※101〜200話 ※検索は「098.」などドットを入れると便利 101.それは運命   ガサガサと茂みを掻き分けて進む その彼の顔付きは険しくそして疲れきっている 「「はぁ、トップブリーダーの夢、諦めたくない…」」 思わず零した声は、何故か自分の声以外の音も混じっていた 「お前はクルセの!」 「そういうお前は騎士の!」   お互いの姿はまるで一緒 二人の通った教育機関では互いに競い、励まし合った仲 就職先が二分して以来連絡を取る事は無かったが 重なった言葉が彼らのかつての、そしてこれからの 思いがまるで変わっていない事を教える   「こんな所でまたお前に会えるなんてな…(涙)」 「お前も、あんまり変わって無さそうだな…(涙)」   がしっと抱き合う二人 元々戦いになど向いてなどいなかった二人 ただ、動物が好きで好きでしょうがなくて この国で最高の飼育機関が王立だっただけ 擦り切れた精神、消耗した体力の中 二人のペコペコ管理兵は、ここに出会った   「なあ、お前は何持ってるんだ?」 「ああ、それがさ。まぁ見てくれよ」   4つの箱から出てきた4つの品。それ即ち 1.ペットフード詰め合わせ! 2.太っているみみず!! 3.へこんだ鉄の鍋!!! 4.馬の手綱!!!!   「俺たちはまだ…(激涙)」 「諦められない…(激涙)」   2人の持っていたアイテム それは、彼等の夢がまだ終わっていない事を意味していた   「おい。この狂った世界だけど、気付いてたか?」 「勿論。ノンアクティブが、極少数だけ生息してる」   そう、本当に注意しないと気付かないくらい少ないけど それでも何かしらのモンスターが生息していたのだ!   「ペコペコってノンアクティブだよな?」 「それはもうすごいノンアクティブだぞ」   二人の戦闘技術など、ノービスには勝てるかもしれないけど 一次職にはかてるかなぁ?なくらい稚拙な物だ だけど街陥落規模のテロにだって生き残るぞ! 勿論ここではその能力も弱められているだろうけど じっとさえしていれば絶対見つからない!といいな!!   「なんとか逃げまくって!」 「最高のペコを育てよう!」   自分達は生き残れない 確信を持っている二人 生きて帰る事なんてすぐ諦めてしまった でも諦められない夢が、二人にはあった   本当にいるのかさえわからないペコペコを求めて 二人の旅は今ここに始まった   <ペコペコ管理兵(騎士) へこんだ鉄の鍋、ペットフード詰め合わせ> <ペコペコ管理兵(クルセ) 太ったみみず、馬の手綱 ペコペコを求めて放浪>   ||戻る||目次||進む ||[[100]].||[[Story]]||[[102]]. 102.消える目的地   アルデバランに向けて足を進めている途中で、天の声が流れはじめた。 足を止めて地図にチェックをいれる。禁止エリアがどんどん増えていく。赤芋虫峠…ここも禁止エリアになるらしい。 急げば時間内に通過できるかもしれないが、途中で何が起こるかわからない。 進路をかえよう。しかしどこへ向かえばいいのか。 これまでのパターンからすると、町は全て禁止エリアになるだろう。普段から人が多く集まっているマップも危険だ。 いくら腕に覚えがあるとはいえ、所詮はプリースト。他の戦闘職とまともにやり合っても分が悪い。 仲間が欲しい。 今までは何でも一人でやってきた、一人で何でもできる自信があった。 しかし、これからを考えると心細くて仕方なかった。 協力し合えそうな人を探そう。一般的なプリーストと比べると多少劣るが、支援もできる。 きっと何とかなるはずだ。 十字を切って祈りを捧げ、ゲフェンへと足を向ける。 彼はルールを覚えていないのだろうか…?   ---- ||戻る||目次||進む ||[[101]].||[[Story]]||[[103]]. 103.君泣きたもうことなかれ   ♂アサシンが我に返ると、周りには誰もいなかった。 そう、彼の大切な♀プリーストさえも。 俺は・・・何をしていたんだろう。彼女はどこへ行ったんだろう。 記憶をたどろうとするも、脳内に小さな羽虫がわんわんとたかっているようで思考がまとまらない。 俺たちは、そう、町に向かっていた。 彼女は怯えて疲れきっていて、ゆっくりと休める場所が必要だったから。 彼女が歩き易いように、危険を承知で街道沿いに歩いた。 そこで二人組の集団に出くわした。♀剣士と♂ノビ。 あとは断片的な記憶しか残っていない。 手練れた印象の♀剣士に狙いを定め、走った。 回避不可能な間合いまで一気に距離を詰め、両の獲物を一閃。 後頭部を狙った一撃はしかし光の壁に阻まれた。 前のめりに転り逃れようとする♀剣士を追い、更に間合いを詰めて、 振り上げた刃の先に、さらめく青の髪。両の瞳から零れ落ちる涙。   なぜ泣いているのですか。 どうか笑顔を見せてください。 貴女は必ず俺が守りますから。   そうか、彼女はヤツらに連れ去られたのだ、と♂アサシンは結論付けた。 向かう先はおそらくこの道の終点、衛星都市イズルード。   「わー、本物のイズルードにそっくりですねー!」 大声を上げてはいけないと分かっていても、♂ノビは感嘆をもらさずにはいられなかった。 ♀剣士、♂ノビに♀プリーストを加えた一行は順調にイズルードに到着した。 この世界は忌々しいこのゲームのために作られた虚構の空間だと聞いた。 だがいざ実際によく見知った土地にくると、路傍の石の一つ一つまでもが記憶のままで、それが造り物であるとはとても信じがたかった。 懐かしい情景は、今までのことは全て悪夢だったのではないかと錯覚させた。 ♂ノビはそう思い込みたかった。が、首にかかる重みは甘い幻想を許さなかった。 「私は船を見てこよう。君は民家を当たって食料や物資を集めてくれ、少年」 「はい師匠!」 「先客がいるかもしれない、警戒は怠るなよ」 そう言い残し、♀剣士は港へと向かった。 残された♂ノビと♀プリーストは手近な家を一軒一軒まわった。 ごめんなさい!と心で謝りつつ窓ガラスを壊して屋内に侵入し、食料や薬、武器になりそうなもの等を集めていった。 そしてそれは3軒目の探索が終わり、次の家に向かう道すがらのことであった。 ♂ノビは背後で風が爆発したように感じた。 強い力で突き飛ばされ、石畳に頭を打ちつけた。 「な・・・にが・・・?」 言いながら起き上がろうとした刹那、背後で風を切るような音がした。 反射的に♂ノビは横に転がり、迫っていた刃を避けた。 背後を振り仰いだ♂ノビの目に映ったのは、♀プリーストを横抱きに抱えた黒装束の男。 ♂アサシンの目にははっきりとした殺意が、そして狂気が見て取れた。 「もうやめて! 殺さないで!!」 ♀プリーストが泣き叫んだ。 だが♂アサシンはそれに応えず、右に付けたカタールをゆらりと頭上にかざした。 ♂ノビは呆然と、自分の頭上に掲げられた凶器をただ見上げていた ---- ||戻る||目次||進む ||[[102]].||[[Story]]||[[104]]. 104.繰り返される悪夢   凶刃は♂ノービスに届くことはなかった 「やれやれ、嫌な予感がすると思えば……案の定か」 ♂アサシンと♂ノービスの間に割って入ったのは…… 「師匠!!」 その胸元には深々と裏切り者が突き刺さっていた 「…警戒を怠るな、と言ったはずだぞ少年」 ♂アサシンは凶刃を引き抜くべく力を入れる。だが突き立てられた刃はピクリともしない 「…やれやれせっかちな男だな君は、そんなことではもてないぞ?」 と♂アサシンの腕を掴みそのまま体当たりをする 石畳をもつれ合いながら転がる、その弾みで♀プリーストの拘束が解かれる 「今のうちに少年を連れてできるだけ遠くへ!」 逡巡は一瞬だった 「わ。わかりました」 「そんな!?師匠を置いて逃げるなんて出来ません!」 「我儘を言わないでくれ少年。大丈夫、きっと追いつく…それにこれからやるべきことは少しではあるが紙に書いて君の荷物に入れておいた」 そういった♀剣士の顔に♂ノービスは一瞬力を抜いてしまった それまで常に張り詰めた表情しか見せたことのない♀剣士の満面の笑顔だった 「ごめんなさい」 一度崩れた体勢は如何に非力なプリーストといえど容易に引きずることができ、すぐその姿は見えなくなった 「さて、こちらもケリをつけようか……さすがに私も限界が近いようだ」 たとえ修練の差があったとしてもこれだけの時間抑えこんでいたこと自体が奇跡に近かった 最期の力を振り絞り♂アサシンの首につけられた環の留め金に手を伸ばす (…やれやれ、役回りが違うだけでまるっきり前回と同じだな) そして辺りは閃光に包まれた   <♀プリースト&♂ノービス 辛くも逃亡> <♂アサシン&♀剣士 死亡> <備考:イズルード東の出島崩落> <残り33名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[103]].||[[Story]]||[[105]]. 105.どいつも、こいつも   「どいつも、こいつも、どいつも、こいつも…」 彼、♂剣士は既に闇に覆われた森の中を歩いていた。 このキリングフィールドを一人で歩く彼の脳裏をよぎるのは、初めて出会った♀アーチャーであり、♀商人であった。まるで、自分を馬鹿にするかのように姿をくらませた彼女たちの顔を思い浮かべると、はらわたが煮えくり返るようだ。本来、冒険者の花形である剣士の僕を馬鹿にするなんて決して許しはしない。次に見えた時には必ず殺さなくてはならない。 そういえば、あのドッペルゲンガーも気に食わない。エリートである僕のことをまるで雑魚を見るかのように見下して、その上路傍の石のように無視するとは…所詮は魔物の王だ。あれも殺さなくてはならない。 そして、間接的に♂剣士を助けたはずのプリーストにも彼の殺意は向く。姿をあらわさずに辻だけをするなどこのエリートである僕に対する態度ではない。そんな性根の腐った聖職者などには、神に代わって僕が天罰を下さなくてはならない。   「どいつも、こいつも、どいつも、こいつも…」 彼は、彼のことを馬鹿にした兄弟のことを考えていた。 兄は騎士団に詰めている。最近は若い剣士の恋人ができたらしく、始終いちゃいちゃするばかりでなく、褥を共にしているというではないか。 弟はゲフェンダンジョンによく赴く。色狂いのアイツは、目を血走らせ狂犬さながらによだれをたらしながら一次職やなりたての二次職を追い回している。 一方彼は、時計塔に篭っていた。うわっついた噂一つなく、ただ時計塔で日々を過ごしていた。 以前、時計塔地下で兄弟にであったとき、言われたことがある。 「この真性ひきこもり」 兄弟は少しは外に出ろということを言いたかったのだろうが、彼はただ引きこもりと言われたことが無性に悔しかった。それ以来、彼は兄弟をいつか見返してやると心に誓ったのである。 彼の名はエクスキューショナー。時計塔にのみ存在を許された不遇の魔剣である。 と、黒い十字架のように大地に突き立つ彼の目の前には、暗い妄想に顔をほころばせて歩く♂剣士の姿があった。 そして、暗い妄想に顔をほころばせて歩く♂剣士の目の前には、いつの間にか黒い十字架のような剣が大地に突き立っていた。 一人と一振りの間に沸き起こるのは、敵愾心でも恐怖でもなく、同族に排斥されたもの同士の奇妙な共感と胸の高鳴り。 「ウホッ!いい魔剣(剣士)… 殺 ら な い か ?」   <♂剣士 SUN値0(発狂) エクスキューショナー獲得> <魔剣エクスキューショナー 特別枠参加 所持品なし> 以降、一人と一振りは手に手を取り合って愛の逃避行、違うマーダーとして行動 ---- ||戻る||目次||進む ||[[104]].||[[Story]]||[[106]]. 106.ゆめときぼうと   ♀プリと♂ノビは二人で並んで走っていた。 イズルートを出る時、背後で爆発音が響いたのも知っている。だが、振り返る事はしなかった。 プロンテラ周辺地域を離れ、更に森の奥地へ。 そしてゴブリン森まで入った所で二人とも限界だったか、その場に座り込む。 荒い息を漏らす二人、だが二人とも一言も発しないで、今度はその場から動こうとはしなくなってしまった。 長い沈黙、それは♂ノビの小さな嗚咽の声で破られた。 ♀プリは黙って♂ノビの体を抱え、ゆっくりとその頭を撫でてやるのだった。 そんな事をどれだけ続けていただろうか? そんな二人に声をかけてくる者が居た。 「……す、すみませ〜ん。何か食べる物持ってませんでしょうか〜? 私……おなかぺこぺこでもう……ダメですぅ〜」 全身を埃まみれにした♀商人が、二人の前に姿を現したのだ。 ♂ノビが鞄からパンをいくつか取り出し渡すと、♀商人はよっぽどお腹が空いていたのか、もの凄い勢いでそれらを平らげた。 「は〜、生き返りました〜♪ ありがとうございますっ! あなたは私の命の恩人ですぅ!」 オーバーに感激してみせる♀商人を見て、二人は少しだけ顔を綻ばす。 「あー! そうだ! もしよければお二人とご一緒させてもらえませんか!」 と言ってしまって、はたと気付いたようにしゅんとした顔になる。 「……そうでした。私達殺し合いしなければならないんですよね……ごめんなさい、私……ずっと一人で心細くて……だから久しぶりに人に会えたからつい甘えちゃって……」 ♀商人の言葉に♀プリは顔を伏せる。 だが、♂ノビは決然とした表情で♀商人に言い放った。 「そんな事しないよ! 誰も殺さないし誰も殺させない!」 ♀商人は♂ノビの言葉に目をぱちくりさせている。 「ボクは絶対こんな事許さない!」 ♂ノビの言葉に、♀プリも決意を込めて頷くのだった。   シフ子とときらぐ主人公の二人組は、森を彷徨い続けていた。 「ねえ、それで君、今何処に向かってるかわかってる?」 「……あのさあ、そもそも何処に出たのかもわからないのにそんな簡単に……あ」 そう彼が言うと森が開けた。 そこには複数のテントを張っただけの簡易な集落があった。 シフ子はこの場所に見覚えがあった。 「ここって……もしかしてゴブリン村?」 すぐにときらぐ主人公も相づちを打つ。 「そうだよ、ゴブリン村だ! でも、ここにもモンスターは居ない……ってあれ?」 不意にときらぐ主人公の目に集落の一つから、煙があがっているのが見えた。 驚いたのはシフ子も同様だ。 「嘘! 誰か居るの!? ちょ、ちょっとちょっとこれまずくない?」 「そ、そんな事言ったって……」 「ほらっ! 君男の子でしょ! アタシはか弱い女の子だからこういう時は後ろから……」 「わっ、わー! 押さないでよ! ってそんなにくっつかれたらむ、むむむむねが……」 「へ?」 僅かな沈黙。 そして突然の悲鳴と共に突き倒されるときらぐ主人公。 「っきゃー! いきなり何言い出すんだい君は!」 「知らないよ! 大体こんな非常時にいきなりむ、むむむむねをおしつけて……」 「わー! そんなに胸胸って連呼しないでよー!」 二人のやりとりが突然止まる。 それは集落のテントの一つから微かに笑い声が聞こえてきたからだ。 「く、くっくっくっく……」 「くすくす……も、ダメ……ごめんなさ〜い、笑っちゃダメってわかってるんだけど……」 「ごめん……ボクももー限界……あーーーーーはっはっはっは!」 「笑っちゃダメっていったの♂ノビ君じゃない〜……あっはっはっはっはっは!」 二人は呆気に取られた表情のときらぐ主人公とシフ子。 すぐにその笑い声の主はテントの中から出てきた。 「普通こんな所でそんな漫才するかな〜。君たち一体何してるんだい」 「お、お腹痛いですぅ〜。怖がって隠れてたのに、いきなり漫才始めるなんて思ってもみなかったよ〜」 まだ笑っているのは♂ノビと♀商人。 その後ろから出てきた♀プリは穏やかに笑いながら言った。 「私達にあなた方と戦う意志はありません。もし、あなた方もそうなら私達と一緒に行動しませんか?」 いきなりの申し出に戸惑う二人だったが、♀プリの次の言葉に更に仰天する。 「私達一人一人では無理でも、ここに集まったたくさんの人達が協力すればきっとここから抜け出せるはずです。一緒に……その方法を探してみませんか?」 即座に♀商人が言葉を継ぐ。 「おいしいご飯もありますよぅ〜。是非ご一緒しましょー♪」 その言葉に即答したのはお腹の音。   ぐ〜〜〜。   ときらぐ主人公は無言でシフ子を見る。 「なんでアタシを見るんかな!? い、いいいい今のは君の音じゃないか!」 「え? だって僕はまだそんなにお腹空いてないし……」 「それでも君の音なのっ! 絶対そうっ!」 「ええええ? 違うよ! ご飯は出かける時にきちーっと食べて来たしお腹空いてなんてないよ」 「嘘っ! ぜーーったい嘘付いてるっ! あんなおいしそうな匂いしてきてるってのにお腹空かない訳ないっ!」 やはり無言でシフ子を見るときらぐ主人公。 「う〜〜〜…………あー! もういいよ! ごめんなさい! アタシはお腹空いてますっ!」 そんなやりとりを見て、やっぱり笑い転げる♂ノビと♀商人。 ♀プリまでが、口元に手をあてて笑いを堪えている。 そんなやりとりを木の上から眺める影があった。 その影はかつて自分がそうであった姿をそこに見つけたのだ。 「あたし……戻れるかな? ううん、あの人達の側に居ればきっと戻れる! 殺しも殺されもしないあそこに戻れるんだ!」 明けない夜なんて無い。きっとこの先には自分が目指すモンクへの道が開けているに違い無い。 ♀モンクは木から飛び降りて五人の元へと駆けていった。   <♂ノビ&♀プリースト、♀商人、ときらぐ主人公&シフ子とゴブリン村にて合流> ---- ||戻る||目次||進む ||[[105]].||[[Story]]||[[107]]. 107.嵐の前の   (うーん、女の子がいっぱいで迷っちゃうな・・・) 簡易なテントの中、食事の仕度をする女性陣を眺めながら、ときらぐ主人公は不謹慎なことを考えていた。 明るく活発なスポーツ娘タイプの♀シフ。 物静かで清楚な文学少女タイプの♀プリ。 かわいらしく甘えんぼな妹タイプの♀商人。 親しみやすそうな、隣の家の幼馴染タイプの♀モンク。 (これで♂ノビが実は男装の美少女でした、とかなら完璧なんだけど) ときらぐ主人公はでれでれと鼻の下を伸ばし続けるのだった。 そう、この時はまだ誰も、数分後に起きる惨状など想像もしていなかったのだ。 (やっぱり・・・思い出しちゃう・・・な) 手渡されたハムをナイフ(♂ノビがイズルードで確保したもの)で食べやすくスライスしながら、♀モンクは視界の端で♀プリの姿を追い続けた。 仲間になりたいという申し出は笑顔で受け入れられて、♀モンクは5人と行動を共にすることになった。 皆暖かく優しそうで、♀モンクは昏く冷えきった心が少しずつ癒されていくのを感じていた。 しかし、♀プリの姿を見ると、どうしてもあの少女を思い出してしまうのだ。 洞窟の中で一人怯えていた、小さな聖職者の卵。 (あの子もきっと、この紫紺の司祭服に憧れていたんだろうな・・・) その夢を自分が奪ったのだ。この手で、メイスを何度も頭に打ち付けて。 (ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい) なぜ、私はあの時あんなことをしてしまったのだろう。 同じように怯えていた彼女に、なぜここの人たちのように、手を差し伸べることができなかったのだろう。 メイスの血のりは拭えても、この汚れた手は決してきれいになることはない。 (神よ・・・どうかお許し下さい。正しい道へとお導きください) 「んー、6人分にはちょっとまだ足りないな〜」 ♀商人ののんびりとした声に、♀モンクは我に返った。 「あ、食料ならいっぱいあるよ、ちょっと待ってて」 ♀モンクは自分のかばんを♀商人に放り投げた。 受け止めた♀商人は予想外の重みに軽くよろけた。 「おもっ! 随分いっぱい入ってるんだね〜」 何気ない一言に♀モンクはぎくっとなった。そう、その食材も彼女から奪ったものなのだ。 「適当に中漁っちゃっていいからっ!」 言いながら、♀モンクは♀商人から目をそむけ、元の作業に戻った。 再び暗い後悔に心を蝕まれながら・・・。 ♀商人がかばんを開けると、中からたくさんの食材が現れた。 果実、野菜、お菓子・・・元々支給されたにしては明らかに多すぎる量であった。 「わー、いっぱいあるね〜、おいしそう〜」 弾んだ声を上げながら、♀商人は冷静に思考をめぐらせた。 元々支給された食事はパンと干し肉の塊やチーズ等の保存食だった。 だとするとこの食事は・・・どこからか取ってきたもの? それとも。 ・・・ああ、そうか。きっとそうなんだ。 ♀商人はある結論に行き当たった。 目がすうっと細められ、口の端がさも可笑しそうに跳ね上がった。 これから面白いことになりそうね・・・。とても。 ---- ||戻る||目次||進む ||[[106]].||[[Story]]||[[108]]. 108.魔剣と剣士と狐   「あーーーーーもう!!」 ガンッと木を蹴ったのは森を歩いてた月夜花。 どうやらなかなかDOPに会えなくてイラついているのだ。 「どうしてDOPはボクを見つけてくれないんだー!」 月夜花は見つけやすくするために自分の気を放出していた。 力を封じられていてもそれぐらいはできる。 「う〜ん…もうちょっと探そう…」 もう一度歩き出そうとしたその時・・・。 (……殺気!?) 月夜花はとっさに身をかわした。 ザグッ 月夜花がいた所に剣がささった。 「あ・・・君は剣士クン!?」 そこにいたのは木の上で月夜花を見下ろす♂剣士だった。 「危ないじゃないか!当たったらどうするんだよー!」 プンスカ怒る月夜花を見下ろしていた剣士はニヤリと笑いこう言った。 「「当てるつもりだったのさ」」 「え…?今声が重なってたような…?」 月夜花が一瞬疑問に思ったその時、彼女の足元にあった剣が動きだした。 「♂剣士!最初の獲物だ」 ソレは魔剣エクスキューショナーだった。 「うん!いいな!月夜花もDOP同様殺そう!」 それを聞いた月夜花は驚いた。 「エ…?うそ…?冗談だよね…?」 「冗談?お前は魔物だろ?魔物は殺さないと…」 その言葉を聞いた月夜花は怒りの表情をみせた。 「君…ボクの事好きだって言ったよね?ボクを見るためだけにFDの奥によく来たよね?いつかは友達になりたいって言ったよね?」 「そうだよ、でも・・・・」 すでに木から降りている剣士は魔剣エクスキューショナーを持った。 「人間がいいな…しかも僕の強さを認めてくれるようなアコライトがね…」 ―もう、あの時の頃の剣士クンじゃないな。 そう思った月夜花は戦闘態勢にはいった。 「魔剣エクスキューショナー!ボクは君を倒す!」 <月夜花 ♂剣士と遭遇> ---- ||戻る||目次||進む ||[[107]].||[[Story]]||[[109]]. 109.いただきます   ♀シーフがじとーっとときらぐ主人公を見ている。 「……」 しつこく延々と見ている。 「…………」 ♂ノビと♀プリはにこにこしながら談笑しているが、♀シーフはときらぐ主人公を見つめ続けている。 「………………わかったって! 悪かった、謝るよ! だからその目はやめてくれー!」 遂に根を上げるときらぐ主人公。 「えっち」 「ちっがーう! だから胸の件は不可抗力だって言ってるじゃないか!」 「どうだか、どーせ他職にたくさんいる友達ってのもみーーーんな女の子ばっかなんでしょ」 言いがかり甚だしいが、実は事実である。 「…………」 「ええーーー! 本当にそうなの!? 最低ー!」 「いいじゃないか! みんな友達だよ! そんな君が思うような……」 「アタシがどう思ってるってのよ!」 いい加減放っておくといつまでも言い合いしてそうなので、♀プリがやんわりと窘める。 「ほらほら二人ともそのぐらいにして。ご飯もう出来てくるわよ」 ♀プリの言葉尻に重なるように、ちょうどタイミング良く♀モンク、♀商人の二人が厨房から出てくる。 「おっまったせー! んじゃー早速いただきましょー♪」 全員が席に着くと手を合わせる。 『いただきます』 まだじと目している♀シーフから目線を外して、バターを塗ったジャガイモを手に取り頬張る。 「うん、おいひーーーーふぇろわなら……」 訳のわからない賛辞を述べるときらぐ主人公に♀シーフがつっこむ。 「ふぇろわなら? 何処の方言よそれ。あ、それね、アタシが作ったんだから褒めるんなら力一杯褒めなさい……」 机に突っ伏すときらぐ主人公、そのまま脱力したかのようにイスからずるずると滑り墜ちる。 「え?」 頭部が床に激突する音が一際大きく聞こえた。 突然血相を変えて♀プリがときらぐ主人公のそばに駆け寄る。 「……息が無い……そんな……なんでこんな……」 ♀シーフは呆然と倒れるときらぐ主人公と♀プリを見下ろす。 「え? え? ……な、何が起った……」 ♀商人は席を立って立ち上がって♀シーフを指さす。 「ひ、ひどいですぅ! あ、あなた毒をっ! その人はあなたのお友達じゃなかったんですか!?」 ♀商人の指摘に♀シーフは慌てて首を横に振る。 「ち、違っ……わ、私毒なんて……」 ♀モンクは目の前のテーブルを♀シーフに向けてひっくり返す。 不意をつかれた♀シーフはテーブルごと部屋の隅に転がる。 「みんな下がって! ♀プリさんは早くあたしの後ろに!」 「だからアタシ知らないってば! ねえ、嘘でしょ? ♀プリさん! ねえ彼が死んだなんて嘘でしょ!」 ♀プリは黙って首を横に振る。 「そんな誤魔化し言ったってダメですぅ! そのじゃがいも作ってたのあなたなんですからぁ〜!」 ♀商人の言葉に♀シーフは立ち上がって即座に反論する。 「何言ってるのよ! そもそもそのじゃがいも持ってきたの♀モンクさんじゃない! アタシそんなの知らないっ!」 「そういえば……ひっ! 私♀モンクさんの持ってきたにんじん食べちゃいましたっ!」 喉に手を入れて吐き出そうとする♀商人。 だが、今度は♀モンクが反論する。 「あたしじゃないっ! 大体ときらぐ主人公君が倒れたの食べてすぐじゃないっ! 大体すぐ効く毒だったら♀商人ちゃんも♀プリさんもとっくに倒れてるはずじゃないの!」 ♀プリが口論に割って入る。 「いい加減にしてください! そんな事より今は彼を……」 ♀商人がすぐに言い返す。 「そんな事ってなんですかぁ〜。この中に人殺しが居るんですよー! わ、私こ、殺されちゃいますっ!?」 「そ、そんな事無いからとにかく落ち着いて……」 ♀プリが皆を諭しにかかるが、♀シーフは倒れたテーブルの下に転がっている果物ナイフを拾う。 既に♀シーフの目は据わっている。 「……アタシわかった。貴方達みんなグルなんでしょう? それで私達を殺そうとして騙したのね!」 ♀モンクはその言葉にぎょっとして♀商人を、♀プリを、そして事態についていけてない♂ノビを見る。 「許せない……よくも彼を殺したわね。あんなに良い人を……よくもっ!」 そういって果物ナイフを持って♀商人に飛びかかる。慌てて♀商人はテントの入り口の方に逃げ込むが、♀シーフの俊敏さには敵わず、入り口を出てすぐの所で捕捉される。 「た、助けてーーーーーー!!」 「殺してやる!」 だが、テントを出た所で♀商人は突然反転、♀シーフに向かって体当たりを喰らわせる。 よろめく♀シーフ、♀商人はその隙にテントの外に出て、大きく間合いを取る事に成功した。 だが、♀シーフもこの程度で引っ込むつもりは無いらしく、すぐさま追いかけようとした所で突如後ろから誰かに両手を取られる。 「落ち着いて下さい! 私達は……一緒に戦う仲間なんですよ!」 そう言って♀シーフの手を取ったのは♀プリだ。 ♀シーフは全力で抗うと、考えていたより簡単に♀プリの手が離れた。 そのまま、♀プリは♀シーフに寄りかかってくる。 「な、何っ!?」 驚いた♀シーフが♀プリを突き倒すと、その後ろでメイスを持ち鬼の形相で立つ♀モンクの姿が見えた。 「嘘つき……みんなで協力しようって言ったのに……嘘つきっ! 嘘つきっ! 嘘つきーー!!」 頭部を強打されたせいで全身が痺れて動けない♀プリを、メイスでめった打ちにする♀モンク。 「何が一緒にここを出ようよ! 人は殺さないよ! 人死んじゃったじゃない! この大嘘つきーーーーーっ!!」 既に♀プリは頭を庇う事すら出来ない、それでも、♀モンクはメイスを振り下ろす事をやめなかった。 ♀シーフは、♀モンクの言葉に矛盾を感じそれを追求しようとしたが、常軌を逸した♀モンクの様に、恐ろしさのあまり数歩後ずさる事しかできなかった。   どすっ   ♀シーフは背中に焼け火鉢を押しつけられたような衝撃に、驚いて後ろを振り向くとそこには♀商人が居た。 「残念でした〜。あなたはここでゲームオーバーですぅ〜」 そう言って邪に笑う♀商人。 「あなたが……彼を?」 「知っりませ〜ん♪ 私はま・だ・毒なんて入れてませんでしたからぁ〜」 ♀シーフは理屈を考えられる程、冷静な状態ではなかった。 だから、感情に従ってこいつが全ての元凶だと決めつける事にした。 「ふっざけんじゃないわよーーーーーー!!」 ♀商人の眼前に手をやり、インベナムを撃つ♀シーフ。 真正面から、まともにもらった♀商人は顔を押さえてのけぞる。 「っっきゃーーーー!!」 「あんた……あんただけは許さないっ!」 傷の痛みを怒りが忘れさせてくれた。♀シーフは狙いを定めて♀商人を思いっきり突き飛ばす。 ♀商人は、突き飛ばされながらもなんとか体勢を立て直そうと軸足を後ろに付きだしてこらえようとするが、その足が何かにぶつかる。 「きゃっ」 ♀シーフの狙い過たずに、♀商人は外にあった井戸の中へと墜ちていった。 憎々しげにそれを見ていた♀シーフ。 すぐに、後ろから声が聞こえる。 「インベナム……そう、あなたが毒を入れた犯人だったのね……」 その声が聞こえた瞬間襲い来る三連撃。♀シーフはその二発目で既に息絶えていた。 ♀シーフにとどめを刺した♀モンクは慌てて♀プリの元へ戻る。 ♀プリの側でその手を取っていた♂ノビを突き飛ばして、半泣きになりながら言う。 「ごめんなさい! 毒盛ったのあなたじゃなかった! あたしてっきり……ごめんなさいごめんなさい!」 虫の息の♀プリは、しかしそんな♀モンクに笑みを返した。 「…………ご、誤解……わかってくれれば……よか……」 「それ以上しゃべらないで! 今私がヒールするから!」 神の奇跡、癒しの術を♀プリにかける。 この人は嘘は言っていなかった。そして今回の事も怒ってない、なんて素晴らしい人なのだろう。 この人と共に、この人を守って、初めて自分はモンク、聖職者としての勤めを全う出来る。 そう♀モンクは思っていた。 「ヒール!」 その呪文で、♀プリは痙攣を起こすと完全に絶命した。 「……え?」 驚いた♀モンクは再度ヒールをかける。 「ヒール! ヒール! ヒール!」 既に遺体となっているが、それでも術をかけるたび、♀プリの皮膚は裂け、更なる傷を増やす。 ♀モンクは呆然となって自らの手を見た。 「……あたし……呪われちゃった……神様に……あたしが人殺しだから……」 そして、救いの主である♀プリを自らの手で殺したのだ。 「もう……ダメ。もう何も……知らないっ……っわーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 絶叫を上げる♀モンク。そのままテントを飛び出し、メイスを投げ捨てると川に身を投げ底へと沈んでいった。   井戸の下に突き落とされた♀商人。 必死にもがいて、なんとか沈まずに居るが、それも時間の問題だ。 「助けて! ♀プリさん! ♀モンクさん! ♂ノビ君! わたしはここにいるよー!」 落下の時に壁にしこたま叩きつけた左腕は言うことを聞いてくれない。 「手が、手が動かないの! お願い助けて! わたし死んじゃうっ!」 暗闇の中、微かな光のみを頼りに、底も知れぬ水に浮かんでいる恐怖。 「たすけてー! しんじゃうよ! 私が、私が死んじゃうっ!ヤだ!こんなのヤだー!」 そして救いの主は現われる。 ちょうど、♀モンクが絶叫を上げてテントから出てきたタイミング。 そのメイスは、井戸の中に放り込まれ、そして♀商人の残った自由な右腕に直撃した。 「んーーー! ぐ、ぐごがぼっ…………」 ♀商人はすぐに恐怖なぞ感じない体になれたのだった。   ♂ノビは、一部始終を見ていた。 黙って、静かに、見ている事以外に何も出来なかった。 そして、♂ノビだけがその場に残った。 いただきますから、ほんの10分の出来事だった。   <ときらぐ主人公、♀シーフ、♀プリ、♀モンク、♀商人死亡> <♂ノビ生存ゴブリン村現状維持> <残り28名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[108]].||[[Story]]||[[110]]. 110.夢から醒めなサーイ   クリティカルを誘発させる補助的な作用のあるうさみみ 致命的なダメージとなりうる顔面への攻撃を防ぐスマイルマスク 考え方に寄ってはベストとは言えずともかなり良い引きだ 「……とでも思わなきゃやってらんないわよ!コンチクショー」 などとやけっぱちに叫ぶがその表情はスマイルマスクに隠れて判らない 「あとは武器ね…よし!無いなら作ればいいのよ」 彼女もまた極限状態で精神に異常をきたしてしまったのだろうか カンカンボキンカンカンボキンカンカンボキンカンカンボキンカンカンボキンカンカンボキン   (中略)   カンカンボキンカンカンボキンカンカンボキンカンカンボキンカンカンピロリン 「できた〜」 それは木の枝を蔓で寄り合わせただけのお粗末なシロモノであった、だが彼女の心の支えでもあった 「よ〜し、さっそく試し切りよ。てやっ」 バキ!! 彼女の心の支えは(当然といえば当然だが)乾いた音を立てて砕け散った 「……もうやだよぅ」 <♀アサシン ガラクタ一個獲得> ---- ||戻る||目次||進む ||[[109]].||[[Story]]||[[111]]. 111.我儘   朝日。  頭に悪魔の羽の様な飾りを付けたプリーストは、横たわる死体の前に跪いていた。 手を組み、目を閉じている。その傍らには、石版と退屈そうにそれを見ている♂マジシャン。 「例え汝、道の途中にて果てようとも我等が主は汝を忘れず、広き懐の内にその魂を招かん。 灰は灰に。土は土に。汝と汝の霊に、偉大なる我等が主の国での、永久の安らぎがあらんことを」  聖句を唱え、略式の印を僧侶は切る。十字の形に指は、虚空を走る。  それから息を付くと、彼女は♂商人の死体の居住まいを直してやった。  下半身の無い死体の手を胸の上で合わせて、恐怖に見開いた目を閉ざしてやる。 「終わった?」 「ええ」  悪魔プリは答える。  本当なら、埋葬した方が良いのだろうが、生憎とそこまでの労力の余裕が彼女等に在る訳では無かった。 「…にしても、一々律儀ねぇ」 「これでも聖職者ですから」 「ご立派なこと」  言う魔術師は、何処かつまらなそうな顔。 「ほーんと、真面目ね。何も、こんな所でまで仕事しないでもいいのに」 「職業病…なんでしょうね。きっと」  魔物を狩る狩人としての悪魔プリ。迷う人に僅かながらも力を貸すのもまた、悪魔プリ。  心に被る幾つものペルソナ。人のあり方は一つではない。 「誰かが襲ってきてから『私、人殺しなんてできません』なんてのは無しよ?」 「私達が信じ、私達を見守っておられる神は誰もを平等に愛しておられます。でも、同時に厳格な裁定者でもあります。 罪人に容赦する積りはこれっぽっちもありませんから安心して下さい」 「…意外と怖いわね。あなた」 「そうですか?」  事実上、襲撃者には一切の容赦をしない、と宣言したようなものだ。  しかし、悪魔プリはあっけらかんとした様子で答える。 「私だって、殺されたくはないです。帰りたいですから」 「じゃあ、やっぱし殺してまわった方が早いんじゃないの?」 「いいえ。そんなことしませんよ」 「我儘ね。すみやんって人も苦労してそう」 「そういうものです。自分の我儘をいかに巧く通すかも女の甲斐性ですよ?」 「…あんたにゃ負けるわ」  ぼそり、と魔術師が呟く。 「さて…と。あと少しでプロンテラです。行きましょうか」 「はいはいっと。…っていうか、筋肉痛で歩くのも辛いんだけど…少し休まない?」 「速度増加」  制限された魔力では、本来の効果は現れない。  しかし、この状況下では又、違った効果が現れていた。 「…」 「いきましょう?」 「……ふぁい」  なんとなく、もう一度同じ言葉を繰り返してみたい気が♂マジシャンはしたけれども、怖かったから止めた。  結局、棒の代りにしかならない重い杖に身を寄りかけながら、歩くしかないようだった。  箱庭の中のプロンテラは、もう近い。 ---- ||戻る||目次||進む ||[[110]].||[[Story]]||[[112]]. 112.生きるものができること   ♀騎士の負った傷は幸いに致命傷こそなかったが、血止めはしないと危険だった アコライトから多少のヒールをもらったものの、それだけでは不十分だったのだ 「はぁ…はぁ………ぐっ……」 ♀騎士は剣を杖代わりによろよろと歩き、荷物の確認をする 大部分が吹き飛ばされていたが、中には無事そうな荷物もあった 治療に使えそうなものをかき集め、暫く時間をかけ赤ハーブと無事だった赤ポーションでなんとか応急処置を済ませる 所々に多少痛みや張りが残っているがなんとか動ける程度には回復できたようだった それを確認した後、爆発で出来た穴の真ん中に♂騎士の遺体を安置して簡単に埋葬する 時々休みながらだったので随分と時間が過ぎ、終わった時には夕刻が間近に迫っていた 「あとの問題は、服だな…」 爆風に巻き込まれた♀騎士の服は、所々裂け破れなんともみすぼらしい状態になっていた と、そこで♂騎士の持っていたらしいもう一つの箱が地面に転がっているのが目に付いた 爆発の中でも奇跡的に無事だった大きな箱は、開けろ開けろと催促しているようだった まるで、♂騎士の執念がそこに宿っているように 「……何か、着る物が出てくれるといいんだけど」 異様な気に嫌な予感を感じながらも、箱を開ける 箱の中には何か布状のものが折りたたまれて詰まっていた 取り出してみると、ノービス時代に来た懐かしい服……コットンシャツが出てきた 「お前は……死んでまでこういうことをするのか?」 苦笑しながらも、形見となったコットンシャツに袖を通す 少し大きめのサイズだったが、ぼろきれのような服よりはマシだと思ったのだ 暫くして、だぶだぶのコットンシャツを着た♀騎士が完成した もし生きている♂騎士がみたら鼻血でも吹きながら転がりまわるのではないだろうか (一応念のため言うと、ちゃんと具足と篭手は付けてるぞ?) それでもギャップ萌えーとか言い出すに違いないだろうな、と再び苦笑 「けど……お前には本当に、感謝している」 ♂騎士はバカだった。事あるごとに萌えーだのハァハァだの言ってきた しかし、確実に恐怖に震えていた♀騎士を救い、この場で生きる力を与えた 最後には、罠に気づかなかった彼女をかばい、爆発の中倒れた 最後の最後に見せた極上の笑顔を思い出し、♀騎士はこぼれそうになった涙を慌てて拭い去った 「まったく、死んでまで……お前は私を困らせる」   やがて太陽の無い夕焼けの中聞こえてきた放送は、♂騎士の確実な死とこれ以上ここに留まれない事を伝えてきた 「今度はここが禁止エリアか…ごめん、もう少し傍に居てやりたかったんだけど」 ♂騎士の埋まっている地面をひと撫ですると、♀騎士は立ち上がり痛む体を押して駆け出し始めた その頭の中にあるのは、ほんの数時間だけ一緒だった相棒の、復讐 (あの女……絶対に見つけ出してやる) 手の中の無形剣を握り締め、♀騎士は森の中へ消えていった <♀騎士 コットンシャツ一個獲得、赤ハーブ3個ポーション全部使う> <♀騎士、♂騎士の敵討ちのため♀ハンターを探す> ---- ||戻る||目次||進む ||[[111]].||[[Story]]||[[113]]. 113.エグゼクター   「……もういい、こうなったら他人を利用してでも生き延びてやる」 小一時間ほどorzした後、半ば自棄っぱちに♀アサシンは呟いた とにかく誰かと会おう。出来れば無抵抗な相手かゲームに乗っていない相手と そこで信用を勝ち取って武器を盗めれば、そのままゲームに乗ればいいだけだ もし武器を持っていなくても、逃げる時の囮くらいにはなるはずだ だが、そうするとしたらうさみみにスマイルマスクは流石に妖しすぎた そんな格好の相手が「敵じゃないぞー」と出てきたところで信用するか? 誰もしない、絶対にしない、むしろ出て行った瞬間攻撃される 「そうなると、うさみみかスマイルマスク、どちらかが邪魔ね…」 妥当に考えて捨てるべきはスマイルマスクだろう。流石にこの笑顔は不気味すぎる もって行くにしても少々かさが張るし、着けないならば捨てていくのがいいだろう そう思いスマイルマスクを地面に放り投げると♀アサシンは歩き出した この行動こそが、今までの不運を消し去ってくれると信じて ……むしろ、そう信じるしかなくて     ♀アサシンがその場から立ち去って数時間後、地面に落ちたスマイルマスクを拾う何者かが居た ♂BSだった。何も感情を表さない顔のままスマイルマスクを拾い上げ、被る 『無』だった表情が『喜』に変わった。まるで、この場で起きている殺戮の喜劇に歓喜しているかのように   <♀アサシン スマイルマスク放棄、一時的な仲間を求め行動> <♂BS スマイルマスク獲得> ---- ||戻る||目次||進む ||[[112]].||[[Story]]||[[114]]. 114.あの日の君   チリリーン チリリーン 「ん?この音は・・・?」 フェィヨンダンジョンの奥深く…。 彼、♂剣士はそこに来ていた。 「ヤツか…」 剣士は身構えた。そう、月夜花が現れたのだ。 「ウフフフフ……また来たんだね?」 岩の上に座って、月夜花は剣士を見下ろした。 「月夜花!今日こそはっ!」 剣士は構えた。 「今日こそは僕と友達になってもらうぞ!!」 クスッと月夜花は笑った。 「いいよvただし…ボクに勝てたらだけどね」 彼女のウインクで戦いは始まった。 もちろん、剣士のボロ負けだ。 「ダメダメだね…そんなんじゃあボク、君のトモダチになれないなあ」 「うう〜…今度は負けないぞ!」 そう言って剣士はよろよろと帰っていった。 「ウフフvいつでも待ってるから、そして…いつかトモダチになろうね」   「死ねよ!」 剣士はエクスキューショナーを月夜花に振り下ろした。 月夜花はギリギリでそれをかわす。 「覚えてるか月夜花?あのときはよくも僕を見下ろしたな! お前もこの僕をコケにした…」 剣士は完全に狂っていた。月夜花以外、周りが見えていなかった。 「!!」 突然、月夜花の動きが止まった。 ―今だ! 剣士は月夜花に向かって突撃した。 「剣士クン動いちゃダメエエエエエエエエ!!」 「僕に命令するなあああああああああ!!」 その時だった…。爆音―……。 「があ…」 剣士は爆発の中…肉片と化した…。エクスキューショナーとともに…。 死因は簡単…剣士が振り回していた武器は周りの木々を裂いて、砕いていた。 その形の変わった木の枝に首輪がひっかかっていた。 それが原因で外れて爆発したのだった。 月夜花はそれに気づいたが、剣士はまったく気づいていなかった。 「……剣士クン…どうして…どうしてこんな事に……」 剣士の体を失った腕を抱きかかえ、月夜花は涙を流した。 「説得すれば…分かってくれると思ってた…」   <♂剣士、魔剣エクスキューショナー死亡> <残り26名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[113]].||[[Story]]||[[115]]. 115.farewell to the innocence   風が吹いた。 木々がざわめき、色づき始めた葉を降らせた。 木の葉はひらりひらりと頼りなく宙を漂い、 幾枚かはつぶてとなって、少年の髪に、鼻すじに舞い降ちた。 肌を撫ぜるかすれた感触は、少年にこう問うているようだった。   ――いつまで、ここでこうしているのですか?   (動かなきゃ……) 少年は両手足を踏ん張り、立ち上がろうとした。 力が入らなかった。 体中の力が抜け落ちて、指一本動かすことが出来なかった。 空は雲ひとつない快晴で、日の光が川面できらきらと踊っている。 穏やかでうららかな昼下がり。 目の前には、頭蓋が割れ全身を血にまみらせた♀プリースト。 少し離れて、背中にナイフを突き立て、首をあらぬ方向に曲げた♀シーフ。 背にしたテントの中には、苦悶の表情のままこと切れたときらぐ主人公。 ほんの少し前まで笑いあって、一緒にご飯を囲んでいたのに。 一緒に行こうと、助け合おうと誓ったはずなのに。 少年は喉がカラカラにひりつくのを感じた。 水を飲みたいと思ったが、井戸の水も川の水もとても口にすることは出来ない。 かといって、食卓に残されたものを再び口にする勇気はなかった。 どれに毒が入っているかもわからないのだ。   ――この中に人殺しが居るんですよー! ――貴方達みんなグルなんでしょう? それで私達を殺そうとして騙したのね! ――嘘つき……みんなで協力しようって言ったのに…… ――知っりませ〜ん♪ 私はま・だ・毒なんて入れてませんでしたからぁ〜 ――……呪われちゃった……神様に……あたしが人殺しだから……   誰が毒を仕込んだのか、誰が嘘を付いていたのか。 誰を信じればよかったのか。 わからない。わかっているのは、残ったのは自分だけだということ。 自分以外の5人は死んで、もう戻ってこないのだということ。 (一人ぼっちになっちゃった……) どうしよう。どうすればいい? またゲームが始まった時のように、死んだふりをして誰かに拾われるを待つ? そうしてまた誰かに庇護されて、その人の足を引っ張るのだろうか。 "ゲームに乗った人"に見つかってしまったらどうしよう。 いや、例え優しそうな人に拾われたとしても、その人を信じることが出来るだろうか。 背筋がゾクリとした。 (どうしよう、……信じるのが、こわい) ♀剣士と出会った時は、彼はまだ知らなかったのだ。疑心と裏切りの恐怖を。 この僅か数分の間に、彼はヒトの心の深淵を叩きつけられた。 彼は扉を開けてしまった。もう元の純真な心には戻れない。 (師匠……教えて、ボクはどうすればいいの? 助けて、師匠)   ――少年、君に問おう。戦いの結果を決めるものはなんだ?   ふいに耳の奥で、懐かしい声がよみがえった。   ――装備か?能力か?スキルか? ――財力、運、仲間の有無?   ああ、そうだ。あれは初めて師匠に出会った時。 師匠はボクになんて言った?   ――それらのものは全て結果を決定付けるものではない。一番重要なのは   そう、一番大切なのは。 少年は右手をもちあげた。そしてその手で胸元をぎゅうと握りしめた。 「ここだよね、師匠」 瞬間、強い風が吹いた。 木の葉がくるくると渦を描き、風の中へと消えていく。 少年はその中心に、微笑をたたえる♀剣士の姿が見えたような気がした。 「師匠は知ってたんだね、ココがそういう世界だって」 師匠はボクをずっと側においてくれた。 ボクのことを、裏切るかもしれないってこれっぽちも疑わなかった? ううん、違う。師匠はボクの何倍もこの世界のことを知っていたもの。 裏切りも騙しあいも、きっと何度も見てきたはずだ。 じゃあどうして、ボクを側に置いてくれたの? ……それはきっと、心が強かったから。 たとえ裏切られても手折られない強さがあったから。 ボクに欠けているのは強さだ。 もちろん体力も筋力も、他の参加者に比べて劣ってる。 でも今ボクに何より必要なのは、心の強さだ。 一人でがんばれないのも、他の人を信じれないのも、心が弱いからだ。   ――立ち上がるがいい、少年。君は歩みを諦めるにはまだ若すぎる   「師匠、ボクは、強くなれるのかな……強くなりたい、なりたいよおぉぉぉ……」 ぽろぽろと、両の目から涙があふれ出た。 涙の粒は後から後から流れ出て、止まる気配を見せなかった。 それをぬぐうことなく、悲しみや憤りを塞き止めることもなく。 少年は地に伏し、心の全てを押し流すように、泣いた。 ---- ||戻る||目次||進む ||[[114]].||[[Story]]||[[116]]. 116.悪魔と獣   「おや、戻って来ちまったね」 常緑樹の林の中に、♀ローグの緊張感のない声が響く。 ♂GMの爆発現場から離れようと、小走りで進んだのは良かったが 結局その前に居たタヌキの丘付近に戻って来てしまったのだ。 彼女の目の前には、少し前に彼女自身の手で葬り去った♂クルセイダーの遺体が放置されている。 「・・・まいったねぇ」 言いながら、♀ローグは頬をかく。 てっきり北に向かっているとばかり、思っていたのに。 ひとつため息をつき、その場に腰を下ろす。 目の前の♂クルセイダーは、彼女が手にかけた後と、ほぼ何も変わらない状態だった。 ひとつ、変わったことといえば、死に際に流した涙が乾いているといったことぐらいか。 ♀ローグは、何気なく♂クルセイダーの頬に触れる。 死後硬直が始まっているのか、その肌は硬く、冷たかった。 「あぁ、そうだ」 ふと思い立ったように、♀ローグは自分の鞄の中をあさり始める。 「重い上に使えないもの、持ってても仕方ないからさ。返すよ」 そう一人呟いて、♂クルセの傍にプレートを置く。 脱がすことは出来たが、死後硬直の始まった体にプレートを装備させることは無理だった。 ♀ローグは、お手上げといった風に笑い、肩をすくめた。 「さて、と」 言って、♀ローグは立ち上がった。 服についた草を軽く払いのけ、重いプレートを運んで凝った肩をならす。 「これで軽くなった」 満足げに呟いて、元来た道はどっちだっただろうと、周りを見渡す。 周りは木漏れ日の差す林に囲まれ、元来た方向は容易には分からない。 見た事のある木や、小さな広場を辿りながら、彼女は注意深く林の中を進んだ。     「・・・?」 タヌキの丘をもうすぐ抜けるかといった所で、♀ローグは、ふと妙な気配を感じて立ち止まった。 それを長年の経験から殺気だと感じ取った彼女は、すぐにハイディングで身を隠す。 自分の後ろ方向。オークの森のほうから来たと思われるその人物は、 手に血のついた大斧を持ち、まっすぐ♀ローグのほうへと歩いてくる。 ――♂ブラックスミスか。 心の中で小さく舌打ちをし、彼女はトンネルドライブでその場から離れる。 ♀マジシャン、♂クルセイダー、♂GMと3人を葬ってきたが、今回ばかりは相手が悪いらしい。 ――厄介な奴に関わるのはごめんだね。 ♂ブラックスミスの、心が通わない虚ろな目を見、彼女は眉をひそめた。 しかし、その目は確実に――トンネルドライブで歩きながら隠れているはずの彼女を見ている。 ブラックスミスから離れようと歩いていたはずが、何故か差も縮まるばかり。 「・・・っくそ!」 ♀ローグはこのままトンネルドライブ状態で居るのに危険を感じ取り、姿を現して走ることを選んだ。 途端、♂ブラックスミスも彼女を追って走り出す。 丘を抜け、林を抜け、道は砂漠へと達した。もう木々に紛れて逃げることも出来ない。 ――どうする・・・? ♀ローグが前方を睨んで唾を飲んだ瞬間、♂ブラックスミスの気配が、すぐ背後まで迫った。 「っく・・・」 重い斧が耳元をかすめる音。 それを持ってこの速さで走っているのに、全く息を荒げない♂ブラックスミスの攻撃を、 ♀ローグは両手で浮け流した。 次いで、二度目の攻撃。 横薙ぎに振られた斧を、バックステップで避ける。 ――仕方ないね――。 逃げるのを諦めて反撃しようとダマスカスを構え、 ♀ローグはそのまま♂ブラックスミスの腕を切り裂こうと、素早く短剣を振り下ろした。 腕さえ使えないようにしてしまえば、この大斧は使えまい。 そう思ってのことだった。 しかし――― 「・・・え?」 彼女のダマスカスの刃先は、♂ブラックスミスの肌に触れることなく、何かに阻まれたように宙を薙ぐ。 その上、反撃を避けるためにバックステップでとった間合いも、常人より早く詰められた。 「この野郎・・・」 再度バックステップで距離をとりながら、彼女はようやく理解した。 「運のいい奴も居たもんだね!」 言って、大きく後ろに跳ぶ。 ♂ブラックスミスは、やはりそれを追って高速で移動した。 大斧が髪をかすり、衣服をかする。 全て紙一重で避けながら、彼女はどうにか隙をつこうと♂ブラックスミスを睨み続けた。 軽い身のこなしが得意なはずの自分を、ここまで正確に狙ってくる相手を 必死でやり過ごそうとバックステップで間合いを取り、避け続ける。 足場が悪いせいか、バックステップをする度に、砂漠の乾いた砂が巻き上げられ、辺りには砂煙が立っていた。 砂漠の中に聳える一本の木を見つけ、♀ローグがそれに近づいた時になって いつまで続くとも分からない二人の攻防が、一瞬だけ動きを止めた。 突然、♀ローグがその場に立ち止まったのだ。 深く考えない――否、その思考すらも奪われた♂ブラックスミスは、そのまま大きく斧を振りかぶる。 ようやく目の前の獲物を捕らえられる歓喜に、♂ブラックスミスの顔がうっすらと笑みを刻んだ。 そのとき。 「ストリップウェポン!」 ♀ローグの声が響く。 血のついた大斧は、♂ブラックスミスの腕からゆっくりと、滑り落ちた。 突然の出来事に、♂ブラックスミスは呆然とした表情を浮かべる。 しかし、それはすぐに怒りへと変化した。 「殺す・・殺す―――殺してやる」 低く、とりつかれたかのように繰り返し呟く♂ブラックスミスを見、♀ローグは背筋をぞくりとさせる。 ――ったく・・・! なにか、捨て台詞でも吐いてやろうかと思いながらも、 彼女は本能的に危険を感じ取り、バックステップで距離をとって走り出した。 ♂ブラックスミスは、鬼のような形相で彼女を追ってくる。 しかし、斧を装備できない彼には、バックステップで逃げる♀ローグに追いつく術はなかった。   <♂BS 状況変わらず 現在位置:砂漠> <♀ローグ ダマスカス1個、ロープ、ロザリオ1個、赤P食料> ---- ||戻る||目次||進む ||[[115]].||[[Story]]||[[117]]. 117.思案   「・・・ふぅ、ここまで来れば」 言って、♀ローグは手近な木にもたれ掛かり、息をついた。 ストリップの効果が切れると、またあの斧を持って追いついてくる。 そう思った彼女は、♂ブラックスミスの姿が完全に見えなくなってからも延々と彼から遠ざかるために走り続けた。 周囲は砂漠から草原へと変わり、目前には自分たちの住む国の首都、プロンテラの城壁が見える。 「プロンテラか・・・誰がいるか分かったもんじゃないね」 暫くは、トンネルドライブでこの辺りに潜んでいることにする。 しかし、あの♂ブラックスミス。 血斧を持っている上にゴーストリングカード挿しの防具。そしてオーラ。 あのとき、ストリップが失敗していれば、間違いなく自分は死んでいただろう。 「冗談じゃないね・・・」 言って、顔をしかめて薄く笑う。 あれをどうにかしないと。――運良くこのまま生き延び続けても、結局最後には奴とぶち当たる。 「・・・ふん」 まぁいい。 追ってくるのなら、逃げ続ければいいだけだ。簡単なこと。 ぎりぎりの賭けで、さっきも生き延びたじゃないか。 仮に逃げられず、負けたとしても、賭けに負けて死ぬのなら、それも仕方がないことだ。 最期に自分の血を見ながら死ねる、それでいい。 隙を突けば、あの化け物ブラックスミスの血だって見ることが出来るだろう。 それに、他の生存者はまだまだいる。 舌先三寸で言いくるめ、近づいて、信用されてから殺す手立てだって、まだある。 うまくいけば、あの♂BSを共闘で倒すことも出来る。 狡猾でなければ、ローグはつとまらない。 まだまだお楽しみはこれからだ―――。 思って、♀ローグはにやりと微笑んだ。   <♀ローグ ダマスカス1個、ロープ、ロザリオ1個、赤P食料 現在位置:プロンテラ南> ---- ||戻る||目次||進む ||[[116]].||[[Story]]||[[118]]. 118.Bad luck or...?   「ほら、起きろ」 身体を揺さぶられ、起きる。 目を開ければ、すっかり日は落ちていた。 「ん…あぁ、オレはどれぐらい寝ていたんだ…」 立ち上がり、大きく伸びをして声の主――セージに問いかけた。 「ざっと三時間半ってところか…まぁ、そんなことより」 セージから弓が手渡される。 その弓を念入りに点検しながら、セージの続ける言葉を聞いた。 「この近くの赤芋峠が禁止区域になった。つまり、だ…もし誰かがそこにいたら、通り道が塞がれるようなアルデバランにはいかないだろう…そうすると、残る道は必然と」 「こっちになるってわけね」 今のところ異常は無いわ、と付け加え、今までオレが寝ていた木に寄りかかって座るウィザード。 「杖が、欲しいわ…そうすれば、少しはましな魔法使えるのだけど」 「ほな、うちの箱開けてみる?」 ひょこりと現れたアルケミストは、こっちも異常なしやわ、と皆に告げた。 「そうね…嵩張る物が出たら困るけど、さっきの放送で聞く限り、 残っているのは殆どが、このバカなゲームに乗ってるバカみたいだし。 あなた、開けてくださる?どうも私は運がいいのか悪いのかわからないから…」 頭の上に乗っている、ネコを模したぬいぐるみを指して言う。 「うちもだめやわー…ここは自分のエモノしっかり引き当ててるアチャ君にお願いせんとな」 にっこりと、顔に満面の笑みを浮かべながら、箱を手渡してきた。 少し文句も言いたかったが、ここにこれ以上留まるのもまずいと思ったので、一気に開けることにした。 ぱこっ そんな音が聞こえるような勢いでまずひとつ開ける。 「なんやこれ…クリスタルブルーやんか…」 さっきの笑みはどこに消えたのだろう、酷く落胆し、悲しそうな目を向けるアルケミスト。 「まぁ…まだもう一つあるわ。あなた?しっかりお願いしますわ」 なら自分で開けろ!と叫びたかったが、叫んだ後が怖いので、ブツブツといいながら箱を開ける。 「これは…短剣?」 「どれ、見せてみぃ」 アルケミストの少女に、その中々豪華な装飾がしてある短剣を手渡した。 「ふむ…これは…これは…フォーチュンソード…」 最初の笑顔と、さっきの悲しそうな顔を足して割った感じの、微妙な表情が窺える。 「ふ、フォーチュンソードって結構いいもんじゃないのか?」 居た堪れなくなり、動揺しつつも聞いてみることにした。 「やー…確かにいいもんはいいもんやけど…この戦いで役に立つかどうかは…わからへんなぁ」 「ないよりはマシってとこね…それ、私が持っててもいいかしら?」 「うちが持っててもしょうもないしな」 ウィザードはその短剣を受け取ると、手の中で弄びつつ、その短剣を観察する。 「クリスタルブルーは多分私が一番使えるわ…これは、あんたが持ってて」 たくさんの花びらをアルケミストに手渡し、代わりにクリスタルブルーをカバンにしまう。 「さて…ここが現実の世界を模してるなら…周りから、禁止区域になってる。必然と、向かう先はプロンテラになるな…」 頷いて、一同は南下を始めた――。   <♂アチャ アーバレスト 銀の矢50本 白ハーブ1個> <♀アルケミスト ダマスカス 食虫植物の花びら50個> <♀ウィザード フォーチュンソード たれ猫> <♀セージ クリスタルブルー1個> <現在位置:ミョルニール山脈を南下中> ---- ||戻る||目次||進む ||[[117]].||[[Story]]||[[119]]. 119.悲しみのあとに…   ♂剣士の死を目の当たりにし…トボトボと砂漠をあるく月夜花。 