消しゴムの恐怖 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」 俺が生きなくちゃ、俺が生き残って世界を元通りにしなくちゃ、消えていったヤツだって浮かばれない。 「巧ぃぃ!!急げぇぇ!!」 「巧君!早く!!」 「だぁぁー!」 「おぉぉぉ・・・」 今からでも良い。夢だと言ってくれ・・・ 序章 異変の始まり 「巧、知ってるか?例のUFO事件。」 「UFO事件?何だそれ?」  俺は紫鮫巧。どこにでもあるような普通の高校のちょっとばかし勉強とスポーツができる普通の高校生だ。 「だからよ、村1つが消えたって言う事件だよ。何でも、UFOが飛んできて村人を一人残らず連れ去っていったって言う話だ。」 「馬鹿馬鹿しい。22世紀の世の中にそんなでたらめな話があってたまるか。」こいつは有木耕一。ちょっと馬鹿だが、気の合う親友だ。 「でも、ホントにUFOだったら、ロマンチックじゃない?」 「いやいやいやいや。」 彼女は宮崎恋奈。学生時代誰もが描く、好きな女子の、俺の対象となる娘だ。「何よ?別に良いじゃない夢を見たって。」 「だけどそれだったら、人を連れ去る宇宙人だぞ。むしろ勘弁だ。」 「しかし、大変ですよ。もし本当に宇宙人がUFOで連れ去っていったのなら、今のNASAじゃ対処しきれませんからね。」 「お前まで信じるとは・・・馬鹿げてるとは思わないのかぁ?」 「僕は宇宙人がいる派ですよ。だから、なかなかに興味深いんですよ。この事件は。」 こいつは杉田良介。いつもテストでは学年トップで、五カ国語、機械工学、電子工学なんでもござれの天才だ。勉強ではどうしてもこいつには勝てない。何でこんなやつがうちの高校に来たのかいまでも不思議でならん。 「しかし、今回の事件が宇宙人によるものだとは思いませんがね。」 「いや、今回の事件を起したのは宇宙人だ。エイリアンだ。イレギュラーだ!」「一度精神科行ったらどうだ?良いとこ紹介してやるぞ。」 たまにクラスにこういうの居るよな。こいつは、葭根史朗。自称宇宙人博士だ。宇宙人に関してはうるさいくせに、ネッシーや、ビッグフットに関してはてんでだ。何が違うのやら。 「今回の事件は宇宙人によるものとしか考えられない!そんな一晩で村ひとつが無くなるはずがないだろう?非科学的だ!だから宇宙人の仕業なんだ!」 「お前はノンフィクションを語りたいのか、フィクションを信じたいのかはっきりしろ。会長、何とか言ってやって下さいよ。」 「目撃者がいるんだろ?じゃ、UFOの仕業なんじゃないのか?何でも良いが、もうすぐ授業が始まるぞ。さっさと席に着け。」 「ああ。」 「はーい。」 がらがら 「それでは授業を始める。」 「起立!気を付け!礼!」 「お願いします!!」 「そんじゃ今日は、自分達の地域について、だ。  えーっ、この地域は聖神殿と言われていて、昔から、攻め入るものや、侵入者から村人を守るという伝説がある。宇仙様という神がいて、成人前の子どもをどんな手を使ってでも守り抜き、自分の命と引き替えにした英雄、宇仙大使から付けられている。何人かは社を見に行った人もいるかと思う。  だから、この地域では、宇仙様がいたから、成人前の子どもが死な無かったと言われているんだ。」 「先生!それじゃ、宇宙人が襲ってきても守ってくれるんですか?」 「何馬鹿なことを言ってるんだ有木。ただの言い伝えだし、その前に宇宙人なんかいないだろうが。あのUFO事件で恐くなったか?大の高校生が。」 「そ、そんなこと言わなくたって良いじゃないですか。こっちは真面目に授業を聞いてるんだからさぁ。」 「馬鹿言え。授業を真面目に聞くのは当たり前だ。」 「えっ、そうでしたっけ。」 「なーに考えてんだ。まだ言ってんのか?UFO事件。あんなの現地の人間か、誰かの作り話に決まってるじゃねぇか。」 「い、いや、そうだけど。気になるじゃねぇかよ。宇宙人からも守ってくれるか、どうか。」 「お前は・・・子どもか。大の高校生が何言ってんだ。」 「紫鮫の言う通りだ。ほら、授業を続けるぞ。で、この宇仙様がいたという確証は・・・」 「では、挨拶を頼む。」 「起立。気を付け、礼。」 「馬鹿かお前は?何本気になってんだ。」 「みなまで言わなくたって良いじゃねぇかよ。それにしてもさ、宇仙様って、ちょっと危なくないか?」 「どうしてだ?」 