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げんしけんSSスレ15

1 :マロン名無しさん:2007/08/26(日) 22:51:20 ID:???
絶望した!
SSスレのdat落ちに絶望した!

スレ違いも甚だしいが、スレ立て人の偽らざる気持ちなので何とぞご容赦を。
そんな事より、シリーズ物から新作まで幅広いジャンルのげんしけんSSスレ。
緊急事態により急遽立てましたSSスレ第15段!
未成年の方や本スレにてスレ違い?と不安の方も安心してご利用下さい。
荒らし・煽りは完全放置のマターリー進行でおながいします。
本編はもちろん、くじアンSSも受付中。←けっこう重要

☆講談社月刊誌アフタヌーンにて好評のうちに連載終了。
☆単行本第1〜9巻好評発売中。オマケもすごかった!
☆作中作「くじびきアンバランス」漫画連載&アニメ放映終了!いい出来でした!

前スレ
げんしけんSSスレ14
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1185692551/l50
ごめんね、落としちゃって。
君の死は無駄にしないから。




2 :マロン名無しさん:2007/08/26(日) 22:58:39 ID:???
にゃおーん

3 :マロン名無しさん:2007/08/26(日) 23:03:31 ID:???
関連スレ
げんしけん(現代視覚文化研究会)まとめサイト(過去ログや人物紹介はこちらへ)
http://ime.nu/www.zawax.info/~comic/
げんしけんSSスレまとめサイト(このスレのまとめはこちら)
ttp://www7.atwiki.jp/genshikenss/
げんしけんSSアンソロ製作委員会(SSで同人アンソロ本を出してます)
ttp://saaaaaaax.web.fc2.com/gssansoro/top.htm
エロ話801話などはこちらで
げんしけん@エロパロ板 その3(21禁)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1144944199/




4 :マロン名無しさん:2007/08/26(日) 23:04:54 ID:???
げんしけんSSスレ13
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1171903993/
げんしけんSSスレ12
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1168708176/l50
げんしけんSSスレ11
http://comic7.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1162331304/
げんしけんSSスレ10
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1155491189/
げんしけんSSスレ9
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1150517919/
げんしけんSSスレ8
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1146761741/
げんしけんSSスレ7
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1145464882/
げんしけんSSスレ6
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1143200874/
げんしけんSSスレ5
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1141591410/
げんしけんSSスレ4
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1139939998/
げんしけんSSスレその3
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1136864438/
げんしけんSSスレその2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1133609152/
げんしけんSSスレ
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1128831969/
げんしけん本スレ(連載終了により作品名は外されました)
木尾士目総合スレ17
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/comic/1185808358/l50


5 :休載のお詫び:2007/08/26(日) 23:19:18 ID:???
すんません、「30人いる!」なるバカなSSの作者です。
続きを書いててあちこち修正してたら収拾が付かなくなり、やむなく今週は休載に踏み切ることにしました。
ごめんなさい。
来週末ぐらいに続き投下しますんで、何とぞご容赦を。

と、ここに書き込もうと来てみてビックリ。
SSスレ落ちてるじゃあ〜りませんか。
まさか1週間かそこら放置しただけで落ちるとは…
くそう油断したぜ。

そんな訳で、これが言いたいが為に新スレ立てちゃいました。
このスレ見た方は、お手数ですが最終レスの日付が空き過ぎてたら、「保守」のひと言でいいですから、書き込みお願いします。
俺も時々見に来て、そのようにしますんで。

6 :ロムおぢさん:2007/08/27(月) 00:14:27 ID:???
>30人いるの中の人

いつも読んでます。

週末更新が定例化してたので、ROM側も週末だけ来るクセがついてしまったようですみません。
応援してるからがんばってくださいね。

7 :マロン名無しさん:2007/08/27(月) 06:01:20 ID:???
お、フカーツおめwww
そして>>1スレ立て乙でした
いつも生暖かく見てますので〜

8 :マロン名無しさん:2007/08/27(月) 06:03:05 ID:???
お、フカーツおめwww
そして>>1スレ立て乙でした
いつも生暖かく見てますので〜

9 :マロン名無しさん:2007/08/28(火) 13:54:23 ID:???
スレ立て乙!ならびに保守!
週末楽しみにして来てみたら落ちちゃっててびっくりした。

10 :完士とおたく工場の中の人:2007/08/28(火) 18:40:32 ID:0Lan8qOt
ここんとこバタバタしてて暫くこちらに来れなかった完士とおたく工場の中の人です。
日曜日、覗いてみたらスレがデータ落ち
あちゃ〜!! 油断したぁ〜!!
新しくスレたてしなくちゃならんなあ・・・んん?
じゃあ冒頭のパロディネタ考えなきゃ・・・いいのが思い浮かばねえ 
週明けにでも考えよう・・・と思ってたら30人さんがスレたててくれた。
感謝!!&乙!!

さて、これから早速「完士とおたく工場」・・・前回からの続きを投下いたしますが、
多少個人的な趣味が出てますがご了解お願いします。
(え?今までも十分個人的な趣味が出てるって?    いやいや・・・)

っつーわけで早速、投下させていただきます。

11 :完士とおたく工場57:2007/08/28(火) 18:46:40 ID:???
「おたく工場は広いからね。いちいち歩いていくと何日かかっても全部見れない。
エレベータで行こう。」
そうウォンカさんが言うと近くにあったエレベータに入った。
完士くんたちもウォンカさんに続いてエレベーターに入る。

エレベータの中には四面全体に沢山のボタンがついていた。
そしてボタンの下にそれぞれの部屋の名前が書いてあった。
「コスプレの部屋」「アニメの部屋」「アニメ専用カラオケボックス」エトセトラ・・・・
「ボタンを押せばどれでも好きな部屋にいけるよ。好きなボタンを押してごらん。」
(といっても・・・)
完士くんは四面をザっと眺めて(これ全部、見るだけでもたいへんだよ)と思った。

「じゃあ これ」
高坂が素早く背面にあったボタンを押す。
何の部屋かと表示を見てみると
「ゲーム・ルーム」とあった。
(これだけのボタンの中からよく一瞬で見つけたな)
完士くんだけでなく晴信じいさんや咲ちゃんもびっくりしていた。
エレベータは物凄い速さで移動して一瞬で部屋についたみたいだった。

12 :完士とおたく工場57:2007/08/28(火) 18:48:37 ID:???
部屋に入ると巨大スクリーンが目の前に展開し、剣士の格好をしたオ・ギウ・エーが
スクリーンの中で魔物をバッタバッタと切り倒しているところであった。
やがて最後の魔物を倒したところでエンディング・テーマが流れゲームが終了する。
それと同時にスクリーンからさっきまで戦っていたオ・ギウ・エーが飛び出てきた。
一同がびっくりしているとウォンカさんが冷静な言葉で話す。
「これはゲーム機の中に入って自分がゲームの主人公になって活躍できる装置だよ。」
そういって部屋の端っこにある装置を指差し、
「あそこの装置の青のボタンをおして、あのケースの中に入るとゲームの中に入れるんだ。」
「すごい!」
高坂は叫ぶと同時に一目散に装置の方に走り、青のボタンを押して
ガラスの円筒形の筒の中に入った。
白い電流が何本か流れピカっとまぶしい光があたりを覆ったかと思うと
高坂の姿は装置の中から消えていた。

13 :完士とおたく工場59:2007/08/28(火) 18:51:01 ID:???
「こ・・・高坂 どこいったの?」
咲が心配してウォンカさんに尋ねる。
「咲ちゃーん。ここだよー。」
高坂の声が聞えた方を見ると前面のスクリーンにその姿がアップされていた。
「ゲームの中に入れたんだ!!すごいよー!!」
そして高坂の入ったゲームのタイトルが大きく表示される。
「くじアン(ハートマーク)ラビリンス」
タイトルを見た晴信じいさんと完士くんは額に汗の粒を流す。
「なに?なに?なに?」
二人の様子が変なことに気づいた咲が不安そうに二人に聞く。
「あ〜・・・『くじあん(ハートマーク)ラビリンス』か〜。」
「この間出たばっかりの最新作でしたよねえ・・・」
「エロゲーだよ。」
ウォンカさんが何の躊躇もなく断言した。
咲の顔がムンクの叫びになる。
一呼吸おいた後、咲はウォンカさんの胸倉を掴み揺すりながら叫ぶ。
「こーさか戻せっ!!今すぐっ!!早くっ!!」
咲の目に涙。

14 :完士とおたく工場60:2007/08/28(火) 18:56:37 ID:???
が、ウォンカさんは冷静に言う。
「だめだよ。一旦、ゲームの中に入ってしまったら、”ゲームを終わらせる”まで出れないんだ。」
咲が完士くんの方に顔を向けキッと睨む。
「このゲームどうやったら終わるんだよ?」
「ええと・・・」
完士くんは答えにくそうに喋る。
「くじアンに出てくる全女性キャラとエッチしたら・・・終わります・・・」
「・・・・」
絶句してその場にへたりこむ咲。
「ウォンカさーん。動けないよー。」
高坂の声がスクリーンから聞える。
「ゲームをプレイする人がいないとね。ゲームの主人公にはなれるけど、
ゲームの中の人間を動かすのはゲーム機をコントロールする別の人が必要なんだ。」
「ええと・・・じゃあ高坂くんをゲームの中から出して元に戻すには誰かが
ゲームのプレイをしないといけないということですか・・・?」
「そういうことになるね。」
晴信じいさんと完士くんは咲の方を見る。

15 :完士とおたく工場61:2007/08/28(火) 18:58:47 ID:???
「なんで、あたしを見るんだよ。あたしはエロゲーなんて金輪際やんないからねっ!!」
「じゃ・・・じゃあボクが・・・」
と完士くんが手をあげる。
「これ最後までやったことあるし・・・」
(あるのかよ!)
汚いものを見るような目で咲が完士くんを見る。
「わしは3回ぐらいやったぞ。わしも参加させろ。」と晴信じいさん
咲の顔が更にゆがむ。
完士くんと晴信爺さんは一緒にゲームのコントローラの前に座る。

16 :完士とおたく工場62:2007/08/28(火) 19:03:30 ID:???
「え・・・ええと・・・高坂くん。最初にどのキャラとやりたい?」
完士くんがスクリーンの中で固まっている高坂に聞く。
「んー。橘いづみちゃんがいいなあ。」
「おー。橘いづみかー。いいとこをつくねー。」
「このゲームに出てくる橘いづみって旧作なんだよね。」
「やっぱ旧作でしょ。新しいスパイの設定?ありゃだめだ。萌えネエ。」
「おじいさんもそう?僕も萌えないんですよ。なんでああいう設定にしたかなあ。」
「新設定の奴って人間の感じがしないんだよね。機械というかロボットみたいな感じで。」
「やっぱ旧設定のゴーグルをかけたミニスカがいいよなあ。」
「なんで旧設定変えられたんだろう。」
「やくざの親分の娘でプロのばくちうちって設定が拒否られたんですかね?」
「未成年だしなあ・・・やっぱ抗議とかきたのかも。」
「でも、やっぱ純情可憐で美しい女子高生が内面の弱さを必死で隠して突っ張って頑張っている姿が
萌えるんすよね。突っ張ってる中、時々、内面の弱さがチラリと見えるのがもうたまんないっす。」
「チラリズムってやつか?あははははは。」
オタ談義をしながらゲームをやっていく完士と晴信じいさん
咲は二人のセリフのふきだしに圧迫されクガピーの部屋を訪れた時のようになっている。

17 :完士とおたく工場63:2007/08/28(火) 19:05:47 ID:???
「しっかし高坂くんといづみって似てるよなあ。」
「どっちがどっちかわからん。」
そうこういいながらゲームは進んでいく。
やがて高坂がいづみをつれて部屋に入り、いよいよベッドイン寸前、服を脱いでパンツ一丁になった時。
「待て待て待て待て待てっ!!見るな見るな見るな見るなっ!!」
ひときわでかい声をあげて咲が止めに入った。
驚いてゲームをストップする晴信じいさんと完士くん
「やめろっ!!高坂の恥ずかしい姿をおまえらに見せてたまるかっ!!」
「えー。咲ちゃん。僕は平気だよー。」と高坂
「こーさかが平気でもあたしゃ耐えられないのっ!!」
「じゃあどうするんですか?」
咲は腕組みしたまま恐ろしい形相でスクリーンを睨む。時間にして2〜3秒だが
永遠の時間がたったかと思えるくらい長く感じた。
「・・・あたしがやる。」
完士からゲームのコントローラを奪った。
「あんたらはさっさと出ていって!!」
咲に言われて3人はお互いの目を見合わせる。
とたくさんのオギ・ウ・エーが頭に狐のお面をかぶって巫女のコスプレをして出てきて
歌と踊りをはじめた。

18 :完士とおたく工場64:2007/08/28(火) 19:07:18 ID:???
色とりどりのエロが舞う♪ ゲームという名の迷宮は♪
光と闇がせめぎあう♪ 那由多の形のマニア狂♪

神様さえも持て余す♪ 見えない高坂の深い闇♪
理性と欲望絡みあい♪ 鏡に映らぬあなたがそこに♪

エロゲーは両刃(もろは) 宝の剣(つるぎ)♪ ときに人を支配するけど♪
きっとおたくを切り開いてゆく♪ 

フィギアがいっばい エロキャラ達が♪ 幾重に織り成すたまゆらの夢♪ 
萌えがいっばい 森羅万象♪ ここから生まるる永遠(とこしえ)がある♪ 
フィギアがいっばい この現世(うつしよ)の♪ すべては天から賜りし夢♪ 
萌えがいっばい 心の闇こそ♪ あまたに流るる真琴を秘める♪

何度も人がこの世から♪ 転生輪廻をしてもなお♪
意識の底にたゆたうは♪ 消えない萌えの一片(ひとかけら)♪

いつかは誰も気づくはず♪ 腐女子・おたくのある処(ところ)♪
すべてはエロが作り出す♪ 地上の舞台の幻世界♪

ゲームは魔性 聖なる祈り♪ ときに罪へ変化(へんげ)しながら♪
きっとおたくを進化させてゆく♪ 

フィギアがいっばい 内なる宇宙♪ 狂ってしまえば奈落への旅♪
萌えがいっばい 色即是空♪ 徹夜して見ゆるは夜明けの陽(ひ)よ♪

フィギアがいっばい 賢者は語る♪ 創るは一夜のかりそめの旅♪
萌えがいっばい それでも捜せ♪ 果てなく溢るる欲望の在りか♪

謎めく 揺らめく 煌めく エロゲー♪

19 :完士とおたく工場65:2007/08/28(火) 19:09:00 ID:???
オギ・ウ・エーの歌と踊りが終わると3人は部屋を出て行く。
部屋からは咲の叫び声といづみのあえぎ声が聞えてくる。
「くっそー。なんであたしがエロゲーやんなきゃならないんだー。
しかもこーさかの浮気を手伝わなきゃならないんだー。
こーさか嬉しそうにしてんじゃねー。バカヤロー!!」

20 :完士とおたく工場の中の人:2007/08/28(火) 19:13:26 ID:???
・・・また新スレで最初に投稿してしまった・・・みなさん 申し訳ない。
今日はここまで 次回でいよいよラストです。

思ったよりも長くかかったぁ〜。では また。

21 :マロン名無しさん:2007/08/29(水) 06:43:57 ID:???
>完士とおたく工場
これはよい「ここは俺にまかせて先に行けぇ!」ですねw

最終回まで楽しみにしています〜。

22 :マロン名無しさん:2007/08/30(木) 01:10:48 ID:???
>完士とおたく工場
オギ・ウ・エーの歌と踊りの歌詞には何か元ネタがあるまですか?
オリジナルならかなりすごいですねw

23 :マロン名無しさん:2007/08/30(木) 14:37:19 ID:0vE+bGCL
保守age

24 :完士とおたく工場の中の人:2007/08/30(木) 19:35:20 ID:???
>>21
咲いじりはげんしけんの原点&基本&華です。
咲ちゃんがいじられてこそ面白さも倍増すると思っておりますw

>>22
ああ・・・やはり元ネタわからない人がいたか・・・
前3曲は「うる星やつら」「セーラームーン」「新世紀エヴァンゲリオン」と
おたくはもちろん一般人にも周知されているネタを使わせてもらいましたが、
最後の1曲はよりおたくっぽく前3曲に比べてマイナーどころ(植芝理一先生ゴメンナサイ)
を使わせてもらいました。同じアフタでもあるしね。

んで、歌の元ネタですが「夢使い」のアニメOP「夢迷宮〜光と闇のダンス〜」です。
ちょうどようつべで拾い物がありますので貼り付けておきます。↓ぜひ聞いてみてください。
ttp://www.youtube.com/watch?v=bGW5-OyBsmI
とても幻想的でいい曲です。

25 :マロン名無しさん:2007/09/01(土) 00:18:34 ID:???
>完士とおたく工場
こりゃまたえらく凝った趣向のセクハラですなw
咲ちゃんカワイソス。
巫女オギー軍団キター!
すんません今回の替え歌、俺も元ネタ分かりませんでした。

さてパーティーもだいぶ絞られてきましたな。
まあ多分いなくなった人たちも、最終回には包帯グルグル巻きで生きて再登場すると思いますが(男塾かい!)、続きお待ちしております。


26 :完士とおたく工場の中の人:2007/09/01(土) 09:54:17 ID:???
>>25
既に38で
「どーんな変態プレイを要求されても応える覚悟はしてあるの。されたことないけど。」
とウォンカさん挑発してますんでその仕返しかと・・・
「夢使い」のアニメOP使ったのは最初に述べたとおり自分の個人的な「趣味」です・・・
わかりにくくてすいません。
ラストの投下はもう少し待ってください。んでは また。


27 :30人いる! 前書き:2007/09/02(日) 15:36:49 ID:???
お久しぶりです。
先週はスレ立てだけで終わってしまいましたが、今週からは可能な限り週一ぐらいのペースで投下したいと思います。
今回は前置き抜きで始めますんで、前回までの話はまとめサイト参照ということでよしなに。
今回は9レスぐらいの予定です。
では。

28 :30人いる! その60:2007/09/02(日) 15:38:47 ID:???
第6章 笹原恵子の采配

有吉「えーでは第3回 現視研で映画作ろうぜ会議を始めます!」
朽木「それはいいんだけど、何でここでやるのかのう?」
クッチーが素朴な疑問をぶつけるのも無理は無かった。
3日後の制作会議の会場、それは部室ではなく国松の部屋だったからだ。
ちなみに今回の制作会議、部室で原稿執筆中の藪崎さんと加藤さん、前回の会議の翌日帰国した外人コンビ、そして今日合流したクッチー以外のメンバーは前回同様だ。
国松「恵子先輩が、ケロロ軍曹のビデオをギリギリまで見たいって仰ったからですよ」
その言葉通り、恵子はまだビデオ再生中のテレビの前から離れなかった。
朽木「監督の命令とあらばやむを得ませんな」
体育会系体質のクッチーはあっさり納得した。
神田「それよりクッチー先輩、今日は就職活動大丈夫なんですか?」
朽木「その点なら大丈夫。実は僕チン、あるところからお誘いを受けて、今その為の試験勉強をしているんだにょー」
言い終わるやいなやクッチーは、自分のリュックから1冊の本を出した。
問題集のようだ。
神田「地方公務員試験?」
豪田「クッチー先輩、公務員になるんですか?」
沢田「でもこの時期に公務員と言えば…ひょっとしてお巡りさん?」
朽木「ピンポーン!」
一同「マジっすか?!」
荻上「(頭を抱え)朽木先輩がお巡りさん…世も末だ…」
朽木「失礼だなあ荻チン、わたくしこれでもスカウトされたのですぞ」
一同「すかうと?!」


29 :30人いる! その61:2007/09/02(日) 15:40:30 ID:???
クッチーはことの経緯を語り始めた。
夏コミの次の日、彼は就職活動を再開した。
だが面接の手応えは芳しくなかった。
憂鬱な気持ちを抱えての帰り道、彼の居る方に引ったくりが逃げて来た。
引ったくりはナイフを振り回し、クッチーをキレさせた。
その結果引ったくりは、全身包帯グルグル巻きで集中治療室に収容される破目になった。
多少(?)過剰防衛気味ながらもお手柄のクッチー、最寄の警察署の署長に表彰された。
署長はクッチーをえらく気に入り、彼に警官になるように熱心に勧めた。
その執拗な勧誘に音を上げたクッチー、遂に警官の採用試験を受けることを決意した。
(この辺の詳しい経緯は「はぐれクッチー純情派」参照)

沢田「でもクッチー先輩、警官の採用試験ってもうじきじゃないですか?」
朽木「その点ならノープロブレム。この問題集、署長さんが貸してくれたんだけど、これのチェックしてあるとことほぼ同じ問題出るらしいから、丸暗記すればオッケーだにょー」
一同『それって不正なのでは…?』
そう思いつつも、みんなクッチーが就活で苦労してるのを知っているので、敢えて誰もツッコまなかった。
荻上「それより国松さん、ごめんなさいね。こんな大人数でお邪魔して」
国松「そんなこちらこそ、狭い部屋で申し訳ないです」
国松の部屋は2DKの2部屋が障子で仕切られているので、会議をするにあたり障子を外して外へ運び出して、1つの大部屋とした。
だがそれでも、わざわざ部室から(脚部を外したのでボードだけだが)ホワイトボードを持ってきたせいもあってか、総勢15人を収容するにはキツかった。



30 :30人いる! その62:2007/09/02(日) 15:42:51 ID:???
そうこうする内に、テレビ画面の「ケロロ軍曹」がエンディングタイトルとなり、恵子はビデオを止めた。
「さてと、ここまでにするか」
そう言いながら、恵子はまだテレビの方を向いていた。
台場「恵子先輩、ケロロ全部見たんですか?」
恵子「(ビデオテープを取り出しつつ)さすがに全部は無理だったな。(テープのインデクスを見つつ)えーと今ので74話か」
台場「そりゃそうですよ。3日も続けて徹夜出来ませんし…」
そこで恵子は初めてみんなの方を向き、こう言い放った。
「この顔がちょっとでも寝た顔に見えるか?!」
「ひっ?!」
悲鳴を上げる一同。
恵子の目の下には、まるで覚せい剤中毒患者のような濃い隈が出来ていた。
笹原似のふっくらした頬は、心なしかこけていた。
顔色も死体のような土気色だ。
台場「でも先輩、ぶっ続けで見たのなら何故…」
ここまで言いかけた台場の言葉をさえぎるように国松が答えた。
「恵子先輩、ケロロ見てる途中でパロディの元ネタになった作品もご覧になっていたのよ。特撮関連は私のとこで全部まかなえたんだけど…」
神田「あっ千里、昨日借りに来たビデオってもしかして…」
国松「そう、恵子先輩にお見せする為に借りたの。私んち、アニメの在庫は乏しいから」


31 :30人いる! その63:2007/09/02(日) 15:45:33 ID:???
国松の説明を恵子自ら補足した。
「あたしさあ、ハッキリ言ってアニメとか特撮とかの知識って、ほんと無いのよ。春日部姉さんが知ってるようなやつでも知らなかったから、あたし」
荻上「それでパロディの元ネタを?」
恵子「ケロロの1番の売りってパロディだろ?まあ分かんなくても面白かったけど、監督がそれじゃまずいっしょ?」
荻上『あのチャランポランな恵子さんが、よくぞそこまで…』
恵子「まあそんなことより伊藤、例のプロットとかいうの見せろや」
伊藤「はい、かしこまりましたニャー」
「笑点」の座布団運びのような返事をしつつ、伊藤はプリントアウトして閉じておいたプロットをみんなに配った。
全員に行き渡ったところで、各自黙読し始める。
以下の文章は、そのプロットを要約したあらすじである。

ケロロ小隊が地球に来てから数年の年月が経った。
冬樹と夏美は共に大学に進学した。
母親の秋はケロロを正式に日向家の家政夫として採用し、ケロロは完全に日向家の家事を1人で取り仕切ることとなった。
一方他のケロロ小隊の面々は、相変わらずの状態であった。
そんなある日、タママが冬樹のところに大きな箱を持って来た。
ヨーロッパにショートホームステイに行っている、桃華から送られてきたという箱の中身は、タイムカプセルのような謎の物体だった。



32 :30人いる! その64:2007/09/02(日) 15:47:44 ID:???
そのカプセルは13世紀頃のある学者の屋敷跡から発掘されたもので、西澤グループが調べる前にオーパーツ好きの冬樹に見せたくて送ったとのことだった。
クルルが珍しく自分から分析を申し出、一方冬樹は、箱に一緒に入っていた学者が残したノートを調べ始める。
(この時冬樹は、クルルの発明した何語でも翻訳出来る万能翻訳機を借りた)
2人の出した結論は以下の通りであった。
冬樹によれば、学者は錬金術師であり、ノートに書かれていたのは人造人間ホムンクルスの製法だという。
一方クルルによれば、カプセルの中身は細胞レベルで圧縮されている人工生命体だという。
(ちなみにカプセルの表面には、古代ケロン文字が刻まれていた)

そんな中、クルルズラボに置いてあったカプセルから、人工生命体ベム1号が復活する。
クルルはクルル時空にベム1号を引きずり込み、ケロロ小隊もクルル時空へ。
だがベム1号は強く、ケロロ小隊の攻撃は全く歯が立たない。
その時クルル時空に、1体のロボットと冬樹が飛び込んで来る。
ロボットはクルルが開発した超兵器アル1号だ。
激しい格闘を続ける、ベム1号と冬樹が操るアル1号。
だが何度倒しても、ベムは自己修復機能で復活する。
クルルのアドバイスにより、冬樹はアルに最後の手段を使わせる。
だがその最後の手段とは、ベム諸共自爆することだった。
ベムは無事撃破したものの、同時にクルル時空も爆散し、日向家もメチャクチャに。
そこへちょうど夏美と秋が戻り、夏美はケロロたちを締め上げるのだった。



33 :30人いる! その65:2007/09/02(日) 15:49:48 ID:???
「みんな読み終わった?」
荻上会長の呼びかけがきっかけになって、制作会議が再開された。
有吉「えーそれでは、まずはみなさんの意見を伺いましょうか」
国松「これ凄くいいよ、伊藤君。ケロロにベムとアル何とか絡めてるし、他の特撮ネタもいろいろ絡めてるし」
日垣「俺分かんなかったけど、どんなのがあったの?」
国松「ベム1号ってのは『ウルトラQ』に出てくる人工生命体M1号のパロよ。単に語呂合わせじゃなく、ケロロの写真撮影のせいで細胞分裂ってとこまで本家通りだし」
伊藤「よく分かったニャー」
国松「あとベム1号ってのは『シルバー仮面』の光子ロケットの名前とも掛けてるし」
伊藤「いや、それは偶然ですニャー『さすがにそこまでは考えなかったニャー』」
国松「そうなんだ。あとアル1号ってのは『ウルトラセブン』の超兵器R1号のパロね。それに冬樹が使う腕時計型操縦機と、敵諸共自爆ってのは『ジャイアントロボ』ね」
伊藤「いやあ、お見事。さすが国松さんですニャー」
片隅では腐女子たちが小声で話し合っていた。
荻上「ねえ、今の話分かる?」
豪田「私はちょっと…」
巴「私も…」
沢田「私は番組の名前ぐらいしか。『シルバー仮面』は分かんなかったですけど」
台場「私も名前ぐらいですね」
荻上「やっぱり特撮の話させたら凄いね、国松さんって」



34 :30人いる! その66:2007/09/02(日) 15:51:47 ID:???
恵子「まあ元ネタはともかく、千里的にオッケーってことは、特撮映画の筋書きとしちゃあオッケーってことだな」
浅田「俺もいいと思いますよ、この話。カメラマン的には凄くやりがいありそうだし」
岸野「俺もそう思います」
荻上「あとひとついいかな?伊藤君、何で数年後って設定にしたの?」
伊藤「うちの会員の中には、着ぐるみの人以外に中学生役が出来そうな人は居ないなと思いまして、こういう強引な設定を考えましたニャー」
恵子「まあ確かに、中学生が演れそうな童顔で小柄なのって、今回全員着ぐるみだもんな」
荻上「何で私の方を見るんですか?」
恵子「んなこと今さら気にすんなよ、姉さん」
荻上「はいはい、今さら気にしませんよ」

「ただねえ…私たち初心者にこの話、上手く作れるかしら?」
沢田が会員たちの内なる不安を代表して口にしたのをきっかけに、他の会員たちも不安要因を口にし始めた。
有吉「確かに当初の計画と違って、えらくスケールの大きい話になってるもんな、これ」
日垣「こりゃ殺陣たいへんそうだな。俺、出来るかなあ…」
神田「そうね。これだけ長い話を映画にするとなると、かなり綿密な計画が必要ね」
豪田「それにセットもかなり大がかりなの作らなきゃね」
台場「念の為にスポンサー増やした方がいいかな」



35 :30人いる! その67:2007/09/02(日) 15:54:11 ID:???
巴「あと千里、率直に訊くけど、この話に必要な特撮って、アマチュアの8ミリの映画で出来るの?」
国松「(キッパリと)出来るわ、理論上は」
巴「理論上?」
国松「つまり実際にやったことは無いけど、知識としてのノウハウはちゃんとあるってこと。ただ、出来上がりが上手いか下手かは、やってみないと分かんないけどね」
巴「そう…」
国松の答えに、巴の顔にも不安の色が浮んだ。

「お前ら、何守りに入ってんだよ?」
恵子のひと声に注目する一同。
「お前らの今の話聞いてるとさあ、何か成功したいっつーより失敗したくねえって感じがすんだよね、あたしには」
図星なのか、ウッという表情の1年生たち。
「いいじゃねえか、失敗作なら失敗作で。そういうのが内輪では1番ウケるんだよ。それはそれでいい思い出じゃねえか」
国松「監督、そんなに失敗作失敗作言わないで下さい。少なくとも私は成功させるつもりなんですから」
豪田「ちょっと千里、そりゃないでしょ。私たちだって成功させたいわよ、この映画」
他の1年生たちも同様のことを口にする。
恵子「あたしだってそのつもりだよ。たださあ、全員映画作り初めてで凄い傑作が出来たら誰も苦労しない、あたしが言いたいのはそういうことさ」



36 :30人いる! その68:2007/09/02(日) 15:57:33 ID:???
「恵子さんの言う通りね」
今度は荻上会長の発言に注目する一同。
「うちは営利企業じゃない、大学のぬるいサークルなのよ。もちろんいいものが作れるようには頑張るけど、それ以上に作ることを楽しまなきゃ」
恵子「姉さん…」
豪田「そうですね、荻様の仰る通りだわ」
他の1年生たちも賛同しかけるが、台場が異議を唱えた。
「でも会長、スポンサーさんたちから金集めてる上に、金取ってお客さんに見せる以上、それなりにいいもの作らないと…」
荻上「もちろんそうよ。でもスポンサーと言っても、あくまでも寄付とかカンパだし、お客さんの方も祭りの余興なんだから、あんまし堅苦しく考えないで」
台場「でも…」
荻上「それともひょっとして台場さん、まさかスポンサーの方々に利益還元するような裏の契約とかしてるの?」
台場「(慌てて)してませんしてません!一瞬しようとは思ったけど、してません!」
一同「やるつもりだったのかよ!」
恵子「まあまあ、つもりまでならいいじゃねえか。で、どうよ?映画、やるよね?」
「やります!」「やらせて下さい!」「頑張りまーす!」
全員が口々に賛同の意志を示し、再び制作会議は続行された。
そして細かいことについての議論を1時間ばかり経て、伊藤のプロットに基づいてシナリオが書かれることが決まった。



37 :30人いる! 次回予告:2007/09/02(日) 16:24:04 ID:???
とうとう本格的に動き出した映画制作プロジェクト。
そして次回、制作会議の流れはキャストの選考へと移る。
果たして配役の行方や如何に?

すんません、今日はここまでです。
あと少々お返事を。
前スレの>>102の方、ご意見ありがとうございました。
>あなたの作品はそんな退屈を吹き飛ばしてくれるさながら一杯の清涼飲料。
お褒めのお言葉、ありがたい限りです。
毎度毎度豆乳にプロテイン混ぜたみたいな、くどい清涼飲料飲ませちゃってすんません。
>ぶっちゃけ洗脳に近いビデオ学習の効果激大だぜ!
多分淀川先生は、こういうやり方は想定してなかったと思います。
この方法を提唱なさった頃は、おそらくまだビデオは無いか普及してない頃でしょうから。
淀川先生がイメージしてたのは、映画館に3日ぐらい通って朝から晩まで居るか、そこまでしないまでも何回かに分けて見に行くことだと思います。
(昔の映画館は入場料500円かそこらだし、入れ替え制なんて一部しかやってなかったから、熱意があれば可能な方法です)
まあ恵子の場合は、怪我の功名ということで。
>失礼だwww
カメラで撮影するように、本の内容を一瞬見ただけで覚えられるという、記憶の天才みたいな人が世界には何人か実在します。
昔何かで読んだ話ですが、そういう天才の唯一の悩みは、覚えたことが全く忘れられないので、脳が一時も休まらないことだそうです。
生まれた時からそういう人ならともかく、普通の人間が急に高速で脳動き出したら、恵子でなくても制御はしんどいと思います。
決して恵子バカにしてませんから、念の為。


38 :30人いる! 前書き:2007/09/02(日) 22:44:33 ID:???
まだ誰もいらっしゃってないようですな。
ちょうど続きの分の校正が終わったし、中途半端なとこで終わっちゃったし、前回休んだ埋め合わせの意味も込めて、続き投下します。
12レスほどの予定です。

39 :30人いる! その69:2007/09/02(日) 22:46:41 ID:???
恵子「そんじゃあ配役決めようか?」
伊藤「着ぐるみの人以外は、冬樹、夏美、それにモアちゃんだニャー」
男性会員たちを見渡す恵子。
恵子「うーん、お前ら不細工じゃないけど、イケメンや美形もいねえな。うーんと…」
その時、豪田の頭の中でピンッという音が鳴った。
そしてズンズンと有吉に近付く。
有吉「えっ?」
豪田は有吉から眼鏡を外した。
有吉「ちょっ、ちょっと、返してよ」
有吉を凝視する一同。
イケメンや美形とまでは行かないが、割と知的で整った顔立ちだった。
沢田「こ、これは?」
巴「行ける!」
恵子「おしっ、有吉、お前冬樹やれ!」
有吉「ぼっ、僕ですか?」
巴「監督命令となれば、しょうがないわね」
有吉「(マジ顔で)分かりました、監督。(情けない顔に戻り)それより豪田さん、眼鏡返してよー」
豪田を追う有吉、荻上会長の肩を掴んだ。
荻上「えっ?」
有吉「あれっ?豪田さん、えらく小さくなったね?それに華奢だし、(筆握り)頭に筆があるし、何か会長みたい…」
神田「いや有吉君、あなた掴んでるの会長だし…」
豪田「ほら眼鏡」
言いながら豪田、有吉の眼鏡をかけてやる。


40 :30人いる! その70:2007/09/02(日) 22:48:53 ID:???
有吉「わっ、会長?しっ、失礼しました!」
慌てて荻上会長から離れる。
荻上「まっ、まあ見えなかったんだからしょうがないわよ。気にしないで」
豪田「ネタでやってるのか、それとも本当に見えないのか…」
沢田「どうもマジでやってるみたいよ」
恵子「まあ冬樹って動かんキャラだから、何とかなんだろう。よし、次は夏美だな」
一同「うーん…」
台場「夏美ってさ、数年後だったらやっぱり、秋ママみたいな体型になってるんだろうな」
神田「クルルの銃で大人になった夏美って、確かにナイスバディだったわね」
有吉「ナイスバディでスポーツ万能と言えば…」
会員たちの視線が巴に集中した。
巴「(自分を指差し)わっ、私?」
恵子「まあ髪は染めればいいか。よしマリア、お前夏美やれ!」
有吉「監督命令なら、しょうがないね」
巴「…分かりました、やります」
伊藤「あとはモアちゃんだニャー」
豪田「アンジェラでいいんでねの?ちと胸デカ過ぎだけど」
台場「うーん…金髪はいいとして、青い目はどうだろう?」
荻上「その点なら心配無いわよ」
台場「どゆことです?」


41 :30人いる! その71:2007/09/02(日) 22:50:43 ID:???
荻上「アンジェラの瞳の色は、光の加減によって褐色や黒にも変わるのよ」
浅田「なるほど、それなら照明やカメラアングルで上手く誤魔化せるかも知れませんね」
台場「それならいいですね」
恵子「よっしゃ、モアはアンジェラで行こう!ミッチー、連絡してやれや」
神田「はーい。千里、ちょっとパソコン借りるわよ」
神田は国松の部屋のパソコンで、アンジェラにメールを送った。
(アンジェラは日本語の読み書きは何とか出来るので日本語で送った)
向こうは夜のはずだったが、アンジェラは起きていたらしく、すぐにメールが返って来た。
神田「アンジェラからの返信メールです。えーと何々…日垣君、コスよろしく…快諾してくれたようですね」
日垣「コスっていうと、ハルマゲドンの時のあの格好のことかな?」
伊藤「うーん、予定ではその格好するシーンは無いんだがニャー」
恵子「無いなら追加してやれよ」
伊藤「うーんと、それじゃあ…そうだ!ベム出てきたとこで、モアちゃんが例の格好でベムどついてクルル時空に叩き込むってのはどうでしょうかニャー?」
恵子「いいんじゃねえか。それで行けや」
伊藤「かしこまりましたニャー」
日垣「夏コミの時はアンジェラのコス、ほとんど田中先輩1人で作ってたから、サイズが分かんないな。神田さん、メールで訊いといてくれる?」
国松「サイズなら分かってるわよ」
日垣「国松さん採寸手伝ったの?」
国松「この間夏コミの時に、アンジェラのコス姿見たから、大体分かるわよ」


42 :30人いる! その72:2007/09/02(日) 22:52:35 ID:???
しばし時間が凍結した。
荻上「国松さん、見ただけでサイズ分かるの?」
国松「ええ、田中先輩に服の上から見てサイズを目測するコツをお聞きしたんです。そんで試してみたら、ほぼ当たりました」
1年女子一同『そう言えば夏コミで絶望先生コスやる時、制服のサイズなんて既製品なのに、千里しつこくサイズ聞いてたな。あれがそうだったのか…』
1年男子一同『国松さん恐るべし!』

「あと着ぐるみ組の配役だけど、日垣君、僕チンがベム演るから君アル演ってくんない?」
1年生たちの発言が活発で切り込みにくかったせいか、それまで意外に大人しくしていたクッチーが突如口を開いた。
日垣「俺ですか、アル?でもこのプロットだと、どっちかと言えばアルの方が攻め込んでますから、俺じゃ無理じゃないですか?」
朽木「その点は大丈夫。このプロットのアルって、ジャイアントロボみたいなロボットムーブの方が合いそうだから、練習すればすぐ出来るにょー」
日垣「まあそれなら動きは何とか。でもベムの方がカット数多そうだし、大丈夫ですか、就職活動の方は?」
朽木「さっきも言ったように、僕チンは警官の試験受けるから、試験日当日以外は目いっぱい撮影に付き合えるにょー」
日垣「いいんですか?」
朽木「いいんです。それにこの話だとアルよりベムの方が打たれ強さ要りそうだし。体力は日垣君の方がありそうだけど、打たれ強さなら僕チンでしょ」
恵子の了承を得て、結局アルが日垣、ベムがクッチーということで落ち着いた。


43 :30人いる! その73:2007/09/02(日) 22:54:18 ID:???
一方女子の着ぐるみ班も配役の相談を進めていた。
沢田「まあクルルがスーちゃんで、軍曹さんが会長は決まりとして…」
荻上「決まりなんだ…」
国松「スーちゃんはそもそもクルル希望ですし、何と言っても会長も軍曹さんもリーダーですから、やっぱリーダーの立ち位置でないと」
荻上「まあ、それはいいけど、残るはタママとギロロとドロロかあ…」
国松「それなんですけどニャー子さん、タママお願いしていいですか?」
沢田「なるほど、タママなら声可愛いし、適役かも」
国松「それにタママって、格闘技やってる割には肉弾戦よりタママインパクトばっかしだから、動きは意外と少ないでしょ」
荻上「一応他所から招いたお客さんってことで配慮した訳ね」
国松「そうです。どう、ニャー子さん?」
ニャー子「タママなら声作れますニャー。(可愛い高音で)ハーイモモッチー!(ドスの効いた低音で)うだるぞぬしゃー!」
一同「おー!」
沢田「これなら吹き替えは要らなさそうね」
ニャー子「でも私、タママインパクトは出来ませんニャー」
こける一同。


44 :30人いる! その74:2007/09/02(日) 22:56:24 ID:???
国松「その点は大丈夫ですよ。タママの顔は通常のものと別に、タママインパクト発射用の顔も作りますから。ニャー子さんはポーズしてくれるだけでいいです」
ニャー子「光線はどうするのかニャー?」
国松「シネカリでフィルムに直接描き込みます」
ニャー子「しねかり?」
国松「8ミリ特撮の技法で、フィルムに針みたいなもので軽く傷を付けて、光線っぽい絵を作る方法です」
沢田「でもそれ、8ミリのフィルムにそれって…」
国松「もちろんかなり手間で根気の要る作業だけどね。何しろ虫眼鏡でフィルム見ながら、ひとコマひとコマに描き込んで行くんだから」
「そういうのなら、私にまかせなさい!」
台場が話に割り込んだ。
国松「晴海、やったことあるの?」
台場「(笑って)無い無い。でもその代わり、私米に字書けるわよ」
室内にザワッという音が轟く。
国松「米に字って、例えばどんな?」
台場「まあさすがに2文字までが限度だけどね。画数的にも、薔薇とか憂鬱とかぐらいが限度ね」
一同『どうやればそんな複雑な字が米に書けるんだ…』
国松は台場の右手を両手で力強く握った。
国松「お願いするわ、光学合成担当!」
一同『それは光学合成と言うのか?』


45 :30人いる! その75:2007/09/02(日) 22:57:52 ID:???
沢田「あと残るはドロロとギロロかあ…」
国松「それなんだけど彩、あなたドロロでいい?」
沢田「ちょ、ちょっと待って!私、運動神経無いんだから、あんな動き無理!」
国松「(笑って)あんな動き、誰も出来ないって。大丈夫よ、何も生であの動きやれっていう訳じゃないから」
沢田「そんじゃあどうするの?」
国松「カメラワーク駆使するのよ」
沢田「カメラワーク?」
国松「例えば軽く走ってるとこをカメラ低速で撮影して、再生時は標準で回して早回し状態にして、凄く速く走ってる図の出来上がりとか」
沢田「なるほど、あと他には?」
国松「えーとね…例えば飛び上がるポーズをしたとこを撮り、続いて同じ背景をドロロ無しで撮り、それをつなげば消えるように高速でジャンプする図の出来上がりとか」
沢田「それなら私でも出来るかも。分かった、私ドロロ演るわ」
荻上「ということは、国松さんギロロ演るつもりなの?」
国松「まあギロロだけは実際に武器持って動かなきゃならないし、そんなキツイの人様には押し付けられませんから、言い出しっぺが責任取りますよ」
荻上「国松さん…」
国松「大丈夫ですよ、会長。これでも私、多分ケロロ小隊役の5人の中で、1番体力あると思いますから」
こうして着ぐるみ班の配役が決まり、神田はホワイトボードにそれを書き込んだ。


46 :30人いる! その76:2007/09/02(日) 22:59:20 ID:???
恵子「さてと、配役も無事決まったことだし、次はスタッフの役割分担を決めるか。先ずは千里、とりあえず特撮関係はお前が全部仕切れや」
国松「はいっ!」
「ということは、こうですね?」
そう言いながら、神田はホワイトボードに「特技監督 国松」と書き込んだ。
国松「そうじゃないわよ、ミッチー」
国松はホワイトボードに近付き、特技監督を消して「特殊技術」と書き直した。
神田「とくしゅぎじゅつ?」
国松「本来特技監督ってのは、特撮班と本編班の2班体制で撮影する場合の名称なのよ。
うちの場合は全部ひっくるめて総監督だから、その名称は不向きよ。それに…」
恵子「それに?」
国松「本来特技監督を名乗っていい人物は1人だけなんです」
恵子「誰?」
国松「円谷英二です」
国松によれば、円谷英二の直弟子の特技監督は、円谷プロの初期の作品では自らを特殊技術と称していたという。
これは彼らにとっての特技監督とは円谷英二ただ1人であり、自分ごときが特技監督を名乗るのはおこがましいという考え方の為だ。
国松「だから私も、それに倣おうと思います」
恵子「わあった、そんじゃ千里それで行けや」



47 :30人いる! その77:2007/09/02(日) 23:01:45 ID:???
「さてと特技監督、じゃなくて特殊技術が決まったとこで、あと助監督なんだけど…」
恵子は一同を見渡し、伊藤と眼が合ったところでピタリと止まった。
オドオドする伊藤。
恵子「お前さあ、脚本書いた後はヒマだろう?」
伊藤「まっ、まあそうですニャー」
恵子「そんじゃお前、チーフ助監督やれや」
伊藤「ぼっ、僕がチーフですかニャー?」
恵子「まあ助監督は原則手の空いたもん全員だけど、通しでやる奴が1人は要るだろ?」
有吉「なるほど、伊藤君なら脚本の隅から隅まで把握してるから、全体を見ながら現場を仕切るのには適役かも知れないな」
国松「それに普段のパシリっぷりから見て、助監督の必要最低条件のフットワークの軽さもあるしね」
恵子は普段から、手の空いてる者は誰彼構わず命令したりこき使ったりしているのだが、眼が合うとオドオドする習性のあるせいか、伊藤が命じられる確率は高かった。
恵子「つう訳で、いいな伊藤?」
伊藤「かしこまりましたニャー」
『何のかんの言っても恵子さん、監督らしくなってきたわね』
そんな様子を見て、荻上会長は内心感心していた。


48 :30人いる! その78:2007/09/02(日) 23:03:25 ID:???
みんなが役割分担について話し合っている傍らで、豪田はプロットを読みながら、まるで北島マヤが台詞を覚えてる時のように、1人片隅で何やらブツブツとつぶやいていた。
荻上「どしたの?」
豪田「あっ、荻様。今この映画に必要なセットを考えてたんです」
荻上「セット?」
豪田「先ずケロロ小隊の作戦司令室とクルルズラボが要りますね。日向家内部の各部屋とクルル時空は、どっかでロケするとして、あとは最後のボロボロになった日向家ですね」
立て板に水の如くスラスラと撮影場所について述べる豪田に、沈黙する荻上会長。
豪田「まあ作戦司令室とクルルズラボは、ベニヤ板でそれらしいのが作れると思います。日向家は適当にガラクタ並べるか、解体中の家探して交渉するか。あとは…」
荻上「あとは?」
豪田「ベム1号とケロロ小隊が戦うシーンで、ケロロたちが吹っ飛ばされるでしょ?女の子が入った着ぐるみを地べたにモロにぶつける訳には行かないじゃないですか」
荻上「(改めてプロットを読んで青ざめ)確かにそうね…何かいい方法があるの?」
豪田「ウレタンか綿を布で包んで岩みたいな感じに塗装して、岩型のクッションをいくつか作って、クルル時空になる原っぱなり野原なりに配置すればいいと思うんです」
荻上「いい考えだと思うけど、そんなこと出来るの?」
豪田「その点はお任せ下さい。この豪田蛇衣子、伊達に8年も舞台美術やってませんから」
一同「8年?!」


49 :30人いる! その79:2007/09/02(日) 23:05:18 ID:???
豪田「小学5年生の時の学芸会以来、何故か私のクラスって劇に縁があってね、中3までずっと文化祭やら何やらで、毎年1回は舞台セット作ってたのよ」
荻上「でも8年って言ってたよね?高校では?」
豪田「高校では同じ中学から来た子が私の噂広げちゃって、学祭で劇やる他所のクラスや演劇部からお誘いがあったんですよ」
台場「て言うことは、蛇衣子の作った舞台セット、好評だったってことね」
巴「凄いわね」
豪田「まあ最初は、単に昔からこの通りの体型だったから、舞台でやれる役が無いから回ってきただけだったんだけど、これでも図画工作や美術はいつも成績5だったからね」
恵子「よっしゃ蛇衣子、お前美術担当な」
豪田「はいっ!あと照明も私でいいですか?ライトやレフ板持つ人は出来るだけ統一した方がいいと思うんですけど」
岸野「確かにライティングはカメラとワンセットなポジションだから、なるべく統一した方がいいね」
浅田「もしかして豪田さん、照明もキャリア8年とか?」
豪田「さすがにそんなにはやってないわよ。舞台の方動かしたりするの、私が現場仕切ってやること多かったからね。せいぜい3〜4回ってとこかしら」
巴「十分やってるじゃん…」
恵子「よっしゃ、ほんじゃ照明もお前に頼むわ」
豪田「はいっ!」



50 :30人いる! その80:2007/09/02(日) 23:07:00 ID:???
台場「あの、あと私、渉外関係の仕事一括して受け持っていいですか?」
恵子「しょうがい?」
台場「平たく言えば、外回りの仕事ってことですよ」
恵子「どんなことやるんだ?」
台場「まず予算まだ増やしたいですから、スポンサー集め続けようと思います。そのついでに、関係官庁への行ったり、著作権関係のことやったり」
一同「著作権?」
台場「そりゃそうでしょ。現在放送中のアニメの実写版映画作って、学祭とは言え木戸銭取って客に見せるんだから。いろいろ手続きは要るはずよ」
荻上「なるほど、そこまでは考えてなかったわね。関係官庁ってのは?」
台場「この手の撮影には、いろいろ許認可が絡んでくるはずです。特にうちは爆発シーンなんてやるんですから」
荻上「確かに外回りの仕事関係、一括して担当した方が効率良さそうね」
恵子「よっしゃ、晴海それやれ!」
神田はホワイトボードに「プロデューサー 台場」と書いた。
神田「ということですね、監督」
台場「プロデューサーなんだ、私…」


51 :30人いる! その81:2007/09/02(日) 23:18:44 ID:???
岸野「あと監督、俺たちシネハン担当していいですか?」
恵子「何それ、シネハンって?」
岸野「ロケハンとも言いますが、撮影に使える場所を探して回る仕事です」
浅田「カメラテストも兼ねたいので、俺たち2人で回ろうと思うんですが」
恵子「わあった、お前らに任す」
「あと私、内勤系の事務やらせて下さい」
ホワイトボードを背に、唐突に神田が進言する。
恵子「ないきんけい?何やるつもりだ?」
神田「これだけのシーン数のある映画作る以上、記録係要りますよね?」
国松「確かに要りそうね」
神田「それにスケジュール管理も要ると思うんです」
恵子「と言うと?」
神田「このシーン数から考えて、効率良く撮れるように撮影の順番考えなきゃいけないし、それにクッチー先輩の試験のスケジュールも考慮しなきゃいけないし」
朽木「すまんねミッチー」
神田「あと他のOBの方々にも小まめに連絡しなきゃいけませんから」
荻上「まあ確かに、部室に来られる方多いからね」
神田「特にシゲさんは、撮影中はほぼ毎日連絡しなきゃいけませんしね」
恵子「わあった。じゃあその辺りの仕事、よろしくな」
神田はホワイトボードに「シネハン 浅田・岸野」「記録 神田」「スケジュール管理 神田」と書き加えた。
神田「千里、私特撮のことは全然分かんないから、特殊技術担当としてのアドバイス、よろしくね」
千里「うん」



52 :30人いる! 次回予告:2007/09/02(日) 23:26:34 ID:???
いよいよ役割分担も決まり、本格的に始動した映画制作プロジェクト。
このまま一気にクランクインと思いきや、下準備作業はまだまだ続く。
そしてこのプロジェクトに次々と乱入者が…

今回はここまでです。

53 :マロン名無しさん:2007/09/03(月) 22:15:06 ID:6ElMrDsO
保守

54 :マロン名無しさん:2007/09/04(火) 00:39:36 ID:???
中の人の方は映画製作の実務経験がお有りなんでしょうか?
みょーにリアルな気が…。
もともとパロディ気味な二次創作に、他作品のキャラを加えて、さらに劇中劇をやり、それがまたパロディやらオマージュ満載なんだから、もーしっちゃかめっちゃか(笑)


55 :マロン名無しさん:2007/09/05(水) 22:38:30 ID:???


56 :完士とおたく工場の中の人:2007/09/06(木) 18:49:27 ID:ZKhGgQa3
>>30人いる!
相変わらずすごい情報量だ。うるとらQ のM1号からジャイアントロボまで出てくるとは・・・
懐かしさで涙が出てくる。
ああ・・・俺もこれだけの情報があれば もうちょっとネタとか増やせたのに・・・(ちょっと悔しい)

しっかし わいわいがやがや相変わらずの楽しく面白いノリ 読んでて昔の学園祭を思い出す。
そしていよいよ映画撮影ですかー。恵子の活躍に期待!!続き楽しみに待ってますよー。

・・・というわけでいよいよおいらの方は最後の投下になります。
よろしくお願いしまっす。

57 :完士とおたく工場66:2007/09/06(木) 18:53:00 ID:???
「さてと次はどの部屋に行こうか。」とウォンカさんが振り返る。
後ろには完士くんと晴信じいさんしかいない。
「あれ?後の組はいないの?」
ウォンカさんが不思議そうに尋ねる。
「後の組はいません。みんな途中でリタイアしました。」
ウォンカさんが目をパチクリするが、すぐに両手を広げて
「おめでとう。君達が特別プレゼントの受賞者だよ。」と叫んだ。
完士くんと斑目じいさんはお互いの顔をみつめあう。
「で、特別プレゼントってなんですか?」
「特別プレゼントはほかでも無いこのおたく工場だ。
今日から君がおたく工場のオーナーだ。」
そういうとウォンカさんは完士くんの手をとって両手で握った。
完士くんはあまりのことに言葉が出ない。
「い・・・いいんですか?僕みたいなものがもらっちゃって?」
「いいよ。」
「えーっ!!」
「やったー!!」

58 :完士とおたく工場67:2007/09/06(木) 18:56:30 ID:???
完士は感激のあまり晴信じいさんと抱き合って踊る。
完士くんの喜ぶ姿を見てウォンカさんも満足そうにうなづいている。
「さて完士くん・・・おたく工場をもらってまず第一に何をしたい?」
ウォンカさんが尋ねる。
「家族みんなで一緒に住みたいと思います。」
完士くんが目をキラキラ輝かせながら応える。
するとウォンカさんが眉間に縦皺をよせて渋い顔をする。
「それはだめだ。おたく工場はあくまでも完士くん個人にプレゼントするのであって
完士くんの家族にではない。」
(え)と驚いた顔をし晴信じいさんと顔を見合わせる完士くん
晴信じいさん
「・・・いや・・・それでもいいよ。完士・・・たまにはおたグッズを送ってくれよな。」
そう完士くんに言うが当の完士くんは難しい顔をしている。

59 :完士とおたく工場68:2007/09/06(木) 18:57:42 ID:???
完士くんは縦皺を眉間によせてウォンカさんの方を振り向いて言う。
「今回のお話はお断りいたします。僕一人がこんな広い工場に住んでも意味が無い。」
ウォンカさんは信じられないといった顔をする。
「こんな凄い申し出を断るなんて・・・君はどうかしてるな。考え直したほうがいい。
こんなチャンスは二度とないよ。」
「え〜『第1回〜緊急おたく工場 受け渡しどうするかほとんど決まってねえよ会議』を初めます〜」
突然、晴信じいさんが叫ぶ。
ウォンカさんと完士くんが白い目で晴信爺さんを見、じいさんはゴホゴホッと咳き込んで
「最近、歳のせいかボケの進行が進んどるわい・・・」と目をそむけて小さな声で呟く。
「よく考えた方がいい。」ウォンカさんが再度、考えを改めるように完士くんに促すが
完士くんの決意は固くどうしても受け取ろうとしない。
あきらめきれない晴信じいさん「ま まーまーまー まーまーまーまー!!」と間に入り
話をまとめようとする。
「工場を受け取るのか受け取らないのかはいったん、おいといてだな。
えーと・・・まず・・・その・・・なんだ・・・。」

60 :完士とおたく工場69:2007/09/06(木) 18:59:26 ID:???
「嫌がるのに無理やり渡すのは不誠実な感じがするね。もう渡さないほうがマシなんじゃないの?」
とウォンカさん。
「そうすねー どーせいらないですしねー」と完士くん
完士くんは一旦、こうと決めたら見た目よりも頑固であった。
ウォンカさんは大きく息を吸い込みはくとあきらめたように切り出した。
「じゃあしょうがない。この話は無かったことにしよう。」
すると今までの話のいきさつを横で静かに聞いていたオ・ギウ・エーが突然、泣き出した。
ウォンカさんも完士くんも(え?)という顔をしていると
泣いていたオ・ギウ・エーが叫ぶ。
「完士さんじゃなきゃやだ」
それが始まりで工場のあちこちから沢山のオ・ギウ・エーが完士の周りに集まってきた。
そして完士くんの周りを囲むと一斉にはもってしゃべりはじめた。
「完士さんがおたく工場の後継者に選ばれねえんだったらあたす達も辞めます。」
「あ・・・いや・・・そんな・・・」
完士くんは声も出ない。
突然のオ・ギウ・エーの反乱にあって唖然とするウォンカさん。
ウォンカさんは困って腕組みをして暫く考えていた。
やがて思いつめたような顔をして口を開いた。

61 :完士とおたく工場70:2007/09/06(木) 19:01:11 ID:???
「今まで、この工場は僕一人でやってきた・・・と思ってたけれど、
それは僕の勘違いだった。だってオ・ギウ・エーの協力が無ければ何もできなかったんだからね。
今回の後継者の問題だって僕一人で決めようとしたのが間違いだった。
第一にオ・ギウ・エー達の意見を聞かなければならないのにそのことを忘れていたんだ。」
そういうと深く深く頭を下げて謝った。
「完士くん。家族をつれてきていいよ。一緒におたく工場をやっていこう。」
そういうとウォンカさんは完士くんに手を伸ばした。
(これで決まりだろう)
と思ったウォンカさんだが・・・完士くんはウォンカさんの手を握らない。
「?」ウォンカさんが何かまだ足りないのか?と不思議に思っていると
完士くんは更に次のことを言う。
「おたく工場は僕達だけのものじゃないと思うんです。」
「?」
「おたく工場はおたくみんなのものじゃないでしょうか・・・僕や家族だけじゃなく
おたく達みんなに広く解放していきたいんですが・・・。」
ウォンカさんはポリポリと頭を掻いた。
「完士くん」
ウォンカさんはいう。

62 :完士とおたく工場71:2007/09/06(木) 19:05:29 ID:???
「おたく工場は既にきみにあげるつもりだ。どう使おうと君の勝手だよ。」
そういうとウォンカさんはニッコリ笑い再び手を完士くんに差しのばした。
完士くんもニッコリ笑い、二人は強く握手した。
晴信じいさんも横で喜んでいる。
「でもスパイには気をつけないといけないがね。」とウォンカさんはつぶやいた。

ウォンカさんはその後、朽木くんを接着剤からはずし、スーをドラミの身体から元に戻し 
中島と原口はゴミの焼却炉から戻され、高坂はゲームの中から出された。
完士くんはおたく工場に家族を呼び寄せいまではおたく工場で家族みんなで働いている。
そして全世界のおたくたちが工場見学やアルバイトなどで沢山、おたく工場に出入りするようになった。

63 :完士とおたく工場72:2007/09/06(木) 19:07:44 ID:???
今日はエロ同人誌を創る会議中
完士くんがオ・ギウ・エーに仕事を頼んでいます。
「じゃあ・・・たのんじゃおっかな・・・1〜2ページのカットでいいから・・いや 
もちろん好きなだけ描いてもらっていいけど!」
「印刷どうすんだ?」と晴信じいさん
「そもそもページ数と値段は?」と総一郎父さん
「私コスプレして売り子しましょうか!」と加奈子母さん
「お・・・俺もイラスト描いていいか?」と光紀爺さん。
「わてもちょっと描かせて」と藪崎。
恵子は横で同人誌を読んでいる。


64 :完士とおたく工場72:2007/09/06(木) 19:14:43 ID:???
工場内では高坂が新しく自分でつくったエロ・ゲーを楽しみながらプレイし
咲ちゃんはその横で高坂に甘えている。
スーとアンジェラと加藤さんは新しいコスプレにトライし、
朽木くんと沢崎くんは漫画を読んでいる。
中島と原口は製品の仕分け作業だ。
今日も1日わいわいとおたく工場の日は楽しく暮れていく。
このまま永遠におたく工場はおたくたちの聖地となるだろう・・・・

え?ウォンカさんはどこで何をしてるかって?

・・多分・・・ウォンカさんは・・・どこか別の部屋でこの様子を盗撮している・・・かもしれない・・・・

終わり

65 :完士とおたく工場終わりにあたって:2007/09/06(木) 19:20:55 ID:???
長らくご愛読くださいましてありがとうございます。
完士とおたく工場はこれにて終わりです。
作者はじめての長編なのですが楽しんでいただけたでしょうか?
終わり方がぐだぐだだとかもっといい終わり方があるだろうとか
いろいろ文句のある方もいるかとは思いますが
書きたいことは途中で全部書いてしまったのでいいんです。(笑
これは途中経過を楽しむ物語だとでも思っていただければ・・・(汗

また新しい作品ができましたら投下しますので その時まで一休みします。

See You Again!

66 :マロン名無しさん:2007/09/07(金) 06:41:39 ID:???
>完士とおたく工場

お疲れ様でした。
なぁに、いい話のエンディングなんて得てしてまったりしてるもんさ。

流し読みしたとこなので感想はまた改めて。またよい妄想を待ってます。

67 :マロン名無しさん:2007/09/08(土) 22:53:34 ID:???
>完士とおたく工場
乙でーす!

>終わり方がぐだぐだだとかもっといい終わり方があるだろうとか
元ネタの映画が未見なので、どんなんなのかWikiで調べてみました。
話の流れが原作に忠実なのにビックリ。
その意味では妥当な閉め方だと思います。
>書きたいことは途中で全部書いてしまったのでいいんです
俺も昔は起承転結にこだわっていて、そういうのは邪道だと思ってました。
(例)
劇場版パトレイバー2に対する当時の俺の評価は、1に比べてひじょうに低かった。
中盤のクーデターと東京戒厳令で見せたいとこ全部やってしまい、クライマックスの第二小隊の活躍が、何だかただの後始末にしか見えなかったからだ。

でも今ではそういうやり方もアリかもと思っています。
この作品でも、中盤のオ・ギウ・エーの軍団には十二分に楽しませて頂きましたし。
またのお越しをお待ちしております。


68 :マロン名無しさん:2007/09/09(日) 07:16:43 ID:???
66さんと67さんは同じ人かな?
元ネタの映画の原作見られたんですか ええもう配役とか全部、映画のキャラに
あわせてます。つーか頭の中であのキャラはこれ このキャラはこれと当てはめていく
うちに あれ?これげんしけんの登場人物でいけるんじゃないかと思ったのが
この作品を創るきっかけになりました。
できれば原作のストーリーと違うところも見てほしい。あえて変えた作者の意図とか
そこまで見ていただければ作者冥利につきますです。
「劇場版パトレイバー2に対する当時の俺の評価は、1に比べてひじょうに低かった。 」
1は傑作ですからね。あれを超える作品を創るのは非常に難しい・・・
ん?でもそれは間接的に終わりがぐだぐだということを追認しているということか?(笑

69 :30人いる! 前書き:2007/09/09(日) 20:33:27 ID:???
完士とおたく工場の人、お疲れ様でした!
感想の方は>>67参照ということで。
(ちなみな>>66は別の人です)
いよいよこれで、このスレの連載は俺1人になってしまいました。
当分終わる様子はありません。
下手すれば年内いっぱい続きそう…
いいのかみんな、こんなアホを1人で暴走させて?

