閃空時限 鬼山学園 第一章 「す、すげぇーでけぇ学校だな。それにしても」 「そりゃ、小学から大学までの一貫校だ。生徒数も半端じゃないだろう」 現生徒数15670人、創立一年目に文学、武芸、運動等の全ての全国大会を他者を寄せ付けない圧倒的な強さで全部門優勝。世界大会にも幅広く進出し、出た種目全て3位以上入賞というとんでもない記録を残した学校である。  また、その功績をたたえられ日本の政治的絶対権利と、世界の教育方針を決める権利がこの学園の校長に代々与えられ、この学校の次の校長は前校長が任せられると思った人物を前校長じきじきに指名するという、前代未聞の方法で校長が替わるのだ。  例えば、校長が国外追放といえば、必然的に国を出なければならんということになる。ということになる。(あくまで例えだが・・・)  また、この学校の生徒会や執行部は校長の次に権力を持っていて、学校の方針、学校の制度、ルールから、教師の解雇や、生徒の退学まで自由自在にする権限が持たされている。なんと、生徒の住む場所から、誰と住ませるか、小遣いまで決められるのである。  この学校の執行部やら生徒会は、1年生執行部、2年生執行部、3年生執行部という風に学年ごとに執行部と生徒会が作られる。そして、各学年が各学年を運営するというこの学園特有の学年運営である。  しかし、生徒会や執行部は選挙で決められる訳ではない。これもまた特別であり、学年別の部対抗体育大会で前期の生徒会役員が決められ、後期は学年別の部対抗文学大会で役員が決められるのだ。よって、1つの部の一学年が生徒会や執行部を運営することになるのだ。 この制度により、より優れた生徒達を上に持ってくることができ、生徒の人望を集め、学校の制度に対するストライキを抑えるということや、また必然的に、より質の高い学校を作ることに役立っているのだ。  しかし、何故個人ではなく部で運営するのか?それはやはり、管理の都合上都合がいいからである。(また、個人にすると収拾がつかなくなるのだ)  この超名門校に、最近廃れてきた学校を昔のように、全国大会全部門完全制覇を目標に、超成績優秀、超スポーツ万能、性格最高の2人が入学し、自分の内に秘められた、他人には無い特殊能力を呼び覚まし、「適格者」として世界の終りに立ち向かうため、「怪物」と戦ったり、不器用ながらも恋愛に励んだり、本来の目的、全国大会完全制覇に向けて、高校一年の男女10人が、「武動柔剣部」に入部して、3年の先輩や、同級生、他校の生徒や先生達とスリリングな学園ストーリーを描いたもの。それがこの物語である。と思う・・・・・・ 第一話 入学式  俺は薬師寺悟。今日からこの「鬼山学園高等科の一年生」だ。 「ホント、やるッて決めたらやっちまうやつだなぁ、お前は。まぁお前にして みればさほどの努力も必要としないことだったのかもな。」  彼は大和龍騎。中学の時からの同級生で、親友であり、全てにおいてのライバルだ。なかなか面倒を見たがるヤツで、俺が鬼山学園に入学すると言ったあかつきには、 「仕方ないな。俺も入学するか。」 だ。何が仕方ないだ。しかも、そんな簡単に入学できるもんじゃないんだぞ、とつっこみたくなったが、あいつは俺のその様子を伺うと、 「お前一人だと心細いだろ。心配するな、俺がついてってやるよ。」 だ。もう呆れて物も言えなくなったが、どうせ落ちるだろうと見送った。しかし、こいつもなかなか(というよりものすごく)頭の良いヤツで見事試験に受かっちまいやがった。だから、俺の隣りに今いるんだ。 「あれ、そういえば礼奈ちゃんは?お前と一緒に来るんじゃ無かったのか?」「ああ、それがな・・・」 「ごめーん。遅れちゃってぇ」  彼女は新井礼奈。小学の時からの同級生で、ものすごくカワイイし、スタイルも抜群だ。中学の時は、モテすぎて、毎日下駄箱にはラブレターがいっぱい。それに毎日のように告白されていた。しかし、根が優しくて真面目だったので、ラブレターの返事を全員に毎日書いて送ったり、告白された一人一人の人に一日一生懸命考えて、「ごめんなさい」と返事を送っていた。仲の良かった俺に何度も相談に来て、一緒に帰ったり、一緒に話したりと、いつの間にか恋人のような関係になっていた。まぁ、彼女も俺のことが好きで、俺も彼女のことが好きだったので、こんな関係になるのも当たり前か。  しかし、龍騎のヤロウも礼奈に惚れてたらしく、あいつは、容姿端麗で勉強、運動もできたし、他の女子からはモテモテだったから、絶対落とせると踏んでいたんだろう。見事なまでに失敗した。それからだっただろうか、あいつが俺に淡いライバル意識を燃やし始めたのは。 「それじゃ行きますか。」 「おいおいおい。ちょっと待てよ。この俺様を忘れてもらっちゃ困る!!」  ホントに何でこんなヤツが受かったんだろう。こいつは剛田薫。自称ジャイアン2世。って、今時「俺様」は無いだろう。どうしてこんなヤツ受からせたんだ。こんな怪力と根性だけのガキ大将キャラ入学させたら確実に学校がめちゃくちゃだぞ。 「師弟がいねぇと、かばん持ちがいなくて疲れるぜ。早くこの学校でも俺の師 弟を作らなくちゃいけないな。」 お前は本当に師弟の意味を理解しているのかと小一時間問いつめたい。 「とりあえず、中学のメンバーが揃ったところで、始業式の会場の体育館に行 こうぜ」 「それもそうだな」 と一同が賛同したところで、俺たちは体育館に向かった。  生徒は個性派揃いかと思っていたけど以外と普通な「高校生」ばかりで、拍子抜けする部分もあったが、新入生と思われる生徒や、同学年と思われる生徒からはもの凄い顔で睨まれた。そして、体育館に行く道中、何人かの生徒に、「お前らか、楽々に満点近い点数取ったっていうヤツらは?まぁ、運動できそ うな顔じゃないな。お前らみたいなヤツはこの学園じゃ生きていけないんだ よ。」 などと、入試の点数に関していろいろと(僻み?のようなことを)言われた。そこへ、 「まぁ、気にすんなよ。あんなのただの嫌味だから。それにしても、お前らす げぇーな。毎年トップのヤツでも2,30問は軽く間違えるようなテストで、 1,2問しか間違え無いなんてな。薬師寺君・・・だっけ?」 「はい、そうですが・・・あな」 「満点とるなんて神クラスの学力だよ!!俺でさえテストが終わってから30 分悩んでもさっぱり分からなかったあの問題を時間内に完璧に解いちゃうも んなぁー。ホント驚きだぜ!」 「俺でさえって、君も新入生なのか?」 「まぁ、一年であることに間違いはないが、新入生じゃねぇ。中等科からの進 級生だ。この学校の入試の問題と進級の問題は一緒なんだ。なにぶん生徒会 のお偉いさんは、テストを作る時間を2倍にするわけにはいけないそうだか らな。」 「で、君名前は?」 「君っていうのはよろしく無い。ちゃんと名前で呼んで親しいように接してほ しいもんだな。」 だから名前を聞いているんだろが!! 「俺は間宮真志。野球部に入ろうと思っている。お前らもどうだ、入る部が決 まっていなければ、是非入部して欲しいんだが?」 「待て待て、俺達にも自己紹介させてくれよ。知っての通りと思うが、薬師寺 悟だ。とりあえず、俺は武動部(正式には武動柔剣部である)に入ろうと思 ってるんだ。悪いな。そしてこっちが・・・」 「自分の自己紹介ぐらい自分でやらせてくれよ。俺は大和龍騎。テストでは惜 しくも1問しくってな。だが、それなりの学力は備えているつもりだ。俺も、 悟と一緒に武動部に入ろうと思っている。」 「次は私ね。私は新井礼奈。悟君達と一緒に武動部に入ろうかなって思ってま す。」 「次は俺だな。俺は・・・」 「よーし、じゃ体育館いきますか。」 「ちょ、ちょっと待ていぃぃ!俺の自己紹介が終わってないだろうが。」 「お前はおそらく明日退学で、間宮君と関わることも無かろう。」 「真志または、真と呼んでくれないか。」 「ああ、すまん。真志って・・・横やりを入れないでくれないか。とにかく、 自己紹介するだけ時間の無駄だ。」 「お前、俺の知名度が上がることを恐れているな?心配するな、すでに俺の方 が知名度が上だ。」 そのとき俺は改めて再確認した。こいつはただのバカだと。 「まぁいいじゃないか。彼の性格だとやると決めたことをやらなくちゃ気が済 まなそうだからね。」 「俺様は、剛田薫だ。とりあえず学校征服のための一環として、この3人の部 下達と共に最初に武動部を征服しようと思っている。貴様も剛田ファミリー の一員として迎えてやっても良いぞ!!」 だれが部下だ。だれが剛田ファミリーだ。突っ込みたくはなった。しかし、こいつと話しているとこっちの頭がおかしくなりそうなので、受け流した。 「あははははは。面白いこと言うな君は。」 え、自分で使うのは問題無いの?とまたまた突っ込みたくなったが、いまいちこの間宮真志という人物のキャラクターがつかめないので、ここは黙っておくことにした。 「そろそろ行かなくちゃならないんじゃないか?」 「それもそうだな。けど、さっきから気になってるんだが、お前の持っている そのビデオカメラは何だ?」 「えっ!お前ら持ってきてないの!?」 「ああ。っで何のために使うんだ?」 「これは西園寺校長の話を録音録画をするために持参した物だ。なんせ、ここ の校長が入学式の時に話しをするのは開校以来2回目だからな。どんな重大 発表があるのか楽しみだし、校長を生で見られるのは生涯一度あるか無いか ぐらいだからな。」 「そ、そんな凄いのか。」 凄いのは知ってたつもりだったが、そこまでとは・・・ 「なんでも良いが、早く行かないとそのありがたいお話とやらも聞けなくなっ ちまうぞ。」 「そうだな。」 「先に行っててくれ。俺はちょっと寄ってから行くから。」 「別にお前には言ってない。」 「そう言うなよ。10分前からトモダチじゃないか。」 「はいはい。じゃ、先行ってるぞ。」 「ああ。」 あいつ、友達いないんだな、きっと。まぁ、あんまり憎めなさそうなヤツだから良いけど。とか思いながら俺たちは体育館に向かった。 「くそー!2問しか間違えてないから2番には入れたと思ったのに・・・くそ ー・・・・・」  ざわざわ、ざわざわ。 「それにしても、すごい人だなー。」 「今年の入学生数は122名、進級生を含めると446名だ。それだけの人が 集まってるんだ。父兄がいないだけ入りきっている感じだ。」 本当にすごい人だ。「人がゴミのようだ」という表現が使いたくなるくらいだ。 「それにしてもすごい視線だな。」 俺たちには、妬みや憧れの視線がすごい勢いで降り注いだ。ほんとに、そんな点数なんかで人を評価するなんて呆れてくるよ。しかし、礼奈を羨ましく見る男達の目は少々(ホントに少し)いらっと来た。 「これより第225年度、入学式、開式します。早々に生徒諸君は、席につい て下さい。」 (いよいよか・・・) 「えー、これより開校225年度、入学式を開式します。はじめに生徒会長に よる祝辞の挨拶をいただきます。それでは生徒会長の臣仙勇君よろしくお願 いします。」 「あー、生徒会長の臣仙だ。今年の新入生、また、進級生は昨年度の3割増の 成績で入ってきたそうだから、様々な面で大いに期待したいと思っている。 また、薬師寺君、大和君、間宮君、嵐君、一文字君など、中学で最高峰を極 めたメンバーが自分たちの学年にいるということは、君たちにとって大きな 目標になると思う。  一週間後には生徒会役員を決める体育大会がある。君たちにも、1年執行部 を作ってもらうことになる。早々に部に所属し、優勝を狙い、生徒会役員の 座を各々で競い合い、より良い生徒会、より良い学園を作り上げてくれるこ とを願っている。それでは、健闘を祈る!これにて、生徒会長の言葉を終り としたい。」 「次は西園寺校長による祝辞の言葉です。西園寺校長、お願いします。」 タッタッタッタッタ・・・タ。 「えー、生徒諸君。まず、入学おめでと・・・・・ カシャカシャ、カシャ、カシャ・・・ 「うわっ!眩し!!」 高校生ごときにこれだけの事をするヤツはいない。カメラも本格的だし、あのカメラの腕といい、あの顔ぶれといい、おそらく学生に扮した記者が何人か潜り込んでいたんだろう。どうりで生徒が少し多かったわけだ。 「西園寺校長、テレビジャポンですが、何故今回、会見、いえ、生徒の前へ出 ようと思われたんですか?」 「テレビ朝比奈ですが、一言お願いします。」 「TVSですが・・・・」 「生徒達に向けて一言!」 「人前に出たと言うことは何か重大発表があるのでしょうか?」 「一言」 「おねがいします。」 「私たちにも」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「渇!!」 ひゅーん。ドババドドン!! 「ひ・・と・・・こ・・・・と・・・・・」 バタっ! 吹き飛んだ。思い切り彼らは吹き飛んだ。しかしどういう訳か、カメラやビデオカメラを持った人間しか吹き飛ばなかったのは何故だ?また、全てのカメラが粉々に砕け散っていた、かのように思えた。ある一人の人間のを除いて・・・ 「悟・・・」 「だ、大丈夫か、真志・・・」 「こ・これを・・・」 ビデオカメラ?まさか!! 「あ・・・後は頼んだ・・・・こいつに収めてくれ・・・」 ガクッ 「真志ぃぃぃぃ!!」 というおおげさな演出は置いといて。ふざけるな!!俺がこのビデオカメラを持って、西園寺校長を撮り続けたら、今の二の舞か、もしくは「死」の一文字が与えられるだけだろうが!!俺は絶対やらん!!そんな冒険はしたくない!!この若さで死ねるかってんだ!! 「薬師寺君。頑張って!!」 