを振り向いた。

「そんな子が悲しんでるのに、何もしないわけにはいかないでしょ」

それで翔太は私に話しかけたんだ。
普段は無関心な私に、メロディーのために。
167投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月28日(月)20時53分20秒

「じゃあ……どうしたらいいのか、教えてよ」

どうしていいのかわからない。
傷付けたくない、守りたいのに。
人に聞くことではないけど、わからないのだ、どうしても。

「言えばいいんだよ。メロディーはそれを望んでる」

翔太の口調は穏やかだ。
まるで小さな子供をあやすような、優しく諭すような声。

「メロディー、待ってるよ、屋上で」


その言葉に背中を押されるように、私は駆け出した。
168投稿者:ああ…  投稿日:2008年07月28日(月)20時53分43秒
泣きそう…
169投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月28日(月)20時53分46秒

珍しくコメント返信です!(長くなったので分割します)

>瞳さん
コメントありがとうございます!
そうですね、翔太もかなり違う役割になってます。
>麻佳さん
コメントありがとうございます!
心に響くって言葉が逆に私には響きましたよ〜。
何のために、ってやっぱり一度は考えちゃいますよね。
>胡夜さん
コメントありがとうございます!
私はいじめって、受けてるほうが辛いと思ったら
何がマシってことはないんじゃないかなあとも思います。
翔太はなんか悟りを開いてますね。すごいしょうがくせいだな!
170投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月28日(月)20時55分37秒

>160さん
あげ、コメントありがとうございます!
“彼”については110を参照していただけると嬉しいです。
>168さん
リアルタイムにコメントありがとうございます!
泣きそうですか……ハンカチ貸してあげられたらいいのになあ。

すごいなあ、インターネット。
自分の考えが誰かに届いて、誰かが何かを感じてくれるなんてすごい。

あげやコメント、応援などありがとうございます!
顆粒的にはかなり長く続いてますね。
もう少しでラストスパート突入です!よし、頑張ります!

落ちます。
171投稿者:あげます☆  投稿日:2008年07月28日(月)21時04分50秒
顆粒さんの作品大好きですo(*≧ω≦*)o
前回の小説も前々回の小説も感動できるものばかりです!!!!
これヵらもガンバッて下さい♪
楽しみにしてますm(._.*)mペコッ
172投稿者: 投稿日:2008年07月28日(月)22時04分15秒
黒幕翔太だと思ってたのにww
んじゃ誰だあっ??
173投稿者:S君だよねw小六の  投稿日:2008年07月28日(月)23時28分19秒
名前だと瀬南、苗字だと翼…?
どっちだろう
174投稿者:S君だよね?小六の  投稿日:2008年07月28日(月)23時31分37秒
名前だと瀬南、苗字だと翼…?
どっちだーw
175投稿者:あげ  投稿日:2008年07月29日(火)08時32分47秒
         
176投稿者: 投稿日:2008年07月29日(火)09時34分29秒
まだ終わるわけでも無いのに
超泣きそうなんやけど!!
翔太ほんまにカッコエエわ。

そんなこと気にしないでいいんだ、って教えてくれた子がいた。
だから俺は、此処に居る

って翔太、自分を貫いてますね!!
177投稿者:まこと  投稿日:2008年07月29日(火)09時45分06秒
顆粒さんの小説とても上手です!!!

こんなに真剣に小説を読んだのは初めてかもしれません!


すごいジーンときます!
ことり、翔太、メロとかの気持ちがすごい伝わってきます(^^)/

ホントッ頑張ってください★
178投稿者:うまいです!  投稿日:2008年07月29日(火)16時34分55秒
これからも、期待しますのでドンドン頑張って下さい♪
179投稿者:雲雀☆  投稿日:2008年07月29日(火)16時36分27秒
ことりいじめてくれる聖者ゎ
誰かな?
180投稿者:お前  投稿日:2008年07月29日(火)16時37分23秒

181投稿者:雲雀☆  投稿日:2008年07月29日(火)16時38分05秒
そーなの!?
あたし小説に出るの??
182投稿者:キャラ的に  投稿日:2008年07月29日(火)16時40分08秒
みんなを騙せれるのは瀬南でしょ
183投稿者:雲雀☆  投稿日:2008年07月29日(火)16時43分12秒
そぅかな。。
184投稿者:ひばり  投稿日:2008年07月29日(火)17時06分53秒
きえろ。きもい。
185投稿者:雲雀☆  投稿日:2008年07月29日(火)17時10分02秒
ひどい。(;−;)
186投稿者:>184  投稿日:2008年07月29日(火)17時11分10秒
そいつをかまうないほうがいい
187投稿者:確かに  投稿日:2008年07月29日(火)23時26分20秒
瀬南っぽい
188投稿者:あげ  投稿日:2008年07月30日(水)05時50分37秒
          
189投稿者: 投稿日:2008年07月30日(水)07時56分00秒
ほんとだ
瀬南っぽい
190投稿者:雲雀☆  投稿日:2008年07月30日(水)08時08分51秒
瀬南だったんだぁー☆
瀬南ありがとン♪♪
191投稿者: 投稿日:2008年07月30日(水)09時09分06秒

192投稿者: 投稿日:2008年07月30日(水)09時12分00秒

193投稿者:胡夜  投稿日:2008年07月30日(水)14時16分06秒
ホントに悟り開いてますね、翔太は。
私とは別な意味で。

壁の決意は…翔太?
話の流れからすると。
黒幕は誰だろうなぁ。

更新待ってます。
194投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月30日(水)16時50分59秒

階段を息を切らせながら駆け上がる。
何が本当に正しくて何が間違っているかなんて、分からない。
守ることと傷付けないことは一緒じゃないから迷う。
やっぱりこれは私のエゴで、私が弱いから助けてほしいだけなのかもしれない。

それでも。

「メロディー!」
「こと、り?」

勢いよく扉を開けて大声で呼べば揺れるブロンド。
なんだかとても久しぶりに見たように懐かしい。
195投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月30日(水)16時51分24秒

息を整えて、メロディーを真っ直ぐ見る。
メロディーは目を丸くして私を見て、みるみる内にその目に涙を溜めた。

「ごめん!」
「ごめんなさい」

私が勢いよく頭を下げたのと、メロディーが潤んだ声で言ったのは同時だった。

「何かしちゃったなら、謝るからっ……」
「ち、違うよ、メロディー」

メロディーの頬を伝う涙に動揺しながらも、メロディーの手を握りしめる。

「あのね、聞いてくれる?」
196投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月30日(水)16時51分41秒

私が言うと、メロディーは泣きながらこくりと頷いた。
私は息を深く吸い込む。

「私、いじめに遭ってるの」

メロディーの顔に驚きが広がるのが分かる。
無言のままに促され、話を続ける。

「メロディーと仲良くしてるのがばれちゃって。
このままだと、メロディーにも何かされそうで」

弱い私を、あなたは許してくれるかな。
197投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月30日(水)16時52分11秒

「だから、あんな風に、突き放した」

つられたわけじゃなく、私の頬にも涙が零れた。

「黙ってて、ごめんね」

ぼやけた視界の中でメロディーが首を振った。
メロディーの目は真っ赤で、きっと私もそうなっているだろう。

「ごめんね」
「どうしてメロディーが謝るの?」
198投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月30日(水)16時52分45秒

「気付いてあげられなくて、ごめんね。いっぱい、辛かったよね」

なんで、そんなことを言ってくれるんだろう。
メロディーは強い、私と違って。

私が握りしめていた手は、いつの間にか私の手を握っていた。

「いじめられてるなんて、関係ないよ。
何かされたって気にしない。
これからも私と友達でいてくれる?」
199投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月30日(水)16時53分14秒

それは、私の台詞だよ。
メロディーは私と友達でいてくれるの?