元々このスレは、連載中本スレに次回予想SS(と言っても10〜20行程度ですが)が殺到し、それがイヤって人の為に本スレから独立して始まりました。
だから本来、げんしけん関連の会話体の文章は、全部ここでいいと思います。
難しく考えずに、短いのでいいからドンドン送って下さい。

それでは本編に入ります。
12レスの予定です。

70 :30人いる! その82:2007/09/09(日) 20:40:07 ID:???
第7章 笹原恵子の周囲

その後、その他の細かいスタッフの担当を決めて、3回目(?)の制作会議は閉会した。
現時点で決まったスタッフとキャストは、次の通りであった。
スタッフ
制作総指揮    荻上(まあ一応責任者ということで)
プロデューサー  台場
脚本       伊藤
助監督(チーフ) 伊藤
撮影       浅田・岸野
ロケハン     浅田・岸野
編集       浅田・岸野
光学合成(?)  台場
照明       豪田
録音       巴・沢田
美術       豪田
記録       神田
スケジュール管理 神田
着ぐるみ造形   国松・日垣
衣装       国松・日垣 
小道具      日垣
擬闘       朽木・国松
特殊技術     国松
総監督      笹原恵子



71 :30人いる! その83:2007/09/09(日) 20:43:08 ID:???
キャスト 
冬樹       有吉
夏美       巴
モア       アンジェラ
ケロロ      荻上
タママ      ニャー子
ギロロ      国松
クルル      スー
ドロロ      沢田
ベム1号      朽木
アル1号      日垣

クランクインは、シナリオ以外にもいろいろと準備にかかる時間を考慮して、1週間から10日ぐらい後ということに決まった。
浅田と岸野は神田と共に、神田宅に行く為に引き上げた。
神田宅の内装が日向家に似てることを思い出し、改めてロケに使えるか見に行こうというのだ。
(2人は夏コミの際に、神田作のコピー本を運ぶのを手伝ったので、家の中にも入っている)
伊藤はシナリオを仕上げる為に、台場はさらなるスポンサー集めの為に、そして豪田はセット制作準備の為に引き上げた。
結果残ったのは、監督の恵子と、スーツアクターを含む役者担当の会員たちだけとなった。
恵子は再び「ケロロ軍曹」のビデオを見始めた。



72 :30人いる! その84:2007/09/09(日) 20:46:06 ID:???
巴「ねえ、せっかく仮にも映画に出るんだし、クランクインには間があるんだから、それまで特訓しない?」
一同「特訓?」
最初にこの話に食い付いたのは国松だった。
「いいわねそれ、やりましょう!」
荻上「あの国松さん、最初に断っておくけど、特訓と言ってもジープとかは無しね」
国松「(笑顔)嫌だなあ会長、分かってますよそんなの。いくら私でも、学祭の映画の特訓でジープで追い回すようなことやりませんよ。(横向いて小声で)チッ」
一同『やる気だったのかよ…(冷汗)』
巴「特訓と言っても、まあちょっとした『ガラスの仮面』気分で、発声練習とか、腹筋とか、そういうのですよ。どうです荻様?」
荻上「まあそれぐらいならいいわね」
日垣「先ずはやっぱランニングですかね?」
国松「非体育会系の人が多いから、ジョギング程度でいいでしょ。その代わりしっかり声出して、発声練習兼用で」
朽木「そりゃいいですなあ。ついでに着ぐるみ班はみんな厚着して、着ぐるみ対策も兼ねれば一石二鳥ですにょー」
一同『それはチトハズいな…』
巴「あとはヒンズースクワットと」
有吉「プロレスラーじゃないんだから、それはちょっと…」
巴「何言ってるの、スクワットは演技の基本よ。森光子さんが80過ぎても元気に舞台に立てるのは、毎日スクワット150回やってるからよ」
一同「そうなの?」
ちなみに厳密には、森さんがやってるのはスクワットまで行かない軽い屈伸運動らしい。
まあそれでも、毎日150回出来る元気さは驚愕に値するが。



73 :30人いる! その85:2007/09/09(日) 20:48:48 ID:???
そこで突然、国松ルームに乱入者があった。
大野さんだ。
後ろにはスタンドのように、田中が付いて来ている。
荻上「大野さん、どしたんすか?」
大野「話は聞きましたよ。こんな面白そうな話、何で私にも声かけてくれないんですか?」
田中「すまん、止めたんだけど」
荻上「つまり大野さんも映画に出たいと?」
大野「(体をくねらせ)お願い、会長さ〜ん」
荻上「いや私はこの件については一スーツアクターですから。それに監督恵子さんだし」
大野「(体をくねらせ)お願い、監督さ〜ん」
恵子「(ビデオを止め)と言ってもなあ、もう配役は決まっちゃったし…」
大野「そこを何とか〜」
田中「だからよしなさいって」
恵子「うーん、大野さんで今からでもやれそうな役と言えば…」
朽木「そりゃもちろん、あれしかないでしょ?」
巴「やっぱ、あれですかね?」
国松「あっ、分かった、あれですね」
沢田「分かりません」
荻上「ほらあの人よ。長い黒髪で、巨乳で、眼鏡で…」
沢田「あっ、なるほど!」
朽木「そんじゃあせーので言うにょー、せーの!」
一同「秋ママ!」
一瞬間を置いて、大野さんがキレた。
「誰が推定年齢30代半ばの2人の子持ちか〜〜〜!!!」



74 :30人いる! その86:2007/09/09(日) 20:52:55 ID:???
実は今回の映画では、最低でも6年後の話なので推定40歳前後になるが、誰もそのことには触れなかった。
荻上「しょうがないじゃねっすか。他に適当な役無いし」
国松「あのう、それに秋ママさんだったら素敵だと思いますよ。見た目若いし、美人だし」
大野「そ、そう?(まんざらでもないなという微笑み)」
朽木「そうですにょー。わたくし秋ママさんだったら、ぜひ1度お願いしたいですにょー」
大野「何を?」
朽木「えーと、関節技とか…」
荻上「(しばし沈黙して考え込み)かろうじてセーフ」
そんなやり取りを無視して、恵子は携帯をかけていた。
「あっ伊藤、シナリオの話だけどな…何、もうあらかた書けてる?」
国松「伊藤君、仕事速いね」
有吉「多分先に殆ど書いてたと思うよ、シナリオ。彼、あれで意外と自信家だから」
恵子「そんじゃあさあ、前か後ろでいいから、秋ママの出る場面追加しろや…しゃあねえじゃん、今になって大野さん出たいって言うんだから…よし、それで頼むわ」
電話を切ると、恵子は大野さんに宣言する。
「てな訳で、秋ママ以外なら出るの無理、どうよ?」
大野「…分かりました。やります、秋ママ。(ニヤリと笑い)でもその代わり、クランクインまでの演技指導は、私が引き受けます!」
荻上「演技指導?あっもしや、その格好…」
荻上会長と会員たちは、黒いサマーセーターに黒のロングスカートという、大野さんの暑苦しい服装に今になってようやく注目し、その意味を悟った。
荻上「月影千草か!」
大野「見破ったわね。荻上千佳、恐ろしい子。(狂ったように)ホホホホホホホホ!」
一同『結局それがやりたかっただけだな…』



75 :30人いる! その87:2007/09/09(日) 20:59:06 ID:???
こうして現視研の面々は、クランクインに向けて始動した。
伊藤が国松ルームでの会議の翌日に、早くも脚本を上げてきて全員に台本が配布されたので、準備は予想以上に早く本格的な段階に入った。
国松と日垣は、着ぐるみとコスの制作を急ピッチで進めた。
小道具も担当している日垣は、銃その他のグッズについても準備を進めている。
実質的な特技監督である国松は、必要な特撮シーンについて準備を進める。
台場は相変わらず外回りでウロウロしている。
浅田と岸野は、カメラテストも兼ねてロケハンに忙しく動いていた。
豪田は必要なセットの本格的な制作にかかり、部室の外は殆ど工事中状態となった。
神田は各々の進捗状況と先輩たちのスケジュールを基に、仮の撮影スケジュールを作り始めていた。
どのみちスケジュールは変更の連続と考え、自治会に交渉して余ったホワイトボードを借りてきて、マグネットシートで人員や作業のコマを作り、作業進捗表を作成した。
チーフ助監督の伊藤は、それらの会員たちの間を行ったり来たりしつつ、各々の作業を手伝っていた。
そして総監督の恵子は、相変わらず「ケロロ軍曹」を見つつ、並行して様々な特撮やアニメのビデオを不眠不休で見続けていた。
まあ厳密には休憩は時々していたが、寝ていないのは本当だった。
ゴジラ10回鑑賞会以来、恵子の脳は活性化し続けていたが、問題もあった。
伊藤から渡された脚本を読んだ時、ひとつひとつのシーンについて様々な映像のパターンが1度にイメージ出来過ぎて、逆にどう撮るべきか迷う破目になった。
「こういう時、オタクっていろいろ見た『経験値』ってやつで何とかするんだろな」
そう考えた恵子は、遅まきながら映像体験の乏しさを強引に補おうとしていたのだ。



76 :30人いる! その88:2007/09/09(日) 21:04:14 ID:???
役者の面々も負けていなかった。
予想以上に早く脚本が上がったので、早くも本読み稽古に入り、それと並行して毎朝の特訓を開始した。
ちなみにスーとアンジェラも引越しが無事に終わり、早くも合流出来た。
特訓のメニューは、ストレッチ、ジョギング、腹筋、スクワット、発声練習など、普通の演劇部員がやりそうな内容だった。
メニューだけ見る分には。

その日の朝、斑目はいつもより2時間近く早く目を覚ました。
昨夜職場の飲み会があり少々飲み過ぎたせいで、明け方に激しい腹痛に襲われたのだ。
下痢体質の斑目は、飲み過ぎると二日酔いの代わりに下痢になることが多い。
トイレから戻り、時間を見ようと反射的に携帯を探した。
普段は寝る前にベッドの近くに持って来て、タイマーを目覚まし時計代わりに使っているのだ。
だがベッドの周囲には見当たらない。
昨夜のことを思い出してみると、泥酔状態で着替えて寝るのがやっとだったので、携帯をいじった記憶が無い。
鞄の中や昨日着ていたスーツを探してみるが見当たらない。
落ち着いて昨日の自分の行動を思い起こしてみる。
『飲み屋で携帯使った記憶は無いなあ。会社でもそうだ。最近最後に携帯使ったのは…』
斑目は手を打って思わず声に出した。
「部室だ!」



77 :30人いる! その89:2007/09/09(日) 21:17:20 ID:???
昨日の昼休み、例によって斑目は部室に立ち寄った。
そこでつい長話をしてしまい、社長から「はよ帰って来い」と催促の電話があったのだ。
『あん時が多分、携帯さわった1番最後だな』
電話を受けた後、斑目はまだ食べ終わっていなかった昼飯を片付けた。
その時に机の上に一旦携帯を置いたような気がする。
『どうする?今から取りに行くか?』
時刻は午前5時、今日は仕事は休みだ。
日曜日に工事の手伝いに駆り出されたので、その代休なのだ。
もう少し寝ていたいが、仕事関係のメモリーもたくさん入っている携帯を放って置く訳にも行かず、斑目は大学に向かった。

早朝とは言え、8月下旬はまだまだ暑い。
軽く汗ばみつつ、斑目は大学に到着した。
「この時間じゃあいつら居ないし、守衛さんに開けてもらうか」
そんなことを考えつつ、サークル棟に向かって大学構内を歩き始める。
遠くから、何かを叫ぶ声が聞こえてきた。
「何だろう?体育会の連中かな?」
あまり目立った戦績は無いが、椎応にも朝から練習している体育会はある。
だから最初斑目は、声の主はそういう集まりだと思っていた。
歩みを進める内に段々その声は大きくなっていき、その内容が聞き取れるようになった。
「ひとつ、腹ペコのまま学校に行かぬこと!」
「ひとつ、天気のいい日には布団を干すこと!」
思わず立ち止まる斑目。
「これって確か、前に国松さんが言ってた『ウルトラ五つの誓い』とかいうやつじゃ…」



78 :30人いる! その90:2007/09/09(日) 21:21:15 ID:???
やがて声の主たちが斑目の方に走って来た。
(と言っても、ジョギング程度のゆったりしたペースだが)
斑目の予想通り、声の主は現視研の面々だった。
みんなTシャツに短パンもしくはジャージというスタイルだ。
何故か荻上会長、国松、ニャー子、沢田、スー、クッチー、日垣だけはトレーナーやスウェットなどで厚着している。
当初の予定であった役者の面々だけでなく、スタッフまで一緒に走ってる。
斑目を見た現視研一同、その場駆け足に切り替え、やがて止まる。
荻上「おはようございます、斑目先輩」
他一同も口々に斑目に挨拶する。
斑目「おはよう。朝っぱらからどうしたの?」
荻上「クランクイン前の体力作りです」
斑目「クランクイン?ああ、映画作るんだったね」
荻上「撮影開始まで間があるんで、それまで体を作っておこうってことで、早朝トレーニング始めたんです」
体育会系の巴、日垣、国松、アンジェラたちの息は大して乱れていない。
一方正反対の非体育会系の沢田、有吉、豪田、そして大野さんは苦しそうだった。
斑目「『何で大野さんまで居るんだ?』えらく本格的だねえ。撮影の用意って、まだ出来てないの?」
荻上「小道具とかセットとかがまだ出来てないし、それに恵子さんが…」
斑目「恵子ちゃんがどしたの?」
恵子の姿は見当たらなかった。
国松「監督は今部屋にこもって、今度作る映画のイメージを固めてらっしゃるんです」



79 :30人いる! その91:2007/09/09(日) 21:26:01 ID:???
国松によれば、恵子は前述のように「ケロロ軍曹」を見るのと並行して、パロディの元ネタになったアニメや特撮ドラマのビデオを次々と見ているという。
アニメは国松の家に無いものも多かったので、国松が他の会員に連絡して探し、その会員(または国松)に持って来させていた。
その内段々それも面倒になってきて、恵子の方からビデオの持ち主のところへ出向き、時間によってはそのまま泊り込んだ。
国松から借りたケロロのビデオと共に。
「あたしが行った方が速いし、千里んとこばっか泊まるのも悪りいからな。それに時々は外の空気吸ってお日様の光浴びてえし」
こうして恵子は、次々とビデオを消化しつつ1年生たちの部屋を泊まり歩いた。
その中には男子会員の部屋もあったが、恵子は気にしなかった。
「別に襲ってもいいぞ。宿代代わりに1回ぐらいは構わねえから」
むしろ言われた相手の方がドギマギし困惑していた。

斑目「何か凄いことになってるね…笹原は知ってるの、恵子ちゃんのこと?」
荻上「この数日笹原さん忙しくて、なかなか直接話せなくてメールのやり取りだけになってるんで、書いた覚えはあるけど読んでるかどうか…」
斑目「そんなに忙しいの?」
荻上「何でも他の社員の人が倒れて、今5人担当してる状態らしいんです。それに…」
斑目「まだあるの?」
荻上「例のB先生がまた自殺しそうになって、今回は入院したそうなんです」
B先生とは元々笹原が担当している漫画家の1人で、ベテランの割に今ひとつメジャーになり切れない為にメンヘルの気があり、自殺未遂を繰り返していた。
斑目「何か兄妹揃ってえらいことになってるな。大丈夫か、あいつ?そんな調子じゃ今度は笹原が倒れかねんな…」



80 :30人いる! その92:2007/09/09(日) 21:30:36 ID:???
斑目「それにしても荻上さん、何でそんなに厚着してるの?」
荻上「厚着してる人は、全員着ぐるみの人なんです」
斑目「ああ、今から暑いのに慣れようってことね。でも役者の人はともかく、なんで全員で走ってるの?」
荻上「最初は役者だけで走る予定だったんですが、スタッフの子たちも付き合うって言い出したんです」
岸野「まあスーツアクターの大半が女の子ですからね。女の子だけ走らせて自分たちは寝てるのも気が引けますし」
伊藤「それにスタッフだって走り回りますからニャー」
アンジェラ「てゆーか、一蓮托生?」
その後しばらく話した後、斑目は部室の鍵を受け取り、無事に携帯を回収した。
屋上でスクワットをやりながら挨拶する会員たちに軽く手を上げて応え、斑目は部室を後にした。
帰り道、ふと立ち止まり振り返ってサークル棟を見上げて呟いた。
「風が吹くな…」

次の日の昼下がり、のっそりとキャンパス内を歩く巨体があった。
久我山だ。
夏コミの時には別人のように痩せていた(と言っても普通の人よりは太っていたが)久我山だったが、この頃にはリバウンドで以前の巨体に近付きつつあった。
今日彼がやって来たのは、部室にある資料を借りる為だ。
今年の夏コミに接待で連れて来た医者たちの何人かが、帰りに自分たちもコミフェスに出品したいと言い出したのだ。



81 :30人いる! その93:2007/09/09(日) 21:34:18 ID:???
そこで久我山は、とりあえず冬コミの申し込みをしてやり、漫画を描くことについては全くの初心者である彼らの為に、漫画の入門書を用意することにした。
そして前に来た時に、部室にその手の本が数冊あったのを思い出したのだ。
と言っても、現視研の備品をそのまま医者たちにまた貸しする積りは無い。
彼自身がその本を読んでみて、良さそうと思えるものを買って渡すつもりだ。
意外なことに彼はその手の本を持っていなかった。
元々絵描き属性はあっても漫画にすることまでは考えていなかった久我山は、見本にする為のイラスト集の類いはたくさん持っていたが、漫画入門系の本は持っていなかった。
だから4年生の時に初めて夏コミに出品した際、彼が漫画を描く為に最初に参考にしたのはネットの情報だった。
(間の悪いことに、夏コミ前の頃の近くの本屋や図書館には、たまたまその手の本で彼が気に入る内容の物が無かった)
だが断片的な情報を基に描こうとしても、なかなか思うように進まなかった。
だから笹原がキレるまで原稿が上がらなかったのは、必ずしも就職活動が忙しかったせいだけでも無かった。
最終的に漫画の形に仕上げられたのは、荻上会長の経験値に助けられた分が大きかった。
だから出来れば今回の件についても、荻上会長ともいろいろ話そうと思っていた。
後輩に頭を下げていろいろ尋ねるのは格好悪いという気持ちも無いでは無いが、相手は今やプロの漫画家なのだから、それだけの価値はある。
仕事が予定より早く終わり、ふと思い付いて来たので事前に連絡はしていないが、最近はかなりの高確率で部室に居るし、最悪でもあの人数だから誰か部室に居るだろう。



82 :30人いる! 次回予告:2007/09/09(日) 21:43:22 ID:???
ようやく本編メインキャラが介入し始めた映画制作プロジェクト。
次回、久我山は驚愕の光景を目にすることになる。
そして、いよいよ本編主人公の出番が…

本日はここまでです。

83 :30人いる!の人:2007/09/09(日) 21:57:27 ID:???
お返事を少々。

>>54
遠い昔に1回だけ、高校の文化祭の映画制作に参加したことあります。
(ちなみにこの当時は、当然8ミリです)
ただ、俺はチョイ役で出たのと、小道具にモデルガン提供しただけなので、覚えているのは雰囲気だけです。
今回の話の殆どは資料に頼っています。

>>56
>うるとらQ のM1号からジャイアントロボまで出てくるとは
いや、このぐらいは我々の年代では一般常識ですから。
特別オタクじゃなくても、名前出されれば「ああ、あれか」って分かりますよ、誰でも。

って、知ったな!
俺がスレの長老だと知ったな!

失礼しました。
また発作が出てしまいました。


84 :マロン名無しさん:2007/09/10(月) 22:38:41 ID:???
ようやくキャスティングも決まってこれからが楽しみ!
大野さん 斑目 久我山と旧メンバーが徐々に巻き込まれつつありますな。
咲ちゃんがどういう形で巻き込まれるかが楽しみです。ワクワク♪
個人的には国松さんの(横向いて小声で)チッと関節技がめちゃ受けました(笑
次の投稿を楽しみに待ってま〜す!

>うるとらQ のM1号からジャイアントロボまで出てくるとは
すいません うるとらQ のM1号・ジャイアントロボからケロロ軍曹まで出てくるとは
と言い換えるべきでしたか・・・そのような長老なのに最新作までご存知であるとは・・・

えっ 夢使いのOP知ってるおまえに言われたくないって?

・・・失礼しました・・・・

85 :マロン名無しさん:2007/09/10(月) 22:46:06 ID:???
「本来、げんしけん関連の会話体の文章は、全部ここでいいと思います。
難しく考えずに、短いのでいいからドンドン送って下さい。 」

本編でこっちにこいよっ!って奴がいくつか投稿されてますな。
ただ連載終了以来そういうのも許容していかないと話題が続かないせいか
SSスレに行けっ!!という声が聞こえないのが寂しいところ・・・
まあSSスレも変に高度化しちゃって入りづらいというのもあるかもしれません。

今なら(つーか今までも)来る者拒まずなんですけどね。

すいません 雑談を書いてしまいますた。

86 :マロン名無しさん:2007/09/11(火) 06:23:20 ID:???
>完士とおたく工場
のんびりしてたら作者降臨してしまったw失礼しました。>>66です。では感想。

まずは長い話をきっちりまとめた手腕に尊敬と感謝を。俺も書き手の一人ですが、長くなると自分で判るくらい言い回しがカブったり語尾がくどくなったりしてゆく。
読み手に負担を感じさせずにそれを書きとおすのは(たとえばミュージカルセクションが入るってのも効果的)お見事です。結局読んでもらえなければ無意味なわけで、筋立ては映画を参考にしているとのことですがそれも含めてよい作品になったのでしょう。
なお映画観るチャンスはなかったorz いつか観ることがあったら改めてコレ読もうかと。
個人的には壮大なフェイクだった(ゴメナサ)完士くんとオ・ギウ・エーとの淡いすれ違いが、読み終えたあとで効いたっス。原作知らなかったしラヴヒロインだと思ったんだようw
ラスト2レスの締めがよかった。なんら進歩してない(褒め言葉)オタ家族。なぜか働いてたり働いてなかったりする見学者たち。そしてよくわからない絆を作り上げた完士くんとオ・ギウ・エー。
彼らに幸あれと願うですー。作者氏ご苦労様でした。




>【これからずっと】30人いる!【あなたのターン】
ウソですすいません。俺も書いてるんでしばし、しばしのご猶予をっっ。
今回投下分で俺が面白かったのは「オタク医者の召使い」久我山の登場と「リアル死は勘弁」笹原の近況でした。
前作までのネタが引っ張られると嬉しいお年ごろなのです。あなたの作品では笹原は常に脇役なので、オギーともなかなか絡めずかわいそうです。いいけど(いいのかw)。
完璧に体育会系のノリで企画が進む現視研。自分たちがいた頃と全然違う熱気に斑目たちOBはついてゆけるのか!?てゆーかパクッてやられちゃいそうなのは気のせいなのか!?
まだまだ先が読めません。年内は続くということですし、じっくり読ませていただきます。

それから書き手誘導もありがとう。俺が言うことじゃない(っつーか行動で示せ俺)けどここまで続いたスレだし、まとめサイト見てみると作品数もじき500本になろうかという宝物殿だ。秋のアニメに向けてももう一発奮起したいところでありますな。
進め常連、立て新人!勝利の凱歌だ正義の旗だッ!
ナニ言ってんだかはあまり気にせんでください。ではまた。

87 :マロン名無しさん:2007/09/11(火) 19:19:01 ID:JhEB5omz
「個人的には壮大なフェイクだった」
映画見ていない人にとっては違うストーリー展開が頭に思い描かれていたことと思います。
まあ予想を裏切るのも面白みのひとつということで・・・
個人的に最後の方はいろいろ悩んで結局、他に考えつかなかったラストなので
(映像にすれば間の取り方とかバックの音楽効果とかでこういうラストでも感動的なものには
できるよなーと思いつつ言葉で表現できない自分の才能に失望)思わぬ高評価に感謝・感激です。

それはそうと、まとめサイト久々に見たら更新されていて、なぜかそれが一番うれしく思う今日この頃


88 :マロン名無しさん:2007/09/12(水) 21:40:48 ID:???
安倍さん、辞めちゃいましたね。


89 :マロン名無しさん:2007/09/13(木) 06:52:53 ID:???
誤爆?

90 :30人いる!の人:2007/09/14(金) 21:58:40 ID:???
ちょっぴりネタバレも込めて、チトお返事を。

>>84
咲ちゃんについては、巻き込まれるというより、恵子を励ましたり導いたりする、師匠のようなポジションを予定してます。
例えるなら、昔の実写のドラマで若い主人公に接する故岸田森みたいな、そういう感じです。
でも直接映画制作にも噛ませたい気も少々。
うーん…何か考えてみます。
>ケロロ軍曹
どうも世間では誤解されているようだが、「ケロロ軍曹」って明らかに、子供向けの皮をかぶった大人向けのアニメだと思います。
ロボットのコクピットにコインクーラーあって火炎攻撃しのぐとか、青い円盤指でクルクル回してヒーロー呼ぶとか、こんなの子供には分かりません。
先日の放送分の元ネタなんて「ガス人間第1号」に「ニッポン無責任時代」。
もはや若いパパママでは分かりません。
その上の世代のジジババまで引っ張り込もうという勢いです。

>>86
>【これからずっと】30人いる!【あなたのターン】
いやああああああ!!!!!w
頼むからみんな投稿してね。
でないと本当にそうなっちゃうから。

さて久我山ですが、次回はまさにそんな話の予定です。
とまどいつつも今の現視研を受け入れていく、そんなブーちゃんの葛藤を描こうと思っています。
あと笹やんですが、彼は今回は「荻上会長の彼氏」というポジションより、「笹原恵子の兄貴」というポジションが中心になりそうです。
笹荻甘々なSSは…俺には無理っす。
「はぐれクッチー純情派」で書いた、幸せ太りのデブ笹荻夫婦がせいぜいです。


さて投下の方ですが、連休中にとりあえずどっかで投下しますので、もうしばしお待ちを。


91 :マロン名無しさん:2007/09/16(日) 22:13:19 ID:???
保守

92 :30人いる! 前書き:2007/09/17(月) 20:10:16 ID:???
やれやれ、どうもこのスレ、当分俺1人が好き勝手やってる、個人的なブログみたいなスレになりそうですな。
まあもうじきアニメも始まるし、そうすればまた新しい作品も来ることでしょう。
それまでは1人でも頑張りましょう。
今回は10スレで投下します。


93 :30人いる! その94:2007/09/17(月) 20:12:04 ID:???
サークル棟に向かう途中、久我山は柔道場の前を通り掛かった。
この大学の柔道場は、通路側に大きな窓(人が出入り出来る大きさで、下辺は床に付いてるから、ガラス戸と言うべきか)がある。
稽古中にぶつかって破損するのを防ぐ為か、内側には雨戸のような鉄格子の扉があり、外から見ると金網デスマッチのような格好になる。
そういう立地のせいか、特にスター選手が居る訳でも強豪校でも無いのに、稽古中の柔道場の前には見物人がよく居た。
初心者の柔道部員の中には、かつてその見物人だった者もけっこう居て、この立地は地道に柔道部存続に貢献していた。

久我山は道場の中で動く人影をチラリと見て、ふと足を止めた。
「あれっ?みょっ妙な時間に稽古やってるな」
久我山の記憶では、椎応の柔道部は朝と夕方に全体での練習をやる。
それ以外の時間は、2〜3人程度の人数で自主的に練習してるのをたまに見かける程度だ。
ところが今、道場には少なくとも10数人は居る。
男女半々ぐらいで、女子がやや多い。
柔道着を着ている者は3〜4人しか居らず、残りの者はジャージやトレーナー姿だ。
どうやら受身の練習をしているらしい。
「なっ何かの同好会かな?」
好奇心に駆られて道場に近付いた久我山、思わず声を上げた。
「おっ、荻上さん?そっそれに他のみんなは…」
そう、道場で受身の練習をしていたのは、現視研の面々だった。



94 :30人いる! その95:2007/09/17(月) 20:14:03 ID:???
「あっ久我山先輩、こんにちは」
久我山を最初に見つけたのは国松だった。
柔道着姿だ。
彼女は元柔道部のマネージャーなのだが、一応自分用の柔道着も持っているのだ。
他の会員たちも気付き、挨拶しつつ久我山に近付く。
久我山「こんなとこで何やってんの?」
荻上「映画のクランクイン前の特訓です」
荻上会長の説明は、次の通りだった。
撮影時には着ぐるみの担当者は多少のアクションを伴なうので、突き飛ばされたり投げられたりもする。
豪田が岩型のクッションを制作したり、着ぐるみの頭部にヘルメットを仕込むなどいろいろ安全対策はしているが、最後に身を守るのは自分自身だ。
そこでせめて、クランクイン前に受身の基本だけでも覚えようというのが、今回の主旨だ。
なお、着ぐるみ担当者以外の会員たちも、本来受身は関係無いのだが、例によって付き合っていた。

久我山「なっ何か大変だね」
荻上「そう言えば久我山先輩、今日はどうしたんですか?」
久我山は前述の事情を話した。
荻上「そんじゃあとりあえず、先に部室行きましょうか?」
久我山「そっそりゃ悪いから、そっち終わるまで待つよ」
荻上「お時間、大丈夫ですか?」
久我山「いいよ、今日はこの後はヒマだし」
それに現視研の面々がどんな特訓をやっているのか、少し興味があったので見ていたかったというのもあった。


95 :30人いる! その96:2007/09/17(月) 20:15:47 ID:???
受身オンリーとは言え、現視研の特訓はなかなか本格的だった。
元柔道部のマネージャーの国松は、部員から柔道を一応習っていた。
まあかじった程度のレベルだから決して強くはないが、受身は完璧だった。
そこで国松がコーチ役となって、会員たちに受身を教えていた。
その教え方は意外と上手いらしく、どちらかと言えば運動の苦手な沢田や有吉までそれなりに形になっていた。
その一方で国松はアンジェラに、クッチーは日垣に、基本的な投げ技を教えていた。
受身をマスターする為には、最終的には投げられてみなければならない。
柔道経験者は国松1人なので、会員全員を投げるには人手不足という訳だ。
ちなみにクッチーは、警察官の試験に備えて、最近柔道を習い始めた。
とは言っても、師匠は元々通っている空手道場の柔道経験者の師範代であり、使える投げ技も出足払いと大腰だけで、道着も当然空手用だ。
本来なら全員に投げ技教えたいのだが、何しろクランクインまで時間が無い。
そこで体力と運動神経ありそうな日垣と、レスリング経験者のアンジェラ(反り投げ系は出来るが背負い投げ系が何故か出来ない)を選んで集中的に教えることにしたのだ。
(とりあえず柔道部から借りられた道着が2人分という事情もあった)

そんな中、荻上会長1人だけは別メニューだった。
陸上部から借りてきたらしい、走り高跳び用のマットを道場に持ち込み、その上での練習なのだが、その動作は他の会員たちとは著しく違っていた。
両足を大きく前に振り上げるようにして跳び上がり、背中から落ちるようにして受身を取る。
かなりオーバーアクションな後ろ受身で、その動きはセントーンに似ていた。
(注釈)セントーン
倒れた相手の上に飛び上がって、背中または尻から落ちてダメージを与えるプロレス技。
ちなみにセントーンとは、スペイン語で尻餅のこと。


96 :30人いる! その97:2007/09/17(月) 20:17:30 ID:???
見学していた久我山が尋ねる。
「くっ国松さん、荻上さんは何やってるの?」
国松「あっ、会長は軍曹さんの役なんで、特別メニューなんです」
久我山「軍曹さん?…まさかひょっとして荻上さんがケロロ?!」
国松「(にこやかに)はいっ」
久我山は、「ケロロ軍曹」の実写映画を撮るという話は聞いていたが、まさか荻上会長自ら着ぐるみコスをするとは思っていなかったのだ。
久我山「でっでも、何で軍曹だとああいう受身になるの?」
国松「恵子監督が『ケロロ軍曹』見てて1番ウケてたシーンって、ケロロがバナナで転ぶシーンなんです」
久我山「なるほどバナナか、って、かっ監督恵子ちゃんなの?!」
予想外の情報の連続に、軽く目まいのする久我山。
国松「まあシナリオには無いんですけど、恵子監督気まぐれだから、後で多分やろうって仰る予感がするんで。まあ念の為ですけどね」
その後1時間近く、久我山は現視研の受身特訓を見学しつつ、いろいろ映画についての話を聞いた。


97 :30人いる! その98:2007/09/17(月) 20:19:29 ID:???
受身の特訓の後、他の会員たちはそれぞれの準備の為に引き上げ、部室は荻上会長と久我山の2人きりになった。
久我山は部室の蔵書を1冊1冊丹念に読み、荻上会長は自分のノートパソコンを持ち込んでネームを作っていた。
久我山「わっ悪いね、忙しいのに付き合わせちゃって」
荻上「いいですよ。私も合間にネームやりたかったんで」
久我山「それって、今度連載するって漫画の?」
荻上「ええ、第8話のネームです」
久我山「はっ8話?あの、連載って確かまだ始まってなかったよね?」
荻上「映画の方がどうなるか分かんないんで、最悪撮影中は1枚も描けなくても大丈夫なように、原稿描きだめしておいたんです」
久我山「げっ原稿の方は、まさか7話まで出来てるの?」
荻上「まさか、さすがにそれは無理ですよ。5話までです、完成原稿は。6話と7話はネームだけですが、編集さんからオッケーもらいましたんで、これから描きます」
久我山「…あっ相変わらず仕事速いね」

その後しばらく、2人とも各々の作業に没頭し、沈黙の時が続いた。
ふと久我山は荻上会長を見る。
相変わらずネーム作りに没頭している荻上会長を見ている内に、何時しか彼の思考は過去の記憶をたどり始めていた。
『荻上さんが1年生の時って、部室でいつも漫画描いてたよな』
4年生になってからの久我山は、部室には数えるほどしか来ていない。
その数少ない来訪時の記憶の中の荻上会長は、いつも漫画を描いていた。
まあもっともその頃は、本格的な原稿ではなくイラスト程度だったが。


98 :30人いる! その99:2007/09/17(月) 20:21:45 ID:???
『俺も現役の頃は、部室で絵ばっかり描いてたな』
久我山の思考は、いつしか自分が1年の頃にまで遡っていた。
『あの頃の部室って、単なるたまり場でしかなかったな…』
久我山が1年生の頃の現視研、そこは既成のオタサークルから微妙にずれているオタクたちの難民キャンプのような場所だった。
絵は描けるが漫画の原稿にまでは踏み出せない久我山。
作る側のオタ属性は何ひとつ無く、消費する側のオタとしてのオタ理論を延々語り続ける斑目。
気が付けば居たり居なかったりの、地縛霊のような初代会長
そしてコスプレに特化し過ぎて、アニ研で居場所を失った田中。
その4人が集ってぬるい空間を形成し、ぬるいオタ談義をする、1年生の久我山にとっての現視研とはそういうサークルだった。

そんな現視研の転機になったのは、笹原たちの代が入会したことだった。
完璧超人のような高坂。
その高坂に付いてきた、そもそもオタクですらない春日部さん。
現視研コスプレ部門活性化の立役者大野さん。
そして自分たちと同じヌルオタから、徐々に作る側のオタへと進化していった笹原。
この4人が現視研を活性化させ、現在の作る側のオタ中心の現視研の礎になった。
『それに比べて俺たちと来たら、何も作らなかったな…』
ふと久我山は、今の現視研と自分たちの頃の現視研を引き比べて、劣等感とも嫉妬ともつかないマイナスの感情が湧いてきたことを自覚した。


99 :30人いる! その100:2007/09/17(月) 20:25:59 ID:???
その時部室に来訪者があった。
「うぃーっす」
「ちわーす」
斑目と田中だった。
荻上「こんにちは。珍しいっすね、お2人で」
斑目「そっちにも珍しいのが居るじゃない」
久我山「よっよう」
田中「今日はどしたの?」
久我山は前述の事情を2人に話し、逆に2人にも来訪の理由を尋ねた。
斑目「(コンビニの弁当を突き出して)俺は例によって今から飯さ。そんでこっちに向かっている途中で、田中とバッタリ会ってね」
田中「俺は大野さんに会いに来たんだけど、あと1時間ばかし帰ってこないから、ちと時間潰しにね」
荻上「大野さん、どうかしたんですか?」
斑目「フィットネス通い出したんだよ、大野さん」
久我山「フィットネス?」
田中「ほら、彼女秋ママ役だから、最近ちょっと太ったこと気にしちゃってさ、何とかクランクインまでに体重落とそうと、エアロビクスとかいろいろやってるらしいんだよ」
久我山「あっ秋ママなんだ、大野さん…『そう言えば大野さん、受身特訓の時も居たよな。
あれからそのままフィットネスか。大変だな』」
斑目「大野さんの出番なんてほんの少しだし、原作より6年ぐらい後の話で、多分秋ママ40超えてるんだから、ちょっとぐらい太ってても大丈夫なのにな」
久我山「何でお前、そっそこまで映画制作について詳しく知ってるんだ?」
荻上「まあ、そこは女心ですよ。それに先ずは外見からキャラ作りしようっていう、レイヤー魂じゃないっすか」



100 :30人いる! その101:2007/09/17(月) 20:29:56 ID:???
その後しばらく、4人は各自の近況報告やオタ話を続けた。
久々のぬるい部室の空気の中、不意に久我山は高校の担任の教師の口癖を思い出した。

だが、どんなもんだろう。
これはこれでよかったのではないか。
人生はファミコンではないのだ。
必要な所だけ通って、必要なアイテムだけ集めてればいいというものではない。

うろ覚えだが、大意はこんな感じだった。
担任はプロレスオタで、授業や説教の際によくプロレス関係のオタ知識を引用した。
前述の口癖は、杉作J太郎というプロレスオタの漫画家が、プロレスラーのラッシャー木村について書いたエッセイの1節である。
ラッシャー木村は、日本プロレス→東京プロレス→国際プロレス→新日本プロレス→第一次UWF→全日本プロレス→ノアと、団体から団体へと渡り歩くレスラー人生を送った。
国際でエースになり、新日本でヒールに転向して酷使され、全日本でお笑いプロレスで人気者になる、そんな彼の人生の浮き沈みを杉作は、前述の1節のように総括した。
担任は事あるごとにこれを引用しては、いつもこう続けていた。
若い内に、せいぜい寄り道したり道に迷ったりしておけ。
それがお前たちの「経験値」になっていくんだから。


101 :30人いる! その102:2007/09/17(月) 20:32:41 ID:???
『これはこれでよかったんじゃないか』
斑目や田中とオタ話を続ける内に、久我山は自分たちの現視研会員としての4年間を肯定的に捉えられるようになった。
『ぬるいオタ話の出来るこいつらと出会えて、笹原たちが集まれる場を守ってきた、それだけでも俺たちがここに居た意味はあったんじゃないかな』
漫研やアニ研のように特化していない、ヌルオタのたまり場としての現視研。
だからこそ、隠れオタの笹原や、マイペースな完璧超人の高坂や、コスプレに特化した大野さん、そしてオタクですらない春日部さんが入れる余地があった。
それがあったからこそ、今の現視研がある。
それならそれで、自分たちは自分たちなりの役割を果たしたと考えていいんじゃないか。

「おいどした、久我山?」
斑目に声をかけられ、久我山は我に返った。
久我山「なっ何でもないよ。ちょっと考え事してただけ」
斑目「そうか…」
斑目を見つめる久我山。
斑目「ん?どした?」
久我山「何て言うか、斑目、田中、お前らと出会えて良かったよ」
部室の時間が一瞬停止した。
斑目「なっ、何だよ急に?」
田中「何かあったのか?」
赤面する斑目と田中。
一方言った久我山も赤面していた。
久我山「ちょっ、ちょっと昔のこと思い出してただけだよ」



102 :30人いる! その103:2007/09/17(月) 21:41:17 ID:???
その時3人は、背後に異様な熱気を感じた。
3人揃って振り返ると、赤面した荻上会長が熱い視線を向けていた。
田中・久我山「荻上さん?」
斑目はいち早く熱い視線の意味を悟り、荻上会長に近付く。
斑目「まさか俺たち3人が、そういう妄想のネタになる日が来るとは、1年の時は想像出来なかったな。(筆をシビビビしつつ)荻上さーん、戻って来てー!」
田中・久我山『(互いに見つめ合いながら滝汗)よくこいつ相手でそんな妄想が出来るな…』

その後斑目は食事を終えて職場に戻り、田中は大野さんから連絡があって部室を後にした。
久我山は当初の目的の本を数冊選んで借りた。
久我山「きょっ今日はいろいろありがとう。すまんね、お手数かけて」
荻上「いっいえ、こちらこそいろいろご迷惑を…」
言いながら赤面する荻上会長。
久我山『どういうカップリングでどういう妄想してたかは、訊かない方が良さそうだな…』

こうして久我山は部室を後にした。
最初映画制作の話を聞いた時、予想以上にいろいろ大規模になっていることに驚いた。
そしてかつて自分が居た現視研とはまるで違うサークルになってしまったことを少し寂しいとも思い、自分たちが何もして来なかったことを引け目に感じた。
だが斑目と田中に会ったことで、自分たちの4年間も決して無駄ではないと思えるようになった。
そうなると今度は頑張り屋の後輩たちを頼もしく思い、本気で可愛いと感じた。
そして可能な限りの援助はしてやりたいと思った。
『孫を持ったお祖父ちゃんの気持ちって、こんな感じなのかな?』



103 :30人いる! 次回予告:2007/09/17(月) 21:52:42 ID:???
やっぱ専プラって必要なんですかね?
途中連投規制喰らって、最後の分は1時間近く投下出来ませんでした。
あと今回、ブーちゃんの話が予想以上に長くなっちゃって、笹原の話まで手が回りませんでした。
笹原は次回登板しますので、今しばらくお待ちを。
それにしてもこの話、とうとう100レス超えちゃいましたけど、まだクランクインに辿り着けないとは…

次回、それぞれの地獄をくぐって来た兄妹が再会する。
今回はこれまでです。

104 :マロン名無しさん:2007/09/17(月) 22:17:46 ID:???
お疲れさまー!

ほぼリアルタイムに読めてかんどーして、カキコ。

毎回楽しみに待ってます。
がんばってください。

105 :マロン名無しさん:2007/09/18(火) 09:44:34 ID:???
>>103
乙。読んだら感想書きます。

専ブラでも連投規制はかかりますよ。だけどウェブブラウザに比べて読みやすいし
投下しやすいのは事実。俺はギコナビからjane doe styleに移行したけど、ギコナビは
連投準備がしやすく(書き込み専用ウインドウを複数開くことができるので、最初から
10レス分切り貼りしたりしてた)、janeは投稿可能文字数・行数など長文投下に重宝
する情報が確認しやすいです。
jane doe styleはUSBメモリで持ち運べる=ネカフェと自宅で情報共有できるというのが
俺的最大ポイントだったんですけどね。

ちなみに俺は連投規制かかったときは慌てず騒がず電話線つないでダイヤルアップ接続
してますw 余計な金はかかるがテキストデータだけだし、時間とテンション維持には
代えられない。

106 :マロン名無しさん:2007/09/18(火) 18:10:24 ID:???
>『30人いる!』
読んだ。
はしょろうと思えばいくらでも短くできるディティールをここまで書き続けるあたり作者氏の創作力はまだまだとどまるところを知らないと見える。行け命の限り!
それにしても作者氏、多趣味ですね。これまでアニメ漫画は基本としても特撮、8ミリフィルム、演劇、サバイバル等々の語りネタが出てきましたが今回はプロレスが登場。
以前、いろいろ調べながら書いてるとかおっしゃっていましたが、クッチーが前から空手やってたりするところを見ると付け焼き刃な感じもしないので、これらのネタほとんどご本人のもともとのご趣味と推量いたします。
今回の話はテーマ的にもいい雰囲気です。確かに人間、ゴールを目指して最短ルートを探るもんでもありません。
終着点ではなくあちこち歩んできた道のほうを『人生』と呼ぶのであって、アニオタだろうがIT長者だろうが死ぬ時に「いい人生だったなあ」と思えるかどうかが大事なんですよね。デコボコが多い方が歩き甲斐もあるってもんです。
在学中だけで終わらない友人とめぐり合えた彼は、間違いなくよい人生を構築しているのでしょう。医者にオタクの手ほどきをするチャンスなんぞなかなか巡って来ないっつんですよw
そしてオギーが妄想したであろう久×田×斑もきっと汗の飛び散る激しいくんづほぐれつではなく、きっと夕日バックとかのサワヤカ系の熱い友情カットだったに違いない。つかそうであってくれ。

「100レス使ってまだここまで」ではなく「100レス使ってついにここまで」と感じられる超大作、中盤以降も楽しみにさせていただきます。この際スレ占有しちゃえ(マテ)。今後もよろしくお願いします。

107 :マロン名無しさん:2007/09/19(水) 22:11:19 ID:???
いきなりですが、今期の深夜のアニメ、全部制覇した人なんていますか?
もしいらしたら、げんしけんメンバーで今期のアニメ総括会議、なんてネタはどうでしょう?
ちなみに俺は、見てたの絶望先生とらき☆すた(しかも途中から)とドージンワークだけなんで、このネタには役不足です。

108 :マロン名無しさん:2007/09/20(木) 22:24:32 ID:???
保守

109 :即興で短い会話:2007/09/21(金) 22:04:16 ID:???
荻上「斑目さん、初代会長ってどんな方だったんですか?」
斑目「何と言うか…実は俺も正体は分かんないんだよ」
朽木「そうなんでありますか?」
斑目「いると思ったらいない、いないと思ったらいる、そういう人だったからな」
荻上「まるで妖精ですね」
斑目「俺らの代でもいろんな説があったよ。宇宙人とか、座敷わらしとか。1番有力な説は地縛霊かな」
朽木「ぬぬ、それは危ないですな」
斑目「どうして?」
朽木「自爆霊は、いつ爆発するか分からないじゃないですか」
荻上「いつ爆発するか分からないのは、朽木先輩じゃないですか」
朽木「荻チン、ナイスツッコミ!」

110 :マロン名無しさん:2007/09/22(土) 07:02:12 ID:???
GJ!ワロタ



隣で聞いてた笹原「(ツッコんでる人の方も相当ヤバイけどね)」

111 :腐女子トリオ漫才:2007/09/23(日) 00:08:41 ID:???
スー「(池田秀一似の声で)どれん、私ヲ誰ダト思ッテイルンダ?」
荻上「シャア大佐」
藪崎「(筆をはたいて)そのまんまやないけ!」

112 :30人いる! 前書き:2007/09/24(月) 21:30:45 ID:???
今回はいきなりご返事から。
>>104
最後の1レス投下に1時間以上かかっちゃって、ご迷惑おかけしました。
>>105
実は今でもPCについてよく分からんまま使ってるのが実情です。
まあよく分からんもんは使わん方が賢明そうなんで、今まで通りで行きます。
いろいろアドバイスありがとうございました。
>>106
>はしょろうと思えばいくらでも短くできるディティールをここまで書き続ける
すいません、引き算のおしゃれが出来ない、おしゃれ上級者ですいません。
(それはおしゃれ上級者じゃないって!)
まあ若い時に大藪春彦読んでたせいで、多少影響受けてるかも知れません。
あの先生の小説も、物についての説明長々やりますから。
(例えばスコープの調整をするシーンで、2ページぐらい延々と調整の仕方の説明が続いたりします)
とは言え、実はこれでも今まで多少ははしょっています。
例えばゴジラのカット数について議論するシーン、実は準備稿段階ではもう3レスぐらい長いです。
本来なら昔の映画に比べて今の映画のカット数が多いことについて、その原因の説明で延々議論しています。
でもさすがに本題から外れ過ぎてるなと思い、泣く泣くカットしました。
>多趣味
興味や好奇心が広く浅いだけです。
逆に言えば全部中途半端です。
その意味で俺、案外げんしけんキャラでは恵子に近いかも知れません。

久我山という男、基本的にはいい奴なのですが、何というか、人間の器が小さそうだなという印象を受けます。
だから今の現視研見れば多少マイナスの感情が湧くだろうし、同時にそれじゃいけないと思う人の良さもあると思います。
ただ1人でいい方向には進めず、誰かが背中を押してやらないといけないなと思い、2人を連れて来ました。
そして昔読んだ「だが、どんもんだろう〜」という杉作さんの名文を久我山に捧げたくて、無茶な裏設定作っちゃいました。

さて、今回はいよいよ原作の主人公登場です。

113 :30人いる! その104:2007/09/24(月) 21:33:40 ID:???
第8章 笹原恵子の休息

笹原は疲れて果てていた。
同じ派遣会社の編集者が過労で倒れ、本来の担当以外に新たに2人の漫画家の担当を臨時で兼任することになった。
それに加えて、本来担当していた3人の漫画家たちは、各々困ったちゃんと化していた。
A先生は、本格的に新連載の準備にかかっていた。
機銃掃射のように次々とネームを上げ、同時に上機嫌になったA先生は、毎日のように笹原に夕食を奢ってくれるのだが、これがありがた迷惑だった。
A先生が連れて行ってくれる夕食とは、完全に酒席とワンセットであり、しかも彼の旧友である裏社会の住人たちが同席することが多かった。
異常な量の酒を勧められる一方でその筋の客人に気を使う、そんな酒席での笹原は、まるで力道山の付き人をしてた当時のアントニオ猪木のような精神状態だった。
(まあみんな笹原を異常なほど可愛がってくれたので、殴られることは無かったが)
あれほど手のかからなかったC先生は、最近ではスランプに入りネームも原稿も遅れがちになり、〆切日は毎回ギリギリの時間との戦いを強いられた。
そして1番の問題児のB先生は、この大変な時期にまたやってくれた。
弟子の漫画家の作品がアニメ化されたことが原因で、今回はかなり本気に近い自殺騒動に発展した。
マンションの自室から飛び降りようとして、本当に落ちた。
幸い足から落ちたので命に別状は無いが、両足の骨折で2ヶ月の入院を余儀なくされた。
しばらく休載かなと半分ホッとした笹原だったが、上司の小野寺はそれを許さなかった。
「足が折れただけで上半身は無事なんだろ?病院で原稿描いてもらえ!」
『鬼だ、この人…』


114 :30人いる! その105:2007/09/24(月) 21:35:59 ID:???
そんなこんなで、笹原はここ1週間ばかりまともに寝ていなかった。
移動の時間の居眠りを除いては、1日に2時間も寝てない。
荻上会長とも肉声での連絡は取れていなかった。
病院に居る時間が長かったり、ようやくフリーになった時間が夜中や早朝などの直接電話するには微妙な時間だったりのせいで、この1週間ほどの連絡は全てメールで行なった。
そのメールとて忙しかったり意識朦朧としてたりで、ちゃんと全部読んだ自信は無い。
そんな生活が今日ようやく終わった。
倒れていた編集者が復帰し、やっと休みがもらえた。
『本来ならすぐにでも荻上さんに会いに行くとこだけど、今日はとりあえず寝よう』
その一心で笹原は最後の力を振り絞って寝間着代わりのジャージに着替え、床に着いた。
その時玄関のチャイムが鳴った。
「誰だよ、こんな時間に!」
本来朝言うには不適切な台詞を不機嫌そうに吐きつつ、笹原は玄関に向かう。
いつもなら覗き窓から相手を確認しつつ誰何してドアを開ける笹原だが、今回ばかりはいきなり乱暴にドアを開ける。
新聞の勧誘かセールス相手なら、殴りかねない勢いだ。
ドアを開けると同時に、来客は笹原に向かって倒れ込んだ。
「恵子?!」
来客は恵子だったが、笹原が「?」を付けたのには、いきなりの訪問以外にも訳があった。
殴られて青タンが出来たような濃い目の下の隈、死人のような青白い肌、そして笹原の妹とは思えない痩せこけた頬と、一瞬恵子とは分からないほどの変わり様だった。
抱きかかえたその身体は、笹原が感覚的に記憶している恵子の体重よりも軽く感じられた。
「何があったんだ?」


115 :30人いる! その106:2007/09/24(月) 21:37:42 ID:???
笹原の腕の中で、恵子は目を覚ました。
とは言っても、意識は朦朧としているようだった。
「あっアニキか…すまね…家まで帰って寝る積りだったんだけ…ムリ…寝さし…」
ここまでで恵子は再び意識を失った。

笹原は恵子を部屋に運び込むと、彼女の置いていった恵子専用布団を出してやり、そこに寝かせてやった。
「まあ何があったか知らんけど、あとで起きてから聞いてやるか」
そう思い、再び床に着いた。
だが数分後、「バカヤロー!」という恵子の絶叫と共に飛び起きた。
「なっ、何だ?」
恵子は眠っていた。
「何だ寝言か?」
笹原が安心して再び床に着いた途端、恵子は寝言の続きを叫び始めた。
「何て下手くそな戦い方だ!周りを見てみやがれ!何も守れてねえじゃねえか!」
「これって、何かの台詞っぽいな、何だろ?」
再び床に着く笹原。
だが数分後。
「あすか〜〜〜〜〜!!!!!!」
再び恵子の絶叫に笹原は叩き起こされた。
「何だ?エヴァ?種死?それともまさか、空手バカ一代?」
そのどれでも無かった。
「2月2日、飛鳥五郎という男を殺したのは貴様か!?」
「そっちかい!」


116 :30人いる! その107:2007/09/24(月) 21:40:11 ID:???
その後も恵子は、数分ごとに何かの台詞を絶叫した。
「切手のき!吉野のよ!田んぼのたに点々!」
「ば〜れたか〜!」
「ぬるい!砂糖も多い!ええいっ!」
「生命?生命とは何だ?分からない」
どうも感銘を受けた名台詞というより、印象に残った台詞らしい。
笹原が疲れてるのにすっかり目が冴えて途方に暮れていたその時、電話が鳴った。
国松からだった。
国松「笹原先輩ですか?朝早くすいません。そちらに恵子監督いらっしゃってませんか?」
笹原「恵子監督?どういうこと?」
国松「あの笹原先輩、失礼ですけど恵子先輩が今度うちで作る映画の監督やることになったって話、お聞きになってないんですか?」
笹原「この1週間ほど、荻上さんともメールでしか話してないからね。それも全部ちゃんと読めてる自信無いし…」
国松「そんなにお忙しかったんですか?」
笹原「かくかくしかじかな事情で、マジで忙しかったよ。今日やっと休みもらえて、これから寝るとこ」
国松「そうだったんですか…すいません」
笹原「それはそうと、恵子なら今うちで寝てるよ。何か様子がおかしいんだけど、何があったの?」


117 :30人いる! その108:2007/09/24(月) 21:52:25 ID:???
国松は事情を話し始めた。
恵子は部室での制作会議の日から、結局ぶっ通しで10日間徹夜でビデオを見続けた。
「ゴジラ」10回鑑賞会の後は、延々と「ケロロ軍曹」を見続けた。
しかもそれと並行して、ケロロの劇中のパロディの元ネタの作品や、休憩中に国松との雑談で出た主要な特撮作品、さらには他の会員推薦のアニメ作品までもクリアして行った。
当初恵子は国松の部屋に無い作品については、国松が他の会員たちのとこへ借りに行ったり、他の会員たちが持って来たりしていた。
だがその内それも面倒になり、自分で見に行った方が早いとばかりに、恵子自らビデオの持ち主の家に出向き、時間によってはそのまま泊まる、そんな生活を繰り返した。
そして今日の早朝、遂に「ケロロ軍曹」を全話見終った。
(ちなみにこの時点で123話!)
国松「大丈夫ですか、監督?このままうちで休んでいかれては?」
そう言わざるを得ないほど、恵子は衰弱した様子だった。
恵子「ありがとよ。でも今日は帰るよ。たまには自分の部屋でゆっくり寝たいしな。まあもし途中でヤバいと思ったら、アニキんちにでも泊まるさ」
そう言って恵子は引き上げたが、その有線ロケット弾の弾道のようにヒョロヒョロと進む足取りを見送る内に不安になり、念の為電話してきたのだ。



118 :30人いる! その109:2007/09/24(月) 21:55:12 ID:???
「あの恵子がそこまで頑張るなんて…」
笹原は今回ばかりは素直に感心した。
何事にも根気が無く、怠け者で飽きっぽい恵子。
「(恵子の寝顔を見つつ)そんなこいつが、何でこんなになるまで…何がこいつをそこまで駆り立てたんだ?」
国松「これは私の個人的な推測なんですけど」
笹原「何?」
国松「もしかしたら恵子先輩は、現視研に自分が居たという足跡を残したかったんじゃないでしょうか?」
笹原「足跡?」
国松「恵子先輩は椎応の学生じゃないから、公の記録には名前は残りません。今回の総監督就任は、先輩にとって現視研に名を残すチャンスと考えたんじゃないでしょうか?」
笹原は絶句した。
お気楽で、軽くて、何事にも深く関わろうとしない、そんな風に笹原が捉えていた恵子像が覆されたからだ。
『こいつの中で現視研は、そこまで重い存在になっていたのか?…』

その後笹原は、国松から恵子の寝言の元ネタを聞き出し(全部特撮の台詞だった)、恵子が世話になったことに礼を言って電話を切った。
恵子は先程までよりはペースが落ちたものの、相変わらず何かの台詞を叫んでいた。
特撮の台詞だけでなく、アニメの台詞も混じり始めていた。
『まあ今のところ、こいつが何考えてんのか分かんないけど、とにかく夢中になって頑張ってんなら、純粋に応援してやるか』
そんなことを思いつつ、笹原は恵子の寝顔を見つめた。


119 :30人いる! その110:2007/09/24(月) 21:58:36 ID:???
恵子は昨夜風呂に入ってメイクを落としてから朝までそのままだったらしく、珍しくスッピンだった。
『考えてみれば、こいつのメイク無しの顔見るの、久しぶりだな』
厳密には恵子の入試の時他、笹原の部屋に恵子が泊まった日には見ているのだが、ここまでしげしげと眺めることは無かったので、彼にはえらく久しぶりに感じられた。
『ちょっと…可愛いかな…』
一瞬そう感じた笹原、慌てて自分の中でそれを否定した。
『ばっ馬鹿な、俺が妹萌えなんて、そんなのあり得ねえ!』
「お兄ちゃん…」
そんな笹原の気持ちを見透かしたかのごとくタイミングで、恵子が寝言を呟いた。
飛び上がりそうになって驚く笹原。
「何だ寝言か、脅かすなよ」
そう言いつつも笹原、一瞬ちょっと胸キュンぽい気持ちになった。
『こいつも昔は俺のこと、お兄ちゃんって呼んでたんだよな。確か小学生ぐらいまでだったかな?』
笹原の脳内に幼い恵子の記憶が蘇り、ちょっとノスタルジックな気持ちになる。
だが次の瞬間、恵子の寝言が笹原のノスタルジーを木っ端微塵にした。
「亜美、飛んじゃう…」
珍しくガターンとギャグ漫画のようなコケ方をする笹原。
「そっちかい!て言うか1年の子たち、どういう基準で恵子にビデオ薦めたんだ?あれはさすがにケロロのネタには無いだろう…」

その後も笹原は、恵子が相変わらず台詞の絶叫を繰り返す為に眠れなかった。
「あっ荻上さん?俺、笹原。久しぶり…実はかくかくしかじかな事情で、泊めて」
結局笹原は荻上会長に連絡し、恵子に合鍵と置手紙を残して荻ルームへと避難した。
そんなささやかな戦果を知ることもなく、恵子は眠り続けた。


120 :30人いる! 次回予告:2007/09/24(月) 22:02:02 ID:???
何時になったらクランクインするんじゃい、ゴラァ!
というお叱りの声もそろそろ出そうな今日この頃。
次回は気になる映画の準備状況をお知らせします。
(と言うことは、次回でまだ撮影始まらないのね…)

本日はここまでです。

121 :マロン名無しさん:2007/09/25(火) 16:51:32 ID:???
お疲れさまでしたっ!

笑わさしていただきましたっ!w

もー、このままガンガン行っちゃってください。憑いていきます、どこまでも。

…ただ、セリフのモトネタをこっそり教えてプリーズ。(亜美ちゃんはわかったぞw)

122 :マロン名無しさん:2007/09/25(火) 17:42:03 ID:???
お疲れさん、おしゃれ超級者さまw

>『ばっ馬鹿な、俺が妹萌えなんて、そんなのあり得ねえ!』
ここですかさずこのカード
つ【完士と恵子は同じ顔】

結論:妹萌えじゃなくて自分萌え。

まあそれはそうと、この先出番の少なさそうな笹原登場。いっぱい仕事してて大変そうです。章の最後でどうやらラヴラヴできたようだからよしとするか。
実際妹のいる身からすると妹萌えなんて幻想なんですよ。弟とか妹って物心ついたときから弟妹だから、自分の歩いてきた道を常に後ろから見てる存在なので、自分の人生に自信がないとけっこう辛いんすよね。
特にオタ兄と一般人の妹の場合は針のムシロもいいとこで、基本的に会話がないのは当たり前、タマに口を開いたかと思えば「これからトモダチ来るから○○(呼び捨て)、どっか行っててよ」なんてことをですね、あれ?涙でキーボードがみえないや……

スピンアウト作品となる『さよなら絶B先生』もいつの日か。楽しみにお待ちしてますw
以上、「あすかーッ!」も「おにいちゃん……」もオチになってたネタしか想像できなかったおっさんが途中からタッチタイプでお送りしました。

123 :マロン名無しさん:2007/09/26(水) 21:15:41 ID:???
保守

124 :マロン名無しさん:2007/09/27(木) 17:21:27 ID:???


   |
   |゚ω゚) <......イマノウチ?
   |⊂


えー、書く書くと言ってた人です。ようやく完成しましたんで投下。
タイトルは『way to you』、11レス。

ではまいる〜。



125 :Way to you(1/11):2007/09/27(木) 17:22:29 ID:???
「うー、飲みすぎたぜ」
 斑目晴信は深夜の住宅街を、ふらふらと歩いていた。
 今日は同人誌即売会に顔を出したあと、高柳と朽木の3人で痛飲して帰ってきたところだ。
「だいたいヤナの奴なんであんなに酒強くなってんだ。朽木くんは30分でつぶれちまうし、よくよく思い返してみればオタトークっつうより奴の仕事の愚痴ばっか聞いてたぞ、俺」
 飲み会を思い出しながらぶつぶつ言う。朽木は部室に行けば会えなくもないが、友人で同期の高柳とはリアルで会うチャンスは多くなく、たまに顔を見ると確実に深酒になるのが最近のパターンだった。
「まあいいや。結構収穫もあったし、これで当分夜間の予定にはことかかねえな、性的な意味で。ひへへへ」
 酔いも手伝い、下品な独り言をつぶやきながら2ブロック先のコンビニを目指す。腹は膨れたが少々飲みすぎたので、切らしていたミネラルウオーターと翌朝の朝食でも買っておこうと思っていた。
 次の四つ角を通ろうとした時、至近距離から人影が飛び出してきた。
「うわっと」
「す、すいませっ……斑目さん?」
 思わず声を上げて飛び退く彼に、人影は声をかけてきた。
「ん……笹原じゃねーか」
 あやうくぶつかりそうになっていたのは後輩の笹原完士だった。斑目の1年下の彼は今年の春大学を卒業し、編集者をやっている。斑目と同様、今でも大学の近所に住んでいるので、こうして夜中に出くわしてもそうおかしなことではない……が。
 しかし今は、彼の風体がおかしかった。ジャージ姿でスニーカーをヒモも結ばず突っかけている。まあそれはいい。ちょっとコンビニまで買い物などであれば、そんなだらしない格好もするだろう。
 おかしいのはそのディテールだ。ジャージが汗だくで、肩や胸が湿って変色している。顔面も蒼白。同じく汗びっしょりのその顔は、知らない人が見たら瀕死の重病人だと見まがうかもしれない。手に携帯電話を持っているが、それも強い力で握り締めているようだった。

126 :Way to you(2/11):2007/09/27(木) 17:23:33 ID:???
「ど、どしたの?なんかお前、変だぞ」
「斑目さん……俺……俺ッ」
 明らかに様子がおかしい。ここで引き止めても埒があかないと思った。
「いや待て、とりあえず俺んち行こう。歩けるのか?よし、そんなら行くぞ」
「俺……荻上さんに……荻上さんが」
「荻上さんがどうかしたのか?」
 目を潤ませ、斑目の話を聞いてもいない様子の笹原の口からそんな呟きが漏れる。笹原の恋人、同じく斑目の後輩であり現視研の現会長、荻上千佳のことだ。
 質問に答える余裕はなさそうだったが、斑目には現在の状況からなんとなく想像がついた。
「ははあ、さてはケンカしたな、お前ら」
 カマをかけてみると笹原の肩がピクリと動く。図星のようだ。
「それできっとこうだ、荻上さんが怒って飛び出した。お前は慌てて探し回ったがどこにもいない。電話にも出てくれない、と」
「……ハイ」
「今までお前んちにいたの?荻上さんちは行ってみた?部室は?」
「……いませんでした」
 笹原の背中に手を当てながら斑目は考えた。
 彼女はカッとなるとなにをするか判らないところのある性格だが、笹原と付き合うようになってからはそういう危なげな部分は影を潜めていた。これはひとえに笹原が彼女を支えた功績であって、もう半年以上も交際していれば当人も充分承知していることだろう。
「出てったの、いつ頃のことだ?……2時間前?え、お前2時間も走り回ってたの?」
 飛び出した直後であれば極端な話交通事故とか、あるいは彼女が現視研に来たいきさつのようなあてつけ飛び降りとかがあっても言い訳できないと思う。だが、衝動型の人間は、実は意外と覚めやすいのだ。
 すでに2時間も経っているのなら、万一彼女の身に何かあったのならもうどこかから連絡が来ているだろう。最近の警察が所持品・遺留品で真っ先に目をつけるのが携帯電話で、着信やリダイヤルに笹原の番号が山ほど残っているはずだ。
 逆を言えば、そろそろ彼女も落ち着いている頃だろう。
 斑目は歩く足を止めた。
「気が変わった。笹原、お前んち行くぞ」

127 :Way to you(3/11):2007/09/27(木) 17:24:37 ID:???

****

「……すいません斑目さん、ご迷惑かけて」
「ああ、まったくだぜ。まさか俺が痴話ゲンカに巻き込まれるとはな。……あーだからそんなにヘコむな、言ってみたかっただけだから」
 行き先を変えたのは、ひょっとしたら千佳から連絡があったり、不意に帰ってくるかもしれないと考えたからだった。それに笹原の疲弊ぶりはただごとではなく、彼の体を自室で休めてやる方がいいだろうとも思っていた。
 笹原の家には学生時代に何度も来ていて、勝手が判っている。冷蔵庫のペットボトルから水をコップに移し、そちらは自分で貰ってボトルを笹原に渡す。斑目が水を一杯飲む間に、1リットル以上残っていたミネラルウオーターはほとんど全部笹原の胃袋に納まった。
「落ち着いたか?」
「……はい。ホントすいません」
「いーって。さてお兄さんに詳しいこと話してみるか?それとも自分で解決する?」
 正直言って、自分が恋愛相談などに乗れるはずのないことは重々判っていた。方や交際半年のラブラブカップル、こなた色恋と言えばもっぱらパソコンのディスプレイの中で、唯一リアルな恋心は絵に描いたような片想いときたもんだ。
 ただ彼は自分の身の回りでいさかいが起きるのが嫌だったし、それが目の前で繰り広げられてしまっては上手に逃げる方法も知らなかった。彼の知っているアニメや漫画の世界では、先輩キャラはこういうとき、後輩を元気付けてやるのがセオリーなのだ。
 ボトルの底に残っていた水をあおり、笹原は斑目に顔を向けた。
「自分で解決……できるんすかね、はは。俺、結局自分勝手なんスよ」
「なに言ってんだ。仲良くやってたじゃん」
 内心「身の上話をするほうの分岐だったか」などと思いながら応対する。
 聞いてしまえば、ケンカの中身は案の定というところだった。
 休日である今日もさも当然のように激務をこなし、へろへろで帰ってきた笹原に千佳が甘えてきて(笹原は『ちょっかいを出して』と表現したが、彼女だって寂しかったに違いない)、仕事の内容のことで苛立っていた彼の神経を逆なでした。
 千佳は千佳でせっかく夕食まで準備をしたというのにないがしろにされたように感じ、言い争いになった。あげく笹原が言い放った『うるさくするなら帰ってよ』というセリフがとどめとなって……という展開だ。

128 :Way to you(4/11):2007/09/27(木) 17:25:47 ID:???
「考えてみれば、荻上さんだって俺の部屋で、俺が帰ってくるのずっと待っててくれたんですよ。それを俺……」
「だああ、もうめそめそすんなよ。俺そーいうの苦手なんだから」
「すいません」
「まあ状況は把握した。それでは『第一回・笹原はどうやって荻上さんに謝ったらいいのか会議』〜」
「……今の俺は乗れませんよ、そのテンション」
 疲労と恨みのこもった目で睨まれ、斑目はひるんだ。
「すまん。じゃもう少しまじめに聞くが笹原、これ誰かに相談したか?」
「いえ、電話といえば荻上さんにしかかけてませんし、会ったのは斑目さんが最初ですから」
「大野さんか春日部さんのとこに転がり込んでるんじゃねーのか?」
「その可能性はありますけど……ちょっと電話しづらくて」
「連絡しといた方がいいと思うがどうだ?」
「でも」
 笹原は口ごもるばかりだ。まあもっともな話だが、と彼は思い、言葉をかぶせる。
「ケンカしたのがバレると具合が悪い、とね。よしスネーク、こう考えるんだ。大野さんと春日部さんがすでにこのことを知っていた場合、ターゲットの潜伏先として当然予測される二人の所へアプローチをしなかったとすると、事態が収拾した後でお前の捜索能力が疑われる」
「はあ」
「同じく、このことが今バレなくても、将来二人の知るところとなった場合、恋愛経験が上である二人がお前に対して受ける印象もいいものではない。つまり問題の先延ばしにしかならないわけだ」
「そうかもしれませんね」
「これは、全てが秘密裏に任務終了しても……ええい判りづれえな、要するに二人に知られずに荻上さんを連れ戻せても、将来にわたってお前はずっと、このことを心配し続けるっつうリスクを負わねばならない。一方、聞いちゃえば逆に話は早いと思わないか?」
「でも、荻上さんが『教えないで』って頼んでるかも」
「好都合じゃねーか、荻上さんはお前に一つ負い目ができる。あまり上等な考えとは言えんがな」
 頭の中で考えを整理しつつ続けた。
「さらにだ、もしどちらかのところにいるのならお前が反省してることは即座に伝わるし、よしんば別のところにいたとしても後日、二人から荻上さんに『笹原はあの時すごく心配していた』とかフォローコメントが期待できるかも知れん」

129 :Way to you(5/11):2007/09/27(木) 17:27:39 ID:???
 笹原が考え込んでいる目の前で、斑目はヒヤヒヤしながら説得を展開していた。彼はたまたま先週、そっくりな修羅場イベントがあるエロゲーをクリアしたばかりなのだ。
 彼が語っているのはその各シーンにおける選択肢の結末であり、そんなものになぞらえられていると笹原が知ったら(現にそんな行動をとっているとはいえ)ますますややこしいことになる。
「な?今ここで電話しても『お前と荻上さんがケンカした』という事実以上に気まずい情報は伝わらない。ひょっとしたら大野さんたちも心当たりを探してくれるかも知れないし、お前にとってはメリットの方が大きいんじゃねーか?」
「こんな……夜中にですか?」
「こんな時間になったのはまあお前のせいだが。だがな、なにもしないより、なにかした方がいいことは多いぜ」
「……そうですね」
 さらに長考の末、笹原は言った。
「斑目さんの言うとおりです。そもそも俺が悪いんだし、カッコ悪いとか言ってる場合じゃないですよね。今電話しちゃいます、ちょっと待っててください」
「おー。んじゃ俺、あっちで本読んでるから。それとも出てこうか?」
「あ、いやそれには及ばないスよ、気まで使わせちゃってすいません」
 笹原がキッチンで電話をする間、斑目はドアを閉めたリビングのなるべく遠い端で持っていた同人誌をめくってみたが、まったく目に入らなかった。
 居心地の悪さを払いのけたくて、周囲を見まわしてみる。部屋に入ったときから妙な違和感を感じていたのだが、今それを考える余裕ができた。
「……あー。片付いてるからだ」
 以前、斑目が遊びに来た頃と比べて、部屋全体がすっきりしている。机の上だけは以前と一緒で漫画やゲームソフトのパッケージが積まれていたが、たとえばゴミが放りっぱなしになっていないのはもちろん、雑誌が床に広がっている姿などどこにもない。
 万年床だったはずの布団も畳まれて押入れの中なのだろう、見当たらないし、洗って干し終えたあと、畳むのが面倒で床に小山をなしていた服も半透明の衣装箱に詰まっているのが判る。
 考えるまでもない。千佳が片付けたのだ。

130 :Way to you(6/11):2007/09/27(木) 17:29:15 ID:???
 ケンカになる前までは二人でのんびりしていたのが伺える。座卓に缶ビールとグラス、お茶の入ったコップ。
 とりあえずビールというわけか、ちょっとしたつまみが小皿に入って置いてある。買って来たものか千佳が料理したのかは判らないものの、小鉢に盛られたサラダとジャーマンポテトは満腹の斑目の目にも旨そうに映った。
 そして、そのローテーブルの脚の向こうには、投げ捨てられたエプロン。
「……うん、はい、ごめん、その通りですハイ、いや、だからそれは――はい、スイマセン」
 笹原が電話口で平謝りしているのが聞こえてきた。千佳が相手ではないようだ。
「……春日部さんだな、ありゃ」
 斑目が解き明かした通りの不手際を責められているのだろう。会話の調子からすると、まだ千佳は発見できていないと見える。
 彼はもう一度エプロンに目をやった。
 千佳のやるせない想いのままにねじくれ、はぎ取られて落とされたエプロン。
 電話を終えた笹原がドアを開けたとき、斑目はふたたび同人誌を読みふける体勢に戻っていたが、そのエプロンは場所だけは変えず、不慣れな手つきで畳まれて置かれていた。
「終わりました、斑目さん」
「ん、どうだった?」
「いや、ほんとにいないっぽいですね。二人ともびっくりしてました。春日部さんになんかガンガン怒られちゃいましたよ、はは」
「ソレ聞こえた。激しくお疲れ」
 時計はすでに真夜中を回っている。斑目は聞いてみた。
「さて、どうするか。もう一度あたりを探してみるかい?なんなら手伝うが」
「……いや、うちで待ってみようと思います。荻上さんあれで結構計算しますから、こんな時間まで外をうろうろしないでしょうし、見つかりたくないって思ってたらもう地元にはいないんじゃないかな」
「ああ、俺もそんな気がする」
「即売会とかで新宿のネカフェいろいろ使ってるし、彼女普段から現金持ち歩いてるんで路頭に迷ったりってのはないですよ」
 ため息を一つつく。
「あはは、今夜は長い夜になりそうです」
「明日仕事あるんだろ?寝た方がいいんじゃねーか?」
「俺のケジメですから。もし帰ってきたら、すぐに謝りたいんです」
 疲れた顔で笑う後輩に、斑目は恋愛の甘くない側面を見た気がした。

131 :Way to you(7/11):2007/09/27(木) 17:30:42 ID:???
「……大変そうだな」
「そうでもないスよ。普段の仕事でも、勤務内容の80%は『ひたすら待つ』ですから」
「ますます大変じゃねーか、足したら100%超えるんじゃねえの?」
 二人で軽い声を立てて笑う。
「斑目さん、でもね」
 笹原は立ち上がった。斑目も釣られて腰を上げる。
「荻上さんとケンカとか、行き違いがあるたびに思うんですよ。やっぱり彼女のこと、好きになってよかった、って。荻上さんと付き合えてよかった、って」
「……」
「今回みたいに俺が全面的に悪いこともあるし、逆に荻上さんが謝ってくることもあるけど。でも、そんなのがあるたんびに、俺たちお互いが解ってくるように感じるんです」
「ドラマチックな話だな」
「荻上さんも俺と同じに思ったって聞いたことあります。もとは赤の他人なのに、生まれも育ちも全然別なのに、こうして同じ空気を吸うことになるなんて単なる偶然だと思うんです。そこからお互いに歩み寄って、偶然を必然にしていくのが恋愛なんじゃないかって思うんですよ」
「……お前らしくねーんだけど。そのセリフ」
「実はですね、今日の仕事ってポエム雑誌の編集のヘルプだったんです。読者投稿コーナー」
「ソレでかい」
「ちょっと歯が浮いてますよ、今」
 また笑った笹原の顔はしかし、さっきよりは明るくなっていた。
「斑目さん、ほんとにありがとうございました。あとは俺がなんとかする話ですから。長々と引き止めちゃってすいませんでした」
「気にすんなって、俺が勝手に上がりこんだんだから。じゃ、帰るな、俺」
「はい。おやすみなさい」
 ドアを開け、外に出る。春の夜とはいえ、はやばやと夏の訪れを感じさせるほどに暖かい。
「じゃーな。……笹原」
 斑目は軽く手を上げ、ドアを閉めようとして考え、笹原に言った。
「なんですか?」
「幸せになれよ」
「ぶ?ナニ言ってんスか」

132 :Way to you(8/11):2007/09/27(木) 17:31:46 ID:???
「お前のポエムに影響されたんだよ」
「てゆーか、斑目さんが言うと死亡フラグに聞こえます」
「殺すな!言われたらほんとにそんな気がしてきたわい」
「お車と背後の暗がりに気をつけてくださいね」
「ヤメテホントニ」
ドアを笹原に預け、手を振りながらきびすを返す。数十歩ばかり歩いたところで、ドアが閉まる音が聞こえた。
「……はあ。まったく、うらやましい限りだぜ」
 そっと口に出してみる。
「こちとら手の届かない高嶺の花に懸想して、同じ空気とやらもろくろく吸っておれんというのに。せいぜい楽しんでくれってんだ」
 暖かい夜道をぶらぶらと帰る。とんだ事件に巻き込まれてしまい、酔いはすっかりさめていた。
 歩きながら、彼の想い人の顔を浮かべてみた。初対面の時の不機嫌な表情、思いがけず目にした涙、卒業式の晴れやかな笑顔。
 俺が彼女と同じ空気を吸っていた4年間。
 俺はあの偶然を、必然に変えることができなかったということなのか。俺はその距離を、歩み寄ることができなかったのだろうか。
 自分の歩く道を見つめる。遠い街で、しかし同じ地続きの街で働く彼女に続く道。
「……恋愛、ねえ」
 これからそれを、変えていくことはできないか。今から彼女に向かって、歩んでゆくことはできないか。
 斑目は思った。
 なにもしないよりは、なにかをした方がいいことは多い。
 後輩を焚きつけている場合ではない。さっき喋った言葉がまるごと自分に返ってきた気がした。
 なにができるかは判らない。だが、なにかができるはずだ。
 漠然とした……あまりにも漠然とした期待だが、そのことは彼を元気づけた。自分にできることは、必ずある。それがこの恋にどう影響するかは不明だが、自分にとってはメリットの方が大きいのではないか。
 見上げた夜空に彼女の顔を描く。回りに通行人がいないのを確かめてから、そっと手を伸ばしてみる。どうだ、伸ばした手の長さだけ、彼女に近づけたではないか。
「はは。駄目だ、俺もポエム脳が感染ったぜ」
 そう言いながらも斑目はぶらぶらと、しかししっかり前を見据えて、自宅への帰り道を歩いていった。

133 :Way to you(9/11):2007/09/27(木) 17:33:10 ID:???