「西園寺校長を撮ることができるのはお前だけだ!!」 「お前の骨は拾ってやろう。」 なんで、どうして、真志のビデオだけが生き残ってんだよ!そして何だ!?あいつらの期待と、応援と、失敗を覚悟の上でみたいな目は。そんなに俺に暴徒を犯せって言うのかよ!ああ、やってやろうじゃねぇか。死を覚悟でやってやろうじゃないか!だから頼む。今後一切こんなお願いをするなと・・・ 「分かった。やろうじゃないか!やってやろうじゃないか!みんな、俺の雄姿を見てくれ!そしてできる限りの心の中での応援を頼む。」 「了解した」 「分かった」 「おうよ!」 なんか、「電車男」みたいなパターンだな。いや、それは置いといて。  まず、西園寺校長に直接許可を取ってみよう。そしたらこの三つの内のどれかの返答がかえってくるだろう。  まず一つ目、 「西園寺校長、貴方の素晴らしいお話、どうしてもこのビデオに収め、後世に 残す物にしたいんです。何とか、撮らせて頂けないでしょうか?」 「どうしてもというのなら別にかまわんよ」 次二つ目、 「西園寺校長、貴方の素晴らしいお話、どうしてもこのビデオに収め、後世に 残す物にしたいんです。何とか、撮らせて頂けないでしょうか?」 「撮ることは許さん。神聖な学校内に持ち込むことはおろか、使用することな ど前代未聞だ。」 ラスト三つ目。 「西園寺校長、貴方の素晴らしいお話、どうしてもこのビデオに収め、後世に 残す物にしたいんです。何とか、撮らせて頂けないでしょうか?」 「・・・・・・・・・」 おそらく三つの内、1つ目以外の返答は、この先この日本という国に今後も俺が滞在できるかどうかが決まってくるような気がする。しかし、他の生徒達の視線は既に俺の方に集まっており、また、先程臣仙生徒会長が中学極めたとか言ちゃったりしたもんだから、是が非でもやらなくちゃいけなくなった。これ絶対誰かの仕組みだろう、と心のどこかで思いながらもカメラを持って西園寺校長の下に向かった。  気付けば生徒会長の臣仙さんが微笑していた。こんな非常事態に不謹慎な!  そしてステージの下の西園寺校長の目の前にたどり着いた。 「西園寺校長、貴方の素晴らしいお話、どうしてもこのビデオに収め、後世に 残す物にしたいんです。何とか、撮らせて頂けな・・・」 「君が薬師寺君かね?なるほど、いい目をしている。」 「は、はあ」 い、意外だった。というより驚きだった。 「何故ですか?何故僕の名前を?」 「君は全中でほとんどの陸上のタイトルを総なめにしておきながら、そんな知 名度の低い人間だと思っているのかね?」 「え・いえ・・・それは・・・・」 「ビデオだったのぉ。別にかまわんよ。なんせ儂の気迫に耐えたビデオカメラ だ、よほど良い物なのか、それを守った本人が、よほど儂の姿をカメラに収 めたかったからじゃろ。」 守った?間宮が?あの衝撃波から?まぁしかし、このカメラは何処にでもあるような、最新機種でもなければ、高性能機でもない。ただのカメラだ。記者団のカメラよりはかなり脆いだろう。それが無傷で俺に渡ったと言うことはやはり間宮が守ったと言うことになるのだろう。  この時は気付きもしなかった。俺たちが、特別な力を持った人間なんて事は。  この後、西園寺校長は何処の学校の校長でも言うようなことを生徒達に言い、重大発表や、特別発言は無く、ごく普通の校長の祝辞になった。  校長の話が終わったら、学校生活についての説明が手短にあった。小難しいことや、特別な、この学校ならではの説明が色々あった。中でも目玉だったのが部活動についての説明だ。 「部活動は必ず所属しなければいけません。一週間以内に入部届けを提出しな い生徒は、強制的に「帰宅部」という部に所属することになります。そして、 部として、生徒会役員大会に参加してもらうことになります。  次に入退部に付いての説明です。基本的に退部届けさえ出せば退部は自由で す。しかし、入部の方針については、各部の方針に従ってもらうので、途中 入部は不可や、生徒会役員大会後は不可など、途中からは時期、人数などが 影響して入部できなくなっている部も多数あるので、注意して部を選んでく ださい。」 やはりちょっとずるがしこいことを考える連中がいるんだろう。大会後に退部届けを提出。執行部となった部に入部届けを提出して、甘い汁をすすろうとする輩が。おそらくこの各部の規正は、そんなことを防ぐために敷かれた物だろう。まったく、ごくろうなことだ。 「これにて、開校225年度入学式を終了します。一同起立!礼。」 ざわざわ、ざわざわ 「ふぃー、ようやく終わった。」 「お前さっきは死にそうな顔で「頼んだ・・・・」とか言っときながらピンピ ンしてんじゃねぇか。」 「いや、あそこはああいう風に決めとかないとお前を英雄にできないだろ。」 馬鹿言え。これ以上任務を続けたら失敗すると思って、俺に責任転移しただけじゃねぇか。 「いやー、それにしても、よく撮らせてくれたな、西園寺校長。どんなマジッ クを使ったんだ?」 「いや、ちょっと本人の前まで行って、「撮らせて頂けないでしょうか?」と 純粋な心で聞いたら、こころよく許可を下さった。」 「よっぽどうまいこと言ったんだろお前、どうせ。よし!この俺が君に「口先 の魔術師」の称号を与えよう!」 「結構マッチしてるんじゃないか。それ」 ホントに。龍騎まで言いやがって。それに「口先の魔術師」って、どっかのアニメで聞いたことあるぞ、それ。まぁ、一年生全員から一目置かれる存在になったのは、正直言えば、まんざら悪い気もしないがな。 「それにしても、格好良かったよ、悟君。」 礼奈に言われるのは一番の栄養剤だ。いろんなことが「ま、いっか。」って思えてくる。今回は礼奈に免じて許してやろう。俺もやりきった達成感でいっぱいだしな! 「そういや、薫の野郎は何処行った?」 「あー、あいつなら、半お嬢さま風美人のところでナンパだ。」 「あいつにナンパなんてできるはずないだろ。いきなり醜態をさらすつもり  か?」 「俺も最初はそう思ってたんだが、結構上手くいってるようだぞ。」 全く。あいつは彼女よりも先に、鞄持ち用の師弟を作るんじゃなかったのか? まぁ、あいつに乗せられる彼女の方もどうかと思うが。あの娘は確かにカワイイが・・・というよりおっそろしく美人じゃねぇか!もったいない!あのウルトラ馬鹿野郎には、天と地ほどの差だ。あの、どんな髪型にさせても、どんな服を着せても、ちょっとメガネかけさせても、オールマイティにいけるような美人が、どうして、あのマウンテンゴリラと良い雰囲気なんだ?!どう地球がひっくり返ったらあんなことが起こりうるんだ?俺はこの時初めて、あいつに対して恐怖を抱いた。  それにしても、あの体育館のギャラリーの上のカメラマンは何だ?もう入学式はとっくの昔に終わってるっていうのに、カメラなんて構えて?それに、妙に長いし、横にスナイパーライフルの標準機みたいなサブカメラが付いてるし?  それになんだ?まるであの2人を撮ってるみたいじゃないか。そんなに美女と野獣が面白いのか?全くご苦労なこった。 「そういや悟。知ってるか?」 「何がだ?」 「武動部が趣味でカメラガンを開発したそうだ。」 「カメラガンって、あのガンダムの強行偵察型ザクや、ザクフリッパーが装備 している、あの偵察専用の銃のことか?」 「お前の話はマニアックすぎて何の話かわからんが、遠距離用の長い型をした、 プロなどが使うようなカメラの形をした、最大5キロメートルまで精密射撃 可能なスナイパーライフルことだ。もの凄い性能だから、今、世界的に注目 を浴びている偽装兵器のことだ。」 「へぇー、趣味でそんなすごい兵器を作ったのか。学生がねー。」 そんな銃なんて作ることを学校側は咎めないのか?といううか、いろんな日本の法律に引っかかるだろう。どうして大丈夫なんだ?まぁ、人殺しても許されそうなあ学園だから、何となく理由が分かるような気がする・・・・  そんな本物の武器作るぐらいなら、偵察性能特化で攻撃力ゼロの、本当の「カメラガン」を作って欲しいもんだ。  思ったら、あのギャラリーの上のカメラマンが持っているのとそっくりじゃないか。もし、あれがカメラガンなら、美人でもの凄くカワイイ妹に、手を出そうとした輩がいたから、妹思いの兄貴が、それを阻止せんとして、手を出した瞬間、カメラガンで銃殺しようと構えている。なかなか良くできているストーリーだ・・・・・!もし、事実ならどうすんだ!あれだけカワイイ妹で、どんな人にもひょいひょいとついて行くような妹で、カメラガンの開発に成功した俺だったら、妹のためと言ってやりかねんぞ。(こんなパターンもどっかのアニメであったような・・・)まさかとは思うが・・・・ 「おい薫、入学式が終わって早々、「これから僕の楽しいドキラブな学園スト ーリーがはじまるんだ!」と、彼女いない歴16年ヤロウは思い始める頃だ ろうに、いきなり一目惚れの娘に口説き始めるのはどうかと思うぞ。いくら 今日から一週間、一年生の部活動巡りのために1〜3年生まで授業無しで、 一日中2,3年は部活で、一年生は体験入部や、仮入部だからって、一日ほ とんど自由時間だからといって、こんな超美人をナンパするのは良くないだ ろう。」 「・・・・・・・・・あ〜〜〜!うるさい!!うるさい!!うるさい!!」 何、顔赤くして灼眼のシ○ナのシ○ナみたいなこと言ってんだよ。(むしろパクッたのか?) 「あーあ、分かった分かった。だがお前も、俺たちと一緒に行動しないと迷子になっちまうだろう。・・・・じゃあこうしよう、彼女が俺らといき先が一緒だったら、お前ら2人で行動しろ。(お前がいなくなって清々するしな)それでどうだ。」 「君はどこの部からまわろうと思っているんだい?宜しければ教えてくれない かい?」 「わ、私は、さ、茶華道部からまわろうと思っています・・・」 「茶華道部だとさ、今回はあきらめろ薫。」 「じゃ、じゃあ、また今度・・・・」 ほんと、こんな照れてるこいつを見るのは久しぶりだ。しかし、こいつと彼女がつり合ってるなんて、どう考えても間違ってる。天変地異の前ぶれか? 「ふ・・・カチャ」 あれ、そういえばカメラマンいなくなったな。まぁ、一波乱無くて良かった。 「悟君どこ行ってたの?」 「いや、このゴリラヤロウが油売ってたもんでな、連れ返してきたんだ。」 「心配だったんだよ、急にいなくなるから。」 「あー、ごめんごめん。」 「それじゃ、どこから行く?そこら辺の選択はお前に任せたいんだが?」 なんで、こいつこんな上機嫌なんだ?あ、さては礼奈の彼氏のフリをして、礼奈に群がる男どもの虫除けでもしたな。ここまで喜んでいるって事は、一芝居売った証拠か。  だが、どこから行こう。最終目的地は決まっているものの、最初から行ったんじゃ面白くない。じゃ、まずは軽く、準備運動のために、バスケ部にでも行くかな。 「じゃあ、準備運動がてらバスケ部いくか。」 「バスケ部は・・・・第八体育館だ。」 「レッツゴー!!」 第二話 体験入部 「さすが全国区って、感じだな。」  5分ほど歩いたら第八体育館に到着した。・・・にしても速いなー、あの全員の中心にいるヤツ。 「あいつは一年生だよ。気になっているようだがね。今年はあの子がはいった から、全国制覇なんて軽くしちゃうよ。どう、君たちも全国制覇体験してみ ない?」 何なんだ、この変なノリの顧問は。まぁ、しかしあいつはホントにうまい。全国区の選手だ。と思う。 「鬼山学園バスケ部体験入部、よろしくお願いします。」 「ああー、じゃ、準備体操が終わった後、一年対一年で五対五のワンゲーム行うから、準備しといて。」 「はい。」 いきなり試合かよ。まぁ、パス練習や、フットワークするより、断然面白いがな。 「で、チームはどうなるんだ?」 「ア行からの番号の早いやつから5人組んで、ワ行からの番号の遅い順から5 人組んで、っていうのでどんどん5人組を作っていくそうだ。」 「私は?」 「礼奈は女子の部だ。頑張れよ!」 「うん!」 やっぱり、初日から本命の場所に行くヤツは少なく、男子は全部で15人、女子は10人と、男子は3チーム、女子は2チーム作るに留まった。  俺らCチームは、俺、龍騎、真志が一緒になった。(薬師寺、大和、間宮だから結構高確率で一緒になるんだがな) 「3人も一緒になるなんてな。」 「少し驚きだな。」 「や、や、ま、だからな。」 俺たちのチームには、千石兄弟という、双子の兄弟が加わった。俺が見る限り、どちらかというと、勉強はすごくできるけど、運動はイマイチ。ッてな感じの兄弟だ。  それにしても、せんごくでCチームとは、どれだけAや、Bにア行やカ行がいるんだよ。 「それにしても佐藤。Aチームずるくねぇか?」 「ああ、だけど、アカサタナ順なんだから、仕方無ぇじゃねぇか。鈴木よ。」 「しかし、中学全国制覇のフルメンバーだぜ。さすがに卑怯っしょ。」 「赤井、秋山、嵐、有田、飯井だから仕方無ぇんだ。」 「心配するな!この俺様が付いている限り、絶対に負けを許さねぇ。」 「あんた、誰だよ?」 「俺か?俺は剛田薫。いずれ世界を覆す男だ!」 「まぁ、それは良いけど、君、体大きいね。君がいてくれたら良い勝負ができ るかもしれない!」 「おう!!任せとけ!!」 「なんか薫のヤロウが尊敬のまなざしで見られてるぞ。」 「ほー、珍しいことがたて続きにあるもんだな。」 「そういや、Aチームって、全国優勝したときのフルメンバーなんだな。」 「え!そうなのか!?」 おいおいおい。いきなり「もう入部決定です!」みたいなヤツが初日からなんで来るんだよ。そんなにお前らはバスケがしたいのか?