言いたいことが涙で詰まって、頷くことしかできなかった。




空が青い。

どうしてだろう。
いつかの涙と違って、今日の涙は暖かかった。
200投稿者:顆粒  投稿日:2008年07月30日(水)16時53分52秒

あげ、コメントありがとうございます!
“彼”の正体ももうすぐ判明します。

落ちます。
201投稿者:あげ  投稿日:2008年07月31日(木)10時50分35秒
           
202投稿者:いいなぁ〜  投稿日:2008年07月31日(木)14時28分21秒
友情だ…!!
203投稿者: 投稿日:2008年07月31日(木)14時40分19秒
彼が気になって
204投稿者:歌・・・  投稿日:2008年07月31日(木)14時50分30秒
有名だからって言って例えばMステに
出てるからと言って聞くのはミーハーだよ
Mステに出てなくたってものすごくイイ曲は
いっぱいある。
だからみんなで「崖の上のポニョ」を聞こう
205投稿者:あのさ  投稿日:2008年07月31日(木)17時08分51秒
ポニョは関係ないから
206投稿者:雲雀☆  投稿日:2008年07月31日(木)17時10分04秒
あぁ〜そういえば出るんだよね、ポニョ
平成も出たらいいなぁ〜
この間出てたのゎめっちゃ嬉しかったゎぁ〜
207投稿者:雲●☆  投稿日:2008年07月31日(木)17時13分07秒
ホーモホーモホモ男の子♪
208投稿者:雲雀☆  投稿日:2008年07月31日(木)17時14分29秒
バカ
209投稿者:雲●☆  投稿日:2008年07月31日(木)17時16分09秒
あほ
210投稿者: 投稿日:2008年07月31日(木)19時16分12秒
続き楽しみ
211投稿者:昔、  投稿日:2008年07月31日(木)20時44分48秒
視聴者が天ドラの話を書く企画があったけど、また復活してくれないかなぁ。
顆粒さんのなら、きっと採用されると思いますよ。
212投稿者:あげ  投稿日:2008年07月31日(木)20時54分32秒
  
213投稿者:あげ  投稿日:2008年08月01日(金)10時31分50秒
   
214投稿者:麻佳  投稿日:2008年08月01日(金)12時48分35秒
翔太のうけうりはメロディーのだったんですね!!
こちり&メロディー・・・美しい友情ですね(/_;)
メロディー本当に天使みたい☆
215投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月01日(金)15時03分45秒

友達が一人でもいるというのがこんなにも心強いことだなんて知らなかった。
翔太の言葉にも後押しされて陰口もそんなに気にならなくなった。

樹里亜たちも私があまり気にしていないからか、あからさまないじめはしなくなった。
もしかしたら彼に、正確には次元を通して、何か言われたのかもしれない。
彼のことすら耐えられるようになったのも心に余裕が出来たからだろう。

教室に私の居場所はないのかもしれない。
だけど、居場所ならちゃんとある、屋上に。


「ことり」

放課後、彼が私を呼んだ。
216投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月01日(金)15時04分12秒

いつもどうやって根回ししているのか不思議だが、
やはり教室に残っているのは私たちだけだった。

「何?」

半分は恐怖や不安や虚勢、でも、もう半分は堂々とした気持ちで言う。
彼はひどく不機嫌だった。

「メロディー」

彼が発したその名前に、少しだけびくりと肩が揺れる。

「もう会わない、って、そう言ったよね?」
217投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月01日(金)15時04分36秒

彼の低い声に一瞬増幅した恐怖を落ち着かせ、彼を見た。
拳をぎゅっと握り締めて口を開く。

「会うよ、友達だもん」

横のほうで心配そうに様子を窺っていた次元たちは私の強気な言葉に驚いていた。
帆乃香の顔は青白くなっている。


「それはつまりあの子がどうなってもいいってことだよね?」

218投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月01日(金)15時05分28秒

彼のその抑揚のない冷たい声が私の心をざわつかせる。
唇は笑みを作るが目は笑っていない。

「何を……」

私が言いかけたとき、タイミングよく、教室のドアが開いた。
見慣れた顔がひょっこり覗いて教室を見回す。

「ことり?」

ふんわりとしたブロンドを揺らしながら、戸惑ったように私の名を呼ぶメロディー。
219投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月01日(金)15時05分59秒

彼がそのメロディーを無理矢理教室に引っ張り込んだのと、
次元と帆乃香が両側から私の腕を掴んだのは示し合わせたようにほぼ同時だった。

メロディーの小さな悲鳴が聞こえた。

「何、どういうこと?私、ことりに呼ばれたって聞いたんだけど」

壁の方に押されたメロディーは、たじろぐこともなく怪訝そうに言った。
彼はポケットに手を入れながら薄く笑う。




「君を、壊そうかと思って」


220投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月01日(金)15時06分15秒

あげ、コメントありがとうございます!
次回、ついに……です!

落ちます。
221投稿者:萌希  投稿日:2008年08月01日(金)15時08分24秒
面白いし上手!!!

頑張ってください!
222投稿者:雲雀☆  投稿日:2008年08月01日(金)15時10分00秒
あたしも萌希同感!
223投稿者:あげ  投稿日:2008年08月01日(金)20時39分13秒
 
224投稿者:いつ見ても  投稿日:2008年08月01日(金)23時27分06秒
上手いねぇ〜
225投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月02日(土)20時40分03秒

メロディーは益々訝しんでいるのを隠すことなく表情に示している。
逆に私は自分の鼓動が速まっていくのを感じた。

「待ってよ!やめて、メロディーには何もしないで!」

それは、悲鳴にも似ていた気がする。

彼は私を一瞥した後、すぐに視線をメロディーに向けた。
メロディーは彼を真っ直ぐ見て、逃げもせず、ただそこに立っていた。

「嫌だ、やめて、お願いっ!」
226投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月02日(土)20時40分26秒

私は腕を激しくばたつかせ、私を押さえている二人を退かそうとした。

「放して!」

彼の手がポケットから抜かれた。
その手には、カッターが。
彼が一歩前に出たのを見て私は必死に叫んだ。

「やめて、やめて、やめてぇ!!」
「……あかん」

横から声がしたのとほぼ同時に、私の右腕は解放された。

「あかん、やっぱりあかんよ」
227投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月02日(土)20時40分57秒

帆乃香が手を放したのだ。

「もう、うち嫌や!
こんな、こんなしんどいことってない……!
もう、やめようよ」
「帆乃香……」

帆乃香を見て次元の力も弱まる。
帆乃香の目は真っ赤で今にも落涙しそうだった。

彼は振り返って帆乃香を見ると、にやりと口角を持ち上げた。

「帆乃香はさあ、転校してすぐの頃、喋り方が変だっていじめに遭ってたよね」

びくりと帆乃香の肩が揺れた。
228投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月02日(土)20時41分19秒

怯えた瞳が彼を映している。
帆乃香がいじめられていた……そんなことちっとも知らなかった。

「いじめられなくなったのは誰のお陰か、忘れた訳じゃないよねえ……?」

それは明らかな脅し。
虚ろな笑みを向けられ帆乃香は喉から絞りだしたような小さな悲鳴をあげた。
そんな帆乃香を満足そうに見て、彼は再びメロディーの方に向き直った。


「むかつくんだよ。
せっかく、めちゃくちゃに壊そうとしたのに、邪魔するから」
229投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月02日(土)20時41分44秒

カッターを持った手が振り上げられる。
メロディーは相変わらず反応しない。

それが気に入らないのか彼は不機嫌そうに眉を寄せた。
まるでスローモーションのように感じられた彼の動き。
私は反射的に彼の手に飛び付いていた。



「やめて、瀬南ぁ!」


しかし、彼の――瀬南の動きを止めたのは、私ではなかった。
230投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月02日(土)20時41分58秒

あげ、コメントありがとうございます!

ようやくここまで辿り着きました〜!
多くの人の予想通り、“彼”は瀬南でした。

いよいよ完結間近です!