「いや、だってよ、大人達がみんな戦争で死んだからって、各家に、まだ5年生くらいの男女を2人きりで住まわせたんだからよ。だって、そんときのその年齢だったら俺らと同じくらいだろ。だから絶対危ないって!」 「耕一それはな・・・」 「おいみんな!!空に変なもんが見えるぞ!もしかしてUFOじゃねぇか!?」 「それは興味深いですね。どれですか?」 「えーと・・・あれ・・・」 「どうしたんですか?」 「見えなくなっちまった。」 UFO事件のことばっかり考えてるからそんな幻覚見るんだ。少しは現実を見て欲しいもんだ。 「さーて、UFOが見えなくなったんなら帰るか、耕一。」 「ああ、帰ろうぜ!そこで相談なんだが・・・10円貸してくれないか?」 「どうしてだ?10円じゃうOい棒も厳しいぞ。」 「いや、公衆電話で子ども相談室に・・・」 「ふざけるな!いい加減にしろ。帰るぞほら。」 「わ、わかったよ。帰りますよ。」 「なぁ。気になってんだが、さっきから大人を見なくないか?」 「そうか?」 大人を見てないような気がせんでもないが・・・まぁ、気のせいだろう。 「んじゃ、じゃあな。」 「ああ、また明日。」 「ふー、帰ってきた。よっこいせと。」 何で世間ではこんなにUFO事件と言って騒いでるんだ?テレビをつけても、新聞を見ても、インターネットですらUFO事件で持ちきりだ。ホントに、何が面白いのやら、俺にはわからん。 「かあさーん!!飯まだか?」 ・・・・・・・・・ あれ?かあさんいないのか?おかしいな、買い物か?にしても、時間が時間だし、いつもだったら、もう飯だってできてるはずなのに・・・  ま、直帰ってくるだろう。それまで、宿題でもするか。 もう10時か。遅いなかあさん。とりあえず、適当に飯をすますか。 ボーン、ボーン、ボーン。 12時。絶対におかしい。かあさんが理由も告げずに帰ってこなかったことなんてないのに・・・とりあえず、電話してみよう。 トゥルル、トゥルル、トゥルルルル。お掛けになった電話番号は現在使用されておりません。 ?!どういうことだ?・・・かけ間違えたか?よし、もう一度。 トゥルル、トゥルル、トゥルルルル。お掛けになった電話番号は現在使用されておりません。 まさか、事件にでも巻き込まれたんじゃ!?仕方ない、あまり気は進まんが、大事になるよりはましだ。交番に電話しよう。 トゥー、トゥー、トゥー。 その音はやけに低い音で部屋中に鳴り渡った。・・・電話が通じない。  信じたくはなかった。だから何度もかけ直した。だが、結果は同じだった。  これが俺の気付いた最初の異変だったのかもしれない。いや、むしろ、俺の見えないところで進んでいた最後の異変だったのかもしれない。本当に俺が恐怖を抱き始めたのはこれが、一番最初だったことに偽りはない。だが、このときはまだ、今起こったことに気付いていなかった・・・ 「どういうことだよ!?交番に電話が繋がらない。110番が通じない!電話線切れてんじゃないのか?!」 この時俺は、背後から何かで殴られ、意識を失った。意識を失う直前、何かが俺の真横に投げられた。それがわかるか、わからないところで画面が真っ暗になった。この時のことはあまり濃く覚えていない・・・だが、ふと、こんな声が聞こえた気がする。 「巧。いや、お前らは絶対に生き延びろよ。何があってもだ!」 「う・うーん・・だぁ。朝か・・・」 気が付けば、自分のベットで寝ていることに気づいた。 「昨日のは少々たちの悪い夢か・・・」 そう思いながらちょっと呟いてみる。昨日のことは全部夢だったんだと、自分に言い聞かせたかったからかもしれない。 第一話 大人達のいない世界 にしても何だ?この柔らかい感覚は?ベットに抱き枕なんかあったか? しかも、妙に弾力があるし、何なんだ?・・・まさかな?」 「う、うーん。」 !!?? 「れ、れ、れ、恋奈!!?」 なんで俺のベットで寝てるんだ?昨日の夜からの記憶がほとんどない。まさか! 「ん?もう朝〜?・・・!?何であんたが私の布団で寝てるの!?」 「いや、それはこっちが聞きたい。ここは俺の家だ。そして俺のベットだ。何でお前がここで寝てるんだ?」 「し、知らないわよ!そんなこと。こっちは昨日の夜から全く記憶がないんだから。」 記憶のないのは同じか。安心したのか困ったのか。 「まさかあんた!私をここに連れこんで変なことしたんじゃ・・・」 「な!?