『NOWHERE LAND』 ―――イヴン、護衛対象への攻撃は控えてください。」 この状況下でありながら職務を遂行するなど、万人のオペレーターには到底為し得ないことだろう。 しかしこの通信により、失念していたミッション内容を思い出す。 クレストの燃料貯蔵施設の防衛を依頼したい。 入手した情報によると、テロ組織が無人兵器を送り込み施設の破壊を展開しようとしているようだ。 これを事前にレイヴンを雇うことで被害を抑えたい。これは雇い主と傭兵という枠をこえたレイヴンにこそ頼める依頼と判断した。 なおエネルギータンクの爆発は非常に強力である為、――― この程度のミッションは造作も無い。 輸送機から飛来してくる無人メカをスナイパーライフルで間断無く撃破していくだけの作業だ。 弾数には些か心許ないCR-WR73RSを肩部のマイクロミサイルで穴埋めし、着実に敵機を落としていった。 片方のマイクロミサイルの弾切れを確認した頃だろうか、ちょうど敵機の飛来も止み、任務達成の報告を待っていたその時、 「レイヴン、敵ACの接近を確認しました。」 まさか、この程度の任務でACを雇うだと? 勿論それはクレスト側にも言えることなのだが。しかし、一端のテロリストがレイヴンを雇うほどの重要施設ではないはずだ。 エネルギータンクが多く散在するこの領域で白兵戦を行うハメになるとは…。 間違い無く甚大な被害が出る、それだけは何としても避けなくてはならない。 今まで必死に稼いできたクレストからの心証をたかが防衛任務で失うワケにはいかない。    敵ACを確認、ランカーAC 五月雨丸です    敵はマシンガンを装備、至近距離での被弾は危険です    死角からの接近に注意が必要が必要となります レイヴンズアークの意向に逆らうことになろうとも、 クレストの依頼を忠実にこなし続け、ただただクレストに身を寄せ、クレストだけを信じきっていた。 いずれは専属レイヴンとなる日も時間の問題―――    敵ACを確認、ランカーAC FIGHTERです    敵は各距離対応型の武器を装備、バズーカの被弾は危険です    高高度を維持した戦闘スタイルに注意してください …頭部COMの音声に耳を疑ったのはこれで二度目だ。 しかし、頭部のCR-H05XS-EYE3は与えられた役割を全うしていた。 レーダーには熱源が2つ、どちらもACのそれを示している。レーダー表示をブツ切りにするほどの1つと、常に青く表示された1つ。 前者が凄まじいブースト速度で領域内への侵入を図っていたため、頭部のレーダー走査間隔に違和感を持たせる原因となっていたようだ。 自らの視覚に頼んでみるも、夜間ミッションのせいか僅かに明滅するブースト排気色を追うことで精一杯だった。 「レイヴン、クレストからの緊急通信です」 「専属のレイヴンの救援を要請したとのこと、あなたは施設の護衛を最優先としてください。」 早い話、助っ人が来るまでの時間稼ぎと判断されたらしい。 専属レイヴンという奴が来れば、いかな状況でも安心ということか… こんな妬心に身を任せている場合ではない。今、すべき事は一つ、施設の被害を最小限に抑えることだ。 直ちに自機を急速後退させる。接近するACの注意を施設から逸らしつつ、上空のACの位置を確認する為だ。 B03-VULTURE2の優れたブースト出力で瞬時に作戦領域ギリギリのラインまで後退することが出来た。 結果、滞空用補助ブースターの排気色を確認、高高度からエネルギータンクを狙撃せしめんとバズーカを構えているACを発見した。 遠距離サイト型FCS CR-F82D2の性能を余す所なく活用させる為の機体構成は功を立てた。 両腕部のスナイパーライフルで地上から対象のACを狙い撃つ。 WL05RS-GOLEMは命中精度、威力共に及第点であり間断無く命中させることで機体部位の損傷を狙うことが出来る。 遥か上空で滞空しようとも弾速の早いスナイパーライフルの回避は困難らしく、HITマーカーは点灯を繰り返していた。 …少なくとも、機体脚部の損傷は見込めたはずだ。 スナイパーライフルの弾数を確認しつつ、ACの狙撃を続けていた時、強烈な被弾反動が襲った。 機体APが見る見るうちに減っていく。7000、6500、5800… これほどの瞬間火力を出せる武装は限られている。滞空ACの攻撃が命中しているようにも見えない、これは…    AP50%、機体ダメージが増大しています 高速機のACが背面を取るように二種類のマシンガンを併用しての奇襲をかけていた。 作戦目的や作戦領域など最初から考えていないようで、こちらへの襲撃のみを主とした戦闘スタイルと確認出来た。 …ACの対応と施設の破壊の役割分担…では、ないようだ。 上空のACは施設の攻撃とこちらへの反撃とで迷っているかのような行動をしていた。 申し訳なさそうに垂直ミサイルを激戦区に飛ばす程度で、とても構っていられるような相手ではなかった。 今はしつこい求愛行動を続けている高速機の対応を優先しよう。 マシンガンの流れ弾が施設に被弾しないよう、レーダーを確認しながらの後退を強いられる。 距離を離さないよう只管にブーストし続ける高速機から逃れることは難しく、自機の損傷箇所は尚も増え続ける。 しかし、こちらとしても反撃をしないワケにはいかない。距離が詰められれば被弾確率が上がるのは敵機も同じだ。 