「トモダチ…ボクのトモダチになってくれる人が死んだ」 悲しんでてもしかたないのに涙があふれる。 「DOPに…会わなくちゃ…彼ならなんとかしてくれる・・・」 しばらく歩いて、誰かいるのに気がついた。 「あ!あの人は…!」 月夜花はその人影に近づいた。そう…♂BSに…。   <♂BS 状況変わらず 現在位置:砂漠> <月夜花 持ち物 ほお紅、装飾用ひまわり> ---- ||戻る||目次||進む ||[[118]].||[[Story]]||[[120]]. 120.夢見る狐   少女は、なんの疑いもなく♂BSに走りよる。 「おーーい!」 ♂BSは月夜花をちらりと見て、また視線をあさっての方にもどした。 「ねえ!BSさん一緒に行こう!ボク1人じゃさみしくて…」 「・・・・・・・・・ろ」 なにかボソリと言った。 「ん?なあに?協力してくれるの?」 「邪魔だ…消えろ」 刹那、斧が振り下ろされた。それをなんとかかわす月夜花。 「こいつもっ…殺す側なの…?」 月夜花は、離れて体勢を立て直す。 ♂BSの出す殺気に彼女は恐怖した。しかし、幼い少女の姿をしているとはいえ月夜花は魔族だ。こんな事で怯えるわけにはいかない。 「エヘヘ…DOP…もう君に会えないかも…」 彼女は覚悟を決めた。刺し違えても奴を倒すと…。 力を封じられてるとはいえ、月夜花は♂BSよりちょっと弱いレベルだ。 武器がないから術や、武器がなくてもできりスキルを打ち続けた。 「フロストダイバー!ホーリーライト!メマーナイト!!」 しかしどれも通用しているようにはみえない…。 「ダメだ…敵わないよ…なんだよコイツ…」 「終わりか…?」 ―もう…この手しか 一撃でしなないよう、エナジーコートを唱え、すばやく動けるよう 速度増加をかけた。あとブレッシングも…。 「う…うわあああああああああああああああ!!」 月夜花は♂BSに突撃した。♂BSの斧が彼女に振り下ろされた。 その斧は…月夜花の左肩に深々と刺さった。肺まで達したほど…。 ―痛い…。痛いイタイイタイ…… 彼女は大量の血を吐いた。 「ゴブゥ…。こ…これで…終わり…だよ…。」 月夜花は自分の首輪に手をかけた。 ―剣士クン…。ボクもそっちにいくよ…。 爆発から少し離れた所に右腕を失った♂BSが気を失って倒れていた。   <月夜花 死亡> <残り25名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[119]].||[[Story]]||[[121]]. 121.Marionette   ♂BSに襲われたところを、間一髪♀クルセに救われて逃げ果せた♀BSだったが、その歩みは目的地へと辿り着く前に止まっていた。 「どうしよう……」 約束の場所は、アルデバラン。 しかし、そこへ行くための唯一の通り道である赤芋峠が、もうすぐ禁止区域になろうとしていた。 閉じ込められ、そのまま死を待つなんてことは御免である。 命の恩人とも言える人との約束だ。出来ることなら守りたくはあったが……。 「やっぱりダメ。場所を変えるしかない」 彼女が自分の立場だったとしても、ここでアルデバランに向かうようなことはしないだろう。 進行方向を変える必要があった。 「けど……」 この位置から一番近いのはプロンテラ。 現実世界ではもっとも人々の集う、ルーンミッドガッツの首都。 「……」 だがそれ故に、彼女は恐れていた。 人が集まるということは、それだけ襲われる可能性も増えるということ。 もし、もし再び誰かに襲われたら。 そしてそれが、自分の憧れた彼だったら。 自分は正気でいられるだろうか。 恐怖に駆られて人を殺すことも無く、かといって殺されることもなく、無事に彼女と会えるのか。 「そんなの無理!無理よぉっ!!」 無理だ。無理に決まっている。 彼女の心は恐怖でいっぱいだった。 体は常にブルブルと震えているし、木々のざわめきにさえ身構えた。 今も知らず知らずのうちに、腰の包丁に手がかかっている。 「誰も……誰もいなくなればいいのに」 自分を脅かすものなんて全て消えれば良い。 そうすれば恐怖に身を竦ませる事も無い。暖かいベッドで、とまでは行かなくても、心休まる穏やかな眠りも迎えることが出来る。 そうだ。 いなくなってしまえ。 いなくなってしまえ。 いなくなってしまえ!! 「…そう、か」 そう思ったとき、彼女の中で何かが切れた。 今までに死した者たちの怨念か、はたまた舞台に渦巻く狂気の成した悪戯か。 確かに何かが、彼女の中で変わった瞬間だった。 「フ、ウフフ……」 簡単だった。 消せば良かったんだ。 自分の気に入らないもの、自分に危害を加えるもの、自分以外のもの!! だって―――。 だって、あの人もそうしてる。 自分が惹かれ、憧れ、欲したあの人。 ♂BSだって、私を殺そうとしたじゃないか!! 「ウフフフフ……アハ、アハハハハ、ハハハハハハハハッ!!!!」 恐怖というものは、ここまで人を変えることが出来るというのだろうか。 そこに、先ほどまで震えていたか弱き女性の姿は無く。 安寧を、安楽を求めるが故に、そして、何よりも人として生きることを求めたが故に。 人である事を捨てた一つの傀儡が、壊れた笑いを響かせていた。 ---- ||戻る||目次||進む ||[[120]].||[[Story]]||[[122]]. 122.聖なる大馬鹿者{{br}}{{br}} 見知った顔だった。会相えたのはほんの少しの時間なのに、腹立たしい程に記憶に焼きついた顔だった。{{br}}{{br}} ―皆が助かりますように、ってか?手前だって、そこまで馬鹿じゃ…{{br}} きょとん、とその頬から少し血を流しながら自分を見つめる顔。{{br}} {{br}} 水を補給するためにローグ達は地理を思い出しながら川原に来たのだが。{{br}} 川についた途端、はしゃいでちょろちょろと動き回るアラームと、それを危ないからと止めようとするアーチャー。{{br}} そしてそのアーチャーの頭にのっかっているバフォメット。{{br}}{{br}} その騒ぎをぼんやりと見つめてぶつぶつと不貞腐れる♂ローグを♀クルセが苦笑いしながら水をそれぞれの水袋に入れるのを手伝っていた。{{br}} が、2人と一匹が走っていった方向で悲鳴があがる。{{br}} 悲鳴の上がった方向へと悪漢と聖堂騎士が駆ける。{{br}}そしてそこ…夕日で赤く染まる中、その夥しい赤に目を奪われた。{{br}}{{br}} ―馬鹿野朗!! 助けたんじゃねぇ!!{{br}} 手前みたいなInt1馬鹿は、わざわざ殺さんでもすぐにおっ死ぬから、手間省いただけだ!!{{br}} びくりと震えて、涙のあとがのこる顔をこちらを向いて。{{br}}{{br}} 手に食べ物をもったまま突っ伏して死んでいる男、{{br}} 少し離れたところで背中から大量に血を流してこときれているシーフ、{{br}}争った痕跡、血が乾いてこびりついたスティレット。{{br}} そして…{{br}}{{br}} そして少しうつむいて、ポツリと。{{br}} ―お優しいんですね{{br}} {{br}}{{br}} 「……っとに…!!」{{br}} {{br}} ローグは目を閉じ、拳をぎりと音が出るほど強く握る。{{br}} 頭にくる。頭にくる。頭にくる…。{{br}} 吐き気がする、ムネがムカムカする…{{br}} どんな状況で殺されたのか、わからない…けれどきっとこいつは、そう…バカだから。{{br}}こんなところで、死んだ。{{br}} ♂ローグの思考が何か彼自身わからない感情に染まりきる寸前、その肩をたたくものが居た。{{br}} 肩を叩いたのは沈痛な面持ちの♀クルセである。{{br}} 「ローグ。もう、行こう…。」{{br}} この光景を目の当たりにして気付かぬうちに結構経っていたらしい。{{br}} 日は既に完全に沈み、 スティレットをクルセが持っていた。{{br}} そのクルセの肩越しに顔色を暗くして、野花を供えているアラームたちの様子が見えた。{{br}} 舌打ちをして歩き始めようとするが、プリーストのそばに転がっているものに気が付く。{{br}}{{br}} それは、小さな青箱。{{br}}{{br}} 無言でプリーストの遺体とそれを交互に見つめ、ローグは青箱を拾い上げた。{{br}} 「いくぞ、日が落ちる前に少し川上って休む所を探さないとな」{{br}}{{br}}{{br}} 惨劇の場からしばらく離れた辺りで苛立っているローグを見て、{{br}} アーチャーが先頭を行くローグに小走りで追いついて話しかける。{{br}} 「ねぇ…。」{{br}} 「あんだよ」{{br}} 胸の中でまだわからない怒りがぐるぐると渦を巻いている。{{br}}頭痛までしてきた。{{br}} 「ローグ、もしかして…さっきの人たち、知り合…」{{br}} 「しらねぇ。」{{br}} 遮るように言う。それきりアーチャーは黙ってまた歩き続ける。{{br}} {{br}} そうとも、理解なんかできない、あんな大バカは。{{br}} 知らない、知らない、識らない。{{br}} あの馬鹿のせいで。{{br}} {{br}} 後ろを振り返る。{{br}} アラーム、アーチャー、クルセ。それにバフォ。{{br}} そういえばなんでこいつらがついてきているのか。どうして、自分は。{{br}} そして少しうつむいて、ポツリと。{{br}} 「…ああ…馬鹿って、うつるもんなんだな…」{{br}} まったく、可笑しい。{{br}} そうとも、あんな大馬鹿は笑ってやる。くっくっとひとり笑う。{{br}} 嘲笑の形を型作っているつもりだったが、ローグのそれは苦笑い。{{br}} うまく、笑えない。{{br}} 最後尾を歩くクルセイダーは一人、考えていた。{{br}} 『♀BSは…もしや』フラッシュバックする先程の光景。{{br}} ハッとなって頭の中から振り払う。{{br}} まだだ、まだ…。{{br}} しかし、ミョルニール山脈をどうやって超える。禁止区域、あの狂ったBSの脅威、アルデバランへ、約束の…{{br}} 思考がまとまらない。{{br}} ふと、前を見る。{{br}} 私には、一時的にとは言えパーティーが居る。{{br}} ♂BSは…ひとり。{{br}}そして♀BSも。{{br}} 何かに焦る。{{br}} 最初に集められた場所では、あの♂BSだって普通の青年の表情をしていた。{{br}} 何が起きたのかわからない。{{br}} {{br}} 唯、狂気がそこに。{{br}} 先程の川辺の光景は異様だった。{{br}} 『私はひとりじゃない、しかし…』{{br}} 唯不安が募る。{{br}}♂BSの狂乱と、ひどく狼狽した♀BSの顔がちらついた。{{br}} ローグの乾いた笑い以外、誰も一言も発しないまま、日が落ちるまで一向は歩く。{{br}} <ローグ一行 また移動中 ♂ローグ→小さな青箱1個獲得 ♀クルセ→スティレット1個獲得>{{br}} ---- ||戻る||目次||進む ||[[121]].||[[Story]]||[[123]]. 123.定時放送3 神の声   「レディースアンドジェントルメン!調子はどうですか?GM秋菜ですっ♪」 人の居ない砂漠に、血で汚れた草原に、狂った箱庭中に、不自然に明るい声が響き渡る。 「それでは、前回の放送から今までの間に死んじゃった人をお知らせしまーす。 アリスさん ♀剣士さん ♂アサさん ときらぐ主人公さん ♀シーフさん ♀プリさん ♀モンクさん ♀商人さん ♂剣士さん エクスキューショナーさん ウォルヤファさん …以上11名!ということは残り…ひぃ、ふぅ、みぃ………25人!やっと半分ですよ〜。 もっともっと頑張ってくださいねっ! ……あっ!!また忘れちゃうところでした〜、もぅ、ボケボケですねっ。 今から言う地域にいる人は速やかに移動してくださいねー、いつまでも残っているとBANしちゃいますよっ♪ 国境都市アルデバラン アサシンギルド周辺 ゲフェン西門鉄橋周辺 ゲフェン東 ポリン島 それでは、頑張ってくださいね!GM秋菜でした♪」   <残り25名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[122]].||[[Story]]||[[124]]. 124.燻ぶる火種   思い出の名前はアリス。 親友だった。 唇を硬く引き結ぶ。顔は上を向く。 悲しみ漏らさぬよう。涙零さぬよう。 彼女の装束は黒。夜明けの赤にも、空の青にも染まらない気高い色。 宵闇の中、静かにたゆたい、夢の安らぎを導く優しい色。 その漆黒の戦装束に、涙は一粒だって似合わない。 手には、中程からぽっきりと折れた剣。 剣と言うよりは、大振りの鉈。 構わない。目的は遂げられるだろう。 管理者は、斃す。けれど、その前にしなければならないことが。 だから寄り道をして、歩く事にしよう。 一人で、折れた剣を手に道を往こう。 管理者を斃す為ではなく、参加者の誰かを殺す。 そんな復讐の旅に、道連れはいらない。 逆毛の助祭も、少し間の抜けた錬金術師も。 彼女は、親友を殺した者を決して許さない。 それは大切な、日常(パズル)の欠片。 二度と、そこに嵌るピースは無く。 ピースの欠けた日常の図版は、もう完全では在り得ない。 ──或いは、完全で無くなった時点で、彼女の日常は死に絶え。 師は、血騎士候は私を叱るだろうか。 だから、黒衣の騎士は己に問う。 騎士は、誰かを、何かを守るからこそ騎士足り得る。 ならば、守ることを棄てた私は。 既に、騎士ではない。 それでも構うまい。 黒い復讐者は、己に言う。 血は、所詮血でしか購う事はできはしない。 けれど、何処か寂しげな笑みを浮かべ。 そして──私は所詮、人ではない。 「これ以上は…ついてくるな、人間」 鉈を手に、背を向けて歩き出す。 何事か、二人は喋っている。しかし、耳に入れない。 「殺さなければならない者が出来た」 それは、きっと彼等にとっては道に外れる事だから。 「恩のあるお前達まで、巻き込む訳にはいかない」 けれど、背中の気配は消えなくて。 「冗談言わないでくださいよ…泣きそうな声で肩を震わせてるような女の子、一人で往かせちゃ男の名折れっす」 「うはwwwwokkkkkkwwww」 そんな事を、言う。 「……馬鹿者」 もう騎士で無くなった彼女は彼等を止める事が出来なくて。 「此処に来た時点で自棄っぱち。何処まででも付き合いますよ」 道を自ら違えた錬金術師は一言彼女にそう言った。 火種は、ぱちぱちと音を立てて燻り始めていた。   <深淵の騎士 アリスの復讐を誓う> ---- ||戻る||目次||進む ||[[123]].||[[Story]]||[[125]]. 125.遺言   ♂ノービスは、北へと向かっていた。   もう、涙は止まっている。いや、単に流し尽くしてしまっただけかも。 そんな事を考えながら、彼は歩いていた。 或いは、只、師匠と呼んだ女性の死体から少しでも離れたいだけか。 あの場所には、余りに沢山死が転がっていたから。 さっきの放送には『♀剣士』、という名。 それは、間違いなく少年を護り、そうして果てた女性の名だった。 彼女の遺言の様に大きく響いた爆音が、耳にこびりついている。 少年は、一人にになった。 もう、護ってくれる人は居ない。 そして、生き延びるための力も無かった。 彼が持っているのは、血溜まりの匂いがしたあの森で、沢山の死と裏切りを見つめて、漸く気づいた一つの真実だけ。 ──生き残るために、生き抜く為に、強く強く自分の心を持たなければいけない。 今は、どうしようもなく、自分自身が不甲斐無いと感じ。 けれど、彼は歩くことを止めない。 何処に向っているのかは判らない。 けれど、一歩でも前に踏み出さないで居れば、それだけで『師匠』の遺言を裏切ってしまう気がして。 泣き崩れて、二度と立てない気がして。 その決意はどこまでも固く。 しかし、決意には余りに不似合いな程に彼は弱く不完全だ。 例えば、♂ノービスは歩いている彼は直ぐ後ろに近づいてきている気配にも気づけない。 「おい、そこのノービス」 気配に呼び止められ、振り返る。彼は、そこに固い顔をしたプリーストを見た。 「…何ですか? 言っておきますが、ゲームには乗ってないですよ、僕は」 少し、声が暗かったかもしれない。一瞬そんな事を考える。 だが、彼の目の前の男司祭は特に気にした風もなく…むしろ、何処か顔をほころばせてさえいた。 「奇遇だな、俺もだよ」 ただ、向ってきたら遠慮はしない、と付け加える。 そして、両手を開けて、敵意が無い事を示しながら一歩近づいてきた。 「でだ、物は相談なんだが…お前等のPTに俺も加えちゃくれないか? 残ってる二次の支援は俺ともう一人だけだし、お前等にとっても損な取引じゃないだろう」 「何を…」  いきなり、司祭が切り出してきた提案に♂ノービスは面くらい、そう答えるのが精一杯だった。 「とぼけるなよ。PTメンバーも無しにただのノビが此処まで生き残ってこれる筈ないだろ。 スパノビだったなら話は別だけどな」 「……そうですね、確かにおっしゃる通りです。確かに僕には…貴方の言うような人達が『いました』」 今は、もう居ない。 師匠も、泣いていた女プリーストも。 森で出会った剣士と少女達も。 皆、死んでしまった。 理不尽に。何の尊厳も与えられず。 ただ、死んでしまった。 言葉の一つ一つに、知らず力が篭る。 白くなる程、掌を握り締めていた。 どれくらい、時間が経ったろう。急に、♂プリーストが手を合わせながら頭を下げた。 「すまん、許してくれ。早合点するのが俺の悪い癖なんだ。その、何だ…気に病まないで欲しい」 「…いえ、いいんです」 事実は、事実だった。 それに、悲しみに暮れなければならない理由など無かった。 例え、自分自身の弱虫な心は、今も尚、泣き続けているのだとしても。 「事実ですし…あなたの言うことも最もですから」 「そうか。わかったよ」 「じゃあ、僕はこれで失礼します」  ノービスは、そこまで言ってから♂プリーストに背を向ける。 「おい、一人で行く気か?」 「僕が、貴方と組むメリットなんて何処にもありませんから」 「……」 答えたノービスに、つかつかと♂プリーストが詰め寄る。 ごいん、と拳骨で一度、歩み去ろうとしていた♂ノービスの頭を小突いた。 そして、痛む頭を押さえながら、真上にあるプリーストの顔を見上げる。 「馬鹿かお前。みすみす死にに行くつもりか?」 「…違います」 「いーや、違わないな。その顔に書いてある」  びっ、と♂プリーストは少年の顔を人差し指で指した。 「……」 「大体な。なんというか、お前のPTメンバーだって、みすみす死なす為にお前といっしょに居た訳じゃないだろ。 何か、いってやりたい事の一つや二つだってあっただろうに、そんなこと全て無視してお前は死ぬのか?」 そこまで、黙ってプリーストの言葉を聴いていたノービスが、何か思い出した様な表情をして、鞄を開く。 その手には、数枚の紙。 「は…ははは… そうですね。其の通りです。馬鹿なのは…僕みたいです」 手にした紙を見、♀剣士の満面の笑顔を思い出して、♂ノービスは、漸く確信した。  そうだ。馬鹿なのは自分の方だ。気づいた振りをして、気づかないでいたのは自分の方だ。 師匠は、少年に。 ぽたり、と枯れていた筈の涙が落ちて、紙の一番最初に書かれた文字が滲む。 丁寧な筆使いで書かれたそれは、一言、こうあった。 『お前は生き残ってくれ』、と。 ---- ||戻る||目次||進む ||[[124]].||[[Story]]||[[126]]. 126.魂を継ぐ者   私には双子の姉さんが居た。 強く、聡明で、幼い頃から私の憧れだった それに対して私は姉さんほどの能力が無く、顔は同じなのにと周囲に何時も比べられて、自分は要らない子なのだと枕を濡らしていた そんな私を優しく、力強く慰めてくれたのも、また姉さんだった 時にはそんな姉さんに反発もしたが、 それでもなお根気強く私を支え続けてくれた そんな姉さんが、私はずっと、ずっと、大好きだった   ある日、ノービスとして冒険を始めたばかりの頃、姉さんが連絡も入れず数日家に帰ってこない日があった 姉さんと一緒に生きてきて、そんなことは今まで一度たりとも無かったのに どこか遠くへ冒険に行ってオークに食い殺されたのではないか。誰か悪い冒険者に騙されたのではないか 姉さんの安否が気になり夜も眠れず、少しの物音でも帰ってきたのではないかと思い、迎えに出て、落胆する 失踪して6日目、夕暮れの中やっと姉さんは帰ってきた 体中ボロボロで、手には何処で手に入れたのか大きな金塊と使い込まれた剣士の証を握っていた そして何よりも、あの優しかった姉さんの目が、とても辛そうな目になっていた どうしたのか、何があったのか、何を聞いても姉さんは全く答えてくれなかった それから姉さんは変わった。何かに追われる様に剣士としての腕を磨き、家に帰ってくることも少なくなった 私がノービスから剣士となる修練を終えた日から、姉さんは二度と家に帰って来なかった そして私も冒険者として修練を重ねていった。そうすれば何時か姉さんに会える気がしたから やがて私は剣士としての修練を全て終え、聖堂騎士となった   私が聖堂騎士となってから暫く経ったある日 北の森で大発生した魔物を退治したと言う派遣騎士団の凱旋があった 住人達から歓声を浴び、誇らしげに歩く姿はなんとも気持ちよさそうだった そんな中に唯一人、剣士の制服を着た人物が混じっていた 他の騎士達と違い、どこか辛そうな目をしている。最後に別れたあの時と同じように 間違いなく、姉さんだった だが追いかけようにも私は群集に押し流され、結局姉さんを見失ってしまった それから、風の噂で何度も姉さんの話を聞いた 人に害成す女王蟻を倒した、モロクの王の財宝を見つけた、魔王退治のPTに居た、等々 騎士叙勲を受けず数々の冒険をこなすその変わり者は、冒険者の間では有名だったらしい   あのスタート地点、そこで思いがけない顔を見つけた 間違いなく、姉さんだった。だが、憎しみの篭った瞳であのGMを見つめていただけで、私には気づいていないようだった その後声をかける間もなく、闇ポータルで各地に飛ばされ、私は聖堂騎士として動くことを決めた 弱いものをこのゲームから守り抜く。何時か、姉さんが私にしてくれたように きっと、この偽りの世界のどこかで姉さんもそうしているはずだから       だから…… だから、姉さんは誰かを守るために死んだんだろう 横では同じように放送を聞いた♂ローグが何か苛立たしげな顔をしている 多分、彼も誰か見知った人を失ったのだ。 そしてそれを顔に出さないようとしているのだ 私も今、彼のような顔をしているのだろうか?なんだか、妙に頬が熱い 「おねえちゃん、どうしたの?」 足元からアラームだと名乗る少女が心配そうに声をかけてきた 「泣いてるの?」 知らずに頬を流れていた熱いもの、それは涙だった だが、私には泣いている暇なんか無いのだ 「大丈夫だ、泣かないさ…」 少女にではなく自分にそう言い聞かせ、涙を拭い去る そうだ、姉さんが守れなかった分まで 私が、絶対にみんなを守りぬく   <♂ローグ組変化なし、第三回放送直後> ---- ||戻る||目次||進む ||[[125]].||[[Story]]||[[127]]. 127.貴方を追いかけて   私は少なからずショックを受けていた 死亡したプリーストは一緒に転職試験を受けた、いわば同期だった けれども所詮はそれだけの関係であとは教会への定例報告の際にたまに顔をあわせる程度でしかなかった ショックを受けたのはそこではなく それだけの関係でしかなかった人物の死に動揺しているという事実だ もしこれが深い関係の相手だったらどうだったのだろうか 「あのね…」 後ろを歩いている♂マジがぽつりぽつりと語り始める 「あたしっていつもこうなんだ、あいつに追いついたと思ったらあいつはもっと先に進んでしまっている」 いつもと変わらない口調で♂マジが言う けれども私はそれが怖かった 『真に絶望した者は取り乱したりなどしない、いつもと変わらず…だがその本質は確実に変質している』 誰かがそう言っていた、今の彼─いや彼女というべきか─はまさにソレではないのだろうか 「そうしたらまたあたしが追いかけて、もうこれの繰り返しよ……だけど」 背筋がゾクリとした、声音は変わらないというのにその陰に隠れた狂気が見えた気がしたから 「馬鹿馬鹿しいけどそれがあいつとあたしとの接点、だから追いかけなきゃ」 追いかけなきゃ…それの意味するところに気がついて私は慌てて振り向いた 「ま、待って!馬鹿な真似は…」 「い や よ、貴方が言ったんじゃない『自分の我儘をいかに巧く通すかが女の甲斐性』って、ね」 その楽しげな笑顔に一瞬悪魔プリは呆然とした その一瞬が生と死を別けた 悪魔プリが駆け寄るよりもわずかに早く♂マジの詠唱は完了したのだ 想い人を追いかける詠唱が。 <♂マジ 死亡> <悪魔プリ ♂マジの所持品引継ぎ> <残り24名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[126]].||[[Story]]||[[128]]. 128.♂ノビの戦い   ♀剣士からの手紙、その序文は今まで♀剣士が♂ノビに語ってきかせたもの、そして態度で教えてきたもの。 それらを言葉にした物であった。 『経験、知識、技術、これらは人が生きる為の工夫の一つにすぎない。 それらを支える心が強くなければ、全ては無用の長物と化す』 『現実を、それがどんなものであれ正確に受け止めろ。そして現実を把握する為の努力を怠るな』 『傲らず、さりとて卑屈にならず、常に心を平静に保て』 『それが出来ぬのなら、以下の文章は破りすてろ。そしてひたすらにその身を隠せ』 ♂ノビの文章を読む手が止まる。 ♂プリは♂ノビがその手紙を読み終える迄は少し離れた場所に居てくれると言っていた。 文章を読んでいると、まるで♀剣士が語りかけてくれているように思えた♂ノビだが、涙はもう出なかった。 「……ボクに……出来るかな?」 ♂ノビは自分を取り巻く現実を思い返してみる。 「…………」 そして今まで出会った人達の事を思い返してみる。 「…………」 彼らが何を思い、何を望んでいたか。そう考えた彼らがどう行動したか。 そんな中で、自分が出来た事は何で、何が出来なかったのか。 そして自分の望みが一体何なのか。 ♂ノビが立ち上がり空を見上げる。 作られたはずの空は、何処までも蒼く透き通り、ただまっすぐに♂ノビの視線を受け止めた。 時間が経ちすぎる事に心配した♂プリが戻る頃には、♂ノビは全ての文章を読み終えており、声をかける♂プリに笑みを返したのだった。 ♂ノビが旅支度を簡単に整え終わる。 既に理由を聞いている♂プリが再度不安げに♂ノビを呼び止める。 地面を指さし、そこに文字を書いて意志を伝える♂プリ。 『おい、ほんっっっっっとーーーーーーーーーにいいのか? 危険なんてもんじゃないぞその手』 ♂プリの言葉に♂ノビは同じく地面に文字を書いて答える。 『もちろんです、♂プリさんはここで待っていて下さい。今度こそ……ボクはここに仲間を集めますから!』 ♂ノビが♂プリに語った理由は説得力に満ちた内容であった。 そしてそれが勝利に繋がると考えられる、そんな内容であったのだ。 『わかった……だがな、その取引材料だけはすぐに出すんじゃないぞ。 それが目的で組まれても俺達の目的は果たせないんだからな』 ♂ノービスはうなずき、青箱から出したばかりの取引材料を軽く叩いてみせた。 そして♂ノビは移動を開始した。 すぐに誰かに出会えるとは思わない。 だが、今までの遭遇頻度を考えるとそれは一日と待たず来ると知っていた。 後は、それがどんな相手かだ。 そして森を行く♂ノビ、果たしてその前に現われたのはモンスター、アーチャースケルトン・バドスケであった。 てっきり人間が出ると思っていた♂ノビは驚きに目を大きく見開く。 バドスケはマンドリンを構え、いつでも必殺の一撃を放つべくしながら、周囲を警戒していた。 『ノービス? 冗談だろ? なんだってこんなのがまだ生き残ってんだ?』 バドスケの戸惑いから、即座の攻撃は喰らわずに済んだ♂ノビ。 ここからが正念場である。 「えーっと、そこのモンスターさん。話を聞いて下さい。ボクに戦う意志はありません」 そんな♂ノビの言葉にも一切警戒を解こうとしないバドスケ。 しかし、♂ノビは落胆した風も無く次の行動に移った。 ゆっくりと、出来るだけゆっくりと後ろに背負ったバッグから大きな板を取り出す。 そこには、♀剣士から伝えられたこのゲームの真実の姿が書かれていた。 『 言葉は、その全てがGMの管轄内にある。だが、記された文字はその限りではない。   このゲームを内より破壊する手段は存在しえない。   首輪はGMの任意にて爆破可能。   外部との通信手段はただ一つ。 アルデバラン時計塔最上階の中央部にある制御装置のみ GMは、装備技術能力知識の全てが常軌を逸しているが、決して倒せぬ相手ではない』 驚くバドスケに、♂ノビは続ける。 「ボクと一緒に戦いませんか?」 これが♂ノビの考えに考え抜いた結果出した戦い方である。 ノービス故に攻撃能力が低く、戦闘時の撃破優先度が低い。 話を聞いてもらう、他者を説得するにこれ以上の適職はありえない。 後は、話す内容が説得に足る物であるかどうか? そしてその時、相手に警戒されずにGMに感づかれずに事を進める工夫はどうするか? 予想される反論の為の返答も考えてある。 バドスケもそれに気付いたのか、即座に地面に文字を書く。 「上から三番目と一番下が矛盾しているぞ」 ♂ノビも即座に切り返す。 『任意、これは念じただけで即座に爆破可能という事ではありません。とても可能性は低いですが、GM撃破は可能です』 バドスケはこの内容に興味を持ってくれたようだ。♂ノビはここぞとばかりに畳みかける。 「現状でボクが知っている事はこれが全てです。 けど! きっとこれとは別の知識を持っている人がいるはずです! そしてそれは増えた人数分だけその可能性が上がるはずなんです!」 最後に、♂ノビが自身の考える結論を述べる。 「GMの言葉は、信用出来ません。残った最後の一人を生かして返さない理由はあっても、生かして返す理由はありませんから」 バドスケは天を仰ぐ。そして言葉に出して言った。 「お前……すげぇよ……本気でそう思う。俺なんかじゃ考えもつかなかった……」 ♂ノビはバドスケの言葉に喜びを顕わにする。 「じゃあ! 協力してもらえ……」 バドスケは躊躇無くそのマンドリンを弾いた。 「だからこそてめーに生きてられちゃ困るんだよ!」 マンドリンが生んだ殺人音波は♂ノビの持つ板を真っ二つに割き、後ろの♂ノビの腹部を大きく切り裂いた。 ♂ノビはその場に倒れ臥し、信じられないといった表情でバドスケを見る。 バドスケの骸骨の顔からその表情を見て取る事は出来なかった。 「すまねぇ……すまねぇ……俺は……ちくしょうっ!」 再度マンドリンを構えてトドメを刺さんとするバドスケ。 だが、♂ノビは這いずりながらも、バドスケに向かう。 「……お願いします……戦って……みんなの為にも…………あなた自身の為にも……」 「ばっかやろう! 逃げるんじゃねーのかよてめーは!」 「戦って……でないと……本当の意味であなたは生きて……いけない……」 「うるせー! うるせー! うるせーーーーーー!! それでも俺にはあいつを助ける事しかできねーんだよ!」 マンドリンにかけた指が震える。力を込め、いつもの通りに曲を奏でようとするが音は出なかった。 「なんだよ!? なんで音がでねーんだよ! 俺はどいつもこいつも殺して回るって決めたんじゃねーかよ!」 ♂ノビは少しづつ、少しづつバドスケに近づく。 「辛くても……苦しくても……きっとそれが……あなたの」 「く、来るなーーーーーー!!」 バドスケは一歩、一歩と後ろに下がると、ついに耐えきれなくなったのか、その場を走り去ったのだった。 ♂ノビは、腹部を襲う激痛と戦っていた。 それが致命傷なのかどうなのか自分ではよくわからない。でも正直、結構ヤバイと思った。 だが、襲い来る死の恐怖に屈するのは、あの人と共に生きた者として、決して許される行為ではなかったのだ。 『痛いよ……痛いよ……ボク死んじゃうよ……』 心の中で泣き言を言いながら、生きるために地面を這いずる。 そこに、一部始終を見ていた♀アサシンが現われたのだ。 「あんたも大した根性だったけどね。ま、運が悪かったと思いなさい……で、私はその上前をいただくと♪ こーんどこそ武器かもーん!」 ♂ノビのバッグを漁ろうと近づく♀アサシン。 ♂ノビは♀アサを見つけると、這いずるのを止めて、足下に転がっているはずの物に手を伸ばす。 鼻歌交じりの♀アサだったが、♂ノビの奇妙な行動に気付いてそちらを見る。 ♂ノビは仰向けになり、二つに割れた板を一つに合わせて、それを空に向けていた。 「……こ、これを……見て……ください……ボク達と一緒に……戦って……」 ♀アサは遠目にそれを斜め読みするが、即座に判断を下す。 「私、人とつるむの好きじゃないの。それにこういっちゃなんだけど、あんたもう手遅れじゃない?」 「ボクは……死にません。この戦いが終わるまで……決してボクは……だから、お願いし……」 そこまでが♂ノビの限界であった。 二枚の板は、♂ノビの上に落ち、彼の目から光が消えた。 ♀アサはそれを確認すると、最早興味も無いといわんばかりにバッグを手に取る。 そして中から出てきた物を見た瞬間、歓喜にまみれ、そして直後に愕然とする。 「おおおっ! これぞ私の求めてたジュルじゃないー! ん〜〜ノービス君エライ! 君、引き良すぎよ♪ ……ってカードが刺さってる?」 TCJ(トリプルクリティカルジュル) ♀アサはその武器を手に持ったまま硬直してしまう。 「嘘でしょ……ここで……このタイミングで、この武器が、あのノービス君のバッグから出てくる?」 アサシンなら誰もが知っている物語。 アサシン黎明期に生まれたという『あるアサシンの物語』 アサシンの誇りと夢を、先人達はこの武器に託し、そして受け継いでいったのだ。 人を殺す事を生業とする忌まわしき職業に、誇りを持ち、そして夢を賭けた人達。 そんな先人達の研究、戦いこそが今のアサシンの技術を支えている事、アサシンならば知らぬ者は居ない。 「ふざけんじゃないわよ……なんだってよりにもよって私に……他にもっと……らしい人居たでしょ! あーもう腹が立つわね!」 有り得ない展開にTCJを持ったままその辺をうろうろと歩き回る♀アサ。 「あんたねー! 大体ノービスのくせに私の行動制限しよーなんて生意気なのよ!!」 怒りの矛先は♂ノビへと向かったらしい。 「生きてたら容赦なく殺してる所よ! それをこんな……こんな真似……バカ」 不意に物陰から大声が聞こえる。 「♂ノビっ! おい! しっかりしろ!」 慌てて♂ノビに駆け寄ったのは、心配で後を追って来た♂プリーストである。 脈を取り、死んだのを確認すると悲嘆にくれるが、すぐに♀アサへと憎しみの目を向ける。 「お前か……お前がーーーーーー!!」 直後に、怒りの♂プリ以上の大声で怒鳴り返される。 「ばっかじゃないのアンタ! ノービス君の傷は衝撃波の傷!  私の武器は刃物! そのぐらいプリーストなら一発で見分けなさいよ!」 極めて鋭い傷である事は双方一緒である。 これを一発で見抜けというのは酷であろう。だが、♀アサは更にまくしたてた。 「大体ね! あんたも保護者ならちゃんと保護しときなさいよ! こんなバカで抜け作で脳天気でお人好しのノービスが……まったく……頭に来るわねっ!」 ♂プリはあまりの剣幕に目をぱちくりさせている。 ♀アサは少しそっぽを向きながらぼそっと言った。 「……そのノービス君。一緒に戦ってって言ってた。 だから私はそうする。あんたノービス君の仲間なんでしょ?」 ♂プリは驚いて♀アサと♂ノビを交互に見る。 ♀アサはそっぽを向きながらTCJをその両腕にはめた。 「これと一緒に託された想い……アサシンが齟齬に出来る訳無いのよっ! わかった!?」 ♂プリは、涙がこぼれそうになるのを堪えるのに必死だった。 『♂ノビ……お前の想いは伝わったぞ! 俺も……もう迷ったりしないっ!』 二人は♂ノビを埋葬すると進路を北にとる。 目指すはアルデバラン時計塔。 そして出際に♀アサは♂プリに言った。 「ねえ、一つ聞いていい?」 「なんだ?」 「……そのノービス君の持ってた板。大切な事書いてあるんでしょ? 何が書いてあるか聞いていい?」 「は? お前もしかして読んで無いのか?」 ♀アサはしばらくじーっと黙った後、下を向いて頬を赤くしながら言った。 「私……字読めないもん」 直後、♂プリはとんでもない目眩に襲われたのだった。 一応、♂プリが大事な事を口で話す事が危険という事だけ、♀アサに必死のジェスチャーで伝える事は出来たが、 それ以上は彼の体力が持たないのでそこまでで伝達は諦めたのであった。   <♂ノビ死亡> <♂プリ、♀アサと合流> <♀アサTCJ(トリプルクリティカルジュル)入手> <特殊設定:♀アサは文盲> <残り23名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[127]].||[[Story]]||[[129]]. 129.闇へと消えている記憶   ♂BSはむっくりと起き上がった 「・・・・・・」 左手がなくなっているな、まあいい。 左手を損失したがあまり気にしないそぶりで再び獲物を探し歩き出す。 探知機を見ると近くに人はいないようなので場所を変えることにした (♂WIZと♀ローグのハイドを見破ったのは実は探知機を持っていたらしい) 「・・・・一つ思い出した」 そういえば俺にはたしかかけがえのない大事な人がいた・・・誰だったか? まあいいや、忘れた…。 <♂BS所持品、探知機所持していた> ---- ||戻る||目次||進む ||[[128]].||[[Story]]||[[130]]. 130.笑う男   ♂ローグ達はアルデバランに向かって歩いていた、そこに一人の男が寝ている 事に気づいた 「おい……こいつ、寝てるのか?死んで…はいないよな?無傷のようだし」 よくみると男はセージのようだった、満面の笑みでイエロージェムストーンを 散らばせたまま倒れている 「ちょっと待っていろ……脈拍がない、死んでいる」 ♀クルセが生死を確認したところやはり死んでいるようだ。 「うーん・・・安らかな寝顔ね、何かいいことであったのかしら?」 「多分油で何かをしようとしたところインスタントデスが出て死んだんだな」 そんなことを話しながら♂セージの死体の周りに散らばるイエロージェムストーンを ♂ローグは集めていた 「何かの役に立つかもしれないからもらっておこうぜ。…ん、これは?」 ♂セージの所有物から大きな箱が出てきた 「お、こいつまだ空けてなかったのか、ちょうどいい、こいつの中身も頂いておくか」 ♂ローグは♂セージの持っていた箱を開けてみた 「お、こいつが…、おいクルセさんよ。お前剣使えるよな?」 「ああ、一応剣の修行もいろいろしてきたからな」 「ならこいつ持っておけ、今確か何も武器持ってなかっただろう」 そう言うと♂ローグは♀クルセに海東剣を投げた 「ふむ、海東剣か、悪くない」 一通り持ち物を回収するとローグ達は満面の笑みで死んでいるセージを後 にし再びアルデバランの方向へ歩き出した 「そういえばもう赤いも峠は禁止エリアだったよな?それにアルデバランも 禁止エリアになったはずだ、今更アルデバラン目指す必要もないんじゃないか?」 ♂ローグは♀クルセに問いた 「ふむ、でも人と待ち合わせしてるからな、アルデバランの街中で約束してたが  もしかしたら町の外で待ってる可能性もある」 「なるほど、で赤いも峠を越えないでどうやってアルデバランへ行こうって  言うんだ?」 「うーん……それは…」 「ならばプロ北の迷宮の森を抜けていけばいいではないか?」 子バフォがそう提案した 「その手があったか、たしかあそこの森からはアルデバラン付近の森と つながっていたはずだ」 「あそこはわしにとっては庭みたいなものだ、道案内ならまかせておけ」 子バフォはそう胸を張った 「そうか、ならまかせるぜ」 ローグ達は迷宮の森を抜けてアルデバランへ向かうことにした。 <♀クルセ、海東剣獲得> ---- ||戻る||目次||進む ||[[129]].||[[Story]]||[[131]]. 131.狩人の思惑   しんと静まり返った森の奥深くに血走った眼をギラつかせて ♀ハンタは仮初の休息をとっていた。 「あのクソ♀騎士・・・あいつだけは絶対私が殺してやるから」 怒りの表情を浮かばせた向かってきた♀騎士の顔を思い出すだけで吐き気が込み上げる。 鞄から取り出したお粗末な食事を水で無理矢理喉に流し込む。 とてもじゃないが飢えを癒す気分ではない。 しかし今は体力を回復させ苛立った気分を落ち着かせなければ あの女を殺すどころか別の参加者に倒される事になる。 落ち着け…そして考えろ。 最後の一口をろくに噛まずに飲み込みそのまま目を閉じる。 私は冷静沈着な狩人だ常に上位にいなければいけない。 あくまでも狩る側に立たなければ…獲物なんてもってのほかだ。 精神を集中させろ…私が見るのは敵の心臓のただ一点だけだ。 ♀騎士の返り血を全身に浴びながら敗者の頂点で勝利の高笑いをあげるのはこの私だけ。 そこまで思考を巡らせてから目を開けると 名簿をめくり気違い女にコールされた名前を消していく。 意外にも一次職の残りが多い。 これはパーティーを組んでいると考えてよい。 少なくともプリーストかアコライトの回復職が混じっている可能性は高い 。 メンバー次第では潜り込むのもいいかもしれない。 勝利者になる為ならなんだってやってやるわ…。 ふっと自嘲気味に笑みを漏らすと名簿を鞄に突っ込み立ち上がる。 このまま森の中を移動しても意味が無い。 道に近いところまで出て多少外のことが見える位置にいないと… 薄暗い木立を抜け日の光が射す方向へと歩を進める。 枝葉の間から声が聞こえる。 さっと姿勢を低くして声の方向へ目を凝らす。 視線の先にあるのは数人のパーティー♀騎士はどうやらいないようだ。 暢気な事に笑い声まで聞こえてくる。 こんな危険な世界で大声を出しているのはただのバカかよっぽどのお人よしだ ♀ハンタはベルトに括り付けられたグラディウスを抜き出すと 自分の衣服に手をかけた………。 <♀ハンター 所持品:手製の弓、グラディウス> ---- ||戻る||目次||進む ||[[130]].||[[Story]]||[[132]]. 132.迷宮の森   プロンテラ北に位置するそのダンジョンは通称「迷宮の森」と呼ばれている。 どんなに方向感覚に優れている者でも、自らの位置を把握しそこねる。 それは例え何らかの手段で自身の現在位置を正確に把握出来る者でもだ。 ♂BSはとても迷っていた。 「…………」 そこに何者かが入るのに気付いた♂BSは、迷うことなく森に入り、見事完全に迷ってしまった。 「…………」 困った。彼はこのゲームに参加して以来初めてそう思ったのであった。 バフォメットJrが先行して案内する迷宮の森は、極めて快適な旅となった。 「ほっほ〜。お前でも役に立つ事あるんだな」 珍しく感心した♂ローグの言葉にバフォメットJrはJTで答える。 すぐ側の木が轟音と共に倒れ、♂ローグは表情をひきつらせる。 「ふむ、確かにここを迷うこと無く突破出来たのは私も初めてだ。見事だぞバフォメットJr」 追撃を考えていたバフォメットJrだが、♀クルセのフォローだかなんだかわからない言葉にあっさりと機嫌を直す。 「無論だ。我の力を持ってすればこの程度の事、下品な♂ローグを粉砕するより容易いわ」 ♂ローグは瞬時に反撃に出ようとするが、今度は♀アチャが口を出す。 「ねえねえ、ここって君の庭なんでしょ? そしたら何かおもしろい所とか知らない?」 ♀アチャのその不真面目な態度は♂ローグを憤慨させるが、機嫌の良いバフォメットJrは気分良く答える。 「ふむ。では水浴び場というのはどうか?  そこの水は不思議でな、見た目は普通の泉なのだが、なんとそこからは暖かい水がわき出て来るのだ」 バフォメットJrの言葉に♀アチャは飛び上がって喜ぶ。 「温泉!? 本当にあるの!」 わからないという顔をしているアラームに♀クルセが丁寧に説明してやると、アラームも興味津々の模様だ。 「そうかそうか、気に入ったか。ならば道すがらだ、案内しようぞ」 今にも罵声を上げそうな♂ローグを♀クルセがなだめる。 曰く、皆疲れが溜まっている。 ♀アチャの怪我の事もあるし、今休憩を取るのは悪い事ではない、と。 「わーい! 本当にあったか〜い♪」 温泉は初めてというアラームがはしゃぎながら泉の中を駆け回る。 「ん〜、きっもちいい〜。ここ来てお風呂なんて入った事無かったからもーさいっこう♪ Jr君に大感謝♪」 お湯に浸かりながら♀アチャは抱えているバフォメットJrの頭を撫でそう言うと、バフォメットJrも嬉しそうに答えた。 「ははははは、我も久しぶりである。懐かしいな……おお、♀クルセ殿も遠慮せずに入るが良い。敵への備えはあの者がしておるゆえ気にするでない」 もちろん、♂ローグは離れた所でお留守番である。♀クルセは苦笑しながら、泉に入る。 スカートを降ろし、上着を脱ぐ。 一々きちんと畳んでいる辺りとても几帳面なその性格が伺える。 そんな♀クルセを見て、♀アチャは感嘆の声を上げる。 「うっわ〜。♀クルセさん着やせするタイプだったんだ〜。いいな〜いいな〜いいな〜……そ、それに引き替え私は……」 ♀クルセはそういう♀アチャに苦笑いで返す。 「勘弁してくれ。訓練の時、同僚に散々それでからかわれたのだから」 泉に入ると、すぐにアラームが♀クルセに飛びついてくる。 「わーい! ♀クルセさんもー!」 簡単にそれを抱き止める♀クルセ。 「こらこら、はしたないぞ。ほら、ゆっくり湯船につかって……じっとして数を数えるのだ。い〜ち、に〜……」 アラームは♀クルセの真似をして、湯船に肩までつかると元気に数を数える。 「さ〜ん♪ し〜♪ ご〜♪」 ♀アチャも楽しそうにそれに続く。 「ろ〜く♪ しーち♪」 バフォメットJrが♀アチャの腕の中で幸せそーに言う。 「はーち、きゅー」 『じゅー!』 ♂ローグは大層不満気にたばこをふかしていた。 「……大体だな、なんだって子バフォの奴ぁOKで俺はダメなんだ?」 すぐに頭をぶるんぶるん振る。 「ちっげーだろ! 俺はそもそも覗くなんてヘボな真似するぐらいだったら速攻押し倒してだな!」 そして頭を抱える。 「……あんな面倒な奴ら押し倒すなんざゴメン被る。商売女相手の方が遙かに楽だ」 そんな事をぶつぶつと言っている♂ローグは不意に自らの気配を消す。 森の奥、そこに一瞬見えたその姿を忘れる事なぞ出来ようはずもない。 「嘘だろ? なんだってあのクソ墨がこんな所に……」 ♂BSもすぐに♂ローグに気付き、♂ローグ目指して駆け寄ってくるが、ここは迷いの森である。 視界が通っているにも関わらず、♂BSは♂ローグをあっさりと見失ってしまった。 温泉のある場所は奥まった所にある。 今♂ローグが居る場所からでないと近づく事は出来ない。 ならば、♂BSが近くに現われた時に♂ローグが別の方向へ誘導すれば、あいつらは無事にやり過ごせるであろう。 腹をくくった♂ローグは周囲への警戒を強めながら、その場に立ち上がる。 いつ来るか? その瞬間を見誤れば♂ローグの命は無い。 一瞬たりとも気を抜けない。時間が過ぎるのが妙に長く感じる♂ローグだったが、幸い♂BSが♂ローグを捕捉する事は無かった。 温泉を満喫した女達が戻り、♀アチャが陽気に♂ローグに声をかける。 「やっほー♪ 温泉最高だったわよ〜。こっちは終わったからあんたも入ってきなさいよ♪」 その声で、♂ローグは脱力したようにその場にへたりこんでしまった。 事情を説明した♂ローグの指示に従って、全員すぐに迷宮の森を抜け出した。 今日はここまでと、出た先でキャンプを張り、♀アチャはたきぎを集めに行き、バフォメットJrもそれに付き合ってこの場を離れる。 ♀クルセも、少し周囲を探ってくると言いその場を離れる。 全員、♂ローグが貧乏くじを引いた事に負い目を感じているらしい。 「……ふん」 温泉に興味はなかったが、楽が出来るというのであればそれに越した事は無い。 そう考えた♂ローグはたばこに火を付けて、のんびりさせてもらう事にした。 そのすぐ隣にアラームがちょこんと座る。 「ねえお兄ちゃん、怒ってる? 温泉入れなかったから怒ってる?」 迷宮の森の中からアラームはずーっとこの調子だ。 「温泉きもちいいから、お兄ちゃんも入りたかったよね? ごめんね、ごめんね」 面倒なので放っておいているが、いつまでもいつまでも繰り返すので、しょうがなく返事する。 「別に怒ってねえよ。温泉なんぞ興味もねえしな」 「温泉きもちいいよ? でも、♀アチャのおねえちゃんがおにいちゃんと一緒に入ったらダメだって……」 返事してもこの調子である。 鬱陶しさの余り、怒鳴りつけてやろうかと♂ローグが考えていると、アラームは不意に何かを思いついたようだ。 「そうだ! 今度私とお兄ちゃんの二人でお風呂入ろうよ! それなら♀アチャのおねえちゃんも怒らないよ♪」 吸いかけのタバコを吹き出す♂ローグ。 「えへへ、私♀クルセのおねえちゃんにお背中流してもらったから、おにいちゃんのお背中は私が流してあげるね♪」 目眩が止まらない♂ローグ。 思いっきり怒鳴りつけて二度とこんなふざけた事言わないようにしてやりたいが、それをやると後が恐いので必死に堪える。 「あ、ああ。そうだな。もし仮に何かの間違いで次なんてもんがあったら頼むわ」 すんげー適当にあいづちを打つ。 同時に近くで物音がする。 ふと振り向くと、たきぎを足下に落している♀アチャの姿がそこにあった。 「おう、やっと戻ったか。いいから早くこいつの相手を代って……」 みなまで言わせず猛然とダッシュしてくる♀アチャ。 「こんのド変態がーーーーーーーー!!」 勢いをつけての鉄拳制裁。♂ローグは縦に転がりながら、木の幹に激突。 そこから垂れている蔦に逆さまにからまって身動きが取れなくなってしまった。 色んな意味で頭に血が上る♂ローグ。だが、動けない上に、痛すぎて言葉が出ない。 ふとその体勢の♂ローグが見下ろすと同じく見下ろしている♀クルセと目線があった。 「……そこに居たのかてめぇ。どっから見てやがった?」 笑いを堪えきれない様子の♀クルセ。 「一緒にお風呂云々の所か。しかし、お前も災難が続くな」 「人事みたいに言うんじゃねえ。見てたんなら助けろバカヤロウ」 「いやはや、子供をあやすのも大人の仕事だ。なかなか達者になってきたではないか」 「褒めてるつもりかそりゃ。ケンカ売ってるようにしか聞こえねーぞ」 ♂ローグに絡まってる蔦を外しながら、♀クルセは言う。 「♂ローグよ、お前には感謝の言葉も無い」 ♀クルセの不意打ちに、♂ローグは素っ頓狂な声をあげる。 「は? いきなり何言い出すんだお前?」 「私達がこうして今、居られるのも皆お前のおかげだ。 そして先の見えないこの現状に絶望していないのも……お前がお前のままで居てくれるから。 何処までいっても、何をしててもお前がお前で居てくれるから」 ♂ローグは目を大きく見開いて言葉も出ない。 ♀クルセは柔和な顔で♂ローグを見つめる。 「お前は♂BSが相手の時も、そしてこうして皆で騒いでいる時も、変わらずずっとお前のままでいてくれる。 それが、とても安心出来る……」 ふいっと後ろを向く♂ローグ。 「お前の感想なんて知るかよ。俺は俺、いつだってそーだ。んなもん当り前じゃねーか」 小さく吹き出す♀クルセ。 「照れ屋な所も、お前だな」 「どやかましい!」 そんな♂ローグの背中、そして突き放すような話し方。 それは、かつて自分が憧れた聖騎士のそれとはまるで違う物であるが、その時に似た感情を♀クルセにもたらす。 『……なんであろう? 胸が……少し苦しい……だが、それは……決して不快なものではない』 <ローグPT迷宮の森を抜ける> ---- ||戻る||目次||進む ||[[131]].||[[Story]]||[[133]]. 133.道ヲ求メル者   その二人はすでに満身創痍で地べたに横たわっていた だが、その顔に浮かぶのは達成感による喜びであった 「この毛艶、筋肉の張り、食欲、どれをとっても今まで見たペコペコの中でも最高級だ、そうは思わないかクルセの」 「まったくだな騎士の」 感涙に咽ぶ二人の飼育係を気にもせずペコペコはペットフードを啄んでいる 「だが、判っているなクルセの」 「おうよ、確かにここまでは我ら二人の力を併せて為してきたことだ」 言うと同時に二人は気力を振り絞り立ち上がり相対する 「「だが」」 「我らは騎乗用ペコペコを飼育管理する者!」 「優れた乗り手無しで最高のペコペコたる道理無し!」 二人の理想はある一点においては同じであったがまたある一点において決して交わることのないものであった 「どうしても曲げることは出来ないのか?クルセの」 「それはお互いさまだろう?騎士の」 「愚問!俺にとって最高の乗り手は騎士子でありあのふとももこそが至上!」 「俺もクルセ子を至高の乗り手とする考えは変えられぬ、重鎧と細身の身体のギャップが織り成すペコとのハーモニーをな!」 愚直なまでに真っ直ぐにお互いの視線を捕らえる 「お互い大馬鹿者だな」 「まったくだ」 そしてお互い相手を屠る為の構えをとる 片方はあたかもペコペコの翼のごとく両の腕を大きく広げ もう片方はあたかもペコペコの嘴のごとく手の平を合わせ体の前に突き出す 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 卆丹九部蝋(そにっくぶろう) それは古代フェイヨンの伝説的な格闘家"幣・弧"がペコペコの動作を取り入れ編み出した絶掌十六技の一つである それは強力な破壊力を持った奥義ではあるが、使用者にかかる負担も大きく、使用者までもが命の危険性がある 尚、暗殺者が使うソニックブロウはこの卆丹九部蝋を暗殺者が研究し威力を抑え比較的安全なものに発展させたものであると言われている 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「うはwwwww黒須過雲多!!」 「あー脈はあるみたいだ、まぁでも応急手当くらいはしないと……アコ君深淵さんちょっと手伝ってください……って!深淵の騎士子さん?」 助力を頼もうと振り向いた♂アルケミストが見たものは呆っとペコペコを見つめる深淵の騎士子だった その瞳はまるで初恋の相手を見つめる乙女のようでもあった <ペコペコ管理兵[騎士]&[クルセ] 気絶> <♂アコライト&♂アルケミスト 状況変わらず> <深淵の騎士子 ペコペコに胸キュン> ---- ||戻る||目次||進む ||[[132]].||[[Story]]||[[134]]. 134.悪魔対悪女   ♂マジの遺体を埋葬する悪魔プリ。 だが、♂マジの行為を責める気は起きなかった。 『私だって……同じですから』 思い人を無くした時の絶望はそれを味わった者にしかわからない。 自分の場合はすれ違いと勘違いの為せる技であったが、彼女の場合はそうではなかったのだから。 「ふふっ……いつのまにか私、彼の事を彼女って思ってます。……でも、確かに彼は彼女でした」 埋葬が終わり、祈りを捧げる悪魔プリ。 それは悪魔プリにとって、いや全てのプリーストにとって欠かすことの出来ない行為であるが故に、容易に予測可能の絶対的な隙となってしまったのだ。 「ひうっ!?」 背中に短刀を突き立てられる悪魔プリ。 それを為した♀ローグは、力一杯その突き刺さった短刀、ダマスカスを下に押し下げ、悪魔プリの背中を縦に引き裂く。 悪魔プリは即座に護身の為の行動に移る。 速度増加を唱え、振り向きもせずに一直線にその場を離れる悪魔プリ。 追いすがる♀ローグだったが、スキルの効果か少しづつ距離を離される。 舌打ちすると、その場に立ち止まる♀ローグであったが、その気配を感じるなり悪魔プリもその場に立ち止まり、初めてそこで振り返った。 「ローグさん……ですか。いきなり何をするのですか?」 背中の傷口からは絶え間なく血が流れ、少し青い顔をしているが悪魔プリは厳しい表情でそう言った。 ♀ローグはそんな悪魔プリをせせら笑う。 「何をする? 戦場でやる事なんて決まってるでしょ?」 「私はここを戦場などと思っておりません」 「それはあなたの勝手。そこの♂マジが自殺するのも、私があなたを殺すのも勝手。いいじゃない、みんなそれで望みが果たせてるんだから」 悪魔プリは敢えて返事はしなかった。タブレットを構えると自らに各種支援スキルを唱える。 「キリエエルレイソン、ブレス、イムポシティオマヌス、ヒール!」 一気にそこまで唱えるが、それ以上は♀ローグが許さなかった。 心の中で舌打ちしながら、バックステップで一瞬にして間合いを詰める♀ローグ。 『ちっ、やっぱり殴りね。さっきの動きといい……前衛慣れしてるわね』 キリエ越しに斬りつける♀ローグ、キリエには限界があると知っての事だが、その間に悪魔プリはグロリアまできっちり唱え終わる。 悪魔プリの腕がどれほどの物か? 試す意味もあった正面からの斬り合いであるが、すぐに♀ローグは形勢不利との判断を下す。 現状は互角の斬り合いをしていられるが、相手には回復能力がある。 先制攻撃の分があるにしても、長期戦は不利だ。 そう考えた♀ローグは、眼前でトンネルドライブを敢行。悪魔プリの一瞬の隙に賭けるが、間髪入れない悪魔プリのルアフに後ろに回り込みきれない。 逆に、背後を見せる形になってしまった♀ローグの後頭部にタブレットの一撃が加えられる。 「ぐっ!」 僅かな悲鳴をあげて、地面を転がる♀ローグ。 しかし好機にも関わらず悪魔プリは畳みかけるような真似はしない。 あくまで落ち着いてキリエ、そしてヒールを二回程自分にかける。 それを見た♀ローグの全身を冷汗が流れる。 『マズイわね、こいつ相当な手練れよ……』 だが、同時に沸き起こる黒い情熱。 「でも……いいわよあなた……殺し合いなんだから……こーでなくっちゃね!」 立ち上がって目線の位置に短剣を構えると、すぐに悪魔プリに駆け寄る♀ローグ。 悪魔プリはタブレットを構えて迎え撃つ。 ダマスカスがタブレットに当り火花を散らす、それと同時に♀ローグはいつのまにか手にしていた砂の塊を悪魔プリに向けて投げつけた。 『!?』 顔面全体に砂を撒かれる悪魔プリ、しかし半眼になりながらも♀ローグから目を離す事はしない。 その♀ローグの姿が視界からかき消える。 『同じ手をっ!』 ルアフを使い、衝撃音と共に♀ローグの姿が現われる……はずであったのだが、何処にも♀ローグは見えない。 正面には居ない、という事はバックスタブ狙いと読んだ悪魔プリは後ろも見ずにタブレットを真後ろに向けて振るう。 そして、タブレットが悪魔プリの真横まで振られた時、悪魔プリは自分の失敗に気付いた。 ♀ローグは姿勢を思いっきり低くし、悪魔プリの真正面膝下の高さまで頭を落して、そこに四つんばいになっていたのだ。 『引っかかったわね!』 だが、そこでも♀ローグは直接攻撃に移らない。 狙いは無造作に振り回されているタブレット。不意をつけた事でそれは簡単にはじき飛ばす事が出来た。 悪魔プリは即座にタブレットを諦めると、タブレットを持っていた手で♀ローグの腕を掴む。 