****

 翌日の昼休み。斑目は現視研には顔を出さず、近所の公園で弁当を食べた。パッケージをゴミ箱に捨てて周囲を見回し、見知った顔がないのを確認する。
 彼は千佳の携帯に電話した。野暮なのではないかとも思ったが、なにかせずにはいられなかったのだ。
 3コール、5コール、10コール。思ったよりヤバイかも、と感じ始めた時、回線がつながった。
『はい。荻上です』
「おー、荻上さん。出てくれたか」
『え?』
 斑目が経緯を掴んでいるとは知らない様子。とすると、まだ「家出」中なのか。
「いや、笹原から話聞いてね。 俺なんかに相談してもどうしようもないだろーに、あいつ相当ヘコみやがってさ」
『あの……どういうことですか?』
 たずねてくる千佳に、なるべく気楽に聞こえるように説明する。
「あん?笹原がキッツイ事言って荻上さんのこと追い出したんじゃねーの?俺はあいつからそう聞いたんだけど」
『……違います。私がわがままを言ったんです。悪いのは私なんです』
「あれ、そうなの?んー、でもお互い反省してるんだったらもういいんじゃない?会って話、してやったら?」
『……いえ……なんか、もう』
 呼吸音?鼻をすする音?
『なんか、笹原さんに迷惑かけるのがもうイヤになって……私、もうやめにしたほうがいいんじゃないか、って』
「おいおい、それはおかしいでしょ」
 首を突っ込んだ以上はカタをつけてやらねば。斑目は言葉を継ぐ。
「ちょっと聞いてくれよ、荻上さん」
『……』

134 :Way to you(10/11):2007/09/27(木) 17:37:09 ID:???
「人間てのは結局さ、素直になれるのが一番いいんだろうな。こんな風にしてあげたいとか、あんな風にして欲しいとか。でもこれがなかなか、ね。こうやってケンカの原因になっちまったり……ま、色々起こるわけよ。それはしょうがないことだと思う」
『はい……』
「でもさ、そんなことで欲しいものが手に入ったり、逆にあっさりと諦められるようなら、苦労はしねえよな。俺はさ、幸せになる方法ってのは二つあると思ってるんだけども――」
 諦める、という言葉を使った時、胸がちくりと痛んだ。――俺がかつて望んだ状況。
『二つ?』
「ああ。一つは当然、その夢がかなったりすること。で、もう一つはそいつらを全部……諦めることだ」
 また、この言葉。続ける言葉を、俺は一体誰に向けようというのだろう。
「諦められたら、そりゃースッとすんだろーなー、はあぁ」
 聞き違いかもしれないが、くすりと笑う声が聞こえた。俺の片思いは、現視研の女性陣に気づかれてるフシがある。本音の言葉になっているのがバレたかな?まあ、いいか。
「でも、大概の奴が諦められず追いかけ続ける。簡単に諦めることが出来りゃ世の中さぞ幸せだろーと思うぜ」
『そうですね』
 少し明るくなったトーンで、千佳が応じる。
「なんだ……その、荻上さん、きみはソイツを手に入れてるんだよな。一時の思いで手放しても、きっと後悔するだけだと思うぜ」
『……はい』
「諦めるの、大っっ変だよ?簡単にできるなんて思わないほうがいい」
『はい……はい、そうですよね。そうだと思います』
 先ほどよりも、さらにはっきり明るくなった声。斑目は安心した。ふと公園の中央にある時計を眺め、時のたつのを忘れていたことに気づいた。
「あっヤベ、昼休み終わっちまう。そういや荻上さん、今どこにいるの」
『仙台です』
「せ……仙台ぃ?」

135 :Way to you(11/11):2007/09/27(木) 17:40:28 ID:???
 早口で教えてもらったところ、彼女は朝まで新宿のネットカフェにいたそうだ。ここまでは笹原の予測どおりだったが、千佳の決意は笹原が考えていた以上に深刻だった。彼女は朝になると、郷里へ帰る切符を買っていたのだ。
 新幹線に乗ったところで夜明かしの疲労から寝入ってしまった千佳は、たまたま仙台駅直前で目を覚まし、バッグの奥底にねじ込んでいた携帯電話を確認した。
 そうして着信履歴を埋め尽くす笹原の名前に驚いているところに斑目から電話が入り、ちょうど停車した仙台駅で無我夢中で列車を降りたのだという。
『乗ってた汽車は行っちゃいましたし、これから切符買いなおして帰ります。お騒がせしてすみませんでした』
「はー、ま、まあよかったよ。早く帰ってきな、笹原めちゃめちゃ反省してるから」
『はい。私も謝らなくちゃいけませんね。本当にありがとうございました』
「あ、笹原に電話してやりなよ?あいつ寝てないかもしれないし」
『え、寝てないって……本当ですか?』
「反省してるって言ったでしょ?」
『わかりました、すぐ連絡してみます』
「あ、あー俺会社戻っから。笹原によろしく言っといてよ。ほんじゃねっと」
 言うだけ言って通話を切った。千佳の性格からすると長引けば延々謝罪し続けかねないし、その言葉は自分ではなく笹原に早く聞かせてやるべきだろう。
 携帯をポケットに放り込み、会社へ向かって早足で歩き出す。緩い会社なので5分やそこら遅れても誰も何も言わないが、達成感に満ち満ちたこのテンションを仕事に活用したかった。……そして。
 そして、とっとと今日の仕事を終えたら新宿に出て、あの人の店にでも顔を出してみようか。

 斑目はそんなことを考えながら、少しずつ道を行く足取りを速めるのだった。




おわり

136 :Way to you(あとがき):2007/09/27(木) 17:42:17 ID:???
以上です。おそまつさまでした。
まずお詫び。約1年前に投下されてる笹荻SS『二つの幸せ』を、いまさら借用いたしました。作者氏勝手してすんません。

さて、斑目の話です。ちょっと私事で斑目を精神的に鍛えているところでして(何してんだ俺)彼にちょいと艱難辛苦を与えるネタはないかと思案していたところ、この題材に思い当たりました。
彼、この話ですっごくいいこと語ってるんですよね。オギー主役の話ですしセリフのみの出演でしたが、読んでた時にコイツどんなツラして電話してやがんだろなとw じゃないや、どんな想いでこんな電話かけたのかなと。

きっと、おだやかな陽差しの下で、青空に想い人の顔でも浮かべながら喋ってんでしょーねえ。

ってことで。ま、要するにやっこさんを叩いて伸ばすSSでした。
読んでいただいてありがとさんです。

137 :マロン名無しさん:2007/09/28(金) 00:59:21 ID:???
GJ! 11巻あたりにそのまんま載ってても不思議でないな
是非 又読ませてくれ 頼んだ ぞお お ぉぉぉ

138 :マロン名無しさん:2007/09/29(土) 15:17:19 ID:???
>Way to you

GJ!某所にもコメつけましたがこっちでも。
諦めるのってそう簡単じゃーないやねー…

>私事で斑目を精神的に鍛えているところでして

全力で応援してますです!作者さんもラメもw

139 :マロン名無しさん:2007/09/29(土) 21:03:44 ID:???
>Way to you
うっしゃー、新作キター!

第8巻124ページ おまけ四コマ漫画から。
「エロゲーは、役に立ちますか!?」
どうやら役に立ったようですな、斑目君。
俺はエロゲーやったことないので雰囲気しか分からんけど、恋愛を客観的に分析・判断する場合の叩き台程度にはなりそう。
今後も斑目、こんな感じで他人の色事の指南役をやり続けるのかも、童貞のまま。
>『二つの幸せ』
ありましたなあ、そんな話。
さっき改めて読んできましたが、なるほど上手くリンクしてましたな。
今後もこういう形で、SSワールドが広がっていって欲しいものです。

140 :30人いる! 前書き:2007/09/30(日) 19:34:36 ID:???
さてと、ようやく新作も来たことだし、こちらもまいりますか。
今回は笹やんによる、映画制作現場リポートです。
12レスの予定ですが、多分途中で連投規制ありそうなので、6レスほどで1回休憩して、残りは後ほど投下します。
では。

141 :30人いる! その111:2007/09/30(日) 19:41:28 ID:???
結局笹原は、その日はほぼ丸1日寝て休みを潰し、翌日も殆どの時間を荻ルームで過ごした。
その間何度か自室にも戻ったが、恵子は眠ったままだった。
翌々日の朝、出勤の準備の為に自室に戻った。
恵子はまだ眠っていた。
一昨日自室を脱出した際と、状況は殆ど変わっていない。
つまり恵子はあれから丸2日寝ていたようだ。
その寝顔を見ている内に、彼女がここまで頑張って作ろうとする映画がどのように作られているのか、現場に見に行ってみたいと思った。
荻上会長からいろいろと話は聞いていたが、直に見てみたくなったのだ。
幸い今日は午後からC先生宅に行く予定だから、帰りに部室に寄ることにする。

昼過ぎ、笹原はC先生に会ってネームのチェックを終えた後、部室にやって来た。
屋上に来てみると、あちこちに畳ぐらいの大きさのベニヤ板が置かれている。
その1枚に向かって、豪田はしゃがんで鉛筆を走らせている。
長い金属製の定規を片手に線を引き、幾何学的な模様を書き込んでいく。
別の1枚には、沢田がメタリックシルバーのペンキを塗っていた。
ペンキを塗り終わった分には、豪田が鉛筆を一旦置いて細かい手直しを加える。
そして部室のプレハブの壁際では、巴がベニヤ板を並べて立てかけている。
そのベニヤ板には、先程のメタリックシルバーの塗料をベースに、メカニカルなデザインの塗装が施されている。
いくつかの小さな穴(後で豆電球を入れるのだ)の開いたその板のデザインは、異様に精巧でリアルだ。


142 :30人いる! その112:2007/09/30(日) 19:50:25 ID:???
巴「あら笹原先輩、こんにちは」
最初に笹原の存在に気付いた巴に続き、あとの2人も挨拶する。
笹原「こんちわ、これは?」
沢田「ケロロ小隊の作戦司令室の壁です」
笹原「(心底感心して)上手いね」
豪田「(照れて)こんなのちゃんと撮られたら粗見えまくりですよ。手前の人物に焦点合わせて照明暗めにして、やっとそれらしく見える程度です」
笹原「あれ?豪田さんが美術ってのは聞いてるけど、巴さんと沢田さんは映画に出るんだよね?」
巴「私は夏美役なんですけど、今回は最初と最後にちょこっと出るだけですから、実質的なセカンド助監督なんです。だから忙しいとこ手伝うのは当然ですよ」
笹原「セカンド?あっ、そうか、確か伊藤君がチーフ助監督だったね」
沢田「私はドロロ役なんですが、終盤でちょっと出るだけなんで、サード助監督です」
豪田「私もセット作った後は手空きなんで、照明担当します。そんでこの2人は、交代で録音も担当します」
笹原「録音?」
豪田「8ミリの音はアフレコですけど、音入れる時にライブの音があった方がいいらしいんで、撮影時の音取ることになったんです」
笹原「何か本格的だね…」


143 :30人いる! その113:2007/09/30(日) 19:54:25 ID:???
その後しばらく、笹原は女子会員3人といろいろ映画について話した後、部室に入ろうとした。
部室のドアに手を掛けようとして、ピタリとその動きを止めた。
ドアの横に貼られた張り紙に気付いたからだ。
縦長のその貼り紙には、毛筆で「G作品制作本部」と書かれていた。
笹原「何だこりゃ?」
巴「あっ、それミッチーが書いたんですよ」
沢田「彼女ペン習字だけでなく毛筆の習字も1級なんです」
笹原「なるほど達筆だね…じゃなくて、G作品て何?」
豪田「今回の映画の仮称ですよ。伊藤君、まだサブタイトル決めてないんです。監督と相談して決めたいからって」
沢田「元々は『ゴジラ』の企画段階での仮称だったらしいんですけど」
笹原「国松さんの提案?」
巴「(にっこり笑って)やっぱ分かります?」
笹原「彼女しか居ないからね、こういうの提案する人は」
豪田「まあ今回は、現視研のGとでも解釈して頂ければいいと思います」
3人に苦笑気味に微笑んで、笹原は部室のドアを開けた。


144 :30人いる! その114:2007/09/30(日) 19:58:16 ID:???
笹原が部室に入ってみると、2つのテーブルを2グループが各々使っていた。
片方のテーブルは、映画に出る荻上会長、スー、アンジェラ、ニャー子、有吉、そして大野さんが囲んでいた。
全員台本を持っているから、台本の読み合わせをやっているようだ。
もう片方のテーブルは国松と日垣と伊藤と神田が囲み、テーブル上は大量の自動小銃や短機関銃のモデルガンが占領していた。
荻上「あっ笹原さん」
荻上会長が気付いたのをきっかけに他の会員たちも笹原に気付き、互いに挨拶する。
大野「荻上さん、しばらく抜けていいですよ」
荻上「えっ、いいですよ」
大野「まあまあ、照れなくてもいいですよ。それにOBの人ほったらかしってのも何でしょ?スー、あなたしばらく軍曹さん役もお願いね」
スー「(渡辺久美子似の声で敬礼しつつ)了解であります!」
笹原「…似てるね」
荻上「スーちゃんはケロロに出てくる声優さん、全員マネ出来ますよ」
笹原「凄いね。今日はみんなで台本の読み合わせ?」
荻上「まあ、そんなとこです」
アンジェラ「てゆーか演技指導?」
笹原は大野さんの服装に注目した。
この暑いのに上下黒づくめで、上は長袖、下はロングスカートだ。
笹原「もしかしてその格好…」
大野「(顔半分を髪で隠し)さあ、仮面を被るのよ」
笹原「月影千草か…」
荻上「それをやりたかっただけですよ」



145 :30人いる! その115:2007/09/30(日) 20:02:44 ID:???
しばし笹荻並んで、台本の読み合わせ風景を見つめる。
大野さんが積極的にチェックを入れていく。
「有吉君、声が吹き替えになるからって台詞おろそかにしちゃダメ!」
「アンジェラ!台詞なんだから語尾に『あるね』付けちゃダメ!」
そんな様子に感心する笹原。
「けっこう本格的なんだ、演技指導」
荻上「何でも一夜漬けで演劇関係の本読んで勉強したそうですよ。(少し考え)今日はどうしたんですか?」
笹原「いや、ちょっと現場を見ときたくなったんだ。恵子があそこまで入れ込んでる映画の制作現場をね」
荻上「まあ入れ込んでるというか、何かスイッチ入っちゃったみたいですね。正直私も驚いてるんです、1年の子たちの報告聞いて」
笹原は先日聞いた国松の推測について話した。
荻上「そういうのもあるのかも知れませんね…」

笹原はもう片方のテーブルに目を向けた。
伊藤はテーブルの上にモデルガンの薬莢(カートリッジと呼ばれる)を並べ、火薬(キャップと呼ばれる)を次々と詰めていく。
日垣はモデルガンの銃身や銃口にノギスを当てて何やら測り、手元に置いた図面に数字を書き込んでいく。
国松は次々とテーブルの上の銃を手に取り、肩に付けたり腰だめにしたりして構えていた。
そして神田は、台本や彼女の物らしきシステム手帳を見ながら、何やらノートに書き込んでいる。


146 :30人いる! その116:2007/09/30(日) 20:08:01 ID:???
笹原「伊藤君それは?」
伊藤「ギロロが使う火器なんですが、今から発火テストをやりますニャー」
日垣「銃そのもののテストはこの間やったんですが、今日は実際に使う国松さんに撃ってもらおうと思って」
笹原「ここで?」
伊藤「まあその時は皆さんに一時避難してもらうことになりますけど、まだまだ掛かりますからニャー」
笹原「まだまだって?」
日垣「この手の銃で30発も撃とうと思ったら、弾の用意だけで1時間近く掛かるんです」
伊藤「それをフルオートで撃ったら10秒かそこらで弾切れ、そして後の分解掃除にさらに1時間、全く不条理な趣味ですニャー」
笹原「何か大変そうだね…」
その時国松が、銃を降ろしながらため息を付きつつ呟く。
「けっこう重いわね。モデルガンにしては」
日垣「金属製だからね。それでも本物よりはやや軽いんだけど、どう振り回せそう?」
国松「(再び銃を持って、いろいろポーズを変えて構え)ただ振り回すだけなら何とかなりそうね。でも問題は発火した時よね」
日垣「まあいざとなれば、発射するシーンと銃持って走るシーンと分けて撮って、撃つシーンを上半身アップにして下から銃引っ張るって手もあるし」
国松「そこまでしなきゃいけないぐらい反動強いの?」
日垣「この手の銃のフルオートって、薬莢吐き出す時に重たい遊底が連続して前後するから、けっこうきついと思うよ。片手撃ちで制御するのは」
国松「そうなんだ。でもまあ、とりあえずどうするか決めるのは、撃ってみてからね」



147 :30人いる! 休憩:2007/09/30(日) 20:34:21 ID:???
ここで休憩がてら、前回のお返事を。

>>122
エルメス抜きのリアル電車男ですか、心中お察しします。
>自分萌え
笹原って割といい男だから、案外その線もあるのかも。
そして鏡を見てる笹原を見て、あらぬ妄想をする荻上会長…

>>121
ではリクエストにお応えして。
「バカヤロー!」
「何て下手くそな戦い方だ!周りを見てみやがれ!何も守れてねえじゃねえか!」
「ウルトラマンメビウス」第1話「運命の出逢い」から、リュウ隊員の台詞。
「あすか〜〜〜〜〜!!!!!!」
「2月2日、飛鳥五郎という男を殺したのは貴様か!?」
「快傑ズバット」の主人公、早川健の台詞。
前者はオープニングで毎回絶叫、カラオケで主題歌歌う人の間では、もはや歌詞の一部と化している。
後者は毎回クライマックスでの決め台詞のひとつ。
ちなみにシリーズ前半では、日付は無く、言われた方もただ否認するだけだった。
だが後半になると、わざわざ日付を付けて尋ね、言われた方も律儀にアリバイを主張するようになった。
その中で1番有名なのは「違う!俺はその日、シシリー島でスパゲッティを食べていた!」、何でそんな具体的に覚えていたんだ?
長くなってきたので、1回送ります。

148 :30人いる! 休憩続き:2007/09/30(日) 20:53:09 ID:???
「切手のき!吉野のよ!田んぼのたに点々!」
映画「キングコング対ゴジラ」から、多湖部長の台詞。
「巨大なる魔神(キングコングのこと)はまだか」という文面の電文を送るように、部下に命じた際の台詞。
ファックスやメールの無かった時代の新聞記者は、電話で口頭で記事を伝える時に、こういう言い回しをしていました。
(ちなみに多湖部長は、製薬会社の宣伝部の部長)
この映画のパロネタは、「究極超人あーる」でも多数使われてるので、オタ必見の1本。
「ば〜れたか〜!」
「ダイヤモンド・アイ」から、毎回ダイヤモンド・アイに正体を暴かれた前世魔人(このシリーズの怪人の呼称)が言う決まり文句。
ちなみにあーる君の霊波光線の元ネタはこの作品。
「ぬるい!砂糖も多い!ええいっ!」
「ウルトラセブン」第43話「第四惑星の悪夢」から、ロボット長官の台詞。
ロボットと言っても人間そっくりのヒューマノイドタイプで、人間のようにコーヒーを飲み、その味に対して前述の文句を言いつつ秘書(人間の女性)を殴打する。
そしてこう付け加える。
「どうも人間は物覚えが悪くていかんな。毎日コーヒーの味が違うんだからなあ」
違いの分かる男…(なのか?)
「生命?生命とは何だ?分からない」
「ウルトラマン」第2話「侵略者を撃て」から、バルタン星人の台詞。
地球人を殺したことをハヤタに責められたことに対する回答。
バルタン星人に生命という概念が無いことを示した、センスオブワンダー溢れる隠れた名台詞。

では、1時間ぐらいしたら続き投下します。

149 :30人いる! 再開:2007/09/30(日) 22:05:56 ID:???
それでは続きを投下します。

150 :30人いる! その117:2007/09/30(日) 22:07:57 ID:???
笹原「何かこっちも大変そうだね」
国松「でも浅田君と岸野君が銃貸してくれたおかげで、ギロロの装備は何とかなりそうです」
笹原「まあ確かにギロロの装備って、ガンダム系のやつか実銃系のやつだから、モデルガン使えば一応格好は付くね」
国松「ほんとはビームライフルぐらい作りたいんですけど…」
日垣「まあビームライフルだと、あとで光線描き込むのが大変ですから」
笹原「日垣君は何してるの?」
日垣「試射してみたんですが、煙と薬莢はしっかり出るけど銃口は塞がってますから、銃口から火が出るようにしようと思いまして」
笹原「銃改造するの?」
日垣「借り物ですし、それやると法律に引っかかるんで、サイレンサーみたいなのを別に作って銃口にはめて使おうと思うんです」
笹原「(日垣の手元の図面見て)何か本格的だね」
日垣「(笑って)そんな大がかりな仕掛けじゃありませんよ。要はサイレンサー状の筒の中に短く切った花火を何本か仕込み、長さの違う導火線つないで点火するだけですから」
笹原「短く切る?」
日垣「普通の花火なら1分近く火が出るでしょ?それを銃の発射炎みたいに一瞬だけにする為ですよ」
笹原「導火線の長さってのは?」
日垣「もちろん1度に発射するのを防いで、フルオートの連発に見せる為です。まあよく見れば銃口があちこち変わるのが分かるでしょうけど、銃ブラせばバレませんよ、多分」
笹原「いろいろ考えてるんだね」



151 :30人いる! その118:2007/09/30(日) 22:11:07 ID:???
「銃もいいけど、タイムカプセルの方はどうなってるの?」
神田が口を挟んだ。
日垣「おもちゃ屋やホームセンターを回って、改造して使えそうな物を物色してるとこだけど、急ぐ?」
神田「スケジュールの関係から行くと、多分クランクインしてすぐぐらいに出番があるわ。日向家でのシーンから撮影スタートすると思うから」
日垣「そんじゃあ急ぐよ。最悪プラ板で1から作るし」
「どんなスケジュールになってるの?」
笹原が口を挟んだ。
それに対し神田は、以下のような説明をした。
クッチーの就活(と言うか公務員試験)の関係で、ベム絡みのシーンの殆どの撮影は後回しになる予定だ。
ちなみにこれは、特殊技術の国松からの意見を入れたせいでもあった。
ベム絡みのシーンには、着ぐるみが破損する危険性が高いものが多い。
特にギロロに撃たれるシーンでは、着ぐるみに弾着を仕込む(と言っても、ニクロム線に繋いだ火薬を着ぐるみに貼るだけだが)ので、かなりひどい破損になることが予想される。
ベムの着ぐるみはラテックス製だから、熱には弱いのだ。
日々の撮影で生じる傷や汚れ程度は、修理しつつ撮影続行するが、熱で溶けた破損となると修理にどれぐらいかかるか見当が付かない。
最悪の場合、着ぐるみがオシャカになるかも知れない。
そこでギロロに撃たれるシーンを1番最後に持って来たのだ。



152 :30人いる! その119:2007/09/30(日) 22:14:01 ID:???
そういった事情により、必然的にその他のシーンからの撮影になる。
撮影現場は主に2つに別れる。
日向家内でのシーン中心の屋内撮影と、クルル時空での着ぐるみバトル中心の屋外撮影だ。
この時点でまだ屋外でのロケ地が決定してないこと。
屋外シーンの方が小道具や仕掛けが多く、準備にまだ時間がかかること。
そして9月前半に外での着ぐるみバトルの撮影は、まだ暑いので初心者にはキツいこと。
それらの理由により、前半は主に屋内撮影、後半は屋外撮影中心で撮ることに決めたのだ。

「なかなか大変だね、撮影スケジュール組むのも」
そんな笹原の感想に、神田は笑顔で答えた。
「いやこれはこれでなかなか楽しいですよ。みんなの日々の生活とか、どんな科目履修してるのかとか分かりますし、それに…」
笹原「それに?」
神田「OBの方々にも頻繁に連絡出来ますしね」
笹原「OB?」
神田「この部室、けっこう皆さんよくいらっしゃるでしょ?でも今後しばらくは留守にすることも多いから、念の為に撮影スケジュールはその都度連絡しようと思うんです」
笹原「まめだね」
神田「特にシゲさんは頻繁にいらっしゃるから、まめに連絡しなきゃいけないですからね」
さらに言い訳するように付け加えた。
神田「あっこれ仕事ですからね。ついでに誘惑しちゃおうなんて考えてないですからね」
一同『それが狙いだったのか…』



153 :30人いる! その120:2007/09/30(日) 22:17:18 ID:???
「ただ今戻りました!」
そう言いつつ、浅田と岸野が部室に入って来た。
荻上「お疲れ様、どうだった?」
岸野「とりあえず撮影に使えそうな空き地や原っぱ、数ヶ所見繕っときました」
荻上「ご苦労様、ビデオには撮ってあるの?」
今や半ば彼の愛機と化したDVX100を前に差し出しつつ、浅田が答える。
「こいつに収録してありますよ」
岸野もデジカメを差し出しつつ付け加える。
「写真もこいつに撮ってあります」

部室のテレビで、ロケハンして撮ってきた映像が再生された。
台本の読み合わせをしていた組も一時中断し、会員全員でそれを見る。
国松「うわーシナリオのイメージにピッタリじゃない!『仮面ライダー』の撮影に使われてた造成地みたい」
岸野「ここなら住宅地から離れてるから、少々騒いでも問題無いと思うよ。それに何とか近くまで車も入れられるし」
浅田「まあ難点は、トイレと電源が取れそうな施設が近くに無いことかな」
国松「シナリオのイメージ的には夕暮れ時以降だけど、昼間撮影すればいいんじゃない?フィルターか何かで画面暗めにするとかして」
荻上「暗くなってから素人がアクションシーン撮影するのも危険だし、その方がよさそうね」
みんなも賛同し、後で恵子にその線で話してみることになった。
この辺りから、会員たちは自然にミーティングへと移行し始めた。



154 :30人いる! その121:2007/09/30(日) 22:19:55 ID:???
「屋外はそれでいいとして、屋内の方はやっぱり私んちでいいかな?」
神田の発言で話題は日向家内のロケ地に移った。
岸野「リビングとか台所とかはいいと思うけど…」
神田「何?」
岸野「冬樹の部屋がねえ、何というか神田さんの部屋だとちょっと…」
神田「あっそうか。私の部屋だと、相当模様替えやらないといけないわね」
笹原「神田さんの部屋も、やっぱり俺たち同様オタルームなの?」
神田「オタルームってほどじゃないですよ。そりゃ本棚は殆ど漫画本だし、壁にポスター貼ってるし、抱き枕あるし、フィギュアも飾ってますけど、それぐらいは普通ですよ」
笹原「…いや十分オタルームだと思うよ」
荻上「他の部屋は?」
岸野「他の家族の方の部屋も同様です」
荻上「片付けるの手間そうだし第一神田さんに悪いから、冬樹の部屋はまた別で考えましょう。あと決まってないのは?」
浅田「あとはケロロの部屋とクルルズラボですね。ケロロの部屋って窓の無い地下室だけど、そんな部屋さすがに神田さんちにも無いですし」
荻上「まあ日本の家屋の部屋って、普通は窓あるもんね」
岸野「まあ最悪カメラアングルで上手く誤魔化すって手も無くは無いですけど」


155 :30人いる! その122:2007/09/30(日) 22:23:27 ID:???
「無ければ作ればいいわ」
話に割り込んできたのは、ひと仕事終えて休憩しに部室に入ってきた豪田だった。
岸野「作るって?」
豪田「窓の上に、周囲の壁と同じ色塗った板貼って隠しちゃうのよ。それで不自然だったら、最悪その窓のある壁ごと大きい板で隠しちゃってもいいし」
荻上「えらく大がかりな方法だけど、やれそう?」
豪田「私がやれば何とかなりますよ。ベニヤ板とペンキだけで」
浅田「それなら場所だけ探せばよさそうだね。あとクルルズラボはどうしよう?」
豪田「このシナリオだと室内全景を映す必要は無さそうだから、クルルの背景だけ作って照明暗めでバストショットで撮影すればいけるわよ」
浅田「そう言や作戦司令室もそれに近かったね」
豪田「背景さえあれば場所はどこだって構わないわよ。例えばこの部室でもいいし」
一同『何て頼もしい美術担当なんだ…』

「うっしゃー!」
気合いと共に台場が部室に来た。
荻上「どうしたの?」
台場「やりましたよ会長!サンライズと交渉して、ケロロの主題歌とBGMの使用許可もらってきました!あとは著作権の方申請したら、サントラから音取り放題です!」
国松「お疲れ、晴海!」
笹原「何か話がどんどん大きくなってるな…」



156 :30人いる! 次回予告:2007/09/30(日) 22:27:35 ID:???
何か今回は、オチらしいオチも無く、ダラダラと撮影準備風景をお届けしてしまいました。
チト反省。

さていよいよ次回、長き眠りから覚めた恵子監督が復活し、撮影準備も佳境に入る。
そして彼女の肉体に、ある異変が…
(て言うか、まだ撮影始まらないのかよ)

本日はここまでです。

157 :マロン名無しさん:2007/10/01(月) 01:18:27 ID:???
お疲れさまです!
今回も楽しませていただきました!
細部にこだわるのがリアリティを感じさせる近道とは言え、モデルガンの細工に大道具の見せ方やら、版権まで、細かすぎ(笑)
もー、何ていうか「実録!自主制作映画への道!」って感じ(笑)
個人的には「シゲさんへの連絡」がツボだったり(笑)
ではまた(きっと)来週の投下を楽しみにしております!

158 :マロン名無しさん:2007/10/02(火) 21:17:00 ID:???
てすと

159 :マロン名無しさん:2007/10/03(水) 22:25:02 ID:???
保守

160 :wayの人:2007/10/04(木) 08:34:39 ID:???
>『30人いる!』小道具と撮影場所編
はるか昔、クラスメートに8ミリマニアの特撮マニアがおりまして自主制作ヒーローものに何本か関わっておりますw
その頃の熱気が感じられた。別の友人で火薬マニアがいて、よく銃器の自慢していた(リアルに危険なレベルの人間だったので技術は採用されなかったが)のも思い出したっす。
この辺こそ作る側の楽しみですよね。読んでるだけでワクワクしてくる。
引き続き読ませていただくんで死ぬまでには完結させてくれw

ご返事も。
>>137
>>138
>>139
みなさまありがとうございます。
斑目が出てくる話も個人的にそこそこの数書いてますが、ようやく彼のアルゴリズムがつかめてきたように思います。単なるダメオタじゃないのがやっこさんのすごいところでw、まったくいじり甲斐のあるキャラであります。
……いま気づいたがオギーばなしは最萌以来エロしか書き上げてないorz

おまけ。連投規制について。
俺もひっかかりました「バイバイさるさん規制」。内容は「同一板内(同一スレ内かもしれない)に○○分以内には10レスまでしか書き込めない」つうとこみたいです。規制されたあとどのくらいで解除されるかは不明ですが、SS書きには迷惑ですなあ。
俺は(9/11)までで書き込めなくなって、まあ予想はしてたんで(10/11)からは電話線でダイヤルアップして投下しました。
以上ご参考まで。ではまた〜。

161 :30人いる!の人:2007/10/06(土) 23:00:34 ID:???
うーむ困った。
今週から本業が忙しくなった上に、また別の話思い付いて書き始めたらこっちの方が進んじゃって、肝心の「30人いる!」の方が進んでいない。
果たして今回、連休中に投下できるかな…

そんなことより、前回の分のお返事
>>157
引き算のおしゃれが出来ない奴ですいません。
もはやアウトサイダーズアートみたいに、埋めれるとこ全部埋めてしまわないと落ち着かない、作風というよりも気の病です。
お付き合い頂いてありがとうございます。
>>160
その火薬マニアの人の技術、採用しなくて正解でした。
モデルガンとか花火なんかの、市中で簡単に入手出来る火薬は、基本的には爆薬と同じものです。
ただ分量がわずかなので許可されているだけです。
一方銃に使われている火薬は、一部例外(ショットガン等)を除いて、意図的に燃焼速度を遅くしてあります。
爆薬同然の普通の火薬の燃焼速度では、銃そのものを破壊してしまうからです。
だから本物より柔なモデルガンで、普通の火薬で何かやったら…もう言うまでも無いですね。
>死ぬまでには完結させてくれw
ガラかめじゃないんだからw
美内先生、ご自愛下さい。

さて今回、連休中に投下出来るか怪しいですが、最後まで頑張ってみようと思います。
では。




162 :30人いる! 前書き:2007/10/08(月) 16:21:54 ID:???
さて、毎度なかなかクランクインまで進まない「30人いる!」ですが、今回もやっぱり制作会議がメインです。
7レスほど行きます。

163 :30人いる! その123:2007/10/08(月) 16:24:48 ID:???
第9章 笹原恵子の発動

夕刻、笹原は部室を後にした。
その後はB先生の入院する病院を訪ね、A先生との打ち合わせと夕食を済ませて、笹原は帰宅した。
A先生との夕食は、当然浴びるように酒を飲むことがワンセットになっていたが、この頃には笹原もすっかり慣れてしまい、普通のほろ酔い加減で帰って来れた。
「そう言えば、恵子から連絡無かったな。まだ寝てるかな?」
アパートの前に着くと、笹原の部屋の灯りは点いていた。
「どうやら起きたようだな」

部屋に入ると、恵子は体育座りの体勢で、膝を抱えて座っていた。
足元には、現視研の映画の台本が広げられていた。
「やっと起きたか。ん?恵子?」
恵子は微かに震えていた。
顔は青ざめて、大量の汗をかいていた。
「ああアニキか、お帰り…」
「…ただいま、まだしんどいのか?」
「変なんだよな。この台本読んだらさあ、頭ん中で全部のシーンが次から次に浮んで来ちゃうんだよ」
「そりゃ、凄いんじゃない?良かったじゃないか」
「良かねえよ!頭が回り過ぎて、考えんのが追っつかねえんだよ!だいたい1個のシーンに何個も別のパターンが浮んじゃ、どう撮っていいか分かんねえよ!」



164 :30人いる! その124:2007/10/08(月) 16:27:57 ID:???
「なあアニキ、あたしこんなんで監督務まんのかなあ?」
生まれて初めてフル回転する頭脳を制御出来ずに戸惑う恵子に対し、笹原は答えた。
「お前のやりたいようにやればいいさ。大丈夫だよ、お前には頼もしい仲間が付いてるじゃないか。彼らが何とかフォローしてくれるよ」
「仲間?」
「可愛い後輩が11人、スーとアンジェラも入れれば13人か。それに荻上さんに朽木君に大野さんと先輩たちも居るし」
「アニキ、あたしを現視研の会員と認めてくれるのか?」
「認めるも認めないも、もう立派に会員じゃないか、お前」
それを聞いた恵子、突然涙を流し顔を伏せた。
その恵子の肩を優しく抱いてやる笹原。
「泣くのは今日が最後だ。明日からは泣いてる暇は無いぞ、監督さん」
「アニキ…」
何年かぶりに恵子は、笹原の胸で声を出して泣いた。

翌朝、恵子が目覚めると、笹原はもう出勤した後だった。
置手紙と共に残してくれた朝食を食べ、シャワーを浴びた。
笹原の部屋に置いてある自分の服の中では最もラフな服である、Tシャツとジーンズを身に着け、髪はポニーテールにし、いつもに比べればノーメイクに近い薄化粧をする。
そして仕上げに、国松が台本と共に渡した腕章を左の上腕部に着けた。
腕章には「総監督」と書かれていた。



165 :30人いる! その125:2007/10/08(月) 16:31:33 ID:???
「ちゅーす!」
恵子が部室に入ると、会員たち(スーとアンジェラを含む1年生全員、ニャー子、荻上会長、大野さん、そしてクッチー)は一斉に「?」という顔をした。
「あのう、失礼ですがどなたですかな?」
就活中のせいかスーツ姿のクッチーにそう言われ、こけそうになる恵子。
「あのなあ…あたしだよ、あたし!」
言うなり恵子は眼鏡を外した。
そう、恵子は眼鏡をかけて部室に入ってきたのだ。
一同「恵子先輩(一部恵子さん又は恵子ちゃん)!?」
有吉「どうしたんすか、それ?」
恵子「今朝起きたら何か目がかすんでさあ。試しに医者に行ったら仮性…ほうけい?」
ガクッとこける一同。
沢田「あのう、失礼ですが、ひょっとして仮性近視では?」
恵子「そうそれ医者に言われたんだ。要は近眼だな(眼鏡をかけつつ椅子に座る)」
伊藤「まあこの10日ほど、ずっとテレビ見てたんですから、無理無いですニャー」
恵子「だな。昔学校の先生に言われたけど、やっぱテレビ見る時は3メートル離れないといけないな」
一同『そういう問題じゃないと思います…』


166 :30人いる! その126:2007/10/08(月) 16:35:24 ID:???
「ん?どうした?」
ふと恵子は、会員たちが自分に向かって異常に熱い視線を注いでることに気付いた。
恵子の頭の中で、ピンッという音が鳴った。
席を立つと、会員たちの方に近付く。
恵子の頭の中のイメージでは、漫画のように男子たちの頭上に雲型のふき出しが浮び、そこにはこう書かれていた。
『メガネっ子恵子さんって、けっこう萌えかも、ハアハア…』
「(男子たちの頭上を見つつ)まあお前らのは良しとしよう。だけど…」
続いて女子たちの頭上を見つつ、恵子は頭の中でイメージする。
イメージの中の雲型のふき出しには、こう書かれていた。
『女装メガネ君の笹原先輩とシゲさんで、ダブルメガネ君でリバ可でハアハア…』
恵子はイメージの雲型ふき出しをラリアットで薙ぎ払うかのように、女子たちの頭上でブンッと腕を振って叫んだ。
「お前らのは無し!却下!誰がメガネかけて女装したアニキだ、ゴラァ!」
荻上「(驚いて)何でそんな具体的に見破ったんですか?」
恵子「こちとら長い付き合いなんだ、姉さんたちの妄想しそうなことぐらいお見通しさ」
スー「ヨクゾ見破ッタ!コレデモウオ前ニ教エルコトハ何モ無イ。サア、山ヲ降リルノジャ!」
荻上「あのスーちゃん、勝手に忍者の修行にしないように…」
スー「押忍!」
恵子「まあそんなことより、お前ら映画の用意どんくらい出来てんだ?」
恵子の問いに応えて、1年生たちは1人ずつ各自の準備状況を説明し始めた。



167 :30人いる! その127:2007/10/08(月) 16:39:07 ID:???
1年生たちの報告がひと通り終わると、しばし恵子は何か考え込んでいる様子で沈黙する。
やがてこう切り出した。
「なあベムとアルってさあ、この話だと巨大化しないんだよね?今から巨大化して町壊して暴れる話に出来ねえかな?」
思わぬ提案に固まる一同。
恵子「どうよ?」
伊藤「うーん…話は書き換えれんこともないですが…台場さん、予算どうかニャー?」
台場「うーん…多分大丈夫だと思うし、足んなきゃスポンサー増やすけど…千里、技術的には出来そう?」
国松「うーん…ミニチュアは作って作れないこともないけど…ただ、リアルに壊れるように作る技術は私には無いから…」
恵子「千里、お前ミニチュアの作り方は知ってんだろ?この間ゴジラ見てた時、あたしに説明してたじゃん」
国松「知識としては知ってますよ。ただ、あれは経験が必要ですから…」
一同「経験?」
荻上「国松さん、それも含めてミニチュアについて先に説明してくれる?」
国松「分かりました。特撮の建物のミニチュアは、通常木や紙などで大枠を作り、表面は石膏で仕上げて着色します。ただ、これを壊すとなると、また別の工夫が要ります」
恵子「工夫も何も、着ぐるみ着てぶん殴ればいいじゃん」
国松「それだとただベシャッと壊れるだけで、監督が望むような画にはなりません」



168 :30人いる! その128:2007/10/08(月) 16:41:43 ID:???
恵子「じゃあどうすんだ?」
国松「ミニチュアを作る段階で、予めミニチュアに割れ目を付け、割れ目が目立たないように表面を仕上げるんです」
巴「へえ、そんな風になってたんだ」
恵子「そんだけか?」
国松「あと細かいとこでは、壊れた時に土ぼこりが舞い上がるように粉仕込んだり、爆発させるなら火薬仕込んだり、そういった処置をします」
豪田「何か手間そうね」
国松「知識としては知っていても、実際にやる場合の具体的なノウハウやコツを知らないですから、正直言って1発勝負でオッケー出せる自信は無いです」
神田「となると、スケジュール的に難しいですね」
恵子「うーん…そんじゃしょうがねえな。今のは無しでいいよ」
そう言いつつも、恵子はどこか寂しそうだった。

「ちょっと待って下さいニャー」
伊藤はそう言うと、自分のノートパソコンを何やらいじり始めた。
恵子「どした?」
それには応えずに伊藤は猛スピードでキーを叩き続け、やがて手を止めた。
時間にして30秒も経っていない。


169 :30人いる! その129:2007/10/08(月) 16:45:23 ID:???
伊藤「国松さん、壊す仕掛け無しならミニチュア今から作れるかニャー?」
国松「どのぐらいのレベルのやつ?」
伊藤「家とかビルとかが10軒程度でいいニャー」
国松「それぐらいなら1週間も要らないと思うけど。日垣君やニャー子さんや蛇衣子にも手伝ってもらえれば、2日もあれば出来るかも」
(注)
ニャー子は夏コミで同人誌を売る際に、ハチクロの青春の塔のミニチュアを作成して展示している。

恵子「どういうことだ伊藤?説明しろよ」
伊藤「監督ご要望のベム巨大化シーンを冬樹のイメージとして出すんですニャー」
恵子「どうやって?」
伊藤「冬樹とクルルがベムの脅威について語るシーンで、最悪の場合ベムが巨大化する可能性をクルルに示唆させるんですニャー」
沢田「なるほど、その手なら建物壊さずに、町中に巨大化ベム出現の画が作れるわね」
有吉「さすが、この手のこじつけさせたら上手いな」
恵子はちょっとイメージしにくそうだった。
「誰か絵描けるか?描けたらちょっと描いてみてくれよ」
豪田「私描きます」
豪田はスケッチブックを出して、鉛筆でイラストを描き始めた。
ほんの2〜3分で仕上げ、恵子に手渡した。
数軒の家屋やビルが並ぶ町並みの向こうに、巨大化したベムが立っているイラストだ。
恵子はイラストを見て、ようやく伊藤の意図を実感出来た。
「よし、これで行こうや。千里、ミニチュア頼むぞ」
国松「GIG!」



170 :30人いる! 次回予告:2007/10/08(月) 16:54:33 ID:???
「円卓会議は踊る」なんてサブタイトルの話が原作にありましたが、こちらも次回の制作会議、さらに踊り狂う「ええじゃないか」状態が続きます。

何かが発動したかのように、次々とアイディアを連発する恵子監督。
そして次回、新たなスタッフが導入される!
さらにいよいよ次回、遂にケロロ小隊コスのお披露目も!

今回はここまでです。

171 :マロン名無しさん:2007/10/09(火) 07:23:28 ID:???
恵子タンハアハア

172 :30人いる!の人:2007/10/10(水) 20:59:48 ID:???
すんません、ここでチトお詫びと言い訳を。
前回投下分の>>165のその125なんですが、実はこの冒頭に次のような文があったのを間違えてカットして投下してしまいました。

「???」
笹原の部屋を出てしばらく歩いた恵子は、ある違和感に襲われた。
目を何度も閉じたり開いたりし、自分の手をじっと見つめたりする。
ちょうど恵子は、大きな病院の前で立ち止まっていた。
「こういうとこでもあるかな?」
そう言いつつ、恵子は病院に入って行った。

まあ文章の前後は何とかつながるので、訂正せずそのままで行こうかと思いますが、チト唐突な流れになってしまったことをお詫びします。
失礼しました。

>>171
簡潔な感想、ありがとうございました。




173 :マロン名無しさん:2007/10/11(木) 21:33:00 ID:???
過疎ってるな。
みんなアニメスレに行ってるのかな?

174 :マロン名無しさん:2007/10/13(土) 12:07:47 ID:EbK66FzZ
某腐女子サイトより転載

火田「なんですか この漫画は?ボクを置いてマガジンに移籍しようとでも?」
米田「い いや違うんだ これは・・」
火田「僕から逃げられると・・・ いや 僕を忘れられるとでも思っているんですか?」
米田「くっ・・・」

いや・・・ぎりぎりげんしけんSSだと思うんだ・・・これ・・・

175 :マロン名無しさん:2007/10/14(日) 13:35:44 ID:???
>>174
この作品に対する、両先生のコメント。
「知ったな!」

176 :30人いる! 前書き:2007/10/14(日) 23:02:58 ID:???
やれやれ、とうとうレスはお1人様だけになってしまいましたな。
さすがに前置きが長過ぎて、みんな飽きたかな。
すいません、あと2回か3回ほどでクランクインにこぎつけられると思いますので、もうしばらくバカに付き合ってやって下さい。
今回は8レスほどで行きます。

177 :30人いる! その130:2007/10/14(日) 23:05:51 ID:???
長き眠りの間に脳内の情報が整理されたせいか、久々の制作会議で恵子は次々と活発にアイディアを提案して行った。
「それとさあこの話、仮にもケロロが主人公なんだろ?にしちゃあケロロの出番少なくねえか?」
ハッとなる一同。
伊藤「言われてみれば、そうですニャー…」
恵子「そこでだ、ケロロにも派手な見せ場作ってやろうと思うんだ」
一同「見せ場?」
ちょっと嫌な予感がする一同。
恵子「ケロロと言えば、やっぱバナナだろ?ベムって錬金術で何でも作れるんだから、ケロロ倒す時にバナナの皮出して、ケロロがコケに走る、それでいいんじゃない?」
一瞬凍結する一同。
恵子「どうよ?」
一同『バナナキター!』
国松「(小声で)良かったですね会長、特訓がムダにならなくて」
荻上「(小声でケロロ風に)我輩、複雑な心境であります(通常の声で恵子に、意を決したように少しためて)そうね、仮にも主役なんだから、それ行きましょ、ねえみんな!」
一同「(多少複雑な心境ながら)はいっ!」


178 :30人いる! その131:2007/10/14(日) 23:09:05 ID:???
恵子「あとさあ浅田、お前確か高校から予備のカメラ借りて来たって言ってたよな?」
浅田「8ミリの方は岸野のフジカシングル8の後発の型違いで、ビデオの方はDJ-100です。岸野のDVX100ほどじゃないけど名機ですよ」
恵子「その辺の話はよく分からんけど、とりあえず岸野のとフィルムとかは共同で使えるのか?」
浅田「もちろん出来ますよ。予備用に用意したんですから」
恵子「そんじゃあさ、そのカメラ2台も使おうよ」
浅田「えっ?」
恵子「だからさあ、せっかくカメラ2台余分にあるんだから、使わなきゃもったいねえだろ?」
アンジェラ「OH、クロサワ方式あるね!」
荻上「クロサワって、黒澤明監督のこと?」
アンジェラ「そうあるね。クロサワは何台ものカメラで同時に撮影して、それを編集で繋いで効果を上げていたあるね」
沢田「アンジェラ、ハリウッド以外の映画にも詳しいのね」
アンジェラ「何たって世界のクロサワだから、クロサワは例外あるよ」
巴「やっぱ黒澤監督って、海外の方が評価高いのね」


179 :30人いる! その132:2007/10/14(日) 23:12:19 ID:???
国松「そう言えば、ウルトラマンでも同じ様な話があるわ」
一同「ウルトラマン?」
国松は次の様なエピソードを紹介した。
「ウルトラマン」第3話「科特隊出撃せよ」特撮班撮影時のこと。
準備中に東宝のカメラマンの有川貞昌が遊びに来た。
そこで元々はカメラマンだった、特技監督の的場徹がこんな提案をする。
「せっかくカメラマンが3人居るんだから、3台カメラ回してみないか?」
有川がこの提案に乗ったので、有川と本来のカメラマンの高野宏一、そして的場監督の3人同時に撮影し、迫力ある破壊シーンが撮れた。
それらの話を黙って聞いていた恵子、本題に戻した。
恵子「偶然たあ言え、何かすげえこと提案しちゃったみたいだな、あたし。で、どうよカメラマンのお2人さん?」
岸野「うーん…カメラマンもう2人ってのは賛成なんですが…」
浅田「ただ今からだと、専任のカメラマンが決めれないですね」
恵子「他と兼ね合いや代わりばんこじゃまずいか?」
岸野「出来れば避けたいですね。カメラってやつは1台1台くせがありますから、なるべく同じ人間に持たせたいんです」
浅田「それに使い方を教えるの、8ミリは何とかなりますけど、ビデオはDJ-100が機能充実し過ぎなんで、1人に集中的に教えた方が効率いいと思います」
神田「でももうみんな、何か担当してますね」
恵子「うーん…」
しばし沈黙した後、恵子は立ち上がってこう宣言し、部室を出て行った。
「ちょっと待ってろ。すぐ戻るから、それまで自習してろ」


180 :30人いる! その133:2007/10/14(日) 23:15:07 ID:???
10分後、恵子が戻って来た。
「お待たせ。カメラマン2人連れて来たぞ」
一同「マジっすか?」
恵子「つーても2人ともカメラいじるのは初めてだそうだから、浅田、岸野、ちゃんと教えてやれよ」
浅田・岸野「はいっ!」
荻上「で、カメラマンの人は?」
部室の入り口に立ったままだった恵子に、荻上会長が尋ねた。
恵子「おうそうそう、(振り返り)まあ入ってよ」

荻上「ヤブ?」
大野「加藤さん?」
そう、恵子が連れて来たカメラマンとは、「やぶへび」の藪崎さんと加藤さんだった。
荻上「何でまた?」
藪崎「まあ、この間の日曜にイベント済んだからヒマやしな…」
大野「漫研の方は学祭の用意は無いんですか?」
加藤「あっちは他のみんなに任せるわ」
荻上「いいんすか?」
加藤「構わないわよ。部室借りたお礼もあるし」
荻上『あれってニャー子さんのレンタル料代わりじゃなかったっけ?』
多少疑問を残しつつも荻上会長も会員一同も何とか納得し、こうして新たにカメラマンを2人増員して、現視研の映画制作は8ミリとビデオ各2台ずつの4台体制となった。



181 :30人いる! その134:2007/10/14(日) 23:18:12 ID:???
「そうだ千里、さっきケロロたちの着ぐるみ、もう出来てるって言ってたけど、今ここに持ってきてるのか?」
恵子の問いに、国松は目を輝かせて笑顔で答えた。
「有りますよ、監督」
荻上「そう言えば、私たちもまだ見てないわね」
国松「すいません会長、監督が来られるのを待ってお披露目しようと思って」
恵子「そっか。そんじゃ見せてもらおうか」
国松「分かりました。それじゃあ着替えますんで、ケロロ小隊役の5人以外は外に出てて下さーい!」

「おー!」
国松に呼ばれて再び部室に入った会員たちは、思わず感嘆の声を上げた。
部室の中にはケロロ小隊の5人が揃っていた。
若干頭が小さいが、四肢に比べて太く下膨れな胴体の感じは上手く再現されていた。
思わず近付く会員たち。
豪田「(ケロロの頭を触り)うわーやらかい、よく出来てるわね。これ本当に荻様入ってるの?」
荻上「入ってるわよ」
巴「うわっほんとだ」
他の会員たち(主に女子、男子は中身が女の子なので遠慮してる)も、各々手近なケロン人を撫でたり指でツンツンしたりする。


182 :30人いる! その135:2007/10/14(日) 23:20:56 ID:???
国松「どうですか、監督?」
国松の弾んだ声に対し、何故か恵子は怪訝な顔をしていた。
大野「どうしたんですか、恵子さん?」
恵子「うーん…よく出来てるとは思うんだけど、何か違和感があるんだよな…」
台場「2次元のキャラを3次元で再現したからじゃないですか?」
巴「あと着ぐるみが縫いぐるみ風味なせいかも…」
神田「分かった、2頭身じゃないからじゃないですか?」
恵子「にとうしん?」
神田「つまり身長の半分が頭ってことですよ。ケロロたちは本来2頭身ですけど、今回のは…千里、これ何頭身なの?」
国松「3,5頭身よ」
恵子「えらく中途半端な数字だな。何で2頭身で作らなかったんだ?」
国松「実は2頭身の頭も試作してみたんですが…日垣君、あれ持ってきて」
日垣「うん(部室の外へ出る)」
言いながら国松は、自分のスーツのギロロの頭を脱いだ。
剣道部員のように、頭にタオルを巻いた国松が顔を出した。
次に荻上会長に近付く。
国松「会長すいません、ちょっとだけしゃがんで頂けますか」
荻上「(少し腰を落とし)こう?」
国松「すいません、ちょっと失礼します」
言いながら荻上会長のスーツのケロロの頭を脱がせた。
国松の時と同じように、頭にタオルを巻いた荻上会長が顔を見せた。


183 :30人いる! その136:2007/10/14(日) 23:24:28 ID:???
荻上「で、どうするの?」
ちょうどその時、日垣が部室に大きな箱を持って戻ってきた。
ブラウン管使用の大型テレビの箱らしい。
国松「試作品の2頭身バージョンの頭、実はケロロ用のしか作ってないんです」
それに合わせるように、日垣は箱から大きなケロロの頭を出した。
一同「でかっ!」
日垣が取り出したケロロの頭は、軽く直径1メートルを超えていた。
恵子「何だ、あるんじゃねえか。被ってるとこ見せてくれよ」
日垣「失礼します、会長」
言うなり日垣は、2頭身バージョンのケロロの頭を荻上会長に被せた。
荻上「(2頭身のケロロの顔を撫で)何か軽いわね、この頭。さっきのやつより軽い気がするんだけど」
国松「3,5頭身の頭は、アメフトのヘルメットにスポンジ貼って作ったんですが、これは針金で組んだ枠に紙貼って作っただけのハリボテなんです」
恵子「ヘルメットなんて、どっから仕入れたんだ?」
日垣「アメフト部に交渉して、古いヘルメットを安く払い下げたんです」
国松「会長、ちょっと直立してみて下さい。あと日垣君も会長の隣で直立して」
言われた通り、2人は並んで直立した。

部室の時間が、しばらく停止した。
一同呆然として、日垣と荻上会長を見つめた。
国松「監督、3,5頭身で作った理由、お分かり頂けましたか?」
恵子「…たいへんよく分かりました」
2頭身版ケロロの身長は、185センチの日垣よりも遥かに高かった。
その差は1メートルは無さそうだが、70〜80センチは有りそうに見えた。



184 :30人いる! その137:2007/10/14(日) 23:32:16 ID:???
恵子「でも何でこんなにでかくなるんだ?」
日垣「今回ケロロ小隊を演じる女の子たちは全員身長150センチ前後なんで、首から下は大体130〜140センチといったところです」
国松「だからこの頭、直径130センチで作りました」
台場「て言うことは、130センチに130センチを重ねて…260センチ?!」
有吉「それってアンドレ・ザ・ジャイアントよりでかいじゃん…」
(注)アンドレ・ザ・ジャイアント
「大巨人」の別名で知られる、往年の巨人プロレスラー。
身長223センチ、体重236キロ(最大時)。

スー「1人ノけろん人ト言ウニハアマリニモ大キ過ギ、2人ノけろん人ト言ウニハけろん星ノ人口ノ辻褄ガ合ワナイ」
浅田「だから何でスーちゃん、アンドレの日本でのキャッチコピーなんか知ってるんだ?」
アンドレ・ザ・ジャイアントには古館伊知郎作のキャッチコピーが数多くある。
今スーが言ったのはそのもじりで、オリジナルは「1人の人間と言うにはあまりにも大き過ぎ、2人の人間と言うには世界の人口の辻褄が合わない」というものだった。
荻上「まあそれはともかく、確かにこの頭、何か変な感じね…軽い割に大きいからバランス悪いし」
言いながら荻上会長、歩いてみようとするがふらつく。
とっさにそれを支える国松。
国松「日垣君、会長のマスク取ってあげて」
言われるままに2頭身バージョンのケロロの頭を外す日垣。
荻上「ふう、ありがと」
国松「これも2頭身をNGにした理由のひとつです」
荻上「確かにあれじゃアクションは無理ね」
日垣「それで国松さんといろいろ試してみた結果、3,5頭身に落ち着いたんです」
恵子「よーく分かったよ、3,5頭身にした訳が。ご苦労、お2人さん」


185 :30人いる! 次回予告:2007/10/14(日) 23:41:23 ID:???
すいませんすいませんすいません!
長々やっていながら、未だクランクインに辿り着けなくてすいません。
それとひょっとして、この作品SSスレに迷惑かけてませんか?
バカが1人で長編書き殴ってるせいで、敷居が高い気がして敬遠してる方居ませんか?
そんなことないですから、ほんと。
別に何かのコンクールとかじゃないんだから、気楽に投下して下さいね、みなさん。

さて、今回はまとめて2回分予告。
次回ちょっとした騒動を挟んで、次々回いよいよ撮影初日のロケ地が決まる。
もしかしたら、次回でドドンと1本で決まるかも…
(まあ仮にそうだとしても、連投規制回避の為に1回休憩挟むでしょうけど)

今回はここまでです。


186 :マロン名無しさん:2007/10/15(月) 01:13:57 ID:???
細かい表現にGJ!
迷惑なんてとんでもない。読みごたえのある作品が読めて嬉しいですよ。
続き楽しみにしてます。

187 :マロン名無しさん:2007/10/16(火) 23:23:13 ID:???
保守

188 :マロン名無しさん:2007/10/17(水) 14:25:00 ID:???
前スレdat落ちしていたことに気づかず今日はじめて15が有る事に気がついた
間抜け野郎がきましたよ。

30人いるなど名作を一気読みできたのはよかったがホントあほ過ぎ・・・。
とんだ間抜け野郎ですが期待してます。

189 :30人いる!の人:2007/10/19(金) 23:26:37 ID:???
今日はお返事だけ。

>>186
お優しい言葉に思わずオロロロ〜ン!(男泣き)
おかげで元気が出ました。
1人でもお客さんが居る限り書き続けます。
(まあゼロになっても自己満足で書き続けますが)
続きは明日か明後日にでも。
ただ、まだ準備編完結しないかも…

>>188
137レス一気読みですか、お疲れ様でした。
今のとこ新作は途切れてますが、アニメも始まったことですし、その内また誰か投下してくることでしょう。
それまでこのバカに付き合ってやって下さい。

190 :マロン名無しさん:2007/10/21(日) 00:46:34 ID:???
30人いる、執筆お疲れ様っす。
すんません、なかなかSS書けなくて…。
時間ができたら必ず戻ってきます!

191 :マロン名無しさん:2007/10/21(日) 19:50:02 ID:???
糞スレage

192 :30人いる! 前書き:2007/10/21(日) 20:08:22 ID:???
さあていよいよ準備編、今回で終了です。
14レスありますが、一気に投下しても連投規制かかりますんで、とりあえず7レスほど行きます。
続きはまた後ほど。
>>190
お待ちしとりま〜す!
>>191
糞スレ上等。
ほめ言葉と受け取っておきましょう。

193 :30人いる! その138:2007/10/21(日) 20:13:04 ID:???
「でもそれにしても、これだけケロロ小隊がでかいと、撮り方に工夫が要りますね」
浅田が口を開いた。
恵子「て言うと?」
まだ着ぐるみのマスクを被った状態の3人に、スッと近付いて隣に立つ浅田。
浅田「俺、有吉と身長同じぐらいですけど、この通り小隊の面々とあんまし変わりません」
浅田たちに注目する一同。
確かに身長170センチの浅田とケロン人たちの身長は、あまり変わらないように見える。
恵子「確かにそうだな」
浅田「ケロン人って設定上は人間の3分の1ぐらい(55,555センチ)です。まあそれを実写で完全に再現するのは無理ですけど、少なくとも人間より小さく見えないとまずいです」
恵子「じゃあどうしよう?」
浅田「まず基本的にケロン人と地球人のツーショットはなるべく避けることです」
恵子「でもこの話、そういうシーンばっかだぞ」
浅田「2人の会話シーンなら、2人別々に撮って交互につなぐのをメインにし、ツーショットで撮る時はなるべく短いカットで、2人が並んで立たないようにして撮ります」
恵子「うーん、ちょっと分かりにくいな。具体的な例出して説明してくれよ」
浅田「例えば冬樹とクルルのツーショットで撮る場合ですが、有吉、ちょっとこっち来て」
言われた通り浅田の隣に来る有吉。
浅田「で、そのまま立ってて。スーちゃん、有吉の横に床に腰落として座って」
スー「(子安武人そっくりの声で)了解だぜ〜クークックックッ」
言いながら有吉の横に座る、クルルスーツ姿のスー。



194 :30人いる! その139:2007/10/21(日) 20:23:04 ID:???
浅田が2人から離れ、恵子の隣に立つ。
浅田「有吉、もうちょっとだけスーちゃんから離れて。(有吉動く)よしっそこでいい」
有吉とスーの距離が2メートルほど離れた。
浅田「そこで有吉はスーちゃんの方向いて、スーちゃんは有吉に背を向けるように向き変えて」
有吉「了解」
スー「(向きを変えて座り直しながら子安武人そっくりの声で)オッケーだぜ〜」
これで浅田と恵子の位置から見て、スーと有吉が2メートルほど離れて並んでいる図になった。
スーは有吉に背を向けて座ることで、自然にやや猫背で体を丸める格好になる。
一方有吉は、スーを見下ろしつつ、体を丸めたスーの手元を覗き込むような格好になる。
浅田「監督、こうやって2人を見てみて下さい」
浅田は両手の人差し指と親指を互いにくっつけて四角形を作り、それを顔の前に持ってきてカメラを構えるような格好をする。
恵子「(浅田の言う通りにし)こうか?」
浅田「こうすると、スーちゃんが有吉より格段に小さく見えませんか?」
恵子「そう言えばそうだな」
浅田「こういう風に、小さく見せたい被写体に座ってもらえば、身長差があまり無いことは誤魔化せます」
恵子「それだけじゃないだろ、これ?」
浅田「まあ思い付きなんですが、2人の向きを揃え、背を丸めて座ってる方を立ってる方が覗き込むように見下ろす格好にすることで、2人の高さの落差を強調したんです」
有吉「凄いね、浅田君」
スー「(親指を立てて)グッジョブ!」



195 :30人いる! その140:2007/10/21(日) 20:26:06 ID:???
浅田「あと監督、今度はこちらへ」
浅田はスーの正面に回って座り込み、恵子もそれに従う。
浅田「今度はスーちゃんを手前に置いた格好で、有吉を見上げるような感じで見て下さい」
恵子「(それに従いつつ)あっ大体分かった。つまりこうすれば、さっきよりも有吉がでかく見えるってことだろ?」
浅田「そういうことです。こんな風にアングルやら立ち位置やらをちょっと工夫すれば、何とかケロン人と地球人の身長差を演出出来ます」
恵子「あと他には?」
浅田「簡単な方法としては、ケロン人と地球人が並んでるとこ撮る場合に、地球人の方をセッシュして、腰から上しか撮らないという手もあります」
恵子「せっしゅ?」
浅田「映画の業界用語で役者を台に乗っけることですよ」
恵子「何でセッシュって言うんだ?」
浅田「戦前のハリウッドに、早川雪洲っていう日本人の俳優が居たんです。彼はアメリカ人に比べれば背が低かったので、踏み台を多用してたらしいんです」
恵子「それでセッシュか」
浅田「だから正しくはセッシュウするなんですけど、今ではセッシュするという方が一般的になってますね」
恵子「お前、物知りだね…」


196 :30人いる! その141:2007/10/21(日) 20:30:01 ID:???
その後も浅田の恵子に対する説明が延々続く中、不意にそれまで黙って見守っていたタママスーツのニャー子が口を開いた。
「あのう、お話中申し訳無いんですが、そろそろ着ぐるみ脱いでいいかニャー?彩ちゃんもまいってるし(言いながら少しふらつく)」
一同が目を向けると、何時の間にかドロロスーツの沢田がしゃがみ込んでいた。
座っているスーも、先ほどより前かがみになって手を付いている。
顔を出してるとは言え、国松と荻上会長も汗まみれで顔は真っ赤だ。
国松「(近くに居た日垣の手を取って腕時計を見て)いけない、もうじき30分経つわ!着替えるから男の子は緊急退避!」
こうして会議は一時中断となった。

「さてと、ようやく昼飯か」
そう呟きつつ、斑目は部室へと向かっていた。
今日は外回りの仕事が長引いて昼飯が遅くなったのだ。
そういう時ぐらいは近場で済ませようかとも思ったが、部室に行くように社長に熱心に勧められた。
どうやら社長は、見合いを世話することの代わりと考えているらしい。
世話好きの社長は、斑目に嫁の世話をしてやりたいと考えていたが、彼の人脈に対オタク用にちょうどいい適齢期の女性は居なかった。
ならば部室に通って後輩の女の子と付き合うのが1番の近道と考え、今では斑目本人以上に部室に行くことに熱心なのだ。


197 :30人いる! その142:2007/10/21(日) 20:35:29 ID:???
部室前では、男子会員たちが集まって話し込んでいた。
斑目「うぃーす、何かあったの?」
日垣「あっ斑目先輩こんにちは。すいません、今かくかくしかじかな理由で部室には入れないんです。もうじき開くと思いますけど」
斑目「あっそう。(腕時計を見て)開くの待つか」
そこへ国松の声が聞こえた。
「お待たせしました〜!」

男子会員たちプラス斑目が部室に入ってみると、ケロロ小隊のコスは部屋の隅に吊るされて干されていた。
頭の方は机の上に置きっ放しだ。
片方の机はケロロ小隊役の面々が、もう片方の机はその他の女子会員たちが囲んでいた。
そしてケロロ小隊役の5人は、全員軽装でへばっていた。
下半身はショートパンツ、上半身はTシャツかタンクトップという、露出の多い格好だ。
それを見て、斑目を筆頭に赤面気味の男性陣。
へばりながらも挨拶する5人と挨拶を交わし、斑目は末席に着いて昼食を始めた。
他のみんなも席に着いたその時、汗でしなびたように倒れていた、荻上会長の筆がピンと立った。
クッチーの方を見てニヤリと笑う荻上会長。
ドキリとするクッチー。
荻上「朽木先輩、今日もスーツ姿ですけど、何か就活関係のご予定でも?」
朽木「まあ、今日は特に就活関係の用事は無いけど、こういう服は毎日身に着けることで様になってくるから、意識的に毎日着るようにしている訳でありますよ」
荻上「朽木先輩って、案外細かいとこに神経使われてるんですね」
そう言いながら荻上会長、ケロロの頭を持ってクッチーに近付く。



198 :30人いる! その143:2007/10/21(日) 20:38:41 ID:???
荻上「(クッチーの背後に回り)朽木先輩、ちょっとすいません」
スポンッという音と共に、クッチーの視界が一瞬遮られ、やや視界の悪い状態ですぐに回復した。
朽木「にょっ?(立ち上がる)」
次の瞬間、部室中が津波のような大爆笑に包まれた。
一同「どわっはっはっはっはっはっはっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
会員全員が腹を抱えて笑っている。
普段無表情なことの多いスーや、そもそも顔を見せない加藤さんまでもが大爆笑だ。
そして事の仕掛け人の荻上会長、もう立っていられないらしく、ギャグ漫画のキャラのように床に寝転がって手足をバタバタさせて、文字通り笑い転げている。
朽木「にょっ?何が起こったのかのう?」
クッチーは自分の顔を触り、何かが被さってることに気付いた。
朽木「こりゃいったい?」
日垣「ここここ、これですよ、くっ朽木せん…ぱ…どわっはっはっはっはっ!!!!」
最後の力を振り絞って、日垣は部室の隅に置いてある等身大の姿見を持って来てくれた。
だがクッチーの前に置いた途端に力尽きて、また腹を抱えて笑い始める。
そして姿見を見たクッチー、やはり大爆笑し始めた。
「にょわっはっはっはっはっはっはっ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
荻上会長と同じ様に、床に寝転がって手足をバタつかせて、文字通りに笑い転げる。



199 :30人いる! その144:2007/10/21(日) 20:41:53 ID:???
鏡に映っているクッチーの姿、それは首から下はスーツ姿で、首から上はケロロという、ペコポン人スーツバージョンのケロロの姿そのまんまだった。
ペコポン人スーツとは、「ケロロ軍曹」の劇中でケロロ小隊の面々が外で行動する際に、ペコポン人(ケロン星での地球人の呼称)に変装する為のパワードスーツのことだ。
首から下だけのペコポン人そっくりに作られたメカのボディに、体育座りの体勢で体を丸めたケロン人が合体して使う。
当然顔はケロン人のままなのだが、劇中では「変わった覆面の変な人」ぐらいに認識されているのか、何故かバレない。
ちなみに服装違いの別バージョン(女装バージョンもある)の機体が多数あるので、服と本体が一体成型されているのかも知れない。
そしてケロロの1番のお気に入りのペコポン人スーツはスーツ姿のバージョンで、たびたびその格好で買い物に出かけたりしている。
その為、ケロロのペコポン人スーツと言えば、スーツ姿を連想する人が多い。

「ちょっ、ちょっと朽木先輩、すっ、スーツが汚れ…どわっはっはっはっ!!!!」
「おっ、荻チンこそ、てぃ、Tシャツとか汚れ…にょわっはっはっはっ!!!!」
クッチーと荻上会長は、床に尻を着いて座ったまま、肩を組んで笑い続けた。



200 :30人いる! 休憩:2007/10/21(日) 20:43:43 ID:???
ここでひとまず、半ばでございます。
続きは1時間ほど後にまた。

201 :30人いる! 再開:2007/10/21(日) 21:48:33 ID:???
では再開します。
残り7レスにて、いよいよ準備編終了です。

202 :30人いる! その145:2007/10/21(日) 21:50:21 ID:???
先に笑いの渦からの脱出に成功したクッチー、立ち上がってこう宣言する。
「こっ、こうなったらこの笑い、ご近所の方々にもお裾分けするにょー。先ずは自治会室へご挨拶だにょー」
入り口に向かうクッチーの腰に、荻上会長がしがみ付いて止めようとする。
「そっ、そればかりは、ごっ、ごっ、ご勘弁を…わははは!!!!!ダメ、力入んないよ。
みっ、みんな、朽木先輩止めて…はははははははは!!!!!」
慌てて会員たちが、クッチーにしがみ付いて止めようとする。
だが会員たちも腹に力が入らないらしく、笑いでアドレナリンや脳内麻薬が分泌したらしいクッチーに引きずられ、共に外へ向かう。
止めるのを諦めて、恵子が他の会員たちに指示する。
「こっ、こっ、こうなったらさあ、このまんま映画の宣伝しちゃ、しちゃおう…プププ…おっ、おい、お前ら残りのマスク持って付いて来い…ププププ、ぷはっはっはっ!!!」
「こっ、こっ、これどうするんで…あはははははは!!!!」
台場がタママとドロロのマスクを掴んで尋ねる。
その横では神田がギロロとクルルを掴んで笑っている。
恵子「おっ、男どもに被せ…ぷははははははは!!!!!!」
台場・神田「りょっ、了解しま…あはははははは!!!!!!!」
こうして会員たちは、全員部室から出て行った。


203 :30人いる! その146:2007/10/21(日) 21:54:22 ID:???
部室には斑目ただ1人が居残った。
先程の騒ぎに、斑目は見事に乗り遅れた。
食事の為に下を向いた瞬間に大爆笑が起こり、顔を上げた時には部室全体が祭り状態になっていた。
こういう状況で、後からお祭り騒ぎに乗ることは困難だ。
結果斑目は、部室の騒ぎの暴風の圏外から、客観的に騒ぎを傍観する破目になり、気が付けば部室に1人取り残された。
「おいおいおい、仮にもOBに部室の留守番させるか…(腕時計見て)まあいいか、時間はあるし。それに外回りも今日はもう無いから、最悪残業すりゃ何とかなるし」
食事が終わり、何をするでもなく、ふと物思いにふける斑目。
そんな斑目1人きりの部室に来訪者があった。
「こんちわ。あれっ、斑目だけ?」
来客は田中だった。
斑目「よう、今日はどうしたい?」
田中「大野さんの衣装持って来たんだよ」
普段はショルダーバッグで来ることの多い田中だが、今日は珍しくリュックサックを背負っていた。
田中はリュックを降ろすと、中からライダースーツを取り出した。
田中「日向秋ってバイク乗る時、革ジャンにジーパンって格好の場合が多いんだけど、まあ今回は劇場版ってことで、特別に作ったんだよ」
斑目「わざわざ作ったんだ、それ」
田中「買うと高いからね、ライダースーツって」
斑目「でも衣装だったら、日垣君や国松さんが作るんじゃないの?」
田中「そのつもりだったらしいけど、俺が無理に頼んで作らせてもらったんだよ」



204 :30人いる! その147:2007/10/21(日) 21:56:37 ID:???
斑目「俺は大野さん専用コス職人だ、ってか?」
田中「まあ、そんなとこだ。ところで何で部室、斑目1人だけなんだ?」
斑目「かくかくしかじかな事情で、なし崩し的に俺が留守番になっちまったという次第さ」
田中「そりゃご愁傷様。ん、どした?」
田中は先程からの斑目の様子が変なことに気付いた。
斑目「いや、2年前のことを思い出してたんだよ」
田中「2年前?」
斑目「ほら、荻上さんが初めて部室に来た時のことだよ」
田中「ああ、腕吊って無愛想に『オタクが嫌いな荻上です』って自己紹介してたあれか」
斑目「そうそれ。その荻上さんが、前は部室で2人きりになることすら嫌ってた朽木君に、自分がこれからひと月ぐらいは毎日被るマスクを被せちゃうんだもんな」
田中「そりゃ凄いな」
斑目「その上、いくら部室が祭り状態になった勢いとは言え、肩抱き合って笑うし、朽木君の暴走止める為とは言え、体張ってしがみ付いたりするんだもんな」
田中「それにそもそも、荻上さんの方からウケを狙いに行くなんて、あの頃は考えられなかったしな」
斑目「まあそれで、変われば変わるもんだなって、しみじみしてたって訳さ」
田中「会長になったせいか、笹原と付き合ったせいか、あるいは両方かな」
斑目「まあ何にせよ、いいサークルになったよな、現視研」
田中「そうだな」
しばし沈黙して感慨にふける2人。
2人揃ってしみじみした空気に照れ臭くなったか、斑目は撤収にかかった。
斑目「(腕時計を見て)すまんが田中、あと留守番頼むわ」
田中「仕事に戻るのか?」
斑目「ああ、あいつらによろしくな」



205 :30人いる! その148:2007/10/21(日) 21:59:26 ID:???
斑目が出て行ってから30分ほど経って、会員たちは戻って来た。
全員汗びっしょりで疲れ果てた顔をしていて、まるで練習が終わって戻って来た運動部員のようだ。
荻上「あれ?こんちわ田中さん」
会員たちも挨拶し、田中も軽く手を上げて応える。
荻上「斑目さんは?」
田中「仕事に戻ったよ。で、たまたま今さっき来た俺が代わりに留守番って次第さ」
荻上「そうですか。すいません、お手数かけて。斑目さんにも後で謝っといた方がいいな」
大野「もう、サークル棟だけで止めとけばよかったのに、朽木君ったら学棟や教授棟にまでケロロのマスク被って挨拶に行くんだもん」
朽木「申し訳無いであります。本当は大学のご近所も回りたかったのですが、それはまた日を改めて」
荻上「いいですよ、もう。また自治会に怒られますから」
恵子「まあまあ、もういいじゃない。とりあえず何処でもウケてたんだから。その怒ってた自治会長さんだって、説教しながら吹いてたし」
田中は改めて斑目が言っていたことを反芻していた。
荻上会長(と大野さん)は、クッチーを咎めてはいるものの、以前のように嫌悪感は無く、本気で怒っている感じではなかった。
荻上会長にクッチーを受け入れる度量があり、クッチーも破目の外し方にある種の節度が加わり、それらが上手く作用していいムードになっている、そういう印象を受けた。

その後田中は前述の訪問理由を話し、大野さんに秋の衣装を渡した。
会員たちは疲れ切っていて、まだミーティングを再開出来る雰囲気ではなく、あちこちでポツポツと雑談をしつつ休憩していた。
ちょうど映画についていろいろ訊きたかった田中は、会員たちの雑談に加わった。



206 :30人いる! その149:2007/10/21(日) 22:01:51 ID:???
30分ほど雑談をした後、神田が恵子に質問したことをきっかけに、そのままミーティングへと移行し始めた。
神田「ところで監督、そろそろクランクインですけど、最初はどっから撮りましょう?」
恵子「まあさっきまでの話だと、日向家のシーンからだろうな。冬樹の部屋とケロロの部屋以外はミッチーの家でロケさせてもらうとして…」
豪田「問題は冬樹の部屋ですね。ケロロの部屋はほんのワンショットなんで、セットで再現するか、誰かの部屋をカメラアングルで誤魔化して撮るかすればいいんですが…」
恵子「冬樹の部屋ってミッチーの部屋じゃダメなのか?」
浅田「それやろうと思ったら、かなり模様替えしてもらわないといけないんです」
巴「確かにミッチーの部屋だと相当手間ね」
ちなみに神田の部屋には、1年の女子会員は全員行ったことがあった。
男子で入ったことがあるのは、夏コミで同人誌運びを手伝った浅田と岸野だけである。
恵子「あっ、やっぱオタルームなのか?」
岸野「かなり重度のオタルームです」
恵子「でも冬樹って、オカルトオタなんだろ?オタルームなら使えそうな気するけど…」
岸野「また違いますよ、冬樹のとは」

岸野は神田の許可を得て、ロケハンの為に撮影した神田の部屋の映像を部室のテレビで
映した。
テレビに映った神田ルームは、まさしくオタルームであった。
だがそれは、以前笹原に話した程度のレベルでは無かった。



207 :30人いる! その150:2007/10/21(日) 22:04:35 ID:???
本棚にはぎっしりと漫画本が収納され、周辺には入り切らない分が山積みになっている。
ビデオラックも同様の有様だ。
さらに段ボール箱に収められた漫画本や同人誌やビデオも、部屋の隅に積まれている。
ベッドの布団を包むシーツにもアニメキャラが描かれ、もちろん抱き枕もある。
壁には多数のポスターが貼られ、本棚の上にはフィギュアや縫いぐるみが飾ってある。
机の上にはノートパソコンがあり、もちろんテレビとビデオデッキも完備されている。
ベッドを運び出して代わりにテーブルと椅子を入れれば、そのまま部室に使えそうだ。
そして部屋の隅にはコピー機が置かれていた。
恵子「何で女子大生の部屋ん中にコピー機があるんだ?」
岸野「神田さんの家族は全員同人誌を作る側のオタクなんで、みなさん1人1台ずつ持ってるんですよ」
恵子「マジかよ…」
荻上「話には聞いてたけど、自分の部屋にあるんだ、コピー機」
神田「前は1階にみんなのと一緒に並べてたんですけど、4台いっぺんに同じ部屋で使うと家の電気の配線への負担が大き過ぎるんで、今は各自の部屋に入れてます」
コピー機がとどめになったらしく、恵子は神田の部屋でのロケを断念した。
恵子「まあ何にせよ、ミッチーの部屋だと大変そうだな。冬樹の部屋ってどんなんだっけ?」
国松「ちょっと待って下さい」
国松は「ケロロ軍曹」の単行本をパラパラと開く。
国松「うーん、いざ探すと無いものね、ちょうどいい絵」
他の会員も手伝い始める。
そんな中、神田はスケッチブックを開き、鉛筆を走らせる。
やがて鉛筆を置いて、恵子にスケブを差し出す。
「出来ましたよ、監督」
単行本を検索してる会員たちが、該当のページを発見するより数秒速い。



208 :30人いる! その151:2007/10/21(日) 22:07:39 ID:???
恵子「これは?」
神田「伊藤君の脚本を基にイメージして描いてみた、大学生になった冬樹の部屋です」
「どれどれ」と近付く会員たち。
原作の冬樹の部屋に比べ本棚が増え、しかも中身はハードカバーのぶ厚い本が増えている。
鉛筆のせいか、やや暗めでシックな感じになっていた。
伊藤「おう、こりゃ僕のイメージ通りだニャー」
国松「(自分の持ってる単行本と見比べ)ほんと、今の冬樹の部屋に比べて、大人になった感じ…」
そんな会員たちの肩越しに神田の絵を見ながら、クッチーは「むむ?」と唸っていた。
神田「どうしたんですか、クッチー先輩?」
朽木「いやねミッチー、何かこの絵の部屋、どっかで見た気がするにょー」
しばし考え込んでいたクッチーだったが、やがて手を叩きつつ「おう!」と声を上げると、携帯を取り出してかける。
一同「?」
朽木「あっ、お久しぶりです。実はかくかくしかじかな事情で…ほんとでありますか?(みんなに)皆の衆、その部屋に似た部屋の持ち主の方に、撮影許可をもらえましたにょー」
恵子「マジかよ、それ?何時なら空いてるか訊いてくれ」
朽木「しばしお待ちを(再び携帯で話し)とりあえず近日では明日がお暇とのことですが、いかが致しましょう監督?」
恵子「よし、その日押さえろ!」
朽木「了解であります!」
恵子「みんな、明日からクランクインだ。いいな!」
一同「はいっ!」



209 :30人いる! 次回予告:2007/10/21(日) 22:13:44 ID:???
終わった、何もかも…
って、まだだ、まだ終わらんよ!