マシンガンとスナイパーライフルの撃ち合いは周辺施設にも被害を与え、いつエネルギータンクの爆発が起こってもおかしくない状況を招いていた。 銃撃戦の結果、 こちらは脚部の損傷、左腕部スナイパーライフルの弾切れ、 向こうはガトリングマシンガンが破壊程度に収まっていた。 「…チッ!」 通信で微かに舌打ちのような音が聞こえた。 と、同時に散弾型のマシンガンの雨が降り注いだ。 コアにフィンガーマシンガンを格納していたようだ、これでは厄介さが増しただけに見える… だが、格納武器を排出する際の一瞬の停滞を見逃すほど甘くはない。 瞬時に肩部マイクロミサイルでロックし、射出。 この距離での直撃による大ダメージは期待していない。敵機の被弾反動による硬直を利用し一度に距離を離す為だ。 どれほどの高速ブースターでも至近距離からの弾幕には避けることは出来ないらしく、見事、軽量脚部への被弾を許してしまっていた。 この機会を逸していては二度と反撃のチャンスを与えられることはないだろう。 ブースターを一気に最大出力まで引き上げ、高速機から距離を置く。180、250、300…並のマシンガンならこの距離での被弾は少なくなる…! 距離を取りながらもマイクロミサイルを放つ。ロック完了を確認し、放つ。残弾数を確認している暇はない。 「レイヴン、護衛対象への攻撃―――」 知ったことか。 … …… 「レイヴン、クレスト専属ACを確認しました。」 …話が違う。 アークに所属しているレイヴンなら話は聞いているハズだ。 アリーナのトップに位置しながら、クレストの依頼を優先して受ける黒いAC。 クレストと専属契約の話を持ちかけられたレイヴンなら噂は聞いているハズだ。 アークには身を置いてはいないが、クレストに立てつく者を排除する黒いAC。…確か、赤い星という別名で呼ばれていた。 …確認した専属ACとやらはそのどちらでもなかった。 輸送機で領域内に入ってくるACは夜間でも映える真っ白な配色をした御世辞にも強そうには見えない機体構成だった。 この戦闘領域にいる全てのレイヴンが輸送機から降りてくる白いACに注目していた。 奇妙なことに…この間、銃撃音や施設の爆発音が聞こえることはなかった。強いてあげるとすればホバーブースターの排気音が、微かに。 ―――――――――――――――――――――――――――――    敵ACを確認、ランカーAC サバイブです    敵はブレードを装備、至近距離での戦闘は危険です    機動力を生かした近接攻撃に注意して下さい ――――――――――――――――――――――――――――― 『HIGH G.K LOW』 作戦領域に到達、ミッションを開始する。 状況確認。テロ組織の自爆テロは未遂に終わるも、漁夫の利を狙ったミラージュが雇ったAC2体の襲撃。 それと交戦するクレスト側のACを援護。施設の被害は目を瞑る… 輸送機から降下、戦闘システム機動。 肩部レーダーからの情報、軽量機のACの迎撃を優先する。 「オペレーター、クレストの雇ったレイヴンにハエ叩きを任せるよう通信」 チューンを加えたブースター CR-B83TPの加速力で目標に接近する。 その間、肩部のミサイルで距離を計りつつ敵機の機動性能を確認。排気色から同CR-B83TPと断定した。 距離322。コア CR-C98E2の実弾型イクシードオービット展開、右腕部リニアライフルで射撃。 目視で判断出来る以上、HITマーカーを確認する必要はない。 事前の戦闘での損傷箇所を狙いつつ、敵機側面に旋回。    敵脚部、破損 脚部の破損による被弾時硬直の計算。 リニアライフルの被弾反動の硬直を狙い、接近、ブレード。 「…イレギュr―――!」 撃破。搭乗レイヴンの脱出確認。 もう一機のACの領域外への離脱を確認。 周辺に敵反応無し。システム、通常モードに移行する。 『Nowhere in Ark』 ミッション達成から数時間後、ACガレージに帰還することが出来た。 確かにオペレーターの言うとおり、ただの時間稼ぎ、燃料施設のお守りをするだけ… クレストの専属レイヴンはミッション終了後、あっさりと引き上げていった。 本当に好き勝手暴れていっただけあって、収支報告書には奴が招いた施設の被害による減額もこちらに来ていたようだった。 ミッション報告の後、二通のメールが来ていた。 どちらも差出人は "Crest Ind." とあったが、どちらのメールにも既読マークは付いていないままだった。 おそらく数ヶ月は未読のまま、メールボックスの肥やしにでもなっているのだろう。 悶々とした面持ちのまま、寝台に伏す。 分からない、居た堪れないことばかりだが、 ただ一つだけ、はっきりとしていたことがあった。 格納武器、一度も使わなかった…。                                                 End. 登場レイヴン、AC 2nd:HIGHLOW   AC:サバイブ 6th:Nowhere man AC:アビイ・ロード 9th:十六夜    AC:五月雨丸 26th:ALIEN    AC:FIGHTER ラストレイヴンのランカーの設定なハズなのに、何故かネクサス時代の過去話のようになってしまったのは内緒 後、自分の機体も出すつもりだったのに忘れていた。理解不能な文章になっている場合は、VRアリーナまでご連絡ください。