そして逆の手で♀ローグの襟をひっつかむと、♀ローグの体を腰に乗せ背負い投げの要領で投げ飛ばす。 ♀ローグは腕を捕まれた瞬間に、悪魔プリの動きを察して地面を強く蹴る。 そして空中で大きく弧を描くように半回転すると、足から着地。 無防備な悪魔プリの首をダマスカスで狙うが、それはあっさりとキリエに弾かれた。 お返しとばかりに悪魔プリは左ストレートから右ローキックのコンビネーションを放つが、♀ローグは大きく後ろに飛んでこれをかわす。 一気に間合いを詰めるべく踏み込む悪魔プリ。♀ローグもそれに対するべくダマスカスを構えるが、悪魔プリは数歩進んだ所で立ち止まる。 『?』 ♀ローグがその意図に気付かず怪訝な顔をするが、すぐに悪魔プリの意図に気付いた。 くるくると空中を舞っていたタブレットを見事片手でキャッチした悪魔プリは、変わらず厳しい表情のままで♀ローグを睨み付けるのだった。 ♀ローグは悪魔プリの動きに舌を巻く。 『的確で俊敏な状況判断、そして完璧に近い体捌き……最高よあなた』 対する悪魔プリは冷静そのものの目で♀ローグを見る。 『戦闘の組み立てがうまいとかそんなんじゃ無いですね……この子、とんでもなく戦闘慣れしてます』 不意に♀ローグが悪魔プリに声をかける。 「ねえ、あんた強いじゃない。今まで何人ぐらい殺した?」 悪魔プリは油断無く構えながら答えた。 「一人も。あなたは?」 「三人。まともに勝負になったのはあなたが初めてよ」 「不意打ちしかけておいて、まともな勝負も何も無いと思いますが」 「不意打ちも勝負の内よ。だからこんなにフィールド広くとってあるんでしょうに」 「ヒドイ言いぐさですね。……みんなで助け合ってここを出ようとは思わなかったのですか?」 「思わない。だって楽しくない? 誰が一番強いか知りたくない?」 悪魔プリは嘆息する。 「あなた、少し頭冷やしたらどうですか? こんな状況のせいで判断能力が著しく低下しているように思われますが」 ♀ローグはからからと笑う。 「そうね、本来なら戦闘がもつれた段階で一度引いて、次の機会を待つべきなんでしょうけど……熱くなりすぎたわね、もうこれ止まりそうもないわ」 「……残念です。それにどうやらあなたは決して見逃して良い相手では無いようですし、あなたが嫌と言ってもここで決着を付けさせていただきます」 ♀ローグがからかう様に言う。 「あらら、プリースト様とも思えないお言葉ね」 「私は殴りプリーストですから。まだ見ぬ誰かを守る為に……その敵を倒します!」 悪魔プリがタブレットを手に♀ローグへと殴りかかる。 ♀ローグは地面に片手をついた低い姿勢でそれを迎え撃つ。 悪魔プリは隙の無い踏み込みからの、一番かわしずらい正中線、体の中心部を狙った攻撃を繰り出す。 だが、♀ローグはそれを一切かわそうとせずに、そのまま地面に向かってインベナムを放つ。 頭頂部にタブレットの直撃を喰らい、♀ローグの頭部から赤黒い血が噴き出すが、それと同時に二人の周囲に撒き上がる毒混じりの土煙。 『なっ!? これじゃあなたも毒の効果を受けますよ!』 ♀ローグの自爆技に戸惑う悪魔プリ。 だが、♀ローグは一切の躊躇無くこれを行い、そして毒で悪魔プリの視界が悪くなった瞬間を見計らってなんと、悪魔プリの股下をくぐってみせたのだ。 『しまっ……』 悪魔プリがしてやられたと思ったその時には、股下をくぐり終えた♀ローグが逆手に持ったダマスカスを振り返りもせず後ろ向きのままで悪魔プリの背中に突き立てていたのだった。 「ああああぁぁぁ!!」 叫び声と共に突き刺さったダマスカスを上に向かって切り上げる。 悪魔プリのキリエは、既にその防御限界を超えていたようだった。 俯せに倒れ伏す悪魔プリ。 それを見下ろしながら♀ローグは荒い息を漏らして言った。 「冷静に的確に動く奴はね。冷静で無い、的確でも無い動きは予想出来ないものよ」 自らに解毒を施し、倒れる悪魔プリのバッグから赤ポーションを数個抜き取ると一息に飲み干す。 「一応、後のフォローも考えてあるしね。じゃねプリさん、あなた今まで出会った奴の中で一番楽しかったわよ」 しれーっと悪魔プリの青箱を奪いながら、♀ローグはその場を後にしたのだった。 <悪魔プリ死亡> <♀ローグ 大青箱入手> <残り22名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[133]].||[[Story]]||[[135]]. 135.♀騎士、発見   「よし、今回のヒールで全快するな。よく騒ぎもせずに、痛みに耐えていてくれたな。」 DOPはそう言ってねぎらい、首をなででやった。 深遠の馬は嬉しそうに小さくいなないて、それに応える。 一両日ほど前にDOPは、♂剣士とコンビを組んだらしいプリースト(姿は確認できなかった)との戦闘を 不利とみて離脱し西に向かったのだが。 深遠の馬が、戦闘による負傷や移動でかなり疲弊していた為に移動を断念し。 「蛇の森砂漠」から東に引き返し、「さすらい森」で身を潜めて回復に努めていたのだ。 GMによりその強大な能力のほとんどを抑制されてしまっているので、ヒールの効果も微々たる物。 回数もそう多く使えない。魔力の回復を待っては、ヒールをかけ、また回復を待つ。 幾度も幾度も繰り返して、ようやく深遠の馬の傷も全快していた。 (思ったよりも相当時間がかかったな・・・。) (これから先こんな余裕がある時なぞ、もうほとんどないだろう。) (GMめ・・・。見ていろよ、絶対に許さん・・・。) DOPは、先ほどまた流れた放送を聞いてGMへの復讐の念を新たにしていた。 旧友である、ウォルヤファの死亡が放送されたからだ。 (ここまで能力が制限されていなければ、ヤファの存在も簡単に感知できただろうに・・・くそっ!) (ヤファ・・・。お前の仇は必ず、取ってやる。) DOPは、いつどこで誰と戦ってウォルヤファが殺されたのか、当然知りようもない。 GMを殺しこの茶番劇を終わらせることで、ヤファの魂に報いようと考えていた。 (さて・・・と。そろそろ動くか。このままここにいるわけにもいかない。) (西の砂漠を進むのは避けなくては。なんのメリットもない。) (ポリン島が禁止になってしまったから、いずれは多少なりとも砂漠を行かねばならないが・・・。) (そこまでは、できるだけ森の中を移動するのが・・・・・ん?) (だれかくる・・・。) DOPの耳に、ごくわずかに注意していなければ聞き取れないくらいの、草を踏みしめて歩く足音が聞こえてきた。 (・・・崖下、か・・・。) 深遠の馬をその場に残し、DOPは足音の主を確認するために目の前の崖のふちギリギリまで静かに移動した。 協力してくれそうな者ならば話をしてみるつもりだった。幸いこちらは崖上で、深遠の馬もいる。 いざとなればすぐにこの場を離脱できる。能力が大幅に抑えられてしまった今、無駄な戦闘は極力避けたかった。 (どこだ・・・どこにいる。くそ、木の茂みが邪魔で・・・。よくみえん・・・。) (当たり前だが、身を隠しながらゆっくり移動しているな・・・。ん、あれか・・・?) (・・・♀騎士か。どうやら負傷しているな・・・。呼吸も多少乱れている・・・。) (負傷のせいで足音を殺しきれていないように見えるが・・・。) (防具のたぐいはなさそうだが。まあ、それは誰も同じか。箱から何かでない限り。) (・・・?・・・あれは・・・まさか無形剣か!?念の属性をもち、敵の精神を崩壊させるという・・・。) (・・・あの♀騎士とは、協力関係を結ぶ方が色々得策の様だ。戦闘能力も決して低い訳ではないだろう。) 協力を要請し、受け入れられればよし。もし受け入れられなかったら、そのまま離脱。 状況により、戦闘となってしまったらやむをえない。殺して無形剣やその他の有益な荷物を奪って立ち去ればいい。 DOPは心を決めた。 <DOP(所持品:ツヴァイハンダー・深遠の黒馬(深淵の槍持ち)・小青箱> <現在位置:さすらいの森・備考:対管理者) ---- ||戻る||目次||進む ||[[134]].||[[Story]]||[[136]]. 137.緊張の対峙   「そこの♀騎士、うごくな!」 ぴたっと、♀騎士が歩みを止める。♀騎士は内心舌打ちをした。 「そのまま一切動かずにいろ。まだ手出しはしない。質問がある。」 「質問・・・?」 声から♀ハンタではないと分かってすこし安心する♀騎士。 まあ、もし♀ハンタであったのなら問答無用で攻撃してきているだろう。 声をかけてきた時点で違うというのは分かったが、それならばこれは誰なのか。 「まずは、今までにお前が遭遇したゲームの参加者を答えてもらおう。生死問わず、だ。」 「なぜそんなことを聞く?」 「質問しているのはこっちだ。答えろ。」 「・・・♀ハンタと、♂アコライト。♂アルケミストに深遠の騎士子。・・・そして♂騎士だ・・・。」 深遠の騎士子と聞いて、DOPは思わず後ろに待機させている深遠の騎士の馬を見た。 (意外とお前の主は、まだ近くにいるのかもしれないぞ。) それと共に、放送を思い出す。 (今この♀騎士が言った中では・・・♂騎士が死んでいるな。) 「・・・それだけか?」 「それだけだ。」 DOPは少し失望した。どうやらヤファとは出会っていないようだ。ということはこの♀騎士はヤファの仇ではない。 そして、答えを信用するならば。♀騎士は五人と出会いながらその中で死んでいるのは一人だけ。 これはどう捕らえるべきか。 ♀騎士は負傷しているとこから見ても、戦闘をしたのは間違いないだろう。 全員と戦闘したとは考えにくい。なにより深遠の馬にあれだけの深手を負わせたのが、この騎士とは思えない。 ♂アコライトや、♂アルケミストに後れを取る騎士でもないだろう。 と、するとこの♀騎士が戦ったのは♀ハンタか、♂騎士と推測できるが・・・。 この二人のどちらかと、他の三人のいずれかがPTを組んでいれば、どうなるかわからない。 「その五人の内、PTを組んだりしていたものはいるか?」 できうる限り、他の参加者の情報は手に入れておきたい。 全く情報がないよりはるかにマシだからだ。 「いる。♂アコライトと、♂アルケミスト、深遠の騎士子がPTを組んでいるようだった。」 「♀ハンタは?」 この質問を聞いて♀騎士は、ぐっと強くこぶしを握り。抑えきれない激情に体が震えた。 「わたしと戦った。その戦いで行動を共にしていた♂騎士が、死んだ・・・。」 ギリリと歯がなり、怒りで体じゅうがあつくなる。断腸の思いだった。 DOPは、この質問で思った以上の情報を引き出せたことに満足しながらも、考えを巡らせていた。 どうやらこの♀騎士は、このくだらない茶番に乗ったわけではないようだ。 ♂騎士と行動を共にしていたという話から推測できる。深遠の騎士子は三人PTを組んでいる。 そしてどうやら、この♀ハンタがゲームに乗っているようだ。 ♀騎士の傷をよくみれば、火傷の方がおおい。なるほど、この傷は♀ハンタのトラップなのだろう。 ここまで話を聞いて、DOPは本題にはいった。 「♀騎士よ、私と行動を共にする気はないか?」 いきなりの提案に♀騎士は、一瞬相手の言っていることが分からなかった。 どうやってこの状況を切り抜けようかと必死で考えていたからだ。 「・・・・・どういうつもり?仲間になろうと言っている様に聞こえるけど・・・?」 「そのとおりだ。」 「だったら、まず姿を見せて。一方的にそういわれても、騙そうとしているようにしか思えない。」 ここで初めて♀騎士は、声のする方向に向き直った。 こういう提案をしてくる以上、少なくともこれくらいの動きは見逃すと思ったからだ。 (バカでもないようだな。恐怖に負けてこの提案にあっさり乗ってくるようなら、このまま殺そうと思ったがな。) DOPは姿を見せることにした。 姿を見せてもこちらは崖上。有利なことにはかわりない。 その場で立ち上がり、♀騎士に姿を見せた。 「私は、ドッペルゲンガー。どうだ?一緒に来る気はないか?」 「ドッペルゲンガー!ゲフェンの魔王!」 ♀騎士はびっくりした。ゲフェンの魔王ドッペルゲンガーまでこのゲームに参加していたとは・・・。 そしてその魔王がそんな提案をしてくることにも驚いていた。しかし・・・。 「どうして協力者を求めている?だまし討ちでない証拠は?」 「これをみてもらおう。」 そういってDOPは、この茶番を終わらせるためGMを討ち果たしたいと書いた紙を、♀騎士に投げ落とした。 ♀騎士は、またも驚かずにはいられなかった。まさかGMに牙をむくなんて思いつきもしなかった。 もし、この魔王と手を組めれば生存確率もあがるだろうし、なにより仇が討てる可能性がぐっと上がる。 「・・・わたしは♂騎士の仇、♀ハンタを殺すのが一番の目的。その手伝いをしてくれるなら・・・。」 「♀ハンタは、この茶番に乗っているのだな?」 「乗っているね。アイツは許せない!」 「私としても、この茶番に乗っているような人間は邪魔なだけだ。それの排除の協力に異存はない。」 「わかった。ドッペルゲンガー。あなたの提案、飲んだ。」 「よし。それではまず、こちらに登ってきて先ほどの話に出た深遠の騎士子の情報をくれないか?」 「どうして?」 「主を失った、深遠の騎士の愛馬がここにいるのだよ。主の下に戻してやりたいのだ。」 「そういうことか。わかった。そちらに行く。」 上から誰何された時は、しまったと思ったのだが。とりあえずは強力な味方ができた♀騎士は、ほっと一息をついた。 やはり一人でいるのは、精神的に非常に負担だったのだ。この、ゲフェンの魔王がどこまで信用できるかは分からないが。 「GMを討ち果たす」という話を口に出さずに紙に書いたのは、きっとGMの盗聴を恐れてのことなのだろう。 それを見ても、この目的に対しては本気なのは伺えた。その点において信用できそうだ。 そろそろ時刻は夕方にさしかかろうとしていた。 <DOP/所持品:ツヴァイハンダー・深遠の黒馬(深淵の槍持ち)・小青箱> <♀騎士/所持品:無形剣・コットンシャツ・ブリーフ> <両者の現在位置:さすらいの森/備考:GM・♀ハンタ打倒に協力体制> ---- ||戻る||目次||進む ||[[136]].||[[Story]]||[[138]]. 138.死を担う物   「ちょっと先行ってて、やらなくちゃいけないことが出来たみたい」 「おい!いきなりな……に……を……」 そう言って振り向いた♀アサシンの顔に♂プリーストは言葉を失った。 そこには一切の感情は無く、冷徹な眼差しだけがあった。 「私なりのけじめってやつよ、心配しないですぐ終わるから」 反論も許さず駆け出す。 「お、おい…」 頭では追いかけるべきだと判っていたが体がまったく動かなかった。 (やれやれ、あれが全開のアサシンってやつかよ…) 一般的に戦力としての暗殺者の評価は決して高くない、♂プリースト自身もその評価が真であり全てだと思っていた。 (あんな殺気常日頃から放ってたら周りの人間もさることながら本人もまともじゃいられねえわな) 暗殺者達は敢えて弱者の名を背負っていたのである、無用な殺しをせぬためにそして己が人であるために。 (血の臭い…近い……) ♀アサシンは考えていた、♂ノービスから託された思いに応える術を。 だが彼女にあるのはただ幼少の頃から叩き込まれた殺人術とそれを為すためのTCJのみ。 幼い頃からギルドに言われるがままに暗殺を繰り返してきた彼女が生まれて初めて自分のためだけに自分の頭で考えて捻り出した結論 それが これからも受け継がれるであろうこの想いを潰えさせる者を殺す であった。 おそらくあの♂ノービスも♂プリーストもそんなことは望んでいないだろう。 だが、殺すことしか知らぬ彼女が唯一出来ることなのだった。 「あらぁ?私になにか用かしら?」 得物を濡らす血を拭う暇もなく現れた新たなる人物に♀ローグはうんざりした口調で問うた。 「貴女、このゲームに乗ってるわね」 「当然じゃない、こんな楽しいことみすみす見逃す手は無いわ」 「そう……なら死んでもらうわ」 言うが早いか跳躍し一気に間合いを詰めて斬撃が繰り出される。 「っ!」 冷静な判断力と的確な攻撃、それは先ほど殺した悪魔プリと同質のモノだった。 そして暗殺術による致命的な一撃これが加わっている、状況は先ほどの戦い以上に不利なのだ。 だが♀ローグは不敵に笑っていた。 「あはははは。さっきのプリも最高だったけどあんたも最高だ、このとるかとられるか……この緊張感こそあたしの望んでたものだよ!」 砂まきで怯んだ一瞬を逃さずトンネルドライブで身を潜める。 先刻とは違い相手にルアフは無い、ならば先手を取れるこちらが有利だ そう判断し♀ローグは身を隠した体勢から攻勢に出る。 読まれ辛く読まれていたところで五分と五分であるサプライズアタックで だが、その一撃は空を切った。 「なっ!」 その時初めて♀ローグは戦いの中で恐怖した。 サプライズアタックを読んでいたのではない。 姿を現した凶刃を視認しその上でハイディングで避けられたのだ。 敗因はこの敵をその攻撃と動きの的確さから先ほど悪魔プリ同様頭で戦闘を組み立てるタイプだと判断したことだった。 アサシンの動きは似て非なるものだった、思考は介在していない。 ただ本能に刷り込まれたその動きが思考によるそれと酷似していただけだった。 「まったくあんたってやつは……最高だよ!」 グリムトゥースが♀ローグを切り裂いた。   <♀アサシン&♀ローグ 交戦> ---- ||戻る||目次||進む ||[[137]].||[[Story]]||[[139]]. 139.温もりの笑顔と冷たい笑顔   「待て、止まれ」 突然の静止命令を聞いて、止まる。 「見ろ…誰かが通った後がある…この方向は、迷いの森か…?」 地面を調べつつ、ブツブツとセージは何かを考えているようだ。 「この足跡の主は乗っているか否か…多数の足跡がある…きっとパーティを組んでいるな」 「ほなら、うちらと同じでなんや考えてるかもしれへんなぁ」 「…待て、そっちから誰か来るぞ。一旦身を隠そう」 森の方から聞こえる足音にただならぬ予感を感じたので、オレ達は少し距離を置いて様子を見ることにした。 「あれは…♂BSか…一人のようだ」 視界のぎりぎり届く範囲に写る人影を見、詳細を報告する。 「得物はブラッドアックス、スマイルマスク…右腕が無い… 見る限りでは相当殺しまわってるようだが…む?」 確かな殺気を覚えた。馬鹿な、この距離で弓手以外が相手を捕捉出来るわけが――。 「やばい…あいつ、こっちにまっすぐ向かってくる…おい、どうするんだ? 逃げるか…もしくは、やるのか…」 語尾が震えているのが自分でもわかった。 ブラッドアックスを装備していることで移動速度が格段に速い。 あんな化け物に勝てるはずが――。 「やるぞ」 それだけ言うと、セージが一歩前に歩み出る。 その背後ではウィザードが既に魔法の詠唱を始めていた。 「距離、あと百メートル…」 さすがのセージも冷や汗をかいているようだ。 「ブルージェムさえあれば…セイフティウォールが使えたんだが…」 だがその汗さえも止め、全精神を集中させる。 「倒すとか止めるとかそんなことは考えるな。 あれは『殺す』。そうしなければこっちがやられる」 いつもの調子に戻り、セージも詠唱を開始する。 「残り…五十メートル」 「おっけー、こっちは一応準備万端やわ…まあ、どれだけ時間稼げるかわからへんがな」 ダマスカスを握り締め、臨戦態勢に入るアルケミスト。 「よし…くるぞ」 全神経を使い、集中力を爆発的に高める。 相手はかなり素早いが、手に馴染むこの得物なら当てることなら出来るだろう。 「…ファイヤーウォール」 静かにセージの詠唱が完了する。 二十メートルほど離れた場所に燃え上がる炎の壁。 そしてそこに猛スピードで突入する化け物――♂BS。 「…む」 まるで熱さを感じないような表情――顔は見えないが――で、 炎の壁を迂回し、さらに歩を進めるBS。 その周りにはアルケミストが植えた食虫植物。 しかしBSは、絡みつく蔦を振りほどき容赦ない一撃でそれらを潰してゆく。 十数体の食虫植物は瞬きする間に殲滅された。 「まずい………、フロストダイバー!」 この状況で頼りになるのは、ウィザードの魔法。 相手を凍らせ、ウィザードの詠唱完了を待つつもりだった。 しかし、魔力が制限されるこのフィールドでは無謀な賭けだったようだ。 ガキンッ! 一瞬の内に詰め寄るBS、そして片手とは思えない速度で振り下ろされる斬撃。 そして、それを受け止めるアルケミスト。 「くぁ…無理やわ…っ!」 ダマスカスは根元から折れ、最早使い物にならなくなっていた。 ゆらり、と体勢を立て直すBS。 そして一瞬。アルケミストに向かって斧を振り上げる。 「させない…チャージアローッ」 思い切り振り絞った矢を、BSに向かって撃ちつける。 狙いを定めた銀色の閃光はまっすぐと目標へと向かい、その心臓を貫く――はずだった。 「な…っ」 人間とは思えない動きで、銀色の矢をその斧で叩き落す。 にっこりと微笑む仮面の下から、ゾクリと来るような殺気が感じ取れた。 次の矢を弓に番えたその瞬間…悪鬼が、目の前にいた。 そして、オレが打つ矢より早く振り下ろされる斧。 ザシュッ 熱い。 熱いものが、顔にかかっている…これは、血だ。 しかし、オレはどこも痛くない。じゃあ、誰の――。 目の前に、背中をばっさりと切られたアルケミストがいた。 「はは…ぼーっとしてたら、あかん…って…」 そして、がくりと崩れ落ちる、華奢な身体。 「う…そだろ…」 「馬鹿、よそ見するなッ、後ろだ!」 後ろだ、という言葉に反射的に前に転がる。その腕にはアルケミストの体を抱いて。 今までオレが居た場所が、抉れる。撒き起きる砂塵。 「観念なさい、化け物…ストームガストッ!」 砂塵を巻き上げるように起こる猛吹雪。 その範囲内にオレは居なかったが、腕の中でどんどん冷たくなる身体に、心が凍りついた。 目の前には一体の氷像。 必殺の一撃を繰り出したが為に、化け物は体勢を立て直せなかったようだ。 「テメェ…そんな簡単に、人の命を奪いやがって… 今までたくさん殺したんだろう…?…その人たちに、地獄で詫びやがれ」 弓に2本の矢を番える。 狙いは2箇所。頭と、心臓。 目の前の悪鬼は凍っている、避けることも出来ないだろう。 「死ね、糞野郎」 矢を放つ。 軌跡はまっすぐと延びていき、BSの頭と心臓を確かに貫いた。 「…ぐ」 「ばかなっ…」 心臓と脳を撃たれて尚、化け物は生きていた。 しかしさすがに戦闘するだけの気力は残っていないのだろう、 夥しい量の血に塗れた斧を担ぎ上げると南方へと逃げ去っていった。 「くそっ…おい、起きろよ!」 つい数十分前まで笑って話をしていた少女。 その笑いは、接客の技術として磨かれたものではない、正真正銘、心からの喜び。 その温もりが今は、冷たい塊となってしまった。 「もう脈がない…残念だが」 「お前…仲間が死んだって言うのに、そんな…」 立ち上がって、セージに向かって拳を放つ。 その拳はセージの顔面に直撃した。 「わかってる…だが、私たちはここで歩みを止めるわけにはいかないんだ」 拳に滴る滴。その冷たさに、オレは気付いた。 ――セージという職。それは、常に冷静に、感情に流されていてはいけないのだと。 「…すまん」 少しだけ待ってくれ、と言うとオレは弓を使って、浅いながらも穴を掘った。 そしてそこに、冷たくなった少女の身体を横たえ、黙祷する。 (助けてやれなくて、ごめん。助けてくれてありがとう。 思えばずっと助けられっぱなしだったよ…お前の笑顔にな。 その笑顔…皆が笑えるように、がんばるからな…) ゆっくりと、その身体に土をかけていく。 ふと顔を上げると、セージもウィザードも、埋めるのを手伝ってくれていた。 「こんなものしか供えられるものがなくてすまんな…」 涙は止まっていたが、やや苦しそうな面持ちで、セージが墓に食虫植物の花びらを添える。 「行こうか…このゲームを、終わらせるために…アルデバランへ」 最後に、命の恩人の少女に頭を下げ、俺らは北へと進路を変えた。 ――― 「…ばか、な…」 残った知性を総動員して考える。 負けるはずが無い。最高の道具がそろっていた。 打撃攻撃を弾くゴーストリングのカード。 呪いによって、移動速度と力が増幅するブラッドアックス。 刺さった矢を引き抜く。 砕かれたスマイルマスクを捨て、体力を回復するために、逃走する。 惜しくも、運命とは皮肉なものだろうか。 そこには、彼が殺しかけた彼女――否、壊れた人形がそこに立っていた。   <♀アルケミスト 死亡> <♂アチャ アーバレスト 銀の矢47本 白ハーブ1個> <♀ウィザード フォーチュンソード たれ猫> <♀セージ クリスタルブルー1個 プラントボトル5個> <現在位置:迷いの森に突入> <♂BS ブラッドアックス ゴーストロングコート イグドラシルの実> <♂♀BS 遭遇 プロンテラやや北> <残り21名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[138]].||[[Story]]||[[140]]. 140.花婿と花嫁 序   二人の狂人は、それぞれ違う道を歩く。 その一人は、森の中を歩く♂ブラックスミス。 何も知らぬまま、只茶番の為に狂わされた鍛冶師。 手にするは、血塗れの大斧。 その身に纏うは、そのものが幽かに揺らめく長いコート。 知らず、覚えず、判らず。 彼は、只茶番の上で踊るマリオネット。 或いは、GMが使わせし処刑人。 もう一人は、道を進む♀ブラックスミス。 己を知り、しかし茶番の中、恐怖に狂った鍛冶師。 幽かな望みは、人と出会うこと。 けれど、脳にこびり付いた記憶は既に曖昧に歪み。 忘れ、捨て去り、只狂う。 彼女も又、茶番の上で踊る操り人形。 或いは、哀れなる女の成れの果て。 二人の狂人は、互いに大切な記憶を忘れていく。 揮発した思いの後に残るのは、只、狂気。 殺せ。殺しつくせ。突き上げる様な叫びが、彼等を焦がしていく。 それは、炎。赤い赤い、炎。 黒く、ひょろひょろの炭で出来た人形にに彼等を変えていく。 そして、二人の炭人形は、ヴァルキリーレルム、と呼ばれる砦の群れの近くで出会った。 「……」 それは、物言わぬ鍛冶師と。 「ふふ…うふふ…また、貴方なのね。殺したいんでしょう?貴方は私を殺したいんでしょう? でも、殺されない。それは、駄目。絶対に駄目。 だって、私は貴方を愛してる。愛してる。 だから、貴方が私を殺すんじゃなくて、私が貴方を殺すの。そうすれば、貴方は私の物。 あなたはそうやっていろんな人を、自分の物にしてきたんだもんね?だいすきだっだよ。 でも、だから許せない。浮気なんかして、ふふ。貴方には私だけを見てもらうの。だから、貴方を殺すの。 そうすれば、貴方はきっと私のもの」 壊れた鍛冶師。 そうして、その花婿と花嫁は、出会った。   <現在位置:ヴァルキリーレルム上のエリア> ---- ||戻る||目次||進む ||[[139]].||[[Story]]||[[141]]. 141.篭絡   ♀ハンターは、自らのグラディウスで衣服の端々を切り裂く。 演出過剰にならない程度に、さりとて肌が十二分に見えるように。 「うん、悪くないわね。案外私こういう才能あるのかしら?」 これで準備万端整った。 深呼吸一つ、慣れない事をするのだ、流石に覚悟が必要だ。 「私はなんとしても生き残るのよ!」 そう自分に言い聞かせて先を急ぐPTに走り寄って声をかけた。 深淵の騎士子が深く頷く。 「そうか、災難であったな。これ、そこな逆毛と愉快な薬師。はよう手当してやらぬか」 「うはwwwwwwOKwwwww」 逆毛アコのヒールが即座に飛ぶと、元々浅かったせいもあって♀ハンタの傷はあっさりと全開した。 その事に驚いたのは当人達よりも♂アルケミであった。 「おおお! なんかお前初めて人の役にたってないか?」 「けんかwwwwwうってるwwwwwうぇwww」 勝手にバカ騒ぎ初めている二人を放っておいて、深淵の騎士子が言う。 「それで、一体貴殿を襲ったのは何者だ? ああ、いやそれ以上に貴殿には聞きたい事がある」 ♀ハンタは殊勝な笑みを浮かべて答えた。 「命の恩人達ですもの。なんなりと」 「アリスを……お前は見ていないか?」 「アリス? モンスターのアリスですか?」 「うむ」 「いえ、すみませんご期待に添えませんで……」 深淵の騎士子は首を横に振る。 「いや構わぬ。それにしても……このゲームに乗っておる者、存外に多い事驚いたぞ」 ♀ハンタが小首を傾げる。 「と申しますと?」 「先ほど我らが遭遇した騎士も何者かに襲われて仲間を失い意気消沈しておった。もしかしたらそなたと同じ者に襲われたのやもしれぬな」 深淵の騎士子の言葉に♀ハンタの心臓が跳ね上がりそうになる。 「この程度の狂気に身をやつすなぞ、もっとも、弱き人の身なれば当然といえば当然か……」 そこまで言って深淵の騎士子は自らを省みる。 「いや、我も……さして変らぬな」 どうやら♀ハンタは知らず、とんでもない綱渡りを挑んでいたらしい。 まさかあの♀騎士とこの連中が遭遇していようとは。 しかし、どうやらこの賭けは♀ハンタの勝ちらしい。 「あの……助けていただいてこんな事を頼むのも申し訳無いのですが……よろしければ私もみなさまにご同行させていただけませんでしょうか?」 深淵の騎士子はその申し出を予想していたらしい。即座に返事が返ってくる。 「我は敵討ちを望む。それに他者を付き合わせる気は毛頭無い」 ♀ハンタはなんと言い返した物か周囲を見渡す。 相変わらず逆毛アコと♂アルケミはぎゃーぎゃー騒いでいて、プロンテラ兵の格好をした者が二人、深淵の騎士子の後を恨みがましい目でくっついてきている。 深淵の騎士子は赤面しながら言う。 「ええいこれは私の意志ではない! こやつらが勝手に……」 突然ペコ管理兵(騎士)が大声をあげる。 「なんたる言いぐさですか! 大体あなたが私達がやっとの思いで見つけたペコを勝手に使ってるのが悪いんじゃないですか!」 すぐにペコ管理兵(クルセ)も大声を出す。 「そうですよ! 私達がどんな想いをこのペコに注いでいると思ってるのですか! 深淵だかなんだか知りませんが、あなたなんて馬でも鹿でも勝手に乗ってればいいじゃないですか!」 深淵の騎士子は氷点下の目で二人を見る。 「……懲りぬ奴らよ」 剣を振り上げる深淵の騎士子。 瞬時に土下座するペコ管理兵二人。 「すんません! 調子に乗ってました! そのペコもあなた様のような高貴な方に乗られる事をこそ喜んでおりまする!」 「イヤダー! 痛いのはいやだいやだいやだー! BDSマジで痛いっすよ! 許してくださーい!」 二人の態度に満足したのか、深淵の騎士子は乗っているペコの首をぎゅっと掴む。 「これは私のだ♪ …………良いな?」 語尾からシャレにならない気配を感じとったペコ管理兵は二人揃ってへへーっと平伏するのであった。 ♀ハンタはぼけーっとそのやりとりを見ていたが、すぐ隣に♂アルケミが来ると言った。 「いいですよ。一緒に行きましょう」 「或閲wwwwwいいとこどりwwwwイクナイッ!! てかwwww死線エロ杉wwwwwうぇ」 またぎゃーぎゃーやり合いだした二人だが、この一連のやりとりで♀ハンタは最初のターゲットを決めたのだった。 『あのバカ騎士と会う前に、♂アルケミ君を味方に付けるとしましょうか……』 というか、他は全部問題外過ぎであった。 せっかくのこの特別衣装に欠片でも興味の視線を飛ばしたのが♂アルケミだけとは。 憤懣やるかたなしといった風情の♀ハンタであった。 一行が一時休息を取ると、♀ハンタは♂アルケミに声をかける。 「あの、少し……相談が………あ、やっぱりいいです。すみません」 そう言ってぺこりと頭を下げる♀ハンタ。 ♂アルケミは笑って言う。 「ん? 何かあるの? ねえ、言ってごらんよ。僕で良ければ全然聞くよ」 果たして♀ハンタの予想通り、♂アルケミは大層デリカシーの無い生き物であるようで、凄い勢いでこっちの振りに食いついてきた。 『一応……上級職だしね。まあ顔も……及第点ちょい下ぐらいって事で我慢するとしましょう』 深淵の騎士子はふと周囲を見渡す。 「ん? あのハンター娘はいずこへ?」 言われて逆毛アコも周りを見るが、♂アルケミも居ない。 「どこwwwっwいったwwww魔沙迦っ!!」 突然逆毛アコが走り出す。深淵の騎士子も剣を手にペコを降りると逆毛アコの後を追いかけた。 「同じ事を考えておったか……まさかとは思うがあのハンター娘が人殺しであったなら……」 「あのwwwwwエロ或閲wwww何する気wwwww」 全然違う事を考えていたらしい。 すぐに現場にたどり着く二人。森の奥の少し開けた所で♂アルケミと♀ハンタの二人は並んで座っていた。 「天誅wwwwうぇっwwww」 「バカモノ、静かにするのだ」 深淵の騎士子に頭をひっつかまれて地面に押しつけられる逆毛アコ。 「むう、会話が遠すぎて聞こえぬ……だが、何やら良い雰囲気……おおっ!」 ♂アルケミと♀ハンタの距離が縮まる。 「或閲wwww許すwwwマジwww」 「ええい、想い合う二人の邪魔をするでない……で、でででで? こ、この先はどうするのだ?」 想い合うも何も会ってまだ数時間も経っていないが、深淵の騎士子さん興奮のあまり色々な思考能力が低下している模様。 そして、♀ハンタが静かに顔を♂アルケミへと近づけていく。 「こ、これは流石にこれ以上は……」 深淵の騎士子さん、真っ赤になって手で顔を覆うが指の隙間からしっかりと二人を見ている。 すると深淵の騎士子さんの真後ろから二人組の声がする。 「ありえねー。なんだって人間相手なんだよ」 「そーだよな〜、どー考えたってペコのがかわいいっしょ?」 とんでもない危険発言なのだが、その危険度に気づかない深淵の騎士子さんはただ邪魔者を排除する意図で真後ろにBDS(一応パワー遠慮バージョン)を放った。 どこーん! 当然♂アルケミ、♀ハンタにもばれた。 直後、逆毛アコの天罰真空飛び膝蹴りが♂アルケミの顎にクリーンヒットした。 そして深淵の騎士子といえば…… 「そ、そのだな……このような場所で……そ、そそそそそのような破廉恥な……だが、想い合う二人に場所は関係無いとか……ああ、いやそのだな」 ♀ハンタは深淵の騎士子が何を言いたいのか良くわからず首を傾げる。 「あ〜。うん、そのだな……えと……な、なんでもないぞ!」 顔中真っ赤っかにしたままダッシュでその場を離れる深淵の騎士子。 まだまだ彼女には刺激が強すぎたようだ。 ♀ハンタは一応の目的を果たしたと自らに言い聞かせる。 『信頼とまではいかないまでも、仲間として受け入れられたかな……でも……こいつらっ!』 絶対ぶっ殺す。こんな連中が何をどうして今まで生き残ってこれたのか全くわからないが、その事実に腹が立つ。 『世の中なめるのも大概にしなさいよこいつら!』   <♀ハンター、深淵の騎士子&逆毛アコ&♂アルケミ&ペコ管理兵(騎士)&ペコ管理兵(クルセ)と合流> ---- ||戻る||目次||進む ||[[140]].||[[Story]]||[[142]]. 142.短距離ランナーと長距離ランナー   切れ間無い鋼のぶつかり合う音に♀ローグは恍惚の表情を浮かべる。 「良い、あんたとても良いよぉぉぉぉぉぉ」 砂かけや石投げは難なく回避されサプライズアタックやバックスタブを繰り出そうにもハイディングする暇すら無く、明らかに♀ローグが不利であった。 それにも関わらず♀ローグは笑っていた。 「楽しいっ楽しいよ!この感覚初めてだよ!」 何故こんな生き方を知らなかったのだろうか、知っていたならばうんざりしたつまらない毎日を送らずに済んだというのに。 狙いの甘い切り返しを的確に見切り弾き返し逆に攻勢に出る。 「あはははは、どうしたの、さっきから黙ってるけど。あんたは楽しくないの?」 興奮状態にあった♀ローグは気がついていなかった、彼女が攻めに回ってからまったく鋼のぶつかり合う音がしなくなったのを。 両手をだらりと下げ細やかなステップだけで剣撃を避けている♀アサシンに 「楽しくなんてないわ、殺し合いなんて私にとってはすでに日常だもの…」 ここに至って殺しの中で生きて来た者とそうでない者の差が生まれた。 無論、さきほどの悪魔プリとの戦いの疲れや負傷の影響もあるだろうが。 「殺し合いなんて本当はつまらないわよ、今のあんたは……恋の病に浮かされてる初心な小娘みたいなもんよ」 そして致命的な一撃が♀ローグを襲った。 「あ?…ああああああ」 振るわれたTCJは得物を持つ利き腕の親指だけを切り落とした。 「その手でしばらく頭を冷やしたら?……それでも考えが変わらないようなら」 冷徹な殺人マシーンとしての表情を崩さず♀アサシンは言葉を繋ぐ 「まず私を殺しに来なさいよ。今度は痛くないように殺してあげる」   <♀ローグ 親指消失により握力低下> <♀アサシン 移動開始 備考:マーダーキラーに行動方針を変更> ---- ||戻る||目次||進む ||[[141]].||[[Story]]||[[143]]. 143.花婿と花嫁〜次   ──さて、その花嫁の話をしよう。 まだ、正気だった頃、彼女は、その男に憬れていた。 まるで魔法の様に鋭い剣を鍛え上げていく、彼の姿が好きだった。 彼女自身が、鍛冶師とは名ばかりで、怪物との争いに明け暮れる冒険者だったからかもしれない。 握りなれたチェインを片手に、並み居る化物を撲殺している間も。 手に入れた商品を並べた露天を、彼の露天の露天の傍にこっそり出している間も。 何気ない会話が、並べているどんなカードよりも、高価に感じられて。 彼女と、彼は青い空の下で、お互い笑い合っていられた。 ともかく、知らない間に、彼女は彼が好きになっていった。 恋、というのはえてしてそういうもの。 この鍛冶師のそれは、少し初心に過ぎるかもしれないけれど。 彼女は彼に恋していた。 それは今も同じ。 狂った彼女の世界で。 歪んでしまった彼女の視界の中で。 それだけが真っ直ぐに。 拾った包丁を片手に、歪んだ世界を歩んで、彼女は思い人に出会った。 「やっと会えたよ。やっと会えた。でも残念ね。ここが大聖堂だったらよかったのにね。 プロンテラの近くにまでこれたのにね。うふふ。貴方が花婿で私は花嫁。楽しみだなぁ」 緑色の絨毯の上。草の臭いがする草原。 恋人達が愛を誓う大聖堂のステンドグラスの光は無く。 それは、砦の向こうに見える鏡写しの首都にある。 「貴方が欲しいのぉぉぉぉぉぉぉぉ…いっしょになりましょぉぉぉぉぉぉっ!!」 女の鍛冶師は、包丁を逆手に、不明瞭な絶叫を上げて走りだした。 ざくっ。 包丁が突き刺さる、音がした。 ──さて、その花婿の話をしよう。 まだ、正気だった頃、彼は、毎日の様に首都の一角で武器を鍛えていた。 何時だって成功していた訳では無い。むしろ、失敗した数の方が思い起せば多かったのだろう。 何時からだろうか。彼が、そうして武具を鍛えているのを、きらきらした目で見ている女の子が傍らに居るようになったのは。 彼は鍛冶仕事しか出来ない男だったから、何を話していいか判らなくて、彼女には何も気の利いた事が言えなかった。 鍛冶仕事なんていうのは、きっと、つまらない光景だったんだろう。 その証拠に、彼には依頼人と、数少ない同業者以外には友人、と呼べる人間が殆ど居なかったから。 それで構わなかった。特に気にしたことも無かった。 彼は、それが仕事だったし、周囲の人間達の事を彼はそんな相手として見ていた。 けれど、きらきらした目で、自分の仕事を見ているその女の子が彼は好きになっていった。 ガチン、ガチンと彼が剣を打つ度、その女の子の目は、散る火花を写しこんで、まるで宝石みたいだった。 …或いは、本当に彼にとってその女の子は宝石だったのかも知れない。 暫く時間がたって、少しの間顔を見せなかった女の子が、自分と同じ職業についていて。 はにかんだ様な笑顔で、私に手伝える事があったら言ってよ、そんな事を言われて、やっぱり返す言葉が見つからなくて。 ああ、判ったよ。期待せずに待ってる、そんな変な台詞しか出てこなかった。 何時も彼女は彼の近くに露天を出すようになっていて。 その頃には、幾ら彼でも、少し彼女の事を意識し始めていて。 不器用ながらも、短い言葉を何時も交し合っていた。 それだけが、すごく幸せだった事を覚えていた。 ともかく、気づけないでいたけれども、彼は彼女を愛していた。 何処にでも転がっている出会いでも、それは彼とって、どんな名刀よりも輝いてみえた。 幾度と無く、製作品をへし折ってしまうぐらい不器用なやりかたでも、構わなかった。 彼は、彼女を愛していた。 それは、今も何処かで悲鳴を上げている。 彼は心を壊され。 衝動に支配された、その世界の中で。 只、その執着だけが今も幽かに残っていた。 ざくっ。 包丁が突き刺さる、音が。 視線を下げると、そこで縋りつくように彼女が、彼の肩に包丁を突き刺して、笑っている。 真っ黒い衝動が、突き上げるように叫び声を上げていた。 「殺す。殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺すころころころころころrtdafz▲×↓〜〜〜!!!」 斧を握る片腕に力が篭った。 ---- ||戻る||目次||進む ||[[142]].||[[Story]]||[[144]]. 144.花婿と花嫁〜二人は永久に  大聖堂。  少ないけれど、親しい顔馴染み達に囲まれながら、二人は見詰め合っていた。  幸せな花嫁と花婿。赤い絨毯の道を進み、拍手の細波に身をゆだね。  男は、仕事着から不恰好な晴れ着に。  女は、純白のウェディングドレスに身を包み。  彼の豆だらけの手は、白く薄い長手袋越しに優しく手を握り。  彼女の空いた手は、何時ものチェインを素朴なブーケに持ち替えて。 『貴方は、永久に新婦を愛する事を誓いますか?』 ──誓います。 『貴方は、永久に新郎を愛する事を誓いますか?』 ──誓います。 『それでは、誓いの口付けを貴方達二人を、死が分かつまで、その幸せが続かんことを』  細波が、喝采に変わる。  ヴェールに包まれた彼女の頬は、リンゴの様に真っ赤になっていて。  白い薄布を押し分け、いまだかつて、誰も触れていない唇を見ている彼も又、リンゴみたいで。 ──馬鹿。早くしてよ。 ──あ、ああ。すまない。  照れて、中々口付けもしようとしない二人に、周囲ははやし立てる様に声をあげ。  教会の神父は、苦笑いしながら、余りに純朴なその夫婦を眺めていて。  嗚呼。もし、もしも。そんなささやかな幸せが手に入れられていたら、どれ程嬉しかったことだろう。  幸せだった二人の舞台は、夢想から現実へと転落する。 「あ゛、あ゛あ゛あ゛っ!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーっ!!」  悪鬼の如く、髪を振り乱しながら、女は包丁を男に突き立てていた。  何度も、何度も。  肩に。胸に。顔に。腕に。  刺して、刺して、刺し捲くった。  けれど。 「……」  男は、平然と女を見ていた。力が込められた腕は、ぶるぶると震えている。  血は、一滴も流れていない。只、包丁が突き刺さる度、泣いている様に、ロングコートが揺らめくのみ。  男は、斧を振り上げかけて、止まっていた。 「どうして!?どうして一緒になってくれないのよぉぉぉっ!!馬鹿!!絶対許さない!! 絶対、一緒にしてやるんだからぁぁぁぁぁぁっ!!!」  終には、突き刺しながら泣き叫ぶ。一滴の正気も残ってはいない。  彼女の前には、従わない現実と、抗えない事実と、一人の狂人があるばかりだった。 「!!? うげぅふっ!!?」  男が、真横に腕を振る。まともに顔面を殴られ、女が呻きながら横転した。  地面に突っ込み、泥だらけになる。  …そういえば、雨が降っていた。空は、どんよりと薄暗い。 「どうしてよ…どうして…」  体を起す。雨が、彼と彼女の体を濡らす。  立ち上がる。吹き飛ばされた時、手にしていた包丁は何処かに弾かれていた。  けれども、手に獲物は無くとも彼女は彼に歩み寄る。 「どうして、何もしないのよぉぉっ!! どうして殺してくれないのよ!! そんな価値も無いっていうのっ!? そんなの…」  頬も、既に雨の雫に濡れそぼっていて。  歩み寄った女は、叫びながらも男の胸を握り拳で打つ。  嗚呼。黒い黒い思考に囚われたまま。  いや、囚われたからこそ、彼女は何の外聞も無く、想いを吐き出し続ける。 「好きだったのに。ずっと好きだったのに。どうして、何も答えてもくれないのよぉぉっ!!」  いや、或いは。  女は、狂ったのではなかったのかも知れない。  狂った様に振舞うことで、楽になろうとしたのやも。  幼子の様に、男にすがり付いて女は哀哭する。  涙は、雨に紛れて消え。叫びも又、雨音に殺されていく。  男は、血濡れの斧を振り上げていた。 「あ…」  女は、男の胸でその光景を見上げていた。惚けた様な顔。  そこからは、何時の間にか浮かべていた狂相は綺麗に抜け落ちていた。 「ころ…す…ころ…ころ…」  男が、呟く。 「ころ…すきだ…す…こ…おれも…ろす…おおまえのことががが」  剛。  雨音さえも叩き殺して、轟音が一度響いた。 「だいすき だった」  黒い衝動は、それさえも埋め尽くしていく。  塗りつぶしていく。殺せ。殺せ。殺しつくせ。そんな声が、脳の中を。  男が男だった最後のひとかけらは、暖かい雨になって、頬を流れ落ち。  そして、どちゃり、と重い塊が地面に落ちる音が響いていた。 ──馬鹿。下手糞ね。 ──すまない。初めてなんだ…  ヴェールをめくり、口付けを終えた二人はそんな言葉を投げあう。  そして、彼女と彼は。 ──それじゃあ、もう一度、だな ──!! ば、馬鹿っ…んぷっ  幸せな舞台の中で、二度目のキスを交わしていた。  それは二度と訪れない、幸せな風景だった。 …  男は、しゃがみ込んでいた。  斧を使い、ぎりぎりと何かを切り取っている。  丁度、西瓜くらいの大きさのそれを綺麗に切り取り終えると、彼は鞄の中に収めた。  立ち上がる。その顔は、変わらぬ…いや、より酷く歪んだ顔。  泣こうとして泣けない、引きつった異様な形相。  完全に破綻した表情だ。  再び、歩き出す。  何か忘れた気がして、少し荷物が重くなった気がしたけれども、男はそれが何かわからなかった。  けれども、死が二人を分かつまで、彼と彼女は一緒に居るのだろう。  後に残されたのは、首から上の無い、斜めに体を断ち割られた♀ブラックスミスの亡骸だけだった。   <♀ブラックスミス死亡> <♂スミ 再び徘徊開始。 バックの中には、♀スミの生首> <残り20名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[143]].||[[Story]]||[[145]]. 145.ローグ姐さん   ♀ローグは親指を切り落とされた時、全身に冷水をぶっかけられた気分だった。 呆然としながらその指を見た後、それを為したアサシンを見る。 今までアサシンなぞ、どうとでも料理出来るザコぐらいにしか見えてなかったのが、いきなり凶悪無比の敵としてその瞳に映ったのだ。 翻って自らの戦力を考えるに、どう見ても不利。現状では絶対に勝てない。 そんな思いが♀ローグの動きを完全に止めてしまっていた。 アサシンは言いたい事だけ言うと、風の様に去ってしまう。 ♀ローグは黙ってそれを見送る事しかできなかった。 しばらくそのままの姿勢で立っていたのだが、じきにに右手親指に激痛を感じる。 「痛っ!」 慌てて服の袖を口で切り裂いて、簡易な包帯としてそれを親指に巻き付ける。 片手と口のみなので、思いの外時間がかかる。 そしてその一連の作業が終わると、一息ついてその場にしゃがみこんでしまった。 こてん そのまま後ろに仰け反って仰向けに大の字に寝っ転がる。 「あ〜あ、負けちゃったか…………」 少しそのままで黙った後、猛然と叫びだした。 「くやしい! くやしい! くやしーーーーーーーーーー!!」 手足をばたばたさせ、体をごろごろ転がしながら大声で喚き散らす。 散々喚いた後、溜息一つ。 「敗因……あ〜もう痛い程わかってるんだけどね〜」 冷静さを欠いた事が全ての原因だ。悪魔プリとの戦いまではまだそれでもなんとかなったが、その後の連戦は絶対に避けるべきであったのだ。 逃げる方法もあった。 自分が熱くなっていてそれに気付かなかったのが問題だったのだ。 「でもあのアサシン……なんだって殺さなかったんだい? それだけがどうにも解せないね〜」 だがまあそれも最早どうでもいいと思えた。 まだダマスカスもある、体も動く。右手はさておき、左手はぴんぴんしてる。 まだまだ戦える。しかし、何やら気が抜けたというのが正直な所だ。 これが、見るからにぬるい生活を送ってきた奴相手ならば、次こそはと挑むであろう。 しかし、人殺しを生業にしている者との勝負に負け、気まぐれか何かで生かしておいてもらった身となれば、それは♀ローグにとっては敗北以外の何者でもなかった。 「頭を冷やしなさい……か〜。もーあのプリにもアサシンにも見抜かれてたか〜。情けなくて涙出てくるわこれ」 ふと、鼻孔をくすぐる香りがする。 それは、草の香り、風の香り、大地の香り。久しく感じていなかった香りだ。 「……そういえばもう長いこと、こんな風にのんびりした事無かったわね〜」 しばらくそうしていると、徐々に眠気を覚える。 「もうどうでもいいわ。どーせ一回死んだ身だしなんでも来なさいよ〜…………」 心地よい微睡みにその身を委ねると、自然と瞼は閉じ、顔中に広がる何かが踏みつける感覚と、人一人分には少し軽い重量のせいで鼻がべしゃっと…… 「って何事よーーーーー!!」 慌てて飛び起きると、その視線の先にはアラーム仮面を付けた異常に細身の何者かが居た。 バドスケは突然呼び止められて、後ろを振り向く。 「うわっ! アラーム仮面! めっさ恐っ!」 ♀ローグが騒ぎ出すのを見て、初めてそれに気付いたバドスケは慌ててマンドリンを構える。 そんなバドスケを見て♀ローグはひらひらと手を振る。 「あ〜構えなくてもいいわよ。こっちはもー殺る気も失せてるから」 だが、バドスケは何やらぶつぶつ呟きながらマンドリンを手に少しつづ近づいてくる。 「あらら。殺る気満々? それならもー少し早く来て欲しかったわね〜」 「……俺は……皆殺しにしなきゃ……みんなころさなきゃ……」 バドスケの様子に♀ローグはすぐにぴんと来たらしい。 「アラーム仮面君は気合い充分と……ふん」 バドスケはマンドリンを振りかざし♀ローグに襲いかかるが、その一撃は♀ローグに片手で呆気なく払いのけられる。 驚くバドスケは二撃目を加えんと再度マンドリンを振りかぶるが、♀ローグの一喝の方が早かった。 「いいかげんにしなさいっ!」 びくっとバドスケは震えてマンドリンを止める。 「本気で人殺す気ならその抜けた腰と抜けた根性なんとかしなさい!」 バドスケはその言葉に反応して、更に力を込めてマンドリンを振るう。 マンドリンは♀ローグの左肩に叩きつけられるが、♀ローグは涼しい顔だ。 「ね? 言ったでしょ? ……そんなへっぴり腰で人が殺せるもんかい!」 左の拳で鉄拳一閃。 バドスケはあっさりそれを喰らってひっくり返ってしまった。 そこでようやく♀ローグはバドスケの正体に気付く。 「あんた……モンスターだったの? スケルトンかい?」 バドスケは即座に言い返す。 「違うっ! 俺はアーチャースケルトン・バドスケだ!」 ♀ローグは一瞬びっくりした顔をするが、すぐに破顔してバドスケの隣に座る。 「そうかいそうかい、バドスケね。んでバドスケには一体何があったんだい?」 「なっ!? 何を……」 「まあまあ、私もやる事無くなっちゃったもんで暇なのよ。いいからお姐さんにあった事話してみなさいって」 気安くそう呼びかける♀ローグにバドスケは座り込んだままでずりずりと後ずさる。 「なんなんだよお前! お前には関係ねーだろうが!」 ♀ローグはふと真顔になる。 「あのね、あんたからは悲鳴が聞こえるんだよ。私はそういうのわかるんだ」 『……ずーっと昔、私もそんな経験あったからね』 最後の言葉は口にはしなかった。 結局バドスケは♀ローグの押しの強さに押されて、いつしかぽつりぽつりと今まであった事を話し始めたのだった。 「で? 結局あんたはそのアラームって子を守りたいって事かい?」 そう言う♀ローグにバドスケは頷く。 そんなバドスケを見ながら♀ローグはわざとらしいぐらいに深く溜息をついてみせた。 「あのねぇ。いいかい姐さんが今から言う事を良くお聞きよ?」 そう言ってこほんと咳払い。 「まず、その子が小さい女の子で今まで生き残ってるって事はおそらく誰かの庇護を受けてるって事だと思うわね」 バドスケは頷く。 「次に、アラームが生きている間にあんたが他の敵を全部倒す。これあんた程度の腕じゃ絶対に無理。現実見なさい、きちっと」 バドスケが何か言おうとするが、ぴしゃっとそれを制する♀ローグ。 「一人や二人殺した程度でそんなんになってるあんたが、これから先一体何人殺せると思うんだい」 あっさりと返事に詰まるバドスケ。 「私は既に四人殺したけどね、その私でも大負けこいて、ほら、このザマよ」 バドスケの前で親指の欠けた右腕をぷらぷらさせる♀ローグ。 「だったらさ、それ以外の方法でなんとかするよう考えた方が現実的じゃないかい?」 バドスケはしかし頭を垂れ、絞り出すように言う。 「……俺は、今更後戻りなんか出来ない。やり方なんて変えられない……」 そんなバドスケを鼻で笑う♀ローグ。 「あっはっはっはっは、ちゃんちゃらおかしいさねあんた。その子の為に全員ぶっ殺すつもりだったあんたが、なんだって殺した奴に気なんざ遣ってるんだい?」 バドスケは俯いたままだ。 「バッカじゃないのかい? 皆殺しの覚悟決めたんだろ? そんなに大事な子なんだろ?」 ♀ローグは人殺しの目で言った。 「あんたはその為に必要な事だけしてりゃいいんだよ。 ノービスだろうと友達だろうと仲間だろうと全部裏切り、利用し、殺してあんたは目的を果たせばいい」 バドスケは顔を上げる、♀ローグの顔が悪鬼羅刹に見えた。 「そんでね……もしそれが出来ないってんなら」 瞬時に♀ローグの表情が変わる。 「あんたは是が非でもその子の側に居てやんなよ。それが一番さね」 バドスケは激しく首を横に振る。 「ダメだ! 俺はもう人を殺してるんだぞ!」 「それを知ったらその子が悲しむってんなら黙ってりゃいいだけの話さね」 「俺はあいつに嘘はつけないっ!」 バドスケの言葉に♀ローグの表情が変わる。 「甘ったれるんじゃないよ! 嘘をつく? その程度でおたおたすんじゃないの! 本当にそれがその子の為になるってんなら嘘の一つや二つ平然とついてみせなっ!」 バドスケは呆然として♀ローグを見る。 「その子の為にあんたが何をしてやれるのか……それを冷静になって良く考えな。その子が喜ぶ事。その子が幸せになる為に必要な事。 それらはまっすぐ生きてるだけじゃ手に入らない事もあるさね」 そこまで言うと急ににんまりとした顔になる。 「多分、こんな場所で知り合いに会えたらその子すんごい喜ぶわよ〜、絶対。その顔見たくないかい?」 バドスケは脳内で葛藤を繰り返すが。♀ローグはそんな暇すら与える気は無いようだ。 「あーもー! 骨のくせにぐちぐちと! あんた骨なんだからもっとからっとドライに生きなさい!」 「って、ちょっと待て! 俺はまだ行くとは……」 「だーからってこんな所でうじうじしてたって話は進まないの!」 ♀ローグが無理矢理バドスケを引っ張りながら何処へともなく歩き出す。 「っだーーーー! お前押し強すぎだぞ!」 「良く言われるわよん♪」 悪党の理屈。 バドスケはそれに初めて巡り会って困惑を隠せないでいるが、何故か頭の中全てを覆っていたもやもやは既に半分程晴れていたのだった。 ---- ||戻る||目次||進む ||[[144]].||[[Story]]||[[146]]. 146.不味い飯   アルデバラン南フロアにたどり着いた♂ローグ達はアルデバランは禁止エリアになって 入ることもできないし暇なので食事をとることにした。 「もぐもぐ・・・・まずい・・・」 アラームがそうつぶやいた 「ったく、ガキは本当わがままだよな・・・っといいたいところだけどマジでこれクソ不味いな」 「こんなの食べるくらいならペットフード食べてたほうがマシじゃない?」 支給された食料を食べていたがとてつもないまずさだったのでみんなして不満をぶつけていた 「文句をいうな、これしかないのだからしょうがないではないか」 ♀クルセだけもくもくと食していたがほかのみんなはすっかり食欲をなくしていた 「あーもうこんなもんくってられっかよ・・・・、ん。そうだ」 ♂ローグが何かをひらめいたように立ち上がった 「ローグさんどうしたの?」 アラームがローグに聞いた 「たしかむこうに湖があっただろ、もしかしたら魚がいるかもしれないぞ」 ♂ローグは湖の方へ走って行った 「待ってーわたしも行くー♪」 「あっ、ちょっと待ちなさいよっ」 アラームと♀アチャもそれについていった。♀クルセも微笑して後ろからついていった 湖はわりと浅くひざのあたりまで水がつかる程度だった 「うひょー、いるいる」 「えいっ、あれ?  やっ! あれれーとれない・・・」 「(バシャッ)チッ、(バシャッ)・・ちょっとー、とれないわよこれ!」 アラームと♀アチャが必死で魚をとろうとするが水と戯れているだけで全然魚は取れない 「ちっちっちっ、そうやるんじゃないんだよ、見てろよ」 ♂ローグは気配を殺したように魚にゆっくり近づいていった・・・じりっじりっと (どきどき) アラームがその様子をまじまじと見つめていた 「・・・・・せりゃ!(バシャッ)」 スティールで磨きあげた器用さで♂ローグは見事魚を素手で捕まえた 「うわぁー♪」 「おおー」 「へへっ、ざっとこんなもんよっ」 ♂ローグは自慢げに胸を張った、そこへ子バフォが割り込んできた 「甘い甘い、余はもっと簡単にしかも大量に魚など取ることができるぞ」 そういうと子バフォは湖の中にJTを放った、ピカッと光ると魚が感電してぷかーっと浮いてきた。 しかしまだ湖の中にいたローグも感電して真っ黒になった 「うっしゃっしゃ、どんなもんだ、これが余の実力じゃ♪」 「あのー・・・ローグさんが・・・・」 アラームが真っ黒になったローグを見つめていた 「て・・・てんめええええ!!!もうゆるさあああああん」 ♂ローグはバフォJrに殴りかかった、それに負けじとバフォJrも反撃をしボカスカ殴りあった その様子をみて♀クルセも思わずくすくす笑ってしまった 「不思議な人ですね、あいつは」 「ん?」 ♀アチャが♀クルセに話しかけた 「こんなひどい状況で。いつみんな死ぬかもわからないのに、あいつと一緒にいると なぜか死ぬ気がまったくしないの、変よね、私なんか一度このゲームでもう死にかけたっていうのに」 「そうだな、ローグを見ていると楽しい気分になってくる、このひどい状況の中ローグと会えたことは本当によかったと思っている」 「うん、私もあいつには命助けられてるしね、その恩だけは一生忘れないわ」 喧嘩する♂ローグとバフォJrとそれをとめようとするアラームを見ながらそんなことを 二人で話していた ---- ||戻る||目次||進む ||[[145]]||[[Story]]||[[147]] 147.惨劇   ♀ハンターは、手元の金属を器用に一つづつ細かい破片に変えていく。 そうして出来た細かい破片を予め用意しておいた棒の先につけ鏃とし、それを♂ケミに渡す。 