そんな次第で、まだまだ準備すべき課題は残したものの、いよいよ「30人いる!」次回からクランクイン編に突入します。
果たして撮影初日のロケ地とは?
クッチーが依頼した相手とは?
長々と看板に偽り有りで、メインキャラ26人で進行して来たこのシリーズ、遂に次回27人目が登場する!

本日はここまでです。


210 :マロン名無しさん:2007/10/21(日) 22:17:57 ID:???
乙です。
やっぱ面白い。中の人の実力なんだろうなぁ。
ケロロネタはサッパリなのに無理なく読める筆力に脱帽です。

211 :マロン名無しさん:2007/10/23(火) 16:09:18 ID:???
まとめサイト読んでたんだけどkoyukiUの後編ってまだアップされてないの?
目の前に生肉置かれてお預けさせられた犬の気分なんだがorz

212 :マロン名無しさん:2007/10/25(木) 00:48:38 ID:???
斑目晴信誕生日おめでとう!
とゆう訳で、斑目SSをスレ三カ所に投下したします。まずはここから。
先に謝っておきます。
スイマセン!やおいネタです!笹原×斑目です!
苦手な方は飛ばして下さい。

ジャンピング土下座m(T_T)m


213 :「幸せになる様に」1:2007/10/25(木) 00:51:25 ID:???
俺、斑目晴信は今、笹原完二と二人で、笹原の部屋へと歩いている。
笹原の部屋に遊びに行くのはこれで何度目だろうとふと考えた。数えてみるが分からない。
「どうしたんですか斑目さん?」
ぼーっと考え事をしていた俺に、笹原が聞いてきた。「何でもねぇよ」と返して、又前を見て歩く。
歩きながらの話題は、昨日放送していたアニメの事、最近連載が始まった漫画の事。二人とも好きな事に関してなら何時間でも話していられる。
笹原が、口を動かしている俺を見て嬉しそうな顔をした。何かを噛み締める様な、そんな顔を。
それに気づいた俺は、ふいっと笹原から目を反らす。
自分の顔が赤くなったのが分かって、ますます笹原の方を見れなくなる。
急に黙りこんだ俺に不審そうな顔をした笹原だが、部屋についてしまった為それを追求しようとはしなかった。
笹原は、俺をどう思っているのだろうか?
一ヶ月前、俺は笹原に告白された。
それを、俺はまだはっきりと答えていない。
友人としては好きだと思う、悪い奴ではないし。
何も言わない俺と、告白前と変わらず過ごす笹原は、正直凄いと思う。俺だったら、告白すら出来ないだろうから。
笹原の部屋に入ると、俺はいつも座るテーブルの前に陣取った。笹原は飲み物を用意している。


214 :「幸せになる様に」2:2007/10/25(木) 00:53:53 ID:???
最近、笹原と居ると、何となくあいつが俺を本当に好きだとゆう事が分かってきた。
態度とか、視線とか、言われなければ分からなかっただろうけど。
何で、俺なんだろう?
何度も繰り返された疑問。
こんなおたくで(笹原もだが)、顔も体も全然女みたいでも無くて……。
男と付き合う何て一度も考えた事が無かったから、最初は笹原がからかってんのかと思ってたけど、そうでもなくて……。
「何難しい顔してるんですか?」
いつの間にか、マグカップを持った笹原が俺の前に立っていた。テーブルにそれを置いて俺の正面に座る。
「笹原……」
理由を聞いてみたいと思った。今まで、俺なんかを誰かが好きになるなんて無かったから。
でも、聞くのは、怖い。
眉を寄せてそれ以上何も言えない俺を見て、笹原がため息をつく。
「すいません」
「えっ?」
笹原の言葉に、俺はまぬけな声を出す。
「俺、あんな事言って、斑目さんに迷惑かけてますよね……」
ついっと伏せられた笹原の目。手はマグカップをきつく握っている。
迷惑……では無い様な気がした。
だから俺は口を開く。
「違う、そうじゃねえ」
笹原が再び俺を見る。
「何で、俺が好きなの?」
意を決して聞く。
「理由が、分からない」
俺が言い終わると、みるみる笹原の顔が赤くなった。


215 :「幸せになる様に」3:2007/10/25(木) 00:55:45 ID:???
何度か瞬きを繰り返し、笹原はぐっと俺の方へ身を乗り出す。
「全部、です」
「!!」
今度は俺の方が真っ赤になった。カッカと熱い顔から、湯気さえ出ている気がする。
「斑目さんの、気を使って自爆しちゃう所とか可愛いですし……」
カワイイデスカ。
「優しい所や、押しに弱い所も萌えます……」
モエチャウンダ。
「もちろん、キャラ作ってる所も好きですよ?」
…………。
笹原は、デレデレと絞まりの無い顔をしていた。
「俺は……」
心が、冷たくなっていくのが分かる。
「俺は、嫌い」
そう言った瞬間、笹原の肩がビクンと震えたのを、余裕の無い俺は気づかなかった。
「俺は、俺の、そうゆう所、嫌い」
両手を握り締めて、下を向く。
気を使うのは、自分が傷つかない為だ。
自爆するのは、コミュニケーションが下手なせいだ。
優しく見えるのは、臆病だからだ。
そして何より、キャラを作るのは、そんな情けない自分を見られたく無いせいだ。
趣味だけに生きられれば良いとうそぶいていても、趣味以外の事になると何も出来なくなる。
出来ない事は、「おたくだから」と言い訳して、逃げ道を作って見ないふりをした。
「斑目さんが、キャラ作ってるのって、自分が嫌いだからですか?」
笹原の声に、頷く俺。


216 :「幸せになる様に」4:2007/10/25(木) 00:57:40 ID:???
「それに、楽だから……」
本当は、誰にも言いたく無い、でも、言いたかった言葉。
「キャラを作っておけば、それ以外は見られなくて済むだろ?」
強調された部分を見れば、人はそれだけで俺を判断する。そうすれば、それ以上、誰も入って来ない。
こんな無様な俺を、見られなくて済む。
笹原は何も言わない。
痛い程の沈黙が流れる。
言ってしまった。
きっと呆れられたに違いない。俺だって、こんな滑稽な自分が嫌になる。
ふと、俺の頬に何かが触れた。
顔を上げると、いつの間にか笹原が目の前まで来ていて、ボンヤリと、これはこいつの手なのかと思う。
「俺、好きです」
…………?
「そうやって、斑目さんが隠してる所も」
笹原は、何を言ってるんだろう。
「ねぇ、斑目さん」
オロオロと揺れる俺の瞳を笹原が捕える。
見た事の無い、真剣な表情。
「斑目さんがキャラなんて作らなくても、誰も斑目さんの事を嫌いになんてなりませんよ」
ゆっくりと紡がれる言葉。
「斑目さん、良い所沢山あるじゃないですか!」
そんな言葉が、何故かストンッと、心に落ちた。
「そう……、かな?」
泣き出しそうなのを我慢して、俺はぎこちなく笑う。
スッと笹原が更に近づいて来たと思ったら、背中に腕が回された。
力を込めた笹原の腕が暖かい。


217 :「幸せになる様に」5:2007/10/25(木) 01:03:50 ID:???
こいつの言う事を、信じてみても良いかな……。
今は素直にそう思う。
でも、もうそろそろ離れてくんないかな。
「あ―――――っ!もう!!」
笹原が耳元で叫んだ。
「何で斑目さんはそんなに萌える事言いますか!?」
声の大きさにキンキン言ってる耳に、何かとんでも無い言葉が聞こえて来る。
「斑目さんが何の為にキャラ作ってるかなんて、多分皆にバレバレですよ?それを悩んでるなんて!」
俺、ヒドイ事言われてねえ?結構コンプレックスなんですケド?
って、バレバレ!?
バレバレなのか!!?
「でも、それを俺に言っちゃうって事は、フラグですよね?」
は?
硬直している俺の顔を、笹原が覗きこんだ。
半目になり、異様に鼻の穴を膨らませたその顔に、俺は何故か冷や汗が止まらない。
「フラグが立ったって事は、OKって事ですよね?」
「何が?」
OK?
OKって?
パニックになっている俺の顔に、笹原の顔が近づいて来る。
目を閉じて。
ああ、そうゆう事か……。


218 :「幸せになる様に」6:2007/10/25(木) 01:40:07 ID:???
………
………
………
ボグウッ!!
俺は思いきり笹原の頭をぶん殴った。
「何すんですか!」
「それはこっちの台詞だっ!」
良い事言ったと思ったらこいつは!
「フラグが足りないんですか?」
それ何てエロゲキャラ?
もう一度笹原を殴りながら、俺は盛大にため息をついた。
その後、二人がどうなったかは、神のみぞ知る。
って事にしといてくれ……。


終わり

219 :マロン名無しさん:2007/10/25(木) 01:43:24 ID:???
こう言うのも何ですが、書いてて恥ずかしかった……。
本当にすいません。

220 :マロン名無しさん:2007/10/25(木) 06:37:42 ID:???
誕生日記念になぜやおい? ってのはあるけどなかなか面白かったです。
でもフラグの使い方がこれでいいのか疑問だが・・・詳しい方教えて頂ければ。
楽しませて頂きました。

221 :マロン名無しさん:2007/10/25(木) 10:44:39 ID:???
>>211
スミマセン作者です。
自分のHPで金曜か土曜にアップします。
まとめサイトさんでアップしてもらっているのとは、ちょっと内容が変わりますがご容赦ください。

http://ime.nu/www.geocities.jp/senkoku2007/ssindex.html

222 :マロン名無しさん:2007/10/25(木) 11:01:20 ID:???
>幸せになる様に
斑目の誕生日にやおいss
いーじゃん いーじゃん スゲーじゃん♪

モエチャウンダ。 に笑い、「俺は、俺の、そうゆう所、嫌い」から始まる斑目の内面がイイですね。
しかも最後はちょっと乱暴なボディランゲージwww
楽しめました!

223 :マロン名無しさん:2007/10/25(木) 23:21:02 ID:???
アッー!

224 :マロン名無しさん:2007/10/26(金) 05:59:16 ID:???
>幸せになる様に
ごちそーさん。801と聞いてどうしたもんかと思ったがとっても面白かった。
斑目の内省話だが、なんか斑目のこと好きで好きでたまんない笹原がアプローチ
していくさまがまるでふわふわもこもこの大型犬のようだwww

3ヶ所ってことはエロパロのもあなたか。もう1本はどこだろう?探しに行くか。
なにはともあれお疲れ様でした。斑目は幸せだ。



>ジャンピング土下座m(T_T)m
むしろこの顔でコッチ飛びかかってくるように見えてコワカタヨ


225 :マロン名無しさん:2007/10/26(金) 23:49:52 ID:???
>幸せになる様に
内容だけ見てる分には、内面の葛藤について語り合う男同士の友情話なのに、これにフラグとか付け加えるだけでアッーな展開になってしまうから不思議。
やっぱヤオイって、奥の深い世界ですな。

226 :お詫び:2007/10/28(日) 19:55:49 ID:???
今週の「30人いる!」は取材の為に休載します。

冗談はさておき、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!
前回ので原稿のストックが尽きた上に、今週は表の仕事が土曜日まで出勤の上に残業だらけだったんで、まるで原稿進みませんでした。
来週はクランクイン編から再開しますので、どちらさんもごめんなすって!

227 :お詫びの人:2007/10/28(日) 20:41:42 ID:???
代わりと言っちゃ何ですが、今即興で書いた話を置いてきます。


228 :アニメ第3話後日談 その1:2007/10/28(日) 20:46:38 ID:???
夏コミの数日後の部室。
斑目、笹原、高坂と、男衆の集まった部室にクッチーが入ってきた。
「こにょにょちわ〜おお高坂先輩、昨夜はお世話になりました」
高坂「何のこと?」
朽木「実はわたくし、昨夜は時乃コスの高坂先輩をオカズに、たっぷり堪能させていただきました」
ブッとなる斑目と笹原。
冷や汗をかきながらも笑顔を絶やさない高坂。
斑目「あのねえ朽木君…」
笹原「本人の前で言うのはちょっと…」
クッチーは聞いちゃいなかった。
朽木「それではわたくしの妄想ベスト3を発表しま〜す」
斑目「こらこら…」
高坂「(苦笑)しょうがないなあ」
朽木「先ずは第3位、ズバリ、私朽木×時乃コス高坂先輩!」
再びブッとなる斑笹コンビ。
相変わらず冷や汗で笑顔の高坂。
斑目「いきなり直球勝負かい!」
朽木「いやあそれがわたくし、まだまだ修行が足りませんので、脳内で高坂先輩をふたなりという設定にしてしまいました。申し訳ありません、高坂先輩」
笹原「あの朽木君、謝るポイントが間違ってると思うんだけど…」
朽木「そうですね、わたくし間違っておりました。高坂先輩、次回はれっきとした男の高坂先輩と一戦交えることをお約束しますので、今回はご容赦を」
高坂「そういう謝られ方をしてもねえ…」
笹原「だから謝るとこ間違ってるってば…」
朽木「では気を取り直して第2位!」
斑目「まだやるんかい」



229 :アニメ第3話後日談 その2:2007/10/28(日) 20:51:38 ID:???
朽木「第2位は、時乃コス高坂先輩×副会長コス大野先輩の倒錯コスプレ!」
斑目「おお、これは使えるかも」
笹原「斑目さんまで乗らないで下さい」
高坂「ははは…」
朽木「そうでしょうそうでしょう、わたくしこのネタで3回もいたしました」
斑目「いやだから、そこまでは聞いてないから…」
朽木「でもやっぱりナンバーワンはこれでしょう。栄光の第1位!時乃コス高坂先輩×会長コス春日部先輩の、秘密の夜の営み!」
再びブッとなる斑笹コンビ。
高坂「それはいいかもね」
斑笹「認めるなよ!」
ふと強烈な殺気を感じて入り口の方を見る4人。
何時の間にか入り口に、怒りの形相の春日部さんが立っていた。
凍り付く4人。
「クッチー、ちょっと私と一緒に屋上まで来いや」

十分後、汗まみれで息を切らした春日部さんと、意気揚々としたクッチーが部室に戻って来た。
斑笹「何で?」
春日部「何かこいつさあ、グーでフルボッコでぶん殴ってやったんだけどさ、殴るたびに元気になるんだよな。あたしパンチ力落ちたかなあ?」
朽木「いやあ春日部さんに気合いを入れてもらったおかげで、すっかり昨夜の疲れが取れました。ようし今夜はひと晩中やりますにょー、第1位をオカズに」
春日部「やめんか!」
部室に残っていた男衆は、政宗一成のナレーションがどこからか聞こえてきたような気がした。
「朽木学は春日部咲に殴られることで、3倍にパワーアップするのだ」


230 :マロン名無しさん:2007/10/28(日) 20:53:04 ID:???
以上です。
しょうもない代原を投下してしまい、失礼しました。

231 :マロン名無しさん:2007/10/29(月) 00:05:19 ID:???
>時乃コス高坂先輩×会長コス春日部先輩の、秘密の夜の営み!
使えるッ! 使えるよこのシチュw


ナレーション政宗一成かよwww
「コイツは凄いぜェ!」ジャカジャジャン!!

232 :マロン名無しさん:2007/10/29(月) 07:26:27 ID:???
・・・くっちーの妄想、シンクロできるのは俺だけでいい

233 :マロン名無しさん:2007/10/31(水) 20:35:18 ID:???
保守

234 :マロン名無しさん:2007/11/02(金) 02:29:28 ID:???
コッソリ┃д`;)

まとめサイトの管理人です
ものすごい長い間放置しててすいませんでした
一通り更新しました
本当に申し訳なかったです

235 :マロン名無しさん:2007/11/02(金) 04:02:01 ID:???
>後日談

クッチーのぶっちゃけぶりにフイタwww
第4話でもクッチーいい汚れ役だったなぁwww

236 :マロン名無しさん:2007/11/02(金) 04:36:37 ID:???
>まとめサイトの人
乙です。もう更新なしかと思っていたのでうれしいです。
今後とも宜しくどうぞ。

237 :アニメ第3話後日談の人:2007/11/02(金) 22:51:25 ID:???
しょもない即興SSに、いろいろご意見ありがとうございました。
第4話のクッチーどつかれた直後も、多分こんな感じだと思います。

大野さんが部室から出た直後。
春日部「ところでクッチー、マジで気絶してるのか?」
高坂「朽木君、大丈夫?」
ピクリとも動いていないと思いきや、クッチーは微かに痙攣していた。
斑目「マジヤバいんじゃない?」
笹原「救急車、呼びましょうか?」
その時突如クッチーは起き上がり、絶叫した。
「いい〜〜〜〜〜〜!!!!!!!気持ちいい〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
一同「気持ちいいのかよ!」
そう、クッチーは苦痛で気絶していたのではなく、快感に浸っていただけなのだった。
荻上「最低ですね…」
通りすがりの政宗一成「朽木学は大野加奈子に殴られることで、3倍にパワーアップするのだ」
一同「て言うか、あんた誰だ?!」

238 :マロン名無しさん:2007/11/03(土) 02:01:33 ID:???
まとめサイトの方、乙です。

ところで、まとめサイトの笹荻のカテゴリが消えてるのは自分だけでしょうか?

239 :まとめの人:2007/11/03(土) 04:39:41 ID:???
>>238
一応今確認しました
ログインせずに見てみたところ大丈夫だと思うのですが・・・
今もダメでしょうか?

240 :30人いる! 前書き:2007/11/04(日) 15:54:35 ID:???
ども、恥ずかしながら帰ってまいりました。
先週は休んでしまいましたが、いよいよ今回からクランクイン編に突入します。
今月も表の稼業が隔週で土曜出勤になる関係で、今月は隔週連載になりそうですが、その分投下する時はドドンとまとめて行こうと思います。
今回は15レスです。
8レスぐらいで1回休憩挟んで続き投下しようと思います。
では後ほど。

241 :30人いる! その152:2007/11/04(日) 15:58:11 ID:???
第10章 笹原恵子の初陣

9月初頭の朝、椎応大学の最寄の駅から数駅離れた駅に、20人の若者が降り立った。
駅を出た若者たちは、駅から徒歩で十数分ばかり先にある、高級住宅街を目指して歩き出した。
若者たちは殆どの者が見た目20歳前後だが、中には小学生か中学生ぐらいにしか見えない者も数人居た。
一行はいろんな意味で道行く人々の目を引いた。
総勢20人という人数、内14人が女性であること、その女性陣が巨乳美人からロリ顔美少女まであらゆるタイプが揃ってること等々。
中でも目立つ大きな要因が3つあった。
1つ目は、手ぶらの者も少数居るが、全体的には大荷物なことだ。
多くの者が大きなリュックを背負ったり、大きなショルダーバッグを持っている。
中には小さな脚立を担いでいる者や、小脇に新聞紙で包んだ大きな板状の物を抱えている者も居る
2つ目は、眼鏡の青年とやや太目の女性の2人が、一行を前後からビデオカメラで撮影しつつ歩いていることだ。
そして3つ目は、一行の最後尾を歩いている、2人の巨乳の女性の服装だ。
他の面々が比較的ラフな服装なのに比べ、1人は就職活動用のようなカッチリとしたスーツ姿で、もう1人は私立の女子高の制服のようなブレザー姿だった。
いや正確には、上着を着ていたのは駅前に居た、ほんの数分の間だけだった。
9月になったとは言え、まだまだ朝から暑いので、2人はすぐに上着を脱いで片手に持ち、上半身はカッターシャツ1枚になった。
だがそれでも暑いので、歩き続ける内に汗まみれになり、シャツが透けて下のブラが丸見え状態になった。
絵的にかなりエロいものになってしまったことには2人も気付いていたが、背に腹は代えられぬとばかりに透けブラをユサユサさせつつ歩き続けた。



242 :30人いる! その153:2007/11/04(日) 16:00:00 ID:???
一行は皆、愛想良く道行く人々に挨拶するが、多くの人が怪訝な顔で立ち去る。
やがて一行の前方を自転車に乗った警官が立ちふさがった。
どうやら付近住民の誰かが通報したらしい。
一行の先頭を歩いていたのは、髪を頭のてっぺんで筆のように束ねた小柄で童顔な女性と、長身痩躯で馬面の青年だった。
職務質問に対し、小柄な女性こと荻上会長は少しも高ぶること無く、落ち着いた口調で答えた。
「私たち椎応大学の現代視覚文化研究会の者なんですが、今度の大学祭で上映する映画の撮影の為に、今からロケに協力して下さるお宅を訪ねるところなんです」
警官「どちらのお宅まで?」
「それはそこの先のですねえ…」
馬面の青年ことクッチーが話に割り込み、行く先を説明した。
警官「ああ、あそこのお宅ですか」
行く先を聞いて納得した表情の警官。
警官「でも何で、道端でビデオカメラを?」
眼鏡の青年こと浅田が答えた。
「カメラテストを兼ねて、メイキングビデオを撮影しているんですよ。まあ言ってみれば、記念のスナップ写真みたいなもんです」
やや太目の女性こと藪崎さんが付け加える。
「あと私はビデオカメラの初心者なんで、練習の代わりですわ」
納得した警官、立ち去り際にひと言付け加えた。
「それからそちらのカッターシャツのお2人さん、暑いのは分かるんだけど、その…(赤面し)その格好はさすがにアレだから、自重して下さい」
「(上着を羽織りつつ赤面し)すいません…」
巨乳の2人こと大野さんと巴は頭を下げた。



243 :30人いる! その154:2007/11/04(日) 16:02:06 ID:???
「皆の衆、着きましたぞ」
クッチーの宣言で、現視研一行は立ち止まった。
荻上「ここ、ですか?」
荻上会長を始め、会員一同は怪訝な顔をした。
一行が止まったのは、古めかしい土塀に囲まれた、古めかしい木造の門の前だった。
塀の中に見える建物も、これまた古めかしい屋敷だった。
おそらく戦前から建ってたであろう由緒正しきお屋敷、そんな第一印象だった。
その古い日本式の家屋の中に、とても冬樹の部屋のロケに使えそうな洋室の部屋があるとは思えなかった。
恵子「何か山寺みてえな家だけど、ほんとにここにあの部屋があるのか?」
朽木「こちら側からは見えませんが、この奥に増築された離れがございまして、そこに目的の部屋があるのです」
恵子「わーった。とりあえず中の人呼べや」
朽木「かしこまりました」
古めかしい門には不似合いな、警備会社のロゴの入ったインターホンのスイッチをクッチーは押した。
朽木「おはようございます!朽木であります!」
インターホンの上の方に見える、監視カメラらしきレンズの付いた部分に向かってクッチーは叫んだ。


244 :30人いる! その155:2007/11/04(日) 16:04:04 ID:???
愛想良くて、なおかつ上品で落ち着いた声がインターホンから返ってきた。
「まあいらっしゃい、今開けますからね」
声の主は家の奥に居たらしく、2分近く経って門が開いた。
現視研一行を迎えたのは、藍色の地味な着物を着た、眼鏡の女性だった。
物腰に品があり、和服を着慣れたような着こなしだった。
実は会員の大半はこの女性と面識があったが、見慣れない姿に戸惑っていた。
年齢は推定20代半ばぐらいのはずだが、その女性にはそれよりもっと上と言われても納得してしまうような、落ち着いた雰囲気があった。
朽木「お久しぶりです、お師匠様!」
荻上「おはようございます」
一同「(復唱するようなタイミングで)おはようございます!」
恵子「ども始めまして、今回監督やる笹原恵子です。今日はよろしくお願いします」
初対面のせいか、この手のタイプには不慣れなせいか、やや硬い挨拶だ。
「お久しぶりね、朽木君。そして皆さんもいらっしゃい。(恵子に)まああなたが笹原君の妹さん?よろしくね、可愛らしい監督さん」
和服の女性、児童文学研究会会長(以下児会長)は愛想良く応えた。


245 :30人いる! その156:2007/11/04(日) 16:06:10 ID:???
児会長に案内されて屋敷に入った現視研一行は、クッチーを除く全員が児会長宅の広さに驚き圧倒された。
会員たちは、ちょっとした旅館の宴会場並みの広さのある大広間に通された。
まるで旅館に着いた観光客のように荷物を部屋の隅に置き、しばしくつろぐ一同。
大野「やっぱりスーツ、後で着替えた方が良かったですね」
巴「最初から着て来たのは失敗でしたね。有吉君みたいに荷物として持って来るか、部室に置いとくべきでしたね」
現視研一行はこの後、児会長の部屋で2シーン撮影し、午後からは大学に戻って2シーン撮影する予定だ。
大学でのシーンは、冬樹と夏美が大学入学の際に秋と記念撮影というシーンなので、2人はあらかじめ入学式風の服装ということで前述の格好をして来たのだ。
ちなみに巴は夏美役なので、髪を茶髪に染めてツインテールにしていた。

そんな中、大広間にクッチーと児会長が入ってきた。
クッチーは両手に麦茶の入ったクーラーポットを持っていた。
左右それぞれの手に3本ずつ取っ手を束ね、ビヤガーデンのボーイがジョッキ生を運ぶかのように6本ものクーラーポットを持っている。
一方児会長は、大きなお盆にグラスを20個並べ、そのお盆を両手で持って来た。
児会長「暑い中ご苦労様。粗茶ですがどうぞ」
体育会的なノリで一斉に「いただきます!」と声を発し、出された麦茶を飲み干した会員たち、殆どみんな一気飲みだ。
荻上「すいません、こんな大勢で押しかけちゃって」
児会長「構いませんわよ。お客様は大勢いらした方が賑やかで楽しいですから」
恐縮する一同。


246 :30人いる! その157:2007/11/04(日) 16:08:39 ID:???
児会長「それに正式に部室に来られる前に、1度皆さんの人となりをしっかり見ておきたかったですから。お会いするのは入学以来という方もいらっしゃるし」
スーとアンジェラを除いた、1年生たちが一斉に赤面する。
彼らは全員ドッキリの洗礼を受け、その際に児会長を紹介されて会っていた。
ただ、腐女子四天王の4人は堂々とヤオイ同人誌を広げて平然としていたので、ドッキリとしてはある意味失敗であったが。
逆にイレギュラーながら大成功だったのが神田だった。
入学当時、神田は隠れオタだった。
中学でオタ趣味がバレて恥ずかしい思いをしたのに懲りて、高校ではオタであることを隠し通し、大学でも普通のサークルで普通の女子大生として大学生活を送るつもりだった。
だが部室がたまたま無人になった時に、オタスメルに引き寄せられてフラフラと侵入してしまい、ついつい同人誌を読み耽ってしまった。
それをたまたま児文研の部室に居た荻上会長が発見し、見慣れぬ人の姿に新入生かなと戻ってみたところ鉢合わせになり、神田はパニクった。
「違います!私オタクじゃありません!コーディネイターが遺伝子操作された新人類だなんて、全く知りません!」
訊かれもしないのに勝手にオタ知識を披露して自爆する神田に、荻上会長はある意味かつての自分に近いものを感じた。
そしてその直感は正しかった。
ドアの前に荻上会長が立っているのを見て逃げ道が無いと悟ると、神田は窓へと走った。
荻上会長も走り、神田に飛びついて叫んだ。
「ここは3階だ!」
ちょうど部室に戻って来た他の会員たちに押さえ込まれ、神田のダイブは未遂に終わった。
そして自身の体験談をまじえての荻上会長の説得により、神田は大学では自分を偽ること無くオタクとして生きて行こうと決意し、現視研に入会した。


247 :30人いる! その158:2007/11/04(日) 16:11:04 ID:???
話を映画撮影に戻そう。
はっきり言って、今回の撮影にはこんなに大人数は必要無かった。
監督の恵子、助監督の伊藤、撮影の浅田・岸野・加藤さん・藪崎さん、照明の豪田、録音の沢田、出演する有吉とスー、記録の神田、実際に撮影に関わるのはこの程度だ。
(音声は基本アフレコだが、実際に台詞を喋って時間を計る必要があるし、自然の雑音を録ることで音声に臨場感を付ける意味もあった)
あとはせいぜい、スーツの着付けの国松、今回のロケ地使用の仲介人であり道案内のクッチー、それに総責任者の荻上会長ぐらいだ。
これとて通常の映研に比べれば、かなりの大所帯だ。
これが通常の(と言っては失礼か)映研の撮影ならば、カメラと記録兼任の監督、照明兼任の助監督、そして出演者だけで済ませるところだ。
(この場合は録音機能のあるカメラで同時録音するか、音声はアフレコのみにする)
単純に撮影の機能面だけで言えば、午後から椎応大学正門前での撮影に出演する大野さんと巴は大学で待っていても構わなかったし、他のメンバーは休みでも良かった。
それでも一同が集結したのは、せっかくのクランクイン初日なのでという気持ちの問題と、
児会長の要望からだった。
児会長は現視研に自室を撮影場所として提供する条件として、名前だけでいいから児文研に1年生たちが入会することを頼んだ。
古くから児文研と現視研には、会の存続が危うい時には会員の籍を貸し借りする習わしがあった。
弱小サークルに有りがちな生活の知恵である。
(この辺の詳しい経緯は、リレーSS参照)


248 :30人いる! その159:2007/11/04(日) 16:14:05 ID:???
去年までの児文研の陣容は、児会長と、訳あって掛け持ちで入会した3年生のクッチーと、2年生の女の子が1人の合計3名という、お寒い状況だった。
(この辺の事情は、リレーSSと「あやしい2人」参照)
今年、児会長は卒業して大学院に上がり、会長職を3年生になった唯一の現役会員の女の子に譲った。
(だから厳密には児会長という名称は変なのだが、便宜上この作品ではそう呼称し、ややこしいが現在の児文研会長は現会長と呼称する)
新会員が1人だけ入り、掛け持ちで入会していたクッチーが4年生になって半ば引退状態になったので、児文研の現役会員は2人きりとなった。
児会長は現会長に、古くからの習わしについて説明して現視研に助けを求めることをアドバイスしたが、潔癖で生真面目な現会長はそれを断った。
だが会の予算が大幅に削減される現実に直面し、遂に現会長が折れた。
後はいつ現視研に言いに行くかというタイミングの問題だけになった矢先に、クッチーからロケ地のオファーがあり、それに児会長が乗ったという次第だ。

事情を聞いた現視研1年生たちは、児会長のお願いを快諾した。
しかも伊藤、沢田、国松、豪田の4人は、正式に掛け持ちで入会した。
特に脚本家志望の伊藤と、元々は小説を書いていて将来は小説家志望の沢田は、2人共通の信念として、「物書きは読書家でなければならない」と考えていたので積極的だった。
国松は将来特撮の監督になりたい一方で脚本も書きたいと思っており、その為の勉強の一環として童話をたくさん読んでいたので、児童文学にも興味があった。
(元々特撮の世界には、童話をモチーフにした話が多数ある)
豪田は本来の作風が王子様とお姫様の古典的少女漫画なので童話についても博識で、児童文学にも興味を示した。


249 :30人いる! 休憩:2007/11/04(日) 16:19:25 ID:???
ここで1回休憩に入ります。
続きは2〜3時間ほど後に。

あとお返事を。
>>210
>中の人の実力
ネタが新鮮なのを選んでるだけで、腕前は素人料理です。
毎度毎度、自己満足で変なもん食わせてすいません。

250 :30人いる! 再開:2007/11/04(日) 19:52:05 ID:???
遅くなりましてすいません。
再開します。

251 :30人いる! その160:2007/11/04(日) 19:56:06 ID:???
人心地ついたところで、恵子が宣言する。
「ほんじゃあ野朗ども、ぼちぼちおっぱじめるぞ!」
一同「はいっ!」
恵子「そんじゃあ会長さん、よろしくお願いします」
児会長「ではこちらへ」
児会長を先頭に、会員一同はゾロゾロと移動を開始した。

児会長の自室のある離れには2つの部屋があり、ひとつが自室で、もうひとつは自室に入り切らない本の書庫代わりになっていた。
どちらの部屋も八畳ほどあったが、書庫部屋の方は蔵書で3分の1ぐらいは埋まっていた。
先ずは児会長と一緒に、恵子、浅田、岸野、豪田、伊藤が児会長部屋に入り、他の会員たちは隣の書庫部屋や、離れへの通路になっている廊下で待機する。
恵子「こりゃ驚いたな。まんまミッチーが描いた冬樹の部屋だよ」
児会長「実は昨夜朽木君に来てもらって、ロケ地として不都合そうな本や荷物を移してもらいました」
恵子「あったんすか、そんなもんが?『て言うかこの人、クッチーとどういう関係なんだ?』」
児会長「カラフルな表紙の絵本とか、映画やドラマの脚本とか、ヤオイ同人誌とか、まあそんなところです」
ブッとなる一同。
恵子「ヤオイって…そんなもん持ってたんすか?」
児会長「前に朽木君にプレゼントされましてね、なかなか興味深い内容でしたので、少しだけ集めてみました。まあ殆どのは、お買い物の付き添いの朽木君の推薦ですけどね」
一同『そんなもんプレゼントするクッチー(先輩)もクッチー(先輩)だけど、その影響で集めるこの人っていったい…』


252 :30人いる! その161:2007/11/04(日) 20:03:29 ID:???
浅田と岸野が児会長の机の周囲であちこち位置を変えつつ、両手の人差し指と親指で作った四角形をカメラ代わりに構える。
実際に撮影する真似をしながら机周辺を見ることで、撮影時に必要な人員の配置をシュミレーションしているのだ。
その作業をひと通り終えると、ひとつひとつ児会長に承認を得つつ、豪田と伊藤が中心になって机周辺の邪魔な物を動かす。
今回ここで撮影するのは2シーンで、その内の1つが冬樹が机に向かうシーンなのだが、
基本的に冬樹役の有吉を至近距離からバストアップ(胸から上のアップ)で撮る。
その為、カメラマン4人と照明係、それに監督が机の間近で囲む形になる。
だからそれに必要なスペースを確保していた訳だ。
さらに豪田と伊藤は、児会長の許可を得て机を壁から1メートルほど離した。
冬樹の正面からのカットを撮る際のカメラマンのスペースと、横から撮る場合の照明係の
スペースを得る為だ。
(ただし真後ろからのカットを撮る時は、一旦元の位置に戻した)
場所が出来ると、いよいよカメラとライトを取り出してカメラテストにかかった。
先ずは伊藤が机の前に座る。
今メイク中(と言っても頭のてっぺんのアホ毛を作ってるだけだが)の有吉の代わりだ。
その伊藤を豪田がライトで照らし、浅田と岸野がカメラを構える。
実際に被写体にライトを当てた状態で、今度はカメラの目を通して見てみようという訳だ。



253 :30人いる! その162:2007/11/04(日) 20:10:24 ID:???
一般にライトが1つの場合、照明係がカメラ側に位置して被写体の正面から照らすか、被写体の斜め45度(高さも45度)の位置から照らす。
両方の照明のパターンを見比べている撮影担当コンビに、恵子が声をかけた。
「どうだ?」
岸野「どっちも一長一短ありますね。正面からじゃ陰影が無くて画がノッペリし過ぎだし、かと言って斜めからじゃ影がどぎつ過ぎますし。ご覧になりますか?」
恵子「どれどれ」
言いながら2人のカメラを覗く。
それに合わせて、豪田が照明の位置を交互に変える。
恵子「まあ確かに岸野の言う通りかもな。何か方法あるか?」
浅田「(自分のリュックの中をゴソゴソし)こんなこともあろうかと一応用意してきました」
リュックの中から、浅田はライトを取り出した。
恵子「もう1つ用意してたのかよ、ライト。で、そいつでどうするんだ?」
浅田はライトの電源をつなぎ、左45度に位置する豪田と反対側の右45度の位置に動く。
浅田「豪田さん、ライト点けて」
豪田がライトを点灯し、同時に浅田も点灯する。
浅田「監督、これでもう一度カメラ見てください。影が薄くなってるはずです」
恵子「(カメラを覗きながら)なるほど、確かに。で、問題は誰がそっちのライトを持つかだな」



254 :30人いる! その163:2007/11/04(日) 20:15:42 ID:???
伊藤「僕が持ちましょうかニャー?」
恵子「いや、お前はカチンコ使うから無理だろ」
伊藤「あっ…」
カチンコとは、映画撮影の際に監督の「用意スタート!」の号令に合わせて鳴らす、小さなボードの付いた拍子木のような道具のことだ。
一般的には、ボード部分にシーンb書き、それをシーンの最初に映すことでフィルム側に記録を残すことを目的にしているとされている。
だが実はカチンコの本来の用途は、同時録音した音にカチンという音を残すことで、編集作業で映像と合わせる際の目安にすることなのだ。
それはさておき、伊藤は昨日、豪田からカチンコをもらった。
セットを作る際に余った木材を再利用して作ったお手製だ。
ボード部分はベニヤ板に白いペンキとニスを塗ったものなので、ホワイトボード用のマーカーで書き込めるようになっていた。
岸野「えーとそうなると、神田さんは記録でストップウォッチ握ってるし、沢田さんはマイク持って録音だし…」
「私やります!」
部屋の外で話を聞いていた巴が割り込んだ。
伊藤「なるほど、今回の話は屋内のシーンでは夏美の出番無いから、屋内の照明係なら固定で行けるニャー」
恵子も許可し、屋内撮影での照明係は豪田と巴の2人体制となった。


255 :30人いる! その164:2007/11/04(日) 20:21:49 ID:???
恵子は隣の部屋に声をかけた。
「おーい、冬樹の用意は出来てるか?」
荻上「出来てますよ」
そう、有吉のアホ毛メイク担当は、アホ毛のスペシャリスト(?)荻上会長だった。
恵子「おお、確かに冬樹だ」
冬樹役の有吉の頭のてっぺんには、見事なアホ毛が立っていた。
普段は初期型斑目に似たおかっぱ風の髪も、冬樹風に少し乱してある。
ただ顔がやや引きつり、目を細めている。
恵子「よっしゃ有吉、出番だ!」
有吉「はははい」
恵子「何だお前、あがってるのか?」
有吉「そそそうですね、映画出るのなんて、ははは初めてだし」
沢田「(録音機材を用意しつつ)とりあえず手のひらに人という字を書いて飲んでみたら?」
台場「いや、この場合はそれ、微妙に間違ってる気が」
アンジェラ「よし、私がひと肌脱ぐあるね」
言うなり有吉の顔を胸元で圧迫するようにハグする。
固まる一同。
最大出力で赤面する有吉。
恵子「(アンジェラを引き剥がしながら)こらこら、こいつら相手にいきなりは体に良くねえから。ん?大丈夫か有吉?」
大丈夫では無かった。
恵子「あーあ、やっぱ気絶してるわ」
アンジェラ「よし、ここはひとつ私が人工呼吸を…」
一同「もういいから!」



256 :30人いる! その165:2007/11/04(日) 20:33:00 ID:???
その後、何故か活の心得のある加藤さんが有吉を復活させ、いよいよ撮影開始となった。
撮影に直接関係無い会員たちも、ゾロゾロと児会長の部屋に集まる。
岸野「まるで昔の映画の入浴シーンの撮影みたいだな」
恵子「何だそりゃ?」
岸野「まだヌードシーンとかベッドシーンとかが無かった時代の映画にとって、入浴シーンが最大のお色気シーンだったんです」
恵子「それで?」
岸野「だからスター女優の入浴シーンともなると、その日に限って臨時助監督が10人居たり、撮影助手が5人居たりみたいな状況だったらしいです」
恵子「それアリなのか?」
岸野「まあ本来は無しですけど、武士の情けで監督も黙認してたみたいですね」
恵子「しゃあねえなあ男って。まあこいつらは単にファーストシーン撮影に関わりたいだけだから、またちょっと事情が違うけどな。あれっ?クッチーと児会長は?」
日垣「何かすぐ戻るからとか仰って、どっか行かれましたよ」
恵子「2人っきりでか?」
1年女子会員一同「前々から怪しいと思ってたけど…」
荻上「怪しくない怪しくない『とも言い切れないんだけどね』」
恵子「しゃあねえな、ほっといて始めるか」

「ああそや監督、ちょっと待っとくなはれ」
そう言って藪崎さんは隣の書庫部屋から自分の荷物を持ってきた。
一同「?」
しばらく荷物をゴソゴソする藪崎さん。
「監督、これ使いなはれ」
藪崎さんはメガホンを差し出した。



257 :30人いる! その166:2007/11/04(日) 20:36:43 ID:???
恵子「これは?」
藪崎「やっぱ映画の監督ちゅーたらメガホンでっしゃろ」
一同『いやそれはちょっと違うだろ…』
藪崎さんの差し出した物は確かにメガホンであったが、通常のタイプの物では無かった。
バットを太く短くしたような形で、縞模様と虎の顔のマークが入っていた。
一同『さすが藪さん、関西人だな…』
だが恵子は別に不審に思うことも無く受け取った。
恵子「わーった、あんがと」
一同『監督って野球あんまし見ないんだな…』
まあそれを言い出したら、現視研で野球を熱心に見ていそうなのは、巴ぐらいだが。

メガホンを持ってさらに監督らしくなった(そうか?)恵子、いよいよ撮影にかかる。
ファーストカットは、机に向かう冬樹を後から撮るカットだ。
先ず眼鏡を外した有吉が机の前に座る。
その背後の左右斜め45度の位置に、照明の豪田と巴がライトを構える。
有吉の真後ろには、浅田・岸野・藪崎さん・加藤さんの4人がカメラを構える。
浅田と岸野が並んで立ち、その前に藪崎さんと加藤さんが膝を付いて座る。
同一アングルで水平位置からのショットと、ややあおり気味のショットを撮る為と、まだ手持ちでの撮影に不慣れな女性2人がカメラを固定しやすくする為だ。
更に背後には、メガホンを構えた恵子と、ストップウォッチを構えた神田が配置に付く。
カメラマンの左側にはガンマイク(本来は遠距離用の、文字通り銃みたいな形のマイク)を持った沢田が、右側にはカチンコを持った伊藤が配置に付く。
伊藤「それではシーン15-A冬樹の部屋の本番行きますニャー」
恵子「よーし、3、2、1、用意スタート!」
カチンコが鳴った。


258 :30人いる! 次回予告:2007/11/04(日) 20:49:37 ID:???
長かった…
166レス目にして、やっと撮影開始か…

いかんいかん、すっかり何もかも終わった気になってしまった。
お楽しみはこれからだ!

そんな訳で次回の予告。
ようやく撮影を開始した現視研。
だが午後に入り、思わぬアクシデントが次々と発生。
そして恵子監督は、「ある決断」を迫られる。
どうする恵子監督?
果たして現視研一行は、無事児会長邸を脱出出来るのか?

本日はここまでです。

259 :30人いる!の人:2007/11/04(日) 22:33:07 ID:???
ひとつだけ訂正とお詫び。
89レス目の斑目が早朝に部室に来るエピソードで、「9月に入ったとは言え」という記述がありました。
しかし時系列を改めて並べ直してみたところ、この時期に9月に入ることは無理と判明しました。
この部分は削除か、「8月末に入ったとは言え」とでも脳内訂正してお読み下さい。
どうも失礼しました。

260 :マロン名無しさん:2007/11/04(日) 22:45:08 ID:???
乙です。
ファンとしては各週はちょっと寂しい気もしますが、表の生活が第一です。
楽しみにしてます。

261 :咲物語:2007/11/05(月) 00:33:43 ID:???
三十人〜の人いつも細密な特撮知識ネタに脱帽です。
合間に駄文投稿で恐縮ですがご容赦ください。今夜は投稿だけしてダウン。
即興のつもりが約一万五千字になってしまいました。
約三十レスくらいになるかと思います。
久しぶりに投稿します。咲主観の物語です。題名も適当。遅い斑目誕生日記念?
アパレル産業についての描写がありますがかなり知ったかぶりの付け焼刃の知識ですので
深いつっこみはご容赦。基本斑目セツナスな話です。では数分後に投下開始します。

262 :咲物語:2007/11/05(月) 00:35:46 ID:???
「では契約書にご捺印を・・・」
咲は銀行員の指し示す箇所に緊張した面持ちで実印を押した。
「あ、それとこちらにも・・・。」
銀行との融資契約を結ぶための書類はいくつもあった。
「あ、こちらの当座借り越し契約にもですね・・・。」
隣には父親の紹介で世話になっている弁護士がいる。自分の店を始めるのに必要な契約、その他の手配は全部この人がやってくれた。
今は助成してもらっているが、今後はすべて自分でやらなければならない。

父の古くからの知人でもあるその弁護士は咲の顔を見て微笑んで言った。
「あの小さかった女の子がご自身で店を持つような年になるとは! 時のたつのは早いものですね。ご商売の成功をお祈りしますよ。」

「ありがとうございました。」
咲は弁護士と握手してお礼を言って別れた。いよいよ自分の店が持てるのだ。咲はやや興奮気味の今の心境を誰かに伝えたかった。
自分のアパレルショップを開店するのには、保証人や契約など商売をしている父親の助成が必要だった。
自分が培ったコネクションもあったし、融資者もいた。特に今は流行先端の市場調査に長けた若い女性を支援して店を持たせる会社も多いので、その方面からの援助で開店する事も可能ではあった。
しかし自分の望む店を持ちたいという気持ちが強かったのでアパレル経営のノウハウを備えた会社との提携は避けた。

その選択が果たして良かったのか迷いはある。業種は異なるがある程度商売で顔の広い父親の援助を受けられた事は恵まれていた。


263 :咲物語:2007/11/05(月) 00:36:48 ID:???
銀行の融資もスムーズにいった。普通の大学を出たばかりの娘に銀行が融資してくれるはずがない。開店専門の業者やアドバイザーは自分で手配したが、それとて自力とは言い難い。
しかし一方で表向きは経営者の自分に気を使っているが、内心では経営の素人で小娘と侮られているのを感じていた。

今後の計画など相談する人もいない。こうしたプレッシャーを誰かに打ち明けたい気持ちになる。

咲は携帯を手にした。

「コーサカ? 今、うちにいるの? 私も今帰るから!」

高坂が今うちにいる。忙しくて中々うちに居ついてくれていないのに今日はいてくれる!

嬉しさで歩く足が自然と速くなる。会って話したいことはたくさんある。そう・・・いっぱい!


「コーサカ? コーサカいるんでしょ?」
自分のマンションに戻った咲は部屋を覗いて第一声にそう言った。

「ああ、咲ちゃん!」
声の方向には高坂がいる。風呂上りでバスタオルを腰に巻いて、タオルで頭を拭きながら居間にいた。
スポーツをしているわけではないのに引き締まった体が見える。頭にかぶったタオルの隙間からはいつものにこやかな優しい表情が覗かせていた。
久しぶりに見るその笑顔に咲はホッと安堵した気持ちになった。
「ごめんね、勝手にお風呂使わせてもらったよ。」


264 :咲物語:2007/11/05(月) 00:37:48 ID:???
「ううん、いいのよ、いまさら何言ってんの!」
一緒に暮らして久しいのに何を言っているのかという表情で咲は笑いかけた。

「泊りがけの仕事、長かったよね! 少しはゆっくりできるんでしょ?」
咲はやや興奮気味に喋る自分を少し恥ずかしいと思いながらも、やはり気持ちを抑える事ができなかった。

「ううん、それがね、夕方からまた出かけなきゃいけないんだ。今日は着替えとかを取りに戻っただけなんだ。」
と申し訳なさそうにタオルで頭を拭きながら高坂は答えた。

「そう・・・そうなの・・・。」
咲は落胆の表情を隠す事が出来なかった。
「あ、でも洗濯物とかたまってるでしょ? 洗っとくよ! 
それにまだ時間あるでしょ? 少しはゆっくりしようよ!」

「ありがとう、そうだね。でも洗濯ももう終わっちゃったみたいだよ。乾燥機付きの全自動だと早いよね。 あ、でも少し一緒にいられるよ!」

高坂は笑いかける。
咲は相変わらず高坂は如才ないと思った。
高坂は普段着に着替えると、すでにお湯が沸いた電気ポットからティーカップにお湯を注いで紅茶を入れてくれる。

「はい、咲ちゃん。」
と高坂は咲にティーパックだが香りのいい紅茶を手際よく渡してくれる。自分が疲れてぼんやりしている間にだ。
「ありがとう。ごめん、高坂の方が疲れているのにこんなことしてもらって。」
咲は嬉しそうに答えた。
「ううん、今は咲ちゃんの方が忙しいし、大変でしょ?」
高坂は疲れやストレスを感じさせる事無くいつも笑顔の表情を崩さない。


265 :咲物語:2007/11/05(月) 00:39:44 ID:???
(強いよね・・・。)
声には出さないが咲はそう思った。
本当はくつろぎたいのは咲の方だった。ゆっくり高坂の笑顔を見ていたい。
「あったかい・・・。美味しいよね・・・。」
紅茶をすすりながら咲は呟いた。秋の訪れた今の季節は暖房を入れるほどではなかったが少し肌寒かった。
余計、あったかいものが美味しい。体に染み入るような感じだ。
「部屋・・・最初から暖房入れとけばよかったね・・・。」と高坂も呟く。
「ううん、お茶が美味しいから今のまでもいいよ。それより一緒に近くにいようよ。」

甘えるように咲は高坂に体をすりよせる。

「こうしてる方があったかい・・・。」
咲は目をつぶってそう言った。
「うん、そうだね・・・。」
高坂は頷いた。

「あのさ・・・今日さ・・・。」
咲は高坂に色々話したくて仕方なかった。

だが咲の言葉を携帯電話の着信音が遮る。
「咲ちゃん、僕だ。」
高坂は咲から離れてテーブルに置いてあった自分の携帯を手に取った。

咲は嫌な予感がした。

「はい、はい・・・ええ、そうですか。」
高坂は携帯の相手が目の前にいるように頷きながら会話している。

「咲ちゃん、ごめん、急ぎで出かけなくちゃいけなくなったよ。」
高坂は申し訳なさそうに咲に謝った。


266 :咲物語:2007/11/05(月) 00:40:53 ID:???
「ううん、いいのよ、仕方ないものね。」
咲は寂しそうに笑ってそう答えた。

高坂は急いで手荷物をまとめると部屋を出て行った。あと何時戻ってくるかは分からない。

高坂が出て行った部屋に一人取り残された咲は呟いた。
「いつものこと・・・いつもそう・・・。」



翌日、咲は開店間近の自分の店に向った。すでに改装工事は終わり、内装やレイアウトの打ち合わせを残すのみだった。
店を覗くと、フロアの一角で恵子がモニターとして集まった女の子と談笑している。
けっして遊んでいるわけではない。出品するアイテムの絞込みや一週間で様変わりすると言われるアパレルの最近の流行の傾向について聞き取りしてもらっているのだ。
恵子には『借金のカタ』に店のオープンの準備を手伝ってもらっているが、予想以上によく働いてくれている。
もう一人スタッフがいる。主に開店準備のコンルタントとして契約している人だ。

「あ、春日部さん! いいところにいらっしゃいました! このレイアウトですが以前相談していた案でよろしいですよね?」
「ええ、おまかせします。本当に助かります。」
咲は笑顔でそう答えた。
彼は、表向きは一応オーナーの自分を立てているが、内心では素人の咲を侮っている事は分かっていた。そして意見を求めているようだが、『これにするぞ』と断言している事も分かっていた。


267 :咲物語:2007/11/05(月) 00:42:14 ID:???
バイトのキャリアだけでは店の経営は難しい。だから経営ノウハウを身につけるまでは経験者の彼らに素直に笑顔で従うしかないのだ。
自分の店なのに自分の思い通りにならない事が歯がゆかった。

「あ、ねーさん! これこれ、このベルトいいよねー。カワイーよねー!」
咲に気付いた恵子が嬉しそうに話しかけてきた。その恵子の声に合わせて周りの女の子たちもカワイーとはしゃぎたてる。

(いいなあ・・・。あたしもあの中で無邪気に騒いでいたい・・・)
しかしそれは無理な話だった。
別なスタッフがまた話しかける。
「この規模でオリジナルアイテムはやはり難しいですよ。」
「ええ、でも・・・。」
ようやく割高だが国内の縫製工場を見つけて契約にこぎつけた。オリジナルだけは妥協したくなかった。仕入れルートの問題だって山積みだ。海外の縫製会社は大手に抑えられている。英会話もできる自分なら自力で海外を飛び回って探せたかもしれなかった。
でも今の状況では店をほったらかしにして海外になんかいけない。


色々な問題がいっぱいあるのだ、それこそ本当にいっぱい、いっぱい、いっぱい・・・。

やらなければならないことはいっぱいある。それなのに何故か、午後から咲の足は卒業した大学の「げんしけん」の部室に向っていた。
変だ、どうかしている。こんなことをしている場合じゃないのに・・・。まるで「あいつ」みたいに・・・。
でも心のどこかで私が私でいられる、いや、「私であることを演じられる」場所に向っているのだという事を感じていた。


268 :咲物語:2007/11/05(月) 00:43:25 ID:???
「ういーす!」
咲はまるで自分を奮い立たせるかのように乱暴な口調で部室の扉を開けた。

扉の開く音に中の人間が一斉にこちらを見る。
「春日部先輩! 珍しいですね! 今日はどうしたんですか?」
現会長の荻上がこちらを向いて驚いた表情で答える。
そのとなりには留学してきたスージーがいる。そしてその向かいには・・・やはりまだいたのか・・・斑目がいた。

「あ、あれえ? 春日部さん、ひさしぶりー!」と間の抜けた表情で、その男、斑目は答えた。

「いやね、ショップの仕入れ先の一つに向う途中でさ。斑目、あんたまだ部室にいたんだ。」
苦笑いしながら咲は言った。


「いやー、今求職中でさー。なかなか見つからないんだよねー。この辺で希望する職種って!」
と斑目はバツの悪そうな顔で頭をかきながら答えた。
「そうそう見つかるわけないッスよ、都合よく大学の近くになんか・・・。」と荻上は小声でブツブツ言う。
その様子にやや冷や汗を流しながら斑目は言った。
「これでもストレスで円形脱毛になっちゃったよ、ははっ。」

「マダラメカッパ伝説!」
スージーが突然叫んで斑目のハゲた部分を触った。
「あ! スージー! こら、触るな! ハゲが広がる!」
「ココニモ一個発見!」
「え? どごどこ?」
その様子を咲は目を細めて見る。
「仲いいんだか、悪いんだか・・・。」


269 :咲物語:2007/11/05(月) 00:44:44 ID:???
「お忙しそうですね・すごいッスよ、お店を経営するなんて。それに比べて私なんか今回の新人勧誘もゼロでしたし・・・。」と荻上は生真面目に思いつめた表情で言う。

「あはは、今回も駄目だったの? そんな気負わずにさー!」と咲は笑う。
だがそのセリフは自分に向けて言っているような気がした。

「だって私の他は現役はスーだけですよ! 委員会からは部室の引渡し勧告されちゃうし・・・。わたし五代目会長は引き受けましたけど、最後の会長になるのだけは嫌です! 女だけだとやっぱ入部しにくいんですかねー? それに妙なOBも居ついているし・・・。」
と荻上はキッと斑目の方を睨む。
斑目はサッと滝のように汗を流して顔を背ける。

(たはは、荻上も言うようになったねー)

「斑目さー、てっとりばやく漫研かアニ研であぶれているヤツ、引っ張ってきなよ!」

「そんな簡単にいかないって! ハラグーロじゃあるまいし! そんな強引なまね!」
「たいしてかわんねーでしょ? 今の状況は!」
「しっ失礼な!」

やはりここは気持ちが和む。来て良かった。高坂といる時も和むが、ここのとは違う。ここは・・・そう・・・なんでだろう?


そうして高坂の事を考えていたらふいに背後から高坂の声が聞こえて咲は驚いた。

「あれえ? 咲ちゃん?」
振り向くとやはり高坂がいた。


270 :咲物語:2007/11/05(月) 00:45:48 ID:???
「こっコーサカ? なんでここに?」
「咲ちゃんこそ。僕は仕事の関係でこの大学の研究室に用事が・・・それと・・・。」
高坂はそう言って咲の肩越しにいるスージーに視線を向けた。そしてスージーも高坂の方を向いて目を合わせて何かを伝え合ったようだった。しかしそのことに気付いたのは誰もいなかった。

「私はもう出るんだけど、一緒に帰る?」
咲は高坂に尋ねた。
高坂は首を振って答えた。
「ううん、僕はまだ用事が終わってないんだ。」
「そう・・・。」

咲もいつまでもここで時間をくっているわけにはいかなかった。
「じゃあ、斑目! 一緒に帰ろうか! どうせヒマでしょ?」
咲は斑目の方を向いて言った。
「え? 俺? 忙しいけど・・・まあ、いいか・・・。」と斑目は戸惑いながらも、そして少し見栄をはりつつも、照れくさげに答えた。

そばでは荻上が少しハラハラしたような表情を浮かべている。

「すいません、斑目さん。咲ちゃんをお願いします。もっとゆっくり積もる話をしたかったのですが。」と高坂はいつものように笑顔を崩さず斑目に言った。

そのいつもの変わらない笑顔に咲が少しだけ表情を苦しげに歪めた事に気付いた者もいなかった。


271 :咲物語:2007/11/05(月) 00:48:42 ID:???


咲は斑目と一緒に取りとめの無い会話をしながら大学の門を出た。そこで咲は斑目がリクルートスーツを着てる事に遅ればせながら気付いた。
「あ、斑目、これから何か面接の予定とかあるの?」
「いや・・・午後からは何もないよ。」
「じゃあ、ちょっと付き合ってよ! これから仕入先との契約があるんだけど、女一人でいくより男を連れていった方がなめられなくて色々と都合がいいのよね。」
「俺は女社長に従順な秘書ですかい!」
「あ、その役割でいこ!!」

思いつきだったが二人はこの役割を楽しんだ。颯爽とした女社長とオドオドした秘書という役回りは仕入れ先の信用にも好影響を与えたようだった。

仕入先の建物を出てから二人は爆笑した。
「あーはっはっ」
笑いすぎて涙ぐんだ咲は斑目の方を向いて言った。
「あー、こんなに笑ったの久しぶり。今日はありがとう、もう直帰するから晩飯でも食べてこか! おごるよ!」
「いや、おごりは・・・」
「いいから、いいから! 黙っておごられなさい! オタくさい事言わないの!」
その言葉に斑目は少し照れくさげにしながらも咲の言葉に従った。

二人は手短な居酒屋で飲みながら食事を取った。
咲は最初からピッチが早くからみ酒のように斑目にからんできた。
「だからさー! オタクってのはどうしてこー、自分の趣味に夢中になって周りに対する思いやりや気配りってのが無いわけ? 聞いてんのか! こら!」
斑目は戸惑いながらも咲の相手をした。
「春日部さん、少しハイになってない?」
「うるさい! うるさい! バカヤロー バカヤロー!」
(色々、ストレスがたまってるのかね・・・大変だね、ショップ経営って・・・)
斑目は苦笑しながらもこの状況を悪いものではないと思っていた。何か『期待』するような事が無かったとしても、このささやかなこの一時を僥倖と思った。



272 :咲物語:2007/11/05(月) 00:57:01 ID:???
珍しく酔った咲の肩を抱えて斑目は居酒屋を出た。ぐったりした咲を抱えるのはけっこうきつく、街灯のそばの花壇のブロックに腰を下ろして休んだ。
「だっ大丈夫かよ! 外はけっこう寒いぞ。」
斑目は咲の方を向いて心配そうに尋ねた。
「うー、ダイジョーブ!」
咲はそう言って顔を上げた。

その時咲の目に意外な光景が飛び込んだ。
高坂とスージーが二人並んで話しながら夜の街を歩いている。斑目は顔を伏せているので咲が気付いた二人には気付いていない。そして高坂とスージーもすぐに交差点の角を曲がっていったので咲たちには気付いていないようだった。

(二人がどうして?)
高坂とスージーが男女の関係にあるとは考え難かった。高坂はともかくスージーからは女のそれが匂ってこなかったからだ。正直、スージーには無関心だった。むしろ気が合うのはアンジェラの方だった。
無関心・・・というよりも何を考えているか分からない得体の知れなさがどこか高坂と似ているようで無意識に避けていた気がする。
高坂はとても優しい。でもどこか踏み込めない領域がある。それはオタク趣味の事と今までは思っていた。でもそうではない。
でも聞くのが怖い・・・。自分の心の奥にある不安が目の前で具現化した気がした。
「春日部さん? どうしたの? 顔が真っ青だよ? 具合悪いの?」
斑目が心配そうに尋ねると咲は叫んで言った。
「ここはいや! すごく嫌な気分になる!」
そう言って戸惑う斑目の手を引っ張って咲は駆け出した。


273 :咲物語:2007/11/05(月) 00:58:51 ID:???



そして斑目は今自分がいる場所に戸惑っている。
ラブホテルの一室に、しかも往年の想い人と一緒にいるなど・・・。これは僥倖と素直に喜ぶべきなのか・・・。

「ええと・・・春日部さん? あのー」と斑目は会話にならない言葉で間を埋めている。咲は思いつめた表情で立ったままだった。

「私が・・・私が他の男と一緒にいても何も感じないんでしょ? 何も思わないんでしょ?」
咲は誰に言っているのか分からない言葉を呟き続けている。
発作でも起こしたかのように咲は斑目に飛びついて抱きつく。斑目は体勢を崩してベットに倒れこむ。
「私が、私が・・・いつもどんな気持ちでいるかなんて・・・」
斑目はようやく咲の様子が普通と違う事に気付いた。
「お、おい! 春日部さん!」
咲は胸をはだけて貪るように斑目に体を寄せ付ける。
はだけた胸が斑目の目から見下ろすような形で目に飛び込む。こんな状況で・・・こんな風に見ることになるとは思ってもいなかった。
斑目はつい反応してしまう。
咲は斑目の股間に手を触れる。
「あははは、二次元に興味ないなんて言って、しっかり勃ってるじゃない! あはははは」
(何をしている・・・何を言っているの・・・私は・・・でも止まらない、止められない・・・。こみ上げてくる憤りが抑えられない・・・。)
衝動の一方で咲の理性は確かにそう言っていた。


274 :咲物語:2007/11/05(月) 01:00:17 ID:???
「!」
咲のあまりの乱れようと崩れように、怒りと絶望に近い哀しみに斑目は表情を歪ませた。そして今まであげた事も無いような大声で荒々しく叫んだ。
「おい! よせ!」
顔を真っ赤にして咲を突き飛ばす。

強い力で突き飛ばされた咲はハッとして斑目の方を見る。今まで気安く殴ってきたが、目の前にいるのがヒョロヒョロしているとはいっても咲よりも明らかに腕力の強い男であるという事に気付かされた。
そして怯えの表情を浮かべた。

斑目はハアハアと息を粗くして咲の方を怒りの表情で見る。だが咲の顔が他人を見るような怯えの表情を浮かべたのに気付くと、表情をくしゃくしゃにしてハラハラと涙を流した。

ネクタイは外れ、シャツはズボンからでてクシャクシャになっている。ベルトは緩んでチャックは少し下に下がっている。
斑目は泣きながら、呆然としている咲を前にしてベルトを締めなおし、シャツを出したまま上着をつかんだ。
「斑目! まって・・・」
その声は斑目には届かなかったのか静止の声を振り切って斑目は部屋から飛び出した。

「・・・・」
しばらくベットの上で胸をはだけたまま、咲は呆然としている。

「泣くなんて・・・泣くなんて・・・馬鹿じゃないの!」
咲ははき捨てるように言う。

なんでこんなことを・・・。分かっていた。優しくされていても、無自覚な言葉と理解していても、自分はずっと高坂の何気ない言葉に傷ついていたのだ。
怒っていたのだ。そして不安に怯えていたのだ。言いたかった。その憤りも寂しさも悲しみも高坂に伝えたかった。
でも言えなかった。そんな勇気は無かった。言えば何かが終わってしまう気がした。だから斑目にあたった。

咲は両手で顔を覆った。
「あとで・・・あとで謝ろう・・・」

(誰に対して?)
咲は自問自答しながらその場からしばらく動く事が出来なかった・・・。


275 :咲物語:2007/11/05(月) 01:01:58 ID:???


それから数日間、咲は驚くほど心が穏やかだった。ショップ開店の業務を淡々と済ませる日々が続いた。斑目からは連絡は無い。もちろん咲からもしていない。

(後で・・・後で必ず・・・お酒でどうかしてたんだ・・・許してくれるよ・・・)

そう思いながらも中々行動に移せず仕事に埋没していった。
高坂にも会っていない。何故か高坂に対しては後ろめたさを感じていなかった。あいかわらず高坂は仕事から戻ってこない。このまま会わない方が心が乱れなくていいのかもとさえ思いはじめている。

その日の仕事を終えて咲はマンションに戻った。
そして玄関の鍵が空いている事に気付いた。
(高坂が・・・戻ってきている・・・)
いつかは帰ってくるとは思っていたが、いざとなると緊張した。

「こっコーサカ! 帰ってるんだ! 」
声をかけると奥から高坂の声が聞こえてくる。
「あ、咲ちゃんおかえりなさい!」
「連絡してくれれば夕食の用意したのに・・・どうせすぐまた出かけるんでしょ?」
「ううん、今日からしばらく休めるよ。会社辞めたから。」
「え?」
就職の時と同様、辞める時も突然で咲は驚いた。
「どうして? 好きな仕事だったんでしょ?」
(怒れ、咲。いつもいつもこんな・・・)
「正確には政府機関の設立した公益団体に編成されたから業務自体は変わらないんだけどね。」

「え? なんで?」
エロゲーがどうして政府機関の公益法人の仕事になるのか・・・。いくらソフトパワー戦略が国家機関で提唱されてたとしてもエロゲーに・・・。


276 :咲物語:2007/11/05(月) 01:03:21 ID:???
「うん、格闘関係のゲームシステムの一部を防衛庁が採用したんだ。」
「ああ、新聞でも言ってた『ガンガルー開発計画』っての?まさか本気とは・・・」
「軍事機密に属するから今まで咲ちゃんにも秘密にしてたんだけど正式決定したから。
だから移行の期間だけゆっくりできるんだ。」

そういう大事な事は確かに家族にも恋人にも秘密にしなければならないだろう。そんな事は腹を立てることではない。でも・・・。
(高坂は他にも私に何かを隠している・・・女とかそういうことではない・・・)
咲の勘がそう言っていた。そのことが高坂の自分に対する不義のように感じられて咲を苦しめていた。

「私も・・・私も打ち明ける事があるの・・・」
どうかしている・・・咲は内心で思った。
マンションの夕陽のさす窓辺にもたれかかりながら咲は言った。

「何?」
相変わらず高坂は無邪気な笑顔を向ける。

「私ね、私ね、斑目と寝たの! 浮気したの!」
咲は叫んだ。
「怒った? 怒るでしょ? いいよ、殴っても!」
怒ってほしかった。嫉妬してもらいたかった。自分だけ苦しいなんて不公平だ。


277 :咲物語:2007/11/05(月) 01:04:48 ID:???
うつむいたまま立ちつくしていたが、何も返事が返ってこない。逆に不安になって高坂の方を見る。すると意外な事に高坂が泣いていた。咲は動揺した。
高坂はどんなことがあっても高坂だとずっと思っていた。こんな風に高坂が感情をあらわにすることを期待してたわけではない。いや期待はしてなかったが望んでいたのかもしれない・・・。
初めて高坂に対して対等になれたという喜びと同時に申し訳ない気持ちにも襲われて、咲は慌てて言い訳した。
「ごめんなさい! じつは・・・」
その言葉を言い終える前に咲は抱き寄せられた。
「ごめんね、ずっと咲ちゃんが苦しんでたなんて気付かなくて・・・」
「え? いやそうじゃなくて私は・・・」
自分でも何が何だか分からなくなってきた。
「結婚しよう! すぐには無理だけど婚約しようよ!」

「!」
咲はその言葉に驚いた。高坂からその言葉を聞くとは思ってなかった。付き合う時も結局自分から言い出したから・・・。
もしかしたらずっとその言葉を待っていたのかもしれない。
咲は嬉しさで泣いた。
「嬉しい・・・ありがとう・・・ごめんなさい・・・」

咲は幸せだった。斑目の事が念頭から消えるくらいに・・・。


278 :咲物語:2007/11/05(月) 01:08:02 ID:???