落ちます。
231投稿者:あげ  投稿日:2008年08月02日(土)20時43分03秒
   
232投稿者:ガンバ  投稿日:2008年08月02日(土)20時46分13秒

233投稿者:顆粒さん  投稿日:2008年08月02日(土)21時49分13秒
ちほせなのやつで、
瀬南の小説かくきないって言ってませんでしたっけ?
234投稿者:修羅場だ…  投稿日:2008年08月02日(土)21時59分46秒
瀬南も何か嫌な過去を持ってそうな持ってなさそうな
235投稿者: 投稿日:2008年08月02日(土)22時49分39秒

236投稿者:人は  投稿日:2008年08月02日(土)22時56分50秒
気が変わるもんだ
237投稿者:>>236  投稿日:2008年08月03日(日)07時19分24秒
同感
238投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月03日(日)09時31分28秒

あげなどありがとうございます。

すみません、ちょっとこれだけ。
>233さん
えーと……よろしければどの辺りが「瀬南の小説」なのか教えて頂けないでしょうか?
私としては「ことりの小説」と思って書いてきたつもりなのですが……。
あと、「書く気がない」とは書いていないと思いますよ。

後でまた来るかもしれませんが、一旦落ちます。
239投稿者:あげ  投稿日:2008年08月03日(日)13時08分57秒
大体瀬南の小説を書いたらダメなんて決まってないから!!!
他の人の意見で顆粒さんの小説を変えなくてもいいと思います。
240投稿者:萌希  投稿日:2008年08月03日(日)13時59分19秒
頑張って!!!
すげーぇおもしろいからぁ!!!
241投稿者:ガンバ  投稿日:2008年08月03日(日)14時06分47秒
応援してるから
242投稿者: 投稿日:2008年08月03日(日)17時35分51秒
49投稿者:せなのしょうせつかかないで  投稿日:2008年05月03日(土)12時08分58秒

おねがいです

>49さん
貴重なご意見ありがとうございます。
ですが、小説のスレッドを立てた以上
私には最後まで書く義務があると思っています。
不愉快な思いをさせてしまって申し訳ありませんが、
中途半端に投げ出したくないんです。
ご理解いただければ幸いです。
稿者:49  投稿日:2008年05月04日(日)10時46分19秒

わかりました
じゃあこの小説がおわったら
せなくんの小説をやめてくださるんですか?
>49さん
一応この小説が終わったら
瀬南の小説を書く予定はありません。

243投稿者:>242  投稿日:2008年08月04日(月)00時19分00秒
…………ん?
244投稿者: 投稿日:2008年08月04日(月)00時43分38秒

245投稿者:あげ  投稿日:2008年08月04日(月)10時32分12秒
   
246投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月04日(月)15時50分33秒
励ましのお言葉ありがとうございます(>_<)

242さんがどなたかは存じませんが……
「書く予定はない」とは書いていますが
「書く気がない」とは書いていませんよね?
さすがに五月の時点で七月に書くものの予定は決められません。

どの辺りが「瀬南の小説」なのかも教えて頂けないみたいだし、書いてもいいのかな。
でも今の気分じゃ続き更新する気にはならないなあ。
なんか口調が喧嘩腰になってしまって……ガキですね、本当に申し訳ない。

更新待ってくださっている方がもしいらっしゃったら、滞っていてごめんなさい。
次回は一気にどどーっと更新したいと思うので……。
247投稿者:がんばれ。  投稿日:2008年08月04日(月)17時44分50秒
何があっても、小説を書くのやめることだけは
しないでください。
248投稿者:>47  投稿日:2008年08月04日(月)17時47分13秒
同意
自分も応援してます
249投稿者:何で  投稿日:2008年08月04日(月)18時04分49秒
そんなに怒ってるの?
250投稿者:あげ  投稿日:2008年08月05日(火)08時43分50秒
           
251投稿者:部外者の口出しだけど…  投稿日:2008年08月05日(火)08時53分20秒
瀬南が重要な役?って言うか、メロと一緒にサブ主役みたいな
感じだからそう受け取ったんじゃないかな?
この小説好きだけどね。
252投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)11時07分34秒

怒ってる……ように見えますよね、やっぱり。
怒っているというか、すごく反論したい気持ちでいっぱいなんです。
どうして瀬南の小説を書いてほしくないか明確な理由も教えていただいていないし
どうしてそれを私にだけ言うのか分からないし
瀬南が重要な役なだけで嫌なら「瀬南の小説」という表現は変だと思うし
内容を読んでなくても引用する言葉くらいちゃんと見てほしいし
話を聞こうと思っても返事もないし。

私は本当に本当に臆病な人間なので、
励ましや応援の言葉はすごく嬉しいのに
たった一つのマイナスの言葉をどうしても気にしてしまって……。
今半泣き状態だし、マウス持つ手もガクブルです。

でもこのままでは話が全然進まないので出来れば今日更新したいと思います。
253投稿者:あげ  投稿日:2008年08月05日(火)15時11分04秒
負けないで!ミンナ顆粒さんのこと応援してるよ☆ミ
だから頑張って♪
254投稿者:麻佳  投稿日:2008年08月05日(火)15時35分32秒
「彼」は瀬南でしたか〜!!瀬南か理来かなと思ってました☆
私は瀬南が小説にでててもかまいませんし、キャストを誰にするかとか
顆粒さんの自由なんですから、気にしちゃだめですよ☆
253さんの言うように、顆粒さんを応援している人はたくさんいます!!
続き楽しみにしてます♪頑張ってくださいっヽ(*^o^*)丿
255投稿者:233はきっと  投稿日:2008年08月05日(火)15時57分06秒
「瀬南が出てくる小説」って書いてるつもりだと思うんだ
書いてるうちに言葉の意味が「瀬南の小説」とごっちゃになって
でもとらえ方や今後の展開によっては「瀬南の小説」になるかもしれないね

あと、このスレでは「瀬南の小説を書いてほしくない」なんて誰も言ってないよ
顆粒さんは深く考えすぎ
臆病になるのも分かるけど、一つの意見にこだわりすぎないで
256投稿者:233です  投稿日:2008年08月05日(火)17時56分30秒
何だかあたしの一言で大変なことになってすみません…
えっと、私は瀬南オタ?で、小説とかも大好きなんです。
それで、顆粒さんの小説もすごい好きなんですよ。
で、前のちほせなの奴で、書く予定はないって言ってたから
本当に楽しみに顆粒さんの小説を読んでいたんです。
そしたら、すごい悪役で出てきて、しかも物語の鍵を握る役で、
何で?って思ったんです。
ただそれだけなんですけど、そこまで怒るとは思いませんでした。
人の気持ちを考えないでカキしてすみませんでした。
257投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)17時56分36秒

「瀬南が出てくる」って意味なのかなと考えたこともあるのですが、
それはきっと〜では何も言われなかったので余計わけわかんなくなっちゃいました。

不快な気持ちになる人ができるだけ少なければいいと思ってどうにかしたかったのですが
私のコメントのせいでかえって不快な思いをさせてしまった方も多いと思います。
本当にすみませんでした。

優しいコメントありがとうございます。
朝とは別の理由で半泣きです……!

大変お待たせしました。更新します。
258投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)17時57分01秒

「次元」

瀬南は、名前を呼びながら自分の腕を捕まえている次元を睨みつけた。

「おれも、帆乃香に賛成」

二人は暫く睨み合い、次元が瀬南の腕を無理矢理下ろさせた。
両腕を掴んで対峙する。

「もうやめよう?」
「うるさっ……」

瀬南の言葉が途切れた。
不自然に歪む顔。
259投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)17時57分28秒

手からカッターが滑り落ち、床に当たってカツンと音を立てた。

「瀬南……?」

そのおかしな様子を見て帆乃香が心配そうに瀬南を呼んだ。

「……っ!瀬南!?」

次元が驚いたように叫ぶ。
微かに鉄のような匂い。
瀬南の着ているシャツに滲む、朱。
260投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)17時57分59秒

「もしかして……」



アムカ?


私がその単語を声に出す前に瀬南は下唇を噛んで斜め下に視線をやった。

「なんで、」
「っああぁぁぁああ!」

私の言葉を遮って、瀬南が突然大声を出して頭を押さえた。

「駄目なんだ、自分の腕を切るだけじゃ、足りないんだ!
もっと何かを傷付けないと、壊れちゃう、壊れちゃう!」
261投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)17時58分32秒

私は、次元さえも、驚いて只瀬南を見ていることしかできなかった。

この人は、本当に瀬南?
今にも崩れてしまいそうなほど脆く見える。

「産まなきゃ良かったって……っ!だって居場所はあそこにはない、」

ぞくりと背筋を寒気が駆け上がる。

『産まなきゃ良かった』。

瀬南がそんなことを言われていた?
こんなに追い詰められていた。
262投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)17時58分56秒

私に向けられた悪意の裏に、爆発してしまうほどの悲しみを抱えていたなんて。

「駄目だ、壊さないと、自分が壊れるんだ!」

喚きながら、落ちたカッターを瀬南が拾い上げた。

「待って」

私はゆっくりと瀬南に近づいた。
警戒するようにその黒光りする刃を私に向ける瀬南に、怯まず一歩ずつ。
そうして、カッターを持つ手を握った。


「わ、私も。アムカ、したこと、あるよ」

263投稿者:あげ  投稿日:2008年08月05日(火)17時59分16秒
  
264投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)17時59分20秒

震える声で言うと、瀬南は目を見開いた。
後ろで帆乃香の嗚咽が聞こえた。

「血が出た……痛かったよ。それから一回もやってない」

瀬南の服が吸う朱が生々しくて泣きそうになった。

左腕がジリ、と熱く痛んだ。

あの鋭い痛みを、私は決して忘れない。
忘れられない。


「ねえ、瀬南も、痛いんでしょう?」

「……っ」
265投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)18時00分03秒

俯く瀬南。
まだカッターは掴んだままだった。

簡単に許せるわけじゃない。
許したわけじゃない。
だけど、痛いのは、辛いよね?苦しいよね?