彼は、言われた通りに矢羽根を一つ一つ付けていく。 そして最後に逆毛アコがそれらを矢筒に収めて完了だ。 矢作成、アーチャーは原材料さえあれば自らの手で矢を作り出せるのだ。 「ふ〜。終わりました」 端の方で馬の手綱を取られたペコペコ管理兵(クルセ)がぶちぶち言っているが一切気にせずそれは完成した。 ちなみに深淵の騎士子は昼寝中で黙って外して使っているのだ。 「ありがとう、これで少しはまともに戦えるようになりました……まあ後は弓ですが、そこまでは高望み出来ませんし」 ♀ハンタの言葉に、♂ケミがふと思い出したように言う。 「そういえば、アコはまだ青箱残ってなかったっけ?」 「うはwwwww開けるのwww恐いwwwwうぇ」 確かに、もう一つ逆毛が出たら事態の収集を計るのは不可能となるであろう。 すると、♀ハンターがにこやかに言う。 「そうなんですか? でしたら私も一つ未開封のがありますから……一緒に開けませんか? 二人で開ければきっと恐くないですよ」 「wwwwwww」 逆毛はこれで返事のつもりらしいが、何を言っているのかまったくわからない。 ♀ハンターも反応に困っていたが、とりあえず同意と受け取って自分の青箱を開けてみる。 『古い紫色の箱一個獲得』 ♀ハンターはとても微妙な顔をした。 逆毛もバッグから青箱を取り出し、それを開けてみた。 やはりさっきのは同意の意らしい。 『角弓一個獲得』 逆毛はすんごい微妙な顔をした。 釣られて♂ケミも微妙な顔をしているが、そこにおずおずと♀ハンターが声をかける。 「あ、あの〜。もしよろしければ……これと交換しません?」 逆毛はやっぱり微妙な顔をしていたが、♂ケミが両手を叩く。 「ああそうだよ! ♀ハンターさん弓使えるじゃん! ないすアコ!」 ♂ケミはひょいっと角弓を♀ハンターに渡すと今度は紫箱を逆毛に渡す。 「挑めアコ! 乾坤一擲、お前の魂見せてみろ!」 「おkwwwww絶対wwww勝利wwww」 『初心者用胸当て一個獲得』  サ カ ゲ 敗 北 一通りの作業が終わると、昼寝をしていた深淵の騎士子を起こす。 ペコについている手綱の金属部分が根こそぎ無くなっているのには気付いてないらしい。案外大雑把な所もあるようだ。 深淵の騎士子昼寝中、ここぞとばかりにペコの世話を焼きまくっていたペコペコ管理兵sはとても無念そうであったが、やはり無視された。 そんな一行の前に、DOPと♀騎士は現われたのだった。 二人を見るなり、深淵の騎士子は驚いた顔をする。 「DOP殿か? いやはや貴殿までこんな所に……」 しかし、その言葉は♀騎士の地の底から聞こえてくるような、怒りの声にかき消された。 「見つけた……あなた……そこを動くなーーーーーーーーーーー!!」 ♀ハンターも即座に気付いて、逃走にかかる。 追う♀騎士、そしてその♀騎士の前に♂ケミが立ちはだかった。 「ちょ、ちょっと待ってよ。一体何が……」 「どけーーーー!!」 無形剣を振りかぶる♀騎士。♂ケミは何やら恐くて乳鉢を頭上に上げる。 無形剣の刀身は肉眼にて見る事は出来ない。しかし何の偶然か、はたまた♀騎士がそうしむけたのか、剣は乳鉢に当り、乳鉢ごと♂ケミをはじき飛ばす。 ♀騎士はそのまま♀ハンタに向かおうとするが、♂ケミはすぐさま立ち上がり♀騎士にタックルをしかける。 それ自体はあっさりとかわされるが、♂ケミは諦める気は無いのか、再度立ち上がる。 そしてそれと同時に深淵の騎士子が動いた。 ペコに乗ったまま♂ケミの前に立ち、折れかけた剣を振るうと、巨大な槍がその剣ではじき飛ばされた。 「いきなり何をするか!?」 その槍は深淵の騎士の乗馬に乗ったまま、DOPが♂ケミめがけて投げつけた物であった。 「その騎士の復讐は正当な行為だ。邪魔をするのなら私が容赦しない」 そう言うDOPに深淵の騎士子は一歩も引かない。 「まだ何が真実かは見えぬ! それをあの者は確かめようとしておるのだ! それがわからぬか!?」 「真実も見抜けぬか。主も魔の一族であろうに、それとも人と交わり不抜けたか?」 DOPの揶揄の言葉に深淵の騎士子も表情を変える。 「ゲフェンごときで鳥無き里の蝙蝠を気取る貴様風情が……言ってくれるな」 一触即発、その間にペコペコ管理兵sは♂ケミと一緒になって♀騎士を取り押さえようと周りを囲んでいた。 「へい兄弟。♂ケミばっかに良い格好させられないぜ」 「おうよ兄弟。とにかく騎士様には落ち着いてもらわん事には話にもならねぇ」 そんな中、逆毛アコだけは一人♀ハンターの動向に注意していた。 「犯多さんwwwww何してるwwwww」 逆毛アコの言葉を無視しながら、必要な作業を終えた♀ハンターはウィンク一つ。 「こっちは準備OKです! 援護しますからっ!」 「援護wwwwってwwww何するwwww気!」 ♀ハンターは懐から複数の罠を取り出すとひとまとめにして地面に放り投げる。 そして自分は距離を取りながら、空へと向かって弓を構える。 「良〜い感じでまとまってくれちゃって……派手にいくわよっ!」 天に向かって無数の矢を放つ♀ハンター。 そしてそれはすぐに♀騎士を中心とした周辺に次々と降り注いできた。 ♀騎士、深淵の騎士子は自らの剣でそれを払いのけられるが、♂ケミ、ペコペコ管理兵sの三人は無防備なままで矢にさらされる。 同時に、♀ハンターは罠をばらまいた地面に向かって矢を放つ。 チャージアロー、♀ハンターがそう叫んだ時には既に事態は手遅れとなっていた。 チャージアローによって、地面ごと吹き飛ばされる罠。 そしてその罠は矢が雨あられと降り注ぐ付近へと落ちていく。 「いかんっ!」 深淵の騎士子がそう思った瞬間には、その乗ペコはその場からとびすさっている。 ♀騎士はこの♀ハンターの動きを読んでいたのか、降りしきる矢から体を庇う事すらせずに、その場から飛び退く。 ♂ケミはこの時の事を生涯忘れられないと思う。 無数の矢が♂ケミに付き立つ直前、何かがのしかかってきて、地面に押し倒された。 そして降りしきる矢が複数の罠を同時に起爆させる。 爆音、悲鳴、そして…… 「いてっwwwっwいていていてwwwwwwいぃっ!!wwwwww…………」 全てが止むと、逆毛アコは♂ケミの上からずるりと落っこちた。 そう、逆毛アコは♂ケミの盾になるべく上に覆い被さっていたのだ。 事態の把握には少しかかった。でもすぐに♂ケミにも理解出来た。 最初に出会った♀騎士の仲間を殺した犯人、この殺し合いに乗っていた人物は♀ハンターだったのだ。 そして逆毛アコはそれに気付いてたのか? そうでなければ、こんなに的確に動ける訳がない。 「おい! おいアコ! しっかりしろよおい!」 逆毛アコの手を取る♂ケミ。 「うはwwwwwやっと気付いたって顔wwwwwにぶすぎwwwwうぇ、えぇ、げほっ! げほっ!」 「バカ! お前気付いてたのかよ! だったらなんで……」 「確証wwww無かったwwっwwwそれでwwwww疑ったらwwww君怒るwwwそれwwwwヤだった」 「なんだよ! それじゃあ僕バカみたいじゃん!  お前あってるじゃん!  それなのになんでお前がそんな目に遭ってるんだよ!」 逆毛アコは♂ケミの手を握り返す。 「おwれwたwちwトwモwダwチw…………」 アコの頭から逆毛が落ちる。 「だからさ……一緒に……帰ろうよ…………みんなで………」 そしてアコの手から力が抜けていき、それっきりアコは何も言わなくなった。 「ぐあーーーー! 目が! 目をやられた!  ちくしょう! ペコ! 相棒何処だ!?」 悲鳴を上げるペコペコ管理兵(騎士)に深淵の騎士子が駆け寄る。 「私だ! 深淵だ! 傷は浅いぞしっかりしろ!」 「あ、ああ深淵の騎士子さん、無事だったか……ペコは!? 相棒は無事か!?」 「無論ペコは無事だぞ! 流石お前達が鍛えているだけあって、素晴らしい反射能力だ! 私も舌を巻いたぞ!」 そして相棒のペコペコ管理兵(クルセ)を探す深淵の騎士子。 それはすぐに見つかったが、頭部が粉砕されており、既に絶命した後であった。 「そうだろうとも! あのペコは最高さ……で、おい! 相棒はどうしたんだよ! 無事なんだろ!?」 深淵の騎士子は震えながら目を閉じる。 「ああ、ああ、もちろん無事だとも。気を失っているだけだ、心配するでない」 ペコペコ管理兵(騎士)は安堵の表情を見せる。 「そうか、良かった……うっ! ごふっ! ごほっ! ごふぉっ!」 咳き込み、血を吐くペコペコ管理兵(騎士)。深淵の騎士子は半泣きでその体を抱える。 「おい! しっかりしろ! 今逆毛と薬師を呼んでやる!」 立ち上がろうとする深淵の騎士子。 だが、ペコペコ管理兵(騎士)はその腕を握って放さない。 「なあ、深淵の騎士子さん……聞いてくれ。ああ、今言わなきゃなんねえ気がするんだ、だから頼む。聞いてくれ」 「どうした!? なんでも言うが良いぞ!」 「俺さあ、散々文句ばっか言ってたけどさ、実はあんたとペコとの相性、すんげー良いって思ってたんだ」 深淵の騎士子は泣きながら頷く。 「ああ、ああ、そうか」 「だからさ、相棒に言ってやってくれねぇか? このペコあんたに譲ろうぜって俺が言ってたって」 「何を言う! 自分で言えるぞ! 逆毛のヒールと薬師の薬があればこの程度の怪我……」 「すっげ、なんか目に映るみてぇだ……夕日を背に駆け抜ける俺達のペコ、その上にあんたがめっちゃかっこ良くまたがっててさ。最高じゃん……」 陶酔した顔になるペコペコ管理兵(騎士)、その直後全身痙攣を起こし、そして動かなくなった。 ♀騎士は呆然とみんなを見つめていた。 倒れるアコライト、吹き飛ばされる二人の兵士。 そして友との別れに涙を流すアルケミストと深淵の騎士子。 「あ……ああ……」 『き、騎士子たんのふとももで死ねる……本望!Σd(´▽`*)』 「ああああああああーーーーーーーっっ!!!!!」 ♀騎士は♀ハンターが去っていった方向に向かって猛烈な勢いで駆け出した。 かつての彼女を知る者であったなら、別人と間違えたであろう。 それほど、♀騎士の形相は恐ろしい物であった。 深淵の騎士子は♂ケミに駆け寄ると、その襟首を掴む。 「急げ! まだ間に合うはずだ! 早く貴様と逆毛であやつらを治療……」 ♂ケミは何の反応もしない。 「ええい、逆毛! 貴様も何をしてお……る……逆毛? おい、こら逆毛?」 静かに呟く♂ケミ。 「死んだよ……僕を庇って」 ♂ケミの言葉に愕然となりその場に膝をつく深淵の騎士子。 「私がついていながら……一瞬で……私は何も出来なかった……」 深淵の騎士子の言葉に、♂ケミが言う。 「違う……アコは気付いてたんだ……なのに僕が……♀ハンターの罠に気付かなかった……なのに死んだのはアコで僕は生きてる……」 ♂ケミの言葉に、深淵の騎士子は切れる程唇を強く噛むと、剣を片手にペコに飛び乗る。 ♂ケミはまだ呆然自失であったが、ついさきほどみた♀騎士の形相を思い出した。 「待てよっ!」 自分でも理由はわからない。だが、深淵の騎士子を行かせる訳にはいかない。そう思ったのだ。 「何を待つか!? あの人間めを……八つ裂きにしてくれるっ!」 「ダメだ! そんな事しちゃダメなんだよ!」 何故ダメなのかも自分では良くわからないが、今は衝動に任せてそう叫んでいた。 「ダメだと! ふざけるな! あの者を切り刻まなければ皆の無念は晴れぬわっ!」 「ふざけてんのはどっちだよ! そんな事であいつらの無念が晴れてたまるかっ!」 「なんだと!」 深淵の騎士子は♂ケミの襟首を掴む。 だが、♂ケミも一歩も引かない。 「アコはな! みんなで一緒に帰ろうって言ったんだよ! あいつ殺したってみんな一緒に帰れねーじゃんか!」 「だったらあいつを野放しにしておくのか!? 許せぬ! あの者だけは断じて許せぬっ!」 「それであいつを殺すのかよ! さっきの♀騎士みたいに邪魔する奴も全部蹴散らして! それじゃあお前あのハンターと何もかわんねーじゃんかよ!」 ♂ケミの言葉に深淵の騎士子は激怒する。 「私があいつと一緒だと!? きっさまーーーーーー!!」 剣を♂ケミに向け、今にも振り下ろさんとするが♂ケミは深淵の騎士子から目を逸らさない。 「一緒に帰るんだ! 一緒に帰るんだよ俺達は! だからこんなバカな殺し合いなんて絶対に乗ってなんかやんねーんだ!」 ♂ケミの気迫、そして言葉の正しさは深淵の騎士子にその剣を降ろさせた。 「……お前の言う事はわかる……だがっ! それでもなお私はっ!」 ♀ハンターの消えた方に向かいペコを進める深淵の騎士子。 それを♂ケミはペコを引っ張り無理矢理止める。 「ふざけんな! お前行っちまったら俺どーするんだよ!  俺一人になっちゃうじゃん!  俺一人じゃこんな所絶対抜け出せねーよ!」 その言葉で深淵の騎士子は止まる。 ♂ケミはなおも続けた。 「仲間作るったってもう誰も信用なんて出来やしねーよ! 今の俺が信用出来るのお前しかいねーんだよ! 俺はお前と一緒にやってくしかねーんだ! お前は違うのかよ!」 深淵の騎士子はペコの上で肩を振るわせる。 ♂ケミの叫びは全て、容赦なく深淵の騎士子に突き刺さっていたのだった。 「悔しいぞ……悔しくてたまらぬ……う、うぅぅ……」 そして深淵の騎士子は身も世もなく泣き叫ぶ。 そして♂ケミも、もう自分でも何が何やらわからなくなって、吠え叫ぶ。僕から俺に変わってる事すら気付かない程に。 「ちくしょう! 俺だって悔しいんだよ! ばかやろう! ばっかやろーーーーーーー!!」 二人が泣き叫ぶ中、所在無げに深淵の黒馬が二人の周りをうろうろしているのだった。 ♀騎士は走り続けていた。 ただ闇雲に、その走る先に居るハンターめがけて。 ここまでの怒りは生涯初めてであろう。 それは♀騎士から全ての判断能力を奪い取ってしまっていた。 苔むす大地を走り抜け、沼沢地を突き進み、林の中をひた走る。 そして不意に視界が開ける。そこは砂漠の荒野となっており、その先にもハンターは見えない。 委細構わず走り続ける♀騎士。だが、すぐに砂に足を取られて転んでしまった。 すぐに立ち上がろうとするが、足が全く動かない。 ならばと、両腕を動かし這いずりながら砂漠を進む。 頬、腹、腕と足を容赦なく砂漠の熱砂が焼くが、♀騎士は止まろうとはしなかった。 それを林の中から見つめる視線。 「や……やっと限界来たわね……まったく、追いかけるこっちの身にもなって欲しいわ」 ただがむしゃらに走る者と、考えて走る者。どちらがより効率的に体力を費やせるかは考えるまでもない。 ♀ハンターはしかし、そんな苦労も報われたと思う。 「あははははは! 何よあのヒキガエルみたいな格好! もう騎士様の威厳もくそもありゃしないわね!」 そして弓を構え狙いを定める。 「この距離であんたがそのザマなら……外しようも無いわ。死ねクソ騎士」 ダブルストレーピングの狙いは♀騎士の心臓。 ♀騎士の背中に吸い込まれるように二本の矢が突き刺さる。 「あーーーーーっはっはっは! 吹き出してる吹き出してる! すんごい量の血よあれ! ヒキガエルが串刺しになったあげく砂漠で蒸し焼き? バカ騎士の最後にしちゃ上出来よ!」 高笑いを上げる♀ハンター。だが、それでも周囲への警戒は怠ってはいなかった。 「あら? お連れさん? ……そう、DOP君ね。まあいいわ。せいぜいバカ騎士の最後でも看取ってやりなさい」 ♀ハンターは最早ここには用は無いとばかりにその場から姿を消した。 DOPは♀騎士の側に立ち、彼女を見下ろす。 「愚かな……相手は手練れぞ? そのような蛮勇を振るった所で……む?」 まだ、♀騎士は動いていた。 計らずして♀ハンターと同じくひきがえるを思い出したDOPであったが、そんな感想はさておき、すぐに♀騎士の容態を確認する。 「これはしたり。僅かにではあるが矢が急所を外れておるぞ……あれほどの手練れが……何故?」 DOPは知らない、♂アコが♀ハンターの矢の鏃全部に僅かな傷を付けておいた事を。 そしてそれはもちろん、♀ハンターも知り得ない事であったのだった。   <♂アコ、ペコペコ管理兵(騎士)、ペコペコ管理兵(クルセ)死亡> <♀騎士、重傷を負って意識不明> <DOP、♀騎士を保護> <♀ハンター、鋼鉄の矢(傷がついているせいで狙いがずれる)と角弓入手> <残り17名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[146]].||[[Story]]||[[148]]. 148.血の涙   「クスクス、本当快感ね、私に逆らう者はみんなああなるのよ、あはははははははは」 ♀ハンターは歓喜の声を上げて喜んでいた。 「フフ、フフフ、生き残るのは私なのよ、後何人残ってるのかしら」 ザッ・・ザッ・・ 不意に後ろから足音が聞こえた。 「!?」 足音に気づいた♀ハンターは足跡の方向へ振り向いた、数m先には♂BSは立っていた。 「完全に気配を殺して近づいてくるなんて、只者じゃないわね、ここまで後ろから接近されたことはいまだかつてないわ・・・」 そう言った刹那♂BSはブラッドアックスを振り上げ♀ハンタに襲い掛かった。 しかし♂BSが動いた瞬間♀ハンターはチャージアローを放ちノックバックさせた。 「クスクス、おばかさんね。見てないで奇襲すれば私に勝てたかもしれないのに」 「・・・・・」 その矢は心臓を射抜いていたかに見えた、が♂BSは痛がる素振りもなく胸に刺さった矢を引き抜いた。 「ダメージを受けていない?まさかゴーストリングカード持ってるのこいつ・・・?」 ♂BSは再び♀ハンターに襲い掛かろうとしたが、 チャージアローで飛ばされた先にあらかじめ アンクルスネアが仕掛けられていたらしく動くことはできなかった。 (ゆっくり料理してあげようとおもったけどゴーストリングカードをつけているなら鋼鉄の矢しかない以上まともに相手にするのは不利ね) そう判断した♀ハンターはアンクルをはずすのに手間取っている隙に後退し林の方へと走った。 アンクルを外した♂BSはその後を追いかけていった 「フフ、私の武器は弓だけじゃないのよ、さあおいで猪突猛進なお馬鹿なBSさん、私の高貴な頭脳を駆使した戦略というものを教えてあげるわ」 ♀ハンタは林に身を潜め♂BSが追いついてくるのを待った。 林付近にはランドマイン、クレイモアートラップなどの数々の罠が仕掛けてあった。 「いくらゴーストリングカードをつけていてもあれだけの罠を踏んだらどんな超人でもひとたまりもないはず、さあ来なさい」 しばらくすると♂BSが林のほうまで追いついてきた、気配を感じ取ったのか林付近に♀ハンタが 隠れてると直感した♂BSは♀ハンターが隠れている林のほうへ歩いてきた (フフ、やっと来たわね、さあもう少し) ザッザッザッ、と♂BSが歩く音が響く (さあ、あと3歩・・・2歩・・・・1歩!) しかし次の瞬間ブワッという音とともに♂BSが消えた (えっ!?何が起こったの!?) 罠を踏んだ気配はない、 「罠に気づいて引き返した?いや、それならまだ見える位置にいるはず・・・ いったいどこへ・・、左・・?右・・・?」 次の瞬間♀ハンターの頭上を黒い影が覆った。 「え・・・?ま・・・まさかっ!?」 その影の正体は♂BSであった、罠の存在に気づいた♂BSは罠をジャンプで飛び越えたのだ。 満月を背に空を舞うようにブラッドアックスを振りかぶった。 「う・・わ、うわあああああああああああああああああああああああ」 ♀ハンタは♂BSめがけてチャージアローを放ったが矢は頬をかすめただけであたらなかった 「え・・・?なんで・・・?はっまさか!?」 ♀ハンタは鋼鉄の矢に傷がつけられているのを今初めて気がついた、しかしもう手遅れだった ザシュッ ♂BSは♀ハンタの体を縦真っ二つにバッサリ斬り下ろした。 「・・・・・・・」ダレ・・・・・カ、オレヲ・・トメテク・・・レ・・・ダレ・・・カ ♂BSは血の涙を流していた。 愛するものの命まで奪ってしまった♂BSは罪悪感で満ち溢れていたがまだ自分が何者なのかわからない、体も言うことを聞かない。 再び彼は歩き出す、次なる獲物を求めて   <♀ハンター死亡> <♂BS,殺しをするのは本意ではなく頭では拒絶している> <残り16名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[147]].||[[Story]]||[[149]]. 149.夕餉    よぉ、ローグだ。久しぶりだな。  今、俺達は焚き火を囲んで、焼いた魚をパクついてる。  ここに来れる道は迷宮の森しかねぇし、あれから糞スミの気配もとんとしねぇって理由だ。  本当なら、他の連中に気づかれるかもしれねぇ真似は今も極力避けた方がいいんだろうが…  あの糞女が遣しやがった保存食を食うよりはマシだ。  ああ、それから付け加えとかなきゃいけねぇことが一つある。  俺が、今とある糞山羊のお陰で程よく焦げちまった後って事。  …まぁ、どっかで読んだ漫画宜しく、本当は全身すす塗れで真っ黒なだけなんだけどな。 「おい、糞山羊。てめーばっかりバクバク食ってるな!!」  それでも腹の立つ事には変わりねぇから、俺は山羊を怒鳴りつける。 「むしゃむしゃ…やかまふぃぞ? 折角の夕餉が台無しであろうに」  しかし、手にした川魚を手放しもしねぇ。っていうか、段々態度が横柄になってきてやがる。 「…ドツいていいか? つーか、むしろドツいて欲しいのか手前ぇ!?」  腹を立てて、子バフォの頭を小突いてやろうと近づいた時だ。 「喧嘩しちゃ、だめっ」  …俺と子バフォは、互いにファイティングポーズを取った状態で、横槍からのその声に動きを止める。  言うまでもねぇ。その声の主は、アラームのガキ。 「ローグさんも、一杯食べてっ。そしたら喧嘩なんてしたくなくなるよっ」  むぅ、などと唸っている子バフォの横をすり抜けて来たガキが、手にした焼き魚を俺に勧める。  因みに、二つ握っているが、渡されたのは当然食いかけで無い方の串だ。 「……わーったよ」  ばっ、と奪い取るようにして焼き魚を引っつかみ、がしゅがしゅとそれをがっつく。  にぱーっ、とガキは嬉しそうに笑っていやがる。…チッ。 「もてもてね、ローグ?」 「うるせぇよ」  にやにやしながらこっちを見ているアジャ子にそう切り返す。  大体、俺に首輪を嵌めた幼女に欲情するような特殊な趣味は無ぇ。 「ローグ、魚はまだまだあるのだ。もう少しゆっくり食べたらどうだ?」  と、真面目腐った顔で、他と同じく魚をパクついてるクルセが言った。  因みに、沢山あるってのは事実だ。  子バフォが後先考えずブチかましたお陰で、食いきれないぐらいの魚がその辺の草を敷いた上に転がっている。 「っていうか、説教かよ…」 「む…すまないな」  げんなりした様に俺が切り返すと、少し住まなさそうにクルセが言う。  そして、少し後、表情を少し変えると、口を開いた。 「…しかし、川魚というのは意外と淡白な物だな。お前が前もって塩を用意してくれていてよかったよ」 「そりゃそうだ。塩気の無い川魚くらい味気ねぇモンはねぇしな。…っていうか、姐さん川魚とか食わないんで?」 「私はイズルード生まれだからな…魚を食べる事は多かったが、海の物ばかりだったよ」 「へぇ…なるほどねぇ」  あの剣士の町で生まれ育って、聖騎士になった、か。  生粋の騎士って奴なのかねぇ。俺は半分食いかけの焼き魚の串を片手にそんな事を考えていた。 「……すまない。少し、いいか?」 「あ、なんですかぃ。姐さん」  俺がそう答えると、クルセは少し不満そうな顔をする。 「それだ。その、姐さんというのは止めてくれないか? 何と言うか、堅苦しいのだ」 「姐さん…じゃねぇや、クルセは堅苦しく無いほうがいいんか?」 「…ああ」  言葉に、そうとだけ答えてクルセは何故か俺から顔を背ける。  俺の顔に、何か汚れでもくっついてんのか?  …よく判んねぇ。思考を切り替えて食いかけの魚を再度攻略に掛かった。 「ったく。よくわかんねぇな、本当」  呟き、食い終わった串を地面に投げ捨て、二本目に取り掛かる。  後ちょっとしたら、辺りの探査もせにゃならんしな。腹ごしらえはとっとと済ませちまおう。  何となく、誰かさんの視線がいたいけどな。  俺は、何やら弓手からの射る様な視線を努めて無視しながら、俺は再び魚を食い始める。  …雲が出てきてやがるな。雨が、ふりそうだ。  ま、俺の仕事にとっちゃ好都合だったりするんだけどな。  … 「…抜けた、か」  ♀セージは、漸く抜けた迷いの森を背に、呟いた。  彼女達は、♀セージを先頭に♀wiz、♂アーチャーと続く。  いつの間にか降り始めた雨は、一行の歩みを酷く鈍いものにしていた。 「鬱陶しいわね…」 「本当にな」  或いは、降り注ぐその雫は、涙かもしれない。  そう考え、首を振った。少し、感情的に過ぎる。  冷静を旨とする彼女には、似つかわしくもない。  泣きたいときに泣けないというのは、辛い。  そんな事をぼんやりと考えながら彼女が振り向くと、後ろには生気の無い顔の♂アーチャーが居た。  全員が、余りに疲れ切っていた。 「迷宮の森も抜けた。…今日は、ここで休むとしよう」  彼女が、そう言った時だ。  何時の間にそこに居たのだろうか。  兎も角、がさり、と茂みがざわめいたかと思うと、『茂みそのもの』がいきなり♀セージに襲い掛かった。 「っ!!?」  あっと言う間もない。  一瞬にして服の襟首を押さえられて、彼女は地面に引きずり倒される。  首元に、ちくりとした痛みが走る。見れば、その首元には刃の切っ先が。 「…っとぉ。判ってるだろうが、後ろの奴等、動くなよ?」  セージはぬかるんだ地面に仰向けに転がされながら、その声を聞いていた。  視界の端には、真っ黒い曇天。そして、直ぐ目線の先には、一人の男。  茂みを纏い雨と薄雲とを背負った♂ローグだった。 「…何のつもりだ…っ」  目標を目の前にして、こんな醜態を晒す事になるとは。  歯噛みしつつも、セージは悪漢を睨みつける。 「自分の立場って奴を弁えな。質問出来るのは俺だけだぜ?」 「この野朗…っ!!」  ♂アーチャーが激高する声。 「やれやれ…今から弓取り出して俺に射掛けるのと、姐さんの首が飛ぶののどっちが早いか試したいってか?」  わざとらしく言い放つと、♂ローグは再び目線をセージに向けた。 「それじゃあ、本題だ。質問に答えてもらおうか」 「…判った。だが、その前に一つ聞かせろ」 「なんだ?」 「どうして、すぐ殺さない?」  男は、その言葉に急に不機嫌な顔になる。 「本当なら、そうしてんだろうがな…」  と、ローグがそこまで言いかけた時だ。 「ちょっとアンタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 何やってるのよ!!」  助け舟は、意外なところからやってきた。  余りに場違いなその絶叫に、ローグを除外した全員の動きが一瞬停止する。  ふと、ぱらぱらと振っていた雨が止む。雲間から、空が覗いていた。 「何って…見りゃ判るだろーが。尋問だよ、尋問。こいつ等が危ねー奴だったら困るだろうが…と」  辟易した顔で弓手に言葉を投げてから、呆然とした顔のセージに再び向き直る。 「ともかく、質問にゃ答えてもらえるな?」 「あ、ああ…」  なんだか良く判らないけれど、流石の♀セージも異質の中で尚異質な情景を目の前に、ただそう答えるのが精一杯だった。   <♀セージグループ、♂ログ達と合流> <子バフォが後先考えずとった川魚=>まだまだ沢山> ---- ||戻る||目次||進む ||[[148]]||[[Story]]||[[150]] 150.世界を支えるモノ   「遅かったな、もしかしてトイr……ごめんなさい冗談です、だからにこやかにTCJ構えるのやめてください」 気を取り直して♂プリーストはこほんと一度咳払いをする 「しっかし、この世界は無いものだらけだよなぁ、 心癒される花売り幼女たんもいなけりゃいつも笑顔で見送ってくれる案内要員たんも居ないし」 いきなりそのようなことを口にする♂プリーストを♀アサシンは 『はぁ?なにいってんの、とうとう気が狂ったのかこの変態聖職者』 という様な目で見る その視線に気がついた♂プリーストは慌てて、そしてやけに必死に地面を指差す それはチェインの柄で書かれた世界地図で。 上方に描かれた輪っか、左方に描かれた猿右下に書かれた着物 (左のはウンバラで右はアマツ……上のは………ああ!ジュノー) 「どうしてなんだろうなぁ」 そう言うとその三箇所からそれぞれ僅か内側に三つの絵を描く (えっと、時計がアルデバラン、塔がゲフェン、ムナックがフェイヨン) たしかにその三つの街がほぼこの茶番劇の舞台の最外周ではある だがそれがどうしたのだろうか、まったくピンとこない♀アサシンの様子に♂プリーストは焦れたようにセイフティーウォールの詠唱を始める だが当然ブルージェムストーン無しで発動などするはずもなかった 「あははは、ばっかねぇ青ジェム無いのにできるはずないじゃ…ん?」 そこで♀アサシンの思考はある所へたどりついた 微量な魔力しか持っていないブルージェムストーンですら数回とはいえ魔王と呼ばれる存在の攻撃を防ぎうる結界を作り出すのだ たとえば神の鉱石とまで呼ばれているエンペリウム、それも20個がかりの魔力で結界を張ったならばどのような強力な結界が張られるのだろうか そして、自分達を閉じ込めているこの世界はいわば結界のようなものではないのだろうか 続けて描かれた結晶の絵を何も言わずにその手の拳刃で断ち切る真似をする それを見て♂プリーストは満足したように頷いた   <♂プリースト&♀アサシン 移動開始> ---- ||戻る||目次||進む ||[[149]]||[[Story]]||[[151]] 151.定時報告4   「あ〜ら♀ハンタさんてば、3人もまとめて殺したのねっ♪  ♀騎士さんも瀕死みたいだし、うん上出来上出来☆ 合格よ〜♪」 報告に目を通すと、GM秋菜は甲高く笑った。 豪奢な玉座に深く腰を埋めたまま膝下をばたつかせる。 そんな秋菜を、報告を携えてきた男はただ無表情に見つめた。 二人は性別の違いを除いて、同じデザインの白い制服を纏っている。 違いは男の首に巻かれた金属の質感を持つ首輪。 GM秋菜はゲームを始めるに当たって、数名のGMをスタッフとして共に拉致していた。 彼らの役割は、先に♀ローグに命を奪われた♂GMのように死体の生死を確認する外勤と、 GM秋菜の周辺で彼女の世話をしたり、首輪から送られてくる情報を整理する内勤に分けられた。 彼らはどちらも等しく首輪によって管理されていた。更に後者は精神改竄を行われ、 ゲーム参加者の首輪から発信される情報を正確にまとめ上げ管理する機械に成り果てていた。 ゆえに後者の首輪は保険のようなものであったし、爆発の規模もGM秋菜の身に被害が及ばぬよう 前者の数十分の一に押さえられていた。 「ご苦労さま☆ これからも♀騎士さんとDOPさんの監視をお願いね〜♪」 GM秋菜は男を下がらせると、手元の水晶球を模した装置を操作した。 目の前の鏡にルーンミッドガルド全土の地図と、各参加者を示す赤い印が浮かび上がる。 GM秋菜はアルデバラン南方に印が集中しているのに気付いた。 「あらぁ・・・ここだけまっかっかになっちゃってる〜、えーと・・・♂ローグさんと、♀セージさんと・・・全部で7人ですかぁ。  全員まだ殺害数0の悪い子ちゃんばかりだしっ! う〜ん、良くないですねぇ。  それに♀セージさんたちは確かこっちに向かってたはずなのに、ど〜してわざわざ北に戻っちゃったんでしょう〜?  まさか時計塔を目指してるなんてことないですよねぇ。秋菜心配だなぁ・・・」 GM秋菜は左人差し指を口元に添えて、うーんとかわいらしく小首をかしげた。 その時、壁にかけられている時計から鳩が飛び出した。 定時報告30分前だ。 GM秋菜はパチリと指を鳴らした。 「よーし、めんどくさいからここ禁止区域にしちゃおっと♪ ついでに霧を発生させて、なかなか抜けられないようにしちゃおうかな〜♪ みんなが必死に逃げるところを秋菜に見せてくださいっ☆」 --- 30分後、いつも通りの場違いな音楽に合わせて、4回目の定時報告が放送された。 死者は♂マジ、♂ノービス、悪魔プリ、♀アルケミ、♀BS、ペコペコ管理兵、ペコペコ管理兵、♂アコ、♀ハンタの8名。 禁止区域は 廃鉱周辺 モロク―フェイヨン間南の橋周辺 ゴブリン村 エルダーウィローの森 アルデバラン南 の5箇所であった。   <残り16名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[150]]||[[Story]]||[[152]] 152.筆談   モンスターに年端も行かない少女、悪漢に聖騎士に弓手… その奇妙な一団と♀セージ一行は今、焚き火を囲んで焼き魚を食べていた 「つまり、ゲームに乗っているわけじゃない。そういうことだな?」 「ああ、そう取ってもらって構わない」 ♀クルセの問に♀セージが答える 「じゃあ、なんでこんなところに来た?此処から先には禁止区域しか無いぞ」 「正確な地理がわからなかったのでな、適当に歩いたらここに出た」 ♀クルセに変わり問いかけてきた♂ローグに♀セージはそう答えながら地面に木の棒で文字を書いた 『この会話はGMに盗聴されている、自分達は首輪を無効化するために動いている、協力してくれる仲間を求めて此処に来た』と 「なるほどな、三人も居ながらそんなことになるたぁよっぽどマヌケだな」 「ああ、まったくだ」 『首輪の解析は道中でほぼ終了している、これから書くものが必要だ 必要なもの:プリーストまたはアコライト(確実性を求めるならプリースト) ブルージェムストーンかエンペリウム(魔術のサクリファイスに使用、エンペリウムなら一個で4人は解除可) 魔術使い(魔力制御に必要) あれば確実なもの:呪いのアイテム(呪いを別の呪いを使い断ち切る)、 信じる心と勇気(首輪を外せる、と信じること)』 「だがこれで納得してもらえたか?」 「ああ、大体な。しかしまあ疑問も残るわけだが」 『そんなモノが上手く支給品にあると思うか?』 『呪いの武器は♀WIZが確認している。幸いゲフェンはまだ禁止区域ではない。これから取りに行く』 『迷いの森はどうやって抜けるつもりだ?適当に歩くつもりか?』 『そこの♀WIZが道順は記憶している。心配は無用だ』 「ま、愚にも突かねえ些細な疑問だから聞くのは止めておくか」 『最後に一つ、お前達は信頼出来るか?』 「ああ、そうしてくれると助かる」 『書いただろう?必要なのは信じる心だ、と』 そこまで書いて、♀セージと♂ローグは互いの顔を見合いにやりと笑った 『OK、青ジェムならそこのクルセが3つだけ持ってる。持って行け』 『感謝する。あと、子供達の休憩が終われば出来る限り早く此処から離れた方がいい。 出口を詰められてはせっかくの命が無駄になるからな』 「ちょ、だれがこども…むがっ」 横から文を見てつい声に出しかけた♀アチャの口を慌てて手で塞ぐ♀クルセ 「さて、それでは夕餉も馳走になったことだし行くとするか。どうやらあまり信用されていないようだからな」 『あまり大人数で動くのも残ったゲームに乗っているヤツらに見つかれば一網打尽になる危険性がある。 分かれて行動したほうがいいだろう』 「どうやら前衛が居ない様だな…よし、聖騎士として私が付いて行ってやろう」 『私は、こいつらに着いて行く。それがこのゲームを終わらせる最良の手だと思う』 「♂ローグ……お前は、私の変わりにみんなを守ってくれ」 「げ、なんでオレが…」 拒否しようとしたところを♀クルセにじっと見られて♂ローグは 「……柄じゃねえが乗りかかった船だ、こうなったら最後まで引き受けてやるよ」 結局、諦めたようなため息と「こんなのオレのキャラじゃなかったはずなんだがな」という苦笑と共に引き受けた 「放送の時にお前達の名前が流れないよう気をつけるんだな」 『また、絶対に生きて会おう』 「はっ、そりゃこっちのセリフだ」 『出来れば、そうしたいところだ』 「じゃあな、悪漢」 「あばよ、知識バカ」 『『死ぬんじゃないぞ』』   <♀セージ、♀WIZ、♂アチャ、♀クルセ、ゲフェンへ向けて移動開始> <♂ローグ、アラームたん、♀アチャ、アラーム&アチャの休憩後移動開始> <時間は放送ちょっと前> ---- ||戻る||目次||進む ||[[151]]||[[Story]]||[[153]]. 153.道を征く者   お父さん、お母さん、それに兄上に妹。お元気ですか 友達ができました。 このどうしようも無くクソッタレな世界で知り合いました。 出会ったときから天をつくような逆毛で、 どこに出しても恥ずかしいくらい逆毛です。 それと融通利かない堅物です。 訂正、堅物なんてものじゃありません。 信じられますか? 今までデートはおろか、女の子と会話すらまともにしたことが無いそうですよ? ちょっと肌を露出させた深淵の騎士子さん相手にドギマギしてます。 気づかれないように平静を装ってますが、バレてますって。 ダイヤの原石です。変な意味で。 ついさっきもペコペコ管理兵2人組相手に、のたまいました。 「モエ?なにそれ?っっwwwっうぇ」 なってません。逆毛のくせに全くなってません。 世の素晴らしさの30%くらい無駄にしてます。 元の世界に帰ったら叩き込んでやろうと思う。 驚く顔が見物だ。 面白い奴だ。 損な生き方してる奴だ。 いい奴なんだ。 だから 一緒に帰りたかった。 「助けられてばかりだな」 泥まみれになりながら掘った穴に3人を横たえてやると、目を真っ赤に腫らした深淵の騎士子は死者に語りかける。 「二度だ…  一度目はお前と♂アルケミに、もう一度はそこの二人の育てたペコペコに助けられた」 自嘲?それとも懺悔? 真っ直ぐ見つめる目はそのどちらも否定する。 これは… 「もらった命、無駄にはせぬ」 これは、誓いだ。 「お前達の託した想い、しかと聞き届けた」 騎士子は目を逸らさない。 「情けないが、まだ私は憎しみも悲しみも悔しさも捨てられない」 騎士は自分の中に大切な何かを背負い、そのために生き、死ぬと言う。 「だが、たとえ無様であろうと、生にすがろう。  戦って死ぬより遙かに険しい道だろうと皆と生き残ろう。  このくだらぬゲームを潰そう。  それが我が誓い。  我が騎士道だ」 溢れんばかりの負の感情を前にしても、もう道を踏み誤ることはない。 三人から引き継いだ命の灯が二人の進むべき道を指し示してくれるのだから。 (きっとお前がくれたんだ、逆毛) 強い心を、二人に。 ♂アルケミは思う。 折れた剣と 父と子と精霊と逆毛の神と そして逝った親友に誓おう。 希望的観測は出来ない。 そんな甘さは友の命と共に吹き飛んでしまった。 それでも俺は、絶対にゲームに乗ってやらない。 「だから眠れ、安らかに」   <♂アルケミ・深淵の騎士子現状維持> <時間は放送前> ---- ||戻る||目次||進む ||[[152]]||[[Story]]||[[154]]. 154.既視感   埋める際になって♂アルケミは気づいた。 (そうだ…首輪外してやらないと) このゲームの象徴たる呪いの首輪を付けたまま送るのは忍びない。 そう思い、遺体の傍らにかがむと首輪を外してしまう。 そう、まるで首輪の危険性を忘れてしまったかのように 「なっ?!待っ!」 深淵の騎士子がその行為に驚き声を上げるが、既に遅い。 とっさに目をつぶる騎士子だが、2人と2匹を飲み込むように辺りは閃光につつまれ… (…………あれ?) …なかった。 おそるおそる目を開けると、さっきと変わらぬ情景がそこにある。 ( ゚д゚) (つд⊂)ゴシゴシ (;゚д゚) (つд⊂)ゴシゴシ   _, ._ (;゚ Д゚) ♂アコの首輪は既に♂アルケミの手の中に収まっている… というかグルグル振り回していたり。 (…呪いというのは嘘か?) とっさにそう考える騎士子だが、それはありえない。 その手の分野には詳しくないが、自分の首輪には確かに呪いが掛かっている。 「…何故、爆発せぬ?」 深淵の騎士子の慌てっぷりに驚いた♂アルケミだが、その呟きで得心した。 「ああ、この首輪か?」 そう言って、騎士子に向けて首輪を投げ渡すが、彼女はそれを受け取らず思わず避けてしまう。 「大丈夫、付けなければただの首輪だ」 「…本当か?」 恐る恐る拾い上げる騎士子に彼は苦笑する。 「♀ノビさんが斬られた時、既に爆発してるって…  もし、そんなことで爆発していたら」 「♀ノビ?」 頭上に/?を浮かべる騎士子 そして♂アルケミはあの時の情景を思いだし顔を曇らせつつも、説明する。 「こちらに来るのが遅かったんだったな、深淵の騎士子さんは…  ♀ノビさんがこのゲーム開始直前にGMに抗議して頭から真っ二つにされた。  その時首輪ごとバッサリと。  あと、呪いの術式云々は分かないが…  純粋に【アイテム】として鑑定するのなら俺達の独壇場だから」 スキルを修得していればだけどね、と続ける。 騎士子はと言うと、恨み晴らさんとばかりに首輪を引っ張ってねじっている。 あ、千切れた。 「本当にただの首輪だな」 (馬鹿力…) 内心思ったが口にはしない。命は大切にしよう。 「だろ?  中に何か仕込んでいるか?とも思ったが、それすら無い。  生者にだけ有効な呪いなのかねぇ」 「つまり、『死ぬと爆発しない』わけか」 「………」 「………」 ((アレ?)) お互い顔を見合わせる。 霞の向こうに何か影を見つけたような、もしくは喉に引っかかった小骨のような… 役に立たないかもしれない。 でも、もしかしたら何か『ゲーム』の根底に迫れる… その時あの忌々しい声が辺りに流れ、イメージは儚く霧散した。   <♂アルケミ・深淵の騎士子現状維持> ---- ||戻る||目次||進む ||[[153]]||[[Story]]||[[155]]. 155.枷受けぬ者   Jr「ローグ殿」 ♂ローグ「あ?なんだよ?」 Jr『先に行ってくれ』 ♂ローグ『は?』 Jr『我は・・・ルイーナに行ってみる』 ♂ローグ『あ?あそこは禁止・・・ああそうか』 Jr『うむ』 ♂ローグ『お前ははめて無いんだったよな・・・』 Jr『あそこならひょっとすればエンペリウムもあるかもしれん。後で追いかける』 ♂ローグ『解った、そう言う事なら止めねぇ』 Jr『アラーム殿を頼む』 ♂ローグ『まった、これ持ってけ。何出るかわかんねぇけどな』 Jr『ん・・・すまんな』 ♂ローグ『死ぬなよ、あいつが泣くからな』 Jr『無論、承知の上だ』 こうして、奇しくも秋奈の把握せぬジョーカーが行く。   <バフォJr 小青箱1個、クレンセントサイダー(Jrサイズ)所持> <備考:首輪未所持のため秋菜側でのBAN不可能(位置把握も不可能?)> <現在位置:国境都市アルデバラン南門の外(♂ローグPTと別行動開始)、目的地:ルイーナギルドMAP> <♂ローグPT、取りあえず南から移動開始、目的地:プロ方面?> <♀セージPT、新女王MAP周辺からプロ西方面を抜けゲフェンへ?> ---- ||戻る||目次||進む ||[[154]]||[[Story]]||[[156]]. 156.魔人   急所を外れていたとはいえ ♀騎士の傷はいつその命を奪ってもおかしくない状態で、 しかるべき処置をせねばもって数刻。 先ほどのPTには薬師も未熟ながら聖職者も居た、彼らならばこの潰えそうな命を助けることが出来るかもしれない だが、♀ハンターの罠を受けた彼らが健在である保障も無く 一応は敵対関係になってしまったこともあり すんなりと助力が頼めるとは思えない それに♀騎士をこの状態で動かしてはそれこそその命を縮めることにもなりかねない 手段は一つだけある ドッペルゲンガーとて癒しの術を行使することが出来る だがそれは人のソレとは違い魔に属する者にしか効果を示さない 「…う、奴は?」 「逃げた」 「追わなければ……うっ!」 「動くな、動けば死が近づくだけだ」 「……自分の身体のことはよく判ってる、どのみち私は長くない。なら少しでもあいつを追うわ……」 と、ドッペルゲンガーを力無く振り払い立ち上がる 「どうしても追うのか?」 「ええ、あいつを殺せるなら他はなにも要らない、私の命すらもね……」 「その潰えそうな命、たった一つだけ繋ぎ止める方法があるとしたらどうする?」 ドッペルゲンガーは腹を括った 「だがその方法は人としての尊厳、誇りそういったもの全てを奪うであろう……それでも生きて戦いに身を投じることを望むか?」 ゆっくりとそしてしっかりと♀騎士は頷いた 半ば確信していたその応えに僅かに哀れみを浮かべツヴァイハンダーで器用に己の指先を切る 「啜れ。そうすれば貴公の命永らえることができよう、だがその時点で貴公は人ではなく魔と成る」 ♀騎士の人としての本能が戸惑いを見せた、だがそれは一瞬ですぐに貪るようにその鮮血を啜り始めた   <♀騎士 DOP化> <ドッペルゲンガー プチ衰弱> ---- ||戻る||目次||進む ||[[155]]||[[Story]]||[[157]] 157.犯罪者達の感性   バドスケと並んで歩いていた♀ローグが不意にしゃがみこんで地面に頬をこすり付ける。 「ん?」 「静かにっ!」 ♀ローグの叱責に、慌てて口を紡ぐバドスケ。 「……どうやら人が歩いてるみたいだね。それも複数……二、三人って所か?」 そう言われてバドスケは表情を堅くするが、♀ローグはにまーっと笑う。 「ちょうどいい機会じゃないか。あんたここでそいつらと合流しなよ」 言葉は理解出来るが、内容が全く理解できない。 「なに? 何がどーなっていきなりそうなるんだ?」 ♀ローグはばんばんとバドスケの背中を叩く。 「あんた、ここの世界で人探すんなら一人より二人でしょ? もしかしたらそのアラームって子かもしれないし、その子の事知ってるかもしれない。情報交換の機会は逃すべきじゃないと思わないかい?」 バドスケがぽかーんとしてる中、♀ローグは言う。 「幸い、ああ本当に運が良い事に私はまだそのアラームってのに会った事無いしね。ならこれ以上私と一緒に居る理由無いでしょうに」 「そ、そっか……まあ確かに。だけど俺はやっぱり……」 ♀ローグがじろっと睨む。 「ま・ず・は・その子を見つけるのが最優先。違うかい? その後で皆殺しでもなんでも好きにすればいいさね。てかそうしなさい。 あんた、自分の目の届かない所でその子が死んだら悔やんでも悔やみきれないだろ?」 躊躇するバドスケを♀ローグが後押ししてやる。 「だーい丈夫だって。 んなあんたが誰殺したなんて誰も知りやしないんだから。 それこそ話聞くまで私だって知らなかったんだし……そうだろ?」 バドスケは♀ローグの方を向いて頭を下げる。 「すまねぇ。本当に世話になった……でも最後に一つ、これだけ聞いていいか?」 「なんだい?」 「なんだってあんた俺を助けてくれたんだ? あんた……このゲームに乗ってるんだろ?」 真顔で聞くバドスケに♀ローグはからから笑う。 「だってあんた骨ばっかじゃん。血も吹き出さない相手なんて殺したっておもしろくもなんともないさね」 無言になるバドスケ。この人の言う事は何処まで本気で何処からが冗談なのか全くわからない。 相変わらず笑っている♀ローグを後に、バドスケは♀ローグの示した方角へと歩き出したのだった。 バドスケが行ってしまうと、♀ローグはその場に座って懐をあさる。 そこから取り出したのはパイプタバコと火打ち石。 器用に火打ち石を片手で鳴らしてパイプタバコに火を付ける。 「あ〜、生き返るね〜。なんかもー至福の時だね〜。もーずーっとこうしてるのも悪く無いね〜」 そして何をするでもなく、ぷかぷか浮かぶタバコの煙をいつまでも見続けていたのだった。 バドスケが歩き続けると、すぐにその人影は見つかった。 ♀ローグと話していたおかげで、何故か心は安定を取り戻していた。 とにかくアラームを見つけよう、全てはそれからだ。 「おーい、そこの人達。攻撃の意志は無いから話を聞いてくれ〜」 バドスケが声をかけても、二人は既にバドスケに気付いていたのか驚いた様子は無かった。 「……そー思うんなら、まずその無駄に物騒な仮面なんとかしろ」 男がそう声をかけてくる。 「別にそれがお望みならかまわんが……あんまり変わらんぞ?」 そう言いながらアラーム仮面を外すバドスケ。素顔のがいこつが久しぶりに外気にさらされる。 「って中も仮面かよ!」 「ばっかやろう! これが素顔だ文句あるか!」 怒鳴り返しながら仮面を付け直す。 「アーチャースケルトン・バドスケだ。あんた達に聞きたい事があるんだが……」 隣に居た女が聞き返す。 「ああ、あんたあの時の……聞きたい事って何?」 少しづつ近づきながら話していたので、ここまで来るとその人間が確実に二人である事や彼らの衣服やらがはっきりとわかる。 ♂プリーストと♀アサシンの二人だ。 ♂プリーストは、見知ったような口振りのアサシンに訊ねる。 「ん? 知り合いか?」 ♀アサシンは至極あっさりと言い放った。 「ほら、さっきノービス君殺した奴よ」 ♂プリーストが凄まじい形相で襲いかかる。 バドスケは驚きのあまり、一目散にその場を逃げ去る。 逃がす気なぞ無いのか、とことんまで追いかけようとする♂プリーストだったが、突然その場にひっくり返る。 隣を走っていた♀アサシンが足をかけたらしい。 「いきなり何しやがる!」 ♀アサシンはさっきと同じように平然とした顔で言う。 「あんた動かない方がいい。ヤバイ敵がその先に居たらあんたが一緒に居ると私も逃げられなくなる。偵察なら私が行くわよ」 ♂プリーストが激昂して♀アサシンに言い放つ。 「ふざけんな! あいつだけは絶対逃がしゃしねえ!」 そう言って起きあがる所を、再度アサシンに突き飛ばされひっくり返る。 「そう? ノービス君は腹に致命的な一撃喰らっても、あいつを殺そうとはしなかったわよ」 ♀アサシンの言葉に、♂プリーストは口を開けたまま何も言えなくなってしまった。 「大丈夫、私アサシンだけど殺さないようにするから。ほら、さっきの♀ローグだって殺さなかったんだし」 ♂プリーストはその言葉に驚く。 「何!? なんだってまた……」 「ノービス君あんまり人殺し好きそうじゃなかったから、出来るだけ避けよっかなって思って……ダメかな?」 目を丸くする♂プリースト。 「ダメっていうか……それでお前大丈夫か? それでも勝てるのか?」 「とりあえず♀ローグには勝った。う〜ん、でもこの後もずーっとこれでやってて勝てるかどうかはわかんないかな。 勝てなそうだったら逃げるけど、逃げ切れなかったら死んじゃうから、その時はごめん」 そう言うと♀アサシンは、突き飛ばされて座り込んでいる♂プリーストの眼前に自分の顔を近づける。 「私はさ、ノービス君の事良く知らないし、彼の遺志も全部わかるわけじゃない。 だからさ、指示はあんたが出してよ。 殺す相手も殺さない相手もあんたが決めて」 そして♂プリーストに手を差し伸べる。 「それが冷静な判断の元、出された指示かどうかぐらいは私が自分で判断するからさ。 行動指針はお願いするわね」 ♀アサシンにとって人の生き死にとは、朝の挨拶か何かと同じ程度の事でしか無いのであろう。 漠然とそんな事を考えながら♂プリーストは♀アサシンの手を取ったのだった。 相変わらずパイプタバコをぷかぷかやってた♀ローグの元に、バドスケが猛ダッシュで戻ってきた。 「おやまあお帰り。出戻りかい?」 よっぽど疲れたのか、跪いて肩で息をするバドスケ。 そんなバドスケを見て、やっぱり笑い出す♀ローグ。 「あはははは、骨でもやっぱり疲れたりするもんなんだね〜」 そんな♀ローグをバドスケは睨み付ける。 「ばっかやろう何がバレないだ! いきなりしょっぱなからバレたじゃねーか!」 それを聞いた♀ローグは更に大笑いする。 「あーっはっはっは! そいつは運が無かったね〜。しかし、いきなり当り引くたーかなり笑えるよあんた」 全然悪いと思ってない模様。♀ローグをバドスケはジト目で見る。が、これ以上何を言っても無駄であろうとも思っていたので黙っている事にした。 ♀ローグは立ち上がりながら、パイプタバコの灰を捨てて懐に収める。 「んで……付けられたねあんた。出てきなっ!」 ♀ローグがバドスケの後方数メートルの位置に石を投げつける。 すると、その場所から♀アサシンが現われたのだ。 「あらら、バレちゃったか……あなた案外鋭い?」 ♀アサシンは暢気にそんな事を言う。 そして対する♀ローグは、バドスケを横にどけながら、前に出る。 「あんただったのかい。こいつは……いいね、早速再戦といこうか い!」 一足飛びに♀アサシンの眼前に飛び込み、いつのまにか抜いていたダマスカスを振るう♀ローグ。 ♀アサシンはそれをTCJで受け止める。 「……死にたいの?」 「やれるもんならやってみな!」 そして、左足で♀アサシンを蹴り上げる♀ローグ。 後ろに飛んで逃げようとする♀アサシンだったが、それをダマスカスでTCJを引っかけるようにしてうまく押さえ込み、ケリを当てる。 右足に蹴りを食らった♀アサシンは、予想以上の打撃の重さによろめく。 その隙を見逃さずに今度は右の拳を♀アサシンの顔面に叩き込む。 直後に踏み込んだ♀ローグの顔の真下からTCJを振り上げる♀アサシンだったが、 これは♀ローグが♀アサシンから離れる事であっさりとかわされる。 『……こいつ冷静になってると凄い強い。やっぱさっき殺しとけばよかったかな〜』 ♀アサシンはカタールを構えたまま動かない。 ♀ローグも同じくダマスカスを眼前に構えた姿勢で動きを止める。 『さて、どうやって責めましょうかねぇ……当り一辺倒なやり方じゃ通用しなさそうだし』 二人共完全に動きを止めるが、すぐに同時に動き出す。 同時に右足、同時に左足、三歩目が双方の必殺圏内だ。 しゅっ 三歩目を踏み出すと同時に両者共更に間合いを詰めてからその武器を振るい、そしてその武器はどちらも何にも当りはしなかった。 間合いを詰めた勢いそのままに二人はすれ違い、すぐさま後ろを向く。 何かが落ちた音。 ♀ローグはにまーっと笑った。 「これで貸し借り無しだね。まだやるかい?」 ♀アサシンは後ろに束ねていた髪を肩口の所からばっさりと切り取られ、一緒に口元を覆っていたマスクも切り落とされていた。 そのまま無言で姿を消す♀アサシン。 ♀ローグは油断無く武器を構えたままだったが、♀アサシンが完全にその姿を消すと、高笑いを始めた。 「はーっはっはー! ざまー無いねクソアサシンが! 見たかいバドスケ!? この私の強い所!」 バドスケは呆然としたまま答えた。 「すまねぇ。普通に全然見えなかった」 ♀ローグは更に大笑い。 「そうかいそうかい、私が速すぎたかね〜。次からはあんたにも見えるようにびしーっと決めてやるから楽しみにしてなよ♪」 上機嫌のままでバドスケの側に行き、近くの腰掛けやすい石の上に座る。 「ん〜。なんか酒の一杯でも欲しい気分だよ。あんた持ってないかい?」 「あるわけねーだろ……くそっ、しかしこれじゃ俺も動き取れねぇな〜。あんなヤバイ奴居る事だし……」 バドスケの言葉にも♀ローグは機嫌を損ねる事無く、陽気に言った。 「ならいっそ将軍様の鎧でも着て、わしはすけるとんじぇねらるじゃー強いのじゃー、とでも言ってみるかい? どーせ骨の区別なんざ誰もつきゃしないからね〜あっはっはっは」 「てめー真面目に考えてねーだろ! 大体そんな将軍の鎧なんてもんGHにでも行かなきゃ手に入らねーだろうし……」 グラストヘイム、バドスケが度々旅の途中で立ち寄った場所である。 ふと懐かしさに立ち寄ってみたい気分にもなったが、このお気楽ローグの言葉を真に受けたと取られるのも癪だ。 「……って待てよ。そうだよ! この世界で行き先なんてあいつにも決められる訳ねーんだよ!」 「ん? どうしたい? 何か思いついたのかい?」 バドスケは♀ローグに向かって嬉々として話す。 「ほら! アラームがこの世界で、行き場所に困ったら何処行くかって考えたら、生まれ故郷の時計塔以外無ぇじゃん! そうだろ!」 バドスケの思いつきに、♀ローグは少し考えた後、大きく頷く。 「うん、そうだね。そういう考え方は良いよ。……いいじゃんいいじゃん、あんたもかなり冷静に物考えられるようになってきたね〜」 そうと決まればとばかりに、バドスケは北に向けて歩き出す。 「ありがとなローグ姐さん! 俺行くわ!」 一刻も早くそこに向かいたいらしいバドスケを、♀ローグは手を振って見送ったのだった。 ローグはバドスケを見送った後、バドスケとは逆の方角へ進路を決める。 「……ま、バドスケとやりあうのは最後でもいいさね」 バドスケとのやりとりは、♀ローグにとっても気分転換になったようだ。 ♀アサシンにヤられた時は完全に喪失していた戦意も戻ってきた。 「うーっし、またバリバリ殺すとしますか♪」 そう言いながら、パイプタバコを吹かそうと懐に手を入れる♀ローグであった。 ♂プリーストは既に戻った♀アサシンと共に北へと向かっていた。 戦闘内容の一部始終は聞いている。 別にフォローのつもりは無いが、マスクと長い後ろ髪の無くなった♀アサシンは以前にくらべてとっつき易く見えた。 そんな事を♂プリーストが考えていると、♀アサシンは懐からパイプタバコと火打ち石を取り出して片手で器用に火を付ける。 「ん? お前そんなもん持ってたのか?」 大きく息を吸い、煙を吸い込む♀アサシン。 「げほっ! ぶへっ! ……何よこれー! 全然おいしくないどころか煙いだけじゃなーい!」 「だったら吸うなよ。んなもん何処で見つけてきたんだ……」 パイプタバコを後ろ手に放り投げると、♀アサシンは言う。 「ローグからスった」 いきなりの言葉に吹き出す♂プリースト。 「良くもまあ戦闘中にそんな余裕あったもんだな……」 「別に、あいつ本気で殺り合う気無かったみたいだし……それにさ」 「ん?」 いたずらっ子のような顔になる♀アサシン。 「いっぱしのローグ様がスリの被害に遭うなんて最低じゃない?」 「お前……頭だけじゃなくて性格まで悪かったんだな」 「どーいう意味よそれっ!」 「あんのクソアサシン! ぜーーーーったいぶっ殺すっ!」 バドスケの事なぞあっという間に忘れ去った♀ローグは、♀アサシンが向かったと思われる北に進路を取り直すのだった。   <バドスケ、♀ローグと別れ時計塔へ> <♀ローグ、♀アサシンを追って北へ> <♂プリースト、♀アサシン、時計塔へ> ---- ||戻る||目次||進む ||[[156]]||[[Story]]||[[158]] 158 仕事    一行は、再度迷宮の森の中を進んでいた。 「そういえばさ」  子バフォに渡された簡単な地図を見ながら、 先頭を進んでいる♂ローグに、♀アーチャーが声をかける。 「気になったんだけど…ローグって、普段どんなことしてるの?」  なんていうか、アタシにはその辺の道端でごろごろしてるイメージ しかないのよね、と続ける。 「…なんつーか、途轍もなく失礼な事いってねぇか?」 「でもねぇ…本当、判んないのよ。 冒険者的な部分って皆同じだしね」  男は、一度溜息を吐くと、立ち止まる。 「ま…確かに、周りからみりゃそんなもんだわな」  そして、一言そう言ってから、更に続ける。 「ま、基本的にゃ『何でも屋』とか『便利屋』って思ってくれて 間違いじゃねぇかな。 個人個人でやってる事はかなり違うし、 一概にゃ言えねぇが…俺なんかは探し物とってきたり、 商品運んだりってとこ。 まぁ、ギルドに属して上納してる限りは 何やっても構わねぇってのが実際か。 中にゃ、他になーんもしねぇで 芸術家の真似事なんてことばっかりやってる変わり者もいるしな」 「なるほどねぇ」  納得したように、弓手は頷く。  が、何か思い出したかのような顔をして、再び問いかけた。 