咲は思った。
このごろすこぶる調子がいい。絶好調だ。開店の準備から何までスムーズに進む。

「春日部さん。アイテムのラインアップはこれでよろしいですね?」
いつもの経験者のスタッフが咲の了解を求めてくる。
「オープン企画としてもう少し他との差別化が欲しいですね。もう少し検討してみましょう。」
咲のこの返答に少しだけ戸惑ったが、すぐにそのスタッフは笑顔で答えた。
「ええ、ボスはあなただ。あなたの色が無ければ意味がありませんからね。」

咲はリーダーとしてのオーラーを身につけたかのようだった。その力の源泉はどこからくるのか。
咲は左手の薬指に光る指輪に目を移した。
高坂が婚約指輪にと買ってくれたものだった。

「薄給だけど会社でサンプル提供してくれるからゲームにかけるお金が節約できてさ。咲ちゃんの家に転がり込んでいるってのもあるし・・・。」
そう高坂は言った。
さりげなくこういうことをしてくれる高坂が好きだ。彼は私に力をくれる。咲は指先でその婚約指輪を撫でながらそう思った。スージーと会っていた事には触れなかった。正直、もうどうでもいいと思った。あの涙だけで十分だった。彼は信じられる・・・そう思った。

高坂の話では今後は軍需産業の後押しで設立された財団の勤務になるらしい。財団説明のパンフには名のある国会議員や財界人が理事として名を連ねている。
色々な企業が参加している一方で右翼やタカ派と目される人たちもいる。

父親も現金なもので、名士たちの名の連ねる財団のプロジェクトの中心人物になったと知るや、「でかした! さすが俺の娘だ! 彼を手放すなよ!」などと電話してくる。

父はいままでは快く援助しながらも娘の事業の失敗も内心では願っていたのかもしれない。彼は良き父親であると同時に厳格な商売人だった。
『負債』を負わせておいて、一介のプログラマーの高坂とは別れさせられたかもしれなかった・・・。
そうした不安も今までは重くのしかかっていたがそれも解消された。


279 :咲物語:2007/11/05(月) 01:10:04 ID:???
でも一体萌え産業とどんな接点があるというのか? 高坂はいつこんな人たちと係わりを持つようになったのか?
「エロゲーでは一通りやりたいことはやったし、今後は別な事をやってみたくなってさ。これから『面白いこと』になるよ。」
彼の口元が妖しく微笑する。
彼がどんな人間かはどうでもいい。たとえ彼が悪魔だったとしても私は彼を愛する。


恵子も指輪に気付く。
「ねーさん、それ・・・。高坂さんから?」
「んー、まーねー、たはは。」

恵子の表情が一瞬だけ悲しげになり、すぐさま明るい笑顔に戻った。
「ねーさんにはかなわないや。いいなあ、あーどっかにいい男いないかなー。」
咲に気を使い明るく立ち去る。

けなげでたくましい良い子・・・。彼女だけでなくこのショップに係わる多くの人たちの為に自分の気持ちだけに囚われていてはいけない・・・。咲はそう思った。

「あのー、オーナーを訪ねてきた方がいらっしゃるのですが・・・。」
女性スタッフが咲に話しかけてきた。
「あたしに?」
「ええ、斑目さんという方が・・・。」

その名前にドキリとした。いままでどうしてほったらかしにしていたのだろう・・・。

咲は緊張しながらショップの外で待っている斑目に会いに向った。

(大丈夫・・・。怒ってない・・・。許してくれるよ・・・。)
そんな身勝手な希望を抱いて斑目の顔を見た。
斑目は顔を伏せている。
(あちゃー、怒ってる・・・。)


280 :咲物語:2007/11/05(月) 01:12:26 ID:???
「あはは、この前はごめん、ごめん。久しぶりー。場所を変えて話そうか!」

気まずい雰囲気のまま二人は並んで歩きながら話している。

「いやさー、酒が入りすぎたのか・・・やりすぎちゃってごめんねー。思い出すのも恥ずかしいから忘れてよ!」
極力場を明るくしようとする。

「・・・んでなんだよ・・・。」
斑目はうつむきながら何かを呟く。
「え?」 咲は聞きなおす。
「なんであんな事をしたんだ・・・。その指輪は何だ! からかったのか?」
「いや、あのね、わりー、ほんと・・・」
「俺の・・・俺の気持ちが分かってて・・・あんなことをしたのか? 俺の!!」
斑目は少しだけ声を荒げて咲の方に顔を向けた。
二人は目と目が合う。
「俺の・・・気持ち・・・?」
咲は戸惑う。そしてハッとした表情になる。
「え? あ! う・・・」
斑目もうろたえて言葉にならない。
「知ってた・・・わけじゃ・・・。」
苦しそうに顔を歪め、斑目は走り去った。

その場に立ち尽くした咲は体を震わせて言った。
「私・・・私・・・取り返しのつかない事をした・・・。」


281 :咲物語:2007/11/05(月) 01:13:53 ID:???


斑目は部屋に引きこもって、布団をかぶってゲームをしていた。もう何回もしたゲームだ。次のキャラのセリフや選択肢の結果まで分かっている。ほとんど惰性でやっている。

斑目はゲームをしながら、咲との取引先でのやり取りを思い出していた。あの時、ちょっとだけだが心が近づけた気がした。
と思ったら、あんな乱れた咲をみる事になってしまった。自分の勝手な理想の押し付けとは思いつつも、咲にはもっとしっかりとした人でいてもらいたかった。あんな咲は見たくなかった。
なお最悪な事にそれに憤る最悪な自分を咲に見せてしまったということだ。
「あー、もう顔会わせらんねー。田舎に引っ込んで仕事探そうかなー。シクシク。」

斑目は布団を被ってイジイジしながらゲームを続けた。
「小森霧さんかよ、俺。」と斑目は涙ぐむ。
頭に手をやると円形脱毛が進んでいる。
「スージーあたりにまたおちょくられそうだな。『人よりちょっとだけ長い夏休みのカッパのマダラメとスー』 なんちゃって。」

落ち込む一方なので独り言で気を紛らわせる斑目だった。その時、玄関のチャイムが鳴る。

「どなたですかー? 誰もいませんよー いても誰にも会いたくありませーん。」
と意味の無い事をする。
「斑目さん、僕です。高坂です。」
「え? 高坂君?」

意外な人物の訪問に斑目は驚いた。
そしてつい、玄関の扉を開いてしまった。

「やっ、やあ。」
気まずい返事をする。
「まっまあ、上がってよ。部屋汚いけど。」


282 :咲物語:2007/11/05(月) 01:15:18 ID:???
斑目はそう言って高坂を部屋に上げたが
内心ではかなり戸惑っていた。考えてみれば彼は『恋敵』なはずだ。そもそも勝負のリングにさえ上がってはいなかったが・・・。
咲との関係も含めて高坂に対しては複雑な感情がある。そもそも笹原に対してはオタク道を指南してやったという意味でも後輩だったし、打ち解けて友人付き合いできる間柄だった。
だが高坂はすでにある意味完成されたオタクだったし、むしろ自分以上に濃いオタクと言えた。
イケメンであるという事だけでなく、どこか内面の計り知れないところがあったので、後輩といっても他人行儀な関係しか築けなかったような気がする。

(そういえば二人きりで話するのもほとんど無いような気が・・・)

「ゴホゴホ、で、どうしたの?」
斑目が咳き込みながら尋ねると同時に高坂から核心を突く話を切り出してきた。

「咲ちゃんの件です。」

「ゲホゲホ、あ、やっぱりそうか・・・。こっ高坂君が心配する事は何もなかったよ。ほっ本当だ!」

まるで間男の言い訳のような事をまさか自分が言おうとは思いもしなかった。そう、『あんな事』で何かあったと言えるものではない。むしろ何かあった方がどれだけ良かったかと今では思える。

殴りにきたのかな? 殴られるのかな、やっぱ? まさか・・・いまいち彼がどんなリアクションするのか予測できないから怖いな・・・斑目がそんな事を考えてビクビクしていると高坂は言った。

「斑目さんと咲ちゃんが何かあったなんて思ってませんよ。」


283 :咲物語:2007/11/05(月) 01:16:32 ID:???
(ああ、そうですか! 眼中にありませんか!)
と少し悔しい気持ちがこみ上げてきたが、高坂はそれを見透かすように答えた。

「いえ、斑目さんがどうのというんじゃありません。結局は僕が悪いんですから。」

「? どうかしたの?」

「咲ちゃんから聞きました。彼女、斑目さんへの仕打ちをひどく後悔してました。」

「あ、ああ・・・。春日部さんには気にしないでって言ってあげてよ。俺が一方的に思ってただけなんだから。俺の方こそ・・・。」
(穴があったら入りたいよ・・・。)
斑目はため息をつきながらうつむいた。

「あんなに思いつめていたなんて思ってませんでした・・・。むしろいつか咲ちゃんの方から呆れられて別れ話持ちかけられると思ってました。」と高坂がいつに無く真剣に言う。

「ひゃい?」
いつもの高坂と違って逆に調子をくずした斑目は素っ頓狂な声をあげた。

高坂は続けて言う。
「あてつけに浮気したのが他の人だったら仕方ないと思ってましたけど、斑目さんと聞いた時にはかなり深刻だと思ったんです。」
「まあ、確かに・・・ちょっと変だったかな。」と斑目は相槌を打つ。

「僕に寛大である事が『立派なオタクの彼女』の条件だと思い込んでいたんですね。かなり無理してたんですね。僕への不満が斑目さんに向かったと気づいた時には哀しくなりました。」


284 :咲物語:2007/11/05(月) 01:17:41 ID:???
そう言うと高坂は手を顔に押し当てて深くうなだれた。

「・・・・・・・」
斑目はその高坂の様子を見て言った。
「・・・正直言って・・・君がそんなに人間味のある人間とは思ってなかったよ。」

高坂はうなだれていた顔を上げて、力なく微笑んだ。
「嫌だなあ。僕をそんな風に思っていたんですか?」

その表情で斑目の心も決まった。
「それで俺はどうすればいい? その為に来たんだろう?」

高坂はやはり真剣な面持ちで斑目に答えた。
「ええ、僕たち二人の大事な人の為に斑目さんに伝えなければならない『秘密』があります。」



咲が夜、仕事から帰りトボトボと新宿の自分の自宅マンションに歩いていると、歩道橋の上に高坂と斑目の二人が立っていた。

「斑目? 高坂も。・・・。斑目・・・本当にごめん・・・。」

「とんでもない。僕たちこそ咲ちゃんに謝らなければならない。」
「そうだとも、春日部さん。」
二人はそろって言う。

「ううん、問題は私の中にあったのに・・・。斑目をそれに巻き込んで気持ちを踏みにじったのは私・・・。」
咲はうなだれて言った。
高坂は進み出て咲に語りかけた。


285 :咲物語:2007/11/05(月) 01:22:33 ID:???
「ううん、我慢する事なんかなかったんだよ。咲ちゃんには心のままに生きて欲しいって僕たちも思っているんだ。僕たちと同様。」
「でも・・・。」
「咲ちゃんを苦しめてきた『秘密』を打ち明けるよ。」
咲は青ざめて言った。
「嫌! 聞きたくない。」
聞いてしまえば何もかも終わってしまう・・・そんな気がした。

「ううん、聞いて欲しいんだ。」
「春日部さんも覚悟して聞いて欲しいんだ。俺も驚いたけど受け入れたよ。」
斑目も真剣な表情で高坂の傍らで言う。
二人の真剣な言葉に咲は息を飲んで次の言葉を待った。

「実は僕たち付き合うことにしたんだ!」

「あがぷぴぽぺ」
意表をつく言葉に咲は奇声を上げた。目は点になり惚けた顔をした。

「いやー、春日部さん、俺も突然の告白に驚いたけど・・・カレって強引で・・・ポッ」
斑目は頬に手を当てて顔を赤らめた。

「ほげ」
咲は何が起きたか理解できず呆然として石化していた。

「僕も自分を偽り続ける事ができなくなったんだ。斑目さんと僕は幸せになるよ! 君も自分らしく生きて欲しいんだ。」

そう言って二人は抱き合ってディープキスをし始めた。


286 :咲物語:2007/11/05(月) 01:25:02 ID:???
「あぱ△&ふじこcry」
咲は口から白い泡を吹き出し始めていた。
そして両手を握りしめ、子供が駄々をこねるように上下に振り始めた。
「うわわわん、それじゃあたし、オタクってだけじゃなく男に彼を取られるわけ? かっこ悪いよ〜 そんなの嫌だい、嫌だい、嫌だい、嫌だい」

咲はとても女実業家とは思えない姿で、なりふり構わない様子で泣きわめいた。

「あーはははははははは」
その姿にプッと二人は大笑いし始めた。
「へ?」
それに気づいた咲は涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を二人に向けた。ズズッと鼻をすすってキョトンと二人の顔を覗き込む。

「ごめん、ごめん、咲ちゃん、まさかこんなに簡単に騙されるなんて。」
「ひーっひっひひ かっ春日部さん、二人の男に想われた悲劇のヒロイン病にかかってるって聞いてるから一芝居打っただけだったのに!」

咲はワナワナ体を震わせて顔を真っ赤にして言った。
「おっお前ら〜 一発殴らせろ〜」

バキ!
斑目の顔面に咲のパンチがめり込む。
「何で俺だけ?!」斑目。

「もおう〜コ・オ・サ・カァ〜 イヂワルなんだから〜」
そう言って咲は高坂に抱きついた。
「咲ちゃん、ごめんよ。」
「何だこの違いは!!」と斑目。


287 :咲物語:2007/11/05(月) 01:26:02 ID:???
くちゃくちゃになった顔をハンカチでぬぐって、落ち着きを取り戻すと咲はハーと大きく息を吐き、二人に向って言った。

「なんか、心の澱が無くなってすっきりしちゃった感じ。たまにはこんな風に自分を解放するのもいいのかもね。」
(結局、私、小さい女の子みたいに高坂に甘えたかっただけなのかも)

「もう自分を押し殺さなくてもいいよ。」と高坂は咲を抱きしめて言った。
「うん、じゃあ、続きはマンションで。」

「やれやれだな。おお、痛てえ。」
斑目は頬をさすって高坂の方を見た。
高坂は斑目の方を見て軽く会釈した。

高坂と咲は抱き合いながらマンションの方に歩き始めた。
その時ふと思い出したように咲がバックから小さな箱を出して斑目の方を向いた。

「あ、斑目、こいつ。誕生祝に買っといたんだけど忘れてたわ。」
そう言って小さい箱を斑目に手渡した。
そして小さい声で「ありがとう」と呟いた


288 :咲物語:2007/11/05(月) 01:28:21 ID:???


二人が立ち去った後、斑目はその小さな箱を眺めながらしばらくぼんやりしていた。
「でもよかった・・・本当によかった・・・。」
自然とこんな言葉が漏れる。

ハッとさっきのキスを思い出した。
「うぇぇぇ、ペッペッ、あいつ演技と言ってたのに舌まで入れやがって!」
(やっぱり、つかみどころのない奴だ。ちょっとは人間味があると見直したが、どこまでが本気か演技かさっぱりわからん)
「ファーストキスは男とかよ・・・。」
ため息まじりに斑目は呟いた。
斑目はふと街の光に目をとめる。


秋の深まりは落葉の速度を速めていた。歩道橋にも落ち葉が舞い散っている。
歩道橋からは街の光が遠くまで輝いているのが見える。
曇り空で星は見えない。もとより街の光が強ければ星は見えるはずも無い。
それなのに強く輝く街の光よりも何万光年も離れた星が間近にあるように今夜は何故か感じられる。
咲の心もほんの僅かな一時だったが自分の間近に確かにいた。

しかしその距離は自分にはどんなに近づいてもたどり着く事の出来ない距離なのだ。
何かのアニメで桜の舞い落ちる速度は「秒速5センチメートル」だと聞いた。
きっと落ち葉の舞い落ちる速度もそうなのだろう。
だがその速度はきっとこの地上のいかなるものよりも速い。
そして光のスピードを超えなければ追いつく事の出来ないスピードなんだろう。

斑目は近づこうとしてもたどり着けず、追いつこうとして追いつけなかった咲の心を想い秋の夜空をいつまでも眺め続けた。

「さて・・・俺も帰るか・・・。」
そう言って斑目は自分のアパートに向って一人歩き始めた・・・。


289 :咲物語:2007/11/05(月) 01:33:08 ID:???
終了です〜。途中おさるさん規制に引っかかって思ったより投稿に時間かかりました。
これにてダウン。ええと気付く人もいると思いますが、「セカンドジェネレーション」書いていた者です。
この物語は独立したものですが、世界観を共有している部分も含みます。
こんな話しか書けなくてごめんなさい。

290 :マロン名無しさん:2007/11/05(月) 07:34:37 ID:???
>>咲物語
乙です。
面白かったです。ガンガル計画とか今の話題も取り入れられたりして。
ちょっと強引かなって思ったところ(格ゲー→軍需とか)もあったですが楽しめました。
・・・スーの伏線が消化されていないと思うのは俺だけ?

起業時の心の動きみたいなのは妙にリアルに感じたり。
自営されてるんすか?

291 :マロン名無しさん:2007/11/05(月) 21:28:55 ID:???
>『30人いる!』
ついに登場児文研会長。前フリから誰だろう誰だろうと思っていましたがこの方が来ましたか。
あなたの作ではクッチーの指導者(飼い主?)として以前から活躍している人物、この人の
造型が垣間見られるかと思うと大変ワクワクいたします(とか言って出番コレだけだったら泣く)。
そしてクランクインおめでとう。ここから約166レスに及ぶであろう撮影編を楽しみにしてますw
んでそのあと編集編と学祭編がある、とwww



>『咲物語』
ごぶさたさまです〜。
面白かった!いま手掛けてるのと微妙にシチュかぶりしそうでハラハラしながら楽しんだw
いや気にしないでくれたまえ、書いたもん勝ちだし。
高坂と咲の恋愛って、本作で語られてる切り口が常に見え隠れしてるんですよね。斑目っていう
キャラクターは二人のそのほころびに容易に入っていけるロケーションにいながら、どうしても
あと一歩を踏み出さない。これが全国の斑目スキーが萌え悶える要因なのだなあと思った。

それはそれとして原作者に職を奪われ、本作者に頭髪を奪われ、コーサカに唇を奪われる斑目
の哀れさはもう想像の域を超えている(ノД`゚)

292 :咲物語:2007/11/06(火) 00:38:01 ID:???
>>290
>スーの伏線
どうもー、さっそくお読みいただきありがとうございます。
鋭いご指摘ですw 一応独立した作品にしようと思ってたんで、
背景設定のスーを強く押し出すのが躊躇われたんですね。
起業についての経緯がリアルとおっしゃっていただくのは嬉しいですね。
単に人聞きの知識の継ぎ足しですよ。自由業ほど自由はないと申す人もおりますからw

>>291
どんなお話を展開中なのでしょうか?w興味深々です。一応、ハッピーエンドで
決着させた物語の挿話ですので、斑目をどんな目にあっても大丈夫です(おい


293 :咲物語:2007/11/06(火) 00:40:32 ID:???
あ、そうだ。例によって誤字がちょこちょこあったのですが、致命的なのだけ
修正申告しておきますorz
中盤の咲のセリフで
二次元に興味ないなんて言って ×
二次元にしか興味ないなんて言って ○
でした。

294 :マロン名無しさん:2007/11/06(火) 00:58:51 ID:???
>咲物語

うわああん、斑目がー斑目がーーーorz
斑目にとってひっどい話なのに、文章の面白さで思わず笑っちゃったじゃないですか!w
この悔しさをどこにぶつけようw

>それはそれとして原作者に職を奪われ、本作者に頭髪を奪われ、コーサカに唇を奪われる斑目
の哀れさはもう想像の域を超えている(ノД`゚)

禿げ同…うまいこと言っ(ry

295 :マロン名無しさん:2007/11/06(火) 14:02:43 ID:???
スーンスーンスーン♪

296 :マロン名無しさん:2007/11/07(水) 22:31:21 ID:???
>咲物語
自分の意中の人と恋敵との色恋沙汰の為に、ひと肌脱いでやる。
どうも斑目って、寅さんや放浪の紳士チャーリーやトラック野朗桃次郎に代表される、もてないけどみんなに愛されるキャラへの道をまっしぐらに歩んでますな。
しかし春日部さんはともかく、ファーストキスまで奪っていく高坂って…

勝手に後日談その1
咲「そう言えば高坂、この間スーと一緒に居たよね?」
高坂「ああ、あれは実はね…」
咲「ストップ!やっぱいいわ、もう気にしてないし…『何か深入りしたら消されそうだし…』」

勝手に後日談その2
大野「そんなことがあったんですか、大変でしたね」
咲「まあ無事に済んだからいいけどね、ん?」
一緒に話を聞いていた恵子と荻上さんが赤面し、意識は彼岸の彼方に行っていた。
恵子『高坂さんと斑目さんのキスかあ。いいなあ斑目さん…そうだ、今度斑目さんにキスしちゃおうっと。間接キスなら姉さんも文句ないだろうし』
荻上『高坂×斑目…やっぱ高坂さん魔王で斑目さん総受け…ハアハア』
大野「あっ、だいたい何考えてるか分かりました」
咲「私も。ったく、男同士のキスがお題ってのは同じでも、妄想の方向はやっぱ違うな」

297 :マロン名無しさん:2007/11/08(木) 22:58:52 ID:???
保守

298 :マロン名無しさん:2007/11/09(金) 21:46:59 ID:???
>>221
今頃気付きましたw
元々スレはあまり見てない方だったのでorz
良かったですよ
しかし斑目ってキャラ以上に皆の気持ちがのっかってる気がするww
皆斑目には感情移入しやすいんかな?
まあ俺もそうだけどww
これからも作品楽しみにしています。

299 :30人いる!の人:2007/11/11(日) 15:36:36 ID:???
すんません、今週は早々にギブアップです。
来週また続き投下します。

その代わりと言っちゃ何ですが、ちょっとお知らせ。
実は別の話のアイディア思い付いて、試しにちょっと書いてみたらあら不思議、たちまち初期設定とあらすじが出来てしまったじゃあーりませんか。
そんな訳で、ただ今「30人いる!」と並行してもう1本書いてます。
(んなことやってないで、はよ「30人いる!」の続き書けよと自己ツッコミ)
ジャンル分けで言うと、いわゆるネクストジェネレーションものです。
主要登場人物は、オリキャラが6人と原作キャラが4人、オリキャラは全員原作キャラの子供たちです。
時は西暦2025年、所は東京都内某所。
そして主人公は不死身のバカ野朗。
そう、ぶっちゃけ「はぐれクッチー純情派」の10年後のお話です。
まあひょっとしたら「30人いる!」より先に完成するかも知れません。
多分年内には投下出来ると思います。

ではまた来週。


300 :マロン名無しさん:2007/11/13(火) 20:10:50 ID:???
保守

301 :マロン名無しさん:2007/11/15(木) 16:47:00 ID:???
保守

302 :マロン名無しさん:2007/11/16(金) 01:49:10 ID:???
ぽしゅ

303 :マロン名無しさん:2007/11/16(金) 03:21:57 ID:???
お久しぶり、表現の場SSスレ。
短文をかいたのでこそっとあげてみる。


304 :荻野屋:2007/11/16(金) 03:26:08 ID:???
いまどき吉野家

昨日、近所のビッグサイト行ったんです。ビッグサイト。
そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで列動かないんです。
で、よく見たらなんかエロゲのキャラの紙袋持ってるんです。
もうね、アホかと。馬鹿かと。
お前らな、地球温暖化如きで普段来てないビッグサイトに来てんじゃねーよ、ボケが。
地球温暖化だよ、地球温暖化。
なんか親子連れとかもいるし。一家4人でビッグサイトか。おめでてーな。
よーしパパ徹夜しちゃうぞー、とか言ってるの。もう見てらんない。
お前らな、150円やるから道端で読みふけるなと。
ビッグサイトってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
Uの字に整列させられた向かいに並んだ奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、
刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。ヌルオタは、すっこんでろ。
で、やっと入れたかと思ったら、隣の奴が、ツンデレ、とか言ってるんです。
そこでまたぶち切れですよ。
あのな、ツンデレなんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。
得意げな顔して何が、ツンデレ、だ。
お前は本当にツンデレを読みたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
お前、ツンデレって言いたいだけちゃうんかと。
イベント通の俺から言わせてもらえば今、イベント通の間での最新流行はやっぱり、
強気攻め、これだね。
メガネ・強気攻め・流され受け。これが通の頼み方。
強気攻めってのは強気多めに入ってる。そん代わりヘタレ少なめ。これ。
で、それにメガネ流され受け。これ最強。
しかしこれを頼むと次から知り合いにマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお薦め出来ない。
まあお前らド素人は、「   」でも読んでなさいってこった。

305 :荻野屋:2007/11/16(金) 03:29:34 ID:???
「  」の中にはお好きな文字を。
アニメ6話にwktkして思いついたけどネタバレはないはず。

では修羅場なので作業に戻りますノシ

306 :マロン名無しさん:2007/11/16(金) 06:24:30 ID:???
久しぶりに見ておもしろかったGJ

てゆーかアナタが誰なのかなんとなく想像ついたw

307 :マロン名無しさん:2007/11/18(日) 11:33:06 ID:???
>荻野屋
あんた誰だw

308 :30人いる! 前書き:2007/11/18(日) 20:13:21 ID:???
お久しぶりです。
恥ずかしながら帰ってまいりました。
2週間がかりで続き書きました。
24レスありますので、2回休憩挟んで8レスずつ投下しようと思います。
では。

309 :30人いる! その167:2007/11/18(日) 20:15:26 ID:???
結局のところ現視研のクランクイン初日は、冬樹が机に向かうシーンの撮影だけで昼過ぎまでの時間を費やした。
準備に思った以上に時間がかかった為だ。
撮影したカットは、机に向かう冬樹を(1)真後ろから(2)真上から(3)右横から(4)左横から(5)正面からの5つの方向からのカットだった。
しかも撮影した時間は全部でわずか2分かそこらしか無い上、その大半はカットされる予定の捨てカット、いわゆるリカバリーショットというやつだ。
このシーンでの冬樹の動きはあまり無い。
タイムカプセルと共に発見された古いノートを見つつ、時々英和辞典を引いたり、自分のノートにメモしたりするだけだ。
(注、プロットの段階では、クルルに万能翻訳機を借りる予定だったが、その後シナリオをシンプルにまとめる為に、冬樹が独力で英和辞典片手に翻訳するように変更した)
ちなみに古いノートは、以下のような手順で作られた、わずかな出番にしては手間のかかった逸品だ。
1)小道具担当の日垣が、紙に古ぼけた感じの色を付けて束ねる
2)錬金術に関する文章(伊藤原案)をスーが英語に直して、筆記体で書き込む
3)有吉がそれらしいイラストを描き込む
4)最後に日垣が適当に折ったり皺をつけたりして、さらに古ぼけた感じを出す


310 :30人いる! その168:2007/11/18(日) 20:17:41 ID:???
恵子「さてと、遅くなったけど飯にするか」
荻上「この近くって、コンビニとかレストランとか無いわね」
日垣「俺とあと何人か、駅前まで買出しに走りましょうか?」
落ち着いた上品な声が、昼飯をどうしよう会議を遮った。
「さあさ皆さん、お食事の用意が出来ましたよ」

せっかく用意して下さったのなら頂かないのも却って悪いかと、児会長のお言葉に甘えてご馳走になることにした現視研一同、先程の大広間に戻って驚いた。
テーブル上には、大鍋の乗ったガスコンロが5つ用意され、その周囲には人数分の割り箸や小皿等が置かれていた。
一同「何故この暑いのに鍋?」
サンドイッチとかおにぎりみたいな軽食系のメニューを予想していたので、面食らう一同。
「お待たせしました!」
会員たちが声に振り返ると、板前のような格好のクッチーが、数枚の大皿を載せたワゴンを押して来た。

コンロ1台につき2枚ずつ大皿が置かれた。
1枚は白菜やねぎやえのき茸等、野菜が中心だった。
もう1枚は豆腐に春雨に鶏肉、そして1人10個はありそうな大量のツミレだった。
一同「ちゃんこ鍋?」
神田「凄い!これ全部クッチー先輩が作ったんですか?」
朽木「作るというほどのことはしてないにょー。野菜その他を切っただけだし。僕チンよりもお師匠様の方が大変だったにょー」



311 :30人いる! その169:2007/11/18(日) 20:20:03 ID:???
神田「会長さんが?」
朽木「そのツミレはお師匠様の手作りの逸品だにょー」
豪田「これ全部会長さんが?」
一同「凄っ!」
有吉「しかもこのツミレ、いわし団子じゃないですか!」
荻上「有吉君、知ってるの?」
有吉「昔、保永昇男ってプロレスラー(現在レフリー)が居たんですけど、彼が新弟子時代にしばしば作ってたそうなんです。なかなか仲間内では好評だったらしいですよ」
沢田「そう言えば有吉君って、何気にプロレスに詳しいわね」
有吉「昔はまってた時期があったんだよ」
豪田「何でプロレスラーがちゃんこ作るの?」
有吉「日本でプロレスを始めた力道山が元相撲取りだから、プロレスラーの新弟子の合宿所の食事の基本メニューはちゃんこなんだよ」
巴「もしかしてお相撲さんと同じように、プロレスラーも新弟子が交代でちゃんこ作るの?」
有吉「その通り。で、保永さん得意のメニューが、このいわし団子のちゃんこだったんだけど、毎回毎回という訳には行かなかったみたい」
恵子「何で?」
有吉「凄い手間で時間かかるからですよ。いわし1匹1匹の骨取ってすり潰して、片栗粉とかと混ぜて味付けして団子にする。これをプロレスラー数十人分ですからね」
豪田「確かに手間そうね…」



312 :30人いる! その170:2007/11/18(日) 20:22:56 ID:???
「でもいいんですか、こんな豪勢なお食事…」
せっかく用意して頂いたんだから、食べないのは却って迷惑になると先程までは思っていた荻上会長だったが、豪快な食事内容につい遠慮してしまった。
児会長「遠慮なさらなくていいですよ。一見凄そうに見えるかも知れないけど、材料費案外かかってないですから」
荻上「でも…」
児会長「ならばこういたしましょう。映画完成の際には、スポンサーというか協力というか、そういう内容の字幕スーパーで児童文学研究会を紹介して下さいな」
台場「なるほど!スポンサー契約という訳ですね!」
恵子「出たなプロデューサー」
児会長「まあ私の場合は、制作費の代わりにロケ地とお食事を提供するということで、どうかしら?」
アンジェラ「てゆーか現物支給?」
台場「よしその契約乗った!いいですよね、会長?」
荻上「まあ、それなら…いいかな。(児会長に)そんじゃあすんません、改めてご馳走になります」
児会長「どうぞどうぞ」
一同「いただきます!」


313 :30人いる! その171:2007/11/18(日) 20:25:56 ID:???
みんなが鍋の準備にかかる中、台場は自分の鞄からファイルを取り出して児会長に近付く。
台場「(ファイルから契約書を取り出し)えーと金額のとこに今日の昼食とロケ地提供、
サラサラサラ(契約書に書き込む)と。そんじゃあ会長さん、ここにサインか印鑑を」
児会長「はいはい」
豪田「うわあ晴海、すっかり顔が商人(あきんど)になってる…」
沢田「まさに必殺商売人ね」

「うわあもうダメ、入らない」
「もうお腹パンパン」
「また体重増えちゃったかも」
「みんなすっかりケロン人体型ね」
1時間後、現視研の面々は大広間のあちこちでボテ腹を抱えて動けなくなった。
結局のところ、彼らはちゃんこ鍋と共に、丼飯を1人当たり平均3杯ずつも平らげた。
比較的少食で普段の昼御飯ではお茶碗1杯がせいぜいの、ケロン人役の小柄女子たちですら2杯ずつ食べた。
ちなみにその中で唯一の例外は体育会系体質の国松で、その小さな体のどこに入るのか4杯も食べていた。
ましてや元々大食いの豪田や巴や日垣や藪崎さんやアンジェラ、それにクッチーに至っては1人5杯ずつを平らげた上に、具の無くなった鍋にうどんを入れて食べていた。
みんながここまで大食いした主な理由は2つあった。
1つは児会長作のいわし団子が美味しかった為に、みんなの食が進んだこと。
もう1つは、クッチーが調子に乗って、みんなの丼が空くたびにわんこ蕎麦のような勢いで飯を盛ったことだ。
しかもクッチーが食べてる間は、先に昼御飯を済ませていた児会長が、クッチー同様に飯を盛り続けた。


314 :30人いる! その172:2007/11/18(日) 20:28:16 ID:???
恵子「しゃあねえな、しばらく食休みだ」
荻上「それはいいけど、みんなせめて後片付けぐらい手伝いなさい」
会員たちは満腹にフウフウ言いつつも、鍋の後片付けを始めた。
児会長の誘導で、各自鍋や食器を台所まで運ぶ。

台所に着いた現視研一同、しばし呆然とする。
児会長宅の台所は異様に広く、しかも調理器具や設備も充実していた。
ちょっとした料亭やホテルの調理場並みのレベルであった。
台場「まるで美食倶楽部の調理場ね」
「いやまたちょっと違うよ」
そう言いながら有吉が指差した先には、業務用のような巨大な炊飯器や鍋等、大量に調理することを前提にしたような調理器具が多数あった。
日垣「どっちかと言えば、小学校の給食の調理室に似てるな」
アンジェラ「てゆーか大量調理?」
巴「何かアンジェラ、すっかりモアちゃん語が日常化しつつあるわね」
国松「あの、もしかして会長さんのお家の仕事って、相撲部屋か何かですか?」
一同『確かに。ちゃんこ鍋作るの手馴れ過ぎてるし』
児会長「(微笑んで)まさか。ちょっとした事業をやっているだけですよ。ただ、お客様がたくさんいらっしゃる機会が多いんで、自然とこういうお台所になっただけです」
荻上「(改めて台所を見渡し)ちょっとした事業ねえ…」

結局後片付けは、今回は出番の無い日垣、アンジェラ、台場、ニャー子、そしてクッチーが児会長の指揮の下に行なうことになった。
いかに広い台所とは言え、会員全員プラス児会長で後片付けをやるには狭いからだ。



315 :30人いる! その173:2007/11/18(日) 20:30:22 ID:???
後片付けの面々以外の会員たちは、児会長の部屋や書庫部屋とその周辺で、しばしの食休みに入った。
豪田や藪崎さん、それに大野さんは仮眠している。
巴「ちゃんこ鍋のお昼の次はお昼寝、まんまお相撲さんの生活パターンね」
仮眠してたはずの3人がいっせいに目を覚まして噛み付く。
「誰がお相撲さんじゃゴラア!」
巴「…起きてたんですか?」
再び眠りに付く3人。

「おおおおお、こっ、これは…ニャニャニャニャニャ!」
書庫部屋では、伊藤が興奮していた。
沢田「どうしたの?」
伊藤「ここここれ見てよ沢田さん、会長さんの台本の蔵書、凄いニャー!」
沢田「どれどれ(蔵書の山を見て)ほほう、こりゃ凄いわね」
伊藤「でしょでしょ?ニャニャニャニャニャ!」
神田「そんなに凄いの?」
伊藤「だって見てよ!『仁義なき戦い』のオリジナルの撮影台本だニャー!こっちは『七人の侍』でこっちは中川信夫版『東海道四谷怪談』でこっちは『野生の証明』だニャー!」
言いながら台本を次々差し出す伊藤。
沢田「アニメのもあるわね。『風の谷のナウシカ』に『空飛ぶゆうれい船』に『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』か」
神田「何か統一感の無いラインナップね」
「会長さんは脚本の執筆もなさっていて、その勉強用に脚本集めてるそうよ」
荻上会長が口を挟む。
一同「(尊敬の念を込めて)へえー」


316 :30人いる! その174:2007/11/18(日) 20:32:10 ID:???
大騒ぎの伊藤と対照的なのは、廊下で台本を見ながらブツブツ言ってる有吉である。
恵子「何だ、まだ台詞覚えてないのか?」
有吉「覚えてはいるんですが、言い回しが難しくてトチリそうなんで…」
この後撮影のシーンで、有吉扮する冬樹が錬金術とホムンクルスについて説明するのだ。
有吉「何しろ普段使わない言葉を多用しますから」
恵子「お前ら、この手のネタは見慣れてるだろ?」
有吉「普段声に出して読んでる訳じゃないですから」
恵子「それもそうだな。ま、がんばれ」
恵子は有吉から離れ、伊藤たちの方へ近付く。
恵子「おい伊藤、千里とスー知らねえか?」
伊藤「2人なら、奥の部屋を借りてクルルスーツの着付けをやってますニャー」
そこへ台所組が戻って来た。
台場「ただ今戻りました」
荻上「ご苦労様、あれっ?朽木先輩は?」
日垣「何か夕食の仕込みがあるとかで、台所に残っておられます」
荻上「何であの人がやってるの?」
ニャー子「何かクッチー先輩、妙に板場の仕事が様になってましたニャー」
アンジェラ「そう言えばミスタークッチー、食器とか道具とかの定位置、全部頭に入ってたみたいあるよ」


317 :30人いる! 休憩:2007/11/18(日) 20:33:58 ID:???
ここで1回休憩に入ります。
続きは30分か1時間ぐらい後に投下します。

318 :30人いる! 再開:2007/11/18(日) 21:18:58 ID:???
ただ今戻りました。
再開します。

319 :30人いる! その175:2007/11/18(日) 21:23:17 ID:???
児会長が事情を説明した。
「朽木君ね、何度か私が手料理ご馳走してあげたら、私にもご馳走したいから自分でも何か作りたいって、うちのお抱えの料理人にいろいろ習ってたみたいですよ」
恵子「そう言えば、いわし団子以外の具って、全部クッチーが切ったって言ってたよな」
日垣「何でも今じゃ、かつら剥きが出来るって仰ってましたよ」
一同「凄っ!」
荻上「朽木先輩、もし警官の試験落ちても、調理師か何かで食べて行けそうね」

そこへ国松と、クルルスーツ姿のスーが戻って来た。
2人並んでみると、頭の分クルルの方が15センチぐらい高い。
スーは早くも右手をクルル顔の口元に持って来て、例の「クークックックッ」のポーズをしている。
国松「あっ会長さん、お部屋ありがとうございました。まあまた後でお借りしますけど」
スー「(子安武人そっくりの声で)クークックックッ」
国松「あっ、スーちゃんもありがとうって言ってます」
児会長「(にこやかに)はいはい」

「おーい起きろー!」
恵子が寝ていた3人を起こす。
恵子「伊藤、ボチボチ撮影始めんぞ」
伊藤「ちょっちょっとだけ待って下さいニャー、今寅さんの脚本読んでるんですけど、最後まで読み切っちゃいますから」
速読の心得があるのか、伊藤の読むペースは異様に速かった。



320 :30人いる! その176:2007/11/18(日) 21:28:03 ID:???
荻上「全部あるの、寅さんの脚本?」
伊藤「全作揃ってますニャー」
恵子「で、今どの辺なんだ?」
伊藤「今マドンナの佐藤オリエが出て来たとこですニャー」
恵子「…なあスー、その佐藤さんが出てたのって、何作目だ?」
スー「(子安武人そっくりの声で)3作目だぜ〜クークックックッ」
恵子「寅さんって、何本あったっけ?」
スー「(子安武人そっくりの声で)48作だぜ〜クークックックッ」
児会長の部屋でカメラの調整を終え、隣の書庫部屋の様子を見に来た浅田と岸野がツッコむ。
浅田「て言うかスーちゃん、何で寅さんについてそこまで詳しいんだ?」
岸野「それに監督、そういう前提でスーちゃんに訊いてるし」
恵子は伊藤に近付き、耳を引っ張った。
伊藤「痛たたたたたた…」
恵子「んなに待てるか!撮影に戻るぞ!」
伊藤「ニャー(涙)」
児会長「まあまあ伊藤君、何なら今日の帰りに借りてお行きなさい」
伊藤「ほんとですかニャー?ありがとうございますニャー」
ようやく納得して伊藤は撮影に戻った。


321 :30人いる! その177:2007/11/18(日) 21:40:12 ID:???
結局昼食から2時間近く経って、撮影は再開された。
午後からの撮影は、クルルと冬樹がお互いの調査結果を報告し合うというシーンだ。
先ずはツーショットのカットからだ。
冬樹役の有吉が机の前に立ち、クルル役のスーは床に直に座り、互いに向かい合う。
正面から2人を見ると、右手に有吉、左手にスーという位置関係になる。
有吉が立っているのは、2人の高低差を作ることにより、身長差があまり無いことをカバーする為だ。
向き合う2人の手前にカメラマン4人が横一列に並び、その両サイドに照明係が付く。
その背後に、またも台詞無しだが録音係の沢田、記録の神田、そして監督の恵子が並ぶ。
他のみんなは例によってそのまた背後から見学だ。
カメラマンと役者2人の間に、カチンコを持った伊藤が割り込む。
伊藤「それではシーン17-A冬樹の部屋の本番行きますニャー」
恵子「よーし、3、2、1、用意スタート!」

ツーショットのカットが無事撮り終わり、次に2人のそれぞれのバストショット(被写体の人物の胸から上のショット)の撮影に移る。
有吉とスー、それに沢田、神田、恵子は先ほどと同じ配置だが、カメラマンと照明係は2組に分かれ、それぞれ有吉とスーの斜め後ろに移る。
スーの左斜め後ろには浅田と加藤さん、それに豪田が配置される。
豪田は壁際に位置するので、ちょっと窮屈そうだ。
そして有吉の左斜め後ろには、岸野と藪崎さん、そして巴が配置される。



322 :30人いる! その178:2007/11/18(日) 21:42:11 ID:???
スーの左斜め後ろの班は、画面右手にスーの体の左端を手前に置いた形で、有吉のバストショットを撮影する。
ちなみにクルルの主観に近い目線での映像なので、浅田と加藤さんは数人分の荷物をマット代わりに敷いて、腹這いの体勢での撮影だ。
座るだけだとスーが小さ過ぎて画面の端に入れづらく、かと言って床に直に腹這いだと低過ぎるからだ。
一方有吉の左斜め後ろの班はその逆で、画面右手に有吉の体の左端を手前に置いた形で、スーのバストショット(と言っても床に座っているので、ほぼ全身に近いが)を撮影する。
こちらは冬樹の主観に近い目線だと俯瞰撮影に近い角度になるので、膝を付いて座り正面からに近い角度からの撮影だ。
(2組のカメラマンと照明は、お互いに死角に入る)
この態勢で、冬樹とクルルの会話シーンを撮影するのだ。
伊藤「それじゃあシーン17-B冬樹の部屋の本番行きますニャー」
恵子「よーし、3、2、1、用意スタート!」

15分後、現視研映画撮影班は早くも休憩に入った。
NGを連発した有吉が焦って余計に泥沼にはまっていく様子を見て、恵子が少し間を置いた方がいいと判断したのだ。
有吉「すんません、監督」
恵子「まあいいから、とりあえず落ち着けや」
有吉は台詞を覚えていない訳では無かった。
普段言い慣れない言い回しの上に、ことさら流暢に喋ろうと意識し過ぎてる為に、何度もかんでしまうのだ。


323 :30人いる! その179:2007/11/18(日) 21:47:16 ID:???
(注)ここからの2レスはシナリオの抜粋なので、ケロロに興味の無い方は飛ばして頂いても、SSの進行上差し支えありません。

ちなみにこのシーンの台詞は、こんな感じだった。
冬樹「辞書と僕の翻訳能力とだけじゃ完全な翻訳は無理だったけど、どうもこのノートの持ち主って、科学者と言うより錬金術師らしいんだ」
クルル「錬金術と言うと、物質を混ぜ合わせることで金を作ろうっていう、ペコポンの大昔のトンデモ科学のことかい?クークックックッ」
冬樹「トンデモとも言い切れないよ。錬金術の実験が、現代の化学の基礎になったんだから。それとこのノートの錬金術、どうもホムンクルスの製法らしいんだ」
クルル「何だいそりゃ〜?」
冬樹「錬金術で作られた人造人間のことだよ」
クルル「何か眉唾な話だな〜」
冬樹「でもこのノート、人間の組成成分がちゃんと書かれていたよ」
クルル「水とか鉄とか炭素とかリンとかマグネシウムとかかい?」
冬樹「そう。だから実際に出来るかどうかはともかく、本格的だと思うよ」
クルル「それで分かったぜ〜カプセルの方も」
冬樹「そう言えばクルル、カプセルの方はどうだったの?」


324 :30人いる! その180:2007/11/18(日) 21:49:21 ID:???
クルル「先ず中身だが、どうやらある種の生物の細胞を圧縮して収納してあるらしいぜ〜」
冬樹「細胞?」
クルル「そしてカプセルに刻まれた文字だが、どうも古いケロン文字の一種らしいぜ〜」
冬樹「古いケロン文字?」
クルル「そしてその内容なんだが、部分的にだがケロボールの物質生成機能の公式に似ていたんだ。冬樹、こりゃひょっとしたらひょっとするぜ〜」
(注)ケロボールとはケロロが持って来た万能アイテムで、現在では日向家に没収され、冬木の机の引き出しに保管されている。
データがあれば塵やほこりから何でも作れる機能があり、度々破壊されている日向家の修復は、これによって行なわれていると推測される。

冬樹「つまり、昔地球に来たケロン人が錬金術師と接触してケロン星の科学技術を伝え、それと錬金術とが組み合わさってホムンクルスを作ったってこと?」
クルル「多分な」
冬樹「(目を輝かせ)じゃああの中身って本物のホムンクルス?!」
クルル「おいっ、まさかカプセル開けろとか言わねえだろうな」
冬樹「えっ開けちゃダメかな?」
クルル「やめた方がいいな。圧縮された濃度から計算して、ひとつ間違えたら最悪巨大化するかもよ」
(ここでシナリオ上では、巨大ベムが町中に出現の図のイメージ画像)
冬樹「それは…まずいね。前の軍曹なら『これは侵略に使えそうであります!』とか言いそうだね」
クルル「でも今は隊長、家事最優先だからな。適当に侵略やってるように誤魔化すこっちは大変だぜ〜クークックックッ」


325 :30人いる! その181:2007/11/18(日) 21:53:25 ID:???
国松「スーちゃん、1回着ぐるみ脱ご」
スー「押忍!」
スーはクルルの頭を脱ぎ、国松はスーの背中のファスナーを降ろそうとする。
荻上「ちょっ、ちょっとここで脱ぐのは…」
国松「大丈夫ですよ会長。人前で脱げる格好してますから」
「ぬぎっ」という擬音が聞こえそうな脱ぎっぷりの良さで、スーはクルルスーツを脱いだ。
「ぶっ!」となる一同。
スーが身に付けていたのは、真っ赤なビキニだった。
国松「本来なら下着だけが1番いいんですけど、それだと人前で脱げないんで、いろいろ考えた末に水着にしたんです。幸いスーちゃん、ビキニ持ってたし」
荻上「普通の水着じゃダメなの?」
国松「それだとタンクトップにショートパンツみたいなのと、暑さあまり変わんないですし」
ふと嫌な予感を覚える荻上会長。
荻上「まさか国松さん、私たちにもその格好させるつもりじゃ?」
国松「今日の撮影終わったら、一緒に買いに行きましょう、会長。私もビキニ持ってないし」
沢田「もしかして、それって私も?」
国松「当然!」
荻上・沢田「当然っすか…」


326 :30人いる! その182:2007/11/18(日) 21:58:16 ID:???
「私は持ってるから買わなくてもいいニャー」
ニャー子が口を挟んだ。
荻上「ニャー子さん、ビキニなんか持ってたの?」
ニャー子「この間、伊藤君とプールに行ったんで、それ用に買いましたニャー」
一同「何ですと〜!」
荻上「まあまあ、夏コミから2人つき合ってたんだし、そんな驚かないの」
巴「でも伊藤君って、泳げないんじゃなかったっけ?」
伊藤「ニャー子さんも泳げないんで、ずっと浅いとこで水浴びしてましたニャー」
赤面する伊藤とニャー子。
藪崎「くそう猫同士じゃれよって、勝ったと思うな!」
伊藤・ニャー子「意味分かりませんニャー」

ビキニ騒動でみんなが騒ぐ中、有吉は何度も台詞を繰り返し暗唱していた。
そこへトコトコとスーが近付く。
有吉の様子を見ていたスーの頭の中で、ピンッという音が鳴った。
スー「(児会長に)押忍、何か書く物はありませんか?」
児会長「メモみたいなものでよろしいかしら?」
スー「お願いします、押忍!」
児会長は机の引き出しから、切った紙をクリップで束ねた物とペンを出してきた。
児会長「これでよろしいかしら?」
スー「ありがとうございます、押忍!」
スーは自分の台本を取り出し、何やら紙に写し始める。



327 :30人いる! 再び休憩:2007/11/18(日) 22:00:19 ID:???
すんません、1時間ぐらいしたら戻ります。

328 :30人いる! 再開:2007/11/18(日) 23:39:52 ID:???
再開のついでに、チトお返事。
>>260
表の稼業が俺に仕事させ過ぎなせいで、大変ご迷惑をおかけしております。
やっぱり格差社会は問題です。
>>261
今回のカメラワークや照明については、殆どが引き写しです。

代表的な参考文献
「一人でもできる映画の撮り方」
西村雄一郎著 洋泉社
>>291
とりあえず児会長の出番の予定は、残念ながら今回以降はありません。
(て言うかこの先、あらすじとネタは用意してるけど、原稿は全く出来てません)
果たして今回までで、ご満足頂けるでしょうか?

では行きます。

329 :30人いる! その183:2007/11/18(日) 23:42:01 ID:???
よく見るとその紙には、裏に何やら印刷されていた。
荻上「あの紙は?」
児会長「チラシの裏ですよ」
一同「チラシの裏?」
児会長「だって捨てるのももったいないでしょ?うちではメモはみんなチラシの裏ですよ」
藪崎「さすが金残しはるお家の方はちゃうね」

そうこうする内に、スーは書き写し終わった。
どうやら台詞を書き写していたらしい。
一同「カンニングペーパー?」
スーはその台詞のメモを、有吉が使う小道具のノートにセロテープで貼り付け、高らかに宣言した。
「これぞ秘技三木のり平!」
浅田「だから何で三木のり平なんて知ってる?」
荻上「三木のり平って、桃屋のCMのアニメの中の人やってた人でしょ?」
スー「押忍!失礼ですがセンセイ荻上、それは大変な認識不足であります!」
荻上「どゆこと?」
スー「押忍!三木のり平は元々は喜劇俳優であります!50〜60年代には社長シリーズとか駅前シリーズとかによく出てたであります!」
荻上「『生まれてないって!』…で、何でそれが秘技三木のり平なの?」
スー「押忍!三木のり平は台詞覚えるのが苦手で、セットのあちこちに台詞のカンニングペーパーを貼っていたことで有名なのであります!」


330 :30人いる! その184:2007/11/18(日) 23:44:15 ID:???
有吉「うーん気持ちはありがたいんだけどスーちゃん、僕は台詞覚えてないんじゃなくて、言い回しが難しくて上手く言えないだけなんだけど…」
スー「押忍!僭越ながら、この場合は上手く言おうと意識しない方がいいと思うであります!」
有吉「と言うと?」
スー「押忍!この場合の冬樹の台詞は説明台詞なのだから、むしろあからさまに台本を朗読してるぐらいの方が感じが出ると思うであります!」
恵子「あたしもスーの意見に賛成だな。冬樹って理屈っぽいキャラだから、その方が感じ出そうな気がするよ」
有吉「…分かりました、それでやってみます。(スーの方に向き直り)ありがとう、スーちゃん」

再び本番開始となったが、問題が発生した。
有吉「すんません、眼鏡無しだとこの距離でもカンペ見えないんですけど…」
再び中断。
一同「うーむ…」
豪田「ああもう、少々とちってもいいから、そのまま撮っちゃいましょうよ」
沢田「いやそれはまずいわよ。アフレコした時にタイミング合わないから」
台場「確かにうちらは素人なんだから、画面上の口の動きは完璧にしておいた方が無難ね」



331 :30人いる! その185:2007/11/18(日) 23:46:37 ID:???
恵子が口を開いた。
「なあお前らってさあ、眼鏡かけてるの有吉と浅田と晴海だけだけど、あとの奴らは目悪くないのか?」
唐突な質問に少しとまどう一同。
豪田「えーと確か彩とミッチーと、それにヤブさんと日垣君もコンタクトだったと思います。あと私もです」
恵子「やっぱオタクって目悪い率高いな」
巴「それが何か?」
恵子「冬樹ってさあ、本ばっか読んでるオタなんだから、大学生になったら眼鏡かけてても不思議じゃないんじゃねえか?秋ママだって婆ちゃんだって眼鏡かけてんだし」
ハッとなる一同。
恵子「どうよ?」
荻上「うーん…でも有吉君の眼鏡って普通のやつだから、秋ママのとか大野さんのとかとちょっとイメージが合わないような…」
その時有吉は、部屋の隅に置いてあった自分の荷物をゴソゴソし出した。
一同「?」
やがて有吉は眼鏡ケースを取り出した。
有吉「虫の知らせってやつかなあ、予備でこの眼鏡用意して来たんですよ」
ケースから取り出した眼鏡をかける有吉。
一同「これは?」
有吉のかけた眼鏡は、いつもの普通の眼鏡ではなく、漫画キャラ風の丸い眼鏡だった。



332 :30人いる! その186:2007/11/18(日) 23:48:49 ID:???
豪田「行ける!」
巴「確かに」
神田「これなら大学生版冬樹にはピッタリね」
沢田「でも有吉君、よくそんな眼鏡持ってたわね」
有吉「中学の時使ってたやつだよ。度は変わってないんで、予備として残しといたんだ」
恵子「どう姉さん?」
荻上「行けそうね。これで行きましょ」

こうして無事に撮影は終了した。
ホッとする一同。
だがそんなみんなの安堵感を神田のひと言が引っくり返した。
「でも監督、さっきの冬樹のシーンって、眼鏡無しで撮りましたよね?」
一同「あっ…」
恵子の決断は早かった。
「しゃあねえなあ。撮り直しだ」
一同「(残念そうに)えー」
恵子「しゃあねえだろ。それに実はあたし午前中撮った分、ちょっと引っかかってたんだ」
国松「何がですか?」
恵子「有吉ってさあ、眼鏡取るとけっこう目付き悪いんだよね」
豪田「そう言えばそうですね」
恵子「だろ?だからちょうどいいじゃねえか?」
こうして午前中に撮った分は撮り直しとなった。
だが1度同じシーンを撮っているだけに、撮影はサクサクと進んだ。



333 :30人いる! その187:2007/11/18(日) 23:53:35 ID:???
ようやく児会長邸での撮影が終了し、現視研一行は撤収準備にかかった。
そんな中、窓際で大野さんと巴は呆然としていた。
大野「日が落ちちゃいますね…」
巴「もうじき落ちちゃいますね…」
恵子「こりゃ学校での撮影は、今日は中止だな」
大野・巴「しょぼーん」

「さてと引き上げるか」
大広間に再び集合した一同に、恵子は宣言した。
荻上「それじゃあ会長さんにご挨拶して帰りましょう」
そこへ児会長がやって来た。
「さあさ皆さん、夕食にしましょうか」
一同「えっ?」
児会長「ちょっとカレー作り過ぎちゃったんで、食べて行って下さいな」
巨大な鍋を載せたワゴンを押して、クッチーが大広間に入ってきた。
一同「いやそれ、ちょっと作り過ぎってレベルじゃないし…」
結局現視研の一行は、児会長邸で夕食もご馳走になることになった。
しかもクッチーが調子に乗っておかわりを盛るので、またもやたらふく食う破目になった。
2時間後、現視研一行はボテ腹を抱えて児会長邸を後にした。
豪田「ああ食った食った。今日1日で体重3キロは増えそう」
神田「あれっ?クッチー先輩は?」
日垣「何か明日の朝食の仕込みと鍋磨きと包丁砥ぎやるから、先に帰っててって仰ってたよ」
巴「すっかり板場の見習い状態ね」


334 :30人いる! その188:2007/11/18(日) 23:57:40 ID:???
そんな帰り道の道中、有吉が恵子に声をかけてきた。
「あの監督、今日はすいませんでした」
恵子「ん?」
伊藤「僕もすいませんニャー」
恵子「どしたんだよ、2人とも?」
有吉「僕がいろいろやらかしたばっかりに、撮影が遅れちゃいましたんで。みんなもごめん(頭を下げる)」
伊藤「僕も脚本読むのに夢中になって撮影遅らしたんで、ごめんなさいニャー(頭を下げる)」
恵子「まあまあ、もういいじゃねえか、済んだことだし。頭上げろよ。それに怪我の功名ってやつで、却っていい画が撮れたし」
有吉・伊藤「監督…」
恵子「それに今回撮影が延びた1番の被害者の、大野さんとマリアだってもう怒ってないし。(大野さんと巴に)だろ?」
大野「そっ、そうですよ。また明日撮ればいいだけのことですし」
巴「まあ失敗は誰にでもあるから、もう気にしないで」
国松が口を挟んだ。
「それにこれって、名作の兆しじゃない!」
スー「(西川のりお似の声で)兆シヤ〜」
恵子「どゆことだよ?」
国松「古今東西、名作と言われる作品には、最初に撮ったフィルムが没になった実例がたくさんあるんです」
一同「そうなの?」



335 :30人いる! その189:2007/11/19(月) 00:01:17 ID:???
国松「例えば『帰ってきたウルトラマン』の第1話なんて、特撮班も本編班も両方とも撮り直しですし」
恵子「何で?」
国松「本編班の方は単にフィルムに傷が付いちゃったアクシデントなんですけど、特撮班の方は撮り終わってからウルトラマンのデザインが変更になっちゃったんです」
「帰ってきたウルトラマン」の当初のデザインは、初代ウルトラマンの赤ラインの外側に細い赤ラインを加えただけのものだった。
だがそれが版権その他の理由でNGになり、さらに細かい所が違うデザイン(首が赤くない、膝の赤ラインが太い、パンツ部分が小さい等)に変更され、撮り直しとなったのだ。
沢田「それ単に、現場がグダグダだっただけじゃないの?」
国松「とにかく!初日の撮り直しは縁起がいいんです!」
恵子「まあそういうことにしとこうか」
恵子は2人に近付いて、両腕で2人の肩をスクラムを組むように抱いた。
「よし、そんじゃ今からあたしとホテル行こ!」
一同「何ですと〜!」
恵子「いやお前ら元気無いからさあ、景気付けにあたしが2人のチェリー頂いちゃおうと思ってな」
最大出力で赤面しつつ、恵子から離れる伊藤と有吉。
有吉「いや、お気持ちはありがたいんですけど、遠慮します!」
伊藤「僕も遠慮しますニャー!」
恵子「何だあたしじゃ不服か?それかなり傷付くぞ」
有吉「いやそういうことじゃなくて…」
「伊藤君の童貞は、私のものですニャー」
ニャー子が割って入り、伊藤の腕を取った。
固まる一同。


336 :30人いる! その190:2007/11/19(月) 00:05:11 ID:???
伊藤「ニャニャ、そんなニャー子さん、大声で宣言しなくても…」
ニャー子「私じゃ不服かニャ?」
伊藤「いっいや、喜んで!」
再び固まる一同。
恵子「わーった、猫同士好きにやんな。さて残るは有吉だけど…」
「監督、有吉君は疲れてるから、今日はこのまま帰りましょう!」
今度は豪田が割って入り、有吉の手を引っ張って先をズンズン歩き出す。
恵子「(豪田の気持ちを悟り)まあ今日は、この辺にしといてやるか」

国松「さすがに今日はビキニ買いに行くのは無しですね。遅くなりましたし」
沢田「それにお腹出過ぎだもんね」
ちょっぴりホッとする荻上会長。
台場「ところでヤブさんと加藤さん、何でカメラマン引き受けたんですか?」
藪崎「これや」
藪崎さんは一枚の紙片を取り出した。
加藤さんも同様の紙片を取り出す。
そこには「斑目と1日デート券 有効期限無期限」と手書きで書かれていた。
しかもそれは何かのチラシの裏のようだった。
台場「そんなもんで釣られたんすか?て言うかいいのかな、シゲさんに断りも無しに勝手にそんなもん配って?」
恵子「あとさあ、1番頑張ったやつには斑目さんの童貞券やるから」
斑目さんを男にする会実動部隊一同「マジっすか?!」
荻上「やめなさい!」
こうして撮影初日は無事に(そうか?)終わった。



337 :30人いる! 次回予告:2007/11/19(月) 00:14:17 ID:???
以上です。

すいませんすいませんすいません!
予告と書いたのは実はハッタリで、次回どうするか全く考えてません!
(まああらすじとネタと映画のシーン割りは考えてるのですが)
出たとこ勝負になっちゃいますが、とりあえず屋内撮影編がまだ続く予定です。
あと30人の残りは、屋外撮影編以降に登場します。
ではまた来々週お逢い…出来たらいいなあ。
(正直自信ありません)


338 :マロン名無しさん:2007/11/19(月) 07:00:42 ID:???
お疲れさまでした!
大作ですなぁ〜。なんかもう、普通に雑誌か何かの連載を読んでる気分です。
とは言え本業に差し支えないよう、頑張ってください。

339 :マロン名無しさん:2007/11/21(水) 20:00:22 ID:???
保守

340 :マロン名無しさん:2007/11/23(金) 01:33:20 ID:???
過疎ってるな

341 :マロン名無しさん:2007/11/23(金) 06:43:32 ID:???
? このところの通常進行だが。

342 :マロン名無しさん:2007/11/24(土) 00:23:33 ID:???
そんなもんかのう
俺はまたてっきり、アニメ関係のSSがもっと来てると思ってたんだが

343 :マロン名無しさん:2007/11/24(土) 09:01:07 ID:???
それはアニメがみられない地域に住んでいる俺への挑戦状か?www

344 :マロン名無しさん:2007/11/27(火) 01:07:34 ID:q2FgQ7QU
保守ヽ(´ー`)ノ

345 :マロン名無しさん:2007/11/30(金) 08:23:22 ID:???
保守

346 :マロン名無しさん:2007/11/30(金) 22:34:28 ID:???
突発的に来た電波。理由→ひらがな5文字つながり

オタ劇場 第一話
?「るったるったる〜んる〜ん…ん?」
「やおすぞー!」「やおすぞー!」「やおすぞー!」
?「君たちはだれ〜?」
「僕はオギゼー!」「僕はオギゼー!」「僕はオギゼー!」
?「ねぇ、ここはどこ〜?」
オギゼー1「ここはげんしけん。」オギゼー2&3『げんしけん。』
?「げんしけんって何〜?」
オギゼー1「オタク達が集まるところ。」オギゼー2&3『ところ。』
?「オタクって?」
オギゼー1「漫画や」オギゼー2「アニメや」オギゼー3「ゲームを」
オギゼー『語る人のことさ。』
?「すごい増えてる」
オギゼー『どんどん増えるぞ。』
オギゼー1「そういう君は?」オギゼー『君はだれ〜?』
「僕はクチソゲノム。クチ菌だよ!」
オギゼー『クチ菌…!?げげーっ!!』
クチソゲノム「…何にも知らないくせに。オタ共が…!」
オギゼー『自分もオタじゃん。』

スレ違いは承知の上。細かい所が合わない?そこは流せ。

347 :マロン名無しさん:2007/12/04(火) 23:37:39 ID:???
よかったあ、スレが生きてたあ!
ここ十数日ずっと人大杉で来れなくて、落ちてないかとハラハラし通しの毎日でした。
よし、これで安心した。
また続き書くぞ。

348 :マロン名無しさん:2007/12/06(木) 19:47:44 ID:???
保守

349 :マロン名無しさん:2007/12/07(金) 22:19:49 ID:???
絶望した!
恵子の存在が無かったことになってる、げんしけん2に絶望した!
このスレでは大活躍なのに…

350 :マロン名無しさん:2007/12/08(土) 08:43:07 ID:???
sageるなら半角小文字
ワザとなら口出し陳謝

アニメOP見ると801小隊思い出して、ここ覗いてしまう
「…いる」シリーズの人、無理しない程度に頑張ってください
楽しみにしています

つまるところの保守

351 :30人いる! 前書き:2007/12/09(日) 23:04:47 ID:???
さてと、皆々様お久しぶり。
バカが帰ってきました。
続きを投下します。
14レスの予定ですが、今回はゆっくり連続で投下してみます。
では後ほど。

お返事も少々。
>>338
長いこと休載してすんません。
また連載再開しますのでよろしく。

352 :30人いる! その191:2007/12/09(日) 23:07:27 ID:???
第11章 笹原恵子の疾走

9月もそろそろ半ばに入ろうかという、クランクインから10日目の夜。
現視研の1年生13人は、椎応大学からほど近い居酒屋に集まっていた。
毎年新歓コンパや追い出しコンパに使っている、いつもの居酒屋だ。
有吉「えーでは、第1回G作品制作反省会議かっこ1年生限定かっこ閉じを始めます!」
スー「(拍手しつつ棒読みっぽく)ワーパチパチパチ」
豪田「そう言えばまだ映画のサブタイトル決めてなかったわね」
伊藤「監督がまだいいの思い付かないから、後にしろとのことですニャー」
沢田「それにしても、またちゃんこ鍋?」
1年生たちが囲むテーブルには、またもや鍋が用意されていた。
日垣「今日のはキムチちゃんこだね」
浅田「この暑いのに…」
巴「何言ってるのよ。暑い時こそ熱い物食べるのが、体にはいいのよ」
アンジェラ「てゆうか健康第一?」
有吉「まあまあ、会議と銘打ってはいますが、ここまでの撮影で気付いたこと思ったこと等、みなさんの忌憚の無い意見をお願いしますよ」
国松「そうそう飲み食いしつつマッタリとね」
日垣「いやちょっと国松さん、マッタリどころかしっかり飲み食いしてるし」
そう、国松はしっかり飲み食いしていた。
ようやく煮えたかどうかのタイミングで早くも鍋をつつき、ジョッキ生の1杯目も乾杯後一気に空け、早くも5杯目を頼んでいた。
神田「ちょっと大丈夫、千里?」
国松「大丈夫大丈夫(右手の親指を鼻の穴に当てながら手のひらを前に向け)だいじょうぶ!」



353 :30人いる! その192:2007/12/09(日) 23:09:22 ID:???
凍結する一同。
台場「今の、何?」
日垣「昔『仮面の忍者赤影』っていう特撮時代劇で、青影っていう少年忍者がやってたギャグだよ」
台場「それ、何時の作品?」
日垣「確か昭和40年代前半だったと思うよ」
国松「昭和42年!いい加減覚えなさいよ日垣君!」
日垣「無茶言わないでよ。国松さんみたいに放送年月日まで丸暗記は無理だよ」
台場「『生まれてないっつーの!』そんな古いギャグやられても対応に困るから」
神田「それに千里あなた可愛いんだから、そういうお下品系ギャグは不許可!」
国松「それじゃあえーと…合点合点承〜(体を右に捻って反動をつけて正面に戻し)知!」
再び凍結する一同。
台場「今の、何?」
日垣「これも赤影で、青影がやってたギャグだよ」
スー「青影サンダイッ!(コミカルでアップテンポな音楽を口で演奏)ぴっぴこぴこぴこぴこぴこぴこ〜ぴここぴこぴこぴ〜ぱんぱんぱん♪〜」
台場「スーちゃんまで乗らないの!」
スーがやったのは、赤影の定番シーンのひとつで、青影が敵の下忍(いわゆる戦闘員)とコミカルなバトルを演じる際の、決まり文句とBGMである。



354 :30人いる! その193:2007/12/09(日) 23:11:19 ID:???
その流れは、毎回大体こういう感じである。
1)敵の下忍に取り囲まれ、青影が「小僧」とか言われる
2)「青影さんだいっ!」という台詞と共に、スーが口真似したBGMが流れ戦闘開始
3)青影下忍たちの間をチョコマカと逃げ回り(カメラ早回し)なかなか捕まらない
4)下忍たち青影を見失い、並んでキョロキョロ
5)下忍たちの後ろに青影現れ、下忍の頭どついて気絶させ、青影得意気にニッコリ

国松「(林家三平風に)どうもすいません、ヒック」
浅田「また古いギャグを…」
沢田「て言うか千里、すっかり出来上がってない?」
アンジェラ「てゆうか護身完成?」
豪田「真面目な話、あんまし飲み過ぎないでよ、私ら法的には未成年なんだから」
国松「こんなもん飲んだ内に入んないわよ。私中学ん時から時々飲んでたし」
沢田「千里って意外と不良なんだ…」
国松「そんなんじゃないわよ。うちが酒屋だからお酒いっぱいあるってだけの話」
浅田「売りもんに手を出すなよ」
国松「そん代わり夏休みとか歳末は店手伝ってたわよ」
巴「何その無銭飲食のお詫びに皿洗いして帰るみたいな論法…」
アンジェラ「てゆうか勤労奉仕?」



355 :30人いる! その194:2007/12/09(日) 23:13:00 ID:???
有吉「さてと、本題に戻りましょうか。先ずは神田さん、スケジュール管理の立場から、何か意見無い?」
神田「私的には問題無いと思うわ。遅れたのは初日と今日ぐらいで、あとは順調だし」
浅田「スケジュール組み替えが上手く行ったからね」
神田「そう、初日で懲りて全部スケジュール組み替えて、同一撮影日同一ロケ地を大原則にしたからね。移動するとしてもせいぜい大学の中程度の範囲だし」
2日目以降、昨日までの進行状況は以下の通りであった。
2日目 椎応大学構内の、正門前、中庭、図書室の3ヵ所で撮影
3日目 椎応大学構内の、ウェイトトレーニング場、部室の屋根の上の2ヶ所で撮影
4日目 椎応大学のグラウンドで撮影
5日目 セットの仕上げの為撮休
6日目 部室にセットを組んで撮影
7日目 部室にセットを組んで撮影
8日目 部室にセットを組んで撮影
9日目 撮休
神田「そして今日が私んちで撮影と、ここまでは順調に行ってると思うわ。まあ今日の撮影はちょっと延びちゃって、明日続きやるけどね」
巴「確かにここまでは割と順調ね」
国松「そう、全て順調!笹原恵子監督ばんざーい!(両手を挙げる)」
スー「(碇司令似の声とポーズで)問題無イ、全テハしなりお通リダ」


356 :30人いる! その195:2007/12/09(日) 23:17:00 ID:???
浅田「記念撮影のシーンの撮影が延びたのは、却って良かったよ。初日だと日差し強過ぎて、春の入学シーズンを再現するの難しかったかも」
岸野「2日目は朝の内は少し雲ってたからね」
沢田「まあ確かに、2日目はサクサク進んだわよね。全部大学構内とは言え、3ヵ所での撮影滞り無く終わったし」
豪田「その代わり、荻様大変だったけどね」

2日目、最初に撮影したのは、夏美と冬樹の大学入学という設定を説明する為の、秋との正門前での記念撮影というシーンで、次の様な段取りで行なわれた。
先ず正門の表札のすぐ横に、秋と夏美(または冬樹)が並び、その正面にカメラマン4人が並ぶ。
今回は屋外での撮影なので、豪田はライトの代わりにレフ板を持って、カメラマンたちの左手に付く。
椎応大学の正門は南向きで撮影が午前中なので、正門付近は右手から太陽光線が当たるからだ。
レフ板というと一見被写体を照らすのが目的に見えるかも知れないが、それはライトのように明るくすることよりも、むしろ太陽光線を抑える役割を負っている。
(もちろん太陽の死角になる所では、被写体を照らす為に使われるが)
太陽光線はカメラの照明用としては光量が大き過ぎるのだ。
そこで反対の角度からレフ板で太陽光線を反射させて当てることで、被写体に当たる太陽光線を中和する訳だ。
屋内の撮影で、ライト2つで照らすのと同じ理屈である。
あとのメンバーは、例によって録音の沢田、記録の神田、助監督の伊藤、そして監督の恵子がカメラマンと被写体の役者2人を取り囲む。