「amazing grace……」



そんなとき、歌が聞こえた。
ずっと黙って、逃げることもせずにいたメロディー。
その唇が奏でる、あまりに美しい讃美歌。
266投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)18時00分53秒

――驚くべき恩恵

なんて優しい響き
私のような愚か者さえ救ってくれる

かつては道を見失った
だが今は 正しい道を見つけた

今まで見えていなかったものが
今では見える――
267投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)18時01分23秒

涙が出た。

だって、こんなに綺麗な歌、聞いたことがない。
どこまでも透き通って、優しい歌。
崇高なその姿はまさに天の使いのようだった。

始めは驚いたような顔をしていた瀬南は、いつの間にか天使の歌に聞き入っていた。
瞳からは涙の粒が、ひとつ、ふたつと零れ落ちる。
帆乃香も、次元も、メロディーの歌を聞きながら泣いていた。

歌い終わってから、メロディーがゆっくりと口を開いた。
268投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)18時02分13秒

「どんなに、どんなに愚かな人でも、神様が許す余地はきっとある。
それは、全部貴方次第だよ」

恐れることなく言うメロディーの声は凛として美しかった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

泣きじゃくりながら帆乃香が言った。
辛そうに顔を歪めて、肩を上下させている。
269投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)18時02分49秒

「……ごめんなさい」

次元の蚊の鳴くような弱々しい声。
瀬南は涙を拭いながら、なにも言わず俯いていた。
そんな瀬南を見ながら、私は小さく口を開いた。

「私は」

皆に視線を注がれるのを感じながら、言葉を紡ぐ。
270投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)18時03分35秒

「私は、神様じゃない。
簡単に許せるほど、強くもない。
仲良くしようなんて偽善が言えるほど大人にはなれない。
だけど、恨んだままは、私も嫌だから」

息を吸い込んだ。
長い長い“戦い”は、これで終わりにしよう。

「今はまだ、許せない。

でも、もう恨まない」



瀬南の手から、カッターが離れた。

271投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月05日(火)18時04分30秒

次回で最後の更新になると思います。

落ちます。
272投稿者:深いね  投稿日:2008年08月05日(火)18時30分18秒
こんな素敵なのが書けるってすごい
ありがとう
273投稿者:わたしも  投稿日:2008年08月05日(火)20時22分08秒
いじめられてた経験あります。
リスカもしたことがあります。
本当に、こんな状況でした。
見てると、涙が出てきました。
274投稿者:アムカって…  投稿日:2008年08月06日(水)00時28分37秒
リスカのこと…?
275投稿者: 投稿日:2008年08月06日(水)00時38分29秒

276投稿者:あげ  投稿日:2008年08月06日(水)05時45分39秒
   
277投稿者: 投稿日:2008年08月06日(水)12時54分58秒

278投稿者:リスカ=リストカットじゃないの?  投稿日:2008年08月06日(水)13時16分07秒
 
279投稿者:>74  投稿日:2008年08月06日(水)13時22分03秒
たぶんアームカットの略
腕切るってことかなぁ??
280投稿者:278ごめんなんか意味不なこと言ってた  投稿日:2008年08月06日(水)13時24分25秒
>279
ぢゃあアームカットってリストカットと同じことですか?
281投稿者:>80  投稿日:2008年08月06日(水)13時31分20秒
アーム=腕
リスト=手首だからちょっと違うと思う
282投稿者:278  投稿日:2008年08月06日(水)13時40分20秒
そーなんだぁ
ありがとね^^
283投稿者:あげ  投稿日:2008年08月06日(水)14時22分36秒

284投稿者:あべ  投稿日:2008年08月06日(水)19時28分04秒
あげ
285投稿者: 投稿日:2008年08月06日(水)19時41分20秒
私はいじめられた経験ないけど
すっごいわかる気がして・・・

泣けます!!
ガンバって!
286投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月07日(木)13時48分40秒

あげ、感想などありがとうございます。

何故か256さんの書き込みが全然見えていませんでした。
わざわざカキコして下さってありがとうございます。
私も頭に血が登っていました。
冷静になって自分の書き込みを見ると本当に恥ずかしいです……。
ご迷惑をお掛けしたみなさん、申し訳ありませんでした。

瀬南をずっと“彼”と表現していたのは
正に256さんが書いていらっしゃるようなことを気にしたからです。
いじめる側ってどうしても悪いイメージが付いてしまうから、
瀬南の内面の脆さや事情が出てくる直前までは隠しておきたかったんです。
かえって失敗してしまった感もありますが……。

では更新します。
287投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月07日(木)13時49分01秒

深呼吸してから教室のドアを開ける。
一斉に向けられる視線。
私は視界の端に次元と瀬南の姿を見付けながらも、そのまま通り過ぎる。

二人とも、何も言わなかった。
私への誹謗でざわついていた教室は、それだけで静まりかえった。
私が席に着いて程なくして、後方のドアが開けられた。

帆乃香が立っていた。
帆乃香の席は前の方で、後ろから入ると遠回りになるはずなのに。
288投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月07日(木)13時49分28秒

心に疑問を浮かべている内に、帆乃香が私の横をさりげなく通った。
いや、さりげない風を装って、と言うべきなのかもしれない。
だって、私の席の隣を通ると明らかに遠くなるのだから。


「おはよう」


私の横を通り過ぎるとき、帆乃香が小さな声で言ったので、
私は自分の耳を疑ってしまった。
関西訛りが、なんだかやけに心地よく感じて。
289投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月07日(木)13時49分55秒

「お、おはよう!」

私があわてて返事をすると、帆乃香は頬をほんのり赤くさせていた。

クラスの皆はというと、帆乃香の行動に驚いて今度はひどくざわつきだした。
その動揺っぷりは、ちょっと笑えた。


いじめってヤツはどんな所にも、どんな時も存在するのだ。
だけど、きっとなくすことだって出来る。
私はそう信じたい。
290投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月07日(木)13時50分52秒

例えばもしも何のわだかまりもなくなって、
心の底からあなた達を許せるときが来たとしたなら。


みんなで、屋上で歌を歌おう。


空の青に抱かれて、
きっと私達は優しくて幸せな気持ちになれる。

          
                       ○●END●○
291投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月07日(木)13時54分26秒
完結です!
応援ありがとうございました。


ですが……
実は(短いですが)番外編とかあるんですよ。
次からそちらを更新したいと思います。
もしもまだ顆粒に付き合ってやってもいいよ〜って方がいらっしゃったら、
よろしかったら読んでやってください。

あ、主人公はことりではありません。
292投稿者:るい  投稿日:2008年08月07日(木)13時56分49秒
今日はこれで終わりなんですか?
293投稿者:番外編楽しみです!  投稿日:2008年08月07日(木)13時58分21秒
頑張ってください!
顆粒さんが更新して下さる限り
読み続けます☆
294投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月07日(木)13時58分35秒

ごめんなさい、書き忘れました。
今日はこれで落ちます。
295投稿者:感動しました  投稿日:2008年08月07日(木)14時05分37秒
顆粒さんありがとう。
番外編も絶対読もうと思います!
296投稿者: 投稿日:2008年08月07日(木)17時39分09秒
顆粒さん!!うますぎですよ!!
心に残る言葉ですよね。

いじめってヤツはどんな所にも、どんな時も存在するのだ。
だけど、きっとなくすことだって出来る。
私はそう信じたい。
例えばもしも何のわだかまりもなくなって、
心の底からあなた達を許せるときが来たとしたなら。

ってとこ泣きそうになりました。
そのあと

みんなで、屋上で歌を歌おう。
空の青に抱かれて、
きっと私達は優しくて幸せな気持ちになれる。

ってもうまぢ感激!!!!!
番外編も頑張って下さい!