そんなにバスケットボールに飢えているのか?と、小一時間問いつめたい。(まぁ、俺がこんなに熱くなるのもどうかと思うが、何せ負けず嫌いな性分なもんで) 「やっぱ強いのか?」 「そりゃ、全国大会決勝で、ダブルスコアをたたき出したヤツらだからな。俺 たちなんか相手にならんだろう。」 「まぁそうだろうなー。」 敵うわけ無いよなー。なんせ全国一位だもんなー。こんな寄せ集めじゃなー。 「おい、弱気だぞ。良いじゃねぇか負けたって。」 そんなこと言うが、目が真剣じゃねぇか。真志よ。 「第一試合、Aチーム対Bチーム始めます!」 ぴぃー! (ジャンプボールは、無茶苦茶上手くて、上級生を圧倒していた期待の新人、「嵐君」と薫のヤロウの勝負か・・・) 「実況は大和龍騎!」 「解説は間宮真志で!この試合をお送りしたいと思います!!」 「・・・って!何でお前らが実況と解説をやっているんだよ!ふざけてんの  か?!」 「この方が盛り上がるだろう!」 絶対ふざけてるぞ、こいつら!先生、何か言ってやってくださいよ! 「君たち、少々ふざけすぎじゃないか?いいかげんにし・・・・」 「まぁ、良いじゃないか。私は実況解説ありでこの試合を見たいんだがね。」 「こ、こ、こ、校長!!!な、な、な、何故バスケ部に?!!・・・・クッ・・・校長が言うなら・・・仕方ない、許そう。しかし、真面目にやらんと辞めさせるぞ。」 「はい!」 何なんだ!?この校長の緩さは。普通に考えたらおかしいだろ。 「おおーと、嵐選手、あんな遠いところからスリーポイントかー!!」 「この軌道、入りますね。」 シュポ! 「Aチームに開始早々得点が入りました!」 「さすが全国MVPって感じですね。」 「おおーっと、パスをカットォォ!嵐選手、並はずれた反射神経を見せつけま す。」 「さすが全国MVPって感じですね。」 「おっと、ここで嵐選手にBチーム、4人のマークを付けました。」 「エース封じですね。」 「おっと、嵐選手にボールが回りました。さすがに4人のマークが付いていて は動くことはできませんね・・・な、なにー!!体を器用にキリモミさせて 抜いていきました。前方にはあとゴールがあるのみです!・・・?止まりま した。」 「これはおそらく・・・」 「もらったぁぁ!」 「甘い!」 「おそらくファールをとって、バスケットカウントワンスローで追加点を加え るつもりでしょう。 ピィー! 「バスケットカウントワンスロー!」 そんな素人相手にそんな手を使わなくても良いのに。あくまでも本気でやるようだな。 「お、俺様がファールをするはずがないだろ!!見間違いだ!取り直せ!!」 「ん?何かね君。それ以上言ってたらテクニカルファールをとるよ。」 「先生。別に良いじゃないですか。なんなら今の、取り消しでも良いですよ。」 「き、貴様に同情されるほど落ちぶれちゃいねぇよ!自分で相手のファールを 狙うようなフェアじゃねぇやつになんかよ!」 (言ってくれる。じゃあ、見せてもらいましょうか、それ相応の物を) 「おおっと、華麗な動きで相手をどんどんかわしていきます嵐選手!最後に待 つのはデカブツ剛田!さぁどうする嵐選手!」 (スリーポイント撃たれたらどうしようもねぇ。ダンクが来ると信じて、弾き飛ばしてやる。) 「止まった!ゴール下のシュートかー!?」 (ゴール下。と見せかけて・・・ダンクだ!) 「とおりゃー!」 バシィィィ!! 「おっとー、デカブツ剛田がMVP嵐を豪快に弾き飛ばしたー!!」 「やりますね、面白い。」 「おおーっと!!ここでコートがヒートアップしてきました!」 「面白い試合が繰り上げられそうですね。」 ピィィ!! 「試合終了ー。」 132対67でAチームの圧勝か。まぁ当然と言っちゃ当然だし、全国一位にダブルスコアにならなかっただけでも、もの凄い大健闘だろう。 「くそ!こんちくしょー!」 「なかなか面白い試合ができましたよ。シュートをブロックされたのは久しぶ りです。」 「大健闘ですよ!全国トップのチームとやって、僕たちみたいな凡人がダブル スコアに持ち込まれなかっただけでももの凄い事じゃないですか!」 「僕たちもう、剛田さんのあのブロックを見て、感激しました!!よ、宜しけ れば僕たちを弟子にしてください!」 「よろしくお願いします!!」 「弟子というのは宜しくない。」 「じゃ、じゃあ、どうすれば?」 「貴様らは、今日から俺の「師弟」だ!分かったな!」 (・・・・え?) 「分かったかと聞いているんだ!」 「は、はい!」 なーにやってんだか。それにしても、あんなブロックを見ただけで、「弟子にしてください」なんて言うか?普通。まぁ、相手が相手だから凄いというのは分かるが・・・ 「それじゃあ、20分ほど経ったらAチーム対Cチームの試合を始めるから 準備しといてね。」  それじゃあ、礼奈の活躍でも見ますか。・・・・・・何!?68対67だと!礼奈達のチームが1点負けてるってのは、いったいどういう了見だ?しかも、ほとんど相手チームのあのカワイイ娘との一騎打ちじゃねぇか。 「はぁ、はぁ。」 「はぁ、はぁ。」 (こんなに私と競り合った相手は何年ぶりだろう) (強い、この娘!動きが見えない) なんちゅうハイレベルな戦いだ。まるで女子バスケのMVP対決を見ているようだ。 「彼女、気になりますか?あなたの友達と競った勝負をしている彼女。」 なんなんだいきなり?話しかけてくるなんて。 「彼女は神宮寺アスカ(愛須香)ソフトボール部の期待の新人です。文武両道 のスーパーガールで、おまけに容姿端麗。男子から何度も告白されています が、全部断っている娘です。まさに、カワイイ花にはトゲがあるってことで すよ。」 やはり喰えん男だ。というか、普通初対面の相手にわざわざ近寄ってきて、女子の情報なんかあたえるか?漫画じゃあるまいし。 「しかし、どうして君が彼女のことをしっているんだ?」 「彼女は、なかなか有名だったからですよ。いや、有名だからですよ。神宮寺 アスカという人物をこの学園の同期で知らない人はいないでしょう。彼女は ソフトボールで145qを超える超豪速球の投球。これだけでも彼女の肩書 きは充分なのに、予選第一戦から全国大会決勝までずっと先発で完投。しか も、ほとんどが完全試合です。それに、何をやらせても他を圧倒する力を見 せる。まさに神童ですよ、彼女は。」 「で、君は俺に何を伝えたい?」 「いえ、ただの説明です。あの神宮寺さんと対等に戦っている彼女を褒めるよ うに受け取るのも、この後彼女が負けるかもしれない、と受け取るのも自由 です。しかし、どちらかが負けます。それは、どっちにとっても初めての経 験となるでしょう。」 「君の言いたい事が全くわからん。」 「ただの予備知識です。試合を楽しむためのね。」 (右、いや左、と思わせて一つフェイントをいれてパス!) バシィ! はぁ、はぁ 「やるわね。はぁ、はぁ・・・・残り時間20秒、先にシュートを決めた方が 勝ちね・・・」 「負けない!」 104対104。礼奈が女子に勝てなかったのを見るのは初めてだ。相手の方も同性とあんなに良い勝負をしたのは初めてみたいだな。 「強いわね、あなた。」 「そっちこそ。」 「これは予想外な展開ですね。92対84のところで勝負は付いたと思ってい たんですがね。まさかあの状況から20点もとるとは、あなたの友達は想像 以上の集中力ですね。」 ほんとにそうだ。ラスト2分で20点もとるなんて。  一度疲れ切ったように見せて相手を泳がし、ラスト2分で相手の気持ちが緩んだ瞬間に切り返して、味方の4人を敵の4人に完全マークさせボールの逃げ道を無くし、相手が動揺して動きが鈍ったところを、連続スリーポイントで1分間に18点も取り返したんだからな。しかも、かなり遠いところからシュートを放ち、一発も外さず6本決めたんだからな。流石と言うべきか。 「そろそろ始めるぞ、君たち準備したまえ。」 「はい。」 「これより、Aチーム対Cチームの試合を始める。礼!」 「お願いします!」 「で、どういう作戦でいくんだ?悟。」 「まぁー、あの嵐とかいうやつを起点に攻めてくるから・・・」 「お前には聞いてない。」 「な、なんでだよ!?俺の見解はそれほど間違ってないだろうに・・・」 「ホントにお前生徒会長のあの演説聞いてたのかよ?寝てたんじゃないだろう な?(まぁ、後半は気絶してたけど・・・)理由は2つある。 まず1つ目は、そのプレースタイルを俺たちによーく見せて印象を深く残し、  嵐を警戒させて、まわりの4人で点をとるであろうからだ。  2つ目は、ヤツらが俺たちのことを能無しの猿とは思ってはいないからだ。 臣仙会長は、俺たち3人のことをまず先に大々的に報じたんだ。いくら素人 が相手とは言え、警戒を怠ることはまず無いだろうし、最善の策を使うと思 われるからだ。」 「だが、裏を掻いてくると言うこともあるんじゃないのか?」 「そこら辺は大丈夫だ。それを意識しすぎたら、少なからずペースが乱れる。 そこが穴になるし、別に嵐がノーマークと言うことでもない。心配するな。」 「で、どんな配置にするんだ?」 「それだが・・・」 「よーし!しまっていこー!」 「お〜!!」 (さて?秘策でも考え出しましたか) 「これよりAチーム対Cチームの試合を始めます。気を付け、礼!」 「お願いします」 ぴぃー! (まずは大和対嵐か) 「お前がどんなにすごいといっても、悟とやってたって負けたこと無いんだ! 負けるかよ!」 「おもしろいですね。でも、譲りませんよ!」 ふわっ 「だぁーー!!」 「たぁー!」 バシィィ!! (互角か・・・いや) 「浮いた?!」 「うぉーー!」 (滞空時間が長い!!) 「だぁー!」 バシィィィ!! 「悟!!」 「ああ!!」 (させません!!) タッ、バシッ 「何!」 「真志!」 バシッ! (さすがに遠い・・・何!!) ふわっ 「何だって!」 シュパ! 「よーしぃ!!」 「作戦通りだ。」 バンッ 「そこまでやるとは、正直驚きです。久々に武者震いがしますよ。」 (まさかあそこからいれるとは・・・末恐ろしい) とりあえずは成功。さーて、お次は・・・ 「それだが、まず一番最初は誰にもマークを付けない。確実に点を取るためだ。そのため、最初は俺達がボールを絶対に確保しなければならない。だから、ジャンプは龍騎にやってもらうが・・・いけるか?」 「もちろん。絶対に負けないぜ!」 「それじゃ、まず俺にボールを流してくれ。取ると同時に真志にパスするから、85%入る地点でシュートしてくれ。で、真志。シューティングは大丈夫か?」 「もちろんだ。球の扱いは問題ない。」 「それを聞いて安心した。千石兄弟は、その中継地点で、もしもの場合の中継ぎをしてくれ。まずそれで得点を先取し、相手の嵐を除く4人のペースを乱す。 おそらく、嵐は他の4人に大体の検討を話しているはずだ。だから、最初リードしなければたぶんボロ負けする。だから何としても最初に流れを作らなければならない。それから、マークについてだが・・・」 「秋山は龍騎。」 (身長を合わせて、パスの流れをつぶすか。) 「あなた方みたいな即席チームには負けませんよ!」 バッ、ッシュ 「させるかよ!!」 バスッ 「飛べ!悟!」 「あんな状態からパスだって!」 「ああ!」 タッバッ、ドン! (こちらのパスを読み切ったうえに、あんな状態からアリウープのパスを出す なんて・・・) 「飯井は真志。」 (速い流れを直ぐに断ち切るためか。) 「パスを回して確実に点を取ります。だから、いつもの感じでいきましょう。」 「OK!!」 「な、何!」 「へへ、攻撃、防御共に嵐が起点だが、パス回しの時、どうしてもスピードと コントロールに優れ、シュートもできるオールラウンドプレイヤーのお前に ボールが回るんだよ。だから、ここからお前を一歩も動かせるつもりはない。」 (へ、そんなんで40分もつかってんだ。) 「飯井君!!」 「よし!!」 バッ! 「な、なんだと!」 「いっただきー!」 (馬鹿な!全て計算したはずなのに。」 「取られたら、流れをすぐ作られるんでね。」 「有田と、赤井は千石兄弟が頼む。どちらがどちらをマークするかは任せる。」 (一卵性双生児の僕らを利用して相手の撹乱ですか。良いですよ、やってやり ますよ。) 「全国トップの俺らがお前らみたいなヤツらに止めれると思っているのか?」 「さぁ?どうですかね?」 「お前らのペースはどこまで続くんだろうな?へへ。そろそろ終わるだろうが。」 「分かりませんよ?」 (くそ、俺らを馬鹿にしやがって。) (さっさと、終わらせてやるよ。調子に乗りやがって。) 「有田、いったぞ!」 「ああ!」 タッ、バシ! 「お前に止められるかな?」 ダン、ダン (へ、てんでたいしたこと無いじゃねぇか。) 「もらった!・・・何?!」 バシィィ! (確かに抜いたはずだ。何故だ!?) 「いっつぃぃ!止めましたよ?」 (まさか、もう一人の方か?・・・いや、ちゃんとマークに付いている。) (よし、まずは成功・・・) 「ちっ、雑魚だと思って手を抜きすぎたかな。」 「それはちょっと心外ですよ。」 (調子に乗ってられるのも今のうちだ。) 「千石!」 「はい!」 タ、バジ! 「お前なんかに抜かれるかよ!」 「どうですかね?」 「右だろ!」 バシィ! 「クッ!」 (へっなんでぇ。) 「まだだ!」 「なに!またか!」 (赤井にはちゃんとついている。なぜだ?) 「だが!」 「チィィ。」 (今度こそ抜いた。) 「どうですかね?」 「何!!」 (馬鹿な!赤井には・・・いない!) バシィ! 「薬師寺さん!」 「ああ!」 (スリーポイントラインに間宮。