357 :30人いる! その196:2007/12/09(日) 23:20:04 ID:???
そして残りのメンバーは、正門の両サイドの道路で通行規制をやっていた。
幸い正門前の道は一方通行なので楽だった。
車が途切れた瞬間を狙って、道路を封鎖して恵子に合図を送り、恵子はその合図で撮影開始し、恵子の「カット!」に合わせて封鎖を解くという手順だ。
通勤通学の時間帯より少し後の時間だし、所要時間数十秒なので、殆どの車は大して文句も言わず待ってくれた。
歩行者の方は、反対側の歩道→正門の前→道路横断して正門通過という道順で誘導する。
フレームに入るのは正門の表札の横の塀の一角のエリアなので、これなら迂回してもらえば正門を普通に出入り出来る。

撮影はサクサクと進んだ。
先ず秋ママ役の大野さんと夏美役の巴が記念撮影風に並んだところを撮影する。
続いて巴が冬樹役の有吉と交代して、同様に撮影する。
両シーン共、8ミリとビデオで撮影すると同時に、クッチーがデジカメで写真も撮る。
8ミリとビデオの素材だけで、上手く記念撮影の感じが作れない時の為の保険だ。
止め画の撮影には、引き伸ばして現像した写真を改めて8ミリやビデオで撮影し直すのがベストなのだ。


358 :30人いる! その197:2007/12/09(日) 23:22:57 ID:???
ひと通り撮影が終わり、現視研一行が次の撮影場所へ移動すべく撤収にかかろうとしたその時、恵子がそれを止めた。
「ちょっと待て、今のシーンだけど、ちょっと追加しないか?」
一同「追加?」
恵子「ほらっ、アニメとか漫画だと、こういう記念撮影の時、乱入とかあるだろ?」
浅田「ああ、よくありますね」
恵子「でさあ、ケロロ乱入させちゃあどうだろ?」
この明るいのに、伊藤の猫目が輝いた。
「なるほど、つまりこういう感じですニャー。夏美の記念撮影の時に、シャッター押す瞬間にケロロが割り込んで、夏美キレてケロロどつくと」
沢田「で、ついでに写真撮影担当の冬樹が苦笑いとか」
伊藤「そうそう、そういう感じだニャー。どうですか監督?」
恵子「それで行こう。千里、姉さん、ケロロの準備よろしく!」
荻上「ちょっ、ちょっと待って!今日普通の下着しか着てないし!」
恵子「何か問題ある?」
国松「ここだとカット直後に着ぐるみ脱げませんよ」
着ぐるみでの撮影は、スーツアクターにとって過酷な作業だ。
特撮の撮影時には、ワンカットごとに助監督が着ぐるみのファスナーを降ろして上半身だけ脱がせる。
着たまま次のシーン撮影の準備を待っていては、スーツアクターの身が持たないからだ。



359 :30人いる! その198:2007/12/09(日) 23:50:45 ID:???
恵子「撮影済んですぐに部室帰って脱ぎゃいいんじゃねえか?」
国松「ケロロスーツでサークル棟の屋上までは持ちませんよ」
恵子「そんじゃあさあ…そうだ日垣、午後からの撮影で使うギロロのテント、今すぐ用意してくれ」
日垣「テントっすか?」
この日のあとの予定は、図書館にて大学入学後の冬樹の様子を説明する為のカットと、中庭にてギロロの近況を説明する為のカットを撮影する予定だ。
中庭でのシーンではギロロのテントを実際に張り、その前でギロロが例によって武器を磨いているところを撮影する。
本当は日向家のロケ地である神田宅で撮りたかったのだが、神田宅の庭は芝生の面積が狭かったので、芝生の豊富な大学の中庭をロケ地に選んだのだ。
小道具係の日垣は、浅田のテントを借りてギロロテント風の目玉を描き込んでいた。
巴「なるほど、ギロロテントを更衣室に使おうという訳ですね」
恵子「そういうことだ」
国松「中庭までなら歩いて1分もかからないから、何とかなりますね」
恵子「つう訳で、姉さんよろしく」
荻上「…分かりました」
急遽決まった初陣に、ちょっと緊張する荻上会長だった。
日垣「そんじゃあテント張って来ます」
国松「そんじゃ私、部室へケロロのスーツ取りに行ってます」



360 :30人いる! その199:2007/12/09(日) 23:52:22 ID:???
テントを張る間、大野さんと荻上会長と巴でリハーサルを行なう。
それをみんなで見つつ意見を出し合って調整して行く。
豪田「シャッター押す瞬間に、マリアの後ろから荻様がヒョコッと顔出す感じでいいんじゃない?」
伊藤「そうそう、そんで夏美が『どっから湧いて出た、このボケガエル〜!』って感じでケロロ追っかけると」
神田「で、冬樹がハハハと苦笑いと」
藪崎「それやったら、夏美がケロロ蹴ろうとするぐらいやらんと」
荻上「…そうね」
一同「会長?!」
荻上「(ニヤリと笑い)どうせやるなら、それぐらいはやらないとね」
藪崎「おうオギー、遂に芸人魂に目覚めたな」
荻上「そんなんじゃないわよ。やるからには徹底的にやりたいだけよ」
スー「イヤコノ場合、テッテ的トイウノガ正シイ文法ダ」
神田「スーちゃんってほんと、つげ義春好きね…」

やがてテントが張り終わり、撮影が再開された。
荻上会長の着替えの間に、冬樹がカメラを持って苦笑いするシーンを撮る。
有吉はブレザーの上着を脱いでカッターシャツ1枚になった。
自分の入学式と同じ格好では変だからだ。
そしてクッチーの使っていたカメラを持ち、先程まで撮影スタッフが居た方でスタンバる。
一方撮影スタッフたちは、大学の塀側の先程まで大野さんたちが居た方から撮影する。
今度は逆光気味になるので、レフ板担当の豪田が太陽光線を反射させて有吉に当てる。
急遽決まったシーンだったが、芸達者なとこを見せて、有吉のハハハ(汗)な苦笑いは1発でオッケーとなった。



361 :30人いる! その200:2007/12/10(月) 00:06:33 ID:???
国松「どうですか会長、動けそうですか?」
荻上「何とかね。それにしても、やっぱり外でこの格好は暑いわね」
ギロロテントの中での着替えは、思った以上にやりにくかった。
当初国松と荻上会長の2人で入って、国松が着付けを手伝おうとした。
だが2人で入るだけなら問題なかったギロロテントも、着ぐるみの着付けに使うとなると狭かった。
そこで一旦国松が外へ出て、荻上会長1人で途中まで着込んでテントの入り口前で背中を向け、国松が外からファスナーを上げるという手順で着込んだ。
ちなみにこの間、日垣とクッチーは門番のようにテント前で見張っていた。
国松の誘導で荻上会長は正門へと向かい、クッチーもそれに続く。
着ぐるみは視界が悪いので、慣れない内は歩くことすら困難なのだ。
日垣はそのままテント前に残った。
テントそのものと、テント内に残った荻上会長の私服を見張る為だ。

ケロロスーツ姿の荻上会長は、正門までの道のりでも、正門を出て撮影場所に戻ってからも、周囲の注目を集めた。
特に正門を出てからは、親子連れが通り掛ると子供が「あっケロロだ!」と指差して叫んだりする。
大野「大人気ですね、荻上さんのケロロ」
国松「着ぐるみの視界悪いのが幸いしましたね。これで周囲しっかり見えてたら、会長恥ずかしがり屋さんだから、大変だったろうな」



362 :30人いる! その201:2007/12/10(月) 00:08:36 ID:???
台場「そうでもないかもよ、見て」
一同が見ると、ケロロスーツの荻上会長はノリにノッていた。
道行く人々に、手を振ったり敬礼したりしつつ、「我輩ケロロ軍曹であります!」などと挨拶したり、歩いたりラジオ体操みたいな動きをしたりしている。
大野「コスプレ精神ですね。すっかりキャラになり切ってますね」
朽木「いやあ着ぐるみの魔力ですな。わたくしも初めて着た時には頑張ってしまいましたからなあ」
浅田「いやあれは朽木先輩が特別なんだと思いますよ」
伊藤「仮面劇特有のなり切り感だと思いますニャー」
恵子「おおい、んなことより撮影始めんぞ。でねえと姉さんまいっちまうし」

こうして問題のケロロ乱入シーンの撮影が始まった。
大野さんと巴が先程同様塀際に並び、その後ろからヒョコッとケロロスーツの荻上会長が顔を出す。
そして巴がそれに気付いて怒った顔をし、逃げるケロロを蹴ろうとするという流れだ。
このシーンもまた、同時にクッチーが写真を撮る。
次の3カットの止め画の連続の方が面白いかも知れないということで、その素材用にだ。
1)記念撮影の瞬間にケロロ顔出す
2)それに気付いて驚く夏美
3)逃げるケロロを蹴ろうとする夏美



363 :30人いる! その202:2007/12/10(月) 00:10:08 ID:???
撮影は奇跡的に1発オッケーとなった。
どうやら荻上会長、動き回っている内に、着ぐるみ特有の視界や距離感やバランス感を体得したようだ。
ヒョコッと夏美の後ろから顔を出して、トンズラ〜という感じで逃げ去る動きをコミカルに演じた。
(この時荻上会長は、体を前屈みにして腰を少し落として走ることで、ケロロの方が夏美と秋よりも小さく見えるようにすることを忘れなかった)
巴はそれに対し、ややオーバーアクション気味にケロロに驚き、ヤクザキック風に足を振り上げて蹴ろうとする。
ついでに言うと、大野さんはそれを見て「おやおや、しょうがないわね」といった感じの表情をする小芝居をしていた。

荻上会長は着替えにかかるべく、急いでギロロテントに向かい、着付け係の国松も続く。
そして先程同様、テントの入口で背中のファスナーを下ろしてもらい、一気にケロロスーツを脱いだ。
国松「大丈夫ですか会長?」
テントに入って国松が尋ねる。
荻上「ああ暑い〜!やっぱり着ぐるみで炎天下で動くのって、10分か15分ぐらいが限度ね」
テントの中では、荻上会長は下着姿になってタオルで汗を拭いていた。
国松はその傍らで、下敷きでパタパタと扇いであげる。
荻上「悪いけど日垣君、しばらく前で見張ってて。着替える前にちょっとだけ涼むから」
日垣「了解です」



364 :30人いる! その203:2007/12/10(月) 00:11:58 ID:???
そこへ少し早い昼飯を持った斑目が通りかかった。
日垣「あっ斑目さん、こんにちは」
斑目「よう。うわっこれギロロのテントじゃないの。よく出来てるなあ。中やっぱり武器とかあるの?」
そう言うなり斑目、テントにスッと近付いた。
何時になく素早い動きに、日垣は斑目が入り口をヒョイと開けるのを止め損ねた。
間の悪いことに、ちょうどその時荻上会長は、汗で濡れたブラを前に引っ張って、微乳を露わにしたところだった。
「き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜や〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!」
荻上会長の悲鳴が大学構内に轟いた。

再び居酒屋。
日垣「あん時は大変だったなあ。会長には悪いことしたよ、止めるの遅れちゃって」
巴「シゲさんも大変だったわよ」
豪田「また気絶しちゃったもんね。そんで加藤さんに活入れてもらって」
国松「まあでもおかげで、撮影終わってから私と彩と会長と3人でビキニ買いに行く計画、スムーズに進んだから、結果オーライよ」
有吉「『鬼だよ国松さん…』会長の払った犠牲は大きかったけどね」
急にクスクスと笑い出す国松。
豪田「どした?笑い上戸?」
国松「あん時の会長、悲鳴がケロロになってたわね」
日垣「なってたね、確かに」
台場「確かに正門前からでも聞こえたわね、『きーやー!』って」
「きーやー!」とはケロロ特有の「きゃー!」という悲鳴の表現で、アニメでもそのまんまの叫び方をしている。


365 :30人いる! その204:2007/12/10(月) 00:13:44 ID:???
結局2日目の撮影は、荻上会長の「きーやー!」騒動以降は、順調にサクサクと進んだ。
先にテントを張ってしまったので、急遽前倒しでギロロがテント前で武器を磨くシーンを先に撮り、昼食を挟んで図書室で冬樹が本を積み上げて調べものをするシーンを撮った。
共に動きが少ないシーンのせいもあって、1発オッケーとなった。

再び居酒屋。
浅田「あの日の遅れは追加カット分だけで、あとは順番が変わっただけだったし、まあ順調な方だったね」
巴「千里も初の出番だったのに、よく1発オッケーだったわね」
国松「まあ動き少ないし、台詞も無かったからね」
アンジェラ「その代わり会長さんにはきつい1日だったあるね」
台場「まあね。シゲさんに裸見られるわ、図書室での撮影が届けてた時間より遅れたせいで自治会には怒られるわ、散々だったもんね」

「何よそんくらい、ヒック、私に比べりゃどってことないわよ」
唐突な声に一同が目を向けると、何時の間にか空の一升瓶を抱え、スッカリ出来上がっている沢田が居た。
目が据わっている。
一同「ひっ?」
沢田「私なんかね、ヒック、危うく死ぬかと、ヒック、思ったわよ、撮影中にね」
スー「死ンダラドウスル!」
台場「まあ確かに、3日目は彩大変だったもんね」
有吉「ニャー子先輩もね」
伊藤「そして僕も、えらい目に遭いましたニャー」
豪田「そうそう、ほんと3日目は3人の厄日だったわよね」



366 :30人いる! 次回予告:2007/12/10(月) 00:18:33 ID:???
果たして撮影3日目、ドロロ役の沢田、タママ役のニャー子、そして助監督の伊藤の身にいったい何が?
恵子は3人に、いかなる試練を与えたのか?
次回は撮影現場の修羅場が見られるぜ!

本日はここまでです。
お邪魔しました。


367 :マロン名無しさん:2007/12/10(月) 07:00:22 ID:???
連載再開!まってました!

…斑目、ウラヤマシス…。orz

368 :マロン名無しさん:2007/12/11(火) 21:58:31 ID:???
保守

369 :マロン名無しさん:2007/12/13(木) 00:44:14 ID:???
お客さん少ないな…

370 :マロン名無しさん:2007/12/13(木) 22:01:39 ID:18vIgzaq
今更げんしけんに嵌ってる自分ですが何か?
通勤電車の中で、お昼休みで、SS読みまくりです。
「…いる!」シリーズ、楽しみに拝読してます。本当に原作の延長みたいに思えてくるから不思議
しかし、特撮の蘊蓄が目白押しっすねw

371 :うすじ:2007/12/14(金) 14:51:50 ID:3WsrC19L
笹原 「いいですよね・・・メンマ」


 ボクはウソをついた



マダラメ「すまねーな 代わりに食ってもらって・・
     俺メンマだけは嫌いなんだよ」
笹原  「にや」

久我山 「ききき気持ち、わりぃーな 男同士で」


372 :うすじ:2007/12/14(金) 15:08:02 ID:3WsrC19L

あとがき 作者からの言葉


久しぶりの投稿だったので緊張しました。これは読んでもらえれば
わかるようにアキバの帰りに3人でラーメン屋にでも寄ったときの
話でしょうかね・・・。アキバ専用を後ろの服掛けにかけてマダラメさんは
コーンラーメンを頼む久我山とチャーシューメンを頼んだ笹原をよそに
マダラメは一番安い野菜ラーメンを頼んだのでしょう。
そこでメンマを笹原に食べてもらって「じゃチャーシューを一枚変わり貿易しよう」
笹原「あーずるいですよーw」なんて会話も繰り広げられたんでしょうね。
その光景を見た久我山さんの偽らざる感情なのでしょう、だが実はそこに
ササマダ萌えを見抜けずゲンシケンで
「きききき、き昨日よーラーメン屋でここここいつらチャーシューとメンマ交換しててよー」
田中「おっ昨日アキバいったのかどうだった」
という何気ない会話を漫画を描きながらオギーが聞き耳立ててたんでしょうね
げに恐ろしい風景です。

373 :マロン名無しさん:2007/12/14(金) 18:10:24 ID:???
>>371-372
あいかわらずおまいは面白いw

374 :マロン名無しさん:2007/12/14(金) 20:59:18 ID:???
とりあえず、うすじ氏が生存してたのは何よりだ。

375 :30人いる!の人:2007/12/16(日) 17:56:28 ID:???
すんません、今週は表の仕事が毎日残業の上に土曜出勤だったんで、全然原稿進んでません。
来週また来ます。
ごめんなさい。

376 :マロン名無しさん:2007/12/18(火) 19:54:38 ID:???
ほしゅ

377 :マロン名無しさん:2007/12/19(水) 06:04:00 ID:???
SSスレに投下するのも久しぶり…
書こうと思っていてずいぶん間があいてしまいました。
リハビリ的な感じで、6レスで投下いたします。

378 :彷徨える子羊1:2007/12/19(水) 06:04:59 ID:???

彷徨える子羊


「ふう……」
斑目は飲んでいた缶コーヒーを長机に置き、ひとつ息を吐いた。
部室の中でも、息が白くなる。
缶からも、わずかに湯気が立っている。
ここ最近の寒さはハンパじゃない。外からの冷気が、窓の隙間から入り込んでくるようだ。

「♪ハンパじゃない、ハンパじゃない、っと」
斑目は思いつきでなんとなく替え歌を歌いながら、ふと窓の外に目をやった。
もうすっかり葉を落とし、冬衣になった木々を眺めた。
枯れ葉がわずかに枝に残っている。風でゆらゆらと揺れ、いまにも飛ばされてしまいそうだ。

(今日は寒いから、誰も来ないかも知れんなあ…)
斑目はぼんやり考えた。
12月も半ば、学生はもう冬季試験も終わり、キャンパスに見える人もまばらだ。
わざわざこの寒い中、用もなく学校に足も運ぶ者は少ない。
現会長の荻上や、スーたちもそうだろう。

…斑目はといえば、半年ほど前に本屋のバイトを始め、まだしばらく続けようか、という気持ちでいた。
今日は休みだ。休みの日に、とっくに卒業した大学の部室棟までわざわざ来るなんて我ながらイタい。しかし、なんというか、ついクセで足が向いてしまうのだ。

「ふーーー……」
斑目はもうひとつ息を吐き、ゆっくりと立ち上がった。

その数秒後に嵐に巻き込まれることになろうとは、全く考えもしなかったのだ。


379 :彷徨える子羊2:2007/12/19(水) 06:06:34 ID:???

コン、コン。二つノックの音。

「は…」
返事をしかけて、ふっ…と、斑目の背中に冷たいものがよぎった。
こ………、このドアのたたき方は……!!

『マダラメ!!!』
ドアをバーン!!と勢いよく開けた直後、少し日本語とは違うイントネーションで自分を呼ぶ声が響いた。
「!!」
『OH、マダラメ!!お久しぶり!元気だった!?』
いきなりのハイテンションで喋りながら、確かな足取りでまっすぐこっちに急接近する相手を見て、斑目は慌てて後ずさった。
しかし、背面には窓。ここは三階。
もたもたしているうちにその相手、アンジェラはあっという間に10センチほどの距離まで詰めてきた。
そして、目を潤ませて微笑み、斑目の首に抱きついてくる。

『会いたかったわーーー!!!』
「ぎゃあああーーー!!」

(キターーーーーーーーーーーー!! 冬にもまた…キターーー!!)

容赦なく首に巻きついてくるアンジェラの腕に、窒息寸前で半ば意識が遠のいてゆくのを感じながら、斑目はつい4ヶ月前の夏コミを思い出した。



夏コミ。8月13〜15日開催。
その数日前にアメリカからやってきたアンジェラは、笹原たちの代が4月に卒業していたことを聞いたとたん、何故か急に斑目にベタベタし始めたのである。

斑目は面くらった。一時期はこんなことなかったのに。まるで始めて出会ったばかりの頃の、あの破天荒なアンジェラに戻ったようだった。

スー「バケラッタ!!」

380 :彷徨える子羊3:2007/12/19(水) 06:08:18 ID:???

『HAHAHAHA!!相変わらずね、スー。元気だった?』
「ボクハヨゴレテル、ヨゴレテシマッタンダ」
『元気そうね!良かったわ。あら、マダラメ!私のナイスメガネ!ハーイ!』
「や、やあ、どうも」(メガネ…?)
『うふふ……。またこうして会えるなんて嬉しいわ。だって、他の人たちはもう卒業してしまって、なかなか部室に来ないってカナコが愚痴ってたわ。だから斑目とももう会えないと思ってたのに。すごく嬉しい!』
「…なんか…早くてよく聞き取れないけど、誉められてる?けなされてる?」

斑目が困惑していると、アンはすかさず斑目の右手をつかみ、耳元でささやいた。

『私のパーフェクト・フィンガー……』

固まったまま全く身動きできない斑目。
アンはうっとりと斑目の右手を眺め、その手の甲にキスした。即座に耳まで赤くなる斑目。

「………ftgyふじこlp;@!!!」
『うふふ……。』
「スベテガホシイヨ、オマエノスベテガー」

その日から、夏コミの三日間、斑目はアンジェラに追い回されまくったのだった。
少なからず色々と…危機があったのだが、斑目はなんとか生き延びた。



あれから4ヶ月、斑目はすっかり油断していたのだ。
まだ冬コミまで半月も先だ。まさかもう襲来するなんて。

固まったまま動けない斑目を前に、アンは英語で早口で喋りまくり、ふと気がついて首から腕を放した。
巻きついていた腕が離れ、ようやく深呼吸する斑目。

『そうそう斑目、アナタにプレゼントがあるのよ。日本の男の人はこういうの喜ぶってカナコが言ってたから!はい!』
アンジェラは持っていた紙袋から、大きなリボンのついた紙袋を取り出す。

381 :彷徨える子羊4:2007/12/19(水) 06:10:16 ID:???

『少し早いけど、クリスマスプレゼント!気に入ってくれるかしら?』
そう言いながら、自分でラッピングを破いて取り出すアンジェラ。
中から出てきたのは白い毛糸のマフラー。

『手編みのマフラー!こういうのがグッとくるんだって、どうかしら?どう?』
斑目が返事する間もなくマフラーを斑目の首にしっかりと巻きつけ、ようやく満足げに微笑むアンジェラ。

『素敵……、よく似合ってるわ……。』
斑目を椅子に座らせ、アンジェラも椅子を引き寄せてきて座り、ゆっくりと身近で眺めるアンジェラ。
容赦なく首に巻きついているマフラーに、窒息寸前で半ば意識が遠のいてゆくのを感じながら、斑目はアンジェラの顔をぼんやりと見つめた。


アンジェラの頬はわずかに紅潮し、すきとおるような薄い青の瞳がこちらをまっすぐ見返してくる。
あまりの事態に、メモリ不足、完全フリーズで固まったままの斑目としばらく見つめあう。
しばらくして、アンジェラはやや下に視線を移し、斑目の右手をとってそっと自分の両手で包み込んだ。

『あぁこの指…。なんて素敵……。繊細で、でも決して細すぎなくて。
この指が私の体を撫でまわしてくれたら…、そんなイメージをするだけで、体の奥から熱くなってしまうのよ……。』
(※英語なので斑目には通じていません)

アンジェラは、しばらくの間、ゆっくりと斑目の右手を撫でさすっていた。
斑目のフリーズが解けるまで、5分ほどの時間を要した。

ようやくだんだんと我に返り、しかしアンジェラにされるがままになっている斑目。
困惑する。
どうしていいか分からない。


−−−途方に暮れる。
受け入れることもできず… かといって拒むこともできず
まだ 吹っ切ることができないでいる。

382 :彷徨える子羊5:2007/12/19(水) 06:14:39 ID:???
『マダラメ…?』
アンジェラが小首をかしげて顔を覗き込んでくる。斑目はアンジェラから顔をそらし、体ごと横を向いた。…右手はそのままで。

「………………」
ちらりとアンジェラを横目で見る。アンジェラは全く動じる様子もなく、こちらを見つめてくる。

斑目はすぐに視線を外した。
透き通った瞳が怖かった。見透かされてしまいそうだ。
この迷いも、不安も。拒めない弱さも。


斑目の体が強張るのを、アンジェラは指先から感じていた。
(………ふふ)
アンジェラはわずかに片眉を上げた。


(とまどった顔をしているのね……。でも、“No” とは言い出せないのね。
私のことが “No” (嫌い)って訳じゃないんでしょう?
もどかしいけど…、少しずつでも “私”に慣れてもらわなきゃ。
あなたが、もう卒業してしまった「あの人」を忘れられずに苦しんでいるのも…
「悲しいけど、それが恋愛なのよね」って、誰か…偉い人が言ってたわ確か。違ったっけ?)

『…まあいいわ。でもね』
アンジェラは斑目の手をいっそう握り締めた。
数センチのところまで顔を寄せ、また赤くなった斑目の横顔を見つめる。

『あなたの切ない顔も……困った顔も、すごくセクシーなの…』
囁きながら、アンジェラは斑目の耳に息を吹きかけた。

383 :彷徨える子羊6:2007/12/19(水) 06:15:12 ID:???

「!!!!!!!!!!!」
体ごとバネのように跳ね返って飛びのく斑目。

「……yふjきぉ;p@:「」こ、。p・・「:・wyぱえyl! なんっ、なんっ、なん…」
『HAHAHAHAHA!!』
言葉にならない叫び声をあげ、猫のように毛を逆立てる斑目。
まるで拾われてきたばかりの野生の猫のようだわ、と思いながら、アンジェラは大笑いした。


私は、私なりに壁を越えてみせるわ。
でも、それにはちょっと強引さも必要かしら?
覚悟しててね、マイハニー(はぁと)



END


***


久しぶりにSSを描きました。アニメ第10話にカッとなってやった。
単行本くじアン1巻おまけとアニメ梶脚本は全部公式設定!

…なんか読み返すと顔から火が吹き出ます。

さて…この話、続編も書くっぽいです。
年内にまた置きにくるかと思います。
読んで頂きありがとうございました。

384 :彷徨える子羊(訂正):2007/12/19(水) 06:26:38 ID:???
>笹原たちの代が4月に卒業

あ…去年の、です…はい。

385 :マロン名無しさん:2007/12/19(水) 18:01:21 ID:???
GJ! 続き待ってるぜ

386 :マロン名無しさん:2007/12/20(木) 22:21:55 ID:???
ばけらった!

387 :うすじ:2007/12/21(金) 02:21:26 ID:rCdc86G5
もう書いてあげないから!

388 :マロン名無しさん:2007/12/23(日) 01:06:11 ID:???
>彷徨える子羊
GJ!! アンジェラの前では彷徨えるというより生贄の子羊となる斑目w
続きでさんざんいただいちゃってください!

389 :マロン名無しさん:2007/12/23(日) 19:47:28 ID:???
>彷徨える子羊
とうとうアニメでまで斑目君総受け化計画発動し、モテモテですなあ斑目。
完全に貞操の危機一歩手前のアニメから、さらに推し進めた今回の話。
続きがあったらエロパロスレかしら…

ところでスーちゃん、バケラッタなんてどっから仕入れたんだろ?
オバQは過去3回アニメ化されてるが、1番新しいリメイク版アニメですら、もう12年も前の作品。
しかもビデオ化されたのはごく一部で、再放送の機会もあまりない。
(ケーブルテレビで一部やってたらしいが)
最近ちょっと軟化したのか漫画版の復刻版が出てたけど、オバQは藤子作品で最も著作権関係がややこしく、古い分はアニメのソフト化も再放送もままならぬ状態。
単行本もまたしかりだ。
そんな情況で「バケラッタ」を仕入れてきたリサーチ力には恐れ入る。

390 :30人いる! 前書き:2007/12/24(月) 17:40:33 ID:???
ご無沙汰しております。
バカなサンタクロースがバカなSSを投下しに参上しました。
今回は27レスほどあります。
用心して4回ぐらいに分けて投下します。
先ずは7レス行きます。

391 :30人いる! その205:2007/12/24(月) 17:42:40 ID:???
クランクインから3日目の朝。
現視研一行は、椎応大学構内のウェイトトレーニング場(以下ウェトレ場)に居た。
椎応大学のウェトレ場の大きな特徴は、ウェイトトレーニング(以下ウェトレ)の為の設備の他に、ボクシング等の打撃格闘技のジムとしての設備も充実していることだ。
サンドバッグが大小2つずつ、パンチングボールがシングルとダブル各1つずつ、縄跳びやシャドウ用の姿見付きの壁際のスペース、そしてリングまである。
もちろんウェトレの設備も充実している。
バーベルやダンベルや鉄アレイは各種揃っているし、ベンチプレス用のベンチ等補助的な器具もひと通り揃っている。
油圧で重量を調整するタイプのマシンも数種類ある。
(筆者注)多少誇張してあるが、筆者の母校の大学のウェトレ場はこういう感じだった。

この日、ウェトレ場が2時間も借りられたことは奇跡に近かった。。
最近はメジャーなスポーツの殆どが、練習メニューにウェトレを取り入れているので、比較的人数の少ない2〜3のクラブが、同時間帯に合同で使ってることも珍しくない。
その上打撃格闘技系ではボクシング部を筆頭に、キックボクシング部、シュートボクシング同好会、ムエタイ研究会等が、入り乱れてジム系の練習に励んでいる。
さらに最近ではその流れに、空手部や日本拳法部までも参入して来ている。
この大学の空手部は基本伝統派(いわゆる寸止め)なのだが、彼らは同時に空手オタの集団でもあるので、あらゆるルールの大会に参加している。
その為グラブをはめてリングで戦う練習にも熱心だった。
(そういうルールの大会が実在する)
日本拳法部も、リングで戦うルールの試合もある(最近の大会は空手同様マット上で行なわれることが多いが)ので、時折ここで練習している。



392 :30人いる! その206:2007/12/24(月) 17:45:51 ID:???
この場所を借りられたのは、プロデューサーの台場の奮闘によるところが大きかった。
体育会本部に何度も足を運び、粘り強く説得を続け、遂にこの時間帯の使用許可を勝ち得たのだ。
まあもっとも、決定打になったのはエロパロ系同人誌進呈という、いささかワイロじみた力技であった。
最近は体育会にもオタク系の部員が多く、アニメや漫画がきっかけでその部のスポーツを始めたという者も多い。
その為体育会各部には、それぞれその部のスポーツを題材にしたアニメや漫画のファンも多く、その作品を題材にした同人誌を進呈することで説得工作はスムーズに進んだ。
ちょうどいいことに現視研には、通常の同人ショップやイベントでは手に入らない、マニアックでマイナーで普通あり得ない、あらゆる種類の同人誌の在庫が山ほどあった。
父も母も兄も同人誌作る側のオタである神田が、夏コミの際に家族の知り合いのサークルからもらってきた、別名神田ボックスと呼ばれる品々だ。
(この辺の詳しい経緯は「26人いる!」の夏コミ初日の話を参照)
その為、椎応大学の殆どの体育会系クラブやサークルに対し、そのクラブやサークルのスポーツをテーマにした漫画やアニメのエロパロ本を進呈することが出来た。
(ちなみに神田ボックスにすら在庫の無いマイナー種目のクラブには、ジャンル関係無しで部員の好きなアニメや漫画を題材にしたエロパロ同人誌を進呈した)



393 :30人いる! その207:2007/12/24(月) 17:49:47 ID:???
この日、午前中はここウェトレ場でタママの近況を説明するシーンを撮影し、午後からは部室の屋根の上でドロロの近況を説明するシーンを撮影する。
格闘家でもあるタママは、日々居候先の西澤家のトレーニングルームで鍛錬に励んでいるので、ここをロケ地に選んだのだ。
タママのシーンの撮影は、先ずマシンの重量メーターをアップで撮影し、続いてタママがマシンでウェトレに励むシーンを撮影するという手順で行なわれる。
最初に最大値に設定してあるメーターの針が上下するところを見せて、次にタママが実際にウェトレをするところを見せることで、猛特訓に励んでるという画を作ろうという訳だ。
(注釈)
油圧式のウェトレマシンは、最初に設定した重量と実際に挙げる重量が異なる。
この種のマシンは、レバー等を持ち上げたり引いたりすることで重量が次第にアップするので、動作後の重量を見て調節する。
例えば100キロ挙げようとすれば、70キロから80キロに設定するという具合だ。
(この数値は適当で、種目や機種やメーカーや使う人の体格により異なる)

タママ役のニャー子が着替えるまでの間に、先にメーターのアップの撮影をする。
先ずベンチプレス用のマシンのメーターを最大に上げる。
そしてそれを日垣とクッチーが2人ががりで持ち上げ、それによって針が上下するメーターを浅田と岸野が至近距離で撮影する。
さらにその後方3メートルほどの所に立った加藤さんと藪崎さんが、浅田と岸野が左右に退くと同時にズームでメーターを撮影する。
一緒に並んで撮ってもよかったのだが、ズーム撮影の練習を兼ねての措置だ。
日垣とクッチーが2人がかりで持ち上げたのは、マシンの最大重量が200キロだからだ。
さすがに怪力揃いの今の現視研にも、単独で200キロをベンチプレスで挙げられる者は居なかった。



394 :30人いる! その208:2007/12/24(月) 17:52:07 ID:???
メーターのアップの撮影が行なわれている間、ウェトレ場の隅っこではニャー子のタママスーツの着付けを国松が手伝っていた。
組み立て式の簡易更衣室を使ってだ。
かつて春日部さんがコスプレの際に使用し、卒業後現視研に寄贈した品だ。
2日目の騒動で懲りた荻上会長が、以前に寄贈されたことを思い出し、急遽用意したのだ。
これなら着替える場所を選ばずに済むし、高さがあるのでテントよりは着替えやすい。

「お待たせですぅ」
ちょうどメーターの撮影が終わった頃、タママスーツ姿のニャー子が現れた。
伊藤「あらま、すっかりタママ口調になってますニャー」
大野「コスプレ精神ですね」
加藤「なかなか似合うじゃない」
ニャー子「どうもですぅ」
藪崎「ほんまなり切っとるな」
国松「それじゃあニャー子さん、目と口変えますから、ちょっとじっとしてて下さい」
ニャー子「了解ですぅ」
一同「目と口?」
ベリッという音と共に、国松はタママの目と口を剥がした。
「き〜〜〜〜や〜〜〜〜!!!」
のっぺらタママに悲鳴を上げる一同。


395 :30人いる! その209:2007/12/24(月) 17:55:06 ID:???
国松「慌てないでよ」
スー「慌テルンジャネエ、どさんぴん!」
国松は片手に持っていたポシェットを開き、先ほど剥がした目と口を仕舞い込み、別の目と口を出してのっぺらタママに貼り付けた。
一同「おー!」
タママの表情が変わった。
先ほどまではクリッとした目と可愛らしい口だったが、今は血走った目と歯を剥いた口に変わっている。
嫉妬に狂った時や鍛錬中の時等に見せる顔だ。
国松「ケロン人スーツの目と口は裏がマジックテープになってて、自由に脱着出来るのよ」
言いながらポシェットから数種類の目や口を出す。
涙目や釣り目などが見える。
荻上「なるほど、これでケロロたちの表情を作ろうという訳ね」
国松「そういうことです」
浅田「目と口は飾りでありますってことだね」
豪田「中の人の本物の目はどこにあるの?」
国松「(タママの目と鼻の間の辺りを指差し)この辺になるわ」
豪田「(国松が指差した所に目を近づけ)あっほんとだ」
国松「そこだけスポンジ薄くして、メッシュ地で仕上げてあるのよ」
豪田「これなら中の人の目、外からじゃかなり分かりにくいわね」
有吉「獣神サンダーライガーとかストロングマシーンのマスクみたいなもんだね」
(注釈)
有吉が名前を挙げたのは、いずれも覆面レスラー。
マスクがメッシュ地で出来ていて、従来の覆面レスラーのように中の人の目が外からは見えない。


396 :30人いる! その210:2007/12/24(月) 17:58:44 ID:???
いよいよベンチプレスのマシンでトレーニングをするシーンの撮影に入る。
タママスーツのニャー子がマシンのベンチに寝て、レバーを握る。
マシンのウェイトは最低まで下げてあるので油圧による負荷は無く、機械本体のレバーやパイプ等の部品そのものの、最小限の分の負荷しか掛からない。
加藤さんと藪崎さんは、タママの脚の方からカメラを構える。
そして浅田と岸野は、マシンを挟むように配置された、2つの大型の脚立の間に渡された、細長い金属板の足場の上からカメラを構える。
ベンチプレスをするタママを真上から撮ろうという訳だ。
ちなみにこの脚立と足場の板は、サークル自治会から借りた。
学祭等のイベントの際の、飾り付け等の作業用に持っていたのだ。
伊藤「ではシーン9、西澤家トレーニングルームの本番を始めますニャー」
恵子「3、2、1、用意スタート!」

10分後、ニャー子はへばっていた。
ストレッチ用にマットの敷かれたスペースで、着ぐるみを脱いで寝そべっていた。
その傍らでは、伊藤が下敷きであおいであげていた。
ニャー子はビキニ姿だった。
しかも黒のビキニだ。
淫靡な大人の下着を連想させる黒のビキニ姿に、男子会員たちはドギマギしつつもチラチラ見ていた。


397 :30人いる! その211:2007/12/24(月) 18:00:16 ID:???
撮影は1発オッケーだったが、その間ニャー子は5回レバーを押し上げた。
全身を震わせながら、思い切り「ふんぬ〜〜〜!!!」と気合いを入れ、なかなかの名演技であった。
藪崎「何や、えらいへばっとんな。たかが5回やそこら挙げたぐらいで」
ニャー子「何か凄く重かったですニャー、あのマシンのレバー」
藪崎「またまた、男の前やからって、そないか弱いふりせんでもええやろ」
巴「着ぐるみのせいじゃないですか。ニャー子さん、今日が着ぐるみでの演技初めてだし」
その時、クッチーが奇声を上げた。
「にょっ?!」
一同が見ると、先程までニャー子が寝ていたベンチプレスのマシンに、クッチーが寝てレバーを挙げていた。
神田「どしたんですか、クッチー先輩?」
朽木「いやね、えらくニャー子ちゃんが重そうに挙げてたんで、試しに挙げてみたらけっこうあったのよ、ウェイトが」
日垣「どれどれ」
傍らに立っていた日垣がレバーを持ち上げてみる。
日垣「あれっ?確かに重いですね」
今度は岸野が近付き、レバーを上げる。
何か考えてるような表情で、数回上げ下げする。



398 :30人いる! 休憩:2007/12/24(月) 18:02:18 ID:???
ここで1回休憩に入ります。
続きは1時間ばかし後に。
ではまた。

399 :マロン名無しさん:2007/12/24(月) 18:13:55 ID:???
昔の長編映画(十戒とかベンハーとか)は、途中に休憩が挟まっていたっけか。
なんかソレを思い出した。
SSサンタ乙!

400 :30人いる! 再開:2007/12/24(月) 19:07:50 ID:???
アホなSSサタンが帰ってきました。
再び7レスほど行きます。

401 :30人いる! その212:2007/12/24(月) 19:09:54 ID:???
岸野「分かった。錆びてるよ、このマシン」
一同「えっ?」
岸野「多分このマシン、長いこと油差してないね。マシンのきしむ音で分かった」
朽木「なるほど、それでこの重さなのか」
日垣「どれぐらいありそうですか?」
朽木「正確には分からんけど、多分少なくとも30キロぐらいはありそうだのう」
一同「30キロ?!」
ニャー子「道理で重い訳ですニャー」
伊藤「えらい災難だったね、ニャー子ちゃん」
国松「まあおかげでいい画が撮れたんだし、怪我の功名ね」
一同『鬼だよ国松さん(千里)…』
国松「ですよね、監督?」
それには応えず、恵子は何やら考え込んでいた。
国松「監督?」
恵子「いやさあ、せっかくこれだけの設備が整ってるんだし、まだ時間が余ってるし、何かやらないともったいないかなと思ってさ」
国松「何か?」
沢田「ひょっとして監督、トレーニングシーンをもうちょっと撮り足したいと?」
恵子「それでどういうのがいいかなと思ってさ」
巴「マシンはあと5種類ありますから、それ順にやってけばどうです?」
浅田「でもそれだと画的には単調になりそうだね」
豪田「かと言って、バーベルやダンベルだと、ニャー子さん使える重量だと迫力無いし」



402 :30人いる! その213:2007/12/24(月) 19:11:23 ID:???
その時国松の頭の中でピンッという音が鳴った。
国松「日垣君、ちょっとサンドバッグ殴ってみてくれる?」
日垣「俺?」
不審に思いつつも応じる日垣。
国松は日垣の左側に回り、その様子を両手の親指と人差し指で作った四角越しに凝視する。
日垣は最近クッチーから空手を習い始めていた。
撮影の後半のクライマックスである、ベムとアルの肉弾戦の為の基礎を作って置こうという訳だ。
その成果があってか、日垣が殴るサンドバッグはそれなりの音を立てて揺れた。
国松「ストップ。そんじゃあ次はそこから10センチか20センチぐらい、パンチが当たらない距離で打ってみて」
言われた通りにする日垣。
今度はパンチが当たらない距離をとったから、当然サンドバッグは動かない。
国松はそれを真剣な顔で見つめる。
国松「ストップ。クッチー先輩」
朽木「にょっ?」
国松「お手数ですが、日垣君の右斜め前45度の辺りに立って頂けますか?」
朽木「(言われた通りにして)ここでいいかのう」
国松「そこから左フックを打ってみて下さい」
朽木「?こうかな?」
言われた通りに左フックを打つクッチー。
日垣の方が体格と筋力はあるが、そこは一日の長でクッチーのフックの方が威力があり、先程よりも大きくサンドバッグが揺れる。
またも国松はそれを真剣な顔で見つめる。



403 :30人いる! その214:2007/12/24(月) 19:13:09 ID:???
恵子「何やってるんだ、千里?」
国松「監督がお望みの画が撮れるかも知れませんよ」
恵子「どうやるんだ?」
国松「ニャー子さんにパンチが届かず、しかもパンチの手元の見えない距離で、サンドバッグに向かってパンチを打ってもらうんです」
有吉「分かった!その横でカメラに入らない角度から朽木先輩にサンドバッグ殴ってもらって、タママがサンドバッグ殴って揺らしてる画を撮ろうって訳だね」
国松「そういうこと」
巴「でもニャー子さん、パンチ打てるの?」
ニャー子「私ボクシングや空手はやったことないですニャー」
国松「そこでクッチー先輩、今からニャー子さんにパンチの打ち方を教えてあげて下さい。基本のワンツーだけで構わないですから」
朽木「それはいいけど、今からだと形だけは何とか様にはなっても、スピードまでは無理だにょー」
国松「形だけ何とかして頂ければそれでいいです。カメラの回転を低速で撮影すれば、標準で再生した時には高速パンチになりますから。いいですか、監督?」
恵子「わーった、それで行こう。クッチー、それで頼む」
朽木「アイアイサー!」

こうしてジムの片隅で、クッチーとニャー子の空手特訓が始まった。
ひょろ長い馬面の男が黒いビキニの猫顔美少女(厳密には2年生だから今年推定20歳だが)に左ジャブからの右ストレートという基本のワンツーを教える。
そんな奇妙な光景が十数分続き、ニャー子は形だけは何とかそれらしくパンチを打てるようになった。
恵子「よーし、そんじゃあ本番行ってみようか」


404 :30人いる! その215:2007/12/24(月) 19:15:19 ID:???
それから約30分後、再びニャー子はへばっていた。
先程よりへばり方がひどい。
左右交互に10発ストレートを打つ、結局ニャー子はそれを10回繰り返す破目になった。
最初の3回はNGだった。
クッチーのパンチとタイミングがずれたり、クッチーがパンチを強く打ち過ぎた為にサンドバッグが揺れ過ぎて、クッチーが映ってしまったりした為だ。
4回目でようやくベストな画が撮れた。
だがそこで恵子が新たな提案をした。
「なあクッチー、ちょっとローキック蹴ってみてくれない?」
朽木「こうですかのう?」
クッチーはローキックを放った。
サンドバッグがくの字に曲がり、先程までのパンチよりも大きく揺れた。
恵子「よし、もう1回撮ろう」
一同「えっ?」
恵子「ニャー子さん、わりいけどもう1回頼むわ。そんで最後の1発打つ時、大振りでいいから思い切り打ってくれや」
ニャー子「分かりましたニャー」
朽木「なるほど、それに合わせてローを放って、タママのラストパンチでサンドバッグ大揺れという画を作ろうという訳ですな」
恵子「そういうことだ」



405 :30人いる! その216:2007/12/24(月) 19:17:43 ID:???
ここで再び3回NGとなった。
最後の1発の際、クッチー(正確にはその蹴り足)がどうしても映ってしまうからだ。
考え込む一同。
そこで有吉がアイディアを出した。
「朽木先輩、左の回し蹴りを出しながら右へ跳ぶように出来ますか?」
朽木「(しばし考え)こういう感じかのう?」
クッチーは右横へ横っ飛びしつつ、左足で回し蹴りを放った。
形はなかなか様になっているが、今ひとつ蹴り足に体重が乗りにくいらしく、サンドバッグの揺れは先程よりも小さい。
有吉はストレッチ用のマットをクッチーの右側に持ってきた。
有吉「このマットに向かって飛び込むみたいな感じで、もう1回お願いします」
朽木「こうかな?」
サッカーのゴールキーパーのように横っ飛びしつつ、クッチーは左の蹴りを放った。
今度は普通に回し蹴りを放った時と同様にサンドバッグが大きく揺れ、しかもクッチーの姿はちゃんとカメラの死角に入った。
感心する一同。
豪田「今クッチー先輩にやってもらったのって、もしかしてプロレス技なの?」
有吉「昔木村健吾ってプロレスラーが使ってた、稲妻レッグラリアートって技だよ」
恵子「よし、それで行こう!」
こうして再び撮影が始まった。
ニャー子がパンチ10連発し、最後の1発に合わせてクッチーがレッグラリアートでサンドバッグを大きく揺らすという手順だ。
結局これも最初の2回はタイミングが合わず、3回目でようやくオッケーとなった。


406 :30人いる! その217:2007/12/24(月) 19:19:49 ID:???
こうして都合10回にも及ぶパンチ10連発で、すっかりニャー子はまいっていた。
伊藤「大丈夫、ニャー子ちゃん?」
ニャー子「(息を乱し)呼吸が…苦しいニャー」
アンジェラ「HEYイトー、そういう時は酸素を直接送り込めばいいあるよ」
伊藤「(赤面し)そっ、それってもしや?」
アンジェラ「てゆうか人工呼吸?」
浅田「この場合はあんまし関係無いと思うけど」
藪崎「言わしといたり。もはやあれアンジェラの持ちネタやから」
だがニャー子はマジ顔で答えた。
「人工呼吸がファーストキスは嫌ですニャー」
恵子「何だお前ら、まだしてなかったのか?」
赤面する猫カップル。
恵子「よっしゃいい機会だ。伊藤、この際ニャー子さんに初めてのチューやったれ!」
一同「え〜〜〜!!!!!!!!」
見つめ合う猫カップル。
伊藤「いい?」
ニャー子「先にちゃんと告ってニャー」
言いながら四つん這いの体勢で、上目使いに伊藤を見つめるニャー子。
その萌え表情と萌えポーズ、それに黒ビキニと汗のにおいが伊藤の獣性に火を点けた。
「大好きだよニャー子ちゃん!」
そう叫ぶや伊藤、ニャー子を押し倒して情熱的なキスをした。



407 :30人いる! その218:2007/12/24(月) 19:22:01 ID:???
現視研一同はそれを見て、赤面で固まっていた。
キス未経験の1年生たちはもちろん、経験者の大野さんや荻上会長までもが固まっていた。
アンジェラだけはニコニコしていた。
いつもなら「勝ったと思うな!」とかツッコむ藪崎さんも、今回ばかりは声も出ない。
豪田「伊藤君って、案外情熱的なのね…」
巴「いやもうあれ、完全にさかってない?」
巴の言う通り、伊藤のニャー子を抱いた手や下半身は、妖しい動きを見せ始めていた。
そんな中、意外と早く立ち直ったのは荻上会長だった。
2人に近付くと、伊藤の首根っこをつまんで引っ張り上げる。
細腕に似合わず、荻上会長には意外と握力があり、中でもピンチ力(親指と人差し指でつまむ力)はずば抜けていた。
(「26人いる!」の2日目の話参照)
その荻上会長に首根っこをつままれてはひとたまりも無い。
伊藤「痛たたたたたたた!」
荻上「気持ちは分かるけど、その先は2人っきりになってからにしなさい!」
伊藤「ごめんなさいニャー」
ニャー子「あのう、私はこのまま続きしてくれてもいいですニャー」
赤面する一同。
荻上「(赤面し)絶対ダメです!」



408 :30人いる! 休憩:2007/12/24(月) 19:24:31 ID:???
ここで再び休憩に入ります。
30分か1時間ぐらい後に再開します。
では。

409 :30人いる! 再開:2007/12/24(月) 20:06:06 ID:???
ただ今戻りました。
3回目の投下行きます。
7レスです。

410 :30人いる! その219:2007/12/24(月) 20:09:59 ID:???
その時一同は、背後に異様な気配を感じて振り向いた。
そこには黒いオーラを放つタママの姿があった。
一同「タママ?」
浅田「誰?」
周囲を見渡して、ケロロ小隊役の小柄女子5人を確認する一同。
荻上会長、ニャー子、国松、沢田、残るはただ1人だ。
一同「スーちゃん?」
国松「確かにスーちゃんだわ、見て」
タママの足元を指差す国松。
その指先には、先程までスーが着ていた服が脱ぎ散らかしてあった。
スー「(ダークサイド版の小桜エツ子似の声で)イイナア、ウラヤマシイナア、伊藤君ダケズルイデスゥ、僕モシタイデスゥ」
スーの放つ黒い電波は、普段大人しい男子会員たちの心の奥底に嫉妬の炎を灯した。
有吉「確かに伊藤君ばっかずるいよねえ」
浅田「だよね」
岸野「俺たちだってキスしたいよねえ」
日垣「でもニャー子さんにする訳にも行かないしねえ」
豪田「うわあ男の子たちからも黒いオーラが…」
止めようと荻上会長が駆け寄ろうとしたその時、クッチーがトンデモ提案をした。
「ここはひとつ穏便に、伊藤君に幸せをお裾分けしてもらいましょう」
日垣「でもどうやってですか?」
朽木「今伊藤君にキスしたら、ニャー子ちゃんと間接キスしたことになるにょー」
一同「え〜〜〜?!!!」



411 :30人いる! その220:2007/12/24(月) 20:14:04 ID:???
男子会員たちの目の色が変わった。
有吉「いいですね、それ」
浅田「まあ次善の策ってやつですね」
一斉に妖しい目を向けて、伊藤に迫る男子一同。
伊藤「ひっ?」
必死で逃げつつ、伊藤は女子会員たちに救いを求めようとした。
だがそれは無駄だった。
女子たちは全員赤面しつつ、心ここにあらずの状態だった。
伊藤「全員ワープしてるニャー!」
元々腐女子だった者はもちろん、国松や神田までもがワープしている。
ふと振り返ると、ニャー子までもがワープしていた。
伊藤「ニャー子ちゃんまで…そうだ!腐女子以前にオタクですらない監督なら!」
恵子を目で探した伊藤、ステンと派手にずっこけた。
今や半分浅田の愛機と化している、ビデオカメラDVX100を恵子が構えていたからだ。
伊藤「何撮ってるんすか、監督?!」
恵子「あっこれか?この前浅田にカメラの使い方教えてもらってさあ」
伊藤「いや、そうじゃなくて…」
恵子「安心しろ。お前とニャー子さんのキスはちゃんと撮ってやったから。後は男子とのチューも撮ったらメイキング映像の方は完璧だ」
呆然としたところで、伊藤は男子たちに取り押さえられた。
四肢を浅田と岸野と日垣とクッチーにガッチリと捕らえられ、そこへ有吉が迫る。



412 :30人いる! その221:2007/12/24(月) 20:15:59 ID:???
伊藤「待って!有吉君!落ち着いて!」
スータママの毒電波にプラスして、女子たちのワープ電波をも受信してか、有吉は妖しげな台詞を吐いた。
「さあおとなしく観念なさい。僕の子猫ちゃん」
妖しい目をした有吉の唇が、伊藤の唇に迫った。
伊藤「いやあああああああ!!!!!!!!!」

そこへ闖入者があった。
「おおい、やっとるかあ?社長からの差し入れ持って来てやったぞ!」
両手に大きなレジ袋をぶら下げた斑目である。
その声に殆どの者が我に返り、ウェトレ場の時間が数秒間停止した。
(荻上会長だけは意識が銀河を離れてイスカンダルを通過してしまっていたので、結局この騒動が収束するまで帰還出来なかった)
斑目「(思わず両手のレジ袋から手を離して赤面し)アッ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
1年男子一同「(赤面し斑目に呼応するように)アッ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
有吉「って、違う!違いますよ斑目さん!」
伊藤「そうですニャー、誤解ですニャー!」
斑目「前々から怪しいと思ってたけど…」
こける女子一同。
大野「怪しいと思ってたんだ、斑目さん…」
豪田「すっかりシゲさん、うちらの電波にやられたみたいですね」
朽木「いやだから斑目さん、これには深い事情が…」
斑目「くっ来るな!いやあああああああ!!!!!!!!」
斑目はウェトレ場から猛烈なスピードで走り去った。



413 :30人いる! その222:2007/12/24(月) 20:19:43 ID:???
再び居酒屋。
巴「まあ結局、私ら女子がシゲさん追いかけて、何とか事情説明して分かってもらえたけど…」
岸野「でも斑目先輩、あれから俺ら男子に対して、何か腰が引けてるんだよな」
浅田「確かに。男子と2人きりになったら急いで弁当食べて帰っちゃうもんな」
伊藤「あれは多分、まだ疑ってますニャー」
日垣「それにしてもスーちゃんの毒電波は凄かったよな。今思えば何でああいうことになったのか、自分でも説明出来ないし」
台場「そう言えばスーちゃん、みんなが伊藤君とニャー子さんに注目してたせいとは言え、よく簡易更衣室にも行かずに着替えられたわね」
豪田「ほんと、全然気付かなかったわ」
国松「まあ背中のチャックは開いてたけど、確かに物凄い早業の着替えだったわね。ダメよスーちゃん、普通の下着しか着てない日に人前で着替えちゃ」
スーは自分の荷物から、クルルのスーツを取り出した。
国松「スーちゃん?」
スー「(政宗一成似の声で)すざんぬ・ほぷきんすガけろん人すーつヲ蒸着スルたいむハ、ワズカ0,05秒ニ過ギナイ!デハ蒸着ぷろせすヲモウ1度見テミヨウ!」
言いながら脱ぎかけるスー。
一同「やらんでいい!」



414 :30人いる! その223:2007/12/24(月) 20:22:18 ID:???
3日目の午後は、ドロロの近況を説明するシーンの撮影だ。
忍者キャラで単独行動の多いドロロは、1人で屋根の上に居ることが多い。
今回はそれを再現して、ドロロは相変わらずであることを示そうという訳だ。
ロケ地は部室の屋根の上である。
屋上は殆ど現視研の敷地も同然だから長居出来る。
それに部室のプレハブは高さ3メートルかそこいらしかないし、屋根が平べったく通常の日本家屋のように傾いていないので安全だ。

とは言え、当初さすがに沢田はこの撮影を渋った。
屋根の上が好きな女の子なんて少数派だろうから無理も無い。
そこで粘り強い説得をしたのは国松だった。
プロットの段階から国松は、ドロロ絡みでこういうシーンの撮影を予想していた。
そこでドロロのスーツだけは、特別なギミックを仕込んだ。
ラペリング(ロープで降下するテクニックのこと)用のベルトをスーツに仕込み、スーツのあちこちにD字金具(ラペリング用のロープを通す金具)を接続出来るようにした。
ここにロープやピアノ線を繋いで命綱にしようという訳だ。
そういったギミックに加えて、部室のプレハブの周囲には、陸上部から借りたハイジャン用のマット等、様々なマット状の物が置かれた。
豪田作の野外ロケ用の岩型のクッション、その材料用にあちこちから集めた古い布団やクッション、それにみんなの部屋から持ち寄った布団だ。
これらの事実を並べ立てることで、ようやく沢田はドロロスーツで屋根の上に立つ決心をした。


415 :30人いる! その224:2007/12/24(月) 20:26:24 ID:???
現視研一行は本格的に撮影準備にかかった。
先ずドロロスーツ姿の沢田が部室の屋根のど真ん中に立ち、その足元に命綱代わりのピアノ線を張り巡らしていく。
ちなみにピアノ線には、屋根と似た色のペンキが塗られていた。
幸いプレハブの屋根には、四方に突き出た金具があった。
その金具と、ドロロの腰の後の刀の下に突き出たD字金具、それに足首からアンクレットのように突き出た小型のD字金具をピアノ線で繋ぐのだ。
結果ドロロスーツの沢田は、十数本のピアノ線で四方から絡め取られ、まるで蜘蛛の巣のど真ん中に落ちた虫のような格好になった。

一方撮影スタッフは、部室の前に先程ウェトレ場で使った足場をセッティングしていた。
先ず近くの工場から借りて来たパレット(フォークリフトで積み下ろしをする為に荷物を置く台)を数枚積んで、ロープでずれないように固定する。
そしてその上に脚立を置いて同様に固定し、2つの脚立の間に足場用の細長い金属板を渡す。
脚立だけでは高さが足りないから、パレットを土台に底上げしようという訳だ。
藪崎さんと加藤さんは下からあおりの画を撮影し、足場の上からは浅田と岸野が水平位置で撮影する。
足場は狭いので、足首と足場を短いロープで繋ぐ。
これなら最悪落ちても逆さ吊りで済む。
さらに少し離れた位置には、同様にパレットで作った足場に別の脚立を置き、こちらにはレフ板を持った豪田が登る。
ちなみに今回の録音は台場が務めた。
足場が足りないので、ガンマイクを竿の先に付けて屋根の上に向ける。
ある程度遠距離での録音は可能だが、屋根の上だと角度が有り過ぎるので、念の為の措置だ。


416 :30人いる! その225:2007/12/24(月) 20:29:38 ID:???
残ったスタッフの内、特に体力に秀でたクッチー、日垣、アンジェラ、巴の4人は、2人1組でハンモックを持ち、部室の周囲で待機する。
万が一沢田が落ちた時、クッションに直に落ちるのではなく、ハンモックで受け止めることで衝撃を和らげる為だ。
ハンモックは浅田と岸野の私物だ。
共に約200キロの重量に耐えられる代物なので、体重40キロかそこらの沢田なら、落下の衝撃を考慮しても何とか受け止められるはずだ。

撮影はセッティングだけで意外と時間がかかった。
その為セッティング待ちの間、沢田は2回もドロロスーツを屋根の上で脱いで休憩する破目になった。
ドロロのキャラに合わせてか沢田のビキニの色は青で、黒ビキニのニャー子に比べれば控えめな印象だった。
午後からの撮影なので、屋根の上はかなり暑い。
比較的身軽な国松やスーや荻上会長が、梯子で登って来て飲み物を運んだり、下敷きで扇いでくれる。
沢田は日傘を差して、それらのサービスを受けながら出番を待った。

「それではシーン10、屋根の上の本番を始めますニャー」
また別の脚立を使って、撮影用の足場の前に立ってカチンコを構えた伊藤が宣言する。
恵子「3、2、1、用意スタート!」
これだけの手間隙をかけたにも関わらず、このシーンでのドロロの演技は、屋根の真ん中で両手で印を結んで立つ、ただそれだけだった。
(ちなみに目は、瞑想中を思わせるまぶたを閉じたバージョンの物だ)



417 :30人いる! 休憩:2007/12/24(月) 20:33:32 ID:???
たびたびすんません。
もう1回だけ休憩行きます。
続きは1時間ぐらい後に。
次回の投下で本日はラストです。

418 :30人いる! 再開:2007/12/24(月) 21:41:39 ID:???
ただ今帰りました。
4回目の投下行きます。
最後は6レスです。

419 :30人いる! その226:2007/12/24(月) 21:44:53 ID:???
撮影自体は1発オッケーで終わった。
撮影前に危惧していた屋上を取り囲む金網も、ドロロに焦点を合わせることで見えにくくなっていた。
(ビデオ撮りの分で撮影後確認した)
念の為に8ミリの方は、水平位置から撮る際になるべく空をカメラの枠から外して、屋根とドロロしか映らないようにも撮ってあるから大丈夫だろう。
だがまた別の脚立に登って、てっぺんをディレクターズチェア代わりにしていた恵子は、何か不満そうだった。
国松「あのう監督、撤収していいですか?」
恵子「うーん…ちょっと待て、そのまま待機だ。屋根の上の彩もそのまま休憩させとけ」

数分後、恵子は答えを出した。
「彩、糸付いたまんま歩けるか?」
沢田「えーと(そろそろと歩き)1メートルぐらいなら」
恵子「うーん…千里、彩に付いてる糸、カメラの居る方だけ外せ」
国松「えっ?」
沢田「え〜?!」
恵子「それからさあ、その分切ったり繋いだりしてさあ、彩がこっちがわの屋根の縁まで来れるようにしてくれや」
沢田「え〜?!」



420 :30人いる! その227:2007/12/24(月) 21:47:31 ID:???
国松「監督、ドロロを屋根の縁ギリギリで撮影するお積りですか?」
恵子「いやあ、さっき浅田のカメラで再生してもらって見てみたんだけど、屋根が平たいせいか、何か忍者が屋根の上に居るっていう感じしないんだよな」
加藤「つまり緊張感と言うか、迫力と言うか、ハラハラ感と言うか、そういうのが画に欲しい訳ね」
珍しく加藤さんが恵子の心情を代弁した。
恵子「そういうことです」
沢田「そんな〜監督〜無理ですよ〜!!!」
恵子「心配すんな、安全対策はバッチリだから。おーい網係、こっちの屋根の下に集まれ!手の空いたもんはクッションの類い、全部こっちの下に集めろ!」

再び20分ほどの時間をかけて、ピアノ線が張り直された。
撮影用の足場も少し離される。
部室のプレハブの上から2分の1程度をドロロと共にカメラの枠に入れる為だ。
加藤さんと藪崎さんは、先程同様屋上の床からあおりのアングルで撮影する。
元々はドロロの立つ位置の高さの演出の為だったが、今度はそれがかなり活きそうだ。
そして遂に、部室の屋根の縁ギリギリの位置にドロロが立ち、再び撮影開始となった。


421 :30人いる! その228:2007/12/24(月) 21:49:54 ID:???
カメラが回り出して数秒後、アクシデントが発生した。
何度も水分を取り、ビキニ姿で汗を拭いたり風を浴びたりしたにも関わらず、長いこと屋根の上で待機していたせいで軽い目眩が起こり、沢田は足を滑らせた。
一同「落ちた〜〜〜〜!!!!!!!」
走るハンモック組。
他の者も駆け寄る。
幸い沢田はピアノ線の命綱により落下は免れたが、屋根の縁から逆さ吊りになった。
沢田「ひええええええ!!!!!!助けてええええええ!!!!!!」
ジタバタと動く沢田。
それを恵子の一喝が止めた。
「動くな彩!(カメラマンたちに)このままカメラ回せ」
言うなり沢田に駆け寄る。
藪崎「ええんかいな、このまま撮り続けて。ひっ?」
ふと見ると浅田と岸野の目が輝き、加藤さんも妖しいオーラを放っていた。
加藤「どうやら恵子さん、カメラマンとしての彼らの本能に火を点けてしまってみたいね」
藪崎「どういうことです?」
加藤「アクシデントの際に『このままカメラ回せ』、こう言われて燃えないならカメラマン失格よ」
言い終わると加藤さん、既にカメラを構えてる浅田と岸野に続いてカメラを構えた。
藪崎「そういう問題やないと思うんですけど…」
言いつつ藪崎さんもカメラを構えた。



422 :30人いる! その229:2007/12/24(月) 21:53:17 ID:???
逆さ吊りの沢田に近付いた恵子、テキパキと指示を出した。
「とにかく彩、動くな。動いたら糸切れちまうし、助け上げることも出来ん。(沢田の足元を見上げ)先ずは足の裏を屋根の縁にくっつけて、体揺らさないようにしろ」
沢田「こっ、こうですか?」
言われた通りに、沢田は足の裏を屋根の縁の軒下の部分にくっつけた。
結果沢田のドロロは、蝙蝠のように軒下に逆さまにぶら下がった形になった。
恵子「よし両足くっけて揃えろ。そんで両手をこう(両手の人差し指を立てて、右手で左手の人差し指を握り)…何だ…何て言ったっけ、さっきやってたの?」
国松「印を結ぶ、ですか?」
恵子「そう、それだ。彩それやれ」
沢田「どうしてですか?」
恵子「精神統一した方が落ち着くだろ。(沢田が印を結ぶのを確認して)加藤さんとヤブさんは彩のすぐ下、浅田と岸野はそこから遠い目と近い目と両方撮ってくれ」
つまり浅田と岸野には、ロングショットとズームの両方で撮影しろと命じたのだ。
カメラを回したまま、4人は言われた通りの位置に移動した。
沢田「え〜〜〜???!!!」
恵子「大丈夫、すぐ終わるから!」

約3分後、恵子はカットの宣言をした。
この間カメラマンは、遠くからのロングショットや脚立に乗っての至近距離からの撮影やあおり等、あらゆるアングルから撮影した。
スタッフはようやく沢田の救出作業にかかる。
ハンモック組4人で沢田を抱えつつ、上から国松が1本ずつ慎重にピアノ線を切っていく。
そして降ろしてドロロスーツを脱がせてみると、沢田は気絶していた。



423 :30人いる! その230:2007/12/24(月) 21:57:01 ID:???
再び居酒屋。
国松「で、結局加藤さんに活入れてもらって復活したのよね」
神田「そんで起きた時の第一声が…」
スー「(草尾毅似の涙声で)ヒドイヨ〜!」
沢田「やめてよ、もう」
自分から振った話題にも関わらず、照れから沢田は逃げにかかる。
豪田「でもあの後の監督のフォロー、なかなか良かったんじゃない?」
有吉「そうそう、沢田さん泣きやむまで抱っこしてくれてたもんね」
沢田「(赤面して)やめてったら、恥ずかしい!」
巴「そんなに照れないの!」
言いつつ沢田をハグする。
豪田「私もまぜて〜」
2人にサンドイッチでハグされた沢田がウググ状態になったこともあり、話は続いた。
浅田「まあ何と言うか恵子監督、役者に無茶やらすけどキッチリ借金は返す、そういう人になりつつあるね」
日垣「それ何かの引用っぽいね」
浅田「杉作J太郎って漫画家が、井上梅次って映画監督について書いたコメントの引用だよ」
国松「どんな人なの、その井上さんって監督さん?」
浅田「例えば役者に変な芝居させるかわりに死に方はかっこよく撮るみたいな、そういう人だったらしいよ」



424 :30人いる! その231:2007/12/24(月) 22:00:10 ID:???
国松「それってまさに、あの時の監督じゃない!」
一同「えっ?」
国松「だって不可抗力とは言え、彩逆さ吊りにして無茶したけど、その代わりにかっこいい画が撮れたし、ちゃんと精神的にフォローもしてるし」
台場「それにそれがそのまま、ドロロの役作りにもなったしね」
一同「役作り?」
台場「だってドロロだって、ケロロにひどい目に遭わされて、その怪我の功名でアサシン(ケロン軍精鋭部隊)入れたんだし、『友だち』のひと言でひどい目チャラにしちゃうし」
神田「確かにあの日の彩の体験って、まんまドロロの生き様そのものね」
ようやくハグを解いた巴と豪田も沢田を諭す。
豪田「という訳で、この間のあれは結果オーライということで」
巴「でなきゃあんなベストショット、なかなか撮れるもんじゃないわよ」
沢田「そっ、そうかな」
まんざらでもない顔で納得する沢田。
国松「よっしゃそれじゃ飲み直しだ!彩、乾杯しよ!」
言いながら国松はボトルを2本持って来て、1本を沢田に渡した。
ボトルの中身は、アルコール濃度50パーセントを越えるバーボンウィスキー、ワイルドターキーだった。
「グラップラー刃牙」の劇中で、身長2メートル近い巨漢の喧嘩やくざ花山薫が、喧嘩の直前直後に一気飲みしてることで有名な酒だ。
日垣「ちょっ、国松さんそれって…」
国松「そんじゃあ乾杯ね」
そう言ってボトルを持ち上げる。
一同「やめれ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」
さすがに止める一同だった。



425 :30人いる! 次回予告:2007/12/24(月) 22:22:43 ID:???
以上です。

ここまでのところ、本筋とあまり関係無いシーンにばかり異様に力入れ過ぎの現視研一行。
いよいよ撮影開始4日目、遂に本筋に突入…
と思いきや、またもや本筋でないところに無駄に力を入れた撮影が展開される。
そろそろ加速しないと年内に終わらんぞ、「30人いる!」!
(多分終わらないけど)

お返事も少々。
>>367
今回も斑目オチに使っちゃいました。
楽しんで頂けたでしょうか?
>>370
携帯使ってですかね?
こんな字数多いSS読んでたら目悪くなりそう。
ご自愛下さい。
>>399
休憩3回も入れちゃって、たかがバカのSSが「人間の条件」(三部作ぐらいに分かれた物凄く長い映画。未見だけど)みたいな大事になってしまいました。
それに見合うだけ楽しんで頂けましたでしょうか?

さて、果たしてこのSS、ちゃんとクリスマスプレゼントになりましたでしょうか?
それともただ長いだけの、クルシミマスプレゼントになっちゃったでしょうか?
年内もう1回か2回ぐらいは投下するつもりです。
お邪魔しました。



426 :マロン名無しさん:2007/12/25(火) 06:58:53 ID:???
GJ!!

しかし、みんな楽しそうだなぁw

427 :マロン名無しさん:2007/12/26(水) 20:25:55 ID:???
ほしゅ

428 :マロン名無しさん:2007/12/27(木) 23:04:38 ID:???
HOSHU

429 :マロン名無しさん:2007/12/28(金) 22:39:34 ID:???
なかなか新作が来ないな。
誰か執筆中の人いる?

430 :マロン名無しさん:2007/12/29(土) 08:07:02 ID:???
ノシ
なんか当分完成しなさそうなんで深く静かに潜行中。
正月休みのうちにくじアン2巻買って燃料くべてくるさ。

>いる!の人
ちょっと忙しくて、集中して読んでるうちに感想レスる機会を逸しております。
あなたの作品はなんつーか、書き手と読み手のガチ勝負だわw
とりあえずエロシーンGJwwwこの休みを利用してまとめて読み返そうかな。
これも燃料だ。

431 :30人いる!の人:2007/12/30(日) 13:04:19 ID:???
すんません、いろいろ忙しくて年内の投下は難しそうです。
保守も兼ねて早々にお詫びします。
幸いと言うか生憎と言うか、正月休みは異様に長いので、この間原稿書き溜めようと思います。
あとお返事も。

>>426
忙しくも楽しい荻上会長奮戦記という、当初の企画意図だけはかろうじて堅持出来ていると思います、この話。
もっともここまでの話、荻会長の出番はチト少ないですが、後半に見せ場はちゃんと用意してますので、何とぞよしなに。
>>430
潜水艦での任務、ご苦労様です。
ガチ勝負っすか、俺の話って。
こりゃ手は抜けんな、頑張ります。
エロシーンってほどだったかな、あのアッーなシーン…
(いや多分そっちじゃないって!)