297投稿者:麻佳  投稿日:2008年08月07日(木)18時50分54秒
めちゃ感動しました(/_;)
この小説を読むと私も頑張ろうって思えます☆
番外編も楽しみにしてます(*^_^*)
298投稿者:あげ  投稿日:2008年08月07日(木)20時35分09秒
あげ
299投稿者:あげ  投稿日:2008年08月08日(金)00時41分23秒
いじめられた人は、きっと強い人になれますね。
顆粒さんの書く小説は凄く上手です。
顆粒さんも頑張ってください。
300投稿者:あげ  投稿日:2008年08月08日(金)07時46分11秒
あげ
301投稿者:最高です!!  投稿日:2008年08月08日(金)08時08分00秒
 
302投稿者:あげ  投稿日:2008年08月08日(金)10時17分11秒
   
303投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時40分52秒

青空に歌を―ジーナの場合―


人を傷つけるのって、凄く楽しい。
私のクラスでは、今いじめがある。
標的になったことりが何をしたのかは知らない。
でも、クラスで影響力の強い次元と帆乃香がやっていることなので、
クラス中がそれに従っている。

話しかけられたら無視する。
休み時間には大声で悪口を言う。

それだけでもことりは多分、とても傷ついていた。
だけど私と樹里亜はもっと酷いことも平気でした。
304投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時41分24秒

上履きを隠した時、ことりは震えを誤魔化して私達を問い詰めようとしていた。
ノートに大きく「消えろ」って書いた時には、半分泣きそうな顔をしていた。

そんなことりを見る度、私は楽しくて仕方ないと思った。

ああ、あの顔!


この、内側から来るザワザワとした髪の毛の先まで張りつめるものを、
人は興奮だとか、快感と呼ぶんだ、きっと。
305投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時42分08秒

少しだけ何かが変わったのは絵の具を溶いた水をことりに掛けてやった頃だった。
その時ことりは青白い顔で何処かに走っていった。

次の日には何ともない顔をしていて腹がたったけど、私達はそれ以上何もできなかった。
次元があまり目立つあからさまないじめはするなと言ってきたのだ。
どうして、と聞きたかった。
でも聞かなかった。

だって……。
306投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時42分31秒

いつの間にかことりは陰口にも全く動じなくなった。
……つまらない。

そして数日後、ことりへのいじめは完全になくなった。
朝ことりが教室に入ってきても次元が何も言わなかったので、
教室はしんと静まりかえった。
帆乃香はことりと挨拶を交していた。
今度は教室中が動揺でざわついた。

放課後、樹里亜と二人で次元の所へ行った。
多分私たちは二人とも不安だったのだ。
307投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時42分53秒

「どういうこと?」
「何が?」
「どうしてことりをいじめるのをやめるの?」

次元はしばらく私達を見てから口を開いた。

「よくないことだって分かったから」

あまりに普通の返答に、自分の眉間に皺が寄るのを感じる。
なに偽善言ってんの、って、正直思った。

「ずるい」
308投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時43分16秒

消えそうな声が自分のものでなかったことに驚いた。
今、私が言おうとしていた言葉だ。

「私、怖かった」

樹里亜だった。
俯いて、震えながら紡ぐ言葉は私の心をトレースしたみたい。

「やめたら次は自分かもしれないって、怖かった。
悪いことだなんて、とっくの昔から分かってたよ……!」

同じだ。
私も、怖かった。
309投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時43分40秒

少なくともことりがいじめられている間は大丈夫だろうと、ことりをいじめ続けた。
でも本当は、その間眠れない日が続いたり、学校に行きたくないって思っていた。

「本当は全然楽しくなかった。
笑う顔なんかいっつもひきつってた」

そうだよ、わかってる。
この内側から来るザワザワとした髪の毛の先まで張りつめるものを、人はきっと。



罪悪感、って呼ぶんだ。


310投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時44分05秒

「じ、次元はいいよ」

今度こそそれは自分の声だった。

「やめたって誰かにいじめられないもん」

こうやって誰かを攻撃して、結局は自分を守りたいだけ。
卑怯な自分、嫌になる。

「そんなことないよ」

次元は怒った様子もなく、どちらかと言えば少し淋しそうに言った。
311投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時44分27秒

「おれも、ずっと怖かった。
教室に入って向けられる視線が、いつかおれを馬鹿にするものになるんじゃないかって」
「……」

みんな、一緒なんだ。
いつだって何かに怯えて、分かっているのに、大事な何かをなくしていく。

「誰かをいじめたくて、みんなと仲良くなったわけじゃないのに」

私も樹里亜も何も言えず、黙って次元の話を聞いた。
一体何が悪かったのだろう。
もしかしたら誰も悪くなかったのかもしれない。
だけど、みんなが悪かった。
312投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時45分10秒

「でも、そんなことを怖がるのは、もうやめた」

次元が微笑んだ。
まるでお風呂上がりみたいなすっきりとした笑顔だった。

「どうせ臆病になるなら、
自分が傷つくことより人を傷つけることに臆病になりたい」

そんな次元の真っ直ぐな視線が私を射抜いた。

「二人も、もうやめたかったんだよね?」

私はゆっくり頷いた。
隣で樹里亜も同じように首を縦に振る。
313投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時45分31秒

次元は私達に向かって勢いよく頭を下げた。

「ごめん。
謝って簡単に許されることじゃないけど、
謝ることくらいしか出来ないから、……ごめん」

傷つくことより、傷つけることに臆病に――。

次元を凄いと思った。
自分がとても恥ずかしく感じた。
言い訳ばかり。
逃げてばかり。
私はなんて弱虫なのだろう。
314投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時45分56秒

気付くと私は次元に尋ねていた。

「どうして、そんなに強くなれるの?」
「……魔法、かな」

次元が呟いた言葉に、私達は顔を見合わせる。
次元はそんな私達に構わずニカリと笑って続けた。

「天使の魔法にかけられたんだ。おれも、帆乃香も」

てんしのまほう……。
口の中で呟くけれど、意味が分からない。
315投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時46分38秒

「天使が教えてくれた。
人を傷つけることでは幸せになんてなれないって。
どこかで、断ち切らないといけないんだよ」

次元が窓の外に目をやった。
つられて私もそちらを見る。

何処までも青空が続いていた。

「今度紹介しようか、二人にも。

『屋上の天使』を」
316投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時48分20秒

やっぱりよく分からない。
でも、次元がその『天使』とやらのおかげで強くなったというのなら、
私も会ってみたい、と思った。

ああでも、その前にすることがある。
とりあえず明日、ことりに「ごめん」って言おう。
心から謝って、それから「おはよう」って言うんだ。


                    END
317投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月08日(金)13時48分32秒

あげ、コメントありがとうございます!

一気に最後まで更新しました。
ジーナと樹里亜はあのままで終わるのは可哀想だったのでフォローを入れたくて
ジーナのお話になりました。

番外編はあと二つあります。
よろしかったらお付き合い下さい。

落ちます。
318投稿者:麻佳  投稿日:2008年08月08日(金)16時34分33秒
いじめる側の気持ちがすごい上手に表現されててすごいです!!
次元の「どうせ臆病になるなら、
自分が傷つくことより人を傷つけることに臆病になりたい」
っていう真っ直ぐな気持ちがいいなぁと思いました☆
あと二つも楽しみです♪
319投稿者:胡夜  投稿日:2008年08月08日(金)17時54分49秒
あー!アメイジンググレース!
歌いましたよ、中学ん時部活で。
いい曲ですよね。
“彼”らが、完璧な悪者で終わらなくて良かったです。
320投稿者:もしかして…  投稿日:2008年08月08日(金)17時57分47秒
悪魔とラブソング?だか読んでます?
321投稿者:胡夜  投稿日:2008年08月08日(金)18時11分05秒
>320
「天使にラブソングを」
では?

