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時代の風:ネット時代の危機管理=東京大教授・坂村健

 

◇自己に厳しい姿勢、必要

「信用が命」という業界の不祥事が最近、本当に多いような気がする。昔はモラルが高かったから不祥事自体が少なかった――と考えるよりはむしろ情報通信技術が社会の風通しを良くしたため、問題が表に出やすく、かつ広がりやすく、記憶に残りやすくなったと考えた方が自然だろう。人間の本質というのはそうは変わらないが、科学技術は確実に時代を変えるのだ。

船場吉兆の女将(おかみ)が記者会見でのヒソヒソ話がテレビで流れた後、「マイクがあんなに性能がいい物だとは思いませんでした……」と釈明(?)していた。それがある意味象徴的な出来事だ。

昔なら耳にとまらず消えてしまっただろう情報を科学技術がピックアップし、それがテレビで全国に流れる。テレビが超えたのは空間の壁だけだが、今のインターネットは時間の壁を超え、不特定多数への情報流布を可能にした。

面白いニュースならすぐにデータ化してネットの動画サイトにあげる人が出てくる。そして、多くの人がブログなどでその話題を取り上げる。興味を持ってその「ヒソヒソ声」を実際に聞きたいと思った時、そこには動画のアドレスが張られている。ずっと後になってからも――いつでも・どこでも・誰もがクリック一つで過去のニュースを見られるのが今の時代だ。

しかし、ネットが弱いのは「信頼性」。新聞などオールドメディアは、その背景にある「組織」を個々の記事の信頼性の担保としてきた。コストのかかる組織維持を長く行っていることが信頼の証しというわけだ。そして、何十年も現実世界で信頼を築いたブランドは強い。だからこそオールドメディアである新聞社のニュースサイトが多くの人を引き付け、そこでは広告による組織維持が可能になる。

一方、インターネットの中では、まずは疑うのが正しい姿勢であり、その上で過去の履歴まで見て評価して信じる信じないを読者が判断する。同定可能で過去も信頼性の高い行動をしている主体は、たとえ個人でネット名でも、それがブランドとなり一定の信頼性を得る。つまりいつでも過去ログや動画や他サイトからの評価などに簡単にアクセスできるという「技術」をベースにするのがネットの新しい信頼性担保メカニズムだ。

配信から信頼性の担保まで多様な仕組みのニュースメディアが生まれている中、企業にとって自らの信頼性を維持するための危機管理が大きな課題になっていることは、想像に難くない。マスコミだけを相手に単一戦略で対処できる時代でなくなったからだ。

神ならぬ人間が集まって事業をやっている以上、いくら科学技術が進歩しようと、何らかの不祥事を起こしてしまうことは無いとはいえない。問題はその後の危機管理。ここで「女将のマイク」に象徴されるように、科学技術の進歩による時代の風をよく見分けないと大けがをする。

従来、ニュースが時間の壁を超えなかった時代には、「ひたすら黙って耐える」というのは決して悪い戦略ではなかった。新しい情報がなければニュースも下火になる。やがて大きな事故でも起こればうやむやになる。しかし、今はできるだけ早い段階で対策を打ち、ネットの中の否定的コンテンツ(内容)の絶対量を減らす戦略が求められる。本紙の昨年の大型企画「ネット君臨」にも書かれている通り、ネットによって「一度つけられた傷は簡単には回復しない」からだ。

その時重要なのは「危機管理は、自分にとって正しいか正しくないかではない」ということだ。例えばシンドラーの幹部の人たちにとって、原因がはっきりする前に頭を下げるのは正しくなかったのだろう。しかし、結果として彼らはせっかく食い込んだ日本市場を失ってしまった。

同様に人が死ぬという悲劇ながら、「そんなに古い製品は使わないでくれ」と言いたくなるような状況で、松下電器産業は「そこまでやるか」と思わせる徹底的な石油暖房機の製品回収活動を、テレビからインターネット、郵便までの全メディアで行った。多大なコストがかかっただろうが、だからこそ単なる「社長の涙の会見」より多くの消費者が重く受け止めた。

企業における信頼性担保メカニズムというのは、結局その会社の姿勢を理解してもらい、それをブランド化することだ。意図したかどうかは別に、松下はあの執念さえ感じさせる回収広告で、見事に「問題のある製品を出したら、最後の一台まで回収するため努力する企業です」という姿勢を周知させた。

しかし、多くの企業はそれをできずに失敗する。「ボクは悪くない。世界の反応がおかしい」と思った時、すでに自己を客観的に見られなくなっている。だから「自らニュースを広めてでも自己に厳しい姿勢を示し、信用を回復する」という発想にならない。

船場吉兆廃業の運命を決めたのは、どこか笑えるヒソヒソ話のエピソードではない。「ボクは悪くない。世界の反応がおかしい」として、自らの守るべきものを見失っていることを示した一言――「食べ残しではなく、残された『お料理』と言ってほしい」の一言の方だったと思う。



[毎日新聞 2008年7月13日]




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