「あー…でも、それならなんであんな色々知ってるの? あーゆうのっ て、本当は狩人の領分じゃ…」  弓手は、その問いに♂ローグが 一瞬ぎくりとした様な顔を浮かべたのを見逃さなかった。  しかし、悪漢は弓手が更なる疑問の言葉を投げるより早く、 表情を正すと返事を返していた。  ローグは、好きな時に、嘘がつける。 「趣味だ」 「……」  弓手が沈黙する。 「んだよ、趣味だっていってるだろ?」 「か、変わった趣味ね」 「よく言われるぜ」  答えて、へっと笑う。    そしてその返事に、憮然としながらも 弓手は疑問を投げるのを止めた。   <♂ローグ一行、迷宮の森の中を進んでる最中> ---- ||戻る||目次||進む ||[[157]]||[[Story]]||[[159]] 159.集う者達〜詩人の場合    痩せた詩人は、その放送を聴くなり、立ち止まった。  それが告げている内容は、男の目的の喪失でもあった。  即ち、アルデバラン前が禁止区域になり、アラームの名が未だ呼ばれていない、と言う事実である。 「……参った」  呟き、詩人は天を仰ぐ。  目指していた場所からは、既にアラームは移動してしまっているだろう。  と、なれば彼がこのまま移動しても無意味だ。  さて、どうしたものか。  幾つかの可能性を思い浮かべながら、思案する。  出来る限り冷静に。  一、アラームは本当にアルデバランに向ったのだろうか?  回答、情報の不足により現時点では不明。但し、最も確立が高いことは確かだ。  二、アルデバランから離れたとして、何処に向うか?  回答、恐らく、アルデバランからは離れるだろう。向うとすれば、禁止区域の少ない方。     明確な根拠は無いが、そう考えるのが最も無理が無い気がする。  三、ならば自分は何処に向うのが最適か? 「プロンテラ北、か」  ぼそり、と呟いてみる。  他に候補が無いわけでは無い。  もし、アルデバランから離れたとすれば取るべき道は二つ。  迷宮の森を抜けるか、彼が歩いている道を抜けるかのどちらかだ。  しかしながら、一つの論拠が彼の脳裏にはあった。  もしも、自分がアラームを連れていたとして。 この峠道の様な場所を通るだろうか、という疑問への答えがそれだ。 「多分…通らない、な」 今の様に自分ひとりで歩いているなら兎も角としてだ。 連れがいると仮定すれば、多少なりとも慎重な行動を取るだろう。 事実、こんな発見されやすい場所では、足手まといは格好の獲物でしかない。 勿論、その結論は仮定から汲み上げた推測の域を出ない。 結局のところ、今此処でアラームを待っていても、出会える確立は余り変わるまい。 ただ、一点違いがあるとすれば。 「けど、賭ける価値はあるよな、きっと」 自分で下した結論の方が、賭けを外した時の後悔は少ないだろう、と言うことだ。   <バドスケ 進路をプロ北に変更> ---- ||戻る||目次||進む ||[[158]]||[[Story]]||[[160]] 160.虎穴に入らずんば   「やはり、我々の行動範囲を着実に狭めてきているな」 間の抜けた音楽と共に放送が終わった後、♀セージが言った。 「これだけ範囲が狭くなると、他の奴らと出くわさないってのは難しいよなあ」 地図の禁止区域に×印をつけながら、♂アーチャーが応える。 「逃げ回ってないでさっさと殺しあえってことかしら?」 苦々しさをあらわにした口調で、♀ウィズ。 「それがあの女の狙いだろう。どうやら我々が協力し合っているのもお気に召さないらしい」 略式ながら死者のために祈りを捧げていた♀クルセが会話に加わる。 そんな会話をしつつ、筆談が行われていた。会話が筒抜けの可能性がある以上、重要なことは口に出すわけには行かない。 『まだゲフェンまでの道は塞がれていないな』 『でも一本道ってのが気にいらないわね』 『そうだな。次の放送次第では逃げ道が塞がれてしまうかも知れん』 確かにその通りだった。 ゲフェンの門はもはや北側しか使えず、そこに至るルートも湖を通るしかない。 入り組んだ地形と細い橋。 そこが禁止区域になった場合、30分の猶予―― あの忌々しい管理者が今までのルールを変えなければの話だが―― があるとは言え、強行突破はあまりに分の悪い賭けとなる。 『道が開いてること自体が罠ってことは?』 ためらいがちに♂アーチャーが書いた言葉に、♀セージは素直に回答する。 『その可能性はある』 そして付け加えた。 『しかし、行かなければ』 全員が深く頷いた。   一方、♂プリは困っていた。 (まいったな……アルデバランは完全に塞がれちまった) 「ねえ、これからどうすんの? もうアルデバランは行けないみたいだけど」 立ち止まって考え始めた♂プリを見て、♀アサが声を掛けてくる。 ♂プリはまたチェインの柄を使って地面に何やら描いていた。 左上に三角の塔、右上には時計のついた建物、その下には城、さらに右下には狐。 そしてそれぞれの横にはさっきも見た結晶の絵。 ♀アサにも、それが世界の4ヶ所に存在するギルド砦、そこに配置されているエンペリウムを指しているのだとわかった。 「俺たちが居るのは……まあ、だいたいこの辺か」 印が付いた場所は、プロンテラとゲフェンの中間あたりの地点、元の世界であればバッタ海岸と呼ばれる場所の南岸だ。 (道が塞がった以上、アルデバランのエンペリウムには手が出せない……どうすればいい?) こつこつと地面を叩きながら考え込む♂プリ。 しばらくそれを見ていた♀アサだが、やがて口を開いた。 「あのさ……すごく強いやつと戦うとき、あんたならどうする?」 「あ? 何だよいきなり」 考え事を中断された♂プリが不機嫌そうな声を出す。 それを受け流しながら♀アサは言葉を続ける。 「別にさあ、相手と真正面から戦う必要は無いんだよね」 「……何の話だよ?」 「手でも足でも、眼でもいい。どっか弱そうなところを叩いてやれば、もうそいつは全力では戦えない。そうなったらこっちのもんさ」 ようやく♂プリにも話がわかってきた。 何もすべてのエンペリウムを破壊する必要は無い。 いくつかが破壊されれば、この巨大な結界は維持できなくなる。 ♀アサはそう言いたいのだ。 「なるほどな。あとは向こうが自滅してくれるってわけか」 「そういうこと。さすが、察しがいいね」 ♀アサは満足げに笑うと、地図のほうに視線を向ける。 「で、どこに向かうわけ?」 もう♂プリは地図上の一点を丸で囲んでいた。 「わかったよ。じゃ、行こうか」   <♀セージPT、ゲフェンへ向かう> <♂プリPT、ブリトニア(ゲフェンギルドマップ)へ向かう> ---- ||戻る||目次||進む ||[[159]]||[[Story]]||[[161]] 161.変質   変わりゆく身体に細胞の一つ一つが悲鳴をあげていた 変わりゆく精神に神経の細部に至るまで苦痛に歪んでいた 抵抗する意思さえ放棄すればこの変異に身体か精神かのどちらかがすぐに耐えれなくなり早々に死という安息を得られるだろう だが私はそれを拒否した すでに仇である♀ハンターが死んだことは知っていた けれどもまだ元凶であるGM秋菜が残っている 奴を殺さねば真の意味で仇を討ったことにはならない (…きっとあいつはそんなこと望んではいないだろうけど、ね) それを思うと少しだけ心が痛む その痛みは変異する痛みとは違い消えることなく残り続けている しかし、その痛みこそが騎士どころか人ですらなくなった私に残ったただ一つのモノだった 目を閉じれば思い出すあいつの顔、あいつの温もり…… この思いがなければ私はきっと変異に耐えることは出来なかっただろう   <♀騎士 DOP化完了> ---- ||戻る||目次||進む ||[[160]]||[[Story]]||[[162]] 162.2人の悪党   ♀ローグは♀アサシンの行き先を読む。 「この北にあるもんって言ったらアルデバランぐらいだけど……禁止区域の事もあるしね〜……さてどうしたもんかね」 そもそも奴が北に向かう理由すらわからないのだ、正確な判断なぞ望むべくもない。 「ふん、それじゃ事実優先といくかね」 今の♀ローグが知りうる知識の中では、♀アサシンは北に向かっているという事だけだ。 奴の行動目的はマーダーの抹殺だ。いや、殺してはいないが。 「そいつが私を殺さないで、何か別の事をしている。 そもそもあの手の手練れで、殺し屋稼業にどっぷりつかったタイプが殺しに乗らないってなどう考えてもおかしいわね、しかも複数人で行動してるみたいだし」 いくつかの予測は立つ。だが断定は出来ない。 「アルデバランに何かある? ……それは、皆殺し以上にこの状況を脱するに適した方法……って事?」 情報が少なすぎて考えがまとまらない。♀ローグは乱暴に自分の髪の毛を掻く。 「あーもう! いらいらするねぇ!」 ♀ローグは気分転換とばかりにバックから青箱を取り出す。 「こういう時は派手にギャンブル! あっくまぷりちゃん♪ あんたの青箱に期待してるわよ〜♪」 ぱかっ 中に入ってる物を一目見た時、♀ローグの頭にふと、危険すぎるギャンブルが浮かんだ。 「……流石の私でも、こいつはねぇ……最後の切り札とでもしましょうか」 それを懐にしまうと、そこらに落ちている木の枝を拾う。 「さて、いつまでもうだうだやっててもしょうがないし……当るも八卦、当らぬも八卦ってね」 そう言うと枝を空中に放り投げる。 それはくるくる回って地面に落ちると、ちょうどとある名所を指していた。 ♀ローグは感嘆の声をあげる。 「おやおや……なるほど、その手があったかい。 確かにこれなら先回りにもなるしうってつけだね。 いいわよいいわよ、行ってやろうじゃない……迷宮の森へ」 ♀アーチャーは迷宮の森を抜けると安堵の吐息を漏らす。 「ふう、なんとか迷わないですんだわね」 ♂ローグが不機嫌そうに言う。 「だから俺が覚えてるって言ったろ。そもそも通ったばっかじゃねえか。忘れる方がどうかしてるぜ」 「何よ〜。大体ね……」 ♀アーチャーの言葉を♂ローグが制する。 「……待て。誰か居る」 そんな♂ローグに答える声は背後、上方から聞こえた。 「うん。ここよ、ここ」 ぎょっとなった一同が、入り口になってる石碑の上を見るとそこには♀ローグが座っていた。 すぐに♂ローグの後ろに隠れる♀アーチャーとアラーム。いい加減このPTでの動き方にも慣れてきたようだ。 そんな二人に、♂ローグは小声で言った。 「……俺が合図したら、二人共さっきの連中の所に向かって逃げろ。 いいか、全力でだ。息が止まっても足は止めるんじゃねえぞ」 そして♂ローグが♀ローグに問いかける。 「ようご同業。俺達に何か用かい?」 ♀ローグは座ったまま言う。 「おっどろいた、なんだってローグのあんたがそんな小娘引き連れてるんだい? 慰み者にするしちゃ趣味がえらく幅広すぎでないかい?」 ♂ローグは心の中で毒づく。 『慰み者にされてるのは俺の方だ、クソッタレ』 「成り行きだよ」 実際口にはぶっきらぼうそうにそう呟いただけだが。 しかしそれを聞いた♀ローグは眉をひそめる。 「成り行き? ばっかじゃないのアンタ。 そんな小娘なんざ盾にもなりゃしない。 さっさと殺して次に行った方が楽に決まってるじゃない」 簡単に殺すという単語が出た事で、♀アーチャーとアラームは体を堅くする。 「知らねえな。俺のやる事をてめえが指図するんじゃねえよ」 取り付くしまも無い♂ローグの返答に、♀ローグはぴんと来たらしい。 「あ……あはは……もしかして……あんた騎士の真似事でもしてるつもりかい?」 「知らねえって言ってんだろクソ女!」 ♂ローグの即答に、♀ローグは確信を持ったらしい。 「は、はははははは! こりゃおかしい、傑作だね! やっぱり男の子と生まれたからには女を守ってこそってかい? バーカ! あんたみたいなクソ悪党にそんな真似似合うとでも思ってるのかい!」 ♀ローグの言葉にも♂ローグは反応しない。 「バカね! 外道は外道らしくしてりゃいいんだよ! 敵の背後をつく、姿を隠して奇襲する、武器防具を剥ぎとってすっぱだかにする、そんな騎士様居てたまるかい! いや〜、片腹痛いたーこの事さね」 なおも言いたい放題の♀ローグに、♀アーチャーがキレた。 「ちょっとアンタ! 黙って聞いてれば言いたい放題言ってくれてさ! あんたにこいつの何がわかるのさ!?」 ♂ローグの制止の手も振りきっての言葉だ。 それを聞いた♀ローグは更に大ウケする。 「あーっはっは! 大した調教っぷりだね! あんたその悪党面で女を口説くなんざよっぽどアコギな真似でもしたんじゃないのかい?」 その言葉に♀アーチャーは完全にキレた。 「ふっざけんじゃないわよこの年増! あんたみたいに世の中全部真っ黒みたいな生き方しか出来ない人と私達を一緒にしないでよね! こいつはね! 命がけで既に何人も助けてきてるのよ! ローグの全部が全部悪党なんて発想、ひねたバーサンの妄想の中だけにしてよね!」 ♀アーチャーの怒声を、♂ローグの怒鳴り声が制する。 「バカヤロウ! あっさり乗せられてるんじゃねえ! いいから今のてめーの役割思い出しやがれ!」 言われて気付く♀アーチャー、♂ローグの後ろに居たはずの自分がいつのまにか♂ローグの隣にまで出てきてしまっていた。 「ご、ごめん……」 ♂ローグは♀ローグから目を離さないまま♀アーチャーに言う。 「この女はゲームに乗ってる、間違いねぇ。 その上でここまで生き延びて来たんだ……その意味を考えろ!」 ♀ローグはゆらりと立ち上がる。 それを見た瞬間♂ローグは叫んだ。 「逃げろっ!」 ♂ローグの言葉に、アラームと♀アーチャーはその場を走り去ろうとする。 ♀ローグは石碑の上から飛び降りると、♂ローグに向かって短剣を振るう。 自身のツルギでそれを受け止めるが、短剣ならではの、素早い切り返しを繰り返して♀ローグは♂ローグを翻弄する。 そんな♂ローグの後ろから聞こえる音。 ずべっ 「アラーム!?」 そして背後から聞こえる♀アーチャーの悲鳴にも似た声。 『あんのクソチビ! よりにもよってここでボケかますかっ!?』 果たして♂ローグの予想通り、アラームは思いっきりすっころんでいた。 「アラーム! 早く起きて走って!」 ♀アーチャーとは、少し距離が離れてるらしい。 なんとか今は♀ローグを押さえる事が出来ている。まだここで立ち上がれば間に合う。 ♂ローグはそう計算していたが、後ろから聞こえてくる音は、起きあがって軽快に走り出す音とはまるで違う、地面を這いずるような音と♀アーチャーの青ざめたような声であった。 「アラーム足くじいたの!? ああっもう! 今から行くからね!」 『だー! お前まで戻ってくるんじゃねー!』 そんな悲鳴を心で上げる♂ローグ。 口を開いてる余裕すら無いのが口惜しい。 心が千々に乱れる♂ローグ。そんな隙を♀ローグが見逃すはずもない。 「ぬるいのよアンタ!」 手を狙った♀ローグの一撃をかわしそこねて、手の甲に傷を負う♂ローグ。危うくツルギを落してしまう所であった。 それと同時に♂ローグの横をすり抜け、♀ローグは戻ってきた♀アーチャーへと向かう。 「え? え? うそ嘘ーーーっ!!」 慌てて回れ右して逃げ出す♀アーチャー。 だが、既に走り出していて勢いのついている♀ローグはすぐに♀アーチャーに追いつく。 「おばさんすらーっしゅ♪」 嫌味満載かつ、ちょっとキュートにを演出しながらの♀ローグの一撃は、確実に♀アーチャーの命を奪うに足る攻撃であった。 「わっ! わわっ!」 慌ててすぐ隣の木を掴んで、急ブレーキをかける♀アーチャー。 それが幸いしたのか、なんとかその一撃はかわす事が出来たが、更なる問題が発生する。 「うっそー! なんで何がどーしてここに崖があるのよー!」 おっそろしく勾配のきつい斜面、いわゆる崖が♀アーチャーの更なる逃げ道の先にあったのだ。 「さて、おばさんぶれーどでトドメね♪」 根に持っているのか、おばさんを連呼する♀ローグ。 そこに♂ローグの声が響く。 「崖に飛べ!」 問い返す暇も無い。♀アーチャーはその声に、躊躇無く崖を飛び降り、滑り落ちていった。 ♀ローグは後を追っても、怪我をせずに斜面を降りきる自信はあった。 だが…… 「へ〜。案外信用あるじゃないアンタ。 でも、奇襲の機会を潰してまで助けたい子なのかいあれ?」 ♂ローグは♀ローグの前に立ち、一足飛びに飛びかかれる間合いを維持しつつ、♀ローグの出方を待っていた。 先ほどから♂ローグは一切♀ローグの言葉に反論しない。 一々もっともだと肯いているだけの話で、別段腹も立たない。 ♀ローグはそんな♂ローグの様子が気に食わないのか、機嫌悪そうにその場を走り去ろうとする。 すぐさま追撃に入る♂ローグ。 その進む先が予想出来ただけに、放っておく事も出来なかったのだ。 そして♀ローグがその目的地にたどり着く直前に♀ローグを攻撃範囲内に捉え、ツルギを横凪ぎに振るう。 ♀ローグはそれをしゃがんでかわすが、♂ローグはすぐに今度は逆側からツルギを横凪ぎに振るって頭を下げたローグを狙う。 『切り返しが早いっ!?』 ♀ローグは予想外の♂ローグの攻撃精度にダマスカスでそれを受け止める事しか出来なかった。 それを♂ローグは力押しで押すのではなく、軽くジャンプして体を宙に浮かし、 かみ合ったツルギとダマスカスを起点に両腕の力だけでツルギを振るって体を入れ替え、 ♀ローグの目的地に一足早くたどり着いたのだ。 「アラーム! 動けるか!?」 そこでは、アラームが涙目になったままうずくまっていたのだった。 「えぐ……足が動かない……うぅっ……ご、ごめんなさぁい」 かなり怪我はひどいらしい。 「ええい鬱陶しいから泣くな! ……こーすりゃ問題ねーだろ!」 こちらを伺う♀ローグに♂ローグは両手で持ったありったけの砂を叩きつけると、 一挙動でアラームをおんぶして、その場から一目散に逃げ出したのだった。 「しつこいんだてめーはよ!」 ♀ローグは張り付くように♂ローグの隣を走る。 「ははっ! そのままかわしてみな!」 ♀ローグのダマスカスが♂ローグを切り裂く。 ♂ローグは防戦に徹して一切手を出さないが、♀ローグは走りながら♂ローグの前後左右から好き放題攻撃をしかけてくる。 しかもそれは致命的な一撃になりそうな攻撃ではなく、四肢を狙った攻撃ばかりでだ。 見る見る間に全身を切り刻まれる♂ローグ。だが、♂ローグの走る速度は決して落ちなかった。 『くそっ! なんて用心深いんだコイツ! カウンター狙う事さえできねえじゃねえか!』 大振りを期待しての防戦であったが、♀ローグは♂ローグが考えている以上に狡猾であった。 決してアラームは狙わない。 わざわざやっかいな敵が弱くなってくれてるのに、その原因を取り除いたりはしないのである。 アラームは♂ローグにおんぶされながら♂ローグが切り刻まれる様を延々見続ける事となっていた。 「あぁ……お兄ちゃん! お兄ちゃん!」 自分の失敗のせいで♂ローグがこんな目に遭ってるのだ。そして激しい自責と後悔の念に苛まれながらもアラームには何をする事も出来ないのだ。 「お願いします! おにいちゃんを殺さないで! お願いしますっ! お兄ちゃんが死んじゃうよっ!」 わけもわからなくなりそう叫ぶアラーム。 そして今度は♂ローグの背中の上でじたばたと動き出す。 「こ、こらバカ喚くな! 動くな!」 「降ろしてお兄ちゃん! 私はいいからお兄ちゃん死なないでっ!」 「いいから黙ってそこで……」 そんな隙を♀ローグは見逃さない。 しかし、それは♂ローグも同様であった。 『来たなこの野郎!』 ♀ローグのダマスカスが♂ローグの首筋に迫る。 だが、そのタイミングさえ読めればどんなに体勢がわるくともよけるだけなら可能だ。 ぎりぎりのタイミングでハイドをしかけ、ダマスカスをやり過ごすと♂ローグは片手でツルギを突き上げる。 ♀ローグは万全の体勢でそれをかわす事が出来るとふんで、ハイドを仕掛けるのを見送ったが、直後背筋に悪寒が走りその場からバックステップで大きく飛び下がる。 ♂ローグは、逆の腕でスチールレートを振るっていたのだ。♀ローグの足めがけて。 いつのまにやら、♀クルセが持っていたスチールレートを拝借していたらしい。 『クソッタレ! なんて勘の良い奴だ!』 ♀ローグは少し離れた場所で、ダマスカスを目線に構える。 ♂ローグは切り札をあっさりとかわされ、正直万策尽きていた。 立ち止まって♀ローグとにらみ合う♂ローグ。 アラームは♂ローグの背中で泣きながら謝り続けていた。 「ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいでお兄ちゃんが……ごめんなさい」 ♂ローグは目線を♀ローグに向けたまま言う。 「あのなアラーム。 俺はお前に頼まれたからこんな真似してんじゃねぇ。 こりゃ俺の意地だ。だから謝る事ぁねえのさ」 「で、でも! お兄ちゃんこんなに血が出てる! お兄ちゃん死んじゃうよ! そんなのヤだよぅ!!」 既に会話になって無い気がする♂ローグだったが、これ以上騒がれてはたまらんとばかりにぴしゃっと言う。 「いいからお前はそこで黙って見てろ。 今から俺が鬼みたいに強いって所見せてやるからよ」 息が荒い、全身が痛くてたまらない、そろそろ出血による影響も出始める頃だ。 逃げ回りながら、なんとか利用できる地形は無いものかと探し続けていたのだが、そんな都合の良い物も見つけられなかった。 『万事休す……なんだけどな〜。 なんだって俺は諦めてねぇんだろ?』 おそらく以前の自分がこの状況になっていたらあっさりと負けを認めていたであろう。 しかし、今はまるでそんな気になれない。 こんな事を考えている間も、僅かな望みを賭けて♀ローグに挑む策を探し続けている。 『……俺は変わった? 俺は変わらない? ……くそっ、わかんねーよ! 俺にもわかんねーんだよ!』 真正面から飛び込んでくる♀ローグ。 ♂ローグは既に充分弱っている。さっきのスチールレートを当てられなかったのが何よりの証拠だ。 それでも、とツルギを構える♂ローグ。 つっこみ所満載の声が聞こえたのはその時だった。 「てめえ! 俺のアラームに何してくれてんだーーーーーーーー!!」 横合いからそう叫びながら飛び込んで来た者は、横殴りにマンドリンを振るう。 ♀ローグはそれをしゃがんでかわしながらダマスカスをそいつの胴に突き立てるが、そいつは全く動じずに♀ローグの顔面に頭突きをかます。 「バドスケさん!?」 アラームの声が聞こえる。 その一撃で一瞬怯んだ♀ローグの脳天にバドスケはマンドリンを振り下ろす。 『ぐうっ! あのクソプリにどつかれた傷っ!』 ♀ローグの頭頂が大きく割け、血しぶきが舞う。 それでほぼ動きを止めた♀ローグだったが、そこにバドスケはとどめのマンドリンを同じく頭頂に向けて叩き込んだのだった。 ♀ローグを見下ろすバドスケ。 「なんでだよ……なんだってこんな事すんだよローグ姐さん!」 ♀ローグは俯せに倒れて身動き一つしない。 「あんたはさ!やれば良い人出来るじゃねーか! 俺あんたに助けてもらったじゃねーか! なのになんでこんな事を!」 微かに♀ローグの声が聞こえてくる。 「……クソクラエよ」 バドスケの目に涙が浮かぶ。 「ばっかやろーーーーーー!!」 ♀ローグはそれ以後、全く動かなくなった。 バドスケは二人を促すとその場を離れる。 これ以上♀ローグの姿を見ていたくないというバドスケの言葉に、♂ローグもアラームも黙ってそれに従った。 少し離れた場所で、不意に♂ローグがしゃがみ込む。 「お兄ちゃん!?」 アラームが駆け寄るのを片手で制する♂ローグ。 だが、バドスケも立ち止まると、バッグから赤ポーションを取り出す。 「確かに傷の手当てはした方がいいな。おら、俺がやってやるから痛い所言え」 ♂ローグは吐き捨てるように言った。 「何処もかしこも痛ぇーんだよ。 あー! くそっ! なんだって俺は好き好んでこんな貧乏くじ引いてるんだちくしょうめ!」 それを見て、バドスケは心配するアラームに言う。 「とりあえず、命に別状は無さそうだ。ああ、それとアラーム……」 「ん?」 「挨拶がまだだったな。久しぶり、元気だったか?」 アラームはまだ♂ローグが心配だったが、バドスケに会えた事は嬉しい、この上無く嬉しい事であったので、笑みを見せる事が出来た。 「うん! ひさしぶりですバドスケさん! 私は元気でしたよ!」 バドスケのマンドリン二撃目を喰らった♀ローグは、最早これまでと覚悟を決めた。 『よりにもよってバドスケとはね……あ〜、やっぱり神様は私が嫌いなんだろうねぇ』 俯せに倒れ伏す♀ローグ。 度重なる脳への強い衝撃は♀ローグの運動神経を麻痺させていたが、それでも強靱な意志の力で体を動かす。 『早々に使うハメになるたー思わなかったわよ……色々と失う事になりそうだけど……』 青箱から出た切り札。使うことを躊躇していたそれを♀ローグは自らの額に貼り付ける。 「なんでこんな事を!」 バドスケの声が微かに聞こえる。 「……クソクラエよ」 ♀ローグが気が付いた時には、既に周囲には誰も残っていなかった。 四肢の動きをチェックすると、全て良好。それらを確認した後で立ち上がる♀ローグ。 ふと、視界を覆う一枚の札が目に入った。 「ふん、返魂の札とはね。いきなり人間辞める事になるなんざ、やっぱり日頃の行いだね〜」 そう言って一人で笑う♀ローグ。 「さて、事ここに至った以上やんなきゃなんないわね〜……一世一代の大博打!」 そう言うとダマスカスを取り出して自らの首輪に当て、一気にそれを切り裂いた。 ♀ローグも♀ノービス一刀両断の件で死体は爆発せずの可能性に気付いてはいたのだ。 そして返魂の札を使用した今の♀ローグは既に生者では無かった。 ……爆音はしなかった。 首輪を投げ捨てると、♀ローグは大きく高笑いを上げる。 開放感と高揚感、それらが一緒くたになって♀ローグは飽きる事無く高笑いを続けるのであった。   <♀ローグ、首輪から解放> <♂ローグ&アラーム、バドスケと合流> <♂ローグ、全身に切り傷> <♀アーチャー、離脱> ---- ||戻る||目次||進む ||[[161]]||[[Story]]||[[163]] 163.進入   (…やれやれ我もローグ殿を運が無いと笑えぬな) 迷いの森を抜け無人の台地を駆け抜けた、だがその足はアルデバランで一時止める羽目になった その原因は街を歩き回るソルジャーガーディアンの存在である (禁止区域には己の傀儡を放つ、か……GM秋菜とやらおそろしく念の入った真似をするな……) 子バフォも♂ローグも少なからず『禁止区域だからこそGM秋菜の盲点である』と思っていた いやそれ自体は間違いではない、禁止区域に侵入できる子バフォの存在はまぎれもなくGM秋菜の盲点である だが一度感知されれば盲点でもなんでも無くなるであろう、ソルジャーガーディアンに見つかったとして子バフォの存在がGM秋菜の知ることになるか否かは定かではない けれども、その可能性がある以上は容易に動くことは出来なかった (しかし……ここに来てまでダンボール箱の世話になるとは…) 奇しくも身を隠した物が平時の住処と同じダンボール箱だということに子バフォは苦笑いするしかなかった   <子バフォ 現在地:アルデバラン(MAPの南側あたり)         所持品:クレセントサイダー(jrサイズ)小青箱          備 考:ダンボール箱で隠密中 可視範囲にソルジャーガーディアン一体> ---- ||戻る||目次||進む ||[[162]]||[[Story]]||[[164]] 164.つかの間の休息   憎き仇を討つために、魔族であるDOPの血を受け入れ人であることを捨て、魔族へと変貌した♀騎士。 幾度目かの痙攣の後、身体の急激な変化の為に極度に疲労してすぐには動けなかった。 それに、魔族となったからといって負傷がいきなり回復するわけではない。 人間のままでは、遠からず死んでしまう深い傷にも十分耐えうる体、となっただけである。 「う・・・・・くっ・・・・・」 「感じはどうだ?無事に耐えたようだな。」 「う・・・・・。」 「さすがにまだ早いか。すこし・・・そうだな、あそこで休むがいい。」 DOPはそう言って♀騎士を、木の根元の日陰に運んで横たえてやった。 そして、♀騎士が魔族となった今なら有効であるヒールをかけてやる。 「う・・・・・。はぁ・・・・・。」 「どうだ、我が娘よ。今は♀GMの秋菜とかいう輩に力を抑圧されているが故、微小な効果しか得られんが。」 「う・・・・・。たすか・・・る・・・・・。 かなり、マシに・・・なった・・・・・。」 一般に魔族は子を成さない。 その血より生じた眷属全てを子と称する。 それは今や、魔族となった♀騎士にも本能的に理解し、受け入れられていた。 「ふふっ・・・。まさかDOP・・・あんたの、娘になる・・・・・とはね・・・・・。くっ・・・・・。」 上体を起そうとして、激痛が体中を走る。 「まだ早い。無理に体を起して話さなくともよい。」 「あいつは・・・・・♀ハンタは・・・・・もう、死んだようだね・・・・・。」 「やはり聞こえてはいたか。そうだ。求める仇はもういないな。」 「いや・・・。まだ、だ・・・・・。」(まだ♀GM秋菜がいる。あいつを殺さねば本当の意味で仇を取っていない。) 後半は、魔族の、しかも同種族でしか通じない心話というテレパシーのような物で答えた。 (DOP、あんたの目的はそのままわたしの目的だ。♀GM秋菜を討ち果たす・・・!) (よし・・・。とりあえず今はその傷を癒すが先決だ。敵対してしまったような形にはなってしまったが。  ♀ハンタの事、こちらが正しかったのも分かっただろう。深遠の騎士子の所に戻ってみる、か・・・。) (・・・・・。・・・・・・・?) (どうした?) (なんで、こんな会話の仕方を・・・知ってるんだろう・・・?なんか自然に・・・。) (先ほど、娘になったということも理解していただろう?魔族となる、というのはそういうことさ。血が、教える。) (そっか・・・・・。でも、これ少ししんどい・・・な・・・・。) (魔族としての力を行使して話しているんだからな。 普通に話すほうが、そりゃあ楽なのは分かるだろう。) なるほど、と♀騎士も納得し心話を一旦やめる。 「もう少し、ヒール・・・もらえるか・・・・・?」 「よかろう。」 さらに二度ほどヒールをかけてやる。 「たすかる・・・・・。ありがとう・・・・・。少し、眠っていいか・・・?さすがに仇が、GMとなると・・・。  急いでもどうにも・・・ならないから・・・・。休んでおきたい・・・・・・。」 「我が運んでやろう。今は眠って、休んでいるがいい。」 「え・・・・・。それは・・・恥ずかしいぞ・・・・。」 「かまうな。お前は、我が娘なのだぞ?まあ、気にせず眠るがいい。」 そう言ってDOPは、娘に軽く微笑んでみせる。 ♀騎士は、なおも何か言おうとしたが強烈な眠気に負けて、仕方なく軽くうなづき、そのまま眠りに落ちた。 (・・・・・誰かはしらんが、近くに♀ハンタを殺した者がいる可能性がある。早くこの場を離れた方が得策だろう。) DOPは、娘となった♀騎士を抱え上げ林の中へと戻っていった。   <DOP 所持品/ツヴァイハンター・小青箱 現在地/「大きな橋 moc_fild 02」の、右側の林の中まで移動 備 考/♀騎士と魔族での血縁関係となる。打倒♀GM秋菜 ♀騎士を連れて深遠の騎士子の所へ向かっている> <♀騎士 所持品/無形剣・コットンシャツ・ブリーフ 現在地/「大きな橋 moc_fild 02」の、右側の林の中まで移動 備 考/DOPと魔族での血縁関係となる。♂騎士の仇、♀GM秋菜を討つ目的を持つ ---- ||戻る||目次||進む ||[[163]]||[[Story]]||[[165]] 165 殺し屋   ♂プリ、♀アサの二人は旧クワガタ谷に入り、北から大回りにブリトニアを目指す。 ♂プリは嘆息を禁じ得ない。 『……やっぱりアルデバラン侵入は無謀か。結局策も思いつかなかったしな』 外部への連絡手段の重要性は高い。 だから放送を聞いてもそのまま今まで通りの進路を取ってアルデバランを目指し、何かの工夫でアルデバランに入れないものかと考え続けていたのだが、良い案も結局思いつかなかった。 しかたなく当初の予定通り進路を西に取り、ブリトニアを目指す事にしたのだ。 ふと、♀アサシンは♂プリの進路に疑問を持つ。 「ねえ、なんでこっちなの?」 すぐには答えずまず地図を広げる♂プリ。 「なあ、突然思いつきで死ぬほど違う話題振っていいか? 俺今すんげー恋愛について語りたい気分なんだ」 「は?」 当惑する♀アサを無視して話を進める♂プリ。 地図上の現在地を指さし、そこからプロンテラ、そしてバッタ海岸からカタツムリ海岸、そしてブリトニアを指さした後、またカタツムリ海岸、バッタ海岸と戻り、プロンテラを指さした後チュンリム湖を指さす。 「誰かを好きになっても、いきなり露骨なのは良くない。こっちの意図が明らかにわかりすぎるような行動は慎むべきだ」 そして今度は、現在地から、クワガタ湖を抜けてGH前を通ってブリトニアへ、そのままバッタ海岸、カタツムリ海岸を経てプロンテラ、そして最後にチュンリム湖を指さす。 「自然に、今までしてきた事をそのままに自然にやるのが一番。そう思わないか?」 ♀アサはそれでも表情を曇らせたままだ。 「あまりそうやって時間かけすぎるのも良く無いんじゃない? 誰かに邪魔でもされたらどーすんのよ」 「ま、凡人共はそーかもしれないけど、俺達には恋愛の奥義があるしな」 そう言って早口に速度増加を唱える♂プリ。 それで♀アサも了解し肯く。 「そうね、うん。……もっとも、私恋愛とかって一度もした事無いんだけどねー」 「……嘘だろ?」 「フリならした事あるけどね。そもそも恋する殺し屋なんて聞いた事も無いわよ。私達はそういうの掟で禁じられてるの」 ♂プリーストはふと気になって♀アサシンに訊ねてみる。 「お前さ、何か殺し屋とかのギルドに入ってたりするのか?」 暢気な顔をしていた♀アサが、急に表情を硬くする。 「あまり……深入りはしない方がいいわよ。ロクな事にならないから」 「コンビ組んどいて今更深入りも何も無いだろ」 ♀アサシンは下を向きながら地面に落ちてる石ころを蹴飛ばす。 「本当はね、こうやって他人と接触するのも駄目なのよ……でもほらっ」 TCJをくるっと回す。 「これ託されたって言えばボスもきっと納得してくれるわ」 そして何処か遠い目で街道の先を見る。 「時々ね、殺しじゃなくて狩りに行くアサシンって見てたの。騎士とかプリーストとかハンターとかと一緒にわいわいやってて……」 照れくさそうに鼻をこする♀アサ。 「羨ましい訳じゃないけどね、一度やってみたいとは思ってたんだ……だから」 不意に♂プリの方を向く♀アサ。 「先の事は知らないけどさ、今あんたとこうしてるのは結構楽しいよ」 言うだけ言って後は前を向いて歩き続ける♀アサ。 ♂プリはそんな♀アサを見ながら後を歩いていった。 『何、まだ時間はあるさ……ゆっくり深入りさせてもらいましょうか。ふん、聖職者の前でそんな泣き言言ってそのまんまで済むと思うんじゃねえぞ』 育った環境、自分の寄って立つところ、価値観、全部が違う相手だ。だが、それでも仲間だ。相手の負担にならない程度に、少しづつ過ちを正してやろう。 そう♂プリーストは心に決めたのだった。   <♂プリースト、所持品/チェイン、へこんだ鍋、現在地/旧クワガタ谷mjolnir_08> <♀アサシン所持品/ウサミミヘアバンド、TCジュル、現在地/旧クワガタ谷mjolnir_08> ---- ||戻る||目次||進む ||[[164]]||[[Story]]||[[166]] 166.不意打ち   ♀セージ、♀ウィズ、♂アーチャー、♀クルセの四人は街道沿いに歩を進めていた。 歩きながら、♀セージが♀ウィズに呟く。 「……気付いてるか?」 「ん? 何?」 ♀セージは大地を見下ろす。 「この世界……生物の数が極端に少ない。いや、むしろ居ないと言ってもいいぐらいだ」 ♀ウィズは♀セージの振ってきた話題に興味を示したようで、話の先を促す。 「バランスが悪いのだ。自然を形成するモノが……あるべき物が無さすぎる。 これでは自然は成り立ちえない、なのにこうして草木は生い茂っている」 瞬時に思考を巡らす♀ウィズ。 「ここの世界はここの世界なりの法則があるんじゃない?」 即座に否定する♀セージ。 「ならばここの世界なりの動植物が居てしかるべきだ。 建物、自然、元居た世界と寸分違わぬが、それを構成するのに必要なはずの物が無い。 ならばこれらは存在しえぬはずだ」 ちなみにこの二人の会話中、♀クルセと♂アーチャーはほへーといった顔で聞いているだけだ。 ♀ウィズは頷く。 「水、大地、そして日の光はあるわ。 でも……昆虫、動物が居ない。 これじゃ遠からずこの世界は植物で埋め尽くされるわね」 「そうだ。まるで、瞬時に今まで居た動物達が消え失せてしまったかのように…… いや、そもそもこの世界に動物なぞ居たのか?」 既に♀ウィズは♀セージの言いたい事に気付いている。 そして更に一歩思考を進めてみる。 その内容は敢えて地面に書き記した。 『私達がここに連れてこられた理由、それを考えれば…… この世界を作ったのが私達を連れてきた誰かだとしたら、ここを長期に渡って維持する必要は無い』 ♀セージは肯く。♀ウィズは続けた。 『世界の構築。これにどれだけの労力が費やされるかわからないけど、それを完全に行う必要が無い場合、それをしない。 つまり、世界構築に費やす事が出来る労力には限りがある?』 ♀セージは肩をすくめる。 『相変わらず話が早いな。 つまり神に等しいと思われる連中の力にも限界があるって事だ……あくまで推理の域を出ないがな』 そこで♂アーチャーがおずおずと話に加わる。 「え〜っと、つまり、その、それって良い事? 悪い事?」 ♀セージと♀ウィズは揃って顔を見合わせて笑う。 「どっちだろうな? ……私にもわからん」 そう言う♀セージ、だが♀ウィズは♀セージの言葉を否定する。 「良い事よ、もちろんね」 言葉に続けて地面に文字を記す。 『不完全な世界、それ故に隙はあるって事よ。大丈夫、私達は戦えるわ』 ♀ウィズの言葉に♂アーチャー、♀クルセは安堵する。 だが、言葉には出さなかったが、♀セージには別の懸案があった。 『仮に、何らかの手段でこの不安定な世界を崩す事が出来たとして、それが必ずしも私達が元の世界に戻る事とイコールにはならない』 それは♀ウィズにもわかっているであろう。 だが、それでも♀ウィズは勝利への可能性に賭け、まっすぐにその可能性を追求し続ける。 『……そこが、私がこいつに敵わない所だな』 一人苦笑すると、♀セージは三人に向かって言う。 「悪いが少し先に行ってもらえないか? 一つ確認しておきたい事がある」 いきなりの単独行動の申し出に一同戸惑うが、♀セージは淡々と言う。 「私は足が速いんだ。 簡単な調べ物だから、先に行ってもらってもゲフェンまでには追いつく」 若干リスキーなのは自身でも承知しているが、無駄話に費やしてしまった事もあるし、今は少しでも時間が惜しい。 ♀ウィズは渋い顔をしていたが、三人は♀セージの言葉に従い先に進む事にした。 ♀セージは街道沿いの見晴らしの良い丘を登る。 微かに見えたそれはやはり見間違いではなかった。 眼前には一人の少女が倒れ伏していた。 「アリス……モンスターか。だが、人型であるのなら……」 アリスの衣服を剥ぎ、自らの衣服を止めている金具を外す。 そして、おもむろにアリスの皮膚を金具で傷つけ始めた。 「あるのならば、それに越した事は無い…… 他の皆は反対するだろうから敢えて言わなかったのだが、いきなり見つかるとは重畳だ」 首輪外しの成功率を上げる為の触媒、心臓を遺体から抜き出す♀セージ。 手際良くそれを体内から抜き出すと、プラントボトルの一つを空け、そこに心臓を入れる。 これなら、早々は皆にもバレたりはしないだろう。 「まったく、こういう事ばかり巧くなっていく気がするな……」 ♀アサシンは♂プリーストより先行して街道を進んでいた。 ♂プリーストが色々言ってきたが、開けた場所に出る時はまず♀アサシンが先に行き、その後を♂プリーストが進むという形で定着していた。 そして、♀アサシンの異常に発達した視力が、丘の上の♀セージを発見したのだ。 「……人が倒れてて、その側にもう一人……」 そこまで確認すると、後からついてくる♂プリーストに一言も無しにその場から駆け出す。 接敵前まで来るとクローキングでの移動に切り替えて、現場の様子を探る。 折しも♀セージがアリスから心臓を抜き取っているその時であった。 『おーけい識別完了、敵ね。セージ……か』 ♀セージは、ボトルに心臓を詰めた後、それをバッグに収め、そして♀アサシンが大地を蹴る微かな音に気付いた。 間髪入れずにFWを唱える♀セージ。 ♀アサシンも感づかれた事に気付くと、作戦を変更する。 手に持っていた木の枝をFWの前に放り投げる。 それは、うまい事地面に垂直に立つ。 もちろんそれも一瞬ですぐに倒れてしまいそうだが、♀アサシンはその一瞬の内に枝の上端に飛び乗り、更にその枝を蹴って大きく飛び上がった。 『何っ!?』 ♀セージが驚くのも無理は無い、FWはまともにやって人が飛び越せるような高さでは無いのだ。 しかし、♀アサシンは見事FWを飛び越え、♀セージへと迫る。 『セージならFWの後はボルトかHD! 撃つのがHDなら地面に居なければ当らないっ! 痛いボルトなら詠唱間に合わないっ!』 そうして空中から着地ざまに♀セージに斬りかかる。 かわそうと動いた♀セージの左腕に吸い込まれるようにTCJが突き刺さる。 ♀セージは痛みに顔をしかめながらも、術の詠唱に入る。 『私が目の前に居るってのにそんな真似させるもんですか!』 詠唱中は♀セージは無防備……と思っていた♀セージからいきなり顔面めがけて拳が飛んで来た。 『んなっ!?』 予想外の出来事、からくもかわした♀アサシンに向かって♀セージは更に裏拳を打ち込む。 後ろに下がると思っていた♀セージが前に出た事で、♀アサシンは虚をつかれ、♀セージの裏拳をまともに喰らう。 『っ! ……って軽い? ええい、コケおどしなんかにっ!』 だが、直後に♀アサシンめがけて炎の矢が降り注ぐ。 『なんとー!?』 肩を焦がされた♀アサシン、ここぞとばかりに連打で♀アサシンを追いつめる♀セージ。 防戦一方の♀アサシン、時々拳に合わせて炎の矢が降り注ぐのが不可解で、いいように攻撃を受け続ける。 『何!? なんなのこれ! こんなの私知らないっ!』 拳自体は軽い、それこそ無視してもいいぐらいだが、時々降り注ぐ炎の矢が、かわしようが無い。 しかも当の♀セージは詠唱を続けている真っ最中、詠唱は終わっていないというのに炎が降り注いで来る。 ♀セージはこのチャンスを逃す気は無かった。 『アサシンか……まったく、このゲームには最適の人間だな』 下段のローキックを放つと♀アサシンはそれを飛び越え、中空からTCJを振り下ろそうとする。 『終わりだ』 ♀セージの詠唱が終わる。そして今までとは比べ物にならない程の数の炎の矢が♀アサシン目がけて降り注いだ。 「くうっ!」 初めて♀アサシンが悲鳴を上げる。だが、即座にクローキングで姿を消すと、その場から撤退した。 ♀セージは絶好の機会を逃し舌打ちを禁じ得なかったが、しかしまた別の可能性も考えていた。 「……誤解か? 私がアリスを殺したと……ふむ。あくまでその可能性があるという程度だな」 アサシンという職柄、いきなりの不意打ちである事、それらを考えるとどうしてもそう考えざるを得ない♀セージであった。 ♀アサシンは全身焼けこげた状態で♂プリーストの元に戻ると、その場にひっくり返った。 「ごめん……負けちゃったよ」 慌ててヒールをかける♂プリースト。術の効果は薄いが、それでも傷は塞がるし、少しは体力も回復する。 「何があったんだ! 誰かに襲われたのか!?」 「ううん、敵っぽかったから仕掛けたら返り討ちにあっちゃった」 即答する♀アサシンに♂プリーストが唖然とする。 「……っぽいって、お前そいつと話しなかったのか?」 「うん、だってそいつ死体から心臓抜き取ってたし。なんかヤバ気な奴だったから」 ♀アサシンの言葉に、♂プリーストは渋そうな顔をする。 「お前さあ、そういう時は俺も呼べよ。一緒にやってくんじゃなかったのか?」 ♂プリーストの言葉に♀アサシンはきょとんとした顔になる。 「え? ……ああ、そっか。 そうだよ……うん、一緒に戦うんだった……ごめん」 怪訝そうな顔になる♂プリーストに♀アサシンは言い訳がましく言う。 「だって、私あんまり人と組んだ事無かったから……」 そう言って赤面する♀アサシン。 ♂プリーストは溜息をついて話題を変えた。 「頼むから次は気を付けてくれよ……しかし、お前をそこまでにするってな相当な使い手だな。ウィズか?」 ♂プリーストの言葉に、♀アサシンは首を横に振る。 「ううん、セージ。それもすんごい変な奴。 殴りかかってきたと思ったら、いきなり何処かしらからか魔法が飛んで来るの。 しかも詠唱しながら殴ったりもーわけわかんない」 ♂プリーストはそういったセージに心当たりがあった。 「FCAS(フリーキャストオートスペル)セージだなそりゃ。 今お前が言ったそれが特徴だ……良くもまあそんな珍しいのに当ったもんだな。 俺も一度しかお目にかかった事ないぞ」 ♀アサシンは勢いこんで♂プリーストに聞く。 「対策は?」 ♂プリーストは少し考えてからこう返事した。 「相手の大物魔法が撃ち終わる前に速攻で倒すか……もしくは二人で戦うかだ」 ♀アサシンは♀セージの案外俊敏な動きを思い出して、自らのTCJを見る。 「これあるからなんとか……でも、二人で倒そう。うん、そうしよう」 ♂プリーストは満足げに頷く。 「そうだ、それが正解だ」   <♀セージ、所持品/クリスタルブルー プラントボトル4個、心臓入手(首輪外し率アップアイテム)現在地/クリーミーの野道mjolnir_01 半ば付近備考/TCJの一撃を受け軽傷を負う> <♀ウィズ、所持品/たれ猫、フォーチュンソード現在地/クワガタ湖mjolnir_07> <♂アーチャー所持品/アーバレスト、銀の矢47本、白ハーブ1個現在地/クワガタ湖mjolnir_07> <♀クルセ、所持品/青ジェム3個、海東剣現在地、クワガタ湖mjolnir_07> <♂プリースト、所持品/チェイン、へこんだ鍋現在地/クワガタ湖mjolnir_07> <♀アサシン所持品/ウサミミヘアバンド、TCジュル現在地/クワガタ湖mjolnir_07 半ば付近備考/中度の怪我を負う> ---- ||戻る||目次||進む ||[[165]]||[[Story]]||[[167]] 167.一つの推理   時計の町から程近い一群の砦が立ち並ぶ区画で、子バフォは段ボールの中で首を捻っていた。 「…どういうことだ?」ダンボールから顔を出しながら、呟く。 先ほどまでアルデバランの街中を徘徊していた筈のガーディアンの姿が、全くと言っていいほど無かったから。 ここに安置してある筈のエンペリウムは、この箱庭にとって決定的に重要な意味を持つ物では無いのか?  少なくとも、首輪を解除できる、という意味では決定的にこのゲームを引っくり返す可能性がある。  そうであるなら、市内と比べ、警備が厳しくなる事はあっても、その逆などありえないはず。 何かが、酷くおかしい気がする。 勿論、砦の内部においては、厳しい警備が待ち受けているのやもしれないが。 「これではまるで…」 参加者にエンペリウムを奪い取られても良し、としているかの様だ。 彼は、寸詰まりの手を顎にやり、考えをめぐらす。 あのセージの娘は、ブルージェムストーンと同じ役目をエンペリウムに持たせる、と言っていた。 ならば、少なくとも、エンペリウムは魔術に必用な装置の役割を果たせる、と言う事になる。 …そもそもこの世界で、その鉱石はどんな役割を果たしているのだろう? 「第一、ジェムと同じ程度の事しか出来ないというのに、何の意味があるのだ?」 神の加護を受けた聖域でも張るというのだろうか? …聖域?つまり、一つ所に留める結界…? 連想が加速し、一つの像を結んでいく。 「…そうか。結界か」 成程。つまり、この世界は、そういうことか。 だが、子バフォの表情は晴れない。それは、彼の疑問の本質ではないから。 「まて、ならば益々判らんぞ…この世界を維持する要を、何故これほど無防備に晒している?」 参加者がこの世界の要を崩してもいいと言うのか…? 勿論、それは面白くない事態なのだろう。だが、その考えと目の前の現実がどうしてもかみ合わない。 ローグ達の言うGMの女は、戯れを好む輩の筈だ。自らにとって『面白くない現実』が起こる可能性を見過ごしているだろうか? 只の手抜かり、という可能性も無いではない。 しかし、そのように楽観できる程子バフォは愚かではない。 「要が崩れる事も、戯れの内、か?」 ぼそり、と呟いてみる。 そうなれば、参加者はこの箱庭から逃げ出す筈… 「む?」 そこで、一つの疑問が浮かんだ。 今まで、自分は『要』が無くなればこのゲームは終わる、と考えていた。 成程、確かに其の通り。『会場』が無くなればゲームそのものは終わるだろう。 だが。 ゲームが終わったとしても、会場が無くなった後、参加者が無事帰れるという保障はあるのだろうか? そんなものは無い。元々が、一人しか返す予定は無いのだ。 『要』を失ったとは言っても、むざむざ全員を帰したりするだろうか? つまりは。 「…なるほど、そういうことか」 要を失った世界は、文字通り瓦解するのだ。 恐らくは、内部に居る参加者を道連れにして。 そうであるなら、自分に逆らった者達を苦も無く抹消できる。 その様を秋菜はせせら笑いながら眺めているのだろう。 自らの立つ足場を自分自身で崩している愚者達は、そいつの思惑をしらない訳だ。 それから、全てが終わってからまた次のゲームを始めればいい。 ばらばらだったピースが、子バフォの脳裏でぴったりと符号する。 しかし、その回答はまた新たな疑問を生み出していた。 ならば何故、それぞれの砦にエンペリウムを分割して安置する必要があるのだろう? 一箇所に纏めたほうが管理は楽だろうに。 と、なれば魔術の触媒として必用な処理なのだろうか? 例えば、魔法実験の初歩において、妖物の持つ魔力、妖力を魔方陣で安定させるように。 「四箇所の砦に、一つづつ要を置いて…天地と空間を支えておるのか…?」 そうだ。そうして、この空間を支えているのか。 今度こそ、完全にパズルは解けた。 四箇所の砦は、テーブルの四本の足の様な物。 一つの足が抜けるだけなら、未だなんとか安定もするだろうが。 二本の足が欠ければ…文字通り、この箱庭は横倒しになるだろう。 「と、なれば我はあの男達と再度合流すべきか」 急がねばなるまい。 全員が全員、ゲームに乗っているとは限らない。 このゲームを終わらせようとしているのは、自分達だけでは無い筈だ。 しかしながら、もしその中の一人が、エンペリウムを割ったならば、その瞬間、このゲームに乗る以外の方法で帰れる確率が激減する。 あの娘には、三つのジェムストーンが渡っている。 しかし、それでは足りない。あの女を斃すのには、三人では足りない。 そして、手土産となる情報もある。 このアルデバランには、何かがあるのだ。少なくとも、管理者にとって本当に参加者に渡って欲しくない、何かが。   <子バフォ 持ち物変わらず 場所:ルイーナ砦 目的:ローグに合流し、その後でセージ達に『要』と『アルデバラン』についての情報を伝える> ---- ||戻る||目次||進む ||[[166]]||[[Story]]||[[168]] 168.GMとは…   「彼女もね……」 「え?」 「彼女も一介の冒険者だったころはあんなんじゃなかったんですよ。 ええ、今でも覚えています、本当にあの世界が好きな子でした」 ゆっくり穏やかにそして悲しげにその元GMは言う 「え?貴方は昔の彼女を?」 「もちろんです、彼女に限らずあちらで会った人達のことは今でも覚えていますよ。 彼女はたしか……そうそう、よくアルデバランに居ました、時計塔の鐘の音が好きだ。と」 まるで昨日の出来事の様に話す様に♀GMは頭を金槌で殴られたようなショックを受けた 自分は職務をただこなすだけであの世界の住人のことなど欠片ほどにも覚えていなかったのだ それに引き換え目の前に居る男性はGMを退いた今でも…… 「彼女も何かに狂わされたのでしょうかね、彼女自身が狂わせたあの模造品の世界の様に」 最後に呟かれたその言葉はもはや♀GMの耳には届いていなかった   <ヒャックたん&♀GM所在地:癌呆新開地開発部(94話から移動せず) 所持品:共に不明 備考:殺戮の舞台である世界(鯖?)を監視中、なんらかの綻びが生じた場合行動?> ---- ||戻る||目次||進む ||[[167]]||[[Story]]||[[169]] 169.交換   ♀セージは危機を脱すると急いでみんなの後を追った。 目的も達した事であるし、何より♀アサシンの存在がある。 複数で戦えばほぼ間違いなく損害無しで倒せるのだ。ならば単独で戦う理由は何処にも無い。 そして♀アサシンにも打撃を与えたとはいえ、隙を見せれば一瞬で♀セージの首が飛ぶ。 『手負いの獣程恐ろしい物はない……しかし、あの怪我ならばこちらの方が早い』 突然、♀セージがその場から真横に向かって飛ぶ。 そして♀セージが今まで居た場所、そこをグリムトゥースの衝撃波が通り過ぎる。 『追いついてきた!? バカな! いくらなんでも早すぎる!』 ♀セージはすぐにまた走り出し、グリムトゥースの射程範囲外へと逃れる。 だが、♀アサシンも即座に追撃、グリムトゥースの射程に入るとハイド、そしてグリムトゥースを繰り返す。 『動きが速すぎる……一体何が……くっ!』 流石にその攻撃全てをかわしきる事は出来ず、数発を喰らう♀セージ。 だが、ここで足を止める事は出来ない。 そんな事をすれば♀アサシンの思うつぼだ。こういった執拗な攻撃を繰り返して反撃を誘発し、それをかわしつつ近接戦闘に持ち込む。 ♀セージは♀アサシンの動きをそう読んでいた。 そして冷静に考える、このままやりあいながら先行した皆に追いつけるかどうかを。 『このペースならギリギリ……か』 すぐに♀セージは決断し、ゲフェン行きの最短ルートを思い出す。 『♀ウィズが居る。奴は無駄に遠回りをするような真似は絶対にしない。ならばこちらも最短ルートを通れば行き過ぎる事は無い』 いつまでも追いすがってくる♀アサシンと放たれるグリムトゥース。 その攻撃に規則性は無く、予測は極めて困難であった。 『さっき動きが鈍かったのは、私の攻撃に戸惑っていたからか……にしてもここまでやり方を徹底出来るとは、こいつ人間を追いつめる事に慣れているな』 ハイドから追撃に移る際、その姿、位置が♀セージにわかりにくいよう、グリムトゥースの放ち方を工夫してある。 既に♀セージには数発当っている事から、今すぐ姿を現して一気に距離を詰めても良いようなものだが、それをせずに♀セージがミスをするまで何時までも待つ。 『手強い……な。マーダーで生き残るだけはある』 その異常を見つけたのは♂アーチャーであった。 「待った! 静かに…………」 そう言って耳を澄まし、目を凝らす♂アーチャー。その卓越した五感が湖の向こう側の異常を察知する。 「やっぱり! 湖の向こうで誰かが戦闘してる! ……徐々にこっちに近づいてくる」 ♀ウィズにその音は聞こえなかったが、そこから状況を類推する。 『♀セージ? 逃げている所か追いかけている所か……何故? 私達が先行してるから。では私達がすべき事は?』 瞬時に思考を巡らす♀ウィズ。 『あいつが逃げなきゃならないような相手……だとしたら相当手強い。追いかけてるとしたら、私達への不意打ちを警戒しての事。なら……』 「ここで待ち伏せるわよ! 配置は私が指示するから、みんなお願い!」 ♀ウィズの配置の指示は的確で、♀クルセも♂アーチャーも感嘆の声をあげたものだ。 ♀アサシンは、ただ作業の様にそれを繰り返していた。 いまだ♀セージは気付いていないだろうが、♀アサシンの後を♂プリが追いかけている。 ♀セージが足を止めたら即座に二人がかりで仕留める腹であったのだが、敵もさるもの、なかなか足を止めてはくれない。 『慎重ね。もしくは……この先に増援の心当たりでも?』 マーダーに増援というのも考えにくい。だが、もしこの♀セージが誰かを騙していたら? 『根比べね。悪いけど、私そういうの得意なの』 最後の橋を渡りきり、後少しでゲフェン北門鉄橋が見えてくるという所で、♀セージがグリムトゥースを喰らいバランスを崩す。 そして運の悪い事に、その場に生えていた草に足を取られ、片手を地面について体勢を立て直すハメになる。 起きあがって走りだそうとした♀セージ、だがその時には♀セージの真後ろまで♀アサシンは踏み込んでいた。 『もらった!』 TJC一閃、♀セージの背中を真横に切り裂く。 ♀セージはその激痛に顔をしかめながら後ろの♀アサシンに相対する。 『これだけの隙でここまで踏み込めるかっ!? こいつっ!』 ♀セージは詠唱を開始しながら両手を構える。だが、相手は武器持ち、しかも今度はこちらが不利な体勢だ。 急所に吸い込まれるように放たれる♀アサシンの攻撃、♀セージはそれを半分も受けきれない。 腕、足、胴、それぞれを大きく抉られ激痛が走るが、♀セージはそれ以外の何かに気付いていた。 『くっ! さっきと動きの重さも速さも段違いだ!』 唱えていた術を切り替え、その攻撃に割り込むように♀セージと♀アサシンの間にFWを立てる♀セージ。自身も熱いが構っていられない。 だが、♀アサシンは術の切り替えを見るなり、♀セージの背後に回り込む。 ♀セージのFWはその意図と裏腹に♀セージの片足を軽く焼いただけで、♀アサシンを遠ざける事は出来なかった。 そして、♀セージは既に♀アサシンの攻撃に耐えうるだけの体力は残っていなかったのだ。 『……これまでか』 死を覚悟した♀セージ。だが、♀アサシンは♀セージではなく、更にその奥から走り来る気配に気付いていた。 「そこまでだ!」 駆け寄ってきていたのは♀クルセだ。 接敵するなり、十文字に♀アサシンを切り裂く。 「何っ!?」 しかし、♀アサシンはそれをTCJを器用にクロスして、捌ききった。 そこで♀アサシンは考える。 『やっぱり増援! 後ろにも居るっ! ってこいつがこれだけの人数を騙す? もしかしてこれ……』 それは一瞬の思いつきであった。だが、その是非を考えている暇は無い。♀アサシンは大声で叫んだ。 「待ってプリースト!」 その叫びと同時に♂アーチャーが♀アサシンめがけてダブルストレーピングを放つ。 その二本の矢の狙いは♀アサシンの両足。 両手のカタールでそれぞれの矢を払い落そうとする♀アサシン、しかし片方は動いたが、もう片方は♀クルセが剣でカタールを払ってそれを阻害する。 『しまっ……ぐっ!』 そうして片足を矢に貫かれる♀アサシン。 その時、FW越しに♀セージは微かに♂プリーストの姿を見た。 『そうか! 速度増加にブレス! という事はこいつはプリーストとPTを組んでいる?』 マーダーがPTを組むというのは考えずらい。ましてや相手がプリーストとあっては特にだ。そしてアリスの遺体現場での誤解の可能性。 それらを考えた♀セージも♀アサシンと同じく大声を上げた。 「待て! 殺すな!」 完璧に待ちかまえていた♀ウィズ達であったが、♀セージの異常に♀クルセが飛び出した事から、待ち伏せの形は大きく崩れた。 しかし段取りは変わらない。♀クルセが守り、♂アーチャーが足止めし、♀ウィズがとどめを刺す。 