ゴール下ベストポジションに大和ですか。し かしここは・・・あなたがうつんでしょう?薬師寺さん。) 「ご名答。だが・・・」 「そんな変な体制でシュートですか。是が非でも僕にはボールを渡さないよう ですね。しかし、大和さんにリバウンドを任せたようですが、うちの秋山  君を甘く見てもらっちゃ困りますよ!!」 「一つ見落としちゃいないか?MVPよぉ!」 (やっぱり入らない。) バン! 「そのまま跳ね返った?!」 パシっ!フワー。 「千石兄弟の存在を!」 シュパ! 「よーし!!」 バンッ! 「ちょっと甘く見ていたようですね。こんなのは本当に久しぶりです。早くや りたくてたまりませんよ。本気の勝負をね!!」 「し、し、しらねぇぞ!どうなっても!」 こりゃ、よっぽどだな。気を付けないと大怪我をしかけないか・・・  開始9分。得点28対39。Cチーム11点リードで、嵐、制限解除。  この9分前。 「悟君がんばれ〜!」 「ああ!」 (あんな男達の何が良いのやら。) 「アスカには好きな人とかいるの?」 「え?別にいないわよ。」 「ふーん、そうなんだ〜。でも、告白されたりしたことはあるんでしょ?だっ て、アスカみたいなカワイイ娘を、みんなが放っておくはずがないもんね!」 「何が良いの?あの人の?」 「え?」 「だから、あの薬師寺悟の何が好きなの?礼奈は。」 「それは・・・・・・優しいところとか、いつでも守ってくれるところとか、 やるときはやって、みんなの先頭に立って頑張ってくれたりとか。細かくい ったら数え切れないけど、一緒にいるとほっと、安心できるの。悟君はね。」 「アスカはカッコイイとか、一緒にいたいと思う男の子はいないの?」 「私はそんなのいない。いままで何人もの人から付き合ってくれと、告白を受 けたけど、みんな軽かった。表向きだけの人や、格好良くないひとばかりだ った。もしかしたら、私の理想が高すぎるのかなー。」 「理想にすがるな、現実を見ろ。しかし、理想を捨てるな。」 「え?」 「もしかしたら、ふっと目の前に理想の人、あらわれるかもよ。」 「そうだといいわね。」 ふわっ 「だぁぁー!」 「たぁー!」 バシィィ! 「うぉーー!」 「だぁー!」 バシィィィ!! 「は!?」 「?どうしたの?」 (見つけたかもしれない。理想の人を。) 「変なアスカ。」 「もらった!」 「おもしろいですね。しかし!」 「何!クッ・・・」 ダン!!  開始から22分で74対68。もう小細工は通用しないか。しかもだんだんと嵐はペースを上げてきている。こっちは奇策に近い作戦ばかり立ててきたから、後16分もあるのに疲れてきている。こりゃちょっとまずいかな・・・ 「大丈夫か真志?」 「へ、ハーフタイムで休んでるんだ。こんなところでくたばってられるかよ。」 へ、肩で息してるくせによく言うぜ。まぁ、全国区のプレイヤーに前半何にもさせなかったんだから当然と言っちゃ当然か。そんじゃ、ここらで一気にプレーを変えてみるか。 「龍騎、長距離選手がこんなとこでくたばってなんか無いよな?」 「当然。それから、あの秋山。あいつはパスキャッチとリバウンドだけだ。そ れ以外はたいしたこと無い。」 「ならちょっと、最後の秘策にでるかな。」 「最後って・・・その後は策はあるのか?」 「大丈夫。俺に任せろ!・・・すいません。タイムアウト取れますか?」 「別にかまわんが、1回だけだぞ。」 「はい。」 「チャージドタイムアウトCチーム。」 「はぁ、はぁ。」 「ぜぇ、ぜぇ。」 さすがにあの3人には疲れが見えるな。だが、ここで負けてしまったら、後々ダブルスコアにもされかねん。 「後13分あるが、完全に嵐に引っ張られて相手のペースだ。このままじゃ、100%負ける。いま、この状態からの脱出は点を取り返す事じゃない。嵐を抑え、相手の流れを止めることだ。嵐のペースが崩れればあいつら全体が崩れる。まぁ、口で言うほど簡単じゃないが、1つ策がある。俺の最後の奇策だ。これが通用しなければ、まぁ、負ける。  まず、真志、千石兄弟は、マークを外して嵐を完全マークしてボールや、ゴールに近づけないようにしてくれ。体力が限界だと分かってのことだ。  それから、龍騎は飯井を頼む。それから、厳しいかもしれないが嵐も一緒にマークしてくれ。そして、俺は全員をマークして絶対にシュートを決めさせない。  得点力を99%捨てる超大勝負だ。辛いと思うが頑張って欲しい!」 あーあ、格好いいこと言っちゃったよ。だが、絶対にこのままで負けたくない。MVPに一泡ふかしてやろうじゃないかよ! 「信じろとは言わない。だが、俺は絶対にあきらめたくない!」 「誰が疑うかよ。こんな練習試合にも満たないような試合をやってるくせに、超真剣な目をしてる大馬鹿ヤロウを。」 「へっ、お前だってその真剣な目でさっきまでやってたじゃねぇか。」 「さぁ、いくか!」 「おーー!!」 「最後にどんな手を使ってこようが流れを作った僕たちには勝てませんよ?」 「そんなことは百も承知だったが、最後に大逆転劇を描いてみたいんでね。」 「おもしろいですね。」 「嵐!」 「はい!・・・何!?」 (4方を4人でマークですって!?) 「クッ・・・!」 「いただき!」 タッ! 「俺たち4人を相手にして、お前一人で何ができる!」 「お宅のキャプテン兼エースも4対1、俺も4対1。だが、1つ決定的に違うのは、俺らはお前らと違ってワンマンチームじゃないことだ。」 「何だと?!・・・俺たちは嵐を中心に置いているが、嵐だけで戦っている訳じゃない!」 「じゃあ、お前らは嵐が抜けたら、全国大会に・・・いや、県大会に出場できたか?いままでお前らは得点を量産してきたが、そのほとんどが嵐による物だろう?お前らは嵐抜きでは作戦も立てられないし、負けていたら切り返すこともできない。  お前らAチームは5人で一つのチームなんかじゃなく、嵐に4人がくっついているだけのチームじゃないか。お前ら4人が相手なら嵐一人よりも大したことは無い!だからお前らには俺は絶対負けん。」 「お前らだって、お前一人のワンマンチームじゃないのか?!お前が居なかったらあんな動きだってできなかっただろうが!」 「違うな。俺はポジションを言っただけに過ぎない。こんな即席チームだ、初めてチームを組むメンバーで作戦なんて立てるのは容易じゃない。だから、俺は「自分で考えろ」と、指示を出した。だから、あそこまでファインプレーを量産してくれたのは正直、予想外だった。  俺たちは、今日初めてあったばかりだし、技量も、考え方も五人それぞれだ。それに、何もお互いのことを知らなかった。しかし、勝ちたいという気持ちは俺たち五人共通だ。だから、少しでも仲間の足を引っ張らないよう、少しでもチームに貢献できるよう、場全体を見て自分のできることを一生懸命する。  その気持ちが五人全員にあるんだ。誰かに頼ろうと考えるヤツや、言われたとおりにしかできないヤツは、このチームには居ない。  このチームは、それぞれが全員のためにプレイしているんだ!勝利のために!!」 「クッ・・・・・・歯が浮くようなセリフを吐きやがって!!お前一人の無力さを思い知らせてやろうじゃねぇか!!」 ダン、ドン、ダ・・・フワッ・・・ 「な、何?!」 シュパ! (くそ〜。) 「流れ作るぞ!」 「ああ!!」 (へっ、一人で何ができるッてんだ。こっちの攻撃になれば・・・!?) パーン! 「何だと!」 ドーン!! (くそ〜!) 「後10分!」 (けっ、嵐を守ってる4人だって、もうバテバテじゃないか。これなら嵐はじきに・・・!なんて上手いディフェンスをするんだ、あいつら!) 「隙あり!!」 パンッ! 「まずい!」 パン、シュパ。 (くそ〜!!) 「ラスト8分、勝つぞ!」 「おー!!」 「まだ勝てるとおもッてんのかよ!無駄だッてんだよ!!」 シュッ! (入らない!) ガッ!! (軌道は完璧だったのに・・・) タッ、ドン、ドン、ドン。フワッ (何であんな遠いところから放って・・・・・・) シュパ! (入るんだよ!!) 「くそ〜!」 「!?」 (流れが、勢いがこちらに傾いた!?勝ったぞ、この試合!) ピィー!! 「Aチーム秋山、インテンショナルファール!!」 (ううぅー・・・) バシーン!! 「痛っ!」 ピィー!! 「Aチーム有田、インテンショナルファール!!」 (くぅぅー・・・) 「ラスト7秒!これで決める!!」 「さすがにやらせません!!」 ふわっ・・・バシーン!! (返された!!だと・・・) 「負けられませんよ!!全国一位がこんな即席チームなんかに!!・・・何!」 パシッ!!フワッ!・・・・・・シュパ!! ピィー!! 「試合終了!!」 (ホントに。末恐ろしいヤツらよ・・・) 「Aチーム143対Cチーム144で、Cチームの勝ち!気を付け!礼!」 「ありがとうございました!!」 第三話 カオルとタケシ 「全国一位だぞ、俺らは。それなのに何でこんな即席チームなんかに・・・」 「負けてしまったものは仕方ありません。それにこれは、公式試合でもありませんしね。それにしても・・・」 「良い試合ができた。こちらにしては、全国一位のチームと試合ができたのは、ホント、光栄だ。」 「随分さっき、大きいことを言ってましたね。間違っているとは言いません。彼らが、僕を頼り切っているというのは紛れもない事実です。しかし、彼らは中学一年の時、ほとんど初心者のような実力から、全国大会制覇を経験するまでに成長したんです。僕が居なければ何もできない、そこまで落ちぶれたチームではありません!どうしても、僕を頼ってしまっている罪悪感が彼らの中にはあります。その自分たちの心の弱さを充分彼らは感じています。  それに、ラスト7秒でのラストシュート。外したとき、カットされたときのことを考えてなかったでしょう?入らなかったら負けだと考えた上で。」 「ご名答だ。正直、あそこでカットされたとき負けたと思った。だから俺は本当に勝ったものだとは思っていない。あの時、あんな風になったのはホントに予想外だったし、運が良かったと思っている。」 そう、あれは本当に全員の予想を裏切っていた。俺も正直予想外だった。 「さすがにやらせません!!」 (逃がした!?だが、やらせるか!) ふわっ・・・バシーン!! (返された!!だと・・・) 「負けられませんよ!!全国一位がこんな即席チームなんかに!!・・・何!」 (付いてきたですって!?) 「もらった!」 パシッ!!フワッ!・・・・・・シュパ!! ピィー!! 「試合終了!!」 「コートにいる全員がスタミナが限界だったあの場面で、良く動いてくれたと思う。龍騎は。」 「しかし、負けは負けです。あそこまで追いつめられたのも事実ですし、僕がずっと何もできなかったのも事実です。結局は弱かっただけなんです。」 「練習試合だ。勝ち負けは気にしない。それに、あの戦い方は正々堂々とは言い難い。楽しい試合をした。面白い勝負ができた。それでいいんじゃないのか?」 「そう言って頂けるとありがたいです。しかし、自分にも、チームにも課題が見えました。  それで、これと言って相談なんですが、もう一度、一対一の1回勝負をして頂けませんか?」 「どうしてだ?」 「いえ、どちらのキャプテンの方が実力が上なのか、試してみたかっただけです。」 「先生!少し、宜しいでしょうか?」 「わたしも男だ!見届けよう!」 「君たち。儂に審判を任せてくれないかな?」 「いえ、結構です。どちらが勝ったかぐらいは自分たちで判断できますし、フ ァールはしません。自分たちで決着をつけます。」 「いえ、付いて下さい。きちんとした形式で決着をつけたいんです。なので、 お願いします。」 「分かった。審判を努めよう。」 (まぁ、任せるが。) (ありがとうございます。) 「悟ー、頑張れー!!」 「悟君、ファイトー!」 「嵐勝てー!」 「真のエースを見せてやれー!」 「それでは、薬師寺君対嵐君の一対一の試合を始める!ジャンプボール!!」 ふわっ・・・ 「うおぉー!!」 「たぁぁー!!」 (負けんぞ!嵐!!) (こちらこそ!!) バッシィィィン!! (両方取れない!) (よし、ここは・・・) 「!?放した!」 パン!タッ!ドン、ドン、ドン! (あの感覚的な時間の中で、流れのままボールを叩いたですって!) 「もらった!!」 「させません!!」 「な、何!」 バシーン!! 「まだ終わるには早すぎるんじゃないですか、この勝負。」 「へ、さっさと決めて終わらせてやるさ!」 「させませんよ。」 「だぁー!」 10分後・・・ 「はぁ、はぁ、いい加減にしやがれ!」 「へぁ、へぁ、いい加減に負けて下さいよ!」 さらに10分経過・・・ 「はぁ、はぁ、おま・・え、たいがいにしや・・がれ。」 「へぁ、へぁ、そ・・そちらこそ・・いい加減にして下さいよ。」 「長いな。もう20分たった。」 「さすがにこっちも見てて飽きてきたな。」 「おーい悟ー。そろそろ止めにしないかー。」 「勝手なこと言うな!まだ勝負付いてないんだよ!」 「嵐ー。そろそろ練習したいんだけどー。」 「キャプテン置いて、あなた方は練習始めるって言うんですか!」 「いや、でも長いんだよ、お前ら。なー。」 「なー!」 (お前らは何がしたいんだ!!) (誰があなた達をひっぱてきたと思っているんですか!本当、困ったものです。) 「嵐君よ。これと言って相談なんだが?」 「光で良いですよ。何ですか?」 「じゃ、光。このままじゃおそらく勝負はつかん。だから、ルールを変えよう。」 「おもしろいですね。どのようにですか?」 「今から一分間で入れたら勝ちと、守ったら勝ちに分けよう。どっちを選ぶ?」 