432 :30人いる!の人:2007/12/30(日) 13:05:26 ID:???
いかん途中で送ってしまった。
もうひと言あったのに。

それでは皆様、良いお年を。

433 :マロン名無しさん:2007/12/31(月) 23:13:20 ID:???
多分今年最後の保守

434 :マロン名無しさん:2007/12/31(月) 23:21:09 ID:???
>>433
ふっ、甘いな。俺が今年最後の保守。

435 :マロン名無しさん:2007/12/31(月) 23:22:06 ID:???
>>434
よいお年を

436 :マロン名無しさん:2008/01/01(火) 00:07:35 ID:???
あけましておめでとうございます
今年初の保守

437 :マロン名無しさん:2008/01/03(木) 18:39:43 ID:???
三箇日最後の保守。
ハルコネタはもう見られないのだろうか。

438 :30人いる! 前書き:2008/01/03(木) 21:06:56 ID:???
あけましておめでとうございます。
新年早々、バカが帰って来ました。
この寒いのに、今回も残暑の中での映画撮影話です。
今回は19レスですが、3回に分けて投下しようと思います。
先ずは7レス行きます。

439 :30人いる! その232:2008/01/03(木) 21:10:22 ID:???
居酒屋での現視研1年生たちの撮影10日目総括会議(と言うか飲み会)は続いた。
ちなみに沢田は飲み過ぎでダウンして寝ていた。
神田「こうして振り返ってみると、わずか3日だけでもいろいろあったわね」
岸野「でもその割には、その後の今日までも含めて、撮影あまり進んでないような」
浅田「確かに。本編に使う分より、捨てカットの分の方が多い気がするよ」
台場「そこはそれ、メイキング映像に使えるし」
岸野「今んとこ、本編よりメイキングの方がフィルムの尺取ってるんだけど」
豪田「マジ?」
国松「大丈夫よ。まだ10日目じゃない。これからよ」
スー「(西川のりお似の声で)コレカラジャ〜!」
アンジェラ「まあまあ。無駄なカットが多いのは、いい映画を作る必要最低条件あるよ」
巴「そういう問題じゃないと思うけど」
神田「でも言えてるかも。昔「まんが道」で読んだんだけど、手塚治虫先生の『来るべき世界』って、単行本は400ページだけど実際に描いた原稿は1000ページあったそうよ」
(注)ウィキペディアによれば、単行本が300ページ、原稿が700ページとなっている。

固まる一同。
神田「漫画の神様が400ページの為に1000ページ描いてるんだから、私たちが少々無駄に撮影するぐらいは当然じゃない」
豪田「こりゃまたえらい古典を出してきたわね」
台場「そうよ、みんなリアクションに困ってるじゃない」
スー「押忍!80年に24時間テレビの特別企画でアニメ化されたとは言え、51年発行の漫画はちょっと例として出すには古過ぎるであります!」
浅田「だから何でスーちゃんが知ってるの?」


440 :30人いる! その233:2008/01/03(木) 21:12:07 ID:???
巴「でも無駄と言えば1番無駄だったのは4日目ね」
国松「あらマリア、自分が主役のシーンの撮影を無駄と仰いますか?」
巴「そりゃそれは嬉しいけど、完成したら多分わずか1分足らずぐらいになりそうなカットに、ほぼ丸1日費やすってのは…」
一同「うーん…」
国松「これは私の推測なんだけど」
豪田「何?」
国松「監督が4日目に本当にやりたかったことって、実は映画本編の撮影じゃないんじゃないかな?」
有吉「どういうこと?」
国松「みんなちょっと4日目の様子、思い出してみて」

4日目の撮影は、椎応大学のグラウンドで行なわれた。
今回撮影するのは、夏美の近況を説明するシーンだ。
大学に入った夏美は、ケロロが家事全般を引き受けたこともあり、様々な運動部を助っ人として渡り歩いている(中学時代でも一試合のみの助っ人はしてたが)という設定なのだ。
当初はいろんな種目を巴がやっているところを数秒ずつ撮影する予定だったが、撮影スケジュールその他の理由で種目を絞ることになった。
ソフトボール部出身の巴だが、命じられれば何の種目でもやるつもりだった。
夏美ほどではないが巴もスポーツ万能で、ソフトボールから足を洗った今でもトレーニングは欠かしていない。
やれと言われれば、大概のことはやれる自信はあった。



441 :30人いる! その234:2008/01/03(木) 21:14:45 ID:???
クランクイン前日のミーティングでは、なるべく人数や場所等の制約の少ない、個人種目を中心にピックアップして議論された。
(つまり本編で書かれていた前日のミーティングには、まだ続きがあったのだ)
そんな中、強硬にソフトボールを主張したのが恵子だった。
有吉「でも監督、ソフトだとかなり人数要りますよ」
恵子「人数が要るからいいんだよ」
一同「?」
恵子「みんなで映れるだろ、人数が要るんなら」
豪田「みんなで、ですか?」
恵子「うちは女子多いから、選手9人ぐらいは揃えられるだろ」
神田「えーと、1年生女子はマリア入れて8人、女子は後は会長か」
恵子「じゃあ全員使おう」
一同「えっ?」
恵子「マリアをバッターにして、1年の女子7人と姉さんとニャー子さんの9人で敵チーム
やればいい。あと男子は、カメラ以外の3人とクッチーの4人で審判やればいいさ」
岸野「それだと画的に長打が欲しいですね。巴さんって打順は?」
巴「4番よ」
一同「(感嘆)おうー!」
岸野「やっぱりそうか。打率や打点も凄いんだろうな」
巴「打率は3割ぐらいかな。うちの高校の上位打線弱かったから、打点は大したことないけど」
岸野「殆どソロホームランで点取ってたってことか」
巴「(照れて)まあ、そういうこと」
恵子「よっしゃ、本番でも頼むぜホームラン」
巴「まかせて下さい!」



442 :30人いる! その235:2008/01/03(木) 21:17:40 ID:???
伊藤「でもカチンコはどうしますかニャー?」
恵子「あたしがやるさ」
沢田「録音はどうします?」
恵子「あたしがマイク持つさ」
神田「ストップウォッチと記録はどうします?」
恵子「それもあたしがやるよ」
豪田「あとレフ板はどうします?」
恵子「えーと…大野さんに持ってもらう」
大野「えー私ですかー」
露骨に嫌そうな顔をする大野さんに向かって、突如恵子は手を合わせた。
大野「恵子さん?」
恵子「ごめん、今回だけは我慢して。人手足んないし、今回は現役の会員で揃えたいんだよ、このシーンは」
大野「…分かりました。やりますよレフ板」
何時に無くマジ顔の恵子に何か感じ取ったのか、大野さんは承諾した。
恵子「あとさあ岸野、今使ってるカメラの三脚ってあるか?」
岸野「うちに帰れば、多分使えそうなのがあると思いますよ。どのカメラの分です?」
恵子「4台全部だ」
岸野「全部ですか?!」
恵子「無いのか?」
岸野「いえ、何とかします。浅田も持ってるし、それでも足りなきゃ高校の写真部や映研に当たってみますし」
恵子「頼む」



443 :30人いる! その236:2008/01/03(木) 21:19:52 ID:???
浅田「でも何で三脚なんて?」
恵子「ほら、よく高校野球のスカウトとか偵察とかで撮影してる奴のカメラってさあ、何かいつも三脚使ってるイメージ無いか?」
浅田「まあいつもかどうかはともかく、そういうイメージはありますね」
恵子「だろ?そんで1塁側と3塁側に2人ずつカメラ配置すんだよ」
一同「えっ?」
恵子の意図にピンと来た国松が質問する。
「あの監督、ひょっとしてカメラの人も映そうとされてるんですか?」
恵子「ああ。お互いにカメラに入るようにしようと思うんだ。将来有望な夏美を見に来てるスカウト、または敵チームの偵察みたいな感じでさ」
意外な提案に戸惑う一同。
さらに恵子は独り言のように付け加えた。
「三脚使えば時々カメラから目離しても大丈夫だろうから、カメラのみんなも一瞬ぐらいは顔映るだろし」

アンジェラ「私はどうするあるか?」
有吉「そう言えば僕もですね」
2人はそれぞれモア役と冬樹役で映画に出るので、そのことを言ってるのだ。
恵子「そっか、モロに顔出しはまずいな。うーんと…アンジェラがマスク被ってキャッチャー、有吉はマスク被って審判、それで大丈夫だろう」
国松「当初の目的とはちょっと違うみたいですけど、それなら行けますね」
恵子「アンジェラ、キャチャー出来るか?」
アンジェラ「ハイスクールの時、フットサルでキーパーやってたから、何とかなるあるね」



444 :30人いる! その237:2008/01/03(木) 21:21:36 ID:???
恵子「ミッチー、ちょっとボードにみんなの名前書いてくれ」
言われた通りに神田は会員たちの名前を書いた。
さらにとりあえず決定したポジションを名前の横に書き込む。
それをしばらく見つめ、恵子は口を開いた。
恵子「誰かソフトでピッチャー出来るやつ居るか?」
台場が挙手し、意外な過去を明かした。
「私、高校の時の校内球技大会で、3年連続ピッチャーやってました」
一同「3年連続?」
恵子「で、成績はどうよ?」
台場「(右腕でガッツポーズをしつつ)3年連続優勝しました!」
一同「おー!」
巴「晴海その話、初めて聞くわね」
巴と台場、そして豪田と沢田は、元々は荻上会長の崇拝スレの住人で、オフ会を通じて知り合った。
(注釈)
荻上会長は春夏秋冬賞という漫画コンクールで特別賞を受賞し、その作品が月刊デイアフターに掲載されたことがきっかけで、2ちゃんねるに崇拝スレが出来た。
詳しいことは「11人いる!」参照。

知り合ったのは高校3年の時なので、高校が同じ伊藤・有吉コンビや浅田・岸野コンビに次いで付き合いが古い。
それで初耳の、台場の高校時代のエピソードに注目したのだ。
台場「現役でソフトやってた、マリア相手に自慢することでもないかなと思ったんでね。それにわざわざ言う機会も無かったし」



445 :30人いる! その238:2008/01/03(木) 21:23:26 ID:???
神田「それにしても、素人の大会とは言え3年連続優勝投手ってのは凄いわね」
台場「いやあ、くじ運が良かっただけよ」
沢田「私と同じゼミに、晴海の高校の同級生が居るんだけど、晴海って意外に運動出来るらしいよ」
一同「(台場に注目し)えっ?」
台場「ちょっ、ちょっと彩よしてよ」
日垣「どれぐらい出来るの?」
沢田「その同級生の人の話だと、100メートル12秒台で走れるし、ボールの遠投で70メートル投げられるらしいよ」
一同「凄っ!」
巴「まあこういう趣味のせいだとは思うけど、何で運動部入んなかったの?」
台場「(照れくさそうに笑って)私ランニング嫌いだから」
巴「あっそれ分かる。運動部入ってすぐやめちゃう子って、最初のランニングで嫌になってやめちゃうのよね」
豪田「それはそうと、何で私らにまで隠してたの?」
台場「特に言う必要無いと思ってただけよ。マリアの前でこういう言い方すると誤解招きそうだけど、少なくとも私はオタクが運動能力競ってもしょうがないと思ってるから」
巴「いや、それもけっこう分かる。私だっていっそソフト下手なら、もっと早くからオタク道に専念出来たのにって考えることあるし」
沢田「マリアでもそういうこと考えるんだ」
巴「そりゃ考えるわよ。オタクに1番必要なのは時間なんだから」



446 :30人いる! 休憩:2008/01/03(木) 21:26:01 ID:???
ここで1回休憩に入ります。
続きは1時間ぐらい後に投下します。

447 :30人いる! 再開:2008/01/03(木) 22:39:38 ID:???
お待たせしました、再開します。
今度は6レスで行きます。

448 :30人いる! その239:2008/01/03(木) 22:41:12 ID:???
こうして巴扮する夏美の対戦チームのポジションが決まった。
ピッチャー  台場
キャッチャー アンジェラ
ファースト  豪田
セカンド   スー
サード    荻上
ショート   国松
レフト    ニャー子
センター   神田
ライト    沢田
さらに審判は次の通りだった。
主審     有吉
一塁塁審   伊藤
二塁塁審   日垣
三塁塁審   クッチー

「そんじゃあ監督、ソフト同好会と交渉して来ます!(ロッカーを開け)あと会長、これ1冊もらいますね」
台場が言うこれとは、荻上会長がかつて作った同人誌「あなたのとなりに」だった。
他所のサークル等への挨拶用に残した物で、荻上会長のサイン付きの逸品だ。
荻上「まあそれはいいけど、今から交渉に行くの?」
台場「大丈夫ですよ。15分もしたら戻りますから」



449 :30人いる! その240:2008/01/03(木) 22:44:12 ID:???
その後、ほぼ15分後に台場は戻って来た。
体育会の部室棟は徒歩で往復に5分はかかるから、実質10分足らずで交渉をまとめた
ことになる。
結論から言うと、台場はほぼ殆どの条件をクリアした。
グラウンドの使用許可だけでなく、ユニフォームや道具一式までも借りることに成功した。
荻上「でもよくこんな短い時間で話まとめて来たわね」
台場「会長の本を進呈したら、快くオッケーしてくれましよ」
豪田「それってまさか…」
台場「同類なのよ彼女たち、私たちと」

椎応大学ソフトボール同好会は、体育会系の中では弱小の部類に入る。
元々歴史が浅い上に、そもそもやる気が無い。
その殆どの会員が高校か大学に入ってからソフトを始めた彼女たちは、実は隠れ腐女子の集団であり、ソフトは隠れ蓑に過ぎなかった。
一応練習はしているが、それにしてもその殆どの時間を「おお振り」ごっこに費やしている有様であった。
(9分割の的当てとか、角材の上でバランス取るとか、キャッチャーフライのノックとか)
その殆どが高校の時に「おお振り」等からその道に入った彼女たちは、腐女子として中途半端なポジションに居た。
リアル高校球児(案外DQNが多い)に幻滅してマネージャーを断念し、かと言って絵心も無いので漫研にも入れず、それ以外のオタサークルだと濃過ぎて引いてしまう。
そんなライトでぬるい腐女子たちが最終的に選んだのが、ソフトボール同好会だった。



450 :30人いる! その241:2008/01/03(木) 22:46:09 ID:???
台場「ただですねえ監督、ひとつだけ条件がありまして…」
恵子「何だ?」
台場「ソフト同好会の人たちも、映画に出たいって言ってるんですよ」
一同「えっ?」
だが恵子はあっさり快諾した。
「いいよ。ちょうどいいや」
台場「ちょうどいいと仰いますと?」
恵子「いやあ、夏美が助っ人に入ったチームの連中も映ってないと、画的に寂しいかなと思ってさ。でもそれならソフト同好会の人にベンチに座ってもらえばいいじゃん」
納得する一同。
台場「でもどっちかと言うと彼女たち、自分たちがプレイするとこ映して欲しいみたいな感じでしたけど…」
恵子「わーった。そんじゃあ夏美のチームが守備やってるとこも撮ろうや」
一同「えっ?」
恵子「マリア、ポジションどこだ?」
巴「ピッチャーです」
一同「(感嘆)おう!」
日垣「エースで4番か。さぞかし強豪校だっただろうな。巴さんのチーム」
巴「そうでもないわよ。私以外が点取ってくれないから得点力無かったし、私も球速いけどコントロールに難があったから、けっこう四死球多かったし」
豪田「確か前に、県大会の準々決勝まで行けたのが最高だったって言ってたわね」
巴「そういうこと」
恵子「まあともかく、ピッチャーなら画的にちょうどいいや。頼んだぞ、マリア」
巴「はいっ!」


451 :30人いる! その242:2008/01/03(木) 22:48:23 ID:???
そしていよいよクランクインから4日目。
椎応大学第1グラウンドは人だかりとなった。
現視研女子会員対ソフトボール同好会のスペシャルマッチという噂が学内を駆け巡ったからだ。
映画の撮影と知って、2割ぐらいの観客は引き上げたが、一種のコスプレイベントと割り切ったか8割は残った。

グラウンドでは、ユニフォーム姿の現視研女子たちがポジションに付き、キャッチボールをしていた。
リハーサル代わりのウォーミングアップだ。
現視研女子が身に着けているのは、ソフト同好会のアウェイ用のユニフォームに軽く改造を施し、適当なチーム名(GENSHIとなっている)を入れた物だ。

続いて台場と巴の投球練習だ。
台場の投球をアンジェラが受ける。
1年近く投げてないとは思えない、そしてソフトボールとは思えない速球が決まる。
ネット裏でスピードガンを構えていたソフト同好会の会員が叫んだ。
「105キロ?!」
その叫びが観客たちにも聞こえたらしく、どよめきが上がる。
だが次に巴が投げると、観客は声も上げられなかった。
台場の2割増しぐらいの、考えられないスピードの剛速球がうなりを上げ、ソフト同好会のキャッチャーは捕り損ね、ボールは轟音を上げて金網に激突した。
今度はスピードガン担当のソフト同好会会員は、声も出せなかった。
別の会員が駆け寄ってスピードガンを見て、初めて声を上げた。
「125キロ?!」


452 :30人いる! その243:2008/01/03(木) 22:51:44 ID:???
グラウンドの外で、その様子を見ていた恵子が浅田に尋ねた。
「なあ、ソフトであのスピードって、どんなもんなんだ?」
浅田「かなり速いですよ。オリンピック選手並みです」
恵子「あいつら才能無駄使いしてねえか?まあオタクってやつは、そういうもんなんだろうけどな」

そしていよいよバッター夏美と現視研チームとの対決シーンの撮影となった。
審判の服装の男子会員たちも配置に付き、グラウンド外に残るのはカメラマン4人とレフ板を持った大野さん、そして恵子だけとなった。
カメラと一緒に浅田はマイク、岸野はストップウォッチと記録帳を持った。
三脚で手が空くので兼任でも大丈夫と考え、2人から恵子に進言し、恵子も承諾したのだ。
その結果、恵子はカチンコとメガホンだけを持つことになった。
恵子「よっしゃ、シーン2椎応大学グラウンドの本番、始めるぞ〜!」
一同「おう!」
恵子「と言いたいとこだけど、今回は適当に撮りまくるからな。8ミリの方、フィルム無くなりかけたらタイムって言えよ!」
(注釈)
ビデオの方はデジタルなので、殆ど残量を気にする必要が無い。

岸野・加藤「了解!」
恵子「そんじゃあ一応やるか、3、2、1、用意スタート!」



453 :30人いる! その244:2008/01/03(木) 22:54:36 ID:???
轟音と共に、ボールは一直線に場外へと消えた。
巴以外の現視研女子一同で構成された敵チームナインは、皆呆然とそれを見送った。
巴が場外ホームランを打ったのだ。
撮影用の投球なのだが、台場はガックリと崩れた。
巴には敵わないとは分かっていたが、もう少し互角の勝負が出来るんじゃないかと、秘かに思っていたからだ。
恵子「よーしカット!」
ほっとする一同。
だがただ1人、陽炎のようなオーラを放つ者が居た。
「監督、もう1回やらせて下さい!」
声の方を向いた皆の視線の先には、目を闘気で輝かせた台場が居た。
豪田「ちょっと晴海、何ムキになってるのよ?」
台場「分かってる。マリアとガチでやって勝てるとは思ってないわよ。でもね、今の1球だけじゃ納得出来ない!」
沢田「うわあ、晴海が何か熱血してる…」
恵子はあっさり承諾した。
「いいよ。もうちっとみんなのリアクション欲しい気もするし、ソフト部の皆さんも、すぐに終わっちゃって困ってるみたいだし。いいな、マリア」
巴「分かりました。(台場に)全力で行くわよ」
台場「望むところよ」



454 :30人いる! 再び休憩:2008/01/03(木) 22:56:37 ID:???
ここで2回目の休憩に入ります。
続きは日付が変わった頃に投下します。

455 :30人いる! 再開:2008/01/04(金) 00:17:51 ID:???
ただ今戻りました。
再開します。
今度の6レスで本日は終了です。

456 :30人いる! その245:2008/01/04(金) 00:20:32 ID:???
再び居酒屋。
巴「で、結局私、撮影用にホームラン10本連続で打つ破目になったのよね」
台場「まあおかげで納得出来たけどね」
沢田「晴海は納得出来てよかったかも知れないけど、炎天下でそれに付き合った私らは大変だったわよ」
台場「それにしても見事に全部持ってかれたわね」
巴「晴海の球、速い代わりに球筋が素直だから、腕力さえあれば打ち返せるのよ」
台場「それ褒めてんの?」
巴「褒めてるつもりよ。変化球1つか2つ覚えて、いいキャッチャーと組んで、ちゃんと打者に合わせて球種とコース選べば、オリンピッククラスのピッチャーになれると思うわ」
「なんで君ら、現視研なんかに居るの?」
野暮な質問は百も承知で、つい訊いてしまう浅田だった。

「攻守交替した後も凄かったわよね」
何時の間にか復活した沢田が呟いた。
巴「結局30球近く投げたもんね」
国松「監督が一応全員相手にして投げてみろって仰ったからね」
豪田「結局マリアの球にバット当てられたの、晴海ぐらいだったんじゃないかな」
台場「私だってかすっただけよ」
神田「監督は派手に空振りしろって指示してたけど、当てるつもりだったとしても無理よ、あの球は」


457 :30人いる! その246:2008/01/04(金) 00:22:02 ID:???
有吉「そう言えばソフト部のキャッチャーの人、何とか捕ってたけど手痛めちゃって、撮影終わった後はテーピングで左手グルグル巻きだったね」
アンジェラ「私もメイキング限定って条件で打席立たせてもらったけど、やっぱり打てなかったあるね」
スー「当タラナケレバ、ドウトイウコトハ無イ!」
浅田「いやこの場合それ、使い方おかしいし。そう言えば、撮影終わってから、男子も試しに打ってみたんだよな、巴さんの球」
伊藤「僕と有吉君と朽木先輩はダメだったけど、日垣君と浅田君と岸野君は打てましたニャー」
浅田「打ったと言っても、俺のはキャッチャーフライだよ」
岸野「俺はピッチャーフライだし」
日垣「俺はピッチャー強襲のライナーだったけど、見事に巴さんにキャッチされたし。やっぱ巴さん凄いわ」
豪田「元野球部の日垣君はともかく、浅田君と岸野君はよく打てたわね」
浅田「うちの高校の写真部のOBの人が特訓好きだったって話、前にしたっけ?」
豪田「言ってたわね、確か」
浅田「夏場は草野球ばっかやってたからね、うちの写真部」
岸野「そんで打てないと、バッティングセンター行って特訓してたな」
神田「どういう写真部なの、それ?」
浅田「そういう写真部だったんだよ」
巴「でも凄いと思うよ、日垣君たち。ソフトのマウンドって野球より打席に近いから、110キロ以上出たら打者の体感速度は、野球で言えば150キロ近くになるからね」
豪田「マジ?すると私らは、プロ野球のピッチャー相手にバッターやってたってこと?」
日垣「いや、難易度はそれ以上かも知れないよ。ソフトは球が大きくて重くて柔らかいから、バットで当てられたとしても飛ばすのは野球より難しいと思うよ」
一同「(青ざめ)うわあ…」


458 :30人いる! その247:2008/01/04(金) 00:24:04 ID:???
「でもあの情況で、あの提案受けちゃうんだからねえ、監督」
巴がまたボヤき始めた。
有吉「あれやったって、巴さんにとっては1試合分でしょ?」
巴「まあね。結局1イニング余分に投げただけだし」

午前中で、巴がホームランを打つシーンと、巴がバッターを打ち取るシーンは無事に撮り終わった。
だがここでソフトボール同好会の会長(以下ソ会長)が、意外な提案をして来た。
「せっかく人数揃ってるんだし、うち対現視研で試合やらない?」
一同「試合?」
ソ会長「試合っつーても、まあ打者一巡程度、3回までのミニゲームみたいな感じで…」
荻上「でも…」
一部体育会系が居るとは言え、基本的にインドアオタの集まりである現視研会長として、荻上会長はためらった。
ソ会長「心配要りませんよ、荻上さん。うちら体力はそちらよりあるかも知れないけど腕の方はヘボだから、けっこういい勝負になると思いますよ」
荻上「『自分でいいますか…』まあそれなら」
ソ会長「ただしユニフォーム変える時間もったいないから、巴さんはうちにもらいますけどね」
一同『それって逆ハンディキャップマッチでは…』
ソフト同好会側にも「さすがにそのマッチメイクはまずいのでは」という空気が流れ始めたその時、恵子が決断を下した。
「いっすね、それ。やりましょう」
荻上「恵子さん!」
恵子「(笹原似の笑顔でニカッと笑い)いいじゃん。たまにはこういうお遊びも」



459 :30人いる! その248:2008/01/04(金) 00:25:33 ID:???
再び居酒屋。
沢田「まあ今思えば、あの笑顔に荻様やられて、あの試合やる破目になったのよね」
豪田「つうても私ら野手はヒマな試合だったけどね」
神田「まあ確かに、私らのしたことと言えば、3回守備位置に付いて、3回バット振っただけだったもんね」
台場「失礼ね。私は7回振ったわよ」
沢田「その内4回はファールだけどね」
台場「しょうがないでしょ。あんな重い球、前に飛ばせる訳無いじゃない」
日垣「いやそれでも大したもんだと思うよ。事前の練習無しであれだけ当てられたら」
国松「そうよ晴海。それにあなただってマリア以外のバッターは全員打ち取ったじゃない」
浅田「まあ結局あの試合、巴さんのソロホームラン以外ヒット無しで、1対0で終わったもんな」
沢田「まあ打ち合いになるよりはよかったんじゃないの?普通に球飛んで来たら、私ら完全にお手上げよ」
巴「あの後が大変だったわね。私も晴海もソフト同好会の人から猛烈な勧誘受けたし」
有吉「おそらく会長さんの狙いは、それだったんだろうな。巴さんの実力を見せつけると同時に会員たちに勝つ喜びを教え、台場さんと対戦させることで彼女の実力を教える」
伊藤「そうすりゃみんな熱心に勧誘するだろう、か…なかなか策士ですニャー、あの会長さん」
台場「こっちは一大事よ。納得してお帰り頂くの大変だったんだから」



460 :30人いる! その249:2008/01/04(金) 00:26:53 ID:???
岸野「でも結果いい画が撮れたんだから、いいんじゃないかな?」
一同「えっ?」
岸野「あの試合の間、俺ずっとカメラ回してたんだけど、みんないい顔してたよ。自然に動いたり声出したりしてさ」
浅田「ああそれ俺も思った。いい画が多過ぎて、どれ撮ろうか迷うぐらいだったし」
豪田「確かにそうね。ソフト同好会の人もスッカリその気になって、『夏美ファイト〜!』とかアドリブで声援してたし」
沢田「形だけでも試合ともなると、やっぱみんなマジになってたもんね。マリアの球なんて打てる訳無いのに、みんなフルスイングしてたし」
神田「彩だってそうじゃない」
沢田「(照れて)そうだっけ?」
神田「あの試合の間の監督の指示ってどうなってたの?」
岸野「巴さんの投球と打席さえちゃんと映っていれば、後は適当にやれって」
有吉「いい加減だったんだね…」
伊藤「いや、そうでもないニャー。あれこれ指示は出してたみたいだし」
浅田「まあね。あっち撮れこっち撮れって、監督の指示通りに撮るのに忙しかったから、午後からの試合の巴さんの画は、殆ど藪崎先輩と加藤先輩に任してたもんな」
岸野「多分最終的な編集の後、本編に残るのは午前中の分からより、午後の試合の分からの映像の方が多いと思うよ」
国松「全ては恵子監督の計算通り、恵子監督ばんざーい!」
豪田「あららすっかり千里、監督信者ね」
有吉「あの人の場合は計算と言うより、野生のカンみたいなもんだと思うけど」


461 :30人いる! その250:2008/01/04(金) 00:29:31 ID:???
巴「そう言えば千里、さっきの話はどうなったのよ?」
国松「さっきの話?」
巴「監督が4日目に本当にやりたかったことって話よ」
国松「ああ、あれね」
あっさりと国松は答えた。
「みんなで映ることに監督がこだわったのは、これが監督にとっての卒業写真だからよ」
一同「そつぎょうしゃしん?」
国松「て言うか、4日目に限らず、この映画自体が監督にとっての卒業アルバムみたいなもんじゃないかと思うのよ、私は」
台場「でも何故?」
国松「椎応の学生じゃない監督の足跡は、公式の記録には何も残らないからよ」
ハッとなる一同。
巴「だけど内輪の作品でならそれが出来る、ってことね。でもそれなら、何で監督は一緒に映ろうとしなかったの?」
国松「実は撮影前に私もそれ言ったのよ。監督も一緒に映りましょうって。でも監督はこう仰ったの」
スー「(恵子そっくりの声で)ヨセヤイ、監督ガソレヤッタラ、ソリャおなにーッテモンダロ?」
赤面で固まる一同。
国松「スーちゃん、聞いてたんだ…」
アンジェラ「HEYスー、また芸の幅を広げたあるね」
沢田「そういう問題じゃないと思うけど…」
日垣「まあ使ってる言葉はアレだけど、照れ屋さんなんだね、恵子監督」
浅田「やべっ、何か俺、恵子監督のこと、すげえ可愛く思えてきた」
有吉「僕も」
岸野「きっと乱暴な言動とは裏腹な、可愛い一面とか持ってるんだぜ」
どこかで聞いたような男子の恵子萌え発言と共に、4日目の話題は終わった。



462 :30人いる! 次回予告:2008/01/04(金) 00:40:42 ID:???
何か今回、原作キャラあんまし活躍してないし、オチも弱いし、ただ長いだけの話になってしまいましたな。
すんません、この後(主に野外での着ぐるみファイト撮影時)原作キャラも活躍させる予定ですんで、今しばらくのご猶予を。

何か屋内撮影中心の予定が、意外と外での撮影が多い現視研映画撮影班。
次回、屋内セットも完成し、いよいよ部室が地球侵略基地と化す!

本日はこれまでです。
失礼しました。


463 :無軌道警察ハグレイバー 前書き:2008/01/06(日) 02:19:02 ID:???
どうも、「30人いる!」の作者です。
正月興行と言うにはチト遅いですが、今回は特別企画ということで、「30人いる!」と並行して書いていた作品を投下しようと思います。
と言ってもやっぱり長い話(66レスほどあります)ですので、本日は8レス投下します。

今回の話は、以前に書いた「はぐれクッチー純情派」の続編です。
いわゆるネクスト・ジェネレーションもので、「はぐれ〜」の10年後、西暦2025年の近未来が舞台です。
世界観は「〜いる!」シリーズに基づいていますが、今回の話に関係あるオリジナル設定(西暦2015年現在の情況)は以下の通りです。
・クッチーは卒業後警官になり、いろいろあって刑事になりました
・訳あってクッチーの所属は、東北地方のX県(荻上さんの故郷)Y署の防犯係です
・斑目は桜管工事工業が倒産し、椎応大学学生課の事務員をやってます
(この話の世界の斑目は、辞めた数日後に社長に連れ戻されました)
・斑目はその後も部室に通い続け、現視研の1年生女子と結婚しました。
(出来ちゃった婚です)
・田中と大野さんは結婚しました
・久我山は九州に転勤し、向こうで見合い結婚しました
・笹原と荻上さんは結婚し、一男一女を儲けました
・恵子は家事手伝い兼アシスタントとして、笹荻と同居しています
・高坂と春日部さんはお互いに忙しいので、付き合いは続いてるものの結婚はまだです






464 :無軌道警察ハグレイバー その1:2008/01/06(日) 02:23:02 ID:???
「私が本庁に転属でありますか?!」
クッチーこと朽木学巡査部長(41歳、半分あきらめてるが一応花嫁募集中)は驚きの声を上げた。
「まあ正確には、まだそういう話が来ているという段階だけどね。それに本庁と言っても、厳密には本庁管轄の分室みたいなところらしいんだが」
県警本部長が答えた。
ここは東北地方、X県警本部の県警本部長室。
時は西暦2025年、もうすぐ企業や官庁は年度が変わろうという3月末。
この時朽木は、県警本部にある北日本広域捜査隊に所属していた。
12年前に東北に来て最初に配属されたY署から、5年前に転属になったのだ。
北日本広域捜査隊とは、文字通り北海道から東北・北陸にかけての北日本全域を管轄とし、この地域内で起きた複数の管轄区にまたがる犯罪事件を捜査する特別編成チームだ。
今でもそうなりつつあるが、この時期組織的な強盗事件の多くが都市から郊外に活動範囲を広げ、東北地方でも凶悪事件が続発していた。
犯人たちは外国や他県からやって来て、仕事を終えると本国や地元に帰ってしまう。
こういう性格の事件に、管轄ごとの縄張り意識の強い日本の警察は弱い。
そこで警視庁は、日本全体を5つのブロックに分けて広域捜査隊を新設した。
その1つが北日本広域捜査隊である。
広域捜査隊はその性質上、凶悪犯罪に対抗すべくSAT(警察の対テロ特殊部隊)並みの実戦的な訓練が行なわれる。
SATの運用にはいろいろ制約が多いせいもあり、本来ならSATが出張るべき凶悪犯罪に対しても、広域捜査隊が前面に出て対処する機会が多かった。
その為広域捜査隊は、何時の間にか刑事ドラマに出て来るような、凶悪犯罪専用の特殊セクションになりつつあった。


465 :無軌道警察ハグレイバー その2:2008/01/06(日) 02:26:47 ID:???
朽木が広域に呼ばれたのは、次のような理由からだった。
先ずどんな凶悪犯罪者に対しても、躊躇する事無く突撃する勇猛果敢さ。
しかも容赦無く病院送りにしてしまう正義感の強さ。
それを行ない得る戦闘力。
その反面、意外と鋭い推理力。
そして中でも特筆すべき理由は、オタク知識がありオタ心を理解出来る、東北地方では数少ないオタク刑事であることであった。
東北地方というところは保守的な土地柄ゆえに、一部都心部を除いてオタクというものに対する認識が、この時代になっても相変わらずネガティブだった。
だから当然警察内にも、オタクというものを理解出来る人間はごく少数だ。
だがそんな東北地方でもオタク絡みの事件は起きる。
犯人がオタである場合、被害者がオタである場合、事件の背景にオタク文化がある場合などケースは様々だが、いずれにしろそれらの事件を正しく捉えられる刑事は少なかった。
そこで朽木の出番となった。
彼は東北地方でオタ絡みの事件が起きるたびに、その管轄区に呼ばれてオタクアドバイザーのようなことをやったり、場合によってはそのまま捜査本部に加わった。
東にオタクが理由でいじめられて自殺未遂した少女が居れば、学校に行って荻上さんにまつわる悲劇を聞かせ、生徒たちに改心の涙を流させる。
また西に父親と揉めてカッとなって刺してしまい、夏コミ会場に逃げてきたオタク少年が居れば、自首することを条件にしばらく出来ない買い物に付き合ってやる。
そんな人情味あふれる彼の捜査が東北中の警察で評判になり、それなら何時でもその手の事件に対応出来るようにと、所轄から広域へ転属になったのだ。


466 :無軌道警察ハグレイバー その3:2008/01/06(日) 02:29:48 ID:???
問題を起こして警視庁捜査一課を追われて12年、そんな日々を送る内にすっかり東北の地に溶け込んだこともあり、彼はもう2度と本庁に戻ることはあるまいと思っていた。
(まあ問題と言っても捜査方針を巡る喧嘩で、悪いのは先に手を出した向こうで、朽木は捜査一課の刑事の大半を病院送りにした過剰防衛なだけだが)
刑事としての人生の大半を過ごしたこの地で生きて行こう、最近はめっきり減った見合い話も真剣に考え、そして終の棲家となる家もここで買おう。
朝出勤するなり県警本部長に呼ばれ、本庁への人事異動をオファーされる、それはそう考えていた矢先の出来事だった。

朽木「それで本庁は、今さら私に何をやれと?」
本部長「今度新設される特車部隊の隊長だよ」
朽木「特殊部隊?」
本部長「『しゅ』じゃなくて『しゃ』、と・く・しゃ。特別の特に車検切れの車だ」
朽木「特車というと、機動隊の装甲車とかのことですな。ああいうのは警備部の管轄だったと思うのですが…」
本部長「まあ確かに警備部の管轄下に入るようだな、今回の新設部隊は。でも今回のは正確には、従来の特車課とはまた別の組織分けになるらしい」
朽木「と言いますと?」
本部長「こっちに回ってきた書類によれば、正式名称は警視庁警備部特殊機動機械課特殊機動機械隊となっている。通称は特機課の特機隊となるそうだ」
朽木「特殊機動機械?それってまさか…」
本部長「レイバーのことらしいよ」



467 :無軌道警察ハグレイバー その4:2008/01/06(日) 02:34:18 ID:???
80年代末に、90年代末の近未来の出来事として、漫画やアニメに描かれた多目的多足作業機械レイバー。
その作品世界から遅れること約四半世紀、ようやく最近になってレイバーが現実のものとして普及し始めていた。
原作のように東京での大地震は起きていないが、地方では大規模な地震が頻発し、台風も以前には無かった大規模なものとなり、上陸のたびに大きな被害を出した。
(あくまでも筆者の個人的な考えだが、日常的に小さな地震が頻発している関東地方では、大きな地震のエネルギーが蓄積しにくいのかも知れない)
その瓦礫の再利用と地球温暖化による海面上昇対策を兼ねて、東京湾で行なわれている大規模な埋め立てと護岸工事。
そして地方での復興の為の工事。
そういった需要が技術革新にも拍車をかけ、2020年頃からレイバーは爆発的に普及した。
それに伴ない、漫画やアニメのようなレイバー犯罪もまた現実のものと化し、その発生件数は徐々に増えつつあった。

本部長「で、それに対応する為に、レイバー小隊が今回新設されたらしいんだ」
朽木「しかし本部長、私が何故レイバー隊の隊長などに?普通そういうのは警部補クラス以上の仕事じゃないですか?私はこの歳で平刑事の上、階級も巡査部長ですぞ」
本部長「君も知っての通り、今の警察は昔のような軍隊的組織ではない。まあ現場では相変わらずだが、人事のようなプライベートに関わることだと、昔のようには行かない」
朽木「?」
本部長「昔は上からここへ行けと言われれば、下は従うしかなかった。だが今では理由があれば、嫌な部署はいくらでも断れる」



468 :無軌道警察ハグレイバー その5:2008/01/06(日) 02:37:41 ID:???
朽木「それってまさか…」
本部長「本庁の連中、全員断ったんだよ、隊長のオファー」
朽木「そりゃまた何ゆえ?」
本部長「考えてもみたまえ。実際に運用されてからでないと、どうなるか海のものとも山のものとも分からない部隊に、出世志向のキャリア連中が行きたがる訳無いさ」
朽木「ノンキャリの連中も、本庁まで行くと保身に走るから事情は一緒か。やれやれ、私は中村主水役をオファーされた藤田まことですか」
本部長「(苦笑)さすがオタクで有名な朽木君、古い話知ってるね」
(注)
藤田まこと氏は中村主水役について、「あちこち断られた挙句に私に頼みに来ました」といろんなインタビューで答えている。
だがこれは実は、出演者の中で一番最後に出演オファーが来たことをネタにしての、彼一流の冗談である。
主水は初登場作品「必殺仕置人」の企画段階で最後に追加して作られたキャラなので、必然的に1番最後に藤田氏に出演オファーが来たというのが真相。
プロデューサーの山内久司氏によれば、中村主水には企画段階から藤田まこと氏をキャスティングするつもりだったという。


469 :無軌道警察ハグレイバー その6:2008/01/06(日) 02:41:32 ID:???
本部長「まあとにかく、隊長の話を受けるかどうかは置いといて、ひとまず実際に特機課を見に行ってみて、ついでに向こうの課長さんに会ってみてはどうかね?」
朽木「向こうの課長さんにでありますか?」
本部長「どうも君を隊長に推薦したのは課長さんらしいんだよ。全国の警察官のデータを調べていて、君が目に止まったそうだ」
朽木「やれやれ、物好きな課長さんですな。私の隊長としての資質以前に、課長さんの資質を再検討すべきですな」
本部長「とは言え、ここはひとつ私の顔を立ててくれんかね?」
朽木「つまり断るにしても、私が熟慮の末に固辞したという体裁を作れと?」
本部長「まあ、そういうことだ。私としても、東北管区の治安の為にも君を失いたくはない。だがかと言って、本庁からのオファーを即答で断る訳にも行かんからな」
長年警察にいると、こういう形で上役の顔を立ててやらなければならない事態はよくある。
朽木は捜査第一主義者だが、捜査に支障が無ければ可能な限り、こういう無意味な体裁作りにも理解を示した。
そういう意味では朽木、この歳になってようやく「空気を読む」ことを身に付けた訳である。
朽木「まあ本部長にはいろいろお世話になってますし、見に行くぐらいは構いませんが」
本部長「さすが朽木君、話が分かるね。いや実はね、今本庁から迎えが来てるんだよ」
朽木「早っ!」


470 :無軌道警察ハグレイバー その7:2008/01/06(日) 02:46:31 ID:???
本庁からの迎えの者が本部長室に入って来た時、朽木の頭上に大きな?が浮んだ。
スーツ姿の職員か制服警官が来て、新幹線で上京かパトカーで東京までドライブ、てっきりそういうパターンだと予想していたのだが、事態は予想の斜め上を行った。
迎えの警官は黒のキャップ帽(しかもその上から、マイクの付いたヘッドホンをはめている)にサングラス、半袖の白いシャツの上から黒いベストというスタイルだった。
朽木「あのう、何ゆえにそんなヘリでも操縦して来たような格好をなさってるんですか?」
迎え「(真顔で)ヘリコプターを操縦して来たからです」
朽木「ああなるほど…って、何ですと〜!」
こうして朽木は、空路で特機課本部へと向かうこととなった。

「朽木巡査部長、着きましたよ」
迎えの警官にそう声をかけられ、ヘリで揺られてる内に連日の激務の疲れで眠り込んでいた朽木は目を覚ました。
朽木「(ヘリのドアを開けつつ)さすがヘリは速いのう。にょっ?」
周囲の景色を見て、朽木は思わず声を上げた。
ヘリの着陸した場所はグラウンドだった。
朽木「あの、ここは?」
迎え「本当は本部のすぐ横に着陸したかったのですが、スペースが狭かったので、やむを得ず付近のグラウンドに着陸しました」
近くには山が見えていた。
朽木「特機課本部と言うから、てっきり湾岸部と思っていたのですが」
迎え「そりゃ漫画の読み過ぎですよ。あの漫画が描かれた当時と違って、今では湾岸部は土地が高過ぎて、本庁の予算では手が出ません」
朽木「(周囲を見渡し)して本部は?」
迎え「(指差して)すぐそこです」



471 :無軌道警察ハグレイバー その8:2008/01/06(日) 02:51:35 ID:???
グラウンドの隅に向かって歩く2人。
歩きながら朽木は、今居るグラウンドに妙な既視感を覚えていた。
『(山を見て)そう言えばあの山も見覚えがあるのう…』
迎え「ほら、あれです」
迎えの警官が指差す方を見て、愕然とする朽木。
朽木「あれは…」
見覚えのある建物群が見えた。
迎え「3年前に廃校になった椎応大学です」
朽木『てことは、ここは椎応の第2グラウンドかよ…』
「それじゃあ次の仕事まで時間が押してるんで、申し訳無いですがここからはお1人でお願いします。夕方には迎えにまいりますので」
そう言い残して迎えの警官は飛び去った。

まだ朽木は愕然としていた。
椎応大学が潰れたことは彼も知っていた。
当時ニュースになったし、学校から知らせの葉書も来たし、現視研の面々からも連絡があった。
学校からも現視研からも、お別れパーティーのような催しのお誘いがあった。
だが当時ある事件を担当していた朽木は、残念ながらそれらには参加出来なかった。
その代わりに元会員たちと久々に頻繁に連絡を取り合ったし、「形見分け」と称された部室の備品(アニメのDVDやエロゲー等)が送られてきた。
そんなノスタルジーも、日々の忙しさに流されて心の片隅に埋没しかけていた。
そんな時に思わぬ形で椎応大学と再会することになり、複雑な心境になっていた。
「まあ、こうしていても仕方ないし、行ってみるかのう」
朽木は覚悟を決めて、かつて椎応大学だった建物群に向かって歩き始めた。


472 :無軌道警察ハグレイバー 次回予告:2008/01/06(日) 03:00:47 ID:???
最初に断り忘れましたが、今回の作品では作風に合わない為、クッチーのことは本名の朽木で呼称します。
ご了承下さい。

思わぬ形で再び椎応大学へとやって来た朽木。
次回遂にパトレイバーならぬハグレイバーの全貌が明らかに!
(と言っても、劇中でそういう単語は使わないけど)
そして、やっぱり「あの男」が朽木を迎撃する!

本日はここまでです。

473 :マロン名無しさん:2008/01/06(日) 06:07:35 ID:???
はぐれクッチー久しぶりにキタ━━(゚∀゚)━━!
しかもレイバーですって。これはwktkせざるを得ない。
「このまま見合い受けて自宅も買っちゃおっかなー」なんて守りに入ろうと
してる姿に微かな落胆を、41にもなって会話に「にょっ」とかいう口癖が
出ちゃうダメさ加減に僅かなキモさを心に刻みつつ続きを楽しみにしますw

474 :無軌道警察ハグレイバー 前書き:2008/01/06(日) 19:31:19 ID:???
さて、集中連載企画ということで、今夜も投下します。
とりあえず8レスです。
校正が進んだら、後ほど続き投下するかも知れません。


475 :無軌道警察ハグレイバー その9:2008/01/06(日) 19:36:32 ID:???
大学跡の構内に入る前に、朽木は反射的にスーツの下に右手を入れ、左の腋の下に吊られたホルスターから突き出た、拳銃のグリップを握った。
彼は初めての場所や知らない場所に入る時にはいつも、その直前に一度拳銃を取り出して、弾倉の残弾を確認することを習慣にしていた。
だがよくよく考えてみれば仮にも警察の敷地内なので、そこまでする必要は無いと判断し、抜きかけた拳銃を戻した。

西暦2010年代後半に入ってから、日本の警察官の拳銃取扱細則は今と比べ大きく変わった。
先ず私服の警官、いわゆる刑事も普段から拳銃を所持するようになった。
(私服の刑事は、事件発生等で上から拳銃所持許可が下りないと、拳銃を持ち歩けない)
また、薬室(銃身最後尾の発射直前に弾丸を装填する場所)さえ空けておけば弾倉に5発以上装填出来るようになった。
その他にも、状況によっては警告や威嚇射撃無しでの発砲や、いきなり胴体や頭を狙っての発砲も許されるようになった。
(日本の警官は、原則として犯人の手足しか撃ってはいけない)
取扱細則以外のところでも、銃の選択肢が広がったり、射撃訓練が増えるなど、明らかに実戦を想定した体制になった。
2010年代前半頃から、日本でも拳銃を使用しての犯罪が激増し、拳銃を持ってなかった刑事が撃たれて殉職したり、拳銃を恐れて刑事が逃げる不祥事などが多々発生した。
その為警視庁としても、一部の左翼系マスコミから叩かれることは覚悟の上で、全警察官を常時臨戦態勢にする必要に迫られ、前述のような体制となったのだ。

椎応大学の建物群は、朽木が10年前に訪れた時とあまり変わっていなかった。
車の乗り入れ口が拡張されていた程度だ。
おそらくレイバーを乗せたトレーラーか何かが出入りする為であろう。



476 :無軌道警察ハグレイバー その10:2008/01/06(日) 19:39:28 ID:???
「まさか学棟をそのまま使っているのかのう?」
手近な学棟に入ってみようとしたが閉鎖されている。
他の学棟も同様だった。
途方に暮れて第1グラウンドの方に来てみると、ようやくそれらしい物が見えた。
グラウンドの半分ほどを潰して、3階建てぐらいの高さのプレハブの建物が建てられていた。
何かの工場のような外観だ。
「どうやらここだな。まんま特車2課ですな」

建物の中はガランとしていた。
人影は見えない。
「無用心だなあ。仮にも警察の敷地内なんだから…」
ぶつくさ言いつつ、朽木は建物内を歩いた。
「おお、あれだな」
朽木の目の前には、レイバーの勇姿があり、傍らには指揮車らしきメカニカルな車や、レイバー運搬用らしきトレーラーが停められていた。
レイバーの高さは5メートルぐらいで、例の漫画の主役レイバーよりやや小さい。
多少肩幅が有り過ぎてゴリラに近い体型だが、ちゃんと手も足も2本ずつある人間型のレイバーだ。
ただ人間なら頭に該当する部分から胸部にかけて風防ガラスのような物で覆われている。
どうやらそこがコクピットらしい。
「何かレイバーというより、コンバットアーマーとアーマードトルーパーを足して2で割ったような感じだな」



477 :無軌道警察ハグレイバー その11:2008/01/06(日) 19:47:42 ID:???
「いい機体だろ?」
突如背後から声がかかった。
驚いた朽木、素早く振り返りながら左の腋の下に右手を走らせる。
ホルスターの蓋を開け、銃把を握り、安全装置のスイッチに指をかける。
ここまで百分の2秒かそこらしか掛かっていない。
後は拳銃を抜いて相手に向けながら、安全装置を外してボルトを引き、それにより初弾を装填しつつ撃鉄を起こして発射可能な状態にし、引き金を引くだけだ。
朽木はそれら一連の動作をコンマ1秒程度で出来る。
そのわずかな時間、朽木は『俺の背後を取るとは、いったい何者?』と考えた。
職業柄、彼はいつも背後に気を配っている。
大勢に囲まれたことも1度や2度では無かったが、そんな時でも敵に背後を取られたことは無かった。
その彼の背後をいとも簡単に取った相手に、朽木は戦慄を覚えた。
だが同時に頭の片隅で『この声はもしや?…』とも考え始めていた。
そして振り返り銃を抜きかけたその時、派手にずっこけた。
「何だ朽木君じゃないか、久しぶり。こんなとこで何やってんの?」
声の主は全く驚いた様子も無く、平然と話しかけてきた。
一方こけた朽木は、見事にうろたえていた。
「そっそれはこちらの台詞ですにょー。あーたこそこんなとこで何やってるんすか、斑目しゃん?」
そう、声の主は斑目晴信(43歳、既婚、一児の父)だった。
ただかつての桜管工事工業の作業着(大学の職員に転職してからも気に入って着てた)ではなく、灰色がかった白のツナギの作業着を着て、それと同色のキャップ帽を被っていた。



478 :無軌道警察ハグレイバー その12:2008/01/06(日) 19:52:10 ID:???
斑目「俺はここの整備班長だよ」
朽木「せいびはんちょう?」
斑目「3年前に大学が潰れた時に、ちょうど引きがあってね」
朽木「でも斑目さん、レイバーの整備なんて…」
斑目「大学ってとこは忙しい時は忙しいけど、ヒマな時は徹底的にヒマだからな。それでヒマな時に勉強していろいろ資格取ったんだよ」
朽木「そうでありますか」
斑目「これでも車の修理からコンピューターのメンテナンスまで、レイバー整備に使えそうなスキルはひと通りあるんだぜ」
朽木『この人とうとう、リアルシゲさんになっちまったにょー』
斑目「ところで朽木君の方は、今日はどしたの?」
朽木「実はかくかくしかじかな理由で参った次第であります」
斑目「俺も今ではそうだから人のこたあ言えねえけど、宮仕えは大変だね。わざわざ断る為にここまで来るとは」
朽木「まあ県警本部長には、いろいろお世話になってますからなあ」
斑目「朽木君が隊長やってくれないのは残念だけど、そういう事情ならしゃあねえな。まあ今日はいろいろ見て行ってよ」
朽木「そうさせて頂きます」
斑目「まあ今じゃ東北でも犯罪多いみたいだし、将来はレイバー犯罪もあるかも知れんし、後々役に立つかもよ、今日の見学会が」
朽木「そうならんことを祈りたいですな。さすがに私もレイバーの相手は無理ですから」



479 :無軌道警察ハグレイバー その13:2008/01/06(日) 19:56:57 ID:???
斑目はレイバーの説明を始めた。
「ラジャエンタープライズジャパン筑波研究所謹製、タイプMM25、通称ウージーだ」
朽木「小型サブマシンガンつながりっすか…」 
(注釈)
パトレイバーのイングラムという名称の由来は、アメリカの小型サブマシンガンの名称。
そしてウージーはイスラエルの小型サブマシンガンの名称。
共にコートの下に携帯出来るほど小型のサブマシンガン。
イングラムの方が小さいが、その分軽いので反動の制御は難しい。

朽木「ラジャエンタープライズって言えば、確かアジア最強の…」
斑目「そう、多国籍企業だよ。例の漫画では戦後後発で成り上がった重機会社だったけど、現実の今の日本の重工業は衰退しちまったからな」
朽木「警視庁が外国の企業に自分とこで使うメカを発注するとは、世も末ですな」
斑目「まあ、そう言うなよ。ラジャは各国の支社の独立性が高いから、まだマシだよ」
朽木「MMとは何の略ですかな?」
斑目「MOBILE MACHINEの略らしい。つまり日本語で言うと25式機動機械ってな感じかな」
朽木「そう言うと、いかにも警察用レイバーって雰囲気になりますな」
斑目「で、このウージーの大きさなんだけど、全高は5,4メートル、重量は4,5トンだ。まあイングラムの3分の2ぐらいだな」
朽木「随分小さいですな」
斑目「その代わりにパワーはあるよ。そこいらの工事現場にあるようなレイバーなら、素手で捻り潰すぐらいの腕力あるし」
朽木「それは凄いですな」


480 :無軌道警察ハグレイバー その14:2008/01/06(日) 20:01:54 ID:???
斑目「それに装甲だって頑丈だし」
朽木「それなんですがね、斑目さん」
斑目「ん?」
朽木「あの首から胸にかけてのガラス張りのとこ、コックピットですよね?」
斑目「そうだよ」
朽木「最初見た時から気になっていたのですが、あんなとこにパイロットの姿晒したら危ないんじゃないですか?」
斑目「その点は大丈夫。まずあのガラスはステルスモードにするとマジックミラーになって、外からコックピット内は見えなくなるんだ」
朽木「ほほう」
斑目「それにあのガラス部分、実はウージーで1番頑丈なんだよ」
朽木「そうなんでありますか?」
斑目「何しろ機体価格の3割がかかってる特殊強化風防ガラスだからな。通常の銃弾はもちろん、対戦車ライフルやロケットランチャーでも破壊出来ないという優れ物だ」
朽木「そりゃ凄いですな。それにしてもこのレイバー、頑丈な分不恰好なスタイルですな」
斑目「確かに見た目はこんなんだけど、スピードや運動性はイングラム並みだよ。しかも足の裏から高速回転する電動ローラーを出して、最高時速200キロで走れる」
朽木「まんまAT(アーマード・トルーパー)ですな」
斑目「ただしバッテリーの消耗が激しいから、ローラー出して走れるの10分程度だけどね」
朽木「その速度で10分走って追いつけないなら追跡は無理だから、まあ妥当なとこですな。手持ちの武器はありますかな?」
斑目「あるよ。先ず肩の後ろから飛び出てる棒みたいなの、あれ抜くと警棒になる」


481 :無軌道警察ハグレイバー その15:2008/01/06(日) 20:06:24 ID:???
朽木「やっぱスタンスティックになってるんでありますか?」
斑目「そういう計画はあったらしいけど、残念ながら電気は流れないよ」
朽木「そりゃまたどうして?」
斑目「現実のレイバーは、アニメみたいに居住性良くないからだよ」
朽木「?」
斑目「つまりだ、レイバーのメカがいかれるほどの電気流したら、中に乗ってる奴の生命が危ないってことだよ」
朽木「なるほど」
斑目「凶悪犯ならともかく、酔っ払い運転とか子供が間違って動かしたみたいな事態で、いきなり運転してる奴を電気椅子送りにする訳には行かんからな」
朽木「かと言って、中の人が安全な電圧ではレイバーにも効かないと」
斑目「そゆことだ。まあその代わり、警棒は特殊強化チタニウム製だからすげえ頑丈だ。
レイバーの関節ぐらい、差し込めば簡単に破壊出来るよ」
朽木「そりゃ心強いですな」
斑目「しかも予備のもう1本と合わせて長い警杖にも出来るし、内蔵した鎖で2本を繋いでヌンチャクのようにも使えるし」
朽木「レイバーにヌンチャクですか…」
斑目「まあビュンビュン振り回す訳じゃなく、絡めて取り押さえる為らしいけどな」



482 :無軌道警察ハグレイバー その16:2008/01/06(日) 20:11:20 ID:???
朽木「銃はあるのですかな?やはりリボルバーキャノンか何かで?」
ニヤリと笑った斑目、ウージーの足元に行き、朽木を手招きする。
斑目はウージーの右脚の側面の出っ張りの隅っこのスイッチを操作した。
出っ張りの上の方がパカッと開いた。
「よいしょっと」
斑目は元々出っ張りから突き出ていた、何かの取っ手のような細長い出っ張りを握って引き上げる。
「ああ重てえ。何しろモデルになった拳銃の3倍ぐらいの大きさだからな」
言いながら斑目は、巨大な拳銃を取り出して床に置いた。
朽木「これは…」
斑目「23ミリオートキャノンだ」
その巨大な拳銃は、独特の形状をしていた。
四角い鉄の塊の本体に、長い銃身と茄子型の細長いグリップと引き金を付けた、そんな感じの無骨な銃だ。
斑目「まあモデルになった本物の拳銃の約3倍の大きさだから、口径も23ミリだ。確か本物の口径は7ミリちょっとぐらいだからな」
朽木「正確には7,63ミリです」
斑目「?」
朽木「装弾数10発で、その脚のホルスターは外して銃のグリップに付けるとストックになり、ライフルのようにより長距離での安定した狙撃が可能になる、違いますか?」
斑目「いやあ、さすが現役の刑事さんだ。正解だよ」
朽木「実は私の愛銃が、こいつのモデルになったやつなんです」
言いながら朽木は、スーツの下から拳銃を抜き出して、斑目に見せた。



483 :無軌道警察ハグレイバー 暫定休憩:2008/01/06(日) 20:19:33 ID:???
すんません、今回は何か、延々設定資料集を開陳するだけの、自己満足SSと化してしまいました。
ここで1度休憩して、後ほど続きを投下しようと思います。
校正の進み具合によっては、翌日になるかも知れませんが。
ではとりあえず休憩入ります。

484 :無軌道警察ハグレイバー 再開:2008/01/07(月) 01:27:17 ID:???
遅くなりました。
さて、続きの校正が上がったので戻って来ました。

うーむ困った。
8レスあるのですが、最初の6レスは殆ど銃に関する説明のみになってしまいました。
つまりストーリー的には、実質2レスしか上がってない情況です。
銃に興味の無い方は、その23まで飛ばして頂いても、進行上は差し支えありませんので、その様にお願いします。

485 :無軌道警察ハグレイバー その17:2008/01/07(月) 01:33:33 ID:???
朽木「ドイツ製モーゼルミリタリーです」
斑目「こりゃ驚いた。でもオートキャノンとはちょっと違うね」
朽木「特注でちょっと改良を加えてあるのです。先ず本来の撃鉄では丸くて親指で起こす際に滑りやすいので、ちょっと削ってへこませてあります」
斑目「いや、そこまで細かいとこは見てないけど…」
朽木「ああグリップのことですね。私の手には細過ぎるし、ここ(親指と人差し指の間)に当たる部分に金具が突き出てるんで、特注のグリップ用カバーを被せてあるのです」
(注釈)
この金具の為、モーゼルは慣れない人が手袋無しで連射すると、手が傷付く恐れがある。

斑目「それにしても朽木君、最近の私服の刑事さんは、普段から拳銃持ち歩いてるのかい?」
朽木「5年ほど前に、拳銃取扱細則が変更になったんですよ」
朽木は斑目に、前述の事情を説明した。
斑目「でも普通はみんな、そんなマニアックな拳銃は持たないだろ?」
朽木「まあ殆どの人が選んだのは、米軍採用のベレッタM92Fに代表される、装弾数14発前後の複列式弾倉で、9ミリルガー弾使用のダブルアクション自動拳銃ですな」
(注釈)
9ミリルガー弾
世界各地の警察や軍隊で多用されている拳銃弾。
拳銃弾としては高速で大口径の部類に入るので、体のどこかに当たれば即死を免れても動きは止められる。



486 :無軌道警察ハグレイバー その18:2008/01/07(月) 01:39:54 ID:???
複列式弾倉
従来の自動拳銃の装弾数は8発程度だった。
だが最近では、複列式弾倉を採用した装弾数14発前後の拳銃が次々と作られ、主流になりつつある。
従来の自動拳銃の弾倉が縦1列に弾を装填するのに対し、複列式は少し太目の弾倉にジグザグに弾が装填される。
ただしその分グリップが若干太くなるのが難点。
(ちなみに複列式弾倉採用による多連装拳銃の元祖は、1935年に作られた13連発のベルギー製ブローニングハイパワーと言われている)

ダブルアクション
撃鉄を起こさなくても引き金を引くだけで撃鉄が起きてきて、引き切ると撃鉄が倒れて発射する機構のこと。
元々は主にリボルバーに採用されていたのだが、最近では自動拳銃でもこの方式が広く採用されている。
自動拳銃は不発の場合、撃鉄が内蔵式の場合はスライド(拳銃本体の上半分。文字通り前後にスライドする可動パーツ)を引いて不発の弾を排出しなければならない。
撃鉄が外に露出してるタイプでも、もう一度撃鉄を起こしてから引き金を引く必要がある。
これに対し、ダブルアクションなら不発の際は引き金をもう1度引けばいい。
本当に弾が不良で不発の場合はごく稀で、殆どの不発は撃鉄での打撃力不足が原因なので、もう1度撃てば大概は発射出来る。
軍用の自動拳銃はサイドアームなので、これを使わなければならない情況は、多くの場合とっさに撃たなければならない、一刻を争う切羽詰った情況だ。
そんな状況下での不発には、引き金を引くだけで撃てるダブルアクションは有難い。



487 :無軌道警察ハグレイバー その19:2008/01/07(月) 01:46:24 ID:???
斑目「で、朽木君は何でその拳銃にしたの?」
朽木「まあ1番大きな理由は、お偉いさんの顔を立てたことですな」
斑目「どゆこと?」
朽木「現場からの叩き上げのお偉いさんには、警官の拳銃の装弾数が5発だったことがトラウマになってる方がけっこう多いのです」
斑目「?」
朽木「考えてもみて下さい。ただでさえ装弾数少ないのに、威嚇射撃で1発無駄に使い、その上で当てることを要求されるのです。ろくに射撃練習もしてないのに」
斑目「なるほどね」
朽木「だから今回の取扱細則改正の際、皆さん下の者に熱心に薦めたんですよ。装弾数の多い拳銃を持つことを」
斑目「下手な鉄砲も数撃ちゃ、ってやつか。その言い方だと朽木君は、弾数多いことには反対みたいだけど…」
朽木「確かに5発は少ないと思うけど、10発以上も要らないと思います」
斑目「意外だね。君なら喜んで乱射すると思ってたけど」
朽木「えらい言われ方ですな。確かに若い時ならそう思ったかも知れませんが、今では8発もあれば十分だと思います」
斑目「そりゃまたどうして?」
朽木「先ず警察官は原則1人では行動しないということです。2人以上居れば、弾詰める時間ぐらいはありますから、1度に10数発も装填する必要はありません」


488 :無軌道警察ハグレイバー その20:2008/01/07(月) 01:53:08 ID:???
斑目「君の口からそういう言葉が出るとはね」
朽木「またまたえらい言われ様ですな。それにこれは私見なんですが、日本人の手には複列式弾倉の自動拳銃のグリップは太過ぎると思うのです」
斑目「と言うと?」
朽木「確かに戦後日本人の体格は向上しましたが、それでも個々のパーツのサイズは外国人に比べると小さいと思うのです」
斑目「なるほど。確かに外人さんって、同じぐらいの背丈の日本人に比べて手足長いもんな。で、モーゼル選んだ理由はそれだけかい?」
朽木「理由はあと4つあります」
斑目「ほう、どんな?」
朽木の説明によれば、残る4つの理由は次の通りであった。

1)命中精度が高い
銃の照準は、銃身最先端の上部にある照星と呼ばれる突起と、銃本体最後尾の上部にある照門と呼ばれる中心がへこんだ(穴が開いている場合もある)突起を使って合わせる。
この照星と照門の間が長ければ長いほど、照準の精度は高くなる。
また銃身の内側には、ライフリングまたはライフルと呼ばれる螺旋状の溝がある。
弾丸は発射される際、その縁がライフリングにわずかに食い込むことで、きりもみ状に回転を加えられて飛ぶ。
これにより、安定した直線に近い弾道が得られる。
この回転は、銃身が長ければ長いほど強くなり、より安定して直線に近い弾道になる。
以上の理由から、銃は他の条件が同じなら、銃身が長いほど命中精度はアップする。
銃身長も銃の全長も長いモーゼルは、その2つの条件を軽くクリアしている。



489 :無軌道警察ハグレイバー その21:2008/01/07(月) 01:58:40 ID:???
また、多くの自動拳銃は、可動部であるスライドの上に照門がある。
(スライドが銃身に被さるタイプの銃だと、照星もスライド上になる)
発射の際には、発射の反動(または火薬の爆発で生じるガスのガス圧)によってスライドが後退しつつ空薬莢を排出し、バネでスライドが前に戻ることで次弾を薬室に装填する。
この為何発も発射すれば、ごくわずかだが照門(銃によっては照星も)は動く。
これに対し、モーゼルはスライドではなく、内蔵されたボルトというピストン状の部品の往復によってこの一連の動作を行うので、他の銃に比べ照星や照門の動く可能性は低い。
拳銃の有効射程距離は普通20〜30メートル程度なので、通常の拳銃射撃にはその程度の誤差は問題無い。
だが後述するように、朽木はそれ以上の距離での射撃を行なうので、照準の精密さにこだわったのだ。
もっとも実際のモーゼルの拳銃としての命中精度は、実はあまり良くない。
カービン(後述)としての命中精度を優先した設計思想なので、拳銃として使う場合のバランスを犠牲にしている為だ。
ただそれでも、銃の癖(狙った所より上に着弾しがちな傾向がある)を一旦覚えてしまえば、けっこう当たるという証言も多い。

2)長距離射撃が可能
モーゼルが収納された木製のホルスターは、ベルトから外してモーゼルのグリップの後ろに装着すると、ショルダーストック(銃床)になる。
(もっともこのホルスター、通常はガンベルトで使用する場合が多く、ショルダーホルスターで使われることは少ない)
こうすると即席のカービン銃(元々は騎兵隊用の短いライフルのことだが、現在ではヘリや戦車搭載用等に使われている)になり、ライフルのように長距離での射撃が可能になる。
拳銃ではどう頑張っても、せいぜい30〜50メートルぐらいが最大有効射程距離だが、カービンにすれば最大200〜400メートルぐらいでの射撃が可能になる。
(ちなみにモーゼルの照門の目盛は1000メートルまである!)