ヘイル・ホーリークイーンとか、
Oh HAPPY DAYとか、
ジョイフルジョイフルとか
エイントノーマウンテンハーイナフとか

黒人霊歌etcetc.
322投稿者:悪魔とラブソング  投稿日:2008年08月08日(金)21時30分21秒
これか
ttp://www.s-cast.net/vomic/aku_love/index.html
323投稿者:琴羽  投稿日:2008年08月08日(金)22時00分47秒
おもしろいです☆
あと、前にほのかと翔太の小説書きましたよね?
それを貼ってもらえますか??
324投稿者: 投稿日:2008年08月08日(金)22時39分50秒
番外編もかなりきました。
ジーナや樹里亜も
心のどこかで悪いと思っていたのに
次元たちが居たので
辞められなかったんでしょうか。
でも、
次元も帆乃香も
屋上の天使=メロディー
が居たから変われたんだなと
思いました。

また新しい小説も書いてくださいね
期待してます。
325投稿者: 投稿日:2008年08月08日(金)23時10分25秒

326投稿者:羅瑠仔  投稿日:2008年08月08日(金)23時33分38秒
今度ゎ遼k出してほしいな
327投稿者:>323  投稿日:2008年08月09日(土)13時30分44秒
5に作者さんが貼ってる
328投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時20分11秒

青空に歌を―翔太の場合―


いっそ死んでしまえば、楽になれるに違いない。
そう思わずにはいられない。

陰口、無視、机の上に置かれた花瓶なんて、見ただけで吐気がする。
まるで生きていることを責められているようだった。


屋上に出る前の踊り場。
その壁にボールペンで自分の気持ちを吐き出した。
いつ塗り替えられたのかは知らないが、まだ白い壁だった。
329投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時20分33秒

ボールペンで書いたのは、消えてしまわないように、自分の意思を確かめられるように。

『私はそんなにいらない人間ですか?』

一人称を私にしたのは誰が書いたか分からなければいいと思ったから。
字体で性別くらい、分かるかもしれないけれど。

『私は、死んでしまおうかと思う』

最後にさようならと書いて、始めから見直してみる。
心臓の音がうるさくて、指は震えていた。
深呼吸してから重たいくらいの青空の下に出たのだった。
330投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時20分53秒

フェンスに指を絡めて見上げる。
大丈夫、このくらいなら乗り越えられる。
震える指先を見ないフリして、フェンスを登ろうと足をかけた、その時だった。

「何してるのっ!」
「うわっ!」

強く引っ張られ尻餅をつく。
振り返ると、女の子が怒ったような、泣きそうな、
なんとも複雑な顔をして立っていた。
331投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時21分12秒

「何してるの!」
「べ、つに、君には関係ないよ」

もう一度言われた言葉に掴まれていた腕を振りほどいて立ち上がる。

「飛び降りようとしてたでしょ!」

ずばり言い当てられて、ドキリとした。
ふんわりとした色素の薄くて長い髪。
全然知らない子だ。

「なんで、そんなこと……っ、そんなの絶対、ダメだよ!」

全然知らない子なのに、どうしてそこまで熱くなっているのかちっとも分からない。
何も知らないくせに、と心の中で悪態を吐く。
332投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時21分29秒

「だから、君には関係ないだろ!」

つい強くなってしまった口調にもその子は怯まない。

「誰かが死んじゃったら、悲しいに決まってる!」

同じように強い口調で返された言葉が一瞬理解できなかった。
悲しい?
僕が死んだら、悲しい?

「そんな、はずない」
「え?」
333投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時21分54秒

思わず小さく言った。
女の子は聞き取れなかったようで首を傾げて僕を見た。

「そんなはずない!
だって皆、死んじゃえって、言うんだから!
生きる価値ない、って、言うんだから!」

そうだよ。
皆、僕が死んだら喜ぶはずだ。

僕の出した大声に女の子は一瞬驚いた顔をして、
それからムッとしたように目をつり上げた。
334投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時22分20秒

「価値って何?他人が決めるものなの?
誰かが死んじゃえって言ったら、死んじゃうの?」

先程とは違う静かな怒りだった。
僕は反論できずに押し黙った。
彼女のどの問掛けにも答える術を持たない。


……いや、そうじゃない。
答えなんて、分かりきっているんだ、本当は。
335投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時22分45秒

「生きてる、って。それだけで、すごいことなんだよ」

なのにどうして、そんな言葉を気にするの?

何も言えない。
だって、全部、全部、分かってる。

「そんな、人を傷付けるだけの言葉に負けないで。
死んでもいい人なんて、たった一人でもいるはずない。
私は、あなたが死んじゃったら、悲しいよ」

そうやってその子が今度は目を伏せるのを見て、ようやく僕は小さく口を開いた。

「……たくない」

そうだ、本当は。
336投稿者:あげ  投稿日:2008年08月09日(土)16時22分50秒
 
337投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時23分11秒

「死にたくなんて、ない」


死にたくない、そんな、他人の言葉で死ぬなんて。
自然と涙が零れた。
理由なんて分からない。
ただ、涙が零れた。

知り合いじゃない、まして名前すら知らないような女の子の前で、何をしているんだろう。
頭の片隅で思ったけど、涙は止まらなかった。
女の子はしばらく黙って、不意に歌を歌いだした。
338投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時23分40秒

この曲、知ってる。
「友達になるために」だ。

心地よい、澄んだ歌声。
歌う姿は、まるで天使。

「素敵な曲だよね。私、この曲大好き」

歌い終わると天使はふわりと微笑んだ。

「きっと私達が今日出会ったのも、『友達になるため』なんだよ」

その言葉に驚きながら視線を足下と彼女の間を往復させる。
339投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時24分01秒

友達、だなんて。
擽ったくて優しい響き。

「僕と関わると、いじめられるよ?」

躊躇いがちに言うと、けろりとした返事が返ってきた。

「別にいいよ。そんなの恐くないもん」

その表情を見ても強がっている様子は全くない。
不思議な子だな、と思った。
強い子だなとも思った。
340投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時24分38秒

「私はメロディー・チューバック。あなたは?」
「……吉野翔太」

ただ自分の名前を言うだけなのに、何故だかとても照れ臭かった。
だけど、とても暖かかった。

あれほど重たく感じていた青空はその瞬間かけがえのない思い出の一部になった。


きっと天使に救われたものは、命だけじゃなく、僕の心。

341投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時26分38秒

『私はそんなにいらない人間ですか?
生きるかちがないと言われないといけませんか?』

いつかの落書きを指でなぞる。
チクリと一瞬だけ胸が痛んだ。
それでも、あの時よりはずっと、確実に前に進めている。
この落書きを見て、ああ、こんなこともあったなって、
こんなことがあったから、自分は強くなったんだって、思える日が来るといい。

あの日死ぬために消えないように書いた決意は、生きるための決意に変わった。

すぐそこに見える屋上に目をやる。
きっと今日も、青空の下で天使が歌っているのだろう。


              END
342投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月09日(土)16時27分01秒

あげ、コメントありがとうございます!

翔太編は本編とは関わらない部分のお話ですが
壁の落書きの謎が残ったので。

実は翔太よりメロディーのほうが悟りを開いているという……。
ちなみに一年前という設定故に翔太の一人称が「僕」なのですが、
上手く入れられなかった……反省。


悪魔とラブソング……あ、漫画なんですか。
オンライン小説かラノベかと思った。
共通点でもあるのでしょうか?読んだことないです。

落ちます
343投稿者: 投稿日:2008年08月09日(土)19時13分03秒

344投稿者:あげ  投稿日:2008年08月09日(土)20時28分53秒
   
345投稿者:あげ  投稿日:2008年08月09日(土)20時29分11秒
         
346投稿者:胡夜  投稿日:2008年08月09日(土)21時20分11秒
やっぱり、翔太でしたか。
あとひとつは、誰だろう?
顆粒さんは凄いと思います。
表現とか…文体(?)とか。

私には難しいです。
347投稿者:羅瑠仔  投稿日:2008年08月09日(土)22時02分01秒
はー
348投稿者:あげ!  投稿日:2008年08月10日(日)00時14分57秒
 
349投稿者: 投稿日:2008年08月10日(日)00時43分24秒

350投稿者:琴羽  投稿日:2008年08月10日(日)00時51分37秒
翔太大好き☆
351投稿者:あげ  投稿日:2008年08月10日(日)05時53分27秒
         
352投稿者:アメイジンググレイス  投稿日:2008年08月10日(日)09時52分40秒
歌うんだよ主人公が
353投稿者: 投稿日:2008年08月10日(日)11時01分55秒

354投稿者: 投稿日:2008年08月10日(日)11時39分09秒

355投稿者:この曲とこの小説のイメージが  投稿日:2008年08月10日(日)15時17分56秒
何か合う
http://jp.youtube.com/watch?v=AaY3pbdfbUM
356投稿者: 投稿日:2008年08月10日(日)17時06分53秒
確かに!
357投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時09分49秒

青空に歌を―瀬南の場合―


小さい頃は気にしたことなんてなかった。
例えば父親がいないことも、母親が周りに比べてずっと若いことも。
だけど、小学校の高学年にもなればさすがに気付かないわけにはいかなかった。
自分は望まれて生まれてきたのではないということに。