そして、セージと違ってウィザードは術の行使を途中で止められないのだ。 『プリースト!? 殺すなっ!? ってもしかしてこいつマーダーじゃないっ!?』 ♀セージの声が♀ウィズに届いた時、既に術は完成していた。 ユピテルサンダーが♀アサシンに直撃した時、ふと♀アサシンの周囲を流れる時間が止まった。 『あ、私これマズイ』 ゆっくり、ゆっくりと胴体が焼けこげていく。そして内臓にそれが至る様が見えている訳ではないがわかった。 『うっわ。これ死んだわ私……で? 死ぬとどうなるんだっけ?』 それは知らない。誰も教えてはくれなかったし、聞いたとしても信じはしなかっただろう。 『ん〜。知らない状態になるって……案外恐いわね。そっか、それでみんな死ぬのを怖がってたんだ』 ♀セージに喰らったFBの傷も残っている。プリーストの回復を待って再度ヒールする暇を惜しんだのは他ならぬ♀アサシンだ。 『死ぬのって……イヤだね。私ずーっと他人にこんな事してたんだ……』 ♀アサシンの体が大地に墜ちた。 倒れ伏した♀アサシン、♀セージは♀クルセの手を引くと、♂プリーストから距離を取り、♀ウィズ達の居る場所まですぐに移動する。 ♂プリーストは、倒れた♀アサシンに駆け寄ってきてヒールを唱えるが、♀アサシンが動く事は無かった。 「バカヤロウ! 待てなんて言うからヒールのタイミングずれたじゃねえか! ちくしょう! 動けよアサシン!」 ♀セージは一縷の望みに賭けて、♀クルセから青ジェムをひったくると♂プリーストの所に駆け寄る。 「使え! まだ間に合うかもしれない!」 敵の思わぬ行動であるが、そんな事を考えている余裕は無い。 即座にリザレクションを唱える♂プリースト。 だが、♀アサシンが目を開く事は無かった。 項垂れて全身を震わす♂プリースト。 そして声を絞り出すようにして言った。 「おいセージ。お前……マーダーじゃないのか?」 ♀セージは即答する。 「ああ、誤解だ」 そして、出血で気が遠くなりそうになる自分を叱咤しながら地面に文字を記す。 『すまない、こうして地面に書いているのは、ふざけている訳ではなく理由あっての事だ』 ♂プリーストの理性は、地面に書くという行為まで考えているという事実は、この連中がマーダーではなく脱出を考える同士の可能性が高いと言っている。 「ふざけんな! じゃあなんでアリスを殺したんだよ! しかもその後心臓抜き取るってなどういう事だ!」 だが感情が納得してくれない。♀アサシンが最後に「待て」と言ってくれてたにも関わらずだ。 そして♂プリーストの言葉は、♀クルセ、♂アーチャーにも驚きであった。 ♀セージは言葉を書き続ける。 『アリスは既に誰かに殺された後だった。そしてその心臓は、首輪外しの儀式の成功率を上げ得るものであったから、今回このような真似をした』 後ろを振り向き、♀ウィズ達に向かい更に続ける♀セージ。 『お前達は例え遺体とはいえ、人の心臓をえぐり取ると言ったら反対しただろう。だから、遠目に見かけた遺体の事は話さずに私一人で為したのだ』 ♂プリーストは必死になって冷静でいようとしていた。 『もちろんです、♂プリさんはここで待っていて下さい。今度こそ……ボクはここに仲間を集めますから!』 『そう? ノービス君は腹に致命的な一撃喰らっても、あいつを殺そうとはしなかったわよ』 二人の言葉が重くのしかかる。 苦悩する♂プリーストを余所に、♀ウィズが鋭い視線を♀セージに投げかける。 「……そうね、♀アルケミの時それ言ってたら、私あなたを絞め殺してたわ」 ♀クルセは複雑な表情で♀セージを見る。 「死者を冒涜するなぞ反対するに決まっている。いや、しかし……必要なのか……それが」 ♂アーチャーはただ無言で♀セージを見つめていた。 そんな重苦しい雰囲気の中、突然♂プリーストが鞄から二枚の板を取り出す。 どん! そして二枚を組み合わせながら地面に立て、血を吐くような思いで言う。 「俺と一緒に……戦ってくれ!」 立てた板は、♂ノービスが遺した彼の遺志であった。 ♂プリーストはそれがどんなに困難な道でも、歩き通すと♂ノビの遺体に誓ったのだ。 同じ誓いを立てた♀アサシンの遺体の前で、それを自ら破る事は♂プリーストには決して出来ない事であった。 歯を食いしばり、痛い程に板を握りしめる♂プリーストに、♀セージは言った。 「ああ、一緒に行こう」 遂に首輪開封の鍵、プリーストを仲間に迎えた♀セージ一行。 しかし、その代償として♀セージは最も重要で掛け替えの無い物「信用」を失ったのだ。   <♀セージ、所持品/クリスタルブルー プラントボトル4個、心臓入手(首輪外し率アップアイテム)       現在地/ゲフェン北東mjolnir_06       備考/♀アサシンとの戦闘で重傷を負う> <♀ウィズ、所持品/たれ猫、フォーチュンソード       現在地/ゲフェン北東mjolnir_06> <♂アーチャー所持品/アーバレスト、銀の矢47本、白ハーブ1個       現在地/ゲフェン北東mjolnir_06> <♀クルセ、所持品/青ジェム2個、海東剣       現在地ゲフェン北東mjolnir_06> <♂プリースト、所持品/チェイン、へこんだ鍋       現在地/ゲフェン北東 mjolnir_06> <♀アサシン 死亡 所持品/ウサミミヘアバンド、TCジュル       現在地/ゲフェン北東 mjolnir_06> <残り15名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[168]]||[[Story]]||[[170]] 170.歩く   「冒険者は足が命、かぁ。近所のお兄ちゃんの言葉、身にしみるわ」 崖から飛び降りた♀アチャがどうなったかというと、全身傷だらけだったが 移動するための、明日へ向かって進むための足だけは無傷だった 「帰ったら飛び切りのお礼しないとね」 しかし声を出すなどこんな状況では危険極まりない だが独り言でも言わないとやってられない事情があった 弓を持つ手、左腕の負傷 なるべく早く傷口を洗い流し手当てをしなければ、2度と弓を持てないかもしれない 弓手である彼女にとってそれは是非とも避けたい未来だ いや、持てなくなるだけならまだいい 傷口からの感染症など、今この世界で対処できるはずがない 「お礼って言えば♂ローグに助けてもらうの2度目なのよねぇ」 命の対価 それも2度だ 莫大な借りをまだ返していない どうやって借りを返そうか やっぱり、ヒーローはヒロインのピンチに駆けつけてこそよね なんで俺がお守りしなきゃならんのだ!とか言ってたアイツが私に助けられたって知ったら、どんな顔するかしら 「あ、なんかやる気出てきちゃったかも」 1声呟くのを最後にして、もう見え始めてきた池に向かう 左腕の傷を洗って、至急品の赤ポ使って応急手当して、 そしたら木にでも登って身を隠しながら今後を考えよう 私はまだ歩けるんだから   <♀アーチャー所持品/グレイトボウ、矢、小青箱 現在地/プロ北(prt_field01)池周辺 備考:実は怪力?数時間の間弓使用不可> ---- ||戻る||目次||進む ||[[169]].||[[Story]]||[[171]]. 171.疑心   血涙を流さんばかりに歯を食いしばる♂プリーストに♀クルセイダーは何か既視感を覚えた それと同時に暗くもやもやした気持ちが♀クルセイダーの中で鎌首を持ち上げた この同行者の♀セージの目的はこの馬鹿げたゲームからの脱出、それは間違いない そして脱出にはこの忌まわしい首輪をどうにかしなければいけない、それも間違いない アリスの心臓がそれの為に必要不可欠であっただから取った、たしかに正論だ ならば、脱出の為に他の者達を…たとえば現在別行動している♂ローグや♀アーチャー、アラームに子バフォを見捨てなければならないとしたら ♀セージの正解は見捨てること、だろう (だが私は……) 他の者ならばどうするだろう、♂ローグに姉その他いろいろな顔が浮かんでは消える (…!) 最後に浮かんだGM秋菜の顔に先ほどの既視感の正体に行き当たった 「ああ、一緒に行こう」 そう言った♀セージの表情は 「頑張って、殺し合いましょうー」そう言ったGM秋菜の表情とまったく同質の物だったからだ   <♀クルセ、所持品:青ジェム2個、海東剣 現在地:ゲフェン北東 mjolnir_06 備考:やや情緒不安定に> ---- ||戻る||目次||進む ||[[170]].||[[Story]]||[[172]]. 172.クリティカル   一文字に切り裂かれた背中の傷がずきずきと痛む だが、痛いのは背中の傷だけではない。あの時の♀WIZの視線、それを思い出すだけで胸がそれ以上に痛む 何時も敵意を投げかけるようなことはあっても、あんな目は今までされたことが無かった 失望の眼差し。それも当然だろう、信頼を裏切られたのだから 恐らく、♂アーチャーや♀クルセも同じような目をしていたはずだ 脱出という強いようで脆い結束だけが今、一行が行動を共にしている理由だ もしそれがなければ……自分は裏切り者として殺されているだろう だが、そう遠く無いうちにきっと結束は取り戻されるだろう…… 巨大な鉄の橋を渡る一行、先頭を♀クルセが歩き最後尾を進むのは♀セージ 誰も一言も言葉を発しない、誰も互いを見ようとしない それが今の♀セージには幸いだった。もし前までのような雰囲気なら……異常を察知されただろうから 応急の手当てをされた背中の傷からは、今もまだ血がじわじわと染み出している 必死でこらえる脂汗と荒い息が誰かに咎められたなら貴重な時間が無駄になる (まったく、クリティカルとはよく言ったもんだ…) 背中の傷は見た目よりかなり深い。 鉄橋はおおよそ人の手によって作られた物とは思えない程巨大で、端から端まで行くのに下手をするとそれだけで数時間かかる事もある。 それでもなんとか街に入るまでは持ちそうだがそこから先は判らない もし自分が倒れたならば……残念だが♀WIZに全てを託すしかない プリーストのヒールをするという申し出は軽い怪我だと断った 殴りだというプリーストのヒールでは、魔力を全て使い果たしても傷は完治しないだろう ならば、こんなところで無駄な魔力を使う必要は、ない それに何時禁止エリアで封鎖されるかわからない以上時間は一刻一秒たりとも無駄には出来ない 幸い、と言って良いのか判らないが、あの♂プリがリザレクションを使えるのは確認した。準備は全て整うはずだ   ♀セージの考えることはただ一つ。 首輪を解除し、この理不尽なゲームを潰す その思いの先には、自分の命さえ勘定に入っているのだ   <♀セージ、所持品/クリスタルブルー プラントボトル4個、心臓入手(首輪外し率アップアイテム)> <♀ウィズ、所持品/たれ猫、フォーチュンソード> <♂アーチャー所持品/アーバレスト、銀の矢47本、白ハーブ1個> <♀クルセ、所持品/青ジェム2個、海東剣> <♂プリースト、所持品/チェイン、へこんだ鍋> <現在地/ゲフェン北門鉄橋> <♀セージ、カウントダウン> ---- ||戻る||目次||進む ||[[171]].||[[Story]]||[[173]]. 173.ある語り部の昔話〜 白い女と廃墟の町の王様   さて、ここいらで一つ、昔話を致しましょう。 演目は廃墟の町の王様。 即興ゆえに、諸所の『詰まり』はご愛嬌。 見事終わりました暁には、どうか拍手でお迎え下さいませ。   廃墟の町の王様   昔々か、それとも未来か。 そんな事はともかくとして。 とある塔の下にある廃墟の町に、王様とその従者達が住んでいました。   彼と、その従者はその町で、毎日毎日押し寄せてくる人々と戦っていました。 王様は、その町の王様で。彼の従者達とそこに住む者を守らなければいけませんでした。 勿論、人々はそんな事は知りません。 そもそも、毎日毎日やって来る人々は、その町が一体何であったのかも覚えている人は殆どいませんでしたから。   けれど、その王様は。 本当は、争う事が余り好きではないのかもしれませんでした。 彼は、人ではありませんでしたが、同時に人の写し身でもありましたから、何処か人に似ていたのかもしれません。 だから色々と悩むこともあったのでしょうが…それは又違うお話です。   そんなある日の事です。 しろい女が、王様の元に訪れました。 王様は、他にも白い人たちを知っていましたが、その女は白い人たちの中で、彼が一番嫌いな女でした。    彼女は、王様に言いました。   「喜んでくださいねっ、貴方は栄えある『イベント』の参加者に選ばれましたっ」   王様は、憮然とした顔で。   「断る」 「えー、無愛想さんですねっ。でも、いけませんよ?特に、貴方みたいな人には参加してもらわないといけませーんっ」   けれど、女はちっちっ、と指を陽気に振りながら言います。 王様は、その言葉を聴いて。   「それは、私が世界にとって不合理だからか?」   嘲る様に笑います。   「あー、王様は話が早くて助かりますねっ♪その通りですよっ」   女はにこにこと笑うと、プレゼントですよっ、そう言って不細工な王冠を差し出しました。 王様は、そんな王冠には興味が無かったので、スルーで返しますが。   「はっ、阿呆らしい。秋菜、貴様の戯れ遊びに私が付き合ってやるとでも?」 「まぁ、ダメならこの場で貴方を差し替えて修正すれば良いだけですしー、むしろそっちが目的ですねっ」   それに、遊びだなんて酷いですよっ、続けて女はそう言います。   「私はねっ。いえ…私達は、絶対的な正義で、絶対的な裁定者なんですよ。 それに、私はこの世界が大好きで、何時までも何時までも、冒険者さん達にも、他の皆にも『あああって』欲しいんです」   それはそれは優しく、何処か酔いしれている様な調子で、丁度優しい母親が自分の息子に語りかけるような調子で。 しろい女は、王様に言います。   「そう。私はこの世界を愛しているんです。私は、私達は正義で、この世界を愛していて。 だから私達は、この世界をずっとずっと維持しなければいけません。 そう。世界はあるべき形にあらなければいけないんですよ」   まぁ、齟齬を修正する方法に趣味が入っているのは認めちゃいますけどねっ。女はうっとりしながら更に続けます。   「GMとはそういう存在でしょう、王様っ?」   王様は、睨みつけるように演説をする白い女を見ていました。   「…そうだな、其の通りだ。生き延びなければいけない理由が今出来た。だからお前に従ってやろう。だがな」   凄絶な顔で。怒りに満ちた顔で。神様の使いに今にも飛び掛らんとする様子で。 鏡の王様は、一言言葉を吐き出しました。   「何時までも、貴様等の思惑通りに事が運ぶと思うなよ…? この世界が。これから先の未来が。幾度幾十度幾百度貴様等に汚され冒されるとも」   巨(おおき)な剣を手に取ると、その切っ先を白い女に向けます。   「この世界を紡いで行くのは。全ての未来を作り上げていくのは。 断じて貴様等ではあり得ない」 「ははっ、王様にしては負け犬ちゃんな台詞ですねっ。兎も角」    白い女は、笑って言います。   「行きましょうか王様? それから、その不細工な王冠、今の貴方にはとっても似合ってると思いますけどねっ」   それから先、王様がどうなったのかは昔話の外側に。 もしかすると、今もこの『昔話』は続いているのかもしれませんが。 その結末がどう転ぶかはこの語り部めが知る所では御座いません。    つまり、それはこの昔話の『詰まり』の一つと言うことで、聞き手の皆々様は一つ納得していただきたく。   <注記:DOP本編参加前の一コマ> ---- ||戻る||目次||進む ||[[172]].||[[Story]]||[[174]]. 174.父と娘と   夢を見ていた。 悲しい、夢だった。 別れの、夢だった。 夢を夢だと気づく事が出来る夢。 呼び名が白昼夢だったか、明晰夢だったかは覚えていないが。 だからこそ余計に悲しかった。 私は、川のほとりで膝を抱えて座っていた。 そこらにある砂利を拾って投げると、ぽちゃんと言う音がする。 川の向こう岸には、懐かしい顔の男が立っていた。 「泣き顔の騎士子タンハアハア」 ウルサイ。そんな、変わらない顔をしないでくれ。 もっと、寂しそうな顔をしてくれ。笑って川の向こうに立たないで。 「でも、笑ってる騎士子タンはもっとハアハア」 そして、見っとも無い泣き顔だろう私を、そんな困ったような顔で見ないでくれ。 無理矢理でも、笑わずにはいられなくなるから。 例え、無理にでも、笑わずにはいられなくなるから。 けれども。 ぱしゃぱしゃと、深い筈の川を乗り越えて。 どうしてだろう。 川に隔てられている筈の彼は、私のすぐ近くまで苦も無くやってくるとにっこりと微笑んでみせた。 最高の笑い顔、というのがあるのなら、これがそう。 …きっと、この思考を人に知られたら大笑いされるんだろうな。 「泣くなよ?泣いちゃダメだ。心配するだろ?」 言葉に含まれているそれは、『しなくてはならない』では無い。義務ではない。 もっと、優しいものだった。聞いたことの無い真面目な口調で、彼は柄にも無い言葉を口にしている。 只、存在の全肯定。義務や責任や。そんなモノを遥かに超えた先にある赦し。 私の嫌悪する部分さえ否定せず、全てを受け入れる。 彼の紡いだ言葉は、私を苛む罪を赦し。彼の流した血は、私に一つの契約を成さしめる。 直ぐ前まで来ていた彼は。 蹲って泣いている私の前でしゃがみ込む。 そして、すっ、と手を伸ばすとわしわしと、頭を撫でてきた。 …髪がぐしゃぐしゃに乱れるなぁ。 鼻の奥が、熱くなる。 みっともない位に泣きじゃくっているだろうに、頭の中にはそんな他愛も無い事しか浮かんでいなかった。 「俺は。泣いている騎士子たんより、笑ってる騎士子たんの方が、好きだからなっ」 明晰な思考はそこで途絶えた。私は。私は。 泣きながら、彼に抱きついていた。 きっと。わたしは。許して欲しかったんだと、思う。 私は。馬鹿みたいに真面目に、一つの事ばかりを考えて。私は私を捨てて、私は私の誓いを果たさなければならなかった。 でも私は。何処までも愚かで弱い。 一つの事に拘る余りに、他の全てを失っていく。 結局、そのたった一つの誓いでさえ、果たすことは出来ないのかもしれない。 ああ、だから。 だからこそ私は、赦しが欲しかった。他の誰かから。何の打算も何もなく。 只一言、その言葉を言って欲しかった。 恨みの言葉や、嘆きの言葉ではない。只、赦す言葉を。 抱きしめて、泣いて、泣いて。 それから、私は笑った。心から、一点の曇りもなく、私は笑った。 意識が、闇に落ちていく。 そんな事にも気づかないで、私は笑っていた。 『ハレルヤ。ハレルヤ。ハレルヤ。 いと高き所より主は来たれり。主と御子キリストが治める国は地上に来たれり。 王の中の王。主の中の主。我等の主は永久に地上におわしてその王国を治めん』 聞いたことも無い、古い古い聖句が響いている。 今のそれに似ているけれども、少しも一致していない聖句。 他の誰でもない。人を作り世界を作り給もうた見知らぬ誰かを称える詩。 私は、知らず涙を流す。彼は。嗚呼、私の全てを許した彼は。 … 従者を失った王等、只の雑兵でしかない。 彼は、そんな事を考えながら、重い足取りで進んでいた。 元々の疲弊のせいもあるが、何よりも背中に負っている♀騎士が原因である。 「我ながら、偽善めいた真似をするものだな」 彼は、ぽつりと呟く。首筋には、♀騎士の涙が伝っていた。 暖かい涙。それは元々からして人ではない彼には縁のない物だ。 ゲッフェンのドッペルゲンガーは。 人の心を移す鏡であると同時に、夢魔達の王でもあるから。 詰る所、夢を操ることなど彼にとっては容易いこと。 最も、今の彼は力を遮られていて。 短距離で使える同属同士のリンクを介してさえ、こんな偽善めいた真似をする事しか出来ない。 あの『化物共』でない人の信じていた神を持ち出すなど、偽善の最もたる所。 とは言え、何かに縋るのであれ、他の何であれ…僅か、半日程前に見せた狂態。 あのようになられない程度に精神が安定してくれるのならば構うまい。彼は、そう自分を納得させた。 「泣く娘を安心させるも父親の務め。…とは言え」 勿論、自分は本当の意味でこの娘での父親ではあり得ない。 血を分け、自分の力を分け与え、幻魔としたところで。 この娘の中に宿る記憶までも、消す事は出来まい。 自分は良くも悪くも純然たる鏡。写す事は出来ても、作り出すことは出来ない。 「まぁ、いい」 自分には、自分の役目がある。 それと同じく、復讐を誓っている濁った鏡には濁った鏡の役目が与えられることだろう。 未だ、それは判らぬが、いずれははっきりとすることだ。 「どのような結末を迎えるかは判らぬ。だが」 今は、只歩くだけだ。とうの昔に、ダイスは既に投げられている。 背中に子を負うたまま、彼は再び森の中を歩き始めた。   ---- ||戻る||目次||進む ||[[173]].||[[Story]]||[[175]]. 175.人外+1PT   ♂ローグの治療が終わると、アラームは安心してこてんと、その場に寝ころんでしまった。 ♂ローグにも休憩が必要なので、その場で♂ローグ、バドスケ、アラームの三人は一休みする事にした。 一息つく♂ローグ、バドスケも木によっかかって座って休んでいる。 「……よう、お前アラームの知り合いか?」 ♂ローグの言葉にバドスケは♂ローグを見る。 「ああ、時計塔で一緒だった。お前が今までアラームを守っていてくれたのか?」 どちらも、今更な内容である。が、確認せずにはいられない。 「成り行きでそーなっちまっただけだ」 成り行きの一言だけでここまでの傷を負ったというのは、少し無理がある。 バドスケは久しぶりに心が温かくなった気がした。 「……アラームを守ってくれて、ありがとう」 「だから成り行きだって言ってんだろ」 バドスケは静かな寝息を立てるアラームを見る。 「アラームはさ、優しい子なんだ。いつも一生懸命で明るくて……」 ぶっきらぼうに言う♂ローグ。 「知ってるよ」 「だからさ、そんなアラームがこんな所に来させられて… …どれだけ辛い思いしてるかって考えるだけで俺は……」 「……。」 「でもさ、久しぶりに会ったアラームはいつもと変わらないアラームのままで『私は元気でしたよ』って言ってさ……」 目頭を押さえるバドスケ。 「ありがとな、お前……アラームの心もきちっと守っててくれたんだな……ありがとな……」 寝っ転がったままバドスケから顔を逸らす♂ローグ。 「礼ならあの♀アーチャーと今は別行動してる♀クルセと小バフォにでも言え。俺は何もしちゃいねえ」 バドスケは♂ローグを見る。 「……バーカ。んな傷だらけの体でそれ言っても説得力なんてねえよ」 「うっせえ!」 ♂ローグ、バドスケ、アラームの三人はプロンテラ目指して南下していく。 周辺を探したが、♀アーチャーの姿は見つからず。♂ローグの 「セージの所行ったか、次の目的地に先行ったかのどっちかだろ」 という言葉に、ローグ達の目的地であるチュンリム湖を目指す事にした。 エンペリウムのある場所の内、ヴァルキリーレルムとルイーナの二カ所は既に通行不可となっている。 となると、今ローグ達の中でここに手を出せるのは小バフォのみである。 ブリトニアにはセージ達が向かっている、ならばローグ達は残るチュンリム湖が担当となる。 アラームはにこにこしながら、バドスケから旅の話を聞いている。 ♂ローグはむすーっと黙ったままだ。 『あのローグも仕留めた事だし、残るマーダーは……俺が知る限りじゃクソ墨だけか。捕まるなよ♀アーチャー』 無駄に豪勢なプロンテラ城を見上げながら、♂ローグはそんな事を考えていた。   <♂ローグ、所持品:ツルギ、 スティレット> <アラーム、所持品:大小青箱> <バドスケ、マンドリン、アラーム仮面 アリスの大小青箱> <現在位置:プロンテラ北、プロンテラ城直前> ---- ||戻る||目次||進む ||[[174]].||[[Story]]||[[176]]. 176.根本価値の齟齬〜 遭遇    ──もしも、二者の根本的に価値観が食い違い、尚且つお互いに自分こそが正しいと認識している時。  そのどちらかの主張が通される時に、もう一方の主張が著しく制限される場合。  彼等(或いは彼女等)は激しい対立を、その結論から授かる事を識らなければならない。  …  二度目の黄昏を迎えている空の下で、闇がわだかまり始めた森の中で。  ♂アルケミストと深淵の騎士子は、穴を掘っていた。  見れば、辺りには幾つかこんもりと盛られた土饅頭が見える。  つまり、二人は墓を作っていた。  ♂アルケミは、♂アコライトの遺体を抱え上げると、穴の中に横たえ、その上から土を被せた。  ゆっくりと、血に濡れたアコライトが埋まっていく。 「ごめんな。こんなことしかしてやれなくて」  ぽつり、と呟いてから新しい墓の上に、形見の逆毛を置いた。  それは、相変わらずぴん、と空に向って伸びて、風に揺れていた。  少年の本当の髪は、少女の様にさらさらの栗毛で。それとは全く違っていたけれど。  彼は、そのどちらもが少年に相応しい、そう感じていた。 「我が友よ。私は汝の意志を継ぐ。…だから、全てが終わる時まで、静かに眠れ」  相変わらず真面目に、けれど何処か悲しそうに、深淵は呟きながら目を瞑った。  手にした剣は折れているとしても。心はもう折れる事を知らない。  誓いの言葉は、冥府の川さえ飛び越えて、二人と優しい助祭とを永遠にする。  じんわりと浮かんでいた汗を拭ってから、錬金術師は騎士の方を向いた。  決意を秘めた目を、じっと深淵は見つめ返す。 「なぁ。深淵さん。さっき、俺の言ってたこと覚えてるよな。 それで…一つ決めた事があるんだ」  前半分に、騎士が頷くのを確認してから、後ろ半分を口にする。  鞄から支給された地図兼名簿を取り出すと、一つの名前を指差した。 「これから、この人を探してみようと思う。俺達だけじゃ、どうにもならない」 「ふむ…成程な。確かに、この首輪が呪物であるなら…」 「この人が一番適職ってな」  その時だ。錬金術師の指先に釣り込まれるようにして名簿の一点を見た騎士の横合い。  少し離れたあたりで茂みが、がさりと大きくざわめいた。  深淵の騎士が大鉈を手に身構え、急いで地図をしまい込んだ錬金術師も、初心者用胸当てと、石ころを入れた鞄…即席のフレイルである…を、騎士の後ろで握る。 「誰だ!!」  亡、と。その姿は見ようによっては森の奥から現れた亡霊の一団にさえ見えた。  黄昏の森。その奥から現れたのは、幻影が如き二つの人型だったから。 「私だ、深淵殿」  両手を挙げ、一応交戦の意思が無い事を示しながら、幻影…ドッペルゲンガーは一言、そう答えた。   <場所:moc03&pay01の辺り 状態&持ち物:深淵s=>変わらず DOPs=>♀騎士は目を覚ましている。> ---- ||戻る||目次||進む ||[[175]].||[[Story]]||[[177]]. 177.失敗   ゲフェンの街に着いた♀セージ一行は、♀ウィズの記憶を頼りに村正を見つける。 案外とそれはあっさり見つかり、これで儀式に必要な物はとりあえず全て揃った事になる。 一同に安堵の吐息が漏れるが、♀セージは険しい表情のまま地面に文字を記す。 『やっかいなのはここからだ。首輪開封は即座にGM秋菜の知る所となるだろう。それを回避するには何か策が必要になる』 ♀ウィズは既にその事を考えてあったのか、同じく地面に書き記す。 『私達が同士討ちを始めて、その戦闘でお互いが倒れたという事にするのはどう?』 ♀セージは首を横に振る。 『駄目だ。外された首輪という証拠が残る。 それこそ我々の遺体が欠片も残らないような状態でなければ、それは成り立たない』 ♀ウィズはきょろきょろと辺りを見回し、そして木造の大きな家を指さした後、書いた。 『メテオであの手の建物の下敷きにするってのはどう?』 ぎょっとした顔になる♀セージ。 『何? お前SGの他にメテオまで覚えていたのか?』 通常、大魔法と呼ばれる物はそう何種類も覚えられる物ではない。 だが、♀ウィズはメテオとSGの双方を極めていたのだ。 悔しいやら嬉しいやらなんともいえぬ複雑な表情を見せる♀セージ。 『わかった。ではエンペリウム奪取後、その手で行くとしよう』 ♀クルセも♂アーチャーも♂プリーストもそれで問題があるように思えなかったので特に反論はしなかったが、そこで♂プリーストが落ちている枝を拾って文字を書きだした 皆、新たに仲間に加わった♂プリーストとの経緯の関係上、自然緊張した雰囲気になる。 『待て。首輪開封は確実に為せるのか? エンペリウムを手に入れる事が出来たとして、ぶっつけ本番で問題無いような術とも思えないが』 ♀セージ、♀ウィズの二人ともが少し考えてから、肯く。 『そうだな、確かに試してみる必要はあるかもしれん』 『おっけ、同じ手二度使う事になりそうだけど、メテオはそもそも戦闘においても有効な魔法だし問題は無いわね』 その文字を見た♀クルセが一歩前に出る。 『よかろう、ならば一番手のその役目は私が引き受けよう』 成功率を上げる為に呪いのアイテム、そして心臓を集めたという事はつまり、この術には失敗の可能性があるという事に他ならない。 そしてこの首輪を外す為の術である以上、失敗イコール爆発である事は想像に難く無い。 なればこそと、♀クルセは名乗りを上げたのだ。 ♂アーチャーは心配そうに♀クルセを見る。 その心配は術の事だけではないであろうが、♀クルセは笑顔であった。 『心配するでない。何せこの中で一番神のご加護を期待出来るのは私であるからな。一番私が成功率高かろうて』 そう書いて♂アーチャーの肩を軽く叩く。 あの様な事があったばかりなのに、♀クルセには迷う気配すら見られない。 そんな♀クルセに戸惑う♂アーチャー、だが♀クルセは今度は口に出してこう言った。 「少年、前に進むべき時を見誤ってはならんぞ。状況がどうあれ……」 ♀クルセは自分の胸を軽く叩く。 「ここを強く持つ事だ。そうすれば自ずと道は開かれよう」 小僧扱いされたにも関わらず、♂アーチャーはそう言う♀クルセを羨望のまなざしで見る。 が、当の♀クルセは頭の中だけでぼそぼそと呟いていた 『あのザマを少年に見られていなくて良かった……ああっ、私も修行が足りんっ!』 どうやら、迷宮の森を抜けた後の事を思い出していたようだった。 段取りはこうだ。 被験者である♀クルセと♀セージ、♂プリーストの三人が建物の中に入る。 建物の中で、乱闘するフリをしつつ術を行いそれが成ったなら、窓ガラスをたたき割る。 それと同時に外から♀ウィズが建物に向けてメテオの詠唱開始。 メテオ第一弾の落下と共に三人は、逃げ出す際にお互いぶつかったりしないようにそれぞれ別の出口から建物を脱出、以後♀クルセは一切発言せず、そして他の者も♀クルセは死んだ物として会話を行う。 ♀セージはこの直前、♀ウィズに術の詳細の説明を行っていた。 曰く、不足の事態に備えてこの術を行使出来る者は複数居た方が良いという事であり、それは万人が納得出来る理由であった。 『……♀クルセは良い事を言う。意志を強く持つ……か。 ああ、目的があってそれを成す意志があればここまで無理が保つ物だと私も初めて知ったよ』 ♀セージは準備を整え、思考を巡らしながら、最後の最後まで傷の痛みを誰にも悟られずに済みそうであった。 建物の中から罵声が聞こえる。 「やはり貴様が裏切っていたのか! この卑怯者め!」 「落ち着け♀クルセ! くそっ! やはり正気を失っていたか!?」 「予想はしていたが最悪のケースだなこりゃ……段取り通り行くぞ! いいな!」 「何かを弄しておるのか!? やはり貴様達は私を裏切る気なのだな!」 「ばっかやろう狂気に負けやがって! お前が悪いんだよ! 俺達にこうさせたお前が一番な!あの世に行っても恨むんじゃないぞ!」 村正を手にしている♀クルセに向かって♀セージと♂プリーストの術が放たれる。 床には心臓から垂らした魔法陣、そして、♂プリーストの持つ青ジェムが砕けると術が完成する。 ♀セージが肯くのを見た♀クルセは一気に首輪を引きちぎる。 それは事も無げに千切れ、床に転がった。 『よしっ!!』 ♂プリーストが窓ガラスを室内のイスをぶん投げてたたき割る。 「おーい! こっちは仕留めたぞ! 聞こえてるか♀ウィズー!」 「室内から聞こえる訳がなかろうが。さっさと逃げるぞ、術の詠唱は途中で止められないんだからな」 「げっ! そーいやそーだった!」 そう叫ぶ♂プリーストの語尾に重なるように建物全体を衝撃が揺らした。 『なんだと!?』 その第一弾は、なんと♂プリーストの脱出予定場所である窓ガラス真上に落着。天井が崩れ、窓ガラス周辺はガレキに埋まってしまう。 メテオは落下地点をおおまかにしか決められない、それを知っている♀セージにとってはこの事態も予想の内であった。 ♂プリーストに自分の脱出経路を使うよう手で合図すると、自分は別室に走り出す♀セージ。 外の♀ウィズは既に詠唱を終えて三人が出てくるのを厳しい表情で待ち続けている。 「あぶねっ! これ本気でヤバイぞ!」 そう言って♂プリーストが飛び出してくる。 すぐに無言のまま♀クルセが飛び出してきて、♂アーチャーと♀ウィズの二人に手を振る。 だが、♀セージはいつまで経っても出てくる気配は無かった。 既にメテオはその詠唱を終わり、七個目の隕石が建物に落下した所である。 建物はその二階部分が半壊し、紅蓮の炎が建物全体を包んでいた。 ♀セージは不足の事態に備えて用意していたもう一つの脱出経路に入った途端、その場に座り込んでしまった。 『ははっ……流石に……気が抜けたな。痛みで最早体が動かん』 背中が冷たい、おそらく出血も激しくなってきたのであろう。 『プリーストの術は可能な限り温存しておかなければな。 ♂BSの存在もある、他の参加者の事もある。私は間違っていない……』 確認は出来てないが切り札も放ってある。自分に出来る事は全てやったと自負している。 『炎がまわってきたか。押さえられている魔力でよくもここまでの破壊力を……相変わらずだな……あいつは』 向こうがどう思っているかはわからないが、♀セージが最も信頼しているのは♀ウィズであった。 『後は任せたぞ……お前なら、きっと……』 そこまで考えた♀セージの目の前の扉が開いた。 「居たっ! このバカ! 怪我がきついんならそう言っときなさいよ!」 ありえない、あってはならない。 内部でここまで延焼が進んでいる建物に突入するなぞ、こいつならばその危険性がわからないはずはない。 「プリーストさん! 私がこいつ背負うからヒールしながら脱出するわよ!」 すぐに傷の痛みが少しづつ癒えていく。 常に冷静であり続け、それがいかなる選択であろうと、目的に対して常に最適の行動を取るべきである。 これは魔術を志す者ならすべからく頭に入れておくべき事柄だ。 ならばその魔術の才に長けたこいつが、こんな行動を取るはずがない。 「やばい! 床が抜ける!」 ♂プリーストは全力で抜けかけた床を走り抜けると後ろを振り返る。 ♀ウィズは、その冷静な判断力で状況を把握し、最適と思われる行動を取った。 『愚か者がっ! 何をするかっ!?』 朦朧とする♀セージの意識が一発で目覚める。 ♀ウィズは背負った♀セージを前方に向けて放り投げた。 同時に崩れる床、♂プリーストは柱を片手で掴み、残った手で♀セージの手を掴む。 ♀セージはその手を掴みながら、♀ウィズに向けて手を伸ばす。 しかし、その腕は空しく空を切った。 落下する♀ウィズ。 地下室と思しきそこには既に火の手が回っており、その真ん中、まだ微かに火が回っていなかったそこに♀ウィズは落ちていった。 鈍い激突音、そしてあらぬ方に曲がった右腕。 ♀セージは声を限りに叫んだ。 「起きろ! 右側の炎を突破すれば階段があるからそこを登れば出口だ!」 だが、♀ウィズは何の反応も示さなかった。 炎は♀ウィズを囲み、その右腕を燃やし始めた。 「何をしている!? 早く起きないか!」 ♂プリーストは両手が塞がっている状態で魔法も使えない。 喚く♀セージを力づくで引き上げると、すぐにキュアとヒールを唱える。 既に炎は♀ウィズの両足にまでその領域を広げていた。 「頼む! 早く起きてくれ! 手遅れになってしまうではないか! プリースト! ヒールをもっと頼む!」 ♂プリーストは周囲を見る。既に一階に居る自分達の周りまで炎が広がっている。 「お前をここで失う訳にはいかんのだ! ええい、ならばっ!」 そう言うと♀セージは床に空いた穴に飛び込もうとするが、♂プリーストが腰を抱えてそれを止める。 「離せっ! あいつが居なくてはこの先……」 「もう手遅れだ! 落下の時にあいつは死んでる! ここで俺達まで倒れる訳にはいかないだろうが!」 「バカなっ!? 意識を失っただけ……」 「だったらキュアとヒールで反応しない訳ないだろう!」 そう言い放つと♀セージを抱えたまま♂プリーストは廊下を駆け出す。 だが、元来た道は既に炎の海となり、慌てて別ルートを探すが、どこもかしこも炎に包まれ、煙が立ちこめている。 「くそっ! 俺達のどっちが欠けても駄目だっていうのに……」 ♂プリーストは屋敷の構造を思い出す。 「確か……」 そこまで言って♂プリーストは耳を懲らす。 「なんだ? 炎の音でもない……衝撃音?」 突然脳を走った閃き、♂プリーストはそれに従って衝撃音のしたと思われる場所に向かった。 そして再度聞こえる衝撃音。 そこには、崩れた壁を前に必死の形相でこちらを見ている♀クルセの姿が見えた。 傷の痛みと煙と熱で気を失った♀セージが意識を取り戻すと、♂プリーストは入れ違いにその場にひっくり返った。 ヒールを使いすぎたらしい。♂アーチャーが♀セージの額に濡れたタオルを置く。 ♀クルセは、少し離れた所で自身の首を指さす。そこに例の首輪は無かった。 半身を起こすとすぐに全てを思い出す♀セージ。 「なんという事だ……なんという……」 俯き、両手を腿の上に付く。 「私のミスだ……取り返しのつかない……私の……ミスだ……」   <♀セージ、所持品/クリスタルブルー プラントボトル4個、心臓入手(首輪外し率アップアイテム)> <♂アーチャー所持品/アーバレスト、銀の矢47本、白ハーブ1個> <♀クルセ、所持品/青ジェム1個、海東剣> <♂プリースト、所持品/チェイン、へこんだ鍋> <♀ウィズ、死亡 所持品/たれ猫、フォーチュンソード> <現在地/ゲフェン市街> <残り14名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[176]].||[[Story]]||[[178]]. 178.The last moment   冷静に考えれば突入することからしてバカなことだったと思う でも、死が確定した今この瞬間でも後悔はしていない 地下室との高低差は結構大きい。この高さなら多分即死 そういえば頭の上に乗せてたはずのたれ猫が無いけど、多分どこかに落としたんだろう アレがあったならまだ即死は免れたかもしれないんだけど ……いや、あんな小さなぬいぐるみじゃクッションにもならない、かな どっちにしろこの火の勢いじゃ落下で助かっても焼き殺される じわじわ焼き殺されないだけまだマシだ、きっと 落ちていく中見えたアイツの顔は、今にも泣き出しそう 私は私の意志でやったんだ、アンタが罪悪感を感じる必要は無いよ後追い自殺なんかして、せっかく助けてやった命を無駄にしたら、あの世でメテオ撃ってやる ああ、そんな顔もだんだん遠くなって見えなくなっていく コレで見納めなんだから、もうちょっとくらい時間を遅くしてくれてもいいじゃない ♂プリ、♂アチャ、♀クルセ、願うだけで伝わるなんて思わないけどさ、アイツのことお願い アイツは生真面目だから、このことで絶対落ち込むと思う でもアイツは絶対必要なんだ…だから、お願い。私はこれ以上一緒に行けそうにないから くそうもう床が近いじゃないか。まだ色々未練を思い返したかったっていうのに そうだ、最後なんだからこれだけはしっかり思っとかなきゃいけない ♀セージ。最後だから言うけど、アンタのこと嫌いじゃなかったよ そして自分の頭蓋骨が砕けるイヤな音と一緒に、私の意識は明けない闇に落ちる   神様、今までぜんぜん信じてなかったけど最後の最後だけお願い どうか、アイツが最後まで生き残れますように   <時間は♀WIZ落下から死亡までの数瞬> <たれ猫行方不明> ---- ||戻る||目次||進む ||[[177]].||[[Story]]||[[179]]. 179.真なる最適解   瓦解した建物からしばし離れた別の家屋の中に、♀セージたちはいた。 先の実験で多くの魔力を浪費し、以前目を覚まさない♂プリーストを休ませるためだ。 ♀セージは、静かな寝息を立てている♂プリーストの傍らで、傷の残る背を柱に預け、座り込んでいた。 本当ならばこんなところで足止めを食っている場合ではない。 こちらの目論見をGMに気付かれてしまえば、おそらくこの辺一帯は瞬く間に禁止区域にされてしまうだろうし、 そうでなくても、ルイーナ砦へ進む道はすでに限られている。 ほんの気まぐれでこのかすかな希望が閉ざされてしまうことも、想像に難くない。 だが、かといって♂プリーストを休ませない選択肢もなかった。 彼の魔力なくしては、首輪外しの成功などありえないのだ。 ほぅ、と深く息をつき、先の実験を思い返す。 私は間違っていなかったはずだ。しかし、歯車は狂ってしまった。 たった一つだけ、見落としていたのだ。 ♀ウィズの、彼女の情の厚さを見落としていたのだ。 あの状況で私を助けに来るなどということは、微塵も想像できなかった。 その想像力の欠如が、優先されるべき命を損なわせた。 今は後悔している時間などない。 彼が眠っている間にも、やれるべきことはあるはず。 そう思っても。そう分かっていても。 彼女は、動くことが出来なかった。 別室から♀クルセと♂アーチャーが戻ってくる。 だが、二人は依然としてそのままだった。 ♂プリーストはまだ目を覚ましていないし、 ♀セージもまた、空ろな目で♂プリーストの寝顔を見下ろしているだけだ。 「♀セージさん・・・」 ♂アーチャーが声をかけるが、そっと視線をもちあげて♂アーチャーの顔を一瞥すると、また♂プリへと視線を戻してしまう。 『気にしているのか?』 ♀クルセが、おそらくは別室で見つけてきたのか、ノートにさらさらと書いて♀セージに見せた。 ♀セージがそのノートを受け取り、たった一言書き足した。 『当然だ』 たったそれだけの文字。 だがそれは、♀クルセを激昂させるには十分過ぎる投げやりさだった。 憤怒の表情でノートをひったくり素早く書き足すと、♀セージの胸倉をつかみ、空いた手でその顔にノートを押し付ける。 『なんだその無様な面は! そのような腑抜けで、♀ウィズの代わりが務まるつもりか!』 ♂アーチャーがこっそりと差し出したノートを受け取り、セージもまた睨み返す。 『私に代わりなどできるものか。 あそこで死んでおくべきは私だったのだ。 私が今生きていることが、既に計画の失敗だ。』 「ふざ・・・」 叫ぼうとした♀クルセの口を慌てて後ろから♂アーチャーが塞ぐ。 ♀クルセが改めてノートで言葉を返す。 『ふざけるな! ♀ウィズも骨抜きのお前を残すために火の中へ飛び込んだのではあるまい。 皆で脱出するのが我らの計画だろうが! 今度はお前の命を以て裏切るつもりだったというのか!』 その一言が、♀セージの心を捕らえた。 私の命を以て裏切る・・・ そんなこと、考えもしなかった。 ただ、私は自分の命を秤からおろしただけのつもりだった。 首輪に死を錯覚させる方陣が♀ウィズにも描けるのなら、私の魔力など、存在などその廉価に過ぎないと。 故に、この命は♂プリーストの魔力よりもずっと軽いと、そう考えていた。 しかし、違っていた。 ♀クルセの言うとおりだった。 私が欠けてはいけなかったのだ。 皆で生きて帰る計画、その中には私の命も含まれていたのだ 故に、私が欠ける事はそれ事体が計画の失敗なのだ。 誰かの命を犠牲にして他の誰かが生き残ればよいのなら、結局はゲームに乗ればいいだけの話なのだから。 それはあまりに簡単な盲点だった。 ♀ウィズはその事を分かっていたのだろうか? ・・・違うな。 そこで♀セージは小さく笑みを浮かべた。 最初からそのような愚かしいことを考えたのは私だけだったのだろう。 ♀ウィズは間違いなく全員で助かるために、燃え崩れる家の中へと飛び込んできたのだ。 それは決して冷静な行為とはいえないが、しかし。 間違いなく、計画のための最善手。 真なる最適解だった。 ♀セージがノートを見せる。 『済まない、私がどうかしていた。もう大丈夫だ。』 その瞳に魂が宿っているのを見て、♀クルセは満足げにうなずき、立ち上がる。 「本当に大丈夫か?」 ♂アーチャーが問いかける。 「ああ。」 ♀セージは迷いなく答えた。 「セージがこれ以上、理屈でウィザードに遅れをとるわけにはいかないからな。」 と、不適に笑ってみせる。 その顔に、黒くふかふかした塊が投げつけられる。 「ぶっ!?」 目の前にぽとりと落ちたそれをよく見れば、垂れ猫の人形だった。 飛んできた先を見上げると、♀クルセがいた。彼女が投げた物らしい。 『故意か偶然か・・・屋敷に走り出す前に♀ウィズが落としていったものだ。 お前が使うのが一番だろう。』 ♀セージは頷くと、それをちょこんと頭に乗せる。 『ここから見守ってあげるから、しっかりやりなさいよね。』 ♀セージの頭の中に、♀ウィズの声が聞こえた気がした。   <♀セージ、所持品/垂れ猫 クリスタルブルー プラントボトル4個、心臓入手(首輪外し率アップアイテム)> <♂アーチャー所持品/アーバレスト、銀の矢47本、白ハーブ1個> <♀クルセ、所持品/青ジェム1個、海東剣> <♂プリースト、所持品/チェイン、へこんだ鍋> <現在地/ゲフェン市街> <以降このPTは筆談にノートを用いることができる。 ROの世界にもノートくらいはあると・・・思います> ---- ||戻る||目次||進む ||[[178]].||[[Story]]||[[180]]. 180.根本価値の齟齬〜 別離   DOPが手を振りながら深淵の騎士子と♂ケミに近づく。 「すぐに見つかったか、何よりだ」 ♀騎士もすぐ隣に居て深淵の騎士子達を見る。その目は少なくとも敵を見る目ではない。 深淵の騎士子は二人を見てそう思ったが、二人が近づききる前に問う。 「♀ハンターはお前達が?」 ♀騎士は一瞬体を堅くする、代りにドッペルゲンガーが答えた。 「いや、我々ではない。誰がやったかは知らぬが……こういうのを指して天罰というのだったか?」 深淵の騎士子は油断無い目つきで質問を続ける。 「ではその♀騎士の気配は何だ? 先ほどとはまるで違う……よっぽど我ら魔の者に近い気配だ」 その深淵の騎士子の言葉でドッペルゲンガーと♀騎士は、深淵の騎士子の態度が堅い理由に思い至った。 ♀騎士は矢が突き刺さっていた腹部を押さえながら言う 「私はハンターとの戦いで瀕死の重傷を負い、ドッペルゲンガー殿の血を受ける事で生きながらえたのだ」 そして自嘲気味に笑う。 「我が身の未熟をドッペルゲンガー殿に救ってもらった……感謝の言葉も無い」 状況を把握した深淵の騎士子。だが冷たい視線は変わる事は無かった。 「……で? 我々に何の用だ?」 この質問は予想していなかったのか、ドッペルゲンガーも♀騎士も驚いた顔をする。 「用? 怨敵ハンターは倒れたけど真の敵はいまだ健在。 なら同じ敵を持つ者同士、共に行動した方が良いに決まっている」 ♀騎士の言葉に、深淵の騎士子は隣の♂ケミの手をぎゅっと握る。 「……悪いが他を当たれ」 「何?」 「他を当たれと言うておる。我らは貴様等と行動を共にする気なぞ無い」 深淵の騎士子の言葉に、ドッペルゲンガーが怪訝そうな顔になる。 「……何を言っているのだ貴様は?」 深淵の騎士子は大声を出す。 「♂ケミを殺そうとしたお前と組む気は無いと言っているのだ! とっとと失せるが良いっ!」 ドッペルゲンガーは深淵の騎士子を見る、そしてその真意を測ろうとするが、読み切れない。理解出来ない。 「私がその人間を殺す理由はとうに失せているが……」 「うるさい! そんな簡単な理由で私の仲間を殺そうとするような奴なぞ信用できんと言っているのだ!」 ドッペルゲンガーにとってはまったくもって理解出来ない事を言う。 眉間にしわを寄せ、首を傾げるドッペルゲンガー。代りに♀騎士が口を開く。 「お互い目的ははっきりしている。その為に共闘は必要な行為だと私は考えているけど……あなたは違うの?」 「失せろ。三度目は言わんぞ」 ドッペルゲンガーが何かを言い返そうとしたが、それを♀騎士が制して言う。 「……わかった。私達はプロンテラを目指すから、気が変わったら追ってきて」 色々言いたそうなドッペルゲンガーの手を引いてその場を去ろうとする♀騎士。 だが、ドッペルゲンガーはその手を振り払う。 「馬鹿な、奴らの戦力は貴重だ。ここで別れる事の理由は私にはわからぬ」 そう言うドッペルゲンガーに♀騎士は説得の言葉に詰まる。 「仲間とやらを失って臆病風にでも吹かれたか? 愚かな……戦ってこそその魂も救われ、そして更なる犠牲も押さえられるというに……」 そのドッペルゲンガーの言葉に、深淵の騎士子が激怒する。 「黙れっ! 貴様等に我らの何がわかるかっ!? 何かといえば武器を振りかざして突進するしか能の無い猪武者がえらそうにほざくな!」 その言葉に♀騎士は真っ青な顔になる。そしてそれを見たドッペルゲンガーも穏やかではいられない。 「……我が娘を愚弄する気か? それは命を賭けての言葉であろうな」 「愚弄? ふざけるな! 冷静に事に当っていた我が仲間に槍を向けたのは貴様であろうが!」 「愚か者には相応しい報いだ。ふん、臆病者と愚か者がたったの二人だけで一体何を為せるつもりだというのだ?」 「貴様っ!」 遂に深淵の騎士子が動く。 ドッペルゲンガーも即座に応戦体勢に入るが、それぞれ深淵の騎士子は♂ケミが、ドッペルゲンガーは♀騎士が羽交い締めにして止める。 「お、落ち着いてよ! ここでケンカする理由こそ無いじゃないか!」 「落ち着いてドッペルゲンガー。いいから、この子達はこの子達の考えがあるんだから……」 それぞれ無視出来ない相手に止められたせいか、渋々だが二人共矛を収める。 ♀騎士はドッペルゲンガーの手を引きながら、今度こそこの場を去る。 「すまない、こんなつもりじゃなかった……悪意の言葉はドッペルゲンガーに代って私が謝るから許して欲しい」 ♂ケミは深淵の騎士子の前に立って言った。 「……こっちこそごめん。でも……僕も君達を信用出来ないよ……だって君達は……」 そこまでで言葉を切る♂ケミ、すぐに♀騎士が言う。 「ええ、私達は目的の為に必要かどうか以外はあまり考慮しない。 そうしなければ勝てないから……」 「そんなに簡単に割り切れないよ。いや……僕は割り切る気なんて無い。仲間も友達も大事だから」 「そう。だから私達はこうなったのかもね……」 ♀騎士達は一路プロンテラを目指していた。 ドッペルゲンガーは不機嫌の極み、それを見て♀騎士は苦笑する。 「あの深淵の騎士……魔物というより人間に近い」 ドッペルゲンガーは不機嫌な顔のまま♀騎士の言葉を聞く。 「人間は、辛い目に遭った時とか……どうしても態度が頑なになる。 そんな時力押しで何かをさせようとしても無駄よ」 「……それに意味はあるのか?」 そう言うドッペルゲンガーに♀騎士は再度苦笑する。 「全く無い。でもあの状態で私達と一緒に戦ったら……きっと何処かで致命的な事が起きる。 そうならないよう祈りながら戦うのも手だけど、あまり建設的ではない」 「わからぬ。理解出来ぬ。したいとも思わぬな」 「心が弱いんでしょうね……でも知ってる?」 「む?」 「あなたの娘も根本的な所ではそうなのよ……覚えておいてね」   <DOP 所持品/ツヴァイハンター・小青箱      現在地/「大きな橋 moc_fild 02」の、右側の林の中      備 考/♀騎士と魔族での血縁関係となる。打倒♀GM秋菜 > <♀騎士 所持品/無形剣・コットンシャツ・ブリーフ      現在地/「大きな橋 moc_fild 02」の、右側の林の中      備 考/DOPと魔族での血縁関係となる。♂騎士の仇、♀GM秋菜を討つ目的を持つ> <♂アルケミ 所持品/ハーブ類青×50、白×40、緑×90[騎士子の治療時に使用]、それ以外100ヶ、すり鉢一個 石をつめこんだ即席フレイル        現在地/「大きな橋 moc_fild 02」の、右側の林の中> <深遠の騎士子 所持品/折れた大剣(大鉈として使用可能) 遺された最高のペコペコ         現在地/「大きな橋 moc_fild 02」の、右側の林の中         備考:アリスの復讐>注:深淵の騎士子、♂ケミのすぐそばに、深遠の騎子の愛馬がいる ---- ||戻る||目次||進む ||[[180]].||[[Story]]||[[182]]. 182.デッドマン・ウォーキング   「ふぅん……不死者の身体ってのも意外と動くもんだね。 やっぱり素材が新鮮だと違うのかね?」 身体の感触を確かめながら、♀ローグは冗談混じりに言った。 返魂の札の力によって不死者として蘇ったとはいえ、ゾンビのような貧弱な身体能力しか残っていないのではお話にならない。 その点が♀ローグにとって最大の懸念材料であったが、どうやらその心配は要らないようだ。 身体は思いのほか軽く、死ぬ前と変わらぬ鋭い動きも可能であった。 「まあ、それでこそ大博打うった価値があるってものよ。 それにしても、バドスケめ……思いっきりぶん殴ってくれちゃって。 うわっ、こりゃ酷いわ。脳みそはみ出してんじゃないの!?」 手をやってみて気づいたことだが、バドスケの渾身の一撃を受けた♀ローグの頭は、まさしくザクロのようにという表現がふさわしく、ぱっくりと傷口をさらしていた。 不死者となったせいか痛みは無く――逆に言えばそのせいで傷口に気づかなかったわけだが――、 出血も止まっているが、どうにも精神衛生上よろしくない。 「とりあえず血は洗うとして、隠すなりしないとね、こりゃ」 この近くには池があったはずだ。♀ローグはそちらへ向かって歩き出した。 「さてっと、まあこんなもんかね」 水と赤ポーションで血を洗い落とし、荷物袋を引き裂いて作った包帯をロープで巻きつけただけの乱暴な処置だが、傷口を隠すことはできた。 この作業の過程で、♀ローグにわかったことがいくつかある。 一つ。やはり痛覚は失われているということ。 念のためダマスカスで腕を軽く切り付けてもみたが、痛みも無ければ血が滲みすらしなかった。 そもそも、心臓は鼓動すらしていないのだ。 二つ。味覚も失われていた。 袋の荷物をぶちまけたついでに食料をかじってみたが、まるで砂を食べているような感覚で、口に出来たものではなかった。 不死者も腹が減るのかどうかは今のところわからないが、これは♀ローグの気分を暗澹とさせた。 三つ。 これが最も重要な点かもしれないが、どうやら聖なるものに弱くなっているようだ。 荷物の底から出てきたロザリオに少し触ってみた途端、失われたはずの痛みと、熱さがびりびりと走り、思わずそれを放り出してしまった。 生き残りにはクルセイダーやプリーストがまだいたはずだ。 そいつらと戦う時には十二分に注意しなければならない。 「不死者には不死者のルールがあるってことか。 ま、いいさ。障害が無かったらゲームは楽しくないってもんだ」 変わらぬ不遜な笑みを浮かべ、♀ローグは歩き出した。 自分がどんなものに変化しようと、この狂ったゲームで存分に遊べれば、彼女にとってはそれで十分なのだ。   <♀ローグ 所持品/ダマスカス 現在地/プロ北(prt_fild01)  不死者となる。獲物を求め移動開始> ○頭部に大きな傷(布で隠している) ○ロザリオは放置 ○不死者のルール ※判明しているもの ・痛覚なし、出血もしない ・味覚なし、普通の食料は受け付けない ・聖属性に弱い ---- ||戻る||目次||進む ||[[181]].||[[Story]]||[[183]]. 183.ヴァルキリーレルム   ♀ローグは木々の切れ目から見えるヴァルキリーレルムを眺める。 「まったく、遊びの為だけにあそこまでの物を用意するなんざ私の理解を超えてるね」 おそらく更にその奥にはプロンテラ城もあるのであろう。 そこまで考えてふと思い至る。 「おや? ……プロンテラ城……さっきまで見えてたような……」 見える訳が無い。北側からはヴァルキリーレルムが邪魔してプロンテラ城はその影に隠れているのだ。 「うん、確かに見た。……なんだいこれ? 変じゃないか……」 子バフォは♀アーチャーの後をちょこちょこと歩いてついていく。 そして高台に登ると、そこではたと気付く。 「……なあアーチャー殿。何故ローグ殿はヴァルキリーレルムを避けたのだ?」 アーチャーはきょとんとした顔だ。 「そりゃ禁止区域で封鎖されてるからに決まってるじゃない……どうしたの突然?」 即答したアーチャーの言葉に愕然とする子バフォ。 「アーチャー殿、地図を見せてはもらえぬか?」 頭上にはてなエモを出しながら地図を子バフォに見せる♀アーチャー。 それを見ながら無言で考え込む子バフォ。 「何? 何かあるの?」 ♀アーチャーの言葉に子バフォは言う。 「……禁止区域で封鎖されているのなら、何故♀アーチャー殿はそこにローグ殿が向かったと思ったのだ?」 「へ?」 子バフォに指摘されて、♀アーチャーは首を傾げる。 「そーいえばそうね……なんでだろ? ああ、あの抜けたローグの事だから間違ってそっちに向かったかと思ったのね」 そう言っている♀アーチャー自身も自信は無さそうだ。 『待て。一体何がどうなっている? 迂闊に動いてはいかん! これは敵に気取られては……マズイ気がするぞ』 悩みながらヴァルキリーレルムを眺める子バフォ。 子バフォが何を考えているか全くわからない♀アーチャーも、釣られてそちらを見る。 「あ〜、もー、こっちのプロンテラ城も相変わらずおっきいわよね〜」 その言葉にぎょっとする子バフォ。 「……プロンテラ城……とな?」 「へ? ああ、当たり前よね。元の所と同じに出来てるんだから、こっちのプロンテラ城が大きいのも当たり前……」 子バフォがもの凄いややこしそうな顔をしているのに気付いた♀アーチャーはそこで言葉を止める。 『馬鹿な!? ここからではヴァルキリーレルムが邪魔になってプロンテラ城は見えぬはず!』 考えてみれば、♀セージ達もローグ達も皆ヴァルキリーレルムの事は思考から外して考えていた。 『我と皆の違い……首輪か! 呪いの一種か何かか? ……となるとそれをしかける理由は……』 その思いつきに子バフォは慄然とする。 そこまでしてこの世界で隠しておきたいもの。それ程に重要度の高い物は何かと考えると…… 『GM秋菜の居場所……か。時計塔の事もあるが、その候補として充分な理由足り得るな』 そこまで考えてほっと胸をなで下ろす。 『もし……これを我がここで口にしていたら、それを聞いたGMは決して我と♀アーチャー殿の存在を許さなかったであろう』 そしてしかし……と項垂れる。 『皆の話に乗せられて、見えているはずの我までヴァルキリーレルムの存在を正確に把握してなかったとは……』 この話を皆にする時、どーやってそれを誤魔化そうかと言い訳を考え始めた子バフォであった。 GM秋菜はヴァルキリーレルム内の一室で執務を行っていた。 