「いたしかたありませんか。では、守る方をお願いします。」 「じゃ、俺は攻める方をやらせてもらう。観衆!これなら文句ないだろう!!」 「大いに文句ない。1分間は俺が計ろう。では、真ん中から・・・よーい!・・・スタート!」 ふわっ・・・パシっ! 「決めさせてもらう!!」 「負けませんよ!」 ・・・・・・ 「悟!!後五秒だぞ!!} 「わかってる、それくらい!!だぁー!」 「突っ込んできましたか・・・しかし!!」 (かかったな!) きゅゅゅーー。 「ボールを持って滑ってくるですって!?」 (っ!!防げない!しかし、かかとで滑ったままシュートなんて。) 「後ろに倒れながらなら打てるんだよ!!」 「しかしそれならブロックできるんですよ!!」 ふわっ、バシーン! (勝った!) 「甘いな、MVP!!俺の反射神経をなめるなよ!!」 バシィッッ!! 「ば、馬鹿な!!」 「だぁーー!!」 ズドーン!!ピィー!!・・・・・・ 「負けました。完敗です。」 「いや、俺はたまたまあの打ち返されたボールを取れただけだ。勝てたのもたまたまだ。」 (あれだけのハンデキャップがあったから勝てたんだ・・・本当の勝ちとは言えない。) 「今から一分間で入れたら勝ちと、守ったら勝ちに分けよう。どっちを選ぶ?」 「いた仕方ありませんか。では、守る方をお願いします。」 「じゃ、俺は攻める方をやらせてもらう。観衆!これなら文句ないだろう!!」 この時、光が守る方を選ばなければ、俺は確実に負けていた。  よくよく考えてみれば、守る方より、攻める方が有利だ。あくまで1分間で俺が入れるか、あいつが守るかだ。その場合、光が俺側のゴールにシュートしても、光の勝ちにはならない。そのため、俺がオフェンスに100%の力を入れることができる。その場合攻めるだけと、守るだけでははるかに攻める方が有利だ。  俺は、それだけのハンデキャップを付けて、ギリギリで勝ったんだ。これで胸を張って、「俺が勝った」なんて思えるはずがないだろう。 「薬師寺さん。あなたのおかげで決心が付きました。」 「何の決心だ?」 「MVPはいかなる状況でも、いかなる条件でも、その分野では負けることは許されない。ですから、僕は今日限りでMVPの看板を下ろします。それと、バスケットボール部には入部しません!」 「!?な、何を言ってるんだ嵐?冗談はよせ。」 「上段?いえ、冗談でしたね。」 (何で上段と冗談をこんな緊迫したムードで聞き間違えるんだ。) 「冗談ではありません。さっき、薬師寺さんが言ってたように、あの4人が、いえ、僕の仲間が、僕を頼り切って、僕を頼ったプレーしかできなくなってきています。このままだと、酷いようですが、みなさんの芽が潰れてしまいます。そして、皆さんが駄目になってしまいします。一人一人の可能性が花を開けなくなってしまいます。僕は、そんな風になって欲しくありません。  僕がいなくても皆さんで全国を取れる。そんな風になって行かなくちゃ駄目なんです!そのためには、僕は邪魔者でしかありません。  それに、僕は、自分の可能性に挑戦してみたいんです!様々なものを見て、様々なことをやってみたいんです。  皆さんに迷惑をかけると言うことは承知の上です。本当に申し訳ありません。」 何か、すごくアニメチックな展開だな。よっぽど作者は早く物語が進んで欲しいらしい。にしてもあり得なさすぎだろ、どう考えても。なんか面倒臭くなって、さっさと進めたようにしか思えないぞ、これ。 「薬師寺さん、ここで一つお願いなんですが、何せ考え無しに「入部しません」なんて言ったものですから、まだ、どこに行こうか決まってないんです。ので、部活動回りに付き合って頂けませんか?」 「別に構わないが・・・本当にやめるのか?バスケットボール。」 「はい、入りません。決意は変わりませんよ。」 「いや、俺がやめさせたみたいで急に罪悪感が・・・」 「大丈夫です。あくまで自分の意志でやめました。これから先は自分の責任です。それに、薬師寺さん。あなたに興味がわきましたのでね。」 受け取り方によっては気持ち悪い。俺は健全な男だ。お前には興味ない! 「冗談です。それでは、行きましょうか。」 「で、悟。あと半日どこで過ごすんだ?」 「やっぱりここはあえて、茶華道部だろう。」 「薫、いくらあの彼女に会いたいからって・・・」 「却下。あんなところの何がおもしろいって言うのよ!」 「どちら様で?」 「あら、さっきお宅の彼女と激戦を繰り広げてたのに、知らん顔で観てたの?」 「いや、俺が聞きたいのはそう言う事じゃなくて・・・」 「いろいろ話してたら、意気投合しちゃってね。友達になったの。」 (それに、龍騎くんに気があるみたい。) 「そ、そうなんだ。(し、しかし龍騎をねぇ)」 とりあえず、どこに行こう?特に行く当てもないしなぁ。・・・ん!? シュパ!シュパ!シュパ! ・・・・・・ 「誰だ!学校で手裏剣なんて物騒なもん投げてる輩は!へタすりゃ死ぬだろうが!!」 「悟。いつになくハイテンションだな・・・」 いやはや、流石にぶっ飛び過ぎてるからここらで正常な判断を。 「お見事。」 「き、貴様は!!」 「誰だ?薫。知り合いか?」 「誰だかわからんが、名前的に親しい関係にあったような、なかったような・・・」 「で、どなたさんで?」 「北条武。以後、お見知りおき願います。そして、剛!お前は今、ここでこの学園を去ってもらう。」 「ふざけるな!まだお前のこと30%しか思い出せんが、俺が学園を去る理由などあらん!」 「入試の時、忍術使っただろ。そうじゃなきゃ、貴様がこの学校に入学できるはずがない!せいぜい、中学出で就職が良いところだ!」 おいおい、またぶっ飛んだ話に突入したよ。 「忍術使って、カンニングして何が悪い!!カンニングはばれなければカンニングじゃねぇんだよ!」 「薫・・・それはお前の口から発するものじゃない。断じてお前が言っちゃいけない言葉だ。世の中の受験生に謝れ・・・」 「俺にばれてる時点で駄目じゃねぇか!!忍者育成学校を途中で中退したような輩の忍術が見破れないとでも思ったか!!お前のことだ。空似疑似の術でも使ったんだろ!」 「お前に確証はねぇじゃねぇか!それに、お前がそんなスマートな体付きしてるはずがねぇじゃねぇか!どうせ折込皮具の術でも使ってるだろう。さらけ出せよ醜い体を!!」 「へ、彼女の一人もいないお前がよく言うぜ!」 「残念だったな!!俺はもうできたんだよ、彼女がな!!」 あの関係を彼女と言っていいものかどうか・・・ 「な、なんだと・・・ど、どうせお前の思いこみでしかないんだろうが!!何なら合わせてみやがれってんだ!」 「ああ!!いいだろう。たっぷり見せてやるよ!」 「どうせブスなんだろ、お前の彼女だったらよ!」 「な、なんだとー!!」 残念ながら超美人です。 「今のは聞き捨てならん!勝負しやがれ!!」 「勝利こそ正義か。古いんだよ!!お前の考えは!」 「剛田ファミリーども!!手を出すなよ!!」 「あの、僕も剛田ファミリーですか?」 「当然!」 えー!言っちゃたよ。光いつの間にか剛田ファミリーにされちゃったよ。って、俺の頭も段々おかしくなってきた。そろそろ限界だ・・・ 「おい、お前ら。勝負も良いが、いい加減にしろ。とりあえず、ここじゃ通行人の邪魔だ。場所を移動して、健全な勝負をしろ。」 「す、すみません。取り乱してしまって。健全な勝負ですか・・・それではAG部に行きましょう。そこで決着を付けます。」 「なぁ、悟。AG部って何だ?」 「わたしにも教えて。」 「わからん。AGは略語と踏んで間違いはないだろうが、「AG」なんてそんな部は俺も聞いたことがない。」 「えー、そうなの?」 「行ってみてのお楽しみですか。」 「そのようだな。」 「付きました。ここが「AG部」こと「アニメ、ゲーム部」です。」 「アニメ、ゲーム部ねぇー。」 なんなんだ、このそそられる感じは。 「大丈夫です。このアニメ、ゲーム部は健全な普通のおもしろいアニメやおもしろいゲームしか取り扱っていません。決して、ヲタク系の部じゃありませんから誰でも大丈夫です。」 何か信憑性に欠けるな。まぁ、現物を見なきゃ何とも言えないが。 「うぃーす。7,5名様入りまーす。」 「了解。7“点”5名様どうぞ〜。」 何で7,5なんだ?というより何で“点”を強調する必要があるんだ?まぁ、他にもいろいろと疑問点はあるが・・・ 「て言うか、何で7“点”5名なんだ?誰だそんなルール決めたのは?俺はそんなもん認めた覚えないぞ!そもそもルールなのかこれ?合い言葉か何かなのかこれ?」 「何言ってんですか。部長が決めたルールじゃないですか。しかも提案から進行、決定まで全部一人で決めたクセして。っていうか、何の意味があるんですか?その入ってくる人プラスマイナス0,5をすることに。」 「いや、特にないと思う。どちらかと言えば迷惑なだけだと思う。」 「じゃ何でそんなルール決めたんですか?ホントに迷惑極まりないだけじゃないですか。新入生から白い目で見られるからやめましょうよ。」 「え、でも、あの新入生使ってくれたじゃない。合い言葉か何か。」 「なんでそんな曖昧なんですか。そもそも恥ずかしいとは思わないんですか?」 「いやー、恥ずかしいよ。でもさ、ヲタク系の部活だとか、学校の恥さらしだとか言われ続けてきたんだ、これ以上恥ずかしいことはないだろう?」 「じゃ、少しでもその「恥」を減らす為に努力して下さいよ!これ以上増やしてどうするんですか。」 「いやね、そんなこと言われても・・・」 何なんだ。ここは・・・ 「あの、半日ここで僕たち活動させて頂きたいんですが。」 「ああ、別に構いませんよ。あと、副部長の藤田です。」 「部長の橘だ。」 「はぁ、どうも。」 絶対厄介ごとに巻き込まれる!俺の直感がさっきから警戒音鳴りっぱなしだ。 「なんかここ、不健全で陰湿なかおりがぷんぷんするわよ。」 「わたしはこういうの少し苦手かな・・・」 やっぱ、か弱き乙女達には無理がありすぎる。(ホントにか弱いかどうかは少々危ういが・・・) 「俺も少々無理だ、悟。退出しても良いだろうか。」 俺も無理すぎる。俺の知識じゃ、「ヲタク」には太刀打ちできない。 「な、なぁ、北条君。俺たちは他の部から回りたいんだが・・・」 「いやー、うぃーすって言っちゃいましたしねー。そう簡単にはねぇー。」 そんな重要な意味は持ってないだろう!「うぃーす」には! 「武、決着を付けるならさっさと付けるぞ。なんならお前の試合放棄でも良いがな。」 「遂に呆けたか、剛。いや、前からだったな。すまなんな。」 「その様子だと俺の勝ちで良さそうだな。俺たちはこんなふざけたところに長時間居たくないんだ。帰らせてもらう。」 (今日は妙にクールだな、薫。北条君と会ってからか?) 「帰るが良いさ。しかし、貴様の負けだ。」 「何だと!!?」 「ああ、俺らは帰らせてもらう。少々空気がよどんできた気がしてきた・・・」 「心外ですな〜、人を見た目で判断するというのは。それに、どこからどう観たら僕たちがヲタクに見えるって言うんですか?全くもって健常な高校生じゃないですか。」 嘘付け!じゃ、何で部活動の活動着がコスプレなんだ。研究部やらの類なら別にそんな服着なくても良いだろう。それに、この部室全体に張り巡らせるように設置してあるフィギュアやらは何だ?まだ良いのは「ヤバイ」物がないことぐらいだ。最近のヲタクは「それ」系を扱ってなかったらヲタクって言わないのか?普通のアニメでも、入りすぎた場合はオタクって言うんじゃないのか?しかも、見た目とか中身とかっていうのは、この場合、関連してくるんじゃないのかよ。 「まぁ、そこまで言うのなら勝負で決着を付けましょう。」 「何故に?!」 そこまでヲタクじゃないことを証明したいですか、あなたがたは。 「では、ついでです。僕たちの勝負も一緒にやって、団体戦にしましょう。AG部対・・・」 「剛田ファミリーだ。」 「ちょっと、私は剛田ファミリーに入った覚えはないわよ。」 「その通りだ。せめて、一年生隊とかにしてくれ。」 「それでは僕も入ってしまいます。」 「そんじゃ・・・」 とか、何だり言った結果・・・ 「では「AG部と北条君」対「健全な一年生」で宜しいでしょうか?」 なんでいつのまにか光が司会してるんだ?しかも、これ認めちゃったら今回の定義の意味ないんじゃないのか? 「いや、さぁ、こんなんじゃ、定義がさぁ・・・だから・・・」 「オーケー!」 何ー!?・・・・・・馬鹿ですかあなた方は。 「では、どのような方法で決着を付けますか?」 「我らAG部が普通であるというのを証明すれば良いんでしょ?なら両者で一般常識をあて合えば良いんじゃないかな?」 「それじゃこっちの一般常識とあなた方の一般常識ではずれが出てくるからまずいでしょう。」 「それじゃ・・・・・・」 とか何だり言って小一時間経過・・・(段々面倒臭くなってきたな) 「では、僕と大和さんで問題を出しますので早押しで皆さん答えて下さい。答えられた人から「普通人」として抜けていってしまいます。では、始めます。」 何か全体的に趣旨が変わってきていないか?俺たちまで変人扱いじゃないか、これじゃあ。  しかも、龍騎は特撮専門だ。そんなヤツに問題出させたらどんな問題が飛び出すかわからんぞ。 「第一問。パンはパンでも食べられないパンは?」 !?そもそも常識問題じゃねぇだろ。なぞなぞじゃねぇか。 「ルパン三世!」 「違います。」 えーっ!!それはないだろう、橘部長。 「甲板!」 お前も馬鹿か、真志。 「違います!ヒントは堅いものです。大ヒントすぎましたかな?」 ここまで言ったらもう分かるだろう、みんな。 