シナリオ3日目シーン3 放課後 桃香編 --- 文化祭の準備は明日から本格的に、今日は各自で今後の準備を検討すべし、ということになった。 教室で残って仲間内でなにやら相談をしているグループもあればそそくさと帰宅している子もいる。 明「一樹ぃー。一緒に帰ろうぜ。」 明が鞄を持ってやってきた。 一樹「せっかくのお誘いで悪いけど今日は一人で帰るよ。」 少し気になることもあるし……というのは言葉にはしなかった。 (ここに選択肢を入れるか昼休みの選択に応じて自動でルート分岐するか…) そう、やっぱり赤坂さんの寂しそうな様子が気になって仕方がない。 あの寂しそうな顔は……赤坂さんも本当は文化祭に参加したいのではないのだろうか。 もしも何か、僕に出来ることがあるのなら、助けてあげられないかと思う。 明「ちぃーつれないなぁー。ま、俺は別にいいけどよ、」 言葉を一旦切り、ニヤニヤしながら肘で小突いてきた。 明「後でちゃあんと聞かせろよ?」 一樹「な、……何をだよ。」 明「隠したって無駄無駄。顔に女のことを考えてますって書いてあるぞ?」 一樹「おいっ明……。」 明「じゃあな!しっかりやれよ!」 そういいながら明は教室を出ていった。妙なところで鋭くて困る。 何をしっかりやれというのだ。 ともかく僕は赤坂さんを探すことにした。 きっとあの様子だと学校には残らずに帰ろうとするはずだ。 (背景切り替え下駄箱) 下駄箱で丁度、靴を履き終えた赤坂さんを見つけた。 もう学校を出るところだ。急いで僕も靴を履き替えて追いかけた。 校門を出て通りを見渡すと既に赤坂さんは数十メートル先を歩いていた。 見失わないように追わないと……僕は赤坂さんの住所はもちろん最寄り駅も何も知らない。 赤坂さんが角で右に折れたのを見届けつつ走った。 が、角で右に曲がっても誰も居ない。見失ってしまったか。 あたりをキョロキョロしていると背後から急に話かけられた。 桃香「誰を探してんだ?!」 一樹「わわわっ……と。気付いてたのか。」 桃香「この暑い中長袖に日傘で追いかけてこられて気づかない方がどうかしてるよ。」   「目立ちすぎるんだよ高西は。」 一樹「そっか。尾行失敗しちゃったなアハハ……。」 ごまかし笑いを軽く流して赤坂さんはすたすた歩き始めた。 一樹「せ、せっかく会ったんだし一緒に帰るとか……どうかな?」 桃香「迷惑。」 相変わらず手厳しい。だがここで諦めるくらいなら追いかけてきたりなどしない。 僕はしつこく食い下がった。 一樹「僕もこっちなんだよね、帰り。あー奇遇だなあ赤坂さんの家もこっちなのかー。」 桃香「お前なぁ……。」 立ち止まってやれやれといった顔をしている。 桃香「ていうかお前の家こっちじゃないだろ?もっとましな嘘つけよなどうせなら。」 一樹「アハハハ……。」 すぐにばれてしまった。赤坂さんが僕の家がどこか知っていたとは……。 赤坂さんはまた歩き始めた。とりあえず僕も並んで歩く。 桃香「まったくお前も物好きだな……あたしのことなんか放っておけばいいのに。」 ブツブツと何かつぶやきながらペースは崩さない。 やはり何か用があって急いでいるのだろうか。 一樹「なんでだろうね。自分でもよくわからないや。」 桃香「何それ。」 一樹「なんだか気になっちゃったんだよね……赤坂さんさ、本当は文化祭みんなと一緒にやりたいんじゃないかなぁって。」   「でもやむにやまれぬ事情があって我慢してるのかなぁって。」 桃香「……。」 それには答えずまた赤坂さんは立ち止まった。 桃香「で。いつまでついてくる気?私ここに寄っていくんだけど?」 そこは生鮮食品を扱うスーパーの前だった。 一樹「買い物?」 桃香「そう。今日は玉子と食器洗剤の特売日。」 一樹「特売日……。」 赤坂さんはじっとこっちを見据えながら続けた。 桃香「私んち、母さんが居ないんだ。父さんは毎晩帰り遅いし弟はまだ小学生だから、家事は私が全部やってる。」   「買い物、料理、洗濯、掃除、家計のやりくり、その他諸々。」   「……これがやむにやまれぬ事情、わかった?」   「同情されたくないし気を使われながらってのも居心地が悪いから。いっそ最初っから参加しない方が気楽なんだよ。」   「わかったらお前はここで帰る、このことは誰にも言わない。いいな?」 一気にまくし立ててから、赤坂さんはくるりと踵を返してスーパーに入って行った。 彼女の背中が店内に消えていくのを見つめながら、僕はぼんやりと立ち尽くしていた。 お昼のお弁当も、自分で作ったお弁当だったのか……。 普通に学校に通いながら主婦がやってること全部こなすなんて、どのくらい大変なのか想像もつかない。 僕だって今の生活で叔母さんが居ないとしたら……今みたいにのほほんと生活出来ないのは確かだ。 一樹(事情を聞いてしまったら余計に誘いにくくなってしまった。今日のところは帰るか……。)