母は優しかったし、明るかった。
だから生まれた時がどうだったかは分からないが、
少なくとも今は僕を愛してくれているのだと思っていた。
思っていたかった。

「その日」は突然やって来た。
358投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時10分10秒

激しい痛みに頭が一瞬真っ白になる。
殴られたのだと分かるのにもう一瞬、
殴ったのが母だと分かるのに更にもう一瞬、
合わせれば三瞬くらいの時間が通り過ぎた。

「あんたのせいよ!」

悲痛な、甲高い叫びが僕の耳に突き刺さる。
未だに自分の置かれた状況がいまいち飲み込めず、呆然と母を見た。

「あんたのせいよ!」

母はもう一度言った。
359投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時10分30秒

瞳の奥ではメラメラと炎が燃えているようだった。
背筋がゾクリとして鳥肌が立った。


その日から、母はしばしば僕を殴るようになった。

「あんたのせいで、私は幸せになれない!」

「だから嫌だったの!本当は、産みたくなんてなかったの!」

母が口を開く度、僕は頭を鈍器でガツンと殴られたような衝撃を受けた。
誰が、愛されていただって――?
それどころか、憎まれていたのだ。
360投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時11分11秒

食事も作らなくなった母が酔っ払って寝てしまってから
母の財布からお札を抜くようになったのは、きっと本能的なものだった。
温もりのない食事が当たり前になっていく。

「あんたなんか、産まなきゃよかった!」

髪を振り乱して叫ぶ母に鉛を飲み込んだように胸が重くなった。

そう思うなら、どうして僕を産んだの?
どうして今まで何もなかったように笑っていたの?
どうして、今になって……。
泡のようにどんどん沸き上がってくる「どうして」を母にぶつけることはできなかった。
361投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時11分32秒

まるで一筋の光もない暗闇に放り込まれたよう。
冷たく、どうしようもなく悲しい気持ちが僕の心を支配する。
居場所……僕の居場所は一体何処だ?
このままでは、壊れてしまう。


カッターで、自分の腕を切った。
手首にしなかったのは多分服の袖から見えてしまわないようにと
無意識的に考えたからだと思う。

真っ先に肉を切り裂いている感触が右手に伝わり、
それからほんの少し遅れたかそう変わらない頃に鋭い痛みを感じた。
362投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時11分53秒

「……っ」

声が出ないほど、痛い。
痛くて、苦しい。

それなのに、救われたような気持ちになった。
生きている、痛みを感じることができる。

そうだ。

僕は生きている。


きっとこんなの間違っている。
それでも僕は、自分が壊れてしまうのが怖かったんだ。
363投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時12分36秒

こんなことでもしないと、生きている実感なんて持てない。
生まれたことすら否定されて、どうして普通に生きていられると言うのだ。

腕を滴る鮮血が視界を埋め尽す。
笑いと涙が同時に零れ落ちた。

「ふふ、」

嗚呼もう何も分からない。
痛みを感じているのが体なのか心なのかということさえも。

「あははは、ははははっ!」

壊れてしまうのが怖かった。
だけどこの時、僕は既に壊れてしまっていたのだろうか。
364投稿者:あげ  投稿日:2008年08月10日(日)17時12分53秒
  
365投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時13分02秒

どんなに腕を切っても、このままでは壊れてしまう気がした。
産まなきゃよかった、産まなきゃよかった、母が繰り返す度心が軋む音がした。


腕を切るだけじゃ、足りない。
ドス黒い感情が僕の中を渦巻いた。


いっそ誰かを、壊してしまいたい――。


366投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時13分26秒

それは破壊衝動なんて単純なものではなかった。
言うなれば自己防衛。
自分のために誰かを傷付けるなんて、我ながら最低だ。

誰でも良かった。
可愛いこぶっている樹里亜とか。
何を考えているのかいまいち分からない翔太とか。

誰でもいい中でことりを選んだのは、
くだらないことで楽しそうに笑う彼女に、何故だか無性に腹が立ったからだった。
367投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時13分55秒

クラスの中で影響力のある次元や、
すっかり人気者になった元いじめられっ子の帆乃香を脅して、
僕はクラス中を巻き込んだいじめを始めたのだった。


ことりをめちゃくちゃに壊すために。
つまり、自分が壊れないために。
368投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時14分18秒

母親から暴言を吐かれる度、腕を切り。
その度にことりへのいじめはエスカレートした。

「ことり、友達がおるんやって」

怯えながら帆乃香が僕に言ったときは、驚いたのと同時に酷く苛立った。
帆乃香はそんな僕の様子を敏感に感じ取り、慌てたように付け足した。

「あ、あんな!七組の子で、メロディーって名前!」

それだけ分かれば、どうにでもできるでしょう?
不安げな顔をした帆乃香の顔にははっきりとそう書いてあった。
僕は思わず小さく笑ってしまい、帆乃香の体はびくりとこわばった。
369投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時14分58秒

その、ことりの唯一できた物好きな友人さえ利用して、追い詰めた。


もうすぐ、もうすぐ、きっと彼女は壊れる。
そうじゃないと困る。
先に、僕が壊れてしまう。

そう、このままうまくいくはずだったのに。
樹里亜とジーナが余計なことをしてくれた。
そのせいで、多分そのせいで、何故かことりはいじめをあまり気にしなくなった。

370投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時15分23秒

どうやらメロディーと会っているようだった。
何もしないで、もう会わないから、そう懇願したくせに。

焦り、苛立ち、怒り、不安……。
あらゆる負の感情に押し潰されそうだった。



壊れてしまう、僕が、壊れてしまう。

371投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時16分02秒

ああ。

そうだ。


思い付いたのは、またも最低な考えだった。







メロディーを、壊してしまおう。


372投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月10日(日)17時16分20秒

あげ、コメントありがとうございます!

さて、瀬南編ですが、ちょっと長いので二回に分けます。
内容もややハードですね……アムカは書いているだけで本当に痛いです。


アメイジンググレースは有名だし素敵な曲なので
題材にしている作品も多いんでしょうね。
355さんの教えてくださった曲、音源だけならポ○モンとは分からないなあ。
素敵な曲を宛てていだだいて嬉しいです。

落ちます。
373投稿者:あげ  投稿日:2008年08月10日(日)17時16分43秒
  
374投稿者: 投稿日:2008年08月10日(日)17時41分23秒
顆粒さん感情がこもってますね!
375投稿者:そだね  投稿日:2008年08月10日(日)18時38分27秒
http://jp.youtube.com/watch?v=AaY3pbdfbUM   ほんとに合ってんね♪
376投稿者:あげ  投稿日:2008年08月11日(月)08時30分41秒
   
377投稿者:胡夜  投稿日:2008年08月11日(月)08時56分14秒
えっと、演歌?それ。

瀬南とって余計な事をしたのは
樹里亜とジーナではなく
翔太なんですよね、

頑張ってください!
378投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時41分16秒

あげ、コメントありがとうございます!

>瞳さん
こもってますよー!というか頑張ってこめてます!
他の人の心情を想像するのは難しいです。
>375さん
本当にいい曲なのでそう言って頂けて嬉しいです^^
>胡夜さん
演歌ではないですよーバラード調の曲です。
そうですね、本当は翔太なんだけど、事情を知らない瀬南には
ジーナと樹里亜のしたことが原因に見えたんでしょうね。


これで最後の更新になります。
379投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時41分39秒

放課後に教室へ来るようにことりの名前を使ってメロディーを呼び出して、
ことりの目の前で壊してしまえば、きっとことりも壊れるだろう。
最低な考えを咎める良心なんて、とっくの昔に麻痺していた。
これで僕は大丈夫だと疑いもしなかった。


失敗するなんて夢にも思っていなかったんだ。


それも、いい方向にだなんて、これっぽっちも。
380投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時42分05秒

ことりも自分の腕を切ったことがあると言った。
一度きりにできたことりは、僕のいじめなんかじゃ壊れるはずがなかったんだ。
僕よりずっと強い子だった。

痛くて。
痛いのは、辛くて苦しくて。
だけどそれ以上に母からの言葉の方が僕にとっては脅威だった。
ことりに握られた手は素直になれず、カッターを掴んだまま。

そんな時、歌が聞こえた。
381投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時42分31秒

amazing grace

驚くべき恩恵

天使の歌声は、優しく、暖かく、何処までも綺麗で、全てを包み込むような歌声だった。
涙が出たのは、悲しかったからでも嬉しかったからでもない。
そんな言葉では表現出来ない感情、心が激しく揺さぶられるような。