そ、そんなこと誰がするか!俺だって昨日の夜からの記憶がないんだからよ。」 「ほんとに〜?」 「嘘だと思うのなら、俺ん家の母さんに聞いてみればいいだろう。」 「それもそうね。」 「二人ともー。ご飯ができたわよー。早く着替えて降りてらっしゃい。」 「着替えって言われても私そんなもの・・・?これ、私のスーツケース。こんなもんまで持ってきたんだ。」 「今日は金曜日だから、制服だぞ。」 「わかってるわよ。それくらい。それから。」 「はいはい。退出しますよ。俺は親父の使ってた部屋で着替えてくるよ。」 「それならよし。」 よし、着替えもすんだし、降りていきますか。 「お姫様は、お着替え終了いたしましたか?」 「これでよしっと!今、終わったわよ。」 「じゃ、朝飯食べるとしますか。」 ドタ、ドタ、ドタ。 「さぁ、二人とも、さっさとご飯食べて学校行かないと遅刻するわよ。」 「はーい。」 「そういえば、巧君のお母さん。何で私ここに泊まってるんだっけ?」 「なーにー?自分で来たのにそんなことも覚えてないの?たしか・・・えっと・・・どうして来たのかしら?あ!そうだわ。たしか、テストが近いから、テスト勉強をうちの巧と一緒にするために来たんじゃなかったかしら。」 「そうなんだ。」 「何よ、二人とも口を揃えて。勉強のしすぎで、逆に記憶喪失にでもなったんじゃないの?ま、何でもいいけど、はやく、ご飯食べて学校行かないと、遅刻しちゃうわよ。」 「あ、やべ!もうこんな時間だ。」 「ほんとに早く行かないと遅刻するわよ!」 ばたばた、ばたばた。 「いってきまーす!」 「あらまぁ。」 だが本当に恋奈はそんな理由で家に泊まりに来たんだろうか?いまいち現実感が伴わないんだが、泊まりに来るなんてそんな理由しかないか・・・  昨日はテスト勉強をしたようなしなかったような記憶はあるが、恋奈と一緒だったか?  だが、そんなこと考えてる間に猛ダッシュしなくちゃまずいか。 「だけど本当にそんな理由で出向いたのかしら?たしかに勉強道具はあったけど。」 「俺たちは何も覚えてないんだ。なんか知ってる、うちの母さんを信じない理由もないだろう。それより、ほんとにまずいぞ、このままじゃ。」 「だから猛ダッシュしてるんじゃないの!」 「間に合うのか?」 「間に合うか、間に合わないじゃなくて、間に合わせるんでしょうが!」 「ごもっともです。」 きゅきゅきゅーっ!ガラガラガラ。 「時間は?!」 「・・・二分前、ぎりぎりセーフだ。」 「遅かったじゃねぇか、二人とも。何かあったのか?」 「いや、二人揃って寝坊だ。」 「揃ってとは失礼ね。私はいつも通りに起きたわよ。ただ・・・いや、何でもないわ。」 「しかし、お二人揃って登校とは・・・差詰め、泊まりがけで勉強して、そのまま直行ってパターンですかね。ま、その時に何があったかは知りませんが。」 鋭い。流石杉田というべきか・・・ 「よっ、史朗。元気か?」 「普通。」 「どうしたんだ史朗?朝から元気ないぞ。宇宙人の本でも無くしたか?」 「ふぃう!!い、い、いや別に。」 なんか妙な反応だな。絶対何かあると踏んで間違いなさそうだ。 「みんな、朝礼始まるぞ!席に着け。」 「はーい。」 「そんじゃ、朝礼を始める。号令を頼む。」 「起立!気を付け!礼!!」 「お願いします!!」 「えぇ、今日は最近の世界の経済についての話をしたい。」 「え?先生。今日の朝礼では昨日の、聖神殿についての、続きをするんじゃなかったんですか?」 「は?杉田、何を言ってるんだ?」 「そうだよ良介、何を言っているんだ?先生が昨日からこの話をするって言ってたじゃないか。」 「え?俺も聖神殿についての続きをするって聞いたような気がしたんだけど。」 「確かに先生は聖神殿についての続きを話すって、おっしゃってましたよ。」 昨日の授業の終わり際に確かに、 「先生!もう時間ですよ。」 「あ〜そうだな。じゃ、明日の朝礼では、今日説明しきれなかった部分を話そう。」 って、言っていた。なのにどうして、先生を含め、クラスの5分の1程度の生徒が違うことを口を揃えて言うんだ? 「いや、俺は確かに昨日、最近の日本の経済についての話をすると予告したぞ。そんなぼーっとしてたような奴らの抗議は認めない。ほら、静かにしろ。では、最近の世界に経済は・・・」 「絶対おかしいだろ。確かに先生は「明日の朝礼では、今日説明しきれなかった部分を話そう。」