「フライパン。」 「違います!どうしてあんな大ヒント与えたのにそんなおかしな答えが出てくるんですか!?」 えーー!!ち、違うの?!っていうか一番近そうな答えじゃないの、これ。しかも、なんでそんなみんなして「空気読めよ」みたいな顔で見るの。 「悟・・・それは無い・・・」 お前に言われたかねぇよ。 「凸版。」 「正解です!新井さん。」 な、何で? 「アー、そうか凸版か〜。」 「忘れてた、凸版。」 一般化されてるのか、この答え?俺はこのなぞなぞで「凸版」なんて言葉初めて聞いたぞ。 「さーて、新井さんが一番に抜けましたよ。」 「えへへ、一番乗り。頑張ってね、悟君!」 「ああ、やってやろうじゃないか!この奇妙なゲームを。」 「では次の問題行きまーす!」 なんでこんなハイテンションなんだ?聞いてて腹が立ってくるぞ! 「では次は俺が出そう。第二問。ロウは気体から液体、液体から気体になると体積は小さくなる。しかし、質量は変わらない。これは全ての物質に共通して言えることかどうかと、その理由を簡潔に述べよ。」 ホッ、マシな問題が出た。この流れでいけばまた変な問題が出るかと思ったが、これなら・・・! 「全ての物質に共通していることではない。水は例外であり、水から氷に状態変化するとき体積が大きくなると共に、密度も大きくなる。そうすると、水は当てはまらないので、全ての物質に共通して言えることではない。」 「完璧だ。正解。今言ったとおり、水は例外なので全ての物質に共通していえることではない。説明も今の通りだ。」 は、早い。反応速度が尋常じゃなかったぞ今の。なんか、人間の反応速度の限界を垣間見たような気がする・・・ 「お先に失礼させてもらうわ。」 (ふふ、やった。) 「アスカどうしたの?そんなに嬉しそうにして?」 「え?!な、何でもないわよ。」 「・・・ふーん。」 「さて、お姫様方がご退場なさったところでクイズ・・・いえ、問題を再開したいと思います。」 お前は遊び半分でやってんのか光よ。今、素で間違えただろお前絶対。 「では、第三問。あまり味を体験したくないと多くの人が思うかきは?」 光の問題はこんなような「なぞなぞ」系が続き、龍騎は、空気を読んでか読まないでか、まともな問題(常識問題)を出してきた。(ちなみに光の第三問目の答えは「足掻き」だそうな。)そして・・・ 「おーい!みんな。今、アニメゲーム部の方で何かやってるみたいだぞー!」 「なにをやってるんですか?」 「えーと、勝負だそうだ。たしか、「アニメゲーム部」対「剛田ファミリー」だっけ?」 「剛田っていえば、師匠じゃないか?」 「ああ、たしかにそうだ。」 「確か、薬師寺さんや、嵐さんとかも一緒じゃなかったですか?剛田さんと。」 「では、僕らも、拝見しに行きますか。」 「そうしましょうか。」 「こ、これは?!」 「剛田さんと、薬師寺さんが残ってる!?」 気付いたら、数多あるあの問題に答えられてないのは既に俺と薫、橘部長と北条君だけになっちまった。おかしいだろこれ絶対。  それにしても、あの二人は一騎打ちをするために答えないのか、それとも本当に分からなくて答えられないのかどっちなんだ?  とりあえず、俺はここで抜けないと「変人」になってしまう。ある意味では、俺自身の決勝戦か。これに答えられないとただの馬鹿だ。 「残りはあと四人なので、あと三問ですね。それでは、問題!人が急に逝ってしまうことを表した「くり」は何?」 ピンポン! (しまった!?っていうか、もともとこんな装置さっきまであったか?) 「びっくり!」 「・・・・・・」 (終わった・・・) 「・・・違います。」 (ならば!!) 「ポックリ!!」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・正解です!」 「よっしゃ!」 とりあえず名誉は保った。とりあえずは良しとしよう。 「ラスト二問だ。問題!」 ざっ! 薫と北条君が戦闘態勢に入った!?(のか?)だがここで二人とも答えたら、橘部長の立場が無くなるぞ。 「イギリスの正式名称は何?」 「あ、知らね。」 「あー俺も駄目だ。」 「駄目だな君たち。答えは・・・ローマだ!!」 (しら〜) 橘部長。どうやったらその頭で三年生やってられるんですか。 「ふ、不正解です。」 「なんだと〜!!ローマ以外の何があるって言うんだ!そもそもこれは常識とかではなく「雑学」の部類に入るんじゃないか?!」 でも、ローマはないだろローマは・・・ 「仮に不正解だったとしよう。正解は何だ?」 「って、まぁいいが。正解は「グレートブリテン北アイルランド共和国」です。」 「そんな国名聞いたこと無いぞ。お前、妄想の中で旅行してんじゃないのか?」 完璧に的はずれの答えだしときながらひどい言いようだな。 「では、聞くが、イタリアの首都は何だ?」 「大阪だ。」 明らかに間違った答えを即答って、大丈夫か?(しかも、真顔で真剣に「なんて当たり前のことを聞くんだ」みたいな顔して。) 「イタリアの首都がローマだ。あんた頭だいじょ・・・」 「止めとけ龍騎。これ以上やってたら頭がいかれかねんぞ。」 「では、問題を再開しましょう。問題、人が概ね一日に必要とする酸素はどれくらいですか?」 問題がまともになった?とりあえず、光も真剣になったみたいだな。 「八百・・・」 薫、知ってるのか?・・・まさかな。確か答えは・・・830グラムか、840グラムのはずだ。 「830グラムだ!」 「いや、840グラムだ!!」 「あれ、どっちだっけ?」 「確か830じゃなかったか?」 「いや、840だろう。」 「しかしこれで、勝敗が決まるわけだな。」 「俺たちは師匠が勝つ方に300円賭けたんだ。どうか、840であって下さい。」 「僕らも「健全な一年生」チームの方に賭けたんです。これで840じゃなかったら怒りますよ。」 「俺は北条の方に賭けたんだ。勝ってくれよ。」 お前らは何、賭けてんだ。っていうかどんだけいるんだ、この野次馬達は。 「やはり、阿呆どもが。正解は50リットルだ。」 はい、おかしな人は放っておいて。 「正解です橘部長!!」 「な、な、なにー!!」 「じょ、冗談ですよ。それでは、真面目に。正解は・・・」 (・・・ごくり。) 「・・・何でしたっけ?えーと・・・ハイ、では次の問題。」 「ごまかしやがった?!」 この場合はとりあえず保留と言うことか。(にしても大丈夫かよそんなんで・・・) 「問題。・・・」 「そんな馬鹿な、俺が剛より知識で劣っているというのか・・・」 「貴様の知識はその程度か?俺に勝とうなんざ100万年早いんだよ!!」 (グッ、言い返せないのが悔しい。) まさかあんな問題で幕を閉じるとはな・・・ 「問題。「ダンゼン」「ダントツ」「ダンダン」のうち、日本語のみの構成では無いものはどれ?」 「寸断!!」 誰かあのかわいそうな人を病院へ連れて行ってやってくれ・・・ 「ダンゼン!」 「ダントツ!」 おまえらは言葉遊びをしているのか?と一瞬思った。 「ふ、お前の負けだ、剛!ダントツは、群を抜くなどの「ぐん」がなまって、ダンになり、トツは突出するなどの「とつ」であり、それがくっついて、「群を突出している」という意味で「ダントツ」という言葉があるんだ。  それにダンダンは段をどんどん積み上げるという形をとらえて、ダンダンという日本語ができたんだ。  そうなれば最後に残るのは「断然」ダンゼンだ。俺に勝とうなんて100万年早いんだよ!」 今、漢字使って「ダンゼン」って言わなかったか?しかも、そんな由来聞いたこともないぞ。北条君よ。 「北条さん、そんな由来どこで聞いたんですか?正解は勿論「ダントツ」ですが、どこでそんなでたらめを?」 「・・・え?」 「こいつは忍術学校の疫病神といわれるほど、頭が悪かったし、勉強もしなかった。だから国学のテストではいつも組の足を引っ張って平均点を下げてたんだ。だから、こいつに知性を求めることじたい絶望的だ。」 絶対、北条君と出会ってから薫、キャラ変わったぞ。というか、知性を求めることじたい絶望的な薫に、「知性を求めることじたい絶望的だ」なんていわれたらもう終わりじゃねぇか。 「みんなは今後、こいつのことを「アホの武」か、「ノーインテリー北条」と呼んでやってくれ!」 「オーケー!!」 ひ、ひどすぎる。たった1問間違えただけなのにこんなに言われるなんて。北条君半泣きじゃないか・・・ ってなかんじで、AG部との対戦は幕を閉じた。決着がついた後、北条君は虚ろな足取りで、細々と去っていった。(ほんとにかわいそうに・・・)  橘部長は、実は凄い人らしく、10日間ぶっ続けでソフト制作に取り組んだあげく、今回にいたり、そのままやってたから幻覚や、幻聴の症状が現れていたらしい。そのまま、病院に搬送された・・・ (ちなみに、MEIKING A&G SUPERESAYという、誰でも超簡単に、自分の思い通りのアニメやゲームを、ほぼ100%忠実に作れるソフトを作っていたそうだ。それが完成すれば、誰もがのどから手を出すほど欲しがる物になるそうな。)  今日もだいぶ豪快に過ごして、日も暮れてきたし、これからどうしようか? 「それなりに帰ってもいい時間になってきたが、これからど・・・」 「生徒の皆さん、下校時間になりました。早急に帰り支度をして、帰宅して下さい。繰り返します。生徒の皆さん、下校時間になりました。早急に帰り支度をして、帰宅して下さい。絶対事項なので従って下さい。」 「なんだ?こりゃ。」 「これは下校のアナウンスだ。」 「そんなことは聞けばわかる。なんでこんなものが流れてるんだ?」 「この学校は下校時間を守らないと罰則が与えられるんです。これは、開校当時から続いているらしく、僕たちにも詳しい理由はわかりません。」 「前回、下校時間を守らなかったために退学になったやつもいるらしいから、これは守っといた方がいいぞ。」 そんな程度のことで退学になるのか?まぁ、守らない理由もないが・・・ 「そんじゃ、お咎めの無い内に帰りますか、皆さん。」 「それでは、また明日。」 「そんじゃ、じゃあな。」 「じゃあね、みんな。」 「じゃあな皆の衆!} 「じゃあ。」 「明日、またみんなでまわろうぜ!」 「そういうことで、さようなら、っと。」 なんか初対面なのに、すごく親しくなったな、あいつらと。なかなか、おもしろい連中がたくさんいて、なんか圧倒されたな。 「悟君どうしたの?そんな嬉しそうにして?」 「いや、あいつらとの今日一日のことを思い出してたら、つい。」 「今日は色々なことがあって、色々な人と友達になったもんね。」 「俺は少々疲れたがな。」 お前だって、充分楽しんでたじゃねぇか。よく言うぜ。 「剛田ファミリーが一気に増えたぜ。明日もファミリーを増やすため努力に励んでくれ、部下ども!!」 ようやく、いつもの薫に戻ったか。せいぜい問題を起こさないくらいならさっきのようでも良かったんだが。  にしても、ちょっと小腹が空いたな。ここらで・・・ 「なぁ、礼奈。旨いカレーまんの店があるんだが・・・ちょっと寄っていかないか?」 「え?いいけど・・・」 「なぁに、下宿先からそんなに遠いところじゃ無い。下宿を探しているときに見つけたんだ。」 「じゃ、それなら。」 「あー・・・オホン。俺らは先に下宿先に帰ってるぞ。お二人さん。」 「ちょ、どうしたんだ?俺様にも紹介しろ、その店。」 「(空気を読め、薫!)」 「(な、なんだよ。俺様だって、カレーまんが食いてえんだよ。小腹が空いてんだ。いいだろうが!!)」 「(カレーまんなら俺がおごってやるから勘弁しろ。行くぞ!ホラッ!)」 「(チェ、分かったよ。)」 「じゃな。」 「ああ。」 「(ちゃんとおごれよ!)」 「(わかってるって。少々財布が厳しいが・・・)」 第4話 お嬢様 「ここだ。」 「遠山ノ金旨カレー店?」 「んじゃ、俺、買ってくるよ。」 「はい、じゃお金。」 「いいって。とりあえず今日は俺のおごりってことで。俺が誘ったんだしな。」 「え、じゃあ、快くおごらせてもらいます。」 「どーも。」 たまには、カッコも付けておかないとな。70点・・・かな? 「いあっしゃいませ。何にいたひましょう?」 「それじゃ、特製金旨カレーまんを2つ。」 「ごめんね〜。あと1つしか残って無いんね〜。」 「そんじゃ、1つでもいいので1つくださ・・・」 「特製金旨カレーまんを1つ、大至急でくれ。釣りはいらん。」 「すまんね〜、この1個で最後やんね。」 「貴様、金ならいくらでも出す。それをよこせ。」 「すまんな。お金で買えない価値がある。買えるものはなんとかでだ。」 「では、そのなんとかで払おう。それをよこせ!」 「生憎だが、そりゃ無理だ。あきらめてくれ。」 「御木財閥の久美子お嬢様の頼みでもか?」 「!?」 御木財閥って言えば、世界的に名の知れてる大財団じゃないか!このおもむきから見て、言ってることは嘘ではないと思うが、何でこんな所に? 「クッ・・・だが、駄目だ。俺にだって男の面子っていうもんがある。こればっかりは何が何でも譲れん!」 「仕方あるまい、ならば力ずくで貰うしかないか。」 はぁー。また、こんな展開か・・・(ふつうの常識人なら、途中であきらめるだろうに・・・) 「おばちゃん。ちょっと、保温室にでもこれ、いれといてくれ。すぐに取りに来るから。」 「あんま〜、がんばっしゃいけ。」 「ああ!」 「で?どうやって、力ずくで奪うってんだ?」 「できれば、話し合いでさっさと終わらせて、お嬢様のところにさっさと届けたかったんだが。仕方あるまい、木刀を一本貸してやる。取れ。」 「こいつで・・・か?」 