「も〜。せっかく遊びに来たってのになんで他の仕事もやらなきゃなんないのよ〜」 ぶちぶち言いながらもやるべき事はきちっとこなすGM秋菜。 ふと、窓の外を見るとそこには夥しい量の血を綺麗に掃除しているGMの姿が見えた。 それを見てげんなりとするGM秋菜。 「これだから精神異常者は嫌なのよ。せっかくの機能も当人の自意識が不安定すぎるとぜーんぶぱーだもんね」 参加者の意識からヴァルキリーレルムの存在を薄める。 首輪の機能を使った精神操作の一種なのだが、むしろ暗示と言ったほうがより適切かもしれない。 ヴァルキリーレルムには行けない、ヴァルキリーレルムは見えない。首輪を介してそう暗示をかけてあるのだ。 もちろん矛盾もある。何せヴァルキリーレルムは現にここにあるのだし、元居た世界にもあった物なのだから。 その矛盾を各人が自分の思考の中でその場その場において自己解決してもらうのが、この暗示の目的なのだ。 「面倒なんだけどねこれ。でも〜……やっぱりこの機能は抜けないわよね〜」 首輪を操作するに、一番適切な場所であるこの世界の中心地プロンテラ。 もしここを真っ先に禁止区域にしたのなら、勘の良い連中はすぐにここにGM秋菜が居ると気付くであろう。 対GM秋菜を考える参加者はこぞってプロンテラを目指す。 そしてそういう意志を持った者同士が簡単に集まってしまっては、このゲームの意義が大きく薄れてしまう。 「さて、今回は後何人ここまで辿り着けるかしらね?」   <♀ローグ 所持品/ダマスカス 現在地/プロ北(prt_fild01)不死者となる。獲物を求め移動開始> <♀アーチャー所持品/グレイトボウ、矢、小青箱 現在地/プロ北(prt_field01) 備考:実は怪力?数時間の間弓使用不可 ♀ローグを捕捉> <子バフォ 現在地/プロ北(prt_field01) 所持品:クレセントサイダー(jrサイズ)小青箱> ---- ||戻る||目次||進む ||[[182]].||[[Story]]||[[184]]. 184.二律背反   ♀騎士とドッペルゲンガーの二人は一路プロンテラを目指す。 そこにGMが居るという根拠は何一つ無い。 だが、他に何も手がかりが無い以上、人の集まりやすい目立つ場所を目指す以外のやり方を二人は思いつけなかったのだ。 二人ともそもそもおしゃべりなタチではない。ましてやあのような事があったばかりだ。 砂漠を歩きながら話す話題は、自然と実用一辺倒な内容となる。 「ドッペルゲンガー、今残っている人間の中でこのゲームに乗っている人間はどれほどいると思う?」 「そうだな、あのハンターをしとめた者。これで確実に一人。残りは予想に過ぎないが……」 指折り数えるドッペルゲンガー。 「直前の放送で殺された9人の内、三人はハンターが、そしてハンターを殺した者が一人。 残る五人が前々回の放送からの間で殺害されたという事であるから……」 ♀騎士が考え深げに口を開く。 「ハンターともう一人が残り五人を全て殺したと考えるのは不自然か……少なくとももう一人二人ぐらいはいそうだな」 そこまで言って微笑を浮かべる♀騎士。 「もちろんハンターが戦いを挑んで破れた可能性もある。 その者がゲームに乗っているか否かはまだわからない。楽観する気は無いがな」 ドッペルゲンガーは深く肯く。 こんな話をしながらの旅であるが、実は快適とは程遠い旅であった。 容赦なく照りつける日差しに、熱せられた砂を踏みしめながらの移動。 特に砂漠の砂の異常な高温には、二人とも口には出さないが随分と消耗させられていた。 だが、だからといって油断していた訳では決してない。 単に、予想すら出来なかっただけである。 突然砂漠の砂の中から手が伸び、♀騎士の足を掴んだ。 「何っ!?」 その手の主は♀騎士の足を掴んだまま砂中から立ち上がり、逆さ吊りになっている♀騎士を力任せに振り回した。 よもや、熱せられた鉄板もかくやという熱砂の中に人が潜んでいるなぞ想像の外だ。 ドッペルゲンガーが何をする間も無く、♀騎士は砂丘の下へと放り投げられる。 ツヴァイハンターを構えてドッペルゲンガーはそいつを睨む。 「……ブラックスミスか。ハンターを殺したのも貴様か?」 全身に熱傷を負っている♂BSは置いてあったブラッドアックスを拾うと、咆吼を上げてドッペルゲンガーに襲いかかった。 ♀騎士は勢いよく砂丘を転がり落ちる。 「くっ! ……おのれっ!」 全身砂まみれになりながらも両手を伸ばして回転を止め、すぐに立ち上がると砂丘を駆け上がる。 砂に触れた素肌が焼けるように熱い。 「あやつ正気か!? あの状態でいつから私達を待ち伏せていたというのか!」 無形剣を抜き、砂丘を登りきるとそこでドッペルゲンガーは♂BSと対峙していた。 既に♂BSの斬撃を受けているドッペルゲンガーは息も荒く、その体から流れる血が足下の砂を黒く染めていた。 ♀騎士は♂BSに駆け寄り、背後から無形剣を振るう。 ♂BSはまるで背後に目でもあるかのごとく、その攻撃を体捌きだけでかわすと振り向きざまに♀騎士にブラッドアックスを振るう。 それを無形剣で受け止める♀騎士。 『なんだこの力はっ! 本当にこれが人間の力か!?』 体勢を崩されないでいるので精一杯の♀騎士。 そんな♀騎士にドッペルゲンガーが苦痛に耐えながら言う。 「……気を付けろ、そやつに剣は効かぬ」 ♀騎士は♂BSと鍔迫り合いをしながら、♂BSを観察する。 『ドッペルゲンガーの剣がきかない? ……ロングコートに何かカードでも?』 しかし考えている余裕は無かった。 かみ合った無形剣とブラッドアックスを♂BSは手首の回転だけで簡単に外し、♀騎士の肩口目がけてブラッドアックスを振り下ろす。 ♀騎士はそれを一歩下がってかわそうとするが、かわしきれずにブラッドアックスの先端が♀騎士をかすめる。 しかし、♀騎士もやられっぱなしではない。 振り下ろされたブラッドアックスを上から足で踏みつけてそこに体重をかけて地面に埋め、自身はその状態から♂BSの頭頂目がけて剣を振り下ろす。 ♂BSは♀騎士の足の下にあるブラッドアックスを半回転させながら真横に抜き、♀騎士の体勢を崩しながら左によける。 かわしざまに♂BSは♀騎士の足めがけて低くブラッドアックスを斜め上に振り上げる。 剣をかわされた♀騎士は、そのまま流れるようなスムーズさで無形剣を自身の足下に持っていき、ブラッドアックスの斬撃を受け止める。 瞬時にブラッドアックスの持ち方を変える♂BS。 柄の真ん中を持ち、斧ではなく柄の先端の方を♀騎士の胴に叩き込む。 『ぐっ!?』 一瞬息が止まる♀騎士。 ♂BSは短くもったおかげで振り上げの速くなったブラッドアックスを肩の高さまで円を描くように振り上げ、♀騎士の肩口に撃ち込む。 今度こそその斬撃は♀騎士を捉え、♀騎士の肩から血が噴き出す。 しかし、♂BSはすぐに♀騎士との距離を取る。 ♀騎士も同時に♂BSから距離を取り、両者の間で数メートルの間合いが開く。 ♂BSは自分の体を見下ろすと、腹部側面から出血している事に気付いた。 ♂BSの斬撃と同時に♀騎士の剣も♂BSの体を捉えていたのだ。 突然、♂BSは喜びの表情を見せる。 「……俺を……殺してくれる……お前なら……」 念属性の無形剣はゴーストリングカードの効果を受ける♂BSにも効果的な攻撃が可能なのだ。 しかし♀騎士は戦慄を禁じ得なかった。 『なんたる膂力、そしてなんという技量とスピードか……まともに打ち合っては勝負にならぬ!』 たったの数合打ち合っただけだが、彼我に工夫のみでは越えられぬ技量差がある事に気付く♀騎士。 ♀騎士は戦い方を変える。 無形剣を中段に構え、♂BSの一挙手一投足に全身の神経を集中させる。 そんな♀騎士の様子にも♂BSは構わず、全力の打ち込みを挑む。 上段から振り下ろされるブラッドアックス。 ♀騎士はそれをフットワークで横にかわしざまに、上から振り下ろされるブラッドアックスに向かって無形剣を振り下ろす。 驚異のスピードを誇る♂BSの打ち込みではあるが、得物の重量差のせいかその振り下ろしの速度は無形剣の方が速い。 甲高い音を立ててブラッドアックスに当たる無形剣、そのせいで目標を失っているはずのブラッドアックスは♂BSの意志とは裏腹にそのまま振り下ろされてしまう。 そしてその跳ねた反動を利用して♂BSの首を横凪ぎに狙う♀騎士。 首をよじって、かわそうとする♂BSだったが、その切っ先は頬を深く切り裂く。 顔面の右側、そして歯の数本ごとえぐり取られる♂BSだったが、痛みを感じていないのか、そのまま攻撃を続ける。 今度は真横からブラッドアックスを振り抜こうとするが、 ♀騎士は無形剣をブラッドアックスの刃にひっかけて、その力の向きを器用に斜め上に向けると自身は軽くしゃがむだけでそれをかわす。 そしてブラッドアックスを跳ね上げたその状態の無形剣を♂BSの首に向かって突き刺す。 攻撃を避けるのと攻撃とがほぼ同時に行われているのだが、♂BSはそれを身体能力の高さを駆使してなんとか急所直撃だけは避ける。 代りに深く肩を突き刺され、流石に怯む♂BS。 オートカウンター。 これは騎士に伝わる技術で、極限まで集中力を高め、訓練に訓練を重ねた型を無意識になぞる事で本来の技量では受け切れぬ攻撃を捌き、同時に攻撃をしかける技だ。 しかしこれには莫大な集中力を要する為に、この状態をいつまでも続ける事は出来ない。 そして♀騎士は既にその限界が近くまで来ている事を自覚していた。 『これ以上は保たぬっ!……ええい、ドッペルゲンガーは何を……』 ちょうど♀騎士の視線の先、♂BSの背後にドッペルゲンガーは居た。 地に倒れ伏し、夥しい出血で意識も失っているように見えた。 ♂BSと対峙してるせいで動けない♀騎士は念話にて確認を試みる。 『どうしたドッペルゲンガー! 傷が深いのか!?』 僅かな間の後、ドッペルゲンガーから返答が来る。 『……私は最早これまでだ。逃げろ娘よ……そして同胞を集め、復讐を…………』 そこまででドッペルゲンガーからの念話は途切れた。 ♀騎士は考える。この強敵相手では逃げ出す事すら難しい。 そしてすぐに♀騎士の思考はいかにして逃げるかの策を考え、そして結論を出す。 ドッペルゲンガーに最後の力を振り絞らせ、♂BSがそのトドメを刺している間にこの場を去る。 瞬時にそこまで考えて♀騎士は愕然とする。 『ばかなっ!? 何故私がこのような事を……魔の血の影響か!?』 残った人としての感情と魔物としての理性が争う。 その頃、♂BSもまた自らと戦っていたのだ。 『俺は死にたいんだ! なのに何故刃をよける!? 何故有利に戦おうとするんだ!?』 だが、♂BSの心の底からわき上がってくる声。 『コロスコロスコロスコロスシニタクナイコロスコロスコロスシニタクナイシニタクナイ……』 それはいつからか見知らぬ誰かの声ではなくなっていた。 『なんでまだ死にたくないんだ! もう俺は生きていたくないんだ!』 『シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ……』 それは動物としての本能。理性が歪められ、感情はその発露を妨げられ、その下に残ったそれが♂BSの行動を支配する。 ♀騎士からの念話が飛ぶ。 『ドッペルゲンガー。それで最後ならば、その場に立ち、私が逃げるまでの時間稼ぎをしろ。出来るか?』 ドッペルゲンガーは即答する。 『了解した。娘よ、幸運を祈るぞ』 ドッペルゲンガーが王の誇りを支えにその場に立ち上がる。 凛とした顔でツヴァイハンターを構え、息を大きく吸い込む。 「下郎! このドッペルゲンガーが貴様の相手だ! 命を賭けて向かって来るが良い!」 王の気概、瀕死の淵にあってなお衰えないその気迫を、♂BSは無視する事が出来なかった。 ドッペルゲンガーの方を振り向く♂BS、それを見た♀騎士は膝が震えるのが自分でもわかった。 そして♀騎士の理性は、最後の最後で感情に負けた。 「嫌ーーーっ!!」 ♂BSに後ろから斬りかかる♀騎士。 それは♂BSを斬り捨てる事が目的の斬撃ではなかったので、簡単に避けられる。 そのまま♂BSの横を駆け抜け、ドッペルゲンガーに抱きつく♀騎士。 それを受け止める力はドッペルゲンガーには残っておらず、二人は重なり合ってその場に倒れた。 「何をっ!?」 「もう嫌だっ! 絶対に嫌だっ! あなたが死ぬのなんて私は嫌だっ!」 「馬鹿な! 私はもう死ぬのはお前にもわかろう!」 「私が守る! こうして抱きしめて、もう誰も殺させたり……」 ♂BSのブラッドアックスが♀騎士の背中に突き立つ。 「あうっ! ……ほら、死なない……私は案外にタフ……」 二度目の攻撃。 「はあっ! …………やっぱり、死なない……だから、大丈夫。……今度……アイツを連れてくるよ」 三度目。 「っ!! …………馬鹿だし、ロクな事言わないが、根はすごい良い人……」 次の一撃で♀騎士の命は尽きる、そうドッペルゲンガーは判断した。 そしてドッペルゲンガーは最後まで王たらんとする。 王は決して勝利を諦めない。 「……ごめんなさい…………おとうさ」 ♂BSの四撃目、それをドッペルゲンガーは覆い被さった♀騎士の体を持ち上げながら受け止める。 ブラッドアックスが♀騎士の肩胛骨を砕き、胸骨で止まるのを確認すると、♀騎士の腕から無形剣を奪い♂BSの腹部に突き立てた。 まともに急所に入った♂BSは、よろめき、後ろに倒れ込む。 「命を賭けろ……そう私は言ったぞ」 『シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ……』 ♂BSは懐から最後のイグドラシルの実を取り出し、口にする。 『頼むっ! もう俺を死なせてくれーーーー!!』 ♀騎士、そしてドッペルゲンガーが死力を尽くして与えた傷が癒えて行く。 『みんな殺されるような事何もしてないじゃないか! 何よりあの人をこの手で殺した俺が、なんでこうまでして生きていられるんだよ!』 それでも体は起きあがって武器を持つ。 『頼む……もう止めてくれ……頼むよ』 ドッペルゲンガーはそんな♂BSを前にしても怯むそぶりすら見せない。 王の矜持を胸に、剣を手に、♂BSを睨み付ける。 そして異変に気付いた。 「……何故、泣くか人間?」 ブラッドアックスを降ろし、涙を流しながら♂BSはかすれる声で言った。 「俺を、殺して、くれ」 全身を震わせ、何かを堪えるようにそう言う♂BSを見て、ドッペルゲンガーは静かに言う。 「すまんが、ちと遅かったな……」 その言葉を最後に、ゲフェンの魔王は誇り高く剣を構えたその姿勢のまま、長い生涯を終えた。   <DOP 死亡 現在地/砂漠の分岐 ( moc_fild01 )所持品/ツヴァイハンター・小青箱 備考:♀騎士と魔族での血縁関係となる。打倒♀GM秋菜> <♀騎士 死亡 現在地/砂漠の分岐 ( moc_fild01 ) 所持品/無形剣(念属性、敵の精神を崩壊させると言われている)・コットンシャツ・ブリーフ 備考:DOPと魔族での血縁関係となる。♂騎士の仇、♀GM秋菜を討つ目的を持つ 精神的に♂騎士に依存> <♂BS 現在地/砂漠の分岐 ( moc_fild01 )所持品:ブラッドアックス、ゴスリン挿しロンコ、♀BSの生首、スマイルマスク→破損> <残り12名> ---- ||戻る||目次||進む ||[[183]].||[[Story]]||[[185]]. 185.再び、道の上を〜side ♂プリースト   「無茶をしやがって…」  昏睡から立ち直った♂プリーストは、彼と入れ替わる様にうつぶせに地面に横たわった♀セージを見ながら、一言そう言った。 赤い。♀セージの状態を一言で言うなら、そんな状態だったからだ。 背中には真一文字の傷跡。よくああも平気な顔で歩いていられたものだ。 素人目に見ても、随分深く切り裂かれているように見える。 幸い、先程のなけなしのヒールが功を奏したのか出血はもう止まり、かさぶたになって張り付いている。 しかし、もしあのまま誰も気づかなければ遅からず手遅れになってしまっていただろう。 「すまない」 「いや…構わないよ。あんたが、一体何考えてたのかも判ったしな。 正直言うと…俺、あんたの事疑ってた」 舌の上に、何となくばつの悪さを転がしながら、♂プリはそう答えた。 弁明が出来なかった訳だ。疑っていた自分が恥ずかしくなってくる。 最も、それで♀アサシンの死という事実が変わる訳では無いが…それは、今は引っ込めておこう。 「疑わない方がおかしいだろうさ」 ほんの少し、陰りを横顔に浮かべながら、♀セージは言った。 しかし、それも一瞬。伏せたまま居住まいを正すと、言葉を続けた。 「何をじっと見ている。傷の手当をするんじゃないのか? 汚れを拭いて包帯を巻くだけだろう」 そうだ。幾ら、ヒールで傷口は半ば癒着したとは言え、そのまま曝しておくわけにも行かない。 …何となく、悪戯っぽい顔なのは気のせいだろうか? フフリ、と♀セージは笑う。いいや、気のせいでは無い。 一瞬、彼が苦悩していたその時だ。 後頭部に軽い衝撃が走り、♂プリーストは前のめりにつんのめった。 振り向くと、軽蔑一割、嘆きが一割、憤激が…ともかく、そういった感情がない交ぜになった表情でクルセが此方を見ていた。 手には海東剣の鞘。…どうやら、それで小突かれたらしい。 『服の袖を寄越せ。私がやる』 もう片方の手で、♂プリに示した記帳には、そう殴り書きが記されていた。 何となく顔が赤い。彼とは違って、生真面目な性分らしかった。 「わ、わかったわかった。直ぐに巻いてやるよ」 『OK、クルセさん。言い分は判ったから、小突くのは止めてくれ』 ♂プリは地面にチェインの柄で返事を書きつつ、一方の口には、てんでちぐはぐな事を喋らせる。 そうして、後をクルセに任せると、少し離れた場所に座っている♂アーチャーの方へと歩き出した。 … 「あ…」 一瞬口を開きかけた弓手を片手で制すと、♂プリーストはどっか、と彼の隣に腰掛けた。 手にしたチェインで、石畳が剥げ、土の露出した地面に文字を書く。 『俺は今、セージの手当てしてるって事になってるから』 ♂アーチャーは頷き、それから鞄から矢を一本取り出すと何事か書き始める。 『うまくいくんでしょうか…』 その手が、震えていた。 不安そうな顔で、♂プリーストを見ている。 『そりゃ、お前。巧くする他無いだろ』 さらさらと書くが弓手は納得しがたい顔で。 『でも、俺は今まで何も役には立てなくて…正直、不安なんです』 そこまで独白を聞いてから、♂プリーストは少し考え込む様な顔をする。 『…どうしたんですか?』 『あー、いや、な。お前がどうしてそんな事考えてるのかについて考えてたとこ』 『なっ…俺、別に変な事考えてたりはしませんって』 『それはそうなんだろうけどな』 溜息交じりにしみじみと言う。 『俺は説法が得意じゃないから、手短に言わせてもらうぜ?』 弓手は、憮然とした顔のまま返事を返さない。 『例えば、だ。冒険者が組むPTってのは、誰か一人が活躍してりゃいいってもんでもないだろ。 一人が活躍したけりゃ、ソロでやりゃいい。でも、俺達はこうしてPTを組んでる訳だ。それはどういう訳だ?』 『生き残るため…?』 『OK,方向性はあってる。でも、それだけじゃ足らない』 ♂プリの言葉に、再度アーチャーは首を捻りながら考える。 『…判りません。それに、それが俺の考えてる事に何の関係が?』 『俺の予想は大当たり、って感じだな』 『あんた、何が言いたい?』 ずれた回答に、苛立たしげな視線を弓手はプリーストに向ける。 しかし、構わずプリーストは言葉を続けた。 『俺達それぞれが出来る事なんて限られてるってことだよ。俺も、セージの奴もクルセさんも』 そこまで言ってから、じっと弓手を見据える。 『勿論、お前もな。──多分、自分の無力さを悔やんでたんだろ?』 図星だったのだろうか。反論が無い事を確認してから、更に言葉を続ける。 『ま、かく言う俺もいろいろと、な。悔やんだり悩んだりしてるからよ。 その時々で、状況に対して無力だったりするのは何もお前だけじゃないぜ。ええくそ。何言ってるのか良く判らないな…兎も角』 ぐしゃぐしゃと頭を掻いた。 『そんなに気に病むなよ? こいつは俺の自論なんだが…PTってのはさ。 それぞれのメンバーが、 最大限自分に出来る事をやってる限り簡単には瓦解しないもんさ。 俺は、お前が出来る事を精一杯やって欲しいのさ。 …俺はお前の事、頼りにしてるからな、アーチャー』 そう言いつつも、脳裏には一つの風景が浮かんでいた。 あの時だ。♀アサシンが死んだあの時。俺は…自分の言葉通りに行動出来ていたのだろうか? 自問すると、自分の言葉が酷く説得力を欠いているようにプリーストには感じられていた。 俺に、本当にこんなことを言う資格があるのだろうか…? そんなことを考えていた、その時だった。考え込んでいた様子だったアーチャーが顔を上げる。 「プリーストさん。俺は…」 しまった。表情に出ていたのか? 声を出して会話をしようとする弓手を咎めるより早く一瞬、そんな事を考える。 しかし、予想とは裏腹に、迷いが晴れたのか晴れやかな顔で弓手は彼を見ていた。 …プリーストはその様子に、浮かんでいた考えを振り払う。 そして、人差し指を立てて口に衝立を掛けるようジェスチャーを示した。 しぃっ、言いたいことがあっても喋っちゃいけない。 心にスティレットを突き刺したら、そいつは墓の下まで持っていかなきゃいけない。 喋ったら、きっと心が弱くなっちまうからな。 ふと、好きでよく読んでいた小説の一説を思い浮かべる。 こんなことだから不良坊主と呼ばれるんだ。 けれども、そんな冗談めいた事を思い浮かべていると幾分気が晴れた。 ゆさゆさ、と袖を引っ張られる感覚。…知らない間に自己陶酔していたらしい。 プリーストが後悔する間も無く、案の定不審げな顔のアーチャーが見ていた。 まさか、そんな事を一々説明するわけにもいかない。 ♂プリは、どうごまかしたものかと一瞬考え、チェインの柄を地面に走らせる。 『や ら な い か』 その場の空気が、寒いジョークの如く一瞬にして凍りついたかと思うと、続いて暗雲が垂れ込めるのを彼は確かに感じた。 「じょ、冗談でしょう?」筆談をするのも忘れ、真っ青な顔をして弓手は後ずさる。 貞操の危機を感じているらしかった。 「可愛い子猫ちゃん。幸せにするよ、さぁ…」 「ひ、ひぃ…」 上ずった声。薄らと涙も浮かんでいる。 「さあさあさあさあ…俺の熱いパトスを受け取ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」 「止めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 目を野獣の如くぎらぎらと光らせながら、♂プリーストは弓手にルパンダイヴで飛び掛り…しかし、勿論冗談だ。 軽々と、尻餅を付いた格好の弓手を飛び越えると、前転の要領で一回転してから、地面に着地する。 そして、視線を上げると… 「…お前達、一体何をしているか」 鳩尾の当りに、法衣の袖を包帯代わりに巻きつけた呆れ顔の♀セージが、そこに居た。 その後ろには、似たような表情を浮かべている♀クルセ。 一方、♂プリーストの後ろには怯えたような表情の♂アーチャー。 「あー…、そのだな。うん。気にするな」 「…全て聞こえていたが?」 退路はもう無いようだった。 「冗談だって。それからな、そこの弓手君? 怯えつつも、んな汚らわしいものを見るような目で俺を見るな!!悪かったよ」 「……」 「やれやれ、元気のいいことだな?」 ♀セージは笑ってそう言った。その後ろでは、♀クルセが苦笑している。 まぁ、いいか。♂プリーストは、二人の笑顔を見ながらそんな事を考えていた。 この二人は笑ってる。(残り一名は不貞腐れてるが)ならば、馬鹿をやった甲斐もある。 ちらり、と視線を動かして、♀クルセが腰に吊った刀を見る。 この場に似つかわしくない、陽炎の様に空気を揺らめかせる妖刀。 …しかしながら、ここでその刃は人を切るのではない。 『それ』を鍛えた人物にしてみれば甚だ不本意だろうが… 「さぁて、休憩は此処までにしようぜ。♀セージさん、歩けるよな?」 「ああ。良好だ。…そろそろ、行こうか」 軽薄を装って発した♂プリの言葉に、♀セージが答える。 と、歩き出そうとした所で、賢者が足を止めた。 「どうしたんです?」 「すまない、手向けを遺しておこうと思ってな。…何か、刃物を貸してくれないか?」 ショックから立ち直ったらしい弓手の問いかけに、セージは答えた。 無言で、クルセがずい、と自らの海東剣を差し出す。 それを受け取るとセージは、こめかみ辺りの髪の毛を一房、切り取った。 彼女はそれを焼け落ちた建物の前に供える。 膝を突き、目を瞑って何も彼女は喋らなかった。 その必要は、最早無いのだろう。 「…行こうか」 透徹な瞳。しかし、その内には確かな意思が。 「ああ。やってやろうぜ」 そんな彼女に♂プリーストは、心底満足すると、そう答えを返した。   ♀セージの怪我の経過は良好? 結束を新たにした模様。ブリトニアに向け出発> ---- ||戻る||目次||進む ||[[184]].||[[Story]]||[[186]]. 186.プロンテラ   プロンテラに北側から入った♂ローグ、バドスケ、アラームの三人。 「………?」 突然眉をひそめる♂ローグを見てアラームが訊ねる。 「どうしたのお兄ちゃん?」 「あ、いや……なんでもない。それよりアラームはプロンテラに来た事あるのか?」 そう言って話を逸らす♂ローグ。 一瞬得体の知れない違和感があったのだが、それを説明しきる自信が無かったのだ。 アラームはうきうき顔で答える。 「ううん、だからすんごい楽しみっ♪」 相変わらずのアラームに肩をすくめる♂ローグ。 『もっともあの鬱陶しいぐらいの賑やかさは欠片も無いだろうがな』 ♂ローグの予想通り、プロンテラはひっそりと静まりかえっていた。 街道を埋め尽くす露店も無ければ、カプラサービスに群がる冒険者も居ない。 だが、そろそろ食料も尽きかけて来た。ここでそれらを得られればと思ってのこのルート選択だ。 人が居ない事をいいことに、そこらの屋敷に勝手に入って物色する♂ローグ。 バドスケもアラームも他人の家に勝手に入る事に若干抵抗があるが、♂ローグにはもちろんそんなものはない。 物色する様が余りに堂に入っているので、バドスケは呆れて言った。 「お前慣れてんな〜。って、おい。なんだってそんな物集めてんだよ」 ♂ローグは食料よりも先にタバコを補充していた。 「男の嗜みだ。銘柄にも拘るのが真の男ってもんだろ ……おし、こんだけありゃ当分保つだろ」 やはり呆れてバドスケはアラームの方に目をやる。 「わ〜これ可愛い〜♪ あっ! これJrちゃんのぬいぐるみだー!」 山ほどのぬいぐるみを抱いて喜色満面のアラーム。 バドスケは溜息をつきながら、床下の食料貯蔵庫を片っ端からあさり始めた。 ♀ローグは一人にやついていた。 「みーつけたっと♪」 ♂ローグ達の姿を見つけた♀ローグ。彼らがヴァルキリーレルムに入っていくのを慎重に追う。 そして門をくぐった時、♀ローグは肌にまとわりつくような不快感を覚える。 「……なんだい? これは……」 周囲を警戒するが、誰も見えない。 そう、居るはずの♂ローグ達の姿も見えないのだ。 すぐに入り口周辺を策敵するが、特に何も見つからない。 しかしその策敵の時間で♀ローグは確信する。 『ここはヤバイ……何がどうなってるのかわかんないけど……とにかくココに何時までも居るのは絶対にヤバイ』 全身に鳥肌が立っている。 勘でしかない、何の根拠も無い。だが、♀ローグはこの手の直感には絶対に逆らわない事にしているのだ。 すぐにヴァルキリーレルムを出て、林の中に戻る。 「見えなかったヴァルキリーレルム、そしてこの悪寒……」 このゲームを支える根本的な何か、それに近づいたと♀ローグは思った。 「首輪も取れた。ザコGMも殺った。 ……なら、あの忌々しいGM秋菜も……殺れるかねぇ?」 このままゲームに乗るか、それともこのゲーム自体をぶっ潰すか。 ゲームを潰しにかかる場合、一人では無理だ。仲間がいる。 「となると、あの♂ローグ、アラーム、バドスケ、 後は……♀アサシンとその仲間が居たねぇ……あいつらが邪魔になる」 あの連中は今更ゲームを降りたと言っても信用しないであろう。 「いや、違うね……GM秋菜殺るのなんざどうだっていい。 要はあいつを如何に出し抜いて元の世界に戻るかだ」 ここで判断を誤る訳にはいかない。 慎重になりながら思考を進める♀ローグ。 『・・・あんた、私をここから元の場所へ戻せる?』 『無理だ・・・ここは秋菜しか好きに扱えな――』 ♂GMの言葉だ。 ♀ローグはまんじりともせず、考え続けていた。 アラームは少し不機嫌そうに♂ローグ、バドスケの後をついて歩いていた。 ぬいぐるみを持って行こうとしたところ、二人がかりで止められたのだ。 代りに後ろに背負ったバッグには、食料が山ほど詰め込まれている。 数時間かけてめぼしい場所は調べ尽くしたが、それでも手に入ったのは三人のバッグに収まる程度の量しかなかった。 深刻そうな顔をする♂ローグ。 「こりゃ……思ったよりもヤバイな。GMの奴が長期戦させるつもりでいるんなら、すぐにこの世界の食糧尽きちまうぞ」 プロンテラでこのザマなのだ。他の街も似たような状況であろう。 バドスケも肯く。 「人数は減っているが、このペースじゃ確かにまずいな……どっかで狩りとか出来ないのか?」 「魚が獲れる所はあったが、道中見る限りじゃあそこぐらいか……それも何時までも獲り続けられるかどうか」 湖での漁の後、あの湖以外でも魚が獲れるのかどうかを確認する意味でプロ北の川で見てみたのだが、そこに魚の姿は無かったのだ。 バドスケ自身は食料を必要としない。だが、アラームはそうはいかない。 舌打ちするバドスケ。 「……こういう形での時間制限付けるか。やってくれるぜクソGMが」 「ま、こいつを用意してくれた事だけは褒めてやるがね」 陽気にそう言いながら、ちゃっかり見つけていた火打ち石を鳴らしてタバコに火を付ける♂ローグ。 口からぷかーっと煙を吐き出す様を見てバドスケは言った。 「……ローグってな、どうしてこう、どいつもこいつも緊張感が無いんだよ」 そんな事を話しながら、三人はプロンテラ南門を抜けて行ったのだった。   <♂ローグ 現在地/プロ南 ( prt_fild08 )プロ南門を抜けた所 所持品:ツルギ、 スティレット、山程の食料> <アラーム 現在地/プロ南 ( prt_fild08 )プロ南門を抜けた所 所持品:大小青箱、山程の食料> <バドスケ 現在地/プロ南 ( prt_fild08 )プロ南門を抜けた所 所持品:マンドリン、アラーム仮面 アリスの大小青箱 山程の食料 備考:特別枠、アラームのため皆殺し→焦燥→落ち着き> <♀ローグ 現在地/プロ北(prt_fild01)ヴァルキリーレルム直前 所持品:ダマスカス、プレート→♂クルセの死体そばに放置、ロザリオ、ロープ、大青箱→返魂の札→自分に使用して復活> ---- ||戻る||目次||進む ||[[185]].||[[Story]]||[[187]]. 187.暗い森の終わり   森の中を進む二つの大きな影。 ペコペコに跨った深淵の騎士子と、漆黒の巨馬に跨る♂アルケミである。 「…お前に乗ってやれ無い事はすまないが、あんまり拗ねるな。 その御者もそう悪い奴ではないぞ?」 先頭を進む深淵の騎士は、おっかなびっくりといった様子で跨る♂ケミを背に乗せた自らの愛馬に、苦笑しつつ、言った。 「深淵さん深淵さん。 そうは言うものの…こいつ、メッチャ目付き怖いんですが。うわっ、また俺のこと睨んだぁっ!!」 「へそを曲げておるのだよ。 …とは言っても、このペコは私しか乗せぬしな。 気位の高い奴だが…まぁ、よろしくやってくれ」 その言葉に答える様に、ぶるる、と人間ならば憤慨に当るだろう嘶きを黒馬が発する。 びくん、と臆病そうに震えた♂ケミに、深淵はさも愉快そうに笑った。 「……」 「不満か?」 ジト目を向ける♂ケミに、深淵は言う。 殊、物騒な表情の馬面を覗けば不満などある筈も無い。 「へっ、ねーですよ。こぉのワタクシ、♂ケミめは、深淵閣下にご自身の馬を下付されましたからね。 ったく…って、っどわぁっ!?」 が、突如、それまでは大人しく背を預けていた黒馬が弾かれたか様に。 「うぎゃーっ!止まれ!!止まれ!!」前に。 「のわーっ!!お願いですから止まってぇぇぇぇっ!! お馬様、止まって下さいぃぃぃぃっ!!つーか止めてお願いぃぃぃぃぃぃっ!!」 後ろに。暴れ馬そのままの様子で跳ね回る。 彼は馬の背中で翻弄され…しかし、絶妙の調子で馬の背中をシェーカー代わりに激しくシェイクされつつも、一行に振り落とされない。 振り回されてはいるが、むしろ、その体は馬上の一転で安定している様にも見える。 「くくくっ…っ。あはははっ。あはははははっ。 もう、それくらいにしておいてやれ、クロ」 その様子に我慢し切れなくなったのか、笑いながら深淵が言う。 彼女の言葉を聞き取ったかのように、暴れていた馬はぴたりと動きを止める。 そして、細波ほど馬体を揺らしながら、前進を再開した。 「ああ、言い忘れてたが…そ奴は、人の言葉も理解する。 余り、その様な事を言ってやるなよ?」 「そ、そういう事は早くいってほしかったでゲスよ…っ。うげぇ、気持ち悪ぃ…」  その言葉に、馬の背にぐったりと倒れ込みながら、呻くような調子で♂ケミが言った。  青い顔には、死人の様に生気が見受けられない。 「……大丈夫か?」 「少し目が回っただけ。大丈夫…と思いたい」 ぶひぃん、と馬が彼の言葉に答えた。何を言いたいのかは判らない。 …さくさくと、木々の下草を蹄とペコの足が踏む音だけが響いている。   「…なぁ」 「何だ?」 声を掛けられて、深淵の騎士が振り向く。 「いや…本当に、♀セージさんと出会えるのかな、とか考えてると不安になってきたというかなんというか」 ♂ケミは、何処か複雑な笑みを浮かべながら、言った。 「何を言ってる、馬鹿」 「いや、そりゃ確かなんだけどというか…いや、俺ホム待ちだからintだけは高いんだけどっつーか」 要領を得ない言葉を二言、三言続けると複雑な溜息を付く。 「何か、不安でなぁ。 …正直言うと、人が集まりそうなプロの方行って見ようってだけで、他に何も手掛かり無いし」 確かに、博打の感は否めない。 しかし、その言葉に、振り返っていた深淵は睨み付ける様な目。 ♂ケミは、気圧されて思わず上体を逸らした。 一方の深淵の騎士はペコの速度を緩めると、彼女は黒馬の隣に並ぶ。 「…私はお前の選択を信頼しているぞ?」 明瞭な声。じっ、と黒い甲冑の騎士は♂ケミを見つめる。 整った鼻筋。薄い色の小さな唇。紛れも無く可愛らしい要素が揃っている癖に、そこだけはとても気の強そうな瞳。 けれど、僅かばかりの弱さを残している様に、その目じりは赤く今だ腫れぼったい。 「だから、お前もおまえ自身の事を信じろ」 幽かに、表情が緩む。彼女はたおやかに微笑んでいた。 まるでそれは魔法のようだった。 湧き上がっていた不安が、泡の様に溶けては次々消えていく。 もし…一つ不満を上げるとするなら。 …どくん、と何故だか心臓が大きく鼓動するのを彼は聞いた。 「……」 「……どうした。 私の顔に何か汚れでも?」 その言葉にはっと、♂ケミは一気に現世に帰還する。 「あ、いや…うん。ありがとな。迷いなんて吹っ飛んじまったよ。 んー、もうバンジーOK。バンジー牧場って感じだな」 「バンジー牧場とやらが何かは判らないが…ならばいい。これからは気をつけろよ?」 得意そうな表情をすると、彼女は再びペコの速度を引き上げた。 彼がふと、視線をずらすと…馬が。 「いや、そこそこ。今にも俺を食い殺さんとするGDのお馬さんが如き形相は止めて。お願い。すげー怖いから」 ぶひぃん。一際強く、主を守護する従者の表情で黒馬が嘶く。 正確に言うと馬に表情は無いが、オーラを発する背中と、暴れだそうとする両足がそう雄弁に語っている。 「はぁ…」 彼自身の中の悪い空気を皆吐き出すように、大きく、息を一度吐く。 そして、次に吸い込むのは明瞭に頭脳を働かせる為の新鮮な空気だ。 「ま、俺達が出来るのは…今はプロに向う事だけだって。そう、心配するなよ」 馬に呟きながら、彼は視線を前に向けた。 一番出会う確立が高そうだ、という可能性だけで決めた進路だが、案外悪くない選択なのかも知れない。 もし間違っていたら、もし♀セージがマーダーだったりしたら。 …でも、まぁその時はその時だ。俺は、俺に出来る事をやろう。 その事が、あいつの望みにも、深淵さんの誓いにも繋がる。 そんな事を考えている。 ふと、森の木立の終わりが見えた。 その先には大きな砂漠が広がっていた。 プロンテラまでは、まだもう少し掛かりそうだった。   <深淵&♂ケミ 現在位置 モロクフィールド13 装備 深淵の愛馬と再会 他は変わらず プロ方面に向けて移動中> ---- ||戻る||目次||進む ||[[186]].||[[Story]]||[[188]]. 188.それぞれの殺し屋事情   ♂BSは自らの首にブラッドアックスを当てる。 自ら鍛えた力ではないが、自分の力量は既に理解している。 全力でこれを引けば、簡単にその首は落ちる。 「…………あああぁぁっ!!」 腕に力が篭る。 しかし、その腕が動く事は無く、♂BSの首もそのままであった。 「死なせてくれよ……俺もう……嫌だよ……」 そしてまた歩き出す。行き先も、目的も無いままに。 散々考えたが、結論は出ない。 ♀ローグはひょっとこみたいな顔になると、立ち上がる。 「どっちにしても、あのローグだけは生かしちゃおけないわねぇ」 同職だけにその手の内は良く知っているであろう。 ならば♂ローグは決して♀ローグを仲間にしようとは思うまい。 下手に他の連中に変な事言われる前にさっさと仕留めるのが吉だ。 そう考え、プロンテラ南へと先回りを試みる♀ローグ。 ヴァルキリーレルムを迂回して渓谷の橋、プロ西、バッタの巣へと抜けてプロ南へと至るルートを選択し、足早に走り出す。 「子連れなら私の方が早い。今度は……完璧に待ち伏せした方が良さそうだね」 前回の戦いで、♂ローグが油断ならない敵だという事はよくわかった。 だが、♂ローグが足手まといを本気で守る気なら打つ手はいくらでもある。 「……昔は多かったんだけどね、あの手のローグ。今でもまだ居るなんてね〜」 悪党としての腐りきった生活の中で、それでも魂だけはぴっかぴかに輝いている奴。 「嫌いじゃないよ、あんた。でも……死にな。薄汚いクソみたいに、のたうち回って悲鳴を上げながら」 ♂BSは砂漠の分岐を抜け、プロ南へと辿り着く。 そのまま歩き続けると次第にプロンテラの城壁が見えてくる。 そこで不意に♂BSは進路を変えた。 プロンテラ、そしてそこから続くヴァルキリーレルムは今の彼にとっては近づきたくない場所であるようだ。 そこからバッタの巣へと抜けて、道なりにプロ西に入る。 特に何か考えがあって北を目指しているのではない。 ただ、南には自分が殺した死体が多すぎる。 そのまま北に向かい、渓谷の橋に辿り着くとそこに水場があった事を思い出す。 今まで全く乾きも空腹も感じなかった♂BSだが、水場に向かい、そこで水を飲んだ。 いつも飲んでいた水なのに、久しぶりのせいか妙においしく感じた。 こんな状況なのに、おいしい水を飲めて嬉しいと思う自分が、とても嫌だった。 引きつった顔で♀ローグは草原に伏せていた。 『なんだってまたあのBSに会うのよっ!』 プロ西からバッタの巣へ抜ける途中で人影に気付いた♀ローグは、慌てて生い茂る丈の高い草むらに隠れた。 以前に出会った時は、なんでかわからない理由で捕捉された事を思い出し、緊張した面もちで♂BSを見守る。 だが、当の♂BSは♀ローグには全く気付かずに覚束ない足取りでそのまま通り過ぎて行ってしまった。 『チャンス……なんだけどね〜。あのゴーストリングCなんとかなんないのかい』 彼我の戦力状況を考え、仕掛けるのは止めた♀ローグ。 『湖にでも叩き込むか? ……いや、あいつに挑むにはまだこっちの装備が整ってないね』 二度も見逃す事をいたく不満に感じながらも、その判断を下し、それに従える自分の理性を感じ、少し安心する♀ローグであった。   <♀ローグ 現在位置/プロ西 ( prt_fild05 )所持品:ダマスカス、プレート→♂クルセの死体そばに放置、ロザリオ、ロープ、大青箱→返魂の札→自分に使用して復活> <♂BS 現在位置/渓谷の橋 ( mjolnir_09 )所持品:ブラッドアックス、ゴスリン挿しロンコ、イグ実1個、♀BSの生首、スマイルマスク→破損 備考/GMの精神支配から限定的ではあるが解放> ---- ||戻る||目次||進む ||[[187]].||[[Story]]||[[189]]. 189.絆   ♂ケミ、深淵の騎士子はそれぞれの乗馬(?)に乗り、砂漠を行く。 突き刺すような日差しが容赦なく照りつけるが、ベコ、そして黒馬はそんな環境にもビクともせずに歩を進める。 流石に駆け抜けるとはいかないが、おかげで騎乗している二人は会話を行う事も出来た。 「なあアルケミよ、私は……間違っていたのであろうか?」 突然、深淵の騎士子がそんな事を言いだした。 ♂ケミは深淵の騎士子が何を言いたいのかすぐに察する。 「ドッペルゲンガーさん達の事?」 「ああ」 深淵の騎士子は憂いを含んだ顔で正面を見続けている。 即答出来ない♂ケミ。 「…………」 少しの無言の後、深淵の騎士子は更に言う。 「少なくとも奴らは敵ではない。 むしろ同じ志を持つ者達だ。そういった存在はここでは貴重なのでは無いのか?」 言葉にした事で、心の中で渦巻いていた物が具体性を帯びる。 「……もしかしたら私は取り返しのつかない事をしたのではないのか?」 ふっと♂ケミの方を見る深淵の騎士子。 「埒も無い……忘れてくれ」 ♂ケミも同じ事を考えていた。そして、出た結論も同じだ。 「もしかしたらあの人達の力抜きでは僕達は戦い抜けないかもしれない。 もしあの人達と一緒に戦っていたら僕達は捨て石にされて死んでいたかもしれない」 そう言って苦笑する♂ケミ。 「本当、埒も無いよね」 答えなど出るはずもないのだ。 ならば考えてもしょうがない、だが…… 深淵の騎士子もつられて苦笑する。 「お前に偉そうな事を言っておいてこのザマだ」 そういう深淵の騎士子に、♂ケミは今度は苦笑ではなく本当の笑みを見せる。 「あははっ、お互い様って事か〜」 それがどんな思いであれ、それを共有出来る相手が居るというのは、心和む事であった。 砂漠を行く二人が、ドッペルゲンガーの姿を見つけたのはそのすぐ後の事である。 お父さん、お母さん、僕は深淵の騎士子さんの事を誤解してたみたいです。 深淵の騎士子さんは勇敢な騎士で、決して後悔などしない人だと思っていました。 でも、ドッペルゲンガーさんと女騎士さんの遺体を前にした深淵の騎士子さんは動揺を隠せず、ただその場に立ちつくしたままで居るのです。 動揺の理由は痛いほどわかります。僕も同じ思いだから。 でも、深淵の騎士子さんの動揺の程は度を越してます。 立ったまま、足下の地面を黒く染めて絶命しているドッペルゲンガーさん。 無惨に切り刻まれ、左の肩口から胴体までが引きちぎれている女騎士さん。 僕も始めにこれを見た時は震えていたと思いますが、すぐ隣でそれ以上に狼狽え、震える深淵の騎士子さんを見て、逆に僕は落ち着きを取り戻しました。 これをやった敵に怯える? 違います。 深淵の騎士子さんはきっとそういうのは恐くないような気がします。 僕には心当たりがあります。 だから、僕は深淵の騎士子さんを無理矢理引っ張ってその場から引きはがしました。 「わ、私は……」 まだ震える深淵の騎士子さん。 僕はその両肩を掴んで言いました。 「君のせいじゃないよ」 しかし、深淵の騎士子さんは首を横に振るだけです。 だから、僕は続けて言いました。 「違う。君だけのせいじゃない……この意味わかる?」 動揺している深淵の騎士子さんは僕の言う意味がわからないみたいです。 そして、僕もそろそろ限界でした。 「僕達のせいだ。僕も悪いんだ……僕達が間違ったんだよ」 ごめんなさいドッペルゲンガーさん、ごめんなさい女騎士さん。 僕達が間違ったせいで、あなた達が死んでしまいました。 アコが、そして兵士さん達が死んだ事にも懲りずに、僕達はまた間違ってしまいました。 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…… ♂ケミが深淵の騎士子の肩を掴んだまま堪えきれずに涙を流すと、深淵の騎士子もタガが外れたのか、♂ケミの胸に飛び込んで泣き出した。 死を悼む、そういった気持ち以上に、自責の念で押しつぶされそうで。 二人ともきれい事を言っている余裕なんて無くて、自分の事だけで手一杯な中。 抱き合ってお互いを支え合って、激情の荒らしが過ぎ去るのを待っていた。 同じ咎を背負った者同士で。 二人はドッペルゲンガーと女騎士を埋葬すると、それぞれに形見として二人の剣を持って行く事にした。 深淵の騎士子はドッペルゲンガーのツヴァイハンターを、♂ケミは女騎士の無形剣を。 黒馬に乗る前に♂ケミが言った。 「また……理由出来たね」 「重いな。とてつもなく重いぞ……」 「持ちきれないかな?」 深淵の騎士子が悲しそうに、それでも笑顔で言う。 「……二人なら、なんとかなりそうだぞ」 期待してた答えが返ってきた事で、♂ケミも笑みを返す事が出来た。   <♂アルケミ 現在位置/砂漠の分岐 ( moc_fild01 )所持品/ハーブ類青×50、白×40、緑×90[騎士子の治療時に使用]、それ以外100ヶ、すり鉢一個 石をつめこんだ即席フレイル、無形剣> <深遠の騎士子 現在位置/砂漠の分岐 ( moc_fild01 )所持品/折れた大剣(大鉈として使用可能)、ツヴァイハンター、遺された最高のペコペコ 備考:アリスの復讐> ---- ||戻る||目次||進む ||[[188]].||[[Story]]||[[190]]. 190.理由   「ふわぁあ〜」 玉座に座りながらGM秋菜は欠伸をした。 人数も大分減ってきたら当然の事なのだが、各々がチームを作り極力戦闘を避けている。 裏切りや絶望・恐怖・狂気に駆られる者を見るのが楽しいのに、これでは少し興ざめだ。 ゲームが始まって既にかなりの時が経っている。 自分も少し休息を取っておかなければ。 ここぞという時に疲れて眠ってしまっていては面白くない。 GMの一人に何か食事を持ってくるように言いつける。 しばらくしてコンコン、と言うドアを叩く音の後に 「はい…るよ?」 と遠慮がちに、しかし友人に話し掛けるような口調の後に一人の♂GMが入って来た。 年齢は彼女と同じ位だろうか。 しかし優しそうな瞳と幼げの残った顔は青年と言うよりも少年と言った方がしっくり来る顔立ちであった。 GM秋菜は顔を上げて彼を見ると何か気まずい事があるかのように一瞬暗い顔をした。 そして彼をムスッとした表情でじっと見つめる。 ♂GMはその視線を受け止めながらも、ゆっくりとGM秋菜へと近づいてサンドイッチの乗った皿とポットに入った御茶をさしだした。 「はい。ありあわせの物で作ったからあんまり美味しくないかもしれないけど。」 そう言い彼女の近くにあった机に皿とポットを置いていく。 GM秋菜は彼の方を見ようとせず依然ムスッとした表情のままでそっぽを向いていた。 二人の間に気まずい沈黙が流れる。 「秋菜…」 ふとその沈黙を破って♂GMが彼女の名前を呼んだ。 「もう止めようよ…こんな事をしても…」 「…ッウルサイッ!!!」 ♂GMの言葉をGM秋菜の叫び声がかき消した。 ♂GMが少し脅えた様な表情を見せたのを見てGM秋菜は自分の戸惑いを隠すように再びそっぽを向いた。 再び二人の間に気まずい沈黙が流れる。 今度はその沈黙を破ったのはGM秋菜であった。 「…食事は後で食べます…何か目立った動きがあったら起こしてください…」 そう言い残すとGM秋菜はツカツカと歩いて行き奥の寝室へと姿を消した。 「秋菜…」 ♂GMは消えて行く彼女の背中をみてそうつぶやく事しか出来なかった。 彼は彼女の働いていた部署の同僚であった。 当時彼女の明るい笑顔のおかげで何人もの人達がつられて笑顔になった事だろうか。 そんな彼女に彼は密かに恋心を抱いていた。 ある日、彼は彼女に自分の思いの内を打ち明けていた。 彼女はテレながらも顔を赤らめて、そしていつもの用に笑って「嬉しい」と言ってくれた。 それから彼女と色々な所へと行ったりした。 その中でも彼女は一緒に時計塔の鐘の音を聴くのがとても好きだった。 自分もテレながらも二人で結婚式場の鐘の様だ等と言って笑いあっていた。 しかしある日、ある事件を境に彼女の笑いは優しく暖かい笑みから冷たく氷の様な笑みへと変わってしまった。 ソレハスベテヲウラギラレタカラ ソレハスベテニゼツボウシタカラ それ以来彼女はこのゲームをするようになった。 始めは彼も気づかなかったがある日彼女の行為に気がつき、それを止めようとしてから彼もこの首輪を付けられていた。 その後も幾度となく彼女にゲームを止める様に言っても大体この調子だ。 彼は今までの悲しそうな瞳をグッっと何かを決意したかのようにひきしめると机に置いてあった紙にペンで文字を書き始めた。 そして5枚程同じ文面の手紙を書き終えると彼はひとつの行動に出た。 このゲームを終わらせて戦っている人達を救出する方法は彼にはわからない。 しかしこのゲームを終わらせる方法は確かにある。 前に彼女が確認の為か独り言を言っているのを聞いた事があった。 なんと言っていたか…はっきりとは思い出せないが魔術触媒がどうこう言っていた記憶があった。 それと彼もただゲームを傍観していた訳ではない。 彼女がエミュ鯖を使って世界と同時にアイテムを創造しているのを彼は見逃さなかった。 彼は彼女と同じ手順を使い5個の大き目の古くて青い箱を創った。 そしてその中に自分が考えうる限りでこのエミュ鯖から脱出、 ないしエミュ鯖を壊す事が出来そうな物と見た感じ高価そうな物、そして最後に自分の思いを書き連ねた手紙を入れて首都に近く、まだ禁止領域になっていないMAPへと転送した。 こんな事をした事が秋菜に知れれば今度こそ首輪を使い殺されるかもしれない。 むしろ今まで何度も彼女に意見して殺されなかった方が奇跡なのである。 それは彼女がまだ自分の事を想ってくれているからなのか、それともただの気まぐれなのか。 彼の思いを乗せて5個の古くて青い箱が転送されていった。 誰がこれを見つけるのだろうか。 そのまま誰の目にも止まらずにいるかもしれない。 そんな箱の中に入っている手紙の文頭はこのように始まっていた。 「御願いします。誰か秋菜を救ってあげてください…」   <GM秋菜…睡眠中 / ♂GM…プロ周辺MAPに「エミュ鯖破壊に使えそうな物・高価そうな物・手紙」を青箱に入れて5個転送> ---- ||戻る||目次||進む ||[[189]].||[[Story]]||[[191]]. 191.覚醒{{br}} {{br}} 男はとても器用だった。{{br}} 自我のいう名のジグソーパズルは確実に完成に近づいている。{{br}} 男はとても運が良かった。{{br}} 肉体的にも精神的にも苦痛にしかならないものがパズルの進行を加速させていた。{{br}} そして… ついに♂BSはGM秋菜の支配から解き放たれた。{{br}} {{br}} {{br}} ♂BSは♀BSとただ一度だけPTを組んで狩りをしたことがあった。{{br}} その精算の場所だった首都西下水入り口、そこは彼の思い出の場所である。{{br}} はからずも♀ローグの後を追うように♂BSは首都西に引き返し、下水入り口前に移動した。{{br}} そしてカバンの中から♀BSの生首を静かに取り出した。{{br}} ♂BSは大切そうに、そしてかなり辛そうに生首を地面に置く。{{br}} 無言のまま斧を地面に叩きつける様に掘っていく。{{br}} そして生首を埋める。{{br}} 「なんだよこれ…」{{br}} いつの間にか顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。{{br}} 「なぁ…」{{br}} からだ中のチカラが不意に抜け四つん這いに倒れ込む♂BS。{{br}} 「なぁっ! なんなんだよこれはよっ!!」{{br}} 死にたいとしか考えられなかった支配された精神が開放され、{{br}} 殺戮しか求められなかった支配された肉体に自由が戻った。{{br}} 自分を取り戻した♂BSは一気にさまざまな感情にのみこまれていく。{{br}} そして…{{br}} 絶叫。{{br}} {{br}} {{br}} 倒れこんだまま一時間ほど♂BSは少しも動かなかった。{{br}} その効果が抑えられていたのかイグ実では回復できず、隻腕のままの♂BS。{{br}} しかし肉体改造によって戦闘BSなみのSTRが漲っている。{{br}} しかも片手で両手斧を振るうのにも支障がないほどの漲り。{{br}} さらに製造BS特有の器用さと運のよさも自我の復活により完全に取り戻しているように思える。{{br}} もう涙はない。逆にその両眼には鋭い活力が漲っている。{{br}} ♂BSは自らを奮い立たせて立ち上がる。{{br}} 「ごめんな」{{br}} ふと顔に優しさが溢れる。だが次の瞬間には鋭く凛とした顔になっていた。{{br}} (俺は最後までこのゲームをやってやる、そしてあの♀GMにもう一度会うんだっ){{br}} ♂BSは再び殺戮のゲームの中へと歩き出すのであった。{{br}} {{br}} <♂BS 現在位置/現在位置/プロ西 ( prt_fild05 ) 所持品:ブラッドアックス、ゴスリン挿しロンコ 備考/自我復活、ゲームに勝ち残りGM秋菜への復讐の一撃が目標に> ---- ||戻る||目次||進む ||[[190]]||[[Story]]||[[192]] 192.声{{br}} {{br}} ♀セージ一行は、ブリトニアまで何の障害も無く辿り着く事が出来た。{{br}} そんな僥倖を指して♂プリ曰く、{{br}} 「わざわざこんな狭っくるしくなった土地に来ようって馬鹿もいねえだろ」{{br}} だそうである。{{br}} 北側からブリトニアに入った一行だが、いくつかの城門は完全に封鎖されており、侵入は簡単に出来そうも無かったが、橋をいくつか渡った先にあった城門だけは開いていたので、そこから砦へと侵入する事にした。{{br}} 砦内部の構造には皆疎かったが、そもそもそんなにややこしい構造でも無い上に、妨害も全く無かったので簡単に奥地までたどり着く事が出来た。{{br}} 通称エンペルームと呼ばれるそこに辿り着いた一行は、台上に燦然と輝くエンペリウムに見惚れ、そして思った。{{br}} {{br}} 『こんなデッカイ物どーやって持っていくんだよ!』{{br}} {{br}} モンスターが時々隠し持っているエンペリウムとは比べ物にならない程の大きさだ。{{br}} ♂アーチャーは嘆息しながら言う。{{br}} 「そもそも、この部屋から持ち出せないだろこれ……」{{br}} そんな一同を無視して♀セージはエンペリウムの置いてある台座へと歩み寄る。{{br}} それを見とがめた♂プリは期待を込めて聞いた。{{br}} 「おい、何か良いアイディアでもあるのか?」{{br}} しかし♀セージは♂プリーストの言葉を無視してエンペリウムに近づいていく。{{br}} そして、♀セージがエンペリウムに触れた瞬間、彼女の周囲の景色が変わった。{{br}} 「!?」{{br}} {{br}} 石造りの建物も仲間達も全て消え失せ、そこにあるのは漆黒の闇のみ。{{br}} そして、♀セージの前方には何やら蠢く物体があった。{{br}} 「……呼んでいる? 私をか?」{{br}} 全てが闇の中、♀セージはその物体へと歩き出したが、それに近づくにつれてその物体の異様が明らかになっていく。{{br}} 二本の腕に二本の足、頭部と思しき物に、背中から生えた角の様な物。{{br}} 近くに寄って見ると、その全身が爛れている様がわかる。{{br}} 角の様に見えた物は、かつては翼であったのだろうが、今その背中に残るのは白い骨格部分のみで、それが肉の支え無しに背後に向かって伸びている。 {{br}}その腕にはひしゃげた杖のような物を持ち、今まで見たことも無い程の醜悪な顔を♀セージに向ける。{{br}} 「……ッ……テ…………」{{br}} 余りの嫌悪感から、いきなり魔法を唱えたくなるのを自制してその言葉に耳を傾ける♀セージ。{{br}} その物体は、かすれた声で、顔らしき部分から何かの液体を垂らしながら言った。{{br}} 「……コロ……シ……テ……コロシテ……」{{br}} 険しい表情で問い返す♀セージ。{{br}} 「お前は誰だ? 何故死にたい?」{{br}} しかし、その物体は同じ言葉を繰り返すだけだ。{{br}} ♀セージはアプローチの仕方を変えてみる。{{br}} 「ふむ、ではどうすればお前は死ぬ?」{{br}} その物体が言葉を止める。{{br}} 顔が変形し更に醜悪な顔になり、そして♀セージは光に包まれた。{{br}} {{br}} 「おい! どうした♀セージ!」{{br}} 耳元でそう叫ぶ♂プリーストの言葉に♀セージは我に返る。{{br}} 「……私は今どうしていた?」{{br}} ♂プリーストは怪訝そうな顔をする。{{br}} 「どうしたもこうしたも……そのエンペリウムはどーしたんだって聞いてるんだよ」{{br}} 「エンペリウム?」{{br}} 言われて気付いたが、♀セージの手の中に手乗りサイズになったエンペリウムが乗っかっていた。{{br}} 「お前がエンペに触れた途端、いきなりぴかーってな感じで光って小さくなりやがった。お前一体何したんだ?」{{br}} ♂プリーストの言葉にも、♀セージはじっとエンペリウムを見つめているだけだ。{{br}} ♂アーチャーの方を向いて肩をすくめる♂プリースト。{{br}} そして、その♂アーチャーも何やらみっともなく大口を開いていた。{{br}} 「なんだ? 今度はお前……」{{br}} みなまで言わせず大声で叫ぶ♂アーチャー。{{br}} 「逃げろっ! 崩れるぞ!」{{br}} 彼の視線の先では、天井を支えていた石柱が今にも倒れようとしていたのだった。{{br}} {{br}} 回廊を駆け抜け、階段を上り、所々崩れ始めている城壁を抜けるとなんとか外にたどり着く事が出来た。{{br}} ♂アーチャーはその場に座り込んで、大きく息を吐く。{{br}} 「ぷは〜。速度増加がなきゃどうなってた事か……」{{br}} 砦は轟音を立てて崩れ落ち、吹き上がる粉塵が宙を舞う。{{br}} 全員それに巻き込まれ、激しく咳き込む事になるが、瓦礫の下敷きになるよりは遙かにマシであった。{{br}} 粉塵が収まり、一同が落ち着いた所で♀クルセが何やら難しい顔をしながら地面に文字を書き始めた。{{br}} 『♀セージ、♂プリースト、♂アーチャー、♂ローグ、♀アーチャー、アラーム……一人分足りなくないか?』{{br}} そう、一つのエンペリウムでは五人までしか首輪の開封を行えない。{{br}} しかし、この様子では残った四つをここで手に入れるのは不可能であろう。{{br}} ブルージェムストーンを使えば、ちょうど全員分となるが、いずれにしてもエンペリウムが一つだけでは、これ以上仲間を増やす事が出来なくなる。