許されるのだと天使は言った。全ては僕次第だと。

哀れで、本当は強い小さな鳥は、もう恨まないと言った。

僕も、強くなりたい、と、願った。
382投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時42分54秒

母はやはりいつもの様に、仕事から帰って僕を殴った。

「あんたのせいよ」

いつもの様に吐き捨てて、怒りに満ちた目で僕を見る。

「同い年の子達は、これから結婚して!
これから子供を産んで、これから幸せになるのに!
私には出来ない!
あんたがいるから!あんたがいるから!」

興奮して叫んでいる母に、本当に僕が見えているのだろうか。
ただとにかく怒りを何かにぶつけたいだけなのかもしれない。
383投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時43分37秒

「産まなきゃよかった!
あ、あんたなんて、……死んで、しまえばいい!」






聞きたくなかった。
負けてしまいそうに、壊れてしまいそうになった。

頭によぎったのは、天使の、歌。
そうだ、僕は、強くなりたい。
384投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時44分01秒

ポケットからカッターを抜き、刃を出し、左腕に宛がった。
右手に肉を切り裂く感触。左腕に鋭い痛み。
その痛みだけは、麻痺することはない。


いや。
痛いのは、心だろうか。


母は目の前で自分の腕を切った僕を見てぎょっとした。
そんな母に構わず、口を開いた。
385投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時44分22秒

「ずっと、僕はこうやって、自分の腕を切ってきた」

目頭が熱くなる。

「痛かった、ずっと、ずっと、痛かったよ」

痛みは今自分が生きている証でもあった。
痛みを感じるのは、血が出るのは、生きている証拠だと思った。
だけど、やっぱり痛くて。
痛いのは、辛くて苦しくて。

「産まなきゃ、よかった、なんて……い、言わないでっ」
386投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時44分46秒

涙が頬を滑った。
生きている。
僕は、生きているんだよね?





お母さん、お母さん、僕は。


あなたを苦しませたくなんてなかったよ。


387投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時45分07秒

「……っ」

母の表情が変わった。

「せ、な」

顔を青くして、何日かぶりに名前を呼ばれた。
母が動揺しているのはその顔から見て取れた。

恐る恐る、といった感じで、母の手が僕の方へ伸びてきた。
清潔そうなハンカチが傷口をそっと押さえてくれる。

「瀬南、瀬南」

いつの間にか僕はすっぽりと母の腕に収められた。
388投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時45分30秒

「ご、ごめんな、さ……っ、私、私」

震える声が母が泣いていることを示している。

「ずっと、お付き合いしてた人が、いたの。
プロポーズ、されたの。
だけど、瀬南のことを言ったら、取り消されちゃった」

僕はただ母の話を黙って聞いていた。

「年齢、数えてた。
何歳の時の子かって聞かれた」
389投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時46分04秒

僕だって気付いていた。
あり得ない、あってはいけない年齢差。
そのことで母が傷ついたり苦労していただろうことも分かっていたつもりだった。

「ごめんなさい、瀬南、こんな……こんなことさせてたなんて」

ぎゅうと力の込められた腕の中は、とても暖かかった。
久しぶりに感じる温もりが僕を包み込む。

「本当は、大好きなのよ、瀬南」


やっと居場所を見つけた。
うん、僕も、大好きなんだ、お母さん。
390投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時46分40秒

次の日の朝はこれまでにないくらい穏やかな朝だった。
空を仰いで太陽の眩しさに目を細める。


嗚呼、空が青い。


何処かから歌が聞こえたような気がした。

                   
                    END
391投稿者:顆粒  投稿日:2008年08月11日(月)14時47分37秒

と、いうことで瀬南編も完結です。
顆粒にしては番外編を含めるとものすごく長い作品になりました。

実はこのお話、元々はこの半分くらいの長さでした。
でも、短すぎると思って付け足したんです。
元の長さだとメロディーを突き放したり翔太の登場シーンはありませんでした。
内容が余計重くなった分、思っていたこともたくさん書けて
結果的によかったかなあと思っています。

全部想像で書いたものなので、
実際にこういうことを体験した人にはどう映っていたのかちょっと怖くもあります。
改めて体験していないことを文章にする難しさを実感しました。

ご迷惑をお掛けしたりしましたが
最後までお付き合いいただいて本当にありがとうございました!
392投稿者:胡夜  投稿日:2008年08月11日(月)15時13分54秒
瀬南も無事解決。
ハッピーエンドですね。
泣けます。
393投稿者:おつかれさまです。  投稿日:2008年08月11日(月)15時50分07秒
また、新しいものを書くのであったら
がんばってください。
394投稿者:麻佳  投稿日:2008年08月11日(月)18時15分53秒
瀬南お母さんとのこと解決してよかった!!
瀬南がお母さんの前で腕を切るシーンから泣けてきました。。
おつかれさまです!!
○●青空に歌を●○ 最高!!顆粒 さんも最高!!です
395投稿者:ささだ  投稿日:2008年08月11日(月)20時28分03秒
396投稿者: 投稿日:2008年08月11日(月)23時03分05秒
キャー!
顆粒さんうますぎ!
瀬南、解決しましたね!
あの、顆粒さん!
また新しい小説もかきますか?
397投稿者:あげ  投稿日:2008年08月11日(月)23時21分13秒

398投稿者:すごくリアルだ  投稿日:2008年08月11日(月)23時27分03秒
と思ったのに、全部想像ですか…。
だけどやっぱり、読むたびに感動をくれる小説でした。
ありがとう顆粒さん。もしまた新しい小説書くなら応援します。
399投稿者:あげ  投稿日:2008年08月12日(火)16時44分01秒
あげ
400投稿者:あげ  投稿日:2008年08月13日(水)10時23分30秒
 
401投稿者:なーな  投稿日:2008年08月13日(水)15時03分56秒
わたしは、前、いじめられていた経験があります。
理由は、瀬南のような問題で。
されていたことは、翔太やことりみたいなものでした。

アムカとリスカは、大体の人が、死ぬためにしているものなんだと思っているかも知れないですが、わたしは、
「生きるための確認」
として、やっていたのかも知れません。

顆粒さん、
わたしが、伝えたかったことや、みんなに分かってほしかったこと、
全部あなたの小説が、みんなに伝えてくれました。
まだ、わたしのいじめの問題は解決していません。
だけど、わたしもことりのように、強くなりたい。
メロディーのように、仲間がほしい。
そのために、がんばりたいと思います。
本当にありがとうございました。
402投稿者:なーなさん大丈夫?本当にそういう人が居るって思うとなんかね・  投稿日:2008年08月13日(水)15時09分26秒
 
403投稿者:あげ  投稿日:2008年08月14日(木)11時27分01秒
 
404投稿者:新作  投稿日:2008年08月14日(木)19時49分46秒
できた??
405投稿者:同じスレに  投稿日:2008年08月15日(金)10時05分10秒
2作UPしてるよね。
今まで。
プレッシャーかけるようで悪いけど楽しみ。
406投稿者:あげ  投稿日:2008年08月16日(土)08時43分01秒
 
407投稿者: 投稿日:2008年08月16日(土)08時52分42秒
私もいじめられていましたが、
子供のいじめって、こんな風に簡単に解決するものじゃないんですよね
小説の世界だから仕方ないですけど、実際にリスカとかした立場から見れば
なんだか複雑な気持ちです
408投稿者: 投稿日:2008年08月16日(土)14時29分28秒

409投稿者:あげ  投稿日:2008年08月17日(日)10時36分18秒
 
410投稿者: 投稿日:2008年08月17日(日)12時49分19秒
  
411投稿者:あげ  投稿日:2008年08月19日(火)17時23分05秒
 
412投稿者:あげ  投稿日:2008年08月24日(日)20時40分14秒

413投稿者: 投稿日:2008年09月01日(月)23時19分50秒
        
414投稿者:MASTER  投稿日:2008年09月14日(日)00時37分36秒

415投稿者:あげ  投稿日:2008年09月19日(金)19時45分20秒
 
416投稿者:もう書かないの??  投稿日:2008年09月20日(土)10時46分10秒
 
417投稿者:あげ  投稿日:2008年09月28日(日)10時34分29秒
 
418投稿者:あげ  投稿日:2008年10月01日(水)22時31分25秒
   
419投稿者: 投稿日:2008年10月01日(水)23時06分20秒

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