「とりあえず、ハンデくらいはつけてやる。そうでないと面白くないからな。利き手の反対、左手だけしか使わん。これで充分か?」 「ずいぶんとなめてくれるもんだな。御木家の執事が、赤っ恥かいても知らないぞ?」 「減らず口の叩けるのも今のうちだ。」 「さぁーてね。」 一方そのころカレー店では・・・ 「最近の子供らは若ひんね〜。」 「お!おばちゃん元気?」 「元気ね〜。で、何差し上げましょうけ?」 「んじゃあ、いつもどおり、おばちゃん特製の金旨カレーまんを貰おうか。」 「ごめんね〜。今、あひにく鬼山学園の生徒さんたちが、最後一個をかけて、がんばっしゃてるみたいやんで、とりあえず、売り切れなんね〜。」 「ふーん。でも、1個は残ってるんだ。んじゃ、三年生の凪先輩が間とって、買っていったって、そいつらに言っといてくれ。大丈夫、それでそいつらたぶん了解するから。」 「そ、そうけ〜。それじゃ、はい。300円ね。」 「はい、300円丁度。じゃね。」 「毎度あんがとごぜました。」 こいつ、できる!なんか、オーラが出てるって言うか、幾多の戦いを戦い抜いている猛者だ。こいつは。 (こいつやるな。まだ、手合わせしてないが、そこいらのやつとはひと味もふた味も違う。) 「いくぞ!」 「負けるかぁー!!」 バシィィ!! 「クッ!!」 「やる!・・・だが!!」 バシッ、バシッ 「だぁー!!」 バッシーン!! 「痛ぅぅ!チィッ!」 本当に利き手じゃねぇのか?!このパワーとスピードは尋常じゃねぇぞ!一瞬でも気を向いたら即ゲームオーバーだ。 「その程度の腕で御木家に刃向かおうとするとはあまりに無謀とは思わんか?」 「まだ始まったばっかりだ。目にもの見せてやろうじゃねぇか!」 「その減らず口、いつまで続くかな?」 「へ、こっちのセリフだ。」 ビシッ!!バシィィ!! 「ここいらで本気、出させてもらうぞ。」 「な、何?!」 「だぁー!だーりゃー!!」 ビシッビシッ、ビシッビシッ、バシィィィ!! 「く・・・少しはやるようだな。少々、ハンデが大きすぎたかもしれんな。一度言ったことを最後まで守り通さないのは心許ないが、負けるわけにはいかんのでな。ふ、幸運に思え、本気で勝負してやろう。」 「へ、光栄ですよ。御木家の執事に、本気で戦ってもらえるなんてね。」 「今回だけは同情してやろう。これから貴様がみるのは、ただの地獄でしかないからな。」 へ、マジのようだな今回は。さて、無事に帰れるかな、礼奈のもとに・・・ 一方そのころ待たされたお嬢様方は・・・ 「もー遅いなー隼のヤツ。私を餓死させるつもりか?こんなところに一人で待たすなんて。命令に忠実なのは良いのだが、もう少し執事として考えられないのか?まったく・・・」 「悟君遅いなー。もう1時間くらい経ったけど・・・何かあったのかな?ちょっと心配になってきたな・・・」 「はぁー・・・」 「よし、行こう!!」 「・・・だが、「待っていて下さい、お嬢様。」と言われたし、ここいらの地域の事情もよくわからんしな・・・」 「・・・けど、あれだけ張り切って、「んじゃ、俺、買ってくるよ。」って言って行ったしな〜・・・」 「だが仕方ない。これ以上は心配だ。様子を見に行こう!・・・けどなぁ・・・」 「けど、何かあったら、大変だし、様子だけでも見に行こう!けど・・・」 付き添い、欲しいな〜。 (そりゃ、一財閥の超かわいいお嬢様なんだから、誘拐とか、たぶらかされたりとかあるから、一人で行動してちゃ危ないし・・・」 (それに、一人で行動できたとしても、常に周囲に目を配っているのはちょっと変だし・・・) (周りを見る限り、安全そうなのはあの鬼山学園高等科の制服を着た、女子高生くらいか・・・) (周りを見る限り、大丈夫そうなのは、あのお嬢様風の女の子くらいか・・・) (仕方ない、背に腹は代えられんしな。) (仕方ない、一人で行くくらいなら。) 「なぁ・・・」 「ねぇ・・・」 「あ、そっちからどうぞ。お嬢ちゃん。」 「ああ。」 (何なんだ?こいつの人を子供扱いするような態度は。) (これが、「ツンデレ」っていうのかしら。) 「ちょっと、頼みがあるんだが、あの「金旨カレー店」ってとこまえで一緒に行ってくれないか?」 「ええ、別に良いわよ。」 「すまんな。」 「どーぞ、どーぞ。」 そんでもって、一方光や、真志達は・・・ 「あれー?先に帰っとったんか、お前ら。」 「これはこれは、こんにちは、矢夜生さん。」 「もうこんにちはって、言う時間でもないやろ。それに、「矢夜生さん」じゃなくて、「茜」でいい言うとるやろ、全くもう。」 「これは失敬。ですが、今日は一日何処で何を?」 「ずっと、お好み焼きやたこ焼きつくとったんや。なんせ、調理部に体験入部したら、「体験活動!!」言うて、食堂でそれつくって売れ、言われたさかいな。そしたら、ウチの顔が利いてか、お好み焼きの味がうまくてか、昼時だけ大繁盛やったんや。もう、肩やら腰やら痛くてかなわんわ。」 「それはそれは可哀想に。」 「それ、ウチに向けて言うとんのやろな?」 「いえ、たこ焼きやお好み焼きを買ったお客さん達にたいしてです。さぞ、人生上の失敗を感じたことでしょう。」 「やっぱりな。少しは自分の彼女を褒めたり、心配したらどうや。」 「ですが、矢夜生さんの料理は・・・」 「止めてくれ光。思い出しただけで吐き気がする・・・」 「なんや、その言い様は。」 「いや、昔食べた、お好み焼きの味が・・・」 「いや、あれはちょっとワザとじゃないがさすがに悪かったと思うてる。だがまさか、失神するとは思わへんだな。」 「笑い事じゃねぇよ!危うく天国への階段が見えたんだからよ・・・」 「ですが、二日に一回、その「インビジブルフード」を食べてる僕の身にもなって下さいよ。慣れたとはいえ、ひどいときは、三途の川が見えますよ。」 「そんなにひどいの?茜さんの料理。」 「ひどいってもんじゃねぇ。あれは毒だ。食べ物のまずいという領域を遙かに凌駕していやがる。しかも、ちょっと経ったら副作用付きだ。どうして普通の食材であんなもんが作れるのか不思議でかなわん。」 「ひどい言い様やな、それにしても。ほら、見た目むっちゃ、うまそうやん。とりあえず、1パック余ったから、1個食うてみっか?」 「断固拒否だ。」 「申し訳ないですが、遠慮させていただきますよ。」 「しゃあないな。じゃ、アスカどうや、むっちゃうまそうやろ?」 「すごくおいしそうじゃない!!それじゃあ、一つ・・・」 「やめておけ!俺も昔それに騙されて死にかけたんだ。」 「やめておいた方が賢明ですよ。素人が吸収すると、植物状態にもなりかねません。」 「こんなにおいしそうなのに?でも、美しいものに駄作はないと思うけど。」 「アスカさん。そう思うのなら、まず、作った本人の試食を見てから判断した方が良いと思いますよ。」 「な、何やて!う、う、うまそうやないか・・・それじゃ一つ・・・」 パクッ 「・・・なんや、全然大丈夫やないか。」 (無茶苦茶躊躇って、手を伸ばしたくせによ。) (完全に顔が「それ」を受け付けるような顔してなかったじゃないですか。) 「なら、私も。」 パクッ 「結構いけるじゃない!!これ食べるだけに学校に通っても良いわ!」 「?どうしましたか?矢夜生さん?顔色が悪いようですが・・・」 「は、はは、ははははは。緑の宇宙人が追いかけてくるよ〜!!にっけろ〜!!」 (自らの毒で、やられた。) (とりあえず救急車を呼びますか。) 「どうしたの?茜さん。私は何ともないけど・・・」 光のガールフレンドが救急車で病院に搬送されている最中・・・ 「はぁ、はぁ、はぁ。」 「いい加減観念したらどうだ?その体では既に、もう抗うこともできまい。」 「残念ながら・・諦めは・・・悪いほうなんでね。とりあえず、さっさととどめを刺さなかったことを後悔するんだな・・・」 「勝負はついたのにとどめを刺せというのか貴様は?」 「誰もそんなことは言ってない。少々・・俺を本気にさせたみたいだ。日常生活で本気を出したら後々体が動かないんで、あまり気は進まんが、負けっ放しは性に合わんのでな・・・」 「そんなボロボロな体で何ができる。・・・!!?」 バシィィ!! (クッ重い!) 「だぁぁぁーー!!」 バン!!ビシィィ!! (さっきより各段に強いだと!このままじゃ、負ける。) 「だぁーー!だぁ、だぁ、だぁ、どおりゃーー!!」 「グハッ!!・・・チィィ!・・・だが俺は、負けるわけにはいかないんだ!お嬢様のためにも!!・・・だぁーー!!」 バシィィィン!! 「ぐっ・・・ぶはっ!・・・だが俺は、礼奈に、金旨カレーまんを届けなくちゃいけないんだ!絶対に勝たなくちゃいけないんだ!!うおぉぉーー!!」 「だぁぁー!!」 「やめろーー!」 「え?」 「何?」 「まったく・・・帰りが遅いと思ったらこんなところで油売っていたのか。ご主人様を一人置いて、そんなことをしてて良いと思っているのか?」 「す、すみませんお嬢様。すぐに決着を付けて、お望みの品をお持ちします。少々お待ち下さい。」 「馬鹿者!誰がそんなことまでして欲しいと言った。だから金持ちは自分勝手だとか、社会体知らずなどと言われるんだ。少しは常識の分別ぐらい自分で考えろ!」 「も、申し訳ございません、お嬢様。」 「わかったのならよい。」 「あんまり心配かけないでよね。ただでさえ騒動に巻き込まれやすいんだから・・・」 「礼奈、すまん。あれだけ張り切っていったのに届けられなくて。」 「別に良いよ。気にしてない。だって、悟君が行ったときにはもう売り切れだったんでしょ。それなら仕方ないよ。」 売り切れ?そんなはずはないんだが・・・ 「礼奈、一つ聞くが、あの店に行ったのか?」 「うん、行ったよ。そしたら、そこのおばちゃんが、「ごめんね〜売り切れたんね〜。」って言うから、「じゃ、これを買いに来た鬼山学園の生徒がどこに行ったか知りませんか?」って聞いたら、「河原の方にっ決闘しに行ったよ〜」って教えてくれたから、来てみたの。」 「ほんとに売れ切れたって、言ってたのか?」 「うん、そうだよ」 「どういうことだ?俺たちが行ったときには確かに一つあったはずだろうが?」 「とりあえず、もう一度店にいってみるか。」 「そうするのがいいようだな。お嬢様、いかがなさいますか?」 「まぁ、それが良いようだな。」 「では。」 流石と言うべきか、なんと言うべきか。 「最後の一個は、「3年生の凪先輩が間とって買っていったって、いえば大丈夫だから。」って言って、鬼山学園の凪君が買っていたよ。あ〜、やっぱり駄目やったけ?」 「売ったんですか?!」 「ごめんね〜。つい、大丈夫だっていふから〜。今度、超金さん特製金旨カレーまんを作ってあげるから、今回は堪忍してね〜。」 「いえ、あまり気にしないで下さい。お詫びの言葉をいただけるだけで満足です。」 「では、今度こそ、おいしい金旨カレーまんが食べられることを期待しているぞ。」 「どうもね〜。今後ともよろしくね〜。今度はきちんと用意しとくからね〜。」 「じゃあ、じゃあな、おばちゃん。」 「毎度ね〜。」 そのころ龍騎と薫は・・・ 「おい!いつになったら着くんだ?もう2,3時間は歩いてるぞ。」 「たぶん、後五分もあれば着く。それまで我慢しろ。」 「さっきも同じこと言ってたじゃねぇか。ホントは道に迷ったんじゃねぇのか?」 「そ、そ、そんなわけないだろ。あと五分で到着してみせるさ。」 (こりゃ、ちょっとまずいかな・・・) 俺達が悟達とわかれてすぐ。 (おごるとはいったが、絶対薫のことだから、300〜400円以上の物を買えって言うんだろうなぁ。とりあえず俺も何か買ってきたいし、今の俺の財布じゃ、ちと厳しいか・・・) 「で、どこのカレーまんおごってくれんだ?」 「別にカレーまんをおごるなどとは一言も言ってないぞ。まぁ、心配するな、少し遠いがすぐ着く。」 (本当は少しどころか物凄く遠い上、俺も何回かしか行ったことがないから、かなり時間を食うと思うが、行ってる最中に諦めて、「もういいから、近くのコンビニで何か買ってきてくれ。」って言ってくれれば大バンザイだ。) 「なぁ、下宿からどんどん遠くに向かって歩いていってるような気がするんだが、大丈夫なのか?ちゃんと帰れるんだろうな?」 「大丈夫だ、任せておけ。」 (とは言ってみるが、俺も目的地に着けるかどうか心配になってきたな。適当にごまかして帰るかな。) 「なぁ、薫。今回は諦め・・・」 「龍騎、分かってるだろうな?俺を怒らせるとどうなるか?・・・にしても、さっさと着かんのか、その店?」 (別にお前が怒るとどうなるかなんて知ったことじゃないが、こいつを普通人の尺度で計ってちゃいけないからな。何をしでかすかわからん。) 「もう、後五分で着く。少しは我慢しろ。」 という経緯でずらずらとやって来たが、本当に道に迷っちまったようだ。薫の言うように2,3時間は歩いてる。なんかどんどん知らないところに迷いこんじまったようだ。  さぁて、どうやって帰ろうか・・・? 「どうした薫?」 「(シッ!何か来る!)」 「(何でそんなこと分かるんだ?)」 「(忍者学校主席中退だぞ。大体5キロ先までの足音や物音は完璧に識別することができる。)」 (あまり良い響きでもないが・・・) 「(だが、どうして「来る物」を危険視するんだ?)」 「(足運びがかなり上手い。同業者か、あるいは・・・)」 ザッ! 「何者だ?!・・・って、剛と、大和・・・だっけ?じゃないか。こんなところで何してんだ?」 「そういうお前は何やってんだ、北条?」 「俺か?俺はここいら地域の把握のための捜索だ。忍者たるもの、常に周囲の地形の把握ができなければ、戦果にも影響がでかけんからな。」 