って言ってたぞ。それを俺らが間違っていて、あの少数派の意見の奴らが合ってるっていうのは、絶対におかしいだろ!」 「まぁそういきり立つな。今日の先生はどう見ても少しおかしい。いつもとなにか、話すリズムがおかしい。」 「同感です。それに何人かの生徒もどーも様子が変です。ちょっと調べる必要がありそうですね。」 だが何でこんな事になったんだ。まさか宇宙人とすり替わってるとか・・・まぁ、それは無いか。 「葭根君がおかしいのとも関係あるのかな?」 「んで、史朗はどう思う?こういう話大好きだろう。」 「俺は何も・・・知らない・・・」 「どうしたんだ史朗?完全に変だぞ、今日はお前。」 「何でもない・・・」 「何でもないこと無いだろう。確実に変だぞ史朗。昨日の夜に何かあったんじゃないのか。」 「ふぃう!!別になんでもないって・・・」 「ふぃう」はもういいって。それは気づいて欲しくてやってるのか?それともただ反応が極端なだけなのか? 「俺たち仲間じゃねぇか。何でも話してくれよ。相談してくれよ。できる限り出来ることをするからよ。」 「あ・・・いや、ありがとう。だけど本当に何でもないんだ・・・気持ちだけでうれしいよ。」 「そ、そうか。まぁ、自分一人で溜め込むようなことがあったら、いつでも俺たちに相談してくれ。」 「ああ、ありがとう・・・」 これも少し調べる必要がありそうだな。全く見当がつかんが・・・まぁ、明日世界が滅亡して無くなるわけでもないし、何とかなるだろう。 「にしても思ったんですが、急に静かになりませんでしたか?」 「何がだ?」 「いえ、だから・・・UFO事件に関して誰も話してないんですよ。昨日あれだけ話してたのに、今日はUFOっていう単語すら出てこないんですよ。妙だと思いませんか?」 「たしかに。だが、少し妙ではあるが、良いんじゃないか?訳のわからんことを言う奴がいなくなって、静かになって。」 「だけど、あれだけ騒いでいたのにニュースでもやってないのはおかしいんじゃないのか?」 「実は無かったことだったりして・・・」 そうだったらうるさくなくてうれしいが、少々怖い気もしないこともないな。 「ちょっと考えさせられる物がありますね。」 「これは会長さんと、宇宙人博士の意見を伺う必要があるかな。」 「って、俺もか?まぁ、少し「不思議」だな。だが、気のせいか昨日に、UFO事件を活発に言っていたメンバーの4分の3がおかしくなってるような気がするな。」 「流石会長、きちんと状況把握が出来てるようだな。で、博士はこれについてどう思ってるんだ?」 「・・・・・・何とも・・・」 「あ〜!もう!いい加減にしろ、史朗!  よ〜し決めた!明日、明後日は学校が休みだから巧の家で勉強会っていう題目でみんなで合宿な!」 「巧の家ってことは・・・俺の家でやろうってのか?」 「オフコース。」 「お前の家でやればいいだろうが!何で俺の家である必要があるんだ!?」 「ま、細かいことは気にすんな。とりあえず、俺と、巧と、会長と・・・」 人の話聞いちゃいねぇ。けど、この状態に入った耕一を何か言ったところで止められるかというと、そうでもないんだが・・・ 「史朗と、恋奈と、良介と・・・そうだ!「あいつ」も呼ぼう。」 「あいつって、やっぱ、「あいつ」か?」 「そう、「あいつ」だ。」 「しかし、来ますかね?彼。」 俺たちが「あいつ」と言ってるのは青柳幹久。去年の夏、親の都合で他県へ転校してった俺たちのメンバーの一人だった奴のことだ。いつもこのメンバーで遊んでた。だが、あいつがいなくなって、ちょっと寂しくなった。  今回は、そいつも一緒に呼んで、久方ぶりに、史朗のために馬鹿騒ぎしようって話だ。 「だが、俺たちはおちゃらけやってても、それなりにテストで点数取れるし、そんな進学校じゃないから、どうにでもなるが・・・」 「ま、赤点ぎりぎりの耕一の場合は話は別だがな。」 「けっ、どっちにしたって勉強する気なんかねぇよ。」 おいおい、それじゃ、駄目だろう。 「しかし彼の場合、県内有数の進学校に転校したから、学力テストのこのシーズンは厳しいんじゃないですか?」 幹久は、良介や俺に次いで頭の良い奴で、どちらかというと頭のキレる奴という言い方の方が合っているかもしれない。  だが、あいつのことだ。どんなときでも俺たちの集まるときには必ず顔を出してたから、無理をしてでも来るんだろうな。