490 :無軌道警察ハグレイバー その22:2008/01/07(月) 02:03:46 ID:???
3 )弾速が速い
モーゼル用の7,63ミリボトルネック弾の初速は425m/秒。
これは軍用として世界中で広く使われている9ミリルガー弾や、警察用や護身用のリボルバーで広く使われている38口径スペシャル弾に比べ、格段に高速だ。
(銃の種類によって多少違うが、9ミリは初速360m/秒程度、38は初速220m/秒程度)
マグナム弾が開発されるまで世界最速の拳銃弾だったモーゼル弾は、ケブラー繊維等で弾を絡め取るタイプの旧式の防弾チョッキなら貫通出来る。
(樹脂や鋼板等で弾を物理的に止めるタイプの新しい防弾チョッキでも、貫通出来ないだけで弾の運動エネルギー自体は消えないから、肋骨の骨折や内臓破裂等は免れない)
この時代の犯罪者たちは、末端の者でも旧式の防弾チョッキを着けていることがよくあるのだが、モーゼルならこれに対抗出来る。

4 )弾の規格がトカレフと同じ
この時代、外国人の犯罪者はもちろんヤクザや末端の犯罪者に至るまで、トカレフは広く普及していた。
元々トカレフは、開発以前に大量に輸入したモーゼルの弾を流用することを前提で設計されたので、モーゼルと同じ規格の弾を使用する。
この為、複数の犯罪者との銃撃戦では、もし弾切れしたら敵の弾を奪って使うという手段が取れる。


491 :無軌道警察ハグレイバー その23:2008/01/07(月) 02:11:56 ID:???
その後朽木は格納庫の隅にある休憩室のようなスペースに案内され、斑目に出されたお茶を飲みつつレイバーの説明を引き続き聞いた。
その時1人の少年が入って来た。
小学生ぐらいで、痩せ型で眼鏡をかけた、斑目に似た少年だ。
斑目「おう、どしたい?」
少年「父さん弁当忘れたでしょ?母さんが持ってけって(言いながら斑目に弁当を渡す)」
朽木「父さん?」
斑目「おう、すまねえな。あっ朽木君、こいつ息子の望(のぞむ)。望、こちらは俺の大学の後輩の朽木君だ。今は刑事をやってる」
朽木「望?」

一瞬朽木の脳内でフラッシュバック。
着物姿の斑目が絶叫。
「絶望した!」

朽木『斑目さん、あなた昔コスやった漫画キャラの名前を息子に…』
互いに挨拶し合い、まだ呆然としている朽木と不思議そうな顔の望。
朽木「今日は学校はどうしたの?」
望「春休み…」
朽木「おお、そういう季節なんだのう…(斑目に)10年ほど前にお会いした時に、奥さんのお腹の中に居たお子さんですかな?」
斑目「(少し赤面し)ああ、そん時のだよ」
朽木は10年前、ある事件の捜査の為に椎応大学を訪れ、斑目の奥さんに会っている。
斑目の奥さんは現視研の後輩で、当時まだ1年生だった。
つまり斑目夫婦は出来ちゃった婚なのだ。



492 :無軌道警察ハグレイバー その24:2008/01/07(月) 02:19:08 ID:???
望はどこか落ち着かない様子だった。
その意味に気付いた斑目が声をかけた。
「美幸君なら今はオフィスに居るよ」
望「(赤面し)なっ、何言ってんだよ父さん!」
斑目「(腕時計を見て)今日は午後から模擬戦の訓練やるから、もうじきこっち来るよ。見て行くか?」
望「(赤面し)いいよ!帰る!」
出て行く望。
朽木「美幸君とは、どなたですかな?」
斑目「うちのレイバー隊員だよ」
朽木「なるほど、その人に気がある訳ですな。おいくつでしたかな、息子さんは?」
斑目「今年で9歳だよ」
朽木「チト若いけど、そういうことに興味持つ年頃なんですなあ」
斑目「まあ、何と言うか…」
苦笑する斑目。
この時朽木は、斑目の苦笑に複雑な意味合いが込められていることに気付かなかった。
斑目「それより朽木君、断る為とは言え、ここまで来たんなら課長に会って行くよな?案内するよ、課長室に」
朽木「オフィスは別棟でありますか?」
ここまで見た限りでは、この建物は殆ど格納庫兼整備室で、休憩室以外の部屋は無さそうだ。
斑目「(意味ありげにニヤリと笑い)オフィスの方は、君もよく覚えている大学の建物を改造して使ってるんだよ」


493 :無軌道警察ハグレイバー 次回予告:2008/01/07(月) 02:34:32 ID:???
やれやれ、今回はSSだか何だかよく分からない、長文の羅列になってしまいました。
次回は話がいよいよ動き始めますので、平にお許しを。

次回、遂にレイバー隊の全貌が明らかになる!
果たして特機課のオフィスの建物とは?
特機課課長の正体とは?
そしてレイバー隊員たちとは、果たしてどんなメンバーなのか?
(まあみなさん、大体見当は付いてると思いますが)

本日はここまでです。
失礼しました。

494 :無軌道警察ハグレイバー 追記:2008/01/07(月) 03:07:52 ID:???
先ずはお返事
>>473
今回のクッチーは、補正し過ぎの反面、中年オタの生身の部分も描きたいと思っています。
まあその辺りはこの後、追々やって行きますんで。
>守りに入ろうとしてる姿に微かな落胆
40過ぎた公務員とは、こういうもんらしいです。
この後彼に転機が訪れますんで、生暖かい目で見守ってやって下さい。

あとまとめサイトの管理人の方、お手隙でけっこうですので「はぐれクッチー純情派」のアップされた分、最後まで読めるようにお願いします。
少なくとも、うちのパソコンでは途中までしか読めません。
もしうちだけだったら、気にしませんので。

ついでに念の為宣伝。
「はぐれクッチー純情派」は、SSスレ7でご覧になれます。



495 :無軌道警察ハグレイバー 前書き:2008/01/07(月) 22:02:42 ID:???
さて、今夜もまたバカがSS投下しに参りました。
とりあえず8レス投下します。

496 :無軌道警察ハグレイバー その25:2008/01/07(月) 22:04:15 ID:???
格納庫兼整備室のプレハブを出て、斑目と朽木は課長室へと向かった。
途中で作業着姿の若者たちの一団に会った。
若者たちの1人「あっおやっさん、食事先に頂きました」
朽木『おやっさん?』
斑目「おう、ちょっと客人を課長んとこへお連れしてるから、掃除と模擬戦の準備やっといてくれ」
若者たちの1人「了解です」
朽木に会釈しつつ立ち去る若者たち。
朽木も会釈しつつ見送る。
朽木「あの斑目さん、今のは?」
斑目「うちの整備の若いもんだよ」
朽木「斑目さん、普段おやっさんって呼ばれてるんですか?」
斑目「(照れて)まあ最初はやめろっつーたんだけど、今では好きにさせてるよ」

特機課のオフィスへと向かう途中、朽木は尋ねた。
「それにしても大学の建物、殆ど残ってますな」
斑目「レイバー隊編成して、レイバー作って、指揮車と運搬車作って、格納庫建てて、そこで予算が尽きたらしいんだ。まあ取り壊しまでは何年もかかると思うよ」
朽木「いずこも予算不足ですなあ。にょっ?」
朽木は頭上の奇妙な物体に気付いた。
頭上数メートルの高さに、直径1メートルほどの白いパイプのような物が2本張り巡らされている。
工場等の天井に張り巡らされた排気ダクトや、遊園地中に敷かれたジェットコースターのレールを連想させる。


497 :無軌道警察ハグレイバー その26:2008/01/07(月) 22:06:31 ID:???
朽木「斑目さん、あれは何でありますか?」
斑目「緊急発進用のシューターだよ」
朽木「しゅーたー?」
斑目「ほら、デパートの上の方の階なんかに、避難用のシューターがあるだろ?あれを参考にして作ったんだよ」
朽木「てことは、あの中を滑ってレイバーのコックピットに?」
斑目「(笑って)さすがにそこまでは無理だったんで、格納庫の方には着地用のマットが敷いてあるよ」
朽木「でも何ゆえに、こんな大仕掛けを?」
斑目「特機課のオフィスから格納庫まで、徒歩だと5分近くかかるからだよ。試しに走っても2分切れる隊員は2人ぐらいしか居なかったし」
朽木「緊急発進としては時間かかり過ぎですし、第一発進前に体力使うのはまずいですな」
斑目「その点シューター使えば、1分足らずで格納庫まで行ける」
朽木「そりゃ便利ですな」

シューターについての会話をしつつ歩く内に、目的の特機課のオフィスの建物に着いた。
朽木「(呆然として)ここでありますか?」
斑目「そうここ、懐かしいだろ?」
朽木「でも何ゆえにこの建物を?」
斑目「部屋の広さがちょうど良かったからだよ。大講義室のある学棟やゼミ棟じゃひと部屋が広過ぎるし、かと言って教授棟じゃ逆に狭過ぎるし」


498 :無軌道警察ハグレイバー その27:2008/01/07(月) 22:09:11 ID:???
朽木「でもこの建物って、確か70年安保の頃ぐらいからありませんでしたっけ?」
斑目「それぐらいからあったかな。築半世紀は軽く越えてたからな」
朽木「そんな古い建物で大丈夫なんでありますか?」
斑目「見た目は安上がりだけど、案外頑丈に出来てるよ、この建物。何しろ爆弾想定して作られたらしいからな」
朽木「爆弾?」
斑目「昔の労働争議とかって意外と物騒でな、けっこう爆弾沙汰ってあったらしいんだ。この建物建った頃は安保の真っ最中だから、それで爆弾想定して作ったらしい」
朽木「なるほどね、そんな過去がこの建物にあったとは」
斑目「まあそんなことより、早いとこ課長に会おうぜ」
こうして2人は、かつてサークル棟と呼ばれた建物へと入って行った。

朽木は階段でもよかったのだが、斑目が先に乗ったので共にエレベーターに乗る。
(注、エレベーターは朽木の卒業後に設置された)
朽木「課長室以外の部屋はどうなってるのですかな?」
斑目「特機課オフィスと整備のオフィス、整備班長室、まだ主は未定だが隊長室、電算室、資料室その他、それ以外の部屋は整備班員やレイバー隊員の宿直室だ」
朽木「宿直室?」
斑目「まあ建前上そうなってるが、実質は寮の個室みたいなもんさ。若いもんの大半はここに住んでるよ」
朽木「いいのかなあ…」
斑目「まあ自宅から通ってるのは、課長と俺と、ごく一部実家が近い奴だけだよ」
話を進める内にエレベーターは3階に止まった。



499 :無軌道警察ハグレイバー その28:2008/01/07(月) 22:11:35 ID:???
斑目に先導されて歩く朽木。
やがて斑目は立ち止まった。
斑目「ここだよ」
朽木「(呆然として)ここでありますか?」
斑目「そうここ。懐かしいだろ?」
朽木「何ゆえにこの部屋なのでありますか?」
斑目「課長本人のたっての希望でね。何でもこの部屋が1番落ち着くんだそうだ」
朽木「やれやれ、果たしてどんな変人が待つのやら…」
斑目「(ノックし)失礼します。課長、X県警の朽木刑事をお連れしました」
室内から「どうぞ」という、どこかで聞いたことあるような無いような、間の抜けた声が聞こえた。
朽木「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか…」
少し緊張しつつ、朽木は斑目と共に旧現視研部室であった課長室に入った。
(注、部室は荻上会長の代に、屋上にプレハブを建てて移転した)

部室、ではなく課長室に入った朽木は、またもや派手にずっこけた。
課長室に居たのは、猫背で撫で肩の小男であった。
警察幹部用の制服ではなく、スーツ姿だった。
中途半端な長さの長髪で、眼鏡をかけた犬のような顔をしていた。
その男に朽木は見覚えがあった。
『初代会長?!』
朽木は心の中で、必死で自分を落ち着かせようとした。
『落ち着け、朽木学。考えてもみろ。警察内部に初代会長が居れば、俺の耳にも入るはず』
『そうだ、この人はきっと初代に似たそっくりさんなんだ』
『ほら昔から言うじゃないか。この世には似た人が7人は居るって』


500 :無軌道警察ハグレイバー その29:2008/01/07(月) 22:14:10 ID:???
だが課長の次のひと言は、そんな朽木の希望的観測を木っ端微塵にした。
「やあ朽木君、久しぶりだね」
朽木『やっぱ初代会長本人だよ〜!』
斑目「そんじゃあ俺はこれで」
課長室を出て行く斑目。
朽木『課長が初代会長だったこと隠してたなんて、斑目さんも人が悪い…』
とは言えそこは警察官の朽木、気を取り直して改めて挨拶する。
朽木「(敬礼しつつ)お久しぶりであります!X県警北日本広域捜査隊所属、朽木学巡査部長、お招きに預かり参上しました!」
課長こと初代会長(年齢その他一切不明)「すっかりお巡りさんだね」
朽木「会長、もとい課長こそまさか警察の方だったとは、わたくし全然存じ上げておりませんでした」
初代「僕は警察の人間じゃないよ」
朽木「にょっ?それはどういうことですかな?」
初代「僕の正式な身分は、ラジャエンタープライズジャパン筑波研究所技術7課の主任だ」
朽木「その主任さんが、何ゆえにレイバー隊に?」
初代「元々は、MM25のOSのメンテナンスと技術指導の為に、こっちに出向して来たんだよ」
朽木「で、それが何で課長さんに?」
初代「何時まで待っても本庁が、特機課の課長を決めてくれなかったからだよ」
朽木「?」
初代「生ぐさい話で申し訳無いけど、うちとしても慈善事業でやってる訳じゃないから、早いとこレイバー隊が正式に立ち上がって活躍してくれないと、商売上がったりなんだよ」



501 :無軌道警察ハグレイバー その30:2008/01/07(月) 22:16:59 ID:???
朽木「そりゃまた生ぐさい話ですな」
初代「そこで仕方なく本庁と交渉して、特例として僕を臨時警察官の身分にしてもらい、特機課課長を兼任することにしたんだ」
朽木「本庁もいい加減なことやってるなあ…」
初代「そうそう、名刺を渡しておこう」
朽木『おう、長年謎とされて来た、初代会長の本名がいよいよ明らかに!』
だが名刺を受け取った朽木、再び派手にずっこけた。
名刺には先程聞いた肩書きと共に、氏名の欄に大きく初代会長と書かれていた。
朽木「なっ、何ですか、この名刺は?」
初代「ああ言い忘れてたけど、うちの会社では仕事上の名前とプライベートの名前を使い分ける規則になってるんだ」
朽木「変わった会社ですな…」
(注釈)
ニッケンというレンタル関連の会社で、現実にこういうことが行なわれているそうだ。

初代「僕の本名…知りたい?」
朽木の表情に好奇心が表れていたのか、そう尋ねる。
その時初代会長の背後に、何とも言えない不気味なオーラが現れた。
朽木「…いえけっこうです『何か本名知ったら消されそうだし…』」


502 :無軌道警察ハグレイバー その31:2008/01/07(月) 22:19:25 ID:???
朽木は初代会長に、前述の理由を話して正式に隊長のオファーを断った。
初代「そうか、朽木君隊長やってくれないのか…」
朽木「申し訳ありません。わざわざこちらに来て、却って気を持たせてしまいましたかな?」
初代「いや、それは構わないよ。むしろ丁寧に断ってもらったことに対し、礼を言いたいぐらいだよ」
朽木「そう言って頂けると恐縮です」
初代「問題は次の隊長候補だな。正式な隊の発足は4月からなんだけど、間に合うかな…」
朽木「4月って…来月じゃないですか!何か重ね重ね申し訳無いです」
初代「まあしょうがないさ、君のせいじゃないし。それよりせっかく来たんだから、レイバー隊の面々を紹介するよ」

課長室を出た朽木、初代会長の先導でレイバー隊のオフィスに向かう。
階段を上り、4階を越えてさらに上り、屋上へと向かっていた。
朽木「?こっちはまさか?」
初代「ほら着いたよ」
そう初代会長が声をかけた時、2人は屋上に立っていた。
そして2人の眼前には、朽木が学生生活の最後の1年弱を過ごした、荻上会長時代に移設したプレハブの現視研部室があった。
朽木「ここがレイバー隊のオフィスでありますか?」
初代「そうだよ」
朽木「何ゆえにここに?このプレハブだって、もう築20年近く経ってるのでは?」
初代「ここがサークル棟で1番広い部屋だったからね。それに1番上からの方が、シューターを作る時に落差があっていいって、斑目君が言い張ったんだよ」
朽木「それにしてもプレハブですか…」
初代「大丈夫だよ。要所要所補強してあるから、普通の地震程度では壊れないから」



503 :無軌道警察ハグレイバー その32:2008/01/07(月) 22:23:22 ID:???
初代会長と共に、朽木は10年ぶりにかつて現視研の部室だったプレハブに入った。
さすがに室内の様子は変わっていた。
山ほどあったオタグッズは姿を消し、本棚はファイルとマニュアルだらけになっていた。
中央に置かれていた大きなテーブルの代わりに、事務用の机が並んでいた。
6つある机の内、5つにはノートパソコンが置かれていた。
ただロッカーはそのままになっており、部屋の隅に型違いのパソコンやテレビがあるところに、かつての部室の面影が残っていた。

室内には、オレンジ色と白のツートーンカラーの、特車二課の制服そっくりの制服を着た3人の女性が居た。
内2人は机に向かい、何やら書類作成中だった。
もう1人は部屋の隅のパソコンを使っていた。

机の2人は、2人ともややぽっちゃり気味の体形で、かなりの巨乳だった。
1人は婦人警官とは思えぬ長い髪をしており、もう1人はセミロングで眼鏡をかけ、カチューシャを髪に着けていた。
髪の長い婦警の方が、眼鏡の府警より巨乳のサイズが3サイズぐらい大きい。
2人とも美人とまでは言わないが、丸顔で可愛らしい。
パソコンの前の3人目はスレンダーな体形で、あとの2人に比べれば髪は短く、おかっぱの金髪だった。
こちらはかなりの美人だ。


504 :無軌道警察ハグレイバー 暫定休憩:2008/01/07(月) 22:29:21 ID:???
ここでとりあえず1度休憩します。
多分日が変わった頃ぐらいに再開出来ると思います。


505 :マロン名無しさん:2008/01/07(月) 22:56:20 ID:???
30人もハグレイバーも、わくわくしながら拝見しております!
確固たる世界が確立されていて、"サイド"ストーリーじゃないレベルの高さに惹きこまれております。

506 :無軌道警察ハグレイバー 再開:2008/01/08(火) 00:44:10 ID:???
さて続きを投下しようと思います。
またまた8レスです。

お客さんがいらしてたようなので、お返事も。
>>505
感謝感激です(涙)
まあクッチーの能力が3倍にパワーアップするマイ脳内空間、この後も楽しんで頂ければ幸いです。

507 :無軌道警察ハグレイバー その33:2008/01/08(火) 00:50:13 ID:???
朽木『何だこの萌え漫画みたいな、女性のレベル高過ぎの職場は?…』
3人は初代会長と朽木に気付くと、立ち上がって敬礼する。
厳密には発足前でまだ研修中ということもあってか、その敬礼はどこかぎこちない。
立ってみると、3人ともけっこう大柄だ。
広域捜査隊に配属されて以来発砲する機会が多い上、元々視力の良かった朽木は、極端に目測能力に秀でていた。
その朽木の目測では、眼鏡の子は168センチ、長い髪の子は172センチ、金髪の子は178センチ、それぐらいだった。
初代「ちょっとお邪魔するよ。こちらは特機課の視察に見えた、X県警北日本広域捜査隊の朽木刑事だ」
紹介されて反射的に敬礼しつつ挨拶する朽木。
「朽木巡査部長です!お仕事中失礼します!」
初代「ささ、みんなも自己紹介して」
長い髪の方の巨乳「田中香澄です」
眼鏡の方の巨乳「久我山薫子です」
香澄の自己紹介には特に反応しなかった朽木、薫子の自己紹介に心の中で反応した。
『久我山?』
彼の中に芽生えた疑惑は、次のスレンダー金髪美人の自己紹介で確信に変わった。
「高坂美幸です」
朽木「『高坂?』あの課長…この方々はもしや?」
初代「さすが朽木君、察しがいいね。君の思った通りだよ。この子たちは現視研の元会員たちの子供たちさ。香澄君は田中君と旧姓大野さんの娘、薫子君は久我山君の娘」
朽木「そして美幸君は、高坂先輩と旧姓春日部先輩の…」
初代「そういうことだ」
朽木「何の冗談だか、えらく狭い世間ですな…隊員はこの3人だけですかな?」
初代「あと2人居るけど、今ちょっと出かけているんだ。それとあと1人、近日中に補充要員が来る予定だ」


508 :無軌道警察ハグレイバー その34:2008/01/08(火) 00:56:17 ID:???
その時、香澄の机の上に積み上げられていたファイルが崩れ落ちた。
一同「あっ…」
ファイルの下から、カラフルな布で出来た物体が出て来た。
朽木『これはもしや、コス?…』
香澄「(赤面しつつ謎の物体を抱え込み)こっ、これはその…」
連鎖反応のように、薫子の机の上に積み上げられたファイルも崩れ落ちた。
その下から出て来たのは、漫画の原稿だった。
現在テレビで放送中のアニメのキャラに似ているが、内容は明らかに18禁の漫画だ。
朽木『もしや同人誌の原稿?』
薫子「(赤面しつつ原稿に覆い被さり)こっ、これはその…」
初代会長は美幸の使っていたパソコンを何やら操作した。
これまた18禁ぽい絵が出て来た。
朽木『こっちはもしやエロゲー?』
美幸は無言で誤魔化すように微笑み続けた。
初代「みんなダメだよ、休憩時間以外にこういうのは」
隊員一同「申し訳ありません!」
朽木『(呆れて)結局やってることは、部室と変わんないじゃねえか。さすが先輩たちの子供たちだな…』
初代「いやあ、お見苦しいところをお見せしたね」
朽木「いえ…」
初代「でもこう見えても、みんな優秀だよ。3人ともパソコンのプログラム程度は出来るし、レイバーはもちろん運搬用トレーラーも運転出来るし」
朽木「それは頼もしいですな…」


509 :無軌道警察ハグレイバー その35:2008/01/08(火) 00:59:10 ID:???
その時部室、もとい特機課のオフィスの内線電話が鳴った。
初代「(電話を取り)僕だ…分かった、みんなにも伝える」
電話を切った初代会長、隊員たちに告げる。
「整備班長からだが、出かけてたあの2人が今帰って来たそうだ。君たちはすぐに模擬戦訓練の準備にかかってくれたまえ」
3人「(敬礼しつつ)了解!」
そして各々、先程までの作業の後片付けにかかる。
朽木「そう言えば、今日は模擬戦をやると斑目さんから伺ってましたな」
初代会長「まあよかったら見て行ってくれたまえ」

特機課のオフィスを出た一同、屋上の金網の一角に向かう。
金網の一角には、ゴミの焼却炉のような鉄扉が設置されていた。
どうやら先程斑目に説明を受けた、スクランブル用のシューターの入り口らしい。
雨対策の為か、上にはビニールで軒が設けられていた。
香澄は鉄扉を開け、中に滑り込んだ。
それを見つめる朽木に、美幸が声をかけた。
「あの、よろしかったらやってみますか?」
「俺?」という感じで自分を指差す朽木。
高坂似の人なつこい笑顔を見せる美幸。
思わず赤面してしまう朽木。
『さすがあの2人の娘だけあって美人だな。斑目さんの息子さんが惚れるのも無理無いな』
美幸の笑顔に惹かれたせいか、朽木はやってみることにした。
シューターは2列なので、美幸と同時に先程香澄が入った入り口へと滑り込む。


510 :無軌道警察ハグレイバー その36:2008/01/08(火) 01:02:06 ID:???
直径1メートル少々の太さの白いパイプの中を高速で滑るのは、なかなか不思議な体験であった。
だがそんな朽木の感慨は、わずか数秒で終わった。
「にょっ?」
「ちょっ、ちょっと?」
先に滑った香澄に朽木が追いついてしまったのだ。
結果朽木は、香澄に背後から抱きついて(しかも本人に自覚は無いが、朽木の手はしっかり香澄の巨乳を掴んでいた)滑る格好になった。
「あっ、あのう…」
「こっ、これは…」
2人の思考が事態に追いつく前に、第2波が来た。
「ひええええ!」
後から滑り込んだ薫子が追いついたのだ。
「にょ〜〜〜〜〜!!!!!!」
結果朽木は、香澄に背後から抱きついた上に、背後から薫子に抱きつかれ(しかも巨乳を背中に押し付けられて)滑る格好になった。

やがて3人は格納庫に到着した。
着地用のマットに、もつれたまま転がり込む3人。
気が付くと朽木は、仰向けになった顔の上に、4つの巨乳が乗っかかる格好になっていた。
「おあ〜〜〜〜〜!!!!!!」
大慌てで2人を押しのけて立ち上がる朽木。


511 :無軌道警察ハグレイバー その37:2008/01/08(火) 01:06:58 ID:???
朽木「こっ、これはとんだ失礼をば!」
赤面滝汗最敬礼で頭を下げる朽木。
久我山の娘の薫子はともかく、大野さんの娘である香澄は激怒しそうな予感がしたせいもあってのことだ。
だが意外にも、2人とも赤面こそすれ、友好的な姿勢は崩さなかった。
それどころか、妙に艶っぽい目をしている。
薫子「いっいえ、いいんです。間置かずに滑り込んだ私も悪いんですし…」
香澄「そうですよ。実はよくある事故なんですよ、今の」
朽木「よっ、よくあるんですかな?」
香澄「前の人が入った後、大体10秒空ければ大丈夫なんですけど、このシューター加速の仕方がアトランダムなんで、それでも時々追いついちゃうんです」
朽木「そっ、そうでありますか。とっ、とにかく失礼しました〜!」
逃げるように立ち去る朽木。

香澄「パパやママとそう歳変わらないはずなのに、純よねえ、あの刑事さん」
薫子「そっそうねえ。それに細そうに見えて、意外とガッチリした体だったし…」
オヤジ好きの大野さんの血を引く香澄は、当然のごとくオヤジ趣味が遺伝していた。
大野さんがピクリとも反応しなかった学生の頃の朽木と違い、40過ぎて渋みが出て来た今の朽木は、香澄のオヤジ萌えの有効射程距離内だった。
一方久我山の血を引く薫子は、彼の内面のエロエロな一面を引き継いでいて、朽木の体の方に惹かれていた。
人は一生に1度モテモテになる時期があるという都市伝説があるが、どうやら40を過ぎてようやく朽木にもそういうローテーションが回ってきたようだ。


512 :無軌道警察ハグレイバー その38:2008/01/08(火) 01:20:32 ID:???
気を取り直した朽木、レイバーの方に向かう。
整備班員たちと何やら話し込んでいる、3人の隊員服の人影が見えた。
1人は美幸だ。
そして残る2人を見て、朽木は愕然とした。
2人は若き日の笹荻そっくりだった。
ただ、笹原もどきは笹原より目が大きく、荻上もどきは荻上さんより目が垂れていた。
そしてオリジナルよりも笹原もどきは背が高く、荻上もどきは低かった。
朽木の目測では、笹原もどきは178センチ、荻上もどきは145センチぐらいだった。
ついでに付け加えると、荻上もどきはやっぱり筆頭であった。
2人を見て朽木は確信した。
『間違いない。10年前に会ったあの子たちだ』
朽木は10年前、ある捜査の為に笹荻宅を訪ねている。
その際に、笹荻のまだ小さい息子と娘に会った。
息子は麦男、娘は千尋という名前だった。
2人は縮小コピーのように笹荻そっくりだった。

「朽木刑事、お久しぶりです」
先に相手に気付き、近付いて挨拶したのは麦男の方だった。
朽木「久しぶりだね麦男君。随分大きくなったな。俺のこと覚えていたの?」
麦男「両親の仕事柄、うちにはいろんな人がお客さんに来ますけど、刑事さんのことは1番記憶に残ってますよ」
朽木「ご両親はお元気ですかな?」
麦男「相変わらずですよ。あの歳になっても新婚みたいにイチャイチャしてますよ」
朽木「それは何より。恵子ちゃんは?」
麦男「叔母も相変わらずアシスタントやってます。まだ独身ですけど、それなりに楽しくやってるみたいですよ。祖父や父は見合い話持って来てるみたいですけど」」



513 :無軌道警察ハグレイバー その39:2008/01/08(火) 01:25:16 ID:???
一方千尋は朽木の姿を見つけると、えらく驚いた顔をして物陰に隠れた。
でも顔を少し出して、こちらの様子を窺っている。
まるで人が来ると逃げるくせに、好奇心があるのか物陰から顔だけ出して見ている子猫のようだ。
麦男「こら千尋、朽木刑事に挨拶しないか!」
だが千尋は、背後にモジモジという擬音が聞こえそうな赤面をしつつ出て来ない。
麦男「どうしたんだよ千尋、忘れたのか?キリンのおじちゃんだよ!」
朽木「キリンのおじちゃん?」
麦男「あっすいません。以前朽木刑事が来られた時以来、千尋のやつあなたのことをずっとキリンのおじちゃんって呼んでたんですよ」
朽木「まあ幼児から見れば、キリンみたいなもんだったのかもな、俺って」
麦男「あれからしばらくは大変でしたよ。千尋のやつ、キリンのおじちゃんは何時来るのってしつこくて」
朽木「そりゃまたえらく気に入られたもんだな」
笹荻宅を訪れた際、朽木は少しだけ千尋と遊んであげたことがあった。
さほど長い時間のことではなかったが、千尋がひどく嬉しそうだったことは覚えている。
麦男「それなのに何で?こんな人見知りするやつじゃないんですけど」
朽木「(翳りのあるマジ顔になり)それは多分、あの子が俺の正体に感づいたからじゃないかな?」
麦男「正体?」
朽木「感受性の強そうな子だからな。俺の体に染み付いた血の匂いに反応したんだろう」



514 :無軌道警察ハグレイバー その40:2008/01/08(火) 01:27:55 ID:???
麦男「どういうことです?」
朽木「俺はね麦男君、警官になって以来数え切れないほどの犯人を逮捕してきた。その8割は即集中治療室行きの荒っぽい逮捕だったけど、犯人を殺めたことは1度も無かった」
そこで言葉を区切り、ぼそっと付け加えた。
「5年前まではね」
麦男「5年前?」
朽木「5年前、北日本広域捜査隊に配属になって以来、俺は100人近い犯人を射殺して来た」
目を剥く麦男。
朽木「東北地方ってとこはね、今では凶悪犯罪のメッカなんだよ」
この時代、東北地方その他の首都圏から外れた地方では、凶悪犯罪が続発していた。
海外からやってきたプロの犯罪者による組織的な強盗や、不況や過疎や失業や格差等により、ヤケを起こした貧困層による犯罪だ。
地方には土地等の資産を持っていて、なおかつガードの甘い資産家がけっこう居るので、それを狙う訳だ。
また、地方にまでドラッグや拳銃が蔓延し始めたせいもあり、その関連の犯罪も続発した。
その為、朽木は前述のようなオタク絡みの人情味溢れる捜査をやる一方で、本来ならSAT辺りが出張るべき凶悪犯罪にも対処しなければならないことが日常茶飯事だった。
朽木が犯人を射殺した情況は様々だった。
特に多いのは、逃走中の犯人が発砲してきた場合と、犯人が人質を取って篭城した場合だった。
中には外国人の強盗団のアジトに突入し、先に同僚がみんな撃たれ、朽木1人で10人以上の犯人を射殺するといった、どこのVシネマかと見紛うような仕事もあった。



515 :無軌道警察ハグレイバー 次回予告:2008/01/08(火) 01:39:08 ID:???
投下してから気付いたのですが、その38の18行目、ちょっと変な文章になっちゃいました。
先に気付いたのはクッチーの方なんだから、麦男は「先に近付いて挨拶したのは」で良かったのに。
何回も書き直してると、時としてこういう変なことやってしまいます。
失礼しました。

果たして千尋は、本当に朽木を恐れて隠れたのか?
それとも…
次回、その真相が明らかになる!
そして「はぐれクッチー純情派」を読んだ人なら抱くであろう、素朴な疑問の答えも。

本日はここまでです。


516 :無軌道警察ハグレイバー 前書き:2008/01/09(水) 00:36:06 ID:???
さて、今夜もバカが投下にやって来ました。
今夜はとりあえず8レスの予定です。
そろそろスレが終わりかけなので、様子見ながらソロソロ行きます。

517 :無軌道警察ハグレイバー その41:2008/01/09(水) 00:39:49 ID:???
朽木「俺は本庁で暴力刑事やってた頃だって、現場では1度も拳銃を抜いたことは無かった。それがわずか5年で、眉ひとつ動かさずに犯人の頭を撃ち抜けるようになったんだ」
突如警官という仕事の暗黒面を見せつけられ、神妙な顔で聞き続ける麦男。
朽木「昔みたいに、キレて激情に駆られて勢いで射殺したんじゃない。今の俺は、冷静な判断に基づいて人を殺せるんだ」
朽木はいくつかの実例を挙げた。
長くなるので、ここではひとつだけ紹介する。
ある事件で、篭城中の強盗犯人が、クスリが切れたのか脈絡無く人質を殺そうとした。
未成年にも関わらず、犯人は拳銃を持っていた。
安全装置の無いトカレフだ。
撃鉄を起こされたら、いつ発砲するか分からない。
説得しているヒマは無いし、説得に応じる情況でもない。
朽木は即座にモーゼルを取り出し、ストックを装着して発砲した。
距離は100メートルあったが、ストック付きのモーゼルなら十分有効射程距離だ。
朽木は1発で犯人のこめかみを撃ち抜いた。

「おそらく千尋ちゃんは、俺のそういう冷徹な殺人マシンの一面を見抜いたんだろうな」
自慢話になってしまったような気がしたのか、朽木は自嘲気味の苦笑を浮かべた。



518 :無軌道警察ハグレイバー その42:2008/01/09(水) 00:42:59 ID:???
「違います!」
朽木と麦男が声の方を向くと、何時の間にか物陰から出て来た千尋が立っていた。
千尋「(滝汗赤面で)あの、すいません、私お久しぶりだったもんでその、ついパニクって隠れちゃって、ごめんなさい!」
朽木『何で久しぶりだとパニクるのかのう?』
千尋「あの、私思うんですけど、優しいから犯人を撃ったんじゃないでしょうか?」
朽木「優しいから?」
千尋「えーとそのつまり、人質の人の命を守ってあげたい一心で撃ったんだと思うんです。だからその発砲は、良くないことかも知れないけど、間違ってないと思います」
朽木「(戸惑い)…そんな風に言われたのは初めてだな。地元の一部の新聞とかネット上では、情け無用冷酷非情の死神刑事なんて呼ばれてるってのに」
千尋「そんなことありません!」
熱いまなざしを向けて力強く主張する千尋に、朽木は素朴な疑問をぶつけた。
朽木「どうしてそう思えるんだい?」
千尋「だって…だって初めてお会いした時と同じ、優しい目をしてらっしゃるんですもの、おじ様は」
朽木「おじ様…」
千尋「(最大出力で赤面し)いやだ私、久しぶりにお会いしたおじ様に、何を偉そうなこと言ってるのかしら…(最敬礼で頭を下げて)ごめんなさい!」
100メートル走なら11秒を切りそうな猛スピードで、千尋は走り去った。


519 :無軌道警察ハグレイバー その43:2008/01/09(水) 00:47:11 ID:???
麦男「何なんだ千尋のやつ…朽木刑事?」
朽木は石化していた。
先程自分に向けて放たれた「おじ様」という言葉が、彼を凍結させたのだ。
と言っても朽木は、ショックを受けていた訳では無かった。
それどころか、抑え切れない萌え感情が溢れそうになっていた。
今朽木のイメージの中では、様々な格好(セーラー服、スク水、メイド服、裸エプロン等)の千尋が微笑みかけていた。
そして木霊のように、繰り返し繰り返し彼に向かってこう呼びかけていた。
「おじ様」「おじ様」「おじ様」「お・じ・さ・ま(ハート)」

「のわ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」
頭を抱えて絶叫する朽木。
麦男「どっ、どうされたんですか、朽木刑事?」
朽木は胸の奥からこみ上げて来る、もはや萌えを通り越して、純化された性欲に近い強烈な欲望と戦っていた。
具体的に言えば、千尋を追いかけて押し倒して(以下自主規制)という欲望である。
『いかんいかんいかん!落ち着け朽木学41歳!笹荻ご両人の娘さんと言えば、本来順調に結婚してれば自分の娘ぐらいの年齢のはず!そんな子供に手を出す訳には…』
刑事としての強烈な自制心が、かろうじて朽木の獣性を抑え込んだ。
『ふう危なかった。それにしても強烈な威力だったぜ、あの「おじ様」のひと言は』
朽木は若い時にはピンと来なかった、「カリオストロの城」のクラリスの魅力がようやく理解出来た気がした。
中高年のオタにとって、萌え美少女の「おじ様」のひと言は、一撃必殺の最終兵器なのだ。



520 :無軌道警察ハグレイバー その44:2008/01/09(水) 00:55:34 ID:???
麦男「あの、大丈夫ですか、朽木刑事?」
ようやく我に返った朽木、笑って答えた。
「いやあすまんすまん。最近ちょっと疲れ気味でね、軽い目まいがしたんだけど、もう大丈夫だよ。心配かけたね」
麦男「すいません、うちの千尋が変なこと言っちゃって」
朽木「えっ?」
麦男「うちの親父やお袋と大して歳変わんない方に、おじ様だなんて失礼ですよね」
どうやら麦男、朽木が「おじ様」と言われたことにショックを受けたと思ったようだ。
(まあ彼の意図するところと別な理由で当たってはいるが)
朽木「あっ大丈夫、そういうんじゃないから」
麦男「本当ですか?」
朽木「ほんとほんと。こういう仕事してると、口の悪い若い子からオッサンとかジジイとかオヤジとか言われるの、しょっちゅうだから」
麦男「そうなんですか」
朽木「今さら若ぶる気なんて無いよ。諺にもあるだろ。『男三十過ぎていい格好しようなんざ、落ち目になった証拠よ』ってね」
麦男「聞いたことないですが…」
(注釈)
「男三十過ぎて〜」とは、「必殺仕置人」第1話での中村主水の台詞。
断じて諺ではない。



521 :無軌道警察ハグレイバー その45:2008/01/09(水) 00:59:30 ID:???
その時、朽木の中である疑問が浮んだ。
朽木「なあ麦男君、俺が初めて君に会ったのって、確か10年前だったよね」
麦男「ええ」
朽木「あの時、君と千尋ちゃんいくつだっけ?」
麦男「俺が7歳で千尋が3歳でしたよ」
朽木「て言うことは…」
そこでいきなり朽木の顔に、激しい怒気が現れた。
たじろぐ麦男。
朽木「(怒りまじりの大声で)課長!」
そう叫んだ瞬間、朽木は背後に、今まで無かった気配が突然現れたのを感じた。
この当時の刑事たちは、拳銃の常時携帯の条件として、拳銃を奪われない為の訓練として、
背後の気配を読み取ったり、その気配の中から殺意や敵意を読み取る訓練を受けていた。
そしてそれらを読み取る隙が無いぐらい不意に背後を取られた時には、容赦無く相手を排除するように訓練されていた。
特殊部隊出身の外国人犯罪者には、至近距離まで気配を消して接近出来る者も居るからだ。
瞬時に朽木は行動に移った。
先ず右斜め前に、素早くなおかつ大きくステップした。
これで背後の敵の武器が何であれ、高確率で初手は急所から外せる。
右手で武器を使う場合、右から左へ追うのは容易だが、左から右へ追うのは困難だからだ。
急所さえ外せば即死は免れるから、例え自分がやられても最悪背後の敵とは相打ちに持ち込める。
ステップと同時に左手でスーツの前を開けつつホルスターの蓋を開け、右手でモーゼルを抜きつつ安全装置を外し、左手を右上に向かって上げつつボルトを引いて放す。
これで薬室に初弾が装填され、同時に撃鉄が起きる。
そして首を左横に向け、銃口を左後方に向けて、左の腋の下に銃身を突っ込む。
わずか0,1秒足らずで、朽木はこの一連の動きをやってのけた。
後は引き金を引けば、左後方の敵を排除出来る。


522 :無軌道警察ハグレイバー その46:2008/01/09(水) 01:02:06 ID:???
その一連の動作の結果、朽木は至近距離で背後に現れた人物の額に銃口を押し当てる格好になった。
「危ないなあ、そんな物騒な物突き付けちゃ」
背後に立った人物は、まるで緊張感の無い言い方で朽木に声をかけた。
「のわあああ!!!!!!!!」
逆に朽木は、大慌てで銃身を持ち上げ、撃鉄を押さえながら引き金を引き、ゆっくりと撃鉄を戻してから安全装置をかけ、ホルスターに仕舞い込んだ。
朽木「それはこっちの台詞です!いきなり背後に現れないで下さい!」
「どうしてだい?」
背後の男こと初代会長は、間抜けな声で尋ねた。
朽木「今の刑事ってのは、いきなり背後を取った者は容赦無く排除するように訓練されてるんです!私だからかろうじて止まれたけど、下手したら射殺されますよ!」
その後も朽木は前述の理由を並べ立てて、延々と初代会長に説教した。
初代「それより朽木君、さっきは何か怒っていたようだけど」
朽木は先程の怒りの理由を思い出した。
朽木「課長、あなた何を考えてらっしゃるんですか?!」
初代「何の事?」
朽木「何で研修生とは言え、警察官の中に17歳と13歳が居るんですか?!」
麦男「厳密には俺も千尋も誕生日まだなんで、今は16歳と12歳ですけど」
朽木「余計まずいって!課長、あなたこんな子供たちを警察の現場に連れて来て、どうしようってんですか?!」
少しの間、何か考えていたような顔をしていた初代会長、やがて口を開いた。
「向こうで話しようか」


523 :無軌道警察ハグレイバー その47:2008/01/09(水) 01:05:59 ID:???
「さっきの問題なら心配無いよ。本庁に特例として認めてもらったから」
かつて大学構内の中庭だったエリアに移動した後、あっさりと初代会長は事も無げに言い放った。
朽木「特例って、そんなあーた、いい加減な…」
初代「第一それを言い出したら、香澄君と薫子君は16歳だからまだいいとして、美幸君に至っては10歳だよ」
朽木「なーんだ、13歳より下がいるじゃないですか。それなら何も問題は…ありますよ!大問題じゃないですか!第一義務教育はどうするんですか?!」
朽木は頭の片隅で、10年前に斑目から聞いた高坂×春日部カップルの近況を思い出した。
『確かあの時、まだ結婚していなかったと言ってたよな、斑目さん。おそらく美幸ちゃんが産まれたのは、その前後なのだろう。結局出来ちゃった結婚かよ、あの2人…』
初代「問題無いよ。千尋君は週に2回、近くの中学校で特別プログラムの授業を受けているし、美幸君はもう大卒の資格持ってるし」
朽木「大卒?」
初代「飛び級制だよ。彼、IQ200あるから、あの歳で大卒の資格が取れたんだよ」
朽木「(驚いて)そりゃ凄く頭いいですな。あれ?」
ここで朽木は、初代会長の発言の中に、ある問題があることに気が付いた。
「って、ちょっと待って下さい。彼というのは?」
初代「あっ、ひょっとして勘違いしてた?美幸君は男の子だよ」
愕然とする朽木。
(つまり前述の美幸を女扱いした描写は、あくまでも朽木の主観である)
『そう言えば、いくらスレンダーとは言え、あの背丈でああまで体に凹凸が無いのは妙だと思ってたんだよ。かん高い声はボーイズソプラノかよ…』
朽木はもうひとつ、大きな問題に気付いた。
『斑目さんの息子さんって、まさか美幸君が男の子なの知らないんじゃ…ちゃんと教えてやらんと、大変なことになるぞ、斑目さん』


524 :無軌道警察ハグレイバー その48:2008/01/09(水) 01:11:54 ID:???
初代「朽木君、彼らが警官であることに君が反対する理由は、警官の任務が危険だからかい?それとも規則のせいかい?」
朽木「どっちでもありません。危険な仕事なんて世の中にいくらでもあるし、若い時散々規則破ってた私が、今さら規則振り回してどうこう言う気は無いですよ。ただ…」
初代「ただ?」
朽木は翳りを帯びたマジ顔で答えた。
「警察という職場は、人間の最も汚い部分や醜い部分と、嫌でも毎日のように向き合わなければならない修羅場です。そんなとこに多感な少年少女を出入りさせたくないんです」
初代会長の顔が、わずかに微笑んだように朽木には見えた。
朽木「課長?」
初代「君は優しいんだな」
今日2回目の優しいという評価に、ちょっと戸惑い赤面する朽木。
だが次の瞬間、初代は石像のように冷徹な無表情になり、朽木も表情を硬くする。
初代「でも残念ながら、君の意見を聞き入れる訳には行かないし、仮に僕が君の意見に同意したとしても、僕には現状の決定を覆す権限は無い」
朽木「(自嘲気味に苦笑し)これでも宮仕えは長いんでね、それぐらいのことは承知していますよ」
初代「今回のレイバー隊の隊員招集の裏事情について、少し話しておこう」
朽木「それは興味深いですな」


525 :無軌道警察ハグレイバー 次回予告:2008/01/09(水) 01:30:07 ID:???
あと34KB。
このスレ内で終われるか否か、微妙なとこになって来ました。
明日また、次スレの準備してから来ます。
次回ラストまで一気に走るかも知れませんので、まとめて予告。

いよいよ模擬戦開始!
そして遂に6番目の隊員襲来!
果たして朽木の最終決断は?

本日はここまでです。

526 :無軌道警察ハグレイバー 前書き:2008/01/09(水) 21:59:11 ID:???
今日は一気に行きます。
残り18レスなので、多分途中で何度か中断し、時間かかると思います。
そこでもし投下される方いらしたら、すぐレス下さい。
10分ほど待ちますので。


527 :無軌道警察ハグレイバー その49:2008/01/09(水) 22:13:55 ID:???
初代「君は早期雇用政策というのを聞いたことがあるかい?」
朽木「聞いたことはありますな。確か優れた能力を持った子供たちを小学校か中学校を出たぐらいで社会に出して、早々に即戦力になってもらおうという試みとか」
初代「政府が進めている早期雇用政策に、ラジャエンタープライズジャパンも協賛していてね。実は今居るレイバー隊員は、元々全員うちの社員なんだ」
朽木「何ですと?!」
初代「だから隊員たちは皆、うちからの出向という形になっている」
朽木「いいのかよ本庁、そこまでいい加減なことやっちまって。そりゃ警察も世間も人手不足なのは分かってるけど…」
初代「そこまでしなければならないほど人手不足なんだよ。警察に限らず、今の日本はね」
初代会長はさらに人手不足の背景の説明を続ける。
西暦2010年代前半頃から続いている慢性的人手不足の最大の原因は、かつての政財界の希望的観測とそれに基づく雇用計画が、物の見事に破綻したことであった。
21世紀初頭、政財界は一部の新卒の若者以外の雇用問題を放置し、現場の後進育成を怠り、アジアからの移民と高齢労働者の再雇用を安い労働力として当てにしていた。
その結果として、若年層の非正規雇用労働者の増加は少子化に拍車をかけ、一方で高齢者は長年の無理がその寿命を縮めた。
かつて最大の人口層を誇り、最大の労働力供給源だった団塊の世代の人口は激減した。
そして同時に移民の供給源も断たれた。
四半世紀、いや大本をたどれば何百年も前から、国内に矛盾を抱えたまま巨大化を続けて来たアジアの2大大国、中国とインド。
西暦2010年代初頭、その両国でほぼ同時期に内戦が勃発した。
周辺諸国もその煽りを受け、もはや日本に安定して労働力を供給し得る国は存在しなかった。
政財界は慌てて団塊の世代に次ぐ人口層である団塊ジュニア世代や、その上のバブル世代等の労働力をかき集め始めた。
(この話の世界では50〜60代だ)
だが時すでに遅く、とてもその程度では不足した労働力を補うことは出来ず、もはや子供たちが成人するのを待っていられる情況では無くなった。
そこで政府は早期雇用政策へと踏み切ったのだ。


528 :無軌道警察ハグレイバー その50:2008/01/09(水) 22:18:16 ID:???
『ひょっとしたらこの人も、本心は子供たちを使うことには反対なのかも知れない。ならばこの人もまた被害者に過ぎないのかも…』
世界レベルまで話が大きくなったせいもあってか、朽木はもはや初代会長を責める気は無くなっていた。
「分かりました。部外者がこれ以上あれこれ言うのも何ですし、ここは引きましょう」
「あのう、模擬戦の準備が出来ましたよ」
不穏な空気が無くなったのを見計らったように、斑目が2人を呼びに来た。

格納庫の隣に半分残ったグラウンドでは、確かにレイバーの模擬戦の準備が出来ていた。
グラウンドには、ぶ厚いマットレスが敷き詰められていた。
そして2体のレイバーは、全身をマットレスのような物で出来たジャケットで覆っていた。
識別の為か、片方の機体は腰に赤いロープを巻いていた。
朽木『まるでダグラムの寒冷地用アーマーみたいだな…』
コクピットには巨大なキャッチャーマスクのような物が被せられ、両手にもオープンフィンガーグラブのような物を装着している。
朽木が近付くと、赤いロープを巻いた方のレイバーが、ピョンピョン跳びながら片手を上げて振り出した。
「にょっ?」
そのレイバーの外部スピーカーから、朽木を呼ぶ千尋の声が響いた。
「おじ様〜〜〜!!!」
またもや内から突き上げて来る、強烈な萌え衝動を必死で抑える朽木。
何とかクールな表情を作り、軽く手を上げてそれに応えた。
別のスピーカーから麦男の声が響いた。
「千尋!レイバーで遊ぶな!訓練中だぞ!」

529 :無軌道警察ハグレイバー その51:2008/01/09(水) 22:23:50 ID:???
グラウンドの傍らには、運動会の本部のようなテントが張られており、そこで搭乗者以外の隊員や整備班員が待機していた。
麦男もそこに居た。
マイクが口元に伸びたサンバイザーを頭に着けていた。
それを通じて、傍らに置かれたスピーカーで指示を出していたらしい。
斑目の誘導に従って、朽木と初代会長もテントの下に入り、模擬戦が始まった。

ゴリラのような体形に似合わず、2体のレイバーの動きは素早かった。
しかも動きにゴツゴツしたところが少なく、人間のように滑らかに動く。
千尋の搭乗する1号機は主に打撃系、美幸の搭乗する2号機は主に組み技系の動きを見せた。
1号機は10メートル近いジャンプ力を生かし、テコンドーのような飛び蹴りを連発し、着地してはパンチとキックを連打する。
ハイキックや後回し蹴りなど、生身の人間でも出来ない人の多い大技を軽く連発する。
一方2号機は、1号機の打撃をさばきながら単発で打撃技を返し、1号機の動きの切れる瞬間を狙ってタックルをかけたり、手足を捕ろうとする。
やがて2号機が懐に入り、片足タックルを決めて1号機を引っくり返した。
そして馬乗りになってマウントポジションを取ろうとする。
だが1号機も両脚で2号機の胴体を挟み、完全なマウントを取らせない。
さらに1号機を殴ろうとした2号機の両手首を掴み、完全な膠着状態になった。
「ブレイクだ!」
麦男は2人に、膠着を解いてスタンドで向き合った状態になるように命じた。

530 :無軌道警察ハグレイバー その52:2008/01/09(水) 22:26:43 ID:???
スタンドの状態で模擬戦が再開された。
今度は2号機も打撃技を多用し、激しい打ち合いになった。
その様子を見ながら、朽木は麦男に声をかけた。
「大したもんだね。ここまで動けるとは思わなかったよ」
まんざらでもないという顔で、麦男は応えた。
「もっとゆっくりでゴツゴツした動きを予想なさってましたか?」
朽木「まあね。2機ともいい動きしてるけど、2人って何か格闘技やってるの?」
麦男「千尋は警察の研修用の柔道と剣道習ってるだけですよ。腕前は初心者です。美幸君は何か古武道習ってたらしいですけど」
朽木「レイバー操作の腕による分が大きいってことか」
麦男「千尋は研修に入ってからの猛特訓で、何とかここまで来ました。美幸君は元々ネットのゲームのチャンピオンでしたから、あっという間でしたけどね」
朽木「努力家と天才のコンビか。それにしても千尋ちゃん、いざ実戦となったらけっこう猛々しいな」
麦男「確かに、ハンドルを持つと性格変わるってとこはありますね。でも今日ここまで張り切ってるのは、あなたが見てるせいだと思いますよ」
朽木「俺のせい?」
麦男「これは俺の推測なんですけど、多分千尋にとってあなたは、初恋の相手なんだと思うんです」

531 :無軌道警察ハグレイバー その53:2008/01/09(水) 22:33:01 ID:???
自分に向けられることは一生無い、そう思っていた言葉をいきなりぶつけられた朽木、一瞬凍結したがすぐ我に返って反論した。
「まさか。こんな不細工な馬面に恋なんてする訳無いよ。第一あの子が初めて俺に会ったのって3歳の時だよ。それをそんな、初恋だなんて…」
麦男「俺は刷り込みだと思ってるんですよ、千尋のあなたへの感情って」
朽木「刷り込みって、鳥が生まれて初めて見るものを親だと思い込むっていうあれかい?」
麦男「あいつ泣き言言わないけど、寂しい思いしてたんだと思いますよ、あの頃」
朽木「どういうこと?」
麦男「両親も恵子おばさんも忙しかったし、俺も小学校入って前ほどは相手出来なかったから、今思えば誰も構ってやれない時間ってけっこうあったと思います」
朽木「そんなある日、家にやって来たキリンさんが気に入ったってのか?それ、恋愛感情としては問題あると思うぞ。まあもし本当に恋愛感情だったとしたらの話だけど」
そんな話をしている内に、2号機が1本取った。
1号機の右ストレートに対し、2号機はパンチをよけつつ1号機の右腕を取り、飛び上がって両脚で取った右腕を挟み込み、そのまま倒れ込んで腕ひしぎ十字固めを決めたのだ。
朽木「(驚いて)レイバーが飛び付き腕ひしぎ十字かよ…『全然古武道じゃねえじゃん。それサンボ(ロシアの組み技格闘技)の技だし。陸奥○○流か、はたまた○宮流か…』」
斑目「あーあ美幸君、また無茶な技を…」
麦男「(マイクに)よしそれまで!美幸君技解いて!千尋大丈夫か?」
千尋「(外部スピーカーで)大丈夫!」
麦男「よし、両機立って!メーターチェックしつつ息整えろ!しばらくしたら2本目やるぞ!」

532 :無軌道警察ハグレイバー その54:2008/01/09(水) 22:43:43 ID:???
しばらくして模擬戦の2本目が始まった。
今度は2機とも警棒を抜いた。
先ずは片手に1本持っての打ち合い、続いて両手に1本ずつ持って二刀流での打ち合いを行なう。
互いに相手の打ってくる警棒の軌道を防ぎ合うように、警棒同士でのリズミカルな打ち合いの応酬が続く。
剣道の延長にある警棒術というより、カリ(木製の細長い棒状のフィリピンの武器)の演武に似た動きだ。
麦男「よし、次は2本くっつけて警杖にしての組手だ!」
その号令に従って、2機のレイバーは両手に持った警棒の端を付けて捻り、くっつけて1本の警杖にした。
今度は剣道や槍術に似た動きも交えての打ち合いが始まった。
やがて2号機は警杖を折るようにして間に鎖を張り、ヌンチャクに変化させた。
そしてブルース・リーばりのヌンチャクさばきで縦横無尽に振り回した。
朽木『振り回さないんじゃなかったっけ?』

そんな模擬戦を見ている内に、朽木は愕然とした。
最初は2機のレイバーの見事な動きに純粋に目を奪われていたが、何時の間にか1人の警察官として冷静かつ客観的に、警察の戦力として計算している自分に気付いたのだ。
若きレイバー隊員たちが警察の現場に駆り出されることに反対する一方で、レイバーが戦力になり得ることを冷徹に計算し始めている、そんな自己矛盾に愕然としたのだ。
『これでは俺は、あの子たちを警察の現場に駆り出した無責任な連中と一緒じゃないか…』
朽木の中で何かが動き始めていた。

533 :無軌道警察ハグレイバー その55:2008/01/09(水) 22:47:11 ID:???
やがて警杖での組手は、2号機のヌンチャクが1号機の警杖を絡め取って吹き飛ばして終わった。
麦男「ようし、もう1回素手の組手やって上がりにするぞ!」
再びレイバー2機の肉弾戦が始まった。
今度は1号機も組み技系の技術も見せる。
一方2号機も派手な打撃技を見せる。
やがて乱打戦になり、1号機の左のローが決まり、2号機がぐらついた。
勝機とばかり、1号機の右のハイキックが2号機のコクピットに迫る。
だがブラフだったのか火事場の馬鹿力か、2号機はその蹴り足をキャッチした。
それと同時に踏み込んで1号機の後頭部を右腕で抱え、後方へ体を反らせた。
2号機はごつい体に似合わぬブリッジを描いて、1号機を地に叩きつけた。
朽木「キャプチュードかよ!」
斑目「あーあ、無茶してくれて。こりゃ後の整備が大変だな」
(注釈)キャプチュード
別名「捕獲投げ」と呼ばれるプロレス技。
主に蹴り技の返し技として使われる、受身の取りにくい危険な投げ技。

麦男「それまで!美幸君やり過ぎ!」
美幸「ごめんなさい。今日千尋ちゃん動き凄いんで、つい本気出しちゃった」
麦男「千尋、生きてるか?」
千尋「大丈夫、あ痛たたた」

模擬戦訓練も終わり、後片付けも終わりかけたその時、先程まで模擬戦が行われていたグラウンドの上空に、1機のヘリが飛んで来た。
よく見ると、朝朽木をここまで運んで来た警察のヘリだ。
機種だけでなく横腹の番号まで同じだったから、間違い無い。
朽木「迎えに来る予定の夕刻には、まだ早いがのう?」

534 :無軌道警察ハグレイバー その56:2008/01/09(水) 22:53:07 ID:???
ヘリはグラウンドの上空でホバリングしていた。
朽木の目測では、上空50メートルだ。
朽木はもちろん、レイバー隊員たちや整備班員たち、それに斑目も注目する。
またもや何時の間にか姿を消していた初代会長が戻って来た。
初代「どうやら今着いたようだね」
朽木「何が着いたのでありますか?」
初代「6人目のレイバー隊員だよ。今さっき連絡があった」
朽木「迎えの人の次の仕事ってこれだったのか。どういう方なんです、その新隊員って?」
初代「何でもFBIの捜査官だそうだ。近々アメリカ各地でもレイバー隊が創設されるらしいんで、そのモデルケースとしてFBIで初のレイバー隊を創設するらしいんだ」
朽木「もしやその方が、アメリカの初代レイバー隊隊長になる予定なのですかな?」
初代「察しがいいね」
朽木「まんま例の漫画のアニメ版ですな」

やがてホバリング中のヘリが不自然に揺れ始めた。
一同「?」
揺れは数秒で落ち着いた。
続いてヘリの扉が開き、しばらくしてヘリの中から1本のロープが垂れて来た。
長いロープだったが、地上までは届かなかった。
少なくとも、地上から10メートルは間隔があった。

535 :無軌道警察ハグレイバー その57:2008/01/09(水) 22:57:51 ID:???
「おいっ、あのヘリから何か聞こえないか?」
麦男は他のレイバー隊員たちに尋ねた。
香澄「聞こえないけど…」
薫子「私も聞こえないわよ」
千尋「(耳を澄ませ)…何か、会話してるみたい」
美幸「(耳を澄ませ)そうだね」
朽木の鋭い聴力は、ローターの音に紛れたヘリ内部の会話を聞き取っていた。
「ちょっ、ちょっとお客さん!ダメですよ、ドア開けちゃ!」
「ココデイイ。ココデ降リル」
「そんな、こんな狭いとこ着陸出来ませんよ!」
「構ワン。ココデほばりんぐシテテクレレバイイ」
「ホバリングって…ちょっとお客さん!ロープなんか出して何する気です?!」
「コレデ十分ダ」
「十分って、ちょっ、ちょっと〜〜〜!!!」

朽木『あの冷静な迎えの人が、ここまでうろたえるとは、どういう人なんだ新隊員?』
「人だ、人が降りて来る!」
麦男の叫びにヘリの方を向く一同。
ヘリから垂れたロープを伝って、降りて来る人影があった。
人影は黒い戦闘服を身に着けていた。
ブーツも手袋も黒で、頭を覆うように黒いバンダナを巻いていた。
わずかに肌を見せているのは、首から鼻にかけてのエリアのみだった。
黒いサングラスをかけていたからだ。
そのわずかに見せている肌の色から、白人であることは分かったが、ややだぶついた戦闘服で体形が隠されていることもあり、老若男女は判別しかねた。

536 :無軌道警察ハグレイバー その58:2008/01/09(水) 23:06:20 ID:???
朽木『推定身長150〜155センチ、白人のFBI捜査官にしては、えらく小柄だな』
小さな来訪者はラペリング用のベルトを身に付けており、そこに装着したD字金具にロープを通し、そのロープを握って少しずつ降りて来た。
『上手いもんだな…ん?』
朽木は来訪者を見ている内に、その鼻から口にかけてのラインや頬の形に見覚えがあることに気付いた。
『まさか…』
やがて来訪者はロープの端まで到達した。
朽木の目測では地上から11メートルの空間だ。

「飛んだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!」
一同が絶叫する中、来訪者は飛んだ。
パラシュートも無しにだ。
(まあ着けていたとしても、この高さでは開く間が無いから無駄だが)
来訪者は着地と同時に倒れ込むように転がり、何事も無かったかのように立ち上がった。
立ち上がると同時に、やや芝居がかったオーバーアクションで、パッとサングラスとバンダナを取り去った。
バンダナの下から、どうやって収納されていたのか、恐ろしく長い金髪が現れた。
サングラスの下からは青い瞳が現れ、その素顔はひどく童顔だった。
「椎応大学ヨ、私ハ帰ッテ来タ!」
そう絶叫する来訪者に対し、朽木と斑目は叫んだ。
「て言うか、いくつなんだよスーちゃん?!」
およそ20年前に初めて会った時と全く変わらない姿のまま、スーことスザンナ・ホプキンス(年齢その他一切不明)は再びこの地に降臨した。

537 :無軌道警察ハグレイバー その59:2008/01/09(水) 23:09:35 ID:???
「という訳で、改めて紹介します。FBIから研修に来られた、スザンナ・ホプキンス巡査部長です」
初代会長に紹介され、スーは例によって仏頂面で敬礼する。
スー「スザンナ・ホプキンスであります!言いにくい名前だと思いますので、スーと呼んで下さい!」
隊員一同「日本語喋った〜!!!」
初代「彼女は日本に留学経験があるので、日本語での会話には問題ありません」
朽木『親御さんたちと同じ大学の同じサークルだったこと言ってやれよ。課長も人が悪い』
外人ということで少し引いていた隊員たち、一転して馴れ馴れしく近付く。
薫子はハグし、香澄は頭をナデナデする。
美幸と千尋も見慣れぬ小動物を見る子供のように、目を輝かせている。
隊員の中では比較的精神年齢の高い、麦男だけは困惑気味の顔だ。
薫子「スーちゃん可愛い!(頬ずりする)」
香澄「ほんと、お姉さんいろいろ着せ替えさせたいなあ」
スーの不機嫌そうな顔にハラハラする朽木。
『いや君らね、その人君らの親御さんと大して歳変わんないから…』
だがスーは不機嫌そうな表情は崩さぬものの、特に怒ったりキレたりすることも無かった。
どうもスー、長年人にこういう対応をされ続けて、スッカリ慣れてしまったらしい。
人が来ても逃げず、触られても別に怒らないが、かと言って人に媚びたりニャーと鳴くことも無く、マイペースで寝ている、そんな古強者の野良猫にどこか似ていた。

とりあえずスーが加わったことで、レイバー隊のポジションが正式に次の様に決まった。
1号機パイロット 笹原千尋
1号機指揮車   笹原麦男
1号機キャリア  久我山薫子
2号機パイロット 高坂美幸
2号機指揮車   スザンナ・ホプキンス
2号機キャリア  田中香澄

538 :無軌道警察ハグレイバー その60:2008/01/09(水) 23:12:12 ID:???
そうこうする内に、朽木は帰る時間になった。
ちなみに先程スーに散々振り回された迎えの警官は、疲れ果てて帰りの時間まで第2グラウンドにヘリを着陸させて休んでいた。
その為、朽木は再び第2グラウンドへと向かった。
見送りの為に、スーを含むレイバー隊員たちと斑目、そして初代会長も同行する。

千尋「おじ様、また来て下さいね」
迎えのヘリのローターが回る中、脳の血管が切れそうな萌え衝動に襲われる朽木。
だがそれをかろうじて耐え、千尋を見つめた。
そのかつての荻上さんそっくりのロリ顔の、穢れの無い瞳を見ている内に、朽木は心の整理が付き、結論を出した。
朽木「ああ、また来るよ。近い内に、必ず」
千尋「(目をキラキラと輝かせて)ほんとに?嬉しい!」
言いながら朽木に抱きつく千尋。
薫子「うわあ、千尋ちゃん大胆!」
香澄「私も抱きついちゃおうかしら…」
「カリオストロの城」のラスト間際のルパン3世のように、朽木は千尋を抱きしめたい衝動をかろうじて耐えた。
そして冷静に千尋の肩に手を置いてやんわりと引き放しながら、こう付け加える。
「ただし今度来た時には、おじ様と呼ぶのはやめなさい」
「えーどうしてですか、おじ様?」
ウルウルとなる千尋。
冷厳な警察官の顔を敢えて意識的に作り、朽木は答えた。
「次からは隊長と呼びなさい」
千尋の顔がパッと明るくなり、不器用に敬礼しながら大声で返事をした。
「はいっ、隊長!」

539 :無軌道警察ハグレイバー その61:2008/01/09(水) 23:14:39 ID:???
ヘリにしばらく待ってもらうように頼んでから、朽木は隊員たちに宣言する。
「そういう訳で、急な話ですまんが俺がこのレイバー隊の隊長をやることになった」
そう言われ、呆然とする隊員たち。
朽木「と言っても、俺はレイバーについては何ひとつ知らない」
麦男「あのう、それじゃあ隊長やるのは…」
朽木「だから俺の仕事は、上からの意向を大まかに君たちに伝え、やっちゃいけないことを禁止し、何かあったら責任を取る、それだけだ」
一同「…」
朽木「だから君たちは、そういう大筋だけ守って君たちの判断で動け。現場は生き物だ。常に動き、変わる。それに対する対応を最終的に決められるのは、現場にいる者だけだ」
麦男「つまり隊長のことは、サッカーの監督みたいなものと考えればいいですか?」
朽木「いい例えだな。まあそういう感じだ。さてと、そうは言ったものの、俺がこっちに正式に配属になるのは、早くても半月先、下手すればひと月ぐらい先になるだろう」
薫子「どうしてですか?」
朽木「俺にだって向こうで抱えてる仕事はあるよ。その引継ぎやら何やら、いろいろあるのさ」
香澄「でも来月には、正式にレイバー隊発足ですよね」
朽木「そうだ。そうなれば高い金かけたレイバー隊、何か事件があれば必ず出動がかかる。それに俺が間に合うという保証は無い。そこでだ…」
スーの方を向いて、朽木は言葉を続けた。
朽木「ホプキンス巡査部長」
スー「イエス」
朽木「やっぱり言いにくいから名前で呼ぶか。他のみんなも統一する意味で名前で呼ぶからそのように。で、本題に戻るけどスー、君を副隊長に任命する」
一同「えー?」
スー「(敬礼し)イエッサー!」

540 :無軌道警察ハグレイバー その62:2008/01/09(水) 23:17:16 ID:???
朽木「だからスー、俺が居ない間にもし出動がかかったら、現場の指揮は君が取れ」
スー「イエッサー!」
麦男「ちょっと待って下さい、隊長!今日来たばっかりのこの子が何で?」
朽木はニヤリと笑う。
訓練の様子を見る限り、これまで彼が実質的にレイバー隊を仕切っていたのだろう。
もし副隊長という役職があるのなら自分がやるべきだ、顔にはっきりそう書いてあるのが分かる。
『これが若さか…』
馬鹿にされたと思ったか、ちょっと怒気が現れた麦男に向かって、朽木は答えた。
「まあ本来説明しなければならない義務は無いけど、今回は一応説明するよ」

朽木の説明は次の通りであった。
隊長就任宣言直後に、課長に見せてもらったデータによれば、スーは来日前に米陸軍で、軍用レイバーによる実地訓練を受けていた。
それに軍用とは言え、レイバー部隊運用マニュアルをひと通り学習している。
麦男「しかしそんな付け焼刃の研修ぐらいで…」
朽木「それが大丈夫なんだよ、スーの場合は。彼女、IQ250ぐらいあるから」
「IQ250?!」
戦慄する一同。
朽木「だから1回実地訓練やれば十分に使いこなせるし、マニュアル読んだら完全に暗記してるよ。スー、試しにマニュアルの1節を暗唱してみてくれ」
スーは日本語で、市街戦におけるレイバーの運用に関する1節を暗唱した。
朽木には分からないが、隊員たちには分かるらしいレイバー用語の羅列に、麦男を含めた隊員たちは納得した。

541 :無軌道警察ハグレイバー その63:2008/01/09(水) 23:19:59 ID:???
朽木「それに警官としての腕だってかなりのもんだぞ、スーは」
香澄「どうしてそんなことが分かるんですか?」
朽木「さっきスーが飛び降りて着地するとこを見ただろ?」
香澄「ええ見ました。あれは凄かったですよね」
朽木「あれは5点着地って言ってな、空挺部隊がパラシュートで降下する時の着地のやり方のひとつだ。慣れるとパラシュート無しで10メートルやそこらは無傷で着地出来る」
薫子「凄いんだスーちゃん」
朽木「ついでに言うと、スーが飛び降りた高さは俺の目測で11メートル。これは人間が最も恐怖を感じる高さだ。つまり腕だけでなく、度胸もあるってことだ」
麦男「で、それが警官としての腕とどう関係が?」
朽木「アメリカの警官って、軍隊とあんまし変わらない戦闘訓練をひと通りこなすからな。あれが出来るってことは、その他の腕もかなりのもんと考えていいよ」
薫子「その他?」
朽木「例えば射撃、格闘、通信、爆弾処理、応急手当、そんなとこかな。スー、こん中で出来ないのあるか?」
スー「それに加えてネゴシエーションとプロファイリングもひと通り出来ます」
再び戦慄する一同。
麦男も声が出ない。
朽木「まあもっとも、警察ってとこは階級が上の者が指揮取るのが原則だから、例えスーが無能でも指揮は取ってもらうけどな」
ここで隊員一同は、初めてスーが巡査部長だったことを思い出した。
幼い外見に惑わされていたのだ。
朽木「君らは来月レイバー隊が発足して初めて巡査になるが、彼女は巡査部長だ。何ら問題はあるまい。他所から来たお客さんで無きゃ、隊長をやってもらってもいいぐらいだ」

542 :無軌道警察ハグレイバー その64:2008/01/09(水) 23:22:28 ID:???
どうあがいても自分に副隊長の目が無いことを悟ったか、がっくり肩を落とす麦男。
朽木はその肩に腕を回し、励ましてやる。
「まあがっかりしなさんな。お前さんまだ若いんだ。副隊長なんてケチなもん狙わず、実績積んで隊長目指せや。それまでは俺が責任は引き受けてやるからさ」
さらに一同を見渡して付け加える。
「何のかんの言っても、日本はまだまだ年功序列社会なんだから、年長者に指揮取らしとくのが1番お偉いさんを納得させやすいんだよ」
一同「年功序列?」
朽木「言ってなかったっけ?スーって俺と歳そう変わんないんだよ。君らの親御さんと俺が居た、現視研っていう大学のオタクサークルに、ほぼ同時期に在籍してたんだから」
朽木の言ってる意味が一瞬理解出来なかったのか、凍結する隊員一同。
香澄「そう言えば昔ママに、アメリカに居た時の友達が、後で同じ大学に留学して来たって聞いたことあるけど、この子がそうなの?」
青ざめる隊員一同。
朽木「まあ実は俺も正確な歳は知らないんだけどな。でも少なくとも、君たちの親御さんや俺と10歳と離れてないはずだよ」
どう年長に見積もっても未成年にしか見えないスーを改めて見て、隊員たちは声を合わせて叫んだ。
「て言うか、いくつなんだよスーちゃん?!」

全員整列しての敬礼に見送られて、朽木は再びヘリに乗ってX県警本部へと向かった。
頭の中をいろいろなことが駆け巡る。
問題は山積していた。
県警本部長をどう説得したもんかという、当面最大の課題。
担当している未解決の事件。
帰り際に斑目に、早目に幼い息子に真実を話すように忠告した、美幸の秘密。
そして、朽木が隊長になることを宣言した後は、殆ど無言で熱い眼差しをこちらに向け続け、帰り際に健気に敬礼しつつも、また少しウルウルしていた千尋。

543 :無軌道警察ハグレイバー その65:2008/01/09(水) 23:24:15 ID:???
突如隣の席に、先程まで無かった気配が現れた。
だが今度はその気配を識別する余裕があり、拳銃は抜かなかった。
「何時の間に隣に乗られたんです、課長?いやそれより、何で乗ってらっしゃるんです?」
隣を見もしないで朽木は尋ねた。
初代「君という広域のエースをもらい受ける以上、一応挨拶しておこうと思ってね」
朽木「それはまたご丁寧なことで」
初代「どうやらレイバー隊、気に入ってもらえたようだね。萌え漫画みたいな人員配置にして正解だったよ」
朽木「人聞きの悪いこと言わないで下さい。そんな下心は無いですよ」
朽木は語尾に小さく付け加えた。
「ちょっとしかね」
初代「正直だね。千尋君が気になるのかい?」
朽木「気にならないと言えば嘘になります。だからこそ、あの子が大人になるまで近くで見守ってやろうと思います」
初代「と言うと?」
朽木「近くで等身大の、41歳の生身のおっさんとしての私を見ていれば、何時かはあの子も私に幻滅して、歳相応の男の子に恋するようになると思うんです」
朽木の顔には、花嫁の父に似た哀愁が漂っていた。

544 :無軌道警察ハグレイバー その66:2008/01/09(水) 23:26:11 ID:???
初代「君を隊長に選んだのは正解だったよ。でもそれだけじゃないだろ、今の仕事を捨てて、畑違いの部署への転属を選んだのは」
朽木「ひと言で言うなら、大人として責任を取ろうと思っただけです」
初代「責任?」
朽木「ここでこのまま帰ったら、私は私が軽蔑した、子供たちに警察の現場なんて仕事を押し付けて知らんぷりしてる、無責任な連中と同じになってしまう。そう思ったんです」
初代「でもその責任を君が取る義務は無いと思うけど」
朽木「もちろんただ責任を引き受けるだけのナルシストじゃありませんよ、私は」
初代「やはり考えがあってのことだったか」
朽木「彼らは若くて優秀だが、オタク属性丸出しだったり、若干メンヘル気味なとこがあったりで、どこか警察の規格からはみ出したはぐれ者集団です」
不意に朽木は自信に溢れた顔を初代会長に向け、力強く宣言した。
「使いこなせるかどうかはともかく、そんなはぐれ者たちの相手が出来るのは、警視庁広しと言えども、私だけだと思いますよ」

おまけ的後日談。
数日後、朽木のところに斑目から電話があった。
斑目「実は昨日さ、うちの望に美幸君が男だってこと打ち明けたんだ」
朽木「それはよかった。まあ初恋の終わり方としてはアレですけど、まだ若いんだからすぐ立ち直れますよ」
斑目「終わってないんだ…」
朽木「えっ?」
斑目「あれだけ美人なら、男か女かなんてどうでもいいって言うんだよ、望のやつ」
「アッ〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
電話中なことも忘れて、朽木は絶叫した。

545 :無軌道警察ハグレイバー 後書き:2008/01/09(水) 23:30:34 ID:???
以上です。
どうやら最後まで順調に投下出来ました。
また明日からは「30人いる!」の続きの執筆にかかります。
失礼しました。

546 :無軌道警察ハグレイバーの人:2008/01/09(水) 23:47:24 ID:???
あと、新スレ立てました。

げんしけんSSスレ16
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1199889532/l50

他にテンプレ欲しい方は今の内にどうぞ。
あとまとめサイトの管理人の方、SSスレ15の方よろしく。

547 :マロン名無しさん:2008/01/10(木) 07:36:25 ID:???
お疲れさまです!
楽しませていただきました!

しかし、何という知識量!あるいは下調べを綿密になさる方なのか?脱帽です。

548 :無軌道警察ハグレイバーの人:2008/01/12(土) 22:24:50 ID:???
>>547
楽しんでいただけて幸いです。
>知識量
歳食ってる分キーワードをたくさん知ってるだけで、実は個々の知識は大したことありません。
検索しまくりの広く浅いオタクです。
今回は無理矢理な設定に何とかリアリズム持たせようとして、あれこれ詰め込みまくってしまいました。
アウトサイダーズアートのように、ひたすら書き続けて余白を潰していくような長文にも関わらず、最後まで読んでいただいたことに感謝。

549 :マロン名無しさん:2008/01/13(日) 19:26:03 ID:???
保守

550 :マロン名無しさん:2008/01/14(月) 23:43:17 ID:???
保守

551 :マロン名無しさん:2008/01/15(火) 22:13:15 ID:???
保守

552 :マロン名無しさん:2008/01/16(水) 22:50:37 ID:???
保守

553 :マロン名無しさん:2008/01/17(木) 18:56:05 ID:???
ホシュ

554 :マロン名無しさん:2008/01/18(金) 22:14:37 ID:???


555 :マロン名無しさん:2008/01/19(土) 03:06:07 ID:???


556 :マロン名無しさん:2008/01/19(土) 04:07:40 ID:???



にょ

557 :マロン名無しさん:2008/01/20(日) 21:20:11 ID:???
クッチー乙

558 :マロン名無しさん:2008/01/21(月) 07:59:41 ID:???
以前、通勤電車の中で読んでると書いた者です。
「いる!」の方、お疲れさまでした。はぐれクッチー純情派は読んだことはないのですが、ハグレイバー、楽しんで読ませていただきました。
クッチー、いや朽木氏がここまで大人として立派になっていたとは…まぁ、格闘技を習い始めたころから変化は出てきていましたが(笑)。
斑目も全うな人生を歩んでいるようで、安心しました。
と同時に、自分の40代ってどんなだろうと思索してしまいました。ゆるゆるだなぁ…自分(汗)。
今後の「いる!」の続きにも期待しております。

559 :無軌道警察ハグレイバーの人:2008/01/22(火) 22:49:53 ID:???
>>558
ありがとうございました。
まあ原作ではこのままニート化しそうな勢いの斑目ですが、何とか原作でも立ち直って欲しいものです。
あとクッチーですが、この話ほどは成功しないまでも、警察みたいな体育会系の組織に入れば案外成功しそうな気がします。
(例、警察、消防署、自衛隊、警備会社、大工、吉本新喜劇等)

「30人いる!」の方は近い内に再開しますので、今しばらくお待ちを。

560 :マロン名無しさん:2008/01/24(木) 19:26:23 ID:???
残り5KBか

561 :マロン名無しさん:2008/01/25(金) 21:50:41 ID:???
残り5KB…

562 :マロン名無しさん:2008/01/26(土) 20:46:46 ID:???
残り5KB

563 :マロン名無しさん:2008/01/26(土) 22:19:39 ID:???
残りTKB…?

564 :マロン名無しさん:2008/01/27(日) 16:04:02 ID:???


565 :マロン名無しさん:2008/01/28(月) 19:04:35 ID:???
保守

566 :マロン名無しさん:2008/01/29(火) 20:58:56 ID:???


567 :マロン名無しさん:2008/01/30(水) 22:55:04 ID:???


568 :マロン名無しさん:2008/01/31(木) 21:57:46 ID:???


569 :マロン名無しさん:2008/02/01(金) 23:57:15 ID:???


570 :マロン名無しさん:2008/02/02(土) 19:31:48 ID:???


571 :マロン名無しさん:2008/02/03(日) 18:50:42 ID:???


572 :マロン名無しさん:2008/02/04(月) 20:34:00 ID:???


573 :マロン名無しさん:2008/02/05(火) 20:22:31 ID:???


574 :マロン名無しさん:2008/02/06(水) 17:06:35 ID:???


575 :マロン名無しさん:2008/02/07(木) 20:10:49 ID:???


576 :マロン名無しさん:2008/02/08(金) 18:22:20 ID:???


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