「だがこんな時間に歩き回ってて良いのか?とりあえずここは学園の校区内だから、うろちょろしてちゃまずいんじゃないのか?」 「そんなこと人に言えるような立場か?まぁ、俺はいざとなったら、隠れみの術でも使って、その場をやり過ごせるからいいんだ。お前らこそ何でこんなとこうろちょろしてんだ?見つかったら大目玉だろうが?」 「いやな、こいつが旨いカレーまんおごってくれるって言うから、その店に向かっていたらこんな時間になっちまったんだ。」 「正直に言うと、いや、単刀直入に言うと、散々歩いたあげく道に迷った・・・」 「そして帰れなくなったってわけか。なるほどな〜、俺も昔そういうことがあった。だから、こうして地域探索に力を入れるようになったんだ。正直あの時は、帰れなくなったと思って、思いっきり泣いたよ〜。」 (明るく言えることなのか?) 「まぁ、昔話はさておき、お前は忍犬の類も探索に連れて行くのか?」 「何言ってんだ。そんなことするわけないだろ。通常、地域の把握を自らできたら、忍犬を連れてくもんだ。お前はそんなこともわからんのか?全く、馬鹿げた話だ。」 「俺もそう思ったから聞いたんだ。もう一度聞く、忍犬の類は本当に連れてきてないんだな?」 「しつこいぞ、剛!連れてきていないと言っているだろう!」 「じゃあ、この異様な動物の気配は何だ?まさか、今まで気づかなかったなんて言うんじゃないだろうな?」 「言われてみればそうだな。変な動物か何かの気配を感じる。」 (気づいてなかったのかよ。) 「段々と気配が近づいて来やがる!?とりあえず、逃げるぞ!」 「逃げるたって、道がわからないのに、何処に逃げるんだ?」 「そこらへんは・・・武。自分の足で歩いた成果をみせてもらおうか。」 「言われなくても、わかってらい!」 「おい、お前ら!来たぞ!」 !!?? 「何だ・・・ありゃ・・・」 「少なくとも、俺はあんなの見たことねぇぞ・・・」 「とりあえず、やばいってことぐらいはわかるぞ・・・」 「グルゥゥ・・・グゥゥ・・ガォォ!!」 「まずいんじゃないのか?!」 「それも非常にな!」 シュパ!シュパ!シュパ! 「これでどうよ!」 「グルァ?グルゥゥゥ・・グルァ!」 「あまり効いてないようだが・・・」 「逃げるが勝ちってね!」 ボフっ! 「って、おい!」 煙玉使って、逃げることはねぇだろ!!まずい!慣れてないから、逃げ遅れた! 「へッ、バケモンとのご対面かい。」 「グルァァァ!!」 「終わりか・・・いや、逃げてやろうじゃないか!・だぁぁーー!」 「グシャァァ!」 「グハッ・・・!」 訳のわからんことに巻き込まれ、訳のわからんバケモンに襲われ、訳のわからんままに朽ち果てるか・・・  なんでこんな急な死に方なんだ?なんでこんな高校生活初日にやられなくちゃならんのだ?なんで・・・ 「グルルルルゥ・・・ガォォォ!!」 バン!バン!バン! 「フビヤァ!!」 ドタ! 「一丁上がりぃ!」 「!?あなたは・・・どちら様ですか?」 「おいおいおい、命の恩人にそれはないだろ?」 「仕留めたか?凪。」 「もちろん!3発でおだぶつだ。」 「援護いらずか・・・面白くない。」 「あんた達、何者だ?」 「優しい優しい柔剣部の先輩達だ。」 「差詰め、「ビーストハンター」ってとこか?」 「む、まぁ、正確にはちょっと違うがな。」 「君、他の二人はどうした?」 「煙玉を使って逃げた。だが、どうしてあんた達がそん・・・」 「ま、あっちは部長さんの事だから大丈夫だと思うけど、とりあえずどうなったか連絡とってみるか。」 「すまんな。こいつはこんな奴なんでな。で、何だ?」 「だから、どうしてあんた達は俺の他に二人いるって知ってんだ?どうしてあんた達は「あれ」を倒せたんだ?どうしてあんた達は・・・」 「あ〜あ〜、質問は一つに絞ってから言え。それから俺たちは辛くも先輩だ。せめて、「ですます調」の話し方をしろ。」 「「辛く」もは、余計だ。」 「まぁー、気にすんな!事情については、とりあえず後から校長からあると思うから、今は生きてる実感を味わえ。」 ブルルル、ブルルル、ブルルル・・・ザッーー 「救援頼む。こいつはちょっと厄介だ。」 「だとよ。行くぞ凪。」 「だが、この一年坊はどうする?ここに一人にさせても危険なだけだろう。とりあえず、俺たちと一緒に行動した方が安全なんじゃないか?」 「それもそうか・・・なら、一緒に連れていけ。」 「だとよ。仕方ねぇから付いてこい。」 「あ・・はあ。」 「なんなんだよ、こいつら?何匹もいるぞ。どうすんだよ!?」 「そんなこと俺が知るか!とりあえず、手裏剣も、爆弾も、まきびしだって効かねぇんだ。逃げるしか無いだろう!」 「だが、前は行き止まりだぞ・・・」 「ガルゥゥ・・ガォォ・・・」 「クッ!囲まれた・・・万事休すってところか。」 「ホントに・・・何人、入学初日から規則を破れば気が済むんだ。こっちは化け物退治で忙しいってのによ。」 ドン!ドン! 「!?・・・何だ?」 「ギシャァァ!」 どた・・・ 「フビャァ!」 ばた・・・ 「何が・・・起きたんだ・・・?」 ブルルル、ブルルル、ブルルル・・・ザッーー 「草薙、富竹が苦戦しています。直ちに一年生を救出した後、至急応援に向かって下さい。」 「了解。草薙と富竹の救援だな。こちらを片付けたらすぐ向かう。」 ・・・プツン。 「ま、あいつらのことだ。早々くたばることもないと思うが・・・はぁ、仕方ない。」 「何が・・・起きたんだよ!」 「事情の説明は後だ。とりあえず、ここじゃ危険だから付いてこい。」 「どこに行くんだ?」 「今のやりとりでだいたいの見当は付いていると思うが・・・正確な場所を聞きたいか?」 「あのバケモン、手裏剣やら、爆弾やら、使ってもどうにもならなかったんだぞ?何で倒せるんだ?!」 「極秘事項だ。ま、お前らには縁のない話だ。忘れろ。」 (そんな特撮のような現実を見て、忘れられる方がどうかしてるって。) 「まだ詮索したいのなら、命の保証はしない。」 「忘れりゃ・・・良いんだろ。忘れるよ。」 「じゃあ、行くぞ。また群がってきたみたいだしな。」 「こりゃ・・・おふざけとしか思えないのだが・・・」 「だが、目の前の光景は現実だ・・・信じたくはないが・・・」 「何でラッキーマンのはずのお前と一緒にいるのにこんなアンラッキーな目に遭わなくちゃならんのだ?」 「俺は不幸中の幸いを呼ぶのが得意な「ラッキーマン」だ。むしろ日常は不幸続きだ。」 「そんなこと聞いてないぞ。」 「大体見た感じ分かっていただいているものと思っていたのですが・・・」 「あーだこーだ言っても仕方ない。救援到着までなんとかもたすぞ!」 ダダダダダダッ、ダダダダダダダッ、ダダッ! 「グルルル?ゴォォア!!」 「おい、何か怒ってないか・・・」 「そりゃ、中途半端な攻撃はあいてに刺激を与えるだけだろうな。」 「冷静に言ってないでどうにかしろ。」 「ちょっと無理だ。」 「じゃあ、とりあえず撃て。」 「俺は大丈夫だと思うが・・・「ヤツ」と一緒に巻き添えをくらっても知らんぞ。」 「だからロケットランチャーや、グレネードランチャーだけじゃなく、マシンガンやマグナムなんかも作れるようになっとけって言ったじゃねぇか。」 「お前だって一発で仕留められる武器造れないくせによ!よく言うぜ。」 「俺は大量討伐が専門なんだ。そのための連射兵器だ。お前にとやかく言われる筋合いはない!」 「それを言うなら俺は集団討伐専門だ。お前に口を出される筋合いはない。」 「よく言うぜ。毎回味方巻き込みそうになるくせして。」 「突っ込むそっちが悪いんじゃねぇか!ただマシンガンやチェーンガン振り回して突っ込む馬鹿野郎のクセして!こっちがどんだけ気を遣ってると思ってるんだ!」 「グルォォ?」 「お前が悪い!」 「人のこと言える義理か!」 「グルォォ・・・グルアァ!」 「お前は黙ってろ!!」 ダダダダダダダッ!!ダダダダダダダッ!! 「くたばれぇぇ!!」 ヒゥーーッ・・・ドガァーン!! 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」 「ふぅー・・・はぁー・・・」 「吹っ飛んだ・・・か。」 「跡形も無く・・・な。」 「お、何だ。別に助けも必要なかったんじゃねぇの。」 「痕を見る限り、通常の5倍ってところか・・・よく勝てたな、お前ら。」 「援護いらずか・・・期待してたんだがな・・・」 「勝てたんだから良いじゃねぇか。それに怪我人も出なかったようだしな。だろ?」 「・・・で、一年坊の確保はできたのか?」 「このとおりだ。」 「大和龍騎です。」 「む・剛田かお・・・」 「あー、自己紹介は別にいい。とりあえず校長から話がある。西園寺校長、お願いします。」 (自己紹介ぐらい最後まで聞けってんだ。) (さぁーて、事情を聞かせてもらおうか。) (何で俺、こんなとこにいるんだろう・・・) 「分かった。」 「あ〜、今日はホントにすまなかったな、礼奈。」 「だから、もう気にしてないよ。それに、久しぶりに学校の帰りにどこかに寄っていけたのは楽しかったよ。」 「今度は絶対、こんな風にならないようにするよ。」 「じゃあ、今度は最高の、初デートにでも誘ってもらおうかな?」 (そういえば・・・デートもまだ一回もしてないんだな・・・) 「ああ、期待ていてくれ!」 「じゃあ、また明日。」 「ああ。」 バタンッ 「ふぅー・・・」 結局、70点どころか、20点くらいか・・・駄目だな、俺。  それにしても、あんなお嬢様と執事の関係って本当にあるんだな。(しかも、あの執事、俺と同じくらいの年だろうに。)  だが、今日一日本当に災難続きだったが、体がもって良かったよ。礼奈が言うように、やっぱ俺って厄介ごとに巻き込まれやすい体質なんだろな、きっと。 「だが筋肉痛はさけられんようだな。ふぁ〜ぁ、帰ったらすぐに寝ようっと。」 ガチャ、バタン。 「ただいま・・・って、誰もいるはずないよな。」 「あ、おかえり悟。随分と苦労続きみたいだったようだね。」 「!?誰だ・・・お前・・・」 「僕はミカエル。君と同じ世界に生き、君と同じようなもの・・・かな。」 (これはアニメか?それともマンガか?誰がなんと言おうと絶対おかしい。しかも、どう見てもペルOナ3の某キャラクターだろ、こいつ。) 「あぁ〜すまん。部屋を間違えたようだ。」 「いや、気にしなくて良い。夜も更ける。そろそろおいとまさせていただくよ。それに、今日は挨拶しにきただけだしね。それじゃあ。」 「・・・って、おい!?」 「ふふふ・・・」 消えた・・・!?俺は嫌な予感がしてたまらんのだが・・・  ま、まぁ、とりあえず疲れてるって事にして寝よう。明日も早いしな。  だが何だろうこの胸騒ぎは。まぁ、それはそれとして、龍騎たちや、薫の野郎はきちんと帰ってきてるだろうか?って、何でこんな事考えてるんだ?俺。ま、良いさ、寝ようっと。 「グルゥゥ、グルウァァ!!」 「第一の試練はいきなり「キメラ」ですか。ですが、これを生き抜けないようだと、この先はいささか厳しいですからね。にしても、厳しい試練を初っ端から叩き付けますね。」 「グルルゥ、グルァ!」 ギシギシ、ギシギシ、ギシギシ。 「!?・・・何だ?この階段がきしむような音は・・・しかも、胸騒ぎがさっきよりもひどくなってる。何がおきてるんだ・・・」 「グルルゥゥ、グル。」 ドアの向こう側に何かいる! 「・・・・・・」 「止まった・・・?」 (何が・・・起きるんだ・・・?) バキ・・バキバキ・・・バキバキ・・ドガーン! 「グルゥゥアアァ!!」 「な、何だ・・・こいつ!?」 何で化け物が俺の目の前にいるんだ・・・疲れすぎの幻覚症状か?それとも、非日常の中にある日常のふざけた現実か?  まぁ、何にせよ、これが現実であろうと現実で無かろうと、状況的か精神的のどちらかがアウトだ。 「いくら、ふざけた目に巻き込まれるって言っても、流石にこれはひどいんじゃないか?・・・ま、どっちにしても、俺には逃げるかくたばるかのどっちかの決定権しか託されてないんだがな!」 カシャ。 「さすがに二階は高いか・・・だが、文句も言ってられないか。だぁーっ!」 第5話 覚醒の目覚め スタッ、グキッ! 「痛っつ!!やっぱ2階からは無理があるって!」 絶対足ひねった。しかも、裸足で走って逃げるのか。まったく、ろくな作戦じゃないな。 「ガルルァ!」 ふわっ 「チィ、もう来やがった。」 「さぁ、どうします?常人の運動能力じゃ、キメラからはとても逃げ切ることはできないよ   それに、一般に超人と呼ばれる人間でも、もって10分。だけど、ここで死んでもらっては困るよ、悟。」 「はぁ、はぁ、はぁ。」 なんて速いんだあいつ。直線距離ならすぐ追いついて来やがる。しかも、隠れてもすぐ見つけられるし、さすがの俺も、少々まずいかな・・・ 「グルオァ!!」 「ちぃ!もうかよ。」 ― 戦え ― 「へ?」 ― 戦うんだ悟 ― ・・・声?昔聞いたことのあるような、懐かしい気持ちにさせられるような、そんな声が聞こえる。 「グルルァ!!」 「グハッ。」 「死ぬのか・・・俺。」 ― 力を貸そう、受け取るんだ悟 ― 「な!う、ぐぅ・・・ぐああぁぁ!!」 この少し前・・・ 「この時間帯は家に帰って、外出を控えなければならないはずだが・・・初日から校則違反とはなんと言ったらいいのやら。  まぁ、なんにせよ、無事で何よりだ。とりあえず、今回だけは警告で済ませておこう。  さて、本題に入ろう。まず、あの怪物は何か?当然疑問に思うことだろう。日常生活ではテレビやゲーム以外では絶対に遭遇することが無いものだからな。