{{br}} ♀セージは正直に認めて、地面にこう書いた。{{br}} 『最悪でも二つ手に入れるつもりだったからな。計算が狂ったのは事実だ。だが、これが誰の仕掛けかはわからないが。チュンリムにもこれが仕掛けられている場合、ローグ達が危ない』{{br}} そう書かれてその事実に気付いた♀クルセの顔が蒼白になる。{{br}} 『一刻も早く、ローグ達と合流する必要がある。エンペリウムは今は一つだけで良しとすべき……』{{br}} そこまで書いた♀セージの腕が止まる。{{br}} 崩れ落ちたブリトニアが、再び振動を始めたのだ。{{br}} 全員姿勢を低くして振動に耐えるが、その振動は今までのそれとは何かが違った。{{br}} 最初に気付いたのは、♂プリーストであった。{{br}} 『なんだ? ……声?』{{br}} {{br}} 「……ッ……テ…………」{{br}} {{br}} すぐに♀クルセも気付く。{{br}} {{br}} 「……コロ……シ……テ……コロシテ……」{{br}} {{br}} 『なんだこの声は……地の底から響き渡るような……』{{br}} 突然、崩れ落ちた砦が爆ぜた。{{br}} 飛び交う瓦礫に、全員が顔を庇ってその場にしゃがみ込む。{{br}} そして、再び顔を上げたそこに居たのは、先ほど♀セージが出会った醜悪極まりないバケモノであった。{{br}} ♂プリーストが顔を引きつらせて言う。{{br}} 「……なんだありゃ……」{{br}} ♂アーチャーも同じ様な顔をして言う。{{br}} 「……知るか……あんなデカイ化物ミドガッツに居るなんて聞いた事も無い……」{{br}} ♀セージ達が侵入した砦の半分ほどの大きさのその化物は、一歩、また一歩と♀セージ達に近づいてくる。{{br}} ♀クルセは、即座に剣を抜き、皆の前に立つと早く逃げるように促す。 だが、その隣をすいっと抜けて、♀セージはすたすたとその化物に近づいて行った。{{br}} 「おいこら♀セージ! お前何する……」{{br}} 慌ててそう叫ぶ♂プリに、振り返りもせず♀セージは言った。{{br}} 「そこで待っていろ」{{br}} 唖然としたまま♀セージを見送る三人。{{br}} そして、すぐに違和感を覚える。{{br}} ♀クルセは眉をひそめて地面に文字を書く。{{br}} 『……遠近法という物を知っているか? 近くに寄るにつれて、段々と大きく見えてゆくあれだ』{{br}} ♂プリは頷く。{{br}} そして言った。{{br}} 「だよな〜。あの化物、外見が常識外れなだけじゃなくて、世界の原理原則からも外れてってやがんの」{{br}} 徐々に近づいて来る化物。だが、その姿は一向にその大きさを変えない。{{br}} つまり、近づくにつれて縮んできているのだ。{{br}} そして、♀セージの前に辿り着く頃にはほぼ人間と同サイズにまで縮んでしまっていた。{{br}} そんな化物を前にして♀セージは恭しく跪いて言う。{{br}} 「……何かご用でしょうか?」{{br}} 化物は何も言わず、その手に持っていたエンペリウムを♀セージに手渡した。{{br}} 意図がわからず、無言のままの♀セージ。{{br}} そんな♀セージに向かって、化物が言った。{{br}} 呪詛を込め、全身から黒い液体を吹き出しながら、憤怒の表情で。{{br}} {{br}} 「ワガイカリ……オモイシルガ……ヨイ……」{{br}} {{br}} そのまま化物の全身は溶け落ち、地面へと吸い込まれて行った。{{br}} その言葉が♀セージに向けられた物でないと直感しながらも、♀セージはその身が恐怖に震えるのを止める事が出来なかった。{{br}} {{br}} 余りに不可思議な出来事であったが、予定通りエンペリウムを二つ手に入れた一行は先を急ぐ。{{br}} なんとは無しに無言になる一行であったが、突然♀セージが口を開いた。{{br}} 「以前読んだ本に、こんな一説があった」{{br}} 歩きながら、全員が♀セージの言葉に耳を傾ける。{{br}} 「世界は神なり。故に神は世界なり……そういう学説があったらしい」{{br}} 三人共意味がわからず首を傾げる。{{br}} 「神は世界を治めるでもなく、見守るでもなく、ただ世界は神と共にある。ああ、つまりは世界は神と同意義。つまりこの世界全てこそが神なのだと。なればこそ、世界の意志はつまり神の意志になるとな」{{br}} 余りに突拍子も無い話しに、一同唖然として話を聞き続ける。{{br}} 「であるとすれば、作られたこの世界にも、世界が作られたと同時に神も存在している理屈になる……あくまで理屈の話だぞ」{{br}} 最早完全に異次元のお話と化した♀セージトークを、三人はナチュラルにスルーする事に決めた。{{br}} 「そ、そうだな! お前もそう思うだろ♂アーチャー!」{{br}} 「はははっ! そうだよな! 俺もそう思うよ」 {{br}}しゃべってはいけない事を良い事に、♀クルセはしらんぷりを決め込んでいる。{{br}} そんな三人を見た♀セージは驚いた顔をする。{{br}} 「もしかして……私の話はわかりずらかったか?」{{br}} 全力で首を縦に振る三人。{{br}} それを見て本気で悩み出す♀セージ。{{br}} 「そうか、すまない。私の表現力不足だったか……次はもう少し努力してみるとしよう。私もまだまだだな……」{{br}} やたら真顔でそう言う♀セージが何やらおかしくて、ついつい♂プリーストが吹き出すと、残った二人も釣られて笑い出してしまった。{{br}} そんな三人を見て、♀セージは苦笑する。{{br}} そして、最後に思いついた事を口にしようとして止めた。{{br}} 『もしくは……秋菜がこの世界において、神まで作りだそうとしたか……』{{br}} 自分が居た世界が、どのようにして『安定』を得て存在していたのか、それは♀セージにはわからない。{{br}} 世界を構築、維持するのにもしかしたら『神』の存在が必要だったのかもしれない。{{br}} 自分はプリースト達の様には神を信じて居ない。だが、学問を修める者として神を学ぶ事も怠らなかった。{{br}} なればこそ、神話、伝説として語り継がれてきた彼らを作り出すという不遜極まりない行為に、♀セージは嫌悪感を覚えずにはいられなかった。{{br}} {{br}} {{br}} <♀セージ 現在位置/カタツムリ海岸 ( gef_fild09 )  所持品/垂れ猫 クリスタルブルー プラントボトル4個、心臓入手(首輪外し率アップアイテム)、筆談用ノート、エンペリウム2個>{{br}} <♂アーチャー 現在位置/カタツムリ海岸 ( gef_fild09 )  所持品/アーバレスト、銀の矢47本、白ハーブ1個>{{br}} <♀クルセ 現在位置/カタツムリ海岸 ( gef_fild09 )  所持品/青ジェム1個、海東剣>{{br}} <♂プリースト 現在位置/カタツムリ海岸 ( gef_fild09 )  所持品/チェイン、へこんだ鍋>{{br}} {{br}} <備考:ブリトニア崩壊、ブリトニア砦はエンペリウムを二個喪失> ---- ||戻る||目次||進む ||[[191]]||[[Story]]||[[193]] 193.定時放送5{{br}} {{br}} 定時放送時刻です、と♂GMに起こされたGM秋菜は、渡された報告書(死亡者リスト)を一瞥し、{{br}} 手元の水晶を模したものを覗き込む。{{br}} 「ふーん、そろそろ少なくなってきたわね♪{{br}}  ただ、ちょーっとプロンテラ周辺に固まりすぎかなぁ〜。いけない人たちですねっ{{br}}  ♀セージさん達と♂ローグさん達は再び合流の可能性もあるし、う〜ん」{{br}} 現在位置を見つつ、世界地図を参照しようと手を伸ばすと、♂GMの作ったご飯が目にはいる。{{br}} 「……ふんっ」{{br}} 仮眠を取ってやや回復していた気持ちが落ち、反抗的に食べ物を押しやる。{{br}} 「みんなみんな、さっさと死んでしまえばいいのよ」{{br}} 生存者の現在位置を再確認すると放送を流すために立ち上がった。{{br}} その瞳に映る真意は分からない。{{br}} {{br}} 絶望か、高揚か、狂気か、それとも他の何かか。{{br}} 瞳からは、冷たい色だけがうかがい知れる。{{br}} {{br}} そして、世界中に場違いな音楽が流れ出し、放送が始まる。{{br}} {{br}} {{br}} 「みなさ〜ん、殺し合い、続けてますか?{{br}}  そろそろすくな〜くなって来ましたが、どんどんやっちゃいましょう♪{{br}} {{br}}  まずは死亡者です☆{{br}}  ♀アサさん、{{br}}  ♀クルセさん、{{br}}  ♀WIZさん、{{br}}  ♀ローグさん、{{br}}  ♀騎士さん、{{br}}  ドッペルゲンガーさん{{br}}  以上の6名で〜す♪{{br}} {{br}}  それでー、禁止区域の発表です!{{br}}  ゲフェン北東{{br}}  砂漠の分岐{{br}}  バッタ海岸{{br}}  GH古城{{br}}  クリーミーの野道{{br}}  の、五つですぅ〜。{{br}}  あんまり残ってるとBANしますから、早く移動して殺し合いを続けてくださいね♪{{br}}  以上ですっ☆」{{br}} {{br}} {{br}} 世界に響くその声からも、何を思い何を考えているのか聞き取ることは、できない。{{br}} 参加者たちは、ただいつも通りであると感じるだけ。{{br}} 「放送は、あと一回くらいかなっ{{br}}  それ以上長くかかると秋菜困るな〜」{{br}} そう言いながら、唇を激しく舐め、クスクスと笑った。{{br}} ---- ||戻る||目次||進む ||[[192]]||[[Story]]||[[194]] 194.笑顔の不死者{{br}} {{br}} 五度目の定時報告が流れた直後。{{br}} ♀騎士、ドッペルゲンガー、この2人の名前に深淵の騎士子の心は酷く痛んだ。{{br}} 隣にいる♂ケミが不安気な視線を送る。{{br}} 重い沈黙。{{br}} そしてそれに耐えられなくなったのは深淵の騎士子だった。{{br}} 「ドッペル殿の傷はおそらく斧だろうな…」{{br}} 「そうするとたぶん♂BSかな」{{br}} 驚いたことに♂ケミはすぐに犯人の検討をつける。{{br}} 深淵の騎士子は訝しげな表情で何故そう思う?と聞いた。{{br}} 「最初、全員が集まったとき、各職業の男女が揃ってたんだ」 {{br}}♂ケミは今までの考察のまとめるかのように語りだした。{{br}} 「そしてこれが今までに死んだ人のリスト」{{br}} 一冊のノートを懐から覗かせる。{{br}} 「あいつは3回目の放送で残り25人っていってるんだ、そして4回目、5回目で15人が死んでいる」{{br}} おもむろにノートをパラパラとめくる♂ケミ。{{br}} そしてあるページを指さして深淵の騎士子に見えるように掲げた。{{br}} 「今生きているのは♂アチャ、♀アチャ、♂プリ、♂BS、♀セージ、♂ローグ、♂ケミってことになるね」{{br}} 確かに男女対に羅列された各職業で取り消し線がないのはこの7人だ。{{br}} {{br}} 「計算ではあと3人いることになるな…」{{br}} 深淵の騎士子はペコペコの進行を止めてノートを眺めながら呟いた。{{br}} 「そう、キミを除くとあと二人なんだ」{{br}} ♂ケミが乗る黒馬も深淵の騎士子が止まったので当然のように動きを止めた。{{br}} ちょっと釈然としない思いにかられながらも♂ケミは話しを続けた。{{br}} 「全員が集まったときアラーム仮面のバードっぽい人と小さな少女がくっついてたんだ{{br}}  この死亡者リストの中のどの名前にも当てはまっていないと思うからおそらく生き残ってるのはこの二人…」{{br}} 観察と考察はアルケミストの分野だと自負してる♂ケミは少し得意げな調子でいった。{{br}} そしてこんな時に調子にのった自分に軽く自己嫌悪しながら結論をだす。{{br}} 「その二人とも斧を扱えるような人には見えなかったから、だから♂BSの可能性が高いんだ」{{br}} 「…なるほどな」{{br}} また沈黙が続いた。{{br}} 「正直驚いたぞ。私はこの現状にただ感情的になって翻弄されていただけかもしれないな…」{{br}} 深淵の騎士子は目から鱗が落ちたという例えそのままに♂ケミに見直したといった表情を見せた。{{br}} (私などアリスの仇をとる、ドッペル殿の仇をとる、それだけで思考は止まっていた){{br}} 自分を恥じるとともに♂ケミが急に頼もしく思えてくる。{{br}} {{br}} 二人はそれぞれ思考を巡らせ現状を思う…そしてその刹那。{{br}} 「うわあああっ」{{br}} アルケミの悲鳴に深淵の騎士子の表情が凍りついた。{{br}} 黒馬の上から転げ落ちた♂ケミはハーブを撒き散らして倒れこんでいる。{{br}} わき腹を押さえ込んでいる手が血に濡れていた。{{br}} 「何奴っ!」{{br}} 深淵の騎士子は♂ケミを庇う様にペコペコの上から♂ケミの隣に飛び降りる。{{br}} そして周りをすばやく見回すとその視界に低い姿勢でダマスカスを構える♀ローグの姿が映った。{{br}} 「♀ローグ、死んだはずでは!?」{{br}} 深淵の騎士子は少し驚きつつもツヴァイハンターを構える。{{br}} 「ふふふ、楽しそうなPTだねぇ」 {{br}}♀ローグは楽しそうに何処か壊れた笑顔を見せた。{{br}} {{br}} <♂アルケミ 現在位置/プロ南 (prt_fild08)所持品/ハーブ類青×50、白×40、緑×90、赤×100、黄×100、石をつめこんだ即席フレイル、無形剣>{{br}} <深遠の騎士子 現在位置/プロ南 (prt_fild08)所持品/折れた大剣(大鉈として使用可能)、ツヴァイハンター、遺された最高のペコペコ 備考:アリスの復讐>{{br}} <♀ローグ 現在位置/プロ南 (prt_fild08)所持品:ダマスカス、ロープ 備考:首輪無し・アンデッド> ---- ||戻る||目次||進む ||[[193]]||[[Story]]||[[195]] 195.肉入り{{br}} {{br}}  風に揺られる草が、寝転んだ♂BSの頬をなでていた。{{br}}  彼は、なんとなくそれが、飾り気の無かった♀BSの手に似ている、そんな事を考えていた。{{br}}  空だけが、彼と違って相変わらず人工的に青いままだ。{{br}} {{br}}  打倒秋菜を目指すに当たって間違いを彼はひとつ犯していた。{{br}}  それは地図を見返して気づいた簡単な、見落としだった。{{br}}  つまりは、プロンテラ城が禁止エリアでない筈は無い、という事実。{{br}}  これまで、正気を失っていたが故だが、このまま進めば空しく爆死する所だった。{{br}} {{br}}  しかし、自分は一体どうすべきか。{{br}}  一気に突き落とされたかのような気分がした。{{br}}  そんなどん底から見上げてみると、冴えた方法は初めからたった一つしかなかった。{{br}} {{br}} 「殺そうか」{{br}}  彼はつぶやいた。{{br}}  そうだ。殺そう。{{br}}  再び秋菜に会い、殺すためにはそうするしか。{{br}} {{br}}  復讐を遂げる。その為だけに十人近くもの人間を殺す。{{br}}  ♂BSは、その事実に笑った。それは、乾いていた。{{br}}  結局、やることは変わらない訳だ。{{br}}  本当は、正気に戻ったふりをしているだけなのやも。{{br}} {{br}}  だが他に選択肢は無い。{{br}}  自らの命を絶って、全てを終わらせる程彼は潔くもなかった。{{br}}  そして、それを選択しうる力が彼にはあった。{{br}}  それにBSは人を殺しすぎたから。{{br}}  生き残り達は、決して彼を受け入れないだろう。{{br}}  他の参加者の善意(それがあったとして)は、最早期待できない。{{br}} {{br}}  殺す為だけに殺す。そうで無くなっただけマシなのだろうか。{{br}}  だが。{{br}} {{br}}  ずきり、と酷く頭が痛むのを彼は感じた。{{br}}  皆殺しを考える一方で、善意の生き残りとの共闘を期待する自分がいたからだ。{{br}} {{br}} 「今更どうやって?」{{br}} {{br}}  そんな事は無理な相談だ。{{br}} {{br}}  ──殺そうか。例え、それがどんな結末になろうと。{{br}} {{br}}  結局、それだけが彼の知りえて、理解しうる唯一の選択であり、真実だった。{{br}}  それを肯定する様に、頭痛は波が引くようにいつの間にか消えていた。{{br}} {{br}} 「往く、か」{{br}}  例え、何もかもが失われ、あるいは既に無くなっていたとしても。{{br}}  持ち上げた彼の顔には、迷いが無い。{{br}} {{br}}  そうする事でしか、このゲームを自分が生き残った上で終わらせられないなら。{{br}}  こんな馬鹿馬鹿しいゲームは、この手でもう終わりにしてしまおう。{{br}}  レクイエムを歌いながら。既に死んだ人達と、これから殺す、あるいは死ぬ人達の為に。{{br}} {{br}}  心を定めると、立ち上がり彼は更に南に下り始めた。{{br}}  さっき、自分を避けて、南へと逃げていった♀ローグの事を覚えていたから。{{br}} {{br}}  まずは、彼女から殺そうか。{{br}}  彼は、そう考えていた。{{br}} {{br}} <♂BS BOTマーダー=>肉入りマーダーに 持ち物は変わらず。体力復帰 ローグを求めて南下> ---- ||戻る||目次||進む ||[[194]]||[[Story]]||[[196]] 196.嵐の前の首都南{{br}} {{br}} 空はどこまでも青く高く。{{br}} 港の都市アルベルタは定期的に行われる蚤の市に賑わっていた。{{br}} 蚤の市用に港が露店用に開放されている。{{br}} ♂BSは街と港の境界に位置する大階段に一人座り込んでいた。{{br}} 太陽の輝きにウミネコの声と行き交う人の話し声。{{br}} ♂BSの心もそわそわと浮き立つ。{{br}} 2日前に隣りに露店をだしていた♀BSの横顔を思い描く。{{br}} 「2日後、蚤の市みたいね…」{{br}} 「あ、ああ。 蚤の市か…」{{br}} 「なんか楽しそうだよね」{{br}} 「そうだな。ちょっと露店だしにいこうかな」{{br}} 「あ、私もだしたいなー」{{br}} 「…もしかしたら会えるかもな」{{br}} 「そうだねっ」{{br}} 「…」{{br}} 「…」{{br}} たったこれだけで終わった蚤の市の話し。{{br}} 別に約束したわけでもないのに♂BSは♀BSの姿を無意識に求めていた。{{br}} 「テロだーっ!」{{br}} 突然の怒号。{{br}} 湧き上がる不安に我を失うほどの焦燥感。{{br}} ♂BSは露店と人ごみ、そしてごった返したモンスターの群れの中に走り出す。{{br}} ―アドレナリンラッシュ!!{{br}} ♂BSが唯一習得した戦闘用のBSスキルを発動させる。{{br}} 人と古木の枝で召喚されたモンスターの群れとの戦闘が激しく展開されている。{{br}} 突然♂BSはモンスター・ガーゴイルのチャージアローで戦闘エリアから弾き飛ばされた。{{br}} 情けないことに♂BSの体力はもう尽きようとしていた。{{br}} そして♂BSを追いかけて本の上級モンスター・ライドワードが襲い掛かかってくる。{{br}} (これまでかっ){{br}} ♂BSはが転んだ体制のまま最悪を予感したそのとき、間に♀BSが割り込むのが見えた。{{br}} その瞬間♂BSの脳裏に忘れかけてた記憶が蘇る。{{br}} 口下手な♂BSが商人時代に学んだスキルは露店関連とメマーナイトだった。{{br}} その事を聞いた♀BSは嬉しそうに笑いながら護身用につけとくものよと1kコインをシャツの裏側に縫い付けたのだ。{{br}} その記憶が思い浮かぶとともにからだが勝手に反応した。{{br}} 強引にシャツの裏側に縫い付けられた1kコインを掴むと♀BSの前にと飛び出した。{{br}} 「メマーナイト!!」{{br}} 叫んだのは♂BSと♀BSほとんど同時だった。{{br}} その破壊力の前にライドワードも手負いなこともあって耐えることができなかったようだ。{{br}} 力尽きて地にバサリと落ちるライドワード。{{br}} そしてBS二人はなんとなく照れ笑いを浮かべる。{{br}} 「こんにちは」{{br}} テロもほぼ鎮圧されたようだった。{{br}} {{br}} {{br}} 次々と湧き上がる思い出にブラッディアックスを握る拳から血がにじみ出る。{{br}} シャツの裏側の1kコインがやけに重く感じる。{{br}} (必ず、必ずかなわなくても一撃、俺のすべてを込めてっ…){{br}} そして♂BSは首都プロンテラの南にはいった。{{br}} {{br}} <♂BS 現在位置/プロ南 ( prt_fild08 ) 所持品:ブラッドアックス、ゴスリン挿しロンコ シャツの裏に縫い付けてある1kコイン 備考/基本的にはマーダー、最終目的はGM秋菜への復讐の一撃>{{br}} ---- ||戻る||目次||進む ||[[195]]||[[Story]]||[[197]] 197.再会のために{{br}} {{br}} ♀ローグが足早に去って行くのを見届け、一息ついて手の怪我を治療していたところ{{br}} 忌々しい黄ばみ文字…もとい、GMからの定時放送が流れた。{{br}} 子バフォと一緒に放送を聞いていた♀アーチャーは、思わずその場に凍り付く。{{br}} あの胸くそ悪い声に読み上げられた名前は、一体どういう意味をもつんだったか?{{br}} 不器用な♀クルセ、聡明そうだった♀WIZ、どちらも自分より遥かに頼もしいはずの{{br}} 二次職が、まさか…まさか、死んでしまったなんて。{{br}} そして何より、一番驚いたことは♀ローグの死亡報告がされたことだった。{{br}} {{br}} 「あいつが死んだ?つまり…この先にとんでもない化け物が居るってこと?」{{br}} 「その可能性が大きいのだろうな。奴はプロンテラに入ったものの、何か{{br}} 不都合があって行き先を変更、西に向かったが強敵が居て殺されてしまった…」{{br}} とんでもない化け物…その形容から想像される人物には心当たりがある。{{br}} あの、常軌を逸したオーラを放つ♂BS。奴もまだ生きているのだ。{{br}} そして、もし予想通りこの先にあの化け物がいるのならば、自分達には万に一つも勝ち目はない。{{br}} {{br}} 「どうしよう、とにかく、ここから離れたほうがいいわよね」{{br}} ♀ローグを殺した相手が、こちらに向かってこないとも限らない。{{br}} 「うむ。♂ローグ殿はまだ存命だ。早々に合流しなくては」{{br}} 「そう、そうね。…あいつは、♂ローグは、まだ生きてるんだよね」{{br}} クルセの死に動揺を隠せないアーチャーを見て、『それに』と子バフォが地面に文字を書く。{{br}} 『♀クルセ殿、♀WIZ殿両名も、死んでしまったとは限らない』{{br}} え、と声を上げる♀アーチャーを手で制して、子バフォは続ける。{{br}} 『彼女らは首輪解除のために動いているはず。{{br}} 元々クルセ殿が触媒を所持していたこともあるし、2人は解除に成功したのかもしれん。{{br}} 自由になったものが生きていては不都合があるので、GMを欺くために死亡したことにしているのかもしれんぞ』{{br}} 子バフォの言葉に、♀アーチャーの顔がみるみる明るくなる。それはもう、ぱあっという擬音まで聞こえてきそうなほどに。{{br}} 隠された怪力の持ち主である彼女は、感極まって子バフォを絞め殺さんばかりの勢いで抱きしめた。{{br}} 「子バフォ、あんたって…!」{{br}} 「苦しい!♀アーチャー殿!」{{br}} 絞殺、いや圧殺されそうになりながらも、少女が希望をもてたようでよかった、と安心する。{{br}} そう思いつつも、しかし子バフォはもう一つの疑念は明かさなかった。{{br}} ……触媒は3つ、今の話での解除者は2人。計算が合わないが、一つは失敗したのだろうか?{{br}} いいや、GMに気取られないよう首輪を外すには、失敗などありえてはならない。{{br}} そして世界がそれほど優しいものではないことを、人より遥かに長く生きた彼は知っている。{{br}} {{br}} 気を取り直した2人は、地図を広げる。そうなれば、ここはやはりプロンテラに向かうべきだろう。{{br}} 当初からの目的でもあるし、禁止区域から考えてもここから北に向かう意味はない。{{br}} 「じゃぁ…プロに入るためには、こっちから回ったほうが懸命かしらね」{{br}} しばらく思案した後、つい、と♀アーチャーの指が地図上をすべる。{{br}} それは、プロンテラに東から迂回して入るルート。{{br}} 北側、つまりここからプロンテラに入って、何故か慌てて出てきた♀ローグ。{{br}} 何があったのかは知らないが、北には何かあるのだろう。{{br}} ♂ローグ達がいたのかとも思ったが、♀ローグが引き返してきたのは入ってからすぐ。{{br}} つまりは獲物ではなく、彼女が引き返すほどの脅威があったと考えるのが自然だ。{{br}} そこで西から迂回したのだろうが、その結果が死だ。あの女が禁止区域で爆死するなんて{{br}} 間抜けな死に方はしないだろうから、西側にはまず間違いなく強敵がいるのだろう。{{br}} そうすると、残るルートは東からの迂回路しかない。{{br}} そこにあるのは迷いの森。自然が作った、天然の迷宮だ。{{br}} それこそは、おそらく♀ローグが迂回路を西にとることにした理由。{{br}} 「迷いの森…我らが棲み処には及ばぬとはいえ、この森も相当に入り組んだ造りときく。{{br}} 無事に抜けられるであろうか?」{{br}} 珍しく弱気な子バフォに、♀アーチャーは不敵に笑ってみせた。{{br}} 「あたしに任せて。伊達に弓使いやってない。{{br}} フェイヨンを出てからは、ここが私の狩場だったんだから」{{br}} {{br}} {{br}} [不惑の目PT] 現在地→プロ北(prt_field01)から迷いの森、プロ東を通りプロを目指す{{br}} {{br}} ♀アチャ{{br}} (所持品:グレイトボウ、矢、小青箱){{br}} (現在地:プロ北(prt_field01){{br}} (備考:実は怪力?!{{br}}    手の怪我は泉の水で治療、あと1時間くらいで治る{{br}}    ♀ローグは死んだと思っている){{br}} {{br}} バフォJr{{br}} (所持品:小青箱1個(♂ローグから渡された)、クレンセントサイダー(Jrサイズ){{br}} (現在位置:プロ北(prt_field01){{br}} (備考:ローグに合流する。{{br}}    その後でセージ達に『要』と『アルデバラン』についての情報を伝える{{br}}    ♀アーチャーには、ヴァルキリーレルムの話はしていない(ややこしいから){{br}}    ♀ローグは死んだと思っている){{br}} ---- ||戻る||目次||進む ||[[196]]||[[Story]]||[[198]] 198.激闘プロンテラ南フィールド 前編{{br}}{{br}} 深淵の騎士子はベコから飛び降りると、一足飛びに踏み込んで♀ローグに斬りかかる。{{br}} その予想以上に鋭い踏み込みに、♀ローグは大きくその場から飛ぶ事にした。{{br}} そして、ツヴァイハンターが振るわれるが、その軌跡を見て♀ローグは自らの判断が正しかった事を知る。{{br}} {{br}} 『早いっ! それにこんな巨大な剣振っておきながら、全く体勢崩れないなんざ大したもんさね』{{br}} しかし深淵の騎士子は逃がさぬとばかりに、大剣を横凪ぎに振るう。{{br}} それを♀ローグは深淵の騎士子の方に踏み込みながら思いっきりかがんでかわしにかかる。{{br}} 『猪口才な!』{{br}} 深淵の騎士子はその卓越した技術と腕力で、無理矢理剣の軌道を低くする。{{br}} 予想していた剣筋よりも低く剣が襲ってきた事で♀ローグは即座にやり方を変える。{{br}} 『こなくそっ!』{{br}} ダマスカスでなんとかそれを受け止めるが、{{br}} ツヴァイハンターの重量に深淵の騎士子の腕力が加わった一撃を受けきるには、荷が重すぎた。{{br}} 受け止めたダマスカスごと後ろに吹っ飛ばされる♀ローグ。{{br}} 『こーりゃまずいね。このお嬢ちゃんとんでもないわ……んじゃこういう手はどうかしらね?』{{br}} すぐに立ち上がると、深淵の騎士子に向かい数歩進む。{{br}} 深淵の騎士子はツヴァイハンターを真後ろに持っていき、{{br}} 剣を♀ローグから見えないようにしつつ、一撃の重さを最大限まで引き出せるよう構える。{{br}} そこで不意に深淵の騎士子の視界から♀ローグが消え失せる。{{br}} 『何っ!?』{{br}} 『残念、相手はこっちよ』{{br}} ♀ローグはバックステップで倒れ伏している♂ケミの方に向かっていたのだった。{{br}} すると、♀ローグの真横から巨大な影が襲いかかる。{{br}} いななきと共に両の前足で♀ローグに襲いかかったのは深淵の騎士子の黒馬であった。{{br}} それをかわしながら、♀ローグは更に♂ケミの側に駆け寄ろうとするが、{{br}} 今度はその真正面からペコペコの嘴が襲いかかる。{{br}} 『っだー! なんなのよこのアニマル軍団!』{{br}} 体を捻ってなんとかそれもかわすが、{{br}} 黒馬も更に攻撃をしかけんとしている事から、一度この場から少し距離を取る♀ローグ。{{br}} そこに、深淵の騎士子が駆け寄ってくる。{{br}} 「卑怯者が……貴様程度の浅知恵なぞ我々に通用するものかっ!」{{br}}{{br}} 二匹は♂ケミの側に立ち、♀ローグを威嚇している。{{br}} そして、♂ケミも自らの治療の為にもぞもぞと動き始めていた。{{br}} {{br}} にらみ合う一同、そこに雄叫びと共に突撃してくる影があった。{{br}} その人物を見た♀ローグは顔を引きつらせる。{{br}} 『ブラックスミス!? なんてタイミングで出てくるのよこいつは!』{{br}} その突撃の先に居たのは、誰あろう♀ローグ。{{br}} 形勢不利と見た♀ローグだったが、ちょうど♀ローグを挟むようにして、深淵の騎士子と♂BSが位置している為、とても逃げずらい。{{br}} それでも背後にどっちかを抱えるのは、{{br}} 精神衛生上とてもよろしくないので、開き直って逆に♂BSの方に向かって駆け出す♀ローグ。{{br}} 『一発勝負っ!』{{br}} ♂BSは左腕しか無い。{{br}} ならば得物が斧ならば向かって右上からの斬り降ろしが一番最適かつ、効果的な攻撃になる。{{br}} ♂BSの攻撃をそれと決めつけて、その瞬間を計る。{{br}} 幸い♀ローグの読みは当たったようで、♂BSの斧が♀ローグの右肩口に向かって振り下ろされる。{{br}} その瞬間、♀ローグは移動の歩幅を更に大きく取り、一気に♂BSの左側を駆け抜ける。{{br}} 本来ならば、♂BSの膂力があれば通り抜ける♀ローグを{{br}} 右腕であっさりと捕まえる事も出来たであろうが、片腕の♂BSには無理な芸当であった。{{br}} そのまま転がって♂BSの背後に回り込むが、{{br}} ♂BSは♀ローグには構わずに、今度は更に奥に居る深淵の騎士子に斬りかかる。{{br}} 「ぬうっ! 見境無しとは……やはり貴様がドッペルゲンガー達を!」{{br}} 真横から振るわれるブラッドアックスに、ツヴァイハンターを叩きつける深淵の騎士子。{{br}} 派手な激突音が響き、双方の武器が弾かれる。{{br}} ♂BSは弾かれた位置から再度反動を付けて、{{br}} 深淵の騎士子の頭頂目がけてブラッドアックスを振り下ろす。{{br}} 深淵の騎士子も全力で下からツヴァイハンターを振り上げる。{{br}} 長い刀身を器用に扱い、剣の柄に近い所でブラッドアックスをはじき返す。{{br}} そして、ツヴァイハンターの刀身を器用に空中で半回転させ、{{br}} 勢いを付けるとそのまま♂BSに真横から斬りかかる。{{br}} 対する♂BSも同じようにブラッドアックスを振るって勢いをつけながら、ツヴァイハンターにそれを叩きつける。{{br}} 火花を散らす二本の武器。{{br}} その様を見ていた♀ローグは、冷汗が止まらなかった。{{br}} 『うっわ。あの♂BS相手に全然力負けしてないじゃないあの子……でもね』{{br}} ♀ローグも指をくわえて見ている気は無い。{{br}} 『どっちも邪魔なのよ!』{{br}} 深淵の騎士子の側面に回り込んだ♀ローグは、♂BSが斬り込むのと同時に深淵の騎士子に斬りかかる。{{br}} 頭頂を狙い大上段に振り下ろされるブラッドアックス。 そして真横から脇腹を狙い突き込んでくる♀ローグ。{{br}} ツヴァイハンターを振り上げている余裕は無い。{{br}} 深淵の騎士子は、ツヴァイハンターから片手を離しながら{{br}} ♂BSに向かって一歩踏み込み、振り上げられたブラッドアックスの柄を真横かた手でひっぱたく。{{br}} それで軌道を変えきれた訳ではないが、なんとか肩の先を削られるだけで済んだ。{{br}} そして、軌道変わったブラッドアックスは、真横から襲いかかる♀ローグへと振り下ろされる。{{br}} ♀ローグは慌てて突こうとした手を引っ込め、{{br}} ♂BSは予想外の場所にブラッドアックスが振り下ろされた事により、♀ローグ側へと体勢を崩す。{{br}} 深淵の騎士子は、片手に持っていたツヴァイハンターを真後ろに思いっきり引く。{{br}} 両足で大地を強く踏みしめ、剣を握った左腕に筋肉が漲る。{{br}} 腰は既に限界まで捻りきってある。{{br}} 「ブランディッシュスピアッ!」{{br}} ミドガッツ広しといえど、この技を剣にて行える者は数える程であろう。{{br}} それ故に、♀ローグは完全に深淵の騎士子の動きを見誤った。{{br}} そしてそれは♂BSも同様であった。{{br}} まともに喰らい、吹っ飛ぶ二人。{{br}} 余りの衝撃に、♀ローグは少しの間ショック状態に陥る。{{br}} しかし、深淵の騎士子は慎重で執拗であった。{{br}} 「とどめだっ!」{{br}} 吹き飛び倒れる二人に向かって駆け寄ると、再度ブランディッシュスピアを放つ。{{br}} 朦朧とした視界の中、しかし♀ローグは深淵の騎士子のその癖を一発で見抜いていた。{{br}} 『ここっ!』{{br}} ブランディッシュスピアを放つ瞬間、ほんの僅かだが深淵の騎士子の動きが止まる。{{br}} {{br}}その瞬間に♀ローグはバックステップで転がるようにその場から逃げ出す。{{br}} 辛くも逃れた♀ローグ。だが♂BSはまたもまともに喰らい、その場から吹っ飛ぶ。{{br}} そして、♂BSは今度は倒れたりはしなかった。{{br}} 「なんだとっ!?」{{br}} 驚きの声を上げる深淵の騎士子。{{br}} ♂BSはそんな深淵の騎士子に、ブラッドアックスを振るう。{{br}} その一撃を受け損なった深淵の騎士子は、斬撃こそ剣で受けたものの、その勢いを止める事は出来ずに地面に叩きつけられる。{{br}} 激しく胸部を打ち付けた事で、一瞬呼吸が止まる。{{br}} そこに振り下ろされるブラッドアックス。{{br}} ごろごろと横に転がってそれをかわすが、♂BSはそんな深淵の騎士子を全力で蹴飛ばす。{{br}} 今度は背中を強打され、小さく悲鳴を上げて倒れる深淵の騎士子。{{br}} ♀ローグはその様子を見て確信した。{{br}} 『勝負あったね。切り札が効かないんじゃどうしようもないさね……さて、私は残った連中片づけてさっさと退散するとしますか』{{br}} ゴーストリングC持ちをなんとかする手段は未だ手元に無い。{{br}} この場で♂BSを仕留めるのは不可能と考え、♀ローグはこいつを利用しつつ他の連中を殺す事にした。{{br}} 「彼方に響く、剣激の音〜♪ っとくらぁ」{{br}} とんでもなく嫌そうな顔をした♂ローグが言った。 相変わらず不真面目な♂ローグの態度に顔をしかめながらも、バドスケはマンドリンを用意する。{{br}} 「行くか?」{{br}} 「行くっきゃねえから、腹が立つんじゃねえか。くそっ……どうしてこう厄介事ばっかかねぇ」{{br}} 「アラームはここに居るんだぞ」{{br}} バドスケは優しくそう言うと駆けだした。{{br}} 後に♂ローグも続く。{{br}} 残ったアラームもつられて後に続く。{{br}} 瞬時につっこむ♂ローグ。{{br}} 「って、だからお前は残ってろって!」{{br}} 「あれ? 違うの?」{{br}} その間にそれなりに走ってしまっているバドスケが叫ぶ。{{br}} 「おい何やってんだ! ……って嘘だろ? ありゃローグ姐さんじゃねえか!」{{br}} その言葉に♂ローグも走り寄って戦場を確認する。{{br}} 「げっ! なんつーしぶとい……死亡放送までされといてよくもまあ……しかも♂BSまで居やがるよ」{{br}} バドスケは既に走り出している。{{br}} ♂ローグも後を追いながら言う。{{br}} 「おいっ! とりあえずの敵は♂BSと♀ローグの二人でいいな!?」{{br}} 「おう! だが深淵の騎士子にゃ注意しろよ! あれまで敵だったら俺達の手にゃ負えなくなるぞ!」{{br}} 「そん時ぁインティミでてめぇ連れて飛んで逃げるさ!」{{br}} 駆け出す二人、そしてアラームはその更に奥に居る動物達、そして傷ついて倒れる♂ケミが目に入った。{{br}} 「た、大変! あの人凄い怪我してる!」{{br}} アラームはすぐにその場所目指して駆けだしたのだった。{{br}} {{br}} ♀ローグがアニマルコンビに近づく。{{br}} 二匹は嘶いて威嚇するが、深淵の騎士子は身動きが取れない。恐れる事なぞ何も無いのだ。{{br}} 「さて、さっさと片づけますかね」{{br}} 油断はしない。確実に、そして迅速に処理すると決めて二匹に襲いかかろうとする♀ローグ。{{br}} 「そいつは俺とのケリがついてからにしてくれよ」{{br}} 振り向く♀ローグ。その視線の先では、♂ローグが首を鳴らしながら♀ローグに向かって歩み寄ってきていた。{{br}} 「あんた……こいつら助ける気かい?」{{br}} 「知らねえな。アンタにゃ借りが山ほどあるんでそいつを返したいだけさ」 「ふん。私が生きてる事、驚かないんだね」{{br}} 「悪党はしぶといって相場が決まってんだ。……心当たりが無いでもないしな」{{br}} {{br}}そう言って♀ローグの首輪を確認する♂ローグ。案の定♀ローグの首輪は外れていた。{{br}} 「頭の良い男は嫌いじゃないよ……どうだい? 私と組む気無いかい?」{{br}} 「いいねぇ。悪党同士、手に手を取って愛の逃避行とでも行くか?」{{br}} スティレットを構える♂ローグ。{{br}} 「この期に及んで冗談たー気が効いてるね大将。本気で気に入ったよ、今晩にでもヤらせてやろうか?」{{br}} ダマスカスを構える♀ローグ。{{br}} 「生憎、死体とヤル趣味はねえんだよ!」{{br}} スチレで♀ローグの首を狙って突く♂ローグ。{{br}} ♀ローグはダマスカスでうまくそれを絡み取って狙いを逸らす。{{br}} スチレをはじき飛ばすつもりでそれを仕掛けたのだが、♂ローグはすぐさま斬り返して♀ローグの顔面を切り裂かんとする。{{br}} それを仰け反ってかわすと、♀ローグは♂ローグの胴にダマスカスを突き立てようとする。{{br}} ダマスカスの届くぎりぎりの距離を見切って♂ローグはそれを、簡単に身をよじるだけでかわす。{{br}} しかし、♀ローグの攻撃は尽きない。{{br}} 胴、頭部、四肢を問わず、隙あらば何処にでも斬りつける♀ローグ。{{br}} ♂ローグはそれを体捌きだけで全てかわしてみせる。{{br}} 『ちっ、なんてすばしっこいんだい。それにさっきの突き。稲妻みたいな速さじゃないか!』{{br}} ♂ローグは神経を研ぎ澄まして♀ローグの隙を見つけんと目をこらしているが、攻撃をかわすのに手一杯でそれ以上の事を考える余裕が持てなかった。{{br}} 『なんなんだこいつの突きは!? くそっ! 動きがまるで読めやしねえ!』{{br}} {{br}} 咳き込む深淵の騎士子。{{br}} それでも♂BSから目を離すような真似はしない。{{br}} 『コヤツ……一体何をした? 何故私の攻撃が効かぬか!』{{br}} 以前と同じ無表情の♂BS。それが僅かに曇った。{{br}} 深淵の騎士子の横から、バドスケが近づいてきたからだ。{{br}} 「よう深淵の。モンスター繋がりだ、良けりゃ手伝うがどうだい?」{{br}} 深淵の騎士子の意志はまだわからない。バドスケなりにそれを探る意味でも問いかけであった。{{br}} 「……貴様は?」{{br}} 「アーチャースケルトンバドスケ。俺は殺し合いにゃ乗ってねえよ」{{br}} 相手が二人に増えた事で、♂BSは警戒して踏み込む事が出来ない。{{br}} 深淵の騎士子はじろっとバドスケを見る。{{br}} 「こやつには私の攻撃が効かぬ。貴様には何か手があるというのか?」{{br}} 「なるほど……♂ローグの言ってた通りか。なら、俺にもあんたにもなんとかする手はあるわな」{{br}} 「何?」{{br}} 「こいつはゴスリンC使ってやがる。早い話、属性攻撃しかけりゃ当たるって事だ」{{br}} 深淵の騎士子は厳しい顔で言う。{{br}} 「それが真実なら、私は貴様を信用してやっても良い」{{br}} 「そいつは何より」{{br}} 深淵の騎士子が正面から♂BSに斬りかかる。{{br}} ツヴァイハンターの重い一撃を、♂BSはブラッドアックスを勢い付けて叩きつける事で受け止める。{{br}} 横目でバドスケが♂BSの横に回り込もうとしているのを見るなり、♂BSはブラッドアックスを真横に大きく振って二人同時に牽制する。{{br}} それを深淵の騎士子は大きく仰け反ってかわしながら、片手を♂BSに向け、闇属性攻撃を放つ。{{br}} 黒い障気の塊が♂BSを襲う。{{br}} それが♂BSを包むと、♂BSは苦悶の声を上げる。{{br}} すぐさまバドスケも障気を放つ。{{br}} 深淵の騎士子とは違うが不死属性攻撃をバドスケも放つ事が出来るのだ。{{br}} 二種類の障気に包まれ、苦痛を覚えた♂BSだったが、それは耐えられない程の物でもなかった。{{br}} 雄叫びをあげながら、バドスケに斬りかかる♂BS。{{br}} それを深淵の騎士子の剣が受け止める。{{br}} 「良かろう、貴様を信じよう」{{br}} バドスケは想像以上のブラッドアックスの勢いに冷汗を掻きながらも、なんとか笑い返す事が出来た。{{br}} {{br}} 背後に♂BSの悲鳴を聞いた♀ローグは、形勢が変わった事に気付いた。{{br}} 『隙ありっ!』{{br}} 待ちに待っていた♀ローグの隙、それを♂ローグは見逃さなかった。{{br}} 吸い込まれるように♀ローグの喉を切り裂く♂ローグのスチレ。{{br}} ♀ローグは驚きに大きく目を見開くが、片方の腕で自分の頭の上を押さえ、同時に♂ローグにケリを見舞う。{{br}} 虚を突かれた♂ローグはまともに頭にハイキックを食らい、もんどり打って倒れる。{{br}} 「っちゃ〜。なんて事してくれるんだい、頭取れちまう所だったじゃないか」{{br}} 頭を振りながら起きあがる♂ローグ。{{br}} 「お前何した?」{{br}} ♀ローグはくるくると丸めて髪で隠していた反魂のお札を軽く叩いてみせる。{{br}} 「……マジかよ。つーかお前とっくに死んでんじゃねーか! んな奴が平然と夜の相手申し出るんじゃねー!」{{br}} ♀ローグは腰をくねらせる。{{br}} 「ん〜。い・け・ず♪ まあ趣味が合わないんじゃしょうがないわね〜」{{br}} そう言うといきなり後ろを向いてその場から逃げ出す♀ローグ。{{br}} この動きは読めなかったのか、一瞬反応が止まる♂ローグだったが、慌ててその後を追う。{{br}} {{br}} アラームが♂ケミに駆け寄ると、黒馬とペコペコがその前に立ち塞がるが、すぐに道を開ける。{{br}} 「大丈夫ですか! わっ、血がたくさん出てるよぅ〜」{{br}} そう言ってわたわたと慌てるアラーム。{{br}} 自ら怪我に治療を施していた♂ケミは苦痛に顔をしかめながら、アラームの方を向く。{{br}} 「君……は?」{{br}} 「あ、アラームですっ! 治療手伝いますっ!」{{br}} アラームの言葉から悪意は感じられない。{{br}} なればこそ黒馬もペコもアラームを通したのであろう。{{br}} 「ごめん、助かるよ。そっちの包帯を……背中に回してくれないかな? 一人じゃやりにくくって」{{br}} だから、♂ケミもアラームを信用する事にしたのだった。{{br}} <♂ローグ 現在地/プロ南 ( prt_fild08 )所持品:ツルギ、 スティレット、山程の食料>{{br}} <アラーム 現在地/プロ南 ( prt_fild08 )所持品:大小青箱、山程の食料>{{br}} <バドスケ 現在地/プロ南 ( prt_fild08 )所持品:マンドリン、アラーム仮面 アリスの大小青箱 山程の食料 備考:特別枠、アラームのため皆殺し→焦燥→落ち着き>{{br}} <♂BS 現在位置/プロ南 ( prt_fild08 ) 所持品:ブラッドアックス、ゴスリン挿しロンコ 備考/目的はGM秋菜への復讐の一撃>{{br}} <♂アルケミ 現在位置/プロ南 (prt_fild08)所持品/ハーブ類青×50、白×40、緑×90、赤×100、黄×100、石をつめこんだ即席フレイル、無形剣>{{br}} <深遠の騎士子 現在位置/プロ南 (prt_fild08)所持品/折れた大剣(大鉈として使用可能)、ツヴァイハンター、遺された最高のペコペコ 備考:アリスの復讐>{{br}} <♀ローグ 現在位置/プロ南 (prt_fild08)所持品:ダマスカス、ロープ 備考:首輪無し・アンデッド>{{br}} ---- ||戻る||目次||進む ||[[197]]||[[Story]]||[[199]] 199.死ぬ訳にはいかない{{br}} {{br}} 幾度目かの属性攻撃が、♂BSを弾き、地面へと投げ出していた。{{br}} 跳ね起き、深淵とバドスケから距離をとった♂BSは、荒い息を吐きながら考えを廻らせる。{{br}} 相手は二人。一人は強化を受けた自分にも比する手練れ。もう一人は未知数。{{br}} しかも、どういう訳か…物理攻撃を軽減するコートを突き抜けて届く一撃まで持っているらしい。{{br}} 幾ら、力を得たといっても彼の本領は製造だ。{{br}} 根本的な部分で、戦闘は余り得意でない。(少なくとも先程、突撃した際にアドレナリンラッシュを発動し忘れる程度には){{br}} 強化によって五感と反射は飛躍的に増加したけれども、それに関する知識の不足から元々戦術の引き出しは少ないのだ。{{br}} 黒い騎士の娘の相手は楽な状況、とは言えなかった。{{br}} {{br}} だが、やるしかない。{{br}} ♂BSは唇を真一文字に引き結ぶ。{{br}} 俄かに血液が沸騰するのを感じていた。{{br}} アドレナリン・ラッシュ&マキシマイズ・パワー。{{br}} 戦鬼の様に体が徐々に赤く染まっていく。{{br}} {{br}} おれは、まだ死ぬ訳にはいかない。{{br}} おれは、まだ死ぬ訳にはいかないんだ。{{br}} {{br}} 自分に言い聞かせる様に繰り返す。{{br}} 目標には未だ遠い。この二人は殺されなければならない。{{br}} そのエゴを押し通さなければならない。{{br}} それを途中で曲げるわけにはいかない。{{br}} チャンスを与えられながら、望みが全て叶わなくなる。{{br}} {{br}} しかし力押しで殺せるか?この二人を。{{br}} 一瞬考えて、答えはYes。確かに属性攻撃は痛いが、他は軽減できる。{{br}} それに幸いながら、自分に効果のある攻撃の威力はさっきのBds程でも無かった。{{br}} ツベコベ考えず、豪腕で押し切る。それが一番の正解の様に彼には思えた。{{br}} {{br}} 「るぅおぉぉぉぉぉっ!!」{{br}} 考えを定めた彼は、咆哮し、地を蹴った。{{br}} 深淵とバドスケには、牙を剥き吼えながら突っ込んでくる彼が怒り狂ったオークロードの様に見えたに、違いない。{{br}} {{br}} バドスケが何事か叫んだ気がしたが、BSにはもう聞こえなかった。{{br}} 片腕でブラッドアックスを振り上げ、柄の最下端を握って水平に薙ぎ払う。{{br}} がぎん、と硬い金属が打ち合う音。{{br}} 見れば、ツヴァイハンダーの横腹を深淵は盾にしていて。{{br}} 成程。馬鹿みたいに幅広の刀身は横にすればそのまま大盾の役割も果たすことが出来るらしい。{{br}} それを認めた瞬間、ごぼう抜きに重力の沼に嵌った斧を引っこ抜いて、力任せに振るう。{{br}} しかし、同じく振られていたツヴァイハンダーとぶつかって、弾かれた。{{br}} {{br}} ガギッ、ガギン。ガチン、バチン、ギャリッ。{{br}} 荒れ狂う荒れ狂う荒れ狂う。斧と大剣の剣風が空間を支配。{{br}} 知覚が、感覚が加速している。騎士の流れる様な剣舞は、しかしはっきりと彼には視える。{{br}} 赤い──鬼が。血みどろの復讐鬼が。最悪の殺戮者が。赤い斧を手に。{{br}} それを荒れ狂う暴風の如くに振り回す。{{br}} 剣風が、回転を更に増していく──{{br}} {{br}} このまま押し切れば。{{br}} 殺せる。手ごわいだろう相手だったが殺すことが出来る。{{br}} ♂BSは、確信を抱く。{{br}} {{br}} 女の、滝の様に流れている汗の臭いがする{{br}} 酸欠によって紅潮している肌が見える。{{br}} ぎしぎしと軋む筋肉の音が聞こえる。{{br}} 目の前の相手の限界は、もう近い。{{br}} {{br}} 沸騰するような意識とは裏腹に、妙に冷めた調子でそんな事を♂BSは考える。{{br}} {{br}} 「深淵!!」{{br}} それは、突然横合いから響いた爆音の様な弦の音と叫び声、それが引き連れてきた鈍い衝撃にかき消された。{{br}} 爆音を間近に聞き、音が彼の世界から消える。{{br}} 一瞬、BSの体が重量級モンクの体重が乗った一撃を貰ったように宙を舞っていた。{{br}} 声の方にいた筈の者は──バドスケ。{{br}} 成程、これはそいつの技能か。{{br}} BSは衝撃の正体を理解する。{{br}} だが、その隙を相対した深淵が見逃すはずも無く。{{br}} 弾かれた反動を利用して、大上段に構えたツヴァイハンダーの刃が、黒いもやを纏って揺らめいていた。{{br}} {{br}} 「せりゃぁぁぁぁっ!!」{{br}} 騎士の裂帛の気合。瞬間的に思考が弾ける。{{br}} 勢いも構えも何も無い。その一撃を回避する為だけに、ブラッドアクスを遮二無二に振る。{{br}} 一際大きな音。金属と金属がぶつかり合う。火花が咲く。衝撃が手首を這い登ってくる。{{br}} 正確にどうやったのかは、当人にも判らない。{{br}} 加速された感覚の中、スローモーションが掛かったような具合で迫ってくる剣目掛けて斧を打ち付けた、と表現するほか無い。{{br}} 只、結果だけを述べるなら♂BSは、本当なら彼の頭蓋を真っ二つに砕くはずのそれの回避に成功していた。{{br}} 手にした斧には刃の上部に大きな罅が入り、おまけに片方の耳を大きく裂かれていたけれど。{{br}} {{br}} アドレナリン過多で耳の痛みは感じなかった。素早く身をかがめながら獣の様に飛び退くと、再び騎士と対峙する。{{br}} 彼女は、荒い息を吐きながら、彼を見据え、こう言った。{{br}} {{br}} 「…まだ、こんな所で死ぬわけにはいかないのだ!!」{{br}} 奇遇だな。おれもだよ。{{br}} 彼は呟く。恐らくは誰にも聞こえていないのだろうけれど。{{br}} 正面には騎士。横合いには詩人。結局のところ、三人の関係は振り出しにもどった訳であった。{{br}} {{br}} しかし、状況は確実に進んでいる。{{br}} 幾分手傷を負いながらも♂BSは詩人のスキルと属性攻撃を掻い潜りながら、深淵を殺すのは難しい事を悟っていたし、{{br}} 深淵は先程の剣舞に疲弊し、そして、バドスケは復讐者の化物じみた動きと膂力に歯噛みしていた。{{br}} {{br}} そうだ。{{br}} 三竦みの様な状態に考えあぐねたBSは、再びあの言葉を繰り返す事にした。{{br}} まだ、おれは死ぬ訳にはいかない、と。{{br}} きっと、目の前のこいつ等も一緒なんだろう。{{br}} それは様子を見ただけで判る。{{br}} それでも、今は死ねない。{{br}} おれには目の前のこいつ等よりも、目的の方が大事だ。{{br}} {{br}} けれど、それが本当に最善の選択なのだろうか?{{br}} その疑問は、まだ猟犬の様にしつこく彼に追い縋る。{{br}} 彼は、邪魔だからその犬を寂しそうな顔をしながら鞭で叩いた。{{br}} 大きな体躯を持ち、本当なら彼の行為にしぶとく吠え掛かる筈のそいつは、しかし{{br}} 一度きゅうん、と彼を見て悲しそうに鳴くと、意外なほど素直に臥せてしまった。{{br}} {{br}} 「──おれも、まだこんな所で死ぬ訳にはいかない」{{br}} 騎士に睨まれ、詩人に狙われながらも彼は不意にそう言った。{{br}} これまでの不気味な無表情でも、先程までの凶暴な横顔でもなく、ただ静かな顔で。はっきりと。{{br}} その『静』は穏やかさではない。決意の裏に潜んだ、良心への諦観だった。{{br}} {{br}} 「何を今更!!」{{br}} 騎士が叫ぶ。当然の反応だ、と彼は思った。{{br}} {{br}} 「そうだな。そうだよな」{{br}} 言われて思い出すのは、赤い風景。{{br}} 惚けた様な顔をした、恋人の生首。{{br}} 悲鳴を上げて逃げ惑うひと。{{br}} それを無表情に狩りたてている、隻腕の自分。{{br}} {{br}} そんな自分が、本当ならこれ以上生きてちゃいけないという事ぐらい、彼自身にもよく判っていた。{{br}} {{br}} 「でも、おれは死ねないんだ。{{br}} 結局、狂っていてもいなくても…あれ、何て言うんだろうな、こういうの」{{br}} {{br}} 詩人さん、と不意にBSはバドスケに声を掛けた。{{br}} {{br}} 「きっと冴えた言葉、知ってるんだろう?できたら教えてくれないか」{{br}} 「…知らねぇよ、そんなの。自分の言葉ぐらい自分で探せ」{{br}} 顔を向けずに放った言葉には、何故だか戸惑うような返事が。{{br}} BSは自分の顔を覗かせていたかもしれない感情を、心のもっと深い淵へと追いやって、そこにある引き出しに仕舞う。{{br}} それ以上の必要は無かったから、彼は言葉についても考えるのをやめた。{{br}} 少し、残念な気がした。気がしただけで、それ以上は考えない事にする。{{br}} {{br}} 「どうしてだ…何故お前がそんなにも悲しそうな顔をしている?」{{br}} ふと、意識から外れていた深淵の困惑混じりの声が聞こえた。{{br}} どうやら、知らない間にそんな顔をしていたらしい。{{br}} さっき引き出しに仕舞ってしまったと思ったのだが。{{br}} 成すべき事は一つだから答えなくても良かったが、気紛れに彼は貧弱な語彙から言葉を探してみた。{{br}} {{br}} 「歌を詠わなきゃ、ならないんだ」{{br}} 「何を…訳の判らぬことを」{{br}} 「それから…全てを、終わらさないといけないから」{{br}} 「終わらせる…?」{{br}} 「そう、理由はそれだけだ」{{br}} {{br}} 二度目の問いには、そうとだけ答えた。{{br}} そして、その歌は今まで死んだ人たちとこれから死ぬ人達の為で。{{br}} そんな事を考えるからには、彼は実際のところ酷く人殺しが嫌いなのかもしれず。{{br}} けれど♂BSには、その一番嫌いな物しか手段として残されていない。{{br}} {{br}} ──死ぬ訳にはいかない。{{br}} 他の奴には、きっとあの女は殺せないから。{{br}} けれど、あの女だけは殺さなければならない。{{br}} 復讐する為だけじゃない。{{br}} もう、このゲームを本当の意味で終わりにしてしまう為に。{{br}} {{br}} なら、その為にはどうすればいい。{{br}} 手に、血塗れの斧を握り。足で、血と屍を踏みしだく。{{br}} つまり、血まみれのロングコートを、やはり生臭いままにさせておけば、それでいい。{{br}} それこそ、全てが終わるまで。{{br}} 終わり…終わったら、おれは。{{br}} いや、それは判らないし、知ったことじゃなかった。{{br}} その時こそは、安心して自分の首でも刎ねれるだろうか、などと考えかけて、かき消す。{{br}} そもそも、失敗する可能性もかなりあるだろう。{{br}} だからこそ一番堅実で確実な方法を採ろう。{{br}} それが、思いつく限りの最善だった。{{br}} そして、目的を果たすには、最善を尽くすのが一番だ。{{br}} {{br}} この思考も実のところは単なるエゴかもしれない。{{br}} (誰が、彼が心の奥底でさえ自己保存を考えていないなどと洞察できようか){{br}} だが、それでも──{{br}} {{br}} ──おれは、まだ死ぬ訳にはいかない。{{br}} {{br}} ♂BSはブラッドアックスを、硬く硬く握り締めた。{{br}} {{br}} {{br}} <♂BS 場所及び状態:変わらず装備:血斧に罅目的:肉入りマーダー&秋菜への復讐とゲームを終わらせる為に、皆殺し>{{br}} <バドスケ&深淵主な変化無し。但し、戦闘による消耗は適宜考慮願いたく>{{br}} ---- ||戻る||目次||進む ||[[198]]||[[Story]]||[[200]]